第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 売上成長、適切なコストコントロール、生産構造の最適化
 まず、当期における当社グループの売上は、自動車向け半導体の需要が前期に引き続き旺盛であった一方、産業・インフラ・IoT向け半導体の需要が、パソコンや携帯電話に加え、当期後半から減速した産業機器の需要低迷に伴い、軟調に推移した結果、前期と比べ微減となりました。他方、将来の売上収益の源泉となるデザイン・インは、当期において、期初目標と比べ14%の過達となり、前期と比べ38%増加しました。

 当社グループは、今後の売上成長に向けて、注力分野に対して集中的に研究開発投資を行うとともに、M&Aを通じて、当社グループが保有していない製品ポートフォリオや技術の拡充・強化を推進していきます。

 当社グループが集中的に研究開発投資を行う具体的な注力分野としては、AD(Autonomous Driving:自動運転)およびADAS向けのSoC、車載ドメインコントロール向けマイクロコントローラ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)やSiC等のxEV向けパワー半導体、ADASおよびxEV向けミックスドシグナル製品、Arm社コアおよびRISC-Vコア搭載マイクロコントローラ・SoC、BMIC(Battery Management IC:バッテリ管理IC)、DRP-AI(Dynamically Reconfigurable Processor-AI:動的再構成プロセッサーAI)を内蔵したMPU、データセンタや5G関連分野向けのアナログ・ミックスドシグナル製品などがあげられます。

 一方、当社グループでは、過去に買収した旧インターシル社や旧IDT社、Dialog社について、これまでも、ウィニング・コンビネーションをはじめとして、シナジーの最大化に向けて積極的に取り組み、当期においては、デザイン・イン全体に占めるウィニング・コンビネーションの割合を50%程度まで伸ばすことができました。今後も、これらの取り組みを継続・強化します。また、前期に買収したCeleno社、Reality AI社およびSteradian社に続き、当期においては、NFC向け半導体に強みを持つPanthronics社を買収しました。

 当社グループは、今後も引き続き、目まぐるしく変化する半導体市場に早期に対応すべく、買収候補先のリストアップ・更新を行い、当社グループが有していない製品・技術やソリューションの獲得を進めていきます。

 次に、コスト面では、まず、Dialog社の買収に伴うコストシナジーとして、各種コスト低減に向けた施策を実施し、その目標値を達成しました。しかしながら、輸送の面では、新型コロナウイルス拡大に端を発した物流の混乱による輸送コストの上昇は沈静化したものの、地政学リスクの高まりに伴う原材料や原油をはじめとしたエネルギー価格の高騰、さらに人件費の上昇により、輸送コストは高止まりしているため、当社グループは、集約輸送の実施など、物流フローの整流化を継続して実施することで、コスト低減を進めていきます。加えて、原材料のマルチソース化や長期供給契約の推進などにより、引き続き、サプライチェーンの安定化に努めるとともに、部材の変更や、より安価なサプライヤへの切替えなどを通じて、コスト抑制も進めていきます。また、2024年1月から発足した新しい組織体制のもと、研究開発費を含む費用項目の見直しを推し進め、投資・費用効率の向上を目指します。さらに、業務・ITシステム効率化の観点から、当社グループでは、その基幹ITシステムであるERPの統合に向けた戦略的投資を実施しており、中長期的に当社グループの事業に大きな貢献をするものと考えています。

 当社グループは、短期的には、将来の売上成長や事業の効率化に必要となる戦略的な投資を確実に実行しつつ、継続的に適切なコストコントロールに努めます。

 また、生産面では、当期における当社グループの前工程生産拠点の稼働率は、150mm生産工場が43%、200mm生産工場は71%、300mm生産工場は50%、全工場平均で62%でした。

 当社グループは、半導体の安定供給に向けて、引き続きグループ内工場の設備の増強に努めます。当期においては、今後拡大が予想されるパワー半導体の需要に対応するため、甲府工場と高崎工場に設備投資を実施したほか、マイクロコントローラの供給能力増強を図るため、那珂工場や川尻工場への設備投資を実施しましたが、今後も引き続き、当社グループ製品の安定供給に向けた設備投資に努めます。これらの設備投資に加え、急激な需要変動への対応とレジリエンスを高めるため、引き続きダイバンクの構築に取り組んでいきます。

 また、生産委託先での生産量の確保・拡大にも、引き続き取り組んでいきます。

 これらの積極的な投資により、当期における当社グループの設備投資額は、売上収益比6%程度となりましたが、中長期的には売上収益比5%程度にコントロールすることを目指します。

 

(2) 地政学的問題への対応
 米中貿易摩擦の長期化や中東情勢の悪化など、世界的に地政学リスクが高まっており、それに端を発するサプライチェーンの分離は今後も進展し、それらを早期に解消することは難しい状況にあります。そして、この分離により、特定企業・製品などの輸出制限や中国国内における成熟ノード製品(40ナノメートル以上のプロセスで生産される半導体製品)を中心とした地産地消が加速しており、当社グループが事業セグメントとする半導体市場や事業機会に大きな影響を及ぼし始めています。当社グループは、米国および中国を中心とした各サプライチェーンの分離にそれぞれ対応するため、設計、製造拠点の分散化・リソースの適正化を引き続き推進しています。

 当社グループは、今後も、こうした地政学リスクの最小化と事業機会の最大化のための活動を継続していきます。
 

(3)ユーザ・エクスペリエンスの価値の最大化

 当社グループでは、そのパーパスである「To Make Our Lives Easier」のもと、顧客の製品・サービスの開発を楽(ラク)にするため、ユーザ・エクスペリエンス(UX)の向上を推進しています。そして、当社グループは、その実現に向けて、顧客ができるだけ簡単かつスピーディーにその製品・サービスの開発を進めることができるよう、様々な取り組みを実施しています。

 例えば、当期においては、当社グループ製品の顧客が物理的に評価ボードを入手することなく、クラウドベースの設計プラットフォーム上でハードウェアとソフトウェアをグラフィカルに構築することを支援する「クイックコネクトスタジオ」を公表しました。これにより、顧客は、マイクロコントローラと各種センサやコネクティビティ機能を組み合わせた試作モデル(プロトタイプ)を迅速に設計・検証し、手軽に開発に着手することが可能になります。この他にも、Microsoft社のクラウドサービス「Microsoft Azure」のクラウド環境上で車載AIソフトウェアの性能評価や動作検証を可能とする「AI Workbench」を発表し、顧客が自動車開発の初期段階から、ハードウェアがなくても、その仕様や性能の検証を行うことができる「シフトレフト」の実現に貢献しています。

 また、2024年2月には、プリント基板(PCB)設計プラットフォームで定評があり、米国に本社を置くAltium社を買収する旨の契約を同社と締結しました。

 顧客がPCBを設計する際に、時には何百にも及ぶ搭載部品の選定やその部品表(BOM)の管理に多くの労力を割く必要があります。そこで、当社グループは、顧客における部品選定を楽にするとともに、当社グループのデジタライゼーション戦略を推進するための取り組みの一環として、2023年6月に、当社グループ製品の設計ライブラリを従前より取引のあった同社のプラットフォームに集約することを公表しましたが、今般、これをさらに推し進め、同社を買収することとしました。

 当該買収により、両社が一体となって、当社グループの組み込み半導体ソリューションと同社の優れた技術を組み合わせ、クラウド上で各機器・システム間の設計を一元的に実行・管理する「電子機器設計・ライフサイクルマネジメントプラットフォーム」を構築することで、複雑で高度化した電子機器やシステムの設計を一元化されたシステムで実行することができ、顧客における大幅な開発リソースの削減と効率化の促進、さらにはイノベーションを加速させることが可能となります。

 当社グループでは、今後もこれらの取り組みを拡大・強化し、一層のユーザ・エクスペリエンスの価値の最大化を推進します。

 

(4) サプライチェーンの最適化
 当社グループのサプライチェーンには、生産と受注のリードタイムの整合、受注確定に関する商慣行などの点で課題があります。これらの課題に対応するため、当社グループでは、現在、新しいITシステムを導入し、意思決定のさらなる迅速化を進めています。

 また、生産の実行面では、さらなる変動対応力とBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の強化に向けて、ダイバンクの構築を進めています。このうち、グループ内生産品については、一定の成果を得ており、外部への生産委託品についても、徐々にダイバンクの拡充を開始しています。当社グループは、今後も市場動向を注視しながら、適切なダイバンクの構築を志向していきます。

