第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営理念

当社グループは、企業理念として、世界中のステークホルダーの皆さまとともに歩む「共生」を掲げています。「共生」とは、文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会をめざすものです。この「共生」の理念のもと、当社グループは、世界の繁栄と人類の幸福のため、企業の成長と発展を目指し企業活動を進めています。

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(2)中長期経営計画:グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥ

 当社は、「共生」の理念のもと、永遠に技術で貢献し続け、世界各地で親しまれ、尊敬される企業を目指し、1996年に5か年計画『グローバル優良企業グループ構想』をスタートしました。

 2021年を初年度とする新5か年計画「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅥ」(以下、フェーズⅥ)では、「生産性向上と新事業創出によるポートフォリオの転換を促進する」を基本方針に、テクノロジーとイノベーションによって、社会の「安心」「安全」「快適」「豊かさ」の向上につながる新たな価値を創造していきます。

 

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①産業別グループの事業競争力の徹底強化

 当社が保有する多岐にわたる技術や資産を最大限活用することを目的として、2021年に技術的に親和性のある複数の事業本部をプリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの4つのグループに再編成しました。産業別グループ内では各事業・グループ会社がもつ技術や人材の連携を深めて、将来技術の開発や生産技術の強化など新たなイノベーションを創出し、事業の進化・拡大に取り組んでいます。2023年10月に開催したキヤノンの総合技術展である「Canon EXPO」では、事業ポートフォリオの転換を支える産業別グループの技術と当社が目指す技術の方向性を紹介しました。今後は当社がこれまで培ってきた独自技術に加えてM&Aなども活用することにより、時代のニーズに応える新たな価値を創出し、複雑化、多様化する社会課題の解決に貢献することを目指します。

 2024年には、さらなる競争力の強化を図るべく、販売および生産の構造改革とメディカル事業の構造改革に着手しました。販売構造の見直しについては、DX推進、販売チャネルの見直し、組織再編を進めることで、要員適正化と資産効率の向上を目指します。生産構造の見直しについては、地政学的リスクや生産性の観点から生産拠点の集約を進めることで、稼働率の向上や資産効率の向上を図ります。メディカル事業の構造改革については、「メディカル事業革新委員会」を立ち上げ、あらゆるオペレーションを徹底的に精査しています。当社は、これらの構造改革を通じて収益性向上を図り、より一層の競争力強化を目指します。

 

各グループにおける、フェーズⅥの主な戦略・施策の進捗状況は以下の通りです。

 

プリンティンググループ

アナログからデジタルへのシフトにより今後も大きな成長が見込まれるカタログ印刷等の商業印刷分野と、ラベル印刷やパッケージ印刷等の産業印刷分野では、プリンティンググループの総力を挙げて商品ラインアップの強化とワークフロー・ソフトの拡充に取り組んでいます。2024年は、前年に引き続き、商業印刷向けの「imagePRESS Vシリーズ」が米国を中心に好評を博しました。また、8年ぶりに開催された世界最大の国際印刷機器展示会である「drupa 2024」ではプリンティンググループの将来技術と新製品を幅広く展示し、多くの受注獲得につながりました。さらに、オフセット印刷の分野で長年の歴史と幅広い顧客基盤を持つドイツのHeidelberger Druckmaschinen AG(ハイデルベルグ社)とキヤノンプロダクションプリンティング(CPP)は、CPPが製造する枚葉インクジェット印刷機をハイデルベルグブランドで販売する業務提携に合意しました。ハイデルベルグ社の高速・大量印刷を実現するオフセット印刷機のワークフローと、当社の多品種・小ロット印刷を提供するデジタル印刷機のワークフローをシームレスに統合したソリューションを提供することで、顧客の収益性や生産性の向上に貢献します。

プリンティンググループでは、紙のプリントを通じて人間がものを考える、共同作業をする、生活を楽しむといった活動を支えることで、人類の新たな価値創造や価値の保管・伝達に貢献してきました。近年の社会情勢の変化により、ペーパーレス化は今後も進行すると考えられる一方で、紙での情報処理が迅速性や利便性の点でデジタルデータやディスプレイの機能を上回る場面もあることから、人間の活動においてプリンティングは今後も重要な役割を果たしていくと考えております。また、働く環境をめぐっては、コロナ禍を通じてリモートワークが普及し、サテライトオフィスや自宅など働く場所の分散や働き方の多様化が進みました。このような中、オフィス、ホームの分野では働く場所で制約を受けない安全・安心・簡単・快適なプリンティング環境・サービスへのニーズが高まっています。プリンティンググループでは、多様なシーンに合わせてどのような環境においても高い生産性、利便性、セキュリティ環境を提供すべく、当社製の複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンターとクラウドを連携したオンデマンドプリンティング環境を提供しています。2024年におけるオフィス複合機の需要は、オフィスにおける中核のプリンティング機器として底堅く推移しました。当社においては、豊かな表現力と高い生産性を提供する新ブランド「imageFORCEシリーズ」を立ち上げ、新製品「imageFORCE C7165F」を発売しました。本製品は、豊かな表現力をもたらす高解像度を実現する新露光技術や複数のセンサーを使った紙の位置ずれを防止する機能を搭載し、通常のオフィス文書の印刷だけでなく、高い印刷品位が求められるチラシやポスター、名刺などの企業内印刷を可能にします。レーザープリンターとインクジェットプリンターでは、ユーザーのプリントスタイルが変化する中、ビジネスから在宅までの幅広いニーズに対応するためラインアップを拡充しました。

プリンティンググループでは、今後も顧客のニーズに合わせた商品・サービスを拡充し、オフィス、ホームの分野において世界No.1を目指します。

 

メディカルグループ

近年、世界の医療を取り巻く環境は技術面でめざましい発展を遂げる一方、医師不足、高齢化社会、医療費の高騰、医療の地域格差をはじめ、医療従事者の働き方改革、医療DXの推進など、さまざまな課題に直面しています。メディカルグループでは「画像診断事業」、「ヘルスケアIT事業」、「体外診断事業」の分野に特に注力し、社会の変化に対応し、医療の現場に寄り添いながら、よりよいソリューションを提供することで医療課題の解決や価値提供に貢献することを目指しています。

画像診断事業では、ディープラーニング技術を用いて設計した画像再構成技術や、複雑化する医療従事者の診断ワークフローを支援する自動化技術を搭載した製品を開発するなど、医療従事者と患者の負担の軽減と高品質の画像の提供を目指して製品・サービスを提供してきました。2024年には、主要コンポーネントを一新し、さまざまなAIソリューションを搭載した3テスラMRI装置「Vantage Galan 3T / Supreme Edition」の販売を開始しました。AIを活用した自動化技術や直感的な操作性を実現するGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を採用することで、快適な画像解析ワークフローを実現します。超音波診断装置においては、オリンパス株式会社と協業することを合意し、当社の超音波診断装置とオリンパスの超音波内視鏡を組み合わせて高画質診断を可能とする製品「Aplio i800 EUS」の販売を開始しました。

ヘルスケアIT事業においては、医療従事者の業務効率や迅速な診断をサポートする医用画像解析ワークステーション用プログラム「Abierto Vision」を販売開始しました。

体外診断事業の領域では、2023年に当社グループの一員に加わったミナリスメディカル株式会社は、2024年3月に大腸がん検診に用いられる便潜血検査を行うことが可能な「自動分析装置 HM― CODIAM」を発売し、2025年2月にキヤノンメディカルダイアグノスティックス株式会社へ社名変更しました。引き続き、キヤノングループの持つ技術シナジーを活かして「予防、診断、治療」を支援する技術・製品・サービスを創出し、臨床検査により高い付加価値を創出すると同時に、今までにない診断薬トータルサービス・ソリューションを提供していきます。

メディカルグループは次世代技術の研究開発にも積極的に取り組んでいます。2024年9月には、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とする研究開発プロジェクト「高品質人工血小板の連続製造システムの研究開発とその実用化」への参画を発表しました。再生医療を含むバイオメディカル領域の事業成長を目指す一環として、細胞を大量に培養することができる細胞製造装置の技術開発を推進しています。また、次世代のX線CTとして期待されるフォトンカウンティングCT(PCCT)の早期実用化を目指し、これまで推進している日欧3か所の医療機関との共同研究に加え、2024年11月には、新たに米国ペンシルベニア大学系列の医療グループ「Penn Medicine」と共同研究を開始しました。特に胸部や心臓、筋骨格系などにおける画像診断の専門分野を中心テーマとしてPCCTの可能性を開拓します。このように幅広い領域でグローバルな共同研究活動にも積極的に参画しながら、医療に新たな価値を提供できる技術の開発に注力します。

当社はメディカル関連市場について、長期的には安定した成長が期待できる市場と考えておりますが、地政学的リスクの高まりによって一部のビジネスが制限を受け、中国の景気低迷は長期化し、日本国内においても医療機関の経営状況が悪化しています。このような事業環境の変化を考慮し、2016年に旧東芝メディカルシステムズ株式会社(現キヤノンメディカルシステムズ株式会社)買収時に認識したのれんについて、2024年に1,651億円の減損損失を計上しました。現在メディカルグループでは、2024年2月に全社組織として立ち上がった「メディカル事業革新委員会」を中心として構造改革を進めています。その中で、当社が持つ人材、技術、ノウハウなどのリソースを全面的に投入して、開発、生産、管理、販売などあらゆるオペレーションを抜本的に見直しています。この構造改革によって利益創出力を高め、安定した成長が見込まれるメディカル関連市場での事業拡大を目指します。

 

イメージンググループ

デジタルカメラ全体の市場は、スマートフォンの普及によりピーク時と比較すると大きく縮小したものの、この数年は、動画撮影ニーズや若年層の需要の高まりにより、底堅さを示しています。そうした中、当社は2024年に「EOS Rシリーズ」で初となるフラッグシップモデル「EOS R1」やプロ・ハイアマチュア向け主力モデル「EOS R5 Mark II」を発売しました。新開発のエンジンシステムやディープラーニング技術の活用により、静止画・動画機能を進化させ、プロ・ハイアマチュア顧客の高い要望に応えるラインアップを構築し、ミラーレスカメラ市場でのプレゼンスを更に高めてきました。世界屈指の光学技術を有する当社は、今後も市場のニーズに応えるカメラ・交換レンズを順次市場に投入し、ミラーレスカメラでも圧倒的な世界シェアNo.1の実現を目指します。

また、コンパクトデジタルカメラにおいても、手軽に本格的な動画撮影を楽しめる「PowerShot Vシリーズ」を展開しており、2023年にはシリーズ第一弾としてVlog(ビデオブログ)撮影に特化した「PowerShot V10」を発売しました。さらに2025年4月にはPowerShot Vシリーズのフラッグシップ機「PowerShot V1」を発売予定です。このように、新しいコンセプトの製品をラインアップに加えることで、今後も幅広いユーザーの期待に応えます。

映像制作の分野では、IPストリーミングの需要が増大を続けていることから、高画質リモートカメラシステムのラインアップ強化に取り組んでいます。撮影コンテンツが増加している中で求められる映像制作現場の効率化のニーズに応えると同時に、従来難しかったアングルからの撮影などの新しい映像表現を可能にするソリューションとして、AI技術を用いながら複数のリモートカメラをメインカメラの動きに連動させる次世代映像制作システム「マルチカメラオーケストレーション」の開発を進めています。

ネットワークカメラ事業では、世界有数のメーカーであるアクシス社や映像管理ソフトおよび映像解析ソフト・ベンダーのマイルストーンシステムズ社といった優れた技術を持つグループ会社を擁しております。今後もグループの総力を挙げて多様化するニーズを捉えながらセキュリティ分野におけるプレゼンスを強化します。また同時に、製造や流通における検査や社会インフラ点検など、従来のセキュリティ目的を超えて、各種業務に対する映像を活用したDXを提供する製品・サービスの展開を図ります。

近年、様々な分野で仮想現実映像、立体映像、360度映像などの利活用が進み、新たな映像体験市場の拡大が期待されています。当社では、高画質な3D VR(Virtual Reality:仮想現実)映像を手軽に撮影できる「EOS VRシステム」、現実世界とCG映像をリアルタイムに違和感なく融合するMR(Mixed Reality:複合現実)製品の「MREAL」などの3Dイメージング技術を用いた製品・サービスを拡充していくことで、新たな映像体験市場の活性化と事業領域の拡大を図ります。

 

インダストリアルグループ

半導体は、デジタル化やスマート化が進む現代社会において無くてはならないデバイスであり、AIを始めとして自動運転、5G通信、IoTなど様々な用途で需要が拡大することが見込まれます。インドが新たな一大生産拠点となることが現実味を帯び始め、また、地政学上のリスクを背景とした半導体自国生産の流れがあることから、製造装置市場は浮き沈みを繰り返しつつも成長が確実視されております。インダストリアルグループは、半導体の性能向上および半導体メーカーの生産性向上ニーズに応える製造装置を提供し、引き続き半導体製造技術の進化に貢献します。2024年9月には、ナノインプリント半導体製造装置(NIL)「FPA-1200NZ2C」を、米国テキサス州にある半導体コンソーシアムのTexas Institute for Electronics(TIE)へ向けて出荷しました。TIEでは、最先端半導体の研究開発や試作品の製造等に活用されます。今後も半導体デバイスの量産適用に向けた活動を加速するとともに、国内外の研究機関や半導体メーカーと協力し、NILの長所を活かせるアプリケーションの拡大を図ります。また、製品ラインアップの拡充を目指してArFドライ半導体露光装置の開発を開始しました。顧客企業の生産性向上に貢献する半導体露光装置ソリューションプラットフォーム「Lithography Plus」は、多数の半導体製造拠点に導入されており、今後も歩留まり改善や稼働率向上を支援します。現在、半導体露光装置の旺盛な需要に応えるため、宇都宮事業所隣地に新工場を建設中であり、目標としている2025年内の稼働開始に向けて各種工事が順調に進行しています。新工場完成後は、生産能力の大幅な向上により、従来にも増して迅速かつ安定的な供給が可能となります。

緩やかな回復を見せ始めたディスプレイ製造装置市場においては、生産性向上を図った装置を積極的に投入し、また、高機能化と高品位化の顧客ニーズをとらえた開発を加速します。

半導体およびディスプレイ製造装置以外の領域にも注力しており、新たにリサイクル機器分野に参入しました。独自開発のトラッキング型ラマン分光技術を活用したプラスチック選別装置の受注を開始し、マテリアルリサイクルの最大化を通じてサーキュラーエコノミーの構築に寄与します。

グループ会社では、キヤノンアネルバが半導体・電子部品製造装置の新シリーズ「Adastra(アダストラ)」を開発しました。プロセスモジュールを自由に選択できる構成により多様なニーズに柔軟に対応するとともに、フットプリントや消費エネルギーを大幅に改善し、高い生産性を提供します。キヤノンマシナリーは、生産性、精度、ユーザービリティ、省エネルギーのすべてを向上させたダイボンダー「BESTM-D610」を発表しました。キヤノントッキは、需要が高まっているITパネル製造に最適な有機EL蒸着装置の開発・製造に取り組み、顧客企業の生産性向上に貢献します。

インダストリアルグループは、超精密位置合わせ、真空システム、超高精度加工、高速マテリアルハンドリングといった各社のコア技術を融合して新たな装置を開発し、事業領域拡大を目指します。

 

②本社機能の徹底強化によるグループ生産性の向上

当社では事業の競争力の強化と拡大を図るため、人事制度を改定し、より一層の競争原理を働かせることで管理部門の生産性を向上するとともに、事業貢献を意識した本社R&D体制の整備など、本社機能の強化に取り組んでいます。2023年からは、優秀な技術者を「トップサイエンティスト」および「トップエンジニア」として任用する「高度技術者認定」制度を設け、イノベーションを牽引する人材の確保・育成を推進しています。また当社では、これまで培ってきたあらゆる技術を活用して材料やコンポーネントなどの領域で事業化を進めるなど、全社横断的な視点での新規事業創出にも取り組み、収益拡大への貢献を目指しています。さらに今後は、自社技術の開発に加えて外部の最先端技術を積極的に取り入れるべくM&Aなども活用し、一層の業容拡大を図ります。

 

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(3)中期経営計画連結業績目標

 当社は、フェーズⅥ期間最終年度である2025年度の連結業績目標として、売上高では当社史上最高を記録した2007年を上回る売上高4兆5,000億円以上、利益では営業利益率12%以上、当期純利益率8%以上の達成を目指してきました。このうち、売上高については2024年に4兆5,098億円となり、目標を1年前倒しで達成しました。2025年には二期連続での史上最高売上高の記録更新を目指します。一方、2024年にメディカル事業で足元の市況悪化を背景に将来計画の見直しを行ったことや、現在進めている構造改革に伴うコストの発生など、短期的に見込まれる減益要素を勘案し、2025年の業績見通しについて、売上高では4兆7,360億円、利益では営業利益率11.0%、当期純利益率7.7%を見込んでおります。

 また、事業ポートフォリオの転換を評価する指標として、当社では連結売上高に対する新規事業※1売上高の比率を設定しています。今5カ年計画の4年目となる2024年は、地政学的リスクが不透明感を増す一方、世界各地でインフレの状況に落ち着きが見られるようになり、金融引き締めが緩和される中、世界経済は総じて緩やかな回復が続きました。当社においては、ネットワークカメラなどの新規事業だけでなく、半導体露光装置やミラーレスカメラ、レーザービームプリンターなどの現行事業においても販売が堅調に推移しました。これに加えて円安が追い風となり、売上高は4期連続となる増収を達成し、同時に2007年以来の過去最高記録を更新しました。新規事業の売上高は成長を続けており、2017年と比較すると連結売上高に占める構成比が22%から28%に上昇しています。今後も新規事業の成長をさらに加速させ、事業ポートフォリオの転換を着実に進めます。

 当社では、企業価値向上をより一層加速させるため株主資本利益率(ROE)を重視しております。コロナ禍の2020年に3.2%まで落ち込んだROEはその後の業績回復により改善を続けています。2024年は前年比3.4ポイントの悪化となる4.8%となりましたが、メディカルビジネスユニットでののれんの減損損失の影響を除くと、前年比1.2ポイントの改善となる9.4%となりました。引き続き、着実なコストダウン活動による収益性の向上、棚卸資産の削減や生産拠点の集約等を通じた資産の圧縮、負債・資本の最適バランスの追求といった取り組みを進めることで、2025年にはROEを10%以上に向上させることを目指します。

 

※1新規事業には、キヤノンプロダクションプリンティング、キヤノントッキ、アクシス、キヤノンメディカルシステムズなど、フェーズⅠ以降に取得した主要な事業会社の事業と、フェーズⅥ期間中の事業化を目指す新規事業を含めています。

 

 

 

2022年

実績

2023年

実績

2024年

実績

2024年

実績

(調整後※2

2025年

業績見通し

 

2025年

フェーズⅥ目標

売上高

4兆314億円

4兆1,810億円

4兆5,098億円

4兆5,098億円

4兆7,360億円

 

4兆5,000億円以上

営業利益率

8.8%

9.0%

6.2%

9.9%

11.0%

 

12.0%以上

当期純利益率

6.1%

6.3%

3.5%

7.2%

7.7%

8.0%以上

 

 

 

 

 

 

 

 

ROE

8.1%

8.2%

4.8%

9.4%

10.6%

 

10.0%以上

 

※2恒常的な業績の比較のため、営業利益率、当期純利益率およびROEについて、メディカルビジネスユニットで計上したのれんの減損損失1,651億円を除いて計算しております。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)キヤノンのサステナビリティ

当社グループは、1988年より世界の繁栄と幸福のために貢献する「共生」を企業理念として掲げ、努力してまいりました。「すべての人々が、文化、習慣、言語、民族、地域などあらゆる違いを超えて共に生き、共に働き、互いに尊重し、幸せに暮らす社会。そして、自然と調和し、未来の子どもたちに、かけがえのない地球環境を引き継ぐことのできる社会。」このような社会の実現に向け、当社グループは、イノベーションとテクノロジーの力で新たな価値を創造し、世界初の技術、世界一の製品・サービスを提供するとともに、社会課題の解決にも貢献していきます。また、すべての製品ライフサイクルにおいて、より多くの価値を、より少ない資源で提供することで、豊かな生活と地球環境の両立を目指します。当社グループは、これからもすべての企業活動を通じて、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでまいります。

 

(2)マテリアリティ

当社グループは、時代とともに変化する社会の動きを捉えながら、企業理念である「共生」のもと、人間尊重、技術優先、進取の気性と言った企業DNAと、自社の強固な財務基盤や豊富な人材、高い技術力など、様々なリソースを有効に活用し、健全なコーポレート・ガバナンスを保ちながら事業を展開してまいりました。

当社グループのこれまでの取り組みや中長期経営計画に沿った様々な事業活動の中から、当社グループが取り組むべきと考える重要事項の中で、ステークホルダーの皆さまの関心が特に高い「新たな価値創造、社会課題の解決」、「地球環境の保護・保全」ならびに、これらに取り組む上で支えとなるテーマとして「人と社会への配慮」をマテリアリティとし活動を進めています。

また、2024年は欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などで定められたサステナビリティ開示基準への対応を視野に、新たなマテリアリティの検討を開始いたしました。

 

(3)サステナビリティ推進体制

当社グループではサステナビリティ推進本部を設置し、サステナビリティ担当役員をその責任者に任命しています。当社グループ全体のサステナビリティ活動を推進するとともに、専門的な課題については、法務、人事、品質、調達などの部門が専門性を生かした取り組みを実施しています。

これに加え、当社グループが対応または取り組むべきサステナビリティ関連事項について、CEOまたは取締役会による適切かつ実効性ある判断を確保することを目的に、情報共有と事前審議を行うサステナビリティ委員会を2024年4月に新設しました。

委員会は年に2回、上期と下期にそれぞれ開催されるほか、委員長が必要と判断したときは臨時に開催されます。委員は、当社の本部、事業本部等の社長直轄部門の長からCEOが任命し、委員長はCFOが担っています。

2024年度の委員会では、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などで定められたサステナビリティ開示基準、当社グループのサステナビリティ課題とその対応の共有、さらに外部専門家を招いたサステナビリティ勉強会を実施しました。

 

サステナビリティ推進体制

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(4)サステナビリティ課題

当社グループを取り巻くサステナビリティの課題は多岐に渡りますが、そのうち、気候変動、人的資本、人権、サイバーセキュリティについては、以下(5)気候変動(6)人的資本(7)人権(8)サイバーセキュリティをご覧ください。またその他の項目を含め、詳細については当社ホームページに掲載されておりますサステナビリティレポートをご参照ください。

 

(5)気候変動

当社グループは、自らの事業活動だけでなく、サプライヤーにおける原材料や部品の製造、販売店等への輸送、お客さまの使用、廃棄・リサイクルに至るまで、製品ライフサイクル全体で気候変動による影響を捉え、GHG排出量削減に取り組んでいます。

2050年までにGHG排出量をネットゼロとすることをめざし、2030年までにスコープ1、2排出量を2022年比で42%削減、スコープ3(カテゴリー1、11)排出量を2022年比で25%削減を目標としており、科学的根拠に基づいたCO2排出削減目標の設定を推奨する国際イニシアティブのSBTiの認定を取得しています。そのために、再生材を使用した製品の開発、製品の小型・軽量化、生産拠点での省エネルギー活動、製品使用時の省エネルギー、製品リサイクル、物流の効率化など、様々な取組みを推進しています。

GHG排出量削減イメージ

 

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                     Scope1+2                 Scope3(カテゴリー1、11)

 

 

スコープ1:直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)

スコープ2:間接排出(電気、蒸気など)

スコープ3:サプライチェーンでの排出(1:購入した物品・サービス、11:販売した製品の使用)

 

<ガバナンス>

気候変動による当社グループへの影響や対応計画、目標については、サステナビリティ委員会の傘下の気候変動ワーキンググループ(WG)で議論しました。気候変動WGは、各事業部門とコーポレート部門の幹部社員で構成され、議論した内容は、サステナビリティ委員会にて報告し、承認を得たうえで、CEOに報告しています。

