第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営理念

当社グループは、企業理念として、世界中のステークホルダーの皆さまとともに歩む「共生」を掲げています。「共生」とは、文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会をめざすものです。この「共生」の理念のもと、当社グループは、世界の繁栄と人類の幸福のため、企業の成長と発展を目指し企業活動を進めています。

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(2)マテリアリティ

 当社は、時代とともに変化する社会の動きを捉えながら、企業理念である「共生」のもと、人間尊重、技術優先、進取の気性と言った企業DNAと、自社の強固な財務基盤や豊富な人材、高い技術力など、様々なリソースを有効に活用し、健全なコーポレート・ガバナンスを保ちながら事業を展開してまいりました。

 当社のこれまでの取り組みや中長期経営計画に沿った様々な事業活動の中から、当社が取り組むべきと考える重要事項の中で、ステークホルダーの皆さまの関心が特に高い「新たな価値創造、社会課題の解決」ならびに「地球環境の保護・保全」を重要課題(マテリアリティ)として抽出しました。また、さらにこれら2つのマテリアリティに取り組む上で支えとなるテーマを「人と社会への配慮」として集約し、3つ目のマテリアリティとしました。当社では、ステークホルダーの意見を参考に、マテリアリティの妥当性の確認や見直しを行うほか、社会に対する当社の事業活動のインパクトを分析し、企業活動のより一層の充実を図っています。

 

特定したマテリアリティ

項目

 新たな価値創造、社会課題の解決

・人々の健康や病気の予防に貢献する医療技術の開発

・社会の安心・安全に資するセキュリティ技術の進化

・写真や映像分野における人々の豊かさや楽しさにつながる

 製品/技術の開発

 地球環境の保護・保全

・省エネルギー化の促進/再生エネルギーの活用

・使用済み製品のリユース・リサイクル

・廃棄物の削減/水域・土壌の汚染防止

 人と社会への配慮

 人権と労働

・差別やハラスメントの防止、基本的人権の尊重

・適正な賃金と労働時間の管理

 社会貢献

・事業活動を生かした社会貢献活動

・次世代の育成支援

 

(3)中長期経営計画:グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥ

 当社は、「共生」の企業理念のもと、永遠に技術で貢献し続け、世界各地で親しまれ、尊敬される企業を目指し、1996年に5カ年計画『グローバル優良企業グループ構想』をスタートしました。

 2021年を初年度とする新5カ年計画「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅥ」(以下、フェーズⅥ)では、「生産性向上と新事業創出によるポートフォリオの転換を促進する」を基本方針に、テクノロジーとイノベーションによって新たな価値を生み出し、コンシューマーの分野ではより豊かな生活を、オフィスやインダストリーの分野ではより快適なビジネス環境を、そしてソサエティの分野ではより安心・安全な社会づくりをめざします。

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①産業別グループの事業競争力の徹底強化

 当社が保有する多岐にわたる技術や資産を最大限活用することを目的として、2021年に技術的に親和性のある複数の事業本部をプリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの4つのグループに再編成しました。産業別グループ内では各事業・グループ会社がもつ技術や人材の連携を深めて、将来技術の開発や生産技術の強化など新たなイノベーションを創出し、事業の進化・拡大に取り組んでいます。2023年10月に開催したキヤノンの総合技術展である「Canon EXPO」では、事業ポートフォリオの転換を支える産業別グループの技術と当社が目指す技術の方向性を紹介しました。今後は当社がこれまで培ってきた独自技術に加えてオープンイノベーションやM&Aも活用することにより、時代のニーズに応える新たな価値を創出し、複雑化、多様化する社会課題の解決に貢献することを目指します。

 2021年と2022年はコロナ禍や半導体をはじめとした部品不足、物流逼迫への対応を優先しておりましたが、2023年に入りこれらの状況が落ち着きを見せたことから、当社は計画していた成長戦略を再開・加速しています。加えて今後は開発、生産、販売の経費構造を全面的に見直して経費水準を最適化するプロジェクトを進めていくことで、一層の事業競争力強化を目指します。

 

各グループにおける、フェーズⅥの主な戦略・施策の進捗状況は以下の通りです。

 

 プリンティンググループ

 アナログからデジタルへのシフトにより今後も大きな成長が見込まれるカタログ印刷等の商業印刷分野と、ラベル印刷やパッケージ印刷等の産業印刷分野では、プリンティンググループの総力を挙げて商品ラインアップの強化とワークフロー・ソフトの拡充に取り組んでいます。2023年は特に自動化機能を強化したカットシート機の「imagePRESS V1350」を始めとする「Vシリーズ」や、白インクを追加したことでさらに多様なメディアへの印刷を可能にした「Colorado Mシリーズ」が顧客から高く評価され、販売台数を大きく伸ばしました。今後は「Canon EXPO」で反響の大きかったB3サイズ対応インクジェットデジタルプレス機「varioPRINT iX1700」や産業印刷向け水性インクジェットラベル印刷機「LabelStream LS2000」をラインアップに加え、業界の高度な印刷ニーズに応えていきます。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展したことでオフィス環境でのペーパーレス化が進みましたが、仕事に関する思考や情報共有において紙がもたらす価値は変わることなく、人間の知的な活動を支えるうえで今後も一定の役割を果たしていくと考えております。コロナ禍を通じてリモートワークが日常となり、サテライトオフィスや自宅など働く場所の分散や働き方の多様化が進みましたが、オフィス、ホームの分野では、働く場所で制約を受けない安心・安全・快適なプリンティング環境・サービスへのニーズが高まっています。プリンティンググループでは、多様なシーンに合わせてどのような環境においても高い生産性、利便性、セキュリティ環境を提供すべく、当社製の複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンターとクラウドを連携したオンデマンドプリンティング環境を提供しています。2023年はオフィスにおける中核のプリンティング機器として、オフィス複合機の需要は底堅く推移しました。当社は高効率と低消費電力の両立に加えてサイバーセキュリティを強化した「imageRUNNER ADVANCE DX C3900シリーズ」などをラインアップに加えました。レーザープリンターとインクジェットプリンターでは、ビジネスから在宅までの幅広いニーズに対応するためラインアップを拡充しましたが、在宅需要のピークアウトに加え中国や欧州での景気悪化の影響を受けて市場が縮小しました。プリンティンググループでは、引き続きお客様のニーズに合わせた商品・サービスを拡充し、オフィス、ホームの分野において世界No.1を目指します。

 

 メディカルグループ

 近年、世界の医療を取り巻く環境は技術面でめざましい発展を遂げる一方、医師不足、高齢化社会、医療費の高騰、医療の地域格差などさまざまな課題に直面しています。メディカルグループでは「画像診断事業」、「ヘルスケアIT事業」、「体外診断事業」の分野に特に注力し、優れた製品・サービスを提供することで社会の変化に合わせた医療課題の解決や価値提供を行うことを目指しています。

 画像診断事業では、ディープラーニング技術を用いて設計した画像再構成技術や、複雑化する医療従事者の診断ワークフローを支援する自動化技術を搭載した製品を開発するなど、医療従事者と患者の負担の軽減と高品質の画像の提供を目指して製品・サービスを提供してきました。2023年には、ディープラーニングを用いた「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」をさらに進化させた超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」と、先進自動化技術により操作性向上を追求した自動化技術「INSTINX」を搭載し、同時に被ばく線量をさらに低減し、撮像時間を短縮したCTの新製品「Aquilion One / INSIGHT Edition」を発売するなど、さらにラインアップを強化しました。

 当社は次世代技術の研究開発にも積極的に取り組んでいます。2019年より、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団との共同研究でiPS細胞の製造に寄与する装置の開発を進めています。2023年11月には、物質を高精度に識別し、カラーで表示できる機能により高い画質性能と被ばくの低減など医療現場にさらなる価値をもたらすことが期待されているフォトンカウンティングCT(PCCT)の早期実用化に向け、広島大学やオランダのラドバウド大学メディカルセンターと共同臨床研究に関する基本合意を締結しました。さらに2023年11月には生物医学研究と臨床ケアに高い専門性を有する米国のクリーブランド・クリニック財団と、医用画像ソリューションおよびヘルスケアIT技術の開発を目指す戦略的研究パートナーシップに合意しました。このように幅広い領域でグローバルな共同研究活動にも積極的に参画しながら、医療に新たな価値を提供できる技術の開発に注力します。

 体外診断事業の領域では、2023年に体外診断用医薬品を手掛けるミナリスメディカル株式会社及びMinaris Medical America, Inc.(以下、あわせて「ミナリスメディカル社」と総称)をグループに迎えました。今後はキヤノンが保有する自動分析装置技術とのシナジーを活かしながら、当該事業の強化を図ります。

 また、メディカル事業では収益性の向上を図るため、全社組織として「メディカル事業革新委員会」を立ち上げました。開発から生産、調達、物流、企画・管理までの全てのオペレーションにおいて、当社の持つリソース、ノウハウを投入し、収益体質の改善を図ります。

 

 イメージンググループ

 スマートフォンの普及によりデジタルカメラ全体の市場は大きく縮小したものの、フルサイズのセンサーを搭載したミラーレスカメラの販売はコロナ禍でも堅調に推移し、高画質の写真に対する需要の底堅さを示しました。世界屈指の光学技術を有する当社は、こうした需要に応えるカメラ・交換レンズを今後も順次市場に投入し、高画質を重視するプロ・ハイアマチュアユーザーを対象の中心に、ミラーレスカメラにおいても世界No.1の地位の確立をめざしてきました。2023年には、「EOS Rシリーズ」より本格的な静止画・動画撮影を手軽に楽しみたいエントリーユーザー向けに「EOS R50」、「EOS R100」といった新製品を発売し、ラインアップのすそ野をさらに広げました。また、近年スマートフォンやSNSを使用した映像コミュニケーションがより一層活発になっており、手軽かつクオリティの高い動画撮影のニーズが高まっています。当社では従来のカメラ製品の動画撮影機能をより充実化させるとともに、2023年に発売したVlog(ビデオブログ)撮影に特化した「PowerShot V10」など、新しいコンセプトの製品をラインアップに加えることでより幅広いユーザーの期待に応えます。

 放送や映像制作の分野では、IPストリーミングの需要が増大を続けていることから、高画質リモートカメラシステムのラインアップを強化します。

 ネットワークカメラ事業では、世界有数のメーカーであるアクシス社や映像管理ソフト・ベンダーのマイルストーンシステムズ社、映像解析ソフト・ベンダーのブリーフカム社など、優れた技術を持つグループ会社を擁しております。今後もグループの総力を挙げて多様化するニーズを捉えながらセキュリティ分野におけるプレゼンスを強化します。また同時に、生産現場での検品業務、集配センターでの欠品検知、インフラ点検、店舗や展示会場での混雑具合の検知など、従来のセキュリティ目的を超えて、各種業務に対する映像を活用したDXを提供する製品・サービスの展開を図ります。

 近年様々な分野で仮想現実映像、立体映像、360度映像などの利活用が進み、新たな映像体験市場の拡大が期待されています。当社では、複数の撮影画像から3D空間データを再構成する「ボリュメトリックビデオシステム」、高画質な180°3D VR映像を手軽に撮影できる「EOS VRシステム」、現実世界とCG映像をリアルタイムに違和感なく融合するMR(Mixed Reality:複合現実)製品の「MREAL」などの3Dイメージング技術を用いた製品・サービスを拡充していくことで、新たな映像体験市場の活性化と事業領域の拡大を図ります。

 

 インダストリアルグループ

 AI、IoT、電気自動車、5Gなどデジタル化やスマート化が進んだ現代社会では半導体は不可欠のデバイスとなり、今後も半導体とその製造装置に対する需要は多様化し、拡大すると見込まれます。インダストリアルグループは、半導体露光装置の安定供給、半導体メーカーの生産性向上、半導体の性能向上に引き続き貢献します。中長期的な半導体露光装置の需要増加に対応するため、2025年の稼働を目標に宇都宮事業所の隣地に新工場を建設し、半導体露光装置の生産能力を大幅に増強します。顧客の生産性向上に貢献する取り組みとしては、2022年に半導体露光装置ソリューションプラットフォーム「Lithography Plus」の販売を開始し、半導体メーカーでの歩留まり改善や稼働率向上を支援しています。また、2023年10月にはナノインプリント(NIL)半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」を発売しました。NIL方式は、従来の露光方式と比べて製造工程がシンプルで、最先端半導体デバイス製造での消費電力低減とコスト削減効果が期待されます。今後は半導体デバイス製造用途向けの販売を推進するとともに、国内外の研究機関や半導体メーカーと協力し、NILの長所を生かせるアプリケーションの拡大を図ります。

 ディスプレイ製造装置については、液晶では生産性向上と高精細化を進め、有機ELでは今後成長が期待される中型パネルやスマートグラス向け製造装置の開発を加速します。

 その他にも当社と子会社であるキヤノントッキ、キヤノンアネルバ、キヤノンマシナリーが持つ超精密位置合わせ、超高精度加工、真空システムといったコア技術を融合して新たな装置を開発し、インダストリアルグループの事業領域拡大を目指します。

 

②本社機能の徹底強化によるグループ生産性の向上

当社では事業の競争力の強化と拡大を図るため、人事制度を改定し、より一層の競争原理を働かせることで管理部門の生産性を向上するとともに、当社の事業の付加価値を一層高める先端技術のリサーチ力強化など、本社機能の強化に取り組んでいます。2023年からは、当社の技術を牽引することが期待される技術者を「トップ・サイエンティスト」として任用する「高度技術者認定」制度を設け、新規事業創出に貢献できる人材の確保・育成を推進しています。また当社では、これまで培ってきたあらゆる技術を活用して材料やコンポーネントなどの領域で事業化を進めるなど、全社横断的な視点での新規事業創出にも取り組み、収益拡大への貢献を目指しています。さらに今後は、自社技術の開発に加えて外部の最先端技術を積極的に取り入れるべく、産学連携、外部企業とのパートナーシップを通じたオープンイノベーションやM&Aを活用し、一層の業容拡大を図ります。

 

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(4)中期経営計画連結業績目標

 当社は、フェーズⅥ期間最終年度である2025年度の連結業績目標として、売上では当社史上最高を記録した2007年を上回る売上高4兆5,000億円以上、利益では営業利益率12%以上、当期純利益率8%以上の達成を目指します。

 事業ポートフォリオの転換を評価する指標として、当社では連結売上高に対する新規事業※1売上高の比率を設定しています。今5カ年計画の3年目となる2023年は、ウクライナ情勢や中東での軍事衝突など不安定な状況が継続しましたが、長期にわたり経済活動を制限したコロナ禍の収束などにより、世界経済は緩やかに回復しました。不安定な状況が続くなかで当社は、製品の供給不足からの回復とメディカルやネットワークカメラをはじめとする新規事業が堅調に推移したことに加え円安が追い風となり、3期連続となる増収増益を達成しました。新規事業の売上高は成長を続けており、2017年と比較すると連結売上高に占める構成比が22%から28%に上昇するなど、事業ポートフォリオの転換の効果が着実に表れています。2025年にかけて、さらなる新規事業売上高の成長をめざします。

 また当社は、企業価値向上をより一層加速させるため株主資本利益率(ROE)を重視しております。コロナ禍の2020年に3.2%まで落ち込んだROEはその後の業績回復により改善し、2023年は前年比0.1ptの改善となる8.2%となりました。今後は着実なコストダウン活動や経費の最適化による収益性の向上、棚卸資産の削減や生産拠点の集約等を通じた資産の圧縮、負債・資本の最適バランスの追求といった取り組みを進めることで、2025年にはROEを10%以上に向上させることを目指します。

 

※1新規事業には、キヤノンプロダクションプリンティング、キヤノントッキ、アクシス、キヤノンメディカルシステムズなど、フェーズⅠ以降に取得した主要な事業会社の事業と、フェーズⅥ期間中の事業化を目指す新規事業を含めています。

 

 

2021年

実績

2022年

実績

2023年

実績

2024年

見通し

 

2025年

目標

売上高

3兆5,134億円

4兆314億円

4兆1,810億円

4兆3,500億円

 

4兆5,000億円以上

営業利益率

8.0%

8.8%

9.0%

10.0%

 

12%以上

当期純利益率

6.1%

6.1%

6.3%

7.0%

 

8%以上

 

 

 

 

 

 

 

ROE

7.9%

8.1%

8.2%

8.9%

 

10%以上

 

 

 

現行事業・新規事業売上比率

 

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2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)キヤノンのサステナビリティ

 当社グループは、1988年より世界の繁栄と幸福のために貢献する「共生」を企業理念として掲げ、努力してまいりました。「すべての人々が、文化、習慣、言語、民族、地域などあらゆる違いを超えて共に生き、共に働き、互いに尊重し、幸せに暮らす社会。そして、自然と調和し、未来の子どもたちに、かけがえのない地球環境を引き継ぐことのできる社会。」このような社会の実現に向け、当社グループは、テクノロジーとイノベーションの力で新たな価値を創造し、世界初の技術、世界一の製品・サービスを提供するとともに、社会課題の解決にも貢献していきます。また、すべての製品ライフサイクルにおいて、より多くの価値を、より少ない資源で提供することで、豊かな生活と地球環境の両立を目指します。当社グループは、これからもすべての企業活動を通じて、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでまいります。

 

(2)サステナビリティ課題

 当社グループを取り巻くサステナビリティの課題は多岐に渡りますが、そのうち、気候変動対応、人的資本、サイバーセキュリティについては、以下(3)気候変動(TCFD提言に即した開示)(4)人的資本(5)サイバーセキュリティをご覧ください。またその他の項目を含め、詳細については当社ホームページに掲載されておりますサステナビリティレポートをご参照ください。

 

(3)気候変動(TCFD提言に即した開示)

 当社グループは、気候変動への対応を含む「地球環境の保護・保全」をマテリアリティの一つとしています。課題解決に向けて、開発、生産、販売といった自らの事業活動だけでなく、サプライヤーにおける原材料や部品の製造、販売店などへの輸送、さらにはお客さまの使用、廃棄・リサイクルに至るまで、製品ライフサイクルの各ステージにおける環境への影響を捉え、削減に取り組んでいます。

2050年にCO₂排出量をネットゼロとすることを目指し、製品の小型・軽量化、物流の効率化、生産拠点での省エネルギー活動、製品使用時の省エネルギー、製品リサイクルなど、様々な取り組みを推進しています。「キヤノングループ環境総合目標」である「ライフサイクルCO₂製品1台当たりの改善指数 年平均3%改善」を確実に達成することで、CO₂排出量の着実な削減を図っていきます。

また、当社は、金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同しており、サステナビリティレポートやウェブサイトを通じて、推奨される情報を継続的に開示しています。

 

<ガバナンス>

気候変動対応を含む環境目標は、代表取締役会長兼社長 CEOが承認しています。中長期計画については、サステナビリティ推進本部が策定の上、取締役を含めた役員間の協議を経た上でCEOの承認を得ています。目標達成に向けサステナビリティ推進本部が中心となってグループ全体で活動を実行しています。目標の進捗について毎月経営層に報告するとともに、年間のレビューをCEOに報告しています。

また、当社では取締役会決議に基づき、リスクマネジメント委員会を設置し、環境法規制や自然災害に関する重大なリスクは、リスクマネジメント委員会において評価を実施し、結果を取締役会へ報告しています。

 

<戦略>

専門機関や政府機関からの情報をもとに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気候変動シナリオなどを活用した製品ライフサイクルCO₂削減に対する数値シミュレーションを実施し、事業上のリスクや機会を特定するとともに中長期戦略を策定しています。※特定したリスク・機会の概要は、次頁を参照

また、リスクを縮小し、機会を拡大するため、製品ライフサイクル全体を視野にCO₂削減を図る「緩和」と物理リスクへの「適応」の両面からのアプローチが重要と認識し、対応計画を策定・実行しています。

さらに、資源循環への取り組みを通じたCO₂削減も実行しています。例えば、複合機のリマニュファクチュアリングにより、新規の原材料調達や部品加工に伴い発生するCO₂削減が可能であるほか、インク・カートリッジのクローズドループリサイクルにより、回収したカートリッジからプラスチックをペレット化し、再度原材料として使用することで、新規の原材料調達や輸送等にかかるCO₂を削減することが可能となります。

 

 

気候変動領域における主なリスク・機会

リスク

機会

種類

リスク・機会の概要

財務
影響

対処

リスク

移行
リスク

省エネルギー規制の強化と対応コストの増加(製品・拠点)

