第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

(1) 会社の経営の基本方針

当社は、技術立脚の提案型企業として、時代が要請する新たな価値と優れた品質の提供により、顧客や社会から高い信頼を得られるリーディングカンパニーを目指すとともに、社員の個性と能力を十分発揮できる環境を整え、絶えず前進する積極的な姿勢とスピーディな行動で企業価値を高め、株主の期待に応えることを基本としています。

(2) 経営環境、中長期的な会社の経営戦略及び対処すべき課題

 ①『2030 長期経営計画 日特BX』及び中期経営計画(2021年度~2024年度)

当社グループは、セラミックスをコアとしながらもセラミックスを超えた事業を展開し、自動車関連事業を中心とした事業ポートフォリオからの転換を大きな戦略テーマに、当社グループの「2040年に目指す姿」として、「これまでの延長線上にない変化」、そのビジョンとして「Beyond ceramics, eXceeding imagination セラミックスのその先へ、想像のその先へ。」を掲げ、そのマイルストーンとなる2030年をターゲットにした長期経営計画『2030 長期経営計画 日特BX』を2020年度に策定しました。『2030 長期経営計画 日特BX』では、行動指針“Change with Will”のもと、「経営革新」「権限・責任の厳格化」「『志』『共生』の意識醸成」を具体的な施策として推進することで、自動車関連事業で得た収益を源泉として成長事業及び新規事業への投資を加速させ、事業ポートフォリオの転換を図ってまいりました。

また、『2030 長期経営計画 日特BX』で目指す姿を見据え、2021年度から2024年度までの4年間を「変えるために、壊す。」「変わるために、創る。」として、組織を変革する期間に位置付けた中期経営計画を策定し、本中期経営計画においては、次の基本方針及び重点課題を掲げ、各種取組みを実行してまいりました。

 

基本方針

「既存事業」と「新規事業」が独立しながら、両輪で走る

 

(重点課題と進捗状況)

■成長事業及び新規事業への投資・人財ポートフォリオ転換の促進

・成長事業については、売上収益の規模が2020年度より21%向上しました。半導体製造装置用部品事業においてはセラミック素材技術により高まる要求性能に応え、旺盛な半導体需要を着実に捉えています。また、メディカル事業においては、企業買収によって獲得した販路を活用して更なる売上拡大を目指しています。一方で、不採算事業や不採算製品からの撤退も実行しています。

・2021年4月には社内カンパニー制への移行と一部事業部門の分社化を実施しました。事業部門、事業サポート部門、コーポレート部門の各組織において権限と責任を明確にし、独立自営の体制のもと、機動的な意思決定の実現と収益性の可視化による更なる成長を推進します。

・事業ポートフォリオの転換に不可欠な人財ポートフォリオの転換を実現するため、成長事業・新規事業への人財の積極的な転換に取り組むとともに、「自律創造人財」の育成・創出を推進します。

 

■ROIC経営による稼ぐ力のさらなる強化

・ROICを用いた事業別の目標管理・事業ポートフォリオマネジメントの仕組みの構築・運用に加え、グローバル戦略本部を中心に監理対象銘柄入りの決定や格付の基準を定める等、財務規律を明確化することで、経営資源の最適配分を実現し、投資対効果の最大化を図ってまいります。

 

<資本効率向上に向けた取組み>

各々の事業において実行すべき課題・責務を細分化し、KPIを管理することで、ROIC10%以上を達成していきます。高付加価値製品でのシェア向上や設備・労働生産性の向上、内燃機関事業の固定資産の圧縮については中長期で継続して取り組んでいますが、特に間接部門におけるコスト削減やサプライチェーンの最適化による棚卸資産の削減には課題が残っています。

 

 


 

<事業ポートフォリオ管理>

事業セグメントごとにハードルレートを設定し、事業ポートフォリオマネジメントを強化します。成長性と投資効率の2軸で事業を評価し、今後の方向性を決定の上、ポジショニングによる格付を行い、それに応じた期待役割を定義し、各カンパニーのKPI・KGIを設定します。

 


 

(業績目標)

2024年度:売上収益6,000億円、営業利益1,000億円

 

中期経営計画の経営目標は為替円安の影響もあり、最終年度より1年早く、2023年度に目標とする売上収益及び営業利益指標を達成しました。一方で、新規事業は、2022年度に実績が出始めたものの、創出は遅れています。既に開発テーマの絞り込みに着手していますが、今後は当社技術を活かせる領域への投資を重点的に行っていく方針です。

 


 

 

 

(キャッシュフロー計画)

適正な自己資本比率の水準を維持することで、財務健全性を維持しながら、事業ポートフォリオ転換に向け、内燃機関事業で創出したキャッシュで成長事業・新規事業へ投資を行ってまいります。

 


 

(事業別の取組み)

事業ポートフォリオ転換の達成に向けて、自動車関連事業では、キャッシュ創出を最大化し、成長事業・新規事業へ積極的な経営資源の再配分を図ってまいります。

 

(ⅰ)自動車関連事業

自動車関連事業においては、超効率化によりキャッシュ創出の最大化を図ります。具体的には、高付加価値製品におけるシェアの向上、生産性の向上による投資の抑制、在庫圧縮による資本効率の向上により、利益及びフリーキャッシュフローの最大化に取り組みます。特にプラグ事業については、継続的な成長維持のため、外部環境の変化による影響を受けにくい体制の確立、グローバルガバナンスの強化、価格転嫁と原価低減等を進めます。センサ事業については、現存リソースの有効活用、価格転嫁と供給安定性の向上、長期コストの抑制等に取り組みます。

 

ⅱ)セラミック事業

セラミック事業においては、各事業において市場成長率を超える事業成長を目指します。半導体製造装置用部品事業では、今後も独自技術で競合との差別化を図り、市況の変化に素早く対応し顧客からの最先端のニーズに応える仕組みを構築します。加えて、市場の成長に伴う需要増加並びに増産に向けた足固めを行ってまいります。

呼吸器事業では、新型コロナウイルス感染症による定置型酸素濃縮装置の需要増加が落ち着く中、顧客での流通在庫が過多になり受注が低迷するものの、今後グローバルで高成長が見込まれる携帯型酸素濃縮装置の拡販などに取り組んでいます。また、2022年末には心肺機能の診断機器メーカーであるMGC Diagnostics Holdings, Inc.の買収を通じて、同社の保有する診断・モニター用の機器・サービスと病院・クリニックへの販売チャネルを獲得しました。同社を当社グループの「医療」分野での新たなプラットフォームとして活用することで、従来の酸素療法ビジネスや喘息診断機器に加えて、製品ポートフォリオ及び販売チャネルの一層の拡大を実現し、グローバルでの患者さまのQOL改善に貢献してまいります。

 

 

(ⅲ)新規事業

新規事業においては、新たな柱となる事業の実現、及び、事業創出サイクルの短縮化を目指します。燃料電池事業では、燃料をリサイクルできる平板型構造SOFC(固体酸化物形燃料電池)用スタックの開発を推進しています。超高効率、コンパクト、低コストの特長を有し、更に、シール性能も優れることから水素製造・SOEC(固体酸化物形電解セル)等への展開も期待されています。今後も競争力の向上と事業規模の拡大に取り組み、生産コストの低減を進めるとともに、燃料電池の技術を応用した水素製造技術の確立により、カーボンニュートラル社会に貢献することを目指します。

また、今後の成長が期待されている、窒化ケイ素を利用したセラミック製軸受け部品「ベアリングボール」については、軽量で発熱量減少、高剛性、絶縁性、耐腐食性などの特性を持つ高機能性製品で、電気自動車の高電圧への対応として近年需要が増加しています。引き続き材料や製造手法で差別化を図り、当社グループを支える事業の一つに育ててまいります。

その他、足元では、環境・エネルギー分野において、空気中の菌やウイルス、においを抑える「澄風」、一次産業が抱える課題に対し、当社のセンシング技術を基軸とした「水質センシングシステム」を用いたエビの陸上養殖、モビリティ分野では、自動車整備工場とユーザーをつなぐ予防保全サービスの「ドクターリンク」、医療分野では、女性が抱える身体的な悩みを技術力で解決する「フェムテック」など、さまざまな取組みを進めています。