目標達成に向けては、サステナビリティ推進本部が中心となり、グループ全体で活動を推進しています。目標の進捗については、毎月経営層に報告するとともに、年間のレビューをCEOに報告しています。

 

<戦略>

当社グループは、非財務情報開示で推奨されているTCFD*フレームワークに基づいたシナリオ分析を行い、バリューチェーン上のGHG排出量の削減を図る「緩和」と物理リスクへの「適応」の両面からのアプローチが当社グループにとって重要と認識し、GHG排出削減目標の達成、及び気候関連の影響にレジリエントで持続可能なビジネスモデルの構築に向け、取組みを進めています。

* Task force on Climate-related Financial Disclosures 気候関連財務情報開示タスクフォース

  企業の気候リスク・機会関連の開示推奨項目を公表

 

■分析のために参照したシナリオ

シナリオ分析では、現在の政策の延長線上で経済活動が行われる「現行シナリオ」と、パリ協定の目標が達成されることを前提に、世界が2050年までのネットゼロ実現に向けてGHGの排出を抑制し、気候変動に関する政策や技術開発が現状以上の速度で進展する「1.5℃シナリオ」を選択しました。参照したシナリオは以下のとおりです。

現行シナリオ:(移行リスク)IEA APS、NGFS Current Policies (物理リスク)IPCC RCP8.5

1.5℃シナリオ:(移行リスク)IEA NZE、NGFS Net Zero 2050 (物理リスク)IPCC RCP2.6

当社グループが事業を営む主要地域の気候関連政策や法規制、技術の進展、顧客の行動変容、市場環境等も考慮しています。

 

■時間軸と影響度の定義

時間軸については、当社グループの中長期経営計画と整合した形で検討しています。

   短期:~2025年     中期:~2030年     長期:2030年~

影響度については、非常に重要、重要、軽微の3段階で検討し、以下の基準としています。

   非常に重要:売上高±10%以上の変動要因になりうる

   重要:売上高±5~10%程度の変動要因になりうる

   軽微:売上高±5%未満の影響

     ※各グループの影響度基準については、当該グループの売上高に基づき判断しています。

 

■現行/1.5℃シナリオの下の事業環境の想定

当社グループでは、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの産業別グループの事業によって気候関連のリスク・機会が異なるため、全社および各グループにおける主な気候関連のリスク・機会とその対応策、財務影響について検討を行いました。

現行シナリオの下での事業環境として、既存の気候関連の規制の継続、カーボンプライシングの導入、再生材やバイオプラスチックの普及、モーダルシフトの導入、顧客からの脱炭素要求と気候変動対応を意識した購買行動の拡大、各国の脱炭素に向けた産業政策の導入等を予想しています。1.5℃シナリオの下では、前述の環境がさらに厳格化し、進展するほか、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを目指す動きが加速すると想定しています。

 

■キヤノンに影響のあるリスク・機会要因と財務影響試算結果

 

移行リスク・機会(低炭素経済への「移行」に関するリスク・機会)の概要

 -移行リスク-                      -機会-

政策・法規制

・カーボンプライシング対応費用増

・規制に対応できない場合の売上減

・規制対応の設備投資増

技術

・気候変動対応のための研究開発費増

 

資源の効率性

・エネルギー効率改善による原価低下

・共同配送、モーダルシフトによる物流費の低下

エネルギー源

・低炭素エネルギー活用によるカーボンプライシング影響減

市場

・再生材の採用による原価増

・他社製品が優位となった場合の売上減

・気候変動対応コストの価格転嫁が受容されない場合の売上減

評判

・気候変動対応が十分でない場合のステークホルダーの懸念の高まりに伴う売上減

 

市場

・ステークホルダーの評価向上に伴う売上増

・資金調達の多様化

製品/サービス

・GX、資源循環対応製品の売上増

・低炭素製品の売上増

・適応製品の売上増

 

移行リスク・機会の詳細 - 全社レベル

シナリオ分析の結果、カーボンプライシングが全社的に影響を受ける可能性のあるリスク要因であることがわかりました。当社グループのスコープ1、2及び3の排出量見通しに基づき、2030年以降のカーボンプライシングの導入を想定した場合の影響額は、現行シナリオ、1.5℃シナリオの炭素価格を使用した場合、2030年で約83~445億円、2050年で約43~403億円と試算しています。リスク対応策として、グリーン技術開発を通じて脱炭素化を図る活動をすでに行っています。例えば、各拠点においては、搬送や加工など生産設備の動作単位まで電力を細かく分解し、隠れたムダを見つけ出すとともに改善ターゲットを浮き彫りにするなど、「電力の可視化」「削減ポテンシャルの分析」「削減施策の展開」の3つのステップで生産時の電力削減をめざす取り組みを進めています。電力コストの想定削減額は、2030年で約45~57億円、2050年で約97~121億円と試算しており、プラスの影響ももたらすことを確認しました。それぞれの事業特性を勘案して物流面での気候変動対応も進めており、その成果も機会としてとらえています。

さらに、全社共通で原材料調達におけるCO2排出量(スコープ3 カテゴリー1)削減に取り組み、調達における低炭素部材の検討や今後の調達に向けた準備を行っております。取引先から収集した部品原材料CO2の実データをLCA(ライフサイクルアセスメント)に組み込むなど製品開発でLCAの手法を導入し、ライフサイクル全体で環境負荷低減をめざしています。

気候変動対応が十分でない場合、気候変動対応を重視するステークホルダーの懸念の増加による評価の悪化と販売機会逸失による売上の減少をリスクとして認識しています。対応策として、実効性のある気候変動の取り組みの推進とステークホルダーへの適時かつ適切な開示を継続して行っていきます。さらに、気候変動対応の適切な開示により、投資家、顧客をはじめとするステークホルダーの理解と評価の向上や金融機関の投融資要件を満たすことによる資金調達の多様化も機会となるととらえています。

 

移行リスク・機会の詳細 - 産業別グループ別

産業別グループごとの分析では、プリンティング事業は、電機・電子業界に対する気候関連の規制や消費者選好の変化、競合他社との競争などの影響を受けることが予想されますが、規制動向の把握や規制対応のための研究開発・設備投資、調達要件の取得などリスク低減策はすでに計画に織り込まれており、試算の結果、現行シナリオ、1.5℃シナリオのいずれのシナリオ下でも大きな影響はないことを確認しました。低炭素製品の需要増に伴う販売機会の増加やエネルギー効率改善に伴うコスト削減が機会となり、プラスの影響があると見込んでいます。

メディカル事業では、欧州の顧客を中心にサステナビリティへの関心が高まり、省電力等が入札要件となる事例もあります。イメージング事業、インダストリアル事業においては、足元では規制や顧客からの要求は比較的低いものの、今後、要求が高まる可能性があります。そのため、新たな研究開発や設備投資が必要となる可能性を想定して試算を行いました。その結果、コスト増加のリスクはあるものの、事業を展開する地域における法規制動向の調査やエネルギー効率改善に向けた取り組みを始めており、影響は比較的小さいことがわかりました。エネルギー効率改善に伴う原価低減をはじめ、既存技術を活用した気候変動への適応に資する製品やGX推進など各国の産業促進策に合致した製品の販売機会増加など、機会の側面の方が大きいと考えています。

 

-移行リスク(全社・産業別グループ)-

移行リスク分類

リスク要因

全社/

グループ

財務影響

発現

時期

影響

対応策

政策・

法規制

カーボンプライシング

全社

対応費用の増加

中期

~長期

軽微

・全社でのGHG排出量削減に向けた取組み

既存製品に対する気候関連規制の強化

プリンティング

対応できない場合の売上の減少

短期

~長期

軽微

・各種規制対応の研究開発・設備投資の継続(オフィス機器の省エネルギー制度である国際エネルギースタープログラム改定への対応、再生機開発等)

プリンティング

規制対応の研究開発費の増加、設備投資の増加

短期

~長期

軽微

・規制動向に対応した研究開発計画及び設備投資計画と係る費用計画の検討

メディカル

規制対応に伴う原価の増加

長期

軽微

・省エネ性能向上の取組みの継続

インダストリアル

対応できない場合の売上の減少

長期

軽微

・規制措置(PFCs等)に対応する製品開発、生産技術開発

技術

顧客の気候変動対応に関する要望の強化

メディカル

対応できない場合の売上の減少

長期

軽微

・省エネ関連の入札要件に合致した製品開発

インダストリアル

 

対応できない場合の取引制限及び縮小に伴う売上の減少

長期

軽微

・顧客要望の変化に対応した低炭素製品開発、生産技術開発

市場

再生材の普及

プリンティング

再生材使用による原材料費の増加

短期

~長期

軽微

・各種再生材の使用に関する検討・評価を実施

・材料メーカー集約による価格交渉、長期契約による価格保証及び新規採用拡大の検討

・代替素材の情報収集

・代替素材の内製検討

競合他社との比較

プリンティング

ライフサイクルCO2が他社よりも大きい場合の売上の減少

短期

~長期

軽微

・LCAを活用した研究・製品開発の継続

・製品ライフサイクル全体でのGHG排出量管理

顧客選好の変化

イメージング

気候変動対応コストの

価格転嫁が顧客に受容されない場合の売上の減少

長期

軽微

・各国・地域の気候変動対応の価格受容調査の継続

 

 

 

 -機会(全社・産業別グループ)-

機会

分類

機会要因

全社/

グループ

財務影響

発現

時期

影響

対応策

資源の

効率性

エネルギー効率の改善

全社

電力費の削減による原価の低下

短期

~長期

軽微

・エネルギー効率改善の取り組みを全社で展開

物流費の低下

全社

共同配送、モーダルシフトによる物流費、販管費の低下

短期

~長期

軽微

・グループ内及び他社との共同輸送/ラウンド輸送

・モーダルシフトの適用拡大

エネルギー源

低炭素エネルギーへの切換え

全社

カーボンプライシング影響低減に伴う費用の低下

中期

~長期

軽微

・低炭素エネルギーの活用を含む多様な低炭素化手段を継続して検討

製品/

サービス

低炭素製品の需要増加

プリンティング

販売機会の増加に伴う売上増加

短期

~長期

軽微

・低炭素製品の開発(省エネルギー製品、製品の長寿命化、再生材の採用等)

・調達要件への対応(環境評価システム「EPEAT」登録、環境ラベル「ブルーエンジェル」等取得)

顧客選好の変化に伴う売上の増加

メディカル

販売機会の増加に伴う売上増加

短期

~長期

軽微

・省エネ関連の入札要件に合致した製品の開発

気候変動への適応に資する製品の需要増加

イメージング

販売機会の増加に伴う売上増加

中期

~長期

軽微

・気候変動への適応に資する製品の開発(防災用ネットワークカメラ、画像ベースインフラ構造物点検サービス等)

各国の半導体産業

促進策による製造装置需要の増加

インダストリアル

GX推進による半導体需要増加に伴う売上増加

短期

~長期

重要

・パワー半導体向け半導体製造装置拡大

・新工場建設等、増産体制の整備

顧客選好の変化に伴う売上の増加

インダストリアル

販売機会の増加に伴う売上増加

短期

~長期

軽微

・低消費電力製品の販売拡大(ナノインプリントリソグラフィ及び現行品のモデルチェンジ等)

・プラスチックリサイクル対応製品の販売拡大(プラスチック選別装置)

 

物理リスク(気候変動による気象変化に伴うリスク)

当社グループの施設や事務所は、世界中に点在しており、気候変動による自然災害は、事業に影響を及ぼす可能性があります。気候変動による物理リスクについては、日本と海外の主要拠点を対象に、河川洪水、高潮、暴風などのリスクについて、世界資源研究所のAqueduct、自治体のハザードマップ、XDI社の自然災害リスク分析サービス等の分析ツールを使用して検証した結果、国内外の生産拠点や事業所のうち、4拠点について河川洪水、高潮リスクが中程度または高いとの結果となりましたが、すでに止水板設置や雨水配管の改造、外周フェンスのブロック嵩上げなど、拠点の状況に応じて必要な施策を実施済みです。なお、これら4拠点の資産額が当社グループ総資産に占める割合は約3%となります。

今後も自然災害による被害及び損失の影響を低減すべく、各種対応策を検討してまいります。

 

■シナリオ分析結果

バリューチェーン上では、特に、研究開発、調達、販売において、規制強化に伴う研究開発、原材料価格の変動、お客様や取引先の低炭素製品への考え方や需要動向による影響があることが、シナリオ分析を通じて明らかになりました。

対応策を講じない場合は、いずれのシナリオにおいても販売機会の逸失やコスト増加をはじめとする財務上のリスクが生じる可能性があります。これらは配慮すべきリスクではありますが、すでに規制動向の把握や規制対応のための研究開発・設備投資、調達要件の取得など、リスク低減の取り組みを計画に織り込み済みです。各シナリオ下で実施した複数パターンの財務シミュレーションを通じて、対応策については、現在実行中の取組みや計画中のものを含め、財務に大きな影響を与えるものはないことを確認していることから、影響は限定的であると判断し、従来から実施している対応策に不足はなく、製品や生産拠点における取り組みの方向性が正しいことを再確認しました。

また、脱炭素への移行が進む世界では、消費者選好の変化や適応製品の需要の増加、GX推進に向けた産業施策の進展などに伴う当社グループの低炭素製品や適応製品、GX推進に資する製品の売上の増加やエネルギー効率改善に伴うコスト削減により、プラスの影響を見込んでいます。

シナリオ分析を通じて、気候変動によるキヤノングループ全社及び主要事業の売上高や営業利益等の財務業績、財政状態、キャッシュ・フローへの影響は、短期・中期・長期においていずれも限定的であり、ポートフォリオやビジネスモデルを見直す必要性はないことを確認しました。

ただし、今後カーボンプライシングや気候変動に関する規制等が導入された場合、対応費用や研究開発費・設備投資の増加等により、当社グループの財務業績やバリューチェーン全体が影響を受ける可能性があることも認識しており、気候関連リスク・機会への影響について分析を行うとともに、引き続き事業環境を注視していきます。

 

<リスク管理>

気候関連のリスク・機会への対応は、全社環境目標や重点施策に反映されるとともに、当社グループでは、環境への対応を経営評価の一部として取り入れており、各部門の環境目標の達成状況や環境活動の実績は、グループ全体の経営状況の実績を評価する「連結業績評価制度」の一指標として実施される「環境・CSR業績評価」の中で、年2回、評価しています。評価結果はCEOをはじめとする経営層に報告されています。

当社グループは、環境保証活動の継続的な改善を実現する仕組みとして、全世界の事業所においてISO14001によるグループ共通の環境マネジメントシステムを構築しており、特定した気候リスクは、ISO14001のPDCAサイクルに沿って管理しています。

具体的には、環境マネジメントシステムは、各部門の活動と連携した環境保証活動を推進(DO)するために、中期ならびに毎年の「環境目標」を決定(PLAN)し、その実現に向けた重点施策や実施計画を策定して事業活動に反映させています。さらに、各部門における取組み状況や課題を確認する「環境監査」や、業績評価に環境側面を取り込んだ「環境・CSR業績評価」を実施(CHECK)することで、環境保証活動の継続的な改善・強化(ACT)へつなげています。

 

<指標と目標>

当社グループは、製品ライフサイクルを通じたCO2排出量を2050年にネットゼロとすることをめざしております。その達成に向けて、2030年にスコープ1、2排出量を2022年比42%削減、スコープ3(カテゴリー1、11)排出量を2022年比で25%削減することを掲げ、SBTi(Science Based Targets イニシアティブ)の認定を2023年11月に取得しました。

また、2008年以来、キヤノングループ環境目標の総合目標として「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数 年平均3%改善」(原単位目標)を掲げています。この目標を継続的に達成することで、2030年に2008年比で50%の改善を見込んでいます。2024年は、目標を上回る年平均3.76%、2008年比44.6%の改善となりました。

当事業年度の実績は、スコープ1は198千t-CO2、スコープ2は733千t-CO2、スコープ3は7,173千t-CO2となり、ライフサイクルCO2排出量 (スコープ1、2、3合計)は8,104千t-CO2となりました。次年度以降も、目標の継続的な達成をめざします。

 

「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数」推移

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  ※ 2008年を100とした場合

 

 

Scope1、2、3(カテゴリー1、11)排出量実績

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           Scope1+2                  Scope3(カテゴリー1、11)

 

Scope1:直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)

Scope2:間接排出(電気、蒸気など)

Scope3:サプライチェーンでの排出(1:購入した物品・サービス、11:販売した製品の使用)

 

 

 

ライフサイクルCO2排出量の推移

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Scope1 : 直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)

Scope2 : 間接排出(電気、蒸気など)

Scope3 : サプライチェーンでの排出(購入した物品・サービス、輸送・流通、販売した製品の使用など)

 

  なお、2024年のデータは第三者保証を取得しています。また、2022年、2023年のデータは一部、2024年算定方法に合わせて再計算しております。

 

 

 

(6)人的資本

当社は、創業以来受け継がれている「人間尊重」の企業DNAのもと、価値創造の源泉は人材にあると考え、人材価値の最大化に向けた投資を積極的に行っています。現在、キヤノンでは、グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥにおいて、生産性向上と、新規事業創出によるポートフォリオの転換を進めています。その実現に向けて、新技術の研究開発や全社での業務自動化・内製化を推進するための人材ポートフォリオの構築を目指しています。

具体的には、イノベーションを創出する人材の獲得・育成と、多様な人材やアイデアを最大限活かす自由闊達な組織風土の醸成に取り組んでいます。また、ジョブ型の「役割給制度」を導入し、年齢や性別にとらわれない適材適所の人材配置を推進しています。また、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮するため、さまざまな健康支援を通じて社員の心身の健康を支えています。さらに、働きやすさと働きがいを通じて、エンゲージメントを向上させることで、個人と会社の成長を実現しています。

以下に示す戦略は、キヤノン株式会社を対象とし、今後、グループ会社に対して各社の状況を考慮しながら、展開していきます。

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多様性の確保を含む人材育成と社内環境整備に関する戦略ならびに指標及び目標

1.イノベーション人材の獲得と育成

当社は、革新的な製品を創出することによって社会に新たな価値を提供するため、優秀な技術人材の獲得と育成に取り組んでいます。

定期採用では、インターンシップを通じて当社の魅力を訴求し、学生の関心を高めるとともに、優秀な学生に直接コンタクトするダイレクトリクルーティングを強化しています。あわせて、自社にない技術を持つ人材を獲得するキャリア採用(経験者採用)も積極的に行っています。

また、技術人材育成委員会のもと、250以上の専門講座を整備し、長期的視点に立って次世代を担う技術人材を育成しています。2024年の技術研修の効果(実務への役立ち度)は、5段階で平均4.0と高い水準です。近年では、保有技術や特許情報などを集約した技術人材データベースを構築し、効果的な人材育成につなげています。

特に、イノベーションに不可欠なデジタル人材の育成については、ソフトウエア技術者の育成を専門的に担う社内教育機関「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を2018年に設立し、ソフトウエアに関するスキルを受講者のレベルに応じて身につけられる体制を整えています。また、全社員に対して、生産性向上やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのIT・DXリテラシー研修を実施し、2024年までに延べ28,000人が受講しました。さらに、上級者に対しては、最先端のソフト技術を学ぶための社外の教育・研究機関への派遣を積極的に行っています。

2023年からは、「高度技術者認定制度」を導入し、高度な技術的知見を有する技術者を「Top Scientist」「Top Engineer」などとして顕彰することにより、モチベーションの向上や後進の育成に取り組んでいます。

このほか、さまざまな領域でイノベーションを牽引する事業系人材やものづくり人材などを育成するため、多様な研修やトレーニー制度を整備するとともに、各分野における幹部候補者の計画的な配置・育成を行っています。

 

 

 

 

 

〈2024年研修実績〉

 

 

研修時間

研修費用

合計

62.5万時間

40.6億円

従業員一人あたり

26.7時間

17.3万円

 

 

 

 

〈人材育成の基本的な考え方〉

 

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〈人材育成体系図〉

 

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                            CPT:Canon Production Trainee

                            CGAP:Canon Global Assignment Policy

                            CGMST:Canon Global Marketing & Sales Trainee

                            CIST:Canon Institute of Software Technology

 

 

2.適材適所と少数精鋭の推進

当社は、生産性の高い少数精鋭の組織を実現するため、戦略的な人材配置とキャリア形成支援による適材適所を推進しています。

新入社員に対しては、専門性や志向にマッチした配属を行うため、配属先を入社前に確約するジョブマッチング型の採用を拡大しています。入社3年経過時には、キャリア研修や面談を通じて職務適合性を確認し、万一の配属ミスマッチの早期解消に取り組んでいます。

また、成長領域への人材シフトと、社員の主体的なキャリア形成を実現する仕組みとして「キャリアマッチング制度」(社内公募制度)を導入しています。2015年からは、新たな職種にチャレンジする社員を支援するため、職種転換研修と社内公募制度を組み合わせた「研修型キャリアマッチング制度」を導入し、2024年までに累計2,445人が社内公募で異動しました。さらに、2021年からは、国内グループ会社に社内公募制度を拡大し、グループ間の出向・転籍を可能にすることで、キヤノングループ全体での適材適所を推進しています。そのほか、全社員に対して多様な研修メニューを定期的に紹介するなど、社員のリスキリングを強化しています。

シニア社員に対しては、主体的なキャリア形成を促すセミナーや60歳以上向けの社内公募制度を設けるほか、豊富な知識やスキルを発揮できる柔軟な勤務体系を整備し、年齢にとらわれない全社員戦力化を目指しています。

これらの取り組みの結果、離職率は全国平均(12.1%)※より大幅に少ない1.6%(定年退職扱いを除く)となり、高い定着率を維持しています。

※厚生労働省 令和5年雇用動向調査 産業、就業形態別離職率 一般労働者 産業計より

 

〈キャリアマッチングによる社内転職〉

 

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〈研修型キャリアマッチング制度〉

 

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〈社内公募異動者〉累計

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3.ジョブ型人材マネジメントの進化

当社は、年齢や性別にとらわれない、優秀人材の抜擢と公平・公正な処遇を実現するため、2001年から、ジョブ型の「役割給制度」を導入しています。

役割給制度においては、ポジションごとに職務記述書を作成し、職務に求められる知識やスキルを明確化することにより、自律的なキャリア形成と適材適所の人材配置を可能にしています。

近年は、職務を基軸とした職種別採用やキャリア採用、社内公募などを拡大し、ジョブ型の人材マネジメントを強化しています。

また、処遇面においても、めざましい活躍をした人材に対して特別報酬が支払われるOS(Outstanding)評価制度や、少ない人的リソースで高い利益を創出した場合により高い賞与が支払われる仕組みの導入に加え、ベースアップを継続的に実施するなど、さまざまな報酬制度の改善を通じて人的投資を強化しています。

 

〈役割等級〉

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                   ※T:Tentative/Training、 G:Job Grade Band 、M:Management Mission Band

 

4.創造的な組織風土の醸成

当社は、イノベーションを創出する自由闊達な職場風土を醸成するため、組織開発に取り組んでいます。

具体的には、コミュニケーションやリーダーシップなどの課題に対して、専任の社内コンサルタントの支援のもと、職場メンバーが対話を通じて課題解決に取り組む「CKI(Canon Knowledge-intensive staff Innovation)」活動を実施し、2024年までに延べ469部門、1万6,600人が参画しました。

さらに、毎年11月に、人材育成と組織開発の総合イベントとして「Canon Inspire Summit」を開催し、組織の活性化に向けた取り組みを加速しています。

また、社員の自発的な創発活動を積極的に支援しています。例えば、2018年に活動を開始した「Developers Conference」は、社員が事業の枠を超えて製品開発や技術トレンドについて意見を交わす相互啓発の場として広く定着しています。

そのほか、社員同士が活発にコミュニケーションを行うためのオフィス環境づくりを進めるなど、創造的な職場環境の整備に取り組んでいます。

 

〈基本的な考え方〉

 

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5.ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進

当社は、多様な価値観やアイデアを取り込みながら、イノベーションを生み出していくためにDE&I※を推進しています。

DE&I推進の組織体制として、2012年に全社横断組織「VIVID(Vital workforce and Value Innovation through Diversity)」を発足し、重点施策として「女性の活躍推進」と「男性の育児参画支援」を掲げ、さまざまな活動を展開しています。