・製品ライフサイクル全体での負荷削減を

  指標とした環境総合目標の達成

・環境規制動向に関する情報収集/分析/

  適合

経済的手法を用いた排出抑制(炭素税など)による事業コストの増加

・拠点エネルギー目標の達成

・開発/生産/設備/環境部門が連携し、各事

  業所の省エネ活動を推進

物理
リスク

台風や洪水被害の甚大化など異常気象の深刻化による操業影響

・BCPの策定、高リスク事業拠点の高台移転

評判
リスク

情報開示の不足による外部評価の低下

・気候変動対応への考え方、取り組み状況

  の開示

機会

製品・
サービス

省エネルギー製品をはじめライフサイクル全体でのCO₂排出量が小さい製品に対する販売機会の拡大

・製品ライフサイクル全体での負荷削減を

  指標とした環境総合目標の達成

・省エネ性能と使いやすさを両立させた

  製品の開発/製造/販売

社会全体のCO2削減へ貢献する製品・ソリューションの販売機会の拡大

・製品ライフサイクル全体での負荷削減を

  指標とした環境総合目標の達成

資源の
効率

生産や輸送の高効率化によるエネルギーコストの削減

・拠点エネルギー目標の達成

・高効率設備や輸送手段への切り替え/新規

  導入

エネルギー源

再生可能エネルギーの低コスト化による活用機会の拡大

・再生可能エネルギーへの切り替え

その他

気候関連情報の開示促進による企業イメージの向上

・気候変動対応への考え方、取り組み状況

  の開示

 

<リスク管理>

特定した気候変動リスク・機会は、ISO14001のPDCAサイクルに沿って管理しています。

当社グループは、環境保証活動の継続的な改善を実現する仕組みとして、全世界の事業所においてISO14001によるグループ共通の環境マネジメントシステムを構築しています。

具体的には、環境マネジメントシステムは、各部門の活動と連携した環境保証活動を推進(DO)するために、中期ならびに毎年の「環境目標」を決定(PLAN)し、その実現に向けた重点施策や実施計画を策定して事業活動に反映させています。さらに、各部門における取り組み状況や課題を確認する「環境監査」や、業績評価に環境側面を取り込んだ「環境・CSR業績評価」を実施(CHECK)することで、環境保証活動の継続的な改善・強化(ACT)へつなげています。

これらリスク・機会への対応は、全社環境目標や重点施策に反映されるとともに、当社グループでは、環境への対応を経営評価の一部として取り入れており、各部門の環境目標の達成状況や環境活動の実績は、グループ全体の経営状況の実績を評価する「連結業績評価制度」の一指標として実施される「環境・CSR業績評価」の中で年2回、評価・評点化しています。評価結果はCEOをはじめとする経営層に報告されています。

 

<指標と目標>

当社グループは、製品ライフサイクル*を通じたCO2排出量を2050年にネットゼロとすることをめざしており、その

達成に向けて、総量目標としては、2030年にスコープ1、2排出量を2022年比42%削減、スコープ3(カテゴリー1、11)排出量を2022年比で25%削減することをめざしており、SBTi (Science Based Targets イニシアティブ)の認定を取得しました。

また、2008年以来、環境総合目標として「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数年平均3%改善」(原単位目標)に取り組んでいます。この目標を継続的に達成することで、2030年には2008年比で50%の改善となります。2023年時点では2008年からの平均で目標を上回る3.95%、2008年比44.4%の改善となりました。また、ライフサイクルCO₂排出量は7,468千t-CO₂(スコープ1+2+3合計)でした。これらのGHG(Greenhouse Gas)排出量データは、毎年第三者保証を取得しており、2023年も取得済みです。

* スコープ1:直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)、スコープ2:間接排出(電気、蒸気など)、 スコープ3:サプライチェーンでの排出(購入した物品・サービス、輸送・流通、販売した製品の使用)

 

「ライフサイクルCO₂製品1台当たりの改善指数」推移

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※1 2008年を100とした場合

 

 

ライフサイクルCO₂排出量の推移

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※1 温室効果ガス(エネルギー系温室効果ガスであるCO₂と非エネルギー系温室効果ガスであるPFCs、HFCs、SF6、N2O、メタン、NF3)を集計対象としています。

※2 原材料および加工に関わるCO₂換算係数は、エコリーフ環境ラベルプログラムの換算係数を使用しています。

※3 2021年以降のデータについてはキヤノングループの連結対象会社を集計の範囲とし、それ以前は主にISO14001統合認証の取得会社を集計の範囲としています。

 

(4)人的資本

 当社は、グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥのもと、生産性向上と、新規事業創出によるポートフォリオの転換を進めています。

 その完遂に向けて、創業以来引き継がれている「人間尊重」の企業DNAと、価値創造の源泉は人材であるという考えのもと、人材価値の最大化を図るため、以下の戦略に基づき、多様性の確保を含む人材育成と社内環境整備に取り組んでいます。

 

戦略ならびに指標及び目標

1.イノベーション人材の獲得と育成

当社は、革新的な製品を創出することによって社会に新たな価値を提供するため、優秀な技術人材の獲得と育成に取り組んでいます。

定期採用では、インターンシップを通じて当社の魅力を訴求し、学生の関心を高めるとともに、優秀な学生に直接コンタクトするダイレクトリクルーティングを強化しています。

また、技術人材育成委員会のもと、250以上の専門講座を整備し、長期的視点に立って次世代を担う技術人材を育成しています。近年では、保有技術や特許情報などを集約した技術人材データベースを構築することにより戦略的な人材配置につなげています。

2023年には、「高度技術者認定制度」を導入し、高度な技術的知見を有する技術者を「Top Scientist」「Top Engineer」として顕彰することにより、モチベーションのさらなる向上と優秀人材の確保を図っています。

特に、イノベーションに不可欠なデジタル人材の育成については、ソフトウエア技術者の育成を専門的に担う社内教育機関「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を2018年に設立し、ソフトウエアに関するスキルを受講者のレベルに応じて基礎から応用まで体系的に身につけられる体制を整えています。全社員に対しては、生産性向上やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのIT・DXリテラシー研修を実施し、2023年までに延べ24,000人が受講しました。また、上級者に対しては、最先端のソフト技術を学ぶための高度な研修や国立情報学研究所や早稲田大学など社外の教育・研究機関への派遣を積極的に行っています。

 

〈デジタル人材育成体系図〉

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このほか、さまざまな領域での変革を牽引する経営人材、グローバル人材、ものづくり人材などを育成する研修やトレーニー制度を整備するなど、イノベーション人材の育成に注力しています。2023年の社員一人当たりの平均研修時間は22.6時間、平均研修関連費用は16.5万円となり、3年連続で上昇しています。

 

〈社員一人当たり平均研修時間、平均研修関連費用〉

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〈人材育成体系図〉

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2.適材適所と少数精鋭の推進

当社は、生産性の高い少数精鋭の組織を実現するため、戦略的な人材配置とキャリア形成支援による適材適所を推進しています。

新入社員に対しては、専門知識や志向にマッチした配属を実現するため、配属先を入社前に確約するジョブマッチング型の採用を拡大しています。入社3年経過時には、キャリア研修や面談を通じて職務適合性を確認し、万一の配属ミスマッチの早期解消に取り組んでいます。

また、成長領域への人材シフトと、社員の主体的なキャリア形成を実現する仕組みとして「キャリアマッチング制度」(社内公募制度)を導入しています。さらに、新たな職種領域へチャレンジする社員を支援するため、職種転換研修と社内公募制度を組み合わせた「研修型キャリアマッチング制度」を導入し、2023年までの10年間で累計2,128人が社内公募で異動しました。そのほか、多様な職種に関する研修メニューを定期的に紹介するなど、社員のリスキリング(職業能力の再開発・再教育)を強化しています。

 

〈社内公募異動者〉累計

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3.ジョブ型人材マネジメントの進化

当社は、2001年からジョブ型の「役割給制度」を導入し、年齢や性別にとらわれない、優秀人材の抜擢と公平・公正な処遇を実現しています。

役割給制度においては、ポジションごとに職務記述書を作成し、職務に求められる知識やスキルを明確化することにより、自律的なキャリア形成と適材適所の人材配置を可能にしています。

近年は、職務を基軸とした職種別採用やキャリア採用、社内公募などを拡大し、ジョブ型の人材マネジメントを強化しています。

また、処遇面においても、めざましい活躍をした人材に対して特別報酬が支払われるOS(Outstanding)評価制度や、少ない人的リソースで高い利益を創出した場合により高い賞与が支払われる仕組みを導入するなど、報酬制度の改善を通じて人的投資を強化しています。

 

〈役割等級〉

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                   ※T:Tentative/Training、 G:Job Grade Band 、M:Management Mission Band

 

4.創造的な組織風土の醸成

当社は、イノベーションを創出する自由闊達な職場風土を醸成するため、組織開発に取り組んでいます。

具体的には、コミュニケーションやリーダーシップなどの課題に対して、専任の社内コンサルタントの支援のもと、職場メンバーが対話を通じて課題解決に取り組む「CKI(Canon Knowledge-intensive staff Innovation)」活動を実施し、2023年までに延べ468部門、1万6,500人が組織開発に取り組みました。

また、社員の自発的な創発活動を積極的に支援しています。例えば、2018年に活動開始した「Developers Conference」では、社員が事業の枠を超えて製品開発や技術トレンドについて意見を交わすなど、相互啓発の場として定着しています。

 

5.ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進

当社は、多様な価値観やアイデアを活かし、イノベーションを創出するためにダイバーシティを推進しています。

2012年にダイバーシティ推進のための全社横断組織「VIVID(Vital workforce and Value Innovation through Diversity)」を発足し、重点施策として、「女性の活躍推進」と「男性の育児参画支援」を掲げ、さまざまな活動を展開しています。

 

重点施策とKPI

・女性管理職比率:2025年末までに2011年比で3倍以上とする

・男性の育児休業取得率:2025年末までに50%以上とする

 

女性の活躍推進については、女性の管理職候補育成を目的とした「女性リーダー研修」を実施し計画的な育成に取り組んでいます。受講生は2012年の開始から累計で267人となりました。女性活躍のKPIである女性管理職比率は、2025年末までの目標に対して、2023年末で93%の達成度となり、前倒しでの目標達成を目指しています。さらに、部長職以上の女性幹部社員は過去5年間で約50%増加するなど、着実に活躍の場を広げています。今後は、女性の技術系採用を強化するとともに、将来的には女性管理職比率を社員総数における女性比率(2023年末16.9%)と同等にすることを目指しています。

また、仕事と育児の両立を支援するため、育児休業復職セミナーや管理職によるメンタリングなどのサポート体制を整え、女性が活躍できる環境づくりに努めています。これら取り組みが評価され、2019年から子育てサポート企業として厚生労働省より「プラチナくるみん」の認定を受けています。

男性の育児参画については、育児休業制度を利用した男性社員の座談会やインタビュー、育児関連セミナーなどを実施し、男女共同参画へ向けた意識改革や職場風土醸成に努めています。これら取り組みの結果、男性の育児休業取得率は、2023年末で65.8%へと上昇するとともに、育児休業平均取得期間は70.6日と高い水準となっています。

連結子会社含む各社女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女の賃金の差異は、第1 企業の概況 5 従業員の状況をご参照ください。

 

〈女性管理職比率〉                                  〈男性の育児休業率〉

 

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KPI

目標

実績

経団連平均

育児休業取得率

50%

65.8%

47.5%

平均取得期間

-

70.6日

43.7日

                             ※一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)平均は2022年実績

 

6.従業員エンゲージメントの向上

当社は、社員一人ひとりが会社の理念や戦略に共感し、意欲的に業務に取り組むためのさまざまな施策を展開しています。

定期的に従業員意識調査を実施し、社員の業務に対する意識や職場風土などの課題を明確化するとともに、管理職へのフィードバックを通じて改善に取り組んでいます。

2023年の従業員意識調査では、前回と比較し、「担当業務における自律性」や「自己成長」をはじめとする全項目において、肯定回答率は上昇しました。特に、やりがい、自己成長、働きやすい環境などエンゲージメントに関連する項目は、着実に改善しています。

若手社員に対しては、「モチベーション診断」や「パルスサーベイ」を導入し、上司、先輩、人事が一体となって、エンゲージメント向上の取り組みを進めています。

また、ワークライフバランス充実のため、労働時間の短縮やライフステージに合わせて柔軟に働くことができる労働環境の整備に取り組んでいます。具体的には、育児や介護を理由とした短時間勤務等の制度充実や、計画的な休暇促進、ITを活用した業務効率化などを行っています。これら取り組みの結果、2023年の年間総実労働時間は、全国平均※(1,962時間)より大幅に少ない1,734時間となりました。

                                            ※厚生労働省 毎月勤労統計調査 一般労働者 調査産業計より

 

〈従業員エンゲージメント〉

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      ※やりがい、自己成長、働きやすい環境などエンゲージメントに関連する項目における肯定回答率

 

7.健康経営の推進

 当社は、創業当初から「健康第一主義」を行動指針の一つに掲げ、健康経営を推進しています。

 従業員の心身の状態や生活習慣、業務の状況など、健康診断で得られたデータの詳細な分析から、健康保険組合と協働で目標値を設定し、実効性のある健康支援を行っています。例えば、生活習慣病発症について、睡眠や喫煙が影響していることを踏まえ、良質な睡眠を確保するために専用機器を用いた指導や禁煙プログラムの実施などを行っています。また、2016年からは、全ての国内事業所の敷地内を禁煙とするなど取り組みを進めた結果、2023年末の喫煙率は14.0%となり、2004年から18.4ポイント減少しました。

 メンタルヘルスについては、毎年ストレスチェック実施し、高ストレス者に対する産業医面談や保健師による健康相談を行うほか、職場との懇談会を実施するなど職場全体で取り組みを進めています。このほかにも、健康に関するセミナーやイベントを行い、さまざまな健康支援を通じて社員の生産性向上を目指しています。

 

 

目標値

目標値

実績

健康診断受診率

100%

100%

ストレスチェック受診率

100%

95.4%

がん検診受診率

70%

48.7%

 

 

(5)サイバーセキュリティ

<ガバナンス/リスク管理>

当社は、情報セキュリティ担当執行役員である情報通信システム本部長を情報セキュリティの意思決定責任者と位置づけ、当社の情報通信システム本部が実務組織として、グループ全体の情報セキュリティマネジメントを担っています。情報セキュリティ担当執行役員である情報通信システム本部長は5年間にわたり情報セキュリティの意思決定責任を担っており、リスク評価・管理に関する十分な経験と知識を備えています。また、実務組織である情報通信システム本部には、サイバーセキュリティに関する実践的な知識・技能を有する専門人材の日本における国家資格である「情報処理安全確保支援士」を配置しており、リスク管理を支援しています。万一、情報セキュリティに関する事件・事故が発生した場合は、情報通信システム本部に報告され、状況に応じリスクマネジメント委員会※1に報告する体制となっています。同委員会では、当社が事業遂行に際して直面し得る重大なリスクの特定(法令・企業倫理違反、財務報告の誤り、環境問題、品質問題、情報漏洩など)を含む当社のリスクマネジメント体制の整備に関する諸施策を立案します。法務部門、ロジスティクス部門、品質部門、人事部門、経理部門など、事業活動にともなう各種リスクを所管する当社の各管理部門は、それぞれ関連する分科会に所属し、その所管分野について、当社各部門および各グループ会社のリスクマネジメント活動を統制・支援しています。当社の各部門および各グループ会社は、自律的にリスクマネジメント体制の整備・運用を行い、その活動結果をリスクマネジメント委員会に毎年報告しています。リスクマネジメント委員会は、各分科会および各部門・各社からの報告を受け、リスクマネジメント体制の整備・運用状況を評価し、その評価結果を代表取締役CEOおよび取締役会に報告しています。

 

※1 詳細は3 事業等のリスク(1)リスクマネジメント体制をご参照ください。

 

<戦略>

1.情報システムセキュリティ対策

当社は、情報セキュリティの三要素といわれる「機密性」「完全性」「可用性」※2を保持するための施策に取り組んでいます。内部からの情報漏洩対策として、最重要情報はセキュリティを強化した専用のシステムに保管し、アクセス制限や利用状況の記録を徹底しています。また、社外から自社の情報資産に安全にアクセスできる環境を構築した上で、メールのファイル添付送信やPC・記録メディアの社外持ち出しを管理しています。また、外部からのサイバー攻撃対策として、マルウェア※3などが添付された不審メールの侵入監視、社内からインターネットへの不正通信の監視を実施し、攻撃被害の拡大防止に努めています。さらに、サイバー攻撃を想定した対応訓練(NISC※4/NCA※5連携 分野横断的演習)に2017年より毎年参加し、障害対応体制の強化を図っています。また、セキュリティツールベンダーと毎月サイバーセキュリティリスクのトレンド・対策に関する情報共有も実施しております。

 

※2 機密性:許可された者だけが情報にアクセスできるようにすること

     完全性:情報や処理方法が正確で、改ざんされないよう保護すること

     可用性:許可された者が必要とする時に情報にアクセスできるようにすること

※3 不正かつ有害な動作を行う意図で作成された悪意のあるソフトウエア。コンピューターウイルス、ランサム

     ウェアなど

※4 National center of Incident readiness and Strategy for Cybersecurity(内閣サイバーセキュリティセ

     ンター)の略

※5 Nippon CSIRT Association(日本シーサート協議会)の略

 

2.生産設備の情報セキュリティ対策

当社は、マルウェアやサイバー攻撃によって工場の生産設備に稼働障害が発生し、生産計画に問題が生じることがないよう、生産設備の情報セキュリティ対策に取り組んでいます。従来、サイバー攻撃の対象は企業の業務システムやWebシステムなどの情報システムが主体でしたが、生産設備においても汎用OSの利用やIoT化が進み、情報システムと同等の情報セキュリティリスクが生じています。生産設備の運用期間は汎用OSのサポート期間よりも長期にわたり、情報システムとは別のセキュリティ対策が必要となるため、当社および国内外のグループ生産会社では、ウイルス感染などによる操業停止に陥らないよう、生産設備系ネットワークの不正通信監視を行っています。また、生産設備についてもセキュリティ監査を実施し、安全な生産環境の維持を図っています。

 

3.従業員の意識の向上をめざす情報セキュリティ教育

当社は、情報セキュリティの維持・向上のため、情報システムの利用者である従業員の意識向上にも注力しています。定期入社者、中途入社者ともに集合教育を通じて当社の情報セキュリティに関する施策やルールの徹底を図っています。また、毎年、全従業員を対象として、eラーニングによる情報セキュリティ研修を実施しています。2023年は当社の従業員全員の約2万4,000人が受講しました。研修内容は、現在主な脅威となっているウイルス感染の事例を確認し、インターネット・SNS利用時における注意点など、従業員の情報セキュリティリテラシー※6を向上させるものとなっています。また、当社およびグループ会社ののべ約6万人の従業員に対し、不審メールを受け取った際に適切に対処し被害を拡大させないための実践教育として標的型攻撃メール対応訓練も実施しました。特に、メールでの業務に慣れていない新入社員については、別途訓練を実施し、教育を強化しています。

 

※6 セキュリティ対策を実行する時に知っておくべき知識やスキル

 

4.情報セキュリティマネジメント体制

情報セキュリティインシデントに対処する専門チームCSIRT※7(シーサート)を2015年に当社情報通信システム本部内に設置しました。同時に、日本シーサート協議会(NCA)に加盟し、他社CSIRT組織との連携強化を図っています。また、当社では情報セキュリティ部門を対象として、情報セキュリティマネジメントシステムの構築・運用の国際規格ISO27001の外部認証を取得しています。

サードパーティのクラウドサービスを利用する際には、情報通信システム本部が当該サービスのセキュリティリスクを事前評価し、利用を許可するプロセスを運用しています。また利用開始後も、毎年1回同様のプロセスを実施することにより、継続的なリスク低減を図っています。

 

※7 Computer Security Incident Response Teamの略。コンピューターセキュリティにかかる事件・事故に対処

     するための組織の総称

 

 

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) リスクマネジメント体制

当社は、取締役会決議に基づき、キヤノングループのリスクマネジメント体制の整備に関する諸施策を立案する「リスクマネジメント委員会」を設置しております。同委員会は、財務報告の信頼性確保のための体制整備を担当する財務リスク分科会、企業倫理や主要法令の遵守体制の整備を担当するコンプライアンス分科会、品質リスクや情報漏洩リスクその他の主要な事業リスクの管理体制の整備を担当する事業リスク分科会の三分科会から構成されております。

法務部門、ロジスティクス部門、品質部門、人事部門、経理部門など、事業活動に伴う各種リスクを所管する当社の本社管理部門は、それぞれ関連する分科会に所属し、その所管分野について、各部門及び子会社のリスクマネジメント活動を統制・支援しております。

