第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループの経営の基本的な考え方は、以下のとおりであります。

1. お客様第一の心で商品を創り

2. 知恵と技術で高品質を実現し

3. 人を大切にする明るい職場を築いて

企業の繁栄と豊かな環境作りで社会に貢献する

 

(2) 中長期的な目標指標

当社グループは、中期的な経営方針として、既存事業の競争力強化と更なる成長、新規領域の事業育成を掲げております。安定的成長と持続的収益性を中期的な目標指標として掲げており、2025年度までを計画期間とする中期経営計画では、売上高2,800億円、営業利益率5.0%を目標として設定しております。

 

(3) 中長期的な会社の経営戦略

当社グループは、持続可能(サステナブル)な社会の実現に事業活動を通して貢献していくことをめざし、「VISION2030」を掲げています。企業グループのめざす姿の実現に向けた活動に全力で取り組んでまいります。

・ビジョン:「この手で笑顔の未来を」

・めざす姿:「確かな技術と品質で 豊かな社会へ新たな価値を創造」

「今をもっと快適に」

「未来の子どもたちに安心と笑顔を」

 

(4) 優先的に対処すべき事業上および財務上の課題

① 既存事業の成長

既存事業は、今後もトップメーカーとしてパワートレインを支え続けるため、燃料ポンプモジュールに続く事業統合等による更なる製品拡大を検討してまいります。また、収益性を強化し、競争力をより一層高めるため、生産プロセスの効率化・省人化によるものづくり力強化に加えて、生産体制の再構築などによるグローバル最適生産を進めます。

② 新規事業の拡大

電動化製品事業については、事業の拡大に向けて、小型モビリティ向けコントローラなどの製品開発や電池パックシステムの冷却ユニットなどの技術開発を進めてまいります。あわせて、外部との連携強化や実際の開発テーマを扱った実践的なOJTを通じて、ソフトウェア人財の育成を進め、電池冷却、電力変換駆動などのシステム開発を加速してまいります。

また、クリーンエネルギー活用事業については、モビリティに搭載する製品の開発に加え、2030年以降の非自動車製品の事業化に向けた技術基盤づくりのために、水素・アンモニアを用いたクリーンな発電の実用化に取り組んでまいります。

③ 持続可能なものづくり変革

環境と会社成長の好循環につなげる施策として、当社安城工場隣接地に安城新工場を建設し、高効率な生産活動など、革新的なものづくりを目指します。また、新工場では、自社開発のアンモニア・水素発電による電力安定供給実証の実施など、ものづくりとカーボンニュートラルの両立を実現する最新技術を活用し、環境に貢献する製品を提供します。

④ サステナビリティ経営の推進

会社の持続的な成長のためには経営基盤が重要であるとの考えに基づき、以下の課題に取り組んでまいります。

ガバナンス強化については、ステークホルダーから信頼される企業を目指して、コンプライアンスの徹底やリスクマネジメントなどの取り組みに加えて、自由に意見が言い合える風通しの良い職場づくりを進めてまいります。

環境への取り組みについては、カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出量削減に加え、低炭素材料への切り替えやリサイクルなど、ライフサイクルアセスメント視点での活動を進めてまいります。また、気候変動に関する戦略や取り組みなどを開示してまいります。

人財の多様化や人権尊重については、「自律的に学び、考え、果敢に挑戦する」人財が、お互いを「認め合い、活かし合い」ながら、「ともに成長し続ける組織」を目指して、DXなどによる働き方改革や従業員のエンゲージメント向上により、人的資本経営の取り組みを進めてまいります。

 

これらの活動を通じて、当社グループは、世界のお客様に感動いただける商品・サービスを提供できる企業をめざして努力する所存です。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方および取組みは、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

当社グループは、持続可能な社会の実現に向けてサステナビリティ基本方針を策定するとともに、VISION2030を基に、2050年以降を見据えた長期視点で事業、環境、人財・風土、社会、ガバナンスの5つの観点から当社の取り組むべきマテリアリティ(重要課題)を特定しました。特定したそれぞれのマテリアリティを経営戦略や方針へ反映させ、ありたい姿と具体的なKPIを設定しました。


