本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は2024年3月28日現在において判断したもの
です。
(1)経営の基本方針
当社グループでは、グループの全ての事業活動、社会活動を貫く企業理念としてのグループビジョン“Look Beyond”を定めています。この“Look Beyond”において、当社グループが世の中に提供すべき価値、グループの存在意義を示すものとして「私たちの使命:“AGC、いつも世界の大事な一部”~独自の素材・ソリューションで、いつも世界中の人々の暮らしを支えます~」を掲げています。
当社グループは、“いつも世界の大事な一部”であり続けるために、それぞれの時代で求められる変革に取り組んでいます。その変革を加速するため、2016年に既存事業を「コア事業」、成長分野での新事業群を「戦略事業」と定義し、両利きの経営を推進してきました。2021年には長期経営戦略「2030年のありたい姿」を策定するとともに、「コーポレート・トランスフォーメーション第二章」として事業ポートフォリオ改革の方向性を明確にし、企業変革をさらに加速することを宣言しました。
(2)中期経営計画 AGC plus-2023 の振り返り
2021年に策定した中期経営計画 AGC plus-2023 では、「両利きの経営の追求」「サステナビリティ経営の推進」「DXの加速による競争力の強化」を戦略に掲げ、事業運営を行いました。収益力及び資産効率改善のための事業ポートフォリオ転換に取り組んだ結果、従来と比べ営業利益及びEBITDAの水準は向上しました。
しかしながら、構造改善などに伴う減損損失の計上などにより、当初目標のうち「ROE8%以上を安定的に達成」は実現に至らず、ROEの水準に課題を残す結果となりました。
コア事業については、成長投資と構造改革の進展により利益水準が向上しました。戦略事業についても、利益水準は向上したものの、2023年については米国バイオ医薬品CDMO事業が不調に陥った影響を大きく受けました。
以上のように、コア事業、戦略事業ともに利益水準は向上したものの、コア事業ではディスプレイ事業、戦略事業では米国バイオ医薬品CDMO事業に課題を残す結果となりました。
(3)新中期経営計画 AGC plus-2026 について
当社グループは、長期経営戦略「2030年のありたい姿」に向けた諸施策を着実に実施するために、2024年からの3年間を「コーポレート・トランスフォーメーション第二章:フェーズ2」と位置づけ、2026年を最終年度とする中期経営計画 AGC plus-2026 を新たに策定しました。
① AGC plus-2026 の主要戦略
AGC plus-2026 の基本戦略は以下のとおりです。一定の成果を得た前中期経営計画の方向性を踏襲します。
(ⅰ) “両利きの経営”の進化
引き続き“両利きの経営”を推進し、市況変動に強く、資産効率・成長性・炭素効率の高い事業ポートフォリオの構築を目指します。また戦略事業の定義を見直し、様々な先端領域に対し高機能素材を提供するパフォーマンスケミカルズを新たに戦略事業に組み込みます。
モビリティについても、これまでコア事業のオートモーティブに含まれていたLow-Eガラス*や調光ガラスなどCASE向けの高付加価値製品を新たに組み入れます。
*Low-Emissivity(低放射)ガラス。表面に特殊金属をコーティングしているため、熱の移動を抑える効果がある。
各事業の主な戦略は以下のとおりです。収益性に課題のある事業のうち、ディスプレイ事業においては、CFOが主導する事業構造改革プロジェクトを発足し、スピード感を持って構造改革を実施します。また米国におけるバイオ医薬品CDMO事業においても、既に設備改善など抜本的な対策を実施しており、オペレーションの更なる改善に取り組みます。これらの施策の確実な実行により、早期収益改善を目指します。
以上の取り組みにより、最終年度である2026年に全社ROCE(営業資産利益率)10%以上、売上高2兆4,000億円、営業利益2,300億円を目指します。
戦略事業については、2026年に売上高7,000億円、営業利益は全社の50%以上である1,300億円を目指します。
また戦略事業・成長事業への積極投資を継続するため、戦略投資枠として2,000億円を設定しました。
なお株主還元については、株主資本配当率3%程度を目安とした安定配当を継続することとし、自己株式取得については投資案件やキャッシュの状況などを総合的に勘案しながら判断します。
(ⅱ) サステナビリティ経営の深化
AGC plus-2026 の策定にあたり、当社グループが提供する社会的価値について、従来の「5つの社会的価値」を当社の製品・技術で創出する「3つの社会的価値」に組み換え、当社が貢献する価値を明確にしました。
これら3つの社会的価値の創出を通じて経済的価値を創出し、企業価値向上のスパイラルを実現します。
(ⅲ) 価値創造DXの推進
当社グループは、2017年にデータのデジタル化などDX実現に向けた基盤作りに着手し、既存ビジネスのコスト削減やリードタイム圧縮などモノづくり力の強化を実現してきました。2020年からはその基盤を活用したDXの取り組みにより、サプライチェーンを跨いだ業務プロセス改革など、ビジネスモデルの変革による新たな付加価値を創造・提供しています。 AGC plus-2026 においては、これまで培ってきたデジタル技術と当社グループの強みであるモノづくり力の融合を加速し、各事業の競争力を高めます。
(ⅳ) 経営基盤の強化~人的資本経営の推進
当社グループは、多様な人財一人ひとりの強み・能力を引き出し、主体的な学びと成長を支援し、チャレンジを奨励します。成長する個々人の総和がエンゲージメントの高い強い組織をつくり出し、企業価値を向上させ当社グループの使命を実現します。
② AGC plus-2026 の目標・KPI
当社グループは、サステナビリティ視点を経営全般に取り入れ、その実施状況をモニタリングするため、GHG排出量売上高原単位及び従業員エンゲージメントスコアを、取締役及び執行役員に対する株式報酬算定の指標に追加することとしました。これに加え、今回再定義した3つの社会的価値に関連するサステナビリティKPIを設定しています。
また財務面では、前述の戦略の実行により継続的に成長・進化し、安定的にROE8%以上の達成を目指します。営業利益については、2026年に2,300億円、その過半を戦略事業から創出することを目指します。
当社グループは、新たな中期経営計画 AGC plus-2026 で掲げたサステナビリティ目標・財務目標の達成により、世の中、お客様・取引先様、従業員、投資家の皆様、将来世代など全てのステークホルダーに様々な価値をプラスします。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ共通
①ガバナンス
サステナビリティに関する取り組みの基本方針や施策の審議・決定を行う機関として、サステナビリティ委員会を設置し、特に重要な事項は取締役会で決定しています。サステナビリティ委員会はCEOが委員長を務め、CFO・CTO、監査役及び全部門長が出席して年4回開催し、その内容は年2回、取締役会へ報告されます。経営企画本部サステナビリティ推進部は、同委員会の事務局として、グループ全体のサステナビリティ経営戦略の策定・実行を牽引しています。
②戦略
当社グループは、長期的な社会課題の動向を踏まえ、持続可能な社会の実現への貢献と当社グループの持続的成長の両立を目指す上で、重要となる機会とリスク(マテリアリティ*)を特定しています。これらの重要機会・リスクに基づき、当社グループの長期経営戦略や各事業戦略、サステナビリティ目標・KPIを設定しています。
*当社グループのマテリアリティ:気候変動問題への対応、資源の有効利用、社会インフラの整備、安全・快適なモビリティの実現、食糧問題への対処、情報化・IoT社会の構築、健康・長寿社会への対応、社会・環境に配慮したサプライチェーン、公正・平等な雇用と職場の安全確保、地域社会との関係・環境配慮
前中期経営計画 AGC plus-2023 では、サステナビリティ経営を推進する体制づくりを中心に取り組みましたが、2024年度より開始した新中期経営計画 AGC plus-2026 においては、「サステナビリティ経営の深化」として、より一層サステナビリティ視点を日々の事業運営に落とし込むことを主要戦略のひとつとして掲げています。
