本項に記載した将来や想定に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 経営方針及び経営環境
私たちを取り巻く世界や日々の暮らしは変化を続けています。しかし、より豊かで快適な住まいで暮らしたいという人びとの願いは、いつの時代も変わりません。
LIXILのPurpose(存在意義)は、持続的な成長に向けて、よりアジャイルで起業家精神にあふれた企業になるための取り組みを続け、意思決定を行う際に指針となるものです。従業員は、当社における価値創造の原動力であり、LIXIL Behaviors(3つの行動)を日々の業務の中で実践することで存在意義の実現につなげています。
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上記のPurposeのもと、当社グループは、人びとの住まいの夢を実現するために、先進的な技術と製品を開発、提供しています。
水の可能性を広げるシャワーや水栓、料理の創作意欲を高めるキッチン。清潔さと快適さを兼ね備えたトイレ。家の中と外の世界をつなぐドアや窓。空間に彩りを添える内装や外装。長い一日の疲れを癒すお風呂。住まいをより豊かで快適にするのは、実は意外とシンプルなことです。
当社は、2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカー5社が統合して誕生しました。以後、GROHE、American Standardといった世界的ブランドを傘下に収め、日本のものづくりの伝統を礎に、世界をリードする技術やイノベーションで、日々の暮らしの課題を解決する高品質な製品をグローバルで幅広く提供しています。
現在、当社グループは、世界150カ国以上で約49,300人の従業員を擁するグローバル企業となり、毎日10億人以上の人びとに当社グループの製品をご愛用いただいています。今後も生活者視点に立ち、考え抜いた、意味のある製品デザインにこだわり、世界中のあらゆる人びとのより豊かで快適な住まいと暮らしの実現に向けて、さらなる可能性を追求し、責任ある事業成長を推進していきます。
この数年間、当社グループを取り巻く事業環境は大きく変化し、世界的なインフレーションや物流危機、サプライチェーンの寸断などさまざまな課題に直面しながらも、逆境を乗り越えることで、さらに強い組織へと変革を推進してきました。経営の基本的方向性を示した「LIXIL Playbook」に基づき、持続的な成長の実現に向けて、着実に前進しています。
直近では、主に欧米における金利の高止まりやインフレーションの影響を受け、住宅関連需要が想定以上に減退し、海外事業は大きな痛手を受けました。最大の収益源となっていた欧州市場の低迷に加え、国内市場における新築需要が想定を大きく下回って推移したことも重なり、当連結会計年度の業績は減収減益、当初計画に対して未達という非常に厳しい結果となりました。欧米をはじめとする海外住宅市場の需要低迷は、当社グループにとっても販売量や生産数量の減少を招き、固定費負担が収益性の面で大きな課題となっています。強い逆風下にあったとはいえ、この環境悪化を跳ね返すことができる体力が不足していたことが浮き彫りとなり、この結果を重く受け止めています。
よって、当社グループにとって喫緊の課題は、海外事業の収益性改善と、事業環境に左右されない強靭な事業基盤を構築することだと考えています。期初から構造改革を推進し、欧米を中心とした人員配置の最適化、サプライチェーンの再構築によるコスト低減、事業ポートフォリオの最適化を着実に実行してきました。この構造改革を予定より早期に推進できたことで、当初計画以上の構造改革費用を当連結会計年度に計上することになりましたが、こうした取り組みの成果は、次期以降の収益改善に貢献する見込みです。環境変化の激しい中で、包括的な構造改革をスピーディーに実行してきたことの意義は大きいと考えています。
国内事業については、新設住宅着工戸数は依然として低水準で推移していますが、省エネ効果の高い高性能窓への改修を後押しする政府補助金の効果もあり、リフォーム需要の取り込みが奏功し、利益のけん引役となりました。リフォーム市場へのシフトに加え、コスト上昇に対応した機動的な価格改定や、これまで実施してきた国内事業の最適化に向けた取り組みが実を結び、収益性改善が進みました。
次期については、将来に向けて大きな利益成長を実現するための足固めの1年になると考えています。欧米の景気回復の時期は現時点では不透明であり、次期の市場環境の見通しについて楽観視はしていません。海外の需要は前期並みとした上で、国内の新設住宅着工戸数についても弱含むことを想定しています。このように事業環境が厳しい時期だからこそ、変化への対応力を高め、強固な事業基盤を築くため、海外事業の構造改革を次期に概ね完了させ、さらなる体質強化を図ります。
これに加え、市場の需要回復に先んじて、差別化された商品を軸に、成長機会を着実に捉えていくことができるよう準備を進める必要があります。社会や環境にインパクト(良い影響)を生み出す差別化商品のラインナップ拡充を図っており、すでに新たなコア事業の芽として期待できるものも出てきています。次期においては、将来に向けたイノベーションの創出に一段と力を入れ、高付加価値で差別化された、革新的な製品の投入、拡販を進めていきます。
収益性の改善には、高利益率のビジネスへのリソースのシフト、差別化商品の拡販、コスト削減の3つのアプローチが重要だと考えています。中長期目標に掲げた事業利益率10%、ROIC10%に近づけるよう、これらの課題に着実に取り組み、変革を推進していきます。
(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、すべての事業の軸となるPurpose(存在意義)達成の道筋として、2021年3月期に経営の基本的方向性を示す「LIXIL Playbook」を策定し、取り組むべき優先課題を設定しました。Purposeを追求し、当社グループの特長をさらなる強みへと進化させ、持続的な成長の実現につなげていくロードマップを明確化したものです。先行きが不透明で将来の予測がしにくい事業環境においても、目指すべき方向を明確に示すことで、従業員が一丸となって優先課題に注力することができています。(なお、策定日以降の事業環境の変化に対応させるため、2023年に優先課題の一部改訂を実施しています。)
[「LIXIL Playbook」における5つの優先課題]
① インフレーションとサプライチェーンにおける課題への対応
資材や物流費の高騰による影響を踏まえ、販売価格の最適化や、素材の変更によるコストダウンとコスト安定の両立を図るとともに、付加価値の高い差別化製品へのシフトにより収益性改善を進めます。また、グローバルサプライチェーンが寸断されるリスクに備え、調達先の冗長化や生産のプラットフォーム化といった従来からの施策に加え、地域内における調達、生産体制への移行を進めていきます。
② 日本事業の最適化と新たな事業成長の追求
日本事業の収益性と機動力を高めるための施策を継続し、従来は水回り製品が中心であったリフォーム商材を窓や壁といった断熱改修にまで広げることで、拡大するリフォーム需要の取込みを強化します。さらに、全ての製品群に関して環境配慮型の製品を導入し、差別化につなげていきます。
③ ウォーターテクノロジー事業における海外事業の成長促進
付加価値の高い製品の販売拡大、販売チャネルの多角化、戦略的なブランド・ポートフォリオの構築といった施策を通じて、コモディティビジネスからの脱却を図り、海外市場の成長を着実に取り込むための基盤を強化します。
④ 環境戦略の事業戦略への統合
当社グループの環境戦略は、「気候変動対策を通じた緩和と適応」「水の持続可能性を追求」「資源の循環利用を促進」という3つの重点領域を設定しています。環境戦略を事業戦略に統合し、各領域における中期目標の実現に向けて取組みを強化しており、持続的成長と地球環境や社会へのインパクトの拡大を目指します。
⑤ 新たなコア事業の創出
将来の成長に向けて、インパクトのある新しい技術、製品、ビジネスモデルの創造を通じて、新たな収益の柱になるようなコア事業の確立を目指しリソースを投入していきます。
「LIXIL Playbook」で掲げた優先課題に沿って、複雑化していた組織の簡素化、基幹事業への注力、サプライチェーンの強化といった取り組みは順調に進捗し、外部変化への対応力を着実に強化してきたという実感があります。しかしながら、海外事業を中心に、取り組むべき課題はまだ残されています。引き続き構造改革を推進し、外部環境に対する組織の弾力性を高めていきます。
事業環境は引き続き厳しい状況が続きますが、縮小が見込まれる国内市場の売上比率の高さ、資本効率の改善、利益率の低下といった課題は、企業努力で対処可能な課題であり、経営者として克服に努めていきます。最終的には、私たちの提供する商品すべてが、社会・環境にインパクトを創出し、それらの商品を迅速かつ効率的に、低コストで生み出していくことができる、強靭な事業基盤の構築を目指します。
中長期で目指すのは、「LIXILから商品を買うこと自体が、世の中にとって良い」と認知される、そういう世界を創ることであり、その中核を担うのが、社会・環境にインパクトを生み出す商品群です。2030年には、売上の半分以上をこれらの商品群が占める姿を目指します。「LIXIL Playbook」の優先課題に沿ってこうした取り組みを中長期的に進めていくことで、目標とする事業利益率10%、ROIC10%は達成できると確信を強めています。
長期的に、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まい」を実現する企業になるための絵は描けています。今はまず、将来の利益成長につなげる準備期間として、しっかりと足固めを行いながら、新たな暮らしの可能性を広げるイノベーションの創出に注力し、競争力の強化を図ります。事業活動を通じて社会・環境課題の解決に貢献することは、企業として果たすべき役割です。こうした活動は社会全体に利益をもたらすだけでなく、当社グループの事業の持続可能性を高める上でも、非常に重要です。今後も全社一丸となり、次世代へとつなぐ住まいと暮らしの向上に取り組んでまいります。
本項に記載した将来や想定に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
当社グループでは、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というLIXILのPurpose(存在意義)の達成を目指し、事業に関連した環境・社会の重要課題に取り組んでいます。未来を見据えた活動を通じて、私たちは暮らしと社会にインパクト(良い影響)を生み出しています。
私たちが追求するのは、多様なニーズやライフスタイルに寄り添う豊かで快適な住まいの実現です。その実現には、世界中の誰もが安全で衛生的なトイレや手洗いを利用できるようにすること、自社の事業プロセス及びバリューチェーン全体で環境負荷を低減するとともに、革新的な製品やサービスを通じて、次世代が受け継ぐ地球環境の改善に貢献すること、そしてインクルーシブな組織の構築とこれによって生まれるイノベーションを通じて、すべての人びとの健康で快適な暮らしを支えることが必要不可欠です。
当社グループは、事業の域を超えて、より広い社会とつながることで、インパクトを拡大していきます。人びとが明るく、健康的な暮らしを送ることができる社会の構築をサポートし、地球環境を守り、次世代へとつなぎます。そして、多様なニーズに応えることで機会を生み出せるインクルーシブな組織づくりに努めます。
LIXILのPurposeを原動力とするこうした取り組みを通じて、より広い社会にインパクトを生み出すことにより、当社グループは長期的に持続可能な成長を実現していきます。
重要課題について
当社グループの重要課題は、LIXILのPurposeや資本に基づいてステークホルダーや価値創造プロセス(VCP)、当社グループの事業戦略やインパクト戦略と深く連動しています。インパクト戦略と重要課題の関係性については、下記をご参照ください。
当社グループは2016年3月期に特定した重要課題について、2021年3月期に再検証を行い、重要課題を改めて特定しました。当社では、現在、3年に一度を目処に、下記のプロセスに基づいて重要課題の評価と特定を行っています。インパクト戦略に関する施策や実績の評価を確実かつ定期的に行う上で、事業リスクの管理と重要課題の検証プロセスが相互補完的な関係にあるよう考慮しています。また、重要課題、特に関連するインパクト、リスク及び機会については、少なくとも年に1回検証し、必要に応じて見直しを行っています。
重要課題の評価プロセス
当社グループの欧州地域における事業は、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に従い、重要なデータ及び情報を欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づいて提示することが求められます。この包括的な開示要件は、環境、社会、ガバナンス(ESG)の問題を幅広く取り扱い、当社グループの欧州事業は2026年3月期に終了する会計年度から毎年報告を行うことになります。
これらの新しい報告義務に対応するため、当社グループは昨年初めにCSRD導入に向けた重要なプロジェクトを開始しました。現在、CSRDガイドラインに従って、当社グループの欧州事業に求められるダブルマテリアリティ評価と開示要件の検証を行っています。
なお、重要課題のうち、当社グループが強みを活かして主体的に取り組むことによりステークホルダー及び社会に大きなインパクトをもたらす可能性や、ステークホルダーのニーズ、またESG評価機関における評価基準を踏まえたリスクと機会に基づき取り組みを強化すべき領域を「優先」に位置付けています。「優先」に位置付けられた重要課題は、インパクト戦略の3つの優先取り組み分野に特に深く関連しており、これらの優先課題を基軸に取り組みを進めています。
重要課題 |
取組 |
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優先 |
グローバルな衛生課題の解決 |
人びと、特に女性や女児が、安全な衛生施設を利用できるようにすると同時に、子どもにとって危険な病気感染を防ぐ。SATOブランドをLIXILの取り組みの中核とし、各市場のインフラ、所得水準、環境的制約などの特性やニーズに合わせた研究開発と事業に取り組む。 |
気候変動対策を通じた緩和と適応 |
気候変動への対応が求められる中、事業プロセスと製品・サービスによるCO2の排出量実質ゼロに向けた取り組みを推進し、気候変動への適応に資するソリューションを提供する。 |
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水の持続可能性の追求 |
安全な飲料水にアクセスできない人びとや水資源の枯渇リスクに対して、水まわり製品のリーディングカンパニーとして人びとが水の恩恵を最大限享受できるようにし、世界規模で水の持続可能な利用が達成されるよう支援する。 |
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資源の循環利用の促進 |
限りある資源の持続的利用を見据えて、原材料の調達から製造、使用後までを考慮した循環型のものづくりを推進し、廃棄物の排出を最小限に抑える。 |
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製品ライフサイクルを通じた環境への影響 |
LIXILの製品は人びとの生活に根差し長期にわたって使用されるため、環境に配慮した製品設計を推進することで、製品のライフサイクルを通じた環境負荷や、製品に含まれる化学物質が及ぼす影響を低減するとともに、お客さまや社会の環境改善に貢献する。 |
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環境マネジメント |
ガバナンス体制及び環境マネジメントを継続的に改善し、コンプライアンスの徹底や環境パフォーマンスの向上につなげる。 |
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多様性の尊重 |
ダイバーシティ&インクルージョン文化を定着させる。成長とイノベーションの原動力として多様な従業員が持つ英知や視点を活用し、世界中で様々な人の生活の質の向上に貢献する製品やサービスを開発する。 |
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生物多様性の保全 |
LIXILの事業活動は生物多様性に依存し影響を与えていることから、損失をできる限り少なくし、ネイチャーポジティブに資する事業活動やソリューション提供を推進する。 |
人材と能力開発 |
従業員が価値創造の原動力であるという認識のもと、体系的な人材育成に取り組むとともに、従業員一人ひとりの自発的キャリアの開発支援に取り組む。 |
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製品の安全性 |
お客さまや社会からの信頼の源泉は「品質」であるという考えのもと、製品のライフサイクル全体を通じて品質向上と安全性を実現する。 |
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顧客満足 |
お客さまに住生活のすべての場面で素晴らしい体験をしていただけるように、プロユーザーと一般のお客さまの両方の目線に立ち、顧客満足を追求する。 |
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従業員の安全と健康 |
すべての従業員の安全を優先し、企業価値向上を目指す健康経営を推進する。 |
