第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

国内経済は、新型コロナウイルス感染症に伴う規制のさらなる緩和により経済活動が活性化し、引き続き景気が持ち直していくことが期待されます。ただし、原材料価格やエネルギーコストの高騰、金利・為替の変動などによる経済への影響には注視が必要です。国内建設需要につきましては、住宅着工は前年と同水準で推移し、非住宅建設市場は引き続き堅調に推移する見通しですが、住宅取得マインドの低下や国内外の金利政策の変化による影響が懸念されます。

アジア・オセアニア地域の経済は、日本国内市場と比較すると高い成長率が期待できますが、欧米の景気失速による影響、中国の不動産市場の回復動向などに留意してまいります。

このような経営環境の下、当社グループでは2023年度(2024年3月期)を最終年度とする中期経営計画「Change & Grow 2400」を推進しておりましたが、最終年度の業績目標(売上高2,400億円)を達成し、経常利益も目標達成ペースで進捗したこと、また、目まぐるしく変化する外部環境に迅速に対応することが必要となったことから、これを1年前倒しで終了し、新中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」へ移行することといたしました。創立90周年を迎える2027年3月期を最終年度としており、売上高3,000億円、経常利益300億円を目指すアイカ10年ビジョンの総仕上げに取り組んでまいります。

新中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」では、収益性の改善、成長事業の創出・育成、および気候変動対応・人的資本をはじめとした経営基盤の構築を基本方針として定めています。当社グループは、持続的な成長とより一層の企業価値向上に努めてまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 本項目文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

1.サステナビリティに関する方針および取り組み

当社は、社是・経営理念・経営方針・サステナビリティ方針・行動規範を構成要素としたアイカポリシーを体系化しており、その実現に向けた事業活動を行っています。「サステナビリティ方針」は以下のように定めています。

ⅰ.事業活動を通じて社会課題の解決に取り組み、より良い社会づくりに貢献します。

ⅱ.行動規範の基本原則を、法令遵守、人権尊重、社会との調和、公平・公正な取引、お客様の安心と信頼、適正な情報開示、会社情報及び財産の保護、環境及び安全、と定め、グループ従業員共通の価値観として行動します。

ⅲ.顧客、従業員、株主、サプライヤー及び取引先、地域社会及び行政など、ステークホルダーとの対話を重視し、社会の要請と変化に迅速に対応します。

ⅳ.ステークホルダーと会社経営の双方の視点で重要課題を特定し、事業活動と一体で課題解決に取り組むとともにその進捗状況を開示します。

 

(1)ガバナンス体制

サステナビリティ活動の推進母体として、社長執行役員が委員長を務める部門横断型の「サステナビリティ推進委員会」を設置し、マテリアリティに対して設定した目標の達成に向けて活動しています。この活動は、定期的に取締役会に上程され、監督・議論されています。これらの取り組みを通じて、地球・社会の持続可能性を高めるとともに、持続的に発展する企業体の実現を目指しています。

また、サステナビリティ推進委員会の内部に「気候変動問題対応部会」を設置し、気候変動対応に向けた活動の活性化を図り、その活動内容を経営会議に定期的に報告しています。人的資本経営の基盤構築に関連するプロジェクトとして、「ダイバーシティ推進プロジェクト」および「働き方改革推進プロジェクト」を設置しており、これらプロジェクトからも定期的に経営会議に活動内容を報告しています。

 

 

・当社のサステナビリティ推進体制 (2023年6月現在)

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(2)リスク管理

サステナビリティに関するリスクは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③企業統治に関するその他の事項 ・リスク管理体制の整備の状況」において説明している全社的なリスク管理体制に組み込んで管理しています。「事業等のリスク」の各項目に対して担当部門を定め、それぞれの対応状況の確認を定期的に行っています。

 

(3)戦略

当社が取り組むべき重要課題をリスクと機会の両面から影響度の大きさを評価した上でマテリアリティとして特定し、中期経営計画へ組み込み、事業活動とサステナビリティ活動の一体化を図っています。

2023年4月に始動した新中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」においては、マテリティの中でも特に重点課題を「気候変動対応」と「人的資本経営の基盤構築」としているため、以下第2項および第3項で戦略および指標と目標の詳細を記載します。(中期経営計画の全体像については当社ウェブサイトをご覧ください。https://www.aica.co.jp/company/philosophy/vision/)

 

 

2.気候変動対応の取り組み

(1)戦略

2020年度から2022年度にかけて、リスクと機会の特定、これらに対するシナリオ分析を用いた重要度評価・財務インパクト評価を行い、下表の通り整理し、中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」にも対応策を組み込みました。

 

<シナリオ分析の実施概要および結果>

・シナリオ分析の対象範囲

a.移行リスクおよび機会:国内建設市場

b.物理的リスク:アイカグループ国内生産拠点

 

・想定したシナリオの概要

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・定量的評価結果および対応策

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(2)指標と目標

当社は、2023年4月に始動した中期経営計画において、2050年度にカーボンニュートラル達成を目指すことを宣言するとともに、総量削減目標に切り替えたうえで、2030年度までに30%、2026年度までに14%(いずれも2022年度比)の中期削減目標を掲げました。また、スコープ3に関しては、海外を含めたグループ全体の算定を進めており、今中計期間中にスコープ3排出量削減目標を設定するとともに削減策立案することをマテリアリティの目標として掲げました。(中期経営計画の詳細については当社ウェブサイトをご覧ください。https://www.aica.co.jp/company/philosophy/vision/)

 

3.人的資本経営の基盤構築に向けた取り組み

(1)戦略

<人的資本経営に関する基本方針>

当社では持続的成長を支える根幹は人的資本にあると認識し、当社ならではのビジネス課題へ対応できる人材の育成・採用に取り組みます。エンゲージメントの高い多様な人材で構成されたイノベーションを生み出す組織基盤を構築します。

人的資本に4年累計40億円以上※1を投資し、事業成長を牽引する人材を育成し、イノベーションを生み出す組織・多様な人材を獲得、生産性を向上させる労働環境を構築します。

※1:アイカ工業単体

 

