第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において連結会社が判断したものです。

 

(1) 会社の経営の基本方針

①  魅力ある製品で、お客様に満足を提供する。

②  変化を先取りし、世界の市場で発展する。

③  自然を大切にし、社会と共生する。

④  個性を尊重し、活力ある企業をつくる。

を経営の方針としています。

 

(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

連結会社は売上収益、営業利益及びROE(自己資本利益率)を経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として用いています。

 

(3) 対処すべき課題

当社を取り巻く環境は大きく変化しており、社会の要請を踏まえた対応が求められています。脱炭素に向けカーボンニュートラルの動きが加速、価値観の多様化により単一ではない複数の課題解決方法(マルチソリューション)の準備が求められています。また、最適生産・最適消費の循環型社会へ移行が進んでいます。こうした大きな変化を支えるため、ハードに頼るのではなく、ハードとソフトを組み合わせた統合システムのニーズが高まっています。社会の要請に対しては、自動車業界だけではなく、クルマも含めた社会全体で対応することが求められています。

 


 

 

当社は「環境」「安心」「共感」の理念を基に、環境負荷や交通事故のない社会を目指し、「地球にやさしくもっと豊かな環境が広がる社会」「誰もが安全で快適・自由に移動できる社会」の実現に取り組んできました。当社は、クルマで培ってきた強みを活かし、課題解決の視点をクルマだけの視点から、クルマも含めた社会全体に高め取り組むことで、社会課題解決に貢献します。

また、当社は創業以来、「技術で夢を形にし、お客様に貢献する」ことに拘ってきました。「形にする」とは、「コンセプトだけで終わらせるのではなく、自分たちの手で製品やシステムを具現化し、世に出せるレベルまで完成度を高める」ことを意味しています。今後も当社の理念である「環境」「安心」に基づき、クルマで培った強みを活かしつつ、「クルマ」も含めた「モビリティ社会」全体の価値最大化に貢献し、「自動車業界のTier1」から「モビリティ社会のTier1」へと進化していきます。


“クルマが進化し、クルマ以外と繋がり”、さらには“クルマの技術の適用範囲が拡がる”「モビリティ社会」において、当社は商品やサービスを利用されるエンドユーザーの視点を持って、優れた技術と確かな品質に基づく価値を、広くお客様にお届けする存在を目指します。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1) 全体像

当社は創業以来、社会のため、お客様のために、事業を通じて社会課題解決に貢献するというサステナビリティ経営を進めてきました。サステナビリティ経営の考え方は、当社の社是にも同様の精神が記され、脈々と受け継がれた当社経営の根幹であり、成長の原動力と考えています。サステナビリティ経営の着実な実践に向け、サステナビリティ方針を策定するとともに、社会課題を当社の長期ビジョン、優先取組課題(マテリアリティ)に落とし込み、事業活動を通じてその解決に取り組んでいます。当社のサステナビリティ経営の推進に向けた基本的なマネジメント体制は以下のとおりです。

 

サステナビリティ経営全体像


① ガバナンス

経営戦略本部を担当する役員(取締役副社長)を統括責任者として、経営戦略部が全社のサステナビリティ経営推進機能を担っており、方針や活動計画の立案、各部門の活動支援・フォローアップ、社内外コミュニケーション等を行っています。サステナビリティ経営の方向付けや全社活動状況のフォローアップ等は、取締役会監督のもと、会社の公式会議体(経営審議会等)で審議・報告を行っています。また、個別のサステナビリティテーマについては、主管部門が各専門委員会で審議を受け、関係部門と連携して活動を推進しています。なお、職場におけるサステナビリティ浸透の牽引役として、当社では各部門1名、国内グループ会社は各社1名、海外グループは各地域統括会社1名のサステナビリティリーダーを選任し、サステナビリティの浸透・定着・情報発信を図っています。

 

② リスク管理

当社では、多様化するリスクを最小化すべく、自社にとってのリスクを常に把握し、被害の最小化と事業継続の両面からリスクマネジメントを行っています。

具体的には、リスクマネジメント統括責任者「チーフ・リスク・オフィサー(CRO)」を議長とする「リスクマネジメント会議」を設置し、グループ全体のリスクマネジメント体制・仕組みの改善状況の確認、社内外の環境・動向を踏まえた重点活動の審議・方向付け等を推進しています。事業部、地域統括会社、国内外グループ会社においては、それぞれにリスクマネジメント責任者である「リスクオフィサー」、「リスクマネージャー」を任命し、平時における経営被害の未然防止と有事における被害最小化に向けた対応力強化を推進しています。また、クライシス発生時(有事)に迅速かつ的確に対応できるよう「緊急事態初動対応マニュアル」を制定し、事態の重要レベル判断、報告基準、報告ルート、社内外対応の基本等を明確にしています。さらに、事態の大きさや緊急度によって専門の「対策組織」を編成し、責任機能部が対策リーダーとなり、被害の最小化に向けて機動的に対応できるようにしています。

生命・環境・信用・財産・事業活動に関し、取り巻く事業環境を踏まえて予測されるリスクを抽出し、発生頻度と影響度の観点から主要なリスク項目を選定します。選定した各リスクについてはそれぞれに責任部署を定め、各リスク発生の要因・事前予防策・初動/復旧対応を明確にし、リスク耐性の強化に取り組んでいます。その中で、特にリソースを投入し対策を推進するリスクを「重点リスク」に選定し、リスクマネジメントのさらなる強化に向けた活動計画・目標の設定とリスクマネジメント会議への実績報告を行うとともに、重点リスクそれぞれに会社目標として定量的な業績評価指標(KPI)を設定し、取締役会においても活動の進捗状況を確認しています。さらに、これらのリスクマネジメントプロセスは、内部監査・外部機関による監査対象として、点検を実施しています。サステナビリティに関しては、気候変動リスク(自然災害)のほか、品質問題、火災・爆発事故、情報セキュリティ事故、遭遇事変(疫病・戦争・テロ)等を、重点リスクとして選定しています。なお、主要なリスク項目及び重点リスク項目は、社会で問題になっているテーマや当社グループでのリスク発生の頻度・影響度等を考慮し、適宜見直しを実施しています。


 

(2) 気候変動

気候変動の危機が迫るなか、当社では、持続可能なモビリティ社会のあり方を模索し、2030年長期方針で掲げた「環境」の提供価値を最大化する目標に向けてサステナビリティ経営を加速させています。2019年に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」への賛同を表明し、気候変動が事業に与える影響とそれによるリスクと機会をシナリオに基づいて分析、事業戦略へ反映していくよう検討を進めています。

 

