(1)経営環境
当社グループを取り巻く経営環境を見ますと、既成概念のディスラプションにより、経営環境の急激な変化に直面しております。新型コロナウイルス感染症を契機として変容した行動様式の風化、生成AI等の急速な発展による産業変革の加速・ビジネスモデルのライフサイクル短期化、景気後退懸念と金融政策転換の予測困難性の増大、地政学的リスクの続発、経済と安全保障の連環の高まり、環境課題・ガバナンス・人的資本等のサステナビリティ経営への要請等、当社グループにとって機会と脅威が同時に到来しております。変化は成長オポチュニティとなる一方で、既存ビジネスモデルは陳腐化リスクにさらされており、これまでのように商品軸をベースとするアプローチだけではもはやソリューションは作り出せなくなると考えております。
(2)会社の経営の基本方針
当社グループは、前中期経営戦略「GC2021」において定めた2030年に向けた丸紅グループが目指す長期的な方向性を継続し、社会・顧客の課題と向き合い、新たな価値を創出すべく、中期経営戦略「GC2024」を策定し、2022年度よりスタートしております。
<中期経営戦略「GC2024」基本方針>
○既存事業の強化と新たなビジネスモデル創出を重層的に追求し、着実な収益の柱を育成・確立
○「グリーン事業(*1)の強化」、「全事業のグリーン化推進」によりグリーンのトップランナーへ
「グリーン事業の強化」
・強固な事業基盤、高い競争力を有する既存グリーン事業の強化・拡大
・既存の事業基盤・ネットワークの活用、全社横断的な取組みの推進による新たなグリーン事業の創出
(*1)脱炭素・循環経済等、地球環境に対しポジティブな影響を与えるサステナブルな事業、及びそれらの事業が必要としかつ代替困難な原材料等を供給する周辺領域
「全事業のグリーン化推進」
・環境負荷の低減、循環経済への移行を全事業領域において追求
・顧客・パートナーとの協働による持続可能なサプライチェーンの構築
・脱炭素社会への移行に欠かせない取組み(天然ガス・LNG等)
<中期経営戦略「GC2024」の定量目標>
中期経営戦略「GC2024」における定量目標及び2024年度見通しは以下のとおりであります。
経営指標 |
定量目標 |
2022年度実績 |
2023年度実績 |
2024年度見通し |
連結純利益 |
4,000億円 (2024年度) |
5,430億円 |
4,714億円 |
4,800億円 |
基礎営業キャッシュ・ フロー(*2) |
3ヵ年累計 13,000億円 |
5,842億円 |
5,480億円 |
5,700億円 (3ヵ年累計 約17,000億円) |
ROE (ネットDEレシオ) |
15% (0.7~0.8倍程度) |
22.4% (0.52倍) |
15.2% (0.55倍) |
15%程度 (0.6~0.7倍程度) |
(*2)調整後営業利益(売上総利益+販売費及び一般管理費)に、営業活動によるキャッシュ・フローのうち、「減価償却費等」、「利息の受取額及び支払額」、「配当金の受取額」及び「法人所得税の支払額」を合計した額。
<中期経営戦略「GC2024」の進捗と利益成長イメージ>
「既存事業のオーガニック成長」
・2018年度から2023年度にかけての実態純利益(*3)の推移は以下のとおりであります。
|
2018年度実績 |
2023年度実績 |
2018~2023年度 |
|
増益額 |
CAGR(*4) |
|||
全社 |
2,560億円 |
4,670億円 |
+2,110億円 |
+13% |
非資源分野 |
1,970億円 |
3,070億円 |
+1,100億円 |
+9% |
資源分野 |
690億円 |
1,520億円 |
+830億円 |
+17% |
(*3)純利益から一過性要因を控除した概数
(*4)年平均成長率
・各事業の競争優位性の強化・拡大と、改善余地の大きい事業の収益性をターンアラウンドにより改善することで更なる利益成長を目指す
「成長投資」
・中期経営戦略「GC2024」の成長投資(新規投資・CAPEX等)はこれまで順調に進捗しており、3ヵ年累計の計画1兆円に対し約1.3兆円となる見通し
・案件パイプラインは豊富。財務規律・投資規律を重視しながら、ROE15%の維持・向上に向けて成長投資、資産入替えを行い、利益の底上げを図る
「更なる利益成長に向けて」
・既存事業領域の強化により、中期経営戦略「GC2024」において年間4,000~4,500億円の収益基盤を確立
・中期経営戦略期間を経るごとに利益規模を順調に拡大し、中期経営戦略「GC2018」開始以降のCAGRは14%の実績
・既存事業のオーガニック成長と成長投資を通じた戦略追求により次の利益ステージを目指す
「資本配分」
・収益力の向上により、中期経営戦略「GC2024」の当初計画と比べ基礎営業キャッシュ・フローが大幅増。また投資の回収もGavilon穀物事業の売却を実現したことにより2倍以上に増加
・これらによって経営資源の追加配分余地を創出。継続的に財務基盤を充実・強化すると同時に、成長投資(新規投資・CAPEX等)と株主還元を強化していく
・当面のネットDEレシオは0.6~0.7倍程度を想定
「グリーン戦略」
・営業本部別グリーン戦略を現場主導で実践
・進捗状況はTNFD提言に基づき開示予定(2024年度中)
・GHG排出量の開示を拡充(Scope3全カテゴリー/2024年度中)
当社グループのサステナビリティの全体像については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。
(3)ロシア関連ビジネスへの取組み方針
当社グループは、日本政府が国際社会と協調するロシアに対する制裁方針を遵守します。ロシア関連新規取引については制裁方針の対象とならないケースも含めて凍結とし、既存取引についても可能な限り解約を交渉する方針としております。
今後も、個別案件への対応を含めて情報を収集し状況を精査しつつ、人々の安全確保を第一に考えながら、政府をはじめとする関係各所とも協議のうえ、適切な対応を検討してまいります。
(将来に関する記述等についてのご注意)
本報告書に記載されている将来に関する記述は、当社が当有価証券報告書提出日現在において入手している情報及び合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)当社グループのサステナビリティ
当社グループにとってのサステナビリティとは、社是「正・新・和」の精神に則り、公正明朗な企業活動を通じて、経済・社会の発展、地球環境の保全に貢献する、誇りある企業グループを目指す経営理念の実践そのものです。環境・社会課題を先取りし、プロアクティブにソリューションを提供します。
サステナビリティを実践するための、最も重要な要素として、人財、経営基盤、ガバナンスの3つを「基盤マテリアリティ」として特定しています。また重点的に取り組むべき環境・社会課題として、気候変動、森林経営、人権、サプライチェーンの4つを「環境・社会マテリアリティ」に特定しました。
社会課題に真摯に向き合い、経済価値のみならず、環境・社会価値を創出し、企業価値最大化を追求していきます。
当社グループのサステナビリティに関する取組みについては、当社ウェブサイト内「サステナビリティサイト」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/
(2)ガバナンス
当社グループはサステナビリティ関連の重要事項(対応方針、目標、アクションプラン等)について、経営会議及び取締役会にて審議・決定しており、取締役会の監督が十分に得られる体制を構築しています。2022年6月以降、独立社外取締役比率が60%(過半数)となり、取締役会の機能強化を行っています。
社長直轄の「サステナビリティ推進委員会」においては、サステナビリティに関連する幅広い事項を議論の対象としており、例えば、気候変動対策に関し、TCFD(*)提言に基づく気候関連の「機会」と「リスク」の評価、戦略、リスク管理、指標と目標の設定や見直し、モニタリングを、気候関連のイノベーションの進捗や外部環境の変化を踏まえて議論し、定期的(年1回以上)に取締役会への報告を行っています。2024年3月期はサステナビリティ推進委員会を4回開催し、中期経営戦略(「GC2024」、「グリーン戦略」)の推進や気候変動対策の進捗等について議論しました。
サステナビリティ推進委員会の構成について、委員長をChief Sustainable Development Officerとし、関連する営業本部、コーポレートスタッフグループから委員を任命しています。社外役員もアドバイザーとしてメンバーに加わっており、独立した外部の視点も踏まえながらサステナビリティに関する事項の管理・統括を行っています。
また、営業本部、コーポレートスタッフグループの各部、支社・支店・現地法人ごとに、サステナビリティ推進の責任者としてサステナビリティ・リーダーを、営業部ごとの責任者としてサステナビリティ・マネジャーを任命し、充実した現場体制があるなかでサステナビリティに関する事項の討議・推進を行っています。
なお、当事業年度における提出会社のコーポレート・ガバナンスの取組みについては、
(*)金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
(3)リスク管理
当社グループは、気候変動やサプライチェーン・マネジメントをはじめとする、サステナビリティの観点で重要度の高い機会・リスクについて、サステナビリティ推進委員会で管理・モニタリングを行っています。
ビジネスのサステナビリティ面における潜在的なリスク評価として、環境、安全衛生、社会の3カテゴリ、27項目の多角的観点から分析・検討を行う仕組みを構築しています。リスク評価の基準を定めるにあたっては、関連法令、国際基準、類似ビジネスにおける過去の事故事例等も参照し、ビジネスの業種・業態や事業を行っている国・地域に応じて、それぞれの評価項目における潜在リスクの重要度と影響度を判断しています。
事業におけるサステナビリティに係るリスク評価項目(3カテゴリ27項目)
環境 気候変動/環境汚染/生物多様性/資源管理/対策・管理手順(環境)
安全衛生 機械安全/火災・爆発/有害物質との接触/感染/危険性のある作業/対策・管理手順(安全衛生)
社会 強制労働・人身取引/児童労働/労働時間/賃金・雇用契約/差別/ハラスメント・懲罰/多様性の尊重/結社の自由及び団体交渉権/土地の問題/地域コミュニティへの負の社会的影響/先住民・文化遺産/紛争鉱物/プライバシー/アニマルウェルフェア(動物福祉)/責任あるマーケティング/対策・管理手順(社会)
このリスク評価手法を用いて、グループ内やサプライヤーのサステナビリティ調査を実施しています。また、投融資決定プロセスにおいても、このリスク評価手法を用いて、既存事業のモニタリングを含め、グループの事業をサステナビリティの観点より継続的に評価する体制を構築しています。特にリスクの高い事業領域については、必要に応じ、投融資委員会・経営会議・取締役会で審議しています。
リスク評価手法については、国際機関や各国政府・各産業セクターや産業団体を中心とした国内外のサステナビリティ関連動向、投資家、金融機関、非政府組織等ステークホルダーに関連する情報も参考としながら、定期的に見直しを実施しています。また、当社グループの経営に重要な影響を及ぼすリスク管理については、
なお、営業活動その他に係る環境・社会リスクについては、
(4)戦略
① グリーン戦略
現在推進中の中期経営戦略「GC2024」において、グリーン戦略を基本方針の一つとして掲げています。「グリ
ーン事業の強化」と「全事業のグリーン化推進」を両輪として、「グリーン」への貢献を通じた収益力の強化・
企業価値の最大化を図ります。
社員一人ひとりにグリーン戦略が浸透・定着するなかで、当社グループは、ネイチャーポジティブに貢献し、国際社会の目標(*1)「自然と共生する社会」をステークホルダーの皆様とともに実現することを通じて、グリーンのトップランナーを目指します。自然との共生に向けた取組みには、脱炭素化、循環経済への移行が不可欠です。気候変動対策、資源の有効利用、土地利用効率化、環境汚染の抑制・防止等を通じて環境負荷を回避・軽減すること、及び事業を通じた森林保全・土壌改良等により自然生態系の回復・再生に貢献します。
グリーン戦略の推進にあたり、各営業本部で策定した本部別グリーン戦略の進捗状況をサステナビリティ推進委員会においてレビューし、定期的に経営会議及び取締役会に報告しています。TNFD(*2)提言を参考に、当社グループの事業活動と自然の相互作用を総合的に評価するプロセスを通じて、自然関連リスクと機会を当社グループの戦略に組み込む取組みを進めています。
(*1)国際社会の目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」
2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された2030年に向けたミッション「ネイチャーポジティブ」において、「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」ものとされています。当社グループが目指す「グリーン」は、2030年に向けた国際目標「ネイチャーポジティブ」及び2050年ビジョン「自然と共生する社会」に合致しています。
(*2)自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)
② 気候変動対策への貢献
(a)気候変動長期ビジョン
自然との共生に向けた取組みのなかでも、脱炭素化に向けた動きは国境を越えた喫緊の課題の一つです。当社グループは、2021年3月に「気候変動長期ビジョン」を公表しました。2050年までにグループの温室効果ガス排出ネットゼロを達成するとともに、事業を通じて社会の低炭素化・脱炭素化に貢献していきます。当社グループは、脱炭素社会に向けてポジティブなインパクトを創出し、成長する企業グループを目指しています。
