第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)会社の経営の基本方針

当社は2022年5月9日より、当社グループの目指す姿として「企業理念」、「ビジョン」及び「大事にする価値観」を以下のとおり掲げています。

<企業理念>

~グローバルに信頼される 0102010_001.png

海運業を主軸とする物流企業として、人々の豊かな暮らしに貢献します。

<ビジョン>

全てのステークホルダーから信頼されるパートナーとして、グローバル社会のインフラを支えることで持続的成長と企業価値向上を目指します。

<大事にする価値観>

 ・お客様を第一に考えた安全で最適なサービスの提供

 ・たゆまない課題解決への姿勢

 ・専門性を追求した川崎汽船ならではの価値の提供

 ・変革への飽くなきチャレンジ

 ・地球環境と持続可能な社会への貢献

 ・多様な価値観の受容による人間性の尊重と公正な事業活動

 

当社は、海運業を主軸とする物流において、自社と社会の低炭素・脱炭素化の推進を通じて企業価値向上を図り、その実現のための新たな成長機会を追求していくことを基本方針としています。

 

(2)中期的な会社の経営戦略

事業環境が大きく変化しているなか、当社グループは2022年5月9日に2022年度から2026年度までの5か年の中期経営計画を公表しました。当社グループならではの強みである専門機能を磨き上げ、2050年に向けた自社と社会の低炭素・脱炭素化の実現と、収益成長を両立させるための長期経営ビジョンを達成していくため、足元の5年間で実行する施策を中期経営計画において明確化しました。船隊の代替燃料船への移行と並行してエネルギーインフラの転換を進めると同時に、この事業機会を確実に捉え、収益性と成長性を高めていくためにも、経営資源の集中と顧客とのパートナーシップの強化により企業価値の持続的な向上につなげてまいります。その実現のため、事業戦略の実行、事業基盤の構築及び資本政策の明確化に取り組みます。

 

企業価値向上への取組みを定量的に管理していくための経営指標及び目標はそれぞれ以下のとおりです。

経営指標

2026年度目標

ROE

10%以上

ROIC

6.0~7.0%

収支

経常利益1,600億円

・ 中期経営計画期間における経常利益目標について、1,400億円に向けて順調に進捗しており、2026年度の目標値を1,600億円に引き上げる

最適資本構成

・ 事業リスクを意識した財務健全性と資本効率の両立を図りつつ、引き続き成長投資と株主還元のキャッシュアロケーションの分配を意識した事業運営に努める

・ 自営事業及びコンテナ船事業に必要な資本レベルを検証する

株主還元方針

・ 営業キャッシュ・フローの上振れも踏まえて、2023年5月公表時から株主還元は2,000億円増の7,000億円以上を計画

・ 2023年度までに3,662億円を実施し、残りの中期経営計画期間(2024年度から2026年度)における1株当たりの基礎配当を40円、追加配当を45円とし、1株当たり85円の配当を予定

・ 2024年度には配当に加えて1,000億円規模の自己株式取得を予定

・ また、残りの中期経営計画期間において、足元から500億円以上の更なる機動的な追加還元を計画

 

(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

・事業戦略

当社グループは、2022年5月に公表した5か年の中期経営計画にて定めた、海運業を主軸とした当社グループの強みを生かしたポートフォリオ戦略に基づき、事業ごとの役割を明確化し、各事業の特性に応じたメリハリのある資源配分により事業の収益性を強化し、企業価値の更なる向上に努めます。

「成長を牽引する役割の事業」である鉄鋼原料、自動車船、LNG輸送船事業へは、環境対応を機会として成長を実現し全社収益の柱となることを目的とし、経営資源を集中的に配分して事業成長を実現します。「スムーズなエネルギー転換をサポートし新たな事業機会を担う役割の事業」である電力炭、油槽船、LPG船事業では、事業リスクの最小化を図りながらも、新エネルギー輸送需要への対応を推進します。「稼ぐ力の磨き上げで貢献する役割の事業」であるバルクキャリア、近海内航、港湾・物流事業では、市況耐性を高め、安定収益確保に努め、シナジーを追求した事業戦略を進めます。「株主として事業を支え収益基盤を安定させる役割の事業」では、コンテナ船事業を当社の重要な主要事業の一つととらえ、持分法適用関連会社であるOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(以下、「ONE社」という。)の持続的な成長と発展のために、株主としての支援強化を目的とし、継続的な人的支援と経営ガバナンスへの関与を通じた企業価値の最大化を目指します。「新規事業領域」では、液化CO2輸送事業や洋上風力発電支援船事業など、グループ会社間の専門領域を磨き上げ、シナジーを追求し、当社グループの強みを生かせる事業領域の拡張を目指します。

 

・事業基盤

事業戦略を実現するための強固な事業基盤を構築します。当社グループの提供価値の源泉である、人材・組織とそれらを支えるシステム・技術に投資することで、当社グループならではの技術や専門性を磨き上げ、組織的な営業力を通じて顧客のニーズに合致した付加価値を提供します。また、今後の成長を実現するうえで不可欠である環境・技術開発と安全・船舶品質管理については、継続的な取組みと、グローバル拠点の強化によるサポート体制と組織の確立により、対応を更に強化します。

 

・資本政策

最適資本を意識したキャッシュアロケーションにより資本効率と財務健全性を両立し、成長のための投資を行ったうえで積極的な株主還元を行い、企業価値向上を進めます。

最適資本構成では、事業リスクを意識した財務健全性と資本効率の両立を図りつつ、引き続き成長投資と株主還元のキャッシュアロケーションの分配を意識した事業運営に努めます。投資計画では、中期経営計画に基づき、「成長を牽引する役割を担う事業」と「環境対応」に重点を置き、事業・目的に応じたリスク・リターンを鑑みて投資規律を効かせ、好況の時は抑制的に、市況が悪化した折には戦略的に投資を実行していきます。株主還元政策では、中期経営計画期間の業績動向を見極め、最適資本構成を常に意識し企業価値向上に必要な投資及び財務健全性を確保のうえ、適正資本を超える部分についてはキャッシュ・フローを踏まえて積極的に自己株式取得を含めた株主還元を検討します。また、経営管理の更なる高度化により、事業毎の資本コスト及びキャッシュ・フローを意識した経営管理の導入及び事業投資マネジメント導入による投資規律の維持・強化により、資本効率を最適化し、企業価値の更なる向上を目指します。

 

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものです。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)基本的な考え方

当社は創業以来、海運を主軸とする物流企業として国際的な社会インフラを担ってきましたが、人々の生活や経

済を支えるライフラインとしての使命を果たしてゆくには、経営にサステナビリティ(環境・社会・経済の持続可能性)の視点が重要です。また、急速に変化する環境の中で事業の持続的な発展により企業価値を向上させてゆくには、気候変動問題やSDGsなどに代表されるグローバル社会の要請やお客さまのニーズの変化に応える経営戦略を、機動的に打ち出す必要があります。 当社グループが大事にする価値観のひとつである「地球環境と持続可能な社会への貢献」を体現すべく、サステナビリティへの主体的な取り組みを通じて、社会課題の解決に貢献しつつ、成長機会の追求と企業価値の向上に取り組んでまいります。

 

(2)サステナビリティ全般に関するガバナンス

グローバルな価値観や行動の変容が加速し、地球温暖化による環境負荷の低減に対する意識が高まるなか、当社

グループは、サステナビリティ経営を中長期的な企業価値向上の実現に向けた重要課題の一つとして捉え、取締役会において継続的に議論しています。

サステナビリティに重点を置いた経営を強化するため、社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ経営推

進委員会」及び「GHG削減戦略委員会」を設置しています。

このうち「サステナビリティ経営推進委員会」は、当社グループのサステナビリティ経営方針、推進体制の審

議・策定を通じて、企業価値向上を図っています。

その下部組織である「サステナビリティ専門委員会」は、当社グループが特定しているマテリアリティ(サステ

ナビリティ重要課題)の各課題に対する管掌部門のグループ長が委員として参加しており、マテリアリティに関する取り組みの実践状況をモニターし、その進捗状況を定期的に上部組織であるサステナビリティ経営推進委員会に報告しています。

