第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 東レ理念

東レグループは、1926年の創業以来、「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」との経営思想の下、社会から尊敬される企業体として存在することを目指してきました。

1955年にはこの考え方を初めて明文化した「社是」を制定し、創立60周年を迎えた1986年には現在の「企業理念」を最上位とする経営理念体系を整備しました。この経営理念は一部改定しながら受け継がれており、2020年5月に「東レ理念」として創業以来の考え方を改めて体系化しております。

「東レ理念」は、従来の経営理念である「企業理念」「経営基本方針」「企業行動指針」に加え、企業理念を具現化するための企業姿勢を端的に示した「コーポレートスローガン」、東レグループが将来に向けて進む方向性を示した「ビジョン」、これらの考え方の基礎となる創業以来受け継いできた価値観・経営観などの「企業文化」、「経営者の信条」から構成されております。


 

当社は企業理念の具現化において、社会の中で、お客様、社員、株主など数多くのステークホルダーによって支えられていることを認識し、それぞれに対して責任を果たし、広く社会に貢献していきます。

 

(企業理念)

わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します

(経営基本方針)

お客様のために

新しい価値と高い品質の製品とサービスを

 

社員のために

働きがいと公正な機会を

 

株主のために

誠実で信頼に応える経営を

 

社会のために

社会の一員として責任を果たし相互信頼と連携を

 

 

(2) 東レグループ サステナビリティ・ビジョン(ビジョン)

人口増加、高齢化、気候変動、水不足、資源の枯渇など世界が直面する「発展」と「持続可能性」の両立をめぐる地球規模の課題に対し、革新技術・先端材料の提供によって、本質的なソリューションを提供していくことが東レグループの使命と考えます。「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」は、「2050年に向け東レグループが目指す世界」、その実現に向けた「東レグループが取り組む4つの課題」及び「2030年度に向けた数値目標(KPI)」を定めております。「2030年度に向けた数値目標(KPI)」については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティに関する考え方及び取り組みの状況 ④ 指標及び目標」に記載しております。

 

 

 (2050年に向け東レグループが目指す世界)

 

(3) 長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”

東レグループの長期戦略は、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示す「2050年に向け東レグループが目指す世界」の実現に向けて、そのマイルストーンとしての「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指します。今後の事業環境は、人口分布・環境問題・技術イノベーションなどで大きな変化が想定され、産業構造や社会システムの変化により事業機会が創出される一方で、これまで存在した事業が縮小するリスクもあります。私たちは産業の潮流の変化を的確に捉えて、「ビジネスモデルの変革」を進めながら「持続的かつ健全な成長」を実現することを目標としております。

 

(4) 中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”

2023年度から2025年度までの3年間を対象期間とする中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”は、「東レ理念」を起点として、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示す「『発展』と『持続可能性』の両立をめぐる地球規模の課題の解決への貢献」を通じた「持続的かつ健全な成長」の実現を目指し、その成長戦略を可能にするための価値創造、それを支える人材基盤の強化に注力して、投下資本効率、財務体質、人材の面から成長投資を可能にする経営基盤強化を進めます。

“プロジェクト AP-G 2025”では、「持続的な成長の実現」「価値創出力強化」「競争力強化」「『人を基本とする経営』の深化」「リスクマネジメントとグループガバナンスの強化」を基本戦略として掲げ、成長領域であるサステナビリティイノベーション(SI)事業(注)とデジタルイノベーション(DI)事業の拡大、事業の高度化・高付加価値化及び品質力・コスト競争力強化に取り組みます。同時に、財務健全性を確保するために、利益、キャッシュ・フロー、資産効率性のバランスに配慮した事業運営を行います。また、新たな成長軌道を描くために、高成長・高収益事業の拡大、低成長・低収益事業の構造改革を推進します。“プロジェクト AP-G 2025”の財務目標については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (4) 経営上の目標の達成状況」に記載しております。

 

(注) サステナビリティイノベーション(SI)事業

「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に貢献する事業・製品群。

 

 

(“プロジェクト AP-G 2025”の基本戦略と具体的取り組み)


 

 (“プロジェクト AP-G 2025”での各セグメント戦略と取り組み)

① 繊維事業

3大合成繊維(ナイロン、ポリエステル、アクリル)を有し、テキスタイル、縫製品までのサプライチェーン一貫型事業をグローバルに展開しております。また衣料用途のみならず、工業、土木、農業、ライフサイエンスといったあらゆる用途で進化しており、近年はサステナビリティへの要請の高まりを受けて、バイオマス由来素材やリサイクル素材の開発・展開を強化しております。

当社グループは、(a) 技術開発力と多彩な素材群、(b) サプライチェーンへの対応力、(c) グローバルな事業展開、からお客様にソリューションを提供できることが特徴であり、“プロジェクト AP-G 2025”では「環境配慮型素材を活用した高感性・高機能商品による成長領域での事業拡大」「価値創出力強化による収益力向上」「競争力強化」を成長戦略として推進します。具体的にはリサイクルサプライチェーンの再構築、自動車向け人工皮革、エアバッグ事業の拡大、革新複合紡糸技術NANODESIGN®を活用した高付加価値製品の開発、及び衣料用途におけるファイバー・テキスタイル・縫製品の一貫供給体制の強化に取り組み、お客様と付加価値の創出に取り組みます。

 

② 機能化成品事業
 (樹脂・ケミカル事業)

自動車の動力源が本格的に電動化し、自動化・IoT化が進むほか、サステナブル社会の本格化から、産業構造変化に応じた製品を先行的に投入することが重要となります。

樹脂事業は、多くの自動車用部品や民生用途に採用されておりますが、材料供給に留まらず、設計・加工法まで含めたトータルソリューションを提供することでお客様とともに社会問題を解決するパートナーとしてバリューチェーンを築いており、成長領域であるxEV向けの開発を進めて事業拡大を図ります。また、サステナブル社会への対応として環境対応(リサイクル)材料の事業規模を拡大するとともに、ケミカルリサイクルの技術開発を推進してリサイクルの高度化なども進めていきます。

ケミカル事業は、世界トップシェアであるファインケミカル事業において、食料の安定供給に貢献する農薬原料や半導体製造に貢献する溶剤を拡大するほか、3Dプリンターの造形素材に最適なPPS微粒子の自動車部品等への適用を進めます。

 

 (フィルム事業)

自動車のxEV台数の拡大や自動化、コネクト化の進化により、車載用需要が拡大するほか、5G、IoTなど情報・インターフェースの進化により、回路材料での高精細化が進むと想定しております。また、世界的に環境規制の強化が進み、廃プラ削減・リサイクルへの要請が強まることから、マテリアルリサイクルの本格運用、ケミカルリサイクルへの参画のほか、モノマテリアル化への設計変更、生分解性フィルムの開発などに取り組みます。

具体的には、世界トップシェアのポリエステルフィルムで、MLCC (積層セラミックコンデンサ)離型用途において薄膜化・高電圧化への特性に対応するほか、半導体関連用途での高精細化の追求によってお客様の製品価値を向上し、サプライチェーンにおける付加価値を創出します。また、サステナビリティ対応の強化として離型用途フィルムの回収システムを構築していきます。

 (電子情報材料事業)

