独立監査人の監査報告書及び内部統制監査報告書

 

 

 

 

2024年6月19日

三井物産株式会社

 

 

 

 

取締役会 御中

 

 

有限責任監査法人ト ー マ ツ

 

東京事務所

 

 

 

指定有限責任社員

業務執行社員

 

公認会計士

森 重 秀 一

 

 

指定有限責任社員

業務執行社員

 

公認会計士

松 下 陽 一

 

 

指定有限責任社員

業務執行社員

 

公認会計士

黄 木 太 郎

 

 

 

<連結財務諸表監査>

監査意見

 当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている三井物産株式会社の2023年4月1日から2024年3月31日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結財政状態計算書、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結持分変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書及び連結財務諸表注記事項について監査を行った。

 当監査法人は、上記の連結財務諸表が、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条により規定された国際会計基準に準拠して、三井物産株式会社及び連結子会社の2024年3月31日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営成績及びキャッシュ・フローの状況を、全ての重要な点において適正に表示しているものと認める。

 

監査意見の根拠

 当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行った。監査の基準における当監査法人の責任は、「連結財務諸表監査における監査人の責任」に記載されている。当監査法人は、我が国における職業倫理に関する規定に従って、会社及び連結子会社から独立しており、また、監査人としてのその他の倫理上の責任を果たしている。当監査法人は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断している。

 

 

監査上の主要な検討事項

 監査上の主要な検討事項とは、当連結会計年度の連結財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。監査上の主要な検討事項は、連結財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において対応した事項であり、当監査法人は、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。

 

 

 

将来油価前提

監査上の主要な検討事項の

内容及び決定理由

会社及び連結子会社は中東、東南アジア、オセアニア、北米、欧州、アフリカなど世界中で原油、天然ガス、液化天然ガス等を扱うエネルギー事業を展開しており、会社は当該事業をエネルギーセグメントに含めて報告している。会社及び連結子会社の財政状態及び経営成績においてはエネルギー事業の重要性が高く、当連結会計年度末における連結財務諸表上におけるエネルギーセグメントの資産のうち、主なものの帳簿価額は以下のとおりである。

・ 持分法適用会社に対する投資:650,685百万円(連結財務諸表注記7.セグメント情報参照)

・ 評価差額をその他の包括利益に認識する(FVTOCI)金融資産のうち主な銘柄:224,930百万円(連結財務諸表注記9.金融商品及び関連する開示参照)

・ 有形固定資産:778,685百万円(連結財務諸表注記2.(4)見積り及び判断の利用参照)

また、エネルギーセグメントにおいて当期中に認識された主な有形固定資産の減損損失については、連結財務諸表注記12.(2)減損損失に記載されている。

上記のエネルギーセグメントの資産の評価及び減損損失に関連する会社の会計方針は以下の通りである(連結財務諸表注記2.(5)重要性がある会計方針の要約参照)。

・ 持分法適用会社に対する投資及び有形固定資産の減損損失及び減損損失の戻入れ

これらの関連資産に減損損失もしくは減損損失の戻入れの兆候が生じている場合、会社及び連結子会社は関連資産の回収可能価額を見積る必要があり、帳簿価額が回収可能価額を上回っている場合には差額が減損損失として、下回っている場合には差額が減損損失の戻入れとして連結損益計算書に計上される。なお、減損損失の戻入れは、戻入後の資産の帳簿価額が減損損失を認識しなかった場合の帳簿価額(減価償却累計額控除後)を超えない範囲で計上される。

・ 暖簾の減損損失

会社及び連結子会社は暖簾及び暖簾を配分した資金生成単位または資金生成単位グループの回収可能価額を毎年及び減損の兆候が生じている場合に見積る必要があり、帳簿価額が回収可能価額を上回っている場合には差額が減損損失として連結損益計算書に計上される。

・ FVTOCIの金融資産に区分する投資の評価

FVTOCIの金融資産に区分する投資は毎期公正価値で測定され、評価差額はその他の包括利益として認識される。

これらエネルギーセグメントの資産の減損テストにおける回収可能価額算定の基礎となる使用価値及び公正価値、並びにFVTOCIの金融資産に区分する投資の公正価値は主として関連事業の将来事業計画を基礎とした見積り将来キャッシュ・フローの割引現在価値として算定しており、特に生産物の販売価格の基礎となる原油の将来価格見積りによって重要な影響を受ける。