もう一つの下部組織である「環境専門委員会」は、「川崎汽船グループ環境憲章」および国際標準化機構(ISO)の規格に則って構築された「環境マネジメントシステム(EMS)」を機能的に運用するとともに、その他の環境に関わる活動を推進しています。

一方、「GHG削減戦略委員会」は、各種環境対応が急務ななか、当社グループの燃料転換を主体としたGHG削減戦略を策定するとともに、総合的な対応戦略、機器選定等の技術対応・円滑な運用準備などの方針を策定し、実施を統括しています。具体的には、下部組織として「CII・2030年環境目標対応プロジェクトチーム」「次世代代替燃料推進プロジェクトチーム」「安全環境支援技術プロジェクトチーム」の3つのプロジェクトチームを置き、喫緊の課題であるEEXI(Energy Efficiency Existing Ship Index、既存の大型外航船の燃費性能規制)やCII(Carbon Intensity Indicator、燃費実績の格付制度)への組織的対応を強化するほか、LNG燃料焚き船・LNG燃料供給事業への取り組み加速と次世代燃料や新技術の検討、環境規制への技術面も含めた対応方針の策定を担っています。

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(2023年度委員会開催実績)

 サステナビリティ経営推進委員会:3回

 環境専門委員会:2回

 サステナビリティ専門委員会:3回

 GHG削減戦略委員会:4回

 

(3)サステナビリティ全般に関するリスク管理

当社はサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程の一環として、必要に応じてマテリアリティ(サステナビリティ重要課題)の見直しを行っています。

直近に実施した2022年度の見直しでは、新たに5分野、12項目のマテリアリティを特定しました。

マテリアリティの特定に際しては、ISO26000やOECD多国籍企業行動指針など、主として CSR(企業の社会的責任)に関連する各種ガイダンスを参考に、SDGsなどで掲げられる社会課題を考慮しつつ、事業戦略との整合性や価値創造の観点なども加味して、「自社にとっての重要性」(ビジネス視点での重要性)と「社会にとっての重要性」(ス

テークホルダー視点での重要性)という2軸から、マテリアリティの分析・評価を行いました。

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マテリアリティ分析のステップ

  Step1 社会課題リストの作成

          ・SDGsなどを中心に社会課題をリストアップ(社会課題のロングリスト作成:全115項目)

          ・自社事業との関連性並びに海運特有の社会課題を加味して社会課題の絞り込みを実施(社会課題のシ

      ョートリスト作成:全50項目)

 

  Step2 社会課題の評価(自社にとっての重要性評価、社会にとっての重要性評価)

          ・STEP1で絞り込まれた全50項目の社会課題に対して、以下の観点でその重要性評価を実施

       – 自社にとっての重要性

          ・各社会課題について、リスクと機会の観点から自社の企業価値への影響度を評価。当社グループ役職員

 へのアンケートも実施し、当社グループが優先的に対処すべき社会課題について意見を聴取

       – 社会にとっての重要性

     ・各社会課題について、当社グループにとって重要なステークホルダー(顧客、投資家、従業員、地域社

 会、国際社会)に与える影響度を、それぞれのステークホルダーの立場に立脚して分析

 

  Step3 マテリアリティの特定

          ・STEP2において、自社、ステークホルダーそれぞれに対して重要性の高い項目を、自社の企業価値への

            影響度が高い社会課題と位置付け、さらにこれらを「社会課題解決へのアクション」として全12項目に集

       約し、マテリアリティ案を作成

          ・外部有識者と当社経営陣によるダイアログを実施し、マテリアリティ案について意見交換

          ・ダイアログを踏まえて最終化されたマテリアリティ案を、サステナビリティ経営推進委員会で討議し、

            経営会議で決裁の上、取締役会に報告

 

(4)マテリアリティ

当社グループはマテリアリティを、中期経営計画に基づいて企業理念やビジョンを実現するために取り組むべき

重要課題と位置付けています。当社が特定したマテリアリティ12項目は、中期経営計画で掲げる機能戦略の4本柱である「安全・品質」「環境・技術」「デジタライゼーション推進」「人材」と、それらの土台としての「経営基盤」の5分野に分類して整理されています。

分野

社会課題解決へのアクション

=マテリアリティ

基本方針

経営基盤

人権の尊重

グループの事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権尊重に向けた取り組みを推進する。

コーポレートガバナンスの強化

企業の社会的責任を果たし、株主等ステークホルダーの負託に応え、持続的に成長していくために、グループ全体に企業倫理を徹底しつつ、有機的かつ効果的なガバナンスの仕組みを構築し、収益・財務体質の強化と相まって企業価値を高めるよう継続して努力していく。

コンプライアンスの推進・強化

国内外の法令や社会規範を遵守し、公正、透明、自由な競争および適正な取引を行う。

安全・品質

安全運航の推進

海運業を営む上で、安全運航の確立・維持は不変の使命であり、「安全で最適なサービスの提供」を通じて、安全運航による社会への貢献を果たす。

環境・技術

自社の低炭素化・脱炭素化

地球規模での気候変動対策を国際社会全体で強化すべき課題として捉え、「2050年GHG排出ネットゼロへの挑戦」を宣言。また、持続的成長と企業価値向上に向けて、自社・社会のスムーズなエネルギー転換にコミットし、低炭素・脱炭素社会の実現に向けた活動を推進する。

社会の低炭素化・脱炭素化支援

自社からの海洋・大気への環境影響の限りないゼロ化

「安全で最適なサービスの提供」を通じて、安全運航による社会への貢献を果たすことは、海洋・大気への環境影響低減への貢献でもあり、油濁事故ゼロのための取り組みを推進し、船舶運航における環境影響の低減と、生物多様性の保護に努める。

イノベーションの促進

安全・環境・品質に磨きをかけ、お客さまや社会に対して新たな価値を提供すべく、新技術の追求と、検討・実証から実装に向けた対応強化の両軸での取り組みを通じて、当社のコアバリューを磨き上げ、競争力の強化を図る。

デジタライゼーションの推進

DX対応の強化

DX基盤の整備とデジタル技術を活用した「顧客提供価値の向上」と、安全・環境・品質のコアバリューを磨き上げる「運航支援」により、当社サービスの付加価値を向上させるとともに、ビジネストランスフォーメーションに発展させることで新たな価値を創造し、それによって築かれた競争優位性により顧客との関係を深化させ、企業価値の向上を図る。

人材

ダイバーシティ&

インクルージョンの促進

多様性を「競争力の源泉」と位置付け、国籍、大学、学部、性別、職種(事務系・技術系)を問わない一括採用・キャリア採用を実施するほか、それによって生み出される価値観の多様性も尊重している。また、男性の育児参加の促進、K LINE UNIVERSITYを通じた海外現法スタッフとの一体感の醸成・融合など多様性の更なる促進に取り組む。

労働環境の整備・

健康経営の促進

グループ従業員の人格、個性及び多様性も尊重し、安全で働きやすい職場環境の整備・向上を図り、ゆとりと豊かさを実現するために、育児休業制度、コンプライアンス相談窓口の設置、過重労働対策、ストレスチェック、メンタルヘルスセミナーの実施など、対策に取り組んでいる。

人材の確保・育成

社会的価値、経済的価値の向上のため各事業ポートフォリオの需要に応じた人材の量的・質的な確保・育成に取り組んでおり、新卒採用に加えて通年でのキャリア採用も実施。「事業の持続的成長・変革をリードしていく人材」、「事業環境変化に柔軟に対応できる人材」という視点から人材の育成に取り組んでいる。

 

(5)重要分野への対応

当社グループは、マテリアリティの中でも「環境・技術」や「人材」を特に重要な分野として捉えています。

これらの分野に関する具体的な方針や対応は以下のとおりです。

 

