第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)当連結会計年度の総括

 当連結会計年度(以下「当期」)における外部環境は、ウクライナ情勢などによる不確実性の高まりや世界的な物価高と各国の金融引き締め政策により、欧州を中心に経済成長は鈍化傾向、米国では引き締め的な金融環境の中でも底堅い個人消費が景気を押し上げて経済が堅調に推移しました。日本では、物価高により消費は停滞しましたが、インバウンド需要の増加などもあり景気は緩やかに回復しております。

 このような経営環境の下で、当期における当社グループの連結売上高は、円安の進行もあり1兆1,599億円(前期比2.6%増)と、2003年のコニカとミノルタの経営統合以来最高の売上高となりました。デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業、ヘルスケア事業、インダストリー事業の全ての事業で増収となり、営業利益は大きな減損損失を計上した前期から大幅増の260億円、親会社の所有者に帰属する当期利益45億円と、2019年3月期以来の黒字を達成しました。事業貢献利益、営業利益、当期利益、いずれも期初からの業績見通しを超過し、特に営業利益は大幅な超過となりました。デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業では、前期に欧米など主要地域において半導体不足に起因する受注残の解消という一過性の販売増があった反動を受け販売台数減となったものの、為替の追風や航空輸送の減、物流の正常化、生産コストダウンによりカバーしております。さらに、販売費及び一般管理費の抑制に努め、世界的な物価高騰に対応した定期昇給の見直しなどで人件費は増えましたが、為替影響を除きますと実質では費用の削減となりました。加えて、米国の創薬支援企業Invicro, LLCの持分譲渡に伴う公正価値評価により、売却目的保有資産に係る減損損失戻入益36億円を計上したこと及び米国の遺伝子検査企業であるAmbry Genetics Corporationの事業が順調に推移していることから減損損失戻入益34億円を計上したことも影響しております。

 一方で、プロフェッショナルプリント事業の産業印刷ユニットにおいて、フランスの印刷機器メーカーMGI Digital Technologyでの減損損失21億円や、インダストリー事業の映像ソリューションユニットにおけるプラネタリウム直営館の集客低下などによる減損損失17億円と画像IoTソリューションにおけるドイツMobotix AGの減損損失2億円を当期に計上しました。金利上昇や為替等の影響により金融収支は122億円のマイナス、また、主に海外子会社の当期損失に係る繰延税金資産を認識することができなかったことで、税負担率が高くなっております。

 当社は、2024年3月期を初年度とする3ヶ年の中期経営計画で非重点事業と位置付けた領域への対応も確実に進めてまいりました。プレシジョンメディシンユニットで、2024年4月に創薬支援サービスを担うInvicro, LLCのCalyx Services Inc.への全持分譲渡が完了しました。光学コンポーネントユニットにおいては、2023年10月にラックスビジョンズイノベーションテクノロジー有限会社と中国生産子会社2社の80%の持分譲渡契約を締結し、クロージングに向けた対応を進めております。同様に中期経営計画内で掲げた財務基盤強化についても、運転資本圧縮を実行し営業キャッシュ・フロー833億円の黒字を達成しました。

 

(2)翌連結会計年度の経営方針

 翌連結会計年度において、当社は、欧米を中心とした物価高と景気減速、為替変動など経営環境の不確実性が高まると見込んでおります。このような中、当社は、デジタルワークプレイス事業のオフィスユニットでは働き方の変化に伴うプリントボリュームの緩やかな減少を見込んでおりますが、複合機連携アプリケーション・サービスの提供やモノづくり革新による更なるコスト低減や固定費削減等により、収益力を強化するとともに、資産効率を高めキャッシュを創出します。プロフェッショナルプリント事業のプロダクションプリント・産業印刷ユニットでは、オフセット印刷からデジタル印刷へシフトする流れは不変であり、中期的には中堅・大手印刷会社を中心に需要をけん引して市場は成長すると見込んでおります。また、8年ぶりに開催される世界最大規模の国際印刷・メディア産業展「drupa 2024」の出展による需要が期待できますが、欧米を中心とした景気減速影響による一部顧客との商談長期化のリスクも見ております。

 オフィスユニット、プロダクションプリントユニットにおいては、投資効率やコスト競争力の向上、安定供給、環境対応、事業継続力強化を目的として、調達、トナー開発・生産に関する他社との業務提携を積極的に進めていきます。

 ヘルスケアユニットでは、強みであるⅩ線関連機器に加えて、Ⅹ線動態解析システムの成長を図っていきます。医療サービスの質の向上や効率化に向けて、画像やAIなどのデジタル技術の利活用が進展していくことも想定されます。

 インダストリー事業において、センシングユニットのスマートフォン用ディスプレイ計測器は顧客における設備投資抑制が続いておりますが、新たなディスプレイ技術の開発は進むと見ており、先行需要の取り込みに注力していきます。機能材料ユニットは、ITデバイス・スマートフォン用薄膜フィルムは市場在庫調整からの回復が見え始め、テレビ用ディスプレイは、市場在庫調整が一巡し、大型ディスプレイ向けを中心に回復することが期待されます。こうした市場動向を認識しながら、当社は事業貢献利益の拡大を図るとともに、中期経営計画で掲げた経営目標を達成しROE5%の早期達成を実現していきます。

 また、新たに追加施策として、人財最適化を含めたグローバルでの構造改革を実行し、従業員一人あたりの生産性の向上を図り、高収益企業を目指して事業の選択と集中を実行していきます。2025年3月期の通期見通しには、これらの施策実行による一過性費用の計上を見込んでおります。

 

(3)2025年度に実現する事業構造

2024年3月期を初年度とする3ヶ年の中期経営計画では、これまで当社が展開してきた施策を総合的に評価し、企業価値向上に資するものは継承し、変革すべき部分については速やかに判断することが必要不可欠と認識して、高収益企業への回帰を目指し、赤字からの脱却、収益基盤とキャッシュ創出力の強化に取り組んできました。その結果、当期は当期利益までが黒字となり、営業キャッシュ・フローは833億円とキャッシュ創出力も向上しました。また棚卸資産の削減等による運転資本等の資産圧縮や有利子負債の縮減によるバランスシートの改善が進みました。事業の選択と集中については、過去の経緯にとらわれず、時間軸も含めて当社の将来につながるのかを判断の軸に取組んでおります。当期におきましては、非重点事業と位置付けた、プレシジョンメディシンユニットにおける創薬支援サービスを担うInvicro,LLCの全持分譲渡や、光学コンポーネントユニットにおける産業用途での高付加価値領域へのシフトを目的とした中国生産子会社2社の80%持分譲渡の契約を締結するなど、収益基盤の再構築に向けて大きな一歩を踏み出しました。

強化事業と位置付けたインダストリー事業、プロフェッショナルプリント事業、ヘルスケアユニットには経営資源を重点的に配分して利益率の向上を図り一層の成長を追求します。特にインダストリー事業は、ターゲット領域をディスプレイ、モビリティ、半導体製造等に定め、強みである材料、光学、微細加工、画像等の「コア技術」をAI活用と事業をまたぐ技術融合により強化し、「顧客との共創」につなげて高い市場シェアを保有する既存事業の一層の強化と新規事業開発を推進します。

収益堅守事業と位置付けたオフィスユニットは利益とキャッシュ貢献に重点を置いております。新型コロナウイルス感染症拡大前からプリントボリュームは減少しておりますが、当社独自のOne Rate(毎月変動する従来の複合機の課金方法ではなく、定額の課金をする当社独自の課金モデル)などの取り組み成果もあって、売上総利益の水準を維持しております。また、当期は徹底した生産コストの削減により、当初計画以上の事業貢献利益を創出しております。現時点では、プリントボリュームは、中期経営計画の想定内で推移しており、減少が加速されるような新たな要素は見当たりません。しかし、長期的には市場の縮小傾向が想定されるため、投資効率を向上させることが必要と判断し、オフィスとプロダクションプリントユニットにおいて他社とのアライアンスも積極的に実行していきます。地政学リスクについても課題を認識し、対応を図っていきます。

非重点事業と方向転換事業においては、アクションを加速させ、2025年3月期に事業の選択と集中を完遂することを目指してまいります。

また、当社は事業の持続的な成長を実現するため、全社的に生産性の向上や業務効率の向上を追求して労働生産性が高い組織に変革していきます。そのために生産性・効率性の障害を特定し、業務プロセスの見直しや生成AI活用などのツール導入などを通して、生産性・効率性の改善を図るとともに、適材適所で現場の課題解決に専念できる体制を強化してまいります。

事業の成長による事業貢献利益は継続して拡大しますが、事業の選択と集中やグローバルでの構造改革を確実に実行するためには痛みも伴い、2025年3月期に一時的費用の計上を見込んでおります。

これらの取り組みにより、中期経営計画の最終年度2026年3月期には環境変化に強い事業構造と持続的な利益成長が可能な経営基盤を確立させ、経営目標ROE5%以上の達成を実現します。

当面は財務基盤の強化を優先させていただきますが、業績とキャッシュ・フローを勘案し、株主の皆様に納得いただける配当水準への復帰と利益成長と併せて株主還元の強化を図っていきたいと考えております。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)サステナビリティに関する基本的な考え方 ―中長期の成長に向けて

 当社の考えるサステナビリティとは、「事業によって社会・環境の課題を解決することで持続可能な社会の実現に貢献し会社が成長していくこと」です。社会・環境課題の解決を、経済合理性のある事業として実行することで、当社の持続的な成長を遂げることができると考えております。

 この考えに基づき、2020年には、10年後の2030年のあるべき「持続可能な社会」の姿を見据えて、取締役会の決議を経て長期経営ビジョンを策定し、当社が向き合うべきマテリアリティ(重要課題)を特定しました。

 

①長期経営ビジョン-2030年の社会と当社の存在意義

 当社は2020年に2030年の社会を考察し、世界人口の構造変化、デジタル革命の進行、バイオテクノロジーの産業利用拡大、世界構造の多極化、気候変動・温暖化の潮流から、「組織や個人が、爆発的に増加するデータを活用して多様な価値を創造し、持続的に発展する自律分散型の社会」が訪れると考えました。このような社会においては、組織や個人が求める豊かさが個別化・多様化し、それらの充足ニーズが高まる一方、資源不足や気候変動による影響、社会保障費の増大、雇用や創造への機会格差といった課題の解決が求められます。

 この世界観のもと、当社は独自のイメージング技術をコアに、ニーズと課題のトレードオフを解消し、「人間中心の生きがい追求」と「持続的な社会の実現」とを高次に両立することが当社の存在意義であると結論付け、「Imaging to the People」という長期の経営ビジョンステートメントに集約しました。

 当社発足以来不変の「経営理念」の下、価値創造の源泉としての企業文化・風土である「6つのバリュー」を基盤に経営ビジョンステートメント「Imaging to the People」の実現を目指しております。

 

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②マテリアリティと価値創造プロセス

 当社は自社が向き合うべき重要課題として、「働きがい向上および企業活性化」、「健康で質の高い生活の実現」、「社会における安全・安心確保」、「気候変動への対応」及び「有限な資源の有効活用」の5つをマテリアリティとして特定しました。

 2030年に想定される社会課題からバックキャストして、当社の強みである無形資産(顧客関係、技術の融合、多様な人財)を融合させ、4つの事業群を通じた顧客との共創により生み出される顧客価値、結果としての経済価値であるキャッシュ・フローを創出し、環境・社会課題の解決のインパクトを拡大していく価値創造プロセスを持続的に繰り返していくことで企業の成長を図ってまいります。

 

価値創造プロセス

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③持続的な価値創造を支える無形資産

 次の3つの無形資産は当社が継続的に価値を生み出すための源泉となるものです。

 

●顧客関係

 当社は長年にわたり事業活動を通じて世界各地で顧客との関係性を築いてきました。デジタルワークプレイス事業では、オフィス事業で培ったグローバルの顧客基盤からの知見を活かすとともに、オフィスや病院、物流、製造、教育といった様々な業種・業態の現場の課題に向き合い、顧客のワークフロー改革や価値創造を支援することで、顧客との関係性をより強固なものとしております。インダストリー事業では、業界をリードする先進的な顧客との長期的な関係性構築により、時代の先を行く技術の実用化やバリューチェーンの変革等、当社が社会に大きな価値を提供する機会につながっております。

 

●技術の融合

 当社が根源的に持つ強みは、創業以来150年にわたり、社会の“みたい”に応え続けてきた4つのコア技術(材料・光学・微細加工・画像)です。このコア技術にAI技術を組み合わせることに2014年から取り組み、介護支援サービス等の事業創出や、製造現場の安全安心対策等、様々な社会課題の解決に応用できる技術に進化させてきました。また4つのコア技術を事業をまたいで「融合」させることで新たな価値を創造する取組みも始まっております。プロフェッショナルプリント事業のデジタル印刷機に対する自動品質最適化ユニット「IQ-501」の搭載はその一例で、「光学」、「微細加工」、「画像」を組み合わせ、印刷作業の自動化によるワークフロー改革を実現しております。

 

●多様な人財

 当社の人財における優位性は、グローバルな事業展開や積極的なM&A等を通じて獲得してきた多様性にあります。獲得した多様性を活かすため、人事制度の整備とともに、ポテンシャルのある人財が挑戦できる機会の提供を進めており、特に女性活躍推進は、これを経営課題と位置付けて注力しております。同時にグループとしての一体感の醸成に向け、従業員の満足度調査をグローバルで毎年実施し、経営方針の浸透、職場の課題の抽出と解決を行っております。また前述のコア技術とAI、IoTの技術を組み合わせる人財の増強にも目標値を設定して推進しております。

 

(2)重要なサステナビリティ課題への対応に関する基本的な方針

 

①ガバナンス <サステナビリティ関連のリスク・機会を監視及び管理するしくみ(プロセス・統制・手続き)>

 当社では、取締役である代表執行役社長がサステナビリティマネジメント全体についての最高責任と権限を有し、その有効性について責任を担っております。代表執行役社長のもと、サステナビリティを担当する各役員がグループ全体のサステナビリティマネジメントを推進しております。

 

 重要なサステナビリティ課題に関する議論や意思決定は、ほかの重要な経営課題と同様に、社長及び執行役・執行役員が参加する経営審議会その他の会議体の場で行っております。

 サステナビリティ中期経営計画は、担当する各役員が策定し、会社全体の経営計画としてとりまとめ、経営審議会その他会議体での審議・承認を経て、取締役会の承認を得ます。またマテリアリティについても、中期経営計画の策定プロセスの中で、経営企画を担当する役員を中心にサステナビリティを担当する各役員がリスクの変化度合いを見直すローリングを行い、必要に応じて見直しを行い、経営審議会その他の会議体での審議・承認のうえ、取締役会の承認を得ております。

 サステナビリティを担当する各役員は、サステナビリティに関する中期計画を検討・推進する機関として、必要に応じて「推進会議」を設定しております。例えば、環境に関する中期計画を検討・推進する機関として「環境推進会議」を設定しております。環境を担当する役員が議長となり、各事業部門やコーポレート部門等の各組織長に任命された推進責任者が参加し、環境に関する中期計画、年度計画の審議、四半期ごとの進捗状況の確認やグループの環境課題に関する検討を行っております。

 

② リスク管理 <サステナビリティ関連のリスク・機会を識別・評価・管理するプロセス>

 当社は、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付け、中長期的な視点でリスクを評価しております。

 サステナビリティ関連の中長期のリスクは、マテリアリティをマネジメントするプロセスの一環として継続的に監視し、必要に応じてマテリアリティの改訂に反映させます。具体的には、中期経営計画の策定プロセスの中で、経営企画を担当する役員を中心にサステナビリティを担当する各役員がリスクの変化度合いに基づいて、必要に応じて見直すことで、その妥当性を継続的に担保しております。

 短期・中期のリスクを含む全リスクはリスクマネジメント委員会において管理しております。

 執行役及び執行役員の職務分掌に基づき、それぞれの担当職務ごとにリスク管理体制の構築と運用にあたっております。リスクマネジメント委員会は定期的(年2回)及び必要に応じて臨時に開催しており、抽出されたリスクとその対応策を策定するとともに、リスクマネジメントシステムが有効に機能しているかどうかの検証・評価を行っております。リスクマネジメント委員会の協議内容は定期的に監査委員会に報告しております。

 なお、当社のリスク管理体制・リスクマネジメントプロセスの詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

(3)サステナビリティ課題に関する重要性の評価と優先順位付け <サステナビリティ課題を特定するプロセス>

 当社では2020年に、10年後の2030年にあるべき「持続可能な社会」の姿を見据えて、社会・環境課題が当社に与える影響をリスクと機会の観点から評価し、そこからのバックキャスティングによって「今なすべきこと」を「5つのマテリアリティ」として特定しました。その際のプロセスは次のとおりです。

 

STEP1:課題のリストアップ

 GRIスタンダードやSDGs等の国際的なフレームワークやガイドライン、各専門分野のマクロトレンド等を参照しながら環境・社会・経済面での課題を広範囲にリストアップしました。ストックホルム・レジリエンス・センターの「SDGsウェディングケーキモデル」をベースとし、「ECONOMY(経済)」「SOCIETY(社会)」「BIOSPHERE(環境)」の関係性を念頭に置きながら、課題を抽出しました。抽出にあたっては、当社が関連する、あるいは関連する可能性がある事業領域、そのサプライチェーン/バリューチェーンを範囲として、社会・環境変化や規制・政策動向、ステークホルダーからの要請事項等を考慮して進めております。

 

STEP2:課題の抽出と重要度評価

 リストアップした課題の中から、特に当社に関連性の高い分野を抽出したうえで、マテリアリティ分析(重要度評価)を行いました。当社のマテリアリティ分析は、リスクと機会の側面をそれぞれ評価している点に特徴があります。リスクと機会をそれぞれ評価することで、SDGsを進めるにあたり、企業に期待されている「社会課題を機会と捉えビジネスを通じて解決することで事業成長を図る」ことを実践しております。マテリアリティ分析は、それぞれ「ステークホルダーにとっての重要度(顧客、取引先、株主・投資家、従業員等)」と「事業にとっての重要度(財務的な影響度)」の2軸で5段階評価し、優先順位を付けました。