原油の将来価格見積りは、連結財務諸表注記2.(4)見積り及び判断の利用及び連結財務諸表注記26.(3)定期的に公正価値で測定される資産及び負債に係る開示にて記載のとおり、足元の市況水準と複数の第三者機関の中長期的な見通しを踏まえて決定される。

 原油の将来価格見積りの決定に際しては、経営者が使用する複数の第三者機関の決定に加え、中長期的な需給分析シナリオ、気候変動リスクやロシア・ウクライナ情勢に伴う地政学的リスクなどの不確実な事象が影響する。そのような市場環境などに基づく価格予想は複数の第三者機関においても予想が異なり、レンジが存在することはその不確実性の高さを示唆している。そのため経営者による重要な判断が必要であり見積りの程度及び不確実性が高く、また原油の将来価格見積りにより影響を受ける勘定科目が多岐に渡ること及びその金額的重要性も高いことから、当監査法人は原油の将来価格見積りを監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。

 

 

監査上の対応

気候変動リスクに対応する脱炭素化社会に向けた環境規制やロシア・ウクライナ情勢に伴う地政学的リスクの高まりなど、外部環境の原油の将来価格の見積りへの影響を把握するため、経営者や複数の会社担当者への質問を実施した。

原油の将来価格見積りの決定プロセス及び主要な内部統制を理解するために、原油の将来価格見積りの決定部署及び主要な内部統制の実施責任者への質問を実施するとともに証憑を閲覧し、価格決定プロセス及び主要な内部統制の前年度からの変更有無やその適切性について評価した。

また、原油の将来価格見積りのレビューを含む主要な内部統制を理解するため、内部統制の実施責任者の能力を評価するとともに、統制活動に利用される外部機関の価格見積りの分析レポート及び将来価格見積りの決定資料を閲覧した。

さらに、原油の将来価格見積りについて以下の検討を実施した。

・ 経営者による複数の外部機関の選択について、会社担当者への質問及び資産評価に関する内部専門家との協議を実施し、市場参加者が資産又は負債を価格設定する際に使用するであろう仮定としての適切性を検討した。

・ 経営者が使用した複数の外部機関情報の適合性及び信頼性について、会社担当者への質問及び独自に入手した外部機関情報に基づき検討した。

・ 過去の価格見積りと価格実績との比較分析を実施し、原油価格の見積りが過度に楽観的又は保守的となっていないかどうかを検討した。

・ 会社担当者への質問を実施し、原油の将来価格の見積手法の適切性を検討した。経営者は、原油の将来価格見積りにおいては、足元市況水準と複数の第三者機関による中長期的な見通しを勘案しており、経営者が参照した第三者機関の需給分析シナリオ等を含め当該見積手法が明らかに不適切でないか検討した。

・ 資産評価に関する内部専門家が独自に入手した外部機関情報及び先物価格も参照しながら、監査人が適切であると考える許容可能な範囲を算定し、経営者の決定した原油の将来価格見積りが気候変動リスク、ロシア・ウクライナ情勢等の影響を踏まえた上で許容範囲内にあるかどうかを検討した。

・ 減損損失及び戻入の兆候が存在するが減損損失及び戻入を認識していない資産に関しては、原油の将来価格見積りを基礎にした感応度分析及び回収可能価額の合理性の検討を実施し、減損損失及び戻入を認識していないことの合理性を検討した。

・ 連結財務諸表注記2.(4)見積り及び判断の利用及び連結財務諸表注記26.(3)定期的に公正価値で測定される資産及び負債に係る開示に開示されている原油の将来価格見積りに関する注記情報につき、上記で検証した原油の将来価格見積りとの整合性を検討した。

 

 

