記載された事項で、将来に関するものは、有価証券報告書提出日現在(2024年5月29日)、入手可能な情報に基づく当社の経営判断や予測によるものです。
(1) 経営方針
当社グループは持株会社体制の下、大丸、松坂屋、パルコの店舗ネットワークや顧客基盤などの経営資源を最適かつ有効活用するとともに、時代の変化に的確に対応し、顧客満足の最大化と効率経営の徹底を通じ、リテール事業(百貨店・SC事業)をはじめ既存事業各社の競争力と収益力の向上を図ります。
加えて、より成長性のある分野に資源配分を行っていくなど、リテール事業を中核に競争力と収益力に優れた事業群でバランス良く構成されるポートフォリオへの見直しを進め、“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”というグループビジョンの実現に挑戦します。
(2) 経営目標
2024年4月15日に、当社グループは「2024-2026年度 中期経営計画」を公表しました。
1.経営数値目標
2026年度に連結事業利益520億円、ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)8.0%以上、ROIC(投下資本利益率)5.0%以上、また、非財務目標として、温室効果ガス排出量58.0%削減、女性管理職比率31.0%達成を目指します。
|
2026年度目標 |
2023年度実績 |
連結事業利益(IFRS) |
520億円 |
443億円 |
連結ROE |
8.0%以上 |
8.1% |
連結ROIC |
5.0%以上 |
5.1% |
温室効果ガス排出量※1 |
▲58.0% |
▲57.5% |
女性管理職比率※2 |
31.0% |
22.5% |
※1 Scope1・2(2017年度比)、2023年度実績は2024年5月29日時点の概算値
※2 2024年3月1日現在 26.2%
2.財務政策
中長期的な資本収益性の向上を図るため、収益性を伴う成長の実現、自己資本額の適正化及び株主還元の強化に取り組みます。
本中期経営計画では、3年間で2,200億円の営業キャッシュ・フロー(使用権資産に係る減価償却費を含む)を創出し、うち1,750億円を設備投資及び成長戦略投資に充当します。
投資は2030年を見据え、中核のリテール事業に加え、グループシナジーの具現化に向けたデベロッパー事業への先行投資、また成長戦略投資に重点配分します。株主還元については、連結配当性向40%以上の配当と柔軟かつ機動的な自己株式の取得により、自己資本の適正化に取り組んでまいります。
(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は新たな経営体制のもと、2030年を見据えた中期経営計画(2024-2026年度)をスタートさせました。
前中期経営計画(2021-2023年度)では、コロナ影響が長期化したものの、社会・経済活動が正常化に向かうなか、回復基調に転じた国内消費やインバウンド需要を着実に捉えるべく、主力の百貨店・SC事業を中心に重点戦略・施策、また固定費削減など経営構造改革を着実に推進しました。これらの結果、利益水準はコロナ前の水準に復活し、財務体質も改善するなど、前中期経営計画で掲げた経営数値目標を達成しました。
一方、当社を取り巻く経営環境は、地政学リスクの顕在化や海外経済の減速懸念、物価や金融市場の動向など不確実性が増しています。また、人口減少や所得・消費の二極化の進行、テクノロジーの進展、環境や社会課題への意識の高まりなど、コロナ禍を経た生活者の消費への意識、行動は大きく変容しています。
本中期経営計画の策定にあたり、当社はこれらの環境変化を企業変革の好機と捉え、サステナビリティ経営を基軸に、「2030年に目指す姿」を描き、本中期経営計画において取り組むべき重点戦略を定めました。
当社は、2030年を見据えた飛躍的成長に向け、百貨店・SC事業などリテール事業を中核に、グループの力を結集し、お客様をはじめステークホルダーの皆様と共に、新たな価値を提供し続ける企業グループへの進化を図ります。
本中期経営計画では、これら経営の方向性を踏まえ、百貨店・SC事業など「リテール事業の深化」、飛躍的成長に向けた「グループシナジーの進化」と共に、これらの戦略の実効性を高める「グループ経営基盤の強化」に集中して取り組みます。
<2030年を見据えた経営の方向性について>
当社は、グループビジョン“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”の実現に向け、環境や社会課題に向き合い、事業を通じて解決を図るサステナビリティ経営を基軸に、企業活動を推進しています。また、当社の強みは、全国主要都市を中心とする優良な顧客基盤や店舗不動産、ステークホルダーの皆様とのつながりや信頼、そして百貨店やPARCOなどで培ってきた商業プロデュース能力や目利き力と認識しています。
今後の経営の方向性を定めるにあたり、これらの当社が有する強みと重要視する経営環境の変化を踏まえ、「2030年に目指す姿」を描きました。
当社はリテール事業を中核に、「3つの共創価値」を提供し続ける「価値共創リテーラーグループ」への進化を図ります。
1)当社が重要視する経営環境の変化
消費 |
・主要購買層の世代交代、グローバル化の進展(インバウンド需要など) |
・こころを充足させる「共感・応援・信頼のつながり」への欲求の高まり |
|
・生産・消費のサイクルから、「循環」意識へのさらなる高まり |
|
市場 |
・国内人口減少、所得格差の進行 |
・都市機能の更新や集約・まちづくりが進行 |
|
・地域経済の担い手の減少、地域独自の伝統や文化への関心の強まり |
|
社会 |
・気候変動など環境問題の進行、地政学リスクの顕在化 |
・人や地域とのつながりが希薄化、デジタル上でのコミュニティが台頭 |
|
・労働力不足の深刻化、仕事選びでも自己実現、社会貢献などをより重要視 |
2)2030年に目指す姿
①3つの共創価値、マテリアリティ
当社が有する強みを基盤に、従来の枠にとらわれず、お客様の心を動かす新たな価値を創出するとともに、街の魅力・活力を高め、持続可能な環境や社会づくりに誰もが貢献できる文化を醸成します。
リテール事業を中核に、お客様をはじめステークホルダーの皆様と「共創」の輪を広げ、3つの共創価値を提供し続けます。
「感動共創」:顧客、従業員と共に、感動を生み分かち合う
「地域共栄」:地域の魅力を高め、地域にとって必要不可欠な存在となる
「環境共生」:環境と共に生きる社会づくりに、誰もが貢献できる文化を醸成する
上記の3つの共創価値に基づき、マテリアリティの見直しを行い、5つのテーマを特定しました。これらマテリアリティへの取り組みを事業戦略と一体となり推進し、企業の持続的成長とステークホルダーの皆様の「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」を実現します。
当社のサステナビリティについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。
②戦略の方向性
『国内外の「高質・高揚消費層」からの圧倒的な支持を得て、
3つの共創価値を提供し続ける「価値共創リテーラーグループ」へ進化する』
消費の多様化が進み、求める商品やサービスは画一的でなくなった今、当社は、「高質・高揚消費層(自身のこだわりや価値観を満たす、高質で心が高揚する消費や体験を嗜好する全ての生活者)」に、3つの共創価値を提供し続ける「価値共創リテーラーグループ」への進化を図ります。
これらの実現には、従来に増してグループ一体となり、当社の強みを拡張していく必要があります。このため、リテール事業の深化と共に、以下の「顧客」「エリア」「コンテンツ」の3つの領域でグループシナジーを追求し、飛躍的な成長を目指します。
<顧客シナジー>
優良な顧客基盤の深耕に加え、海外顧客やMZ世代など新たな顧客とのつながりを強化します。店舗や事業会社、地域を越えてお客様とつながり、生涯を通じてお客様から選ばれるパートナーであり続けます。
<エリアシナジー>
全国主要都市の店舗不動産や事業基盤をグループ横断で活用し、街の魅力化に貢献します。特に、7つの重点エリア※では、百貨店やパルコ店舗の個性を磨き上げると共に、中長期の開発計画、エリア内の顧客連携や回遊促進などを通じて、街の賑わいの創出、さらなる魅力向上に取り組みます。
※重点エリア:札幌、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡
<コンテンツシナジー>
これまで培ってきた目利き力や調達力、また地域やお取引先様、クリエイターとのネットワークを融合し、国内に加え、海外やデジタル領域での事業展開など、リテール事業の新たな成長に向けた自社コンテンツの開発を推進します。
上記の実現に向けて、新たな価値を生み出す人財交流やシステム統合など、グループの力を結集する経営基盤の強化に取り組みます。
<2024-2026年度 中期経営計画>
1)中期経営計画の位置づけ、全体構成
・「2030年に目指す姿」の実現、中長期の成長を確かなものとする「変革期」と位置づけます。
・このため、本中期経営計画では主力のリテール事業(百貨店・SC事業)を中心に利益創出を図る一方、グループシナジーの具現化に向けた先行投資、成長戦略投資を拡大します。
・重点戦略として「リテール事業の深化」「グループシナジーの進化」、併せて「グループ経営基盤の強化」に集中して取り組みます。
2)経営数値目標
「変革期」と位置づける本中期経営計画の最終年度(2026年度)の財務目標として、連結事業利益 520億円、連結ROE 8.0%以上とします。また非財務目標として、温室効果ガス排出量58.0%削減、女性管理職比率31.0%の達成を目指します。
3)財務・資本政策
中長期的な資本収益性の向上を図るため、「収益性を伴う成長の実現」と「自己資本額の適正化、株主還元の強化」に取り組みます。
①収益性を伴う成長の実現
・連結はROE経営、事業セグメント別ではROIC経営を推進します。2030年を見据えた成長投資を拡大する一方、成長性と収益性に基づく投資管理の徹底などにより、収益性を伴った成長を実現します。
・本中期経営計画における投資計画では、リテール事業に加え、グループシナジーの具現化に向けたデベロッパー事業への先行投資、また成長戦略投資に重点配分します。
②自己資本額の適正化、株主還元の強化
・事業成長による利益創出に加え、資本収益性の継続的な向上を図る財務基盤を構築します。
・本中期経営計画では、連結配当性向40%以上の配当と自己株式の取得による自己資本額の適正化、株主還元の強化を図ります。
4)中期経営計画の骨子
①リテール事業の深化
A.国内・海外顧客層の拡大
・百貨店事業では、アプリを活用したお得意様向けサービスの対象拡大や外商活動の広域化など、百貨店外商を基盤とする顧客基盤の拡大に取り組みます。またパルコ店舗などグループとの外商連携を推進します。
・SC事業では、アプリ会員と共に、新カードの発行を契機とする会員獲得を、JFRカードとの連携により強化推進します。
・百貨店・SC事業において、訪日外国人観光客の各店への送客や情報発信の強化に加え、アジアを中心とする海外企業との提携による顧客連携や店舗施設の相互利用など、海外顧客との関係強化を図ります。
B.顧客接点の魅力向上
・百貨店事業では、顧客接点の起点となる店舗の魅力向上を図り、各地域での競争優位性を確立します。松坂屋名古屋店をはじめ基幹店舗を中心に、重点カテゴリーの継続強化に加え、MZ世代など次世代顧客やマーケット変化に対応した売場づくり、また高質で快適な店舗環境、環境に配慮したデザインなど空間価値の向上に取り組みます。
・デジタルを活用した顧客接点の拡充に向けて、百貨店アプリやお得意様向け専用サイトのリニューアルを通じた顧客コミュニケーションの高度化などに取り組みます。
・SC事業では、パルコ独自のブランド価値、来店価値の向上を図るため、MZ世代や海外顧客からの支持拡大に向けた戦略改装を、重点4店舗を中心に実施します。渋谷・心斎橋PARCOでは初の大型改装を実施するほか、名古屋PARCOではエリア最大級のエンタテインメントやポップカルチャーの集積、次世代ファッションの導入などに取り組みます。
・パルコ店舗・オンラインでの顧客データの全社活用による顧客への発信強化、会員向けの新たなサービスの導入など、顧客接点の魅力化を図ります。
C.高質・高揚消費層へのコンテンツ拡充
・百貨店事業では、国内・海外顧客から支持の高いラグジュアリーブランドや時計などの継続強化に加え、ファッション、美や健康など、マーケット変化に対応した新たなライフスタイルを提案します。
・また、富裕層マーケットへの対応強化に向けて、外部企業との協働による新たな商品やサービスの拡充などに取り組みます。
・SC事業では、店舗改装を通じたジャパンポップカルチャーゾーンの展開や百貨店との連携によるブランドの導入等に加え、パルコの強みである演劇や音楽、映画、またeスポーツなどデジタルを含めたエンタテインメントの強化を図ります。
②グループシナジーの進化
A.グループ顧客基盤の拡大
・本中期経営計画期間において、アプリの会員拡大と共に、GINZA SIXやPARCOなどの自社カード発行業務をグループに集約します。また、グループ決済基盤の確立を契機に、グループ顧客基盤の拡大を図り、顧客のLTV(Life Time Value : 顧客生涯価値)の向上に取り組みます。
・事業や店舗を超えた顧客連携を進めるほか、重点エリアを中心に顧客データベースの分析・活用などグループ顧客戦略を立案、推進します。
B.エリアの価値最大化
・7つの重点エリアのうち、本中期経営計画では「名古屋栄エリア」でのシナジー創出に集中的に取り組みます。
・松坂屋名古屋店、名古屋PARCOの大型改装に加え、デベロッパー事業による複合商業施設の開業(2026年予定)、JFRカードでの外部加盟店の拡大などにより、グループ施設間の相互送客、エリア内の顧客回遊を促進します。これらを通じて街の賑わい創出や魅力化に貢献し、エリア価値の最大化を図ります。
・「名古屋栄エリア」「大阪心斎橋エリア」での複合商業施設の開業(2026年予定)に加え、「福岡天神エリア」での開発計画を推進するため、デベロッパー事業への投資を強化します。一方、低稼働資産の活用、資産売却や入れ替えなど収益性向上に取り組みます。
・現在の建築内装事業、ビルマネジメント事業を統合再編し、重点エリアをはじめグループ内外の施設における上質な空間価値の創造、設備維持・管理など業務品質の向上、専門人財の確保・育成など事業の拡大を図ります。
C.自社コンテンツの保有・開発
・リテール事業の新たな成長に向けて、百貨店やパルコなど各社が有する目利き力や調達力、ネットワークなど組織能力を融合し、国内のみならず、海外・デジタル領域での事業展開を見据えた自社コンテンツ、サービスなどの開発や保有、また新規事業の開発を他社連携により推進します。
・全国主要都市に展開する当社の事業基盤を活かし、食文化をはじめ、各地域ならではの独自商品やサービスの発掘・育成などに取り組みます。
・時代に先駆けた新たなコンテンツやテナントの誘致に加え、サブカルチャーを軸としたゲームなどコンテンツの開発、保有を推進します。
・サブスクリプション事業の強化に加え、消費の循環を促す事業への新規参入など、他社連携を通じた新規事業の開発を推進します。
・これらの取り組みを加速推進するため、M&Aや他社提携、当社の事業承継・CVCファンドによる成長戦略投資を強化します。
③グループ経営基盤の強化