・人材育成方針

「人材を最も重要な経営資源として捉え、相互理解と成長を通じ、活力あふれる人材・組織を形成する」ことを目指します。

自己能力の啓発と未来志向を強く意識し社是である「挑戦と創造」に努め邁進する人材を育てます。

・社内環境整備方針

多様な人材が互いを認め合い、誰もが活躍できる環境を構築することにより、会社と従業員が共に成長することを目指します。

従業員は財産であると同時に、重要なステークホルダーであるとの認識のもと、相互理解を深めることを目的とした活動に注力するとともに従業員一人ひとりが存分に力を発揮できる機会の提供と環境整備に努めます。

 

<重点方策>

人的資本の価値を最大化することを目的に、持続的成長を達成する為のビジネス課題に沿って人材育成・環境整備を行います。

 

・課題認識

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・3つの重点施策

a.人材育成

「グローバル人材育成」「リーダー人材育成」「プロフェッショナル人材育成」の3つのテーマに基づき人材を育成します。

b.ダイバーシティ&インクルージョン

多様な人材が集まり、個を尊重し認め合い、互いの良いところを活かせる組織を目指します。

c.エンゲージメント

人材の定着、会社と従業員のコミュニケーションを促進し、安心していきいきと働くことができる職場環境を形成します。

 

(2)主要な指標と目標

以下の目標を2023年4月に始動した新中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」に組み込みました。

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※1: アイカ工業単体  ※2: アイカグループ全体 ※3:労働生産性=付加価値÷従業員数

 

(3)独自の取り組み事例

<グローバル人材育成>

アイカグループにおいて、ビジネスのグローバル化が急速に進む中、海外事業を担える人材が質・量ともに不足していることを課題と認識しております。

海外基盤の強化、またグローバル展開をますます加速化させるため、グローバル人材の育成を強化してまいります。

2021年より当社では「English Challenge Program」として複数の部門より横断的に選抜されたメンバーや、将来を担う若手管理職を対象に、英語集中プログラムを実施し、社員のグローバルスキル向上を行っております。

またコロナ禍で一時中断しておりました海外トレーニー制度についても、今期はトレーニー派遣を再開し、海外活躍人材を育成いたします。

 

<ダイバーシティ&インクルージョン>

2013年6月に発足した「女性活躍推進プロジェクト」は、2018年度より「ダイバーシティ推進プロジェクト」に名称を変更し、多様な人材が活躍できる環境の整備を進めております。

活動の結果として、2016年以降「くるみん認定」「名古屋市女性の活躍推進企業認定」などの認定を取得いたしました。

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女性の育休取得率は100%で推移していますが、男性の育休取得率が低かったことから、育休取得促進のための育児休業サポート金など、当社独自の制度も導入いたしました。結果として、2021年度は13.9%であった男性育休取得率も2022年度は53.1%と大きく向上いたしました。その他、育休復帰前面談による社員のスムーズな育休復帰サポート、保育園の育児費用補助など、制度を充実させております。

 

<従業員エンゲージメントサーベイの実施>

2022年度に連結対象のアイカグループ全社で初めてとなる従業員エンゲージメントサーベイを実施いたしました。グループ全体では行動規範の浸透や目標の明確化に関する項目のスコアが高かったことから、今後も引き続き会社方針の共有など、従業員と会社のコミュニケーションを促進いたします。

グループ内でそれぞれスコアの高かった項目の背景にある取り組み事例を共有する機会を設け、相互成長につなげる活動を行っております。

また、国内グループ会社では教育や自己研鑽の充実に関する項目に課題があると認識し、2023年度より教育研修費を大幅に増額し、人材育成を充実させてまいります。

今後も2年に一度のサーベイ実施を計画しており、更なる従業員のエンゲージメント向上を目指します。

 

2022年度より健康経営に関する活動を強化し、2023年3月に「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」と認定されました。今後もワークライフバランスやメンタルヘルスの推進により、従業員のエンゲージメントや定着率の向上に努めます。

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3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであり、事業等のリスクについてはこれらに限られるものではありません。

 

(1)世界経済の変動によるリスク

 当社グループは、グローバルに事業を展開しており、連結ベースでの海外売上高比率は約5割に達しております。また、生産・調達のグローバル化も進んでおります。そのため、事業活動を行っている、または原材料を調達している各国、各地域において、景気、物価等の経済状況の変動や、予期しない法令・税制・規制の変更、天変地異や労務問題、戦争、政変、テロ、経済摩擦等の地政学リスクに伴う需要の減少や事業活動の停止等が生じ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、外部の第三者機関等を通じて経済状況、各国の政治状況等をモニタリングするとともに、本社と各海外統括会社が連携支援し、各国、各地域のリスク関連情報や各国法規制動向の把握及び分析を行い、各国、各地域における個々のリスクが顕在化する兆候を早期に把握するよう努めております。また、海外統括会社を通じた現地ガバナンスの強化、ローカル経営人材やローカルパートナーの活用をしております。

 

 

(2)市場ニーズ・顧客ニーズの変化に関するリスク

 当社グループが事業展開を行う、化成品、建装建材の各セグメントや各国、各地域においては、多数の競合会社が存在しております。また、市場ニーズ及び顧客ニーズが多様化しており、求められる製品は常に変化し続けています。この競争の激化やニーズの変化への対応の遅れにより、販売シェアの低下や販売価格の低下、滞留在庫の増加等が生じ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、オリジナル性の高い技術開発を進め、安全・安心・健康・省エネルギー・環境等に配慮し、市場ニーズや顧客ニーズにマッチした競争力のある新製品の開発を推進しております。また、依存市場の分散化を図るべく、コア技術の応用やM&A等を活用して、他用途への展開、他地域への進出等に注力しております。更に、次世代要素技術の蓄積・創出のために産官学連携を活性化するとともに、M&A・提携による技術の共有化と活用、ステークホルダーとの関係強化による技術・営業人材の育成、組織としての技術開発力の強化を通じて、大型新製品開発を推進しております。

 

