(1)2050年ビジョン
当社は、2050年カーボンニュートラル・循環型社会の実現に向けて、2022年11月に2050年ビジョン「変革をカタチに」を策定しました。「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」の3つの事業領域で変革を具現化していくことで、人びとの暮らしを支える責任と未来の地球環境を守る責任を果たしていきます。
(2)2030年ビジョン
2030年ビジョン「責任ある変革者」の実現に向けて、事業構造改革投資と人的資本投資の両輪により事業ポートフォリオの転換を進めます。
また、カーボンニュートラルの実現に向けては、非連続的な技術革新が必要となる一方で、エネルギーと素材の供給においては、人々の暮らしや産業を支える不可欠なものとして、連続性を伴ったトランジションが必要となります。そこで2030年ビジョン「責任ある変革者」として進める打ち手を、2040年、2050年と着実に具現化・社会実装を進めることで、2050年ビジョン「変革をカタチに」の実現を目指します。
(3)中期経営計画(2023~2025年度)の取組み
当社は2022年11月の中期経営計画公表以降、資本市場をはじめとしたステークホルダーとの対話を重ね、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応への観点も踏まえて、取締役会等において継続的に議論を行ってまいりました。中期経営計画初年度である2023年度においては、収支および財務状況の改善が想定を上回る進捗であったことから、2025年度のROE(8%→10%以上)およびROIC(5%→7%)目標の上方修正を行い、あわせて達成に向けた道筋を明確化しました。
株主還元方針についても、3ヵ年累計の在庫影響除き当期利益に対し総還元性向50%以上の株主還元を行う方針は維持しつつ、1株当たり配当金を「24円」から「32円」へ引き上げるとともに、下限配当を「32円」に設定したことに加え、株価水準を意識した機動的な自己株式取得を実施することについて公表しました。
既存事業における資本効率の更なる向上、キャッシュアロケーションの再構築の両取り組みを通じ、2025年度目標および早期のPBR1.0倍の達成を目指します。
2025年度の経営目標の見直しと達成に向けた道筋
*1 大きな外部環境影響を除いて比較する為、燃料油セグメントのタイムラグ影響、
資源セグメントの石炭価格(実績を25年度計画前提120$/tへ)等を補正した数値
*2 2022年11月中期経営計画公表時の当初目標8%
①既存事業における資本効率の更なる向上
資本効率の更なる向上により、2025年度ROIC目標7%(既存事業)、及び営業利益+持分法投資損益2,300億円へ上方修正しました。各セグメントの課題に対する具体的な取り組みを強力に推進することにより、2025年度目標を達成します。
(燃料油+基礎化学品セグメント)
西部石油の精製機能停止などを通じた投下資本の圧縮を進める一方、成長余地の高いバイオ系燃料等の海外事業拡大、NSRPの収益改善(2025年度黒字化へ)、富士石油との資本業務提携を軸とした既存燃料油事業のシナジー創出、国内外マージンの改善等を推進します。
(高機能材セグメント)
機能化学品の事業見直しによる不採算事業からの撤退に加え、潤滑油事業、電子材料事業等での収益改善とM&Aを含む戦略投資を推進します。
(電力・再生可能エネルギーセグメント)
BOT(Build Operate and Transfer)事業、海外ガス火力事業の戦略再構築やソーラーフロンティアの収益改善(2025年度黒字化へ)等の構造改革を推進します。
(資源セグメント)
石炭関連の権益集約による投下資本を圧縮する一方、安定供給の継続を通じて高い資本収益性を確保しつつ、リチウム、バナジウムなどの権益の取得により、既存アセットを活かしたポートフォリオ転換を推進します。
(共通)
全社、組織横断でのDXの推進、調達機能集約化による生産性向上やコスト低減を通じ、各セグメントの資本収益性の改善を更に後押していきます。
*1 既存事業計にはコーポレート費用等を含む
*2 ROIC値の分子はNOPATを用いて算出
*3 投下資本のうち、土地は時価評価で算出、燃料油の備蓄借入は実質的な負担が生じない為除外
②キャッシュアロケーションの再構成
ア.「CNに資する新規事業」16PJのスクリーニング結果
中期経営計画で掲げた16の新規事業プロジェクトについて、市場の蓋然性、当社既存アセットの活用度、有力事業パートナーの有無、当社の技術優位性などの基準をもとに投資スクリーニングを行い、2050年のカーボンニュートラルに向け取り組むべき投資として以下重点4事業を設定しました。
2030年までの早期実装、2030年代以降の収益化に向け、Key Success Factorを設定して取り組みを推進します。
*企業名は敬称略
イ.投資配分(2023~2030年度)
投資スクリーニングや本中計期間中のキャッシュ・フロー増分を踏まえ、2023~2030年度の戦略投資を、時間軸をもとに整理しました。2030年までのキャッシュ・フローおよびROIC向上に資する投資(成長投資:既存戦略投資、及び主に多様な省資源・資源循環ソリューション、スマートよろずや関連投資)による既存事業の収益力強化を通じて、ROIC/ROE目標を達成するとともに、2050年カーボンニュートラルに向け取り組むべき投資(CN投資:主に一歩先のエネルギー関連投資)を約8,000億円計画し、GHG削減や事業ポートフォリオ転換を着実に進めます。
ウ.株主還元方針と自己資本の適正化(2023~2025年度)
中期経営計画初年度である2023年度の順調な滑り出しを踏まえて2023~2025年度の利益、及びキャッシュ・フローを見直した結果、いずれも中期経営計画を大きく上回る見込みであり、財務体質の改善が大きく進んだことなどから、株主還元方針に加えて、自己資本の適正化を目的とした1,000億円の追加的な自己株式取得を実施します。
エ.3ヵ年キャッシュ・フロー配分
(2023~2025年度)
2025年度ROE10%の達成に向けた具体策を踏まえた3ヵ年のキャッシュインは中期経営計画対比2,200億円増加する見込みであり、この増加分は、①戦略投資(CN投資、成長投資)、②株主還元、③財務構成の見直しへ、それぞれ以下の通り充当します。
③GHG削減目標の達成に向けて
2030年度△46%(Scope1+2、2013年度対比)の削減目標に向け、2023年度末時点で必要削減量730万tの約20%に削減の目途が立っており、引き続き目標達成に向け取り組みを加速します。
(主な取り組み)
製油所統廃合/稼働減:西部石油精製機能停止、エルモーデュ・アクリル酸装置停止、千葉地区クラッカー停止検討他
排出量削減 :事業所、製造設備の省エネ投資、燃料転換の検討他
吸収・除去等 :森林投資、苫小牧CCS他
(4)事業上及び財務上の対処すべき課題
①セグメント毎の課題
当社のセグメント毎の具体的な課題は以下のとおりです。
ア.燃料油セグメント
(ア)石油精製の最適化とCNXセンター化の取り組み
石油精製については、長期的なコスト競争力向上と設備信頼性向上のために、継続的且つ効率的に投資を行っていくとともに、国内の需要動向に合わせた最適な製油所体制を目指します。また、カーボンニュートラルの実現に向けて、製油所・事業所機能を転換していくCNXセンター化を進めています。コンビナートの広大な敷地や大型船が入れる桟橋、タンク群などの既存設備は、バイオマス燃料をはじめ、水素・アンモニアや合成燃料などの製造や貯蔵、使用済みプラスチックのリサイクルなどに活用できるポテンシャルを有しており、各製油所・事業所の特性に合わせた取り組みを検討しています。
(イ)燃料油事業の海外展開
アジア・太平洋地域におけるトレーディング事業、ベトナムにおけるニソン製油所の操業とSSの展開、北米における卸事業、豪州における卸小売事業の展開を通じて、海外での燃料油事業を推進していきます。ニソン製油所については、安定操業を継続し、コスト適正化により引き続き収益改善に取り組みます。また、これまで培った知見を活用し、脱炭素関連商材の調達にも取り組みます。
(ウ)特約販売店ネットワークの基盤強化
特約販売店のネットワークは、燃料油、ガス等の、地域で必要となるエネルギー供給の担い手です。特約販売店の収益力強化のため、また、地域の抱える課題の解決に貢献するために、今まで培ってきたリテール施策を通じて、コンサルティング、情報処理、商品・サービスの開発・投入を行い、より一層強固な関係を構築していきます。当社の最大の「資産」である特約販売店とのネットワークは、2021年4月より展開を開始したSS新ブランドapollostationを通じて、スマートよろずやを展開し、それぞれのまちの人と豊かなくらしをサポートしていきます。具体的には、「いろんなa!を、このまちに。」の新スローガンのもと、人と「多様なエネルギー」をつなぐエネルギーよろずや、人と「これからの移動」をつなぐモビリティよろずやを柱に、地域の暮らしを支える生活支援基地へと進化していきます。
また、デジタル技術(ICT)を活用した出荷予測、SS在庫情報、船舶、ローリー運行状況等の情報をリアルタイム且つ双方向に高度に連携することで、物流システムの最適化、サービスの向上を実現しつつ、物流の需要密度低下と現場人材不足に対応していきます。
イ.基礎化学品セグメント
燃料油事業との連携による原料多様化・留分最適化を追求するとともに、保全費や維持更新投資をはじめとしたコスト削減や物流最適化に取り組み、国内事業の収益基盤の安定化を図ります。具体的には2023年に稼働を開始した愛知事業所パラキシレン製造装置の活用により、余剰となるガソリン基材を付加価値の高い化学品に転換するケミカルシフトを継続していくほか、オフサイトファシリティの合理化による輸送効率の向上、DXの導入などによる保安の高度化や保全工事仕様の最適化を進め、設備の信頼性向上とコスト競争力強化の両立に取り組みます。また基幹装置であるエチレン装置については、三井化学㈱との折半出資である千葉ケミカル製造有限責任事業組合における連携を一歩進め、将来的な出光装置停止、三井化学装置への集約を目的とした詳細検討を開始します。余剰能力の削減による生産最適化を進め稼働率の向上を図ることで一層の競争力強化を図ります。
2050年カーボンニュートラル実現に向けては、「バイオ化学品の供給」と「ケミカルリサイクルによる資源循環システムの確立」を推進します。バイオ化学品については、海外から調達したバイオナフサを原料とした化学品のマーケティングを強化し需要拡大を図るとともに、SAF事業との連携により、将来的なバイオナフサの自社製造化を進めていきます。ケミカルリサイクルに関しては、使用済みプラスチックを原料に原油代替となる生成油を生産する油化装置を千葉事業所に建設し、2025年度の商業生産開始を目指します。カーボンニュートラル化を推進するにあたっては製油所・事業所の既存設備を活用するだけではなく、グループ企業の㈱プライムポリマー、PSジャパン㈱を含めた化学品のバリューチェーン全体でよりサステナブルな事業へ進化させるべく変革を推進します。
ウ.高機能材セグメント
(ア)潤滑油事業
お客様が抱えている課題やニーズに沿った商品開発・提案を推進します。特にカーボンニュートラルの取り組み進展により、需要が拡大しているEVに適合する製品や、省エネ・省資源に資する製品の上市、拡販に取り組みます。
