文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
当社グループは1912年の創業以来、創業の精神である「熱と誠」のもとに、「水と空気と環境の分野で広く社会に貢献する」ことを企業理念とし、事業を行ってきました。創業当時は日本の水インフラの整備に貢献し、「水を安全かつ安定的に供給するための事業を通じて国づくりに貢献する」という意思をもって社会の要請に応えてきました。第2次世界大戦からの戦後復興と高度経済成長期には、産業インフラや都市化による建設需要に対して、さまざまなニーズに基づく多種多様な風水力製品・サービスや、市民生活の高度化に伴って生じる廃棄物を処理する焼却設備等を提供してきました。さらに、情報化社会の進展に伴う半導体の爆発的な需要拡大に対して半導体製造装置・機器を開発し、進化する情報化社会に貢献しています。近年は持続可能な社会の要請に対して製品の省エネ化を徹底するなど、事業を通じて社会の様々な課題の解決に貢献してきました。
今後100年の人類社会や地球環境を展望した場合、多くの課題が考えられますが、当社グループは、気候変動、特に温暖化現象の激化による異常気象と自然災害の激甚化、海面上昇による高潮、陸地の浸食、さらには食料や水の資源枯渇等を大きな課題と捉えています。また、高度情報化社会はますます進化し、デジタル社会の加速によりライフスタイルが大きく変化することが予想され、社会を支える半導体の技術革新はさらに進むとともに需要も拡大していくと考えられます。
このように事業環境が見通しにくい中で、当社グループが今後も社会課題の解決を通じて更なる成長を続けていくためには、今後の社会の展望と課題を認識したうえで、将来のありたい姿を描き、その実現に向けた方針・戦略を明確にすることが不可欠と考え、2020年2月に長期ビジョン「E-Vision2030」を策定しました。
荏原グループは今後も “荏原らしさ”、培われた技術力および信頼性を強みとして、事業を通じてさらに広く社会に貢献し続けていきます。また、2030年に向けて荏原グループが解決・改善していく重要課題を「5つのマテリアリティ」として設定し、その実現プロセスを価値創造ストーリーとして策定・実践していきます。
① 持続可能な社会づくりへの貢献
技術で、熱く、持続可能で地球にやさしい社会、安全・安心に過ごせる社会インフラ、水や食べるものに困らない世界を支えます。
② 進化する豊かな生活づくりへの貢献
技術で、熱く、世界が広く貧困から抜け出す経済発展と、進化する豊かで便利なくらしを実現する産業を支えます。
③ 環境マネジメントの徹底
二酸化炭素排出を実質的にゼロにするカーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギー利用を含めた二酸化炭素削減を推進します。
④ 人材の活躍促進
多様な人材が働き甲斐と働き易さを感じながら活躍し、“競争し挑戦する企業風土”を具体化します。
⑤ ガバナンスの更なる革新
成長へのビジョンを描き、グローバルで勝ち続ける経営を後押しする攻めと守りのガバナンスを追求します。
当社グループは、2030年までに、SDGsをはじめとする社会課題の解決に資する5つのマテリアリティの実現を通じて持続的に貢献し、①社会・環境価値と②経済価値を同時に向上させていくことで企業価値を向上させることにより、グローバルエクセレントカンパニーを目指します。2030年における企業価値向上の目安として、時価総額1兆円規模を設定します。
<成果目標の代表例>
①社会・環境価値
・CO2約1億トン相当の温室効果ガスを削減する
・世界で6億人に水を届ける
・最先端の半導体デバイスである14オングストローム(100億分の1m)世代への挑戦により、くらしの進化に寄与する
②経済価値
・投下資本利益率(ROIC)10.0%以上
・親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)15.0%以上
・売上収益1兆円規模
<ROIC経営>
「ROIC経営」は株主が重視する企業価値の最大化と、事業部門が重視すべき事業価値の最大化とを橋渡しする有用な経営手法と捉えています。当社の「ROIC経営」においては、管理すべき事業単位毎にWACC(ハードル・レート)を設定し、各事業単位でROIC・WACCスプレッドの最大化を目指した施策を展開しています。ROICツリーにより、事業単位で管理し易い指標にまで分解し、それらを各担当者レベルの評価指標として位置付けると共に、プロセスKPI*として進捗を月次でモニタリングしています。
(3)中期的な経営戦略と目標とする経営指標
<E-Plan2025の位置付け・方向性>
E-Plan2022での成果をベースに次のステージとして、それぞれの事業で更なる競争力強化を図るべく、E-Plan2025では「顧客起点での価値創造」をテーマとしています。その上で、E-Plan2025期間を、E-Vision2030に掲げる「2030年にありたい姿」に着実に近づき、2030年にそれを確実に実現するための3年間と位置付け、以下のとおり方向性を定めました。
1.マーケットインを強化していくことで、プロダクトアウトから脱却し、「顧客起点での新たな価値創造」を行う企業文化を根付かせる。
2.対面市場に向かってそれぞれの事業がパフォーマンスを最大限に発揮する体制となることを企図し、対面市場別5カンパニー制へと組織改変を行う。
3.「2030年にありたい姿」の実現をより確かなものとしていくための資本投下(成長投資/基盤投資)を積極的に行う。
4.効率性/収益性指標(ROIC、営業利益率)については、2022年に実現したE-Vision2030で掲げた目標水準(ROIC 10%など)を維持する。
5.“ROIC経営の深化”を継続的に進めつつ、「2030年に時価総額1兆円」の実現をより強力に推進するために、E-Vision2030で目標として掲げるROEを重要指標として加え15%以上を目指す。
6.グループ全体最適と機能毎のグループガバナンス高度化を目的としてCxO制を導入する。
以上の1~6の実践を通じ、「2030年にありたい姿」実現への道筋がより確実に見通せる位置に到達していることがE-Plan2025の目標となります。事業成長については、E-Plan2025期間のトップラインのCAGRを7%と置くこととし、成長分野と位置付ける「建築・産業」と「精密・電子」の2事業を中心にそれを実現していくものとします。
<E-Plan2025のテーマと重点領域>
E-Plan2025では対面市場別組織が顧客起点での価値の創発を行うことで新たな事業創出を目指していきます。
テーマ: 「顧客起点での価値創造=起業化」
挑戦し続けるマインドセットをサポートする組織風土を醸成するとともに、会社全体を顧客の要望、課題に真摯に向き合う組織構造へと変化させ、ビジネスを創出する一連の流れを生み出すことにより、継続的な「起業」とそれによる価値創造を目指します。
また、テーマ実現を支える5つの重点領域を以下のとおり定めます。