  ①気候変動への対応(自社の低炭素化・脱炭素化、社会の低炭素化・脱炭素化支援)

   「TCFDフレームワークに基づく情報開示」

    a)考え方

当社グループは、2020年6月にこれまでの「“K” LINE環境ビジョン2050」を振り返り、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言するシナリオ分析の結果を踏まえ、取り組むべき課題及び目標の一部を改訂しました。更に2021年11月には地球規模での気候変動対策を国際社会全体で強化すべき課題として捉え、より高い目標である「2050年GHG排出ネットゼロへの挑戦」を宣言しました。また、2022年5月公表の中期経営計画

における長期ビジョンとして、持続的成長と企業価値向上に向けて、自社・社会のスムーズなエネルギー転換にコミットし、低炭素・脱炭素社会の実現に向けた活動を推進しています。

    b)ガバナンス

※「(2)サステナビリティ全般に関するガバナンス」をご参照ください。

    c)リスクと機会

パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追

求する長期目標が掲げられています。

パリ協定の精神に則り、国際海運においても、海事分野に関する国連の専門機関「国際海事機関(IMO)」に

より目標や対策が定められており、当社もIMOの方針に沿った形で事業活動に伴うGHG排出削減に取り組んでいますが、GHG排出削減対策の効果が十分に出ず、物理的リスクが激増する世界を迎える可能性もあります(4℃上

昇シナリオ)。当社グループはこうした状況にも適応できるレジリエンスを発揮し、事業運営を続けなければなりません。そこで、「2℃未満シナリオ」と「4℃上昇シナリオ」の二つのシナリオについて、事業への影響をマイナス面(リスク)とプラス面(機会)の両面から整理し、行うべきことを導き出しました。

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  なお、ISO14001に基づく環境マネジメントシステムの運用により、環境マネジメントシステム関係者による

 各部門・グループ会社におけるリスクと機会の抽出・評価を年一回実施、認識されたリスクと機会については、

 必要に応じて「環境専門委員会」もしくは「サステナビリティ専門委員会」を通じて社長執行役員を委員長とす

 る「サステナビリティ経営推進委員会」へ報告され、対応について審議・指示が行われます。

 

    d)指標と目標

   2030年に向けては、これまで「“K” LINE 環境ビジョン2050」で掲げてきた中期マイルストーンの目標達成

  に向けて、アクションプランを着実に推進していきます。

   2050年に向けては、GHG排出量ネットゼロに挑戦し、自社の脱炭素化に一層取り組むだけでなく、社会の脱炭

  素化の支援も推進し、「人々の豊かな暮らしに貢献する」ことを目指していきます。

 

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    e)戦略と取り組み

2050年GHG排出ネットゼロに挑戦する過程において、まずは2030年中期マイルストーン達成に向けた取り組み

として、自社の脱炭素化・低炭素化という観点から、LNG燃料船、LPG燃料船、アンモニア/水素燃料等ゼロエミッションの新燃料船への転換を進めていきます。また自動カイトシステム「Seawing(風力推進)」や統合船舶

運航・性能管理システム「K-IMS」などの活用によるCO2排出削減の取り組みも推進していきます。

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       当社グループの気候変動に対する具体的な取り組みにつきましては、当社ウェブサイトをご参照ください。

       「サステナビリティ」>「環境」>「気候変動への対応」>「戦略と取り組み」

        https://www.kline.co.jp/ja/sustainability/environment/climate_change.html#005

 

  f)温室効果ガス排出実績

 

  (目標に対する進捗)

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2023年において当社グループの事業に伴う温室効果ガスの排出量(GHG Protocolによる算定・報告の基準による)は、スコープ1(化石燃料の使用に伴う直接的な排出)6,550,995トン、スコープ2(供給を受けた電力等

による間接的な排出)8,093トン、スコープ3(スコープ1・2を除くその他の間接的排出)4,027,532トン、バイオ燃料使用に伴う温室効果ガスの排出量は1,783トンという結果となりました。

 

(スコープ別排出量一覧)

カテゴリ

GHG排出量(ton)

スコープ1

6,550,995

スコープ2 *Location Base

9,519

スコープ2 *Market Base

8,093

スコープ3

4,027,532

<スコープ3の内訳>

購入した物品・サービス

46,901

資本財

177,331

燃料・エネルギー関連

400,371

事業から発生する廃棄物

2,074

出張

632

従業員の通勤

2,288

13

下流のリース資産

62

15

投資

3,397,873

Outside of scopes(バイオ燃料使用に伴うGHG排出量)                1,783

 

  ②生物多様性保全への対応(自社からの海洋・大気への環境影響の限りないゼロ化)

   「TNFDフレームワークに基づく情報開示」

    a)考え方

     当社グループの事業は、海洋を主とした自然資本に依存する事業であり、気候変動問題のみならず、海洋を中

    心とした生物多様性保全への取り組みは、当社の事業活動において重要なテーマの一つと捉えています。

     当社は、TNFDフレームワークに基づく情報開示の一環として、当社事業における環境リスクや自然関連の影響

    を評価、適切な対応の検討を目的にTNFDが提唱するLEAPアプローチを導入しました。

     気候変動と自然資本の包括的な理解のもと、リスク・機会管理の強化を目指し、持続可能な未来の構築に向け

    て、今後も継続的な評価・分析および情報開示を実施していきます。

    b)ガバナンス

 「(2)サステナビリティ全般に関するガバナンス」をご参照ください。

    c)リスク・機会とその対応及び目標

      当社運航船の航路・寄港頻度の多寡などをベースに各事業拠点および操業箇所の重点エリアの選定を実施。

     併せて、生物多様性の重要性が高い海域を「UN Biodiversity Lab」を用いて特定、更に双方を照らし合わせ

     て、当社事業活動がより多くの自然との接点を持つ優先地域を特定した各地域において、当社事業に関わる

     自然関連の依存度・影響度について評価し、事業リスクと機会を特定した結果、全ての優先地域に該当す

     る「油濁汚染」「大気への影響」「海洋生物の移動防止」「哺乳類への影響」の4つを重点分野として集約・

     特定しました。

 

 (LEAPアプローチにより当社事業の関連リスク・機会として特定された4つの重点分野と、その対応及び目標)

 

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   LEAPアプローチの詳細につきましては、当社ウェブサイトをご参照ください。

   「サステナビリティ」>「環境」>「自社からの海洋・大気への環境影響低減」>「TNFDフレームワークに

   基づく情報開示」

    https://www.kline.co.jp/ja/sustainability/environment/impact_mitigation.html

 

 なお、ISO14001に基づく環境マネジメントシステムの運用により、環境マネジメントシステム関係者による各部門・グループ会社におけるリスクと機会の抽出・評価を年一回実施、認識されたリスクと機会については、必要に応じて「環境専門委員会」もしくは「サステナビリティ専門委員会」を通じて社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ経営推進委員会」へ報告され、対応について審議・指示が行われます。

 