半導体市場では、xEVや再生可能エネルギーの普及でパワー半導体の需要が増加しております。ディスプレイ市場においては、低消費電力の志向から有機EL比率は今後も堅調に上昇していくと想定しております。

高度なコア技術をベースに、お客様との強い信頼関係のもとで将来ニーズを先取りし、早期採用を実現するほか、強固な参入障壁を構築して業界標準化を実現し、有機EL関連材料や、半導体・実装・電子部品用高機能材料における市場拡大を着実に取り込み、事業の成長につなげていきます。

 

③ 炭素繊維複合材料事業

航空機用途において、ボーイング787の生産機数の回復が想定されるほか、新エネルギーの拡大、環境対応ニーズによる風力発電翼や燃料電池車用途(水素タンクや電極基材)、UAM (Urban Air Mobility)といった新しい事業機会が期待できます。

当社グループは50年におよぶ研究開発、データ蓄積に加えて、世界最高性能を有するレギュラートウ、最強のコスト競争力を有するラージトウをグローバルに提案・供給できる事業体制を擁し、世界の有力企業との信頼関係を築いております。“プロジェクト AP-G 2025”においては、圧力容器等産業用途向けの生産設備を増強し、回復する航空機用途の取り込みだけではなく、成長する産業用途の事業拡大を図り、航空用途に依存しない事業基盤を構築します。

 

④ 環境・エンジニアリング事業

水処理事業では、人口の急速な増加などにより、自然の浄化作用だけでは「水量」と「水質」の確保が世界的に困難なことから、高品質・高速処理・省エネプロセスの膜処理技術が21世紀の必須技術となっております。当社グループが有する水処理分離膜のうち、海水淡水化・飲料水製造に用いられるRO膜(逆浸透膜)、及び下廃水再利用などに用いられるUF膜(限外ろ過)において高い市場成長を想定しております。

“プロジェクト AP-G 2025”においては、RO膜のグローバル供給体制の強化を推進するとともに、提案力や技術サービスなどの非価格競争力とコスト体質の徹底強化を継続し、グローバルシェアNo.1の獲得を目指します。また、渇水で苦しむ国・地域においては下廃水再利用の動きが加速していることから、RO膜とUF膜とを組み合わせた事業拡大を推進します。

エンジニアリング事業では、ライフサイエンス分野や半導体分野の成長を想定し、プラント事業・エレクトロニクス機器事業において拡大を図ります。

 

⑤ ライフサイエンス事業

医薬事業において、膵がん診断薬の事業化のほか、既存製品の海外展開や適応拡大を目指します。医療機器事業においては、透析事業において、AIを用いた治療法の最適化等によりQOL向上を目指すほか、HotBalloon™の改良品開発を推進して、患者数が増加している心房細動の根治可能な治療法として拡大を図ります。

 

 

(5) 事業環境変化への対応

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、人々の行動が変容したほか、地政学リスクの増大やデジタル技術の進化など、事業環境が大きく変化しました。しかし、地球環境問題や、エネルギー問題、健康長寿、新興国の人口増加など、世界が直面している大きな課題に変わりはなく、それら課題に、素材メーカーとして取り組んでいくという当社の姿勢も基本的には変わりません。“TORAY VISION 2030”で目指す「持続的かつ健全な成長」の実現に向けた事業方針の下、サステナビリティイノベーション(SI)事業及びデジタルイノベーション(DI)事業を推進します。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) サステナビリティに関する考え方及び取り組みの状況

1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、当社グループは「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において、2050年に「温室効果ガスの排出と吸収のバランスが達成された世界」などの東レグループが目指す4つの世界の実現に向けて、革新技術・先端材料を提供し、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決へ貢献することを目指しております。

 

① ガバナンス

当社グループは、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けた活動に取り組むため、サステナビリティイノベーション(SI)事業拡大プロジェクトと気候変動対策プロジェクトにおいて、気候変動対策や資源循環問題等に対する中長期的なロードマップや実行計画を策定、推進し、2030年の数値目標達成に向けた進捗管理を行っております。取締役会を補佐し、全社重要事項の協議機関である経営会議においては、同プロジェクトの内容及びサステナビリティに関する重要な方針、議題を協議しております。また、CSR、リスクマネジメント、安全・衛生・環境、研究・技術開発を担う各機能と連携して、東レグループ全体のサステナビリティに関する課題に取り組んでおります。

取締役会は、各機能での議論について年1回以上報告を受け、監督と意思決定を行っております。また、事業戦略の策定・経営判断に際して、サステナビリティに関する問題を重要な要素の1つとして考慮し、総合的に審議・決定しております。

 

 

 (気候変動問題に関するガバナンス体制)

 

② リスク管理

東レグループは、2018年7月に「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」を策定した際、パリ協定を前提として、将来のリスクと事業機会を分析・整理しました。2019年5月にTCFDに賛同したことを契機に、気候変動という予測困難で不確実な事象に関する機会・リスクを特定し、それらの機会やリスクが東レグループにどのような影響を及ぼし得るのかを確認するために、2020年にTCFD提言に沿う形でシナリオ分析を行いました。2023年には、気候変動による機会・リスクの財務的影響を把握するため、2020年の定性的分析結果も参考にしながら、定量的なシナリオ分析を実施しました。その上で、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けた長期戦略(長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”)の強靭性を確認しました。

また、東レグループでは、リスクマネジメント推進のための審議・協議・情報共有機関としてリスクマネジメント委員会を設置しております。当該委員会での定期的なリスク特定・評価において、気候変動に関連するリスクは相対的に重要度の高いリスクと評価しております(詳細は「3 事業等のリスク」に記載)。気候変動に関連するリスクは、その重要度を踏まえ、気候変動対策プロジェクトにおいて詳細なリスクの分析・評価・管理を行っております。気候変動に関する機会とリスクのシナリオ分析の結果、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」は気候変動がもたらす社会の変化に対応したものであり、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示すGHG排出実質ゼロの世界などの実現に向けて、「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指します。

 

 

 (各気候シナリオで想定した2040年近傍の世界像)

 

③ 戦略

「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」では、「2050年に向け東レグループが目指す世界」、その実現に向けた「東レグループが取り組む4つの課題」及び「2030年度に向けた数値目標(KPI)」を定め、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」実現に向けた中長期の戦略として、長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”及び中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”を推進します。

カーボンニュートラルの実現に向けては、再生可能エネルギー、電動化、水素・燃料電池関連の素材等、ビジョンの実現に貢献するSI事業の拡大のほか、水の電気分解によるグリーン水素の製造及び産業・運輸用途での活用、二酸化炭素(CO2)利活用に貢献する製品の開発を進め、社会全体のGHG排出量の削減に貢献します。また、SI事業の拡大を通じて還元される持続可能なエネルギー・原料と、革新プロセス及びCO2を利活用する技術の開発・導入により、東レグループのGHG排出量削減を進めます。

循環型社会の実現に向けては、プラスチック製品のリサイクル・バイオ化等のカーボンリサイクル技術のほか、製造工程で発生した水の再利用等、様々な技術を創出することで、循環型社会の実現を目指します。

新規事業創出・拡大を目指す「FTプロジェクト(Future TORAY-2020sプロジェクト)」においては、次の成長ステージを担う大型テーマにリソースを重点的に投入しており、水素・燃料電池関連材料、バイオマス活用製品・プロセス技術、環境対応印刷ソリューションなどのテーマのほか、CO2やバイオガス、水素などを分離するためのガス分離膜の構造を支える支持層に利用可能な多孔質炭素繊維の用途開発などを進めていきます。