(3)特定の部門における建設需要への依存度に関するリスク

 当社製品は、最終製品ではなく部材に特化しているとともに、幅広い分野に浸透しているため、当社グループの業績は、特定の市場環境による大きな影響を受けにくくなっております。ただし、当社製品の中で売上構成比の高い建装建材部門の製品は、主に日本国内の住宅、店舗、公共施設等の建設及び改修において使用されております。また、化成品部門における外装・内装仕上塗材、塗り床材についても国内の建設資材として使用されております。このため、日本国内の住宅、店舗、公共施設等の建設需要及び改修需要が減少した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、建装建材部門では既存製品の競争力を維持しつつ、主力である木工・家具にとどまらず、壁・床・天井など空間をトータル提案できる製品を育成することで新しい市場、新しい用途を開拓し、持続的な成長を目指しています。また、非建築分野向け事業である機能材料事業への経営資源の投入に注力し、建設需要及びリフォーム・改修需要に左右されない体質へと転換していきます。機能材料事業では、好調な伸びが見込まれる自動車・エレクトロニクス・日用品の市場をターゲットに、ホットメルト・UV樹脂・ウレタン樹脂・高機能フィルムといった育成製品を投入して飛躍的成長を目指しております。

 

(4)企業買収等の資本提携に関するリスク

 当社グループは、事業の拡大や収益性向上の有効な手段の一つとして企業買収等の資本提携を積極的に実施しております。企業買収等の資本提携の実施後に当社グループが認識していない問題が明らかになった場合や、買収先企業や提携先企業を取り巻く事業環境が著しく変化し期待された利益やシナジー効果が得られなかった場合には、発生したのれんについて減損損失が計上される可能性があります。その結果、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、買収対象企業や提携先企業に対する入念な調査や価値評価、取締役会での十分な審議、契約の締結等を実施しております。また、外部の専門家を適宜起用するとともに、案件執行能力を備えた社内の人材育成にも努めております。投資後は、各企業の業績等を分析し、情報の共有化を図り、シナジーの最大化や問題点の早期対処に努めております。

 

(5)主要原材料の価格変動、供給不足に関するリスク

 当社グループは、コストダウンと調達の安定性のバランスを念頭において事業を行っておりますが、原油・ナフサ価格等の高騰、世界情勢の変化による原材料の需給バランスの不均衡等により主要原材料価格や燃料価格の高騰が進んだ場合、及び供給メーカーの方針転換やプラントトラブル、被災等により特定原材料の調達が困難となり生産活動に支障をきたした場合には、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、複数購買の実施、取引先とのコミュニケーション、グループ間の連携等を図り、安定的な供給体制の構築に努めております。

 

 

(6)製品・サービスの品質、製造物責任に関するリスク

 当社グループは、国際的な品質マネジメントシステム規格であるISO9001に従って各種製品を製造・出荷しておりますが、全ての製品について欠陥が無く将来クレームが発生しないという保証はありません。また、製造物責任賠償保険に加入しておりますが、万一、製造物責任賠償保険で充分に填補できない製品の欠陥による損失が発生した場合には、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、開発・設計段階における社内試験を充実することに加え、必要に応じて外部の第三者機関による試験を行い、製品の品質を維持し、欠陥の発生を最小限にするとともに、不具合のある製品の流出防止策を講じております。

 

(7)設備の改廃、用地の制限に関するリスク

 当社グループの事業運営においては、多種多様な工場用地・機械・設備・ユーティリティを使用しております。突然の設備故障により生産停止等が発生した場合、また、借地使用の延長契約が進まない事態になった場合、生産量の減少や修繕コスト・移転コストの増加等で、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、日頃から設備メンテナンスに注力し、不意の故障を予防し、借地に関する交渉窓口との円滑なコミニュケーションを図り、また、必要な投資を行い、生産活動に支障をきたすことのないよう取り組んでおります。

 

(8)知的財産の流出、他社権利の侵害に関するリスク

 当社グループが保有する知的財産が外部へ流出した場合や不正に利用された場合、または見解の相違等により意図せず他社の知的財産を侵害したと判断された場合、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、知的財産の情報管理を徹底するとともに、当社技術の適切な特許登録を実施し、流出や不正利用防止を図っています。また、製品開発においては事前の調査を徹底し、他社の特許を侵害しないよう対策を講じております。

 

(9)物流網の能力不足、物流費の高騰に関するリスク

 日本国内においては、ドライバーの労働環境の改善や労働人口の減少に伴う人手不足の深刻化により物流需給がひっ迫しています。また、国内・海外ともに、燃料価格の高騰、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機とした人々のライフスタイルの変容による物流量の増加、コンテナ不足、運輸・物流業界におけるストライキ、予期しない法令・税制・規制の変更、天変地異、事故、経済摩擦等により物流網が混乱するケースが頻発しています。このような背景から、当社グループの原材料や製品の輸送手段が不足する、あるいは物流コストが大幅に上昇するなどし、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、国内においては、協力企業の拡充、ITシステムの活用、物流拠点の拡充等を行い、輸送業務の最適化を図っております。また、代理店システムが構築されており、市中在庫が各代理店に分散して存在し、リスク分散機能を担っています。海外においては、グループ各社での情報共有、原材料の確保協力等を行っております。効率的な輸送方法と在庫の最適化を追求し物流コストを抑制するとともに、多様な輸送手段を確保し製品供給責任を果たしてまいります。

 

(10)納期管理に関するリスク

 当社グループは、販売先からの受注に対して定められた契約に基づいて納品するように対応しております。しかしながら、競業企業の生産能力の変化等の影響を受け、供給能力を超えた受注を抱え、納期遅延等が発生した場合には、対応に多額の費用負担が生じる、あるいは社会的信用が低下することにより、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、販売部門、生産部門、物流部門において適切な生産管理と情報の共有化を図り、納期遅延等が発生しないよう努めております。

 

 

