文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「ビジュアル・コミュニケーション・テクノロジーの創造」をビジネステーマに、「人々の暮らしを快適にする情報文化の創造」を存在意義と定めており、技術力、情報力を駆使し、「競争力と独自性を有した世界三大インキメーカー」を目標としております。また、新規市場の開拓や既存の事業分野を越えた新規事業の創出など“新たな挑戦”と社内改革の実現を積極的に推進してまいります。さらに、当社グループは世界全体の共通アジェンダとなった“SDGs”にうたわれている、地球環境をはじめとした様々な課題にも取り組み、サステナブルな社会の実現に貢献していきながら、ESG経営を実践してまいります。
(2)事業環境認識
近年の当社グループを取り巻く事業環境の主な変化について、次の通り認識しております。新型コロナウイルス感染症の影響につきましては、多くの国と地域において防疫対策が進み、経済活動への影響はほぼなくなったと考えています。また、当期については原油をはじめとした資源価格は安定化し、世界的なインフレについてもやや鈍化していますが、ウクライナとロシアの問題や中東情勢の不安定化、長引く中国経済の停滞など、今後も世界経済が不安定になる要素が多く存在し、さらに気候変動対策としての環境規制の強化なども背景に、原材料高やインフレによる影響の懸念を抱えている状況が続いています。また、国内においては少子高齢化にともなう人口減少による労働力不足や国内市場の縮小、経済成長の停滞による消費活動の減退が懸念されます。
このようななか、印刷インキ関連事業については、デジタル化の加速により、紙媒体の情報メディア向け製商品の需要が先進国を中心に、さらに減少していくことが見込まれるものの、主力のパッケージ関連の印刷インキは、食品、飲料及び衛生用品などの生活必需品の供給を支える事業という観点から、経済成長や人口の増加とともに、需要は中長期的に増加していくものと予想されます。機能性材料事業については、競合他社との競争が年々厳しくなりつつあるものの、インクジェットを中心としたデジタル印刷の用途拡大や、デジタルデバイスの高度化に伴う画像表示材料の高品質化などにより、市場は今後も拡大すると見込んでいます。
*国内の少子高齢化の進行による人口動態の変化
・労働力人口の減少
・国内市場の縮小
・経済成長の停滞
*国内・海外での市場・競争環境変化
・情報メディアの紙離れによるインキ需要の低迷
・新興国市場における競争の激化
・脱プラスチック等環境対応ニーズの変化と高まり
*デジタル化によるバリューチェーンの変化
・デジタル媒体の大幅な増加
・印刷の多様化・カスタマイズ化
*環境問題・社会課題への対応
・長期的なサステナビリティ配慮、SDGsに向けた取り組みの重要性の高まり
・資源制約・原料価格高騰リスクの高まり
・ESG投資の影響力増大
(3)中長期的な会社の経営戦略と優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは、2030年の達成を目標とする長期ビジョンを2021年に策定し、それに基づいて事業活動を推進しています。
1896年の創業から129年を迎え、これまで着実に成長してまいりました。一方で、近年はデジタルメディアの急激な普及や気候変動をはじめとした環境対策の必要性がより一層高まるなど、当社グループを取り巻く事業環境は大きく変化しており、今後さらに非連続的な変化が起こりうる状況にあります。
このような事業環境の変化の中で、当社グループが社会から求められる企業として持続的に成長していくためには、柔軟性を持ち、長期的な視点に立って、将来のあるべき姿と、そこに至る道筋や施策を策定し、常にグループ全体でそれらを共有・推進していくことが重要です。サステナブルな社会の実現に貢献するため、様々な社会課題の解決に向けた一翼を担いつつ、当社グループのさらなる発展を果たしてまいります。
長期ビジョン『SAKATA INX VISION 2030』の概要
1.企業理念
ビジネステーマ 『ビジュアル・コミュニケーション・テクノロジーの創造』
存在意義 『人々の暮らしを快適にする情報文化の創造』
2.ビジョン
“Create and Innovate, Care for the Earth, Color for Life”
~あなたと、つくる、価値ある、あした~
新たな領域への挑戦によって“イノベーション”を生み出し、“地球”にやさしい技術で、“人生”を快適かつ豊かに彩り、世界中に笑顔があふれる未来を創る企業
3.戦略の方向性
*地球環境と地域社会を重視したESG・サステナビリティの取り組み強化
・地球環境と人々の豊かで健康的な生活の向上に貢献し、世界が目指すサステナブルな社会の一翼を担う
・当社マテリアリティに対する各取組方針の実施を通じて、持続可能な社会の実現に貢献
*印刷インキ事業・機能性材料事業の拡大
・主力のパッケージ印刷分野を中心に、より一層の環境経営を推進(印刷インキ)
・社会トレンドを捉えた高付加価値製品をグローバルに展開(機能性材料)
*新しい事業領域への挑戦
・4つの注力分野
『環境/バイオケミカル』、『エナジーケミカル』、
『エレクトロニクスケミカル』、『オプトケミカル』
4.変革プロジェクト
*グローバル連結経営のさらなる強化
*ステークホルダーとの関係強化
*人財育成の強化・組織風土の改革
5.ESG・サステナビリティへの取り組み
重要課題(マテリアリティ)と目指す社会
* |
持続可能な地球環境を 維持するための活動 |
>>> |
地球環境を保護し、人々に安全と健康を |
* |
安心・安全な製品の供給 |
>>> |
快適さ、利便性とともに、循環型社会の実現を |
* |
研究開発・技術力の強化 |
>>> |
豊かな生活、新しいライフスタイルの創造を |
* |
コーポレートガバナンス、 コンプライアンスの強化 |
>>> |
ステークホルダーとの良好な信頼関係を |
* |
人権の尊重、 DEIBの推進 |
>>> |
人権、人格、多様性を尊重し、働きやすい労働環境を |
『中期経営計画2026(CCC-Ⅱ※)』の概要
1.基本方針
基盤構築の期間として取り組んだ前中期経営計画(CCC-Ⅰ)に続き、当社グループの長期ビジョン『SAKATA INX VISION 2030』をバックキャスティングし、事業拡大・収益力強化に取り組む3年間として『中期経営計画2026(CCC-Ⅱ)』(以下、中計)を2024年2月に策定しました。
長期ビジョンにおける戦略の方向性として、「印刷インキ・機能性材料事業の拡大」「新しい事業領域への挑戦」「地球環境と地域社会を重視したESG・サステナビリティの取り組み強化」としており、それに基づいた事業活動を進めてまいります。
「印刷インキ・機能性材料事業の拡大」においては、パッケージ分野を中心にボタニカルインキシリーズなど環境配慮型製品を軸としたサステナブルな製品の積極展開をグループ全体で推進するとともに、デジタル化にともなう事業環境の変化に対応した事業構造改革を進めてまいります。また、インクジェットインキにおいては衣食住をターゲットとした新市場への拡大や、画像表示材料における拡販と新分野への展開などを行ってまいります。
「新しい事業領域への挑戦」では、基盤構築の期間で実施したさまざまなアプローチの成果に基づいて、事業化の可能性が高い製品・サービスを具現化し、収益につなげていく期間としています。その具現化の手段として、研究開発をさらに進めるとともに、当社の技術やサービスとの親和性が高い有望な技術を持つ企業や団体とのオープンイノベーションを進め、新しい製品やビジネスモデルの提案を加速させていきます。
また、「地球環境と地域社会を重視したESG・サステナビリティの取り組み強化」については、環境に配慮したサステナビリティ製品の展開や気候変動に対応した事業活動でのさまざまな取り組み、持続的な発展を実現するための基盤となる人的資本政策、適正かつ透明性の高いガバナンス体制の構築を推進してまいります。