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企業倫理とインテグリティ |
すべての従業員及び役員が、高い企業倫理に基づき誇りを持って日々の事業活動に従事するよう、コンプライアンス文化の定着・維持を目指す。 |
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人権 |
人権の尊重を事業継続の基本要件と捉え、国際的な人権の原則を尊重し、すべてのステークホルダーの人権に配慮した事業活動を推進する。 |
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サプライチェーンマネジメント |
調達段階におけるリスクを特定し、サプライヤーとの協働を通じて、責任ある調達と製品の安定供給を推進する。 |
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コーポレート・ガバナンス |
コーポレート・ガバナンスの継続的な充実を図る。経営の執行と監督を明確に分離し、執行役による迅速・果断な意思決定を可能にするとともに、経営の透明性を確保する。 |
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リスクマネジメント |
事業活動に影響を及ぼすリスクを識別し、特に重点管理するものを重要リスクと定義し、リスクオーナーが対応状況を共有・報告することで全社のリスクを管理する。 |
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ステークホルダーエンゲージメント |
LIXILの事業活動は多くのステークホルダーに支えられているという考えのもと、各ステークホルダーとの積極的かつ能動的なエンゲージメントを通じて、生活の質の向上や社会課題の解決に貢献する。 |
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情報セキュリティ |
効率的で安定した事業活動の遂行を担保するために、基幹システムの刷新や個人情報の管理の強化、サイバーセキュリティ確保のための体制を構築する。 |
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税の透明性 |
税の透明性を担保し、適切な納税を実施する。 |
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責任あるマーケティングと広告 |
製品やサービスに関する適切な情報を提供する。 |
(1)ガバナンス
当社グループは、サステナビリティ関連の課題に戦略的に取り組むため、四半期に一度「インパクト戦略委員会」を開催しています。
当社グループ全体で迅速かつ適切な対応を行うため、インパクト戦略委員会のメンバーには、コーポレート部門及び事業部門を統括する執行役並びに部門長が任命されています。インパクト戦略委員会での討議・審議結果は、Impact戦略担当執行役より四半期ごとに執行役会に報告され、必要なものについては決議がなされます。取締役会はそれらに対する進捗状況について半期ごとに報告を受け、議論・監督を行っています。
また、インパクト戦略委員会での決定事項は、推進責任者である各担当執行役及び部門長が担当部門に伝達することで、具体的な取り組みへと展開されます。活動に深く関わる各委員会との間でも、情報の共有・報告が行われています。
インパクト戦略委員会では、グローバル衛生審議会、環境戦略審議会、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)審議会(注)より、インパクト戦略における3つの優先取り組み分野の活動の進捗が各回で報告されるほか、その他のESG関連テーマについても討議を行っています。
(注)2024年3月まで、SATOアドバイザリーボード、環境戦略委員会、ダイバーシティ&インクルージョン委員会
当連結会計年度の主な議題:
・インパクト戦略に関するガバナンス
・重要課題の見直し計画
・開示フレームワークへの対応(CSRD、ISSBなど)
・人権に関する取り組み
・ESGデータガバナンス構築
(2)戦略
当社グループのインパクト戦略では、当社グループが専門性を活かして大きなインパクトを生み出すことができる「グローバルな衛生課題の解決」「水の保全と環境保護」「多様性の尊重」を3つの優先取り組み分野に定めています。現在、そして未来を見据え、インパクト戦略を事業戦略に組み込み、水回りと住宅設備における知識や規模を活かしながら、従業員やパートナー、さらには地域住民など様々なステークホルダーの皆さまと協働して取り組みを進めています。
各取り組みにおいては、重要課題に沿って策定されたアクションプランとKPIに基づいて、その進捗や成果を毎年確認しながら、目標達成に向けて尽力しています。
■グローバルな衛生課題の解決
革新的で低価格なトイレや衛生ソリューションを提供することにより、2025年までに1億人の人びとの衛生環境の改善を通じて生活の質の向上に貢献することを目指しています。
当社グループは、目標達成に向け、開発途上国向けの衛生製品を開発・提供するSATO事業を基軸に取り組みを推進しています。地域の特性やニーズに合わせた開発を行い、現在では製品・備品のポートフォリオを拡充し、低価格で耐久性に優れた衛生ソリューションであらゆる地域の人びとの生活の質の向上と明るい未来を支えています。生活の質の向上とともに、市場ニーズが安価なSATOブランド製品から上位製品へ移行することを想定しています。
SATOの革新的な衛生ソリューションは、45ヵ国へ約860万台を出荷し、これまでにおよそ6,800万人の衛生環境改善に貢献しています(当連結会計年度末時点)。さらに、製品ソリューションの提供に留まらない取り組みを実施することで、持続可能な衛生市場の創設に貢献しています。SATO事業では、現地における職人や実業家の育成のほか、Make(作る)、Sell(売る)、Use(使う)というサイクルを回す現地の生産・販売体制の構築など、総合的なアプローチを推進しています。また、特に深刻な衛生課題を抱える農村や都市部の住民に対しては、独創的な啓発活動を通じて、世界の衛生課題に関する理解を促進しています。インパクトの最大化に向け、国際連合児童基金(ユニセフ)、米国国際開発庁(USAID)、FINISH Mondialなど、水と衛生分野の専門性を備えた有力な様々な国際機関や現地組織地方自治体機関、専門機関、NGO、ビジネスパートナーとの連携を強化し、現地における人材育成やサプライチェーン構築、事業創出・雇用創出などを含めた衛生市場の確立に向けたインパクトが、自立的・持続的に広がることを目指して、今後も取り組みを推進していきます。
水と衛生分野の課題解決に向けては、世界各地で進む行政による投資及び取り組みと、民間企業が持つ専門的な知見や革新的な技術を効果的に組み合わせることで、より大規模なインパクトを実現できます。当社グループ初の公共部門エンゲージメントに特化したプラットフォームであるLIXIL Public Partners(LPP)は、政府などの公共部門をはじめとする主要ステークホルダーとの連携を促進し、シナジーの最大化を図ることを目的に設立されました。SATO事業などの既存の取り組みをベースに、LPPは政府、NGO、学術機関と協働し、衛生分野における革新的な製品やソリューションを提供しています。
■水の保全と環境保護
「LIXIL環境ビジョン2050」では、「Zero Carbon and Circular Living(CO2ゼロと循環型の暮らし)」を掲げ、環境に関する重要課題のうち「気候変動対策を通じた緩和と適応」「水の持続可能性の追求」「資源の循環利用の促進」の3つを、ビジョン実現に向けた重点領域に定めています。重点領域を推進するための共通の基盤として、製品ライフサイクルを通じた環境負荷の低減、全社の環境マネジメント強化、及び各領域に深く関連する生物多様性の保全にも取り組んでいます。2050年までに、環境分野のリーディングカンパニーを目指し、事業プロセスと製品・サービスを通じてCO2の排出量を実質ゼロにし、水の恩恵と限りある資源を次世代につなぎます。
・「気候変動対策を通じた緩和と適応」
当社グループでは、環境負荷低減に努めると同時に、環境に配慮した製品やサービスの提供を通じて2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指します。さらに、当社グループの事業プロセス及び製品やサービスが直接的に排出するCO2排出量だけにとどまらず、社会全体におけるCO2排出量の削減に貢献することが重要と捉えています。また、気候変動の影響による雨量の増加、大型台風などの自然災害、気温上昇などによる被害の軽減に貢献する製品・サービスを提供し、気候変動への適応策を推進しています。
・「水の持続可能性を追求」
当社グループでは、人びとが水の恩恵を最大限に活用できるよう、グローバルな水の持続可能性を追求しています。その実現に向け、事業プロセスにおける水使用効率の向上や水不足拠点における水使用量の削減、節水関連の製品・サービスによる水使用削減への貢献などを通じて、責任ある水の使用を推進します。また、安全で衛生的な水と、水へのアクセス向上に向けて政府や公共部門などと取り組み、水道水へのアクセスがある地域においては、浄水技術の活用により、安全性を高めたおいしい水を提供します。これらの取り組みを通じて、水の環境価値を創造します。
・「資源の循環利用を促進」
当社グループで使用する金属、木材、樹脂、セラミックなど様々な原材料の調達から製造、使用、廃棄までの製品ライフサイクル全体において、持続可能な利用や資源循環の取り組みを全社で推進しています。リサイクル素材の活用や再利用に配慮した設計といった循環型のものづくりを推進するほか、「LIXILプラスチック行動宣言」のもと、プラスチックの使用量削減や循環利用、代替素材の開発などを推進しています。原材料を確保し、社会と事業の継続性に貢献するべく、貴重な資源を最大活用に取り組んでいます。
■多様性の尊重
当社グループは、お客さまの多様なニーズに合った革新的な製品やサービスの提供に取り組んでいます。顧客志向を徹底し、様々なニーズに対応したイノベーションや持続可能な成長を実現していく上で、多様な従業員の潜在能力を引き出すことができる公平でインクルーシブな環境の構築が重要であると考え、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を推進しています。
2018年3月期に「D&I宣言」を発表し、2020年3月にD&Iをグローバルに推進する部署を設置し、全社共通の施策の展開に取り組んできました。また、2021年3月期には、CEOを議長とし執行役と部門長で構成されるD&I委員会を設立して、D&I戦略や推進施策を更新しました。D&I推進のフェーズが全社的な戦略及び施策の策定から各部門を主体とする活動に移ったことに伴い、2025年3月期からは議長を含むメンバーが執行役から部門長に変更になり、各部門の現状を踏まえた上で活発な議論を行い、取り組みを推進しています。また、体制の変更に伴い、機関の名称も「D&I委員会」から「D&I審議会」に変更になりました。
戦略では、2030年3月期までに当社グループ全体にインクルージョンの文化を定着させ、ジェンダー不均衡を是正することを目標に掲げています。男女間賃金格差や女性管理職比率の低さなど当社が抱える課題を認識した上で、目標達成に向けたアクションプランを策定し、人事制度や人材育成、職場環境づくりにおいてD&Iの観点を組み込んだ施策を段階的に進めています。
従業員は価値創造における最大の原動力です。私たちは、これらの取り組みを通じて従業員がその力を発揮することによって生まれるイノベーションや社内外との様々なコラボレーションを通じて、多様化する顧客ニーズに応え、年齢、性別、障がいの有無を問わずすべての人びとの健康で快適な暮らしを支えることを目指しています。
その重要な取り組みの一つとして、誰もが利用しやすいユニバーサルデザイン(UD)を組み込んだ水まわり製品・住宅建材やサービスの開発及び提供を行うなど、事業を通じて「インクルーシブな社会の実現」に貢献しています。
また、エンドユーザーのニーズに応えるだけでなく、UDウェブサイトやパブリックトイレの情報に特化した「LIXILパブリックトイレラボ」などを通じた情報発信、障がいのある方への理解を促進する啓発活動や大学との共同研究などにも取り組むことで、社会により良い変化をもたらしています。
(3)リスク管理
当社グループは、事業活動を通じて世の中に与えるインパクトを最大化するため、当社グループ共通の基準に基づき定期的に「重要課題」の目標達成を阻害する可能性のあるリスクを、特定・評価し、対応すべきリスクの優先順位を決定しています。また、リスクを戦略リスクとオペレーショナルリスクに分類し、当該リスクに応じた対策を立案・実行するとともに、対策の進捗状況をモニタリングして継続的に改善することで、ステークホルダーに対する持続的な価値の創造を実現しています。詳細は、
(4)指標及び目標
指標 |
目標 |
当連結会計年度 実績 |
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グローバルな 衛生課題の解決 |
衛生環境の改善に関する取り組みを通じた生活の質の向上 |
2025年までに1億人 |
約6,800万人 |
水の保全と 環境保護 |
Scope 1 & 2によるCO2排出量 |
2031年3月期までに50.4%削減(2019年3月期比) |
△34.7% (2024年3月期排出量:
|
Scope 3によるCO2排出量 |
2031年3月期までに30%削減(2019年3月期比) |
△15.2%(2023年3月期) (2023年3月期排出量:
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Scope 1 & 2、Scope 3によるCO2排出量 |
2050年までに実質ゼロ |
Scope 1 & 2 △34.7%
Scope 3 △15.2% (2023年3月期) |
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新築戸建住宅向け高性能窓の販売構成比(日本) |
2026年3月期までに100% |
93% |
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節湯水栓、節水型トイレの販売構成比(日本)(注)2 |
2031年3月期までに100% |
節湯水栓 94.1% 節水型トイレ 99.4% |
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水使用効率向上 |
2031年3月期までに20%向上(2019年3月期比) |
+16.0%(2023年3月期) |
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節水製品による水使用削減貢献量 |
2025年3月期までに年間20億㎥ |
15億㎥(2023年3月期) |
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廃棄物などのリサイクル率 |
2026年3月期までに90% |
88.1%(2023年3月期) |
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リサイクルアルミの使用比率(注)3 |
2031年3月期までに100% |
78% |
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多様性の尊重 |
女性取締役・執行役比率(注)4 |
2030年3月期までに50% |
31.3%(注)5 |
全世界の女性管理職比率(注)6 |
2030年3月期までに30% |
17.1%(注)1 |
|
日本の新卒女性比率(注)7 |
50% |
44.8% |
(注)1.2024年3月期の実績値は当社ウェブサイトに掲載している「LIXIL ESGデータブック2024(先行開示データ:環境及び社会データ)」において、2024年6月に第三者保証取得済です。
2.節湯水栓については、湯はり専用や全身浴などの節湯水栓の用途に該当しない商品を除いており、節水型トイレについては、一部の集合住宅向けを除いています。
3.6063材を対象としています。
4.女性取締役・執行役比率は、3月31日時点の人数に基づき算出します。
5.有価証券報告書提出日(2024年6月20日)時点では37.5%です。
6.対象は国内及び海外の直雇用従業員です。ただし、売却された子会社及び従業員数100人以下の国内子会社は除いています。
7.対象は当社の大学卒・大学院卒の新卒入社者です。当連結会計年度の実績は、2024年4月1日付入社の比率を記載しています。
気候変動、自然資本及び生物多様性を含む環境課題に関する情報開示(TCFD・TNFD提言への対応について)
2019年3月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明し、2022年3月期報告からTCFD提言に基づいた情報開示を行っています。2023年12月には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に賛同しTNFDフォーラムへ参画、2024年1月にはTNFD Early Adopter(早期採用者)に登録しました。これを受け、2024年3月期報告からはこれまでの気候変動を含む環境課題に関する情報開示に包含されている自然関連課題の情報を関連づけ、TCFD・TNFD提言に基づく気候変動、自然資本及び生物多様性を含む環境課題に関する情報開示として統合しました。