 

 

④ 指標及び目標

指標については、以下のとおり、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において2030年度目標を、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”において2025年度目標を定めております。また、2023年3月に2030年度目標を引き上げ、サステナビリティ対応を加速しております。

 

 (「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の目標)

 

(2) 人的資本への取り組み

① 基本的な考え方:当社中期経営課題の基本戦略「『人を基本とする経営』の深化」について

東レグループでは、創業以来、人材育成を重視する姿勢を明確にし、「企業の盛衰は人が制し、人こそが企業の未来を拓く」との考え方の下、2011年に「東レグローバルHRマネジメント基本方針」を定め、「人材の確保と育成」を最重要の経営課題として取り組んできました。

2020年5月“TORAY VISION 2030”の発表に併せて体系化された当社経営思想「東レ理念」において、「人を基本とする経営」が企業理念の土台となる企業文化として改めて位置付けられました。そして、このビジョン実現に向けた中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”においては、基本戦略のひとつとして、「『人を基本とする経営』の深化」を掲げ、東レグループ人材基盤の強化に取り組んでおります。

「人を基本とする経営」では、「新しい価値を生み出す、プロフェッショナル人材の育成」と「この“プロ人材”が、東レグループというフィールドで成長し、活き活きと働くことができる環境づくり」に取り組んでおります。東レが創業初期から培ってきた人材育成を経営の根幹におく基本戦略であり、企業価値の最大化とその先にある社会貢献の実現を目指しております。

「『人を基本とする経営』の深化」は、不確実性の高まった経営環境、価値観の多様化やキャリア自律意識の高まりなどの人的側面の変化に対応し、「人を基本とする経営」をアップデートするものです。「多様な人材・価値観の包摂」「変化に適合する人材・組織づくり」「東レ理念への共感・働きがいのあるキャリア形成(エンゲージメント)」にフォーカスし、「企業価値の最大化」と「従業員の幸福度を高める」ための人材戦略を策定し、取り組みを進めております。

 


 

② 人材育成方針

「東レグローバルHRマネジメント基本方針」に沿って、「人材の確保と育成」を最重要の経営課題として取り組んでおり、以下を目的に人材育成を進めております。

・「公正で高い倫理観と責任感をもって行動できる社会人」の育成

・「高度な専門知識・技術、独創性をもって課題解決できるプロ人材」の育成

・「先見性、リーダーシップ、バランス感覚をもって行動できるリーダー」の育成

・「グローバルに活躍できる社会人、プロ人材、リーダー」の育成

人材の確保に関しては、性別や国籍、新卒/キャリア採用を問わず、高い「志」をもってグローバルに活躍できる優秀な人材の確保に取り組んでおります。

人材の育成に関しては、従業員の健康に配慮した職場環境及び誇りとやりがいのある職場風土を実現するとともに、あらゆる階層・分野の社員に対して、マネジメント力強化、営業力・生産技術力や専門能力向上、グローバル化対応力強化などを目的とした様々な研修を計画的に実施し、次世代の経営を担い得る経営後継者育成と、第一線の「強い現場力」を担う基幹人材層拡大・育成強化を図っております。

 

③ 主要な人材戦略とKPI
(a) 多様な人材・価値観の包摂

当社は、社員一人ひとりの成長を支援するツールとして「キャリアシート」を導入し、社員自身がキャリアプランを自ら構想して、これまでの業務経験や求められるスキルに対する現在の到達レベルを上司との面談を通じて確認し、キャリア形成を図る取り組みを行っております。

更に、ジョブ・ローテーションのシステムとして自己申告制度を取り入れており、社員はキャリアアップに向けた異動を毎年申告することができます。個を重視した自律的なキャリア形成を支援する人材育成策を通じて、多様な人材・価値観を包摂し、モチベーション、創造性、生産性の高い組織づくりを進めております。

女性社員の活躍推進に関しては、女性社員が直面し得る課題、特にライフイベントのキャリア形成への影響をミニマイズする制度を設計するとともに、社内イントラネットを通じて、様々な事情を抱える社員がキャリア形成・人生設計を両立させながら、男女問わず活き活きと仕事に集中できるよう、参考となる情報共有の場を提供しております。

 

 

(b) 変化に適合する人材・組織づくり

(ⅰ)経営人材育成(人材中期計画)

当社では、経営戦略、各事業戦略上必要な人材を「基幹ポスト後継候補者」として、個別の育成・登用を計画的に行っております。後継候補者は、基幹ポストへの登用タイミング(短期~中長期・次世代)ごとに策定し、特に重要なポストについては、毎年トップマネジメントが構想を確認しております。当該候補者には、選抜研修である「経営幹部育成研修」(部長層対象)、「東レ経営スクール(TKS)」(課長層対象)を受講させ、研修終了後には東レグループ重要ポストに起用(タフアサインメント)する人事を行います。研修で得た「経営に必要な知識・スキル」や「経営者の心構えと覚悟」を東レグループ重要ポストにおいて実践する、という研修と人事を連動させた取り組みを継続的に実施し、経営人材を計画的に育成しております。

なお、経営人材育成に関するKPIとして次の2つを設定します。

・人材育成状況を示す「基幹ポスト後継候補者充足率」が常に150%以上

・後継候補人材を着実に育成するため、選抜研修(注)を毎年50人以上に実施

(注) 経営幹部育成研修、TKS、東レグループ経営スクール(TGKS)

 

(ⅱ)海外ナショナルスタッフ(NS)基幹人材の計画的育成・登用

重要性が増す海外事業を支え、牽引する海外NS優秀基幹人材の育成・登用を進めるため、2017年度より海外関係会社において、各社部門長、工場長以上を対象に海外NS人材中期計画の策定と優秀人材の選抜・認定を実施し、計画的な優秀人材の確保・育成・登用を図っております。

海外人材育成では、海外各社での研修の上位概念として、東レグループの経営理念や方針の理解を深め、経営幹部人材の育成を計画的に図るため、階層別(役員層、部長層、課長層)に東レ本社において海外NS基幹人材研修プログラムを実施しております。また各国・地域においても、各国・地域の事情やニーズに応じたマネジメント研修を計画的・階層別に実施しております。

この取り組みのKPIは、NSが日本や各国・地域で研修に参加した人数とします。

 

(ⅲ)東レグループの将来を担う多様な人材の安定的な確保

多様化する社会課題の解決や顧客ニーズに対応するには、性別・年齢・国籍などの属性に囚われず、多様なバックグラウンドを持つ人材を事業計画に沿って確保していく必要があります。特に女性に関しては、1958年の女性管理職登用、法制化される約20年前となる1974年の育児休業導入、2003年の関係会社における社長への登用、2004年の「女性活躍推進プロジェクト」発足など、早くから女性の確保と積極的活用を進めてきました。2021年3月には、上述した個人ごとの能力開発とキャリア形成強化の取り組みを推進することにより、女性社員の定着率及び管理職比率の向上を目指すことを目的とした5年間(2021年4月~2026年3月)の行動計画を策定・公表しました。

新卒採用におけるGコース(当社基幹人材)女性の割合を、2030年度までに30%にすることを目標にしました。

 