 ※ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン

 

重点施策とKPI

・女性管理職比率:2025年末までに2011年比で3倍以上とする

・男性の育児休業取得率:2025年末までに50%以上とする

 

女性の活躍推進については、女性の管理職候補育成を目的とした「女性リーダー研修」を実施し、計画的な育成に取り組んでいます。加えて、仕事と育児の両立を支援するため、育児休業復職セミナーや管理職によるメンタリングなどのサポート体制を整え、女性が活躍できる環境づくりに努めています。これらの取り組みの結果、女性活躍のKPIである女性管理職比率は、2024年末時点で、2025年末までの目標を前倒しで達成しました。さらに、部長職以上の女性幹部社員の人数は過去5年間で約50%増加するなど、着実に活躍の場を広げています。これらの実績が評価され、女性活躍推進の優良企業として厚生労働省より「えるぼし(3つ星)」の認定を受けています。

一方で、従業員に占める女性比率が低いことが当社の課題となっています。これは、当社が技術開発を重視した会社であり、一般的に女子学生の割合が少ない技術系の採用が多いことが原因です。そのため、女性の採用において目標値を設定し、女性採用をより強化するとともに、将来的には女性管理職比率を社員総数における女性比率(2024年末17.0%)と同等にすることを目指しています。また、2024年より、女子中高生の理工系進学を支援する内閣府男女共同参画局の取り組みである「リコチャレ」に賛同し、さまざまなイベントを実施しました。

なお、2024年は初の女性社外取締役が就任し、2025年は初の女性社外監査役が就任しています。

男性の育児参画支援については、育児休業制度を利用した男性社員の座談会やインタビュー、育児関連セミナーなどを実施し、男女共同参画へ向けた意識改革や職場風土醸成に努めています。これらの取り組みの結果、男性育児参画のKPIである育児休業取得率は、2024年末時点で、2025年末までの目標を前倒しで達成しました。また、育児休業の平均取得期間は、経団連平均と比較して、高い水準となっています。これらの実績が評価され、2019年から子育てサポート企業として厚生労働省より「プラチナくるみん」の認定を受けています。

そのほか、DE&I向上の取り組みとして、障がい者やLGBTQ+などマイノリティについての全社研修やイベントなどを開催し、社員の理解を深める活動を行っています。

連結子会社含む各社の女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女の賃金差異は、第1 企業の概況 5 従業員の状況をご参照ください。

 

〈女性管理職比率〉

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〈男性の育児休業取得率・平均取得期間〉

 

KPI

目標

実績

経団連平均

育児休業取得率

50

64.6

47.5%

平均取得期間

-

86.5

43.7日

         ※一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)平均は2022年実績

 

 

 

6.従業員エンゲージメントの向上

当社は、社員一人ひとりが会社の理念や戦略に共感し、意欲的に業務に取り組むためのさまざまな施策を展開しています。

まず、組織と従業員の現状を把握するため、2年に一度、従業員意識調査を実施しています。調査結果を多面的に分析した上で、調査翌年に全ライン管理職を対象とした「CAMP(Canon Active Management Program)研修」を実施しています。CAMP研修では、職場ごとに管理職が自組織の課題を議論し、具体的な施策につなげ、その効果を翌年の従業員意識調査で確認するサイクルを回しています。2023年の従業員意識調査では、前回から「担当業務における自律性」や「自己成長」をはじめとする全項目において、肯定回答率が上昇しました。特に、やりがい、自己成長、働きやすい環境などエンゲージメントに関連する項目は、着実に改善しています。

2024年のCAMP研修では、「Think Engagement」をテーマとして掲げ、140部門の約1,800名がエンゲージメント向上について議論を行いました。今後も多様な視点から、組織の課題を洗い出し、さまざまな人事施策に結びつけることによって、社員と会社の双方の成長につなげていきます。

また、若手社員に対しては、2024年より「モチベーション診断」や「パルスサーベイ」を実施し、上司・先輩・人事が一体となってエンゲージメントの向上に取り組んでいます。これらの取り組みの結果、入社後の早期離職やメンタル不調の抑止などの効果が表れています。

また、ワークライフバランスの充実をはかるため、労働時間の短縮やライフステージに合わせて柔軟に働くことができる労働環境の整備に取り組んでいます。具体的には、育児や介護を理由とした短時間勤務等の制度の充実や、計画的な休暇取得の促進のほか、ITを活用した業務効率化などを行っています。これら取り組みの結果、2024年の年間総実労働時間は、全国平均※(1,945時間)より大幅に少ない1,730時間となりました。

※厚生労働省 毎月勤労統計調査 一般労働者 調査産業計より

 

〈従業員意識調査を活用したマネジメント改善サイクル〉

 

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〈従業員エンゲージメント〉

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      ※やりがい、自己成長、働きやすい環境などエンゲージメントに関連する項目における肯定回答率

 

 

 

 

 

 

7.健康経営の推進

当社は、創業当初から「健康第一主義」を行動指針に掲げ、健康経営を推進しています。従業員の心身の状態や生活習慣、業務の状況など、健康診断で得られたデータの詳細な分析をもとに、健康保険組合と協働で8つの健康行動(こころ・がん・運動・食事・体重・睡眠・飲酒・禁煙)の目標値を設定し、実効性のある健康支援を行っています。

例えば、生活習慣病については、睡眠や喫煙が影響していることを踏まえ、良質な睡眠を確保するために専用機器を用いた個別指導や禁煙プログラムの実施などを行っています。また、2016年からは、全ての国内事業所の敷地内を禁煙とするなどの取り組みを進めた結果、2024年末の喫煙率は13.8%となり、2004年から18.6ポイント減少しました。また、健康診断や健康行動のデータを組織ごとに分析した「健康レポート」を配布し、社員の健康づくりに向けた職場の自律的な取り組みを後押ししています。

メンタルヘルスについては、ストレスチェックを毎年実施し、高ストレス者に対する産業医面談や保健師による健康相談を行うほか、職場との懇談会を実施するなど職場全体で改善を図っています。これら取り組みの結果、年々、高ストレス者の割合は減少するなど、効果が表れています。

このほかヘルスリテラシー向上の取り組みとして、健康に関するセミナーやイベントを行うなど、さまざまな健康支援を通じて社員が能力を最大限発揮することを目指しています。

 

 

 

KPI

目標値

実績

健康診断受診率

100

100

ストレスチェック受診率

100

96.2

がん検診受診率

70

51.6

 

 

(7)人権

<人権の尊重>

当社グループは、企業理念「共生」のもと、従業員や取引先をはじめとする事業活動に関わるすべてのステークホルダーの人権を尊重し、①人権方針の策定・見直し②人権デュー・デリジェンス(DD)③救済メカニズムの整備・運用④人権啓発活動⑤ステークホルダーエンゲージメント⑥サプライチェーンにおける人権リスクの対応などを行っています。2021年には「キヤノングループ人権方針」を定め、各国・地域のステークホルダーにWebサイトで周知することにより、人権尊重の取り組みを推進しています。

 

参考:キヤノングループ人権方針

https://global.canon/ja/sustainability/society/human-rights/pdf/hr-policy-j.pdf

 

<ガバナンス>

人権の担当役員である代表取締役CFOを責任者として、当社のサステナビリティ、法務、人事部門が事務局となり、人権対応を推進しています。事務局では、人権対応の全体計画の立案、救済メカニズムの整備・運用、ステークホルダーエンゲージメントの実施などを行い、重要案件については、担当役員に報告します。また、取締役会決議により設置されるリスクマネジメント委員会において、人権侵害リスクが重大なリスクとして特定され、当社各部門および各グループ会社において人権リスクを防止・低減するための取り組みを実施しています。取り組みの結果はリスクマネジメント委員会において毎年評価し、CEOおよび取締役会に報告される体制となっています。

 

<人権デュー・デリジェンスの実施>

当社では、人権DDをリスクマネジメント委員会下の活動として位置づけ、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」にもとづき、グループ全体で実施しています。当社の各部門および各グループ会社は、サプライチェーンを含むそれぞれの事業活動における人権に対する負の影響の洗い出し、評価および顕著な人権リスクの特定を行っています。その後、事務局は各組織の人権リスクを集約、分析、評価し、ステークホルダーエンゲージメントを経て、当社グループとしての顕著な人権リスクを特定しています。

サプライチェーンを含む当社グループの事業活動において発生する可能性がある顕著な人権リスクとして特定したのは、次の11項目であり、これらのリスクについては、リスクを防止・軽減するためのさまざまな対応策がとられています。

 

 当社グループにおける顕著な人権リスク

 

権利主体

サプライヤー・委託先従業員

自社従業員

顧客・消費者

地域社会

人種・性別・宗教等による差別

 

 

 

ハラスメント

 

 

 

児童労働

 

 

 

強制労働

 

 

 

賃金不払い・低賃金

 

 

 

過重労働

 

 

労働安全衛生

 

 

プライバシーの保護

 

 

紛争鉱物の調達

 

 

 

事業拠点の騒音、環境汚染

 

 

 

製品に起因する健康被害・事故

 

 

 

 

 

<救済メカニズム>

当社では、人権に関する具体的な懸念についての内部通報を受ける窓口を設けております。イントラネットや研修などを通じて通報窓口の周知に努めるなど、適切な利用のための施策を行っております。また、従業員が現地語で通報することができる内部通報窓口を国内外のほぼすべてのグループ会社にも設けております。さらに、当社では、社外のステークホルダーに対しても窓口を設けており、この窓口を通じて、当社グループの企業活動にともなう人権に関する具体的な懸念について通報することが可能となっております。

 

<人権啓発活動>

当社グループでは、ビジネスと人権に関わる基礎的な知識および当社グループの人権に関する取り組みの周知・啓発を目的として、2021年より従業員を対象としたeラーニングプログラムを実施しております。海外で教育を実施するにあたっては、国・地域による特性を考慮し、各社で内容を最適化し、各言語へ翻訳した上で実施いたしました。

 

<ステークホルダーエンゲージメント>

当社グループは、人権リスクを特定・評価し、その防止や軽減に取り組むにあたり、キヤノン労働組合のほか、機関投資家、サプライヤー、協力会社とも対話を実施しております。

 

<サプライチェーンにおける人権リスクの対応>

当社グループは、サプライチェーンにおけるCSRのさらなる向上を目的として、2019年にRBA(Responsible Business Alliance)に加盟しました。RBAの行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・マネジメントシステムなどに配慮した調達活動を推進しております。また、主要サプライヤーについては、行動規範の遵守に関する同意書を取得するほか、RBAに承認された当社独自の調査票を用いた自己点検を毎年実施することにより、サプライヤーにおける児童労働・強制労働・不合理な移動制限・過重労働等の人権リスクの特定・評価・防止に取り組んでおります。

 

 

(8)サイバーセキュリティ

<ガバナンス/リスク管理>

当社は、情報セキュリティ担当執行役員である情報通信システム本部長を情報セキュリティの意思決定責任者と位置づけ、当社の情報通信システム本部が実務組織として、グループ全体の情報セキュリティマネジメントを担っています。情報セキュリティ担当執行役員である情報通信システム本部長は6年間にわたり情報セキュリティの意思決定責任を担っており、リスク評価・管理に関する十分な経験と知識を備えています。また、実務組織である情報通信システム本部には、サイバーセキュリティに関する実践的な知識・技能を有する専門人材の日本における国家資格である「情報処理安全確保支援士」を配置しており、リスク管理を支援しています。情報セキュリティに関する中期計画については、情報通信システム本部が策定の上、CEOの承認を得ています。

当社では取締役会決議に基づきリスクマネジメント委員会※1を設置し、情報セキュリティに関する事件・事故情報を速やかに集約・報告する体制を構築しています。万一、情報セキュリティに関する事件・事故が発生した場合は、情報通信システム本部に報告され、状況に応じリスクマネジメント委員会を経て、CEO及び取締役会に報告する体制となっています。同委員会では、当社が事業遂行に際して直面し得る重大なリスクの特定(法令・企業倫理違反、財務報告の誤り、環境問題、品質問題、情報漏洩など)を含む当社のリスクマネジメント体制の整備に関する諸施策を立案します。法務部門、ロジスティクス部門、品質部門、人事部門、経理部門など、事業活動にともなう各種リスクを所管する当社の各管理部門は、それぞれ関連する分科会に所属し、その所管分野について、当社各部門および各グループ会社のリスクマネジメント活動を統制・支援しています。当社の各部門および各グループ会社は、自律的にリスクマネジメント体制の整備・運用を行い、その活動結果をリスクマネジメント委員会に毎年報告しています。リスクマネジメント委員会は、各分科会および各部門・各社からの報告を受け、リスクマネジメント体制の整備・運用状況を評価し、その評価結果を代表取締役CEOおよび取締役会に報告しています。

 

※1 詳細は3 事業等のリスク(1)リスクマネジメント体制をご参照ください。

 

<戦略>

1.情報システムセキュリティ対策

当社は、情報セキュリティの三要素といわれる「機密性」「完全性」「可用性」※2を保持するための施策に取り組んでいます。内部からの情報漏洩対策として、最重要情報はセキュリティを強化した専用のシステムに保管し、アクセス制限や利用状況の記録を徹底しています。また、社外から自社の情報資産に安全にアクセスできる環境を構築した上で、メールのファイル添付送信やPC・記録メディアの社外持ち出しを管理しています。また、外部からのサイバー攻撃対策として、マルウェア※3などが添付された不審メールの侵入監視、社内からインターネットへの不正通信の監視を実施し、攻撃被害の拡大防止に努めています。さらに、サイバー攻撃を想定した対応訓練(NISC※4/NCA※5連携 分野横断的演習)に2017年より毎年参加し、障害対応体制の強化を図っています。また、セキュリティツールベンダーと毎月サイバーセキュリティリスクのトレンド・対策に関する情報共有も実施しております。

 

※2 機密性:許可された者だけが情報にアクセスできるようにすること

     完全性:情報や処理方法が正確で、改ざんされないよう保護すること

     可用性:許可された者が必要とする時に情報にアクセスできるようにすること

※3 不正かつ有害な動作を行う意図で作成された悪意のあるソフトウエア。コンピューターウイルス、ランサム

     ウェアなど

※4 National center of Incident readiness and Strategy for Cybersecurity(内閣サイバーセキュリティセ

     ンター)の略

※5 Nippon CSIRT Association(日本シーサート協議会)の略

 

2.生産設備の情報セキュリティ対策

当社は、マルウェアやサイバー攻撃によって工場の生産設備に稼働障害が発生し、生産計画に問題が生じることがないよう、生産設備の情報セキュリティ対策に取り組んでいます。従来、サイバー攻撃の対象は企業の業務システムやWebシステムなどの情報システムが主体でしたが、生産設備においても汎用OSの利用やIoT化が進み、情報システムと同等の情報セキュリティリスクが生じています。生産設備の運用期間は汎用OSのサポート期間よりも長期にわたり、情報システムとは別のセキュリティ対策が必要となるため、当社および国内外のグループ生産会社では、ウイルス感染などによる操業停止に陥らないよう、生産設備系ネットワークの不正通信監視を行っています。また、生産設備についてもセキュリティ監査を実施し、安全な生産環境の維持を図っています。

 

3.従業員の意識の向上をめざす情報セキュリティ教育

当社は、情報セキュリティの維持・向上のため、情報システムの利用者である従業員の意識向上にも注力しています。定期入社者、中途入社者ともに集合教育を通じて当社の情報セキュリティに関する施策やルールの徹底を図っています。また、毎年、全従業員を対象として、eラーニングによる情報セキュリティ研修を実施しています。2024年は当社の従業員全員の約2万3,000人が受講しました。研修内容は、脆弱性リスクとその対応方法、Web会議における注意点など、従業員の情報セキュリティリテラシー※6を向上させるものとなっています。また、当社およびグループ会社ののべ約6万人の従業員に対し、不審メールを受け取った際に適切に対処し被害を拡大させないための実践教育として標的型攻撃メール対応訓練も実施しました。特に、メールでの業務に慣れていない新入社員については、別途訓練を実施し、教育を強化しています。

 

※6 セキュリティ対策を実行する時に知っておくべき知識やスキル

 

4.情報セキュリティマネジメント体制

情報セキュリティインシデントに対処する専門チームCSIRT※7(シーサート)を2015年に当社情報通信システム本部内に設置しました。同時に、日本シーサート協議会(NCA)に加盟し、他社CSIRT組織との連携強化を図っています。また、当社では情報セキュリティ部門を対象として、情報セキュリティマネジメントシステムの構築・運用の国際規格ISO27001の外部認証を取得しています。

サードパーティのクラウドサービスを利用する際には、情報通信システム本部が当該サービスのセキュリティリスクを事前評価し、利用を許可するプロセスを運用しています。また利用開始後も、毎年1回同様のプロセスを実施することにより、継続的なリスク低減を図っています。

 

※7 Computer Security Incident Response Teamの略。コンピューターセキュリティにかかる事件・事故に対処

     するための組織の総称

 

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) リスクマネジメント体制

当社は、取締役会決議に基づき、キヤノングループのリスクマネジメント体制の整備に関する諸施策を立案する「リスクマネジメント委員会」を設置しております。同委員会は、財務報告の信頼性確保のための体制整備を担当する財務リスク分科会、企業倫理や主要法令の遵守体制の整備を担当するコンプライアンス分科会、事業運営上のリスク全般の管理体制の整備を担当する事業リスク分科会の三分科会から構成されております。

法務部門、ロジスティクス部門、品質部門、人事部門、経理部門など、事業活動に伴う各種リスクを所管する当社の本社管理部門は、それぞれ関連する分科会に所属し、その所管分野について、各部門及び子会社のリスクマネジメント活動を統制・支援しております。

当社各部門及び子会社は、上記体制の下、自律的にリスクマネジメント体制の整備・運用を行い、その活動結果をリスクマネジメント委員会に毎年報告しております。

リスクマネジメント委員会は、各分科会並びに各部門及び子会社からの報告を受け、リスクマネジメント体制の整備・運用状況を評価し、その結果をCEO及び取締役会に報告する役割を担っております。

 

 リスクマネジメント体制

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 リスクマネジメントプロセス

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(2) 事業等のリスク

  当社グループ(当社及びその連結子会社。以下、当該項目では「当社」という。)の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性のある主なリスクには以下のようなものがあります。当社では、グループ経営上のリスクについて、取締役会が定める「リスクマネジメント基本規程」に基づき設置されるリスクマネジメント委員会において、毎年、当社の経営に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクの特定を行っており、以下のリスクも同委員会で審議のうえ特定されたものです。ただし、以下のリスクは当社に関するすべてのリスクを網羅したものではなく、対応策もこれらのリスクを完全に排除するものではありません。なお、下記の事項は有価証券報告書提出日(2025年3月28日)現在において判断した記載となっております。

 リスクマップ

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(注)リスクマップ上の各リスク番号は、当社で各リスクを「①事業特有の重要性が高いリスク」、「②事業横断的な重要性が高いリスク」、「③一般的なリスク」に分類の上、これらの順に設定しております。

 

 

 

①事業特有の重要性が高いリスク

 

 

①-1.プリント市場における環境の変化に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 多機能・高性能なスマートデバイスやアプリケーションの普及によるデジタル化、環境への配慮に伴うペーパーレス化の浸透、リモートワークの普及による働き方の変化などにより、プリント市場全体としては、将来的にプリント機会が減少していくことが予想されます。

 このような市場環境の変化に対応した製品やサービス、ソリューションを当社が十分に提供できない場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、家庭用インクジェットプリンターからオフィス向け複合機、大判プリンターや高速商業印刷までに至る幅広い製品群とクラウドサービスを活かして、市場環境の変化に対しても、お客様がプリントを必要とする様々な場所や機会において最適な選択肢を提供できるよう取り組んでおります。

 オフィスにおけるプリント機会の変化は、柔軟な働き方の広がりにより自宅など別の場所へプリント機会がシフトすることなどに起因しておりますが、当社はインクジェットプリンターや小型レーザープリンターを活用し、オフィス外でもセキュリティの高い業務印刷と管理機能を提供するサービスを開始し、新しい市場環境への適合を進めております。

 ペーパーレス化の浸透についても、デジタルトランスフォーメーションを促進する高速スキャナーとしての機能も併せ持つオフィス向け複合機を、様々なドキュメントマネジメントサービスと連携させることにより、ソリューションの提供を行っていきます。

 さらに、アナログ印刷からデジタル印刷への切り替えや多品種少量印刷のニーズの高まりにより中長期的な成長が見込まれる商業印刷・産業印刷の分野を、当社にとって成長期待の高い領域として新製品やサービスを投入し需要の取り込みを進めていきます。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

①-2.カメラ・ネットワークカメラ・映像解析技術のビジネスにおける競争に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 カメラ市場は、スマートフォンなどのデジタルデバイスの撮影機能が著しく向上する中、撮影行為そのものに対する消費者の嗜好も変化し多様化しており、価格と性能の競争が激化しています。競合他社に対して優位性を維持できる新製品の投入及び消費者の嗜好の変化にマッチした製品や映像を楽しむ新たなサービスの提供ができない場合、当社の地位が相対的に低下し、結果として当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、ネットワークカメラ市場は、セキュリティや映像解析ソリューションに対するニーズの高まりにより、市場は拡大傾向にありますが、競争が激化する中で他社に対して優位性を維持できる製品やサービスが提供できない場合、当社の地位が相対的に低下し、結果として当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社はデジタルカメラの性能をさらに進化させ、スマートフォンとの一層の差別化を図り、高品質且つ多様化する映像表現へのニーズに応えるため、プロやハイアマチュアからエントリーユーザー向けまで幅広いラインアップのさらなる強化を進めております。また、更なる撮影表現の拡大を目指しVR(Virtual Reality:仮想現実)映像撮影システムも拡張しています。加えて、手軽さや特定シーンでの撮影を求める新たなユーザーを掘り起こしていくために、新ジャンルのカメラの展開を進めております。

 ネットワークカメラは、防犯や防災などのセキュリティ分野の成長はもちろんのこと、AIやクラウドといった技術との融合により、店舗での顧客行動の分析や工場での生産工程の効率化など、多岐にわたる分野で活用が進んでおります。市場の変化をいち早く捉え、対策を講じるべく、キヤノンがこれまで培ってきた光学技術、映像処理・解析技術とネットワーク技術を融合させ、既存事業の競争力をさらに強化するとともに、ネットワークカメラを活用した映像DX市場での事業拡大を進めます。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

①-3.医療機器市場における認証・承認等の事業環境対応に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 画像診断装置を主とする医療機関向け医療機器市場は、その製品の性質上、医師・技師等の医療従事者に対する営業活動を行っておりますが、各国・地域における営業活動に対しては種々の規制・行動基準が定められており、それらの把握及び遵守に努める必要があります。また、新技術・新製品の臨床効果の検証、さらに各国・地域の医療機器規制へ対応し認証・承認等を取得する必要があることから、製品構想、研究開発から製品販売までに時間を要します。今後の新技術・新製品の臨床効果を読みきれず、適時に製品を市場投入できずに競争力を維持できない場合、あるいは想定外の新規制により新規事業の大幅な軌道修正を余儀なくされるような場合には、投資に対して十分な収益が生み出されず、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、昨今の地政学的リスクをはじめとする事業環境の不確実性に加え、がんや循環器疾病の早期発見、パンデミックや社会保障制度改革への対応、医療従事者の人手不足、病院経営の悪化などの様々な事業環境の変化や市場ニーズに即応できない場合には、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 医療業界特有の各国・地域の様々な法規制が厳格化される中において、取引先や協業会社と連携しながら、お客様のご要望や事業環境の変化を見極め、AI技術やキヤノンのコア技術を活用し、臨床価値、経済的価値の高い製品やサービスをタイムリーに提供してまいります。更に、DXを活用した営業生産性向上や業務効率化も推進します。また、新興国を含む新規市場の開拓にあたっては技術流出や国産優遇のリスクのミニマム化を図ってまいります。

 また、個別化医療や再生医療が注目される中で、医療の潮流への影響をいち早く捉え、より迅速に対策を講じてまいります。

 医療の高度化に伴いデータ量が増大する中、初期投資やメンテナンス費用を削減できる医療クラウドプラットフォームの活用が不可欠となっている状況において、医療機関を中心とした情報セキュリティの強化を支援し、臨床的価値と安心・安全の両方を提供することでお客様との信頼関係を構築していきます。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

 

 

①-4.半導体・FPD業界における特有のビジネスサイクルに関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 半導体・FPD業界のビジネスサイクルには変動幅、時期、期間が予測しづらいという特徴があります。半導体デバイスやパネルが供給過剰となる時期には、当社の半導体露光装置、FPD露光装置や有機EL蒸着装置を含む製造設備への投資が大きく減少します。このようなビジネスサイクルを持つ環境の中で、当社は競争力を維持向上するために、研究開発へ多額の投資を継続していく必要があります。市況の下降局面では、売上減少や在庫増によるキャッシュ・フロー悪化の影響で、研究開発費などの発生した費用の全てもしくは一部を回収できない場合があり、当社のビジネス、経営成績及び財政状態は悪影響を受ける可能性があります。市場の変化が当社の想定と異なり、顧客のニーズを満たせなかった場合、顧客のビジネスに悪影響を与え、結果的に顧客との信頼関係を損ねてしまう可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、継続的な装置性能の向上と顧客ニーズへの対応力を強化することで、幅広い需要を取り込み、顧客や用途の多様化・販売地域バランスの向上に向けた製品開発を進めております。加えて、既に市場で稼働する装置に対しては、更なる装置性能向上や仕様の追加など、顧客ニーズに対応するサービスサポートを行っており、製品開発とアフターサービスの両輪で収益基盤の安定化を図っております。また当社では、市場の変化をいち早く捉え、対策を講じるべく、事前の情報収集と分析を重視し、定常的に実施しております。

 半導体において、中長期的な市場の成長や当社製品のシェア拡大に向けて、新生産工場の建設を進めております。生産能力の向上に当たっては既存製造設備の活用やグループ内での柔軟な人員配置体制の構築を進めるなど、今後の市況変動の影響を最小限に抑える施策を講じております。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

①-5.販売に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社において、HP Inc.とのビジネスは重要であり、OEMパートナーとして、長年にわたり強固な関係を構築しておりますが、HP Inc.が、政策、ビジネス、経営成績の変化により、当社との関係を制限または縮小する決定を為す場合、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社と取引のあるその他の大手ビジネスパートナーとも良好な関係を構築しております。しかし、これらのパートナーが政策、ビジネス、経営成績の変化により、当社との関係を制限または縮小する決定を為す場合、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、当社の想定を超える環境の変化が起こる場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、直接、間接販売のチャネルを地域ごとでバランスよく展開しております。特定パートナーの変化についても既存チャネルでの対応に加え、積極的な新規ビジネスパートナーの開拓を継続しております。

 また、HP Inc.とのビジネスにおいては、多様化するワークスタイルやオフィス環境の変化に対応した競争力ある製品を提供し続けるとともに、良好かつ強固なパートナーシップを維持強化していきます。

 

 

 

 

②事業横断的な重要性が高いリスク

 

 

②-1.サプライチェーンに関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社は部品や材料の購入から、製品の生産、販売までの一連の流れについて、最適なサプライチェーンの構築に努めております。しかし、当社は重要な部品や材料を外部の特定サプライヤーに依存しており、当社の製品で横断的に使用されている部品や材料に品質問題、あるいは供給不足や価格高騰が発生する場合、生産活動の中断や製造原価の上昇等を引き起す可能性があります。

 これに加えて、部品や材料の調達、製品の世界各国・地域へのスムーズな供給において、物流サービスが有効に機能する必要がありますが、コンピューター化されたロジスティクス・システムに何らかのトラブルが発生する場合、米中対立・ウクライナ紛争・中東情勢等の地政学的リスクや港湾労働者によるストライキ等の労使紛争により物流が混乱する場合、高額製品が輸送中の事故により損害を受け、保険で補償が不可能な場合、また、代替製品を顧客に納品できない場合、当社のサプライチェーンに悪影響を及ぼすとともに、販売機会の損失等により当社の経営成績に悪影響を及ぼし、顧客からの信用を失う可能性があります。

 さらに、企業の社会的責任として、サプライチェーンにおける人権の尊重及び保護や環境保全への取り組みが、国際的に求められているため、人権や環境に関連する法令違反や倫理違反などが当社グループのサプライチェーンで発生する場合、当社の社会的信頼とブランド価値が毀損される可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、最適な生産システムの構築と品質の向上に努めるとともに、グループ全体の物流を全世界的に運営、管理し、効率的な物流体制の構築及び物流コストの低減に努めるほか、問題発生時に迅速に対応できる体制の整備を図っております。最適生産システムに関しては、自動化、ロボット化技術等を用いた効率的な生産体制の構築やキーパーツの内製化を進め、外部依存度を管理し、製造原価の低減を図っております。さらに、新規サプライヤーや別部品、別材料の開拓等により、供給元の多元化を推進し、原材料の高騰と供給不足に対する耐性を高めております。品質の向上に関しては、品質管理専門の組織を設置し、外部サプライヤーと一緒に品質向上活動を推進し、安定的な原材料、部品の調達に努めております。

 これらに加えて、サプライチェーンにおける人権の尊重及び保護への取り組みとして、当社では人権方針を策定し、人権デュー・デリジェンスや救済メカニズムの整備にも取り組んでおります。当社は、当社が加盟するRBA(Responsible Business Alliance)の行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・マネジメントシステム等に配慮した調達活動を推進しており、主要サプライヤーから行動規範の遵守に関する同意書を取得しております。さらに、それらのサプライヤーにおける、児童労働・強制労働・過重労働の防止、労働安全衛生の確保、温室効果ガスの削減、原材料の削減、環境法規制遵守等の取り組みを促進すべく、RBAに承認されたキヤノン独自の調査票を用いた点検を毎年実施しております。

 

 

 

 

②-2.自然災害・感染症に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社の本社ビル、情報システムや研究開発の基幹設備は、東京近郊に集中しておりますが、一般的に日本は世界の他の地域と比較して地震の頻度が多いため、それに伴う被害も受けやすい地域であるといえます。また、研究開発、調達、生産、ロジスティクス、販売、サービスといった当社の施設や事務所は、世界中に点在しており、地震・気候変動による洪水や森林火災等の自然災害、テロ攻撃といった事象に伴うインフラの停止により混乱状態に陥る可能性があります。そのような要因は当社の営業活動に悪影響を与え、物的、人的な損害に関する費用を発生させ、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 感染症の拡大により、世界経済・当社の事業活動が停滞する状況や取引先の事業活動や投資意欲の減退等が発生する場合、また、各国政府等の要請により当社の事業活動が制限される事態においては、当社のビジネス、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、当社関連市場において、リモートワークの進展により、オフィス機器のプリントボリュームが当社の想定ほど回復しない状況や、渡航制限により露光装置や産業機器の設置が当社の予想を下回る事態が発生する場合、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、感染症の拡大は、世界各地のサプライチェーンや当社の生産活動に混乱をきたし、東南アジアなどに所在する当社の一部の工場で生産活動が停滞する可能性があります。加えて、日本及び海外で経済活動の制限が生じ、オフィスや販売店の閉鎖、海外渡航制限、国際貨物輸送の需給逼迫などが発生する場合、当社の販売活動が悪影響を受ける可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、本社の各所管部門が中心となってリスクマネジメント活動を継続的に実施しております。具体的には、工場操業停止といった最悪の事態に備え、同類機種を複数の拠点で並行生産するというバックアップ体制を一部整えるほか、会社の営業停止時に迅速な復旧を実現するため、初動対応事項や関係部門の役割分担の確認、緊急時の連絡体制やガイドラインの整備、訓練等を行っております。さらに、研究開発、調達、生産、品質、ロジスティクス、販売、サービスに用いる基幹システムについては、情報システムのダウンに備えてバックアップ体制を整えております。

 また、当社は、安定した事業活動維持のため、災害により出勤が不可能になる等、緊急事態におけるリモートワーク体制の確立を行うと共に、各拠点には、産業医や保健師を配置し、万が一の感染症拡大に対して適切な対応に努めております。

 今後も自然災害や感染症の再拡大等の状況を想定し、国内・海外における生産活動及び販売活動の体制再構築や強化に取り組んでおります。

 

②-3.為替・金利変動に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社は、国際的な事業活動により売上の重要な割合を稼得しており、国内外の金融当局の政策変更等に伴う急激な為替レートの変動が、外貨建売上など当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社製品の外貨建売上は、外貨に対する円高により悪影響を受ける一方で、円安は追い風となります。また、外貨建の取引から生じる当社の資産及び負債の円貨額や海外子会社の外貨建財務諸表から発生する為替換算調整勘定も変動する恐れがあります。加えて当社は、資産・負債の評価に影響を与える金利変動のリスクにもさらされております。

☆対応・機会

 急激な為替レートの変動に関しては、当社は当社現地法人を含め、定常的に短期為替予約の為替ヘッジ取引を実施しております。また、競争力の高い製品の投入により安定的な収益を維持すると共に、直近の為替水準を反映した価格で市場に投入するなどの対策を講じております。金利変動のリスクに対しては、外部からの借入を最小限に抑え、金利動向に左右されない強固な財務体質の維持に努めております。

 

 

 

②-4.国際政治経済に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社は生産及び販売活動の多くを日本国外で行っておりますが、海外における事業活動には主に政治、外交問題または不利な経済状況の発生と予期しない政策及び法制度、規制等の変更のリスクがあります。

 主要な市場におけるインフレの長期化や金融引締めに伴う景気後退、ウクライナ・中東情勢や貿易摩擦の問題がさらに深刻化するなど、政治、外交問題または不利な経済状況が発生し、法人顧客の投資抑制や個人消費の低迷が生じる場合、当社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に米国の通商政策に変化があり、当社の売上において一定の割合を占める米国販売へ影響を与える場合、当社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。法人顧客の投資抑制は、主に当社のオフィス複合機、レーザープリンター、医療機器、露光装置、産業機器など法人顧客向け製品の需要を、また、個人消費の低迷は、カメラやインクジェットプリンターのような消費者向け製品の需要をそれぞれ減少させる可能性があります。この場合、当社製品の売上が低下し、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 加えて、世界の各国・地域では政治、行政や法制度整備に係る様々な問題やウクライナ・中東情勢に係る問題があり、当社が予期しない政策及び法制度、規制等の変更に直面するリスクがあります。

☆対応・機会

 政治、外交問題または不利な経済状況の発生については、当社は、当社現地法人と日常的な意思疎通を通じて収集した関連情報や定期的なビジネス概況ヒアリングによる関連情報を経営戦略、業績予想に反映しております。また、特定の市場または世界全体で需要の減少が見込まれる場合は、当社は商品の生産、供給体制に応じて生産調整を実施しております。

 予期しない政策及び法制度、規制等の変更については、当社は特に国際的な環境規制や国際及び国内税制変更に係る対策を強化しております。また、公正競争、腐敗防止、個人情報保護、安全保障貿易管理、環境その他の法規制に関しては、各所管部門による統制の下、遵守を徹底しております。

 

 

②-5.人材の確保に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:高

●リスク

 当社の将来の経営成績は、有能な人材の継続的な会社への貢献に拠るところが大きいといえます。また、開発、生産、販売、管理といった当社の活動に関して有能な人材を採用・育成し、実力ある従業員の雇用の維持を図ることができるかどうかが、当社の将来の経営成績に影響すると考えております。一方、当社が属する先端技術産業での労働市場における人材獲得競争は、近年ますます激しさを増してきております。さらに、技術進歩が日進月歩で加速するため、製品の研究開発面で求められる能力を満たすまでに新しい従業員を育てることはますます重要になってきております。また当社の製造技術の重要課題の一つに技能の伝承があります。レンズ加工など、特殊技能については、短期間に習得できるものではありません。

 有能な人材を採用・育成できず、また有能な人材の流出が生じた場合、開発や生産の遅れなどをもたらし、研究成果や技術が流出するほか、技能が適切に伝承されないリスクが発生します。

☆対応・機会

 当社では、戦略的な要員配置と従業員への積極的なキャリア形成支援により、適材適所を実現し、有能な人材の雇用の維持を図っております。

 採用活動では、専門知識や本人の志向をもとに、配属先を入社前に確約するジョブマッチング型の採用を拡大し、各事業が求める人材を最適な部署へ配置しております。また、入社後3年が経過した従業員に対し、仕事や職場との適応状況を確認する面談を人事部門が行い、一人ひとりが安心して能力を発揮できる環境を整えております。

 また、当社ではキャリアマッチング制度(社内公募制度)を充実させ、毎年多くの社員が自らの意思で新しい仕事にチャレンジしております。その中でも、従業員に研修の機会を提供し、自らの変身に挑戦できる「研修型キャリアマッチング制度」では、専門知識を身につける学び直しの機会を提供し、未経験の仕事にもチャレンジできる仕組みを構築することで、人生100年時代における自律的なキャリア形成を支援しております。さらに、当社が2018年に設立した「Canon Institute of Software Technology(CIST)」では、製品のソフトウエア開発を中心とした技術者のスキルアップから、新入社員の基礎教育や職種転換をめざす社員の教育まで、体系的かつ継続的な人材育成に取り組んでおり、技術人材の強化と同時に、技術人材への転身を支援しております。

 人材育成においては、次世代リーダーの発掘・育成・任用を図る「LEADプログラム」をはじめ、研究開発・ものづくり・販売・管理などのプロフェッショナルを育成する研修プログラムや、トレーニー制度を体系的に実施しております。

 当社の事業活動に欠かせない特殊技能においては、卓越した技能をたたえる「キヤノンの名匠認定・表彰」制度への取り組みを通じて、伝承を図っております。

 また、急速に進歩する技術に対応すべく、優秀な技術者を発掘・任用し、支援する「高度技術者認定制度」を制定しました。

 これらの取り組みに加え、仕事の成果を公平・公正に評価し、有能な人材に、より高度な役割を与え処遇するという好循環を実現することで、人材の流出防止を図っております。

 

(注)人材育成・多様性の考え方及び取り組みについては、第2 事業の状況 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の(6)「人的資本」に記載しております。

 

 

②-6.情報・製品セキュリティに関連するリスク

影響度:中

発生可能性:高

●リスク

 当社は、製造・研究開発・調達・生産・販売・会計などのビジネスプロセスに関する機密情報や、顧客やその他関係者に関する機密情報を電子データとして保有しております。当社はこれらの電子データを、第三者によって管理されているものも含め、様々なシステムやネットワークを介して利用しております。

 これらの電子データに関し、ハッカーやコンピューターウイルスによるサイバー攻撃やインフラの障害、天災などによって、個人情報の漏洩、サービスの停止などが発生する可能性があります。特にサイバー攻撃はますます高度化、複雑化し、その攻撃対象は世界各地にわたっております。日本及び海外において事業活動を展開する当社の拠点が、情報技術の脆弱性を突かれ、攻撃を受けた場合、当社ネットワークへの不正アクセスやウェブサイト・オンラインサービスの停止などが発生する可能性があります。

 また、当社の製品・サービスは、ネットワークを介してクラウドやスマートフォンと連携し、ますます利便性を高めています。電子データの活用や情報サービス機能の利用が進む中で、顧客に提供する製品・サービスにおいても個人情報や機密情報の漏洩などのセキュリティリスクは増大しており、インシデントが発生する可能性があります。

 このような事態が起きた場合、重要な業務の中断や、顧客やその他関係者に関する個人情報・営業機密などの機密データの漏洩、製品の情報サービス機能などへの悪影響のほか、損害賠償責任などが発生する可能性もあります。その結果、社会的信用失墜やブランド価値の低下、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社では保有する電子データを安全かつ厳密に管理するため、情報セキュリティならびに情報インフラの強化を図っております。

 当社は、情報セキュリティ担当執行役員を情報セキュリティの意思決定者と位置づけ、情報通信システム本部が実務組織として、グループ全体の情報セキュリティマネジメントにおける責任を担っております。

 また、情報セキュリティをグループ全体で同じレベル、同じ考え方で維持することを目的として、「グループ情報セキュリティルール」を策定し、全世界のグループ会社に適用しております。

 サイバー攻撃などの情報セキュリティインシデントへの対処としては、専門チームCSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設置しており、外部からのサイバー攻撃への対策として、不審電子メールの遮断、社内ネットワークへの不正侵入監視、インターネットへの不正通信監視などの環境を構築し攻撃被害の拡大防止に努めるとともに、定期的にサイバー攻撃対応訓練を実施し対応体制の強化を図っております。また、外部に公開するウェブサイトに対しても日常的に脆弱性(セキュリティホール)の調査・対策を実施し、オンラインサービス停止リスクを低減しております。

 従業員に対しても、業務に使用するソフトウエアの管理や情報の取り扱い及びサイバー攻撃に対する社員研修、標的型攻撃メール訓練などを全社で行い、意識の向上、リテラシーの向上に努めております。また、情報セキュリティ施策適用の徹底を図るため、毎年当社及びグループ会社に対する情報セキュリティ監査を実施し、情報セキュリティレベルの継続的な維持・向上に努めております。

 また、当社は市場での製品セキュリティ問題へ対応するため、社内にPSIRT(Product Security Incident Response Team)を設置しております。PSIRTは、経済産業省の早期警戒パートナーシップの枠組みや外部団体と連携して、つねに脆弱性に関する市場動向に注意を払い、最新の情報を収集しています。また、当社の製品・サービスに関する脆弱性情報を世界中の研究者から受け付ける仕組みを構築すると共に、当社からお客さまへ情報を迅速に開示・掲載するための場所として、外部向けWebサイト(https://psirt.canon)を公開して、世界標準レベルの製品セキュリティ対応に取り組んでいます。

 

(注)サイバーセキュリティの考え方及び取り組みについては、第2 事業の状況 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の(8)「サイバーセキュリティ」に記載しております。

 

②-7.企業買収及び業務提携・戦略的投資に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社は、事業拡大を目的として企業買収を実施しております。また、業務提携、合弁事業、戦略的投資といった様々な形態で、他社との関係を構築しております。これらの活動は、当社の成長のための施策として重要なものであります。しかし、景気動向の悪化や、対象会社もしくはパートナーの業績不振により、期待していた事業拡大を実現できない可能性があります。当社とその対象会社もしくはパートナーが互いに共通の目的を定義し、その目的達成に対して協力していくことが肝要ですが、協力体制の確立が困難となる可能性や、協力体制が確立されても、当社の事業とその対象会社もしくはパートナーが営む事業におけるシナジー効果やビジネスモデルなどが十分な成果を創出できない可能性、また業務統合に想定以上の時間を要する可能性もあります。

 また、予測される将来キャッシュ・フローの低下により、当社が貸借対照表に計上しております企業買収に伴うのれん及びその他の無形固定資産が、減損の対象となる可能性もあります。さらに、有力な提携先との提携が解消になった場合、共同開発を前提とした事業計画に支障をきたし、投資に対する回収が遅れる可能性が生じたり、または回収可能性が低下し、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、既存事業の成熟化に対応すべく、M&A戦略を強力に推進し、事業ポートフォリオの転換を進めております。社内で保有する技術や得意とするビジネスに親和性の高い領域を企業買収及び業務提携、戦略的投資の対象とし、中でも優良企業でかつ経営陣の優れた会社に絞り込んで投資を行っております。企業買収及び業務提携・戦略的投資は、当社取締役会決議やCEO決裁を要しますが、健全な経営判断を担保するため、事前審査のプロセスを強化しております。事業戦略との整合性及び経済合理性、収益性や成長性、リスク等の観点で投資計画の検証を行い、それらを本社管理部門がそれぞれの専門的な視点で事前審査を行います。決議や決裁された投資案件に関しては、CEOと本社管理部門が進捗をモニタリングすることにより、継続的に投資の管理が行われております。買収後は、当社のものづくりノウハウの共有や取引先の共有及びサプライチェーンのサポートを行い、生産効率の向上やコスト削減などのシナジー効果を発揮する取り組みを行っております。

 

 

 

②-8.環境に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 当社は、急激な気候変動、資源枯渇、有害化学物質による暴露、大気汚染、水質汚濁等、環境における様々なリスクの可能性を認識しております。また日本及び海外の環境に関する規制の適用を受けております。これらのリスクの顕在化及び規制の強化により環境に関する費用負担や損害賠償責任が生じる可能性があります。この場合、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社は、現在所有しまたは操業している事業所、また以前に所有しまたは操業していた事業所に対する環境汚染の調査と浄化のための責任と義務を負っております。もし当社が将来の訴訟あるいはその他の手続により損害賠償責任を負わなければならない場合、その費用は保険で賄うことができない可能性もあります。この場合当社に与える影響は大きくなる可能性があります。

 加えて、こうしたリスクへの対応に想定以上にコストを要する事態が生じた場合には、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社はグループを挙げて地球温暖化ガスの排出削減、省エネ活動、省エネ製品開発等に取り組むと同時に、高度な資源循環をめざし、製品の小型・軽量化やリマニュファクチュアリング、消耗品のリサイクル、更には水資源の効率利用や廃棄物の再資源化等の環境保護対策を進めております。世界が脱炭素社会への移行を目指す中、製品ライフサイクル全体でCO2排出量を削減する製品に対する販売機会の拡大が期待されます。また、グリーン調達による有害化学物質の厳格な管理に加え、生産工程で使用する化学物質の削減、排出抑制等の環境活動も行っております。これらの活動は本社所管部門を中心に、ISO14001によるグループ共通の環境マネジメントシステムを運用する方法を通じて推進されており、日本及び海外の環境に関する規制を遵守するため、本社所管部門がグループ全体における対応を統制しております。

 

(注)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに基づく開示情報は、第2 事業の状況 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の(5)「気候変動」に記載しております。

 

 

 

 

③一般的なリスク

 

 

③-1.製品品質・製造物責任に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

当社が提供する製品及びサービスに、品質問題や製造物責任問題が生じた場合、顧客や社会からの信頼が失墜し、ブランド価値が毀損され、販売に悪影響を及ぼす可能性があります。

 特に、製品に重大な品質問題が発生した場合、問題への対応に多大な費用が掛かる可能性があります。これらによって、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、国際的な品質管理規格であるISO9001の要求事項にキヤノン独自の仕組みを加えた「品質マネジメントシステム」を構築しております。

 キヤノンの各事業部門は、本社品質部門や世界中のグループ会社と連携しながら、品質マネジメントシステムをベースに、各国・地域の法規制にも対応したそれぞれの事業特性に最適な品質保証体制を構築し、徹底した品質管理を行っております。

 あらゆる当社製品の品質に関しては、法令で定められた安全基準はもとより、顧客目線での安全性を更に考慮した当社独自の安全基準を設定しております。

 また、開発設計から生産・出荷にいたるすべてのプロセスにおいて品質を確認し、品質基準を満たしている製品のみ市場へ出荷する仕組みを徹底することで、製品の品質問題発生によるリスクの最小化を目指しております。

 万が一、品質問題が発生した場合、お客様の窓口である各国・地域の販売会社から各事業本部の品質保証部門に報告が入ります。同部門では、原因の究明や対策の検討を行うとともに、重大な品質問題については事業本部内の関連部門や本社品質部門、ならびに法務部門や広報部門などと適切な対応を協議し、CEOへ報告の上、承認のもと、速やかに対応を実施します。

 

③-2.新製品への移行に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社が参入している業界の特徴として、ハードウエア及びソフトウエアの性能面における急速な技術の進歩、頻繁な新製品の投入、製品ライフサイクルの短縮化、また製品価格を維持しながらの従来製品以上の性能改善等が挙げられます。

 新製品や新サービスの導入に伴うリスクは多岐にわたります。開発または生産の遅延、導入期における品質問題、製造原価の変動、新製品への切り替えによる現行製品への販売影響、需要予測の不確実性と適正な在庫水準を維持することの難しさに加えて、当社の製品・サービスの基盤である情報システムやネットワーク技術において技術革新が成された場合の移行対応への遅れ等のリスクがあり、当社の収益に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社の収益は競合者の製品またはサービスの導入時期によっても影響を受けます。競合者が当社製品と類似した新製品を当社より先に投入する場合は特に影響を受ける可能性があり、この場合、今後の製品やサービスの需要に影響し、結果として経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は市場のニーズに応えるイノベーティブで価格競争力のある新製品を投入するために多くの経営資源を投入しております。

 当社は、上記のリスクに対応するため、業界をリードするコア製品を生み出す「コアコンピタンス技術」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらには成長の中で蓄えられてきたキヤノンブランドを支える技術・ノウハウであり、商品化技術のベースとなる「価値創造基盤技術」を多様に組み合わせた「コアコンピタンスマネジメント」を展開して事業の多角化を行うと共に、事業の競争力を高め、市場のニーズを汲み取った商品をスピーディーに市場に供給することに努めております。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。また、当社の研究開発活動については、第2 事業の状況 6「研究開発活動」に記載しております。

 

 

③-3.有価証券に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 当社の資産には、株式等の有価証券への投資も含まれております。金融市場におけるボラティリティ及び経済全般に対する不確実性により、株式及び債券市場の変動影響を受け、将来において当社が実施する投資額と現在のその投資額に対する公正価値との間に大きな乖離を生じる場合には、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、株価の変動や配当の受取りによって利益を受けることを目的とした株式を保有しておらず、主に中長期的成長を目的としたグループ外の企業との連携の一環として、株式を保有しております。

 

(注)株式の政策保有に関する方針や保有株式の合理性の検証について、第4 提出会社の状況 4「コーポレート・ガバナンスの状況等」 の(5)「株式の保有状況」に記載しております。

 

③-4.コンプライアンス・法的行為に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 当社は、多くの国・地域で事業活動を行うにあたり、各種法規制を遵守する必要があります。また、第三者から訴訟その他の法的行為を受ける可能性があります。

 しかし、現在当社が当事者となっている、または今後当事者となる可能性のある訴訟及び法的手続の結果を予測することは困難です。例えば、当社が高いシェアを占める市場においては、独占禁止法関連の訴訟または調査を受ける可能性があります。当社にとって不利な結果が生じた場合や、訴訟や調査への対応に多大なコストが発生した場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、コンプライアンス上の問題、例えば、社員の不祥事や組織的不正行為が発生した場合、当社の社会的信頼とブランド価値が毀損される可能性があります。

☆対応・機会

 当社では、リスクが現実の問題として発現する可能性や、発生した場合の経営や事業への影響度合いなどを勘案して、当社が直面し得る独占禁止法違反、腐敗防止法違反、安全保障輸出規制違反などの重大なコンプライアンス違反リスクを特定しております。これらのリスクを低減するために、業務フローの整備、ルールの整備、関係従業員への法令教育、監査・点検の実施など遵法体制の整備を行っております。

 また、当社リスクマネジメント委員会「コンプライアンス分科会」では、「キヤノングループ行動規範」に基づく企業倫理をグループ内で徹底させております。

 さらに、第三者からの訴訟その他の法的行為を受けたときに備え、社内に法務部門を設置し、外部弁護士等と連携して対応できるようにしております。

 

 

 

③-5.知的財産に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

頻繁な技術革新を伴う当社製品にとって、プロダクト・イノベーションは非常に重要であり、そのため、特許やその他の知的財産は、競争上重要なファクターとなっておりますが、競合他社が同様の技術を独自に開発したり、当社が出願した特許が認められなかったり、当社の知的財産の不正使用あるいは侵害を防ぐために講じる手段が成功しない等のリスクがあります。特に新興市場等において、知的財産法が、当社の知的財産を保全するには不十分である等のリスクに直面しております。

 一方で、第三者の知的財産権に関して、第三者からの当社に対する侵害主張が正当であると裁定される場合、特定市場における製品の販売差止め、損害賠償の支払い、他社の権利を侵害しない技術の開発や他社技術についてのライセンス取得とそれに伴うロイヤリティの支払いを要求される可能性があります。

 当社の知的財産権を有効せしめるため、または他社からの権利侵害の主張に対抗するため、当社は訴訟手続を取らざるを得ない可能性があり、その場合は費用が嵩み、手続に長い期間を費やす可能性があります。

 また当社は、特許使用料受取または相手技術のライセンスを受けることと引き換えに、第三者に対して自社特許のライセンスを与えることもあります。そのようなライセンスの条件や更新時の条件変更によっては、当社のビジネスが影響を受ける可能性があります。

 また当社は、ルールや評価システムを設定して、当社従業員の職務発明に対して適切な支払いを行っておりますが、その金額について将来争いが生じないという保証はありません。

 更に、当社の商標権をはじめとする知的財産権を侵害する模倣品が流通し、模倣品の使用により顧客に事故、故障、品質不良などの被害が及ぶことで当社のブランド価値が毀損されるとともに、当社のビジネスに悪影響を及ぼす可能性があります。

 上記の要因は全て、当社のビジネス、ブランド価値及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、知的財産活動の目的を事業展開の支援と明確に位置づけ、10年後、20年後の姿を描いて知的財産戦略を策定・実行しております。

 当社の知的財産活動は、強い特許ポートフォリオを構築することで、競争優位性の確保と事業の自由度の確保をバランスよく両立させていることが特徴であり、事業のコア技術に関する特許などの取得はもちろんのこと、事業では競合しないが知財で競合するIT系企業などとの訴訟・交渉に備えて、例えば、AI技術やIoT技術、標準化技術などの特許取得にも力を入れております。このように外部環境や将来の事業を見据えて特許取得を行うとともに、保有する特許の入れ替えを行うことで、強い特許ポートフォリオを維持しております。

 当社の知的財産戦略の基本方針として、当社はコアコンピタンス技術に関わる特許は、競争領域において事業を守る特許としてライセンスせずに競争優位性の確保に活用しております。また、通信、GUI(Graphical User Interface)などの汎用技術に関わる協調領域の特許は、クロスライセンスなどに利用することで、研究開発や事業の自由度を確保し、魅力的な製品やサービスの提供につなげております。そして、他者の知的財産を尊重する一方で、当社の知的財産の侵害に対しては毅然と対応をしております。また、他者が容易に到達できない検証困難な発明は、ノウハウとして秘匿し、守ることで他社の追随を許さず、競争優位を確保しております。

 当社は上記の知的財産活動における基本的な考え方を実行しつつ、時代とともに戦術を変化させ、知的財産に関連するリスクに対応しております。

 

(注)当社の知的財産戦略については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」 (2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の⑥「知的財産戦略」に記載しております。

 

 

 

③-6.繰延税金資産の回収可能性及び国際的な二重課税に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:低

●リスク

 経営環境悪化に伴う事業計画の目標未達などにより課税所得の見積りの変更が必要となった場合や、税率の変動を伴う税制の変更などがあった場合には、繰延税金資産の修正が必要となり、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、各国・地域の税務当局との間で見解の相違が生じる場合、国際的な二重課税が生じ、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は繰延税金資産に影響を与えるような、当社及び当社現地法人の課税所得に影響を及ぼす事業計画の変動要因や、各国・地域の税制変更を迅速に把握するよう、定期的な確認を行っております。

 また、一部の多国籍企業の過度なタックスプランニングによる国際的な租税回避行為が政治問題化したことを契機として、G20の委託を受けたOECDにおいてBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトが発足し、2015年10月のBEPSに関する最終報告書公表を受け、各国・地域において税法や租税条約の改正が行われております。

 さらに近年においては、経済の電子化に伴う課税上の課題に対処するため、市場国へ課税権を配分する制度及びグローバルミニマム課税制度の導入に関するOECD/IFにおける合意に基づき、各国・地域での制度化が進められております。このうち、グローバルミニマム課税制度についてはEU主要国や韓国、オーストラリア、ベトナム、タイなどですでに制度化され、また我が国日本においても2023年3月28日に成立した令和5年度税制改正において法制化されました。

 こうした国際課税制度の強化が図られる中、当社は、二重課税リスクを低減するため、税務に関するガバナンス体制を整備し、当社現地法人と共に各国・地域における税制や税務行政執行状況の変化への対応を実施するとともに、OECDの各種報告書や経済の電子化に伴う課税上の課題に対処するための新しい国際課税ルールの整備状況などを踏まえた国際税務に係る方針の見直しを適宜実施しております。

 

③-7.退職給付会計に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:低

●リスク

 当社及び一部の子会社は、確定給付型年金制度を有しており、未払退職及び年金費用を数理計算によって認識しております。数理計算は、割引率、期待運用収益率、昇給率、死亡率といった前提条件に基づいており、これらの前提条件と実際の結果が異なることにより生じた年金数理上の損失は、従業員の平均残存勤務年数にわたり規則的に償却し、年金費用に含めております。当社は、これらの数理計算上の前提は適切であると考えておりますが、金利低下に伴う割引率の低下や、運用収益の悪化による年金資産の減少など、予測が困難な事象から生じる前提条件からの乖離は、年金数理上の損失の増加につながり、将来の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、各国・地域の年金積立状況や政府の規制、また人事制度を踏まえ、適宜制度の見直しを検討・実施しております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

 

(経営を取り巻く経済環境)

当連結会計年度の世界経済は、各地でインフレの状況に落ち着きが見られるようになり、金融引き締めが緩和される中、総じて緩やかな回復が続きました。地域別に見ますと、米国では良好な所得環境を背景に、個人消費が堅調に推移しました。欧州では地域別に濃淡はあるものの、年末にかけてインフレ圧力が低下し、個人消費が下支えしました。中国では輸出が堅調に推移したものの、不動産市場の低迷は続いており、内需も回復が鈍化するなど停滞が継続しました。その他の新興国については、物価上昇圧力の緩和により消費が堅調に推移しました。わが国でも、年初は停滞感を強めたものの、個人消費とインバウンド需要が持ち直し、緩やかに景気は回復しました。

このような状況の中、当社関連市場においても一部の地域では景気低迷の影響を受けましたが、総じて需要は堅調に推移しました。製品別に見ますと、オフィス向け複合機や商業印刷は、欧州や中国での市況低迷が継続しましたが、全体としては底堅く推移しました。インクジェットプリンターの需要は減少しましたが、大容量インクモデルは堅調に推移しました。レーザープリンターは、中国を中心に縮小しましたが、当社はOEM先での在庫調整が一巡したこともあり、販売は底堅く推移しました。医療機器は、米国は堅調だったものの、中国市場は停滞、欧州やわが国でも病院経営の環境に厳しさが見られ、市場は弱含みました。カメラ市場は、ミラーレスカメラを中心に堅調に推移しました。半導体製造装置市場は、引き続き生成AI向けの投資が旺盛で、需要は過去最高水準で推移しました。FPD製造装置市場は、パネルメーカーの投資が改善しました。

平均為替レートにつきましては、米ドルが前年比で約11円円安の151.63円、ユーロは前年比で約12円円安の163.99円となりました。

 

(当連結会計年度の経営成績)

 

経営指標

 

 

(億円)

 

第123期

第124期

増減率(%)

売上高

41,810

45,098

7.9%

売上総利益

19,689

21,431

8.8%

営業費用

15,935

18,633

16.9%

営業利益

3,754

2,798

△25.5%

営業外収益及び費用

154

214

39.0%

税引前当期純利益

3,908

3,012

△22.9%

当社株主に帰属する当期純利益

2,645

1,600

△39.5%

 

 

 

 

1株当たり当社株主に帰属する当期純利益

 

 

基本的

264.20

165.53

△37.3%

希薄化後

264.08

165.44

△37.4%

 

当連結会計年度は、売上高は2007年に記録した過去最高を更新する4兆5,098億円となり、税引前当期純利益に関しても、メディカルビジネスユニットで計上したのれんの減損損失を除く調整後税引前当期純利益では前期比19.3%増の4,663億円となりました。

売上総利益率は、物流費の改善を含むコストダウン効果に、円安による増益効果も加わり、前期を0.4ポイント上回る47.5%となり、売上総利益は前期比8.8%増の2兆1,431億円となりました。

営業費用は主にメディカルビジネスユニットにおけるのれんの減損損失や、海外での外貨建て営業費用が円安により増加したことにより、前期比16.9%増の1兆8,633億円となり、営業利益は前期比25.5%減の2,798億円となりました。

営業外収益及び費用は、外貨建て債権から生じた為替差損益の好転などにより、前期比で60億円好転し、214億円の収益となりました。これらの結果、税引前当期純利益は前期比22.9%減の3,012億円、当社株主に帰属する当期純利益は前期比39.5%減の1,600億円となりました。

基本的1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は、前期に比べ98円67銭減の165円53銭となりました。

 

(セグメント別の経営成績)

以下の情報はセグメント情報に基づきます。セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。

 

プリンティングビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第123期

第124期

増減率(%)

 プロダクション

4,012

4,407

9.8%

 オフィス

9,835

10,525

7.0%

 プロシューマー

9,550

10,223

7.0%

外部顧客向け売上高合計

23,397

25,155

7.5%

セグメント間取引

64

72

13.0%

売上高合計

23,461

25,227

7.5%

売上原価及び営業費用

21,178

22,328

5.4%

営業利益

2,283

2,899

27.0%

税引前当期純利益

2,351

3,041

29.4%

 

プリンティングビジネスユニットでは、プロダクション市場向け機器は、imagePRESS Vシリーズなどが米国を中心に好調に推移し、また、世界最大規模の印刷機材展示会であるdrupaでの受注を売上に繋げるなど、販売は前期を上回りました。オフィス向け複合機は、中国や欧州の市況の低迷影響はありましたが、低中速カラー複合機のimageRUNNER ADVANCE DX C3900シリーズを中心に販売は前期を上回りました。インクジェットプリンターは、中国市況の低迷や低価格機を中心に価格競争が激化するなどの影響を受ける中、需要の堅調な大容量インクモデルの拡販を進めました。レーザープリンターは、OEM先での在庫調整が一巡した後は販売を伸ばし、前年を大きく上回りました。

これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比7.5%増の2兆5,227億円、税引前当期純利益は、前期比29.4%増の3,041億円となりました。

 

メディカルビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第123期

第124期

増減率(%)

外部顧客向け売上高合計

5,523

5,683

2.9%

セグメント間取引

15

5

△63.1%

売上高合計

5,538

5,688

2.7%

売上原価及び営業費用

5,222

7,092

35.8%

営業利益

316

△1,404

-

税引前当期純利益

321

△1,395

-

 

メディカルビジネスユニットでは、米国ではCT装置やMRI装置を中心に販売が拡大しましたが、中国では市況悪化の影響を受け、日本や欧州においても病院の経営状況に厳しさが見られました。

これらの結果、当ユニットの売上高については、前期比2.7%増の5,688億円となりました。当期は次世代装置の開発や事業構造改革など先行投資費用の影響もあり、調整後税引前当期純利益は前期比20.4%減の256億円となりました。これに加え、のれんの減損損失を計上したことにより、税引前当期純利益は1,395億円の損失となりました。

 

イメージングビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第123期

第124期

増減率(%)

 カメラ

5,444

5,796

6.5%

 ネットワークカメラ他

3,171

3,574

12.7%

外部顧客向け売上高合計

8,615

9,370

8.8%

セグメント間取引

1

4

114.8%

売上高合計

8,616

9,374

8.8%

売上原価及び営業費用

7,160

7,861

9.8%

営業利益

1,456

1,513

3.9%

税引前当期純利益

1,464

1,543

5.4%

 

イメージングビジネスユニットでは、レンズ交換式デジタルカメラは、年初には市中在庫の調整局面がありましたが、下期に投入した新製品「EOS R1」や「EOS R5 Mark II」が好評を博し、エントリーモデルの「EOS R50」や「EOS R100」なども堅調に推移しました。ネットワークカメラも、市中在庫の調整が進んだ第2四半期以降は販売が回復し、年間では増収となりました。

これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比8.8%増の9,374億円、税引前当期純利益は、前期比5.4%増の1,543億円となりました。

 

インダストリアルビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第123期

第124期

増減率(%)

 光学機器

2,125

2,532

19.2%

 産業機器

913

927

1.5%

外部顧客向け売上高合計

3,038

3,459

13.8%

セグメント間取引

109

106

△2.9%

売上高合計

3,147

3,565

13.3%

売上原価及び営業費用

2,561

2,876

12.3%

営業利益

586

689

17.6%

税引前当期純利益

592

704

19.0%

 

インダストリアルビジネスユニットでは、半導体露光装置は生成AI向けの需要が旺盛であり、先端パッケージングで業界標準となっている当社の後工程向け露光装置が高い需要を捉え、当期の販売台数は前年を大きく上回りました。FPD露光装置は市況が回復基調にある中で販売台数は前期を上回りました。

これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比13.3%増の3,565億円、税引前当期純利益は、前期比19.0%増の704億円となりました。

 

(当連結会計年度の財政状態)

 

 

 

 

(億円)

 

第123期

(2023年12月31日)

第124期

(2024年12月31日)

増減

資産合計

54,166

57,662

3,497

 負債合計

18,109

21,212

3,103

  株主資本合計

33,530

33,803

273

  非支配持分

2,527

2,648

121

 純資産合計

36,057

36,451

393

負債及び純資産合計

54,166

57,662

3,497

株主資本比率(%)

61.9%

58.6%

△3.3%

 

 当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末から3,497億円増加して5兆7,662億円となりました。円安に伴って外貨建の資産が増加した他、売上増加に伴って売掛債権が増加しました。

 負債は前連結会計年度末から3,103億円増加して2兆1,212億円となりました。長期債務の借入を実行した他、未払費用が増加しました。

 純資産は、前連結会計年度末から393億円増加して3兆6,451億円となりました。当社株主への配当や自己株式の取得を2度実施したことなどによる減少の一方で、当社株主に帰属する当期純利益の積み増しにより利益剰余金は増加し、また円安によりその他の包括利益累計額は増加しました。

 これらの結果、当連結会計年度末の株主資本比率は前連結会計年度末より3.3ポイント減少して58.6%となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響分を合わせて、前連結会計年度末から1,002億円増加し、5,016億円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 のれんの減損損失を除けば収益性は向上していることに加え、買掛債務の増加に伴う運転資本の改善などもあり、前連結会計年度と比較して1,556億円増加し、6,068億円の収入となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 BPOサービスに強みを持つプリマジェスト社の買収や生産設備への投資を継続したため、前連結会計年度と比較して220億円増加し、大型買収を実施した前期並みの2,973億円の支出となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 前連結会計年度の期末配当と当連結会計年度の中間配当を増配したことで、配当金の支払いが前連結会計年度と比較して107億円増加しました。さらに2度の自己株式の取得による支出が1,000億円増加したことにより、前連結会計年度と比較して693億円増加し、2,260億円の支出となりました。

 

 また、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した、いわゆるフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度と比較して1,337億円増加し、3,095億円の収入となりました。

 詳細については、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 流動性と資金源泉 b.現金及び現金同等物」に記載のとおりであります。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

プリンティング

2,143,813

119.3

メディカル

597,257

106.7

イメージング

875,969

98.8

インダストリアル

368,230

111.1

その他及び全社

63,830

108.0

消去

△109,311

-

合計

3,939,788

111.0

  (注)1.  金額は、販売価格によって算定しております。

        2.  上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

 

b. 受注実績

当社グループの生産は、当社と販売各社との間で行う需要予測を考慮した見込み生産を主体としておりますので、販売高のうち受注生産高が占める割合は僅少であります。従って受注実績の記載は行っておりません。

 

c. 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

プリンティング

2,522,725

107.5

メディカル

568,808

102.7

イメージング

937,391

108.8

インダストリアル

356,462

113.3

その他及び全社

233,746

111.9

消去

△109,311

-

合計

4,509,821

107.9

  (注)1.  上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

2.  最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとお

      りであります。

 

相手先

第123期

(2023年1月1日から

2023年12月31日まで)

第124期

(2024年1月1日から

2024年12月31日まで)

販売高

(百万円)

割合(%)

販売高

(百万円)

割合(%)

HP Inc.

420,246

10.1

471,604

10.5

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

  経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年3月28日)現在において判断しております。

 

はじめに

  当社は、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアル、その他の製品を世界的に事業展開する企業グループであります。また、企業の成長と発展を果たすことにより、世界の繁栄と人類の幸福に貢献することを、経営理念としております。

①主要業績評価指標

  当社の事業経営に用いられる主要業績評価指標(以下「KPI(Key Performance Indicatorsの略)」という。)は以下のとおりであります。

(収益及び利益率)

  当社は、真のグローバル・エクセレント・カンパニーを目指し邁進しておりますが、経営において重点を置いている指標の1つに収益が挙げられます。以下は経営者が重要だと捉えている収益に関連したKPIであります。

  売上高はKPIの1つと考えております。当社は主に製品、またそれに関連したサービスから売上を計上しています。売上高は、当社製品への需要、会計期間内における取引の数量や規模、新製品の評判、また販売価格の変動といった要因によって変化し、その他にも市場でのシェア、市場環境等も売上高を変化させる要因です。さらに製品別の売上高は売上の中でも重要な指標の1つであり、市場のトレンドに当社の経営が対応しているかというような内容を測定するための目安となります。

  売上総利益率は収益性を測るもう1つのKPIと考えております。当社はフェーズⅥの基本方針のもと、事業競争力を徹底的に強化し、価格競争力を持つ収益性の高い商品の提供を図っています。さらに、内製化や、設計・生産技術・製造現場が三位一体となった組み立ての自動化等のグループ一丸となった原価低減活動を推進しています。当社では、売上総利益率の向上に向けて、引き続きこれらの施策を推進してまいります。

  営業利益率、税引前当期純利益率及び売上高研究開発費比率も当社のKPIとして考えており、これらについて当社は2つの面からの方策をとっております。1つは、販売費及び一般管理費そのものを統制し低減に努めていること、もう1つは将来の利益を生み出す技術に対する研究開発費を一定の水準に維持していくことです。現在の市場における優位性を保持しつつ、他市場における可能性も開拓していくために必要なことであり、そうした投資が将来の事業の成功の基盤となります。

(キャッシュ・フロー経営)

  当社はキャッシュ・フロー経営にも重点を置いております。以下の指標は、経営者が重要だと捉えているキャッシュ・フロー経営に関連したKPIです。

  在庫回転日数はKPIの1つであり、サプライチェーン・マネジメントの成果を測る目安となります。棚卸資産は陳腐化及び劣化する等のリスクを内在しており、その資産価値が著しく下がることで、当社の業績に悪影響を及ぼすこともありえます。こうしたリスクを軽減するためには、サプライチェーン・マネジメントの強化により、棚卸資産の圧縮及び製品コスト等の回収を早期化させるために生産リードタイムを短縮させ、一方で販売の機会損失を防ぐため適正水準の製品在庫を保持していく活動の継続が重要であると考えられます。

  また有利子負債依存度も当社のKPIの1つであります。当社のような製造業では、開発、生産、販売等のプロセスを経て、事業が実を結ぶまでには、一般に長い期間を要するため、堅固な財務体質を構築することは重要なことであると考えます。今後も当社は主に通常の営業活動からのキャッシュ・フローで、流動性の維持や設備投資に対応してまいりますが、大きな成長投資を決断した際には借入金を活用することも想定しております。

 総資産に占める株主資本の割合を示す株主資本比率も、当社におけるKPIの1つとしております。株主資本を潤沢に持つことは、長期的な視点に立って高水準の投資を継続することにつながり、短期的な業績悪化にも揺るがない事業運営を可能にします。特に、研究開発に重点を置く当社にとっては、財務の安全性を確保することは、非常に重要なことであると考えられます。一方で、成長投資のため負債を有効活用するなど、資本構成の最適化にも留意してまいります。

(株主資本収益性)

 株主資本に対する当期純利益の割合を示す株主資本利益率も、当社におけるKPIの1つとしております。事業構造の見直しや経費の効率化により、収益性の向上を図り、在庫水準の適正化や生産拠点の集約化により、資産効率の向上を図ってまいります。また、財務の健全性を維持しながらも成長のための投資を実現するため、負債の有効活用を行うなど、適正な資本構成を構築し、株主資本の収益性を向上させてまいります。

②重要な会計方針及び見積り

  当社の連結財務諸表は、米国会計基準に基づいて作成されております。また当社は、連結財務諸表を作成するために、種々の見積りと仮定を行っております。これらの見積り及び仮定は将来の市場状況、売上増加率、利益率、割引率等の見積り及び仮定を含んでおります。当社は、これらの見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は異なる可能性があります。また、パンデミックや地政学的リスク、さらにはインフレに伴う景気減速のリスク等により、当社の業績が経営者の仮定及び見積りとは異なる可能性があります。当社は、現在当社の財政状態及び経営成績に影響を与えている会計方針を適用するにあたり、以下の事項がより重要な判断事項であると考えています。

a.長期性資産の減損

  基準書360「有形固定資産」に準拠し、有形固定資産や償却対象の無形固定資産などの長期性資産は、帳簿価額が回収できないという事象や状況の変化が生じた場合に、減損に関する検討を実施しております。帳簿価額が割引前将来見積キャッシュ・フローの総額を上回っていた場合には、帳簿価額が公正価値を超過する金額について減損を認識しております。公正価値の決定は、見積り及び仮定に基づいて行っております。

b.有形固定資産

  有形固定資産は取得原価により計上しております。減価償却方法は、定額法で償却している一部の資産を除き、定率法を適用しております。

c.棚卸資産

  棚卸資産は、低価法により評価しております。原価は、国内では平均法、海外では主として先入先出法により算出しております。

d.リース

  当社は、貸手のリースでは主にオフィス製品の販売においてリース取引を提供しております。販売型リースでの機器の販売による収益は、リース開始時に認識しております。販売型リース及び直接金融リースによる利息収益は、それぞれのリース期間にわたり利息法で認識しております。これら以外のリース取引はオペレーティングリースとして会計処理し、収益はリース期間にわたり均等に認識しております。機器のリースとメンテナンス契約が一体となっている場合は、リース要素と非リース要素の独立販売価格の比率に基づいて収益を按分しております。通常、リース要素は、機器及びファイナンス費用を含んでおり、非リース要素はメンテナンス契約及び消耗品を含んでおります。一部の契約ではリースの延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約の大部分は、顧客の割安購入選択権を含んでおりません。

 借手のリースでは建物、倉庫、従業員社宅、及び車輛等に係るオペレーティングリース及びファイナンスリースを有しております。当社は、契約開始時に契約にリースが含まれるか決定しております。一部のリース契約では、リース期間の延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約には、重要な残価保証または重要な財務制限条項はありません。当社のリースの大部分はリースの計算利子率が明示されておらず、当社はリース料総額の現在価値を算定する際、リース開始時に入手可能な情報を基にした追加借入利子率を使用しております。当社のリース契約の一部には、リース要素及び非リース要素を含むものがあり、それぞれを区分して会計処理しております。当社はリース要素と非リース要素の見積独立価格の比率に基づいて、契約の対価を按分しております。オペレーティングリースに係る費用は、そのリース期間にわたり定額法で計上されております。

 

e.企業結合

  企業買収は取得法で処理しております。取得法では、取得した契約資産及び契約負債を除く、全ての有形及び無形資産並びに引き継いだ全ての負債を、支配獲得日における公正価値に基づき認識及び測定します。公正価値の決定には、将来キャッシュ・フローの予測、割引率、資本収益率、及びその他の利用可能な市場データに基づく見積りなどの、重要な判断や見積りを伴います。また、将来キャッシュ・フローの予測は、被買収会社の実績や、過去及び将来に想定される趨勢、市場や経済状況などの多くの要素に基づいております。取得した契約資産及び契約負債は、基準書606「顧客との契約からの収益」に準拠し認識及び測定しております。

f.のれん及びその他の無形固定資産

  のれん及び耐用年数が確定できないその他の無形固定資産は償却を行わず、代わりに毎年第4四半期に、または潜在的な減損の兆候があればより頻繁に減損テストを行っております。全てののれんは、企業結合のシナジー効果から便益を享受する報告単位に配分されます。報告単位の公正価値が、当該報告単位に割り当てられた帳簿価額を下回る場合には、当該差額をその報告単位に配分されたのれんの帳簿価額を限度とし、のれんの減損損失として認識しております。報告単位の公正価値は、主として割引キャッシュ・フロー分析に基づいて決定されており、将来キャッシュ・フロー及び割引率等の見積りを伴います。将来キャッシュ・フローの見積りは、主として将来の成長率に関する当社の予測に基づいております。割引率の見積りは、主として関連する市場及び産業データ並びに特定のリスク要因を考慮した、加重平均資本コストに基づいて決定しております。当社は、2024年第4四半期に行った減損テストの結果、メディカルビジネスユニットの公正価値が帳簿価額を下回っていたことから、当該差額をのれんの減損損失として認識しております。詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 注8 のれん及びその他の無形固定資産」及び「注22 公正価値の開示」に記載のとおりであります。なお、上記メディカルビジネスユニット以外の報告単位については、個々の報告単位の公正価値が帳簿価額を超過しており、減損のリスクが見込まれる報告単位はないと判断しております。重要なのれんが配分されている報告単位は、メディカル報告単位であり、403,131百万円が配分されております。当該報告単位の将来キャッシュ・フローの見積りは、今後の医療機器市場の成長や事業活動地域の経済成長を考慮した上で立案された中期経営計画に基づいております。

 耐用年数の見積りが可能な無形固定資産は、主としてソフトウェア、商標、特許権及び技術資産、ライセンス料、顧客関係であります。なお、ソフトウェアは主として3年から9年で、商標は15年で、特許権及び技術資産は5年から21年で、ライセンス料は7年で、顧客関係は11年から19年で定額償却しております。

 

g.法人税等の不確実性

  当社は、法人税等の不確実性の評価及び見積りにおいて多くの要素を考慮しており、それらの要素には、税務当局との解決の金額及び可能性、並びに税法上の技術的な解釈を含んでおります。不確実性に関する実際の解決が見積りと異なるのは不可避的であり、そのような差異が連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

h.繰延税金資産の評価

  当社は、繰延税金資産に対して定期的に実現可能性の評価を行っております。繰延税金資産の実現は、主に将来の課税所得の予測によるところが大きく、課税所得の予測は将来の市場動向や当社の事業活動が順調に継続すること、その他の要因により変化します。課税所得の予測に影響を与える要因が変化した場合には評価性引当金の設定が必要な場合があり、当社では繰延税金資産の実現可能性がないと判断した際には、繰延税金資産を修正し、損益計算書上の法人税等に繰り入れ、当期純利益が減少いたします。

i.未払退職及び年金費用

  未払退職及び年金費用は数理計算によって認識しており、その計算には前提条件として基礎率を用いています。割引率、期待運用収益率といった基礎率については、市場金利などの実際の経済状況を踏まえて設定しております。その他の基礎率としては、昇給率、死亡率などがあります。これらの基礎率の変更により、将来の退職及び年金費用が影響を受ける可能性があります。

  基礎率と実際の結果が異なる場合は、その差異が累積され将来期間にわたって償却されます。これにより実際の結果は、通常、将来の年金費用に影響を与えます。当社はこれらの基礎率が適切であると考えておりますが、実際の結果との差異は将来の年金費用に影響を及ぼす可能性があります。

  当連結会計年度の連結財務諸表の作成においては、給付債務の計算に使用する割引率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で1.9%、3.9%を、長期期待収益率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で3.1%、6.0%を使用しております。割引率を設定するにあたっては、現在利用可能で、かつ、年金受給が満期となる間に利用可能と予想される高格付けで確定利付の公社債の収益率に関し利用可能な情報を参考に決定しております。また長期期待収益率の設定にあたっては、年金資産が構成される資産カテゴリー別の過去の実績及び将来の期待に基づいて収益率を決定しております。

  割引率の低下(上昇)は、勤務費用及び数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるとともに、利息費用を減少(増加)させます。割引率が0.5%低下した場合、予測給付債務は約708億円増加します。割引率の低下(上昇)による影響は、数理計算上の他の前提条件の変更による影響と同様に、翌期以降に繰り延べられます。

  長期期待収益率の低下(上昇)は、期待運用収益を減少(増加)させ、かつ数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるため、期間純年金費用を増加(減少)させます。長期期待収益率が0.5%低下した場合、期間純年金費用は約59億円増加します。

  これにより年金制度の積立状況(すなわち、年金資産の公正価値と退職給付債務の差額)を連結貸借対照表で認識しており、対応する調整を税効果調整後で、その他の包括利益(損失)累計額に計上しております。

j.収益認識

 当社は、主にプリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの各ビジネスユニットの製品、消耗品並びに関連サービス等の売上を収益源としており、それらを顧客との個別契約に基づき提供しております。当社は、約束した財またはサービスの支配が顧客に移転した時点、もしくは移転するにつれて、移転により獲得が見込まれる対価を反映した金額により、収益を認識しております。

 プリンティングビジネスユニットの製品(オフィス向け複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター等)及びイメージングビジネスユニットの製品(デジタルカメラ等)の販売による収益は、製品の支配を顧客がいつ獲得するかにより、主に出荷または引渡時点で認識しております。

  また、メディカルビジネスユニットの製品(CT装置やMRI装置等)及びインダストリアルビジネスユニットの製品(半導体露光装置やFPD露光装置等)の販売にあたり、機器の性能に関して顧客検収を要する場合は、機器が顧客の場所に据え付けられ、合意された仕様が客観的な基準により達成されたことを確認した時点で、収益を認識しております。

  当社のサービス売上の大部分は、プリンティングの製品及びメディカルの製品のメンテナンスサービスに関連するものであり、一定期間にわたり認識しております。プリンティングの製品のサービス契約は、通常、顧客は、機器の使用量に応じた従量料金、固定料金、または、基本料金に加えて使用量に応じた従量料金を支払う契約であり、修理作業及び消耗品の提供を含んでおります。プリンティングの製品のサービス契約による収益の大部分は、顧客への請求金額が、履行義務の充足に伴い顧客に移転した価値と直接対応していることから、顧客への請求金額により収益を計上しております。メディカルの製品のサービス契約は、通常、顧客は、当社が提供する待機サービスの対価として、固定料金を支払っており、当社は契約期間にわたり均等に収益を認識しております。

  プリンティングの製品に関するサービス契約の多くは、関連する製品販売契約と一体で実行されます。製品及びサービスの取引価格は、独立販売価格の比率に基づいて各履行義務に配分される必要があり、その配分には判断が伴います。独立販売価格は、市場の状況及びその他観察可能なインプットを含む合理的に入手可能な全ての情報に基づき、配分の目的に合致するように設定された価格のレンジを用いて見積もられています。製品またはメンテナンスサービスの取引価格が設定されたレンジを外れる場合は、見積独立販売価格に基づき取引価格は配分されることになります。契約獲得の追加コストは、関連するプリンティングの製品が販売された時に、費用として認識しております。

 転用可能性がなく、かつ完了した成果に対して顧客から支払いを受ける強制力のある権利を有している一部のインダストリアルの製品の販売契約(以下「長期契約」)に関する収益は一定期間にわたり認識しており、コストを基礎とする進捗度に基づき、完成時の見積り利益の当期進捗分を含む収益が当期に認識されます。未完成の長期契約に関する損失は、損失が発生することが明らかになった期に認識されます。長期契約に関する作業実績や作業状況、想定される収益性の変化や最終的な契約条項がコストや収益の見積りに与える影響は、それらが識別され合理的に見積り可能になった期に認識されます。将来コストや完成時の利益に影響を与える要素は生産効率、労働力や資材の利用可能性とコストを含み、これらの要素は見積りの正確性に影響し、将来の収益と売上原価に重要な影響を与えることがあります。

  財またはサービスの移転と交換に当社が受け取る取引価格は、値引き、顧客特典、売上に応じた割戻し等の変動対価を含んでおります。変動対価は、主として、販売代理店や小売店が主要顧客であるイメージングの製品の販売に関連しております。当社は、変動対価に関する不確実性が解消された時点で収益認識累計額の重要な戻し入れが生じない可能性が高い範囲で、変動対価を取引価格に含めております。変動対価は、過去の傾向や売上時点におけるその他の既知の要素に基づいて見積もっており、直近の情報に基づき定期的に見直しております。また、当社は、販売後の短期間、顧客に製品の返品権を付与することがあり、当該返品権により予想される返品を考慮し決定された取引価格に基づき収益認識をしております。

  当社は、連結損益計算書の収益について、顧客から徴収し政府機関へ納付される税金を除いて表示しております。

 

k.信用損失引当金

  信用損失引当金は、過去の信用損失の経験と合理的かつ裏付け可能な予測を踏まえつつ、基準書326(「金融商品-信用損失」)に基づいて、全ての債権計上先を対象として計上しております。また当社は、破産申請など顧客の債務返済能力がなくなったと認識した時点において、顧客ごとに信用損失引当金を積み増しております。債権計上先をとりまく状況に変化が生じた場合は、債権の回収可能性に関する評価はさらに調整されます。法的な償還請求を含め、全ての債権回収のための権利を行使してもなお回収不能な場合に、債権の全部または一部を回収不能とみなし、信用損失引当金に対する償却を実施しております。

 

 

l.環境負債

 環境浄化及びその他の環境関連費用に係る負債は、環境アセスメントあるいは浄化努力が要求される可能性が高く、その費用を合理的に見積ることができる場合に認識しており、連結貸借対照表のその他の固定負債に含めております。環境負債は、事態の詳細が明らかになる過程で、あるいは状況の変化の結果によりその計上額を調整しております。その将来義務に係る費用は現在価値に割引いておりません。

 

m.新会計基準

  「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注1 (24)新会計基準」に記載のとおりであります。

③当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.売上高

  当連結会計年度は、各地でインフレの状況に落ち着きが見られるようになり、金融引き締めが緩和される中、総じて緩やかな回復が続きました。こうした中、半導体露光装置やデジタル商業印刷機、ネットワークカメラなどの成長事業を中心に売上を伸ばし、売上高は前連結会計年度比7.9%増の4兆5,098億円となり、2007年に記録した過去最高を更新しました。製品売上高及びサービス売上高は前連結会計年度比でそれぞれ、8.4%増の3兆5,936億円、5.8%増の9,162億円となりました。

  当連結会計年度の海外での売上高は、連結売上高の78.8%を占めます。海外での売上高の計算は、円と外貨の為替レートの変動に影響されます。製品の現地生産及び海外からの部品や材料調達等によりその影響を抑えておりますが、為替レートの変動は当社の経営成績に大きな影響を与える可能性があります。

  当連結会計年度の米ドル及びユーロの平均為替レートはそれぞれ151.63円及び163.99円と、前連結会計年度に比べて米ドルは約11円円安、ユーロは約12円円安で推移しました。米ドルとの為替レートの変動により約1,120億円の売上高増加、ユーロとの変動で約708億円の売上高増加、その他の通貨との変動で約189億円の売上高増加影響がありました。その結果、当連結会計年度の為替による売上高の増加影響は約2,017億円となりました。

 

b.売上原価

  売上原価は、主として原材料費、購入部品費、工場の人件費から構成されます。原材料費のうち海外調達される原材料については、海外の市場価格や為替レートの変動による影響を受け、当社の売上原価に影響を与えます。売上原価にはこれらの他に有形固定資産の減価償却費、修繕費、光熱費、賃借料などが含まれております。当連結会計年度は物流費を中心としたコストの改善が進みましたが、円安により売上原価は増加しました。一方、販売による為替影響も加味すると、売上高に対する売上原価の比率は、当連結会計年度は52.5%となり、前連結会計年度52.9%より0.4ポイント低減しました。

 

c.売上総利益

  当連結会計年度の売上総利益は、前連結会計年度と比べ8.8%増加の2兆1,431億円となりました。また売上総利益率は、前連結会計年度より0.4ポイント好転し47.5%となりました。売上総利益の増加は、物流費を中心としたコストダウンが進んだことと円安影響によるものです。

 

d.営業費用

  営業費用は、主に人件費、研究開発費、広告宣伝費であります。営業費用は、メディカルビジネスユニットにおいてのれんの減損損失を1,651億円計上したことに加えて、円安による外貨建て営業費用の増加や海外販売会社における構造改革費用などがあり、前期比16.9%増の1兆8,633億円となり、当連結会計年度売上高に対する経費率は前連結会計年度より3.2ポイント悪化し、41.3%となりました。

 

e.営業利益

  当連結会計年度の営業利益は、前連結会計年度比25.5%減少の2,798億円でありました。営業利益率は2.8ポイント悪化して6.2%となりました。

 

f.営業外収益及び費用

  当連結会計年度の営業外収益及び費用は、外貨建て債権から生じた為替差損益の好転があり、前連結会計年度から60億円好転し、214億円の収益となりました。

 

g.税引前当期純利益

  当連結会計年度の税引前当期純利益は3,012億円で、前連結会計年度比22.9%の減益となりました。また、売上高に対する比率は6.7%でした。

 

h.法人税等

  当連結会計年度の法人税等は119億円増加し、実効税率は39.3%でした。実効税率が日本の法定実効税率を上回っているのは、主にのれんの減損損失が税務上損金算入されない費用であるためです。

 

i.当社株主に帰属する当期純利益

  当連結会計年度の当社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度比39.5%の減益である1,600億円となりました。また、売上高当期純利益率は3.5%となりました。

 

④海外事業と外国通貨による取引

  当社の販売活動は様々な地域で現地通貨により行っている一方、売上原価は円の占める割合が比較的高くなっております。当社の現在の事業構造を鑑みると、円高影響は売上高や売上総利益率に対してマイナス要因となりま

す。こうした為替相場の変動による財務リスクを軽減することを目的に、当社は為替先物契約を主とした金融派生商品を利用した取引を実施しております。

  海外における売上高利益率は、主に販売活動を中心としているため、国内の売上高利益率と比較すると低くなっております。一般的に販売活動は、当社が行っている生産活動ほど収益性は高くありません。地域別セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。

 

 

⑤流動性と資金源泉

a.キャッシュ・フロー経営の基本原則

  当社は財務戦略の基本方針に「キャッシュ・フロー経営の徹底による健全な財務体質の維持」を掲げ、以下の2点をキャッシュ・フロー経営の基本原則としております。

 

1.現行事業の収益性をさらに改善し新規事業の成長スピードを高めることにより、高収益体質の向上に努め

ます。

2.事業の中期的な拡大・成長に必要な設備投資は原則として減価償却費の範囲内に収め、財務健全性の維持

に努めます。ただし、成長戦略の為の設備投資やM&A等の状況により、必要に応じて外部からの資金調達も

実施します。

 

資金の調達(Cash-In)

事業活動からの利益をベースとする営業活動によるキャッシュ・フローを原資とします。資金調達を行う際は、金融市場の状況を鑑みて、期間・通貨・手法を検討し、多様な選択肢から最適な手段を選定します。

 

資金の使途(Cash-Out)

資金の主な使途は以下の優先順位に則り決定しております。

 

1.成長投資:設備投資・研究開発やM&Aなど

M&Aは新規事業の成長を補完する選択肢として重視しております。投資対象先の選定にあたり、市場の成長性・規模、当社の事業領域・技術との親和性の高い市場であることを基準としております。

2.株主還元

中長期的な業績の見通しに加え、将来の投資計画やキャッシュ・フローなどを総合的に勘案しております。配当は配当性向50%を目途に実施し、自己株式の取得も検討しつつ、安定的かつ積極的な利益還元を実現します。

3.借入金返済

健全な財務体質維持のため借入金返済を着実に進め、事業の拡大・成長に必要な投資に備えて、十分な資金調達余力を確保してまいります。

 

b.現金及び現金同等物

キャッシュ・フローの推移

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 当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前連結会計年度から1,002億円増加して、5,016億円となりました。当社の現金及び現金同等物は主に円と米ドルを中心としておりますが、その他の外貨でも保有しております。

 

営業活動によるキャッシュ・フロー

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、キャッシュを伴わないのれん減損損失を考慮すると増加しており、また買掛債務の増加に伴う運転資本の改善もあり、前連結会計年度末から1,556億円増加し、6,068億円の収入となりました。営業活動によるキャッシュ・フローは、主に顧客からの現金受取によるキャッシュ・イン・フローと、部品や材料、販売費及び一般管理費、研究開発費、法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローとなっております。当連結会計年度におけるキャッシュ・イン・フローの増加は、主に売上高の増加に伴い、顧客からの現金回収が増加したことによります。当社の回収率に重要な変化はありません。キャッシュ・アウト・フローの増加は、売上増に伴う部品や材料の支払いの増加や、販売活動が正常化したことによる販売関連費用の増加などによるものです。法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローの増加は、課税所得の増加によるものです。

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

 当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、生産能力、効率性の向上を目的とした設備投資を継続したことにより、固定資産購入額は前連結会計年度より67億円増加して、当連結会計年度は2,370億円となりました。さらに、当期はBPOサービスに強みを持つプリマジェスト社の買収や生産設備への投資を継続したため、大型買収を実施した前期並みの2,973億円の支出となりました。

 

フリーキャッシュ・フロー

 当社は、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した純額をフリーキャッシュ・フローと定義しており、当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度の1,758億円から、1,337億円増加し、3,095億円の収入となりました。

 当社は、キャッシュ・フロー経営に重点を置き、フリーキャッシュ・フローを常時モニタリングしております。フリーキャッシュ・フローは当社の現在の流動性や財務活動の使途を理解する上で重要であり、また投資家にも有用であると考えております。当社は資金の調達源泉を明らかにするために、米国会計基準による連結キャッシュ・フロー計算書や連結貸借対照表と併せて、米国会計基準以外の財務指標(Non-GAAP財務指標)である、フリーキャッシュ・フローを分析しております。なお、最も直接的に比較可能な米国会計基準に基づき作成された指標とフリーキャッシュ・フローの照合調整表は以下のとおりです。

 

 

 

 

(億円)

 

第123期

第124期

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

4,512

6,068

+1,556

投資活動によるキャッシュ・フロー

△2,754

△2,973

△219

フリーキャッシュ・フロー

1,758

3,095

+1,337

財務活動によるキャッシュ・フロー

△1,567

△2,260

△693

為替変動の現金及び現金同等物への影響額

201

167

△34

現金及び現金同等物の増減

392

1,002

+610

現金及び現金同等物の期首残高

3,621

4,013

+392

現金及び現金同等物の期末残高

4,013

5,016

+1,002

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

 当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、前期に続いて増配したことや、2度の自己株式の取得など積極的な株主還元を実施したことにより、前期比で693億円増加し、2,260億円の支出となりました。なお、当連結会計年度の配当金の支払額は、1株当たり145.00円を実施しました。

 

 当社は、流動性や必要資本を満たすため、増資、社債発行、借入といった外部からの様々な資金調達方法をとることが可能です。当社は、これまでどおりの資金調達や資本市場からの資金調達が可能であり、また将来においても可能であり続けると認識しておりますが、経済情勢の急激な悪化やその他状況によっては、当社の流動性や将来における長期の資金調達に影響を与える可能性があります。

 当社の長期債務は、主に銀行借入とリース債務によって構成されています。

 

格付け

 当社は、グローバルな資本市場から資金調達をするために、格付機関であるS&Pグローバル・レーティングから信用格付を得ております。それに加えて、当社は日本の資本市場からも資金調達するために、日本の格付会社である格付投資情報センターからも信用格付を得ております。2025年2月28日現在、当社の負債格付は、S&Pグローバル・レーティング:A(長期)/A-1(短期)、格付投資情報センター:AA(長期)であります。当社では、現時点で負債の返済を早めるような格付低下の要因は発生しておりません。当社の信用格付が下がる場合は、借入コストの増加につながります。

 

c.在庫の適正化

 当社の最新の在庫水準の最適化の方針は、運転資金を最小化し、在庫の陳腐化のリスクを避け、一方で予期せぬ天災発生時でも販売活動を継続できるようにするため、適切なバランスを維持していくことであります。当社の在庫回転日数は、当連結会計年度、前連結会計年度末時点でそれぞれ、65日、66日となりました。スエズ運河運航回避に伴い積送品が主に増えたことにより在庫金額は増加したものの、売上高も前年比で増収となったことで在庫回転日数は減少しています。

 

d.設備投資

 当社は積極的な業績拡大に資する投資を行う一方、総額は減価償却費の範囲内に収めることでフリーキャッシュ・フローを安定的に創出するなど、財務基盤を強固にするキャッシュ・フロー経営を徹底しています。当連結会計年度における設備投資は、前連結会計年度の2,011億円から181億円増加し、2,192億円になりました。翌連結会計年度につきましては、引き続き成長のための設備投資を行うことにより、当社の設備投資は2,100億円の見込みであります。

 

e.退職給付債務への事業主拠出

 当社の確定給付型年金への拠出額は、当連結会計年度289億円、前連結会計年度516億円であり、確定拠出型年金への拠出額は、当連結会計年度293億円、前連結会計年度277億円であります。また、一部の子会社が加入している複数事業主制度への拠出額は、当連結会計年度64億円、前連結会計年度54億円であります。

 

f.運転資本

 当連結会計年度における運転資本(流動資産から流動負債を控除した額)は、前連結会計年度の7,849億円から1,189億円増加し、9,038億円になりました。増加の主な要因は、流動負債である短期借入金(1年以内に返済する長期債務を含む)の減少によるものです。当社の運転資本は、予測できる将来需要に対して十分であると認識しております。当社の必要資本は、設備投資に関わる支出の水準及び時期といった全社的な事業計画に基づいております。流動比率(流動負債に対する流動資産の割合)は、当連結会計年度は1.58、前連結会計年度は1.55であります。

 

g.総資本当社株主に帰属する当期純利益率

 総資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の総資産平均で除した割合)は、当連結会計年度では2.9%、前連結会計年度は5.0%であります。

 

h.株主資本当社株主に帰属する当期純利益率

 株主資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の株主資本平均で除した割合)は、当連結会計年度では4.8%、前連結会計年度8.2%であります。

 

i.有利子負債依存度

 当社はフェーズⅥにてキャッシュ・フロー経営の徹底を重点項目の一つとしており、財務基盤の再強化を進めています。当連結会計年度では、運転資金の増加に伴い長期借入金が増加しました。その結果、当連結会計年度における短期借入金、短期オペレーティングリース負債、長期借入金、及び長期オペレーティングリース負債は、前連結会計年度末の5,173億円から1,462億円増加し6,635億円となり、有利子負債依存度(総資産に対する有利子負債の割合)は11.5%と前連結会計年度の9.6%から1.9%増加しました。

 

j.株主資本比率

 株主資本比率(株主資本を総資産で除した割合)は、当連結会計年度は58.6%と前連結会計年度の61.9%から3.3%減少いたしました。増配を実施したこと、1,000億円の自己株式取得を2度実施したことにより株主資本は減少したものの、円安により為替換算調整額が増加したこともあり、株主資本比率としては、引き続き高い水準を維持し、財務の健全性は保たれています。

 

 

⑥知的財産戦略

<ガバナンス>

当社では知的財産部門がCEO直轄の組織であることに加え、知的財産法務本部長が専任役員を務めているため、知的財産法務本部長から、中期計画等の知的財産に関する戦略や考えを直接CEOに報告したり、役員間の日々の会議で他の役員へ知的財産に関する重要情報を伝達し、共有したりすることが可能です。このような体制により、知的財産に関する経営上の意思決定が迅速に行われています。

さらに、会社の役員でもある知的財産法務本部および事業部門、研究開発部門のトップをはじめとする幹部が集まる本部間トップミーティングを定期的に設け、知的財産戦略を議論するとともに、事業および研究開発部門における実際の知的財産活動を決定することで、事業および研究開発部門と一体化したタイムリーな知的財産活動を実現しています。このようにして技術中計、事業中計にリンクした知的財産戦略を策定し、知的財産部門の考えや知的財産への投資を技術および事業中計に組み込むというサイクルが機能しています。

 

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また、当社では、当社の知的財産法務本部と各グループ会社の知的財産部門との間で、知的財産の取り扱いに関する役割と責任、活動方針の策定プロセスなどを取り決めたグローバルマネジメントルールを策定しています。

これにより、グループ全体の知的財産活動を統制し、知的財産ポートフォリオの最適化を図りつつ、必要に応じて知的財産法務本部と各グループ会社が協働で訴訟やライセンス活動を行い、利益の最大化を図っています。

 

 

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<戦略>

1.基本方針

当社は、独自技術で差別化した魅力的で質の高い製品とサービスにより、新市場や新規顧客を開拓する研究開発型企業として発展してきました。知的財産部門は、事業発展の支援を最も重視しており、これに資することをミッションとして、これからの時代を先読みし、知的財産戦略を策定、実行しています。

当社の知的財産戦略の基本戦略は下記4つとしております。

 

(1)コアコンピタンス技術に関わる特許は、競争領域において事業を守る特許としてライセンスせず、
競争優位性の確保に活用する。

(2)通信、AI、IoTなどの共通技術(標準技術を含む)に関わる協調領域の特許をクロスライセンスなどに利用することで、研究開発や事業の自由度を確保する。

(3)他社の知的財産権を尊重する。一方でキヤノンの知的財産権の侵害に対しては毅然と対応する。

(4)他社が容易に到達できない検証困難な発明は、ノウハウとして秘匿し守ることで、他社の追従を許さず、競争優位性を確保する。

 

2.知的財産ポートフォリオの基本的な考え方

当社は、さまざまな環境変化から次の時代の社会や経済の流れを読み取り、知的財産戦略を策定、実行しています。知的財産ポートフォリオは、変化する経営と事業を支援し企業価値を向上させるために最大限活用するものと位置付けており、その構成は、さまざまな環境変化(サプライチェーン、経済安全保障、環境配慮要請、AI/IoTによる技術革新、デジタルサービスの拡大等)から次の時代を見据え、経営戦略、事業戦略と連動させながら、常に変化させています。近年では、これからの成長が見込まれる新規事業を支援する技術や、各事業分野に共通して活用が見込まれ、他社とのライセンス交渉においても重要な役割を担う共通技術に関する出願を特に増やし、将来のビジネスを支える特許ポートフォリオの強化を進めています。

事業のコアコンピタンスに関わる知的財産権の取得はもちろん、時代を先取りした知的財産権(例えば、AI/IoT技術や共通技術、環境関連技術に関わる知的財産権、パートナー創りのための知的財産権)の取得にも大きなリソースを投入し、新たな事業の創出のために様々な業界の企業との交渉にも備えています。このようにして構築した知的財産ポートフォリオを活用することにより、競争優位性の確保と将来事業の自由度の確保を両立させています。

当社は、全世界で約8万2千件にも及ぶ特許と実用新案を保有しています(2024年12月現在)。日本国内はもとより、海外での特許取得も重視しており、地域ごとの事業戦略や技術動向、製品動向を踏まえた上で特許の権利化を推進しています。特に米国は、世界最先端の技術をもつ企業が多く市場規模も大きいことから、特許出願については、事業拡大、技術提携の双方の視点から注力しており、米国の特許登録件数ランキングは41年連続で10位以内を維持しています。

また、知的財産ポートフォリオは、活用することでその価値が顕在化するものであり、保有する知的財産ポートフォリオの積極的な活用により事業の発展を最大限支援するとともに、企業価値の向上に貢献するものです。活用の具体例としては他社とのクロスライセンスがあります。これにより他社の保有する知的財産へのアクセスを可能としています。当社は、全世界で約100万件もの他社特許が利用可能であり、研究開発や事業における高い自由度を確保しています。また、他社にも有用な協調領域の特許を数多く保有していることで、コアコンピタンス特許の利用を許諾しない有利なクロスライセンスが可能となり、ビジネスの競争優位性を保っています。さらに、徹底した特許クリアランスと積極的なポートフォリオ活用を行うことで、ライセンス料の支払いを抑制しています。

 

3.事業の発展を支える知的財産ポートフォリオ

当社は、グローバル優良企業グループ構想フェーズVIにおいて、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの各グループの事業競争力の強化を掲げ、商業印刷、産業印刷、次世代ヘルスケア、高度監視、次世代半導体製造、デジタルソリューションサービスといった将来のビジネス創出にも力を入れています。知的財産部門は、これらの事業が発展し、成長するために、光学技術、映像処理、解析技術などのコアコンピタンス技術、AI/IoTを組み入れたサイバー&フィジカルシステムの技術、標準技術、環境配慮技術などに関する知的財産の創出・権利化に力を入れています。

 

Ⅰ.プリンティンググループ

商業印刷、産業印刷分野のほか、オフィス向け機器を始めとする様々な機器と連携するサイバー&フィジカルシステムを支える知的財産を創出しています。様々な機種のプリンターに共通して搭載されるコントローラ/エンジンの基盤技術やプリンターに付加価値を提供するクラウドの基盤技術に加え、プリンターの環境配慮技術や、AIを利活用した新たなプリンティングソリューションなどこれからの時代に対応する技術に関する特許ポートフォリオを構築しています。

 

Ⅱ.メディカルグループ

プレシジョン・メディシン(個別化医療)の実現をサポートするAIソリューション、診断精度の向上及び従来装置よりも被ばく線量低減が期待されるフォトンカウンティングCTなど、医療現場に次々と提供される新たな価値を創造する技術を保護する知的財産ポートフォリオを構築しています。加えて、グループ会社間連携を通じて、光学技術や画像処理技術などこれまでに培ってきた技術に、メディカル領域特有の画像診断技術、ソリューションを融合し、画像診断を核としてヘルスケアITやバイオサイエンスなどの新たな領域への事業拡大を支える知的財産ポートフォリオを強化しています。

 

Ⅲ.イメージンググループ

ミラーレスカメラに加え、映像制作用カメラや監視用カメラなどの領域では、高度な光学技術だけでなく、ネットワーク技術を組み合わせた知的財産を創出しています。さらにボリュメトリックビデオやXRなどの3Dイメージング技術や、暗闇でも数km先の被写体を鮮明に捉えられるSPADセンサー等、今後の事業成長を支える新技術の領域でも特許ポートフォリオを強化しています。

 

Ⅳ.インダストリアルグループ

露光装置、ダイボンダー、有機ELディスプレイ製造装置、スパッタリング装置などの製造装置に加え、Lithography Plusなどの製造ソリューションサービスに関する知的財産の創出にも注力しています。

さらに、黒色プラスチックのリサイクルを可能にするトラッキング型ラマン分光技術、低消費電力を実現するナノインプリントリソグラフィ技術の特許ポートフォリオを強化し、新規事業の拡大を支援しています。

 

Ⅴ. 未来を切り拓く技術

本社研究開発部門等で研究が進む、3Dプリンター用セラミックス、鉛フリー圧電体、全固体電池用材料などのサステナビリティ実現のための新素材、デバイス技術、超大型望遠鏡用のイマージョン回折素子、人工衛星などの宇宙科学技術の分野で、世界初/最先端のコア技術の特許ポートフォリオ形成に注力しています。

 

Ⅵ. 標準化への取組み

海外研究所の標準化エキスパートと協働し、標準化団体への積極的な参画を通して世界の技術発展に貢献。移動体通信(5Gなど)、無線LAN(Wi-Fiなど)、動画圧縮(HEVC,VCCなど)、無線電力伝送(Qiなど)、ファイルフォーマット(HEIF,OMAFなど)など次世代の技術標準を構成する特許ポートフォリオを拡大し、キヤノンの知財競争力を強化しています。

 

 

 

 

 

 

4. オピニオンリーダーとしての活動

当社は、日本の産業の振興、ひいては世界の産業の振興への貢献をめざし、知的財産の業界をリードする活動を積極的に行っています。2014年には、LOT(License on Transfer)ネットワークを他社とともに設立し、自らは事業を行わず特許訴訟を脅しに利益を得るPAE(Patent Assertion Entity)による不当な特許訴訟から会員企業を守る仕組みを構築しました。2025年3月時点で4,800社以上が会員企業になっています。また、2019年より、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する、環境技術の活用を促進するためのプラットフォームであるWIPO GREENにパートナーとして参加し、WIPOと協力して環境技術の普及を行っています。

当社は、パートナーづくりにも注力しており、2023年には国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)が民間企業と共同で実施するAIST Innovation Ecosystem Programに設立メンバーとして参画しました。新たな技術の社会実装化を支援するとともに、プログラムから生まれた技術へのアクセスを得て更なるイノベーションの推進につなげています。

このような活動により、他社特許侵害のリスク低減、保有特許の活用機会創出、アクセス可能な技術及び特許の拡大を実現し、知財面からの事業支援を行うとともに、世界の知財エコシステムの構築に貢献しています。

 

<リスク管理>

知的財産に関するリスクとその対応については、3 事業等のリスク をご参照ください。

 

<目標>

当社では、事業に稼がせる知財を標榜し、事業発展に貢献することを目的として知財活動を行っております。活用を考慮に入れた知的財産ポートフォリオの構築を進め、構築されたポートフォリオを活用することで、事業の収益性を向上させています。保有する8万件超のポートフォリオは時代に合わせて新陳代謝を図っており、新規事業を支える技術分野の出願比率を戦略的に増やし、新規事業のビジネス拡大・収益向上に貢献することを目指します。また、世界最先端の技術をもつ企業が多く市場規模も大きい米国においては、事業拡大や他社とのライセンス交渉などの観点から、米国特許取得件数ランキングでトップ10以内の継続を目指します。

 

当社の知的財産活動に関するその他の情報は、当社ウェブサイト(https://global.canon/ja/intellectual-property/)に掲載しております。

 

 

 

⑦トレンド情報

  当社は、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの分野において、開発、生産から販売、サービスにわたる事業活動を営んでおります。

 

Ⅰ.プリンティングビジネスユニット

 当社は、家庭向け、オフィス向け、プロダクションプリント向けのインクジェットプリンター、レーザープリンター、複合機の開発・製造・販売及びメンテナンス、アフターサービスを行うとともに、ソフトウェア及びサービス、ソリューションビジネスを通して顧客に付加価値を提供しています。

 市場ニーズの多様化などを背景とした印刷物の少量多品種化や短納期化、オンデマンド印刷やバリアブル印刷への需要が高まるプロダクションプリントについては、主力機種である「imagePRESS Vシリーズ」等により、カット紙印刷市場でWW.シェアNo.1※1を維持しています。高い生産性と堅牢性により大量出力物の短納期化を実現するフラッグシップモデル「V1350」、多種多様な用紙の高速出力により少量多品種印刷ビジネスを支援する「V1000」、オペレーターの作業負荷を軽減するコンパクトな本体サイズの「V900」の3機種が、様々な商業印刷のニーズに対応しています。加えて、リモート印刷管理アプリケーション「PRISMAremote Manager」との組み合わせにより印刷状況を可視化することで、ダウンタイムの削減にも貢献しています。

 大判インクジェットプリンターについては、「imagePROGRAF」のブランドの下で、幅広い分野の様々な大判プリントニーズに応えるラインアップを展開しており、今期もさらなる強化を図りました。写真やアートなどを制作するグラフィックアート市場向けには、「PROシリーズ」を刷新しました。芸術写真などに用いられるファインアート紙への印刷画質を向上させ、耐光性も強化しています。これにより、大判プリンターimagePROGRAFシリーズ最高の写真画質とプリントの長期保存を実現しています。広告などのグラフィックポスターの出力を担う出力センターや社内印刷部門向けには、「GPシリーズ」を刷新しました。人目を引く鮮やかなポスターを高速出力するとともに、擦れによる印刷面のキズを抑制し、カット作業などの印刷後の加工や掲示を容易にしています。また、設計事務所などでの図面大量出力から、企業・店舗でのCAD・ポスターなどの大判サイズ出力ニーズに向けて、「TZ/TXシリーズ」を強化しました。生産性をさらに高めるとともにポスター画質の向上を図り、多様な印刷物を効率的に出力できるようにしました。これにより、出力サービスを提供する事業者のビジネス領域拡大や企業の掲示物内製を支援しています。当社は、多様化する顧客のニーズにお応えして顧客獲得に努めています。

 ハイエンドのプロダクションインクジェット市場に向けて、当社は業界をリードする連帳プリンターを提供しており、効率的かつ高品質のフルカラー印刷の実現に貢献しています。「ColorStreamシリーズ」は、磁気インクやインビジブルインクなどのセキュリティインクを含む、カラーおよびモノクロのトランザクション、トランスプロモ、ダイレクトメール、書籍、およびマニュアルなどの印刷物に対応し、生産性と柔軟性に優れた、モジュール式でカスタマイズ可能な製品です。「ProStreamシリーズ」は、オフセット印刷に劣らぬ色再現性と生産性を実現しつつ、デジタル印刷の可変データの多用途性を兼ね備えた、高速で生産性の高い連帳プリンターです。当社が提供する高速カットシート方式のインクジェットプリンター「varioPRINT iX シリーズ」は、これまでの商業印刷のビジネスを大きく変えました。優れた画質と幅広いメディア対応力に、インクジェットの高い生産性と魅力的なコスト効率を兼ね備えています。「varioPRINT iXシリーズ」は、その高い信頼性、生産性、アップタイムによって、より多くの成果物を短時間で生産することができます。最小限の調整とセットアップで、計画的な高速印刷が可能なため、印刷業者は、顧客と合意された納期と価格に基づき、あらゆる成果物に対応し、より多くの利益を上げることができます。

 大判グラフィック市場では、「Colorado」と「Arizona」のブランドの下で独自のUV LEDソリューションを提供しており、クラス最高の生産性と最小のコストを目指しております。このソリューションにより、プロの印刷業者は豊富なグラフィックスと産業用アプリケーションを顧客に提供することが可能となります。「Colorado」はモジュール設計で、追加オプションにより現場でのアップグレードが可能です。また、UVgel 460インクのより柔軟で伸縮性のある配合とFLXfinish+技術の2つの追加技術により、印象的なアプリケーション範囲を提供します。UVgel460インクは、折りたたんだり、曲げたり、包んだりしても画像安定性を発揮します。また、FLXfinish+テクノロジーは、光沢仕上げと豪華なマット仕上げを1つのプリントで組み合わせて印刷することを可能にし、表現の自由度を拡大させることが出来ます。

 働き方の多様化に伴い、場所を問わずいつでも安心で快適な印刷・スキャンができる環境が求められる中、オフィス向け複合機では、2020年から販売している「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」において、低温定着トナーや段ボール梱包材の採用による環境負荷の低減や、サイバー攻撃に備えるため専門知識を有するIT担当者がいない企業でも複合機のセキュリティ強化を達成できる「おすすめセキュリティ設定」など、ユーザーのニーズに応える機能を強化しながらラインアップを拡充し、WW.シェアNo.1※2を維持しています。加えて、2024年には複合機の新ブランド「imageFORCE」を立ち上げ、高解像度を実現する新技術を搭載したカラー複合機「imageFORCE C7165F」を発売し、ラインアップを更に強化しました。製品の高い信頼性は市場でも認められ、独立評価機関として権威あるKeypoint Intelligence社 BLI(Buyers Laboratory)事業部から、最も信頼性の高いA3オフィス複合機ブランドとして選出されました。また当社は、クラウドにつながることで複合機の機能を拡張するサービスとして、「uniFLOW Online」を提供しています。クラウドサービス連携とセキュリティの強化に加え、コロナ禍以降定着しつつあるオフィスと自宅のハイブリッドワーク環境に向けて、オフィス複合機と家庭用インクジェットプリンターを「uniFLOW Online」を介して組み合わせた「Hybrid Work Print Standard」により、在宅勤務時でもオフィス同様のセキュリティとプリント管理機能を提供しています。さらに、複合機とクラウドストレージの連携を容易にする新サービス「Cloud Connector」の提供を開始しました。今後もますます高度化する顧客のニーズに応えるべく、製品群の更なる充実とソリューション対応力の強化を図り、更なる競争力の維持、向上に努めていきます。

インクジェットプリンターについては、低ランニングコストを実現する特大容量インクを搭載したインクジェットプリンター「GXシリーズ」を強化し、流通・小売りなどの大量出力業務や、保険・金融の窓口業務、小規模オフィスや在宅勤務など、働く現場を支援しています。家庭印刷用では、ユーザーのユースシーンに合わせて選択できるUI(ユーザーインターフェース)を採用し、ライフスタイルや働き方の多様化が進む中、家庭における日常生活や趣味の写真印刷、仕事・学習における文書印刷など、それぞれの活動に応じた印刷ニーズに応える使い勝手を向上させました。

 レーザープリンターについては、景気の先行きに対する懸念や金利上昇により、ディーラーやユーザーでは在庫を絞る動きが継続しています。また、長期的なトレンドとしてもスマートフォン、クラウド環境の普及等でユーザーのプリントスタイルが変化する中、プリント需要の減少による市場全体の成長鈍化が懸念されています。そのような環境下において、より付加価値の高い製品、特にカラー複合機の拡販に注力しています。更に、当社は各種の技術的イノベーションにより、顧客との一定期間にわたる契約型ビジネスを推進するなどの競争力強化と顧客価値向上をはかり、数量・シェア拡大を図っていきます。生産面では、サプライチェーンの多元化などを推進することにより引き続き製品の安定供給に努めていきます。

 

※12025年2月現在。(当社調べ)

※22025年2月現在。(当社調べ)

 

Ⅱ.メディカルビジネスユニット

 メディカルグループはCT、MRI、超音波、X線システムなどの「画像診断システム事業」、「ヘルスケアIT事業」、「体外診断事業」の3つの事業を展開し、世界190以上の国や地域でユーザーをサポートしており、患者さんに優しく確信度の高い医療の提供に貢献するとともに、医療の効率化、コスト削減を実現する医療システム・サービスを提供しています。

 コア事業である画像診断システム事業は、検出器や磁石、臨床アプリや当社のAI技術などの次世代の技術開発で商品競争力の強化を推進しています。長きにわたり日本でトップシェアを堅持しているCTでは、ディープラーニングを用いた「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を更に進化させた超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」と先進自動化技術により操作性を追求した「INSTINX」を搭載したフラッグシップCT「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」の販売をグローバルに展開しています。これにより医療現場の人手不足の解消につながる医療ワークフローの効率化や迅速かつ簡便なプロセスを提供し、評価をいただいています。また、次世代フォトンカウンティングCT(PCCT)の早期実用化に向けた共同臨床研究機関を新たに加え、臨床評価を加速しています。このような取り組みによりCTグローバルNO.1の達成と、メディカル事業領域におけるキヤノンブランドの確固たる地位を築き上げることを目指します。MRIシステムではマグネットをはじめとしたMRIの主要コンポーネントを全てキヤノン製に一新しPIQE、AiCEなどのさまざまなAIソリューションを搭載した「Vantage Galan 3T / Supreme Edition」の販売を開始しました。超音波診断システムでは、内視鏡メーカーとの協業の合意に基づき音波診断装置「Aplio i800 EUS」を欧州・日本国内・オセアニア地域で販売活動開始、またワイヤレスで多様な検査ニーズに対応可能な携帯型超音波診断装置「Aplio air(アプリオ エアー)」の国内受注を開始しており、事業領域の拡大を図っております。

 ヘルスケアIT事業では、強化されたCTやMRIなどの画像から、診断に有用な情報の表示・再構築・解析などが行える医用画像解析ワークステーション用プログラム「Abierto Vision」を販売開始しました。AIを活用した自動化技術や、直感的な操作性を実現するGUIを採用することで快適な画像解析ワークフローを実現します。

 体外診断事業においては、2023年に体外診断用医薬品・自動分析装置のリーディングカンパニーであるミナリスメディカル社の全株式を取得し、2025年2月にキヤノンメディカルダイアグノスティックス株式会社へ社名変更しました。キヤノンメディカルダイアグノスティックス社が保有する体外診断事業の多様なソリューションと当社が保有する自動分析装置領域における技術のシナジーにより、より高いニーズに応える付加価値の提供を目指します。

 