<ガバナンス>
当社グループでは、執行役会から任命を受けた担当役員が委員長を務める環境戦略審議会を設置しています。執行役から任命を受けたメンバーで構成された環境戦略審議会を原則年6回開催し、環境ガバナンスに関わる規程や方針の制定、気候変動、自然資本及び生物多様性から生じるリスクや機会を含む環境課題に対する施策の審議と決定、当社グループ全体の環境目標管理とモニタリングなど、環境戦略の構築と実行を実施しています。環境戦略審議会で協議・決議された内容は、インパクト戦略委員会を通じて四半期ごとに執行役会に報告されています。執行役会は、環境課題を含めた重要課題に関する目標や実行計画について協議・承認し、取締役会は、それらに対する進捗状況を半期ごとに報告を受け、議論・監督を行っています。
人権と自然資本及び生物多様性を含めた環境課題との関連性を認識したうえで、人権尊重を事業活動の基本とした「LIXIL人権方針」を定めています。また、従業員やお客さま、調達先などのビジネスパートナー、株主や投資家、事業拠点の地域社会に暮らす方々人びとなどの事業活動に関連する人権課題について、ステークホルダーとの対話に努めています。
<戦略>
気候変動を含めた環境課題に関するリスク・機会分析(TCFD)
当社グループでは、気候変動が短期・中期・長期の視点で自社のバリューチェーンにもたらす政策・規制や市場変化による移行リスク、異常気象などの物理リスクの中で、特に事業への影響が大きいと想定されるリスクと機会を特定するためにシナリオ分析を実施しています。シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上、パリ協定の目標である「産業革命前からの気温上昇を1.5℃未満に抑える」ことを想定した政策移行の影響が大きいシナリオ(1.5℃シナリオ)、及び環境規制が強化されず物理的リスクが高まるシナリオ(4℃シナリオ)の2つの世界観を想定しています。この2つのシナリオにおいて気候変動がもたらすリスク及び機会を特定し、その財務影響を可能な限り定量化し、当社グループの環境戦略に反映させることで、事業の持続的成長や将来リスクの低減につなげ、企業としてのレジリエンスを高める取り組みを進めています。
当連結会計年度には、2030年をマイルストーンとして設定し、事業プロセス、自社バリューチェーン、インパクトの拡大の3つのフェーズにおいてCO2排出量を削減する「低炭素社会への移行計画」を策定しました。事業プロセスにおいては、省エネ対策、燃料転換、追加性の高い再生可能エネルギーへの移行・調達などの施策に加えて、製造現場で水素への燃料転換に向けた実証実験を実施するなど、Scope 1, Scope 2排出量の削減に取り組んでいます。自社バリューチェーンにおいては排出量の多くの割合を占める「製品使用」と「調達」に注力しており、製品の省エネ化はもちろんのこと、サプライヤーエンゲージメントを通じた調達や物流における排出量の削減、これらの活動から得られた一次データの活用、循環型のエコシステムやビジネスモデルの構築に努めています。さらに、節湯水栓・節水型トイレや新築戸建向け高性能窓などの販売構成比率を100%とする目標を掲げ、暮らしのエネルギー効率を高める製品を通じて、気候変動緩和に向けたインパクトの拡大と低炭素社会への移行を推進しています。
自然資本・生物多様性に関するリスク・機会分析(TNFD)
自然資本及び生物多様性と自社バリューチェーンとの依存、影響の関係、リスクと機会を特定するためにTNFDが提唱するLEAPアプローチに基づく評価を実施しています。アルミと木材を対象原材料としたバリューチェーン上流と直接操業における自然への依存と影響及び優先地域を特定し、自然に関連するリスクと機会の評価を行いました。特定された重要なリスクと機会は、気候変動課題の取り組みと関連づけられたことから、自然関連課題に対する取り組みがすでに戦略に反映されていることが示されました。
気候変動、自然資本及び生物多様性を含む環境課題への対応戦略
主要なリスクと機会 |
財務影響の程度 (注) |
対応戦略 |
指標と目標 |
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1.5℃ シナリオ |
4℃ シナリオ |
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リ ス ク |
移行 |
TCFD |
①炭素税導入による操業コストの増加 |
約100億円 |
追加課税なし |
・エネルギー使用効率の改善 ・再生可能エネルギーの利用拡大 ・戦略的な設備投資 ・脱炭素技術の実装検証 |
2031年3月期までに
・Scope 1 & 2 50.4%削減 ・Scope 3 30%削減 (2019年3月期比) |
2050年までに
・Scope 1 & 2, Scope 3 実質ゼロ |
②市場の変化による原材料・部材調達コストの増加 |
定量化に必要なパラメータ不足のため財務影響は非算出 |
・低炭素原材料・部材の調達 ・資源配慮設計の推進 ・サプライヤーエンゲージメント ・生産拠点における資源の有効・循環利用 |
2026年3月期までに
廃棄物などのリサイクル率 90% |
|||||
TNFD |
③自社グループ工場の環境負荷に関する法規制の導入・厳格化への未対応 |
- |
・環境方針の遵守 ・ISO14001に基づく内部監査 |
- |
- |
|||
物理 (急性) |
TCFD/ TNFD |
④気候変動に起因する台風や洪水等による自社グループ工場の被災による売上機会の損失 |
約15億円 |
・防災行動計画の推進 ・計画的な設備投資・更新 |
- |
|||
物理 (慢性) |
TCFD/ TNFD |
⑤渇水・水質汚染等、利用可能な水資源減少に伴う自社グループ工場の操業停止による売上機会の喪失 |
定量化に必要なパラメータ不足のため財務影響は非算出 |
・水使用効率の改善、水循環システムの導入 ・生産拠点における水リスク管理 |
2031年3月期までに 水使用効率20%改善 (2019年3月期比) |
|||
機会 |
TCFD |
⑥新築住宅のZEH普及や既築住宅の省エネリフォーム拡大に向けた省エネ商品・サービスの需要増加 |
約200億円 |
成り行きを維持 |
・エコ商品の開発と拡販(高性能窓、太陽光発電、高性能住宅工法、節湯水栓・シャワーなど) |
・2026年3月期までに新築戸建住宅向け高性能窓の販売構成比(日本)100% ・2031年3月期までに節湯水栓・節水トイレの販売構成比(日本)100% |
||
TCFD/ TNFD |
⑦低炭素材料を利用した商品、再生材の使用比率を引き上げるなど環境に配慮した取り組みに対する消費者の嗜好変化による需要の増加 |
定量化に必要なパラメータ不足のため財務影響は非算出 |
・再生材を利用した低排出商品の開発と拡販(樹脂サッシ、人工木デッキなど) ・⑤と同様 |
2031年3月期までにリサイクルアルミの使用比率 100% |
主要なリスクと機会 |
財務影響の程度 (注) |
対応戦略 |
指標と目標 |
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1.5℃ シナリオ |
4℃ シナリオ |
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機会 |
TCFD |
⑧災害対策・災害復興商材等の需要増加 |
定量化に必要なパラメータ不足のため財務影響は非算出 |
・防災・減災商品の開発と拡販(シャッター、雨戸、シェード、蓄電、レジリエンストイレなど) |
- |
|
TCFD/ TNFD |
⑨節水・水質改善などに貢献する商材などの需要増加 |
・節水・浄水商品の開発と拡販 ・安全な水の提供や水の汚染リスク低減への貢献 |
2025年3月期までに節水製品による水使用削減貢献量 年間20億㎥ |
(注)TCFDのシナリオ分析に基づくものです。
・Scope 1 & 2のCO2排出量に対して炭素税(国際エネルギー機関(IEA)が公表する1.5℃目標実現のために導入が必要と想定される炭素税価格を使用)が課せられた場合の想定額を算出
・世界資源研究所(WRI)が提供するAqueduct Floods及び日本の各自治体のハザードマップを用いて、全生産拠点の浸水リスクを評価(事業継続計画(BCP)によるリスク低減を加味せず、生産拠点の立地条件のみに基づく)し、国土交通省の治水経済調査マニュアルが提示する浸水高さごとの想定停止日数と、該当拠点の1日当たりの生産高を乗じて損失額の平均値を算出
・日本政府が掲げる2030年目標における家庭部門66%削減の実現に向け、2030年時点で新築住宅及び既築住宅のZEH比率が向上した前提のもと、主な関連商品のシェア・単価・利益率から利益額を算出
・製品使用において間接的に消費される給湯エネルギーなどに由来した排出量は除く
■リスクと機会への対応状況
① 炭素税導入による操業コストの増加
事業所(特に製造拠点)のCO2排出量を削減するために、生産効率性の向上、不良率の良化、燃焼効率の改善、トップランナー機器への更新等を進めています。また、太陽光発電システムの設置や経済合理性のある再生可能エネルギーの調達を進めており、事業で使用する電力の100%再生可能エネルギー化を目指す企業イニシアティブ「RE100」に加盟しています。海外事業では、すべての水栓金具関連の工場・物流センター(全10拠点)が100%再生可能エネルギーに切り替えました。また、国内では6工場でオンサイト PPA、海外では9工場でオンサイト PPA、4工場でオフサイト PPAによる再エネ電力に切替え、今後もPPAモデルをはじめとした「追加性」が高い再生可能エネルギー導入を積極的に検討していきます。また、営業拠点、ショールーム、本社などの国内の事業所では、7割以上ですでに再生可能エネルギーへの切り替えが完了しています。さらに、脱炭素社会の実現に向けた取り組みとして、水素への燃料転換やCO2を分離・回収し有効活用するCCUなどの新技術を取り入れたイノベーションにも取組み、2030年以降の実用化を目指した検討を継続しています。その取り組みの一つとして、水素への燃料転換を見据えた製造技術検証を継続的に行ってきました。アルミ溶解工程、衛生陶器やタイルの焼成工程で使用する高温炉の検証として水素燃焼実験を行い、従来の天然ガスと同様に問題なく水素が使用可能であることを確認しました。また、アルミ形材の製造工程の高温溶解工程以外の用途でも、水素への燃料転換を見据えた取り組みを進めています。その一つで、生産工場の量産設備で品質への影響が懸念されるアルミエージング処理工程における実証実験では、水素燃焼が品質に影響しないことを確認しました。加えて、高温工程以外でも水素への燃料転換を展開することを見据えて、サッシ生産工場の量産設備で品質への影響が懸念されるアルミエージング処理の実証実験を行い成功しました。今後は、製造の脱炭素化の選択肢の一つとして、水素への燃料転換に必要な設備仕様や投資等を踏まえ、実用化を検討していきます。
② 市場の変化による原材料・部材調達コストの増加
原材料・部材の調達によるCO2排出量を削減するために、より低炭素な原材料・部材の使用、リサイクル材の活用、製品の省資源化、製品寿命の長期化や再利用に配慮した設計を進めています。特に、調達におけるCO2排出削減を推進するにはサプライヤーの皆さまとの連携が必要不可欠です。2023年3月期から、調達によるCO2排出の削減に影響の大きいサプライヤーとのエンゲージメント活動を開始し、CO2総排出量の上位80%を占める国内外のサプライヤーに対して、CO2排出量集計や削減目標設定の状況を把握するためのアンケート調査を実施しました。当連結会計年度は、国内主要サプライヤー約400社に対して、当社グループの調達活動や排出量算定に関する説明会を開催し、新たにCO2排出量算定を始める意向のサプライヤーに対して、Scope 1, 2, 3算定ツールの提供や活用方法に関する説明会を行いました。今後は、個別サプライヤーとの協議を通じ、サプライヤーの排出量データの質や量、整合性を図りながら、さらなる削減活動支援を進めるとともに、海外サプライヤーとの連携も推進していく予定です。
③ 自社グループ工場の環境負荷に関する法規制の導入・厳格化への未対応
環境に関する規制が厳格化される中にあっても着実に事業活動を継続できるよう、全従業員及び取締役・執行役員を含む全役員に適用される「LIXIL 環境方針」を定めています。これには「環境マネジメントシステムの継続的改善」と「コンプライアンスの徹底」が含まれます。
環境方針を事業活動に反映し、実行に移すために、全生産工場、国内の非生産拠点、及びグループ会社を含む内部監査体制が整えられています。生産工場においては、ISO14001の基準に沿った内部監査を通じて環境マネジメントシステムの有効性と法令遵守状況を定期的に評価しています。これには、有害廃棄物や大気汚染物質の管理も含まれ、ISO14001の管理システムを基に運用されています。
非生産拠点とグループ会社においても、ISOに準じた独自の環境マネジメントシステムに基づいた内部監査を実施し、対象範囲を段階的に広げています。内部監査で指摘された事項には改善措置を講じ、その実施状況を確認することで、マネジメントシステムの効果的な運用を促進しています。また、2018年3月期からは、本社環境部門が事業部門の環境責任者に対して内部監査を行う体制を導入しています。
④ 気候変動に起因する台風や洪水等による自社グループ工場の被災による売上機会の損失
大規模自然災害を想定した際のリスクとして、当社グループの本社、事業所、工場含む全域における被害想定をもとに、各工場における事業継続計画(BCP)活動を実施し、災害リスクの最小化を進めています。また、製品供給における対策として調達先の適正化、適切な在庫確保、バックアップ生産体制の構築などを進めています。他にも、当社及び国内の連結子会社が所有・使用・管理する固定資産が火災や風水災等の不測かつ突発的な事故による被害を補償する保険プログラムに加入しています。
⑤ 渇水・水質汚染等、利用可能な水資源減少に伴う自社グループ工場の操業停止による売上機会の喪失
世界で水不足が深刻化する中、地域の実情を把握し適切な施策を実行するため、当社グループでは、2017年3月期から製造プロセスで水を使用する生産拠点83拠点における水リスク調査を実施しています。リスク評価のプロセスでは、まず国際的な評価ツール(WWF Water Risk Filter)により地理的なリスク評価を行い、その中で高リスクと認定された拠点を対象とした調査を実施しています。2023年3月期はScience Based Targets Network (SBTN)のコーポレートエンゲージメントプログラムに参画し、SBTNにおける水リスク評価に関する指針策定に貢献しています。当連結会計年度は、自然関連情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に対応した開示に向け、水不足リスクに加えて水質リスクの評価を行いました。このように、定期的に分析を更新しながら、水リスクへの対応を強化し、各拠点における適切な対応を計画・実行しています。
⑥ 日本の家庭部門CO2削減目標実現に向け、新築住宅のZEH普及や既築住宅の省エネリフォーム拡大に向けた高断熱・省エネ・創エネ商材などの需要増加
世界の最終エネルギー消費のうち、約3割が建築に起因し、日本での一般的な住宅における消費エネルギーの約6割を冷暖房と給湯が占めています。また、日本の住宅の高性能化は欧州などに比べて遅れており、既存住宅の約9割は現行の省エネ基準を満たしていません。断熱効果の高い「窓」の果たす役割は非常に大きく、気候変動対策に向けた推進力になり得ます。
高い断熱性能や節湯・節水性能、創エネ機能など、CO2排出量の削減に貢献する製品・サービスを提供する当社グループが、住宅・建築物のCO2排出削減に果たす責任は大きいものと認識しています。国内の新築市場は縮小傾向のため、特に重要なのは既築住宅の高性能化リフォームの推進です。住宅1棟をまるごと断熱改修する高性能住宅工法、開口部を簡単に断熱改修できるリフォーム窓・ドア、節湯・節水に貢献する節湯水栓・シャワーや節水型トイレなどの製品を通じてリフォーム活性化に貢献しています。また、新築戸建住宅向けの製品についても、2022年3月期、すべての窓シリーズ製品の刷新を行い、2026年3月期までに高性能窓比率100%を目指しています。
⑦ 低炭素材料を利用した商品、再生材の使用比率や水の再利用率を引き上げるなど環境に配慮した取り組みに対する消費者の嗜好変化による需要の増加
樹脂フレームのリサイクル材使用率を従来品よりも約3倍に拡大した樹脂窓、再生樹脂及び再生木粉を利用した人工木デッキ、スパウト(吐水口部分)だけを後から浄水機能付きスパウトに取り替えられるアップグレード可能なキッチン用水栓など、消費者の選択肢を広げサステナブルな暮らしを提案する製品・サービスの開発と提供を進めています。加えて、調達・製造時にCO2を多く排出する原材料・部材の価格高騰、石油由来のプラスチックに関する規制強化、サーキュラー・エコノミーの台頭による消費者の嗜好の変化などの市場変化に対応していくために、製品の原材料として可能な限りリサイクル素材や再生可能素材を使用し、長寿命化とリサイクル性を考慮した設計を進めています。
GROHEブランドでは、資源の有効活用を促進する「Cradle to Cradle」認証製品を拡充しており、さらに環境製品宣言(EPD)に対応した製品は、18製品群、777品目に達しています。また、日本のハウジング事業では2031年3月期までに使用されるアルミ形材にリサイクルアルミニウムを100%使用するという中期目標を設定しました。この目標の達成は、当社グループが定めるCO2排出量削減の中期目標であるScope 3削減目標30%(2019年3月期比)のうち、約3割の削減に相当します。2022年12月には、原材料にリサイクルアルミニウムを70%使用し、「エコリーフ環境ラベル」を取得した低炭素型アルミ形材「PremiAL(プレミアル)」シリーズの発売を開始しました。新地金を使用した製品から置き換えることで、55%のCO2排出量削減に貢献することができます。