①  ガバナンス

当社は、全社安全衛生環境委員会において、気候変動に関わる重要事項を審議・決定しています。同委員会は年2回開催され、環境経営方針「エコビジョン2025(注)」の実現に向けた短・中・長期の目標や、シナリオ分析結果を含む環境全般に関する課題と活動の進捗状況の共有、省エネルギーに関わる投資等の環境経営推進上の重要事項について協議・決定を行います。事業に重要な影響を及ぼすと判断された案件(中期経営戦略、大型投資等)については、経営審議会あるいは取締役会で審議しています。特に「カーボンニュートラル」の取り組みに関しては、取締役会が会社のカーボンニュートラル目標を決定します。そして取締役会で決定した会社目標に基づき、戦略審議会・役員検討会で中長期の方針・戦略を、年度計画全社審議会で短期の方針・目標・計画を、それぞれ審議します。目標の達成状況のモニタリングについては、全役員が参加する経営審議会及び取締役会が行います。

(注)「エコビジョン2025」:すべての企業行動を通じて、環境問題やエネルギー問題の解決と自然との共生を図り、2050年の持続可能な地域・社会の実現に向けた、その中間時点となる2025年までのアクションプラン

 

②  戦略

気候変動が事業に及ぼす影響の把握と気候関連の機会とリスクを具体化するために、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の外部シナリオをベンチマークとして参照しました。また、自動車産業のシナリオ分析を確認しつつ、自社の中長期戦略における事業環境認識と照合し、総合的にシナリオを想定の上、シナリオと自社中長期戦略との差異分析により気候関連の機会とリスクを抽出しました。

なお、上記シナリオの想定移行リスクはIEA「World Energy Outlook」の「B2DS」「SDS」シナリオをそれぞれ推進的・野心的シナリオと定義し、範囲は2040年までのCO排出量、炭素税、原油価格、再エネ率、新車電動車率を定量化し、自社戦略との差より機会とリスクを分析しました。また物理的リスクでは、IPCC第5次報告書の「RCP8.5」「RCP6.0」をそれぞれ鈍化、推進シナリオと定義し、気象災害、海面上昇、生態システム悪化、水食糧不足等を定性化し、自社戦略との差より機会とリスクを分析しました。

 

主なリスクと機会、重要項目への対応策は以下のとおりです。

 

主なリスク

重要事項

時間軸/影響

主要な財務上の潜在的影響

財務影響

(2025年度)

(注3)

対応策

対応費用

(2023年度)

(注3)

既成既存の製品及びサービスに対する新たな命令・規制

長期/

やや高い

燃費・排ガス規制厳格化加速を背景とした売上収益減少

燃費規制の厳格化や電動化(HEVを含む)の加速(2030年:47%)を想定。変化に対応できず、規制不適合により販売数減少

4,000億円

・航続距離延伸への電動化製品の省エネルギー技術開発を加速

・新燃費規制に向け、HEV等の内燃機関の燃費向上に向けた開発を加速

800億円

サイクロンや洪水等の異常気象の深刻化と頻度の上昇

長期/

やや高い

工場操業停止・サプライチェーン分断による売上収益減少

異常気象発生の可能性が高い日本・アジア(全生産の66%)において、自社工場の被災やサプライチェーン分断による操業停止で売上収益減少

1,100億円

・建物等への災害対策実施、部材購入先の複数社化等のサプライチェーンのリスクマネジメント強化

・世界の工場をIT・IoT技術でつなぎ、生産変更への即時対応可能なグローバル生産体制構築

 

93億円

カーボンプライシングメカニズム

中期/

高い

カーボンプライシング導入加速に伴うコスト競争力低下

世界の炭素税や排出量取引制度等の拡大・厳格化ですべての車載用製品に炭素コストが付加

120億円

・製造における再生可能エネルギーへの戦略的かつ段階的な切り替え

・省エネルギーや生産プロセスの効率化の活動継続

 

30億円

 

 

主な機会

重要事項

時間軸/影響

主要な財務上の潜在的影響

財務影響

(2025年度)

(注3)

対応策

対応費用

(2023年度)

(注3)

研究開発及び技術革新を通じた新製品やサービスの開発

中期/

高い

電動車の需要増加に起因する売上収益増加

インバータやサーマルの電動関連製品のほか、ヒートポンプシステム等電動車の熱効率改善技術の需要拡大

 

3,600億円

・省動力技術、小型化高出力技術等の電動化関連技術や、熱マネジメント技術の開発を加速

・新燃料(e-fuel、水素等)に対応するエンジン制御システム等の技術開発も推進

900億円

事業活動の多様化

長期/

中程度

脱炭素に資する技術需要増加に伴う売上収益増加

車載領域で培った環境技術を応用し、食農・FAや水素ビジネス(SOEC (注1)、SOFC (注2))等、非車載領域での事業機会を創出

食農・FA・水素ビジネス

3,000億円

(2030年)

・センサ・制御・ロボット等の技術を活用した農業生産技術や、排ガス浄化技術・熱マネジメント技術を活かしたエネルギー利用技術等を創出

・アライアンスの積極的な活用

170億円

より効率的な生産及び物流プロセスの活用

中期/

やや高い

全世界の工場の省エネルギー推進によるエネルギーコスト低減

生産プロセスの効率化を進め、エコビジョン2025の「エネルギー使用量を原単位で2012年度比半減」が達成した場合、年間約165万tのCOとエネルギーコストを削減

 

730億円

徹底した省エネルギー活動の継続と、低カーボンな材料・設備・生産工程の採用、Factory-IoTの導入でさらなる生産プロセスの効率化や省エネルギー生産技術開発の促進

100億円

 

(注1)SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell

(注2)SOFC:Solid Oxide Fuel Cell

(注3)2024年6月20日時点における暫定値です。確定値は2024年9月末発行予定の「統合報告書2024」において記載予定です。

 

③ リスク管理

当社では、急速に変化する事業環境の中で、多様化するリスクを常に把握し、被害の最小化と事業継続の両面からリスク管理を行っています。気候変動関連のリスクについては、全社安全衛生環境委員会で報告した上、重要項目の把握と対応を明確化しています。なお、気候変動関連のリスク(物理的リスク)は、リスクマネジメント会議が特にリソーセスを投入して対策を推進する重点リスクの一つとして選定されており、全社リスク管理の観点からもグループ全体でリスク対応を強化しています。

 

 

④  指標及び目標

「エコビジョン2025」に基づく活動計画の進捗状況や社会からの要請・期待等を踏まえ、2021年度より一層高い目標として「カーボンニュートラル」を掲げ、活動を開始しました。目標については、「2025年中期方針」にて明確化するとともに、優先取組課題(マテリアリティ)に関する「サステナビリティ目標」の一つとして会社経営目標にも落とし込み、前述の全社安全衛生環境委員会だけでなく、経営審議会及び取締役会で進捗状況を共有・フォローアップしています。具体的な会社経営目標は以下のとおりです。


ⅰ) Scope1・2 モノづくりにおけるカーボンニュートラル

<目指す姿>モノづくりにおける完全なカーボンニュートラルを達成

製造工程のさらなる効率化によりエネルギー使用量を減らしてCO排出量を減少させていくことや、太陽光等の再生可能エネルギーの利用、及び生産の過程で発生するCOを回収してエネルギーとして再利用する技術を開発・実用化させることで、モノづくりにおけるカーボンニュートラルを目指します。