 

STEP3:妥当性確認、特定

 経営企画を担当する役員は、これらのマテリアリティの評価プロセス及び評価結果の妥当性を検証し、優先的に取り組むべきマテリアリティを特定しております。特定したマテリアリティは、経営層による審議のうえ、取締役会による承認を受けております。またマテリアリティを定期的にレビューし、必要に応じて見直すことにより、その妥当性を担保してまいります。

 

(4)重要なサステナビリティ課題と、関連するリスク及び機会<特定したサステナビリティ課題の詳細と関連するリスクや機会>

 2023年時点でのマテリアリティと関連するリスクと機会は次の表のとおりです。

 当社の各事業はマテリアリティを意識した価値創造に取り組んでおります。例えば、インダストリー事業では、製造現場で熟練工の経験値に基づくスキルに依存していた検査工程を自動化・省人化することで熟練工の技術継承問題解決に貢献すると同時に、最終製品の高品質化に貢献することで「働きがい向上および企業活性化」に寄与しております。また、プロフェッショナルプリント事業では、適時・適量・適所での生産による輸送・保管・廃棄・中間材の低減といった顧客サプライチェーンの変革を通じて「気候変動への対応」と「有限な資源の有効利用」に寄与しております。さらに、ヘルスケア事業では早期発見・早期診断による「健康で質の高い生活の実現」に寄与しております。

 なお、サステナビリティに関するリスクは、マテリアリティのマネジメントやリスクマネジメントのプロセスに落とし込んで対応しております。

 

 

社会・環境課題

(2030年想定)

リスク

機会

働きがい向上

および

企業活性化

デジタル格差

人手不足の解消

雇用や創造への機会格差

ダイバーシティを重視した環境づくりの停滞による、従業員の自律性、イノベーション力の低下

ワークフロー、サプライチェーンの変革による顧客の生産性の向上と創造的な業務へのシフトを支援

健康で質の高い生活の実現

医療や介護の持続性が低下

医療アクセスの制限

社会保障費抑制

イメージングと医療ITサービスによる早期診断、医療費抑制、QOLの向上への貢献

社会における安全・安心

確保

設備老朽化等による労働災害発生のリスク

製品・サービスに起因する重大事故による企業や社会における損害の発生

画像監視による企業や社会の安全・安心の確保

高度な計測・検査による顧客の品質確保

気候変動への対応

脱炭素社会への移行による変化への適応

気候変動による社会・経済・生態系への影響

持続可能なエネルギーへの転換遅れによる競争力低下

ペーパーレスの進行に対応する事業転換の遅れ

異常気象によるサプライチェーンの寸断

ワークフロー、サプライチェーンの変革による顧客企業や社会におけるエネルギー・CO2負荷低減

有限な資源の有効利用

循環型社会への移行による変化への適応

資源枯渇による社会・経済・生態系への影響

持続可能な原料への転換遅れによる競争力低下

資源不足による部材コストアップと供給不安定化

ワークフロー、サプライチェーンの変革による顧客企業や社会における資源抑制・資源有効利用

 

 

各事業の取組みと関連するマテリアリティ(主要なもののみ)

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(5)重要なサステナビリティ課題への取組み及び指標

 

① 気候変動

 当社の環境経営は、「環境課題を解決していくことで、事業を成長させていくこと」をコンセプトとし、社会から必要とされる会社になることを目指しております。地球規模での気候変動問題を解決するには、自社だけの取組みでは限りがあります。そのため、当社は、取引先、顧客を中心とするステークホルダーとの連携によって地球上のCO2削減に積極的に関わっていく「カーボンマイナス」の実現を目指しております。カーボンマイナスとは“自社責任範囲と定められるCO2排出量(スコープ1,2,3排出量)(注)に比べて、責任範囲外でのCO2削減貢献量(スコープ1,2,3以外での削減)を多くすること”と当社では定義しております。

 また、自社責任範囲のCO2排出量において「ネットゼロ」を目指す長期の目標を設定しております。ステークホルダーが社会的責任を果たす活動の支援をするだけでなく、自社の社会的責任を果たすことで、脱炭素化の効果を加速するとともに、当社とステークホルダーの結びつきを広げ、ともに事業成長していくことを目指しております。

 

(注)スコープ1:燃料の使用などを通じて企業が「直接排出」する排出量

スコープ2:他社から供給された電気、熱、蒸気を使用した事による「間接排出」の排出量

スコープ3:スコープ1,2以外の、原料調達・物流・製品使用などバリューチェーンで発生する自社の事業活動に関連した排出量

 

〔ガバナンス〕 気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンス

 当社では、気候変動への対応をサステナビリティマネジメントの管理対象の一つと位置付けており、主要な目標値の設定や変更等の意思決定は、最終的には取締役会の承認を得て実施しております。具体的には、2008年、2017年、2020年、2023年に取締役会で目標値の設定や変更の承認を実施しております。

 サステナビリティマネジメント体制については、「(2)重要なサステナビリティ課題への対応に関する基本的な方針 ①ガバナンス」に記載しております。

 

〔戦略〕 気候関連のリスク及び機会に係る組織の事業・戦略・財務に対する影響

 当社は気候変動リスクに対処するため、2050年にバリューチェーン全体で温室効果ガス排出ネットゼロを目指すビジョンを設定しております。気候変動に起因するリスクを事業リスクに融合し、気候変動対策にかかわる中期目標及び年度計画を、製品の企画・開発、生産・調達、販売等の事業中期計画と連動させることで、ビジネスを通じて目標の達成を目指しております。

 また機会の観点では、顧客企業や社会におけるエネルギー・CO2削減の貢献度を高め事業成長を図る「カーボンマイナス」を2025年に達成することを目指しております。創業以来150年かけて各事業が育ててきたコア技術を、AI活用(データ駆動型開発・生産)と事業領域を跨ぐ技術融合で“進化したコア技術群”として強化し、ワークフロー、サプライチェーンの変革によるエネルギー・CO2削減の貢献度を高め、インダストリー事業の成長と、社会に必要とされる企業となるための事業創出を進めてまいります。

 

<気候変動シナリオ分析の実施と結果>

 当社では、気温上昇が2℃以下(1.5℃相当)に抑えられ、世界全体が低炭素社会へ移行した場合と、気温上昇が2℃を超え、気候変動の物理的影響が顕在化した場合の2つのシナリオを想定し、2030年の視点で当社グループの業績に影響を及ぼす事業リスクと、気候変動における課題の解決に先手を打って対応することで創出できる事業機会を、それぞれ特定しております。

 シナリオ分析を行う際の枠組みとして、気候変動シナリオ分析の対象事業分野の特定、重要な気候関連リスク及び機会の特定、気候変動に関する既存の科学的シナリオの検討、シナリオに対するリスク及び機会とその財務影響の検討と明確化、今後の対応の方向性・方針・戦略の検討のプロセスを経て実施しております。

 

●気温上昇が2℃以下(1.5℃相当)に抑えられ、世界全体が低炭素社会へ移行した場合

 

気候変動の「リスク」への対処

当社への影響

対象セグメント

分類

財務影響

時間軸

対処

調達・製造コストの上昇

ステークホルダーからの再生可能エネルギー調達の要求

インダストリー事業

デジタルワークプレイス事業

市場

評判

短期

生産・研究開発・販売拠点における再生可能エネルギー由来電力の導入

化石資源・化石燃料の代替化

インダストリー事業

政策・法律

中~長期

CO2フリー燃料の導入検討、ICP(注1)の導入検討、調達戦略の最適化

新たな排出規制・税制への対応

インダストリー事業

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

ヘルスケア事業

政策・法律

短~中期

省エネ生産技術開発

製品開発コストの上昇

新たな製品エネルギー効率規制と市場への対応

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策・法律
市場

短期

環境ラベル新基準相当の製品省エネ設計、公共調達・入札要件への対応

製品サービスの需要変化による売上減少

オフィスにおける紙への出力機会の減少

デジタルワークプレイス事業

市場

短~中期

ペーパーレス事業へのビジネス転換

(注1)インターナル・カーボンプライシング

 

気候変動の「機会」

当社への影響

対象セグメント

分類

財務効果

時間軸

製品サービスの需要変化による売上増加

印刷産業及びアパレル産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

製品カーボンフットプリントを低減した機能材料、使用済みプラスチックの分別性・リサイクル率向上に貢献する材料技術・センシング技術、インクジェット技術による生産プロセスの変革、メタンガスの漏えいの早期発見と排出量の削減に貢献できるガス漏えい検査システム

インダストリー事業

製品/サービス

短~中期

 

●気温上昇が2℃を超え、気候変動の物理的影響が顕在化した場合

 

気候変動の「リスク」への対処

当社への影響

対象セグメント

分類

財務影響

時間軸

対処

生産能力減少による収益減

気候パターンの変化に伴う自然資源の供給量不足・供給停止

インダストリー事業

慢性物理

長期

特定の自然資源に依存しない製品設計と開発

大規模気候災害の発生に伴うサプライチェーン分断

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

急性物理

中期

事業継続管理(BCM)の構築、消耗材の域別分散生産及び供給

製品サービスの需要変化による売上減少

異常気象及び森林火災の発生に伴う森林資源へのアクセス制限

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

慢性物理

長期

ペーパーレス事業へのビジネス転換

 

気候変動の「機会」

当社への影響

対象セグメント

分類

財務効果

時間軸

製品サービスの需要変化による売上増加

急性的な異常気象・自然災害への防災・減災に貢献するセンシングソリューション

インダストリー事業

製品/サービス

中期

 

「リスクと機会の分類」

移行リスク

政策・法律、技術、市場、評判

物理的リスク

急性物理、慢性物理

機会

資源効率、エネルギー、製品/サービス、市場、レジリエンス

 

「財務影響」の定義と評価基準

追加コスト又は利益減少 10億円以上

追加コスト又は利益減少 1~10億円

追加コスト又は利益減少 1億円未満

「財務効果」の定義と評価基準

利益創出 100億円以上

利益創出 10~100億円

利益創出 10億円未満

「時間軸」の定義と評価基準

長期

10年以上

中期

3~10年以内

短期

1~3年以内

 

〔リスク管理〕 気候関連のリスクを識別・評価・管理するために用いるプロセス

 当社は、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付け、中長期的な視点でリスクを評価しております。気候変動を含む環境リスクは、中長期的な観点から、「気温上昇が2℃以下(1.5℃相当)に抑えられ、低炭素社会へ移行した場合」と「気温上昇が2℃を超え、気候変動の物理的影響が顕在化した場合」の2つのシナリオで気候変動リスクの影響度と不確実性を評価し、管理しております。またこの環境リスクをグループ全体の経営リスクの一つとして位置付け、リスクマネジメント委員会において管理しております。

 気候変動への対応に関する計画や施策について、四半期ごとにグループ環境推進会議において審議するほか、リスクの変化度合いを見直すローリング作業を同会議にて毎年2回行い、リスクを再評価しております。計画の進捗状況については、グループ環境責任者から代表執行役社長に毎月報告されております。また重要な環境課題についても、グループ環境責任者から経営審議会その他の会議体、リスクマネジメント委員会等に報告されております。取締役会では、気候変動への対応に関する経営計画の進捗について定期的に報告を受け、その執行状況を監督しております。

 なお、当社のリスク管理体制・リスクマネジメントプロセスの詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

〔指標と目標〕気候関連のリスク及び機会を評価・管理するために使用する指標と目標

 当社では、気候変動のリスクと機会を管理する指標として前述の「カーボンマイナス目標」、「製品ライフサイクルCO2排出量」(スコープ1,2,3)、「再生可能エネルギー由来電力比率」に加え「CO2削減貢献量(スコープ1,2,3以外での削減)」を定めております。

 「カーボンマイナス目標」においては、当社の製品ライフサイクルの範囲外において、私たちが排出するCO2(製品ライフサイクルCO2排出量)よりも多くの排出削減貢献(CO2削減貢献量)を社会・顧客で創出する、「カーボンマイナス」の状態を2025年までを期限として実現することを目標としております。

 また、「製品ライフサイクルCO2排出量」には、スコープ1,2の全て(生産段階、販売・サービス段階のCO2排出量)と、主要なスコープ3(調達段階、物流段階、製品使用段階のCO2排出量)を含めております。中期的には2025年までに2005年度比で61%削減(80万トン)、2030年までに70%削減(62万トン)することを目標として設定しております。2023年度は、約75万トン(スコープ1は15万トン、スコープ2は14万トン、主要なスコープ3は46万トン)で2022年度の58%削減から63%削減まで到達しました。当社ではCO2排出量の実績値について第三者保証を取得し妥当性を担保しております。長期的には、2050年にバリューチェーン全体で温室効果ガス排出をネットゼロにする目標を設定しております。

 

◆製品ライフサイクルCO2排出量削減の推移と目標

2005年度比

2022年度

2023年度

2025年度目標

2030年度目標

2050年度目標

製品ライフサイクルCO2排出量

(スコープ1,2,3)

58%削減

(85万トン)

63%削減

(75万トン)

61%削減
(80万トン)

70%削減
(62万トン)

ネットゼロ

◆直近のCO2排出量の内訳

実績

2022年度

2023年度

スコープ1

15万トン

15万トン

スコープ2

15万トン

14万トン

主要なスコープ3

55万トン

46万トン

合計

85万トン

75万トン

(昨年度比12%削減)

 

 「再生可能エネルギー由来電力比率」では、化石燃料を利用できなくなる将来予測を踏まえ、当社の事業活動で使用する電力における再生可能エネルギー由来の割合を、中期的には2030年までに50%以上に高め、2050年までに100%にする目標を設定しており、スコープ2の削減に寄与します。再生可能エネルギー由来電力比率は、マレーシアの生産拠点における再エネ電力使用の本格稼働により、2022年度の12.3%から2023年度は約13%程度まで高まりました。

 「CO2削減貢献量(スコープ1,2,3以外での削減)」では、主にプロフェッショナルプリント事業で、アナログからデジタル印刷への作業工程変革による生産性向上を実現するデジタルプリンターの販売拡大に取り組んでおります。その結果「CO2削減貢献量」は2023年度の目標63万トンに対して実績は63万トンでした。

 また、中期経営計画の目標達成へのインセンティブを高めるとともに自社株保有の促進を図るため、中期株式報酬(業績連動型)を構成する評価指標のうち、非財務指標として「施策によるCO2排出削減量(注)」を設定しております。執行役社長及びその他の執行役の役員報酬は、中期経営計画の終了後、目標達成度に応じて0%~200%の範囲で決定され、当社株式が交付されます。

 

(注)当初「CO2排出量削減率」を指標として設定した気候変動への対応においては、生産量・販売量の影響を考慮し、「施策によるCO2排出削減量」に改定することを2024年4月23日開催の報酬委員会において決議しました。

 

② 自然資本

当社は、自然資本による事業への依存と影響、その評価及び機会とリスクに取り組んでいく姿勢を明確にするため、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Task Force on Nature-related Financial Disclosures)」の提言に賛同しております。2024年1月、スイスで開催された世界経済フォーラムにおいて、TNFDアーリーアダプター企業として登録いたしました。自然資本の依存と影響の評価及びその情報をTNFDフレームワークに沿って開示いたします。

 

〔ガバナンス〕 自然関連のリスク及び機会にかかる組織のガバナンス

 当社では、代表執行役社長が生物多様性への対応を含む環境マネジメント全体についての最高責任と権限を有し、環境マネジメントの有効性について責任を担っております。 サステナビリティマネジメント体制については、「(2)重要なサステナビリティ課題への対応に関する基本的な方針 ①ガバナンス」に記載しております。

 また自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を評価・管理する際に考慮すべきステークホルダーの影響については、当社の人権方針、人権デュー・デリジェンスに沿って考慮しております。当社の人権方針、人権デュー・デリジェンスについては、「(5)重要なサステナビリティ課題への取組み及び指標 ④人権」に記載しております

 

〔戦略〕 自然関連のリスク及び機会にかかる組織の事業・戦略・財務に対する影響

2023年5月、当社はマテリアリティの1つである「有限な資源の有効利用」について、当社の長期的な環境ビジョンである「エコビジョン2050」において2050年の定量的な目標を設定することを意思決定しました。具体的には、地球資源(注)使用ゼロに向けて、自社製品における地球資源使用量を90%以上削減するとともに、自社製品以外での地球資源の削減貢献量を拡大していきます。自社製品やサービスの提供に使用する資源において、枯渇資源に該当する地球資源に依存しない事業形態へ変革するとともに、事業活動を通じた取組みにより非財務価値を財務と同期させて企業価値を向上することを目指しております。

中期的に取り組む活動計画の具体化にあたっては、2023年9月に発表されたTNFDの提言内容を参照し、当社事業における地球資源及び生物多様性への依存と影響を評価しております。TNFDが提唱する9つのグローバル中核指標の視点においてイシューを抽出して事業活動における自然への依存と影響を評価し、リスクと機会を特定しております。

 

(注)地球資源:原油や鉱物資源等の新たな採掘を伴う資源。一般に枯渇性資源と同義

 

TNFD中核指標

当社への影響

自然の変化要因

9つの中核指標

リスク

機会

依存

土地/淡水/海洋利用の変化

1 土地の総フットプリント

2 土地/淡水/海洋利用の変化の範囲

資源の利用

3 水ストレス地域からの取水・消費

・サプライチェーン:取水制限等による高い水ストレス地域(東南アジア)からの供給量が低下

・捺染ドライプロセス:水ストレスが高い地域(インド、トルコ、イタリア)での水レス染色システム

4 土地/海洋/淡水から調達する高リスクの天然資源

・天然資源:規制強化等によるリスクの高い天然資源の供給不足

・紙:森林資源へのアクセス制限、社会嗜好変化などによる紙利用・出力機会が減少

影響

汚染・汚染除去

5 土壌汚染

・有害物質フリー技術:残留性有害物質等のフリー技術の提供

6 排水量

・デジタル印刷/捺染、インクジェット技術:水質汚染の深刻な地域(南アジア)での廃水削減技術

7 廃棄物の発生と処分

・使用済み製品:循環型社会促進策等による製品へのリサイクル義務化

8 プラスチックによる汚染

・プラスチック:循環型社会促進策等による製品への再生資源利用への要求

・再生プラスチック技術:循環型社会形成促進策等による再生技術・材料技術・センシング技術の需要増

9 非GHG大気汚染物質

 