そしてこれらの取り組みは、資本コストや株価を意識した経営を基本とし、収益力強化や成長戦略への投資と株主還元に対する資本の最適配分に加え、資本コストの低減を進めるとともに、IR活動を通じて当社グループの成長ストーリーの実効性の実現性をステークホルダーの皆様に理解していただくことで、中長期的な企業価値の向上を目指してまいります。
これらのさまざまな取り組み施策を当社グループ全体で着実に実行することにより、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、事業拡大と収益力の強化を実現し、ステークホルダーの皆様からより一層の信頼を得られるように、長期ビジョン実現と中期経営計画の目標達成に向け、邁進してまいります。
(※)CCC-Ⅱ : |
今中計を長期ビジョン『SAKATA INX VISION 2030』の「第二期・フェーズ2」とし、長期ビジョンのキャッチフレーズ「Create and Innovate, Care for the Earth, Color for Life」の頭文字からCCC-Ⅱと表記いたしました。 |
2.連結目標数値
|
2023年 実績 |
|
2026年 計画 |
伸長率 |
売上高 |
2,283億円 |
2,700億円 |
18.3% |
|
営業利益 |
113億円 |
180億円 |
59.3% |
|
経常利益 |
136億円 |
190億円 |
39.7% |
|
親会社株主に帰属する当期純利益 |
74億円 |
127億円 |
71.6% |
(注)表中の数値は、2024年3月4日に公表した内容を記載しております。
3.連結経営指標
ROE 10%以上
4.セグメント別計画
(単位:億円)
|
売上高 |
営業利益 |
||||
2023年 実績 |
2026年 計画 |
伸長率 |
2023年 実績 |
2026年 計画 |
伸長率 |
|
印刷インキ・機材(日本) |
521 |
530 |
1.7% |
5 |
29 |
5.8倍 |
印刷インキ(アジア) |
524 |
667 |
27.3% |
43 |
43 |
0.0% |
印刷インキ(米州) |
785 |
928 |
18.2% |
43 |
49 |
14.0% |
印刷インキ(欧州) |
195 |
212 |
8.7% |
△7 |
5 |
- |
機能性材料 |
168 |
244 |
45.2% |
18 |
44 |
2.4倍 |
その他 |
153 |
200 |
30.7% |
4 |
18 |
4.5倍 |
調整額 |
△64 |
△81 |
- |
6 |
△8 |
- |
合計 |
2,283 |
2,700 |
18.3% |
113 |
180 |
59.3% |
(注)表中の数値は、2024年3月4日に公表した内容を記載しております。
5.財務・資本政策
総投資額 400億円
うち、将来成長に向けた戦略的投資150億円
株主還元 積極的かつ安定的な配当と機動的な自己株式の取得
目標:総還元性向50%以上又はDOE(株主資本配当率)2.5%のいずれか高い方
当社グループが信頼され、期待される企業として持続的な発展をしていくために、気候変動をはじめとした環境問題の解決、人権保護や安全で働き甲斐のある労働環境の整備、コンプライアンス遵守と統制のとれたガバナンスなど、サステナブルな取り組みを事業活動の中心に据え実践することが、最重要課題のひとつです。さまざまなステークホルダーからの要請を敏感に察知し、また、社会の変化に適切に対応することで、当社グループの社会的価値を高めてまいります。
ここでは、(1)当社グループのサステナビリティの考え方及び取組、(2)気候変動対応、(3)人的資本経営について記載します。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)当社グループのサステナビリティの考え方及び取組
①ガバナンス
サステナビリティ、ESGに関するガバナンスは、代表取締役社長執行役員を委員長とし、全取締役をメンバーとするサステナビリティ委員会が統括しています。また、サステナビリティ委員会の下位組織にあたる各種委員会において、当社グループにおける、気候変動への対応を含むサステナビリティの各種リスクの把握、対応策の審議等を行っています。サステナビリティ委員会は、半期ごと(年2回)に開催され、サステナビリティに関わる重要な方針や目標を承認、進捗を管理するとともに社会課題や環境問題の解決に向けた事業活動を通じての貢献、持続可能な社会構築への寄与、新たな価値の創造を推進しています。そのほか、長期ビジョンを達成するために取り組んでいる社内の変革プロジェクトなどにも関与しながら、全社一丸となってサステナブルな社会実現に向けてESG活動に取り組んでいます。また、当社グループのESG活動を強化するために、ESG推進部を設置しています。
②戦略
当社グループは、長期ビジョン『SAKATA INX VISION 2030』における戦略の方向性として、「地球環境と地域社会を重視したESG・サステナビリティの取り組み強化」を掲げております。2030年のSDGsの目標達成に向け、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を定めており、マテリアリティに対する機会、リスクを分析し、これらを対処するための取組を進めております。
<重要課題(マテリアリティ)、機会・リスク、取組>
|
重要課題 (マテリアリティ) |
機会 |
リスク |
対処するための取組 |
* |
持続可能な地球環境を 維持するための活動 |
・サーキュラーエコノミーなどの環境関連市場の拡大 ・ブランドイメージの向上 ・長期的なコスト削減 ・環境課題起点のオープンイノベーション |
・市場シェア喪失 ・ブランドイメージの低下 |
・気候変動・自然環境保全 に関わる活動(TCFD・TNFDへの対応) ・廃棄物削減を目指した事業活動 ・水使用量削減を目指した事業活動 ・責任あるサプライチェーンの構築 |
*
|
安心・安全な製品の供給 |
お客様からの信頼の獲得 |
環境汚染や品質事故、健康に伴う事業継続リスク |
・グローバルな化学物質管理体制の構築 ・品質保証体制、製品管理体制の強化 ・労働安全衛生の向上と健康経営の推進 |
*
|
研究開発・技術力の強化
|
・競争力の強化 ・ブランドイメージの向上 ・社会課題起点のオープンイノベーションの実現 |
市場シェアの喪失 |
・CSV(共通価値の創造)製品の開発 ・新規事業の創出 |
* |
コーポレートガバナンス、コンプライアンスの強化 |
・ステークホルダーダイアログの充実 ・リスクマネジメントの強化 |
・企業イメージの低下 ・各種法令違反 |
・グローバル経営体制の強化 ・リスクマネジメント、ガバナンスの強化 ・ステークホルダーダイアログの充実 |
*
|
人権の尊重、 DEIBの推進 |
・事業の安定化 ・多様な人財の登用による成果向上への期待 ・組織風土の改革 ・企業価値の向上 |
・ステークホルダーからの信頼と信用の低下 ・人財不足による競争力の低下 |
・人権重視とDEIBの推進 ・働き甲斐のある職場、組織風土の実現 ・グローバル人財などの育成のためのキャリアパス、人事政策 |
また、当社グループは、人財育成・社内環境整備方針に基づく人的資本経営に取り組んでおります。人財育成・社内環境整備方針については、「
③リスク管理
重大な財務上または戦略的な影響を及ぼす可能性があるサステナビリティ関連のリスク・機会を特定、評価、対応するプロセスは、代表取締役社長執行役員を委員長とし、全取締役をメンバーとするサステナビリティ委員会が統括しています。サステナビリティ委員会の下位組織にあたる各種委員会においても、それぞれが当社グループにおける各種リスクの把握や対応策の審議等を行っており、全社的なリスクとして統合して管理を行っています。また、リスクについては「リスク管理規程」に基づき、リスク・コンプライアンス委員会にて把握し、リスクへの対応策の検討、モニタリング、定期的な評価、状況に応じた見直し等についてサステナビリティ委員会で審議する体制としています。
④指標と目標
