文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、世界有数の製薬企業であるロシュとの戦略的アライアンスのもと、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」ことをMission(存在意義)とし、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーター」となることをEnvisioned Future(目指す姿)に掲げています。社会との共有価値を創造し、社会とともに発展することを経営の基本方針として、患者中心の高度で持続可能な医療の実現に向けた価値創造の枠組みを価値創造モデルとして整理しています。
当社グループの経営の基本方針のもと、共有価値創造の源泉となる要素を整理した上で、重点的に取り組むべき事項を重要課題(マテリアリティ)として策定しています。ロシュとの戦略的アライアンスに加え、独自のサイエンス・技術力に基づき、革新的な創薬を柱とするイノベーションに集中することで、Envisioned Future(目指す姿)でも掲げる「持続可能な医療」を始め、ESGやSDGsに代表される社会課題解決をリードする、世界のロールモデルになることを目指しています。
その実践にあたっては、当社グループのCore Values(価値観)である、「患者中心」、「フロンティア精神」、「誠実」に沿った事業活動を行っています。
こうした活動は、社会全体の持続性向上に寄与するとともに、当社グループの長期的な発展を支える基盤になると確信しています。
当社グループはイノベーションの創出による企業価値の向上を重視し、革新的な新薬の創出に優先的に経営資源の配分を行っています。長期にわたる投資効率の指標としてCore ROICを重点的に管理するとともに、短中期的にも安定的な利益成長を達成できるよう、機動的で柔軟な事業運営に努めています。そして、個別の開発テーマ等の投資判断におきましては、資本コストを踏まえた投資価値評価を行い、収益性と効率性を重視した意思決定を行っています。
当社は、2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」(後述)を策定し、「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」という目標を目指して取り組んでいます。「TOP I 2030」の推進にあたり、中期(3年)経営計画を廃止し、長期目標からバックキャストして現状とのギャップを埋めるための中間(3~5年後)目標を中期マイルストンとして設定・管理しています。これにより、計画の進捗や環境変化に応じてアジャイルかつ柔軟に軌道修正を図りながら、長期的な目標達成を目指しています。中期マイルストンの進捗や研究開発パイプラインの見通しの説明を通じて中長期的な事業活動の進捗の状況を開示し、その達成に向けた道筋を示すとともに、引き続き、単年度業績予想の公表や各説明会等の場で経営状況を説明し、当社の掲げる経営戦略の進捗を適時報告してまいります。
世界には、未だ治療法のない疾患が数多くあります。加えて、世界人口の増加と各国における高齢化進展に伴い、医薬品への期待・ニーズは一層高まっています。また、ライフサイエンスや生成AI等のデジタル技術の飛躍的な進歩によって、異業種も含めた医療課題解決に向けたイノベーション創出機会が拡大しています。一方、各国において医療費等の社会保障費増加により財政が逼迫し、薬剤費を含む医療費の抑制政策はますます厳しくなり、持続可能な医療の実現が世界共通の課題となっています。限られた資源のもとで高度かつ持続可能な医療を実現するため、「真に価値あるソリューションだけが選ばれる」VBHC(Value Based Healthcare)の流れは着実に加速しています。また、デジタルをはじめとする多様なプレーヤーがヘルスケア領域に参入することで、既存業界の枠を超えた競争もこれまで以上に熾烈化してきています。加えて、地政学リスクやエネルギー価格、インフレ等による事業運営の不確実性の高まりとともに、地球環境保全や情報セキュリティ対策等、事業運営にあたり取り組むべき課題自体も広範になっております。
そのような中、革新的な医薬品の提供を使命とする私たちの最重要課題は、「イノベーションの追求」であると考えています。患者さん一人ひとりにとって最適な医療の実現に向けて、新たな治療ターゲットの探索や創薬技術のさらなる革新により、アンメットメディカルニーズに応える新薬の創出が求められます。さらに、ビッグデータやAIなどのデジタル技術の進化を柔軟に取り入れ、従来の創薬力にとどまらない能力を獲得・強化することが競争優位性を確保する鍵となります。また、グローバル規模での財政圧力の増加によって製薬企業の経営環境が厳しさを増す中、限られた資源をイノベーションに集中投資できる体制への変革が一層求められています。
当社グループは、独自のサイエンス力・技術力とロシュとの戦略的アライアンスを基盤として、国内トップクラスの成長を実現してまいりました。ロシュの充実したパイプラインにより日本市場における安定した収益基盤を確保しながら、自社創製品の後期開発や販売ではロシュのグローバル・プラットフォームを活用する、高い生産性を実現するビジネスモデルにより、自社創薬に資源を集中し、革新的な研究開発プロジェクトを連続的に創出しています。その結果、これまで6つの当社創製医薬品(アクテムラ、アレセンサ、ヘムライブラ、エンスプリング、ネモリズマブなど)が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)から「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)*」に指定されるなど、当社グループの創薬力は世界的に高い評価を受けています。
今後も、革新的新薬をいち早く創出・患者さんにお届けすることで、当社の企業価値向上と社会課題解決を目指してまいります。
* 画期的治療薬(Breakthrough Therapy):重篤または致命的な疾患や症状に対し、既存治療を上回る改善が期待される治療薬候補
当社グループは、ミッションステートメントに掲げたEnvisioned Future(目指す姿)の実現を目指し、2030年に到達すべきトップイノベーター像を具現化するとともに、その実現に向けた成長戦略「TOP I 2030」を策定し、2021年から展開しています。
2030年トップイノベーター像
1)「世界の患者さんが期待する」
世界最高水準の創薬力を有し、世界中の患者さんが「中外なら必ず新たな治療法を生み出してくれる」と期待する会社
2)「世界の人財とプレーヤーを惹きつける」
世界中の情熱ある人財を惹きつけ、ヘルスケアにかかわる世界中のプレーヤーが「中外と組めば新しい何かを生み出せる」と想起する会社
3)「世界のロールモデル」
事業活動を通じたESGの取組みが評価され、社会課題解決をリードする企業として世界のロールモデルである会社
「TOP I 2030」の二つの柱は、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」です。
独自のサイエンスと技術を駆使して数々の革新的新薬を生み出してきた当社は、今後10年間でさらに創薬力を大きく向上させ、世界のアンメットメディカルニーズに応えるソリューションを継続的に世に送り出せる体制構築・強化を目指します。具体的には、現在のR&Dアウトプットを10年間で2倍に拡大し、革新的な自社開発グローバル品を毎年上市できる会社を目指します。
そして、環境変化や技術進化を踏まえた先進的事業モデルの構築にも取り組んでまいります。特にデジタルを活用したプロセスや価値創出モデルの抜本的な再構築によって、バリューチェーン全体にわたる生産性の飛躍的向上と、一人ひとりの患者さんにとっての価値・製品価値の拡大を目指してまいります。
具体的な取組みとして、バリューチェーンに沿った「5つの改革」、すなわち「創薬改革」「開発改革」「製薬改革」「Value Delivery改革」及び「成長基盤改革」を掲げています。
①創薬改革
「TOP I 2030」では、たんぱく質エンジニアリング技術をはじめ、これまで積み上げてきた自社創薬の強みをベースにしながら、独創的な創薬アイデアを具現化する創薬技術基盤の一層の強化を目指します。そして、最大の価値創出源である創薬及び早期開発に全社資源を集中し、十分な投資によって成果を創出してまいります。特に、当社グループの今後の中長期的な成長の牽引を期待する中分子医薬では、早期の実用化に向けた技術開発・臨床プロジェクトに資源を優先的に投入します。また、AIを含むデジタル技術の効果的な活用と積極的な外部連携を通じて、創薬技術の多様化、スピードの加速を図ります。
②開発改革
画期的なプロジェクトをより速く、より多くの患者さんに届けるため、数理モデルやデジタル技術を最大限活用した業界トップクラスの臨床開発モデルを構築します。生体反応を精緻に理解し、自社に蓄積されたあらゆる疾患・治療データやリアルワールドデータ(RWD)を徹底活用することで、用法用量・有効性・安全性の予測性を高めるとともに、デジタル・バイオマーカーやデジタル・デバイスで、患者さんのQOLを早期に実証していきます。また、後期臨床開発の業務効率化とRWD等を活用した試験規模の縮小や期間短縮など、オペレーション・モデルの抜本的な改革にも取り組みます。
③製薬改革
R&Dアウトプットの大幅な拡充を目指す上で、革新的創薬を確実に製品化する世界水準の製薬技術の追求も重要な課題となります。創薬・早期開発~製薬の機能間の連携を一層強化し、最先端技術を駆使して中分子などの高難度の薬物に対応した製薬技術開発を進めてまいります。引き続きコア技術として進化が期待される抗体医薬についても、さらなる技術開発の推進と開発スピードの向上に努めます。