海外においては出光ブランドモーターオイル「IBMO(Idemitsu Brand Motor Oil※)シリーズ」の展開により、出光ブランドの強化を図り、更なる収益拡大を目指します。
※Idemitsu Brand Motor Oil:海外において展開されている出光ブランドのエンジンオイル
(イ)機能化学品事業
技術・商品の優位性が重要視される分野に経営資源を集約し、成長拡大を図ります。エンプラ・コンパウンド事業に注力、次世代モビリティ、高速通信分野のニーズに対応する開発を加速、また、電動・電化、ICTを成長領域とし、分子設計、配合技術を駆使、機能材料事業の用途開発を推進します。CNXセンター構想と連携、カーボンニュートラルにも取組み、現・中期経営計画で掲げた事業構造改革を着実に実行していくとともに、先進マテリアルカンパニーが目指す3つの成長事業領域での新規事業創出に積極的にも参画・推進していきます。
(ウ)電子材料事業
有機ELディスプレイは、スマートフォンやテレビといった既存用途に加え、今後はノートパソコン・タブレット端末・車載(産業用ディスプレイ)への適用拡大が期待されており、有機EL材料市場の成長が見込まれます。そのような需要拡大や韓国及び中国における国産化の流れに対応するため、海外顧客との接合強化による自社材料の採用拡大を目指し、現地の研究開発機能強化を推進します。更に、日本の研究開発機能では将来の技術動向を先取りした差別化技術の開発に取り組みます。また、市場環境の変化に柔軟に対応するため、日本・韓国・中国の3拠点での効率的な経営体制の構築を推進します。
(エ)高機能アスファルト事業
2024年度は、国土交通省が打ち出した「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」の4年目であり、継続して国内の道路舗装需要は堅調に推移するものと予測され、インフラ公共資材としての安定供給に努めていきます。高機能アスファルト分野においては、顧客、社会のニーズに基づき舗装の長寿命化やカーボンニュートラルの実現に向けた製品・技術開発を推進するとともに、海外事業においては、マレーシアにおける高機能アスファルトの事業会社を設立し、マレーシア高速道路運営会社等への販売開始し、同国でのインフラ整備に貢献していきます。
(オ)農薬・機能性飼料事業
近年、農作物の生産量低下に繋がる、薬剤耐性を獲得した病害虫・雑草の発生が問題となっています。農薬事業では本課題に対し、国内では耐性菌発生事例の無い殺菌剤「ダコニール」の普及推進、海外では難防除雑草に対して優れた除草効果を示す水稲除草剤「ベンゾビシクロン」の普及拡大等に継続的に取り組みます。
機能性飼料事業では近年の世界的な気候変動の流れを受け、家畜が排出する温室効果ガスの1種であるメタンガスが問題視されています。本課題に対し、牛の生産性維持及びメタンガスの排出削減効果が期待されるカシューナッツ殻液を含む機能性飼料の国内外での販売推進に継続的に取り組みます。
(カ)全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池)向け固体電解質
全固体電池は、主にEVの航続距離拡大、充電時間の短縮、安全性向上といった性能ニーズに応える技術として実用化と普及拡大が期待される次世代電池です。当社はそのキーマテリアルである固体電解質を開発しています。
量産に向けては、現在稼働中の2つの小型実証設備での実証を足掛かりに、次のステージとなる大型パイロット装置での量産技術の確立※とその先の事業化を目指します。また、材料メーカー、自動車メーカーなどとの協力も進めており、お互いのニーズを把握しながら、それぞれの知見や技術力を活かした迅速な開発を推進します。固体電解質の性能向上及び量産技術開発を加速させ、世の中に広く使っていただける固体電解質と全固体電池の量産実現を目指します。
※NEDO「グリーンイノベーション基金事業 次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに採択
エ.電力・再生可能エネルギーセグメント
国内においては、競争力ある火力電源を始め、風力、太陽光、バイオマスといった多様な再生可能エネルギー電源など、多様なポートフォリオで構成された発電所を活用し、安定的で低炭素社会の実現に貢献する電力供給を行っています。また、太陽光発電事業では、EPC事業を始めとする太陽光発電所の開発、長期安定利用の取り組みに加え、将来的に大量廃棄が見込まれるパネルのリサイクル・リパワリングなど循環型社会への対応も進めており、ライフサイクル全体を通じたソリューションを提供していきます。更に、今後進展する分散型社会に向けて、再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせた需給調整ビジネスにも取り組みます。海外においても脱炭素の潮流は国内と同様であり、北米や東南アジアにおける太陽光発電を中心とした再生可能エネルギー事業を展開しています。加えて、北米におけるガス火力発電事業にも取り組んでいます。
オ.資源セグメント
ロシア・ウクライナ問題によりエネルギーセキュリティの強化が求められる中で、継続して安定供給を行うために、既存の石油、石炭の資源資産価値の維持・向上とアジア圏でのガス田開発に取り組みます。石炭については、環境負荷低減を図る中で、石炭を代替するためのバイオマス燃料生産に向けて取り組むとともに、オーストラリアでの事業基盤を活用して、レアメタル鉱山事業への参入や鉱山資産を活用した再生可能エネルギー事業に取り組みます。また、地熱開発については、大分県での地熱事業の維持・継続と秋田県での新規発電所建設を着実に行うとともに、新規事業の調査・実証を進めます。
②財務上の課題
2030年に向けた事業構造転換を着実に推進するための適切なキャッシュ・フロー配分を実施するとともに、財務基盤強化と資本効率性のバランスを考慮した財務戦略を進めていきます。
なお、今中期経営計画の期間中には、財務構成の見直しとして1,000億円の自己株取得を決定しています。
出光グループは、エネルギー事業を中心としていることから、サステナビリティ推進が経営課題そのものであると考えています。2021年に取締役会承認により、「出光グループ サステナビリティ方針」を定め、取り組みを推進しています。サステナビリティに関する取り組みを明文化し、当社グループが一丸となって環境課題や社会課題の解決に貢献することを目指しています。
(1)サステナビリティ(ESG)共通
①ガバナンス
当社では、気候変動や人権といったESGの中心課題はもちろんのこと、各事業の諸課題もサステナビリティへの関連が強いことから、議題は全て業務執行の最高審議機関である経営委員会で議論される体制としています。経営委員会の委員長は社長が務め、議論された内容は適宜取締役会に付議・報告されています。
また当社ではサステナビリティの専任組織であるサステナビリティ戦略室を経営企画部の中に設置しています。サステナビリティ戦略室が、ESG各課題を主管する部署と部門横断的に関与し、当社のサステナビリティ経営を推進しています。サステナビリティ戦略室からは年に1回以上、サステナビリティに関する課題進捗を取りまとめて経営委員会に報告し、詳細については各主管部署からの付議により、経営委員会で十分なサステナビリティに関する議論、モニタリングができる体制としています。
サステナビリティ推進体制図
②戦略
当社は事業活動を通じて、持続可能な地球環境と社会を実現しつつ、企業としての持続的な成長を目指しています。2030年基本方針に則して、当社グループが貢献していく社会課題である「①カーボンニュートラル、循環型社会への貢献」「②地域社会への貢献(エネルギー&モビリティ)」、それらの達成に向けた注力課題である「③従業員の成長・やりがいの最大化」「④DE&Iの深化」、当社グループ活動の基盤となる「⑤デジタル変革の加速」「⑥ガバナンスの進化」、基礎的要件である「⑦健康、安全、遵法、人権擁護の徹底」の7項目をマテリアリティ(重要課題)として、取り組みを進めています。
なお、人的資本に関する戦略については、下記の「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(3)人的資本の多様性に関する戦略並びに指標及び目標」に記載のとおりです。
③リスク管理
出光グループは、事業活動に関わる様々なリスクを未然に認知・評価し、リスクに応じた適切な対応を講じることで、経営の安定を図っています。リスクマネジメントを推進する上で、事業活動に関わるリスクを「経営リスク」「業務リスク」の2つに分類をして、それぞれ管理の上、対応を推進しています。
取締役会が監督する「リスク経営委員会」は、グループ経営に関わるリスクマネジメント方針の決定とマネジメント状況のモニタリングなどを実施しています。他の委員会などに対し重要な業務リスク及び経営リスクに関する報告を随時求めるほか、本委員会の実施状況について、原則年1回取締役会に報告しています。
「リスク経営委員会」の下、業務リスクに対応する「リスク・コンプライアンス委員会」を設置し、適時、迅速に必要な対策を取ることを通して、業務リスクに関する全社リスクマネジメントを推進しています。「業務リスク」のうち、網羅性の高さから組織横断的に管理するリスクを「重要リスク」として位置付け、当社グループでのリスク管理のモニタリングに用いているほか、主要事業部門へのリスクヒアリングを通じて「重要リスク」への対応を確認しています。この「重要リスク」は、事業部門を対象に定期的に実施しているリスクアンケートの結果を基に、前年度発生した事案を踏まえながら「リスク・コンプライアンス委員会」にて選定を行っています。「リスク・コンプライアンス委員会」は、当社グループ全体の重点並びに重要リスクの更新、さまざまなリスク顕在化の兆候や新たなリスクの把握と評価、及びその他業務リスク全般に関する事項を審議、その対策の支援と進捗管理を実施し、リスク経営委員会へ上程する役割と責任を有しています。
④指標及び目標
出光グループは2019年にマテリアリティを初めて特定し、当社にとって重要な社会課題を認識し、事業活動に取り組んできました。それらからの連続性を重視しつつ、中期経営計画(2023~2025年度)や2050年ビジョン、社外を取り巻く環境変化も踏まえ、2022年にマテリアリティを見直し、KPI、モニタリング指標を定めサステナビリティ戦略を実行しています。
なお、人的資本に関する指標及び目標については、下記の「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(3)人的資本の多様性に関する戦略並びに指標及び目標」に記載のとおりです。
(2)気候変動対応
カーボンニュートラル(CN)・循環型社会の実現に向けて、出光グループの強みである「社会実装力」を発揮し、「人々の暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たすことを目指しています。気候変動関連対応の取り組みに関しては、2020年に賛同署名したTCFD提言のフレームワークに沿った形での情報開示を継続強化し、ステークホルダーの皆さまのご理解と協働の下で取り組みを加速させていきたいと考えています。
①ガバナンス