(c) 東レ理念への共感、働きがいあるキャリア形成(エンゲージメント)

(ⅰ)従業員サーベイによる実態把握と改善

当社では、2013年度より隔年で従業員サーベイを実施してきましたが、2023年度より、サーベイ実施内容の見直し(満足度だけではなく、期待と実感の両面を測定)、実施頻度見直し(隔年から年1回の実施に変更)、フィードバックの早期化(調査翌日から結果閲覧可能)を行い、各組織・個人の状況をきめ細かく確認し、速やかに改善活動が実施できるよう仕組みを見直しました。

なお、本進捗に関するKPIをEXスコア®(注)とし、2023年度調査では64.8点でしたが、毎年前年度を上回るスコアを目指し、社内イントラネットでの情報開示、各職場での話し込み、改善好事例の全社展開等、様々な施策を実施しております。

(注) EXスコア®とは組織状態を示す指標です。各個人の期待値と実感値、そのギャップを測定します。期待・実感ともに高く、ギャップが小さい場合にスコアは最大化されます。調査委託先である㈱HRBrainの登録商標です。

 

 

(ⅱ)社内人材公募の常設化

これまで年1回、定期的に社内人材公募を実施してきましたが、より適時適切な人材戦力の投入、要員配置ニーズの増大、従業員個人のキャリア形成志向の短サイクル化、制度運用の効率化・平準化を図るため、年1回の定期的な社内公募を見直し、2024年度から常設型の社内公募制度を導入しました。

 

人的資本への取り組みに関する指標及び目標は、以下のとおりです。

なお、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属するすべての会社では行われてはいないため、連結グループにおける記載が困難です。このため、下記の一部の指標に関する目標及び実績は、当社を対象に記載しております。

指標

目標

2023年度実績

基幹ポスト後継候補者充足率
(当社)

常時150以上

185

経営人材育成研修
(当社グループ)

毎年50以上を対象に実施

52

(2022年度 53人)

海外NS経営人材育成研修
(当社グループ)

毎年100以上を対象に実施

276人(注)1

 (2022年度 114人)

女性管理職比率
(当社)

2025年度 6.5

6.4

(2022年度 6.1%)

新卒Gコース採用における
女性比率(当社)

2030年度 30

17

(2022年度 14%)

EXスコア®
(当社)

前年度より改善することを

目標に70以上を目指す

64.8

労働災害度数率
(当社グループ)

世界最高水準の安全管理レベル(休業度数率0.05以下)

0.40(注)2

(2022年度 0.37)

 

(注) 1.2023年度はコロナ期間中に実施できなかった海外各社の対象者が一斉に受講したため、大幅に増加しております。

2.2023年1月から2023年12月までの実績を示しております。

 

3 【事業等のリスク】

大規模自然災害の増加、軍事侵攻や経済安全保障といった地政学リスクの高まりなど、事業運営にあたっての不確実性は増しております。当社グループは、以下(1)項に記載のとおり急激に顕在化するリスクや危機発生時に迅速に対応するための体制を構築し、専任組織によって平時のリスクマネジメントと有事(危機発生時)の即応を統括管理しておりますが、リスクが顕在化した場合には、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等での記載事項に関して、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下(3)(4)項に記載のとおりです。これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、事業等のリスクはこれらに限定されるものではありません。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

 

(1) 当社グループにおけるリスクマネジメント体制、活動

当社グループでは、周辺環境の変化により急激に顕在化するリスクへの対応や、危機発生時に迅速に対応するため、経営企画室内に専任組織を設置し、取締役会及びトップマネジメントと緊密に意思疎通を行い、経営戦略の一

環としてリスクマネジメントを推進しております。リスクマネジメント推進のための審議・協議・情報共有機関としては、経営企画室長を委員長とする「リスクマネジメント委員会」を設置しております(図1)。リスクマネジメント委員会における審議・協議内容については、取締役会に定期的に報告しているほか、重要かつ緊急の案件については、発生した都度もれなく報告しております。また、リスクマネジメント委員会の下部組織として海外危機管理委員会、現地危機管理委員会を設置し、平時の社員の海外渡航管理や海外リスク情報収集を行っております。

当社グループでは、平時のリスク管理と有事の即応を統括してリスクマネジメントと定義しております。平時のリスク管理は、後述する「東レグループ優先対応リスク(以下「優先対応リスク」という。)」及び「特定リスク」を管理するPDCAサイクルを構築し、活動しております(図2)。

 


 

 

 


 

「優先対応リスク」は、定期的に(3年に1度)網羅的に洗い出したリスクを評価し、潜在リスク度(発生確率×影響度)の高いものから設定され、各リスクの推進責任部署が重点的にリスク低減を図ります。「特定リスク」は、経営企画室内の専任部署が国内外のリスク動向を定常的に注視し、調査・分析を行い、経営に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを検出、評価し、トップマネジメントと協議の上設定します。「特定リスク」は短期で惹起したリスクへの対応が可能で、3年を1期としている「優先対応リスク」と補完関係にあります。

また、有事においては、社内規程に則り、危機のレベルに応じて即応体制を立ち上げ、対応しております。

 

 

(2) リスクの洗い出し・評価

2022年に第6期となる「優先対応リスク」の洗い出し・評価を実施しました。第6期は、当社グループ全体を対象に、2023~2025年度の中期経営課題達成を阻害するリスクの洗い出し・評価を主目的とし、以下のプロセスで実施しました。

 

① 当社グループを取り巻くリスク(「経営環境」「災害」「業務」「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」の区分で網羅的に整理した118項目のリスク(図3))を対象に、当社の機能部署や、国内外関係会社におけるリスクの切迫状況や具体的な懸念の状況を把握するためのアンケート調査を実施。

② アンケート調査で得られた情報を集約・分析の上、リスク関係部署及び経営層を対象にリスク認識・課題や対処についてディスカッションを実施。

③ アンケートの分析、ディスカッションで得られた情報を総合し、「優先対応リスク案」を取りまとめ、リスクマネジメント委員会で審議・決定。各事業本部においてもそれぞれ対処すべきリスクを設定。

 


 

 

 

(3) 優先対応リスク

第6期(2023-2025年度)優先対応リスクとして、下記2テーマを推進しております。

戦争危険を踏まえた危機対応リスク

リスク概要

海外の当社グループ所在地域において当地の治安悪化が常態化した場合、あるいは戦争・紛争が勃発した場合、以下のリスクが高まる可能性があります。

・該当地域における従業員の日常生活や身の安全の確保困難

・長期事業停止や事業撤退

・重要資産(建物・装置・技術情報等)の接収・利用不能 など

対応

グローバルに事業展開している当社グループでは、かねてより海外危機管理委員会を設置し、同委員会と海外関係会社(国・地域代表及び各社社長)との連携の下、海外で発生する危機に対する予防的取り組み・危機発生時の対応体制の構築を推進してきました。しかしながら、2022年2月のウクライナ紛争の勃発を契機に、「戦争危険」を踏まえた体制・ルール等の見直しが必要との判断に至り、本テーマを「優先対応リスク」と位置付け対策を強化することとしました。

