当社グループを取り巻く事業環境は、「4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析] (業績等の概要) (1)業績」に記載のとおりでありました。
当社グループは、2022年4月7日に中期経営計画(2022~2025年度)を発表し、折り返し地点を迎えました。中期経営計画の概要は以下のとおりです。
・ありたい姿
今回の中期経営計画策定にあたっては、まず2030年のありたい姿をイメージし、その実現に向けて2025年に到達するべき目標を定め、その実現に向けた施策を積み上げています。2030年の社会は、人々の価値観や人生観が変化し、気候変動や資源不足など社会環境が変わり、Industry5.0到来などテクノロジーの革新も続くと予想しています。このようなメガシフトが起こるなか、人間が生活のための“労働”を機械に任せ、より創造的な「自己実現のための仕事」と「価値を追求する消費」に注力できるようになるための「人と機械の共創」が進むものと考えています。
ニコンには、ものづくりを革新するテクノロジーや高度なソリューションをグローバルに広げる力・ブランド、そしてステークホルダーからの支持といった3つの強みがあります。これらを活かし、2030年の「人と機械が共創する社会」に新たな価値を提供し続けたいと考え、2030年のありたい姿を「人と機械が共創する社会の中心企業」としました。これに向けて、まずはお客様としっかり伴走し、お客様の欲しいモノやコトの「本質」を理解した上で、お客様のイノベーションを支える存在を目指します。
・全体方針
本中期経営計画は、2022年度から2025年度までの4年間を対象期間としています。2030年へ向けて、「お客様の欲しいモノやコトをお客様にとって最適な方法で実現」する存在になることを「2025年のありたい姿」に定めました。
具体的には、まず『「ソリューション提供」の強化』のため、プロダクトアウト的発想から脱却し、お客様に寄り添い、そのニーズを的確に把握し、完成品・サービス・コンポーネントを一体でソリューションとして提供します。また、それぞれの事業における「成長ドライバー」による利益成長と「サービス・コンポーネント」ビジネスの拡大によって利益の安定化に努めます。
そして、光学・EUV関連コンポーネント、材料加工・ロボットビジョン、デジタル露光、映像コンテンツ、細胞受託生産・創薬支援の5つの「成長ドライバー」に注力します。
<中期経営計画の全対像>
・中期経営計画の進捗状況
2023年度を経て、折り返し地点を迎えた本計画ですが、ありたい姿や数値目標など、本計画の大枠は堅持しています。前半2年は増収が続き、2023年度時点で本計画最終年度の目標である売上収益7,000億円を2年前倒しで達成することができました。主に映像事業とヘルスケア事業、そして2022年度の途中で連結子会社化したドイツのNikon SLM Solutions AG(以下、SLM社)が増収に貢献しました。
一方、事業を取り巻く環境の変化を踏まえ、事業別の収益構成は見直しました。クオリティオブライフ領域の映像事業・ヘルスケア事業は収益の拡大を追求する一方、インダストリー領域の精機事業などは収益計画を下方に修正しました。また、2030年のありたい姿の実現に向けて、成長投資の中身を見直し、オーガニック成長のための投資を拡大すると共に、経営管理の強化を図る方針です。
<中期経営計画の進捗概況>
・各事業の戦略と進捗
映像事業では、ターゲット層であるプロ・趣味層に対して、ミラーレスカメラを中心とする高付加価値製品を提供する事業戦略の下、市場の拡大もあり、新製品のミラーレスカメラ「Z 8」、「Z f」の販売が好調に推移しています。更なるラインアップの拡充や、業務用動画分野で独自の顧客と技術を持つ米国のRED.com,LCC(以下、RED社)を完全子会社化して動画機能を強化し、中高級機市場で安定収益確保を目指します。
精機事業においては、FPD露光装置分野では、技術開発の推進、高精細化と高生産性の追求により、メジャープレーヤーとしての地位と安定的な収益を確保します。また半導体露光装置分野では、主要顧客の生産計画に備えるとともに、三次元化などのニーズに個別対応することで新たな顧客の獲得を目指します。顧客の要求に応えながら製品競争力を強化、新製品投入により顧客拡大を推進していきます。
ヘルスケア事業においては、生物顕微鏡では、世界の大手光学顕微鏡メーカーとして、市場の7割を占める民間企業の開拓を進め、民間企業への売上比率を5割超へ拡大しています。世界トップクラスのシェアを誇る網膜画像診断機器は、診断の高度化や在宅化・遠隔診断などに対応します。細胞受託生産では、大手製薬企業から再生医療ベンチャーまで幅広い顧客のプロジェクトを支援し、中長期的な事業成長の基盤を築きます。売上1,000億円、営業利益100億円規模を安定達成できる体制を確立していきます。
コンポーネント事業では、光学コンポーネント、EUV関連コンポーネント、エンコーダなどで、拡大する先進需要に対応した将来製品の採用が進展しています。完成品・サービス・コンポーネント一体の「ソリューション提供」体制強化を進めています。
デジタルマニュファクチャリング事業では、2030年に向けて、社会において宇宙ビジネス拡大、製造業のデジタル化、カーボンニュートラルなどの変化が予想され、技術面では高出力レーザーや人工知能(AI)、小型・多機能センサーなどの技術革新が想定されています。このようなトレンドを踏まえ、SLM社の大型部品造形用金属3Dプリンターの拡販により、防衛・宇宙航空市場へ本格的に参入する計画です。こうしてものづくりの世界に革新をもたらし、売上成長を目指します。
・基盤戦略と進捗
本計画に掲げた事業戦略を実行するには、経営基盤の強化が極めて重要です。「創造(事業)を通じた社会への貢献」を掲げたサステナビリティ戦略に注力しています。企業理念である「信頼と創造」に基づき、事業が環境・社会に与える影響を評価・改善し続けることで社会の期待に「信頼」で応えつつ、事業を通じて、より積極的に環境・社会課題の解決やSDGs達成に貢献する価値を「創造」していきます。
人的資本経営についても順調に進んでいます。ありたい姿の実現に向けた最も重要な経営資源と認識して、顧客に伴走する次世代人材を獲得し、育成、活躍してもらい、成長戦略を実現するための採用戦略、採用ブランディングを強化するなど、優秀な人材のさらなる獲得に向けて力を入れています。今後も更に多様な人材の活躍推進、従業員エンゲージメント強化に力を入れていきます。
一方、デジタルトランスフォーメーション(DX)、ものづくり、経営管理については、さらなる整備を進めていきます。DX、ものづくり、ともに重点的に資本配分していくとともに、グループガバナンスの強化、グローバルコンプライアンスの体制整備に尽力していきます。
<経営基盤強化>
・資本配分
当社グループは研究開発型企業として成長することが、ステークホルダーから期待されていると認識しており、配分可能原資の大半を成長投資やR&Dに振り向け、持続的な企業価値向上を目指しています。成長加速のための戦略投資につきましては、2023年9月にSLM社、2024年4月にRED社の100%子会社化を実施したことから、大型M&Aは一区切りとして当初計画から1,100億円削減する一方、R&D、設備投資を合計800億円増額し、オーガニック成長を目指します。また、株主還元を重視し、追加で300億円以上の自己株式取得を実施する計画としています。
設備投資では、EUV関連コンポーネントの増産に向けた対応や、ビジネス開発と先進R&Dを集約する環境配慮型新本社の建設を進めています。
<資本配分:持続的な成長に向けた投資と株主還元強化をともに推進>
・「信頼と創造」の基に
ニコンは、2030年に到来する「人と機械が共創する社会」をしっかりと支える企業を目指しています。本業を通じて、サステナブルな社会の実現に貢献し、従業員には自己実現の機会を提供します。そして、事業の成長と企業価値の向上を通じて、株主を含む全てのステークホルダーの期待にお応えしていく、そうした未来を目指します。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
当社グループでは、企業理念である「信頼と創造」を事業活動の中で具現化することで、持続可能な社会に貢献しつつ自社の持続的成長を図ることが、サステナビリティと考えています。この考えを主文とし、それを支える4つの意志を「サステナビリティ方針」として取締役会で決定しています。
この方針のもと、当社グループでは、社会的責任に対する会社の基本姿勢と、それに基づき従業員がとるべき行動の規準を定めた「ニコン行動規範」を定めています。
