第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針経営環境及び対応すべき課題等は以下のとおりですなお文中の将来に関する事項は当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです

 

(1)経営方針

 当社グループは、「経営理念」に掲げる「楽しい社会の実現」を不変のものとして受け継ぎ、「経営基本方針」を環境と戦略の変化に合わせて柔軟に見直しながら発展を続ける所存です。

 

経営理念

 我がグループの「あらゆる技術」を高め、革新的な製品をもって、夢あるさまざまなモノをグローバルに生み出し、楽しい社会を実現します。

 

経営基本方針

1.我がグループは利益を生み出し企業価値を高めることで、お客様・地域社会・株主及び従業者の幸福と繁栄に寄与します。

2.我がグループは経営理念の達成にあたり法令遵守、環境保護、品質管理の徹底、社会貢献を含め企業の社会的責任を全うします。

3.我がグループはグローバル体制を活用し、常に優れた製品とサービスの提供を行います。

4.我がグループは常に従業者が挑戦し成長できる機会を生み出し、自ら目標を立て、その実現に向けて高い志を持つ集団を目指します。

5.我がグループは「スピード&コミュニケーション」をキーワードに、グループ内各社の連携と全員のチームワークを活性化することで、企業総合力を高めます。

6.我がグループは絶えず技術革新に努め、新製品や新事業を創造することで、楽しい社会の実現に貢献できるグローバル企業を目指します。

 

(2)経営環境、経営戦略、並びに事業上及び財務上の対処すべき課題

 

経営環境

 当事業年度における世界経済は、地政学リスクの高まりによる資源等の高騰、欧米諸国での高金利の継続や為替変動、中国の景気低迷など不透明感が高まる状況が継続しました。

 

①エレクトロニクス事業

 エレクトロニクス業界は、半導体産業の影響を強く受けます。半導体産業においては、半導体の減産の影響が一時的にあったものの、IoT・仮想空間等の社会への浸透や第5世代移動通信システム(5G)の普及、生成AI関連製品の増加、デジタルトランスフォーメーションの進展により、半導体をはじめとする関連需要の拡大が中長期的に期待されます。また、EV・ハイブリッド車の普及に伴う電動化や、自動運転の普及に伴う電装化により、車載関連部材の拡大も期待されます。

② 医療・医薬品業界

 医療・医薬品業界は、医療保険財政への影響から薬価制度の見直しが継続的に進められる中、製薬産業の構造変化や医療ニーズの多様化が進んでいます。製薬産業の構造変化においては、先発医薬品の価格抑制や後発医薬品の使用促進などの医療費抑制政策が図られ、更なる医療制度改革の議論が続けられています。一方で、後発医薬品業界では品質問題やそれに伴う製品の欠品等が頻発しており、品質管理体制の見直しや安定供給といった信頼性が求められています。医療ニーズの多様化においては、技術革新や産官学連携による革新的医薬品の創出が期待されています。

 

経営戦略

 このような状況の中、当社は、当社グループが持つ「化学」というキーワードを軸に、経営理念である「楽しい社会の実現」に向け、2021年6月に長期経営構想「Beyond Imagination 2030」を策定いたしました。

2030年は、テクノロジーの進化、環境への想い、世界中の様々な取り組みの中で、私たちの想像を超えた未来が広がっていると想定されます。当社はそのような未来のために、夢ある様々なモノを生み出す会社でありたいと考えています。当社の自律型人材が、変化の多い環境下においても、中核事業であるエレクトロニクス事業、医療・医薬品事業をさらに発展させると同時に、エネルギー事業とデジタルトランスフォーメーションをグループ全体の取り組みとして展開してまいります。

長期経営構想「Beyond Imagination 2030」

 

基本方針

① 多様化する組織や社会に対応する自律型人材の育成・活用

② エレクトロニクス事業の継続した成長と新規事業領域の創造

③ 医療・医薬品事業の更なる成長

④ デジタルトランスフォーメーションによる進化と変革

⑤ 新たな事業の創出

⑥ 戦略的なM&A

⑦ SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み強化

 

目標

① 収 益 性 ROE(自己資本利益率)18%

② 株主還元 DOE(株主資本配当率) 5%以上維持

 

 当社は、単なる規模の拡大を目指すのではなく、社会的責任を果たすと同時に、株主価値の最大化を目指しています。長期にわたり、利益を拡大しながら資本効率を高めていくこと、また、株主の皆様に十分な利益を還元することに取り組んでまいります。これらの活動を推進するため、収益性の指標としてROE(自己資本利益率)18%及び株主還元の指標としてDOE(株主資本配当率)5%以上維持を長期経営構想「Beyond Imagination 2030」における当社の目標として設定しています。2024年3月期においては、ROE9.0%、DOE5.1%となりました。今後も引き続き目標の達成を目指した活動を進めてまいります。

 

 長期経営構想「Beyond Imagination 2030」の基本方針ごとにグループ全体で各種施策に取り組んでおり、特に次の施策に重点的に取り組んでいます。

 

1. 多様化する組織や社会に対応する自律型人材の育成・活用(基本方針①)

 多様化する組織や社会に対応し、企業として成長していくには、それを支えていく人材の育成が重要な課題と考えています。「仕事のやりがい」「職場環境」「公正な評価・給与」の3つをバランス良く整えることで、自ら目標を設定し、その達成のためのプロセスと成果の創出を楽しむことができる自律型人材があふれる組織を目指しています。

 

2. エレクトロニクス事業の継続した成長と新規事業領域の創造(基本方針②)

 当社グループのエレクトロニクス事業は、主力製品であるSRの市場において世界トップクラスのシェアを有し、また、海外での売上比率が9割を超えています。前述のような世界経済やエレクトロニクス業界の状況下において 永続的に成長していくために、次の施策について重点的に取り組んでいます。