 

(5) ESG活動と情報開示の推進
 当社グループは、当期において、ESGやSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に関連する多くの取り組みを実施しましたが、今後も引き続き、持続可能な社会の実現に向けた「環境」に資する活動、人材の多様性や従業員の安全衛生、サプライチェーンマネジメントなどの「社会」に資する活動、そして、取締役会の機能強化などの「ガバナンス」に資する活動を推進します。

 また、ESG活動に関する非財務情報の開示をより一層充実させ、ESG格付けの向上や当社グループを取り巻く様々なステークホルダーに対する情報提供に努め、さらなる企業価値の向上に努めます。

 

(6) タレント構成の最適化
 当期末現在における当社グループの各拠点地域の人員構成は、日本が44%、北米が10%、欧州が12%、アジア太平洋が34%でした。

 当社グループは、中長期的な視点から、グループ全体でバランスの取れた従業員の年齢・地域・スキルのミックスを実現するとともに、ソフトウェアなどの重要分野や今後成長が見込まれる分野に従事する従業員を拡充することを目指し、様々な人事施策に取り組みます。

 当社グループでは、グローバルなタレント採用チームを組織化しており、全世界で整合された方針に基づく戦略的な採用活動を各地域において実施していくとともに、必要に応じてM&Aも活用しながら、グループ全体としてタレント構成の最適化に継続して取り組みます。

 

(7) 従業員エンゲージメントの向上と「ルネサスカルチャー」の浸透
 当社グループは、「To Make Our Lives Easier」をパーパスとして掲げ、人々の生活を楽(ラク)にする製品・ソリューションを提供しています。このパーパスのもと、2020年以降、世界中の当社グループ組織とそこで働く従業員一人一人が絶えず変化する環境に迅速かつ柔軟に対応していくために共有する行動指針として、「Transparent、Agile、Global、Innovative、Entrepreneurial」という5つの要素からなる「ルネサスカルチャー」を策定し、定着に向けて取り組んでいます。

 当期においても、「ルネサスカルチャー」の浸透を加速させるため、様々な施策に取り組みましたが、今後もこの「ルネサスカルチャー」について、採用、育成、評価などの人事サイクルの一つ一つに組み込みながら、従業員とさらに共有し、これを根付かせ、エンゲージメントのさらなる向上に努めます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方および取組は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社が判断したものであります。

 

(1) 気候変動への対応

① ガバナンス

当社は、気候変動に伴う様々な機会・リスクを事業戦略上の重要な観点の一つとして認識しております。そのため、気候変動による機会・リスクを含めたサステナビリティに関連する活動のすべての全社的責任は、CEOにあります。気候変動に係る方針や重要事項、機会・リスクは、CEO、CEOが指名する執行役員およびサステナビリティ推進室により定期的に議論、見直しを行い、取締役会に対して、定期的に報告を行っております。また、CEO統括のもと、環境担当役員が管理責任者として、当社グループ全体の環境活動の推進を担う環境推進部を管掌し、グローバルに検討、計画し、体制を整備し、管理しております。

② リスク管理

当社グループでは、「ルネサスエレクトロニクスグループリスクおよび危機管理規則」に基づき、グループ全体でリスクマネジメント体制を構築しております。気候関連リスクを含め、ビジネス上のリスクを定期的に抽出し、その種類や特性に応じて危機管理担当部門を決定し、日常的にリスク管理を行っております。また、リスクマップに、現実的に想定されるリスクを、あらかじめ特定し一元化すると同時に、リスクの未然防止策、リスク発現時の体制や対応方針を策定しておくなど、不測の事態に備えております。さらに、全社における緊急事態が発生した場合には、CEOを本部長とした緊急対策本部を速やかに設置し、情報の一元化、対策の検討を行い、損失の極小化のための対応に当たります。

③ 戦略

気候変動は当社グループにとって重要な課題であります。気候関連のリスクと機会が当社グループの事業、戦略、財務計画に及ぼす影響の把握、およびそれに対する対応策を検討するために、シナリオ分析を実施しております。

シナリオ分析により、当社グループにとっての主要なリスクと機会、その対応策は以下のとおりであります。

   (a) リスク

· 事業を行っている各国でカーボンプライシングが導入されることにより生じる可能性のある、対応のためのコスト増加、炭素集約度の高い原材料コスト・生産委託料の上昇などのリスク

· 省エネが要求される市場や製品で開発遅延が発生した場合や、顧客から求められる脱炭素への要求に十分に応えられなかった場合において生じる可能性のある、販売機会の損失や売上減少リスク

· 異常気象の増加により製造拠点や物流網が影響を受けた場合において生じる可能性のある、売上高減少や復旧費用の発生リスク

   (b) 機会

· 脱炭素・低炭素化に対応した製品・ソリューションの需要が大幅に増加する機会。特に、自動車向け事業では、EV (Electric Vehicle)の市場拡大に伴う関連製品の需要拡大、産業向け事業では、低炭素・脱炭素技術関連(風力・FA (Factory Automation) など)の需要拡大が見込まれる。

· 気候変動に伴う顧客の嗜好や関心の変化に対応することで新たな市場を獲得する機会

      (c) 対応策

· 温室効果ガス排出量削減目標達成に向けた施策の着実な実施およびサプライヤの温室効果ガス排出量の把握、削減施策の働きかけにより炭素税増加リスクへ対応する。

· 各国の省エネ基準変更の事前察知を通じた開発着手の前倒しや柔軟に機能変更を可能とする開発手法の導入によりタイムリーな市場投入を可能にする。

· 顧客や投資家が要求する脱炭素の取り組みに応えるよう、環境活動の推進・加速およびコミュニケーションを促進する環境情報を積極的に開示する。

· 製品およびソリューションのラインアップ拡充や高速・高機能・高効率化などを実現する次世代技術獲得など、エネルギー効率の高い製品の開発を加速する。

· ビジネスの多様化、消費者の嗜好の変化など、新市場拡大機会への対応に向けた研究開発へ、継続的に投資を実施する。

 

なお、シナリオ分析の前提や対応策の詳細については、当社サステナビリティサイト/TCFD提言への対応(https://www.renesas.com/jp/ja/about/company/sustainability/tcfd)をご参照ください。

 

④ 指標および目標

当社グループの温室効果ガス削減にかかる目標は次のとおりです。またこれらの削減目標については、SBT (Science Based Target)の認定を取得しております。

· 温室効果ガス排出量(Scope1, Scope2)削減目標:2030年38%削減(2021年対比)

· 温室効果ガス排出(Scope1, Scope2)カーボンニュートラル:2050年

 

 

目標の達成に向け、エネルギー消費の多い生産拠点を中心に、国内の電機・電子業界目標および省エネ法におけるエネルギー原単位の削減目標の達成、温室効果ガスの中でも特に環境負荷の高いPFCガスの排出削減、再生可能エネルギーの使用拡大など、様々な活動を継続的に推進しております。

 

また、Scope3についても「Scope 3のCategory 1における温室効果ガス排出量の70%に相当するサプライヤ(生産委託を含みます。)が、科学的根拠のある温室効果ガス削減目標を2026年までに設定」という新たな目標を設定し、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減にも努めていきます。

 

詳細は当社サステナビリティサイト「環境活動/環境保全の目標」(https://www.renesas.com/jp/ja/about/company/sustainability/protection-goals)、

「環境活動/環気候変動への取り組み」

(https://www.renesas.com/jp/ja/about/company/sustainability/climate-change)をご参照ください。

 

(2) 人的資本および多様性に関する取り組み

① 戦略

当社は、多様な人材一人ひとりが自分の強みを持ち、能力・スキルを最大限に発揮することのできる人事制度や人材が成長する仕組みを強化しております。地域や組織を超えて従業員が活躍できる体制の構築に向け、各種制度・施策の立案・導入を推進しております。また、当社は、あらゆる多様性(ダイバーシティ)や価値観を尊重し、互いに受容(インクルージョン)する職場環境の整備と企業風土の醸成に積極的に取り組んでおります。グローバル企業としてのルネサスの強みの一つは、20ヶ国以上の地域で、国籍や人種、思想、文化、言語、性別、年齢など、多様な人材および価値観を持った人材が活躍していることにあります。当社は、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを尊重する姿勢と具体的な取り組みが、一層革新的な製品やサービスを生み出す源泉となり、当社のサステナブルな事業成長を支えると信じております。当社は、異なる個性や価値観を持つ多様な人材が存分に力を発揮することのできる環境作り、育成制度の充実を推進することにより、個人の能力を最大限に活かします。

