1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
文中の将来に関する事項は、当年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
当社は2019年度に、2027年に向けた新たなキリングループ長期経営構想である「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)を策定しました。また、KV2027の実現に向けて、社会と価値を共創し持続的に成長するための指針である「キリングループCSVパーパス」(略称:CSVパーパス)を策定しました。
長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」
キリングループは、グループ経営理念及びグループ共通の価値観である“One KIRIN”Values のもと、食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となることを目指します。
食から医にわたる領域における価値創造に向けては、既存事業領域である「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループならではの強みを活かした「ヘルスサイエンス領域」を立ち上げました。「ヘルスサイエンス領域」では、キリングループ創業以来の基幹技術である発酵&バイオテクノロジーに磨きをかけ、これまで培ってきた組織能力や資産を活用し、キリングループの次世代の成長の柱となる事業を育成しています。また、社会課題の解決をグループの成長機会と捉え、イノベーションを実現する組織能力をより強化し、持続的な成長を可能にする事業ポートフォリオを構築しています。
持続的成長のための経営諸課題「グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM」
キリングループは、社会とともに、持続的に存続・発展していく上での重要テーマを事業へのインパクトとステークホルダーへのインパクトの2つの観点から評価し、「持続的成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM)」に整理しています。GMMは時間の経過とともに変化していくものと捉え、適時再評価をし、改訂しています。2022年中期経営計画の策定以降の社内外環境変化を踏まえ、10年先を見据えてキリングループが社会とともに持続的に存続・発展していくうえでの重要課題を整理しました。2025年以降に向けて、ステークホルダーとの対話/アンケートや、キリングループの役員による意見交換などを通じてグループの事業へのインパクトを再評価し、GMMを更新し、社会的要請への適合度をより高めました。
※各象限内の重要性に差異はありません。
「キリングループCSVパーパス」
GMMに基づき、当社は「酒類メーカーとしての責任」を果たすことを前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の4つの領域の課題解決を目指しており、これを「CSVパーパス」と定めています。また、具体的なアクションプランをCSVコミットメントとして、成果指標を会社別により具体化して目標値を設定し、グループ各社の取り組みに繋げています。
また、10年先を見据えて特に注力していく領域の指針を明確にするため「コミュニティ」と「酒類メーカーとしての責任」の表現を見直すとともに、企業経営の土台として「企業としての普遍的な責務」を明記しました。
価値創造モデル/CSV経営の概念
CSV経営のベースの考え方である「社会課題の解決を通じて、社会的価値と経済的価値を創出すること」を持続的に推進していく仕組みとして、当社は価値創造モデルを策定しています。イノベーションを生み出すための組織能力(INPUT)を基盤として、社会課題の解決に事業活動(BUSINESS)を通じて取り組むことで、価値(OUTPUT/OUTCOME)を創出しCSVパーパスを実現しています。特に人的資本や自然資本などの非財務資本の強化は、社会と共に自然の恵みを利用しながら事業を行う当社にとって、継続的な価値の創造につながります。
事業を通じて、当社は社会的価値と経済的価値を同時に生み出し、それらを組織能力などの経営基盤に再投資することで、持続的に資本と価値を成長させることを目指しています。
このCSV経営を推進していくことがどのように企業価値の向上に繋がっているかを図示すると以下のようになります。
社会課題の解決を通じた事業活動(Business)は経済的価値を生み、フリー・キャッシュフローを増加させると共に、事業リスクを低減することにつながるため、資本コストを下げ、企業価値の向上に寄与します。
他方、これらの活動から社会的価値を創出し、その価値がお客様のニーズを充足することで、弊社の製品・サービスに対するWillingness to Payが高まり、長期的にはフリー・キャッシュフローの増加にも影響すると考えられます。さらに、社会的価値が創出され高い水準になることで、従業員エンゲージメントの上昇や採用での優位性などにも影響することが考えられ、価値創造モデルにおけるINPUTの基盤である人的資本の強化に繋がります。その結果、企業の成長率にもポジティブな影響を及ぼすと当社は認識しています。
(参考)
・持続的な成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス)
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/materiality/
・キリングループ CSVパーパス
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/csv_purpose/
・キリングループ CSVコミットメント
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/commitment/
・価値創造モデル
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/model/
2027年に向けた計画
近年、世界各地で起こる異常気象、天候不順など、社会システムを大きく揺るがす環境変化が続いています。KV2027を発表してから6年が経過し、2027年まで残り3年となりましたが、この6年間においても外部環境としては、新型コロナウイルスの感染症拡大、原材料コストの高騰及び地政学リスクの高まりなど、生活者の行動様式に大きな変化がありました。キリングループは、これらの環境変化に柔軟に対応しつつ、KV2027で掲げた「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」というビジョンの実現に向けて、これまで固定の3年間としていた中期経営計画を、今後は毎年ローリングする方法へと変えます。長期的な目指す姿は変えずに、長期の視点を持ちながら、外部環境を踏まえた最適な計画を柔軟に描き、目標達成を目指していきます。
これまでの6年間は、環境変化に対応する主力事業の競争力強化や、事業ポートフォリオを大胆に入れ替えることに注力をした「構造改革ステージ」でした。これから2027年に向けては、早期に成長実現ステージへと移行し、不確実性のある事業環境下でも、酒類・飲料、医薬及びヘルスサイエンスの事業ポートフォリオだからこそ実現できる一桁後半%のEPS成長を目指していきます。
(基本方針)
不確実性や地政学リスクも考慮しながら事業ポートフォリオを展開し、KV2027で掲げた「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」というビジョンの実現に向けて酒類・飲料、医薬及びヘルスサイエンスの各事業で成長を実現していきます。
(優先課題)
① 各事業の注力分野での価値創造
② 人財、R&D、デジタル及びマーケティングへの投資強化
(重要成果指標)
2027年に向けた財務指標については、EPS※1の成長による株主価値向上を目指すと共に、引き続きROICを採用し、継続的に資本コストを超える水準を目指していきます。
また、重要成果指標(財務目標・非財務目標)及び単年度連結事業利益目標の達成度を役員報酬に連動させることにより、株主・投資家との中長期的な価値共有を促進しています。(なお、役員報酬に関する詳細は、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」をご参照ください。)
※1 前中期経営計画においては、「平準化EPS」を採用していたが、より実質的な稼ぐ力を示すために、平準化しないEPSを採用。
[財務目標※2]
※2 財務指標の達成度評価にあたっては、在外子会社等の財務諸表項目の換算における各年度の為替変動による影響等を除く。
※3 ROIC=利払前税引後利益/(有利子負債の期首期末平均+資本合計の期首期末平均)
[非財務目標]
(財務方針)
キャッシュ・フロー最大化に向けてオーガニック成長による利益創出を目指します。2027年に向けて創出する営業キャッシュ・フローの総額は約8,700億円を想定しています。配当金については、より安定的かつ持続的な配当を実現するために平準化EPSに対する配当性向40%以上の配当から、DOE(連結株主資本配当率)5%以上を目安とする配当方針に変更し、原則として1株あたり配当単価は累進配当を実施いたします。配当金額はグループ総額で約2,300億円を予定しています。設備投資に関しては、総額で約4,000億円を予定しており、長期視点で優先順位を決定し、安全・品質や環境のために必要な設備投資を適切に実施した上で総額のコントロールをします。また、価値創造の源泉となる人財、R&D、ICT及びマーケティングへの投資も強化して企業価値向上につなげます。