ロシア・ウクライナ情勢及びロシア大統領令とその政府令のサハリンⅡ事業に係る投資の公正価値測定への影響

監査上の主要な検討事項の

内容及び決定理由

 ロシア・ウクライナ情勢が2022年2月以降長期化し、各国は引き続きロシアに対する制裁措置を取っている状況下、ロシアとの輸出入及びエネルギー資源調達の制約等のサプライチェーンの混乱、ロシアへの投資に対する制約、ロシアの一部銀行の国際銀行間通信協会(以下、「SWIFT」)からの排除に伴う資金決済の困難化等、関連する国における企業活動には引き続き広範囲な影響が生じている。
 そのような中、会社は連結子会社MIT SEL Investment Ltd.(以下、「MITSEL」)を通じて石油・天然ガスの生産、販売を行うサハリンⅡ事業に、持分法適用会社Japan Arctic LNGを通じて石油・天然ガスの開発、販売を行うArctic LNG2事業に、それぞれ参画している。サハリンⅡ事業について、ロシア大統領令と政府令(以下、「大統領令等」)に基づき、事業運営会社であるSakhalin Energy LLC(以下、「SELLC」)の投資持分をMITSELが2022年9月2日に引き受けている(前連結会計年度の有価証券報告書における監査上の主要な検討事項「ロシア・ウクライナ情勢及びロシア大統領令とその政府令のサハリンⅡ事業への影響 監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」参照)。当連結会計年度において、2024年3月23日付ロシア政府令(第701号)にてSELLCの新たな出資者が決定しているが、出資者間協定書が未締結であるなど不確実性の高い状況が依然として継続している。一方、Arctic LNG2事業について、連結財務諸表の監査報告書に記載されている監査上の主要な検討事項「Arctic LNG2事業における投資先のSDN(経済制裁対象者)指定に伴う投資、融資、保証、及び保険契約の会計処理並びに開示への影響」のとおり米国財務省による制裁措置の影響を受けている。

 連結財務諸表注記31.ロシア・ウクライナ情勢のロシアLNG事業への影響に記載のとおり、会社はサハリンⅡ事業に係る投資(資本性金融商品)をFVTOCIの金融資産に指定しており、SELLCへの投資を通じて継続的に配当収入を見込むシナリオ及びその他のシナリオも加味し、確率加重平均を用いた期待現在価値技法によるインカム・アプローチによって公正価値を測定している。その結果、FVTOCIの金融資産の公正価値は前連結会計年度に比して連結包括利益計算書の 「FVTOCIの金融資産」等を通じて10,863百万円減少し、当連結会計年度末におけるサハリンⅡ事業に係る投資の残高として、連結財政状態計算書の「その他の投資」は87,642百万円となっている。

 上記のサハリンⅡ事業に係るFVTOCIの金融資産の評価に際しては、主に以下の3要素の決定が重要である。

・ 投資の継続可否に関する不確実性を加味した複数のシナリオの発生確率

・ SELLCへの投資を通じて継続的に配当収入を見込むシナリオ及びその他のシナリオにおける将来キャッシュ・フロー

・ ロシアの格付けなどを反映した割引率

 これらの要素の決定に際してはロシアに対する各国の制裁措置、ロシアによる非友好国に対する対抗措置、旧パートナー企業の撤退価格がロシアから公表されていること、出資者間協定書が未締結である状況が継続していること、事業に関連する大統領令等が引き続き発出されていること、及び原油・天然ガス価格の市況等の影響を受ける為、主観性が介在する余地がある。

 当監査法人は、サハリンⅡ事業に係る投資残高の連結財政状態計算書に対する重要性及び以上の事項を考慮し、ロシア・ウクライナ情勢及び大統領令等のサハリンⅡ事業に係る投資の公正価値測定への影響に関し、関連する後発事象や開示を含めて監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。

 

 

監査上の対応

 当監査法人はサハリンⅡ事業に係るFVTOCIの金融資産の評価等の妥当性を検討するため、主に以下の監査手続を実施した。

 

> ロシア・ウクライナ情勢及び大統領令等のサハリンⅡ事業への影響

・ サハリンⅡ事業への影響に関し、出資者間協定書が未締結である状況が継続している理由、配当が見込まれる時期、並びに経済制裁下における事業の進捗状況等を把握するため、経営者や複数の会社担当者への質問及び関連する資料の閲覧を実施した。

 

> サハリンⅡ事業に係るFVTOCIの金融資産の評価

 公正価値評価における評価技法、シナリオの発生確率、SELLCへの投資を通じて継続的に配当収入を見込むシナリオにおける将来キャッシュ・フロー、その他のシナリオにおける将来キャッシュ・フロー、及び割引率等の前提及び仮定の適切性について検討するため、以下の手続を実施した。

・ 評価技法:公正価値の見積りにおける出口価格の評価において、確率加重平均を用いた期待現在価値技法によるインカム・アプローチを採用することの適切性について、内部評価専門家との協議を実施、適切に評価モデルに反映されていること及び計算の正確性の検討を実施した。