  ③人的資本多様性(ダイバーシティ&インクルージョンの促進、労働環境の整備・健康経営の促進、人材の

                     確保・育成)

    a)人材育成方針・社内環境整備方針

      当社では、事業の成長や変革をリードする力を有するとともに、事業環境の変化に柔軟に対応し得る人材

     の確保・育成に取り組んでいます。会社のポートフォリオ戦略遂行のために各事業部門の需要に応じた人材

     の量的・質的な確保・育成を推し進めるとともに、それを一層促進するために多様な人材が活躍し、持てる

     能力を最大限に発揮できる労働環境の整備に努めています。

      人材の確保では、新卒採用や通年でのキャリア採用を実施し、「成長を牽引する役割」の3事業を中心

     とした人員配置に加え、事業基盤を支えるコーポレート部門にもバランス良く配置しています。採用に際し

     ては、国籍、学歴、性別を問わず、多様な価値観を持つ人材の確保に努めています。

 人材の育成では、モラル・コンプライアンス重視の風土を大切にしながら、「事業の持続的成長・変革を

リードしていく人材」として海運プロフェッショナル経営人材の育成、「事業環境変化に柔軟に対応できる

人材」としてビジネストランスフォーメーション人材と環境・技術系人材の育成、という二つの目的達成の

ために階層別研修に加えて、海運実務研修、乗船研修、会計・財務研修、マネジメントスキル研修、DX研修

などを実施しています。

      社内環境整備の一環として、法令を上回る育児休業制度を設け、女性社員が自律的なキャリア継続が出来

     るための支援や育児に関する社内理解促進のための管理職研修を実施しています。また、男性の育児参加

     促進のため、当社独自の施策として最大10日間の育児休暇制度を導入するなど、男性育休取得率の向上も

     推進しています。コンプライアンスの観点からは社内、社外にハラスメント相談窓口を設け、プライバシー

     に最大限配慮しながら迅速に問題解決に当たる体制をとっています。また、当社役職員向けにハラスメント

     防止セミナーを毎年開催しています。

    b)指標と目標

      全ての社員が働き甲斐をもっていきいきと働ける企業となることを目指し、また仕事と家庭の両立を行い

     ながら、誰もが個々の能力を十分に発揮できる雇用環境の整備を行うため、女性活躍推進及び次世代育成

     支援のための行動計画(計画期間:2022年4月1日~2025年3月31日)で以下の当社目標を設定して取り組

     んでいます。

 ① 計画期間末迄に管理職における当社の女性社員比率を15%とする。

 ② 男性社員の育児のための当社の休暇・休業取得率を20%以上とする。

注)連結子会社についてはそれぞれの課題に基づいて随時目標の個別設定を行っており、ここでは提出会社

 単体の数字を記載しています。

    c)目標の進捗状況

第一部 企業情報 第1企業の概況 5従業員の状況 (4)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異 ①提出会社」をご参照ください。

 

     なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものです。

3【事業等のリスク】

①リスクマネジメント方針・体制

 当社グループは国際的な事業展開を行っており、海運業を含む物流事業の経営には、さまざまなリスクが存在しています。主要リスク(図1)のうち、船舶運航に伴うリスク、災害リスク、コンプライアンスに関わるリスク、その他の経営に関わるリスクの4つのリスクに分類し、それぞれ対応する委員会を設けています。また、この4委員会を束ね、リスクマネジメント全般を掌握・推進する組織として、危機管理委員会を設置しています(図2)。社長執行役員がこれら全ての委員会の委員長を務め、平時においても四半期ごとに委員会を開催し、リスクマネジメントの強化を図っています。

 

図1 主要リスク

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図2 リスクマネジメント体制図

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②リスクマネジメントプロセス

 当社グループにおけるリスク管理を徹底すべく、グループ全体に関わるリスクを特定し、情報管理・モニタリングを行いながら、リスク対応に取り組んでいます。各リスクの管理は、期末にリスクの再評価や網羅的なリスクの洗い出し・特定を行い、管理体制の有効性や主要リスクから重要課題を定めたうえで、各委員会において定期的にレビューを行い、再評価、対策の実施を行うPDCA体制としています。このPDCAでは、各委員会がボトムアップでリスクの再評価や洗い出し・特定を行う手法と、まだ顕在化していないが重要性が高まっているエマージングリスクのようなメガトレンドの変化をトップダウンで評価をする手法とで、重層的に対応しています。メガトレンドの変化は、リスクのみならず機会となるため、次年度の事業戦略立案時に行うPEST分析を軸として、メガトレンド認識を的確に事業戦略に生かす側面と、最新のリスクトレンドの変化を評価し対応する側面とで、リスクと機会の双方を漏らすことなく取り組んでいます。

 具体的には、PESTの要素を各事業のバリューチェーンに掛け合わせることでリスクシナリオを想定し、経営陣により発生可能性/影響度/備えの状況を整理のうえ、ヒートマップを作成します。更に専門家による分析や調査レポート等の外部知見も得ながら、注視すべき課題を特定し、ボトムアップ式のリスク特定と合わせて重要課題を選定します。また、PDCAサイクルの過程でリスクマネジメントに対する情宣を行っています。リスク対策や期初に特定した重要課題への取り組み状況を、取締役会や執行役員会を通じて社内に周知しています。

 

図3 リスクマネジメントプロセス

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③リスク情報

当社グループにて認識しているリスク項目の内容、対応策、組織への影響の可能性、潜在的なビジネスインパクトの大きさ、更にそれらを元にした各項目のリスク重要度を、下表に纏めています。

 

リスク

リスク内容

対策

事業へのインパクト

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重大な事故・

環境破壊・

紛争等

 当社グループは、安全運航の徹底、環境保全を最優先課題として、安全運航水準と危機管理体制の維持強化を図っています。

 不測の事故、とりわけ油濁その他環境汚染に繋がる重大事故等が発生し、環境汚染を引き起こした場合、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、海賊被害、政情不安・武力紛争地域での運航、船舶へのテロ行為リスクの増大は、当社グループの船舶に重大な損害を与え、また船員の生命を危険にさらすなど、当社グループ船舶の安全運航、航海計画管理、海上輸送事業全般に悪影響を与える可能性があります。

 安全運航については、社長執行役員を委員長とする安全運航推進委員会を定期的に開催し、安全運航に関わる全ての案件について、あらゆる視点に基づいた検討と取組みを行っています。更に緊急時の事故対応をまとめた「事故対応マニュアル」を策定し、定期的な事故対応演習により継続的改善を図っています。

 環境保全については、当社グループの事業活動が地球環境に負荷を与えることを自覚し、それを最小限にすべく、環境憲章を掲げています。環境憲章に沿って、環境への取組みを確実に推進するために、社長執行役員を委員長とするサステナビリティ経営推進委員会を設置して、推進体制の審議・策定をしています。

 不測の事故、とりわけ油濁その他環境汚染に繋がる重大事故等が起これば、当社グループの財政状態・経営成績に重大な影響を与える可能性があります。

 当社グループは、安全運航の徹底、環境保全を最優先課題として、安全運航水準と危機管理体制の維持強化に努めていますが、リスク重要度は非常に高いリスクです。

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公的規制

 海運事業は、一般的に船舶の運航、登録、建造、環境保全、労務に係わる様々な国際条約、各国・地域の事業許可や租税に係る法・規制による影響を受けます。今後、新たな法・規制が制定され、当社グループの事業展開を制限し、事業コストを増加させ、結果として当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループの運航船舶は、現行の法・規制に従い管理・運航され、かつ適正な船舶保険が付保されていますが、関連法・規制の変更が行われる可能性はあり、また新たな法・規制への対応に費用が発生する可能性があります。

 各国・各地域の法律・規制の動向、及び地政学リスクの変化には、常に十分な注意を払い、情報の収集に努めています。国あるいは地域ごとにリスクを判断し、対策を講じています。

 今後、国際条約、各国・地域の事業許可や租税に係る法・規制の新設、変更が起こり、その対応のため、当社グループの財政状態・経営成績に一定の影響を与える可能性があります。

 海運事業は、多くの国際条約、多くの国の法・規制による影響を受けるため、リスク重要度が非常に高いリスクです。

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コンプライアンス

 当社グループの役職員が法令違反行為や企業倫理違反行為等を発生させた場合、当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下、当局より課される課徴金、発生した損害に対する賠償金の支払い等により、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社は、当社及び当社グループ会社のコンプライアンスを担保するための方針及びコンプライアンス違反に対する対応措置を審議するための場として、年4回コンプライアンス委員会を開催しています。また、「川崎汽船グループ グローバルコンプライアンスポリシー」を制定し、当社及びグループ会社役職員に遵守を義務付け、毎年11月をコンプライアンス月間と位置付け、コンプライアンスの重要性を再認識させるため、社長メッセージを配信するとともに、必修のコンプライアンスeラーニング研修、外部講師を招いてのコンプライアンスセミナー、階層別人事研修の中でコンプライアンス研修等、組織的にコンプライアンス文化を醸成する様々なプログラムを実施しています。

