第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 ソニーの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は以下のとおりです。文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものです。

 

 2023年度の世界経済は、引き続き欧米を中心としたインフレ及びそれにともなう為替変動の影響を受けました。特に米国ではインフレが継続する中でも、個人消費が底堅く推移したことで、連邦準備制度理事会による利下げ実施に対する観測が後退しました。その結果、金融緩和を継続する日本との金利差が拡大し、円相場は2022年度に引き続き大きく変動しました。中国ではゼロコロナ政策撤回による個人消費の回復はあったものの、不動産市場の長期的な低迷が景気を下押ししました。今後の世界経済の見通しは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の長期化や中東情勢の不安定化などにより、一層不確実性が高まっています。

 ソニーは、グローバルに多様な事業を展開しており、これらの世界経済の状況の変化に加えて、米中関係の緊張による地政学リスクの高まりや人工知能(以下「AI」)のような技術の急速な進化、地球環境問題や社会の分断への対応など、ソニーの事業を取り巻く環境は大きく変化しています。

 ソニーは、これらの事業環境の変化に迅速に対応し、各事業の収益構造の強化に取り組むとともに、長期視点の経営を重視し、グループ全体の企業価値向上のための取り組みを続けてきました。

 

 2024年5月23日に開催した2024年度経営方針説明会では、会長 CEO(最高経営責任者)の吉田憲一郎が経営の方向性を、そして社長 COO(最高執行責任者) 兼 CFO(最高財務責任者)の十時裕樹が長期ビジョンとその実現に向けた取り組みを紹介しました。

 吉田は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)のもと、コンテンツ、プロダクツ&サービス、半導体(CMOSイメージセンサー)という3つのビジネスレイヤーにおいてソニーが取り組んできた「クリエイションシフト」について説明しました。そして、CMOSイメージセンサーやゲームエンジンを用いた「リアルタイム・クリエイション」について言及し、今後もテクノロジーを通じて人々のクリエイティビティに貢献していくと述べました。

 続いて十時が、第五次中期経営計画(2024~2026年度)の先にある未来のソニーの長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を紹介しました。そして、この長期ビジョンの示す方向性に向けて、IP価値最大化の取り組みとそれを支える技術基盤の確立を着実に進めるとともに、事業と人材の多様性の継続的な進化により、さらなる成長の実現をめざすと述べました。詳細は以下のとおりです。

 

(1) グループシナジーの加速と進化

 G&NS、音楽、映画の3つのエンタテインメント事業は、2023年度のグループ連結売上高の約6割を占める。2021年のグループアーキテクチャー再編により、グループシナジーも加速。パーシャル・スピンオフに向けて準備を開始した金融事業については、自立を通じたさらなる進化を、ソニーブランドの利用や各事業との連携強化によりグループ全体で支えていく。

 

(2) クリエイションシフト

 ソニーは、エンタテインメントへの注力に加えたもう1つの経営の方向性として、以下の3つのビジネスレイヤーの軸足を「クリエイション」側にシフトしてきた。

 

① 「感動」に直結するコンテンツ

・ ソニーは、2018年のEMIの買収を起点に6年間で約1.5兆円を投資し、コンテンツクリエイションを強化。2021年にはアニメに特化したDirect-to-Consumer(以下「DTC」)サービス「Crunchyroll」を買収し、アニメクリエイターコミュニティへの貢献を志す。

 

② 「感動」を生み出すプロダクツ&サービス

・ ET&S分野では、クリエイターとともにエンタテインメントを創造することに注力。2023年度におけるET&S分野の営業利益の8割以上がクリエイションに関わるビジネス(イメージング、スポーツ、バーチャルプロダクション、プロオーディオ等)から創出。

 

③ クリエイションを支える半導体

・ ソニーは、クリエイションを支えるCMOSイメージセンサーに注力し、過去6年間で約1.5兆円の設備投資を実施。ソニーのCMOSイメージセンサーは、新たなエンタテインメント空間と位置付けているモビリティの安全にも貢献。

(3) リアルタイム・クリエイション

 ソニーは、「リアルタイム」をキーワードに、CMOSイメージセンサーやゲームエンジンのクリエイションテクノロジーに注力していく。

 

① 「瞬間」を捉えるテクノロジー

・ グローバルシャッター方式のフルサイズイメージセンサーを搭載したミラーレス一眼カメラ『α9 III』は、2024年3月に英国・グラスゴーで開催された「2024世界室内陸上競技選手権大会」でも活用された。

・ ソニーが2024年に発表した5G対応ポータブルデータトランスミッター『PDT-FP1』による撮影現場でのリアルタイム写真転送は、迅速な報道・制作を可能にし、スポーツの感動を届けることに貢献。

・ デジタルシネマカメラ『VENICE』シリーズの映画業界での採用と、他の映像制作への活用が拡大。

 

② 真正性(Authenticity)を検証するリアルタイム技術

・ クリエイターが現実世界を「ありのまま」に捉えることの意義は大きく、ソニーのCMOSイメージセンサーは画像の真正性を検証することに生かされている。

 

③ アイデアをリアルタイムで形にするテクノロジー

 ソニーが出資するEpic Games, Inc.(以下「Epic Games」)のUnreal Engineを、様々なクリエイションのプロセスに活用。

・ SPEの次世代ビジュアライゼーション施設「Torchlight」は、映像コンテンツの制作前に、リアルタイムでのクリエイターのビジョンの探索、構想、具現化が可能。

・ 撮影監督も俳優もその場で映像を確認できる撮影手法であるバーチャルプロダクションの提供。

・ 現実空間に3Dコンテンツを重ねながらコンテンツ制作や編集ができる没入型空間コンテンツ制作システムにより、没入感のある制作体験を提供。

・ 北米のプロスポーツリーグの「ライブ」の場でも、現実の選手の動きをトラッキングし、リアルタイムで3Dアニメーション化することで、新たなファンの裾野を広げる。

 

(4) 長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」

 ソニーは、今後のテクノロジーの進化を見据えながら、10年後のソニーのありたい姿を描いた長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を策定。

 

 「Creative Entertainment Vision」における3つのフェーズ:

① 「Creativity Unleashed」:テクノロジーを活用し、フィジカル、バーチャル、時間といった次元を超え、世界中のクリエイターの創造性を解き放つ。

② 「Boundaries Transcended」:境界を超えて多様な人々や価値観を繋げ、熱量の高いコミュニティを育む。

③ 「Narratives Everywhere」:クリエイターとともに、想像を超えたわくわくするストーリー性のある体験を作り、感動の新たなタッチポイントとして世界中に広げる。

 

(5) IP価値最大化に向けた現在の取り組み

 ソニーは、「Creative Entertainment Vision」が示す方向性に向けて、現在、様々なエンタテインメントカテゴリにおいてIP価値最大化の取り組みを進めている。

 

① IPの創出

アニメ

・ SMEJ傘下の株式会社アニプレックス(以下「アニプレックス」)による、高品質な作品の制作。

・ 1,300万人超の有料会員を抱えるCrunchyrollを通じた海外配信。

・ アニプレックス傘下の制作スタジオである株式会社A-1 Picturesや株式会社CloverWorksを中心にSMEJ、ソニーグループのエンジニアと連携して開発中のアニメ制作ソフト『AnimeCanvas』を通じた、制作環境と効率の改善、作品品質の向上。

・ アニプレックスとCrunchyrollを中核に、業界とも連携して海外のアニメクリエイターを育成するアカデミーの設立検討を開始。

映画

・ SPE傘下のPixo Holdings, Inc.(Pixomondo)がEpic Gamesと連携し、バーチャルプロダクションなどの技術を駆使できる映像クリエイターを育成。

 

音楽

・ SMEJ所属の、小説を音楽にするプロジェクトから誕生したアーティスト「YOASOBI」など、ユニークなアプローチによる新たなIPの創出。

スポーツ

・ Hawk-Eye Innovations Ltd.のトラッキングシステムによるプレー中の選手の骨格などのデータの取得と、Beyond Sportsの技術によるリアルタイムでの3Dアニメーション化を通じた、新たなエンタテインメント・コンテンツの創出。

 

② IPの育成

アニメ

・ クリエイターをたたえ、アニメIPと文化をファンとともに育てていくCrunchyroll Anime Awardsは、過去最高の3,400万以上の投票数を記録(2024年)。