 

≪ガバナンス≫

取締役社長を議長とするサステナビリティ委員会において、サステナビリティ基本方針に基づき、経営層がESG分野全般の方向性、適正性について、2回/年以上のマネジメントレビューを実施しています。年2回開催するサステナビリティ委員会において、下部委員会から報告を受け、内容を審議しています。これらの審議の結果のうち、重要事項は取締役会や経営審議会・経営会議に報告されています。

 

≪リスク管理≫

当社グループでは、サステナビリティ委員会において、下部委員会(※)から報告を受けた経営に重要な影響を与えるリスクに対して、総合的な管理を実施しています。下部委員会から報告されてきたリスクは、抽出・分析・評価を行ったうえで優先的対応リスクを選定し、所管部署が中心となってリスク低減に関する各種施策を実施しています。

下部委員会では、各種施策の進捗状況やリスクの最新状況を確認するとともに、サステナビリティ委員会に報告します。サステナビリティ委員会は、報告に基づいてリスク管理に関する指示・監督を行っています。
※ 下部委員会:TCFD委員会、CN委員会、安全衛生委員会、働き方改革委員会、BCP委員会およびガバナンス委員会

 

 

≪人財の育成および社内環境整備に関する方針、戦略≫

当社は、『「自律的に学び、考え、果敢に挑戦する」人財が、「認め合い、活かしあい」ながら、ともに成長し続けるチーム・組織をめざす』をスローガンに風土改革、人財変革、多様な人財活躍の3本柱で人財基盤を強化する取り組みを推進しています。

(1) 風土改革

当社では、経営理念の中に「人を大切にする明るい職場を築く」ことを掲げ、従業員1人ひとりが高い志とやりがいを持ち、イキイキと仕事することを通じて個人も会社も成長を実感できる風土づくり、職場づくりに取り組んでいます。

VUCAといわれる環境下において、企業が健全に成長するためには従業員エンゲージメントを向上させることが重要であるとの認識に立ち、2022年より半期ごとにサーベイを実施し、組織・従業員の状態を可視化しています。

調査結果を踏まえ、2023年には会社・経営陣が本気で会社風土を変えるための意思を示すための全社アクション「働きがい改革」の一環として、役員・幹部と従業員の対話会「愛三カタリバ」を開催し、延べ150回以上、1,600名以上の従業員が参加しました。

その他、各部門でエンゲージメント結果を踏まえた独自取り組みを進めてきた効果もあり、2023年の従業員エンゲージメントは全社で3Pts.上昇しました。また、設問項目別に見ると「自社への将来性」が15Pts.、「経営陣への信頼」が12Pts.増加しました。

今後は、対話文化を根付かせていくための「愛三カタリバ」の継続・深化に加え、調査結果から把握した課題を解決すべく、その他全社施策を展開予定です。

(2) 人財変革

現在の自動車業界は、CASE、MaaS、カーボンニュートラルへの対応など、変化が速く、大きく、激しい環境にあります。

他方、当社としては既存のパワートレイン製品事業の競争力強化による更なる成長、保有技術と強みを生かした脱炭素に資する新規領域の事業育成の両面に取り組んでいます。

当社が持続的に成長するためには、その屋台骨である人財の育成が重要なテーマの一つであり、とりわけ、イノベーションに挑戦し続ける人づくりに向け、ソフトウェア教育やDX教育、企業内訓練校(愛三学園)での電子テクノロジー講座の開設等、従業員のリスキリング、アップスキリングに対して積極的な投資を行なっています。2023年にはオンデマンド型学習ツールや学習管理システム「愛三マナビバ」を導入し、今後計画している「選抜型から自律型への教育体系の全面改訂」に向けて着々と準備を進めています。

従業員1人ひとりの成長を支えるマネジメントの在り方についても、管理型から支援型への変革を進めるべく、コーチング研修の強化や1on1ミーティングのトライアル導入にも取り組んでいます。

