1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
文中の将来に関する事項は、当年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営の基本方針
当社は2019年度に、2027年に向けた新たなキリングループ長期経営構想である「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)を策定しました。また、KV2027の実現に向けて、社会と価値を共創し持続的に成長するための指針である「キリングループCSVパーパス」(略称:CSVパーパス)を策定しました。
長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」
キリングループは、グループ経営理念及びグループ共通の価値観である“One KIRIN”Values のもと、食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となることを目指します。
食から医にわたる領域における価値創造に向けては、既存事業領域である「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループならではの強みを活かした「ヘルスサイエンス領域」を立ち上げました。「ヘルスサイエンス領域」では、キリングループ創業以来の基幹技術である発酵&バイオテクノロジーに磨きをかけ、これまで培ってきた組織能力や資産を活用し、キリングループの次世代の成長の柱となる事業を育成しています。また、社会課題の解決をグループの成長機会と捉え、イノベーションを実現する組織能力をより強化し、持続的な成長を可能にする事業ポートフォリオを構築しています。
持続的成長のための経営諸課題「グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM」
キリングループは、社会とともに、持続的に存続・発展していく上での重要テーマを事業へのインパクトとステークホルダーへのインパクトの2つの観点から評価し、「持続的成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM)」に整理しています。GMMは時間の経過とともに変化していくものと捉え、中期経営計画策定(3年)ごとに再評価し、改訂しています。
2022年中期経営計画の策定に合わせ、新型コロナウイルス感染症の拡大をはじめとする環境変化やステークホルダーからの期待を踏まえて、GMMの粒度を細分化して重要性を再評価することにより、社会的要請への適合度を高めました。
※各象限内の重要性に差異はありません。
「キリングループCSVパーパス」
GMMに基づき、当社は「酒類メーカーとしての責任」を果たすことを前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の4つの領域の課題解決を目指しており、これを「CSVパーパス」と定めています。また、具体的なアクションプランをCSVコミットメントとして、成果指標を会社別により具体化して目標値を設定し、グループ各社の取り組みに繋げています。
価値創造モデル/CSV経営の概念
CSV経営のベースの考え方である「社会課題の解決を通じて、社会的価値と経済的価値を創出すること」を持続的に推進していく仕組みとして、当社は価値創造モデルを策定しています。イノベーションを生み出すための組織能力(INPUT)を基盤として、社会課題の解決に事業活動(BUSINESS)を通じて取り組むことで、価値(OUTPUT/OUTCOME)を創出しCSVパーパスを実現しています。特に人的資本や自然資本などの非財務資本の強化は、社会と共に自然の恵みを利用しながら事業を行う当社にとって、継続的な価値の創造につながります。
事業を通じて、当社は社会的価値と経済的価値を同時に生み出し、それらを組織能力などの経営基盤に再投資することで、持続的に資本と価値を成長させることを目指しています。
このCSV経営を推進していくことがどのように企業価値の向上に繋がっているかを図示すると以下のようになります。
社会課題の解決を通じた事業活動(Business)は経済的価値を生み、フリー・キャッシュフローを増加させると共に、事業リスクを低減することにつながるため、資本コストを下げ、企業価値の向上に寄与します。
他方、これらの活動から社会的価値を創出し、その価値がお客様のニーズを充足することで、弊社の製品・サービスに対するWillingness to Payが高まり、長期的にはフリー・キャッシュフローの増加にも影響すると考えられます。さらに、社会的価値が創出され高い水準になることで、従業員エンゲージメントの上昇や採用での優位性などにも影響することが考えられ、価値創造モデルにおけるINPUTの基盤である人的資本の強化に繋がります。その結果、企業の成長率にもポジティブな影響を及ぼすと当社は認識しています。
(参考)
・持続的な成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス)
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/materiality/
・キリングループ CSVパーパス
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/csv_purpose/
・キリングループ CSVコミットメント
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/commitment/
・価値創造モデル
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/model/
(2)中長期的な経営戦略と目標とする経営指標
キリングループ2022年-2024年中期経営計画
近年、世界各地で起こる異常気象、天候不順など、社会システムを大きく揺るがす環境変化が続きましたが、特に2020年以降は、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、生活者の意識は大きく変化しました。このような環境下においても、キリングループは、新型コロナウイルスの影響を最小限に抑え、新たな社会課題に向き合ってきました。KV2027の実現に向けた最初の3カ年計画「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」(略称:2019年中計)では、食、ヘルスサイエンス、医の各ビジネス領域で、新たな成長軌道に向けた変革の基盤づくりに取り組みました。さらに、各ビジネスが健全に成長できるよう、コーポレートガバナンス体制を強化するなど、2022年度から始まる新たな中期経営計画を実行する準備を整えることができました。
2019年中計期間中に起きた外部環境の変化を受けて、改めて当社が目指すKV2027の方向性に間違いはなく、10年後に想定していた社会が前倒しで到来していると認識しています。2027年までの長期経営構想の第2ステージとなる「キリングループ2022年-2024年中期経営計画」(略称:2022年中計)は、変革の基盤づくりを行った2019年中計から、新たな成長軌道へシフトし、KV2027実現に向けた成長ストーリーを固めていくステージです。食、ヘルスサイエンス、医の3領域の成長により企業価値を向上させるべく、ポートフォリオマネジメントを強化し、投資の優先順位を明確にすることで経営資源を集中させています。
(基本方針)
2021年度までに実現した成果を基礎とし、ポストコロナを見据えた事業構造改革の実行と新たな価値創造により、成長を加速しています。
(重点課題)
①キャッシュ創出をリードする食領域での利益の増大
②将来の大きな柱となるヘルスサイエンス領域での規模の拡大
③グローバル・スペシャリティファーマの地位を確立する医領域でのグローバル基盤の強化
(重要成果指標)
2022年中計の財務指標について、平準化EPSの成長による株主価値向上を目指すと共に、成長投資を優先的に実施する3ヵ年の財務指標としてROICの採用を継続します。非財務目標については、CSVを経営の根幹にすえる当社にふさわしいものとして、より直接的に経済的価値に繋がる指標に変更しました。
また、重要成果指標(財務目標・非財務目標)及び単年度連結事業利益目標の達成度を役員報酬に連動させることにより、株主・投資家との中長期的な価値共有を促進しています。(なお、役員報酬に関する詳細は、第4[提出会社の状況]4[コーポレート・ガバナンスの状況等](4)[役員の報酬等]をご参照ください。)
[財務目標※1]
※1 財務指標の達成度評価にあたっては、在外子会社等の財務諸表項目の換算における各年度の為替変動による影響等を除く。
※2 ROIC=利払前税引後利益/(有利子負債の期首期末平均+資本合計の期首期末平均)
※3 平準化EPS=平準化当期利益/期中平均株式数
平準化当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益±税金等調整後その他の営業収益・費用等
[非財務目標]
(財務方針)
中計3年間で創出する営業キャッシュ・フローの総額は約7,000億円を想定しています。資金使途として最も優先順位の高い配当金については、平準化EPSに対する配当性向40%以上を継続し、約2,300億円を予定しています。2019年中計では、設備投資計画を約3,100億円としましたが、2022年中計では基盤投資・成長投資に区分した上で、合計約4,000億円に増額しています。通常の設備投資に加え、3領域の新たな成長に向けた投資枠として区分し、ウェイトを高めることで企業価値向上に繋げます。