ゲーム / 映画

・ PlayStation ProductionsによるゲームIPの実写映像化。『Horizon』、『God of War』などを今後公開予定。

音楽

・ 熱量の高いファンが新たな文化を創り出すファンダムアーティストを育成し、ファンコミュニティを拡大。

 

③ 境界を超えてIPを拡張する「IP360」

ゲーム

・ 『アンチャーテッド』などのゲームIPをロケーションベースエンタテインメント(以下「LBE」)に展開。

音楽

・ グラミー賞を受賞したラッパー、シンガーソングライターのLil Nas Xが初のワールドツアーに臨む姿を記録したドキュメンタリー『Lil Nas X: Long Live Montero』の制作。

・ SPEなどによる、各メンバーの視点からビートルズの歴史を振り返る伝記映画4本の同時制作。

全カテゴリ共通

・ LBE:ソニーのIPと技術を掛け合わせた、没入体験を提供するアトラクションを世界各地で展開。

・ マーチャンダイジング:IPをグッズ化し、ファンの愛着を高める。グループ間連携も加速。

・ モビリティ:センシングデータ等から搭乗者や周辺環境を把握して提供するエンタテインメント・コンテンツや音響技術を活用し、車内をパーソナライズされたエンタテインメント空間とすることで、移動体験の価値を向上。

パートナー企業のIP展開に対する貢献

・ Crunchyroll Games, LLCがパブリッシングを行うモバイルRPG『Street Fighter™:Duel』

・ 実在のオブジェクトを高品位な3Dモデルに変換する「ハイクオリティスキャンソリューション」を活用し、「ガンダムメタバース」内へスキャンガンプラを展示。

 

④ IP価値最大化のグローバル展開:多様な文化的背景や地域に根差した魅力を持つクリエイターをサポート

・ インドの有望なゲーム開発者を発掘、支援し、世界中に魅力的なゲーム体験を届ける「India Hero Project」において、現在、5本のゲームタイトルを開発中。

・ アフリカでのエンタテインメント事業を育成するために設立されたコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund: Africa」。新興国での投融資活動をしている国際金融公社とも提携。

 

(6) IP価値最大化を支える技術基盤

 クリエイターがIP価値最大化を高品質かつ効率的に行うために重要な技術基盤が、センシング及びキャプチャリング、リアルタイム3D処理、AI技術及び機械学習です。ソニーの強みとして研究開発・応用を進めており、将来的にはスピーディーかつ低コストにIPを幅広いファンに届けられるソリューションの構築をめざす。また、IP価値最大化の取り組みをより効率的に行うために、グループ共通のエンゲージメントプラットフォームの構築も検討する。

 

① センシング及びキャプチャリング

・ ボリュメトリックキャプチャスタジオは、フォトリアルな再現が可能で制作自由度も高いため、映画などの複雑なアクションシーンで使われている。今後はグループ各社で蓄積した3Dアセットの組織横断での活用と、外販を検討。

 

② リアルタイム3D処理

・ Unreal Engineを軸にEpic Gamesとの連携を深め、バーチャルプロダクションで撮影したミュージックビデオと同じ世界観の中で遊べるゲーム制作のほか、CGのショートフィルムをリアルタイム制作する実証実験を実施。

 

③ AI技術及び機械学習

・ 『Marvel’s Spider-Man 2』では機械学習を活用し、ゲームに特化した独自の音声認識ソフトウェアを使い、一部の言語において、登場するキャラクターのセリフに合わせて自動で字幕のタイミングを同期。これにより、字幕の制作工程の大幅な短縮を実現。

・ インドにおける、映像コンテンツの吹き替えや翻訳の工程短縮の研究開発。

 

④ エンゲージメントプラットフォームの発展

・ 強固なネットワークサービスを確立しているPlayStation Networkのネットワーク基盤をベースとしたアカウント、決済、データ基盤、セキュリティなどのコア機能を、拡大を続けるCrunchyrollに展開することで、ソニーグループとしてのエンゲージメントプラットフォームへの発展を計画。

・ ソニーグループ全体の各種サービスのID共通化も進めるほか、モビリティやLBEなどに向けたグループ内の新規ネットワークサービスの展開をサポートしていき、将来的には、ファンエンゲージメント特化型の共通プラットフォームとして、広くエンタテインメント業界で活用されることをめざす。

 

(7) 多様な事業と人材による成長の実現

 ソニーは、多様な人材が集まり、異なる属性や経験を持つことを強みとしてきた。M&Aを通じて、エンタテインメント事業を中心に新たな考え方や知見を取り入れている。また、外国籍役員比率や女性管理職比率は、年々増加している。今後も、事業と人材の多様性を継続的に進化させ、長期視点での価値創出とさらなる成長の実現をめざす。

 

 当社は、2024年5月14日に開催した2023年度連結業績説明会において、2021年度から2023年度の3年間の第四次中期経営計画の実績と、2024年度から2026年度の3年間の第五次中期経営計画を発表しました。詳細は以下のとおりです。

 

経営数値目標及びキャピタルアロケーション

<第四次中期経営計画 経営数値目標とその成果>

・ 第四次中期経営計画では、経営を引き続き長期視点で行っていくため、経営指標には3年間累計の指標を用いることとし、3年間累計の調整後EBITDAを最も重視する経営指標(以下「グループKPI」)としました。

・ 2021年度から2023年度までの3年間において、連結ベースで累計4.3兆円の調整後EBITDAを創出するという数値目標を設定しましたが、その実績は、音楽分野及び映画分野を中心に当初計画を上回って進捗した結果、目標を19%上回り、累計約5.1兆円となりました。

・ 第四次中期経営計画におけるキャピタルアロケーションについては、その計画期間を超えた長期的な事業の成長に向けて、設備投資に1.5兆円、自己株式の取得を含む戦略投資に2兆円以上を配分する計画に対し、設備投資は約1.9兆円、戦略投資は自己株式の取得約0.4兆円を含む約1.7兆円となりました。設備投資は、I&SS分野におけるイメージセンサー向け投資と、全社R&DやG&NS分野におけるサーバー投資などの増加により当初計画を上回りました。戦略投資は、運転資金及び設備投資の増加と、足もとのM&A市場環境を考慮した結果、当初計画を下回りましたが、長期的な成長に向けた投資を着実に実行しました。このキャピタルアロケーションの原資として、2021年度から2023年度の3年間累計で3.8兆円以上の金融分野を除く連結ベースの営業キャッシュ・フローを創出するという当初計画に対し、実績は約3.9兆円となりました。これは、G&NS分野やI&SS分野の運転資金の増加による減少があった一方で、事業や資産の売却、及び厳格な財務規律の範囲内での借入を行ったことなどによるものです。

 

<第五次中期経営計画 経営数値目標>

・ 第五次中期経営計画においては、利益ベースの成長をより重視することとし、金融分野を除く連結ベースの営業利益の成長率及び営業利益率をグループKPIとしました。具体的には、3年間の連結営業利益の年平均成長率を10%以上とすること、及び3年間累計の連結営業利益率を10%以上とすることを目標としています。

・ 第五次中期経営計画におけるキャピタルアロケーションについては、設備投資に1.7兆円、戦略投資については、各事業における成長投資と機動的な自己株式の取得に1.8兆円を割り当てる計画です。また、キャピタルアロケーションの主な原資である3年間累計の金融分野を除く連結ベースの営業キャッシュ・フローは、第五次中期経営計画期間における利益成長に加え、第四次中期経営計画期間で増加した運転資金の回収も見込むことから、第四次中期経営計画の実績を上回る、4.5兆円を見込んでいます。

・ 株主還元については、総還元性向を重視し、これを第五次中期経営計画期間を通して段階的に増加させ、最終年度の2026年度には、40%程度とすることを目標としています。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取り組み】

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものです。

 

ソニーのサステナビリティに関する基本方針

 当社は、取締役会において、サステナビリティに関する基本方針を以下のとおり定めています。

『ソニーは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)と、「人に近づく」という経営の方向性のもと、「人」を軸に多様な事業を展開し、この多様性を強みとした持続的な価値創造と長期視点での企業価値の向上をめざしています。人々が感動で繋がるためには、私たちが安心して暮らせる社会や健全な地球環境があることが前提であり、ソニーは、その事業活動が株主、顧客、社員、調達先、ビジネスパートナー、地域社会、その他機関等のソニーグループのステークホルダーや地球環境に与える影響に十分配慮して行動するとともに、対話を通じてステークホルダーとの信頼を築くよう努めます。そして、イノベーションと健全な事業活動を通じて、企業価値の向上を追求し、持続可能な社会の発展に貢献することをめざします。』