また、変革に向けてチャレンジする従業員を適正に評価・育成していくため2020年度から新人事制度を段階的に導入しています。2024年4月からは経営体制の構築・強化のため、業務執行における意思決定の迅速化を図るべく、執行役員と幹部職の間に新資格として「執行職」を新設いたしました。

今後は退職金制度の全面改訂と非管理職の賃金制度の見直しを実施予定です。

(3) 多様な人財活躍

取り巻く環境が激しく、価値観が多様化している現在において、新たな価値を生み出し社会に貢献していくためには、これまでの意識や働き方を変える必要性があります。

とりわけ、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進は当社の持続的成長に欠かせない経営戦略であるとのダイバーシティ宣言を発出以後、「認め合い、活かし合う」をキーメッセージに、年齢・性別・国籍・障がいの有無・時間的制約の有無に関係なく、多様な価値観を持つ人財が個性や能力を最大限発揮できるフィールドを整備しています。

当社では、女性活躍を重点課題と位置づけ、女性を対象とした研修会や座談会、外部有識者を招聘した健康推進セミナー、不妊治療セミナー、育児休業取得者を対象とした愛三パパママサロン(育児交流会)など、継続的に取り組んできました。

こうした活動が評価され、2022年7月には女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優秀な企業に与えられる「えるぼし(2つ星)」に認定されました。また、2023年7月には仕事と育児の両立サポート企業として「くるみん」に認定されました。

 

2023年4月からはDEI推進における行動改革期の活動として、職場課題の解決に向けてワンチームとなる”イキイキ職場活動”をスタートしました。

2024年2月には部門長を対象にDEI推進ロードマップの中間報告会を実施し、結実期に向けた今後の取り組みと”全員活躍”への想いを共有しました。

なお、男性育児休業取得の理解度向上をねらいとしたマネジメント勉強会などの取り組みを継続した結果、2023年度の男性育児休業取得率は81.9%となり、前年比7.6%増となりました。

 

また、今後も海外売り上げの拡大が進んでいく中、海外現地でパフォーマンスを発揮できる駐在員や、日本から現地をサポートすることができる人財の需要が拡大していることから、当社グループとしてグローバル人財の育成が急務であるとの認識のもと、言語力・異文化理解・関係構築・グローバルビジネス意識の4要素の向上を目指し、意欲・素養のある人財に短期間の海外勤務機会を提供する海外トレーニー制度を立上げ、2024年度中にトライアル実施を計画しています。

また一方で、海外拠点が自立的に施策を実行できる体制を目指し、グループ全体で強固な人財基盤の構築に取り組んでいます。海外拠点のナショナルスタッフの幹部職人数の目標値を設定し、幹部候補の明確化と日本への短期留学制度や指導者による出前教育制度の構築、拠点毎のニーズに合わせた受入れ教育などを推進しています。

2022年8月には人権尊重の取り組みを推進するための「人権方針」を策定・発表しました。今後は、サプライヤーを含むすべてのビジネスパートナーにも同方針に基づく人権尊重の働きかけを実施し、サプライチェーン全体での人権尊重の取り組みを進めてまいります。

(4) 指標および目標

当社では、上記「人財の育成および社内環境整備に関する方針、戦略」において、次の指標を用いています。

指標

目標

当期実績

従業員エンゲージメント

2030年まで60Pts.

52Pts.

女性管理職

2030年まで10

5

海外ナショナルスタッフ幹部職(※)

2030年まで30

17

 

(※) 海外グループ会社の目標値です。

 

なお、当社はグループ各社と連携し、人的資本経営における重要課題への取り組みを推進しておりますが、全ての会社で同一の取り組みが行われているものではないため、当社のものを記載しております。

 

 

≪TCFD提言に基づく情報開示≫

当社グループでは、気候変動問題を重要な経営課題の1つとして認識し、2022年5月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明し開示を行いました。