当社各部門及び子会社は、上記体制の下、自律的にリスクマネジメント体制の整備・運用を行い、その活動結果をリスクマネジメント委員会に毎年報告しております。

リスクマネジメント委員会は、各分科会並びに各部門及び子会社からの報告を受け、リスクマネジメント体制の整備・運用状況を評価し、その結果をCEO及び取締役会に報告する役割を担っております。

 

 リスクマネジメント体制

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 リスクマネジメントプロセス

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(2) 事業等のリスク

  当社グループ(当社及びその連結子会社。以下、当該項目では「当社」という。)の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性のある主なリスクには以下のようなものがあります。当社では、グループ経営上のリスクについて、取締役会が定める「リスクマネジメント基本規程」に基づき設置されるリスクマネジメント委員会において、毎年、当社の経営に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクの特定を行っており、以下のリスクも同委員会で審議のうえ特定されたものです。ただし、以下のリスクは当社に関するすべてのリスクを網羅したものではなく、対応策もこれらのリスクを完全に排除するものではありません。なお、下記の事項は有価証券報告書提出日(2024年3月28日)現在において判断した記載となっております。

 リスクマップ

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(注)リスクマップ上の各リスク番号は、当社で各リスクを「①事業特有の重要性が高いリスク」、「②事業横断的な重要性が高いリスク」、「③一般的なリスク」に分類の上、これらの順に設定しております。

 

 

 

①事業特有の重要性が高いリスク

 

 

①-1.プリント市場における環境の変化に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 多機能・高性能なスマートデバイスやアプリケーションの普及によるデジタル化、環境への配慮に伴うペーパーレス化の浸透、リモートワークの普及による働き方の変化などにより、プリント市場全体としては、将来的にプリント機会が減少していく可能性があります。

 このような市場環境の変化に対応した製品やサービス、ソリューションを当社が十分に提供できない場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、家庭用インクジェットプリンターからオフィス向け複合機、大判プリンターや高速商業印刷までに至る幅広い製品群とクラウドサービスを活かして、市場環境の変化に対しても、お客様がプリントを必要とする様々な場所や機会において最適な選択肢を提供できるよう取り組んでおります。

 オフィスにおけるプリント機会の変化は、柔軟な働き方の広がりにより自宅など別の場所へプリント機会がシフトすることなどに起因しておりますが、当社はインクジェットプリンターや小型レーザープリンターを活用し、オフィス外でもセキュリティの高い業務印刷と管理機能を提供するサービスを開始し、新しい市場環境への適合を進めております。

 ペーパーレス化の浸透についても、デジタルトランスフォーメーションを促進する高速スキャナーとしての機能も併せ持つオフィス向け複合機を、様々なドキュメントマネジメントサービスと連携させることにより、ソリューションの提供を行っていきます。

 さらに、アナログ印刷からデジタル印刷への切り替えや多品種少量印刷のニーズの高まりにより中長期的な成長が見込まれる商業印刷・産業印刷の分野を、当社にとって成長期待の高い領域として新製品やサービスを投入し需要の取り込みを進めていきます。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

①-2.カメラ・ネットワークカメラ・映像解析技術のビジネスにおける競争に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 カメラ市場は、スマートフォンなどのデジタルデバイスの撮影機能が著しく向上する中、撮影行為そのものに対する消費者の嗜好も変化し多様化しており、価格と性能の競争が激化しながら、縮小しております。競合他社に対して優位性を維持できる新製品の投入及び消費者の嗜好の変化にマッチした製品や映像を楽しむ新たなサービスの提供ができない場合、当社の地位が相対的に低下し、結果として当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、ネットワークカメラ市場は、セキュリティや映像解析ソリューションに対するニーズの高まりにより、市場は拡大傾向にありますが、競争が激化する中で他社に対して優位性を維持できる製品やサービスが提供できない場合、当社の地位が相対的に低下し、結果として当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社はデジタルカメラの性能をさらに進化させ、スマートフォンとの一層の差別化を図り、高品質且つ多様化する映像表現へのニーズに応えるため、プロやハイアマチュアからエントリーユーザー向けまで幅広いラインアップのさらなる強化を進めております。また、更なる撮影表現の拡大を目指しVR(Virtual Reality:仮想現実)映像撮影システムを新たに立ち上げております。加えて、手軽さや特定シーンでの撮影を求める新たなユーザーを掘り起こしていくために、新ジャンルのカメラの展開を進めております。

 ネットワークカメラは、防犯や防災などのセキュリティ分野の成長はもちろんのこと、店舗での顧客行動の分析や工場での生産工程の効率化、また、医療現場における対面や接触の回避など、多岐にわたる分野で活用が進んでおります。市場の変化をいち早く捉え、対策を講じるべく、キヤノンがこれまで培ってきた光学技術、映像処理・解析技術とネットワーク技術を融合させ、既存事業の競争力をさらに強化するとともに、スマートシティなど新たに活躍する市場を確立し、社会インフラの構築に貢献していきます。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

①-3.医療機器市場における認証・承認等の事業環境対応に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 画像診断装置を主とする医療機関向け医療機器市場は、その製品の性質上、医師・技師等の医療従事者に対する営業活動を行っておりますが、各国・地域における営業活動に対しては種々の規制・行動基準が定められており、それらの把握及び遵守に努める必要があります。また、新技術・新製品の臨床効果の検証、さらに各国・地域の医療機器規制へ対応し認証・承認等を取得する必要があることから、製品構想、研究開発から製品販売までに時間を要します。今後の新技術・新製品の臨床効果を読みきれず、適時に製品を市場投入できずに競争力を維持できない場合、あるいは想定外の新規制により新規事業の大幅な軌道修正を余儀なくされるような場合には、投資に対して十分な収益が生み出されず、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、昨今の地政学リスクをはじめとする事業環境の不確実性に加え、がんや循環器疾病の早期発見、パンデミックや社会保障制度改革への対応、医療従事者の人手不足、病院経営の悪化などの様々な事業環境の変化や市場ニーズに即応できない場合には、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 医療業界特有の各国・地域の様々な法規制が厳格化される中において、取引先や協業会社と連携しながら、お客様のご要望や事業環境の変化を見極め、AI技術やキヤノンのコア技術を活用し、臨床価値、経済的価値の高い製品やサービスをタイムリーに提供してまいります。更に、DXを活用した営業生産性向上や業務効率化も推進します。また、新興国を含む新規市場の開拓にあたっては技術流出や国産優遇のリスクのミニマム化を図ってまいります。

 また、今後も部品逼迫等の長期化への対応や地政学的なリスクヘッジなど、各国・地域の市場の変化をいち早く捉え、より迅速に対策を講じてまいります。

 医療の高度化に伴いデータ量が増大する中、初期投資やメンテナンス費用を削減できる医療クラウドプラットフォームの活用が不可欠となっている状況において、医療機関を中心とした情報セキュリティの強化を支援し、臨床的価値と安心・安全の両方を提供することでお客様との信頼関係を構築していきます。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

 

 

①-4.半導体・FPD業界における特有のビジネスサイクルに関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 半導体・FPD業界のビジネスサイクルには変動幅、時期、期間が予測しづらいという特徴があります。半導体デバイスやパネルが供給過剰となる時期には、当社の半導体露光装置、FPD露光装置や有機EL蒸着装置を含む製造設備への投資が大きく減少します。このようなビジネスサイクルを持つ環境の中で、当社は競争力を維持向上するために、研究開発へ多額の投資を継続していく必要があります。市況の下降局面では、売上減少や在庫増によるキャッシュ・フロー悪化の影響で、研究開発費などの発生した費用の全てもしくは一部を回収できない場合があり、当社のビジネス、経営成績及び財政状態は悪影響を受ける可能性があります。市場の変化が当社の想定と異なり、顧客のニーズを満たせなかった場合、顧客のビジネスに悪影響を与え、結果的に顧客との信頼関係を損ねてしまう可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、継続的な装置性能の向上と顧客ニーズへの対応力を強化することで、幅広い需要を取り込み、顧客や用途の多様化・販売地域バランスの向上に向けた製品開発を進めております。加えて、既に市場で稼働する装置に対しては、更なる装置性能向上や仕様の追加など、顧客ニーズに対応するサービスサポートを行っており、製品開発とアフターサービスの両輪で収益基盤の安定化を図っております。また当社では、市場の変化をいち早く捉え、対策を講じるべく、事前の情報収集と分析を重視し、定常的に実施しております。

 半導体において、中長期的な市場の成長や当社製品のシェア拡大に向けて、新生産工場の建設を進めております。生産能力の向上に当たっては既存製造設備の活用やグループ内での柔軟な人員配置体制の構築を進めるなど、今後の市況変動の影響を最小限に抑える施策を講じております。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。

 

①-5.販売に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社において、HP Inc.とのビジネスは重要であり、OEMパートナーとして、長年にわたり強固な関係を構築しておりますが、HP Inc.が、政策、ビジネス、経営成績の変化により、当社との関係を制限または縮小する決定を為す場合、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社と取引のあるその他の大手ビジネスパートナーとも良好な関係を構築しております。しかし、これらのパートナーが政策、ビジネス、経営成績の変化により、当社との関係を制限または縮小する決定を為す場合、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、当社の想定を超える環境の変化が起こる場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、直接、間接販売のチャネルを地域ごとでバランスよく展開しております。特定パートナーの変化についても既存チャネルでの対応に加え、積極的な新規ビジネスパートナーの開拓を継続しております。

 また、HP Inc.とのビジネスにおいては、多様化するワークスタイルやオフィス環境の変化に対応した競争力ある製品を提供し続けるとともに、良好かつ強固なパートナーシップを維持強化していきます。

 

 

 

 

②事業横断的な重要性が高いリスク

 

 

②-1.サプライチェーンに関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社は原材料の購入から、生産、販売までの一連の流れについて、最適なサプライチェーンの構築に努めておりますが、部品及び材料の供給不足や品質問題、生産コストの上昇のほか、製品の生産や販売が物流の停滞、輸送中の事故、その他の理由により損害を受ける場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社は重要な部品や材料を外部の特定サプライヤーに依存しております。当社の製品で横断的に使用されている部品や材料に品質問題あるいは供給不足や価格高騰が発生する場合等には、当社の生産活動の中断や製造原価の上昇等により当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 製品を世界各国・地域に供給するために、物流サービスが有効に機能する必要がありますが、コンピューター化されたロジスティクス・システムに何らかのトラブルが発生する場合、地域紛争等の問題が発生する場合、あるいは港湾労働者によるストライキといった労使紛争の問題が発生する場合、高額な製品が輸送中の事故により損害を受ける一方で、保険で補償がなされない場合及び代替製品を顧客に納入できない場合、コストの増加や配送の遅延による売上の機会損失、顧客からの信用を失う可能性があります。

 また、ウクライナ・中東情勢等の地政学的リスクにより、物流の混乱、部品及び材料の価格高騰や逼迫が生じた場合、当社のサプライチェーンに悪影響を及ぼします。

 さらに、企業の社会的責任として、サプライチェーンにおける人権の尊重及び保護や環境保全への取り組みが、国際的に求められているため、人権や環境に関連する法令違反や倫理違反などが当社グループのサプライチェーンで発生する場合、当社の社会的信頼とブランド価値が毀損される可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、最適な生産システムの構築と品質の向上に努めております。自動化、ロボット化技術などを用いた効率的な生産体制の構築やキーパーツの内製化を進め、外部依存度を管理し、製造原価の低減を図っております。さらに、新規サプライヤーや別部品、別材料の開拓等により、供給元の多元化を推進し、原材料の高騰と供給不足に対する耐性を高めております。また、品質管理専門の組織を設置し、外部サプライヤーと一緒に品質向上のための活動を進めることで、安定的な原材料、部品の調達に努めております。

 また、当社ではグループ全体の物流を管理する部門を設置し、グループ全体の物流を全世界的に運営、管理することにより、効率的な物流体制の構築及び物流コストの低減に努めるほか、問題発生時に迅速に対応できる体制の整備を図っております。そして、物流の事故に対しては保険契約により、その損害が補償されるように図っております。

 さらに、サプライチェーンにおける人権の尊重及び保護への取り組みとして、当社では人権方針を策定し、人権デュー・デリジェンスや救済メカニズムの整備にも取り組んでおります。当社は、当社が加盟するRBA(Responsible Business Alliance)の行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・マネジメントシステムなどに配慮した調達活動を推進しており、主要サプライヤーからRBA行動規範の遵守に関する同意書を取得しております。さらに、それらのサプライヤーにおける、児童労働・強制労働・過重労働の防止、労働安全衛生の確保、温室効果ガスの削減、原材料の削減、環境法規制遵守などの取り組みを促進すべく、RBAのSAQ(Self-Assessment Questionnaire)を用いた点検を毎年実施しております。

 

 

 

 

②-2.自然災害・感染症に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社の本社ビル、情報システムや研究開発の基幹設備は、東京近郊に集中しておりますが、一般的に日本は世界の他の地域と比較して地震の頻度が多いため、それに伴う被害も受けやすい地域であるといえます。また、研究開発、調達、生産、ロジスティクス、販売、サービスといった当社の施設や事務所は、世界中に点在しており、地震・気候変動による洪水や森林火災等の自然災害、テロ攻撃といった事象に伴うインフラの停止により混乱状態に陥る可能性があります。そのような要因は当社の営業活動に悪影響を与え、物的、人的な損害に関する費用を発生させ、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 新型コロナウイルス感染症については、日本国内においては5類感染症への移行により法的な制限がなくなり、経済活動への影響が低減しました。日本国外に目を向けても、事業活動が大きく制限されるリスクは軽減されてきました。しかしながら、新型コロナウイルスの感染が再拡大し、世界経済・当社の事業活動が停滞する状況や取引先の事業活動や投資意欲の減退等が発生する場合、また、各国政府等の要請により当社の事業活動が制限される事態においては、当社のビジネス、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、当社関連市場において、リモートワークの進展により、オフィス機器のプリントボリュームが当社の想定ほど回復しない状況や、渡航制限により露光装置や産業機器の設置が当社の予想を下回る事態が発生する場合、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、新型コロナウイルスの感染再拡大は、世界各地のサプライチェーンや当社の生産活動に混乱をきたし、東南アジアなどに所在する当社の一部の工場で生産活動が停滞する可能性があります。加えて、日本及び海外で経済活動の制限が生じ、オフィスや販売店の閉鎖、海外渡航制限、国際貨物輸送の需給逼迫などが発生する場合、当社の販売活動が悪影響を受ける可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、本社の各所管部門が中心となってリスクマネジメント活動を継続的に実施しております。具体的には、工場操業停止といった最悪の事態に備え、同類機種を複数の拠点で並行生産するというバックアップ体制を一部整えるほか、会社の営業停止時に迅速な復旧を実現するため、初動対応事項や関係部門の役割分担の確認、緊急時の連絡体制等の整備等を行っております。さらに、研究開発、調達、生産、ロジスティクス、販売、サービスに用いる基幹システムについては、情報システムのダウンに備えてバックアップ体制を整えております。

 また、当社は、安定した事業活動維持のため、災害により出勤が不可能になる等、緊急事態におけるリモートワーク体制の確立を行うと共に、各拠点には、産業医や保健師を配置し、万が一の感染症拡大に対して適切な対応に努めております。

 今後も自然災害や感染症の再拡大等の状況を想定し、国内・海外における生産活動及び販売活動の体制再構築や強化に取り組んでおります。

 

②-3.為替・金利変動に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:高

●リスク

 当社は、国際的な事業活動により売上の重要な割合を稼得しており、国内外の金融当局の政策変更等に伴う急激な為替レートの変動が、外貨建売上など当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社製品の外貨建売上は、外貨に対する円高により悪影響を受ける一方で、円安は追い風となります。また、外貨建の取引から生じる当社の資産及び負債の円貨額や海外子会社の外貨建財務諸表から発生する為替換算調整勘定も変動する恐れがあります。加えて当社は、資産・負債の評価に影響を与える金利変動のリスクにもさらされております。

☆対応・機会

 急激な為替レートの変動に関しては、当社は当社現地法人を含め、定常的に短期為替予約の為替ヘッジ取引を実施しております。また、競争力の高い製品の投入により安定的な収益を維持すると共に、直近の為替水準を反映した価格で市場に投入するなどの対策を講じております。金利変動のリスクに対しては、外部からの借入を最小限に抑え、金利動向に左右されない強固な財務体質の維持に努めております。

 

 

 

②-4.国際政治経済に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:中

●リスク

 当社は生産及び販売活動の多くを日本国外で行っておりますが、海外における事業活動には主に政治、外交問題または不利な経済状況の発生と予期しない政策及び法制度、規制等の変更のリスクがあります。

 主要な市場におけるインフレの長期化や金融引締めに伴う景気後退、ウクライナ・中東情勢や貿易摩擦の問題がさらに深刻化するなど、政治、外交問題または不利な経済状況が発生し、法人顧客の投資抑制や個人消費の低迷が生じる場合、当社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。法人顧客の投資抑制は、主に当社のオフィス複合機、レーザープリンター、医療機器、露光装置、産業機器など法人顧客向け製品の需要を、また、個人消費の低迷は、カメラやインクジェットプリンターのような消費者向け製品の需要をそれぞれ減少させる可能性があります。この場合、当社製品の売上が低下し、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 加えて、世界の各国・地域では政治、行政や法制度整備に係る様々な問題やウクライナ・中東情勢に係る問題があり、当社が予期しない政策及び法制度、規制等の変更に直面するリスクがあります。

☆対応・機会

 政治、外交問題または不利な経済状況の発生については、当社は、当社現地法人と日常的な意思疎通を通じて収集した関連情報や定期的なビジネス概況ヒアリングによる関連情報を経営戦略、業績予想に反映しております。また、特定の市場または世界全体で需要の減少が見込まれる場合は、当社は商品の生産、供給体制に応じて生産調整を実施しております。

 予期しない政策及び法制度、規制等の変更については、当社は特に国際的な環境規制や国際及び国内税制変更に係る対策を強化しております。また、公正競争、腐敗防止、個人情報保護、安全保障貿易管理、環境その他の法規制に関しては、各所管部門による統制の下、遵守を徹底しております。

 

 

②-5.人材の確保に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:高

●リスク

 当社の将来の経営成績は、有能な人材の継続的な会社への貢献に拠るところが大きいといえます。また、開発、生産、販売、管理といった当社の活動に関して有能な人材を採用・育成し、実力ある従業員の雇用の維持を図ることができるかどうかが、当社の将来の経営成績に影響すると考えております。一方、当社が属する先端技術産業での労働市場における人材獲得競争は、近年ますます激しさを増してきております。さらに、技術進歩が日進月歩で加速するため、製品の研究開発面で求められる能力を満たすまでに新しい従業員を育てることはますます重要になってきております。また当社の製造技術の重要課題の一つに技能の伝承があります。レンズ加工など、特殊技能については、短期間に習得できるものではありません。

 有能な人材を採用・育成できず、また有能な人材の流出が生じた場合、開発や生産の遅れなどをもたらし、研究成果や技術が流出するほか、技能が適切に伝承されないリスクが発生します。

☆対応・機会

 当社では、戦略的な要員配置と従業員への積極的なキャリア形成支援により、適材適所を実現し、有能な人材の雇用の維持を図っております。

 採用活動では、専門知識や本人の志向をもとに、配属先を入社前に確約するジョブマッチング型の採用を拡大し、各事業が求める人材を最適な部署へ配置しております。また、入社後3年が経過した従業員に対し、仕事や職場との適応状況を確認する面談を人事部門が行い、一人ひとりが安心して能力を発揮できる環境を整えております。

 また、当社ではキャリアマッチング制度(社内公募制度)を充実させ、毎年多くの社員が自らの意思で新しい仕事にチャレンジしております。その中でも、従業員に研修の機会を提供し、自らの変身に挑戦できる「研修型キャリアマッチング制度」では、専門知識を身につける学び直しの機会を提供し、未経験の仕事にもチャレンジできる仕組みを構築することで、人生100年時代における自律的なキャリア形成を支援しております。さらに、当社が2018年に設立した「Canon Institute of Software Technology(CIST)」では、製品のソフトウエア開発を中心とした技術者のスキルアップから、新入社員の基礎教育や職種転換をめざす社員の教育まで、体系的かつ継続的な人材育成に取り組んでおり、技術人材の強化と同時に、技術人材への転身を支援しております。

 人材育成においては、次世代リーダーの発掘・育成・任用を図る「LEADプログラム」をはじめ、研究開発・ものづくり・販売・管理などのプロフェッショナルを育成する研修プログラムや、トレーニー制度を体系的に実施しております。

 当社の事業活動に欠かせない特殊技能においては、卓越した技能をたたえる「キヤノンの名匠認定・表彰」制度への取り組みを通じて、伝承を図っております。

 これらの取り組みに加え、仕事の成果を公平・公正に評価し、有能な人材に、より高度な役割を与え処遇するという好循環を実現することで、人材の流出防止を図っております。

 