化石燃料販売を主たる事業とする当社にとって、気候変動対応は、最重要経営課題の一つであり、中長期の時間軸で大規模な事業ポートフォリオ転換を伴う取り組みです。取締役会は、本課題を様々な角度から多面的に捉えて経営方針を定めるとともに、その方針に基づいたアクションが、迅速かつ着実に実行されることを監督する役割を担っています。気候変動関連の主要な議案は、経営委員会に付議され、特に重要な内容は、取締役会に報告されます。これにより、取締役会は全社方針に基づいた執行が着実に行われているかを監督する体制としています。
また、カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けた全社課題の立案・遂行を加速させる必要があるという認識の下、2021年7月にCNX戦略室を新設、更にはグループ内での情報共有と迅速な意思決定に向けて2023年12月にCNX戦略本部を設置し、各事業部門の人員を250名規模で配置することで各プロジェクトを進めています。
※) CNX : Carbon Neutral Transformation
②戦略
次項で記載するリスクと機会全体像を踏まえ、リスク低減と機会最大化に向け、現在の5つの既存事業ポートフォリオを3つの事業領域(「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」)に有機的に結合・再編し、各領域において必要とされる事業の社会実装を通して、2050年ビジョンの実現を目指します。
③リスク管理
気候変動関連リスクは経営リスクの一つであり、2050年までを対象とした長期事業環境シナリオを策定し、シナリオのアウトプットを踏まえて、リスク(移行リスクと物理リスク)と機会を特定し、当社として必要な対応を明確化し、遂行しています。
④指標及び目標
カーボンニュートラル社会の実現に向けては、事業遂行に伴う自社の直接・間接排出量(Scope1+2)の削減と、新たな製品・サービスの提供を通じた他者排出量削減への貢献(Scope3削減、削減貢献量創出)の両面からの取り組みが必要と考えています。
本取り組みを進めていくうえでは、排出量を削減するという環境面への貢献とともに、エネルギー供給という社会面への貢献と、企業収益の維持・拡大という経済面への貢献をいかに同時に実現していくか、という点が重要という認識の下、当社は以下に記載する3つの指標を設定して、関連活動の進捗をモニタリングしています。
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各指標に関する目標値(目指すレベル)は、以下のとおりです。
2023年実績 ▲1.3%
2023年実績 91.5%
(3)人的資本の多様性に関する戦略並びに指標及び目標
①人財戦略
当社の人財戦略は、多様な人財が個性を発揮し、仕事を通じて成長することを基本的な価値観としており、2050年ビジョンの実現に向け、「どのような未来が来ても、しなやかに、逞しく、未来を切り拓く人財集団」となるための施策を展開しています。2050年ビジョンを実現するためのアプローチを、「Open・Flat・Agile風土の醸成」と「個々の成長」の観点で捉え、さらに3つの重点テーマ「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」を掲げ、それぞれに紐づく各種施策を展開しています。そして、従業員エンゲージメント向上に向け導入した「出光エンゲージメントインデックス」を用いて展開している施策の効果を確認していきます。これら人財戦略の取り組みにKPIを設定しており、進捗を管理していきます。各KPIについては、②指標及び目標をご参照下さい。
また、2024年度は、人財戦略の3つの柱の一つである「個々人の能力・個性の発揮」を推し進めます。前提となるのが「自律的なキャリア形成」です。社員にどのようなキャリアを歩みたいのかを自身で考えてもらい、会社はその思いが叶えられるよう支援するため、4月に「キャリアデザイン部」を設置し、7月に「出光社員会」を設置予定です。
キャリアデザイン部は、全世代を対象とした自律的キャリアプランの策定支援、多様なキャリアパスの提案、スキル開発メニューの提供、越境学習の機会提供およびキャリアコンサルティングを通じて、「個」の支援を強化します。出光社員会は、Nextフォーラムを中心とした諸活動を継承し、若手、中堅、役職者も含めた全社員が、主体的に「より良い会社、より良い組織風土」を創っていくための議論に参画する「場」を提供します。
ア.企業理念・ビジョンの体現
当社は企業理念について理解を深め、実践するため、一人ひとりの自問自答を大切にしています。従業員一人ひとりが、自身の担う業務と社会との接点や、自らが働く意義などと照合し、自問自答することや、従業員同士の対話において、自分の理解を共有することで、新たな気づきを得て、自らの考えを整理し、理解を深める好機になると考えています。企業理念をテーマに対話する「3つの対話(研修、座談会、上司との対話)」など、従業員一人ひとりの理解を深める各種施策を展開しています。
イ.DE&Iの深化
当社グループは、2019年11月に「D&I方針」を制定し、2023年6月に改定した「出光グループDE&I方針」に基づき、経営として取り組む重点課題として「DE&I」を掲げています。
ウ.自律的なライフキャリア形成支援
(ア)人財育成の考え方
人の育成を経営の目的に据え、企業理念・行動指針に基づいた教育研修体系を2020年に策定しました。行動指針を高い次元で体現していく人財を増やすため、行動指針のうち特に高めていきたい「自立・自律」「変革」「共創」およびそれらの軸である「成長」については「高めていく発揮能力」として、さらに詳細に設定しています。「先見」「挑戦」「決断」「協働」「完遂」「改善」「育成」という7つの観点において求める姿勢や行動のレベルを細かく定義しており、自身の現在のレベルを振り返るとともに、成長に向けて行うべきことを明確にすることが可能となっています。
(イ)教育研修体系の全体像
教育研修体系のベースは、発揮能力を高めるための「コンピテンシー開発」と考えています。加えて、当社では単なる職務上の成長だけでなく、人間としての成長も支援していきたいと考え、教養を高めるためのプログラムや、異なるライフステージの社員を支援するプログラムも準備しています。全ての社員が「自身が主役である」という意識を持てるよう、積極的な姿勢で、社会に貢献する人財に成長することを期待しています。
エ.多様で柔軟な働き方の推進
多様な社員が働きやすい環境づくりとともに、通勤負荷の緩和にもつながるテレワーク勤務制度やフレックスタイム勤務制度、サテライトオフィスなどを整備しています。
また、仕事と家庭の両立の基本的な考え方として、当社は、両立支援、次世代育成をDE&I推進の重点施策の一つと位置付け、ライフイベントに沿った制度の拡充を進めていきます。仕事と家庭(育児・介護)を両立している社員が働きやすく、やりがいを感じられる職場風土を醸成することは、全ての社員にとって能力を最大限に発揮できる環境づくりにつながると考え、さまざまな取り組みを展開しています。
②指標及び目標
人財戦略の 重点取り組み |
KPI |
2023年度実績 |
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企業理念・ ビジョンの体現 |
出光エンゲージメントインデックス※ ( |
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DE&Iの深化 |
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個々人の能力・ 個性の発揮 |
従業員一人当たり 教育投資額/年 |
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(国内トップクラス) |
※組織に対する従業員のコミットメントを測定する当社独自の指標。企業理念の体現、当社の戦略・目標への支持、自分の役割の理解、成長実感等を毎年測定し、インデックスとして目標管理。
③人的資本に関する外部機関等からの評価
2年連続「なでしこ銘柄」
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3年連続「健康経営銘柄」及び「健康経営優良法人~ホワイト500~」
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PRIDE指標2023ゴールド
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当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、当社グループの財政状態・経営成績及び投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には以下のようなものがあります。当社の業績に特に大きな影響を与える商品分野につきましては、セグメント別に記載しています。文中の将来に関する部分は、当社が有価証券報告書提出日現在において判断したものです。
(1)国際情勢や経済環境等の変化によるリスク
当社グループは日本及び世界各地にビジネスを展開しており、各々の地域の政治動向、景気動向及び経済情勢による影響を受ける可能性があります。特に足元のウクライナ情勢のほか、海外諸国の政治的要因又は経済的要因に起因する世界景気の減速及び日本国内における人口構成の変化等がもたらすエネルギー資源及び製品需要の変動や価格の乱高下は、当社の業績へ影響を与える可能性があります。
(2)事業を取り巻く外部環境の変化によるリスク
商品市況リスク
(燃料油セグメント)
当社グループは、石油製品の生産に必要な原油の殆どを輸入していますが、原油価格は過去においても大きく変動しており、一昨年から続くウクライナ情勢のほか、米国を始めとした世界各国の金融政策の動向、アジアにおける原油需要の変動、中東やアフリカの産油国の政情不安、米国を始め石油消費国における環境規制・税制の動向、投機的な石油取引等により、今後も大きく変動することが懸念されます。
当社グループは、石油製品価格を国内の市場価格に連動させることによりマージンを確保することに努めていますが、原油価格の変動が大きい場合や国内石油市場の激しい競争等により国内の市場価格が低迷した場合、財政状態及び経営成績は重大な影響を受ける可能性があります。
また、当社グループは、棚卸資産を総平均法により評価しています。一般的に総平均法は、原油価格が上昇する局面では、期初の相対的に安価な棚卸資産による売上原価押し下げ影響により損益の改善要因となります。一方、原油価格が下落する局面では、期初の相対的に高価な棚卸資産による売上原価の押し上げ影響により損益の悪化要因となります。
なお、1バレル当たりのドバイ原油価格が1米ドル変動すると、当社の営業利益は年間70億円増減する可能性があります。
(基礎化学品セグメント)
①原料コストの変動について
当社グループは、基礎化学品の原料であるナフサを自社製油所で生産するとともに市場から調達しています。ナフサ価格は、原油価格や、ガソリンの需要・価格動向、中国等において進められている石油化学設備の新設による需要増加の影響を受けることがあります。市場における激しい競争等の要因により、ナフサ価格の変動を製品価格に適切に転嫁できない場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。
②製品市況の変動について