・ シナリオの発生確率:出資者間協定書の締結に向けた協議状況等のサハリンⅡ事業に係る投資の継続の不確実性を反映したシナリオ毎の発生確率についてその適切性を検討するため複数の役職者や会社担当者への質問を実施し、大統領令等、さらに世界のエネルギー情勢や日本のエネルギー戦略などを総合的に勘案し検討を実施した。

・ SELLCへの投資を通じて継続的に配当収入を見込むシナリオにおける将来キャッシュ・フロー:将来キャッシュ・フローの見積りの基礎となるサハリンⅡ事業を通じて得られるキャッシュ・フロー及びそれが株主に配当される時期に関して、過去実績に基づく情勢分析を踏まえて、その根拠となる前提及び将来キャッシュ・フローに含まれる仮定の適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問及び関連する資料の閲覧を実施した。

・ その他のシナリオにおける将来キャッシュ・フロー:その他のシナリオにおける将来キャッシュ・フローの仮定の適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問及び大統領令等の閲覧を実施した。また、2024年3月23日付ロシア政府令(第701号)における新たな出資者の決定とそれに至る一連のプロセス、並びに出資者間協定書が未締結である状況が継続していることが会社のその他のシナリオにおける将来キャッシュ・フローに与える影響を検討した。

・ 割引率:会社の仮定の適切性を評価するとともに、内部評価専門家を利用して監査人が適切であると考える許容可能な範囲を算定し、会社の見積りが許容範囲内にあるかどうかを検討した。さらに、ロシアの一部銀行のSWIFTからの排除、諸国によるロシア産の原油・天然ガス等の禁輸措置等に伴う事業活動及び開発活動への影響、ロシアによる日本を含む非友好国に対する外資規制リスクの影響等が適切に考慮されたロシアの格付けが割引率に適切に反映されていることについて、内部評価専門家との協議を実施するとともにその計算の正確性の検討を実施した。加えて、検討した割引率について、連結財務諸表注記26.(3)定期的に公正価値で測定される資産及び負債に係る開示において開示されている、「重要な観察不能なインプットに係る情報」における割引率との整合性を検討した。

 

> その他の監査手続

・ 当連結会計年度末以後に発生した後発事象について、経営者への質問及び関連する資料の閲覧を実施することで、連結財務諸表における修正又は開示すべき事象の有無を検証した。

・ 連結財務諸表における、ロシア・ウクライナ情勢及び大統領令等のサハリンⅡ事業に係る投資の公正価値測定への影響に関する開示について、連結財務諸表の利用者による経済的意思決定のために十分かつ適切かどうかという観点で開示の合理性を会計基準に照らして検討を実施した。

 

 

 

 

Arctic LNG2事業における投資先の経済制裁対象者指定に伴う投資、融資、保証、及び保険契約の会計処理並びに開示への影響

監査上の主要な検討事項の

内容及び決定理由

 連結財務諸表の監査報告書に記載されている監査上の主要な検討事項「ロシア・ウクライナ情勢及びロシア大統領令とその政府令のサハリンⅡ事業に係る投資の公正価値測定への影響」のとおり、企業活動にロシア・ウクライナ情勢が広範囲な影響を生じさせている中、会社は持分法適用会社Japan Arctic LNGを通じてArctic LNG2事業に参画している。Arctic LNG2事業の運営会社であるArctic LNG2 LLCが2023年11月2日(米国時間)に米国財務省外国資産管理局により経済制裁対象者(以下、SDN)に指定されたこと、さらに2024年2月23日(米国時間)、追加的に特定の事業関係者のSDN指定が発表されたこと等を受け、会社は法令順守の上で関係者とも連携しつつ必要な措置を行っている。

 会社は以下のArctic LNG2事業に関連する投資、融資及び保証を有している。

・ Japan Arctic LNGに対する投資

・ Japan Arctic LNGに対する融資

・ Japan Arctic LNG及びArctic LNG2の債務に対する金銭債務保証

 さらに、会社はJapan Arctic LNGに対する投資、融資に対して、海外投資保険等の保険をそれぞれ契約している。また、一部の金銭債務保証に関して、負担割合に関する第三者との取り決めを有している。