(注)人材育成・多様性の考え方及び取り組みについては、第2 事業の状況 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の(4)「人的資本」に記載しております。

 

 

②-6.情報セキュリティに関連するリスク

影響度:中

発生可能性:高

●リスク

 当社は、製造・研究開発・調達・生産・販売・会計などのビジネスプロセスに関する機密情報や、顧客やその他関係者に関する機密情報を電子データとして保有しております。当社はこれらの電子データを、第三者によって管理されているものも含め、様々なシステムやネットワークを介して利用しております。さらに、製品にも情報サービス機能などで電子データが利用されております。

 これらの電子データに関し、ハッカーやコンピューターウイルスによるサイバー攻撃やインフラの障害、天災などによって、個人情報の漏洩、サービスの停止などが発生する可能性があります。特にサイバー攻撃はますます高度化、複雑化し、その攻撃対象は世界各地にわたっております。日本及び海外において事業活動を展開する当社の拠点が、情報技術の脆弱性を突かれ、攻撃を受けた場合、当社ネットワークへの不正アクセスやウェブサイト・オンラインサービスの停止などが発生する可能性があります。

 このような事態が起きた場合、重要な業務の中断や、顧客やその他関係者に関する個人情報・営業機密などの機密データの漏洩、製品の情報サービス機能などへの悪影響のほか、損害賠償責任などが発生する可能性もあります。その結果、社会的信用失墜やブランド価値の低下、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社では保有する電子データを安全かつ厳密に管理するため、情報セキュリティならびに情報インフラの強化を図っております。

 当社は、情報セキュリティ担当執行役員を情報セキュリティの意思決定者と位置づけ、情報通信システム本部が実務組織として、グループ全体の情報セキュリティマネジメントにおける責任を担っております。

 また、情報セキュリティをグループ全体で同じレベル、同じ考え方で維持することを目的として、「グループ情報セキュリティルール」を策定し、全世界のグループ会社に適用しております。

 サイバー攻撃などの情報セキュリティインシデントへの対処としては、専門チームCSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設置しており、外部からのサイバー攻撃への対策として、不審電子メールの遮断、社内ネットワークへの不正侵入監視、インターネットへの不正通信監視などの環境を構築し攻撃被害の拡大防止に努めるとともに、定期的にサイバー攻撃対応訓練を実施し対応体制の強化を図っております。また、外部に公開するウェブサイトに対しても日常的に脆弱性(セキュリティホール)の調査・対策を実施し、オンラインサービス停止リスクを低減しております。

 従業員に対しても、業務に使用するソフトウェアの管理や情報の取り扱い及びサイバー攻撃に対する社員研修、標的型攻撃メール訓練などを全社で行い、意識の向上、リテラシーの向上に努めております。また、情報セキュリティ施策適用の徹底を図るため、毎年当社及びグループ会社に対する情報セキュリティ監査を実施し、情報セキュリティレベルの継続的な維持・向上に努めております。

 

(注)サイバーセキュリティの考え方及び取り組みについては、第2 事業の状況 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の(5)「サイバーセキュリティ」に記載しております。

 

②-7.企業買収及び業務提携・戦略的投資に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社は、事業拡大を目的として企業買収を実施しております。また、業務提携、合弁事業、戦略的投資といった様々な形態で、他社との関係を構築しております。これらの活動は、当社の成長のための施策として重要なものであります。しかし、景気動向の悪化や、対象会社もしくはパートナーの業績不振により、期待していた事業拡大を実現できない可能性があります。当社とその対象会社もしくはパートナーが互いに共通の目的を定義し、その目的達成に対して協力していくことが肝要ですが、協力体制の確立が困難となる可能性や、協力体制が確立されても、当社の事業とその対象会社もしくはパートナーが営む事業におけるシナジー効果やビジネスモデルなどが十分な成果を創出できない可能性、また業務統合に想定以上の時間を要する可能性もあります。

 また、予測される将来キャッシュ・フローの低下により、当社が貸借対照表に計上しております企業買収に伴うのれん及びその他の無形固定資産が、減損の対象となる可能性もあります。さらに、有力な提携先との提携が解消になった場合、共同開発を前提とした事業計画に支障をきたし、投資に対する回収が遅れる可能性が生じたり、または回収可能性が低下し、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、既存事業の成熟化に対応すべく、M&A戦略を強力に推進し、事業ポートフォリオの転換を進めております。社内で保有する技術や得意とするビジネスに親和性の高い領域を企業買収及び業務提携、戦略的投資の対象とし、中でも優良企業でかつ経営陣の優れた会社に絞り込んで投資を行っております。企業買収及び業務提携・戦略的投資は、当社取締役会決議やCEO決裁を要しますが、健全な経営判断を担保するため、事前審査のプロセスを強化しております。事業戦略との整合性及び経済合理性、収益性や成長性、リスク等の観点で投資計画の検証を行い、それらを本社管理部門がそれぞれの専門的な視点で事前審査を行います。決議や決裁された投資案件に関しては、CEOと本社管理部門が進捗をモニタリングすることにより、継続的に投資の管理が行われております。買収後は、当社のものづくりノウハウの共有や取引先の共有及びサプライチェーンのサポートを行い、生産効率の向上やコスト削減などのシナジー効果を発揮する取り組みを行っております。

 

 

 

②-8.環境に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 当社は、急激な気候変動、資源枯渇、有害化学物質による暴露、大気汚染、水質汚濁等、環境における様々なリスクの可能性を認識しております。また日本及び海外の環境に関する規制の適用を受けております。これらのリスクの顕在化及び規制の強化により環境に関する費用負担や損害賠償責任が生じる可能性があります。この場合、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社は、現在所有しまたは操業している事業所、また以前に所有しまたは操業していた事業所に対する環境汚染の調査と浄化のための責任と義務を負っております。もし当社が将来の訴訟あるいはその他の手続により損害賠償責任を負わなければならない場合、その費用は保険で賄うことができない可能性もあります。この場合当社に与える影響は大きくなる可能性があります。

 加えて、こうしたリスクへの対応に想定以上にコストを要する事態が生じた場合には、当社のビジネス、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社はグループを挙げて地球温暖化ガスの排出削減、省エネ活動、省エネ製品開発等に取り組むと同時に、高度な資源循環をめざし、製品の小型・軽量化やリマニュファクチュアリング、消耗品のリサイクル、更には水資源の効率利用や廃棄物の再資源化等の環境保護対策を進めております。世界が脱炭素社会への移行を目指す中、製品ライフサイクル全体でCO2排出量を削減する製品に対する販売機会の拡大が期待されます。また、グリーン調達による有害化学物質の厳格な管理に加え、生産工程で使用する化学物質の削減、排出抑制等の環境活動も行っております。これらの活動は本社所管部門を中心に、ISO14001によるグループ共通の環境マネジメントシステムを運用する方法を通じて推進されており、日本及び海外の環境に関する規制を遵守するため、本社所管部門がグループ全体における対応を統制しております。

 

(注)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに基づく開示情報は、第2 事業の状況 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の(3)「気候変動(TCFD提言に即した開示)」に記載しております。

 

 

 

 

③一般的なリスク

 

 

③-1.製品品質・製造物責任に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社が提供する製品及びサービスに、品質問題や製造物責任問題が生じた場合、顧客や社会からの信頼が失墜し、ブランド価値が毀損され、販売に悪影響を及ぼす可能性があります。

 特に、製品に重大な品質問題が発生した場合、問題への対応に多大な費用が掛かる可能性があります。これらによって、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、国際的な品質管理規格であるISO9001の要求事項にキヤノン独自の仕組みを加えた「品質マネジメントシステム」を構築しております。

 キヤノンの各事業部門は、本社品質部門や世界中のグループ会社と連携しながら、品質マネジメントシステムをベースに、各国・地域の法規制にも対応したそれぞれの事業特性に最適な品質保証体制を構築し、徹底した品質管理を行っております。

 あらゆる当社製品の品質に関しては、法令で定められた安全基準はもとより、顧客目線での安全性を更に考慮した当社独自の安全基準を設定しております。

 また、開発設計から生産・出荷にいたるすべてのプロセスにおいて品質を確認し、品質基準を満たしている製品のみ市場へ出荷する仕組みを徹底することで、製品の品質問題発生によるリスクの最小化を目指しております。

 万が一、品質問題が発生した場合、お客様の窓口である各国・地域の販売会社から各事業本部の品質保証部門に報告が入ります。同部門では、原因の究明や対策の検討を行うとともに、重大な品質問題については事業本部内の関連部門や本社品質部門、ならびに法務部門や広報部門などと適切な対応を協議し、CEOへ報告の上、承認のもと、速やかに対応を実施します。

 

③-2.新製品への移行に関連するリスク

影響度:大

発生可能性:低

●リスク

 当社が参入している業界の特徴として、ハードウェア及びソフトウェアの性能面における急速な技術の進歩、頻繁な新製品の投入、製品ライフサイクルの短縮化、また製品価格を維持しながらの従来製品以上の性能改善等が挙げられます。

 新製品や新サービスの導入に伴うリスクは多岐にわたります。開発または生産の遅延、導入期における品質問題、製造原価の変動、新製品への切り替えによる現行製品への販売影響、需要予測の不確実性と適正な在庫水準を維持することの難しさに加えて、当社の製品・サービスの基盤である情報システムやネットワーク技術において技術革新が成された場合の移行対応への遅れ等のリスクがあり、当社の収益に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社の収益は競合者の製品またはサービスの導入時期によっても影響を受けます。競合者が当社製品と類似した新製品を当社より先に投入する場合は特に影響を受ける可能性があり、この場合、今後の製品やサービスの需要に影響し、結果として経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は市場のニーズに応えるイノベーティブで価格競争力のある新製品を投入するために多くの経営資源を投入しております。

 当社は、上記のリスクに対応するため、業界をリードするコア製品を生み出す「コアコンピタンス技術」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらには成長の中で蓄えられてきたキヤノンブランドを支える技術・ノウハウであり、商品化技術のベースとなる「価値創造基盤技術」を多様に組み合わせた「コアコンピタンスマネジメント」を展開して事業の多角化を行うと共に、事業の競争力を高め、市場のニーズを汲み取った商品をスピーディーに市場に供給することに努めております。

 

(注)当社の事業活動については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の(2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の ⑦「トレンド情報」に記載しております。また、当社の研究開発活動については、第2 事業の状況 6「研究開発活動」に記載しております。

 

 

③-3.有価証券に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 当社の資産には、株式等の有価証券への投資も含まれております。金融市場におけるボラティリティ及び経済全般に対する不確実性により、株式及び債券市場の変動影響を受け、将来において当社が実施する投資額と現在のその投資額に対する公正価値との間に大きな乖離を生じる場合には、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、株価の変動や配当の受取りによって利益を受けることを目的とした株式を保有しておらず、主に中長期的成長を目的としたグループ外の企業との連携の一環として、株式を保有しております。

 

(注)株式の政策保有に関する方針や保有株式の合理性の検証について、第4 提出会社の状況 4「コーポレート・ガバナンスの状況等」 の(5)「株式の保有状況」に記載しております。

 

③-4.コンプライアンス・法的行為に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 当社は、多くの国・地域で事業活動を行うにあたり、各種法規制を遵守する必要があります。また、第三者から訴訟その他の法的行為を受ける可能性があります。

 しかし、現在当社が当事者となっている、または今後当事者となる可能性のある訴訟及び法的手続の結果を予測することは困難です。例えば、当社が高いシェアを占める市場においては、独占禁止法関連の訴訟または調査を受ける可能性があります。当社にとって不利な結果が生じた場合や、訴訟や調査への対応に多大なコストが発生した場合、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、コンプライアンス上の問題、例えば、社員の不祥事や組織的不正行為が発生した場合、当社の社会的信頼とブランド価値が毀損される可能性があります。

☆対応・機会

 当社では、リスクが現実の問題として発現する可能性や、発生した場合の経営や事業への影響度合いなどを勘案して、当社が直面し得る独占禁止法違反、腐敗防止法違反、安全保障輸出規制違反などの重大なコンプライアンス違反リスクを特定しております。これらのリスクを低減するために、業務フローの整備、ルールの整備、関係従業員への法令教育、監査・点検の実施など遵法体制の整備を行っております。

 また、当社リスクマネジメント委員会「コンプライアンス分科会」では、「キヤノングループ行動規範」に基づく企業倫理をグループ内で徹底させております。

 さらに、第三者からの訴訟その他の法的行為を受けたときに備え、社内に法務部門を設置し、外部弁護士等と連携して対応できるようにしております。

 

 

 

③-5.知的財産に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:中

●リスク

 頻繁な技術革新を伴う当社製品にとって、プロダクト・イノベーションは非常に重要であり、そのため、特許やその他の知的財産は、競争上重要なファクターとなっておりますが、競合他社が同様の技術を独自に開発したり、当社が出願した特許が認められなかったり、当社の知的財産の不正使用あるいは侵害を防ぐために講じる手段が成功しない等のリスクがあります。特に新興市場等において、知的財産法が、当社の知的財産を保全するには不十分である等のリスクに直面しております。

 一方で、第三者の知的財産権に関して、第三者からの当社に対する侵害主張が正当であると裁定される場合、特定市場における製品の販売差止め、損害賠償の支払い、他社の権利を侵害しない技術の開発や他社技術についてのライセンス取得とそれに伴うロイヤリティの支払いを要求される可能性があります。

 当社の知的財産権を有効せしめるため、または他社からの権利侵害の主張に対抗するため、当社は訴訟手続を取らざるを得ない可能性があり、その場合は費用が嵩み、手続に長い期間を費やす可能性があります。

 また当社は、特許使用料受取または相手技術のライセンスを受けることと引き換えに、第三者に対して自社特許のライセンスを与えることもあります。そのようなライセンスの条件や更新時の条件変更によっては、当社のビジネスが影響を受ける可能性があります。

 また当社は、ルールや評価システムを設定して、当社従業員の職務発明に対して適切な支払いを行っておりますが、その金額について将来争いが生じないという保証はありません。

 更に、当社の商標権をはじめとする知的財産権を侵害する模倣品が流通し、模倣品の使用により顧客に事故、故障、品質不良などの被害が及ぶことで当社のブランド価値が毀損されるとともに、当社のビジネスに悪影響を及ぼす可能性があります。

 上記の要因は全て、当社のビジネス、ブランド価値及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、知的財産活動の目的を事業展開の支援と明確に位置づけ、10年後、20年後の姿を描いて知的財産戦略を策定・実行しております。

 当社の知的財産活動は、強い特許ポートフォリオを構築することで、競争優位性の確保と事業の自由度の確保をバランスよく両立させていることが特徴であり、事業のコア技術に関する特許などの取得はもちろんのこと、事業では競合しないが知財で競合するIT系企業などとの訴訟・交渉に備えて、例えば、AI技術やIoT技術、標準化技術などの特許取得にも力を入れております。このように外部環境や将来の事業を見据えて特許取得を行うとともに、保有する特許の入れ替えを行うことで、強い特許ポートフォリオを維持しております。

 当社の知的財産戦略の基本方針として、当社はコアコンピタンス技術に関わる特許は、競争領域において事業を守る特許としてライセンスせずに競争優位性の確保に活用しております。また、通信、GUI(Graphical User Interface)などの汎用技術に関わる協調領域の特許は、クロスライセンスなどに利用することで、研究開発や事業の自由度を確保し、魅力的な製品やサービスの提供につなげております。そして、他者の知的財産を尊重する一方で、当社の知的財産の侵害に対しては毅然と対応をしております。また、他者が容易に到達できない検証困難な発明は、ノウハウとして秘匿し、守ることで他社の追随を許さず、競争優位を確保しております。

 当社は上記の知的財産活動における基本的な考え方を実行しつつ、時代とともに戦術を変化させ、知的財産に関連するリスクに対応しております。

 

(注)当社の知的財産戦略については、第2 事業の状況 4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」 (2)「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の⑥「知的財産戦略」に記載しております。

 

 

 

③-6.繰延税金資産の回収可能性及び国際的な二重課税に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:低

●リスク

 経営環境悪化に伴う事業計画の目標未達などにより課税所得の見積りの変更が必要となった場合や、税率の変動を伴う税制の変更などがあった場合には、繰延税金資産の修正が必要となり、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、各国・地域の税務当局との間で見解の相違が生じる場合、国際的な二重課税が生じ、当社の経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は繰延税金資産に影響を与えるような、当社及び当社現地法人の課税所得に影響を及ぼす事業計画の変動要因や、各国・地域の税制変更を迅速に把握するよう、定期的な確認を行っております。

 また、一部の多国籍企業の過度なタックスプランニングによる国際的な租税回避行為が政治問題化したことを契機として、G20の委託を受けたOECDにおいてBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトが発足し、2015年10月のBEPSに関する最終報告書公表を受け、各国・地域において税法や租税条約の改正が行われております。

 さらに近年においては、経済の電子化に伴う課税上の課題に対処するため、市場国へ課税権を配分する制度及び法人税の最低税率の導入に関するOECD/IFにおける合意に基づき、各国・地域での制度化が進められております。最低税率の導入についてはEU主要国や韓国、オーストラリア、ベトナム、タイなどですでに制度化され、また我が国日本においても2023年度税制改正において法制化されました。

 こうした国際課税制度の強化が図られる中、当社は、二重課税リスクを低減するため、税務に関するガバナンス体制を整備し、当社現地法人と共に各国・地域における税制や税務行政執行状況の変化への対応を実施するとともに、OECDの各種報告書や経済の電子化に伴う課税上の課題に対処するための新しい国際課税ルールの整備状況などを踏まえた国際税務に係る方針の見直しを適宜実施しております。

 

③-7.退職給付会計に関連するリスク

影響度:中

発生可能性:低

●リスク

 当社及び一部の子会社は、確定給付型年金制度を有しており、未払退職及び年金費用を数理計算によって認識しております。数理計算は、割引率、期待運用収益率、昇給率、死亡率といった前提条件に基づいており、これらの前提条件と実際の結果が異なることにより生じた年金数理上の損失は、従業員の平均残存勤務年数にわたり規則的に償却し、年金費用に含めております。当社は、これらの数理計算上の前提は適切であると考えておりますが、金利低下に伴う割引率の低下や、運用収益の悪化による年金資産の減少など、予測が困難な事象から生じる前提条件からの乖離は、年金数理上の損失の増加につながり、将来の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

☆対応・機会

 当社は、各国・地域の年金積立状況や政府の規制、また人事制度を踏まえ、適宜制度の見直しを検討・実施しております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

 

(経営を取り巻く経済環境)

 当連結会計年度の世界経済は、ウクライナ情勢や中東での軍事衝突など不安定な状況が継続しましたが、長期にわたり経済活動を制限したコロナ禍の収束などにより、緩やかに回復しました。地域別に見ますと、米国では良好な雇用情勢や実質所得の増加を背景に、個人消費が堅調に推移しました。欧州では、インフレや金融引締めの継続に伴う景気の下押し圧力が依然として強く、景気は低迷しました。中国では、不動産市場の低迷に加え個人消費も回復力に乏しく、景気は減速傾向が続きました。その他の新興国については、個人消費やサービス産業を中心に堅調に推移しました。我が国では雇用や所得環境の改善を背景に、個人消費に持ち直しの動きが見られるなど、景気は緩やかに回復しました。

 このような状況の中、当社関連市場においては、部品不足や物流逼迫による製品の供給不足が解消した一方で、インフレに伴う金融引締めや中国や欧州経済の低迷、地政学的リスクの高まりにより需要が弱含みました。製品別に見ますと、オフィス向け複合機は、中国の市況悪化による影響はありましたが、その他の地域では引き続き業務効率の高いプリント機器への根強いニーズを背景に、需要は底堅く推移しました。インクジェットプリンターは在宅での印刷需要の減少、レーザープリンターは企業の投資抑制による影響を受けました。医療機器は、我が国や欧州を中心に堅調に推移しました。カメラ市場は、高品質な映像表現を求めるプロやハイアマチュアの需要が底堅く推移し、ネットワークカメラ市場は成長が継続しました。半導体製造装置市場は、引き続きメモリ向けの需要は弱含みましたが、パワーデバイス、アナログデバイス、センサー向けなどを中心に成長しました。FPD製造装置市場は、パネルメーカーが投資を控えている影響で縮小傾向が継続しました。

 平均為替レートにつきましては、米ドルは前期比で約9円円安の140.85円、ユーロは前期比で約14円円安の152.20円となりました。

 

(当連結会計年度の経営成績)

 

経営指標

 

 

(億円)

 

第122期

第123期

増減率(%)