オーガニック成長に加え規模の拡大を目指すべく、M&A投資の機会についても探索しています。特に、規模の拡大を目指すヘルスサイエンス領域においては、国内外で幅広く機会を検討しています。なお、M&A投資を行う際の原資は、バランスシートのスリム化やポートフォリオマネジメントによるノンコア事業の売却で賄うことを基本とします。
M&Aを除く事業領域ごとのキャッシュ・フロー計画として、食領域では、投資額を一定水準に抑えた上で、利益成長による営業キャッシュ・フローの最大化を目指しています。ヘルスサイエンス領域では、中長期的な営業キャッシュ・フロー最大化に向けた設備投資を行います。医領域については、グローバル戦略品の成長により営業キャッシュ・フローが順調に拡大する計画ですが、グローバル・スペシャリティファーマとしての持続的成長に必要な生産・営業基盤をグローバルレベルで整えるべく、必要な設備投資を進めています。
キャッシュ・フロー計画に加え、2022年中計ではバランスシートマネジメントを重視しています。2021年に導入したグローバルキャッシュマネジメントシステムを通じて、国内外のグループ会社が保有するキャッシュの一元管理による運転資金の最適化や、SCM※4の効率化によるキャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善などにより、中計3年間で約1,000億円規模のキャッシュを創出します。
また、事業ポートフォリオについては、取締役会での継続的な議論により、ノンコアと判断した事業の売却を検討していきます。
これら、バランスシートマネジメント、ポートフォリオマネジメントにより創出したキャッシュは、将来の成長ドライバーを獲得するためのM&A投資に優先して振り向けます。一方、自己株式の取得を中心とする追加的株主還元については、投資機会や、キャッシュイン/アウトのバランスを考慮しながら機動的に判断していきます。
※4 サプライ・チェーン・マネジメント(Supply Chain Management)の略。原材料の調達、工場での生産、商品の需給・物流の供給連鎖を効率よく構築し管理することを指す。
(非財務方針)
2022年中計基本方針に従い、非財務への取り組みもより強化しています。ポストコロナを見据えた「イノベーションを実現する組織能力」の強化や、キリングループのDNAである品質本位の徹底、効率と持続可能性を両立するSCM※体制の構築、価値創造を支えるガバナンスの強化により、強固な組織基盤の構築を目指しています。また、組織能力の強化とステークホルダーからの期待を踏まえ、経済的価値に直接的につながる非財務目標を設定し、価値創造モデルのInput~Business~Outputを強化することでより大きなOutcomeの創出を目指しています。非財務資本への戦略的な取り組みを通じて、当社はCSV経営を推進し、社会のサステナビリティ課題の解決にも貢献していきます。
(3)会社の対処すべき課題
世界各地で紛争が続き、社会生活や経済活動に負の影響を与えています。およそ4年にわたったコロナ禍は収束しつつありますが、感染症の発生は今後も避けられません。地球温暖化の深刻度も高まり、経営環境は一層複雑さを増しています。このような時代だからこそ、キリングループは社会課題に正面から向き合い、課題解決と同時に経済価値を創出するCSV経営を実践し、持続可能な社会への貢献とグループの持続的成長を追求していきます。食領域、医領域、ヘルスサイエンス領域の成長に国内外で取り組み、特にヘルスサイエンス領域では、Blackmores Limitedを加えたグローバル事業体制を推し進めていきます。キリングループの成長を支えるのは、発酵・バイオテクノロジーを根幹とした技術力に加えて、人財、ICT等の組織能力です。人財に関しては、グループが持つ事業ポートフォリオによる多様な事業経験を通じ、専門性と多様性を備えた人財を育成すると同時に、イノベーションを創発し続ける組織風土の醸成を目指します。人権尊重の取り組みでは、改定した「キリングループ人権方針」のもと、原材料の調達先を含めたバリューチェーンにおける人権の負の影響の特定、その予防・軽減・是正、モニタリング、情報開示まで一貫して取り組む「人権デューデリジェンス」を進めていきます。ICTの領域では、営業や商品開発、調達・生産・物流など様々な分野で、生成AI等のデジタル技術を活用した業務プロセス改革や効率化を進めていきます。これらの取り組みを通じて、財務目標である「平準化EPS」「ROIC」と、非財務目標である「環境」「健康」「従業員」各項目の達成を目指します。なお、2024年度より事業セグメントを「酒類事業」「飲料事業」「医薬事業」「ヘルスサイエンス事業」「その他事業」と改めます。
①食領域(酒類・飲料事業)
「食領域」では、引き続き主力ブランドを中心とした強固なブランド体系の確立と、高付加価値・高単価商品の育成による高収益化に取り組みます。
麒麟麦酒㈱は、「キリン一番搾り生ビール」を中心に、多様なラインアップでブランドの魅力や楽しみ方を提案します。「本麒麟」はリニューアルを行い、ブランド価値の発信を継続していきます。また、今春にはビールカテゴリーの新ブランドを発売するなど、強固なブランド体系の確立を目指します。
クラフトビールの拡大にも引き続き取り組みます。3月に「スプリングバレー」ブランドをリニューアルし、ビールがより身近に感じられる機会を増やすことで、ビールが持つ多様な楽しみ方を伝えていきます。また、同ブランドの直営店「スプリングバレーブルワリー東京」(東京都渋谷区)を全面リニューアルし、気軽にクラフトビールを体験できる機会を提供します。これらにより、新価値を提供する事業・ブランドの着実な成長にも取り組みます。
キリンビバレッジ㈱は、「午後の紅茶」ブランドや「生茶」ブランドから付加価値の高い商品を展開することで、紅茶カテゴリーの活性化と無糖茶カテゴリーの魅力化に取り組みます。4月に「キリン 生茶」をリニューアルし、ブランド力の強化を図ります。また、プラズマ乳酸菌入り飲料にも引き続き注力します。「おいしい免疫ケア」「おいしい免疫ケア カロリーオフ」をリニューアルするほか、お客様の生活シーンやニーズを捉えた新商品を投入し、「免疫ケア」の習慣化を一層進めることで、「免疫ケア」市場の拡大を目指します。
LIONは、豪州での主力ビールブランド「XXXX (フォーエックス)」や、新たに豪州とニュージーランドで販売を開始した「キリン 氷結®」等のブランド強化に注力します。また、豪州や北米でクラフトビールの拡大に引き続き取り組みます。
メルシャン㈱は、日本ワイン「シャトー・メルシャン」を中心に取り組み、収益性を強化します。
Coke Northeastは、売り上げ成長を実現させながら、サプライチェーンの生産性を高めるITの活用により、高収益体制を維持していきます。
②医領域(医薬事業)
協和キリン㈱は、グローバル戦略品である「Crysvita」や「Poteligeo※1」のさらなる成長を目指します。また、パイプライン充実に向け、主要開発品の「KHK4083(一般名:rocatinlimab)」 や 「KHK4951(一般名:tivozanib)※2」 のグローバル開発を着実に進捗させるとともに、Orchard Therapeutics plcとの統合・連携を進めます。
※1 特定の血液がんの治療薬です。国内では製品名「ポテリジオ」として販売しています。
※2 滲出型加齢黄斑変性(視細胞が密着する黄斑と呼ばれる部位に異常な血管新生が起こり、急激な視力低下を招く疾患)
及び糖尿病黄斑浮腫(高血糖により網膜が損傷を受ける疾患の合併症として、黄斑部の毛細血管が障害され、黄斑に浮
腫が生じて視力が低下する疾患)の治療を目的とした開発品です。
③ヘルスサイエンス領域(ヘルスサイエンス事業)
コロナ禍を経て、人々の健康意識は高まっています。グループの強みであるお客様主語のマーケティング力や価値を創出する技術力をさらに高め、アジア・パシフィックを中心にグローバル展開を進めます。Blackmores Limitedや㈱ファンケルのブランド力を生かし、キリングループ全体で独自の事業モデルを確立します。
国内では、2024年も「免疫ケア」ニーズの拡大に引き続き取り組み、プラズマ乳酸菌関連事業の成長を目指します。㈱ファンケルとは、「カロリミット」ブランドのキリングループ各社での展開や、通販事業のノウハウ共有による効率化、共同研究の推進等、グループシナジーを拡大します。
海外では、豪州を基盤とするBlackmores Limitedを中心に、成長市場である東南アジアでの地位を盤石なものとします。「プラズマ乳酸菌」を活用した商品開発も進めます。
キリングループは、強みである発酵・バイオテクノロジーを軸に、食、医、ヘルスサイエンスの各領域で社会的価値と経済的価値を創造するCSV経営を実践しています。2022年中計最終年度となる2024年も、グループ全従業員の挑戦と創意工夫で戦略実行力をさらに高め、世界のCSV先進企業への歩みを進めます。
今後とも、株主の皆様の一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
経営理念・長期経営計画に基づき、当社は気候変動や人的資本等のサステナビリティに関連する課題について、リスク低減のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、CSV経営を積極的・能動的に推進することで、中長期的な企業価値の向上とサステナビリティ課題の解決の両立を目指しています。当社はサステナビリティ課題全般およびテーマごとに、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の観点から考え方を整理し、取り組みを強化しています。