(11)取引先の信用に関するリスク

 当社グループは国内外の様々な企業と取引をしております。取引先の財政状態の悪化や経営破綻、後継者 問題による廃業等が発生した場合、予期せぬ貸し倒れ損失の発生、販売機会の損失等が生じ、当社グループ の経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、信用リスクに応じた取引限度額の設定、担保や保証の取り付け、引当金 の設定等の対策を実施しております。また、取引条件は定期的な信用調査を基にリスクを勘案して設定するよう努めております。更に、当社グループの売上は国内外多数の顧客に分散しておりますが、更なる分散化 を図るべく、コア技術の応用やM&A等を活用して、他用途への展開、他地域への進出等に注力しております。

 

(12)財務・税務に関するリスク

 当社グループは、事業展開を行っている各国の税法に準拠し適正な納税を行っておりますが、税務申告における税務当局との見解の相違等により、追加での税負担が生じる可能性があります。また、グループ会社間の取引価格に関しては、各国の移転価格税制や関税法の観点から適切な取引価格となるように注意を払っておりますが、税務当局または税関当局との見解の相違等により、取引価格が不適切であるとの指摘を受け追加の税負担が生じる可能性があります。これらの税務上の指摘が発生した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、外部専門家の助言による移転価格文書の整備を行い、各拠点と情報交換し各国の税制改正の情報を事前に把握し影響を見極め、問題の発生を回避することに努めております。

 

(13)為替相場の変動に関するリスク

 当社グループが行っている製品の販売及び投資活動等のうち、外国通貨建ての取引については、外国為替の変動による影響を受けることがあります。こうした外国為替のリスクを一定程度まで低減するよう為替予約等によるヘッジ策を講じておりますが、必ずしも完全に回避できるものではありません。また、当社は海外に多くのグループ会社が存在しており、各社の財務諸表を円貨に換算する際に、為替変動により、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、先物為替予約を締結しリスクを軽減し、単一の通貨による変動影響を可能な限り減らすため、ポートフォリオの最適化に努めております。

 

(14)大規模災害や事故の発生に関するリスク

 想定外の大規模災害や事故、感染症の流行等が発生した場合、事業所の機能停止、原材料調達の遅延、製造設備の損壊等の被害が、事業活動の継続に影響を及ぼし、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、危機管理規程に基づき、大規模災害や事故、感染症の流行等により重要な事業を中断させないこと、また万一、事業活動が中断した場合においても残存する能力で目標復旧時間までに重要な事業を再開させることを目的に、事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)を策定し、緊急時の対応を即座に行えるよう準備・訓練するとともに、複数購買や生産拠点の複数化、大規模地震に備えた耐震工事、水害に備えた浸水対策工事等を行いできるだけ影響が少なくなるように努めております。

 

(15)環境保全に関するリスク

 化成品、建装建材各セグメントの製品を製造する過程で使用される原材料の中には、人の健康や生態系に影響を与える物質も含まれております。また、処理委託した産業廃棄物が適正に処理されないことも想定されます。万一、当社グループの事業活動に起因する環境汚染が発生した場合には、対応に多額の費用負担が生じる、あるいは社会的信用が低下することにより、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、環境保全に係る法規制を遵守し、ISO14001を基に環境マネジメントシステムを構築し、環境負荷の低減に取り組むとともに、土壌汚染、水質汚染等の環境汚染防止に取り組んでおります。

 

 

(16)気候変動に関するリスク

 気候変動にともない、(1)予想を超えるような台風や洪水、猛暑等の気象災害が発生した場合には、事業所の機能停止、製造設備の損壊等の被害により事業活動の継続に影響を及ぼす可能性があります。また、平均気温の上昇、降雨量の変化による水資源への影響等が徐々に進行した場合、当社グループがおかれる事業環境が変化し、運用コストの増加につながる可能性があります。一方で、(2)低炭素社会への移行の状況により、ステークホルダーから温室効果ガス削減製品の要請が増大し、研究開発費の増大、新規技術導入での設備投資額の増加、原材料価格の上昇が引き起こされる可能性も想定されます。気候変動の緩和に向けた規制が強化され、それに適切に対処できなかった場合、操業規制を受け、新たな税負担や、再生可能エネルギーへのシフトに伴う費用、生産設備の高効率化に伴う設備投資額の増加等につながる可能性もあります。それらは、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、上記(1)の気候変動に伴い物理的に発生するリスクに対しては、「BCP委員会」により、分析・モニタリング・予防対策の推進・取締役会への報告を行っております。また、上記(2)の低炭素社会移行に伴うリスクに対しては、サステナブル推進・生産・開発・経営企画等の関係部門で構成される「気候変動問題対応部会」が具体的対応策の検討と推進を担い、取締役会直下の「サステナビリティ推進委員会」が進捗のモニタリング・情報開示・事業計画への組み込みを行うことにより、中長期的視点で本リスクへの対策を拡充・推進しております。

 

(17)人的資本に関するリスク

<人材確保・育成に係るリスク>

 当社グループが持続的に事業を発展させるためには、製造、販売、開発、経営、IT等、それぞれの分野で専門知識に精通した人材やマネジメント能力に優れた多様な人材を確保し、継続的に育成していくことが必要となります。また、海外事業を更に展開していくうえでは、優秀な現地人材を確保し、日本と海外とを結ぶグローバル人材を確保・育成する必要があります。しかしながら、特に日本国内においては少子高齢化に伴う労働人口の減少等もあり、必要な人材を継続的に獲得するための競争は厳しく、人材獲得や育成が計画通りに進まないことにより当社グループの事業活動が制限される場合があります。また、経済発展が著しい海外においては、人材獲得市場における競争が高まっています。それら人材確保・育成に係る状況は、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、日本においては新卒採用や経験者の中途採用を積極的に進めるとともに、人事・教育制度を充実させ、多様な社員が活躍できる環境づくりに努めています。海外においては、ローカル人材を積極的に登用するとともに、各国の労働慣行を尊重し、権限と義務を明確にすることで高いモチベーションが維持できる環境づくりに努めています。

<人体に影響を及ぼすリスク>

 当社グループで、設備やオペレーションに起因した労働災害が発生したり、労務環境が悪化し健康被害が発生した場合には、社員の心身の健康に影響を及ぼし、労働生産性の低下や人材流出につながり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、従業員の安全と健康を最優先に考え、労働安全衛生活動や健康経営に継続的に取り組んでいます。

