第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は2024年3月31日現在において判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

  トヨタは経営の基本方針を「トヨタ基本理念」として掲げており、その実現に向けた努力が、企業価値の増大につながるものと考えています。その内容は次のとおりです。

1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす

2. 各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する

3. クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む

4. 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する

5. 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる

6. グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす

7. 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する

 

(2)トヨタフィロソフィー

トヨタはモビリティカンパニーへの変革を進めるために、改めて歩んできた道を振り返り、未来への道標となる「トヨタフィロソフィー」をまとめました。

トヨタはモビリティカンパニーとして移動にまつわる課題に取り組むことで、人や企業、コミュニティの可能性を広げ、「幸せを量産」することを使命としています。そのために、モノづくりへの徹底したこだわりに加えて、人と社会に対するイマジネーションを大切にし、様々なパートナーと共に、唯一無二の価値を生み出してまいります。

 

「トヨタフィロソフィー」

 


MISSION

わたしたちは、幸せを量産する。

技術でつかみとった未来の便利と幸福を

手の届く形であらゆる人に還元する。

VISION

可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。

人、企業、自治体、コミュニティが

できることをふやし、人類と地球の

持続可能な共生を実現する。

VALUE

トヨタウェイ

ソフト、ハード、パートナーの

3つの強みを融合し、唯一無二の

価値を生み出す。

 

 

 

(3)会社の対処すべき課題

  モビリティカンパニーへの変革の「実践」

トヨタは「幸せの量産」を使命に、モビリティカンパニーへの変革にチャレンジしています。長年にわたって築いてきた商品や事業、財務における強固な経営基盤の上で、現在は「ビジョンを具体に落とす」ために実践的な取り組みを加速しています。

「モビリティカンパニーへの変革」を通じてトヨタが目指していることは、クルマの進化に取り組むことで、笑顔があふれる「モビリティ社会」の実現に貢献していくことです。新しい産業構造をつくっていくことを視野に入れて、多くの仲間とともに挑戦していきたいと考えています。そのカギは、エネルギーとデータの可動性を高め、モビリティの価値を高めていくことであると考えています。「電気」と「水素」が支える未来を見据えて、クルマが媒体となってエネルギーを運び、再生可能エネルギーを軸とする社会づくりに貢献していくことに加え、データが生み出すモビリティの価値で、お客様の暮らしをもっと豊かにしていくことを目指しています。

その取り組みのひとつとして、マルチパスウェイ戦略の具体化に取り組んできました。カーボンニュートラル社会を実現するためには、お客様の期待やインフラ整備などの状況を踏まえた多面的なアプローチ、プラクティカルなトランジションが重要であると考えています。

その考えのもと、足元ではハイブリッド車を基軸に、各地で選択肢の拡充を進めています。その上で、ミッシングピースとなっていたバッテリーEV(BEV)と水素モビリティの具体化に、力を入れて取り組んできました。

BEVにおいては、小型軽量ユニットの開発も含めて、クルマの新しいアーキテクチャをつくる挑戦が進んでいます。そして、当社が目指すBEVは、パワートレーンを電動化するだけではなく、お客様の多様な移動価値を実現するトヨタらしい「ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)」であることも定まってきました。

内燃機関についても、さらなる活用を視野に入れて開発に取り組んでいます。

こうした選択肢の全体像を踏まえて、今年を「真のマルチパスウェイ元年」と位置付けて、その具体化を着実に進めていきます。

そして、車載OSのArene(アリーン)の開発を軸に、SDVの基盤づくりにも注力してきました。今後は、生成AIによってデータが生み出す価値が高まっていきます。安全・安心の実現を目指す自動運転や、SDVを中心に、生成AIを活用したモビリティの進化に取り組んでいきたいと考えています。そして、エネルギーやデータを軸に、社会システムと一体となったモビリティの価値を生み出すためには、インフラ整備をはじめ、多くの仲間との連携が必要であると考えています。

Areneを基盤に、生活に寄り添ったアプリやサービスが、クルマともっと融合していくことも必要になっていきます。志を同じくするパートナーの皆様とともにモビリティの価値を具体化する取り組みを進めていきます。そして、こうした新たな価値づくりを強化するためにも、研究開発の先行シフトを加速して、中長期目線での「未来への種まき」を強化していきます。

 

「10年先を見据えた仕事」の構築

  [グループビジョンと足場固め]

2024年1月、トヨタグループ*1の目指すべき方向、トヨタグループ全員が立ち戻ることができるビジョンを発表しました。

 

「次の道を発明しよう」。

 

グループの創始者・豊田佐吉は「苦労する母親を少しでも楽にしたい」という想いで、「豊田式木製人力織機」を発明しました。そして、豊田喜一郎は「日本人の頭と腕で自動車工業を興さねばならない」との想いで「国産乗用車」を発明しました。誰かを想い、学び、技を磨き、ものをつくり、人を笑顔にする。発明への情熱と姿勢こそ、トヨタグループの原点です。

正解のない時代に、互いに「ありがとう」と言い合える風土を築き、多様な人財が活躍し、未来に必要とされるトヨタグループを目指してまいります。

*1 ㈱豊田自動織機、トヨタ自動車㈱、愛知製鋼㈱、㈱ジェイテクト、トヨタ車体㈱、豊田通商㈱、㈱アイシン、㈱デンソー、トヨタ紡織㈱、トヨタ不動産㈱、㈱豊田中央研究所、トヨタ自動車東日本㈱、豊田合成㈱、日野自動車㈱、ダイハツ工業㈱、トヨタホーム㈱、トヨタ自動車九州㈱、ウーブン・バイ・トヨタ㈱の18社(2024年3月31日時点)

 

足元では、2022年3月日野自動車㈱、2023年4月ダイハツ工業㈱など、トヨタグループおよび子会社において不正問題が発覚し、当社においても「余力不足」に起因する様々な課題に直面しています。これらの課題に向き合い「足場固め」に取り組んでいくことが、持続的成長を実現するための重要事項です。

 


 

正しい仕事を徹底するためには、モノづくりの品質管理と同様に「未然防止」と「流出防止」という2つの考え方が大切だと考えています。「未然防止」は「トヨタらしさ」を土台に、価値観とルールに基づいて、全員が正しく仕事をする風土をつくる取り組みです。時間をかけて、人の意識を変えていく取り組みであり、トップマネジメントがビジョンや価値観を繰り返し示し、自ら動いて現場に伝え続けることが大切だと考えています。

「流出防止」では、開発機能への牽制機能を高められる認証組織への見直しや認証業務の「TPS自主研」*2など、不測の事態があった際にはすぐに止まる仕組みと体制をつくっていきます。風土・仕組み・体制での総合的な施策を通じて、実効性のある「トヨタらしいガバナンス」を追求していきます。

*2 自発的にTPS(トヨタ生産方式)を学ぶ自主研究活動

 

 [認証不正問題に対する当社の認識と関与]

取り組みを進めるにあたり、当社ではダイハツ工業㈱、日野自動車㈱、㈱豊田自動織機による認証不正問題を次のとおり受け止めています。

3社の不正に共通する真因は「経営と現場の乖離」です。現場に過度なプレッシャーがかかり、余裕がなくなり、風通しが悪くなった結果、遵法意識が薄れ、不正が日常化してしまいました。経営陣は、そうした現場の実態を把握できておらず、不正を引き起こした環境を変えることができませんでした。