「2030年に目指す姿」の実現、戦略の実効性を高める経営基盤の強化に、グループ一体となり取り組みます。特に、価値創造の源泉である人財への重点投資、人財戦略の推進にスピードを上げて取り組みます。
A.人財戦略
・高度専門人財の採用強化や能力開発、次世代人財の計画育成、女性活躍推進など経営戦略と一体となった人財戦略を推進します。
・グループ内人財交流を活発化し、従業員が有する「知」の融合を図ると共に、活躍機会を拡大することで、チャレンジマインドの醸成につなげます。
・従業員一人ひとりが挑戦できる環境や仕組みを整え、従業員の意志・意欲や能力を引き出し、人と組織の持続的成長を図る人財開発企業の実現に取り組みます。
B.財務戦略
・中長期的な資本収益性の向上を図るため、成長性と収益性に基づく投資管理を徹底するほか、事業会社との連携による社内浸透などROIC経営を強化推進します。
・資本市場等の動向を踏まえ、フリーキャッシュ・フローの創出、長期安定資金の確保、有利子負債のコントロールなど財務体質の強化を図ります。
C.システム戦略
・事業会社間の連携、社内外コミュニケーションの活性化を促すグループ共通システム、グループウェアを構築します。
・グループ共通会計システムの本格稼働による経営管理の高度化、業務の効率化を図ります。また、情報セキュリティや事業継続への対応強化を図るほか、システム投資や資産管理の高度化などITガバナンスを推進します。
D.コーポレートガバナンス
・2024年度より始動した新たな経営体制のもと、経営の意思決定、執行の迅速化を図ると共に、取締役会による監督機能の強化などガバナンスの高度化により、中長期の成長実現、持続的な企業価値向上を図ります。
(1)JFRグループが目指すサステナビリティ経営
当社グループは300年、400年という歴史の中で数々の危機に遭遇してきました。そうした状況に直面するたびに、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という社是に立ち返り、お客様や社会の変化を機敏に捉えながら事業活動を愚直に実践してきたことが、今日の経営につながっています。社会との共存なくして企業の発展はありません。いま経営には、一層の長期視点により、社会に存在意義を放つ将来のあるべき企業像を描くことが不可欠となっています。地球温暖化、海洋汚染、生物多様性の喪失など地球環境問題の深刻化、サプライチェーン上の人権問題などの課題から目を背けて企業活動を行うことができないのは明らかです。そのような課題の解決に向けたサステナビリティの概念を企業戦略や事業戦略に組み込み、融合して推進することにより、将来の成長に向けた持続可能な経営の枠組みを獲得できるものと考えています。
このような考えのもと、当社は、持続可能な社会とくらしのあたらしい幸せの実現に向けて、環境・社会課題の解決と企業の成長を両立させるCSV(共通価値の創造)を実践することで、サステナビリティ経営を推進し、ステークホルダーの皆様の「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」に貢献していきます。
<サステナビリティ経営の全体像>
①ガバナンス
当社グループは、環境や社会課題への対応などサステナビリティに対する具体的な取り組み方針を、業務執行の最高意思決定機関であるグループ経営会議で審議・承認しています。グループ経営会議で承認された事項は、代表執行役社長の諮問機関であるサステナビリティ委員会で全事業会社に共有されます。あわせて、サステナビリティ委員会では、各事業会社の実行計画及び進捗モニタリングを行っており、グループ全体の取り組みの実効性を高めています。
これに対し、取締役会は、グループ経営会議で承認された内容及びサステナビリティ委員会での活動内容の報告を受け、目標設定、対応方針、実行計画等について論議・監督を行っています。
・取締役のスキルマトリックス
当社は、取締役候補者の選任にあたり、取締役に期待する専門性および経験等についてスキルマトリックスで明確にしています。サステナビリティ経営の推進を踏まえ、当社ではスキル項目として「環境」「社会」「ガバナンス」「人財・組織開発」を特定し、サステナビリティへの取り組みを適切に監督できる取締役を選任しています。
※スキルマトリックスについては、以下をご参照ください。
第17期招集通知
https://www.j-front-retailing.com/ir/stock/pdf/240418_Notice_of_Convocation_J.pdf
・非財務指標を取り入れた役員報酬制度
当社は、役員報酬制度における業績連動株式報酬を決定する非財務指標として、2021年度から「Scope1・2温室効果ガス排出量削減率」及び「女性管理職比率」を設定しています。これらは、中期経営計画のKPIとも連動しており、目標達成に向けた執行役の責任を明確化するとともに、サステナビリティ経営を実現・推進するためのインセンティブとして機能するようにしています。
※役員報酬制度については、「
<JFRグループ サステナビリティマネジメント体制>
<サステナビリティ委員会の主な議題>
2022年 |
4月 |
・外部講師講演 「ESG・サステナビリティ経営」 ・女性活躍推進プロジェクトの進め方 ・第1回お取引先様アセスメント(環境・人権)結果報告 ・2021年度進捗報告及び2022年度サステナビリティ実行計画 |
5月 |
・外部講師講演 「経営戦略としてのダイバーシティ」 |
|
9月 |
・女性活躍推進プロジェクト経過報告と今後の方向性 ・2022年度上期進捗報告 |
|
2023年 |
4月 |
・外部講師講演 「ビジネスと人権」 ・各事業会社のダイバーシティ&インクルージョン推進の取り組み状況 ・従業員意識調査結果報告 ・2022年度進捗報告及び2023年度サステナビリティ実行計画 |
9月 |
・外部講師講演「生物多様性対応の概要と必要性」 ・第2回お取引先様アセスメント実施概要 ・2023年度上期進捗報告 |
②リスク管理
当社グループは、リスクを「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しています。そして、リスクマネジメントを「リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理することにより企業価値を高める活動」と位置づけ、リスクのプラス面・マイナス面の双方に適切に対応することにより、企業の持続的な成長につなげています。
※サステナビリティ関連のリスクを含む、中期的に当社のグループ経営において極めて重要度の高いリスクの詳細については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。
また、環境関連については、「(2)気候関連課題への対応(TCFD情報開示)②リスク管理」を、
人的資本については「(4)人的資本に対する考え方 ②リスク管理」をあわせてご参照ください。
③戦略
当社は、2024年度からスタートした中期経営計画の策定にあたり、マテリアリティの見直しを行い、5つのテーマを特定しました。マテリアリティへの取り組みを、課題の解決にとどまらず企業成長に結びつけていくため、事業戦略と融合させ推進します。このため、従来に増して従業員一人ひとりの熱量と行動が重要であるとの考えから、能動的な表現に変更しました。事業戦略については、「
※サステナビリティ重要課題特定プロセスの詳細は、以下のウェブサイトをご覧ください。
https://www.j-front-retailing.com/sustainability/materiality.html#sustainability_contents_materiality_05
④指標と目標
サステナビリティに関する主な指標と目標は、以下のとおりです。
指標 |
目標内容 |
温室効果ガス排出量 |
2050年までにScope1・2・3温室効果ガス排出量ネットゼロを目指す |
2026年、Scope1・2温室効果ガス排出量58%削減(2017年度比) 2030年、同60%削減 |
|
2030年、Scope3温室効果ガス排出量40%削減を目指す(2017年度比) |
|
事業活動で使用する電力に占める再エネ比率 |
2050年、100% |
2030年、60% |
|
食品リサイクル率 |
2030年、85% |
環境配慮型商品の展開 |
2030年、認証商品を含む環境配慮型商品の取扱高拡大 |
新規開発物件の 環境認証取得率 |
2030年、100% |
女性管理職比率 |
2026年、31% |
男女賃金格差 |
2026年、キャリア開発や女性及びマネジメント層向け研修など、キャリアロスを防ぐための取り組みを強化し、差異を縮小させていく |
男性育児休職取得率 |
2026年、95% |
離職率 |
2026年、5.3%以下 |
(2)気候関連課題への対応(TCFD情報開示)
昨今、気候変動は極めて深刻なレベルまで進行し、将来世代はもちろんのこと、現世代の私たちを含め人類がその危機にさらされています。
当社は、気候変動への対応をサステナビリティ経営上の重要課題と位置づけています。気候変動に伴うリスクや機会は、当社グループの事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、2050年までのバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量ネットゼロ※を目指し、「温室効果ガス排出量削減」と「サーキュラー・エコノミーの推進」の両輪でその対策に取り組んでいます。
※温室効果ガス排出量を徹底して削減し、残りの排出量について、森林吸収やCCS(CO2の回収・貯留)等による除去量を差し引いて実質ゼロにすること
①ガバナンス
「
②リスク管理
(a)環境関連リスク・機会の特定・評価プロセスの詳細 当社グループは、リスクを戦略の起点と位置づけ、「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しており、企業が適切に対応することで、持続的な成長につながると考えています。 環境関連リスク・機会に関しても、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、プラスとマイナスの両面から以下のプロセスで特定・評価を行っています。 はじめに、バリューチェーンプロセスの活動項目ごとに、リスク・機会を特定します。次に、その中から「自社にとっての重要性」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの基準に基づき評価しています。 ※詳細は、次の③戦略をご参照ください。 |
<リスク管理プロセス>
|
(b)環境関連リスクの管理プロセスの詳細 当社グループは、環境関連のリスクについて、サステナビリティ委員会の中でより詳細に検討を行い、各事業会社と共有化を図っています。各事業会社では、環境関連の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。その内容について、グループ経営会議やリスクマネジメント委員会及びサステナビリティ委員会において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。 |
<リスク管理体制>
|
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況
「
③戦略
(a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細
当社グループは、気候関連リスク・機会は、長期間にわたり自社の事業活動に影響を与える可能性があるため、適切なマイルストーンにおいて検討することが重要であると考えています。それを踏まえ、当社グループは、中期経営計画の実行期間である2026年度までを短期、SBT(Science Based Targets)※における短期目標年度である2030年度までを中期、SBTネットゼロ目標年度である2050年度までを長期と位置づけました。
※企業が最新の気候科学に沿った野心的な排出削減目標の設定を可能にすることを目的として、2014年、CDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4団体が共同で設立
<JFRグループにおける気候関連リスク・機会の検討期間の定義>
気候関連リスク・機会の検討期間 |
JFRグループの定義 |
|
短期 |
2026年度まで |
中期経営計画の実行期間 |
中期 |
2030年度まで |
SBTにおける短期目標年度までの期間 |
長期 |
2050年度まで |
SBTネットゼロ目標年度までの期間 |
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度
当社グループは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、及び2030年度時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンス、そしてさらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上、パリ協定の目標である「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、及び新たな気候関連政策・規制は導入されない世界を想定した4℃シナリオの2つの世界を想定しています。
この2つのシナリオを踏まえ、百貨店やショッピングセンターなどリテール事業を主軸とする当社グループは、バリューチェーンプロセスの活動項目ごとに、TCFD提言に沿って、気候関連リスク・機会を抽出しました。その上で、気候変動がもたらす移行リスク(政策規制、技術、市場、評判)や物理リスク(急性、慢性)、また、気候変動への適切な対応による機会(資源効率、エネルギー源、製品及びサービス、市場、レジリエンス)を特定しました。
<参照した既存シナリオ>
想定される世界 |
既存シナリオ |
1.5℃/2℃未満シナリオ |
「Net‐Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)」(IEA、2023年) |
「Representative Concentration Pathways (RCP2.6)」(IPCC、2014年) |
|
4℃シナリオ |
「Stated Policy Scenario(STEPS)」(IEA、2023年) |
「Representative Concentration Pathways (RCP8.5)」(IPCC、2014年) |
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会及び財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス
当社グループは、特定した気候関連リスク・機会の中から、「自社にとっての重要性(影響度×緊急度)」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの基準に基づき、その重要性を評価しました。特に重要性が高いと評価した項目について、2030年度を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、及び4℃シナリオの2つのシナリオにおける財務影響を定量、定性の両側面から評価し、それぞれの対応策を策定しました。
