文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当企業グループが判断したものであります。
当企業グループは、これまで「人間尊重の経営」を経営哲学に掲げ、「世界にひろがる生活文化創造企業を目指す」ことを経営理念とし、「CS(顧客満足)、ES(社員満足)、SS(社会満足)、SHS(株主満足)を向上させる」ことを行動指針として、全ての企業活動を進めてきました。しかしながら、その過程における社会環境の変化は著しく大きく、新たな時代に貢献し更なる成長を遂げるため、これから必要とされる提供価値や、当企業グループの向かうべき方向を明確に示し、「一人ひとりが主役となり、世界の人々に先端の技術で先駆の価値を届ける会社」へと変革するという覚悟と強い想いを込めて、2023年3月の株主総会の承認を経て2024年1月1日より新たな商号・理念体系に変更いたしました。
新商号artience(読み方:アーティエンス、英文表記:artience Co., Ltd.))は、「art」と「science」を融合した言葉です。artは色彩をはじめとした五感や心への刺激に加えリベラルアーツの観点、scienceは技術や素材、合理性を表現しています。
新たな理念体系は、経営の基本的な考え方となるCorporate Philosophy(経営哲学)「人間尊重の経営」、ステークホルダーへの約束となるBrand Promise & Slogan(ブランドプロミス&スローガン)「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」「Empowering Feeling」、社員の活動の拠り所となるOur Principles(行動指針)から構成されています。この中で、持続的に輝き続ける未来のために人々が心豊かに暮らすことのできる社会を実現したいという「存在理由」、さまざまな技術や発想をつなぎ社会が抱える課題を解決に導くために、自社だけではなくパートナーと協業しその力を組合わせることで人々の心を充たす美しさ・快さ・安心を届けるという「私たちの役割」を明確にし、更に我々が今後世界に提供していくべき価値を「感性に響く価値」と再定義いたしました。
当企業グループは新たな理念体系のもと、強みであるartとscienceを融合し磨き上げ、目で見えること、触れて感じること、あるいは製品の品質を通じて感じることなど人々の感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来の実現に貢献してまいります。
前中期経営計画においては、コロナ禍や急速な原材料高騰、ウクライナ紛争の長期化など大きな環境変化のなか、LiB用CNT分散体の事業の立上げなど今後の成長に向けた取り組みが進捗した一方で、既存事業の収益力やキャッシュフローなど業績・経営基盤には課題が残る結果となりました。
この様な状況下、社会から求められる価値の変化に対応し、「感性に響く価値」を提供し、心豊かで持続可能な社会に貢献する会社となるべく、artience株式会社と商号を変更するとともに、その目指す姿の実現に向けて新しい中期経営計画を策定しました。
当企業グループが成長の軌道に乗り、市場での存在感を発揮していくために、“GROWTH”を柱に、強い覚悟を持って変革を進めてまいります。
当企業グループは2029年12月期にROE10.0%以上を目標として掲げ、その過程として2026年12月期にROE7.0%以上を目標とします。2026年12月期の売上高は4,000億円、営業利益は250億円を計数目標としています。
マテリアリティとしては、事業ポートフォリオの変革、資本効率とキャッシュフローの最大化、そして企業基盤構築とサステナビリティ経営実践を掲げています。
当企業グループでは長期構想を掲げ「100年レンジでの持続的成長が可能な企業体質に変革し、すべての生活者・生命・地球環境がいきいきと共生する世界に貢献する企業グループ」を目指し、2018年度から中期経営計画を進めて参りました。2021年度からは「SIC(Scientific Innovation Chain)-Ⅱ」(2021年度~2023年度)を推進し、「新たな時代に貢献する生活文化創造企業」を目指す姿として掲げ、3つの基本方針「事業の収益力の強化」「重点開発領域の創出と拡大」「持続的成長に向けた経営資源の価値向上」のもと、その実現の取組みを進めてきました。
2024年度、artienceとして新たにスタートを切るにあたり、変革を着実に実行すべく2030年をゴールとした経営計画artience2027/2030“GROWTH”を新たに設定いたしました。本期間を通じて、「事業ポートフォリオの変革」「資本効率とキャッシュフローの最大化」「企業基盤構築とサステナビリティ経営」に取り組んでまいります。
2024年度~2026年度までのartience2027においては、3つの基本方針「高収益既存事業群への変革」、「戦略的重点事業群の創出」、「経営基盤の変革」に基づき取組みを進めて参ります。
「高収益既存事業群への変革」では、当企業グループの既存事業を成長事業、収益基盤事業、構造改革・戦略再構築事業に分類し、それぞれの戦略に応じた変革を進めます。変革にあたっては収益力向上にむけ成長領域へ資源を集中させるほか、販売戦略・事業戦略を抜本的に見直した大胆な施策による構造改革を実行してまいります。
「戦略的重点事業群の創出」では、車載用リチウムイオン電池材料、ラミネート接着剤をはじめとするモビリティ・バッテリー分野と、液晶ディスプレイカラーフィルター用材料や光学粘着剤、半導体向け材料などのディスプレイ・先端エレクトロニクス分野の2つの成長市場に関する事業に加え、環境・バイオ・エネルギーなど2030年以降を見据えた次世代事業を戦略的重点事業群と位置づけ、戦略的に資源を配分し事業の拡張・成長を加速します。
「経営基盤の変革」では、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点に基づいた経営資源の強化に取り組みます。人/風土に対しては、社員エンゲージメント向上に繋がる新人事制度やグローバル、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)といった多様性の促進や挑戦する風土醸成に取り組みます。財務面では、ROEの目標に基づいたCCCやROICを導入したキャッシュフローマネジメントを徹底し資本効率性向上を目指します。そのほか、artienceサステナビリティビジョン、asv2050/2030を通じた環境負荷低減活動、DXを活用したモノづくり革新や知財/技術基盤強化など、目指す姿の実現を支える経営基盤の変革を進めてまいります。
新中期経営計画「artience2027」の初年度となる次期連結会計年度では、各事業を以下の通り推進してまいります。
色材・機能材関連事業では、中国現地パートナーを活用した液晶ディスプレイカラーフィルター用材料の現地生産の具体化を進め、ディスプレイ市場の中国シフトを好機としたシェアと収益の最大化を図るとともに、センサー等次世代技術への用途拡大による高付加価値化も推進します。また、車載用リチウムイオン電池材料は、中国での生産・供給を開始するなど欧•米•中・日での生産体制の拡充と、今後の環境を見据えた性能・コスト面での競争力強化に注力し、並行して全固体電池等次世代技術の開発も推進してまいります。
ポリマー・塗加工関連事業においては、インド、中国、北米で各市場のニーズに合った粘接着剤製品の展開による事業拡大を図るため、パートナーとのアライアンスも視野に入れた生産能力増強や市場ニーズを捉えた製品開発などを進めてまいります。また、国内に設置したパイロットプラントを活用し、次世代半導体の後工程市場向けの製品開発を推進いたします。
パッケージ関連事業では、インドや東南アジアなどで市場成長を確実に取り込みつつ、水性インキやバイオマスインキ等の環境調和型製品の先行した市場展開によるシェア拡大に注力してまいります。また、中国では営業・技術体制強化による拡販、トルコでは新工場の稼働開始など、増強される供給能力を活かしてグローバルな事業拡大を図ってまいります。
印刷・情報関連事業においては、国内の情報系印刷市場が縮小するなかで、生産や物流面でのアライアンスなどサプライチェーンの効率化をこれまで以上に強力に推し進めるほか、金属インキの海外展開や脱プラに貢献する機能性コーティング剤の拡販など、海外市場での拡大と紙パッケージ市場への転換を戦略的に進めてまいります。
これら事業活動に加え、経営基盤の構築とサステナビリティ経営の実践として、エンゲージメント向上を図る新人事制度や育成制度の導入と、DE&Iの推進など人的資本の強化を図るとともに、資本効率を改善する管理指標を導入し、浸透させます。また、artienceサステナビリティビジョン、asv2050/2030に基づいた環境負荷低減の活動を継続するほか、生産プロセスの革新や新たな素材開発など、DXの活用も多面的に進めてまいります。また、2024年度からの新たなCIと経営理念の具現化を念頭に、社内外への浸透活動を推進し、artienceとしての新たなブランド構築に邁進してまいります。