2025年度には電力を100%再生可能エネルギーへ、ガスはクレジットを活用することでカーボンニュートラル化、2035年度にはクレジットを活用しない、完全なカーボンニュートラルを目指します。

 

ⅱ) Scope3(上流) サプライチェーンにおけるCO排出量削減

<目指す姿>デンソーとサプライヤーとの協働によりカーボンニュートラルを実現

サプライヤーの取り組みの進捗は千差万別であるため、サプライヤーとの積極的な対話を通じて状況を把握し、省エネルギーに関するノウハウの提供、再生可能エネルギーの調達、低CO材への変更等、サプライヤーの課題に適した支援を行っていきます。

 

ⅲ) Scope3(下流) モビリティ製品におけるカーボンニュートラル

<目指す姿>クルマの電動化に貢献しCOを可能な限り削減

HEV・BEV・FCEV等の電動車の普及を支える製品・システムの開発を通じて、クルマ使用時のCO排出量削減に貢献します。また、自動車業界で培った電動化技術を空のモビリティにも応用し、全方位でCO排出量を大きく減少させます。

 

ⅳ) エネルギー利用におけるCO排出量削減

<目指す姿>再生可能エネルギーを有効活用する技術を開発・普及し、エネルギー循環社会を実現

場所や時間の制約なく、エネルギーを高効率に「ためる」・「もどす」技術を確立し、世の中に広く普及させることで、エネルギー循環社会の実現に貢献します。


 

(注1)CO排出量(グローバル/Scope1+2)について、「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」に準じて算出しています。

(注2)2020年度より、SGSジャパン株式会社による独立した第三者検証を取得しています。

(注3)2023年度のCO排出量について、2024年5月末時点の社内算出値は95万tです。実排出量値については、2025年1月に第三者検証を取得予定です。

 

(補足情報)国際的な削減目標認定

2030年度までの温室効果ガス排出量の削減目標を策定し、これらの目標が、パリ協定が求める「世界の気温上昇を産業革命前より1.5℃に抑えることを目指す」ための科学的な根拠に基づくものであるとして、国際的イニシアティブ「SBTi(Science Based Targets Initiative)(注)」によるSBT認定を取得しました。

(注)SBTi:WWF、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトにより設立された共同イニシアティブ。企業が具体的にどれだけの量の温室効果ガスの排出をいつまでに削減しなければならないのか、科学的知見に基づいて目標を立てられるようなガイダンスを作成。科学的知見と整合した目標(SBT:Science Based Targets)に適合していると認められる企業に対して、SBT認定を付与。

 

 

(3) 人的資本

①  人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する取組

ⅰ) 戦略

資本強化の背景

当社は、1949年の創業以来、「モノづくりと研究開発を支えるのは“ヒトづくり”である」という考えに基づき、“人”を最重要経営資本と位置付け、世の中の課題を解決し、新しい“できる”を生み出す力、「実現力」を絶え間なく積み重ねてきました。その結果、180を超える世界初の技術や製品を生み出してきました。また、1954年には技術と技能の両輪を強化すべく技能養成所を開設、現在はデンソー工業学園として技能者育成を継続し、技能五輪国際大会では累計70個を超えるメダルを獲得しています。自動車産業を取り巻く環境に大きな構造変化が起きる中、モビリティだけでなく、インダストリー・ソサエティ領域でも新しい“できる”を提供すべく、品質・コスト・供給を実現する“量産の実現力”と、お客様価値・コトの事業モデル・異業種パートナー連携を実現する“事業の実現力”をさらに磨き上げていきます。

 

人と組織のビジョン“PROGRESS”

当社は、2021年度より、「実現力のプロフェッショナル集団」を目指して進化・挑戦し続けるために、人と組織のビジョン“PROGRESS”を新たに掲げ、人事施策・制度の刷新を進めています。当社が目指す人財像は“情熱で自己新記録に挑むプロフェッショナル”、組織像は“多彩なプロが出会い・共創する舞台”です。人の力と組織の力が掛け合わされることで当社らしい実現力が発揮される、という考えにより、Professional(プロ)とProgress(進化・挑戦)の2つの意味を込めたビジョンのもと、2021年度からキャリア、学び・成長、評価・処遇、働き方・カルチャーの4つの柱で人事施策・制度を刷新し、挑戦し変わり続けようとする社員を後押ししてきました。


 

デンソーにおける人的資本経営の考え方(価値創造パス)

“PROGRESS”で推進する人的資本強化の活動はどのような結果を目指し、どのような提供価値につながるか、その全体像は下図の通りです。事業環境を先取りした人事施策・制度の刷新により、人の観点では、当社で働いて良かった、夢がかなったという社員が増加し、組織の観点では、環境と安心の理念・戦略に必要な人財の質・量が充足すると考えています。社員のエンゲージメント向上と、組織・会社の人財ポートフォリオ変革という2つの結果それぞれに定量KPIを設定することで、人事施策・制度の刷新を確実に実行していきます。ただし、施策・制度を刷新すればすぐに結果が出るわけではありません。当社では、それぞれの現場で社員が効果を実感して意識・行動が変わることをゴールと位置付け、施策・制度を丁寧に運用しています。この現場の運用力が、活動の効果を最大化し、狙った結果を実現するための源泉だからです。その上で、人的資本が生み出す提供価値を測るために、「人と組織の実現力」と「事業ポートフォリオ変革」を提供価値として位置付けています。人と組織の実現力とは、人的資本をどれだけ有効活用し、社会に向け価値を創造したかという指標であり、付加価値額を人的投資で割った人的投資生産性で測ります。事業ポートフォリオ変革は、成長事業と総仕上事業のポートフォリオ入れ替えを通じ、環境・安心の理念と収益性を両立する、事業面での価値を意味します。社員のエンゲージメントが高まり、必要な人財の質・量が充足することで、実現力のプロフェッショナル集団として社員が価値を創造する力が高まり、財務的・社会的価値の向上につながると考えています。


 

 

ⅱ) 指標及び目標

a) エンゲージメントを高める取組

エンゲージメント向上

当社は、全社員約45,000名/約2,500の職場を対象としたエンゲージメント調査を毎年実施しています。調査結果から、仕事へのエンゲージメントは個人の高い目標への挑戦意欲に、組織へのエンゲージメントは職場の成果創出にそれぞれ関連することが明らかになりました。“仕事のやりがい・働き方のポジティブ度”(仕事へのエンゲージメント)と、“職場への満足度・会社への愛着”(組織へのエンゲージメント)の肯定回答率は、2021年度の70%から2023年度75%と向上しており、2025年度は78%を目指しています。調査結果の分析に基づいて、各施策の改善にも取り組んでいます。仕事・組織へのエンゲージメントを高めるために重要な、社員のキャリア実現支援や風通し良く、活力あふれる職場づくり等を推進しています。