一方で、デジタル・ロボティクスの活用により生産性を飛躍的に向上させる次世代工場の構築や、内製・外製の最適化などによって、世界水準でのコスト競争力と原価の低減を追求します。
④Value Delivery改革
デジタルツールの発達や、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業の顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しました。そのような変化も踏まえながら、医療従事者や患者さんが求める情報を、高い専門性を担保しながら的確かつ迅速に届けるため、革新的な顧客エンゲージメントモデルの構築を目指します。具体的には、リアル(対面)・リモート・デジタルの最適活用と、営業・安全性・メディカルの各専門機能の適切な連携によって、顧客に対して価値ある情報を、迅速かつ最適な形で提供できる体制を強化します。
製品ポートフォリオの変化に伴い、成長領域や新規領域へ集中したリソース投入を行うなど、資源シフトも進めてまいります。
また、創薬や開発を通じて蓄積された各種データベースや、リアルワールドデータを統合的に解析・活用することで、個別化医療を促進するエビデンス創出を高度化し、患者さんごとに有効性・安全性を的確に予測するバイオマーカーの開発も加速します。
⑤成長基盤改革
各バリューチェーンにおける改革と並行して、イノベーションの創出と成長戦略の実現を支える全社基盤の強化として、特に下記5つのテーマを重点分野として掲げて取り組んでまいります。
「人・組織」:2020年より開始した人事制度の運用を通じて、ポジションマネジメントとタレントマネジメントの高度化による適所適財の推進、果敢なチャレンジや対話を推奨する組織風土の強化、データサイエンティストをはじめとするデジタル人財やサイエンス人財など戦略遂行上の要となる高度専門人財の獲得・育成・充足に注力するとともに、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進によりイノベーション創出文化の醸成を図ります。
「デジタル」:「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」のもと、デジタル技術を活用した革新的な新薬創出に注力するとともに、すべてのバリューチェーンにおけるDXを推進し、効率化を図ります。その実現に向けてソフト・ハード両面のデジタル基盤の構築とロシュ・グループとの連携を通じた社内の各種データの統合や解析基盤構築によるグローバル水準のIT基盤の確立を行います。
「環境」:マテリアリティとして特定した気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つの課題について、「中期環境目標2030」を設定し、その達成に向けた先進的な取り組みを通して、持続可能な地球環境を実現します。特に気候変動対策については、2050年にCO2排出量ゼロを目指し、長期的に取り組んでまいります。
「クオリティ」:これまで取り組んできた製品品質の確保に加えて、薬事対応やビジネスプロセス全体にわたるクオリティ・マネジメントの高度化に努めています。さらに、多様な技術進化や新モダリティへの挑戦に伴う規制への対応、デジタル・コンプライアンスの強化、外部との協業拡大を見据えた品質保証体制の整備など、変化するビジネスプロセスに適した質と効率を両立するクオリティ・マネジメント手法の整備・運用を強化します。
「インサイトビジネス」:ロシュ・グループ各社とも協働しながら、創薬、開発、製薬、Value Deliveryの各段階で得られるデータやリアルワールドデータを含む外部データを集積し、高度な解析を加えることにより、自社の創薬・開発や医薬品の価値最大化に資するさまざまなインサイトを抽出し活用する取り組みを推進します。
前述のとおり、世の中には、未だ治療法が存在しない、或いは治療満足度が低いアンメットメディカルニーズが数多く存在し、世界中の患者さんが有効な治療の登場を待ち望んでいます。また、地球環境や人権をはじめとする社会からの期待、ガバナンスやコンプライアンス等の社会からの要請など、企業に期待される役割も変化・拡大しています。患者中心の高度で持続可能な医療の実現を通じて、社会との共有価値創造に積極的に取り組んでまいります。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりです。詳細につきましては当社ホームページをご参照下さい。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
中外製薬ウェブサイト「サステナビリティサイト」
当社のサステナビリティ全体の責任者は、取締役会ならびに経営会議の議長である代表取締役 CEO が担当しており、全社の経営戦略及び業務執行上の重要な意思決定は経営会議で行っています。また、執行面の責任については経営会議メンバー全員が関与・コミットする体制となっています。具体的かつ専門的な事案については、経営会議の諮問機関として四つの委員会が推進する体制となっています。地球環境保全をはじめとするサステナビリティ全体に関する事項の俯瞰的・統合的な方針や戦略の策定ならびに実行についてはサステナビリティ委員会、法令順守や各種コンプライアンスに関連することはコンプライアンス委員会、リスクマネジメントについてはリスク管理委員会、サステナビリティに関するコミュニケーションについては広報IR委員会で議論する体制となっています。各委員会の委員長は、いずれも経営会議のメンバーで構成されています。
当社は、社会と当社がともに発展する「共有価値の創造」を経営の基本方針としており、「患者中心の高度で持続可能な医療の実現」を目指しています。この基本方針に基づき、革新的な医薬品の創製を柱とするイノベーションに集中し、一人ひとりの患者さんにとって最適な医療の提供による社会課題の解決を目指すとともに、持続的な企業価値拡大を図ります。
この経営の基本方針に基づき、当社が事業活動において、重点的に取り組むべき事項を重要課題(マテリアリティ)として策定しています。重要課題の策定にあたっては、将来にわたる事業環境の展望・分析に加え、サステナビリティに関するグローバルなイニシアチブであるSDGs、GRI(Global Reporting Initiative)、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)などを活用したギャップ分析を実施し、外部有識者の意見や見識を取り入れながら、「患者中心の高度で持続可能な医療の実現」の実現に向けて、高度で持続可能な医療の実現、ならびに環境・社会・ガバナンスの各領域で重点的に取り組むべき8項目26個の重要課題をマテリアリティとして特定しました。これら重要課題を踏まえて、当社が中長期で目指す姿として、2030年のトップイノベーター像を策定し、その実現に向けた成長戦略として「TOP I 2030」を設定しています。成長戦略についての詳細は
当社が考えるサステナビリティに関する主要なリスクについては、全社リスクマネジメントプロセスの中で可視化して、特定しています。当社ではリスクを、経営戦略に関連する潜在リスク(戦略リスク)と事業遂行におけるリスク(オペレーショナルリスク)に分類しています。その中でも、サステナビリティに関するリスクとしては、制度・規制・政策に関連するリスク、ITセキュリティ・情報管理に関するリスク、大規模災害、サプライチェーン、地球環境問題、パンデミックなどの外部環境の動向に左右される事項、ならびに人権や地球環境問題などの企業市民としての社会的責任が大きい事項について、注視して取り組んでいます。
当社の考えるリスクの詳細については
当社では重要課題について、外部環境の変化や、戦略の進捗、社会からの要請を踏まえて定期的に見直しを行い、それらを加味した単年度計画を立案し、進捗を管理することで、機動的な戦略遂行・計画の修正を行っています。
また、経営の基本方針である「共有価値の創造」のプロセス全体を表現した価値創造モデルを策定しております。価値創造における重要指標についてモニタリングを加えた上で、戦略の進捗ならびに外部環境変化の評価に基づき、機動的な資源配分の見直しや経営計画の修正を行い、目指す姿の実現に向けてアジャイルな対応を図っています。
この価値創造モデルにおいては、価値創造の源泉となる経営資源(資本)を整理しています。具体的には、①人財(人的資本)、②技術・知的財産(知的資本)、③ロシュや外部との協働(社会関係資本)、④製薬・設備(製造資本)、⑤環境・エネルギー(自然資本)、⑥財務・経営関連(財務資本)の6つを重要な源泉としており、それぞれに現状を定量・定性の両面から捉え、それを踏まえた重点テーマと課題を特定、認識して、対策を進めています。その中で、とりわけ重視しているのが、イノベーションを起こし、当社の価値創造の原動力となる人的資本と、事業を支える重要な基盤となる自然資本です。
当社では、「TOP I 2030」の達成、ひいては患者中心の高度で持続可能な医療の実現を目指す上でカギとなるのは「人財」だと考えています。イノベーションを起こすのは人財であり、社員一人ひとりが価値創造の原動力だからです。会社の目標に向けて自律的に行動している人財を「活躍社員」と定義し、活躍社員が増えイノベーションが生まれるよう、人財マネジメント方針に基づき様々な人事施策を講じています。「個」の成長・挑戦に焦点を当て、3つの個(描く・磨く・輝く)の実現を通じて、個が変わり(活躍社員の増加)、会社が変わり、ひいては中外グループ全体の成長に繋がることを目指しています。
人財の価値を最大限に引き出すために、当社では人財マネジメント方針に基づき以下戦略を実行しています。
・個を描く