 

(18)情報セキュリティ・ITインフラに関するリスク

 当社グループは、事業遂行に関連し、多くの個人情報や機密情報を有しているほか、様々なシステムやネットワークを利用しています。悪意のある第三者によるサイバー攻撃、ウイルスによる処理機器の事故が発生した場合、情報の流出・漏洩・改ざん、ランサムウェアのような悪意のあるプログラムの侵入が発生する可能性があります。また、天災等によるシステムインフラの停止等が発生した場合、重要な業務の停止や遅延が発生する可能性があります。このような事態が発生した場合、対応に多額の費用負担が生じ、あるいは社会的信用が低下することにより、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、「アイカグループ情報セキュリティ基本原則」の遵守、情報管理規程による社内ルールの徹底、システムの冗長化等により、情報漏洩対策及び重要な業務の停止リスクの低減に努めております。

 

 

(19)コンプライアンスに関するリスク

 当社グループは、事業展開をするうえで各国の法律、許認可等さまざまな法的規制の適用を受けています。これら法令等の改正や規制の強化により、当社グループの事業活動が制限される、あるいは遵守するためのコストが増加する場合があります。また、法令等に違反した場合や社会規範に反した行動等により、法令による処罰・訴訟の提起・社会的制裁を受け、またはこれらに加え社会的信用が低下することで、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

 このような状況に対処するため、当社グループは 「アイカグループ行動規範」において、各国・各地域の法令等を遵守し、人権尊重、環境への配慮、腐敗防止など、高い倫理観にもとづく行動を徹底することを定め、予期せぬ損失や信用の低下を防止すべく、役員・従業員に対する研修を通じコンプライアンス意識の向上を図り、法令や社会規範に反した行為等の発生可能性を低減するよう努めています。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

①財政状態及び経営成績の状況

<資産>

当連結会計年度末における流動資産は159,279百万円となり、前連結会計年度末に比べ7,572百万円増加いたしました。これは主に現金及び預金が3,814百万円、棚卸資産が2,871百万円増加したことによるものであります。固定資産は90,769百万円となり、前連結会計年度末に比べ2,087百万円増加いたしました。これは主に有形固定資産が3,781百万円増加したことに対し、無形固定資産が1,708百万円減少したことによるものであります。

この結果、総資産は、250,049百万円となり、前連結会計年度末に比べ9,660百万円増加いたしました。

 

<負債>

当連結会計年度末における流動負債は59,669百万円となり、前連結会計年度末に比べ6,658百万円減少いたしました。これは主に短期借入金が7,163百万円減少したことによるものであります。固定負債は32,305百万円となり、前連結会計年度末に比べ20,978百万円増加いたしました。これは主に転換社債型新株予約権付社債が18,072百万円、長期借入金が2,048百万円増加したことによるものであります。

この結果、負債合計は、91,974百万円となり、前連結会計年度末に比べ14,320百万円増加いたしました。

 

<純資産>

当連結会計年度末における純資産合計は158,074百万円となり、前連結会計年度末に比べ4,660百万円減少いたしました。これは主に利益剰余金が3,068百万円(親会社株主に帰属する当期純利益が10,059百万円及び剰余金の配当が6,990百万円)、自己株式が3,991百万円、為替換算調整勘定が5,608百万円増加したことに対し、資本剰余金が4,753百万円、非支配株主持分が4,640百万円減少したことによるものであります。

この結果、自己資本比率は58.1%(前連結会計年度末は60.4%)となりました。

 

<売上高>

当連結会計年度の売上高は242,055百万円となり、前連結会計年度と比べ12.8%増加いたしました。

 

<売上総利益>

経営資源の効率的な活用に一層の努力を続けるとともに、グループ一丸となって業務改革を推進し、生産効率の向上に努めました。この結果、売上総利益は56,798百万円となり、前連結会計年度と比べ5.0%増加いたしました。

 

<販売費及び一般管理費、営業利益>

販売費及び一般管理費は、給与及び賞与、減価償却費等の増加や、連結会社が増加したことなどにより、2,504百万円増加し、36,241百万円となりました。この結果、営業利益は20,557百万円となり、前連結会計年度と比べ1.0%増加いたしました。

 

<営業外収益、営業外費用、経常利益>

営業外収益は248百万円増加の2,423百万円、営業外費用は210百万円増加の892百万円となりました。この結果、経常利益は22,088百万円となり、前連結会計年度と比べ1.1%増加いたしました。

 

<税金等調整前当期純利益、親会社株主に帰属する当期純利益>

税金等調整前当期純利益は18,556百万円となり、前連結会計年度と比べ14.2%減少いたしました。

また、法人税、住民税及び事業税が755百万円増加の7,662百万円となったことから、親会社株主に帰属する当期純利益は10,059百万円となり、前連結会計年度と比べ23.3%減少いたしました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度に比べ、2,946百万円増加し、47,943百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるネットキャッシュ・フローは、19,852百万円の資金増加(前連結会計年度は11,685百万円の資金増加)となりました。これは主に、税金等調整前当期純利益が18,556百万円(同21,616百万円)、減価償却費が7,149百万円(同6,487百万円)、減損損失が3,531百万円となったこと等の増加要因があったことに対し、仕入債務の3,135百万円の減少(同7,193百万円の増加)、法人税等の支払額6,949百万円(同7,160百万円)等の減少要因があったことによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるネットキャッシュ・フローは、9,061百万円の資金減少(同8,342百万円の資金減少)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出7,646百万円(同6,695百万円)、無形固定資産の取得による支出938百万円(同738百万円)等の減少要因があったことによるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるネットキャッシュ・フローは、9,355百万円の資金減少(同1,114百万円の資金減少)となりました。これは主に、短期借入金7,659百万円の減少(同7,536百万円の増加)、配当金の支払6,980百万円(同7,056百万円)、連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出10,138百万円(同1,099百万円)等の減少要因があったことに対し、転換社債型新株予約権付社債の発行による収入18,090百万円等の増加要因があったことによるものであります。

 

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

(百万円)

前年同期比(%)