なお、財務影響を定量的に評価するための情報が入手困難なリスク・機会については、定性的に評価し、その結果を矢印の傾きによって3段階で表示しています。
<JFRグループにとって特に重要な気候関連リスク・機会、および2030年度の財務影響>
|
JFRグループの事業及び財務への影響が非常に大きくなることが想定される |
|
JFRグループの事業及び財務への影響が大きくなることが想定される |
|
JFRグループの事業及び財務への影響が軽微であることが想定される |
気候関連 リスク・機会の種類 |
発現時期 |
JFRグループにとって 特に重要な 気候関連リスク・機会 |
財務影響 |
対応策 |
||||
短期 |
中期 |
長期 |
1.5℃/2℃ 未満 シナリオ |
4℃ シナリオ |
||||
リスク |
移行 リスク |
● |
● |
|
・炭素税等の導入に伴うコストの増加 |
約15億円※1 |
約13億円※1 |
・2050年ネットゼロ目標達成に向けた店舗における積極的な省エネ施策や再エネ切り替え拡大による温室効果ガス排出量削減 |
● |
● |
● |
・環境性能の高い物件の開発と設備導入に係るコストの増加 |
|
|
・グリーンボンド等を活用した資金調達 ・コスト効率的な設備導入 |
||
● |
● |
● |
・高効率省エネルギー機器導入に係る投資の増加 |
|
|
・インターナルカーボンプライシングの導入 ・コスト効率的かつ計画的な投資の検討 |
||
● |
● |
|
・再エネ由来電力需要増による再エネ調達コストの増加 |
約7億円※2 |
約3億円※2 |
・インターナルカーボンプライシングの導入 ・再エネ調達手法の分散化による再エネ調達リスクの低減と中長期的なコストの低減 ・自社施設への再エネ設備導入等、再エネ自給率の向上 |
||
物理 リスク |
● |
● |
|
・自然災害による店舗休業に伴う収益の減少 |
約52億円※3 |
約103億円※3 |
・BCP整備による店舗・事業所のレジリエンス強化 ・店舗の防災性能の向上 |
|
機会 |
エネルギー源 |
● |
● |
● |
・高効率省エネルギー機器導入によるエネルギー調達コストの減少 |
約4億円※4 |
・エネルギー高効率機器への適切なタイミングでの更新 |
|
製品 及び サービス |
● |
● |
|
・環境配慮型商品・サービスの需要増への対応によるバリューチェーン全体の脱炭素化及び収益の拡大 |
|
|
・環境配慮型商品・サービスの取扱い拡大 ・廃食油を国産SAFとして再資源化 ・AI需要予測システムの活用による食品廃棄物削減等、お取引先様との協働による取り組み ・お取引先様への温室効果ガス排出量算定に関する働きかけ、Scope3排出量データの連携を目的とした説明会の実施等、脱炭素化に向けたお取引先様との対話 |
|
市場 |
● |
● |
● |
・サーキュラー型ビジネスへの新規参入による新たな成長機会の拡大 ・サステナブルなライフスタイルを提案することによる新規顧客の獲得に伴う収益の拡大 |
|
|
・ファッションサブスクリプション事業「アナザーアドレス」をはじめとしたシェアリング・アップサイクル等サーキュラー型ビジネスの拡大 ・M&AやCVC※投資を有効活用したサーキュラー型ビジネスの立ち上げ |
|
● |
● |
● |
・環境価値の高い店舗への転換による新たなテナントの獲得機会増に伴う収益の拡大 |
約25億円※5 |
― |
・新規開発物件の環境認証の取得(ZEB、CASBEE等) ・RE100実現に向けた店舗の再エネ化の促進 |
※CVC(Corporate Venture Capital): 将来性のあるスタートアップ企業への投資を通じて、事業共創を効率的・効果的に推進する仕組み。当社は、2022年度、「JFR MIRAI CREATORS Fund」を設立し、オープンイノベーションを推進。
(2030年度時点を想定した定量的財務影響の算出根拠)
※1 2030年度時点のJFRグループScope1・2温室効果ガス排出量に1t-CO2あたりの炭素価格を乗じて試算
(パラメータ:1.5℃シナリオ 140$/t-CO2、4℃シナリオ 120$/t-CO2)
※2 2030年度時点のJFRグループ電気使用量に通常の電気料金と比較した1kWhあたりの再エネ由来電気料金価格高を乗じて試算
※3 過去の自然災害による店舗休業に伴う売上損失額に将来の洪水発生頻度を乗じて試算
(出典:「Representative Concentration Pathways (RCP2.6)(RCP8.5)」(IPCC、2014年))
※4 2030年度時点のJFRグループ省エネルギー量にエネルギー調達コストを乗じて試算
※5 2030年度時点のJFRグループ不動産収益に環境認証取得ビルの新規成約賃料への影響度合いを乗じて試算
上記シナリオを前提に気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討した結果、いずれのシナリオ下においても、当社グループが既に実施している施策及び計画している施策が、リスクを低減し、機会の実現に貢献できる実効性、柔軟性を有していることを確認しました。今後も経営のレジリエンスを高めることにつなげていきます。
・JFRグループ 2050年ネットゼロ移行計画
当社グループは、2050年ネットゼロの実現に向け、中長期視点から戦略を強化していく必要があると考えています。そのため、当社グループは、2050年ネットゼロ実現に向けた移行計画を策定しました。同計画では、事業戦略において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指すため、短期・中期・長期的視点から、具体的取り組みを明確化しています。
2024年2月には、インターナルカーボンプライシング(ICP)を設定しました。社内におけるCO2排出量を金額換算することにより、CO2に対する削減効果と削減コストを可視化し、脱炭素への意識醸成や脱炭素投資と連動した意思決定の促進を目的としています。将来の炭素税等の発生コストを見通して先手で対策を講じて取り組むことは、長期視点ではコスト減、また事業創出の機会にもつながると考えています。
また、当社のScope3温室効果ガス排出量は、その90%以上をカテゴリ1(調達した製品・サービス)が占めているため、自社コントロール及び自社努力による削減が極めて難しく、バリューチェーン全体で協働して削減に取り組むことが必要です。このため、当社は、お取引先様に温室効果ガス排出量の算定を働きかけるとともに、既に算定済のお取引先様とは削減目標の設定を依頼するなど、対話を通じて段階的に取り組みを進めていきます。
<2050年ネットゼロ移行計画※>
④指標と目標
(a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
当社グループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、及び事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率の2つの指標を定めています。
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)
当社グループは、2017年度から、グループ全体の温室効果ガス排出量の算定に取り組んでいます。当社グループの2023年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約8.2万t-CO2(2017年度比57.5%削減)、Scope3温室効果ガス排出量は、約289.8万t-CO2(2017年度比1.0%削減)を見込んでいます。また、再エネ比率は52.9%となる見通しです。なお、2023年度のScope1・2・3温室効果ガス排出量および再エネ電力使用量については、第三者保証を取得予定です。
<JFRグループ Scope1・2・3温室効果ガス排出量実績及び見通し> (単位:t-CO2)
|
2017年度 |
2022年度 |
2023年度見通し |
||
実績※1 |
実績※1 |
見通し |
2017年度比 (基準年度比) |
||
Scope1・2排出量 合計 |
194,154 |
109,785 |
82,450 |
▲57.5 % |
|
内訳 |
Scope1排出量 |
16,052 |
13,714 |
13,720 |
▲14.5 % |
Scope2排出量 |
178,102 |
96,071 |
68,730 |
▲61.4 % |
|
Scope3排出量※2 合計 |
2,927,320 |
2,761,669 |
2,898,650 |
▲1.0% |
|
再エネ比率(%) |
- |
33.6 |
52.9 |
- |
※1 LRQAリミテッドによる第三者保証を取得
※2 「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドラインVer.2.6(2024年3月 環境省 経済産業省)」・「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベースVer.3.4(2024年3月)」・IDEAv2.3(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)に基づき算出
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標及び実績
当社グループは、世界全体の1.5℃目標達成のため、2018年に長期的な温室効果ガス排出量削減目標を設定し、2019年にScope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標についてSBTイニシアチブによる認定を取得しました。2021年には、2030年のScope1・2温室効果ガス排出量削減目標を従来の40%から60%削減(基準年2017年度比)に引き上げ、「1.5℃目標」としてSBT認定を再取得しました。そして、2023年2月には、Scope1・2・3温室効果ガス排出量について、2050年までの「ネットゼロ目標」のSBT認定を取得しました。
これらの長期目標達成のため、当社グループは、2019年度から、自社施設における再エネ由来電力の調達を開始し、2020年10月に「RE100※」に加盟し、2050年までに、事業活動で使用する電力に占める再エネ比率100%を目指します。また、その中間目標として、2030年までに、事業活動で使用する電力に占める再エネ比率60%を目指します。
今後も、2050年までのネットゼロの実現に向け、再エネ由来電力の調達拡大に取り組みます。
※事業活動で使用する電力を2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際的イニシアチブ
<JFRグループの気候関連リスク・機会の管理に用いる目標>
指標 |
目標年度 |
目標内容 |
温室効果ガス排出量 |
2050年 |
Scope1・2・3温室効果ガス排出量ネットゼロ※1 |
2030年 |
Scope1・2温室効果ガス排出量60%削減(2017年度比)※1 Scope3温室効果ガス排出量40%削減を目指す(2017年度比)※1 |
|
事業活動で使用する 電力に占める再エネ比率 |
2050年 |
100%※2 |
2030年 |
60% |
※1 SBT認定取得
※2 2020年 RE100に加盟
今後も、当社グループは、取締役会による監督体制のもと、環境マネジメントにおけるガバナンスの強化を進め、中長期の目標達成に向けた実行計画の立案・推進等、全社的な取り組みを進めていきます。
(3)自然関連課題への対応(TNFD情報開示)
近年の課題として、企業には、事業活動における自然への影響を把握し、生物多様性の損失を止め、その回復に貢献することが求められています。百貨店やショッピングセンターなどリテール事業を主軸とする当社グループは、お取引先様やお客様、また地域社会など様々なステークホルダーとの接点を持っています。このつながりをいかして、私たちは、事業を通じて環境配慮型商品の調達や自然との共生を意識したライフスタイルの提案、また環境性能の高い店舗開発等、ネイチャーポジティブに向けた取り組みを推進していきます。
・TNFDフォーラムへの参画
当社は2023年11月、自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD : Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)※1の理念に賛同し、その活動を支援するTNFDフォーラム※2に参画しました。TNFDの情報開示フレームワークに基づき、当社グループの事業と自然資本の関係性 (依存と影響) やリスク・機会の整理を行い、積極的な情報開示を進めていきます。
※1 TNFDは、自然関連のリスクと機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的な組織です。企業や金融機関に対して自然資本に関する情報開示を促し、世界の資金の流れをネイチャーポジティブに移行させることを目指しています。
※2 TNFDフォーラムは、クロスセクター分野の専門知識を有する企業・政府機関・学術機関などで構成され、情報開示フレームワークの策定に向けた支援やTNFDに関連する最新情報の提供などを行っています。
①ガバナンス
「
②リスク管理
「
③戦略
(a)自然への依存と影響
当社グループの事業は、農産物、畜産物、水産物、木材や水などの資源に加え、土壌や森林、四季のある気候等、多くの自然の恵み(生態系サービス)を享受することで成り立っています。その一方で、私たちの事業活動は、温室効果ガスの排出や、廃棄物の排出、排水など、自然環境に様々な影響を与えています。当社は、自社の事業活動と自然環境との関係、具体的には両者の「依存」と「影響」について把握し、対応することが重要だと認識しています。
<事業活動と生態系サービスとの関わり>
(b)LEAP※アプローチを考慮した自然関連課題等の評価
LEAPアプローチとは、TNFDが推奨する、自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク・機会など、自然関連課題の評価のための統合的なプロセスです。
2023年度は、当社グループの主要事業会社である大丸松坂屋百貨店が全国各地に有する百貨店15店舗を対象に、LEAPアプローチを考慮した自然関連課題等(依存・影響、リスク・機会)の特定・評価を実施しました。
※ LEAP : Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の4つのフェーズ
(i)依存と影響の外観(Locate)
百貨店事業におけるバリューチェーン全体の依存・影響及びその程度をTNFDが推奨する自然への依存・影響を特定するツール「ENCORE」をベースに把握、ヒートマップを作成し、直接操業(店舗運営や店舗開発)及びバリューチェーン上流(調達)における自然資本への依存・影響の度合いを確認しました。
(ⅱ)リスク・機会を評価する店舗の特定(Locate)
WWFの「Risk Filter Suite」(生態系と水のリスク分析ツール)、WRIの「Aqueduct」(水リスク分析ツール)等を用いて、各店舗所在地における生態系の状況を確認し、さらに、当社独自の基準(土地建物の所有状況、売上規模等)と合わせ重要性評価を行いました。その結果、大丸心斎橋店を生物多様性保全における特に重要性の高い店舗と特定しました。