 当該状況下、会社は当連結会計年度において、Japan Arctic LNGに対する投資、融資、及びJapan Arctic LNG及びArctic LNG2の債務に対する金銭債務保証について持分権者間協定書や海外投資保険等の保険、第三者との取り決めを含め、諸契約に基づくJapan Arctic LNG及び会社の権利、義務を踏まえた回収可能性並びに保証義務の負担割合を考慮した履行可能性を見直した。その結果、Japan Arctic LNGに対する投資、融資残高は前連結会計年度に比して6,005百万円増加し、当連結会計年度末における連結財政状態計算書に「持分法適用会社に対する投資」、「営業債権及びその他の債権」に含まれる貸付金(保険金回収見込額を考慮した損失評価引当金控除後)の残高として21,764百万円(合計)が計上されている。また、投資に対する海外投資保険の求償による回収見込額が連結財政状態計算書の「その他の金融資産」に計上され、認識額が連結損益計算書の「雑損益」に計上されている。一方、当連結会計年度末における偶発債務に含まれる事業に関連する金銭債務保証の残高は193,548百万円であるが、金銭債務保証に対する損失評価引当金は前連結会計年度に比して56,025百万円増加し、主に連結損益計算書の「雑損益」を通じて当連結会計年度末における連結財政状態計算書に「その他の金融負債」として74,238百万円が計上されている。(連結財務諸表注記31. ロシア・ウクライナ情勢のロシアLNG事業への影響参照

 当監査法人は、Arctic LNG2事業に関連する投資、融資、海外投資保険に関して認識した金融資産、保証に対する損失評価引当金の潜在的な影響を考慮した最大のエクスポージャーの連結財務諸表に対する重要性及び以下の事項を考慮し、Arctic LNG2事業における投資先のSDN指定に伴う投資、融資、保証、及び保険契約の会計処理並びに開示に関し、関連する後発事象を含めて監査上の主要な検討事項に該当すると判断した。

 

> Japan Arctic LNGに対する投資の評価及び投資に対する保険契約の会計処理

 会社はJapan Arctic LNGに対する投資を有しており、また投資に対する海外投資保険契約を有している。投資に生じた損失に対する保険の求償による利益及び対応する金融資産の認識の決定には見積りを要するが、その見積りには経営者による主観性が介在する余地がある。

 

> Japan Arctic LNGに対する融資の評価及び融資に対する保険契約の会計処理

 会社はJapan Arctic LNGに対する融資を有しており、また融資に対する保険契約を有している。融資に生じた損失に対する保険の求償による回収額と回収確率の見積りが融資の確率加重による予想信用損失の測定に考慮されており、その見積りには経営者による主観性が介在する余地がある。

 

> Japan Arctic LNG及びArctic LNG2の債務に対する金銭債務保証の評価

 会社は事業に関連するJapan Arctic LNG及びArctic LNG2の債務に対する金銭債務保証を有している。予想信用損失の測定には、被保証者であるJapan Arctic LNG及びArctic LNG2における債務の一部又は全部が不履行となることを含めた複数シナリオとそれらの発生確率の見積りが考慮されている。当該見積りには、Arctic LNG2と特定の事業関係者のSDN指定、及びパートナー等との協議の進捗等に伴う不確実性が存在し、さらに、複数の保証間の評価におけるシナリオの整合性ある見積りには、それらの契約内容や保証の履行条件に応じ複雑性がある。そのため、シナリオの発生確率の見積りには経営者による主観性が介在する余地がある。

 

> 関連する開示

 Arctic LNG2事業における投資先のSDN指定という外部環境の変化等を受け、会社は法令順守の上で関係者とも連携しつつ必要な措置を行っている。このような状況における開示は、会計上の見積りに関連する経営者による判断を伴う重要な仮定に関する開示を含め、連結財務諸表の利用者の経済的意思決定に際して十分かつ適切かどうかに関し、質的な重要性がある。

 

 

 

監査上の対応

 当監査法人はArctic LNG2事業における投資先のSDN指定に伴う投資、融資、保証、及び保険契約の会計処理の妥当性を検討するため、主に以下の監査手続を実施した。

 

> Arctic LNG2がSDNに指定されたことによるArctic LNG2事業への影響

・ Arctic LNG2事業の開発や操業の状況への影響、会社における事業の継続に関する方針への影響、並びに投資、融資、保証それぞれの評価における会社及びJapan Arctic LNGの権利、義務に生じ得るシナリオ等を把握するため、経営者や複数の会社担当者への質問、関連する外部情報に基づく分析、内部法律専門家との協議、及び関連する資料の閲覧を実施した。

 