化成品

124,674

116.46

建装建材

70,578

114.44

合計

195,253

115.72

(注)金額は売価換算値によっており、セグメント間の内部振替後の数値によっております。

 

b.受注実績

  当社グループは主として見込み生産を行っているため、記載すべき事項はありません。

 

c.販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

(百万円)

前年同期比(%)

化成品

141,312

115.52

建装建材

100,743

109.28

合計

242,055

112.84

(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループは、化成品セグメントにおいては、人々の暮らしや社会インフラを支える建設分野向け樹脂の高付加価値化を進めつつ、自動車・日用品・電子材料など非建設分野で成長していくことを目指し、建装建材セグメントにおいては、木工家具市場ならびに、壁・床・天井・加工品への事業領域拡大で空間全体への提案力を高めつつ、ジャパンテクノロジーの海外展開を推進し、国内外で成長することを目指しております。

2017年4月には、創立90周年を迎える2026年度に目指すべき姿「アイカ10年ビジョン」を策定し、売上高3000億円、経常利益300億円、ROE10%以上、海外売上高比率45%以上といった長期目標を掲げております。2021年度からは、中期経営計画「Change & Grow 2400」を掲げ、財務と非財務を融合した計画とし、成長事業の創出・拡大、利益基盤の強化、経営基盤の強化に取り組んでまいりました。その2年目となる当連結会計年度の結果としては、海外での成長などにより売上を前倒しで達成し、経常利益も目標達成ペースで進捗することができました。一方で、資本効率性に関しては課題が残りました。具体的な目標と進捗状況は、以下の通りであります。

項目

前中期経営計画

現中期経営計画「Change & Grow 2400」

進捗度

1年目

2年目

3年目

2021年3月期

実績

2022年3月期

実績

2023年3月期

実績

2024年3月期

当初目標

ROE

8.1%

9.4%

6.9%

10.0%を目途

2年目に低下

海外+機能材料売上高※1

812億円

1,147億円

1,352億円

1,150億円

1年前倒し達成

AS商品売上高※2

155億円

169億円

193億円

210億円

計画通り進捗

経常利益

184億円

218億円

220億円

240億円

計画通り進捗

売上高

1,746億円

2,145億円

2,420億円

2,400億円

1年前倒し達成

※1 連結消去前単純合算売上高

※2 AICA Solution 商品の略。様々な社会課題を解決する商品

 

 

2024年3月期は本来、中期経営計画「Change & Grow 2400」の3年目にあたりますが、目まぐるしく変化する外部環境に迅速に対応するため、また、「Change & Grow 2400」の売上高を1年前倒しで達成したことをうけ、一年前倒しで2027年3月期を最終年度とする新中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」を策定し、アイカ10年ビジョンの総仕上げに取り組むことといたしました。その基本方針は、「収益性の改善」、「成長事業の創出・育成」、「健全な経営基盤の構築」です。財務面においては、化成品・建装建材の両セグメントで、付加価値の向上と適正な投資配分を行い、市場特長と投下資本に応じた利益率水準を目指します。また、成長が見込めるマーケットや、当社の強みを発揮できるマーケットへ積極的に成長投資を行い、持続的成長を牽引できる新たな収益の柱を創出・育成します。さらに、財務健全性の維持、資本効率の向上、株主還元の重視、この3つのバランスを取りつつ、グループ資本配分を最適化し、企業価値の向上を目指します。資本コストを上回るROE・ROICを創出して株主価値向上のためのエクイティ・スプレッドを獲得するとともに、株主還元と投資計画を支える稼ぐ力(営業キャッシュフロー)の向上に努めます。非財務面では、特に「気候変動対応」、「人的資本投資」に注力することで、持続的な成長とより一層の企業価値向上に努めてまいります。具体的な目標と現在の状況は、以下の通りであります。

項目

新中期経営計画

「Value Creation 3000 & 300」

2023年3月期

実績

2027年3月期

目標

財務

売上高

2,420億円

3,000億円

経常利益

220億円

300億円

AS商品売上高

※1

193億円

280億円

海外売上高比率

51.2%

50%以上

ROE

6.9%

10.0%を目途

ROIC

8.1%

8.0%を目途

非財務

GHG※2排出量削減(Scopel+2)

149,918t-CO2※3

2023年3月期比14%削減

環境投資額

4年累計20億円

人的資本投資額

8.7億円

4年累計40億円※4

エンゲージメント

スコア

3.9Point

4.0Point

※1 AICA Solution 商品の略。様々な社会課題を解決する商品

※2 温室効果ガス(Greenhouse Gas)の略称

※3 第三者保証取得前の概算値につき、第三者保証取得時に修正される場合があります

※4 アイカ工業単体

 

当連結会計年度の実績は以下のとおりであります。

 

当連結会計年度の当社グループを取り巻く経営環境は、日本国内においては、新型コロナウイルス感染症に伴う規制が緩和され、経済活動の正常化が進み、景気停滞から持ち直しの動きが続きました。アジア・オセアニア地域の経済につきましては、中国ではゼロコロナ政策による景気の停滞は見られましたが、その他の地域では持ち直しの動きが見られました。しかしながら、ウクライナ情勢の長期化、急激な為替変動、原材料価格の高騰などにより、国内外ともに先行きは依然として不透明な状況で推移しております。

国内建設市場においては、住宅着工戸数は、貸家や分譲住宅は増加しましたが、持家が減少し、前年を下回

りました。非住宅関連においては、店舗、工場、医療福祉施設などの着工面積が増加し、前年を上回りました。

このような経営環境の下、当社グループは、中期経営計画「Change & Grow 2400」の方針に基づき、非建設分野向け事業および海外事業の強化、社会課題の解決に貢献する商品群の拡充、利益基盤および経営基盤の強化などを推進いたしました。

この結果、当連結会計年度の業績は、売上高242,055百万円(前年同期比12.8%増)、営業利益20,557百万円(同1.0%増)、経常利益22,088百万円(同1.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益につきましては建装建材セグメントに属するグループ会社の固定資産などに関連する減損損失を計上したことにより10,059百万円(同23.3%減)となりました。