 

(1)サステナビリティ推進体制及びその取り組み

<推進体制>

 当社は、サステナビリティ担当上級役員のもと、サステナビリティ推進部を設置し、同部がビジネスユニット及び事業会社(以下あわせて「各事業部門」)及び当社関連部署(コンプライアンス、人事、経営企画管理、財務、法務等)(以下「関連部門」)と連携しながら、グループ全体のサステナビリティに関する各種取り組みを推進しています。

 当社のサステナビリティ担当上級役員は、サステナビリティに関連するリスクを定期的に検討・評価し、損失のリスクの発見・情報伝達・評価・対応に取り組んでいます。当社の取締役会は、少なくとも四半期に1回、サステナビリティに関する取り組み及びその進捗の報告をサステナビリティ推進部から受けています。取締役会は、さらに、各事業部門からの中期経営計画に関する報告の一部として、それぞれの事業に関わりの大きいサステナビリティの課題と機会及びそれらへの取り組みについての報告を受けています。サステナビリティに関連するリスクの詳細は、「第2 事業の状況」『3事業等のリスク』をご参照ください。

 

<推進のための主な取り組み>

 上記体制のもとで、サステナビリティ推進部は、前述の「サステナビリティに関する基本方針」にもとづき、ソニーの事業活動への当該基本方針の浸透を図るとともに、ステークホルダーとの対話やマテリアリティ分析などを通じて、グループ全体で対応が必要なサステナビリティ課題を特定しています。また、それらの特定したサステナビリティ課題について、当社マネジメントや関連部門と連携しながら、長期環境計画「Road to Zero」等のグループとしての対応方針を策定し、グループ全体に周知すること等により、グループ全体での取り組みを推進しています。

 また、各事業部門においては、サステナビリティの観点からの課題と機会を検討するとともに、それぞれの事業特性に応じた、サステナビリティに関する取り組みを行っています。加えて、サステナビリティ推進部と議論の上、重視しているサステナビリティ課題への取り組みについてKPI(以下「サステナビリティKPI」)を設定しています。サステナビリティKPIは各事業部門の業績評価の一部に組み込まれており、その達成状況をサステナビリティ推進部においても評価しています。加えて、当社上級役員の業績連動報酬の評価指標として、グループサステナビリティ評価の達成度を設定し、担当事業・組織の枠にとどまらない、ソニーグループ全体の中長期的な企業価値向上、持続的成長に向けた経営層としての取り組み、例えば、経営のサクセッションや人的資本への投資、社会価値創出及びESG(環境・社会・ガバナンス)の観点での取り組み、事業間連携での価値創造を加速するための取り組み、社員意識調査によるエンゲージメント指標等を評価しています。

 2023年度においては、グループ全体のサステナビリティに関する取り組みのめざす方向をこれまで以上に明確にするため、「感動に満ちた世界を作り、次世代へつなぐ」という“Sonys Sustainability Vision”を新たに策定しました。また、サステナビリティ担当上級役員、人事担当上級役員及び各事業部門のサステナビリティ責任者が参加するグループ全体でのサステナビリティ会議を開催し、各事業部門のサステナビリティに関する取り組み及びサステナビリティKPIの進捗状況などを共有し、確認しました。

 なお、各事業部門において設定した2023年度のサステナビリティKPIには、製品の消費電力の削減、製造プロセスの温室効果ガス(以下「GHG」)排出量の削減、女性管理職比率の向上、ソニーグループのコンテンツIPを活用した環境啓発活動の実施、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下「DE&I」)に関するプログラムや研修の実施、製品・サービスのアクセシビリティ向上などが含まれていました。

 

<上記取り組みの前提となるマテリアリティ分析>

 中長期的な視点で、ソニーのサステナビリティ活動を社会環境の変化やステークホルダーからの要請などに応じたものとするため、サステナビリティ担当上級役員のもと、サステナビリティ推進部が主導し、ソニーグループにとってのマテリアリティ項目を分析・特定し、定期的にその重要性について見直しています。直近では2022年度に見直しを実施しており、マテリアリティ項目を「中長期的な社会の変化及び多様なステークホルダーのニーズを踏まえた、ソニーの価値創造に影響を与えるサステナビリティに関する重要項目」と定義した上で、ソニーに関連性の高いサステナビリティ課題(ソニーの価値創造にネガティブなインパクトを与える項目を含む)について、自社視点・ステークホルダー視点の両面からその重要性を評価しました。

 自社視点での重要性については、中長期的にソニーの価値創造に与えるポジティブ又はネガティブなインパクトの観点から、また、ステークホルダー視点での重要性については、非政府組織(NGO)、投資家、評価機関、メディアなどが公表している情報等にもとづき、各項目を評価しました。

 かかる評価にもとづき、当社マネジメント及び取締役会のレビューを経て、ソニーグループとして優先的に取り組むべき最も重要なマテリアリティ項目を特定しました。

 

(2)サステナビリティに係る戦略等

 2022年度に実施したマテリアリティ分析の結果、ソニーグループとして優先的に取り組むべき最も重要なマテリアリティ項目として、「気候変動」、「DE&I」、「人権の尊重」及び「サステナビリティに貢献する技術」(以下あわせて「最重要マテリアリティ項目」)を特定しました。なお、2023年度においても当該最重要マテリアリティ項目に変更はありません。

 

<最重要マテリアリティ項目特定の背景>

・気候変動:ソニーは、気候変動による影響の顕在化と、脱炭素社会への移行は全ての企業にとっての重要課題であること、また、自社の環境負荷などを低減していく「責任」と、多様な事業や技術を生かして行う「貢献」の両面から、幅広いステークホルダーからの環境への取り組みに対する期待が高まっていることを認識しています。ソニーの企業活動は、あらゆる生命の生存基盤である地球環境が健全であって初めて成り立つものであり、気候変動対策をはじめとする環境への対応が重要と考えています。

 

・DE&I:ソニーは、企業活動において、多様性に富む組織は、そうでない組織に比べて、よりイノベーティブであると認識しています。そして、社員一人ひとりの多様な価値観を尊重するとともに、エクイティ(公平性)の観点を大切にし、インクルーシブな組織風土を醸成することが重要であると考えています。また、社会正義や不平等などの社会課題に対する企業の取り組みにも期待が高まっており、グループ全体で社内外の課題解決に向けた取り組みのより一層の推進が重要と考えています。

 

・人権の尊重:ソニーは、そのグローバルな事業活動において、人権への潜在的な影響があることを認識しています。すなわち、ソニーのバリューチェーン全体において人権を尊重し、ソニーの事業活動との関係が直接的か間接的かに関わらず、潜在的なものも含めて人権への負の影響に対処することは、ソニーが果たすべき責任として幅広いステークホルダーから求められていることであると認識しています。近年の人権の尊重に関連する外部環境の変化も踏まえ、ソニーとしてもより一層取り組みを強化することが重要であると考えています。

 

・サステナビリティに貢献する技術:ソニーは、テクノロジーを通じて、事業の成長と社会・環境課題の解決を両立させることについて、ステークホルダーからソニーに対する期待があるものと認識しています。ソニーの開発する技術や製品・サービスにより、事業収益の増加のみならず、社会及び環境にポジティブな影響をもたらすことでサステナビリティ課題の解決をリードし貢献することは、ソニーにとって重要な使命であると考えています。

 

<最重要マテリアリティ項目に係る戦略と目標、主な取り組み>

・気候変動

 ソニーは、2010年にグループ全体で地球環境に及ぼす負荷を2050年までにゼロとすることをめざす長期環境計画「Road to Zero」を掲げ、以来、気候変動、資源、化学物質、生物多様性の4つの視点から環境負荷低減のための取り組みを行ってきました。2022年5月には、気候変動領域において、環境負荷低減活動をさらに加速するため、スコープ1から3までを含むバリューチェーン全体でのネットゼロ(以下「ネットゼロ目標」)の達成目標年を2040年に前倒しすることを発表しました。なお、この2040年のネットゼロ目標は、2022年8月に「Science Based Targets initiative (SBTi)*1」によるネットゼロ目標*2の認定を取得しました。