> Japan Arctic LNGに対する投資の評価及び投資に対する保険契約の会計処理

 投資の評価における回収可能額と海外投資保険の求償資産の認識の前提及び仮定の適切性について検討するため、以下の手続を実施した。

・ Japan Arctic LNGが保有する資産の回収可能額:Arctic LNG2がSDNに指定された状況下におけるJapan Arctic LNGの権利義務に基づくArctic LNG2からの資金の回収可能性に関する仮定の適切性に関し、複数の役職者や会社担当者への質問及び関連する資料の閲覧を実施した。

・ 保険の求償による利益及び対応する金融資産の認識:投資に生じた損失に対する保険の求償による利益及び対応する金融資産の認識の決定に関する見積りの適切性に関し、保険契約の付保内容や求償プロセスの進捗について、複数の役職者や会社担当者への質問、会社外部の関係者への質問、及び関連する資料の閲覧を実施した。

 

> Japan Arctic LNGに対する融資の評価及び融資に対する保険契約の会計処理

 融資の評価における評価技法、保険の求償による回収見込額を考慮したシナリオの発生確率、及び実効金利の前提並びに仮定の適切性について検討するため、以下の手続を実施した。

・ 評価技法:融資の評価において、シナリオ毎のキャッシュ不足額の現在価値を確率加重すること及び保険の回収見込額を考慮することにより予想信用損失を測定することの適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問を実施し、適切に評価モデルに反映されていることを検討した。

・ 保険の求償による回収見込額を考慮したシナリオの発生確率:Arctic LNG2がSDNに指定された状況下におけるJapan Arctic LNGの権利義務に基づくArctic LNG2からの資金の回収可能性、融資に生じた損失に対する保険の求償による回収額と回収確率に関する仮定の適切性に関し、保険契約の付保内容や求償プロセスの進捗について複数の役職者や会社担当者への質問、会社外部の関係者への質問、並びに関連する資料の閲覧を実施した。

・ 実効金利:予想信用損失の測定に使用される実効金利の計算の正確性について、関連する資料の閲覧を実施した。

・ 融資に対する損失評価引当金:上記の前提及び仮定に基づく損失評価引当金の測定額について、関連する資料の閲覧、再計算を実施し、計算の正確性を検討した。

 

> Japan Arctic LNG及びArctic LNG2の債務に対する金銭債務保証の評価

 保証の評価における評価技法、シナリオの発生確率、シナリオ毎の保証の履行による支払見込額、並びに負担割合に関する第三者との取り決め等の前提及び仮定の適切性について検討するため、以下の手続を実施した。

・ 評価技法:保証の評価において、シナリオ毎のキャッシュ不足額の現在価値を確率加重して予想信用損失を測定することの適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問を実施し、適切に評価モデルに反映されていることを検討した。

・ シナリオの発生確率:評価の前提となるArctic LNG2と特定の事業関係者のSDN指定、パートナー等との協議の進捗に関して関連する資料、議事録、外部情報等の閲覧を実施した。さらに、被保証者であるJapan Arctic LNG及びArctic LNG2における債務の一部又は全部が不履行となることを含めた複数シナリオの発生確率の仮定の適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問、並びに会社外部の関係者への質問を実施した。また、複数の保証の評価におけるシナリオ間の整合性を検討した。

・ 保証の履行による支払見込額:シナリオ毎の保証の履行による支払見込額に関する仮定の適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問及び関連する資料の閲覧を実施した。

・ 負担割合に関する第三者との取り決め:一部の金銭債務保証における予想信用損失の測定に考慮された第三者から受け取ると見込んでいるキャッシュ・フローに関して、利用された前提や仮定の適切性、情報の適合性及び信頼性について、複数の役職者や会社担当者への質問及び関連する資料の閲覧を実施した。

・ 信用リスクを表す比率に考慮されたロシアの格付け:信用リスクを表す比率を用いて測定された予想信用損失に考慮されたロシアの格付けの適切性について、複数の役職者や会社担当者への質問及び内部評価専門家を利用して検討を実施した。

・ 保証に対する損失評価引当金:上記の前提及び仮定に基づく損失評価引当金の測定額について、関連する資料の閲覧、再計算を実施し、計算の正確性を検討した。

 

> その他の監査手続

・ 当連結会計年度末以後に発生した後発事象について、経営者への質問及び関連する資料の閲覧を実施することで、連結財務諸表における修正又は開示すべき事象の有無を検証した。

・ Arctic LNG2事業における投資先のSDN指定に伴う投資、融資、保証、及び保険契約の会計処理に関する「連結財務諸表注記31. ロシア・ウクライナ情勢のロシアLNG事業への影響」を含めた連結財務諸表における開示について、連結財務諸表の利用者による経済的意思決定のために十分かつ適切かどうかという観点で開示の合理性を会計基準に照らして検討を実施した。