さらに、原材料すべて(100%)にリサイクルアルミを使用する技術開発を進め、75%のCO2排出量削減に貢献するリサイクルアルミ率100%に置き換えた「PremiAL R100」を2023年9月に発売開始しました。当社グループとお客さまのCO2削減計画を支援する製品として採用が進んでいます。
また、これまで再資源化が困難であることから、焼却や埋め立て処分、熱回収されてきた複合プラスチックを含む、ほぼすべての廃プラスチックと廃木材を融合した循環型素材、「レビア」を開発しました。廃プラスチックと廃木材を有効利用することで、82%のCO2排出量削減に貢献します。2023年1月には、「レビア」を使用した第一弾製品として、歩道・広場・公園・建築外構など幅広い用途に使用可能な舗装材「レビアペイブ」の販売を開始しました。原材料の調達から生産、販売、施工、回収に至るエコシステムを構築し、廃プラスチックの循環利用を促す持続可能なビジネスモデルを確立することで、焼却によるCO2排出量の削減、埋め立てによる環境汚染の低減に取り組んでいきます。
これらの「PremiAL」や「レビア」などの環境配慮製品は、インターナルカーボンプライシングの考えを事業戦略に取り入れることで、資源循環の活動を通じたバリューチェーン内外でのCO2削減効果を製品の付加価値とし、機会の獲得につなげています。
⑧ 災害対策・災害復興商材等の需要増加
台風や豪雨といった自然災害被害の増加や猛暑による熱中症の増加に伴い、既存の窓に簡単に取り付け可能で台風時の強い風による飛来物から窓を守るシャッター・雨戸、強い日差しを窓の外側でカットする「スタイルシェード」、断水時には洗浄水量を5リットルから1リットルに切り替えられるパブリック向け衛生陶器「レジリエンストイレ」などの気候変動への適応に貢献する製品の開発と提供を進めていきます。
また、熱中症やヒートショックを引き起こす一因である室内温度と冷暖房の効率の重要性についてステークホルダーとともに考える多様な活動「Think Heat」や、災害から家族を守る家をつくるための活動「減災プロジェクト」を推進しています。
⑨ 節水・水質改善などに貢献する商材などの需要増加
水の効率的な利用を促進する製品やソリューションの提供を通じて、エンドユーザーの責任ある水利用をサポートし、日常生活における節水につなげています。節水型トイレや水栓、スマートコントローラーなどの製品の提供を通じて、2025年3月期までに、世界で年間20億㎥の水使用量の削減に貢献することを目指しています。また、より良い住まいには、シャワーや手洗い、飲料水など、清潔で安全な水が不可欠です。当社グループは、製品の提供だけにとどまらず、消費者や地域社会と連携することで行動変容を促し、より安全な水の提供と水の汚染リスクの低減にも取り組んでいます。さらにパートナーとの協働を通じて、地域や文化によって異なる課題に対応するソリューションを開発し、より効率的で責任ある水利用を促進するため、水不足への対応、使用効率の改善、安全性の向上、再利用の促進といった様々な水の課題に関する議論に参加し、政策提言を行っていきます。
<リスクと影響の管理>
当社グループは、気候変動、自然資本及び生物多様性に関わる依存、影響、リスク及び機会については環境戦略審議会の責任のもとでTCFD・TNFDの提言に基づいたシナリオ分析を行い、重要度を特定し、事業への影響の度合いを評価しています。また、それぞれの移行リスク・物理リスクを事業及びオペレーショナルリスクと紐づけることで、組織全体の総合的リスク管理との整合を図っています。
リスク管理においては、それぞれのリスクの重要性を判断した上で、あらゆる階層の組織で対応策を立案、実行し、進捗状況をモニタリングする体制を敷くことで、リスクを回避するための活動を展開しています。特に、気候変動、自然資本及び生物多様性を含む環境リスク及び機会への対応については、環境戦略に反映させ、環境目標・実行計画に落とし込み、環境パフォーマンス向上やリスク管理に関わる施策を推進・展開し、進捗の管理・監督と振り返りを行うプロセスを構築し、リスク回避に努めています。詳細は、
<指標及び目標>
当社グループは、環境ビジョン「Zero Carbon and Circular Living(CO2ゼロと循環型の暮らし)」を掲げ、2050年までに事業プロセスと製品・サービスによるCO2排出量を実質ゼロにすることを目指しています。2023年3月期には、CO2削減目標について2030年までの中期目標をScience Based Targets initiative(SBTi)が示す2℃水準から1.5℃水準へ上方修正し、SBTiによる目標認定を更新しました。また、水と資源に関わる2030年に向けた中期目標を追加しました。
当連結会計年度には、長期目標(long-term target)である「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ」に対して、日本の建材業界で初めてSBTネットゼロ認定を取得しました。SBTネットゼロの基準に則り、「2050年までにScope 1, 2, 3の温室効果ガス排出量を90%削減し、10%以内の残余排出量を炭素除去によりゼロ」にしていきます。
気候関連を含む環境リスク及び機会を評価する指標 |
目標 |
|
リスクへの対応 |
Scope 1& 2によるCO2排出量 |
2031年3月期までに50.4%削減(2019年3月期比) |
Scope 3によるCO2排出量 |
2031年3月期までに30%削減(2019年3月期比) |
|
Scope 1 & 2、Scope 3によるCO2排出量 |
2050年までに実質ゼロ |
|
水使用効率向上 |
2031年3月期までに20%向上(2019年3月期比) |
|
廃棄物などのリサイクル率 |
2026年3月期までに90% |
|
機会への対応 |
新築戸建住宅向け高性能窓の販売構成比(日本) |
2026年3月期までに100% |
節湯水栓・節水型トイレの販売構成比(日本) |
2031年3月期までに100% |
|
節水製品による水使用削減貢献量 |
2025年3月期までに年間20億㎥ |
|
リサイクルアルミの使用比率 |
2031年3月期までに100% |
TNFD開示指標(依存・影響)-直接操業
測定指標 番号 |
インパクトドライバー |
指標 |
開示状況 |
|
気候変動 |
GHG排出量 |
CO2排出量(注) |
C2.1 |
汚染/汚染除去 |
排水量 |
排水量(注) |
C2.2 |
汚染/汚染除去 |
廃棄物発生と処理 |
廃棄物の処理方法別発生量(注) |
C2.3 |
汚染/汚染除去 |
プラスチック汚染 |
プラスチック廃棄物の発生量(国内)(ウェブサイト) |
C2.4 |
汚染/汚染除去 |
GHG以外の大気汚染物質 |
NOx、SOx、ばいじんの排出量(注) |
C3.0 |
資源の利用と補充 |
水不足地域からの取水と消費 |
水不足地域における取水量 (ウェブサイト) |
A3.0 |
資源の利用と補充 |
水使用量と取水量の合計 |
消費量および取水量(注) |
A3.2 |
資源の利用と補充 |
水の削減、再利用、リサイクル |
水使用効率向上率および リサイクル水量(注) |
TNFD開示指標(依存・影響)-上流バリューチェーン
測定指標 番号 |
インパクトドライバー |
指標 |
開示状況 |
C3.1 |
資源の利用と補充 |
陸・海・淡水から調達した リスクの高い天然製品の量 |
木材およびアルミの調達重量(注) |
TNFD開示指標(対応)-上流バリューチェーン
測定指標 番号 |
インパクトドライバー |
指標 |
開示状況 |
A23.1 |
自然への変化(依存と影響): ミティゲーションヒエラルキー |
ⅰ)廃棄物または、 ⅱ)製品/原材料の流出に占める再利用・リサイクル率(%) |
廃棄物などのリサイクル率(注) |
A23.4 |
自然への変化(依存と影響): ミティゲーションヒエラルキー |
循環的な材料の使用率(%) |
リサイクルアルミ使用比率(注) |
(注)開示場所は当社ウェブサイトの「LIXIL ESGデータブック2023」です。
人的資本・多様性に関する情報開示
<ガバナンス>
当社グループは、執行役や部門長で構成されるD&I審議会を設置しています。D&I審議会では、D&I戦略に基づく様々な施策検討を行い、討議・審議された内容は「インパクト戦略委員会」を通じて四半期ごとに執行役会に報告され、必要なものについては決議がなされます。取締役会はそれらに対する進捗状況について半期ごとに報告を受け、議論・監督を行っています。
<戦略>
当社グループは、その存在意義の追求に向け、より機動的で起業家精神にあふれ、実力主義に基づいた働き方への転換を推進してきました。併せて私たちの働き方や、企業と従業員の関係は、急速に進化しており、事業の成功のためには、企業にとって最も重要な人的資本である人材への投資とD&Iの実現が必要不可欠です。当社グループの人事部門であるGPO(Global People Organization)は、「従業員の誰もが自信を持ちどこででも活躍できるよう、LIXILを革新的でインクルーシブな組織へ変革」するというミッションを掲げ、2022年3月期~2025年3月期のグローバル人事戦略において、5つの柱を策定しています。そのなかでも人的資本強化の主要な要素として、以下の3つを掲げています。
① インクルージョンをLIXILのDNAに組み込む
当社グループでは、インクルージョンが目指す目標であり、ダイバーシティはその結果として生まれるものである、と考えています。当社グループで働くすべての人が、当社グループの将来の競争優位性を確保する上でのD&Iの重要性、及び、D&Iを重視する文化とイノベーションを生む文化は密接な関係にあるということを理解するよう、包括的で戦略的な取り組みを推進しています。2024年3月期からは、アカウンタビリティーを人事部門から各部門へ移すフェーズへ移行しており、この変化を牽引する施策として、管理職向けD&Iワークショップが大きな役割を果たしています。本ワークショップは、2023年10月から日本で先行開始した「GROW:Great Managers at LIXIL」の一環として実施され、部長クラスの管理職がファシリテーターを務めながら、8カ月に渡りグローバル全体で6,000人が参加しました。当社グループにおいて、管理職は、チーム文化を醸成し、女性をはじめ従業員のエンゲージメントに大きな影響を与える存在であり、当社グループの成功における重要な役割を担っていると考えています。GROWプログラムでは、管理職自身が成長することで、チームメンバーが育成するように設計されており、「インクルーシブな職場環境の構築」を含む7つのコアの実践に重点を置いた学習体験を提供しています。
② 人材育成への投資
より効果的に変革を推進し、当社グループの将来にとって不可欠なイノベーションを生む文化の担い手となる人材への投資を進めています。また、バイアスを排除した採用に始まり、人材育成の加速に至るまで、基盤となるインフラの構築に取り組み、従業員の能力開発、人事評価やリーダーシップ研修等の各種制度とプロセスを全社的に管理することで、グローバルな人材活用を進めています。当社グループにおいては、POD(People Organizational Development)と呼ばれる総合的な人材と組織のレビューを毎年実施しており、後継者計画や、ハイポテンシャル人材、女性タレントの特定など総合的なアプローチによって、持続可能な人材マネジメントを行っています。また、POD結果を踏まえて得た洞察は、従業員の能力開発の取り組みにも役立っており、当社グループにおいて、新卒社員から経営陣までの全ての従業員が学び、成長できる環境を提供することで、学習文化の促進にも注力しています。
③ 従業員エクスペリエンスの向上
従業員を事業活動の中心に据え、従業員の声に耳を傾けて、一人一人のライフステージに寄り添いながら、従業員エクスペリエンスを向上させます。定期的なサーベイを通じて従業員のエンゲージメント、インクルージョン、ウェルビーイング、またそれらに寄与するドライバーとなる社員のエクスペリエンスをデータとして見える化し、部下を持つ管理職が従業員データ、分析ツール、レポートにタイムリーにアクセスできるようにすることで、各々のチームメンバーのキャリア支援や能力開発に活かしています。また、これらの定期的な調査結果や、さらなる深掘り調査・分析の結果を踏まえ、より働きやすい環境への促進にも繋げます。実際に日本で実施した深掘り調査では、ハイブリッドで柔軟な職場環境を推進することで、とりわけ女性従業員の柔軟な働き方やインクルージョンを促進していることがデータからも確認されています。
Global People Organization(GPO)Strategy
<リスク管理>
当社グループが継続的に事業を発展させるためには、専門技術に精通した人材や、経営戦略や組織運営といったマネジメント能力に優れた人材の確保、育成を継続的に推進していくことが必要となります。特に日本国内においては少子高齢化に伴う労働人口の減少等もあり、必要な人材を継続的に獲得するために人材獲得や積極的な人材育成に取り組んでいます。詳細は、
<指標及び目標>
指標 |
目標 |
実績(当連結会計年度) |
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(注)1.女性取締役・執行役比率は、3月31日時点の人数に基づき算出します。
2.有価証券報告書提出日(2024年6月20日)時点では37.5%です。
3.対象は国内及び海外の直雇用従業員です。ただし、売却された子会社及び従業員数100人以下の国内子会社は除いています。
4.当連結会計年度の実績は、当社ウェブサイトに掲載している「LIXIL ESGデータブック2024(先行開示データ:環境及び社会データ)」において、2024年6月に第三者保証取得済です。
5.対象は当社の大学卒・大学院卒の新卒入社者です。当連結会計年度の実績は、2024年4月1日付入社の比率を記載しています。
当社グループでは、事業活動に影響を与える可能性のあるリスクを洗い出し、それらについてグループ共通の基準(事業計画への影響度と発生可能性等)で評価を行い、グループ内での事業規模の違いや外部環境の変化等に基づき、経営者の目線からリスク間の相対的な関係を考慮した上で対処すべきリスクの優先順位を決定しています。
なお、リスクの洗い出しに際して、リスクを戦略リスクとオペレーショナルリスクに分類し、それぞれ以下のように定義しています。
戦略リスク |
事業戦略の策定及び遂行により獲得を企図する成果が予定通り獲得できない程度及びその発生可能性であり、健全な範囲で事業成果を獲得するために敢えて選択して取るリスク |
オペレーショナルリスク |
戦略遂行を支えるオペレーション上の事象による損失額及び事象発生可能性であり、事業遂行上一定以下に抑制すべきリスク |
これらに基づき、リスクにおける重要性を判断した上で、当社グループの各事業、管理部門、マネジメントの各レベルが当該リスクに応じた対策を立案、実行し、対策の進捗状況をモニターし、継続的に改善する活動を展開しています。
また、監査委員会は取締役会、執行役会及び各委員会への参加、重要書類の閲覧、会計監査人とのコミュニケーション等を通じて、対処すべき優先順位の高いリスクについて適切な対策が実行されているかモニターしています。なお、上記に加えて、必要に応じて各事業及び子会社に対する往査も実施しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況及び経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクについて、影響度、発生可能性、重要性の前年からの変化をリスクマップに一覧化し、詳細な情報を記載しています。当社グループでは、各リスクについてグループ共通の基準で評価した結果を一元的に管理するために、戦略リスクとオペレーショナルリスクを同一のリスクマップに表示しています。なお、以下に示す発生可能性及び影響度の評価は対応策を考慮した後の評価(残余リスク)となります。
また、記載しているリスクや対応策が互いに強く連関している場合は参照リスクとして該当番号を記載していますが、すべての連関を網羅するものではありません。
各リスクに紐づいている重要課題については、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。各リスクが重要課題の目標達成を阻害する又は未達成により発生する等の関連性がある場合、該当する重要課題を記載しています。
なお、本項に記載した将来や想定に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(リスクマップ及び凡例)
事業等のリスク |
2024年3月期の以下に関するリスク |
発生 可能性 (注)1 |
影響度 |
重要性の 前年からの変化 |
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戦略リスク |
(1) |
経済状況、為替相場・金利の変動 |
高 |
高 |
同水準 |
(2) |
地政学 |
高 |
中 |
同水準 |
|
(3) |
新製品の開発 |
中 |
中 |
同水準 |
|
(4) |
原材料等の調達 |
中 |
中 |
同水準 |
|
(5) |
環境(気候変動、水、資源) |
中 |
中 |
同水準 |
|
(6) |
事業再編(注)2 |