 

*1 気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ1.5度に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を企業が設定することを推進する国際イニシアティブ。

*2 ソニーのネットゼロ目標は、以下のSBTiの「企業ネットゼロ基準」にしたがっています。

・スコープ1、2及び3のGHG排出量をゼロにするか、又は、適格な1.5℃軌道においてグローバル若しくはセクターレベルでのGHGネットゼロ排出達成と整合する残余排出量水準にまでGHG排出量を削減すること。

・ネットゼロ目標の時点におけるGHGの残余排出量及びそれ以降に大気中に放出される全てのGHG排出量を中和すること。

 

上記の2040年のネットゼロ目標達成に向けた具体的な目標については以下のとおりです。

 

1.2030年までに、ソニーグループの事業所オペレーションにおけるGHGの直接・間接排出(スコープ1、2)をネットゼロとすることをめざします。さらに、製品、サプライチェーン、物流などその他の排出(スコープ3)については、2035年までに、製品使用時のGHG排出量を2018年度比で45%削減することをめざします。2040年には、全スコープにおいてGHG排出量をネットゼロとすることをめざします。

2.2030年までに、当社グループの事業所で使用する電力を100%再エネ化することをめざします。2025年時点での再エネ由来の電力使用率目標を35%としています。

 

上記1及び2の目標を達成するために、ソニーでは主に次のような施策を実施していきます。

・ソニーグループの事業所における継続的な環境負荷低減:グループ全体で、省エネルギー(以下「省エネ」)化、太陽光発電設備の設置及び再エネ導入を加速。日本におけるFIP(フィードインプレミアム)制度を活用したバーチャルPPA(電力購入契約)。

・ソニー製品の省エネ化:ソニー製品1台当たりの年間消費電力量の低減に向けた動きを加速。

・パートナーへの働きかけ強化:部品、材料及び完成品の製造委託先などにも、それぞれのGHG排出量の管理、省エネ及び再エネ転換などを促す。

・炭素除去・固定*3への貢献:炭素除去等の関連スタートアップ企業への投資検討や、株式会社SynecO(シネコ)のSynecoculture™(シネコカルチャー)*4をはじめとする拡張生態系の普及事業にともなう生物多様性と炭素固定の指標化の検討など。

 

*3 大気中から炭素を吸収し、固定させる技術。

*4 Synecocultureはソニーグループ株式会社の商標です。

 

・DE&I

 DE&Iに関する戦略等については、「(3)人的資本に関する戦略ならびに指標及び目標」をご参照ください。

 

・人権の尊重

 「ソニーグループ行動規範」において、ソニーの人権の尊重に関する方針を定め、全てのグループ会社に対し、関連する法令及び行動規範にしたがって人権を尊重し、誠実な事業活動を行うことを求めています。

 その上で、責任あるサプライチェーンの実現に向けたソニーグループ製造事業所及びサプライヤーの行動規範を定めた「ソニーサプライチェーン行動規範」や、ソニーの全ての役員及び従業員がソニーグループの価値観や新たな社会規範に沿ってAIの活用や研究開発を行うための指針である「ソニーグループAI倫理ガイドライン」などの人権に関わる特定の領域における方針を策定し、運用しています。また、ソニーは、国連人権理事会によって発行された「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)及びOECD多国籍企業行動指針に定められた人権デュー・ディリジェンスの枠組みに沿って、人権リスクのインパクト評価を実施しています。当該評価において、ソニーの事業活動の特性や各事業において重要なバリューチェーンを踏まえて、潜在的な人権リスクを特定した上で、これらの人権リスクのうち、責任あるサプライチェーン、多様性の尊重、責任あるテクノロジーの開発及び使用の3つの領域を、ソニーグループとして、優先的に取り組みを進める重点領域として定めています。これらの重点領域において、人権への重大な負の影響が特定あるいは懸念される課題には、その影響を防止または軽減するための取り組みを推進しています。2023年度においては、人権リスクのインパクト評価を再実施し、前回特定したソニーの事業活動との関連性が高い3つの人権リスクの領域に変化がないことを確認した上で、各事業において個別の取り組みを推進しました。また、社内外にソニーとしての人権の尊重に係るコミットメントを改めて表明し、グループ全体でより体系的に人権デュー・ディリジェンスを実施できるよう、「ソニーグループ人権方針」を策定しました。

 

・サステナビリティに貢献する技術

 ソニーは、事業成長に貢献する技術開発とともに、未来に向けて新たな社会・産業の在り方をもたらすイノベーションの創出に取り組んでいます。

 例えば、土壌中の水分量などのセンシング、超広域の通信ネットワーク、そして捉えたデータにもとづく予兆分析技術の研究開発などを行っています。また、ソニー株式会社では、生成AIモデルの急速な進化にともなうフェイク画像や虚偽情報の拡散のまん延などの課題に対処するため、C2PA*5規格準拠とソニー独自のデジタル署名技術により、撮影画像の真正性を検証する真正性カメラソリューションの提供を一部の報道機関向けに開始しています。さらに、環境に配慮した材料の開発及び低消費電力化技術によるソニー製品の環境負荷の低減などに加えて、資源回収・リサイクル事業を展開する企業にSSSのグローバルシャッター技術Pregius™を搭載したイメージセンサーを供給しています。当該イメージセンサーが搭載された飲料容器回収機は、使用済み飲料容器の形状などを約1秒で正確に読み取ることができ、容器の選別・分別及び資源回収システムの最適化に貢献しています。

 

*5 デジタルコンテンツの出所と信ぴょう性に対し、オープンスタンダードと技術仕様を策定する標準化団体。

 

<その他のサステナビリティ課題に係る主な取り組み>

 ソニーでは、多様なニーズを持つ人々に、ソニーの製品・サービス・エンタテインメントを楽しんでいただけるよう、アクセシビリティを高める活動をグループ全体で推進しています。例えば、多様なニーズを持つ人たちとともに検討し、その声を反映するインクルーシブデザインを製品の商品化プロセスに取り入れています。2024年3月に開催されたCSUN Assistive Technology Conference 2024では、プレイステーション®5(以下「PS5™」)用Access™コントローラーなど、インクルーシブデザインにより開発された製品を中心に出展しました。この出展により、より多くのお客様へ、アクセシビリティに配慮したソニーの製品・サービス・エンタテインメントを体験する機会を提供するとともに、さらなるアクセシビリティの向上に向けたフィードバックを受ける機会としました。

 また、ソニーでは、AIの開発及び利用を一層拡大していくにあたり、前述の「ソニーグループAI倫理ガイドライン」を2018年に策定し、その遵守を徹底しています。さらに、2019年12月の「ソニーグループAI倫理委員会」の設置に加えて、2021年にはソニーグループの全ての事業に対してAI倫理に関する専門知識を提供するための組織として、AI倫理室を当社内に設置しました。エレクトロニクス製品・サービスの商品化プロセスにおいて遵守すべき要件をとりまとめた文書の作成や、製品開発ライフサイクルにおけるAI倫理アセスメントを開始するなど、AI倫理に関する活動及び体制の強化を進めています。加えて、ソニーでは、生成AIの急速な進化についても対応すべき喫緊の課題として認識しており、2023年度においては、ソニーグループ株式会社として、生成AIツールの利用に係る社内ガイドラインを策定しました。

 

(3)人的資本に関する戦略ならびに指標及び目標

<人事戦略 –「ダイバーシティ」と「個を求む」・「個を伸ばす」・「個を活かす」–>

 ソニーは、1946年にエレクトロニクス事業を起源として設立され、日本初のトランジスタ開発から半導体事業を開始しました。その後、外国企業との合弁による音楽事業と金融事業、外国企業の買収による映画事業、グループ内の共同出資によるゲーム事業など、様々な方法で新しい事業への参入を行いながら、複数の事業体から構成される企業として進化を続けてきました。現在、主要6事業のうち半数が本社を米国に置き、事業運営に最適な組織体制をグローバルに編成しつつビジネスを展開しています。