詳細は、当社ウェブサイト内「『気候変動長期ビジョン』~温室効果ガス排出のネットゼロに向けて~」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/sustainability/pdf/environment/approach/data1.pdf
(b)シナリオ分析
当社グループでは、気候関連の機会・リスクに対して、戦略的な取組みを行うことに努めています。当社グループの事業ポートフォリオは多岐に分散されており、事業により事業リスク/機会が異なるため、気候変動の影響を受ける可能性及び当社グループへの影響度(資産規模、収益規模等)が相対的に高い事業を選定したうえで、基本的に2030年までを時間軸とし、現行シナリオと移行シナリオにおける事業環境を踏まえた、その事業リスク・機会への対応及び2030年までの業績への影響について、TCFD提言に沿ってシナリオ分析を実施しました(対象事業は以下マトリックスの右上部分)。
シナリオ分析の詳細は、当社ウェブサイト内「TCFD提言に基づく情報開示」(2023年9月公表)をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/15/?id=anc_02
(5)気候変動に関連する指標及び目標
当社グループは、気候変動リスクの低減に努めており、2050年までに事業活動に伴う温室効果ガス排出ネットゼロ(*1)の達成を目指すことを基本的方針としています。また、本方針を実効性のあるものとするため、2030年に向けたアクションプラン(行動計画)を策定しております。気候変動に対する機会・リスクへの対応の一環として、主に以下の指標と目標を定めています。
・石炭火力発電事業によるネット発電容量を2019年3月期末の約3GWから2025年までに半減、2030年までに約1.3GW、2050年までにゼロにする
・2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロ
2030年までに
① Scope 1・Scope 2のCO2排出量を2020年3月期(約1百万トン)対比50%削減
② Scope 3 カテゴリ15(投資)のCO2排出量を2020年3月期(想定CO2排出量約36百万トン(*2))対比20%削減
(*1)温室効果ガス排出削減を行ったうえで、削減できない残余排出を、自然を基盤とした手段や技術的手段により除去し、大気中への人為的な温室効果ガス排出をネットゼロとすること。なお、ネットゼロの対象範囲は当社及び連結子会社のScope 1(直接排出)及びScope 2(間接排出)に加え、Scope 3(Scope 1、Scope 2以外の間接排出・サプライチェーン排出)カテゴリ15(投資)に含まれる持分法適用関連投資先の排出としております。
(*2)既存投資先の2020年3月期実績に、2021年3月時点での約定済み案件(電力事業については売電契約締結済みで商業運転開始前の案件)からの想定排出量を加えた排出量
気候変動のための指標と目標の進捗状況は、当社ウェブサイト内「気候変動対策への貢献 データ」及び最新の「統合報告書」をご参照ください。
当社ウェブサイト内「気候変動対策への貢献 データ」
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/15/?id=anc_04
最新の「統合報告書」
https://www.marubeni.com/jp/ir/reports/integrated_report/
(6)人財戦略
人財は当社グループの最大の資本であり、価値創造の原動力です。中期経営戦略「GC2024」では、その強化に向けてこれまで「GC2021」で掲げてきた「丸紅人財エコシステム」を更に進化させています。「丸紅人財エコシステム」は、当社の在り姿である「Global crossvalue platform」を実現していくうえで人財戦略の基本となる概念であり、変革の方向性を示すものです。
多様なバックグラウンドを持つマーケットバリューの高い人財が丸紅グループに集い、活き活きと活動し、会社・組織を越えて行き交い・繋がり、多様な価値観や知を掛け合わせることで、新たな価値創造にチャレンジし続ける、魅力溢れるエコシステムを創っていきます。
なお、当項目内において、「当社グループ/丸紅グループ」と記載していない箇所は、全て提出会社における内容です。
① ガバナンス
経営戦略と整合した人財戦略を推進するために、社長・CHRO・CSO・CAOを主要メンバーとする人財戦略会議「タレントマネジメントコミッティ」を実施しています。人事制度・施策だけでなく、リーダー開発、エンゲージメント、ダイバーシティ&インクルージョン等、人財戦略のなかでも重要度の高いアジェンダの議論を深めています。
また、2024年3月期より、経営戦略に資する人財戦略を策定・推進することを役割としてCHROを新設しました。2024年4月1日からは、グループ人財戦略の推進をより一層強化することを目的に、CHROを社長直轄としました。CHROは、社長を補佐し、人財戦略に関する経営全般に参画します。
② 戦略
丸紅グループの在り姿「Global crossvalue platform」にアラインする人財戦略として、社員一人ひとりが既存の枠組みを超えて新たな価値創造にチャレンジし続けることを目指して、「丸紅人財エコシステム」を掲げています。「丸紅人財エコシステム」は、多様なバックグラウンドを持つマーケットバリューの高い人財が丸紅グループに「集い」「活き」「繋がる」ことで、社会やお客様に必要とされる新たな価値を提供するサイクルを実現する人財戦略です。現中期経営戦略「GC2024」では「丸紅人財エコシステム」の更なる進化を掲げており、その実現に向けて数々の施策を打ち出しています。
「丸紅人財エコシステム」の考え方の起点となるのは、経営戦略と人財戦略の連動です。経営層と人事部が常に一体となり、人財に関わる課題の解決に向けて議論を重ねることで、経営戦略に沿った人財戦略の実現を目指しています。
(a)経営との連動
(i)経営層と社員の対話
当社グループでは、経営層と社員が直接繋がる機会を増やし、経営理念や在り姿、戦略を議論・共有しています。定期的な社長と社員の意見交換会や、Opinion Boxを通じた社員との直接の質疑応答を実施し、2024年3月末時点でその件数は1,300件以上となっています。
(ⅱ)従業員持株会制度
社員の経営参画意識は年々高まっており、当社の従業員持株会加入率は94.5%(2024年3月期)となっています。より多くの社員が持株会に加入し、保有株式が増えることで、社員の資産形成に寄与するとともに、企業価値向上への一体感を高めたいとの考えから、特別奨励金の支給を行っています。
(b)多様な人財が“集う”施策
(i)多様な採用手法
当社では、入社後の初期配属を明示して募集する配属先決め型の新卒採用であるCareer Vision採用や、若手社会人を対象とした若手キャリア採用等、独自の採用手法を取り入れながら新たな価値創造のドライバーとなる多様な人財へアプローチしています。
(ⅱ)障がい者雇用の推進
当社では、障がい者雇用の推進を目的に、2008年度に丸紅オフィスサポート(株)を設立し、特例子会社の認定を受けています。同社は2020年度に「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定(もにす認定)」を東京都の第1号として取得したほか、2021年度には東京都から『東京都「心のバリアフリー」好事例企業』として選定されました。
(c)多様な人財が“活きる”施策
(i)ミッションを核とする人事制度
当社では、社員一人ひとりの実力や特性に応じてミッション(役割)を付与し、それぞれの貢献を大きくすることで、組織の戦略実行力の向上を目指しています。更に、社員がより大きなミッションへ果敢にチャレンジし、切磋琢磨することが、更なる成長を促し、マーケットバリューを高めると考えています。
「社員一人ひとりのミッションが組織の戦略実行と人財の成長の根幹」という考えは、人事制度にも取り入れられ、人事評価・処遇に反映しています。制度運用にあたり、社員がストレッチされた役割や目標に挑戦できるよう、上長と本人の能動的なコミュニケーションを重視しています。上長と本人が納得したうえでミッションを設定し、日々の業務遂行においても都度コミュニケーションを取りながら、期末の評価・本人へのフィードバックを踏まえて、次年度のミッションを設定するというサイクルを設けています。
(ⅱ)エンゲージメントサーベイ
当社では、エンゲージメントを「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献し合う関係」であると考え、組織マネジメントや諸制度の改善を促し、社員が活き活きと働く環境をつくるために、エンゲージメントスコア(*)を測定しています。当社の2024年3月期スコアは前回比で上昇しており、(株)リンクアンドモチベーションが発表した「ベストモチベーションカンパニーアワード2024」において、大手企業部門(2,000名以上)で「第2位」を受賞しました。
(*)組織状態を示すエンゲージメントスコア(偏差値)。偏差値50は(株)リンクアンドモチベーションの提供するサービスを利用する企業の平均。
また、サーベイの結果を踏まえ、改善を希望する部署に対して「組織改善プログラム」を提供しています。改善に向けたアクションプランを策定・実行した後、フォーカスサーベイ・エンゲージメントサーベイにより、アクションプランの効果検証・振り返りを実施します。プログラムに参加した多くの部署でスコアが改善する結果が得られています。
(ⅲ)人財開発
当社では、企業価値の源泉となる人財の成長・活躍を促進すべく、On the Job Trainingを中心に、支援機能としてのOff the Job Trainingの両輪で、人財の育成を推進しています。
・タレントアセスメント
多面観察や自己診断を通じて、一人ひとりの行動の特徴や強み、課題等を可視化します。可視化された情報は、各組織が異動・配置、ミッション付与や日々のチームマネジメントへ活用するとともに、各個人が、自身を振り返る気づきの機会、今後の能力開発やキャリアプランの検討へ活用しています。
・自主学習支援
従業員の能力開発や業務では得られない知識・経験の習得を支援することで、意欲ある社員の自律性を更に高めています。
・Marubeni Global Academy
ビジネススキル、リーダーシップ、マネジメント、個のキャリア支援を網羅する研修体系です。階層別・公募型研修のほか、国内外ビジネス・スクールとタイアップするセレクションプログラム等も組み合わせながら、個々のキャリアに合わせた成長機会を提供しています。
(d)多様な人財が“繋がる”施策
(i)イノベーションの土台
当社のイノベーションの土台となる施策として、担当業務に限らない丸紅の価値向上に繋がる活動に、就業時間の15%の時間を充当できる「15%ルール」、組織がパートタイムでの協力を求めて社内に助っ人を公募する「クロスケット」、他組織や地域戦略へ貢献した人財に対してコインを付与する「クロスバリューコイン」(当社グループ会社も一部導入)等があります。各施策が有機的に紐づき、事業を超えた新たな価値創造を促しています。
また、組織が人財を求めて公募する「社内人財公募」や、社員が他組織への異動を求めて登録する「ジョブマッチングシステム」により、社員の自律的なキャリア開発の促進と、組織を超えて人財が行き交うオープンコミュニティが醸成されています。
「クロスバリューコイン」イメージ図 |
「社内人財公募」「ジョブマッチングシステム」イメージ図 |
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(ⅱ)イノベーションの創出
当社グループでは、これからの丸紅グループを牽引するグローバル・イノベーション・リーダーを養成することを目的とし、グローバルで活躍する多様な人財を選抜し、1年をかけて様々なテーマで議論を深めるプログラム「丸紅アカデミア」や、丸紅グループグローバルの公募型ビジネス提案プロジェクトで、事業として評価され発展する案件も出ている「ビジネスプランコンテスト」が、イノベーション風土の醸成という重要な役割を果たしています。
③ リスク管理
当社では、価値創造の源泉である人財が、仕事と家庭の両立に悩み退職してしまうことや、キャリアアップの機会を諦めざるを得ないこと等の「リスク」に対して、制度・風土の両面からアプローチすることが重要であると考えています。労働人口の減少や働くことへの価値観の多様化といった環境変化に対応しながら、社員がライフステージにかかわらず、「持続的なキャリア形成」と「高いパフォーマンス発揮」を実現できるよう、様々なワークライフマネジメント施策を実施しています。
ワークライフマネジメントの施策の詳細は、当社ウェブサイト内「ダイバーシティ・マネジメント」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/27/
(a)仕事と育児・介護の両立をサポートする制度
当社では、制度利用者本人のセルフマネジメントに加え、上司、周囲が制度を理解し、互いの立場を尊重しながら、性別にかかわらず制度を効果的に利用できるよう、協力し合える体制作りを進めています。妊娠中・介護中に利用可能な妊娠休暇・介護休暇、家族のサポートを目的としたファミリーサポート休暇等の特別休暇等を、法定を上回る形で整備していることに加え、育児・介護時間(時短勤務制度)を活用したキャリア継続を支援するため、短縮時間分の報酬減額を廃止する等、仕事と育児・介護の両立を支援しています。
また、男性社員の育児休業取得支援を目的に、育児休業を一部有給扱いとする制度を設けているほか、フレックスタイム制度・テレワーク制度も整備しており、自律的で柔軟な働き方を実現しています。
