第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年3月22日)現在において当社グループが判断したものです。

 

当面の優先的に対処すべき課題の内容等

サステナビリティ意識の高まりやデジタル化など、私たちを取り巻く環境は急激に変化しています。当社は一人ひとりが主体的に改革に取り組み、変革のスピードを上げることで、成長戦略の推進と基盤強化を図ります。2030年に向けた長期ビジョン「Art for Human Possibilities~人はもっと幸せになれる~」に向けて、成長性を高めるとともに、企業価値をさらに向上させていきます。

 

○中期経営計画の進捗

当社は、今中期経営計画より、将来に向けて各事業に経営資源を適正に配分するポートフォリオマネジメントを実装しました。中期経営計画2年間の実績として、目標である成長性・収益性の各指標は達成しており、最終年度である2024年の計画でも達成の見込みです。ポートフォリオ別にみると、コア事業が安定的に収益を上げることができた一方、成長事業はコロナ禍後の経済の低迷や需要減速の影響を受け、成長率が鈍化しました。また、新規事業は、新たなサービスの展開や新会社設立などの進捗が図られる中、売上高の十分な創出には至っていない状況です。

 


 

 

■戦略事業領域

[新規事業]

長期ビジョンで掲げた「Advancing Robotics」「Rethinking Solution」「Transforming Mobility」のテーマの元、社会課題の解決とともに、当社がこれまで培った技術や知見とパートナーとの共創活動で、ヤマハ発動機らしい新価値創造を進め、SDGsの達成に貢献する事業開発を加速させます。

モビリティサービスでは、インド・ナイジェリア・タンザニアにおいて新会社を設立し、事業を開始しました。車両の貸与を通じて行うアセットマネジメント事業と、モビリティを使った仕事を生み出すラストマイルデリバリー事業により、地域経済の活性化や、職業ドライバーの雇用創出を目指します。

低速自動走行では、当社と国内企業3社で共同開発を行った自動運転車が、福井県永平寺町で国内初のレベル4自動運転移動サービスを開始しました。公共交通機関にアクセスできない地域の移動課題の解決とともに、ヒト輸送分野での売上高創出を目指します。

医療・健康では、血液中の抗体を分析して健康状態を可視化する抗体プロファイリング事業を展開する「チューニングフォーク・バイオ」社を設立しました。農業自動化では、出資先企業への技術者派遣など、協業で開発・実証実験を進めています。

 

[ロボティクス事業(成長事業)]

現在、主に中国経済の影響を受けて需要は停滞しています。しかし、デジタル化や自動化ニーズの高まり、そして生成AIに代表される新しい技術の広がりにより、中長期的には市場の伸長が見込まれます。製造・販売・技術・サービスの体制強化を目指した事業所(工場)の増築については、計画通り2024年に完了予定です。また、グローバルでは2023年7月にシンガポール拠点の稼働を開始しました。グループ企業内のシナジーを活かし、顧客ベースで営業活動を展開するとともに、プラットフォーム化により商品力の強化を図り、事業の規模と領域を拡げることで収益力向上を目指します。

 

[SPV事業(成長事業)]

2023年に発売から30周年を迎えた電動アシスト自転車ですが、パンデミック中の移動様式の変化により市場は急拡大しました。現在需要は落ち着きましたが、世界的な環境意識の高まりを背景に市場成長が期待できます。当社は、生産量の拡大やトレンドのキャッチアップ、そして規制への備えを進めています。その一環として、2024年に欧州拠点でのドライブユニット生産を開始する予定です。

 

■コア事業領域

[二輪車事業]

半導体をはじめとした部品不足が解消される中、新興国においてプレミアム戦略を加速させています。アセアン・インドなど上位中間層の増加が見込める市場においてプレミアム商品の販売比率を高めるとともに、デジタルとリアルを融合した商材を拡げ、更なる収益性の向上を図ります。

また、電動化シフトへの対応として、バッテリー着脱式電動スクーター「NEO'S」の販売やバッテリー固定式電動スクーターE01の実証実験に加え、インドで電動スクーターの製造・販売などを手掛けるスタートアップ企業「World of River Limited, Inc.」への出資も行いました。この出資を通じ、同社とのEV市場における事業協力を模索していきます。

 

[マリン事業]

「マリン版CASE」推進による提供価値拡大と高収益体質の維持・強化を目指しています。

2024年の大型船外機の生産能力20%増強(2021年比)の計画に加え、さらに2026年までに15%増強(2024年比)します。また、ラインナップ強化のため、2024年春に350馬力の船外機を北米市場に投入します。

CASE戦略の推進においては、マイアミボートショーへ水素エンジン船外機の開発試作機を出展しました。また、マリン電動推進機メーカーTorqeedo GmbHの買収に合意。マリン業界でのカーボンニュートラル対応を加速させ、成長する電動推進船市場におけるリーディングカンパニーを目指します。

 

 

■財務指標・株主還元方針

資本コスト以上のリターンの継続的創出を目標とし、ROE15%水準、ROIC9%水準、ROA10%水準(いずれも3年平均)を目指します。株主還元については、「業績の見通しや将来の成長に向けた投資を勘案しつつ、安定的かつ継続的な配当を行う」ことを基本方針とし、キャッシュ・フローの規模に応じて機動的な株主還元を実施します。総還元性向は中期経営計画期間累計で40%水準です。なお、2023年は300億円の自己株式取得を行い、2024年は200億円を予定しています。

 

■サステナビリティに向けた取り組み

2022年6月に設立した、環境分野の課題解決に取り組む企業へ出資する投資ファンド「Yamaha Motor Sustainability Fund, L.P.」より、CO₂削減に向けて有益な微生物テクノロジーの研究を進める米国スタートアップ企業「Andes Ag, Inc」へ出資を行いました。カーボンニュートラルの取り組みを進め、サステナビリティに寄与する技術とビジネスモデルの探索を行っています。

また、カワサキモータース株式会社、スズキ株式会社、本田技研工業株式会社と協同し、小型モビリティ向け水素エンジンの基礎研究を目的とした「水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)」を設立しました。協調して取り組みを進め、小型モビリティの分野において脱炭素社会に向けた貢献を目指します。

 

■DX戦略

2021年より、デジタル技術を介してブランド価値を高め、生涯を通じたヤマハファンを創造することを目的に、「Yamaha Motor to the Next Stage」を推進しています。DX人財の育成・創出、経営基盤の改革、そしてデジタルを活用してお客様とつながることで、新たな価値と新たな未来の創造を行っていきます。

2024年までにDX人財の創出は1,200名、お客様とつながるためのヤマハID登録者は470万人を目指していましたが、2023年までの実績でDX人財1,339名、ヤマハID登録者は470万人となり、どちらも目標を達成しました。

 

■人財戦略

当社は、社員エンゲージメントを重要な指標とし、中期経営計画においてグローバル共通のエンゲージメント指標の導入を進めています。社員エンゲージメントを高める取り組みとして、2023年9月に「ヤマハ発動機グループ ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)方針」を制定し、職場内及び子会社への周知を行っています。多様な人財が集まり、互いの異なる視点や価値観を尊重しながら、新たな気づきや発見を価値創造に繋げていける組織風土の醸成を目指します。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) ヤマハ発動機グループのサステナビリティ

ヤマハ発動機では創業以来、「社訓」に“企業活動を通じた国家社会への貢献”を謳い、この精神に基づいた従業員一人ひとりの行動を通して社会に貢献することを掲げています。そして、「感動創造企業:世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」ことを企業目的として、「モノ創り」を通じて多様な価値の創造に努めてきました。また、経営理念では「顧客の期待を超える価値の創造」、「仕事をする自分に誇りが持てる企業風土の実現」、「社会的責任のグローバルな遂行」というお客さま・従業員・社会に対する経営の基本姿勢を示しています。

こうした理念の下、ヤマハ発動機グループではステークホルダーへの主な社会的責任をサステナビリティ基本方針としてまとめ、企業理念に基づく事業活動を通じて社会の持続可能な発展に貢献することが私たちに期待されているサステナビリティと考え、取組を行っています。

 


 

 

① ガバナンス

サステナビリティ推進体制として、社長執行役員が委員長を務め、役付執行役員が委員となる「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティを巡る課題及びリスク・コンプライアンスに係る課題への対応を協議・決定しています。

そして、その下部委員会として環境担当執行役員が委員長を務める「環境委員会」を設置し、環境についての方針やビジョン、中・長期環境計画、投資やモニタリングを専門的視点で審議・検討しています。

環境以外のサステナビリティ課題については「サステナビリティ委員会」の下部組織として「サステナビリティ推進会議」を設置するとともに課題ごとに「リスク・コンプライアンス部会」「サステナビリティ部会」「グローバル・コンパクト部会」を組織し、それぞれの関連部門が部会メンバーとなって各課題への対応を行っています。

当社が取り組むべき重要な社会課題(マテリアリティ)につきましては、進捗確認をサステナビリティ委員会や取締役会を通して年1回以上実施しています。また、ESG経営の指標となるマテリアリティKPIの実績は担当役員の個人業績報酬の非財務評価の一部に、総合的な進捗(外部評価機関によるESG評価を含む)は代表取締役社長を含む役員の全社業績報酬の一部になっています。

 

② 戦略

企業価値の持続的な成長とともに社会・地球環境の持続的な発展を目指すという自覚の下、ヤマハ発動機グループは、SDGs(2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標)などから抽出した社会課題のうち当社が展開する幅広い分野での事業活動を通して解決することができる重要な社会課題を特定して取組を推進しています。

2022年にはそれまでの4つの課題の見直しを行い、「環境・資源」「交通・産業」「人材活躍推進」の3つの課題に再構成しています。また、取組テーマも社内外の環境変化に伴って見直しを行い、重点化して絞り込みました。さらに2023年は、目標をより具体的に表現し、人権に関わるKPIを新たに設定するなど、全体を通して見直しを行っています。

 

③ リスク管理

「リスクマネジメント規程」に基づき、社長執行役員が委員長を務める「サステナビリティ委員会」、及び下部組織としてリスクマネジメント統括部門とリスクの主管部門で構成される「サステナビリティ推進会議」の「リスク・コンプライアンス部会」でグループ全体のリスク状況をモニタリングすると同時に、重点的に取り組む「グループ重要リスク」の選定、対策活動のチェックなどを行い、グループ全体のリスク低減を図っています。