「社員一人ひとりがキャリアを描き、未来の自己実現と「TOP I 2030」とをシンクロさせる」ことを意味します。戦略的提携先であるロシュ社との関係を維持・発展していくことのできる次世代経営人財の確保を最重要課題のひとつとして捉え、重要キーポジションの候補人財の計画的な発掘・育成を行っています。また、サイエンス人財、デジタル人財など戦略遂行上の要となる高度専門人財の獲得・育成や、年齢や経歴に拘わらないアサインなど、「TOP I 2030」実現に向けて、ポジションに最適な人財の獲得・登用を推進しています。
・個を磨く
「社員の自主性を尊重し、社員が挑戦し、自律的な学びや専門性を強化する」ことを意味します。イノベーションを生み出すためには、個々のスキルアップと挑戦・成長を後押しする仕組みが不可欠です。そのために中外製薬では、上司・部下にとどまらず社員間の対話を促進するとともに、個々のキャリア開発や研修プログラムへの投資を行っています。さらには、戦略的提携先であるロシュとの人財交流は、社員にとってグローバルな知見や経験を習得するよい機会となっています。
・個が輝く
「社員が自身の力を最大限に発揮し、挑戦によって成長が実現できる環境を整える」ことを意味します。イノベーションを生み出すためには、一人ひとりが自分らしさを発揮し、活躍できる環境を作っていくことが何よりも重要と考えています。そのために、多様性を最大限に活かすインクルーシブな組織文化や、「挑戦・成長」を推奨する組織文化を醸成するとともに、「働きがい改革」の推進、健康経営の推進、D&Iの定着に向けて取り組んでいます。
このように、社員一人ひとりが自身の力を最大限に発揮し、イノベーション創出が促進されるための環境づくりを目指し、以下に取り組んでいます。
・「挑戦・成長」を推奨する組織文化の醸成
「TOP I 2030」の実現に向けて、部門や職種、職位の違いに拘わらず自由闊達に議論する文化への変革を目指しています。その一環として、社員の自発的な手上げによる社内公募制の拡充や挑戦した人への称賛の声を届けるリコグニションシステム「ChuLiP」の導入など、社員の挑戦を後押しする仕組みづくりを行っています。
・働きがい改革の推進
2022年から「働きがい改革」を進めており、社員一人ひとりの「働きがい」を高めるべく、キャリア自律や成長支援による「社員エンゲージメント向上」と柔軟性の高い働き方や1on1の対話の機会(Check in)等による「多様な社員が活きる環境づくり」を両輪で推進し「TOP I 2030」実現に向けて活躍社員の更なる増加を図り、グローバル好業績企業と同水準を目指します。
・D&Iの推進
D&Iの推進を通じて、異なる考え方やアイデアを尊重し合いながら、多様な人財がそれぞれ最大限の力を発揮し、インクルーシブな組織文化を醸成することで、イノベーションの促進を目指しています。この実現に向けて、多様な社員一人ひとりがそれぞれ最大限の力を発揮できる環境づくりに取り組んでいます。女性活躍推進においては、性別に関わらず、当たり前にビジネス上の重要な意思決定に参画し、活躍できる状態を目指し、2030年末に女性マネジャー比率を社員比率と同水準とすることを目標に掲げ、推進を加速していきます。また、育児や介護、健康課題等と仕事の両立、LGBTQ、障がい者雇用といった社員一人ひとりを取り巻く様々な課題に取り組むことで、多様な社員が生き生きと活躍し、成長できる環境づくりに継続して注力しています。
・健康経営の推進
健康経営を働きがい改革の土台として位置づけ、従業員の自律的な健康・保持増進にも注力しています。特に、従業員の健康の観点では、喫煙率、がん再検査受診率、高ストレス者面談希望率(希望者/受検者)を重要指標として設定し、進捗のモニタリングを行いながら、取り組みを加速させていきます。
③ 主な指標とその進捗
人的資本の向上に向けた主な施策と指標は以下のとおりです。
1: 新規任用に占めるチャレンジアサイン制度・社内公募制度による任用の割合
2: 2022年実施結果
環境保全活動はすべての事業活動を支える重要な基盤であり、長期的視点で環境リスクを低減するだけでなく将来コストの低減、イノベーションを生み出す施設・設備体制構築にもつながるため、企業価値向上に大きく影響するものと考えています。世界的な環境コンセンサスを踏まえた挑戦的な「中期環境目標2030」を掲げ、ロシュや外部パートナーとの連携による革新的な地球環境保全活動とエビデンスに基づく能動的な情報開示により、環境課題の解決をリードする世界のロールモデルを目指していきます。
環境保全活動に関する課題については、サステナビリティ委員会において十分な審議を行った上で、経営会議や取締役会において議論しています。環境保全活動の業務執行の責任は、経営会議メンバーであり、サステナビリティ委員会の委員長である担当執行役員が担っています。担当執行役員は、経営会議で意思決定された事項に基づいて、環境保全活動業務執行の監督を行っています。
環境リスクの管理については、リスク管理委員会が、環境保全活動を含む全社に影響を及ぼすリスクの特定及び対策を策定した上で経営会議や取締役会において議論しています。リスク管理委員会は、気候変動リスクを含むグローバル及び国内のリスクマップを作成し、特に経営に大きな影響を与えるものを全社リスクとして特定し、対策を検討しています。
気候関連リスクは、リスクマップの11の主要なリスクカテゴリのうち主に、「自然災害」「バリューチェーン」「環境と安全性」で特定され、当社のERMにおいて、それらリスクの識別・評価・管理しています。
環境リスク管理の責任は、経営会議メンバーであり、リスク管理委員会の委員長である担当執行役員が担っています。担当執行役員は、経営会議で意思決定された事項に基づいて、リスク管理システムの監督を行っています。
気候変動に関連する取り組みについては、2020年1月に気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同しており、TCDFで推奨されているフレームワークに沿って情報開示を行い、ステークホルダーとの対話にも活用しています。
当社は2030年に到達を目指すトップイノベーター像とそれを実現するための新たな成長戦略「TOP I 2030」を策定しています。その実現に向けた「成長基盤改革」の重点分野の一つに「環境」を設定し、2030年を最終年とする「中期環境目標2030」を推進しています。「中期環境目標2030」では、環境課題分析に基づき、マテリアリティとして特定した気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つの課題を重点分野として定め、以下の活動方針の下、積極的に環境保全活動に取り組んでいます。
・気候変動対策
世界的な環境コンセンサスと比較してよりチャレンジングな目標を掲げ、温室効果ガスの排出量の削減とエネルギーの効率的使用の実現に向けて、ロシュをはじめ外部パートナーやアカデミアとの連携による新たな環境対策の創出及び推進により、2030年フロン排出量ゼロ、2050年CO2排出量ゼロに取り組みます。
・循環型資源利用
廃棄物全体の削減目標だけでなく、主な海洋汚染源であるプラスチック廃棄物の削減についても目標を設定し、環境に配慮したプラスチックの共同技術開発やサーキュラーエコノミーに基づく事業活動の推進を通じ、廃棄物ゼロエミッションの実現に向けて取り組みます。加えて、水は製薬にとって重要な原材料の一つであり、世界的にも重要な資源であることから、水の使用量の削減・汚染防止に取り組みます。
・生物多様性保全
かけがえのない地球を次世代につなぐため、自然資本の保全・回復への取り組みに加え、研究開発型の製薬企業として多くの化学物質を取り扱っているため、事業活動における環境インパクトに応じた独自の目標を設定し、排水マネジメントや製品製造プロセスの検証も含めた有害化学物質削減に取り組みます。
CO2排出量は事業から直接排出される排出量(Scope 1、Scope 2)は少なく、大半はサプライチェーンから排出される排出量(Scope 3)が多いことが特徴です。このような認識に基づき、シナリオ分析を実施しました。
・シナリオ分析の前提条件
中外製薬は、気候変動対策を検討するにあたって、脱炭素社会への移行に向けたシナリオについてIEAやIPCCが示す脱炭素への取り組みが進んだシナリオ(1.5℃)と緩和対策なく現状のまま社会が進むシナリオ(4℃)のそれぞれにおいて、どのようなビジネス上の課題が顕在化しうるかについて、全社を対象にシナリオ分析を行いました。
分析を行う対象は中外製薬グループ全体とし、原料調達を含めたサプライチェーン全体を考慮しています。また、当社では、シナリオを想定する上での時間軸としてはIPCCが報告書等においてマイルストーンとして設定する2030年ならびに2050年を見据えた分析を行っています。
・シナリオ分析の結果を受けての方向性
シナリオ分析の結果、特定された気候変動に伴う当社のリスクと機会は以下の通りです。特定されたリスクと機会を踏まえて、当社としては気候変動対策を積極的に推し進めるとともに、戦略や目標の設定において活かしていきます。
当社は、中長期的な視点をもって環境保全活動を推進しており、2020年に前中期環境目標の結果分析や社会からの期待・要望の変化を踏まえ、より長期視点かつ包括的で、ロシュ・グループの環境目標とも整合性を持たせた意欲的な「中期環境目標2030」を策定しています。
また、中期環境目標2030の達成に向けて、ビジネスの成長に必要な投資枠(成長投資)とは別に、環境投資枠(環境投資)を設定し、2022年から環境投資額を試算しています。環境負荷が相対的に大きい研究本部、製薬技術/生産技術本部における環境投資額は、累計で1,095億円と試算しています。詳細は、下記ページを参照ください。
「環境投資」ページ
・気候変動対策に関する2022年の実績
Scope 1及び2のCO2排出量削減については、ロードマップに基づいたサステナブル電力の積極的な導入や営業車両燃料の電力化など具体的な施策を推進したことにより、2022年は2025年目標の「40%削減」を前倒しで達成しました。2030年目標の実現に向けて、設備の電力化を推進するとともに、化石燃料と再生エネルギー由来の電力使用量の最適化などによる省エネルギー対策に取り組んでいます。また、CO2排出量削減は自社だけでなくサプライチェーン全体で取り組むことが重要であることから、Scope 3のCO2排出量削減目標を設定し、CO2排出量削減目標を設定していないサプライヤーに対し、削減目標設定・推進を働きかけています。