この責任は、経営陣にあります。3社とも当時の経営陣は、賞与返納や報酬減額に加えて、不正の調査や再発防止策のとりまとめで役割を果たし、次の道筋をつける形で責任を明確化しました。新体制のもと、当社も入り込んでサポートしながら、再発防止を徹底し、未来への責任を果たしてまいります。

ダイハツ工業㈱については、これまで当社メンバー50名以上が、各国の法規や図面の見直し、再試験の対応などを一緒に進めてきました。2023年12月の第三者委員会の調査報告以降は、ほぼ毎日、両社の経営メンバーが会議を行い、再発防止策や事業構造の見直しを考えてきました。

そのひとつとして、小型車事業は「当社からの委託」に変えることで、今後はリソーセス管理も含めて、開発から認証まで、当社が責任を持つ体制に変更していきます。法規に沿った認証業務をはじめ、正しい仕事が現場に根付くよう、一緒に取り組んでいきます。

日野自動車㈱については、不正発覚以降、事業のあり方を中心に、再発防止と会社の再建について話し合ってまいりました。現在は、2023年5月に基本合意を発表したとおり、三菱ふそうトラック・バス㈱との経営統合、ダイムラートラック社との連携を通じて、再建を進めています。親会社として、引き続きサポートしていきます。

㈱豊田自動織機については、子会社であるダイハツ工業㈱・日野自動車㈱とは資本関係は異なりますが、トヨタグループの一員として、再発防止に必要なサポートを行っていきます。その一環として、自動車用エンジンの開発・認証を当社に移管します。また、トップ同士の風通しの良い関係をつくり、日常のコミュニケーションの量を増やしています。

 

 [「風土」「体制」「仕組み」]

当社および当社グループのガバナンス施策については、社外役員も参画し、次のとおりまとめました。

 


 

 (風土:グループビジョン)

風土づくりの基盤は、トヨタグループのビジョンと心構えです。「豊田章男塾」などの場を通じて、現場のメンバーと対話を重ねて、ビジョンや価値観の浸透を図っています。先日は、ダイハツ販売店の代表者の皆様が集まる場に会長の豊田が参加し、守るべき価値観やダイハツ再生に向けた想いを伝えました。

風土を変えていくために、トップ自ら、こうした対話を繰り返し行っていきます。

また、風土づくりの一環として、トヨタグループの社長会、副社長会などの場を通じて、経営メンバー間でのコミュニケーションの量を増やしています。常日頃からトップ同士がオープンにコミュニケーションできる関係を築くことが、ガバナンスの基盤であると考えています。

 


 

 

   (体制:余力づくり)

今、当社で重点的に取り組んでいることは、「余力」づくりです。例えば、生産においては、足元で日当たり生産台数の上限を当初計画の1万4,500台から1万4,000台に下げました。開発では、プライオリティの見直しによりプロジェクトの数を適正化し、現場の余力をつくり出しました。

それにより、職場のコミュニケーション改善や、安全・品質を徹底した仕事、ジョブディスクリプションを踏まえた個々人のスキルアップ、人材育成にしっかり時間を使っていきます。

「10年先の働き方を今つくる」という想いをもって、取り組みを進めています。

 

   (体制・仕組み:子会社の内部統制の強化・リスクマネジメント)

また、各社トップへの働きかけにより、子会社の内部統制の強化を進めています。例えば、ダイハツ工業㈱のGRC*3推進部とGRC委員会は、ダイハツ工業㈱と当社が一緒に再発防止策を検討する中で新設したものであり、実効性ある運用に向けて、連携して取り組んでいきます。加えて、特に今回課題となった法規認証体制の拡充に向けて、「TPS自主研」の活動を通じて、ダイハツ工業㈱・日野自動車㈱・㈱豊田自動織機の現場メンバーが集まって、業務プロセスの明確化に取り組んでいます。

*3 Governance Risk Management and Complianceの略

 


 

 

   (仕組み:スピークアップ)

内部通報では、トヨタ内およびトヨタ外(子会社、トヨタグループ等)のスピークアップの運用を一元化し、今まで以上にタイムリーに対応できるよう仕組みを拡充しています。

 

   (仕組み:監査拡充)

また、当社による子会社への監査も拡充していきます。

リスク評価に基づき、対象とする会社の数を拡大し、企業風土、職場環境、法規遵守など、多面的な観点で監査を実施しています。

監査以外でも、ガバナンス点検シートやコンプライアンスサーベイをすべての子会社に展開して、トップが入り込んだ自主点検を促しています。

 

これらの総合的な施策を通じて、連結ガバナンスを向上させていきます。

「トヨタらしさ」を土台に、全員が正しい仕事を徹底する環境をつくり、「10年先を見据えた競争力につなげていく」という想いをもって、粘り強く取り組んでいきたいと考えています。

 


 

当社は2024年1月26日の国土交通省からの指示に基づき、型式指定申請に関する調査を進めてまいりました。まだ調査の途中ではありますが、2014年以降、すでに生産を終了している車種を含め、7車種において国が定めた基準と異なる方法で試験を実施していたことが判明し、5月31日に国土交通省に報告しました。対象は生産中の3車種(カローラ フィールダー/アクシオ、ヤリス クロス)における歩行者・乗員保護試験でのデータ不備と、生産終了した4車種(クラウン、アイシス、シエンタ、RX)における衝突試験等の試験方法の誤りです。

日野自動車㈱、ダイハツ工業㈱、㈱豊田自動織機に引き続き、当社においても認証に関する問題が判明したことは重大なことと受け止めています。今後、調査を継続するとともに、国土交通省の指導のもと、速やかに立会試験などの適切な対応を進めてまいります。

 

トヨタは、地域のお客様に寄り添って、商品を軸に経営する会社です。この原点をぶらすことなく、お客様が笑顔になるいいクルマをつくるために、みんなで汗をかいていきたいと考えています。そして、「クルマの未来を変えていこう」を合言葉に、多くの仲間とともに、モビリティ社会の実現に向けた挑戦を加速していきます。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

当社は、創業以来、「豊田綱領」の精神を受け継ぎ、「トヨタ基本理念」に基づいて事業活動を通じた豊かな社会づくりを目指してまいりました。2020年には、その思いを礎に「トヨタフィロソフィー」を取り纏め、「幸せの量産」をミッションに掲げて、地域の皆様から愛され頼りにされる、その町いちばんの会社を目指しています。そのトヨタフィロソフィーのもと、サステナビリティ推進に努めています。

当社では、外部環境変化・社会からの要請などを把握し、より重要性・緊急性が高い課題に優先的に取り組むために、取締役会の監督・意思決定のもと、次のような推進体制にて関係部署と密に連携しながら、環境・社会・ガバナンスなどのサステナビリティ活動を継続的に推進・改善しています。

経営に関わる横断的なサステナビリティの重要課題を審議するため、社長が議長を務め、主に環境、社会課題に関するテーマを扱うサステナビリティ会議と、Chief Risk Officer兼Chief Compliance Officerが議長を務め、ガバナンスに関するテーマを扱う「ガバナンス・リスク・コンプライアンス会議」を設置しています。その他、より実務に近い個別の課題・テーマは機能軸で分科会を設け、審議する体制を構築しています。