(b)配偶者の転勤時もキャリアを継続できる制度
当社では、配偶者の転勤という本人にはコントロールできない一時的な事情があっても、これまで丸紅で培った業務経験・スキルを活かし続けられるよう、各種制度を設けています。従来より導入している配偶者転勤休業・配偶者転勤再雇用制度においては、今般、期間の延長(3年→5年)や適用対象の拡大(海外転勤帯同のみ→国内転勤帯同も対象)、キャリアアップを目的とした休業中の副業の解禁を行いました。
また、家庭の事情で日本国内の遠隔地に転居せざるを得ない社員のキャリア継続を支援するため、完全リモートワークを可能にする「ファミサポリモートプログラム」も新たに導入しました。
④ 指標及び目標
当社の人財が、経営戦略実行に向けて力を発揮できるよう、重点課題と捉えている人事施策・制度については、指標と目標を設定して具体的な取組みを進めています。なお、当社グループに属する全ての会社において指標及び目標を設定しているものではないことから、提出会社における指標及び目標を記載しています。
(a)女性活躍推進
当社では、人財の多様性こそが成長戦略の土台であり、なかでも男性偏重の組織は、向き合う社会(男:女=1:1)との乖離から、社会課題を捉えきれず、在り姿の実現を制約すると考えています。女性活躍推進は人財の多様性実現の一丁目一番地であり、未来の丸紅をよりサステイナブルにするための長期経営課題と捉え、2022年8月より「女性活躍推進2.0」を方針として打ち出しました。女性のタレントパイプラインの拡張に一層注力するため、明確な数値目標を定めて各種施策に取り組んでいます。
女性活躍推進の取組みの詳細は、当社ウェブサイト内「ダイバーシティ・マネジメント」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/27/
(b)健康経営
当社グループでは、社員一人ひとりの健康維持・増進を重要な経営課題と位置付けています。会社の成長の源泉である社員の活躍を支えるため、当社ではCAOを最高責任者として、健康リテラシーの向上、がん・生活習慣病対策、メンタルヘルス対応、女性の健康維持・増進への取組みの強化等の施策を推進しています。
特に定期健康診断の受診、ストレスチェックの受検は、疾病の早期発見・早期対応を図るうえで極めて大きな意義を果たすことから、「丸紅健康力向上指標」を定めて取り組むことにより、社員の健康意識の向上及び健康課題の解決を目指しています。
丸紅健康力向上指標
健康経営の取組みの詳細は、当社ウェブサイト内「健康経営」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/24/
当社及び連結子会社の営業活動その他に係るリスク要因について、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を以下に記載しておりますが、当社及び連結子会社は広範にわたる事業活動を行っているため、全てのリスクを網羅したものではなく、業績に影響を与えうるリスク要因はこれらに限定されるものではありません。なお、本項における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき合理的であると当社が判断したものです。
(1)リスク管理方針について
当社及び連結子会社は、多様な事業活動を営むなかで、マクロ・ミクロ、定量・定性という多面的な視点でリスク管理を行っており、それぞれに関して、リスク管理の基本方針・社内規則を定め、それを遂行するための組織、管理体制、管理手法を整備しております。
個別リスクへのミクロの視点からは、稟議制度に基づき意思決定をした信用供与、投資等の個別案件のうち、重要案件を対象にモニタリングを行い、問題の早期発見と対策立案を徹底しております。経営会議体への定期的な現状報告が行われるなかで、事業の戦略性、成長性、収益性に関する検証を行い、必要な案件については、多角的かつ複合的な要素を勘案し、その方向性について稟議制度のプロセスに従って決定を下す等、リスク管理の強化を図っております。
また、当社グループ全般を見渡すマクロの視点からは統合リスク管理を実施しており、当社グループが抱える連結ベースのエクスポージャーについて、各資産項目のリスク特性に応じた想定最大損失率を乗じて最大下落リスク額(リスクアセット)を計量し、自らの体力である資本の範囲内に収めることを基本方針としております。
一方で、コンプライアンスリスク等の定量化が困難なリスクについては、コーポレート・ガバナンスの強化、内部統制システムの整備、及びコンプライアンス体制の強化を通じて、リスクの顕在化を未然に防止する体制を整えております。
しかしながら、当社及び連結子会社の幅広い事業活動から生じる、又は将来新たに発生する可能性のある多種多様なリスクに対して、当社及び連結子会社のリスク管理の枠組みでは十分に対応しきれない可能性があり、その場合には当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)個別のリスクについて
① 世界経済及び産業構造の変化等が当社及び連結子会社に与える影響について
当社は、日本を含む60ヵ国以上の国々に拠点を置いて事業活動を展開している総合商社です。当社及び連結子会社は、日本及び海外の様々な国・地域における、幅広い産業分野において、一次産業の生産・調達や、製品の製造・販売、役務提供等、様々な商業活動及び投資活動を展開しております。
このため、当社では、世界経済に影響を与える事象、例えば米中対立、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢、気候変動・自然災害が事業活動に及ぼす影響を検討し必要な対応を行っております。また、生成AI等に代表される技術革新や、サステナビリティ、脱炭素化等価値観の変化・多様化による産業構造の変化に対し、既存ビジネスモデルの見直しや新たなビジネスモデルの構築を図っております。世界経済の悪化や低迷、あるいは、産業構造の変化等への不十分な対応は、当社及び連結子会社の営業活動、業績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
② 取引先の信用リスクについて
当社及び連結子会社は、取引先に対し営業債権、前渡金、貸付金、保証その他の形で信用供与を行っており、また、営業活動の一環として取引先との間で商品供給契約、請負契約、業務委託契約等の契約を締結しておりますので、取引先の債務不履行や契約不履行等による信用危険の負担(信用リスク)が生じた場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
上記の信用リスクの未然防止のため、取引先の信用状態、取引の利益率や戦略的な適合性等を見極めつつ、一取引先に対して供与する信用の最高限度である「信用限度」を設定し、その範囲内にて運用することを当社の与信管理の基本としております。
なお、信用リスクが顕在化した場合の損失に備えるため、当社及び連結子会社では取引先の信用状態に応じて判定した社内格付、担保価値、その他一定の前提と見積りに基づいて貸倒引当金を設定しておりますが、実際に発生する損失がこれを超過する可能性があります。
③ 投資等に係るリスクについて
当社及び連結子会社は、単独又は他社と共同で新会社の設立や既存会社の買収等の事業活動を行っております。これら事業投資の多くは多額の資本を必要とし、当社及び連結子会社が希望する時期や方法で撤退できない可能性や、追加資金拠出を余儀なくされる可能性があります。
投資等に係るリスクの未然防止のため、当社及び連結子会社は、新規投資等の実施に際して、IRR、回収期間、及びリスク調整後税引後利益であるPATRAC(*)等の社内で定められた投資基準に基づき、リスクに見合うリターンが得られているかの定量面・定性面の検証を含めたリスク管理を徹底しておりますが、これら投資等の価値が低下した場合、あるいは追加資金拠出が必要になる場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(*) PATRAC:Profit After Tax less Risk Asset Costの略。リターンがリスクに対する最低限のリターン目標を上回っているかを計る、当社独自の経営指標。以下の計算式に基づき算出する。
PATRAC=税引後利益-リスクアセット(=必要株主資本)×10%(※)
(※)資本コストをベースとするハードルレート
④ 資金調達力及び調達コストについて
当社及び連結子会社は、資産構成に合わせた最適資金調達と安定的な流動性の確保を重視した資金調達を行っております。しかしながら、国内及び海外の主要金融市場において大きな混乱が生じた場合、あるいは営業活動によるキャッシュ・フローの不足、収益性の低下又は資産及び負債管理の失敗、更には格付会社による当社及び連結子会社の信用格付の大幅な格下げが行われた場合には、資金調達が制約されるか、又は調達コストが増加する可能性があり、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 市場リスクについて
当項目内において、親会社の所有者に帰属する当期利益(以下「当期利益」という。)への影響額は、ほかに記載のない限り、当社の当連結会計年度の業績を踏まえて試算した翌連結会計年度に対する影響額を記載しております。
(a)各種商品価格の変動について
当社及び連結子会社は、様々な商品を扱っており、一部の商品、契約、予定取引については、それらに係る市況変動リスクを軽減するため、商品先物・先渡等の契約を締結しておりますが、食料第二本部が取り扱うトウモロコシや小麦等の穀物、化学品本部が取り扱うエチレンやプロピレン等の化学品、エネルギー本部が取り扱う原油やガス、金属本部が取り扱う非鉄金属、電力本部が取り扱う電力、フォレストプロダクツ本部が取り扱うパルプといった商品は、その価格変動によって当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、これら商品を輸送するためにドライバルク船やタンカー等の船舶を利用しておりますが、これら船舶市況も当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクに対応するため、商品売買取引における価格変動リスクに関し、商品ごとに設定したポジション限度の範囲内での取引実施、及び商品ごとのポジションの適時モニタリングを柱とする商品ポジション管理を通じて、各商品市場に対して過大なリスクを負うことのないように管理しております。
これらの商品売買取引における各種商品価格の変動の影響に加え、当社及び連結子会社は、資源・エネルギー開発事業やその他製造事業に参画しており、それらの事業を通じて販売する生産物や製品に関連する商品市況の変動が当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社及び連結子会社が参画する資源・エネルギー開発事業において、主な商品の価格変動の影響は以下のとおりであります。
原油の商品価格が1バレル当たり1米ドル変動した場合における当期利益への影響額は、年間約4億円と試算されますが、生産・操業状況、操業費用、生産坑井掘削及び生産設備の建設等の開発費用、探鉱費用、廃坑費用等、価格変動以外の要素からも影響を受けるため、原油の商品価格のみで単純に決定されない場合があります。
銅の商品価格が1トン当たり100米ドル変動した場合における当期利益への影響額は、年間約14億円と試算されますが、生産・操業状況、生産・輸送設備の維持に伴う資本的支出及び営業的支出等、価格変動以外の要素からも影響を受けるため、銅の商品価格のみで単純に決定されない場合があります。
(b)為替変動について
当社及び連結子会社は、様々な通貨・条件での取引を行っており、主に外貨建取引及び外貨建債権・債務残高等に係る為替変動リスクを軽減するため、為替予約等のデリバティブ契約を締結しておりますが、為替変動は当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当期利益に占める海外連結子会社、持分法適用会社の持分損益や海外事業からの受取配当金の割合が比較的高く、これらの収益の多くが外貨建てであり、当社の報告通貨が円であることから、為替変動は当社及び連結子会社の業績及び財政状態に影響を与えます。米ドルに対して日本円が1円変動した場合における当期利益への影響額は、年間約16億円と試算されます。
(c)金利変動について
当社及び連結子会社は、金融機関からの借入及び社債等を通じた資本市場からの資金調達により事業資金を手当てしております。変動金利の調達は、その相当部分は変動の影響を転嫁できる営業資産に見合っておりますが、金利変動の影響を完全に回避できないものもあり、金利変動リスクにさらされております。
当社及び連結子会社は、Asset-Liability Managementを通じ、投資有価証券や固定資産等の非金利感応資産のうち、変動金利で調達している部分を金利ポジションとして捉え、ポジションの総量や市場動向を注視しつつ、金利スワップ契約等の活用も含めた金利変動リスクへの対応策を決定しております。
しかしながら、これら手段の活用を通じても、金利の変動が与える影響を完全に回避できるものではなく、金利動向によっては、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(d)活発な市場のある有価証券の価格変動について
当社及び連結子会社は、関係強化あるいはその他の目的で、活発な市場のある有価証券に投資を行っております。活発な市場のある有価証券は、その公正価値の変動に伴い、本源的に価格変動リスクを有しており、公正価値の下落は当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、当社は、過去一定期間の価格変動データをもとに、VaR(Value at Risk)の手法でリスク量を定量化し、統計的に計測した保有銘柄全体の予想最大損失額を定期的にモニタリングしております。