日本を含むアジアの基礎化学品市場は激しい競争状況にあり、需要の変動や供給の増加の影響を受けます。アジアでは経済成長に伴う需要の増加が見込まれますが、近年で中国を中心とした基礎化学品を製造する大型の新設プラントが急増しており、アジア市場における供給過多や、新興国の経済成長鈍化に伴う需要低迷の可能性があります。このような市場における競争の激化や需要の低迷により、当社グループの財政状態及び営業利益は影響を受ける可能性があります。
(電力・再生可能エネルギーセグメント)
当社グループでは、卸電力取引市場を介した電力の卸売及び調達を行っていますが、この取引価格は燃料価格や電力需要、原子力・火力・再生可能エネルギー等の電源の稼働状況等の影響を受けて変動します。これらの要因によって取引価格が大きく変動した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。
(資源セグメント)
石油開発事業においては、油・ガスを生産し販売していますが、原油価格は過去においても変動しており、政治経済情勢あるいはその他の要因により将来的に原油価格が下落した場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。
石炭事業においては、オーストラリアの自社鉱山で石炭を生産し、主に日本向けに販売していますが、政治経済情勢あるいはその他の要因により石炭価格が下落した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。
調達リスク
当社グループは、原油輸入の大宗を中東地域に依存していますが、原油の安定調達を目的として主要な中東産油国と長期の原油輸入契約を締結し、同地域内におけるリスクの分散を図っています。しかしながら、これらの地域における政情不安、原油の生産調整、石油関連施設の事故並びにシーレーンにおける海上輸送リスクの上昇等により、長期にわたって原油の輸入に制約が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績は重大な影響を受ける可能性があります。
カントリーリスク
(基礎化学品・高機能材セグメント)
当社グループは、主にアジア市場を中心とした基礎化学品の販売及び、潤滑油分野においてはグローバルで事業展開をしていますが、経済の低迷や政治リスク等の要因により市場成長が鈍化する可能性があります。
このような経済環境の変動により、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。
(資源セグメント)
当社グループは、商業生産につながる資源の権益の取得、発見に努めています。現在、当社グループが保有する確認済みの資源や探鉱活動については、ベトナム等のアジア地域とノルウェーが中心となっており、これらの地域における政治経済情勢等により当社グループの探鉱開発が中断され、確認済みの資源の開発や追加的な資源の発見ができない可能性があります。
また、当社グループは、オーストラリアの自社鉱山で石炭を生産し、主に日本向けに販売しています。石炭鉱山事業につきましても、政治経済情勢、税制、規制方針やその他の不確定要因の影響を受けることがあります。
為替リスク
当社グループは、多額の外貨建取引を行い、また外貨建の資産及び負債を有しています。このため、為替相場の変動は外貨建取引の収益や財務諸表の円貨換算額に影響を与えます。
また、原油輸入を米ドル建てで行っているため、原油の調達コストは円の米ドルに対する為替相場の影響を受けるほか、燃料油セグメントにおける在庫評価も影響を受けます。なお、1米ドル当たり1円変動すると、当社の営業利益は年間40億円増減する可能性があります。
(3)気候変動に関するリスク
上記の「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動」に記載のとおりです。
(4)環境規制に関するリスク
当社グループは、事業展開する日本やその他の国における広範な環境保全やその他の法的規制の下にあります。例えば、当社グループは、製油所や工場からの汚染物質の排出、廃棄物の処理等について規制を受け、基準を超える環境汚染発生に伴う罰則を受ける可能性もあります。また、日本や他の国の当局が新たな規制を行うこと、あるいは現在や将来の環境規制を遵守することにより多額の支出を伴う可能性があります。
(5)事業投資に関するリスク
当社グループは、事業資産の規模が大きく、既存の製油所・工場や販売設備等の維持更新、油田の権益取得や探鉱開発等の国内外の事業活動に多額の投資を必要とします。今後も石油、石油化学、資源事業など、既存事業の競争力維持には一定の投資を継続する予定です。一方で、カーボンニュートラル実現に向けて、製油所・工場の機能を低炭素で循環型の事業にシフトするための投資や、潤滑油、機能化学品、電子材料、固体電解質などの高付加価値製品の開発投資、更には水素・アンモニア・SAF・合成燃料といった新たなエネルギーの事業開発投資など、化石燃料以外の新しい事業拡大へ向けた戦略投資を行っていく計画です。このような成長分野への投資においては、必要なキャッシュ・フローを生み出すまでに一定の時間を要するため、期待された収益機会を失う可能性があります。更に国内外における経済情勢や政治動向、市場拡大の遅れ、新素材を含む他社との開発競争等によりこれらの投資が計画どおりの収益をあげられない場合は固定資産の減損損失を計上する可能性もあります。なお、投資の意思決定プロセスにおいて、投資金額をはじめとする様々なリスクの多寡に応じた投資審議を設計することで、投資リスク低減と意思決定の迅速化の両立に努めています。
また、当社グループは、アジア市場における石油及び石油化学事業の海外展開の一環として、クウェート国際石油、ペトロベトナム及び三井化学㈱(以下当社を含め、「スポンサー」という。)と共同でニソンリファイナリー・ペトロケミカルリミテッド(以下「NSRP」という。)を設立し、ベトナム社会主義共和国タインホア省ニソン経済区に20万バレル/日の石油精製設備とパラキシレンをはじめとする石油化学品製造設備を有するニソン製油所・石油化学コンプレックスを操業しています。プロジェクトの総事業費は約90億米ドルであり、このうち50億米ドルは国際協力銀行をはじめとする銀行団によるプロジェクトファイナンスにより調達し、約40億米ドルはスポンサーによる出資及び貸付で調達しています。プロジェクトファイナンスによる調達額について銀行団に対し行っている債務保証及びスポンサーによる出資・貸付のうち、NSRPへの当社グループ出資比率相当の35.1%については、ベトナムにおける政治経済情勢、法律や規制及び雇用環境の変化等からプロジェクトが計画どおりに進展しない場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。
(6)その他経営全般に係るリスク
人権に関するリスク
当社グループは、人権の尊重は欠くことのできない経営の根幹であり、全ての判断や行動において最優先させるべきことと考え、世界人権宣言やILO宣言で国際的に認められた人権を尊重することを基本方針として定めています。当社グループは、グローバルに事業拠点を持ち、取引するサプライヤーも多国にわたることから、「ビジネスと人権」に関する意識を国際基準で高く持ち、人権デューデリジェンスを通じたリスクの軽減を進めるとともに、ビジネスパートナーにも方針の理解と遵守を要請しています。
しかしながら、事業活動の領域で人権の侵害等が生じた場合には、ステークホルダーの信頼を失い、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。
コンプライアンスに関するリスク
当社グループでは、コンプライアンス規程等に基づき、国内外の法令その他諸規則等を遵守すべく、コンプライアンス推進体制及び内部統制の強化に努めています。しかしながら、当社グループにおいて法令その他諸規則等を遵守できなかった場合、又は内部統制システムが有効に機能せずコンプライアンス上の問題が完全に回避できない事態が生じた場合には、ステークホルダーの信頼を失い、当社グループのレピュテーションを損ね、当社グループの財政状態及び経営成績が影響を受ける可能性があります。
また、当社グループは確実性の高い品質マネジメントシステムに則り製品を製造していますが、予期せぬ事情で大規模なリコールや訴訟が発生した場合に備え保険を手当てしています。しかしながら、それに伴い法的責任が発生する可能性や、直接的な責任を負わずともバリューチェーンの一部を担う者としてブランドイメージやレピュテーションの低下を回避できない場合もあり、ひいては当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性もあります。
知的財産に関するリスク
当社グループは、事業の遂行のために知的財産権を活用しており、特に石油精製技術や、リチウム電池向け固体電解質、潤滑油、機能化学品、電子材料等の付加価値の高い製品・サービスにおいて特許や企業秘密の位置づけは重要です。また、当社グループは、ブランドを商標登録しています。しかしながら、当社グループの知的財産権は、これらに関して紛争が生じたり、無効にされたりする可能性があります。また、当社グループが保有する特許、企業秘密、商標が当社の知的財産を保護するために十分であるとは限りません。
また、当社グループの企業秘密が、従業員や取引先、その他の関係者によって不適切に取り扱われる可能性があります。更に、当社グループの製品やサービスが第三者から知的財産権を侵害しているという主張がなされ、あるいは当社グループが第三者から供与されている技術ライセンスが更新されない可能性があります。当社グループが、事業遂行に必要な知的財産権を保護できない、あるいは全面的に活用できない場合、当社グループの事業や経営成績は影響を受ける可能性があります。
自然災害・事故等によるリスク
当社グループの事業は、地震、津波、台風、豪雨豪雪、火山爆発等の自然災害やこれらに起因する製油所・工場における火災、爆発、油の大規模流出等の事故といったリスクを有しています。また保有する大型タンカーを含む原油や石油製品の輸送は、海賊や悪天候による転覆、衝突、非友好国による拿捕、撃沈等の危険にさらされています。更に当社グループは、労働争議やサイバー攻撃等によるシステムダウンや情報漏洩、感染症の大規模蔓延による事業中断のリスクにも晒されています。
これらのリスクを会社としていち早く認識し、全社を挙げて被害の拡大防止を図るため、「危機発生時の対応規程」を策定し、予兆を含めたトラブルの早期共有のための連絡系統、対応時の優先順位、危機レベルの設定とそれに応じた対策本部の体制等についてまとめています。事業継続計画(BCP : Business Continuity Plan)については、2006年度に首都直下地震版、2009年度には新型インフルエンザ版、2010年度には南海トラフ巨大地震版(2021年度に「南海トラフ含む地域的地震津波版」に拡充)を制定しました。更に2015年度に内閣府より「指定公共機関」に指定されたことを受け、「防災業務計画」を作成しました。BCPに基づく総合防災訓練を毎年実施し、各拠点との連携やリモートを含む本部運用等についての課題を抽出し、実効力の強化に努めるとともにBCPの改定に反映しています。製油所・事業所・工場等においては、各々の危機対応規程類に基づき、拠点ごとに又は相互連携の上、防災訓練を定期的に実施しています。
