第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社グループは2010年2月1日にCHIグループ株式会社として、これからの日本の礎となる知の生成と流通に貢献することを共通の使命と考える丸善株式会社と株式会社図書館流通センターが、共同株式移転により経営統合し設立いたしました。その後、以下に掲げる価値観を共有する、株式会社ジュンク堂書店、株式会社雄松堂書店との株式交換による経営統合、各事業領域における体質強化を図るための分社化、さらには電子書籍事業へ対応するための新会社設立などを経て、2011年5月1日には、主要市場である出版流通市場における一層のブランド浸透のため、丸善CHIホールディングス株式会社に商号変更を行いました。

さらに、より効率的な運営とブランド力の発揮による成長と収益拡大を図るため、書店事業において、2015年2月1日付で丸善書店株式会社と株式会社ジュンク堂書店を合併(株式会社丸善ジュンク堂書店に商号変更)、大学等教育・研究機関及び研究者向け事業において、2016年2月1日付で丸善株式会社と株式会社雄松堂書店を合併(丸善雄松堂株式会社に商号変更)しております。

これらの体制のもと、当社グループでは、次のような経営理念を各事業会社が共有し、知を求めるすべての人々と、知を提供する出版流通の接点の拡大を目指します。

①価値観:知は社会の礎である

私たちは、知が人に与える力を信じます。そして時代に即した最良の知のグローバルな循環が21世紀の創発的な日本の社会の礎であると考えます。

②グループビジョン:知の生成と流通に革新をもたらす企業集団となる

私たちは、「知は社会の礎である」という価値観を共有し、教育・学術機関、図書館、出版業界等と連携し、最良な知の生成・流通と知的な環境づくりにおいて、革新的な仕組みを創出、提供することにより、業界の活性化をリードし、日本の社会に貢献する企業集団となることを目指します。

 

(2)中長期的な会社の経営戦略

「中期経営計画」では目標とする経営指標達成のために、「グループ資産の活用促進」、「成長領域の創出」、「収益構造の転換」の3点を基本方針とし、これらの取り組みを通じ、変化と多様性の時代においても持続的成長を可能とする経営基盤の構築を行ってまいります。戦略及び計画の詳細については、「(4)経営環境及び優先的に対処すべき課題」及び2024年3月14日公表の「中期経営計画」をご参照ください。

 

(3)目標とする経営指標

当社グループは、2024年3月に2024年度を初年度とする5カ年の経営の指針として「中期経営計画」を公表いたしました。この中で当社は、経営理念である価値観及びグループビジョンのもと、「知の生成と流通に持続的に貢献するための成長力と資本効率の向上」を目指し事業変革に取り組むことで、2029年1月期には、売上高2,000億円、営業利益85億円、親会社株主に帰属する当期純利益50億円を目標としております。また、資本コストと株価についても、具体的な経営指標としてROE(自己資本利益率)は2029年1月期に7.5%以上を目標とし、PBR(株価純資産倍率)については早期に1倍以上を目指す計画としております。

 

(4)経営環境及び優先的に対処すべき課題

当社グループを取り巻く市場環境は、企業による設備、人材への投資や、インバウンド消費の拡大により、ゆるやかな景気回復が見られる一方、金融市場における金利の上昇、エネルギー価格や物価の上昇により実質賃金が3年連続マイナスになるなど、厳しい環境が続いております。また、米国に端を発する保護主義的経済政策の台頭による世界経済の不確実性の高まりなど、市場環境はさらに不透明感を増していくことが想定されます。

このような状況下、中長期的な経営課題への対策、様々な経営リスクに対し、より積極的なグループマネジメント体制の充実が求められると捉え、当社グループでは、2024年度より「中期経営計画(2024年度~2028年度)」を開始しております。

計画2年目にあたる次期においても、グループ協業による事業構造の転換を目指し、新規事業の開発を中心に人的資本経営の推進など様々な取り組みを進めてまいります。

 

事業セグメント別の取り組みは次のとおりです。

 

・文教市場販売事業

文教市場販売事業セグメントでは、AI技術をはじめとするテクノロジーによる急激な技術革新が常態化するとともに、人口減少や環境問題をはじめ、様々な社会課題が輻輳化し先行きを見通すことが難しい時代において、一人一人が生涯にわたり主体的に学び続けることができる環境や機会の提供は、当社グループが注力すべき領域と捉えています。