当社グループでは、サステナビリティ方針を実行していくために、中期経営計画や年度計画の策定と併せてサステナビリティに関する計画を立案しています。現行の中期経営計画(2022~2025年度)においても、事業を支える経営基盤の一つにサステナビリティ戦略を位置づけ、事業戦略と一体のものとして立案しています。
サステナビリティ戦略では、企業理念である「信頼と創造」に基づき、当社グループのマテリアリティ(重点課題)を、ステークホルダーや社会からの「信頼」を得るために必要なことと、事業による社会的価値の「創造」に関することの両面から捉えています。その上で、中期経営計画で掲げる「2030年のありたい姿」を実現するために必要なマテリアリティごとのありたい姿と、それらのリスクと機会の双方に適切に対応するための戦略、指標・目標を定めています。
なお、当社グループのマテリアリティは、下記のようなステップに基づき、経営ビジョンや事業のバリューチェーンとの関連性が高いサステナビリティの課題を抽出して、それらの影響度を評価しています。その上で、候補としたものをサステナビリティ委員会で審議して、経営委員会で決定しています。また、社会や事業環境の変化に合わせて1~3年に一度見直しています。現行の中期経営計画を策定した際には、ステークホルダーの観点を重視して従業員の意見を広く集めるとともに、社外有識者と経営層がディスカッションした結果を踏まえてマテリアリティの一部を変更しました。
<マテリアリティ選定プロセス>
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<マテリアリティごとのリスクと機会、ありたい姿と戦略>
(3) ガバナンス
サステナビリティ方針をグループ全体に展開し、サステナビリティ戦略を着実に進めていくために、当社グループでは、代表取締役 兼 社長執行役員を委員長とした、「サステナビリティ委員会」を設置しています。委員には、経営委員会メンバー、全事業部長、全本部長を任命しており、関係部門の部長と監査等委員がオブザーバーとして参加しています。
本委員会では、マテリアリティの見直しをはじめ、それらの課題に対する戦略や目標の設定、各施策の進捗管理、実績の評価及び改善の指示など、サステナビリティに関する活動全般の審議や管理を実施するほか、マテリアリティを中心としたサステナビリティに関するリスクと機会のモニタリングも行っています。また、本委員会の傘下には、「環境部会」と「サプライチェーン部会」を設置しており、それぞれの分野における具体的な取り組みを検討し、本委員会に報告、上申しています。
本委員会は、原則として年2回開催とし、2023年度は温室効果ガス/再生可能エネルギー目標見直しなどに関する臨時開催を含め、計3回開催しました。本委員会において専門家による講演や意見交換も行うことで、各委員がグローバルな社会課題やその動向についての知見を深めています。
本委員会での審議内容は、取締役会に少なくとも年1回報告し、取締役会は委員会の活動の妥当性、リスクや機会について監督しています。
これらサステナビリティに関する取り組みやその目標達成に対する経営の責任を明確にするため、当社の役員報酬制度にサステナビリティ戦略や人的資本経営への取り組みが連動する仕組みを取り入れています。役員報酬の詳細は
さらに、各事業部や本部においても、年度計画の中で、サステナビリティと事業双方の自部門の目標を一体として立案しています。このうちサステナビリティに関する目標は、サステナビリティ委員会で、妥当性の審議や進捗状況の管理を行うとともに、目標管理制度によって、各部門、各従業員にも展開しています。これにより、サステナビリティがグループ全体に浸透し、目標達成に向けて取り組みが推進される仕組みとしています。
なお、サステナビリティに関するリスクと機会を適切に把握、特定していくため、また、それに対する戦略や指標・目標、実績など、サステナビリティへの取り組み全般にわたって客観的に評価し、継続的に改善していくため、ステークホルダー・エンゲージメントが重要と考えています。そこで、お客様、株主、従業員、事業パートナー、社会など、ニコングループのステークホルダーに対し、IR、顧客とのミーティング、地域社会やNGOとの対話、従業員アンケートなど、さまざまな機会や手法により、積極的にコミュニケーションを図っています。
<サステナビリティ推進体制図(2024年3月31日時点)>
<2023年度のサステナビリティ委員会の主な議題>
サステナビリティリスクは、専門的な対応が継続して必要なものとして、サステナビリティ委員会においてリスクの把握、評価、及び対応を審議しています。具体的には、ESGに関する外部調査やその結果の分析、業界団体などからの情報収集、ステークホルダーとのダイアログ、RBA行動規範のセルフチェックやグループ内サステナビリティ調査、調達パートナーへのCSR調査・監査などを通じて、マテリアリティを中心としたリスクと機会の把握に努めています。把握したリスクと機会は、サステナビリティ委員会とその傘下部会の事務局、及び関係する部門が適時共有、評価しています。中でも重要なリスクと機会については、サステナビリティ担当役員と協議のうえ、サステナビリティ委員会又はその傘下部会の議題とし、対応を審議しています。また、サステナビリティ全般に係るリスクと機会については、マテリアリティを見直すプロセスの中で把握、評価し、マテリアリティの選定時に活かしています。
また、当社グループのリスク全般を管轄する「リスク管理委員会」と、サステナビリティのリスク管理に関する連絡会を設置しています。連絡会では、定期的に情報を共有し、両委員会で対応すべき案件や事案の洗い出しなど、必要に応じた対応を連携して行っています。その上で、リスク管理委員会において、経営に重大な影響を及ぼすリスク全体に対する対応を適切に管理しています。リスク管理委員会の詳細は
当社グループで定める各マテリアリティについて、指標・目標、当事業年度における実績は以下のとおりです。今後も社会の動向や会社の事業活動の変化などを踏まえ、ステークホルダーと対話しながらサステナビリティに関するマテリアリティや戦略、それに対する指標・目標を見直していきます。
<マテリアリティに関する指標及び目標と2023年度実績>
*1 目標の基準年を2024年度より2022年度比に変更。このため、2023年度の計画及び実績は2013年度比
*2 Life Cycle Assessmentの略称。ライフサイクル全体の環境負荷を評価する手法
*3 EU で2007年に発効した化学物質規制。REACHは、Registration(登録)、Evaluation(評価)、Authorisation(認可)and Restriction(制限)of Chemicals(化学物質)の頭文字による略称。化学物質を製造・輸入する企業は安全性や用途に関する情報を登録することを義務付けられている
*4 適切に管理された森林の木材を使って作られたことが保証されている紙
*5 調査や監査により是正が必要な場合は改善完了まで実施
*6 BCP体制構築に必要とされるサプライチェーンの範囲を調達先の社数にて管理
*7 対象を2024年度よりニコンから国内ニコングループに拡大。このため、2023年度の計画及び実績はニコンのみ
*8 厚生労働省が公表する製造業の全国平均値
*9 ストレスチェック委託業者が公表する全国平均値
*10 ニコングループ意識調査により確認
当社グループは、「信頼と創造」という企業理念のもと、コア技術である光利用技術と精密技術をベースに製品やソリューションを提供しています。人々や産業の希望や期待に応え、より豊かな社会の実現をサポートするグローバル企業です。
その担い手となるのは、「当社グループで働く多様な人材」です。当社グループはこれまでも、様々な能力や価値観、経験を持つ人材が集まり、その才能を活かし合うことで、創立100年を超える実績と世界に誇る高いものづくり力を築き上げてきました。従業員一人ひとりの成長と、その力を最大限に活かし合うことが、チームや組織力を向上させ、当社グループの成長に繋がっていきます。さらなるグローバル化や価値観の多様化が進む中で、ニコンと、そして社員一人ひとりが社会やお客様から求められる存在になるためには、会社と従業員が共に成長していく関係でなければなりません。
そのために、当社グループは会社の目指す方向性や組織の目標を明確に示し、これに連動した人材戦略を実行することで、多様な従業員がその能力を最大限に発揮し、自身と当社グループの成長を実感できる環境や活躍の機会を提供していきます。従業員に求められるのは、その機会を逃すことなく、主体的・継続的にスキルを磨き続ける姿勢です。当社グループは、成長に向けて挑戦し、努力する従業員を支援するとともに、成果を出し、組織に貢献した従業員には、その活躍に公正かつ公平に報いていきます。
