第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。これらの将来予測には、不確定な変動要素が含まれており、実際の成果や業績などは、記載の見通しとは異なる可能性があります。

 

(1) グループ経営理念

 ワコールグループは、純粋持株会社である当社のもと、日本、米国、欧州、中国、東南アジアを中心に、インナーウェア事業などを展開し、従前より「人々の美しさに貢献することで、広く社会に寄与する」ことを目指して活動を続けてきました。そして、2022年には、「世界中のあらゆる人々の豊かな生活に貢献する」こと、「画一的な外見美ではなく、内面も含めた自分らしさの実現をお手伝いする」こと、「環境や人権などさまざまな社会課題の解決に努める」ことを目指し、現代社会において私たちが果たすべき社会的使命「ミッション」を定義しました。この「ミッション」ならびに、70年を超える歴史の中で受け継いできた「創業の精神」をよりどころとして、各事業会社が複雑化・多様化する社会課題への取り組みを将来の「成長機会」として捉え、事業を通じて「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を目指す「サステナビリティ経営」を推進することで、企業価値の向上に努めていきます。

 また、私たちの事業活動は、一人ひとりのお客さまの声に耳を傾け、謙虚に自らを変革し、人と人とが互いに信頼し合う「相互信頼」を積み重ねることで成り立っております。企業経営の透明性を高めることに継続して取り組み、公正性、独立性を確保することを通じて、「株主」「顧客」「従業員」「取引先」「地域社会」などすべてのステークホルダーとの「相互信頼」の関係を構築することで、社会になくてはならない存在を目指していきます。

 

ミッション

 

ひとりひとりが 自分らしく美しく いられるように

世の中が 自信と思いやりに あふれるように

からだに こころに

いちばん近いところで 寄り添い続けます

 

からだのここちよさ、こころの美しさ。それはまるで引力のように、自分と社会とを結びつけてくれる。

ありたい自分を知り、一歩ずつ近づくこと。そこで生まれた自信は、多様な人々を受け入れる優しさを育む。

その優しさは、やがて社会や地球へも広がり、思いやりあふれる豊かな未来へとつながっていく。

からだに こころに いちばん近いところで、一人ひとりの輝きに寄り添い続けてきたワコールだから。

変化に挑み、成長を続けることで、世界を美しくする力になれる。私たちは、そう信じています。

 

グローバル・コーポレートメッセージ

Comfortable inside. Confident outside.

 

※「グローバル・コーポレートメッセージ」は、ワコールグループ共通のコミュニケーションメッセージです。詳しくは、当社企業情報サイトの「ワコールグループについて」をご覧ください。

https://www.wacoalholdings.jp/group/

 

創業の精神

 

目標

世の女性に美しくなって貰う事によって

広く社会に寄与する事こそ

わが社の理想であり目標であります

 

社是

わが社は 相互信頼を基調とした

格調の高い社風を確立し

一丸となって 世界のワコールを目指し

不断の前進を続けよう

 

経営の基本方針

1. 愛される商品を作ります

2. 時代の要求する新製品を開発します

3. 大いなる将来を考え正々堂々と営業します

4. より良きワコールはより良き社員によって造られます

5. 失敗を恐れず成功を自惚れません

 

役員・従業員の行動指針(アクション)

 

「誰かの幸せを想おう」

顧客、取引先、ともに働く社員など、周囲の人の幸せを考えられているだろうか

「好奇心を持って、五感を使い観察しよう」

最近、新たな発見や気づきはあっただろうか

「なぜ?何のために?を考えよう」

真意や根本原因を理解できているだろうか

「異なる意見を尊重しよう」

謙虚に人の意見に耳を傾け、忖度抜きで、建設的に議論をしているだろうか

「未来志向で判断しよう」

目先の結果だけではなく、豊かな未来の実現のために行動しているだろうか

「まずやってみよう」

リスクを恐れて立ち止まっていないだろうか 挑戦する人を応援しているだろうか

「仲間と力を合わせよう」

大きな成果を生むために、仲間と切磋琢磨し、共創できているだろうか

「誠実に、責任を持ち行動しよう」

相手に感謝を伝えているだろうか 人のせいにしていないだろうか

 

(2) 中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」

①策定背景

 当社グループは、経営理念の実践に向けて、自社が抱える事業課題やお客さまの価値観、社会・環境の変化を見据えつつ、長期的なゴールからのバックキャスティングにより、2030年に向けたグループの将来ビジョンを示す「VISION 2030」を策定しました。「VISION 2030」では、「高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する」ことを中長期的に目指す姿として掲げ、「国内の収益性向上と事業領域拡大」「海外事業の拡大と高収益構造への変革」「グループ経営力の強化」「資本効率の高い経営への転換」に取り組むことで、持続的な成長と企業価値の向上を実現します。

 

②全体像

目指す姿:高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する

 

『世界のワコールグループ』の定義

・グループの商品・サービスや社会的課題に係る取組みが、全てのステークホルダーから高い信頼を得ている

・グループの人材、資産、ノウハウ、ネットワークを最大限活用し、世界的規模で競争優位性のある事業展開を行っている

・革新的且つ高品質な商品・サービスで、新たな顧客体験を創造し続け、世界中のお客さまの生活を豊かに美しくし続けている

・全世界の従業員がグループの目標、使命を理解し、その実現に向け、常識や過去にとらわれずに挑戦している

 

事業領域:「美」「快適」「健康」領域を、「高い感性と品質」で支えられた新たな商品・サービスで深耕・拡大していく

実行方針:以下の重点戦略を実行し、事業の拡大や収益性の向上、経営基盤の強化などに取り組み、社会課題の解決と持続的成長の両立を目指すサステナビリティ経営を推進する

 

主要指標(2031年3月期):

売上収益

2,700億円

(うち、海外事業売上比率40%)

(参考)非連結合弁会社含むグループ売上高

3,400億円

営業利益(営業利益率)

270億円(10%)

ROE

10%

 

重点戦略:

重点戦略

マテリアリティ(重要課題)

サステナビリティ

経営の推進

国内の収益性向上と事業領域拡大

国内における着実な成長と、健康領域での新規事業創出

・CX戦略の推進を通じた国内市場シェアの回復

・「美・快適・健康」分野における事業領域の拡大

海外事業の拡大と高収益構造への変革

既存進出エリアの拡大維持と、欧州やインド市場での成長

・デジタルマーケティングの強化による新規顧客の獲得

・CRM強化による既存顧客のロイヤル化

・新規市場におけるブランド投資の強化

グループ経営力の強化

グループガバナンスの強化、多様性のある人材育成と活用

国内外の技術・生産・R&D拠点の整備

・品質基準の再定義、縫製工場のスマートファクトリー化、生産・輸送効率の追求

資本効率の高い経営への転換

資本コストを上回るROEの創出

ステークホルダーへの価値配分の最適化

・ROE10%、資本構成の最適化への取り組み

 

(3) 中期経営計画(リバイズ)(2024年3月期~2026年3月期)

①策定背景

 当社グループは、2023年3月期の実績が大幅な計画未達となったことを受け、中期経営計画の見直し(以下、中計リバイズ)を行い、2023年11月に公表しました。中計リバイズでは「収益力の改善に向けたビジネスモデル改革」「「VISION2030」達成に向けた成長戦略」「ROICマネジメントの導入」「アセットライト化の推進」を実行し、サプライチェーンマネジメントの再構築や管理基盤の強化を進め、収益力や資本効率の改善と戦略の実効性の向上を図っていきます。また、従業員の挑戦と成長を後押しすることで、お客さまの“自分らしさ”に貢献できる商品やサービスを継続的に提供できるワコールグループへの進化を目指します。

 

②全体像

基本方針:「VISION2030」の達成確度の向上に向けて、キャッシュを着実に創出できる体質への転換をおこなう

重点戦略:収益力や資本効率の改善と向上に努め、持続的な企業価値の向上に向けて必要な成長投資とステークホルダーの皆さまへの還元を継続できる企業へと進化する

 

ビジネスモデル改革

ビジネスモデル改革(サプライチェーンマネジメント改革、コスト構造改革)を実行し、基礎収益力を回復

 

サプライチェーンマネジメント改革

・顧客ニーズや市場環境の変化に迅速に対応できるように、㈱ワコールのサプライチェーンマネジメント(SCM)改革を実施

・デジタルを活用して顧客起点で需要連動型のSCMを構築するとともに、選択と集中を徹底し、コスト構造を最適化

コスト構造改革

・㈱ワコールの基礎収益力の回復を図るため、抜本的なコスト構造改革を実行

不採算事業の対処

・それぞれの事業ごとに将来の在るべき姿を検証し、事業継続や売却・撤退などのアクションプランを決定

成長戦略

デジタルの力と自社の強みを活用したブランド戦略と顧客戦略を遂行し、次の成長へつなげる

 

国内事業:

・顧客ニーズの多様化に合わせて、お客さま一人ひとりの「自分らしい美・快適・健康」に貢献

顧客戦略

蓄積されたデジタル資産の活用によりパーソナライズされた顧客体験を通じて、LTV向上を目指す

ブランド戦略

顧客起点でのブランドマネジメントにより、提供価値の明確な魅力溢れるブランドを育成する

注力セグメント

インナー事業は市場セグメントに応じた戦略を強化する(ハイプレミアム市場・アフォーダブル市場を強化)

強みを活かしてスポーツ・健康事業を強化し、市場機会を最大化する

注力チャネル

自社EC・他社EC・直営店に対して、チャネル強化施策を実行していく

 

海外事業:

・不透明な事業環境下において、まずは経営基盤の整備に取り組み、次期中期経営計画に向けた成長戦略を実行

ブランド戦略

中国・アジア圏:市場分析をもとにした新製品の開発・販売による新規顧客との接点拡大

欧米:顧客の多様な価値観に応えるためのブランド戦略を推進

EC成長に向けた取り組み

自社EC:会員プログラムなど独自コンテンツの充実、実店舗との連携強化

他社EC:戦略的にECマーケットプレイスとの連携を強化

新興エリアの開拓

ドイツ、フランス、インドなど成長余地を有する地域における成長戦略を策定・推進

ROICマネジメント導入

資本効率性を高め、筋肉質な企業体質を実現するためにROICマネジメントを導入

・ポートフォリオマネジメントに加え 、成果を的確に測定するパフォーマンスマネジメントの手段としても活用し、現場の改善活動と投資家をはじめとするステークホルダーが期待する収益力・資本効率の改善を定量的に結び付ける

アセットライト化の推進

資産・資本効率の向上に向けて、企業価値向上に寄与しない資産については、売却することを基本方針とする

・売却に際しては、事業成長に寄与する投資機会の探索を行うこととし、ROICの観点から投資すべき事業を判断

棚卸資産(在庫)の圧縮

ビジネスモデル改革(サプライチェーンマネジメント改革とコスト構造改革)を通じた在庫低減

不採算ブランドの撤退・統合に伴って発生する在庫を適切な方法で処分

政策保有株式の縮減

売却合意できた先から順次売却

保有不動産の整理

企業価値向上に寄与しない不動産については、基本方針に沿って売却を検討

 

 

主要指標(2026年3月期):

 中計リバイズではビジネスモデル改革と成長戦略の実行により、顧客変化への対応力と収益力の強化を図りつつ、資本効率の改善に努めることで、最終年度となる2026年3月においてROE7%水準ならびにPBR1倍超の達成を目指しております。

 なお、資本効率性の改善を図り、筋肉質な企業体質を実現するために、当社グループではROICマネジメントの導入を決定しております。全社としての財務目標管理として活用するだけでなく、成果を的確に測定するパフォーマンスマネジメントの手段としても活用し、現場の改善活動と投資家をはじめとするステークホルダーが期待する収益力・資本効率の改善を定量的に結び付けてまいります。

 

売上収益

2,030億円

営業利益(営業利益率)

130億円(6.4%)

ROE

7%

ROIC

6%~7%

EPS

200円以上

 

棚卸資産(在庫)

・㈱ワコール:2026/3期の在庫回転率2.5回転

政策保有株式

・約300億円の政策保有株式を売却

(2026/3期までに純資産の10%未満に縮減)

保有不動産

・企業価値向上に寄与しない不動産については、基本方針に沿って売却を検討

 

財務方針:

1.ビジネスモデル改革と成長戦略を通じた収益力の改善を最優先課題として取り組むと同時に、棚卸資産(在庫)の圧縮や政策保有株式の縮減、保有不動産の整理を進めることで、資本効率を改善しROE向上を実現

2.将来成長への投資を優先すると同時に、資本効率の改善に向けて積極的な株主還元を実施

 

配当方針:

 当社は、株主の皆さまへの利益配分について、収益力向上のための積極的な投資による企業価値の向上を図りながら、1株当たり当期純利益(EPS)の増加を図るとともに、連結業績を考慮しつつ安定的な配当を実施させていただくことを基本方針としております。

 

キャッシュ・フロー・アロケーション(2024年3月期~2026年3月期):

 中計リバイズ期間においては、構造改革による収益力の向上に努めるとともに、棚卸資産の圧縮や政策保有株式の縮減、保有不動産の整理を進めていきます。また、それにより創出したキャッシュについては、成長投資を優先しつつ、資本効率の向上に向けて、積極的な株主還元を実施する方針です。事業戦略と財務戦略の両面でROEやROIC目標の達成に向けて取り組んでまいります。

 

キャッシュイン

純利益(減損損失除く)

100億円

減価償却費(リース負債除く)

200億円

アセットライト化・デットの活用

800億円

3カ年 創出キャッシュ 約1,100億円

キャッシュアウト

新規・既存事業への投資

400億円

配当還元

150億円

自己株式の取得

550億円

 

 

③「VISION2030」における中計リバイズの位置づけ

 中計リバイズ期間は、「VISION2030」の達成に向けた改革期と位置付けており、計画に則った各施策を着実に実行することで、収益性と資本効率の改善を図る計画です。また、次期中期経営計画以降については、「萌芽期・成長期」と位置付けており、この中計リバイズで実施する改革の成果を刈り取るほか、次の成長に向けた投資を積極的に実施してまいります。中計リバイズの実施を通して、経営の実効性を高めることで、「VISION2030」目標への達成確度を向上させていきます。

 

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④資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応

 当社グループは、2023年11月9日に公表した中計リバイズのもと、「企業価値向上に向けた取り組み」を推進してまいります。企業価値向上(PBR向上)に向けて、中計リバイズで掲げた諸施策の着実な実行により資本コスト(6%程度)を上回る「ROEの向上」と「継続的・将来的な成長期待によるPERの向上」を実現し、中期的にはROE10%以上を達成することを目標としております。

 なお、東京証券取引所からの「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示要請に即し、資本効率の向上に向けた取り組み、及び2026年3月期のROE、ROICをはじめとする目標値については、以下のとおり、当社ホームページに公表しております。

https://www.wacoalholdings.jp/ir/management/mid_term_plan/

https://www.wacoalholdings.jp/ir/library/strategy/files/wacoalpresentation20231109_2.pdf

 