 コンプライアンス上のリスクは、社会情勢、国民意識によっても変化し、完全には回避出来ないものであり、コンプライアンス上の問題が生じた場合、当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下、またそれに伴う対応のため、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 リスク重要度は非常に高いリスクです。

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競争環境等

 

 当社グループは、国際的な海運市場の中で事業展開を行っており、有力な国内外の海運企業グループとの競合関係の中では、他企業との各事業分野への経営資源の配分の度合い及びコスト・技術面等の競争力の差によって、当社グループの業界での地位や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 競争環境の厳しいコンテナ船事業においては、他の海運企業とのアライアンスに参加することでサービスの競争力の維持・向上を図っていますが、一方で、アライアンスメンバーの一方的離脱など当社グループが関与し得ない事象は、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 他企業との各事業分野への経営資源の配分の度合い及びコスト・技術面等の競争力の差によって、当社グループの業界での地位や経営成績に一定の影響を及ぼす可能性があります。リスク重要度が非常に高いリスクです。

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取引先の

契約不履行

 将来において取引先の財政状態の悪化などにより、契約条項の一部又は全部が履行不可能となる可能性があります。その結果、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループは、サービスを提供あるいは享受する取引先の選定においては、その信頼性を可能な限り調査しています。

 契約条項の一部又は全部が履行不可能となった場合、当社グループの財政状態・経営成績に一定の影響を与える可能性があります。

 当社グループは世界中に多くの取引先が存在し、リスク重要度が非常に高いリスクです。

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人権侵害

リスク

 企業に対して、自社の事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権尊重を求める国際社会からの要求が年々高まっています。

 この様な状況下で、当社グループ及びサプライチェーン上に存在する人権問題への対応が不適切な場合、社会的信用の低下、人材の流出等、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは2022年に国連の定める「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「川崎汽船グループ人権基本方針」を策定しました。本方針は、グループ全体で遵守される行動規範である「グループ企業行動憲章」で掲げられた「人権の尊重」について、より具体的な指針として策定されたもので、人権尊重に関連した国際規範や法令を尊重・遵守するとともに、当社グループの事業活動との関わりにおいて生じる人権への顕在的又は潜在的な負の影響を把握して、これを未然に防止又は軽減していく、という一連のプロセスである「人権デューディリジェンス」を実施することを定めています。

 本方針の下、当社グループの事業活動において優先的に取り組むべき人権課題を特定するため、国内外のグループ会社からヒアリングを実施し各社個別に取り組みを強化すべき課題を抽出、その結果を受けて改善に向けたアクションプランを実行しています。

 また、当社グループの事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権尊重に向けた取り組みを推進すべく、PDCAサイクルの確立を目指しています。

 人権問題が発生した場合、当社グループの社会的信用やブランドイメージが低下し、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、グループ全体で遵守される行動規範である「グループ企業行動憲章」を制定しており、そこに掲げる「人権の尊重」のなかで、国内外にて人権を尊重していますが、リスク重要度は非常に高いリスクです。

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情報セキュリティ

 当社グループは、世界の経済活動を支える物流インフラとして、安全・安心な海上輸送及び物流サービスを提供するため、情報セキュリティの確保と向上へ対策を講じています。昨今のサイバー攻撃は、多種多様化を極め、局所的な対応や製品導入のみでは万全の防御が果たせず、不正アクセスによる情報の漏洩、ウイルス感染によるシステム停止等が発生した場合には、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、継続的にサイバーセキュリティの強化を進めています。これまでにPC、サーバーなどのエンドポイントや通信ネットワークのセキュリティ強化、最新技術を用いた監視体制を導入しました。

 更に、グローバルでの認証基盤構成を見直し、多要素認証やアカウント管理認証レベルの高度化、迅速な脆弱性への対応を進めることで、グループ全体のITガバナンスの強化、認証レベルの向上、マルウェア・情報漏洩への対策強化を実現し、サイバーインシデントに迅速かつ的確に対応できる体制を築いています。

 近年、インターネット回線による船舶運航データの船陸共有化と安全品質の向上へのデータ活用が進んでおり、衛星通信容量の拡大に伴い、船内ICT機器及び船内ネットワークの整備が必須となっています。

 今後、船陸間でインターネット環境への接続が一層増えることによるサイバーリスクを見据え、当社グループの船舶管理会社では一般財団法人日本海事協会からサイバーセキュリティマネジメントシステム(CSMS)の認証を取得し、船上のサイバーリスクへの対応力強化に努めています。

 「安全」は海上輸送を主軸とする当社グループの事業の根幹を成すものであり、サイバーリスクへの対応を強化することで、より安全で最適な輸送サービスを提供してまいります。

 また、技術的対策に加え、当社グループ全般におけるセキュリティ教育・啓発活動を通じ、セキュリティファーストの文化を醸成して、安全・安心・安定、強靭なIT基盤を構築していきます。

 不正アクセスによる情報の漏洩、ウイルス感染によるシステム停止等が発生した場合には、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に重大な影響を与える可能性があります。

 当社グループは、世界の経済活動を支える物流インフラとして、安全・安心な海上輸送及び物流サービスを提供するため、情報セキュリティの確保と向上へ対策を講じていますが、リスク重要度は非常に高いリスクです。

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自然災害の

発生

 自然災害発生時の事業継続は、社会の機能の一端を担い社会に責任を負う当社グループの責務であるとともに、当社グループの存在意義に関わる重大な事項です。首都圏直下型大地震が発生した場合には、多くの建物、交通、ライフラインに甚大な影響が及ぶことが想定され、また新型インフルエンザ等対策特別措置法に準ずる感染症が発生し、世界的大流行(パンデミック)となった場合には、多くの人々の健康に重大な影響が及ぶことが懸念されます。また、これらの自然災害又はその二次災害に伴う風評被害が広がることが懸念されます。

 当社グループではこれらの災害等を想定した事業継続計画(BCP)を策定し、自然災害の発生時には、この計画を適用又は応用することで可能な限りの事業継続を目指していますが、当社グループ事業全般に対し悪影響を与える可能性があります。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する一連の対応を振り返り、感染症パンデミックに備えた行動手引書の作成を完了していますが、新たなコロナ変異株の発生、新たな感染症の発現など予期せぬ事態により当社グループの事業運営に影響を及ぼす可能性があります。

 自然災害発生時、また新型インフルエンザ等対策特別措置法に準ずる感染症が発生し、世界的大流行(パンデミック)となった場合には、当社グループの営業活動、財政状態・経営成績に影響を与える可能性があり、リスク重要度は非常に高いリスクです。

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為替レートの

変動

 当社グループの事業売上においては米ドル建て収入の比率が大きく、為替レートにより円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。米ドルに対する円高は当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループは、費用のドル化や為替予約などにより、為替レートの変動による悪影響を最小限に止める努力をしています。

 当社グループの事業売上においては米ドル建て収入の比率が大きいため、為替レートの変動は、当社グループの財政状態・経営成績に一定の影響を与えます。対米ドル為替1円の変動により当社連結経常利益はおおよそ±15億円の影響を受けます。また当社グループの連結財務諸表の為替換算調整勘定の金額にも影響を与えます。

 為替レートは様々な要因で常に変動しているため、リスク重要度が非常に高いリスクです。

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金利の変動

 当社グループは、継続的に船舶の建造等の設備投資を行っています。これらの設備投資には自己資金及び金融機関借入を充当しており、適切に有利子負債をコントロールしています。また、事業運営に係わる運転資金調達を行っています。将来の金利動向によっては資金調達コストの上昇による影響を受け、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループは、金利変動リスクをヘッジするため、一定の規模を固定金利で借り入れたり、また船舶・設備投資資金の借入の一部を対象とした金利固定化スワップを実施しています。