また、サステナビリティ活動に関して外部ステークホルダーとのエンゲージメントや情報発信をリードする責任者としてChief Sustainability Officerを任命しています。

 

<サステナビリティ推進体制>

 


 

 

サステナビリティ会議

ガバナンス・リスク・

コンプライアンス会議

サステナビリティ分科会

CN戦略分科会

ガバナンス・リスク分科会

議長または

推進者

社長

CRO兼CCO

総務・人事本部副本部長

CN開発センター長

総務・人事本部副本部長

DCRO兼DCCO

メンバー

副社長2名、

社外取締役4名、

社外監査役1名、

CPO、CSO、CHRO、

他5名

副社長2名、

社外取締役1名、

社外監査役1名、

CPO、CHRO、

常勤監査役1名、他3名

社外取締役1名、

CRO兼CCO、CSO、CISO、CHRO、他7名

 

副社長2名、CRO兼CCO、

CPO、CSO、CISO、

常勤監査役1名、

他11名

副社長2名、

社外取締役1名、

社外監査役1名、CRO兼CCO、CSO、CISO、CHRO、

常勤監査役1名、他5名

2023年度

開催実績

4回

(2024年6月新設)

3回

3回

6回

取締役会への

報告頻度

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

内容

サステナビリティに関連する重要案件について、審議・決定・活動を推進することで企業価値向上に貢献

ガバナンス・リスク・コンプライアンスに関する業務執行における重要事項の報告・審議

内外の変化を総覧しつつ、環境、社会、ガバナンス、およびSDGsに関わる中長期的な競争力強化とリスク対応に関する経営の重要事項について報告・審議

カーボンニュートラルおよび環境課題に係る、グローバルの重要動向への共通認識を醸成

上記に関する目標・KPI などの経営上の重要施策を報告・審議

ガバナンス・内部統制、企業倫理、コンプライアンスおよびインシデントならびに事業・商品戦略におけるリスクマネジメント全般に関する重要課題および対応について審議・決定・活動を推進

 

CPO:Chief Production Officer   CHRO:Chief Human Resources Officer CCO:Chief Compliance Officer              DCRO:Deputy Chief Risk Officer 

CSO:Chief Sustainability Officer CRO :Chief Risk Officer       CISO:Chief Information & Security Officer DCCO:Deputy Chief Compliance Officer

 

 

(2)リスク管理

当社は、カーボンニュートラル、CASE※など自動車産業を取り巻く状況や価値観の大変革時代において、常に新たな挑戦が求められるなか、不確実性への対応としてリスクマネジメントをより一層強化してまいります。

各地域、機能、カンパニーが相互に連携・サポートし、グローバル視点で事業活動において発生するリスクを予防・緩和・軽減し、適切に管理するために、リスクマネジメントの責任者としてChief Risk Officer(CRO)、Deputy CRO(DCRO)および、各地域にリスクマネジメント統括を配し、以下の推進体制を構築しています。また、全社横断的な観点でリスクを特定し、対応・モニタリングを行うためにCROのもと「ガバナンス・リスク分科会」を設置しています。重要案件については「ガバナンス・リスク・コンプライアンス会議」にて審議し、取締役会へ適切に付議し、事業の推進を図っています。

なお、リスクマネジメントシステムの仕組みとして、ISOやCOSO(Committee for Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)を基盤とする全社的リスク管理フレームワーク、Toyota Global Risk Management Standard(TGRS)に基づき、定期的なリスクの識別・評価および対策の推進を実施しています。

 

※ CASEとは、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった略称

 

 


 

 

 

(3)人的資本に関する考え方及び取り組み

当社グループにおいては、「モノづくりは人づくり」との理念の下で、創業当初より人材育成に注力してまいりました。

自動車産業が、100年に1度の大変革期のなか、当社グループでは、「継承と進化」をテーマに掲げ、「もっといいクルマをつくろう」、「世界一ではなく、町いちばんへ」、「自分以外の誰かのために」といったトヨタらしさを引き継ぐとともに、未来にむけて、「モビリティカンパニーへの変革」を実現するために、全力で取り組みを進めつつあります。

こうした正解のない時代のなかで、豊田綱領に象徴される創業期の理念・トヨタらしさを守り、トヨタフィロソフィーを道標にクルマの未来を切り開いていくためには、トヨタで働く一人ひとり、まさにグローバル38万人の仲間が、同じ思いを共有し、「チームで、同時に、有機的に動いていくこと」、そして、そのための人づくりが求められていきます。

グローバル全体としては、全地域へのフィロソフィーの浸透に加え、グローバル幹部候補向けの研修をはじめとする様々な機会を通して、本社と地域事業体が一体となり、トヨタの「思想・技・所作(トヨタフィロソフィー・トヨタ生産方式(TPS)等)」を軸とした人材育成の共通基盤づくりを強化しています。また、地域事業体においても、地域特性や多様なお客様ニーズに応じ、地域に根差した人材戦略の策定と実行を、機動力よく推進するための体制整備を促進しています。

当社においては、育成を含む人への投資について、労使の間でも継続的な対話を続けてきています。「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の発展を願う」という労使共通の価値観の下、これまでの労使による話し合いにおいて、当社の最大の財産は「人」であるという共通認識に立ち、未来に向けた諸施策について、労使間での議論を実施するとともに、スピーディな変革に繋がるよう、具体的な取り組みまで確認し、労使ともになって取り組みを推進してまいりました。

 

2023年3月の労使の話し合いにおいては、「誰もが、いつでも、何度でも、失敗を恐れず挑戦できる」会社であるため、「多様性」「成長」「貢献」を3つの柱とした諸施策の実現、および、その柱を支えるための土台の強化へ取り組むことを確認し、それらの取り組みを推進しました。

 

<2023年の主な取り組み>

①多様性

 ●性別を問わず仕事と生活、育児、介護を両立できる環境の整備

   ・両立支援制度の拡充

   ・パートナー育休の取得促進に向けた取り組み展開

 ●本人のキャリア希望を尊重する施策の実施

   ・自律的キャリア形成に資する施策・取り組みの実施

 

②成長

 ●挑戦・失敗を価値とみるプロセスや評価

   ・考課者訓練等、マネジメント向けの施策展開

 ●「脱機能・脱個社」で現場感・相場観習得

   ・現地現物を重視したOJT/Off-JT

   ・自ら学べる機会の拡充 (選択型研修の拡充)

 ●職種を超えるチャレンジのサポート

   ・職種変更制度の導入

 

③貢献

 ●グループ・仕入先との人材交流・マッチングの活性化

   ・グループ・仕入先各社の人材ニーズに応える施策の展開

 ●働く人を支えるアセットのグループ活用促進

   ・アセット共同活用/グループ横断取り組みの展開

 

 

④3つの柱の土台

 ●多様性/チャレンジの余力のためのリソーセス増強

   ・新卒/キャリア採用の強化

 ●個に向き合うマネジメントのサポート

   ・余力創出/部下のキャリア支援に向けた施策実施

 

上記のような取り組みを推進することを通じ、当社の中で顕在化していた課題を中心に解消が進み、一定の基盤構築はできてきているものと考えています。

引き続き3つの柱を踏まえた取り組みを推進していく一方で、当社としては環境変化のスピードが速く、先の見えない時代において、未来に向けた変革を実現するために、「10年先の働き方を今つくる」という、“将来”を見据えた中での対応を図っていくことも必要不可欠と考えており、具体的には、以下の取り組みを推進していくことを2024年3月の労使間での議論を通じて整理しています。