当企業グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)サステナビリティ全般
当社は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要」に記載の企業統治の体制を採用しております。この体制において、当企業グループの経営に関わる重要事項について、広範囲かつ多様な見地から審議する会議・委員会を設置することで、業務執行や監督機能などの充実を図っており、サステナビリティに関しては、「サステナビリティ委員会」を設置しております。
当企業グループは、artienceグループのCorporate Philosophy(経営哲学)、Brand Promise & Slogan(ブランドプロミス&スローガン)、Our Principles(行動指針)からなる理念体系に基づき、サステナビリティの推進、すなわち「事業を通じて地球環境と社会の持続可能性の向上に貢献するとともに、自らの持続的成長を実現する」ために、サステナビリティ憲章及びサステナビリティの個別のテーマに関する基本方針等を定め、これらに沿って取組みを進めております。
当企業グループが主な取組み対象としているサステナビリティテーマは、以下のとおりであります。
いずれのテーマも重要と位置付けて取り組んでおりますが、特に、環境分野での気候変動対応を継続重点テーマとして掲げ、CO2をはじめ温室効果ガス(GHG)の排出削減を積極的に推進しております。同様に社会分野では、人権対応と人的資本マネジメント(人材育成、DE&I、健康経営など)に注力しております。
サステナビリティ委員会は、当企業グループの全社サステナビリティに関する活動を計画策定、推進、評価するとともに、活動の実施部門に対するフォローを行っております。これらの活動は、取締役会やグループ経営会議において経営層に定期的に報告され、必要に応じて対応指示を受けております。また、年1回定期的に全社会議体である「サステナビリティ会議」を開催し、全社サステナビリティ活動及びグループ各社の個別活動の報告や、サステナビリティに関する方針の共有などを行っております。
同委員会は、その下位にESG推進部会、コンプライアンス部会、リスクマネジメント部会の3部会を設置しており、代表取締役による監督のもと、サステナビリティ担当役員(取締役)が委員長、上記3部会の部会長3名が委員として、3部会の各々で推進されたサステナビリティ事項について対応しております。
当社は、当企業グループのサステナビリティ推進の基本戦略を「事業を通じて地球環境と社会の持続可能性の向上に貢献するとともに、自らの持続的成長を実現する」としており、これに基づいた多様な施策を実施達成することで、当企業グループの経済価値と社会価値を示し、企業価値の向上を図ります。
この基本戦略に基づいて、経営として取り組む重要課題(マテリアリティ)を特定し、これらを中長期の経営計画に反映させることで、多様なサステナビリティ施策を計画、遂行しております。
当企業グループの「5つの重要課題」は、2018~2027年度を対象期間とした長期構想「Scientific Innovation Chain 2027」(SIC27)に合わせて策定され、2018年度に運用を始めました。その後、前中期経営計画SIC-Ⅱ期間(2021~2023年度)の開始に合わせてKPI/目標の見直しを図りました。
なお、2024年度は、商号・理念体系変更に伴う新たな中期経営計画「artience2027」に連動した、新たな重要課題の策定を計画しております。
当企業グループは、経営として取り組む重要課題(マテリアリティ)を「1.お客様の期待を超える価値を提供し、社会に貢献する」、「2.革新的技術を通じて環境と共生する」、「3.サプライチェーンと共存共栄を図り、ステークホルダーの信頼に応える」、「4.社員を大切にして幸せや働きがいを追求する」、「5.信頼を支える堅実な企業基盤を築く」の5つに整理しております。
それぞれの重要課題について、想定したバウンダリー(影響の範囲)を設定し、実行項目を掲げております。
当社では、サステナビリティ委員会下のリスクマネジメント部会が中心となって全社リスクマネジメント体制を構築し、グループ全体の事業継続に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定し、網羅的・総括的に管理しております。また、当企業グループの各社・各部門においては、社会環境の変化や日常業務に潜むリスクを抽出して評価・検討し、対策を実施しております。
詳細は、
④指標及び目標
当社は、上記「経営として取り組む重要課題」の各々について、課題に対する取組み状況を管理し、実績を評価するためのKPI(主要取組み指標)を設定しております。これらのKPIに対しては、それぞれ定性的な達成レベルもしくは定量的な目標値を設定しております。
当社は、これらのKPIを活用して取組みを推進し、その実績を定期的に開示するとともに、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションを図っております。上記の表に、定量目標を持つKPIについて2022年度の実績を記載しております。他のKPIの実績等については、当社の統合レポート2023の39~40ページをご参照ください。
気候変動対応に関する情報収集、リスク/機会の特定・分析・評価、社内ルール策定、情報開示などの実務は、サステナビリティ委員会下のESG推進部会が担っておりましたが、これら活動の経営に対する実効性を高めるべく、2023年7月にESG推進室を新設いたしました。新たな組織体制の下、ESG推進室では全社サステナビリティ活動の実務的中心として、経営層やコーポレート部門、事業各社経営部門と協働し、気候変動対応の経営計画への組込みを強化するとともに、気候関連目標の諸活動への展開や予算化を推進しております。
当企業グループは、世界的な気候変動及び各国や地域行政が講じる政策・施策は、市場環境や原材料調達、消費者の選好性を大きく左右し、事業の継続や業績に強い影響を及ぼしうると認識しております。これに関して「気候変動対応に関する方針」を掲げ、こうしたリスク/機会を分析し、経営計画や事業計画に反映させております。
当社では、TCFD提言に則り、平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃に抑制するために施策が行われる想定の1.5℃シナリオと、気候変動が進行しリスクが顕在化していく想定の4℃シナリオを参照しリスク分析を行いました。
そこで特定したリスク4項目と機会2項目について、分析の対象期間としている2030年度までにおける財務影響度と発現可能性を3段階で定性的に示しております。
また、定量分析として、日本国内及び海外の事業展開地域における炭素税の導入による影響額、水リスクの高い地域での洪水・浸水発生時の損害額、及び、サステナビリティ貢献製品の「環境価値」製品群の使用によるCO2排出の削減効果を試算し開示しております。これらの定量分析結果の詳細については、2023年6月発行の統合レポート2023(43~44ページ)をご参照ください。
当企業グループは、「(1)サステナビリティ全般③リスク管理」にて記載のリスクマネジメント部会を中心とした全社リスクマネジメント体制を構築しております。気候関連リスクも他の企業リスクと同様、グループの持続的成長に影響を与える要因であり、戦略上の適切な対応を図ることによって、リスクの顕在化の予防、顕在化した際の影響の軽減はもとより、事業上の収益増大や市場評価の向上などの機会にもつながると認識しております。気候関連のリスク/機会は、ESG推進部会がリスクマネジメント部会と連携し、企業リスク全般と同様の管理プロセスを適用して管理しております。
ESG推進部会では、気候関連リスクを特定・評価し、グループ経営会議及び取締役会へ提案・報告するとともに、年1回開催のサステナビリティ会議をはじめ、適宜グループ内での情報と認識の共有を図っております。経営層ならびにグループ各社は、これらのリスク/機会を基点とした対応策やアクションプランを中期経営計画や事業計画に組み込み、具体的施策に反映しております。
当社では、2010年度に「CO2削減プロジェクト」を発足して以来、国内・海外の生産拠点におけるCO2排出量の削減に取り組んでおります。当企業グループのサステナビリティビジョン「asv2050/2030」では、当企業グループのScope1及びScope2排出量の合算値であるCO2排出量をasv2050/2030の中核的な指標として、「2050年度におけるカーボンニュートラル達成(生産活動でのCO2排出量を実質ゼロにする)」を宣言しております。なお、2030年度での中間目標asv2030では、より具体的に、CO2の国内排出量を2020年度比35%削減、海外排出量を2030年度BAU比35%削減することを定量目標に掲げております。
当企業グループは、GHGのうちCO2のScope1及びScope2排出量を、改正「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」に基づいて算定し、国内全拠点と海外主要生産系関係会社を対象範囲として算出しております。