(1)サステナビリティ課題全般
(2)テーマ別
当社グループは、気候変動に対するレジリエンスを高め、適切かつ継続的に自然資本を利用し、循環型社会の構築に貢献するために、緩和や適応などの移行戦略を推進しています。当社は気候変動・自然資本・人的資本など、様々なサステナビリティ課題が社会と企業に与えるリスクと機会や戦略のレジリエンスを評価し、幅広いステークホルダーへ情報開示を行っています。
[気候変動・自然資本への対応]
気候変動問題はグローバル社会の最重要課題の1つであると同時に、農産物と水を原料とし「自然の恵み」を享受して事業を行うキリングループにとって重要な経営課題です。この認識の元、キリングループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に公表した提言に準拠し、2018年からいち早くシナリオ分析とその開示を実施しています。2022年には、世界に先駆けて自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のフレームワークβ版のLEAPアプローチによる開示を行い、2023年にはTCFDとTNFDの両フレームワークに基づいて気候変動情報と自然資本情報を統合的に開示しました。気候変動や自然資本などの環境課題に対して統合的(holistic)にアプローチすることで、キリングループのレジリエンスを高め、脱炭素とネイチャー・ポジティブをリードしていきます。
※1:2021年10月に公開された「 TCFD 指標、目標、移行計画に関するガイダンス」および「TCFDの提言の実施(2021年版)」を指します。
※2:2022年末実績です。
※3:各年度のScope3算定には産総研 IDEA Ver2.3、Ver.3.1を使用しています。
リスク・機会の事業インパクト評価と対応戦略
2017年以降、継続的に気候変動のシナリオ分析を行うことで、気候変動によるリスクと機会の把握レベルと戦略を向上してきました。2023年は、自然資本や容器包装のインパクト評価を依存性や影響なども考慮して試算し、統合的に開示しています。
財務影響の分析
※4:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※5:GHG排出量削減を行わなかった場合で評価しています。
※6:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※7:現地コーヒー農園からのヒアリングより試算しています。
2022年~2023年、TCFD新ガイダンスが求めるアセットに対する気候変動の影響分析を実施しました。事業売却・自然災害などによる影響は小さいと評価しています。
※8:目標達成可能性は若干容易になる方向ではあるものの、必要な投資・費用に大きな影響はないと判断しています。
※9:自然災害モデルAIR洪水シミュレーションでの算出結果です。自然災害によるエクスポージャーも小さいと考えていますが、今後事業所の現地調査等を行い付保の可否についても検討していきます。
※10:気候変動に伴う法規制または社会的な情勢を主要因として耐用年数に達さず更新せざるを得なくなる可能性は低いと判断しています。参考としてキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンのボイラー、および物流グループ会社所有のトラックの残存簿価の合計値を提示しています。
移行計画
気候変動の緩和に対するロードマップを策定し、グループ経営戦略会議で審議・決議して2022年1月より運用を開始しています。自然資本については、生態系保全に加えて「自然に根差した社会課題の解決策」として気候変動の緩和策や適応策を含めたロードマップの策定を検討しています。ペットボトルに関しては、2027年の国内再生樹脂使用比率50%に向けたロードマップを策定して運用を開始しています。
投資計画
2030年までは損益中立を原則とし、省エネ効果で得られたコストメリットで投資による減価償却費や再生可能エネルギー電力調達の増加分を相殺します。GHG排出量削減を主目的とした環境投資の指標としてNPV(Net Present Value)を使用し、投資判断枠組みにはICP(Internal Carbon Pricing:$63/tCO2e)を導入しています。再生PET樹脂の調達及び工場におけるヒートポンプシステム導入への支出を資金使途とするグリーンボンド(期間:2020年~2024年、100億円)に続き、2023年1月には、当社がScope1とScope2の温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けて推進する省エネ、および再生可能エネルギー関連のプロジェクトに充当する国内食品企業初のトランジション・リンク・ローンによる資金調達(期間:2022年~2042年、500億円)を実行しました。本ローンについては、経済産業省による令和4年度温暖化対策促進事業費補助金及び産業競争力強化法に基づく成果連動型利子補給制度(カーボンニュートラル実現に向けたトランジション推進のための金融支援)が適用されます。2022年には、省エネルギーに44億円、再生エネルギーの拡大に14億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。また、2023年には、省エネルギーに51億円、再生エネルギーの拡大に20億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。
気候変動対応ロードマップの投資予定※12
(単位:億円)
※12:2019-2021年中計は実績。2022~2030年はトランジション・リンク・ローン策定時の想定であり、今後修正される可能性があります。
※13:再生可能エネルギー使用拡大には再生可能エネルギー電力調達に関わる全ての投資額を含めております。
[人的資本への対応]
人財戦略を取りまく環境は社内外で大きく変化しており、キリングループの人財戦略も大きな転換期を迎えています。生活環境の変化や個人の価値観の多様化もあいまって、働き方をはじめ労働市場環境は劇的に変化し、また、キリングループにおいては事業ポートフォリオの転換によって、経営戦略実行に求められる人財も変化しています。
キリングループでは、「人財」を価値創造・競争優位の源泉とあらためて位置づけ、その価値を最大限引き出すことで、KV2027の実現と、グループの持続的成長・価値向上を実現していきます。
3 【事業等のリスク】
(1) リスクマネジメントの考え方
キリングループでは、経営目標の達成や企業の継続性に大きな影響を与える不確実性を「リスク」、ある時点を境にリスクが顕在化し対応に緊急性を要するものを「クライシス」と定義しており、お客様、従業員、株主および社会から長期的な信頼を獲得できるよう、以下の考え方のもとリスクマネジメントシステムを構築・運用することで、事業活動上で発生するさまざまなリスクを特定し、適切にコントロールしていくことを基本方針としています。なお、リスク情報は、当社ホームページなどを通じて適時適切に開示してまいります。
(基本方針)
① 経営理念および価値観のもと、経営目標の達成や企業の継続性を確保し、企業の社会的責任を果たし、中長期的な企業価値の向上を目的として、リスクマネジメントを実行する。
② 戦略とリスクを一体で検討を行い、適切なリスクテイクを実現する。
③ リスクマネジメントの推進のため、組織や仕組みを整え、環境変化に柔軟に対応できる組織能力の向上を図る。
④ 平時からリスクの洗い出しを行い、企業活動に伴うさまざまなリスクを把握の上、リスクの特定・分析・評価・対策+モニタリングを行い、リスクへの適切な対応(保有、低減、回避、移転)を行っていく。
⑤ リスクマネジメントは全社員が参画して取り組む活動であるとの認識を持ち、教育や訓練等の啓発活動を通じて、リスクへの感度の醸成を図る。
⑥ クライシスに対しては、未然防止を徹底するとともに、早期発見、迅速な報告・情報共有・対応を通じ、影響を最小化する。クライシスの対応後には、その発生要因・対処法などを分析し、再発防止に努める。
⑦ 会社におけるリスクの内容や対策等のリスク情報について、適時、ステークホルダーに対し適切な情報開示を行う。
(2)リスクマネジメント体制及び、グループ重要リスクの確定プロセスとモニタリング
キリングループでは、キリンホールディングスの常務執行役員以上で構成され、リスク担当執行役員が委員長を務める「グループリスク・コンプライアンス委員会」を設置しています。同委員会は、リスク情報の収集やグループリスク方針の立案、リスク低減に向けた取り組み、クライシス発生時の情報共有や対策の検討、グループ会社への必要な指示や支援など、リスクマネジメント活動の全般を統括しています。また、取締役会ではグループ重要リスクの審議や報告を通じ、リスクマネジメントの有効性を監督しています。(図1)
グループ重要リスクの確定プロセスについては、各年度で設定するキリングループのリスクマネジメント方針に基づき、グループ会社で戦略・事業遂行上のリスクや重大なクライシスに転ずる可能性のあるリスクを検討し抽出しています。キリンホールディングスではこれら事業固有のリスクを集約し、またグループ全体に共通するリスクについて精査します。それぞれのリスクについて全社的な経営の観点からグループリスク・コンプライアンス委員会において経済的損失や事業継続性、レピュテーション棄損などグループとして影響度が大きなリスクを定量・定性の両面で総合的に評価し、発生確率を踏まえて優先順位の高いリスクを選定しています。これを取締役会にて審議し、グループ重要リスクとして確定させています。(図2)