 

②持続的成長に向けた取組み

企業の持続的成長を図っていく上では、重要な社会的課題に正面から向き合い、その解決に挑んでいくという基本姿勢が求められます。当社グループは、グローバル企業として持続可能な社会作りに寄与するため、ESG(環境・社会・ガバナンス)各分野の社会的課題のうち、「ステークホルダーにとっての重要性」と「当社にとっての重要性」の2軸からサステナビリティにおける重要課題を特定しました。「相互信頼を深め、未来を見つめた新たな価値を提案し、世界の人々に貢献します」という企業理念のもと、今後も「社会のよき一員」として企業活動を推進し、社会全体に貢献できるよう努めてまいります。

 

<環境(E)>

当社グループは、製品・サービスの使用時や廃棄時なども含めたライフサイクル全体を俯瞰し、環境負荷がより小さい製品・サービスを提供することで、社会の持続的な発展に貢献することを目指しています。特に、自動車部品においては製品使用時のCO2排出量が大きいため、省燃費タイプのスパークプラグや排ガス用酸素センサによるCO2削減量を増やすべく、これら製品の販売を促進するとともに、2040年に向けて事業ポートフォリオ転換(売上収益構成比率:内燃機関事業40%、非内燃機関事業60%)を進めてまいります。

 

<社会(S)>

当社グループは、社会的課題の解決に資する新たな価値を共創・提供することを目指し、社会の要請を捉えて、技術・製品・事業の開発に挑んでいます。

また、人財は企業活動の将来を左右する重要な位置づけであり、最重要の経営資源との認識のもと、自律創造人財が育ち、活躍する各種施策を立案し、展開しています。従業員一人ひとりの個性を活かし、能力を存分に発揮できることが企業の成長と個人の幸福に繋がると考え、今後もダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンに取り組んでまいります。

 

<ガバナンス(G)>

当社グループは、ステークホルダーに対して、公正で透明性の高い経営を行いながら信頼関係を築くとともに、効率的で健全な経営により持続的な成長を果たすため、経営体制及び内部統制システムの充実に取り組んでいます。取締役会については、多様性及び独立性を確保した構成とし、意思決定の透明性及び客観性の向上に努めてまいります。また、経営目標の達成を阻害するリスクを低減・回避するとともに、社会からの信頼を得ながら当社グループの事業活動を行っていくため、リスクマネジメント及びコンプライアンスの推進に取り組んでまいります。

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 

(1) サステナビリティ共通

当社は、森村グループの礎である森村組創立時から大切にしてきた考え方を整理し直し、2017年4月「日特ウェイ」を制定しました。日特ウェイは、全従業員の間で共有され次の時代に継承されるべきグループの共有価値観を含めた理念体系であり、その体系は企業理念、CSR・サステナビリティ憲章、企業行動規範、CSR基本方針、基本方針などから構成しています。

当社の企業理念、CSR・サステナビリティ憲章には、世界の人々に「新たな価値を提案」、「貢献」といった言葉があり、事業を通して社会的課題の解決に貢献したい、というサステナビリティにつながる思いが込められています。その思いに基づき、さまざまな社会的課題解決に資する製品、サービスを生み出していくことが、我々の使命であり、存在意義であると認識しています。

持続可能な社会の実現に向けて、推進体制を構築し、事業を通じた社会的課題の解決での貢献を基軸に、国連グローバル・コンパクト、ISO26000、SDGs、TCFDなどの国際的な規範や目標、ガイドラインに賛同する意思表明を行うとともに、長期経営計画の中でESG(環境、社会、ガバナンス)に関する「優先的に取り組む課題」を特定するなど取り組みを進めています。

 


 

ガバナンス

当社は、社会とともに持続的に成長していくため、取締役会の諮問機関としてCSR・サステナビリティ委員会を設置し、社外取締役を委員長に据えて外部視点を重視し、ESGの各分野で優先的に取り組む課題を特定して、その課題解決に向けた活動を推進しています。また、経営側のCSR・サステナビリティ委員会の他に、業務執行側にも6つの専門委員会を設置し、CSR基本方針の実現に向けて、ESGの各分野での活動を実践・推進する体制を執っています。

CSR・サステナビリティ委員会は、取締役会の諮問機関として、取締役会からの諮問に対して答申・提言する機能と、各専門委員会を監督する機能を担います。答申・提言においては、ゲスト委員として外部有識者を招いて知見・視座を高め、長期を見据えたサステナビリティ経営の推進を図るべく多角的に議論をしていきます。また、各専門委員会に対しては、業務執行側に位置付ける各専門委員会が有効に機能しているかを注視し、必要に応じてそれらを監督する役割を担っています。

優先的に取り組む課題に特定されている「気候変動への対応」や「リスクマネジメント」などの進捗に関わる重要な情報は、CSR・サステナビリティ委員会にも共有され、各専門委員会での重要決定事項は、業務執行における重要事項を審議・決定・監督する経営会議を通じて取締役会に報告されています。

 


 

 

② 戦略

当社は、持続可能な社会の実現に寄与することで、企業価値の向上を目指しています。そのためには、社会的課題を的確に捉えたうえで、当社グループとしてESGの各分野で優先的に取り組むべき課題(マテリアリティ)を特定し、中長期的な視点で目標を設定して取り組んでいくことが重要だと考えています。

現在進めている長期経営計画「2030 長期経営計画 日特BX」においては、マテリアリティとして8項目を特定しており、事業を通して社会的課題を解決するというサステナビリティ共通の考え方の下、「環境に配慮して設計した製品の提供や社会的課題の解決に寄与する技術・製品・事業の開発」を中心テーマに据えています。

 

優先的に取り組む課題の特定プロセス

 


 


 

(環境に配慮して設計した製品の提供)

当社グループは、製品・サービスの使用時や廃棄時なども含めたライフサイクル全体を俯瞰し、環境負荷がより小さい製品・サービスを提供することで、社会の持続的な発展に貢献したいと考えています。特に、自動車部品では、製品使用時でのCO2排出量が大きいため、省燃費タイプのスパークプラグ・酸素センサのCO2削減貢献量を増やすべく、それら製品の販売を促進します。(それぞれ目標は2030年3月期で販売比率50%以上)

 


 

(社会的課題の解決に寄与する技術・製品・事業の開発)

当社グループは、世界が抱える課題に向き合い、その解決に資する新たな価値を共創・提供することで、よりよい社会の実現に寄与していきたいと考えています。

気候変動や食料不足など、世界が直面する課題はさまざまですが、当社グループの技術と蓄積した経験を活かして、世界の人々に新たな価値を提案します。CO2フリー水素利用を視野に入れた高効率分散型電源となる燃料電池の普及、有鉛圧電材から無鉛圧電材への代替促進、陸上養殖用の水質管理システムなどのセンシングIoTソリューション、セラミック技術を応用したCO2回収、水素製造からの合成燃料(メタン)製造システム、そのソリューションの提供などを推進します。

 

③ リスク管理

当社グループは、サステナビリティ戦略、ESGテーマを含めて、事業の目標達成や存続を阻害する可能性を低減もしくは回避するため、リスクマネジメントの最高責任者が任命した執行役員を委員長とするリスクマネジメント委員会を専門委員会の一つとして設置し、CSR・サステナビリティ委員会の監督の下、全社的なリスクマネジメントの実践、維持、改善を推進しています。

リスクマネジメント委員会では、リスクについて、全社的見地で事業存続や目標達成に大きな影響を及ぼすか否かを、影響度と発生可能性、及びその対策状況を分析して評価しています。重点的な対応が必要と評価されたリスクは「優先リスク」として主管部門を定め、リスクマネジメント委員会で低減活動の状況を確認しています。気候変動や人権をはじめとするESGに関するリスクについても併せて評価しています。一方、重要な機会については、CSR・サステナビリティ委員会で確認し、必要に応じて経営戦略や優先的に取り組む課題に反映しています。

なお、当社グループはグローバルかつ多くの分野で事業を展開しており、事業毎にさまざまなリスクと機会があることから、事業毎にリスクと機会を把握して、それぞれに対応しています。気候変動に関するリスクと機会についても、規制動向等を注視して事業への影響をそれぞれに評価し、対応しています。