サステナビリティに関する指標及び目標は、気候変動・自然環境保全に関わる取組、人的資本に関する取組について定めております。
気候変動への対応については、2023年にSBTiにコミットメントレターを提出し、2034年度の当社グループにおける温室効果ガス排出量(Scope1,2)を2022年度比で58.8%の削減の目標を設定しました。Scope3の削減についても、2029年までにサプライヤーとのエンゲージメント目標とし、サプライヤーにSBT目標設定を要請する予定です。自然環境保全への対応については、工場製造部門において2029年度の水使用量を2023年比で6%の削減の目標を設定しました。
人的資本に関する取組については、2030年度に女性管理職15%以上、女性の国内採用比率30%以上、育児休業取得率(女性・男性社員)100%、サステナビリティ関連研修受講率100%と定めております。
(2)気候変動への対応
①ガバナンス
「
②戦略
近年、気候変動など地球環境問題が深刻さを増し、脱炭素を巡る議論が世界的に加速しており、自然災害等への危機管理、サステナビリティを巡る課題への対応の重要性が増しております。当社グループでも、気候変動を経営上の最重要課題と捉え、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすものと認識し、国際的な研究機関である国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の第6次評価報告書、及び国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)のWorld Energy Outlookなどの情報を参照し、当社の1.5℃シナリオにおける移行リスク・機会、4℃シナリオにおける物理リスク・機会を分析しました。
産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるシナリオにおいては、低炭素、脱炭素社会への移行に伴い、各種法規制の強化や市場の変化によるコスト増、売上減少が事業に影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクに対して、当社グループは2034年度の温室効果ガス排出量(Scope1,2)を2022年度比で58.8%の削減目標を掲げ、生産効率化の推進、エネルギーの見える化、省エネルギー活動の推進、再生可能エネルギーの導入など継続して実施しております。Scope3の削減についても、2029年までにサプライヤーとのエンゲージメント目標とし、サプライヤーにSBT目標設定を要請する予定です。さらに、インターナルカーボンプライシング制度を導入し、投資判断基準の一つとして活用することで低炭素投資を推進しております。また、低炭素、循環型社会に貢献するボタニカルインキや、パッケージ用ガスバリア剤などの機能性コーティング剤の製品の需要拡大は当社グループにとって事業拡大の機会であると捉えております。
産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇が4℃となるシナリオにおいては、異常気象による台風や豪雨、洪水などによる自然災害により工場の停止や損傷、サプライチェーンの分断など物理リスクによるコスト増が事業に影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクに対して、当社はグローバルなBCPの強化を進めております。また、熱中症の拡大による飲料水需要の増加に伴うパッケージ用インキの需要拡大や食品ロスの低減に貢献する機能性コーティング剤の需要拡大は、当社グループにとって事業拡大の機会であると捉えております。
このように、当社グループは、気候変動をリスクだけでなく機会と捉え、事業活動を通じて社会課題を解決することを目指しております。今後も財務影響の定量的な分析・開示を充実していくために、継続的にシナリオ分析を実施するとともに、経営戦略への統合を進めてまいります。
③リスク管理
「
④指標と目標
「
(3)人的資本経営について
当社は長期ビジョン「SAKATA INX VISION2030」の目標を達成するため、サステナビリティと資本コスト(利益確保)を意識した経営の実践が求められております。
背景として、少子高齢化やデジタルメディアへの移行、環境問題、価値観の変遷、グローバルな競争激化などにより、目まぐるしく変化する環境が当社を取り巻いております。そのような状況の中、今後持続的な成長を続けていくため、変化をポジティブに捉え、変革を続け、サステナビリティと資本コスト経営の実践に取り組んでおります。また、それらの実践においては、グローバルな視点を持ち、周囲と共に挑戦を楽しめる人財が必要と考え、人への投資を行っていきます。
当社は社員を会社にとって重要な資本、つまり「人財」と捉え、社員が身体的・精神的のみならず、社会的にも健全な状態が維持できるよう、社内制度や組織風土を整備していきます。一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境づくりを会社として行い、人的資本経営を推進していきます。
※当社は「人材」を「人財」として、表記を変更しています。
長期ビジョンの目標達成のために当社が求める人財像として、以下のように定義いたしました。
「グローバルな視点を持ったうえで、自ら変革を起こし、周囲とともに挑戦を楽しめる人財」
当社は、求める人財像へと社員を育成し、成長を促すために以下[人財育成・社内環境整備方針]を制定し、
社員の人格・個性・多様性を尊重し、それぞれが自律して、やりがいと誇りを持って伸び伸びと挑戦できる社内環境整備を行い、人的資本経営に取り組んでいます。
人財育成および社内環境整備に取り組むために、6つの指針を定めます。
1.多様な個性と能力を尊重し、チャレンジ精神ある人財が活躍できる組織風土の実現 社員一人ひとりがもつ多様なスキル・経験・価値観・ライフステージ・属性など、「個性」と「能力」を互いに理解・尊重します。そして、性別・年齢・人種や国籍・様々な価値観などの特性を生かしチャレンジできる組織風土を実現します。
2.多様な働き方の実現 ワークとライフ双方を充実するために、社員の多様な生き方を尊重し、場所や時間にとらわれない多様な働き方を実現します。
3.教育研修の提供 社員の成長がサカタインクスグループの持続的な成長を支える礎として、自らのキャリアを描き、自律的に自身の能力や技術を磨いて、成長へとつなげられるよう能力を向上するための公平かつ平等な教育研修の機会を提供します。
4.キャリア形成と能力開発の支援 社員が新しいスキルを身に付け、新たな価値を創出し、成長へと結び付け、さらには社員自身の市場価値の向上のために、キャリア形成と能力開発を支援します。
5.自主性・チャレンジ精神の重視と実行者への評価 社員の自主性とチャレンジ精神を大切にし、組織とともに成長していくことを目指します。チャレンジ精神のある社員を評価するため、処遇面における公正性、透明性を確保し、成果を出した社員がさらに挑戦できるように適切かつ公平な仕組みを提供していきます。
6.社員の安全と心身の健康 社員の安全と心身の健康を重視します。職場における良好なコミュニケーションを確保し、社員一人ひとりの心と身体の健康保持・増進に取り組みます。 |
<リスク管理>
長期ビジョン「SAKATA INX VISION2030」達成に向けて人的資本経営を実践する中、社員がより生き生きと働くことができ、成長する機会を持てるよう取り組んでいきますが、その一方で機会損失の可能性となるリスクを以下に挙げ、それらを回避するための取り組みを実施していきます。
リスク管理 |
2030年目標に向けた取り組み |
社員のコンプライアンス違反防止 |
・各種コンプライアンス研修受講率100% ・重大なコンプライアンス違反件数 ゼロ |
人権侵害防止のための施策 |
・人権研修受講率100% ・重大な人権侵害 ゼロ |
多様性に関する理解 |
・DEIB研修 受講率100% |
長時間労働による生産性減少 |
・ノー残業デー、年休プラスワン ・月間平均所定時間外労働時間16時間未満 |