<自然シナリオ分析の実施と結果>

 当社では、2030年の視点で業績に影響を及ぼす事業リスクと、課題解決に先手を打って対応することで創出できる事業機会を、それぞれ特定しております。政策強化により自然が保護・回復に向かう場合と、現行の延長で自然が劣化し続ける場合の2つのシナリオを想定し、リスクの発現あるいは機会獲得の可能性がある対象セグメント、分類、時間軸及び対処を、それぞれ特定しております。

 シナリオ分析を行う際の枠組みとして、自然シナリオ分析の対象事業分野の特定、重要な自然リスク及び機会の特定、自然に関するシナリオの検討、今後の対応の方向性・方針・戦略の検討のプロセスを経て実施しております。分析にあたっては、直接操業だけでなく、上流・下流における自然関連の依存・インパクトを含め、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けを行っております。

 

●政策強化により自然が保護・回復に向かう場合

 

自然に関連する「リスク」への対処

当社への依存と影響

自然の変化要因

対象セグメント

分類

時間軸

対処

調達・製造コストの上昇

循環型社会促進策等による製品への再生プラスチック資源利用への要求

影響

インダストリー事業

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策、技術

短~中期

環境ラベル新基準相当の製品サーキュラーエコノミー設計、公共調達・入札要件への対応

製品開発コストの上昇

使用済み製品へのリサイクル義務化

影響

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策

中期

環境ラベル新基準相当の製品サーキュラーエコノミー設計、公共調達・入札要件への対応

製品サービスの需要変化による売上減少

森林生態系保護による森林資源へのアクセス制限

依存

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策、市場

短~中期

ペーパーレス事業へのビジネス転換

 

自然に関連する「機会」

当社への依存と影響

自然の変化要因

対象セグメント

分類

時間軸

ビジネスパフォーマンスに関わる機会

印刷産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション技術

影響

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

アパレル産業のサプライチェーンを改革するデジタルソリューション

影響

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

生産ラインのインクジェット化による顧客のワークフロー改革、水・溶剤削減

影響

インダストリー事業

製品/サービス

短~中期

水ストレスが高い地域での水レス染色システムの需要増

依存

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

サステナビリティパフォーマンスに関わる機会

循環型社会形成促進策等による再生プラスチック技術・材料技術・センシング技術の需要増

影響

インダストリー事業

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

天然資源の持続可能な利用

中期

残留性有害物質等のフリー技術の提供

影響

インダストリー事業

生態系の保護・回復・再生

長期

 

●現行の延長で自然が劣化し続ける場合

 

自然に関連する「リスク」への対処

当社への依存と影響

自然の変化要因

対象セグメント

分類

時間軸

対処

生産能力減少による収益減

気候パターンの変化に伴う天然資源の供給量不足・供給停止

依存

インダストリー事業

慢性物理

長期

特定の天然資源に依存しない製品設計と開発

水資源の枯渇・取水制限による生産・調達拠点の生産能力低下

依存

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

インダストリー事業

慢性物理

長期

生産・調達拠点の水リスク評価、水使用量の削減

製品サービスの需要変化による売上減少

異常気象及び森林火災の発生に伴う森林資源へのアクセス制限

依存

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

慢性物理

長期

ペーパーレス事業へのビジネス転換

 

自然に関連する「機会」

 なし

 

リスクと機会の「分類」

移行リスク

政策、市場、技術、評判、法的責任

物理的リスク

急性物理、慢性物理

システミックリスク

生態系不安定化、金融不安定化

ビジネスパフォーマンスに関わる機会

市場、資本の流れと資本調達、製品/サービス、資源効率、評判資本

サステナビリティパフォーマンスに関わる機会

天然資源の持続可能な利用、生態系の保護・回復・再生

「時間軸」の定義と評価基準

長期

10年以上

中期

3~10年以内

短期

1~3年以内

「自然の変化要因」

依存

土地の総フットプリント、土地/淡水/海洋利用の変化の範囲、水ストレス地域からの取水・消費、土地/海洋/淡水から調達する高リスクの天然資源

影響

土壌汚染、排水量、廃棄物の発生と処分、プラスチックによる汚染、非GHG大気汚染物質

 

 

〔リスクとインパクト管理〕 自然関連のリスクとインパクトを識別・評価・管理するために用いるプロセス

 当社では、森林生態系等、生物多様性を含む環境リスクは、グループ全体の経営リスクの一つとして位置付け、リスクマネジメント委員会において管理しております。また、特定の自然資源への依存を有する事業においては、事業中期計画の中で、生産・調達リスクを評価・特定して対応を行っております。なお、当社のリスク管理体制・リスクマネジメントプロセスの詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。また、自然関連の依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセスについては、「〔戦略〕」に記載しております。

 

〔指標と目標〕 自然関連のリスク及び機会を評価・管理するために使用する指標と目標

 当社の長期的な環境ビジョンである「エコビジョン2050」において、「地球資源使用ゼロに向けて、自社製品における地球資源使用量を2050年までに90%以上削減する」「自社製品以外での地球資源の削減貢献量を拡大する」及び「生物多様性の修復と保全に取り組む」を目標設定しております。この長期目標を達成するためのマイルストーンとして、中期経営計画(2023-2025)に紐づく「中期環境計画2025」において管理指標を設定しております。2025年度に自社製品における地球資源使用量を20%削減すること、自社製品以外での顧客・社会における資源削減貢献量を40万トン創出することを目標として設定し、年度計画を策定して四半期ごとに達成度を確認するとともに追加施策の検討を行っております。

 また、各国地域における法規制及び条例順守に関連する環境項目につきましては、排水量、廃棄物、非GHG大気汚染物質を管理指標として設定し、定常的にモニタリングしております。

 

③ 人的資本

〔人財育成方針、人財育成及び社内環境整備方針〕

 少子高齢化による生産人口の減少やデジタル革命の進行、加えて新型コロナウイルス感染症の拡大による人々の価値観やワーク・ライフスタイルの変容といったマクロ環境の中、当社は、Imaging to the peopleという経営ビジョンを掲げ、新たな成長戦略・事業転換方針を中期経営計画にて打ち出しております。この実現のために当社が求める人財像も大きく変化しており、従業員一人ひとりが、優れた知識・知見や経験に裏打ちされた独自のスキルをもち、課題解決のために自律的に考え、行動する人財、すなわち、プロフェッショナル人財であることが必要と考えております。

 このプロフェッショナル人財のポテンシャルとパフォーマンスを最大化し、ビジネスへの貢献につなげるため、当社は、全社員の行動指標となる6バリューと社員の健康を基礎に、自己成長支援(最大150万円/年の自己啓発支援、豊富な社内教育プログラム等)、チャレンジ風土の醸成(通年の社内公募の導入等)、多様な働き方の実現(他社に先駆けた副業の解禁等)を通じて、個の力の最大化と同時にこれら人財の力を最大限引き出せる組織風土づくりに取り組んでおります。さらにこれら多様なプロフェッショナル人財をエンパワーし、強固なチームワークを実現する強いマネジメント人財の育成にも注力しております。これらを通して、「プロフェッショナル人財個々の持つ違い」が有機的につながり、違いが“力”になることで、イノベーションが生まれ、エンゲージメント(注)及びレジリエンス力が向上し、会社の持続的成長につながっていくと考えております。

 

(注)エンゲージメント向上にむけたグローバルエンゲージメントサーベイ「Your Voice」の継続的実施

 当社では、グローバルでの社員エンゲージメントサーベイを”Your Voice”と名付け、2021年度からグローバルレベルで年一回のサーベイを実施しております。2023年度は2023年10月に実施し、回答率90%を超える約3万5千人の社員から、エンゲージメントに関連する内容や職場環境に対する意見・フィードバックを得ることができました。

 当社では、この社員エンゲージメントのスコアを、2025年度に業界の平均水準まで向上させ、2030年度には業界の上位25%に入ることを目標に掲げております。2023年度のエンゲージメントスコアは6.8となり、前回よりも0.2ポイント向上しました。

 また、エンゲージメントと同様に、会社に対する満足度・ロイヤリティに関しても順調に向上しており、社員の声に向き合いながら更なる向上を目指してまいります。

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〔指標と目標〕

-DX専門技術人財の育成・活用-

 事業の選択と集中を加速させ、コニカミノルタが社会に必要とされる企業であり続けるためには、保有するコア技術を最大限に活かし、それをさらに進化させていくことができるDX専門技術人財の強化がますます重要になっていくと認識しております。

 コニカミノルタは、長年磨き続けてきたコア技術に最新のIoTやAI技術を組み合わせた「画像IoT技術」の開発に注力し、2014年度から本格的に新規事業創出に取り組み、そのために人財の育成・獲得を進めてきました。

これを軸に、DX推進に必要なロールを定義し、そのロールに紐づけた育成体系の明確化を行っております。また、各ロールの人財数とレベルを可視化し、効果的な人財配置を進めております。

 現在、2023年度末に目標としていた1,000名を超える1,085名をDX専門技術人財として認定し、その活躍の場を広げるべく、活動を進めております。

 今後はDX専門技術人財の数を、2023年度の全技術者の約35%という水準から、2024年度に各事業それぞれにおいて技術者の40%以上、2025年度には50%以上とすることを目標とし、拡大してまいります。

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-当社の多様性のある人財の姿-

 当社グループ約4万人の社員のうち、日本以外で働く社員が約4分の3を占めております。

 また、女性活躍推進という観点では約3割の社員が女性であり、いわゆる管理職に占める女性の割合について、当社グループとして20%を超えるレベルにあります。また女性人財確保が難しいとされる開発部門における女性管理職比率も8%という水準を確保しております。

 当社の強みは、これらの多様性ある人財にあり、これらの人財が有機的につながり、違いを力にできていることが重要と考えております。

 当社では、なかでも女性活躍推進を重要なステップと捉え、当社グループ並びに当社での管理職における女性比率を戦略的に高めるべく、2025年度に当社グループ23%以上、当社13%以上、2030年度に当社グループ26%以上、当社18%以上という目標を定め、この目標に向け、様々な施策を実行しております。

 例えば、当社においては、管理職候補の女性社員に対する中長期的なキャリア形成支援を2020年度から実施、また管理職へのプール人財を補強するための採用強化などを行っております。

 こうした活動を通じて、着実に管理職における女性比率は高まっており、2023年度末に当社グループでは21.1%、当社においては10.6%に達しております。

 今後も女性活躍における現場の課題に丁寧に向き合い、継続的に働きかけを行ってまいります。

 

(注)当社グループの女性管理職比率は、全グループ会社での集計が困難なため、当社及び国内連結子会社並びに200名以上の海外連結子会社の主要な約50社を集計したものです。

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 [人財強化施策]

 現在、経営戦略を実行するためのさまざまな人財強化施策を「事業の選択と集中、そしてその後の持続的成長を実現する人財創出」、「多様性の確保による経営判断の質の向上」、「組織、個人のポテンシャルとパフォーマンスの最大化」の3つのカテゴリーに分け、実行しております。以下に代表的な取組みを紹介します。

 

●事業の選択と集中、事業成長を実現する人財創出

・人財シフト

 当社が持続的成長を続けるため、中期的には、事業の選択と集中、特にインダストリー・ヘルスケアといった強化事業への人財リソースの集中が最重要と考えております。

 そのために、事業構造の変化と合わせた人財ポートフォリオの転換を積極的に行っております。すなわち、強化事業において既存人財では埋めきれない部分は、外部からのハイスペック人財の獲得、または、他事業からのシフトにより必要リソースを確保しております。一方では定年退職等による人員減も鑑み、全社的な人員増は抑制しており、個々の事業領域の成長に見合った要員管理を行っております。

 特に、キャリア採用においては、ハイスペック人財の獲得競争は年々激しくなってきております。これに対して、採用チームと事業部門が一体となったプロセスを実行し、役員自ら面談するなど、面接を「候補者の見極め」から「動機付け」の場へと意識・言動を変えながら強化事業への人財獲得を進めております。

 

・グローバル人財

 当社グループ約4万人のうち4分の3を占める海外人材の活用も優先順位の高い課題です。それを加速するためにDX関連で実績のあるスイスのビジネススクールIMDと協業し、グローバルビジネスリーダー育成を進めております。全グループの優秀人財を可視化し、選抜された人財に対し、育成プログラムや経営トップによるコーチングの提供、個別育成計画の策定を経て、実際の国境を越えたアサイメントを進めております。

 具体例としては、ヨーロッパのハイポテンシャル人財を日本本社に呼び、中期経営戦略策定メンバーに加えました。その中で、現場意見の計画への反映、そして海外販社施策との整合性を取ること等、目に見える貢献をしてくれております。ほかにもアメリカとオーストラリアの間での戦略的な人財ローテーションを実現する等、このプログラムの成果として表れております。現在はこのプログラムをプロフェッショナルプリント事業やヘルスケア事業にも拡大、実行中であり、そのほかの強化領域にも展開する準備をしてまいります。

 

・複線型人事制度

 当社では2022年にいわゆる管理職制度を単線型から複線型に変更しております。昨今のビジネス環境の変化を受け、その中で求められる管理職のミッションを明確化し、専門性を突きつめビジネスに貢献する人財「エキスパート」と、多様な人財の力を引き出し組織に活力を与え実行力を上げる組織リーダー人財「エンパワーメントリーダー」に分け、それぞれの任用要件も大幅に見直しております。またこの変更に伴い、従来の管理を連想させる「管理職」という名称を「エグゼンプト」に変更しております。

 そしてエキスパートに関しては、報酬制度も刷新し、高い成果を上げたエキスパートには執行役員レベルの報酬を提供できることとしており、これは社外優秀専門人財の採用にも大きく貢献しております。

 また、エンパワーメントリーダーには、コーチングやチームビルディング、コミュニケーションスキルをはじめとしたマネジメントスキル強化のためのプログラムを体系的に、継続的に実施しており、これは組織力、そして実行力の向上に寄与しております。

 

●多様性の確保による経営判断の質の向上

・グローバル女性リーダー

 多様性のあるマネジメントを育成していく観点で、当社では第一ステップとして、女性リーダーシップ人財のグローバルでの育成に取り組んでおります。

 この目的を「意思決定の場における多様性の確保と公平性の更なる強化」と据え、グローバルでの更なる女性リーダー創出と活用推進に向け、次世代リーダーを選抜・育成する「Women 2 Lead プログラム」を2023年度から展開しております。このプログラムは、上述のグローバルビジネスリーダー育成と同様にIMDと協働し、IMDのメソッドを活用したアセスメントを経て選抜した営業、マーケティング、財務、人事等、様々なバックグラウンドを持つ12名の次世代女性リーダー候補を第一期生として選抜、それぞれの強みと弱みの把握と理解させた上で、キャリアパス構築、リーダーとしての心構えやビジネスリーダーとしての知見等を植え付ける教育を約8ヶ月間実施しました。今後はこのプログラムの卒業人財が学びを活かし、リーダーへの確実なステップアップを実現させるべく、直属上司にとどまらず、トップマネジメントや人事部門のサポートをもって、役割拡大やアサインメント付与を実行してまいります。

 

・海外派遣プログラム「GLOW」

 将来を担うマネジメント人財のパイプラインを戦略的に強化していく「GLOWプログラム」を進めております。

このプログラムは6ヶ月短期海外派遣で、2022年度より一新し、適用範囲を日本人のみから海外グループ社員にも広げ、日本から海外だけでなく、海外から日本、海外から海外という派遣も可能としております。

 また、このプログラムは会社主導で派遣候補者を選定しミッションを与えるのではなく、強い意志をもった社員が自ら手を挙げることに始まり、様々な選考プロセスを経て選抜される点も特徴的です。派遣候補者は、自ら派遣先への受入交渉を行い、現地での貢献やミッション、そして派遣プラン策定を実施します。自らがチャレンジする機会をつかみ、現地の協力を得て目標に挑むことで、過去に培ったスキルや武器を国外でも通用するものに磨き上げながら、派遣者の多様性やグローバル視点を養い、世界と戦える真のグローバル人財の持続的な育成を目指しております。

 GLOWプログラムでは、まず2023年5月から第1期として11名の派遣を実施し、2024年4月からは第2期として10名の派遣を開始しております。

 

●組織、個人のポテンシャルとパフォーマンスの最大化

・レジリエンス

 組織の変革と成長への回帰を目指すにあたり、この変革はトップから起こすことが重要だと考え、まずは、経営層がプロフェッショナル人財・プロフェッショナル経営チームになるために当社では社長を含む役員と役員候補に対し、「レジリエンスプログラム」を導入しております。

 「レジリエンスプログラム」とは、医学・脳科学・心理学的な観点から、人と組織が最高のパフォーマンスを出すために本質的に必要な要素について学び、それを1年間かけて習慣にしていくプログラムです。

 具体的には、身体・情動・思考・精神性という4つの切り口にわかれております。例えば、脳のパフォーマンスを高めるための運動・栄養・睡眠だけではなく、困難で複雑な状況においても、高い視座と広い視点で自身と組織を統合する「人間性」も高めていくものになっております。

 経営層自らが変革することで、その影響を次世代そして会社全体に波及させ、当社がプロフェッショナル人財集団へ変貌する根幹になると考えております。

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④人権

〔人権に関する基本的な考え方と取組み〕

 人権は、全ての人間が持って生まれた権利であり、普遍的な価値の一つです。2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」が採択されたことにより、人権尊重に関する企業の責任が明確になりました。各国で人権に関連した法規制化が進み、UNGPsに沿った人権取組みの重要性が益々高まっております。

 これらの背景を踏まえて、当社グループは、UNGPsに基づき、コニカミノルタグループ人権方針を2021年9月に制定しました。本方針に基づき、当社グループの事業に関連するビジネスパートナーやその他の関係者に対しても、人権の尊重を求めております。また2022年4月に改訂したコニカミノルタグループ行動憲章においても、事業活動における最も基本的な要件の一つとして人権尊重を規定し、グローバルの従業員を対象に毎年実施するコンプライアンス研修に組み込んで周知を行いました。