 当社グループの設備投資について、資本効率を意識して適切なレバレッジを効かせる観点から、一定程度金融機関からの借入を行っていますが、金利の変動は、当社グループの財政状態・経営成績に一定の影響を与えます。

 また、金利は様々な要因で常に変動しているため、リスク重要度が非常に高いリスクです。

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燃料油価格

の変動

 燃料費は当社グループの船舶運航コストの中で大きなウェイトを占めています。燃料油価格は、原油の需給バランス、OPECや産油国の動向、産油国の政情や産油能力の変動など当社グループが関与できない要因により影響され、その予想は極めて困難といえます。また、環境規制の拡大・強化に伴い、環境負荷の低い良質な燃料の使用が求められ、結果として価格が割高な燃料を調達せざるを得ない可能性があります。著しく、かつ持続的な燃料油価格の高騰は当社グループの事業コストを押し上げ、財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループは、不安定な価格変動の影響を回避するため一部先物取引による価格固定化を行っています。

 燃料費は当社グループの船舶運航コストの中で大きなウェイトを占めているため、燃料油価格の変動は、当社グループの財政状態・経営成績に一定の影響を与え、燃料油価格10ドル/MTの変動により、当社連結経常利益はおおよそ±0.1億円の影響を受けます。

 また、燃料油価格については常に変動しており、昨今のロシア・ウクライナ情勢や中東情勢等を勘案すると、リスク重要度が非常に高いリスクです。

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投資計画の

未達成

 当社グループは、船隊整備のために必要な投資を計画していますが、今後の海運市況や公的規制等の動向によって計画が想定どおりに進捗しない場合、造船契約を新造船の納入前に解約するなどにより、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。また、これらの新造船の納入時点において貨物輸送への需要が想定を下回る場合、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 想定最大損失額を連結自己資本の範囲内にコントロールし、適正な投資規模による「安定性」と「成長性」を両立しています。事業リスク量(想定最大損失額)は、事業特性を踏まえながら、統計学的手法を用いて計測しています。

 今後の海運市況や公的規制等の動向によって計画が想定どおりに進捗しない場合、若しくは、新造船の納入時点において貨物輸送への需要が想定を下回る場合、当社グループの財政状態・経営成績に一定の影響を与える可能性があります。

 海運市況は不確実性が高いため、リスク重要度が非常に高いリスクです。

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船舶の売却等

による損失

 当社グループは、市況に応じた柔軟な船隊整備に努めていますが、実際の船腹需給バランスの悪化、船舶の技術革新による陳腐化や傭船市況の動向に伴い、保有する船舶を売却し、また傭船する船舶の傭船契約を中途解約する場合があります。この結果、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループは、市場の動向を見極めた売船、自社保有や用船といった船舶の保有形態のバランスを適切に保つことにより本リスクの低減に努めています。

 当社グループが保有する船舶等の固定資産について、売却や傭船契約の中途解約に至った場合、売却損や解約手数料が発生し、当社グループの財政状態・経営成績に影響を与える可能性があります。当社グループは、過去の構造改革や経営管理の高度化により、固定資産の保有規模とそれに対するリスク管理の適正化が進んでおり、更に継続的なモニタリングと必要に応じた対策を講じていますが、リスク重要度が高いリスクです。

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固定資産等の

減損損失

 当社グループが保有する船舶等の固定資産について、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなる可能性があります。その結果、減損損失を認識するに至った場合には、当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。また、当社グループは有価証券の評価基準及び評価方法として、その他有価証券のうち市場価格のない株式等以外のものについては決算期末日の市場価格等に基づく時価法を採用しています。その結果、株式市況の変動による時価の下落が当社グループの財政状態・経営成績に悪影響を与える可能性があります。

 当社グループは、継続的な業績のモニタリングを行っており、投資に対する回収が困難となる前にリスクへの対策を講じるように努めています。

 当社グループが保有する船舶等の固定資産について、減損損失を認識するに至った場合、若しくは、投資有価証券のうちの時価のあるものについて時価の下落が発生した場合、固定資産並びに時価のある投資有価証券の金額を上限として、当社グループの財政状態・経営成績に影響を与える可能性があります。海運市況や株式市況は不確実性が高いため、リスク重要度が高いリスクです。

 

 

 

④エマージングリスク

 当社グループでは、事業戦略の実行を妨げる可能性があり、まだ顕在化していないが従来に増して重要性が高まっているリスクをエマージングリスクと定義しており、当社グループで認識しているエマージングリスクを下表に纏めています。

 

リスク

リスクと事業背景の説明

ビジネスへの影響

リスク低減アクション

地政学情勢の

変化による

荷動きへの影響

 地政学的要因による経済圏の分断やサプライチェーンの変容により、市場環境が変化しつつあります。これに起因する、顧客によるサプライチェーンや事業モデルの見直しは地産地消や拠点の変更を伴い、長期的には荷動きの変化として現れ、その結果、輸送需要と供給能力のインバランスが発生することでマーケットコンディションやPricingにも影響を及ぼし、当社グループの経営成績に影響を与える懸念があります。特に当社グループは「成長機会を共有できる顧客とのパートナーシップ」の構築・発展を通じて持続的成長と企業価値向上を図る、顧客密着型営業・投資で事業・収益基盤を拡充させる戦略をとっているため、特定顧客への依存度が高く、顧客によるサプライチェーンや事業モデルの見直しが与える影響度は大きいと言えます。また、当該リスクは主に外部的なもので、マクロ経済・地政学的環境、市場環境、競合他社の価格戦略に関連しています。

 当社グループの事業モデルの80%以上は海上輸送であるため、荷動き動向は、当社グループの経営成績に大きな影響を与えます。

 顧客の環境対応など事業戦略に沿った輸送需要に積極的に応えるため、営業・運航要員の増員、専任海技者の登用、環境営業の強化・育成を通じ、営業体制を進化・発展させることで顧客の事業戦略の変化を機敏にキャッチし、サプライチェーンや事業モデルの見直しに柔軟に適応していくことでリスクの低減を図っています。同時に、適切な船隊及びエクスポージャーコントロールで市況変化への対応力・耐性を強化しています。また、ポートフォリオ戦略として、主要顧客とのパートナーシップを深化させ成長を牽引する役割の事業を中心に、その他事業にも経営資源を配分し、多種多様な顧客との関係性を強化することで成長機会をともにする事業等、事業の特性に応じた役割を明確にし、ポートフォリオを適切にマネジメントしています。

米中関係の

不透明性に

よる船舶建造、保守への影響

 中国での船舶竣工量は世界の47%を占めており、近年増加しています。今後当社においてもコスト面から中国での船舶の建造、保守が増えることが見込まれますが、社会的要因による米中関係の不透明性により、長期的な船舶の建造、保守に影響を与えることがリスクの一つとして考えられます。特に、当社では8割以上の船舶が中国で入渠しており、当該リスクは継続的な船舶運航を阻害する要因ともなり得ます。また当社では中国での新造船発注残もあり、今後も中国発注は増える見込みです。なお、当該リスクは主に外部的なもので、地政学的環境に関連しています。

 当社グループは411隻の船舶を運航しており、船舶は少なくとも5年ごとに入渠することが条約で定められています。中国の修繕ドックの供給能力は世界の50%であり、仮に中国ドックへの入渠の阻害要因が増大すると、船舶の運航に影響を与え、当社グループの営業活動と経営成績に影響を与えます。また、中国での船舶竣工量の比率は近年増加しており、最新の数字では世界の47%を占めています。そのため、仮に中国での船舶建造が阻害される事態となれば、世界及び当社グループの船舶供給に影響を与え、当社グループの営業活動と経営成績に大きな影響を与えます。