その他の取り組みとして、エネルギー消費量削減やフロン類使用量削減を推進しています。2022年のエネルギー消費量削減は、前年比-22%を実現しましたが、今後、化石燃料の電化によるエネルギー消費量の増加が見込まれるため、新技術の応用についても検討を進めていきます。また、CO2よりも地球温暖化への影響が大きいフロン類使用料については、2022年に竣工した中外ライフサイエンスパーク横浜の稼働により一時的に増加しましたが、自然冷媒の導入などの取り組みにより2030年までにフロンゼロを実現します。
なお、上記2022年実績における温室効果ガス排出量(Scope 1、Scope 2)については、KPMGサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証を受けています。2022年度のデータの詳細は、当社ホームページの「サステナビリティに関する方針、データ集2022」を参照下さい。2023年度の実績は、下記ページにて2024年5月頃公開を予定しています。
「サステナビリティに関する方針、データ集2022」ページ
当社グループでは、企業価値の最大化を図るため、事業活動に係るあらゆるリスクを可視化し、統合的に管理を行うERM(Enterprise Risk Management=全社的リスクマネジメント)のフレームワークを導入しています。具体的には、リスク選好に係る方針を「リスクアペタイト ステートメント」として明示し、全社的に対処すべきリスクを「戦略リスク(=戦略の意思決定に内在するリスクや戦略の遂行を阻害するリスク)」と「オペレーショナルリスク(=事業の円滑な運営を阻害するリスク)」に分け、一元的に把握・整理・可視化することで、効果的・効率的な運用によるリスク管理の高度化を図っています。また、適切な情報開示により、社外のステークホルダーへの説明責任を強化していきます。
全社的なリスク情報の把握・分析・フィードバックを効率的に推進するため、独自のリスクマネジメントシステムを開発し、グローバルで運用しています。このシステムには、各部門がリスクマップや年間リスク対応計画、インシデント報告、BCPマニュアル等を登録し、データベース化して一元管理することで、グループ全体のリスク分析や各部門での対策の状況をモニタリングしています。
当社グループでは、社会との共有価値を創造し、企業価値を高める企業活動の根幹となるミッションステートメント(=企業理念)を基点とした事業経営において、経営目標の達成や戦略遂行を阻害する事象を「リスク」と捉えています。
戦略の意思決定や事業の円滑な運営を適切に行うために、リスクへの対応方針である「リスクアペタイト ステートメント」を定め、健全なリスクカルチャーの醸成を図るとともに、従業員の一人ひとりがこれに基づいて判断・行動することを徹底します。
当社グループの業績は、今後起こりうる様々な要因により重大な影響を受ける可能性があります。以下において、当社グループの事業展開上のリスク要因となる可能性がある主な事項を記載しています。
当社グループはこれらリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の予防及び発生した場合の対応に努める方針です。
なお、これらは当社グループにかかるあらゆるリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。また、文中における将来に関する事項は当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
① 技術・イノベーションについて
当社グループは、ロシュとの戦略的アライアンスのもと、自社の強みであるサイエンス力と技術力をさらに強化することで、革新的な医薬品の創出に努めています。そして、成長戦略「TOP I 2030」においては、RED機能(研究・早期開発)への経営資源の集中を推進しています。特にこれまでの低分子・抗体医薬では解決できなかったアンメットメディカルニーズ(有効な治療方法が見つかっていない疾病に対する治療薬への要望)を満たすことが期待される中分子技術の開発に注力するとともに、生成AIを含むデジタル技術を活用し研究開発プロセスの効率化に積極的に取り組んでいます。
しかしながら、医薬品の研究開発には、常に不確実性(自社創薬・技術開発の遅れや失敗)が存在します。このため、当社が目指す価値の創出や戦略の実行が遅延する影響が想定されます。さらにサイエンス、医薬品開発、デジタルという日進月歩の分野では、破壊的な新技術・ソリューションや競争優位性の高い革新的な製品などの出現により、自社技術・プロジェクトの価値低下や開発計画の見直しが生じるリスクがあります。また、当社グループは業務活動において、当社グループ所有、あるいは適法に使用許諾を受けたものであると認識の下で様々な知的財産権を使用していますが、当社グループの認識の範囲外で第三者による侵害や三者の知的財産権を侵害する可能性があり、当社技術・製品の価値低下や係争に至るケースも考えられ、他社特許による技術使用不能や使用料発生など戦略遂行に重大な影響を与える可能性があります。
こうしたリスクに対しては、最先端のサイエンス・技術の探求を怠らず、経営資源の選択と集中により自社技術の優位性を高めるとともに、マルチモダリティ戦略の追求やCVF(Chugai Venture Fund)投資を含む外部連携の強化により多様性を高めることに努めています。中分子医薬の開発にあたっては関連する社内組織(創薬・開発・製薬)の連携強化、知的財産権についてはライセンス先との連携強化を含む知財戦略のさらなる強化、積極的な知財対応を図ってまいります。
当社グループはリスクアペタイトに基づき、リスクをとって積極果敢にイノベーション創出を追求するとともに、職場環境や組織文化、人財育成などの面からもイノベーションを奨励する仕組みを強化し、イノベーション創出を妨げるリスクの低減に努めます。
② 制度・規制・政策
ⅰ.医療制度・薬事規制について
国内外において高齢化の進展や医療費高騰などによる財政逼迫を背景とした薬剤費引き下げ政策の強化が進められています。加えて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う多額の財政出動の結果、各国が進める医療費抑制はさらに加速することが予想されます。日本においては昨今の安全保障政策の強化に伴う防衛費の増大等により、医療等の社会保障財政への影響も懸念されます。2024年の薬価制度改革で医薬品のイノベーションに対する評価が行われることになったものの、既に2年に一回行われている薬価改定に加え、2021年度に導入された中間年改定が実施される中、こうした薬価引き下げ政策やバイオシミラー(バイオ後続品)等の振興政策が拡大すると、これまで以上に収益の低下等を招き、研究開発への投資を妨げるリスクがあります。また、海外においても、医療制度・薬事規制改革の内容や環境動向を適時適切に把握し、開発・薬事計画などの対応を進めているものの、規制動向の把握が遅れることにより計画の修正や開発が遅延することが懸念されます。
一方、こうした政策により今後ますます「Value Based Healthcare(価値に基づく医療)」が進展し、患者さんにとって真に価値のあるソリューションだけが選ばれる傾向がより一層強まると考えられます。当社グループは、引き続き患者さんへの高い価値の証明に注力し、継続的な次世代品の開発・知財対応、製品ポートフォリオ管理の強化を図ります。そして、日本のみならず海外インテリジェンス機能の強化等に取り組んでまいります。
ⅱ.環境規制について
環境保全活動はすべての事業活動を支える重要な基盤であり、長期的視点で環境リスクを低減するだけでなく将来コストの低減、イノベーションを生み出す施設・設備体制構築にもつながるため、企業価値向上に大きく影響するものと考えています。一方で、企業を取り巻く環境規制の更なる厳格化により、規制対応のために設備投資計画の見直し・遅延や、追加的な費用計上など環境投資の増大が生じる可能性があります。規制動向のタイムリーな把握に加え、最新技術の動向把握と的確な取り入れを行っていくとともに、世界的な環境コンセンサスを踏まえた挑戦的な「中期環境目標2030」を掲げ、ロシュや外部パートナーとの連携による革新的な地球環境保全活動とエビデンスに基づく能動的な情報開示により、環境課題の解決をリードする世界のロールモデルを目指していきます。
③ 市場・顧客について
ⅰ.市場・顧客の変化
近年、競合品やバイオシミラー(バイオ後続品)の浸透加速による競争激化に加え、再生医療、細胞/遺伝子治療、核酸医薬など新たな治療手段(モダリティ)の進展や、予防・診断・治療・予後まで一貫した価値提供が求められるようになり、「治療」の価値が変化してきています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業における医薬品の情報提供体制、すなわち顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しています。
このような状況において、市場での地位や製品競争力が低下し収益が悪化するリスク、あるいは顧客タッチポイントの急速な変化等により、医薬品の情報提供体制の抜本的な見直しを迫られる可能性があります。
こうしたリスクに対応するべく、当社グループでは連続的な新薬の創出と製品ラインアップの多様化に努めるとともに、営業資源を適切に配分し、顧客エンゲージメントを強化してまいります。そのためにもDXの推進による効率化と環境変化に迅速に対応できるフレキシブルな組織体制の構築を目指します。
ⅱ.地政学リスクの高まりによる事業制限