 当社は、人権デュー・デリジェンスの仕組みを構築し、当社グループの事業活動や取引の結果、潜在的または顕在的に負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題を抽出し、抽出した負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題に対して影響度を評価し、特に優先度が高いと思われる人権課題(当社グループ従業員の人権、サプライチェーンにおける人権、顧客の人権)を特定しております。評価は定期的に見直すとともに、特に優先度が高いと思われる人権課題に関しては、人事/法務/調達/品質/IT/サステナビリティを担当する各部門がそれぞれ目標設定、施策の検討・実施を行っております。

 また、人権に関する懸念を通報できる制度を活用して、速やかに調査し、当社が人権に対する負の影響を直接的に引き起こした、あるいはこれに関与したことが明確である場合、社内外のしかるべき手続きを通して是正策を講じてまいります。

 

 

3【事業等のリスク】

(1)当社のリスクマネジメント体制

 当社は、当社グループの事業活動に関する諸種のリスク管理を所管するリスクマネジメント委員会を設置し、リスクマネジメント委員会規則に従い、取締役会で任命された執行役及び執行役員が以下のリスク管理体制の構築と運用にあたっております。

 当社グループの事業活動に関する事業リスク及びオペレーショナルリスクについては、執行役及び執行役員の職務分掌に基づき各執行役及び執行役員が、それぞれの担当職務ごとに管理しており、リスクマネジメント委員会はそれを支援しております。また、リスクマネジメント委員会は、グループ経営上重要なリスクに関する抽出・評価・見直しの実施、対応策の策定、管理状況の確認を定期的に行っております。

 

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当連結会計年度(以下「当期」)はグループ重要リスクとして、以下の3つのリスク項目を選定しました。

・サプライチェーンにおけるリスクマネジメント

・情報セキュリティにおけるリスクマネジメント

・当局の金融政策の変更によるリセッションの動向

 

(2)当社のリスクマネジメント体制の運用状況

 当社は、リスクマネジメント委員会を定期的(年2回)及び必要に応じて臨時に開催しております。この委員会では、企業活動に関して抽出されたリスクとその対応策を策定するとともに、リスクマネジメントシステムが有効に機能しているかどうかの検証・評価を行っております。当期は、同委員会を2回開催し、主に米中対立やウクライナ情勢及びイスラエル・パレスチナ情勢に起因するグローバルサプライチェーンの混乱及び半導体を中心とした米中ハイテク摩擦に対し、事業への影響度の高い国・地域に適用される制裁や新たな法規制等の定期的なモニタリングを実施しました。

 また、リスクマネジメント委員会の協議内容は定期的に監査委員会に報告しており、取締役会への報告は必要に応じて実施し、取締役会を構成するメンバーには月次の報告が行われております。

 なお、当社では、リスクが顕在化し企業価値に大きな影響を及ぼす状況を「危機(クライシス)」と定義し、クライシス発生時には上長経由で担当役員と危機管理担当役員へ報告し、さらに担当役員と危機管理担当役員は、代表執行役へ報告を行います。様々なリスクによって発生するクライシスに対し、当社は迅速・適切に対応するためにクライシス発生時の報告ルールを設け、執行役及び執行役員や当社子会社役員等に周知しております。その報告ルールに沿って、世界各地で発生した災害・事故、その他のクライシスに関する情報を危機管理担当役員が集中管理しております。

 

(3)事業等のリスク

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性がある主要なリスクを以下に記載しておりますが、これらのリスクは必ずしも全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられるほかのリスクの影響を将来的に受ける可能性もあります。

 また、当社は、リスクを「組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と捉えております。リスクを単にマイナスの側面からだけではなく、「機会」としてのプラスの側面からも捉えたうえで、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付けております。

 リスクへの対応と機会の考え方は、以降、個々のリスクの項目の中に記載しております。

 記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において入手可能な情報等に基づいて、当社グループが判断したものであります。

最初に、各リスク項目をリスクマップ上にプロットした図を掲載いたします。

 なお、「発生可能性」については、3年以内に発生する頻度・確率より評価し、「影響度」については、発生した際に営業利益へ与える影響より評価しております。

 また、「発生可能性」と「影響度」について、前連結会計年度(以下「前期」)より評価が変更されているリスクは、評価欄に矢印を用い、前期と当期の評価を記載しております。

 

 

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①経済環境に関するリスク

1)経済動向・市場環境

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループは、複合機やデジタル印刷システム、ヘルスケア用機器製品や遺伝子診断・創薬支援等、計測機器や光学部材、ディスプレイ材料及び関連サービス等を世界中の顧客に向けて提供しております。これらの事業の売上及び損益は各国の景気動向に大きく影響を受けます。

 当連結会計年度は、国際情勢が一段と不安定化し不確実性が高まる中、年度の後半より世界経済は減速の傾向が続きました。世界的なエネルギーや食料価格の高騰、欧米各国の金融引き締め等による世界的な景気後退懸念等、経済を取り巻く環境は厳しさを増しております。

 米国経済は、金融引き締めが続く中、安定した雇用情勢と賃金上昇による良好な家計状況に支えられ、堅調に推移しました。しかし、長期金利上昇の影響及び商業用不動産市況の悪化による金融不安に起因した景気後退のリスクが懸念されております。

欧州連合(EU)の経済は、ウクライナ情勢やイスラエル・パレスチナ情勢によるエネルギー供給の制約や価格高騰、またそれ以外の物価も高止まりしていることから経済活動は停滞しており、さらなる金融引き締めによる景気後退のリスクが懸念されております。

 中国経済は、不動産市場の長期低迷、ゼロコロナ政策の後遺症による個人消費の伸び悩み、インフラ投資抑制等により景気は停滞しました。大手不動産会社の破綻リスクが高まる等、不動産市場の低迷に起因した金融不安は解消されておらず、今後の景気回復に与える影響が懸念されております。

今後の世界経済は、ウクライナ情勢や米中対立等の地政学リスクへの警戒感や世界主要国をはじめとする金融引き締めによる悪影響が想定されます。特に、米国やEUの金融不安が拡大した場合、経済活動に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、米国における経済安全保障の強化は、自国の半導体を中心とした技術力強化に大規模な予算を投じるほか、対外的な先端技術の流出を阻止する動きに拍車がかかる可能性があります。このような動きは、先端技術や重要物資を中心に既存のサプライチェーンに大きな影響を及ぼす懸念があります。

 こうしたリスクが発生し、各国の経済活動が停滞した場合、顧客の投資抑制や消費行動の変化を引き起こし、結果として当社の予想を超えた新規機器購入の減少、競争激化に伴う販売価格下落、在庫増加等、将来にわたり当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

2)為替レートの変動

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、高い海外売上高比率が示すようにグローバルに事業活動を展開しており、為替レート変動の影響を大きく受ける状況にあります。また、外貨建ての取引から生じる当社の資産及び負債の円貨額や海外子会社の外貨建財務諸表から発生する在外営業活動体の換算差額も変動するおそれがあります。ユーロにつきましては、為替レートが1円円安に変動した場合、欧州での利益増により、営業利益に約4億円のプラスの影響を与えます。人民元も同様に、1円円安に変動した場合、中国での利益増により、営業利益に約10億円のプラスの影響を与えます。一方、米ドルについては、1円円安に変動した場合、調達・製造コスト増等により、営業利益に約1億円のマイナスの影響を与えます。

 ●対応策

 為替レート変動の影響を軽減するため、米ドル・ユーロ等の主要通貨では為替予約を中心としたヘッジを行っております。米ドルにつきましては、米ドル建ての調達と米ドル建ての売上を相殺することにより影響を軽減しております。また、多通貨建てのグローバルでのグループ間決済を、金融機関が提供するネッティングシステムを利用し行っており、子会社が持つ為替変動リスクを当社へ集約することにより為替リスクの集中管理及び効率的なヘッジを行っております。

 

 

②事業活動に関するリスク

1)デジタルワークプレイス事業 プリント環境の変化に関連するリスク

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 先進国を中心に、情報共有の媒体としての役割が紙からタブレット端末やスマートフォン等のデジタル機器に急速に移行していることに加え、新型コロナウイルス感染症拡大を契機に、世界中の企業においてリモートワーク、ハイブリッドワーク及びワークフローのデジタル化が加速しており、今後もオフィスにおけるプリント需要は継続的に減少することが予測されます。IDC(International Data Corporation)によると、2025年の世界市場における電子写真方式による総プリントボリュームは、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年レベルと比べて約3割減となると予測されております。カラープリントは2019年比で82.9%に留まるものの、モノクロプリントは63.0%まで落ち込む予測となっております。永続的にプリントボリュームが下落し続けるわけではなく、ある水準で下げ止まるという見方もあるものの、現時点では、それがどの水準で、いつなのかの確証は得られておりません。このような状況下で、今後の顧客動向に迅速に対応ができない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 今後も先進国や大企業を中心に紙文書のデジタル化が進み、複合機のスキャン需要並びにプリント出力のセキュリティ対応や管理強化等のオフィスソリューションのニーズがますます増加することが予想されます。これまで以上に、プリント出力にオフィスソリューションを組み合わせた新たな発想によるサービスやソリューションを提供できる可能性が広がると考えております。

 ●対応策

 当社グループでは、複合機を活用したスキャンサービス、ドキュメントマネジメントサービスの拡大を中心に、多様化する顧客のニーズと、オフィスにおけるプリント出力機会の減少リスクへの対応を進めております。

プリント出力契約におきましても、顧客における請求管理、支払い業務や予算管理の簡素化のため、当社では、米国を中心に当社独自のワンレート・サービス契約(注)を提供し、好評を博しております。

同契約の今後のさらなる拡大や他地域展開に加え、リモートサービス推進によるサービス効率化・省人化の加速、さらに価上昇に応じた価格対応や、インド等のプリント出力機会に成長余力のある国や地域におけるカラー複合機の設置拡大等により、プリント出力減少の環境下においても安定的な利益創出が可能な体制を構築してまいります。

 

 (注)複合機のハードウェア・消耗品・プリント管理・セキュリティ対策を含むサービスを一括提供し、定額の月額課金サブスクリプションモデルにすることで、顧客の運用管理及び導入コストの削減を図る契約形態

 

 

 

2)各国・各地域の規制

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループの事業活動の多くの部分は、北米、欧州及びアジア諸国といった日本国外で行われており、その国や地域固有の法制、規制や承認手続きの影響を受けております。米国と中国の貿易摩擦に端を発する相互関税の引き上げ、技術輸出規制等の経済措置の動向には常に十分な注意を払っておりますが、将来、各国の政府や国際的枠組による規制、例えば税制、輸出入規制、通貨規制、個人情報保護規制、デジタル関税、その他各種規則等が新規に導入される、又は変更された場合には、これらに対応するための費用が発生し、事業活動に支障をきたす可能性があります。特に、個人情報保護規制については、巨大IT企業でのターゲティング広告への規制法案や欧州GDPR等、各国で法制化、罰則が強化され、当社で推進しているDX関連事業への影響が高くなります。

 さらに、主要国における予期せぬ戦争状態等の発生により、それに対する各国の制裁措置が発動された場合、当社グループが予期しない法制、規制や承認手続き等の変更に直面するリスクがあります。

 また、特に、当社グループのヘルスケア事業では、事業活動を行っている各国の様々な医療制度や許認可の手続きの影響を受けております。医療制度改革等によって、予測できない大規模な医療行政の方針変更が行われ、その環境変化に速やかに対応できない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 新制度導入や制度改定による市場参入要件の新設・変更に迅速に対応することで、当社にとって販売機会創出あるいは事業継続強化の可能性があります。特に、環境法規制への対応、個人情報保護や情報セキュリティに関する規制への対応は、当社が強みとする環境経営やITサービス・ソリューションに追い風になるものと認識し、対応を進めております。

 また、ヘルスケア事業では、各国医療政策の情報収集、専門学会等との連携により対応を行なっております。医療政策による先端技術の導入は新たな市場創出につながります。

 ●対応策

 各国・各地域の法律・規制の動向、及び地政学リスクの変化には、常に十分な注意を払い、情報の収集に努めております。各地域の法務担当者と連携し、海外各地域の実情を把握し、必要に応じ、弁護士、コンサルタント等、専門機関の協力を得て、国あるいは地域ごとにリスクを判断し、対策を講じております。

 ヘルスケア事業においては、近年、診断向上や医師の負担軽減に役立つAIを用いた画像診断の利用が、新型コロナウイルス感染症をきっかけに増大し、かつ、医師偏在の課題解決につながる遠隔医療、未病・個別化医療のニーズを背景にした遺伝子検査等への期待が高まっております。当社は、各国の医療政策に応じた対応を進め、最先端の医療サービス実装に向けた取組みを進めてまいります。

 

 

 

3)次世代技術変化

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:中

 ●リスク

 生成AIの急速な普及や環境法規制等といったグローバル規模での中長期トレンドの進行に伴い事業環境が大きく変貌するリスクがあります。これらの変化の中で、他社に先んじた技術革新は当社グループにとって重要な競争優位の源泉ですが、競合他社が先行して類似技術や代替技術を開発し事業活用する可能性があります。また、グローバルかつ広範な視点で競争優位になり得る革新的技術を開発対象として見定め、迅速・柔軟に市場に提供できなければ、長期にわたり市場でのポジションを喪失する等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 中長期トレンドの変化は業界における企業間の競争優位性に大きな影響を持つことが予想され、新規市場への参入機会を生む場合があります。その中で、他社に先んじた技術革新による競争優位性の獲得のためにデジタル技術を駆使した開発の高速化が不可避であり、これに適応することで開発・生産が効率化されると考えられます。特にデジタル技術の変化については、生成AIを積極的に活用することで新たな事業機会を創出する可能性があります。また、競争優位を獲得・維持するためには、事業に必要な技術を全て自社で用意するのではなく、社外と連携しエコシステムを自ら迅速に再編し柔軟に対応する能力が欠かせないと認識しております。

当社グループの技術開発力と、各事業において優れた技術を持つ企業が連携することにより、多様化する顧客課題に対応した解決策を導き出す機会を得ることができると考えております。こうした取組みを通して、社会に価値を提供できる企業への変革に取り組んでまいります。

 ●対応策

 当社グループは、グローバルかつ広範な技術理解に基づき、材料・光学・微細加工・画像の4分野のコア技術とIoT・AIに代表されるデジタル技術というユニークで幅広い技術ポートフォリオを有しております。研究開発拠点が相互に連携して、幅広い技術横断視点で競争優位を確立するためのコア技術を見定め、マテリアルズ・インフォマティクス等データ駆動型の開発手法を駆使して迅速にコア技術を開発してまいります。

また、コア技術とIoT・AIを融合した「見えないものを見える化する技術」をプロダクトとして具現化し、デジタルワークプレイス、プロフェッショナルプリント、ヘルスケア、インダストリーの各事業より顧客へ提供しております。さらに生成AIをかけ合わせることにより、さらなる顧客価値の提供や業務効率化等の効果が予想されます。また、当社の技術戦略やコア技術資産を外部に積極的に発信し、環境デジタルプラットフォームや画像IoTを用いて現場のDXを加速させる「FORXAI(フォーサイ)」を介して大学、研究機関、スタートアップ等の幅広いパートナーとエコシステムを構築してまいります。これらの取組みにより、当社グループは気候変動・デジタル革命に伴う社会課題の解決に向けたイノベーションを起こし、次世代技術変化のもたらすリスクに対応してまいります。

 

 

 

 

4)新製品への移行

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループが事業展開する分野は、ハードウェア・ソフトウェアの急速な技術的進歩による製品・サービスに求められる機能の汎用化が早く、製品ライフサイクル期間内であっても性能・サービスの内容・機能の改善が求められる事業分野になります。このため、顧客・市場ニーズに対応するため常に革新的な技術開発に挑戦し、多くのリソースを投入して研究開発を行っておりますが、新製品・新サービスへの移行には多くのリスクが内在しております。例えば、開発又は生産の遅延、量産初期段階での品質問題、製造原価の変動、新製品導入に伴う現行製品への販売影響、半導体・部品・材料の調達影響等は、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、競合他社から当社新製品・新サービスと類似製品・サービスが先行投入される等競合他社の新製品・新サービス市場導入時期により当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 市場での競争力を維持・拡大するためには、顧客の声を聞き、絶え間ない改善に取り組み、顧客ロイヤリティを獲得する必要があります。そのためには顧客やパートナー企業と向き合いながら、解決すべき潜在的な課題を深く理解することが重要です。当社グループには、現場に密着した開発姿勢が根付いており、現場を観察しワークフローを洞察することにより潜在的なニーズを抽出できる機会が多くあります。これらの潜在的なニーズを開発にフィードバックすることにより、顧客価値を提供できる製品やサービスを生み出すことが可能になります。

 また、今後予想されるモノづくりの複雑化や環境配慮への社会的要求は、モノづくりにおけるプロセスモニタリングの複雑化を示唆しております。これは、当社のセンシングデバイスを中心としたモニタリング技術にとって、新製品投入の機会となり得ると考えております。

 ●対応策

 当社グループは、各事業分野において顧客満足度を継続的に高め、顧客ロイヤリティを向上させる一方、市場変化の激しい状況を考慮し、競合に対して競争力のある新製品やサービスを計画的に市場導入しております。

例として、デジタル印刷機の自動品質最適化ユニット「IQ-501(インテリジェントクオリティオプティマイザー)」では、従来印刷現場のオペレーターが時間をかけて行っていた細かな調整作業に着目し、この工程を自動化し再現性を高めることにより、顧客の生産性向上に貢献しました。偏光板用新世代光学フィルム「SANUQI(サヌキ)」では、偏光板メーカーの現場に入ることにより、新たな生産課題を発見し、課題対策を新材料の機能設計に落とし込み具現化した製品を顧客へ提供しております。また、ヘルスケア事業では、X線動画像を撮影し高度な画像解析処理を行うことで、従来のX線静止画では得られなかった、生体内の組織の動きの情報を診断情報として取得することができる「X線動態解析」をはじめとした高付加価値なイメージング解析により、簡便に高度な診療を可能とする製品・サービスを提供しております。