TCFDの提言内容を踏まえ、気候変動が事業に与えるリスクや機会についての分析と対応を進め、関連する情報の開示とその充実に努めています。

(1) ガバナンス

取締役社長を委員長とするサステナビリティ委員会において、気候変動問題を含むサステナビリティ分野全般の方向性や適正性を確認しております。気候変動問題については、サステナビリティ委員会の下部委員会であるTCFD委員会(3ヶ月に1回以上開催)において、気候変動問題に関連する計画の策定、実行および管理を行います。

年2回開催するサステナビリティ委員会において、TCFD委員会やその他の委員会から報告を受け、内容を審議しています。これらの審議の結果のうち、重要事項は取締役会や経営審議会・経営会議に報告されています。

(2) 戦略

① シナリオ分析の前提

当社グループは、車の電動化の普及の節目となりうる2030年時点に加えカーボンニュートラル目標の2050年の事業影響について、愛三グループ(連結)を対象としたシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析は、不確実な将来に適切に対処することにより、持続可能な競争力の強化を図ることを目指して、1.5℃/2℃および4℃の複数のシナリオを採用しました。この2つのシナリオについて、移行リスクの分析では、主に国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2022などを参照し、物理リスクの分析では、主に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書などを参照しました。


② シナリオにおける社会像

1.5℃/2℃シナリオでは、炭素税の導入やGHG排出規制の強化・厳格化など、現在よりも社会の脱炭素に向けた政策・法制度が整備され、当社を含む自動車業界では製造工程のみならず、素材や走行時から廃棄に至るまでの製品ライフサイクルでのCO2排出削減が強化・厳格化されることを想定しています。その結果、新車販売の中で、電気自動車(BEV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)・燃料電池車(FCV)のシェアが広がることを想定しています。

一方で、4℃シナリオでは、地球温暖化が進行することで、自然災害の頻発化・激甚化・長期化が進み、被災によりサプライチェーンが寸断され、生産の一時停止などが発生することを想定しています。

③ 気候変動に伴い想定されるリスクと機会

当社グループでは、シナリオにおける社会像に基づき、「ステークホルダーにとっての重要性」と「愛三グループにとっての重要性」を考慮した上で、当社グループにとってのリスクと機会を整理しました。長期時間軸として2050年を想定した、各国・地域の状況や事業内容を踏まえたリスク・機会の抽出を行いました。その中で、特に重要度が高いと判断した項目についてそれぞれの2030年度における財務的影響の評価を行い、リスク軽減と機会創出の対応に取り組んでいます。

 

 

■気候変動リスク・機会と対応


※1 台数前提は2℃シナリオにて算出 ※2 FFV : Flexible-Fuel Vehicle

注1 時間軸

短期:~2025年  中期:~2030年  長期:~2050年

注2 影響度

単年度の営業利益に与える影響:大 20億円以上、中 1億円~20億円未満、小 1億円未満

注3 当社グループの対応

2022年11月に発表した中期経営計画に気候関連リスクの軽減と機会創出の取組みを織り込んで活動を推進しています。詳細は、当社HPに掲載しております。

 

(3) リスク管理

当社グループは、サステナビリティ委員会において、TCFD委員会から報告を受けた経営に重要な影響を与える気候変動リスクの他に、各委員会(※)から報告されてくるその他の経営に重大な影響を与えるリスクを含めて、総合的なリスク管理を実施しています。各委員会から報告されてきたリスクは、抽出・分析・発生の可能性と影響度を考慮し評価を行ったうえで優先的対応リスクを選定し、所管部署が中心となってリスク低減に関する各種施策を実施しています。

各委員会は、各種施策の進捗状況やリスクの最新状況を確認するとともに、サステナビリティ委員会に報告しています。サステナビリティ委員会は、報告に基づいてリスク管理に関する指示・監督を行っています。

※ 各委員会:CN委員会、安全衛生委員会、働き方改革委員会、BCP委員会およびガバナンス委員会

(4) 指標および目標

COP28では、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性、2025年までの排出量のピークアウト、全ガス・全セクターを対象とした排出削減が明記され、また、欧州をはじめ各地域の環境関連法規制が強化されるなど、昨年以上に温室効果ガスの排出削減、環境貢献が求められています。