1. 対面市場・顧客起点
2. 新たな価値創発
3. グローバル事業基盤の確立
4. 経営インフラの高度化
5. ESG経営の推進
<事業セグメントの変更>
当社グループでは、長期ビジョンの実現に向けた次の成長ステージとして、「E-Plan2025」の中で、より市場に向き合い顧客起点での価値創造を実現していくためには、従来の製品軸のセグメントから対面市場軸のセグメントへと事業セグメントを変更することが合理的と判断いたしました。
「風水力事業」「環境プラント事業」「精密・電子事業」の従来の3事業セグメントを、「建築・産業」「エネルギー」「インフラ」「環境」「精密・電子」の5事業セグメントに変更いたしました。
具体的には、ポンプ、コンプレッサ・タービン、冷熱機械等の製品軸で構成される現行の「風水力」セグメントを、「建築・産業」「エネルギー」「インフラ」の3つの対面市場別セグメントに再構成した上で、それらを「環境」「精密・電子」と並ぶ事業セグメントに位置づけています。
<目標とする経営指標>
E-Plan2025の最終年度である2025年度に達成すべき目標として以下の各項目を設定します。
財務数値目標
※1 ROIC計算式
NOPLAT(みなし税引後営業利益)÷投下資本{有利子負債(期首期末平均)+株主資本(期首期末平均)}
非財務目標
E-Plan2025期間におけるキャッシュ・アロケーションの目安(3年間累計)
(4)経営環境
E-Plan2025を策定するうえで前提とした経営環境は以下の通りです。
表中「市場別・地域別トレンド」の矢印は市場の成長動向を示す。
(5-1)事業別の対処すべき課題
各事業は、下記の基本方針と基本戦略で課題解決を行っていきます。
・建築・産業市場において、顧客視点でのポンプ・冷熱製品・サービスを組合せた新たなソリューション提供により、事業の更なる成長を目指す。
・DXを活用した業務・事業運営の高度化、効率化
・ソリューション事業強化
-顧客へのソリューション提供によるモノ売りからコト売りへの転換
-新たなビジネスモデルの創出と展開
-IoT+クラウドを使った顧客との接点強化
・成長市場(海外)の取り込み
-M&A拠点製品(Vansan社、Hayward Gordon社)のグローバル展開
-高付加価値製品の投入による新市場の開拓
-食品、半導体市場を中心とした先進国の産業ユーティリティ市場への参入
-アフリカ地域での販路拡大と灌漑向け製品強化
-アフリカ、南米、アジア、北欧地域への新拠点の設立
・グローバルでの事業インフラ再構築
-海外生産拠点の拡充及び地政学リスクを考慮したグローバル調達・生産配分の見直し
・エネルギーシフトをリードし、脱炭素社会に貢献するため、サステナビリティやサービス分野で新たなビジネスモデルを確立する。
・既存事業領域の収益性を更に向上させるため構造改革を行う。
・コンプレッサ・タービンとカスタムポンプの統合により、顧客や市場に新たな価値を提供する。
・製品(New Apparatus)
-選別受注の継続による、収益性の向上
-新規ソリューションの市場投入準備完了
・S&S(Global Service)
-サービス拠点の構造改革
-コンプレッサ・タービンとカスタムポンプのサービスリソース活用
-新たなS&Sビジネスの開発と市場投入
・グローバルでの生産体制(Global Manufacturing)
-荏原グループ全体最適化の視点でのエンジニアリングの最適化、統一の推進
-自動設計の対象機種拡大
-生産体制の再構築
-LCC(Low Cost Country)からの調達拡大による調達コストの低減
③ インフラ
・国内:生産工場との協働により製品開発力を強化し、底堅い官需のシェアと収益を維持する。
・海外:成長市場を見定めて、ポンプ設備や周辺技術、エンジニアリング技術を用いた新たな価値を創造する。
・国内ポンプ市場でのシェア拡大
-製品開発力・エンジニアリング機能の強化
-大型機場の延命化提案の推進
-有資格技術者の増員と代理店の活用による、機会損失の低減
・海外ポンプ市場の深堀と利益確保
-国内で高評価を得ているエンジニアリング技術の海外拠点への展開による競争力の強化
-フロントローディングによる戦略受注の継続および収益性の確保
・国内外での生産性向上
-マーケットニーズに即した製品開発
-調達能力の強化
-生産拠点の連携の深化
・中核事業の基盤強化
・脱炭素や資源循環など市場の変化を適切に捉え、Life Cycle Assessment(LCA)を基軸とした、ソリューションプロバイダとしての取り組み強化
・新規DBOの価格競争力向上・EPCの追加原価発生防止
[EPC]
-工事費用・機器購入費・設計管理費などの削減
-設計の標準化や方針の見直しによる施設のコンパクト化
-設計の標準化や自動化等の設計業務プロセス改善成果の徹底活用
-計画精度の向上による、土木建築やプラント施工時の追加原価発生の防止
[O&M]
-長期包括案件におけるメンテナンスメニューの最適化、相見積によるコスト低減
・既設O&M案件の収益基盤のさらなる強化
-周辺業務の拡大
-施設運営期間の最大化
・LCAを基軸とした脱炭素・資源循環ソリューションプロバイダとしての取り組み強化
-ケミカルリサイクル技術の精度向上と、実用化に向けたスキーム構築
-ロボット開発による運転やメンテナンスなどの高度化
-新技術やサービスの開発・提供
・地域戦略の推進
・製品・サービスを提供するのみでなく、顧客のプロセスやユーティリティにおける課題解決を通じてユニークな価値を提供する。
・地域戦略からグローバルアカウント戦略に転換し、顧客のグローバル展開に合わせた戦略立案とグローバル全体最適化によりシェア拡大を図る。
・製品・ソリューション開発力の強化
[コンポーネント]
-顧客の半導体製造の脱炭素化への貢献、AI・DXを活用した新たな価値、半導体以外の産業領域への展開など、半導体工場のサブファブ領域全体に対する価値・ソリューション提供
-ドライ真空ポンプ、排ガス処理装置、半導体製造装置向けチラー、次世代EUV露光装置向け排気システムなどの製品開発
-データモニタリング、故障予知機能などのソリューション開発
[CMPおよびその他装置]
-マーケットインのソリューション開発体制構築
-研究開発施設の増強
-データサイエンス活用によるさらなる価値創造
・生産能力増強
[コンポーネント]
-ドライ真空ポンプは、自動化工場の稼働率向上、グローバルでのオーバーホール能力増強の実施
-EUV露光装置向け排気システムを含む各製品は、需要増に向けた設備投資
[CMPおよびその他装置]
-熊本事業所へ新棟建設
・事業規模拡大に対応したグローバルでの事業インフラ再構築
-ローカル中心の対応から、グローバルでの顧客サポート強化によるS&Sの強化
-サプライヤのマルチ化、海外調達拠点の設立、在庫戦略の再構築によるサプライチェーンの強靭化
-需要増に対応したグローバル組織体制の再構築