また、変化に対応し、多様化する社会やお客様の課題に応えるためには、当社グループで働く人材が持つ多様な知識や経験、価値観、専門性などを活かす必要があります。共に働くメンバーの個性や能力を認め合い、活かし合うことのできる職場環境や企業文化の醸成に向け、「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」(DEI)を推進していきます。
このことが、当社グループの社会やお客様への価値提供力を高め、従業員のやりがいやエンゲージメントを高めることに繋がり、チームのため、自分の成長のために主体的に考え、行動する、自律した「個」の形成へと繋がる好循環を生み出します。当社グループは多様な従業員一人ひとりと共に成長し、企業理念である「信頼と創造」の実現と、持続可能な社会に貢献し続ける企業を目指します。
中期経営計画の軸となる方針は、ソリューション提供の強化による「主要事業の安定化」と「戦略事業の収益拡大」です。また、グローバルに存在するお客様の欲しいモノやコトの「本質」を理解し、完成品・コンポーネント・サービスをお客様にとって最適な形で提供していくことは、すべての事業に共通する戦略であり、当社グループのコア技術と他社とのオープンイノベーションを組み合わせるなど、社内外のシナジー強化にも取り組みながらビジネスモデルの変革を進めます。こうした経営戦略の担い手となる人材には、次のような要素が求められます。
・環境変化に柔軟に対応し、社会・顧客起点の発想や価値提供ができること
・組織やチームの目標達成のために自律的に考え、行動できること
・国・地域・事業を超えて多様な人材や組織と協働できること
・新たな価値観と既存の価値観を掛け合わせ、シナジー創出ができること
特に、成長領域においては、顧客開発とソリューションビジネスの強化をリードする人材の獲得が急務となっています。また、既存領域においては、当社グループの強みである「ものづくり」を支える人材が今後不足する見込みです。
このように、ありたい姿の実現に向けた人材の質的転換と量的確保が求められる中、人材の流動化や獲得競争がグローバルに激しさを増しており、経営戦略を実践する人材の確保への危機意識が高まっています。こうした経営戦略上の要請や現状認識を踏まえ、当社グループでは、人材の「獲得」「育成」「活躍」の3点を人的資本経営の考え方に基づく人材戦略の柱に据え、それぞれ以下の方針のもとで各施策を展開しています。
なお、経営戦略と人材戦略を一体のものとして推進を図るため、求められる人材やスキルの具体的な定義や各施策の検討は、社長執行役員以下のトップマネジメントが中心となり、人事部門と連携のうえ行っています。
<人材戦略の三つの柱と取り組み>
当社グループでは、DEI推進を人的資本経営における重要施策の一つと位置づけ、年齢や性別、国籍等を問わず、多様な従業員一人ひとりが、その能力を最大限に発揮し、活躍することのできる機会の提供と環境整備に取り組んでいます。
2023年4月には、グローバルでのDEI推進に向けた取り組みをいっそう強化するため、当社グループ共通の考え方を示した「Nikon Global Diversity, Equity & Inclusion Policy」(Nikon Global DEI Policy)を制定しました。これを従業員一人ひとりの判断や行動のベースとなる大切な考え方として浸透させるべく、当事業年度から「Nikon Global DEI Policy浸透度」をグローバル共通のKPIに設定し、DEIポリシーの内容を従業員により分かりやすく伝えるためのコミュニケーションブックの発行やトップメッセージの発信を行いました。また、国内外のグループ各社における認識や取り組み状況を把握し、現状の課題を洗い出すためのアンケート調査等も実施しました。次年度は、マネジメント層の意識改革、スキル開発を優先分野と位置づけ、グローバル共通のテーマとして取り組む予定です。
当社グループは、Nikon Global DEI Policyの下、一人ひとりがチームの一員としての居場所を感じ、個々の能力を活かし合うことのできる職場環境や企業文化の醸成を図るとともに、各地の法令や事業特性などを踏まえた具体的な取り組みを、グループ全体で、又は会社・事業毎に推進していきます。
なお、株式会社ニコンにおける多様な従業員の活躍推進に関する取り組みは、以下のとおりです。
・女性活躍推進
一般的に、技術系職種に占める女性の割合は他の職種に比べて低く、技術系職種の従業員が多い当社においても、女性活躍推進は重要な課題の一つです。女性が当社の意思決定や組織運営により深く関わり、多様な視点をもたらす状態を目指し、その活躍状況を図る指標の一つとして「女性管理職比率」をKPIに設定しています。職場における計画的な育成・登用の推進、キャリア開発支援など、比率向上に向けた取り組みを実施しています。また、女性従業員数を安定的に確保するため、「新卒採用における女性比率」を25%以上とする目標を2016年度から継続的に掲げ、技術系分野をはじめとした女性向けの採用イベント等にも積極的に参加しています。当事業年度は、マイクロエレクトロニクスをリードする工業会の日本支部であるSEMIジャパンが発足したDE&Iワーキンググループへの参画など、次世代の女性技術者育成に向けた取り組みも行いました。
さらに、女性のみならず、育児や介護など、多様な事情を抱えた従業員がライフステージに応じた柔軟な働き方が選択できるよう、制度や環境の整備にも取り組んでいます。これらの多様な働き方に対する支援や継続的な取り組みが評価され、厚生労働大臣より「プラチナくるみん」「えるぼし(2段階目)」の認定を取得しています。
・キャリア人材の活躍支援
中期経営計画の実現に向けて、当社ではキャリア人材の採用を強化しています。当社がこれまで培ってきた技術とともに、新しい領域へと向かうためには、多様なスキル・知識・経験を活かすことが重要です。前職で培った知見を当社で活かし、その力を存分に発揮してもらえるよう、キャリア人材の定着や活躍支援のための研修・教育や、定期モニタリングの実施など、早期活躍に向けたフォロー体制を強化しています。
2024年3月末時点における当社の管理職に占めるキャリア採用者の割合は34.2%です。
<株式会社ニコン>
<女性従業員比率・女性管理職比率の推移> <新規入社者におけるキャリア採用者の比率>
そのほか、障がい者やシニア従業員など多様な従業員の活躍支援に関する取り組みを実施しています。当社における取り組みの詳細は、
2023年度の情報は、
従業員の健康と安全は、企業活動の根幹を成すものです。従業員が心身ともに健康と安全であることを実感して働ける職場環境を整備・提供することが、職場の活力や生産性向上をもたらすことに繋がると考えています。こうした考えのもと、当社グループでは、「ニコングループ健康安全活動方針」を毎年策定し、それに基づく各施策を展開しています。
まず、当社グループにおいては、法令遵守、安全管理の徹底による労働災害の抑止を重点項目と位置づけ、次のKPIを設定し、グループ全体の労働災害の発生防止に努めています。
さらに、株式会社ニコンにおいては、従業員の健康の保持・増進(ヘルスリテラシーの向上)及び対話による活力ある職場環境づくり(コンフォート、コミュニケーションの向上)を重点項目と位置づけ、教育やイベントの実施等各施策に取り組むとともに、次のKPIを設定しています。
*1 厚生労働省公表の製造業の全国平均値
*2 ストレスチェック委託業者公表の全国平均値
そのほか、当社グループにおける従業員の健康と安全にかかる具体的な取り組みの詳細は、
2023年度の情報は、
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示
当社グループは、気候変動への対応を重要な社会課題と認識し、脱炭素化の推進をマテリアリティの一つとしています。「脱炭素社会の実現」をニコン環境長期ビジョンと位置づけ、2050年度までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量の実質ゼロ*1を達成することを目指しており、2030年度までの削減目標とあわせてScience Based Targets(SBT)イニシアチブ*2からネットゼロ目標として認定を受けています。
これらの目標の達成に向け、当社グループでは製品、事業所、物流などのバリューチェーンの各段階での温室効果ガス排出の削減に取り組んでいます。また一方で、気候変動によるビジネスにおける機会を認識しており、社会の脱炭素化に貢献する製品・ソリューションの提供に注力しています。