当企業グループは、早くから製品の環境調和性の向上に取り組み、1990年代からさまざまな環境調和型製品を上市してきました。2022年度に策定した当企業グループのサステナビリティビジョン「TSV2050/2030」(現 asv2050/2030)では、そのような「環境価値」に加えて、人びとの暮らしの快適さ、健康・福祉、安全・安心などの「生活価値」にも領域を拡げ、社会の持続可能性向上に貢献する製品を「サステナビリティ貢献製品」と定義しています。気候変動に対する当社のシナリオ分析において、気候関連の機会として「低炭素製品の売上拡大」と「猛暑対策、感染症対策素材などの事業機会の獲得」を特定しており、サステナビリティ貢献製品にはこれらの機会に対応する製品・製品群も含まれます。
当企業グループは、このサステナビリティ貢献製品のグループ全製品売上高に対する売上高構成比率を「サステナビリティ貢献製品売上高比率」と定義して指標の一つに掲げております。同比率は、2022年度は62.4%でしたが、2030年度までに国内外合わせて80%以上とする目標を設定しております。
企業グループは、グループ人事部が戦略・実務主体となって、人事戦略における基本的な方針や規則などを体系化した「人事ポリシー」をもとに人材マネジメントを推進しております。また、事業活動を展開する国・地域の労働法令・慣行を踏まえ、国内外のグループ各社と連携して人材育成、風土醸成、職場環境整備に取り組んでおります。
当企業グループでは、社員は価値創造と持続的成長の源泉であると捉え、社員一人ひとりが当企業グループの成長と、世の中への貢献を通じて自身の成長を実感することを目指し、「長期的なキャリアを歩めるしくみの構築」「多様な人材が活躍できる風土の醸成」「安心して働ける職場環境づくり」を人材戦略の柱として、さまざまな育成施策やDE&I、健康経営推進など、経営基盤強化につながる人的資本価値の向上に取り組んでおります。
2024年度に刷新した理念体系のOur Principles(行動指針)では、社員に期待する行動を「core(共創/楽しさ・わくわく/主体性)」「art(好奇心/感性・感謝・感動/多様性)」「science(厳しさ/スピード・挑戦)」の3つの視点で描いております。これらは人材が「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」ことを期待したものであります。当企業グループではこれら行動指針の浸透を図り、行動を実践できる人材を育成するための投資を行っております。
また、当企業グループでは、2024年度よりスタートする中期経営計画artience2027の基本方針の一つに「経営基盤の変革」を掲げております。この方針のもと、ヒト/風土/組織といった経営基盤の変革に必要な人的資本投資を実施し、企業価値最大化と持続的成長の源泉となる人材のエンゲージメント向上に取り組んでまいります。
DE&Iは、Corporate Philosophy(経営哲学)「人間尊重の経営」の観点から、当企業グループの人的資本強化として取り組むべき最優先課題の一つであると認識しております。性別や年齢、国籍、障がいの有無などにかかわらず、多様な価値観・考え・発想が尊重され、すべての社員が存分に仕事に取り組める職場環境をあるべき姿として、DE&Iを推進しております。
当企業グループでは、2021年度に「ダイバーシティ推進プロジェクト」を発足し、現状分析や経営層とのディスカッション、管理職向けの研修などを実施してきました。2023年度には、同プロジェクトの役割を承継する組織として「D&I推進室」をグループ人事部内に新設しました。
DE&Iとして取り組むべき多くの課題の中でも、女性管理職比率が国内全業種平均の半分程度であったことから、女性活躍推進には特に注力しております。また、社員一人ひとりの可能性や能力を最大限に発揮していくためには、それぞれの状況に合わせた公平な機会の提供が不可欠です。これまでの活動を通じて、多様性を推し進めていくうえで、公平性(エクイティ)の視点が非常に重要であると考え、2024年度から同推進室を「DE&I推進室」に改称し、グループ全体へのDE&I浸透に向けた取組みを加速してまいります。
当企業グループの持続的成長の実現に向けて、社員一人ひとりが自身の成長のビジョンを持ち、それに向かって着実に成長していけるよう、研修をはじめ多彩な人材開発プログラムを提供しております。
「教育研修プログラム」を通しての学びの機会を提供するとともに、社員の主体的なキャリア形成を支援する「キャリア開発制度」によりチャレンジする機会を提供することで、社員の「知」の習得と実践を支援しております。
階層別研修、職種別研修、グローバル人材育成研修をはじめ、マインドセットやスキル習得を推進しており、人材の底上げと将来の経営幹部の育成を基本方針とした様々な研修や活動を実施しております。2023年度は、全社員を対象としたDX(デジタルトランスフォーメーション)関連教育、次世代リーダー育成、リスキリング推進やリカレント教育支援などに特に注力しました。また、社員の多様性を尊重し、社員が主体的にカリキュラムを選択できるよう、サブスクリプション型の教育ツールの導入や、カフェテリア方式(自身の嗜好に合わせて選択する方式)などの要素を取り入れることも積極的に行っております。
当企業グループのキャリア開発制度は、社員が部署や職務の異動を通じてスキルの向上・増強を図り、各々が主体的にキャリアを形成していくことを基本としております。国内においては、社員自らが希望の部署に挙手して異動できる制度(キャリアチャレンジ制度)を実施しているほか、社会情勢を考慮して中断していた海外実習制度(海外ワークショップ)を再開し、グローバル人材の育成も推進しております。
「人間尊重の経営」のCorporate Philosophy(経営哲学)に則り、社員の主体性を最大限尊重することを基本とし、さまざまなキャリアを選択することができる制度を拡充していくことを方針に掲げております。
また、2024年1月の商号変更・理念体系改定に伴い、Brand Promise & Slogan(ブランドプロミス&スローガン)「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む/Empowering Feeling」を実現する人材を育成していくため、研修・教育システム・カリキュラムの刷新を遂行し、人材育成の仕組みのさらなる強化を計画しております。
当社の人事制度は、役割グレードに応じた目標設定と評価を基本とする役割マネジメントシステムを導入しておりますが、中期経営計画artience2027の方針や雇用を取り巻く環境変化を踏まえ、社員のエンゲージメント向上と多様なキャリア開発の実現を目指した新人事制度へのリニューアルを進めております。
高い専門性と技術力を駆使して価値創出を実現しようとする行動や、失敗を恐れずにチャレンジする行動を評価する仕組みを検討しております。その一端として、2024年度より、従来のマネジメント重視の幹部グレード制に加え、高度な専門性を有する人材が能力を存分に活かすことのできる「スペシャリスト幹部グレード制」を導入し、キャリアの複線化と高度専門人材の育成を進めてまいります。
当企業グループは、「(1)サステナビリティ全般③リスク管理」にて記載のリスクマネジメント部会を中心とした全社リスクマネジメント体制を構築しております。人的資本や多様性に関連するリスクは、グループの長期視点での持続的成長に大きく影響すると認識し、全社リスクマネジメント体制の中でグループ人事部がリスクマネジメント部会と連携して、他の企業リスクと同様の管理プロセスを適用して管理しております。
働き方の多様化や雇用の流動化が進む中で、労働法規の改正に伴う社内規則・規程の改定を随時実施しております。また、労務リスク発生の可能性については、人事部門や各社・各拠点の管理部門において日々の労務管理を実施しつつ、労働組合とも定期的な協議の場で意見交換を行い、未然防止に努めております。さらに、年々変化する労働法規や社内規則・規程に組織が適応できるよう、すべての管理職、管理人材向けに労務研修会を実施するなど、労務リスクに対する知識向上を図っております。
国内において、少子高齢化による労働人口の減少や、終身雇用・年功序列社会の終焉、多様な働き方の普及、雇用の流動化などの社会的要因によって、人材不足や人材確保の困難化といったリスクが上昇すると想定しております。このようなリスクに対抗し、多彩・多様な人材を確保するため、新卒採用に加え、経験者採用・アルムナイ採用(退職した元社員の再雇用)を積極的に進めております。特に経験者採用については、重点事業の拡大に直結する人材や、情報・システム系、経理・財務系など、高い専門性を有する人材の確保につながる具体的な対策を講じております。