当社グループは2021年2月に発表した長期経営戦略「2030年のありたい姿」において、財務目標とあわせて、当社グループとして創出したい5つの社会的価値を定め、サステナブルな社会の実現に貢献することを明記しました。AGC plus-2026 では、当社グループが創出する社会的価値について従業員を含む社内外のステークホルダーへのさらなる理解浸透を進めるため、「5つの社会的価値」の解像度を高め、当社の製品・技術で創出する「3つの社会的価値*」に組み替え、当社が社会に貢献する内容を明確化しました。当社グループは創業当初より、原料循環が可能で省エネや快適な暮らしに貢献するガラス事業や、社会インフラとして不可欠な様々な製品を生み出す化学品事業などの領域拡大を通じて、多くの社会的価値を創出してきました。今後も当社グループのマテリアリティ(重要機会)を捉え、事業活動を通じた社会的価値と経済的価値の追求により当社グループの企業価値を向上させ、さらなる社会的価値を創出する好循環を続けていきます。
*3つの社会的価値
③リスク管理
当社グループでは、マテリアリティの機会を活かし、リスクに対処することを狙いとしたサステナビリティ目標・サステナビリティKPIを設定しており、サステナビリティに関わる取り組みの意思決定機関としてサステナビリティ委員会を設置しています。マテリアリティの重要リスクについても、取締役会による監督のもと、同委員会が対処方針の決定、目標の進捗状況を踏まえた今後の施策の審議等を実施しています。
④指標及び目標
当社グループはサステナビリティKPIを設定し、中期経営計画 AGC plus-2026 で掲げた「サステナビリティ経営の深化」が着実に実行されていること、すなわち経営全般へのサステナビリティ視点の落とし込みや人的資本経営の実施状況をモニタリングしていきます。
経営基盤のサステナビリティを測るKPIとして、事業活動を行ううえでの重要課題である環境負荷低減目標(「GHG排出削減目標*」)と、人的資本経営の推進を測る「従業員エンゲージメントスコア**」を設定しました。
また、サステナビリティ視点での事業成長を測るKPIとして、当社グループが創出したい3つの社会的価値を軸にそれらを創出する事業の拡大状況を指数化したものを設定し、これらをモニタリングしていきます。
*「第2 事業の状況 3 事業等のリスク 気候変動問題への対応について」をご参照ください。
**「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組(3)人的資本・多様性」をご参照ください。
〔経営基盤のサステナビリティを測るKPI〕
・GHG排出削減目標
・従業員エンゲージメントスコア
〔サステナビリティ視点での事業成長を測るKPI〕
(2)気候変動への対応
当社グループは、気候変動を企業価値及び事業戦略の決定に大きな影響をもたらす要因として捉えています。当社は、金融安定理事会により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同しており、気候変動の機会及びリスクとそれらの分析について適切な情報開示を進めています。
①ガバナンス
気候変動問題によりもたらされる社内外の変化を踏まえた経営戦略の検討やリスクへの対応は、サステナビリティ委員会での決議に基づき、経営企画本部サステナビリティ推進部長が主催する「環境対応会議(気候変動対応戦略会議を2024年から改編)」及びその中のタスクフォースにおいてタイムリーに議論します。これらの会議体ではグローバルかつ事業横断的なGHG排出量削減に向けてデータマネジメント、技術イノベーション、エネルギーマネジメント、サプライチェーンマネジメントに専門性のある部門が連携して取り組んでいます。
フロートガラス溶解窯におけるGHG排出量削減については、技術本部長が直轄するグローバルプロジェクトを発足しています。将来のエネルギー価格や炭素コストなどをシミュレーションし、要素技術における量産化の経済合理性を検証、技術開発の優先順位付け・絞り込みを行い、グループ全体における技術実装戦略を策定しています。
②戦略
当社グループでは、事業に影響を及ぼし得る気候変動関連の機会・リスクを2℃未満/4℃の気候変動シナリオ別に特定し評価しています。各事業に関係する機会・リスクをより具体化した上で、気候変動シナリオ別の各影響要因を網羅的に整理し、SBU(戦略事業単位)及び事業セグメント単位での影響を評価しています。
2022年に実施した評価の結果についてはAGCサステナビリティデータブック2023をご参照ください。
https://www.agc.com/sustainability/pdf/agc_sus_jp_2023.pdf
機会・リスク評価で特定されたもののうち、グループ全体又は複数事業にまたがる共通かつ重要な機会・リスクについて、TCFDの枠組みを活用したシナリオ分析を実施し、経営戦略や事業計画を策定しています。2℃未満シナリオにおいては、カーボンプライシング等の移行に関わる政策がどの程度のコスト上昇をもたらし得るのかを評価し、グループ全体における財務影響を推算しました。こうした移行の影響緩和のための対応として、全社的に進める事業ポートフォリオ評価、GHG排出量削減施策、インターナルカーボンプライシング制度の運用等を推進しています。
2℃未満シナリオでは、信頼性の高い第三者機関の市場見通し等を整理し、グループ内での事業計画策定に活用しています。新たな市場ニーズに応える製品として建築用断熱窓ガラスなどがあります。4℃シナリオにおいては、気候変動による突発災害の激甚化が生産現場の操業に及ぼす影響について初期的な評価を実施し、リスクの大きい拠点の特定、及び程度を把握し、対策の実施に活かしています。
2022年に実施したシナリオ分析の結果についてはAGCサステナビリティデータブック2023をご参照ください。
https://www.agc.com/sustainability/pdf/agc_sus_jp_2023.pdf
気候変動の機会及びリスクとそれらの分析については定期的に見直しを行い、適切な情報開示を進めます。
③リスク管理
気候関連リスクのうち短期から中期に発現しうるリスクに関しては、「AGCグループ統合リスクマネジメント基本方針」に則り、「統合リスクマネジメント」のフレームワークにて、重要リスクを選定し管理をしています。環境安全品質本部がその管理推進の役割を担い、毎年実施するグループ全体での自己点検を通して管理レベルの向上を図り、その結果を経営者、取締役がモニタリングします。これらの重要リスクは、法規制や社会的要請の変更に対応すべく、必要があれば都度変更するとともに、3年ごとに全面的な再評価と見直しを実施します。
長期の気候変動リスクに関しては、気候変動に起因する様々なリスクの把握に努め、シナリオ分析の実施、サステナビリティ委員会での議論等を通じて戦略の妥当性を継続的に評価することにより、リスクの最小化及び競争力の強化を図っていきます。
特定した気候変動リスク及びその管理状況は、定期的な取締役会や経営会議・サステナビリティ委員会等でモニタリングし、コーポレート部門、社内カンパニー・SBUが、事業や案件ごとにリスクの分析や対策を検討し、必要に応じて取締役会や経営会議・サステナビリティ委員会で審議しています。
④指標及び目標
気候変動リスク・機会評価に用いる指標として、当社ではGHG排出量をKPIに定めて管理しています。また、気候変動に関する目標としては、2050年に「カーボン・ネットゼロ*」を目指すこと、そのマイルストーンとして2030年にGHG排出量を2019年比で30%削減することを掲げています*。2022年には、Scope3において、カテゴリ1、10、11、12を対象とし、2030年までに2019年比30%削減、また、2027年までにカテゴリ1及びカテゴリ3のGHG排出量の30%を占めるサプライヤーにSBT認定の取得を促すエンゲージメント目標を設定しました。*Scope1,2
カーボン・ネットゼロの実現に向けては、ScopeごとにGHG排出量削減施策を立案し、達成を目指します。Scope1においては、アンモニア等クリーンエネルギー源への転換等、Scope2では、再生可能エネルギーの活用などで対応していきます。Scope3では、自社での排出削減の取り組みだけでなく、サプライヤーにおける削減に向けた働きかけを実施するなど、バリューチェーン全体での排出量削減を目指しています。
カーボン・ネットゼロの実現に向けた取り組みについては、AGCサステナビリティデータブック2023をご参照ください。
https://www.agc.com/sustainability/pdf/agc_sus_jp_2023.pdf
また、自然資本利用率(珪砂等を含む鉱物、化石燃料、水など)の低減にも取り組みます。水使用量やガラスカレット使用量などその他の環境指標も併せて収集しており、その傾向をモニタリングしています。