低 |
中 |
同水準 |
|
(7) |
競合他社との競争・製品価格 |
中 |
中 |
同水準 |
|
(8) |
人材の獲得と育成及びダイバーシティ推進 |
中 |
中 |
同水準 |
|
(9) |
販売チャネル |
中 |
中 |
同水準 |
|
(10) |
ブランド |
低 |
高 |
同水準 |
|
オペレーショナル リスク |
(11) |
災害・事故・感染症等 |
中 |
高 |
同水準 |
(12) |
情報・サイバーセキュリティ |
高 |
中 |
同水準 |
|
(13) |
知的財産 |
中 |
中 |
同水準 |
|
(14) |
繰延税金資産の回収可能性 |
低→中 |
中 |
増加 |
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(15) |
規制強化 |
低 |
低 |
同水準 |
(注)1.前連結会計年度の評価から変更のあったリスクについて、前連結会計年度の発生可能性を併記しています。
2.前連結会計年度の「他社との連携・企業買収等に関するリスク」は、当連結会計年度より本リスクに包含しています。
[戦略リスク]
(1) 経済状況、為替相場・金利の変動に関するリスク
当社グループは、グローバルに販売活動を行っており、その売上収益は世界における需要、景気、物価の変動、産業・業界の動向に影響を受けます。例えばアルミ、銅、樹脂、半導体など原材料価格や物流コスト、エネルギーコストの上昇は、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。特に日本国内においては、新設住宅着工戸数や建設会社の建設工事受注高の大幅な変動が同様に当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。
さらに、為替相場の変動は、当社グループの外貨建取引により発生する資産及び負債の円貨換算額や外貨建で取引されている製品の価格や売上収益等にも重要な影響を与える可能性があります。また、当社グループの資金調達は、主として金融機関からの借入や社債の発行等の有利子負債によっており、市場金利が著しく上昇した場合には当社グループの資金調達に係る金利負担が増加し、借入や社債発行による資金調達の難航や支払利息・社債利息が増加する等、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。(参照リスク(2)(3)(4)(11)(15))
発生可能性 |
高 |
影響度 |
高 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
当社グループ全体における販売活動においては、適切なタイミングにおける価格改定を実施し、価格の適正化を図っています。日本での販売活動においては、日本国内における人口減少に伴う新設住宅着工戸数減少の予想を踏まえ、新築市場におけるシェアの拡大の取り組みのみならず、中高級品市場への拡販、リフォーム戦略の強化を進めています。また、生産活動においては、代替調達先の確保による製品・原材料を含めた適切な在庫水準の維持により、安定的な供給体制の構築に努めています。 さらに、日本の財務部門において、運転資金及び投融資による資金需要を把握し、投資審査委員会等で案件を審査する体制を構築しています。また、日本の財務部門の他に、中国、シンガポール、ドイツ、米国に1か所ずつ計4拠点の「リージョナル・トレジャリー・センター」を設置し、各拠点において為替相場の動向を月次でモニタリングするとともに、必要に応じヘッジ手続きを実行することにより、為替相場の変動影響を低減しています。当該「リージョナル・トレジャリー・センター」に各地域における資金管理業務等を集約することにより、資金調達の効率化及び安定化を進めています。 |
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重要課題 との関連性 |
すべて |
[戦略リスク]
(2) 地政学に関するリスク
当社グループは、グローバルに事業を展開しており、地政学の影響を広範囲に受ける可能性があります。国際情勢や多国間の国際関係は、原材料、資源・エネルギー価格や輸送費の高騰及び調達リスク、物流における供給停滞・遅延といった直接的な影響に加え、世界的な物価高や政策金利への影響を増長させるといった間接的な影響もあり、多岐にわたる他のリスクと複雑に関係し、それらの影響及び不確実性を増長する可能性があります。また、各国の経済安全保障政策が強化され、新たな制裁・法規制の対象となった国や企業との取引の停止、戦争・紛争が発生した地域における長期事業停止や事業撤退等、予期しない政策や法規制等の変更、また社会的な期待の変化が、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。(参照リスク(1)(4)(11)(12)(15))
発生可能性 |
高 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
当社グループは海外にも生産拠点を持ち、製品をグローバルの顧客に供給していることから、事業継続に影響する地政学リスクについて様々な面から対応を強化しています。調達リスクについては、事業に甚大な影響を及ぼすサプライチェーンの分断対策に注力しています。カントリーリスク対応を推進し、特定国・地域に過度に偏ることがないように取り組んでいます。また、有事の際の在庫備蓄品目を拡大することで備えを強化しています。さらに緊急対応先への先行移管や有事の際の行動計画を作成し、定期的なコミュニケーションが取れる関係を構築することでグループ全体としての調達機能の活用・強化を実行しています。 物流においては、供給網の寸断に加えエネルギーコストも考慮してグローバルのサプライチェーンを地域内に順次変更しています。欧州においては配送センターを再編し、北米においてはメキシコの生産力を高め地域内での供給体制を強化しています。国内においては調達物流専門部署を設置し、複数拠点の生産体制や工場間の応援生産体制の整備、適切な在庫水準の維持を進めています。また、政治・経済情勢や法規制の動向を注視し、事業環境の変化や当社グループへの影響を早期に把握することで、事業環境の変化に迅速に対応できる体制の構築に努めています。 |
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重要課題 との関連性 |
すべて |
[戦略リスク]
(3) 新製品の開発に関するリスク
当社グループは、常に技術と顧客ニーズを的確に把握し、魅力ある製品の開発に努めています。しかしながら、市場や業界のニーズ変化に対応できない、十分な開発投資を維持できず上市に至らない、あるいは新製品の価値が顧客へ効果的に訴求できない場合、将来の成長鈍化と売上収益の低下につながる可能性があります。また、製品に欠陥が生じリコールが発生するリスクもあります。大規模なリコールや製造物責任賠償につながった場合、多額の支払が生じ、当社グループ製品への信頼性や評判に悪影響を及ぼし、結果として当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。(参照リスク(1)(4)(15))
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
市場の変化に迅速に対応し、新たな価値を生み出す製品を開発しています。顧客志向を強化するインクルージョン文化の醸成として、「LIXILユニバーサルデザインコンセプト」を積極的に取り入れ、泡シャワー「KINUAMI U」や電動オープナーシステム「DOAC」など、誰もが使いやすい製品の開発、提供に努めています。また、企業や個人に対して資源の責任ある利用が求められていることを踏まえ、環境配慮型製品の開発を加速させています。「プレミアル/PremiAL R70」に加え、リサイクル率100%を実現した「プレミアル/PremiAL R100」の展開により2031年3月期までにアルミリサイクル率100%を目指すほか、「LIXILプラスチック行動宣言」の実現に向け、リサイクル比率を従来品の3倍に高めた高性能樹脂窓「EW」や、従来再資源化が困難となっていた廃プラスチックと廃木材を利用した新素材「レビア/revia」を開発するなど、 製品の原材料として可能な限りリサイクル素材を使用し、市場ニーズと持続可能な社会への貢献のどちらにも応える製品を開発しています。 各製品上市後は業績管理により、市場トレンドと開発戦略の適合性の確認を継続しています。開発プロセスにおいてはステージゲートシステムを導入し、品質不具合の早期発見と迅速な対応を可能にし、大規模な製造物責任賠償やリコールにつながる可能性を低減しています。また、従業員を対象とした品質意識調査の実施や毎年の品質テーマを掲げた啓発活動、品質意識を継続的に高めることを目的とした情報メディアの発行など、コストや納期よりも顧客目線での品質を最優先する風土の醸成に努めています。 |
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重要課題 との関連性 |
グローバルな衛生課題の解決、気候変動対策を通じた緩和と適応、水の持続可能性の追求、 資源の循環利用の促進、製品ライフサイクルを通じた環境への影響、多様性の尊重、 製品の安全性、顧客満足、企業倫理とインテグリティ、リスクマネジメント、 ステークホルダーエンゲージメント、情報セキュリティ |
[戦略リスク]
(4) 原材料等の調達に関するリスク
当社グループの生産活動においては、資材、部品等の供給品を調達しています。そのため、業界の需要増加や事業展開国におけるインフレ等による原材料価格の高騰、為替レートの変動、コモディティの価格変動や重要な物的資源(金属・木材・樹脂・セラミック等)の調達可能性の変動の結果、売上原価が増加し、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。また、資材、部品等の供給品は、欠陥や欠品により当社グループの製品の信頼性や評判に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、生産・販売活動と密接に関わる物流業務に関して、運搬物の増加等による調達遅延や石油価格の変動、人件費の高騰などにより、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。(参照リスク(1)(2)(3)(5)(11)(15))
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
原材料価格高騰部分の販売価格への転嫁、価格変動のヘッジを目的としたデリバティブの活 用を行っています。また、複数購買の実施、有事における対応力が強いサプライヤーの選定、カントリーリスク対応を推進するほか、取引先に対しては信用情報調査や調達アンケート、および定期的なコミュニケーションを実施しています。BCPの観点では、定期的な品質テスト、安全在庫量の確保等により安定的な供給体制の構築に努めています。 また、コモディティ価格の高騰の影響緩和のため、原材料の代替素材への転換やリサイクル素材の使用、および製品の長寿命化とリサイクル性を考慮した設計を推進しています。その一貫として、当社グループが掲げる「LIXIL環境ビジョン2050」の注力分野の1つとして資源の循環利用を促進しています。さらに、物流に関しても、物流効率の改善に取り組むことで物流費の安定化を図っています。 |
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重要課題 との関連性 |
資源の循環利用の促進、製品ライフサイクルを通じた環境への影響、生物多様性の保全、 製品の安全性、人権、サプライチェーンマネジメント、リスクマネジメント |
[戦略リスク]
(5) 環境(気候変動、水、資源)に関するリスク
当社グループは、製品開発から調達、生産、販売活動に至る事業活動において地球環境保全に向け様々な活動を行っています。特に近年においては、気候変動が自社のバリューチェーンにもたらす政策・規制や市場変化による移行リスク、異常気象などの物理リスクが顕在化する可能性が高くなっています。さらに、今後世界的な水問題への対応、原材料・部材の価格高騰、石油由来のプラスチックや木材に関する規制強化、サーキュラー・エコノミーへの移行による消費者嗜好の変化等の市場変化に柔軟に対応していかなければ、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。(参照リスク(4)(15))
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
当社グループでは、執行役会から任命を受けた担当役員が委員長を務める環境戦略審議会を設置し、環境ガバナンスに関わる規程や方針の制定、気候変動、自然資本及び生物多様性を含む環境重要課題に対する施策の審議と決定、当社グループ全体の目標管理とモニタリングなど、環境戦略を構築し、実行しています。 LIXIL環境ビジョン2050では「Zero Carbon and Circular Living(CO2ゼロと循環型の暮らし)」を掲げ、2050年までのCO2排出ネットゼロ及び水の恩恵と限りある資源を次世代につなぐことを目指した活動を推進しています。その長期目標である2050年までのCO2削減目標(Science Based Targets)については、2024年3月期にネットゼロ認定を取得しました。 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言を踏まえ、気候変動、自然資本及び生物多様性を含む環境課題が当社グループに及ぼすリスクと機会を特定・評価し、執行役会・取締役会へ報告・承認を経て、環境戦略に反映させる取り組みを進めています。移行リスクに対しては、生産活動におけるエネルギー使用効率化や積極的な再生可能エネルギー活用に加えて、今後はサプライチェーン全体での環境負荷削減の取り組みを強化していきます。さらに、インターナルカーボンプライシングのより実効的な運用に向けた検証や、2050年に向けた長期的な脱炭素技術の開発や導入を促進していくための製造技術や製品材料の研究を進めています。また、物理リスクに対しては、BCP計画によるリスク最小化、生産バックアップ体制整備、固定資産への保険、渇水対策のための取水管理などを進めています。 移行リスク及び機会への対応においては、環境目標・実行計画に落とし込み、環境パフォーマンス向上やリスク管理に関わる施策を推進・展開し、その進捗の監視と振り返りを行う管理プロセスを構築し、適宜改善を進めています。また、ISO14001若しくは環境マネジメントシステムによる環境関連法令の洗い出しや遵守の点検ルールを定め、運用状況について定期的に内部監査を実施し、内部監査で指摘があった事項については、フォローアップを行い、改善の実施を確認することで、環境マネジメントシステムの効果的な運用につなげています。 |
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重要課題 との関連性 |
気候変動対策を通じた緩和と適応、水の持続可能性の追求、資源の循環利用の促進、 製品ライフサイクルを通じた環境への影響、環境マネジメント、生物多様性の保全、 サプライチェーンマネジメント、コーポレート・ガバナンス、リスクマネジメント |
パリ協定及びSDGsの目標13に掲げられているとおり、CO2削減のため、製造・販売活動の見直しや気候変動による影響を低減するための取り組みを実施することが以前にも増して企業に求められています。また、世界的な人口増加や経済成長に伴い、SDGsの目標12や目標6に掲げられているとおり、持続可能な資源利用や節水・浄水技術に対する需要が高まっています。近年では、SDGsの目標14や15に掲げられているとおり、気候変動の影響と合わせて生物多様性の損失がグローバルリスクとして認識が高まり、自然資本に関するリスクの把握や対応に対する評価を求める動きが始まっており、当社グループにおいてもTNFDへの対応を開始しています。
[戦略リスク]
(6) 事業再編に関するリスク
当社グループは、経営の効率化及び競争力強化のため、不採算事業からの撤退、子会社や関連会社の再編、製造拠点や販売・物流網の再編及び人員配置等の適正化による事業の再構築を行うことがあります。これらの施策に関連して、事業再編後の組織において全社的な戦略上の優先順位が劣後し、経営資源が適切に配分されないこと等により、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。
さらに、投融資等の意思決定の際に、事業戦略、領域、展開国等に内在するリスクが的確に識別されず、投資実行後に当初想定していた利益やシナジー効果を実現できないこと等により、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
発生可能性 |
低 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
経営陣と従業員とのコミュニケーション強化を図ることにより、当社グループの経営戦略の浸透を図っています。 事業・地域ポートフォリオマネジメントを強化することを通じて経営資源配分の優先順位を明確にすることにより、事業再編後の組織において、シナジー効果の最大化や戦略実効性の向上が早期に実現するよう努めています。事業再編後のスムーズな組織の構築に向けて、M&Aにおける買収先企業のPMIを強化しています。その一環として、ガイドラインの策定を通じて、PMI推進体制及び進捗報告プロセスを明確化することにより、有効かつ適切なPMIプロセスの整備・運用による子会社のガバナンス強化を推進しています。さらに、当社又はその子会社による会社の新設、事業再編等を含む投融資に関する事項(投融資案件)については、その内容や金額的重要性に応じて適時適切な判断ができるよう、投資審査委員会による審査や決議をする体制を整えています。 |