<研究開発体制の整備>

研究開発のための積極的な設備投資を行い、国内外の優秀な研究者・技術者の採用と育成に注力しています。当事業年度は、当社嵐山事業所敷地内に当事業における研究開発を目的とした新たな技術開発センター「InnoValley」を建設しました。今後は、主力製品であるドライフィルムタイプのSRの技術開発を目的とした生産技術センターの建設を予定しています。設備投資に加え外部連携も強化し、事業開発を強く推進していきます。

<新製品の迅速な事業化>

当社グループでは、製品化の目処が立ったところで、営業部門・製造部門・開発部門から選抜した専属プロジェクトを立ち上げ、一定の責任と権限を付与することにより、製品化から事業化までの障壁を乗り越える力を高めスピードアップを両立しながら事業化を推進しています。

<為替リスク対策>

当事業の製品販売価格は外貨建となっていることが多く、為替レートの変動が業績の変動につながりやすいため、為替リスク対策は重要な課題です。そこで、「地産地販」(「現地(各市場)で販売する製品は現地で生産する」という方針)を推し進めるとともに、原材料の現地調達比率を高めることにより、収入と支出の取引通貨の一致を図っています。

 

3. 医療・医薬品事業の更なる成長(基本方針③)

 医療・医薬品業界は、品質問題による供給停止や医療費抑制のための医療制度改革の推進など予見可能性が低下している環境にあります。このような状況下において、当社グループは将来を通じて既存製品を安定的に供給するために必要な体制の構築、医療機関・患者様のニーズに合致した医薬品の提供を目指します。

<医療用医薬品製造受託事業の継続>

第一三共プロファーマ株式会社の高槻工場を会社分割により承継した太陽ファルマテック株式会社では、医薬品製造受託事業を行っています。従来どおり既存顧客に対する安定供給だけでなく、当事業年度は新しい分野である再生医療分野において受託事業を本格的に開始しました。今後も製造受託事業の成長を目指し、再生医療や遺伝子治療薬などの新しい分野での受託や新規顧客からの受託を強化すると同時に、引き続き高品質な製品の安定供給を行います。

<医療用医薬品製造販売事業の継続>

太陽ファルマ株式会社は、中外製薬株式会社、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、アストラゼネカ株式会社、Janssen Pharmaceutica NVより譲受した19製品の長期収載品をラインナップしており、医療用医薬品を確実かつ安定的に医療現場へ提供し続けています。当事業年度はパーキンソニズム治療剤「マドパー®配合錠L50」剤形追加の製造販売承認を取得しました。今後も医療現場の声にお応えする医薬品の製剤開発や提供を継続します。

<医薬品の副作用等リスクへの対策>

医薬品の製造販売には、製品回収や販売中止、健康被害に関する賠償責任等に関するリスクが伴います。薬機法及び関連する規制の遵守を徹底するとともに、必要な賠償責任保険に加入することにより、このような事態が発生した場合の財政的負担を最小限に留めるべく対応していきます。

薬機法…医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

 

4. デジタルトランスフォーメーションによる進化と変革(基本方針④)

 急速な事業環境の変化をとらえつつ、グローバルな競争力を強化していくには、当社グループの業務・仕組み・ビジネスモデルを不断に高度化・革新していくことが重要な課題と考えています。デジタルトランスフォーメーションの推進により、受発注・生産管理・研究開発・新事業開発など、あらゆる業務・仕組みを変革し、グループ内及び顧客に新しい価値を提供していきます。

 

5. 新たな事業の創出(基本方針⑤)

 当社は、中長期的な企業価値の向上のために、既存の事業の強化に加え、新たな事業を継続的に創出するための取り組みを重視しています。エレクトロニクス、医療・医薬品、ICT、エネルギー、食糧に続く、当社グループの収益の柱となる新たな事業展開に今後も注力していきます。

 

6. 戦略的なM&A(基本方針⑥)

 既存事業の強化、新規事業の立ち上げ加速のために、当社の保有する経営資源の活用だけではなく、戦略的に他社との業務提携や資本提携、M&Aを今後も積極的に行っていきます。当事業年度においては、当社のICT事業を担う株式会社ファンリードが事業の強化を目的に、株式会社エクシーズと株式会社RITの全株式を譲受しました。

 

7. SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み強化(基本方針⑦)

 当社グループは、SDGsの重要性が世界的に広く注目される以前より、持続的な企業価値の向上に不可欠なものとして、SDGsと親和性のある取り組みを進めてきました。具体的には、脱炭素社会の実現へ向けて日本国内に水上太陽光発電所を開所しており、当事業年度も新たに16基目を開所しました。また、地域のイベントやボランティア活動への参加、社員食堂での地元食材の使用など、地域社会に根差した活動や、LGBTトイレの導入やプライム市場上場企業平均と比し高い女性役員比率など、ジェンダー平等に向けた取り組みも行っています。今後も引き続きSDGsへの取り組みを積極的に推進します。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 サステナビリティに関する考え方及び取組については、コーポレート・ガバナンス報告書に記載のとおり長期経営構想「Beyond Imagination 2030」において、「SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み強化」を基本方針の一つとして掲げています。詳細な取り組みについては以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。また、コーポレート・ガバナンス報告書は、当社ホームページ(https://www.taiyo-hd.co.jp/jp/pdf/investor/governance/governance.pdf)に掲載しています。

 

(1)サステナビリティ

 

① ガバナンス

 サステナビリティ全般の業務執行については、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会が担っています。サステナビリティ推進委員会は、サステナビリティに関する活動の方向性や、重要課題に基づき設定した目標に関する進捗等を全社グループ横断的に議論しています。重要事項については、取締役会の提言を受けることとしています。

 