当社グループは、SDGsをはじめとする社会課題の解決に事業を通じて持続的に貢献し、社会・環境価値を向上するとともに中長期的に企業価値を向上させることを目的として、環境問題への取り組み(E)、社会とのつながり(S)、ガバナンスの強化(G)を柱とするサステナビリティ経営を実践しています。
当社グループのサステナビリティに関するガバナンス体制は、取締役会とサステナビリティ委員会を中心とする「監督・業務執行体制」と、役員報酬の一部をESG指標と紐づける「報酬制度」をその柱としています。
当社グループは、下図に示す体制によりサステナビリティ経営を実践しています。
業務執行側では、「サステナビリティ委員会」が重要な役割を果たしています。同委員会の委員長は代表執行役社長が務め、議題は、環境、社会、ガバナンス全般に及びます。加えて、当社グループの人権に関する方針及び各種施策を決定する「人権委員会」、全グループの労働安全衛生に関する方針を決定し、全社の状況をモニタリングする「中央安全衛生委員会」において議論された内容についても、サステナビリティ委員会にて、報告及びレビューがなされています。サステナビリティにおけるリスク管理は、全社のコーポレート・ガバナンス体制に包含されており、全社の重要リスクに対処する「リスクマネジメントパネル」がサステナビリティにおけるリスクについても対応しています。詳細は
監督側では、取締役会が業務執行側の取り組みについて、サステナビリティ委員会から報告を受け、内容をレビューし、必要な助言と指示を与えています。
各委員会の役割と機能は以下の通りです。
取締役会は、執行側の社会、環境、ガバナンスに対する取り組みの監督をさらに強化していく必要があるという認識のもと、E、S、Gについて定期的に議論することを2022年から行っています。重要議題として気候変動への対応や人的資本への取り組みを取り上げています。議論の結果をサステナビリティ委員会に共有するとともに、取締役はサステナビリティ委員会に陪席し、執行側のサステナビリティに関する取り組み状況を把握し、監督しています。
社会、環境並びに当社グループのサステナビリティに資する活動の対応方針、戦略、目標及びKPIを審議し、成果の確認及び見直しを行う会議体として、サステナビリティ委員会を業務執行の一機関として設置しています。サステナビリティ委員会は代表執行役社長を委員長とし、執行役が委員を務め、サステナビリティに関する社外有識者がアドバイザーとして参加しています。監督機能を発揮するため、本委員会への非業務執行の取締役の陪席を推奨し、非業務執行の取締役が必要に応じて助言等を行っています。サステナビリティ委員会の審議内容は取締役会に報告され、取締役会は情報を的確に捉えて、監督機能を発揮できる体制を整備しています。
各カンパニーのリスク管理部門が定期的に行うリスクアセスメントの結果に基づき、リスクマネジメントパネル(以下、RMP)が、サステナビリティに関するリスクを含む全社共通の重要リスクを特定しています。リスクアセスメントでは、想定し得るリスク項目の中から、事業責任者・部門責任者へのアンケートとヒアリングにより、対応すべきリスク項目を特定したうえで、リスク対応体制を再評価し、主管部門を明確にしてリスクに対応しています。
中期経営計画を年度別に具体化し、各組織の年度ごとの予算と行動計画を明らかにするため、経営会議及び経営計画委員会で審議・決定しています。また、経営課題行動計画の進捗をモニタリングする会議体として、経営課題行動計画モニタリング会議を設置しています。2023年からは、従来の予算達成のための目標設定に加えて、非財務目標達成のための行動計画も立案し、同会議でモニタリングをしています。
荏原グループ安全衛生方針に基づき、荏原グループで働く人すべてに対し、ワークライフ・バランスの実現や心の健康づくりを含む安全衛生を優先する職場環境を構築・維持するため、中央安全衛生委員会を設置しています。同委員会では、各部門の安全衛生計画を審議し、モニタリングしています。活動状況はサステナビリティ委員会に報告され、レビューされます。
荏原グループ人権方針に基づき、人権方針の実践と人権マネジメントの仕組みを継続的に改善することを目的として、荏原グループ人権委員会を設置しています。同委員会では当社グループの人権に関する取り組み方針を設定し、人権マネジメントの継続的な改善を行っています。従業員とサプライヤの人権デューデリジェンスの結果と改善計画の進捗をモニタリングしています。活動内容はサステナビリティ委員会に報告され、レビューされます。
②報酬制度
当社の報酬委員会は、事業活動を通じて持続可能な社会に向けた高度なESG経営を実践するため、ESGに関する目標の達成度を役員報酬に反映することが適切であると考え、グローバルな役員報酬に関する外部専門家の意見も参考に議論を重ね、2022年12月期より短期業績連動報酬(STI)の一部をESG指標の達成度と紐づけています。
評価項目は、“E”(環境):CDP*1の評価、及び“S”(社会):GES(グローバルエンゲージメントサーベイ)*2の結果とし、評価ウェイトはSTIの10%としています。なお、これらの評価指標については今後も継続的に見直してまいります。
*1. CDP:気候変動対応の戦略やGHG排出量削減の取り組みなどを評価するESG評価機関
*2. GES:2019年より国内外グループ会社従業員を対象に、中長期的に目指すありたい姿の達成に向け会社や職場における従業員のエンゲージメントの 現状について調査をしているもの。
<短期業績連動報酬(STI)における評価指標について>
中期経営計画E-Plan2025の基本方針に、「5:ESG経営の更なる進化」を設定しています。持続可能な社会づくりに貢献するため、下表の戦略に基づき、高度なESG経営の実践を進めています。なお、ガバナンス(G)についての戦略及び取り組みについては、
E(環境)に対しては、現在及び将来の気候変動に対処しつつ、2050年のカーボンニュートラル達成のため、自社製品・サービス提供を通じた環境負荷低減を進めています。
当社グループでは、気候変動は世界が直面している重大な課題であると認識し、2019年にTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)を支持する署名を行いました。ステークホルダーとの対話を通じて、気候変動に対するガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標について情報を開示し、取り組みを推進することの重要性を認識しています。事業ごとに気候関連のリスクと機会をより明確にすることを目的とし、対面市場別のシナリオ分析を行いました。脱炭素社会に向けて進化しているオイル&ガス市場向けの事業、社会全体の高効率化に欠くことのできない半導体製造市場向けの事業、ビルやマンション、また様々な産業の工場におけるエネルギーマネジメントにより脱炭素化が期待される建築・産業市場向け事業、ごみの再資源化や廃熱をエネルギーとして循環させることが期待される固形廃棄物処理市場向け事業、豪雨や洪水など気候変動に伴う災害への適応が期待される水インフラ市場向け事業について、気温上昇を4℃シナリオ、1.5℃シナリオで、それぞれの事業に、どのような財務インパクトが生じるのかを分析し、その結果に基づき、気候関連リスク・機会に対する2050年までの対応策を検討しました。気候関連シナリオ分析には、各カンパニープレジデントの責任の下に行いました。