(ⅲ)自然に対する依存・影響の要因整理(Evaluate)
大丸心斎橋店での事業活動のうち、バリューチェーンにおける生態系サービスへの依存と影響が大きい「店舗開発」「衣料品・食料品」「包装資材」について関連する要因を整理しました。
(ⅳ)リスク・機会の評価と対応策(Assess・Prepare)
(ⅰ)~(ⅲ)までの大丸心斎橋店における生態系サービスへの依存・影響の整理を踏まえ、事業活動に影響を及ぼす自然関連リスク・機会を特定・評価するとともに、それらに対応する活動について検討しました。また、「自社にとっての重要性」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの基準に基づき、事業活動への影響を大・中・小の3段階で定性的に評価しました。
<リスク・機会の評価と対応策>
項目 |
リスク・機会の内容 |
影響度 |
活動内容 |
||
リスク |
物理
|
急性 |
・異常気象、自然災害増加による店舗休業に伴う収益の減少 |
大 |
・BCP整備による店舗・事業所のレジリエンス強化 ・店舗の防災性能の向上 |
慢性 |
・気温上昇に伴うエネルギーコストの増加 |
中 |
・高効率省エネルギー機器への適切なタイミングでの更新 |
||
・不作、品質低下、収穫量の減少に伴う農水産物の取り扱い商品数の減少による収益の不安定化 ・気温上昇や降雨パターン変化による来店客数の減少、売れ筋の変化 |
中 |
・重要な食品原材料の調達リスクについての論議と戦略策定 |
|||
移行 |
政策・規制 |
・温室効果ガス排出量に関する規制強化によるコストの増加 |
中 |
・店舗における積極的な省エネ施策や再エネ切り替え拡大による温室効果ガス削減 |
|
市場 |
・建材不足による店舗開発(外装・内装、増改築含む)の困難化、建築関連コストの増加 |
小 |
・国産間伐材の使用拡大 |
||
・サステナブルな商品に対する消費者の需要の高まりに応えられないことによる収益の減少 |
大 |
・認証商品等、環境配慮型商品の取り扱い拡大 ・FSC認証等、環境配慮型包装資材への切り替え ・スマートラッピング、簡易包装の選択推進 |
|||
評判 |
・持続可能な生産方法で生産された商品の調達が十分ではないことによるレピュテーションの低下 |
中 |
・認証商品の取り扱い拡大 ・スマート納品(納品回数の削減) |
||
・廃棄物の増加や適切な処理がなされないことによるレピュテーションの低下 |
中 |
・食品廃棄物削減のためのAI需要予測サービスの導入 ・食品廃棄物削減に向けた従業員によるコンポストコミュニティ活動 ・プラスチック資源循環法への適切な対応 |
|||
機会 |
資源効率 |
・効率的な水利用に伴うコストの低減 |
小 |
・雨水、中水の利用 ・節水機器の活用 |
|
製品・ サービス |
・持続可能な資材調達による不動産開発や、エネルギー使用量削減に伴う建物の資産価値の向上 |
大 |
・調達ルールの整備と各種認証の獲得(CASBEE、ZEB等)を促進し、対外的に訴求 |
||
・認証品/持続可能な生産方法で生産された商品の取り扱い増加に伴う収益の増加 |
大 |
・認証商品の取り扱い拡大 ・お客様への認証商品の周知と啓発 |
|||
市場 |
・暴風雨や台風等の緩和による店舗運営の継続・維持 |
大 |
・生態系サービスを享受するための環境整備(立地、植生、気候特性を把握したうえでのルール作り等) |
||
・生物多様性や景観に配慮した不動産開発、店舗運営(土地利用)に対する集客の増加 |
中 |
・屋上緑化、屋上都市養蜂の実施 |
|||
資本フローと 資金調達 |
・建物の環境価値向上による資金調達力の向上 |
大 |
・新規開発物件の環境認証取得 ・グリーンボンド等を活用した資金調達 |
||
評判 |
・屋上庭園等、憩いの場の提供によるレピュテーションの向上 |
中 |
・屋上緑化、屋上都市養蜂の実施 |
||
・循環型のビジネス推進によるレピュテーションの向上 |
中 |
・廃プラや食品廃棄物の資源循環に向けた他企業とのパートナーシップの構築(例:POOLプロジェクト、国産SAFプロジェクト等) |
|||
生態系保護・ 復元・再生 |
・商品(特にリスクコモディティ)のトレーサビリティを向上させることによるコンプライアンスコストの低減 |
小 |
・アセスメントの実施等、お取引先様とのエンゲージメント強化 |
||
自然資源の 持続可能な 利用 |
・紙製品の使用削減、代替資材利用増加に伴う店舗ブランド価値の向上 |
小 |
・FSC認証等、環境配慮型包装資材への切り替え ・ペーパーレス化の実施 |
④指標と目標
当社グループは、生物多様性損失と気候変動は切り離せない課題であると認識しており、両者の包括的な解決を目指すための指標及び目標を設定し、取り組みを進めていきます。
<JFRグループの自然関連リスク・機会の管理に用いる指標と目標>
指標 |
目標年度 |
目標内容 |
温室効果ガス排出量 |
「(2)気候関連課題への対応(TCFD情報開示)④指標と目標」をご参照ください。 |
|
再エネ比率 |
||
食品リサイクル率 |
2030年 |
85% |
環境配慮型商品の展開 |
2030年 |
認証商品を含む環境配慮型商品の取扱高拡大 |
新規開発物件の環境認証取得率 |
2030年 |
100% |
今後は、取り組みの優先度を検討し、範囲を広げていくとともに、主要なお取引先様を対象とした生物多様性に関するアセスメントの実施など積極的なコミュニケーションを行うことで、ネイチャーポジティブへの取り組みの実効性を向上させていきます。また、認証商品の取り扱いの拡充などにより、お客様の意識向上にも取り組みます。
(4)人的資本に対する考え方
当社を取り巻く環境は、テクノロジーの進化をはじめ、その変化のスピードは加速し、不確実性は一層高まっています。こうした経営環境の中で当社グループの未来を切り拓くことができるのは人財のみであると考えています。
当社は、従業員を最も重要な価値共創パートナーとして位置づけ、一人ひとりのWill(意志・意欲、内発的動機)に寄り添い、持てる力を最大限発揮するための制度や環境整備、キャリア形成などの成長支援を通じて、「従業員のWill実現」を会社の成長の原動力とし、グループビジョンの実現を目指しています。
<JFR人的資本経営の概念>
・「人財力主義」に基づく人事マネジメント
当社は職務型人事制度を経て、2019年度から当社独自の「人財力主義」に基づく人事制度を運用しています。これは、従業員一人ひとりの成果・行動・知識/スキルといった表出している部分に加え、従業員が内包する目に見えない人財力(人財価値、性格、価値観、気質、志向・趣味)を丁寧に可視化し、適正な配置と評価を行うことで、仕事を通じた成長を促進していく人事マネジメントです。
「人財価値」は、どのような状況であっても着実な成果・貢献に繋がる再現性・汎用性の視点で構成し(意志・意欲、学習力、革新力・創造力、影響力、折衝力、育成力)、ステージごとに求めるレベルを設定しています。 |
<人財力の定義>
|
①ガバナンス
「
②リスク管理
今後、労働人口の減少による働き手の不足、および人財の流動性の高まりにより、人財獲得競争が益々激化し、人財流出の増加や優秀な人財の獲得が困難となる場合、業績への影響のみならず、当社が2030年に目指す姿「価値共創リテーラーグループ」への進化に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、人財戦略として、変革リーダーの育成、従業員による自発的な学びの支援、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進などに取り組むことにより、従業員が成長と働きがいを実感できる環境を整えていきます。またすべての従業員が心身ともに健康でいきいきと働くことができるよう、従業員一人ひとりに寄り添いながら、働きやすい職場環境づくりを進めていきます。
③戦略
人財育成方針
従業員の意志・意欲、内発的動機を起点としたWill実現サイクルを「可視化」「実現力の実装」実践」「波及」という4プロセスで捉え、それぞれに効果的な人事施策を実行することを通じて、従業員の挑戦と学習を支援・伴走していきます。またこれに加え、ビジョン実現に向けて私たちが大切にする考え方「JFR WAY」を実践することで、このサイクルを加速させていきます。
<従業員のWill実現サイクル>
〔1〕自己探索の支援
質の高い1on1を通じて、従業員一人ひとりが潜在的に持っているWillの探索と言語化に伴走し、人財の特長・志向性に沿ったキャリア形成・能力開発を支援していきます。
また、主な伴走者であるマネジメント層への教育を通じて、心理的安全性の高い職場づくり、気づきや本音を引き出す対話力の強化、従業員の強みや個性を伸ばす育成力の向上を促進していきます。
〔2〕学習機会の提供
従業員の自律的なキャリア形成・能力開発を支援すべく、公募型研修の拡充や教育研修費の補助、またグループの全従業員が利用可能な自己研鑽学習のためのポータルサイト「JFRカレッジ」を運営し、職種や勤務地に制限されることなく、自らの意志と選択により学ぶことができる環境を整備していきます。
また、仕事という実践の場を通じてWill実現に取り組み、自組織をはじめグループ全体の変革をリードしていく人財を育成するための「変革リーダー育成研修(T3研修)」等にも取り組んでいきます。
〔3〕実践機会の提供
従業員の挑戦・Willの実践に向けた様々な仕組みを提供していきます。具体的には、従業員がマネジメント層と共創して取り組む「RED」の活用推進や、会社の枠を越えた新たな事業領域の挑戦に向けた様々な仕組み(出資先を含むグループ外への出向・グループ公募制度など)の構築に取り組んでいきます。
〔4〕挑戦の称賛
人財が成長する過程において、「挑戦すること」は非常に重要なファクターであると考えています。挑戦した結果、それが叶えば自信に繋がり、新たな挑戦に向かうエネルギーとなります。また想い通りにいかなかったとしても、挑戦する過程で得られた気づきや発見が、次に繋がる大切な学びになると考えています。
このため当社は、結果・成果にこだわりながらも、まずは「従業員が勇気を持って挑戦したこと」そのものを称賛し、評価します。そして、その挑戦する姿勢・熱量が周囲の心を動かし、誰かの新しいWillの芽生えに繋がると考えています。この熱量の伝播を社内に広く波及させていくことで、従業員のWill実現サイクルをパワフルに循環させていきます。
社内環境整備
・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン
多様な個性を取り入れ、組織の力に変換していくことが持続的な成長の実現につながると考えています。そのために、若手の抜擢登用からミドル・シニア層の活性化まで、全ての従業員がその特性を活かして活躍できる環境を整えていきます。特に、従業員の半数以上が女性である当社グループにおいては、「女性活躍推進」をさらに進めることが不可欠であり、これまで取り組んできた職場環境整備・働き方改革に加えて、従業員一人ひとりに寄り添った育成プランの立案や管理職登用後の定期的なフォローを強化していきます。
また、年齢・性別・働き方などから生じるアンコンシャス・バイアスを払拭し、人財の特性や志向性にあった登用・役割付与を実現していきます。
・人財確保
当社が「価値共創リテーラーグループ」へ進化を遂げるためには、3つの共創価値を創り出せる人財の確保・拡充が欠かせません。これに向けて当社は、人事体制の強化とアルムナイ・リファラルなどの採用ルートの拡大を行い、採用力の向上を図っていきます。
特に、採用ターゲットとして、新卒・若手人財に加え、高い専門性を持つ不動産・金融・財務等の人財を積極的に採用していきます。また、リテール事業においては、顧客ニーズをくみ取り新たなコンテンツやサービスを創造できる人財、デジタルトランスフォーメーションを牽引するデジタル人財を中心に採用を進めていきます。
また、これと並行して賃金政策や職場環境整備にも取組み、人財の定着支援を行います。
・心と身体の健康増進
従業員がエネルギー高く挑戦し続けるには、心と身体が健康であることが前提です。定期的にサーベイを行い、その結果を経営層・部門・従業員それぞれと共有し、改善につながるアクションを立案・実行するPDCAサイクルを丁寧に回していくことを通じて、従業員の創造性・生産性の高いアウトプットを支えていきます。
・人事体制の強化
従業員一人ひとりが持てる力を最大限に発揮するためには、人事部門の役割がこれまで以上に重要となります。採用・配置・育成・評価などの現場課題にスピーディーかつ適切に対応するべく、人事部門の専門性を高めると共に、業務の効率化を進めます。また、経営層や事業部門責任者のビジネス・パートナーとして貢献できる体制づくりに取り組みます。
④指標と目標
指標 |
2023年度実績 |
2026年度目標 |
|
女性管理職比率 |
22.5% |
31% |
|
男女賃金差異 |
全労働者 |
65.3% |
キャリア開発や女性及びマネジメント向け研修など、キャリアロスを防ぐための取り組みを強化し、差異を縮小させていく |
正規雇用労働者 |
74.4% |
||
非正規雇用労働者 |
72.7% |
||
男性育児休職取得率 |
87.5% |
95% |
|
離職率 |
5.4% |
5.3%以下 |
※1 管理職に占める女性労働者の割合および労働者の男女の賃金差異は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規程に基づき算出したものです。
※2 特に記載がない限り、当社グループの集計です。
※3 労働者の男女賃金の差異は、男性の賃金に対する女性の賃金割合を示しています。
※4 2024年5月時点の指標と目標であり、今後の人財戦略に応じて、追加、見直しをする可能性があります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2024年5月29日)において当社グループが判断したものです。
(1)リスクマネジメントの考え方と体制
・リスクマネジメントの考え方
当社グループは、リスクを「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しています。そして、リスクマネジメントを「リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理することにより企業価値を高める活動」と位置づけ、リスクのプラス面・マイナス面に適切に対応することにより、企業の持続的な成長につなげています。
・リスクマネジメント体制
当社は、代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、メンバーを当社執行役及び、主な事業会社の社長とするリスクマネジメント委員会を設置しており、リスクの抽出及び評価、戦略に反映させるリスクの決定など重要事項を審議し、リスクマネジメントを経営の意思決定に活用しています。なお、同委員会での審議内容については、適時に取締役会に報告します。
同委員会には、リスク管理担当役員を長とする事務局を置き、委員会で決定した重要な決定事項を事業子会社に共有し、ERM(全社的リスクマネジメント)を推進しています。また、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることにより、リスクマネジメントを企業価値向上につなげるよう努めています。