 

④ 指標と目標

当社グループは、2030年長期経営計画の実現に向け、環境・社会・ガバナンスにおいてそれぞれ具体的な指標・目標を設定しています。

 


 

(2) 気候変動:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示

気候変動の緩和のため温室効果ガスの排出量を削減することは、地球規模で緊急かつ重要であり、当社グループにとっても優先的な課題です。特に、ものづくり企業である当社グループにとって、CO2排出量を削減することは、当社グループが果たすべき責任と考えています。

当社グループは、『エコビジョン2030』において、2050年カーボンニュートラルを目指すことを前提として、CO2排出量の削減目標「2030年度:2018年度比30%削減」(スコープ1・2)を宣言しています。また、サプライチェーンや製品ライフサイクルにおいてもCO2排出量削減を推進し、「2030年度:2018年度比30%削減」(スコープ3)を目指します。

 

① ガバナンス

気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細については「(1)サステナビリティ共通 ①ガバナンス」を参照ください。

 

② 戦略

気候関連のリスク・機会について、川上から川下までのサプライチェーン全体を見渡して、短期・中期・長期における社会動向や規制動向などを予測し、TCFD提言の例示を参考にしながら、幅広くリスク・機会の項目を選定しています。

選定したリスク項目について、主に2℃シナリオの途上に起こる「低炭素経済への移行に関するリスク」と、世界のCO2排出量削減未達により4℃シナリオに至った場合に発生する「気候変動による物理的変化に関するリスク」を想定し、TCFDの分類に沿って整理した上で事業インパクトを評価しました。

 

<検討に用いた主なシナリオや予測>

2℃シナリオ:IPCC RCP2.6、IEA ETP 2DS 等

4℃シナリオ:IPCC RCP8.5、IHS Markit Automotiveの“Mobility and Energy Future” サービスデータ 等

 

 なお、ここでいう短期・中期・長期は、次の通りです。

 短期:中期経営計画の目標年度に合わせた2025年頃まで

 中期:長期経営計画の目標年度に合わせた2030年頃まで

 長期:長期経営計画の目指す姿に合わせた2040年頃まで

 

 <気候関連のリスク>

リスク項目

事業インパクト(リスク)

評価

(影響度)

リスクが

現れる時期

低炭素経済への移行に関するリスク

炭素税

・炭素税が導入されると燃料調達コストに税金が課されることになるため、エネルギーコストや原材料コストが増加する。

短期~長期

国境炭素税

・国境炭素税が導入されると、輸出する製品に課税されることになるため、製品の価格競争力が低下する。

短期~長期

炭素排出規制

・GHG削減目標の達成が求められ、設備投資や再エネ電力購入等の対応コストが増加する。

短期~長期

ガソリン車販売

・ガソリン車の新車販売を禁止する国では、OEM需要が無くなり、売上が減少する。

中期~長期

省エネ・再エネ技術の普及

・新たな省エネ・再エネ技術を導入するために、設備投資等の対応コストが増加する。

中~大

短期~長期

新技術開発

・新技術への研究開発の投資コストが増加する。

短期~長期

顧客の変化

・2030年代以降に中古車でもZEVを選ぶ人が増え、プラグの交換需要が減少し、売上が減少する。

・ライフサイクルでのCO2排出量が少ない製品が選ばれるようになり、従来品の売上が減少する。

長期

投資家の変化

・内燃機関への風当たりが強くなり、ダイベストメントの対象となる。

小~中

中期~長期

求職者の変化

・内燃機関への風当たりが強くなり、就職先として選ばれなくなる。

小~中

短期~中期

気候変動による物理的変化に関するリスク

異常気象の激甚化

・台風等によって工場等への被害が発生し、操業停止や生産減少などが起こる。また、設備復旧への追加コスト等が発生する。損害保険料も増加する。

小~中

短期~長期

海面の上昇

・海面上昇に伴って洪水や高潮が増加し、沿岸部にある工場や交通インフラが被害を受けてサプライチェーンが寸断され、対応コストが発生する。

小~中

長期

降水・気象パターンの変化

・水不足が深刻化する地域にある工場で水利用が制限され、操業を停止・減少せざるを得なくなり、別工場での生産や輸送などの対応コストが発生する。

小~中

長期

平均気温の上昇

・猛暑の中で働く従業員に熱中症が頻発し、体力的な負担が増加するため、猛暑対応のためのコストや人件費が増加する。

小~中

長期

 

 

また、主要な事業拠点を対象に、現状の洪水・渇水・高潮等のリスクポテンシャル調査を行い、想定される被害の程度や頻度を勘案した結果、深刻な被害が発生する可能性は低いことが分かりました。

一方、将来の洪水・渇水・高潮等のリスクポテンシャル調査も行い、降水量の増加が見込まれる地域があることが分かりました。しかし、洪水や土砂崩れなどのリスク増に直結するか否かは、各事業拠点の立地(地盤、標高、河川との距離など)や治水対策の状況によるため、引き続き調査を行います。

 

<気候関連の機会>

側面

主な機会

機会が

現れる時期

資源の効率性

・新たな省エネ・再エネ技術の社内への導入が進み、エネルギーコストが減少する。

短期~長期

エネルギー源

・炭素税が課税されない燃料として水素の需要が高まり、水素エネルギー市場で新たな機会が生まれる。

・メタネーションなどの技術が発達し、e-Fuelなどの合成燃料が普及すると、現状の内燃機関ビジネスが継続される。

長期

製品/サービス

・燃費規制に対応していくために、高付加価値製品の需要が増える。

短期~中期

・GHG削減が義務化されることで水素エネルギー市場が拡大すると予想され、水素関連技術やSOFC、SOECの需要が高まって、ビジネス機会が生まれる。

長期

・電気を利用して水素を作る(SOEC)、回収したCO2を燃料にするなどのCO2循環関連ソリューションの需要が高まる。

長期

・災害に備えて、エネルギーの地産地消(分散型の発電)が注目され、SOFCの需要が高まる。

長期

・電気モーターや発電機に使われるセラミック関連技術・製品の需要が高まる。

中期~長期

市場

・社会のニーズを捉えた気候変動に関連する新技術を開発することで、ビジネス機会が生まれる。

中期~長期

強靭性(レジリエンス)

・災害に備えて、サプライチェーンも含めてBCM/BCPを継続的に強化していくことで、レジリエンスが高まる。

短期~長期

 

 

気候変動のリスクと機会をより具体的にするため、各事業について、2℃及び4℃シナリオ下における事業環境とその対応について検討した結果、物理的リスクについての致命的な影響は見受けられませんでした。

事業については、現在、売上収益の8割を占める内燃機関に関連する事業が大きな変革を迫られており、一方で、脱炭素社会の実現に向けて、水素関連をはじめとして新たなニーズや市場が期待されることから、「2030 長期経営計画 日特BX」において、今後注力する事業分野の一つに「環境・エネルギー」を掲げ、2040年に向けて事業ポートフォリオ転換(売上収益構成比率:内燃機関事業40%、非内燃機関事業60%)を推進しています。2024年3月期において事業ポートフォリオ転換進捗は(売上収益構成比率:内燃機関事業82%、非内燃機関事業18%)です。

 

検討対象とした事業

製品

今後の事業リスクと事業機会への対応

財務面の影響

長期経営計画での売上収益目標

自動車関連事業

スパークプラグ、グロープラグ、

センサ

2℃シナリオ下では、内燃機関を有する自動車への規制が厳しくなることで、将来、内燃機関部品の売上減少が想定される。一方で、電動車市場などの新市場への機会が生じる。

4℃シナリオ下では、内燃機関のさらなる省エネと有害ガスの排出抑制が求められるため、高性能化への対応を行う。

売上収益の一部に影響

※1

4,500億円

(2029年度)

燃料電池事業

燃料電池

2℃/4℃のいずれのシナリオ下においても非化石エネルギーの需要拡大が予想されるため、当該市場への対応を引き続き強化。

2℃シナリオにおいては、水素インフラの普及が予想され、加速的に市場が増える可能性がある。

2,000億円規模の市場が予想され、水素インフラの普及状況によっては上振れの可能性あり

3,000億円

(2029年度)