循環型社会への貢献の点では、再生プラスチックに高い機能性を付与してアップグレードリサイクルし、複合機をはじめとするきょう体表面に採用するほか、社外製品への展開もしております。

加えて、将来予想される環境対応型モノづくりにおいて市場が形成された際、迅速に製品の市場投入ができるよう、例えば、バイオものづくり領域におけるプロセスモニタリングに関する研究開発を外部機関と連携して実施する等の取組みを行っております。

 

 

 

5)他社との協業、企業買収等について

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、事業競争力の強化あるいは効率化の観点から、他社との協業、資本提携・企業買収等を進めております。

 企業買収等に伴い、のれん及び無形資産を計上しており、定期的に減損テストを実施しております。事業環境の変化に伴い、買収対象会社に係る将来キャッシュ・フローの低下が見込まれた場合等では、減損損失を認識する可能性があり、当社グループの経営成績及び財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 当社グループが実施する他社との協業や企業買収等は、事業競争力強化や効率化を目的とするものであり、事業ポートフォリオ強化にとって有効な手段であると考えております。双方が有する技術・製品・顧客基盤・人財等の経営資源を有効活用していくことにより、持続的な事業成長の機会が得られると認識しております。

 ●対応策

 当社グループは、他社との協業や企業買収等に際して、当社との戦略的適合性、計画の蓋然性、投資額の妥当性、リスク対応等の観点から投資評価を行ったうえで、投資の可否を見極めております。具体的には、投資回収期間及び投資額等の妥当性判断のため、投下資本に対する期待収益指標として事業別のハードルレート及び中期経営計画ごとの全社加重平均資本コストを基準の一つとして設定しております。

 また、投資実施後のモニタリングとして定期的に投資レビューを実施し、上記の加重平均資本コスト及びハードルレートの達成状況に加え、収益性、市場成長等の観点から投資案件ごとの当社企業価値への貢献状況を見極め、投資時点の計画からの変化に対しても迅速に対策を講じられるようにしております。

 

 

 

 

6)生産・調達等

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループの主力事業であるデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業及びインダストリー事業では、コスト競争力強化と市場への迅速な製品供給のために海外での生産活動を継続しております。重要な活動拠点の一つの中国では、経済発展とともに法制面の改定やインフラ整備等も進んでおりますが、法的な変化、労務政策の難しさ、人件費の上昇、輸出入規制や税制、環境規制の変更、台湾にかかわる問題等、予測困難な事態が発生する可能性があります。また、中国のみならず新たに各国の法的な変化、税制・規制見直しによる事業影響が懸念されます。継続して、世界的なインフレによる生活費上昇等の影響により、各国における最低賃金切上げによる労働者の賃金上昇リスクが高まっており、生産コストの上昇につながる可能性があります。生産活動においてこれらのリスクに対処できない場合は、当社グループの経営成績及び成長戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、特定の製品、部品や材料、及びエネルギーを世界中の複数のサプライヤーから調達する方針を取っております。それらのサプライヤーに不測の事態や震災等の自然災害が発生した場合、当社グループの生産及び供給能力に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループの生産活動において使用する鉄やアルミニウム等の金属製品、原油を原料とする石油化学製品、レアアース等の希少天然資源等の原材料価格、及びエネルギー価格の高騰は当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業では、調達及びトナー領域において他社との協業・アライアンスによりレジリエンス力を高め、グローバル競争力の強化・安定供給、さらなる事業強化を図ることで持続的な事業成長の機会が得られると認識しております。

 ●対応策

 当社グループは、生産に関するリスクへの対応及び事業環境の変化に対する柔軟性を向上させるため、日本・中国・マレーシアにおいて製品組立の生産拠点を展開しており、特に近年様々な面で高まりを見せる中国のカントリーリスクへの対応として、生産規模の大きい主力製品を中心に中国外生産の比率を高めております。

 主力事業であるデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業の消耗品における部品生産及び印刷用トナーの充填を行う拠点として、欧州・北米に当社生産拠点を展開し、消費地生産による需要変動への柔軟性を確保しております。

 主力調達地域である日本・中国・ベトナム・マレーシアにその活動に特化した部門を設置し、調達にかかわる各地域の規制・制限・変化等の情報を収集することで、対応の迅速化を図っております。

 また、サプライヤーでの品質・生産性向上を含めたコストの競争力を高めるためのコラボレーション活動を推進しております。具体的には、品質改善活動をサプライヤーと協業して推進すること、当社が保有する生産工程の自動化等の生産技術をサプライヤーに導入することにより、生産性の向上と品質・コストの競争力を高めております。

 さらに、主要な原材料・電子部品について集中的な調達を行い、市況・市場・業界変動の中でも品質・供給・コスト競争力を維持する活動を行っております。また、他社との協業・アライアンスを活用した調達機能の基盤強化を検討してまいります。

 BCP管理体制については当期から、より開発・品質保証・調達・生産で連携した体制へと強化しております。

 サプライヤーの材料調達状況、生産稼働状況、出荷等の物流状況を迅速に把握し、早期の意思決定による課題対応を推進しております。

 部品のエリア調達へのシフト加速と代替品の評価・検証から生産投入に至る一連の活動を、開発・生産・品質保証における最優先課題として対応を行い、リスク回避を継続しており、これらによる事業活動への影響を抑制しております。

 

 

 

 

7)グローバルサプライチェーン

発生可能性:中 → 高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループの生産、販売活動の多くの部分は日本国外で行われており、サプライチェーンもグローバルに展

開しております。各国・各地域の物流上の問題が当社グループのグローバルサプライチェーン全体に波及し、供給遅延により当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは中国・東南アジア諸国連合(ASEAN)における生産が多く、その拠点からグローバルに供給を行っております。中国・ASEAN各国で新たな感染症のパンデミック等による活動制限が発生した場合、港湾・空港での荷役作業の停滞・混雑により物流が滞り、販売拠点への供給に大きなリスクを及ぼす可能性があります。

 一方、製品の輸出先である欧米主要国では、主要各港での港湾労使交渉の長期化・決裂によるストライキの発生や、パナマ運河の水不足による通航制限継続、スエズ運河航行制限(喜望峰ルートへの迂回)影響による供給リードタイム延伸とコンテナ輸送費上昇の長期化等により、販売拠点における在庫不足の発生によって顧客への納品遅延による売上機会損失等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、日本国内では「2024年問題」による供給リードタイム延伸や物流コストの上昇リスクが、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 なお、「発生可能性」は、イスラエル・パレスチナ情勢の悪化による紅海・スエズ運河ルート回復の目途が立っていない状況が継続していることから、評価を「中」から「高」に変更しております。

 ●対応策

 当社グループの主力事業のひとつであるデジタルワークプレイス事業や、プロフェッショナルプリント事業では、物流実態に応じた販売拠点の在庫見通しシミュレーションを適宜実施しております。将来の在庫見通しに応じて、各地域への供給量の振り分け、物流ルートを柔軟に変更する等、販売への影響を回避しております。

 中国・ASEANの港湾課題については、新規フォワーディング会社のサービス利用や通常輸出港以外の代替港利用によりフレキシビリティを確保し、課題発生時には、生産拠点からの貨物の優先付けを行うことで、出港地側での供給リスク回避・低減に努めております。

 海上輸送については、従来取引がある主要フォワーダーとのコミュニケーション・情報連携を強化し、コンテナ船のスペースを安定的、かつ柔軟に確保しつつ、コンテナ輸送単価の上昇幅を最小限に留める交渉・調整に努めております。特に、欧州航路においては、イスラエル・パレスチナ情勢に注視しながら、喜望峰迂回ルートによる延伸日数影響を踏まえた適切な供給調整を図り、欧州販売拠点での販売に与える影響や、物流コスト増加による影響を最小化しております。

 また、日本国内においては、物流委託パートナー業者とともに「2024年問題」に最優先で取り組み、運搬できないというリスクを回避・低減しつつ、配送効率化施策等を積み上げ、物流コスト上昇の影響の吸収・最小化を図ります。

 当社グループでは、必要なものを必要な時に必要なだけ必要なところへ供給できる、柔軟な物流体制を構築し、引き続き、顧客の満足度向上に努めてまいります。

 

 

 

 

8)製造物・品質責任

発生可能性:低

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、国内外のグループ会社や生産委託先において厳格な品質保証体制を構築し、顧客に対して高い性能と信頼性を備えた製品及びサービスを提供しております。万が一、当社グループの製品あるいはサービスに欠陥が発生した場合、その欠陥に起因した損害に対して当社グループは賠償責任を負う可能性があり、また、その欠陥に対して多大な対策費用が発生する可能性があります。さらに、当該問題により、企業ブランドや製品ブランドが毀損され経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 重大品質問題を起こさない仕組み・取組みとして、品質に関する責任と権限を担う執行役又は執行役員を議長とする「品質保証責任者会議」を設置し、グループ全体の品質マネジメントを統括しております。品質に起因するリスクの極小化と顧客満足度向上に向けた方針・計画の推進・進捗確認、情報共有及び是正・改善に取り組んでおります。さらに、各事業では、品質課題についてPDCAサイクルを徹底することで継続的な品質向上に取り組んでおります。

製品品質にかかわる問題が発生した場合は、当社グループ内世界統一の「市場品質速報データベース」に情報を登録することが義務付けられており、登録された情報は即座に品質担当役員と事業責任者へ伝達され、関連部門で共有、必要な対策・情報開示が迅速に行えるようになっております。また、過去に発生した品質問題に対し、原因の解析、対策の実施及び技術・評価基準への反映を行い、再発防止に努めております。また、法的基準よりも厳しい独自の製品安全基準を設け、製品の様々な箇所について詳細に規定し確認を行っております。これらの施策をより確実に実施するため、「製品安全教育」をグループ内に展開し、品質マインドの定着に努めております。

 さらに、品質不正を起こさない仕組みとして、当社グループでは「品質不正予防ガイドライン」の策定・運用と定期的診断・監査を実施しております。継続的に、ガイドラインの内容や運用の見直し・強化、グループ本社としての指示や教育・啓蒙、各所における好事例共有等を実施し、運用の徹底を図っております。

 また、デジタル社会の進展や当社IoTサービス関連事業の拡大に伴い、セキュリティ事故のリスクも高まっております。当社グループでは、リスクの極小化に向け、サービス事業及びセキュリティ対応に関連する社内規程の運用を強化しております。製品セキュリティ事故発生時の対応と脆弱性への対策・予防として、製品の脆弱性に関する情報を全社で一元管理し必要な対応を推進するとともに、公的機関等とも連携するための全社共通組織として「KONICA MINOLTA PSIRT(注)」活動を展開しております。加えて、AIを活用した製品・サービスの販売も増えており、AIガバナンス体制を構築し、リスクアセスメントの実施と社内外のAI有識者から構成する「AI倫理審査委員会」での審議等により、AI利活用における倫理的・法的な問題発生リスクの低減に努めております。

 

 (注)KONICA MINOLTA PSIRT (Product Security Incident Response Team)、当社グループの製品脆弱性対応チーム

 

 

③その他のリスク

1)人権

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社はグローバルに事業を展開している一方で、東南アジアに多くの部品・材料の取引先があります。サプライチェーン全体での人権が十分尊重されていない場合、サプライチェーン上において児童や移民労働者が強制労働、長時間労働等の人権に関する負の影響が発生する可能性があります。こうした事態は、生産及び販売活動の停滞や企業ブランド・製品ブランドが毀損され、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、2011年に国連人権理事会において「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」が採択されたことにより、各国で人権尊重に関する国別計画(ビジネスと人権に関する国別行動計画)の策定が進められ、例えば、英国では現代奴隷法、アメリカではウイグル強制労働防止法、ドイツではサプライチェーンにおける企業のデュー・デリジェンスに関する法律等が制定されております。最近では、EUにて企業持続性デュー・デリジェンス指令(CSDDD)案の採択や強制労働法により生産された製品のEU域内での流通、EU域外への輸出を禁止する規則案の政治合意がなされる等、各国における法規制の強化が加速しております。これらに対応するための費用が発生する、法規制に対応する社内整備に工数がかかる、また予期しないような事態に対応できない場合には、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 世界各国で人権デュー・デリジェンスを実施することが政府調達要件や製品ラベル取得要件として検討されており、これに対応することは当社グループにとって販売機会の創出につながる可能性があります。

 ●対応策

 当社は、グローバルに事業を展開する企業として、コニカミノルタグループ行動憲章、コニカミノルタグループ人権方針、コニカミノルタサプライチェーン行動規範において、事業活動における最も基本的な要件の一つとして人権尊重を規定しております。また、これらの方針に基づき人権デュー・デリジェンスを実施し、人権尊重に努めるとともに当社グループの事業に関連するビジネスパートナーやその他の関係者に対しても、人権の尊重を求めております。こうした活動では国連グローバル・コンパクト(UNGC)、レスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)行動規範等、グローバルに認知された団体の活動理念を反映させております。

 人権デュー・デリジェンスにおいては、UNGPsに基づき当社グループの事業活動や取引の結果、潜在的又は顕在的に負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題を抽出し、抽出した負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題に対して影響度を評価し、特に優先度が高いと思われる人権課題を特定しております。例えばサプライチェーン(地域住民、先住民を含む)に関しては、サプライチェーン上の強制労働、児童労働、安全衛生等の人権課題に対して当社ではCSR調達の展開をはじめ、責任ある鉱物調達問題への対応をグループ全体で推進する体制を構築することで、負の影響の防止又は軽減に取り組んでおります。

 CSR調達の展開においては、RBAのフレームワークに基づいて、自己診断アンケートを使ったCSR診断、CSR監査によるリスク評価と是正を行っております。自己診断アンケートを使用したCSR診断ではアンケートの採点結果により、A~Cの3段階にランク分けし、グループ生産拠点は総合ランクA、取引先は総合ランクB以上を目標として設定しております。目標ランクに達していても、労働(人権)を含め評価が低い項目があった場合は自主的な改善をお願いしております。2023年度において、コニカミノルタグループの生産拠点5拠点、取引先30社で診断を実施し、生産拠点は全て総合ランクA、取引先は全て総合ランクB以上となり、総合ランクB未満と診断されたハイリスクな取引先はありませんでした。

 また万が一、人権侵害の申し立てが発生した場合には、ステークホルダーとの真摯な対話と速やかな調査を実行し、人権に対する負の影響を直接的に引き起こした、あるいはこれに関与したことが明確である場合は、社内外のしかるべき手続きを通じて是正策を講じてまいります。

 

 

 

2)大地震・自然災害・感染症等

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:大

 ●リスク

 当社グループは、研究開発・調達・生産・販売等の拠点を世界各国に置き、グローバルに事業活動を展開しております。地震・火災・気候変動に伴う大規模な台風・洪水・森林火災等の災害、大規模な感染症の発生、また戦争・テロ行為・サイバー攻撃等が起こった場合、当社グループの設備等が被害を受け、一時的に操業が停止し生産及び出荷の遅れにより、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 特に、首都直下、南海トラフ等における巨大地震の発生においては、想定を超えた規模で被害が発生する可能性があり得ると考えられます。

 当社グループは、防災対策や事業継続マネジメントを今後も継続して推進してまいりますが、このような事態が発生した場合、機能停止、設備の損壊、電力・水・ガス等の供給停止、公共交通機関や通信手段の停止、サプライチェーンへの被害等による顧客へのサービスの提供や製品出荷等の停止等、当社グループの事業活動の継続に影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 当社グループは、災害や、感染症の発生、戦争・テロ行為・サイバー攻撃等が起こった場合の情報を、危機管理担当役員が集中管理し、従業員の安全を最優先として適切な対応をとる体制を構築しております。

 巨大地震をはじめとした日本国内での災害に対しては防災中期計画に基づき、予防・減災対策、応急対策・初動対応、復旧・復興対策の観点でハード・ソフト両面からの対応実践力の強化を図っております。具体的には建物の耐震対策、通信・データ関連の主要サーバーの海外設置、安否確認システム・緊急時情報データベース等のITによる被災時情報共有基盤の整備等の対策を講じております。大規模災害時には国内に有する約220のグループ拠点について緊急時の情報ネットワークを構築し、被害情報の迅速な収集と、必要な支援や対策を実施できる体制を構築しております。さらに、各拠点で従業員が災害時に命を守るための自律的行動をとれるよう、定期的に実践的な防災訓練や教育を実施するとともに、働き方の変化に対応すべく、ITツールを活用し、テレワーク時においても防災体制が機能するよう整備しております。

 また、当社グループでは、事業を継続し企業としての社会的責任を遂行するとともに、顧客が必要とする製品やサービスを安定的に供給するために、主要消耗品の生産拠点の分散化によるリスクの低減、調達リスクの高い品目については代替手段の検討、在庫の確保等、対応策の有効性の確認と改善を図っております。各拠点においては、地域の自治体と連携し、自然災害発生時の避難場所や飲料水及び物資の提供等、地域貢献にも努めております。

 

 

 

 

3)気候変動・環境規制

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 世界全体が低炭素社会へ移行した場合、環境関連の法規制が厳格化するおそれがあり、追加的義務及び費用が発生する可能性があります。ステークホルダーからの再生可能エネルギー調達の要求が高まることにより、投融資を受ける機会及び販売機会の逸失、企業ブランドの低下につながる可能性があります。また、オフィスにおける紙への出力の減少、化石燃料や化石資源の代替化による製造・調達コストの増加等も当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 一方、世界各地で気候変動による物理的影響が顕在化した場合、気候災害による森林資源の被災等により、紙原材料の調達が不安定になり事業機会の損失につながる可能性があります。また、気候パターンの変化等気候変動の慢性的な影響が発現すると、原材料等の供給量が制限又は一時停止することで、当社拠点及びサプライヤーで一時的に操業が停止し、生産及び出荷が遅延する可能性があります。

 加えて、大気汚染、水質汚染、有害物質の除去、廃棄物処理、製品含有化学物質、製品リサイクル、容器包装、土壌・地下水汚染等に関する様々な環境法及び規則の適用を受けており、それらの遵守のために必要な経営資源を投入しておりますが、現在及び過去の生産活動、及び開発・販売活動にかかわる環境責任に伴う費用負担や賠償責任が発生する可能性があります。