 これまでの事業の発展や成長は、創業来受け継がれてきた新しいことへの飽くなき挑戦心と多様性を重んじる価値観が、その基盤となっています。異なるバックグラウンドをもつ社員の交錯によって新しい事業が生まれ、事業が多様化することで人材の活躍の場が一層広がり、社員も会社もともに成長してきました。現在ソニーでは、事業と人の「ダイバーシティ(多様性)」を、「クリエイティビティ」「テクノロジー」と並ぶ「価値創造のドライバー」と位置づけ、全世界で活躍する約11.3万人の社員は、国籍や人種の多様性はもとより、事業の広がりによって職種も極めて多岐にわたり、各事業の成長の原動力となっています。これら多様な人材が、Purpose(存在意義)のもと、事業や地域を超えてつながり、交錯し、テクノロジーやクリエイティビティを融合することで、新たな価値創造につなげています。

 人材理念である“Special You, Diverse Sony”には、ソニーの人材に対する考え方が表現されており、異なる個性を持つ一人ひとりと、多様な個を受け入れる場であるソニーとがPurposeを中心にともに成長し続けていく、というメッセージが込められています。そして、この人材理念の下、グループ共通の人事戦略を「個を求む」・「個を伸ばす」・「個を活かす」と定義し、社員の働きがいの希求に応え、一人ひとりの力を最大限引き出す施策や活躍の場の提供に注力することで、グループ全体としての成長をめざします。具体的な取り組みについては、権限を委譲された各事業の人事責任者が、それぞれの事業や地域の特性に応じて最適な人事施策の策定・実行にあたっています。

 

① 個を求む

 Purposeへの共感を喚起し、高いスキルや専門性を持ち、挑戦心と成長意欲に満ちた多様な人材を獲得することが重要だと考えています。採用活動では、世界トップレベルの人材を惹きつけるべく、世界各地のグループ会社と協力して戦略的に取り組んでおり、中長期視点での施策として産学連携による多様な人材の育成にも注力しています。そして、事業や地域、社会環境に応じて、様々なバックグラウンドを持つ人材の活躍につながる機会をグローバルで提供しています。例えば米国では、十分に教育の機会が得られていない人々に対してメンタリングやインターンシップといった早期育成や教育支援を行っており、そうした取り組みが多様な人材の採用につながっています。また、入社後においては、社員が能力や自主性を最大限発揮できる職務へチャレンジする機会を提供する仕組みとして、多様な社内募集制度(社内募集制度、社内FA制度、キャリアプラス制度等)により、事業の枠を超えた社員のキャリア構築をサポートしています。さらに、2024年からは、国内で企業間の相互副業を試験的に開始し、他企業への越境により経験の幅を広げる機会も提供しています。

 

② 個を伸ばす

 社員の成長には、自主性溢れる人材の挑戦を通した成長への高い意識と、それを最大限に発揮できる職務へのアサインメントが最も効果的であると考えています。そのため、役割に応じて求められる能力を体系化し、グループ全体でそれぞれの能力の強化を図っています。特に、ソニーグループの成長及び社員の成長には管理職の役割が大きいという考えのもと、ソニーのマネジメント及び人事部署が管理職の中期的な育成の方向性を議論し、その視野や経験領域の拡大のために、リーダーシップ開発やコーチング等の様々な施策を行っています。また、各事業・機能において中核的役割を担う経営人材の育成を目的とした次世代リーダー育成プログラム「ソニーユニバーシティ」や、異なる事業の経営層と次期経営人材との戦略的つながりを創出することでマネジメントの豊富な経験値を継承し、人材育成や新たなグループシナジーにつなげることを目的とした「ソニークロスメンタリングプログラム」、最先端の技術情報を共有し技術力を高めあう「技術戦略コミッティ」など、事業の垣根を越えて社員が交流するプログラムを実施しています。

 

③ 個を活かす

 多様な個を活かすため、異なる個性やライフスタイル・ワークスタイルを持つ社員が成長を求めて挑戦できる、インクルーシブな職場環境の醸成や施策の整備が重要だと考えています。各国・地域の慣習や法律を踏まえ、「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向け、柔軟な勤務制度・環境を整備しています。また、魅力的なワークプレイスの創造に取り組むことで社員のエンゲージメント向上につなげていきます。グループ全社員を対象とした学びと交錯の場、「PORT」では、各種研修に加え、社員が自発的に開催するコミュニティ活動も行われています。

 そして、多様な社員が個性を最大限発揮できているかどうかは、Purposeへの共感度と社員エンゲージメントに集約されると考え、定期的にそれらを確認する社員意識調査を実施しています。特に社員エンゲージメントは重要な指標ととらえ、当社上級役員の業績連動報酬の評価指標の一部に組み入れています。今後も社員のPurposeへの共感と社員エンゲージメント向上につながる取り組みを推進し、ソニーの持続的成長の実現をめざします。

 

<人材の多様性の確保とインクルーシブな組織の構築に関する方針>

 ソニーでは、強い石垣は異なる形の石をうまく組み合わせて構築されることになぞらえ、企業においても同様に、多様な個性や意見、見解、価値観が共存する組織の実現をめざしています。そして、人材の多様性には、国籍や人種、性別などいわゆる「属性の多様性」と、一人ひとりがキャリアにおいて培ってきた「経験の多様性」とがあり、その双方を確保し推進していくことが組織の成長を加速させると考えています。

 ソニーのマネジメントは多様な属性・経験や専門性を有するメンバーで構成されていますが、さらなる多様性の進化へのコミットメントとして、新たに数値目標を掲げ、当社の役員*6に占める女性比率及び外国籍比率を2030年までにそれぞれ30%以上にすることをめざします。

 

*6 取締役、執行役を含む上級役員及びその他の役員。

 

 また、2023年度において、2013年に制定したソニーの多様性への姿勢を示す「ダイバーシティステートメント」を見直し、新たに「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)ステートメント」として改訂しました。かかる改訂は、多様な人材の交錯がイノベーションの創出につながるという創業者の価値観を継承し、公平かつインクルーシブな職場環境づくりをめざすという意思はそのままに、社会の課題解決に向けても取り組みを広げていることを示しています。

 ソニーのグローバルでのDE&I推進の取り組みとしては、米国では、SMEにおける産業の発展にも寄与する多様性、公平性、インクルージョンの醸成を推進するフレームワーク“MILES”や、SPEにおける人材、コンテンツ、パートナー、コミュニティの四つの柱を軸に据えて社会的に機会に恵まれない人々を対象に支援を行う“Sony Pictures Action”等、社内外で広く機会を創出しています。また、国内も含め、2015年からは毎年“Diversity Week”を開催しており、世界中のソニーグループ各社で性別、人種、国籍、性的指向、性自認や障がいといった様々な多様性について理解を深めるイベントを実施しています。

 

① 属性の多様性

・国籍の多様性

 ソニーの主要事業の中には、映画事業や音楽出版事業等、日本以外の国籍の社員がその運営において主要な役割を担っている事業があります。そして、ソニーグループ全社員のうち約半数が日本国外での事業活動に従事しており、そのうちの9割以上が現地採用社員です。グローバルに展開するR&Dや㈱ソニーリサーチ(旧㈱ソニーAI)でのAI等の先端技術開発を推進できる人材についても、国籍を問わず採用する活動を強化しており、世界中から優秀な学生や経験者を採用する取り組みを積極的に続けています。
 
・性別の多様性

 多様な人材が活躍する職場環境の推進の一環として女性の活躍推進の実現に向けた取り組みをグローバルで進めており、2023年度末時点のソニーグループ全社員のうちの女性社員比率は34.0%、管理職に占める女性労働者の割合(以下「女性管理職比率」)は30.7%です。一方で、日本国内企業の女性管理職比率は海外企業と比べて低いことから、国内主要会社各社で数値目標を定めて比率の向上に取り組んでいます。次世代に目を向けると、教育課程において理工系分野を専攻する女性の数が限定的であり、グループとして注力すべき領域と捉えています。新たに立ち上げた「SONY STEAM GIRLS EXPERIENCE」では、理工学を学ぶ日本国内の女子学生を対象とした奨学金プログラムと、女子中高生に向けて理工系分野の面白さを伝える「STEAM GIRLS バトンプログラム」を実施することで、意欲的な学びを支え、次世代の女性エンジニアの育成を支援しています。

 女性社員の継続的育成の観点では、女性リーダーの育成やキャリアアップを後押しする研修や、女性社員を対象とした座談会や交流会等を開催しています。また、当社及び国内主要子会社において、女性管理職比率及び男性労働者の育児休業取得率(以下「男性育休取得率」)を向上させるため、二つの目標を以下のとおり設定しています。

 