その他の事業

半導体製造装置用部品、半導体パッケージ、酸素濃縮装置、ベアリング用ボールなど

2℃/4℃のいずれのシナリオにおいても、リスク及び機会への影響は小さい。

小さい

 

 

自動車関連事業では2℃シナリオ下において、規制強化により将来的に売上減少が見込まれるため、事業ポートフォリオ転換が必要です。その他の事業については、2℃及び4℃いずれのシナリオ下においても、市場の動向を注視し、柔軟かつ戦略的に事業を展開しており、中・長期の観点からも高いレジリエンス性を有しています。

 

※1 内燃機関事業の財務面の影響額について

IHS Markit Automotiveの分析に基づく当社予測では、各国の気候変動対策によって内燃機関への規制が進むことで、内燃機関を有する自動車は2030年代半ば以降減少すると見込んでいます。

一方、当社の内燃機関事業の中核であるスパークプラグは、新車用だけでなく補修用の需要もあり、当社予測では、引き続き内燃機関を有する自動車が保有されていると考えられることから、2040年以降に売上がピークを迎え、徐々に下降していくことを見込んでいます。こうした状況を踏まえて、内燃機関事業の売上収益が2040年度以降に2020年度から10%減少すると仮定して試算すると、売上収益の減少額は350億円程度になります。

 

③ リスク管理

気候変動に関する主なリスクは、サステナビリティ戦略に含めて管理しています。詳細については「(1)サステナビリティ共通 ③リスク管理」を参照ください。

 

④ 指標と目標

当社グループは、2020年5月に発表した長期経営計画「2030 長期経営計画 日特BX」において、「CO2排出量:30%削減 [2018年度比](2030年度)」という目標を掲げています。また、長期的な視野で環境保全活動を進めるため、2021年4月に「エコビジョン2030」を策定し、その中で2050年に向けてカーボンニュートラルを目指すという長期目標を掲げました。

エコビジョン2030では、重要4課題として、気候変動への対応、環境配慮製品の拡充、水資源の保全、廃棄物管理を挙げています。環境配慮製品の拡充は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)やカーボンニュートラル・アズ・ア・サービスなど、気候変動対応やCO2削減をはじめとする環境配慮製品・サービスの提供を目指すものです。また、水資源の保全のために節水することや、資源投入量や廃棄物排出量を削減することは、CO2排出量の削減に繋がります。そのため、これらを重要4課題と設定し、個別の課題として取り組むのではなく、相互に関係する課題として取り組んでいくことで、よりシナジーのある対応を目指しています。

目標の達成に向けて取り組みをより一層推進するため、取締役(監査等委員である取締役及び社外取締役を除く)及び執行役員(雇用型執行役員を除く)を対象とする業績連動型株式報酬制度の中で、評価指標の一つに「CO2排出量削減率」を設けています。また、グループが一丸となってCO2削減の取り組みを進めていくため、ICP(インターナルカーボンプライシング)を導入しています。CO2排出量1トンあたり10,000円を排出部門から徴収し、徴収した金額は、社内環境ファンドとして脱炭素のための投資支援やインフラ整備に充当しています。

同時に、サプライチェーンも含めたスコープ3の削減も推進しています。スコープ3においては、まずはカテゴリ1「購入した製品・サービス」、カテゴリ4「輸送、配送(上流)」の一部、カテゴリ11「販売した製品の使用」の各カテゴリで2030年度 30%削減(2018年度比)を目指します。また、取引先(サプライヤー)に対してはCO2の削減目標を設定して取り組むよう求めており、適宜支援を行っています。

 

(3) 人的資本

当社グループは、2040年の目指す姿である「これまでの延長線上にない変化」の実現に向け、「志を持った多様な人財とともに共生する企業になる」ことを人財方針における基本的な考え方としています。「セラミックスで何ができるか」にこだわらず、セラミックスの領域を越え、世の中や私たちの想像を超えた挑戦のため、自律した人財の獲得と育成、多様な知と知の組み合わせ、エンゲージメントの向上を通じ、人的資本の最大化を目指すことで、企業価値向上を実現します。

 

① ガバナンス

人財戦略および経営上重要な人事施策、また、経営戦略上、重要なグループ全体のコアポジションの人事については、人的資本管理責任者である人事戦略室管掌役員のもと、人事戦略室にて立案し、経営会議に諮ります。

 

② 戦略

( i ) グローバル人財マネジメント(人財育成・獲得戦略)

長期経営計画で謳われている事業ポートフォリオ転換のためには、延長線上にない変化のためのイノベーションをおこしていく必要があります。そのためには、多様な知と知の組み合わせという思想を根幹に置いた人財ポートフォリオ転換が必要であり、「グローバル人財マネジメント」と称する人財育成・獲得戦略を推進しています。大きな2つの柱があり、ひとつが適所適財の人財配置とスキル向上による現人財の一層の活躍、もうひとつが外部専門人財の戦略的な獲得です。その人財の目指す姿が「自律創造人財」です。またこれらの戦略の基盤としてダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを推進します。

 


 

<ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進>

グローバル人財マネジメントを推進するためには、志を持った多様な人財が必要です。従業員一人ひとりが個性を活かし、能力を存分に発揮し続けることが、企業の成長と個人の幸福に繋がると考え、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを重要な経営戦略の一つとして位置づけています。性差や年次等の各種属性を問わず、多様な人財を認めて受け入れ、多様な知と知を組み合わせるために、それぞれに最適なサポートや機会を公平に提供するよう努めています。

 

<自律創造人財の創出>

全従業員に求める人財像を、自ら主体的に働き、新しく創造することができる「自律創造人財」と定め、人財ポートフォリオ転換の実現に向けて人財の強化を図っています。大きな2つの柱があり、ひとつが適所適財の人財配置とスキル向上による現人財の一層の活躍です。

人財配置については、まずは基幹職レベルでしくみの構築を行っています。次世代経営層を対象とした選抜の育成施策を実行し、姿勢や思考、知識の習得を進めています。さらに、サクセッションプランとして、重要ポジションの後継者候補を、 「今すぐ」「1~3年後」「5年後」の各時間軸で明確化しています。コアなポジションに最適な人財を配置して、組織パフォーマンスの最大化を計画的に推進します。

また、現人財の活躍推進について、まずは、「自律創造人財」に必要なスキルを定義しました。コアスキルと、当社グループのコアコンピタンスに基づき注力する事業領域において必要となるテクニカルスキルのふたつの軸で、現従業員の保有スキルを可視化し、全社共通のスキルマップの整備をしています。現状と目指すスキルとのギャップも明らかにし、従業員自らがギャップを埋めるためスキルアップしていける環境を整え、個々のスキル向上を推進します。実施例としてDX教育については、全従業員の底上げ教育と一部業務に必要な専門教育の両面で2022年度より育成施策を積極的に展開しています。国内全グループ会社の全従業員を対象としたデジタルリテラシー教育を皮切りに、2023年度は、デジタル活用による業務改善を推進するため、ノーコードツール開発者育成を展開し、デジタルで業務改善を推進できるノーコードツール開発者が年間100名以上輩出できる教育体制を構築しました。今後は、業務改善から業務変革への拡大と、事業変革を目指し、教育施策を展開していきます。もうひとつが外部専門人財の戦略的な獲得です。急激な環境の変化に対応する技術や新規事業の創出のため、内部人財の一層の活躍のみならず、尖った専門性をもつ外部人財を「自律創造人財」として戦略的に獲得していくことにも注力しています。

 


 

(ⅱ)環境整備戦略

<多様な働き方>

多様な人財が活き活きと働くために、働き方の選択肢の多様化を進めています。リモートワークについても、既に2018年から始動し、在宅勤務を働き方の選択肢として制度整備を行い、コロナ感染症拡大の際にも、リモートワークへスムーズに移行することができました。さらに新たな価値創出、自律した人財の育成を目的に、より良い働く環境を整備すべく、2021年1月には、第2弾として働き方改革を本格的に展開しています。働き方改革宣言のもと、改革に踏み出す為の意識改革活動、インフラの再整備等、多様かつ柔軟に、働く環境整備を進めています。