リスクの主管部門は、主管リスクについて対応方針、規程等を定めるとともに、本社各部門及びグループ会社に対して対応方針等に基づく対策活動の推進、活動モニタリングなどを行います。その実効性を担保するため、統合監査部門はリスク主管部門に対して監査を実施しています。

 

④ 指標及び目標


 

 





 

 


 

(2) ヤマハ発動機グループの気候変動への対応

健全な地球をフィールドに豊かな自然と触れ合う多様な商品群を提供するヤマハ発動機において、気候変動が地球環境に与える影響は、企業目的である「感動創造企業:世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」の実現において大きなリスクとなっています。ヤマハ発動機では「サステナビリティ基本方針」の「地球環境」において「地球温暖化防止に向けた技術開発を進め、環境負荷の最小化に努めます。また、生物多様性の保全とその持続可能な利用に取り組みます。」を掲げています。気候変動対策の国際的な合意であるパリ協定では「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べ1.5℃に抑える努力を追求すること」を目指しており、「ヤマハ発動機グループ環境計画2050」では、「ヤマハ発動機グループは、2050年カーボンニュートラルを目指します。」を掲げ、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同した情報開示を積極的に実施しています。

 

① ガバナンス

環境分野を重要な経営課題の一つと位置づけ、環境活動を管掌する執行役員を委員長とする「環境委員会」を設置しています。環境委員会は年6回開催し、環境に係る方針(TCFD対応方針など)やビジョンの審議、ヤマハ発動機グループの環境長期計画(環境計画2050)の策定、各事業部の目標に対する進捗等を毎年レビューし、少なくとも年2回は取締役会へ報告します。また、原材料の調達から生産・使用段階・廃棄に至るサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指すにあたり、環境委員会直下に環境推進会議を設置し、各事業部・調達部門・生産部門・技術部門などの推進責任者による会議を隔週で開催し、部門全体の活動状況や目標の進捗状況を情報共有・議論しカーボンニュートラルに向けた活動を全体で推進しています。

 


 

② 戦略

IPCC(気候変動に関する政府間パネル) 第6次評価報告書では、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で産業革命前からの気温上昇を「1.5℃に抑える努力を追求する」と合意されたことで、世界平均地上気温の変化シナリオにおいて新たに1.5℃目標に相当するSSP(※)1-1.9が設定されました。この報告書では、2100年までの世界の平均気温の変化を評価した5つのシナリオ全てで2040年までに1.5℃に達する可能性が高いと予測しており、世界の国・企業は気候変動への取組のさらなる強化が必要となってきています。ヤマハ発動機グループでは、2050年カーボンニュートラルを目指す戦略を立案するにあたり、不確実性(リスク)要因に対応するために、IPCC第6次評価報告書の情報を参照にしてSSP1-1.9及びSSP1-2.6とSSP3の2つのシナリオを選択しました。

 

※SSP:共通社会経済経路(Shared Socio-economic Pathways)のことで、地球温暖化と社会経済の多様な発展の可能性を「緩和と適応」の困難度で5つのシナリオに分類している

シナリオ分析の詳細 https://global.yamaha-motor.com/jp/profile/csr/environmental-field/plan-2050/#sec-03-01

 

 

(主な事業リスクと機会)

シナリオ

SSP1(持続可能な発展の下で、1.5℃以下
に抑える気候政策を導入するシナリオ)

SSP3(地域対立的な発展の下で気候政策を導入しない中~高位参照シナリオ)

ヤマハ発動機の戦略

移行
リスク

政策・法規制

各国・各地域の排ガス規制やCO2排出量規制対応の開発コスト増加

 

各国地域の一番厳しい規制に準拠したモデル開発とグローバル展開

政策・法規制

炭素税の導入による操業コスト増加

 

1.5℃シナリオに沿ったScope1.2.CO2排出削減量目標を設定

技術

電動化への取り組みが各メーカーで加速され始めると、レアアースの需要が高まり、原料の調達が困難になるリスク

 

同業他社との協業にてバッテリーの相互利用を見据えたバッテリー規格共通化やインフラ整備のコンソーシアムを発足し電動モデルの普及促進にむけた活動を推進

市場

化石燃料使用の乗り物の市内走行禁止によるICE系二輪車販売減少のリスク

 

化石燃料に代わる次世代動力源を用いたモビリティ製品(電動二輪車、PAS、低速電動ランドカーなど)の開発強化とCASEを見据えた社会インフラとの統合に向けたパートナーとの協業を推進

評判

投資家などステークホルダーから情報開示が不十分と評価されるリスク

 

個人投資家向け会社説明会や、機関投資家との積極的対話

物理的
リスク

急性

 

極端な気象現象が、操業に影響を及ぼすリスク

自社及びサプライヤーのリスク調査と対応体制の構築

慢性

 

長期的な極端気候が、操業及び販売に影響を及ぼすリスク

気温上昇や洪水を想定した商材の耐熱・防水対策

 

 

 

 

 

機会

資源効率性

生産工程におけるエネルギー効率の改善

 

理論値生産活動をグローバルに展開

エネルギー源

製造拠点における再生可能エネルギーの活用

 

太陽光発電のグローバル導入拡大
CO2フリー電源の導入拡大

製品/サービス

低炭素商品の開発拡大
BEV商材の拡充と拡販

 

電動アシスト自転車、スクーター、ゴルフカー、車椅子、産業用無人ヘリコプターなど、さまざまな製品群の電動モデルの販売拡大

市場

各国・地域のグリーン戦略や政府補助金などによる当社製品群の需要拡大

 

世界的な電動化製品の需要増加に備え、電動化製品の開発、ラインナップの拡充

評判

環境分野に特化した新規市場・地域へのアクセス

 

環境・資源分野に特化した自社ファンド設立

レジリエンス

各国・地域のエネルギー政策や多様なエネルギー源に対応した製品・サービスによる収益増加

 

CN燃料(水素・バイオ・合成液体燃料など)など、多様なエネルギー源への対応技術開発

 

 

 

③ リスク管理

ヤマハ発動機では、「事業戦略」と「事業継続」の2つの側面から気候変動リスクの特定と評価を行っています。

 

a.リスクの特定

各事業・機能部門は、短期・中期・長期の気候関連リスクを「低炭素経済への移行に関するリスク」と「気候変動による物理的変化に関するリスク」に分けてそれぞれの側面が事業に与える財務影響を考慮し、また気候変動緩和策・適応策を経営改革の機会として事業に与える財務影響を考慮し、事業中期計画の中でリスクと機会を特定します。

 

b.リスクの評価

環境活動を管掌する執行役員を委員長とする「環境委員会」は、各事業・機能部門が特定したリスクと機会に対する事業戦略としての具体的取組を評価します。

 

c.気候変動リスクの「管理」プロセス

「環境委員会」は、各事業・機能部門が特定したリスクと機会に対する事業戦略としての具体的取組のゴールや目標について毎年進捗を管理し、「サステナビリティ委員会」及び取締役会で結果を報告します。環境委員会は、進捗管理を実施するとともに事業に重要な影響を及ぼす案件については審議し、少なくとも年2回は取締役会で報告または決議を行います。

 

④ 指標及び目標

2050年目標

サプライチェーン全体でカーボンニュートラル

2035年目標

Scope 1、2:カーボンニュートラル達成

Scope 3:24%削減(2019年度比)※主に製品の使用段階

2030年目標

Scope 1、2:80%削減(2010年度比)

Scope 3:7%削減(2019年度比)※主に製品の使用段階

 

 

 


 


 

 


 

(3) ヤマハ発動機グループの人的資本

グローバルな事業展開の中、進化・変化していく市場ニーズに機敏に対応できる組織体制づくりに加え、個人と会社が高い志を共有し、事業の発展及び個人の成長の実現に向けて協力し合うことで、感動を創造し続けることができると考えています。

「企業活動の原点は人」という基本認識の下、社員同士が協調し、互いの異なる視点や価値観を取り入れることは不可欠であり、各人のスキルを高め、多くの技術領域におけるスペシャリストを確保し、培った知見を先進国・新興国問わず活用していく。こういった取組の延長線上に、長期ビジョン「ART for Human Possibilities~人はもっと幸せになれる~」の実現があると当社は考えています。

また、従業員の就業環境の改善や心理的安全性の確保、ハラスメント防止に関しても全社を挙げて取り組んでおり、具体的な目標数値を定めてエンゲージメントの向上を目指しています。

 

① ガバナンス

当社では、これまでGEC (Global Executive Committee)、人材開発委員会、GET-HR (Global Execution Transformation – Human Resources)を運営する中で積極的に人財戦略に関する議論を行ってきましたが、2024年より人的資本経営のさらなるガバナンス強化と戦略の最適化の一環として、社長執行役員を委員長とする人的資本経営委員会を設置し、役付執行役員、海外拠点長を参加者とする会議体においてグローバル規模での人的資本への投資戦略、エンゲージメントの向上、ダイバーシティの促進に関する議論を積極的に行っていきます。また、ヤマハ発動機グループの経営幹部候補の人財育成計画、配置及び育成状況についての審議を行うことを目的に、タレントマネジメント委員会を設立しました。これらを通じ、従業員のキャリアに対する自主性並びに将来のキャリアパスの透明性を向上させていきます。

 

 

② 戦略

多様性を認めた一人ひとりが働きやすい環境づくり

当社は、社員エンゲージメントを重要な指標とし、新中期経営計画においてグローバル共通のエンゲージメント指標の導入を進めています。2022年からはYamaha Motor Global Awardを導入し、翌23年には、社員も投票に参加することができる「社員投票最優秀賞」を新設しました。23年度は国内・海外事業部門とグループ会社から挙がった30エントリーからヤマハらしさを体現する5つの優れたプロジェクトを表彰しています。このような成功を祝う活動を通じて社員エンゲージメントの向上を図り、Yamaha Day(当社の創立記念日にあたる7月1日とヤマハ株式会社の設立記念日にあたる10月12日をYamaha Dayと定め、本社及び国内外グループ各社にて自律的なイベントを開催)と合わせて授賞式を行っていきます。また、エンゲージメントを高める取組として、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンと人財育成に力を入れていきます。

ヤマハ発動機グループの企業理念である「感動創造企業」を実現するためには、さまざまなバックグラウンドで活躍する人々がお互いを認め合い、成長していくことでその価値を最大限発揮することが重要です。また、持続的な成長を実現しお客さまの期待を超える新しい価値を生み出し続けるためにも、多様な視点や価値観を持った人財の育成、活躍が不可欠であると考えています。