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重要課題 との関連性 |
企業倫理とインテグリティ、コーポレート・ガバナンス、リスクマネジメント |
[戦略リスク]
(7) 競合他社との競争・製品価格に関するリスク
当社グループは、事業を展開する多くの市場において激しい競争に直面しています。特に売上収益は競合他社の価格設定に影響を受けます。当社グループは高品質で魅力的な製品を市場へ投入する能力を保持していますが、価格面において競争優位に展開できる確証はありません。これにより、製品・サービスが厳しい価格競争に晒され、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
競合他社との激しい競争による市場価格の下落に対し、多様なニーズに寄り添った付加価値製品の市場投入による差別化を進め、販売価格の底上げに取り組んでいます。生産活動においても共通部分の生産を汎用設備で行うことで生産スペースを削減(プラットフォーム化)するなど、投資資本効率の向上に努めています。プラットフォーム化により、新製品の早いサイクルでの市場投入を可能とし、時代に合った新しい価値を常に提供し続けることが可能となります。 また、富裕層をターゲットとした製品や、当社独自の技術によって実現した環境配慮型製品など、他社差別化製品の展開により、価格競争に晒されにくい事業ポートフォリオの改善を推進するほか、仕様や基準およびデザインを統一することで、リビングなど空間全体のコーディネートを追求した提案を行うなど、当社ならではの幅広い製品を活かした体制づくりを行っています。 その他、クラウドファンディング等も活用しながら、市場に対して新しい価値を提供する製品を適時に投入することで、価格ではなく「価値」で顧客に選ばれる取り組みを実施しています。 |
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重要課題 との関連性 |
多様性の尊重、顧客満足、責任あるマーケティングと広告 |
[戦略リスク]
(8) 人材の獲得と育成及びダイバーシティ推進に関するリスク
当社グループが継続的に事業を発展させるためには、専門技術に精通した人材や、経営戦略や組織運営といったマネジメント能力に優れた人材の確保、育成を継続的に推進していくことが必要です。しかしながら、特に日本国内においては少子高齢化に伴う労働人口の減少等もあり、国内外で必要な人材を継続的に採用・維持するための競争は厳しく、人材獲得や育成が計画通りに進まない場合には、長期的観点から業務運営の効率性が損なわれ、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
当社グループにおいて、継続的な事業の発展のためにグループ全体で女性のさらなる活躍、障がいのある従業員のための取り組みや人種における平等、性的マイノリティに関する取り組み等を推進しており、地域ごとに人事制度の改定や拡充を行うほか、グローバル規模の従業員リソースグループ(ERGs:Employee Resource Groups)として、ジェンダー平等、多文化、障がい、働く親や介護者、LGBTQ+にフォーカスした5つのグループを立ち上げる等、インクルーシブな組織風土を醸成するために様々な活動を行っています。 日本において、新卒採用や経験者の通年採用を積極的に展開するほか、人事・教育体系を充実させ、従業員の定着と育成に努めています。また、グローバルで活躍できる人材を育成するために、各プログラム(海外派遣研修、選抜型の育成プログラム、eラーニング等)を実施しています。多様なバックグラウンドを持つ従業員が個性や能力を十分に発揮し活躍できるよう、インクルーシブな環境を構築するための取り組みを推進しており、マネージャー向け研修をはじめとする多様な人材を受け入れる企業文化の醸成、在宅勤務等の職場環境の整備、エキスパート制度等の新たな人事制度の構築に取り組んでいます。さらに、「報酬・福利厚生委員会」を設置し、グローバルでの処遇の公平性・透明性に向けた取り組みを強化しています。 |
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重要課題 との関連性 |
多様性の尊重、人材と能力開発、従業員の安全と健康、企業倫理とインテグリティ、人権 |
近年、高齢化の進行による高齢世帯の増加及び障がい者人口の増加に対応した製品の必要性が高まっています。また、SDGsの目標5にて掲げられているとおり、企業に対して高齢者や障がい者の雇用だけでなく、ジェンダー格差の是正に対する取り組みも求められています。
[戦略リスク]
(9) 販売チャネルに関するリスク
当社グループはグローバルに事業を展開しており、各事業において販売チャネルの戦略を推進しています。しかしながら、流通経路の変更や新規の販路拡大に対して、想定していた顧客数が確保できない等の理由により、売上成長が鈍化する可能性があります。また、コスト構造の改革が計画通りに進まない場合、当社グループが計上しているのれんについて減損損失が発生する可能性があります。
例えば、当社の連結子会社であるASD Holding Corp.は様々な需要に応じて幅広い製品を展開していますが、近年特に北米を中心として流通構造の変革が起きています。具体的には、エンドユーザーへの直接的な販売の拡大が起きており、ASD Holding Corp.においても、Eコマース(EC)を活用したウェブサイトでの自社製品の販売等を含め、ビジネスの転換を図り、売上の伸長やコスト構造の改革に努めています。
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
各事業の市場傾向やターゲット顧客の特性を把握し、事業戦略と一貫した販売チャネル戦略を推進しています。市場環境の変化における需要の変動や法規制、技術革新、競合他社の活動等を適切に把握し、適時に戦略の方針やアプローチを改善することで、各事業における当社製品の効果的な市場浸透を図っています。 ASD Holding Corp.では、販売チャネルの拡大を進めるために、従来、外部の販売代理店が行っていた営業活動を内製化し、施工会社等のステークホルダーに対して、当社ブランドの専門性を持った担当者が直接アプローチすることで自社製品の販売促進に努めています。特に、建設会社への拡販やショールームの活用強化に注力しています。また、自社のECを活用したウェブサイトの展開や施行者向けトレーニングを充実させるなど、エンドユーザーへの直販チャネルの拡大を促進しており、売上高も増加傾向にあります。その他、リテール市場の縮小によるリスク軽減を見据え、子会社の買収・売却・解散等を適切に判断することにより、ポートフォリオの管理を行っています。 |
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重要課題 との関連性 |
顧客満足、サプライチェーンマネジメント、情報セキュリティ、 責任あるマーケティングと広告 |
[戦略リスク]
(10) ブランドに関するリスク
当社グループはグローバルに事業を展開しており、多数のブランドを保有しています。しかしながら、ブランド戦略と事業戦略との整合性や、市場トレンドとの適合性、それらの把握および管理不足によりブランド・エクイティが変動する、あるいは製品事故などインシデント発生によるレピュテーション毀損等によりブランド価値が低下することで、業績に影響を与える可能性があります。
特に当社の連結子会社であるLIXIL Europe S.à r.l.が保有するGROHEブランドは富裕層をターゲットとしたプレミアムブランドとして認知されており、激しい競争環境において従来の欧州中心のビジネスのみならず、中東市場における販売の拡大を推進しています。当ブランド価値の毀損により、売上成長が鈍化、若しくは利益率が低下した場合、当社グループが計上しているのれんについて減損損失が発生する可能性があります。
発生可能性 |
低 |
影響度 |
高 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
各ブランドの強みや認知度を活かし、事業戦略と一貫したブランド戦略を策定し展開しています。各市場や競合環境を適切に把握するとともに、策定した戦略に基づき顧客・従業員・取引先等を含めたコミュニケーションを強化することで、共通したブランド認識の構築と浸透を図っています。また、グローバルで自社及び競合他社ブランドの販売価格を継続的にモニタリング・分析し、当社グループ全体において統一的な施策を立案・実行できる仕組みを整備し、競争の激しい市場においてもブランド価値を反映した価格帯を維持できるよう対応しています。 さらに、ウォーターテクノロジー事業におけるGROHEブランドの位置付けについて、事業内の他ブランドとの差別化を図るため、ブランドデザインの使用に関するルールを設け、ブランド価値の維持・管理に努めています。このような総合的なブランド戦略により、GROHEブランドの認知度を高め、市場でのトップポジションを維持することを目指しています。 |
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重要課題 との関連性 |
多様性の尊重、顧客満足、責任あるマーケティングと広告 |
[オペレーショナルリスク]
(11) 災害・事故・感染症等に関するリスク
当社グループは、日本国内及び海外諸国の複数の拠点において生産・販売活動を行っていることから、各地で発生する地震や台風等の自然災害、未曽有の大事故や感染症によって、当社グループの調達、生産、物流、販売活動や情報管理関連施設等の拠点に甚大な被害を受ける可能性があります。特に、災害・事故等の発生により、当社グループの国内及び海外工場の生産活動が停止することは、市場への製品供給に深刻な影響を及ぼし、売上収益に悪影響を与える可能性があります。
また、感染症の発生や拡大は当社グループ従業員の健康状態悪化による労働力の低下の可能性や、取引先の生産・販売活動の一部停止等、当社グループの事業活動に支障が出る可能性もあります。その結果、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。(参照リスク(1)(2)(4)(15))
発生可能性 |
中 |
影響度 |
高 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
大規模自然災害や事業活動に伴う事故に備え、早期に復旧できるよう事業継続計画(BCP)を策定し、災害・事故発生時の対応を適時に行うことができるよう事前の対策を講じております。実際に大規模災害が発生した場合には危機管理対策本部を立ち上げ、事業継続と被害の最小化に努めています。 海外子会社の従業員や出張者が自然災害や政変によるテロ・暴動に巻き込まれる等、海外での緊急事態発生についても対応ルールの整備をするとともに、外部専門家と提携し緊急事態発生時の現地従業員へのサポート体制も整えています。 感染症対策に関しては、在宅勤務の環境整備と運用を従来から推進しており、また政府指針等を踏まえた対応ハンドブックを策定し、適時更新し運用しています。感染発生時の対応準備や感染発生時の報告フローの見直しなどを行い、従業員が安心して働ける環境を構築するとともに、事業活動を従来通り継続することに努めています。 当社グループは、従業員及び従業員家族、取引先を含むステークホルダーの方々の生命及び安全の確保を最優先としています。なお、緊急事態発生時の行動や対策については従業員への周知徹底と継続的見直しを実施しています。 |
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重要課題 との関連性 |
気候変動対策を通じた緩和と適応、従業員の安全と健康、サプライチェーンマネジメント、 リスクマネジメント |
[オペレーショナルリスク]
(12) 情報・サイバーセキュリティに関するリスク
当社グループが行う生産・販売活動及び各種事業活動は、コンピュータシステム及びコンピュータシステムを結ぶ通信ネットワークを利用しています。このため、通信ネットワークに生じる障害や、ネットワーク又はコンピュータシステム上のハードウェア、若しくは、ソフトウェアの不具合・欠陥、データセンターの機能停止等により事業活動に支障が出る可能性があります。また、情報システムが適切に導入・更新されていないことによりシステム上の不具合、業務の非効率、生産性低下を招き、事業活動に支障が出る可能性があります。
さらに、当社グループでは、業務を遂行する中で顧客情報をはじめとする様々な個人情報を取り扱う機会があり、厳格な情報管理が求められています。このため、不測の事態により個人情報の遺漏が発生した場合には、社会的信頼の失墜を招くとともに多額の費用負担が生じる可能性があります。その結果、売上収益の減少あるいは販管費等の増加により、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。(参照リスク(2))
発生可能性 |
高 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
情報セキュリティ委員会を設置し、情報セキュリティに関する社内規程の整備、不正アクセス等を未然に防止するための対策、従業員に対する教育等を実施し、さらにこれらの取り組みを定期的に評価・見直すことにより、情報セキュリティマネジメントの継続的な改善を実施しています。特に、効率的で安定した事業活動の遂行を担保するため、老朽化した基幹システムの刷新を進めています。また、サイバー攻撃全体への対応としてCSIRT (シーサート: Computer Security Incident Response Team)を設置し、外部からの不正アクセスを常時監視するとともに、有事の際に適切な対応を実現する体制を構築しました。また、情報セキュリティリスクが顕在化した場合には、緊急時の報告基準とフローに沿ってエスカレーションを行い、事業部門とコーポレート部門が連携し、速やかに初動対応と事業復旧対応が取れる危機管理体制の整備を推進しています。 IoT (Internet of Things)やOT (Operational Technology)も含めたサイバーセキュリティ強化の構築も推進しています。また、個人情報保護に関する法令を遵守すべく、必要な社内規程の整備やEU一般データ保護規則 (GDPR)で要求されるデータ保護責任者を含む個人情報責任者の設置、適切な研修の実施、プロセス整備等を行っています。 さらに、ランサムウェア対策として、定期的なバックアップ、従業員へのフィッシング詐欺対策研修、エンドポイントのセキュリティ強化などを実施し、サイバー攻撃に対する防御体制を強化しています。 |
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重要課題 との関連性 |
リスクマネジメント、情報セキュリティ |
[オペレーショナルリスク]
(13) 知的財産に関するリスク
当社グループは、魅力ある差別化された製品やサービスの開発に努めています。このような製品やサービスに対し、第三者が保有する知的財産権との関係で紛争や交渉が生じる可能性があります。この場合、当該第三者の知的財産権を侵害しない製品やサービスの開発、損害賠償金の支払い、当該第三者の知的財産権のライセンスの取得とロイヤルティの支払い、差止命令による当社グループの製品やサービスの一部について製造販売や提供の中止を要求される可能性があります。
一方では、当社グループの製品やサービスの差別化要素となる技術やデザイン等が第三者に模倣されることにより、当社グループの製品又はサービスの市場競争力の低下を引き起こす可能性があります。また、当社の商標権等の知的財産権を侵害する模倣品の流通により、当該模倣品を使用した顧客に事故や健康被害等が発生した場合、当社グループへの評判、ブランド価値、当社グループの製品の信頼性に悪影響を及ぼす可能性があります。
これらは、当社グループの経営成績及び財政状態にも悪影響を及ぼす可能性があります。
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
知的財産部門と事業部門が連携し、第三者の知的財産権の調査分析を行う等の知的財産権についてのリスクアセスメントを製品開発のプロセスに組みこむことで、開発段階から訴訟その他の重大な事業リスクの発生を未然に防止する対応をしています。すなわち、第三者の知的財産権についての事前調査や必要なライセンスの取得などの対応を図っています。 また、長期にわたって事業の競争優位性と高収益性を実現するために、競争力の源泉である当社の差別化要素の第三者による模倣を防ぐ対応を行っています。そのため技術開発、製品企画の段階から保護すべき知的財産を特定し、特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権を取得し、又は当該知的財産を秘匿する等の対応を図るとともに、日本及び各国における知的財産ポートフォリオマネジメントを推進しています。なお、模倣品に対しては、お客様に対する注意喚起や税関への差止申立て、インターネット販売における監視と排除、当局による摘発への協力等を行い、その流通の防止に努めています。 さらに、知的財産情報をはじめとする各種のデータ分析に基づく知財インテリジェンスを実行し、上記のリスクアセスメントを効率的に行うとともに、戦略的に知的財産ポートフォリオを構築することに活用しています。 |
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重要課題 との関連性 |