「働く時間」の多様化としては、勤務時間の選択肢を広げることで、仕事とプライベートの調和を可能にし、自律した人財への成長を促す環境を整えています。また、「働く場所」の多様化として、2024年2月には遠隔地勤務制度を導入し、場所に制約される働き方から脱却することで、遠地に住む人財の確保や離職防止に繋げています。

 


 

<健康経営>

従業員一人ひとりの健康は、当社を支える重要な経営資源のひとつであり、「健康経営」を推進しています。2017年12月には「健康経営宣言」を掲げ、「生活習慣病対策」「メンタルヘルス対策」「受動喫煙対策」の観点から各種施策を推進しています。特に、従業員の健康管理の基礎となる、健康診断の受診率は100%に達しています。また、受動喫煙防止の観点から、2023年4月より敷地内全面禁煙を実施しています。従業員のみならず、その家族も含めた健康増進活動を、長期的な視点に立って積極的に推進していきます。

 


 

<従業員エンゲージメント>

多様な人財が能力を最大限に発揮できる環境を整備するために、従業員エンゲージメントの向上を図っています。エンゲージメントサーベイを年に1度実施しており、モチベーションや負担感の把握、各種施策の検討や効果検証を行っています。サーベイの結果は、各担当役員及び部門長へフィードバックし、部門を超えた取り組みの共有会を実施することで、環境改善のアクションに繋げています。また、従業員エンゲージメントの向上を目指し、2022年度よりエンゲージメント指標を役員賞与算定に用いる指標の一つとして採用しました。

他にも、毎月のエンゲージメントを測定し、組織の現状把握とアクションの効果の確認を行うパルスサーベイツールの導入、また日々の心身の調子を色で表現して可視化するGOOD MORNING COLORというツールも一部の部門で導入し、適時エンゲージメントを測定できる環境整備を推進しています。ツールの導入とともに、上司と部下の1on1ミーティングを実施しており、対話の機会を通じて心理的安全性を醸成しています。

 

③ リスク管理

当社グループは、持続的な成長を担う多様な人財の確保・育成に努めていますが、各分野で必要とする専門性を持つ人財や組織を先導する多様な個性を持った人財を獲得し適切に配置できない場合は、事業活動が停滞し、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、専門性を持つ多様な外部人財の戦略的な獲得を進めるとともに、人財戦略及び経営上重要な人事施策や、グループ全体のコアポジションの人事については、代表取締役及び一部の上席執行役員で構成される経営会議において議論し、計画的に進めています。

 

④ 指標と目標

当社グループは、人財の多様性を重要な経営戦略の一つとして位置づけており、数値目標として2030年までに、取締役の女性・外国籍比率を30%以上、管理職の女性・外国籍・キャリア採用比率を25%、と定めています。これらの指標は、性別や国籍だけに拘る意図で設定されているものではなく、彩り豊かな個性と特性を受け入れ、活かす組織に繋がると確信し、経営としてコミットし取り組んでいるものです。

 


 

(注) 1 取締役の女性・外国籍比率は、取締役のうち、女性・外国籍の者が占める比率です。

2 管理職の女性・外国籍・キャリア採用比率は、管理職のうち、女性・外国籍・中途入社者が占める比率です。なお管理職とは、職務の内容及び責任の程度が「課長級」又はそれより上位に相当する者です。当社には、管理職級の専門職がいますが、上記には含んでいません。

 

取締役の女性・外国籍比率については、経営の意思決定に大きな影響力を持つことから先んじて推進し、2023年度末時点で目標を達成(5/11名、45%、外国籍の社外取締役含む)しています。なお、取締役の女性の比率は36%(4/11名)となります。

管理職の女性・外国籍・キャリア採用比率については、目標値の25%に向けて進捗しており、2023年度末時点で23%を超えています。また、母数に占める管理職クラスの比率が男性と比べて女性が低いことが、男女の賃金の差異を生む主要因のため、新たに女性管理職比率についても、2030年までに10%とすることを目標に掲げて、向上のための人事施策を推進しています。具体的には、女性の管理職登用促進の研修プログラム(Raise Up)を実施し、複数のメンターから支援を受けながら、管理職に必要な知識・スキル・マインドを学ぶ場を作り、各自の成長を促進しています。多様性を受け入れ、適財を登用していることから、比率は年々逓増傾向にあります。比率の向上を促進することに加え、質も定量的にモニタリングしていく必要があると考えています。導入している各種サーベイツールを活用し組織分析を行い、改善施策に取り組むことで、環境整備も並行して推進していきます。

新卒採用においても、性別という属性を超え、ポテンシャル人財の獲得を促進し、今年度新卒入社者は、技術系女性を含め半数以上が女性となっています。外国籍労働者の採用については、継続的に積極的な新卒採用選考を行っています。入社以降、文化の異なる日本で働くという精神的負担を軽減すべくフォロー施策(交流会等)も実施しています。

キャリア採用についても、ダイレクトリクルーティング等活用し、戦略的な獲得を進めています。常に市場を見張り、タレントをモニタリングし、高度な専門性を持ったタレントの採用を増やしています。昨年度40名の採用であったのに対し、今年度は53名の採用となっています。特に女性は管理職だけでなく、係長級もターゲットに積極的にスカウトを行っています。

多様な知と知を組み合わせ、これまでの延長線上にない未来を目指すため、当社グループは今後もダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを重要な経営戦略として取り組んでいきます。

 

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの経営成績は、今後起こり得る様々な要因に影響を受ける可能性があり、事業展開上のリスク要因と考えられる主な事項は以下のとおりですが、これらを認識した上で、発生の予防及び発生した場合の対応に努める方針です。

なお、文中における将来に関する記載は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

(1) 世界情勢・為替変動に関するリスク

当社グループは、売上の約80%が海外市場であり、海外生産の展開も合わせて国際的な事業運営を行っているため、経営成績は世界的な政治・経済情勢の変化の影響を大きく受けます。ロシア・ウクライナ情勢の長期化、米中関係及びこれらに起因する物流の混乱や燃料価格の高止まりの影響、中国等の諸外国の景気減速懸念、世界各国の法令・規制の変更、労働環境の変化等、予想外の環境変化が当社グループ又はその顧客の需給に影響を与える可能性があります。当社グループでは、国際情勢や重要な法規制の改正等の動向をモニタリングし、当社グループへの影響を把握しています。

さらに、米ドル、ユーロ等主要通貨に対する日本円の変動は、当社グループの製品の価格面での競争力に影響を及ぼす他、連結海外子会社の財務諸表の円貨換算額にも影響を及ぼします。当社グループでは、短期的な為替変動に対して機動的な為替予約等によりリスクヘッジを図る一方、主要通貨の変動及び事業への影響についてはモニタリングを行い、必要に応じて事業への影響を軽減する対策を検討しています。

(2) 事業環境に関するリスク

自動車関連事業の新車組付用製品の販売量は、自動車メーカーの生産計画による影響を受けます。また、補修用スパークプラグの販売に関しては、潜在的成長性を有する発展途上の国々における需要が期待できる反面、先進国では長寿命プラグの採用を指向する傾向にあり、販売量の拡大が継続しない可能性があります。また、世界各国のエネルギー政策や環境配慮型規制の進展により、設計・試験・製造バランスの変化に対応するための費用が営業成績に影響を与える可能性があります。特に、電気自動車への移行に伴う内燃機関車の減少に繋がる変化に対応するため、次世代製品の開発が急速に求められています

セラミック事業における半導体部品や半導体製造装置用製品は、移動体通信機器や半導体製造装置をはじめとする情報通信産業・機械等設備産業の事業環境により影響を受けます。

当社グループは、事業活動の進捗状況を執行役員・カンパニープレジデント会でモニタリングし、必要に応じて事業への影響を軽減する対策を検討しています

(3) 製品品質に関するリスク

当社グループは調達先を含めて各生産拠点において世界的に認められた品質管理基準に従って製品を製造していますが、全ての製品について欠陥が無く、将来においてリコールが発生しないという保証はありません。また、製造物責任賠償については保険に加入していますが、この保険が最終的に負担する賠償額を十分にカバーできるという保証はありません。特定の製品に直接的・間接的に起因する市場クレームが発生した場合、当該製品を回収し、顧客とともに当該製品に変更を施し、又は対策費用の支出による場合も含め、財政的な負担を負わなければならないだけでなく、社会的評価等に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、品質保証体制の強化に常に取り組むとともに、品質問題の予防に向け、製品品質のみならず、すべての業務において品質の向上を意識した取り組みを進めてまいります。