検討結果は、TCFD提言に基づき開示を行っています。開示に際しては取締役会に開示案を提案し、助言を得ています。シナリオ分析の結果は、2023年にスタートした中期経営計画E-Plan2025に気候関連の戦略に反映されています。シナリオ分析のレビューは中期経営計画策定と同じサイクルで行います。
当社グループの開示内容は「環境省「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」2022年度版シナリオ分析開示事例(国内外)」に掲載されているほか、GPIFの国内株式運用機関が選ぶ2023年の優れたTCFD開示にも選ばれています。TCFDに基づく情報開示の詳細については、
https://www.ebara.com/sustainability/think/information/tcfd.html
当社グループでは、持続可能な社会の実現と、グループの成長との両立を目指し、自社とバリューチェーンにおけるGHG(Greenhouse gas)排出量を低減することにより、2050年にGHG排出ネットゼロを目指しています。このため、カーボンニュートラル推進に関するガバナンス体制を強化しました。具体的にはこれまで実務レベルでの化石エネルギー使用の合理化等を所掌してきたエネルギー管理委員会を、再エネや非化石エネルギーも含めたすべてのエネルギーを所掌する組織に改組いたしました。本委員会を中心として、CO2排出量の削減目標達成に向けた具体的な取り組みを進めるとともに、サステナビリティ委員会において、当社グループの方針、戦略、目標及びKPIを審議し、成果や進捗の確認を行うことで、着実にカーボンニュートラルに向けた取り組みを推進していきます。また、具体的な取り組みとして、社内事業活動における省エネを徹底するとともに、グループのエネルギー使用の約8割を占める電力について、国内の主要な事業拠点では低CO2電力を導入しています。国内外の事業拠点においては太陽光発電設備の拡充を進めており、藤沢事業所では2020年に竣工した新工場建屋の屋上への1.6MW級の太陽光発電設備の設置に加え、オフサイトPPAモデルによるCO2フリー電力の調達も行っています。さらに、GHG排出係数の高い排ガスを無害化する排ガス処理設備の製造販売や、二酸化炭素回収・貯留技術(CCUS)に貢献するCO2インジェクションポンプの開発・製造・販売、廃プラスチックのケミカルリサイクル技術の商用化実現、水素・アンモニアなどの次世代燃料の製造や活用に関するインフラ設備開発などを通じ、社会全体のGHG排出量削減にも取り組んでいます。
S(社会)に対しては、人的資本経営の強化を進め、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進します。サプライチェーンにおける人権デューデリジェンスへの対応も進めています。
長期ビジョンE-Vision2030のマテリアリティ4「人材の活躍促進」に向けて、荏原グループは「チャレンジ精神をもって創意工夫する多様な人材を世界中から獲得し、働きやすい職場環境下での適切な競争や挑戦によって実力が最大限発揮され、公正に評価され、個々の社員が充実し、成長する企業風土を目指す」という人事・人材開発基本方針を掲げています。
この方針のもと、多様な人材の活躍推進とグローバルでの人材マネジメント基盤を確立するための具体的な取り組みを実現するため、2023年にCHROオフィスを設置しました。各事業の人材ニーズや人材に関する経営課題を解決するため、グループ全体の人事戦略(ONE EBARA HR)に基づいた施策を遂行し、「人的資本経営」の強化を図っています。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出し、「グローバルでの持続的成長」を実現するための基盤整備をより加速させ、「競争し、挑戦する」人材を育成し、グローバルモビリティの向上を通じて、人材の最適配置をグループ全体で強化しています。
<中期経営計画E-Plan2025期間中の主要施策>
1. 学びたい人、挑戦したい人に対して、早期選抜・育成に資する様々な機会を提供するとともに、自らキャリアチェンジを目指せるような仕組みを構築し、適所でモチベーション高く働けるよう支援します。
2. 海外グループ会社のローカル社員がより重要なポジション(グローバルキーポジションGKP:Global Key Position)で活躍するための、グローバルで統一された役割等級制度の導入の推進、グローバル人材育成プログラムの全社展開、国内外のサクセッションの戦略的な実行を推進します。
3. リファラル採用、アルムナイ制度を活用し、多様な人材の獲得を進めます。また、多様な人材がより働きやすい環境を提供するために、EBARA New Workstyleの更なる拡大を行います。
4. 「人材の見える化」をグローバルに加速させるための基盤となる「グローバルHCM(Human Capital Management)プラットフォーム」を構築し、各人事施策の効果を定量的にモニタリングできる体制を構築していきます。
「グローバルHCMプラットフォーム構築の取り組み」<技術元素表>
当社では技術と人の結びつきを技術・人材マップにより整理する試みを継続しており、それを可視化したものが、技術元素表です。5カンパニー別の技術と、複数のカンパニーに共通する共通技術、さらには全社横断的な重要な共通技術について整理しています。この技術元素表の活用により、社内外のコラボレーションを進めるとともに、人材が不足する重要な技術については人材の補強、さらにはローテーションを行って、確実に技術を継承、発展させていく体制を整えていきます。
(ii)<ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)に向けた取り組み>
当社は、より強い企業となり、成長し続けるために、多様な人材の登用を目的としたダイバーシティ推進に力を入れています。2023年9月からは、DE&I を強力に推進していくために、ダイバーシティプロジェクトをダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進部に再編しました。実施する施策として、①採用・育成の多様化、②女性活躍推進、③障がいのある社員の活躍促進を掲げています。
特に女性管理職比率を向上するために、2023年より昇格試験制度の見直し(管理職登用までの期間短縮・抜擢受験の実現)等を通じて、出産・育児等のライフイベントの影響なく挑戦をサポートする体制を整えました。さらに今後はより早期から学びの機会を増やしていくことでスキルアップを図るとともに、年代別の研修等を通じて中長期のキャリアをより明確に描けるような仕組みづくりを推進していきます。