   (a) Renesas Cultureの推進

 目まぐるしく変化する事業環境においても、迅速かつ柔軟に自らを変革し、グローバルレベルで社会に価値を生み出すことが求められる当社グループ全従業員の行動指針として「Renesas Culture」を策定しております。Renesas Cultureの全社への浸透および取り組み強化への一環として、全社員を対象としたサーベイを年1回定期的に実施しております。定期的にサーベイを行うことにより、進捗を定量的に把握し、改善点を特定し、CEOの直接のリーダーシップの下、具体的な行動計画へとつなげております。

   (b) グローバルに活躍できるリーダー人材の育成

 組織への影響力が大きく、組織の成果を左右するリーダー人材の継続的な育成は、企業の成長性・持続性・安定性にとって重要な取り組みであります。当社グループでは、キーポジションのサクセッションプラン(ポジション毎の後継者計画の作成)と、リーダー人材育成(従業員のキャリア構築の更なる拡充)の両輪によって、各ポジションの後継者が安定的に輩出される状態を目指しております。

   (c) 従業員が主体的に学習する仕組み

  当社は、17,000以上のコースから従業員が自由に選び学ぶことができるオンライン学習プラットフォームをはじめ、従業員が主体的に学習するための仕組みをグローバルに導入しております。従業員の自律的な成長を促し、スキル・能力の向上やキャリア目標の実現を支援しております。国内では、自身がスキルアップしたいテーマを100コース以上の中から自由に選択できる「自己啓発支援プログラム」や、自ら手を挙げて参加することができる分野別専門技術講座や語学学習など、従業員一人ひとりが能力を確立し、キャリアオーナーの自覚をもって自らキャリアを切り拓く教育機会を提供しております。また、就業形態や就業環境の多様化が進む中、在宅勤務でも参加しやすい各種教育・研修のオンライン化に計画的に取り組んでおります。

   (d) ジョブローテーションの仕組みの構築

  MBO(目標管理)面談を通して、マネージャーが部下の能力やキャリアに対する希望を把握し、希望をベースに各人の成長を主眼として人材配置を行う、キャリア開発と連動させたローテーションを行っております。また、人材の発掘・登用や組織の活性化のために公募制による人事異動を実施し、積極的にローテーションを行うことで、従業員一人ひとりが自身の成長に向けてキャリアオーナーとなる機会が付与されております。

   (e) 社員教育、能力開発支援

  当社では、新入社員の早期の自律および若手社員のスキルアップとモチベーションの向上を目指し、導入研修、1年目振り返り研修、2年目成果報告会などを日本国内において実施しております。これらの仕組みにより、自身の職種に必要な基礎技術・スキル、共通した業務遂行力の習得などを行い、グローバルに活躍できる人材の基礎を築きます。また、管理職向けには、さまざまなオンライン学習プラットフォームやプログラムを活用し、世界中のシニア・スぺシャリストやマネージャーが、チームやプロジェクト・リーダーとして成功できるように支援しております。

  さらに、日本国内では、若手社員が新入社員を指導する育成担当者制度や、一部の海外のグループ会社においては、新入社員に加え、インターンやWorking studentに対するメンターンシッププログラムを実施しております。経験豊富な社員がメンターとなり、業務上のアドバイスに加え、職場環境、人脈形成、キャリア形成などの支援も行っております。メンターは、新入社員やインターンへのアドバイスを通して自己成長の機会を得ることができ、コミュニケーション、ファクトファインディング、合意形成などのソフトスキルや部下育成や評価といったマネジメント力の向上につながっております。

   (f) 従業員リソースグループ・ダイバーシティイベント

  当社では、多様性(ダイバーシティ)や異なる価値観を尊重し合い、皆が活躍できるインクルーシブな職場環境の構築とカルチャーの醸成をグローバルに推進するため、ダイバーシティ推進グループ (Diversity Promotion Group:DPG) を設置しております。すべての従業員がダイバーシティの担い手であること、対話を通じ、社員一人ひとりが組織に存在する多様な人材の多様なものの見方・考え方などに気付き、その違いを受け入れ、尊重する姿勢など、ダイバーシティを身近に感じることを大切にして、取り組みを進めております。

  また、毎年10月を「ダイバーシティ推進月間」と位置づけ、従業員が共に学び、考え、行動へ繋げるための様々なイベントや啓蒙活動を実施しております。2023年は、職場における無意識の偏見やジェンダーステレオタイプ、仕事と私生活におけるウェルビーイングとメンタルヘルスなどのトピックスを取り上げた3つのトークイベントを開催しました。

② 指標および目標

組織・人材の活性化および多様化の観点において以下の指標について、それぞれ中長期的に目標を定めマネジメントしております。

· 取締役会の女性比率:30%以上

· 新卒採用に占める女性比率(日本):20%以上

 

 

 詳細は当社サステナビリティサイト「人材マネジメント/人権の成長とエンゲージメント」

(https://www.renesas.com/jp/ja/about/company/sustainability/engagement)、

「人材マネジメント/ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」

(https://www.renesas.com/jp/ja/about/company/sustainability/diversity)をご参照ください。

 

(3) 人権に関する取り組み

① ガバナンスおよびリスク管理

当社は「ルネサスグループ人権方針」を策定し、グローバル一体となって人権尊重の取り組みを推進するべく、執行役員兼CHRO(最高人材責任者)を責任者とした人権推進体制を設立しました。また国内人事部門に事務局を配置し、各国・地域の人事部門とともに当社グループ内における人権リスクの特定、リスク評価、及び優先して取り組むべきリスクの抽出を行っております。

また、人権方針の遵守状況や取り組みの進捗について定期的に取締役会で報告し、取締役会の監督を受けることとしております。全社のサステナビリティ活動を推進するCEO直下の専任の組織であるサステナビリティ推進室と連携し、人権についての取り組みの進捗状況について、ステークホルダーに対して継続的に情報開示を行っております。

当社では、各拠点に、派遣社員を含むすべての従業員や取引先の従業員などが、人権に関する問題や悩みを相談できる相談窓口として相談員を社内に設置しております。相談員の所属部署や氏名を、イントラネットや事業所掲示板などで周知するとともに、面談だけでなく電話やメールによる相談にも対応するなど、相談しやすい環境づくりに努めております。

② 戦略ならびに指標および目標

当社は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権デューディリジェンスを毎年実施しております。人権デューディリジェンスにより、ルネサスグループやサプライチェーンにおける潜在的な人権リスクを特定し、是正に向けた取り組みの検討および実行、更にモニタリング、情報開示等のプロセスを継続的に推進し、人権尊重の実現に向けた取り組みを進めております。

当社では、人権に関する国内外の動向調査、人権関連のNGO等のレポーティング、及び専門家からの助言等を通じて、当社グループにおける潜在的な人権リスクや配慮すべきステークホルダーを特定し、当社グループ内やサプライチェーン上において重点的に取り組むべきと考えられる人権課題として以下の6項目を設定しております。

(1) 労働安全衛生

(2) 児童労働・強制労働の禁止(子どもの権利に対する方針)

(3) 労働時間

(4) 責任ある鉱物調達

(5) 結社の自由(労使関係)

(6) 人権教育

これらの重要度が高い課題に対して、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、リスクの抽出・予防・軽減のため具体的な取り組みを進めてまいります。

詳細は当社サステナビリティサイト「人材マネジメント/人権」

(https://www.renesas.com/jp/ja/about/company/sustainability/human-rights)をご参照ください。

 

3 【事業等のリスク】

  当社グループの事業その他に関するリスクとして、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。また、必ずしもそのようなリスク要因に該当しない事項につきましても、投資家の投資判断上、重要であると考えられる事項については、投資家に対する積極的な情報開示の観点から以下に開示しております。なお、文中における将来に関する事項は、提出日現在において入手し得る情報に基づいて当社グループが判断したものであります。

 