安定配当を維持しながら、財務健全性を確保するために、有利子負債の返済を実施していきます。今後、M&A投資を実行する際の資金は事業売却などによって賄いますが、不足する場合には2~3年以内に財務健全性を戻せることが見込める限りにおいては、一時的にグロスDEレシオが1倍を超えることを許容します。最適な事業ポートフォリオのための事業の見直しについては継続して議論をしていきます。
なお、株主還元については、基本的には配当で行うものの、投資機会や事業売却等で創出されるキャッシュバランスを考慮しながら、自己株式取得の実施を機動的に判断します。
(非財務方針)
2025年事業計画基本方針に従い、非財務への取り組みもより強化しています。「イノベーションを実現する組織能力」の強化や、キリングループのDNAである品質本位の徹底、効率と持続可能性を両立するSCM体制の構築、価値創造を支えるガバナンスの強化により、強固な組織基盤の構築を目指しています。また、組織能力の強化とステークホルダーからの期待を踏まえ、経済的価値につながる非財務目標を設定し、価値創造モデルのInput~Business~Outputを強化することでより大きなOutcomeの創出を目指しています。非財務資本への戦略的な取り組みを通じて、当社はCSV経営を推進し、社会のサステナビリティ課題の解決にも貢献していきます。
政治情勢も相まって今後の経済の先行きは依然として不透明です。また、地球温暖化による気候変動対策も急務であり、経営を取り巻く環境は課題が山積しています。キリングループは、不確実性が増す時代だからこそ、CSVを経営の根幹に据え、社会課題をグループの強みで解決し、経済的・社会的価値を創出します。10年後を見据えて長期ビジョンを描き、いかなる環境変化に対しても、迅速かつ柔軟に戦略を最適化しながら実行していく組織体制へ変革します。経営の原点である「お客様本位」「品質本位」に基づき安全・安心を確保しながら、人財・デジタルICT・R&Dへの投資を積極的に行い、イノベーションを実現する組織能力を向上させていきます。人財では、専門性と多様性を軸に価値創造に挑戦する従業員を育成すると同時に、そのための制度や環境整備も進めます。また、今後のグループ経営を担うグローバル人財やキャリア採用の拡充も図ります。デジタルICTでは、生成AI等のデジタル技術を活用し、マーケティングやR&D領域等で価値創造を推進するとともに、グループ全体で業務プロセスの変革に取り組みます。人とAIの分業化を進めることで働き方を変え、飛躍的な生産性向上を目指します。R&Dでは、強みである発酵・バイオテクノロジーを基盤とした技術力で、「乳酸菌L.ラクティス プラズマ(プラズマ乳酸菌)」の機能研究によるさらなる高付加価値化や㈱ファンケルの技術を活用したスキンケアへの展開の可能性等、事業戦略に連動した研究開発を実践します。また、すべての事業において戦略を実行していく「現場力の強化」を共通目標におき、経営と現場が一体となって取り組むことで、グループの成長と収益基盤の強化を図ります。こうした取り組みにより、財務目標である「EPS」「ROIC」と、非財務目標である「健康」「コミュニティ」「環境」「人的資本」各項目の達成を目指します。
①酒類事業
お酒に対するお客様の価値観も多様化しているなかで、麒麟麦酒㈱は、CSVパーパスの「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を前提に、お酒の未来を創造し、人と社会につながるよろこびを創出していきます。事業の成長に向けては、2026年の酒税改正等、今後の市場環境を見据えて主力ビールブランドに注力することで、収益基盤の強化を目指します。「一番搾り」ブランドでは、4月に「キリン一番搾り ホワイトビール」を発売し、お客様に新たな飲用機会を提案します。「キリンビール 晴れ風」では、4月から飲食店向けに中びん(500ml)の展開も開始するほか、引き続きビールの新しい美味しさを提案しながら、日本の風物詩の保全・継承に取り組む「晴れ風アクション」を通じて、市場での定着を図ります。クラフトビールでは、3月に「スプリングバレー」ブランドを大幅に刷新し、日本各地のクラフトブルワリーとの連携も積極的に行うことで、引き続きビール文化の魅力化に取り組みます。
LION PTY LTDは、豪州でのビールブランド「Hahn (ハーン)」や、「Stone&Wood(ストーン&ウッド)」、豪州とニュージーランドで展開する「Hyoketsu(ヒョウケツ)」等の販売を強化します。また、北米では、New Belgium Brewing Company, Inc.の「Voodoo Ranger(ブードゥー・レンジャー)」に加え、RTDの「Voodoo Hard Charged Tea(ブードゥー・ハード・チャージド・ティー)」の拡大に取り組みます。
②飲料事業
国内飲料市場の厳しい競争環境下において、キリンビバレッジ㈱では、「お客様の毎日に、おいしい健康を。」をパーパスに掲げ、ヘルスサイエンス飲料をドライバーとして事業成長に取り組みます。3月に「キリン おいしい免疫ケア」「キリン イミューズ ヨーグルトテイスト」をリニューアルするほか、幅広い層に向け飲用機会を提案します。「免疫ケア」を毎日の健康習慣として啓発することで、さらなる市場拡大につなげます。
「午後の紅茶」ブランドでは、3月に「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖」をリニューアルし、無糖紅茶の魅力を発信することで、紅茶市場の拡大及び無糖茶市場の強化も図ります。
Coca-Cola Beverages Northeast, Inc.は、好調な炭酸飲料を中心に、市場環境にあわせた価格戦略に取り組みながら、デジタルICTをはじめとしたサプライチェーンの効率化を図り、高い収益性を確保していきます。
③医薬事業
協和キリン㈱は日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、病気と向き合う人々に笑顔をもたらす“Life-changing(ライフチェンジング)”な価値創出にむけた取り組みを加速していきます。
経営体制を一層強固なものとすべくCEO、COOの2名体制に変更し、さらなる飛躍を目指します。注力する疾患領域の製品である「Crysvita(クリースビータ)※1」や「Poteligeo(ポテリジオ)※2」の成長による利益拡大を目指すとともにパイプラインの充実に向けて、「KHK4083/AMG451(一般名:rocatinlimab(ロカチンリマブ))※3」や「ziftomenib(ジフトメニブ)※4」の開発推進及び販売開始に向けた取り組みを着実に進めていきます。また、グローバルでの研究開発力の強化にも取り組みます。
※1 主に遺伝的な原因で骨の成長・代謝に障害をきたす希少な疾患の治療薬です。
※2 特定の血液がんの治療薬です。
※3 アトピー性皮膚炎の治療を目的とする開発品です。結節性痒疹、喘息を対象とした臨床試験も進行中です。
※4 急性白血病の治療を目的とする開発品です。
④ヘルスサイエンス事業
健康志向の高まりにより市場が大きく伸長するなか、キリングループは、事業を行う地域すべての人の生きるよろこびとこころ豊かな生活の実現にむけ、市場を上回る成長を目指します。当社、㈱ファンケル、Blackmores Limitedそれぞれの成長と、統合効果の早期実現により、提供価値の最大化を図ります。
㈱ファンケルは、国内における化粧品事業と健康食品事業のさらなる成長を実現します。㈱ファンケルの強みである店頭販売や通信販売を通じた顧客分析力に、当社の市場リサーチ力を掛け合わせて、新商品開発につなげる等、両社の強みを生かした価値創出に取り組んでいきます。
海外では中国でのブランド育成のほか、Blackmores Limitedとの協業により東南アジア等へ展開していきます。
Blackmores Limitedは、豪州・ニュージーランドでの「Blackmores(ブラックモアズ)」、医療機関向けサプリメント「BioCeuticals(バイオシューティカルズ)」の持続的な成長と、中国や東南アジアでの収益拡大を目指します。
プラズマ乳酸菌事業では、さらなる成長にむけ、付加価値商品の拡充や、Blackmores Limitedとの連携による海外展開の拡大により収益性向上を目指します。また、国内のサプリメント商品は、㈱ファンケルとの販売基盤の一体化を進め、事業の効率化や収益性向上を目指します。
また、ヘルスサイエンスと医薬の新たなシナジー創出も加速していきます。当社と協和キリン㈱の共同出資で2024年9月に設立したCowellnex(コヴェルネクス)㈱においては、健康に関する研究や事業開発等、両社の強みを融合したイノベーションにより、健康を取り巻く社会課題を解決していきます。
キリングループは、今後もユニークな事業ポートフォリオ経営と高い戦略実行力で、持続的に成長する企業としてご期待いただけるよう取り組んでまいります。KV2027を見据え、従業員一人ひとりがイノベーションを実現するために挑戦し続けることで、世界のCSV先進企業に向けたステージアップを目指します。
2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