今後は、経営企画室を本リスク対策の推進責任部署と位置付け、各国・地域の現地危機管理委員会と連携し、当社グループ所在地で想定される危機対応のシナリオを整備するとともに、リスクが高い国・地域に関しては、有事発生時の対応計画を作成・周知・訓練します。本取り組みを通じて、従業員の安全性確保並びに当地での事業継続の判断・行動を迅速化することにより、リスクの低減を図ります。

 

 

 

製品供給途絶リスク

リスク概要

原油価格動静等の市況面、資源保有国の政情等の地政学面、気候変動等の環境面や人権等の社会面の混乱に伴う、生産に必要な原材料・部材等の調達逼迫、取引先からのフォースマジュール条項の発動の顕在化により、以下のリスクが高まる可能性があります。

・原燃料の調達困難を契機とした安定した数量・品質の製品供給困難

・当社の製品供給途絶に伴う最終製品メーカーの事業継続困難

・供給契約の債務不履行に伴う賠償責任の発生 など

対応

当社は社会生活上の必需品や、企業の事業戦略上の重要製品の製造に不可欠な素材を安定的に供給する社会的責任・使命を有しているという認識の下、事業継続計画の策定などを通じ、サプライチェーンの強化を推進してきました。

一方、「リスク概要」に記載のとおり、グローバルサプライチェーンを取り巻く環境の急激な変化により、安定供給のための諸条件・前提が大きく変化していることを踏まえ、本テーマを「優先対応リスク」と位置付け対策を強化することとしました。

今後は、購買・物流部門を中心とした推進体制で、サプライチェーンにおける脆弱性の情報整理を行い、原材料における複数購買化やレシピ変更などのリスク低減策を明確化、実行することにより、製品供給の継続性を強靭化します。

 

 

(4) 主要なリスク(区分:「事業」「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」の順で掲載)

優先対応リスクのほか、当社グループにおいて影響が大きいと評価している主要なリスクは以下のとおりです。これらには、前述のリスク洗い出しから影響が大きいと評価したリスク及び各事業本部で設定した対処すべきリスクも含まれており、全社委員会や専門部署、事業本部などが中心となってリスク低減対応を推進しております。

製品の需要・市況の動向と事業計画に関わるリスク

区分

事業

リスク概要

当社グループは、多種多様な基礎素材製品を広範な産業及び地域に供給しており、世界的あるいは地域的な需給環境の変動や素材代替の進行、取引先の購買方針の変更等による当社グループの製品に対する需要減退などにより、以下のリスクが高まる可能性があります。

・景気・市場変動・国内の人口減少による特定顧客・用途の大幅な需要変動並びに価格下落

・新規企業の参入による当社の相対的な優位性低下

・物価上昇圧力による消費マインド減退

・取引先の与信リスク顕在化 など

対応

当社グループは、製品の需要や市況の変化に対応すべく、持続的に競争優位の製品確保に努めており、広範囲にわたる事業領域で設備投資を実施しております。また、事業拡大・競争力強化を目的として、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から十分な検討を行った上で、第三者との間で様々な合弁事業や戦略的提携、事業買収等を行っております。

各事業領域においても、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”の達成に向けて、事業ポートフォリオの改善(事業拡大、新規参入、多用途化)、新たな販売チャネル開発、手戻りのない効率的な差別化商品の開発、サプライチェーン見直し、在庫適正化など、様々な課題を各事業が個別に設定、推進しております。

グローバル事業展開に関わるリスク

区分

事業

リスク概要

当社グループは、アジア・欧州・米国をはじめ海外で広く事業を展開しておりますが、米中対立が長期化の様相を示しているように経済安全保障リスクは高まりを見せており、各地域において以下のようなリスクがあります。

・不利な影響を及ぼす税制や関税の変更等、予期しない諸規制の設定・運用又は改廃

・予期しない不利な経済的又は政治的要因の発生 など

対応

当社グループでは、2021年に経済安全保障に関する専任チームを経営企画室に設置し、リスク対応を進めております。法務、購買・物流、マーケティング、技術など幅広いメンバーで構成し、米中を中心とする各国の情報収集・分析・周知、当社グループの事業活動(サプライチェーン、資金、研究開発、人事管理、データ管理等)の把握を行い、リスク回避・軽減のための仕組みづくり、リスクが顕在化した場合の機動的対処を行っております。

 

 

 

為替相場の変動、金利の変動に関わるリスク

区分

事業

リスク概要

当社グループは、原材料等の調達を含む外国通貨建て取引を行っております。また、海外事業の現地通貨建て財務諸表の各項目は連結財務諸表作成のために円換算されます。事業資金においては主に金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパーや社債の発行等により調達しております。これらには以下のようなリスクがあります。

・為替相場の変動による財務諸表の各項目における円換算への影響

・資金調達及び調達コストへの影響 など

対応

当社グループはグローバルに事業拠点を保有する強みを活かしながら、地産地消を推進するとともに、グローバルオペレーションを機動的に展開することで為替変動の影響を受けにくい経営体質の構築に努めております。また本社及び各国・地域代表や各地区財経チーフ・海外関係会社の駐在員などが常に最新の情報を把握・共有化するとともに、外貨建債権・債務に関して為替予約などのリスクヘッジを実施し、急激な為替レート変動にも対応可能な体制をとっております。また、将来の急激な金利上昇に備え、金利動向を注視し、最適な資金調達を実行していきます。

気候変動、水不足、資源の枯渇等の環境課題に関わるリスク

区分

E(環境)

リスク概要

世界的な気候変動対策への懸念や企業に対する期待の向上から、当社グループにおいて、以下のリスクが高まる可能性があります。

・サステナビリティ対応の遅れによる競争力低下(環境負荷の低い素材への代替推進など)

・石油化学産業へのレピュテーションの悪化による企業ブランド価値の低下

・世界的なカーボンプライシング等の導入 など

対応

当社グループは、1990年代に地球環境委員会を設置するなど、気候変動、水不足、資源の枯渇など、様々な地球規模の課題へのソリューション提供に以前より取り組んでおります。「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けた活動に取り組むため、サステナビリティイノベーション(SI)事業拡大プロジェクトと気候変動対策プロジェクトを立ち上げて、気候変動対策や資源循環問題等に対する中長期的なロードマップや実行計画を策定、推進し、2030年の数値目標達成に向けた進捗管理を行っております。また、取締役会を補佐し、全社重要事項の協議機関である経営会議において、同プロジェクトの内容及びサステナビリティに関する重要な方針、議題を協議し、グループ横断的・機動的に気候変動関連リスクへの対策を推進しております。

自然災害・事故災害に関わるリスク

区分

E(環境)

リスク概要

気候変動により台風や洪水等といった風水害の規模が大きくなるなど、自然災害へのリスクが高まっており、当社グループにおいても以下のようなリスクがあります。

・突発的な災害や天災、感染症流行、不慮の事故等による製造設備等の損害や原材料等の供給不足

・電力・物流をはじめとする社会インフラ機能の低下 など

対応

当社グループは、「安全・防災・環境保全」をあらゆる経営課題に優先しております。安全・防災・環境保全に関する検討・審議を行うための諮問会議である生産役員会が中心となり、生産活動の中断による損害を最小限に抑えるため、製造設備の定期的な防災点検及び設備保守、また安全活動を推進しております。また大規模地震や水災などに関して、従業員・地域社会への安全対策、事業継続のガイドラインを定め、対策を推進しております。

 

 