(e)退職後給付に係るリスクについて
当社及び連結子会社の年金資産には国内外の株式及び債券等が含まれております。その運用にあたっては、社内に設置した年金資産管理運用委員会で定期的なモニタリングを実施したうえで、許容できるリスクの範囲内で常に年金資産の極大化に努めております。しかしながら、当社の想定を超える証券市場の低迷等により年金資産の価値が減少した場合、退職給付費用が増加し、年金資産の積み増し等が必要となることがあります。また、確定給付債務の現在価値は割引率や昇給率等につき仮定をおいて算定しておりますが、当該仮定と実際の数値が異なる場合、確定給付債務の金額に変動が生じる可能性があります。これらの場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 長期性資産に係るリスクについて
当社及び連結子会社の保有する長期性資産のなかには、不動産・機械装置等の事業用資産に加えて、資源権益への投資や、企業買収時に認識するのれんを含む無形資産、当社がマジョリティを持たずに持分法で会計処理される投資(以下「持分法投資」という。)等が含まれております。
当社及び連結子会社は、これらの長期性資産について、IFRSに準拠し、資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額の見積りを行い、回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合は、当該資産の帳簿価額をその回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しております。なお、耐用年数を確定できない無形資産及びのれんについては、減損の兆候があるか否かを問わず、最低限年1回定期的に資産の帳簿価額が回収可能価額を超過しているか否かを確認しております。
しかしながら、経済及び業界環境の変化や、事業計画の見直し、保有方針の転換等の理由により、現時点の想定に比べて資産価値が著しく下落した場合には、減損損失や、投下資金の回収不能、撤退時の追加損失等が発生し、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
<資源権益への投資について>
当連結会計年度末における資源権益への投資について、商品別のエクスポージャーは以下のとおりであります。
商品 |
エクスポージャー金額 |
主な内容 |
銅 |
約3,900億円 |
持分法投資(チリ) |
鉄鉱石 |
約1,900億円 |
持分法投資(豪州) |
原料炭 |
約1,100億円 |
持分法投資・有形固定資産(豪州) |
原油・ガス |
約900億円 |
有形固定資産(米国メキシコ湾等) |
LNG |
約500億円 |
持分法投資(パプアニューギニア等) |
合計 |
約8,400億円 |
|
(*) 概数で表示している関係で、合計値が合わない場合があります。
当社及び連結子会社の業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性のある銅事業・鉄鉱石事業・原料炭事業への投資においては、以下の要因により資産価値の変動が生じる可能性があります。
銅事業・鉄鉱石事業・原料炭事業
当社及び連結子会社が参画する銅事業・鉄鉱石事業・原料炭事業において、銅価格、鉄鉱石価格や、原料炭価格等の商品価格は、世界及び各地域での需給の不均衡、景気変動、為替変動、地政学的情勢や、感染症の拡大の影響等、当社及び連結子会社が管理できない要因により変動する可能性があります。
当社及び連結子会社の参画する銅事業の長期性資産の主な内容は持分法投資(チリのミネラロスペランブレス銅鉱山、ミネラセンチネラ銅鉱山、ミネラアントコヤ銅鉱山)であります。鉄鉱石事業の長期性資産の主な内容は持分法投資(豪州のロイヒル鉄鉱山)であります。また、原料炭事業の長期性資産の主な内容は持分法投資・有形固定資産(豪州のジェリンバイースト炭鉱、レイクバーモント炭鉱、ヘイルクリーク炭鉱)であります。
なお、これらの持分法投資・有形固定資産は、第三者から提供されたデータや、市況状況、ファンダメンタル等を考慮のうえで、当社及び連結子会社にて策定した価格見通しを使用した事業計画に基づいて評価しておりますが、商品価格や生産量の変動、生産・輸送設備の維持に伴う資本的支出及び営業的支出の高騰、事業環境の変化及び電力・水等のインフラに起因するオペレーション上の問題等が生じた場合には、事業計画が修正される可能性があります。
<Aircastleへの投資について>
当社の持分法適用会社であるAircastleは、全世界のエアラインに対し航空機のリースを行っております。このため、航空旅客需要の悪化、燃油価格の高騰、為替変動、金利上昇等によりエアラインの支払能力が著しく悪化又は倒産した場合、またリース料率の低下や保有する航空機の資産価値が著しく下落した場合に、同社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
航空旅客需要を悪化させる要因としては、戦争やテロ行為、感染症の拡大や自然災害、航空機事故等が想定されます。また、リース先エアラインは世界各国に分散していることから、各国及び国際間の法規制の変更や、経済制裁等の地政学上のリスクの影響を受ける可能性があります。同社への投資にあたっては、中長期的な航空旅客需要の伸びに牽引されて同社が成長を続ける前提での事業計画に基づいて評価をしておりますが、上記のリスク要因による影響が顕在化し、それに伴うリース先支払能力の著しい悪化や、機体価値の下落等による収益率の悪化により、当社想定よりも成長が鈍化する場合には、事業計画を修正する可能性があります。
なお、当連結会計年度末における同社向けの投資金額は約1,862億円であります。
<事業計画に契約延長を織り込んでいる案件について>
当社及び連結子会社の電力IPP事業や、海外インフラコンセッション事業、長期傭船事業等において、一部の事業計画は、策定時における事業環境に鑑み、相応の蓋然性を確認のうえで、締結済みの長期販売契約等の契約の延長を前提としている場合があります。しかし、これらの前提は、事業環境の変化、世界及び地域での需給の不均衡、景気変動等、様々な要因による影響を受けるため、実際には契約の延長を実現できない場合や、延長後の契約条件が当初事業計画における想定よりも悪化する場合があり、それに伴う事業計画の見直しにより資産価値が著しく下落し、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑦ 法的規制等について
当社及び連結子会社の事業は、日本及び諸外国において、広範な法令及び規制に服しております。それらは、事業及び投資に関する許認可、安全保障上の規制を含む輸出入に関する規制、関税及び各種税法、独占禁止法を含む不公正取引規制、マネーロンダリング規制、汚職・贈収賄防止関連法、個人情報保護法・GDPR(EU一般データ保護規制)、環境保護関連法等の多岐の分野にわたります。例えば、事業及び投資に関する許認可に係るものとしては、日本における主なものとして、ライフスタイル本部では景品表示法等、情報ソリューション本部では電気通信事業法等、食料第一本部及び食料第二本部では食品衛生法及び飼料安全法等、化学品本部では毒物劇物取締法等、エネルギー本部では石油備蓄法等、電力本部では電気事業法等、航空・船舶本部では航空法及び海上運送法等、金融・リース・不動産本部では投資信託及び投資法人に関する法律並びに宅地建物取引業法等が挙げられ、諸外国においても、これらの法令及び規制と同一又は類似のものが存在します。
加えて、当社は、法令及び規制の遵守だけでなく、いち企業市民として高い倫理観を持ち、全てのステークホルダーの期待に応え社会的責任を果たすことをコンプライアンスと捉えております。法令及び規制の遵守を含むコンプライアンスの実践のため、当社は社長直轄のコンプライアンス委員会を設置しております。コンプライアンス委員会の詳細は、「第4 提出会社の状況」における「4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要 <コーポレート・ガバナンスに関する施策の実施状況> ① 会社の機関の内容及び内部統制システムの整備の状況(l)内部統制システムの整備の状況」に記載のとおりであります。
しかしながら、当社及び連結子会社が事業を行う国・地域によっては、法制度が十分に機能していない場合があり、予期しえない法令、規制、解釈の変更や、規制当局、司法機関等による一貫性のない法令の適用・解釈、運用の一方的な変更等が発生する可能性があること、当社及び連結子会社が行う事業(全く新しいビジネスモデルによるものを含む)のなかには法令・規制が十分に整備されていない事業分野も含まれること、当社及び連結子会社は、リスクベース・アプローチに基づくコンプライアンスリスク管理を徹底しているものの、当社及び連結子会社の行う事業活動が極めて広範であること等から、コンプライアンス違反が生じる可能性があり、当社及び連結子会社のコンプライアンス遵守のための負担が増加する可能性があります。このような事態が発生した場合には、事業の中断を含む罰則の適用を受け、又は信用の低下等が発生し、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
<税制・税務リスクについて>
当社及び連結子会社は、様々な活動をグローバルに展開していることから、日本及び諸外国において納税義務を負っております。そのため、将来的に、各国税務当局による課税が強化され、課税ベースの拡大・税率変更といったルール変更が行われた場合には、当社及び連結子会社が納付すべき税額が増加する可能性があります。
また、当社及び連結子会社は、必要に応じて外部専門家を活用し、各国の税法に従い適切な税務申告を行っておりますが、各国当局との見解の相違により、予想外の課税を受ける可能性があります。仮に課税問題が発生した場合には、外部専門家を起用し問題解決を図る等の対策を講じますが、追加的な課税が生じる可能性を完全に排除できるものではありません。このような場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑧ 重要な訴訟について
当社及び連結子会社の国内及び海外における営業活動が訴訟、紛争又はその他の法的手続の対象になることがあります。対象となった場合、訴訟等には不確実性が伴い、その結果を現時点で予測することは不可能です。訴訟等が将来の当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社はインドネシアの企業グループであるSugar Groupに属する企業(以下「Sugar Group」という。)を相手にした訴訟(以下「旧訴訟」という。)について、2011年にインドネシア最高裁判所(以下「最高裁」という。)において当社の勝訴が確定したにもかかわらず、Sugar Groupから、旧訴訟と請求内容が同一である別途訴訟(以下「グヌンスギ訴訟及び南ジャカルタ訴訟」という。)を提起され、グヌンスギ訴訟及び南ジャカルタ訴訟につき2017年に最高裁で当社の敗訴が一旦確定しておりますが、当社はインドネシア最高裁に対して司法審査(再審理)を申し立てました。このうち、南ジャカルタ訴訟については、当社は最高裁再審理決定の決定書を、2020年12月30日に受領しております。当該決定書には、2020年8月24日付で当社の司法審査(再審理)請求を認容し、当社が2017年5月17日に受領した当社敗訴の南ジャカルタ訴訟最高裁判決を取り消したうえで、原告であるSugar Groupの請求を全て棄却する旨が記載されております。他方、グヌンスギ訴訟については、当社は、2018年10月8日付で当社の司法審査(再審理)申立を不受理とする旨の最高裁再審理決定の決定書を、2020年2月3日に受領しております。当社は、2020年5月18日、最高裁に対して2回目の司法審査(再審理)を申し立てましたが、申立書類の提出先であるグヌンスギ地方裁判所(以下「グヌンスギ地裁」という。)は2020年5月20日付で、最高裁再審理決定と旧訴訟最高裁判決間の矛盾の不存在を理由に当社の申立を受理せず申立書類を最高裁に回付しないことを決定しました。インドネシア最高裁判所法等関連法令上、かかる判断は司法審査(再審理)の実施機関である最高裁の職責に属する事項であるとされており、グヌンスギ地裁の決定が不当であることは明らかであること、また、上述のとおり当社が勝訴した南ジャカルタ訴訟司法審査(再審理)の結果を踏まえて、当社は最高裁に対して、改めてグヌンスギ訴訟に関する2回目の司法審査(再審理)を2021年5月31日付で申し立て、グヌンスギ地裁に受理されましたが、2022年7月28日付で当社の2回目の司法審査(再審理)申立を不受理とする旨の最高裁再審理決定の決定書を、2024年1月30日に受領しております。当社は、1回目のグヌンスギ訴訟の司法審査(再審理)の不受理決定と、当社が勝訴した南ジャカルタ訴訟の司法審査(再審理)の決定との間に矛盾があることを理由に、2回目の司法審査(再審理)を申し立てておりましたが、前者については不受理という手続的判断であり、実体審理のうえで判断がなされた後者とは矛盾があるとは評価できないと判断され、司法審査(再審理)の要件を満たさないため不受理とされております。