 当社グループでは、新造船の発注残を当社グループ全体で管理し、またリスクの定量化も行い、万が一の際にリスクを吸収できる耐性を保持しています。更に、新造船発注に際しては、定量的かつ定性的な観点から検討を行い、かつ発注ヤードについても分散発注を検討するなど、リスクの最小化を図るべく専門家との協議を重ねたうえでの発注を行っています。また、船舶修繕地についても当社グループ全体で管理し、分散化を図っています。更に、ベストプラクティスの策定にむけて関係者間で協議を重ねており、グループ一丸となってガイドラインを策定しています。

 

 

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。また、ここに記載するものが当社グループの全てのリスクではありません。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

世界経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から回復しつつありますが、中東情勢など、地政学的リスクの高まり、欧米等のインフレ抑制のための利上げや、米中対立等の世界経済の分断の懸念が継続しました。一方、国内経済は、サービス消費やインバウンド需要の回復を背景に、緩やかに成長しました。

海運市況は、自営事業では、ドライバルク事業において中国経済の低迷の影響を受け市況が軟化した一方、エネルギー資源輸送事業においては継続して安定し、自動車船事業では好調な荷動きが継続し、堅調に推移しました。コンテナ船市況では、新造船竣工の増加や貨物需要の落ち込みにより軟化しましたが、期末に中東情勢に起因するサプライチェーンの逼迫から上昇しました。

このような事業環境のなか、当社は2022年度から5か年の中期経営計画を着実に実行しています。低炭素・脱炭素社会への実現を事業機会として成長戦略を策定し、ポートフォリオ戦略に基づき、成長の牽引役となる3つの事業に対して経営資源を集中的に配分し、また、当社グループの重要な事業部門であるコンテナ船事業については、株主として持分法適用関連会社であるONE社の持続的な成長と発展のために支援を強化します。そのうえで最適資本構成を目指し、バランスのとれた成長投資と株主還元を軸としたキャッシュアロケーションも進めます。これらの取組みを通じて、環境負荷を軽減し、持続可能な社会の実現に向けて、企業価値を継続的に向上させることで、全てのステークホルダーに信頼され続ける会社を目指してまいります。

当期業績について、自営事業は全てのセグメントで黒字を確保しました。市況の下落に伴いドライバルクセグメントの業績が前期比で悪化したものの、自動車船事業を中心とした製品物流セグメントの業績改善と為替影響により、自営事業全体としては前期を上回りました。また、ONE社の業績は船腹需給の軟化に伴う運賃市況の下落を背景に悪化したものの、黒字となりました。

株主還元政策に関しては、業績動向を見極め、最適資本構成を常に意識し、企業価値向上に必要な投資及び財務健全性を確保のうえ、適正資本を超える部分についてはキャッシュ・フローを踏まえて、自己株式取得を含めた株主還元を積極的に実施しました。

 

これらの結果、当期の連結売上高は9,623億円、営業利益は847億円、経常利益は1,357億円、親会社株主に帰属する当期純利益は1,047億円となりました。

なお、持分法による投資利益として517億円を計上しました。うち、当社の持分法適用関連会社であるONE社からの持分法による投資利益の計上額は456億円です。

 

経営計画の主な内容は「第2 事業の状況 1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中期的な会社の経営戦略、(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」をご参照ください。

事業環境が大きく変化しているなか、当社グループは2022年5月9日に2022年度から2026年度までの5か年の中期経営計画を公表しました。当社グループならではの強みである専門機能を磨き上げ、2050年に向けた自社と社会の低炭素・脱炭素化の実現と、収益成長を両立させるための長期経営ビジョンを達成していくため、中期経営計画で策定した施策を実行しています。

 

業績等の概要

(1)業績

(単位:億円)

 

 

前連結会計年度

(2023年3月期)

当連結会計年度

(2024年3月期)

増減額 (増減率)

売上高

9,426

9,623

196

(2.1%)

営業利益

788

847

59

(7.5%)

経常利益

6,908

1,357

△5,550

(△80.3%)

親会社株主に帰属する当期純利益

6,949

1,047

△5,901

(△84.9%)

 

 

 

為替レートと燃料油価格が経常利益に与えた影響は以下のとおりです。

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

影響額

為替レート(円/US$)

135

144

9

142

億円

燃料油価格(US$/MT)

769

620

△149

9

億円

 

 

           <為替の推移(円/US$)>         <消費燃料油価格の推移(US$/MT)>

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(注)為替・消費燃料油価格(平均補油価格)とも、当社社内値です。

 

また、当連結会計年度の事業セグメントごとの業績は、次のとおりです。

 

 

 

 

(単位:億円)

 

 

   前連結会計年度

 (自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

   当連結会計年度

 (自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

増減額 (増減率)

ドライバルク

売上高

3,122

2,950

△172

(△5.5%)

セグメント損益

191

36

△155

(△81.1%)

エネルギー

資源

売上高

1,002

1,069

67

(6.7%)

セグメント損益

90

79

△11

(△12.2%)

製品物流

売上高

5,197

5,501

303

(5.8%)

セグメント損益

6,699

1,311

△5,387

(△80.4%)

その他

売上高

103

101

△2

(△2.1%)

セグメント損益

8

14

6

(78.6%)

 

なお、各セグメントの状況をより適切に反映させるため、全社費用の配賦方法を一部変更しています。前連結会計年度のセグメント情報につきましても、変更後の方法により表示しています。

 

① ドライバルクセグメント

[ドライバルク事業]

大型船市況は、上半期は前期の市況低迷が継続しましたが、下半期は堅調な中国向け輸送需要が続き、大西洋地域から東アジア向けのボーキサイトやブラジル積み鉄鉱石の輸送需要が増加するなか、紅海を迂回する船舶の増加や中国揚港周辺での荒天等が船腹供給を引き締め、改善しました。

中・小型船市況は、上半期は欧州等遠隔地向け石炭・鋼材輸送の減少、穀物先物価格の下落、収穫の遅れなどを背景とした輸送需要の減退などにより低調に推移しましたが、下半期に中国・インド向け石炭輸送需要が増加、北米・南米からの穀物輸送需要が回復・本格化するなか、パナマ運河渇水の長期化や紅海を迂回する船舶の増加により船腹需給が引き締まり、市況は改善しました。

このような状況下、市況エクスポージャーを適切に管理すると同時に運航コストの削減や配船効率向上に努めましたが、前年度に締結した契約などの遅効的影響や一過性要因により、ドライバルクセグメント全体では、前期比で減収減益となりました。

 

② エネルギー資源セグメント

[液化天然ガス輸送船事業・電力事業・油槽船事業・海洋事業]

LNG船、電力炭船、大型原油船、LPG船、ドリルシップ(海洋掘削船)及びFPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)は、中長期の傭船契約のもとで順調に稼働し、安定的に収益に貢献しました。

一方で、前年度に実施した運航船舶の見直し等もあり、エネルギー資源セグメント全体では、前期比で増収となるも減益となりました。

 

③ 製品物流セグメント

[自動車船事業]

世界自動車販売市場は、半導体及び自動車部品の供給不足を背景とした生産・出荷への影響が漸減するなかで、回復基調が継続しました。また、運賃修復及び運航効率の改善に引き続き取り組みました。

 

[物流事業]

国内物流・港湾事業では、コンテナターミナル取扱量が前年同期を下回りました。曳船事業の作業数及び倉庫事業の取扱量は継続して堅調に推移しました。国際物流事業では、年初からフォワーディング事業における市況が低調に推移し、海上及び航空輸送需要の減少傾向が継続しました。完成車物流事業は、豪州での滞船問題は継続しているものの、需要は依然高く、陸送取扱台数及び保管台数が増加しました。

 

[近海・内航事業]

近海事業では、鋼材やバイオマス燃料輸送は安定した輸送量を確保しましたが、バルク輸送はロシア炭が大幅に減少し、輸送量は前期比で大幅に減少しました。内航事業では、旅客・乗用車は繁忙期の利用者が増加したものの、貨物輸送量は物価高による荷動き低迷や荒天による稼働減により前年を下回りました。不定期船輸送の専用船では、火力発電所での長期定期点検があり前期比で輸送量が減少しました。