当社グループは、環境企業として、気候変動対策に関する情報開示や評価の国際的なイニシアティブへ対応し、地球環境の脱炭素化を推進します。

現在、サプライチェーン全体で取り組む温室効果ガスの削減活動を、製品レベルの現場改善・技術革新に深化させ、脱炭素に寄与するアンモニア・水素等のクリーンエネルギーの技術開発やe-fuel/水素エンジン・電池等の次世代モビリティの製品開発を進め、着実に温室効果ガスを削減します。

また、製品のライフサイクル全体の3R(廃棄物等の発生抑制・循環資源の再使用・再生利用)+Renewable(バイオマス化・再生材利用等)をはじめとする資源循環に、サプライチェーン全体で連携した取り組みを推進し、温室効果ガスを抑制します。

さらに、事業拠点や周辺地域の自然環境および生物多様性の保全・再生、環境人財の育成等の環境活動を産学官・地域と連携して取り組み、環境負荷を低減します。

 


 

3 【事業等のリスク】

当社グループの財政状態、経営成績、キャッシュ・フローおよび株価などに影響を及ぼす可能性のある主要なリスクとしては、以下のようなものがあります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

(1) 経済状況

当社グループの全世界における営業収入のうち、重要な部分を占める自動車部品の需要は当社グループが製品を販売している国または地域の自動車生産台数に影響を受けます。

従って、日本、アジアおよび米州等の当社グループの市場における景気後退、およびそれに伴う自動車生産台数の減少は当社グループの業績および財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 為替レートの変動

当社グループの事業には、世界の各地域における製品の生産・販売が含まれております。一般に現地通貨に対する円高は当社グループの事業に悪影響を及ぼし、円安は好影響をもたらします。為替レートの大幅な変動は、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 原材料や部品の価格

当社グループは、製品の製造に使用する原材料や部品を複数の供給元から調達しております。これらの供給元とは取引基本契約を締結し、安定的な取引を行っておりますが、市況の変化による価格の高騰や品不足が生じないという保証はありません。その場合、当社グループの製造原価の上昇を招き、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 車の電動化に関する新製品開発

当社グループはお客様が期待される以上の品質・性能・コストの実現、安全・環境を配慮し、あらゆる動力源に対応したシステム・製品の開発を行い、電動化パワートレイン制御分野での世界トップメーカーをめざしております。

当社グループは今後も継続して魅力あるパワートレインシステムや電動化製品を開発できると考えておりますが、当社グループが属する自動車部品業界の電動化の流れの中で、技術的な進歩をはじめとする急速な変化に対応できない場合、将来の成長と収益性を低下させ、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(5) 価格競争

自動車部品業界における価格競争は大変厳しいものとなっており、販売している各製品が各地域においてさらに厳しい価格競争に直面することが予想されます。このような価格競争に対処すべく、生産性向上などの合理化活動や最適調達などによりコスト低減を図っておりますが、全世界の競合他社との価格競争に打ち勝てない場合、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(6) 特定の取引先への依存

当社グループの主要な販売先として、その他の関係会社であるトヨタ自動車株式会社があります。当連結会計年度における当社グループの売上高の5割程度はトヨタ自動車株式会社向けであり、同社の販売動向は当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

(7) 国内外グループ経営に潜在するリスク

当社グループは、様々な国で製品の生産と販売を行っております。その国々における予期しない政治的要因、テロ、戦争などの社会的混乱、経済状況の変化に加え、ストライキによる操業の中断などは、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、国内外グループ会社の経営環境の変化により、グループ事業の再編、撤退などを余儀なくされ、財務的な損失を計上せざるを得ないリスクが生じる可能性があります。

 