ア) 社員のキャリア実現支援

なりたい自分の姿を描くために、20~50代の各年代別にきめ細かくキャリアプランを考える研修を開催するとともに、部下・上司間でキャリア面談・対話の実施率100%を目指しています。特に、約3,200人の上司に対しては、自組織の存在意義や仕事の意味を効果的に浸透させ共感を生み出すための相互研鑽会や、部下との対話とキャリア実現支援の実践研修を年に3回実施しています。また、社員向けキャリア相談室等の支援体制も充実させています。さらに、社内公募や異業種を含む社外トレーニーの拡充、専門性・スキルに関する自学の環境整備等の支援も進めています。

 

イ) 風通し良く、活力あふれる職場づくり

毎年のエンゲージメント調査に基づき、風通し・仕事の成果・挑戦意欲の大小の観点から職場の状態を11種類に分類し、全職場に結果や好事例をフィードバックして主体的な改善を促しています。課題が多い職場には、組織開発手法を用いた相互理解促進支援等を行い、結果として挑戦意欲の高い職場が前年度比で160職場(全体の約6%)増加しました。

 

指標

実績

(2022年度)

実績

(2023年度)

目標

2025年度

ワークエンゲージメント肯定回答率

73%

75

78

 

(注)「ワークエンゲージメント肯定回答率」は当社単体の数値を基に算出しています。

 

b) 人財ポートフォリオ変革の取組

事業ポートフォリオ変革のための人財ポートフォリオ

環境と安心の理念・戦略と収益性の両立に必要な人財の質・量の充足を目指して、経営のプロ、領域のプロ、多彩なプロの3つの切り口で人財ポートフォリオを定義し、人財の獲得・育成・配置を進めています。

 

ア) 経営のプロ

グローバルデンソーを牽引する、経営のプロ

経営と執行の一翼を担うグローバル経営リーダーを意図的・計画的に輩出すべく、候補者一人ひとりのパフォーマンスを最大化させる育成や配置を、全経営役員が参加するグローバル人財開発会議で協議し実践しています。専任のタレントマネージャーが候補者の志や強みをきめ細かく理解し、多様な経営リーダー候補の成長を支援します。また、Global Leadership Development Programでの相互研鑽やグローバルプロジェクトへの任命等を通じ、海外現地の人財育成も強化し、2030年度には海外拠点長の現地人財比率50%を目指します。

 

イ) 領域のプロ

イノベーションと価値を生み出す、領域のプロ

将来を見据えて、総仕上領域の事業から成長領域への人財シフトを全社を挙げて推進しています。特に注力している電動化・モビリティシステム領域へは、社内公募と採用強化も含め、2025年度までに約4,000人という大規模人財シフトを進めています。同時に、メカ・エレクトロニクス・ソフトウェア人財の交流・融合を図ることで、上流視点から製品と機能の最適な組み合わせを設計できるシステム領域のプロ人財育成を図ります。電動化が進む中でますます重要になるエネルギーマネジメント領域では、2025年度までに現状の約2倍に増員予定です。社員に対しては、各領域の専門性強化に向けた施策を充実させています。特に重要なソフトウェア領域では、ソフトウェアエンジニアのスキルを客観的に認定するソムリエ認定制度や、ハードからの転身チャレンジを後押しするソフトウェアリカレントプログラムを2021年度から展開し、2023年度末までに約210人が受講しています。さらに2022年度には、全社40領域で求められる専門性を535分類に再定義し、約15,000人のオフィス勤務者の専門性レベルを5段階で可視化しました。今後、本データを活用し、社員一人ひとりの専門性強化につなげていきます。全社員を対象にDXリテラシー向上施策も推進しています。全オフィス勤務者のデジタルツール活用度を4段階で可視化し、2024年度には最新デジタルツールの高度活用人財を50%に引き上げることを目標に、学び・実践の場をつくります。生産現場の社員約22,000人に対しては、2021年度より一人一台デバイスを配布し、2023年度末までに全員に配布を完了しました。オフィス・工場の垣根なく、全社員がデジタルで仕事の進め方を大きく変革します。

 

 

ウ) 多彩なプロ

多様な個性・価値観・経験が輝く、多彩なプロ

性別・性自認・性的指向、年齢、人種・国籍・宗教、障がいの有無、経験、価値観等、目に見えない違いも含め、多彩なプロが活躍できる環境・風土の実現に向けて、グローバルに取り組みを進めています。女性活躍では、採用・ライフイベントとの両立・昇格等のそれぞれにKPIを設定しています。また、事技職に加え、生産関係職の管理職数も目標を設定し、ロールモデル座談会や上司向けダイバーシティ研修を実施しています。性的マイノリティに関しては、パートナーシップ制度の導入やプライド月間での理解促進イベント等の取り組みが認められ、LGBTQ+への取り組みを評価する「PRIDE指標」にて2年連続で最高評価のゴールドを受賞しました。

 

指標

実績

(2022年度)

実績

(2023年度)

目標

2025年度

女性管理職人数

事技系 139人

技能系 136人

事技系 153

技能系 152

事技系 200

技能系 200

 

(注)「女性管理職人数」は当社単体の数値を基に算出しています。

 

②  社内環境整備に関する取組

ⅰ) 戦略

a) 安全衛生

デンソーグループとしての事業基盤の確立のためには、安全衛生管理の向上は必要不可欠です。
当社が制定した「安全衛生環境基本理念」(1969年)に基づき、「安全で働きやすい職場づくりこそ、人間尊重と高生産性を両立させ得る最善策」という方針のもと、デンソーグループにおける安全衛生の継続的な向上に取り組んでいます。

 

b) 社員とともに進める健康づくり

心身の健康は、いきいきと働くための源であり、社員とその家族の幸せに不可欠なものです。当社では、社員の健康増進を経営課題の一つと位置づけ、「健康経営(注)」を推進しています。

2016年9月に「健康宣言」を発表するとともに、健康増進に向けた社員の意識向上と職場単位の活動促進を図るため、心身両面の健康施策の充実に取り組んでいます。

また、国内外のデンソーグループ各社で健康経営を推進するため、2019年2月に「デンソーグループ健康経営基本方針」を策定しました。この基本方針をグローバルに共有し、各国・各社の実情を踏まえた健康経営を実践することで、一人ひとりの健康意識(ヘルス・リテラシー)を向上させ、より働きやすい環境づくりにグループ全体で努めていきます。

(注)「健康経営」:NPO法人健康経営研究会の登録商標

 

ⅱ) 指標及び目標

a) 安全衛生

安全衛生の向上のため、安全点(災害の大きさや種類に応じてリスクを点数化した指標、低いほど良好)について目標を設定し、災害発生に至った要因を未然防止の視点から、作業面・設備面・管理面について評価しています。

2023年度は「重大災害・爆発火災防止」と「機械作動部・重量物・薬液等の“1種災害”抑止」を重点に、部門トップによる安全コミュニケーション巡回、重量物/薬液作業のリスク再評価、高リスク設備の爆発火災防止点検等、全員参加で取り組みました。結果、重大災害・爆発火災は0件を継続、安全点目標も国内グループ・海外グループ含め達成できましたが、異常停止頻度が高い設備での災害が増加傾向で、災害要因を深掘りすると「生産への焦りから手順誤り・省略」等の背景が浮かび上がりました。今一度、「安全最優先で正しい仕事」を全員参加で推進するとともに、頻発停止等作業を急ぎたくなる生産環境へのアプローチを強化していきます。