(1) 市況の変動

 当社グループは、世界各国の景気循環、最終顧客の製品の需要の変化などに起因する、半導体市場の市況変動の影響を受けております。当社グループでは、常に市況の動向を見極めながら事業活動を遂行しておりますが、その影響を完全に回避することは困難であるため、市況が下降した局面においては、製品需要の縮小、生産・在庫数量の増加および販売価格の低下を招く可能性があります。その結果、当社グループの売上の減少や、工場稼働率の低下に伴う売上総利益率の悪化につながり、収益が悪化する可能性があります。

 

(2) 為替相場および金利の変動

 当社グループは、世界各地域において様々な通貨を通じて事業活動を行っております。当社グループは、為替変動のリスクをヘッジする取組みを行っておりますが、為替相場が大きく変動した場合、外貨建取引の売上高、外貨建の資材コスト、海外工場の生産コストなど当社グループの業績および財政状態が影響を受ける可能性があります。また、当社の外貨建の資産・負債を日本円に換算表示すること、さらに、海外子会社における外貨表示の財務諸表を日本円に換算表示することによっても、当社グループの資産・負債および収益・費用は変動します。

 また、金利の変動により、当社グループの事業運営に係る経費、資産および負債の価値が影響を受けるため、これにより、当社グループの事業、業績および財政状態が悪影響を受ける可能性があります。

 

(3) 自然災害など

 地震、津波、台風、洪水などの自然災害、火災、停電、システム障害などの事故、テロ、戦争、感染症をはじめとした予測困難な事由が発生した場合、当社グループの事業活動が悪影響を受ける可能性があります。特に、当社グループは、地震が発生する確率が世界の平均より高いと考えられる地域に重要な施設・設備を保有しており、地震の発生時に、その影響により当社グループの施設・設備が損傷を受け、操業を停止せざるを得ないなど、多くの損害が発生する可能性があります。また、地震以外の自然災害、火災、停電、システム障害などの事故、テロ、戦争、感染症などによっても同様の事態が生じる可能性があります。例えば、2021年3月には、当社の生産子会社の半導体製造工場(那珂工場N3棟(300㎜ライン))の一部工程において火災が発生し、同工場における製品の生産・出荷が一時的に停止する事態が生じました。当社グループでは、こうしたリスクに備えて、各種事前対策、緊急対策などを定めたBCP(事業継続計画)などを策定・運用するとともに、各種保険に加入しておりますが、想定を上回る事態が発生する可能性は否定できず、それらの対策によっても、リスクを完全に回避することは困難であり、また、全ての損害を補填できるという保証もありません。

 

(4) 競争 

 半導体市場は熾烈な競合状態にあり、当社グループは、製品の性能、構成、価格、品質などの様々な面で、国内外の多くの同業他社との激しい競争に晒されております。とりわけ、近年において、同業他社間による買収、統合、業務提携などが行われており、今後もその可能性がありますが、その結果、当社を取り巻く競争環境はさらに激化する可能性があります。当社グループでは、競争力の維持強化に向けて、先端技術の設計、開発のプラットフォーム化、原価低減の推進、第三者との戦略的提携やさらなる企業買収の可能性の検討などの様々な施策に取り組んでおりますが、これらの施策を適時適切に行えなかった場合、製品のマーケットシェアが低下し、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、熾烈な市場競争により、当社グループ製品の販売価格が急激な下方圧力に晒され、それを価格交渉や原価低減などの様々な収益性改善のための施策では補いきれずに、売上総利益率の悪化に見舞われる可能性があります。さらに、売上総利益率が低い当社グループ製品について、顧客において他の製品への移行が困難または一定の期間を要する場合などには、当社グループは、適時に生産の中止・減少が行えない可能性があり、その結果、当社グループの収益性を低下させる可能性があります。 

 

(5) 事業戦略の推進 

 当社グループは、急激に変化する経営環境下で、収益基盤を強化するため、中期成長戦略の策定、当社グループ内における組織体制の改編など様々な事業戦略および構造改革を遂行しております。これらの事業戦略および構造改革には一定の費用が伴う一方で、経済・事業環境の変化、将来の不確実な要因、予期できない要因などにより、その遂行が困難になる可能性や当初計画していた効果を得られない可能性がある他、当初の見込みを上回る費用が発生する可能性があり、その結果、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。 

 

(6) グローバルな事業展開

  当社グループは、グローバルに事業を展開しておりますが、潜在的な顧客と現地企業との間の長期に亘る関係などの障壁、投資、輸出入に関する制限、関税、公正な取引などの各種規制、各国の貿易政策の変更、貿易障壁および貿易摩擦の高まりを含む政治的・社会的・経済的リスク、疾病またはウイルスの流行または感染、為替変動、賃金水準の上昇、物流障害などの様々な要因により悪影響を受ける可能性があります。その結果、当社グループは、グローバルな事業展開に関する当初の目的を達成できず、当社グループの事業、業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 戦略的提携および企業買収

 当社グループは、事業拡大や競争力の強化などを目的として、重要な技術や製品の研究開発、生産などの分野において、第三者との間で、共同出資関係を含む戦略的提携や企業買収を実施することがあります。しかしながら、今後も当社グループにとって適切な提携先・買収先候補が見つかるとは限らず、また、適切な提携先・買収先があった場合にも、当社にとって受入れ可能な条件で合意に至ることができない可能性があります。また、提携先・買収先との合意に至った場合であっても、買収資金を調達できない可能性、提携先・買収先の株主承認等が得られない可能性、必要な許認可が取得できない可能性、法令その他の理由による制約が存在する可能性があり、買収を実行できる保証はありません。例えば、当社は、2024年2月に、米国のソフトウェア企業であり、豪州証券取引所に上場するAltium社との間で、当社が同社の発行済普通株式の全てを取得し、同社を完全子会社化すること(以下「本件買収」)について合意しておりますが、本件買収については、Altium社の株主、豪州裁判所および必要な規制当局の承認に加え、その他一般的な取引条件の充足を経たうえで、2024年下半期中に完了する予定であるところ、これらの取引条件が満たされるかは不確実です。これらの取引条件の全部または一部が満たされない場合には、本件買収は実行されない可能性があり、本件買収が実行されない場合、想定していたシナジーやメリットを実現できない一方で、本件買収に要した費用負担のみが生じることとなります。

 さらに、当社グループでは、これらの提携や買収にあたって、投資回収や収益性などの可能性について様々な観点から検討していますが、事業遂行、技術、製品、人事、システム、関連当局の独占禁止法(競争法)への対応などの面で統合に時間と費用を要することに加え、資金調達、技術管理、製品開発などの経営戦略について提携先・買収先と不一致が生じたり、提携先・買収先において財務上その他の事業上の問題が生じた場合などに、提携関係・資本関係を維持できない、または買収時に想定していた投資回収や収益性を実現できなくなる可能性があります。また、提携先・買収先の主要顧客や主要人員を維持・確保できないことなどにより、想定していたシナジーやメリットが実現できない可能性があるなど、提携や買収が当初の期待どおりの目的を達成できる保証はありません

 

(8) 資金調達

  当社グループは、事業資金を金融機関からの借入や社債の発行などにより調達しておりますが、新製品を発売し、事業・投資計画を実行し、生産能力を拡張し、技術もしくはサービスを取得し、または負債を返済するため、将来、追加的に資金を調達しなければならない可能性があります。半導体業界の事業環境の悪化、金融・証券市場の環境の悪化、貸手側の融資方針の変更などにより、当社グループが必要な資金を適時に調達できない、または資金調達コストが増加する可能性があることなどにより、当社グループの資金調達が制約される可能性があります。また、当社は、企業買収を実施する際の買収資金についても金融機関からの借入などにより調達する可能性があります。例えば、当社は、2024年2月に公表した本件買収に係る買収資金(総額約91億豪ドル、1豪ドル97円換算で約8,879億円)については、手許現金のほか主要取引銀行から新たに調達する予定の借入金を充当する予定であります。これらの金融機関からの借入などの実施により、当社は有利子債務を負担することになるところ、実施した借入の長期資金への切り替えができない場合や当初想定したキャッシュ・フローの創出が実現しない場合には、当社グループの財務内容が悪化し、信用格付けが引き下げられる可能性があり、その場合にも、資金調達コストの増加や、当社グループの資金調達が制約される可能性があります。なお、当社グループが金融機関と締結している借入に係る契約の一部には財務制限条項が定められております。万一、当社グループの財務内容などの悪化により同条項に抵触し、上記借入について期限の利益を喪失する場合、当社グループの事業、業績および財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) 急速な技術革新など 