なお、効果的なリスクマネジメントを行うため、次のとおり3ラインを構築しています。
・第1ライン(事業子会社などの業務執行部門):自らリスクの特定及び必要な対策を行う。
・第2ライン(持株会社の各部門):業務執行部門から独立した立場でリスクマネジメントの支援・指導・モニタリングを行う。
・第3ライン(内部監査部門):業務執行部門及び持株会社の各部門などから独立した立場でリスク管理機能及び内部統制システムの有効性について監査を行う。
第2ラインによる支援とモニタリング、第3ラインによる独立した監査によって、第1ライン(業務執行部門)は、遅滞なく、また適正な手続きで、リスク対応を主体的に遂行していきます。
(2)プロセスとリスク抽出方法
当社グループでは、下記のプロセスにより、リスクマネジメントを推進しています。具体的には、外部・内部環境分析や、取締役、経営層や外部有識者及び実務部門の認識をもとに当社グループにとって重要度の高いリスクの抜け漏れが生じないように努めています。
リスクを戦略の起点と位置づけていることから、本中期経営計画の前提として、当社にとって重要度の高いリスクとその抽出方法の見直しを行いました。
中期的に当社のグループ経営において極めて重要度が高いものは、「JFRグループ重要リスク(以下 グループ重要リスクと呼ぶ)」と位置づけ「グループ中期経営計画」の起点としています。
また、「グループ重要リスク」を年度視点に分解・詳細化したもの、及び当該年度で個別対応が必要なリスク(主にオペレーションリスクや制度対応など)を合わせて「JFRグループ年度リスク(以下 グループ年度リスクと呼ぶ)」とし、優先度をつけて対応策を実行しています。
「グループ年度リスク」は、リスクを取り巻く環境変化と対応策の進捗についてモニタリングを行い、リスクマネジメント委員会で論議後、その内容を取締役会に報告しています。
「リスクの抽出方法とPDCA」
下図は当社グループが、中長期にわたりJFRグループの成長・存続を左右する最重要のリスクと位置づけている「グループ重要リスク」です。
その中でも、「既存の事業における業界構造の変容」「人財獲得競争の激化」「テクノロジー革新の加速」「環境課題の重要性の高まり」の4つのリスクは、当社のグループ経営に及ぼす影響が極めて大きいため、中期経営計画において最優先で対応すべきリスクと位置づけています。
「グループ重要リスクの全体像」 *は、影響が極めて大きく最優先で対応しているリスク
なお、2023年度までの旧グループ重要リスクと、現在のグループ重要リスクの相関は以下の通りです。従来から取り組んできたリスクを網羅しつつ、環境変化に合わせてリスクを見直しています。
(3)リスクについて
①戦略上のリスク
既存事業における業界構造の変容 |
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影響度:非常に大 |
将来の見通し: |
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(非常に拡大) |
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リスク認識 |
業界内での競争激化、ECをはじめとした他社・他業態の参入、取引先との関係の変化、消費マーケット自体の縮小や消費者の行動変容の進展、さらに固定費の増加・変動など、事業運営を行う上でベースとなる業界構造や収益構造は変容しています。当社グループの主要事業である百貨店事業の業界動向は長期的な縮小傾向にあり、従来のビジネスモデルの継続のみでは収益の維持や拡大は困難な状況です。 構造変化に応じた新たな事業モデルの再構築や、事業ポートフォリオの組み換えが収益拡大のチャンスとなります。一方、適切に対応できない場合には、業績が悪化し、固定資産の減損が必要となるなど、会計・税務上のリスクが生じるおそれがあります。 |
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対応策 |
当社グループは、本中期経営計画期間を2030年の飛躍的成長に向けた変革期と位置づけ、主力のリテール事業の深化により利益成長を図るとともに、「顧客」「エリア」「コンテンツ」の3つの領域でグループシナジーを追求し、飛躍的な成長を目指します。また、2030年を見据え、リテール事業に加えてデベロッパー事業や決済・金融事業の成長戦略を推進します。 成長戦略投資では、リテール事業の新たな成長に向けて、国内のみならず、海外・デジタル領域での事業展開を見据えた自社コンテンツ、サービスなどの開発、保有を推進する他、将来像を踏まえたM&Aや新規事業開発の推進、CVCによる出資先と協同でのオープンイノベーションを推進していきます。 <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)始動 https://www.j-front-retailing.com/_data_json/news/_upload/221011_CVC.pdf ・「事業継承ファンド」設立 https://www.j-front-retailing.com/_data_json/news/_upload/20240118jigyousyoukei.pdf |
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人財獲得競争の激化 |
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影響度:非常に大 |
将来の見通し: |
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(非常に拡大) |
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リスク認識 |
労働力人口の減少による働き手の不足、及び人財の流動性の高まりにより、人財獲得競争は熾烈を極めています。持続可能な経営の必須条件は人財の継続的な確保であり、また、事業ポートフォリオ変革には、これと連動した動的な人財ポートフォリオの実現が不可欠です。 人財の質と量の継続的な確保に向けて、適切な投資・教育を行い、新たな人財獲得(採用)と既存人財のキャリア形成やリスキリングなどによる社内流動性の向上が求められています。 |
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対応策 |
当社独自の「人財力主義」に基づき、戦略遂行に必要な人財ポートフォリオ実現に向けた効果的な人財投資を実施していきます。イノベーション人財や高度専門人財の採用強化、公募を活用したグループ人財交流の推進、キャリア開発・リスキリングなどの育成に積極投資を行います。特にデジタル人財については、経営層を含む社員を対象に社内教育を実施し、「デジタルコア人財」育成を継続実施しています。併せて、市場競争力のある賃金水準・処遇の実現や、世代・性別などによらない多様な人財が活躍する職場環境づくりに継続して取り組みます。 <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・専門人財採用 2023年218人、2022年161人、2021年103人 ・女性管理職比率 2023年22.5%、2022年22.2%、2021年21.3% ※人的資本に対する当社の考え方の詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (4)人的資本に対する考え方」をご参照ください。 |
テクノロジー革新の加速 |
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影響度:非常に大 |
将来の見通し: |
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(非常に拡大) |
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リスク認識 |
ビジネスに大きなインパクトを持つテクノロジー革新の中でも、生成AIは特に活用範囲が広く、業務のあり方を変えつつあります。また、Web3.0、XR、NFTなどの新たなデジタル技術やサービスは、生活者のライフスタイルや価値観・コミュニケーションを変化させ、新たに主要な市場へ成長する可能性があるとともに、既存ビジネスモデルにも影響します。 技術を活用して新たなビジネスモデルを構築することにより、変化する消費者行動に適応し、収益向上に寄与できる一方、適切な対応ができない場合には、事業の変革対応の遅れやビジネス機会の喪失、業務効率の低下などの恐れがあります。 |
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対応策 |
当社グループでは、当社独自環境で使用する対話型生成AIを導入し、業務の効率化や効果性向上を図っています。また、百貨店・パルコ各店舗でのXRを活用したイベント実施やアバター販売の開始など、リアルとデジタルを融合した新たな体験価値の創出に取り組んでいます。その他、様々な取り組みを通じて、デジタル技術による社会変革に対してDX推進の準備が整っていることを認める「DX認定(経済産業省認定)」を受けています。 <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・経済産業省「DX認定事業者」に認定 https://www.j-front-retailing.com/_data_json/news/_upload/202305010dx.pdf ・大丸松坂屋 アバター販売開始 https://www.daimaru-matsuzakaya.com/assets/news/3d_12_22.pdf ・パルコデジタルマーケティングXRメディア開設 *店舗でのイベント記事掲載 https://xr.parco-digital.co.jp/ |
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環境課題の重要性の高まり |
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影響度:非常に大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク |
地球温暖化や海洋汚染、また生物多様性の喪失など、地球環境を取り巻く環境問題は深刻化しており、長期間にわたり企業の事業活動に影響を与えると認識しています。 企業には、これらの問題への対処だけではなく、課題解決を起点としたビジネスの創出など、持続可能な環境・社会づくりに向けた積極的な役割・貢献が求められています。 |
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対応策 |
当社は、気候変動をサステナビリティ経営上の重要課題と位置づけ、2050年までのバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量ネットゼロ※1を目指しています。具体的には、ネットゼロ実現に向けて、「温室効果ガス排出量削減」と「サーキュラー・エコノミーの推進」の両輪で取り組んでいます。 ※1 温室効果ガスの排出量を徹底して削減し、残りの排出量について、森林吸収やCCS(CO2の回収・貯留)等による除去量を差し引いて実質ゼロにすること <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・温室効果ガス排出量削減 Scope1・2削減(再生可能エネルギー切り替え拡大、店舗照明のLED化、営業用車両のEV化など) Scope3削減(説明会の実施などお取引先様への働きかけ) ・サーキュラー・エコノミーの推進 食廃油から国産SAF製造を目指す「Fry to Fly Project」参加 https://www.daimaru-matsuzakaya.com/assets/news/saf.pdf ・ファッションサブスクリプション事業「アナザーアドレス」 https://www.anotheraddress.jp/ ・不要な衣料品等を回収し、再資源化・再利用する取り組み「エコフ」https://dmdepart.jp/ecoff/about/ ※環境問題への対応の詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動課題への対応(TCFD 情報開示)及び(3)自然関連課題への対応(TNFD 情報開示)」をご参照ください。 |
少子高齢化と所得格差の拡大 |
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影響度:大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク認識 |
人口減少により日本の消費人口は縮小し、また中長期的には、消費の中心は団塊ジュニアを核とする世代からミレニアム世代、Z世代(以下、MZ世代)へと交代が進展していきますが、MZ世代の価値観、行動様式は他の世代とは大きく異なる面を持っています。また、長寿命化の中、アクティブシニア市場が拡大すると見られ、従前の高齢者とは異なるライフスタイルを嗜好するシニア層にも適した事業運営が求められています。 世界的に所得格差は拡大、日本においても二極化が進展しており、ターゲットとする顧客に適切に対応するスピードと戦略性が求められます。 |
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対応策 |
消費の多様化が進み、求める商品やサービスが画一的ではなくなった今、当社グループは、自身のこだわりや価値観を重視し、高質で、心が高揚する消費や体験を嗜好する全ての生活者(特にMZ世代、富裕層、インバウンド等)に、新たな価値を提供していきます。 そのため、当社の強みである優良な顧客基盤の深耕に加え、海外顧客、消費を牽引していくMZ世代など新たな顧客とのつながりを拡大していきます。当社が事業基盤を持つ7つの重点エリア*を中心に、グループシナジーの発揮による顧客基盤の拡大、地域価値の最大化のため、百貨店、SC事業を軸に、デベロッパー事業、決済・金融事業を強化推進します。さらに、新規事業の取り組みとして、MZ世代に人気のeスポーツ事業にも、(株)XENOZの買収を通じて参入し、パルコを中心とした連携を強化しています。 <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・大丸松坂屋、GINZA SIX自社カードの統合による顧客基盤拡大、地域価値の最大化 https://www.jfr-card.co.jp/corporate/news/20231006.pdf ・(株)XENOZの株式取得 https://www.j-front-retailing.com/_data_json/news/_upload/20221027esports.pdf |
*札幌、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡
生活者の価値観や行動の多様化 |
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影響度:大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク認識 |