 

安全点

区分

目標

(2023年度)

実績

(2023年度)

評価

(2023年度)

当社

45.0点

41.5点

国内グループ

31.5点

24.0点

海外グループ

44.5点

44.0点

 

(注)点数が低いほど良好。

 

b) 社員とともに進める健康づくり

「健康日本21(注1)」で目標値が設定されている「健康行動」と「健康データ」に該当する、一人ひとりの健診データより点数化した当社オリジナル指標「生活習慣スコア(注2)」を設定し、全社平均値を会社経営目標値としています。

職場の健康責任者(部門長)及び健康推進リーダーに職場別集計値を通知し、効果的な健康アクションプランを立案しています。

社員一人ひとりには強み・弱み・同年代の比較・今後取り組むべきアドバイスを記載した通知書を配布し、意識啓発を行っています。

2023年度は、健康的な生活習慣実施率の底上げによって、2017年度比10%アップを目指して活動を推進しました。また、自社開発した健康アプリ「デンソー健康ステーション(DKS)」は、生活習慣スコアのみならず、健康診断データ、社員食堂での喫食データ(カロリー・塩分量等)の確認、体重・歩数・血圧等も登録できる仕組みとなっており、日々の健康管理に活用されています。

(注1)「健康日本21」:厚生労働省が策定している生活習慣病の未然防止とともに健康寿命を延ばすことを目標に国民の健康増進を促進するための方針

(注2)「生活習慣スコア」の算出方法

「健康行動」が80点満点、「健康データ」が20点満点で構成される合計100点満点のスコアで、年に1回の健康診断の結果に基づき算出しています。

生活習慣スコア

区分

2021年度

2022年度

2023年度

目標値

76.0点

77.0点

77.0点

実績値

74.0点

74.5点

74.7点

 

(注)生活習慣スコアは当社単体ベースで算出しています。

 

 

3 【事業等のリスク】

連結会社の事業その他に関するリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を記載しています。また、必ずしもリスク要因に該当しない事項についても、投資家の判断上、重要であると考えられる事項については、投資家に対する情報開示の観点から積極的に開示しています。連結会社はこれらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努めていきます。なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月20日)現在において連結会社が判断したものです。

 

(1) 事業環境に関するリスク

①  経済状況

連結会社の全世界における営業収入のうち、重要な部分を占める自動車関連製品の需要は、連結会社が製品を販売している国又は地域の経済状況の影響を受けます。従って、日本、北米、欧州、アジアを含む連結会社の主要市場における景気後退及びそれに伴う自動車需要の縮小は、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、連結会社の事業は、競合他社が製造を行う地域の経済状況から間接的に影響を受ける場合があります。例えば、競合他社が現地でより低廉な人件費の労働力を雇用した場合、連結会社と同種の製品をより低価格で提供できることになり、その結果、連結会社の売上が悪影響を受ける可能性があります。さらに、部品や原材料を製造する地域の現地通貨が下落した場合、連結会社のみならず他のメーカでも、製造原価が下がる可能性があります。このような傾向により、輸出競争や価格競争が熾烈化し、いずれも連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性が生じることになります。

 

②  為替レートの変動

連結会社の事業には、全世界における製品の生産と販売が含まれています。各地域における売上、費用、資産を含む現地通貨建ての項目は、連結財務諸表の作成のために円換算されています。換算時の為替レートにより、これらの項目は現地通貨における価値が変わらなかったとしても、円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。一般に、他の通貨に対する円高(特に連結会社の売上の重要部分を占める米ドル、ユーロ及び元に対する円高)は連結会社の事業に悪影響を及ぼし、円安は連結会社の事業に好影響をもたらします。

連結会社が日本で生産し、輸出する事業においては、他の通貨に対する円高は、連結会社製品のグローバルベースでの相対的な価格競争力を低下させ、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。連結会社は、為替相場や金利の変動リスクを軽減するために、現地生産や通貨ヘッジ取引を行い、主要通貨間の為替レートの短期的な変動による悪影響を最小限に止める努力をしていますが、中長期的な為替レートの変動により、計画された調達、製造、流通及び販売活動を確実に実行できない場合があるため、為替レートの変動は連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③  原材料や部品の供給による影響

連結会社は、製品の製造に使用する原材料や部品を複数のグループ外供給元から調達しています。これらのグループ外供給元とは、基本取引契約を締結し、安定的な取引を行っていますが、市況の変化による価格の高騰や品不足、さらには供給元の不慮の事故等により原材料や部品の不足が生じないという保証はありません。その場合、連結会社製品の製造原価の上昇、さらには生産停止を招く等、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 事業内容に関するリスク

①  新製品開発力

連結会社は、直近売上収益の9%台を目安として研究開発投資を行う等、積極的な研究開発活動を実施しており、継続して斬新で魅力ある新製品を開発できると考えていますが、新製品の開発と販売のプロセスは、その性質から複雑かつ不確実なものであり、以下をはじめとする様々なリスクが含まれます。

ⅰ) 新製品や新技術への投資に必要な資金と資源を、今後十分充当できる保証はありません。

ⅱ) 長期的な投資と大量の資源投入が、成功する新製品又は新技術の創造へつながる保証はありません。

ⅲ) 連結会社が顧客からの支持を獲得できる新製品又は新技術を正確に予想できるとは限らず、また、これらの製品の販売が成功する保証はありません。

ⅳ) 新たに開発した製品又は技術が、独自の知的財産権として保護される保証はありません。

ⅴ) 技術の急速な進歩と市場ニーズの変化により、連結会社製品が時代遅れになる可能性があります。

ⅵ) 現在開発中の新技術の製品化遅れにより、市場の需要について行けなくなる可能性があります。

上記のリスクをはじめとして、連結会社が業界と市場の変化を十分に予測できず、魅力ある新製品を開発できない場合には、将来の成長と収益性を低下させ、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

②  価格競争

自動車業界における価格競争は大変厳しいものとなっています。特に、自動車メーカからの価格引き下げ要請は、近年、強まってきています。

また、連結会社は、連結会社が属している各製品市場と地域市場において、競争の激化に直面すると予想されます。競合先には他自動車部品メーカがあり、その一部は連結会社よりも低コストで製品を提供しています。さらに、自動車のカーエレクトロニクス化の進展に伴い、民生用エレクトロニクス製品メーカ等、新しい競合先又は既存競合先間の提携が台頭し、市場での大きなシェアを急速に獲得する可能性があります。

連結会社は、技術的に進化した高品質で高付加価値の自動車関連製品を送り出す世界的なリーディングメーカであると考える一方で、将来においても有効に競争できるという保証はありません。価格面での圧力又は有効に競争できないことによる顧客離れは、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③  製品の欠陥