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② リスク管理

 当社グループでは、事業に関連する短期、中期、長期のリスク及び機会に対応するため、年に複数回、事業ごとにリスク及び機会の見直しを行っています。特に重大な影響を及ぼす可能性のあるサステナビリティ関連事項については全社的にリスク管理を図るため、評価・識別したリスクを実行部門で対応し、サステナビリティ推進委員会及び取締役会にて対応を管理・モニタリングする一連の体制を構築しています。

 

(2)気候変動への対応

 当社グループでは、2014年から水上太陽光発電事業を開始するなど、サステナビリティについての取り組みを積極的に行っています。気候変動対応はグローバル社会が直面している重要な社会課題であり、当社にとっても重要な経営課題の一つであることから、2022年3月にTCFDの提言に賛同を表明し、TCFDの枠組みに沿った取り組みの推進及び積極的な情報開示を進め、ステークホルダーとの信頼関係をより一層強化していきます。また、当社グループは企業等の環境への取り組みを分析し、評価を行う国際的なNGOであるCDPの「CDP 2023 気候変動質問書」にはじめて回答し、Bスコアを獲得しました。

※TCFD:G20の要請を受け金融安定理事会(FSB)が設立した、企業の気候変動に関する情報開示及び金融機関の対応を検討する気候関連財務情報開示タスクフォース

 

① ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティのガバナンスに組み込まれています。詳細については「(1)サステナビリティ ①ガバナンス」を参照ください。

 

② 戦略

 長期的に予想される気候変動について、IPCC※1第6次評価報告書及びIEA※2世界エネルギー見通し等を参考に1.5℃シナリオ及び4℃シナリオを考慮した分析を実施し、リスク及び機会の特定を行っています。

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※1 気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)

※2 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)

 

脱炭素社会の進展がもたらす機会事例 1

 当社グループは、2011年の東日本大震災の影響による電力不足を機に、水上太陽光発電にこだわった再生可能エネルギーの発電事業を推進しています。水上太陽光発電所は、農業用ため池等の水面を利用するため、太陽光パネルの冷却効果により夏場の発電効率の低下を抑制し、発電量を確保できるメリットがあります。さらに、野立てに比べ造成や伐根が少なく環境保全に繋がるとともに、ため池を保有・管理する自治体や農業事業者の負担軽減に貢献します。2024年3月末時点で国内16基の水上太陽光発電所を設置しており、国内エレクトロニクス事業及び医療・医薬品事業における外部購入電力消費量相当を発電しています。今後とも、当社グループのみならず顧客や社会全体の再生可能エネルギー活用を支援していきます。

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脱炭素社会の進展がもたらす機会事例 2

 電気自動車(EV)は、走行中にCO2を排出しないという気候変動の観点から今後一層需要が高まることが予想されています。EVに搭載される車載基板面積は、2035年までに2020年比で約2.6倍になることが予想されています。この基板面積増加に伴うソルダーレジスト(SR)の使用量増加は当社グループの車載関連部材の売上増加に繋がり、事業機会になると捉えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車載基板の販売数量予測

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※富士キメラ総研「車載デバイス&コンポーネンツ総調査2022」(2020年は実績、2025年、2030年、2035年は予測)

 

脱炭素社会の進展がもたらす機会事例 3

 アルカリ現像型のSRは、基板全面に塗布した後、露光・現像という工程により不要な箇所を除去し、パターンを形成しています。インクジェットSRは、インクジェット印刷法により必要な箇所にのみ塗布し、パターンを形成することができます。そのため、アルカリ現像型SRと比較し、SRの消費量低減や顧客の工程の大幅な簡略化が可能になるとともに、有機溶剤の揮発や現像廃液の排出がないため環境負荷低減に有効です。当社グループでは、SR用途だけでなく、マーキングインキ、めっきレジスト、エッチングレジスト、ディスプレイ用材料等、様々な用途に向けたインクジェット法に対応した製品開発を進めています。

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③ リスク管理

 気候変動に関するリスク管理は、サステナビリティのリスク管理に組み込まれています。詳細については「(1)サステナビリティ ②リスク管理」を参照ください。

 

④ 指標と目標

 政府目標である2050年カーボンニュートラル達成に向け、従来よりもさらに一段高いCO2排出量削減目標として、「2031年3月期までにグループ全体で2017年3月期比40%削減」を掲げました。また、「2031年3月期までに国内エレクトロニクス事業においては、カーボンニュートラル達成」、「国内医療・医薬品事業においてはCO2排出量70%削減」を目指し、「2050年までにグループ全体でカーボンニュートラル達成」を実現します。

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 CO2排出量実績と目標は、以下のとおりです。なお、CO2排出量削減目標における基準年は、2017年3月期に設定しています。

 

2017年3月期及び2023年3月期、2024年3月期のCO2排出量、2031年3月期の目標CO2排出量

(単位:kt-CO2

セグメント

CO2排出量

2017年3月期

(基準年)

2023年3月期

(実績)

2024年3月期

(見込)

2031年3月期

(目標)※1

グループ全体

Scope1+2

41

50

48

24

Scope1

16

15

16

 

Scope2

25

34

32

 

国内エレクトロニクス事業

Scope1+2

7

10

9

0

国内医療・医薬品事業

Scope1+2

18

20

19

5

その他※2

Scope1+2

15

19

19

 

※1 グループ全体及び国内エレクトロニクス事業、国内医療・医薬品事業のScope1+2における目標値

※2 その他:海外エレクトロニクス事業及びICT&S事業、提出会社

 

 今後も、TCFD提言の枠組みに沿って、気候変動がもたらすリスク・機会が事業に与える影響を評価し、それらのリスク低減及び機会獲得への対応を推進することで、事業を通じた気候変動への対応及び情報開示に取り組んでまいります。

 