a.「人権尊重の基本方針」
荏原グループは、世界人権宣言の「すべての人間は、生まれながらにして尊厳と権利とについて平等である」との規定に基づき、荏原グループCSR方針に掲げる「人権と多様性を尊重する」経営を実践するために、「荏原グループ人権方針」を定め、社内外に公表しています。3つの基本方針とともに、それを実践していくための対応方針を定めています。荏原グループ人権方針は、国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」と国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を尊重しています。
荏原グループ人権方針の全文は、
https://www.ebara.co.jp/sustainability/social/information/respect.html
b.「人権に関する救済」
国内グループ会社においては、コンプライアンス相談窓口が人権を含む苦情を受け付け、対応しています。海外グループ会社にもホットラインを設置し対応しています。社外からの相談は、当社ウェブサイトのお問い合わせ窓口で受け付けています。2022年6月改正公益通報者保護法施行にあたり、人権に関する苦情や相談を受け付けた場合には、コンプライアンス相談窓口が当該法に則って対応します。
c.「2023年の取り組み」
(3)リスク管理
当社グループのサステナビリティに関するリスク管理は、リスクマネジメント体制に包含されています。当社グループのリスク管理活動を統括し、審議、改善指導・支援を行う機関である、リスクマネジメントパネルは、全社共通のリスクとして、「地球環境・気候変動」、「サプライチェーンリスク」、「働き方と人材のリスク」等を認識し、これらのリスクに対処する体制を整えています。詳細については、
当社グループでは、上記「(2) 戦略」において記載した、「(i) 気候変動・(ii)カーボンニュートラル」、「(i)人的資本、(ii)ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」、「(iii)人権」について、次の指標を用いて進捗を評価しております。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりです。
※1 速報値。確定値は2024年6月以降に
※2 WBCSD (World Business Council For Sustainable Development)が2023年3月に発行した、Guidance on Avoided Emissionsを踏まえ、バリューチェーンにおける目標の記述に「削減貢献量/他」を追記しました。「他」には、当社グループ製品が無害化するGHG排出係数の高い排ガスのCO2換算相当量などを含んでいます。
②人的資本・ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)
③人権の尊重
荏原グループのリスク管理活動を統括し、審議、改善指導・支援を行う機関として、リスクマネジメントパネル(以下、「RMP」)を設置しています。RMPを中心としたリスクマネジメントの体制は下掲の図のとおりです。 RMPは代表執行役社長を議長とし、全執行役により構成しています。また、リスク管理における監督機能を発揮するために非業務執行の取締役が陪席し、必要に応じて助言等を行っています。RMPの審議状況は取締役会に報告され、取締役会が情報を的確に捉えて、監督機能を発揮できる体制を整備しています。あわせて、リスク対応の重要度に応じ全社的に対応が必要な場合には代表執行役社長を本部長とする対策本部を立ち上げ、全社で迅速に報告・連絡・判断をとるようにしています。
当社グループの事業活動に関するリスクについては、執行役の職務分掌に基づき各執行役がそれぞれに管理し、重要事項については経営会議(代表執行役社長が意思決定を行うために必要な審議を行う業務執行会議体。詳細は「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照ください)で審議します。事業活動を通じたサステナブルな社会・環境の構築にかかるリスクについてはサステナビリティ委員会(事業活動を通じてサステナブルな社会・環境の構築に寄与し、企業価値を継続的に向上させるため、事業とそれを支える活動の対応方針の審議、KPI及び目標の決定、並びに成果の確認を行う業務執行会議体。詳細は「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照ください)が審議します。RMPはリスク管理活動を統括し、当社グループ全体のリスク対応体制を整備し、リスク対応活動を支援します。
これらの執行会議体とガバナンス体制の全体像としては「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」およびホームページ https://www.ebara.co.jp/ir/governance/information/Basic-Policy-and-Framework.html を参照ください。
(2) 事業継続マネジメント
大地震や大規模な感染症などの発生時、国民の生命・財産にかかわる重要な施設の機能継続や早期復旧を支援するために製品・サービスを提供することは、当社の重要な業務と考えています。そこで、事業継続マネジメントシステムを構築し、組織体制や計画をまとめています。
これについては、代表執行役社長を本部長とした統括本部を設置して、初動活動から事業継続および事業復旧まで一貫して全社の活動情況を把握し、全社的な指示や情報発信を行いつつ、「初動活動」においては、地域毎に設置した現地本部が避難、救助、消火等、社員等の安全確保や資産の保全のための活動を指揮する一方、「事業継続及び事業復旧活動」においては、重要業務の継続及び速やかな復旧をカンパニーが指揮する体制としています。
(3) リスク分析と当社グループの重要リスク
当社グループの事業等に関するリスクについて、長期ビジョン「E-Vision2030」及び中期経営計画「E-Plan2025」の策定にあたっては、中長期的な社会情勢や市場環境の変動をシナリオプランニングによって分析しています。また、足下の当社グループを取り巻くリスクについては、事業特性に照らし想定し得るリスクのうちから当社グループにとっての発生可能性、影響度及び対策後の残存リスクを分析する、全社リスクアセスメントを定期的に実施しています。
リスクアセスメントでは、当社グループの事業運営において想定される100を超える様々なリスク項目の中から、当社グループにとっての影響度と発生可能性がともに大きいもの、さらに「それらの対策が十分であるか」を評価の上で、グループ重要リスクとして特定し、主管部門や報告先執行会議体などのリスク対応体制を再整備し、RMPに報告しています。