 当社グループが事業を展開している半導体市場は、急速な技術変化と技術標準の進展などを特徴としております。そのため、当社グループがこうした変化について、研究開発などにより適切に対応できなかった場合、当社グループ製品の陳腐化、代替製品の出現などにより、当社グループの事業、業績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(10) 製品の生産

① 生産工程 

 半導体製品は、非常に複雑な生産工程を経て生産されております。当社グループは、歩留り(材料当たりの製品良品率)を改善するため、生産工程の適切な管理および改良に継続して取り組んでおりますが、この生産工程に何らかの問題が発生した場合は、歩留りの悪化による製品出荷の遅延や出荷数量の減少、最悪の場合は出荷停止の結果を招く可能性があります。

 

② 原材料、部品、生産設備などの調達 

 半導体製品の生産にあたっては、その生産に必要となる原材料、部品、生産設備などを適時に調達する必要があります。当社グループは、これらの調達に関連する問題の発生を回避するため、複数の供給者との緊密な関係構築に努めておりますが、原材料などの中には特定の供給者からしか入手できないものも含まれているため、需給が逼迫した場合や、供給者において自然災害や事故、テロ、戦争、経営状況の悪化、事業撤退などの事象が発生した場合、これらを適時に調達できず、また調達できる場合でも調達価格が大幅に上昇する可能性があります。また、調達した原材料や部品に欠陥が存在した場合、当社グループの生産工程に悪影響が生じる可能性や当社グループにおける追加の費用負担が発生する可能性があります。

 

③ 外部への生産委託

 当社グループは、半導体製品の生産の一部を外部のファウンドリ(受託生産専門会社)などに委託しております。これらの外注先の選定にあたっては、技術力や供給能力などについて、あらかじめ厳しく審査を行い、信頼できる会社を選定しておりますが、外注先の責による納入の遅延や製品の欠陥をはじめとした、生産面でのリスクが生じる可能性を否定できず、外注先の生産能力不足や自然災害による外注先の操業停止などにより、当社グループが十分な製品供給を行えない可能性があります。

 

④ 適切な水準での生産能力の維持

 半導体市場は市況変動の影響を受けやすく、また、将来の製品需要を正確に予測することは困難であるため、必ずしも当社グループの生産能力を製品需要と見合った適切な水準に維持できるとは限りません。また、製造工場における火災、停電、システム障害などの事故の発生といった予期せぬ事由により、当社グループの生産能力が一定期間において大きく低下する可能性があり、さらに、生産能力増強のための設備投資を行う場合であっても、通常、実際に当社グループの生産能力の増強に寄与するまでには一定期間を要します。

 そのため、特定の製品に関する需要が、ある時点における当社グループの生産能力を大幅に超過し、かかる需要超過の状態が継続した場合であっても、顧客が希望する製品供給を適時適切に行うことができず、当該製品に関する販売機会の喪失、競合他社製品への切り替えによるマーケットシェアの低下、当該顧客との関係悪化などを招く可能性があります。

 他方、特定の製品に関する製品需要の高まりに応じて設備投資を行い、生産能力の増強を図った場合であっても、当該設備投資により実際に生産能力が増強される時点以降において当該製品に関する需要が維持される保証はなく、実際の製品需要が想定を下回った場合などにおいて当該設備投資について見込んだ収益による投資の回収が行えない可能性があります。

 

(11) 品質問題

 当社グループでは、様々な施策を通じて、当社グループ製品の品質向上に取り組んでおりますが、これらの製品に用いられる技術の高度化、顧客における製品の使用方法の多様化、外部調達した原材料や部品における欠陥などにより、出荷時に発見できない欠陥、異常または故障が製品に存在する可能性があり、顧客への出荷後にそれらが発見される場合があります。この場合、製品の返品や交換、損失の補償、製品の採用打ち切りなどの結果につながり、当社グループの経営成績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。こうした事態に備えて、当社グループでは、生産物賠償責任保険(PL保険)、生産物回収費用保険(リコール保険)などの保険に加入しておりますが、それにより損失を全額補填できるという保証はありません。

 

(12) 製品の販売

① 主要顧客への依存

 当社グループは、当社グループ製品の顧客に対する売上高の多くを特定の主要顧客に依存しております。これらの主要顧客が当社グループ製品の採用を中止し、または著しくその発注数量を減らした場合、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

② 顧客固有の仕様に基づいた製品に係る顧客からの計画の変更など

 当社グループは、顧客からその顧客固有の仕様に基づいた製品の開発を受注することがあります。しかし、受注後に、発注元の顧客がその製品を搭載する予定であった最終製品の市場への投入を延期または中止したり、その製品の機能・性能が顧客の要求に満たない場合には、その製品の採用を中止する可能性があります。また、顧客は、その製品を組み込んだ最終製品の売れ行きが芳しくない場合、その製品の発注数量を減少させ、または納入期日を延期することがあります。

 こうした特定顧客向け製品に係る顧客からの製品計画の変更、発注の減少や延期などは、当社グループの売上や収益性を低下させる可能性があります。

 

③ 販売特約店などへの依存

 当社グループは、日本国内およびアジア地域では、多くの当社グループ製品を特定の主要な販売特約店などを通じて販売しております。当社グループがこれらの販売特約店などに対して、競争力ある販売報奨金やマージンを提供できない場合または販売特約店などにとって適切な売上数量を確保できない場合、販売特約店などは当社グループ製品の販売体制縮小などの見直しを行い、その結果、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

(13) 人材の確保

 当社グループは、事業を展開していくうえで、経営、技術開発、営業その他において優秀な人材の確保に努めております。しかしながら、こうした優秀な人材は限られているため、かかる人材を求める競争は熾烈であります。そうした状況下で、当社グループが優秀な人材を確保することができない可能性があります。

 

(14) 確定給付制度債務

 当社グループが計上している退職給付に係る資産や負債は、割引率などの数理計算上の前提に基づいて算出されております。金利変動や株式市場の下落などにより、数理計算上の前提と実績に乖離が生じ、確定給付制度債務が増加もしくは年金資産が減少した場合、退職後給付制度における積立不足が増加し、当社グループの業績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(15) 設備投資と固定費比率

 当社グループが営む半導体事業は、多額の設備投資を必要とする事業であり、当社グループは、継続的に設備投資を行っておりますが、かかる設備投資に伴い償却費用を負担する必要があります。また、市場環境の変化に伴い需要が減少し、想定した販売規模を達成できない場合、あるいは供給過剰により製品の単価が下落した場合、こうした設備投資の一部または全部について、回収することができない、あるいは回収できるとしても想定より長い期間を要する可能性があり、その結果、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社グループの費用の大部分は、上記の設備投資に伴う償却費用に加えて、工場の維持等に伴う生産コスト、研究開発費用といった固定費で占められているため、主要顧客からの受注の減少、製品需要の減少等による売上の減少や、工場稼働率の低下等が生じた場合であっても、それらの事象に対応した固定費の削減を行うことが困難であり、その結果、比較的小規模の売上の減少等が当社グループの収益性に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(16) 固定資産の減損

 当社グループは、工場設備などの有形固定資産に加えて、過去の企業買収に伴う多額ののれんなどの無形資産を含む多くの固定資産を保有しております。また、Altium社の買収が完了した場合、当該買収に伴い新たにのれんおよび無形資産が計上される見込みです。これらの固定資産については、減損の兆候がある場合、固定資産から得られる将来のキャッシュ・フローによる資産の帳簿価額の回収可能性を検討しております。その結果、当該資産が十分なキャッシュ・フローを生み出さない場合には、減損を認識しなければならない可能性があります。

 

(17) 情報システム

 当社グループの事業活動において、情報システムの重要性が増大しております。当社グループでは、情報システムの安定的運用に努めておりますが、自然災害、事故、コンピューターウイルス、不正アクセスその他の要因により情報システムに重大な障害が発生した場合、当社グループの事業、業績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(18) 情報管理

 当社グループは、事業活動の遂行に関連して、多数の秘密情報や個人情報を有しております。これらの情報については、法令や社内規則に基づき管理しておりますが、予期せぬ事態により情報が流出するおそれがあり、そのような事態が生じた場合、営業秘密の流出による競争力の低下や、顧客の信用や社会的信用の低下を招き、当社グループの事業、業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(19) 法的規制