グループ重要リスクについては、影響度と発生確率を踏まえてリスクマップ上で一元化して管理し、最重要リスクについては取締役会でも状況変化の確認や対策の見直しを行っています。(図3)キリンホールディングスおよび当該グループ会社ではリスク内容に応じた対策を立案し実行していますが、キリンホールディングスはグループ会社に対して必要な支援や指示を行い、グループ会社はキリンホールディングスに報告や相談を行うなど、相互に連携することでリスクマネジメントを推進・運用しています。また、各グループ会社およびキリンホールディングスは戦略・リスクの両面から事業と機能の両軸でモニタリングを実施し、戦略リスクを管理・統制すると共に、クライシスに転ずるリスクの顕在化の未然防止や発生時にはその影響を最小限に留めるなど、リスクマネジメント体制を整備し、リスクの低減や適切な管理に努めています。(図4)
(図1)
(図2)
(図3) (図4)
(3) キリングループの主要なリスク
キリングループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主要な事項について、「各事業領域におけるリスク」と「各事業領域共通のリスク」に分類して記載しています。なお、本文中における将来に関する事項は、別段の記載がない限り当年度末において当社が判断した内容に基づきます。
① 各事業領域におけるリスク
② 各事業領域共通のリスク
上記以外にも、レピュテーションに関するリスク、地政学上のリスク、事業投資に関わるリスク、法改正に伴うリスクなど様々なリスクがあります。これらのリスクを認識した上で、発生の未然防止・速やかな対応に努めてまいります。
4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたりまして、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
詳細につきましては、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等]内、連結財務諸表注記」に記載のとおりであります。
(2) 経営成績の状況
①事業全体の状況
2023年、日本国内では、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染症法上の位置付けが5類に移行し、社会生活や働き方がふたたび変化した1年でした。人の移動が活発になり、街は賑わいを取り戻しつつあります。一方、世界では様々な地域で地政学リスクが高まり、世界的なインフレや為替変動等が続いています。加えて、地球温暖化による新たな感染症のリスク増大や、生成AIをはじめとしたITテクノロジーが急速に進化するなど、消費者の価値観や行動、社会の変化はますます複雑で先行きが見通せない時代です。
キリングループは、創業以来一貫して発酵・バイオテクノロジーをコア技術とし、酒類・飲料事業だけでなく、医薬事業にも強みを持つ、世界でも類を見ない企業グループへ進化を続けています。
このコア技術を背景に、「プラズマ乳酸菌」等特長ある素材を生かしたヘルスサイエンス事業に2019年から取り組んでいます。
健康課題のみならず、社会が抱える課題をキリングループの強みで解決し、同時に企業としての経済的価値を創出し企業価値の最大化を実現していきます。
2023年のキリングループは、不確実性が高まる厳しい環境下でも、着実に成果を上げました。長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)のもと、「キリングループ 2022年-2024年中期経営計画」(略称:2022年中計)の達成に向け、食領域の利益増大や医領域のグローバル基盤強化、ヘルスサイエンス領域の拡大を推進しました。
・食領域
酒類・飲料事業では、国内外で主力ブランドの強化と、新たな成長エンジン育成に向けた高付加価値商品の拡大に取り組みました。また、原材料価格の高騰など厳しい環境下でもコスト削減や価格改定で対応し、収益性改善に取り組みました。
・医領域
協和キリン㈱では、グローバル戦略品の価値最大化に注力しました。また、次世代パイプラインの拡充と将来の医療ニーズへの対応に向けて英国のバイオ医薬品メーカー、Orchard Therapeutics plcの株式取得のための契約を締結するなど、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、持続的成長に向けた基盤強化を進めました。
・ヘルスサイエンス領域
プラズマ乳酸菌関連事業を中心に、飲料やサプリメント等自社グループ商品の積極展開に加え、外部パートナー企業による商品展開を通じ、事業規模を拡大しました。また、豪州を拠点にアジア・パシフィックでサプリメント等の健康食品(ナチュラル・ヘルス)事業を展開する、Blackmores Limitedの株式を取得し、ヘルスサイエンス領域の成長加速に向けた体制を構築しました。
ESGの観点でも多くの実績を上げ、国内外で高い評価を獲得しました。
7月に発行した「環境報告書2023」では、TCFDとTNFDに基づく統合的な環境経営情報を開示した事例が、投資家をはじめとする世界のステークホルダーから、先駆的な取り組みと評価されました。
麒麟麦酒㈱では、国内全ての工場・営業拠点で購入電力の再生可能エネルギー(以下、再エネ)100%化を進めました。
メルシャン㈱では、「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」が、生物多様性の損失を止め回復させる世界目標「30by30」達成に資する自然共生サイトとして、環境省から正式認定されました。
ヘルスサイエンス領域では、「プラズマ乳酸菌」の発見・商品化による社会への貢献が評価され、「令和5年度全国発明表彰」で、健康食品素材で初、食品企業としては59年ぶりに「恩賜発明賞」を受賞しました。
また、「第7回日経スマートワーク経営調査」では、7年連続で最高位を獲得しました。多様で柔軟な働き方やエンゲージメントの項目が評価されたものです。「第5回日経SDGs経営調査」でも、5年連続で最高位を獲得しました。事業を通じ、持続可能な資源活用や生物多様性の保全に取り組んだ成果が評価されたものです。
(重要成果指標)
当年度の連結売上収益は、国内ビール・スピリッツ事業、国内飲料事業、オセアニア酒類事業、医薬事業及びコーク・ノースイースト社の増収により増加しました。連結事業利益は、国内飲料事業、協和発酵バイオ㈱等が減益となりましたが、国内ビール・スピリッツ事業、オセアニア酒類事業、医薬事業及びコーク・ノースイースト社等が増益となり、全体では増益となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、ミャンマー事業撤退による為替換算調整勘定の実現損、協和発酵バイオ㈱および協和キリン㈱に係る減損損失の計上があったものの、協和キリン㈱の欧州事業売却や持分法投資損益の増加等により増益となりました。
重要成果指標について、ROICは、Blackmores Limitedの取得等により8.0%となりました。平準化EPSは、連結事業利益の増加等により前年より6円増加の177円と過去最高となりました。
②セグメント情報に記載された区分ごとの状況
セグメント別の業績は次のとおりです。
<国内ビール・スピリッツ事業>
国内酒類市場は、原材料価格高騰の影響を受ける中、各社収益性確保に向け価格改定が進みました。10月の酒税改正と価格改定により、ビールと発泡酒・新ジャンルの価格差が縮小しました。それに伴い、ビールカテゴリーが活況を呈しました。麒麟麦酒㈱では主力ブランドの「キリン一番搾り生ビール」と、健康志向を捉えた「キリン一番搾り糖質ゼロ」をリニューアルし堅調に推移したことに加え、業務用市場の回復も追い風となり、「一番搾り」ブランド全体の販売数量は、前年比5%増となりました。新たな成長エンジンであるクラフトビールカテゴリーでは、「スプリングバレー」ブランドから「スプリングバレージャパンエール<香>」と、限定商品の「スプリングバレーアフターダーク<黒>」を発売しラインアップを強化するとともに、流通企業やクラフトビールメーカーとも連携し、クラフトビールの売場拡大を進めました。また、業務用市場においても、飲食店向けビールサーバー「Tap Marché (タップ・マルシェ)」の取り扱い店舗拡大に取り組み、クラフトビールの体験機会を提供しました。麒麟麦酒㈱のウイスキーづくりは、富士御殿場蒸溜所が稼働した1973年に始まり、2023年に50周年を迎えました。代表ブランドの「富士」は、国内での販売実績が前年の2.7倍に伸長したほか、海外では欧州における展開国をさらに拡大しました。RTDカテゴリーでは、主力の「キリン氷結®」ブランドが好調に推移しました。特に「キリン氷結®無糖」シリーズが、年間の販売目標を10月に達成するなど、前年比35%増と大きく伸長しました。また、高付加価値RTD商品として、「キリン上々焼酎ソーダ」を10月に発売し、食事に合うRTDとして新たな需要を開拓しました。
これらの結果、売上収益は3.2%増加し6,849億円となりました。また、事業利益は、原材料等の高騰影響を上回る価格改定効果等により、4.1%増加し777億円となりました。
<国内飲料事業>