(4) 技術開発に関するリスク

当社グループが提供する製品市場は、技術の急速な進展及びニーズの変化や新興勢力との差別化をその特徴とし、新技術及び新製品の開発においては、短期間での開発、安定した量産に対応する製法の構築のために、市場への導入に先立って設備投資を行うことが必要とされます。このような新製品は、開発資源の増大や競合他社による新技術の開発の結果、想定していた新規性やコスト面での優位性を有しなくなったり、既存の製品の市場性を低下させたりすることで、経営成績に影響を与えることがあります。当社グループでは、開発速度を上げるようオープンイノベーションを推進し、外部技術との連携を図る仕組みも整備しています。

 

(5) 知的財産に関するリスク

当社グループは新商品を保護するために知的財産権の取得等の方策を講じていますが、不正利用の防止・類似技術の取得の抑制に対して完全とは言い切れない可能性があり、特許侵害で係争となることやライセンス費用又は和解費用を負担することで、経営成績に影響を与える可能性があります。それらのリスクを抑えるため、開発段階から量産段階における第三者の知的財産権調査と、各種契約の知財条項の適否確認に注力します。合わせて、知的財産の社員教育も推進し、「ものづくり企業」として知的財産の管理を強化していきます。一方で、当社製品の模倣品が新興国を中心に出回っています。こうした模倣品は購入された方の安全を脅かす可能性もありますので、世界各国の税関・行政機関等とも連携して摘発・排除活動を実施しています。

(6) 原材料・部品の調達に関するリスク

当社グループは、適時・適量の原材料・部品の確保を前提とした生産体制をとっていますが、主要原材料・重要な工程委託の中には代替品あるいは代替ルートの確保が困難なものが存在しており、仕入先における事故、廃業、あるいは海外調達品の場合は当事国間の規制変更等により、安定調達に支障をきたすリスクがあります。当社グループでは、複数購買を推進し、サプライヤーとの連携を密にしながら、リスク低減に努めています。

また、主要製品に使用する貴金属が世界的な需給逼迫により価格高騰が続く場合、経営成績に影響を与えることがあります。当社グループでは、原価低減や価格転嫁等の施策を行い、その影響を軽減する対策を都度検討しています

(7) 自然災害に関するリスク

当社グループは、日本における生産拠点及び研究開発拠点を東海地方に集中して配置しており、大地震や風水害等の自然災害が東海地方に発生した場合は、操業停止やサプライチェーン寸断等が発生し、生産や出荷活動の低下を招き、当社グループの経営成績や財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、自然災害を想定した設備対応と定期訓練を実施して緊急事態に備えるとともに、災害発生時には社長を本部長とする緊急対策本部を立上げ、初動対応と復旧対応を行う事業継続計画(BCP)を実行できる体制の整備を推進しています。

(8) 環境に関するリスク

当社グループは、環境リスクの中でも特に気候変動への対応に世界的な関心が高まる中、気候変動リスクへの対応を重要な経営課題であると認識しています。気候変動リスクには、自然災害の深刻化や慢性化等の物理的リスクのほか、炭素税導入や環境規制強化等の移行リスクがあり、いずれも当社グループの経営成績や財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、こうしたリスク認識を踏まえて、2030年を見据えた「エコビジョン2030」を策定しました。その中で「気候変動への対応」を重要課題とし、2050年に向けてカーボンニュートラルを目指すことを表明するとともに、社内炭素税と社内環境ファンドの導入等によりCO2削減の取り組みを強化しています

(9) 情報セキュリティに関するリスク

当社グループは、事業の円滑かつ効率的な遂行のため、ITシステムを利用していますが、システムの高度化・複雑化によって利便性が向上する一方で、ITインフラのシステムダウン、不正アクセス、コンピュータウイルス感染等により、生産や販売等の基幹システムの不具合、故障・停止が発生した場合、又は経営及び事業に関する重要情報及び個人データ等の機密情報が漏えいした場合には、経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

当社グループでは、こうしたリスクに対し、ITシステムのセキュリティ水準を向上させるとともに、コンピュータセキュリティに関する事故対応チーム(CSIRT)や全社横断的なITセキュリティ委員会を運営し、万が一の発生時の早期収拾、未然防止に向けた活動を推進しています。また、機密管理を含めた情報セキュリティの社員教育も推進しています。

(10) 人財確保に関するリスク

当社グループは、持続的な成長を担う人財の確保・育成に努めていますが、各分野で必要とする専門性を持つ人財や組織を先導する人財を適切に配置できない場合や人財の獲得競争の激化や従業員の退職等によって十分な人財の確保ができなかった場合は事業活動が停滞し、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、キャリア採用により専門性を持つ人財の確保を進めるとともに、スキルマップを活用した従業員の保有スキルの可視化や社内公募による社内人財の流動性確保、また、リーダー育成・配置にあたっては、経営層をメンバーとする経営会議で育成プログラムやコアポジションの人財配置を計画的に進めています

 

(11) 法令・規制・訴訟に関するリスク

当社グループは、事業を遂行する上で各種の法令・規制等の適用を受けていますが、これらが変更された場合や見解の相違があった場合、また予見できない新たな法令・規制等が設けられた場合には当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

また、当社グループは継続的なコンプライアンスの実践に努めていますが、独占禁止法違反、環境その他に関する諸外国を含めた法令違反の可能性に関連して、訴訟、規制当局による措置その他の法的手続の当事者となる可能性があり、その場合には当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります

当社グループでは、役員、従業員に対して教育プログラムを設定し、コンプライアンス意識の醸成に努めるとともに、コンプライアンス違反行為又はそのおそれのある行為の通報や相談の窓口として社内外に内部通報窓口を設置し、早期対応、未然防止に向けた活動を推進しています。

(12) 事業投資に関するリスク

当社グループは、事業戦略の一環として、既存事業の拡大や新たな事業への進出等を目的として他社との事業提携・資本提携及び企業買収等を行うことがあります。これらの意思決定に際しては、事前に収益性や投資回収可能性に関する十分な調査及び検討を行っていますが、期待した収益や成果を充分に得られず、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。当社グループでは、重要な投資に対してはモニタリングを行い、必要に応じて投資計画改善の対策を検討しています。

(13) 感染症に関するリスク

新たな感染症の大流行により、世界的な移動制限や地域によっては防疫強化のための経済活動抑制が行われ、当社グループの主要な顧客において生産調整を余儀なくされる場合は、当社グループもその影響を受ける可能性があります。また、当社グループの製造拠点やサプライヤーが所在する国・地域において、集団感染の発生やロックダウン等の規制強化により、当社グループの製品提供や当社グループへの原材料・部品の供給に影響を受ける可能性があります。

当社グループは、顧客・サプライヤーとの連携を密にして製品の安定供給及び原材料・部品の安定調達を行ってまいります。さらに、社内感染予防策及び感染症に対する事業継続計画(BCP)を策定し、感染症の発生段階に応じた対応体制、事業継続方針等を定め、新たな感染症の発生に備えています。

(14) 人権侵害に関するリスク

当社グループ又はサプライチェーン上の人権侵害又はその兆候・課題に対して、適切な対応が取られていない場合顧客との取引停止や行政罰等のペナルティ、またブランドに対する社会的信頼の喪失につながる可能性があります。

当社グループは、強制労働・児童労働、差別・ハラスメント等、あらゆる形態の非人道的・搾取的労働慣行や行為を当社の事業及びサプライチェーンから排除するため、人権方針を従業員に周知し、人権尊重の取り組みを推進しています。また、当社グループ及び取引先に対する人権デューデリジェンスの実施、役員・従業員に対する人権教育、取引先への人権啓発などの取り組みを進めています。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営成績等の状況

① 経営成績

当連結会計年度における世界経済は、米国及び欧州においては、年度前半では高インフレや金融引き締めが景気を下押ししたものの、年度後半ではインフレの緩和に加え、底堅い雇用・所得環境が個人消費の下支えとなり、景気は緩やかに持ち直しの動きを見せました。