 当社グループは、事業を展開する国および地域において、事業や投資の認可、独占禁止法(競争法)上の制限、輸出制限、関税、会計基準・税制、環境法令をはじめとする様々な規制の適用を受けております。今後、法的規制の強化などに伴う事業活動の制約、コストの増加などにより、当社グループの事業、業績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。
 当社グループは、法令遵守や財務報告の適正性確保のために内部統制システムを構築し、運用していますが、内部統制システムは本質的に内在する固有の限界があるため、その目的が完全に達成されることを保証するものではありません。従って、将来にわたって法令違反等が発生する可能性が皆無ではありません。当社グループが法令等に違反した場合には、課徴金等の行政処分、刑事処分もしくは損害賠償請求の対象となり、または当社グループの社会的評価が悪影響を受け、その結果、当社グループの事業や業績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(20) 環境問題

 当社グループは、地球温暖化、大気汚染、水質汚濁、産業廃棄物、有害物質、土壌汚染などに関する様々な環境法令の適用を受けております。当社グループは、これらの規制に細心の注意を払いつつ事業を行っておりますが、過失の有無にかかわらず、環境問題に対して法的もしくは社会的責任を負う可能性があり、そのような事態が生じた場合、その対応のために多額の費用負担が発生する可能性や当社グループの社会的信用の低下を招く可能性があります。

 

(21) 知的財産権

 当社グループは、知的財産権の確保に努めておりますが、その国や地域などによっては知的財産権に対する十分な保護を得られない可能性があります。また、当社グループ製品には第三者からライセンスを受けて開発・製造・販売しているものがありますが、今後、第三者から必要なライセンスを受けられない可能性や、ライセンスを受けられるとしても従前よりも不利な条件でしかライセンスを受けられない可能性があります。さらに、当社グループの製品に係る知的財産権に関して、当社グループまたはその顧客が第三者から特許侵害訴訟等を提起され、その結果によっては、当社グループの当該製品が、一定の国・地域で製造・販売できなくなる可能性や、当社グループが第三者または当社グループの顧客に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

 

(22) 法的手続

 詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記 37.コミットメント及び偶発債務  (5)その他」に記載のとおりであります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

  当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績」)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

  なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末日現在において判断したものであります。

 

(1) 重要な会計方針および見積り

当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条の規定により、IFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針および将来に関する仮定および報告期間末における見積りの不確実性の要因となる事項は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表注記 3.重要な会計方針 4.重要な会計上の見積りおよび判断」に記載しております。

 

(2) 財政状態の状況

   (単位:億円)

 

前連結会計年度末
(2022年12月31日)

当連結会計年度末
(2023年12月31日)

前連結会計年度末比
増(減)

資  産  合  計

28,125

31,670

3,545

資  本  合  計

15,375

20,056

4,681

親会社の所有者に帰属する持分

15,337

20,016

4,679

親会社所有者帰属持分比率(%)

54.5

63.2

8.7

有 利 子 負 債

7,700

6,677

△1,023

 D/Eレシオ(倍)

0.50

0.33

△0.17

 

 

 当連結会計年度末の資産合計は31,670億円で、前連結会計年度末と比べ3,545億円の増加となりました。これは、主に為替相場の変動によりのれんが増加したことなどによるものであります。資本合計は20,056億円で、前連結会計年度末と比べ4,681億円の増加となりました。これは、自己株式の取得により減少したものの、為替相場の変動により在外営業活動体の換算差額などのその他の資本の構成要素が増加したこと、および当期利益により利益剰余金が増加したことなどによるものであります。

 親会社の所有者に帰属する持分は、前連結会計年度末と比べ4,679億円増加し、親会社所有者帰属持分比率は63.2%となりました。有利子負債は、社債の評価替えにより増加したものの、主に借入金の返済による減少などにより、前連結会計年度末と比べ1,023億円の減少となりました。これらの結果、D/Eレシオは0.33倍となりました。

 なお、第1四半期連結会計期間において企業結合に係る暫定的な会計処理の確定を行っており、前連結会計年度末については、取得原価の配分額の見直しが反映されております。

 

(3) 経営成績の状況

当社グループは、経営者が意思決定する際に使用する社内指標(以下「Non-GAAP」)およびIFRSに基づく指標の双方によって、連結経営成績を開示しております。

Non-GAAP売上収益、Non-GAAP売上総利益ならびにNon-GAAP営業利益は、IFRSに基づく売上収益、売上総利益および営業利益(以下それぞれ「IFRS売上収益」、「IFRS売上総利益」および「IFRS営業利益」)から、非経常的な項目やその他特定の調整項目を一定のルールに基づいて控除もしくは調整したものであります。当社グループの恒常的な経営成績を理解するために有用な情報と判断しており、当社グループはNon-GAAPベースで予想値を開示しております。具体的には、企業買収に伴い、認識した無形資産の償却額およびその他のPPA(取得原価の配分)影響額、株式報酬費用や当社グループが控除すべきと判断する一過性の利益や損失などを控除もしくは調整しております。

当社グループは、「自動車向け事業」および「産業・インフラ・IoT向け事業」から構成されており、セグメント情報はこれらの区分により開示しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表注記 6.事業セグメント」をご参照ください。

(注) Non-GAAP指標の開示に際しては、米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)が定める基準を参照しておりますが、同基準に完全に準拠しているものではありません。

 

 

① 当連結会計年度(2023年1月1日~2023年12月31日)の業績(Non-GAAPベース)

(単位:億円)

 

前連結会計年度
(2022年1月1日
2022年12月31日)

当連結会計年度
(2023年1月1日
2023年12月31日)

前期比増(減)

Non-GAAP売上収益

15,027

14,697

△330

△2.2%

 

自動車

6,450

6,950

500

7.8%

 

産業・インフラ・IoT

8,459

7,647

△812

△9.6%

 Non-GAAP売上総利益

(率)

8,632

(57.4%)

8,374

(57.0%)

△257

(△0.5pt)

△3.0%

 

自動車

3,244

(50.3%)

3,632

(52.3%)

388

(2.0pts)

12.0%

 

産業・インフラ・IoT

5,353

(63.3%)

4,708

(61.6%)

△646

(△1.7pts)

△12.1%

Non-GAAP営業利益

(率)

5,594

(37.2%)

5,016

(34.1%)

△577

(△3.1pts)

△10.3%

 

自動車

2,192

(34.0%)

2,387

(34.3%)

195

(0.4pt)

8.9%

 

産業・インフラ・IoT

3,318

(39.2%)

2,590

(33.9%)

△727

(△5.3pts)

△21.9%

米ドル為替レート(円)

130

140

ユーロ為替レート(円)

137

151

 

(注)1 上記表の詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表注記 6.事業セグメント」をご参照ください。

2 為替レートは、収益・費用の換算に用いた各月のレートを平均したものであります。

 

当連結会計年度における業績は、以下のとおりであります。

 

(Non-GAAP売上収益)

当連結会計年度のNon-GAAP売上収益は、前連結会計年度と比べ2.2%減少し、14,697億円となりました。これは、主に円安の影響により自動車向け事業の売上収益が増加した一方で、PC/携帯電話やコンシューマ向け市場等の軟化に伴い、産業・インフラ・IoT向け事業の売上収益が減少したことによるものであります。

 

(Non-GAAP売上総利益 (率))

当連結会計年度のNon-GAAP売上総利益は8,374億円となり、前連結会計年度と比べ257億円(3.0%)の減少となりました。これは、上記のとおり産業・インフラ・IoT向け事業の売上収益の減少とそれに伴う製品ミックスの悪化などによるものであります。その結果、当連結会計年度のNon-GAAP売上総利益率は、57.0%となり、前連結会計年度と比べ0.5ポイントの減少となりました。

 

(Non-GAAP営業利益 (率))

当連結会計年度のNon-GAAP営業利益は5,016億円となり、前連結会計年度と比べ577億円(10.3%)の減少となりました。これは上記の売上総利益の減少および研究開発費の増加などによるものであります。その結果、当連結会計年度のNon-GAAP営業利益率は、34.1%となり、前連結会計年度と比べ3.1ポイントの減少となりました。

 

当連結会計年度における各セグメントの業績は以下のとおりであります。

 