 

<将来を見据えて取り組むべき事項の方向>

 一人ひとりが、会社で働くことのやりがいを見つけ、自ら成長する機会を求める・見つける・取りに行く

 そのような行動を会社としても応援する環境を整備することを目指し、総合的な「人への投資」を実施

  1.より働きやすいモノづくり環境の整備

  2.自らやりがいや成長をつかみ取る仕組みづくり

 

<2024年の主な取り組み>

1.より働きやすいモノづくり環境の整備

 ●多様な人材が安心して働ける職場環境の整備

   ・工場の環境整備の推進/寮のリニューアルの検討・着手

 ●創造性を育むリソーセス確保

   ・女性活躍や高齢者活用を推進する基盤の整備

 

2.自らやりがいや成長をつかみ取る仕組みづくり

 ●強みを活かす働き方

   ・全職種を対象とした職種変更制度の検討・実施

   ・自律的な働き方を促進する基盤の整備

 ●マネジメントの強化

   ・マネジメントの役割定義、育成・評価の見直し検討・実施

 ●自ら学べる機会

   ・自律型人材の輩出に向けた支援策の整備・展開 (選択型研修の強化等)

 ●自社製品の知識/愛着

   ・研修等を通じた試乗体験機会の提供

 

上記取り組みを推進していくことに加え、自動車産業の未来に向けて、仕入先・販売店が取り組む「人への投資」においても、当社として可能な支援を継続的に行っていきます。

 

 

4)気候変動対応(TCFDに基づく気候関連財務情報開示)

トヨタは気候変動対応において、2050年カーボンニュートラル実現に向け、地球規模でチャレンジすることを宣言しています。グローバルでチャレンジするために、地域によって異なるエネルギー事情を考慮し、世界各国・地域の状況に対応した多様な選択肢を提供することで、需要動向にすばやく対応していきます。

またトヨタは、金融安定理事会「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に2019年4月に賛同・署名しており、気候変動のリスク・機会とその分析について、適切な情報開示を進めています。

 

①ガバナンス

a.気候関連のリスクと機会についての、取締役会による監視体制

トヨタは、取締役会において気候関連課題を扱うことにより、社会動向に応じた戦略の立案・実行が、効果的に行われると考えています。取締役会は、戦略/主要な行動計画/事業計画の審議と監督を行う場であり、気候関連の重要な事案が生じた時に、議題として上程されます。

取締役会では、気候関連課題に対応するための定性的あるいは定量的な目標の進捗モニタリングも行います。モニタリングは、気候関連課題になりうる、例えば、燃費・排出ガス規制など製品関連のリスクや機会、低炭素技術開発に関するリスクや機会、それらによる財務的影響などを考慮して行われます。また、このガバナンスメカニズムを「トヨタ環境チャレンジ2050」を含む長期戦略の策定、中長期目標およびアクションプランの立案・見直しに活かしています。

2023年における取締役会での意思決定の事例として、以下があげられます。

カーボンニュートラル社会の実現に向け、電動車については2030年を見据えた電池の必要量を確保していくための投資の承認を得ました。また、マルチパスウェイとしてのパワートレーン(燃焼技術の進化)への研究開発の承認を得ました。

 

b.気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営の役割

気候関連課題に対応する最終的な意思決定・監督機関は取締役会となります。また、主に以下の会議体が、気候関連のリスクと機会について評価し、管理を行っています。

 


 

 

②戦略

トヨタの戦略(マルチパスウェイ戦略の基本的な考え方)

「マルチパスウェイ戦略」の根幹にある考え方は、「エネルギーの未来」と地域・お客様の期待に寄り添った多様なモビリティを提供することです。大前提として、地球環境やサステナビリティの観点から、化石燃料から脱却していく必要があります。そのうえで、中長期的には、再生可能エネルギーの普及が進み、「電気」と「水素」が社会を支える有力なエネルギーになっていくと考えられます。一方で、短期的には、世界各地の現実に向き合い、エネルギーセキュリティを担保しながら、プラクティカルに変化を進めていくことが重要です。だからこそ私たちは、電気と水素の未来を見据えながら、再生可能エネルギー由来の電力、その電力を基にした水素や合成燃料、バイオ燃料など、多様なエネルギーに対応するモビリティの選択肢でカーボンニュートラルに貢献していきます。

現実的にCO2を減らしていくには、既存のインフラやアセットを活用しながら確実に減らしていくことが重要です。また、自動車産業におけるカーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーや充電インフラなどのエネルギー政策と、購入補助金、サプライヤー支援、電池リサイクルシステムの整備などの産業政策が不可欠であり、各国のエネルギー政策や産業政策、お客様の選択など、不確実性への対応が必要です。多様なモビリティの選択肢を提供するマルチパスウェイ戦略は、不確実性に対し、どのような社会が実現してもいずれかの選択肢で対応することができる戦略です。様々な産業が関わっているため、パートナーづくりに積極的に取り組み、電気と水素が地球環境を守っていく環境づくりを少しでも早く実現できるよう取り組んでいきます。

 


 

トヨタは、シナリオ分析によりマルチパスウェイ戦略のレジリエンスを検証しています。

 

シナリオ分析の概要

トヨタは2019年4月、TCFD提言に賛同・署名し、国内企業や金融機関などが一体となって取り組みを推進するTCFDコンソーシアムに加盟しました。気候変動に関するリスクと機会を重要な経営課題と認識し、TCFD提言を踏まえ、リスクと機会を特定し、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。2022年には、関連組織により構成されるプロジェクトを立ち上げ、TCFDフレームワークを参考に、1.5℃と4℃の2つの温度帯を用いたシナリオ分析を実施し、気候変動リスク・機会の評価・特定、財務影響の評価、トヨタの対応の確認などを実施しました。

 

設定シナリオは以下のとおりです。

・1.5℃シナリオ(IEA※1 NZE※2、APS※3シナリオなど)

・4℃シナリオ(SSP5-8.5)

※1 International Energy Agency:国際エネルギー機関

※2 Net Zero Emissions by 2050 Scenario:国際エネルギー機関(IEA)が発表した脱炭素シナリオ

※3 Announced Pledges Scenario:IEAが公表しているシナリオのひとつ

 

分析対象事業は、トヨタ自動車および連結会社における自動車事業およびサプライチェーン、日本および海外のトヨタグループの生産拠点です。

 

 

リスクが発現する期間は、以下のように設定しました。


 

各戦略の説明

・HEV、PHEV

トヨタは、累計2,350万台の電動車を販売し、1.76億トンのCO2排出削減を実現しています(2023年3月時点)。 お客様の多様なニーズにお応えしていくため、新興国を中心にHEVの販売拡充を進めながら、PHEVはEV航続距離を200km以上に延ばすことでプラクティカルなBEVと再定義し、選択肢を増やすための開発を強化しています。また、燃焼技術を進化させ、CO2排出量を抑制できるエンジン開発を推進しています。

 