経営理念・長期経営計画に基づき、当社は気候変動や人的資本等のサステナビリティに関連する課題について、リスク低減のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、CSV経営を積極的・能動的に推進することで、中長期的な企業価値の向上とサステナビリティ課題の解決の両立を目指しています。当社はサステナビリティ課題全般およびテーマごとに、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の観点から考え方を整理し、取り組みを強化しています。
当社グループは、気候変動に対するレジリエンスを高め、適切かつ継続的に自然資本を利用し、循環型社会の構築に貢献するために、緩和や適応などの移行戦略を推進しています。当社は気候変動・自然資本・人的資本など、様々なサステナビリティ課題が社会と企業に与えるリスクと機会や戦略のレジリエンスを評価し、幅広いステークホルダーへ情報開示を行っています。
[気候変動・自然資本への対応]
気候変動問題はグローバル社会の最重要課題の1つであると同時に、農産物と水を原料とし「自然の恵み」を享受して事業を行うキリングループにとって重要な経営課題です。この認識の元、キリングループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に公表した提言に準拠し、2018年からいち早くシナリオ分析とその開示を実施しています。2022年には、世界に先駆けて自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のフレームワークβ版のLEAPアプローチによる開示を行い、2023年にはTCFDとTNFDの両フレームワークに基づいて気候変動情報と自然資本情報を統合的に開示しました。気候変動や自然資本などの環境課題に対して統合的(holistic)にアプローチすることで、キリングループのレジリエンスを高め、脱炭素とネイチャー・ポジティブをリードしていきます。
※1:2021年10月に公開された「 TCFD 指標、目標、移行計画に関するガイダンス」および「TCFDの提言の実施(2021年版)」を指します。
※2:2023年末実績です。
※3:各年度のScope3算定には産総研 IDEA Ver2.3、Ver.3.3を使用しています。
リスク・機会の事業インパクト評価と対応戦略
2017年以降、継続的に気候変動のシナリオ分析を行うことで、気候変動によるリスクと機会の把握レベルと戦略を向上してきました。2023年からは、自然資本や容器包装のインパクト評価を依存性や影響なども考慮して試算し、統合的に開示しています。
財務影響の分析
※4:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※5:GHG排出量削減を行わなかった場合で評価しています。
※6:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※7:現地コーヒー農園からのヒアリングより試算しています。
2023年~2024年、TCFD新ガイダンスが求めるアセットに対する気候変動の影響分析を実施しました。自然災害などによる財務影響は小さいと評価しています。Coke Northeast及び2023年中にグループに加わったBlackmoresについては2024年実績からグループの環境データに反映し、その影響を評価していきます。
※8:自然災害モデルAIR洪水シミュレーションでの算出結果です。自然災害によるエクスポージャーも小さいと考えていますが、今後事業所の現地調査等を行い付保の可否についても検討していきます。
※9:気候変動に伴う法規制または社会的な情勢を主要因として耐用年数に達さず更新せざるを得なくなる可能性は低いと判断しています。参考としてキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンのボイラー、および物流グループ会社所有のトラックの残存簿価の合計値を提示しています。
移行計画
気候変動の緩和に対するロードマップを策定し、グループ経営戦略会議で審議・決議して2022年1月より運用を開始しています。自然資本については、生態系保全に加えて「自然に根差した社会課題の解決策」として気候変動の緩和策や適応策を含めたロードマップの策定を検討しています。ペットボトルに関しては、2027年の国内再生樹脂使用比率50%に向けたロードマップを策定して運用を開始しています。
投資計画
2030年までは損益中立を原則とし、省エネ効果で得られたコストメリットで投資による減価償却費や再生可能エネルギー電力調達の増加分を相殺します。GHG排出量削減を主目的とした環境投資の指標としてNPV(Net Present Value)を使用し、投資判断枠組みにはICP(Internal Carbon Pricing:7千円/tCO2e)を導入しています。再生PET樹脂の調達及び工場におけるヒートポンプシステム導入への支出を資金使途とするグリーンボンド(期間:2020年~2024年、100億円)に続き、2023年1月には、当社がScope1とScope2の温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けて推進する省エネ、および再生可能エネルギー関連のプロジェクトに充当する国内食品企業初のトランジション・リンク・ローンによる資金調達(期間:2022年~2042年、500億円)を実行しました。本ローンについては、経済産業省による令和4年度温暖化対策促進事業費補助金及び産業競争力強化法に基づく成果連動型利子補給制度(カーボンニュートラル実現に向けたトランジション推進のための金融支援)が適用されます。2024年には、省エネルギーに3億円、再生エネルギーの拡大に22億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。
ネットゼロを達成するために必要だと試算する投資額※11
(単位:億円)
※11:2019-2021年中計は実績。2022~2030年はトランジション・リンク・ローン策定時の想定であり、今後修正される可能性があります。
※12:再生可能エネルギー使用拡大には再生可能エネルギー電力調達に関わる全ての投資額を含めております。
[人的資本への対応]
人財戦略を取りまく環境は社内外で大きく変化しており、キリングループの人財戦略も大きな転換期を迎えています。環境の変化や個人の価値観の多様化もあいまって、働き方をはじめ労働市場環境は劇的に変化し、また、キリングループにおいては事業ポートフォリオの転換によって、経営戦略実行に求められる人財も変化しています。
キリングループでは、「人財」を価値創造・競争優位の源泉とあらためて位置づけ、その価値を最大限引き出すことで、KV2027の実現と、グループの持続的成長・価値向上を実現していきます。
3 【事業等のリスク】
キリングループでは、経営目標の達成や企業の継続性に大きな影響を与える不確実性を「リスク」、ある時点を境にリスクが顕在化し対応に緊急性を要するものを「クライシス」と定義しており、お客様、従業員、株主および社会から長期的な信頼を獲得できるよう、以下の考え方のもとリスクマネジメントシステムを構築・運用することで、事業活動上で発生するさまざまなリスクを特定し、適切にコントロールしていくことを基本方針としています。なお、リスク情報は、当社ホームページなどを通じて適時適切に開示してまいります。
(基本方針)
① 経営理念および価値観のもと、経営目標の達成や企業の継続性を確保し、企業の社会的責任を果たし、中長期的な企業価値の向上を目的として、リスクマネジメントを実行する。
② 戦略とリスクを一体で検討を行い、適切なリスクテイクを実現する。
③ リスクマネジメントの推進のため、組織や仕組みを整え、環境変化に柔軟に対応できる組織能力の向上を図る。
④ 平時からリスクの洗い出しを行い、企業活動に伴うさまざまなリスクを把握の上、リスクの特定・分析・評価・対策+モニタリングを行い、リスクへの適切な対応(保有、低減、回避、移転)を行っていく。
⑤ リスクマネジメントは全社員が参画して取り組む活動であるとの認識を持ち、教育や訓練等の啓発活動を通じて、リスクへの感度の醸成を図る。
⑥ クライシスに対しては、未然防止を徹底するとともに、早期発見、迅速な報告・情報共有・対応を通じ、影響を最小化する。クライシスの対応後には、その発生要因・対処法などを分析し、再発防止に努める。
⑦ 会社におけるリスクの内容や対策等のリスク情報について、適時、ステークホルダーに対し適切な情報開示を行う。
キリングループでは、当社の常務執行役員以上で構成され、リスク担当執行役員が委員長を務める「グループリスク・コンプライアンス委員会」を設置しています。同委員会は、リスク情報の収集やグループリスクマネジメント方針の立案、リスク低減に向けた取り組み、クライシス発生時の情報共有や対策の検討など、リスクマネジメント活動の全般を統括しています。また、取締役会ではグループ重要リスクの審議や報告を通じ、リスクマネジメントの有効性を監督しています。(図1)
グループ重要リスクを確定するプロセスについては、毎年度設定されるキリングループのリスクマネジメント方針に基づいて進められます。グループ会社では、戦略や事業遂行上のリスク、重大な危機に発展する可能性のあるリスクを検討、抽出され、当社ではこれらの事業固有のリスクを集約し、グループ全体に共通するリスクも含めた精査を行います。グループリスク・コンプライアンス委員会では、各リスクについて経済的損失、事業継続性、レピュテーションの毀損など、定量・定性の両面から全社的な経営の視点で評価を行います。そして、発生確率を考慮し、対応の優先順位が高いリスクを選定します。これらのリスクは取締役会で審議され、グループの重要リスクとして確定されます。(図2)