(8) 製品の欠陥

当社グループは、世界のお客様に「安心」「信頼」される品質を実現するため、設計から生産、販売をはじめ、あらゆる工程で品質の造り込みに全力をあげて活動しております。しかしすべての製品に欠陥がなく、将来においてリコール等が発生しないという保証はありません。また、製造物責任賠償については万が一に備え保険に加入していますが、この保険が、最終的に負担する賠償額を十分にカバーできるという保証はありません。大規模なリコール等や製造物責任賠償につながるような製品の欠陥は、多額のコストを要するとともに、当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。また、製品品質の重要性を社内で継続的に周知・教育しておりますが、万が一、品質に関する重大なコンプライアンス違反等が発生した場合には、当社グループの社会的信用の失墜やブランドイメージの毀損など、当社グループの財政状態と経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(9) 災害や停電、感染症等による影響

当社グループは、製造ラインの中断やサプライチェーンの分断による影響を最小化するために、定期的な災害防止検査と点検を行っております。しかしサプライチェーンを含めた生産施設で発生する災害、停電またはその他の中断事象による影響を完全に防止または軽減できる保証はありません。従って大規模な地震、気候変動に伴う自然災害やその他の操業を中断する事象が発生した場合、当社グループの生産能力が著しく低下する可能性があります。

感染症の影響が長期化した場合、減産や操業停止など、当社グループ全体の事業運営および業績に影響が及ぶ可能性があります。不可抗力に関する影響は防止または軽減できるものではありませんが、対処可能な事項については、最小化できるような対策を講じます。

(10) 退職給付債務

当社グループの従業員退職給付費用および債務は、割引率等の数理計算上の前提条件や年金資産の期待収益率に基づいて算出されております。従って、実際の結果が前提条件と異なった場合、または前提条件が変更された場合は、将来の期間に認識される費用および計上される債務に影響を及ぼす可能性があります。

(11) 固定資産の減損損失

当社グループが保有する土地・建物等について、時価が著しく下落した場合や事業の損失が継続するような場合には、固定資産の減損損失の計上により、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(12) 繰延税金資産

当社グループは、将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金に対して、将来の課税所得を合理的に見積もった上で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上しております。将来の課税所得については、経営環境の変化などを踏まえ適宜見直しを行っておりますが、結果として繰延税金資産の全額または一部に回収可能性がないと判断し、繰延税金資産の取崩しが必要となった場合、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(13) 訴訟および法的手続

当社グループは、ビジネス活動において、継続的な法令遵守に努めています。それにも関わらず、様々な訴訟および規制当局による法的手続の当事者となる可能性があり、その場合には当社グループの業績および財務状況に悪影響が及ぶ可能性があります。

また、当社グループは、他社製品との差別化をはかるために、独自の技術ノウハウの蓄積と知的財産の保護に努めておりますが、当社グループの製品は広範囲にわたる技術を利用しているため、第三者の知的財産権を侵害しているとして、訴訟の当事者となる可能性があります。

(14) 情報セキュリティ

当社グループは、機密情報の保護・管理等のため、情報セキュリティ推進計画に基づき、外部からのサイバー攻撃への対策や従業員への啓発・教育等を実施しております。また、万が一サイバー攻撃等による損害が発生した場合に備え、サイバー保険を付保しております。それにも関わらず、外部からのサイバー攻撃等による情報セキュリティ事故や詐欺による資金流出などが起こった場合、その被害の規模により、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

(1) 経営成績

当連結会計年度の日本および世界経済は、各国の政策金利引き上げや中国経済の先行き懸念などがあり、回復のペースに減速の傾向がありました。自動車業界においては、車両生産の一時的な変動が見られたものの、市場バックオーダーの解消に向けて、全体としては稼働が堅調に推移しました。一方、原材料・エネルギー価格の高止まりや、賃金上昇などによるインフレ、為替の変動、国際的な緊張の高まりによる影響など、依然として不透明な状況が継続しております。

このような経営環境のなか、パワートレイン製品事業の競争力強化や電動化製品開発の加速、クリーンエネルギー活用技術の向上など愛三グループ一丸となって、企業価値向上に向けて取り組んでまいりました。

 