提出会社及び国内の主要な連結子会社における女性管理職比率に係る目標及び実績

会社名

2025年度末目標 *1

2024年3月末実績

ソニーグループ㈱

20.0

18.4

ソニー㈱

10.0%

 8.4%

ソニーセミコンダクタ

ソリューションズ㈱

   4.4% *2

 4.3%

㈱ソニー・インタラクティブ

エンタテインメント

15.0%

14.2%

㈱ソニー・ミュージック

エンタテインメント

28.0%

25.9%

ソニーフィナンシャルグループ *3

18.0%

15.9%

(注)*1「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」(平成27年厚生労働省令第162号)の規定にもとづく「管理職に占める女性労働者の割合」の2025年度末時点の目標について記載しています。

*2 女性活躍推進法にもとづく行動計画において定めた2025年度末時点での女性管理職目標人数が2024年3月末時点管理職総数に占める割合です。

*3 ソニーフィナンシャルグループ傘下の対象各社(SFGI、ソニー生命(同社本社の内勤社員のみ)、ソニー損保、ソニー銀行、ソニー・ライフケア㈱、ライフケアデザイン㈱及びプラウドライフ㈱を指す。下表の注においても同じ。)の2025年度末時点の女性管理職の目標人数及び2024年3月末時点の人数実績をそれぞれ合算し、それぞれの合計の数値を、目標については2025年度末時点の想定社員数の合計で、実績については2024年3月末時点の社員数の合計で、それぞれ除した数値を記載しています。

 

提出会社及び国内の主要な連結子会社における男性育休取得率に係る目標及び実績

会社名

2025年度目標 *1

2023年度実績*1

ソニーグループ㈱

100

76

ソニー㈱

100%

86%

ソニーセミコンダクタ

ソリューションズ㈱

100%

96%

㈱ソニー・インタラクティブ

エンタテインメント

100%

81%

㈱ソニー・ミュージック

エンタテインメント

100%

40%

ソニーフィナンシャルグループ

100%

86%*2

(注)*1 育児・介護休業法の規定にもとづき、2025年度目標については、2026年3月末時点で在籍しており2025年度に配偶者が出産する男性社員(出向受入社員を除く)のうち、同年度中に育児・介護休業法施行規則第71条の4第2号が定める育児休業等をするものの数及び育児を目的とした休暇制度を利用するものの数の合計数の割合についての目標を、2023年度実績については、2024年3月末時点で在籍しており2023年度に配偶者が出産した男性社員(出向受入社員を除く)のうち、同年度中に育児休業等をしたものの数及び育児を目的とした休暇制度を利用したもの(以下まとめて「男性育休取得者」)の数の合計数の割合(小数第1位以下を切り捨て)を、それぞれ記載しています。

*2 ソニーフィナンシャルグループ傘下の対象各社の2024年3月末時点で在籍している2023年度の男性育休取得者の人数の合計数を、2024年3月末時点で在籍しており2023年度に配偶者が出産した男性社員(出向受入社員除く)数の合計値で除した数値を記載しています。

 

・LGBTQ+の社員の活躍推進
 LGBTQ+の社員が、自分らしく、安心して働くことができる職場環境づくりを国・地域の実情に合わせて推進し、多様な社員を包摂するインフラの整備を行っています。

 2022年度には、レインボーカラーで表示したソニーロゴタイプの「Prideロゴ」を導入しました。これは、グループ共通の取り組みとして、ソニーがLGBTQ+の社員及びコミュニティを尊重し支援する姿勢を社内外に視覚的に表明することを目的としています。

 また、LGBTQ+の社員への対応だけでなく、全社員を対象としたeラーニングやワークショップの実施、誰もが働きやすい職場環境についての意識啓発イベントやパレード参加等にグローバルで取り組んでいます。SPEでは、社員が主体となって運営するEBRG(Employee Business Resource Group)の活動が活発に行われており、従来参加している米国カリフォルニアに加え、2023年にはロンドンでのPrideパレードにSPEのOUT EMEA @ Sony Picturesが初めて参加しました。日本では、多様な社員を包摂する職場環境を確保すべく、配偶者に適用される人事関連制度の一部を同性パートナーにも適用しており、多目的トイレの設置、採用時における性別欄の任意記入、個室(トイレ・浴室付)社員寮の手配等にも取り組んでいます。

 

・障がいのある社員の活躍推進

 創業者の一人である井深大の「障がい者だからという特権なしの厳しさで、健丈者よりも優れたものを、という信念を持って」活躍してほしいという思いを理念とし、「障がいを感じない、働き甲斐のあるソニーらしい障がい者雇用環境」づくりをめざしています。それぞれの国や地域の法令や規範を遵守し、障がいの有無にかかわらずキャリア構築ができるインクルーシブな職場環境づくりに、グループ一体となって取り組んでいます。

 ソニーは、障がいのある人のインクルージョンに焦点を当てた世界経済フォーラムのイニシアティブ「The Valuable 500」に署名しています。ソニーのインクルーシブな職場環境への思いは本イニシアティブの考え方とも共通しており、「The Valuable 500」の署名企業の中から、推進役として国や地域、業界をリードするIconic Partnersの1社に選ばれています。米国では、ビジネスにおける障がい者インクルージョンに注力している社外団体と連携しながら、障がいのある社員への教育機会の提供に加え、国際障がい者デーなどの啓発活動を積極的に行い、様々なグローバルイベントを展開しています。日本では、3つの特例子会社を自立した一つの事業所として運営を行い、異なるバックグラウンドや経験を持つ社員が活躍することで、様々な視点やアイデアが生まれ、個々の業務を通じた対応から得られた障がい者雇用にかかわる合理的配慮やアクセシビリティのノウハウをグループ全体に展開し、井深の考え方を実践したソニーらしい障がい者雇用を推進しています。

 

② 経験の多様性

 他社又は様々な職種での経験を通して培われた新たな知見や視点が加わることで組織の成長につながると考え、長年、他社や他職種の経験者(以下「他社・職種経験者」)の採用を積極的に推進しています。当社及び国内の連結子会社における入社者全体に占める他社・職種経験者の割合は、2022年度52.5%、2023年度50.7%となっており、海外では大半が他社・職種経験者となっています。入社後の人事評価においても、他社・職種経験者と新卒入社者とを区別していません。

 そして、ゲームタイトル開発など成長領域におけるM&Aや戦略的提携により、2012年度から2023年度までに6,000人以上が新たにソニーグループに加わっており、社員のバックグラウンドの多様化による事業の成長に寄与しています。

 

 Purposeの下、ソニーの持続的な成長や社会への価値創造をめざし、人材の多様性の確保とインクルーシブな組織の構築に向けた取り組みにより一層注力していきます。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況などに関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあると考えています。なお、当該事項は、本書提出日現在において入手し得る情報にもとづいて判断したものです。

 

(1) ソニーは収益又は営業利益率の低下につながりかねない一層激化する競争を克服しなければなりません。

 ソニーは、業種の異なる複数のビジネス分野に従事しており、さらにそれぞれの分野において数多くの製品・サービス部門を有するため、大規模な多国籍企業から、単一又は数少ないビジネス領域に特化し高度に専門化した企業にわたって、業界の既存企業や新規参入企業などの多くの企業と競争しています。また、潜在的には現在ソニーに製品を供給している企業も競合相手となる可能性もあります。これらの既存の及び潜在的な競合他社がソニーより高度な財務・技術・労働・マーケティング資源を有する可能性があり、ソニーの財政状態及び業績は、当該既存及び新規参入の競合他社に効率的に対抗する能力にかかっています。