 

 気候変動に関するリスクの詳細は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。

 ●機会

 低炭素社会への移行が加速した社会では、顧客の気候変動に関する課題の解決に貢献することで、事業機会につながる可能性があります。当社グループが培ってきた画像技術とIT技術を融合させ、社会・顧客の移行計画の実現へ貢献する新たなサービスやソリューションを提供することで、売上増大を図ることが期待できます。

 短期から中期的には、印刷産業及びアパレル産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション、製品のカーボンフットプリントを低減した機能材料、使用済みプラスチックの分別性・リサイクル率向上に貢献する材料技術やセンシング技術、インクジェット技術による生産プロセスの変革、メタンガスの漏えいの早期発見と排出量の削減に貢献できるガス漏えい検査システムを提供してまいります。

 短期的には、継続的な省エネルギー活動により自社工場での原価低減に寄与するとともに、環境・エネルギー視点で取引先やビジネスパートナーと連携することで新たなビジネス機会を創出できる可能性があると考えております。

 一方で、気候変動の影響が発現する場合においても、事業機会を生み出す可能性があると考えております。

 中期的には、異常気象・自然災害への防災・減災に貢献するセンシングソリューション、災害医療現場で活用できる画像診断ソリューション等、社会の新たな需要を取り込むことができると考えております。

 当社グループでは、こうした社会課題の解決に直結した事業を強化しております。

 ●対応策

 リスク低減策としては、当社グループでは生産工程の効率化を徹底して追求するとともに、生産技術の開発・改善を進め、CO2排出削減とコストダウンを同時に実現する「グリーンファクトリー活動」を推進しております。また、自ら培った省エネ技術・ノウハウをデジタル化して提供し、サプライヤーと一体となりエネルギー削減に取り組む「カーボンニュートラルパートナー活動」を通じて、サプライチェーン全体でのエネルギーコスト削減とCO2排出削減の最大化を目指しております。また、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指し、国際リーダーイニシアチブ「RE100」に加盟しております。

 気候変動による物理的影響が顕在化した場合への適応策として、原材料の供給ルートを粗原料まで遡り把握し、安定供給リスクが高い原材料は、調達先の複数確保や代替材料の検討に取り組んでおります。また、デジタルワークプレイス事業・プロフェッショナルプリント事業では、消耗品として供給する部品生産並びに印刷用トナーの生産及び充填を行う当社生産拠点を、日本、欧州、北米に複数展開し、消費地で供給できるレジリエンスの高いサプライチェーン体制を確保するよう努めております。

 機会最大化の仕組みとして、グリーンプロダクツを創出し、事業企画や商品企画の段階で気候変動の課題解決への貢献を最大化してまいります。

 

「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に関連事項を記載しております。

 

 

 

4)知的財産権

発生可能性:低

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:小

 ●リスク

 当社グループは、製品やサービスの開発の中で多くの技術あるいはノウハウを蓄積し、それらを保護するための知的財産権の取得に努めております。しかしながら、一部の地域・国では、知的財産権を保護する制度やその適正な運用が不十分な場合があり、第三者が当社グループの知的財産権を使用して類似製品を製造、販売することを防止できない可能性があります。

 また、当社グループでは他社の権利を侵害しないように製品等の開発を進めておりますが、見解の相違等により他社の知的財産権を侵害しているとされ、製品等の開発や販売に支障をきたす可能性や多額の損害賠償責任を負う可能性があります。さらに、現在当社グループがライセンスを受けている第三者の知的財産権の使用が将来差し止められる、あるいは不当な条件に変更される可能性があります。

 ●機会

 当社グループの事業、製品、サービス等により提供される顧客価値の源泉となる当社独自のビジネスモデル、技術、データ等の知的財産について、特許権等の知的財産権の取得、不正競争防止法によるノウハウ・データの保護要件を満たす管理等、その特性に応じた適切な保護・活用を行うことにより、知的財産を当社グループの持続的な競争優位性の維持、成長のドライバーとしております。なお、各国の産業構造や事業ライフサイクルに鑑み、当社で事業継続するよりも他社で事業化又は事業強化した方がよい場合については、当該事業に関連する特許権等の知的財産権を他社に譲渡又はライセンス供与することにより、産業界全体への貢献及び当社の収益向上を図っております。

 さらに、知的財産による社会貢献にも積極的に取り組み、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する持続可能な社会の実現を目指す技術移転のための国際的なプラットフォーム「WIPO GREEN」にパートナー企業として参画し、環境技術関連特許群をWIPO GREENに登録することでSDGsの推進に知的財産面から貢献しております。

 ●対応策

 当社グループは、技術等を保護する知的財産権(例えば特許権)を適切に取得・執行することが困難な国・地域においては、商標権等に基づいて、行政機関と協力し模倣品の押収や輸入差し止めを行う、運営業者と連携し模倣品取扱業者の電子商取引(EC)サイトへの出店差し止めを行う等、様々な方法により類似製品の流通阻止に努めております。

 他社の知的財産権に関しては、製品開発の各フェーズにおいて入念な調査・確認を実施し、他社の知的財産権を侵害していないことを商品化の要件としております。万が一、見解の相違等により他社から知的財産権の侵害を指摘された場合やライセンス条件の変更等の事態に備え、非侵害の主張やライセンス条件等の交渉・訴訟対応を行うための専門人財を当社知的財産部門に配置するとともに、経験豊富な国内外の弁護士と連携し、事案の内容に応じて適切に対応する体制を整えております。

 これらのリスク対応に加え、知的財産が競争優位性の維持・強化の有効なツールであるとの認識に基づき、当社グループの持続的な事業成長を知的財産面から推進するため、各事業の特性や事業ポートフォリオ上の位置付けに対応して事業ごとに知財戦略を構築し、戦略に沿った知財投資及び知財活動を実行しております。

 また、これらの知財戦略構築や知財活動の実効性を高めるため、知財人財育成のための戦略と施策を策定・実行し、専門知識・スキルとビジネスセンスを兼ね備えたプロ人財の育成に努めております。

 

 

 

5)人財確保

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループの新規事業を中心とした将来的な成長には、優秀な人財の継続的な獲得が欠かせないと認識しております。特に、先端技術人財であるAIのスペシャリスト等のIT人財の獲得は獲得上のコンペティターが多く、また、その業界も日本に限らずグローバルに渡るため、報酬等の一要素だけで惹きつけることは困難であり、会社の魅力や働くことの付加価値への訴求に対する重要性が増しております。

 当社グループの魅力や働くことの付加価値を高めることができない場合、人財確保がより困難になる可能性があります。

 ●機会

 当社グループは、様々な製品を創り出しており、多様な技術領域を有しております。また、デジタルワークプレイス事業等、BtoBビジネスを営む中で、豊富な「データ」を蓄積しております。このデータを活用して、製品とサービスとの組合せ、材料技術とIT技術の組合せ等、様々な組合せからなる「形」を無限に作り出せる可能性に魅力を感じるIT人財は、人財マーケットに多く存在していると考えております。

 特に、当社グループが有する豊富な顧客は、その存在そのものが、当社グループのデータビジネス展開を有利に進める基盤となっており、データ分析に魅力を感じる優秀なIT人財を獲得できる機会につながると考えております。

 さらに、副業やテレワーク、コア時間のない裁量労働等、従業員に柔軟な働き方を認めている点も、当社グループの魅力として訴求できる点になります。

 ●対応策

IT人財の獲得にあたり、データサイエンスやAI開発、アーキテクチャ開発等、複数の長期インターンシップを実施しております。この中で、社内研究開発のテーマに取り組みジョブマッチングを向上させるとともに、当社の持つ魅力を対象者に体感いただくことを通じて、人財の獲得に成功しております。また、比較的手薄であった関西地区に2020年10月、高槻サイトに「Innovation Garden OSAKA Center」を新設し、本格的な拠点展開を図ることにより、関西地区での人財確保を進めております。

さらに、海外の大学から専門性の高い外国籍のIT人財を10年以上にわたり継続採用しており、インド工科大学へのリクルート活動に加え、2022年度からはベトナムのハノイ工科大学、ベトナム大学等に対するリクルート活動を開始しております。これらの活動は、優秀なエンジニアの獲得につながるとともに、日本人の技術者にも大きな刺激となっております。

 IT人財の育成では、社内におけるIT人財の認定制度を設け、各人財が目指すべきハードルを明確にしたうえで、それに対して必要となるスキルの教育プログラムを用意しております。2023年度までに1,000名のIT技術者を育成するという目標を達成し、さらなる活用に向けた人財の配置を行っております。

 また、人事制度の見直しを行い、管理職制度に「エキスパート」職を新設し、ITを含めた専門人財のキャリアアップの道筋を明確にしております。

 DX推進による業務環境とプロセスや働き方の急速な変化により、IoT機器の一つとしてドキュメントを扱う複合機の利用方法は顧客により多様化しております。グローバル市場における様々な顧客要望に、より迅速に対応し課題を解決するソリューションを継続的に提供するため、2024年4月、ベトナムの大手IT企業と合弁会社を設立しました。これにより継続的に最先端の人財を確保し、独自の技術を維持してまいります。

 

 

 

6)情報セキュリティ

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:大

 ●リスク

 昨今、企業を狙ったサイバー攻撃の攻撃手法が高度化、巧妙化しており、中でも、ユーザーアカウントのログオン認証を窃盗し、集中管理されている社内ネットワークに侵入し管理者権限を奪取、不正操作を行うといった被害事例が国内外で多数発生しており、このようなサイバー攻撃に対するリスクは拡大しております。

 当社グループにおいても、サイバー攻撃により管理者権限が奪取された場合、不正操作等により、技術、営業秘密、人事等にかかわる当社グループの秘密情報が第三者に漏えい、不正、売買に使用される等の重大な情報セキュリティインシデントが発生する可能性があります。この場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 当社グループは顧客のセキュリティ対策強化支援も継続的に行っております。IT管理のサービスとしてネットワークやアプリケーションの脆弱性の監視・管理サービス、リスクアセスメントを行うとともに、複合機からの情報漏えいを防止するためのデータの暗号化、パスワード設定やログ管理の機能、設定状況の監視と通知サービスを行う「bizhub(ビズハブ)SECURE」をグローバルに展開しております。

 「bizhub iシリーズ」には、社内ネットワークへのウイルス拡散を防止するため、全ての文書・FAXデータのウイルスをチェックする機能を搭載しております。

 また、米国のIT管理サービスにおいては、顧客のファイヤーウォールに対して専門家が疑似ハッキングをすることにより脆弱性を診断するサービスも行っております。国内では、マネージドITサービス・「IT-Guardians

(ITガーディアンズ)」による包括的なセキュリティ対策(多層防御システム)も提供しております。

 これらの機能は継続的に更新を行っており、サイバー攻撃の手法が変化する中においても顧客のセキュリティ対策強化支援を行うことができております。

 ●対応策

 情報セキュリティについて、ネットワークの監視を行い、多様化する攻撃によるサービス停止の早期発見に努めるとともに、定期的にネットワーク侵入テストを実施し、悪用される脆弱性を早期確認する対応を行っております。また、攻撃への備えとして、サイバー保険に加入し、事故発生時の対応フローを整備、当社グループ全体を網羅したセキュリティ推進体制において速やかに対処できるようにしております。

 リモートワーク勤務を行う従業員向けに、セキュリティに配慮した物理的な勤務環境を提供するために、外部からの不正アクセス防止のため暗号化通信によるセキュアなネットワーク環境と会社支給パソコン以外の会社のネットワーク接続制限を実現しております。情報漏えい等の注意喚起のため従業員への教育等も定期的に行っております。

 さらなる対応強化のため、包括的セキュリティマネジメント体制(Security Management Office)下においてグループ各社に対しグローバルセキュリティ基準を制定し、個社ごとのセキュリティ対応レベルの自己評価とその評価に基づく対策計画の策定・実行を確認するプロセスを運用しております。これらの活動を通じグループ全体のセキュリティレベルの向上を実現してまいります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 経営者の視点による当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びにこれらの状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)重要性がある会計方針及び見積り

 当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり見積りが必要となる事項については、合理的な基準に基づき会計上の見積りを行っております。

 重要性がある会計方針及び見積りについては「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記3 重要性がある会計方針」及び「同 注記4 重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。

 

(2)経営成績の状況

 当連結会計年度(以下「当期」)における世界の経済情勢は、ウクライナ情勢などによる不確実性の高まりや世界的な物価高と各国の金融引き締め政策により、欧州を中心に経済成長は鈍化傾向にあります。米国では引き締め的な金融環境のなかでも良好な雇用情勢や所得環境による底堅い個人消費が景気を押し上げて経済が堅調に推移しました。中国では不動産不況の影響と消費低迷により経済成長が鈍化しました。日本では、物価高により消費は停滞しましたが、インバウンド需要の増加などもあり景気は緩やかに回復しております。新興国のインドは、国内外からの投資と内需がけん引して好調な景気が継続しております。

 こうした経営環境の下、当期における当社グループの連結売上高は、円安の進行もあり1兆1,599億円(前期比2.6%増)と、2003年のコニカとミノルタの経営統合以来最高の売上高となりました。地域別では、前期比で欧州は約5%、北米は約3%、アジア(除く中国)は約8%の増収、日本は約2%、中国は約1%の減収となりました。事業別ではデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業、ヘルスケア事業、インダストリー事業の全ての事業で増収となりました。

 売上高と売上総利益は、前期の半導体不足起因の受注残解消による一過性の販売増加の反動がありましたが、為替の影響もあり前期比で増加しました。また、販売費及び一般管理費の抑制に努め、為替の影響を除くと実質では費用の削減となりましたが、事業貢献利益は対前期37億円減の260億円(前期比12.5%減)となりました。営業利益は大きな減損損失を計上した前期から大幅増の260億円(前期は951億円の営業損失)となりました。

 なお、当期にプロフェッショナルプリント事業の産業印刷ユニットにおいて、フランスの印刷機器メーカーMGI Digital Technologyでの減損損失21億円や、インダストリー事業の映像ソリューションユニットにおけるプラネタリウム直営館の集客低下などによる減損損失17億円と画像IoTソリューションにおけるドイツMobotix AGの減損損失2億円を計上しました。

 一方で、プレシジョンメディシンユニットにおけるInvicro,LLCの持分譲渡に伴う公正価値評価により、売却目的保有資産に係る減損損失戻入益を36億円及びAmbry Genetics Corporationで減損損失戻入益を34億円計上しました。

 金利上昇や為替等の影響により金融収支は122億円のマイナスとなり、税引前利益は135億円(前期は1,018億円の税引前損失)となりました。また、主に海外子会社の当期損失に係る繰延税金資産を認識することができなかったことで、税負担率が高くなり親会社の所有者に帰属する当期利益は45億円となりました。前期比では大幅な増益となり(前期は1,031億円の親会社の所有者に帰属する当期損失)、2019年3月期以来の黒字となりました。

 当期において中期経営計画で非重点事業と位置付けたプレシジョンメディシンユニットは、当社における事業の戦略適合性を考慮するとともに、今後も継続して成長投資が必要であるという点を踏まえ、2024年3月に創薬支援サービスを担うInvicro,LLCをCalyx Services Inc.への全持分譲渡契約を締結し、2024年4月に譲渡が完了しました。残るプレシジョンメディシンユニット(遺伝子検査サービス)も第三者資本活用の検討を積極的に推進していく予定です。また、光学コンポーネントユニットにおいては、2023年10月にラックスビジョンズイノベーションテクノロジー有限会社と中国生産子会社2社の80%の持分譲渡契約を締結し、クロージングに向けた対応を進めております。

 なお、当期から報告セグメントの区分を変更しております。前期比較については、前期の数値を変更後の報告セグメントの区分に組み替えた数値で比較分析しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 5 事業セグメント」に記載しております。

 

セグメント別の状況は以下のとおりであります。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

 

 

(自2022.4.1

(自2023.4.1

 

 

 

 

至2023.3.31)

至2024.3.31)

 

 

 

 

億円

億円

億円

デジタルワークプレイス

売上高

6,002

6,149

146

2.4

事業

事業貢献利益

306

327

20

6.6

 

営業利益

214

329

114

53.5

プロフェッショナル

売上高

2,526

2,633

107

4.3

プリント事業

事業貢献利益

150

138

△12

△8.3

 

営業利益

135

116

△19

△14.3

ヘルスケア事業

売上高

1,378

1,389

11

0.8

 

事業貢献利益

△70

△65

4

 

営業利益

△1,115

△12

1,102

インダストリー事業

売上高

1,370

1,395

25

1.8

 

事業貢献利益

217

123

△93

△43.0

 

営業利益

134

93

△41

△30.5

小計

売上高

11,277

11,568

290

2.6

 

事業貢献利益

604

522

△81

△13.4

 

営業利益

△629

527

1,157

「その他」及び調整額

売上高

26

31

5

19.4

(注2)

事業貢献利益

△306

△262

44

 

営業利益

△321

△266

55

連結損益計算書計上額

売上高

11,303

11,599

296

2.6

 

事業貢献利益

297

260

△37

△12.5

 

営業利益

△951

260

1,212

(注1)売上高は外部顧客への売上高であります。

(注2)売上高は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 5 事業セグメント」に記載の外部顧客への売上高の「その他」、営業利益は同記載のセグメント利益(△は損失)の「その他」と「調整額」の合計であります。

(注3)当期の第1四半期連結会計期間から、従来「インダストリー事業」に含めていた一部の事業を「その他」に含めております。また、報告セグメントごとの業績をより適切に評価するため、本社業務にかかわる費用の一部は報告セグメントに帰属しない全社費用として各報告セグメントに配賦しないこととし、報告セグメント利益又は損失の測定方法の変更を行っております。加えて、「デジタルワークプレイス事業」及び「プロフェッショナルプリント事業」の両事業に共通する費用の配賦方法を変更しております。前連結会計年度のセグメント情報についても、当変更を反映した後の数値により作成したものを開示しております。

 