多様な人財が集まり、互いの異なる視点や価値観を尊重しながら、新たな気づきや発見を価値創造に繋げていける組織風土を醸成するために、2023年9月に「ヤマハ発動機グループ ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)方針」を制定し、職場内及び子会社への周知を行っています。当方針の中で「ダイバーシティを通じて感動を創造する」ことをステートメントの中心に置き、「RESPECT.」(リスペクト ピリオド)を行動原則としています。「RESPECT.」とは、ヤマハ発動機グループの全員が、同僚、お客さま、サプライヤー、その他のステークホルダーに対して、他者の意見や権利を価値あるものとして認識し、接する責任を持つことを意味します。その上で 「重点領域とヤマハ発動機グループの姿勢」を定め、全ての役職員が年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、国籍、人種、宗教・信条、価値観、経験などに関わらず自分の個性(強み・経験・考え方)を最大限に発揮できる職場を目指しています。

また、女性活躍推進の観点から、女性の管理職比率について目標を設定して取り組み、ヤマハ発動機の女性管理職の人数を新中期経営計画において2024年末に56人とする目標を設定しました。その目標に向けて2023年末時点で58人に達しました。また、ヤマハ発動機グループ全体では、女性管理職の比率を2021年の10.8%から2024年に13%とする目標を設定しました。この目標へ向けて継続して取組を進めていきます。

また、妊娠中の女性社員を対象に「長いキャリアを見据えてどのように育児休職を位置づけるか」などをワークショップ形式で考える両立支援セミナー、自分の傾向を知って自分を動かす能力を磨くパーソナルブランディング研修、女性のためのリーダーシップ研修、女性部下のマネジメント研修、不妊治療休暇などの制度を導入しています。さらに、女性・男性など性別を問わず多様化する仕事への価値観に対応するための管理職向けセミナーなども開催しています。

本社におけるキャリア採用者(中途採用者)の管理職登用比率は、新卒採用者の同比率と同程度となっています。採用形態等の属性によらない人物・能力本位での管理職登用を今後も継続していきます。

 

人財育成方針

ヤマハ発動機グループでは、進化・変化していく市場ニーズに機敏に対応できる組織体制づくりに加え、個人と会社が高い志を共有し、事業の発展及び個人の成長の実現に向けて協力し合うことで、感動を創造し続けることを「人事の目指す姿」として設定しています。具体的な項目として以下の3つを掲げ、多様性が尊重される職場づくりを進めています。

1. 性別・年齢・国籍・人種・価値観等にとらわれず、一人ひとりがそれぞれのチャレンジへ果敢に挑める施策を構築し、挑戦する風土を醸成すること

2. 個人が自らの手で、生涯にわたり啓発する意欲を持つ役職員に対し、適宜その機会と支援を提供すること

3. 「発、悦、信、魅、結」の共有価値を基本とし、「ヤマハらしさ」を開発・育成することで人財における他社との差別化を図ること

 

 

そして、目指す姿に向けて次のような人財とともに働きたいと考えています。

 

1. 自己価値向上に努力する自立・自律型の人財

2. チームワークを大切にした行動ができる人財

3. ヤマハブランドの価値を高められる人財

 

上記のような職場づくりを実現するためヤマハ発動機グループでは人材マネジメントグループ業務指針を定め、さまざまな取組を行っています。

 

グローバル人財の活用

人財のグローバル化については、性別・年齢・国籍及び原籍等を問わず優秀な人財の経営幹部への登用を進めています。特に、海外子会社の経営幹部層については、現地人財の積極的な登用を進め、2024年末にその55%を現地化することを目指します。

また、2020年からグローバル人事異動を促すYAP(Yamaha Assignment Policy)を導入し、国境をまたぐ優秀な人財の活躍を推進しており、経営幹部層のみならずラインマネジャー及び専門性の高いスペシャリストの海外拠点から本社への異動、もしくは海外拠点同士間の異動を9件積み重ねており、さらなる拡大を図っています。

 

人財育成

階層に応じた研修をはじめ、ハイポテンシャル人財に対する選抜研修、機能面での専門スキルを磨く研修、世界で活躍できる人財を目指す海外トレーニー制度、チーム力を高めて組織としてのパフォーマンスを高めるコーチング研修やダイバーシティ研修などを整備しています。また、自ら学ぶ風土の定着に向けて、自己啓発への支援を拡充し、学びの選択肢を増やすとともにオンデマンド型教育を整備しています。事業運営の安定性向上のための取組として、当社で規定する重要ポジションへの後継者育成計画の導入を行い、適財適所による計画的な人員配置にも取り組んでいます。

人財育成に関しては、成長を望めば誰しもが機会を与えられる仕組みの構築を目指し、Yamaha Motor Learning System (YLS)オンライン・オンデマンド型の学習プラットフォームの導入と、自己啓発講座の推進を進めてきました。YLSの利用者数は1万9千人に達し、自己啓発講座の受講者数は延べ5,039人となりました。また、グローバルな経営人財を育成するための選抜研修プログラムを2015年から実施し、これまで延べ137人が参加しています。

 


 

健康かつ安心して働ける安全な環境づくり

当社グループでは、従業員の健康・安全を企業成長の基盤と考え、労働環境の向上に努めています。「安全・健康最優先」の考え方の下、従業員全員参加で安全と健康の確保に取り組むとともに、快適な職場環境の形成を促進しながら、業務遂行の円滑化を図り生産性の向上にもつなげています。

ヤマハ発動機においては、2023年より従来から推進してきた労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)を再構築し、国際規格であるISO45001を導入、認証機関による審査を受審し認証を取得しました。マネジメントシステム運用の中軸である、職場におけるリスクアセスメント(危険性や有害性を特定・評価)の実施、その結果に基づく計画的な労働安全衛生リスクの除去・低減に取り組み、労働災害の未然防止を図っています。また、全従業員の安全意識向上のため、法規制上の教育・講習はもちろん、リスクアセスメントや実践的な危険予知トレーニング等、各種教育・研修の充実にも取り組んでいます。

なお、2023年5月、当社浜北工場(浜松市浜北区、現浜松市浜名区)にてエンジン部品加工作業に従事していた社員1名が死亡する労働災害事故が発生しました。このような重大な労働災害を二度と発生させないため、設備機械の安全総点検と対策、リスクアセスメント徹底によるリスク除去・低減、「安全の日」設定による安全意識の高揚など、再発防止の取組を進めています。

ヤマハ発動機グループ全体の労働安全衛生水準の向上に向けては、今後はISO45001を基軸とした労働安全衛生マネジメントシステムの整備を進めるとともに、継続的な改善に取り組んでいきます。

健康に関しては、2020年にヤマハ発動機健康宣言を制定し、社員の健康を会社の発展に欠かせない重要な経営課題ととらえ、会社・社員が一体となって健康の保持・増進に取り組んでいます。

具体的には、ヤマハ発動機では健康診断受診率100%・メタボリックシンドローム(該当者+予備群)の低減・喫煙率の低減を三大課題とし、さまざまな取組を進めています。メタボリックシンドローム低減に関しては、若年層を含めリスクを抱えた社員への看護職・管理栄養士による継続的な保健指導、専門医の治療に早期に繋ぐための受診勧奨となるイエローペーパー制度の運用等を行っています。また、喫煙率低減に向けては従来から行ってきた禁煙支援に加え、2024年1月よりヤマハ発動機敷地内・就業時間中の全面禁煙化を開始、今後国内グループ会社にも展開していきます。

社員のメンタル不調を未然に防止するため、ストレスチェック実施後には高ストレス者の希望者全員に産業医や看護職等によるフォロー面談を実施、集団分析結果を職場へフィードバックすることで職場環境改善につなげている他、セルフケア・ラインケア等のさまざまな教育・研修を実施しています。

フィジカル・メンタル共に休職者の復帰時には、復職前に社内リワークプログラムを実施、復帰後も所属長・人事部門・産業医が連携し1年ほど本人をフォローすることで、再発防止に努めています。

また、社内環境整備の一環として、人事部門と健康推進部門が連携して適正な労働時間管理を推進し、過重労働対策とワークライフバランスの確保を行っている他、女性社員特有の健康問題に対応するための専用相談窓口やセミナー等の整備など、さまざまな取組をきめ細かく展開しています。

これらの活動を通じ、ヤマハ発動機は健康経営を戦略的に取り組む法人を認定する「健康経営優良法人認定制度」において健康経営優良法人2024(大規模法人部門)・ホワイト500に認定されています。

 

 

コンプライアンスの遵守

また、「倫理行動規範」の中で「人権の尊重」を掲げ、職場でのセクシュアルハラスメントだけでなく、職場における地位や人間関係など職場内の優位性を背景に相手の人格、尊厳の侵害など、あらゆる種類のハラスメントを一切禁止しています。そのために主にマネジメント層に対して「人権・ハラスメント」研修を毎年開催しています。もしハラスメントの報告を受けた際には当事者から詳細なヒアリングを行い事実確認をした上で、懲戒を含めた適正な対応を行うとともに、再発防止に向けた取組を進めています。

ヤマハ発動機グループでは、グループ全体のコンプライアンス遵守の体制を構築する目的で、社長執行役員が委員長を務める「サステナビリティ委員会」において、コンプライアンス遵守のための計画を審議し、その実行状況やコンプライアンス遵守の風土についてモニタリングを行っています。そしてこの結果は、サステナビリティ委員会での審議事項としてESGリスクとともに取締役会に適宜報告されており、実効性を担保した体制を整備しています。具体的な活動は「コンプライアンス管理規程」に従って展開し、コンプライアンス統括部門がグループ全体の活動を管理します。

コンプライアンス風土を測定する手段の一つとして、グループ会社共通のコンプライアンス意識調査を毎年実施し、「倫理行動規範」の理解度や規範の実践度合い、レポーティングラインやホットラインの利用度、教育の有効性などコンプライアンス施策の有効性を確認しています。また、調査の結果や社会の潮流も踏まえ、「倫理行動規範ガイドブック」の毎年の更新と「倫理行動規範」の定期的な見直しを行っています。

 