〔2022年のGHG排出実績〕
(3)人的資本・多様性
~人的資本・多様性に関する考え方~
世の中のサステナビリティに貢献するためには、当社グループ自体のサステナビリティを実現しなくてはなりません。そして、その根幹を支えるのは「人財」であると考えています。当社グループは創業以来、「人財」を大切にするとともに、「易きに馴染まず難きにつく」から始まる創業の精神に基づき「チャレンジ」を奨励し、その中で培ってきた企業文化により、競争優位性を築いてきました。また、当社グループでは、ダイバーシティを長期的な競争力の源泉と考えており、グループビジョン “Look Beyond” の「私たちの価値観」の1つに「多様性(ダイバーシティ)」を掲げ、意欲ある多様な人財が活躍できる組織の実現を目指しています。
①ガバナンス
当社グループは、グループビジョン “Look Beyond” の追求において、企業として人権尊重に取り組むことが不可欠であると考え、「AGCグループ人権方針」を定めています。「労働者の安全と健康」「職場・雇用における差別・ハラスメント」のような顕著な人権課題に対しては、人権デュー・デリジェンスの実施を通じてリスクの低減に取り組みます。これらの重要な事項については、CEOが委員長を務めるサステナビリティ委員会で決定し、取締役会にて報告・議論・監督されます。
経営人財育成については、グループ・グローバルレベル及び各事業部門・地域レベルの経営人財育成システムを有機的に連動させ、グループ経営人財の育成を図っています。これらのプロセスには、指名委員会やCEO、CFO、CTO、人事部長、各カンパニープレジデントで構成される「HRコミッティ」が関与するとともに、社外取締役が研修プログラムに登壇するなど、経営層が直接参画して次世代・次々世代の経営人財を発掘・育成する仕組みを構築しています。
また、多様性(ダイバーシティ)は、グループビジョン “Look Beyond” における4つの価値観の一つであり、当社グループの土台であると同時に、競争優位の源泉と考えています。多様な人財が個々人の能力を最大限に発揮できる環境を整備するため、2022年11月よりCEOを議長とする「ダイバーシティ・カウンシル」を設置し、半年に一度、部門横断的に情報共有、議論を行い、「風土づくり」「採用」「人財育成」「働く環境の整備」の4つのアプローチで具体的な施策を推進しています。
②戦略
当社グループでは、「2030年のありたい姿」の実現に向けて、継続的な企業成長を実現する人的資本経営「人財のAGC」を推進しています。多様な人財一人ひとりの強み・能力を引き出し、主体的な学びと成長を支援し、チャレンジを奨励すると共に、成長する個々人の総和がエンゲージメントの高い強い組織をつくりだし、企業価値を向上させ、当社の使命を実現します。グループビジョン “Look Beyond” 及び「人財のAGC」のもと、真のグローバル企業として発展し続けるために、「ダイバーシティの推進」「よき企業文化の醸成」「基幹人財の育成」「外部人財の積極採用」に取り組んでいます。
社内環境整備に関しては、「AGCグループ労働安全衛生方針」のもと「安全なくして生産なし」を掲げ、当社グループで働く人全員と共有し、実践しています。また、世界に価値を創造し続けるため、「AGC健康宣言」を制定し、従業員の健康維持・増進に取り組んでいます。
③指標及び目標
当社グループでは、人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いています。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。
(ⅰ)女性活躍推進及び外部人財の積極採用
女性活躍にかかわる目標として2030年の女性役員(取締役及び監査役)比率30%、女性執行役員比率20%、女性管理職比率8%(当社単体)、新卒採用女性比率30%(当社単体)などの数値目標を掲げ、その達成に向け個別育成計画に基づく育成プログラムの実施など様々な施策に取り組んでいます。また、多様な人財が個々人の能力を最大限
に活かす環境を整備するため、2022年にCEOを議長とするダイバーシティ・カウンシルを設置し、目標達成に向け、ダイバーシティ施策を推進します。
この他、当社では、戦略事業を中心に、ビジネスニーズに合致する人財や、将来の開発テーマを推進する技術者等、外部人財の積極採用を実施しています。現在、当社単体の採用における総合職のキャリア採用者比率は約半数を占めており、組織の多様性強化に寄与しています。
(ⅱ)エンゲージメント向上活動
当社は、競争優位性の維持・発展に従業員エンゲージメントは不可欠という考えのもと、従業員エンゲージメント向上活動に取り組んでいます。活動の軸は豊富な対話であることから、調査結果をもとにした「スモールミーティング」を実施しています。マネージャー向けには、対話をファシリテーションするためのガイドブックを提供し、エンゲージメント調査結果をもとに行う自チームでの対話を通じて、より良い組織文化を醸成するための活動を支援しています。さらに、エンゲージメント向上への有効なアプローチとして「コミュニケーションと対話」「成長の機会」「ダイバーシティ&インクルージョン」「リーダーシップ」「認知と称賛」の5要素を掲げ、当社グループ内のWebサイトでエンゲージメント向上活動の好事例を従業員へのインタビューとともに紹介し、学び合いを促進しています。
(ⅲ)安全衛生活動の推進
当社グループは、労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)の考え方を基本として安全衛生活動を推進しています。
グループ全体の取り組みとして、拠点内のビジネスパートナーを含む全ての災害情報をグローバルで収集し、それらを横断的に共有する仕組みを2021年に導入し、過去の災害情報を含めて集計し、分析して、災害の予防、再発防止に取り組んでいます。また、災害を防止するために2025年までに達成すべき労働安全衛生目標を定め、達成に向け取り組んでいます。
(ⅳ)健康経営の推進
当社グループで働く人財一人ひとりが、持てる能力を最大限に発揮し続けるようにするために健康経営を推進しています。「心身の健康保持・増進」は、従業員の活力向上や仕事の生産性向上などをもたらし、「人財のAGC」を目指す上で基盤となる要素と考えています。
当社単体の取り組みとしては、「AGC健康宣言」に基づく健康保持・増進活動をベースに「健康経営戦略マップ」を作成し、健康施策の効果測定、従業員の意識・行動変容を定期的に確認しています。
(1)リスクマネジメント体制
当社グループでは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ④内部統制システムの整備の状況(ⅲ)当社グループの損失の危険の管理に関する規程その他の体制(リスク管理体制)」に記載する「統合リスクマネジメント」の取組みを通じて、当社グループのリスク管理を行うとともに、危機対応の体制を整備しています。
当社グループでは、リスクの性質に応じた管理をする目的で、重要リスクの分類の全面的な見直しを2023年に実施し、以下の7つに分類しました。
分類 |
リスク事例 |
戦略 |
地政学・カントリーリスク、市場環境の変化、競争優位性、新事業探索・投資など、各事業運営上の個別のリスク |
オペレーション |
サプライチェーン上の問題による調達リスク 環境安全関連法違反・労働災害による業務停止・賠償リスク 製品の品質に関する法令・規制・お客様要求事項違反により生じるリスク |
コンプライアンス |
競争法・贈賄・安全保障貿易管理による行政罰・業務停止リスク 品質・環境データの意図的な改ざんによる信頼失墜リスク 不正経理・粉飾決算による信頼失墜リスク |
サステナビリティ |
気候変動や人権尊重等に関する要請に対応できないことによる信用低下・取引停止のリスク |
自然災害/感染症 |
大規模地震・風水害などの自然災害、未知のウィルスの発生、パンデミックによる事業中断リスク |
サイバーセキュリティ/情報セキュリティ |
サイバー攻撃による情報漏洩及び事業中断リスク サイバー攻撃以外による情報漏洩リスク |
財務 |
財務報告の信頼性、財務・資金調達に関するリスク |
リスク管理にあたっては、影響度と発生可能性を考慮し、リスク発現時に当社グループ経営に大きな影響を与えることが想定されるものを「重要リスク」に選定し、重点的にモニタリングを行っています。