グループ重要リスクについては、影響度と発生確率を踏まえてリスクマップ上で一元化して管理し、最重要リスクについては取締役会でも状況変化の確認や対策の見直しを行っています。(図3)当社およびグループ会社はリスクに応じた対策を立案・実行し、相互に連携することでリスクマネジメントを推進・運用しています。また、事業と機能の両軸で実施するモニタリングを通じて、戦略リスクを管理・統制するとともに、クライシスに転ずるリスクの顕在化の未然防止や発生時にはその影響を最小限に留めるなど、リスクマネジメント体制を整備し、リスクの低減や適切な管理に努めています。(図4)
(図1)
(図2)
(図3) (図4)
キリングループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主要な事項について、「各事業領域におけるリスク」と「各事業領域共通のリスク」に分類して記載しています。なお、本文中における将来に関する事項は、別段の記載がない限り当年度末において当社が判断した内容に基づきます。
上記以外にも、レピュテーションに関するリスク、地政学上のリスク、事業投資に関わるリスク、法改正に伴うリスクなど様々なリスクがあります。これらのリスクを認識した上で、発生の未然防止・速やかな対応に努めてまいります。
4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中における将来に関する事項は、当年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたりまして、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
詳細につきましては、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」に記載のとおりであります。
2024年、私たちをとりまく環境は加速度をあげて変化し、経済や社会に大きな影響を及ぼしました。世界では大国間の対立や紛争により、地政学的緊張がさらに高まっています。経済情勢においては、米国を中心としたインフレの鎮静化や、国内景気の緩やかな回復がみられたものの、依然として不透明な状況が続いています。
また、世界各国で異常気象や災害が頻発し、環境対策は急務となっています。デジタルICT分野では、生成AIや量子技術の実用化が加速し、産業や労働市場、働き方に大きなインパクトを与えています。
このように社会環境が大きく変化し、複雑化する中で、消費者の価値観や生活様式は今まで以上に多様化し、これまでの常識が通用しない大変革の時代を迎えています。
キリングループはCSVを経営の根幹に据え、酒類・飲料・医薬に加え、ヘルスサイエンスを持つユニークな事業ポートフォリオ経営で、厳しい環境変化にも柔軟に対応しながら、持続的な成長を目指しています。
2024年は、CSV経営の一層の進化と各事業の戦略実行度を高めるため、CEO、COOの2名による新たな経営体制に移行し、企業価値の最大化に取り組みました。
「キリングループ2022年-2024年中期経営計画」に沿って「酒類・飲料事業における事業利益の拡大」「医薬事業のグローバル基盤強化」「ヘルスサイエンス事業の規模拡大」で成果を創出し、事業の継続的な業績を測る利益指標である連結事業利益において過去最高益を達成しました。なお、親会社の所有者に帰属する当期利益は、㈱ファンケルの連結子会社化に伴う段階取得差損、協和発酵バイオ㈱のアミノ酸等の事業譲渡に伴う損失等、事業の成長に向けた基盤を整えるための決定を行ったことにより減益となりました。
ESGの取り組みにおいても、外部機関から高い評価を獲得しました。ESG指標のMSCI ESGレーティングでは、世界的なCSV経営先進企業と並ぶ「AA」評価を4年連続で獲得しました。
経済産業省と東京証券取引所が開始した「SX銘柄(サステナビリティ・トランスフォーメーション銘柄)2024」にも選出されました。
また、第6回「日経SDGs経営調査」における「SDGs経営」総合ランキングでは、6年連続最高位を獲得しました。事業を通じた社会課題への取り組みや、自然資本に関する情報開示が評価されました。
当年度の連結売上収益は、酒類事業、飲料事業、医薬事業及びヘルスサイエンス事業の増収により増加しました。連結事業利益は、医薬事業が減益となりましたが、酒類事業、飲料事業及びヘルスサイエンス事業が増益となり、全体では増益となりました。なお、親会社の所有者に帰属する当期利益は、㈱ファンケルの連結子会社化に伴う段階取得差損、協和発酵バイオ㈱のアミノ酸等の事業譲渡に伴う損失等、事業の成長に向けた基盤を整えるための決定を行ったことにより減益となりました。
重要成果指標について、ROICは、ヘルスサイエンス事業や医薬事業における成長投資による負債増加と当期利益の減益により4.1%となりました。平準化EPSは、前年より5円減少の172円となりました。
セグメント別の業績は次のとおりです。
キリンビール㈱は、2026年の酒税一本化を見据え、主力ブランドへの投資強化と、お客様のニーズを捉えた新商品投入により、魅力あるビールブランド体系を実現しました。発売から35年目を迎えた「キリン一番搾り生ビール」と健康志向を捉えた「キリン一番搾り 糖質ゼロ」をリニューアルし、一番搾り製法ならではのおいしさを提供することで、ビールカテゴリーの活性化に取り組みました。「一番搾り」ブランド全体の販売数量は対前年1%増と、堅調に推移しました。また、17年ぶりとなるスタンダードビールブランド「キリンビール 晴れ風」を新たに発売しました。お客様にビールの新しいおいしさを提案し、「一番搾り」に次ぐブランドとして育成した結果、発売時に掲げた年間目標の1.3倍を販売するなど、大ヒットしました。クラフトビールでは、「スプリングバレー」ブランドをリニューアルし、多様な味わいを持つビールの楽しみ方を提案しました。また、ブランドの情報発信基地である、ブルワリー併設のビアレストラン「スプリングバレーブルワリー東京」をリニューアルオープンし、クラフトビール市場の顧客接点拡大に取り組みました。国産ウイスキーカテゴリーでは、国内での販売実績が対前年2割増と好調に推移しました。特に「キリンウイスキー 陸」は飲食店での取り扱いが増加し、販売実績は対前年4割増と大きく伸長しました。富士御殿場蒸溜所の代表ブランドである「富士」は、国内での販売好調や海外での展開国拡大に加え、世界的な酒類品評会「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ」のジャパニーズウイスキー部門において、2年連続で「ゴールド」を受賞するなど、高い評価を獲得しました。RTDでは、主力の「キリン 氷結」ブランドが対前年5%増と好調に推移しました。特に「キリン 氷結無糖」シリーズが対前年12%増と大きく伸長し、ブランド全体を牽引しました。また、規格の問題で廃棄される果実を使用した「キリン 氷結®mottainai」シリーズを発売し、“おいしさ”と“社会貢献”を両立した新商品としてお客様からの共感を獲得しました。
LION PTY LTDは、豪州でのビール販売実績が市場を上回って推移しました。特に、「Stone&Wood」や健康ニーズを捉えた「Hahn」が好調だったほか、「XXXX」をはじめ複数ブランドでも機能系商品を発売し、販売基盤を強化しました。また、豪州・ニュージーランドで販売を開始した「Hyoketsu」は、複数フレーバーの展開により好調に推移しました。北米では、New Belgium Brewing Company, Inc.のクラフトビール「Voodoo Ranger」が前年を上回ったことに加え、2024年から販売を開始したRTD商品「Voodoo Hard Charged Tea」が好調に推移しました。
これらの結果、売上収益は3.5%増加し1兆817億円となりました。また、事業利益は、原材料等の高騰影響を受けたものの、価格改定やコストコントロールにより3.4%増加し1,240億円となりました。
キリンビバレッジ㈱は、主力ブランドの強化に加えてヘルスサイエンス飲料の拡大に注力するとともに、コスト削減や価格改定に取り組むことで、収益性の改善に取り組みました。「午後の紅茶」ブランドは、主力の「キリン 午後の紅茶」をリニューアルするとともに、夏のアイスティーや冬のホットミルクティーといった飲用シーンの提案で、年間を通じた紅茶需要の拡大に取り組みました。「生茶」ブランドは、「キリン 生茶」「キリン 生茶 ほうじ煎茶」を大きく刷新し、無糖茶市場の活性化を図りました。味覚だけでなく、お客様の生活や時代にあわせたデザイン性が高く評価され、年間販売数量は対前年12%増と好調に推移しました。注力するヘルスサイエンス飲料では3月にリニューアルした「キリン おいしい免疫ケア」シリーズが「免疫ケア」習慣の更なる促進により、年間販売数量が対前年4割増と大きく伸長しました。また、花王㈱から譲り受けた茶カテキン飲料「ヘルシア」ブランドや㈱ファンケルの「カロリミット」ブランド等の機能系飲料も強化し、ヘルスサイエンス飲料のラインアップを拡充しました。
Coca-Cola Beverages Northeast,Inc. では、炭酸飲料を中心に販売が堅調に推移しました。デジタルICTの活用をはじめとした継続的なオペレーションの最適化や、市場環境にあわせた価格戦略により、グループ全体の利益伸長を牽引しました。
これらの結果、売上収益は9.4%増加し5,649億円となりました。また、事業利益は、価格改定や販売費等のコストコントロールにより22.2%増加し640億円となりました。