売上高

40,314

41,810

3.7%

売上総利益

18,278

19,689

7.7%

営業費用

14,744

15,935

8.1%

営業利益

3,534

3,754

6.2%

営業外収益及び費用

△10

154

-

税引前当期純利益

3,524

3,908

10.9%

当社株主に帰属する当期純利益

2,440

2,645

8.4%

 

 

 

 

1株当たり当社株主に帰属する当期純利益

 

 

基本的

236.71

264.20

11.6%

希薄化後

236.63

264.08

11.6%

 

 当連結会計年度は、製品の供給不足からの回復や、ネットワークカメラを始めとする新規事業が堅調に推移したことに加え、円安による好転影響もあり、当期の売上高は、前期比3.7%増の4兆1,810億円となり、過去最高の2007年に次ぐ水準となりました。

 売上総利益率は、部品価格や物流費のコストダウンが進んだことに加え、円安影響により、前期を1.8ポイント上回る47.1%となり、売上総利益は前期比7.7%増の1兆9,689億円となりました。

 営業費用は、販売活動が正常化したことによる販売関連費用の増加に加え、円安による外貨建ての営業費用の増加も影響し、前期比8.1%増の1兆5,935億円となりました。その結果、営業利益は前期比6.2%増の3,754億円となりました。

 営業外収益及び費用は、昨年大きく発生した為替差損が減少した影響により、前期比で164億円好転し、154億円の収益となりました。これらの結果、税引前純利益は前期比10.9%増の3,908億円、当社株主に帰属する当期純利益は前期比8.4%増の2,645億円となり、3期連続の増収増益を達成しました。

 基本的1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は、前期に比べ27円49銭増加し264円20銭となりました。

 

 

(セグメント別の経営成績)

 以下の情報はセグメント情報に基づきます。セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。

 

プリンティングビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第122期

第123期

増減率(%)

 プロダクション

3,621

4,012

10.8%

 オフィス

8,872

9,835

10.8%

 プロシューマー

10,168

9,550

△6.1%

外部顧客向け売上高合計

22,661

23,397

3.2%

セグメント間取引

65

64

△2.7%

売上高合計

22,726

23,461

3.2%

売上原価及び営業費用

20,602

21,178

2.8%

営業利益

2,124

2,283

7.5%

税引前当期純利益

2,262

2,351

3.9%

 

 プリンティングビジネスユニットでは、プロダクション市場向け機器は、新製品imagePRESS V1350が加わりラインアップが拡充したこと、またColoradoシリーズの新製品も好評を博したことなどにより、販売台数は前期を上回りました。オフィス向け複合機は、供給不足からの回復が進み、また低中速カラー複合機のimageRUNNER ADVANCE DX C3900シリーズを中心に販売が堅調に推移し、販売台数は前期を上回りました。インクジェットプリンターは、在宅需要が一巡した影響により、高水準であった前期の販売台数を下回りました。レーザープリンターは、カラーの中高速機で好評を得た製品があったものの、全体としては企業の投資抑制が影響し、販売台数は前期を下回りました。

 これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比3.2%増の2兆3,461億円となりました。税引前純利益は、コストダウン活動や物流費の削減が進んだことなどにより、前期比3.9%増の2,351億円となりました。

 

メディカルビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第122期

第123期

増減率(%)

外部顧客向け売上高合計

5,130

5,523

7.7%

セグメント間取引

3

15

389.8%

売上高合計

5,133

5,538

7.9%

売上原価及び営業費用

4,823

5,222

8.3%

営業利益

310

316

2.1%

税引前当期純利益

319

321

0.8%

 

 メディカルビジネスユニットでは、コロナ禍で控えられていた大型装置の投資が回復し、特に我が国や欧州地域において、MRI装置やX線診断装置、超音波診断装置の販売が好調に推移したことにより、当ユニットの売上高は前期比7.9%増の5,538億円となり、過去最高の売上となりました。税引前純利益は、販売力向上のための要員増強などに積極的に投資をした結果、前期比0.8%増の321億円となりました。

 

イメージングビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第122期

第123期

増減率(%)

 カメラ

5,095

5,444

6.9%

 ネットワークカメラ他

2,936

3,171

8.0%

外部顧客向け売上高合計

8,031

8,615

7.3%

セグメント間取引

4

1

△60.0%

売上高合計

8,035

8,616

7.2%

売上原価及び営業費用

6,769

7,160

5.8%

営業利益

1,266

1,456

15.0%

税引前当期純利益

1,280

1,464

14.4%

 

 イメージングビジネスユニットでは、レンズ交換式デジタルカメラは、一昨年発売したEOSR6 MarkⅡや昨年発売のエントリーモデルEOS R50やEOS R100など、ミラーレスカメラの新製品を中心に堅調に推移しました。レンズも、引き続きRFレンズが好調に推移しました。ネットワークカメラは、堅調な需要に加え用途の多様化を背景に販売活動を強化し、増収となりました。

 これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比7.2%増の8,616億円となりました。税引前純利益は、付加価値の高いミラーレスカメラの売上構成比が高まったことやネットワークカメラが好調に推移したことから、前期比14.4%増の1,464億円となりました。

 

インダストリアルビジネスユニット

経営指標

 

 

(億円)

 

第122期

第123期

増減率(%)

 光学機器

2,403

2,125

△11.6%

 産業機器

805

913

13.4%

外部顧客向け売上高合計

3,208

3,038

△5.3%

セグメント間取引

84

109

29.7%

売上高合計

3,292

3,147

△4.4%

売上原価及び営業費用

2,712

2,561

△5.6%

営業利益

580

586

1.0%

税引前当期純利益

592

592

△0.1%

 

 インダストリアルビジネスユニットでは、半導体露光装置は、引き続きパワーデバイス向けを中心に好調に推移しており、販売台数は前期を上回りました。一方、FPD露光装置は市況悪化に伴ってパネルメーカーが投資を控えている影響で、販売台数は前期を下回りました。

 これらの結果、当ユニットの売上高は、前期比4.4%減の3,147億円となりました。税引前純利益は、前期比0.1%減の592億円となりました。

 

(当連結会計年度の財政状態)

 

 

 

 

(億円)

 

第122期

(2022年12月31日)

第123期

(2023年12月31日)

増減

資産合計

50,955

54,166

3,210

 負債合計

17,465

18,109

644

  株主資本合計

31,131

33,530

2,399

  非支配持分

2,359

2,527

168

 純資産合計

33,490

36,057

2,567

負債及び純資産合計

50,955

54,166

3,210

株主資本比率(%)

61.1%

61.9%

0.8%

 

 当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末から3,210億円増加して5兆4,166億円となりました。円安の影響に加えて、ミナリスメディカル社等の買収によりのれんやその他取得資産が増加しました。また生産能力や効率性の向上を目的とした設備投資を継続したことにより固定資産は増加しました。

 負債は前連結会計年度末から644億円増加して1兆8,109億円となりました。当連結会計年度では、東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金を完済したことにより、長期債務は減少しましたが、運転資金の増加に伴って、短期借入金は増加しました。

 純資産は、前連結会計年度末から2,567億円増加して3兆6,057億円となりました。当社株主への配当や自己株式の取得による減少の一方で、当社株主に帰属する当期純利益の積み増しにより利益剰余金は増加し、また円安によりその他の包括利益累計額は増加しました。

 これらの結果、当連結会計年度末の株主資本比率は前連結会計年度末より0.8ポイント上昇して61.9%となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響分を合わせて、前連結会計年度末から392億円増加し、4,013億円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 増益になったことや棚卸資産を削減したことで運転資本が改善したため、前連結会計年度末から1,886億円増加して4,512億円の収入となりました

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 体外診断用医薬品や自動分析装置に関する事業を展開するミナリスメディカル社の買収のほか、生産能力や効率性の向上を目的とした設備投資を継続したことにより、前連結会計年度末から946億円増加し2,754億円の支出となりました

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 前連結会計年度の期末配当と当連結会計年度の中間配当を増配したことで、配当金の支払いが前連結会計年度と比較し115億円増加し、さらに1,000億円の自己株式の取得による支出もあり、前連結会計年度と比較し99億円増加し、1,567億円の支出となりました。

 

 また、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した、いわゆるフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度から940億円増加し1,758億円の収入となりました

 詳細については、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 流動性と資金源泉 b.現金及び現金同等物に記載のとおりであります

 

 

③生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

プリンティング

1,796,389

90.4

メディカル

559,705

100.4

イメージング

886,888

104.6

インダストリアル

331,529

93.4

その他及び全社

59,085

91.5

消去

△85,019

-

合計

3,548,577

95.6

  (注)1.  金額は、販売価格によって算定しております。

        2.  上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

 

b. 受注実績

当社グループの生産は、当社と販売各社との間で行う需要予測を考慮した見込み生産を主体としておりますので、販売高のうち受注生産高が占める割合は僅少であります。従って受注実績の記載は行っておりません。

 

c. 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

プリンティング

2,346,076

103.2

メディカル

553,780

107.9

イメージング

861,625

107.2

インダストリアル

314,719

95.6

その他及び全社

189,791

89.4

消去

△85,019

-

合計

4,180,972

103.7

  (注)1.  上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

2.  最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとお

      りであります。

 

相手先

第122期

(2022年1月1日から

2022年12月31日まで)

第123期

(2023年1月1日から

2023年12月31日まで)

販売高

(百万円)

割合(%)

販売高

(百万円)

割合(%)

HP Inc.

484,111

12.0

420,246

10.1

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

  経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年3月28日)現在において判断しております。

 

はじめに

  当社は、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアル、その他の製品を世界的に事業展開する企業グループであります。また、企業の成長と発展を果たすことにより、世界の繁栄と人類の幸福に貢献することを、経営理念としております。

①主要業績評価指標

  当社の事業経営に用いられる主要業績評価指標(Key Performance Indicators。以下「KPI」という。)は以下のとおりであります。

(収益及び利益率)

  当社は、真のグローバル・エクセレント・カンパニーを目指し邁進しておりますが、経営において重点を置いている指標の1つに収益が挙げられます。以下は経営者が重要だと捉えている収益に関連したKPIであります。

  売上高はKPIの1つと考えております。当社は主に製品、またそれに関連したサービスから売上を計上しています。売上高は、当社製品への需要、会計期間内における取引の数量や規模、新製品の評判、また販売価格の変動といった要因によって変化し、その他にも市場でのシェア、市場環境等も売上高を変化させる要因です。さらに製品別の売上高は売上の中でも重要な指標の1つであり、市場のトレンドに当社の経営が対応しているかというような内容を測定するための目安となります。

  売上総利益率は収益性を測るもう1つのKPIと考えております。当社はフェーズⅥの基本方針のもと、事業競争力を徹底的に強化し、価格競争力を持つ収益性の高い商品の提供を図っています。さらに、内製化や、設計・生産技術・製造現場が三位一体となった組み立ての自動化等のグループ一丸となった原価低減活動を推進しています。当社では、売上総利益率の向上に向けて、引き続きこれらの施策を推進してまいります。

  営業利益率、税引前当期純利益率及び売上高研究開発費比率も当社のKPIとして考えており、これらについて当社は2つの面からの方策をとっております。1つは、販売費及び一般管理費そのものを統制し低減に努めていること、もう1つは将来の利益を生み出す技術に対する研究開発費を一定の水準に維持していくことです。現在の市場における優位性を保持しつつ、他市場における可能性も開拓していくために必要なことであり、そうした投資が将来の事業の成功の基盤となります。

(キャッシュ・フロー経営)

  当社はキャッシュ・フロー経営にも重点を置いております。以下の指標は、経営者が重要だと捉えているキャッシュ・フロー経営に関連したKPIです。

  在庫回転日数はKPIの1つであり、サプライチェーン・マネジメントの成果を測る目安となります。棚卸資産は陳腐化及び劣化する等のリスクを内在しており、その資産価値が著しく下がることで、当社の業績に悪影響を及ぼすこともありえます。こうしたリスクを軽減するためには、サプライチェーン・マネジメントの強化により、棚卸資産の圧縮及び製品コスト等の回収を早期化させるために生産リードタイムを短縮させ、一方で販売の機会損失を防ぐため適正水準の製品在庫を保持していく活動の継続が重要であると考えられます。

  また有利子負債依存度も当社のKPIの1つであります。当社のような製造業では、開発、生産、販売等のプロセスを経て、事業が実を結ぶまでには、一般に長い期間を要するため、堅固な財務体質を構築することは重要なことであると考えます。今後も当社は主に通常の営業活動からのキャッシュ・フローで、流動性の維持や設備投資に対応してまいりますが、大きな成長投資を決断した際には借入金を活用することも想定しております。

 総資産に占める株主資本の割合を示す株主資本比率も、当社におけるKPIの1つとしております。株主資本を潤沢に持つことは、長期的な視点に立って高水準の投資を継続することにつながり、短期的な業績悪化にも揺るがない事業運営を可能にします。特に、研究開発に重点を置く当社にとっては、財務の安全性を確保することは、非常に重要なことであると考えられます。一方で、成長投資のため負債を有効活用するなど、資本構成の最適化にも留意してまいります。

(株主資本収益性)

 株主資本に対する当期純利益の割合を示す株主資本利益率も、当社におけるKPIの1つとしております。事業構造の見直しや経費の効率化により、収益性の向上を図り、在庫水準の適正化や生産拠点の集約化により、資産効率の向上を図ってまいります。また、財務の健全性を維持しながらも成長のための投資を実現するため、負債の有効活用を行うなど、適正な資本構成を構築し、株主資本の収益性を向上させてまいります。

②重要な会計方針及び見積り

  当社の連結財務諸表は、米国会計基準に基づいて作成されております。また当社は、連結財務諸表を作成するために、種々の見積りと仮定を行っております。これらの見積り及び仮定は将来の市場状況、売上増加率、利益率、割引率等の見積り及び仮定を含んでおります。当社は、これらの見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は異なる可能性があります。また、パンデミックや地政学的リスク、さらにはインフレに伴う景気減速のリスク等により、当社の業績が経営者の仮定及び見積りとは異なる可能性があります。当社は、現在当社の財政状態及び経営成績に影響を与えている会計方針を適用するにあたり、以下の事項がより重要な判断事項であると考えています。

a.長期性資産の減損

  基準書360「有形固定資産」に準拠し、有形固定資産や償却対象の無形固定資産などの長期性資産は、帳簿価額が回収できないという事象や状況の変化が生じた場合に、減損に関する検討を実施しております。帳簿価額が割引前将来見積キャッシュ・フローの総額を上回っていた場合には、帳簿価額が公正価値を超過する金額について減損を認識しております。公正価値の決定は、見積り及び仮定に基づいて行っております。

b.有形固定資産

  有形固定資産は取得原価により計上しております。減価償却方法は、定額法で償却している一部の資産を除き、定率法を適用しております。

c.棚卸資産

  棚卸資産は、低価法により評価しております。原価は、国内では平均法、海外では主として先入先出法により算出しております。

d.リース

  当社は、貸手のリースでは主にオフィス製品の販売においてリース取引を提供しております。販売型リースでの機器の販売による収益は、リース開始時に認識しております。販売型リース及び直接金融リースによる利息収益は、それぞれのリース期間にわたり利息法で認識しております。これら以外のリース取引はオペレーティングリースとして会計処理し、収益はリース期間にわたり均等に認識しております。機器のリースとメンテナンス契約が一体となっている場合は、リース要素と非リース要素の独立販売価格の比率に基づいて収益を按分しております。通常、リース要素は、機器及びファイナンス費用を含んでおり、非リース要素はメンテナンス契約及び消耗品を含んでおります。一部の契約ではリースの延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約の大部分は、顧客の割安購入選択権を含んでおりません。

 借手のリースでは建物、倉庫、従業員社宅、及び車輛等に係るオペレーティングリース及びファイナンスリースを有しております。当社は、契約開始時に契約にリースが含まれるか決定しております。一部のリース契約では、リース期間の延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約には、重要な残価保証または重要な財務制限条項はありません。当社のリースの大部分はリースの計算利子率が明示されておらず、当社はリース料総額の現在価値を算定する際、リース開始時に入手可能な情報を基にした追加借入利子率を使用しております。当社のリース契約の一部には、リース要素及び非リース要素を含むものがあり、それぞれを区分して会計処理しております。当社はリース要素と非リース要素の見積独立価格の比率に基づいて、契約の対価を按分しております。オペレーティングリースに係る費用は、そのリース期間にわたり定額法で計上されております。

 

e.企業結合

  企業買収は取得法で処理しております。取得法では、取得した契約資産及び契約負債を除く、全ての有形及び無形資産並びに引き継いだ全ての負債を、支配獲得日における公正価値に基づき認識及び測定します。公正価値の決定には、将来キャッシュ・フローの予測、割引率、資本収益率、及びその他の利用可能な市場データに基づく見積りなどの、重要な判断や見積りを伴います。また、将来キャッシュ・フローの予測は、被買収会社の実績や、過去及び将来に想定される趨勢、市場や経済状況などの多くの要素に基づいております。取得した契約資産及び契約負債は、基準書606「顧客との契約からの収益」に準拠し認識及び測定しております。

f.のれん及びその他の無形固定資産

  のれん及び耐用年数が確定できないその他の無形固定資産は償却を行わず、代わりに毎年第4四半期に、または潜在的な減損の兆候があればより頻繁に減損テストを行っております。全てののれんは、企業結合のシナジー効果から便益を享受する報告単位に配分されます。報告単位の公正価値が、当該報告単位に割り当てられた帳簿価額を下回る場合には、当該差額をその報告単位に配分されたのれんの帳簿価額を限度とし、のれんの減損損失として認識しております。報告単位の公正価値は、主として割引キャッシュ・フロー分析に基づいて決定されており、将来キャッシュ・フロー及び割引率等の見積りを伴います。将来キャッシュ・フローの見積りは、主として将来の成長率に関する当社の予測に基づいております。割引率の見積りは、主として関連する市場及び産業データ並びに特定のリスク要因を考慮した、加重平均資本コストに基づいて決定しております。2022年第4四半期及び2023年第4四半期に行った減損テストの結果、個々の報告単位の公正価値は帳簿価額を超過しており、減損が認識された報告単位はありません。しかし、メディカル報告単位に帰属するのれんについては、公正価値が帳簿価額を超過する割合が他の報告単位と比べて低くなっており、将来キャッシュ・フローが想定よりも減少した場合、減損損失を認識する可能性があります。なお、当該報告単位に帰属するのれんの帳簿価額は565,687百万円となっております。当該報告単位の将来キャッシュ・フローの見積りは、今後の医療機器市場の成長や事業活動地域の成長を考慮した上で立案された中期経営計画に基づいております。

 耐用年数の見積りが可能な無形固定資産は、主としてソフトウェア、商標、特許権及び技術資産、ライセンス料、顧客関係であります。なお、ソフトウェアは主として3年から8年で、商標は15年で、特許権及び技術資産は9年から21年で、ライセンス料は7年で、顧客関係は14年から16年で定額償却しております。

 

g.法人税等の不確実性

  当社は、法人税等の不確実性の評価及び見積りにおいて多くの要素を考慮しており、それらの要素には、税務当局との解決の金額及び可能性、並びに税法上の技術的な解釈を含んでおります。不確実性に関する実際の解決が見積りと異なるのは不可避的であり、そのような差異が連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

h.繰延税金資産の評価

  当社は、繰延税金資産に対して定期的に実現可能性の評価を行っております。繰延税金資産の実現は、主に将来の課税所得の予測によるところが大きく、課税所得の予測は将来の市場動向や当社の事業活動が順調に継続すること、その他の要因により変化します。課税所得の予測に影響を与える要因が変化した場合には評価性引当金の設定が必要な場合があり、当社では繰延税金資産の実現可能性がないと判断した際には、繰延税金資産を修正し、損益計算書上の法人税等に繰り入れ、当期純利益が減少いたします。

i.未払退職及び年金費用

  未払退職及び年金費用は数理計算によって認識しており、その計算には前提条件として基礎率を用いています。割引率、期待運用収益率といった基礎率については、市場金利などの実際の経済状況を踏まえて設定しております。その他の基礎率としては、昇給率、死亡率などがあります。これらの基礎率の変更により、将来の退職及び年金費用が影響を受ける可能性があります。

  基礎率と実際の結果が異なる場合は、その差異が累積され将来期間にわたって償却されます。これにより実際の結果は、通常、将来の年金費用に影響を与えます。当社はこれらの基礎率が適切であると考えておりますが、実際の結果との差異は将来の年金費用に影響を及ぼす可能性があります。