 

[コンテナ船事業]

当社持分法適用関連会社であるONE社の業績は、第4四半期以降中東情勢に起因する喜望峰経由の迂回ルートの利用が継続したことで、船腹の余剰が緩和し短期運賃水準に一定の上昇が見られたものの、第3四半期末まで荷動きの伸び悩みと新造船竣工に伴う供給圧力により短期運賃市況の低迷が続いた結果、前期比で大幅な減収減益となりました。

 

製品物流セグメント全体では、前期比で増収となるも減益となりました。

 

④ その他

その他には、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等が含まれており、当期業績は前期比で減収となるも増益となりました。

 

(2)キャッシュ・フロー

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は2,694億円となり、前連結会計年度末より773億円減少しました。各キャッシュ・フローの状況は次のとおりです。

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益等により、当連結会計年度は2,030億円のプラス(前連結会計年度は4,560億円のプラス)となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、船舶を中心とする固定資産の取得等により、当連結会計年度は669億円のマイナス(前連結会計年度は467億円のマイナス)となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済、配当金の支払い及び自己株式の取得等により、当連結会計年度は2,237億円のマイナス(前連結会計年度は3,007億円のマイナス)となりました。

 

生産、受注及び販売の状況

 当社グループは、海運業を中核とする海運事業グループであり、ドライバルク事業、エネルギー資源事業、製品物流事業を行っています。この他、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等を展開しています。従って、生産、受注を行っておらず、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。

 

セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)

 セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)の実績は、下記のとおりです。

 セグメントの名称

 前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

 当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

金額(百万円)

比率(%)

金額(百万円)

比率(%)

ドライバルク

312,267

33.1

295,057

30.7

エネルギー資源

100,225

10.6

106,985

11.1

製品物流

519,794

55.1

550,154

57.2

その他

10,318

1.1

10,102

1.0

合計

942,606

100.0

962,300

100.0

 

当社(川崎汽船㈱)の営業収益実績(参考)

 提出会社のセグメント別営業収益の実績は、下記のとおりです。

 区分

 前事業年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

 当事業年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

金額(百万円)

比率(%)

金額(百万円)

比率(%)

 (ドライバルク)

294,273

40.5

280,797

36.7

 (エネルギー資源)

82,478

11.4

84,810

11.1

 (製品物流)

349,463

48.1

398,676

52.2

海運業収益

726,215

100.0

764,284

100.0

 (その他)

50

0.0

49

0.0

その他事業収益

50

0.0

49

0.0

合計

726,266

100.0

764,334

100.0

 

経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析

 

(1)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、一定の会計基準の範囲内にて合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っています。

詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

(2)当連結会計年度の経営成績の分析

① 売上高

売上高は前年度に比べ2.1%増収の9,623億円となりました。報告セグメント別では、ドライバルクセグメントは、前年度に比べ、5.5%減収の2,950億円となりました。エネルギー資源セグメントは、前年度に比べ、6.7%増収の1,069億円となり、製品物流セグメントは、前年度に比べ、5.8%増収の5,501億円となりました。その他の区分は、2.1%減収となりました。

 

② 売上原価、販売費及び一般管理費

売上原価は、前年度の7,998億円から12億円増加し、8,011億円(前年度比0.2%増)となりました。営業収入に対する売上原価の比率は1.6ポイント減少して83.3%となりました。販売費及び一般管理費は125億円増加し、764億円(前年度比19.6%増)となりました。

 

③ 営業利益

売上総利益の増加により、前年度の788億円の営業利益に対し847億円の営業利益となりました。

④ 営業外収益(費用)

517億円の持分法による投資利益(前年度は6,277億円の持分法による投資利益)を計上したことが主な要因となり、営業外損益は510億円の利益(前年度は6,119億円の利益)となりました。

⑤ 税金等調整前当期純利益

固定資産売却益などにより特別利益は34億円となりました。また、独占禁止法関連損失引当金繰入額などにより特別損失は55億円となりました。これらの結果、税金等調整前当期純利益は1,337億円(前年度は6,928億円の税金等調整前当期純利益)となりました。

⑥ 法人税等

法人税等は、主として法人税、住民税及び事業税の増加により、前年度の△61億円から329億円増加し268億円となりました。

 

⑦ 非支配株主に帰属する当期純利益

非支配株主に帰属する当期純利益は、ケイラインネクストセンチュリー(同)などの非支配株主に帰属する当期純利益が減少し、前年度の40億円から19億円減少し、21億円となりました。

⑧ 親会社株主に帰属する当期純利益

親会社株主に帰属する当期純利益は、前年度の6,949億円に対し、1,047億円となりました。1株当たり当期純利益は、前年度の857.01円に対し、145.24円となりました。

(注)2022年10月1日付及び2024年4月1日付でそれぞれ普通株式1株につき3株の割合で株式分割を行っています前連結会計年度の期首にこれらの株式分割が行われたと仮定して1株当たり当期純利益金額を算定しています

(3)資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フローの状況

「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要 (2) キャッシュ・フロー」をご参照ください。

② 資金需要

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、当社グループのドライバルク事業や自動車船事業の運営に関わる海運業費用です。この中には港費・貨物費・燃料費などの運航費、船員費・船舶修繕費などの船費及び借船料などが含まれます。このほか物流事業の運営に関わる労務費等の役務原価、各事業についての人件費・情報処理費用・その他物件費等の一般管理費があります。また、設備資金需要としては船舶投資や物流設備・ターミナル設備等への投資があります。当連結会計年度中に858億円の設備投資を実施しました。

 

③ 財務政策

当社グループの事業維持・拡大を支える低コストで安定的な資金の確保を重視しています。長期の資金需要に対しては金融機関からの長期借入金を中心に、社債発行、新株発行により調達しています。短期的な運転資金を銀行借入、コマーシャルペーパー(CP)発行等により調達し、一時的な余資は安定性・流動性の高い金融資産で運用しています。また、キャッシュマネージメントシステム等を利用して、国内・海外グループ会社の余剰資金を有効活用しています。

流動性の確保としまして、CP発行枠600億円に加え、国内金融機関と約1,400億円の複数年のコミットメントラインを設定し、緊急の資金需要に備えています。

当社は日本格付研究所(JCR)から格付を取得しており、2024年3月31日現在の発行体格付は、「A-」となっています。また、短期債格付(CP格付)については「J-1」を取得しています。

 

(4)財政状態

当連結会計年度末の資産合計は、前年度末比568億円増加し2兆1,094億円となりました。流動資産は、有価証券の減少等により、前年度末比466億円減少し4,882億円となりました。

固定資産は前年度末比1,034億円増加し1兆6,211億円となりました。固定資産のうち有形固定資産は、建設仮勘定の増加等により、前年度末比381億円増加し4,103億円となりました。投資その他の資産は、投資有価証券の増加等により、前年度末比630億円増加し1兆2,047億円となりました。

当連結会計年度末の負債合計は、前年度末比211億円減少し4,848億円となりました。支払手形及び営業未払金の増加等により、流動負債は2,099億円となり、長期借入金の減少等により、固定負債は2,749億円となりました。

当連結会計年度末の純資産合計は、前年度末比779億円増加し、1兆6,246億円となりました。純資産のうち株主資本は、主に利益剰余金が694億円減少したことにより、1兆3,301億円となりました。その他の包括利益累計額は、為替換算調整勘定が増加したことを主な要因として、前年度末比1,471億円増加し2,617億円となりました。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、輸送技術の革新、安全輸送の徹底及び環境保全等に関する研究開発に取り組んでおり、他社と共同による船舶の省エネ化・環境対策に資する技術の高度化研究を通じ、省エネ・環境対策技術の保有を目指しています。

 当連結会計年度の研究開発費の総額は342百万円です。

 なお、研究開発活動については、特定のセグメントに関連付けられないため、セグメント別の記載は行っていません。