リスクマネジメント |
[オペレーショナルリスク]
(14) 繰延税金資産の回収可能性に関するリスク
当社グループは、税効果会計を適用し、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異に対してそれらを回収できる課税所得が生じると見込まれる範囲において繰延税金資産を計上しています。
将来の課税所得は、マネジメントが確認した将来の業績見積りを基礎としています。当該見積りにおいて、日本国内における人口減少に伴う新設住宅着工戸数の減少が予想される中、販売価格の適正化及び政府による住宅省エネ化支援策の拡充も踏まえたリフォーム戦略の強化等による売上収益の増加や原価低減による売上総利益率の改善等の収益性向上を見込んでおり、これらの施策の達成には不確実性が伴います。また、税務上の繰越欠損金の繰越年数や使用上限割合が変更される等、当社グループにとって不利な税制改正が行われる可能性が否定できません。これらの結果、繰延税金資産の一部又は全部の回収ができないと判断された場合、当該繰延税金資産は減額され、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
発生可能性 |
中 |
影響度 |
中 |
重要性の 前年からの変化 |
増加 |
対応策 |
見積りの達成にあたっては、当社グループ全体の業績管理を担う企画管理部門によるモニタリングを強化しており、見積りの達成を阻む要因があれば、早期に対応できる体制を構築しています。 さらに、当社CFO直轄組織がガバナンス強化の取り組みの一環として業績管理プロセスを強化することにより、業績悪化の兆候を早期に捉え、税制改正にかかる情報については、当社税務部門において早期に捉えるようにしています。これらの部門が、業績悪化の兆候や税制改正にかかる情報を把握した際には、当社経理財務部門及び税務部門と協議を行い、繰延税金資産の回収可能性に関して見直しの必要性を含めて適時に対策が打てるような体制を構築しています。 当期においては、当社及び一部の子会社の繰延税金資産の一部については使用できるだけの十分な課税所得が稼得されない可能性が生じたため、当該繰延税金資産の帳簿価額の一部を減額しました。今後、収益性の回復により回収可能性が高いと見込まれた際には、再度帳簿価額の増額を行います。 |
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重要課題 との関連性 |
税の透明性 |
[オペレーショナルリスク]
(15) 規制強化に関するリスク
当社グループは、日本国内において事業活動を行う上で、会社法や独占禁止法、個人情報保護法、税法、会計基準等、経営に係る一般的な法令諸規制の適用を受けています。また、海外での事業活動についても、それぞれの国や地域における競争法、個人情報保護法、国際取引規制、その他の法令諸規制の適用を受けています。近年、当社グループの重要な物的資源(金属・木材・樹脂・セラミック等)又はその原材料を含む自然資源の利用や、非財務情報開示を含むサステナビリティに関わる規制等、新たな法令諸規制の導入について活発に議論されています。また、個人情報保護に関する規制については、グローバルに規制強化の一途を辿っており、その執行も活発化しています。
これらの法令諸規制は、労務費、原材料費、エネルギーコスト等の上昇、国際情勢や多国間の国際関係の変化、その他の社会情勢の変化などに応じて、将来において急速に新設・変更・廃止され、厳正な法執行が行われる可能性があります。その結果、製品その他サービスの提供の制限や、売上原価の増加、設計・開発段階におけるコスト増、新たな制裁・法規制の対象となった国や企業との取引の停止等、当社グループの事業運営や、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。また、新たな法令諸規制に対応できる人材の確保を含む体制整備や、システム導入に遅れが生じた場合、従来と比較して法令違反のリスクが高まる可能性があります。
(参照リスク(1)(2)(3)(4)(5)(11))
発生可能性 |
低 |
影響度 |
低 |
重要性の 前年からの変化 |
同水準 |
対応策 |
当社グループは、複雑化し急速に変化し続けるグローバルな規制環境の中で行う事業活動に機動的に対応するため、2022年1月に法務・コンプライアンス部門のグローバルでの組織再編を実施しています。また、2022年4月には個人情報保護をグローバルで統括する専任の組織を立ち上げました。これらの新体制のもと、法務部門を中心とした各地域の法令遵守と法的リスクを抑制するための体制が整備されています。 さらに、法令諸規制に関する情報発信や定期的な教育等により、従業員の理解度を高めるとともに、事業部門とコーポレート部門が規制対応に関して適切に連携できるよう取り組んでいます。規制の新設・変更・廃止が実施された場合には、規程やガイドライン等の作成・更新に加えて、取引先に対するコンプライアンスデューデリジェンスにその内容を反映する等の実務的な方策によって、規制違反の回避に努めています。 |
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重要課題 との関連性 |
すべて |
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」)の状況の概要は、次のとおりです。
① 経営成績の状況
当連結会計年度における我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の分類が5類へ移行したことにより、厳しい行動制限も緩和され、個人消費の回復に加えてインバウンド需要の高まりがみられるなど社会活動・経済活動の正常化が進み、国内景気は緩やかな回復基調にあります。しかしながら、依然として経済全体において物価の上昇が続いていることに加え、日米金利差の拡大などに起因する急激な円安の進行や世界的な金融引き締めが引き続き国内景気を下押しするリスクとなっています。また、住宅投資に関しては、特に持家及び分譲において住宅ローン金利上昇の懸念や建築資材価格の高止まりの影響等から減少傾向に歯止めがかからず、新設住宅着工戸数は軟調に推移し、先行きは不透明な状況が続いています。一方で、政府主導で創設された大規模な住宅省エネ支援策である「先進的窓リノベ事業」における補助金制度の活用により、断熱製品を中心とした窓リフォーム市場において大規模な需要が創出されました。なお、本制度は次年度においても規模を拡大して継続されます。
世界経済に関しては、ロシア・ウクライナ紛争の長期化や不安定な中東情勢、米中関係などの地政学的リスクに加え、インフレーションの抑制に向けた世界的な金融引き締め政策の長期化、不動産市場の低迷及び消費意欲の低下による中国経済の先行きの懸念などの影響を受けて景気の停滞感が続いています。一方で、欧州及び米国地域においては、これまでの金利上昇局面が一服したものの高止まりの状況が続いていますが、直近では利下げ観測もあり、その動向次第では消費マインドに大きな影響を与えることから、引き続き状況を注視していく必要があります。
このような環境のもと、当社及びその連結子会社(以下「当社グループ」)における当連結会計年度の業績は、国内事業において補助金制度に下支えされ、断熱窓を中心とするリフォーム製品の売上伸長があったものの、引き続き新設住宅着工戸数の減少の影響を大きく受けたことに加え、海外事業では、主に欧州及び米国地域における金利の高止まりやインフレーションの長期化に起因する大幅な需要減退の影響などもあり、売上収益は1兆4,832億24百万円(前年同期比0.9%減)と減収となりました。利益面においても、国内・海外とも引き続き構造改革や販売価格の適正化、収益性改善の施策などの実行に努めたものの、資材・エネルギー及び部品価格の高止まりによるコスト増加に加え、特に海外事業における需要の軟化や市況低迷などによる減収の影響を補いきれず、事業利益は231億62百万円(前年同期比10.0%減)と減益となりました。また、構造改革の実施に伴うその他の費用の増加などから営業利益は163億51百万円(前年同期比34.3%減)、加えて金利上昇による金融費用の増加の影響などもあり、継続事業からの税引前利益は66億64百万円(前年同期比66.3%減)とそれぞれ大幅な減益となりました。
また、収益性の一時的な悪化などに起因する法人所得税費用の増加に加え、2020年9月に売却を完了している当社の連結子会社であったPermasteelisa S.p.A.にかかる非継続事業からの当期損失を計上しました。
これらの結果、非支配持分を控除した親会社の所有者に帰属する当期損失は139億8百万円(前年同期は159億91百万円の親会社の所有者に帰属する当期利益)となりました。
(注)事業利益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しています。
セグメント別の概況は次のとおりです。なお、セグメント別の売上収益はセグメント間取引消去前であり、事業利益は全社費用控除前です。
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
増減額 |
増減率 |
ウォーター テクノロジー 事業 |
売上収益 |
915,285 |
896,924 |
△ 18,361 |
△ 2.0% |
事業利益 |
47,259 |
22,717 |
△ 24,542 |
△ 51.9% |
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利益率 |
5.2% |
2.5% |
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ハウジング テクノロジー 事業 |
売上収益 |
598,211 |
596,448 |
△ 1,763 |
△ 0.3% |
事業利益 |
19,360 |
35,887 |
16,527 |
85.4% |
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利益率 |
3.2% |
6.0% |
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消去又は全社 |
売上収益 |
△ 17,509 |
△ 10,148 |
7,361 |
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事業利益 |
△ 40,874 |
△ 35,442 |
5,432 |
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合 計 |
売上収益 |
1,495,987 |
1,483,224 |
△ 12,763 |
△ 0.9% |
事業利益 |
25,745 |
23,162 |
△ 2,583 |
△ 10.0% |
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利益率 |
1.7% |
1.6% |
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[ウォーターテクノロジー事業]
主に水回り製品を手がけるウォーターテクノロジー事業においては、国内事業は新築需要の減退による影響が続いているものの、これまで取り組んできた価格改定効果の発現に加え、リフォーム関連製品の売上が引き続き堅調に推移したことなどもあり、対前年同期比で僅かに増収となりました。一方で、海外事業は円安による為替換算影響があったものの、特に欧州及び米国地域における金利水準の高止まりに加え、インフレーションが継続している影響により、住宅関連の投資意欲がそがれたことから、著しく需要が減退し、対前年同期比で減収となりました。その結果、同事業の売上収益は8,969億24百万円(前年同期比2.0%減)と減収となりました。
また、事業利益は、国内事業・海外事業とも価格改定効果による粗利の確保に加えて販管費の削減に努めたものの、売上の減少による影響や固定費の負担を補いきれず、227億17百万円(前年同期比51.9%減)と大幅な減益となりました。
[ハウジングテクノロジー事業]
主に国内にて住宅建材製品を展開するハウジングテクノロジー事業においては、これまで取り組んできた価格改定効果の発現に加え、国策による大規模な補助金制度の導入を背景に住宅性能・快適性の向上や環境保護を目的としたリフォーム需要が刺激され、断熱窓を中心とするリフォーム製品等の販売が大幅に伸長したものの、ウォーターテクノロジー事業と同様に新築需要の減退による影響を大きく受けたことなどにより、売上収益は5,964億48百万円(前年同期比0.3%減)と僅かながら減収となりました。
一方で、事業利益は引き続き資材・エネルギー価格の高止まりによるコスト増加の影響はあるものの、リフォーム関連製品の売上伸長や価格改定効果による粗利の確保に加え、生産現場のアセットライト化などの生産性向上施策に伴う収益性の改善が着実に進んでいることなどから、358億87百万円(前年同期比85.4%増)と大幅な増益となりました。
(注)1.事業利益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しています。
2.「国内事業」「海外事業」については、当社グループの連結業績管理にて定義しているマネジメントベースの区分を使用しており、所在国による区分とは一部異なります。具体的には、ウォーターテクノロジー事業及びハウジングテクノロジー事業において、国内で管轄している一部の海外子会社を「国内事業」に含めています。
② 財政状態の状況
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べて330億61百万円増加の1兆8,865億95百万円となりました。流動資産は、為替換算に伴う増加影響に加え、手元資金の増加や期末休日に伴う営業債権及びその他の債権の増加などがあったものの、棚卸資産の政策的な調整に伴う大幅な減少などもあり、前連結会計年度末に比べて137億55百万円減少の7,307億78百万円となりました。一方、非流動資産は、主にのれん及びその他の無形資産において為替換算に伴う増加影響があったことなどから、前連結会計年度末に比べて468億16百万円増加の1兆1,558億17百万円となりました。
また、資本は6,443億38百万円、親会社所有者帰属持分比率は34.1%(前連結会計年度末比0.4ポイント増加)です。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりです。なお、金額は非継続事業を含むキャッシュ・フローの合計額です。
営業活動によるキャッシュ・フローは、479億90百万円の資金増加となりました。前年同期に比べて329億85百万円の増加となり、この主な要因は、継続事業からの税引前利益の減少があったものの、税金支払額の減少に加え、棚卸資産、営業債務及びその他の債務、営業債権及びその他の債権などの運転資本の変動に伴う影響があったことなどによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、政策保有株式の売却や子会社の吸収分割に伴う一時的な収入などがあったものの、主に設備投資に伴う有形固定資産及び無形資産の取得による支出があったことなどから298億76百万円の資金減少となりました。前年同期に比べて5億57百万円の減少です。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期、長期とも有利子負債の調達と返済を機動的に行ったことに加え、配当金やリース負債の支払があったことなどから36億73百万円の資金減少となりました。前年同期に比べて235億12百万円の減少です。
これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、換算差額による影響などを含めると、前連結会計年度末に比べて178億8百万円増加の1,244億85百万円です。
④ 生産、受注及び販売の実績
生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
ウォーターテクノロジー事業 |
488,004 |
100.1 |
ハウジングテクノロジー事業 |
260,672 |
92.7 |
合計 |
748,676 |
97.4 |
商品仕入実績
当連結会計年度の商品仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
ウォーターテクノロジー事業 |
104,648 |
95.5 |
ハウジングテクノロジー事業 |
139,366 |
95.7 |
合計 |
244,014 |
95.6 |
受注実績
ハウジングテクノロジー事業の工事物件については、受注生産を行っています。当連結会計年度における受注実績は、次のとおりです。
セグメントの名称 |
受注高 (百万円) |
前年同期比 (%) |
受注残高 (百万円) |
前年同期比 (%) |
ハウジングテクノロジー事業 |
80,382 |
116.3 |
113,307 |
105.3 |
販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
ウォーターテクノロジー事業 |
896,924 |
98.0 |
ハウジングテクノロジー事業 |
596,448 |
99.7 |
報告セグメント計 |
1,493,372 |
98.7 |
セグメント間取引 |
△10,148 |
58.0 |
合計 |
1,483,224 |
99.1 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりです。