当社グループは、事故や災害で想定される多額の損失に対し、自家再保険子会社を活用し適正な損害保険や損害保険サービスをグローバルに調達しています。
個人情報管理に関するリスク
当社グループは、石油製品販売、電力小売り、クレジットカード事業等で顧客の個人情報を多数取り扱っています。当社グループは、これらの情報の管理不徹底や外部からの不正な搾取、それによってもたらされる問題への対処のために、多額の費用を負担する可能性があります。また、昨今の日本国や欧州を始めとする個人情報保護関連法令の適用拡大・厳格化に対する必要な対応の不備・不足により、多額の制裁金、賠償金の発生、当社グループの信用低下、クレームや訴訟等に繋がった場合、当社グループの事業や経営成績が影響を受ける可能性があります。
(7)事業等のリスク管理
上記の「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)サステナビリティ(ESG)共通 ③リスク管理」に記載のとおりです。
(1)経営成績等の状況の概要
①経営成績の状況
ア.一般経済情勢及び当社グループを取り巻く環境
当連結会計年度におけるわが国の経済は、新型コロナウィルスからの経済活動の正常化や物価上昇の値上げ浸透などにより企業業績は改善に向かい、多くの企業が昨年に引き続き賃上げを進める中で、日銀がゼロ金利政策の解除に動くなど、デフレ脱却につながる重要な変化が見られました。一方で、経済成長のペースは、インフレによる実質賃金の低迷もあり、緩やかな動きにとどまりました。
国内石油製品販売量は、ガソリン等主燃料は2020年以降のコロナ禍における需要減からの回復が一服し、前年度から減少しましたが、ジェット燃料は引き続き前年度を上回って推移しました。
原油価格は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や米国の利上げ長期化観測の後退などにより、9月までは上昇基調で推移し、以降は米中の経済指標の弱さから景気減速が意識され、OPECプラスによる追加減産が見送られたことなどを背景に下落基調へ転じましたが、年末頃から中東情勢の緊迫化などにより再び上昇しました。この結果、ドバイ原油価格は前期比10.2ドル/バレル下落の82.3ドル/バレルとなりました。
円の対米ドルレートは、日米の金融政策の差を背景に円安ドル高が進行し、年明け以降もFRBによる利下げ観測の後退により、日銀のマイナス金利解除後も円安が続きました。その結果、平均レートは前期比9.2円/ドル円安の144.6円/ドルとなりました。
イ.事業構造改革の進捗
当社は企業価値の更なる向上、及びPBR1倍超の早期達成に向け、25年度のROE目標を従来の8%から10%以上へ上方修正しました。その達成に向けた事業戦略として「既存事業の更なる収益力向上と資本効率化」及び、「新規事業の拡大による事業ポートフォリオ転換とGHG削減」、また財務戦略として「資本収益性を高める財務戦略の推進」に取り組んでいます。既存のエネルギーと素材の安定供給を果たしながら高い資本収益性を確保しつつ、カーボンニュートラルに向けた社会実装を着実に進め、3つの事業領域(「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」)へポートフォリオを転換することが、2030年ビジョン「責任ある変革者」、2050年ビジョン「変革をカタチに」を実現する道筋と考えています。3つの事業領域における取り組み状況は以下のとおりです。
(一歩先のエネルギー)
SAF(Sustainable Aviation Fuel)、アンモニア、CO₂の回収・利用・貯留(CCUS)設備、合成燃料などの早期の社会実装を目指し、取り組みを開始しました。
SAFについては、当社は2030年に年間50万KLの国内供給体制の構築を目指し、2028年度の供給開始に向け千葉事業所及び徳山事業所における製造装置の建設に向けた検討を進めています。また海外では、豪州Jet Zero Australia社との協業を開始し、SAFのグローバルなサプライチェーン構築に向けた取り組みを進めています。
アンモニアについては、サプライチェーン構築に向けて、徳山事業所の既設インフラを活用したアンモニア輸入基地化に向けた検討を進めており、コンビナート各社を含む周辺広域の事業所向けに2030年に100万トン超のアンモニア供給を目指しています。また、2024年2月、当社は三菱商事㈱及びProman社が米国ルイジアナ州レイクチャールズで検討を進めているクリーンアンモニア製造プロジェクトへの参画を決定し、本プロジェクトで生産されるアンモニアを、日本国内へ供給することを構想しています。
CCUSについては、北海道苫小牧エリアにおいて、当社、北海道電力㈱、石油資源開発㈱で、3社の事業拠点や強みを活かし、2030年までの事業立ち上げを視野に共同検討を進めています。
合成燃料については、南米・北米・豪州などで合成燃料の製造を行うHIF Global社と、戦略的パートナーシップに関する基本合意書を締結しました。国内で回収したCO₂の国際輸送と活用、海外における合成燃料生産等の検討を進めています。また、当社グループ製油所・事業所における合成燃料の生産検討を進め、2030年までに国内での生産・供給体制の確立を目指します。
これらの早期社会実装に向け、CNX戦略本部を2023年12月付で設置し、社内体制を強化しました。グループ内のタイムリーな情報共有と迅速な意思決定を行い、社内の知見・情報・人財を結集させることで取り組みを更に加速していきます。
(多様な省資源・資源循環ソリューション)
2050年カーボンニュートラル実現に向けては、「バイオ化学品の供給」と「ケミカルリサイクルによる資源循環システム確立」の取り組みを推進しました。
「バイオ化学品の供給」については、バイオ化学品の認証システムである「ISCC Plus」を、これまでの千葉事業所・徳山事業所に加え、2023年4月にマレーシアのパシルグダン事業所でも取得しました。外部調達したバイオナフサをベースに、マスバランス方式でのバイオ化学品の供給を推進しています。
「ケミカルリサイクル」については、2023年4月に、油化ケミカルリサイクル商業生産設備(使用済みプラ処理能力2万t/年、2025年度商業運転開始予定)の投資を正式決定し、環境エネルギー㈱と「ケミカルリサイクル・ジャパン株式会社」を設立しました。幅広い業種の企業から問合せをいただいており、資源循環システムの確立に向け共同で実証実験を進めています。
次世代電池向け固体電解質の量産に向けては、2023年夏に小型実証設備 第1プラントの能力増強を決定しました(2024年度完工予定)。また、同時期に第2プラントの新規稼働も開始し、お客様へのサンプル供給及び量産技術の実証を加速しています。
更に、2023年10月にはトヨタ自動車㈱との協業を発表しました。2027-2028年の全固体電池実用化をより確実なものとするために、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組みます。両社の技術を融合することで、固体電解質と全固体電池の量産実現を目指します。
(スマートよろずや)
当社は、中期経営計画において「スマートよろずや構想」を掲げ、全国に広がるapollostationを重要なインフラ網として維持・活用するため、従来の給油所のみならず、地域の生活支援基地としての役割も担うべく変革を進めています。その一つの類型として、2023年10月より、洗車、カーコーティング、カーシェア、レンタカー、車検、板金、整備、車販売・買取といったニーズに高い専門性をもって対応する新しい業態のサービスステーション(SS)「apolloONE」をスタートしました。地域に根差した特約販売店が運営するSSネットワークのもと、サービスステーションのDXの基点となるスマートフォンアプリDrive Onの施策等もあわせ、お客様のカーライフを豊かにする取り組みを展開していきます。
ウ.業績
当社グループの当期の売上高は、原油価格の下落等により、8兆7,192億円(前期比△7.8%)となりました。
売上原価は、7兆8,721億円(前期比△9.1%)となり、販売費及び一般管理費は、5,008億円(前期比△2.1%)となりました。
営業損益は、資源セグメントにおいて石炭市況の下落等があったものの、燃料油セグメントにおけるタイムラグを主要因とした国内マージン改善や海外トレーディング事業の増益等により、3,463億円(前期比+22.6%)となりました。
営業外損益は、持分法投資利益の減少等により、389億円(前期比△0.4%)となりました。その結果、経常損益は3,852億円(前期比+19.8%)となりました。
特別損益は、前年度の遊休不動産等の固定資産売却益計上の反動や貸倒引当金繰入額の計上等により、△585億円(前期比△852億円)となりました。
法人税、住民税及び事業税と法人税等調整額を合わせた税金費用は、999億円(前期比+2.5%)となり、非支配株主に帰属する当期純損失は17億円(前期比△41.6%)となりました。
以上の結果、親会社株主に帰属する当期純利益は2,285億円(前期比△9.9%)となりました。
エ.事業の経過及び成果
セグメント別の事業の経過及び成果は以下のとおりです。
当社グループの決算期は、一部を除き、海外子会社が12月、国内子会社が3月であるため、当連結会計年度の業績については、海外子会社は2023年1月~12月期、国内子会社は2023年4月~2024年3月期について記載しています。
セグメント別売上高
(単位:億円)
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減 |
|
|
(2023年3月期) |
(2024年3月期) |
増減額 |
増減率 |
燃料油 |
74,039 |
70,808 |
△3,231 |
△4.4% |
基礎化学品 |
6,669 |
6,016 |
△653 |
△9.8% |
高機能材 |
5,110 |
5,154 |
+44 |
+0.9% |
電力・再生可能エネルギー |
1,971 |
1,415 |
△555 |
△28.2% |
資源 |
6,721 |
3,705 |
△3,016 |
△44.9% |
その他・調整額 |
54 |
95 |
+41 |
+77.0% |
合計 |
94,563 |
87,192 |
△7,371 |
△7.8% |
セグメント別利益又は損失(△)
(単位:億円)
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減 |
|
|
(2023年3月期) |
(2024年3月期) |
増減額 |
増減率 |
燃料油 (在庫評価影響除き) |
730 (173) |
2,197 (1,672) |
+1,466 (+1,499) |
200.8% (+867.6%) |
基礎化学品 |
101 |
220 |
+120 |
+119.0% |
高機能材 |
170 |
276 |
+106 |
+62.6% |
電力・再生可能エネルギー |
5 |
△76 |
△81 |
- |
資源 |
2,309 |
1,169 |
△1,140 |
△49.4% |
その他 |
12 |
5 |
△7 |
△56.3% |
調整額 |
△242 |
△161 |
+81 |
- |
合計 (在庫評価影響除き) |
3,084 (2,527) |
3,630 (3,106) |
+546 (+579) |