「戦略」については、社内カンパニー、SBU(戦略事業単位)、コーポレート部門が、事業・案件ごとにリスクの分析や対策を検討し、必要に応じ経営会議、取締役会で審議します。市場環境やリスクに影響を与える要因の変化に迅速に対応するため、重要リスクは毎年見直しを行います。
「戦略」以外のリスクについては、各リスクを所管するコーポレート部門が、ガイドライン等の制定・周知、研修、監査等を実施します。また、毎年当社グループ全体で自己点検を実施し、その結果を経営会議、取締役会で監視しています。重要リスクは、必要があれば都度追加をするとともに、中期経営計画策定年に、リスクの影響度と発生可能性を考慮した見直しを行います。
<発現したリスクへの対応>
社内規程に基づき、当社グループの経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性のある不測の事態の発生に備え、「Bad News First」の考え方の下、社長執行役員に迅速かつ確実に情報を報告し、共有するための危機管理レポートラインを設定しています。加えて、社長執行役員の判断により、直ちにグループ対策本部を設置し、迅速かつ適切な初期対応が取れる体制を整備しています。
(2)事業等のリスク
当社グループの事業その他のリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を記載しています。但し、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します。かかるリスク要因のいずれによっても、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。なお、本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は2024年3月28日現在において判断したものです。
<戦略リスク>
①地政学リスク/カントリーリスク
当社グループでは、日本における事業活動に加え、製品の輸出入及び海外における現地生産等、海外においても事業活動を展開しています。これらグローバルな事業展開に関するリスクとして、事業を展開している国及び地域における政治経済情勢の悪化、輸出入・外資の規制、予期せぬ法令の改変、治安の悪化、国家間の経済制裁、テロ・戦争・感染症の発生その他の要因による社会的混乱等の地政学リスク/カントリーリスクが考えられ、当社グループとしては、当該政治経済情勢や各国・地域の規制の動向等について注視し、状況に応じた対応がとれるよう努めています。
しかしながら、これらの事象の発生により、海外における当社グループの事業活動に支障をきたし、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
②市場環境の変化
当社グループの製品に対する需要は、建築・建材業界、自動車業界、電子・ディスプレイ業界、化学品及び医薬・農薬業界等の市場動向の影響を受けます。また、当社グループの製品販売地域は、日本、アジア、アメリカ、ヨーロッパをはじめ、多岐にわたっており、各国・地域の経済状況は当社グループの製品の販売に影響を与えます。当社グループは、生産性の向上を図るとともに、固定費・変動費の削減を推進し、事業環境の変化に影響されにくい収益体質づくりを目指していますが、これらの関連業界の需要減少や販売地域での景気減退が、販売数量の減少や価格の下落を通じて当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
セグメントごとの状況は、以下のとおりです。
(ⅰ)建築ガラス
建築ガラスセグメントでは、日本・アジア、欧州のそれぞれに開発・生産拠点を構築し、グローバルに製品を提供しています。製品の需要は、地域ごと、国ごとの景気により変動する建設投資に連動しており、同事業の収益も当該需要変動の影響を受ける可能性があります。
(ⅱ)オートモーティブ
オートモーティブセグメントでは、日本・アジア、欧州、米州のそれぞれに開発・生産拠点を構築し、グローバルに製品を提供しています。自動車用ガラスの需要は、地域ごと、国ごとの景気変動等に連動する自動車生産台数の影響を受け、同事業の収益も当該需要変動の影響を受ける可能性があります。
(ⅲ)電子
ディスプレイ事業の製品は液晶TV、スマートフォン、タブレット端末等に使用されています。同ビジネスについては、市場動向の変化、顧客のマーケットシェアの変動等が起きることが想定されます。当社グループは顧客ポートフォリオも考慮し拡販に努めていますが、市場や顧客の動向が同事業の収益に影響を与える可能性があります。電子部材事業については、半導体業界、オプトエレクトロニクス業界等に関連する企業が主な顧客です。これらの顧客の業績は、半導体、スマートフォン、通信インフラ、産業機器等の市場動向に依存するため、同事業の収益もこれらの市場動向の影響を受ける可能性があります。
(ⅳ)化学品
エッセンシャルケミカルズ事業については、日本及びインフラ整備が進展する東南アジアを中心に生産拠点を構築し、事業を展開しています。製品の需要は、主に地域ごと、国ごとの経済成長率や基幹産業の稼働状況に連動しており、同事業の収益も当該需要変動の影響を受ける可能性があります。パフォーマンスケミカルズ事業においては、輸送用機器業界や半導体業界、建設業界に関連する企業が主な顧客であり、同事業の収益もこれら業界の市場動向の影響を受ける可能性があります。
(ⅴ)ライフサイエンス
ライフサイエンスセグメントにおいては、医薬・農薬業界の経済状況及び新薬等の開発状況の影響を強く受け、同セグメントの収益もこれらの動向の影響を受ける可能性があります。
③競争優位性に係るリスク
当社グループが展開する各事業においては、当社グループと同種の製品を供給する競合会社が存在します。当社グループでは、市場や顧客ニーズを把握し、競合会社に対する競争優位性を維持できるよう、品質、価格、デリバリーなど、要求への対応や新技術の開発・知的財産権の取得に努めています。
しかしながら、それら顧客ニーズの変化に対し適切に対応できなかった場合や、新技術開発の長期化・知的財産上の訴訟が発生した場合には、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
なお、現在、当社グループが当事者となっている知的財産権関連の訴訟等もあり、これらの訴訟等において不利な結果が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
④新事業探索・投資に係るリスク
当社グループでは、短期~中期での成長性の確保、収益性の向上を目指した新事業の探索に努めており、そのために投資を伴う技術や事業買収を展開しています。新事業探索・投資にあたっては、種々のリスクを考慮した採算性分析やデューデリジェンスにより、リスクの把握に努めています。
しかしながら、事業化期間中の環境変化や、想定しなかったリスク要因が顕在化した場合には、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
<オペレーションリスク>
①サプライチェーン
当社グループでは、外部に製造を委託した場合には、事業継続の観点から複数の委託先の確保に努めています。
しかしながら、当社グループ又は当社グループの製造委託先において重大な生産トラブル等が発生し、一時的又は長期にわたる生産の中断等があった場合、製品によっては代替生産できないものもあり、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの生産活動では、一部調達先が限られる特殊な原料、資材等も使用しており、代替原材料の検討並びに当該原料・資材等の複数購買の推進に努めています。
しかしながら、これらについての供給の逼迫や遅延、価格変動等が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
②環境安全品質
当社グループは、製品の特性に応じて最適な品質を確保できるよう、全力を挙げて取り組んでいます。
しかしながら、予期せぬ事情により大規模なリコール等に発展する品質問題が発生する可能性が皆無とはいえず、製造物責任を追及された場合は、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループでは、環境に関するあらゆる適用法規制を遵守するとともに、法規制値より厳しい自社管理基準を設けて運用するなど、事業活動に伴う環境負荷を抑制し地球環境保全に努めています。