また、1株当たり当期純利益は157.27円(同43.63円減)、ROEは6.9%(同2.5ポイント減)、海外売上比率は51.2%(同2.0ポイント増)となりました。

なお、財政状態につきましては「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態および経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容については次のとおりであります。なお、セグメント間の内部売上は除いております。

 

(化成品セグメント)

接着剤系商品は、国内においては、施工用接着剤、木工・家具向け汎用接着剤、産業用フェノール樹脂などにおいて販売価格の改定が進み、売上が前年を上回りました。海外においては、販売価格の改定やマレーシア、インドネシア、ニュージーランドの伸長などにより、売上を伸ばすことが出来ました。

建設樹脂系商品は、外装・内装仕上塗材「ジョリパット」が好調に推移したことから、売上を伸ばすことができました。

非建設分野への取り組みとして注力している機能材料事業につきましては、国内においては、自動車用のUV樹脂などが好調で、売上を伸ばすことができました。海外においては、スポーツシューズ用のウレタン樹脂が低調でしたが、パッケージ用途のUV樹脂などが好調で、売上が前年を上回りました。

このような結果、売上高は141,312百万円(前年同期比15.5%増)、営業利益(配賦不能営業費用控除前)は7,494百万円(前年同期比1.6%増)となりました。

 

(建装建材セグメント)

メラミン化粧板は、国内においては、医療福祉施設などの非住宅市場での需要が回復し、売上が前年を上回りました。海外においては、中国市場で景気停滞の影響はありましたが、インドや東南アジア各国で売上が伸長し、海外全体では売上を伸ばすことができました。

ボード・フィルム類は、汎用的なポリエステル化粧合板、粘着剤付化粧フィルム「オルティノ」などが好調で、売上が前年を上回りました。

メラミン不燃化粧板「セラール」は、キッチンパネル用途が好調であったことに加え、店舗やオフィス、医療福祉施設などの非住宅需要を獲得するとともに、抗ウイルスメラミン不燃化粧板「セラールウイルテクトPlus」や高意匠メラミン不燃化粧板「セラール セレント」の採用が拡大し、売上が前年を上回りました。

不燃建材は、アクリル樹脂系塗装けい酸カルシウム板「ルナライト」が非住宅市場での需要を獲得しましたが、多機能建材「モイス」が低調に推移し、売上が前年を下回りました。

カウンター・ポストフォーム商品は、キッチン・洗面カウンター需要を獲得した高級人造石「フィオレストーン」や汎用的なポストフォームカウンターが好調で、売上を伸ばすことができました。

建具・インテリア建材は、住宅向け洗面化粧台「スマートサニタリー」や非住宅向けのトイレブースが好調で、売上が前年を上回りました。

このような結果、売上高は100,743百万円(前年同期比9.3%増)、営業利益(配賦不能営業費用控除前)は16,740百万円(前年同期比2.2%増)となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの当連結会計年度末の借入金残高は12,522百万円でありますが、営業活動によるキャッシュ・フローや現金及び現金同等物の残高を考慮すると、将来必要とされる成長資金及び有利子負債の返済に対し、当面充分な流動性を確保しております。また、2022年4月において2027年満期ユーロ円建て転換社債型新株予約権付社債を発行しております。

なお、当社グループのこれらの資金需要につきましては、主に営業活動によるキャッシュ・フローによって賄っております。また、事業活動を円滑に行うための資金調達に際しては、事前に充分な検討を加え、低コストで安定的な資金の確保を重視しており、今後において資金需要が発生する場合に備えております。

なお、キャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表の作成にあたり用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

・のれん及び無形資産(顧客関連資産等)の減損

 減損の兆候を判断するにあたっては、損益実績及び将来利益計画を用いております。

 のれん及び無形資産(顧客関連資産等)を計上する法人各社については、減損の兆候を識別し、減損損失の認識の判定を行った結果、減損が必要と判断された時、または年次で実施される減損テストにおいて、回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額が回収可能価額まで減額され、帳簿価額の減少額は減損損失として認識しております。なお、のれんの減損の認識の判定及び測定は、資産グループにのれんを加え

た、より大きな単位で行っております。

 事業環境の悪化により収益性が当初の想定を下回る場合や保有資産の市場価額等が下落する場合には、回収可能価額が低下し損失が発生する可能性があります。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

特記事項はありません。

 

 

6【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、主として有価証券報告書提出会社であるアイカ工業株式会社にて行っております。その内容は、以下のとおりであります。

当社は、オリジナル性の高い技術開発を進め、安全・安心・健康、省エネルギーに配慮しながら、国内外アイカグループの持続的成長に向け、様々な社会課題を解決する製品群や脱炭素社会に対応する製品の拡充による国内建築建設分野の成長持続、非建設分野向けの機能材料事業の飛躍的成長や海外事業の展開加速に向けた研究開発活動を推進しています。

当連結会計年度の研究開発費の総額は3,997百万円であり、主な研究開発の概要とその成果は、次のとおりであります。

 

(1)化成品

化成品分野におきましては、「高機能」「省工程化」「気候変動対応」をキーワードとする研究開発を進めております。

接着剤系商品では、「メラミンタイル」接着用として臭気を抑えたウレタン樹脂系接着剤「JW-604」を開発しました。初期粘着力に優れるため、メラミンタイルなど伸縮性のある床材や、反りの大きいビニル系床材の施工に適した接着剤です。自動車分野向けには、弾性に富み異種材料の接着、長期耐久性に優れる反応性ホットメルト接着剤を開発、発売しました。また、アイカアドッテック社と共同で、バイオマス原料が50%と高い比率ながら、従来品と同等の性能を有する「ホットメルト粘着剤」を開発しました。

厚物注型用エポキシ樹脂「アイカピュアレジン」を開発しました。紫外線で黄変しにくく高い透明度を長期間維持できる、硬度が高い、硬化促進剤の添加量で硬化時間を調整できる、といった特長をもっており、レジンテーブル用途で採用頂いております。