女性活躍推進は、当企業グループの人的資本強化における最重要課題の一つであり、多くの女性が活躍できる企業グループとなることを目指しております。当企業グループの「5つの重要課題(マテリアリティ)」では、重点課題4「社員を大切にして幸せや働きがいを追求する」における具体的なKPIならびに定量目標として、国内の新規採用における女性比率30%以上を維持すること、同じく国内の管理職任用における女性比率を8%に達成させることを設定しております。そのための具体的施策として、女性のキーポジション任用を推進する制度改革や、女性管理職候補者へのキャリア研修、育児休業からのスムーズな復職をサポートする仕組みの構築、女性のヘルスリテラシー向上を目的とした役員及び全社員向けセミナーなどを実施しております。
女性活躍推進には、男性側の意識改革も不可欠であるとして、男性社員の育児休業取得推進のための啓発セミナーの開催や、男性社員が育児休業を取得する際は原則10日以上を推奨する制度改定なども行っております。
当連結会計年度における、国内の管理職任用における女性比率、ならびに男性社員の育児休業等取得率の実績は、
さらに、柔軟な働き方を可能とするリモートワーク、フレックスタイムの整備や、育児・介護・治療のサポートとして、過去の未消化有給休暇を積立有給休暇として利用できる休暇制度改定を実施しました。これらの活動が評価され、当社は2023年8月に厚生労働省の「プラチナくるみん認定」を取得しました。
当社は、この認定を継続取得することを、育児・介護と仕事の両立に関する取組みにおける定性的な指標及び目標としており、これまでも2010年、2015年及び2021年に3期連続で「くるみん認定」を取得しております。
今後も、育児・介護・治療と仕事の両立に関する取組みに注力し、さまざまな状況にある人材が自身のキャリアプランに沿った活躍ができる就労環境の整備や職場の風土醸成に取り組んでまいります。
当社は、リスクマネジメント担当役員(サステナビリティ委員会リスクマネジメント部会長)のもと、リスクマネジメント部会がグループ全体のリスクを網羅的・総括的に管理しております。また、当企業グループの各社・各部門では、日常業務に潜むリスクを洗い出して評価・検討し、対策を実施しております。
リスクマネジメント部会では、各リスクを発生頻度と重大性に基づき評価し、リスクマップを全社で共有しております。重要リスクについては取締役会に報告するとともに、リスク低減のための活動の進捗と達成度を部会で確認しております。新たに重要リスクとなりうる問題が発生した場合は、緊急対策本部を設置し対応を図ってまいります。
参考:リスクマネジメント体制(2023年度)
参考:重要リスクの評価基準
参考:重要リスクマップ
上記リスクマネジメント活動を通じて経営者が当企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであり、事業等のリスクはこれらに限定されるものではありません。
当企業グループにとって、有機顔料の合成技術は原点の一つです。また、インキや塗料の製造で培われた分散技術は、着色するという用途を大きく越え、液晶ディスプレイカラーフィルター用材料やカーボンナノチューブを応用した新たな分散体の開発などにも展開しております。
顔料事業においては、国内印刷市場の構造的不況のなか、印刷インキ用顔料の需要が大きく縮小するリスクがあり、売上高及び利益の低下を招く可能性があります。そのため、需要が安定した食品包装用途や高収益分野への展開を図ること、及び生産面の整備により事業リスクへの耐性を高めてまいります。
着色事業においては、廃プラスチック問題など環境意識の高まりに伴う需要減少のリスクがありますが、このような変化をチャンスと捉え、リサイクル対応製品、生分解性製品など環境調和型製品の開発によって持続可能な社会に貢献するとともに、事業リスク低減に取り組んでまいります。
モビリティ・バッテリー事業において、当企業グループは車載用リチウムイオン電池材料であるCNT(カーボンナノチューブ)分散体を生産、供給しております。リチウムイオン電池の市場は比較的新しい成長市場であることから、今後の技術動向や需要動向が変化したり、あるいは関連する規制や政策等が変更されることがありえますが、このような場合は業績に影響を及ぼす可能性があります。そのため、当企業グループとしては市況変化を迅速に捉えつつ、製品開発をタイムリーかつ網羅的に行うこと、設備投資を段階的に行うことで市場の要求に的確に応じる体制を整えることでリスク低減を図ります。
表示材料事業においては、ディスプレイや半導体関連の市況変動の影響を大きく受けるほか、一部原材料の調達・価格高騰リスクを抱えるなか、一極化が顕著な中国市場での競争力向上を重点課題に、差別化製品の開発と拡販戦略の強化、及びコストダウン施策等の推進により、業績向上と事業リスク低減を目指してまいります。
当企業グループでは、ポリマー・塗加工の技術を活かし、パッケージ、自動車、エレクトロニクス、エネルギー、メディカル・ヘルスケアなどの分野に展開しております。
当事業の原材料の多くは石油由来であり、環境保全を目的とした各国の規制や社会要請などにより使用の制約を受け、売上高等が変動する可能性があります。社会生活に必要な最終製品の材料供給者としての責任を果たすべく、現行品の機能を確保する環境調和型製品の開発と代替を進めてまいります。
エレクトロニクス市場向け材料については、スマートフォンのように、毎年、最終製品の仕様が変わるなか、その採用可否により売上高や利益が変動する可能性があります。品質・コスト面などの優位性を高めることでの採用確度の向上や、使用先の拡大などにより、リスク低減に努めます。
メディカル・ヘルスケア市場向け材料については、研究開発に相応の時間と費用を必要とし、製品上市の計画が遅延、変更、中止となる可能性があります。また、医薬行政の動向を受けた関連法規の改変や公定価格の変動が、売上高や利益に影響を及ぼす可能性があります。開発のパイプラインを増やすとともに、ヘルスケア粘着剤や体外診断の周辺材料など事業の裾野を拡げてリスク分散に取り組んでまいります。
当企業グループでは、パッケージの製造工程において多様な高機能製品を提供しております。特に安心・安全が求められる食品包装の分野では、インキの水性化などを進めております。また、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向け、バイオマス製品の販売拡大を行っております。
パッケージ関連事業においては、廃プラスチック問題など環境意識の高まりによって、フィルム用インキの消費需要が落ち込み、売上高及び利益の低下を招く可能性があります。市場や環境の変化をチャンスと捉え、紙化や減層化に寄与する製品開発を強化し、リスク分散に取り組んでまいります。
当企業グループでは、原材料の顔料や樹脂から最終製品までを一貫生産できる強みを活かし、環境調和型製品や高機能のUVインキなど多様な製品を開発するとともに、お客様の印刷工程でのソリューション提供にも取り組んでおります。印刷・情報関連事業においては、デジタル化に伴う情報系印刷市場の縮小により、想定以上に売上高及び利益の低下の進展が早まり、また、印刷市場を取り巻く変化に伴う顧客や取引先の経営状況によっては、売上債権の回収に影響を及ぼすリスクがあります。そのため、経済情勢の変化や信用不安の兆候を早期に把握できるよう情報収集と与信管理を徹底してまいります。経営資源を成長分野に弾力的にシフトするとともに、事業効率を徹底的に高め、市場環境への適合を進めてまいります。
(代表的なリスク)
・法律・規制・不利な影響を及ぼす租税制度の変更
・社会的共通資本が未整備なことによる企業活動への悪影響
・不利な政治的要因の発生
・テロ、戦争などによる社会的混乱
・予期しえない労働環境の急激な変化
これらの事象の発生可能性や影響等を合理的に予測することは困難でありますが、当企業グループの経営成績及び財政状態等に悪影響を及ぼす可能性があります。
(リスクに対する対応策)
当企業グループにおいては、各国の経済動向やその他リスクの影響を受けづらい収益構造とするために、世界各国における事業展開の促進や事業分野のバランスの向上、リスクに対して柔軟に対応できるSCM(サプライチェーンマネジメント)の構築、固定費や原材料費等の変動費の削減を行い、そのリスクを最小化するための対策に努めております。
(代表的なリスク)
当企業グループでは、事業を展開する上で、国内外の拠点をはじめ取引先等のシステムとネットワークで接続しており、当企業グループ及び取引先の機密情報や個人情報などの秘密情報を保持しております。システム障害による業務停止のほか、インターネットを通じたコンピュータウイルスやセキュリティ侵害による情報漏洩、滅失または毀損のリスクは増大する傾向にあります。
このような事案が発生した場合は、ノウハウの流出または逸失による競争力の低下やブランド毀損、企業価値の低下、信用の失墜等のリスクへ拡大する可能性があります。
(リスクに対する対応策)
当企業グループとしては、システムの安定稼働に努めるとともに、重要なシステムについては、冗長化やバックアップを確保する対策を講じるほか、CSIRT体制を設置し、コンピュータウイルスやセキュリティ侵害に対する情報管理強化と社員教育を通じた人的リスク低減に努めております。また、サーバー機器の不具合やセキュリティ強化として技術的な対応・対策を行うほか、様々なリスクを想定したシステムBCP対策の再構築と、被害を最小限にとどめるためのコンティンジェンシープランの策定に努めております。