将来の気温上昇がもたらす事業への影響については、長期ビジョンの設定と平仄をあわせて、TCFD の枠組みに沿って気候変動因子を中心に2℃以下シナリオを含む複数のシナリオによって分析をおこなっています。
それらに基づき、リスクについて全社共通のリスクと、当社が対面している市場別のリスクにまとめると、以下の表のとおりです。
当社グループはリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める所存です。
経営に重要な影響を及ぼすような重要かつ全社的に対応が必要な事態が発生した場合には、リスク対応体制として代表執行役社長を本部長とする対策本部を立ち上げ、全社で迅速に報告・連絡・判断ができるようにしています。159期に発生したリスクおよびその対応としては以下のとおりです。
新型コロナウイルス感染症に対して、当社グループでは、社長を本部長とする新型コロナウイルス感染対策本部を設置し、グループの感染状況を週次で確認しながら、感染予防策を継続的に講じ、従業員及び家族、協力会社等へのワクチン職域接種を進め、Withコロナ期間における新しい働き方を実践してきました。その間取締役会は感染状況と取組状況を把握しつつ中長期視点での対策を監督する一方、各拠点では各国政府・地域の方針に準じて、感染拡大防止に努めながら、事業活動を継続してきました。5月の新型コロナ感染症の5類感染症への移行に伴い、ポストコロナ期間への移行に対応して、社員及びお客様をはじめとするステークホルダーの皆さまの健康と安全、感染拡大の防止を第一に、いっぽうで社会や産業に製品・サービスを提供する企業として感染予防策を継続的に講じながら、お客様の事業や生活への影響を最小限に抑える事業活動を新しい働き方の下で行っています。
ウクライナ情勢について、当社グループでは2022年より社長を本部長とする対策本部を設置し、従業員およびパートナー企業をはじめとするステークホルダーの皆さまの安全を最優先に、情報収集と情報分析、グループ内の意思統一を図ってきました。当社グループは、各国の法規制を遵守しつつ、社会や産業に製品・サービスを提供する企業として必要な対応をおこなっています。
当社グループのロシア及びベラルーシ向けの取引は相対的に小さいものであり、ウクライナ情勢に直接起因する事業全体への影響は軽微です。
また、貿易摩擦から始まった米中経済対立の拡大を始めとするその他地政学上の問題については、懸念される事象に対して幅広く情報収集情報分析をおこなったうえで、状況に応じ、社長を本部長とする対策本部を構築し、危険地域からの退避やその他の従業員およびパートナー企業への行動指針、グローバルサプライチェーンの見直し等を、事前の準備に沿って実施していきます。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(単位:百万円)
当連結会計年度における我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の5類移行により社会経済活動の正常化が進み、個人消費や企業の設備投資には緩やかな回復が見られました。一方、世界経済ではウクライナ情勢の長期化や世界的なインフレの継続、金融引き締め政策に伴う企業の投資抑制など経済活動には減速感がみられました。中国や欧米を中心とした景気後退懸念や、米中の対立による半導体輸出管理規制強化など地政学リスクは継続しており、依然として先行き不透明な状況が継続しています。
このような環境の下、当社グループは2023年を初年度とする3か年の中期経営計画「E-Plan2025」を策定し、「顧客起点での価値創造」をテーマに、更なる競争力の強化を図るため対面市場別組織へ移行し、経営指標の達成に向けた各種施策の取り組みを進めています。
当連結会計年度の受注高は、「エネルギー」においては、北米を中心にLNG市場向けの需要が活況で大型案件を複数受注したほか、アジアでも石油化学市場向けの大型案件を受注し、前期と比べて大幅に増加しました。一方で、「精密・電子」においては、半導体メーカの設備投資抑制や工場稼働調整に一部で底打ちの兆しは見られたものの、低調に推移しました。全社の受注高は、「精密・電子」の減少を他の事業がカバーしたことで前期を上回りました。売上収益は、「環境」を除く各事業で前期を上回り好調に推移しました。「建築・産業」や「エネルギー」、「インフラ」が順調に受注を伸ばしたことや、「精密・電子」において部材不足の解消により生産状況が改善し、前期末から高水準で推移していた受注残高の消化が進んだことで売上収益が増加しました。営業利益は、人件費の上昇や事業活動拡大に伴う固定費が増加傾向にあるものの、増収に加え、価格改定効果等により増益となりました。
これらの結果、当連結会計年度における受注高は8,205億98百万円(前期比0.7%増)、売上収益は7,593億28百万円(前期比11.5%増)、営業利益は860億25百万円(前期比21.9%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は602億83百万円(前期比19.4%増)となり、いずれの項目においても過去最高額を更新しました。
セグメントごとの経営成績は、次のとおりです。なお、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 5.事業セグメント」に記載のとおり、第1四半期連結累計期間より報告セグメントを変更しています。以下、前連結累計期間との比較については、前年同期の数値を変更後のセグメント区分に組み替
えて比較しています。
(単位:百万円)
建築設備市場は、全般的に海外では成長がやや鈍化する一方、国内の設備投資は堅調に推移しました。受注高は、不動産市況が低調な中国において、省エネ製品への需要の高まりや公共インフラ投資の進展などもあり、産業市場や公共系市場向けで増加しました。売上収益は、受注高の増加や価格改定効果などにより前期を上回りました。セグメント利益は、増収効果に加え、製品価格改定による収益性改善もあり増益となりました。
これらの結果、受注高は前期から164億82百万円増の2,213億51百万円、売上収益は286億52百万円増の2,221億81百万円、営業利益は43億36百万円増の157億37百万円となりました。
LNG市場は北米を中心に活発な動きが見られました。また、石油化学市場においても北米、アジア、中東の需要が堅調に推移し受注も好調に推移しました。特に中国では石油化学向け、電力向けも堅調でした。売上収益は、製品受注が好調で北米や中東、中国を含むアジアで増収となり、サービス&サポートも堅調に推移しました。セグメント利益は、増収効果に加え、製品の収益性改善や価格改定効果によって、増益となりました。
これらの結果、受注高は前期から747億43百万円増の2,227億76百万円、売上収益は236億23百万円増の1,672億29百万円、営業利益は54億10百万円増の223億47百万円となりました。