また、当社はSugar Groupの不法行為による当社の信用毀損等を原因としてSugar Groupに対し損害賠償請求訴訟を提起しておりますが、これに対し、Sugar Groupは当該訴訟(以下「本訴」という。)の手続のなかで、当社に対して当該訴訟の提起が不法行為であるとして損害賠償請求訴訟(以下「反訴」という。)を提起しておりました。先般、第一審及び第二審にて本訴請求及び反訴請求いずれも棄却されたことを受け、当社は、2021年11月19日付で本訴につき最高裁に上告していたところ、本訴及び反訴について当社の本訴請求につき一部認容するとともに、Sugar Groupの反訴請求を全て棄却する内容の最高裁判決を2022年11月8日付で受領しました。Sugar Groupは当該最高裁判決を不服とし、当該最高裁判決の取消及び反訴請求と同様の損害賠償を求める司法審査(再審理)の申立を2023年3月24日に行い、当社は当該再審理申立書面を2023年12月11日付で受領しました。
当社に不利な裁定を最高裁が下したグヌンスギ訴訟等Sugar Groupとの一連の訴訟の今後の趨勢や裁判手続次第では、敗訴判決に基づく損害賠償額・金利・訴訟費用の合計金額の全部又は一部について当社が負担を強いられ損失を蒙る等、当社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります(注)。各訴訟の詳細及び経緯については「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記27 約定及び偶発負債」に記載のとおりであります。
(注)南ジャカルタ訴訟においては被告に丸紅欧州会社も含まれております。
⑨ 環境・社会リスクについて
当社及び連結子会社は、グローバルかつ幅広い産業分野に関連する営業活動を行っており、環境や社会、また取引先、従業員等のステークホルダーに対し様々な影響を及ぼします。当社は、社長直轄のサステナビリティ推進委員会を設置のうえ、サステナビリティの観点で重要度の高いリスクについて、サステナビリティ推進委員会で管理・モニタリングを行い、リスクの低減に努めています。また、リスク管理の一環として、環境、社会(安全衛生を含む)に関する潜在的リスク評価手法を構築し、投融資プロセス等において運用しております。サステナビリティの観点で重要度の高いリスクの管理については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」の「(3)リスク管理」に記載のとおりであります。
喫緊の課題である気候変動に関しては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、気候変動関連リスクの把握と業績への影響を同提言に基づき分析しています。気候変動により自然災害の激甚化や異常気象の深刻化、降雨や気象パターンの変化、平均気温の上昇や海面の上昇等といった物理的リスクが顕在化した場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、気候パターンの変化による穀物不作や、異常気象の激甚化による物流機能の麻痺、乾燥化や落雷の増加による森林における山火事等が、農業資材ビジネス、植林事業や木質資源供給ビジネスの収益を悪化させる可能性があります。
また、炭素税の導入及び強化等の温室効果ガス排出規制や脱炭素化に貢献する技術の急激な発展等による需要変化の移行リスクは、発電事業や資源権益・販売事業等の化石燃料に関連する事業を中心に、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。これらの気候変動リスクの発生可能性は、パリ協定の枠組みの下での気候変動の進行を防ぐ取組みの状況に大きく左右されます。
当社及び連結子会社は、気候変動リスクの低減に努めており、2050年までに事業活動に伴う温室効果ガス排出ネットゼロ(*)の達成を目指すことを基本的方針としております。また、本方針を実効性のあるものとするため、2030年に向けたアクションプラン(行動計画)を策定しております。更に、個別の事業に関しても、以下を中心とした取組み方針を定めております。
・新規石炭火力発電事業には取り組まず、石炭火力発電事業によるネット発電容量を2018年度末対比で2025年までに半減させ、2050年までにゼロとする
・一般炭権益に関して、新規の資産獲得は行わない
しかしながら、これらの取組みが奏功しない場合や今後想定を上回る速度又は規模で気候変動が進行する場合、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(*) 温室効果ガス排出削減を行ったうえで、削減できない残余排出を、自然を基盤とした手段や技術的手段により除去し、大気中への人為的な温室効果ガス排出をネットゼロとすること。なお、ネットゼロの対象範囲は当社及び連結子会社のScope1(直接排出)及びScope2(間接排出)に加え、Scope3(Scope 1、Scope 2以外の間接排出・サプライチェーン排出)カテゴリ15(投資)に含まれる持分法適用関連投資先の排出としております。
更に、当社及び連結子会社の営業活動により、大気汚染、土壌汚染、水質汚染等による環境汚染等が生じた場合には、事業の停止、汚染除去費用、あるいは住民訴訟対応費用等が発生し、社会的評価の低下につながる可能性があります。これらの環境リスクに対応するため、環境マネジメントシステムを導入(1999年度)したほか、連結子会社並びに仕入先に対する調査を実施する等、環境負荷等の把握と環境リスクの低減に努めております。
しかしながら、何らかの環境負荷が発生した場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
社会面では、丸紅グループ人権基本方針、サプライチェーンにおけるサステナビリティ基本方針を策定のうえ、人権の尊重と持続可能なサプライチェーンの構築に向けて、連結子会社へのサステナビリティ調査、サプライヤーに対する調査及び改善に向けた働きかけ、人権デューデリジェンス等に取り組んでおります。しかしながら、このようなリスク対策を実施したとしても、当社の事業活動により社会に対し負の影響が発生した場合には、事業の遅延や停止、損害賠償等の追加的費用、レピュテーション低下等の悪影響を及ぼす可能性があります。
⑩ 自然災害等のリスクについて
当社及び連結子会社が事業活動を展開する国や地域において、地震、津波、大雨、台風等の自然災害が発生した場合、また新型インフルエンザや新型コロナウイルス等による感染症が流行、拡大した場合、社員・事業所・設備やシステム等への被害及び交通、情報通信、水道・ガス・電力等の公共インフラに機能不全等が発生し、当社及び連結子会社の事業活動に支障が生じる可能性があります。
BCP(事業継続計画)の策定、耐震対策、感染症対策、防災訓練、必要物資の備蓄、各種保険への加入等、個々に対策を講じておりますが、自然災害等による被害や影響を完全に排除できるものではなく、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑪ カントリーリスクについて
当社及び連結子会社はグローバルに営業活動を展開しているため、当該活動地域・国における政治状況の変化、戦争・テロ・暴動を含む社会情勢の悪化、経済環境の変化、営業活動に関わる法制度や政策の変更等、様々なカントリーリスクにさらされており、これらの地域・国の事業環境が悪化した場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、当社及び連結子会社が活動する国に対し、各国のリスク度を評価して国分類に区分し、国分類又は国ごとのカントリーリスク管理基準を設けております。
この基準の下で、国分類又は国ごとの取組み方針を定め、また各国向けのリスク・エクスポージャーを集計して特定の国分類又は国へのエクスポージャー集中を防ぐ等の管理を行っております。
また、新規投資案件等の検討にあたっては、国分類又は国ごとのカントリーリスクに見合った適正なリターンが得られるのかという観点も考慮した投資基準を設定しております。
更に、案件ごとに必要に応じて、貿易保険や投資保険を付保する、第三国からの保証等を取得する等、適切なリスクヘッジ策を講じるべく努めております。
当連結会計年度末における主なカントリーリスクエクスポージャー(*)は以下のとおりであります。
(*) 当社及び連結子会社の保有資産のうち、長期与信、固定資産、投資等の長期性資産の金額の合計。
エクスポージャーが1,000億円以上の国を抽出。
日本 |
13,328億円 |
米国 |
11,238億円 |
チリ |
4,708億円 |
豪州 |
3,959億円 |
インドネシア |
2,687億円 |
シンガポール |
1,971億円 |
ブラジル |
1,777億円 |
フィリピン |
1,190億円 |
ベトナム |
1,084億円 |
オランダ |
1,010億円 |
⑫ 情報システム及び情報セキュリティに関するリスクについて
当社及び連結子会社は、情報資産の適切な管理及び高い情報セキュリティレベルの確保を重要事項と認識し、グループ全体のセキュリティリスクの低減を図っております。CIOを委員長とする情報セキュリティ委員会を設け、セキュリティ面での課題把握及び対応方針の策定を行うとともに、セキュリティインシデント発生時にインシデントを統括管理するセキュリティマネジメントチーム(M-CSIRT)にて対応を行う体制を構築しています。また、対策の3つの柱として、① グループ各社が遵守すべき情報セキュリティ全般のグループ共通ITガバナンスルールを整備し、② 当該ルールに準拠したセキュアなグループ共通ITサービスのグループ会社への提供、③ 連結子会社・主要関連会社に対するITガバナンスルール遵守状況の検査(アセスメント)を定期的に実施しております。
しかしながら、サイバー攻撃は年々巧妙化しており、外部からの予期せぬ不正アクセスやコンピューターウイルス侵入等による機密情報・個人情報の漏洩、設備・通信障害等による情報システム停止等の可能性を完全に排除できるものではありません。このような場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑬ 重要性がある会計方針及び見積りによるリスクについて
当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会によって公表されたIFRSに準拠して作成しております。連結財務諸表の作成にあたっては、報告期間の期末日における資産・負債の計上、偶発資産・偶発負債の開示及び期中の収益・費用の計上を行うため、必要に応じて会計上の見積り及び仮定を用いております。この会計上の見積り及び仮定は、その性質上不確実であり、実際の結果と異なる可能性があります。連結財務諸表に重要な影響を与える会計上の見積り及び仮定は以下のとおりであります。
・棚卸資産の評価
・有形固定資産の減損
・無形資産の減損
・関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の減損
・繰延税金資産の回収可能性
・確定給付制度債務
・引当金
・金融商品の評価
・偶発負債
当社の経営陣は、これらの見積りは合理的であると考えておりますが、想定を超えた変化等が生じた場合、当社の連結財務諸表に重要な影響を及ぼすことがあります。
重要性がある会計方針及び見積りについての詳細は、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討」の「③ 重要性がある会計方針及び見積り」及び「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記3 重要性がある会計方針」に記載のとおりであります。
(3)中期経営戦略について
当社及び連結子会社は、2022年度より3ヵ年の中期経営戦略「GC2024」をスタートしております。内容については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「(2)会社の経営の基本方針」に記載のとおりであります。
これらの定量目標は、策定時において適切と考えられる一定の経済状況・産業動向その他様々な前提・仮定及び見通しに基づき策定されたものであり、経営環境の変化、上記個別リスクの発現、その他様々な要因により達成できない可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
① 当連結会計年度における経済環境及びオペレーティング・セグメント別の事業の状況
経済環境
世界経済は、多くの国でインフレが依然中銀目標を上回るペースで推移するなか、欧米を中心とした金融引締め姿勢が継続し、景気の減速感が強まりました。先進国では、米国が底堅く推移した一方、欧州は景気減速が一段と進行しました。日本は新型コロナ対策緩和を背景に内需やインバウンド需要が回復し、設備投資も堅調に推移しました。新興国では、中国は景気回復が進むも不動産市場の低迷等を理由として力強さに欠けており、アジア諸国を中心に景気が減速しました。
一次産品価格は、世界経済の減速に伴う需要後退が重しとなり、総じて昨年度と比べて安値圏で推移しました。原油価格は昨年度から下落しましたが、産油国の減産や中東情勢緊迫により年明け以降は上昇に転じました。中国が世界最大の輸入国である銅や鉄鉱石の価格は、同国の景気回復ペース鈍化が重しとなりましたが、供給懸念もあり概ね昨年度並みで推移しました。
欧米の債券市場では中央銀行による金融引締めにより金利が上昇しました。円相場は円安・ドル高が進行しました。株式市場は日欧米を中心に昨年度と比べて高値圏での推移が続きました。
オペレーティング・セグメント別の事業の状況
当連結会計年度におけるオペレーティング・セグメント別の事業の状況は、以下のとおりであります。
・ライフスタイル