当社グループでは、学校や研究機関、企業に対し、書籍やデジタルを活用した多様な学びの機会の提供を進めてまいります。GIGAスクール構想をはじめ学校教育分野で進むデジタル化に対し、電子書籍・電子教材・電子図書館システムを活用した個々の状況や多様なニーズに即した学びの機会の提供を進めてまいります。高等教育機関や研究機関、企業に対しては、急速に高度化していく学術専門情報へのニーズに対応し、学術論文や関連情報へのアクセスの利便性向上、教育・研究機関の運営や環境づくりへの支援、さらには人的資本経営の高まりに対応した企業研修のコンテンツ提供などに注力してまいります。

 

・店舗・ネット販売事業

店舗・ネット販売事業セグメントでは、リアル店舗とネットサービスを融合した顧客体験価値の充実を進めてまいります。

リアル店舗におきましては、これからも地域における大型書店として提供価値を守りつつ、書籍の持つ情報やコンテンツに対する幅広いニーズに応える商品やサービスを拡充し、リアル店舗の強みを活かした購買体験を提供してまいります。具体的には、当社オリジナルである絵本の世界をモチーフにしたグッズショップ「EHONS」やホビー関連グッズのリユースショップ「駿河屋」などのインショップによる複合業態化や、書店ならではのオンラインイベントの発信により、当社店舗ならではの魅力を打ち出し、新たな顧客層の獲得により、収益力を向上してまいります。

ネット販売事業では、当社グループの親会社である大日本印刷株式会社が運営するネット書店「honto」が紙の本の通信販売を終了したのを機に、自社運営による「丸善ジュンク堂書店ネットストア」を2024年7月に開設し、本の取り置き、取り寄せサービスから営業を開始いたしました。これにより、デジタル化された顧客接点を自社で確保することが可能となり、今後、購買情報を活用した生活者とのコミュニケーションを通じ、文具・雑貨などの商品開発や、新しいサービスの提供、店舗とネットの相互送客による新たな顧客接点を創出してまいります。

 

・図書館サポート事業

図書館サポート事業セグメントでは、地域の活性化や、社会課題、住民ニーズに即したサービスの充実など公共図書館に対する期待や役割に変化・拡大が求められる一方、業務効率化や、人件費の高騰、運営人材不足など様々な課題への対処が必要となっております。当社グループでは、業務の効率化だけにとどまらず、ロボットやAIを活用した図書館の運営についても、パートナー企業と連携した実証実験を進めておりますが、優秀な人材を継続的に確保していくことは、引き続き経営上の重要課題と認識し、採用の強化、働く環境の改善、人材育成の充実など多角的なアプローチにて取り組んでおります。さらに図書館受託運営で培ったノウハウを、他の公共文化施設の運営に活用するなど、サポート事業範囲の拡大を進めてまいります。

 

・出版事業

出版事業セグメントでは、児童書・絵本分野と専門書分野における当社グループの豊富なコンテンツを、デジタル技術やIP(Intellectual Property/知的財産)関連事業により、その利活用を拡大することで収益性の向上を引き続き進めてまいります。専門書におきましては、教育現場のデジタル活用に対応した、書籍とデジタルコンテンツの組み合わせなどメディアミックスの取り組みを積極的に進め、付加価値の高いコンテンツ開発・提供を進めてまいります。

 

・その他事業

その他事業セグメントでは、保育士派遣事業は子育て支援へのニーズを背景に堅調に推移し、今後も成長が見込まれております。また、2023年10月にサービスを開始した会計・税務書籍読み放題サービス「丸善リサーチ」は、1年足らずで会員数が5,000人を超え、利用者はもとより書籍を掲載する出版社からも高い評価を得ております。今後も、その他事業セグメントにおいては、当社グループの既存事業やブランドを活用しつつ、当社グループの成長に不可欠な新しい事業領域を開拓していくために、М&Aを含めた投資を継続してまいります。

 

・人的資本経営・サステナビリティの推進

これらの施策を通じて成長と拡大を進めるためには、その根幹となる人的資本のさらなる活性化に取り組み、誰もが活躍し成長しつづける環境づくりを継続していく必要があります。