 ソニーが直面する競合要因は業種により異なります。例えば、エレクトロニクス領域において、ソニーは、競合他社との間で価格や機能を含む様々な要素で競争しています。また、音楽分野及び映画分野では、アーティスト、作詞家、俳優、ディレクター、及びプロデューサーといった才能ある人材ならびに製作・制作、取得、ライセンス、又は配信されるエンタテインメント・コンテンツを得るため競争しています。競合他社との価格競争は、価格の下落に比例して費用が下落しない場合には利益率の低下につながり、また、才能ある人材と魅力的なコンテンツ獲得競争も、そのような才能ある人材やコンテンツの獲得に必要とされる費用の増加を増収により埋め合わせできない場合には、収益力の低下につながる可能性があります。また、生成AIなどの革新的な技術の進化や競合他社による活用等により、既存のビジネスモデルが毀損する可能性があります。さらに、イメージセンサーのように、現在ソニーが強い競争力を有していると考えられる製品においても、競合他社の技術力の向上により、ソニーがその優位性を保てなくなる可能性もあります。また、一般消費者向けエレクトロニクス製品においては、製品に対する消費者の関心が絶えず変化し、例えば、消費電力の低減や、製品や包装材として地球環境に配慮した材料の使用を求めるなど、一層多様化する消費者の嗜好に訴求する製品を作るため、あるいは、消費者の多くが同種の製品をすでに保有しているという状況に対処するために、ソニーはより優れた技術を開発し、消費者の嗜好を予測し、競争力ある価格と特長を有する、魅力的で差異化された製品を迅速に開発する必要があります。ソニーは、様々な一般消費者向け製品において、一層激化する競合他社との価格競争にともなう価格低下圧力の高まり、小売業者の集約化、新規の販売・流通チャネルの構築、及び製品サイクルの短期化に直面しています。音楽分野及び映画分野における業績は、予測が困難である作品に対する世界中の消費者からの支持による影響、ソニーの作品に代わり消費者が利用可能な娯楽及びレジャー活動による影響、ならびに、同時期もしくは近接した時期に公開された他の競合作品による影響を受ける可能性があります。例えば、映画分野では、全米脚本家組合(以下「WGA」)及び映画俳優組合-米テレビ・ラジオ芸術家連盟(以下「SAG-AFTRA」)が2023年に実施したストライキにより中断されていた製作活動の再開にともなって劇場公開作品が増加する中で、主要スタジオ各社による映画公開スケジュールが過密となり、公開可能なスクリーンを巡って競争が激化することにより、映画分野の業績に悪影響が出る可能性があります。

 仮に、ソニーが、技術その他の競争力を持つ分野においてその優位性を保てなくなった場合、ソニーの一般消費者向け製品に対して頻繁に影響を及ぼす継続的な価格下落又はその事業に影響を及ぼすコスト圧力について効果的に予測し対応できない場合、既存の事業モデルや消費者の嗜好が変化した場合、又はソニーの一般消費者向け製品の平均価格の下落スピードが当該製品の製造原価削減のスピードを上回った場合には、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) ソニーは、競争力を維持し消費者の需要を喚起し、製品及びサービスの革新を実現するために研究開発投資を行う必要があり、また、新しい製品及びサービスの頻繁な導入を適切に管理しなければなりません。

 ソニーは、製品及びサービスの競争力を強化するため、特にG&NS分野及びI&SS分野といった成長分野において、研究開発投資を継続的に行っています。しかしながら、ソニーとして、著しい成長可能性を持った製品及びサービス、ならびに市場動向を特定できなかった場合やそれらを把握できなかった場合、研究開発投資が成功しない可能性があります。加えて、ソニーの研究開発投資が革新的な技術を生み出さない可能性、想定した成果が十分かつ迅速にもたらされない可能性、又は競合他社に技術開発を先行されてしまう可能性があります。これらは、競争力のある新たな製品やサービスを商品化するソニーの機会を妨げる要因となり得ます。

 ソニーは、継続的にエレクトロニクス製品及びサービスを導入し、これらを拡充させることにより、顧客の需要を喚起し続けていく必要があります。これらの製品及びサービスは、年末商戦における消費者需要に特に影響を受けます。G&NS分野の売上及び収益性には、ストリーミングを含め、プラットフォームの導入及び普及の成否が重要な影響を及ぼし、この成否は、魅力的なソフトウェアの品揃えとオンラインサービスが消費者に提供されるか否かに影響されます。しかしながら、外部のソフトウェアの開発事業者や開発・販売事業者、主要な協力業者がソフトウェアの開発や供給をし続ける保証はありません。加えて、ソニーは、売上の拡大及び収益性の向上を図るために、ハードウェア、AIを含むソフトウェア、エンタテインメント・コンテンツ及びネットワークサービスの統合を促進させること、消費電力を最小限に抑えること、ならびにそのような統合の効果を達成するための研究開発への投資が不可欠であると考えています。しかしながら、この戦略は、AI及びネットワークサービス技術のさらなる開発能力、ソニーの様々な事業ユニット・販売チャネル間の戦略上及びオペレーション上の課題の調整と適切な優先順位付け、ユーザーインターフェースを含むエネルギー効率に優れたネットワークプラットフォームをシームレスに接続するための、消費者にとって革新的であり、エネルギー効率に優れ、かつ価格競争力のある魅力的な高性能ハードウェアの継続的な提供に依存しています。そして、業界内やネットワークに接続可能なソニーの製品や事業間における技術やインターフェース規格の標準化を行う能力にも依存しています。加えて、G&NS分野、音楽分野及び映画分野では、消費者の支持を得られるかどうかが分かる前に、社内で開発されたソフトウェアのタイトル、アーティスト、ミュージック・カタログ、映画作品、テレビ番組の製作及び番組の放送に関連して、相当の先行投資を含め、多額の投資を行わなければなりません。さらに、映画作品の初期の流通市場における業績と、その後の流通市場における業績には高い相関性がみられるため、初期の流通市場における映画作品の業績が想定を下回った場合、公開年及び将来におけるソニーの業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。

 新製品及びサービスの導入ならびに切り替えの成功は、開発をタイムリーにかつ成功裏に完了させること、市場における受け入れ度合、効果的なマーケティング戦略の企画及び実行、新製品の導入の管理、生産立ち上げ時における課題への対処、新製品向けアプリケーションソフトウェアが入手できること、品質管理、及び年末商戦における消費者需要の集中度など、数多くの要素に依存しています。研究開発への投資に対して想定した成果を達成できない場合、新製品及びサービスの頻繁な導入を適切に管理できない場合、新製品やサービスが消費者に受け入れられない場合、又は統合戦略を実行できない場合、ソニーの評判、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) ソニーの戦略的目的を達成するための買収、第三者との合弁、投資、資本的支出、組織再編成、構造改革は成功しない可能性があります。

 ソニーは、技術獲得や効率的な新規事業開発のため、又は事業の競争力強化のため、買収、第三者との合弁、資本的支出及びその他の戦略的出資を積極的に実施しています。例えば、2022年度には、米国の独立系ゲーム開発会社Bungieの全ての株式の取得、Epic Gamesへの追加の戦略的出資、本田技研工業株式会社とのモビリティ分野における合弁会社の設立を行いました。

 買収や合併の完了は、関係当局の承認及び許可の取得等が条件となる場合がありますが、競争法制度や競争法当局の審査の厳格化により、確定契約締結後の審査に想定以上の時間がかかる可能性や承認もしくは許可を得られない可能性があります。また、買収・合併する会社の戦略や財務状況の想定外の変化等により、確定契約において定められた取引完了の前提条件が満たされず、買収や合併が想定どおり進展しない可能性や、確定契約が変更又は解除される可能性があります。その結果、ソニーが事業機会を逸失し、当初想定した買収や合併の効果の一部又は全部を実現できない可能性があります。

 ソニーは、買収・合併する会社の技術、会計、税務、財務、人事及び法的な観点等における包括的な分析と評価を行いますが、多額の買収コスト又は統合費用の発生や、新たに買収・合併した会社におけるIT及び情報セキュリティリスク、想定したシナジーが実現できないこと、期待された収益の創出とコスト改善の失敗、主要人員の喪失や債務の引受け等により、ソニーの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

 ソニーが第三者と合弁会社を設立したり戦略的パートナーシップを構築する場合、ソニーの財政状態及び業績は、パートナーとの戦略の相違又は文化的相違、利害の対立、シナジーが実現できないこと、合弁会社及びパートナーシップ維持のために必要となる追加出資や債務保証、合弁パートナーからの持分買取義務、ソニーが保有する合弁持分の売却義務、もしくはパートナーシップの解消義務、キャッシュ・フローの管理を含む不十分な経営管理、特許技術やノウハウの喪失、減損損失、及びソニーブランドを使用する合弁会社の行為又は事業活動から受ける風評被害により、悪影響を受ける可能性があります。