<自動車向け事業>

自動車向け事業には、自動車のエンジンや車体などを制御する半導体を提供する「車載制御」と、車内外の環境を検知するセンサリングシステムや様々な情報を運転者などに伝えるIVI(In-Vehicle Infotainment)・インストルメントパネルなどの車載情報機器に半導体を提供する「車載情報」が含まれております。当事業において、当社グループはそれぞれマイクロコントローラ、SoC(System-on-Chip)、アナログ半導体およびパワー半導体を中心に提供しております。
 当連結会計年度における自動車向け事業のNon-GAAP売上収益は、前連結会計年度と比べ7.8%増加し、6,950億円となりました。これは上記のとおり主に円安の影響に加え、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:自動運転支援)やxEV向け製品の売上収益が増加したことによるものであります。

当連結会計年度における自動車向け事業のNon-GAAP売上総利益は、前連結会計年度と比べ388億円(12.0%)増加し、3,632億円となりました。これは、主に売上収益の増加によるものであります。

当連結会計年度における自動車向け事業のNon-GAAP営業利益は、増収に伴い前連結会計年度と比べ195億円(8.9%)増加し、2,387億円となりました。

 

<産業・インフラ・IoT向け事業>

産業・インフラ・IoT向け事業には、スマート社会を支える「産業」、「インフラストラクチャー」および「IoT」が含まれております。当事業において、当社グループはそれぞれマイクロコントローラ、SoCおよびアナログ半導体を中心に提供しております。
 当連結会計年度における産業・インフラ・IoT向け事業のNon-GAAP売上収益は、前連結会計年度と比べ9.6%減少し、7,647億円となりました。これは、円安の影響があった一方、上記のとおりPC/携帯電話やコンシューマ向け市場の軟化に伴う減収などによるものであります。

当連結会計年度における産業・インフラ・IoT向け事業のNon-GAAP売上総利益は、前連結会計年度と比べ646億円(12.1%)減少し、4,708億円となりました。これは、主に売上収益の減少などによるものであります。

当連結会計年度における産業・インフラ・IoT向け事業のNon-GAAP営業利益は、主に売上総利益の減少に伴い、前連結会計年度と比べ727億円(21.9%)減少し、2,590億円となりました。

 

当社グループは2020年2月17日に中期の戦略および財務モデルを公表しております。当社グループでは、注力市場に経営資源を集中投下することで、Long-term targetとして市場を上回る売上成長率を実現し、生産効率の最適化、製品ミックスの改善および買収した企業との統合シナジーの発現を目指しております。2021年9月29日には財務モデルを更新し、Non-GAAPベースで売上総利益率50~55%に、営業利益率25~30%とすることを目標に掲げました。

なお、中期の戦略および財務モデルで各目標は、提出日現在における当社グループの長期的な経営目標であり、その達成を保証するものではなく、「3 事業等のリスク」に記載された事項を含む多くのリスク要因その他外部環境等の変化により、その結果が左右される可能性があります。

 

 

 ② Non-GAAP売上総利益からIFRS売上総利益、およびNon-GAAP営業利益からIFRS営業利益への調整

 


 

 

(単位:億円)

 

前連結会計年度

2022年1月1日
  2022年12月31日

当連結会計年度

2023年1月1日
  2023年12月31日

Non-GAAP売上総利益

(率)

8,632

(57.4%)

8,374

(57.0%)

売上収益段階までの調整項目(注)1

△18

△3

無形資産および固定資産償却費

△10

△10

棚卸資産の時価評価額

△15

株式報酬費用

△15

△15

その他非経常的な項目

および調整項目(注)2

△32

△3

IFRS売上総利益

(率)

8,540

(56.9%)

8,343

(56.8%)

 

 

 

Non-GAAP営業利益

(率)

5,594

(37.2%)

5,016

(34.1%)

売上収益段階までの調整項目(注)1

△18

△3

無形資産および固定資産償却費

△1,062

△1,058

棚卸資産の時価評価額

△15

株式報酬費用

△181

△233

その他非経常的な項目

および調整項目(注)2

△75

185

IFRS営業利益

(率)

4,242

(28.3%)

3,908

(26.6%)

 

(注)1 PPA(取得原価の配分)実施に伴う調整であります。

2 その他非経常的な項目および調整項目には企業買収関連費用や当社グループが控除すべきと判断する一過性の利益や損失などが含まれております。

 

③ 当連結会計年度(2023年1月1日~2023年12月31日)の業績(IFRS)


 

 

 

(単位:億円)

 

前連結会計年度

2022年1月1日
  2022年12月31日

当連結会計年度

2023年1月1日
  2023年12月31日

前期比増(減)

売上収益

15,009

14,694

△314

△2.1%

売上総利益

(率)

8,540

(56.9%)

8,343

(56.8%)

△197

(△0.1pt)

△2.3%

営業利益

(率)

4,242

(28.3%)

3,908

(26.6%)

△334

(△1.7pts)

△7.9%

 

 

④ 生産、受注及び販売の状況

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品群であっても、その性能、構造、形式などは必ずしも一様ではないこと、受注生産形態をとらない製品も多いことなどから、品目ごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。

このため、生産、受注および販売の状況については「第2  事業の状況 4  経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」における売上収益のセグメントに関連付けて示しております。

なお、外部顧客への売上収益のうち、連結損益計算書の売上収益の10%以上を占める相手先がないため、主要な販売先に関する記載を省略しております。

 

 

(4) キャッシュ・フローの状況

(単位:億円)

 

前連結会計年度
2022年1月1日

  2022年12月31日

当連結会計年度
2023年1月1日

  2023年12月31日

営業活動によるキャッシュ・フロー

4,793

4,966

投資活動によるキャッシュ・フロー

△975

△2,675

フリー・キャッシュ・フロー

3,818

2,291

財務活動によるキャッシュ・フロー

△2,948

△1,812

現金及び現金同等物の期首残高

2,219

3,361

現金及び現金同等物の期末残高

3,361

4,347

 

(注)フリー・キャッシュ・フローは「営業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」の合計であります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー) 

 当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、4,966億円の収入となりました。これは主として、税引前利益を4,222億円計上したこと、および減価償却費などの非資金項目を調整したことなどによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

  当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、2,675億円の支出となりました。これは主として、有形固定資産や無形資産の取得による支出、Wolfspeed, Inc.への貸付による支出、Panthronics社の株式を取得したことなどによるものであります。

 

  この結果、当連結会計年度におけるフリー・キャッシュ・フローは、2,291億円の収入となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、1,812億円の支出となりました。これは主として、自己株式の取得による支出や主要取引銀行などへの借入金の返済を行ったことなどによるものであります。

 

 

(5) 流動性および資金の源泉

当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保すること、および健全なバランスシートを維持することを基本方針としております。

当社は、旧IDT社の買収に必要な資金の調達、および中長期的な運転資金の確保を目的とした既存借入金の借り換えのため、2019年1月15日付で主要取引銀行である㈱三菱UFJ銀行、㈱みずほ銀行および三井住友信託銀行㈱等との間で、総額8,970億円のシンジケートローン契約を締結しました。このうち、2019年3月に6,980億円の実行可能期間付タームローンの借入を実行しました。また、2019年6月に既存のタームローンの借入の一部を返済するとともに、1,490億円のタームローンの借入を実行しました。

当社は、2021年8月31日付で、Dialog社の買収に必要な資金を調達するため、㈱三菱UFJ銀行および㈱みずほ銀行から総借入額2,700億円のタームローンの借入を実行しました。

また、2021年12月23日付で、既存借入2,700億円のうち、既に返済済みの300億円を除いた2,400億円について、中長期性の資金に借り換えることを目的として、㈱三菱UFJ銀行、㈱みずほ銀行および三井住友信託銀行㈱等との間で、総借入額960億円のシンジケートローン契約を締結し、㈱国際協力銀行との間で、総借入額1,440億円のJBICローン契約を締結しました。これらの契約に基づいて、2021年12月30日に総額2,400億円の借入を実行しました。

当社は、2021年11月19日付で、複数トランシェによる米ドル建無担保普通社債の発行を決定し、2024年満期米ドル建無担保普通社債500百万米ドルおよび2026年満期米ドル建無担保普通社債850百万米ドルを発行し、総額1,350百万米ドルの資金を調達しております。当連結会計年度末における当社債の残高の円換算額は1,911億円となっております。