国内においてポンプ設備の更新・補修に対する需要は堅調で、受注高は下期に大型案件を複数受注したことで前期を上回りました。海外の水インフラ向けでも受注高は増加しました。国内外ともに売上収益を伸ばしたことによる増益効果と収益性の高い工事進行売上が進捗したことにより、セグメント利益は前期比で増益となりました。
これらの結果、受注高は前期から30億72百万円増の566億58百万円、売上収益は39億19百万円増の501億78百万円、営業利益は6億79百万円増の46億4百万円となりました。
受注高は、DBOの大型案件および長期包括案件を合計で2件受注しましたが、前期と比較して減少しました。売上収益は、過年度のEPC案件における受注が少なかった影響で、当期のEPC売上が減少しました。一方で、O&Mは安定して売上を計上しました。セグメント利益は、O&M売上比率の上昇に加え、売電事業における収益性改善などにより増益となりました。
これらの結果、受注高は前期から49億56百万円減の1,008億54百万円、売上収益は21億98百万円減の715億40百万円、営業利益は32億64百万円増の69億33百万円となりました。
※O&M(Operation & Maintenance)…プラントの運転管理・メンテナンス
EPC(Engineering, Procurement, Construction)…プラントの設計・調達・建設
DBO(Design, Build, Operate)…プラントの設計・調達・建設に加え、建設後の運転管理・メンテナンスを
一定期間請け負う。
半導体市場は、中国の半導体メーカで活発な投資が継続していますが、グローバルにおいては設備投資の延期や一部中止が継続しています。受注高は、中国の一部顧客による積極投資も見られましたが、全体的な需要は依然として低水準でした。売上収益については、CMPにおいては、期初受注残の消化が着実に進んだことで増収となりましたが、コーポネントにおいては、顧客の工場の稼働率が低調だった影響を受け減収となりました。セグメント利益については、サービス&サポート売上が減少し固定費も増加したものの、増収効果や為替影響により増益となりました。
これらの結果、受注高は前期から837億59百万円減の2,177億91百万円、売上収益は247億38百万円増の2,469億98百万円、営業利益は21億2百万円増の382億85百万円となりました。
《セグメント別の事業環境と事業概況》
生産、受注及び販売の状況は以下のとおりです。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりです。
当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、以下のとおりです。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりです。
当連結会計年度末における資産総額は、前年度末に比べて現金及び現金同等物が319億22百万円、棚卸資産が 192億78百万円、営業債権及びその他の債権が116億98百万円、有形固定資産が101億66百万円、のれん及び無形資産が70億48百万円増加したことなどにより、858億50百万円増加し、9,139億円となりました。
当連結会計年度末における負債総額は、前年度末に比べて営業債務及びその他の債務が230億23百万円減少した一方、契約負債が297億50百万円、社債、借入金及びリース負債が259億15百万円増加したことなどにより、340億4百万円増加し、4,923億27百万円となりました。
当連結会計年度末における資本は、配当金を189億43百万円支払った一方、親会社の所有者に帰属する当期利益602億83百万円を計上し、在外営業活動体の換算差額が99億29百万円増加したことなどにより、前年度末に比べて518億46百万円増加し、4,215億72百万円となりました。
親会社の所有者に帰属する持分は4,098億75百万円で、親会社所有者帰属持分比率は44.8%となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、堅調な営業利益に支えられ、700億12百万円の収入超過(前期比329億42百万円の収入増加)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得による支出344億67百万円などにより、356億25百万円の支出超過(前期比26億99百万円の支出減少)となりました。
営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フローを合わせたフリー・キャッシュ・フローは、343億87百万円の収入超過(前期比356億41百万円の収入増加)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金及び長期借入金が純額で224億33百万円増加したことや、配当金の支払い189億43百万円などにより、46億58百万円の支出超過(前期比190億90百万円の支出減少)となりました。
以上の結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前年度末から319億22百万円増加し、1,480億59百万円となりました。
当社グループは、資本効率と財務健全性のバランスに配慮しつつ、適宜適切なタイミングで資本の調達と配分を行うことを財務戦略の基本と考えています。現在の事業推進に必要十分と考える「シングルAフラット(※)」の信用格付け維持を基本とし、D/Eレシオを財務規律としつつ負債の活用を図ります。また、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善と非効率資産の選別/処分を通じ投下資本の効率的活用を促進します。その上で、株主還元として連結配当性向35%以上を維持しつつ、企業価値向上に繋がる投資対象への資本投下の機を逃さずに行い、「長期的な企業価値の最大化」を目指します。
(※)格付投資情報センター(R&I)による格付
当社グループは、事業を行う上で必要となる運転資金や成長のための投資資金として、営業キャッシュ・フローを主とした内部資金だけでなく金融機関からの借入や社債の発行などの外部資金を有効に活用していきます。D/Eレシオは0.3~0.5を基準に負債の活用を進め、資本コストの低減・資本効率の向上を図ります。
また、現金・預金等の水準(手元流動性)については、連結売上収益の2か月分を目安に適正水準の範囲でコントロールする方針です。これに加えて、金融上のリスクに対応するためにコミットメントライン契約等を締結することで、代替流動性を確保しています。なお、グループ内の資金効率を高めるため、資金を当社に集中する制度を運用しています。
契約の種別並びに当連結会計年度末の借入未実行残高は次のとおりです。
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに基づいて作成されています。連結財務諸表の作成にあたり、期末時点の状況をもとに、種々の見積りと仮定を行っていますが、それらは連結財務諸表、偶発債務に影響を及ぼします。