⑤2025年3月期の方針

 2025年3月期については、2023年11月に改訂した3カ年の中計リバイズに沿って、「キャッシュを着実に創出できる体質への転換」をテーマに「収益力の改善に向けたビジネスモデル改革」、「“VISION2030”達成に向けた成長戦略」、「ROICマネジメントの導入」、「アセットライト化の推進」の取り組みを進めております。

 国内事業においては、基礎収益力の回復を優先課題として設定し、コスト構造改革を加速いたします。なお、継続的な円安の影響により原材料をはじめとするコスト高騰が今後も見込まれるため、価格改定や原価低減に関する追加対策を検討・実施することで、これらの影響の最小化に努めます。加えて、顧客ニーズや市場環境の変化に迅速に対応し、お客さまの“自分らしさ”に貢献できる商品やサービスを継続的に提供できる企業へ進化すべく、サプライチェーンの見直しや業績管理体制の強化の取り組みを進めてまいります。

 海外事業については、地政学リスクや物価上昇の継続、それに伴う金融引き締め等による景気減速リスクから、不安定な事業環境が長期化するものと想定しております。そのため、主要各社ともに経営基盤の整備に取り組みつつ、EC成長の実現に向けてデジタルを活用した顧客接点の拡大への取り組みを継続する考えです。

 なお、2024年5月15日に開示した「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ(※)」のとおり、㈱七彩は株式譲渡に伴い当社の連結範囲から除外されることとなります。本件株式譲渡による影響につきましては、2025年3月期通期連結業績予想に織り込み済みです。

 以上の取り組みにより、2025年3月期の連結業績は、売上収益1,830億円、営業利益20億円、税引前当期利益38億円、親会社の所有者に帰属する当期利益32億円を見込んでおります。売上収益は、為替影響による押し上げ効果があるものの、ワコールにおける構造改革(品番集約や赤字店舗の撤退)の影響や七彩の株式譲渡により、減収を計画しております。営業利益は、成長戦略の実施に伴う増収効果に加え、前期のIntimates Online, Inc.(以下、IO社)の事業撤退・清算に伴うワコールインターナショナル(米国)に係るのれんの減損損失と、ワコールの構造改革費用の裏返しにより、20億円となる見込みです。

 年間の主要な為替レートは、1米ドル=145.00円、1英ポンド=191.00円、1中国元=21.00円として計画を策定しております。

 

※ 2024年5月15日付「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」

 https://www.wacoalholdings.jp/ir/topics/files/wacoalholdingsnews20240515_6.pdf

 

主要指標(2025年3月期):

売上収益

1,830億円

営業利益(営業利益率)

20億円(1.1%)

ROE

1~2.0%

ROIC

1~2.0%

EPS

60円

 

棚卸資産(在庫)

・㈱ワコール:2025/3期の在庫回転率2.28回転

政策保有株式

・約200億円の政策保有株式を売却

保有不動産

・企業価値向上に寄与しない不動産については、基本方針に沿って売却を検討

 

(4) 会社の対処すべき課題

当社グループの対処すべき課題は以下のとおりです。

 

①国内:多様化する顧客ニーズや短期化するトレンドに対応できるビジネスモデルへの転換

 多様化する顧客ニーズや短期化するトレンドに対応できるビジネスモデルへ変革し、漸減傾向が続くトップラインの回復・拡大と収益力の回復を図ります。これまでの画一的な商品構成や新商品の納品スタイルを見直し、売れ筋を確実に店頭に届ける仕組みへの変革を進め、売上機会ロスの低減に努めます。また従来の一括生産の方式から、店頭の需要状況に合わせた生産方式に変更することで、売れ筋商品の充足率の改善につなげてまいります。商品の企画・開発においては、既存パターンの活用や企画開発会議等の業務プロセスの見直しにより、開発から納品までのリードタイムを短縮し、顧客ニーズを捉えた商品の投入スピードを速めることで販売活動の改善につなげてまいります。

 

②国内:デジタルの力と自社の強みを活用した“ブランド戦略”と“顧客戦略”の実行

 お客さまの“自分らしさ”に貢献できる商品やサービスを継続的に提供できる企業へ進化すべく、徹底した「顧客起点」でのブランドマネジメントを実行し、提供価値の明確な魅力溢れるブランドを育成します。またお客さまとの深く広く長い関係性を構築し、最適な顧客体験を提供するために、顧客起点のDXを推進します。顧客起点のDXについては、購買データに加え、「顧客の声」や「販売員の接客知見」についてもデジタルを活用して分析し、それを顧客体験の提供に活かしてまいります。さらに販売員によるコンサルティングサービスに加え、3D計測サービスやアプリを活用し、リアルとオンラインで一貫した満足度の高い顧客体験の提供を行うほか、販売員がオンライン上で商品レビューを行うなど、お客さまの体験向上に向けた取り組みを様々な角度から進めてまいります。

 

③海外:次期中期経営計画に向けた成長戦略の実行

 欧米については、顧客の多様な価値観に応えるための商品戦略を推進するとともに、引き続きEC成長の実現に向けてデジタルを活用した顧客接点の拡大、販売エリア・チャネルの拡大への取り組みを推進してまいります。また、中国については感染症に対する行動規制は緩和されたものの、感染症の経験を通して変化した消費者ニーズや消費行動への対応が不十分であり、収益の回復が遅れております。事業の選択と集中に取り組むことで成長軌道への回帰を実現すると同時に、コスト構造改革を実施し、事業効率を高めてまいります。

 

④ガバナンス:経営管理基盤の強化を通じた収益力と資本効率の改善

 資本効率性の改善を図り、筋肉質な企業体質を実現するために、当社グループではROICマネジメントの導入を決定しております。ROICは、全社としての財務目標管理として活用するだけでなく、成果を的確に測定するパフォーマンスマネジメントの手段としても活用し、現場の改善活動と投資家をはじめとするステークホルダーが期待する収益力・資本効率の改善を定量的に結び付けてまいります。

 

⑤その他の課題

 気候変動などの環境問題や人権問題への深刻さは増大しており、適切な対応と予防が必要であると考えております。当社グループは引き続き、複雑化・多様化する社会課題への取り組みを将来の「成長機会」として捉え、事業を通じて「社会課題の解決」と「持続的成長」を両立する「サステナビリティ経営」を推進いたします。マテリアリティ(重要課題)の項目として定めた「顧客への提供価値の最大化」、「従業員ひとりひとりの成長と働きがいの高い組織の構築」、「次世代に向けた地球環境の保全」、「すべての人が自分らしく活躍できる社会の実現」、「持続的成長の実現に向けたガバナンスの強化」への取り組みを通じて、「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を果たすことで、企業価値の向上に努めてまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。これらの将来予測には、不確定な変動要素が含まれており、実際の成果や業績などは、記載の見通しとは異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティ戦略

 気候変動などの環境問題や人権問題はさらに深刻さを増しており、持続可能な社会に向けた取り組みが強く要請されています。当社グループでは、社会からの要請に応えることはもちろんのこと、複雑化・多様化する社会課題への取り組みを将来の「成長機会」として捉え、事業を通じて「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を目指す「サステナビリティ経営」を推進することで、企業価値の向上に努めていきます。

 また、当社グループの企業価値向上を実現するためには、会社のあるべき姿や使命を明確にして行動できる社員を増やすことも重要な課題であります。経営理念の実践者を増やすことで、従業員一人ひとりの自己成長と企業成長を実現してまいります。

 

①ガバナンス

 当社グループでは、「サステナビリティ経営」を推進し、事業を通じた「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を実現するため、2022年4月より、「サステナビリティ委員会」を設置しています。また重要なサステナビリティ課題への対応強化を図るため、「サステナビリティ委員会」傘下に、4つの「部会」を設置しています。「サステナビリティ委員会」は、定期的に取締役会と同日に開催し、サステナビリティ課題に対する具体的な取り組み施策の立案、進捗状況のモニタリング、達成状況の評価を行うこととしています。取締役会は、「サステナビリティ委員会」の委員長である代表取締役社長執行役員から報告を受け、当社グループのサステナビリティ課題への対応方針及び取り組みについて指示を行います(サステナビリティ推進体制図については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要」をご覧ください)。

 2024年3月期は、開催された取締役会17回の中で「サステナビリティ委員会」を合計7回開催しました。主に、「事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減」「資源循環型社会の実現に向けた取り組み」「責任ある調達活動の推進」「責任あるサプライチェーン等における人権尊重の取り組み」に対する課題共有と中期経営計画期間における目標設定ならびに具体的な活動内容について議論及び進捗管理を行いました。

 

推進部会について:

(カーボンニュートラル部会)

 ワコールグループの事業活動における環境影響・環境リスクを低減し、自主的かつ積極的に環境保全の活動を推進するため、気候変動対応やバックオフィスの環境負荷軽減など環境課題に関する活動方針や取り組み、環境保全に関連する戦略投資案件を審議するとともに、進捗状況のモニタリングを行います。

 

(資源循環部会)

 資源循環型社会の実現に向けて、サプライチェーン上の資源・資材の持続可能な利用及び省資源対策、廃棄物の削減・リサイクルを推進するため、環境配慮型資材の調達方針や品質基準を審議するとともに、生産や調達活動における廃棄物削減の進捗状況のモニタリングを行います。

 

(CSR調達部会)

 ワコールグループのCSR調達に関する計画立案と進捗確認の責任を担い、「ワコールグループCSR調達ガイドライン」に定める内容の遵守状況を、製造委託先や原材料調達先の自己評価等によるモニタリングから、分析・評価フィードバック、是正・改善計画、フォローアップという一連のサイクルを機能させることによって、的確に把握するとともに、継続的に是正・改善を行う取り組みを主導します。

 

(人権・D&I部会)

 人権方針に基づく人権尊重の責務が果たされ、その業務執行が適正に行われるよう、人権擁護に関わる教育啓発活動、及び人権デュー・ディリジェンスの実行への助言・提言を行います。また、多様な社員を受け入れ、個々の能力を存分に発揮できる職場環境の実現に向けて、社内セミナーの開催をはじめとした各種施策を実施していきます。

 

②戦略

 世界での人口増加、少子高齢化、デジタル革命の進行、グローバル化、気候変動や人権課題の深刻化など、将来の予測は難しくなっています。当社グループでは、中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」の策定にあたり、マクロトレンドや多様なステークホルダーからの要請事項を考慮に入れつつ、2030年までに想定される事業課題と社会・環境課題を洞察し、「解決すべき社会・環境課題」と「事業成長」の両評価軸からマテリアリティ分析(重要度評価)を行ったうえで、以下のマテリアリティ(重要課題)を設定しています。

 

マテリアリティ(重要課題):

対象

目的

マテリアリティ(重要課題)

顧客

顧客への提供価値の最大化

・パーソナライゼーションの追求による顧客体験価値の向上

・事業領域拡大への挑戦

・商品品質の深化とサービス品質の構築

従業員

従業員ひとりひとりの成長と、

働きがいの高い組織の構築

・自らの可能性を広げ、自信と誇りを持ち活躍できる人材への成長

・共創・協業による高い成果を発揮できる組織づくり

・継続的な従業員の健康増進と健康意識の向上

環境

次世代に向けた地球環境の保全

・環境負荷を低減する事業活動の推進

社会

すべての人が自分らしく活躍できる社会の実現

・社会課題を解決する共創イノベーションの推進

ガバナンス

持続的成長の実現に向けたガバナンスの強化

・透明性の高い経営の実践

・リスクマネジメント体制の強化

・収益性、資本効率の継続的改善

 

③リスク管理

 当社グループの経営全般に関するリスクについては、代表取締役社長執行役員をリスク管理統括責任者とし、代表取締役副社長執行役員グループ管理統括担当を委員長とする「企業倫理・リスク管理委員会」(事務局はリスク主管部署である経営企画部)を設置し、重要リスクへの対応と定期的なモニタリングを行っています。また「企業倫理・リスク管理委員会」は、当社グループ全体のリスク管理体制の運営状況を毎年定期的に取締役会の議長でありリスク管理統括責任者である代表取締役社長執行役員へ報告を行っています。なお各事業部門や子会社で管理可能なリスクについては、各組織が事業活動の中で対応を行っています。詳しくは、「3 事業等のリスク (1)リスク管理体制」をご覧ください。

 また、当社グループのサステナビリティ課題に係るリスクについては、「サステナビリティ委員会」及び傘下の各部会にて、直接操業及び一部上流・下流までを含むサプライチェーン全体への影響を短中長期的な視点で検証するとともに、それらの結果をさらに上部機関である「取締役会」に報告し、最終的に特定・評価するプロセスとなっています。また、それらのリスクの重要度については、事業への影響度や発生可能性、事業戦略との関係性などを勘案し評価しています。同時に、リスクの管理についても「サステナビリティ委員会」及び各部会におけるモニタリングや達成状況の評価を通して実施しています。

 

(参考)人権デュー・ディリジェンスの取り組みについて

 人権デュー・ディリジェンスの運用開始に向けて、当社グループのサプライチェーンにおける潜在的な人権リスクの把握を行うため、社外専門家の知見を活用し、「人権リスクアセスメント」を2023年10月に実施しました。「人権リスクアセスメント」では、デスクトップ調査に加え、取締役、執行役員、マネジメント層が参加する部門横断型のワークショップを開催し、調達過程から販売、消費に至るまでの過程における人権リスクに関して、ディスカッションを行っています。その後、第三者機関との協議を経て、当社グループが優先的に取り組むべき人権テーマを特定しています。当社グループが今後取り組むべき人権テーマは、以下の3点です。

 

人権テーマ1 「調達サプライチェーン上の人権課題の継続的な把握」

人権テーマ2 「職場の従業員や店頭の販売員における職場環境の改善」

人権テーマ3 「消費者の人権と多様性の尊重」

 

 2025年3月期は、人権方針で定める人権デュー・ディリジェンスの運用開始に向けて「CSR調達部会」「人権・D&I部会」が連携し、調達活動におけるライツホルダーの実態調査と対話(インパクトアセスメント)を実施する計画です。また、人権方針で定める人権教育の実施を進めると同時に、継続して消費者の人権と多様性の尊重に向けた取り組みを推進してまいります。

 

④指標及び目標

 当社グループは、「サステナビリティ経営」を推進し、事業を通じた「社会課題の解決」と「持続的成長」の両立を実現するため、11のマテリアリティ(重要課題)に対応する指標を設定しております。なお当社グループでは、2023年3月期の実績が大幅な計画未達となったことを受け、中期経営計画の見直しを行い、2023年11月に公表しました。これに伴ってマテリアリティ(重要課題)の目標数値についても再検討を行っています。目標数値については、2025年3月期中に開示する予定です。

 

顧客:顧客への提供価値の最大化

 

マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

パーソナライゼーションの追求による顧客体験価値の向上

お客さまの感動を生むために、お客さまとのつながりを増やし、お客さまから学ぶ

ワコールグループとつながりを持つ顧客数の拡大

顧客体験を向上させるワコールならではのサービスの体験人数の拡大

期待を超える商品と愛される商品をつくる

顧客データを活用した新製品やサービス開発の推進によるインナーウェア事業の再成長

事業領域拡大への挑戦

お客さまをあらゆる角度でサポートするための、新領域への挑戦

レディースインナー以外の事業成長と収益力の向上

Well-being実現に向けた新規事業の創出

社内リソースの新領域への展開

世界のお客さまに感動を届けるための、グローバル成長の実現

海外での事業拡大

商品品質の深化とサービス品質の構築

時代の要求する品質管理体制及び、品質レベルの追求

商品品質の継続的な監視と改善活動の実施

店頭・デジタルサービス品質の維持・向上

 