③ リスク管理

ヤマハ発動機グループでは、必要なリスクを網羅したリスク管理台帳を作成しており、リスク管理台帳を適切に管理・運用することにより、リスク低減を図っています。この中に「ダイバーシティへの対応不足」という項目を織り込み、「多様性のある人財を確保できず、斬新なアイデアの喚起、社会の多様なニーズへの対応が遅れる」ことをリスクととらえ、対応できなかった場合には「性別や人種、年齢、学歴などの多様性を欠き、企業活力が低下する」「企業価値の訴求不足によって有能な人財の確保が困難になる」ことをダメージとして想定しています。

 

④ 指標及び目標

 

エンゲージメントスコア

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

59%

62%

61%

国内グループ会社

-

59%

59%

海外グループ会社

-

-

79%

 

目的: 調査を通じて会社全体や各組織のエンゲージメントを可視化し、エンゲージメントに特に影響度が高い要素と各組織の強み・課題点を特定することで社員が働きがいのある職場環境を社員全員で作り上げることを目指す

内容: 社員のエンゲージメント並びにそれらに影響を与える「心理的安全性」「キャリア」「将来性」「成長と能力開発」「会社戦略」「リーダーシップ」「協働」「コミュニケーション」「インクルージョン」等に関する設問

指標: 5段階評価における肯定的回答の割合

目標: ヤマハ発動機:2024年に70%

 

 

産休・育休取得状況

集計対象

データ区分

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

女性取得率

100%

100%

100%

女性復職率

100%

99%

93%

男性取得率

31%

54%

65%

男性取得者数

92人

152人

193人

国内グループ

女性取得率

-

-

125%

女性復職率

-

-

100%

男性取得率

-

-

49%

男性取得者数

-

-

42人

 

(注)取得率については、過年度に出産した従業員又は配偶者が出産した従業員が翌年度に育児休業を取得することがあるため、取得率が100%を超えることがあります。

 

女性従業員比率

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

14.9%

16.0%

12.7%

国内グループ会社

22.2%

北米

30.5%

30.2%

30.5%

欧州

23.0%

22.8%

22.4%

アジア

23.9%

27.2%

24.1%

その他

23.1%

23.1%

24.9%

全体

21.9%

23.4%

22.4%

 

 

コアポジション現地化率 (注)

2021年

2022年

2023年

50.8%

51.6%

55.6%

 

(注)海外子会社のコアポジション(本社部長級)に占める現地人財の比率

 

 

選抜研修の参加者数

選抜研修

2021年

2022年

2023年

Global Executive Program (注1)

-

16人

-

Yamaha Business School Global (注1)

22人

-

24人

Regional Development Program

49人

39人

71人

Yamaha Business School Junior (注2)

-

-

25人

 

(注)1 Global Executive Program、Yamaha Business School Globalは隔年で実施

   2 2021年-2022年はコロナ禍のため実施なし

 

自己啓発講座受講数(延べ人数)

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

1,020人

2,795人

4,219人

国内グループ会社

252人

292人

820人

 

 

 

従業員一人当たり研修時間 (注1)

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

5.8時間

17.3時間

22.9時間

国内グループ会社(注3)

-

-

9.7時間

 

 

従業員一人当たり研修費用 (注2)

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

12,000円

19,000円

39,000円

国内グループ会社(注3)

-

-

23,000円

 

(注)1 コンプライアンス教育・安全衛生等法令に関する研修や新入社員研修を除く

   2 社内の人件費、施設運営費等は除く

   3 国内グループ会社で提出のあった拠点のみが対象

 

労働災害 発生件数(休業災害以上)

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

7件

12件

11件

国内外グループ会社(注)

145件

117件

171件

 

 

労働災害 休業度数率(100万延べ実労働時間当たりの労働災害による死傷者数)

集計対象

2021年

2022年

2023年

ヤマハ発動機 単体

0.25人

0.43人

0.39人

国内外グループ会社(注)

1.44人

1.11人

1.50人

 

(注)2021年、2022年の対象範囲は生産機能を持つ連結子会社と関連会社の合計30社。2023年の対象範囲は生産機能以外も含む連結子会社と関連会社の合計117社

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を以下に記載しています。なお、これらは全てのリスクを網羅したものではなく、これら以外にも投資者の判断に影響を及ぼす事項が発生する可能性があります。また、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年3月22日)現在において当社グループが判断したものです。

 

<1>    リスクマネジメントの取り組み

リスクマネジメント対応のために適切な体制や規程を整備・運用し、リスク低減活動に取り組んでいます。平常時の予防活動として、当社グループが対処すべきリスクについて担当部門を明確にして対策を推進し、グループ全体で活動を行っています。重大な危機が発生した場合には、社内規程等に基づき、社長執行役員を本部長とする緊急対策本部を設け、損害・影響を最小限にとどめています。

 

<2>    リスクマネジメント体制

「リスクマネジメント規程」に基づき、社長執行役員が委員長を務める「サステナビリティ委員会」、及び下部組織としてリスクマネジメント統括部門とリスクの主管部門で構成される「サステナビリティ推進会議」の「リスク・コンプライアンス部会」を設置し、グループ全体のリスク状況をモニタリングしています。同時に、重点的に取り組む「グループ重要リスク」の選定、対策活動のチェックなどを行い、グループ全体のリスク低減を図っています。「リスク・コンプライアンス部会」は事業ラインから独立し、人事総務本部長が責任者を務めています。またリスクの主管部門は、主管リスクについて対応方針、規程等を定めるとともに、本社各部門及びグループ会社に対して対応方針等に基づく対策活動の推進、活動モニタリングなどを行います。その実効性を担保するため、統合監査部はリスク主管部門に対して監査を実施しています。

 


 

<3>    リスクマネジメント活動サイクル

リスクマネジメント活動は、下記のPDCAサイクルを回すことで推進しています。当社グループでは、必要なリスクを網羅したリスク管理台帳を作成しており、リスク管理台帳を適切に管理・運用することにより、リスク低減を図っています。


 

<4>    グループ重要リスク

毎年、リスクの中でも特に重点的に予防・対策に取り組むべきものをグループ重要リスクに定めています。グループ重要リスクは、グループ全体のリスク評価結果に加え、グループ事業戦略、グループ内外の法令変更、環境変化及び発生事案情報などを踏まえ、総合的に判断・選定されます。

 

<5>    事業等のリスク

 

(1)経済環境変化リスク - ①市場における競争環境変化

<リスク>

当社グループは、事業を展開する多くの市場において激しい競争環境の変化にさらされており、このような競争状態のために当社グループにとって有利な価格決定をすることが困難な状況に置かれる場合があります。このような競争状態は、当社グループの利益の確保に対する圧力となり、その圧力は特に市場が低迷した場合に顕著となります。また、当社グループは、激しい競争の中で優位性を維持又は獲得するために、競争力のある新製品を市場に投入し続けていますが、資源を投入して開発した製品が計画通り販売出来ない場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

モーターサイクル事業においては、今後10年で急速に拡大することが予想されるアセアン・インドの上位中間層をターゲットに、プレミアム戦略を加速し、収益性の向上を目指しています。具体的には、アジア主要国でのプレミアムオートマチックスクーターやプレミアムスポーツモデルに注力することを戦略的に取り組んでいます。また、ボディやエンジンのプラットフォーム化を導入したことで開発のスピードが上がり、お客様の求める商品を適切なタイミングで上市しています。

マリン事業においては、当社グループとしてグローバルに拠点を構える販売子会社との連携により、市場の変化にフレキシブルに対応する事業運営を行っています。特に先進国では、エンジンの卸先であるボートビルダーと長期契約に基づく関係を築くことで販売の安定化を図っています。エンジンとボートの操船に関わる周辺機器をセットで提供することで、当社ブランド製品に対するロイヤリティを高めています。

 

 

 

(1)経済環境変化リスク - ②為替の変動

<リスク>

当社グループは、日本を含む世界の国々で生産活動を行い、その製品を世界各国に輸出しており、製造のための原材料や部品の調達及び製品の販売において、各国で外貨建の取引があります。従って、為替変動は、当社グループの売上はもとより、収益及び費用等に影響し、その結果、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。また、当社グループは在外子会社の現地通貨ベースの業績を円換算して作成した連結財務諸表をもって業績及び財政状態を表示していますので、各通貨の円に対する為替レートの変動が当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループでは、為替ヘッジ取引や為替変動分の価格転嫁等により、為替レートの変動による影響を最小限に止める努力をしています。

 

 

(1)経済環境変化リスク - ③金利変動、資金調達環境の変化

<リスク>

当社グループは、事業活動の資金を内部資金及び金融機関からの借入や社債の発行等により調達しています。しかしながら、経済環境が変動した際、金融機関の融資姿勢や金融市場の不安定化により、また格付機関による当社信用格付けの引下げの事態が生じた場合などに資金調達を想定通り行うことが難しくなり、資金調達コストが増加するリスクがあります。

<対応策>

当社グループでは、適時に資金繰り計画を作成・更新するとともに、手元流動性を適度に維持しています。加えて、銀行借入や社債の発行など資金調達の多様化を進めることにより流動性リスクを低減しています。また、借入金に係る支払利息の金利上昇リスクを抑制するために、固定金利で長期資金調達又は金利スワップ取引等を利用することがあります。

 

 

(2)海外事業展開リスク

<リスク>

当社グループの売上高に占める海外比率は約90%となっています。地政学リスクをはじめ、外的要因による経済安全保障リスクは高まりを見せており、当社グループが事業を展開している国又は地域における予期しない輸出入規制の運用・改廃、不利な影響を及ぼす税制・関税等の変更、外貨規制、移転価格税制を含む税務調査・追徴課税などが発生した場合には当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループでは、リスク低減のため、国際情勢の動向や各国の法規制の改正等に関する情報を定常的に把握し、対応を実行しています。2023年7月より貿易管理委員会を設置し、貿易・経済安全保障に関するリスクの選定、対応策の審議・遂行をタイムリーに行う対応を進めています。幅広い機能・部門の責任者である執行役員以上のメンバーで構成された委員会の運営により、事業活動リスク(サプライチェーン維持、データ・情報管理、人事管理等)の把握を行い、リスク回避・低減の仕組み作りだけでなく、リスク顕在時の初動対応が図れる対応を進めています。

また、税務基本方針や移転価格設定方針を定め、早期に税務リスクを把握するために本社と各子会社の間で情報交換を行い、リスク低減のため方策を講じています。税務処理に不確実性がある場合は、税務当局への事前照会や外部専門家への相談を行い不確実性の排除に努めています。