ライフスタイル事業では、丸紅ファッションリンクにてラグジュアリーレディースウェアブランド「バイ・マレーネ・ビルガー」の日本における独占輸入販売権を獲得し、同ブランド商品の拡販に注力しています。環境配慮型事業では、繊維及びタイヤのリサイクル事業の構築に向けた取組みを推進しています。カーメンテナンス事業では、メキシコのRadial Llantasを子会社化し、同国での事業拡大を加速させたほか、タイ・インドネシアでも順調に小売店舗網を拡大し、全世界で約340店舗を展開しています。コンベヤベルトディストリビューション事業では、カナダのAlternative Belting Enterprises及びAlternative Belting (Van Island) Enterprisesを買収する等、北米地域における拠点拡充を推進しています。
・情報ソリューション
デジタル技術の進展によるIT市場の急速な構造変化に迅速かつ戦略的に対応すべく、2023年4月に丸紅I-DIGIOホールディングスを設立し、傘下に丸紅情報システムズ、丸紅ネットワークソリューションズ、丸紅ITソリューションズ、イーツのIT関連4社を集約して「丸紅I-DIGIOグループ」として新たに始動しました。強みとする事業分野を機能別に確立・推進してきた各社のノウハウ・リソースの融合や先進技術・成長領域への投資を通じて、今後益々多様化する顧客のニーズに対し、幅広い対応力を持つソリューションプロバイダーとして、ワンストップで応えてまいります。
・食料第一
多様化する食のニーズに応えるべく、スペシャリティ商品のマーケティングと生産製造機能の強化に注力しています。菓子分野では「ヨーグレット」「ハイレモン」等のブランドを展開するアトリオン製菓を通じ、多様化するマーケットニーズに応え、更なる成長を図ります。飲料分野では、インスタントコーヒー製造販売会社であるIguacu Vietnamが本格稼働し、伸長するアセアン市場で更なる事業拡大を目指します。また、コーヒーの産地支援や陸上養殖サーモンをはじめとした「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に貢献するビジネスを推進し、環境配慮型食料事業を拡大していきます。
・食料第二
食の中心となる穀物、搾油原料、動物性タンパク質、及び家畜の肥育に必要な飼料の安定供給を通じて、持続可能な農業・飼料製造販売業・畜産業への貢献とトータルソリューション提供に取り組んでいます。穀物分野では、最大の生産拠点である北米・南米に保有する穀物集荷・輸出設備から、日本国内の輸入ターミナルや飼料工場へ繋がるサプライチェーンの収益基盤強化を推進します。また、米国においては、オーガニック穀物・雑豆等の消費者向け販売事業へ本格参入しました。畜産分野では、高品質なプレミアム牛肉処理加工販売を行うCreekstone Holdingを中心として、食に不可欠な動物性タンパク質の安定供給と事業基盤の拡大に努めていきます。
・アグリ事業
農業資材リテール事業では、ITを駆使した精密農業による顧客向けソリューション能力の更なる向上と、Helena Agri-Enterprisesをはじめとしたグループ会社にて蓄積してきたノウハウの活用を通じ、米国・ブラジル・欧州・アジアにおける農業の発展に貢献すべく更なる事業拡大を目指しています。また、肥料ホールセール事業では、MacroSourceが、北米を中心に南米、アフリカその他の地域にわたり事業を展開しており、当社グループの肥料供給能力の強化を行ってまいります。作物の収量を向上させることに加え、環境負荷に配慮した農業資材を取り扱う等、事業による環境負荷の低減にも貢献していきます。
・フォレストプロダクツ
インドネシアや豪州において長年にわたり植林事業を手掛けており、その知見を活かして国内外で、素材価値と環境価値のバランスに配慮した新たな植林事業にも着手しています。また、木質資源の活用の一環として、バイオマス燃料用ペレットの供給ソース開発やバイオリファイナリー等の新素材分野への展開も進めています。パッケージ分野では、国内外で段ボール原紙製造販売メーカーを経営し、製造・流通が一体となった事業展開を進めています。衛生紙分野では、ブラジルにてSanther - Fabrica de Papel Santa Therezinhaを通じ衛生紙の製造販売事業を行っており、消費者の安心・快適な生活の実現に寄与していきます。
・化学品
業界トップクラスのシェアを持つ石油化学品トレードでの需給調整機能の高度化、蓄電池・ディスプレイ・太陽光発電機器に代表されるエレクトロニクス等のスペシャリティ分野におけるソリューション提供型ビジネスの深化を国内外で推し進めています。食品機能材・飼料添加剤等のライフサイエンス分野では、2023年12月に欧州の大手香辛料・調味料メーカーのEuroma Holdingを100%子会社化する等ビジネスを拡大しました。これらに加え、環境に配慮した素材、バイオ燃料を使用した化学品運搬船の運航をはじめとしたサステナブルな社会に向けた新しい顧客ニーズへの対応等、これまでの化学品の枠を超えた新しい商品や仕組み作りにも取り組んでいます。
・金属
銅鉱山、鉄鉱山、原料炭炭鉱の中核鉱山事業において、生産の最適化や先進技術の導入、再生可能エネルギー利用や水資源保全等鉱山のグリーン化による持続可能な操業を行っています。2023年12月にはチリ・センチネラ銅鉱山の拡張プロジェクトの投資意思決定を行いました。また、JX金属株式会社からのロスペランブレス銅鉱山権益の追加取得及びパンパシフィック・カッパーの株式取得に合意しました。既存事業の拡張、新規鉱区の開発、サプライチェーン強化による収益力向上に取り組むとともに、CCS(*)事業や廃電池リサイクル事業、低炭素アルミニウム事業等環境に配慮した資源・素材の責任ある供給を通じ、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
(*) Carbon Capture and Storageの略称、二酸化炭素回収・貯留
・新エネルギー開発推進部(*)
新エネルギー関連事業の取組みを強化すべく、2024年3月期より新エネルギー開発推進部を新設し、脱炭素社会実現に向けた取組みを進めています。豪州では、南豪州におけるグリーン水素製造実証の取組みに加え、クイーンズランド州において再生可能エネルギー由来のグリーン水素を製造・液化し、日本や同州のアンモニア合成施設へ供給するプロジェクトの基本設計作業を開始しました。カナダでも、エネルギーインフラ事業者のペンビナ社と低炭素アンモニアサプライチェーン構築に係る事業化調査を開始しております。引き続き水素・アンモニア、SAF・合成燃料(e-メタン等)をはじめとする複数の新エネルギー事業を推進してまいります。
(*) 当連結会計年度より新設された「新エネルギー開発推進部」(「エネルギー」「電力」「インフラプロジェクト」の一部を編入)は独立したオペレーティング・セグメントではなく、その損益等については、オペレーティング・セグメントの「エネルギー」「電力」「インフラプロジェクト」にそれぞれ配賦しております。
・エネルギー
相対的に低炭素でエネルギー転換期においてその重要性を増す天然ガス・LNG事業分野における安定操業や資産価値向上に資する取組みを着実に進めています。また、当社が強みを持つ石油、天然ガス・LNG、ウラン等のトレーディング&マーケティング分野においても、着実に収益拡大に向けた取組みを推進しています。エネルギーや原料の安定供給への貢献と、2023年6月に実施済みの廃食油・グリーンメタノールを原料としたバイオ燃料の外航船への供給をはじめとする、バイオ燃料取引の拡充や環境価値取引の強化等の脱炭素化への取組みを両立しながら、事業基盤を強化・発展させてまいります。
・電力
発電事業分野では、岐阜県安八郡神戸町での域内国産材バイオマス発電事業等国内外で複数の再生可能エネルギーを利用した発電所が商業運転を開始しました。電力サービス事業分野では、日英米豪での再エネ小売取引の拡大、サウジアラビア王国における屋根置き型太陽光発電システムを活用した長期売電契約の締結、国内における使用済み太陽光パネルのリユース・リサイクル関連サービスの開始等、新たなグリーン事業の創出に寄与する取組みを推進しています。また、英国政府ビジネス・通商省との洋上風力発電・水素等のクリーンエネルギー事業の協力に関する覚書の締結等、脱炭素社会実現に向けた取組みを強化しています。
・インフラプロジェクト
水分野では、AI・機械学習を用いた劣化予測診断により、自治体向けに水道管路の更新最適化サービスを提供しています。社会インフラ分野では、等々力緑地の運営・維持管理ビジネスに参画し、等々力緑地の魅力向上に取り組んでいます。交通インフラ分野では、国内の交通事業者や自治体と協働し、公共交通機関における顔認証技術を用いた運賃決済システムの実証実験を行っています。循環経済ビジネス分野では、米国・英国でのバイオメタン生産及び販売事業に加え、ごみを原料とした分散型の発電事業に着手しました。インフラファンド分野では、海外インフラ資産を対象とする1号ファンドの投資が完了するとともに2号ファンドを組成し、投資家の募集と資産積上げを進めています。
・航空・船舶
航空分野では、航空機用消耗部品の販売事業者である米国企業の株式取得を行ったほか、航空機の整備・解体事業を行う合弁会社をマレーシアにて設立しました。また、衛星軌道投入・軌道上サービスを提供する企業や、AIを用いた空港グランドハンドリング業務の可視化を行う企業に出資参画する等、既存事業の強化・拡充を行いました。船舶分野では、運航事業のサービスやデジタル解析の機会拡大を図り、ノルウェーの大手海運会社であるKLAVENESS DRY BULKへ出資しました。また、船舶用周辺認知システム、風力推進装置の開発企業との業務提携、公益財団法人日本財団が推進する無人運航船プロジェクトへの参画等、新規ビジネスの創出も推進しています。
・金融・リース・不動産
航空機リース事業では、航空旅客需要の回復に伴い、みずほリース株式会社と共同でAircastleに対する総額5億米ドルの増資引受契約を締結しました。
国内中堅企業を投資対象としたアイ・シグマ事業支援ファンドでは2社の売却を実現し、アジア地域の企業投資を目的として、株式会社アドバンテッジパートナーズとともにAP Asia Fund IIを設立しました。不動産分野では、戦略的協業先のDMCIグループとフィリピン・マニラ近郊で住宅開発・分譲事業に参入しました。保険事業では、お金の相談サービス「マネーキャリア」を運営するWizleapに出資参画し、デジタルを活用した個人向け金融コンサルティング事業を開始しました。
・建機・産機・モビリティ
百年に一度の大変革期にある建機・産機・モビリティ領域では、DX・IoTによるバリューチェーン全体での収益化を推進しております。建機や自動車分野では、これまで販売・アフターサービス事業が中心でしたが、建機のICT化、車両の電動化・コネクテッド化の潮流を捉え、新車導入からメンテナンス、運行管理、中古車取扱いまでを一貫して行う体制を構築してまいります。また、モビリティ分野では、オンデマンド交通及びラストマイル配送の実証と並行し、自動運転社会を見据えた取組みを推進中です。
産機分野では、産業機械・工作機械の販売と部品ディストリビューション事業を拡大中で、製造業向けソリューション事業も推進してまいります。
・次世代事業開発
2030年に向けた成長領域において、過去の成功事業からの当社の勝ち筋より次世代事業開発の要諦を定め、事業開発を行っています。次世代産業基盤、DX・ITサービス、医薬品・医療サービス、ウェルネス・ビューティー、コンシューマーブランド等の領域で事業開発・投資を積極的に実施しています。世の中の健康志向や生活習慣の変化によるニーズ拡大を背景に、中東医薬品事業を拡充し、タイ・日本でのコスメ事業に参画しています。次世代産業基盤では、エストニア・ドイツにおける次世代蓄電池事業にも参画しています。時代の変化を敏感に捉えるべく新たな成長領域・テーマの発掘・探索も積極的に推進しています。
・次世代コーポレートディベロップメント
コーポレートディベロップメント事業では、成長ポテンシャルの高い消費者向けビジネスへの投資を推進しています。東南アジアでは、コーヒーチェーンのフランチャイズ事業であるティムホートンズ案件にて、シンガポールにおける店舗展開を開始したことに加え、ベトナム最大手の食品原料・機能性食品素材サプライヤーであるAIG Asia Ingredients、及びインドネシアの医療用消費財メーカーのOne-ject Indonesiaへ出資しました。また、米国の投資拠点も本格稼働し、東南アジア・米国から事業機会獲得に取り組んでいます。スタートアップ事業では、コーポレートベンチャーキャピタルを通じて、世界の革新的なビジネスモデルの取込みを推進しています。
② 当連結会計年度の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況
「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討」に記載のとおりであります。
③ 仕入、成約及び販売の実績
(a)仕入の実績
仕入と販売との差異は僅少であるため、仕入高の記載は省略しております。
(b)成約の実績
成約と販売との差異は僅少であるため、成約高の記載は省略しております。
(c)販売の実績
「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討」及び「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記4 セグメント情報」に記載のとおりであります。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 当連結会計年度の経営成績の分析
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
|
増減 |
収益 |
9,190,472 |
7,250,515 |
|
△1,939,957 |
売上総利益 |
1,051,295 |
1,065,818 |
|
14,523 |
営業利益 |
340,814 |
276,321 |
|
△64,493 |
持分法による投資損益 |
286,767 |