そのため、当社グループでは、グループ横断型のプロジェクトや研修の充実、新規事業開発に取り組み、実践的に学ぶ場を積極的に生み出し、多様な資質や価値観を持つ人材を育成してまいります。

サステナビリティの推進については、当社グループの事業には地域と密接に関係するものが多く、地域社会のニーズを的確に捉えて事業を推進することが重要であると考えます。地域の社会課題に解決をもたらし、文化的な豊かさをもたらすことが継続的にできる企業集団として、これに取り組む責任を一人一人が理解し活動できるよう、「サステナビリティ基本方針」のもと「6つのマテリアリティ(重要課題)」を選定しております。経営理念として掲げる「知は社会の礎である」のもとに、あらゆる人に知や学びとの接点を提供できる環境づくりを推進してまいります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

丸善CHIホールディングスグループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において丸善CHIホールディングスグループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

当社グループは、SDGs及び持続的な企業価値の向上のため、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置しております。本委員会は、取締役会が指名する当社取締役を委員長とし、当社グループの各主要事業会社の社長が指名した者をメンバーとしており、方針や課題及び取組みの推進などについて議論しております。

 

(2)戦略

当社グループは、「知は社会の礎である」という共通の価値観のもと、「知の生成と流通に革新をもたらす企業集団となる」というグループビジョンを掲げ事業の推進を行っております。当社グループでは、知の生成や流通に関わるみなさまと共に、知と知を求めるすべての人々の接点を拡大することを通じ、持続可能な社会の形成に貢献する取組みを行うことをサステナビリティ基本方針として掲げております。

この基本方針のもと、当社グループでは以下の「6つのマテリアリティ(重要課題)」を定め、これらの領域に、とくに注力してまいります。

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1 教育・学習機会の促進への対策

・子どもの持つ能力を引き出す教育環境やコンテンツの提供

・電子出版物や教材の普及

・図書館サービスの発展と持続可能な運営

2 知のインフラ構築とイノベーション推進

・電子コンテンツの充実とバリアフリー環境の提供

・インターネットやAIの進化による誤情報の氾濫への対応

3 知の業界・地域・社会とのパートナーシップ

・書店の減少への対策

・情報・教育の地域格差の是正

・地域に根差した教育環境の実現

4 人類の尊厳と多様性の尊重

・ダイバーシティ&インクルージョンの実現

5 安全で活力ある職場の実現

・意欲とパフォーマンスの向上

・少子高齢化・人口減少に伴う図書館運営の担い手の不足への対応

6 地域環境の保全と気候変動への対策

・資源循環・廃棄物削減

・環境経営への取組み

 

<人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針>

当社グループでは、サステナビリティへの取組みや中期経営計画の施策実現にあたっては、全ての従業員にとって働きやすく、活力のある職場環境づくりや、従業員一人ひとりの成長に資する体制構築が不可欠であると考えております。人材育成方針としましては、特に新規事業開発に携わる人材、グローバルな視野と多様性を重視した人材など、次世代を担う人材の継続的な輩出を目指します。社内環境整備方針としましては、ダイバーシティ&インクルージョンの実現の一環として、男女が力を合わせ、平等な環境のもとに、それぞれの力を発揮できる職場環境の実現や安心して積極的に自らの個性を発揮できる職場環境・風土の醸成を進めてまいります。また、階層別研修、スキル研修など、個々の従業員の能力・スキルの向上に資する研修体制の充実に注力してまいります。

 

(3)リスク管理

当社は、当社グループのリスク管理及びコンプライアンス等に関連する課題に取り組むため企業倫理行動委員会を設置し、サステナビリティを含むリスクマネジメントとして、毎年リスクの分析・評価を行っております。また、機会については上記戦略に記載の「6つのマテリアリティ(重要課題)」に織り込み取り組んでまいります。

 

(4)指標及び目標

当社グループは、サステナビリティに関する取組みについて、中期経営計画にて2028年度までに着実に実行するため、主要事業会社において具体的な指標と目標を設定しています。

 