  当連結会計年度の連結財務諸表の作成においては、給付債務の計算に使用する割引率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で1.5%、3.7%を、長期期待収益率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で3.2%、5.7%を使用しております。割引率を設定するにあたっては、現在利用可能で、かつ、年金受給が満期となる間に利用可能と予想される高格付けで確定利付の公社債の収益率に関し利用可能な情報を参考に決定しております。また長期期待収益率の設定にあたっては、年金資産が構成される資産カテゴリー別の過去の実績及び将来の期待に基づいて収益率を決定しております。

  割引率の低下(上昇)は、勤務費用及び数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるとともに、利息費用を減少(増加)させます。割引率が0.5%低下した場合、予測給付債務は約733億円増加します。割引率の低下(上昇)による影響は、数理計算上の他の前提条件の変更による影響と同様に、翌期以降に繰り延べられます。

  長期期待収益率の低下(上昇)は、期待運用収益を減少(増加)させ、かつ数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるため、期間純年金費用を増加(減少)させます。長期期待収益率が0.5%低下した場合、期間純年金費用は約55億円増加します。

  これにより年金制度の積立状況(すなわち、年金資産の公正価値と退職給付債務の差額)を連結貸借対照表で認識しており、対応する調整を税効果調整後で、その他の包括利益(損失)累計額に計上しております。

 

j.収益認識

 当社は、主にプリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの各ビジネスユニットの製品、消耗品並びに関連サービス等の売上を収益源としており、それらを顧客との個別契約に基づき提供しております。当社は、約束した財またはサービスの支配が顧客に移転した時点、もしくは移転するにつれて、移転により獲得が見込まれる対価を反映した金額により、収益を認識しております。

 プリンティングビジネスユニットの製品(オフィス向け複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター等)及びイメージングビジネスユニットの製品(デジタルカメラ等)の販売による収益は、製品の支配を顧客がいつ獲得するかにより、主に出荷または引渡時点で認識しております。

  また、メディカルビジネスユニットの製品(CT装置やMRI装置等)及びインダストリアルビジネスユニットの製品(半導体露光装置やFPD露光装置等)の販売にあたり、機器の性能に関して顧客検収を要する場合は、機器が顧客の場所に据え付けられ、合意された仕様が客観的な基準により達成されたことを確認した時点で、収益を認識しております。

  当社のサービス売上の大部分は、プリンティングの製品及びメディカルの製品のメンテナンスサービスに関連するものであり、一定期間にわたり認識しております。プリンティングの製品のサービス契約は、通常、顧客は、機器の使用量に応じた従量料金、固定料金、または、基本料金に加えて使用量に応じた従量料金を支払う契約であり、修理作業及び消耗品の提供を含んでおります。プリンティングの製品のサービス契約による収益の大部分は、顧客への請求金額が、履行義務の充足に伴い顧客に移転した価値と直接対応していることから、顧客への請求金額により収益を計上しております。メディカルの製品のサービス契約は、通常、顧客は、当社が提供する待機サービスの対価として、固定料金を支払っており、当社は契約期間にわたり均等に収益を認識しております。

  プリンティングの製品に関するサービス契約の多くは、関連する製品販売契約と一体で実行されます。製品及びサービスの取引価格は、独立販売価格の比率に基づいて各履行義務に配分される必要があり、その配分には判断が伴います。独立販売価格は、市場の状況及びその他観察可能なインプットを含む合理的に入手可能な全ての情報に基づき、配分の目的に合致するように設定された価格のレンジを用いて見積もられています。製品またはメンテナンスサービスの取引価格が設定されたレンジを外れる場合は、見積独立販売価格に基づき取引価格は配分されることになります。契約獲得の追加コストは、関連するプリンティングの製品が販売された時に、費用として認識しております。

 転用可能性がなく、かつ完了した成果に対して顧客から支払いを受ける強制力のある権利を有している一部の産業機器の販売契約(以下「長期契約」)に関する収益は一定期間にわたり認識しており、コストを基礎とする進捗度に基づき、完成時の見積り利益の当期進捗分を含む収益が当期に認識されます。未完成の長期契約に関する損失は、損失が発生することが明らかになった期に認識されます。長期契約に関する作業実績や作業状況、想定される収益性の変化や最終的な契約条項がコストや収益の見積りに与える影響は、それらが識別され合理的に見積り可能になった期に認識されます。将来コストや完成時の利益に影響を与える要素は生産効率、労働力や資材の利用可能性とコストを含み、これらの要素は見積もりの正確性に影響し、将来の収益と売上原価に重要な影響を与えることがあります。

  財またはサービスの移転と交換に当社が受け取る取引価格は、値引き、顧客特典、売上に応じた割戻し等の変動対価を含んでおります。変動対価は、主として、販売代理店や小売店が主要顧客であるイメージングの製品の販売に関連しております。当社は、変動対価に関する不確実性が解消された時点で収益認識累計額の重要な戻し入れが生じない可能性が高い範囲で、変動対価を取引価格に含めております。変動対価は、過去の傾向や売上時点におけるその他の既知の要素に基づいて見積もっており、直近の情報に基づき定期的に見直しております。また、当社は、販売後の短期間、顧客に製品の返品権を付与することがあり、当該返品権により予想される返品を考慮し決定された取引価格に基づき収益認識をしております。

  当社は、連結損益計算書の収益について、顧客から徴収し政府機関へ納付される税金を除いて表示しております。

 

k.信用損失引当金

  信用損失引当金は、過去の信用損失の経験と合理的かつ裏付け可能な予測を踏まえつつ、基準書326(「金融商品-信用損失」)に基づいて、全ての債権計上先を対象として計上しております。また当社は、破産申請など顧客の債務返済能力がなくなったと認識した時点において、顧客ごとに信用損失引当金を積み増しております。債権計上先をとりまく状況に変化が生じた場合は、債権の回収可能性に関する評価はさらに調整されます。法的な償還請求を含め、全ての債権回収のための権利を行使してもなお回収不能な場合に、債権の全部または一部を回収不能とみなし、信用損失引当金を取り崩しております。

 

 

l.環境負債

 環境浄化及びその他の環境関連費用に係る負債は、環境アセスメントあるいは浄化努力が要求される可能性が高く、その費用を合理的に見積ることができる場合に認識しており、連結貸借対照表のその他の固定負債に含めております。環境負債は、事態の詳細が明らかになる過程で、あるいは状況の変化の結果によりその計上額を調整しております。その将来義務に係る費用は現在価値に割引いておりません。

 

m.新会計基準

  「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注1 (24)新会計基準」に記載のとおりであります。

③当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.売上高

  当連結会計年度は、ウクライナ情勢や中東での軍事衝突など不安定な状況が継続しましたが、長期にわたり経済活動を制限したコロナ禍の収束などにより、緩やかに回復しました。こうした中、製品の供給不足からの回復や、ネットワークカメラを始めとする新規事業が堅調に推移し、売上高は前連結会計年度比3.7%増の4兆1,810億円となり、過去最高の2007年に次ぐ水準となりました。製品売上高及びサービス売上高は前連結会計年度比でそれぞれ、2.6%増の3兆3,146億円、8.4%増の8,663億円となりました。

  当連結会計年度の海外での売上高は、連結売上高の78.4%を占めます。海外での売上高の計算は、円と外貨の為替レートの変動に影響されます。製品の現地生産及び海外からの部品や材料調達等によりその影響を抑えておりますが、為替レートの変動は当社の経営成績に大きな影響を与える可能性があります。

  当連結会計年度の米ドル及びユーロの平均為替レートはそれぞれ140.85円及び152.20円と、前連結会計年度に比べて米ドルは約9円円安、ユーロは約14円円安で推移しました。米ドルとの為替レートの変動により約893億円の売上高増加、ユーロとの変動で約915億円の売上高増加、その他の通貨との変動で約77億円の売上高増加影響がありました。その結果、当連結会計年度の為替による売上高の増加影響は約1,885億円となりました。

 

b.売上原価

  売上原価は、主として原材料費、購入部品費、工場の人件費から構成されます。原材料費のうち海外調達される原材料については、海外の市場価格や為替レートの変動による影響を受け、当社の売上原価に影響を与えます。売上原価にはこれらの他に有形固定資産の減価償却費、修繕費、光熱費、賃借料などが含まれております。当連結会計年度は部品や物流価格も落ち着きを見せ下期からはコストダウンが進展しました。その結果、売上高に対する売上原価の比率は、当連結会計年度は52.9%となり、前連結会計年度54.7%より1.8ポイント低減しました。

 

c.売上総利益

  当連結会計年度の売上総利益は、前連結会計年度と比べ7.7%増加の1兆9,689億円となりました。また売上総利益率は、前連結会計年度より1.8ポイント好転し47.1%となりました。売上総利益の増加は、部品価格や物流費のコストダウンが進んだことと円安影響によるものです。

 

d.営業費用

  営業費用は、主に人件費、研究開発費、広告宣伝費であります。営業費用は、販売活動が正常化したことによる販売関連費用の増加に加え、円安による外貨建ての営業費用の増加などにより、前期比8.1%増の1兆5,935億円となり、当連結会計年度売上高に対する経費率は前連結会計年度より1.6ポイント悪化し、38.1%となりました。

 

e.営業利益

  当連結会計年度の営業利益は、前連結会計年度比6.2%増加の3,754億円でありました。営業利益率は0.2ポイント好転して9.0%となりました。

 

f.営業外収益及び費用

  当連結会計年度の営業外収益及び費用は、昨年大きく発生した為替差損が減少した影響により、前連結会計年度から164億円好転し、154億円の収益となりました。

 

g.税引前当期純利益

  当連結会計年度の税引前当期純利益は3,908億円で、前連結会計年度比10.9%の増益となりました。また、売上高に対する比率は9.3%でした。

 

h.法人税等

  当連結会計年度の法人税等は140億円増加し、実効税率は27.2%でした。実効税率が日本の法定実効税率を下回っているのは、主に試験研究費の税額控除や海外子会社で適用される税率が日本の法定実効税率より低いためです。

 

i.当社株主に帰属する当期純利益

  当連結会計年度の当社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度比8.4%の増益である2,645億円となりました。また、売上高当期純利益率は6.3%となりました。

 

④海外事業と外国通貨による取引

  当社の販売活動は様々な地域で現地通貨により行っている一方、売上原価は円の占める割合が比較的高くなっております。当社の現在の事業構造を鑑みると、円高影響は売上高や売上総利益率に対してマイナス要因となりま

す。こうした為替相場の変動による財務リスクを軽減することを目的に、当社は為替先物契約を主とした金融派生商品を利用した取引を実施しております。

  海外における売上高利益率は、主に販売活動を中心としているため、国内の売上高利益率と比較すると低くなっております。一般的に販売活動は、当社が行っている生産活動ほど収益性は高くありません。地域別セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。

 

 

⑤流動性と資金源泉

a.キャッシュ・フロー経営の基本原則

  当社は財務戦略の基本方針に「キャッシュ・フロー経営の徹底による健全な財務体質の維持」を掲げ、以下の2点をキャッシュ・フロー経営の基本原則としております。

 

1.現行事業の収益性をさらに改善し新規事業の成長スピードを高めることにより、高収益体質の向上に努め

ます。

2.事業の中期的な拡大・成長に必要な設備投資は原則として減価償却費の範囲内に収め、財務健全性の維持

に努めます。ただし、成長戦略の為の設備投資やM&A等の状況により、必要に応じて外部からの資金調達も

実施します。

 

資金の調達(Cash-In)

事業活動からの利益をベースとする営業活動によるキャッシュ・フローを原資とします。資金調達を行う際は、金融市場の状況を鑑みて、期間・通貨・手法を検討し、多様な選択肢から最適な手段を選定します。

 

資金の使途(Cash-Out)

資金の主な使途は以下の優先順位に則り決定しております。

 

1.成長投資:設備投資・研究開発やM&Aなど

M&Aは新規事業の成長を補完する選択肢として重視しております。投資対象先の選定にあたり、市場の成長性・規模、当社の事業領域・技術との親和性の高い市場であることを基準としております。

2.株主還元

中長期的な業績の見通しに加え、将来の投資計画やキャッシュ・フローなどを総合的に勘案しております。配当は配当性向50%を目途に実施し、自己株式の取得も検討しつつ、安定的かつ積極的な利益還元を実現します。

3.借入金返済

健全な財務体質維持のため借入金返済を着実に進め、事業の拡大・成長に必要な投資に備えて、十分な資金調達余力を確保してまいります。

 

b.現金及び現金同等物

キャッシュ・フローの推移

 

 

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 当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前連結会計年度から392億円増加して、4,013億円となりました。当社の現金及び現金同等物は主に円と米ドルを中心としておりますが、その他の外貨でも保有しております。

 

営業活動によるキャッシュ・フロー

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、増益になったことや棚卸資産を削減したことで運転資本が改善したため、前期比1,886億円増加し4,512億円の収入となりました。営業活動によるキャッシュ・フローは、主に顧客からの現金受取によるキャッシュ・イン・フローと、部品や材料、販売費及び一般管理費、研究開発費、法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローとなっております。当連結会計年度におけるキャッシュ・イン・フローの増加は、主に売上高の増加に伴い、顧客からの現金回収が増加したことによります。当社の回収率に重要な変化はありません。キャッシュ・アウト・フローの増加は、売上増に伴う部品や材料の支払いの増加や、販売活動が正常化したことによる販売関連費用の増加などによるものです。法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローの増加は、課税所得の増加によるものです。

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

 当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、生産能力効率性の向上を目的とした設備投資を継続したことにより、固定資産購入額は前連結会計年度より418億円増加して、当連結会計年度は2,303億円となりました。また当期は体外診断用医薬品や自動分析装置に関する事業を展開するミナリスメディカル社の買収等事業取得額が増加したことなどにより、前連結会計年度より946億円増加し2,754億円の支出となりました。

 

フリーキャッシュ・フロー

 当社は、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した純額をフリーキャッシュ・フローと定義しており、当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度の818億円から、940億円増加し、1,758億円の収入となりました。

 当社は、キャッシュ・フロー経営に重点を置き、フリーキャッシュ・フローを常時モニタリングしております。フリーキャッシュ・フローは当社の現在の流動性や財務活動の使途を理解する上で重要であり、また投資家にも有用であると考えております。当社は資金の調達源泉を明らかにするために、米国会計基準による連結キャッシュ・フロー計算書や連結貸借対照表と併せて、米国会計基準以外の財務指標(Non-GAAP財務指標)である、フリーキャッシュ・フローを分析しております。なお、最も直接的に比較可能な米国会計基準に基づき作成された指標とフリーキャッシュ・フローの照合調整表は以下のとおりです。

 

 

 

 

(億円)

 

第122期

第123期

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

2,626

4,512

+1,886

投資活動によるキャッシュ・フロー

△1,808

△2,754

△946

フリーキャッシュ・フロー

818

1,758

+940

財務活動によるキャッシュ・フロー

△1,468

△1,567

△99

為替変動の現金及び現金同等物への影響額

258

201

△57

現金及び現金同等物の増減

△393

392

+785

現金及び現金同等物の期首残高

4,014

3,621

△393

現金及び現金同等物の期末残高

3,621

4,013

+392

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

 当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について540億円の返済を行い、長期債務は全額返済となりました。さらには1,000億円の自己株式取得を実施しまた増配したことで配当金の支払いが前期から115億円増加しました一方で運転資金の増加に伴う短期借入金の増加などがあり、1,567億円の支出となりました。なお、当連結会計年度の配当金の支払額は、1株当たり130.00円を実施しました。東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の借入金の残高推移は以下のとおりであります。

 

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 当社は、流動性や必要資本を満たすため、増資、社債発行、借入といった外部からの様々な資金調達方法をとることが可能です。当社は、これまでどおりの資金調達や資本市場からの資金調達が可能であり、また将来においても可能であり続けると認識しておりますが、経済情勢の急激な悪化やその他状況によっては、当社の流動性や将来における長期の資金調達に影響を与える可能性があります。

 当社の長期債務は、主に銀行借入とリース債務によって構成されています。

 

格付け

 当社は、グローバルな資本市場から資金調達をするために、格付機関であるS&Pグローバル・レーティングから信用格付を得ております。それに加えて、当社は日本の資本市場からも資金調達するために、日本の格付会社である格付投資情報センターからも信用格付を得ております。2024年2月29日現在、当社の負債格付は、S&Pグローバル・レーティング:A(長期)/A-1(短期)、格付投資情報センター:AA(長期)であります。当社では、現時点で負債の返済を早めるような格付低下の要因は発生しておりません。当社の信用格付が下がる場合は、借入コストの増加につながります。

 

c.在庫の適正化

 当社の最新の在庫水準の最適化の方針は、運転資金を最小化し、在庫の陳腐化のリスクを避け、一方で予期せぬ天災発生時でも販売活動を継続できるようにするため、適切なバランスを維持していくことであります。当社の在庫回転日数は、当連結会計年度、前連結会計年度末時点でそれぞれ、66日、69日となりました。在庫回転日数減少の主な要因は、前連結会計年度末に保持していた世界的な半導体不足や国際物流逼迫対応のための電子部品や原材料・重要部品などの安全在庫等を徹底的に見直し、主に販売会社の製品在庫を削減したことなどによるものであります。

 

d.設備投資

 当社は積極的な業績拡大に資する投資を行う一方、総額は減価償却費の範囲内に収めることでフリーキャッシュ・フローを安定的に創出するなど、財務基盤を強固にするキャッシュ・フロー経営を徹底しています。当連結会計年度における設備投資は、前連結会計年度の1,566億円から445億円増加し、2,011億円になりました。翌連結会計年度につきましては、引き続き成長のための設備投資を行うことにより、当社の設備投資は2,100億円の見込みであります。

 

e.退職給付債務への事業主拠出

 当社の確定給付型年金への拠出額は、当連結会計年度516億円、前連結会計年度317億円であり、確定拠出型年金への拠出額は、当連結会計年度277億円、前連結会計年度243億円であります。また、一部の子会社が加入している複数事業主制度への拠出額は、当連結会計年度54億円、前連結会計年度47億円であります。

 

f.運転資本

 当連結会計年度における運転資本(流動資産から流動負債を控除した額)は、前連結会計年度の7,906億円から57億円減少し、7,849億円になりました。減少の主な要因は、流動負債である短期借入金(1年以内に返済する長期債務を含む)の増加によるものです。当社の運転資本は、予測できる将来需要に対して十分であると認識しております。当社の必要資本は、設備投資に関わる支出の水準及び時期といった全社的な事業計画に基づいております。流動比率(流動負債に対する流動資産の割合)は、当連結会計年度は1.55、前連結会計年度は1.58であります。

 

g.総資本当社株主に帰属する当期純利益率

 総資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の総資産平均で除した割合)は、当連結会計年度では5.0%、前連結会計年度も5.0%であります。

 

h.株主資本当社株主に帰属する当期純利益率

 株主資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の株主資本平均で除した割合)は、当連結会計年度では8.2%です。増益による利益剰余金の増加や円安による為替換算調整額の増加に伴い株主資本は増加しましたが、当期純利益も増加し、前連結会計年度の8.1%から改善しました。

 

i.有利子負債依存度

 当社はフェーズⅥにてキャッシュ・フロー経営の徹底を重点項目の一つとしており、財務基盤の再強化を進めています。当連結会計年度では東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について、当期に540億円の残額すべての返済を行い完済しました。一方で、運転資金の増加に伴い短期借入金が増加しました。その結果、当連結会計年度における短期借入金、短期オペレーティングリース負債、長期借入金、及び長期オペレーティングリース負債は、前連結会計年度末の4,174億円から999億円増加し5,173億円となり、有利子負債依存度(総資産に対する有利子負債の割合)は9.6%と前連結会計年度の8.2%から1.4%増加しました。

 

j.株主資本比率

 株主資本比率(株主資本を総資産で除した割合)は、増益による利益剰余金の増加や、円安によるその他の包括利益累計額の増加等のため純資産が増加したことなどにより、当連結会計年度は61.9%と前連結会計年度の61.1%から0.8%増加いたしました。

 

 

⑥知的財産戦略

1.基本方針

当社は、独自技術で差別化した魅力的な質の高い製品・サービスにより、新市場や新規顧客を開拓する研究開発型企業として発展してきました。知的財産部門は、事業の発展を支援することを重視し、これからの時代を先読みし、10年後、20年後の姿を描き、知的財産戦略を策定・実行しています。

当社の知的財産戦略の基本戦略は下記4つとしております。

 

(1)コアコンピタンス技術に関わる特許は、競争領域において事業を守る特許としてライセンスせず、
    競争優位性の確保に活用する。

(2)通信、GUIなどの汎用技術に関わる協調領域の特許をクロスライセンスなどに利用することで、

   研究開発や事業の自由度を確保する。

(3)他社の知的財産権を尊重する。一方でキヤノンの知的財産権の侵害に対しては毅然と対応する。

(4)他社が容易に到達できない検証困難な発明は、ノウハウとして秘匿し守ることで、他社の追従を

   許さず、競争優位性を確保する。

 