国内の清涼飲料市場は、原材料価格の高騰等厳しい環境の中でも、猛暑や健康意識の高まりにより、夏場の需要や健康市場は拡大しました。「午後の紅茶」ブランドは、主力の「キリン午後の紅茶」をリニューアルし夏の需要拡大に取り組みました。また、「キリン午後の紅茶おいしい無糖ミルクティー」を発売し無糖紅茶の強化を図り、「午後の紅茶」ブランド全体は前年比2%増となりました。「生茶」ブランドからは、「キリン生茶リッチ」を9月に発売し、販売開始から2週間で1,000万本を突破するなど、好調に推移しました。注力するヘルスサイエンス領域では、プラズマ乳酸菌入り飲料を中心に、お客様のニーズに合わせた多様な商品を市場に投入し、「免疫ケア」の習慣化に取り組みました。新たに発売した「キリンおいしい免疫ケア」シリーズは、「キリンおいしい免疫ケアカロリーオフ」と「キリンおいしい免疫ケア睡眠」も加わり、2022年から同容器で発売していた商品と比べて、販売数量は3.4倍に拡大しました。また、「iMUSE」ブランドは、好評な「キリンiMUSE ヨーグルトテイスト」を11月にリニューアルし、健康意識の高まる冬に向けて強化しました。これらの結果、プラズマ乳酸菌入り飲料の販売数量は前年比35%増と大きく伸長しました。㈱ファンケルとの取り組みでは、「キリン×ファンケルカロリミットアップルスパークリング」や「キリン×ファンケルカロリミットブレンド茶」等を共同開発し、シナジーを創出しました。
これらの結果、売上収益は4.8%増加し2,550億円となりました。また、原材料等の高騰影響を価格改定効果で相殺したものの、販売数量減やブランド投資の実施等により、事業利益は10.1%減少し169億円となりました。
<オセアニア酒類事業>
豪州の酒類市場は、新型コロナの影響が収束する一方、インフレ率が高い水準で推移し、Lionもその影響を受けました。その中で主力ブランドの強化に取り組んだ結果、健康意識の高まりを捉えた「Hahn(ハーン)」の販売が好調だったほか、「XXXX(フォーエックス)」等も堅調に推移しました。また、成長するRTDカテゴリーにおいて麒麟麦酒㈱が展開する「キリン氷結®」ブランドの、豪州での製造を新たに開始し、豪州・ニュージーランドで販売を開始しました。北米で注力するクラフトビール事業では、New Belgium Brewingの「Voodoo Ranger(ブードゥー・レンジャー)」が引き続き好調に推移したことに加え、Bell's BreweryもNew Belgium Brewingとの統合効果により、好調に推移しました。
これらの結果、円ベースの売上収益は9.8%増加し2,810億円となりました。また、構造改革等のコスト削減の取り組みにより、事業利益は円ベースで2.7%増加し324億円となりました。
<医薬事業>
協和キリン㈱は、同社の中期経営計画の3年目にあたる2023年も、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、成長に向けた取り組みを進めました。グローバル戦略品の「Crysvita」は、北米における自社販売を開始し、前年比20%増と順調に推移しました。開発パイプラインについては、「KHK4083(一般名:rocatinlimab)」等が順調に進捗する一方、「RTA 402」は開発を中止しました。また、今後の新薬創出力強化に向け、造血幹細胞遺伝子治療を用いた製品や開発品を持ち、事業に必要なプラットフォームを確立しているOrchard Therapeutics plcの株式取得のための契約を締結しました。
これらの結果、北米を中心としたグローバル戦略品等の海外医薬品売上の増加により売上収益は11.1%増加し4,419億円となりました。また、事業利益は、研究開発費が増加したものの、売上収益増収に伴う売上総利益の増加により、16.4%増加し960億円となりました。
また、その他の主な各事業の業績は以下のとおりです。
(協和発酵バイオ㈱)
協和発酵バイオ㈱では、スペシャリティ素材に注力し、収益改善を進める構造改革に取り組みました。海外で展開する「Cognizin®」の販売が堅調に推移したほか、「HMO(ヒトミルクオリゴ糖)」は、展開予定各国で規制当局からの承認が進みました。一方で、市場の競争激化に加え、原料価格や燃料価格の高騰により、アミノ酸事業を中心に厳しいビジネス環境が続きました。これらの結果、売上収益は0.8%増加し514億円、事業損失は85億円となりました。
(メルシャン㈱)
メルシャン㈱では、輸入ワインや原材料に対する円安影響により、主力のワイン事業が大きく影響を受ける中、収益性の高い自社ブランドの育成を進めました。日本ワインの「シャトー・メルシャン」では、「シャトー・メルシャン椀子ワイナリー」が「ワールドベストヴィンヤード2023」でアジア最高位を獲得したほか、イタリアへの輸出を開始しました。「Mercian Wines (メルシャン・ワインズ)」ブランドでは、スパークリングワインの「カンティアーモ」や、小容量サイズの「サニーサイドオーガニックスパークリング缶」を発売し、好調に推移しました。これらの結果、売上収益は6.5%増加し644億円、事業利益は8億円となりました。
(Coke Northeast)
米国の飲料市場は、インフレによる物価の上昇が続く中でも消費は底堅く推移しました。Coke Northeastでは、炭酸飲料やプレミアムミネラルウォーターを中心に販売が順調に推移しました。また、工場や物流拠点の構造改革やICT導入などオペレーション改革や、価格改定効果等により、高い収益性を一層向上させました。これらの結果、売上収益は15.7%増加し2,501億円、事業利益は29.0%増加し339億円となりました。
③生産、受注及び販売の状況
当年度におけるセグメントごとの生産実績は、次のとおりであります。
(注) 金額は、販売価格によっております。
当社グループの製品は見込生産を主体としているため、受注状況の記載を省略しています。
当年度におけるセグメントごとの販売実績は、次のとおりであります。
(注) 1 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
2 上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
(3) 財政状態
①事業全体の状況
当年度末の資産合計は、前年度末に比べ3,273億円増加して2兆8,696億円となりました。有形固定資産、のれん、及び無形資産については、Blackmores Limitedの買収や為替変動の影響等によって、前年度末に比べ2,360億円の増加となりました。また、現金及び現金同等物が前年度末比433億円増加しました。一方、Myanmar Brewery Limitedの売却等により、売却目的で保有する資産が461億円減少しました。
資本は、利益剰余金が647億円増加、その他の資本の構成要素が921億円増加し、前年度末に比べ1,726億円増加して1兆4,258億円となりました。その他の資本の構成要素の増加要因は、主に円安の影響によって在外営業活動体の換算差額が901億円増加した影響です。
負債は、前年度末に比べ1,547億円増加して1兆4,437億円となりました。2023年10月にBlackmores Limitedの買収に伴うソーシャルボンド600億円を含む社債930億円を発行したこと及び新規借入等により、社債及び借入金が1,333億円増加しました。
これらの結果、親会社所有者帰属持分比率は39.5%、グロスDEレシオは0.58倍となりました。
②セグメント情報に記載された区分ごとの状況
<国内ビール・スピリッツ>
当年度末のセグメント資産は、その他の非流動資産が増加したこと等により、前年度末に比べ110億円増加して4,431億円となりました。
<国内飲料>
当年度末のセグメント資産は、設備投資による有形固定資産の増加及びその他の非流動資産が増加したこと等により、前年度末に比べ145億円増加して1,477億円となりました。
<オセアニア酒類>
当年度末のセグメント資産は、為替変動の影響等によって、のれん及び有形固定資産が増加したこと等により、前年度末に比べ605億円増加して6,072億円となりました。
<医薬>
当年度末のセグメント資産は、欧州エスタブリッシュト医薬品事業の合弁化に伴う持分法で会計処理されている投資の増加及び為替変動の影響等による有形固定資産やのれんの増加、並びに現金及び現金同等物が増加したこと等により、前年度末に比べ911億円増加して9,714億円となりました。
(4) キャッシュ・フロー
①キャッシュ・フロー及び流動性の状況
当年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前年度末に比べ433億円増加の1,314億円となりました。活動毎のキャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動による資金の収入は前年同期に比べ676億円増加の2,032億円となりました。非資金損益項目である減損損失が362億円減少したものの、持分法で会計処理されている投資の売却益が326億円減少し、子会社株式売却損も191億円増加した他、運転資金の流出が149億円減少したこと等により、小計では334億円の増加となりました。小計以下でも法人所得税の支払額が322億円減少したこと等により、営業活動によるキャッシュ・フローが前年同期比で増加となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動による資金の支出は前年同期に比べ2,157億円増加の2,261億円となりました。当年度の資金の収入には、子会社株式の売却や政策保有株式の縮減に向けた取組みを引き続き推進したことによる投資の売却がそれぞれ80億円ありました。一方、当年度に豪州子会社を通じてBlackmores Limitedに対する支配を獲得したことにより子会社株式の取得による支出が前年同期に比べ1,159億円増加したことや前年度の華潤麒麟飲料(大中華)有限公司売却の影響で持分法で会計処理されている投資の売却による収入が前年同期に比べ982億円減少となったことなどが前年同期比の支出増加要因となりました。なお、有形固定資産及び無形資産の取得については、前年同期に比べ153億円増加の1,138億円を支出しました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動による資金の収支は359億円の収入(前年同期は1,678億円の支出)となりました。これは、Blackmores Limitedの買収に伴い有利子負債が1,630億円増加した他、前年度に株主還元の拡充を目的とした自己株式取得を実行した影響で自己株式の取得による支出が500億円減少したことなどが要因となります。なお、安定した株主還元を継続的に行う方針に基づき、平準化EPSに対する連結配当性向40%以上の配当を実施しており、非支配持分を含めた配当金の支払いは712億円となりました。