また、2022年6月28日付で、今後の事業展開における資金需要への対応、運転資金の柔軟な調達手段の確保を目的として、バンク・オブ・アメリカ・エヌ・エイ東京支店との間で、総額200百万米ドルのタームローン契約を締結し、2022年6月30日付で、㈱三菱UFJ銀行との間で、総額200億円のタームローン契約を締結しました。これらの契約に基づいて、2022年6月30日に総額471億円の借入を実行しました。

当連結会計年度末における借入金の残高は4,599億円となっております。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は4,347億円となっております。

 

 

(6) オフバランス取引

当社グループは、資産効率を高めるために、特定の売上債権等の流動化を適宜行っております。当連結会計年度末における流動化残高は80億円であります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

当社グループの事業遂行上、重要な契約とその内容は、次のとおりであります。

 

  (1) 技術援助契約およびこれに類する契約

契約および相手方の名称

契約締結日

契約の概要

①  Texas Instruments Incorporated

との特許クロスライセンス契約

2011年3月2日

半導体に係る特許権のクロスライセンス(子会社を含む。)

②  Arm Limitedからの技術導入契約

2015年12月22日

半導体の設計に係る技術の導入

 

 

 (2) 借入契約

借入先

契約締結日

契約の概要

① ㈱三菱UFJ銀行

  ㈱みずほ銀行

  三井住友信託銀行㈱等

2019年1月15日

買収に必要な資金の一部の調達および中長期的な資金として既存借入金の借り換えを目的とした総額3,012億円のシンジケートローン

②  ㈱三菱UFJ銀行

   ㈱みずほ銀行

    三井住友信託銀行㈱等

2021年12月23日

既存借入れについて中長期性の資金に借換えることを目的とした総額444億円のシンジケートローン

③ ㈱国際協力銀行

2021年12月23日

既存借入れについて中長期性の資金に借換えることを目的とした総額667億円のタームローン

④ バンク・オブ・アメリカ・エヌ・エ

  イ東京支店

2022年6月28日

今後の事業展開における資金需要への対応、運転資金の柔軟な調達手段の確保を目的とした総額200百万米ドルのタームローン

⑤ ㈱三菱UFJ銀行

2022年6月30日

今後の事業展開における資金需要への対応、運転資金の柔軟な調達手段の確保を目的とした総額200億円のタームローン

 

 

 

6 【研究開発活動】

(1) 研究開発活動の体制および方針

当社グループの研究開発活動は、現在から近い将来にかけて必要とされるデバイス、ソフトウェアおよびシステムなどの開発において、自動車向け製品、産業・インフラ・IoT向け製品を、それぞれを担当する事業本部(注)が担当して取り組んでおります。デバイス・プロセス技術、実装技術、設計基盤・テスト手法などの部門横断的な共通技術については、各事業本部と生産本部とが協力しながら担当する体制としてまいりました。
  加えて、コンソーシアムや外部研究機関などへの研究委託や、幅広い分野やお客様へ最適なサポートを行うためのサード・パーティの活用など、自社の研究開発リソースのみならず社外のリソースも必要に応じて活用しております。
  家電製品や自動車などあらゆるモノがネットワークに繋がり、相互に情報交換しサービスが提供される超スマート社会では、これまで当社が強みとしてきたマイコンやSoCといったデジタル製品が担う演算機能、アナログ製品が得意とする人の目・耳・鼻などに相当するセンシング機能、さらにパワー製品が得意とするモータ等を動かすためのアクチュエータ機能が有機的に繋がり連携する必要があります。当社グループは、センシングからアクチュエータ機能まで幅広くサポートするための製品ポートフォリオを拡充し、アナログ製品とデジタル製品を組み合わせたソリューション(ウィニング・コンビネーションと呼称)を強化するとともに、アプリケーションごとに共通して使用できるIP(設計資産)やOSなどのソフトウェアをプラットフォームとして提供するための研究開発活動を行うことにより注力する市場での成長を実現していきます。

(注)当社グループは2024年1月1日付で組織体制の変更を発表、技術分野に基づく4プロダクトグループを発足しております。

 

(2) 主な研究開発の成果

 ① 自動車向けのマイクロコントローラおよびSoCのサイバーセキュリティマネジメントシステムが国際規格「ISO/SAE 21434:2021」の認証を取得

当社グループは、欧州の大手認証機関であるTÜV Rheinland社から、当社グループの自動車向けのマイクロコントローラとSoCの開発プロセスに適用されるCSMS(Cyber Security Management System:サイバーセキュリティマネジメントシステム)が、自動車のCSMSに関する国際規格「ISO/SAE 21434:2021」に準拠している旨の認証を取得しました。

近年、自動車に関するシステムの高度化が進む中、サイバー攻撃への懸念が高まりつつあります。自動車メーカは、自社が製造・販売する自動車の型式承認を取得する場合、その自動車がUnited Nations Economic Commission for Europe(UNECE:国連欧州経済委員会)の制定したサイバーセキュリティ規則「UNR155」に遵守することが求められ、その審査には、CSMSへの適合が必須となります。そのため、自動車メーカやその部品の製造メーカは、CSMS認証を取得した当社グループ製品を使用することにより、その開発の負荷を軽減することができるとともに、自動車の型式認証を様々な国で取得する際、よりスピーディーにサイバーセキュリティに対応することが可能となります。

当社グループが2022年1月1日以降に開発した自動車向けのマイクロコントローラ(RL78、RH850)およびSoC(R-Car)に関する開発プロセスのCSMSは、今回認証を取得した規格に準拠しています。

当社グループは、「セーフティ(安全)&セキュリティ(安心)」を第一に製品の設計開発に取り組んでおり、今回認証を取得したセキュリティの分野だけでなく、セーフティの分野でも、自動車メーカーが自動車の機能安全規格「ISO 26262」に準拠することを支援する体制を整備しています。顧客は、次世代の車載システムに当社グループ製品を使用することにより、サイバーセキュリティや機能安全における国際規格に早期に準拠することができます。

当社グループは、最先端の性能・機能・セキュリティや多様なAI実装ソリューションを提供することにより、顧客がその製品開発の初期段階からハードウェアがなくてもその仕様や機能、性能の検証を行うことができる「シフトレフト」とソフトウェアが自動車の価値を主導する「ソフトウェアファースト」の実現に貢献していきます。

 

② クラウド上で開発したソフトウェアをハードウェアに展開することで、試作品の設計サイクルを高速化できる「クイックコネクトスタジオ」を公表

当社グループは、顧客がクラウド上で開発したソフトウェアをハードウェアに展開することができるIoT機器向けプラットフォーム「クイックコネクトスタジオ」の提供を開始しました。

本プラットフォームは、顧客がクラウド上で使用したいマイクロコントロール基板を選択し、センサや通信ボードなどの必要な機能ブロックをグラフィカルに搭載するだけで、自動的にソフトウェアを生成し、ハードウェアで動作検証することを可能にする開発環境であります。

顧客がその製品を開発する場合、市場に製品を投入するまでの工程は極めて複雑で、多くの時間と労力を必要とします。しかし、本プラットフォームを使用すれば、顧客は、当社グループの半導体やツール、開発ワークフローに関する知識がなくても、自分の製品のアイデアを素早く具現化し、検証することが可能になるほか、ハードウェアとソフトウェアの開発を同時に実行できるようになるため、製品開発の期間短縮や効率化を図ることができます。また、本プラットフォームは、最新のGUI(注)により簡単に操作することができ、操作の習熟に要する時間も不要となります。

当社グループは、本プラットフォームの第一弾として、RAファミリと各種センサやコネクティビティ機能からその提供を開始し、RXファミリ、RL78ファミリなど、対応する製品を増やしています。

当社グループは、今後も顧客の製品・サービスの開発を楽(ラク)にするため、ユーザ・エクスペリエンスの向上を推進していきます。

(注)GUI:「Graphical User Interface」の略称で、コンピュータの画面上に表示されるアイコンやボタン等のグラフィックを用いて、マウス等のポインティングデバイスで操作できるインターフェースであります。

 

(3) 研究開発費

当社グループでは開発費の一部について資産化を行い、無形資産に計上しております。無形資産に計上された開発費を含む当連結会計年度の研究開発費は、2,335億円となり、前連結会計年度の2,067億円と比べ268億円増加しました。これは主に、製品設計、システム開発、デバイス開発、プロセス技術開発、実装技術開発に使用しました。

なお、当社グループの研究開発は、大半が自動車向け事業および産業・インフラ・IoT向け事業の双方に係るものであるため、セグメントごとの記載は省略しております。