社員の心身の傷病による生産力の下落 |
・健康経営の推進 ・メンタルヘルス講習会の実施 受講率100% |
人財不足による競争力低下 |
・キャリア採用の拡充 ・グローバル人財比率の向上 |
<戦略>
当社は長期ビジョン「SAKATA INX VISION2030」達成に向けて、取組期間を大きく3つに分けており、現在は中間期である「中期経営計画2026 CCC-Ⅱ」と題し、事業拡大・収益力強化を目指しています。
CCC-Ⅱにおける当社の人的資本政策は、社員一人ひとりがお互いを尊重し合い、個の能力を最大限発揮できる風土の醸成、挑戦した者へ報いる環境整備を行い、社員の自主性を促し、チャレンジングな人財を生み出すため以下4つの戦略を基に展開、実践していきます。
1.多様性の受容 ~あらゆる人が活躍できる組織への改革推進~
長期ビジョン「SAKATA INX VISION2030」達成のため社員一人ひとりの活躍や成長が最も大事な基盤となります。
そのため当社は、社員が個々の能力を発揮でき、個人と会社が成長できる環境整備と意識変革が必要と考えています。
当社は、あらゆる人が活躍できる組織への改革推進として、社員が対話を行う機会を創出しました。2022年より対話会として、社員間のコミュニケーション活性化や価値観理解という観点から役職、部門、事業所、年齢など関係なく実施いたしました。2023年より社員同士の所属部署を超えて繋がりを持つ情報交換の場として、社員ネットワークを立ち上げました。さらに社長と社員が直接対話を行う場として「タウンホールミーティング」を開催しております。2024年からは、社長をはじめとした役員が各地の職場に直接訪問し、現場で働く若手社員との意見交換会を積極的に行いました。今後もこれらの活動を継続的に行い、社員が対話の場を通じて、自由に意見でき、前向きにチャレンジできる組織風土を目指していきます。
また、多様性に関する理解を深めるために2023年には全社員対象に人権研修を実施しました。2024年においては、入社者にDEIB研修と安全に関する研修を行い、また管理職に対しては差別・ハラスメントに関する研修を実施しました。
採用・人財登用に関しては、グローバル人財獲得のため海外からインターン実習に来た学生の採用を行う等、あらゆるバックボーンを持つ人財が活躍できるよう取り組んでおります。このように、経営戦略に沿った採用(新卒・キャリア)を行い、タレントマネジメントシステムを活用した、適切な人財配置、定着支援も併せて実施していきます。
2.挑戦を促す環境 ~より挑戦した者を評価する制度改定や社員の自主性を重んじる環境整備~
当社は、社員一人ひとりが積極的に挑戦することによって組織がより良い方向への成長に繋がると考えています。そのために、チャレンジする人財がより一層活躍できるよう様々な制度設計や環境整備を実施し、個人のキャリア形成を支援していきます。
長期ビジョン「SAKATA INX VISION2030」達成のため、人財育成の強化は必要不可欠と考えており、当社が求める人財像「グローバルな視点を持ったうえで、自ら変革を起こし、周囲とともに挑戦を楽しめる人財」へと社員が成長するため、また社員が今まで以上に挑戦できる制度として、一般社員の人事制度改定を2025年1月より実施いたしました。これまでの人事制度にあった年功的要素を廃し、より積極的にチャレンジした者や成果を上げた者を適正に評価し、それに見合った報酬を支給する制度へ改定を行いました。
また、当社は社員が将来のキャリアプランを描くことができるよう、環境の整備を行っています。
社員自らがキャリアを主体的に考え、継続的な学習を通じて、キャリア形成に積極的に取り組むこと(キャリア自律とキャリアオーナーシップの実現)を目的として、2023年は、キャリア公募制度(公募部署に自ら希望して異動することができる制度)や、社内インターン制度(自身の所属部署に籍を置きながら、他部署の業務に携わることができる制度)を制定いたしました。
2024年においては、チャレンジする風土を根付かせ、組織全体の活性化を図るべく「キャリアチャレンジ制度」(自ら希望する部門への異動希望を申告できる制度)を制定しました。さらに2025年1月より前述の人事制度改定に伴い、定期的にキャリア申告や上司との面談を行う制度も開始しました。
今後も、社員一人ひとりが挑戦により成長し、キャリア自律やキャリアオーナーシップが実現できるよう、キャリア形成に伴う制度・仕組みをアップデートし、多様な個人およびチームのパフォーマンスを最大化する環境整備に取り組んでまいります。
3.教育・育成制度の拡充 ~自律的なキャリア形成支援のための成長・教育機会の提供~
教育研修体系図
従来までの社員に対する教育・研修に加え、キャリア自律を促進させるため学習支援を2023年より運用を開始しました。自己啓発として学びたい外部の講座などを選択し、受講できる自己選択型の学習コンテンツや、リスキリングにつながるeラーニングのコンテンツを提供しています。また、役員トレーニング研修や管理職研修などの選抜研修も継続的に実施していきます。
さらにグローバルな視野・感覚を持つ人財の育成・創出のため、海外との人的ネットワーク構築を目的とした海外研修や海外現地法人からの海外研修生受入制度による研修、異文化理解研修も実施しています。
また、ビッグデータ・オープンデータの分析に関わるノウハウの蓄積や人財育成を促進し、ビジネス分野における新たな価値創造およびデータサイエンス分野の向上を目的として、社員を大学へ派遣しています。
4.ウェルビーイング ~社員が心身共に充足して働くことにより生産性の向上~
当社は企業活動の全てにおいて、働く人の安全と心身の健康を守ることは重要な経営課題の一つであるという方針の下、社員が心身ともに生き生きと働ける健康づくりへの取り組みを積極的に実施することを通じ、持続可能な社会の構築と企業価値の向上を目指して、健康経営活動を継続的に推進しています。
また当社は戦略的に実践する「健康経営」への取り組みが評価され、経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人 2025(大規模法人部門)」に認定されました。なお、2021 年以降 5年連続の認定となります。
多様な働き方を実現するための職場環境の整備と充実のため、当社は社員一人ひとりが成長し続け、社員同士で高め合い、業務効率や生産性向上を実現し、部門を越えた新たな価値創造の創出につなげることを目指しています。その取り組みの一環として、働き方改革や組織風土改革、業務効率、Well-beingなどの観点から、2025年4月に大阪本社の移転を予定しています。本社移転に伴い、社員が心身ともに生き生きと働ける健康づくりへの取り組みを積極的に推進するとともに、働き甲斐のある新オフィスの職場環境との相乗効果で、さらなる社員のWell-being向上を目指しています。
<指標及び目標>
当社が今後、2030年までの目標値と直近の指標は以下の通りです。
取り組み |
2024年実績値 |
|
|
|
|
採用における女性の割合 (新卒・中途含む) |
|
|
|
男性: |
男性: |
女性: |
女性: |
|
|
|
|
※1 配偶者の出産時における育児目的を理由とした保存有給休暇(最大50日)を合わせた取得者含む
※2 DEIB研修や人権研修を総称してサステナビリティ関連研修と記載。上記2024年は管理職対象の差別・ハラスメントに関する研修受講率を記載
(参考データ)
サカタインクスグループ 女性管理職比率(海外拠点等連結子会社を含む)
|
2024年 |
グループ連結における女性管理職比率 |
11.2% |
●国内女性管理職比率及び採用における女性の割合について
当社は、女性活躍推進という言葉をジェンダーイクオリティに言い換えております。冒頭で記載した通り当社は、様々な社会変化の局面に対応していく必要があり、そのための変革が求められております。それゆえ当社のDEIB基本方針の下、価値観や経験などが異なる人がともに働き、その相乗効果によりこれまでにないアイデアの創出がされると考えております。新たな価値創造のため、女性管理職の登用は然り、採用における女性の割合を目標に掲げています。