当社グループは、引き続き「BS(バランスシート)・PF(ポートフォリオ)マネジメントによるキャッシュ創出」により生じる資金を「機動的な株主還元施策」と「成長ドライバー獲得への規律ある投資」に振り向け、適切な利益還元と企業価値の向上に繋げていきます。
②資本政策の基本的な方針
当社は、2022年中計にて策定した資本政策に基づき、事業への資源配分及び株主還元について以下の通り考えております。
事業への資源配分については、ヘルスサイエンス領域を中心とした成長投資を最優先としながら、既存事業の強化・収益性改善に資する投資を行います。また、将来のキャッシュ・フロー成長を支える無形資産(ブランド・研究開発・ICT・人的資本など)及び新規事業創造への資源配分を安定的かつ継続的に実施します。なお、投資に際しては、グループ全体の資本効率を維持・向上させる観点からの規律を働かせます。
株主還元についても、経営における最重要課題の一つと考えており、1907年の創立以来、毎期欠かさず配当を継続しております。「平準化EPSに対する連結配当性向40%以上」による配当を安定的かつ継続的に実施するとともに、自己株式の取得については、追加的株主還元として最適資本構成や市場環境及び投資後の資金余力等を総合的に鑑み、実施の是非を検討していきます。
資金調達については、経済環境等の急激な変化に備え、金融情勢に左右されない高格付けを維持しつつ、負債による資金調達を優先します。中長期的な目標達成に必要とされる投資に係る資金調達により支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資金調達については、ステークホルダーへの影響等を十分に考慮し、取締役会にて検証及び検討を行った上で、株主に対する説明責任を果たします。
5 【経営上の重要な契約等】
(協和キリン㈱のアトピー性皮膚炎治療薬「KHK4083」の共同開発・販売に関する契約)
当社の連結子会社である協和キリン㈱(以下「協和キリン」)は、Amgen Inc.(以下「アムジェン」)とヒト型抗OX40モノクローナル抗体KHK4083の自己免疫疾患であるアトピー性皮膚炎等を対象とした共同開発・販売に関する契約を2021年6月1日付で締結し、本契約は米国の独占禁止法に基づく待機期間が終了したことを受けて、2021年7月31日に発効しております。
KHK4083は協和キリンが保有している「完全ヒト抗体作製技術」と抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を高める「POTELLIGENT®技術」を利用したヒト型抗OX40モノクローナル抗体であり、活性化T細胞を選択的に減少させることが確認されています。現在、G7地域で約3,000万人以上が罹患しているアトピー性皮膚炎を対象として、本剤は米国、欧州、日本で開発が進められており、アトピー性皮膚炎の治療薬としてファーストインクラスになりうる開発品です。
ADCC活性を高める協和キリンのPOTELLIGENT技術を利用した抗体医薬品は、現在、がんや喘息などの治療分野で応用されています。このADCC活性を高める協和キリンのPOTELLIGENT技術は、多くの製薬会社にもライセンスされています。
当契約に基づき、アムジェンは本剤の開発や製造を主導し、協和キリンが単独で販売活動を担当する日本を除き、グローバルでの販売活動を主導します。また、両社は米国において本剤のコ・プロモーションを行い、協和キリンは米国以外(日本を除く欧州及びアジア)においてコ・プロモーションを行う権利を有しています。アムジェンは、前連結会計年度において協和キリンに400百万ドルの契約一時金を支払い、今後最大850百万ドルのマイルストンと全世界での売上に対するロイヤルティーを支払います。両社は、日本を除く全世界での開発費及び米国での販売にかかる費用を折半します。なお、日本を除く全世界の市場における本剤の売上はアムジェンに計上されます。さらにアムジェンは、子会社であるdeCODE Genetics社の独自データを活用し、KHK4083のさらなる開発可能性も検討します。
(Blackmores Limitedの株式取得について)
当社は、豪州企業Blackmores Limitedと、同社発行済株式100%の取得に関する契約を2023年4月26日に締結し、2023年8月10日に株式取得を完了しました。
詳細につきましては、「第5 [経理の状況] 1[連結財務諸表等] [連結財務諸表注記] 38.企業結合」に記載のとおりであります。
(Orchard Therapeutics plcの株式取得について)
当社の連結子会社である協和キリン㈱は、英国のバイオ医薬品企業Orchard Therapeutics plc と、同社発行済株式100%の取得に関する契約を2023年10月5日に締結し、2024年1月24日に株式取得を完了しました。
詳細につきましては、「第5 [経理の状況] 1[連結財務諸表等] [連結財務諸表注記] 39.後発事象」に記載のとおりであります。
6 【研究開発活動】
当社グループでは、長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)のイノベーションを実現する組織能力の一つとして「確かな価値を生み出す技術力」を掲げています。従来から強みを持つ発酵・バイオテクノロジー、パッケージング、エンジニアリングをより発展させるとともに、知的財産の取り組みにも力を入れています。当社グループの研究開発活動は、食領域、ヘルスサイエンス領域においては、キリンホールディングス㈱の4研究所(キリン中央研究所、ヘルスサイエンス研究所、飲料未来研究所、パッケージイノベーション研究所)及び各事業会社の研究所で行っています。また、医領域においては、協和キリン㈱が中心に研究開発活動を行い、さらに医薬品にとどまらない価値提供も目指してキリンホールディングス㈱との協働取り組みを推進しています。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
国内ビール・スピリッツ事業は、麒麟麦酒㈱が、キリンホールディングス㈱の研究所と連携しながら研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。
「キリン一番搾り生ビール」を中味・パッケージともに1月にリニューアルしました。麦汁の仕込み工程を見直し、麦本来の澄んだうまみを最大限引き出すことで、飲みごたえの向上と雑味・渋みを抑えた飲みやすい後口を実現しました。また、「キリン一番搾り 糖質ゼロ」を中味・パッケージともに4月にリニューアルしました。フローラルな香りを持ちつつ穏やかな苦みが特長のザーツホップを新規で採用することにより、ビールの上品な苦みや味の厚みが生まれ、飲みごたえを向上させると共に、トラディションホップの増量によって、柑橘様のフルーティな香りの印象を高め、後味がより爽やかに感じるよう進化させました。
クラフトビールブランドである「SPRING VALLEY (スプリングバレー)」の「SPRING VALLEY 豊潤<496>」を中味・パッケージともに1月にリニューアルしました。希少な「日本産ホップ」を含む5種類のホップの比率を調整し、ホップを7日間漬け込む当社の技術「ディップホップ製法」のホップを増量しました。それにより、ホップの華やかな香りを引き出し、苦味の質を穏やかにすることで、豊潤でありながらすっきりとしたバランスの良いおいしさはそのままに、より心地よい後味へ進化しました。「SPRING VALLEY シルクエール<白>」を中味・パッケージともに7月にリニューアルしました。ホップの配合比率を調整し、より「まろやかさ」と「華やかな香り」が引き立つ味わいへ進化しました。また、「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」を10月に新発売しました。華やかな香りが感じられる海外ホップと、いちじくやみかん、マスカットのようなユニークで爽やかな香りの日本産ホップを組み合わせ、双方の良いところを引き出し調和させることで、お客様の味覚に合う爽やかな香りを実現しました。