*1 バリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(Scope1、2、3)を90%削減し、残余排出量はSBTイニシアチブが定める基準に従って中和すること。
*2 気候変動など環境分野に取り組む国際NGOのCDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)による国際的な共同イニシアチブ。パリ協定の「世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて2℃未満に抑える」という目標に向け、科学的根拠に基づく削減のシナリオと整合した企業の温室効果ガス削減目標を認定している。
当社グループでは、代表取締役 兼 社長執行役員が委員長を務めるサステナビリティ委員会においてリスクと機会を特定、戦略と指標・目標、ならびにその実績を審議、脱炭素関連の投資可否を決定しています。そして本委員会傘下の環境部会において、気候変動に関するリスクと機会を検討、戦略と指標・目標の起案及び進捗管理を実施しています。
サステナビリティ委員会での決定に基づき、サステナビリティ戦略部門が全社の気候変動対応を推進しています。本委員会の活動状況は少なくとも年1回取締役会に報告し、取締役会にて気候変動を含む環境関連の活動の妥当性、有効性やリスクについて管理・監督しています。
2023年度は、サステナビリティ委員会を3回、環境部会を2回開催し、気候変動対応に関する事項を審議・決定しました。
なお、サステナビリティ委員会の詳細は「2[サステナビリティに関する考え方及び取組](3)ガバナンス」に記載のとおりです。
当社グループは、マテリアリティの一つに「脱炭素化の推進」を設定し、気候関連リスクと機会についてシナリオ分析を行い、リスクと機会を評価、特定しています。これらに基づき、中期経営計画を通して対策、実行しており、気候変動を含むサステナビリティへの取り組みに対する評価を役員報酬に反映しています。
2023年度は、SBTのネットゼロ目標と短期目標、再生可能エネルギーの導入目標について審議・決定しました。
リスク管理委員会が当社グループのリスクを全社的に管理するとともに、サステナビリティ委員会が専門的見地から気候変動を含む環境リスクについて把握・評価し、対応を協議しています。各委員会で議論、承認された内容は取締役会に報告されます。特定したリスクの潜在的影響額については、中期経営計画の財務シミュレーションにおいて、他の潜在的要素とともに把握・認識しています。
2023年度も「リスク把握調査」を実施し、結果を影響の規模と発生確率で表す「リスクマップ」を作成しました。これを関係部門に共有することで全社的なリスクの認識を共有しています。また、特定したリスクは、環境アクションプラン等の計画に反映してグループ全体に展開しています。
なお、リスク管理委員会の詳細は
*1 Scope1 敷地内における燃料の使用などによる直接的な温室効果ガス排出のこと
*2 Scope2 購入した電気・熱の使用により発生する間接的な温室効果ガス排出のこと
*3 Scope3 バリューチェーンにおける事業活動に関する間接的な温室効果ガス排出のこと(Scope1、2を除く)
*4 CDPと非営利組織The Climate Groupがパートナーシップのもと運営する国際的イニシアチブ。事業活動で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで調達することを目標としている
2023年度の温室効果ガス排出量(Scope1、2、3)及び電力の再生可能エネルギー使用率は以下の結果になりました。Scope1、2、3排出量の削減率に関しては、SBTネットゼロ目標の申請に伴い、基準年度を2022年度に変更しています。引き続き、ニコン環境中期目標に沿って脱炭素化の推進に取り組みます。
気候変動シナリオ分析について
当社グループでは、気候関連リスクと機会について、事業の特性や生産拠点・事業所の立地条件、近年の気候変動起因による自然災害の度合いと頻度、業界の動向、関連する法令の動向、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気候変動予測に用いられているRCP(代表的濃度経路)シナリオや外部の調査機関による調査結果・シナリオを総合的に考慮した分析を行い、2℃及び4℃シナリオ下におけるリスクの評価、特定を行っています。
2℃シナリオでは、温室効果ガス排出規制などの強化やそれに伴う市場要求を認識し、4℃シナリオでは、洪水などの自然災害の増加や気温上昇を認識しています。いずれのシナリオにおいても、再生可能エネルギーへの移行によるコストの変化を認識し、財務への影響を考慮して事業戦略として気候変動への適応対策を行っています。リスク分析は継続して実施し、レベルアップを図っていきたいと考えています。
<気候変動による当社グループへのリスク>
・財務影響 大:100億円以上、中:10億円~100億円、小:10億円以下
・緊急度 高:3年以内、中:3~10年、低:10年以上
<気候変動による当社グループにとっての機会>
・時間的範囲 短期:3年以内、中期:3~10年、長期:10年以上
(1)リスク管理体制と運用状況
当社グループでは、会社の持続的発展を目的に、企業経営・事業継続に重大な影響を及ぼすあらゆるリスクに対し、識別・評価・管理が重要な課題であるという認識のもと「リスク管理委員会」を設置して、リスク管理を行っています。
リスク管理委員会は、リスク管理担当役員であるCRO(Chief Risk Management Officer)を委員長とし、委員は経営委員会の構成員等、事務局は総務部と内部統制推進室として、年に2回定期的、また必要に応じて随時開催しています。全社的な見地でリスクを把握し、重点対象のリスクについて継続的なモニタリングや、機動的な支援ができる体制を構築する等、当社グループを取り巻くリスクを適切に管理する体制整備に努めています。
リスク管理委員会がリスク全般を管轄し、専門的な対応が必要な事案は、傘下の品質委員会、輸出審査委員会、コンプライアンス委員会にて対応しています。また、サステナビリティ委員会とその傘下の環境部会、サプライチェーン部会にて、サステナビリティに関するリスクを把握するとともに対策を審議し、グループ全体で対応しています。
なお、当社の委員会やコーポレート・ガバナンス体制の模式図は「第4[提出会社の状況]4[コーポレート・ガバナンスの状況等]」に記載のとおりです。
<ニコングループのリスク管理体制図(2024年3月31日現在)>
(2)リスクの把握と対策
当社グループでは、当社グループが抱えるリスクを把握するため、リスクアセスメントとして「リスク把握調査」を毎年実施しています。この調査は、当社の部長相当以上及び国内・海外グループ会社社長に実施しているもので、全社的な重要リスクの洗い出しや分析・評価を行い、対応状況をモニタリングしています。調査結果をもとに、影響規模と発生確率で表す「リスクマップ」を作成し、重要リスクの認識や、取り組みを強化すべき課題の判断をリスク管理委員会にて行っています。
当社グループの戦略・事業その他を遂行する上で、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主なテーマは以下のとおりです。これらのリスクは、当社グループの全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられるほかのリスクの影響を将来的に受ける可能性もあります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
①事業、経営に関するリスク
・リスク
中期経営計画において、材料加工・ロボットビジョンは、戦略事業「デジタルマニュファクチャリング」の中期成長ドライバーと位置づけています。戦略投資の一つとして、金属アディティブマニュファクチャリングにおける統合ソリューションをグローバルで提供するドイツSLM Solutions Group AG(現Nikon SLM Solutions AG)に対して公開買付けを実施し、当社の連結子会社とする等、事業の拡大を進めていますが、関連する市場の成長が想定よりも鈍い場合等は、本計画期間である2025年度までに期待される規模への成長に届かない可能性があります。
また、主要事業においては、映像事業の主要製品であるデジタルカメラは、ミラーレスカメラ市場での厳しい競争に加えて、部品の価格高騰や調達の遅れによる影響が生じており、将来的には市場環境悪化の可能性があります。