そのための活動として、女性管理職比率の向上に関しては、以下の取り組みを実施していきます。
・女性間の情報交換などを目的とした「Woman’sネットワーク」活動による女性の働きがい・働きやすさの向上のための意見交換の機会設置。
・女性向けキャリア研修や管理職向けコーチング研修の実施
・タレントマネジメントシステムを用い、女性管理職候補がキャリアを築くための上司からのサポート強化
・昇進を希望する社員を増やすためのロールモデルの構築、提示
女性の採用に関しては、以下のような取り組み内容を実施していきます。
・女性が働きやすい環境の整備や制度の拡充
・採用計画において「ジェンダーイクオリティ」の観点を含み、女性の採用を広く実施
・多様な人財を採用するため女性向け採用セミナーの継続実施
●両立支援、育児休業取得率について
仕事と子育ての両立を支援するため、当社は2030年までに男女の育児休業取得率100%を掲げております。
育児をしている社員ネットワーク(ワーキングペアレンツネットワーク)による活動や父親学級の開催、管理職への啓発、等育児をサポートする活動を行っています。2023年には、社員向けの「仕事と育児の両立支援のガイドブック」を発行し、両立支援に対する意識の醸成を図っています。その結果、社内でも育児休暇取得に対する機運が高まり、男性の育児休業取得率(保存有給休暇制度による取得含む)は2024年実績で70%を上回りました。
また、意識面だけではなく、制度面として、テレワークやフレックスタイムなどの多様な働き方の推進や休暇制度の利用を促進する施策を継続的に実施していきます。さらに2025年1月より当社の休暇制度においてワークとライフの双方の充実という観点から一部改定をおこないました。傷病や育児・介護などの使用事由の拡充や時間単位での取得が可能になりました。これらの活動を継続的に推進し、2030年には男女ともに育児休業取得率100%を目指していきます。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下の通りであります。ただし、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
なお、当社グループは、以下のような事項の発生及び顕在化の可能性を認識し、その発生の抑制や回避、また発生時においては業績、財政状態に与える影響を最小化するべく努めてまいります。
(1)気候変動について
当社グループは、気候変動に伴うリスクや機会を経営上の最重要課題であると捉え、事業に大きな影響を及ぼすものと認識しております。当社グループはTCFD提言に賛同するとともに、TCFD提言のフレームワークに基づき、気候変動が事業に及ぼす影響の分析、対応策の検討を進めております。
気候変動についての事業等のリスクは、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え及び取組 (2)気候変動への対応 ②戦略」に記載しております。
(2)自然災害・事故等について
大規模な地震やその他の自然災害、事故、感染症の蔓延等により、当社グループの各事業所、製造拠点が被害にあった場合、事業活動の中断や著しい縮小を余儀なくされた場合、または一部の製商品の需要が著しく減少した場合には、業績、財政状態に影響を及ぼす可能性があります。さらには、上記に起因して電力や原材料の供給不足などが発生し、サプライチェーンに大きな障害が生じた場合には生産活動の制限により、業績、財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、安全・防災に関する専任部署を設置し、これらリスクを低減すべくグローバルBCP体制の構築に取り組んでおります。事業環境に与える影響への対応につきましては、「(4)事業環境の変化について」及び「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。また、原材料の供給不足に伴う影響及び製造拠点の被害に伴う影響への対応につきましては、「(3)原材料市況等の影響と調達活動について」及び「(5)海外への事業展開について」をご参照下さい。
(3)原材料市況等の影響と調達活動について
当社グループの主要販売製品である印刷インキなどの原材料は、石油化学製品への依存度が高いため、原油価格及び為替相場に異常な変動が生じた場合などには、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、原材料を製造している国において、自然災害・事故あるいは法律又は規制の予期しない変更などが生じ、安定調達が困難になるリスクや、需給関係の悪化に伴う相場の異常な変動が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
ロシアのウクライナ侵攻に起因する原燃料の価格高騰、中国における環境規制の強化などに伴い、原材料価格が上昇するリスクを事業環境に照らして認識しております。国内では物流の2024年問題対応、海外では紅海危機によるスエズ運河からアフリカ喜望峰経由迂回による輸送コストの値上がりは調達コストに影響します。当社グループでは原材料の価格動向に注意を払うとともに調達先の拡大や長期契約の締結等により、原材料の価格変動リスクの影響を緩和する工夫を行い、安定して原材料が調達できるように努めております。また、現地法人相互での互換化を進めており、複数購買やグローバル調達等も進めることで当社グループ全体における原材料費の低減や安定調達を図っております。
さらには、当社グループの「調達基本方針」を定め、公正・公平で誠実な調達活動を通じ、サプライチェーン全体に関わる地球環境の保護・保全、資源保護や、労働安全性、人権など社会へ配慮し、企業としての社会的責任を果たします。全ての調達取引先は、より良い製品・商品・サービスを提供するための大切なパートナーと認識し、相互信頼を築きつつ共存共栄と持続可能な社会の実現を目指してまいります。
(4)事業環境の変化について
近年の当社グループを取り巻く事業環境の主な変化について、「国内における少子高齢化の進行など人口動態の変化」、「国内・海外での市場・競争環境変化」、「デジタル化によるバリューチェーンの変化」、「環境問題・社会課題への対応」を認識しております。その変化による影響に対して、「地球環境と地域社会を重視したESG・サステナビリティの取り組み強化」、「印刷インキ、機能性材料事業の拡大」、「新しい事業領域への挑戦」を戦略の方向性とし、対応してまいります。詳細は、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。
(5)海外への事業展開について
当社グループは、米州をはじめアジア、欧州などの世界各国にグローバル展開しております。このため、カントリーリスクが顕在化した場合、業績、財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、為替相場に異常な変動が生じた場合は、業績、財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは当社主導のもと、グループネットワークを生かしてリスク情報を収集し、事業に相当程度の影響を与えうるカントリーリスクを発見・特定した上で、その対応を図ることとしております。当社グループは、事業を展開するほとんどの国・地域において、製造拠点を有しており、有事の際には周辺国における代替生産をはじめとして、事業の継続を図ってまいります。
上記は、当社グループの事業に関し、予想される主なリスクを具体的に例示したものであり、ここに記載されたものが当社グループのすべてのリスクではありません。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1)経営成績
当連結会計年度の世界経済は、地政学リスクが懸念される状況が続いたものの、各国の金利政策の効果もありインフレは鈍化傾向となり、個人消費の持ち直しの動きもあり全体として底堅い成長が続きました。