RTD※1カテゴリーでは、新ブランド「キリン 上々 焼酎ソーダ」を10月に発売しました。メルシャン八代不知火蔵の本格麦焼酎原酒を一部使用し、「米麹抽出物」や「食塩」といった焼酎の特長を引き立てる素材を使用することで、焼酎の本格感や満足感を感じられながら、クセがなくすっきり爽やかな味覚を実現しました。また、新ブランド「麒麟百年 極み檸檬サワー」を4月に発売しました。皮ごと搾ったレモン果汁を含む複数のレモン果汁に、ビール酵母で発酵させたレモン果汁を加え、さらにビールの泡にヒントを得た独特の泡立ちにより、なめらかな口当たりとギュッと詰まったレモン感を実現し、お酒としての満足感と飲みやすさを両立したおいしさに仕上げました。この味覚特長を実現する技術は、「発泡性アルコール飲料で、『炭酸による刺激感や爽快感が抑制されたまろやかな口当たり』と、『柑橘香の良好な香り立ち』を両立する技術」として特許出願中です。
当事業に係る研究開発費は
※1 Ready to Drinkの略。栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料
国内飲料事業は、キリンビバレッジ㈱が、キリンホールディングス㈱の研究所と連携しながら研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。
キリンの独自素材「プラズマ乳酸菌」を配合した「健康な人の免疫機能の維持をサポート」する機能性表示食品「キリン おいしい免疫ケア」を3月に新発売しました。満足感のある飲みごたえがありながらも、ほどよい甘さと酸味でさわやかなおいしさに仕上げました。また、「プラズマ乳酸菌」に加え「GABA」も配合した、“免疫ケア”と“睡眠の質向上”をサポートするダブルヘルスクレームの機能性表示食品「キリン おいしい免疫ケア 睡眠」を10月に新発売しました。
「キリン 午後の紅茶」から「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖 ミルクティー」を3月に新発売しました。茶葉にこだわり、ミルクティーでありながらも無糖でスッキリとしたおいしさを実現しました。「キリン 生茶」を味覚・パッケージデザインともに4月にリニューアルしました。原料の配合バランスを見直すことで、お茶感を担保しながら、よりすっきりとした味わいにブラッシュアップしました。環境に貢献する取り組みとして「キリン 生茶」「キリン 生茶 ほうじ煎茶」(525ml)に、再生PET樹脂を100%使用した「R100ペットボトル」を順次拡大しました。
「キリン 生茶 リッチ」を9月に新発売しました。約8時間以上かけて10μm(=0.01mm)以下まで粉砕した「微粉砕かぶせ茶」をぜいたくに「キリン 生茶」の10倍使用し、さらに、じっくりうまみを引き出す45℃抽出を主に、複数の温度帯で淹れた抽出液をブレンドすることで、苦渋みを抑えた深いうまみを感じる味わいに仕上げるなど、手間と時間をかけた工程をあえて採用し、本当においしい緑茶を追求しました。
キリンビバレッジ湘南工場で、リサイクルレジン※1を100%使ったペットボトルのプリフォーム※2の製造を3月より開始しました。(1)リサイクルレジンの製造工程では、バージンレジンと比べ、GHG※3排出量を50~60%削減※4、(2)「R100ペットボトル※5」の安定した調達量の確保、(3)容器包装の自社製造による品質管理の精度向上 の3点の効果を見込んでいます。
人手不足や待機車両時間などの物流の2024年問題に向けた取り組みとして三菱重工業株式会社と三菱重工グループの三菱ロジスネクスト株式会社とともに行った、飲料出荷拠点への「自動ピッキングソリューション※6」導入に関する共同実証において、物流現場への実効性が検証されたことから、海老名物流センター(神奈川県海老名市)に本ソリューションを2024年12月に導入することを決定しました。
当事業に係る研究開発費は
※1 使用済みのペットボトルを粉砕・洗浄して造られたPET容器の原料となる樹脂
※2 膨らませる前のペットボトルの原型。試験管のような形をしている
※3 GreenHouse Gas:温室効果ガス
※4 キリングループ環境報告書2022
※5 再生PET樹脂を100%使用したペットボトル
※6 三菱重工グループが開発した、ピッキング作業を自動化・知能化したソリューション
近年、豪州では多様性のある消費の拡大や、技術力の向上による味覚評価の高まり、爽快感を感じられることなどを背景にRTD市場が拡大しています。
オセアニア酒類事業を担うLION Pty Ltdは、キリンホールディングス㈱が長年培った技術を活用しながら、オーストラリアおよびニュージーランドの市場およびお客様の嗜好に合った商品中味や容器の開発に取り組んできました。2023年8月、「氷結®」の特長である「みずみずしく、スッキリとしたおいしさ」はそのままに、豪州での健康志向ニーズの高まりに合わせ、糖類0.3g未満・カロリー116kcal・アルコール度数6%の「KIRIN HYOKETSU LEMON」を新たに開発し、発売しました。
当事業に係る研究開発費は
協和キリン㈱グループは、研究開発活動へ資源を継続的かつ積極的に投入しています。多様なモダリティを駆使して画期的新薬を生み出すプラットフォームを築く技術軸と、これまで培った疾患サイエンスを活かしつつ有効な治療法のない疾患に"only-one value drug"を提供し続ける疾患軸の両方を進化させ、競合優位性の高いパイプラインを構築し、Life-changingな価値をもつ新薬をグローバルに展開することを目指しています。
主な後期開発品の各疾患領域における進捗は、次のとおりです。(◆は当第4四半期連結会計期間の進捗)
腎領域
KHK7580(日本製品名:オルケディア)
・中国において二次性副甲状腺機能亢進症を適応症とする販売承認申請中です(2022年7月申請)。
◆11月に韓国において二次性副甲状腺機能亢進症を適応症とする販売承認を取得しました。
KW-3357(日本製品名:アコアラン)
◆日本において妊娠高血圧腎症を対象とした第Ⅲ相臨床試験を実施しましたが、臨床試験結果を踏まえ開発中止を決定しました。
KHK7791(日本製品名:フォゼベル)
・9月に日本において透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善を適応症とする製造販売承認を取得しました。
がん領域
KRN125(日本製品名:ジーラスタ)
・7月に日本において自家末梢血幹細胞移植のための造血幹細胞の末梢血中への動員を適応症とする承認事項一部変更承認申請を行いました。
免疫・アレルギー疾患領域
KHK4827(日本製品名:ルミセフ)
・日本において全身性強皮症を予定適応症とする承認事項一部変更承認申請中です(2021年12月申請)。
・8月に日本において掌蹠膿疱症を適応症とする承認事項一部変更承認を取得しました。
その他
AMG531(日本製品名:ロミプレート)
・9月に日本において既承認効能の「既存治療で効果不十分な再生不良性貧血」を「再生不良性貧血」に変更する承認事項一部変更承認を取得しました。
当事業に係る研究開発費は
メルシャン㈱は、キリンホールディングス㈱の研究所と連携しながらワインの研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。
「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」シリーズから、「おいしい酸化防止剤無添加赤ワイン 濃厚ストロング」を8月に全国で新発売しました。ワインに濃厚な味わいと飲みごたえを求めるお客様の声にお応えし、ブドウ本来の濃さを感じられる果汁や酵母を厳選しポリフェノールをたっぷり含有することで、濃厚な味わいと、飲みごたえを高めました。
世界の造り手とメルシャンの造り手が日本のお客様のために共に創るワインブランド「Mercian Wines(メルシャン・ワインズ)」から、ブランド初のボトル缶ワインとして「メルシャン・ワインズ サニーサイド オーガニック スパークリング 缶」(白・280ml)を8月に全国で新発売しました。「サニーサイド オーガニック」は、スペインのワイナリー「ペニンシュラ」と共創した、優しい味わいのスペインオーガニックワインで、「おいしく品質の良い、気軽に楽しめるオーガニックワイン」として好評をいただいている特長はそのままに、日本のお客様に向けた「スパークリングワイン」として開発しました。また、「メルシャン・ワインズ カンティアーモ スプマンテ」(ブリュット・ロゼ・750ml)を8月に全国で新発売しました。「飲みやすさ」「食事に合う味」に加え、華やかな香りや際立つフレッシュさにこだわり、どんな食事にも合う爽やかなおいしさと華やかな果実感が魅力です。
7月に山梨県で開催された「Japan Wine Competition(日本ワインコンクール)2023」において、「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー シグナチャー 2018」「同 桔梗ヶ原メルロー 2018」「同 北信右岸シャルドネ リヴァリス 2020」の計3品が金賞を受賞しました。また、「同 山梨甲州 2022」など4品が銀賞を、「同 北信左岸シャルドネ リヴァリス 2020」など5品が銅賞を受賞しました。
アジア最大級の国際ワインコンクール「香港インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション 2023」の「ワインアワード部門」で、「シャトー・メルシャン 玉諸甲州きいろ香 2022」が金賞及び、出品された日本ワインの中で最高評価を得たワインに贈られる「ベスト日本ワイントロフィー」を受賞しました。同時に、「シャトー・メルシャン 山梨甲州 2022」など2品が金賞、4品が銅賞を受賞しました。
協和発酵バイオ㈱は、「シチコリン」や「ヒトミルクオリゴ糖」をはじめとする、高収益型のプロダクトパイプラインを多数持つグローバル・スペシャリティ発酵メーカーを目指し、長年培ってきた最先端の発酵技術の研究開発に引き続き注力しています。