(3)人的資本

 人的資本等への投資については、長期経営構想「Beyond Imagination 2030」において「多様化する社会や組織に対応する自律型人材の育成・活用」を第一の基本方針として掲げています。当社では、「仕事のやりがい」「職場環境」「公正な評価・給与」の3つをバランス良く整えることで、自ら目標を立て、目標の実現に向け高い志を持つ自律型人材の育成に努めます。

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① 社内環境整備

a.戦略

 「職場環境」の整備として、当社では様々な健康増進施策を行っています。「喫煙」に関しましては、2015年7月より、喫煙をしない社員に対して月額3,000円を支給する「健康維持促進手当制度」の導入や、各事業所内の喫煙所縮小など、段階的に社内無煙化への取り組みを行ってまいりました。そして、2019年5月より池袋本社で出社前及び就業時間中(退社するまで)の喫煙を禁止する全面無煙化を開始しています。 現在は、当社嵐山事業所並びに国内連結子会社でも事業場内全面禁煙となっています。また、社員の健康を支援するイベントについても多く実施しています。当事業年度において、当社では、ストレッチ・ラジオ体操やピラティス講座、ヨガ講座を開催し、国内連結子会社においても、ラジオ体操やウォーキングイベントの実施など様々な健康イベントを行っています。

 

b.指標

 2024年3月期における、当社の健康維持促進手当支給率は94.0%です。また、当制度を導入しているグループ会社全体での支給率も85.2%となっており、今後もグループ会社も含めて社員一人ひとりの健康を支援する環境を整えていきます。

 

② 組織開発・人材開発

a.戦略

 社会やビジネス環境のめまぐるしい変化の中、経営理念を実現するため、自らの意志で未来を描き、物事の本質を捉えた判断と周囲を巻き込んだ業務遂行ができる自律型人材を個人と組織の両面から育成すべく「未来共創イニシアティブ」の取り組みを行っています。

 

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 未来共創イニシアティブの取り組みの一つとして、2019年4月から「未来共創ミーティング」を部門ごとに実施しています。このミーティングは、グロース・マインドセットを獲得すること、チームの関係性や行動の質を高めることを通じて、強い個人や強い組織になることを狙いとしています。

 また、2021年10月にはグループ社員全員で共有し大切にしていく価値観として「太陽バリュー」を、約2年間にわたる社員参加型のグループダイアログセッションを経て策定しました。現在は、部署ごとにリーダーを選出して太陽バリューを具現化する取り組みを継続しており、当事業年度においては、組織横断的に当社並びに国内連結子会社のリーダーがそれぞれの取り組みを共有する場として、バリューリーダー・オフサイトセッションを開催しました。

 

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 未来共創ミーティングの実施と太陽バリュー具現化の活動により、人や組織の関係性は向上し、グループとして大切にしていきたい価値観も根付いてきていると感じています。この流れを、より仕事や事業の成果につなげるべく「チームでパフォーマンス・マネジメント」の強化も進めています。当事業年度においては、当社及び国内グループ会社(太陽インキ製造株式会社、太陽ファルマ株式会社、太陽ファルマテック株式会社、太陽ファインケミカル株式会社、太陽グリーンエナジー株式会社及び株式会社嵐山食堂。以下同じです。)の課長層を対象に、チームメンバーの自律的なキャリア形成と仕事のパフォーマンス向上に繋がるマネジメントスタイルを学び、実践と対話を通して自身のかかわり方をアップデートすることを目的とした「パフォーマンス・マネジメントプログラム」を開始しました。

 

 人材の開発という点において、上記、未来共創イニシアティブに関する取り組みに加え、社員教育への投資にも注力しています。各個人の知識向上、スキルアップを支援する取り組みとして、会社が推奨する資格の取得費用、新入社員に対する新聞購読費用、業務上必要な書籍の購入費用に対する支援をしています。また成長機会の提供として社内外のセミナーや研修にも力を入れています。さらに、当社では業務に直結する活動だけでなく、幅広く学びを得る機会についても支援しています。その一つとして、「レクリエーション制度」があります。当制度では、部署単位で非日常体験(教養を高め、感性が養われる活動)をすることで、プロフェッショナルとしての仕事の向き合い方に目を向け、部署内のコミュニケーションの活性化を促すことを目的として、一人あたり年間22,000円(税込)の補助を行っています。また、2023年8月からは、業務に直結するものに限らない図書の購入に関する費用補助を行う「図書費補助制度」を導入しました。当制度は、自律的なキャリア形成の一環として、活字に触れ「読書」を通じた幅広い分野の気づき・学びを得る機会を支援することを目的としています。

 

b.指標

 太陽バリューにおいては策定から約2年半が経ち、日常的に意識している社員の割合は半数を超えています。さらに意識するだけにとどまらず、「体現」することができている社員の割合も半数に近づいています(以下、グループ社員へのヒアリング結果)。今後も、太陽バリューが日々のよりどころとなる価値観としてあり続けることを目指し、取り組みを継続していきます。

 

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 社員教育への投資においても、下記のような実績が出ています。今後も社員一人ひとりの「自律」を促す環境を整備できるよう幅広く学びや気づきを得ることができる支援をしてまいります。

 

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 また、当社では、人材の多様性を変化の激しい市場環境に対応し常にスピードをもって事業創造できる組織の力へと変えるため、多様な人材の確保を積極的かつ継続的に行いつつ(下記表、24年3月期実績(※「役員女性比率」「執行役員女性比率」「外国籍執行役員比率」のみ2024年6月付までの人事異動を反映))、それぞれの特性や能力を最大限活かせるよう職場環境や社内の教育体系の整備等に取り組んでまいります。

 

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 当社ならびに一部の国内連結子会社では全社員を対象に実施しているストレスチェックにおいて、法定の要素だけではなく従業員の満足度等も総合的な指標として広く参考にしています。経営陣のコミットメントである「仕事のやりがい」「職場環境」「公正な評価・給与」に対する社員の満足度についても、同ストレスチェックの結果を参考にしています。各種取り組みの成果もあり、個別項目においては全36項目中、32項目(23年3月期は31項目)が全国平均を上回っており、総合的な指標も全国平均と比較して良好な値が出ています。また、全国平均を下回った4項目についても、そのうち3項目が23年3月期と比較すると改善している傾向にあります。