 

人材戦略リスク

区分

S(社会)

リスク概要

働き方や就労観の多様化、労働力人口の減少、長寿・高齢化の加速など、人材戦略に関わる環境は変化しており、当社グループにおいても、以下のようなリスクがあります。

・生産継続・事業拡大を支える人材の不足

・人材採用競争激化、賃金上昇によるコスト増加

・キーマン不足による技術・ノウハウ継承の途絶 など

対応

当社グループは創業以来、「企業は人なり」の考えを基本に、社会経済情勢や経営環境の変化に対応しながら様々な施策を講じてきましたが、昨今の人材戦略に関わる環境の複雑化を背景に、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”において「『人を基本とする経営』の深化」を基本戦略の一つに掲げ、人事勤労部門や総務・コミュニケーション部門を中心に、各事業、各国・地域と連携して、人を育てる企業文化の継承と発展、個のキャリア形成の充実と働きがいの向上に努めております。

多様な人材の確保・登用、自律的なキャリア形成やスキル習得の支援による人材育成、現場の声を尊重する組織風土の醸成などを通じた働きがいと働きやすさの実現により、当社グループの人材基盤を強化します。

コンプライアンスに関わるリスク

区分

G(ガバナンス)

リスク概要

当社グループは、事業活動を行っている各国及び地域において、環境、商取引、労務、知的財産権、租税、為替、独占禁止法や不正競争防止法等の各種関係法令、投資に関する許認可や輸出入規制の適用を受けており、以下のようなリスクがあります。

・新たな環境規制や環境税の導入、法人税率の変動等これらの法令の改変、各種法令での違反判定

・競争当局による行政処分、税務当局による更正通知

・従業員によるデータ偽装などのコンプライアンス違反

・財務報告に係る内部統制の不備

・知的財産権、製造物責任、環境、労務等の法令違反に基づく訴訟 など

対応

全社委員会である倫理・コンプライアンス委員会を中心に、動機・機会・正当化の観点でのリスク抑止、不祥事を起こさせない組織風土づくり、内部通報制度やAIツール活用などを促進し、当社グループ全体の倫理・コンプライアンス活動の深化及びコンプライアンス意識の徹底を図ります。

また、当社グループは内部統制システムの整備・維持を図り、国内外関係会社の現場力強化を通じて、内部統制のさらなる充実化を図ります。

情報セキュリティ、サイバー攻撃に関わるリスク

区分

G(ガバナンス)

リスク概要

重要技術情報や営業機密を巡っては、悪意のある社内外の者により盗取される事件が巷では継続的に発生しており、情報の取り扱いを巡る問題も複雑化(GDPR、米中対立による情報保護法規制の適用、経済安全保障関連など)していることから、当社グループにおいても以下のようなリスクがあります。

・不正侵入、情報の改ざん・盗用・破壊、システムの利用妨害

・高度化を続けるサイバー攻撃による事業運営の停止

・故意・過失を問わない社外への機密情報流出 など

対応

当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用にあたってはこれまでも十分なセキュリティの確保に努めておりますが、2022年に当社グループ会社を一元的に管理する東レグループ情報セキュリティ推進委員会を設置し、各社個別最適からグループ全体最適を行う体制に変更しました。当該委員会の統括・管理の下で、「東レグループ情報セキュリティ基本方針」を定めるとともに、当社グループ全体のリスク状況と世間動向を把握し、グループ共通のセキュリティ管理基準の策定・実施状況フォロー、定期的なセキュリティ診断及びモニタリングを通じて、当社グループ全体での情報セキュリティの維持向上を図っております。

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度(2023年4月1日から2024年3月31日まで)における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりです。

なお、文中の将来における事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 経営成績の状況の概要及び分析

当連結会計年度の世界経済は、米国は堅調でしたが、欧州は低迷、中国が鈍化したこと等から回復に力強さを欠きました。国内経済については、緩やかな回復の動きが続いていますが、世界景気の先行き不透明感や半導体市場の調整長期化が下押し圧力となりました。

このような事業環境の中で、当社グループは「持続的かつ健全な成長」を掲げ、2023年度からは「持続的な成長の実現」「価値創出力強化」「競争力強化」「『人を基本とする経営』の深化」「リスクマネジメントとグループガバナンスの強化」の5つを基本戦略とした中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”を推進しています。

以上の結果、当社グループの連結業績は、売上収益は前期比1.0%減の2兆4,646億円、事業利益は同6.9%増の1,026億円となりました。また、炭素繊維複合材料事業において、風力発電翼用途の需要低迷に伴い減損損失を計上したこと等から、営業利益は同47.1%減の577億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同69.9%減の219億円となりました。

 

 

 

(単位:億円)

 

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

増減率(%)

売上収益

24,893

24,646

△1.0

事業利益(注)

960

1,026

6.9

営業利益

1,090

577

△47.1

親会社の所有者に

帰属する当期利益

728

219

△69.9

 

(注) 事業利益は、営業利益から非経常的な要因により発生した損益を除いて算出しております。

 

セグメントごとの売上収益は、前期に比べ、炭素繊維複合材料事業、環境・エンジニアリング事業で増収となった一方、繊維事業、機能化成品事業、ライフサイエンス事業で減収となりました。事業利益は、繊維事業、機能化成品事業、環境・エンジニアリング事業で増益となった一方、炭素繊維複合材料事業、ライフサイエンス事業で減益となりました。

セグメントごとの売上収益及び事業利益、並びに事業利益の増減要因は、以下のとおりです。

 

(単位:億円)

 

売上収益

前連結
会計年度

当連結
会計年度

増減

繊維事業

9,992

9,748

△244

機能化成品事業

9,094

8,861

△233

炭素繊維複合材料事業

2,817

2,905

88

環境・エンジニアリング事業

2,288

2,441

153

ライフサイエンス事業

538

522

△15

その他(注)1

164

169

5

合計

24,893

24,646

△247

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:億円)

 

事業利益

増減の内訳

 

前連結
会計年度

当連結
会計年度

増減

数量差

価格差

費用差
ほか

海外子会社の邦貨換算差

繊維事業

512

547

35

 

△30

109

△57

12

機能化成品事業

304

367

63

 

11

39

10

3

炭素繊維複合材料事業

159

132

△27

 

△29

78

△79

3

環境・エンジニアリング事業

197

232

35

 

37

18

△23

3

ライフサイエンス事業

2

△13

△15

 

△4

△2

△9

0

その他(注)1

25

33

8

 

9

△1

△0

調整額(注)2

△239

△272

△32

 

△32

合計

960

1,026

66

 

△7

241

△191

22

 

(注) 1.「その他」は分析・調査・研究等のサービス関連事業等です。

2.「調整額」はセグメント間取引消去及び全社費用です。

 

・「数量差」は、機能化成品事業や炭素繊維複合材料事業において自動車市場や航空機需要の回復を着実に捉えて稼働率が向上した一方、炭素繊維複合材料事業の風力発電翼用途が調整局面となったことや、構造改革で推進している事業高度化による品種構成変化の影響等により、合計で7億円の減益要因となりました。

・「価格差」は、原料価格軟化の効果を取り込んだことを主因に、合計で241億円の増益要因となりました。

・「費用差ほか」は、稼働率向上に伴う費用の増加等により、合計で191億円の減益要因となりました。

 