協和キリン㈱は、注力する疾患領域の製品である「Crysvita」及び「Poteligeo」が堅調に推移し、成長を牽引しました。開発パイプラインでは「KHK4083/AMG451(rocatinlimab)」の臨床試験が順調に進み、新たに「ziftomenib」の開発・販売についてKura Oncology, Inc.と戦略的提携に関する契約を締結しました。また、創薬力強化を目指したグローバルでの研究体制の変革、北米でのバイオ医薬品原薬製造工場の建設やアジア・パシフィック地域における事業の再編等、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして持続的な成長に向けた変革を推進しました。
これらの結果、北米を中心としたグローバル戦略品等の海外医薬品売上の増加により売上収益は12.1%増加し4,953億円となりました。また、事業利益は、研究開発費が増加したことにより4.3%減少し919億円となりました。
豪州を基盤とするBlackmores Limitedをはじめ、㈱ファンケルの連結子会社化により、アジア・パシフィック地域最大級のヘルスサイエンスカンパニーを目指す事業基盤を整えました。主力ブランドである「Blackmores」や、医療機関向けサプリメント「BioCeuticals」の販売が好調に推移し、アジア・パシフィック全ての展開エリアで売上収益が前年を上回って推移しました。
協和発酵バイオ㈱は、アミノ酸及びヒトミルクオリゴ糖事業を、中国の大手バイオ産業会社であるMeihua Holdings Group Co., Ltd.の子会社に譲渡することで合意しました。譲渡完了後は、シチコリンを中心としたスペシャリティ素材に絞った事業体制とし、収益改善を進めます。
これらの結果、売上収益は69.6%増加し1,753億円となりました。また、事業損失は、協和発酵バイオ㈱のアミノ酸及びヒトミルクオリゴ糖事業の譲渡契約の締結に伴い発生した棚卸資産の評価損等の影響があったものの、Blackmores Limitedの通年での損益の取込や㈱ファンケルの連結子会社化により、109億円となりました。
当年度におけるセグメントごとの生産実績は、次のとおりであります。
(注) 金額は、販売価格によっております。
当社グループの製品は見込生産を主体としているため、受注状況の記載を省略しています。
当年度におけるセグメントごとの販売実績は、次のとおりであります。
(注) 1 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
2 上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
当年度末の資産合計は、前年度末に比べ4,846億円増加して3兆3,542億円となりました。有形固定資産、のれん及び無形資産については、㈱ファンケルの連結子会社化の影響等によって、前年度末に比べ5,480億円の増加となりました。
資本は、その他の資本の構成要素が579億円増加、非支配持分が589億円増加し、前年度末に比べ1,079億円増加して1兆5,337億円となりました。その他の資本の構成要素の増加要因は、主に円安の影響によって在外営業活動体の換算差額が546億円増加した影響です。また、非支配持分の増加要因は、主に㈱ファンケルを連結子会社化した影響です。
負債は、前年度末に比べ3,767億円増加して1兆8,204億円となりました。新規借入等による社債及び借入金が2,012億円増加、㈱ファンケルを連結子会社化した影響等により繰延税金負債が843億円増加しました。
これらの結果、親会社所有者帰属持分比率は35.2%、グロスDEレシオは0.73倍となりました。
当年度末のセグメント資産は、棚卸資産が増加したこと等により、前年度末に比べ209億円増加して1兆3,675億円となりました。
当年度末のセグメント資産は、設備投資による有形固定資産が増加したこと等により、前年度末に比べ389億円増加して3,264億円となりました。
当年度末のセグメント資産は、のれん及び販売権、仕掛研究開発費の無形資産が増加したこと等により、前年度末に比べ413億円増加して1兆127億円となりました。
当年度末のセグメント資産は、㈱ファンケルの連結子会社化によって無形資産が増加したこと等により、前年度末に比べ2,904億円増加して7,641億円となりました。
当年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前年度末に比べ128億円減少の1,186億円となりました。活動毎のキャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。
営業活動による資金の収入は前年同期に比べ396億円増加の2,428億円となりました。非資金損益項目である減損損失が166億円減少したものの、段階取得に係る差損183億円、持分法による投資の減損損失193億円や前年度に計上した持分法で会計処理されている投資の売却益の反動減155億円の他、運転資金の流出が24億円減少したこと等により、小計では459億円の増加となりました。小計以下では法人所得税の支払額が142億円増加したものの、営業活動によるキャッシュ・フローは前年同期比で増加となりました。
投資活動による資金の支出は前年同期に比べ1,033億円増加の3,294億円となりました。当年度の資金の収入には、政策保有株式の縮減に向けた取組みを引き続き推進したことによる投資の売却による収入が74億円、子会社株式の売却による収入が13億円ありました。一方、有形固定資産及び無形資産の取得について、前年同期に比べ668億円増加の1,806億円を支出した他、持分法で会計処理されている投資の売却による収入が前年同期に比べ205億円減少となったことなどが前年同期比の支出増加要因となりました。なお、子会社株式の取得による支出は、当年度はOrchard Therapeutics Limitedや㈱ファンケルの連結子会社化、前年同期はBlackmores Limitedの連結子会社化があり、前年同期に比べ23億円減少の1,598億円となりました。
財務活動による資金の収入は前年同期に比べ222億円増加の581億円となりました。これは、㈱ファンケルの連結子会社化などにより有利子負債の増加額が前年同期に比べ746億円増加の2,008億円となった一方で、協和キリン㈱が自己株式取得を実行したことにより子会社の自己株式の取得による支出が400億円増加したことなどが要因となります。なお、安定した株主還元を継続的に行う方針に基づき、平準化EPSに対する連結配当性向40%以上の配当を実施しており、非支配持分を含めた配当金の支払いは727億円となりました。
当社グループは資本コストを意識し、より安定的かつ持続的な配当を実現するため、平準化EPSに対する連結配当性向40%以上配当から、DOE(連結株主資本配当率)5%以上を目安とし、原則として累進配当を実施する配当方針へ変更いたします。安定配当を最優先に、有利子負債返済と将来成長のための無形資産投資を実施しながら、キャッシュバランスに応じて投資や株主還元を検討していきます。
当社は事業への資源配分及び株主還元について以下の通り考えております。
事業への資源配分については、ヘルスサイエンス領域を中心とした成長投資を最優先としながら、既存事業の強化・収益性改善に資する投資を行います。また、将来のキャッシュ・フロー成長を支える無形資産(ブランド・研究開発・ICT・人的資本など)及び新規事業創造への資源配分を安定的かつ継続的に実施します。なお、投資に際しては、グループ全体の資本効率を維持・向上させる観点からの規律を働かせます。
株主還元についても経営における最重要課題の一つと考えており、1949年の上場以来、毎期欠かさず配当を継続しております。2024年度まで「平準化EPSに対する連結配当性向40%以上」による配当を実施し、2025年度以降は、より安定的かつ持続的な配当を実現するため、DOE(連結株主資本配当率)5%以上を目安とし、原則として累進配当を実施する配当方針へ変更いたします。企業価値向上を目指す資本コストを意識した経営の一環として、株主の皆さまへの利益還元の一層の充実と資本効率の向上を図ることといたします。自己株式の取得については引き続き、追加的株主還元として最適資本構成や市場環境及び投資後の資金余力等を総合的に鑑み、実施の是非を検討していきます。
資金調達については、経済環境等の急激な変化に備え、金融情勢に左右されない高格付けを維持しつつ、負債による資金調達を優先します。中長期的な目標達成に必要とされる投資に係る資金調達により支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資金調達については、ステークホルダーへの影響等を十分に考慮し、取締役会にて検証及び検討を行った上で、株主に対する説明責任を果たします。
5 【経営上の重要な契約等】
該当事項はありません。
6 【研究開発活動】
当社グループでは、長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)のイノベーションを実現する組織能力の一つとして「確かな価値を生み出す技術力」を掲げています。従来から強みを持つ発酵・バイオテクノロジー、パッケージング、エンジニアリングの技術力をより発展させるとともに、知的財産の取り組みにも力を入れています。当社グループの研究開発活動は、酒類事業、飲料事業、ヘルスサイエンス事業においては、キリンホールディングス㈱の5研究所(キリン中央研究所、ヘルスサイエンス研究所、飲料未来研究所、パッケージイノベーション研究所、バイオプロセス技術研究所)及び各事業会社の研究所で行っています。また、医薬事業においては、協和キリン㈱が中心にLife-changingな価値の創出を目指して研究開発活動を行い、さらに医薬品にとどまらない価値提供も目指してキリンホールディングス㈱との協働取り組みを推進しています。