 

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 「職場環境」に対する取り組みについては、ただ単に最新の設備が整っていて、きれいで快適な職場を目指すだけではなく、社員の成長や気づきを促す人材開発も意識した職場環境づくりを目指しています。例えば、職場には多くの芸術作品を展示していますが、これは「その芸術作品を見ることで一流のアーティストがプロになるまでにどれだけの努力をしてきたかを社員に想像してもらい自身の仕事への向き合い方に目を向けてほしい」という経営陣からのメッセージが込められています。また、ハード面だけでなくソフト面においても、背景の異なる多様な人材の視点を取り入れるため、中途採用も積極的に進めています。(提出会社における2024年3月期中途採用比率:49.7%)

 2023年4月には、昨今の環境変化へ適応した形での「公正な評価・給与」を実現することを狙いとし、社員の給与制度を改定しました。今後も様々な環境の変化を予測しながら「仕事のやりがい」「職場環境」「公正な評価・給与」をバランスよく見直していくとともに、社員一人ひとりが自律型人材としてさらに活躍できる環境・仕組みづくりを通じ、楽しい社会の実現を目指します。

 

3【事業等のリスク】

 当社グループの事業展開について影響を及ぼす可能性のある主なリスクには以下のようなものがあります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものです。

 

リスク項目

関連するリスク

主要な取り組み

社会課題への対応に係るリスク

・ 気候変動等の環境課題を含む社会課題への

取り組みが不十分である場合の企業評価の

低下、事業機会の損失

・ 取締役会、サステナビリティ推進委員会

の重要課題の特定

・ リスクと機会の分析とリスク管理の徹底

為替変動リスク

・ 為替の変動による海外での事業活動の停

  滞

・ 為替・金利の変動による海外子会社業績

  の円貨への換算への影響

・ 為替予約等の実施

・ 親会社を含めた為替変動リスクの低い国

  での資金調達

・ 地産地販の推進

カントリーリスク

・ 法規制、税制の変更

・ 戦争や紛争等の発生

・ 進出国の適度な分散

・ 顧客や各国政府等の動向の調査

製造拠点の

罹災リスク

・ 製造拠点の罹災による製品の製造停止

・ エレクトロニクス事業の製造拠点の適度な

  分散

・ 医療・医薬品事業の製造受託拠点におけ

  る、罹災時に使用可能な自家発電装置の保

  有

感染症のリスク

・ 当社グループの役員、従業員の罹患によ

  る事業活動の制約

・ 政府方針に合わせた対策

・ テレワーク環境の採用

・ 手指消毒液の設置

原材料等の調達に係るリスク

・ 原材料メーカーの罹災や供給不足等に

  より、当社グループの生産に生じる支障

・ 石油等市況の影響等から、一部の原材料

  価格が上昇

・ 様々なサプライヤーからの材料調達

競合他社との価格競争激化

・ 当社グループの製品の価格低下圧力

・ 低価格製品の生産・販売

・ 競合他社の企業調査

顧客の経営破綻

・ 海外を含めた予期せぬ顧客の経営破綻

・ 情報収集、与信管理等、債権保全

技術革新リスク

・ 革新的な技術発展により電子機器にPCB

  を使用しない方法等の普及

・ PCBの製造でSRを使用しない方法等の適用

・ 新しい工法の技術開発

特許に伴うリスク

・ 権利保護が受けられない可能性

・ 当社グループによる他社の特許・知的財

  産権の侵害

・ 知的財産のリスクマネジメントの実施

医薬品の副作用等

・ 予期せぬ重大な副作用や安全性の問題の

  発現

・ 薬機法及び関連する規制の遵守を徹底、

  必要な損害保険に加入

医薬行政の動向

・ 薬価改定を含む国・自治体の医療政策、

  医療保険制度の変更等

・ 適切な業務運営体制や管理・監査体制の

  構築

減損リスク

・ 資産の時価が著しく下落した場合、又は

  事業の収益性が悪化した場合には、減損

  会計の適用により固定資産の減損損失が

  発生

・ 取締役会における買収価格の適切性に関

  する審議

・ 買収後のシナジー実現に向けたフォロー

  アップやマクロ経済環境の定期的なモニ

  タリング

移転価格税制等の

国際税務リスク

・ 税務当局の調査における税務当局との見

  解の相違により、追徴課税や二重課税が

  発生

・ 各国税制遵守の徹底

・ 外部専門家の活用

人材確保に係るリスク

・ 人材育成の遅れや少子高齢化、人口減少を

  背景とした社員流出や採用難による労働人

  口の減少

・ 多様化する組織や社会に対応する自律型

  人材の育成・活用

・ 仕事のやりがいや職場環境、公正な評価・

  給与の整備

情報セキュリティに係るリスク

・ サイバー攻撃等による情報の漏洩・改ざん

等の発生

・ コンピュータシステムの停止や誤作動

・ 情報管理体制の強化・整理

・ 従業員への教育・訓練の実施

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」)の状況の概要は次のとおりです。

 

① 財政状態

当連結会計年度の資産、負債及び純資産の状況と主な要因は下表のとおりです。

 

前連結

会計年度

(百万円)

当連結

会計年度

(百万円)

増減額

(百万円)

主な要因

(前連結会計年度との比較)

流動資産

90,050

109,655

19,604

現金及び預金11,462百万円、受取手形、売掛金及び契約資産5,617百万円の増加

固定資産

97,212

103,096

5,884

建物及び構築物8,198百万円の増加

建設仮勘定2,116百万円の減少

資産合計

187,263

212,751

25,488

 