中国においては、年度前半より個人消費の軟調、内外需要や不動産市場の低迷が継続したため、年度後半では政府による消費喚起策や金融緩和等の景気浮揚策が打ち出されましたが、景気は引き続き低迷しています。

わが国経済においては、年度前半より好調な企業収益を起点に、内需主導で持ち直しの動きを見せる一方、年度後半においては、一部自動車メーカーの出荷停止の影響等により、個人消費や輸出が弱含みを見せました。しかしながら、雇用・所得環境の改善や株高による資産効果等を背景に、引き続き内需主導で緩やかな回復を見せています。

当社グループの主要な事業基盤である自動車業界における新車生産は、コロナ禍からのリバウンド需要や半導体不足の解消等により、前年同期比で増加する結果となりました。中国においては、電気自動車の伸長による増加の一方で、政府補助金の打ち切りや価格競争力での課題を背景に、一部で内燃機関搭載車への回帰の動きも見られています。

半導体製造装置業界においては、半導体需要の軟化や米中対立を起点とする規制強化懸念の高まり等を背景とし、市況は一時的に低迷していたものの、生成AI関連の需要拡大や堅調な関連設備投資の継続等により、徐々に回復方向に向かっています。

その結果、当社グループの当連結会計年度における売上収益は6,144億86百万円(前連結会計年度比9.2%増)、営業利益は1,075億91百万円(前連結会計年度比20.6%増)となり、親会社の所有者に帰属する当期利益は826億46百万円(前連結会計年度比24.7%増)となりました。

売上収益営業利益率(営業利益/売上収益)は前連結会計年度15.9%に対して1.6ポイント上昇17.5%となりました。親会社所有者帰属持分利益率(親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分)は前連結会計年度末の12.3%から13.8%1.5ポイント上昇し、基本的1株当たり当期利益は、前連結会計年度の326円09銭から409円47銭83円38銭増加しました。

  セグメント別の業績は次のとおりです。

セグメントの名称

 

前連結会計年度
(自 2022年4月1日
 至 2023年3月31日)

当連結会計年度
(自 2023年4月1日
  至 2024年3月31日)

 

売上収益

営業利益又は
営業損失(△)

売上収益

営業利益又は
営業損失(△)

自動車関連

(百万円)

443,980

93,260

505,355

121,245

セラミック

(百万円)

110,754

11,005

96,548

△591

新規事業

(百万円)

4,487

△17,092

5,143

△13,247

その他

(百万円)

5,303

2,045

8,177

184

調整額

(百万円)

△1,966

△738

 

 

<自動車関連>

当事業は、売上収益では、中国市場が弱含むも、コロナ禍の収束と半導体供給不足の緩和により、自動車生産が回復傾向にあることから、前期並みの販売数量となりました。加えて、インフレに伴う価格転嫁の実施が、売上収益を押し上げる結果となりました。

また、利益面では、価格転嫁の実施に加え、為替レートが円安に推移したことも当社利益を押し上げる要因となりました。

この結果、当事業の売上収益は5,053億55百万円(前連結会計年度比13.8%増)、営業利益は1,212億45百万円(前連結会計年度比30.0%増)となりました。

 

<セラミック>

当事業は、売上収益では、半導体関連の事業については半導体の生産調整や半導体製造装置向けの投資抑制等の市況の低迷による影響を受けました。

また、利益面では、半導体関連の販売数量減少に加え、呼吸器事業において酸素濃縮器のコロナ特需の一巡や中国メーカーが米国市場に参入した影響を受け、セラミック事業全体では前年度と比べ落ち込む結果となりました。

この結果、当事業の売上収益は965億48百万円(前連結会計年度比12.8%減)、営業損失は5億91百万円(前連結会計年度は110億5百万円の営業利益)となりました。

 

<新規事業>

新規事業については、売上収益は51億43百万円(前連結会計年度比14.6%増)、営業損失は132億47百万円(前連結会計年度は170億92百万円の営業損失)となりました。

 

<その他>

その他の事業については、売上収益は81億77百万円(前連結会計年度比54.2%増)、営業利益は1億84百万円(前連結会計年度比91.0%減)となりました。

 

② 財政状態

資産合計は、9,757億19百万円であり、前連結会計年度末比726億17百万円8.0%)増加しました。これは主に現金及び現金同等物並びに売却目的で保有する資産が減少した一方、投資有価証券並びに営業債権及びその他の債権、持分法で会計処理されている投資が増加したことによるものです。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

 

 

(百万円)

(百万円)

(百万円)

 

現金及び現金同等物

201,628

 

180,684

 

△20,943

 

 

営業債権及びその他の債権

123,620

 

141,403

 

17,782

 

 

棚卸資産

192,308

 

189,627

 

△2,680

 

 

有形固定資産

223,028

 

224,336

 

1,308

 

 

のれん及び無形資産

45,006

 

50,302

 

5,296

 

 

使用権資産

10,441

 

11,429

 

988

 

 

その他

107,068

 

177,934

 

70,865

 

 

資産合計

903,102

 

975,719

 

72,617

 

 

負債合計は、3,374億19百万円であり、前連結会計年度末比19億43百万円0.6%)減少しました。これは主に未払法人所得税が増加した一方、社債及び借入金が減少したことによるものです。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

 

 

(百万円)

(百万円)

(百万円)

 

有利子負債

198,222

 

190,840

 

△7,381

 

 

未払法人所得税

15,133

 

17,972

 

2,839

 

 

繰延税金負債

3,208

 

4,118

 

909

 

 

その他の負債

122,798

 

124,488

 

1,689

 

 

負債合計

339,363

 

337,419

 

△1,943

 

 

資本合計は、6,383億円であり、前連結会計年度末比745億61百万円13.2%)増加しました。これは主に当期利益の計上による利益剰余金の増加及び為替換算調整の影響によりその他の資本の構成要素が増加したことによるものです。

これらにより1株当たり親会社の所有者に帰属する持分は、前連結会計年度末の2,772円61銭から3,181円33銭となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に対して為替相場の変動による換算差額80億42百万円を加算し、売却目的で保有する資産への振替に伴う現金及び現金同等物の増減額24億42百万円を加算した純額で209億43百万円減少し、1,806億84百万円となりました。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

 

 

(自 2022年4月1日
 至 2023年3月31日)

(自 2023年4月1日
 至 2024年3月31日)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(百万円)

69,305

118,179

投資活動によるキャッシュ・フロー

(百万円)

△37,375

△92,157

財務活動によるキャッシュ・フロー

(百万円)

△1,772

△57,450

現金及び現金同等物の期末残高

(百万円)

201,628

180,684

 

<営業活動によるキャッシュ・フロー>

営業活動によるキャッシュ・フローにおける収入は、前連結会計年度から488億73百万円増加1,181億79百万円となりました。これは、主に営業債権及びその他の債権の増加により資金が減少した一方、税引前利益の増加並びに棚卸資産の減少により資金が増加したことによるものです。

<投資活動によるキャッシュ・フロー>

投資活動によるキャッシュ・フローにより支出した資金は、前連結会計年度から547億81百万円増加921億57百万円となりました。これは、主に連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が減少した一方、投資有価証券の取得による支出並びに有形固定資産の取得による支出が増加したことによるものです。

<財務活動によるキャッシュ・フロー>

財務活動によるキャッシュ・フローにより支出した資金は、前連結会計年度から556億77百万円増加574億50百万円となりました。これは、主に長期借入れによる収入が減少し、自己株式の取得による支出並びに社債の償還による支出が増加したことによるものです。

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりです。

 

④ 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

自動車関連

514,024

+11.6

セラミック

91,343

△19.9

新規事業

5,267

+18.5

合計

610,635

+5.5

 

(注) 1 金額は売価換算により計算されています。

2 生産高には委託生産高を含んでいます。

 

⑤ 受注実績

自動車関連の製品のうち、新車組付用は自動車メーカーの生産計画を基準とし、また、補修用は自動車の稼動台数、その他市場の動向、過去の販売実績、代理店の意向等を勘案してそれぞれほぼ確実な見込み生産を行っています。セラミックの製品の大部分及び新規事業の製品は注文生産品であり、その受注状況は次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