 

 

 

(3)合弁事業リスク

<リスク>

当社グループは、一部の国又は地域において合弁で事業を展開しています。これらの合弁事業は、合弁パートナーの経営方針等により影響を受けることがあります。

<対応策>

合弁パートナーとは配当金による利益分配や損益を応分に負担する等で良好な関係を保つとともに、製品に係る知財を当社が保持することでパートナーの方針変更があっても事業を継続しやすい対応を取っています。

 

 

 

(4)特定の顧客・マーケットへの依存リスク

<リスク>

当社グループは、二輪車、船外機等の消費者向け製品を市場に供給しているだけでなく、顧客企業に対して自動車用エンジン等を供給しており、その売上は顧客企業の経営方針、調達方針等の当社グループが管理出来ない要因により影響を受けることがあります。

<対応策>

当社グループは、常に最新のマーケット動向へ目を向け、自動車エンジン等に加えてEV用電動モーター等の新商材開発を積極的に行い、取扱商材の多様化に向けた努力をすると同時に、顧客企業数を増やす活動を推進し、特定の顧客に過度に依存しない供給体制の構築を目指しています。

 

 

(5)調達リスク

<リスク>

当社グループは、製品の製造に使用する原材料及び部品等を当社グループ外の多数の供給業者から調達しており、これらの一部については特定の供給業者に依存しています。市況、災害等、当社グループでは制御出来ない要因により、当社グループがこれらの原材料及び部品等を効率的に、且つ安定したコストで調達し続けることが出来なくなった場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。原材料価格の今後の高騰や半導体をはじめとした部品不足などが発生、長期化する場合には、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループは、互換性のある部品や原材料への切替や、長期的な内示数量提示による供給数の確保などの対策を進めています。

 

 

 

(6)製品品質・リコール関連リスク

<リスク>

当社グループは、グループ品質保証体制の下に、世界各国の工場で製品を製造しています。しかし、法律や政府の規制に従い、或いは、お客様の安心感の観点から、リコール等の市場処置を実施する可能性もあります。また、当社グループは、製造物責任等の訴訟、その他の商取引、独占禁止、消費者保護などの法的手続の当事者となる可能性があります。大規模なリコール等の市場処置を講じた場合や当社グループが当事者となる法的手続で不利な判断がなされ、多額の費用・損害賠償責任が生じた場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

・品質マネジメントシステム

当社では、社長により表明された当社グループ全体の独自の品質方針ならびにISO9001規格に基づいた品質マネジメントシステムを構築し運用しています。これらの取り組みはグローバルに展開されており、本社において策定された3年間の中期計画に沿った活動が各拠点の中期目標として作成し実施されています。各事業で作成された中期計画の内容と進捗状況は年に1度の事業マネジメントレビューで見直しするとともに課題解決策の討議を行うということで品質マネジメントシステムにおけるPDCAサイクルを回しています。なお、各市場での商品の不具合情報や保証修理の情報などから市場における品質情報処理が適切になされているかを確認する委員会が設けられており、タイムリーな調査とマネジメントへの報告を行っています。

・市場情報収集と対応

市場で発生した品質問題は、国内外の販売会社のサービスを通じてその製品の製造工場に情報が集約される体制を作っています。その情報は設計、製造、サプライヤーなどの開発・生産部門に届けられ、連携して原因の究明や対策を実施するとともに、該当するお客さまへの適切な対応や再発防止策を策定していきます。製品事故が発生した場合や法規に抵触する可能性のある不具合が発生した場合は迅速にマネジメントへも情報が届くフローと討議できるシステムを設定しており、判断や決定に遅れがないようにしています。市場措置が必要であると決定した場合は、発生国の法規に従って迅速に当局に届け出を行い、販売会社からその製品のお客様に無償修理のご案内をダイレクトメールや電話、ホームページなどを使ってお届けしています。

 

 

(7)人権侵害リスク

<リスク>

各国において、国際連合や国際労働機関が提唱する人権に関する国際規範や法令に基づく人権の取組みを求める法規の制定が進んでおり、サプライチェーン全体での人権リスクへの対応・順応の必要性が急速に高まってきています。これらの法規に対して適時適切な対応が出来なかった場合や、取り組みが奏功しない、もしくは不十分である場合、ブランドイメージの毀損や社会的信用の低下に加え、当社グループの生産活動の停滞や遅延、開発や購買や営業などの各事業、ビジネス活動にかかる追加の対応コストなどが生じる可能性があり、その場合には、当社グループの事業業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

<対応策>

当社グループにおいては、人間を尊重するという基本理念の下、事業活動において影響を受けるステークホルダーの人権を尊重する責任を果たすべく、「ヤマハ発動機グループ人権方針」を定めています。本方針に基づいて、ガバナンスの遵守、人権デューデリジェンス、適切な教育・啓発活動の実施など、各国法規を踏まえ自社及びサプライチェーンにおける全従業員の人権に対する意識を高める取り組みを行っています。

 

 

 

(8)ハラスメントリスク

<リスク>

サプライチェーン全体での人権リスクへの対応・順応の必要性が急速に高まっている中、当社グループは従業員に対して、人種・国籍・生活信条・身体・性格・親族等についての誹謗中傷、人格を否定するような言動の禁止、セクシャルハラスメントをはじめとしたすべてのハラスメント行為の禁止を倫理行動規範でうたっています。しかしながら、ハラスメントは誰しも意図せず行為者になりうるものであり、ひとたび重大なハラスメントが発生すると、被害者だけでなく、会社、組織、事業活動そのものにも影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループで展開しているダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の浸透、社員のエンゲージメント向上等の取組みを通じ、ハラスメントが起きにくい組織風土を醸成し、事案発生時には、再発防止も含め、迅速・適切に対応すると共に、ハラスメントを未然防止するための啓発、教育活動にも継続的に取り組んでいます。また、日本国内を対象にこれまでのコンプライアンス案件通報窓口に加え、ハラスメント・労務問題専用の相談窓口を新設し、ハラスメントを受けた、見聞きした、という場合には速やかに相談できるレポートラインを整備しました。

 

 

(9)法規制の強化・法的手続リスク

<リスク>

当社グループが事業を展開する多くの国又は地域において、当社グループは、製品の安全性、燃費、排ガス規制、並びに工場からの汚染物質排出レベル等の広範囲な環境規制及びその他の法規制を受けています。これらの規制は変更されることがあり、多くの場合規制が厳しくなる傾向にあります。当社グループが事業を展開する国又は地域におけるこれらに関連する規制又は法令の変更があった場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループは、環境負荷の低減を目的としたグリーン調達を推進するためのガイドラインを制定し、さらに専任者を含むチームを置いて活動するなどの環境活動を推進しています。

 

 

(10)知的財産リスク

<リスク>

当社事業に関わる特許、商標、その他の知的財産が十分に確保されないことにより当社事業の差別化や優位性を喪失する場合及び第三者が当社グループの知的財産を不正に用いて類似した事業を行うことを効果的に防止できない場合や当社が第三者の知的財産を侵害して当社事業に影響を及ぼす場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループでは、知財戦略を担う部門を設置し、製品及びサービスを差別化して優位性を確保するために必要な特許権、商標権、その他の知的財産に関わる権利を各市場国で保有しています。そして、これらの知的財産を侵害する行為には、各国の当局等とも連携して法的手続きを含む各種対応を講じるとともに、知財部門による第三者の知的財産に関する調査及び分析を踏まえて事業活動を推進しています。

 

 

 

(11)情報セキュリティ・サイバーリスク

<リスク>

顧客等の個人情報や機密情報の漏洩等の防止は、会社の信用維持、円滑な事業運営にとって、必要不可欠の事項といえます。万一、情報漏洩等の事態が発生した場合、当社グループの信用低下、顧客等に対する損害賠償責任が発生するおそれがあります。また、当社グループの事業活動において、情報システムへの依存度とその重要性は増大しており、サイバー攻撃やコンピューターウイルスの感染等により情報システムに障害が発生した場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループは、社内規程の制定、社員に対する定期的なセキュリティトレーニング、サイバーセキュリティ対策システムの構築、サイバーセキュリティインシデントに備えた事業継続要領・事業継続計画(BCP)策定等の措置を講じています。また、情報システム全体の可用性の向上を図るとともに、ハード・ソフト両面でサイバーセキュリティ対策等を実施しています。

 

 

(12)自然災害による事業中断リスク

<リスク>

当社グループの日本における主要製造拠点は、南海トラフ巨大地震の予想震源域近傍に集中しています。そのため、巨大地震が発生した場合には当社グループの製造拠点等が直接に被害を受け、操業が遅延又は中断し、業績及び財政状態にも影響を与える可能性があります。

<対応策>

巨大地震発生に対しては被害を最小化するため主要建築物・設備の耐震補強工事・情報システムのクラウド化等を行うと共に、平時から防災体制の整備・強化、災害用資機材・備蓄品の準備、全役職員を対象とした避難訓練や防災組織を対象とした初動対応訓練の実施等の対応を行っています。また、被災後の早期復旧を可能にするための事業継続要領・事業継続計画(BCP)を策定している他、当社グループが保有する建築物、在庫等の損害に対する地震保険にも加入しています。

 

 

(13)パンデミックによる事業中断リスク

<リスク>

新型インフルエンザ等の感染症が国内外でまん延しパンデミック状態となった場合には、多くの従業員が罹患・出社不能となる可能性があります。これにより、当社グループの操業が遅延または中断し、業績及び財政状態にも影響を与える可能性があります。

<対応策>

当社グループは新型インフルエンザ等によるパンデミックに対する事業継続要領・事業継続計画(BCP)を策定し、新型インフルエンザ等の発生段階に応じた対応体制、業務継続方針、感染対応等を定めています。2019年に新型コロナウイルスの感染が拡大した際には、事業継続計画に準じて本社で職域接種を実施した他、感染防止策の一つとして在宅勤務制度の導入やそれを可能とする各種システムツールの整備も実施しました。その他、今回の対応で得られた知見を反映し事業継続要領の見直しも行っています。

 

 

 

(14)人為災害等による事業中断リスク

<リスク>

戦争、テロ、ストライキ、デモ等が発生した場合、当社グループの操業が遅延又は中断する可能性があり、さらに、当社グループの製造拠点等が直接に損害を受けた場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