<人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針に係る指標>

当社グループでは、上記「(2)戦略」において記載した、人材の多様性の尊重を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針に係る指標については、連結グループに属する全ての会社では行われてはいないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、次の指標に関する目標及び実績は、提出会社及び主要な事業を営む連結子会社(丸善雄松堂㈱、㈱図書館流通センター、㈱丸善ジュンク堂書店、丸善出版㈱)の内容を記載しております。なお、目標については中期経営計画の初年度であった前事業年度(2023年)に算出した当該5社の目標比率の平均値のままとし、実績については当該5社の実績値の合計から算出しております。

 

管理職に占める女性労働者の割合

名  称

管理職に占める女性労働者の割合

目標

2028年度

2024年(当事業年度)

実績

2023年(前事業年度)

実績

丸善CHIホールディングスグループ

30.6

14.9

18.8%

 

男性労働者の育児休業取得率

名  称

男性労働者の育児休業取得率

目標

2028年度

2024年(当事業年度)

実績

2023年(前事業年度)

実績

丸善CHIホールディングスグループ

80.0

64.3

60.0%

当事業年度の管理職に占める女性労働者の割合については、前事業年度の実績を下回る状況となりましたが、これは、グループ会社の一部において、当事業年度より定年後引き続き雇用する従業員の管理職者を含めて算出したことによるもので、その中の男性管理職者比率が高いことが要因です。

当社グループでは、引き続きダイバーシティ&インクルージョンの実現の一環として、管理職に占める女性労働者の割合と男性労働者の育児休業取得率に関する目標数値の実現に向けて注力いたします。働く意欲のある従業員が性差にとらわれず活躍できる活力ある労働環境や休暇を取得しやすい労働環境を醸成するべく、組織風土の変革を推進し、層別研修やスキル研修など多様な働き方を想定した研修体制の強化・拡充、社内規程の整備・改定などを進めることにより、従業員一人ひとりの能力・スキルの向上やワークライフバランスの充実を図ります。

また、健康経営の基本となる従業員の健康診断受診率の向上を図り、従業員がより良いパフォーマンスを発揮できるよう、健康増進を図る取組みを強化してまいります。当事業年度においては、主要グループ会社でオフィス移転やリノベーションを行い、従業員が安心・安全な環境で効率的に働くことができるよう職場環境の向上を図りました。また、オフィス移転により主要グループ会社2社の拠点が集約され、グループ会社間の連携が強化いたしました。中期経営計画の目標達成に向け、さらに人的交流を活発化し、シナジー効果を高めてまいります。

 

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策は、以下のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

①官公庁及び大学等の予算動向及び消費動向等

当社グループは、主に官公庁が運営する公共図書館・学校図書館市場及び大学を柱とする教育・学術市場への書籍の販売、書誌データの作成・販売、図書館運営業務の受託を行っており、官公庁または大学の予算動向に影響を受けております。特に官公庁の予算は政府及び地方自治体の政策によって決定され、同様に大学の予算は文部科学省等の基本政策あるいは各種補助支援政策に影響を受けて決定されるため、今後、官公庁または大学の予算が削減された場合、想定以上の受注競争の激化によって当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

また店舗・ネット販売事業においては、気候や景気の状況、競合他社の出店状況等による消費動向の変化によって収益に影響を及ぼす可能性があります。

②為替の変動

当社グループが取り扱う輸入書籍及び外国雑誌は、為替変動に連動した販売価格を設定しております。輸入書籍は一定期間の為替相場をもとに、また、外国雑誌は年度契約が基本であり、年度ごとに為替相場を反映するように設定しております。一方、仕入では円建て取引を行うほか、為替予約を実行し、販売価格に対応した為替予約を行うことで過度に為替変動の影響を受けないことを基本としております。しかし、完全に為替リスクを排除することは困難であり、当該リスクが顕在化する可能性は常にあるものと認識しており、短期間に急激な為替変動が起こった場合には収益への影響を受ける懸念があります。

③法的規制等

・再販売価格維持制度について

当社グループにて製作または販売している出版物は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「独占禁止法」といいます。)第23条第4項の規定により、再販売価格維持制度(以下「再販制度」といいます。)が認められる特定品目に該当しており、書店では定価販売が認められております。

独占禁止法は、再販制度を不公正な取引方法として原則禁止しておりますが、出版物が我が国の文化の振興と普及に重要な役割を果たしていることから、公正取引委員会の指定する書籍、雑誌及び新聞等の著作物の小売価格については、例外的に再販制度が認められています。

公正取引委員会が、2001年3月23日に発表した「著作物再販制度の取扱いについて」によると、著作物再販制度については、当面、残置されることは相当であるとの結論が出されております。しかし併せて業界に対し、再販制度を維持しながらも消費者利益の向上が図られるように現行制度の弾力的運用を要請しています。従いまして、今後再販制度が廃止された場合、あるいは今後拡大が想定される電子書籍の新しい動向によっては、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクが直ちに顕在化する可能性については認識しておりませんが、当社グループではこれら法規制や制度をめぐる議論の動向に注視してまいります。

・出版物の委託販売制度について

当社グループにおける出版事業では、書籍業界の商慣習に従い、当社グループが取次または書店に配本した出版物(主として書籍・雑誌)のほとんどについては、配本後、約定した委託期間内に限り、返品を受け入れることを取引条件とした委託販売制度をとっております。

書籍の委託には、主として次の2種類があります。

ⅰ)新刊委託

新刊時または重版時の書籍が対象となり、書籍取次店との委託期間は6ヶ月間であります。

ⅱ)長期委託

既刊の書籍をテーマあるいは季節に合わせてセット組みしたもの、あるいは全集物が対象となり、委託期間は、ケース・バイ・ケースでありますが、12ヶ月になることもあります。

定期刊行誌(雑誌)の委託期間は、次のとおりです。

月刊誌   発売日より3ヶ月間

当社グループは、委託販売制度による出版物の返品による損失について、会計上、出版事業に係る一定期間の納品金額に返品率・原価率等を乗じた返金負債・返品資産を計上して売上高及び売上原価から控除しておりますが、返品率の変動は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクが直ちに顕在化する可能性については認識しておりませんが、当社グループでは返品率の変動を注視し、リスクの低減を図ってまいります。

④情報セキュリティ及び個人情報保護

コンピュータネットワークや情報システムの果たす役割が高まり、情報セキュリティ及び個人情報保護に関する対応は、事業活動を継続する上で不可欠となってきております。これに対して、近年ソフト・ハードの不具合やコンピュータウィルスなどによる情報システムの障害、個人情報の漏えいなど、さまざまなリスクが発生する可能性が高まってきております。万一これらの事故が発生した場合には、信用失墜による収益の減少、損害賠償等による予期せぬ費用が発生し、事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクが顕在化する可能性は常にあるものと認識しており、当社グループは、情報セキュリティ及び個人情報保護を経営の最重要課題の1つとして捉え、体制の強化や社員教育などを通じてシステムとデータの保守・管理に万全を尽くしております。

⑤新型感染症によるパンデミック

昨今の新型コロナウイルス感染症の流行拡大をはじめ、新型インフルエンザ等の感染症の世界的流行など、事業活動の停止や生活様式に変革をもたらすような事態が発生した場合は、当社グループの事業活動及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、新型感染症の発生時などには状況に応じて店舗や事業所における感染防止対策の徹底や、在宅勤務を可能にするテレワークによる感染機会の抑制に対応した制度の導入などにより、グループ会社内外のステークホルダーへの感染防止策を講じてまいります。

⑥大規模災害の発生

大地震、津波、台風、洪水など、事業活動の停止及び社会インフラの大規模な損壊や機能低下などにつながるような大規模災害などが発生した場合は、当社グループの事業活動の復旧及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。当該リスクが顕在化する可能性は常にあるものと認識しております。当社グループでは、店舗・物流を含む事業拠点の主要施設には防火、耐震対策などを実施しており、災害などによって事業活動の停止あるいは商品供給に混乱をきたすことのないよう努めております。また、大規模地震等の自然災害に備え、コンピュータシステム及び通信設備等の重要機器は耐震構造と自家発電設備を備えたビルに収容し、データのバックアップ等の対策も講じております。さらに各種保険によるリスク移転も図っております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

業績等の概要

(1) 業績

当連結会計年度の業績につきましては、文教市場販売事業における教科書などの書籍販売は減少したものの、教育・研究施設、図書館などの設計・施工における大型案件の完工増加、図書館サポート事業及び総合保育サービス事業(その他事業)が順調に推移した結果、売上高は1,655億57百万円(前期比1.6%増)と増収となりました。利益面は、人件費及び諸物価高騰による販管費の増加により営業利益は33億95百万円(前期比6.1%減)、経常利益は34億54百万円(前期比6.1%減)と減益となりましたが、固定資産売却益を主として特別利益が増加したことから、親会社株主に帰属する当期純利益は39億8百万円(前期比78.1%増)と大幅な増益となりました。

 

(2) 財政状態の状況

当連結会計年度末の資産の残高は、前連結会計年度末に比べ38億37百万円増加し、1,327億33百万円となりました。

当連結会計年度末の負債の残高は、前連結会計年度末に比べ1億38百万円減少し、809億91百万円となりました。

当連結会計年度末の純資産の残高は、前連結会計年度末に比べ39億75百万円増加し、517億42百万円となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」といいます。)の残高は283億11百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動により獲得した資金は、30億8百万円(前期比26億81百万円の収入減)となりました。これは主に、売上債権の増加額、法人税等の支払額等によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動により獲得した資金は、17億45百万円(前期比28億58百万円の収入増)となりました。これは主に、有形固定資産の売却による収入等によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動により支出した資金は、24億24百万円(前期比59百万円の支出減)となりました。これは主に、社債の償還による支出がなく、長期借入れによる収入が増加したこと等によるものであります。

 

生産、受注及び販売の実績

(1) 生産実績

当社グループは、一部受注生産を行っておりますが、売上原価に占める生産実績割合の重要性が乏しいため、記載を省略しております。

 

(2) 受注実績

当社グループは、一部受注生産を行っておりますが、販売実績に占める受注販売実績割合の重要性が乏しいため、記載を省略しております。

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

文教市場販売事業

46,819

0.7

店舗・ネット販売事業

66,085

△0.2

図書館サポート事業

37,682

5.7

出版事業

3,641

△5.9

その他

11,328

6.2

合計

165,557

1.6

(注) 1. セグメント間取引については、相殺消去しております。

2. 主要な販売先については、総販売実績に対する販売割合が10%以上の相手先がないため記載を省略しております。

 

財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

(1) 経営成績の分析

当連結会計年度(2024年2月1日~2025年1月31日)におけるわが国経済は、雇用・所得環境の改善が進むなか、インバウンド需要の増加もあり、緩やかな回復基調で推移しました。一方、地政学リスクの長期化、原材料や燃料価格を含む物価の高騰、為替相場の変動など、先行きは不透明な状況が続いております。

このような状況のなか、当社グループは中期経営計画を策定し、これまで培ってきた「グループ資産の活用促進」、市場の環境変化に対応した新しい事業の開発による「成長領域の創出」、既存事業の安定化と成長事業への投資により事業ポートフォリオの転換を図る「収益構造の転換」を基本方針として、知の生成と流通に持続的に貢献するための成長力と資本効率の向上に取り組んでおります。

当連結会計年度の業績につきましては文教市場販売事業における教科書などの書籍販売は減少したものの、教育・研究施設、図書館などの設計・施工における大型案件の完工増加、図書館サポート事業及び総合保育サービス事業(その他事業)が順調に推移した結果、売上高は1,655億57百万円(前期比1.6%増)と増収となりました。利益面は、人件費及び諸物価高騰による販管費の増加により営業利益は33億95百万円(前期比6.1%減)、経常利益は34億54百万円(前期比6.1%減)と減益となりましたが、固定資産売却益を主として特別利益が増加したことから、親会社株主に帰属する当期純利益は39億8百万円(前期比78.1%増)と大幅な増益となりました。

 

セグメント別の業績は次のとおりであります。

 

[文教市場販売事業]

当事業は以下の事業を行っております。

1.図書館(公共図書館・学校図書館・大学図書館)に対する図書館用書籍の販売、汎用書誌データベース「TRC MARC」の作成・販売及び図書装備(バーコードラベルやICタグ等の貼付等)や選書・検索ツール等の提供