しかしながら、環境規制リスクとして、当社グループの製造工程で排出、又は製品に含有した化学物質等により非意図的な環境汚染等が発生した場合に、社会的信用の低下、事業活動の制限や費用の発生などにより当社グループの損益に影響を及ぼす可能性があります。また、各国又は地域での各種法規制の改正や強化により追加的費用や設備投資が必要になった場合、あるいは製品開発、生産、販売・サービス活動等に支障をきたした場合、当社グループの損益に影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社グループの化学品セグメントでは、様々なフッ素関連製品を製造・販売しています。炭素とフッ素の原子を持つ化学物質(ペルフルオロアルキル化合物又はポリフルオロアルキル化合物)は、広い括りでPFASと総称されており、PFAS全体で約12,000種類あるとされています。現在、そのうち環境や人体への影響の懸念からごく一部のPFASのみが国際条約により規制の対象とされています。当社グループは、条約で規制対象となっているPFASのうち、PFOSやPFHxSについては製造を行っておらず、PFOAの製造・販売は、条約による規制に先立ち、2015年に終了しています。PFASは物質ごとに異なる特性・性質を有するにもかかわらず、昨今、欧州や米国の一部の州で、全てのPFASを一括で規制しようとする動きがあります。当社グループでは、フッ素関連製品が産業上の重要な役割を担っていることを踏まえ、欧州当局へのパブリックコメントの提出などによりPFASに関する規制が十分な科学的知見に基づき個々の物質の性質を踏まえた適切な範囲となるよう努めております。PFASに関する規制の最終的な対象や内容は現時点では見通せませんが、規制の内容次第では、当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
さらに、当社グループは、組織的な環境・保安防災・労働安全衛生管理体制の構築と運用及び設備の安全化や点検・保守管理により、労働災害及び生産設備等の事故防止に取り組んでいます。
しかしながら、重篤な労働災害や重大な火災・爆発・漏洩事故等の不測の事態が発生した場合、当社グループの損益に影響を及ぼす可能性があります。
<コンプライアンスリスク>
①公的規制
当社グループが事業活動を行っている国及び地域では、投資に関する許認可や輸出入規制のほか、商取引、労働、特許、租税、為替等の各種関係法令の適用を受けています。当社グループでは、関係法令の改変動向を注視し、情報収集に努めていますが、関係法令の改変は、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
②訴訟・法的手続
当社グループは、国内及び海外事業に関連して、訴訟等の対象となるリスクがあり、現在、当事者となっている訴訟等もあります。これらの訴訟等において、当社グループにとって不利な結果が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
なお、米国において、フッ素系消火剤メーカーや当社グループを含むフッ素化学メーカー等に対し、PFASを使用した消火剤などの製品による環境や健康への影響を請求原因とする複数の訴訟が個人、地方政府等により提起されております。これらの訴訟の結果が当社グループにとって望ましくないものとなった場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性がありますが、現時点でこれら訴訟の結果を予測することはできません。当社グループでは、弁護士の協力を得ながらこれら訴訟への対応を適切に進めています。
<サステナビリティリスク>
当社グループでは、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおり、長期的社会的課題認識(マテリアリティ)において、重要機会と重要リスクを特定し、管理しています。
しかしながら、以下の5つの重要リスクにおいて顧客等から求められる水準を満たすことができない場合、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
①気候変動問題への対応について
2015年のパリ協定合意以降、脱炭素化の流れが加速しており、エネルギー関連政策・法規制の厳格化が想定されるとともに、企業に対する温室効果ガス排出の実質ゼロ実現への社会的要請が強まっています。当社グループとしても、当該リスクを見据え、2050年目標として「自社の事業活動に伴う排出量ネットゼロ(Scope1,2)を目指すとともに、製品・技術を活かして世界のカーボンネットゼロ実現に貢献」することを定めています。当社グループは、2050年目標の達成に向け、温室効果ガス排出量の少ない製造技術・設備の開発など、温室効果ガスの排出源に応じた削減策の実施に努めるとともに、本項目を重要機会とも捉え、製品ライフサイクルにおける省エネ・創エネ効果を有する製品の拡販、再生可能エネルギー普及に寄与する事業モデルの構築などに努めていきます。
しかしながら、一部地域で導入され始めている炭素税等のカーボンプライシングが本格的に導入された場合、これらの規制等に対応するために必要な費用負担が当社グループの損益に影響を及ぼす可能性があります。また、温室効果ガス排出規制等の気候変動対応に係る各国・地域における規制の強化に対応できない場合、パリ協定に整合する温室効果ガス排出削減目標が達成できない場合、ステークホルダーからの脱炭素化への事業による貢献への要請の高まりに対応ができない場合に、レピュテーション及び社会的信用の低下による機会損失が発生する可能性があります。
②資源の有効利用について
レアアース等の枯渇性資源に関する利用規制の厳格化や都市化の進展に伴う水資源需要の増加による生産活動への影響が想定されるとともに、循環型経済の加速に伴う廃棄物削減・リサイクルの社会的要請が強まっています。当社グループでは、再生原材料や再生資材の活用、埋立て処分の削減に努めるとともに、本項目を重要機会とも捉え、水不足地域における地下水・雨水浄化に寄与する製品の拡販、枯渇性資源使用量の少ない製品・生産プロセスの開発、リサイクル・リユース性に優れた製品の拡販などに努めていきます。
しかしながら、循環経済システムの標準化・法制化の動きが想定以上に進み、廃棄物削減・リサイクルの要請に十分に対応できない場合、市場での機会損失に繋がる可能性があります。
③社会・環境に配慮したサプライチェーンについて
サプライチェーンのグローバル化・複雑化に伴い、サプライヤーや外部委託先における強制労働・児童労働等の違法雇用問題の発生や、環境規制強化等による操業停止、規制違反等の発生が想定されます。当社グループとしても、当該リスクを見据え、AGCグループ人権方針や、環境負荷低減などの取組みを推進するなどサステナブルな調達等を定めた「AGCグループ購買取引基本方針」の制定に加え、サプライチェーン全体での付加価値向上に取り組み、既存の取引関係や企業規模等を超えた連携により取引先との共存共栄の構築を目指す「パートナーシップ宣言」を表明し、人権尊重・環境保護を重視したサプライヤー管理に努めていきます。
④公正・平等な雇用と職場の安全確保について
雇用におけるコンプライアンスや労働者の人権尊重の動きや、未熟練者や高齢者の増加に伴う製造拠点の安全対策の必要性が高まっています。当社グループとしても、当該リスクを見据え、従業員エンゲージメントの向上、重篤災害・休業災害の発生防止に努めていきます。
⑤地域社会との関係・環境配慮について
世界各地での都市化進展による生活圏拡大や周辺の生物多様性維持への関心、新興国での生活水準向上に伴うQOL(生活の質)向上への意識が高まっています。当社グループとしても、当該リスクを見据え、水使用量の削減や生物多様性の保全、環境事故の撲滅に努めるとともに、拠点設置地域との良好な関係構築を進めていきます。
<自然災害/感染症リスク>
当社グループは、自然災害・感染症等が発生した場合に備えて、グループ内の主要拠点においては、地震・強風・洪水・感染症等に関するリスクを評価し、ハザードの高い拠点では事業継続計画を策定しています。
しかしながら、事業継続計画の想定を超えた大規模な地震・台風・洪水等の自然災害や未知の感染症により、事業活動の中断、生産設備への被害、交通遮断による製品輸送停止など、不測の事態が発生するリスクが考えられ、当社グループ又は当社グループの構築するサプライチェーンにおいてこれらの不測の事態が発生し、一時的又は長期にわたる生産の中断があった場合には、製品によっては代替生産できないものもあり、お客様への供給に支障が生じる可能性や、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