 ソニーは、スマートフォンやその他の製品向けイメージセンサー用製造設備を含む生産設備や装置に多額の投資を行っています。ソニーは、競争環境、想定を下回る消費者需要、ソニーの主要顧客の財政状態やビジネス上の意思決定の変更又は生産設備や装置の調達の遅れに起因して、これらの資本的支出を計画どおりに実行できない又は一部もしくは全部を計画した期間内に回収できない場合があります。ソニーは、イメージセンサーの生産能力増強などのために、2022年度及び2023年度にそれぞれ、3,559億円及び3,396億円の資本を投資しました。

 さらに、ソニーは、収益力、事業の自律性及び株主価値を向上させ、また、ソニー全体の事業ポートフォリオにおける各事業の位置づけを明確にするため、構造改革及び事業構造変革の施策を実施しています。しかし、社内外で生じるビジネス上の阻害要因や予想を上回る市況の悪化が原因となり、想定された収益性レベルの達成を含め、これらの施策の実施によって期待される恩恵が得られない可能性があります。ソニーがこれらの施策を達成できない場合、ソニーの業績、財政状態、評判、競争力又は収益性に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、本書提出日現在において、金融事業を営むSFGIについて、2025年10月のパーシャル・スピンオフ(以下「本スピンオフ」)の実行及びSFGI株式の上場に向けた具体的な準備を行っています。本スピンオフの実行に向けた検討事項には、SFGI株式を上場する市場、現物配当に関して当社のADR(米国預託証券)保有者との関係で必要となる手続、各国における税制適格要件の充足可能性等が含まれていますが、現時点では、本スピンオフが日本をはじめとする各国の税制適格要件を充足することが保証されているわけではありません。本スピンオフの実行及びその時期は、これらの事項の検討を経て最終的に選択した手法に関する証券取引所その他の関係当局の承認や認定、許認可等の取得を前提としています。

 

(4) ソニーの売上や収益性は卸売事業者、小売事業者、その他の再販売事業者及び第三者の販売業者の業績の影響を受ける可能性があります。

 ソニーは、製品の流通を卸売事業者、小売事業者、その他の再販売事業者及び第三者の販売業者に依存しており、その多くが競合他社の製品を同時に取り扱っています。例えば、携帯電話キャリアを通して販売されるソニーのスマートフォンは、そのキャリアから補助金を受けている場合があります。これらのキャリアとの契約更新又は新しいキャリアと締結する契約において、今後もそのような補助金が同額で継続し、又は補助金そのものを継続的に受けられる保証はありません。映画分野では、映画配給においては第三者の映画館運営会社に、映画やテレビ番組の配信においてはケーブル、衛星、インターネット及びその他配信システムに依存しており、当該第三者からソニーが受領するライセンス料の減少が映画分野の売上に悪影響を与える可能性があります。映画分野における様々なテレビネットワークを通じた配信も、第三者のケーブル、衛星及びその他配信システム経由で行われ、これらの第三者配信会社との契約を更新できない、又は不利な条件で契約を更新する場合は、これらの第三者ネットワークを通じた広告販売及び予約販売の実績に悪影響を及ぼす可能性があります。ソニーは、卸売事業者、小売事業者、その他の再販売事業者及び第三者の販売業者に対して、ソニー製品を市場に導入し、販売を促進するインセンティブを与えることを目的としたプログラムに資金を投入しています。しかしながら、それらのプログラムの提供が、消費者を競合他社の製品の代わりにソニー製品を買うように促し、結果的にソニーに大きな利益や追加収入をもたらすことを保証するものではありません。

 多くの卸売業者、小売業者、その他の再販売事業者及び第三者の販売業者の業績及び財政状態は、特にオンライン小売業者との競争と景気の後退により悪影響を受けます。これらの業者の財政状態が継続的に悪化したり、ソニー製品を取り扱うことを中止したり、もしくはソニー製品に対する需要が不透明になるなどの要因によりこれらの業者がソニー製品の発注数やマーケティング活動、販売奨励金、又は販売を減少させたり縮小させたりするような場合、ソニーの業績及び財政状態は悪影響を受ける可能性があります。

 

(5) ソニーはグローバルに事業を展開しているため、多くの国々において広範な法規制の適用を受けるとともに、企業の社会的責任を含むサステナビリティに係る取り組みに関する株主、消費者、地域社会、NGO等の外部ステークホルダーの関心の高まりに直面しています。これらの法規制や外部ステークホルダー及び規制当局の関心は大きく変わる可能性があり、その変化がソニーの事業活動費用の増加、事業活動の制約及びソニーの評判への悪影響につながる可能性があります。

 ソニーはグローバルに事業を展開しているため、広告、販売促進、消費者保護、輸出入、腐敗防止、反競争的行為、環境保護(気候変動対策にともなう脱炭素規制及び特定の有機フッ素化合物等の有害物質の使用・漏出に係る規制を含む)、データプライバシー及びデータ保護、コンテンツや放送規制、AIの開発や利用、知的財産、労働、安全衛生、製造物責任、課税(デジタルサービスからの収入に係る税金を含む)、外国投資規制、政府調達、為替管理、経済制裁を含む多数の地域における事業活動に影響を与える世界中の多くの国々の法規制の適用を受けます。

 これらの法規制を遵守することは事業活動における負担をともない、また、遵守にともない費用が発生する可能性があります。これらの法規制は継続的に変更されるとともに、管轄ごとに異なるものとなる可能性があり、その遵守や事業遂行にかかる費用が増加する可能性があります。このような変更は、場合によっては頻繁に又は事前の通知なくして起こり、消費者にとってのソニー製品又はサービスの魅力の低下、新製品又はサービスの導入の遅延もしくは禁止、あるいはソニーの事業遂行の変更や制約に結びつく可能性があります。例えば、米国及びその他の地域における貿易制限措置及び報復措置の導入が、ソニーの製品に賦課される関税率の増加、部品の調達費用の増加、又は既存及び将来的なソニーの製品及びサービスの顧客への販売の制限又は中止につながり、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。I&SS分野において、2020年8月に発表された米国政府による輸出規制に従い、ソニーの中国の特定顧客に対するイメージセンサーの出荷を同年9月から一時的に停止していました。その後、米国政府の輸出許可を得て、当該顧客に対する一部の出荷を再開したものの、輸出規制が発効する前に比べて、イメージセンサーの売上が減少しました。また、2020年度において、当該顧客向けのイメージセンサーの在庫に関する評価減を計上しました。加えて、ソニーがオンライン上を含め事業を行う上で依拠又は適用を受ける法規制又はそれに関連する裁判所の解釈に変化が生じた場合や、ソニーがこのような変化を想定できなかった場合にも、ソニーの法的責任に対するリスクの増加、法規制遵守のための費用の増加又は一部の事業活動に対する制限、制約もしくは中止を含む事業活動の変更につながる可能性があります。また、欧州、米国などの規制当局はAIに関する法規制を進めています。ソニーはAIの開発や利用を行っていることから、それら法規制の遵守にともなう費用が増加する可能性があります。

 ソニー、又はソニーの役員・従業員、第三者サプライヤー、ビジネスパートナー、もしくは代理人が法規制に違反すると、ソニーが罰金、刑罰、法的制裁の対象となり、また、ソニーの事業遂行への制約や評判への悪影響につながる可能性があります。加えて、気候変動やサプライチェーンにおける人権保護など、企業のサステナビリティに係る取り組みに対し、全世界的に規制当局や外部ステークホルダーの注目が高まっており、また、これらの事項に関する情報開示の法的規制が強化されています。例えば、アジア地域で操業する電子部品及び製品の製造事業者や製造/設計受託事業者(OEM/ODM)における労働環境を含む労働慣行への注目が高まっています。ソニーは製品の製造に多くの部品や原材料を使用しており、それらの部品や原材料の供給を第三者サプライヤーに依存しているため、これらの領域における規制の強化や外部ステークホルダーの関心の高まりによって、ソニーの法規制の遵守にかかる費用が増加する可能性があります。さらに、かかる法規制の不遵守があった場合、又は外部ステークホルダーの関心の高まりに対してソニーが適切に対処していないとみなされた場合には、それが法的に求められているか否かにかかわらず、ソニーの評判、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) ソニーは市況変動の大きい環境のなか、部品・原材料、ソフトウェア、及びネットワークサービスの在庫量、入手可能性、費用及び品質をコントロールするために第三者のサプライヤー及びその他のビジネスパートナーからの大量かつ広範な調達品を管理する必要があります。

 ソニーの製品やサービスは、例えば、半導体、プレイステーションのