第一部 【企業情報】

 

第1 【企業の概況】

 

1 【主要な経営指標等の推移】

(1) 連結経営指標等

 

回次

第6期

第7期

第8期

第9期

第10期

決算年月

2019年12月

2020年12月

2021年12月

2022年12月

2023年12月

売上高

(千円)

1,600,164

1,994,272

2,493,490

経常損失(△)

(千円)

869,952

600,073

222,177

親会社株主に帰属する

当期純損失(△)

(千円)

866,498

578,171

175,072

包括利益

(千円)

875,735

616,655

237,793

純資産額

(千円)

2,680,102

2,200,812

2,129,137

総資産額

(千円)

4,308,129

3,471,976

3,596,522

1株当たり純資産額

(円)

171.55

135.63

125.44

1株当たり

当期純損失(△)

(円)

62.76

37.49

11.30

潜在株式調整後
1株当たり

当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

61.29

60.53

54.18

自己資本利益率

(%)

株価収益率

(倍)

営業活動による

キャッシュ・フロー

(千円)

574,986

426,205

219,030

投資活動による

キャッシュ・フロー

(千円)

372,765

946,774

582,318

財務活動による

キャッシュ・フロー

(千円)

2,853,295

273,556

84,405

現金及び現金同等物
の期末残高

(千円)

3,500,340

1,853,805

1,574,922

従業員数

(名)

167

167

150

〔外、平均臨時
雇用者数〕

―〕

―〕

11

9

7

 

(注) 1.当社グループは、第7期までは連結財務諸表を作成しておりませんので、それ以前の連結経営指標等については記載しておりません。

2.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。

3.自己資本利益率については、親会社株主に帰属する当期純損失が計上されているため記載しておりません。

4.株価収益率については、1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。

5.第8期、第9期及び第10期は広告宣伝費及び営業体制強化による人件費、並びに製品機能や提供サービスの拡充及び品質の向上のためのエンジニア等の人件費や研究開発費を積極的に投下したこと等により、経常損失及び親会社株主に帰属する当期純損失を計上しております。また、同様の理由により、第8期及び第9期の営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっております。

6.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数は年間の平均人員を〔 〕内に外数で記載しております。

7.第8期以降の連結財務諸表については、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、有限責任 あずさ監査法人により監査を受けております。

 

8.2021年7月28日開催の取締役会決議により、2021年8月11日付で普通株式1株につき200株の割合で株式分割を行っておりますが、第8期の期首に当該株式分割が行われたと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純損失を算定しております。

9.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第9期の期首から適用しており、第9期以降に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

 

 

(2) 提出会社の経営指標等

 

回次

第6期

第7期

第8期

第9期

第10期

決算年月

2019年12月

2020年12月

2021年12月

2022年12月

2023年12月

売上高

(千円)

778,842

1,175,930

1,600,036

2,102,570

2,588,787

経常損失(△)

(千円)

708,571

683,531

851,266

541,903

72,651

当期純損失(△)

(千円)

713,566

1,184,811

856,884

558,195

91,393

資本金

(千円)

159,968

90,000

1,609,799

49,682

57,387

発行済株式総数

(株)

 

 

 

 

 

普通株式

11,297

23,106

15,390,800

15,498,500

15,551,500

A種優先株式

5,808

11,616

B種優先株式

3,476

6,952

C種優先株式

3,181

6,362

C2種優先株式

1,339

2,678

D種優先株式

11,762

純資産額

(千円)

90,315

467,143

2,649,953

2,131,123

2,061,975

総資産額

(千円)

1,367,228

1,866,354

4,277,610

3,404,900

3,516,255

1株当たり純資産額

(円)

191.96

246.75

172.17

137.54

132.73

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり

中間配当額)

(―)

(―)

(―)

(―)

(―)

1株当たり

当期純損失(△)

(円)

74.94

96.24

62.07

36.19

5.90

潜在株式調整後
1株当たり

当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

6.61

25.03

61.95

62.59

58.64

自己資本利益率

(%)

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動による

キャッシュ・フロー

(千円)

585,500

545,299

投資活動による

キャッシュ・フロー

(千円)

156,594

186,396

財務活動による

キャッシュ・フロー

(千円)

619,210

1,617,301

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

709,192

1,594,797

従業員数

(名)

76

111

167

167

144

〔外、平均臨時
雇用者数〕

5

8

11

9

7

株主総利回り

(%)

36.2

53.5

(比較指標:配当込み
TOPIX)

(%)

(―)

(―)

(―)

(97.5)

(125.1)

最高株価

(円)

1,526

837

700

最低株価

(円)

706

273

288

 

 

(注) 1.第6期及び第7期の持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社を有していないため記載を省略しております。また、第8期から第10期の持分法を適用した場合の投資利益については、連結財務諸表を作成しているため記載を省略しております。

2.第6期及び第7期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため、また、1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。また、第8期から第10期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。

3.自己資本利益率については、当期純損失を計上しているため記載しておりません。

4.第6期及び第7期の株価収益率は当社株式が非上場であるため記載しておりません。また、第8期から第10期の株価収益率については、1株当たり当期純損失が計上されているため記載しておりません。

5.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため記載しておりません。

6.当社は、第8期より連結財務諸表を作成しているため第8期から第10期のキャッシュ・フロー計算書に係る各項目については記載しておりません。

7.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数は年間の平均人員を〔 〕内に外数で記載しております。

8.第6期において、製品保証引当金及び賃貸用資産等に係る過年度の会計処理の誤りが判明したため、誤謬の訂正を行いました。当該誤謬の訂正による累積的影響額は、第6期の期首の純資産の帳簿価額に反映されております。この結果、第6期の期首利益剰余金が1,271千円増加しております。なお、第6期の株主資本等変動計算書においては、累積的影響額を期首の純資産の額に反映しております。

9.2020年3月5日開催の取締役会決議により、2020年3月28日付で普通株式、A種優先株式、B種優先株式、C種優先株式、C2種優先株式及びD種優先株式のすべてについて、1株につき2株の割合で株式分割を行っており、2021年7月28日開催の取締役会決議により、2021年8月11日付で普通株式1株につき200株の割合で株式分割を行っておりますが、第6期の期首に当該株式分割が行われたと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純損失を算定しております。

10.2021年11月5日付をもって東京証券取引所マザーズに株式を上場いたしましたので、株主総利回り及び比較指標の最近5年間の推移は第9期以降を記載しています。

11.最高株価及び最低株価は、2022年4月4日より東京証券取引所(グロース市場)によるものであり、それ以前は東京証券取引所(マザーズ)におけるものであります。なお、2021年11月5日付をもって同取引所に株式を上場いたしましたので、それ以前の株価については記載しておりません。

12.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第9期の期首から適用しており、第9期以降に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

 

 

2 【沿革】

 

年月

概要

2014年9月

東京都品川区に株式会社Photosynth(資本金100千円)を設立

2014年10月

経済産業省所管の独立行政法人(現:国立研究開発法人)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から研究開発型ベンチャー支援事業(スタートアップイノベーター支援)の委託及び助成先に採択

2015年1月

本社を東京都品川区、同区内での移転

2015年3月

家庭向けの後付け型スマートロック「Akerun Smart Lock Robot」を発表

2015年7月

Webで遠隔解錠・状態確認できる「Akerun Remote」を発表

2015年12月

テクノロジーメディアであるCNET Japanを運営する朝日インタラクティブ株式会社等が主催する「第3回 CNET Japan Startup Award」でCNET Japan賞を受賞

2016年1月

本社を東京都品川区、同区内での移転

2016年7月

法人向けのICカードで鍵が開くスマートロック「Akerun Pro」を発表

2017年3月

経済産業省所管の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施するベンチャー企業と大企業の連携支援プログラム「企業間連携支援制度」に採択

2017年4月

経済誌「Forbes」が選ぶアジア版「30 UNDER 30」のコンシューマーテクノロジー部門に当社代表取締役社長河瀬航大が選出

2018年3月

本社を東京都港区に移転

2018年10月

公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会が主催する「第13回ニッポン新事業創出大賞」のアントレプレナー部門で最優秀賞(副賞:経済産業大臣賞、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会会長賞)を受賞

2018年10月

日本電気株式会社の顔認証技術と技術連携

2019年5月

法人向けに既設の電気錠や自動ドアを直接制御する「Akerunコントローラー」を発表

2019年6月

大阪府大阪市に大阪オフィスを設立

2020年6月

福岡県福岡市に福岡オフィスを設立

2020年8月

アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」をイメージしたAkerunロゴのリニューアルを発表

2020年8月

三井不動産株式会社との資本業務提携と、ビル向けの入退館管理システムである「Akerun来訪管理システム」における実証実験の開始を発表

2020年8月

情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格「JIS Q 27001:2014(ISO/IEC 27001:2013)」の認証を取得

2020年10月

東京都港区にロジスティクス・センターを設立

2020年10月

「Akerun入退室管理システム」の新しいWeb管理ツール「Akerun Connect」をリリース

2020年11月

JR東日本スタートアップ株式会社が主催する「JR東日本スタートアッププログラム2020」において総合グランプリとなる「スタートアップ大賞」を受賞

2021年1月

美和ロック株式会社との合弁会社「株式会社MIWA Akerun Technologies」を設立

2021年7月

「クラウド型入退室管理システムの国内導入社数並びに国内シェアNO.1」、「スマートロック国内利用者数並びに国内シェアNO.1」、「法人向けスマートロック国内導入社数並びに国内シェアNO.1」を獲得(日本マーケティングリサーチ機構調べ(2021年6-7月期_指定領域・日本国内における検証調査))

2021年8月

愛知県名古屋市に名古屋オフィスを設立(2023年2月1日付で大阪オフィスに統合)

2021年9月

株式会社MIWA Akerun Technologiesの住宅向けスマートロックを活用した最初の製品となる、

スマートライフシステム「Akerun.M(アケルン・エム)」を発表

2021年11月

東京証券取引所マザーズに株式を上場

2022年3月

株式会社MIWA Akerun Technologiesがヤマト運輸株式会社が提供する「マルチ デジタルキー プラットフォーム」との連携を発表

2022年4月

東京証券取引所の市場区分の見直しにより、東京証券取引所マザーズからグロース市場に移行

2022年7月

インフラ企業として情報セキュリティへの取り組みをさらに強化するため、新たに最高情報セキュリティ責任者(CISO)を創設

2022年7月

株式会社MIWA Akerun Technologiesが賃貸物件の内見〜入居〜退去までをキーレスで効率的に管理できる 「Akerun.Mキーレス賃貸システム」を発表

2022年8月

北海道札幌市に札幌オフィスを設立

 

 

 

3 【事業の内容】

当社グループは、「つながるモノづくりで感動体験を未来に組み込む」を企業ミッションに掲げ、世の中の物理鍵とそれに伴う様々な制約から人々を解放し、扉で分断されたあらゆる場所や空間に人々が自由にアクセスできる「キーレス社会®」の実現を目指しております。具体的には、スマートロック(注1)等のIoT機器及びクラウド型認証プラットフォームを活用したサービスを開発し、サブスクリプションモデルにより提供することで、物理空間におけるシングルサインオン(SSO)(注2)を実現する世界の創出を目指しております。

 

(注) 1.スマートロックとは、電気制御により鍵を開閉することができるインターネットに接続された錠前のことであります。

2.シングルサインオン(Single Sign On、SSO)とは、1度のユーザー認証によって複数のシステムやサービスの利用が可能になる仕組みであります。1つのIDとパスワードで複数のシステムやサービスを利用することができるため、ユーザーの利便性の向上や負担の軽減を実現します。

 

現在、自宅やオフィス、商業施設等では通過する扉やゲートの数だけ物理的な鍵及び解錠ツールを持ち歩く必要があり、扉の数と鍵の数がN:Nの関係となっております。そして、鍵が果たす役割はセキュリティや本人認証など重要なものであるため、鍵の管理に要する心理的・物理的な負荷は非常に大きいと考えております。

このような現状を受け、物理的な鍵による様々な制約を無くし、1つのICカードや個人を特定する物理的なIDであらゆる扉やゲートにスムーズにアクセスできる、扉の数と鍵の数がN:1の世界をキーレス社会と名付け、この物理空間におけるシングルサインオンともいえる世界の実現を目指しております。この社会インフラとしてのキーレス社会を実現することで、人々や社会の利便性の向上やさらなる価値の享受に資するものと考えております。

 


そして、当社グループでは、このキーレス社会の実現を通じて、少子高齢化に伴う労働力人口の減少(注)等の様々な社会課題の解決を支援することを目指しております。一例として、オフィスや商業施設における人手不足への対策や業務効率の改善等の要請に対して、扉における認証やアクセス管理を起点とした幅広いソリューションを提供することで、より少ない人手で業務や施設管理の効率性を向上できる「無人化」「省人化」を支えるインフラを担うなど、社会課題の解決に資する事業活動を推進しております。

 

(注)内閣府「令和4年版高齢社会白書」

 

(1) Akerun事業の概要

当社グループの中核事業であるAkerun®事業は、キーレス社会の実現、そしてキーレス社会を通じた社会課題の解決に向けて、クラウドとインターネットでつながるスマートロック等のエッジ端末(注1)による個人認証とセキュリティ、そしてクラウド上のアクセス認証基盤を通じた個人認証を主軸とした関連サービスを法人向け、住宅向けに展開しております。

Akerun事業の特徴は主に以下の3点であります。

① サブスクリプションモデルによるHESaaSとして提供

Akerun事業の特徴の1つ目は、ハードウエアとソフトウエアを組み合わせたサブスクリプションモデルであるHESaaS(注2)としての提供形態であります。

Akerun事業で展開される各サービスは、ハードウエアとソフトウエアを組み合わせ、主に年単位で課金されるサブスクリプションモデルによるレンタルサービスとして提供しております。

サブスクリプションモデルによるユーザーの導入障壁の低減や後述のAkerun事業における強み等を背景に、ARR(Annual Recurring Revenue:毎年繰り返し得られる年次経常収益)は順調に拡大しております。さらに、このARRを支えるサブスクリプション収益の比率も事業収益全体の80〜90%という高水準を継続的に維持しております。


 

また、運用の手軽さや利便性に加え、API(注3)による外部の勤怠管理システムや会員管理システム等との連携を通じて、人々の入退室データを起点とした“オフィスや施設における基幹システム化”や大規模顧客へのさらなる拡販等の解約率低減に向けた取り組みにより、MRR(Monthly Recurring Revenue:毎月繰り返し得られる月次経常収益)ベースのChurn Rate(サービスに関する解約率)は平常時で1%台前半の低い水準に抑えられております(注4)。具体的には、前述の施策等を通じて継続的なChurn Rateの改善を図ることで、2023年12月期には1.14%まで改善しております。

当社グループでは、より低いChurn Rateを示しているAPI連携利用や大規模企業といった顧客ポートフォリオを今後も拡大することでChurn Rateのさらなる低減が可能であると考えており、今後もそれら取り組みを通じてChurn Rateの最小化を図ってまいります。

当社グループは、事業収益に占めるサブスクリプション収益の高い比率や低い解約率等を実現する、継続的な収益を生み出すリカーリングビジネスにより、MRR及びARRの最大化を通じた持続可能な成長を実現しております。

 

(注) 1.エッジ端末とは、 エッジ(末端)の端末の意味であり、IoT等においてはインターネットに接続され、システム全体の末端に位置する端末のことであります。インターネットで接続されたシステム全体における末端の端末として、データの収集/処理や上位システムへのデータの送信等に加え、上位システムからの指令やデータ等を受信して稼働したり、利用者に伝達する等の機能を担うハードウエアであります。

2.HESaaSとは、Hardware Enabled Software as a Serviceの略で、アプリケーションソフトウエアをインターネット経由で提供するクラウドサービスであるSaaSと、ハードウエアのサブスクリプションモデル(レンタルモデル)を組み合わせた提供モデルのことであります。

3.APIとは、Application Programming Interfaceの略で、特定のソフトウエアの機能やデータ等を、外部の他のプログラムで利用するための手順やデータ形式等を定めた規約のことであります。

4.各期のChurn Rateは、当該期の期末月における12か月移動平均であります。

 

② 堅牢なアクセス認証基盤及びクラウドセキュリティシステム

Akerun事業の特徴の2つ目は、クラウド上に構築するアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence®」(注1)の高度な技術性であります。この認証基盤では、一般的なユーザー情報に加えてユーザーが日常的に利用するICカードなどの固有の物理ID情報を保有し、インターネットを通じて認証に活用しております。


 

この認証基盤における認証プロセスは、特許を取得している独自の通信方式(注2)やSSL(注3)、AES256(注4)等のセキュアな通信技術でセッションごとに暗号化することで高度なセキュリティを担保しております。また、認証や処理のロジックをエッジ端末とクラウド上のサーバーに集約することで、個人情報などの機密情報のエクスポージャーを減少させ、セキュリティ上の堅牢性をさらに高めております。

この高度なセキュリティ環境を背景としたユーザー認証方式を確立したことで、信頼性と堅牢性に優れたユーザー認証と関連サービスの展開が可能になっております。

 

(注) 1.ユーザーの基本情報(氏名や所属等)、デジタルID情報(電話番号や電子メール等)、物理ID情報(所有するICカードや生体認証情報等)、認証権限情報(アクセスが許可されている扉、有効な日にち、曜日、時間帯等)等の情報を保有するクラウド上のデータベースであります。

2.セキュリティを確保しながら簡便な方法で第三者に鍵を開けるための権限を一時的に付与することができる電子錠システムに関する特許(公開番号「特開2016-79644(P2016-79644A)」)

3.SSLとは、Secure Sockets Layerの略で、インターネット上でのデータ通信を暗号化し、第三者によるデータの窃取や改ざんを防ぐ通信プロトコルのことであります。

4.AES256とは、米国国立標準技術研究所(NIST)が政府の標準暗号方式として選定したAES(Advanced Encryption Standard)と呼ばれる暗号化方式のうち、256ビット長の暗号鍵を使用する方式であります。

 

③ アクセス認証基盤を活用した認証プラットフォームとしての価値

Akerun事業の特徴の3つ目は、利用企業の規模や業種業態を問わない広範なユーザー基盤に裏付けられた認証プラットフォームがもたらす、社会インフラとしての価値であります。これまでのサービス展開を通じて、2023年12月末時点で5,400社以上の現契約社数を達成しており、この現契約社数は継続的に増加しております。実際に、Akerun事業を支える中核サービスである法人向けの「Akerun入退室管理システム®」は、「クラウド型入退室管理システムの導入社数/シェア」、「スマートロックの利用者数/シェア」、「法人向けスマートロックの導入社数/シェア」の3分野でそれぞれ国内No.1(注)を獲得するなど、クラウド型入退室管理システム及びスマートロックの市場をけん引する実績を有しております。

このように、Akerun事業はセキュリティ及び認証のプラットフォーム化による社会インフラとしての地位を確立しております。さらに、建築用錠前の提供で国内大手の美和ロック株式会社(以下、美和ロック)との合弁会社である株式会社MIWA Akerun Technologies(以下、MIWA Akerun Technologies)を通じて、住宅領域での事業成長を推進するなど、オフィスや各種施設、住宅等の利用場所を問わない広範な基盤を通じたビッグデータの取得・活用により、様々な周辺領域へのサービス展開も可能となっております。そして将来的には、プラットフォームに蓄積されたビッグデータを活用することで、少子高齢化等による労働力人口の減少を補完するテクノロジーの提供、人の動静に合わせた効率的なエネルギー利用による環境負荷の低減、社会や時勢の変化に合わせた働き方の実現、既存の空間を活用した効率的な社会インフラの構築、認証/移動/決済等のソリューションの提供等を通じて、オフィス領域から住宅領域、そして商業施設、行政機関や医療機関等の非商業施設までのあらゆる場所やシーンにおける効率的かつ持続可能な社会の構築に貢献していけるものと考えております。

 

(注) 日本マーケティングリサーチ機構調べ(2021年6-7月期_指定領域・日本国内における検証調査)

 

(2) オフィス領域におけるAkerun事業

① 市場機会
Ⅰ.市場環境の変化

現在、国内では少子高齢化の昂進等による生産年齢人口の減少が喫緊の社会課題となっており、日本政府によると、2020年時点で約7,400万人いる生産年齢人口は2065年までに約4,500万人となり、約2,900万人減少すると試算されています(注1)。この社会課題を受けて、オフィスや商業施設、店舗等においても人手不足への対応や労働生産性の向上等を目的に、IoTやクラウド等のテクノロジーを活用して日々の業務の効率性・生産性を高め、またより少ない人員で業務を遂行するための取り組みが活発化しています。具体的には、従来は人手をかけていた、セキュリティを含む入退室管理、勤怠管理、受付管理、予約管理等の各種業務にテクノロジーを活用し、それぞれをデータ連携させてオフィスや施設の運営にかかわるワークフローを自動化する等の取り組みが業界や業態を問わず進展しております。また、これらの取り組みは、オフィス環境だけにとどまらず、特にコワーキングスペースやシェアオフィスなどの分散型オフィス、フィットネスジムやインドアゴルフなどの会員制商業施設、そして小売店舗等にも広がるなど、将来にわたって旺盛なニーズが見込まれます。

さらに、従来からの法改正を含む日本政府による働き方改革の推進により、企業では客観的な方法による従業員の労働時間の把握(注2)や、残業時間の上限規制(注3)、勤務間インターバル制度(注4)等、従業員の勤務時間を正確に記録、管理することが求められております。また、個人情報保護法の改正により、企業では安全管理措置に基づき、個人情報に対する物理セキュリティ及び情報セキュリティの対策を強化する必要があります(注5)。特に、この個人情報保護に向けた流れはより一層加速しており、2022年4月の改正では、個人情報の漏えい等が発生した際の事業者による報告が義務化(注6)されております。また、この改正に先立つ2020年12月には、個人情報保護委員会からの措置命令等に違反した場合、また個人情報データベース等の不正流用があった場合の法人における罰則(注7)がさらに厳罰化されるなど、企業ではこれまで以上の対策を求められるようになっております。

このような人手不足対策や業務・運営効率の向上を目的としたデジタル化の進展、従業員の労働時間の適正な把握の必要性、働く場所の多様化と拡大、個人情報保護のためのセキュリティ対策、といった市場動向に対して、Akerun事業はセキュリティ強化に加えて、入退室履歴の勤怠管理への活用、API連携等も活用した認証・動静管理システムとしての様々な用途への拡張性の高さ、導入の容易さ等の特徴を通じて、今後も市場からの旺盛な需要に応えていけるものと考えております。

 

(注) 1.内閣府「令和4年版高齢社会白書」

2.改正労働安全衛生法第66条の8の3(2019年4月1日施行)及び改正労働安全衛生規則第52条の7の3(2019年4月1日施行)

3.労働基準法第36条及び第139~142条(2019年4月1日施行)

4.改正労働時間等設定改善法第2条(2019年4月1日施行)

5.改正個人情報保護法第2条及び第20条(2017年5月30日施行)

6.改正個人情報保護法第22条の2(2022年4月1日施行)

7.改正個人情報保護法第83条〜第87条(2020年12月12日施行)

 

Ⅱ.入退室管理システムの現状

従来の法人向け入退室管理システムは、オンプレミス環境(注1)へのサーバーや管理用PC等のハードウエア機器の購入・設定に加え、システム設定やネットワーク工事のためのSIer(注2)及び電気工事業者が必要になっておりました。さらに、導入後も機器の改修や保守の費用等が必要となり、加えてIT技術に習熟した担当者でなければ取得データの利活用が難しいなど、費用面及び工数面での負荷やデータ活用の困難さが企業には大きな導入障壁となっておりました。

当社グループでは、このような導入時の障壁を低減し、より少ない負担で入退室管理システムを導入・活用できる「Akerun入退室管理システム」を法人向けに提供しております。特別な工事やシステム構築が不要かつ後付けで手軽に導入可能、クラウド型システムによる専用IT機器の排除とシンプルに利用できる管理画面等によるデータ利活用の支援、サブスクリプションモデルによる保守・運用に要する費用負担の軽減などにより、導入障壁の低減と継続運用のしやすさを実現することで今後も広く需要を取り込み、継続的に売上を拡大できるものと考えております。

 


 

(注) 1.オンプレミス環境とは、ITインフラの構築や稼働に必要なサーバーやネットワーク等の機器及びソフトウエア等を利用者である企業が管理する施設等に保有し、運用するシステムの利用環境のことであります。

2.ITシステムの構築、コンサルティング、設計、開発、運用、ハードウエアの選定等を一括で請け負うITサービス事業者のことであります。

 

 

② サービス構成

Akerun事業を支える中核サービスである法人向けの「Akerun入退室管理システム」は、鍵の物理的開閉やデータ通信等を担うハードウエア機器と、認証、鍵権限の管理、履歴の閲覧等を行う、スマートデバイス(注)向けアプリケーション及びWebアプリケーション等のソフトウエアで構成されております。

 

(注) 対応するスマートデバイスは、Apple社が提供するiOS及びGoogle社が提供するAndroidにて稼働するスマートフォン等の電子デバイスとなります。

 


 

Ⅰ.ハードウエアの特徴

「Akerun入退室管理システム」で提供されるハードウエアには、サムターン錠(注1)に対応する「Akerun Pro」と、電気錠(注2)や自動ドア、フラッパーゲート等の電気制御の扉に対応する「Akerunコントローラー」があります。

Akerun Proは、工事なしで既存の扉に後付け可能なスマートロックであります。扉の既存のサムターン錠に付けて設置するだけで、取り付け工事不要、初期費用0円で導入できるため、従来の入退室管理システムと比較して導入にかかる工数や費用を大きく低減しております。

Akerunコントローラーは、既存の自動ドアや電磁錠等の電気錠に後付けで導入でき、簡易的な工事のみで導入し、運用できるハードウエアであります。電気制御で鍵の開閉を行う電気錠に対応することで、「Akerun入退室管理システム」の適用範囲をさらに拡大し、さらに多くのオフィスや施設のニーズに対応することが可能になっております。

また、Akerun Pro及びAkerunコントローラーに共通のハードウエアとして、ICカードリーダーも付帯しております。ICカードリーダーを活用することで、ユーザーが日常的に使用している交通系ICカードや社員証、ビル入館カード等、FeliCa及びMifareの各規格(注3)に対応するICカードによる認証を通じた施錠・解錠が可能となっております。

なお、「Akerun入退室管理システム」を構成する各ハードウエアは、当社グループで開発、設計し、製造は外部に委託しております。

 

(注) 1.サムターン錠とは、扉の室内側についているツマミ式の金具で開閉を行う錠前のことであります。

2.電気錠とは、電気的に鍵を施解錠する機構を組み込んだ錠前のことであります。

3.FeliCaは、ソニー株式会社の登録商標です。Mifareは、NXPセミコンダクターズ社の登録商標です。

 

 

Ⅱ.ソフトウエアの特徴

「Akerun入退室管理システム」は、ソフトウエアにより以下の機能を提供しております。

 

A.Web管理ツールやソフトウエアによる鍵権限の柔軟な設定

Web管理ツール及びそれを支えるソフトウエア技術を通じて、ユーザーが入退室できる日時等を柔軟に設定することが可能となっております。これにより、ユーザーごとの要件に応じた入退室権限等、ニーズに合わせた柔軟な鍵権限の運用が可能になっております。また、Web管理ツールやソフトウエアは、クラウド型サービスの特徴を生かし、労務関連の法制度の改正やオフィスに求められる要件の変化等、社会状況の変化や市場トレンドに合わせて継続的にアップデートすることが可能となっております。

B.システムで取得するデータの利活用

IoTを活用したクラウド型入退室管理システムの特徴を生かし、ユーザーの利用履歴を永続的に保持し、Web管理ツール等でいつでも確認できる機能を備えております。さらに、この履歴のビッグデータとしての活用により、セキュリティの機能だけでなく、ユーザーの動静を把握・確認するための空間管理やサービス利用のエビデンスとしての活用等、さらなる価値提供が可能になっております。

C.APIによる外部システムとの連携

サービスとしての拡張性を高めるために、外部システムとの連携が可能なAPIを公開しております。これにより、外部システムからの「Akerun入退室管理システム」の入退室履歴等の各種情報の取得や遠隔での解錠・施錠の操作、日時を指定した鍵権限の発行等が可能になります。また、ユーザーが独自に開発したシステムやサービスと「Akerun入退室管理システム」を連携させたり、当社グループ及び外部のパートナー企業でAPI連携させた勤怠管理、生体認証などの認証システム、会員管理システム、決済システム等との共同ソリューションを活用することも可能となっております。

 

③ サービスの強み

当社グループは、市場における優位性として、セキュリティやサービス品質等の要件の厳しい法人向け事業で培った広範な実績に加え、高水準の利用体験を可能にするハードウエアの開発及び無線通信やセキュリティにおけるソフトウエアの開発に強みを有しております。

Akerun事業における強みの詳細は、以下の通りであります。

 

Ⅰ.法人向け事業における強固な実績とそれに支えられたアクセス認証基盤

前述の通り、当社グループはこれまでの事業活動により、法人における豊富な導入実績を通じて現契約社数5,400社以上を抱えるアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」を保持しております。この相当規模の認証基盤を活用することで、ユーザー認証に加えて勤怠管理や会員管理等の法人向けに提供される様々なクラウド型サービスや認証シーンにも活用でき、また、認証基盤を通じて取得するビッグデータを活用したデータドリブンなビジネス展開も将来的に可能となっております。今後も、オフィスに導入されたAkerunのエッジ端末を起点として、入退室管理やセキュリティといった従来から提供する機能に加え、API連携を通じて勤怠管理、会員管理、予約管理、決済等の外部の様々なサービスとの連携を継続的かつ積極的に推進することで、扉を起点にあらゆる空間における付加価値を向上させ、社会インフラとしての認証基盤の利用拡大と社会課題の解決に取り組んでまいります。

 

Ⅱ.要件の厳しい法人利用に応える高水準のハードウエア性能

Akerun事業で提供される各種ハードウエアは、日常的に多人数に触れる機器としての特性上、ユーザーの利用体験の向上をもたらすハードウエア品質が非常に重要であると考えております。当社グループでは、このハードウエア品質の強化に常に注力しており、実際にAkerun Proにおいては100万回の開閉試験を実施するなど、多人数利用に応える耐久性を確保しております。さらに、サムターン錠の高速な施解錠を支える高トルクモーター、1日あたり100回の開閉で電池が6か月以上持続する省電力性能を追求した専用設計回路、耐久性強化のための高機能ベアリングや特許取得済みの専用設計機構等、ユーザーの利用体験を最大限に高め、法人利用にも耐えられるハードウエア技術により、市場でも高水準のハードウエア品質を実現しております。

 

Ⅲ.信頼性と堅牢性に優れた無線通信技術及びセキュリティ技術

当社グループでは、ハードウエア品質と同様に、日々利用されるシステムとしての安定的な稼働も重要であると考えております。当社グループは、認証に使用するBLE(注)通信の制御技術、特に施解錠に用いるスマートデバイスを含む複数のハードウエア機器間での安定的な通信制御技術に強みを持っております。現在では、オフィス環境はもちろんのこと、様々な場所で多くの無線通信が行われており、それぞれの無線通信の混線や干渉などが発生し、無線通信を利用するサービスの安定的な稼働の障害となっております。当社グループでは、法人向けセキュリティという重要なサービスを担う企業として、無線通信における堅牢性と同時に安定性を実現する高度な無線制御技術を備えております。この強みを生かすことで、オフィスや施設における高速かつ安定したユーザー認証が可能になり、日々の利用体験の向上を実現しております。さらに、これまでの広範な導入実績で培われたユーザー基盤を背景に、継続的なソフトウエアの改善を通じて、さらなる利用体験と信頼性の向上を図っております。

加えて、前述の通り、クラウドや各ハードウエア機器間の通信には、特許取得済みの通信技術や高度な暗号化通信技術を採用することで、市場でも高水準の信頼性と堅牢性に優れたユーザー認証プロセス及び認証基盤を確立しております。また、Akerun事業のサービスを支えるクラウド基盤に関しても、近年のクラウドサービスを含む情報セキュリティ意識の高まりを受け、社内で「情報セキュリティ基本方針」を定め、この方針に従って情報資産を適切に管理するとともに、本社及び各拠点で情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格「JIS Q 27001:2014(ISO/IEC 27001:2013)」の認証を取得し、さらに最高情報セキュリティ責任者(Chief Information Security Officer、CISO)やクラウドインフラの保守運用の専任担当者を設置することで、安定的なサービス基盤の構築に積極的に取り組んでおります。

 

(注) BLEとは、Bluetooth Low Energyの略で、低電力通信を可能にする近距離無線通信技術Bluetoothの拡張仕様の1つであります。

 

④ 今後の成長拡大のための取り組み
Ⅰ.企業規模を問わない新規ユーザーの獲得

オフィス領域におけるさらなる成長拡大に向けて、主要導入企業である全国で約190万社(注)ある従業員10名以上の中小企業及び事業所への販売促進施策を継続的に強化し、新規ユーザーのさらなる獲得を目指しております。中小企業への提供拡大にあたっては、札幌、大阪、及び福岡の地方拠点の活用に加え、販売パートナーとの関係性強化を通じて潜在ユーザーへの提案機会の増加を図る専任チームの強化・拡充と営業活動の強化も継続的に実施しております。

さらに、直近では大規模企業や大型ビルからの問い合わせや導入も増加し、堅調な受注実績をあげております。今後も、継続的に大規模企業専任の営業チームの強化や拡大を進めることで、大規模企業ユーザーの新規獲得にも積極的に注力する計画であります。

 

(注) 経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査」より算出。10名以上の小売・飲食を除く事業所向け(約170万事務所)に加え、医療・教育・スポーツ施設等での商用利用向け(約17万事務所)

 

Ⅱ.既存ユーザーへの追加導入の提案(アップセル施策)

当社グループでは、既存顧客へのさらなる売上拡大にあたって、継続的なユーザーとの関係性強化やヒアリングに加え、市場動向の調査・分析を通じて、変化するオフィス環境や施設の運営環境等の市場ニーズに合わせた空間利用を提案することで、1事業所あたりの追加導入台数の増加を目指しております。

さらに大規模企業での導入の場合、「Akerun入退室管理システム」を導入可能な扉が複数あるケースがほとんどであるため、複数台の契約を獲得しやすい環境であることから、契約の新規獲得を契機に関係性の強化や継続的なヒアリング、提案力の強化等を通じて複数台の契約を追求してまいります。

これらのアップセル施策を促進することで、ユーザーからもたらされるLTV(注1)及びARPU(注2)の最大化を目指し、事業成長を加速する考えであります。

 

(注) 1.LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客との取引の開始から終了までの期間にもたらされる総利益(顧客生涯価値)のことであります。

2.ARPUとは、Average Revenue Per Userの略で、ユーザーや利用企業における1人/1社あたりの売上金額を表す指標であります。

 

 

Ⅲ.周辺領域でのソリューションの開発と提供(クロスセル施策)

現在、Akerun事業では適用領域の多様化に積極的に取り組んでおり、特に外部パートナーが提供する勤怠管理、会員管理、決済、認証等のシステムとのAPIを通じたサービス連携に注力しております。Akerunが提供するAPIを通じて、「Akerun入退室管理システム」の入退室履歴やデジタル鍵の発行・剥奪などの各種データの連携が可能になることで、「Akerun入退室管理システム」が設置された扉を起点に、オフィスや施設を利用するユーザーの入退室履歴や個人認証のための情報等を通じたインサイトを獲得でき、労務管理や施設管理、利用者情報の管理などの業務を大幅に効率化できます。この有用性が評価され、オフィスだけでなくコワーキングスペースやフィットネスジムなどの会員制施設及び商業施設等での「Akerun入退室管理システム」の導入やAPIの利用も堅調に増加するなど、「Akerun入退室管理システム」は顧客のオフィスや施設の様々なバックオフィス業務を支える基幹システムへと進化しております。

また、当社グループでは、API連携による顧客へのさらなる価値提供に加え、連携サービスの拡充やサービス品質の向上を図るために、API利用への課金を実施するなど、さらなる収益性の強化を推進しております。

当社グループでは、このようなAkerunの周辺領域における各種サービスとの連携ソリューションを開発・提供することで、オフィスや施設の業務効率化や運営効率化を支援し、顧客の基幹システムとしての役割を今後もさらに拡大しながら、さらなる収益の拡大を目指してまいります。

 


 

(3) 住宅領域におけるAkerun事業

① 市場機会

現在、日々の生活の様々な場面でデジタル化が大きく進展し、家事代行サービスや宅配サービス、空きスペース等の不動産や自動車等の動産を有効活用するシェアリングエコノミー(注1)の台頭に代表されるように、消費者の行動態様は大きく変化しております(注2)。さらに現在では、社会環境や消費者の行動態様の変化に伴い、非対面や自宅不在時のサービス利用や荷物の受け取り、人や物品のトレーサビリティなどへのニーズの高まりを受け、それらにデジタルを活用する取り組みも拡大しております。そして、このデジタル化の流れは、消費者だけでなく、住宅関連のサービス事業者や不動産事業者にも拡大しており、物件の内覧や管理のデジタル化並びに不動産契約の一部電子化等を通じて業務を効率化する取り組みなど、不動産テックと呼ばれる市場も拡大しております(注3)。

加えて、これらの直近の市場動向だけでなく、日本では少子高齢化に伴う高齢者の一人暮らし世帯の増加(注4)とそのような世帯への生活支援、健康管理、安全管理等のケアの提供が課題となっております。この課題の解決に向けては、高齢者のための見守りサービスの普及や利用拡大が期待される中で、人員による定期的な対面に加えて、センサーや通信、ロボットなどのIT技術を活用して人員による見守りを支援する取り組みも今後さらに加速するものと考えております。

一方で、これらのサービス利用の課題として、宅配便の増加に伴う宅配クライシスや物流業界の2024年問題と呼ばれる宅配事業者の業務負荷の高まりと業務効率化の要請、在宅の必要性、利用時の鍵受け渡しの手間、集合住宅エントランスの入退館時のセキュリティ、ユーザーの心理的不安等がサービスの利用拡大の障壁となっております。

当社グループの住宅領域におけるAkerun事業では、建築用錠前の提供で国内大手の美和ロックとの合弁会社となるMIWA Akerun Technologiesを通じて、住宅領域におけるスマートロック及び関連サービスの普及と事業成長を目指しております。この合弁会社を通じて、当社は住宅向けサービスの基盤となるクラウド上の認証基盤やスマートデバイス向けアプリケーションの開発、美和ロックはAkerunのシステムと連携する住宅向けスマートロックの開発と提供、そして合弁会社が住宅向けサービスの開発と提供をそれぞれ担い、住宅の扉を起点とした住宅向けのサービスを提供することで、前述の課題を解決できるものと考えております。住宅領域のAkerun事業では、当社グループがこれまでに培ったオフィス領域におけるサービス開発、クラウド基盤及びスマートデバイス向けアプリケーションの開発や提供における実績・知見を活用しております。これにより、住宅のセキュリティを高めながらシェアリングエコノミーの拡大や社会課題の解決に向けて普及する住宅向けサービスをユーザーが簡便に利用できるプラットフォームを展開し、住宅領域でのさらなる事業成長を目指しております。

この住宅領域におけるAkerun事業を通じて、人々が持ち歩いていた住宅の鍵を、当社グループの合弁会社が提供する住宅向けアプリケーションやICカード等へと置き換えることで、当社グループの目指すキーレス社会の実現に向けた取り組みを加速するとともに、関連事業者やユーザーのさらなる利便性向上に資するものと考えております。

 

(注) 1.遊休となっている空間や人材などの資産のさらなる有効活用により、社会課題の解決や生産性の向上などを目指す経済態様のことであります。

2.株式会社矢野経済研究所「2021 シェアリングエコノミー市場の実態と展望」(2021年9月30日発刊)https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2821

3.株式会社矢野経済研究所「2021年版 不動産テック市場の実態と展望」(2021年7月28日発刊)https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2770

4.内閣府「令和4年版高齢社会白書」

 

② 提供サービス/製品

住宅領域におけるAkerun事業では、美和ロックとの合弁会社であるMIWA Akerun Technologiesを通じて、住宅向けのサービスや製品の開発・提供を推進しております。

美和ロックの提供するスマートロックと当社の提供するクラウド基盤を組み合わせたサービスを活用することで、集合住宅などに標準設備として導入されている美和ロック製スマートロックをAkerunアプリで開けることができるようになり、追加の機器などを導入する必要なく、Akerunアプリからの施解錠に加え、操作履歴の確認、インターネットを通じたデジタルな合鍵の共有等が可能になり、ユーザーの利便性が向上します。

現在、住宅領域における主力サービスとして、賃貸用住宅物件の管理業務を大幅に効率化する「Akerun.Mキーレス賃貸システム」提供しており、このサービスにより、賃貸物件の内見〜入居〜退去の各フェーズにおける、物理鍵の受け渡しのための移動にかかる手間と時間、トラブルへの対応業務、そして退去時の鍵の交換や回収にかかる手間やコスト等、物理鍵による運用に伴う様々な非効率業務を大幅に解消すると同時に、入居者の利便性や安全・安心の向上を実現できます。