<サイバーセキュリティ/情報セキュリティリスク>
サイバー攻撃によるオペレーションの一時的な停止や情報資産の流出、災害、不正アクセスその他不測の事態の発生による情報セキュリティ上の脅威はますます高まっており、当社グループでは、ITシステム及び生産システムやデータ等の情報資産の保護に努め、またセキュリティインシデント予防対策及び発生時には影響を最小限に抑える対策を講じています。
しかしながら、サイバー攻撃、災害、不正アクセスその他不測の事態により、重要な業務の中断や機密データの漏洩等が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
<財務リスク>
①原燃材料の価格上昇
当社グループの生産活動で使用している電力、燃料ガス、重油並びに原材料の価格変動等が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、一部原燃材料については商品デリバティブ取引等により価格変動リスクをヘッジしていますが、原燃材料価格の上昇による影響を完全に排除できない可能性があります。
②為替レートの変動
当社グループの事業には、全世界における製品の生産と販売が含まれています。各地域における売上、費用、資産を含む現地通貨建の項目は、連結財務諸表の作成のために円換算されています。換算時の為替レートにより、これらの項目は現地通貨における価値が変わらなかったとしても、円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。
また、当社グループは、日本をはじめとする世界各国の生産拠点で生産活動を行っており、その製品を複数の国に輸出しています。各国における生産及び販売では、外貨建で購入する原材料や販売する製品があります。したがって、為替レートの変動は、購入する原材料の価格や販売価格の設定に影響します。当社グループでは、短期的な為替レートの変動に対応するためヘッジ取引等の対策を講じるとともに、グローバルに生産拠点を配置して生産を行うなどリスクの軽減に努めていますが、大幅な為替レートの変動の結果、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
③退職給付債務
当社グループの退職給付費用及び債務は、年金資産の運用収益率や割引率等の数理計算上の前提に基づいて計算されています。
しかしながら、年金資産の運用環境の悪化により前提と実績に乖離が生じた場合等は、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
④非金融資産の減損
当社グループの連結財政状態計算書に計上されている有形固定資産、のれん及び無形資産等の非金融資産の減損について、今後、収益性の低下及び公正価値の変動等により回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には減損損失が発生する可能性があり、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
特に、電子セグメントに含まれているディスプレイ事業においては、主に液晶ガラス基板の需要の回復遅れや、円安・原燃材料高騰によるコスト増の影響により営業損益が悪化しており、非金融資産が属する資金生成単位に減損の兆候が認められています。また、ライフサイエンスセグメントに含まれているバイオ医薬品原薬及び遺伝子・細胞治療医薬品の開発製造の受託を営むAGC Biologics, Inc.については、主にバイオベンチャーへの資金流入減による市場全体の一時的な需要の低迷及び新規ラインの立ち上げ遅延等により営業損益が悪化しており、非金融資産が属する資金生成単位に減損の兆候が認められています。いずれの資金生成単位についても、減損テストを実施した結果、使用価値を基礎とした回収可能価額が、資金生成単位の帳簿価額を上回ったことから、減損損失は認識していませんが、今後の市場の経済状況等の影響を受ける可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度期間(2023年1月1日から2023年12月31日まで)における当社グループを取り巻く世界経済は、米国等の一部地域において持ち直しの動きがみられたものの、中国の景気低迷やロシア・ウクライナ情勢をはじめとする地政学リスク、米国・欧州などにおける金融引き締めなどの影響を受け、全体としては成長率が鈍化しました。
この結果、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。
(ⅰ) 財政状態
イ. 資産
当連結会計年度末の資産は、前連結会計年度末比1,190億円増の29,330億円となりました。これは主に、有形固定資産が増加したことによるものであります。
ロ. 負債
当連結会計年度末の負債は、前連結会計年度末比502億円増の12,787億円となりました。これは主に、有利子負債が増加したことによるものであります。
ハ. 資本
当連結会計年度末の資本は、前連結会計年度末比687億円増の16,543億円となりました。これは主に、前連結会計年度末比で円安になったことにより在外営業活動体の換算差額が増加したことによるものであります。
(ⅱ) 経営成績
当社グループは、2021年2月に長期経営戦略「2030年のありたい姿」を策定しました。この戦略では、長期安定的な収益基盤となる「コア事業」と高成長分野である「戦略事業」を両輪として、最適な事業ポートフォリオへの転換を図り、継続的に経済的・社会的価値を創出することを目指します。この長期経営戦略「2030年のありたい姿」を確実に実現するため、同年に2023年を最終年度とする中期経営計画 AGC plus-2023 を策定しました。当計画においては、コア事業の深化と戦略事業の探索を実現する“両利きの経営”を更に追求するとともに、サステナビリティ経営の推進とDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速による競争力の強化を主要な戦略として設定しました。
この戦略に沿って、当連結会計年度(2023年1月1日から2023年12月31日まで)においては、日本でのフッ素関連製品、EUV露光用フォトマスクブランクスの製造能力増強を決定しました。一方で、ロシアでの建築ガラス、オートモーティブ事業について譲渡の検討を開始するとともに、ディスプレイ事業において関西工場高砂事業所における液晶用ガラス基板製品の生産を終了するなど、最適な事業ポートフォリオへの転換を着実に実行しています。
このような事業環境の下、当連結会計年度の業績においては、戦略事業では、エレクトロニクスは、オプトエレクトロニクス用部材の出荷は減少したものの、EUV露光用フォトマスクブランクス等の出荷が堅調に推移しました。ライフサイエンスは、バイオ医薬品の受託売上減少の影響を受けました。コア事業では、オートモーティブは、半導体を中心とした部品供給不足の影響の緩和により自動車生産台数が回復し、当社グループの出荷も増加するとともに、販売価格も上昇しました。一方で、エッセンシャルケミカルズは塩化ビニル樹脂等の販売価格が下落しました。
以上の結果、当連結会計年度の売上高は、為替による増収効果はあったものの、前連結会計年度比166億円(0.8%)減の20,193億円となりました。営業利益は、原燃材料価格が下落したものの、製造原価の悪化や塩化ビニル樹脂等の販売価格の下落により同552億円(30.0%)減の1,288億円となりました。税引前利益は、前連結会計年度に減損損失を計上した影響等により、同643億円(109.8%)増の1,228億円、親会社の所有者に帰属する当期純利益は、同690億円増の658億円となりました。
<当連結会計年度の業績>
(億円:千万単位四捨五入)
売上高 |
2兆193億円 |
(前連結会計年度比 0.8%減) |
営業利益 |
1,288億円 |
(前連結会計年度比 30.0%減) |
税引前利益 |
1,228億円 |
(前連結会計年度比 109.8%増) |
親会社の所有者に帰属する当期純利益 |
658億円 |
(-) |
なお、営業利益(前連結会計年度比△552億円)の主な増減要因は以下のとおりです。
販売数量・売値・品種構成 |
△630億円 |
原燃材料価格 |
+460億円 |
コストその他 |
△382億円 |
<報告セグメント別の概況>
|
(億円:千万単位四捨五入) |
|
売上高 |
営業利益 |
||
第99期 |
第98期 |
第99期 |
第98期 |
|
建築ガラス |
4,763 |
4,837 |