米国では個人消費や設備投資が堅調に推移するとともにインフレの動きも鈍化するなか、政策金利の引き下げが行われ、景気は底堅く推移しました。欧州では所得環境の改善による個人消費の回復により景気の持ち直しの動きがみられました。アジアでは景気回復の動きが続き、中国では不動産市場の停滞などにより景気は弱い動きが続いているものの、政府の景気対策の効果により年後半には一部で持ち直しの動きが見られました。日本では物価の上昇は続いているものの、所得環境の改善により個人消費が緩やかに増加するなど景気は緩やかながらも回復基調となりました。
このような状況のなかで、当社グループは2030年を見据えた長期ビジョン『SAKATA INX VISION 2030』を実現させるため、その事業拡大・収益力強化フェーズである『中期経営計画2026 (CCC-Ⅱ)』の初年度として、パッケージ分野を中心にボタニカルインキシリーズなど環境配慮型製品を軸としたサステナブルな製品の積極展開をグループ全体で推進しました。また第4四半期には、米国において連結子会社を新設し、コーティング事業ならびに関連資産の買収を行うことにより事業の拡充を図りました。機能性材料事業では、従来製品の拡販に加え、インクジェットインキにおいては衣食住をターゲットとした新市場への拡大や、画像表示材料においても新分野への展開などに取り組みました。
売上高は、アジアや欧米などで販売が好調に推移したことや機能性材料の販売も好調であったことに加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから、2,455億7千万円(前期比7.5%増加)となりました。
利益面では、第4四半期に米国での買収に関連する一時費用を計上した影響があったものの、海外における販売数量の増加による増収効果に加え、原材料価格が安定的に推移するなかでインキコストの削減により収益性が改善したことなどから、営業利益は131億6千1百万円(前期比15.0%増加)となりました。経常利益はブラジルレアルなどの為替変動の影響を大きく受けたことや持分法による投資利益が減少したことなどから128億9千3百万円(前期比5.4%減少)、親会社株主に帰属する当期純利益は中国における連結子会社の持分譲渡に伴い特別利益を計上したことなどから90億6百万円(前期比20.6%増加)となりました。
なお、2024年12月期より、連結損益計算書の「営業外収益 その他」に計上していた「受取ロイヤリティー」を「売上高」に含めて計上することに変更したため、「売上高」及び「営業利益」の前年同期比(%)は当該会計方針の変更を反映した遡及適用後の数値との比較となっております。(以下、各セグメントにおいても同様。)
(参考)USドルの期中平均為替レート
|
第1四半期 連結会計期間 |
第2四半期 連結会計期間 |
第3四半期 連結会計期間 |
第4四半期 連結会計期間 |
連結会計年度 |
2024年12月期 |
148.61円 |
155.88円 |
149.38円 |
152.44円 |
151.58円 |
2023年12月期 |
132.34円 |
137.37円 |
144.62円 |
147.89円 |
140.56円 |
(注)連結会計年度の期中平均為替レートは、1月~12月の単純平均レートを記載しております。
セグメントの業績を示すと、次の通りであります。
(単位:百万円) |
|
売上高 |
営業利益又は営業損失(△) |
|||||||
前期 |
当期 |
増減額 |
増減率 |
(※)実質 |
前期 |
当期 |
増減額 |
増減率 |
|
印刷インキ・ 機材(日本) |
52,977 |
52,806 |
△170 |
△0.3% |
△0.3% |
1,407 |
927 |
△479 |
△34.1% |
印刷インキ (アジア) |
52,434 |
58,281 |
5,846 |
11.2% |
4.3% |
4,346 |
5,747 |
1,400 |
32.2% |
印刷インキ (米州) |
78,848 |
87,863 |
9,014 |
11.4% |
4.5% |
4,675 |
4,474 |
△200 |
△4.3% |
印刷インキ (欧州) |
19,555 |
21,447 |
1,892 |
9.7% |
0.7% |
△789 |
66 |
856 |
- |
機能性材料 |
16,836 |
19,405 |
2,568 |
15.3% |
11.8% |
1,882 |
2,288 |
406 |
21.6% |
報告セグメント計 |
220,653 |
239,805 |
19,151 |
8.7% |
3.5% |
11,521 |
13,504 |
1,983 |
17.2% |
その他 |
15,302 |
12,731 |
△2,571 |
△16.8% |
△16.8% |
464 |
169 |
△295 |
△63.6% |
調整額 |
△7,593 |
△6,965 |
628 |
- |
- |
△537 |
△511 |
26 |
- |
合計 |
228,362 |
245,570 |
17,208 |
7.5% |
2.6% |
11,448 |
13,161 |
1,713 |
15.0% |
(※)実質増減率:海外連結子会社の為替換算の影響を除いた増減率
印刷インキ・機材(日本)
外国人観光客の増加が続いているものの、コロナ禍以前のようなモノ消費への需要が高まらないことに加え、日用品、食品、飲料など多くのアイテムでの相次ぐ値上げにより家計の節約志向が続き個人消費の回復は緩やかなものとなりました。パッケージ関連ではグラビアインキは堅調であったものの、フレキソインキはやや低調に推移しました。印刷情報関連では、デジタル化の影響により市場の構造的な縮小が続いていることなどから、新聞インキ、オフセットインキともに低調に推移しました。このような状況のなか、販売はやや低調に推移しているものの、販売価格の改定効果が寄与したことにより、印刷インキ全体では前期を上回りました。機材につきましては、販売が低調に推移したことなどにより印刷製版用材料、機械販売ともに前期を大きく下回りました。これらの結果、売上高は528億6百万円(前期比0.3%減少)となりました。
利益面では、販売価格の改定効果が寄与したものの、円安の影響もあり原材料価格が高止まりするなか、人件費や新基幹システムの本格稼働に伴う諸経費が増加した影響などから、営業利益は9億2千7百万円(前期比34.1%減少)となりました。
印刷インキ(アジア)
主力であるパッケージ関連のグラビアインキは、インドネシア、インド、ベトナムなど各地で拡販が続き販売は好調に推移しました。印刷情報関連では、インドで販売が堅調に推移しました。売上高は、販売価格が下落したことや中国における連結子会社の持分譲渡に伴う連結除外の影響があるものの、販売が好調に推移したことに加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから582億8千1百万円(前期比11.2%増加)となりました。
利益面では、販売が好調なことや原材料価格が安定的に推移したことなどから、営業利益は57億4千7百万円(前期比32.2%増加)となりました。
印刷インキ(米州)
主力のパッケージ関連では、北米で需要の持ち直しの動きが続いたことに加え、ブラジルなど南米でも拡販が進んだこともあり、フレキソインキ及びグラビアインキの販売で回復が進みました。メタルインキは環境負荷の観点からアルミ缶に対する需要が高まっているという背景に加え、南米でも順調に拡販が進んでおり、販売は比較的好調に推移しました。印刷情報関連であるオフセットインキは、市場の構造的な縮小はあるもののUVインキなどの販売が堅調であったこともあり前期を上回りました。
売上高は、販売価格が下落した影響があるものの、販売数量が増加したことに加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから、878億6千3百万円(前期比11.4%増加)となりました。