負債合計

94,523

112,353

17,829

長期借入金(1年内返済予定含む)10,824百万円、短期借入金4,396百万円の増加

純資産合計

92,739

100,398

7,658

親会社株主に帰属する当期純利益8,654百万円の計上為替換算調整勘定3,542百万円の増加

剰余金の配当5,033百万円による減少

負債純資産合計

187,263

212,751

25,488

 

 

② 経営成績

 当連結会計年度の売上高は104,775百万円(前年同期比7.6%増)、営業利益は18,203百万円(前年同期比14.0%増)、経常利益は17,310百万円(前年同期比12.0%増)となりました。一方で、太陽ファルマ株式会社において収益性が低下した販売権の見直しを実施し、減損損失を計上した影響から、親会社株主に帰属する当期純利益は8,654百万円(前年同期比24.1%減)となりました。

 

 セグメントごとの経営成績は次のとおりです。

 当社グループは、事業子会社を基礎としたセグメントから構成されており、「エレクトロニクス事業」「医療・医薬品事業」の2つを報告セグメントとしています。

 

エレクトロニクス事業

 リジッド基板用部材については、ディスプレイ関連部材、民生用関連部材において、販売数量が前年同期を下回りました。特にディスプレイ関連部材において低調に推移しました。一方、車載関連部材、スマートフォン関連部材においては販売数量が前年同期を上回りました。特に車載関連部材において、半導体や部品不足等により在庫調整を実施していた前年同期と比較し、自動車生産が本格的に回復し販売台数が増加したことを背景に販売数量が増加しました。

 半導体パッケージ基板用部材については、液状製品の販売数量は前年同期を下回りましたが、ドライフィルム製品の販売数量は前年同期を僅かに上回りました。当期期初においては、スマートフォンやPC・タブレット等の最終需要の減少を背景に販売数量は低調に推移していましたが、当期期中においてメモリ向け製品を中心に緩やかな需要の回復がみられました。

 当事業については、海外での売上高比率が9割を超えていることから、為替が円安に推移することで増収、増益に寄与します。当期累計期間における期中平均為替レートは1米ドル144.4円であり、前年同期の期中平均為替レートである1米ドル135.0円と比較し9.4円の円安に推移しました。

 その結果、売上高は71,415百万円(前年同期比4.4%増)、セグメント利益は16,456百万円(前年同期比3.9%増)となりました。

 

医療・医薬品事業

 太陽ファルマ株式会社が行う医療用医薬品の製造販売事業については、前年同期と比較し、薬価改定の影響があったものの、新たな長期収載品レミニールの資産譲受や他社同効薬・鎮咳薬等の供給不足に伴う需要の増加により、売上高が前年同期を上回りました。

 太陽ファルマテック株式会社が行う医療用医薬品の製造受託事業については、製造委託元からの要請によるプロダクトミックスの変化や原材料・エネルギー等の価格高騰に伴う販売価格の改定により、売上高が前年同期を上回りました。

 その結果、売上高は29,269百万円(前年同期比15.0%増)、セグメント利益は3,248百万円(前年同期比70.4%増)となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度の連結キャッシュ・フローの状況と主な要因は下表のとおりです。

 

前連結

会計年度

(百万円)

当連結

会計年度

(百万円)

主な要因

営業活動による

キャッシュ・フロー

22,736

21,224

税金等調整前当期純利益12,102百万円減価償却費8,676百万円減損損失4,792百万円、売上債権の増加額△3,731百万円、法人税等の支払額△2,642百万円

投資活動による

キャッシュ・フロー

△13,160

△21,069

有形固定資産の取得による支出△11,582百万円無形固定資産の取得による支出△7,229百万円、関係会社株式の取得による支出△927百万円

財務活動による

キャッシュ・フロー

△13,942

8,954

長期借入れによる収入23,948百万円、短期借入金の純増額3,335百万円、長期借入金の返済による支出△13,107百万円、配当金の支払額△5,028百万円

現金及び現金同等物の増減額

△4,079

10,299

 

現金及び現金同等物の期末残高

47,088

57,664

 

 

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

(単位:百万円)

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年 4月 1日

至 2024年 3月31日)

前年同期比(%)

エレクトロニクス事業

58,558

111.4

医療・医薬品事業

16,998

118.4

報告セグメント計

75,556

112.9

その他

1,485

101.8

合計

77,042

112.7

(注)1.金額は販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。

2.医療・医薬品事業の金額には、製造委託は含まれていません。

 

b 受注状況

当社グループは見込生産を主体としているため受注状況の記載を省略しています。

 

c 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

(単位:百万円)

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年 4月 1日

至 2024年 3月31日)

前年同期比(%)

エレクトロニクス事業

71,415

104.4

医療・医薬品事業

29,269

115.0

報告セグメント計

100,684

107.3

その他

4,090

117.8

合計

104,775

107.6

(注)セグメント間の取引については相殺消去しています。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

① 重要な会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しています。連結財務諸表の作成に当たって採用する重要な会計方針、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)及び(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a 当社グループの当連結会計年度の経営成績等

 当社グループの当連結会計年度の経営成績等につきましては、「第2 事業の状況、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、(1)経営成績等の状況の概要、② 経営成績」を参照ください。

 

b 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況、3 事業等のリスク」を参照ください。

 

c 当社グループの資本の財源及び資金の流動性

 当社グループは、事業活動のための適切な資金確保、適切な流動性の維持及び健全なバランスシートの維持を財務方針としています。必要資金については、主に営業活動から得られる資金及び銀行借入金などによりまかなっており、現在必要とされる資金水準を十分確保していると考えています。当連結会計年度末の短期借入金及び長期借入金の合計は86,722百万円です。当社グループの借入必要額に、重要な季節的変動はありません。