ウクライナ紛争や台湾情勢などの各国間の緊張の高まりによる人権、ハイテク、データ、戦略物資への規制強化をはじめとした各国の経済安全保障法制の強化や、国際紛争による物流への影響など、近年、地政学リスクの高まりに端を発した企業活動への影響が出てきています。
これら国際情勢の急激な変化や武力衝突の発生によって、関連地域における事業制限・撤退(生産・R&D・販売拠点の喪失、利益減少、将来の機会損失)、関連地域におけるサプライチェーン停滞・供給遅延などのリスクが生じる可能性があります。
これら地政学・経済安全保障リスクに対して、当社グループでは、各国法制や政策の動向など外部情報をタイムリーに入手し、事業影響分析を行う社内体制の強化に取り組んでいます。そして、サプライチェーン全体の可視化に努めるとともに、有事に備えた安全管理体制の再整備、事業継続計画(BCP)・供給バックアップ体制(デュアルサイト化)の強化などを行っています。
④ 事業基盤について
ⅰ.ロシュとの戦略的提携
当社グループはロシュとの戦略的提携により、日本市場におけるロシュの唯一の医薬品事業会社となり、また日本以外の世界市場(韓国・台湾除く)ではロシュに当社製品の第一選択権を付与し、多数の製品及びプロジェクトを同社との間で導入・導出しています。独自のビジネスモデルによって安定的な収益基盤を確立し、飛躍的な成長を遂げてまいりました。
これまでの戦略的提携における合意内容が変更となった場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。また、ロシュの創薬・グローバルネットワークが不調に陥り、ロシュからの導入品による安定的な収益源が低下するリスクやロシュに導出した自社品のグローバル市場浸透の遅延や収益低下などのリスクがあります。
当社グループとしてはイノベーションを追求し、革新的な医薬品を連続的に創出するとともに、ロシュとの連携によりグローバル開発・マーケティング計画の策定及び実行の支援を強化するとともに、ロシュグループ全体の価値最大化に資する導出戦略の実行と、ロシュ戦略を踏まえた最適な導入戦略の実行に努めてまいります。
ⅱ.人事・組織
当社は2020年に新たな人事制度を導入し、適所適財に基づく人財配置の徹底、タレントマネジメントの高度化、そして「挑戦・成長」を推奨する組織文化の醸成を図っています。また、サイエンス人財やデジタル人財など、戦略遂行上の要となる高度専門人財の発掘・育成・獲得に注力しています。
一方、人財獲得ニーズの競合等による獲得の遅れや社内育成に要する時間、環境変化により求められる業務・質の変化による人財のミスマッチや不足、余剰等が発生するリスク、あるいは期待される組織文化が醸成されず、イノベーションの創出が阻害されるリスクなどが想定されます。
こうしたリスクに対応するべく、戦略遂行上の要となる人財要件を明確の定義・更新し、社外にも積極的に開示することで、計画的に獲得を目指す一方、社内では定着・育成に向けた施策の強化に努めています。今後も、組織・人財への投資を強化し、環境動向を見極めた組織体制と戦略的な採用計画を実施するとともに、イノベーション創出を促進する人事戦略・組織風土改革の実行に努めてまいります。
ⅲ.収益構造
製薬産業における技術の進歩は顕著であり、国内外製薬企業等との厳しい競争に直面する中、想定を超えるR&D投資やオペレーションコストの増加が収益構造に影響を及ぼす可能性があります。このため、デジタルを活用したプロセス改善と生産性の向上によるオペレーションコストの最適化に取り組むとともに、投資プロジェクトの見極めによる適切な資源配分を行ってまいります。
ⅳ.デジタル基盤
すべてのバリューチェーンで生産性の飛躍的向上を図るべくデジタル投資を加速する一方、デジタル技術が進展せず、戦略実行が遅延するリスク、社内のデジタルケイパビリティ不足、デジタルコンプライアンスの理解不足等によりデジタルトランスフォーメーション(DX)の停滞やトラブルが発生するリスクがあります。また、生成AIの活用が遅れることによる競争力低下のリスクも想定されます。技術動向把握のアンテナ機能を拡充するとともに、専門部署強化と外部専門人財の積極活用によるケイパビリティの強化、生成AIの全社的活用推進とコンプライアンスリスク評価体制の強化に取り組みます。
① 品質・副作用について
患者さんに価値の高い製品・サービスを安定的にお届けするにあたっては、製品の有効性や安全性は勿論のこと、それらを担保する品質が重要であると考えます。当社グループでは、製品や情報の質に加えて、業務プロセスの質とそれを担う人財によって事業の信頼性を確保しています。また、高品質な製品や情報を提供するには社外パートナー企業との連携も重要なことから、パートナー企業とも品質や風土について議論する場を定期的に設けるなど、様々な取り組みを行っています。しかしながら、何らかの原因により製品品質に懸念が生じた場合には、販売中止・製品の回収、訴訟や損害賠償、社会的信頼の低下などにより、業績に重大な影響を与える可能性があるため、パートナー企業のリスク評価及び連携を含めた品質保証活動の強化・徹底を図ってまいります。
医薬品・医療機器は各国規制当局の厳しい審査を受けて承認されます。当社グループでは、承認後も医薬品の安全性監視活動を強化・徹底するとともに、「調査・副作用・治験データベースツール」による患者さんの特性に応じた迅速な情報提供や、「治療支援アプリ」の運用、医療関係者への安全性コンサルテーション・ネットワーク体制の構築など、適正使用に向けた安全性情報提供活動の強化を図っています。しかしながら、万全の安全対策を講じたとしても副作用等の健康被害を完全に防止することは困難であり、副作用、特に新たな重篤な副作用が発現した場合には、「使用上の注意」への記載を行うほか、販売中止・製品の回収等に至ることもあり、業績に重大な影響を与える可能性があります。
② ITセキュリティ及び情報管理について
業務上、各種ITシステムの利用において、従業員・アウトソーシング企業の不注意または故意による行為や、サイバー攻撃等の外部要因によりシステム障害や社外提供サービスの停止、提供情報の改ざん等が生じた場合、事業活動の停止・遅延・計画の見直しや、突発的な対応・対策費用などが発生する可能性があります。また、万が一、研究開発等にかかる営業秘密や個人情報等が社外に流出した場合、競争優位性の喪失、社会的信頼の喪失、損害賠償などにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。
当社グループはこれらのリスクに備え、情報管理及びサイバーセキュリティに関する社内ルールの策定、従業員への教育・訓練、システムの堅牢性・可用性の強化、サイバー攻撃・マルウェア感染などの監視(SOC)及びインシデントレスポンス(CSIRT)体制の構築、インシデントの早期対応策の策定(サイバーBCPの策定)を実施しています。特に機密情報管理では、ITシステム面からも強化を図り、業務ファイルごとのアクセス管理、不注意または故意による情報流出の阻止及び流出後の拡散防止などの機能の導入を進めています。個人情報管理においては、ますます活発になる越境データ移転に対応するためにグローバルプライバシーガバナンス体制の構築を進めています。グローバル基準での適法対応を推進するとともに、データの利活用をコンプライアンス面からも支援しています。また、これらの対策状況をグループ横断的に評価し強化するためのセキュリティガバナンス体制を構築し、継続的なリスクの低減に努めています。
③ 大規模災害等による影響について
地震、台風、洪水等の自然災害、火災等の事故により、当社グループの事業所・営業所及び取引先の建物・設備等が深刻な被害を受けた場合、医薬品の供給停止や設備修復などの費用計上の発生、事業活動の制限や新製品の浸透遅延、それらによる収益の低下など、業績に重大な影響を与える可能性があります。
当社グループは、これらのリスクに備え、事業継続計画(BCP)の策定・訓練実施、安全在庫確保、耐震対策、損害保険加入など、従業員の安全と医薬品の安定供給のための体制を整備し、リスクの低減に努めています。
④ 人権について
企業活動における人権侵害の発生は、企業イメージの低下、不買運動、訴訟提起や損害賠償の支払、人財の流出などに繋がり得るもので、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、職場におけるハラスメント等により、従業員の健康やメンタルヘルス、人財力の低下を招くリスクが高まります。
当社グループでは、「人権」を経営に重要な影響を及ぼすリスクの一つとして捉え、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、人権尊重のグループガバナンス体制を構築するとともに、サプライチェーン全体の可視化と取引先の人権リスク評価・対策を含むデューデリジェンスの強化に取り組んでいます。
⑤ サプライチェーンについて
自然災害、国際紛争、事故、パンデミックの発生等により当社の原材料調達先や外部製造委託先などのサプライヤーに被害や事業活動の制限が生じた場合、また、サプライチェーンにおけるコンプライアンス違反や環境問題などへの対応が遅延した場合、原材料の確保や生産の継続が困難となる可能性があり、社会的信頼の喪失や売上・シェアの低下により業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、これらサプライチェーンに係るリスクに備え、サプライチェーン全体の可視化、事業継続計画(BCP)の策定、安全在庫確保、代替先の確保など、医薬品の安定供給のための体制を整備しています。
また、サプライヤ―のみならず、広くサードパーティ(取引先)を対象に包括的なリスク評価システムを導入し、リスクの一元的管理に取り組んでいます。取引先におけるコンプライアンスや環境問題など当社グループだけでは解決できない課題に関し、連携・情報共有体制を構築し、取引先と協力して課題解決に努める方針です。