生活者の価値観の変化は、消費の主役の世代交代の進展とともに一層顕著となっていきます。消費トレンドは、所有から利用へ、便利で役立つものから情緒的で物語性のあるもの、今この瞬間しか味わえない体験(トキ消費)、競争から共創など多様化しています。また、「持続可能な経済活動」も求められています。消費行動プロセスも多様化しており、消費やサービスをオンライン上で完結したい消費者も現れています。合わせて足許の物価高やエネルギー資源の高騰は、お客様の消費意欲にも影響しています。 このような消費行動・ニーズの変容に適切に対応することができれば、当社ブランド力の向上や収益拡大のチャンスになります。 |
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対応策 |
上記のようなマーケット変化や次世代顧客に対応するため、国内外顧客から支持の高いラグジュアリーブランドの継続強化に加え、ライフスタイル提案、美や健康などの改装投資を実施し、各地域での店舗競争力強化を図ります。松坂屋名古屋店ではラグジュアリーをはじめ新たなファッションやライフスタイルを提案する大型改装を、PARCOにおいても、渋谷店・心斎橋店での初の大型改装や、名古屋店でのエンタテイメント、POPカルチャーゾーンの導入などを予定しています。また、大丸松坂屋百貨店のサブスクリプション事業は、従来のファッションに加えて、アート、冷凍グルメなどカテゴリーを拡大しています。 <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・冷凍グルメ宅配のサブスクリプションサービス「ラクリッチ」スタート https://www.daimaru-matsuzakaya.com/assets/news/5_16.pdf ・パルコゲーム事業スタート https://www.parco.co.jp/pdf/jp/store/storage/cname_20230907152708.pdf |
海外消費者の存在感の上昇 |
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影響度:大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク認識 |
低成長が続く日本とは対照的に、アジアを中心とする新興国は高成長を続けています。アジアの成熟都市には大型商業施設が多くあり、成長都市には国の成長に伴い都市開発、複合開発プロジェクトなどが増加しています。また、アジアにおいても富裕層は増加しており、中間層も人数や所得が急増しているなど、消費の牽引役としてのアジアの重要性が高まっています。 世界的なコロナ禍の収束を機に、海外消費者のマーケットは拡大していくと見られます。 このような中、海外消費者は当社グループにとって大きなターゲットと考えられるため、この市場に目を向けて適切に対応することがチャンスとなります。一方、政治情勢等の理由からインバウンドが大きく落ち込むことも想定し、国内顧客への対応も継続して注力していく必要があります。 |
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対応策 |
海外消費者のマーケット獲得は、将来の成長に欠かせない重要課題であり、顧客定着を推進するため、当社に海外事業担当の専門部署を新設しました。また、拡大していくインバウンド需要を着実に捉えるべく、国内外顧客から支持の高いラグジュアリーブランドなどの強化に加え、海外・デジタル領域でのビジネス展開を可能とするコンテンツ・サービスの開発・保有を推進していきます。その一方で、国内顧客基盤の拡大にも引き続き、取り組んでいきます。 <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・他社提携による海外富裕層へのアプローチを強化 https://www.j-front-retailing.com/_data_json/news/_upload/7bf3b433bca8fb939f2f086f494d305128d9d56a.pdf |
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都市間の格差拡大 |
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影響度:大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク認識 |
日本の人口減少、少子高齢化が進む中、三大都市圏や主要都市には人口流入が続き、雇用の機会やマーケットも拡大し、他都市との労働人口や経済の格差が拡大しています。 都市部においては、自然災害やインフラの老朽化に対して防災・減災、BCPなど都市の安全性強化に向けたインフラ整備が求められる一方、環境に配慮した快適な住居環境や文化との共存も求められています。 当社グループが都市の自治体やNPOなどとも連携し、街づくりや地域課題の解決に参画していくことが出来れば、地域の発展とJFRグループの収益拡大という両面を実現することができます。 |
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対応策 |
当社グループでは、デベロッパー事業の強化に向けて、2023年3月にJ.フロント都市開発株式会社を設立し、以下のような取り組みを推進しています。 ・グループ拠点のある主要7都市において都市の魅力をアップデートする開発の推進(名古屋栄「錦三丁目」エリア、大阪心斎橋エリアでの大型複合施設開発など、ともに2026年竣工予定) ・「地域社会との共栄」を目指し、商業だけでなく、オフィス、ホテル、レジデンスなどを組み込んだ複合施設の開発 ・「環境との共生」に向けて、今後の新たな施設開発においては環境認証の取得に積極的に取り組む <ご参考>これまでの具体的な取り組み事例 ・名古屋「(仮称)錦三丁目25番街計画」 https://www.parco.co.jp/news/detail/?id=2573 ・心斎橋プロジェクト https://www.j-front-retailing.com/_data_json/news/_upload/20220510shinsaibashi_p.pdf |
②ファイナンス上のリスク
経済動向の不安定さ |
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影響度:大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク認識 |
国内景気はグローバルな経済状況に左右され、為替、金利、株価などの不確実性は高く、特に、金利は、J.フロント都市開発が担うデベロッパー事業に大きく影響します。不確実性の高い経営環境の中、JFRグループとして、各種施策を検討・実施する過程において、複数のシナリオを策定し、機動的に対応することが重要です。 適切な対応により収益機会の拡大やリスク低減に繋がる一方、その対応を誤ると、収益機会損失や資金コストの上昇などマイナスの影響を及ぼす可能性があります。 また、新規投資資金、既存有利子負債の借換え資金、運転資金などを想定通りに調達できない場合、事業ポートフォリオ改革の遅れや企業活動の縮小に繋がる可能性があります。 |
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対応策 |
当社では、従来から事業特性を勘案して、主として長期かつ固定金利での資金調達を行っているため、短期的には、金利の上昇によって急激に支払利息が増加するなどの大きな影響を受けることはありません。 一方で、今後の成長戦略に向けた投資資金の確保や既存有利子負債の借換えに際しては、金利上昇の影響を受け、支払利息が増加するとみています。新規での資金調達局面においては、調達手段を適切に選択することなどにより、金融費用を極力抑制する施策に取り組んでいきます。 また、戦略視点でも、常に変動とその影響を確認し、必要に応じて、中期経営計画の見直し、次年度方針に反映していきます。 |
③ハザードリスク
自然災害や疫病の発生や流行 |
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影響度:非常に大 |
将来の見通し: |
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(継続して重要) |
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リスク認識 |
南海トラフ地震や首都圏直下地震など巨大地震の発生リスクは高まっています。また巨大台風や集中豪雨など異常気象による自然災害についても、発生頻度、被害規模ともに増大しています。 コロナ感染症は、収束が見通されるものの、新たな疫病の発生など類似のパンデミック(世界的な大流行)の可能性があります。 このようなリスクが顕在化し、人的被害、事業活動の停止、サプライチェーンの分断、施設改修に係る費用の発生など事業運営に重大な支障が生じた場合、当社グループに大きな影響を及ぼす可能性があります。リスクが顕在化する場合を想定し、事前に適切な対策や訓練を実施することが必要です。 |
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対応策 |
事業継続を脅かす自然災害等のリスクに対し、事業継続計画に基づき重要業務(資金、支払業務等)、重要インフラ(システム等)確保の観点から業務継続体制を整備するとともに、富士山噴火対応マニュアルの制定など事業継続計画内容の拡充、各事業会社における定期的なBCP訓練の実施等により、幅広い危機事象への対応能力や実効性の向上を図っております。 また感染症などに対しては、人命の安全確保や事業への影響の極小化、平時における体制整備に関する事項などを定めた「新型感染症対応マニュアル」に基づき対応していきます。 |
地政学・地経学危機の顕在化 |
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影響度:大 |
将来の見通し: |
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(拡大) |
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リスク認識 |
ウクライナでの紛争の他、地政学リスクが顕在化しています。これらは、資源や食料、先端技術などの自国への囲い込みが進み、物価やサプライチェーン、消費者動向にも影響を与えます。 世界の不確実性が高まっていく中で、その動向を注視し、様々な状況を想定したプランの策定や事前の訓練は、海外従業員の安全・安心を確保する上でも不可避な取り組みです。リスクが顕在化した場合でも適時・適切な対応が可能となるよう、事前に有事を想定して準備をしておくことが重要です。 |
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対応策 |
従業員の海外赴任先や出張先のリスク環境・実態を踏まえた海外危機管理体制の構築と対応能力の強化を推進していきます。また、海外拠点、駐在員を置く事業会社(大丸松坂屋、大丸興業、パルコ等)での事業継続計画の見直しを実施します。なかでも、当社グループが拠点を有する東アジア有事への対応を定めた行動指針を新たに制定し、海外安全対策マニュアルを改訂するなど海外従業員の安全確保をはじめとした対応策を継続して強化していきます。 また、戦略視点でも、常に不安定要素と事業への影響を確認し、必要に応じて、海外戦略における次年度方針への反映や、施策の柔軟な変更を実施していきます。 |
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情報セキュリティ脅威の増大 |
||||
影響度:大 |
将来の見通し: |
|
(拡大) |
|
リスク認識 |
リモートワークの定着、クラウドやモバイル利用などの業務が拡大していく一方、サイバー攻撃や不正アクセスなどの手法の多様化、高度化が急速に進展しており、当社グループを取り巻くサイバーリスクは一層深刻化しています。また、当社グループは顧客情報や個人情報を多く保有しており、情報の保管、取り扱いについてより堅牢な仕組みの導入やシステムセキュリティ対策が必須となっています。 外部からの攻撃や人為的なミス、委託先の管理不備等により重要情報の外部流出やサービスの大規模停止などのリスクが顕在化した場合、社会的信用の失墜のほか被害の規模によっては当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。情報セキュリティ管理の整備・高度化を推進していくと同時に従業員が正しい知識を持ち、適切に行動することが必要です。 |
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対応策 |
当社グループでは、情報セキュリティを確保するため、以下のような方向で取り組みを進めています。 ・情報セキュリティの専門組織設置。グループ内IT組織の一元化と組織機能を発揮しやすいシステム環境整備 ・グループインフラの一元化と整備・高度化、情報システムの安全稼動及び堅牢性の高いセキュリティの構築 ・セキュリティ強化した館内Wi-Fi環境への切替により、従業員の不正な持ち込み機器による社内ネットワー クへの侵入対策 ・新ソリューションや外部監視サービスを活用した監視体制の強化、脆弱性に関する管理対象範囲の拡大、対 応品質の向上による情報漏洩等の未然防止などセキュリティ運用の高度化を推進 ・外部に委託するシステムに関する管理体制の強化 ・システム投資関連の運用の改善、IT資産管理関連の新運用の定着、IT事業継続計画の検討などITガバナン スの適正運用の推進 ・グループセキュリティガイドライン改訂、セキュリティインシデント対応体制の強化 ・IT担当者を対象としたインシデント対応訓練の実施、全従業員対象の情報セキュリティe-ラーニングや標的 型攻撃メール訓練の継続的実施などにより、従業員のセキュリティ意識とリテラシーの向上 |
JFRグループ「グループ重要リスク」一覧
分類 |
項目 |
影響度 |
将来の 見通し |
マイナス面 |
プラス面 |
対応策 |
戦 略
|
既存事業における 業界構造の変容 |
非常に大 |
|
・大型店舗型小売業の業績低迷によるグループ全体の活力の低下 |
・大型店舗型小売業の事業モデルの抜本的な変革による再成長 |
・事業ポートフォリオの転換に向けた既存事業強化、事業開発 ・将来像を踏まえたM&AやCVCによる出資 |
人財獲得競争の 激化 |
非常に大 |
|
・人財獲得競争での劣後、優秀人財の流出 ・従業員のモチベーション低下 |
・事業戦略の推進、イノベーションの創出 ・従業員のエンゲージメント、組織力の向上 |
・専門人財の採用、グループ人財交流、育成 ・従業員のWell Being Life実現につながる人財投資 |
|
テクノロジー革新 の加速 |
非常に大 |
|
・グループ全体の成長の停滞 ・テクノロジー活用遅延による競争力の低下 |
・テクノロジー活用によるビジネスモデルの変革 ・業務の効率化 |
・グループデータベース活用 ・AIの活用による業務効率化 ・Web3.0、XR、NFTなど新たな市場でのビジネスモデルの構築 ・デジタル人財の育成 |
|
環境課題の重要性 の高まり |
非常に大 |
|
・ステークホルダーの離反、格付・ブランド力の低下 |
・持続的な成長、当社グループのプレゼンス向上 |