従業員:従業員ひとりひとりの成長と、働きがいの高い組織の構築

 

マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

自らの可能性を広げ、自信と誇りを持ち活躍できる人材への成長

世代・役職関係なく、主体的に自己能力を高め、熱意をもってチャレンジする人材育成

自発的なキャリアデザイン、スキルアップの取り組みの強化

熱意を持ってチャレンジできる人材育成と環境の整備

共創・協業による高い成果を発揮できる組織づくり

多様な立場の人が協力し、ミッションを達成できる組織風土の醸成

多様な立場の人が協力できる労働環境の整備

会社のあるべき姿や使命を明確にして行動できる従業員の増加

継続的な従業員の健康増進と健康意識の向上

従業員のこころと身体の健康増進

「生産性」「心身の健康」の向上

健康への理解力(リテラシー)の向上

 

環境:次世代に向けた地球環境の保全

 

マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

環境負荷を低減する事業活動の推進

従業員・消費者双方における環境意識の醸成

事業活動におけるエコ活動の可視化

脱炭素社会の実現

CO2排出量の削減

廃棄物削減の推進

製品廃棄率の低下

資源循環型社会の実現

環境配慮型素材の使用率向上

※詳細については、「(2)気候変動への対応」をご覧ください。

社会:すべての人が自分らしく活躍できる社会の実現

 

マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

社会課題を解決する共創イノベーションの推進

女性のQOL(Quality of Life)向上への貢献

ブレストケア活動の推進

女性のQOL向上に貢献するニーズ(商品・サービス)対応とシーズ開発

ステークホルダーとの継続的な対話を通した女性のQOL向上への貢献

ダイバーシティ&インクルージョンの推進

ダイバーシティ課題(ジェンダーなど)の理解に向けた社内啓発活動の推進

ダイバーシティ課題(ジェンダーなど)の解決に向けた外部ステークホルダーとの対話、共創活動の推進

人権の尊重とCSR調達活動の推進

人権デュー・ディリジェンスの構築・実施、人権教育の推進

CSR調達活動の対象範囲拡大

 

ガバナンス:持続的成長の実現に向けたガバナンスの強化

 

マテリアリティ

(重要課題)

具体的な取り組み

2030年までの非財務目標

透明性の高い経営の実践

実効性の向上を実現する最適なコーポレート・ガバナンス体制の維持・構築

コーポレートガバナンス・コードの実践

取締役会の機能発揮と多様性確保

企業価値を向上させる役員報酬制度の継続的改善

公正かつモチベーション向上につながる評価・報酬制度の構築

10

リスクマネジメント体制の強化

法令遵守の徹底と高い倫理観を持った組織体の構築

企業活動における不適切な行動の防止、役員・従業員一人ひとりのコンプライアンス意識の向上

事業リスクへの着実な対応による組織レジリエンスの強化

重要リスクの選定方法や対応方針の見直し、DXや情報通信技術の運用に伴う情報セキュリティ対策の推進、事業継続体制(BCP)強化

11

収益性、資本効率の継続的改善

経営戦略の実行と役割権限の明確化

中長期戦略の実効性向上に向けた重要業績評価指標の管理強化と費用対効果の検証

成長の実現に向けた事業ポートフォリオマネジメントの実行

適時適切な意思決定を行う執行体制の構築

 

(参考)サステナビリティ委員会(推進部会)の具体的な活動について

CSR調達部会:

目的・役割

CSR調達活動の推進(責任のある調達活動の推進)

3カ年の活動方針(2024年3月期~)

・「人権」「労働慣行」「環境」「倫理」など、社会的要求事項の的確な状況把握と継続的な是正・改善

・実効性、合理性を伴った活動対象工場の拡大

2024年3月期

具体的な活動

・CSR調達活動の対象範囲の拡大

(原材料・染色工場に対するモニタリングに向けた活動を開始)

・CSR調達活動の実効性向上に向けたモニタリングの強化

 

人権・D&I部会:

目的・役割

人権尊重・D&Iの推進

3カ年の活動方針(2024年3月期~)

・人権リスクの特定、人権デュー・ディリジェンスの実施体制の構築

・改正障害者差別解消法、LGBTQ+顧客への対応方針の策定・実行

・D&I推進に関するロードマップ策定・開示

2024年3月期

具体的な活動

・人権リスクアセスメントを通じた重要リスクの特定

・インクルーシブな売場環境の実現に向けた検討の開始

※カーボンニュートラル部会、資源循環部会の活動については、「(2)気候変動への対応」をご覧ください。

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取り組み)

 地球や企業活動に重大な影響を及ぼす気候変動は、当社グループの経営にとってリスクであると同時に、新たな事業機会をもたらすものと考え、健全な企業としての発展と持続可能な社会の実現を目指して、環境課題の解決に向けた取り組みを推進するとともに、環境情報に関する開示の拡充に取り組んでいます。

 

温室効果ガス排出量の削減に向けて:

 脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進め、サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出量削減をより確実なものにするため、2021年よりワコール事業(国内)のサプライチェーン全体における温室効果ガス排出量(Scope3)の算定を開始しました。また、2030年に向けた国内事業所における温室効果ガス排出量(Scope1&2)の削減目標を開示したほか、2022年6月には、ワコール事業(国内)のサプライチェーン全体における温室効果ガス排出量(Scope3)の削減目標も開示しています。

 

削減プロセス:

 現在、サステナビリティ委員会傘下のカーボンニュートラル部会が中心となり、温室効果ガス排出量の削減目標の達成に向けた具体的な行動計画を検討しています。目標として掲げる国内事業所の温室効果ガスの排出量実質ゼロに向けては、流通センターに新たな太陽光発電システムを導入するほか、既存事業所においても順次再生可能エネルギーへの切り替えを進める方針です。一方、サプライチェーンにおける排出量の削減に向けてはサプライヤーとの協働が不可欠となります。削減に向けた行動計画やプロセスを検討するとともに、サプライヤーへの温室効果ガス排出量削減の働きかけを行う予定です。

 

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応:

 当社グループは、2021年9月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言へ賛同を表明しました。また、TCFDの提言に沿った、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目についての情報については、2022年6月末に開示しています。

 

①ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ戦略のガバナンスに組み込まれています。詳しくは、「(1)サステナビリティ戦略 ①ガバナンス」をご覧ください。

 

②戦略

 当社グループでは、分析可能なデータが揃った事業より順次シナリオ分析を実施し、気候変動問題のリスク及び機会の影響評価を行っています。

 

リスク:

 当社グループの事業・戦略・財務計画などに影響の大きいリスクとしては、暴風雨、洪水など異常気象の激甚化や、炭素価格の上昇などがあると考えています。

 

機会:

 当社グループは、製品廃棄の少ない製造・販売体制を構築するなど、環境に配慮した活動を推進しています。今後も「環境目標 2030」の達成を目指し、環境負荷の少ない事業活動を推進していきます。消費者や社会の環境に対する意識は高まっているため、当社グループのこのような事業活動は、売上拡大の機会になると考えています。

 

TCFD提言に基づくシナリオ分析:

 当社グループは、TCFDの提言に従い、2023年3月期に気候変動に対するシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析ではグループ全体に対する売上高の比率が最も高い㈱ワコールを対象に、2℃及び4℃の気温上昇時の世界を想定し、リスク・機会の抽出と対応策を検討しました。シナリオ分析の結果、2℃上昇時は環境意識の高い消費者からの支持の獲得などポジティブな影響がある一方で、炭素税の導入などの移行リスクが事業にネガティブな影響を及ぼす可能性があることがわかりました。また、4℃上昇時は暴風雨、洪水をはじめとする異常気象の激甚化などの物理的リスクが事業にネガティブな影響を及ぼす可能性があることがわかりました。今後も順次シナリオ分析の範囲を拡大し、グループ全体として詳細なリスク分析を行えるよう取り組みを進める予定です。

 

 

リスク・機会の種類

影響※

対応策

2℃

4℃

移行

政策・法規制

炭素税の

導入

リスク

環境税導入により諸費用が増加

・再生可能エネルギーの導入とともに、省エネ・創エネ活動などの推進により、コスト増加を回避または軽減

・サプライヤーと協働でCO2排出量削減を推進

電力小売価格の上昇

リスク

再生可能エネルギー導入などに伴う電力価格の上昇

・省エネ・創エネ活動などの推進により電力調達量を削減し、コスト増加を回避または軽減

評判

消費者意識の変化

機会

環境配慮型の当社製品への消費者需要の拡大

・再生繊維などの環境配慮型素材の使用比率を高めるなど、地球環境にやさしい事業活動を推進

・品質の高いものづくりを推進し消費者に長く使用いただくことで、消費者の衣料廃棄量の削減へ貢献

物理的

急性

異常気象の深刻化・増加

リスク

異常気象増加に伴う店舗営業日の減少

・CX戦略の推進によりビジネスモデルを変革

店舗の売上減少をECでカバーできる販売体制を構築

慢性

降雨日の増加や平均気温の上昇

リスク

気象パターンの変化に伴う在宅機会の増加、外出機会の減少

・ノンワイヤー商品など、在宅ニーズに対応する製品開発を強化

・自社ECの利便性を高めることにより、消費者の購買機会及び意欲の低下リスクを軽減

機会

機会

気候変動に伴うインナーウェアへの意識の高まり

・気候変動による消費者ニーズの変化を認識し、ニーズに対応する機能性製品の開発の強化

※影響は発生可能性と影響度を勘案し、評価しています。

発生可能性:影響度大(3年以内に一度以上)、中(3年~10年に一度)、小(10年以上に一度)

営業利益に対する影響:影響度大(5億円以上)、中(1億円以上)、小(1億円未満)

 

③リスク管理

 気候変動に関するリスクは、サステナビリティ戦略のリスクに含めて管理しています。詳しくは、「(1)サステナビリティ戦略 ③リスク管理」をご覧ください。

 

④指標と目標

 当社グループは、気候変動問題の解決と脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めるため、2030年に向けた独自の環境活動目標「環境目標 2030」を掲げています。

 

環境目標 2030

1.自社排出量(Scope1&2)「実質ゼロ」<対象:国内事業所>

温室効果ガスの自社排出量(Scope1&2)実質ゼロを目指し、順次再生エネルギーへの切り替えを実施

2.製品廃棄「ゼロ」<対象:㈱ワコール>

製品廃棄ゼロを目指すとともに、工場での残材料破棄削減に向けた取り組みを推進

3.環境配慮型素材の使用比率「50%」<対象:㈱ワコール>

再生繊維やリサイクル糸などに切り替えるなど、環境配慮型素材の使用比率を「50%」までに高める

4.サプライチェーン排出量(Scope3)「20%削減」<対象:ワコール事業(国内)>

温室効果ガスのサプライチェーン排出量(Scope3)20%削減を目指し、パートナー企業との取り組みを推進

 

 なお、当社グループのCO2排出量は以下のとおりです。

(国内の対象事業所:本社、スパイラルビル、浅草橋ビル、麹町ビル、京都ビル、新京都ビル、守山流通センター、伏見流通センター、㈱ワコールマニュファクチャリングジャパン(長崎・熊本・福岡・福井・新潟))

(海外の対象工場:ベトナムワコール、ミャンマーワコール、広東ワコール、大連ワコール、ワコールインターナショナル(ドミニカ工場)、ワコールヨーロッパ(スリランカ工場)、A tech、G tech)

 

スコープ1 CO2排出量の推移(単位:t-CO2)

 

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

日本

1,611

1,736

1,701

1,578

対2020年3月期

△10%

△3%

△5%

△12%

 

スコープ2 CO2排出量の推移(単位:t-CO2)

 

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

日本

4,103

4,369

4,179

4,245

対2020年3月期

△12%

△6%

△10%

△9%

 

スコープ2 CO2排出量の推移(単位:t-CO2)

 

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

海外工場

9,282

11,203

対2020年3月期

 

※海外事業については、縫製工場及び原材料製造工場における自社排出量(Scope2)の把握を開始しました。2026年3月期までに削減目標を開示する計画です。

※その他の環境データについては、当社ホームページをご覧ください。

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/environment/activities/

 

(参考)サステナビリティ委員会(推進部会)の具体的な活動について

カーボンニュートラル部会:

目的・役割

脱炭素社会の実現(環境負荷の低い事業活動の推進)

3カ年の活動方針(2024年3月期~)

・国内:温室効果ガス排出量の削減に対する行動計画の策定・実行

・海外:温室効果ガス排出量の試算、削減目標の策定

2024年3月期

具体的な活動

・国内事業所の温室効果ガス排出量削減に向けて、影響度の高い5つの事業所の具体的な削減計画を策定

・海外9拠点工場の電力係数の調査により、海外工場における温室効果ガス排出量を算定

 

資源循環部会:

目的・役割

資源循環型社会の実現と廃棄物削減の推進(㈱ワコール対象)

3カ年の活動方針(2024年3月期~)

・環境配慮型素材の使用比率の引き上げ(2023年3月期の使用比率17%を、26%まで引き上げ)

・製品廃棄の削減:1.1%水準(2020年3月期水準)へ回帰

・工場、仕入先における残材料の廃棄削減(目標:2021年3月期に対して約3割を削減)

2024年3月期

具体的な活動

・環境配慮型素材使用比率の向上に向けて、2026年3月期における使用比率の目標を検証

・環境負荷の低い廃棄方法の検討

・アップサイクル活動の推進

 

(3)人的資本

 基礎研究、商品の企画・開発から材料調達、生産、販売に至るまでのバリューチェーンについて、その大半をグループ内のリソースによって築いている当社グループにとっては、「人財」を資本と捉え、その価値の最大化を目指すことは、経営上の重要な取り組みとなります。当社グループの従業員が「やりがい・働きがい・生きがい」を感じながら働ける魅力ある企業風土を実現することで、社員一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮し、生産性や競争力の向上といった組織の成果に結びつき、持続的な成長につながっていくものと考えています。

 

①ガバナンス

 各事業会社が各社の事業戦略に基づき人事戦略を展開していくうえでは、個社の人事部門が主体となって、人事課題に対する具体的な取り組み施策を立案、実行し、進捗状況のモニタリング、達成状況の評価検証というサイクルを回しています。一方、グループ全体の人的資本に関するガバナンスを有効に機能させるために、人権・DE&Iやコンプライアンスの観点を中心に、各社の取り組み、整備の状況について定期的にモニタリングを行い、状況に応じた指示や要請を行っています。

 中核会社である㈱ワコールでは、社長を含む取締役が参加する「人財開発会議」を設置しており、人財戦略に関する方針の検討、策定、個別の人事課題の解決に向けた方向性の確認を行っています。

 