利益面では、販売数量が増加したことや原材料価格も安定的に推移したものの、人件費を中心に経費の高止まりが続いていることに加え、買収に関連する一時的費用を第4四半期で計上したこともあり、営業利益は44億7千4百万円(前期比4.3%減少)となりました。
印刷インキ(欧州)
パッケージ関連を中心として拡販が進み、需要の落ち込みなどから持ち直しが続いたことに加え、メタルインキの販売が回復基調であったことやドイツからの販売も前期を上回るなど、販売は堅調に推移しました。売上高は、販売価格が下落した影響があるものの、販売数量が増加したことに加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから、214億4千7百万円(前期比9.7%増加)となりました。
利益面では、販売数量が増加したことに加え、原材料価格も安定的に推移したことなどから、営業利益は6千6百万円(前期は7億8千9百万円の営業損失)となりました。
機能性材料
インクジェットインキは販売が好調に推移し前期を上回りました。カラーフィルター用顔料分散液は堅調なパネルディスプレイ市況を背景に販売が好調に推移し前期を上回りました。トナーは顧客での在庫調整から回復の動きもあり前期を上回りました。これらの結果に加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから、売上高は194億5百万円(前期比15.3%増加)となりました。
利益面では、デジタル印刷材料の販売が増加したことなどから、営業利益は22億8千8百万円(前期比21.6%増加)となりました。
生産、受注及び販売の実績は、次の通りであります。
① 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次の通りであります。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
印刷インキ・機材(日本) |
33,881 |
0.4 |
印刷インキ(アジア) |
57,104 |
13.3 |
印刷インキ(米州) |
86,291 |
9.3 |
印刷インキ(欧州) |
22,149 |
7.8 |
機能性材料 |
16,526 |
15.2 |
その他 |
832 |
2.3 |
合計 |
216,786 |
9.0 |
(注)生産金額については期中平均販売価格により表示しており、セグメント間の取引については相殺消去しております。
② 受注実績
印刷用インキの生産は主として見込生産によっております。
小口ロットのものについて受注生産を行っているものもありますが、特に受注高及び受注残高として示すほどのものはありません。
③ 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次の通りであります。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
印刷インキ・機材(日本) |
51,732 |
△0.7 |
印刷インキ(アジア) |
58,082 |
11.1 |
印刷インキ(米州) |
86,953 |
11.6 |
印刷インキ(欧州) |
20,386 |
8.1 |
機能性材料 |
19,369 |
15.3 |
その他 |
9,045 |
△12.9 |
合計 |
245,570 |
7.5 |
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。
2.総販売実績に対し10%以上に該当する販売先はありません。
(2)財政状態
当連結会計年度末の総資産は、現金及び預金は減少したものの、売上が増加したことに伴い売上債権や棚卸資産が増加したことや、有形固定資産の取得、買収により無形固定資産を含む各資産が増加した影響に加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから前連結会計年度末比273億8千2百万円(14.1%)増加の2,214億7千万円となりました。
負債は、借入金やリース債務が増加したことなどに加え、円安による為替換算の影響を受けたことなどから前連結会計年度末比138億1千2百万円(15.6%)増加の1,022億4千8百万円となりました。
純資産は、利益剰余金が増加したことに加え、その他の包括利益累計額が増加したことなどから、前連結会計年度末比135億6千9百万円(12.8%)増加の1,192億2千1百万円となりました。
(3)キャッシュ・フロー
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次の通りであります。
営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資本の増加や法人税等の支払などがあったものの、税金等調整前当期純利益、減価償却費などにより、89億4百万円の資金の増加となりました。前連結会計年度に比べ64億6千8百万円の減少となりましたが、主な要因は、運転資本が増加したことであります。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得や事業譲受による支出などがあったことにより、148億4千6百万円の資金の減少となりました。前連結会計年度に比べ72億5千5百万円の減少となりましたが、主な要因は、有形固定資産の取得による支出が増加したことや事業譲受による支出が発生したことであります。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払や自己株式の取得などがあったものの、借入金の増加などにより、42億1千4百万円の資金の増加となりました。前連結会計年度は42億9千9百万円の資金の減少でしたが、主な要因は、自己株式の取得による支出は増加したものの借入金の残高が増加したことであります。
以上の結果、当連結会計年度における現金及び現金同等物の残高は145億8千3百万円となり、前連結会計年度末に比べ16億3千5百万円の減少となりました。
キャッシュ・フロー関連指標の推移は、次の通りであります。
|
2020年 12月期 |
2021年 12月期 |
2022年 12月期 |
2023年 12月期 |
2024年 12月期 |
自己資本比率(%) |
52.6 |
51.8 |
48.6 |
50.9 |
50.7 |
時価ベースの 自己資本比率(%) |
46.6 |
34.8 |
29.6 |
35.0 |
39.1 |
キャッシュ・フロー対 有利子負債比率(年) |
1.7 |
2.4 |
5.6 |
1.7 |
4.1 |
インタレスト・カバレッジ・ レシオ(倍) |
40.1 |
32.4 |
9.0 |
20.3 |
10.9 |
(注)自己資本比率:自己資本/総資産
時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産
キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い
1.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値より算出しております。
2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。
3.営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。有利子負債は連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としております。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。
資本の財源及び資金の流動性は、次の通りであります。
当社グループでは運転資金や事業投資、株主還元等のための資金の調達として、内部資金及び外部借入による資金調達を基本方針としております。外部借入のうち、短期借入は主に営業取引に係る資金調達であり、長期借入は主に事業投資に係る資金調達であります。