2.知的財産ポートフォリオの基本的な考え方

当社は、さまざまな環境変化から次の時代の社会や経済の流れを読み取り、知的財産戦略を策定・実行しています。知的財産ポートフォリオは、変化する経営・事業を支援し企業価値を向上させるために最大限活用するものと位置付けており、その構成は、さまざまな環境変化(サプライチェーン、経済安全保障、環境配慮要請、AI/IoTによる技術革新、デジタルサービスの拡大等)から次の時代を見据え、経営戦略・事業戦略と連動させながら、常に変化させています。

事業のコアコンピタンスに関わる知的財産権の取得はもちろん、時代を先取りした知的財産権(例えば、AI/IoT技術や標準技術、環境関連技術に関わる知的財産権、パートナー創りのための知的財産権)の取得にも大きなリソースを投入し、新たな事業の創出のために様々な業界の企業との交渉にも備えています。このようにして構築した知的財産ポートフォリオを保有することにより、競争優位性の確保と将来事業の自由度の確保を両立させています。

当社は、全世界で特許・実用新案を約8万3千件保有しています(2023年12月現在)。日本国内はもとより海外での特許取得も重視しており、地域ごとの事業戦略や技術・製品動向を踏まえた上で特許の権利化を推進しています。特に米国は、世界最先端の技術をもつ企業が多く市場規模も大きいことから、米国での特許出願については、事業拡大、技術提携の双方の視点から注力しており、米国の特許登録件数ランキングは38年連続で5位以内を維持しています。

 

3.事業の発展を支える知的財産ポートフォリオ

当社は、グローバル優良企業グループ構想フェーズVIにおいて、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの各グループの事業競争力の強化を掲げ、次世代商業印刷、次世代ヘルスケア、ボリュメトリックビデオやXRなどの3Dイメージング、次世代半導体製造、デジタルソリューションサービスといった将来のビジネス創出にも力を入れています。知的財産部門は、これら事業が発展・成長するために、光学技術、映像処理・解析技術などのコアコンピタンス技術、AI・IoTを組み入れたサイバー&フィジカルシステムに欠かせない技術、標準技術、環境配慮技術などに関する知的財産の創出・権利化に力を入れています。

 

Ⅰ.プリンティンググループ

オフィス向け機器を始めとする様々な機器とシステムとを連携するサイバーフィジカルシステムを支える知的財産を創出しています。様々な機種のプリンターに共通して搭載されるコントローラ/エンジンの基盤技術やプリンターに付加価値を提供するクラウドの基盤技術に加え、プリンターの環境対応技術や、AIを利活用した新たな印刷ソリューションなどこれからの時代に対応する技術に関する特許ポートフォリオを構築しています。

 

Ⅱ.メディカルグループ

プレシジョン・メディシン(個別化医療)の提供へと進化するAIソリューション、フォトンカウンティングCTなど、医療現場に次々と提供される新たな価値を創造する技術を保護する知的財産ポートフォリオを構築するとともに、知的財産活動を通じてグループ内の技術シナジーの実現およびグローバルに加速される臨床研究を推進し、画像診断領域の競争力のさらなる強化とヘルスケアITや体外診断などへの事業領域の拡大に貢献しています。

 

Ⅲ.イメージンググループ

ミラーレスカメラに加え、映像制作用カメラや監視用カメラなどの領域では高度な光学技術だけでなく、ネットワーク技術を組み合わせた知的財産を創出。さらにボリュメトリックビデオやXRなどの3Dイメージング技術や、暗闇でも数km先の被写体を鮮明に捉えられるSPADセンサー等、次世代のエンターテインメントや社会の安全・安心を支える領域でも特許ポートフォリオを強化しています。

 

Ⅳ.インダストリアルグループ

露光装置、ダイボンダー、有機ELディスプレイ製造装置、スパッタリング装置などの製造装置に加え、Lithography Plusなどの製造ソリューションサービスに関する知財創出にも注力しています。昨年製品がリリースされたナノインプリントリソグラフィでは産学官連携やグループ会社連携を利用し、光学や材料分野の要素技術、装置技術から半導体製造プロセスまで強靭な特許網を構築しています。

 

Ⅴ. 未来を切り拓く技術

本社研究開発部門等で研究が進む、3Dプリンター用セラミックス、鉛フリー圧電体、全固体電池用材料などのサステナビリティ実現のための新素材・デバイス技術、3Dイメージングに必要なデジタル要素技術、超大型望遠鏡赤外イマージョン回折素子、人工衛星などの宇宙科学技術の分野で、世界初・最先端のコア技術の特許ポートフォリオ形成に注力しています。

 

Ⅵ. 標準化への取組み

海外研究所の標準化エキスパートと協働し、標準化団体への積極的な参画を通して世界の技術発展に貢献。移動体通信(5G,6Gなど)、無線LAN(Wi-Fiなど)、動画圧縮(HEVC,VCCなど)、無線電力伝送(Qiなど)、ファイルフォーマット(HEIF,OMAFなど)など次世代の技術標準を構成する特許ポートフォリオを拡大し、キヤノンの知財競争力を強化しています。

 

4.組織体制

当社では、当社の知的財産法務本部と各グループ会社の知的財産部門との間で、知的財産の取り扱いに関する役割と責任、活動方針の策定プロセスなどを取り決めたグローバルマネジメントルールを策定しています。

これにより、当社全体の知的財産活動を統制し、知的財産ポートフォリオの最適化を図りつつ、必要に応じて知的財産法務本部と各グループ会社が協働で訴訟やライセンス活動を行い、利益の最大化を図っています。

 

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5.知財教育・知財人財の育成

当社では、OJTを重視しつつ、目的に応じた知財教育を計画的に実施し、知財活動を全社へ浸透させています。全従業員に対する階層別研修、事業・開発部門に対する発明創出やクリアランス調査の研修を実施し、また、全社横断の発明啓発イベントも行っています。知財部門では、権利形成や調査分析に留まらず、権利活用や戦略立案などの専門性を高め、視座の高い人財の育成を行っています。これにより、世界トップクラスの知財人財を創り出し、企業価値向上に資する知財活動を展開しています。

 

6. オピニオンリーダーとしての活動

当社は、日本の産業の振興、ひいては世界の産業の振興への貢献をめざし、知的財産の業界をリードする活動を積極的に行っています。2014年には、LOT(License on Transfer)ネットワークを他社とともに設立し、自らは事業を行わず特許訴訟を脅しに利益を得るPAE(Patent Assertion Entity)による不当な特許訴訟から会員企業を守る仕組みを構築しました。2024年1月時点で3,500社以上が会員企業になっています。また、2019年より、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する、環境技術の活用を促進するためのプラットフォームであるWIPO GREENにパートナーとして参加し、WIPOと協力して環境技術の普及を行っています。さらに、各国特許庁の長官と意見交換を行い、よりよい知的財産システム(環境/制度/施策)の確立に貢献しています。

 

当社の知的財産活動に関するその他の情報は、当社ウェブサイト(https://global.canon/ja/intellectual-property/)に掲載しております。

 

 

 

⑦トレンド情報

  当社は、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの分野において、開発、生産から販売、サービスにわたる事業活動を営んでおります。

 

Ⅰ.プリンティングビジネスユニット

 当社は、家庭向け、オフィス向け、プロダクションプリント向けのインクジェットプリンター、レーザープリンター、複合機の開発・製造・販売及びメンテナンス、アフターサービスを行うとともに、ソフトウェア及びサービス、ソリューションビジネスを通して顧客に付加価値を提供しています。

 プロダクションプリントについては、新たに「imagePRESS Vシリーズ」として、高い生産性と堅牢性により大量出力物の短納期化を実現するフラッグシップモデル「imagePRESS V1350」、多種多様な用紙の高速出力により少量多品種印刷ビジネスを支援する「imagePRESS V1000」、オペレーターの作業負荷を軽減するコンパクトな本体サイズの「imagePRESS V900」の3機種を発売しラインアップを一新、様々な商業印刷のニーズに対応しました。加えて、リモート印刷管理アプリケーション「PRISMAremote Manager」との組み合わせにより印刷状況を可視化することで、ダウンタイムの削減にも貢献しています。

 大判インクジェットプリンターについては、アート系プロフェッショナルの高い画質要求に応えるべく、新開発した12色の「LUCIA PROインク」により色の再現性や暗部領域での表現力を大幅に向上させた「imagePROGRAF PROシリーズ」を提供しています。また、設計事務所などでの図面大量出力から、企業・店舗でのCAD・ポスターなどの大判サイズ出力ニーズに向けて、多様な印刷用途や用紙の適性に応じた高画質プリントを可能にする全5色顔料インク「LUCIA TD」を搭載した「imagePROGRAF TZ/TX/TM/TAシリーズ」を提供しています。さらに業界初となる蛍光インクを搭載し、より明るくやわらかな色再現が可能な「imagePROGRAF GPシリーズ」の提供も2021年より始めています。ユーザーの更なる操作性向上にも取り組んでおり、「imagePROGRAF TMシリーズ」ではフラットトップデザインを採用し、ロール紙交換作業を容易にしています。また、スリムな筐体を実現した「imagePROGRAF TCシリーズ」は限られたスペースにも設置可能なため、在宅勤務での図面出力を可能にし、大判出力用途のニーズの広がりに対応しています。

 ハイエンドのプロダクションインクジェット市場に向けて、当社は業界をリードする連帳プリンターを提供しており、効率的かつ高品質のフルカラー印刷の実現に貢献しています。「ColorStreamシリーズ」は、磁気インクやインビジブルインクなどのセキュリティインクを含む、カラーおよびモノクロのトランザクション、トランスプロモ、ダイレクトメール、書籍、およびマニュアルなどの印刷物に対応し、生産性と柔軟性に優れた、モジュール式でカスタマイズ可能な製品です。「ProStreamシリーズ」は、オフセット印刷に劣らぬ色再現性と生産性を実現しつつ、デジタル印刷の可変データの多用途性を兼ね備えた、高速で生産性の高い連帳プリンターです。当社が提供する高速カットシート方式のインクジェットプリンター「varioPRINT iX シリーズ」は、これまでの商業印刷のビジネスを大きく変えました。優れた画質と幅広いメディア対応力に、インクジェットの高い生産性と魅力的なコスト効率を兼ね備えています。「varioPRINT iXシリーズ」は、その高い信頼性、生産性、アップタイムによって、より多くの成果物を短時間で生産することができます。最小限の調整とセットアップで、計画的な高速印刷が可能なため、印刷業者は、顧客と合意された納期と価格に基づき、あらゆる成果物に対応し、より多くの利益を上げることができます。

 大判グラフィック市場では、「Colorado」と「Arizona」のブランドの下で独自のUV LEDソリューションを提供しており、クラス最高の生産性と最小のコストを目指しております。このソリューションにより、プロの印刷業者は豊富なグラフィックスと産業用アプリケーションを顧客に提供することが可能となります。「Colorado」における、UVgelテクノロジーが、従来の印刷技術の持つ長所を損ねず、あらゆる妥協を排除した独自のプロセスにより、比類のない生産性を提供しています。UVgel460インクのより柔軟で伸縮性のある配合と、独創的なFLXfinish+テクノロジーという2つの追加テクノロジーのおかげで、幅広いアプリケーションへの印刷を可能にしています。UVgel460インクは、折りたたんだり、曲げたり、包んだりしても画像安定性を発揮します。また、FLXfinish+テクノロジーは、煌びやかなグロス調と高級感漂うマット調の印刷を使い分けることを可能にし、表現の自由度を拡大させることが出来ます。

 オフィス向け複合機については、2020年から「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」を発売し、2022年には4モデルをリリースしました。続いて、2023年にも4モデルの新製品を発売し、低温定着トナーや段ボール梱包材の採用により環境負荷を低減し、サイバー攻撃に備えるため専門知識を有するIT担当者がいない企業でも複合機のセキュリティ強化を達成できる「おすすめセキュリティー設定」機能を新搭載し、「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」のラインアップを拡充しました。また、製品の高い信頼性が認められ、独立評価機関として権威あるKeypoint Intelligence社 BLI(Buyers Laboratory)事業部から、最も信頼性の高いA3オフィス複合機ブランドとして選出されました。

 当社は、クラウドにつながることで複合機の機能を拡張するサービスとして、「uniFLOW Online」を提供しています。クラウドサービス連携とセキュリティの強化に加え、コロナ禍以降定着しつつあるオフィスと自宅を組み合わせたハイブリッドワーク環境に向けて、オフィス複合機と家庭用インクジェットプリンターを「uniFLOW Online」を介して組み合わせた「Hybrid Work Print Standard」により、在宅勤務時でもオフィス同様のセキュリティとプリント管理機能を提供しています。更なる競争力の維持及び向上に向けて、今後も市場動向に沿って、製品群の更なる充実とソリューション対応力の強化を図るとともに、ますます高度化する顧客の需要に応えるべく、販売力の強化に努めていきます。

 家庭用インクジェットプリンターについては、在宅勤務、オンライン学習、家庭での趣味など自宅での様々な用途に応えられる幅広いラインアップを揃え、より簡単に効率よく、低ランニングコストでプリント・スキャン・コピーを行える商品を提供しています。

 写真や文書印刷に適した「XK120/TS8700シリーズ」は、ユーザーのユースシーンに合わせて選択できるUI(ユーザーインターフェース)を採用し、少ない操作でプリントやスキャンなどを行えます。文書を印刷するユーザーに最適な「TS6700シリーズ/TS6600シリーズ」は、コンパクト設計ながら文書印刷で高い生産性を実現しました。

 また、ビジネス向けインクジェットプリンターについては、在宅勤務に特化したフルフロントオペレーション対応の「GX2000シリーズ/GX1000シリーズ」、物流・薬局・小売りで使用される用紙の種類・サイズに幅広く対応した特大容量タンク搭載の「GX5500シリーズ」、さらには、受付業務や窓口業務に特化したフロント操作の自動原稿送り装置(ADF)による対面業務の効率化を実現した「GX6500シリーズ」を発売し、さまざまな角度からビジネスを支援していきます。

 レーザープリンターについては、景気の先行きに対する懸念や金利上昇により、ディーラーやユーザーでは在庫を絞る動きが継続しています。また、長期的なトレンドとしてもスマートフォン、クラウド環境の普及等でユーザーのプリントスタイルが変化する中、プリント需要の減少による市場全体の成長鈍化が懸念されています。そのような環境下において、より付加価値の高い製品、特にカラー複合機の拡販に注力しています。更に、当社は各種の技術的イノベーションにより、顧客との一定期間にわたる契約型ビジネスを推進するなどの競争力強化と顧客価値向上をはかり、数量・シェア拡大を図っていきます。生産面では、サプライチェーンの多元化などを推進することにより引き続き製品の安定供給に努めていきます。

 

Ⅱ.メディカルビジネスユニット

 メディカルグループはCT、MRI、超音波、X線システムなどの「画像診断システム事業」、「ヘルスケアIT事業」、「体外診断事業」の3つの事業を展開し、世界190以上の国や地域でユーザーをサポートしており、患者さんに優しく確信度の高い医療の提供に貢献するとともに、医療の効率化、コスト削減を実現する医療システム・サービスを提供しています。

 コア事業である画像診断システム事業は、検出器や磁石、臨床アプリや当社のAI技術などの次世代の技術開発で商品競争力の強化を推進しています。長きにわたり日本でトップシェアを堅持しているCTでは、ディープラーニングを用いた「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を更に進化させた超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」と先進自動化技術により操作性を追求した「INSTINX」を搭載した新たなフラッグシップCT「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」の販売を開始しました。これにより世界に広がる医療現場の人手不足の解消につながる医療ワークフローの効率化や迅速かつ簡便なプロセスの提供の実現を目指します。同時に、AiCEを標準搭載した16列マルチスライスCTの販売も開始し、16列から320列までの全セグメントで、より多くの施設で高画質かつ低被ばくな検査の提供を可能にします。また、次世代フォトンカウンティングCT(PCCT)の早期実用化に向けて国内外の医療機関と共同臨床研究に関する基本合意書を締結し臨床評価を加速しています。このような取り組みによりCTグローバルNO.1の達成と、メディカル事業領域におけるキヤノンブランドの確固たる地位を築き上げることを目標に掲げています。X線システムでは透視画像におけるリアルタイム新画像処理やX線制御技術を搭載可能なX線アンギオグラフィシステムの最新シリーズ「Alphenix / Evolve Edition」、超音波システムでは高画質・高機能とコンパクトを両立するモバイルでハイエンドな超音波診断装置「Aplio me」を市場に投入しました。

 ヘルスケアIT事業では、強化された画像診断システムから得られる画像データを始めとする様々な医療情報を収集・統合・解析し、適切な形に加工して提供することで医療従事者の負担軽減と、よりスピーディーな診療方針決定をサポートします。これにより当社は将来的なプレシジョンメディシンの実現に向けて、AI技術も活用し、医療への貢献を目指しています。

 体外診断事業においては体外診断用医薬品・自動分析装置のリーディングカンパニーであるミナリスメディカル社の全株式を取得しました。ミナリスメディカル社が保有する体外診断事業の多様なソリューションと当社が保有する自動分析装置領域における技術のシナジーにより、より高いニーズに応える付加価値の提供を目指します。

 

Ⅲ.イメージングビジネスユニット

 当社は、デジタルカメラと同様に、レンズや様々な関連アクセサリーを製造、販売しております。

 レンズ交換式デジタルカメラでは、「EOS Rシステム」のさらなるラインアップ拡充として小型・軽量のフルサイズミラーレスカメラ「EOS R8」やAPS-Cサイズのエントリーモデル「EOS R50」、「EOS R100」を発売しました。一眼レフカメラからの買い替えを促進するとともに、初めてフルサイズカメラやレンズ交換式カメラを使用するユーザーでも本格的な撮影を気軽に楽しめるモデルを投入することで多様化する顧客のニーズにお応えし、新規顧客獲得に努めています。レンズ交換式デジタルカメラ市場は、部品不足などによる供給問題解消に伴う販売促進活動の活発化や各社のミラーレスカメラと交換用レンズの新製品投入により、堅調に推移しています。当社としては、米国、欧州、中国、日本といった主要地域において、引き続き台数シェア1位を獲得しております。

 レンズ交換式デジタルカメラにおいては、撮影領域のより一層の拡大を目指し、更なる高画質化、小型・軽量化、動画機能/ネットワーク機能の充実など、最先端の技術をベースとした新しい製品を提供することにより、今後も成長を目指してまいります。

 レンズ交換式デジタルカメラ用交換レンズでは、APS-C専用の「RF-Sレンズ」2機種を含む9機種を投入し、RFレンズのラインアップを拡充いたしました。また、EOS Rシリーズカメラ本体との相乗効果もあり、RFレンズの販売が伸長しました。

 コンパクトデジタルカメラでは、市場縮小は小幅に留まりました。引き続き、堅調に推移しているプレミアムラインを強化し、収益性の向上に努めてまいります。また、高まる動画撮影需要に応えるべくVlogカメラ「PowerShot V10」を発売しました。新ジャンルのカメラの展開による新たな撮影体験の提供を通じ、更なる新規カメラユーザーの獲得を図ってまいります。

 コンパクトフォトプリンターでは、昨年下期に発売した「SELPHY CP1500」が各地域で高いプレゼンスを獲得しています。「SELPHY」は、簡単な操作性・優れた携帯性・高画質プリント・高耐久性という強みを持ち合わせています。今後更に新規需要を開拓し、市場を牽引してまいります。

 また、新規事業として、現実映像とCGをリアルタイムに融合するMR(Mixed Reality:複合現実)の事業にも取り組んでおります。21年に小型軽量モデルの「MREAL S1」、22年に広視野角モデル「MREAL X1」を投入し、製造業をはじめとして幅広い分野に3Dデータを活用したソリューションを提供してまいります。

 高度監視市場向けには、2023年8月に、世界初※1のカラー撮影用SPADセンサー搭載超高感度カメラ「MS-500」を発売しました。超望遠性能を有する放送用レンズと組み合わせて、闇夜でも数km先の被写体を鮮明に撮影できます。また、10月には、リアルタイムに映像を鮮明化する「映像鮮明化ソフトウェア」を発表しました。「MS-500」を含む超高感度カメラシリーズで撮影した映像に対し、AI画像処理技術によるノイズ低減処理などを行うことで、視認性をさらに向上できます。