328 |
327 |
オートモーティブ |
4,997 |
4,178 |
218 |
△98 |
電子 |
3,132 |
3,072 |
184 |
147 |
化学品 |
5,741 |
6,604 |
648 |
1,261 |
ライフサイエンス |
1,268 |
1,418 |
△124 |
169 |
セラミックス・その他 |
834 |
866 |
33 |
37 |
消去又は全社 |
△542 |
△616 |
1 |
△3 |
合計 |
20,193 |
20,359 |
1,288 |
1,839 |
前連結会計年度のセグメントにつきましても、変更後の報告セグメント区分に基づき作成したものを開示しております。
報告セグメント別の経営成績は次のとおりです。
イ. 建築ガラス
欧米は、景気減速の影響を受けた欧州で出荷が減少し、販売価格が下落した結果、前連結会計年度に比べ減収となりました。アジアは、日本を除く地域で出荷が減少しましたが、販売価格の上昇により前連結会計年度に比べ増収となりました。
以上の結果から、当連結会計年度の建築ガラスの売上高は、前連結会計年度比74億円(1.5%)減の4,763億円となりました。営業利益は、製造原価の悪化の影響などがありましたが、原燃材料価格の下落により同0.5億円(0.1%)増の328億円となりました。
ロ. オートモーティブ
自動車用ガラスは、自動車生産台数の増加により、当社グループの出荷も増加しました。また、販売価格の上昇や品種構成の改善、為替の影響もあり、当連結会計年度のオートモーティブの売上高は、前連結会計年度比819億円(19.6%)増の4,997億円となりました。営業利益は、製造原価の上昇などの影響を受けたものの、上記の要因により、同316億円増の218億円となりました。
ハ. 電子
ディスプレイは、液晶用ガラス基板の出荷が増加したことなどから、前連結会計年度に比べ増収となりました。電子部材は、スマートフォン市場減速の影響によりオプトエレクトロニクス用部材の出荷は減少したものの、EUV露光用フォトマスクブランクス等の半導体関連製品の出荷が増加したことに加え、為替の影響により、前連結会計年度に比べ増収となりました。
以上の結果から、当連結会計年度の電子の売上高は、前連結会計年度比60億円(1.9%)増の3,132億円となりました。営業利益は、同37億円(25.0%)増の184億円となりました。
ニ. 化学品
エッセンシャルケミカルズは、塩化ビニル樹脂等の販売価格が下落したことから、前連結会計年度に比べ減収となりました。パフォーマンスケミカルズは、フッ素関連製品の出荷は減少しましたが、販売価格の上昇や為替の影響により売上高は前連結会計年度並みとなりました。
以上の結果から、当連結会計年度の化学品の売上高は、前連結会計年度比863億円(13.1%)減の5,741億円となり、営業利益は、同613億円(48.6%)減の648億円となりました。
ホ. ライフサイエンス
ライフサイエンスは、為替の影響があったものの、新型コロナウイルス関連製品の特需消失、バイオベンチャーへの資金流入減や、米国での新規ラインの立ち上げ遅延及び設備改善のための稼働調整等によりバイオ医薬品の受託売上が減少したため、当連結会計年度のライフサイエンスの売上高は、前連結会計年度比150億円(10.6%)減の1,268億円となりました。営業利益は、前述の減収要因に加え、バイオ医薬品分野における能力増強に伴う先行費用の発生により、同292億円減の124億円の損失となりました。
各報告セグメントに属する主要な製品の種類は以下のとおりです。
報告セグメント |
主要製品 |
建築ガラス |
フロート板ガラス、型板ガラス、網入り磨板ガラス、Low-E(低放射)ガラス、装飾ガラス、建築用加工ガラス(断熱・遮熱複層ガラス、防災・防犯ガラス、防・耐火ガラス等)等 |
オートモーティブ |
自動車用ガラス、車載ディスプレイ用カバーガラス等 |
電子 |
液晶用ガラス基板、有機EL用ガラス基板、ディスプレイ用特殊ガラス、 ディスプレイ用周辺部材、半導体プロセス用部材、オプトエレクトロニクス用部材、 プリント基板材料、理化学用製品等 |
化学品 |
塩化ビニル、塩化ビニル原料、苛性ソーダ、ウレタン原料、フッ素樹脂、ガス、 溶剤、ヨウ素製品等 |
ライフサイエンス |
合成医農薬中間体・原体、バイオ医薬品等 |
上記製品の他、当社グループは、セラミックス製品、物流・金融サービス等も扱っています。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度におけるフリー・キャッシュ・フロー(営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フローの合計)は、税引前利益やその他の金融資産の売却等により、328億円の収入(前連結会計年度は718億円の収入)となりました。一方で、財務活動によるキャッシュ・フローにおいて、自己株式の取得による支出、配当金の支払等があり、当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末より637億円(30.4%)減少し、1,461億円となりました。
(ⅰ) 営業活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度における営業活動により得られた資金は、前連結会計年度比46億円(2.1%)減の2,125億円となりました。
(ⅱ) 投資活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度における投資活動により使用された資金は、前連結会計年度比345億円(23.7%)増の1,798億円となりました。当該支出は、有形固定資産の取得による支出等があったことによるものであります。
(ⅲ) 財務活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度における財務活動により使用された資金は、前連結会計年度比298億円(38.1%)増の1,080億円となりました。当該支出は、自己株式の取得、配当金の支払等があったことによるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また製品のグループ内使用(製品を他のセグメントの設備に使用)や、受注生産形態をとる製品が少ないため、セグメントごとの生産規模や受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
販売の実績については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況 (ⅱ) 経営成績」における各セグメント業績に関連付けして示しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 重要性がある会計方針及び見積り
当社グループの重要性がある会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 2 作成の基礎 及び 3 重要性がある会計方針」に記載しております。
また、電子セグメントに属するディスプレイ事業、ライフサイエンス事業に属するバイオ医薬品原薬及び遺伝子・細胞治療医薬品の開発製造の受託を営むAGC Biologics, Inc.の非金融資産の減損テストに関しては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 11 非金融資産の減損」に記載しております。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「(1) 経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。
③ 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは、中期経営計画に則り、持続的な業績成長のための成長基盤の構築や事業体質・競争力の強化に取り組み、資産効率を高めながら株主価値の継続的な向上に努めております。また、今後の成長のために必要な設備及び研究開発活動に投資するために、適切な資金確保を行い、最適な流動性を保持し、健全なバランスシートを維持することを財務方針としており、D/Eについては0.5以下を目標値として定めております。
資金調達活動については、当社グループを取り巻く金融情勢に機動的に対応し、金融機関借入、社債発行、コマーシャル・ペーパー発行等、多様な手段により、より安定的で低コストの資金調達を目指しております。また、長期資金の年度別償還額の集中を避けることで、借り換えリスクの低減を図っております。