(代表的なリスク)
・製品の品質に起因する事故、またはクレームの発生
当企業グループでは、品質保証体制の強化を図っておりますが、製品の品質に起因する事故、あるいはクレームが発生した場合、当企業グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社が支払う損害賠償金が製造物責任賠償保険で全額補償される保証はありません。
・物流の2024年問題
自動車運送事業における時間外労働規制の見直しにより、ドライバー不足、輸送力供給不足となり、長距離輸送の依頼が難しくなる、輸送スケジュールの見直しが必要となる、物流コストが増大するといったリスクが高まっています。
(リスクに対する対応策)
当企業グループでは、引き続き、品質や安全に関する法的規制の遵守に努めるとともに、製品の性能向上やお客様の安心・安全に貢献する製品開発を継続して進めることでさらなる満足度向上と信頼を得ることにより、リスク低減に取り組んでまいります。
物流面では、かねてよりホワイト物流に参画し、24年問題への対応として、物流網・物流拠点最適化を進めております。引き続き、配送や荷受けの最適化、納品リードタイムの緩和や、納品先での待機時間の短縮、附帯業務の軽減など、お客様のご理解とご協力をいただきながら、サプライチェーン一体となって物流事業者の負担軽減を図り、重要な社会インフラである物流の維持・改善に取り組んでまいります。
(代表的なリスク)
・大規模地震や大雨等の自然災害や国内外における感染症の大流行(パンデミック)等による、原材料の調達困難化、生産活動への支障、世界的な消費活動の停滞、サプライチェーンの物流機能の停滞などに伴う供給不能
(リスクに対する対応策)
近年、大規模地震や大雨等の自然災害や国内外における感染症の大流行(パンデミック)等に関するリスクは高まりつつあり、予想を上回る被害の拡大や長期化が進みますと、建物や生産設備等をはじめとする資産の毀損、従業員の出勤不能、電力・水道の使用制限、原材料の調達困難、物流機能の停滞などにより供給能力が低下し当企業グループの経営成績及び財政状態等に甚大な悪影響を及ぼす可能性があります。これらの不可避的な事業中断リスクを想定し、リスクに応じた緊急行動マニュアルの策定や定期的な実地訓練等による事業継続体制の整備に努めております。
(代表的なリスク)
・市況変動、天災、事故、政策などによる原材料の仕入価格高騰や供給不足
・調達先からの原材料供給の遅延/停止による当社製品の生産遅延もしくは停止、及びそれに伴う取引先への供給不履行と損害賠償などの発生
当企業グループ製品の主原料は石油化学製品であるため、仕入価格及び調達状況は、原油・ナフサなどの市況変動、天災、事故、政策などに影響を受けます。特に当連結会計年度においては、ロシア/ウクライナ紛争の長期化、イスラエルのパレスチナ侵攻などによる安定供給への懸念が続き、また、LNG、石油、石炭、電力等のエネルギーコスト急上昇、さらには、水不足によるパナマ運河通航量低下、商業船攻撃対応によるスエズ運河回避などにより、多くの原料で入手困難、価格高騰、及び、納期遅延等のリスクが顕在化しました。仕入価格の上昇につきましては、当企業グループの製品が使用される消費財は、市況価格及び供給責任の面からも、販売価格への転嫁には時間を要するため、当企業グループの売上高及び利益に影響が生じました。また、原料が入手困難となるリスクにつきましては、顧客への製品供給不履行による損害賠償が発生し、その賠償金額によっては経営成績及び財政状態等に悪影響を及ぼす可能性があります。
(リスクに対する対応策)
上記のようなリスクを回避すべく、メーカー特性に応じた購買戦略策定のもと、市場環境、需要予測、想定市況価格といった多面的な視点を原料調達に反映させ、最適価格での購入を進めるとともに、在庫確保などによる製品の安定供給のための原料調達を進めております。また、新規購入先の開拓ならびに購入先との関係強化に日々努めながら、当企業グループにとって影響のある情報をいち早く入手し、様々なリスクに速やかに対応することで、当企業グループの業績に与える影響を低減・抑制することに努めております。
(代表的なリスク)
・急激な為替変動
当企業グループは世界各国で事業を展開しており、海外連結子会社の財務諸表項目は連結財務諸表作成のために円換算されますが、急激な為替変動によって当企業グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、輸出入等の外貨建て取引においても、同様の可能性があります。
(リスクに対する対応策)
当企業グループは、為替予約や外貨建て債権債務のバランス化等によって、為替相場変動リスクの抑制に努めております。
(代表的なリスク)
・国内外の法規制の変更や、それに伴う市場の変化
・環境問題や製造物責任、特許侵害をはじめとする当企業グループの事業に重大な影響を及ぼす訴訟紛争
(リスクに対する対応策)
当企業グループは、事業活動に関わる一般的な法的規制の適用を、事業展開する内外各国において受けております。これらの遵守のためサステナビリティ委員会の傘下に専門部会であるESG推進部会、コンプライアンス部会、リスクマネジメント部会を設置・運用し、事業活動に関わる法的規制を調査、抽出するとともに、適法・適正な事業活動を確保するため、製造・販売・研究開発の各活動領域における業務プロセスの検証や見直し、社内規程の整備、関係者への教育などの必要な施策を展開しております。また、財務報告の適正性確保のための内部統制システムの整備と運用の確保に努めております。
(代表的なリスク)
・国内外の環境法規制の変更や、それに伴う市場の変化
・環境負荷低減の対応の遅れによる費用の増加
・社会的な環境対応要請(脱プラスチック、カーボンニュートラルなど)に対する追加投資、事業形態の変更
(リスクに対する対応策)
上記リスクに対して、適切に対処し、積極的な開示を行うことで長期的には社会的信頼が高まり優位性を得る可能性もあります。当企業グループとしては、長期の経営計画の中で製造工程の見直しによる使用エネルギーやCO2の排出削減、化学物質の管理強化やシステム化、製品の脱VOC(揮発性有機化合物)化、ケミカルリサイクルを含んだリサイクル・リユースによる廃棄物削減など様々な施策に取り組んでおります。
(代表的なリスク)
・国内外の気候変動に関する規制の変更や、それに伴う市場の変化
・CO2排出量削減など社会的な要請に対する対応の遅れによる費用の増加
(リスクに対する対応策)
当企業グループは、上記のような気候変動の可能性に対して適切な対応を図り、経営計画や事業計画に反映させていくため、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準拠した全社的な対応活動を推進し、サステナビリティ委員会及びESG推進部会を実務中心とした気候変動対応ガバナンス体制の構築と運用、気候変動によって生じうるリスクと機会の特定・分析、施策の立案と経営・事業主体に向けた提案、グループ社員に向けた啓発と情報共有、そして、投資家をはじめとする社外ステークホルダーに向けた適切な情報開示などに取り組んでおります。
(代表的なリスク)
・顧客の経営状況の悪化による売上債権などの回収困難
(リスクに対する対応策)
当企業グループは、与信情報等を参考に、営業現場からの定性的情報も加味することで、顧客の与信リスクを定期的に見直し、それに応じた債権保全策を実施するなど与信管理の強化に努めてまいります。
(代表的なリスク)
・経済条件の変化や事業の見直しなどによる固定資産の減損
(リスクに対する対応策)
当企業グループでは、製造設備をはじめとした多額の固定資産を保有しており、重要な設備投資に対しては、事業戦略、市場動向、技術、生産性、投資金額及び投資計画の妥当性について事前に投融資マネジメント会議で審査を行ったうえ、グループ経営会議や取締役会で審議しております。また、各事業で減損の兆候がみられる場合には、速やかに対策を講じ、収益を改善させることに努め、リスクの低減を図っております。
(代表的なリスク)
・社会環境変化による人材不足(人材確保の困難性)
(リスクに対する対応策)
当企業グループでは、社員の定着・業務効率化・人材の獲得により、人材不足への対応を図っております。定着においては、DE&Iの推進、待遇の改善、人材育成の強化等に取り組み、全社員が働きやすく、働きがいのある職場づくりを進めております。業務効率化においては、生産・営業・技術・管理のあらゆる部門にてDXの導入をはじめとする業務変革を進めております。人材獲得の面では、新卒、キャリア(経験者)採用強化のほか、アルムナイ採用やリファラル採用を導入する等、多様な採用手法を取り入れ、人材確保を進めております。
(注)1 アルムナイ採用とは、何らかの理由で自社を退職した人を再雇用する採用手法のことであります。
(注)2 リファラル採用とは、自社の社員をはじめ社内外の信頼できる人脈(友人・知人)を介した採用活動・採用手法のことであります。