「パワートレイン製品事業の競争力強化」としましては、競争力が高く環境にも優しい次期型ダントツ製品の市場投入やMMK(もっとものづくり強化)活動のグローバル展開、生産設備の自働化などによる高効率なものづくり革新により、サプライチェーン全体での競争力を高め、厳しい経営環境下でも収益が確保できる体質とすることができました。

また、2022年9月に株式会社デンソーから譲り受けた燃料ポンプモジュール事業については、一部地域の生産自前化を完了するとともに、競争力強化に向けた製品の品揃えの統合などにより、収益力の拡大を進めております。

 

「電動化製品開発の加速」としましては、電池システムを含めた電池事業領域の拡大に向けた足掛かりとして、2025年4月から電池セルケース/カバーの量産開始を予定しており、2023年12月より新しく安城プレス工場の建設を開始しました。

さらに、需要が急拡大する車載用電池に関する技術力向上と電池セルケース/カバーの安定供給に向け、2023年11月に株式会社アイエムアイを子会社化いたしました。

 

「クリーンエネルギー活用技術の向上」としましては、アンモニア・水素発電システムの開発を進めるとともに、燃料電池の発電効率向上、長寿命化や排熱制御などの燃料電池発電制御技術の研究開発に取り組んでおります。さらに、クリーンエネルギー活用事業の成長に寄与するとともに、燃料電池に関するコア技術を蓄積するため、2023年6月に、燃料電池分野に強みを持つマグネクス株式会社を子会社化しました。

 

このようななか、当連結会計年度の業績につきましては、売上高は314,336百万円と前期に比べて30.5%の増収となりました。利益につきましては、営業利益は15,498百万円と前期に比べて13.7%の増益、経常利益は17,201百万円と前期に比べて22.1%の増益、親会社株主に帰属する当期純利益は11,744百万円と前期に比べて38.1%の増益となりました。

 

 

地域別の業績は次のとおりであります。なお、売上高には、セグメント間の内部売上高を含んでおります。

[日本]

売上高は、販売数量の増加により113,932百万円(前年同期比18.0%増)となりましたが、営業利益は諸経費の増加により760百万円(前年同期比81.0%減)となりました。

[アジア]

売上高は、販売数量の増加および為替の影響により136,960百万円(前年同期比25.9%増)となりましたが、営業利益は諸経費の増加により7,659百万円(前年同期比4.6%減)となりました。

[米州]

売上高は、販売数量の増加により71,210百万円(前年同期比64.2%増)となり、営業利益は5,564百万円(前年同期比3.7倍)となりました。

[欧州]

売上高は、販売数量の増加および為替の影響により15,655百万円(前年同期比24.1%増)となり、営業利益は926百万円(前年同期は営業損失159百万円)となりました。

 

生産、受注および販売の実績は、次のとおりであります。

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

日本

79,677

125.0

アジア

112,094

124.1

米州

62,062

156.4

欧州

12,674

113.9

合計

266,508

130.1

 

(注) 金額は製造原価によっており、セグメント間内部振替後の数値によっております。

 

② 受注状況

当社グループは、トヨタ自動車株式会社はじめ各納入先よりおおむね四半期ごとの生産計画の提示をうけ、当社グループの生産能力を勘案して、これにより生産計画をたてております。なお、主たる受注先は、トヨタ自動車株式会社で約50%を占めております。

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

日本

91,948

118.8

アジア

135,682

126.1

米州

71,096

164.2

欧州

15,608

124.3

合計

314,336

130.5

 

(注) 1  セグメント間の取引については、相殺消去しております。

2  主な相手先別の販売実績および総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自  2022年4月1日

至  2023年3月31日)

当連結会計年度

(自  2023年4月1日

至  2024年3月31日)

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

トヨタ自動車㈱

122,323

50.8

150,053

47.7

現代自動車㈱

30,360

12.6

34,976

11.1

 

 

(2) 財政状態

当連結会計年度末の総資産は、現金及び預金の増加および円安による海外子会社資産の増加等により、前連結会計年度末に比べ46,786百万円増加し、272,549百万円となりました。負債は、買掛債務の増加等により、前連結会計年度末に比べ17,610百万円増加し、132,990百万円となりました。