精機事業が扱うFPD露光装置の需要は、ディスプレイ市場自体は安定的に需要が見込める市場ですが、設備投資の縮小継続により露光装置需要の回復が伸び悩む可能性があります。半導体露光装置の対象市場である半導体市場は、中長期的に大きく成長が見込まれるものの、競合他社の先端プロセス開発の状況によっては、液浸露光装置の需要が減少する可能性があります。また、当社グループの主要顧客が設備投資計画を変更した場合等、当社グループの収益に影響を及ぼす恐れがあります。
・対応
デジタルマニュファクチャリング事業では、デジタル化が進む製造業に対して独自の価値を提供し、競争力のある新製品を市場に導入すること等で、新たな市場の形成を進めていきます。また、取締役会等で定期的にモニタリングを行い、市場の動向を注視することで、タイムリーに戦略を検討・修正できる体制としています。
映像事業は、生産販売面での最適化、サプライチェーンや物流の改革、徹底したコストダウン、デジタルマーケティングの強化、開発効率化等に取り組み、引き続き事業の収益体質強化を進めています。
FPD装置事業は、露光装置の需要が落ち込む環境下でも一定の利益を確保するため、新規露光装置及びサービスビジネスによる収益拡大やトータルコスト低減を進めています。半導体装置事業は、収益性重視の事業戦略の下、既存顧客以外の開拓を積極的に進めるとともに、サービスビジネスを拡大していきます。
②研究開発に関するリスク
・リスク
当社グループの事業分野は厳しい競争下にあり、高度な研究開発の継続によって製品の開発が常に求められています。そのため、当社グループの収益の変動にかかわらず、製品開発のための投資を常に継続する必要があります。しかし、投資の成果が十分に上がらず新製品、次世代技術の開発や市場投入がタイムリーに行えない場合や、当社グループが開発した技術が市場に受け入れられなかった場合、あるいはゲームチェンジ等抜本的な変化により当社の技術が不要となる場合、企業価値が低下し、収益が減少する可能性があります。
・対応
当社グループでは「技術戦略委員会」にて、注力すべき新領域の開拓や既存事業の競争力向上につながる技術戦略を明確にし、技術開発の方向性と重点投資分野を決定しています。幅広い社会的課題やニーズに積極的に応えながら、当社グループの長期的な成長を実現していきます。
③各種規制・制度変更に関するリスク
・リスク
当社グループはグローバルに事業を展開しているため、生産及び販売活動の多くが日本国外であり、連結売上収益に占める海外売上収益比率は高くなっています。多くの国々において、輸出入規制、競争法、労働法、腐敗防止、移転価格税制等、各種法規制の適用や企業の社会的責任を求められています。これら法規制や社会的責任として求められる内容は大きく変わる可能性があり、その変化により事業活動費用増加や事業の制約、レピュテーションリスク等を受ける可能性があります。
・対応
当社グループでは、「リスク管理委員会」によるリスク整理・管理に加え、専門的な対応が必要なリスクに対しては、その傘下の品質委員会、輸出審査委員会、コンプライアンス委員会の3委員会で対応を図るとともに、サステナビリティの視点から、サステナビリティ委員会及び傘下部会でもマテリアリティを中心としたリスクのモニタリング及び対応をしています。またその中で、規制の変更に関してグループ全体で情報を収集後、当該情報に基づいた実務プロセスへのフィードバックや規制を踏まえた戦略を立案する等、更なる体制強化に取り組んでいます。
④M&A、戦略的出資に関するリスク
・リスク
当社グループは、新規事業の創出や既存事業領域の拡大、事業シナジー実現のために、M&Aや戦略的出資を行っています。市場環境の著しい変化や対象企業の人材流出等により所期の成果を達成できない場合、のれんや有価証券等の減損損失により、財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
・対応
当事業戦略に基づき、M&A対象、戦略的出資先を探索し、対象企業の価値やリスク等のデュー・ディリジェンスを行っています。また、買収や出資後の検証については、CFOを委員長とする出資モニタリング委員会において、当初の目的に対する進捗確認を定期的に行い、必要に応じて戦略の軌道修正を図っています。
⑤地政学のリスク
・リスク
前述のとおり、当社グループはグローバルに事業を展開しているため、連結売上収益に占める海外売上収益比率が高く、海外市場への依存が大きくなっています。海外での事業展開は、世界経済全体の動向に加え、政治問題、貿易摩擦や紛争等の影響、暴動・テロ・戦争等による社会の混乱により、事業活動に大きな障害や損失が生じる可能性があります。また、外国為替相場が急激又は大幅に変動した場合は、当社グループの収益や財政状況に多大な影響を及ぼす恐れがあります。
・対応
当社グループでは、リスク管理委員会によるリスク整理・管理に加え傘下の委員会や、サステナビリティ委員会及び傘下の部会にて、リスクのモニタリング及び対応をしています。当該リスクが顕在化する可能性やその影響レベルについては、社会情勢等により左右されるため、具体的に予測することは困難でありますが、情報収集及び事業に与える影響の分析を行い、対策を検討、実施しています。また、当社グループは、売上規模と販売地域に応じた適切な為替ヘッジを行っています。
⑥調達のリスク
・リスク
近年、グローバル規模の異常気象や自然災害、地政学的な影響等さまざまな要因により労務費、原材料価格、エネルギーコスト等が大きく変動しています。加えて、サプライチェーンにおける人権、労働環境、安全衛生や脱炭素といった環境等に関する社会課題へのステークホルダーの関心も高まっており、サプライチェーンの不安定要素・リスクが増加していると考えています。
・対応
部品調達や物流においても不確実性と変動性の高い状況が継続しています。そのため、当社グループは調達パートナーと共に品質及びESG(Environmental環境、Social社会、Governanceガバナンス)の観点を持ち、協働活動を進め、当社グループ全体でレジリエントなサプライチェーンの構築に取り組んでいます。そして、調達パートナーとの強固な関係を築き上げ、サプライチェーンの可視化、BCP(事業継続計画)の策定・強化、温室効果ガス排出量の把握、人権デュー・ディリジェンスの強化等を通じて、大きく変化する事業リスクや社会課題に対して柔軟に対応できる体制を構築しています。これによりリスクを低減し、持続可能な成長を目指しています。
⑦環境のリスク
・リスク
気候変動に起因する異常気象や洪水、渇水等の自然災害や感染症の拡大により、開発・生産拠点及び調達先等に甚大な損害が生じた場合、操業に影響が生じたり、生産や出荷が遅延したりする恐れがあります。また、脱炭素社会に向けた動きが加速する中、各国において炭素税等の政策・法規制の導入又は導入検討が進んでおり、エネルギーや原材料のコストが増加するリスクがあります。
環境政策・法規制等により、基準の遵守や情報開示等の対応が求められ、年々強化される傾向にあります。対応が十分ではないと、行政処分等による生産への影響や課徴金、社会的信用の失墜等会社経営に甚大な損害を与える可能性があります。特に化学物質等に関連する法規制が強化された場合、必要な材料・副資材の入手が困難になる可能性があります。
・対応
当社グループは、気候変動や天然資源の枯渇、廃棄物問題、有害化学物質による汚染などの環境問題を自社の存続にも関わる問題と捉えてマテリアリティとして位置づけ、サステナビリティ委員会や関連する委員会、部会でリスクのモニタリングを行い、さまざまな対策を講じるとともに、地球環境に配慮した経営を行っています。また、グループ全体で省エネルギー活動や再生可能エネルギーの活用、開発・生産プロセスの効率化等をはじめとしたバリューチェーン全体での温室効果ガス削減やBCPの策定に取り組んでいます。
社内の規程類を整備し、担当者の教育等を実施することで、バリューチェーンを含めた管理体制を強化するほか、規制の変更等のタイムリーな把握等に努めています。また法規制よりも厳しい自主基準値を設けることで環境汚染の未然防止に努めています。
⑧人的確保のリスク
・リスク
当社グループは、高度な技術や専門知識及び能力を有する社員等、多様な人材によって支えられており、市場での激しい競争に打ち克ち、事業成長を実現するためにはこうした人材の確保が重要です。有能な人材を採用・育成できず、あるいは主要な人材が退職した場合、事業活動への影響や、知識・ノウハウの社外流出、収益と財政状況等に悪影響を及ぼす可能性があります。特に労働流動性が高い国や地域における人材流出の危険性は高いと考えられます。主要な人材が流出し、補充が困難な場合、当社グループの成長に影響を及ぼす可能性があります。また1990年前後の大量採用やこれまでに幾度かあった新規採用抑制の影響で、社内での高齢化が進み、中堅・若手の不足により、技術・技能の伝承や業務ノウハウの引き継ぎが適切に行われないリスクがあります。