 

その他の記載内容

 その他の記載内容は、有価証券報告書に含まれる情報のうち、連結財務諸表及び財務諸表並びにこれらの監査報告書以外の情報である。経営者の責任は、その他の記載内容を作成し開示することにある。また、監査役及び監査役会の責任は、その他の記載内容の報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視することにある。

 当監査法人の連結財務諸表に対する監査意見の対象にはその他の記載内容は含まれておらず、当監査法人はその他の記載内容に対して意見を表明するものではない。

 連結財務諸表監査における当監査法人の責任は、その他の記載内容を通読し、通読の過程において、その他の記載内容と連結財務諸表又は当監査法人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうか検討すること、また、そのような重要な相違以外にその他の記載内容に重要な誤りの兆候があるかどうか注意を払うことにある。

 当監査法人は、実施した作業に基づき、その他の記載内容に重要な誤りがあると判断した場合には、その事実を報告することが求められている。

 その他の記載内容に関して、当監査法人が報告すべき事項はない。

 

連結財務諸表に対する経営者並びに監査役及び監査役会の責任

 経営者の責任は、国際会計基準に準拠して連結財務諸表を作成し適正に表示することにある。これには、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない連結財務諸表を作成し適正に表示するために経営者が必要と判断した内部統制を整備及び運用することが含まれる。

 連結財務諸表を作成するに当たり、経営者は、継続企業の前提に基づき連結財務諸表を作成することが適切であるかどうかを評価し、国際会計基準に基づいて継続企業に関する事項を開示する必要がある場合には当該事項を開示する責任がある。

 監査役及び監査役会の責任は、財務報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視することにある。

 

連結財務諸表監査における監査人の責任

 監査人の責任は、監査人が実施した監査に基づいて、全体としての連結財務諸表に不正又は誤謬による重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得て、監査報告書において独立の立場から連結財務諸表に対する意見を表明することにある。虚偽表示は、不正又は誤謬により発生する可能性があり、個別に又は集計すると、連結財務諸表の利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される。

 監査人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って、監査の過程を通じて、職業的専門家としての判断を行い、職業的懐疑心を保持して以下を実施する。

・ 不正又は誤謬による重要な虚偽表示リスクを識別し、評価する。また、重要な虚偽表示リスクに対応した監査手続を立案し、実施する。監査手続の選択及び適用は監査人の判断による。さらに、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手する。

・ 連結財務諸表監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのものではないが、監査人は、リスク評価の実施に際して、状況に応じた適切な監査手続を立案するために、監査に関連する内部統制を検討する。

・ 経営者が採用した会計方針及びその適用方法の適切性、並びに経営者によって行われた会計上の見積りの合理性及び関連する注記事項の妥当性を評価する。

・ 経営者が継続企業を前提として連結財務諸表を作成することが適切であるかどうか、また、入手した監査証拠に基づき、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関して重要な不確実性が認められるかどうか結論付ける。継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合は、監査報告書において連結財務諸表の注記事項に注意を喚起すること、又は重要な不確実性に関する連結財務諸表の注記事項が適切でない場合は、連結財務諸表に対して除外事項付意見を表明することが求められている。監査人の結論は、監査報告書日までに入手した監査証拠に基づいているが、将来の事象や状況により、企業は継続企業として存続できなくなる可能性がある。

・ 連結財務諸表の表示及び注記事項が、国際会計基準に準拠しているかどうかとともに、関連する注記事項を含めた連結財務諸表の表示、構成及び内容、並びに連結財務諸表が基礎となる取引や会計事象を適正に表示しているかどうかを評価する。

・ 連結財務諸表に対する意見を表明するために、会社及び連結子会社の財務情報に関する十分かつ適切な監査証拠を入手する。監査人は、連結財務諸表の監査に関する指示、監督及び実施に関して責任がある。監査人は、単独で監査意見に対して責任を負う。

 監査人は、監査役及び監査役会に対して、計画した監査の範囲とその実施時期、監査の実施過程で識別した内部統制の重要な不備を含む監査上の重要な発見事項、及び監査の基準で求められているその他の事項について報告を行う。