また、純資産は、円安による為替換算調整勘定の増加および利益剰余金の増加等により、前連結会計年度末に比べ29,176百万円増加し、139,558百万円となりました。

地域別の資産は、次のとおりであります。

[日本]

退職給付に係る資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ、14,950百万円増加し、109,190百万円となりました。

[アジア]

現金及び預金の増加などにより、前連結会計年度末に比べ、14,669百万円増加し、91,579百万円となりました。

[米州]

現金及び預金の増加などにより、前連結会計年度末に比べ、12,125百万円増加し、49,067百万円となりました。

[欧州]

現金及び預金の増加などにより、前連結会計年度末に比べ、443百万円増加し、10,757百万円となりました。

 

なお、当社グループの連結財務諸表で採用する会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、66,494百万円となり、前連結会計年度末に比べ22,522百万円増加いたしました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、主に税金等調整前当期純利益および減価償却費により38,627百万円の収入となりました。前年同期に比べ18,358百万円の収入増加となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、主に固定資産の取得に伴う支出により9,664百万円の支出となりました。前年同期に比べ19,934百万円の支出減少となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、主に借入金の返済などにより11,431百万円の支出となりました。前年同期に比べ14,967百万円の支出増加となりました。

 

資本の財源および資金の流動性については、下記のとおりとしております。

①  資金需要

当社グループの資金需要のうち主なものは、当社グループ製品の製造のための材料や部品の購入および新製品生産や増産対応等にかかる設備投資によるものであります。

②  財務政策

当社グループは現在、運転資金については、当社および一部の国内連結子会社においてCMS(キャッシュ・マネジメント・サービス)を導入し、各社における余剰資金を当社へ集中し一元管理を行うことで、資金効率の向上を図っております。また、設備投資資金については、原則内部資金または借入により資金調達することとしております。借入による資金調達に関しては、運転資金としての短期借入金を各連結子会社が、設備等の長期借入金を当社および各連結子会社が調達しております。また、その一部はグループ内資金の効率化を目的としグループ会社間で融資を行っております。

当社グループは財務の健全性を保ち、営業活動によるキャッシュ・フローを生み出すことによって、当社グループの将来必要な運転資金および設備投資資金を調達することが可能と考えております。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、企業の持続的成長を目指し策定した「VISION2030 この手で笑顔の未来を」のスローガンのもと、パワートレイン製品事業の基盤強化や電動化製品開発の加速、クリーンエネルギー活用技術の向上など、愛三グループ一丸となって研究開発活動を進めています。

「パワートレイン製品事業の基盤強化」としましては、競争力が高く環境にも優しい次期型ダントツ製品の市場投入やMMK(もっとものづくり強化)活動のさらなる進展により、収益力および競争力をより一層高める開発を進めております。

「電動化製品開発の加速」としましては、保有技術を活かした電池セルケース/カバーを足掛かりに電動製品の開発経験による技術積上げやソフトウェア開発人財の育成を進め、システム化に向けた技術基盤を構築し、モビリティへの貢献を目指しております。

「クリーンエネルギー活用技術の向上」としましては、当社の技術や強みを活かし、ガス燃料やフレックス燃料技術を応用した自動車向け製品開発に加え、カーボンニュートラル社会の実現を目指し、アンモニア水素発電をはじめとするクリーンエネルギーシステムの具現化の研究を大学・専門機関と共同で進めております。

ここで培う知見や技術を活かし、将来の自動車向け製品の開発および国内エコプラント構想に取り組み、新たなものづくりに挑戦しております。

これら習得した技術とともに、創業以来培ってきたものづくり力、エンジンシステム開発力および適合技術を活かし、電動化システムへの足掛かりとなる電池、電源系等の製品開発、カーボンニュートラル化への研究開発を加速させてまいります。

当連結会計年度における研究開発費は、日本で12,419百万円、アジアで517百万円、総額で12,936百万円であります。