 また、当社グループは、当連結会計年度末の現金及び現金同等物57,664百万円を主に円建てを中心として保有していますが、その他の外貨建でも保有しています。当社グループの現金及び現金同等物は、売上収益の約6.6ヶ月相当の水準となっており、当社グループの事業運営上、十分な流動性を確保していると考えています。しかしながら、景気後退による市場の縮小や金融市場・為替市場の混乱などにより、流動性に一部支障をきたす場合も考えられます。このため、金融機関と限度額24,683百万円の当座借越契約を締結しています。

 

d 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社は、2022年3月期を初年度とする2031年3月期までの長期経営構想「Beyond Imagination 2030」を策定しました。各指標の達成状況は次のとおりです。

 

経営指標

目標

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

ROE(自己資本利益率)

18%

14.6%

12.8%

9.0%

DOE(株主資本配当率)

5%以上維持

5.1%
(達成)

6.0%

(達成)

5.1%

(達成)

 

 ROEにつきましては、長期経営構想「Beyond Imagination 2030」で掲げた2031年3月期での18%の達成を目指しています。当連結会計年度は9.0%と前連結会計年度の12.8%から低下しています。今後は、エレクトロニクス事業、医療・医薬品事業だけでなく、食糧・エネルギーなどの新たな事業分野での成長をしながら、達成に向けて活動を行ってまいります。

 DOEにつきましては、2018年3月期を初年度とする3ヶ年の中期経営計画「NEXT STAGE 2020」に引き続き、長期経営構想「Beyond Imagination 2030」においても5%以上維持を目標としており、当連結会計年度においては5.1%と前連結会計年度より継続して達成しています。今後は長期経営構想に沿い、SRの収益力の強化、SR以外のPCB関連領域の拡充、医療・医薬品事業の事業戦略の遂行、株主への利益還元及び経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の遂行等を行い、企業価値の向上へ尽力いたします。

 

e セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては、「第2 事業の状況、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、(1)経営成績等の状況の概要、② 経営成績」を参照ください。

5【経営上の重要な契約等】

当連結会計年度において、新たに締結した重要な契約は次の通りです。

 

資産譲渡契約

当社グループは、Janssen Pharmaceutica NVとの間で、Janssen Pharmaceutica NVの子会社であるヤンセンファーマ株式会社が日本において製造販売を行っている長期収載品レミニール(一般名:ガランタミン臭化水素酸塩)について、日本の製造販売権等を譲り受けることを決定し、資産譲渡契約を締結しました。

会社名

相手先

国名

契約の内容

契約締結日

太陽ファルマ株式会社

Janssen Pharmaceutica NV

ベルギー

長期収載品レミニール

資産譲渡に関する契約

2023年4月3日

 

6【研究開発活動】

 当社グループは「我がグループの「あらゆる技術」を高め、革新的な製品をもって、夢あるさまざまなモノをグローバルに生み出し、楽しい社会を実現します。」という経営理念のもと、電子機器分野で高度情報化社会や快適な環境に貢献する各種絶縁材料、高周波対応材料、ディスプレイ向け材料等の研究開発を行っています。

 なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は6,194百万円となり、前連結会計年度に比べ1,711百万円増加しています。各セグメントの研究開発費につきましては、以下のとおりです。

 エレクトロニクス事業に係る研究開発費は、5,284百万円です。

 医療・医薬品事業に係る研究開発費は、725百万円です。

 その他の研究開発費は、183百万円です。

 

 エレクトロニクス事業ではSRの顧客基盤強化(既存市場×既存技術)、継続的な新製品上市の迅速化(既存市場×新規技術)、用途展開の推進(新規市場×既存技術)の 3つの施策を主として、SRについては市場のシェアを拡大し、その他のエレクトロニクス部材についてはSRに続く利益の柱となる新規事業開発の創出(新規市場×新存技術)を進めていくことで、エレクトロニクス事業の持続的な成長を推進していきます。

 

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<SRの顧客基盤強化(既存 市場×既存技術)>

 当社グループの主力製品であるSRは、リジッド基板やPKG基板に広く使用されています。年々、各製品の要求される特性が厳しくなる中で、いち早く市場の要求に応えるために顧客とのコミュニケーションと開発スピードの向上を重視してSRの開発を推進しています。

 リジッド基板の分野では、スマートフォンに使用される高密度実装配線(HDI)基板用途と車載基板用途の開発に注力しています。近年、第5世代移動通信システム(5G)関連の開発要求が増えていく中で、他社に先駆けて伝送損失の低い材料を新たに開発し、顧客に採用される段階まで来ています。今後は、薄膜化への対応において液状タイプからDFタイプへの移行が考えられることから、DFタイプのSRを開発し顧客への紹介を開始しています。車載基板は、ガソリン車からハイブリッド車、電気自動車へ急速な移行が世界的にみられSRに求められる特性が多様化しています。過酷な状況下で使用される車載基板用SRは、特に高温と低温との熱サイクルにおける特性が重要視されていることから、新たに原料を見直すことでSRに要求される特性を達成しました。現在は、次期車載基板用SRとして最終顧客認証を得ることができ、採用が決定しました。また、コンソーシアムに参加するなど外部連携をはかりながら事業開発を進めています。