311,398 |
|
24,631 |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 |
543,001 |
471,412 |
|
△71,589 |
(注)「営業利益」は、投資家の便宜を考慮し、日本の会計慣行に従った自主的な表示であり、IFRSで求められている表示ではありません。「営業利益」は、連結包括利益計算書における「売上総利益」、「販売費及び一般管理費」及び「貸倒引当金繰入額」の合計額として表示しております。
収益は前連結会計年度比(以下「前年度比」という。)1兆9,400億円(21.1%)減収の7兆2,505億円となりました。オペレーティング・セグメント別には、主に食料第二でGavilon穀物事業の売却に伴い減収となりました。
売上総利益は前年度比145億円(1.4%)増益の1兆658億円となりました。オペレーティング・セグメント別の主な増減は以下のとおりであります。
アグリ事業 |
276億円増益 |
米国肥料卸売事業の改善
|
建機・産機・モビリティ |
188億円増益 |
販売台数等の増加に伴う自動車関連事業及び建設機械事業の増益
|
金属 |
288億円減益 |
商品価格の下落に伴う豪州原料炭事業の減益 |
営業利益は、販売費及び一般管理費の増加により、前年度比645億円(18.9%)減益の2,763億円となりました。
持分法による投資損益は前年度比246億円(8.6%)増益の3,114億円となりました。オペレーティング・セグメント別の主な増減は以下のとおりであります。
フォレストプロダクツ |
139億円増益 |
前年度に計上した国内洋紙製造・販売事業投資の減損損失の反動等
|
電力 |
85億円増益 |
海外発電事業の増益等
|
金属 |
164億円減益 |
商品価格の下落に伴う豪州原料炭事業の減益等 |
上記に加えて、前連結会計年度に計上したGavilon穀物事業売却益の反動もあった結果、親会社の所有者に帰属する当期利益は前年度比716億円(13.2%)減益の4,714億円となりました。
当連結会計年度のオペレーティング・セグメント別の業績(親会社の所有者に帰属する当期利益)は以下のとおりであります。
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
|
増減 |
ライフスタイル |
6,799 |
9,911 |
|
3,112 |
情報ソリューション |
9,534 |
7,768 |
|
△1,766 |
食料第一 |
11,553 |
16,982 |
|
5,429 |
食料第二 |
76,934 |
17,997 |
|
△58,937 |
アグリ事業 |
42,732 |
41,503 |
|
△1,229 |
フォレストプロダクツ |
△9,382 |
△14,180 |
|
△4,798 |
化学品 |
14,260 |
7,019 |
|
△7,241 |
金属 |
199,359 |
163,479 |
|
△35,880 |
エネルギー |
38,663 |
39,233 |
|
570 |
電力 |
40,008 |
47,326 |
|
7,318 |
インフラプロジェクト |
8,809 |
16,937 |
|
8,128 |
航空・船舶 |
28,198 |
26,384 |
|
△1,814 |
金融・リース・不動産 |
43,745 |
43,877 |
|
132 |
建機・産機・モビリティ |
23,846 |
27,147 |
|
3,301 |
次世代事業開発 |
△5,130 |
340 |
|
5,470 |
次世代コーポレートディベロップメント |
△1,979 |
△3,056 |
|
△1,077 |
その他 |
15,052 |
22,745 |
|
7,693 |
全社合計 |
543,001 |
471,412 |
|
△71,589 |
(注)1. 当連結会計年度より、「情報・物流」を「情報ソリューション」に名称変更するとともに、「ライフスタイル」の一部を「金融・リース・不動産」及び「次世代事業開発」に、「情報・物流」の一部を「次世代事業開発」に、「エネルギー」の一部を「電力」に、「次世代事業開発」の一部を「化学品」に、「その他」の一部を「情報ソリューション」に、それぞれ編入しております。これらの変更に伴い、前連結会計年度のオペレーティング・セグメント情報を組み替えて表示しております。なお、当連結会計年度より新設された「新エネルギー開発推進部」(「エネルギー」「電力」「インフラプロジェクト」の一部を編入)の損益等については、「エネルギー」「電力」「インフラプロジェクト」にそれぞれ配賦しており、これに伴い、前連結会計年度のオペレーティング・セグメント情報を組み替えて表示しております。
2. セグメント間取引は、通常の市場価格により行われております。
3. 「その他」には、特定のオペレーティング・セグメントに配賦されない本部経費等の損益、セグメント間の内部取引消去等が含まれております。
ライフスタイル
親会社の所有者に帰属する当期利益(以下「当期利益」という。)は、衣料品等の取引における増益及び前年度に計上した衣料品等の企画・製造・販売事業に関連する一過性損失の反動により、前年度比31億円増益の99億円となりました。
情報ソリューション
当期利益は、IT関連事業の中間持株会社設立に伴う経費増加等により、前年度比18億円減益の78億円となりました。
食料第一
当期利益は前年度比54億円増益の170億円となりました。これは、インスタントコーヒーの製造・販売事業、即席麺等の製造・販売事業及び国内菓子卸事業の増益によるものです。
食料第二
当期利益は、前年度に計上したGavilon穀物事業売却益の反動及び肉牛処理加工・販売事業の減益等により、前年度比589億円減益の180億円となりました。
アグリ事業
当期利益は、米国肥料卸売事業の改善があったものの、農薬等の農業資材価格下落を背景としたHelena社の減益により、前年度比12億円減益の415億円となりました。
フォレストプロダクツ
当期損失は前年度比48億円悪化の142億円となりました。これは、前年度に計上した国内洋紙製造・販売事業投資の減損損失の反動等があったものの、パルプ市況悪化に伴うムシパルプ事業の減益に加え、当年度においてもベトナム段ボール原紙の製造・販売及び包装資材の販売事業における固定資産の減損損失があったことによるものです。
化学品
当期利益は、飼料添加剤販売事業におけるのれんの減損損失及び石油化学品・無機化学品取引の減益等により、前年度比72億円減益の70億円となりました。
金属
当期利益は、商品価格の下落に伴う豪州原料炭事業の減益等により、前年度比359億円減益の1,635億円となりました。
エネルギー
当期利益は、原油・ガス価格の下落等に伴う石油・ガス開発事業の減益等があったものの、前年度に計上した石油・ガス開発事業における一過性損失の反動等により、前年度比6億円増益の392億円となりました。
電力
当期利益は、海外発電事業の増益等により、前年度比73億円増益の473億円となりました。
インフラプロジェクト
当期利益は、海外インフラ案件における一過性利益等により、前年度比81億円増益の169億円となりました。
航空・船舶
当期利益は、航空関連事業における需要回復に伴う増益があったものの、船舶市況の悪化に伴う船舶保有運航事業の減益により、前年度比18億円減益の264億円となりました。
金融・リース・不動産
当期利益は前年度比1億円増益の439億円となりました。これは、米国中古車販売金融事業の減益があったものの、米国航空機リース事業における一部ロシア向け機体の和解金受領及び国内不動産事業の増益等があったことによるものです。
建機・産機・モビリティ
当期利益は、建設機械事業の増益により、前年度比33億円増益の271億円となりました。
次世代事業開発
当期利益(損失)は、前年度に計上した貸倒費用の反動等に加え、中東における医薬品・医療機器販売事業の増益もあり、前年度比55億円改善の3億円の利益となりました。
次世代コーポレートディベロップメント
当期損失は、傘下事業会社の立ち上げに伴う経費増加等により、前年度比11億円悪化の31億円となりました。
② 当連結会計年度のキャッシュ・フロー及び財政状態の状況の分析、並びに資本の財源及び資金の流動性
(a)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における「現金及び現金同等物」の残高は、前連結会計年度末比(以下「前年度末比」という。)1,027億円減少の5,063億円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業資金負担等の増加があったものの、営業収入及び配当収入により、4,425億円の収入となりました。前年度比では1,639億円の収入の減少であります。
基礎営業キャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フローから、営業資金の増減等を控除した「基礎営業キャッシュ・フロー」は、5,480億円となりました。その内訳は以下のとおりであります。
(収入:+、支出:△)
調整後営業利益 (売上総利益+販売費及び一般管理費) |
+2,846億円 |
減価償却費等 |
+1,777億円 |
利息の受取額及び支払額 |
△471億円 |
配当金の受取額 |
+2,244億円 |
法人所得税の支払額 |
△916億円 |
基礎営業キャッシュ・フロー |
+5,480億円 |
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
海外事業における資本的支出や持分法適用会社の株式取得等により、3,344億円の支出となりました。前年度比では4,912億円の支出の増加であります。
回収
当連結会計年度における投資の回収等(*1)による収入は、1,072億円となりました。
(*1)投資活動によるキャッシュ・フローのうち、「有形固定資産の売却による収入」、「貸付金の回収による収入」、「子会社の売却による収入(処分した現金及び現金同等物控除後)」及び「持分法で会計処理される投資及びその他の投資等の売却による収入」の合計額
新規投資・CAPEX(資本的支出)
当連結会計年度における新規投資・CAPEX(資本的支出)等(*2)による支出は、4,416億円となりました。
(*2)投資活動によるキャッシュ・フローのうち、「有形固定資産の取得による支出」、「貸付による支出」、「子会社の取得による支出(取得した現金及び現金同等物控除後)」、「持分法で会計処理される投資及びその他の投資等の取得による支出」及び「定期預金の純増減額」の合計額
ビジネスモデル別の主な新規投資は以下のとおりであります。
セールス&マーケティング事業
・航空機用部品の販売事業(米国 DASI)
・非鉄金属製品の製造委託・販売(日本 パンパシフィック・カッパー)
・自動車アフターマーケット事業(米国 MAIHO Ⅲ関連)
・農業資材関連事業(米国 Helena Agri-Enterprises関連)
・農業資材関連事業(ブラジル Adubos Real関連)
・香辛料・調味料の製造・販売事業(オランダ Euroma Holding)
・食品原料・機能性食品素材の製造・販売事業(ベトナム AIG Asia Ingredients)
・医薬品・医療機器販売事業(UAE Lunatus Marketing & Consulting)
・医療用消費財の製造事業(インドネシア One-ject Indonesia)
ファイナンス事業
・航空機リース事業(米国 Aircastle)
安定収益型事業
・再生可能エネルギー等発電事業
・海外水事業
資源投資
・チリ・ロスペランブレス銅鉱山権益の追加取得
以上により、当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、1,080億円の収入となりました。前年度比では6,551億円の収入の減少であります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
配当金の支払及び自己株式の取得を行った結果、2,542億円の支出となりました。前年度比では5,124億円の支出の減少であります。
(b)財政状態の状況
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(単位:百万円) |
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前連結 会計年度末 |
当連結 会計年度末 |
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増減 |
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総資産 |
7,953,604 |
8,923,597 |
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969,993 |
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ネット有利子負債 |
1,483,085 |
1,902,395 |
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419,310 |
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親会社の所有者に帰属する持分合計 |
2,877,747 |
3,459,682 |
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581,935 |
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ネットDEレシオ |