 監査人は、監査役及び監査役会に対して、独立性についての我が国における職業倫理に関する規定を遵守したこと、並びに監査人の独立性に影響を与えると合理的に考えられる事項、及び阻害要因を除去するための対応策を講じている場合又は阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためのセーフガードを適用している場合はその内容について報告を行う。

 監査人は、監査役及び監査役会と協議した事項のうち、当連結会計年度の連結財務諸表の監査で特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項と決定し、監査報告書において記載する。ただし、法令等により当該事項の公表が禁止されている場合や、極めて限定的ではあるが、監査報告書において報告することにより生じる不利益が公共の利益を上回ると合理的に見込まれるため、監査人が報告すべきでないと判断した場合は、当該事項を記載しない。

 

<内部統制監査>

監査意見

 当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第2項の規定に基づく監査証明を行うため、三井物産株式会社の2024年3月31日現在の内部統制報告書について監査を行った。

 当監査法人は、三井物産株式会社が2024年3月31日現在の財務報告に係る内部統制は有効であると表示した上記の内部統制報告書が、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準に準拠して、財務報告に係る内部統制の評価結果について、全ての重要な点において適正に表示しているものと認める。

 

監査意見の根拠

 当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に準拠して内部統制監査を行った。財務報告に係る内部統制の監査の基準における当監査法人の責任は、「内部統制監査における監査人の責任」に記載されている。当監査法人は、我が国における職業倫理に関する規定に従って、会社及び連結子会社から独立しており、また、監査人としてのその他の倫理上の責任を果たしている。当監査法人は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断している。

 

内部統制報告書に対する経営者並びに監査役及び監査役会の責任

 経営者の責任は、財務報告に係る内部統制を整備及び運用し、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準に準拠して内部統制報告書を作成し適正に表示することにある。

 監査役及び監査役会の責任は、財務報告に係る内部統制の整備及び運用状況を監視、検証することにある。

 なお、財務報告に係る内部統制により財務報告の虚偽の記載を完全には防止又は発見することができない可能性がある。

 

内部統制監査における監査人の責任

 監査人の責任は、監査人が実施した内部統制監査に基づいて、内部統制報告書に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得て、内部統制監査報告書において独立の立場から内部統制報告書に対する意見を表明することにある。

 監査人は、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に従って、監査の過程を通じて、職業的専門家としての判断を行い、職業的懐疑心を保持して以下を実施する。

・ 内部統制報告書における財務報告に係る内部統制の評価結果について監査証拠を入手するための監査手続を実施する。内部統制監査の監査手続は、監査人の判断により、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性に基づいて選択及び適用される。

・ 財務報告に係る内部統制の評価範囲、評価手続及び評価結果について経営者が行った記載を含め、全体としての内部統制報告書の表示を検討する。

・ 内部統制報告書における財務報告に係る内部統制の評価結果に関する十分かつ適切な監査証拠を入手する。監査人は、内部統制報告書の監査に関する指示、監督及び実施に関して責任がある。監査人は、単独で監査意見に対して責任を負う。

 監査人は、監査役及び監査役会に対して、計画した内部統制監査の範囲とその実施時期、内部統制監査の実施結果、識別した内部統制の開示すべき重要な不備、その是正結果、及び内部統制の監査の基準で求められているその他の事項について報告を行う。

 監査人は、監査役及び監査役会に対して、独立性についての我が国における職業倫理に関する規定を遵守したこと、並びに監査人の独立性に影響を与えると合理的に考えられる事項、及び阻害要因を除去するための対応策を講じている場合又は阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためのセーフガードを適用している場合はその内容について報告を行う。

 

<報酬関連情報>

 当監査法人及び当監査法人と同一のネットワークに属する者に対する、会社及び子会社の監査証明業務に基づく報酬及び非監査業務に基づく報酬の額は、「提出会社の状況」に含まれるコーポレート・ガバナンスの状況等(3)【監査の状況】に記載されている。

 

利害関係

 会社及び連結子会社と当監査法人又は業務執行社員との間には、公認会計士法の規定により記載すべき利害関係はない。

                                                                                                     以 上

 

(注)1.上記の監査報告書及び内部統制監査報告書の原本は当社(有価証券報告書提出会社)が別途保管しております。

2.XBRLデータは監査の対象には含まれていません。

 

 

 

E02513-000 2024-06-19 jpcrp_cor:Row3Member E02513-000 2024-06-19 jpcrp_cor:Row2Member E02513-000 2024-06-19 jpcrp_cor:Row1Member E02513-000 2024-06-19