<対応策>

戦争、テロ等の有事の際には、従業員の安全を最優先として、収集した情報に基づき影響範囲や期間を見積もった上で代替生産や代替輸送等の対応策を講じ、当社グループの操業に及ぼす影響の最小化に努めます。従業員によるストライキやデモ等を防ぐため、当社グループの各社では労使関係を円満に保つための労使間の対話を行っています。また、当該事象が発生した場合には迅速に対処して当社グループの操業に及ぼす影響の最小化に努めます。

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営成績の概要及び分析

当連結会計年度における世界経済は、新型コロナウイルスの5類移行による各種制限の緩和に伴い経済活動が正常化する一方、長期化するロシア・ウクライナ情勢や中東での紛争勃発、世界的な金融引き締めによる景気減速懸念など、先行きの不透明な状況が続きました。

当社においては、半導体の調達が回復し、原材料価格や海上運賃の高騰が一服するなど、事業を取り巻く環境は平常へと向かいました。一方、先進国を中心にアウトドアレジャー需要が落ち着き、下期にはその傾向が明確になりました。これにより、いくつかの事業・地域では適正水準を上回る在庫となりました。また、前年に続き為替が円安方向に推移したことは、当社にとって追い風となりました。

このような経営環境の中、当社は中期経営計画に基づき各事業の戦略を推進するとともに、損益分岐点経営を念頭にコストダウンや価格転嫁を進めました。

 

この結果、当連結会計年度の売上高は2兆4,148億円(前期比1,663億円・7.4%増加)、営業利益は2,507億円(同258億円・11.5%増加)、経常利益は2,420億円(同27億円・1.1%増加)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,641億円(同103億円・5.9%減少)となり、過去最高の売上高、営業利益を達成しました。

なお、当連結会計年度の為替換算レートは、米ドル141円(前期比9円の円安)、ユーロ152円(同14円の円安)でした。

 

売上高は、二輪車や大型船外機の堅調な需要に加え、サプライチェーンの平常化と物流・生産課題などの改善により供給量が増加したことで、増収となりました。営業利益は、販売台数の増加に加え、原材料などコスト高騰に対する価格転嫁の効果拡大、円安によるプラスの効果もあり、増益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、金利スワップ評価損や為替差損益、投資有価証券評価損及び前年の投資有価証券売却益等の影響を受け、減益となりました。財務体質については、ROEは15.4%(前期比3.3ポイント減少)、ROICは9.2%(同2.7ポイント減少)、ROAは10.5%(同0.7ポイント減少)となりましたが、いずれも中期経営計画の目標水準を上回りました。自己資本は1兆1,235億円(前期末比1,204億円増加)、自己資本比率は43.7%(同2.3ポイント減少)となりました。また、フリー・キャッシュ・フロー(販売金融含む)は368億円のマイナス(同336億円減少)となりました。

 

当期は、現中期経営計画で掲げているポートフォリオ経営の取り組みが進みました。事業構造改革の進捗として、パワープロダクツ事業の事業譲渡契約締結(注)に加えて、スノーモビル事業及びプール事業からの撤退を決定しました。また、新規事業・成長事業の開発力強化のため、連結子会社ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社との合併について検討を開始しました。

(注)譲渡の実行は、競争法その他の法令上必要なクリアランス・許認可等の取得を前提とします。

 

セグメント別の概況

〔ランドモビリティ〕

売上高1兆5,818億円(前期比1,136億円・7.7%増加)、営業利益1,243億円(同369億円・42.3%増加)となりました。

部門別の経営成績の概要は、次の通りです。

二輪車では、売上高1兆4,081億円(前期比1,165億円・9.0%増加)、営業利益1,222億円(同376億円・44.4%増加)となりました。先進国では、欧米において需要が堅調に推移し、販売台数が増加した結果、売上高3,542億円(前期比313億円・9.7%増加)となりました。新興国では、景気低迷が続くベトナムと中国を除き、アジアを中心に多くの国で需要が増加し、インドネシア、インド、ブラジルなどで販売台数が増加した結果、売上高1兆540億円(前期比852億円・8.8%増加)となりました。二輪車全体の営業利益は、販売台数増加を主因に、価格転嫁や円安によるプラス効果もあり、増益となりました。

二輪車全体の販売台数は、多くの地域で需要が堅調に推移し、483万台(前期比1.1%増加)となりました。

RV(四輪バギー、レクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークル(ROV)、スノーモビル)では、売上高1,329億円(前期比96億円・7.8%増加)、営業利益69億円(前期:営業損失29億円)となりました。アウトドアレジャーブーム後に需要が減速する中、当社の出荷も減少しました。一方、前年課題が発生していた米国工場の生産効率が改善したことに加え、円安によるプラス効果もあり、増収・増益となりました。

SPV事業(電動アシスト自転車、e-Kit、電動車いす)では、売上高408億円(前期比125億円・23.5%減少)、営業損失48億円(前期:営業利益56億円)となりました。メイン市場である欧州において在庫調整局面が継続しています。当社も生産調整を実施しましたが、依然として市場在庫は高い水準で推移しており、解消には時間が掛かる見通しです。売上高・営業利益は、電動アシスト自転車とe-Kitの販売台数が減少したことにより、減収・減益となりました。

 

 [マリン]

売上高5,475億円(前期比305億円・5.9%増加)、営業利益1,137億円(同45億円・4.1%増加)となりました。

米国では大型船外機の需要は堅調に推移しましたが、中小型の船外機の需要は減少しました。一方、欧州では、景気後退懸念により船外機の需要が減少しました。また、中国及び東南アジアでは漁業や観光への需要が増加、中南米では漁業への安定した需要が継続しました。当社の販売台数は、新興国で増加、先進国で減少したことにより、船外機全体では減少しました。ウォータービークルは、需要が好調に推移する中、当社の販売台数も増加しました。円安によるプラス効果も加わり、マリン事業全体で増収・増益となりました。

 

[ロボティクス]

売上高1,014億円(前期比145億円・12.5%減少)、営業利益9億円(同110億円・92.7%減少)となりました。

サーフェスマウンターは、車載・産業機器向けの需要が堅調に推移しましたが、中国経済の低迷が続く中、スマートフォンやパソコンなどの民生機器向け需要は低調に推移し、当社の販売は中国、台湾を中心に減少しました。また、産業用ロボットは日本と韓国でEV電池への投資需要が高まりましたが、中国での販売減少の影響を大きく受けました。一方で、半導体製造装置は生成AI向けの需要が高まり、受注が拡大しました。この結果、ロボティクス事業全体では減収・減益となりました。

 

[金融サービス]

売上高865億円(前期比243億円・39.1%増加)、営業利益153億円(同22億円・12.6%減少)となりました。

販売台数の増加に伴い販売金融債権が増加するとともに、調達金利の顧客転嫁を進めた結果、増収となりました。一方、資金調達コストの増加、債権増加に伴う貸倒引当費用の増加、ブラジルでの金利スワップ評価損の発生などにより、減益となりました。

 

[その他]

売上高976億円(前期比124億円・14.6%増加)、営業損失36億円(前期:営業損失12億円)となりました。

米国工場の生産効率改善によりゴルフカーの販売台数が増加し、増収となりましたが、その他セグメント全体では固定費の増加などにより、減益となりました。

 

 

なお、各セグメントの主要な製品及びサービスは以下のとおりです。

セグメント

主要な製品及びサービス

ランドモビリティ

二輪車、中間部品、海外生産用部品、四輪バギー、レクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークル、スノーモビル、電動アシスト自転車、電動アシスト自転車ドライブユニット(e-Kit)、電動車いす、自動車用エンジン、自動車用コンポーネント

マリン

船外機、ウォータービークル、ボート、プール、漁船・和船

ロボティクス

サーフェスマウンター、半導体製造装置、産業用ロボット、産業用無人ヘリコプター

金融サービス

当社製品に関わる販売金融及びリース

その他

ゴルフカー、発電機、汎用エンジン、除雪機

 

 

 

(2) 生産、受注及び販売の実績

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

製品

台数(台)

前期比(%)

ランドモビリティ

二輪車

4,846,131

101.2

四輪バギー、
レクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークル

39,040

65.6

電動アシスト自転車、電動アシスト自転車ドライブユニット(e-Kit)

655,942

76.7

マリン

船外機

327,837

89.3

ウォータービークル

53,299

125.8

ボート、漁船・和船

8,585

80.0

ロボティクス

サーフェスマウンター、産業用ロボット

29,976

79.8

その他

ゴルフカー

70,050

118.1

 

(注) 主要製品について記載しています。

 

② 受注実績

当社グループは主に見込み生産をしています。

 

③ 販売実績
(a)当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ランドモビリティ

1,581,848

107.7

マリン

547,520

105.9

ロボティクス

101,355

87.5

金融サービス

86,476

139.1

報告セグメント計

2,317,201

107.1

その他

97,558

114.6

合計

2,414,759

107.4

 

(注) セグメント間取引については相殺消去しています。

 

(b)ランドモビリティの主要製品である二輪車の当連結会計年度における当社グループの販売実績は、次のとおりです。

地域

台数(台)

前期比(%)

日本

75,691

79.3

海外

4,751,509

101.6





北米

76,354

113.0

欧州

208,838

104.8

アジア

3,883,491

101.5

その他

582,826

99.5

合計

4,827,200

101.1

 

 

(3) 財政状態の概要及び分析

総資産は、前期末比3,887億円増加し、2兆5,720億円となりました。流動資産は、販売台数の増加に伴う販売金融債権の増加や為替換算影響などにより同2,429億円増加しました。固定資産は、長期販売金融債権の増加などにより同1,458億円の増加となりました。

負債合計は、長期借入金や運転資金の増加等による有利子負債の増加、為替換算影響などにより同2,603億円増加し、1兆3,893億円となりました。

純資産合計は、配当金の支払471億円、自己株式の取得300億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,641億円、為替換算調整勘定の増加474億円などにより同1,284億円増加し、1兆1,827億円となりました。

これらの結果、自己資本比率は43.7%(前期末:45.9%)、D/Eレシオ(ネット)は0.45倍(同:0.31倍)となりました。

 