当年度におけるグループ全体の研究開発費は
キリンホールディングス㈱は、中長期の研究開発活動や、当社グループの全事業にまたがる研究開発を行っています。
環境領域の研究において、高効率・環境負荷低減を実現する、PET ※1ケミカルリサイクル※2技術の開発に取り組みました。国立大学法人静岡大学農学部、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構分子科学研究所および国立大学法人大阪大学蛋白質研究所と共同で、ケミカルリサイクル技術の一つである「酵素分解法」で用いる「PET分解酵素」を改変※3し、PETを高効率で分解できる酵素の開発に成功しました。改変した酵素を用いた検証では、一般的に資源循環が困難とされている混紡繊維中のPETも分解でき、PETとコットンの混紡繊維におけるPETの分解率※4が90%と世界最高値※5となりました。また、ペットボトルにおける評価では改変前の酵素と比較し、PET分解量が28倍に向上※6したことを確認しました。
また、アミノ酸の一種であるN-アセチルグルタミン酸(以下、NAG)が、ビールの原材料であるホップの熱ストレス耐性を高めること、およびそのメカニズムを明らかにしました。NAGはホップだけでなく他の植物でも熱ストレス耐性を強化できることから※7、気候変動に対応する農業資材として活用できる可能性があります。
全社(共通)に係る研究開発費は83億円です。
※1 ポリエチレンテレフタラート
※2 PETの中間原料まで分解、精製したものを再びPETに合成する方法
※3 酵素の構造を変えることで、PETに対しての働き(分解効率)を良くすること。
※4 PET分解酵素により、検証に使用したPET全量のうち、分解できたPET量の割合。
※5 DialogおよびJdream3データベースを用いた、酵素によるポリエチレン含有繊維の分解に関する文献調査に基づく(Dialogデータベースでの調査対象は査読論文に限る)(2024年11月18日(月)調査実施 ナレッジワイヤ調べ)
※6 改変前のPET分解酵素「PET2」と改変後の「PET2-21M」での比較。60℃の温度帯で、それぞれ同量の添加した酵素量と分解対象のPET量で検証した場合の分解量の比較。
※7 Hirakawa et al, Plant Biotech. 2024; 41(1): 71-76
Hirakawa et al, Front Plant Sci. 2023; 14: 1165646
酒類事業は、麒麟麦酒㈱、メルシャン㈱、LION PTY LTDが、キリンホールディングス㈱の研究所と連携しながら研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。
ビールカテゴリーからは、17年ぶりにスタンダードビールの新ブランド「キリンビール 晴れ風(以下、晴れ風)」を開発し、4月より全国で発売しました。麦芽100%で、副原料を使用せずに麦のうまみを丁寧に引き出すことで、雑味のないきれいな味わいに仕上げました。また、日本産の希少ホップ「IBUKI」を使用しており、爽やかな柑橘香が特長です。添加タイミングにも工夫を凝らし、ホップの香りが奥ゆかしく、穏やかに香る設計としています。さらに、ビールの飲みづらさにつながる過度な酸味を抑えるために、仕込工程と発酵工程において工夫を凝らし、まろやかな味わいとスムースな口当たりを実現しました。
「キリン一番搾り生ビール」を中味・パッケージともに6月にリニューアルしました。ホップ配合の見直しと、仕込み時の温度変更を行い、バランスの良さはそのままに、より麦のうまみを感じられて、雑味がない味わいに進化しました。
RTDカテゴリーからは、「キリン 氷結®(以下、氷結®)」ブランドから、新シリーズ「氷結®mottainai」の第1弾として「キリン 氷結®mottainai 浜なし(期間限定)」および第2弾として「キリン 氷結®mottainai ぽんかん(期間限定)」を開発し、それぞれ5月と10月から発売しました。「キリン 氷結®mottainai 浜なし(期間限定)」は、おいしいのに規格外という理由で廃棄される予定であった「浜なし」を使用しています。「浜なし」は、木の上で完熟させるのが特長です。「浜なし」のはじけるようなみずみずしい果実感が感じられ、軽やかな炭酸感とスッキリとした後味で、チューハイならではの爽やかさが楽しめる商品として開発しました。「キリン 氷結®mottainai ぽんかん(期間限定)」は、収穫前に温かい雨が降ることで、果実の表面が陥没・褐変してしまう柑橘特有の症状や、傷、大きさ等を理由に、青果として販売できず廃棄予定だった「高知県産ぽんかん」を使用しています。「高知県産ぽんかん」は、南国を思わせるようなオリエンタルな香りと、甘くてみずみずしい果実が特徴です。「ぽんかん」の皮を剥いた時に広がる爽やかな香りと甘くてジューシーな味わいを軽やかな炭酸感とスッキリとした後味で楽しめる商品として開発しました。
国産洋酒カテゴリーからは、「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士 50th Anniversary Edition」を6月より数量限定で発売しました。操業当時の1970年代蒸留の原酒から、3つのタイプ(バーボンタイプ・カナディアンタイプ・スコッチタイプ)のグレーン原酒をすべて使用し、それ以降の1980・1990・2000年・2010年代の各年代の原酒をブレンドしています。長熟原酒由来の甘く複雑な熟成香と、未来を見据えて改良を続けてきた原酒の華やかな香りが見事に調和する美しい味わいをお楽しみいただけます。「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2024」においてジャパニーズウイスキーカテゴリーの最高賞となる「トロフィー」を受賞しました。
ノンアルコールカテゴリーからは、「キリン グリーンズフリー」を中味・パッケージともに7月にリニューアルしました。原料の配合を見直すことで、水っぽさや雑味を抑えて爽快感と飲みごたえを向上させ、「ビールに近い爽やかなおいしさ」にさらに磨きをかけました。また、爽やかに香り高いニュージーランド産の希少ホップ「ネルソンソーヴィン」を含む3種類のホップをブレンドしており、麦とホップの香りの良さを引き出す製法を採用しています。
ワインカテゴリーからは、世界の造り手とメルシャンの造り手が日本のお客様のために共に創るワインブランド「Mercian Wines(メルシャン・ワインズ)」から、「メルシャン・ワインズ サニーサイド オーガニック スパークリング ロゼ 缶」を開発し、5月より発売しました。スペインのワイナリー「ペニンシュラ」と共創し、赤い果実や柑橘のような香りに加え、華やかなマスカットのニュアンスも感じられ、心地よい酸味のある果実味豊かでバランスのとれたやさしい味わいとなっています。
キリンホールディングス㈱のパッケージイノベーション研究所が開発した、メルシャン史上最軽量となる1500mlワイン用ペットボトルを、7月より「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」シリーズなどで採用を開始しました。ワイン瓶の形状(ボルドー型)を維持しながら、従来のボトル重量58gから53.5gへと4.5g軽量化しました。これにより、「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」シリーズなどの当社ワイン用ペットボトル全商品※1において、年間約107トンのPET樹脂量と、約346トンのCO2排出量の削減を見込んでいます※2。
2024年における受賞は、フランス・カンヌで開催された「ヴィナリ国際ワインコンクール 2024」において、「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー シグナチャー 2018」が金賞を受賞しました。また、フランス・ボルドーにて開催された「第48回 チャレンジ・インターナショナル・デュ・ヴァン(Challenge International du Vin)2024」において、「メルシャン・ワインズ サニーサイド オーガニック ホワイト」、「シャトー・メルシャン 北信右岸シャルドネ リヴァリス 2021」、「シャトー・メルシャン 北信シャルドネ 2022」の3品が金賞を受賞しました。
オセアニアについては、LION PTY LTDが、キリンホールディングス㈱が長年培った技術を活用しながら、オーストラリアおよびニュージーランドの市場およびお客様の嗜好に合った商品開発に取り組んでいます。キリンブランドの「氷結®」に関して、2023年の「KIRIN HYOKETSU LEMON」の現地での発売を皮切りに、2024年は「KIRIN HYOKETSU PEACH」ならびに「KIRIN HYOKETSU PINEAPPLE」を新たに開発し、発売しました。今後も引き続きブランドの拡充に向けた開発を、共同して進めていきます。
当事業に係る研究開発費は
※1 2024年終売予定商品を除く
※2 メルシャンが製造・販売する720ml・1500mlのワイン用ペットボトル商品の全てにこのペットボトル容器を採用した際の見込み(2023年販売実績に基づく)