2.大学などの教育研究機関や研究者に対する学術研究及び教育に関する輸入洋書を含む出版物(書籍・雑誌・電子ジャーナル、電子情報データベースほか)や英文校正・翻訳サービスをはじめとする研究者支援ソリューションの提供

3.教育・研究施設、図書館などの設計・施工と大学経営コンサルティングをはじめとする各種ソリューションの提供

4.大学内売店の運営や学生に対する教科書・テキストの販売等

 

当連結会計年度の業績につきましては、教科書などの書籍販売は減少したものの、教育・研究施設、図書館などの設計・施工における大型案件の完工増加により、売上高は468億19百万円(前期比0.7%増)、営業利益は32億50百万円(前期比0.6%増)と増収増益となりました。

 

[店舗・ネット販売事業]

当事業は、主に全国都市部を中心とした店舗網において和書・洋書などの書籍をメインに、文具・雑貨・洋品まで多岐にわたる商品の販売を行っております。

店舗の状況といたしましては、2024年3月にフランチャイズ加盟している株式会社駿河屋BASEが展開するホビーショップと書店のコラボショップ「駿河屋 梅田茶屋町店」「駿河屋 天文館店」、9月に「ジュンク堂書店 エミテラス所沢店」、10月に「丸善 鹿児島山形屋店」「丸善 リバーウォーク北九州店」、11月に「駿河屋 名古屋栄店」を開店、また2月に「戸田書店 富士宮店」、4月に「ジュンク堂書店 弘前中三店」、5月に「丸善 アトレ吉祥寺店」、8月に「丸善 丸広百貨店東松山店」、9月に「ジュンク堂書店 柏モディ店」を閉店した結果、2025年1月末時点の店舗数は111店舗となっております。(うち1店舗は海外店(台湾)、19店舗は「丸善(MARUZEN)」「ジュンク堂書店」の店舗名ではありません。)

当連結会計年度の業績につきましては、「駿河屋」を3店舗、「絵本の世界を楽しむことのできる空間」をコンセプトとした「EHONS」を5ヶ所(池袋・広島・吉祥寺・静岡・大阪阿倍野)、2025大阪・関西万博オフィシャルストアを9ヶ所(大阪梅田・大阪難波・京都・神戸三宮・広島・福岡・那覇・札幌・名古屋)、株式会社バンダイのカプセルトイブランド「ガシャポン」の専門店「ガシャポンバンダイオフィシャルショップ」(鹿児島天文館・高松・名古屋)及び「本屋さんのガシャポンのデパート」(高松)をオープンするなど高利益率商品を取り扱う新形態の店舗展開に取り組んだ結果、売上高は660億85百万円(前期比0.2%減)と減収となりましたが、営業利益は3億78百万円(前期比6.8%増)と増益となりました。

 

[図書館サポート事業]

当事業は、図書館の業務効率化・利用者へのサービス向上の観点から、カウンター業務・目録作成・蔵書点検などの業務の請負、地方自治法における指定管理者制度による図書館運営業務、PFI(Private Finance Initiative)による図書館運営業務及び人材派遣を行っております。

当連結会計年度の業績につきましては、図書館受託館数は期初1,806館から34館増加し、2025年1月末時点では1,840館(公共図書館624館、大学図書館246館、学校図書館他970館)となり堅調に推移しました。

その結果、当事業の売上高は376億82百万円(前期比5.7%増)と増収となりましたが、人件費等の原価増加の影響により、営業利益は29億23百万円(前期比5.0%減)と増収減益となりました。

 

[出版事業]

当事業は、『理科年表』をはじめとする理工系分野を中心とした専門書・事典・便覧・大学テキストに加え、絵本・童話などの児童書、図書館向け書籍の刊行を行っております。また医療・看護・芸術・経営など多岐にわたる分野のDVDについても発売を行っております。

当連結会計年度につきましては、専門分野として『離散モース理論』『廻り道の進化 生命の問題解決にみる創造性のルール』『イラストレイテッド ハーバー・生化学 原書32版』『液体力学の計算手法 原著4版』『西洋中世文化事典』、児童書として『えがかわるしかけえほん びっくり クリスマス』『にじいろフェアリーしずくちゃん10』『はじめまして、サンタさん』『いたいの、とんでけ!くまのこちゃん』など、合計新刊271点(前年241点)を刊行いたしました。