資金の流動性については、現金及び現金同等物に加え、主要金融機関とコミットメントライン契約を締結しており、現在必要とされる資金水準を充分満たす流動性を保持していると考えております。
④ 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループの経営財務目標については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
(艾杰旭特種玻璃(大連)有限公司の持分譲渡)
当社は、建築用・自動車用・産業用各種フロートガラス等の製造販売を行う艾杰旭特種玻璃(大連)有限公司(AGC Flat Glass (Dalian) Inc.)について、当社持分の譲渡を行うことを決定し、2023年5月8日に上海耀皮玻璃集団股份有限公司(Shanghai Yaohua Pilkington Glass Group Co.,Ltd.)への譲渡が完了しました。
当社グループは長期経営戦略「2030年のありたい姿」として、「独自の素材・ソリューションの提供を通じてサステナブルな社会の実現に貢献すると共に継続的に成長・進化する」を目標として掲げました。また、この確実な達成に向けて策定した中期経営計画 AGC plus-2023 では、「両利きの経営によるコア事業の強化と戦略事業の推進」と、「サステナビリティ経営の推進」「DXの加速による競争力の強化」という戦略を示しました。
これを受けて技術開発においては、「両利きの開発」「オープンイノベーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の三本柱による戦略のもと、「コア事業の強化と戦略事業の推進」と「サステナブルな社会の実現」という主要な課題解決に挑んでいます。
〇両利きの開発
「右利きの開発」とは、①既存の生産・基盤技術を革新し、②お客様と共に新商品を開発で、お客様に密着し、そのニーズにお応えする形での開発であり、現状の課題をもとに改善策を積み上げていくようなフォアキャスティングのアプローチです。生産性の改善や新商品開発を通じた既存コア事業の強化につながる技術開発です。
一方、③既存の生産・基盤技術を再定義し、新しい市場を開拓するのが「左利きの開発」で、こちらは、将来起こりえる大きな時代の変化を予測し、新事業を創出することで、その変化の波を乗り越えていくようなバックキャスティングのアプローチです。モビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスなど戦略事業の領域での新事業の創出につながる技術開発です。
この2つはどちらも重要であり、「右利きの開発」によって既存事業の競争力を高めながら、「左利きの開発」で未来を創ることにより、当社グループは成長・進化していきます。この両方のバランスをとることが「両利きの開発」を進める要諦となります。
〇オープンイノベーション
近年は社会の変化が加速し、社会課題も複雑さを増しています。お客様のニーズも高度化、多様化しているため、当社単独での開発では課題解決が難しくなりつつあり、外部パートナーとのオープンイノベーションによる協創活動が重要となっています。
当社では、2軸でのオープンイノベーションを進めています。1つは大学をはじめとするアカデミアやスタートアップ企業などとの協創で、革新的な技術や当社に無い技術を開発することです。東京大学や東京工業大学、名古屋大学などと共同研究を進め、難しい課題に挑んでいます。
こうして得られた新規技術やソリューションを活用して、お客様であるリーディングカンパニーと新たな商品を開発するのが2つ目のオープンイノベーションです。近年の事例では、大手通信会社である株式会社NTTドコモとの共同開発が挙げられます。都市部では移動通信アンテナを設置する場所の確保が課題となっていますが、既存の窓ガラスの室内側から取り付け可能なガラスアンテナ「WAVEATTOCH®(ウェーブアトッチ)」を開発し、都心のビル窓をアンテナ化しました。
2020年には、AGC横浜テクニカルセンター(YTC)内に新研究棟を新設し、従来2拠点に分かれていた開発機能を統合して、材料開発、プロセス開発から設備技術開発までをシームレスにつなぐ体制を整えました。また、新研究棟にはオープンイノベーションを加速する場として、協創空間「AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)」を設けました。AOは「つなぐ」「発想する」「ためす」をコンセプトに、社外のパートナーとの協創の場を用意しています。
さらに北米、欧州、中国、及び東南アジアに駐在員を配置し、海外大学や研究機関等への積極的な情報収集活動を行うとともに、当社グループとのシナジーが期待できる技術を保有するベンチャー企業の探索を行っています。
〇デジタルトランスフォーメーション(DX)
材料開発や組成開発に計算科学や情報科学を用いることで、素材開発を大幅に効率化するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が注目されています。当社でも早くからMIに取り組み、ガラス開発や環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA®の開発などに活用してきました。しかし、これまでは実験データの保管形式が統一されていないなど、幅広い分野でMIを本格活用することが難しい状況でした。そこで当社は、統合化された実験データ保管プラットフォームをMI活用の重要な基盤と捉え、開発業務向けに電子実験ノートの機能を併せ持つMIデータベースシステム「AGC R&D Data Input & Storage(ARDIS)」及びMI専用分析ツール「AGC Materials Informatics Basis Analysis Tool (AMIBA)」を開発しました。また、量子計算、分子シミュレーション計算などの計算科学を支援する内製ソフトの活用により、実験と理論計算を連動したMI による材料開発を進めることが可能となりました。
このように、ガラス、化学やバイオといった様々な技術分野において、データ入力からデータ分析までを一貫して実行できる開発環境が整い、あらゆる開発ステージで現象の理解や特性予測が進み、技術開発の効率化を加速しています。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
(1) コーポレート
コーポレートが担当している研究開発には、技術プラットフォームの強化拡大を目指した長期的・基礎的な研究開発と、新規事業の創出を目指した研究開発があります。また上記の戦略に基づいた全社的研究開発体制の構築もコーポレートが策定・調整しています。コーポレートが担当しているテーマとしては、高度な解析技術などの共通基盤技術の開発、既存事業及び新事業に資する材料技術の開発等があります。
当連結会計年度における、コーポレートの研究開発費は20,105百万円でした。
(2) 建築ガラス
当事業の研究開発部門では、板ガラスに関する商品設計や新技術開発、生産技術開発を行っています。また、省エネ効果の高い建築用ガラスに関する技術開発を行っています。
当連結会計年度における、当事業部門に係る研究開発費は
(3) オートモーティブ
当事業の研究開発部門では、自動車用ガラスに関する商品設計や新技術開発、生産技術開発を行っています。
当連結会計年度における、当事業部門に係る研究開発費は
(4) 電子
当事業の研究開発部門では、ガラス溶解・成形・研磨・検査などの生産技術開発に注力しています。さらに、その他にも多岐にわたる研究開発テーマがあり、主に半導体製造装置用部材、ディスプレイ関連部材、光電子部材等に関する新商品・新技術・生産技術の開発を行っています。
当連結会計年度における、当事業部門に係る研究開発費は
(5) 化学品
当事業の研究開発部門では、フッ素化学、高分子化学、無機化学、電気化学などの基盤技術を生かした新商品・新技術の開発を行っています。特に、環境に配慮した製品やプロセスの開発に注力しています。
当連結会計年度における、当事業部門に係る研究開発費は
(6) ライフサイエンス
当事業の研究開発部門では、医農薬中間体・原体やバイオ分野といったライフサイエンス関連の新商品・新技術の開発を行っています。
当連結会計年度における、当事業部門に係る研究開発費は
(7) セラミックス・その他
上記以外の事業部門における当連結会計年度の研究開発費は4,583百万円でした。