さらに今後は、住宅における鍵の施解錠だけでなく、認証、住宅向けの各種サービスの利用、決済等の様々な住宅向けサービスを利用するためのプラットフォームとしての機能の提供に向けて積極的に取り組み、社会環境やライフスタイルの変化に合わせ、イエナカサービス(家事代行、ペットシッター、介護等)と連携し、安全・安心で快適な暮らしを支えるための取り組みを推進してまいります。

 

③ サービス提供のスキーム

住宅領域では、サービスや製品の提供にあたり、当社が51%、美和ロックが49%を出資する合弁会社であるMIWA Akerun Technologiesを通じて、当社は住宅向けサービスの基盤となるクラウド上の認証基盤やスマートデバイス向けアプリケーションの開発、美和ロックはAkerunのシステムと連携する住宅向けスマートロックの開発と提供、そして合弁会社が住宅向けサービスの開発と提供をそれぞれ担っております。

当社のクラウド上の認証基盤及びスマートデバイス向けアプリケーションといったソフトウエア技術における信頼性と実績、美和ロックの住宅向けスマートロック製品に関するハードウエア技術の堅牢性と実績、そして合弁会社によるスマートロックを起点とした住宅向けサービスの開発と提供という各社のそれぞれの強みを組み合わせることで、ユーザーの安全・安心の実現と同時に包括的なサービスを提供し、これまで以上に利便性の高い生活の実現に貢献するとともに、様々な社会課題の解決に資するものと考えております。

また、販売・普及にあたっては建築用錠前の提供で国内大手の美和ロックの有する全国規模の販売網やネットワークを活用することで、住宅領域における不動産管理会社や不動産オーナー等の主要プレイヤーへの積極的な提案を推進し、全国規模でのサービスの提供を拡大してまいります。

 

④ サービスの強み

住宅領域におけるAkerun事業では、美和ロックとの合弁会社を通じて両社の強みを生かした事業を展開してまいります。具体的には、建築用錠前で国内大手である美和ロックがこれまでに培ってきた広範な営業チャネルを最大限活用してまいります。これにより、国内の主要な不動産管理会社や不動産オーナーへの提案を通じて幅広い住宅への導入を目指してまいります。

また、現契約社数5,400社を超える顧客基盤を通じて培った実績あるクラウド上のアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」も強みとなります。セキュリティや安定性等の要件の厳しい企業ユーザーを支えるこのクラウド基盤及び認証基盤の信頼性や堅牢性を活用することで、住宅向けにも強固なセキュリティを提供しております。さらに、住宅領域におけるスマートデバイス向け専用アプリケーションについても、企業向けに提供するアプリケーションをベースにすることで、信頼性や堅牢性の担保と同時に、使いやすさの向上も実現しております。

これらの強みを背景に、「Akerun.Mキーレス賃貸システム」は、長谷工グループにおける賃貸マンションの管理・開発会社である株式会社長谷工ライブネット、第一生命グループの総合不動産会社である相互住宅株式会社、そしてCIFO株式会社等の不動産管理会社での導入に加え、全国の不動産管理会社等からの継続的かつ旺盛な需要に応えることで、市場における実績を順調に拡大しております。今後も、当社グループの強みを生かし、集合住宅だけにとどまらない、あらゆる住宅における安全・安心で快適な暮らしを支える製品やサービスの提供を拡大してまいります。

 

⑤ 今後の成長拡大のための取り組み

現在、住宅向けの各種サービスの興隆や消費者の行動態様の変化等の影響もあり、シェアリングエコノミーの普及を背景とした家事代行や宅配などのシェアリングサービスの利用や提供事業者が拡大しております。

この市場トレンドやニーズに応えるべく、美和ロックが有する営業チャネルを活用して住宅向けスマートロック及びサービス利用のためのプラットフォームを展開することで、新規施工及び既築の集合住宅等への広範囲にわたる提案を強化してまいります。また、合弁会社が提供する住宅向けアプリケーションから利用できる住宅向けサービスに関して、家事代行や宅配、見守り等の様々なサービス提供事業者と提携することで、より多くの選択肢をユーザーに提供する計画であります。これらの取り組みを推進することで、鍵を起点とした魅力あるサービスプラットフォームを提案し、ユーザー基盤の拡大とともに事業成長を目指しております。

 

[事業系統図]


(注) 顧客紹介を受けて、当社が顧客との契約及びサービスの提供を行います。

 

4 【関係会社の状況】

 

名称

住所

資本金

(千円)

主要な事業
の内容

議決権の所有(又は被所有)
割合(%)

関係内容

(連結子会社)

 

 

 

 

 

株式会社MIWA Akerun Technologies

(注)2

東京都港区

50,000

Akerun事業

51

役員の兼任

クラウドサービスの提供及び保守

システム開発の業務受託

管理業務の業務受託

 

(注) 1.「主要な事業の内容欄」には、セグメント情報に記載された名称を記載しております。

2.特定子会社に該当しております。

 

5 【従業員の状況】

(1) 連結会社の状況

2023年12月31日現在

セグメントの名称

従業員数(名)

Akerun事業

150

(7)

 

(注) 1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者は年間の平均人員を( )内に外数で記載しております。

2.当社グループはAkerun事業の単一セグメントであるため、セグメント情報との関連については、記載しておりません。

 

(2) 提出会社の状況

2023年12月31日現在

従業員数(名)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

144

(7)

34.7

2.9

6,550

 

(注) 1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数は年間の平均人員を( )内に外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社はAkerun事業の単一セグメントであるため、セグメント情報との関連については、記載しておりません。

4.前事業年度に比べ従業員が23名減少しておりますが、主な理由は、事業運営における生産性や効率性の向上を目的に新規採用を抑制した結果、退職による自然減によるものです。

 

(3) 労働組合の状況

労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。

 

(4) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異

① 提出会社

当社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定による公表義務の対象ではないため、記載を省略しております。

② 連結子会社

連結子会社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定による公表義務の対象ではないため、記載を省略しております。