(代表的なリスク)
・当企業グループや当企業グループのサプライチェーン上での人権問題による社会的信頼の低下や取引停止
・当企業グループや当企業グループのサプライチェーン上での人権問題に起因する訴訟紛争
(リスクに対する対応策)
当企業グループは、「人間尊重の経営」をCorporate Philosophy(経営哲学)に掲げており、当企業グループの事業活動においてその影響を受けうるすべての人びとの人権を尊重すべく、「人権の尊重に関する基本方針」を定め、国内外の拠点に周知しております。また、サプライチェーンも当社の社会的責任の範囲ととらえ、人権尊重のための取り組みをサプライチェーンと共同して推進しております。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度における世界経済は、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあって緩やかな回復がみられた一方、物価上昇や中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等、先行きは不透明な状況にあります。
このような環境のなか、当企業グループは次の3つを経営方針として掲げ、経営活動を行ってまいりました。
第一の方針である「事業の収益力の強化」については、市況の回復に足踏みがみられた液晶ディスプレイカラーフィルター用材料や、エレクトロニクス用の粘接着剤、機能性フィルムなどが利益面で低調に推移しましたが、カラーフィルター用材料の中国での現地生産化の検討が進捗したほか、インドや東南アジアを中心に設備増強を進めてきたグラビアインキや粘接着剤は、各市場のニーズを捉えた製品投入によって拡販が進みました。また、タイで缶用塗料メーカーを買収するなど、グローバル市場でのコスト競争力の獲得と海外展開の基盤強化を図りました。印刷・情報関連事業では、国内の情報系印刷市場の縮小に対応した販売拠点の統廃合による合理化や生産アライアンスなどによる事業の構造改革を進めたほか、脱プラに寄与する機能性コーティング剤やUVインキによる紙器パッケージ市場へのシフトを推進しました。更に、近年の原材料やエネルギー、物流コストの高騰に対しては、各事業において生産の効率化や原料代替によるコストダウンに加えて価格改定を推進し収益の確保を進めました。
第二の方針である「重点開発領域の創出と拡大」については、以下の3つの注力領域での活動を継続しました。「サステナビリティ・サイエンス」領域では、車載用リチウムイオン電池材料の事業拡大のため、米国ケンタッキー州で新工場建設に着手し、欧・米・中・日での4極5拠点体制の構築を進めました。また、バイオマスインキや水性フレキソインキ、リサイクル用マスターバッチ等の環境対応製品群の取組みを拡大しました。「コミュニケーション・サイエンス」領域では、次世代エレクトロニクス向けの製品開発の為に、国内にポリマーのパイロットプラントを新設するとともに、積極的にマーケティング活動を進めました。「ライフ・サイエンス」領域では、メディカル分野での将来的な事業展開を視野に、最先端の感染症予防ワクチン開発を行う米国VLPT社へ出資したほか、次年度からの稼働に向け貼付型医薬品の国内新工場の建設が進みました。
第三の方針である「持続的成長に向けた経営資源の価値向上」については、間接部門でのコスト構造を変革するための機構改革を実施し、業務の棚卸しと整理による効率化を図るとともに、成長領域への人材シフトを図ったほか、資本コストや株価を意識した経営の実現に向け、資本効率性を向上させるため政策保有株式を縮減し、運転資金の管理も強化しました。ESGについては専任部署を設けて当企業グループのサステナビリティビジョン「TSV2050/2030(現 asv2050/2030)」を推進し、海外拠点を含めたCO2削減のロードマップの策定を進めました。また、人権に関する基本的な考え方及び方針を整理統合した「東洋インキグループ人権方針(現 人権尊重に関する基本方針)」を制定したほか、ガバナンス面では女性取締役を2名から3名へと増員するなど、多様な人材が活躍する職場の整備を進めました。DXに関しても、技術開発におけるマテリアルインフォマティクスの実践展開や、各種業務の効率化と付加価値向上につながる施策を進めるとともに、近年高まるサイバーリスクに対するセキュリティ対策の体制整備などを実施しました。
以上の結果、当連結会計年度の売上高は3,221億22百万円(前期比2.0%増)と増収、営業利益は133億72百万円(前期比94.8%増)、経常利益は128億80百万円(前期比62.9%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は97億37百万円(前期比4.6%増)と、それぞれ増益となりました。
セグメントごとの経営成績につきましては、次のとおりです。
液晶ディスプレイカラーフィルター用材料は、液晶パネルメーカーでの稼働率が時季による変動があったものの、中国での拡販や台湾でのシェア向上が進み、通期では堅調な出荷となりました。
プラスチック用着色剤は、国内では消費者の買い控えで容器用が低調でしたが、海外ではOA機器用の需要が減少した一方、太陽電池用が好調でした。
インクジェットインキは、海外市場での在庫調整の影響がありましたが、後半は回復に向かいました。車載用リチウムイオン電池材料は、米国や欧州での供給を本格化させ販売を伸ばしており、米国と中国では今後の需要増に備えた設備増強を進めております。
これらの結果、当事業全体の売上高は810億69百万円(前期比2.1%増)、営業利益は26億87百万円(前期比45.5%増)と、増収増益になりました。
b. ポリマー・塗加工関連事業
塗工材料は、スマートフォン向けの機能性フィルムが需要期の販売は回復したものの通期では減少となり、液晶パネル向けも市況の調整が続き低調に推移しました。
粘着剤は、国内ではラベル用やディスプレイ用が低調でしたが、米国やインド、中国では販売が拡大しました。接着剤は、国内外で包装用が消費の冷え込みで伸び悩みましたが、工業用はリチウムイオン電池向けの拡販もあり海外で好調でした。
缶用塗料は、国内では顧客での稼働が伸び悩み、海外でも漁獲量の低迷などで食缶用が低調でしたが、トルコでの拡販やタイでの現地塗料メーカー買収による事業拡大が進みました。
このほか価格改定の効果もあり、当事業全体の売上高は777億46百万円(前期比2.0%増)、営業利益は52億57百万円(前期比109.9%増)と、増収増益になりました。
リキッドインキは、国内では、ペットフードや土産物用の包装材需要は堅調に推移しましたが、物価上昇による消費者の買い控えで食品用は伸び悩みました。また、段ボール用も猛暑や価格高騰で青果物向けなどの需要が減少し、低調でした。海外では、インドでは需要が底堅く、販売も堅調に推移しましたが、中国では消費の低迷で食品包装用が低調でした。他方、国内外で原料価格高騰に対する生産面でのコストダウンや価格改定などを行い、利益改善が進みました。
グラビアのシリンダー製版事業は、包装用は拡販による需要の取り込みもあり堅調でしたが、エレクトロニクス関連の精密製版は低調に推移しました。
これらの結果、当事業全体の売上高は842億92百万円(前期比1.0%増)、営業利益は36億68百万円(前期比280.6%増)と、増収増益になりました。
国内では、情報系印刷市場の構造的な縮小が継続し、チラシや広告、出版向けが低調でしたが、紙器パッケージ向けは拡販による効果もあり堅調でした。なお、エネルギーや原材料のコストが高止まりするなか、同業他社との協業や事業の構造改革によるコストダウンを継続して進める一方、自助努力で吸収不可能な範囲は販売価格の改定も進めさせていただいております。
海外では、中国での不動産市況の悪化や輸出低迷による景気の弱含みもあり販売が低調に推移しましたが、紙器パッケージ向けに機能性を付与したコーティング剤は販売が伸長しました。
これらの結果、当事業全体の売上高は772億2百万円(前期比2.7%増)、営業利益は23億73百万円(前期比262.8%増)と、増収増益になりました。
上記のセグメントに含まれない事業や、東洋インキSCホールディングスなどによる役務提供などを対象にしています。売上高は56億9百万円(前期比13.4%増)と増収になりましたが、役務提供収益の減少などにより、6億1百万円の営業損失(前期は、8億90百万円の営業利益)となりました。
財政状態につきましては、次のとおりです。
当連結会計年度末における総資産は4,477億98百万円で、前連結会計年度末より366億20百万円増加しました。負債は1,921億44百万円で、前連結会計年度末より88億44百万円増加しました。純資産は2,556億53百万円で、前連結会計年度末より277億76百万円増加しました。