(4) キャッシュ・フローの状況

〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕

税金等調整前当期純利益2,417億円(前期:2,458億円)や減価償却費632億円(同:598億円)、売上債権の減少168億円(同:129億円の増加)などの収入に対して、販売金融債権の増加1,206億円(同:708億円の増加)、法人税等の支払額791億円(同:538億円)、棚卸資産の増加458億円(同:901億円の増加)、仕入債務の減少297億円(同:31億円の増加)などの支出により、全体では802億円の収入(同:709億円の収入)となりました。

 

〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕

固定資産の取得による支出1,099億円(前期:894億円の支出)、投資有価証券の取得による支出183億円(同:153億円の支出)などにより、1,170億円の支出(同:742億円の支出)となりました。

 

〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕

配当金の支払や自己株式の取得などによる支出がありましたが、有利子負債の増加などにより953億円の収入(前期:231億円の収入)となりました。

 

これらの結果、当期のフリー・キャッシュ・フローは368億円のマイナス(前期:32億円のマイナス)、現金及び現金同等物は3,470億円(前期末比:502億円の増加)となりました。当期末の有利子負債は8,439億円(同:2,412億円の増加)となりました。

 

(5) 金融サービス事業を区分した経営成績情報

以下の表は金融サービス事業と金融サービス事業以外の事業を区分した要約連結貸借対照表、要約連結損益計算書及び要約連結キャッシュ・フロー計算書です。これらの要約連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準においては要求されていませんが、金融サービス事業はそれ以外の事業とは性質が異なるため、このような表示が連結財務諸表の理解と分析に役立つものと考えています。なお、以下の「金融サービス事業以外の事業及び消去」は連結計から金融サービス事業の数値を差し引いたものとしています。

 

要約連結貸借対照表

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金融サービス事業

金融サービス事業以外
の事業及び消去

連結計

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年

12月期

2023年

12月期

2022年

12月期

2023年

12月期

2022年

12月期

2023年

12月期

資産の部

 

 

 

 

 

 

 

 

現金及び預金

12,995

22,134

275,784

316,705

288,780

338,839

 

 

短期販売金融債権

230,131

338,520

-

-

230,131

338,520

 

 

受取手形、売掛金
及び契約資産

325

1,044

187,085

185,867

187,410

186,911

 

 

棚卸資産

-

-

525,847

609,497

525,847

609,497

 

 

その他

92,685

32,725

△1,763

61,975

90,921

94,700

 

 

貸倒引当金

△13,141

△15,025

△4,266

△4,889

△17,408

△19,915

 

 

流動資産合計

322,996

379,398

982,686

1,169,155

1,305,683

1,548,554

 

 

有形及び無形固定資産

18,568

21,696

412,050

463,322

430,619

485,019

 

 

長期販売金融債権

256,382

326,784

-

-

256,382

326,784

 

 

その他

7,367

10,345

187,915

216,758

195,283

227,104

 

 

貸倒引当金

△4,404

△15,201

△272

△299

△4,677

△15,500

 

 

固定資産合計

277,914

343,625

599,693

679,782

877,607

1,023,407

 

資産合計

600,910

723,024

1,582,380

1,848,938

2,183,291

2,571,962

負債の部

 

 

 

 

 

 

 

 

短期借入金

113,976

101,058

59,009

204,505

172,985

305,563

 

 

1年内返済予定の
長期借入金

118,065

54,334

34,903

55,000

152,969

109,334

 

 

1年内償還予定の社債

5,156

23,974

-

-

5,156

23,974

 

 

支払手形及び買掛金

1,725

2,642

146,408

148,442

148,133

151,084

 

 

その他

31,002

39,866

242,624

235,340

273,627

275,207

 

 

流動負債合計

269,927

221,877

482,946

643,288

752,873

865,165

 

 

長期借入金

162,138

296,989

87,863

68,042

250,002

365,031

 

 

社債

21,575

19,971

-

20,000

21,575

39,971

 

 

その他

1,491

3,684

103,049

115,437

104,541

119,122

 

 

固定負債合計

185,205

320,645

190,913

203,480

376,119

524,125

 

負債合計

455,132

542,523

673,859

846,768

1,128,992

1,389,291

純資産の部

 

 

 

 

 

 

 

 

資本金

35,093

49,686

51,007

36,414

86,100

86,100

 

 

資本剰余金

143

143

67,907

63,628

68,050

63,771

 

 

利益剰余金

93,629

102,605

800,419

904,319

894,049

1,006,925

 

 

自己株式

-

-

△31,725

△61,389

△31,725

△61,389

 

 

その他の包括利益
累計額合計

16,911

28,065

△30,313

△13

△13,401

28,052

 

 

非支配株主持分

-

-

51,225

59,210

51,225

59,210

 

純資産合計

145,778

180,500

908,520

1,002,169

1,054,298

1,182,670

 

負債純資産合計

600,910

723,024

1,582,380

1,848,938

2,183,291

2,571,962

 

 

 

 

要約連結損益計算書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金融サービス事業

金融サービス事業以外
の事業及び消去

連結計

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年

12月期

2023年

12月期

2022年

12月期

2023年

12月期

2022年

12月期

2023年

12月期

売上高

62,178

86,476

2,186,278

2,328,282

2,248,456

2,414,759

売上原価

29,382

52,272

1,585,328

1,647,136

1,614,711

1,699,409

売上総利益

32,795

34,204

600,949

681,146

633,745

715,350

販売費及び一般管理費

15,251

18,875

393,629

445,819

408,880

464,694

営業利益

17,543

15,328

207,320

235,327

224,864

250,655

営業外収益

1,359

1,007

24,673

20,410

26,033

21,418

営業外費用

-

2,076

11,603

28,016

11,603

30,092

経常利益

18,903

14,260

220,390

227,721

239,293

241,982

特別利益

-

-

8,946

4,212

8,946

4,212

特別損失

-

-

2,441

4,512

2,441

4,512

税金等調整前当期純利益

18,903

14,260

226,895

227,421

245,798

241,681

法人税等合計

3,501

3,234

52,715

59,976

56,216

63,211

当期純利益

15,401

11,025

174,180

167,444

189,582

178,470

非支配株主に帰属する当期純利益

-

-

15,142

14,350

15,142

14,350

親会社株主に帰属する当期純利益

15,401

11,025

159,037

153,094

174,439

164,119

 

 

要約連結キャッシュ・フロー計算書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金融サービス事業

金融サービス事業以外
の事業及び消去

連結計

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年

12月期

2023年

12月期

2022年

12月期

2023年

12月期

2022年

12月期

2023年

12月期

営業活動によるキャッシュ・フロー

 

 

 

 

 

 

 

税金等調整前当期純利益

18,903

14,260

226,895

227,421

245,798

241,681

 

減価償却費

3,388

3,613

56,436

59,610

59,824

63,223

 

販売金融債権の増減額(△は増加)

△70,825

△120,634

-

-

△70,825

△120,634

 

その他

△8,747

8,412

△155,128

△112,532

△163,876

△104,120

 

営業活動によるキャッシュ・フロー

△57,281

△94,348

128,203

174,498

70,921

80,150

投資活動によるキャッシュ・フロー

 

 

 

 

 

 

 

有形及び無形固定資産の取得
による支出

△8,651

△9,582

△80,737

△100,329

△89,388

△109,912

 

その他

△35,090

79,954

50,319

△87,015

15,228

△7,060

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

△43,741

70,372

△30,418

△187,344

△74,160

△116,972

財務活動によるキャッシュ・フロー

 

 

 

 

 

 

 

借入金の増減額(△は減少)

78,393

21,096

6,609

142,734

85,003

163,831

 

社債の増減額(△は減少)

12,654

8,809

-

20,000

12,654

28,809

 

その他

3,287

14,062

△77,841

△111,443

△74,554

△97,380

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

94,335

43,969

△71,232

51,291

23,103

95,260

現金及び現金同等物に係る換算差額

3,305

△11,180

△1,288

2,613

2,017

△8,567

現金及び現金同等物の増減額
(△は減少)

△3,382

8,812

25,265

41,058

21,882

49,871

現金及び現金同等物の期首残高

16,378

12,995

258,558

283,823

274,936

296,819

新規連結に伴う現金及び
現金同等物の増加額

-

325

-

-

-

325

現金及び現金同等物の期末残高

12,995

22,134

283,823

324,882

296,819

347,016

 

 

 

(6) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

当社グループにおける主な資金需要は、製品製造のための材料・部品等の購入費、製造費用、製品・商品の仕入、販売費及び一般管理費、運転資金、設備投資資金、投融資及び当社製品に関わる販売金融です。

運転資金については返済期限が一年以内の短期借入金で、通常各々の会社が運転資金として使用する現地の通貨で調達しています。設備投資資金については主に資本金、内部留保といった自己資金でまかなうこととしています。

資金の流動性管理にあたっては、適時に資金繰り計画を作成・更新するとともに、手元流動性を適度に維持することで、必要な流動性を確保しています。

当連結会計年度においては、フリー・キャッシュ・フローはマイナスとなりましたが、二輪車や大型船外機の堅調な需要や販売を背景に販売金融債権や棚卸資産などが増加したことや、設備投資などの投資活動が活発であったことによるものです。また、株主還元と資本効率の向上を図るために自己株式の取得を行いました。

当社は株主の皆様の利益向上を重要な経営課題と位置付け、企業価値の向上に努めています。株主配当については期末配当1株当たり72.5円(2024年3月21日開催の第89期定時株主総会にて決議)を予定しています。また、当社は2024年1月1日を効力発生日として、普通株式1株につき3株の割合で株式分割を行いました。これにより、2024年は年間配当1株あたり50円、加えて200億円の自己株式の取得を予定しています。

また、2024年の設備投資は1,000億円、研究開発費は1,390億円を計画しています。

 

(7) 重要な会計方針及び見積り

当社の連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しています。その作成には経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者はこれらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は、これらの見積りと異なる場合があります。

当社の連結財務諸表で採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載していますが、特に次の重要な会計方針が連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすと考えています。なお、当連結会計年度における重要な会計上の見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

① 棚卸資産

当社グループは、棚卸資産の、推定される将来需要及び市場状況に基づく時価の見積額と総平均法による原価法(貸借対照表価額は、収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定しています。)による評価額との差額に相当する陳腐化の見積額について、評価減を計上しています。実際の将来需要又は市場状況が、当社グループ経営者による見積りより悪化した場合、追加の評価減が必要となる可能性があります。

 