・対応
当社グループは中期経営計画で事業を支える経営基盤の強化に取り組んでいます。その中で、人的資本経営の考え方に基づいて、人材の「獲得」「育成」「活躍」の3点を人材戦略の柱とする各施策を実行し、成長戦略実現を支える人材獲得に向けた採用戦略の実行にこれまで以上に力を入れています。また、人材の育成・活躍に向けては具体的なカリキュラムを組み、固有技術・技能の伝承と標準化・共有化を推進し、多様な人材がグローバルで活躍できる環境・機会の創出に取り組んでいます。
⑨情報資産とサイバーセキュリティのリスク
・リスク
当社グループは、技術情報や取引先及び顧客情報等の多くの情報資産を保有しており、サイバー攻撃や故意、過失、災害等により、情報システムの重大な障害や個人情報の不正利用、情報セキュリティ事故を生じさせた場合、当社グループの企業価値の毀損や、損害賠償請求を受けるリスクがあります。個人情報保護や、製品のセキュリティ要件に関する世界各国の法令に違反した場合、厳罰に処される可能性があります。
また、デジタル化が急速に進むなか、社内システムの老朽化や業務の複雑化・属人化、基幹システムのサポート終了等が、業務の非効率となる可能性があります。
・対応
当社グループでは、個人情報保護を含む情報管理において代表取締役 兼 社長執行役員を最高責任者と定めるとともに、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に準拠した業務プロセスを構築しています。サイバー攻撃に対し高い防御力を維持し、インシデントの早期発見と対応のため、様々なセキュリティ対策を行い、グローバルで一括して監視・対応する運用体制の改善・強化を進めています。保管セキュリティレベルの向上を図るとともに、情報取り扱いに関する社内規程の整備や従業員教育等を実施しています。
基幹システム更新プロジェクトを推進することで、デジタル化による業務の効率化、デジタルマーケティングの強化、サービスプラットフォームの整備等を強化していきます。
⑩知的財産、訴訟のリスク
・リスク
当社グループは、製品開発に伴って多くの知的財産権を取得、保有し、他社にライセンス供与もしています。当社グループの知的財産権を他社が無断使用すること等に起因して提訴に至った場合、大きな訴訟費用が発生する可能性があります。一方で、他社、個人等より、知的財産権を侵害したとして、製造・販売の差し止めや損害賠償請求を受ける可能性があり、当社グループの収益や財政状況に多大な影響を及ぼす可能性があります。
・対応
既存事業の成長や新事業の創生につながる「知的財産戦略」を策定し、この戦略に従って知的財産活動を継続的に推進しています。研究開発活動によって生み出された技術や製品に関する特許、意匠、商標等、知的財産を保護しています。将来を見据えた知的財産の創生と権利化を各事業部門や研究開発部門と協働しながら行うことで、市場における競争優位の確立を図っています。また、法務・知的財産部門と関連部門で連携して、他社知的財産権の調査等を適宜実施し、他社知的財産権の侵害の未然防止に努めています。
⑪災害、感染症等のリスク
・リスク
大地震・火災・洪水等の自然災害(異常気象、気象変動に起因するものを含む)による水・電力・通信網等のインフラストラクチャーや物流機能の障害や感染症の拡大等に伴い、事業活動に大きな障害や損失が生じる可能性があります。当社グループの開発・製造拠点や調達先等に壊滅的な損害が生じた場合、操業が中断し、生産や出荷に遅延が生じるおそれがあります。これによって生産や販売が制約され、事業の復旧に多大な費用が生じた場合、当社グループの収益と財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
・対応
当社グループでは、大規模災害や感染症等の発生に備えてBCPを策定し、定期的に見直しています。当社では、「首都直下地震」等の大規模地震を想定し、主要事業部門のBCPの再点検・アップデートを行い、事業継続のための施策を実施しています。また、国内グループ会社を含めて、大規模地震発生時の行動についての教育や、災害時を想定した安否確認及び通信訓練等の各種訓練を実施しています。
当連結会計年度における市場・顧客動向について、映像事業においては、デジタルカメラ市場は中高級機の販売が好調で市場全体の販売台数・金額とも堅調に推移しました。
精機事業においては、FPD関連分野は中小型パネル用、大型パネル用とも顧客の設備投資は低調に推移しました。また、半導体関連分野の設備投資は、全体では改善のきざしは見られたものの顧客や最終製品ごとにばらつきのある状況が続きました。
ヘルスケア事業においては、ライフサイエンスソリューション及びアイケアソリューション分野の市況は総じて堅調に推移したものの、金利上昇等により一部顧客に需要減退が見られました。
コンポーネント事業においては、光学部品やエンコーダ関連市場が最終ユーザーによる在庫や投資の調整の影響を受け、EUV関連市場も半導体市況減速の影響から低調に推移しました。
デジタルマニュファクチャリング事業においては、半導体、電子部品市場の設備投資は低調に推移しました。また、金属アディティブマニュファクチャリング分野においては、大型で生産効率の高い装置への移行が進みましたが、市場全体としては拡大の踊り場となりました。
このような外部環境の下、当社グループは、中期経営計画(2022~2025年度)の方針に基づき、主要事業である映像事業、精機事業での安定収益確保、顧客の多様化・拡大や、高付加価値サービスの提供などに努めました。映像事業では、業務用シネマカメラ分野で独自の顧客と技術を持つ米国のRED.com, LLCの子会社化を発表し、2024年4月には完全子会社化を完了して、業務用動画機市場開拓にむけ大きな一歩を踏み出しました。
戦略事業に位置付けているデジタルマニュファクチャリング事業では、子会社化した金属3DプリンターメーカーNikon SLM Solutions AG(以下、「SLM社」)を含むアディティブマニュファクチャリング事業をグローバルに統括するNikon Advanced Manufacturing, Inc.を米国に設立し、事業拡大を図りました。また、経営基盤強化のための人材確保やコーポレート・ガバナンスの強化にも取り組みました。
このような状況の下、当社グループの連結業績は、売上収益は7,172億45百万円、前期比891億40百万円(14.2%)の増収、営業利益は397億76百万円、前期比151億32百万円(27.6%)の減益、税引前利益は426億69百万円、前期比143億90百万円(25.2%)の減益、親会社の所有者に帰属する当期利益は325億70百万円、前期比123億74百万円(27.5%)の減益となりました。
セグメント情報は次のとおりです。
なお、「第5[経理の状況][連結財務諸表注記]6.事業セグメント(1)報告セグメントの概要(報告セグメントの変更に関する事項)」に記載のとおり、当連結会計年度より報告セグメントに変更があり、以下の前期比較においては、前期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えて比較しています。
映像事業においては、フルサイズミラーレスカメラ「Z 8」、「Z f」等を中心に、プロ・趣味層をターゲットとした中高級機及び交換レンズの拡販に注力しました。平均販売単価の上昇や円安効果もあり、当事業の売上収益は2,797億37百万円、前期比23.2%増、営業利益は465億42百万円、前期比10.3%増となりました。
精機事業においては、FPD露光装置分野は、中小型パネル用、大型パネル用、いずれも装置の販売台数が減少したことにより、減収減益となりました。半導体露光装置分野は、新品装置の販売台数が増加したことにより、増収増益となりました。この結果、当事業の売上収益は2,193億79百万円、前期比7.9%増、営業利益は151億79百万円、前期比38.2%減となりました。
ヘルスケア事業においては、円安効果に加え、ライフサイエンスソリューション及びアイケアソリューション分野での堅調な販売により事業全体としては増収となりました。一方、物価高騰によるコスト増加に加え、アイケアソリューション分野の在外子会社に関して第2四半期連結会計期間に計上した引当金及びその関連費用の影響もあり、事業全体として減益となりました。この結果、当事業の売上収益は1,078億89百万円、前期比8.5%増、営業利益は53億88百万円、前期比53.5%減となりました。