①デジタルワークプレイス事業

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 オフィスユニットでは、A3複合機の販売台数は、前期比でカラー機は87%、モノクロ機は80%、全体では84%と減少しました。これは、中国の景況が悪化したこと、また前期に欧米など主要地域において半導体不足に起因する受注残の解消という一過性の販売増があった反動を受けたことが主な要因です。消耗品やサービスなどのノンハード売上高は、前期の受注残の解消の反動を受けましたが、カラープリント量の下落緩和や、複合機連携アプリケーション・サービスの伸長、為替の影響があり全体では増収となりました。これらにより、オフィスユニットとしては、前期比で増収となりました。また直販ビジネスの強化や、主に機器生産の人員・経費の最適化による固定費削減及び部材原価低減などによるコストダウン、物流の正常化や当社の航空輸送利用減による物流費の減少により、売上総利益や事業貢献利益が増加しました。

 ITサービスなどの提供を中心とするDW-DXユニットでは、欧州において業務プロセス管理サービス、日本においてクラウド商材やAIを活用した自社開発ソリューションの販売が伸長し、前期比で増収となりました。また、販売費及び一般管理費を抑制し、事業貢献損失を縮小しました。

 これらの結果、当事業の売上高は6,149億円(前期比2.4%増)、事業貢献利益は327億円(前期比6.6%増)、営業利益は329億円(前期は減損損失の計上等もあり前期比53.5%増)と増収増益となりました。

 

②プロフェッショナルプリント事業

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 プロダクションプリントユニットでは、デジタル印刷機の販売台数は、欧州や中国での景気減速による投資抑制の影響を受けたこと、またオフィスユニット同様に前期の受注残の解消による一過性の販売増があった反動を受けたことにより、前期比でカラー機は96%、モノクロ機は84%、全体では92%と減少しました。一方で、注力している印刷速度が最も速いヘビープロダクションプリント(HPP)が前期比で131%伸長したこと、また為替影響もあり、デジタル印刷機全体で増収となりました。消耗品やサービスなどのノンハード売上高については、インドや中国での印刷需要が増加したことや、為替影響もあり増収となりました。これらの結果、プロダクションプリントユニットでは前期比で増収となりました。

 産業印刷ユニットでは、インクジェットデジタル印刷機「AccurioJet(アキュリオジェット)KM-1e」、ラベル印刷機、加飾印刷機の販売台数が増加しました。ノンハード売上高は、市場における印刷機稼働台数の増加と顧客におけるデジタル印刷化比率が高まったことで伸長しました。これらの結果、前期比で増収となりました。

 マーケティングサービスユニットでは、国内販売子会社であるコニカミノルタマーケティングサービス株式会社の連結除外により前期比で減収になりましたが、売上総利益は前期比で増加しました。

 これらの結果、当事業の売上高は2,633億円(前期比4.3%増)、人件費の高騰による影響を受けて販売費及び一般管理費が増加し、事業貢献利益は138億円(前期比8.3%減)となりました。産業印刷ユニットにおいて当第4四半期連結会計期間にフランスの印刷機器メーカーMGI Digital Technologyの減損損失を計上したことなどにより、営業利益は116億円(前期比14.3%減)となり、増収減益となりました。

 

③ヘルスケア事業

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 ヘルスケアユニットでは、Ⅹ線診断に用いられるDR(デジタルラジオグラフィー)の販売は、国内における前年度の政府補正予算による受注増からの反動と、米国での金利や人件費の高騰を背景とした設備投資の抑制により、病院市場の成長が減速したことで前期から大きく減少しました。また、日本の病院市場向け仕入れ商材の販売も減少しました。一方で、当社が注力しているⅩ線動態解析システムの販売は、米国の病院市場を中心に順調に拡大しました。これらの結果、ユニット全体では前期比で大幅な減収となりました。DRの販売減少による売上総利益の減少に加えて、生産量の減少に伴う稼働率の悪化の影響で、ヘルスケアユニットの事業貢献利益は前期から大きく減少しました。

 プレシジョンメディシンユニットでは、遺伝子検査サービスは、米国内での市場の回復を受け、生殖細胞系列遺伝子変異を評価するRNA検査を中心に遺伝子検査数が前期比で増加しました。米国で同事業を担うAmbry Genetics Corporationは、増収に伴う売上総利益の増加のほか、売掛金の回収率向上やラボの稼働率向上により、四半期ベースで継続して黒字となりました。創薬支援サービスは、米国内での治験実施状況の改善により臨床試験向けと前臨床向けともに、前期比で増収となりました。なお、上述した様に米国で同事業を担うInvicro,LLCのCalyx Services Inc.への全持分譲渡は2024年4月に完了しました。このInvicro,LLCの持分譲渡に伴う公正価値評価により、売却目的保有資産に係る減損損失戻入益36億円を計上しました。また、Ambry Genetics Corporationの事業が順調に推移していることから減損損失戻入益34億円を計上しました。

 これらの結果、当事業の売上高は1,389億円(前期比0.8%増)、プレシジョンメディシンユニットは赤字幅を縮小したものの、ヘルスケアユニットにおける売上高減少に伴う売上総利益の減少の影響を受け、事業貢献損失は65億円(前期は70億円の事業貢献損失)、営業損失は12億円(前期はのれん等の減損損失1,035億円の影響があり1,115億円の営業損失)と増収、損失の縮小となりました。

 

④インダストリー事業

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 センシングユニットでは、物体色向け計測器及び自動車の外観計測向け検査装置の売上は堅調に

増加しました。一方、光源色向け計測器は、大手顧客を中心としたディスプレイ設備投資抑制等の影響で需要の低迷が継続し、センシングユニット全体では前期比で減収となりました。

 機能材料ユニットは、当社の主力製品であるテレビのVAパネル用位相差フィルムの販売数量がセットメーカーのパネル需要の面積ベースでの増加もあり、堅調に推移しました。特に大型テレビ向け「SANUQI」フィルムは需要が強まり販売を拡大しました。また、ITデバイス、スマートフォン用薄膜フィルムのサプライチェーンにおける在庫が解消に向かい、需要が回復傾向となり、特にスマートフォン用薄膜フィルムの販売が堅調に推移し、前期比で増収となりました。さらに、新たなスマートフォン用高機能性フィルムを販売開始したほか、インダストリー事業横断でICTブランドオーナーへアプローチしたことで、次世代ディスプレイ向けの偏光板用以外の機能性フィルムを受注し、量産を開始しております。

 IJコンポーネントユニットは、サイングラフィックスプリンター向けヘッド販売が好調に推移し、特に中国上海で開催された世界最大規模のサイングラフィックス関連展示会の活況により販売が増加しました。また成長領域においては、新規市場向けへの採用事例が増えたことにより、前期比で増収となりました。

 光学コンポーネントユニットは、産業用途である半導体製造装置向けの販売は好調に推移しましたが、プロジェクタ用レンズ の販売が中国、欧州市況の影響により低調となり、前期比減収となりました。

 画像IoTソリューションユニットでは、欧米での監視カメラソリューションの販売が順調に進んだこと、また前期に買収した自動ナンバープレート認識ソリューションを提供するVAXTOR Technologies,S.L.(本社:スペイン)の販売が好調を維持したことから、前期比で増収となりました。

 映像ソリューションユニットでは、プラネタリウム直営館での集客は計画を下回ったものの前期並みであったこと、また2019年に買収したデジタルプラネタリウムの世界的トップメーカーであるRSA Cosmos S.A.(本社:フランス)の販売が好調に推移したことなどにより、前期比で増収となりました。

 これらの結果、当事業の売上高は1,395億円(前期比1.8%増)、事業貢献利益はセンシングユニットにおける売上高減に伴う売上総利益の減少などにより123億円(同43.0%減)となりました。営業利益は、画像IoTソリューションユニット及び映像ソリューションユニットにおける減損損失や、光学コンポーネントユニットにおける中国の生産子会社の持分譲渡における一過性費用の増加などにより、93億円(同30.5%減)と増収減益となりました。

 

(3)財政状態の状況

 

 

前連結会計年度末

当連結会計年度末

増減

資産合計             (億円)

14,137

13,880

△257

負債合計             (億円)

9,138

8,346

△792

資本合計             (億円)

4,998

5,533

535

親会社の所有者に帰属する持分合計(億円)

4,874

5,398

523

1株当たり親会社所有者帰属持分    (円)

986.87

1,091.68

104.81

親会社所有者帰属持分比率     (%)

34.5

38.9

4.4

 

当連結会計年度末(以下「当期末」)の資産合計は、前期末比257億円(1.8%)減少し1兆3,880億円となりました。これは主に、現金及び現金同等物の減少534億円、棚卸資産の減少230億円、有形固定資産の減少69億円、売却目的で保有する資産の増加366億円、のれん及び無形資産の増加120億円、営業債権及びその他の債権の増加60億円によるものであります。

 負債合計については、前期末比792億円(8.7%)減少し8,346億円となりました。これは主に、社債及び借入金の減少424億円、その他の金融負債の減少346億円、営業債務及びその他の債務の減少66億円、売却目的で保有する資産に直接関連する負債の増加107億円によるものであります。

 資本合計については、前期末比535億円(10.7%)増加し5,533億円となりました。

 親会社の所有者に帰属する持分合計は、前期末比523億円(10.7%)増加し5,398億円となりました。これは主に、その他の資本の構成要素(主に在外営業活動体の換算差額)の増加491億円によるものであります。

 これらの結果、1株当たり親会社所有者帰属持分は1,091.68円となり、親会社所有者帰属持分比率は4.4ポイント増加の38.9%となりました。

 

(4)キャッシュ・フローの状況

(単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

133

833

700

投資活動によるキャッシュ・フロー

△374

△445

△70

(フリー・キャッシュ・フロー)

△241

388

629

財務活動によるキャッシュ・フロー

843

△968

△1,811

 

 当期の連結キャッシュ・フローの状況は、営業活動によるキャッシュ・フロー833億円の収入と、投資活動によるキャッシュ・フロー445億円の支出の結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは388億円のプラスとなりました。

 また、財務活動によるキャッシュ・フローは968億円の支出となりました。

 そのほかに、現金及び現金同等物に係る為替変動の影響額があり、当期末の現金及び現金同等物の残高は、前期末比509億円減少の1,296億円となりました。

 

 当期における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 税引前利益135億円に、減価償却費及び償却費757億円、棚卸資産の減少による増加388億円等によるキャッシュ・フローの増加と、営業債務及びその他の債務の減少による減少242億円等によるキャッシュ・フローの減少により、営業活動によるキャッシュ・フローは833億円の収入となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 有形固定資産の取得による支出272億円、無形資産の取得による支出178億円等により、投資活動によるキャッシュ・フローは445億円の支出となりました。

 

 この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは388億円のプラス(前期は241億円のマイナス)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 短期借入金の純減少額555億円、非支配株主持分からの子会社の持分取得による支出320億円、社債の償還及び長期借入金の返済による支出277億円等による支出と、社債の発行及び長期借入れによる収入402億円等の収入により、財務活動によるキャッシュ・フローは968億円の支出(前期は843億円の収入)となりました。

 

(5)生産、受注及び販売の実績

①生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

前期比

 

百万円

デジタルワークプレイス事業

345,539

99.9

プロフェッショナルプリント事業

ヘルスケア事業

12,711

86.8

インダストリー事業

125,709

100.3

 報告セグメント計

483,960

99.6

その他

0

-

合計

483,960

99.6

(注1)金額は、売価換算値で表示しております。

(注2)デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業につきましては、共通の設備にて生産を行っておりますので、当該生産拠点における生産実績を記載しております。

 

②受注実績

 当社グループは見込み生産を主としておりますので、記載を省略しております。

 

③販売実績

 販売状況については、「(2)経営成績の状況」において各セグメントの業績に関連付けて示しております。

 

(6)資本の財源及び資金の流動性

①資本政策の基本的な方針

当社は、事業の選択と集中、コスト削減と経営資源の適正化を進め、中長期的な企業価値向上に向けた持続的な成長を支えるための最適な資本政策を実施していきます。

特にキャッシュ・フロー創出力の強化と資本効率(ROE・ROIC)の向上を重視し、その実現に向けて、「成長投資の実施」、「財務基盤の強化」及び「株主還元の充実」について、これらの最適バランスを目指した資本政策を推進し、資本効率を意識した最適な資本・負債構成を目指します。

1)資本効率の向上

資本コストを重視し、資本コストを安定的に上回るROE・ROICの向上を目指します。ROEの改善ドライバーとして当期純利益率の改善を重視し、バランスの取れた財務基盤を維持しつつ、資本効率の向上を図ります。

加えて、KM-ROIC(注1)及び投下資本収益(注2)という独自指標を設定し、両指標の最大化を通して事業毎の収益性を評価し、資本効率と企業価値の継続的な向上を実現していきます。

2)株主還元の充実

連結業績や成長分野への投資、キャッシュ・フローなどを総合的に勘案し、配当を基本として利益還元の充実に努めます。自己株式の取得については、当社の財務状況や株価の推移等も勘案しつつ、利益還元策の一つとして適切に判断していきます。

3)財務健全性の担保

当社は、財務ガバナンスの強化、財務リスクの最小化、資金効率の向上、株主資本の充実により、財務基盤をより強固なものとしながら、事業の選択と集中に従った成長投資を進めていきます。

 

(注1)KM-ROIC:事業利益を投下資本で除した比率であり、事業活動のために投下した資本を使って、どれだけ事業利益を生み出したかを示す指標であります。

(注2)投下資本収益:事業収益から投下資本コストを控除した収益であり、どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標であります。

     投下資本収益の最大化によりROICの向上を図ります。

 

当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、以下のとおりであります。

 

②資金需要

当社グループの主な資金需要は、製造費用、販売費及び一般管理費等の営業費用並びに当社グループの設備新設、改修等に係る投資や、将来の成長及び企業価値向上を目的としたM&Aによる投資であります。

 

③資金の源泉

当社グループの資金の主な源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入や社債の発行による資金調達であります。

 

④資金調達についての方針

当社グループは、円滑な事業活動に必要な流動性の確保と財務の健全性・安定性維持を資金調達の基本方針とし、主に金融機関からの短期借入及び長期借入や社債の発行により資金調達を行っております。社債については、国内社債発行登録枠を有しており、当社の既発行社債の債券格付、発行登録予備格付はともに株式会社格付投資情報センター(R&I)及び株式会社日本格付研究所(JCR)からA格を取得しております。長期資金の調達に際しては、償還や返済の時期を分散することにより借り換えリスクの低減を図っております。また、資金調達は主に当社が行っており、必要資金を関係会社に主にキャッシュ・マネジメント・システムを通じて供給することで資金調達の一元化や効率化を図っております。

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(注)2018年3月31日以降の残高には、ハイブリッドローンが含まれております。格付機関の評価により、資金調達額1,000億円の50%に対して資本性の認定をうけております。

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(注)ハイブリッドローンは、2027年10月以降の各利払日に元本の全部又は一部を返済期限(2057年10月)前に返済することが可能となっております。

 

⑤流動性

当社は営業活動によるキャッシュ・フローに加え、複数の金融機関との間で2026年9月末を期限とする1,000億円のコミットメントライン及び一つの金融機関との間で2024年10月末を期限とする50億円のコミットメントラインを締結するほか、アンコミットメントベースの融資枠も有しております。

また、当社グループ内の資金の効率化については、日本・北米・欧州・アジアパシフィックの各統括拠点においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、各地域の余剰資金を当社へ集中し一元的に管理を行うことにより、資金効率の向上と金融費用の極小化及びガバナンスの向上を図っております。なお、一時的な余剰資金は、安全性が極めて高い金融資産で運用しております。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 当社グループは、2024年3月6日にプレシジョンメディシン事業を展開する米国子会社であるREALM IDx, Inc.を通じて保有する、創薬支援のための画像解析、医療画像データ分析サービス事業を提供するInvicro, LLCの全持分を、Calyx Services Inc.に譲渡することを、代表執行役において決定し、持分譲渡契約を締結しました。なお、本持分譲渡の実行は2024年4月30日に完了しております。

 

(1)譲渡の理由

 当社グループは、医療の新潮流である個別化医療への貢献を目指し2017年にプレシジョンメディシン事業へ本格進出しており、2018年にはInvicro, LLCを含む事業会社3社を傘下に持つKonica Minolta Precision Medicine, Inc.(現:REALM IDx, Inc.)を設立し、各社が持つ強みを統合して世界的に事業展開を進めておりましたが、当事業のさらなる成長加速の実現に向けては今後も継続的に成長投資が必要である点に加え、当社の現状の財務状況を考慮した結果、2023年度~2025年度の中期経営計画においてはプレシジョンメディシン事業を非重点事業と位置づけるに至りました。

 これにより、他社への事業譲渡も含めた戦略的選択肢の検討を進めることとなり、このたび、Invicro, LLCの当社持分をCalyx Services Inc.へ譲渡することが最善の選択であると判断いたしました。

 

(2)異動する子会社の概要

名称

Invicro, LLC

所在地

119 4th Avenue, Needham, MA 02494 U.S.A.

代表者の役職・氏名

Chief Operating Officer Edward J. Hogan Jr.

事業内容

創薬支援のための画像解析、医療画像データ分析サービス事業

資本金

29,472千米ドル

設立年月日

2008年9月26日

出資者及び持分比率

REALM IDx, Inc. 100%

資本関係等

当社グループが98.6%出資するREALM IDx, Inc.が、Invicro, LLCに100%出資

 

(3)譲渡先の概要

名称

Calyx Services Inc.