飲料事業は、キリンビバレッジ㈱が、キリンホールディングス㈱の研究所と連携しながら研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。
キリンの独自素材「プラズマ乳酸菌」を1,000億個配合した機能性表示食品「キリン おいしい免疫ケア 野菜 1日分」と「キリン おいしい免疫ケア 野菜と果物 1食分」を開発し、9月より全国で発売しました。「キリン おいしい免疫ケア 野菜 1日分」については、1日分の野菜を使用し※1、トマトとにんじんを中心に、31種類の野菜をブレンドすることで、野菜の甘味と酸味を濃く感じられる味わいです。「キリン おいしい免疫ケア 野菜と果物 1食分」については、1食分の野菜と果物を使用し※2、にんじんとりんごを中心に30種類の野菜と2種類の果物をブレンドした、飲みやすい味わいです。また、健康な人の免疫機能の維持に役立つ機能性表示食品「キリン iMUSE(イミューズ)グリーン」を11月より全国で発売しました。「プラズマ乳酸菌」を1,000億個と、1日分のビタミン(B1、B6、C)を配合し、グレープフルーツミックス味のすっきりとした甘さで日常の水分補給やリフレッシュにもぴったりな味わいに仕上げました。
また、2月に発表した花王株式会社(以下、花王)の茶カテキン飲料「ヘルシア」に関する事業譲渡契約に則り、8月より花王のヘルシアブランドの茶カテキン飲料「ヘルシア 緑茶」「ヘルシア 緑茶 うまみ贅沢仕立て」「ヘルシア ウォーター」の3製品6品種を全国で販売開始しました。両社の研究所をはじめとする双方の技術部門が連携して取り組みました。
「キリン 午後の紅茶」から「キリン 午後の紅茶 ストレートティー/ミルクティー/レモンティー」の味覚・パッケージデザイン・容器※3の開発により、2018年以来6年ぶりに大刷新し、6月より全国で発売しました。スリランカ産紅茶葉を15%以上使用し、上品な紅茶の香りと、程よい甘さを追求しました。また500ml手売り用ペットボトルを、ダイヤカットが特長的で、紅茶の液色がよりクリアにおいしそうに見える新容器にリニューアルしました。一部容器を「シュリンクラベル」から「ロールラベル」に変更し、ラベルを薄く面積を小さくしました。今回「ロールラベル」の採用により、年間約116トンのプラスチック樹脂使用量を削減※4でき、これによりCO2排出量を年間838トン削減※4できます。
「キリン 生茶」「キリン 生茶 ほうじ煎茶」を容器、パッケージ※5、味覚の開発により、すべて大刷新し、4月より全国で発売しました。味覚については、生茶葉鮮度搾り製法※6に加え、抽出した茶液を凍結・凝縮することで新茶のようなあまみの成分が生成され、新茶のようなあまみを増幅させる「凍結あまみ製法」※7を新たに採用しました。また、微粉砕茶葉も現行品から約3倍※8に増やすことで、苦渋みを抑え、新茶のような“あまみ”際立つ、生茶史上最高レベル※9のおいしさに進化しました。
物流の2024年問題への対応として、三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)が開発し、三菱重工グループの三菱ロジスネクスト株式会社とともに提供する、ΣSynX(シグマシンクス)※10によって飲料倉庫のピッキング作業を自動化・知能化するソリューション「自動ピッキングソリューション」を、キリンビバレッジ㈱の東日本エリアの物流拠点である海老名物流センター(神奈川県海老名市)に導入完了しました。
当事業に係る研究開発費は
※1 厚生労働省 健康日本21、1日の野菜摂取目標量350gより。原料の野菜汁は、野菜の全成分を含むものではありませんが、食生活で不足しがちな野菜を補うためにお飲みください。
※2 厚生労働省 健康日本21、1日の野菜摂取目標量の約1/3:120g、農林水産省 FACT BOOK 果物と健康、1日の果物摂取目標量の約1/3:67gより。原料の野菜汁や果汁は、野菜や果物の全成分を含むものではありませんが、食生活で不足しがちな野菜や果物を補うためにお飲みください。
※3 500ml手売り用ペットボトルのみ
※4 2024年6~12月の販売予定数量に基づく当社試算
※5 アジア包装連盟主催の「アジアスター2024コンテスト」において、「アジアスター賞」を受賞しました。
※6 生茶葉鮮度搾り製法は2016年より導入
※7 原料の一部で使用
※8 対象商品: 280ml/300ml/525ml/555ml/600mlペットボトル
※9 キリン調べ(23年9月:嗜好調査 N=120)
※10 さまざまな機械システムを同調・協調させる三菱重工の標準プラットフォームであり、機械システムの知能化により最適運用を実現するデジタル・テクノロジーを集約したもの
協和キリン㈱グループは、研究開発活動へ経営資源を継続的かつ積極的に投入しています。自社における研究開発が注力する疾患サイエンス領域を骨・ミネラル、血液がん・難治性血液疾患、希少疾患に設定し、創薬技術については、先進的抗体技術や造血幹細胞遺伝子治療などの革新的なモダリティを強化することで、Life-changingな価値を持つ新薬を継続的に創出することを目指します。また、価値創造のプロセスの一環として、オープンイノベーション活動やパートナーとの連携推進、ベンチャーキャピタルファンドへの出資、コーポレートベンチャーキャピタルも活用します。研究開発においては、Life-changingな価値の創出に重点を置き、自社でグローバルに展開して価値最大化を目指すだけでなく、社外のパートナーとの戦略的な連携で価値最大化を目指すビジネスモデルも活用します。
<主要開発品の開発状況>
2024年12月31日時点
・KHK4083/AMG 451(一般名:rocatinlimab)は、病原性T細胞(炎症性疾患において疾患の原因となるT細胞)に発現するOX40受容体を標的とするモノクローナル抗体です。アトピー性皮膚炎などの炎症性疾患の根本的な原因の一つとして、OX40シグナル伝達を介したT細胞の活性化により、病原性T細胞の増加とエフェクター機能が誘導され、T細胞のインバランスが生じていることが挙げられます。rocatinlimabは、病原性T細胞の機能を抑制し、またその数を減少させることにより、T細胞リバランスを可能とします。初期の抗体は協和キリン㈱の米国研究チームとラホヤ免疫研究所の共同研究により見出されました。2021年6月1日、協和キリン㈱と米国Amgen社はrocatinlimabの共同開発・販売に関する契約を締結しました。本契約に基づき、米国Amgen社は本剤の開発、製造、及び協和キリン㈱が単独で販売活動を担当する日本を除くグローバルでの販売活動を主導します。両社は米国において本剤のコ・プロモーションを行い、協和キリン㈱は米国以外(日本を除く欧州及びアジア)においてコ・プロモーションを行う権利を有しています。現在成人及び青年期(12歳以上)の中等度から重症のアトピー性皮膚炎を対象に8つの試験からなる第Ⅲ相試験(ROCKETプログラム)が進行中です。これまでに3,300名以上の患者さんが試験に参加し、そのうち7つの試験で被験者登録を終了しました。9月にROCKETプログラムの最初の試験ROCKET-Horizonの結果が主要評価項目と全ての主要な副次評価項目を達成したことを発表しました。ROCKETプログラムに加え、中等度から重症の喘息を対象とする第Ⅱ相試験及び結節性痒疹を対象とする第Ⅲ相試験も実施中です。
・ziftomenibは、経口メニン阻害薬であり、アンメットニーズの高い特定の遺伝子変異や再構成を有するAMLに対する治療薬として米国Kura Oncology社(以下「Kura社」という。)により開発が進められてきました。2024年11月、協和キリン㈱とKura社はziftomenibの販売と開発に関するグローバルにおける急性白血病を対象とした戦略的提携に関する契約を締結しました。本契約に基づき、両社は共同でziftomenibの開発と販売を実施し、米国ではKura社が、米国以外では協和キリン㈱が開発・薬事・販売戦略を主導します。現在AMLを対象に複数の試験が進行中です。2024年12月に、両社はziftomenibについて、NPM1変異及び KMT2A再構成のAMLを対象とするシタラビン・ダウノルビシン(7+3療法)やベネトクラクス・アザシチジン(ven/aza)といった標準治療との併用療法に関する良好なデータを発表しました。
・OTL-203は、ムコ多糖症I型(Hurler症候群)を対象とする造血幹細胞遺伝子治療法です。根本治療法となり得る治療法としてOrchard Therapeutics社が北米と欧州でピボタル試験(第Ⅲ相試験相当)を実施中です。
・KK8398(一般名:infigratinib)は、経口FGFR3阻害薬で、骨系統疾患を対象として米国BridgeBio社傘下のQED Therapeutics社により開発が進められてきました。2024年2月に協和キリン㈱とQED Therapeutics社は骨系統疾患を対象とした日本における開発・販売権の導入に関するライセンス契約を締結しました。現在日本での第Ⅲ相試験の準備中です。
・KHK4951(一般名:tivozanib)は、協和キリン㈱が創製した血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)-1、-2、-3 チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるtivozanibを点眼投与により後眼部組織に効率的に送達するように設計した新規のナノクリスタル化点眼剤であり、滲出型加齢黄斑変性症(nAMD)及び糖尿病黄斑浮腫(DME)に対して非侵襲的な新しい治療選択肢となり得る薬剤です。現在第Ⅱ相試験を実施中です。