コンポーネント事業においては、デジタルソリューションズ事業は、光学部品やエンコーダの販売が減少したことにより減収減益となりました。カスタムプロダクツ事業は、EUV関連市場減速に伴う、EUV関連コンポーネントの販売減少等の影響により減収減益となりました。この結果、当事業の売上収益は470億5百万円、前期比11.4%減、営業利益は168億29百万円、前期比23.8%減となりました。
デジタルマニュファクチャリング事業においては、産業機器事業は、X線の新製品やレーザーレーダの販売が堅調に推移し増収となりましたが、不採算製品の整理等の一時費用を計上した結果、減益となりました。アドバンストマニュファクチャリング事業は、SLM社の連結子会社化により増収となりましたが、研究開発などの先行投資に加え、事業立ち上げに伴う一過性費用や、SLM社の連結子会社化による無形資産の償却により赤字幅は拡大しました。この結果、当事業の売上収益は、599億37百万円、前期比42.4%増、営業損失は158億1百万円(前年同期は101億57百万円の営業損失)となりました。
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、主に税引前利益426億69百万円、減価償却費及び償却費356億66百万円の計上に加えて仕入債務及びその他の債務の増加、棚卸資産の減少があった一方、前受金の減少、売上債権及びその他の債権の増加、法人所得税の支払いがあり、307億67百万円の収入(前年同期は15百万円の収入)となりました。
当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、主に投資有価証券の売却による収入が167億40百万円あった一方、有形固定資産及び無形資産の取得による支出が552億15百万円あり、414億5百万円の支出(前年同期は1,121億46百万円の支出)となりました。
当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、主に短期借入金の増加が400億65百万円あった一方、配当金の支払が173億10百万円、リース負債の返済による支出が110億89百万円、社債の償還による支出が103億31百万円、SLM社等の完全子会社化に伴う非支配持分からの子会社持分取得による支出が78億71百万円あり、89億38百万円の支出(前年同期は562億10百万円の支出)となりました。
また、現金及び現金同等物に係る換算差額は148億83百万円の増加となりました。
この結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末に比べ46億93百万円減少し、2,066億44百万円となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は製造者販売価格によって算出し、付属品仕入額を含んでおります。
当連結会計年度における受注残高は、次のとおりであります。
なお、精機事業を除いては見込生産を主としておりますので記載を省略しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)
当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上や、グループ内の会計基準統一による経営基盤の強化を目指し、2017年3月期有価証券報告書における連結財務諸表からIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって採用する重要性がある会計方針及び見積りは、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等](1)[連結財務諸表][連結財務諸表注記] 3.重要性がある会計方針、4.見積り及び判断の利用」をご参照ください。
当連結会計年度末における資産の残高は、前連結会計年度末に比べて968億43百万円増加し、1兆1,471億10百万円となりました。これは主に、現金及び現金同等物が46億93百万円減少した一方、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産が522億33百万円、売上債権及びその他の債権が256億83百万円、棚卸資産が79億58百万円増加したためです。
当連結会計年度末における負債の残高は、前連結会計年度末に比べて301億2百万円増加し、4,620億19百万円となりました。これは主に、前受金が279億61百万円減少した一方、社債及び借入金が326億86百万円、仕入債務及びその他の債務が156億21百万円、その他の金融負債が41億86百万円増加したためです。
当連結会計年度末における資本の残高は、前連結会計年度末に比べて667億41百万円増加し、6,850億91百万円となりました。これは主に、SLM社等の完全子会社化により資本剰余金が61億56百万円減少した一方、在外営業活動体の換算差額の増加によりその他の資本の構成要素が528億77百万円増加したためです。
キャッシュ・フローの状況の分析につきましては、「第2[事業の状況]4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析](業績等の概要) (2)キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。
当連結会計年度における売上収益は、映像事業におけるミラーレスカメラ及び交換レンズの販売数量増加、精機事業における半導体露光装置の販売台数増加、デジタルマニュファクチャリング事業におけるSLM社の売上拡大等が寄与し、891億40百万円増の7,172億45百万円(前連結会計年度は6,281億5百万円)となりました。売上原価は、増収に伴い、682億67百万円増の4,071億98百万円(前連結会計年度は3,389億31百万円)となりました。
販売費及び一般管理費は、労務費や研究開発費の増加や、SLM社の連結子会社化による無形資産の償却に伴う減価償却費の増加等により、368億28百万円増の2,680億56百万円(前連結会計年度は2,312億28百万円)となりました。
その他営業収益は、過年度に連結子会社において引当計上していた費用の戻入等により、3億67百万円増の35億76百万円となりました。その他営業費用は、主にデジタルマニュファクチャリング事業における固定資産の減損損失計上により、4億56百万円減の57億92百万円となりました。
これらの結果、営業利益は397億76百万円(前連結会計年度は549億8百万円の営業利益)となり、151億32百万円の減益となりました。
税引前利益は151億32百万円の営業減益の影響により、426億69百万円(前連結会計年度は570億58百万円の税引前利益)となり、143億90百万円の減益となりました。
親会社の所有者に帰属する当期利益は、法人所得税費用105億35百万円の計上により325億70百万円(前連結会計年度は449億44百万円の親会社の所有者に帰属する当期利益)となりました。なお、当社グループの課題につきましては、「第2[事業の状況]1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等]」を、またセグメント別の分析は、「第2[事業の状況]4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析](業績等の概要) (1)業績」をそれぞれご参照ください。
当社グループは、一定の財務健全性の確保を前提に置きながら、自己資本比率55%~60%を目安として、投資資本の運用効率を重視し、持続的な成長のために資本コストを上回る収益が見込める投資(戦略投資、R&D、設備投資)に資金を活用することで企業価値の最大化を実現すると同時に、安定的な株主還元を実施することで株主の要求にも応えることを資本管理の方針としております。
運転資金や経常的に発生する設備投資資金については、現在保有する現金や預金で賄い、持続的成長に向けた投資については、配分可能な現金や預金、及び営業活動から創出されるキャッシュ・フローを源泉とした資金で賄うことを原則としております。また、機動的な資本配分を実現するため、国内外のグループ会社が保有する資金をグローバル・キャッシュ・マネージメント・システムにより効率的に管理することでグループ内の資金の流動性を高め、これを有効活用しております。
なお、当社は市場の混乱や、当社が事業を遂行する上でのリスクに晒されているため、こうした要因が資金繰りを圧迫する事態への備えとして十分な手元流動性(現預金、コミットメントライン等)の確保に努めており、事業環境に急激な変化を与え得る様々な不確実性を前提としても当面安定的な経営が可能な状態にあります。