②戦略

 事業環境の不確実性がますます高まる中、ビジネスモデルの変革を早期に進めていくうえで、担い手となる人財に関する戦略の重要性は増すばかりです。とりわけ日本国内においては少子高齢化による労働力人口の減少が進み、これまで以上に人財獲得競争が激化することは確実であり、魅力ある企業であるための人財戦略を策定、実行していく必要があります。当社においては、果断な構造改革と成長戦略の策定・実行を並行して、またスピードを上げて進めていくためにも、従業員個人のさらなる成長に資する施策に加え、個の力を組織の力に結びつけるための環境や風土への変革を併せて進めてまいります。

 ㈱ワコールにおいては、収益性の早期改善のための施策と並行して、人財の獲得、人財のリテンションの両面で、中長期的に選ばれ続ける会社であるために、①人財開発(キャリア自律の支援・成長機会の提供)、②組織開発(チーム力の最大化のためのマネジメント力強化)、③風土醸成(働きがいを支える制度・仕組み、DE&I、Well-beingの実現)の3つの軸で取り組みを進めています。また従業員の60%超を占めるビューティーアドバイザー職(販売職)については、個別の人事課題の解決のために、独自の取り組みも行っています。

 なお、当社グループにおいては従業員の所属が各事業会社(本籍が当社の従業員は0)であり、人事戦略・施策は個社の事業戦略に連動して策定し、またそれぞれの労使関係において協議、協定の上実行、検証しているため、連結会社ベースでの開示を行うことは困難であり、現時点では中核事業会社である㈱ワコールの戦略、施策の実行状況を記載しています。連結ベースでは、グループの人的資本に関するガバナンスの強化、具体的には人権・DE&Iやコンプライアンスの観点が主たる課題と捉えており、その課題に関する取り組みが進んだ段階では、連結会社を含む開示を行うよう、引き続き検討してまいります。

 

人的資本戦略(対象:㈱ワコール)

基本方針

「企業価値向上に向けた人財育成、組織開発」を行い、「会社の成長」と「人的資本への投資・人財の成長」の好循環を実現する。とりわけ今中期経営計画(リバイズ)においては、個の成長に加え、個の力を組織の成果に結びつけるための取り組みにより注力し、好循環への道筋をつける。

求める人物像

“自律革新型人財”

経営理念を尊重し、具現化できる人財

既成概念や現状の枠組みを見直し、熱意をもって革新できる人財

主体的に自己の能力を高め、新たな可能性にチャレンジできる人財

良好なチームワークを構築し、組織目標に貢献できる人財

健康的で健全な生活習慣を実践できる人財

経営戦略に基づく人的資本の課題

<方向性>

少数精鋭の組織運営の実現=個の成長×組織力の向上×魅力ある風土の醸成

早期に収益力を改善するための要員計画マネジメントと並行して、中長期的な成長のための人財育成・組織開発・風土改革を実行する。

<重点課題>

●収益力の改善:要員計画マネジメントの継続実施

・希望退職実施後の要員状況を部門別に確認し必要に応じて再配置、採用を実施し適正化を図る。

・内勤社員の要員の妥当性をモニタリングする指標を部門主導で設定、運用するサイクルを構築する。

●成長軌道への回帰:個の力を組織の成果につなげる施策の強化

・部門特有の専門性向上への支援を強化するプログラムを新設する。

・ワークスタイル・ワークプレイス改革を通じて、組織の活性化に貢献する。

(ワークプレイス改革は、アセットライト化のための不動産施策と連携)

・個性豊かに能力発揮し組織成果に貢献するための環境を整備する。

●経営基盤の強化:従業員が持てる力を最大限発揮し成果に貢献し、適正に報いられるための環境整備・風土醸成

・職務価値に連動した人事体系の導入を検討、実施する(2026年3月期にかけて段階的に実施)。

・エンゲージメント調査を継続実施し、他の組織診断指標との相関分析を行い、打ち手の精度向上に繋げる。

・人事施策実施の前提となる人事関連IT基盤・データベースを整備する。

人的資本の最大化に

向けた取り組み

Ⅰ.人財獲得

Ⅱ.成長支援(育成・リスキリング・キャリア形成)

Ⅲ.マネジメント力の強化

Ⅳ.DE&Iの推進

Ⅴ.Well-beingの実現

 

 重点課題の一つである「要員計画マネジメント」に関する施策として、2024年3月期に希望退職を実施しました。その結果、募集人数150名に対し215名の応募となりました。施策実施後の総員は2023年3月末に対し187名の減少、2020年3月末に対しては1,325名の減少と、事業規模に応じた要員の適正化が進みました。労務構成については、管理職の人員が2024年3月対比で57名減少(222→165、部長以上△20、課長級△37)、平均年齢は△2.9歳(44.6歳→41.7歳)と、組織構造のスリム化・フラット化と共に、適切な世代交代が進みました。また管理職に占める女性の比率も2.9%増加(32.2%→35.1%)しました。

 より少数精鋭の組織運営を実現すべく、意思決定のスピードを加速させ、より現場へ権限委譲する組織体制へ移行していくためにも、個の成長とマネジメント力の向上を並行して進めています。

 

人的資本の最大化に向けた取り組み

 

Ⅰ.人財獲得

 当社グループは、先人たちが前例にこだわることなく今日の企業グループを築いてきたように、今後も大胆に、また果敢にチャレンジする風土を大切にしながら、新風を吹き込み新しい価値を創造する多様性の尊重こそが競争の源泉になると考えています。また少子高齢化、労働力人口減少の環境下で、人財のリテンションにも力を入れる必要があります。

 ㈱ワコールにおいては、新卒採用と同様に経験者採用(第2新卒採用、キャリア採用等)にも力を入れております。今後も引き続き、経営幹部候補人財、グローバルやEC、DX等不足する専門人財の補完など、総合職の採用人員の3~5割程度を経験者採用としていく予定です。

 また、複数ある職種の中でも特に人財確保が困難なのはビューティーアドバイザー職(販売職)です。人財確保施策として、2020年8月から「配偶者帯同及び介護のための勤務地変更制度」を開始し、地域限定採用である販売職が自己都合で転居した場合でも、一定の条件を満たせば転居先への勤務地変更を可能にし、就業継続できるしくみを整えています(2024年4月末時点の制度利用者累計:43名)。また、2022年4月からは退職者のネットワーク「BANK(BA Alumni Network) )」の運用を開始し、各種の情報提供や復職支援、友人のご紹介等、退職後も関係を継続できるしくみを構築しています(2024年4月末時点の登録者:87名)。

 

㈱ワコールの主たる職群の採用状況

職群

区分

性別

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

総合職

経験者

男性

2

4

1

4

1

女性

6

6

1

6

15

合計

8

10

2

10

16

新卒

男性

10

13

7

6

2

女性

13

16

16

10

10

合計

23

29

23

16

12

経験者採用の比率

26%

26%

8%

38%

57%

販売職

経験者

男性

0

0

0

0

0

女性

227

116

8

6

14

合計

227

116

8

6

14

新卒

男性

0

0

0

0

0

女性

48

53

25

16

14

合計

48

53

25

16

14

経験者採用の比率

83%

69%

24%

27%

50%

クリエイター職

技術・研究職

経験者

男性

0

0

0

0

0

女性

0

3

0

0

0

合計

0

3

0

0

0

新卒

男性

0

0

0

0

0

女性

12

7

0

0

0

合計

12

7

0

0

0

経験者採用比率

0%

30%

0%

0%

0%

 

Ⅱ.成長支援(育成・リスキリング・キャリア形成)

 当社グループでは、従業員一人ひとりの個性や強みが発揮される企業への変革を目指し、学びの機会の提供やキャリアアップの支援など、一人ひとりの成長を支援する各種研修制度を整えています。

 

<人財育成>

 ㈱ワコールでは、「ワコールの発展は、ワコールの社員一人ひとりの資質の向上とその協力によって実現する」という考え方のもと、経営理念を実践できる人財の育成を目的に、従業員のキャリア形成と能力開発を支援する研修プログラムや従業員の主体的な学びをサポートする自己啓発支援制度を整備、アップデートし続けることで、従業員の成長を支援しています。

 2019年4月より運用を開始した人財育成体系「WACOAL TERAKOYA」について、ブラッシュアップを行いました。

新型コロナウイルス感染症を経て急速に変化したお客様の購買行動、ニーズに対応するためにも、教育・研修体系を見直し、これからのビジネス環境に適応した人財の育成につなげていきます。新たな育成体系では、階層別研修においても一律のメニューではなく個々の成長に合わせた選択を可能にしています。また、組織の専門性の強化を目的とした「部門別マスタリー研修」を導入し、個の成長、能力発揮が組織の成果として結実するための施策を強化します。さらには、異業種との学び、交流の場に手挙げ制で参加できる機会を増やすことで、主体性や多様性を醸成するとともに、社内では得られない知見、より幅広い視野を持った人財を育成し、革新性の向上につなげます。これらにより、経営理念を実践し、新たな価値を創造できる人財の育成を通じてワコールの持続的な成長を実現していきます。

 販売職の育成においては、より多様化するお客さまのニーズに応え、ご満足いただくために、「顧客対応力(実学)」と「人間力(道学)」の両面の向上に取り組んでいます。具体的には、2022年4月より㈱グロービスの「GLOPLA LMS (Learning Management System)」という自律的な学びのプラットフォームを活用し、成長機会の提供、キャリアアップ意欲の醸成につなげています。また、主体的なキャリア形成の機会として、総合職への転換を目指すコースを新設し、2024年4月時点では69名の販売職がコース選択を行い、さらなる能力向上に取り組んでいます。

 

人財育成プログラムの例

プログラム名

実施目的

一人当たりの

研修時間

年間参加人数

2023年3月期

2024年3月期

階層別研修

役割・資格の変化に伴う、期待役割の認識及びマインドセットを目的に実施します。同時に会社の方向性と自身のキャリアビジョンを考える機会とします。

1~6日

(研修による)

684名

530名

ビジネススキル

ビジネスマンとして求められる必須スキルを、社内のみならず社外人財との交流を通して学ぶことで、社内外で通用する普遍的なビジネススキルを体得できます。

7.5時間

61名

94名

ワコールアカデミー

ワコールにおける社内ナレッジの共有、知識伝承、組織開発等を目的に社内外の講師による研修・セミナーを開催します。

7時間~

1,217名

1,515名

Global Talent Development

事業のグローバル化が進む中、グローバルコミュニケーションスキル(業務遂行能力、語学力、異文化適応力等)を発揮できるグローバル人財を育成します。

海外業務研修

2年

4名

3名

セルフラーニング

Eラーニングを活用した「いつでも、どこでも」学べるコンテンツ提供と主体的な能力開発・自己研鑽を支援する制度があります。

自己啓発援助制度

160名

244名

通信教育・Eラーニング

2,138名

935名

 

<リスキリング>

 ㈱ワコールでは、事業成長や新規事業に必要なスキルを持った人財を育成するため、リスキリング(学び直し)による人財育成に取り組んでいます。2024年3月期においては内勤業務の労働生産性向上を目指したITリテラシーの底上げ策の一環としてオンライン学習ツールの運用を開始しました。従業員が最新のビジネストレンドや技術を学べる環境を整備しています。また自己啓発コミュニティの運営を通して、従業員の自主的な学びを支援し、組織全体の競争力を高めています。

 

<キャリア形成>

 ㈱ワコールでは、従業員が自らのキャリアを主体的かつ前向きに切り拓いていくことを目的にした、キャリア形成に伴う多様な制度・仕組みを拡充し、キャリア自律を促進することによって働きがいの向上と組織の活性化を目指す「Meet My Careerプログラム」を導入しております。このプログラムでは、従来型の自己申告やキャリア面談、研修・自己啓発、異動に加えて、「社内公募制度」や、自ら異動先を希望できる「社内ジョブチャレンジ制度」、グループ外の企業や団体への出向によって社内では得られない経験を可能にする「社外キャリアチャレンジ制度」、所属部門に籍を置いたまま他部門の業務を体験できる「社内インターン制度」、長期休職制度、副業支援など、従業員が主体的にキャリア・可能性を切り拓くための選択肢を体系的に示すことで、従業員に対して多様な働き方の能動的な実践を促し、同時に今までと異なるスキルを身につけ、磨く機会を供し、個々人の多様なキャリアの実現を促進することを目指しています。「社内公募制度」についてはグループ会社も対象とする事によってキャリアの選択肢をより広げるとともに、従業員と組織の双方が積極的にキャリア開発や人財獲得に取り組めるしくみを取り入れています。

 

 2024年3月期からは、総合職の新入社員に対して、初期配属だけでなく中長期のキャリアを見据えたキャリア研修を行うとともに、1on1面談を実施し、部門と新入社員をマッチングする「Meet My First Career」の取り組みを行なっています。これにより、若い世代のニーズに応えながら、中長期のキャリア支援や組織の活性化を図っています。

 今後も、従業員が自発的にキャリアを広げる機会を提供し続け、多様な人財の育成に取り組んでまいります。

 

プログラム名

実施目的

人数(人)

2023年

3月期

2024年

3月期

ジョブチャレンジ制度

社内公募制度

自律型人財形成の一環として

「ジョブチャレンジ」自らの意思と意欲を前提に自己異動希望を示す者に、ジョブローテーションの機会を支援し、組織全体の活性化につなげる。

「社内公募」組織自らが求める人財を得ることで部門の強化を図り、社内組織全体を活性化につなげる。

18

25

社外キャリアチャレンジ

変化の激しい時代において、社外での就業経験を通して多様な視点や価値観を取り入れ、知識のアップデート、リスキルを行うことで、適応力やレジリエンスを高めることにつなげる。

38

42

副業制度

1.社外での活動に携わる中で、自身のスキル・能力・専門性を高め、本業での発揮能力を高める。

2.今後のキャリアを見据えたうえで、社外ネットワークの構築及び新たな知見、スキルを獲得する。

3.自分の趣味や興味のあることに取り組み、更なる収入を得ることで多様なライフの充実を実現する。

38

30

長期休暇制度

「自己啓発・自己開発を目的とした場合」と「配偶者が転勤、または遠隔地に居住する者と婚姻した後」において、一定期間の休職を認めることにより、就業継続を支援する。

5

10

 

Ⅲ.マネジメント力の強化

 中核会社である㈱ワコールは、売上の低迷と固定費率の高いコスト構造を背景に収益力が低下しており、トップラインの成長回帰と収益力の改善に向けて、中期経営計画で掲げる事業戦略の見直しを進めています。経営の実効性を高めるために、的確かつスピーディーに意思決定を行い、組織の成果に貢献するためのマネジメント力の強化は極めて重要な課題であり、改めてサクセッションプランに基づくマネジメント人財の発掘、育成、任用に取り組みます。また、組織力の強化の観点からは、健全なフィードバック文化の醸成も必要であると認識しています。ビジョンの実現と戦略を実行でき、かつ個の力を組織の成果に結びつけるためにメンバーを動機づけることができるマネジメント人財の確保・育成の取り組みを推進していきます。

 