セグメントごとの経営成績の詳細は、以下のとおりです。

 

 (繊維事業)

衣料用途が欧米の市況悪化、衛材用途が需給バランス悪化の影響を受けて低調に推移しました。産業用途は自動車用途の需要回復、EV向け拡大から回復傾向が続きました。

以上の結果、繊維事業全体では、売上収益は前期比2.4%減の9,748億円、事業利益は同6.8%増の547億円となりました。

 

 (機能化成品事業)

樹脂・ケミカル事業は、樹脂事業が中国市場の需要減少等の影響により低調でしたが、国内自動車用途において改善傾向が見られました。ケミカル事業は堅調に推移しました。フィルム事業は主力のPETフィルムの電子部品関連用途は緩やかに回復していますが、一部にサプライチェーンの在庫調整の影響が残りました。

電子情報材料事業は、有機EL関連材料・回路材料の需要に回復が見られました。

以上の結果、機能化成品事業全体では、売上収益は前期比2.6%減の8,861億円、事業利益は同20.8%増の367億円となりました。

 

 (炭素繊維複合材料事業)

航空宇宙用途は順調に回復していますが、風力発電翼用途で調整局面となったほか、圧力容器を含む一般産業用途の需要が軟化しました。

以上の結果、炭素繊維複合材料事業全体では、売上収益は前期比3.1%増の2,905億円、事業利益は同17.2%減の132億円となりました。

 

 (環境・エンジニアリング事業)

水処理事業は、逆浸透膜の2大市場である米中での出荷が堅調に推移しました。また、国内の建設子会社の売上が堅調に推移したほか、エンジニアリング子会社のプラント関連事業が伸長しました。

以上の結果、環境・エンジニアリング事業全体では、売上収益は前期比6.7%増の2,441億円、事業利益は同17.7%増の232億円となりました。

 

 (ライフサイエンス事業)

医薬事業は、経口そう痒症改善薬レミッチ®(注)において、後発医薬品発売の影響と薬価改定の影響を受けたほか、経口プロスタサイクリン誘導体製剤ドルナー®が海外で在庫調整の影響を受けました。

医療機器事業は、透析機器が原燃料価格高騰の影響を受けましたが、血液透析ろ過用ダイアライザーの出荷が国内で堅調に推移しました。

以上の結果、ライフサイエンス事業全体では、売上収益は前期比2.8%減の522億円、事業利益は同15億円減の13億円の損失となりました。

 

(注) レミッチ®は、鳥居薬品㈱の登録商標です。

 

 (その他)

売上収益は前期比3.1%増の169億円、事業利益は同31.5%増の33億円となりました。

 

 (生産、受注及び販売の状況)

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。

このため生産、受注及び販売の状況については、各セグメントの業績に関連付けて示しております。

 

(2) 財政状態の状況の概要及び分析

当連結会計年度末の財政状態は、資産・負債ともに、円安による海外子会社の円換算額増加の影響がありました。

資産は、営業債権及びその他の債権や有形固定資産、その他の金融資産が増加したことを主因に、前連結会計年度末に比べ2,725億円増加し3兆4,665億円となりました。

負債は、繰延税金負債が増加したこと等により、前連結会計年度末に比べ619億円増加し1兆6,202億円となりました。

資本は、利益剰余金やその他の資本の構成要素の増加を主因に、前連結会計年度末に比べ2,106億円増加し1兆8,464億円となり、このうち親会社の所有者に帰属する持分は1兆7,360億円となりました。当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末に比べ2.0ポイント上昇し50.1%、D/Eレシオは同0.07低下し0.55となりました。

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フローの状況の概要及び分析

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動による資金の増加が投資活動による資金の減少を647億円上回った一方、長期借入金の返済を主因に財務活動による資金の減少が704億円となったこと、及び為替変動による増加が176億円となったことにより、前連結会計年度末に比べ119億円増の2,359億円となりました。

 

 (営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業債権及びその他の債権の増加額が前期比548億円増加した一方、棚卸資産の減少額が同565億円増加、営業債務及びその他の債務の減少額が同76億円減少、法人所得税等の支払額が同125億円減少したこと等により、営業活動による資金の増加は同405億円(27.9%)増の1,857億円となりました。

 

 (投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資の売却及び償還による収入が前期比179億円増加した一方、有形固定資産及び無形資産の取得による支出が同319億円増加したこと等により、投資活動による資金の減少は同183億円(17.8%)増の1,210億円となりました。

 

 

 (財務活動によるキャッシュ・フロー)

短期借入債務の純増額が前期比130億円減少したこと等により、財務活動による資金の減少は同130億円(22.6%)増の704億円となりました。

 

② 資金需要

当社グループの資金需要の主なものは、設備投資、投融資などの長期資金需要と当社製品製造のための原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費などの運転資金需要です。このうち、設備投資の概要及び重要な設備の新設の計画については、「第3 設備の状況」に記載しております。

 

③ 財務政策

当社グループは、資金需要の見通しや金融市場の動向などを総合的に勘案した上で、最適なタイミング、規模、手段を判断して資金調達を実施しております。また、財務健全性を維持しつつ、事業拡大を推進することを基本方針とし、運転資金の圧縮、固定資産の稼働率向上、キャッシュ・マネジメント・システムによるグループ内余剰資金の有効活用等、資産効率の改善にも取り組んでおります。

財務状況は健全性を保っており、現金及び現金同等物などの流動性資産に加え、営業活動によるキャッシュ・フロー、借入金、社債等による資金調達により、事業拡大に必要な資金を十分に賄えると考えております。また、業績やキャッシュ・フローの悪化等により緊急に資金が必要となる場合や金融市場の混乱に備え、国内外の金融機関とコミットメントライン契約、当座貸越契約等を締結し、資金流動性を確保しております。

 

(4) 経営上の目標の達成状況

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”の財務目標に対する進捗は以下のとおりです。

 

2023年度実績

2024年度見通し

(注)1

 

2025年度目標

(注)2

売上収益

24,646億円

26,200億円

 

28,000億円

事業利益

1,026億円

1,350億円

 

1,800億円

事業利益率

4.2%

5%

 

6%

ROIC (注)3

2.8%

約4%

 

約5%

ROE (注)4

1.3%

約5%

 

約8%

フリー・キャッシュ・フロー

647億円

 

プラス

(3年間累計)

D/Eレシオ

0.55

約0.6

 

0.7以下

(ガイドライン)

 

(注) 1.為替レートの前提は、140円/米ドルです。

2.為替レートの前提は、125円/米ドルです。

3.税引後事業利益/投下資本(期首・期末平均)

4.親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分(期首・期末平均)

 

2024年度の連結業績予想につきましては、売上収益は2兆6,200億円、事業利益は1,350億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は810億円を見込んでおります。

世界経済は、欧米での高金利による個人消費や設備投資の意欲低下、中国経済の足踏みにより、回復ペースは緩やかなものに留まると見られます。国内経済は緩やかな回復が見込まれます。ただし、中国での不動産不況の長期化、欧米での利下げ開始時期の遅れによる消費減速、中東情勢の緊迫化、日銀の金融政策変更や為替変動等が内外経済の下振れ材料として挙げられます。

このような状況の下、当社グループは、“プロジェクト AP-G 2025”の基本戦略を推進し、不確実性に備えた事業運営を実行していきます。

 

なお、サステナビリティ目標に対する進捗については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティに関する考え方及び取り組みの状況 ④ 指標及び目標」に記載しております。

 

 

(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成しております。連結財務諸表の作成にあたって用いた重要な会計上の見積り及び仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 合弁契約

契約会社名

相手先の名称

相手先の所在地

合弁会社名

契約内容

契約締結日

東レ㈱

DuPont de Nemours, Inc.