当連結会計年度末日の為替レートが前連結会計年度末日の為替レートに比べ円安外貨高に振れたため、海外子会社で保有する資産及び負債、為替換算調整勘定がそれぞれ増加しました。また、海外での新工場建設に伴い有形固定資産が増加しました。さらに、日本国内の株価上昇を反映し、投資有価証券、繰延税金負債、その他有価証券評価差額金がそれぞれ増加しました。一方、棚卸資産の減少に伴い、支払手形及び買掛金は減少しました。なお、借入金の返済資金に充当するため第2回無担保普通社債を発行し、一部の長期借入金の返済期限が1年以内になりましたため短期借入金への振替を行っております。
当連結会計年度の現金及び現金同等物(以下「資金」といいます。)の期末残高は、前期末残高より26億55百万円増加し、560億40百万円となりました。
営業活動により得られた資金は234億78百万円(前連結会計年度比192億16百万円増)となりました。税金等調整前当期純利益計上や棚卸資産の減少による資金の増加や、仕入債務の減少や法人税等の支払いによる資金の減少などがありました。
投資活動により使用した資金は194億57百万円(前連結会計年度比138億11百万円増)となりました。有形固定資産の取得による支出や有価証券及び投資有価証券の売却及び償還による収入などがありました。
財務活動により使用した資金は26億29百万円(前連結会計年度比54億73百万円減)となりました。配当金の支払いや短期借入金の純減による資金の減少や、社債の発行による資金の増加などがありました。
③ 生産、受注及び販売の実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 生産金額は製造原価によっております。
当企業グループにおける受注生産は極めて少なく、大部分が計画生産のため、記載を省略しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 上記の金額は、連結会社間の内部売上高を除いております。
2 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合につきましては、販売実績の総販売実績に対する割合が10%以上の相手先が存在しないため、記載を省略しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当企業グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当企業グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されていますが、その作成には経営者による会計方針の選択・適用と、資産・負債及び収益・費用の報告金額に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りにあたっては過去の実績等を勘案し合理的な判断を行っていますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性がありますため、これらの見積りと異なる場合があります。
当企業グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a. 経営成績の分析
当連結会計年度の売上高は、前期比61億94百万円(2.0%)増の3,221億22百万円(期初計画 3,300億円、2023年11月10日公表修正計画 3,200億円)となりました。その内容は、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載しており、為替変動に伴う海外子会社の円換算額の増加や価格改定効果に加え、海外のパッケージ向け製品群の伸長や機能性インキ・機能性コーティング材やLiB用分散体の伸長もあり、増収となりました。この結果、海外売上高比率は、過去最高の53.7%となっております。
営業利益は、前期比65億6百万円(94.8%)増の133億72百万円(期初計画 110億円、修正計画 120億円)となりました。液晶ディスプレイカラーフィルター用材料は、中小型市況が振るわず減益となりましたが、国内の印刷・情報関連事業の収益改善が進み、増益に寄与したことや、粘接着剤、グラビアインキなどパッケージ関連事業の価格改定が国内外で寄与した結果、グループ全体で増益となりました。
経常利益は、前期比49億73百万円(62.9%)増の128億80百万円(期初計画 95億円、修正計画 125億円)となりました。「為替差益」が減少し「支払利息」が増加しましたものの、営業利益の増加に加え「正味貨幣持高に係る損失」の減少により増益となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比4億28百万円(4.6%)増の97億37百万円(期初計画 60億円、修正計画 80億円)となりました。「投資有価証券売却益」が減少し「事業構造改善費用」が増加しましたものの、営業利益の増加により前期並みを確保しました。
なお、セグメント別の経営成績については「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。
b. 財政状態の分析
財政状態の分析については「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであり、セグメント別の財政状態は、以下となりました。
色材・機能材関連事業の資産1,247億84百万円(前期末より106億85百万円増加)。
ポリマー・塗加工関連事業の資産1,118億32百万円(前期末より98億72百万円増加)。
パッケージ関連事業の資産996億50百万円(前期末より92億6百万円増加)。
印刷・情報関連事業の資産1,007億32百万円(前期末より45億16百万円増加)。
その他の事業の資産107億99百万円(前期末より23億40百万円増加)。
c. キャッシュ・フローの分析
キャッシュ・フローの分析については「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであり、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、収益構造の改善などにより、560億40百万円と前期末と比べ増加しております。今後とも、手元資金を確保しつつも将来の成長に向けた資金運用に努めてまいります。
当企業グループが提供する製品の市場は多岐に渡っておりますが、一般的な消費動向や、石油化学系原料の仕入価格、為替レートなどは、当企業グループの経営成績に大きく影響を与える要因になっております。
当連結会計年度では、液晶パネル及びエレクトロニクスの市況回復遅延や中国景気の停滞による影響を受けております。また、原材料価格について海外はナフサ価格が落ち着き価格安定してきたものの、国内は酸化チタンや為替による輸入原料の価格高騰が続いており、人件費、物流コスト、経費も世界的なインフレに伴い増加しました。この厳しい事業環境のなか、グループ会社間のグローバル規模での生産協力、生産や物流の効率化、原材料の代替対応などのコストダウンを実施したうえで、原材料価格高騰分に見合う適正価格へ改定しております。
その他、海外活動や災害への対応など、当企業グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクについては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりですが、これらの発生を抑制する活動を、サステナビリティ委員会傘下のリスクマネジメント部会を中心に、引き続き積極的に推進していきます。
④ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当企業グループの主な運転資金需要は、製品製造のための原材料費や労務費及び製造経費をはじめ、販売費及び一般管理費、新製品創出や事業領域拡大のための研究開発活動費などにあります。また、設備投資では、成長領域や事業拡大に合わせた生産設備投資によるグローバル供給体制の強化や、統合システム整備による事業や業績のグローバル一体管理を進めています。さらには、事業拡大を目的とした各種アライアンスや、人材・技術・事業などの戦略投資についても機動的に実施してまいります。
なお、これらの資金需要につきましては、主に手元資金や営業活動によるキャッシュ・フローから創出するとともに、必要に応じて金融機関からの借入なども実施してまいります。当連結会計年度の有利子負債残高は、長期借入金返済のための資金調達を第2回無担保普通社債発行により前倒しで実施した影響もあり、898億97百万円となっております。また、国内では、キャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、当企業グループの余剰資金を効率的に運用しております。
当社は、2023年3月10日開催の取締役会において、当社100%子会社であるToyo Ink (Thailand) Co., Ltd.が、タイ王国のThai Eurocoat Ltd.の株式を取得し、100%子会社化することを決議するとともに、同日付で株式譲渡契約を締結しており、これに伴い、2023年4月3日付で株式取得を実施しました。
詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項」の(企業結合等関係)をご参照ください。