 ネットワークカメラは、セキュリティ分野を中心に市場の成長が継続しています。また、ネットワークカメラに映像解析機能を加えてAIカメラ化する「AIアクセラレーター」などのエッジソリューションや、初期導入コスト・運用負荷を抑制できるArcules社のクラウド録画サービスも定着してきました。幅広いユーザーニーズに対応し、製造業、公共施設、教育関連施設などの分野でも顧客の課題解決に貢献しています。

 当社は、2015年にネットワークカメラ業界最大手のアクシス社をグループに迎えました。2023年は、世界的な部品供給不足から回復し力強い成長を見せており、約140の新製品を発売しました。また、ユーザーのニーズを汲み取り製品へ反映することを目的とし、現在、世界中に36ものアクシスエクスペリエンスセンター(AEC)を保有しています。

 産業向けには、DX推進のために3つの映像ソリューションを提供しています。

1.周囲環境の3次元情報からカメラの位置姿勢を推定する「Visual SLAM技術」を用いた映像解析ソフトウェア「Vision-based Navigation Software」は、新バージョンをAGV(Automated Guided Vehicle)メーカー向けに販売開始いたしました。

2.映像解析ソフトウェア「Vision Editionシリーズ」は、製造や流通における点検・検査の自動化を支援しています。画像処理性能の向上や外部機器・AI機能との連携強化を実現し、生産性向上ニーズに応えてまいります。

3.画像を用いた橋梁などのコンクリート構造物の点検においては、これまで請け負ってきたAI技術によるひび割れ検知のBPOサービスに加え、昨年から新たに提供を開始したクラウドサービスの展開が進み、より多くの顧客にご利用いただいております。

 業務用映像制作市場では、OTT※2配信での視聴拡大による大量かつ質の高いコンテンツや、ストリーミング・ネット動画の普及による動画コンテンツへの需要が継続しており、また、制作機器の小型軽量化、制作の効率化、省人化の需要は引き続き見受けられます。スポーツや音楽ライブ等を中継する放送ライブ市場では、コロナ禍で停滞していた各種イベントの復活から機材投資が継続しました。その中で当社は、シネマレンズ「Flex Zoom Lens」、「RF Prime Lens」、エントリー向け4Kリモートカメラ「CR-N100」、ハイエンド映像制作向けコントローラー「RC-IP1000」の市場導入を行いました。更に映像ソリューションにおいては、エンドユーザーが没入感ある体験を楽しめる空間コンピュータ等の視聴機器も出揃い始めているため、「ボリュメトリックビデオ」によるスポーツ中継やエンターテインメント、CMなどでの新しい映像表現、バーチャル3D空間でのデータの活用などの事業創出を加速してまいります。

 

※1カラー撮影用のSPADセンサー搭載カメラとして。2023年7月31日現在。(当社調べ)

※2オーバーザトップの略。これまで地上波放送、衛星、ケーブルテレビ等で提供されていた映像コンテンツを、インターネットを介して視聴者に直接提供するメディアサービス。

 

Ⅳ.インダストリアルビジネスユニット

 半導体露光装置市場では、米中貿易摩擦やメモリー市場の縮小等により投資への影響が懸念されてきましたが、地政学上のリスクをきっかけとした半導体自国生産の加速や、パワーデバイス等への露光装置需要の広がりにより、設備投資は堅調に推移しました。後工程露光装置の市場では、半導体チップの高集積化・薄型化への要求の高まりを受け、TSV(Through-Silicon Via)技術等によるメモリーの大容量化やウェハレベルパッケージング化などへの設備投資が伸長しました。

 当社では、多様化する半導体アプリケーションに柔軟に対応するため、顧客要望を製品開発の初期段階から反映させる「デザインイン」型のビジネススタイルが定着しております。高付加価値製品の開発も順調に進んでおり、急速に普及が進むIoT(Internet of Things)や車載デバイスなど幅広い分野に向けた製品を展開しております。業界最高水準の生産性と重ね合わせ精度を実現したKrFスキャナー「FPA-6300ES6a」、オプションラインアップを充実させた先端パッケージング向けi線ステッパー「FPA-5520iV」、シンプルな構造で回路パターンを形成するナノインプリントリソグラフィ技術を用いた半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」等により、更なる市場シェアの拡大を目指してまいります。また、市場で稼働する露光装置のサービス充実化に向けたソリューションプラットフォーム「Lithography Plus」では、装置のリアルタイム分析、異常時の自動復旧、最適な製造条件提案等により、当社の露光装置を導入しているユーザーの生産性向上に貢献してまいります。

 FPD露光装置市場は、新型コロナウイルス特需の反動をきっかけとしたパネル価格の下落等により顧客が投資調整期を迎えており、急激に縮小しています。これに伴い、顧客投資計画は一時的に延伸しておりますが、ITパネルの有機EL化需要が進展することで、2024年以降は緩やかな需要拡大を見込んでおります。

 薄型の普及が進むパネル市場は今後、大型化、4K/8Kの高精細化に加え、有機ELに代表される高品位なディスプレイに移行していくと予想されています。当社は、高品位な65型パネルを一括露光することにより高い生産性を実現する第8世代ガラス基板向け露光装置「MPAsp-H1003T」、中小型ディスプレイ製造の更なる高精細化ニーズに応える第6世代ガラス基板向け露光装置「MPAsp-E903T」、高生産性と高精細化を両立したIT機器用ディスプレイ向け露光装置「MPAsp-H1003H」により、更なる市場シェア拡大を目指してまいります。

 有機ELパネル製造装置市場においては、当社が圧倒的シェアを持つ中小型パネル向け有機EL蒸着装置の競争力を堅持すべく、次世代装置の開発を進めてまいります。

5【経営上の重要な契約等】

(1)当社が締結している技術供与契約

相手方の名称

国名

契約内容

契約期間

京セラドキュメントソリューションズ(株)

日本

電子写真に関する特許実施権の許諾

2002年4月1日から

対象特許の満了日まで

ブラザー工業(株)

日本

電子写真及びファクシミリに関する特許実施権の許諾

2009年6月27日から

対象特許の満了日まで

 

(2)当社が締結している相互技術援助契約

相手方の名称

国名

契約内容

契約期間

HP Inc.

米国

バブルジェットプリンターに関する特許実施権の許諾

1993年2月19日から

対象特許の満了日まで

Xerox Corporation

米国

ビジネスマシンに関する特許実施権の許諾

2001年3月30日から

対象特許の満了日まで

International Business Machines Corporation

米国

情報処理システム製品及びその製造装置に関する特許実施権の許諾

2005年12月15日から

対象特許の満了日まで

Eastman Kodak Company

米国

電子写真及びイメージ・プロセス技術に関する特許実施権の許諾

2006年11月1日から

対象特許の満了日まで

セイコーエプソン(株)

日本

情報関連機器に関する特許実施権の許諾

2008年8月22日から

対象特許の満了日まで

 

6【研究開発活動】

 当社は創業当時から、業界をリードするコア製品を生みだす「コアコンピタンス技術(以下、コア技術)」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらには、商品化技術のベースとなる「価値創造基盤技術」を多様に組み合わせた「コアコンピタンスマネジメント」を展開して事業の多角化を行ってきました。

 コアコンピタンスマネジメントでは、コア技術はその進化にともない、他事業でも再活用できる基盤要素技術として蓄積されていきます。たとえば、カメラの人物認識というコア技術は、AI・データ統計解析という基盤要素技術として蓄積され進化し、現在では、多角化を担うメディカル事業の医療ITシステムに組み込まれて事業の強化に貢献しています。

 このコアコンピタンスマネジメントは、研究開発のプロセスのなかでは「マトリックス研究開発体制」を通して行われています。本社の研究部門とそれぞれの製品を担う事業部の開発部門がマトリックス型の体制を敷き、全社技術の利活用が可能な体系を構築しています。製品の競争力のもととなるコア技術は事業部の開発部門が主体ですが、本社の研究部門は、先行的なトレンドリサーチと基盤技術開発を担い、事業部のもつコア技術の先行的な開発につなげています。

 さらに、コア技術/基盤要素技術という「製品に入る技術」と、価値創造基盤技術という「製品を支える技術」が一体となって全社で利活用が可能なホリスティックな(技術を複合的に連携できる)開発環境が整っていることが、当社の研究開発の最大の特徴となっています。これにより、製品に入る技術と製品を支える技術が強い技術として、同時に製品開発に投入されることで、競争力のある製品を生みだしています。

 当期におけるグループ全体の研究開発費は、331,914百万円であり、セグメントごとの主な研究開発の成果は次のとおりです。

 

 

Ⅰ.プリンティングビジネスユニット

 商業印刷向け大型複合機においては、定着ベルトの温度を均一に制御できる大径加熱ローラーと、用紙との接触面積が広いワイドニップを用いた新定着システム「POD-SURF」を開発し、「imagePRESS V1350」と「imagePRESS V1000」の2機種に搭載しました。「imagePRESS V1350」では、従来機種より35%向上した135枚/分のシリーズ最高の高速印刷を実現し、印刷物の短納期化に寄与します。「imagePRESS V1000」では、一冊の冊子で厚紙と普通紙が混在するような印刷でも用紙ごとに定着温度を切り替える頻度を抑制し、温度調整によるダウンタイムを削減しました。厚紙と普通紙で機器を分けずに、1台で高い生産性を維持した連続印刷が可能です。「imagePRESS V900」では、コンパクト設計でありながら、オプションユニットの拡張性と幅広い用紙対応力で多様な印刷が可能になりました。これまで上位機種でしか採用されていなかったオプションのインライン分光センサーで、高精度な色調整がボタン一つで実施可能になり、オペレーターの負荷軽減を実現します。ハードウエアだけでなく、リモート印刷管理アプリ「PRISMAremote Manager」を活用することで、印刷機から離れた場所でも用紙の補充タイミングや稼働状況をリアルタイムに把握可能です。用紙切れなどのエラーを事前に防止することで、ダウンタイムを削減し業務効率化を支援します。

 プロダクションCAD市場向けの大判インクジェットプリンター「imagePROGRAF TZ-30000 MFP」は、業界初となる「ストップレスロール紙交換システム」を搭載しています。本体にセットされた上下2段のロール紙のうち、一方が印刷中でも、もう一方のロール紙交換が可能となり、ダウンタイムを削減します。また、ポスター市場向けの「imagePROGRAF GP-4000/GP-2000/GP-300/GP-200」は、業界初となる蛍光インクを搭載し、ポスター印刷での明度と彩度を向上させ、明るく柔らかな色表現が可能になりました。図面印刷とポスター印刷のマルチユースに対応する「imagePROGRAF TM-355/350/340/255/250/240」はフラットトップデザインを採用し、ユーザーにロール紙を置く作業スペースとして平らな天面をご活用頂く事で、手間のかかるロール紙交換を簡単にしました。

 オフィス向け複合機においては、「imageRUNNER ADVANCE DX シリーズ」のラインアップを強化しています。新開発の低融点トナーにより定着温度を下げたことで、業界トップレベル※1の標準消費電力量(TEC2018※2)を実現しており、加えて小サイズ紙の出力生産性向上や、さまざまな静音化の工夫により稼働音の低減を図るなど、複合機としての本質性能を向上させています。増加するセキュリティリスクに対しても、ネットワークに接続されるIoT機器として、データの保存や通信において強固な暗号化機能を提供する「TPM 2.0」や「TLS 1.3」、無線LANのセキュリティプロトコル「WPA3」といった最新規格への対応、米国政府機関が定めたセキュリティ基準を示すガイドライン「NIST SP 800-171/172/193」への対応、「ネットワーク機能付き事務機セキュリティーガイドライン」への適合を示す「BMSec」マークの取得を行っています。加えて、「imageRUNNER ADVANCE DX シリーズ」はクラウド型MFP機能拡張プラットフォーム「uniFLOW Online」を介して、認証によるセキュアな印刷や集計レポート機能、さまざまなクラウドサービスとの連携や在宅勤務時でもオフィス同様のセキュリティを保って業務印刷が行える機能などを実現し、幅広いユーザーの業務のさらなる効率化に寄与します。使いやすく高性能な複合機と多彩なデジタルサービスの組み合わせで、オフィス業務のデジタルトランスフォーメーションを強力にサポートします。

 家庭用インクジェットプリンター「PIXUS XK120/TS8730/TS6730/TS6630」は、仕事や趣味・学習などのさまざまなユースシーンに応える機能と使い勝手を向上させました。写真や文書印刷に適した「XK120/TS8730」には、ユーザーのユースシーンに合わせて選択できるUI(ユーザーインターフェース)を採用し、少ない操作でプリントやスキャンなどを行えます。文書を印刷するユーザーに最適な「TS6730/TS6630」では、新開発のインクカートリッジの採用により、導入しやすいスタンダードモデルながら高速な文書スピードを実現しています。また、ビジネス向けインクジェットプリンターについては、低ランニングコストを実現する特大容量タンクを搭載した各種のプリンターを発売しました。在宅勤務に特化したフルフロントオペレーション対応の「GX2030/GX1030」、物流・薬局・小売りで使用される用紙の種類・サイズに幅広く対応し、1台で様々な印刷ができる「GX5530」、さらには、受付業務や窓口業務に特化したフロント操作のADFによる対面業務の効率化を実現した「GX6530」により、さまざまな角度からビジネスを支援していきます。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、97,925百万円であります。

 

※1 オフィス向けカラー複合機(A4片面、毎分25-35枚の出力速度)において。2023年8月1日現在。

     オフィス向けモノクロ複合機(A4片面、毎分25-45枚の出力速度)において。2022年9月27日現在。(当社調べ)

※2 国際エネルギースタープログラムで定められた測定法による数値。

 

 

Ⅱ.メディカルビジネスユニット

 当社では国産としては初めてのフォトンカウンティング検出器を搭載したX線CTの医療機器としての認証を2022年12月に取得、国立がん研究センター先端医療開発センター・国立がん研究センター東病院と連携し、特定臨床研究として早期のフォトンカウンティングCT(PCCT)実用化に向けた研究を推進し、新たな診断法の開発とその臨床的有用性の探索を行っています。加えて、専用の椅子に座ったままでも全身をスキャンできる世界初の全身用320列面検出器型の立位・座位CTの開発にも取り組んでおり、既に国内における健診での活用が開始されています。

 このような新たな臨床価値を生み出すユニークな技術をベースにアップストリームマーケティングを強化するべく、米国クリーブランド市近郊に「Canon Healthcare USA,Inc.」を設立し、臨床ニーズをとらえたグローバルな製品開発につなげる活動を行っています。

 また、2023年11月には米国クリーブランド・クリニック財団と当社は、患者さんにとってより良い医療を実現する画期的な医用画像ソリューションおよびヘルスケアIT技術の開発を目指す戦略的研究パートナーシップに合意しました。クリーブランド・クリニックの生物医学研究や臨床ケアにおける高い専門性と当社のイメージング技術を生かして共同研究を推進していきます。

 超音波診断装置では2023年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において、「2つの基本波の差周波と第2高調波を利用する超音波診断装置の開発」が科学技術賞(開発部門)を受賞しました。また画像処理の分野において2023年度全国発明表彰「心臓血管内治療中における治療用器具の表示方法改善の発明(特許第5523791号)」が「発明協会会長賞」および「発明実施功績賞」を受賞いたしました。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、47,182百万円であります。

 

 

Ⅲ.イメージングビジネスユニット

 レンズ交換式デジタルカメラ(デジタル一眼レフカメラ及びミラーレスカメラ)の世界市場において、2003年から21年連続で台数シェアNo.1※3を達成しました。これからも基本コンセプトである「快速・快適・高画質」を追求し続けることで、幅広い製品ラインアップを揃え、写真・映像文化の発展に貢献していきます。

 「EOS Rシステム」では、さらなるラインアップ拡充として、小型・軽量のフルサイズミラーレスカメラ「EOS R8」やAPS-Cサイズのエントリーモデル「EOS R50」、「EOS R100」を発売しました。一眼レフカメラからの買い替えを促進するとともに、初めてフルサイズカメラやレンズ交換式カメラを使用するユーザーでも本格的な撮影を気軽に楽しめるモデルを投入することで、多様化する顧客のニーズにお応えし、新規顧客獲得に努めています。

 また、「RFレンズ」では、大口径望遠ズームレンズ「RF100-300mm F2.8 L IS USM」や静止画撮影・映像制作現場両方のニーズに応える大口径標準ズームレンズ「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」、APS-C 専用の「RF-Sレンズ」2機種など、9機種をラインアップに加え累計41本まで拡充しています。

 超高感度カメラでは、世界最高画素数の約320万画素※4 1.0型SPADセンサーを搭載した「MS-500」を発売しました。当社は、SPADセンサーをはじめ、放送用レンズ、カメラの映像エンジンなどを自社で開発・製品化しています。各デバイスの特性と知見を十分に生かすことで、センサーやレンズの性能の良さを引きだしつつ、解像感や階調・色再現性の基本性能を向上しています。また、「映像鮮明化ソフトウエア」は、カメラメーカーとして蓄積してきた膨大な画像データベースと画像処理の知見をもとに、独自開発したディープラーニング画像処理技術を採用しています。カメラ単体では避けられない低照度環境下などで発生するノイズに対して、さらなる低減処理を行うことが可能です。

 製造や流通などにおける点検・検査の自動化を支援する映像解析ソフトウエア「Vision Edition」では、大規模遠隔監視システムに対応するためのマルチカメラ接続や、ビデオ管理ソフトウエア「Milestone XProtect」からの映像取得が可能になりました。また、画像添付可能なメール通知機能やAI画像処理との連携機能なども新機能として追加し、より多くの場面で顧客のDX推進に貢献してまいります。

 リモートカメラシステムでは、パン、チルト機構とズーム機能を備えた「CR-N100」で映像出力機能を講義や会議市場向けに改良することで従来機種からのローコスト化を実現しました。リモートカメラコントローラー「RC-IP1000」はIP接続され入力されたリモートカメラ映像を最大9台分表示し、表示映像のタッチ操作で制御カメラの切り替えが可能です。また最大200台までのカメラ接続が可能な「マルチカメラマネジメントアプリ」や人物の動きに合わせて自動で被写体を追尾する「自動追尾アプリケーション」、登録した画角へ繰り返し動作する「自動ループアプリケーション」によって、作業負荷軽減や省人化を支援します。

 「CINEMA EOS SYSTEM」と業務用ビデオカメラにおいては、ファームウエアアップデートによる商品力強化を図りました。またiPhoneアプリ「Canon Multi-Camera Control」は複数カメラの状態や映像表示可能とし、効率的な機材設定やリモート撮影ができるようになるなど、マルチカメラワークフローの効率化が実現できます。

 映像ソリューションにおいては、「ボリュメトリックビデオシステム」によりスポーツ放送で実際のカメラ位置にとらわれない自由な視点からの映像を展開しました。3Dコンテンツの撮影から編集までをワンストップで実現した「ボリュメトリックビデオスタジオ-川崎」では、CMやミュージックビデオ、TV番組で実績を積み重ね、虎ノ門ヒルズの情報発信拠点「TOKYO NODE」にも最先端のボリュメトリックビデオスタジオを開設しました。東京から世界に発信するためのクリエイティブエコシステム作りを目指します。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、93,834百万円であります。

 

※3 2024年3月現在。(当社調べ)

※4 映像撮影用のSPADセンサーとして。2023年7月31日現在。(当社調べ)有効画素数約210万画素。

 

 

Ⅳ.インダストリアルビジネスユニット

 半導体露光装置においては、ハンコのように押し付けるシンプルな仕組みで微細な回路パターン形成を実現するナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」により、最先端の半導体デバイス製造に貢献します。この装置は、投影露光装置のように光源の波長による微細化を必要としないため、消費電力やCO2の削減にも貢献しています。また、広画角と高解像力の両立により、フルサイズCMOSセンサーの製造に求められる高解像力での一括露光を実現するi線ステッパー「FPA-5550iX」により、拡大が期待されるXR市場等の幅広いデバイス製造をサポートします。

 FPD露光装置においては、第8世代ガラス基板にて、高生産性と高精細化を両立したIT機器用ディスプレイ向け露光装置「MPAsp-H1003H」により、需要が増加するノートPCやタブレット向けディスプレイパネルのニーズに応えています。この装置は第6世代ガラス基板向け露光装置の超解像技術を採用しており、1.5マイクロメートルの解像力を実現しています。また、従来から定評のある高速ステージ技術の進化改良により生産性向上にも寄与しています。

 計測機器分野においては、リサイクルの際に判別が困難な黒色プラスチック片とその他プラスチック片を高精度に選別する「トラッキング型ラマン分光技術」を開発し、再利用できるプラスチック量の最大化を目指します。

 当ビジネスユニットに係る研究開発費は、27,872百万円であります。

 

 

 また、基礎研究等のその他及び全社に係る研究開発費は65,101百万円であります。

 

 注:製品名は日本国内での名称です。