② 貸倒引当金

当社グループは、売掛金、販売金融債権及び貸付金その他これらに準ずる債権を適正に評価するため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については、個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を計上しています。なお、米国内のインフレの急激な進行等の外部環境の変化により債権の信用リスクが増加した場合には、必要に応じて見積りに対し補正を加えています。将来、債権の相手先の財務状況がさらに悪化して支払能力が低下した場合には、引当金の追加計上又は貸倒損失が発生する可能性があります。

 

 

③ 固定資産の減損

当社グループは、減損の兆候のある資産または資産グループごとに将来キャッシュ・フローの見積りを行い、固定資産の減損要否の判定を行っています。資産または資産グループの減損が必要であると判断した場合、帳簿価額が回収可能価額を超える部分について減損損失を認識します。将来、回収可能価額が減少した場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。

 

④ 投資有価証券

当社グループは、販売又は仕入に係る取引先や金融機関及びスタートアップ企業・ベンチャー企業等の株式を保有しています。これらの株式には価格変動性が高い上場株式と市場価格のない非上場株式が含まれます。当社グループは、投資価値の下落が一時的ではないと判断した場合、合理的な基準に基づいて投資有価証券の減損損失を計上しています。時価のある有価証券についての減損処理に係る合理的な基準は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (有価証券関係)」に記載しています。なお、将来の市況悪化又は投資先の業績不振など、現在の簿価に反映されていない損失又は簿価の回収が不能となる状況が発生した場合、減損損失の追加計上が必要となる可能性があります。

 

⑤ 繰延税金資産

当社グループは、将来の一定期間における課税所得の見積りやタックスプランニングに基づき、繰延税金資産の回収可能性を検討しています。これらの将来に係る見積りは、市場の動向や経済環境、また、当社グループの事業計画等の変動の影響を受けるため、回収可能性が大きく変動した場合、税金費用が大きく変動する可能性があります。

 

⑥ 製品保証引当金

当社グループは、販売済製品の保証期間中のアフターサービス費用、その他販売済製品の品質問題に対処する費用の見積額を計上しています。当該見積りは、過去の実績若しくは個別の発生予想額に基づいていますが、実際の製品不良率又は修理コストが見積りと異なる場合、アフターサービス費用の見積額の修正が必要となる可能性があります。

 

⑦ 退職給付に係る負債

従業員の退職給付費用及び退職給付債務は、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されています。これらの前提条件には、割引率、長期期待運用収益率、将来の給与水準、退職率、直近の統計数値に基づいて算出される死亡率などが含まれます。当社及び一部の国内連結子会社が加入する年金制度においては、割引率は優良社債を基礎とした複数の割引率を退職給付の支払見込期間ごとに設定しています。長期期待運用収益率は、年金資産が投資されている資産の種類毎の期待収益率の加重平均に基づいて計算されます。実際の結果が前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合、その影響は累積され、将来にわたって規則的に計上されるため、一般的には将来期間において認識される収益・費用、計上される資産・負債及び純資産に影響を及ぼします。数理計算上の差異等の償却は退職給付費用の一部を構成していますが、前提条件の変化による影響や前提条件と実際との結果の違いの影響を規則的に費用認識したものです。また、前述の前提条件の変化により償却額は変動する可能性があります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

特記事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、「感動創造企業」を企業目的とし、世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供することを目指しています。その実現のために、「新しく独創性ある発想・発信」「お客様の悦び・信頼感を得る技術」「洗練された躍動感を表現する魅力あるデザイン」「お客様と生涯にわたり結びつく力」を目指す「ヤマハ発動機らしいモノ創り」に挑戦し続け、人間の論理と感性を織り合わせる技術により、個性的かつ高品質な製品・サービスを提供します。

当社は、こうした「ヤマハ発動機らしさ」が「ヤマハ」ブランドとして様々なステークホルダーの皆様に認識され、生涯にわたって当社の製品・サービスを選んでいただけるよう、努力を続けることが当社の持続的な成長を実現するとともに中長期的な企業価値を高めるものと考えます。

当社は、2030年を見据えた長期ビジョンならびに2022年からの3ヵ年における中期経営計画において、サステナビリティと企業価値向上の両立を実現するための施策の取組みを行っています。コア事業の稼ぐ力を高め、サステナブルな社会に貢献する新規・成長事業への研究開発投資の拡大、多様なエネルギー源に対応したパワートレインの開発を推進し、デジタル技術の活用と共創の加速によりヤマハらしい新価値創造を進めてまいります。

 

当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は、1,161億円となりました。各セグメントの主要な製品及びサービス、セグメントごとの研究開発費及び研究開発活動の成果は、次のとおりです。

 

ランドモビリティ

二輪車、中間部品、海外生産用部品、四輪バギー、レクリエーショナル・オフハイウェイ・

ビークル、スノーモビル、電動アシスト自転車、電動アシスト自転車ドライブユニット(e-Kit)、電動車いす、自動車用エンジン、自動車用コンポーネント

当連結会計年度の研究開発費:759億円

 

主な成果は以下のとおりです。

(二輪車)

長距離ツアラーとしての快適性と積載性を向上させ、LMW(リーニング・マルチ・ホイール)ならではの自然な操舵性とリーン特性を両立したハンドリングに加え、LMWカテゴリーのフラッグシップにふさわしい仕上がりを実現している「NIKEN GT」の開発。

専用ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)を採用し、エンジン・車体に専用セッティングを施しパフォーマンスを飛躍的に向上させ、「極低速域での粘り」と「中高速域での力強さ」に貢献するクロスカントリー用モデル「YZ450FX」の開発。

「アジャイルな加速性能」「俊敏なハンドリング」「MTらしさを突き詰めたTorque×Agileを表現したデザイン」という3要素を高次元で調和させ、MTの名にふさわしい性能とスタイルを実現した「MT-125 ABS」の開発。

XSRシリーズのアイデンティティである「不変性を感じるスタイル」と「最新コンポーネント」の融合による「Neo Retro」(注1)を継承し、バイクライフを始めやすいモデルとして具現化した新製品「XSR125 ABS」の開発。

(電動アシスト自転車)

週末の街乗りから通勤などで利用する方をターゲットとして、シンプルで上質なデザインに仕上げ、内装3段変速など日常生活での数キロ圏内の移動に適した新型電動アシスト自転車「PAS CRAIG(パス クレイグ)」の開発。

コンパクトに使いやすく進化した新型大容量バッテリーと充電器の開発。バッテリーは従来モデルに比べて、0.4Ahの容量アップを行い、重さは450g軽く、サイズは約20%小型化した。充電器は従来モデルに比べ、サイズが約40%小型化されたことで、収納しやすくなった。

 

注1:「Neo Retro」とは、オーセンティックでレトロな外観や、その背景の物語性をもちながらも、最新技術に裏

       付けられたエキサイティングな走りを提供するカテゴリー。

 

マリン

船外機、ウォータービークル、ボート、プール、漁船・和船

当連結会計年度の研究開発費:244億円

 

主な成果は以下のとおりです。

 

(船外機)

電動モーターを動力とする推進器ユニットと、動作を制御するリモートコントロールボックス、直感的な操作を可能とするジョイスティックなどで構成された、次世代操船システム「HARMO(ハルモ)」の実証運航を徳島市が運航する「ひょうたん島クルーズ」を含め、日本国内の複数の場所にて実施。

マリン商材のカーボンニュートラル達成に向け、新エネルギー技術へマルチパスで開発を推進し、米国・フロリダ州にて開催される世界最大級のボートショーである「Miami International Boat Show2024」に水素エンジン船外機の開発試作機を出展。

ウォータービークル

従来モデルに採用されていた独自のパドルコントロールシステム「DRiVE(ドライブ)」を、真横方向への移動やその場旋回を可能にした新開発の「DRiVE X(ドライブ エックス)」に進化し、低速走行や離着岸時の操縦性を飛躍的に高めたスポーツボートのニューモデル「275SDX」の開発。

日本製紙株式会社との協業により開発した、植物由来のCNF(セルロースナノファイバー)強化樹脂部品を輸送機器部品としては世界で初めて量産化し、水上オートバイ「ウェーブランナー」及びウォータージェット推進機を搭載する「スポーツボート」のモデルへ採用。

 

ロボティクス

サーフェスマウンター、半導体製造装置、産業用ロボット、産業用無人ヘリコプター

当連結会計年度の研究開発費:110億円

 

主な成果は以下のとおりです。

サーフェスマウンター

高速・高精度で汎用性に優れた主力万能型マウンター「YRM20」の基本性能をベースとして、新開発の高剛性デュアルレーンコンベアを採用し、搬送ロスなどのさらなる削減により、実生産性/面積生産性の向上を実現した超高効率デュアルレーンモジュラー「YRM20DL」の開発。

高速・高精度なハンダ印刷と、段取り替えの全自動化を実現し、さらにデュアルレーン生産にも対応したクリームハンダ印刷機(注2)の新製品「YRP10」の開発。

(産業用ロボット)

高い動作性能とコストパフォーマンスを両立させ、市場需要の高いクリーン度ISO Class4(ISO14644-1)(注3)を満たす、クリーンルーム内での自動化作業に最適な新たなクリーンスカラロボット「YK-XECシリーズ」の開発。

 

    注2:微細なハンダ粒子と粘性流体フラックス&バインダを練ったクリーム状のハンダ製品をスキージ(ヘラのよ

          うな道具)でプリント基板の上に塗布する装置。リフロー硬化炉で加熱することでハンダが溶けて表面実装

          方式の電子部品をプリント基板に接合する。

    注3:ISO規格では、1m³あたりに含まれる粒径0.1μm以上の粒子の数でクラス分けしており、ISO Class4の場合、

          測定粒径0.1μmで上限濃度10,000個/m³。

 

その他

ゴルフカー、発電機、汎用エンジン、除雪機

当連結会計年度の研究開発費:49億円

 

 主な成果は以下のとおりです。

(ゴルフカー)

公道用電動カートを使った移動が、「健康促進に寄与」する検証を目的とした千葉大学予防医学センターとの共同研究において、2023年7月、公道電動カート導入5カ月後の健康増進効果を確認。引き続き、2023年度内に導入1年後の効果を検証予定。

レベル4(注4)の自動運転装置を使用する自動運転車両の道路交通法に基づく特定自動運行を、国内で初めて認可の取得。

 

    注4:レベル4の自動運転は特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全て

          を代替する状態。