連結会社は、世界中の工場で世界的に認められている品質管理基準に従って各種の製品を製造しています。しかし、全ての製品について欠陥が無く、将来にリコールが発生しないという保証はありません。また、製造物責任賠償については保険に加入していますが、この保険が最終的に負担する賠償額を十分にカバーできるという保証はありません。さらに、引き続き連結会社がこのような保険に許容できる条件で加入できるとは限りません。大規模なリコールや製造物責任賠償につながるような製品の欠陥は、多額のコストの発生や連結会社の評価が低下することに伴う売上の減少を招き、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

④  顧客企業の業績への依存

連結会社の事業の大部分を占める自動車メーカ向け部品供給事業は、世界中の自動車メーカを対象としており、提供する製品は、自動車部品におけるサーマルシステム、パワトレインシステム、モビリティエレクトロニクス、エレクトリフィケーションシステム、先進デバイス等多岐にわたります。これらの分野における顧客企業への売上は、その顧客企業の業績や連結会社が管理できない要因により影響を受ける可能性があります。また、顧客企業の価格引き下げ要請は、連結会社の利益率を低下させる可能性があります。顧客企業の業績不振、予期しない契約の打ち切り、顧客企業の調達方針の変化、大口顧客の要求に応じるための値下げは、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

連結会社の売上の約半分を、トヨタグループ向けが占めています。これらの特定の顧客グループへの売上は、その顧客企業の業績により大きな影響を受ける可能性があります。

 

⑤  企業買収・資本提携

連結会社は、既存提携関係の強化又は新規提携を行うことにより、事業の拡大、機能強化又は新技術の開発を目指しています。このため、他社との提携による新会社設立や既存企業への投資を行っており、さらに、今後も投資活動を行う可能性があります。

新規投資については、幅広い視点から十分に議論を重ねた上で実行に移していますが、投資先企業の価値が低下した場合や提携企業との間で戦略性や優先順位について不一致が生じた場合には、投資に見合った効果を享受できず、投資金額の回収が困難となり、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥  国際的活動及び海外進出に潜在するリスク

連結会社の生産及び販売活動において、北米や欧州、アジア等の海外市場の占める割合は、年々、高まる傾向にあります。これらの海外市場への事業進出には以下に掲げるようないくつかのリスクが内在しており、これらの事態が発生した場合には、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

ⅰ) 予期しない法律又は規制の変更

ⅱ) 不利な政治的又は経済的要因の発生

ⅲ) 人材の採用と確保の難しさ

ⅳ) 社会的共通資本(インフラ)が未整備なことによる事業活動への悪影響

ⅴ) 潜在的に不利な税影響

ⅵ) ストライキ、テロ、戦争、疾病、その他の要因による社会的又は経済的混乱

 

⑦  環境問題の重要性の高まりに係るリスク

連結会社は、国内及び海外の環境法規制を遵守した上で、環境負荷の低減と高効率な移動の実現に取り組んでいます。具体的には、会社の環境方針「エコビジョン2025」に基づき、事業活動における環境負荷の削減、環境効率・資源生産性の追求及び環境規制に適合した製品開発に努めています。

しかし、世界的な人口の増加や経済発展・利便性の追求により、エネルギーや資源の消費スピードが加速していることから、地球温暖化や資源枯渇、環境汚染等のリスクへの懸念が高まっています。それに伴い環境に関する取り組みの重要性は益々高まり、今後も様々な環境規制が改正・強化され、即時の対応や将来に向けての取り組みを求められる可能性があります。その対応が不十分な場合には、製品の売上減少、生産量の限定又はレピュテーション低下等、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧  気候変動によるリスク

国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)において「パリ協定」が採択され、平均気温の上昇を抑えるため、温室効果ガスの削減に向けた取り組みが世界的に進められています。また直近では、欧・米・中・日等の主要各国政府が脱炭素を宣言、国家成長戦略の重大な政策の1つとして位置づけています。このような背景から、気候変動への対応は、経済成長を制約するものではなく、競争力の源泉になるものと考えています。

連結会社では、持続可能なモビリティ社会のあり方を模索し、長期ビジョンで掲げた、「環境」の提供価値を最大化する目標に向けて、2019年に賛同を表明した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」のフレームワークを参照し、気候変動が事業に与える影響とそれによる機会とリスクをシナリオに基づいて分析、事業戦略に反映していくように検討を進めました。

気候変動によるリスクについては、以下のとおり連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。脱炭素社会への移行リスクとして、気候変動に伴う燃費・排ガス規制や電動化の拡大に、現行製品が適切に対応できないことで、販売機会を喪失する可能性があります。また物理リスクとしてサイクロンや洪水等の異常気象の深刻化と頻度の上昇が考えられ、工場の操業停止やサプライチェーンの分断により売上が減少する可能性があります。

これらのリスクへ対処すべく、移行リスクについては、エレクトリフィケーションシステム事業、サーマルシステム事業、パワトレインシステム事業において新たな燃費規制や電動化需要に応えるための研究開発の加速と得意先への提案をしています。また物理リスクについては、建物、構造物への気象災害対策(洪水含む)の実施のほか、部材等の購入先を複数社化することによりサプライチェーンに対するリスクマネジメントの強化に取り組んでいます。詳細については、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 気候変動」をご参照ください。

 

⑨  情報セキュリティリスク

連結会社は、様々なグループ内専用ネットワークや情報技術システムを利用しています。さらに、連結会社の車載製品は、高度運転支援や自動運転等の高度な情報技術システムに使われています。

連結会社は、社内ネットワークや生産ライン等にセキュリティ対策を講じるとともに、社員へのセキュリティに対する更なるリテラシー向上教育を実施する等、情報資産の保護、安定的な供給の実現を図っているほか、車載製品をサイバー攻撃から守る技術を開発し、確実に搭載すべくグループ独自の仕組みを構築、運用の定着に取り組んでいます。

しかしながら、サイバー攻撃等の不正行為は脅威を増しており、連結会社を標的とした事象も発生しています。想定を大幅に超えるサイバー攻撃等を受けた場合、重要な業務の中断、機密情報の漏洩、車載製品の機能への悪影響等が生じる可能性もあります。その結果、競争力の喪失やレピュテーション低下を招き、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) その他のリスク

①  災害等による影響

連結会社は、大規模な自然災害、事故、疫病等の発生時に製造ラインの中断等による事業へのマイナス影響を最小化するため、全ての設備における定期的な災害防止検査と設備点検、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)や有事行動マニュアルの策定等の減災対応に取り組んでいます。

しかし、連結会社の生産施設及び連結会社の顧客企業、仕入先企業で発生する災害等による中断等の影響を完全に防止又は軽減できる保証はありません。例えば、連結会社の事業所の多くは東海地震防災対策強化地域に所在しており、この地域で大規模な地震が発生した場合、生産・納入活動が停止する可能性があります。

  