所在地

1209 Orange Street, Wilmington, New Castle County, DE, 19801

代表者の役職・氏名

Chief Executive Officer David Herron

事業内容

製薬会社とグローバル臨床研究コミュニティ向けのメディカルイメージングとIRT/RTSM (Interactive Response Technology / Randomised Trial Supply Management)を持つ世界有数のサービスプロバイダー

資本金

138,310,580千米ドル

設立年月日

2020年12月10日

 

(4)譲渡価額

 譲渡価額115百万米ドル

上記に加え、当社はCalyx Services Inc.との間で条件付対価について合意しています。対象期間は2024年2月~4月の3ヶ月間で、Invicro, LLCの新規受注額に連動し最大15百万米ドルを追加で受け取ります。

 

6【研究開発活動】

当社グループは、経営理念である「新しい価値の創造」及び経営ビジョンとして「Imaging to the People」を掲げ、創業以来150年にわたりこだわり続けてきた材料・光学・微細加工・画像の4つのコア技術を高度化・融合するとともに、ICT・AI技術を組み合わせることで“見えないものをみえる化する”技術として発展させました。そして、この独自技術を活用することで顧客の課題を解決する新たな製品・サービスを各事業セグメントで開発しております。

当連結会計年度(以下「当期」)より開始された、新たな中期経営計画に基づいた基本方針に対応して、「強化領域への技術資源シフト」、「エキスパート・DX人財活用」、「成長領域への技術の仕込み」の3つを技術戦略の基本方針と定め、その初年度として推進してまいりました。

「強化領域への技術資源シフト」においては、確かな成長基盤を確立するため、強化領域であるインダストリー事業、ヘルスケア事業、プロフェッショナルプリント事業の領域に対し、技術資源投入を増強しております。

インダストリー領域における技術資源シフトの一例として、コーポレート開発で蓄積を進めるマテリアルズインフォマティクス及びプロセスインフォマティクスのノウハウをディスプレイフィルム生産工場に適応しております。生産工程に設置されたセンサーデバイスにより生産状態がモニタリングされ、製品の高品質化や生産の安定化で効果が得られております。またヘルスケア事業に対しては、次世代の超音波トランスデューサ開発にコーポレート開発の技術資源を投入し、事業拡大の加速を行っております。この開発により、超音波診断装置の感度が飛躍的に向上し、これまで超音波診断装置では見ることができなかった早期の癌を発見することが可能になると期待されます。

「エキスパート・DX人財活用」では、管理職制度を複線化して技術やビジネスで高い専門性によって変革をリードする人財として新設した「エキスパート」と、AIやデータサイエンス、ITスキル等の社内教育・認定により1,000名まで増強した「DX人財」の活躍により各事業の変革を進めています。全社の各事業が、従来の事業モデルからデータを活用した新たなビジネス創出に取り組み、全社横断で生成AI活用を推進することで業務効率化が進む等の成果が出ています。今後も各事業が成長のための必須人財として、エキスパート・DX人財の更なる育成強化と活用促進を進めてまいります。

「成長領域への技術の仕込み」においては、持続的成長に向けた技術開発テーマに投資を行い、イノベーションの加速を実施しております。特に当社では2030年に想定される社会課題からのバックキャストから5つのマテリアリティ(1.働きがい向上及び企業活性化、2.健康で質の高い生活の実現、3.社会における安全・安心確保、4.気候変動への対応、5.有限な資源の有効利用)を制定しており、環境負荷低減への貢献は技術開発のスコープの一つです。例えば、カーボンニュートラルの実現を目指した取り組みの一例としては、産業技術総合研究所と共同で「バイオプロセス技術連携研究ラボ」を設立いたしました。石油由来の材料原料から作るものづくりからの転換として、微生物を用いて非石油由来の原料から合成するバイオモノづくり技術はカーボンニュートラル実現のキーテクノロジーとして注目されています。この技術領域に対して、当社が保有するセンシング技術や、機械学習、ディープラーニング等のAI技術の強みを生かし、バイオものづくりを将来社会に拡大していく上で課題の一つである生産プロセスの“みえる化”による安定生産・スケールアップの実現に向けて取り組んでおります。

研究開発により創出される技術(発明、アイデア、ノウハウ等)については、特許権の取得に加え、著作権法・不正競争防止法等の各種法制度や契約を利用することにより、知的財産として適切な保護・活用を行い、当社グループの競争優位性の維持、成長のドライバーとしております。

新たな中期経営計画の策定に合わせて、同計画に沿った知財戦略を策定し、実行しております。具体的には、中期経営計画の基本方針のうち、特に事業の選択と集中による事業収益力の強化を推進すべく、「知財アロケーションの見直し」、「強化事業の拡大を支える知財障壁構築」等の施策を進めています。

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「知財アロケーションの見直し」においては、事業の選択と集中による強化事業の拡大をさらに推進するため、知財投資の選択と集中を進め、全社の特許出願に占める強化事業の比率を大幅に引き上げています。

「強化事業の拡大を支える知財障壁構築」においては、事業の拡大・成長を確かなものとするため、事業や製品が立ち上げ期から拡大・成長期に差し掛かるタイミングで「知財の壁」を築き、競合の参入を抑制しております。例えば、インダストリー領域の中核事業の1つである機能材料事業においては、大型ディスプレイ領域でのシェア拡大のキーとなる「SANUQI」フィルムの価値を守る「知財の壁」を構築しております。大型ディスプレイ領域の市場では各ディスプレイサイズへの効率的な対応の観点から偏光板メーカーでの広幅ライン化が加速しており、偏光板に使用する機能性フィルムにおいても広幅シフトへの対応がシェア拡大のキーとなります。「SANUQI」はCOPフィルムとしては比較的後発ながら、「溶液流延+ベルト」方式で製膜することにより、超薄膜化や多様な機能の付与によるカスタマイズが可能な点に加え、後延伸工程と組み合わせることにより柔軟に広幅化に対応可能という価値で、顧客のニーズを捉え、シェアを拡大しております。当社では、COPフィルム全般については特許に関しても競争優位のポジションではありませんが(左グラフ)、「SANUQI」の提供価値を実現する「溶液流延+ベルト」方式での製膜に集中的に出願することにより、右のグラフに示すように「知財の壁」を築き、「SANUQI」の価値について競合が参入することを抑制しております。

 

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「新樹脂全般での領域」と「溶液流延+ベルト方式領域」に関する日本特許(公開特許+登録特許)のスコアマップ

(注)株式会社パテント・リザルトの特許分析ツール「Biz Cruncher」を用いて当社にて作成いたしました。円の大きさが各社の特許件数を、横軸が最も評価の高い特許の評価値を、縦軸が特許群全体の評価値を示しております。

 

上述した環境負荷を低減する技術開発に加え、持続可能な社会の実現をめざして、省エネルギー、リサイクル可能な環境配慮型製品の開発、使用済み製品の廃材を高機能材料として再活用する技術、バイオマス由来材料を活用する技術の研究開発を進めております。複合機の本体や消耗品(トナー等)に使う石油由来材料を再生材料へ転換し、プラスチック由来のCO2排出量の削減を進めてまいります。バイオマス由来材料や廃材を複合機等の高機能材料として活用するためには、一般的に石油からのバージン材に比べて性能が低下するとともに製品品質が安定しにくいという課題があります。当社グループは、この課題を解決するために、長年使ってきたコア技術の1つである材料技術、成形加工技術を発展させ、材料開発、材料選択、加工技術の組み合わせにより、新しい樹脂開発を進めます。複合機への展開だけでなく、様々な企業と本技術を共有し実用化することで、連携の輪をグローバルに広げ、環境価値の効果を飛躍的に大きくしてまいります。

当期におけるグループ全体の研究開発費は651億円となりました。そのうち、デジタルワークプレイス事業及びプロフェッショナルプリント事業に係る研究開発費が294億円、ヘルスケア事業に係る研究開発費が122億円、インダストリー事業に係る研究開発費が142億円、その他事業及び基礎研究費用が93億円であります。各事業部門別の研究の目的及び研究成果は以下のとおりであります。

 

(1)デジタルワークプレイス事業

デジタルワークプレイス事業においては、複合機、ITサービス・ソリューション、「Workplace Hub(ワークプレイスハブ)」を組み合わせた、各種ハードウェア、ソフトウェア、システムソリューションに至るまで幅広く研究開発を実施しております。

オフィス用複合機・プリンターのラインアップ bizhub(ビズハブ) iシリーズとして、A4カラー複合機「bizhub C4051i」「bizhub C3321i」、A4カラープリンター「bizhub C4001i」、A4モノクロ複合機「bizhub 4051i」(以下、bizhub C4051iシリーズ)を開発しました。

働き方の多様化やDX推進による業務環境とプロセスの急速な変化により、ドキュメントを扱う複合機やプリンターの役割は、IoT機器の一つとしてますます大きくなっております。bizhub C4051iシリーズは、シンプルな操作性と高生産性により業務効率を向上させ、豊富なネットワーク機能と堅牢なセキュリティ機能により、働く場所や時間を柔軟に選ぶことができる多様な働き方をサポートします。

bizhub i シリーズは、複合機のパネルからアプリケーションダウンロードサイト「Konica Minolta MarketPlace」に接続し、アプリケーションをインストールすることで、操作性向上やクラウドとのスキャン連携等の機能を複合機に追加することができます。さらに、リモートメンテナンスによる常時監視・保守や自動アップデートにより複合機が最適な状態に維持されるほか、災害時の早期復旧が可能になる等、将来にわたって顧客の事業継続をサポートするサステナブルな高品質サービスの提供とあわせて企業のDXを促進しオフィスのITサービスとのタッチポイントとなり、効率的なIT活用を支援しております。

また、生産に必要な部品調達過程からメンテナンスを含む顧客先での使用期間、その後の回収と再利用のための処理にいたるまで製品ライフサイクル全体にわたって環境に配慮した製品となるよう開発しております。

開発体制の最適化として、ベトナムの大手IT企業であるFPTソフトウェアの日本法人FPTジャパンホールディングス株式会社と 複合機ソフトウェア開発に関する合弁会社を2024年4月1日付で設立することを決定しました。これにより、顧客への価値提供は維持拡大しながら、開発投資を効率化することで、中期経営計画で収益堅守事業と定めたオフィス事業の基盤をさらに強化し、安定的な収益を創出します。

さらに当社は、「Intelligent Connected Workplace」のプラットフォーマーとして顧客のDXを支援する技術を開発しております。

2020年に商用稼働した「COCOMITE(ココミテ)」はクラウドで提供する自社開発オンラインマニュアル作成・運用サービスです。人材育成・技能伝承の課題解決に着眼し、既知の業務マニュアルの作成・運用の非効率さの解消を切り口に新たに開発されました。マニュアルの効率的な作成、管理を基本機能としてリリースして以降、顧客の声・アクセスログ解析から新機能開発や改善を重ね、オンラインマニュアルコラボレーションツールに進化、成長を続けております。

また、AI技術によって、教育分野における教員の働く教育現場の課題解決に貢献するべく、2019年から文部科学省の学校における先端技術の活用に関する実証事業に取り組んでおります。学習支援サービスや学びの分析サービスを搭載した教育機関向けのトータルソリューション「tomoLinks(トモリンクス)」によって、教育のDXを広く展開し、多様な子どもたちが誰一人取り残されることなく社会とつながる個別最適化された協働的・探究的な学びに貢献しております。

 

(2)プロフェッショナルプリント事業

プロフェッショナルプリント事業においては、プロダクションプリント/産業印刷の生産性と印刷品質、自動化・省人化・スキルレスを訴求し各種印刷機やサービスソリューションに至るまで幅広く研究開発を実施し、顧客のDX支援によるプロセス改善・リモート化・分散印刷を実現してまいります。

新世代モノクロデジタル印刷システム「AccurioPress(アキュリオプレス) 7136シリーズ」、またモニター画面に近い鮮やかな色合いを表現できるハイクロマトナー(高彩度トナー)採用のデジタル印刷システム「AccurioPress C84hc」を発売しました。

さらに、複数のプロダクションプリント機の情報を一括で可視化し管理効率化と工程の継続的な改善を支援するソリューション「AccurioPro(アキュリオプロ)Dashboard」シリーズに「AccurioPro Dashboard JobManager」を追加し、印刷データ入稿から梱包・出荷まで工程全体進捗をリアルタイムでみえる化することで、効率的な生産計画の作成や修正を可能とします。

産業印刷ユニットにおいては、多様なメディアへの印刷と高い生産性、優れた画質と信頼性で新たな印刷ビジネス領域を切り開く「AccurioJet(アキュリオジェット)KM-1e」を提供し、様々なアプリケーション(出力用途)や市場からのニーズに対応しております。また、ラベル印刷では使いやすさと導入コストでご好評をいただいた「AccurioLabel(アキュリオ ラベル)230」とその上位機種である「AccurioLabel 400」を提供しております。当社初の白トナーを搭載し、自動品質最適化ユニット「IQ-520」を導入することで常に安定した画像品質を保ちます。

 

(3)ヘルスケア事業

ヘルスケア事業においては、デジタル診断にフォーカスし、データサイエンスの力をフル活用して「早期診断」と「個別化医療」を実現することで、患者様個々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を追求するとともに医療費の削減に貢献するべく研究開発を推進しております。

ヘルスケア分野では、“見えないものをみえる化する”高度なイメージング技術を重要な柱に据え、IoTプラットフォームにAI技術を活用した診断支援機能や患者ポータル等様々な高付加価値サービスを搭載・展開するための研究開発を推進しております。

当期においては、ヘルスケア分野では、X線画像診断の始まりである国産初の「さくらレントゲンフィルム」の発売から90年の節目の年を迎えました。X線画像診断に“動き”の情報を付加した「X線動態」による解析を「診断学」へ進化させるべく、国内外の大学との動態撮影に関連する有用性研究を複数開始し、成果が見え出しております。具体的には、国内の放射線技術学会において、X線動態撮影に関する発表セッションが前連結会計年度(以下「前期」)よりも倍増しました。世界中の医師や放射線技師、医学研究者の方々と新たな価値の共創を進め、動態画像に『こういう活用ができる』という意味づけをしていただき、医療界の課題解決と進歩・発展に貢献してまいります。医療IT分野では、日米アジア諸国へ各国のニーズに適合したソリューションを効率的に展開できる開発体制構築が進捗しました。国内において、患者も活用できる「infomity(インフォミティ) スマートクリニックサービス」を発売しました。これにより、医療機関と患者をつなぐインフラとなり、より日常に寄り添った医療の提供をサポートし、生活習慣病の予防や重症化予防に貢献してまいります。また、X線動画解析ワークステーション「KINOSIS(キノシス)」が公益財団法人日本デザイン振興会主催の2023年度グッドデザイン賞を受賞しました。

プレシジョンメディシンユニットでは、グループ会社のコニカミノルタREALM株式会社が、DNA及びRNAの2種類の遺伝子情報を解析する機能を併せ持つがんゲノムプロファイリング検査用システム「GenMineTOP がんゲノムプロファイリングシステム」の前期の製造販売承認に続き、日本国内で保険適用を受けて検査受託を開始しました。本システムを用いて精緻ながん診断を推進することで、患者一人ひとりの特性を鑑みた適切な治療の実現等を通じて、患者のQOL向上に寄与してまいります。

 

(4)インダストリー事業

インダストリー事業においては、センシング技術、材料コンポーネント技術、画像IoT技術を活かしたソリューションに至るまで幅広く研究開発を実施し、産業界のバリューチェーン変革推進で顧客と社会に貢献するため、産業のモノづくり最適化と安全・安心を提供してまいります。

センシング分野においては、強みである光・色・外観の計測技術を基盤として、ICT領域や自動車領域に向け、高品質な製品・ソリューションを提供しております。

ICT端末のディスプレイの高性能化、今後市場の成長が見込まれるAR/VR分野の計測需要に対応し、超低輝度領域まで測定可能な分光放射輝度計「CS-3000HDR」や次世代ディスプレイカラーアナライザー「CA-527」を開発し、ソリューションの拡大を図りました。

自動車の外観計測においてはトンネル型の塗装欠陥検査装置に加え、顧客の最終検査工程で必要となる検査機能、例えば車体のすき間・段差・キズ・へこみ等の測定を自由に組み合わせられるAll in One検査装置の提供を開始しました。

ハイパースペクトルイメージング技術においては、リサイクル分野において中赤外線分光カメラで、識別と分類が困難とされる黒色プラスチックの仕分けを実現しております。さらには、長波長赤外線分光カメラ「FX120」を開発し、鉱物調査、環境分析の用途にも新たな可能性の探索を進めております。

材料・コンポーネント分野における機能材料ユニットにおいては、液晶画面の基幹部材となる偏光板用保護フィルム向けに、従来のTAC製品に加え、新樹脂フィルム「SANUQI」(COP系)、「SAZMA」(アクリル系)等を新プラットフォームとすることでお客様の選択の自由度を高め、さらに 2.5mの超広幅品等の高付加価値商品の販売及び開発を展開しております。また原材料の使用量を減らすことができる薄型フィルムや、サプライチェーンの環境負荷やロスの低減が可能な長尺フィルム商品等、環境に配慮した商品の準備を進めております。

光学コンポーネントユニットにおいては、成長領域である半導体検査用レンズに欠かせない超高精度加工技術開発や移動体に搭載するセンサーデバイス用レンズ及び観測観察用レンズ等の開発・製品化に取り組んでおります。光学設計技術・微細加工技術に材料技術を掛け合わせた高機能コンポーネントの開発に注力し事業化推進を図ってまいります。

IJコンポーネントユニットにおいては、産業用インクジェットヘッド技術の開発、製品化に注力し、サイングラフィック領域からプリントオンデマンドの商業印刷領域、そしてプリント基板上の回路形成をはじめとした工業用途への拡大に向けて、さらなる製品ラインアップの拡充に取り組んでおります。

画像IoTソリューションユニットは、製造業・防災・セキュリティ等の領域を中心に、AIによる予知保全、安全安心確保に向けたモニタリング・ソリューションを展開しております。当期においては、ガス漏えい検知技術にAI解析を掛け合わせ、従来捉えられなかった煙の発生を、いち早く、正確に検知可能なアプリケーションを開発し、AIカメラとの組み合わせによる「火災予防ソリューション」や「高精度な自動車のライセンスプレートの検知・認識ソリューション」を展開しております。

さらに、世界的に脱炭素/環境負荷低減の機運が高まる中、国連の活動であるメタンガス排出量報告フレームワーク「OGMP2.0」推進向けた石油ガス事業者の活動が進展しております。また、米国においては米国環境保護庁(EPA)によるメタン排出規制強化への対応が石油ガス事業者に求められる中、ガス漏えいを定量化する「流量推定技術」を搭載した「ガス漏えい検査システム(GMP02)」を提供することにより、顧客の課題解決に取り組んでおります。