内部資金に関しては営業活動によるキャッシュ・フローにより継続的に資金を獲得しております。また外部借入に関しては短期・長期借入の他に、当社においては運転資金の効率的な調達を行うため、取引銀行2行と30億円の特定融資枠契約を締結しております。これらに加え、2021年には10億円のESG評価型の無担保私募債(償還期限2026年3月31日)を発行しております。
重要な資本的支出の予定につきましては、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除去等の計画(1)重要な設備の新設等」をご参照下さい。
(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表の作成には、資産・負債及び収益・費用の額に影響を与える見積り及び仮定を必要とします。これらの見積り及び仮定は、過去の実績や当連結会計年度末時点で入手可能な情報を総合的に勘案し合理的に判断しておりますが、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果は異なることがあります。
当社グループが連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載の通りであります。
(5)経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照下さい。
(6)目標とする経営指標との比較
当連結会計年度と「中期経営計画2026 CCC-Ⅱ」の最終期との比較は、次の通りであります。
|
中期経営計画CCC-Ⅰ 2023年実績 |
当連結会計年度 |
中期経営計画CCC-Ⅱ 2026年計画 |
比較 |
売上高(億円) |
2,283 |
2,455 |
2,700 |
△244 |
営業利益(億円) |
114 |
131 |
180 |
△48 |
経常利益(億円) |
136 |
128 |
190 |
△61 |
親会社株主に帰属する 当期純利益(億円) |
74 |
90 |
127 |
△36 |
ROE |
8.1% |
8.5% |
10.0%以上 |
- |
「中期経営計画2026 CCC-Ⅱ(以下「計画」という。)の初年度である当連結会計年度につきましては、売上高はアジアや欧米などで販売が好調に推移したことや機能性材料の販売も好調であったことに加え、計画算定時に比べ円安で推移したことによる為替換算の影響などもあり、計画の達成に向けて堅調な結果となりました。各段階利益及びROEにつきましては、ブラジルレアルの為替変動により想定にない為替差損が発生した影響などがあったものの、原材料価格が安定的に推移するなかで、海外における増収効果の影響もあり、計画の達成に向けて順調な結果となりました。
当社は、2024年2月28日開催の取締役会において、当社子会社のMAOMING SAKATA INX CO.,LTD.(茂名阪田油墨有限公司)の全出資持分をMAOMING HUACAI INK CO.,LTD.(茂名華彩油墨有限公司)に譲渡することを決議し、2024年3月12日付にて持分譲渡契約を締結いたしました。
その内容につきましては、前連結会計年度の有価証券報告書「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(重要な後発事象)」に記載の通りであります。
(業務提携に関する契約)
当社は、1999年11月15日付で東洋インキ製造株式会社(現 artience株式会社)と業務提携(契約期間:契約開始日(2000年4月1日)より5年間、以降1年毎の更新)を行う旨の契約を締結し、2017年2月20日付で、これまでの提携内容を見直し、物流分野における一層の効率化、生産分野における相互補完、BCP対策に基づく緊急時における国内外拠点での生産補完について、業務提携を推進していく旨の覚書を締結しております。
当社グループは、長期ビジョン『SAKATA INX VISION 2030』に掲げる戦略の実現に向け、事業拡大、収益力強化フェーズである『中期経営計画2026(CCC-Ⅱ)』の初年度として、パッケージ分野を中心にボタニカルインキシリーズなどの環境配慮型製品の積極的展開をグループ全体で推進するとともに、新規事業領域への進出並びに地球温暖化や海洋プラスチック汚染などの環境問題の解決を目指し、産学連携のオープンイノベーションによる研究開発を積極的に進めております。
当連結会計年度における研究開発費は、
セグメントごとの研究開発活動は、次の通りであります。
印刷インキ事業では、地球環境に配慮した生産・製品開発を方針として掲げ、品質や機能と、環境配慮を両立させた製品設計を基本とし、石油化学材料の削減、水性化、バイオマス化等、環境配慮型製品の拡充及び性能向上に取り組みました。特に、パッケージ分野においては、溶剤性グラビアインキにおいて、溶剤の回収・リサイクルを目的とし、単一溶剤で構成されるモノソルベントインキの開発、及びリサイクルスキームにそぐわないポリ塩化ビニルを排除したインキの開発に取り組みました。また、廃棄プラスチックの有効活用による環境負荷低減を目的として、印刷物やラミネートフィルムからインキやシーラントフィルムを剥離し、印刷基材のマテリアルリサイクルを可能とする脱墨・脱離用プライマーの開発に取り組みました。さらに、無溶剤で環境に優しい省電力型UVインキや光重合開始剤を必要としない電子線(EB)硬化型インキ、水性グラビア・フレキソインキの開発にも積極的に取り組みました。
印刷インキ以外の製品としましては、フッ素フリーやバイオマス材料を使用した耐油性コーティング剤、保香性コーティング剤など各種機能性コーティング剤の開発や当社ボタニカルインキに使用している植物由来ポリウレタン樹脂の設計技術を応用し、植物由来のウレタンフォーム・エラストマーの開発にも取り組みました。
海外においては、当社グループ会社のINX INTERNATIONAL INK CO.(米国)が欧米地域を対象とした研究開発拠点であり、環境配慮型製品の拡充・品質向上に取り組みました。特にパッケージ用途として植物由来成分を使用したグラビア・フレキソインキの開発、脱プラスチックで需要が高まるアルミ缶用メタルインキの開発に注力いたしました。
当事業における研究開発費は2,936百万円であり、主な報告セグメント別の金額は、「印刷インキ・機材(日本)」が
機能性材料事業では、当社の基盤技術である樹脂合成技術や分散・加工技術を駆使し、表示材料においてはディスプレイの高画質化、消費電力削減を実現するカラーフィルター用顔料分散液の開発及び高機能化に取り組みました。また、高付加価値化が進む次世代ディスプレイ関連材料への積極的な技術展開も図りました。インクジェットインキでは、当社独自技術を活かした水性・非水性のインクジェットインキの開発を継続し、とりわけ衣食住に関わるテキスタイル・パッケージ・建材用途等の産業用インクジェットインキの開発に注力いたしました。さらに近年の安全意識の高まりに対して、マイグレーションを極限まで抑えたUVインクジェットインキを開発いたしました。その他にも、粉体カラートナーの開発を行いました。
当事業における研究開発費は、
全社共通事業では、新規事業の創出を目的として「環境・バイオケミカル」・「エレクトロニクスケミカル」・「オプトケミカル」・「エナジーケミカル」を注力すべき4分野と定め、大学や企業と連携したオープンイノベーションによる開発に取り組みました。特にエレクトロニクスケミカル分野においては、導電性配線材料、導電性接合材料、絶縁材料、低誘電材料などプリンテッドエレクトロニクス向け材料の開発を行いました。環境・バイオケミカル分野においては、非可食バイオマス材料を用いた新規素材の開発に注力し、カシューナッツの殻から取れるカシューナッツ殻液を原料とするエポキシ樹脂等の開発を行いました。オプトケミカル分野においては、ディスプレイや照明などの光取り出し効率の向上を目的とした、屈折率調整剤の開発に取り組みました。
当事業における研究開発費は、442百万円であります。