・BEV戦略

2023年5月に、次世代BEV開発のため、すべての機能と権限を持つ専任組織(BEVファクトリー)を設置しました。また、2030年までにBEV(電池を含む)に約5兆円の投資を行うことも公表しました。BEVの販売台数は2026年までに年間150万台、2030年にはグローバルで年間350万台を基準台数としてペースを定めています(次世代BEVは2030年時点で170万台)。新モジュール構造、自走生産、デジタルツインなどにより、工程・工場投資・生産準備リードタイムを1/2に短縮します。小型軽量ユニットの開発や空力・熱マネジメントなどの技術を進化させることで、クルマの新しいアーキテクチャに挑戦し、今後はPHEVなどの開発にも応用していきます。

多様な次世代電池技術の開発にも取り組んでいます。

(液系リチウムイオン電池の開発)


(全固体電池の開発)

全固体電池は、高出力化、長い航続距離、充電時間の短縮など、液体電池以上の性能が期待され、2027~2028年の実用化を目指しています。2023年10月には、出光興産株式会社との量産実現に向けた協業を発表しました。

 

・水素事業戦略

2023年7月に、燃料電池・水素関連商品で商品開発と生産を加速するため、専任組織 (水素ファクトリー) を設置し、三つの軸で事業化の基盤づくりを推進しています。

①マーケットのある国 (欧州・中国) での開発・生産 (量産化・現地化)

②有力パートナーとの連携強化 (標準規格化)

③次世代FC技術の革新的進化

商用領域での水素モビリティの開発・実装に加え、電車・船舶・発電機など多様なアプリケーションに対し、次世代FCシステムを提供します。水素の価格低減・需要拡大のため、水素を「つくる」「ためる」領域に取り組み、大型商用タンクの規格化 (原単位づくり) にも挑戦しています。今後は、水素消費量の大きい欧州、中国、北米を中心に、鉄鋼業界・電力業界のパートナーと連携し、インフラも含めて水素モビリティの社会実装を加速していきます。

 

 

・カーボンニュートラル燃料の取り組み

電気と水素がエネルギーの中心となる未来においても、e-fuelやバイオ燃料など、液体燃料の活用を視野に入れた次世代エンジンの開発を進め、業界の垣根を超えたパートナーとの取り組みを進めていきます。水素が高価な地域では、水素が安い地域で製造したe-fuelを輸送し、活用します。また、バイオ燃料の活用が拡大する新興国では、バイオ燃料対応車両を投入しています。2022年7月には、民間7社で「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立し、第2世代バイオ燃料の製造技術向上を目指しています。

 

・今後の取り組み

多様なエネルギー事情やお客様ニーズに寄り添い、既存インフラの有効活用、カーボンニュートラル燃料、既販車への取り組みなど、プラクティカルなトランジションを軸に、あらゆる手段でカーボンニュートラルの実現を目指します。

 

a.組織が特定した短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会

トヨタは環境問題から生じる様々なリスクと機会の把握に努めており、「トヨタ環境チャレンジ2050」などの戦略が妥当かどうかを常に確認しながら取り組みを進め、競争力の強化を図っています。トヨタの事業領域に影響を及ぼす可能性のある気候変動に伴う変化への対策が必要です。そのような認識の下、リスク管理フレームワーク、Toyota Global Risk Management Standard(TGRS)に沿って特定したものから、影響度やステークホルダーからの関心も踏まえ、特に重要度の高い気候変動リスクを抽出しました。気候変動の進行は、事業上のリスクになりますが、適切に対応できれば競争力の強化や新たな事業機会の獲得にもつながると認識しています。

 


 

 

b.ビジネス、戦略および財務計画に対する1.5℃シナリオ、4℃シナリオなどの様々なシナリオ下の影響

<STEP1>気候変動影響を踏まえた社会像の設定

1.5℃シナリオにおける移行リスクと機会について、2030年の外部環境を、IEAのNZE、APSなど複数シナリオを用いて想定し、TGRSにて抽出した気候変動リスクの中で影響が大きいと懸念されるものに対し、詳細な影響度評価を実施しました。4℃シナリオにおける物理リスクについて、IPCC※4シナリオ(SSP5-8.5)を用い、2050年・2090年の将来予測をもとにリスク分析を実施しました。また、気候変動に伴う気象災害の増加がトヨタグループの事業に与える影響を把握するため、国内外の事業拠点(国内137拠点、海外73拠点)について、気候変動による影響を簡易評価し、優先的に調査すべき拠点のスクリーニングを実施しました。

 

※4 Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル

 

<STEP2>Step1で描いた社会像におけるトヨタへの影響

1.5℃シナリオにおいては、グローバル全体で再生可能エネルギー(電気・カーボンニュートラル燃料※5)の導入が進み、電動車(特にZEV)の役割も増大します。一方で、国・地域により再生可能エネルギーの導入速度や、導入するエネルギー種(太陽光・風力・バイオなど)は異なります。新車販売に占めるZEV比率が大幅に増加する国・地域がある一方で、カーボンニュートラル燃料利用を進める国・地域もあるため、それぞれの市場に適合した商品(車両)を提供する必要があります。カーボンニュートラル燃料の導入は、既販車から排出されるCO2削減にも有効で、新車だけに頼らずCO2を削減していくことが可能です。生産や調達への影響としては、炭素税などの導入や税率引き上げによるコスト上昇の懸念により、省エネルギー技術、再生可能エネルギーや水素などの利用拡大がリスク低減につながります。

4℃シナリオにおいては、内水氾濫と高潮について将来変化が認められた拠点が存在します。社会全体の気候変動対策が十分ではない場合、洪水などの自然災害の頻発や激甚化による生産停止やサプライチェーン寸断による減産や生産停止の可能性が高まる懸念があります。

 

※5 バイオ燃料、合成燃料など

 


 


 

 

<STEP3>トヨタの戦略

シナリオ分析を用いることで、トヨタはマルチパスウェイ戦略によって、中長期的にレジリエンスを高めるべく事業運営に取り組んでいることが確認できました。

移行リスクにおいては、IEA NZEを含む複数のシナリオとの比較を通じて、カーボンニュートラル燃料の組み合わせも含めたトヨタの戦略は、パリ協定で掲げられている1.5 ℃目標を満たす可能性があることを確認しました。

トヨタは、各地域のエネルギー事情を考慮した上で、BEV、PHEV、HEV、水素エンジンなど、お客様へ様々な選択肢を用意し、かつ、電気や水素のほか、既存インフラの有効活用も可能な新しい燃料(カーボンニュートラル燃料)による既販車のCO2削減への取組みなど、あらゆる手段で2050年カーボンニュートラルを目指します。

一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)のCNFシナリオの報告によると、自動車燃料の低炭素化も重要であり、BEV化を急速に進めるシナリオだけでなく、HEV・PHEVとカーボンニュートラル燃料を有効活用するシナリオでも、IPCCの2050年1.5℃シナリオに整合的になり得ます。

物理リスクにおいては気象災害ハザードスクリーニングの結果、気候変動による将来変化が見られ、リスクに留意すべき(グレードB 以上)と評価された国内外の拠点について、リスク評価の実施を検討し、その結果に応じて水災対策や事業継続計画(BCP)の見直しを進めます。

今後もシナリオ分析を継続的に行い、気候変動の影響が大きいリスクと機会の特定・整理、インパクト評価を進めていきます。

 


 


 

c.気候関連のリスクと機会が組織のビジネス、戦略および財務計画に及ぼす影響

前述したリスクと機会へ対応するために、トヨタでは移行計画として温室効果ガス(GHG)削減目標を設定しています。移行計画の妥当性確認には、複数のシナリオを参照しています。