0.52 |
倍 |
0.55 |
倍 |
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0.03 |
ポイント |
(注)ネット有利子負債は、社債及び借入金(流動・非流動)の合計額から現金及び現金同等物、定期預金を差し引いて算出しております。
当連結会計年度末における総資産は、円安の影響等により、前年度末比9,700億円増加の8兆9,236億円となりました。ネット有利子負債は、フリーキャッシュ・フローでの収入があったものの、永久劣後特約付ローンの任意弁済(※)や支払配当による増加があったこと等により、前年度末比4,193億円増加の1兆9,024億円となりました。親会社の所有者に帰属する持分合計は、永久劣後特約付ローンの任意弁済(※)による減少があったものの、純利益の積上げによる利益剰余金の増加及び円安による在外営業活動体の換算差額の増加により、前年度末比5,819億円増加の3兆4,597億円となりました。この結果、ネットDEレシオは0.55倍となりました。
(※)当社は、永久劣後特約付ローン1,500億円を有しておりましたが、2023年8月16日に任意弁済しております。
本ローンはIFRS上、資本性金融商品に分類されていたため、本弁済により資本が1,500億円減少しております。
(c)資本政策及び資本コストに関する考え方
当社は、中長期的な企業価値の向上を追求するため、稼ぐ力の継続強化、ROEの維持・向上、株主資本コストの低減を目指しております。現中期経営戦略「GC2024」では、ROIC、CROIC、RORAにより資本効率・リスクリターン効率を定期的にモニタリングすることで資産の優良化を図るとともに、事業指針SPPに則った戦略的資本配分により基礎営業キャッシュ・フローの最大化を目指し、ROEの維持・向上に取り組んでいきます。株主資本コストを十分に意識した経営を実施すべく、財務レバレッジの適正化のみならず、投資規律の徹底や投資の精度向上、資産の優良化といった業績ボラティリティの低減に向けた取組みを行っています。また、株主還元方針では、GC2024期間中の株主還元として、累進配当を導入しております。配当の安定は、株主資本コストの低減にも資すると考えています。加えて、コーポレート・ガバナンスや気候変動対策を含むサステナビリティへの取組み、人財戦略等、非財務面での施策も推進することで、中長期的な企業価値向上に向けた株主資本コストの低減に取り組んでいます。
当連結会計年度における資本配分の状況は以下のとおりであります。
当連結会計年度における基礎営業キャッシュ・フローは5,480億円の収入となり、子会社や持分法で会計処理される投資の売却等の投資活動による収入と合わせた収入合計額は6,552億円となりました。一方で、新規投資・CAPEX等の投資活動による支出は4,416億円となり、更に親会社の株主に対する配当金及び自己株式の取得資金1,886億円を控除した株主還元後フリーキャッシュ・フロー(営業資金増減等を除く)(※)は、249億円の収入となっております。また、当社の資本配分方針、株主還元方針は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」及び「第4 提出会社の状況」における「3 配当政策」に記載のとおりであります。
(※)基礎営業キャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計額から、親会社の株主に対する配当金及び自己株式の取得資金を控除したもの。
(d)資金調達の方針及び手段
当社及び連結子会社の資金調達に関しては、資産構成に合わせた最適資金調達を基本方針としております。
銀行、生保等の国内金融機関を中心とした間接調達、及び社債(国内社債発行登録枠2,000億円を設定)、コマーシャル・ペーパーの発行を通じた直接調達をバランスよく組み合わせることにより、必要資金を確保するとともに、長年にわたり金融機関・市場関係者と培った関係性を活かしながら、安定的な資金調達と金融費用の削減を目指しております。
また、財務基盤の強化に資する調達として、永久劣後特約付ローン1,500億円、ハイブリッド社債(劣後特約付)750億円、ハイブリッドローン(コミット型劣後特約付)250億円を有しておりましたが、このうち、永久劣後特約付ローン1,500億円を2023年8月16日に任意弁済しました。
連結子会社を含む当社グループの資金管理については、原則として、当社及び国内外の金融子会社、海外現地法人等の調達拠点を通じて、資金余剰のあるグループ会社の余資を、他のグループ会社の資金需要に機動的に活用することで、グループ全体における効率的な調達体制を維持しております。
格付について、当社はムーディーズ・ジャパン株式会社(Moody's)、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社(S&P)、株式会社格付投資情報センター(R&I)、株式会社日本格付研究所(JCR)の4社から格付を取得しております。
当連結会計年度末現在の長期格付は、Moody'sがBaa1(見通し「安定的」)、S&PがBBB+(見通し「安定的」)、R&IがAA-(見通し「安定的」)、JCRがAA-(見通し「安定的」)となっております。なお、JCRは2024年6月4日に長期格付をAA(見通し「安定的」)に引き上げております。
(e)流動性の状況
当社及び連結子会社では、基礎営業キャッシュ・フロー等の収入や手元流動性(現金及び現金同等物並びに定期預金の保有)の確保に加え、コミットメントラインの設定により、営業資金や新規投資・CAPEX(資本的支出)といった資金需要、並びに1年以内に返済予定の長期債務を含む短期債務に対する流動性を準備しております。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物並びに定期預金の残高は5,063億円となっております。
設定しているコミットメントラインは以下のとおりであります。
・大手邦銀を主としたシンジケート団による3,000億円(長期)
・欧米主要銀行を主としたシンジケート団による850百万米ドル(長期)
③ 重要性がある会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会によって公表されたIFRSに準拠して作成しており、連結財務諸表の作成にあたっては、報告期間の期末日における資産・負債の計上、偶発資産・偶発負債の開示及び期中の収益・費用の計上を行うため、必要に応じて会計上の見積り及び仮定を用いております。この会計上の見積り及び仮定は、その性質上不確実であり、実際の結果と異なる可能性があります。連結財務諸表に特に重要な影響を与える会計上の見積り及び仮定は以下のとおりであります。
有形固定資産及び無形資産の減損
当社及び連結子会社は、各報告期間の期末日に資産が減損している可能性を示す兆候の有無を判定しております。資産が減損している可能性を示す兆候の内容は、主に、事業環境の悪化に伴う収益性の低下、事業内容の見直し等によるものです。
有形固定資産及び耐用年数を確定できる無形資産については、資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合には、当該資産の回収可能価額の見積りを行っております。耐用年数を確定できない無形資産及びのれんについては、減損の兆候があるか否かを問わず、最低限年1回定期的に資産の帳簿価額が回収可能価額を超過しているか否かを確認しております。
資産の回収可能価額は資産又は資金生成単位の売却費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としており、資産が他の資産又は資産グループから概ね独立したキャッシュ・インフローを生成しない場合を除き、個別の資産ごとに決定しております。公正価値は独立の第三者による評価結果を使用する等市場参加者間の秩序ある取引において成立し得る価格を合理的に見積り算定しております。資産又は資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合は、当該資産の帳簿価額をその回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しております。使用価値の算定にあたって使用される将来キャッシュ・フローは、経営者により承認された事業計画や、それが入手できない場合は、直近の資産状況を反映した事業計画によって見積っております。石油・原油等の資源事業に係る開発設備及び鉱業権においては、将来油価・ガス価、鉱区ごとの開発コスト及び埋蔵量等を主要な仮定としております。使用価値の評価にあたり、見積られた将来キャッシュ・フローは、貨幣の時間価値及び当該資産に固有のリスクに関する現在の市場評価を反映した割引率を用いて現在価値まで割り引いております。これらの主要な仮定について、事業戦略の変更や市場環境の変化等により見直しが必要となった場合並びに割引率の見直しが必要となった場合に減損損失が発生する可能性があります。
減損損失認識後は、各報告期間の期末日において、過去に認識した減損損失がもはや存在しないか、又は減少している可能性を示す兆候があるか否かを判定しております。このような兆候が存在する場合は、資産の回収可能価額の見積りを行っております。見積られた回収可能価額が資産の帳簿価額を超える場合は、減損損失を戻入れております。戻入れ後の帳簿価額は、過去において当該資産について認識した減損損失がなかったとした場合の帳簿価額(減価償却累計額控除後又は償却累計額控除後)を超えない範囲で認識しております。減損損失の戻入額は純損益として認識しております。
なお、のれんについて認識した減損損失を戻入れることはしておりません。
関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の減損
当社及び連結子会社が保有している関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資に関して、各報告期間の期末日に総合的に判断を行い、減損の客観的証拠がある場合には、関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減額は減損損失として純損益で認識しております。減損の客観的証拠の内容は、主に、市場性のある投資の市場価格の下落、事業環境の悪化に伴う収益性の低下、事業内容の見直し等によるものです。また、回収可能価額は売却費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としております。公正価値は主に、売却予定価格等に基づき算定しており、使用価値は主に、経営者により承認された事業計画等に基づき算定しております。これらの主要な仮定について、事業戦略の変更や市場環境の変化等により見直しが必要となった場合並びに割引率の見直しが必要となった場合に減損損失が発生する可能性があります。
減損損失認識後は、認識した減損損失がもはや存在しない、又は減少している可能性を示す兆候の有無に関して、各報告期間の期末日に判定しております。このような兆候が存在する場合は、関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の回収可能価額の見積りを行っております。見積られた回収可能価額がその投資の帳簿価額を超える場合は、減損損失を戻入れております。減損損失の戻入額は、その投資の回収可能価額が減損損失認識後に増加した範囲で認識しており、過去に認識した減損損失の金額を上限として純損益として認識しております。
偶発負債及び引当金
引当金は、当社及び連結子会社が過去の事象の結果として、現在の法的又は推定的債務を有しており、当該債務を決済するために経済的便益を有する資源の流出が生じる可能性が高く、かつ当該債務の金額について信頼性をもって見積ることができる場合に認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要である場合、引当金は当該負債に特有のリスクを反映させた割引率を用いた現在価値により測定しております。
訴訟案件に関する重要な引当金や偶発負債の見積りにあたっては、見積時点における訴訟プロセスの状況、訴訟戦略上の様々な選択肢や想定される将来の訴訟の趨勢も考慮のうえ、関連する事実関係や法律関係について、社外専門家を起用のうえ、当社の主張する法的立場の客観的な分析及び評価を実施しております。訴訟において当社が最終的に損失を被る可能性が高い状況であると考えられる場合に、信頼性をもって見積ることができる金額の引当金を計上しております。
当社の経営陣は、これらの見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、想定を超えた変化等が生じた場合、当社の連結財務諸表に大きな影響を及ぼすことがあります。
その他、重要性がある会計方針についての詳細は、「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記3 重要性がある会計方針」に記載のとおりであります。
④ 経営戦略の現状と今後の見通し
当社は、前中期経営戦略「GC2021」において定めた、2030年に向けた当社グループが目指す長期的な方向性を継続し、社会・顧客の課題と向き合い、新たな価値を創出すべく、中期経営戦略「GC2024」を策定し、2022年度よりスタートしております。
詳細については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「(2)会社の経営の基本方針」に記載のとおりであります。
当社は、財務基盤の強化に資する調達として、永久劣後特約付ローン1,500億円を有しておりましたが、2023年8月16日に任意弁済しました。
特に記載すべき事項はありません。