「シチコリン」については、協和発酵バイオ山口事業所での設備増設工事を竣工し、2023年11月に稼働開始しました。グローバルな安定供給体制を整えることにより、加齢に伴う脳機能低下予防、集中力やパフォーマンスの向上といったニーズに応えます。
協和発酵バイオが世界で初めて※1工業レベルでの生産システムを構築した「ヒトミルクオリゴ糖」については、2022年11月にタイに新設した最先端の工場で3品目の商業生産を開始しました。「ヒトミルクオリゴ糖」は母乳に含まれるオリゴ糖の総称で、ビフィズス菌などの善玉菌の栄養素となる物質、プレバイオティクス※2です。ヒトの消化酵素によって代謝されず大腸まで到達し、腸内細菌によって代謝され、様々な生理機能を発揮します。研究が進むにつれ、乳児の「栄養素」に加えて「機能性成分」としての働きが期待されています。
3品目の「ヒトミルクオリゴ糖」については、製造に用いる菌株が、中国農業農村部(The Ministry of Agriculture and Rural Affairs of The People’s Republic of China, MARA )の安全性審査に合格しました。米国においては、米国食品医薬品庁(FDA:Food and Drug Administration)への GRAS※3通知手続きが完了しました。本通知によって、米国において一般の育児用ミルク※4や食品に協和発酵バイオの製品が使用可能になりました。また、3品目のうち6SL(6’-sialyllacotse sodium salt)が、欧州連合の欧州委員会により新規食品(Novel Food)として承認されました。本承認によって、2023年11月13日より、欧州連合加盟27カ国で製造・販売する乳児用ミルクや食品に、協和発酵バイオの6SL が使用可能になりました。今後、「ヒトミルクオリゴ糖」のニーズが高い世界各国への展開を通じて「健康」に関する社会課題の解決に貢献します。
※1 Tetsuo Endo et. al.,Appl. Microbiol. Biotechnol. 53, 257-261 (2000)
※2 人体に有益な微生物の選択的栄養源となり、それらの成長や増殖を促す物質
※3 Generally Recognized As Safeの略。「一般に安全とみなされている」という意味で、一定の使用目的における条件下での安全性を証明するもの
※4 医学的もしくは食事上の問題を有する乳児に使用する特殊なミルクを除く、乳児用ミルクおよびフォローアップミルク
キリンホールディングス㈱は、独自素材である「プラズマ乳酸菌」を中心に、ヘルスサイエンス事業の拡大に繋がる研究開発に引き続き注力しています。2023年4月1日には、ヘルスサイエンス領域の研究開発を更に加速させるために、新たに「ヘルスサイエンス研究所」を設置しました。ヘルスサイエンス研究所の新設により、市場やお客様の健康課題をより正確に把握し、最先端のヘルスサイエンス研究成果を創出し、事業活用を加速させる体制へ移行します。また、新たな機能開発や機能性表示食品化の加速、研究とマーケティングの連動による素材の機能認知向上を目指します。
プラズマ乳酸菌の発見・研究・事業化について、世の中を変革する優れたイノベーション事例を表彰する「第11回技術経営・イノベーション大賞」(主催:一般社団法人科学技術と経済の会)において文部科学大臣賞を受賞しました。更に、小岩井乳業㈱とともに、乳酸菌を含む免疫賦活用食品組成物の発明(特許第6598824号)が、「令和5年度全国発明表彰」(主催:公益社団法人 発明協会)において「恩賜発明賞」を受賞しました。恩賜発明賞の受賞は、両社が共同開発・事業展開を行うプラズマ乳酸菌の発見・商品化に関する発明、取り組みが評価されたもので、健康食品素材としては初、食品企業では59年ぶりの受賞です。
プラズマ乳酸菌に関しては、国立大学法人長崎大学により、プラズマ乳酸菌を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対する特定臨床研究が行われました。今回の特定臨床研究では、主要評価項目である自覚症状総合スコアでは明らかな効果は示されませんでしたが、プラズマ乳酸菌の作用によって免疫系の司令塔であるプラズマサイトイド樹状細胞(以下pDC※1)が維持された結果、新型コロナウイルスが早期から減少し、嗅覚・味覚障害の早期回復につながっている可能性が示唆されました。プラズマ乳酸菌が新型コロナウイルス感染症に対する新たな予防、治療法の一つになることを期待しています。
免疫領域の研究において、和歌山県立医科大学が主宰し、NPO法人ヘルスプロモーション研究センターが取りまとめているコホート研究※2「わかやまヘルスプロモーションスタディ」に花王㈱とともに参画し、2022年11月から内臓脂肪と、pDCの活性※3について、その関連を調査する研究を共同で実施しました。本研究では、内臓脂肪と免疫活性の関連性を調査し、内臓脂肪が多いとpDC活性が低い(免疫機能が低い)こと、また、内臓脂肪が多く、かつpDC活性が低いと、新型コロナウイルス感染症・インフルエンザの罹患リスクが高いことを日本で初めて※4確認しました。この事実は世界でもまだ論文報告されていない※5発見です。
独自に発見・開発した「熟成ホップ」に関して、「脳腸相関活性化により認知機能改善と体脂肪低減作用を有する熟成ホップの発見と事業応用」について、研究と事業応用が高く評価され、公益社団法人日本農芸化学会の2023年度「農芸化学技術賞」を受賞しました。また、民間が主体となって行う農林水産業その他関連産業に関する優れた研究開発を表彰する「民間部門農林水産研究開発功績者表彰」(主催:農林水産省及び公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会)において、公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会会長賞を受賞しました。エビデンスに基づいた食品素材として、「熟成ホップ」を活用した社会実装を進めています。
明治大学 宮下芳明研究室との共同研究で、減塩食品の塩味を約1.5倍※6に増強させる独自の電流波形を開発しました。減塩に関する悩みを抱えるお客様が、おいしく生活習慣の改善ができるサービスの実現を目指し、この電流波形を用いた技術を搭載したスプーン、お椀型の「エレキソルト」デバイスを開発しました。2024年中の日本国内での発売を目指して、小売店舗やECサイト、社員食堂など、さまざまなチャネルでの需要性を確認する実証実験を展開しています。なお、2023年のイグ・ノーベル賞にて、明治大学の宮下先生は「イグ・ノーベル賞(栄養学)」を受賞されています。
環境領域の研究において、高効率・環境負荷低減を実現する、PET※7ケミカルリサイクル※8技術の開発に取り組みました。PETを分解する工程を、短時間・低エネルギーで実現する「アルカリ分解法」を開発しました。また、早稲田大学との共同研究で、PET分解後のモノマー※9を精製する工程において、環境負荷軽減とコスト削減を両立した「電気透析」による精製法を開発しました。この2つの技術は特許出願中であり、組み合わせて使用することで、分解・精製工程で使用する化学薬品のリサイクル利用も可能になります。
グループ会社との連携について、㈱ファンケルとヘルスサイエンス領域でのAIを活用した研究開発などについて、引き続き協働を進めています。また、アジア・パシフィックにおいて、サプリメントなどの健康食品(ナチュラル・ヘルス)事業を展開している豪州企業Blackmores Limitedを子会社化しました。これにより、ヘルスサイエンス事業の商品ラインアップやケイパビリティが充実し、展開地域と共に成長機会と事業規模が拡大します。両社の展開する事業領域で幅広くシナジーを創出することで、より多くの健康に関する社会課題を解決していきます。
その他の事業及び全社(共通)に係る研究開発費は114億円です。
※1 細菌やウイルスが体内に入ってきたときに重要な働きをする司令塔役の免疫細胞。pDCが活性化することによって、NK細胞やT細胞、B細胞などさまざまな免疫細胞が活発に働きウイルス感染から防御する。
※2 疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究の手法のひとつ。特定の疾病要因に関わっているグループと無関係のグループを作り、それぞれのグループの中での対象疾病発生率を算出することで、要因と疾患発症の関連性を調べることが可能。
※3 ウイルス感染を模した刺激を与えた際の抗ウイルス因子をつくるpDCの割合
※4 PubMed及び医中誌Webに掲載された論文情報・抄録情報に基づく(2023年11月22日現在 「pDC活性×内臓脂肪×感染症罹患」で検索 ナレッジワイヤ調べ)。
※5 PubMed及び医中誌Webに掲載された論文情報に基づく(2023年11月22日現在 「pDC活性×内臓脂肪×感染症罹患」で検索 ナレッジワイヤ調べ)。
※6 一般食品を模したサンプルと、食塩を30%低減させたサンプルでの塩味強度に関する評価の変化値。エレキソルトの技術(電流0.1~0.5 mA)を搭載した箸を用いた試験。現在または過去に減塩をしている/していた経験のある40~65歳男女31名に対し、試験用食品を食した際に感じた塩味強度をアンケートしたところ、31名中29名が「塩味が増した」と回答。
※7 ポリエチレンテレフタラート
※8 PETの中間原料まで分解、精製したものを再びPETに合成する方法
※9 PET(ポリマー)を構成する最小の単位