Ⅲ.イメージングビジネスユニット

 当社は、デジタルカメラと同様に、レンズや様々な関連アクセサリーを製造、販売しております。

 レンズ交換式デジタルカメラは、各社のミラーレスカメラと交換用レンズの新製品投入や販売促進活動の活発化により、市場は堅調に推移しました。当社は、世界市場において、2003年から22年連続で台数シェアNo.1※1を達成しました。2024年は、プロ・ハイアマチュア向けの主力モデル「EOS R5 Mark II」及び「EOS Rシステム」初のフラッグシップ機「EOS R1」を発売しました。新開発のエンジンシステムやディープラーニング技術の活用により、静止画・動画機能を進化させることで、プロ・ハイアマチュア顧客の高い要望にお応えするラインアップを構築しました。今後も「EOS Rシステム」の更なる拡充により、新規顧客獲得に努めてまいります。また、より一層の撮影領域の拡大を目指し、更なる高画質化、小型・軽量化、動画機能/ネットワーク機能の充実など、最先端の技術をベースとした新しい製品を提供することにより、今後も市場での競争力を高めてまいります。

 レンズ交換式デジタルカメラ用交換レンズでは、動画機能を強化したハイブリッドレンズやVRレンズなどの新製品を投入し、RFレンズのラインアップを拡充いたしました。また、EOS Rシリーズカメラ本体との相乗効果もあり、RFレンズの販売が伸長しました。

 コンパクトデジタルカメラでは、若年層を中心に需要が復調傾向にあり、市場は堅調に推移しました。当社では従来のカメラ製品の動画撮影機能をより充実させるとともに、手軽に本格的な動画撮影を楽しめる「PowerShot Vシリーズ」を展開しており、2023年にはシリーズ第一弾としてVlog(ビデオブログ)撮影に特化した「PowerShot V10」を発売しました。さらに2025年4月にはPowerShot Vシリーズのフラッグシップ機「PowerShot V1」を発売予定です。今後も需要が伸びている現行機種の増産体制を整えていくのと同時に、市場のニーズに対応した魅力ある新製品を拡充して参ります。

 コンパクトフォトプリンターでは、高画質な写真を手軽にプリントできる「SELPHY」シリーズが2024年で20周年を迎えました。「SELPHY」は、簡単な操作性・優れた携帯性・高画質プリント・高耐久性という強みを持ち合わせています。新たに発売した「SELPHY QX20」で更なる需要の獲得を目指してまいります。各地域で高いプレゼンスを獲得している「SELPHY CP1500」も含め、今後も市場を牽引してまいります。

 業務用映像制作市場では、OTT※2配信での視聴拡大による大量かつ質の高いコンテンツや、ストリーミング・ネット動画の普及による動画コンテンツへの需要が継続しており、また、制作機器の小型軽量化、制作の効率化、省人化の需要は引き続き見受けられます。スポーツや音楽ライブ等を中継する放送ライブ市場では、機材投資が継続しました。その中で当社は、RFマウントを採用し6Kフルサイズセンサを搭載した「EOS C400」「EOS C80」、RFマウント採用し通信機能を拡充したCINE-SERVO レンズ「CN7×17 KAS T/R1」、4K放送用カメラ対応ポータブルズームレンズ「CJ27e×7.3B IASE T」の市場導入を行いました。

 高度監視市場向けには、リアルタイムに映像を鮮明化する「映像鮮明化ソフトウェア」を発売しました。超高感度カメラシリーズで撮影した映像に対し、AI画像処理技術によるノイズ低減処理などを行うことで、視認性をさらに向上できます。また、2023年に発売した世界初※3のカラー撮影用SPADセンサー搭載超高感度カメラ「MS-500」は、高感度性能が評価され、高度監視市場以外の市場にも進出し始めています。

 ネットワークカメラ市場は、セキュリティ分野を中心に市場の成長が継続しており、さらに製造、物流、教育など、多岐にわたる分野へと拡大しています。当社は、ネットワークカメラやオンプレミス型録画製品に加え、多様な映像解析製品やクラウド録画サービスを提供し、顧客の課題解決に貢献しています。

 当社は、2015年にネットワークカメラ業界最大手のアクシス社をグループに迎えました。2024年は、世界的な部品供給不足から回復し力強い成長を見せており、約120の新製品を発売しました。また、ユーザーのニーズを汲み取り製品へ反映することを目的とし、現在、世界中に37ものアクシスエクスペリエンスセンター(AEC)を保有しています。

 産業向けには、DX推進のために3つの映像ソリューションを提供しています。「Vision Editionシリーズ」は、画像処理性能の向上や外部機器・AI機能との連携により、製造や流通における点検・検査の自動化を支援しております。また、周囲の3次元情報からカメラの位置姿勢を推定するVisual SLAM技術を用いた映像解析ソフトウェア「Vision-based Navigation Software」は、主にAutomated Guided Vehicle ("AGV") メーカー様向けに販売しております。さらに社会インフラ向けでは、画像を用いたコンクリート構造物のひび割れ検知ソリューションの機能アップを実施し、幅広い顧客層でご利用いただけるようになりました。

 3Dイメージングの領域においては、エンドユーザーが没入感ある体験を楽しめる空間コンピュータ等の視聴機器の市場が拡大し始めているため、「ボリュメトリックビデオ」によるスポーツ中継やエンターテインメントなどでの新しい映像表現とバーチャル3D空間でのデータの活用、そしてMR(Mixed Reality:複合現実)における現実映像とCGのリアルタイム融合を展開しております。MR製品として21年に小型軽量モデルの「MREAL S1」、22年に広視野角モデルの「MREAL X1」を投入し、製造業をはじめとする幅広い分野に3Dデータを活用したソリューションを提供し、顧客の課題解決に貢献しています。

 

※12025年3月現在。(当社調べ)

※2オーバーザトップの略。これまで地上波放送、衛星、ケーブルテレビ等で提供されていた映像コンテンツを、インターネットを介して視聴者に直接提供するメディアサービス。

※3カラー撮影用のSPADセンサー搭載カメラとして。2023年7月31日現在。(当社調べ)

 

Ⅳ.インダストリアルビジネスユニット

 半導体露光装置市場では、米中貿易摩擦やメモリー市場への投資延伸による影響が懸念されてきましたが、地政学上のリスクをきっかけとした半導体自国生産の加速や、パワーデバイス等への露光装置需要の広がりにより、設備投資は堅調に推移しました。後工程露光装置の市場においても、普及が進む生成AI等に必要な先端パッケージング向けの設備投資が旺盛であり、当社の装置も大きく販売台数を伸ばしました。

 当社では、多様化する半導体アプリケーションに柔軟に対応するため、顧客要望を製品開発の初期段階から反映させる「デザインイン」型のビジネススタイルが定着しております。高付加価値製品の開発も順調に進んでおり、急速に普及が進むIoT(Internet of Things)や車載デバイスなど幅広い分野に向けた製品を展開しております。業界最高水準の生産性と重ね合わせ精度を実現したKrFスキャナー「FPA-6300ES6a」、オプションラインアップを充実させた先端パッケージング向けi線ステッパー「FPA-5520iV」、シンプルな構造で回路パターンを形成するナノインプリントリソグラフィ技術を用いた半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」等により、更なる市場シェアの拡大を目指してまいります。また、市場で稼働する露光装置のサービス充実化に向けたソリューションプラットフォーム「Lithography Plus」では、装置のリアルタイム分析、異常時の自動復旧、最適な製造条件提案等により、当社の露光装置を導入しているユーザーの生産性向上に貢献してまいります。

 FPD露光装置市場は、新型コロナウイルス特需の反動をきっかけとしたパネル価格の下落等により、顧客の投資調整が継続しておりましたが、パネル需給バランスの改善とともに、緩やかに回復してまいりました。2025年以降も、ITパネルの有機EL化需要の進展に伴い、緩やかな需要拡大を見込んでおります。

 薄型の普及が進むパネル市場は今後、大型化、4K/8Kの高精細化に加え、有機ELに代表される高品位なディスプレイに移行していくと予想されています。当社は、高品位な65型パネルを一括露光することにより高い生産性を実現する第8世代ガラス基板向け露光装置「MPAsp-H1003T」、中小型ディスプレイ製造の更なる高精細化ニーズに応える第6世代ガラス基板向け露光装置「MPAsp-E903T」、高生産性と高精細化を両立したIT機器用ディスプレイ向け露光装置「MPAsp-H1003H」により、更なる市場シェア拡大を目指してまいります。

有機ELパネル製造装置市場においては、当社が圧倒的シェアを持つ中小型パネル向け有機EL蒸着装置の競争力を堅持すべく、次世代装置の開発を進めてまいります。

5【経営上の重要な契約等】

(1)当社が締結している技術供与契約

相手方の名称

国名

契約内容

契約期間

京セラドキュメントソリューションズ(株)

日本

電子写真に関する特許実施権の許諾

2002年4月1日から

対象特許の満了日まで

ブラザー工業(株)

日本

電子写真及びファクシミリに関する特許実施権の許諾

2009年6月27日から

対象特許の満了日まで

 

(2)当社が締結している相互技術援助契約

相手方の名称

国名

契約内容

契約期間

HP Inc.

米国

バブルジェットプリンターに関する特許実施権の許諾

1993年2月19日から

対象特許の満了日まで

International Business Machines Corporation

米国

情報処理システム製品及びその製造装置に関する特許実施権の許諾

2005年12月15日から

対象特許の満了日まで

Eastman Kodak Company

米国

電子写真及びイメージ・プロセス技術に関する特許実施権の許諾

2006年11月1日から

対象特許の満了日まで

セイコーエプソン(株)

日本

情報関連機器に関する特許実施権の許諾

2008年8月22日から

対象特許の満了日まで

 

6【研究開発活動】

 当社は創業当時から、業界をリードするコア製品を生みだす「コアコンピタンス技術(以下、コア技術)」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらには、商品化技術のベースとなる「価値創造基盤技術」を多様に組み合わせた「コアコンピタンスマネジメント」を展開して事業の多角化を行ってきました。

 コアコンピタンスマネジメントでは、コア技術はその進化にともない、他事業でも再活用できる基盤要素技術として蓄積されていきます。たとえば、カメラの人物認識というコア技術は、AI・データ統計解析という基盤要素技術として蓄積され進化し、現在では、多角化を担うメディカル事業の医療ITシステムに組み込まれて事業の強化に貢献しています。

 このコアコンピタンスマネジメントは、研究開発のプロセスのなかでは「マトリックス研究開発体制」を通して行われています。本社の研究部門とそれぞれの製品を担う事業部の開発部門がマトリックス型の体制を敷き、全社技術の利活用が可能な体系を構築しています。製品の競争力のもととなるコア技術は事業部の開発部門が主体ですが、本社の研究部門は、先行的なトレンドリサーチと基盤技術開発を担い、事業部のもつコア技術の先行的な開発につなげています。

 さらに、コア技術/基盤要素技術という「製品に入る技術」と、価値創造基盤技術という「製品を支える技術」が一体となって全社で利活用が可能なホリスティックな(技術を複合的に連携できる)開発環境が整っていることが、当社の研究開発の最大の特徴となっています。これにより、製品に入る技術と製品を支える技術が強い技術として、同時に製品開発に投入されることで、競争力のある製品を生みだしています。

 当事業年度におけるグループ全体の研究開発費は、337,348百万円であり、セグメントごとの主な研究開発の成果は次のとおりです。

 

 

Ⅰ.プリンティングビジネスユニット

 商業印刷向け大型複合機は、高速印刷を実現する、熱効率を高めた定着システム「Print on Demand-Surface Rapid Fusing(POD-SURF)」を搭載した「imagePRESS Vシリーズ」を2022年より販売しています。「V1350」では、135枚/分のシリーズ最高の高速印刷を実現、印刷物の短納期化に寄与し、効率的に大量出力したい印刷業などのお客様のビジネスを力強く支援します。「V1000」では、一冊の冊子で厚紙と普通紙が混在するような印刷でも用紙ごとに定着温度を切り替える頻度を抑制し、温度調整によるダウンタイムを削減しました。厚紙と普通紙で機器を分けずに、1台で高い生産性を維持した連続印刷が可能です。「V900」では、コンパクト設計でありながら、オプションユニットの拡張性と幅広い用紙対応力で多様な印刷が可能になりました。これまで上位機種でしか採用されていなかったオプションのインライン分光センサーで、高精度な色調整がボタン一つで実施可能になり、オペレーターの負荷軽減を実現します。ハードウエアだけでなく、リモート印刷管理アプリ「PRISMAremote Manager」を活用することで、印刷機から離れた場所でも用紙の補充タイミングや稼働状況をリアルタイムに把握可能です。用紙切れなどのエラーを事前に防止することで、ダウンタイムを削減し業務効率化を支援します。

 大判インクジェットプリンターは、基本性能の強化と印刷作業の省力化に取り組みました。新たに画質を向上させながら耐光性と光沢紙/半光沢紙での耐擦過性を強化した顔料インク「LUCIA PRO II(ルシアプロツー)」を開発しました。このインクを搭載したグラフィックアート市場向けの「PRO-6600/PRO-4600/PRO-2600」は、imagePROGRAFシリーズ最高の写真画質とプリントの長期保存を両立させました。また、広告などのグラフィックポスターの出力を担う出力センターや社内印刷部門向けの「GP-6600S/GP-4600S/GP-2600S」は、人目を引く鮮やかなポスターを高速出力するとともに、擦れによる印刷面のキズを抑制し、カット作業などの印刷後の加工や掲示を容易にしました。これらの機種と、CAD・ポスター市場向けの大判インクジェットプリンター「TZ-32000/TX-4200/TX-3200/TX-2200」は、用紙の給紙や種類の検知、残量の推計を自動で行う「スマートロール紙セット」機能を備え、給紙処理を高速化することでロール紙セットにかかる時間を従来機種より短縮しました。また、新開発のインクセンシングシステムにより、インク吐出状態を定期的にモニタリングし、インク着弾位置を自動で最適化して高画質を維持するなど、作業の効率化や生産性向上に寄与します。

 オフィス向け複合機は、「imageRUNNER ADVANCE DX シリーズ」において、業界トップレベル※1の標準消費電力量(TEC2018※2)の実現、小サイズ紙の出力生産性向上、さまざまな静音化の工夫による稼働音の低減などの、複合機としての本質性能向上に加え、セキュリティ面でも強固な暗号化機能を提供する最新規格への対応など、ラインアップの強化を進めてきました。2024年に新たに加わった「imageFORCE C7165F」は、光源にLEDマルチチップを採用した次世代露光デバイス「D² Exposure(ディー・スクエア・エクスポージャー)」を搭載し、4,800×2,400dpiの高品位プリントを実現しています。また、新搭載した紙種を判別する「メディアセンサー」による用紙に応じた最適な印刷設定の自動適応や、プリンタードライバー画面上のガイダンス機能による操作性向上により、高品位成果物の内製ワークフローを簡略化します。セキュリティ面では、AIを活用したネットワーク環境分析により、最適なセキュリティ設定を推奨することで、IT管理者 がいない企業でもセキュアな運用を支援します。高性能で使いやすい複合機とクラウド型MFP機能拡張プラットフォーム「uniFLOW Online」を介した多彩なデジタルサービスの組み合わせで、オフィス業務のデジタルトランスフォーメーションを強力にサポートします。

 ビジネス向けインクジェットプリンターは、低ランニングコストを実現する特大容量タンク製品シリーズを強化しています。在宅勤務に特化したフルフロントオペレーション対応の「GX2030/GX1030」、物流・薬局・小売りで使用される用紙の種類・サイズに幅広く対応し、1台で様々な印刷ができる「GX5530」、さらには、受付業務や窓口業務に特化したフロント操作のADF(Automatic Document Feeder)による対面業務の効率化を実現した「GX6530」により、さまざまな角度からビジネスを支援していきます。

 家庭用インクジェットプリンターは、仕事や趣味・学習などのさまざまなユースシーンに応える機能と使い勝手を向上させました。写真や文書印刷に適した「PIXSUS XK130/TS8830」、特大容量タンクを搭載し大量文書を印刷するユーザーに最適な「G3390」では、ユーザーのユースシーンに合わせて選択できるUI(ユーザーインターフェース)の採用により、それぞれの活動に適した使いたい機能に素早くアクセスできます。

 当社は、次世代の太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池の耐久性及び量産安定性を向上させることが期待される高機能材料を開発しました。ペロブスカイト太陽電池は軽量で曲げられるほか、室内光でも発電できるため、現在の主流となっているシリコン型と比較して設置の自由度が高く、設備投資コストの抑制も期待されています。新開発の高機能材料は、複合機やレーザープリンターの基幹部品である感光体の開発を通して培ってきた材料技術を応用することで、従来は難しかった高い光電変換効率を維持しながら光電変換層を厚く被覆できることが特長です。今後、さらなる技術開発を進め、2025年の生産開始をめざします。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、100,361百万円であります。

 

※1 オフィス向けカラー複合機(A4片面、毎分25-35枚の出力速度)において。2024年12月3日現在。

     オフィス向けモノクロ複合機(A4片面、毎分25-45枚の出力速度)において。2024年12月3日現在。(当社調べ)

※2 国際エネルギースタープログラムで定められた測定法による数値。

 

 

Ⅱ.メディカルビジネスユニット

 当社では国産としては初めてのフォトンカウンティング検出器を搭載したX線CTの医療機器としての認証を2022年12月に取得、国立がん研究センター先端医療開発センター・国立がん研究センター東病院と連携し、特定臨床研究として早期のフォトンカウンティングCT(PCCT)実用化に向けた研究を推進、2024年にはオランダのラドバウド大学、広島大外、ペンシルベニア大学でも、PCCTを用いた臨床研究を開始しました。当社は、共同臨床研究で得られた意見や評価を開発にフィードバックし、PCCTの開発研究を加速します。これまでにキヤノンが培ってきた数々の技術を結集したPCCTの早期実用化を通じてCTグローバルシェアNo.1を実現し、画像診断技術のさらなる発展に寄与してまいります。

超音波診断装置では「Aplio iシリーズ」のアプリケーション「Liver Package」を用いた非侵襲的な肝病態の評価法を検証する研究を支援しており、多施設共同研究「iLEAD (innovative Liver Elasticity, Attenuation, and Dispersion ultrasound study)」において、「Liver Package」の「Attenuation Imaging(ATI)」、「Shear Wave Dispersion(SWD)」、「Shear Wave Elastography(SWE)」から得られる情報が、肝臓の脂肪化、炎症、線維化と関連があることが確認され、研究成果に関する論文が国際学術誌「Radiology」に採択され臨床エビデンスとして掲載されました。

 このような新たな臨床価値を生み出す技術をベースにアップストリームマーケティングを強化するべく、米国クリーブランド市近郊に「Canon Healthcare USA,Inc.」を設立し、臨床ニーズをとらえたグローバルな製品開発につなげる活動を行っています。さらに米国クリーブランド・クリニック財団と戦略的研究パートナーシップに合意し、クリーブランド・クリニックの生物医学研究や臨床ケアにおける高い専門性と当社のイメージング技術を生かして共同研究を推進しています。また、DXを取り入れた、より効率的な販売活動についても進めています。新製品や販売情報を集中管理し、お客様にとって最適な情報やテクノロジーをタイムリーに提供するという「Canon Medical Academy構想」のもと、オランダとアメリカに新たにトレーニングセンターを稼働させ、プレゼンスの向上にも取り組んでいます。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、52,639百万円であります。

 

 

Ⅲ.イメージングビジネスユニット

 レンズ交換式デジタルカメラ(デジタル一眼レフカメラ及びミラーレスカメラ)では、プロ・ハイアマチュア向けの主力モデル「EOS R5 Mark II」及び「EOS Rシステム」初のフラッグシップ機「EOS R1」を発売しました。新開発のエンジンシステムやディープラーニング技術の活用により、静止画・動画機能を進化させ、プロ・ハイアマチュア顧客の高い要望に応えるラインアップを構築しました。

 また、「RFレンズ」では、動画機能を強化したハイブリッドレンズやVRレンズなどの新製品を投入し、ラインアップを拡充いたしました。

 「CINEMA EOS SYSTEM」と業務用ビデオカメラにおいて、マルチカメラワークフローを効率化するワイヤレスリモートアプリケーション「Canon Multi-Camera Control」の提供を開始しました。「CINEMA EOS SYSTEM」では、印象的な映像表現を可能とするRFマウント採用・6Kフルサイズセンサ搭載の「EOS C400」「EOS C80」、RFマウント採用・通信機能拡充のCINE-SERVO レンズ「CN7×17 KAS T/R1」を発売しました。放送レンズにおいて、運用性と機能性を高めた新開発のデジタルドライブユニットを搭載した4K放送用カメラ対応ポータブルズームレンズ「CJ27e×7.3B IASE T」の発売を開始しました。

 リモートカメラシステムでは映像制作から講義・会議まで用途に適した商品ラインアップを整備し、さらにリモートカメラコントローラー最上位モデル「RC-IP1000」の導入や最大200台までカメラ接続の一括管理が可能な「マルチカメラマネジメントアプリ」によりリモートプロダクションの利便性向上を実現しました。また、登録した画角へ繰り返し動作する「自動ループアプリケーション」や人物の動きに合わせて自動で被写体を追尾する「自動追尾アプリケーション」の機能強化など、映像制作の効率化・省人化や講義・会議の映像コミュニケーションを支援します。

 高度監視市場向けに発売した「映像鮮明化ソフトウェア」は、カメラメーカーとして蓄積してきた膨大な画像データベースと画像処理の知見をもとに、独自開発したディープラーニング画像処理技術を採用しています。カメラ単体では避けられない低照度環境下などで発生するノイズに対して、さらなる低減処理を行うことが可能です。また、SPADセンサーの特性を活かすための開発を続けており、SPADセンサー搭載の超高感度カメラ「MS-500」をアップグレードして明暗差が大きい環境やより強いノイズ低減が求められる環境に適応できるようにしました。同時にネットワーク接続による制御や映像配信も可能とし、より多様なユーザーニーズに対応できる製品になりました。

 製造や流通における点検・検査の自動化を支援する映像解析ソフトウェア「Vision Edition」のバージョンアップ版をリリースしました。大規模遠隔モニタリングに対応するため、マルチカメラ接続機能を拡張し、ビデオ管理ソフトウェア

「Milestone XProtect」からの画像取得も可能です。また、画像添付可能なメール通知機能やAI画像処理との連携機能により、製造工程や物流拠点など、さまざまなシーンで顧客のDX推進に貢献しております。

 3Dイメージングの領域においては、「ボリュメトリックビデオシステム」によりスポーツ放送で実際のカメラ位置にとらわれない自由な視点からの映像を展開しました。3Dコンテンツの撮影から編集までをワンストップで実現した「ボリュメトリックビデオスタジオ-川崎」では、ミュージックビデオなどの映像制作やAR/VRの3Dコンテンツ制作で実績を積み重ねました。またMR(Mixed Reality:複合現実)では、製造業をはじめとして幅広い分野に3Dデータを活用したソリューションを提供してまいります。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、101,200百万円であります。

 

 

Ⅳ.インダストリアルビジネスユニット

 半導体露光装置においては、ハンコのように押し付けるシンプルな仕組みで微細な回路パターン形成を実現するナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」により、最先端の半導体デバイス製造に貢献します。この装置は、投影露光装置のように光源の波長による微細化を必要としないため、消費電力やCO2の削減にも貢献しています。また、高透過率と高耐久性が特徴の新投影レンズを採用したi線ステッパー「FPA-3030i6」により、今後も成長が見込まれるパワーデバイス、グリーンデバイスなどの製造をサポートします。

 FPD露光装置においては、第6世代ガラス基板向け「MPAsp-E1003H」により、ディスプレイパネルの使用用途拡大に貢献しています。この装置は、65型パネルを一括で露光可能な第8世代ガラス基板向け投影光学系を搭載したことで、一度に露光できる幅を約1.2倍に拡大、高解像力と高生産性を両立しました。さらに車載用途に使われる横長の大型特殊ディスプレイも繋ぎ目なく2ショットで露光できるため、量産時の生産性向上に寄与します。

 計測機器分野においては、判別が困難な黒色プラスチック片とその他プラスチック片を高精度に選別する「トラッキング型ラマン分光技術」を用いたプラスチック選別装置を開発しました。再利用できるプラスチック量の最大化により、サーキュラーエコノミーの構築に寄与します。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、30,559百万円であります。

 

 

 また、基礎研究等のその他及び全社に係る研究開発費は52,589百万円であります。

 

 注:製品名は日本国内での名称です。