<マネジメント人財の育成>

 2025年3月期においては、引き続きシニアマネジメント向けの経営理念浸透策の一環として実施するトレーニングと、全管理職を対象とした、イノベーションの源泉である多様性の推進と組織開発の基盤である心理的安全性、アンコンシャスバイアスの基礎知識の習得に取り組む計画です。

 また、各本部と人財育成方針や支援方法等を随時共有し、各部門での人財育成がより図れるよう、定期に部長級との情報共有・対話の機会を設定し人的資本戦略の確度を上げていきます。

 

<評価制度の見直し>

 人財の多様性を高めつつ、より生産性の高い少数精鋭の組織づくりを進めています。また、それらのベースとなる「公正な評価や処遇」に向けて随時検討を行っており、フィードバック文化の醸成ならびに評価結果への納得度を高めることで、組織力の強化を図っています。2025年3月期には評価のしくみ、制度を一新する予定です。

 特に販売職に関しては、マネージャー1人当たりのマネジメント対象人数が100名を超えており、十分な対話の機会が提供できていないことが課題でした。2021年4月より「評価助言者制度」を本格稼働させ、リーダー層(スーパーバイザーや店長・副店長等)に評価や人財育成に関する責任と権限を委譲し、併せてリーダー層に対する360°評価を実施する等、相互にフィードバックし合う文化を醸成してきました。2024年4月には「エリアマネージャー」を新設し、より権限委譲を推し進め、現場レベルでの人財マネジメントが有効に機能する体制づくりを進めます。

 

<処遇体系の見直し>

 組織のスリム化に伴う権限と責任範疇の拡大に対し、マネジメント層各ポジションの役割の大きさ(職務価値×ジョブサイズ)に連動した処遇体系を構築しました。これまで一律であった課長職の役割給を役割の大きさに応じて変動させることで、従業員の納得度ならびにエンゲージメントの向上、そして個人のキャリア形成の一助となることを狙いとしています。このほか、経営・事業戦略の方向性に連動し、主要ブランドを統括する「ブランドマネージャー」と、成長セグメントを主導する「成長戦略ディレクター」を新設、前述の「エリアマネージャー」も含め、担う役割の大きさに応じた処遇を実現しています。また、成果やパフォーマンスに応じたメリハリのある処遇を実現していくため、まずは属人的な手当や福利厚生の見直しに着手し、改廃によって捻出された原資を全従業員に再配分しています。

 

Ⅳ.DE&Iの推進

 当社グループは、従業員一人ひとりの働きがいを高める仕組みを追求しつつ、人的資本の量的・質的な適正化を図ることによって、健全な企業風土と強固な経営体質の構築を進めております。多様な人財や価値観を受容し相互に信頼関係を深め、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる職場環境の実現を目指しております。引き続き、多様なキャリアパスや働き方の選択肢を拡充させるほか、新しい人事評価制度の導入を進めるなど、変化の激しい市場に対する組織の意思決定において、従業員の多様性を活かすことができる人財施策を実行してまいります。

 

<女性活躍>

 ㈱ワコールは、お客様そして従業員の多くが女性であること、より多様な価値観を経営の意思決定に反映する必要があることから、女性の活躍推進が重要な経営課題であると捉えています。そのため、女性特有のライフステージに応じた就労環境を整備し、より柔軟な働き方を促進するとともに、性別や年齢に拘らず能力や成果に応じて昇格・登用されるしくみを整備しています。なお、㈱ワコールは2021年2月に女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良であるとして、厚生労働省から「えるぼし認定」を取得いたしました。

 

<女性の管理職への登用>

 ㈱ワコールでは、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しており、2025年3月期までに課長級以上の女性管理職比率を30%以上に高めることを目指しておりました。2024年3月1日時点の課長級以上の管理職に占める女性比率は32.2%、2024年5月1日時点では35.1%と目標を前倒しで達成したため、現在新しい一般事業主行動計画を策定中です。女性管理職比率としては30%を上回っていますが、より重要な意思決定に関わる部長以上に占める女性比率が依然として低いため、部長級以上での女性管理職比率を高めることに取り組んでまいります。

 多様な人財の価値観を経営の意思決定に反映するため、性別を問わず、早い段階からリーダー適性の高い人財の発掘を行い、経営幹部候補への育成機会の提供をさらに進めてまいります。また社員の自律的な成長をサポートしつつ、様々な事業、職務の経験を促して、継続的にキャリア意識の醸成に取り組み、経営幹部を担う人財の育成を進めます。

詳しくは当社ホームページに掲載しておりますのでご参照ください

 

:女性活躍推進法に基づく行動計画

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/resource/diversity/

:ESGデータ集(ダイバーシティ&インクルージョンほか)

https://www.wacoalholdings.jp/ir/library/esg_presentation/

:(厚生労働省HP) 女性の活躍企業データベース・「株式会社ワコール」

https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/detail?id=284

 

<男女間の賃金差異>

 女性活躍の一つの指標である男女の賃金の差異は、当社・㈱ワコールで49.2%(正社員50.0%、パート・有期社員60.2%、総合職70.0%、管理職93.2%)となっています。当社では、同一の役割であれば男女で賃金の格差は設けていないため、この差は、当社・㈱ワコールで①管理職における男性比率が65%程度あること、②総合職採用、特に新卒採用における女性比率が年々高まっており、結果として管理職未満の層で入社10年以下の社員においては女性社員の比率が高いこと(10年以下134名、56.3%、10年超38名、35.2%)、③女性社員に占める割合が、相対的に賃金水準が高い総合職に対し販売職のほうが圧倒的に比率が高いことによるものです。

 男女の賃金の差異の解消に向けて、総合職における新卒採用や経験者採用で女性比率を高めているほか、年齢や性別に関係なく能力による登用を行い、管理職や役員の女性比率を高めてまいります。

 

<外国人の管理職への登用>

 当社グループは、世界の国や地域で事業を営む企業グループとして、米国や欧州をはじめとする海外各法人の代表(社長)及び重要な経営ポストに現地人財を登用しております。また、㈱ホンコンワコール及びフィリピンワコール㈱の代表(社長)は女性が務めております。今後も引き続き、海外各市場での顧客視点による事業拡大、競争優位性の強化のために、国籍を問わない多様な現地人財の採用と重要な管理職ポストへの登用を継続的に推進してまいります。

 

<ワークライフバランス>

 ㈱ワコールでは、従業員が豊かな人生を送り、仕事において持てる能力を最大限に発揮できる職場環境の整備に取り組んでいます。この取り組みの一つ、仕事と育児の両立支援では、当事者だけでなく周囲でサポートするメンバーの双方にとって働きやすく働きがいのある職場を目指し、制度や風土の整備に取り組んでいます。また、次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づいた行動計画を策定し、目標達成に向けて取り組みを行った結果、2018年には3回目の「くるみん」認定に加え、「プラチナくるみん」の認定を取得しました。従業員が仕事と家庭だけでなく社会とのつながりを積極的に持つことによって、従業員個人の中での経験やスキルの多様性を増し、仕事におけるイノベーション創出につなげられるよう、従業員が自身の時間の使い方を柔軟にできるような仕組みを引き続き作っていく予定です。

 

<障がい者雇用>

 当社グループでは、全員がいきいきと働き続けるために必要な研修の実施や、一人ひとりの声を聴くための個別面談を通じて、環境改善、就労支援をしています。また、外部の支援機関と積極的に連携することで、専門家の知見を得て定着支援のためのサポートを実施しています。2018年2月には、障がい者の雇用促進と活躍機会の創出を目的にワコールアイネクスト㈱を設立し、2018年12月に障害者雇用促進法に定める特例子会社の認定を受けました。

 ワコールアイネクスト㈱では、業務範囲を限定せず、一人が複数の業務を担当する「マルチタスク」や、業務を分業して複数で請け負う「ワークシェア」など、個々人の能力開発を促す柔軟な働き方を採用し、一人ひとりがやりがいを持ち、成長を実感できる職場の実現を目指しています。法定雇用率を守ることは企業として必要なことですが、数値としての目標ではなく、ワコールの掲げる相互信頼のもと、すべての人が活躍し、成長できる職場づくりにグループ全体で取り組むことで、多様性を活かす社会の実現に貢献していきます。

 

:障がい者雇用や再雇用制度等については、当社ホームページをご参照ください。

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/resource/diversity/

 

<多様なお客さまへの対応方針に基づく対応>

 2024年度より、多様なお客さまへの対応方針(インクルーシブな売場づくり)を明確にし、ワコールが人権尊重の取り組みに向き合っている姿勢を表現していきます。その為に、販売部門の管理職、役割任用者を対象に説明会を実施し、「ビジネスと人権」の社内啓発活動をスタートさせています。

 

Ⅴ.Well-beingの実現

 中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」で掲げる「高い感性と品質で、ひとりひとりのからだとこころに、美しさと豊かさを提供し、『世界のワコールグループ』として進化・成長する」ことを実現するには、重要なステークホルダーである従業員のやりがいを高め、組織全体の生産性を向上させることが不可欠です。

 ㈱ワコールでは、従業員一人ひとりの働きがいや幸福度の向上こそ、高い生産性を実現する原動力と捉え、従業員とのエンゲージメント向上の一環として、Well-beingの実現のための施策を実行していきます。

 

<多様な働き方の推進>
 ㈱ワコールは、フレックスタイム制勤務の促進、スーパーフレックスタイム制の導入、勤務地限定制度の運用などを組み合わせ、いかに労働生産性を高めることができるかといった意識と行動変容を求めた取り組みを推進しています。実績・成果を重視する組織改革を進める一方で、多様な意見、価値観を認め合いビジネスパートナーとして個々を尊重する組織風土づくりに注力しています。新型コロナウイルスの感染予防対策として一気に普及したリモートワークですが、2024年4月からは、「成果・パフォーマンスを最大化するためのワークスタイル」として、コミュニケーションを充実させることを目的に、一定の出勤を求めながら継続しています。引き続き、労働生産性を高め、個人の時間の使い方の選択肢を柔軟にしていけるよう、働き方改革を進めていきます。

 なお、現在京都地区の事業所を再編するREBORNプロジェクトを実施しています。共創と変革を生み出し、価値創造を加速させるワークプレイスを目指し、オフィスだけでなく、働き方も、新たなワコールのワークスタイルとして組織やフロアを超えてオープンなコミュニケーションを取れるよう、変革していきます。

<健康経営>

 ㈱ワコールでは「社員の健康は、持続的成長のための重要な資産」と位置づけ、会社・健康保険組合・労働組合が三位一体となって、健康経営を戦略的に推進しています。「VISION 2030」では、「継続的な従業員の健康増進と健康意識の向上」をマテリアリティ(重要課題)の一つとして掲げています。健康経営の推進に向けて、新たに策定した「ワコールGENKI計画2025」では、従業員の心身の健康状態を高めるとともに、それらの成果を「生産性の向上」や「従業員エンゲージメントの向上」につなげていくことを目標としています。「生活習慣病対策」「がん対策」などこれまでの健康維持増進に向けた施策を継続しつつ、特に大きな課題となっている販売職のメンタルヘルス向上や女性の健康課題への取り組みを強化してまいります。なお、㈱ワコールホールディングスは2017年から8年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に選定されています。

 

:ワコールGENKI計画2025に関しては、下記ホームページをご覧ください。

https://www.wacoalholdings.jp/sustainability/resource/wellbeing/

 

③リスク管理

 人的資本に関するリスクは、サステナビリティ戦略ならびに経営全般のリスクに含めて管理しています。詳しくは、「(1)サステナビリティ戦略 ③リスク管理」をご覧ください。

 

④指標と目標

経営戦略に基づく

人的資本の課題

人的資本の最大化に向けた取り組み

指標と目標(KPI)

指標

目標

2024年3月期実績

会社の成長を担う人財の獲得・育成・登用

Ⅰ.人財獲得

Ⅱ.成長支援(育成・リスキング・キャリア形成)

経験者採用の状況(総合職)

総合職採用数のうち、3~5割を経験者採用にする

採用総数:28名

内、経験者採用16名(57%)

人財育成・研修への投下費用

研修参加者数、学びへの時間投資(労働時間対比)

未策定(2025年3月期中に策定)

社内公募、ジョブチャレンジによる人事異動者数、率

未策定(2025年3月期中に策定)

主体的なキャリア形成の実現度

エンゲージメント調査のキャリア実現に関するポジティブ回答60以上

多様なキャリアの選択肢やチャレンジ機会が提供され、活用できる環境がある:44.2

個の力を組織の成果に結びつけるためのマネジメント力の向上

Ⅲ.マネジメント力の強化

持続的成長につながるマネジメントの貢献

エンゲージメント調査の将来性、未来志向に関するポジティブ回答60以上

・会社に将来性を感じている:29.4

・経営層の未来志向:43.9%

・部課長層の未来志向:51.6%

フィードバック文化の醸成

エンゲージメント調査の承認・称賛、正当な評価に関するポジティブ回答60以上

・私は、一週間以内に、上司又は職場の誰かから、良い仕事をしたと認められたり、褒められたりした:38.8

・この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた:46.4%

・自分の能力や成果は正当に評価されている:50.6%

エンゲージメント・心理的安全性の高い組織風土の醸成

Ⅳ.DE&Iの推進

Ⅴ.Well-beingの実現

ワコールGENKI計画2025のKPI達成

https://www.wacoalholdings.jp/news/files/news211203.pdf

2023年度の結果集計中

障がい者雇用

2024年度法定雇用率2.5

2.59%(2024年3月時点)

 

 

 

3【事業等のリスク】

 当社のリスク管理基本規程において「リスク」とは、「当社グループにおける事業目的の達成を阻害する要因すべて」と定義しております。また「リスク管理」とは、リスクの識別・評価を行い、リスクを低減する活動を行うとともに、その活動をモニタリングすることによって、継続的に改善を行う一連の措置(平常時のリスク管理)、及び経営に対する重大な障害・事故等の緊急事態への迅速な対応(緊急時のリスク管理)を指すと定めております。

 この規程に基づいてリスクを適切に認識し、発生の可能性や影響度の評価を行い、優先度を定め、リスクへの対処を決定したうえで、リスク顕在化の可能性をできるだけ低減する活動を行っております。併せて、リスクが顕在化した場合には、発生する障害・事故へ迅速な対応を行い、人びとや社会をはじめとするステークホルダーへの影響を最小限に留めるべく、リスク管理を推進しております。

(1)リスク管理体制

 当社グループのリスク管理体制は、“リスク管理統括責任者(代表取締役社長執行役員)”、“企業倫理・リスク管理委員会の委員長(代表取締役副社長執行役員)”を基軸として、下図の通り、“企業倫理・リスク管理委員会(委員長が指名する委員による構成)”、また、企業倫理・リスク管理委員会の下部組織として、全社横断的な重要課題について活動方針策定やモニタリングを行う“リスク主管部署”、及び“リスク対応部会(企業倫理・リスク管理委員会が決定/設置)”、さらに、企業倫理・リスク管理委員会が定めるリスク管理(抽出、評価、対応、モニタリング)を行う“リスク管理組織”及び“リスク管理責任者”によって構成されております。