当企業グループは、創業200周年を見据え、10年後のありたい姿を新たな長期構想として掲げ、持続的な成長を実現する企業活動のコンセプト「Scientific Innovation Chain 2027(SIC27)」を設定し、第二ステップである中期経営計画「SIC-Ⅱ」を2021年度より展開してきました。すべての生活者・生命・地球環境がいきいきと共生する世界に貢献する企業グループを目指し、研究開発においては、サイエンス領域を広げて新技術を獲得し、新たな価値を創造し、お客様とともに成長、発展すべく積極的に活動を進めてまいりました。
「SIC-Ⅱ」ではサステナビリティ・サイエンス、コミュニケーション・サイエンス、ライフ・サイエンスを重点開発領域として設定し、変わりつつある新たな社会ニーズに対して真に必要とされる価値を提供し続けてきました。「SIC-Ⅱ」の最終年度となる2023年度は、それら重点開発領域の拡大と創出に注力し、それぞれの領域で戦略的に技術開発し、イノベーションの連鎖を起こすべく、日々取り組んでまいりました。
当企業グループにおける研究開発は、各開発テーマの初期段階から生産プロセスを意識した体制を構築するため、「生産技術研究所」を「生産・物流本部」から「R&D本部」に移管いたしました。本体制のもと、中核事業会社研究所(先端材料研究所、ポリマー材料研究所、機能材開発研究所)及び当社R&D本部(技術開発研究所、フロンティア研究所、生産技術研究所)の連携を強化し、新製品・新事業創出の加速につながる研究開発活動及び開発製品の迅速な工業化を推進してまいります。更に東京工業大学との協働研究拠点をはじめとした国内外オープンイノベーションの推進により新技術の導入を図り、持続可能でクリーンな社会の実現に向けた新素材やシステムの提供、5G・IoT社会への貢献、人々の生活を豊か・健やかにする製品やソリューション創出など、それぞれの社会ニーズに対して真に必要とされる価値を提供し、新たな事業の創出・拡大を目指すべく研究開発活動を推進しております。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、
当事業では、コア技術である有機合成技術と分散/加工技術を進化及び融合させ、社会/市場/お客様の課題解決に貢献する独自の色材・分散加工製品・着色剤・インクジェットインキの製品開発を続けております。
顔料及び顔料分散体事業関連では、これまで培ってきた顔料合成技術を進化させ、印刷インキ市場に向けて広色域化が可能な顔料の開発を進めております。また分散加工技術を応用した製品開発では自動車塗料を中心とした低VOC化、水性化等の社会ニーズへの適合に加え、これまでの技術では表現が困難な色や質感を実現する色材の開発を進めております。
メディア事業関連では、従来法より生産工程での使用エネルギーを削減可能な革新製法への転換を進めており、各拠点への展開を開始しました。また液晶ディスプレイの生産工程におけるCO2削減に貢献するべく、生産工程の低温プロセス化に対応した低温硬化レジストインキの開発を進めております。新規用途向けに市場拡大が続いているVR・ARディスプレイ用のマイクロディスプレイ用レジストインキは、前連結会計年度に続き伸長しました。
着色事業関連では、CO2削減によるカーボンニュートラルの達成・廃プラスチック問題解決という社会課題に対し、電気自動車用機能性コンパウンド、リサイクル材料を使用した機能性マスターバッチ、再生可能な資源を材料とした天然材機能性コンパウンド、生分解性コンパウンド等の環境調和型製品群の開発に注力しております。高機能プラスチック製品による脱炭素社会への貢献を果たすことで、提供価値の転換と事業成長を図っていきます。
機能材料事業関連では、カーボンナノチューブを用いた車載用リチウムイオン電池材料の商業生産を、米国拠点に続き、欧州ハンガリー拠点でも開始し軌道化しました。益々拡大するリチウムイオン電池市場の要求品質と需要に応えるため、グローバルでの開発体制及び供給体制を強化していきます。また将来を見据えた全固体電池用材料の開発も進めております。
インクジェットインキは、印刷市場のデジタル化を主軸とした開発を進めました。UV硬化型インクジェットインキは、近年加速する欧米の化学物質関連法規制への対応と、市場の要求品質の両立を達成し、主に海外市場でのビジネスが拡大しております。水性インクジェットインキは、商業印刷用途及びフィルム包装用途にて開発を継続し、印刷基材拡大への対応、各国法令対応を進め、堅調に事業拡大が進んでおります。
当事業に係わる研究開発費は、
当事業では、重点市場を①包装・工業材市場、②エレクトロニクス市場、③メディカル・ヘルスケア市場と位置づけ、その事業の礎となるポリマー・サイエンス・テクノロジープラットフォームの拡充に取り組み、高付加価値製品や環境調和型製品の開発を続けております。
包装・工業材市場向けについては、粘着剤では、環境調和型製品として、バイオマスマーク取得製品がラベル用途に初採用となりました。また、接着性と再剥離性を両立した高機能水性粘着剤を開発し、国内及び中国で採用となりました。接着剤では、環境価値提供を目的としたバイオマスタイプや無溶剤タイプのラミネート用製品の採用が拡大しております。また、高耐久高柔軟の工業用接着剤を開発し、自動車部材などでの評価が進んでおります。ホットメルト(熱溶融型接着剤)では、生活インフラ用のホットメルト接着シートなど工業用製品の開発が進みました。缶用塗料では、国際的な使用制限が進む有機フッ素化合物(PFAS)を含まない外面塗料を開発し、海外の顧客で採用となりました。また、成型加飾フィルム用のハードコート剤を開発し、自動車内装向けに採用となりました。
エレクトロニクス市場向けについては、半導体パッケージ基板を一括封止する絶縁保護シート、電磁波シールドシート「LIOTELAN®」の開発、及び半導体部材の絶縁材料に低誘電性と応力緩和性を付与できる新規のポリマー開発が進展し、現在顧客での評価が進んでおります。また、有機ELディスプレイの伸長に伴って、ディスプレイ製造工程で用いられる保護シート用のウレタン粘着剤の採用が拡大しました。
メディカル・ヘルスケア市場については、貼付型医薬品、検査薬用のシート製品、粘着剤製品の開発を引き続き進めております。
当事業に係わる研究開発費は、
当事業では、環境調和型の軟包装用グラビア、フレキソインキ、建装材用グラビアインキ、機能性インキの開発を始め、マテリアルリサイクルシステムの構築など、持続可能な社会の実現及び新たな価値の提供に向けた開発に取り組んでおります。
軟包装分野では、有機溶剤削減及び作業環境改善に貢献する水性インキのラインナップ拡充を図り、国内外で実績化が進んでおります。また、パッケージの紙化推進に必要な耐水性、撥水性、水蒸気バリア性を付与するコート剤や、パッケージのモノマテリアル化、単層化推進に必要な酸素及び水蒸気バリア性、耐熱性を付与するコート剤など各種機能性コーティング剤の市場評価が国内外で進んでおります。
マテリアルリサイクルでは、各種パッケージからのプラスチック再生技術の構築に向け、実証検証が可能なパイロット設備を導入し、パートナー企業の皆様と共同研究開発を進めております。
建装材分野では、内装向けインキ・トップコートの耐久性を大幅に向上させた屋外用途向け製品群の開発やVOCフリー、省エネルギー化に繋がる塗装代替技術の開発に取り組んでおります。
今後も、環境調和型インキ、次世代環境調和型パッケージ及び建装材の普及に貢献する機能性製品、リサイクル技術の開発を通じて、お客様とともに持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献する製品とサービスを提供し、社会に貢献してまいります。
当事業に係わる研究開発費は、
当事業では、パッケージやラベルなどの身の回りの商品で幅広く使用されているUV硬化型インキのほか、バイオマス度が高いことを特徴とする油性オフセットインキの製品開発を通して、カーボンニュートラルをはじめとする様々な社会課題の解決に資する価値を提供しています。
UVインキには瞬間硬化、VOCの非含有、紙からプラスチックまで基材対応できる幅広さという利点があることから、今後も海外市場で高い伸長が予想されます。UV印刷における世界的な大きなトレンドとして、従来のUVランプ方式と比較して消費電力が小さくランプ寿命が長いなどの特徴を有するLED-UV硬化システムが普及しつつあり、当社はLEDに対応した製品群を多数ラインナップしております。
また、UVインキは被膜の堅牢性が高く傷に強い反面、基材から分離しにくい傾向があります。当社は硬質プラスチックに印刷されたUVインキを分離できる業界初となる脱墨コーティング剤を開発しました。本製品は自動販売機の商品見本シート等の、これまでリサイクルが出来なかったプラスチック製品のリサイクル化への貢献が期待されております。
また、軟包装用グラビア印刷の小ロット対応のひとつとして普及が期待される電子線(EB)硬化型インキの製品開発も鋭意進めております。
当事業に係わる研究開発費は、
なお、上記の4つの事業に含まれない研究開発費は、