⑥ 地球環境問題について
地球環境保全のための重大な課題の一つとして、気候変動リスクをとらえており、マテリアリティとして特定した気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つの課題について、2030年を最終年とした中期環境目標を推進しています。
環境関連法規等の遵守はもとより、さらに高い自主基準を設定してその達成に向けて努めていますが、万が一、有害物質による予期せぬ汚染やそれに伴う危害が顕在化した場合、対策費用や損害賠償責任を負うなどにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。また、将来における環境関連法規制の強化により、対策費用の増加や当社グループの研究、開発、製造、その他の事業活動が制限される可能性があります。
なお、当社グループは、透明性・信頼性の高い環境情報を開示するため、毎年、環境パフォーマンスデータの第三者保証を取得しております。また、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言」のフレームワークに基づき、気候変動が当社へもたらすリスクと機会を織り込んだ定性評価及びシナリオ分析を実施し、長期的に大規模な事業転換や投資を必要とする重大な気候関連リスクは特定されていません。加えて、2021年には、弊社の温室効果ガス削減目標に対してScience Based Target(SBT)事務局よりSBT認定を取得しています。今後も継続的に分析・評価を行い、プロアクティブな環境課題の解決に取り組んでいきます。
⑦ パンデミックによる影響について
今後、新たな感染症の全国的・世界的な大流行等により事業活動が制限された場合、サプライチェーンの停止・遅延により製品供給に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、研究・臨床試験の進行や、MR活動の制限による新製品等の浸透に遅延が生じる可能性があります。
当社グループとしては、これらのリスクに対し、患者さんに対する医薬品の安定供給という社会的責務を果たすべく、感染症拡大時においても、必要な医薬品の提供体制を維持することを基本方針としてBCPを策定するとともに、テレワークなど柔軟性の高い働き方と生産性の維持・向上を実現する「新しい働き方」を活用していきます。
① 経営成績の状況
(単位:億円)
<連結損益の概要(IFRSベース)>
当連結会計年度の売上収益は11,114億円(前年同期比11.8%減)、営業利益は4,392億円(同17.6%減)、当期利益は3,255億円(同13.1%減)となりました。これらには当社が管理する経常的業績(Coreベース)では除外している無形資産の償却費16億円、無形資産の減損損失51億円及び事業所閉鎖に伴う固定資産売却益を含む事業所再編費用等55億円(収益)、早期退職優遇措置に関わる費用103億円が含まれています。なお、前年第1四半期に当社とアレクシオン ファーマスーティカルズ インコーポレーテッドとの間において締結した和解契約による一時金収入等907億円を計上したことによる単発的な影響により売上収益、営業利益、当期利益は前年同期比で減少しています。上記以外の前年同期との比較については<連結損益の概要(Coreベース)>をご覧ください。
<連結損益の概要(Coreベース)>
当連結会計年度の売上収益は、その他の売上収益が伸長したものの、製商品売上高が減少し、11,114億円(前年同期比4.8%減)となりました。
売上収益のうち、製商品売上高は9,745億円(同6.2%減)となりました。国内製商品売上高は、新製品のポライビー、バビースモ等の順調な伸長に加え、主力品のエンスプリング、ヘムライブラ、テセントリク等が好調に推移したものの、ロナプリーブの政府納入による売上の大幅な減少や、薬価改定、後発品浸透の影響を受けたことにより前年比で減少しました。海外製商品売上高は、ロシュ向けのヘムライブラ輸出及びアレセンサ輸出が大幅に増加したため、前年を上回りました。その他の売上収益は、ヘムライブラに関する収入の増加に加え、一時金収入の増加等により1,369億円(同6.5%増)となりました。製商品原価率は、為替影響の一方で製品別売上構成比の変化等により42.3%と前年同期比で3.4%ポイント改善しました。結果、売上総利益は6,994億円(同1.0%増)となりました。
研究開発費は中外ライフサイエンスパーク横浜の全面稼働を含む創薬・早期開発への投資や、開発プロジェクトの進展に伴う費用の増加等により1,628億円(同13.3%増)、販売費及び一般管理費は諸経費等の増加により1,020億円(同3.2%増)となりました。その他の営業収益(費用)は製品譲渡に係る収益や有形固定資産の売却益が発生し、161億円の収益(前年同期は14億円の収益)となりました。以上から、Core営業利益は前年同期並みの4,507億円(同0.2%減)、Core当期利益は法人所得税の減少及び金融収支等の改善で7期連続の増益を達成し、3,336億円(同5.0%増)となりました。
※Core実績について
当社はIFRS移行を機に2013年よりCore実績を開示しております。Core実績とは、IFRS実績に当社が非経常事項と捉える事項の調整を行ったものであります。なお、当社が非経常事項と捉える事項は、事業規模や範囲などの違いによりロシュと判断が異なる場合があります。当社ではCore実績を、社内の業績管理、社内外への経常的な収益性の推移の説明、並びに株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標として使用しております。
株主還元を行う際の指標には、Core EPS及びCore配当性向を指標として使用しております。Core EPSは、Core実績をもとに算出された、当社株主に帰属する希薄化後1株当たり当期利益であり、Core配当性向は、Core EPS対比の配当性向です。
※連結経営成績に関する表示方法の変更について
当連結会計年度より、連結経営成績に関する表示方法の変更を行っております。当連結会計年度においては、比較情報である前連結会計年度についても当該変更を適用した金額を表示しております。なお、本変更による営業利益から当期利益までの項目、1株当たり当期利益及びCoreベースの概念への影響はありません。
<製商品売上高の内訳>
(単位:億円)
[国内製商品売上高]
国内製商品売上高は、新製品及び主力品が好調に市場浸透したものの、ロナプリーブの政府納入の大幅な売上減少や薬価改定、後発品浸透の影響により、5,580億円(前年同期比14.8%減)となりました。
オンコロジー領域の売上は、2,602億円(同1.6%増)となりました。後発品浸透及び薬価改定の影響、並びに競合状況の変化により、抗悪性腫瘍剤/抗VEGFヒト化モノクローナル抗体「アバスチン」、抗悪性腫瘍剤/抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン」、抗悪性腫瘍剤/抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体「カドサイラ」などの売上が減少したものの、新製品の抗悪性腫瘍剤/微小管阻害薬結合抗CD79bモノクローナル抗体「ポライビー」の売上が大幅に増加し、主力品の抗悪性腫瘍剤/抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体「テセントリク」も堅調に推移しました。
スペシャリティ領域の売上は、2,978億円(同25.3%減)となりました。新製品の眼科用VEGF/Ang-2阻害剤抗VEGF/抗Ang-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体「バビースモ」や脊髄性筋萎縮症治療剤「エブリスディ」が順調に伸長したことに加え、主力品のpH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体「エンスプリング」や血液凝固第Ⅷ因子機能代替製剤抗血液凝固第Ⅸa/Ⅹ因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体「ヘムライブラ」が引き続き好調に推移しました。また抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」の売上がインフルエンザの流行により大幅に増加しました。一方、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「ロナプリーブ」の政府納入は売上が大幅に減少し、薬価改定及び後発品浸透の影響により、骨粗鬆症治療剤「エディロール」や持続型赤血球造血刺激因子製剤「ミルセラ」などの売上が減少しました。
[海外製商品売上高]
海外製商品売上高は4,165億円(前年同期比8.3%増)となりました。ロシュ向け輸出については、「ヘムライブラ」や抗悪性腫瘍剤/ALK阻害剤「アレセンサ」が前年比で大幅に増加しました。
② 財政状態の状況
当連結会計年度末における純営業資産(NOA)は前連結会計年度末に比べ984億円減少し、9,009億円となりました。うち、純運転資本は、ロナプリーブ等の営業債権の減少などにより前連結会計年度末に比べ1,290億円減少し4,226億円となりました。また、長期純営業資産は主に藤枝工場における合成原薬製造棟(FJ3)等への投資により前連結会計年度末から305億円増加し、4,783億円となりました。
次項「③ キャッシュ・フローの状況」で示すとおり、有価証券や有利子負債を含むネット現金は前連結会計年度末に比べ2,359億円増加し、7,390億円となりました。その他の営業外純資産は、主に未払法人所得税の減少により前連結会計年度末から638億円増加し、△143億円となりました。