 “企業倫理・リスク管理委員会”では、それぞれの“リスク管理組織”から抽出されたリスクについて、発生の可能性と影響度の観点から評価を実施し、当社グループの経営に重大な影響が想定されると評価したリスク項目を特定のうえ、毎年、“リスク管理統括責任者(代表取締役社長執行役員)”に提示し「グループ重要リスク」としての承認を踏まえております。その後、「グループ重要リスク」の項目ごとに、“リスク主管部署”、あるいは“リスク対応部会”を通してリスクを軽減化する対応策への取り組みを進め、併せて、“企業倫理・リスク管理委員会”を定期的(四半期ごと)、及び必要に応じて臨時に開催し「リスク管理体制」が有効に機能しているかどうかのモニタリングを行っております。

 

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(2)事業等のリスク

 当該有価証券報告書に記載している「第2 事業の状況」等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に、重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクとその対策は後述のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当事業年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 また、前述のとおり、“企業倫理・リスク管理委員会”では当社グループの経営に重大な影響が想定されると評価・特定したリスク項目を、“リスク管理統括責任者(代表取締役社長執行役員)”へ提示し承認を受けることによって「グループ重要リスク」を定めております。なお、下図の項印、★印は「経営環境・事業戦略」に関するリスク、■印は「事業運営上」のリスクであります。

 

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(2)-1 経営環境・事業戦略に関するリスク

市場の構造変化

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:大

● リスクの内容

百貨店・量販店をはじめとする大規模小売店や商業施設の減少は、百貨店・量販店の売上シェアが高い当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。また、消費者接点(店舗)の減少はブランド認知率の低下、顧客の購入意欲の低下に波及するなど、この市場構造の変化は、既存業態の再編、営業政策の変更等をもたらし、グループ業績に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

小売市場の構造変化(オンラインモールやフリマアプリの市場拡大)が進んでおり、旧来の百貨店、量販店及び専門店といった卸売店舗の売上シェアは漸減していくと予測しています。

国内では基幹ブランドの育成、及びEC事業拡大を目的に、顧客起点での製販一気通貫ブランドマネジメント体制を構築し、8つの基幹ブランド(⑴Wacoal ⑵Wing ⑶AMPHI ⑷CW-X ⑸Salute ⑹Yue ⑺WACOAL MEN ⑻ワコールサイズオーダー)に経営資源の投下を集中する一方、流通チャネル業態を横断した顧客データの一元管理を実現することで、いろいろな流通チャネル業態を活用いただくことのベネフィットを実感してもらい、それぞれのお客さまの求めに応じたLTV(ライフタイムバリュー)としての顧客体験価値を高めるCX戦略を推進しています。今後も、実店舗でのパーソナルサービスの強化と、WEB販売でのストレスフリーなパーソナル情報の連携の強化に、バランスよく取り組んでいきます。

また、海外では、オフラインとオンラインを融合した独自のサービス展開によって、引き続き、個々の国や地域でブランド認知度を向上させる取り組みに注力する一方、競合他社には真似できないフィッティングにおける顧客体験の向上を目指しています。各々の国・地域でDXを加速させ、お客さまのLTVの向上を実現し2030年度(2031年3月期)にはEC売上比率を50%超に導くよう進めています。

 

調達価格の上昇

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:大

● リスクの内容

サプライチェーンの構造変化が進行し、原材料の値上がりや生産地の人件費高騰、輸送コストの上昇等により仕入価格が上昇した結果、業績に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

材料の調達や製品の生産においては、適切に品質とコストの両面を照合しながら、ベトナムをはじめとするASEANの国々や地域での調達・生産の比重を増やしています。併せて、製品の企画・設計段階から、資材・カラー集約を前提に、可能な限り、材料品種を増やさない取り組みや、材料調達先を国内から海外に求める取り組み、廃棄に至る製品・材料の最少化への取り組み、省力化機器導入による生産効率化への取り組みなどを進めています。さらには、製品検査工程と材料品質基準のシンプル化・適正化、基幹ブランド再編による生産ロット拡大と作業能率向上などにも努めています。

他方、2022年4月に1社に統合した国内縫製会社においては、引き続き、国内の高い縫製技術を継承しつつ、外部環境の変化に応じた柔軟な生産管理体制を構築することにより、競争優位性強化と事業効率向上の両立を目指します。同時に、新技術や新設備のグループ内工場における汎用的活用の実現や技術支援といった役割を果たし、短納期・高難度・小ロット生産に対応できる生産体制を広く整備し、事業効果の強化に取り組んでいます。

 

 

 

競争・競合環境の変化

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

国内外の市場において、競合会社、低価格品、また、異業種からの新規参入者などにより、市場競争が激化する中、商品・サービス・宣伝販促・業態開発の適切な提案ができず、結果としてブランドの想起率・認知率が低下、販売シェアが奪われ、長期的に業績が低下する可能性があります。

● 対応策

競争激化は、価格の下落、広告宣伝費の増加、売上高及び市場シェアの減少等につながり、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼします。

㈱ワコールの収益力の改善と成長軌道への回帰を実現するためには、「顧客起点」を軸に、長年に亘り蓄積した顧客のデータベース、様々な体型にかかる研究・知見、心地よさを実現する製造技術、パーソナライズなニーズに寄り添いサービスを提供できる組織力といった「ワコールの強み」に、デジタル技術を用いて、顧客の「自分らしさ」を引き出しエンパワーメントする商品とサービスを提供し続けることが欠かせません。

ハイプレミアム市場、アフォーダブル市場、スポーツ市場といった注力セグメントへの集中、ECや直営店チャネルへの注力強化とともに、愛されるブランドを育成し信頼感を高め、顧客と「深く・広く・長く」関わっていただける絆づくりに努めています。

さらに、海外事業においては、中国・アジア圏の市場分析をもとにした新製品の開発・販売を推し進め、新規顧客との接点拡大に取り組むほか、欧米市場では、顧客の多様な価値観に応えるグループ独自の特徴あるブランド展開・商品戦略を推進することによって、他社との差別化を実現すべく事業への成長投資を継続しています。併せて、当社グループにとって成長余地が確認できる新興地域に向けては、積極的な成長投資を進めています。

 

消費者の価値観変化

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

ブランド戦略、商品、サービスが消費者の価値観変化に合わずに、顧客を獲得できず、もしくは顧客を失って経営が悪化する可能性があります。また、ブランドマネジメント、マーケティングミックスの失敗により、若年層顧客の囲い込みが適わず、一方で既存顧客の離反が進み、ブランド価値を毀損する可能性があります。

さらには、資源価格高騰、賃金の上昇、為替相場の変動を受けて原材料・製品の輸入価格が上昇する中、商品の価格に見合った顧客価値の提供が実現できないと、新規顧客の獲得の失敗や既存顧客の逸失を招く可能性があります。

● 対応策

顧客にとっての価値を創造する活動すべてを「マーケティング」と位置づけ、一連の顧客体験を通じてLTV(ライフタイムバリュー)を高め、顧客に選ばれるための必然を創造する取り組みを進めています。商品を購入いただくといった旧来型の志向から脱却し、オンラインとオフラインのすべての顧客との接点において、顧客情報が連携され、ブランドとのつながりが生まれる仕組みを築き、お客さまの一連の行動フローに対して価値を提供し、顧客の「自分らしさ」をエンパワーメントする商品とサービスを提供し続けることで、長い関係づくり、生涯顧客づくりに変えていく取り組みをスタートさせています。ブランドマネジメントの面では8つの基幹ブランドへの整理・集約、これと連動した、ブランドコミュニケーション、マーケティングコストの集中と選択を実施することで、お客さまに向けたメッセージの質と量、双方の拡充を進めています。併せて、サステナビリティ活動への取り組みを強化し、社会をはじめステークホルダーからのレピュテーション向上と確立にも力を入れています。

 

 

 

新しい市場・顧客の開拓

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

顧客の下着やファッションに対する相対的な関心の低下、日本の人口減少や少子高齢化による国内市場の縮小を踏まえて、当社グループは、海外市場の開拓や新業態・新分野への進出等、新規市場の開拓に取り組んでいるものの、この先、一層多様化するであろう消費者の価値観に応えきれず、計画した成果が出せないとグループ業績に影響を与える可能性があります。

● 対応策

国内では、当社ブランドとの接点が少ない潜在顧客、とりわけ若年層やアフォーダブル価格志向層に対し、購入意欲を喚起できる商品・マーケティング施策が打ち出せず、新規の顧客獲得に苦慮しています。一連の顧客体験や購買行動(カスタマージャーニー)を見極め、顧客に選ばれる必然の創出について、改めて見直す取り組みを進めるとともに、顧客への提供価値の明確化、若年層・アフォーダブル価格志向層を対象とした顧客層の拡大を強く意識したブランドポートフォリオの再設計を進めています。他方、既存の愛用者に向けたリテンションマーケティング強化の取り組みは着実に成果に結びついており、ロイヤルカスタマーとして、これまで以上に太い絆を築くことができています。ロイヤルカスタマーに対するワードローブの品揃えを拡充するなど、当社グループの提供価値として実現できるLTVの最大化に向けて、より一層、優先的に力を注いでいきます。

一方、米国では、Wacoalブランドに止まることなく、引き続き、Elomiほか、当社グループが展開するブランドポートフォリオの事業成長をねらいに、デジタルマーケティングへの投資を積極的に実施することで、EC事業主体の成長を目指しています。当事業年度は、物流インフラなど今後のEC成長を支える体制の整備と強化を進めました。また、CRMの強化を行い購買履歴に基づいたパーソナライズ対応の向上を図るなど、新規顧客の獲得と同時に既存顧客のエンゲージメントを高める施策を行っています。中国では、中間層が購買の中心であるEC市場において、オフラインとオンラインの連携やCRM戦略の強化に取り組みながら、新規顧客の獲得と既存顧客のロイヤルカスタマー化を進めていきます。これらのほか、消費者に中間所得者層が多いにも関わらず、当社グループの事業規模がまだ小さいドイツやインドなどへは、今後の拡大余地が大きい市場と捉えて戦略的な投資を進めています。

 

人材の確保

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

特にものづくり(企画力・技術力・研究開発力)、IT・デジタル、販売員、海外経営において人材の確保、育成ができないと、今後の成長や競合会社に対する優位性を作り出せず、グループの業績が低迷する可能性があります。

● 対応策

当社グループではジョブ型採用をはじめ、新しい採用手段の導入による人材確保に併せて、集団型講義やオンラインでの専門知識研修の実施やOJT、海外研修制度、他社と合同で実施する異業種クロスラーニングの開催などといった、実地研修機会の充実によって人材の育成を行っています。また、キャリア採用の比重を拡大するほか、リファラル採用にも注力し多様な人材の確保による活性化も進めています。

また、初任給の見直しや基本給ベースアップの実施をはじめ、職務・役割をベースとしたメリハリのある処遇(報酬体系)を実現すべく、目標達成時の還元給の支給、職務価値・成果に応じた処遇、役割給の見直しなどといった人的資本への投資姿勢を鮮明にした制度改革を推し進め、事業の中核を担う人材、将来価値を生む人材の確保を図っています。

 

 

(2)-2 事業運営上のリスク

情報システム可用性障害の発生

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:大

● リスクの内容

システム開発のミスや遅延、また、重要なシステムに障害が発生することで、事業継続が困難になってしまうと、得意先・顧客はじめ、すべてのステークホルダーからの信頼を失う可能性があります。外部からの悪意ある攻撃、あるいは天災被害等により、基幹システムやWEB販売サイト等の稼働が不可能となった場合、ファイルサーバや従業員のPCから機密情報が流出した場合、事業への悪影響が出る可能性があります。

● 対応策

当社では「情報セキュリティ基本方針」、「情報セキュリティ関連組織と責任に関する規程」等を定め、すべての従業員に対して情報保護の必要性と責任についての理解促進を図っています。“企業倫理・リスク管理委員会”の傘下に「情報セキュリティ部会」を設置し、現状の情報管理体制の把握と改善、また、顧客情報や重要情報にかかる不正なアクセスによるデータの破壊や漏えい、ウイルスやランサムウェアによる事業運営そのものの阻害を狙ったサイバー攻撃などについて、情報の収集を行い、情報セキュリティ上のリスクを特定すべく、現状の調査、分析等を実施しインシデントの発生を回避あるいは発生時の影響を軽減するなどの体制を整えています。同時に、当社グループの活動方針や具体的対策の立案、関連規程の制定・改廃、戦略的な投資案件の討議を行い、サプライチェーンにおける情報セキュリティリスクの低減に努めています。具体的には、不慮のシステム障害・誤作動に備えて、システムやデバイスをリアルタイムで監視するセキュリティツールの導入と運用を開始する一方、重要なシステムは適切なハードウェアやネットワーク構成、クラウド化の選択ができているか、また、IT資産の適切なメンテナンスが実施されているかなど、適宜モニタリングを行っています。さらに、定期的な標的型メール訓練の実施や、昨今報道されているような情報事故事例などを用いた注意喚起を行うなど、従業員の意識向上と仕組みの構築による両面からリスクの軽減を行っています。

 

情報管理の不備

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

情報管理の不備により、機密情報や個人情報の漏えいや紛失が発生すると、事業活動上、不利益を被るばかりか、社会的信用の失墜、事業運営の停止といった重大な損失影響が出る可能性があります。

● 対応策

当社では「情報分類規程」、「秘密情報取扱規程」、「個人情報保護規程」等を定め、取り扱うすべての情報を、機密性、一貫性及び可用性の観点から適切に分類するとともに、保護・漏えい防止を図っています。また、重要情報の保護・管理の徹底をねらいに、当社グループの重要情報一覧表を整備し、経営、事業・販売戦略、製品開発、自社ノウハウ、個人情報、情報システム等の区分から、具体的なインサイダー情報の事例を挙げて重要情報の保護対策に取り組んでいます。

とりわけ、当社グループは事業活動上、多数の顧客に関わる個人情報を有しています。将来を見据え、㈱ワコールでは「CX戦略」を成長の柱と位置付け、収集した個人情報を含めたデジタルデータを基盤としたビジネスモデルの再構築を進めています。また、海外では顧客の個人情報を直接取得するEC事業を強化し、成長の柱とする計画を進めています。国内における改正個人情報保護法の施行対応に止まることなく、個人情報保護は当社グループ事業活動上の重要性が増しています。

“企業倫理・リスク管理委員会”の傘下に設置した「情報セキュリティ部会」では個人情報の保護・管理の強化、関連法規制への対応、従業員への教育等を含め、個人情報を外部の脅威から守るために、国内外の関係会社を対象に管理状況の調査と対策指導・助言等を進めています。

 

 

 

債券相場・金利の変動

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

保有する上場株式や債券等の市場価値が下落し、減損が発生する可能性があります。他方、年金資産の評価減・積立不足は追加拠出や引当が必要となりグループ業績に影響を与える可能性があります。

● 対応策

当社及び当社の特定完全子会社の㈱ワコールが保有している株式の状況は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (5)株式の保有状況」を参照ください。