なお、本項に記載した将来や想定に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであり、その達成を保証するものではありません。また、分析に記載した実績値は1億円未満を四捨五入して記載しています。
① 重要な会計上の見積り及び判断、重要性がある会計方針
重要な見積りを伴う会計方針とは、不確実性があり、かつ翌連結会計年度以降に変更する可能性がある事項、又は当連結会計年度において合理的に用いることができる他の見積りがあり、それを用いることによっては財政状態及び経営成績に重要な相違を及ぼすであろう事項の影響に関して見積りを行う必要がある場合に、最も困難で主観的かつ複雑な判断が要求されるものです。また、当社グループを取り巻く市場の動向や為替変動等の経済情勢により、これらの見積りの不確実性は増大します。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたって利用する重要な会計上の見積り及び判断については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (4)重要な会計上の見積り及び判断の利用」に記載のとおりです。また、当社グループの連結財務諸表の作成にあたって採用する重要性がある会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」に記載のとおりです。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度における当社グループの経営成績等の状況に対して、事業全体及びセグメントごとに重要な影響を与えた要因について経営者の視点から見た認識及び分析・評価は、次のとおりです。
[当連結会計年度の業績に対する評価]
当連結会計年度は、国内事業では人件費の上昇や資材価格の高騰、海外事業では欧州及び米国地域の需要減退により収益性が大きく悪化し、前連結会計年度に引き続き厳しい事業環境に対峙した1年でした。
国内事業では、新設住宅着工戸数が減少したものの、高性能の断熱窓リフォーム向けの売上が下支えしました。一方、海外事業では、金利の高止まりとインフレーションの長期化によって、欧州・米国市場で住宅関連商品の需要低迷が続きました。その結果、売上収益は前年同期比128億円減の1兆4,832億円となりました。売上総利益率は31.9%と0.5pt改善しましたが、事業利益は海外での需要低迷が主な要因となり、前年同期比26億円減の232億円となりました。
国内では原材料・資材価格の上昇を価格改定により吸収しつつあるものの、海外において需要軟化局面で固定費が大きな負担となりました。収益性改善に向けた課題としては、変動費と固定費の適切なコントロールという2つの側面において対応が必要になると考えています。
まず、原材料・資材高などの変動費の上昇に対しては、これまでの取り組みを継続し、機動的な価格改定により収益性の回復と向上を図ります。加えて、付加価値の高い差別化商品の展開により、より利益率の高い商材の売上により商品ミックスを改善し、収益性を高めることが必要となります。
固定費の削減については、当連結会計年度は本社費などの販管費削減努力の継続に加え、海外事業における構造改革を推進してきました。欧州及び米国地域における人員配置の最適化、サプライチェーンの再構築、事業ポートフォリオの最適化等を図りました。次期においても引き続き構造改革は継続しますが、主にサプライチェーンの最適化により余剰設備の適正化を進め、主な構造改革は完了させる予定です。
当社グループを取り巻く事業環境の厳しさは続いており、迅速かつ適切な対応が迫られています。上記にて説明した対応策を着実に取り組むことにより、財務の安定性を確保しつつ、当社の持続的な成長とPurpose(存在意義)の実現に努めてまいります。
[資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応]
当社は、中期目標の指標として事業利益率7.5%、ネット有利子負債EBITDA倍率3.5倍以下、親会社所有者帰属持分比率35%以上の実現を掲げております。また、長期の財務指標として事業利益率10%、投下資本利益率(ROIC)10%を達成することを目指しております。
(注)1.ROE :親会社の所有者に帰属する当期損益 ÷{(親会社の所有者に帰属する持分(前期末)+
親会社の所有者に帰属する持分(当期末))÷ 2}
2.ROIC:営業利益 ×(1-実効税率)÷ (営業債権及びその他の債権 + 棚卸資産 +
固定資産(のれん等無形含む)- 営業債務及びその他の債務)
また、当連結会計年度末時点でのPBRは0.8倍にとどまっており、ROEの向上に繋がる利益率の改善を推進していきます。そのために事業利益率の改善策として、価格の適正化、アセットライト化に加え、海外事業の収益性改善に取り組みます。加えて当期利益の拡大に向けて、構造改革遂行後の効果発現により収益性を高めていきます。
(注)1.親会社の所有者に帰属する当期利益を指します。
2.親会社の所有者に帰属する持分を指します。
[キャピタルアロケーション・株主還元に対する考え方]
当社は、2024年4月に新たな株主還元方針を発表しました。より実態に即した内容に変更したもので、期間収益並びにキャッシュ・フロー、内部留保、財務体質等の経営全般にわたる諸要素を総合的に判断の上、利益配分を決定することを方針としています。具体的には、その時点でのキャッシュ・フローの状況を勘案し、財務体質の強化に加え、競争力の強化を目的とした設備投資(新商品開発、合理化、IT投資等含む)等の成長投資を優先することを前提に内部留保の使途を決定します。株主還元については、長期にわたり安定した配当を実施することを基本とし、中期的なEBITDAの水準に基づき年間配当金額を決定するとともに、自己株式の取得は機動的に行う方針です。この方針のもと、次期の配当は1株当たり90円を予想しています。
(注)調整後EBITDA:事業利益 + 減価償却費(IFRSにおけるリース会計適用による現金の流出を伴う減価償却費の計上額の補正)
[財務の安定性確保]
現時点では、イノベーションによる将来成長の基盤を築くフェーズにあることから、大型のM&Aや設備投資は検討していません。また、当面、大型の借入れや増資計画はありませんが、資本的支出の規模は概ね650億円を目安として、長期的かつ持続的な成長につながるITや人材、デザイン・ブランドなどの無形資産も含む成長投資により営業キャッシュ・フローの増加を図るとともに、保有資産の最適化を通じて成長投資に必要な資金の創出を図ります。
当社では、ネット有利子負債EBITDA倍率を3.5倍以下に、また親会社所有者帰属持分比率を35%以上に改善することを中期目標の指標として、アセットライト化の推進に基づく資本効率の向上と有利子負債の削減に取り組んでいきます。
[次期の見通しと通期業績予想値]
次期の見通しについては、国内・海外とも経済環境は持ち直しの動きが続くことが期待されますが、一方で国際紛争や米国大統領選挙などの地政学的リスクに起因する世界的な情勢不安に加え、不動産市場の低迷やインフレーション及び金利の動向次第では依然として先行きが不透明な状況が続くと見込まれます。
このような厳しい事業環境のもと、当社グループにおいては経営の基本的方向性を示した「LIXIL Playbook」の優先課題に基づき、これまでも積極的な対策を講じてきました。特に喫緊の課題である海外事業の収益性の回復に向けて継続して構造改革に取り組むとともに、欧州及び米国地域を中心とした人員配置の最適化、不採算事業の整理などの事業ポートフォリオのさらなる見直し、サプライチェーンの再構築などを推進していきます。こうした取組みの成果は、次期以降の収益性の改善に必ず貢献するものと考えています。
また、当社グループは、業績の向上と持続的成長に向けて、差別化商品の拡大と、社会や環境へのインパクト創出を同時に実現することを目指しています。これまでも機動的で起業家精神にあふれた組織へと変革する取組みを続けてきましたが、今後も引き続き、デジタル化の加速とインクルーシブな企業文化の醸成を通じてイノベーションを推進し、新たな成長機会の確立につなげていきます。
これまで取り組んできた事業基盤の強化による成果は見え始めており、長期的な成長への道筋は変わっていません。ステークホルダーの皆様に提供する価値をさらに高め、ひいては、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」という当社グループの存在意義を実現するために前進してまいります。
このような中、次期の通期業績予想値につきましては、上記のような事業環境・経営戦略を考慮し反映させた結果、売上収益は1兆5,700億円(前年同期比5.9%増)、事業利益は350億円(前年同期比51.1%増)、営業利益は250億円(前年同期比52.9%増)、継続事業からの税引前利益は150億円(前年同期比2.3倍)、親会社の所有者に帰属する当期利益は80億円(前年同期は139億8百万円の親会社の所有者に帰属する当期損失)と、増収増益を見込んでいます。
なお、上記の次期見通しは現時点で入手可能な情報に基づき当社が判断したものであり、リスクや不確実性を含んでいます。実際の業績は、様々な要因によりこれらの見通しとは異なる結果となることがあります。
(注)1.EPS(基本的1株当たり当期利益)の2025年3月期予想値の算定上の基礎となる期中平均株式数については、2024年3月31日現在の発行済株式数(自己株式数を除く)を使用しています。
2.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。また、各指標は、以下により算出しています。
ROE :親会社の所有者に帰属する当期損益 ÷((親会社の所有者に帰属する持分(前期末)+
親会社の所有者に帰属する持分(当期末))÷ 2)
ROA :親会社の所有者に帰属する当期損益 ÷((総資産額(前期末)+ 総資産額(当期末))÷2)
ROIC:営業利益 ×(1-実効税率)÷ (営業債権及びその他の債権 + 棚卸資産 +
固定資産(のれん等無形含む)- 営業債務及びその他の債務)
ネット有利子負債:有利子負債 - 現金及び現金同等物
3.有利子負債は、連結財政状態計算書に計上されている負債のうち利子を支払っているすべての負債を対象としています。
資本の財源及び資金の流動性については、次のとおりです。
当社グループは、健全な財政状態を維持しつつ、事業活動に必要な資金を安定的かつ機動的に確保すべく、営業活動によるキャッシュ・フローの創出や幅広い調達手段の実現に努めています。手元流動性に関しては、非常時の決済資金相当額を常に維持することを基本とし、財務柔軟性を確保するため、銀行などの金融機関からの借入や社債の発行に加え、コマーシャル・ペーパー発行枠及びコミットメントラインの確保、受取手形の流動化といった取り組みを通じて、調達手段の多様化を図っています。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大のような想定外の事象により経営環境が急激に悪化した際のリスクに備えて、上記の基本方針とは別に短期資金の調達枠を設定しています。また、当社グループ内においても設備投資案件の優先順位付け、在庫管理の徹底、販管費の縮減方策などを通じてさらなる手元流動性の確保に努めています。
当連結会計年度においては、パートナーシップ構築宣言に基づくサプライヤーへの支払期日短縮への対応などによる運転資本の増加により、当連結会計年度末におけるネット有利子負債は前連結会計年度末に比べて410億円増加し5,527億円となりました。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は1,245億円となりました。
次期においては、フリー・キャッシュ・フローの改善を通じて有利子負債の圧縮と財務体質の健全化を図ります。
なお、財務状況に関する主要指標の推移は、次のとおりです。
|
2020年 3月期 |
2021年 3月期 |
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
2024年 3月期 |
売上収益事業利益率(%) |
3.5 |
4.2 |
4.5 |
1.7 |
1.6 |
親会社所有者帰属持分比率(%) |
24.0 |
31.7 |
34.3 |
33.7 |
34.1 |
ネット有利子負債/EBITDA(倍) |
5.5 |
3.5 |
2.9 |
4.8 |
5.3 |
(注)1.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。なお、各指標は、以下により算出しています。
ネット有利子負債:有利子負債-現金及び現金同等物
EBITDA :事業利益+減価償却費及び償却費
2.有利子負債は、連結財政状態計算書に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債及び転換社債型新株予約権付社債を対象としています。また、EBITDAの算出に用いた減価償却費及び償却費には、非継続事業に分類したPermasteelisa S.p.A.及び同社子会社並びに株式会社LIXILビバに係る金額を含めていません。
当連結会計年度において、経営上の重要な契約等の締結等はありません。
当社グループでは、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というLIXILのPurpose(存在意義)の達成を目指し、ステークホルダーの皆様と社会に対する持続的な価値創造の実現に取り組んでいます。また、インパクト戦略の推進を通じて、国連が策定した2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献し続けるよう、専門知識や規模を活かしながら社会課題の解決に向けて取り組んでいます。
商品開発においては確かな品質、高い技術に基づいて、快適な住生活・都市環境を実現しお客様に喜ばれる商品を市場に送り出すことを大きな役割と考えており、研究開発部門では、開口部商品、住設機器、内装建材や外装建材から住宅のパネル工法に至るまで、健康、環境負荷低減、高齢者配慮、省資源・省エネルギー等の様々な視点から研究を重ねています。これらの基礎研究、技術開発、商品開発は当社グループの各社における技術研究所、研究開発部門及び商品開発部門が品質保証部門等と連携のもとに取り組んでいます。
当連結会計年度の研究開発費のセグメント別の実績及び総額は、次のとおりです。
(単位:百万円)
セグメントの名称 |
金額 |
ウォーターテクノロジー事業 |
|
ハウジングテクノロジー事業 |
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合計 |
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[ウォーターテクノロジー事業]
トイレでは、便器を浮かせて掃除がしやすくなったINAXキャビネット付便器「フロート トイレ」をフルモデルチェンジし発売しました。また、環境負荷の低減に貢献できる商品として、便器部は長く使える陶器素材のため残したまま、シャワートイレ部だけを簡単に交換できるINAX取替用機能部「リフレッシュシャワートイレ タンク付」を発売しました。
浴室では、“また、泊まりたくなる”ホテルづくりをコンセプトに、アウトベイシンプラン(トイレ・洗面と浴室分離)に対応し、トレンドを取り入れた空間デザインと機能を強化したホテル向けユニットバスルーム「BSW」を発売しました。
水栓では、「Greentap」をサントリー食品インターナショナル株式会社と共同開発し発売しました。当社の浄水技術にサントリー食品が開発した植物ミネラルエキスを加えて、家庭の蛇口から「ミネラル in ウォーター」を楽しめるサービスです。
タイルでは、エコカラットの最上位グレードに、今までにない900×300角の大きなサイズの「マジェスティックスレート」と、溶岩石の深い色合いが特長の「ディープバサルト」の2つのデザインを追加し発売しました。
洗面化粧台では、お客様のニーズにきめ細かく応えるため、清掃性とデザインで好評の「エルシィ」を新商品「クレヴィ」にモデルチェンジ。収納が充実した奥行560タイプとコンパクト奥行500タイプの2ラインナップに刷新しました。
[ハウジングテクノロジー事業]
業界トップのアルミリサイクル率により、新地金使用製品に対してCO2排出量を約80%削減した、低炭素型アルミ形材「プレミアルR100」の物件対応を開始しました。
サッシでは、マンションにおいても戸別改修可能な取替窓「リプラス」マンション用を発売しました。ドアでは、革新的なデザインの次世代玄関ドア「XE」を発売し、グッドデザイン賞やレッド・ドット賞を受賞しました。また、ハイエンドブランドNODEAにて、高い質感の総アルミフレーム×高断熱性×ハイサイズを国内で初めて実現した「WINDOW G」を発売しました。
エクステリアでは、昨今の物流問題に対して宅配荷物の再配達削減を目的とした、宅配BOXを備えた新商品4タイプを開発。内装建材では、2023年イヤーモデルとして、北欧の暮らしを取り入れた、人にやさしい造形や色で構成した等身大の空間「ラシッサDノースフォレスト」を発売しました。また、ラフィスシリーズにて、シンプルで開放感あふれる住空間を実現する「アルミガラス建具」を発売しました。
ZEH推進分野では、 全館換気空調システム「エコエアFine」を発売しました。高性能住宅に最適な空調能力・風量で設計されているため、気流感が少なくストレスの少ない心地よい空気環境を実現できる商品です。
ビルサッシでは、「PRESEA-H」のバリエーションを強化し、意匠性の高い店装建材「スリムハンガードア」を発売しました。