詳細については、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」及び「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりです。
記載すべき重要な契約はありません。
記載すべき重要な契約はありません。
記載すべき重要な契約はありません。
記載すべき重要な契約はありません。
当社グループでは、2020年に策定した“価値創造ストーリー”である「E-Vision2030」の実現に向け、重要課題とした「5つのマテリアリティ」を解決するプロセスを通じて持続的に社会に貢献するため、各事業及び各事業と連携を取るコーポレート研究開発組織で研究開発に取り組んでいます。
各事業部及び各グループ会社では、新技術の実用化・新製品応用のための研究開発、及び技術や製品の高付加価値化に向けた研究開発を、業務提携などの外部との協業も活用して効果的に進めました。
コーポレート研究組織では、これらの事業を支える共通基盤と重要なコア技術の強化に加え、「研究開発戦略策定委員会」を設立し、2030年以降を見据えた中長期の技術開発戦略の策定を開始しました。本活動を継続的に発展させ、将来のあるべき姿に向けた研究テーマの立案と具体的な取組みを強化していきます。また、新事業創出のための制度であるEIX(Ebara Innovation for X)制度を活用し、仮想・拡張・複合現実(xR)技術を活用した作業支援・トレーニング手法の実装を複数部門において開始しています。さらに、金属3Dプリンタで製造した製品の実用化を推進し、製造現場のDX化を加速させています。
グループ全社で挑戦するCP水素関連事業プロジェクトでは、社会実装に向けた事業活動を始めました。荏原が有する技術やノウハウを活かし、「つくる」「はこぶ」「つかう」のすべての分野でクリーン水素関連技術の社会実装を目指した活動をさらに強化し、“共創”を基本理念に、産官学連携を強め、組織横断的に取り組むことで、水素がもたらす新たな社会の実現に貢献していきます。具体的には世界初の液体水素昇圧ポンプや水素焚き吸収式冷温水機、水素コンプレッサの開発が進んでいます。また、天然ガスを使ったターコイズ水素製造についてはNEDO事業にも参画し、クリーン水素製造に関する研究開発の取り組みも強化しています。さらに、衛星用ロケットや水素航空機用の燃料供給ポンプなど、より難易度の高い航空宇宙分野への挑戦も進めています。
また、「水や食べるものに困らない世界」への貢献に向けて、陸上養殖実証設備を袖ケ浦工場内に設け、高度生産システムの技術開発を進めており、バイオ関連においては自社ラボにて細胞培養を実際に行いながら高効率細胞培養システムの開発に取り組んでいます。
当連結会計年度の研究開発費は
セグメントごとの研究開発活動の状況は、以下のとおりです。
(建築・産業)
建築・産業分野では、標準ポンプ、送風機、冷熱機器の各製品とサービスの開発に加えて、これら製品の組合せによるソリューション技術を模索、提案することで、より複雑化した顧客の課題解決に取り組んでいます。
標準ポンプでは、グローバル市場向けに高効率な排水と非閉塞性を両立させた汚水水中ポンプの販売を開始しました。また、インバータ一体型PMモーターIVMを搭載した標準ポンプ製品群のラインアップ拡充を継続して進めており、省エネルギー性を検証する実装実験を市場で行っています。
冷熱機器では、廃熱回収できる吸収式冷凍機及び地球温暖化係数の小さい冷媒を使用するターボ冷凍機などのラインアップ拡充、応用範囲拡大を継続して進めています。また、半導体市場向けの温調装置では、安定稼働と省エネルギー効果を実証するため、装置メーカやエンドユーザーによる評価を進めています。
基盤技術に関しては、流体・構造数値シミュレーションによる性能と振動・強度評価手法の開発、3DCADの自動化や最適化設計も含めたデジタル設計・解析プロセスの効率化、ポンプ・送風機の運転データ分析による運転状態診断手法の構築を進めています。また、製品軸ごとに独立していた既存の遠隔監視システムを統合し、ポンプ・送風機・冷熱機器の運転状態を統合監視可能なシステムの構築を進めています。
当連結会計年度の研究開発費は
(エネルギー)
コンプレッサ・タービンでは、省エネ・省資源に貢献する新型高効率タービンの開発を完了し、上市いたしました。引き続き、CO2、水素向け圧縮機の開発、および圧縮機、タービン、クライオポンプの性能改善、信頼性向上に向けて、要素技術の開発を進めています。
カスタムポンプでは、エネルギー分野で脱炭素のニーズに応えるアンモニアポンプの開発を完了し、上市いたしました。
当連結会計年度の研究開発費は
(インフラ)
インフラ分野では、製品、システム技術および建設に関して国内外の各顧客の特徴に沿った最適化を実現するための開発を行っています。用途、使用環境による様々な要望に応える設備の実現のみならず、管理・運営技術の高度化、省エネ・省資源・環境負荷低減を目指した継続的な検討を行っています。
一方でカスタムポンプ製品の製造を担う富津工場では、インフラカンパニーのみならず、エネルギー、建築・産業分野における海外工場での開発支援および脱炭素のニーズに応える製品の供給に関しても継続して進めています。
当連結会計年度の研究開発費は
環境分野では、廃棄物処理施設の建設工事(EPC)から施設運営・維持管理(O&M)までを一括して行うDBO事業、既存施設の延命化を提案する延命化事業、既存施設の長期にわたる運営委託を受ける長期包括事業に取り組んでいます。こうした中、施設更新に伴う機能強化、ライフサイクルコスト低減を可能とする新技術・新製品開発、保守運営技術の改良開発に加え、運転自動化の実現を視野に入れたAI/ICT技術の活用を推進しています。また、再生可能エネルギーの需要拡大を見込み、廃棄物処理施設やバイオマス発電施設における発電効率や運転の安定性を向上するための要素技術の開発に取り組んでいます。さらに、最近の世界的な動きとなっているカーボンニュートラルやプラスチックによる海洋汚染抑制に寄与すべく、廃プラスチックのケミカルリサイクルに適用する資源化技術の開発を行っています。
当連結会計年度の研究開発費は
精密・電子分野では、半導体デバイス製造プロセス装置において、チップの微細化や3次元集積化だけでなく、重要度が増している新しいパッケージング技術などの開発要求や、急成長するAI、IoT分野に関する技術開発要求にも対応するよう、装置の改良・改善及び新機種の開発に取り組んでいます。コンポーネント製品においては、更なる省エネ化及び環境負荷低減に貢献できる製品や総合排気機器メーカの強みを活かした製品の開発、さらには、DX技術やxR技術による生産性や品質の向上及びアフタービジネスの強化にも取り組んでいます。
また、顧客との共同開発・コンソーシアムへの参画、さらには各大学との共同研究などを通して、次世代半導体プロセス技術の研究も継続しています。
当連結会計年度の研究開発費は