マルチパスウェイ戦略のもと、プロジェクト関連の財務計画に落とし込み、移行計画を具体化していきます。

なお、一定額以上のプロジェクト投資にあたっては、取締役会で承認します。

 


 

 


 

 

③リスク管理

a.組織が気候関連のリスクを特定および評価するプロセス

グローバルな事業活動に関わるすべてのリスクを対象とした全社横断的リスク管理の仕組みであるTGRSに基づき、気候変動を含むすべてのリスクを抽出し、評価、対応を実施しています。

リスクは、「影響度」と「脆弱性」の2つの観点で評価し、想定される発生時期を記載することで、事業に対する実質的な財務・戦略的影響を明確化しています。

「影響度」は、「財務」「評判」「法規制違反」「事業継続」の各要素について5段階で評価しています。「財務」は売上高に対する割合を指標化しています。「脆弱性」は、「対策の現状」と「発生可能性」の2つの指標で評価しています。

 


 

b.組織が気候関連のリスクを管理するプロセス

各部署にて抽出され、影響度や脆弱性の観点から評価された地域別、機能別 (生産・販売など) 、製品別のリスクに対し、各地域や各部門が相互に連携・サポートしながら迅速に対応しています。各部門の本部長や社内カンパニープレジデントがカンパニーの活動を統括し、その下位では部長が部署の活動を統括して、対応策の実行およびモニタリングを実施します。

さらに気候関連のリスクおよび機会については、「CN戦略分科会」「サステナビリティ分科会」においても特定、評価され、担当部署や関係役員による審議を行います。「CN戦略分科会」では燃費規制や調達、工場・物流・その他非生産拠点のCO2排出規制や水リスクなどの直接操業について、「サステナビリティ分科会」ではサステナビリティ推進に関する課題や社外ステークホルダーを考慮した取り組みの妥当性などについて、対応状況のモニタリングや見直しを実施しています。

上記会議体は、年4回程度の頻度で開催され、技術・環境・財務・調達・営業といった関連部署の役員・部長級が参加します。これらの会議体での検討により、リスク評価を年に複数回実施しています。なお、迅速な対応が必要となる重要なリスクおよび機会については、逐次取締役会へ報告され、対応を決定します。

 

c.組織が気候関連のリスクを特定・評価および管理するプロセスが、組織の総合的なリスク管理にどのように統合されているか

前述のように、TGRSを用いたプロセスは、気候変動をはじめ、グローバルな事業活動に関わるすべてのリスクおよび機会を対象とした全社横断的なリスク管理の仕組みです。

また、関係部署が集まる「CN戦略分科会」「サステナビリティ分科会」では、気候関連のリスクおよび機会について特定・評価を実施し、対応策を検討しています。

 

④指標と目標

a.組織が自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標

トヨタでは、複数の指標を設定し、複合的に気候関連のリスクと機会を管理することが、気候変動への適応とその緩和に向けた対策として重要であると認識しています。このため指標には、GHG排出量のほか、気候変動と深く関係する、エネルギー、水、資源循環、生物多様性なども含まれています。

これらの指標を考慮して以下の目標を定め、「6つのチャレンジ」という6分野の取組みにより体系的に推進しています。

・長期(2050年目標):「トヨタ環境チャレンジ2050」

・中期(2030年目標):「2030マイルストーン」、SBTi認定・承認

・短期(2025年目標):「第7次トヨタ環境取組プラン」

「6つのチャレンジ」のうち、以下の取り組みを推進することで、2050年のScope1,2,3カーボンニュートラルをめざします。

 


 

社内では一定の炭素価格を指標として設備投資などの検討に活用しています。

 

 

b.気候関連のリスクと機会を管理するために用いる目標、および目標に対する実績

環境戦略の体系

  トヨタは常に世の中の動きやお客様の声を把握し、何に注力すべきかを考え、将来の課題をいち早く察知し、新たな発想と技術で課題解決を推進してきました。しかし、気候変動、水不足、資源枯渇、生物多様性低下などの地球環境問題は日々拡大、深刻化しています。
  これらの問題に私たち一人ひとりが向き合い、20年、30年先の世界を見据えて挑戦を続けていくため、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を、2018年に「2030マイルストーン」を策定しました。そして、上記目標を実現するための5カ年計画である「環境取組プラン」の最新目標として、「2025年目標」を2020年に設定しました。

  2022年9月には、SBTiからScope1,2とScope3カテゴリー11の削減目標について認定・承認を取得し、これに準じて中期目標を更新しました。

 


 

また2023年4月には、全世界で販売する新車の走行における平均GHG排出量を、2019年比で、2030年に33%、2035年に50%以上の削減を目指すことを公表しました。

 


 

 

3 【事業等のリスク】

以下において、トヨタの事業その他のリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を記載しています。ただし、以下はトヨタに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します。かかるリスク要因のいずれによっても、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。

本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は有価証券報告書提出日(2024年6月25日)現在において判断したものです。

 

(1)市場および事業に関するリスク

①自動車市場の競争激化

世界の自動車市場では激しい競争が繰り広げられています。トヨタは、ビジネスを展開している各々の地域で、自動車メーカーとの競争に直面しています。近年、自動車市場における競争はさらに激化しており、厳しい状況が続いています。また、世界の自動車産業におけるCASEなどの技術革新が進むことによって、競争は今後より一層激化する可能性があり、業界再編につながる可能性もあります。競争に影響を与える要因としては、製品の品質・機能、安全性、信頼性、燃費、革新性、開発に要する期間、価格、カスタマー・サービス、自動車金融の利用条件、各国の税制優遇措置等の点が挙げられます。競争力を維持することは、トヨタの既存および新規市場における今後の成功、販売シェアにおいて最も重要です。トヨタは、エンジン車から電動車へのお客様のニーズの変化など、昨今の自動車市場の急激な変化に的確に対応し、今後も競争力の維持強化に向けた様々な取り組みを進めていきますが、将来優位に競争することができないリスクがあります。競争が激化した場合、自動車の販売台数の減少や販売価格の低下などが起きる可能性があり、それによりトヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受けるリスクがあります。

 

②自動車市場の需要変動

トヨタが参入している各市場では、今までも需要が変動してきました。各市場の状況によって、自動車の販売は左右されます。トヨタの販売は、世界各国の市場に依存しており、各市場の景気動向はトヨタにとって特に重要です。当連結会計年度の世界経済は、インフレや金利の上昇、中国における不動産市場の停滞の影響が見られたものの、雇用が堅調な米国を中心に、底堅く推移しました。自動車市場においては、半導体の供給制約が改善され、ペントアップ需要が市場を押し上げたことで、前年から大幅に拡大しました。このような需要の変化は現在でも続いており、この状況が今後どのように推移するかは不透明です。今後トヨタの想定を超えて需要の変化が継続または悪化した場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受ける可能性があります。また、需要は、販売・金融インセンティブ、原材料・部品等の価格、燃料価格、政府の規制(関税、輸入規制、その他の租税を含む)など、自動車の価格および自動車の購入・維持費用に直接関わる要因により、影響を受ける場合があります。需要が変動した場合、自動車の販売台数の減少や販売価格の低下などが起きる可能性があり、それによりトヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受けるリスクがあります。

 

 