 一方、PKG基板は半導体チップの保護、半導体との接続や実装性能を確保するために無くてはならないものであり、近年はオンライン需要の増加によりPC、スマートフォンやタブレット端末を始めとする電子機器を中心に市場が拡大しています。そのPKG基板に使用されるSRには回路間の絶縁性のみならず、PKGの信頼性を左右する特有の性質が求められます。PCでは、中央演算処理を行う半導体チップのCPUや3Dグラフィックスなどの画像描写を行う際に必要となる計算処理を行う半導体チップのGPU、モバイル端末では通信や動作を司るアプリケーションプロセッサ、記憶媒体であるDRAM、NANDフラッシュメモリなど主要な半導体デバイス向けPKG基板に当社グループのSRが広く使用されています。モバイル端末の薄型化や小型化のニーズを背景とした搭載部品の小型化・高性能化に伴い、半導体や電子部品に隣接して使用されるSRはデバイスの信頼性を大きく左右する重要な役割を担うことになります。例えばPKGの寸法精度や接続信頼性を向上させるための厚み精度や表面平坦性、最先端の半導体チップを搭載するために必要な開口精度などが挙げられます。近年はこれらの要求や課題を解決するためにDFタイプのSRの採用が増加しています。DFタイプの製品により従来の液状製品では実現できなかった仕様の実現を可能とし、加えてPKG基板を製造する当社グループの顧客においても生産性のみならず品質の向上にも貢献しています。今後、世界中で拡大が見込まれる5G通信関連やIoT関連に必要な半導体デバイスにおいても、当社グループのDFタイプの製品が技術の発展に大きく寄与します。近年では表面の凹凸加工技術を生かしたDFタイプで艶消し(マット)製品の開発など、当社グループのコア技術を生かして新しい価値、性能を付与した製品開発を通じて新しい市場の創造を目指していきます。

 

<用途展開の推進(新規市場×既存技術)>

電子部品用途への展開

 既存材料の電子部品用途への展開を進めています。電気信号の高周波化により、電子部品に従来採用されていた材料では対応困難な課題が生じ始めています。この様な課題に対して当社は、プリント基板市場で培った知見をもとに材料や工法の提案を行っており、既に一部電子部品にて当社材料が採用されています。今後も顧客の課題や要望に応えられる製品・工法を提案していきます。

 

<継続的な新製品の上市の迅速化(既存市場×新規技術)>

インクジェット印刷対応SR

 インクジェット塗布機に対応したSRについて、車載基板向けに顧客での採用が決定し量産を開始しました。インクジェット法は工程の大幅な短縮が可能となり、基板の製造コスト削減や環境負荷の低減に有効です。市場拡大の期待されるフレキシブル基板向けに引き続き開発を進めていきます。また当社グループではSR用途だけでなく、マーキングインキ、めっきレジスト、エッチングレジスト、ディスプレイ用材料等、様々な用途に向けインクジェット法に対応した製品の開発を進めています。

 

層間絶縁材

 近年のPKG基板の高集積化を支える様々なDFタイプの層間絶縁材料を開発・販売しています。最近では5G高速通信基板向けのニーズに対応した低誘電特性を有した層間絶縁材料の開発を進め、顧客評価まで進行しています。今後、更なる微細配線化に向けた感光性DFの開発・技術提案を行っています。また層間絶縁材料の知見に基づきフィルムタイプの封止材の開発も進めており、顧客の採用につながっています。今後も顧客の新しい要求に応えられる製品を開発・提案していきます。

 

感光性カバーレイ

 スマートフォンやタブレット端末の軽量薄型化により、基板を搭載する内蔵スペースが狭小化してきたため、従来のリジッド基板主体から、柔軟で折りたたみ収納できるフレキシブル基板の使用が増加しています。当社グループが開発した感光性カバーレイフィルムは市場のニーズである微細加工性と耐熱性・折り曲げ性等の機械特性の両立を可能にし、スマートフォンのカメラを初めとした様々な電子機器用途で採用されています。引き続きこの新材料の用途拡大に向けて、様々な分野での技術提案と新規開発を行っていきます。

 

高周波対応配線形成用新シードフィルム

 5Gの普及に伴い、使用周波数帯域である6GHz未満のSub6やSub6以上の高周波帯域であるミリ波帯で高周波信号をロスなく伝送する銅配線形成技術が重要となります。高周波伝送では、高周波帯域になるほど電気信号が銅配線表層に流れやすくなります。この電気信号に対する伝送損失を抑えるためには、銅配線表層の形状を平滑にすることが求められています。本フィルム材料を用いることで、基材フィルムと銅配線の界面を極めて平滑な状態で密着させることができます。また、より精度の高い銅配線を形成する方法として、従来用いられている銅シード・モディファイドセミアディティブプロセス(MSAP)は、シード層の銅をエッチングする際に銅配線が同時に溶解するため、配線の表面や側面の凹凸が大きくなる課題がありました。一方、本フィルム材料では、銅とは異なる金属をシード層に用いるためシード層のみをエッチングすることが可能となり、銅配線表面や側面が平滑なファインパターンを得ることができます。

 

<新規事業開発の創出(新規市場×新存技術)>

ウェアラブル端末用部材

 新規市場として注目されているウェアラブル端末市場は、医療ヘルスケア向けデバイスとして、アプリケーションの具体化が進み、新しい市場の誕生が近づいてきています。医療ヘルスケア向けデバイスは「体に密着させて使用する電子製品」です。ここには柔らかさも備えた「ストレッチャブル性」が必要とされ、当社グループが展開するストレッチャブルな導電材料の採用が広がり始めています。

 

ディスプレイ用材料

 高画質、高輝度、省エネに対するディスプレイへの要求に応えるためにMini LEDの採用が始まり、Micro LEDの研究開発が進められています。当社グループはこれらLEDディスプレイの部材としてバックライトユニットに使用される高反射材等を開発しています。LEDの反射材(LEDの明るさを向上、保持させるための部材)としてDFタイプ、液状タイプまた、インクジェット法で塗布、形成できる部材を開発し市場に提供しています。白色のDFタイプ、白色の液状タイプに関しては、多くのLEDディスプレイのバックライトユニットに採用されています。一方、遮蔽材はブラックマトリックスとしてバックライトの光もれやRGBの混色を防止する役割を担っており、この遮蔽材を従来の印刷法に加え、工程を簡略化でき環境への負荷が小さいインクジェット法で塗布、形成できる部材の開発に取り組んでいます。