アメリカ

東レ・デュポン㈱

ポリイミドフィルム等を製造・販売する合弁会社の設立及び運営

1963年2月22日

東レ㈱

The LYCRA Company Global Holdings B.V.

オランダ

東レ・オペロンテックス㈱

ポリウレタン弾性繊維を製造・販売する合弁会社の運営

2003年5月1日

東レ㈱

Freudenberg SE

ドイツ

日本バイリーン㈱

不織布及び不織布関連製品等を製造・加工・販売する合弁会社の運営

2016年2月24日

東レ㈱

Dow Silicones Corp.

アメリカ

ダウ・東レ㈱

シリコーン製品を製造・販売する合弁会社の運営

2019年2月1日

東レ㈱

LG Chem, Ltd.

韓国

LG Toray Hungary Battery Separator Kft.

バッテリーセパレータフィルムを製造・販売する合弁会社の運営(注)

2022年6月16日

 

(注) 本契約では、2022年6月16日の合弁会社設立から2年半経過後に、当社持分の20%をLG Chem, Ltd.に有償譲渡することで当社とLG Chem, Ltd.の持分比率を50:50から30:70とすることも定めております。

 

(2) その他

契約会社名

相手先の名称

相手先の所在地

契約内容

契約期間

Toray Composite Materials America, Inc.

Boeing Co.

アメリカ

炭素繊維複合材料の供給

2015年9月30日から
2028年12月31日まで

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念の下、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。

将来にわたる持続的成長のために、研究・技術開発への継続的投資を行っており、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをベースに、重合、製糸、製膜など要素技術の深化と融合を進め、各事業セグメントで先端材料の創出、事業化を実現しております。近年では、素材に関するナノテクノロジーの極限を追求した「スーパーナノテクノロジー」ともいうべき独自技術の各種事業への実用化を加速させてきました。繊維分野での革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」、樹脂分野での革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」、フィルム分野での革新的積層制御技術「ナノ積層/NANO-Multilayer」などです。これらの技術は従来になかった特性と特長を有する素材を創出し、社会に付加価値を生み出し続けております。

 

 

当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。

 

(1) 繊維事業

アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、NANODESIGN®によって繊維断面を精密に制御した新しい原糸と、特殊な高次加工技術によって、天然素材のようなマルチラフネス構造(特殊な凹凸構造)を実現し、優れた水滴除去性を持つPFASフリー(フッ素を使用しない)の撥水ストレッチテキスタイル「DEWEIGHT™ (デューエイト)」を開発しました。2025年春夏シーズン向けからメンズ・レディス向けにアウターからボトムスまでの展開を予定しております。

 

(2) 機能化成品事業

樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、㈱本田技術研究所と、ナイロン6樹脂の部品を亜臨界水で解重合し、原料モノマー(カプロラクタム)に再生する、ケミカルリサイクル技術に関する技術実証を開始しました。亜臨界水は高温・高圧の水で、触媒不使用で添加剤の影響を受けることがなく、数十分でナイロン6を解重合し、高収率で原料モノマーを生成することができます。2027年近傍の実用化を目指します。また、ステンレス鋼に匹敵する高強度を有する超高分子量ポリエチレンフィルムを創出しました。耐寒性や耐薬品性・低誘電性にも優れていることから、超電導・宇宙環境等の極低温環境での使用や、高強度を活かした部材の軽量化・省スペース化に貢献するほか、PFASの一種であるフッ素樹脂の代替材料として半導体製造工程での耐薬品保護用途に使用可能です。さらに、高速通信規格「5G」などを利用する通信機器に搭載する「ミリ波吸収フィルム」を開発し、日本経済新聞社が主催する「日経優秀製品・サービス賞」において「最優秀賞」を受賞しました。5ミリ波モジュールを搭載する5G関連機器の電磁波障害を解消し、機器の軽量化や設計自由度の向上に貢献します。

 

(3) 炭素繊維複合材料事業

炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持するとともに、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、当社が開発した世界最高強度を持つトレカ®T1200が、公益社団法人高分子学会の「2023年度高分子学会賞(技術部門)」を受賞しました。従来品の性能を大きく上回る超高強度炭素繊維の創出に成功したことが評価されたものですが、航空機用途をはじめ、様々な用途にも展開していく予定です。また高弾性率を維持しつつ強度をさらに約20%高めたトレカ®M46Xを開発しました。今後、釣竿、自転車、ゴルフシャフトなどのスポーツ用途をはじめ、幅広い用途開拓を進め、2024年度に上市予定です。

 

(4) 環境・エンジニアリング事業

水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、工場廃水の再利用、下水処理等での厳しい使用条件において、高い除去性を維持したまま、長期間安定して良質な水を製造できる、高耐久性逆浸透(RO)膜を開発しました。運転管理が容易となることに加え、交換頻度の半減やカーボンフットプリントの改善が期待できます。2024年上期より販売を開始します。

 

(5) ライフサイエンス事業

ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、膵がんの診断補助を使用目的とした体外診断用医薬品「東レAPOA2-iTQ (アポエーツーアイティーキュー)」の販売を開始しました。従来の腫瘍マーカーでは検出できなかった膵がん患者を早期に検出できることが期待されます。また、固形がんに対する治療薬として東レが独自に開発を進めている「TRK-950」について、胃がん患者を対象とした第Ⅱ相臨床試験を米国、日本、韓国の3ヵ国で開始しました。

 

 

上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、カーボンニュートラルの実現に向けて、水素社会の実現に貢献する基幹素材の開発に取り組んでおります。当期は、山梨県並びに技術開発参画企業10社で、サントリー天然水 南アルプス白州工場及びサントリー白州蒸溜所(山梨県北杜市)の脱炭素化を目指し、大規模P2Gシステムの構成機器をトータルシステムとして構築する工事を山梨県で開始しました。2025年の稼働を目指し、我が国最大の固体高分子(PEM)型水電解装置により脱炭素化を前進させ、地域再エネ利用型による水素エネルギー社会を推し進めていきます。また、循環型社会の実現に向けて、バイオマスの食物繊維を糖に分解する酵素を高生産する微生物(東レ呼称「T1281」)を独自に開発し、酵素量産化技術を確立しております。これら「非可食性バイオマスからの糖製造向け新規酵素の技術開発」の取り組みに対し、産経新聞社主催の「第36回 独創性を拓く 先端技術大賞」において「産経新聞社賞」を受賞しました。また、タイ国のCellulosic Biomass Technology Co., Ltd.において、この酵素を活用する「膜利用バイオプロセス」の基本技術を確立しました。2030年近傍を目標に、非可食バイオマスから化学品を製造するトータルサプライチェーンの構築を目指します。

 

当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、705億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は498億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約27%、炭素繊維複合材料事業に約16%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約3%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入しました。

当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,403件、海外で2,876件、登録された件数は国内で637件、海外で1,562件です。