③お客様のニーズに速やかに対応した、革新的で価格競争力のある新商品を投入する能力

製品の開発期間を短縮し、魅力あふれる新型車でお客様にご満足いただくことは、自動車メーカーにとっては成功のカギとなります。特に、品質、安全性、信頼性、サステナビリティにおいて、お客様にご満足いただくことは非常に重要です。世界経済の変化や技術革新に伴い、自動車市場の構造が急激に変化している現在、お客様の価値観とニーズの急速な変化に対応した新型車および新機能を適時・適切にかつ魅力ある価格で投入することは、トヨタの成功にとってこれまで以上に重要であり、技術・商品開発から生産にいたる、トヨタの事業の様々なプロセスにおいて、そのための取り組みを進めています。しかし、トヨタが、品質、安全性、信頼性、スタイル、サステナビリティ、その他の性能に関するお客様の価値観とニーズを適時・適切にかつ十分にとらえることができない可能性があります。また、トヨタがお客様の価値観とニーズをとらえることができたとしても、その有する技術、知的財産、原材料や部品の調達、原価低減能力を含む製造能力またはその他生産性に関する状況により、価格競争力のある新製品を適時・適切に開発・製造できない可能性があります。また、トヨタが計画どおりに新製品の投入や設備投資を実施し、製造能力を維持・向上できない可能性もあります。お客様のニーズに対応する製品を開発・提供できない場合、販売シェアの縮小ならびに営業収益と利益率の低下を引き起こすリスクがあります。

 

④効果的な販売・流通を実施する能力

トヨタの自動車販売の成功は、お客様のご要望を満たす流通網と販売手法に基づき効果的な販売・流通を実施する能力に依存します。トヨタはその参入している各主要市場につきお客様の価値観または地政学的な緊張関係や規制環境において、変化に効果的に対応した流通網と販売手法を展開できない場合は、営業収益および販売シェアが減少するリスクがあります。

 

⑤ブランド・イメージの維持・発展

競争の激しい自動車業界において、ブランド・イメージを維持し発展させることは非常に重要です。ブランド・イメージを維持し発展させるためには、トヨタグループおよび仕入先が法令遵守を徹底し、お客様の価値観やニーズに対応した安全で高品質の製品を提供すること、また、ステークホルダーの皆様への迅速かつ適切な情報発信を通じ、ステークホルダーの皆様の信頼をさらに高めていくことが重要です。また、企業としてサステナビリティに貢献することの重要性も高まっています。

しかし、トヨタグループや仕入先があらゆる場面において、それを徹底できるとは限りません。例えば、連結子会社においては、2022年3月に日野自動車㈱、2023年4月にダイハツ工業㈱において、認証に関する不正行為が発覚し、公表しました。また、当社においても、2024年1月26日の国土交通省からの指示に基づき、型式指定申請に関する調査を進める中、2014年以降、すでに生産を終了している車種を含め、7車種において国が定めた基準と異なる方法で試験を実施していたことが判明し、5月31日に国土交通省に報告しました。詳細については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(3)会社の対処すべき課題」を参照ください。

さらに、トヨタまたは仕入先がサステナビリティに貢献しない、または気候変動やサプライチェーンにおける人権保護など、特定のサステナビリティに関する目標または目的を達成できない場合、トヨタのブランド・イメージが低下する可能性があります。トヨタのブランド・イメージを効果的に維持し発展させることができなかった場合、営業収益と利益率の低下を引き起こすリスクがあります。

 

 

⑥仕入先への部品・原材料供給の依存

トヨタは、部品や原材料などの調達部品を世界中の複数の競合する仕入先から調達する方針を取っていますが、調達部品によっては他の仕入先への代替が難しいものもあり、特定の仕入先に依存しているものがあります。また、かかる特定の仕入先からの調達ができない場合、当該部品等の調達がより困難となり、生産面への影響を受ける可能性があります。さらに、トヨタが直接の取引先である一次仕入先を分散していたとしても、一次仕入先が部品調達を二次以降の特定の仕入先に依存していた場合、同様に部品の供給を受けられないリスクもあります。仕入先の数に関わらず、トヨタが調達部品を継続的にタイムリーかつ低コストで調達できるかどうかは、多くの要因の影響を受けますが、それら要因にはトヨタがコントロールできないものも含まれています。それらの要因の中には、仕入先が継続的に調達部品を調達し供給できるか、またトヨタが、仕入先から調達部品を競争力のある価格で供給を受けられるか等が含まれます。このような能力に悪影響を与える可能性のある状況には、地政学的な緊張や、経済制裁などの政府の行動が含まれます。特定の仕入先を失う、またはそれら仕入先から調達部品をタイムリーもしくは低コストで調達できない場合、トヨタの生産に遅延や休止またはコストの増加を引き起こす可能性があり、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響が及ぶ可能性があります。

 

⑦金融サービスにおける競争の激化

世界の金融サービス業界では激しい競争が繰り広げられています。自動車金融の競争激化は、利益率の減少を引き起こす可能性があります。この他トヨタの金融事業に影響を与える要因には、トヨタ車の販売台数の減少、中古車の価格低下による残存価値リスクの増加、貸倒率の増加および資金調達費用の増加が挙げられます。

 

⑧デジタル情報技術および情報セキュリティへの依存

トヨタは、機密データを含む電子情報を処理・送信・蓄積するため、または製造・研究開発・サプライチェーン管理・販売・会計を含む様々なビジネスプロセスや活動を管理・サポートするために、第三者によって管理されているものも含め、様々な情報技術ネットワークやシステムを利用しています。さらに、トヨタの製品にも情報サービス機能や運転支援機能など様々なデジタル情報技術が利用されています。これらのデジタル情報技術ネットワークやシステムは、安全対策が施されているものの、ハッカーによる不正アクセスやコンピュータウィルスによる攻撃、トヨタが利用するネットワークおよびシステムにアクセスできる者による不正使用・誤用、開発ベンダー・クラウド業者など関係取引先からのサービスの停止、電力供給不足を含むインフラの障害、天災などによって被害や妨害を受ける、または停止する可能性があります。特にサイバー攻撃や他の不正行為は苛烈さ、巧妙さ、頻度において脅威を増しており、そのような攻撃の標的であり続ける恐れがあります。このような事態が起きた場合、重要な業務の中断や、機密データの漏洩、トヨタ製品の情報サービス機能・運転支援機能などへの悪影響のほか、法的請求、訴訟、賠償責任、罰金の支払い義務などが発生する可能性もあります。その結果、トヨタのブランド・イメージや、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、トヨタの取引先やビジネスパートナーに対する同様の攻撃は、トヨタにも同様の悪影響を与える可能性があります。

 

 

⑨気候変動および低炭素経済への移行

気候変動リスクは、日本および世界で、社会面、規制を含む政治面での関心が高まっています。これらのリスクには、気候変動による物理的リスクや低炭素経済への移行リスクが含まれます。

気候変動の物理的リスクには、台風、洪水、竜巻など突発的な気象変化に起因する影響と、気温上昇、海面上昇、干ばつ、山火事の増加など、長期的な気象変化による影響の両方が含まれます。トヨタはBusiness Continuity Plan(BCP)を策定していますが、異常気象による大規模災害に加え、熱波等が増加・激甚化することで熱中症のリスクが増加し、また、干ばつや渇水による水不足も予想されます。これらは、トヨタならびに仕入先および取引先の従業員、施設およびその他の資産に損害を与える可能性があり、トヨタの生産、販売またはその他の事業運営に悪影響を及ぼす可能性があります。大規模な災害等はまた、お客様の財政状態に悪影響を及ぼし、トヨタの製品およびサービスの需要に悪影響を与える可能性があります。