当社グループの資金状況は、「第2[事業の状況]4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析](業績等の概要) (2)キャッシュ・フローの状況」に記載しておりますとおり、当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは307億67百万円の収入となり、投資活動によるキャッシュ・フローは414億5百万円の支出であったため、106億38百万円のマイナスのフリー・キャッシュ・フローとなりました。また、有利子負債を控除したネットキャッシュ残高は144億72百万円になりました。
なお、当連結会計年度後1年間の設備投資計画は620億円を予定しており、主に生産能力の最適化と設備の維持・更新を図るためのものであります。また、当連結会計年度後1年間の研究開発投資は810億円を予定しております。当該設備投資及び研究開発投資の資金は、主に営業キャッシュ・フローを源泉とした資金の範囲で賄うことを予定しております。設備投資計画の詳細につきましては、「第3[設備の状況]3[設備の新設、除却等の計画]」をご参照ください。
以上の記載事項のうち将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月24日)現在において判断したものであります。また、分析に記載した実績値は百万円未満を四捨五入して記載しております。
相互技術援助契約
当社が締結している重要な相互技術援助契約は次のとおりです。
当社グループでは、全社の技術戦略を統括する役員を選任し、中長期計画と連動した技術戦略を立案して、研究開発の全体最適化を図るとともに、各事業部門の開発担当部門が次世代プロジェクト本部、光学本部、先進技術開発本部、生産本部と連携しながら研究開発を推進しています。これまで培った「光利用技術」と「精密技術」の2つの中核技術に加え、他社との共同研究開発等を通じて新たな技術を取り入れることで、成長戦略の実現を目指していきます。当連結会計年度の研究開発投資は
当連結会計年度における主な開発状況は次のとおりです。
① 映像事業
レンズ交換式デジタルカメラでは、「ニコン Z マウント」を採用したフルサイズ/FXフォーマットミラーレスカメラ「ニコン Z f」を開発しました。「Z f」は、ニコンの歴史的なカメラにインスパイアされたヘリテージデザインと最新性能を両立したミラーレスカメラです。フラッグシップモデルの「ニコン Z 9」と同じ画像処理エンジン「EXPEED 7」を採用し、本格的な静止画・動画の撮影が可能です。洗練されたデザインと優れた操作感に加え、高いAF性能や手ブレ補正性能をはじめとした最先端技術を搭載することで、自分の表現を追求するクリエイターのニーズに応えるミラーレスカメラです。
交換レンズでは、「ニコン Z マウント」を採用したフルサイズ/FXフォーマットミラーレスカメラ対応のレンズ、APS-Cサイズ/DXフォーマットミラーレスカメラ対応のレンズをあわせて6機種を開発しました。「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」は、Zマウントの大口径、ショートフランジバックの特性を最大限に活用することで、開放F値1.8から円形度の高いボケを実現しています。光学系にSRレンズ1枚とEDレンズ4枚を採用することで、色付きを最小限に抑えて自然で滑らかな描写が得られます。また、ニコン独自のメソアモルファスコートとアルネオコートを採用することでゴースト、フレアを効果的に抑制。画角内に太陽などの強い光源が入るシーンでもクリアーな画像が得られます。これらにより、これまでにない光に満ち溢れた新しい映像体験を提供しています。
当事業に係る研究開発投資の金額は
② 精機事業
FPD露光装置分野では、お客様の将来のニーズに応える露光装置やサービスの提供を実現するために、さらなる生産性向上、高精度・高精細化のための様々な技術開発、アプリケーション開発を継続すると共に、次世代パネルに対応する技術開発などを進めました。
半導体露光装置分野では、多点アライメントによる計測と高次補正によって、半導体デバイス構造の三次元化に必要な高い重ね合わせ精度と高生産性を実現するArF液浸スキャナー「NSR-S636E」及びミドルクリティカルレイヤー向け「NSR-S622D」の後継機種として生産性を大幅に向上させた「NSR-S625E」を開発し、販売を開始しました。また、パワー半導体、通信用半導体、MEMSなど様々なデバイスに対応し、ニコンの既存のi線露光装置との互換性が高い縮小投影倍率5倍 i線ステッパー「NSR-2205iL1」を開発し、販売を開始しました。
当事業に係る研究開発投資の金額は
③ ヘルスケア事業
バイオサイエンス分野では、医療用のデジタルイメージングマイクロスコープ「ECLIPSE Ui」及びデジタル倒立顕微鏡のスマートイメージングシステム「ECLIPSE Ji」を開発しました。
「ECLIPSE Ui」は、接眼レンズをなくしてディスプレイで観察画面を共有することにより、病理医の身体的負担の軽減に貢献し、病理診断のワークフローを改善します。さらに、遠隔地にいる医師と観察画像をリアルタイムで閲覧する機能により、複数の医師による意見交換をサポートします。
「ECLIPSE Ji」は、観察のために必要な画像取得や解析など、従来ヒトが行う必要があった操作をAIにより自動化します。顕微鏡でありながら接眼レンズをなくしたデザインが特長で、画像統合ソフトウエア「NIS-Elements SE」と合わせて使用することで、画像の取得から解析、データ表示までを定型化した、細胞を用いた研究開発や実験が可能になります。がんや神経疾患、感染症などの病気のメカニズム解明や創薬の研究開発を加速させます。
当事業に係る研究開発投資の金額は
④ コンポーネント事業
デジタルソリューションズ事業においては、世界で初めて*全固体電池を搭載した多回転バッテリレスアブソリュートエンコーダ「MAR-M700MFA」を開発し、発売を開始しました。全固体電池の搭載により、ニコンの従来のバッテリレスアブソリュートエンコーダよりも保証温度が向上し、メンテナンスフリー化を実現しました。新たに予知保全機能や角度精度の自己補正機能を搭載し、産業用ロボット等の利用環境拡大、稼働安定性向上、モーション制御の高精度化に貢献します。
カスタムプロダクツ事業においては、ビジネスが多様化する中、様々なニーズに対応するために、多分野に渡る技術開発を実施しています。「固体レーザー分野」では、新型の193nm固体レーザーシステムを開発中です。従来の193nm固体レーザーシステムに対して「可搬型」・「小型」・「高出力」の特徴を有する光源となります。「特注分野」では、各種食品関連の異物検査装置向け技術開発として、紫外照明による蛍光撮影の実用性検証、画像演算などの画像処理技術を用いた異物検出率向上を図った画像認識の検討を実施しました。
コンポーネント事業に係る研究開発投資の金額は
* 2023年11月20日現在、発売済みの多回転バッテリレスアブソリュートエンコーダにおいて。当社調べ。
⑤ デジタルマニュファクチャリング事業
産業機器事業においては、幅広い業界の研究及び生産での非破壊検査が可能なX線/CT検査装置のVOXLS 30シリーズを開発し、発売を開始しました。このシリーズは、自動ロボットやインダストリー4.0との統合機能を活用でき、研究室や生産現場における非破壊検査・測定の自動化を可能とし、自動車、航空宇宙、金属、医療機器などの製造業の技術革新と品質基準の維持を支援します。
アドバンストマニュファクチャリング事業においては、アディティブマニュファクチャリング装置については航空宇宙産業を中心に、各分野で強いニーズが継続的に拡大しています。特に大型化への要求が近年顕著です。PBF(Powder Bed Fusion)タイプの金属アディティブマニュファクチャリング装置については、高品質と高生産を目指した継続的な開発を進めると共に、高さ1.5mの大型部品まで造形可能な「NXG XII 600E」を開発し、販売を開始しました。また、DED(Direct Energy Deposition)タイプの高精度な金属アディティブマニュファクチャリング装置「Lasermeister LM300A」及び3Dスキャナー「Lasermeister SB100」を開発しました。これらは主にエネルギー分野、航空分野で用いられるタービン部品の補修に用いられ、廃棄されずに再利用が可能になることでCO2削減に貢献していきます。なお、2024年春に発売しました。
デジタルマニュファクチャリング事業に係る研究開発投資の金額は
(注) 事業別に記載している研究開発投資の金額には、内部消去額を含んでいます。