+17.7% (+22.9%) |
(注)セグメント別利益又は損失(△)は、セグメント別の営業損益と持分法投資損益の合計額です。
(ア)燃料油セグメント
日本のエネルギーセキュリティを支えるという社会的使命の下、国内サプライチェーンの競争力強化に取り組むとともに、持続的成長の実現に向けた海外事業の強化と製油所・事業所のCNXセンター化に向けた取り組みを進めてきました。
国内製造供給においては、グループ供給体制の最適化、及びCNXセンター化に向けて2024年3月に山口製油所(西部石油株式会社)の精製機能を停止いたしました。また、富士石油株式会社との間で既存燃料油事業の競争力強化及び将来の脱炭素化を見据えた取り組みについての協業の深化に関する協議を進めています。更に、設備・オペレーションの最適化、AI・IoTなど先進技術の活用による製油所信頼性の向上、物流の効率化に取り組みながら、燃料油の安定供給に努めました。
国内販売においては、お客様の利便性向上・ブランド顧客の拡大に向けて、2024年2月よりドコモが提供するポイントサービス「dポイント」を導入しました。また、出光グループの財産であるSSネットワークを活かした事業を維持・拡大するため、2021年11月にリリースしたアプリ「Drive On」を積極展開しています。「Drive On」は、スマートよろずやのベースとなるアイテムであり、ここを起点にカーメンテナンス予約管理システム「PIT in plus」、個人向けカーリース「オートフラット」、「らくらく安心車検」などに繋げていきます。また、2022年11月より決済機能「モバイルDrive Pay」を搭載し、お客様にとって「Drive On」一つで、メンテナンス予約、給油決済、クーポン利用等が可能となりました。2024年3月時点で、「Drive On」は800万ダウンロードまで利用が拡大しています。
海外においては、ベトナムのニソン製油所の安定操業に努めるとともに、下期に実施した定期補修工事において生産性向上等の対策を実施しました。また、シンガポール現地法人の出光アジア(IDEMITSU INTERNATIONAL(ASIA) PTE. LTD.)を中心に海外拠点の事業拡充を進め、アジア・環太平洋地域等の成長市場における販売ネットワーク強化に努めました。
以上の結果、原油価格の下落等もあり、燃料油セグメントの売上高は7兆808億円(前期比△4.4%)となりました。セグメント損益は、タイムラグによる国内製品輸出マージン改善や海外トレーディング事業の増益及び自家燃コストの減少等により、2,197億円(前期比+200.8%)となりました。なお、セグメント損益に含まれる在庫評価益は525億円です。
(イ)基礎化学品セグメント
競争力強化の一環としてENEOS㈱より譲受した愛知事業所のパラキシレン製造装置は、2022年12月に本格稼働を開始し、余剰ガソリン基材の活用によるケミカルシフトを更に推進しています。また、千葉地区での生産最適化及び化学品原料の低炭素化の推進を目的に、三井化学㈱との間で2027年度を目途としたエチレン装置集約の検討を開始しました。
以上の結果、基礎化学品セグメントの売上高は6,016億円(前期比△9.8%)となりました。セグメント損益は、前年度の定期修繕実施による反動及び愛知事業所のパラキシレン製造装置稼働に伴う生産数量増に加え、製品マージンの改善等により、220億円(前期比+119.0%)となりました。
(ウ)高機能材セグメント
(潤滑油事業)
物流の2024年問題解決に貢献する、業界初の無リン無灰ディーゼルエンジンオイルを2022年9月に上市しています。本製品はディーゼル車のDPF(排ガスフィルター)トラブルを解決します。既に2024年3月時点で900社以上にご使用いただいており、ドライバー・整備士の方々の労働時間の削減、精神的負担の軽減に貢献しています。また、海外においては出光ブランド製品の拡販をすすめ、収益への貢献を果たしました。
(機能化学品事業)
コロナ禍後の経済活動正常化等を受けた原燃料価格高騰に対し、徹底した採算改善活動によって収益力強化に努めました。中国での新増設により中長期的に厳しい市場環境が継続すると予想されるビスフェノールAは、事業からの撤退を決断し、更に筋肉質な体質への変革を進めました。また、機能性に優れる液状ゴム事業を行っている出光クレイバレー㈱を2023年5月に完全子会社化(10月に吸収合併)することで収益力を強化しました。一方、エンプラ・コンパウンド事業では、高付加価値分野での拡販に注力し、マレーシアでSPS2号機が2023年11月から商業運転を開始しました。
(電子材料事業)
インフレ継続やコロナによる巣ごもり需要の反動が影響し、ディスプレイ市場は低迷し、材料需要は減少しましたが、材料のコストダウン、高付加価値材料の採用拡大を進めました。
(機能舗装材事業(高機能アスファルト事業))
国内において、2022年度と同様にアスファルトの需要は減退傾向でしたが、社会インフラ資材として安定供給に努めるとともに、発注者ニーズに基づく製品開発や、低炭素・カーボンニュートラルに貢献する技術開発を行いました。海外事業においては、マレーシアにおいて高機能アスファルト事業の現地企業との合弁会社を設立しました。
(農薬・機能性飼料事業)
㈱エス・ディー・エス バイオテックにおいて国内農薬登録の新規取得を芝生用除草剤で1件実施し、適用拡大を殺菌剤5件、殺虫剤を1件、殺菌・殺虫剤を2件、生物農薬殺虫剤を1件、生物農薬殺菌剤を1件、緑地管理用除草剤を2件実施することで製品の更なる普及拡大を進めて参りました。また、海外事業では水稲除草剤ベンゾビシクロン剤の中国における新規混合剤の上市やベトナムでの単剤の販売を開始しました。
以上の結果、高機能材セグメントの売上高は、5,154億円(前期比+0.9%)となり、セグメント損益は、潤滑油事業における前年度のマイナスのタイムラグ影響の解消や機能化学品事業における不採算事業からの撤退等が寄与し、276億円(前期比+62.6%)となりました。
(エ)電力・再生可能エネルギーセグメント
安定的な収益基盤の確立に取り組むとともに、社会の電化・脱炭素ニーズへの対応として、再生可能エネルギー電源の保有促進や、蓄電池の活用等を通じたソリューション事業における実証と展開を進めています。国内においては、宮崎大学におけるPPA契約による太陽光発電システムの稼働が開始するとともに、当社製油所跡地を活用した、系統用蓄電池事業への参入を決定しました。2025年の稼働開始を予定しており、電力系統の需給バランス調整を始め、カーボンニュートラル社会実現に向けた取り組みを強化していきます。海外においては、米国での太陽光発電所の開発・運用等の事業や、経済成長に伴い需要が伸長する東南アジアにおける、需要家施設の屋根上への太陽光発電設備設置に取り組んでいます。また、ソーラーフロンティアにおいては、EPC事業を始めとする太陽光発電所の開発、長期安定利用、並びにリサイクルまでのライフサイクル全体を通じたソリューション提供を行っています。
以上の結果、電力・再生可能エネルギーセグメントの売上高は、1,415億円(前期比△28.2%)となりました。セグメント損益は、ソーラー事業は、構造改革に伴うコスト低減や自家消費型太陽光発電販売の進展により前期比で改善となった一方、電力事業おける販売価格の低下及び装置トラブルに伴う調達の増加等の影響が上回り△76億円(前期比△81億円)となりました。
(オ)資源セグメント
(石油・天然ガス開発事業・地熱事業)
石油・天然ガス開発事業について、ベトナム南部の海上鉱区プロジェクトでは当社がオペレーターとなって天然ガス開発に取り組み、安定生産を継続しました。欧州では持分法適用会社である㈱INPEXノルウェー及び現地法人を通じて、ノルウェー北部北海地域の既存油田における安定生産、探鉱を行いました。
地熱事業においては、既存発電所の安全操業に努めるとともに、秋田県湯沢市小安地域における新規発電所の建設を進め、その他国内での新規案件の調査を進めました。
石油・天然ガス開発事業・地熱事業の売上高は383億円(前期比△11.7%)となりました。セグメント損益は、原油価格の下落や操業費用の増加等により、191億円(前期比△41.7%)となりました。
(石炭事業・その他事業)
石炭事業では、事業構造改革の一環としてエンシャム鉱山権益を売却しました。競争力の高いボガブライ鉱山からの安定供給を継続していきます。
その他事業については、石炭代替のバイオマス燃料であるブラックペレット(商品名:「出光グリーンエナジーペレット™」)の商業プラントをベトナムで竣工するとともに、ボイラー排ガス中のCO₂を固定化した合成炭酸カルシウム(炭酸塩)を用いたCO₂再資源化(カーボンリサイクル)の事業化検討を進めました。また、石炭鉱山の運営で培った事業基盤を活かし、豪州でリチウム事業を推進するDelta Lithium Limitedへの出資を行うなど、レアメタル鉱山事業への参入を推進するとともに、鉱山資産を活用した再生可能エネルギーやグリーン水素・アンモニアプロジェクトの事業化検討など、カーボンニュートラル・地域貢献に向けた取り組みも進めました。
石炭事業・その他事業の売上高は、鉱山規模縮小による生産数量の減少や石炭市況の下落等により、3,321億円(前期比△47.2%)となりました。セグメント損益は978億円(前期比△50.6%)となりました。
以上の結果、資源セグメントの売上高は3,705億円(前期比△44.9%)、セグメント損益は1,169億円(前期比△49.4%)となりました。
(カ)その他セグメント
その他セグメントの売上高は、95億円(前期比+77.0%)となり、セグメント損益は5億円(前期比△56.3%)となりました。
(キ)研究開発
石油・石油化学の基幹製造拠点である千葉事業所(千葉県市原市)内に、新たな統合研究所「イノベーションセンター(仮称)」(2027年度完工予定)を新設することを決定しました。現在は複数拠点にまたがる生産技術、開発技術等の研究所をイノベーションセンターに集約し、事業を横断した研究開発体制の構築と社外連携の強化を図ることで、研究開発から分析・解析、実証、プロセスエンジニアリング、商業生産までの一気通貫体制の構築と、中期経営計画で掲げる事業構造改革に向けた技術開発の加速を実現します。
②財政状態の状況
要約連結貸借対照表
(単位:億円)
|
前連結会計年度 (2023年3月期) |
当連結会計年度 (2024年3月期) |
増減 |
流動資産 |
27,321 |
29,168 |
+1,848 |
固定資産 |
21,333 |
20,955 |
△378 |
資産合計 |
48,654 |
50,123 |
+1,469 |
流動負債 |
21,640 |
21,925 |
+285 |
固定負債 |
10,721 |
10,073 |
△648 |
負債合計 |
32,361 |
31,998 |
△363 |
純資産合計 |
16,293 |
18,125 |
+1,832 |
負債純資産合計 |
48,654 |
50,123 |
+1,469 |
ア.資産の部
当期末における資産合計は、円安影響などによる棚卸資産の増加や当期末の休日影響による売掛金の増加等により、5兆123億円(前期末比+1,469億円)となりました。
イ.負債の部
当期末における負債合計は、円安影響などによる買掛金の増加や当期末の休日影響による未払金の増加があった一方、有利子負債の減少等により、3兆1,998億円(前期末比△363億円)となりました。