②  法的手続

連結会社は、ビジネス活動において、継続的なコンプライアンスの実践に努めています。それにも関わらず、様々な訴訟及び規制当局による法的手続の当事者となる可能性があり、その場合には連結会社の業績及び財務状況に悪影響が及ぶ可能性があります。

なお、連結会社は、特定の自動車部品の過去の取引に関する独占禁止法違反の疑いに関連して、一部の国において当局による調査を受けており、また、英国の裁判所において顧客1社が当社(及び一部の当社子会社)を相手に提起した民事訴訟に対応しているほか、主要顧客(自動車メーカ)との間で和解交渉を行っています。その結果を予測することは困難ですが、連結会社の業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③  人権

連結会社は、従来「デンソーグループサステナビリティ方針」や「社員行動指針」において、人権を侵害する労働またはそれに準ずる行為の禁止を明文化し、グループで共有するとともに徹底を図っています。昨今、グローバル社会でビジネスにおける人権尊重への取り組みの重要性が高まる中、人権に関する取り組みをより一層推進すべきと考え、人権に関する個別方針「デンソーグループ人権方針」を策定しました。

しかしながら、差別やハラスメントによるコンプライアンス違反が発生した場合、社会的信頼が失墜し、連結会社の業績及び財務状況に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

連結会社に関する財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析・検討内容は原則として連結財務諸表に基づいて分析した内容です。

連結会社の連結財務諸表は、連結財務諸表規則第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。この連結財務諸表の作成に当たり必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しています。また、当社の連結財務諸表で採用する重要な会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (4) 重要な会計上の判断、見積り及び仮定」に記載しています。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において連結会社が判断したものです。

 

(1) 財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度の世界経済は、中国の低迷や新興国の減速がみられたものの、全体としては新型コロナウイルス感染症による経済活動の混乱が収束し、成長基調となりました。また、新型コロナウイルス感染症からの経済再開を受けたサービス需要回復影響による賃金上昇圧力の高まり等、世界的にインフレが継続しました。加えて、ウクライナ紛争の長期化や中東情勢の緊迫化等、先行きの不透明感がより顕在化しました。金融市場は、欧米の利上げと日本の金融緩和姿勢を受け、円安が進展しました。

 

① 事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとの状況

当連結会計年度の業績について、売上収益は、日本・北米を中心とした好調な車両販売、為替の円安傾向、電動化・安心・安全製品等の注力領域を中心とした拡販の実現により、7兆1,447億円前年度比7,434億円増11.6%増)と増収となりました。営業利益は、操業度差益や為替差益、合理化努力があるものの品質費用の発生により、3,806億円前年度比455億円減10.7%減)、税引前利益は4,362億円前年度比206億円減4.5%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は3,128億円前年度比18億円減0.6%減)と減益となりました。

 

当連結会計年度の資産については、その他の金融資産の増加等により、前連結会計年度末に比べ1兆6,847億円増加し、9兆934億円となりました。

負債については、繰延税金負債の増加等により、前連結会計年度末に比べ5,179億円増加し、3兆3,469億円となりました。

資本については、有価証券の評価時価の上昇等により、前連結会計年度末に比べ1兆1,668億円増加し、5兆7,465億円となりました。

 

セグメント別の業績については、売上収益は、半導体不足の緩和による日本・北米を中心とした好調な車両販売により、各地域で前年比増収となりました。営業利益は、品質費用の発生があった日本を除き、各地域で操業度差益、採算改善努力により増益となりました。

日本の売上収益は、為替の円安傾向や好調な車両販売により4兆1,664億円前年度比4,605億円増12.4%増)と増収となりました。営業利益は、操業度差益、合理化努力はあるものの、品質費用の発生により852億円前年度比1,304億円減60.5%減と減益となりました。資産は、その他の金融資産や売却目的で保有する資産の増加等により、6兆924億円(前年度末比1兆3,768億円増)となりました。

北米地域の売上収益は、電動化・安心・安全製品等の注力領域を中心とした拡販により1兆7,670億円前年度比2,630億円増17.5%増と増収となりました。営業利益は操業度差益、合理化の強化により546億円前年度比366億円増204.4%増)と増益となりました。資産は、その他の金融資産や有形固定資産の増加等により、9,988億円(前年度末比1,681億円増)となりました。

欧州地域の売上収益は、好調な車両販売により7,813億円前年度比958億円増14.0%増と増収となりました。営業利益は操業度差益、合理化の強化により310億円前年度比135億円増77.6%増)と増益となりました。資産は、有形固定資産や無形資産の増加等により、5,409億円(前年度末比517億円増)となりました。

アジア地域の売上収益は、1兆9,851億円前年度比534億円増2.8%増と増収となりました。営業利益は、合理化の強化により1,845億円前年度比262億円増16.6%増)と増益となりました。資産は、現金及び現金同等物の増加等により、1兆8,061億円(前年度末比1,681億円増)となりました。

その他地域の売上収益は、1,152億円前年度比139億円増13.8%増と増収となりました。営業利益は、248億円前年度比55億円増28.7%増)と増益となりました。資産は、営業債権及びその他の債権や有形固定資産の増加等により、890億円(前年度末比87億円増)となりました。

 

② 生産、受注及び販売の状況

ⅰ) 生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2023年4月1日

  至  2024年3月31日)

(百万円)

前年同期比(%)

日本

2,954,146

113.2

北米

1,706,601

117.4

欧州

699,207

112.7

アジア

1,651,092

99.1

  報告セグメント計

7,011,046

110.4

その他

109,904

101.0

合計

7,120,950

110.3

 

(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。

 

ⅱ) 受注実績

連結会社はトヨタ自動車株式会社を始めとして、各納入先より四半期ごとに生産計画の提示を受け、連結会社の生産能力を勘案して生産計画を立てる等、すべて見込生産を行っています。

 

ⅲ) 販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2023年4月1日

  至  2024年3月31日)

(百万円)

前年同期比(%)

日本

2,885,718

115.0

北米

1,745,443

117.4

欧州

709,679

113.7

アジア

1,689,807

100.5

  報告セグメント計

7,030,647

111.6

その他

114,086

114.3

合計

7,144,733

111.6

 

(注1)セグメント間の取引については相殺消去しています。

(注2)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。

相手先

前連結会計年度

(自  2022年4月1日

  至  2023年3月31日)

当連結会計年度

(自  2023年4月1日

  至  2024年3月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

トヨタ自動車㈱

1,525,936

23.8

1,879,018

26.3

 

 

 

(2) キャッシュ・フローの状況

① キャッシュ・フローの状況

キャッシュ・フローの状況については、現金及び現金同等物(以下、「資金」)は、営業活動により9,618億円増加、投資活動により4,595億円減少、財務活動により4,967億円減少等の結果、当連結会計年度は前連結会計年度と比べ555億円増加し、7,894億円となりました。

営業活動により得られた資金は、前年度の6,027億円に対し、9,618億円となり、3,591億円増加しました。この増加は、前年度と比べ税引前利益が206億円減少した一方、売上債権の増減額が2,152億円増加したこと等によるものです。