低炭素経済への移行リスクとは、気候関連のリスクを軽減するための規制、技術、および市場の変化やその対応に伴うリスクです。例えば、トヨタは、気候変動に関する法律、規制、政策の変更、気候変動に対処するための技術革新、市場構造の変化をとらえた自動車産業への新規参入者などの要因により、自動車に対するお客様のニーズが変化するリスクにさらされています。お客様のニーズの変化は、トヨタが部品や原材料などの調達部品を継続的かつ競争力のある価格で調達するために、新たな供給網の確立や既存の供給網の強化が必要になるなど、付随的なリスクや課題をもたらす可能性があります。トヨタは、そのようなリスクの顕在化の結果として、またはリスク軽減やリスク対応の努力の結果として、多額の費用および支出を負担する可能性があります。また、お客様のニーズに対応する製品を開発・提供できない場合、販売シェアの縮小ならびに営業収益と利益率の低下を引き起こすリスクがあります。

トヨタは、トヨタの事業やビジネスパートナーに関する気候変動関連事項の開示を公表しています。この開示には、トヨタの予想に基づき、将来の見通しに関する記述が含まれており、結果的にこれらが実現できない可能性があります。また、気候変動に関する取り組みは意図した結果をもたらさない可能性があり、目標の達成時期やコスト、達成能力に関する予測は、リスクと不確実性を伴います。その結果、気候変動関連の目標が達成できない恐れがあります。特に、中長期にわたるトヨタの気候変動関連の目標の達成には、多大なリソーセスと投資、ならびにコンプライアンス、リスク管理システム、内部統制およびその他の内部手続のさらなる改善が必要です。また、トヨタがコントロールできない環境・エネルギー規制、政策の変更、技術革新、顧客や競合他社の行動等にも影響を受けます。気候変動関連の目標を達成できない、または達成できないとみなされた場合、トヨタのブランド・イメージ、財務状況、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(4)気候変動対応(TCFD)に基づく気候関連財務情報開示)」を参照ください。

 

優秀で多様な人材の確保と育成

事業環境の急激な変化やモビリティカンパニーへの変革に向けた取り組みを進めるにあたり、優秀で多様な人材を確保し、育成し続けることが重要です。しかしながら、そのような人材の獲得競争は激しく、トヨタが高い専門性や豊富な経験を持つ多様な人材を計画とおりに採用、定着化できない場合、または成長に必要な機会、教育、リソースを提供できない場合、競争力低下につながり、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を与える可能性があります。

 

 

(2)金融・経済のリスク

①為替および金利変動の影響

トヨタの収益は、外国為替相場の変動に影響を受け、主として日本円、米ドル、ユーロ、ならびに豪ドル、加ドルおよび英国ポンドの価格変動によって影響を受けます。トヨタの連結財務諸表は、日本円で表示されているため、換算リスクという形で為替変動の影響を受けます。また、為替相場の変動は、外国通貨で販売する製品および調達する材料に、取引リスクという形で影響を与える可能性があります。特に、米ドルに対する円高の進行は、トヨタの経営成績に悪影響を与える可能性があります。

為替相場および金利の変動リスクを軽減するために、現地生産を行い、先物為替予約取引や金利スワップ取引を含むデリバティブ金融商品を利用していますが、依然として為替相場と金利の変動は、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を与える可能性があります。為替変動の影響およびデリバティブ金融商品の利用に関しては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容  ①概観  d.為替の変動」および連結財務諸表注記19ならびに20を参照ください。

 

②原材料価格の上昇

鉄鋼、貴金属、非鉄金属(アルミ等)、樹脂関連部品など、トヨタおよびトヨタの仕入先が製造に使用する原材料価格の上昇は、部品代や製造コストの上昇につながり、これらのコストを製品の販売価格に十分に転嫁できない場合、トヨタの将来の収益性に悪影響を与える可能性があります。

 

③金融市場の低迷

世界経済が急激に悪化した場合、多くの金融機関や投資家は、自らの財務体力に見合った水準で金融市場に資金を供給することが難しい状況に陥る可能性があります。その結果、企業がその信用力に見合った条件で資金調達をすることが困難になる可能性があります。必要に応じて資金を適切な条件で調達できない場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受ける可能性があります。

 

 

(3)政治・規制・法的手続・災害等に関するイベント性のリスク

①自動車産業に適用される政府の規制

世界の自動車産業は、自動車の安全性や排ガス、燃費、騒音、公害をはじめとする環境問題などに関する様々な法律と政府の規制の適用を受けています。特に、安全面では、法律や政府の規制に適合しない、またはその恐れのある自動車は、リコール等の市場処置の実施が求められます。さらに、トヨタはお客様の安心感の観点から、法律や政府の規制への適合性に関わらず、自主的に販売停止やリコール等の市場処置を実施する可能性もあります。トヨタが市場に投入した車両にリコール等の市場処置が必要となった場合(リコール等に関係する部品はトヨタが第三者から調達したものも含む)、製品のリコール等にかかる費用を含めた様々な費用が発生する可能性があります。また、多くの政府は、価格管理規制や為替管理規制を制定しています。さらに、規制を遵守できなかった場合、法的手続、リコール、改善措置の交渉、罰金、是正命令、政府承認の取り消しやその他の政府制裁の賦課、製品提供の制限、補償金の支払い等の不利益をもたらす可能性があります。トヨタは、国際貿易の動向や政策の変化に関する費用を含むこれらの規制に適合するために費用を負担し、今後も法令遵守のために費用が発生する可能性があります。また、新しい法律または現行法の改正により、トヨタの今後の費用負担が増えるリスクがあります。このように、市場処置を講じたり法律や政府の規制へ適合するために多額の費用が発生した場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を与える可能性があります。

 

②法的手続

トヨタは、製造物責任、知的所有権の侵害等、様々な法的手続の当事者となる可能性があります。また、株主との間で法的手続の当事者となったり、行政手続または当局の調査の対象となる可能性もあります。現在トヨタは、行政手続および当局の調査を含む、複数の係属中の法的手続の当事者となっています。トヨタが当事者となる法的手続で不利な判断がなされた場合、トヨタの評判、ブランド・イメージ、財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響が及ぶリスクがあります。政府の規制等の法的手続の状況については連結財務諸表注記30を参照ください。

 

③自然災害、感染症、政治動乱、経済の不安定な局面、燃料供給の不足、インフラの障害、戦争、テロまたはストライキの発生

トヨタは、全世界で事業を展開することに関連して、様々なイベントリスクにさらされています。これらのリスクとは、自然災害、感染症の発生・蔓延、政治・経済の不安定な局面、燃料供給の不足、天災などによる電力・交通機能・ガス・水道・通信等のインフラの障害、戦争、テロ、ストライキ、操業の中断などが挙げられます。トヨタが製品を製造するための材料・部品・資材などを調達し、またはトヨタの製品が製造・流通・販売される主な市場において、これらの事態が生じた場合、トヨタの事業運営に障害または遅延をきたす可能性があります。トヨタの事業運営において、重大または長期間の障害ならびに遅延が発生した場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響が及ぶリスクがあります。