セラミック

59,677

△25.6

17,086

△23.6

新規事業

4,508

+10.0

30

△82.7

合計

64,186

△23.9

17,116

△24.1

 

 

 ⑥ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

売上収益(百万円)

前年同期比(%)

自動車関連

505,355

+13.8

セラミック

95,810

△11.9

新規事業

5,143

+14.6

その他

8,177

+54.2

合計

614,486

+9.2

 

(注) 金額は外部顧客への売上収益を示しています。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

① 重要性がある会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成しています。

この連結財務諸表の作成に当たり、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定の設定を行っています。当社グループは、これらの見積りについて過去の実績や現状等を勘案し合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の業績はこれらの見積りとは異なる場合があります。当社グループが採用した重要な会計方針及びその適用方法並びに見積りの評価については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (7) 見積り及び判断の利用」に記載しています。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する分析、検討内容

経営成績等の状況に関する分析、検討内容については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」及び「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況」に記載しています。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性について

当社グループは円滑な事業運営を支えるための運転資金の確保、及び持続的な成長の実現を目的とした他社との連携やM&A、設備投資等、将来の機動的な投資活動を可能にするための中長期的資金への計画的準備を図ることにより、安定的経営と変化への対応に備えることを財務方針としています。そのため、資金計画に基づく当座資金の維持管理をはじめ、債権債務・棚卸資産の効率性を上げるための継続的取り組みを行うとともに、投資リスク軽減のための決裁規程等の整備、経営会議等の各種組織運営に注力しています。

資金調達の方法としては、内部留保資金の他、短期資金需要に対しては銀行借入、コマーシャルペーパー発行等による調達を行っています。また中長期的資金需要に対しては銀行借入やシンジケートローン等を通じた間接金融及び社債発行等の直接金融による調達に加え、必要に応じてエクイティファイナンスも検討します。

 

5 【経営上の重要な契約等】

 

契約会社名

相手先の名称

相手先の所在地

契約内容

契約締結年月

日本特殊陶業㈱
(当社)

三菱日立パワーシステムズ㈱(現:三菱重工業㈱)

日本

固体酸化物形燃料電池分野における製造及び販売を目的とする合弁会社CECYLLS㈱の設立等

2019年7月

日本特殊陶業㈱
(当社)

㈱ノリタケカンパニー

リミテド

TOTO㈱

日本ガイシ㈱

森村商事㈱

日本

固体酸化物形燃料電池分野における研究、開発、製造及び販売を目的とする合弁会社 森村SOFCテクノロジー㈱の設立等

2019年8月

日本特殊陶業㈱
(当社)

IMC International Metalworking Companies B.V

オランダ

機械工具事業におけるNTKカッティングツールズ㈱の合弁会社化による資本業務提携等

2022年10月

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループにおける研究開発活動は、企業理念に立脚し、最善の技術と蓄積した経験を活かした新たな価値の創造に向けて行われています。その活動の主体は、本社機構である科学研究所及び各事業の技術部門で行っており、国内外の学会・協会への積極的な参画、大学・公的研究機関との共同研究等により最新技術を入手・導入することでレベルアップを図っています。

なお、当連結会計年度における研究開発に係る費用は総額27,848百万円であり、セグメントごとの研究開発活動は次のとおりです。

<自動車関連>

自動車エンジンの開発は、環境への配慮とそれに伴う低燃費・低エミッションの規制に対応すべく加速的に進化しており、自動車メーカー各社は、エンジンの小排気量化・直噴化・過給化・希薄燃焼化・バイオエタノールやe-fuel等の多種燃料対応化等燃費向上に向けた技術開発を積極的に進めています。当社はそれに応えるべく、スパークプラグの分野では耐熱性・耐電圧性・着火性を高めるとともに、より一層の小径・長尺化を推し進め、材料開発から製品設計、製造方法まで一貫して開発を行っています。当連結会計年度においては、エンジンの燃焼速度を高速化し燃費向上に貢献することを目的としたプレチャンバープラグについて、様々な運転条件での有効性検証を進めています。また、カーボンニュートラル社会に貢献するために、内燃機関から排出される温室効果ガスを実質ゼロにする水素エンジンやe-fuel用のスパークプラグの開発を進めています。また、製造工程でのCO2排出削減に向け、排熱利用や加熱方法の変更など、効率的にエネルギーを利用する工程開発を進めています。

センサの分野では、環境保全の見地から益々厳しくなる排気ガス規制に対応すべく、検知精度の向上、及び、高温、熱衝撃、振動、被水等の環境耐久性を向上するとともに、環境に配慮した省資源タイプのセンサ開発を行っています。当連結会計年度においては、今後の環境規制の厳格化を見据え、4輪向け酸素センサとNOxセンサの最新製品の開発を進めています。また、新規センサの分野では、自動車業界で培ったコア技術を応用し、非自動車への事業領域の拡大を進めています。

なお、当セグメントの研究開発に係る費用の金額は、11,814百万円です。

 

<セラミック>

産業用セラミックの分野では、超音波振動子等の開発・製品化を行っています。当連結会計年度においては、環境に配慮した無鉛圧電セラミック製品の超音波振動子やアクチュエーターの開発と製品化を進めています。

半導体分野では、半導体製造装置用部品の開発・製品化を行っています。当連結会計年度においては、半導体製造装置用部品の要求仕様の高度化に対し、製品の性能向上や新規製品の開発に取り組みました。また、半導体パッケージの分野では、産業用デバイス向けや通信関連、LED,LD用セラミックパッケージ、半導体検査装置に使用される大型プローブカード用基板等、幅広い製品の開発を行っています。当連結会計年度においては、セラミックの特徴を生かした高放熱用基板など要求仕様にあった製品開発、量産化を進めています。

医療分野では、酸素濃縮装置を製造し複数のプロバイダーに販売しています。当連結会計年度においては、NTKメディカル社ではコストダウン及び安定供給のため製品開発・改良に取り組んでいます。また、CAIRE社では、小型化や軽量化と言った次世代の携帯型の酸素濃縮装置やテレメトリーによるサポートの拡充などユーザー視点でのニーズに合わせた酸素濃縮装置の開発を進めています。

なお、当セグメントの研究開発に係る費用の金額は、7,849百万円です。

<新規事業>

新規事業関連では、エネルギークリーン化への対応として期待の大きなテーマである燃料電池関連の開発に取り組んでいます。現在、独自の機能性セラミックスの材料技術とプロセス技術を活かし、高効率でクリーンな発電システムとして期待される固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発と事業の立ち上げを進めています。当連結会計年度においては、森村グループ各社による合弁会社「森村SOFCテクノロジー株式会社」にて、従来他社より小型・軽量・高効率のスタックを展開し、高効率分散電源への適用や脱炭素社会に向けた新規用途への採用に向け活動を進めています。また、業務・産業用のSOFCセルスタックの今後の量産拡大や家庭用の採用を視野にいれ、生産拠点の集約を完了し生産に向けた準備を進めています。円筒形セルスタックは三菱重工業株式会社との合弁会社「CECYLLS株式会社」にてセルスタックの量産を開始しました。しかし脱炭素化の加速の流れを受け、円筒形SOFC事業は当初の計画を見直しています。今後は構築した量産技術を生かし、水素製造で脱炭素社会に貢献できる円筒型SOECセル事業の検討を進めて参ります。また、平板形の固体酸化物形燃料電池(SOFC)を応用した固体酸化物形電解セル(SOEC)の事業化を目指し、開発を推進しています。その他新規事業関連の分野では、セラミック技術とセンシング技術を利用したオゾン発生器(澄風)、アフターマーケット商流に繋がる独立系修理工場と車両ユーザーをデジタル技術で繋いだプラットフォームサービス、「ドクターリンク」の機能性・信頼性向上と認知度向上に努めています。また、EVパワートレインの高い動力性能・効率と熱ロスの課題を両立するアイテムとして、窒化珪素セラミック基板、積層型ネオジム磁石の開発を進めています。その他にも環境・エネルギー・モビリティ・メディカル分野を中心に様々な新規事業の開発に国内外で取り組んでいます。

なお、当セグメントの研究開発に係る費用の金額は、8,184百万円です。