2023年11月に開示した中期経営計画(リバイズ)では、2026年3月期末までに保有する政策保有株式を300億円以上(前事業年度末(2023年3月末)時価ベース)縮減し、連結純資産額の10%未満とする方針を示しています。当事業年度は、取締役会にて、個別の銘柄ごとに保有によって実現している収益が当社資本コストを上回っているか、当社の企業価値向上につながっているかを検証した結果、保有意義が希薄化した10銘柄・約148億円(前事業年度末時価ベース)の処分・縮減を進めました。

他方、退職給付費用及び債務は、年金資産の期待運用利回りや将来の退職給付債務算出に用いる年金数理上の仮定に基づき算出していますが、有価証券の相場並びに金利環境の変化等により、実際の結果が仮定と異なる場合、または仮定に変化があった場合には、退職給付費用及び債務が増加するリスクがあります。当社は国内社債の利回りに基づいて割引率を設定しています。割引率については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記22.従業員給付」を参照ください。

企業年金のアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、財務・人事・経理等の部門長らで構成する年金委員会を設置し、四半期単位で資産運用方針や政策的資産構成割合等を検討すると同時に、外部の運用コンサルティング会社を起用し専門能力・知見を補完しています。

 

自然災害・事故等の発生

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:大

● リスクの内容

地震などの自然災害や火災・爆発等が発生し事業所・生産拠点が被害を受ける、あるいは、従業員が被災する可能性があります。また、交通網の遮断や電力供給の停止、通信回線の不通等、大型小売店や直営店舗、通販サイトや物流網の被災により事業活動に支障が出る可能性があります。

● 対応策

首都直下型地震をはじめとする大規模事故の緊急事態に備え、“企業倫理・リスク管理委員会”の傘下に設置した「BCP・災害対策部会」では、主要な事業拠点が被災した際のBCP策定を順次整備するなど、予防・減災、応急・初動、復旧・復興の観点で事業継続マネジメントに取り組んでいます。

具体的には建物の耐震化、データ関連サーバのクラウド化、災害発生時の従業員安否確認システム、モバイルワークなどといった環境整備に加え、社会的責任を踏まえて、緊急時においてもサービスや製品の安定供給ができるよう、販売事業所の業務バックアップ体制の確立や生産拠点の分散化配置によって、リスクの低減を図っています。

 

 

 

企業倫理・コンプライアンスの姿勢

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

第三者から、サプライチェーンにおける人権、労働、環境問題等を指摘・公表され、事業活動に影響を与える、企業価値を毀損する可能性があります。また、企業倫理・コンプライアンスに反する行為が増加する、あるいは、ソーシャルメディアやブログ等のWEBサイト上を含めた広告表現や発言に問題が発生することによって、社会的な信頼を失い、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

当社グループを取り巻く国内外の法令や規制等への違反、社会的要請に反する行為等があった場合は、処罰や社会的な信用の低下などにより、経済的・社会的な影響を受けるリスクがあります。「企業倫理・ワコールの行動指針」を定め、従業員に頒布し周知徹底を図るだけでなく、“企業倫理・リスク管理委員会”の下に設置した「コンプライアンス部会」の活動を通じて、従業員への啓発活動、内部通報制度、外部専門機関による法令ヘルスチェックなどの施策を拡充し、法令順守の強化に努めています。また、当事業年度においては、当社グループの経営理念の枠組みの見直しや事業を取り巻く環境変化を受けて「企業倫理・ワコールの行動指針」の改訂版をとりまとめ、2024年4月から、第7版としての運用を開始しました。

また、当社グループの事業領域において特に注力すべき点として、サプライチェーンでの労務・人権問題が挙げられます。過去には人権NPOから連結子会社の発注先である海外縫製工場における労務・人権問題について指摘を受けたことや、国内において二次製造委託先の外国人技能実習生に対する超過勤務手当の未払いが発覚したことがありました。2018年4月に立ち上げた「CSR調達部会」を、現在は“サステナビリティ委員会”の傘下に移管し、人権の尊重、環境・社会との調和、法令の順守、労働慣行、事業慣行の観点などから、製造委託先等の工場ごとに自己評価と現地監査を行い、是正・改善計画の策定とモニタリングを行う取り組みを高めています。併せて、CSR調達活動の対象先を、製造委託先を超えて漸次拡大を図るとともに、仕入先一覧を当社ホームページで開示しています。

 

知的財産権の侵害・被侵害

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

知的財産権を侵害されたり侵害したりすることで、訴訟や経済的損失が起きる可能性があります。

また、近年、インターネット上で当社ブランドを詐称した「なりすまし広告・偽サイトへの誘導」が拡がっています。注意喚起や排除措置といった適切な対策を怠れば、消費者や市場からの信頼失墜を招きかねず、戦略的な知的財産権の保護や活用ができないでいると、事業に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

当社グループは知的財産権があらゆる事業活動に関わり、競争優位性を確保する重要な資産であると認識しています。

ブランドや、独自の技術、デザイン、サービス等を、自社の競争力の源泉として知的財産権で保護・活用できるよう、一方で他社の知的財産権を尊重し侵害しないよう、従業員に対しセミナーによる教育や業界知財動向の共有を行い、正しい理解を促しています。また、外部専門家との連携を強化するなど、知的財産担当部門の知見を高めDXやCX戦略、新規事業における知的財産権の保護、活用を進めています。

また、国内外における模倣商品の出現や、他社による商標、特許等の無断使用といった知的財産権の侵害には、侵害者に対して権利主張を行い、厳格に対応を行うこととしています。最近ではEC事業のボーダーレス化に伴ったブランド価値の棄損、とりわけ、SNSを中心とした当社ブランドを騙る「なりすまし」の広告・販売の出現について、消費者への注意喚起の実施、販路の追跡と監視、排除措置の実施等に力を注ぐとともに、日本国内に留まらない消費者保護、ブランド保護対策に努めています。

 

 

 

デジタルマーケティングの加速による表現訴求、品質表示・取扱表示等の記載

□ 発生の可能性:高

□ 影響度:中

● リスクの内容

主流になりつつあるデジタルマーケティングにおいて、従業員参加型を含むSNS上の発信内容、サステナビリティを巡る国際基準に逆らう概念での訴求表現によって、ネガティブキャンペーンや発信者への誹謗中傷をはじめとする社会問題を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。他方、品質表示等の法令違反や機能性表示における不適切な表現は社会的な信用を損なう可能性があります。また、商品の回収・表示変更のコスト発生、販売中止によって経済的な損失影響が出る可能性があります。

● 対応策

消費者が適正に商品を選択し使用するための品質表示については、商品そのものに付帯させる法定表示に始まり、店頭やメディアでの広告・宣伝、販促表現、知的財産保護表示など多岐にわたっており、リスクが顕在化しやすい事案だと認識しています。また、加熱するデジタルマーケティングを背景に、SNSでの当社の発信や参加者の言動が社会的な批判に晒される、あるいは、昨今においては、その内容の真偽に関わらず拡散されるリスクも認識しています。

“企業倫理・リスク管理委員会”傘下の「品質保証審議会」、「品質管理委員会」の活動を通して、表示内容を決定する部門でのダブルチェックを前提にした表示確認体制の整備、表示決定のプロセスにおける可能な限りのシステム化、表示ミス発生時の迅速な対応、問題発生後の再発防止のための徹底的な原因究明と対策の実施といった、一連のサイクルをルール化し運用しています。また、品質表示に関わる社内啓発活動と担当者教育を定期的に実施しています。

併せて、国内外の関係会社ごとの事業環境に照らしたSNS運用規程を定めて周知徹底を行うとともに、マーケティングやコミュニケーション部門の従業員を対象に、訴求表現内容の事前確認・適否判断を行うための教育を推進しています。加えて当社ブランドを騙る「なりすまし」の広告・販売に対して、消費者への注意喚起の実施だけでなく、販路の追跡と監視、排除措置の実施等に毅然として注力しています。

このほか、独禁法、景表法、薬機法などと絡めたガイドライン各種の制定と改訂、e-ラーニングによる従業員を対象にした教育の実施などによってリスクの軽減を図っています。また、機能・効能表現においては、商品化計画部門と研究部門、品質保証部門間の連携フローと併せて表記ルールの再整備を行い、外部の機関を交えたエビデンスデータの確認体制を整えています。

 

設計・製造上の品質保証

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:中

● リスクの内容

不良品を販売することや商品が人体へ危害を及ぼすこと等により、商品回収等のコストが発生する、当社が高品質の商品を提供するというレピュテーションが損なわれ社会的信用を失うといった、業績への悪影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

高品質な商品をグローバルに提供できることが、当社グループの強みの一つです。“企業倫理・リスク管理委員会”の下に「品質保証審議会」を設置し、安全性ガイドラインを整備すると同時に、製品企画・設計・開発時点での安全性確認ルールの順守、製造時の検査の徹底、問題発生時の原因追及と再発防止策の策定に取り組んでいます。併せて、こうした活動・情報内容については、グループの国内外関係会社へ水平展開・共有化を図ることによって、品質意識の高揚、全体での管理体制の底上げを行っています。また、「品質保証審議会」の傘下では、商品化計画を担う部門ごとのメンバー選出による「品質管理委員会」を運営し、個別課題への対策フォローアップ、品質管理全般に対する社内教育を実施しています。

他方、生産拠点の現場では、定めた品質管理・検査の徹底のみならず、製品受入ロックシステム(材料基準達成製品のみの受け入れ)の運用による基準未達品の排除、検査人員の技量の標準化、品質優秀表彰制度による従業員のモチベーションアップに取り組んでいます。

 

 

 

新興国の社会情勢変動

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:中

● リスクの内容

新興国に事業拠点を構える当社グループは、政治的不安定状態、法改正や制度変更、ストライキの発生、人材の確保難などによって材料調達や生産が滞る、自国産業保護政策(輸入関税、外資規制等)が継続し事業効率の改善が遅れる、あるいは新規の多額投資を必要とするなど、事業業績に影響を与える可能性があります。

● 対応策

各国・地域の法律・規制の動向には常に十分な注意を払い、現地情報の収集・分析に努めています。現地の“リスク管理責任者”と連携し、地域の実情を把握し、必要に応じ外部の弁護士、コンサルタントなど、専門機関の協力を得て対応を行うよう整備と運用を図っています。軍事政権による掌握が続くミャンマーでは法律・規制の動向に加え、人権課題への対応についても注視しています。また、地政学的なリスクも見据え、適切な生産拠点の分散を行いリスクの軽減化に努めています。このほか、高い輸入関税が適用されるインドでは、国内における商品企画・生産比率を高めることで競争優位性を強化するよう努めています。

 

税務の管理

□ 発生の可能性:中

□ 影響度:中

● リスクの内容

税制改正や移転価格の調査等による多額の課税がなされた場合には、風評被害の他、当社グループの財政状況及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

● 対応策

繰延税金資産については、現行の会計基準に従い、将来の課税所得を合理的に見積もったうえで計上しています。将来の課税所得見積額の変更や税制改正に伴う税率の変更等により、繰延税金資産が減少し、当社グループの業績及び財政状況に悪影響を及ぼすリスクがあります。これを踏まえて、当社では、適宜、経営環境の変化等に照らし、将来の課税所得の見積もりに関する見直しを行い、回収可能性を合理的に判断しています。

事業を展開する国・地域の法令、国際税務関連法規を順守し、透明性の高い税務管理を行い、ステークホルダーからの信頼を得ることをねらいに「税務行動指針」を策定しています。この指針では、国内外の連結子会社を対象に、税務の最新情報入手や研修による啓発活動を含めたグループ税務体制の構築をはじめ、不確実な税務ポジションへの対応、優遇税制の適用、グループ会社間取引、租税回避行為の禁止、税務に関するディスクロージャー等のガイドラインを示しています。加えて、定期的に国内連結子会社を対象にした税務研修会を運営しています。当該研修会では、インボイス制度など、時事の税制改正に適切な対応を進める確認を行う一方、「税務行動指針」の周知・徹底を行っています。また、同指針に記載したガイドラインの運用状況については、IFRIC23の指針に基づいた対応状況と併せて、国内外の連結子会社から、事業年度末に報告書を受けることによってモニタリングを行っています。このほか、BEPSをはじめ国際税務に関する動向を把握し、適宜、海外連結子会社と最新情報を共有するなど、当社グループにおける税務体制の整備に努めています。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)経営成績

(単位:百万円)

 

2023年3月期

実績

2024年3月期

実績

前期比

 

増減額

増減率

売上収益

188,592

187,208

△1,384

△0.7%

 

売上原価

82,189

83,123

+934

+1.1%

 

売上総利益

106,403

104,085

△2,318

△2.2%

 

販売費及び一般管理費

102,301

100,575

△1,726

△1.7%

事業利益

4,102

3,510

△592

△14.4%

 

その他の収益

5,254

1,990

△3,264

△62.1%

 

その他の費用

12,846

15,003

+2,157

+16.8%

営業損失(△)

△3,490

△9,503

△6,013

 

金融収益

1,517

2,529

+1,012

+66.7%

 

金融費用

795

328

△467

△58.7%

 

持分法による投資損益

2,069

△988

△3,057

税引前損失(△)

△699

△8,290

△7,591

親会社の所有者に帰属する当期損失(△)

△1,643

△8,632

△6,989

 

 当連結会計年度(2023年4月1日~2024年3月31日)における当社グループの経営環境は、主要国において主力商品であるインナーウェアの販売が低迷したことから厳しい結果となりました。国内は、高価格帯のブランドは堅調に推移しましたが、円安、エネルギー価格や原材料価格の高騰等を背景とした物価上昇の長期化と、それに伴う選別消費の高まりもあり、中価格帯商品の販売が苦戦しました。物価上昇が収束基調にある米国については、個人消費は安定的な成長がみられたものの、一部の取引先における仕入抑制が継続したことから低調な推移となりました。また継続的な物価上昇に伴い個人消費が減速傾向にある英国・欧州についても販売に力強さを欠く展開となりました。中国は、ゼロコロナ政策解除後の経済活動の回復が期待されていたものの、雇用危機等による景況感の悪化を受けた個人消費の伸び悩みの影響により、売上の回復は想定を下回りました。

 このような環境の下、当社グループでは、2023年11月に改訂した3カ年の中期経営計画に沿って、「キャッシュを着実に創出できる体質への転換」をテーマに「収益力の改善に向けたビジネスモデル改革」、「“VISION2030”達成に向けた成長戦略」、「ROICマネジメントの導入」、「アセットライト化の推進」の取り組みを進めております。

 国内事業においては、ビジネスモデル改革の一環としてコスト構造改革を進めるほか、顧客ニーズや市場環境の変化への迅速な対応に向けてサプライチェーンマネジメント改革に着手し、店頭商品構成の見直しや需要連動型の生産方式へのシフトによる在庫水準の抑制と最適化、企画開発のリードタイム短縮に取り組んでおります。また、海外事業については、EC成長の実現に向けてデジタルを活用した顧客接点の拡大の取り組みに加えて、欧州における販売エリア・チャネルの拡大などを進めております。

 以上の結果、当連結会計年度の連結売上収益は、1,872億8百万円(前期比0.7%減)となりました。国内・海外ともに主力製品であるインナーウェアの販売が低迷したものの、為替相場が円安に推移したことが海外収益を嵩上げし、前期から微減収に留まりました。事業利益は減収影響に加え、原価率の上昇や、前期のワコールのフレックス定年制度の一部改定による一時的な利益の裏返しもあり、35億10百万円(前期比14.4%減)となりました。