建設樹脂系商品では、住宅のリフォーム需要は堅調に推移することが予想される中、ジョリパットによるサイディング外壁専用の改修工法「ジョリパット リミュール工法」を開発しました。既存の壁面を下地として利用するため、サイディングの張り替えに比べて産業廃棄物や粉塵、騒音、震動を抑制します。当社独自の樹脂設計技術により、水分や熱による躯体への負担を軽減させ、建物の耐久性向上が図れます。塗り床材では、建設業界で深刻化する職人不足問題に対応すべく、省工程化した帯電防止厚膜型エポキシ樹脂系塗り床材「ジョリエースEドーデン流しのべNCP工法」を開発しました。当社独自の配合技術により、カーボンプライマーが不要な上塗り材を開発し、工程削減を可能にしております。また、電子部品工場や精密機械工場などで広く使用されご好評をいただいている低アウトガス硬質ウレタン樹脂系塗り床材「ファブリカ流しのべSCR工法」で、一般社団法人日本有機資源協会のバイオマスマーク(バイオマス度30%)を取得しました。サステナブルな社会の実現に貢献してまいります。

フェノール樹脂商品では、バイオマス原料であるリグニンを活用した合板・LVL用接着剤を市場投入しました。バイオマス原料の更なる活用に向けた取り組みを実施しております。適用用途についても幅広く検討しておりサンプルワークを進めています。

電子材料商品では、自動車内装の大型ディスプレイ向けに「ルミアート反射防止フィルム」が初めて採用されました。自動運転が現実になりつつある中、快適な車内空間を実現させるため、内装ディスプレイは年々大型化が進んでおります。一方弊害として外光による映り込みにより視認性が低下する課題がありましたが、樹脂技術と精密塗工技術の組み合わせにより、高い反射防止性能を実現、映り込みの少ないディスプレイが実現可能となりました。

有機微粒子商品では化粧品用途向けに植物由来、天然由来原料を使用した地球環境や人に優しい3種類の有機微粒子製品(ポリ乳酸、セラック樹脂、ステアリン酸)を開発し、サンプルワークを開始しました。それぞれの製品が持つ特長のある感触を実感いただきながら、採用検討が進められています。

今後も国内外での販売拡大と市場動向にマッチする新商品開発に努めてまいります。

なお、当連結会計年度の研究開発費は3,030百万円であります。

 

(2)建装建材

建装建材分野におきましては、「高機能」「意匠/デザイン」「省施工」「加工技術」、「SDGsに資する技術」をキーワードに研究開発を進めております。

高機能では、防カビ不燃天井材「カビテクト」を開発しました。調湿性能がありカビが生えにくいけい酸カルシウム板の基材を独自開発し、そこに防カビ剤を塗装して仕上げた製品です。基材の調湿性能と防カビ塗装の相乗効果により、高い防カビ性能を実現しています。冷蔵ケースを多用するスーパーマーケットなどの天井は、店内や天井裏に流れ込んだ暖気が天井付近で冷やされることで結露が生じ、カビが発生しやすい環境になっており、カビテクトは店舗天井のカビ問題の解決に貢献してまいります。

高意匠では、柄とエンボスを一致させることでリアルな木肌感を実現させた木目柄や、独自開発したグロス&マット加工による光沢のコントラストで錆びた風合いの鉄鋼板を再現した柄など、高意匠タイプのメラミン化粧板を表面に使用したメラミン扉「エミューロ」を開発しました。「エミューロ」扉のために開発した特殊エッジ材で木口を仕上げており、化粧板の加工品特有の継ぎ目が目立ちません。ディテールの美しさを追求し、ワンランク上の水廻り空間の実現に寄与するメラミン化粧板扉として各方面に提案をしてまいります。

省施工分野では、JR東日本、JR東日本建築設計との共同研究を経て、メラミン不燃化粧板「セラール」を用いた新たな天井工法「セラールFP工法」を開発しました。固定金具を表面に露出させない納まりで接着剤と併用して固定することで、意匠性と落下防止策を両立させた工法です。2022年8月にグランドオープンした東京駅八重洲北口(改札外)の飲食店街「グランスタ八重北」で採用されており、2022年9月には、日本建築学会にて3社連名で学術発表を行っています。耐震性・不燃性・耐熱性・耐久性・耐水性を有するとともに、デザインの選択肢を広げる新たな天井工法として、駅等のパブリックスペースを対象に提案してまいります。

住宅分野においては SNS等への投稿も増えてきている洗面カウンタースマートサニタリーシリーズをトイレ空間でもご使用いただけるよう「スマートサニタリーミュゼ」を開発しました。トイレ向けに奥行き150㎜のスリムな手洗いカウンターを開発し、床面積が限られがちなトイレ空間において有効スペースが確保できる仕様を実現しました。限られた奥行きサイズのカウンターに納まるスリムさと、手を洗うのに十分な容量を両立させた、専用の手洗いボウルも新たに開発しています。人気のあるスクエア型のシンプルな意匠の手洗いボウルで、インテリアになじみます。手洗いカウンターと棚板を組み合わせるシンプルなプランのため、設計の手間を省きながら造作風手洗いカウンターを設置でき、さらには一般的な既製品に比べて安価な価格帯を実現しています。

SDGsに資する環境対応技術としては、メラミン化粧板のバイオマス度のさらなる向上に向けて開発を進める中、コア層(強度保持層)の原料として使用するフェノール樹脂を、とうもろこし由来のバイオマス原料であるフラン樹脂に置き換える技術を確立しました。これによりバイオマス度は75%となり、化石由来原料を従来のメラミン化粧板より50%削減しています。フラン樹脂はとうもろこしの芯由来の非可食なバイオマス原料であり、食糧供給と競合しません。当社の切り替え可能な全製品に本技術を展開すると、製品廃棄時に発生するCO2を約3,200t/年、削減することが見込め、これを杉の木が1年間で吸収するCO2量に換算すると約23万本分に相当します。今後、サンプルワークを行いながら、量産化に向けたスケールアップを行ってまいります。

今後も引き続き、さまざまな社会課題の解決に寄与できる特徴のある商品の開発に努めてまいります。

なお、当連結会計年度の研究開発費は966百万円であります。