当連結会計年度の業績につきましては、教科書の売上減少及び新刊刊行の遅延に加え、原価増の影響により売上高は36億41百万円(前期比5.9%減)と減収となり、利益面も1億7百万円の営業損失(前期1億14百万円の営業利益)となりました。

 

[その他]

当事業は、書店やその他小売店舗を中心に企画・設計デザインから建設工事・内装工事・店舗什器・看板・ディスプレーなどのトータルプランニング(店舗内装業)に関わる事業、図書館用図書の入出荷業務、Apple製品やパソコンの修理・アップグレード設定等の事業(株式会社図書館流通センターの子会社であるグローバルソリューションサービス株式会社による)、総合保育サービス(株式会社図書館流通センターの子会社である株式会社明日香による)、税務・会計・M&A領域において電子化された専門書籍・雑誌を横断的に検索・閲覧できるサービス(丸善リサーチ)を行っております。

当連結会計年度の業績につきましては、総合保育サービス事業及びPC修理に関する事業が順調に推移した結果、売上高113億28百万円(前期比6.2%増)、営業利益は3億54百万円(前期比176.2%増)と増収増益となりました。

 

(2) 財政状態の分析

資産、負債及び純資産の状況

(資産)

当連結会計年度末の総資産の残高は、前連結会計年度末に比べ、現金及び預金の増加等により38億37百万円増加し、1,327億33百万円となりました。うち流動資産は980億60百万円、固定資産346億73百万円であります。

流動資産の主な内容といたしましては、現金及び預金287億43百万円、受取手形及び売掛金177億50百万円、商品及び製品357億31百万円、立替金81億92百万円、前渡金26億80百万円であります。

固定資産の主な内容といたしましては、有形固定資産200億53百万円、無形固定資産14億81百万円、投資その他の資産131億38百万円であります。

(負債)

当連結会計年度末の負債の残高は、前連結会計年度末に比べ、短期借入金の減少等により1億38百万円減少し、809億91百万円となりました。うち流動負債は567億14百万円、固定負債は242億76百万円であります。

流動負債の主な内容といたしましては、支払手形及び買掛金184億57百万円、短期借入金186億円であります。

固定負債の主な内容といたしましては、長期借入金150億60百万円、退職給付に係る負債47億26百万円であります。

(純資産)

当連結会計年度末の純資産の残高は、前連結会計年度末に比べ、利益剰余金の増加等により39億75百万円増加し、517億42百万円となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況の分析

「第2 [事業の状況]-4 [経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析]-(3)キャッシュ・フローの状況」をご参照下さい。

 

(4) 当社グループの資本の財源及び資金の流動性につきましては、次のとおりです。

(財務戦略の基本的な考え方)

当社グループでは、2024年度に開始した「中期経営計画」に基づく事業構造変革を進めており、安定的な事業運営に必要な資金を確保しつつ、資本効率の向上に向け、既存事業の収益性向上のための事業基盤構築と、新たな企業価値創出のための新規事業開発に経営資源を配分することを財務戦略の基本方針としております。また、これら事業開発投資等に関わる効果検証を徹底することで、投資と営業キャッシュ・フロー拡大の好循環を生み出し、株主還元拡充を進めてまいります。

(経営資源の配分に関する考え方)

当社グループでは、上記の基本的な考え方のもと、持続的な成長基盤の維持・更新を目的とした設備投資と、より付加価値の高いサービス提供に向けたシステム開発投資、及び新規事業・サービス創出のための事業開発やM&A等を行うことで、資本効率の向上に資する経営資源の配分に努めます。

(資金需要の主な内容)

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、商品の仕入、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。投資を目的とした資金需要は、設備投資、システム開発投資、M&A等によるものであります。

(資金調達)

当社グループは、必要な資金の安定的な調達と流動性の確保を資金調達の方針としております。短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資や長期運転資金の調達につきましては、金融機関からの長期借入及び社債発行によるものを基本としております。

なお、当連結会計年度末における借入金、リース債務等の有利子負債の残高は388億10百万円となっております。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は283億11百万円となっております。

 

(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりであります。また、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

該当事項はありません。