・温室効果ガス排出量削減 ・環境配慮型商品・サービスの取り扱い拡大 ・シェアリング・アップサイクル等サーキュラー型ビジネスの拡大 |
|
少子高齢化と所得 格差の拡大 |
大 |
|
・国内市場規模の縮小 ・従来ターゲットのボリューム層の減少 |
・ターゲットへの対応による新規マーケット拡大 |
・自身のこだわりや価値観を満たす、高質で心が高揚する消費や体験を嗜好する生活者へのアプローチ ・上記ターゲットへリーチするための顧客基盤・事業基盤の拡大 |
|
生活者の価値観や 行動の多様化 |
大 |
|
・売上、収益の減少 |
・新規マーケットの拡大 |
・自身のこだわりや価値観を満たす、高質で心が高揚する消費や体験を嗜好する生活者の価値観に沿った施策の推進(サブスクリプション事業、宅配事業、エンタテイメント、POPカルチャーなど) |
|
海外消費者の 存在感の上昇 |
大 |
|
・インバウンドの取り込みの遅れ ・インバウンドの急減 |
・インバウンド売上の拡大 ・ECなどの展開による外需獲得 |
・国内外顧客から支持の高い商品カテゴリーの継続強化 ・海外でのデジタル領域での展開を可能とするコンテンツ開発・保有の推進 ・継続した国内顧客基盤拡大の取り組み |
|
都市間の格差拡大 |
大 |
|
・都心立地の商業施設の集客力低下 |
・都市のニーズ、街づくりへの貢献を通じた事業展開 |
・グループ重要拠点において自治体などと連携した街づくり参画(商業施設、オフィス、ホテル、レジデンスなど) |
|
ファイナンス |
経済動向の 不安定さ |
大 |
|
・収益機会損失 ・資金コスト上昇 |
・成長戦略推進、事業ポートフォリオ変化の推進 ・資金コストの引き下げ |
・固定金利での長期調達 ・新規資金調達局面での適切な調達手段の選択 |
分類 |
項目 |
影響度 |
将来の 見通し |
マイナス面 |
プラス面 |
対応策 |
ハザ | ド |
自然災害や疫病の 発生や流行 |
非常に大 |
|
・お客様、従業員の人命損傷 ・事業継続の危機 |
・事業の安定運営 |
・実践的なBCP訓練の継続実施 ・事業継続計画の定期的な見直し ・新たなパンデミックへの備えの強化 |
地政学・地経学 危機の顕在化 |
大 |
|
・海外赴任(出張者)従業員の危険や生活困難 |
・海外事業の安定運営 |
・従業員の海外赴任先や出張先のリスク環境、実態を踏まえた海外危機管理体制の構築と推進 ・当社事業(特に海外事業)における影響注視 |
|
情報セキュリティ 脅威の増大 |
大 |
|
・個人情報の漏洩、訴訟・損害賠償の発生、社会的信用失墜 ・業務の遅延・停滞 |
・業務やシステムの安定稼動 ・業務の効率化、リモートワークの推進 |
・グループ共通のシステムインフラの整備、高度化の推進 ・セキュリティ運用の高度化推進と対応体制の強化 ・グループセキュリティガイドラインの見直しと訓練等を通じた従業員のセキュリティ意識、リテラシーの向上 |
影響度:中期経営計画期間中の、当社グループへの経済的なインパクト、ブランド価値へのインパクトを考慮したもの
見通し:中期経営計画期間中のリスクの増減を、当社グループへの影響度を考慮して見通したもの
|
:影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク |
リスクの分類については、複数の分野にまたがる場合は、当社グループの戦略に影響や関連性が最も高い分野で記載した
(1)財政状態及び経営成績の状況
① 当期の経営成績
(単位:百万円、%) |
2024年2月期 |
対前年 |
対10月予想 |
|
増減高 |
増減率 |
増減高 |
||
総額売上高 |
1,151,972 |
153,217 |
15.3 |
20,972 |
売上収益 |
407,006 |
47,327 |
13.2 |
1,506 |
売上総利益 |
195,516 |
25,980 |
15.3 |
3,016 |
販売費及び一般管理費 |
151,185 |
6,503 |
4.5 |
1,185 |
事業利益 |
44,330 |
19,476 |
78.4 |
1,830 |
その他の営業収益 |
3,673 |
△867 |
△19.1 |
473 |
その他の営業費用 |
4,955 |
△5,381 |
△52.1 |
△745 |
営業利益 |
43,048 |
23,989 |
125.9 |
3,048 |
親会社の所有者に 帰属する当期利益 |
29,913 |
15,676 |
110.1 |
2,913 |
当連結会計年度の日本経済は、国際情勢の不安定化や海外経済の減速など不確実性が高まる一方、社会・経済活動の正常化が一段と進むなか、サービス消費やインバウンド需要の伸長などにより、緩やかな回復基調が続きました。
個人消費は、雇用・所得環境の改善基調が続くなか、対面型サービスなどは増加した一方、物価上昇による実質賃金の低下などにより、消費の持ち直しの動きに足踏みが見られるなど、緩やかな回復にとどまりました。
当社は、2021年度より、サステナビリティ経営を基軸とする中期経営計画(2021-2023年度)を推進してきました。本計画は、コロナ危機からの「完全復活」を果たし、2024年度以降の「再成長」に着手する期間と位置づけ、主に、3つの重点戦略及び経営構造改革、また中長期の成長を支える経営基盤強化に取り組んできました。
中期経営計画の最終年度となる当年度は、回復基調の続く国内消費やインバウンド需要を着実に捉え、「完全復活」への足取りを確かなものとし、2024年度以降の「再成長」に繋げるため、本計画で掲げた重点戦略・施策を着実に推進しました。
サステナビリティへの取り組みでは、主に、7つのマテリアリティ(重要課題)において、重点戦略と一体化した活動を通じて、環境・社会課題の解決に取り組みました。
これらの結果、当初想定以上にコロナ感染症の影響が長期化したものの、本計画で掲げた連結営業利益目標(40,300百万円)をはじめ主要な経営数値目標を概ね達成し、財務体質は有利子負債の削減などにより改善しました。
また、本計画の目標達成に向けた戦略推進と並行して、2030年を見据えたグループの目指す姿、2024年度からスタートする次期中期経営計画(2024-2026年度)を策定しました。あわせて、グループ経営の更なる強化と企業価値の向上に向け、次期中期経営計画を始動させる新たな経営体制を決定しました。
「リアル×デジタル戦略」では、百貨店事業やSC事業において基幹店を中心に、リアル店舗の魅力化に向けた主力カテゴリーの強化や店舗改装など戦略投資を推進したほか、来店価値向上に向け、大型動員催事などプロモーション強化などに取り組みました。デジタル活用ではサブスクリプションサービスなどオンラインビジネスの拡充、また顧客との強固な関係構築に向け、アプリなどを通じた顧客接点のデジタル化を推進しました。
「プライムライフ戦略」では、富裕層マーケットへの対応を強化するため、主に百貨店外商を基盤に、重点カテゴリーの拡充、店頭・オンラインの両面から希少性の高い商品・サービスの開発と共に、新規顧客の獲得など顧客層の拡大を図りました。
「デベロッパー戦略」では、当年度から始動した新たな事業推進体制のもと、名古屋栄エリアや大阪心斎橋エリアに加え、新たに福岡天神エリアなど、当社が基盤を有する7都市の重点エリアを中心に中長期の開発計画を策定、推進しました。また、保有資産の有効活用に向けレジデンス事業に参入し、物件開発を推進しました。
「経営構造改革」では、固定費削減について組織・要員構造改革の効果に加え、業務委託の見直し、宣伝手法のデジタル化などにより当初計画以上の削減を図りました。また、経営効率向上への取り組みとして、当社が保有する株式会社スタイリングライフ・ホールディングスの全株式を譲渡しました。この結果、同社は当社の持分法適用関連会社から除外となりました。なお、新所沢PARCOは2024年2月末に営業終了しました。
これらの戦略推進に加え、事業ポートフォリオの変革や他社との共創による新規事業の創出を見据え、株式会社フィナンシェやクオン株式会社へ出資したほか、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドを通じて8社に出資しました。また、当社のサステナビリティの重要課題である「地域社会との共生」に基づき、地域社会への貢献と各地域に根ざした商品・サービスの発掘・継承を目的に、2024年3月に他社共同による事業承継ファンドを設立しました。
グループ人財戦略では、ホールディングスや各事業での高度専門人財の採用強化や能力開発に加え、デジタル人財の計画育成、中堅・若手社員の活躍推進などグループ横断による人財開発に取り組みました。また、従業員の意志・意欲を反映した公募型の配置、組織・人財の多様性を高める人財交流を積極的に推進しました。
グループ財務戦略では、事業環境変化や今後の見通しなどを踏まえ、現預金残高の適正化や有利子負債の削減を進めるなど財務体質の改善を図りました。また、次期中期経営計画を見据え、中長期の財務政策を策定しました。
グループシステム戦略では、各事業での戦略推進支援とあわせ、経営管理の高度化と生産性向上を図るグループ共通会計システムの事業会社への導入を進めたほか、情報セキュリティや事業継続への対応強化を図りました。
以上のような諸施策に取り組みました結果、当期の連結業績について、売上収益は407,006百万円(対前年13.2%増)となりました。事業利益は売上収益の改善に加え、固定費削減の効果や経費節減により44,330百万円(対前年78.4%増)となりました。営業利益は百貨店の一部店舗で減損損失を計上する一方、持分法適用関連会社の株式譲渡などにより43,048百万円(対前年125.9%増)、税引前利益は41,343百万円(対前年145.0%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は29,913百万円(対前年110.1%増)と大幅増益となりました。
なお、配当金につきまして、年間配当金は前期実績に比べ5円増配の1株当たり36円(前期実績31円)とさせていただきました。
セグメントの業績は、以下のとおりであります。
なお、2023年3月1日付の組織再編に伴い、株式会社パルコからJ.フロント都市開発株式会社へ不動産が移管されております。これに伴い、前連結会計年度の期首(2022年3月1日)より移管されたものとみなし遡及修正しております。
セグメント業績
<百貨店事業>
(単位:百万円、%) |
2024年2月期 |
対前年 |
対10月予想 |
|
増減高 |
増減率 |
増減高 |
||
売上収益 |
239,125 |
23,371 |
10.8 |
3,825 |
事業利益 |
26,265 |
13,431 |
104.6 |
1,965 |
営業利益 |
23,587 |
16,058 |
213.3 |
1,287 |
社会・経済活動の正常化が一段と進むなか、主に堅調な富裕層マーケットへの対応をはじめとする戦略・施策の効果に加え、訪日外国人観光客による売上が一段と伸長し、売上高は大幅な増収となりました。
店舗別では、特に訪日外国人売上が好調な大丸心斎橋店や大丸京都店に加え、ターミナル立地の大丸東京店や大丸札幌店において入店客数、売上高が大きく改善しました。
重点戦略への取り組みでは、基幹店を中心にラグジュアリーブランドや高級時計など主力カテゴリーの強化、リニューアルを実施したほか、お得意様ラウンジの導入など上質な店舗環境の構築に取り組みました。また、オンラインビジネスの強化に向けて、ファッションやアート、食のサブスクリプションサービスを拡充するなどデジタルを活用した新たな顧客体験の創出などに取り組みました。また、顧客との強固な関係構築に向け、リアル店舗に加え、大丸・松坂屋アプリなどを通じた顧客接点のデジタル化を着実に推進しました。
以上のような諸施策に取り組みました結果、売上収益は239,125百万円(対前年10.8%増)の増収となりました。営業利益は23,587百万円(対前年213.3%増)と、売上収益の改善に伴う変動費の増加などがあったものの、大幅な増益となりました。
<SC事業>
(単位:百万円、%) |
2024年2月期 |
対前年 |
対10月予想 |
|
増減高 |
増減率 |
増減高 |
||
売上収益 |
57,944 |
4,165 |
7.7 |
△508 |
事業利益 |
8,379 |
2,525 |
43.1 |
1,189 |
営業利益 |
9,414 |
5,170 |
121.8 |
1,316 |
基幹店を中心とする戦略改装や全店統一企画等のプロモーションの効果、また渋谷PARCO、心斎橋PARCOをはじめとする訪日外国人観光客の来店増などにより、入店客数、テナント取扱高ともに増加しました。
重点戦略に基づき、店舗の魅力化に向け、池袋PARCOでは話題性の高いエンタテインメントショップを集積したゾーンの構築、名古屋PARCOではユニセックス・レディス要素を拡張し共用環境を刷新するなど戦略改装を推進しました。浦和PARCOでは“好感度・上質な生活の提案”“心地よい日常生活”をキーワードとしたテナントを導入しました。また、来店価値向上に向け、人気TVアニメの大型動員催事の展開など独自のプロモーションに加え、渋谷PARCOでは50周年を記念し、半世紀を超える広告クリエイティブの歴史を巡る展覧会“「パルコを広告する」1969-2023PARCO広告展”を開催しました。なお、新所沢PARCOは本年2月末に営業を終了しました。
以上のような諸施策に取り組みました結果、売上収益は57,944百万円(対前年7.7%増)となりました。営業利益は売上収益の改善に加え、保有資産の売却益なども加わり9,414百万円(対前年121.8%増)と大幅な増益となりました。
<デベロッパー事業>
(単位:百万円、%) |
2024年2月期 |
対前年 |
対10月予想 |
|
増減高 |
増減率 |
増減高 |
||
売上収益 |
78,418 |
23,166 |
41.9 |
2,518 |
事業利益 |
7,546 |
5,070 |
204.7 |
546 |
営業利益 |
7,437 |
4,253 |
133.5 |
337 |
2023年度から始動した新たな事業推進体制の下、グループ全体最適の観点から、当社グループが基盤を有する7都市の重点エリアを中心に中長期の開発計画策定に取り組みました。具体的には、2026年の竣工・開業を目指す名古屋栄エリア「(仮称)錦三丁目25番街区計画」、大阪心斎橋エリア「(仮称)心斎橋プロジェクト」、福岡天神エリアにおける再開発計画を推進しました。また、保有資産を活用した非商業施設の開発として、当社が手掛けたレジデンス3物件を竣工させました。
建築内装事業では、都市部での再開発や出店拡大などの投資機会を捉え、ホテルなど開発案件への参画、特選ブランド等からの受注拡大など、営業力の強化に取り組みました。
以上のような諸施策に取り組みました結果、売上収益は、開発不動産の自社が組成したファンドへの売却、グループ内外の内装・設備工事や施設管理業務等の増加により、78,418百万円(対前年41.9%増)となりました。これらにより、営業利益は7,437百万円(対前年133.5%増)の増益となりました。
<決済・金融事業>
(単位:百万円、%) |
2024年2月期 |
対前年 |
対10月予想 |
|
増減高 |
増減率 |
増減高 |
||
売上収益 |
13,115 |
226 |
1.8 |
△435 |
事業利益 |
2,777 |
△709 |
△20.4 |
△475 |
営業利益 |
2,583 |