 営業損益は、Intimates Online, Inc.(以下、IO 社)の事業撤退及び会社清算に伴うワコールインターナショナル(米国)に係る減損損失などの計上(77億95百万円)やワコールにおける構造改革費用の計上(55億22百万円)により、95億3百万円の営業損失(前期は34億90百万円の営業損失)となりました。税引前損益は82億90百万円の損失(前期は6億99百万円の税引前損失)、親会社の所有者に帰属する当期損益は86億32百万円の損失(前期は16億43百万円の当期損失)となりました。

 なお、当該期間の為替換算レートは、1米ドル=144.62円(前期135.47円)、1英ポンド=181.76円(同163.15円)、1中国元=20.14円(同19.75円)です。

 報告セグメントの経営成績を示すと次のとおりであります。

(単位:百万円)

 

 

2023年3月期

2024年3月期

前期比

 

 

実績

構成比

実績

構成比

増減額

増減率

売上収益合計

188,592

100.0%

187,208

100.0%

△1,384

△0.7%

 

ワコール事業(国内)

96,746

51.3%

94,198

50.3%

△2,548

△2.6%

 

ワコール事業(海外)

66,732

35.4%

67,757

36.2%

+1,025

+1.5%

 

ピーチ・ジョン事業

11,918

6.3%

10,741

5.7%

△1,177

△9.9%

 

その他

13,196

7.0%

14,512

7.8%

+1,316

+10.0%

 

(単位:百万円)

 

 

2023年3月期

2024年3月期

前期比

 

 

実績

売上比

実績

売上比

増減額

増減率

営業利益(△損失)

△3,490

△9,503

△6,013

 

ワコール事業(国内)

2,862

3.0%

△4,193

△7,055

 

ワコール事業(海外)

△7,397

△5,145

+2,252

 

ピーチ・ジョン事業

915

7.7%

△239

△1,154

 

その他

130

1.0%

74

0.5%

△56

△43.1%

 

① ワコール事業(国内)

 当連結会計年度はブランドやチャネルごとに動向が異なり、強弱が入り交じる結果となりました。

 ブランド別の動向としては、高価格帯ブランドの「Yue(ユエ)」、「Salute(サルート)」が堅調に推移したことに加え、メンズインナーウェアも「レースボクサー」を中心に消費者からの評価を受けて伸長しました。一方、主に中価格帯商品を展開する主力ブランド「Wacoal(ワコール)」、「Wing(ウイング)」については、物価上昇を背景とする消費者の選別消費の高まりもあり、低調に推移しました。

 チャネル別の動向としては、自社ECが積極的な販促活動が奏功し増収となったほか、他社ECについてもECモール運営事業者との継続的な連携強化により伸長しました。直営店においては、若年層をターゲットとする「AMPHI(アンフィ)」は来店客数の伸び悩みに加え、セール売上が想定を下回ったことにより苦戦しましたが、「WACOAL The Store(ワコール・ザ・ストア)」や「Wacoal FACTORY STORE(ワコールファクトリーストア)」の堅調な販売が寄与し、前期並みの売上となりました。一方、百貨店、量販店は話題性のある商材の不足などの要因から当社店舗への来店客数が伸び悩んだことに加え、取引先の仕入抑制などの影響もあり、苦戦を強いられる結果となりました。特に量販店における販売不振を受け、返品高が増加したことも減収要因となりました。

 これらの結果、当該セグメントの売上収益は941億98百万円(前期比2.6%減)となりました。営業損益は、前期のフレックス定年制度の特別運用を受けた人員の減少による人件費削減のほか、売上動向を踏まえて広告費の抑制に努めたものの、売上利益率の低下に加え、在庫圧縮や希望退職募集などワコールの収益改善を目的に実施する構造改革費用の計上(55億22百万円)、前期に計上した固定資産売却益(30億24百万円)の裏返しもあり、41億93百万円の営業損失(前期は28億62百万円の営業利益)となりました。

 

② ワコール事業(海外)

 ワコールインターナショナル(米国)は、事業撤退が決定しているIO社の大幅な減収を主因に前期の売上を下回りました。「Wacoal」ブランドを展開する米国ワコールは、個人消費の底堅い成長を背景に実店舗チャネルが堅調に推移したほか、販促活動やデジタルマーケティングの強化により自社ECも好調に推移しました。一方、得意先の仕入抑制の継続もあり他社ECの売上が想定を下回ったことから、現地通貨ベースで減収となりました。IO社については、11月以降、割引プロモーションの実施により在庫の売り減らしに注力したものの、想定を下回りました。

 ワコールヨーロッパの主要エリアである英国・欧州については、9月に発生したサイバーインシデントによる出荷停止や冷夏による水着の売上減少の影響があったものの、第4四半期連結会計期間において実店舗チャネルでの売上に改善が見られたことから、両エリアともに前期並みの売上水準となりました。一方、米国やその他エリアでの販売が低調に推移したことから、ワコールヨーロッパ全体の売上は現地通貨ベースで減収となりました。

 中国ワコールは、ゼロコロナ政策解除後の経済活動の回復が期待されていたものの、長引く景気低迷の影響もあり実店舗への来店客数が想定を下回ったことに加え、ECでの競争激化や春節、婦人節の苦戦等により他社ECも苦戦し、現地通貨ベースで減収となりました。

 これらの結果、主要子会社の売上は現地通貨ベースでは減収となったものの、主要通貨が円安に推移したことから、邦貨換算ベースでの当該セグメントの売上収益は677億57百万円(前期比1.5%増)となりました。営業損益は、IO社の事業撤退・清算に伴うワコールインターナショナル(米国)に係るのれんの減損損失などの計上(77億95百万円)が影響し、51億45百万円の営業損失(前期は73億97百万円の営業損失)となりました。

 

③ ピーチ・ジョン事業

 当連結会計年度の国内事業においては、他社ECは新たなECモール事業者との取引開始が寄与し好調に推移したものの、新規顧客の獲得に向けた有名タレントを起用した広告活動やコラボレーション企画が振るわず、直営店・自社ECともに苦戦が続きました。

 これらの結果、当該セグメントの売上収益は107億41百万円(前期比9.9%減)となりました。営業損益は、減収の影響やECシステムの更新に伴う経費増加に加えて、中国子会社の清算に伴う損失が影響し、2億39百万円の営業損失(前期は9億15百万円の営業利益)となりました。

 

④ その他

 当連結会計年度については、Aiは、旅行関連需要の回復を受けて店舗、自社ECともに好調に推移したことから、前期を上回りました。七彩についても都市部の商業施設への来客数の増加を背景に、物販事業と内装工事事業が堅調に推移したことから増収となりました。一方、ルシアンは大手衣料品チェーン向けのプライベートブランド商品の販売が低調に推移した結果、減収となりました。

 これらの結果、当該セグメントの売上収益は145億12百万円(前期比10.0%増)と増収したものの、七彩及びルシアンの収益性が悪化した結果、営業利益は74百万円(前期比43.1%減)に留まりました。

 

(参考)主要子会社の売上収益・営業利益(△損失)

(単位:百万円)

売上収益

2023年3月期

2024年3月期

前期比

実績

構成比

実績

構成比

増減額

増減率

 

ワコール

90,948

48.2%

88,701

47.4%

△2,247

△2.5%

 

ワコールインターナショナル(米国)

28,014

14.9%

28,038

15.0%

+24

+0.1%

 

ワコールヨーロッパ

19,184

10.2%

20,353

10.9%

+1,169

+6.1%

 

中国ワコール

10,365

5.5%

10,396

5.6%

+31

+0.3%

 

ピーチ・ジョン

11,918

6.3%

10,741

5.7%

△1,177

△9.9%

 

ルシアン

3,189

1.7%

2,583

1.4%

△606

△19.0%

 

七彩

6,196

3.3%

7,723

4.1%

+1,527

+24.6%

※外部売上収益のみを記載しております。

(単位:百万円)

営業利益(△損失)

2023年3月期

2024年3月期

前期比

実績

売上比

実績

売上比

増減額

増減率

 

ワコール

2,753

3.0%

△3,061

△5,814

 

ワコールインターナショナル(米国)

△9,448

△6,884

+2,564

 

ワコールヨーロッパ

1,680

8.8%

1,816

8.9%

+136

8.1%

 

中国ワコール

△698

△998

△300

 

ピーチ・ジョン

915

7.7%

△239

△1,154

 

ルシアン

111

3.5%

△167

△278

 

七彩

9

0.1%

94

1.2%

+85

+944.4%

 

(2)財政状態

 当連結会計年度末における総資産は、現金及び現金同等物やその他の金融資産、退職給付に係る資産の増加などにより、前連結会計年度末に比して83億70百万円増加し、2,940億29百万円となりました。

 負債は、借入金や未払法人所得税、繰延税金負債の増加などにより、前連結会計年度末に比して67億10百万円増加し、788億87百万円となりました。

 親会社の所有者に帰属する持分は、その他の資本の構成要素の増加などにより、前連結会計年度末に比して16億32百万円増加し、2,118億29百万円となりました。

 以上の結果により、当連結会計年度末における親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末に比して1.6ポイント減少し、72.0%となりました。

 

(3)キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比して67億66百万円増加し、335億47百万円となりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、当期損失87億43百万円に減価償却費及び償却費や減損損失などによる調整を加えた金額に対して、資産及び負債の増減などによる調整を行った結果、112億91百万円の収入(前期に比し39億57百万円の収入増)となりました。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、その他の金融資産の売却及び償還などにより、140億48百万円の収入(前期に比し101億46百万円の収入増)となりました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得やリース負債の返済、配当金の支払などにより、202億11百万円の支出(前期に比し23億30百万円の支出減)となりました。

 

(4)生産、受注及び販売の実績

①生産実績

 当連結会計年度の生産実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。なお、ピーチ・ジョン事業については、すべて販売会社のため該当事項はありません。また、その他のセグメントについては、生産実績を定義することが困難であるため「生産実績」は記載しておりません。

報告セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ワコール事業(国内)

36,771

91.3

ワコール事業(海外)

20,645

117.9

合計

57,416

99.4

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.生産実績の金額は製造原価によっております。

 

②受注実績

 その他のうち㈱七彩の店舗内装工事部門については受注生産形態をとっております。

 当連結会計年度におけるその他の受注実績を示すと、次のとおりであります。

報告セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

その他

4,627

111.9

74

39.4

(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

③販売実績

 当連結会計年度の販売実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

報告セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ワコール事業(国内)

94,198

97.4

ワコール事業(海外)

67,757

101.5

ピーチ・ジョン事業

10,741

90.1

その他

14,512

110.0

合計

187,208

99.3

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.総販売実績に対し10%以上に該当する販売先はありません。

 

(5)資本の財源及び資金の流動性

 当社グループの資金の流動性は、主に営業活動による純現金収入によります。営業活動による純現金収入により、外部からの多額の借入や、その他の資金調達手段に頼らずに、大部分の運転資金の確保や設備投資、配当金の支払が可能となっております。ただし、金融機関に借入枠は設けており、2024年3月31日現在の借入枠の合計は504億33百万円、借入枠を設けている借入金の残高は88億55百万円となっており、主な残高の内訳としては当社が50億円、WACOAL INTERNATIONAL CORP.が31億80百万円、㈱トリーカが2億80百万円となっております。

 これらの借入枠の期限は、ほとんどが自動的に更新されるものであり、現状更新を妨げるような事象は発生していないと考えております。仮にいずれかの子会社において借入が不可能になったとしても、グループの各社から資金を供給することが可能であると考えております。また、資金需要について大きな季節変動はありません。

 また、子会社からの親会社への配当に係る規制は特に無いと考えております。

 なお、感染症による影響の度合い、期間が不透明であったため、当社は2020年4月以降に金融機関に追加の借入枠を設け、手元流動資金を確保するため最大400億円の借入を行いましたが、2023年3月期までに350億円を返済しております。今後も目的や収益性を厳格に見積もることで、資金の流動性を確保していきます。

①設備投資

  「第3 設備の状況 1 設備投資等の概要」に記載しております。

 

②キャッシュ・フロー

「(3)キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

(6)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されております。これらの連結財務諸表の作成にあたっては、当社グループは重要な見積りや仮定を行う必要があります。

 なお、重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

  当社グループでは、人体と衣服の調和を実現し、よりよい製品づくりを支えるため、人間科学研究開発センターを中心として研究開発に取り組んでおります。

  当社グループは、1964年以降日本人女性の体型を正確に把握するため、女性の体型調査を継続して実施してきました。シルエット分析システムの開発や三次元計測システムの導入、更により高度な人間の感覚計測にも取り組み、人間の形態・生理・心理の三側面からの研究開発を行っております。研究成果として、1995年~1998年に通産省(現経済産業省)プロジェクトへの参加を通じて、感覚生理研究を強化充実し、「加圧生理」、「温熱生理」、「皮膚生理」面での基礎研究をもとにして、着心地が良いだけでなく生理的にも効果のある新製品の開発を行ってきました。2005年には、日常歩行をエクササイズ歩行に変え、健康で美しいからだづくりをサポートする画期的なスタイルサイエンス商品を開発し、世の中に新しい市場を創出しました。また、2010年には同一人物の20代から50代に至る体型変化を分析し、加齢によるからだの変化(エイジング)の原則を発表し、エイジングに対応した新製品開発を強化するとともに、加齢による体型変化の小さい人の生活習慣をヒントにした新機能製品を開発。2020年には「重力によるバストの動きと皮膚研究」の研究報告をもとに「重力からバストを守る」ことの大切さの研究発表カンファレンスを実施し、同研究をもとにした「重力に負けないバストケアブラ」や「重力に負けないヒップケアガードル」等の新機能製品を開発しました。2021年には大学や他社との共創型「からだ文化研究プロジェクト」を発足させ、2022年3月には関係者を対象に「からだ文化シンポジウム」を東京青山スパイラルホールで開催しました。また、2019年5月には人間科学研究開発センターが監修開発したサイズ判定アルゴリズムを搭載した3Dボディスキャナーによるセルフ計測サービスの運用を開始しました。

 当連結会計年度は、これまで蓄積してきた身体データ、および心理データをもとに「今の20代」に焦点を当てて研究を行い、「からだ白書」として研究結果をまとめ、商品開発に繋げるべく社内でコンベンションを実施しました。

  これらの結果、当連結会計年度の研究開発費に370百万円計上しました。

 なお、当社グループの研究開発活動は、主にレディスインナーウェア等の基礎研究から商品開発に及ぶさまざまな研究を行っており、特定のセグメントに関連付けることが困難であるため、セグメントごとに記載しておりません。

  今後も、「ひとりひとりが自分らしく美しくいられるように」、“美”“快適”“健康”の3領域を基軸に、顧客満足及び企業価値の増大に貢献し得る研究開発の充実を図り、商品力の強化とお客様に納得と満足を感じていただける新製品や情報・サービスの開発に邁進する所存であります。