これらの結果、純資産合計は前連結会計年度末に比べ2,012億円増加し、16,256億円となりました。
※純営業資産(NOA)及び純資産について
連結財政状態計算書は国際会計基準第1号「財務諸表の表示」に基づいて作成しております。一方で、純営業資産(NOA)及び純資産は、連結財政状態計算書を内部管理の指標として再構成したものであり、ロシュも同様の指標を開示しております。なお、純営業資産(NOA)及び純資産にはCore実績のような除外事項はありません。
※純営業資産(NOA)について
純営業資産(NOA:Net Operating Assets)は金融取引や税務上の取引とは独立に当社グループの業績を評価することを可能としております。純営業資産は純運転資本及び有形固定資産、使用権資産、無形資産等を含む長期純営業資産から引当金を控除することで計算しております。
③ キャッシュ・フローの状況
(単位:億円)
営業利益から、営業利益に含まれる減価償却費などのすべての非現金損益項目及び純営業資産に係るすべての非損益現金流出入を調整した調整後営業利益は、4,915億円(前年同期比13.9%減)となりました。
有形固定資産の取得による支出719億円等があった一方で、純運転資本等の減少1,306億円等により、営業フリー・キャッシュ・フローは5,401億円(同75.1%増)の収入となりました。純運転資本等の減少要因は前項「② 財政状態の状況」に記載したとおりです。
営業フリー・キャッシュ・フローから法人所得税1,761億円を支払ったこと等により、フリー・キャッシュ・フローは3,638億円(同118.6%増)の収入となりました。
フリー・キャッシュ・フローから配当金の支払1,316億円等を調整したネット現金の純増減は2,359億円の増加となりました。
また、有価証券及び有利子負債の増減を除いた現金及び現金同等物は2,365億円増加し、当期末残高は4,587億円となりました。
※フリー・キャッシュ・フロー(FCF)について
連結キャッシュ・フロー計算書は国際会計基準第7号「キャッシュ・フロー計算書」に基づいて作成しております。一方で、FCFは、連結キャッシュ・フロー計算書を内部管理の指標として再構成したものであり、ロシュも同様の指標を開示しております。なお、FCFにはCore実績のような除外事項はありません。
※連結キャッシュ・フロー計算書に関する表示方法の変更について
当連結会計年度より、連結キャッシュ・フローに関する表示方法の変更を行っております。当連結会計年度においては、比較情報である前連結会計年度についても当該変更を適用した金額を表示しております。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の生産実績は次のとおりであります。
(注)IFRSに基づく金額を記載しております。また、金額は売価換算(仕切単価ベース)であり、百万円未満を四捨五入して記載しております。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の商品仕入実績は次のとおりであります。
(注)IFRSに基づく金額を記載しております。また、金額は実際仕入高であり、百万円未満を四捨五入して記載しております。
当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の販売実績は次のとおりであります。
(注)1.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
2.IFRSに基づく金額を記載しております。また、金額は百万円未満を四捨五入して記載しております。
3.販売高は売上収益(製商品売上高とその他の売上収益)であります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 経営成績の状況 及び ② 財政状態の状況」に記載しております。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載しております。
当社グループは、これまで、運転資金並びに設備投資及び研究開発活動を自己資金で充当しております。2021年度に始動しましたTOP I 2030 は「R&Dアウトプットの持続的な創出」に代表されるイノベーションへの継続的な経営資源の配分を掲げています。引き続き資金流動性の確保と事業活動から創出されるキャッシュ・インフローの最大化に努めるとともに、継続的なイノベーション投資に必要な財務健全性を維持していく方針です。また、計画外の急な資金需要が生じた場合の財源につきましては、金融機関からの借入や短期社債等を利用するなどの体制を整えており、既存の手許資金も含めて十分な流動性を確保しております。
今後についても資本財源は事業活動を通じて獲得した資金を基盤とする方針であり、継続的なイノベーションへの投資を通じ、持続的な企業価値の向上を目指す方針です。なお、資本配分としての配当につきましては、継続的で安定的な配当の実施を目標としており、Core EPS 対比45%(5年平均)を目安としております。
③ 経営方針・経営戦略・経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当連結会計年度においては、Core売上収益は、ロシュ向け輸出や国内における新製品・主力品の市場浸透が好調だったことから、11,114億円(公表予想比3.9%増)となり、2年連続で1兆円を超えました。製商品原価率は、製品別売上構成比の変化等により42.3%(同1.7%pts減)、研究開発費・販売費及び一般管理費・その他の営業収益(費用)の合計は2,487億円(同0.5%減)となりました。この結果、Core営業利益は4,507億円(同8.6%増)となりました。また、長期にわたる投資効率の指標として重点的に管理することとしているCore ROICの実績は、前年と概ね同水準の34.6%となりました。
2021年に開始した成長戦略「TOP I 2030」の3年目となる2023年は、創薬、開発、製薬、Value Delivery、成長基盤という5つの改革分野において、概ね順調な進展が見られました。
創薬においては、現在のところ、R&Dアウトプット倍増という非常にチャレンジングな目標に対して、種々の取り組みが進捗しておりますが、目標達成のためには更なる強化の余地があると考えています。現在、抗体、低分子に続く第3のモダリティとして中分子医薬品開発に取り組んでおり、初の中分子プロジェクトであるLUNA18の臨床試験において、経口投与での吸収(血中移行)を確認しました。最大耐用量の取得に時間を要しているため、ePoC取得は期初に目指していた2024年より遅延する見込みです。なお、研究段階含む中分子プロジェクト数が増加するなど、中分子ポートフォリオの拡充は、順調に進展しております。また、自社の強みとする抗体医薬品においても、次世代抗体技術の開発とプロジェクトの創出が進んでおります。このような自社での創薬研究を加速すべく、2023年4月に全面稼働した「中外ライフサイエンスパーク横浜」では、クライオ電子顕微鏡をはじめ、ロボティクスやAI等のデジタル基盤を活用した、創薬力を最大限に発揮する体制を整備しました。加えて、オープンイノベーションを加速すべく、創薬スタートアップ企業等への投資を目的にした、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である「Chugai Venture Fund, LLC」を設立いたしました。このように種々の取り組みは進捗しておりますが、先に述べたチャレンジングな目標達成に対して、これらの取り組みを元に、さらに外部連携やデジタル活用を推進してまいります。
開発については、2023年は合計4プロジェクトが承認・発売され、新薬・適応拡大を含め8プロジェクトが承認申請に移行しました。また、ロシュ品・自社品含めて計5プロジェクトの第Ⅲ相国際共同治験、7プロジェクトの第Ⅰ相臨床試験を開始しました。また、複数のプロジェクトで承認取得前からの複数疾患同時開発を準備・実施しており、製品価値最大化に取り組んでおります。
製薬では、R&Dアウトプット倍増及び効率的な生産体制の実現を目指して、宇都宮・浮間両工場において複数の設備投資の意思決定を行いました。宇都宮工場においては、臨床開発から初期商用までのバイオ原薬生産を行う「UT3」で、従来のバッチ生産方式に加え、灌流培養の導入などによる連続生産機能を実装し、次世代バイオ医薬品工場の実現に向けた基盤強化を推進いたします。また初期商用向けの新規注射剤棟である「UTA」では、スマートファクトリーの実現を目指し、生産オペレーションを支えるデジタル基盤(SPIRITS)を展開するほか、ロボティクスの活用により生産性向上を目指しています。浮間工場においては、臨床開発から初期商用までのバイオ原薬製造棟である「UK3」の生産能力を3倍に増強することで、バイオ原薬の供給スピード・フレキシビリティ向上を目指しています。なお、両工場とも、当社が掲げる中期環境目標2030の達成に寄与する製造設備といたします。
Value Deliveryにおいては、多様化する顧客ニーズに対応すべく、医療関係者や患者さんが求める情報を的確かつ迅速に提供する体制の強化が進んでおり、顧客満足度調査において高く評価をいただいております。また、個別化医療に資する独自エビデンスの創出を目指し、社内外データの統合的な活用にも継続して取り組んでいます。