投資活動により使用した資金は、前年度の3,637億円に対し、4,595億円となり、958億円増加しました。この増加は、Coherent Corp.の子会社である、SiCウエハー製造企業のSilicon Carbide LLCに出資したこと等によるものです。

財務活動により使用した資金は、前年度の4,001億円に対し、4,967億円となり、966億円増加しました。この増加は、自己株式の取得による支出が1,000億円増加したこと等によるものです。

当連結会計年度における有形固定資産の取得額は、前連結会計年度の3,606億円から8.6%増加し、3,916億円となりました。この増加は、注力分野への投入強化と規律ある事業運営を両立しながら投資を推進したことによるものです。

 

② 資本の財源及び資金の流動性について

資本の財源及び資金の流動性について、連結会社の運転資金及び設備投資資金は、主として自己資金により充当し、必要に応じて借入又は社債の発行等による資金調達を実施することを基本方針としています。

当連結会計年度は、連結会社の運転資金及び設備投資資金について、自己資金及び、借入・社債発行による資金を充当しました。

連結会社の資本的支出は、生産拡大対応、次期型化、新製品切替及び新製品開発のための研究開発投資を重点的に推進する予定であり、その財源は、上記基本方針に従ったものとする予定です。

連結会社は、その健全な財務状態、営業活動によるキャッシュ・フローを生み出す能力等により、連結会社の成長を維持するために将来必要な運転資金及び設備投資資金を調達することが可能と考えています。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

デンソーグループ2030年長期方針では、「環境」「安心」の提供価値を最大化することに加え、社会から「共感」していただける「新価値創造」を通じて、笑顔広がる社会づくりに貢献することを宣言しています。

(1)環境分野ではカーボンニュートラル実現を目指して、モビリティの基盤からアプリケーションまで開発領域を拡げています。

モビリティの基盤に関わる領域では2023年5月、300mmウエハ―での絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor 以下IGBT)を出荷開始しました。電動車の航続距離延伸や電費向上では、モータを駆動・制御するパワー半導体における損失低減と小型化が求められます。当社は従来比で損失を最大20%削減すると同時に小型化した次世代IGBT(RC-IGBT)を開発し、ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン株式会社と共同で新設の製造ラインにおいて200mmウエハ―に比べ高い生産効率を実現しました。

モビリティのアプリケーションに関わる領域では2023年12月、トラックの停車時用クーラー「Everycool(エブリクール)」を販売開始しました。「物流ドライバーの労働環境改善」と「環境負荷低減・効率的なエネルギー利用」を両立すべく、当社がこれまで培ってきた気流コントロール等の空調技術により当社従来比で消費電力を約57%低減、送風機の一体化や小型電動コンプレッサーにより同じく約30%の小型化と約63%の軽量化を達成しました。これらの特長により新車から既販車まで、また、大型トラックに限らず中型トラックやトラクタ等多様な車種に搭載可能となりました。

(2)安心分野では、車両の交通安全を最大化するにあたり、車両システムによる運転支援だけでなく、安全運転意識の向上を継続できる仕組みを開発しています。一例として2023年5月17日 から「西表島yuriCargo(ゆりかご)プロジェクト」を行いました。スマートフォンで運転をスコアリングし安全運転意識を高めるアプリケーション「yuriCargo」を活用し、西表島で運転するドライバーの急ブレーキ・急加速や最高速度等を運転後に評価して優良ドライバー認定や特典付与を行います。得られたデータから島内の速度超過状況等を可視化し、情報発信も含めた対策を検討することで、希少なイリオモテヤマネコに優しく人にも優しい運転を定着させ、交通事故削減につなげていくことを狙った取り組みです。

また、物流の「安心」を支えるべく、車載冷凍機の突発故障リスクを軽減するサービスを開発し、2023年5月より「D-FAMS」として提供開始しました。定温物流の安定的な運行を実現し、運行管理者の負荷低減や人手不足解消に貢献します。当社製冷凍機の稼働データをサーバーへ送信し、当社にて遠隔監視を行うことで、消耗部品の適切なタイミングでの交換をサポートすると共に、異常や故障の兆候を検知します。異常発生時には車両管理者へ速やかに通知し、サービス店と連携し修理調整も行います。

(3)「新価値創造」領域では、水素エネルギー関連や、基盤となるソフトウェアの開発を強化しています。

水素エネルギーは、利用する際にCOを排出しない特長があり、水素を活用することで、発電部門や電化が困難な設備やBEV化が難しい大型商用車の脱炭素化が可能になると考えられます。水素の利活用を普及するには、「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」といった水素のサプライチェーンにおける技術課題を解決していくことが必要です。特に当社の保有技術を活かし、貴重な再生可能エネルギーを無駄なく使用し水素を「つくる」、そしてその水素を余すことなく「つかう」の実現を通じた水素利活用のコスト低減に取り組んでいます。その一例として、セラミック技術、各部温度を制御する熱マネジメント技術、循環を省動力化するエジェクター技術等、車載製品開発で得た知見を活用し、世界最高レベルの発電効率65%の実現を目指したSOFC(Solid Oxide Fuel Cell / 固体酸化物形燃料電池、水素をつかう)、及びその逆反応で作動するSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell / 固体酸化物形水電解用セル、水素をつくる)の開発に取り組んでいます。SOFCに関しては、工場の電力需要に応じてSOFCの発電量や太陽光発電による電力を貯めた蓄電池の充放電を制御し、より効率的なエネルギーマネジメントを目指した実証実験を2023年5月から西尾製作所にて開始しています。また、SOECに関しては広瀬製作所にて、水素製造、及びパワーカード試作品製造ラインでの活用を目指す実証を2023年7月から開始しています。

基盤となるソフトウェアでは、制御の分野で複数台のロボットが衝突せず、高速で同時に作業できるためのAIアルゴリズムを開発しました。専門技術者による長時間のティーチング作業が不要になり、設備の導入時間が短縮されます。複数台のロボットの動作経路を生産現場で実用可能なレベルにてAIで自動生成できる例は他になく、世界トップクラスの技術です。最適化の分野では、量子コンピュータの原理をGPGPU(画像処理プロセッサを用いた汎用計算)で模倣した新しい疑似量子技術「DENSO Mk-D」を開発し、同種技術では100万変数規模の実問題に対応するのが限界とされていた中で、世界で初めて500万変数規模の実問題を解くことに成功しました。擬似量子技術で用いる情報を最小限まで圧縮し、参照情報を小さくして大規模計算を効率化し、計算速度を大幅に向上させました。当社は物流データの最適化計算にこの技術を応用し、トラック配送スケジュールの効率化を実現し、大規模で複雑な問題を解決できる新たな可能性を示しました。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は550,921百万円(資産計上分含む)、その内、日本セグメント485,438百万円、北米セグメント32,021百万円、欧州セグメント14,642百万円、アジアセグメント17,771百万円、その他1,049百万円となっています。日本セグメントが占める比率は約88%となっており、研究開発活動の中心を担っています。