ウ.純資産の部
当期末の純資産合計は、自己株式の取得や配当金の支払いがあった一方、親会社株主に帰属する当期純利益の計上や円安による為替換算調整勘定の増加等により、1兆8,125億円(前期末比+1,832億円)となりました。
以上の結果、自己資本比率は前期末の33.2%から当期末は35.9%(前期末比2.7ポイント)となりました。また、当期末のネットD/Eレシオは0.7(前期末:0.9)となりました。
③キャッシュ・フローの状況
要約連結キャッシュ・フロー計算書
(単位:億円)
|
前連結会計年度 (2023年3月期) |
当連結会計年度 (2024年3月期) |
営業活動によるキャッシュ・フロー |
△328 |
3,774 |
投資活動によるキャッシュ・フロー |
701 |
△658 |
財務活動によるキャッシュ・フロー |
△904 |
△2,805 |
現金及び現金同等物に係る換算差額 |
172 |
27 |
現金及び現金同等物の増減額(△は減少) |
△360 |
338 |
現金及び現金同等物の期首残高 |
1,390 |
1,031 |
現金及び現金同等物の期末残高 |
1,031 |
1,369 |
当期末の現金及び現金同等物は、1,369億円となり、前期末に比べ、338億円増加しました。その主な要因は次のとおりです。
ア.営業活動におけるキャッシュ・フロー
税金等調整前当期純利益や減価償却費等の資金増加要因が、円安影響に伴う運転資本の増加等の資金減少要因を上回ったことにより、3,774億円の収入となりました。
イ.投資活動におけるキャッシュ・フロー
製油所設備の維持更新投資等による有形固定資産の取得等により、658億円の支出となりました。
ウ.財務活動におけるキャッシュ・フロー
自己株式の取得や配当金の支払い、長期借入金の返済等により、2,805億円の支出となりました。
④生産、受注及び販売の実績
ア.生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
燃料油 |
4,000,269 |
90.9 |
基礎化学品 |
523,181 |
89.2 |
高機能材 |
303,727 |
97.8 |
電力・再生可能エネルギー |
- |
- |
資源 |
249,714 |
54.8 |
その他 |
- |
- |
合計 |
5,076,893 |
88.2 |
(注)上記の金額は、資源セグメントは販売金額、その他のセグメントは製品生産額によって記載をしています。
イ.受注実績
当社グループでは主要製品について受注生産を行っていません。
ウ.販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
燃料油 |
7,080,754 |
95.6 |
基礎化学品 |
601,574 |
90.2 |
高機能材 |
515,377 |
100.9 |
電力・再生可能エネルギー |
141,521 |
71.8 |
資源 |
370,458 |
55.1 |
その他 |
9,514 |
177.0 |
合計 |
8,719,201 |
92.2 |
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しています。
2.「主な相手先別の販売実績」に該当する販売相手先はないため、記載を省略しています。
3.各セグメントの販売実績は、外部顧客への売上高を記載しています。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
①経営成績の分析
経営成績の分析については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 経営成績の状況」における「ウ.業績」及び「エ.事業の経過及び成果」に記載しています。
②資本の財源及び資金の流動性についての分析
ア.資金需要
当社グループの主な運転資金需要は、製品製造のための原油・原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用及び税金の支払いなどによるものです。
設備投資資金については、エネルギー安定供給のための操業維持投資に加え、販売・供給体制の競争力強化を目的とした投資、一歩先のエネルギーや多様な省資源・資源循環ソリューション及びスマートよろずや等の事業ポートフォリオ転換推進投資、石油開発事業等における保有鉱区の開発・安定生産継続に向けた投資等の需要があります。
イ.財務政策
当社グループは、中長期的な成長を維持するために資本効率と財務健全性のバランスを勘案しつつ、必要な運転資金及び設備投資資金を、営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入、社債・コマーシャルペーパーの発行、及び流動性確保のための特定融資枠契約(コミットメントライン契約)の維持等、多様なリソースから効果的に組み合わせて調達しています。
なお、国内子会社は、当社が一括して資金調達し、子会社に融通するグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。また、海外子会社は金融機関からの借入れの他、子会社間のグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。
また、円滑な資金調達を行うため、当社は格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)の2社から格付けを取得しています。当連結会計年度末において当社の格付けはR&IがA(方向性:安定的)、JCRがA+(見通し:安定的)となっています。
(特定融資枠契約)
当社グループは、運転資金の効率的な調達や十分な流動性確保、また、災害発生時の円滑な資金調達のため、取引先銀行で作られるシンジケート団と短期借入を実行できる特定融資枠契約2,100億円を締結し、機動的・安定的な資金調達が可能な体制を敷いています。当連結会計年度末において同契約にかかる借入残高はありません。
③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
④経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、2030年ビジョン「責任ある変革者」の実現に向けて、事業構造改革投資と人的資本投資の両輪により事業ポートフォリオの転換を進めるため、自己資本利益率(ROE)、投下資本利益率(ROIC)、ネットD/Eレシオ、自己資本比率を主要な経営指標としています。
中期経営計画(2023~2025年度)の最終年度である2025年度の経営指標目標は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)中期経営計画(2023~2025年度)の取組み」に記載のとおり、自己資本利益率(ROE)が10%、実態投下資本利益率(ROIC)が7%(既存事業)です。
2024年3月期の自己資本利益率(ROE)が前期対比で減少している主な要因は、特別損失の増加等による親会社株主に帰属する当期純利益の減少、親会社株主に帰属する当期純利益の計上等に伴う当期末自己資本の増加によるものです。また、同様に実態投下資本利益率(ROIC)の主な増加要因は、燃料油セグメントにおけるタイムラグを主要因とした国内マージンの改善等による在庫影響除き営業利益の増加、借入返済に伴う投下資本の減少によるものです。
当社グループの主要な経営指標のトレンドは次のとおりです。
|
2020年 3月期 |
2021年 3月期 |
2022年 3月期 |
2023年 3月期 |
2024年 3月期 |
自己資本利益率(ROE)(%) |
- |
2.6 |
9.2 |
14.2 |
11.3 |
投下資本利益率(ROIC)(%) (全社計) |
- |
2.8 |
6.8 |
6.2 |
8.4 |
実態投下資本利益率(ROIC)(%) (既存事業計) |
- |
- |
- |
3.4 |
4.8 |
ネットD/Eレシオ(倍) |
1.0 |
1.0 |
0.9 |
0.9 |
0.7 |
自己資本比率(%) |
29.6 |
29.1 |
30.7 |
33.2 |
35.9 |
(注)1.各指標は、以下の計算式によって計算しています。
自己資本利益率(ROE):在庫影響除き親会社株主に帰属する当期純利益/自己資本(期首期末平均)
※2024年3月期より算定方法を変更しています。その結果、2021年3月期、2022年3月期及び2023年3月期の指標も変更しています。
投下資本利益率(ROIC):(在庫影響除き税後営業利益+持分法投資損益)/(株主資本+有利子負債)
※2024年3月期より算定方法を変更しています。その結果、2023年3月期の指標も変更しています。
実態投下資本利益率(ROIC):計算式は投下資本利益率(ROIC)と同様。ただし、大きな外部環境影響を除いて比較するため、燃料油セグメントのタイムラグ影響、資源セグメントの石炭価格(実績を2026年3月期計画前提である120USD/tへ)等を補正
ネットD/Eレシオ:(有利子負債-現預金及び短期運用有価証券)/(純資産-非支配株主持分)
自己資本比率:(純資産-非支配株主持分)/総資産
2.有利子負債は、短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及び長期借入金として連結貸借対照表に計上されている金額及びリース債務の金額を使用しています。
3.2020年3月期の自己資本利益率(ROE)については、親会社株主に帰属する当期純損失を計上しているため記載していません。
4.2020年3月期の投下資本利益率(ROIC)、2020年3月期と2021年3月期及び2022年3月期の実態投下資本利益率(ROIC)については、主要な経営指標に含んでいなかったため記載していません。
当社は、以下のとおり、特定の事業のブランディングに関する商標等のライセンス契約を締結しています。
契約会社名 |
相手方の名称 |
国名 |
契約の種類 |
契約内容 |
効力発生日 |
出光興産 株式会社 |
シェル・ブランズ・インターナショナル・アー・ゲー |
スイス |
商標等 使用契約 |
特定の事業のブランディングに関する商標等のライセンス契約 |
2016年12月19日 |
当社グループは、燃料油、高機能材、資源、更には新規事業創出のための研究開発に取り組んでいます。現在、図に示した研究開発体制の下、互いに密接に連携して研究開発活動を行っています。
なお、研究開発費については、各セグメントに配賦できない全社共通研究費等150億円が含まれており、当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費の総額は前年同期比52億円増加の
(当社グループの研究開発体制)
当連結会計年度における各セグメントの研究開発内容、研究開発経費及び研究開発成果は次のとおりです。
(1)燃料油セグメント
燃料油セグメントでは、環境に配慮した石油製品の開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は
使用済みプラスチックからの軽質オレフィン化の技術開発、バイオエタノールからのジェット燃料製造の技術開発をはじめ、製油所・事業所の省エネルギー化などの環境調和型社会への貢献のための技術開発を推進しています。