成長基盤は、「人・組織」について、経営課題の推進とセカンドキャリアを考える従業員への支援の両面を目的として、早期退職優遇措置を実施し、374名が応募しました。新薬創出力の高度化や全てのバリューチェーン効率化の柱である「デジタル」については、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に4年連続で選定されるとともに、「DXプラチナ企業2023-2025」にも選定されました。世界水準でのサステナブル基盤としての「環境」については、2030年の環境目標を設定し、種々の取り組みを行っており、概ね順調に進捗しておりますが、廃棄物の削減については達成に向けた課題があり、検討を継続しております。なお、サステナビリティにおいて重要な指標である「Dow Jones Sustainability Index World」に4年連続で選定されました。その他、質と効率を両立する次世代クオリティマネジメントを目指す「クオリティ」も着実に対応するとともに、「インサイトビジネス」では、子宮内膜症における痛みのデータを活用したバーチャルケアに向け、Biofourmis社と新たなパートナーシップを締結しました。これらの活動を通して、イノベーション創出に必要な成長基盤の強化を図っています。
※ROICについて
投下資本利益率(ROIC:Return On Invested Capital)は事業活動のために投じた資金(投下資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益に結びつけているかを知ることができます。
④ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループはIFRSに準拠して連結財務諸表を作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり、必要と思われる見積りは合理的な基準に基づいて実施しております。詳細については、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 連結財務諸表注記 1.重要な会計方針等 (2)重要な会計上の判断、見積り及び前提」に記載のとおりです。
当社グループは、医療用医薬品に関して国内外にわたる積極的な研究開発活動を展開しており、国際的に通用する革新的な医薬品の創製に取り組んでおります。国内では、中外ライフサイエンスパーク横浜において創薬研究を行う一方、浮間では工業化技術の研究を行っております。また、海外では、中外ファーマ・ユー・エス・エー・インコーポレーテッド(米国)、中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッド(英国)、日健中外製薬有限公司(中国)、台湾中外製薬股份有限公司(台湾)が医薬品の開発・申請業務を、中外ファーマボディ・リサーチ・ピーティーイー・リミテッド(シンガポール)が創薬研究に取り組んでいます。
当連結会計年度におけるCoreベースの研究開発費は
2023年1月1日から2023年12月31日までの研究開発活動の進捗状況は以下のとおりです。
「がん領域」
・抗悪性腫瘍剤/抗HER2ヒト化モノクローナル抗体・ヒアルロン酸分解酵素配合剤「RG6264」(製品名:「フェスゴ」)は、2023年9月に、HER2陽性の乳癌、及びがん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対する承認を取得し、同年11月に発売しました。
・ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体「MRA/RG1569」(製品名:「アクテムラ」)は、2023年2月に、悪性腫瘍治療に伴うサイトカイン放出症候群を対象として承認申請を行い、同年9月に適応拡大の承認を取得しました。
・ALK阻害剤「AF802/RG7853」(製品名:「アレセンサ」)は、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにおける術後補助療法を対象として、2023年11月に米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)及び中華人民共和国 国家薬品監督管理局(NMPA)へ、同年12月に国内で承認申請を行いました。
・選択的エストロゲン受容体分解薬「RG6171」は、2023年4月に、乳がん[一次治療~三次治療](エベロリムス併用)を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・抗TIGITヒトモノクローナル抗体「RG6058」は、2023年10月に、肝細胞がん[一次治療](RG7446/RG435との併用)を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・抗DLL3/CD3/CD137トリスペシフィック抗体「ALPS12/RG6524」は、2023年1月に、固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・抗CLDN6/CD3/CD137トリスペシフィック抗体「SAIL66」は、2023年4月に、CLDN6陽性固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・「ROSE12」は、2023年6月に、固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・抗PD-1/LAG-3バイスペシフィック抗体「RG6139」は、2023年8月に、固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・抗CEA/CD3バイスペシフィック抗体「RG7802」は、第Ⅰ相臨床試験の結果に鑑み、固形がんを対象とする開発活動を一時停止しました。
・改変型抗PD-L1モノクローナル抗体「RG7446」(製品名:「テセントリク」)は、第Ⅲ相国際共同治験「CONTACT-01試験」及び「CONTACT-03試験」の結果に鑑み、非小細胞肺がん[二次治療]、腎細胞がん[二次治療](いずれもカボザンチニブ併用)を対象とする開発をそれぞれ中止しました。また、第Ⅲ相国際共同治験「IMvigor130試験」及び「IMpassion030試験」の結果に鑑み、尿路上皮がん[一次治療]、早期乳がん(アジュバント)を対象とする開発をそれぞれ中止しました。
・AKT阻害剤「RG7440」は、第Ⅲ相国際共同治験「IPATential150試験」の結果に鑑み、前立腺がん[一次治療](アビラテロン併用)を対象とする開発を中止しました。
「免疫疾患領域」
・抗補体C5リサイクリング抗体「SKY59/RG6107」は、2023年2月に、ループス腎炎を対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・糖鎖改変型タイプⅡ抗CD20モノクローナル抗体「RG7159」(製品名:「ガザイバ」)は、2023年3月に、小児特発性ネフローゼ症候群を対象として第Ⅲ相国際共同治験を、同年10月に、腎症を伴わない全身性エリテマトーデスを対象として国内第Ⅲ相臨床試験を開始しました。
・ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体「MRA/RG1569」(製品名:「アクテムラ」)は、欧州医薬品委員会(CHMP)の見解を踏まえ、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患を対象としたEMAへの承認申請を取り下げました。
「神経疾患領域」
・HTTmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド「RG6042」は、2023年1月に、ロシュがハンチントン病を対象として第Ⅱ相国際共同治験を開始したことを受け、当社の開発ステージを第Ⅱ相へ変更しました。
・抗潜在型ミオスタチンスイーピング抗体「GYM329/RG6237」は、2023年3月に、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を対象として第Ⅱ相臨床試験を開始しました。
・抗アミロイドベータ/TfR1融合蛋白「RG6102」は、2023年10月に、アルツハイマー病を対象として第Ⅰ/Ⅱ相国際共同治験を開始しました。
・抗アミロイドベータヒトモノクローナル抗体「RG1450」は、第Ⅲ相国際共同治験「GRADUATE1/2試験」の結果に鑑み、アルツハイマー病を対象とする開発を中止しました。
「血液疾患領域」
・抗factor Ⅸa/Ⅹバイスペシフィック抗体「ACE910/RG6013」(製品名:「ヘムライブラ」)は、2023年1月に、重度の出血の表現型を伴う中等症の血友病Aの適応拡大について、欧州委員会より承認を取得しました。
・抗補体C5リサイクリング抗体「SKY59/RG6107」は、2023年6月に、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を対象として国内で承認申請を行いました。また同年6月に、FDA及びEMAへPNHを対象として承認申請を行いました。
「眼科領域」
・抗VEGF/抗Ang-2バイスペシフィック抗体「RG7716」(製品名:「バビースモ」)は、2023年4月に、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象として承認申請を行いました。また、2023年3月に網膜色素線条を対象として国内第Ⅲ相臨床試験を開始しました。
・抗IL-6モノクローナル抗体「RG6179」は、2023年6月に、非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・pH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体「SA237/RG6168」(製品名:「エンスプリング」)は、2023年10月に、甲状腺眼症を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
「その他の領域」
・「REVN24」は、2023年10月に、急性疾患を対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。