△902 |
△25.9 |
△574 |
決済事業では、百貨店との協働による会員獲得とともに、独自のポイントサービス「QIRAポイント」の認知度向上に向けた特別イベントを実施しました。また、グループ商業施設での決済環境の整備や、グループ店舗が立地する各エリアでの他社施設との連携など加盟店事業の強化を図りました。金融事業では、他社との連携・協業による会員向けの新サービスの開発などを推進しました。
以上のような諸施策に取り組みました結果、売上収益は13,115百万円(対前年1.8%増)の増収となりましたものの、営業利益は事業基盤拡大に向けた投資費用等の増加やカード不正利用に伴う費用増などもあり、2,583百万円(対前年25.9%減)の減益となりました。
<その他>
(単位:百万円、%) |
2024年2月期 |
対前年 |
対10月予想 |
|
増減高 |
増減率 |
増減高 |
||
売上収益 |
51,925 |
△3,997 |
△7.1 |
△4,475 |
事業利益 |
965 |
41 |
4.4 |
△435 |
営業利益 |
1,370 |
471 |
52.3 |
△330 |
卸売業の大丸興業において、主力の電子部品部門での受注減や海外事業の売上減少などにより、売上収益は51,925百万円(対前年7.1%減)の減収となりましたものの、営業利益は為替差益や保有資産の売却益などにより、1,370百万円(対前年52.3%増)の増益となりました。
② 財政状態
(単位:百万円、%) |
2023年2月期 |
2024年2月期 |
増減高 |
流動資産 |
201,860 |
246,501 |
44,641 |
非流動資産 |
919,092 |
868,225 |
△ 50,867 |
資産合計 |
1,120,953 |
1,114,726 |
△ 6,227 |
流動負債 |
317,953 |
331,261 |
13,308 |
非流動負債 |
431,589 |
389,232 |
△ 42,357 |
負債合計 |
749,542 |
720,494 |
△ 29,048 |
親会社の所有者に帰属する持分 |
359,385 |
381,898 |
22,513 |
親会社所有者帰属持分比率 |
32.1 |
34.3 |
2.2 |
資本合計 |
371,410 |
394,232 |
22,822 |
当連結会計年度末の資産合計は1,114,726百万円となり、前連結会計年度末に比べ6,227百万円減少いたしました。一方、負債合計は720,494百万円となり、前連結会計年度末に比べ29,048百万円減少いたしました。なお、有利子負債残高(含むリース負債)は、364,398百万円となり、前連結会計年度末に比べ49,551百万円減少いたしました。
資本合計は、394,232百万円となり、前連結会計年度末に比べ22,822百万円増加いたしました。
③ キャッシュ・フロー
(単位:百万円) |
2023年2月期 |
2024年2月期 |
増減高 |
営業活動によるキャッシュ・フロー |
65,480 |
90,692 |
25,212 |
投資活動によるキャッシュ・フロー |
△13,371 |
13,429 |
26,800 |
フリーキャッシュ・フロー |
52,109 |
104,122 |
52,013 |
財務活動によるキャッシュ・フロー |
△105,694 |
△72,746 |
32,948 |
現金及び現金同等物の増減額 |
△53,585 |
31,375 |
84,960 |
現金及び現金同等物の期末残高 |
39,874 |
71,342 |
31,468 |
当連結会計年度末における「現金及び現金同等物」の残高は、前連結会計年度末に比べ31,468百万円増の71,342百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
「営業活動によるキャッシュ・フロー」は90,692百万円の収入となりました。前連結会計年度との比較では、税引前利益が増益になったことなどにより25,212百万円の収入増となりました。
「投資活動によるキャッシュ・フロー」は13,429百万円の収入となりました。前連結会計年度との比較では、設備投資を実施した一方、持分法適用会社株式や投資不動産の売却による収入などにより26,800百万円の収入増となりました。
「財務活動によるキャッシュ・フロー」は72,746百万円の支出となりました。前連結会計年度との比較では、当年度においても有利子負債の返済を進めましたが32,948百万円の支出減となりました。
④ 生産、受注及び販売の実績
1)生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称 |
生産高(百万円) |
前年同期比(%) |
デベロッパー事業 |
610 |
81.4% |
(注)1 請負工事につきましては生産実績を定義することが困難であるため、「生産実績」は記載しておりません。
2 上記以外のセグメントについては該当事項はありません。
2)受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称 |
受注高(百万円) |
前年同期比(%) |
デベロッパー事業 |
62,915 |
159.3% |
(注)1 上記以外のセグメントについては該当事項はありません。
3)販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称 |
内訳 |
販売高(百万円) |
前年同期比(%) |
百貨店事業 |
大丸松坂屋百貨店 |
220,058 |
110.9 |
博多大丸 |
15,701 |
111.5 |
|
その他 |
3,366 |
101.1 |
|
計 |
239,125 |
110.8 |
|
SC事業 |
パルコ |
57,868 |
107.7 |
その他 |
75 |
117.9 |
|
計 |
57,944 |
107.7 |
|
デベロッパー事業 |
J.フロント都市開発 |
19,381 |
254.8 |
J.フロント建装 |
35,902 |
127.6 |
|
パルコスペースシステムズ |
21,982 |
120.8 |
|
その他 |
1,151 |
88.7 |
|
計 |
78,418 |
141.9 |
|
決済・金融事業 |
JFRカード |
13,115 |
101.8 |
その他 |
卸売業 |
35,981 |
92.9 |
その他 |
15,944 |
92.8 |
|
計 |
51,925 |
92.9 |
|
調整額 |
△33,523 |
98.8 |
|
合計 |
407,006 |
113.2 |
(注)1 セグメント間の取引については、「調整額」欄で調整しております。
2 販売高は、売上収益を記載しております。
(2) 経営者の視点による経営成績の状況に関する分析・検討内容
当社グループに関する財政状態及び経営成績の分析・検討内容は、原則として連結財務諸表に基づいて分析した内容であります。
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
①重要性のある会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準に基づいて作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績や現状を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要性のある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 3.重要性のある会計方針」に記載しております。
また、連結財務諸表作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
1)経営成績等
セグメントごとの情報については、(1)財政状態及び経営成績の状況 ① 当期の経営成績に記載しております。
a)売上収益
売上収益は、前連結会計年度に比べ47,327百万円増の407,006百万円となりました。
b)営業利益
営業利益は、前連結会計年度に比べ23,989百万円増の43,048百万円となりました。
c)税引前利益
税引前利益は、前連結会計年度に比べ24,470百万円増の41,343百万円となりました。
d)親会社の所有者に帰属する当期利益
親会社の所有者に帰属する当期利益は、前連結会計年度に比べ15,676百万円増の29,913百万円となりました。
e)財政状態
当連結会計年度末の資産合計は1,114,726百万円となり、前連結会計年度末に比べ 6,227百万円減少いたしました。一方、負債合計は720,494百万円となり、前連結会計年度末に比べ29,048百万円減少いたしました。なお、有利子負債残高(含むリース負債)は、364,398百万円となり、前連結会計年度末に比べ49,551百万円減少いたしました。資本合計は、394,232百万円となり、前連結会計年度末に比べ22,822百万円増加いたしました。これらの結果、資産合計営業利益率(ROA)は、3.9%、親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)は、8.1%、親会社所有者帰属持分比率は、34.3%となりました。
f)キャッシュ・フロー
「営業活動によるキャッシュ・フロー」は90,692百万円の収入となりました。「投資活動によるキャッシュ・フロー」は13,429百万円の収入、「財務活動によるキャッシュ・フロー」は72,746百万円の支出となりました。
この結果、当連結会計年度末における「現金及び現金同等物」の残高は、前連結会計年度末に比べ31,468百万円増の71,342百万円となりました。
今後も、利益水準やキャッシュ・フローの動向等を考慮し、適切な利益配分や設備投資を行っていく予定であります。
g)資本の財源及び資金の流動性
(資本政策の基本方針)
当社は、フリーキャッシュ・フローの増大とROEの向上が持続的な成長と中長期的な企業価値を高めることに繋がるものと考えています。その実現に向けて、経営環境及びリスクへの備えを勘案した上で「戦略投資の実施」「株主還元の充実」及び「自己資本の拡充」のバランスを取った資本政策を推進します。
また、有利子負債による資金調達はフリーキャッシュ・フロー創出力と有利子負債残高を勘案して行うことを基本とし、資金効率と資本コストを意識した最適な資本・負債構成を目指します。
フリーキャッシュ・フロー、ROEの向上には、収益を伴った売上拡大を実現する「事業戦略」及び投下資本収益性を向上させる「財務戦略(資本政策を含みます。)」が重要です。併せて、基幹事業の強化、事業領域の拡大・新規事業の積極展開等に経営資源を重点配分することにより、事業利益の最大化と事業利益率を持続的に向上させていくことが重要であると考えております。
なお、中期経営計画の達成における重要財務指標として、資本効率性はROE、事業収益性は連結事業利益及びROIC、収益性・安全性はフリーキャッシュ・フロー、財務健全性は親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率)の各指標を重視しております。
(資金調達の状況)
当社グループでは、事業活動に必要となる資金は、グループで創出した資金でまかなうことを基本方針としております。その上で、事業投資等で必要資金が生じる場合には、財務の健全性維持を勘案し、主として社債の発行及び金融機関からの借入などにより持株会社が一元的に資金調達を行っております。
グループ子会社は金融機関からの資金調達を行わず、キャッシュ・マネジメントシステムを利用したグループ内ファイナンスにより必要資金の調達を行うことで、グループ資金の効率化を推進しております。
当連結会計年度については、上記方針に基づき、金融機関からの長期借入金により34億円を調達いたしました。一方、短期借入金91億円及び長期借入金295億円を返済した結果、有利子負債残高(除くリース負債)は、前連結会計年度末に比べ351億円減少し、2,139億円となりました。
なお、資金調達に係るリスクについては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。
(財務政策)
「2024-2026年度 中期経営計画」における財務政策については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
(配当政策)
当社の剰余金の配当に関する基本方針並びに当期の配当実績については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載しております。
2)経営目標の達成状況
「2021-2023年度 中期経営計画」最終年度である2023年度において、連結営業利益目標(40,300百万円)をはじめ主要な経営数値目標を概ね達成し、財務体質は有利子負債の削減などにより改善しました。
|
中期経営計画目標※1 |
2023年度実績 |
連結営業利益(IFRS) |
40,300百万円 |
43,048百万円 |
連結ROE |
7.0% |
8.1% |
連結ROIC |
5.0% |
5.1% |
温室効果ガス排出量※2 |
△40.0% |
△57.5% |
女性管理職比率※3 |
26.0% |
22.5% |
※1 本計画の策定時に、最終年度である2023年度に財務数値を2019年度水準に戻し、コロナ禍からの「完全復活」を果たすとともに、2024年度以降の「再成長」への道筋をつけるための目標として設定しました。
※2 Scope1,2削減率(2017年度比)、2023年度実績は2024年5月29日時点の概算値
(ご参考) Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
(社用車のガソリンなど)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
(店舗・事務所の電気使用など)
※3 女性管理職比率 2024年3月1日現在:26.2%
なお、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しておりますとおり、当社は「2024-2026年度 中期経営計画」を策定いたしました。本中期経営計画を通じ、百貨店・SC事業など「リテール事業の深化」、飛躍的成長に向けた「グループシナジーの進化」と共に、これらの戦略の実効性を高める「グループ経営基盤の強化」に集中して取り組み、経営目標の達成に努めてまいります。
<連結子会社>
賃貸借に関する契約
会社名 |
事業所名 |
賃借先 |
賃借物件 |
面積 |
賃料 |
㈱大丸松坂屋百貨店 |
大丸 大阪・梅田店 |
大阪ターミナルビル㈱ |
建物 |
95,101㎡ |
(1)定額賃借料 年額 6,186百万円 (2)歩合賃借料 売上高85,000百万円を超過した額の1.5% |
大丸 東京店 |
㈱JR東日本クロスステーション |
建物 |
64,657㎡ |
(1)定額賃借料 年額 5,330百万円 (2)歩合賃借料 直前3事業年度の年間最高売上高を超過した額の1% |
|
㈱博多大丸 |
本館 |
㈱西日本新聞ビルディング 紙与不動産㈱ |
建物 |
31,258㎡ |
年額 1,266百万円 |
東館 (エルガーラ) |
㈱西日本新聞ビルディング |
建物 |
15,155㎡ |
年額 1,041百万円 |
特記すべき事項はありません。