(2)高機能材セグメント
高機能材セグメントでは、環境に配慮した潤滑油製品の開発、機能舗装材(アスファルト)の開発、機能材料及び樹脂加工製品の競争力強化に向けた保有技術の改良や新規材料の開発、電子材料事業、農薬・機能性飼料事業における研究開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は
①潤滑油事業では、カーボンニュートラルの実現に向け、3つの海外研究開発拠点と連携し、地域特性に応じた様々な環境対応型高機能・省エネルギー型商品の開発と環境・人・安全に配慮した技術の開発をグローバルで展開しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・電動車両用トランスアクスルフルード(商品名:IDEMITSU E AXLE FLUID シリーズ)やバッテリー冷却剤、及び、電動車両用トランスアクスルと電子機器及びバッテリーシステムに使用可能な兼用オイル(E AXLE and Electric Parts Cooling Oil)の開発を進めています。
・サステナブル潤滑剤を活用した製品開発を進めると共に、石油由来の潤滑剤使用量の削減のために水溶性潤滑剤の適用範囲拡大に取組み、精密工学会技術賞を受賞した高機能水溶性切削油の開発 (商品名:ダフニーアルファクールEX-NV、WX-NV)や、水溶性焼き入れ液のラインアップ拡充(浸漬焼き入れ液、高周波焼き入れ液の開発)を行いました。また、省力化に寄与する潤滑油簡易診断技術(スマホセンサー)の開発を行いました。
・当社独自技術であるナノウレアグリースの低トルク、低ノイズ、低温始動性という優れた特長をいかし、自動車をはじめとした幅広い分野において環境配慮とユーザー価値の向上を両立する製品の開発を進めています。
・基礎研究にも力を入れており、マテリアルズインフォマティクス(MI)やシミュレーション技術などを駆使した革新的潤滑油基材の創製に取り組んでいます。
②機能舗装材(アスファルト)事業では、省資源・省エネルギーや環境に配慮した舗装材料、例えば耐水性を強化し長寿命化を可能にした舗装材などを独自開発しています。また、アスファルトの特性を活かした屋根用防水材や、建物の地盤沈下による損傷を防ぐための基礎杭に塗布するアスファルトなど、工業用製品も開発し日本国内で製造販売しています。特に舗装材の製品開発においては、当社の長年の舗装材開発の実績から、行政機関や施設管理者と、十分連携しながら進めています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・水に起因する道路の損傷を大幅に抑制する舗装の耐水性強化技術について、高荷重のかかる空港滑走路において試験施工を行いました。
・Scope3排出量削減の可能性を視野に入れ、工場から排出されたCO2から合成した炭酸カルシウムを使用した「CO2固定化舗装材」の試験施工を通した実用化検討を行いました。
③機能材料分野では、エンジニアリングプラスチックであるポリカーボネート樹脂やシンジオタクチックポリスチレン樹脂の高付加価値商品の開発及び新機能を有した各種機能材料製品や粘接着基材の開発に取り組んでいます。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・シンジオタクチックポリスチレン樹脂(商品名:ザレック™)では、マレーシアでの第2装置稼働と共に新規用途開発を更に加速しています。コネクター部材を代表に自動車電装部品への展開を継続、ヒートショック耐性改良グレードやCAE技術の提案等により顧客との関係強化を図り、新規採用に向けた開発を着実に推進しました。また、家電・日用品分野の拡販活動を継続すると共に、新規用途分野である押出・フィルム・繊維分野での実績化を顧客と共に推進し、採用を獲得、販売を開始しました。
・ポリカーボネート樹脂(商品名:タフロン™)では、透明性や流動性に優れた光学グレードの開発、耐久性や耐薬品性、難燃性に優れる各種用途に適した共重合グレードの開発を行っています。光学グレードは液晶ディスプレイ部品や自動車を含む各種照明部品市場で好評を得ており、特に自動車照明用材料では高透明性及び高導光性が要求されるDRL(Daytime Running Light)部品向けの販売がここ数年高い伸び率で拡大を続けています。
・ポリオレフィン系の樹脂コンパウンド(商品名:カルプ™)では、植物由来材料やリサイクル材等の原料化の検討、主力商品である難燃グレードにおける市場ニーズに対応した改良グレードの市場投入及び環境安全性を高める非ハロゲン化グレードの開発を推進しました。
また、ポリフェニレンサルファイド系の樹脂コンパウンドにおいては、機械・自動車用途向けに開発した水中・油中において良摺動性を示すグレードや電装部品向けに開発した絶縁熱伝導グレードの顧客採用活動を進めました。さらに、高機能性付与に向けてポリフェニレンサルファイド以外の高耐熱エンジニアリングプラスチック樹脂のコンパウンド開発にも着手しました。
④シート・フィルム分野では、包装材料のグレード開発を行っています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・環境問題への対応としては、リサイクル適性の高い素材への転換を支援するPOシート(商品名:マルチレイ™)や無機物を多く含有しプラスチックの使用量を減らしたフィルム(商品名:ユニクレスト™)の実績化、食品包材としての石油由来の製品使用量削減に寄与するための軽量化ジッパーテープ(商品名:プラロック™)の開発を実施。また、ユーザーに対する利便性を向上させた電子レンジ加熱で発生する蒸気を逃がす機能をもつ透明性が高い食品容器(商品名:マルチレイ™)の開発等により、商品ラインアップの拡充を行いました。
⑤電子材料事業では、有機EL材料の研究開発を行っています。有機EL材料においては、顧客との連携強化、大学との共同研究などを通じて商材の更なる高性能化から次世代技術の開発まで、幅広い開発活動を推進しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・2023年3月に設立した出光アドバンストマテリアルズコリアにおいて、韓国における有機EL材料の研究開発活動のスタートアップを進めてきました。2024年1月より計画通りに研究開発活動を開始し、韓国顧客とのさらなる接合強化に取り組んでいます。
・顧客への提案活動を通じて、出光独自技術である積層発光方式の浸透が進みました。
⑥農薬・機能性飼料事業では、「食の安全・安心」「増大する食料需要への対応」をキーワードに、合成・微生物培養・生物学的評価・製剤・分析技術といった研究開発力を駆使することで、世界の「食」に貢献する商品のラインアップを拡充しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・国内農薬登録を芝生用除草剤で1件新規取得し、国内の適用拡大登録を殺菌剤5件、殺虫剤1件、殺菌・殺虫剤2件、生物農薬殺虫剤1件、生物農薬殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件取得しました。
(3)資源セグメント
石炭事業では、顧客ニーズに応える技術サービスと石炭のクリーン利用技術の開発に取り組んでおり、近年では、バイオマス混焼によるCO2排出量の削減や、排ガス中のCO2を炭酸塩として固定化させる技術開発を積極的に推進しています。当セグメントに係る研究開発費は
・石炭火力のCO2排出削減に繋がる木質バイオマス(ブラックペレット)の製造・販売の事業化に向け、ブラックペレットを自社コールセンターでの受入・貯蔵し、共に取組む需要家の石炭ボイラでの混焼試験を実施することにより、ブラックペレットを安全かつ円滑に取り扱うための技術及び実用的な混焼評価技術の開発を推進しています。混焼試験結果を踏まえ、ブラックペレットの品質向上や需要家へのコンサルティングを行っています。
・CO2を資源として活用するとともにCO2の排出削減を行うため、廃コンクリート中のカルシウムと発電所や工場から排出されるCO2を作用させ炭酸塩(炭酸カルシウム)を製造するプロセスの研究開発を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を得て進めています。
・石炭鉱山での植栽を活用した新規事業創出を目的に、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同でバイオマス燃料や炭素材料の研究開発を実施しました。
(4)全社共通(コーポレート研究)
中期経営計画(2023~2025年度)に掲げた事業ポートフォリオ転換に向け、社会や技術のトレンドを踏まえた新規事業創出のための研究開発を実施しています。
①次世代技術研究所では、カーボンニュートラル社会、循環型社会の実現に向けたバイオマスやCO2等を出発原料とするクリーンな素材・燃料を提供する技術の開発を実施しています。また高機能材事業の成長に向けて、保有している有機・無機合成、生物変換技術、光・電気化学の要素技術を活かしたモビリティ向け軽量/強靭化素材や環境配慮型農畜産資材、酸化物半導体材料、宇宙用太陽電池等の開発に取り組んでいます。加えて、事業部研究所と一体となって高度な分析・解析技術、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)やAIを駆使した大幅な省力化や研究開発のスピードアップに取り組んでいます。これらを進めるにあたっては、東京工業大学との「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」、及び新たに2023年10月に神戸大学に設立した「出光バイオものづくり共同研究部門」に代表されるアカデミアとの共同研究や、国家プロジェクト等への参画、海外グループ会社の拠点を活用したオープンイノベーションによりグローバルな視点で第一線の英知を集め研究開発の早期成果創出に取り組んでいます。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・NEDO「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」の課題の一つである「常温、常圧下アンモニア製造技術の開発」において、性能向上・コスト競争力向上にむけ、触媒開発及び電解反応系の改良を進めました。
②リチウム電池材料部では、次世代電池として早期の実用化が望まれる全固体電池のキーマテリアルである固体電解質を中心に、次世代電池用材料及びその量産化の研究開発を行っています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・固体電解質の量産に向け、6月に小型実証設備第1プラントの能力増強を決定しました(2024年度完工予定)。また、同時期に第2プラントの新規稼働も開始しました。
・10月にはトヨタ自動車株式会社との協業を発表しました。2027-2028年の全固体電池実用化をより確実なものとするために、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組みます。両社の技術を融合することで、世の中に広く使って頂ける固体電解質と全固体電池の量産実現を目指します。
・今後の事業領域拡大を見据え、硫黄系正極の開発、及び全固体電池のリサイクルについて技術探索を進めています。