・OTL-201は、ムコ多糖症IIIA型(Sanfilippo症候群A型)を対象とする造血幹細胞遺伝子治療法です。OTL-203と同様に根本治療法となり得る治療法としてPoC試験(第Ⅰ/Ⅱ相試験相当)を実施中です。
・KK4277は、SBIバイオテック株式会社より導入した抗体をもとに、協和キリン㈱のPOTELLIGENT技術を応用して抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を強化し、それを最適化した抗体です。現在全身性エリテマトーデス及び皮膚エリテマトーデスを対象に第Ⅰ相試験を実施中です。
・KK2260は、協和キリン㈱独自のバイスペシフィック抗体技術であるREGULGENTを応用したEGFR-TfR1バイスペシフィック抗体です。がん細胞選択的な鉄枯渇を実現する抗体として設計されており、非臨床試験において、強い薬効を示し、かつ忍容性も示すことを見出しました。現在第Ⅰ相試験を実施中です。
・KK2269は、協和キリン㈱独自のバイスペシフィック抗体技術であるREGULGENTを応用したEpCAM-CD40バイスペシフィック抗体です。各種の腫瘍で高発現しているEpCAMと抗原提示細胞のCD40を架橋することで、腫瘍近傍の抗原提示細胞のみ活性化する抗体として設計されており、非臨床試験において、全身性副作用を抑制しながら抗腫瘍免疫による薬効を発揮できることを見出しました。現在第Ⅰ相試験を実施中です。
・KK2845は、協和キリン㈱初の抗体薬物複合体(ADC)の開発品です。標的分子はTIM-3で、2024年10月に急性骨髄性白血病(AML)を対象とする第Ⅰ相試験を開始しました。
・KK8123は、ヒト型抗FGF23抗体であり、X染色体連鎖性低リン血症(XLH)の新しい治療選択肢となり得る薬剤です。2024年11月に、XLHを対象とした第Ⅰ相試験を開始しました。
<主な提携・ライセンス情報>
・2024年1月に線維化を伴う炎症性疾患治療薬の開発を目的とする化合物の独占的開発権をドイツBoehringer Ingelheim社へ導出するライセンス契約を締結しました。
・2024年2月に骨・ミネラル領域の強化を目的として、米国BridgeBio社傘下のQED Therapeutics社とinfigratinibの骨系統疾患を対象とした日本国内の開発・販売権の導入に関するライセンス契約を締結しました。
・2024年11月に米国Kura Oncology社とziftomenibの販売と開発についてのグローバルな急性白血病を対象とした戦略的提携に関する契約を締結しました。
主な申請承認情報
KHK4827は全身性強皮症を予定適応症とする日本での承認事項一部変更承認申請を取り下げたため、該当する申請情報を本表から削除しました。
当事業に係る研究開発費は
キリンホールディングス㈱は、独自素材である「プラズマ乳酸菌」を中心に、ヘルスサイエンス事業の拡大に繋がる研究開発に引き続き注力しています。
プラズマ乳酸菌の発見・事業化について、科学技術に関する研究開発、理解増進において顕著な成果を収めた功績をたたえる「令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」で、「科学技術分野 科学技術賞 開発部門 文部科学大臣表彰」を受賞しました。当表彰の受賞はキリングループとしてははじめてです。プラズマ乳酸菌は、キリンビバレッジ㈱が販売する機能性表示食品である「キリン おいしい免疫ケア」シリーズが、2023年3月28日(火)の発売から約1年8か月で累計販売本数1億2千万本※1を突破するなど、好調に推移しています。
プラズマ乳酸菌の研究については、5月に新型コロナウイルスをはじめとする呼吸器ウイルス感染を予防する手段となり得る点が評価され、AMED※2の先進的研究開発戦略センターが公募した「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業」へ採択されました。また、キリンホールディングス㈱と国立感染症研究所は、プラズマ乳酸菌の経鼻接種による自然免疫誘導型のワクチン開発を目的とした共同研究により、新型コロナウイルスおよびインフルエンザウイルスへの増殖抑制効果を非臨床実験にて確認したことを11月に報告しました。
協和発酵バイオ㈱が製造・販売を行うヒトミルクオリゴ糖について、2FL(2’-Fucosyllactose)及び3SL(3’-sialyllactose sodium salt)が、欧州連合の欧州委員会により新規食品(Novel Food)として承認されました。また、2FLは、インド食品安全基準局により食品原料として承認されました。尚、協和発酵バイオ㈱のアミノ酸及びヒトミルクオリゴ糖の事業譲渡合意のもと、当該品目の研究開発についても譲渡先へのスムーズな移管を進めるとともに、今後はシチコリンをはじめとしたスペシャリティ素材事業を主軸としていきます。
βラクトリンの発見・事業化について、キリンホールディングス㈱と雪印メグミルク株式会社(以下、雪印メグミルク)は、「令和6年度 民間部門農林水産研究開発功績者表彰」にて「農林水産大臣賞」を受賞しました。当賞の受賞はキリングループおよび雪印メグミルクとしては共にはじめてです。「βラクトリン」は、キリンホールディングス㈱の脳科学の研究において、協和キリン㈱との連携の成果として発見された、加齢に伴って低下する記憶力の維持に役立つ乳由来の機能性食品素材です。これまで、サプリメント、乳飲料、ヨーグルトなどに配合し、機能性表示食品としてキリンホールディングス㈱と雪印メグミルクより商品を発売しています。
キリンホールディングス㈱と明治大学 総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明研究室による、電気の力で減塩食の塩味を約1.5倍※3に増強する技術およびその技術を使った「エレキソルト」の開発が、内閣府「日本オープンイノベーション大賞」で「日本学術会議会長賞」を受賞しました。本技術は、ヘルスサイエンス領域の新規事業として、電気の力で減塩食品の塩味やうま味を増強する食器型デバイス「エレキソルト スプーン」として販売を開始しています。また、エレキソルトスプーンは、「CES Innovation Awards® 2025」において、「Digital Health部門」および「Accessibility & AgeTech部門」の2部門で受賞しました。「CES Innovation Awards®」における受賞はキリングループとしてははじめてです。CES®は例年1月に米国ラスベガスにおいて開催される電子機器を中心とした製品やサービスの展示イベントで、1967年の開催から50年以上続く世界最大のテクノロジー展示会であり、「CES Innovation Awards®」は、優れたデザイン・技術を有した製品・サービスを表彰するものになります。
グループ会社との連携として、キリンホールディングス㈱は、㈱ファンケルおよび順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所との共同研究講座「抗老化皮膚医学研究講座」に参画し、ヒトのiPS細胞※4から炎症応答を制御する免疫細胞「マクロファージ」に安定的に分化※5させる方法を確立しました。また、ヒトiPS細胞由来のマクロファージを組み込んだ3D培養ヒト皮膚モデル※6を世界で初めて作製し、炎症性刺激を与えたときに3D培養ヒト皮膚モデル内のマクロファージが応答することも確認しました。今後も免疫機能と皮膚症状の関係性に着目し、3D培養ヒト皮膚モデル作製をはじめとする、さまざまな皮膚研究を進め、ヘルスサイエンス事業の拡大を目指します。さらに、キリンホールディングス㈱と㈱ファンケルは、環境に配慮した取り組みとして、ビール類製造時の副産物である仕込前モルト粉(以下、モルト粉)を活用したパルプモールド※7製ボックス※8を共同で開発しました。今後もさらにプラスチックの資源循環をはじめとする環境課題の解決について取り組み、環境および地域社会におけるシナジーを創出してまいります。また、Blackmoresとは、アジア太平洋地域をはじめとした海外におけるプラズマ乳酸菌の事業拡大などで、幅広いシナジーを創出するための研究開発を共同して進めています。
当事業に係る研究開発費は
※1 当社出荷数量に基づく (2023年3月28日(火)~2024年11月15日(金) 「キリン おいしい免疫ケア/おいしい免疫ケア カロリーオフ/おいしい免疫ケア 睡眠」全容量)
※2 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
※3 一般食品を模したサンプルと、食塩を30%低減させたサンプルでの塩味強度に関する評価の変化値。エレキソルトの技術(電流0.1~0.5mA)を搭載した箸を用いた試験。現在または過去に減塩をしている/していた経験のある40~65歳男女31名に対し、試験用食品を食した際に感じた塩味強度をアンケートしたところ、31名中29名が「塩味が増した」と回答。
※4 ヒトの体細胞を初期化することで、さまざまな組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもった人工多能性幹細胞
※5 iPS細胞などが、特定の性質や機能を持った細胞に変化する現象
※6 ヒト皮膚線維芽細胞とヒト表皮ケラチノサイトを積層させて作った、3D構造を有する人工皮膚モデル
※7 パルプモールドとは、木質繊維(古紙を含む)を水で溶かし絡み合わせ、乾燥させてできる紙成形品。
※8 世界包装機構主催の「ワールドスター2025コンテスト」において、「ワールドスター賞」を受賞しました。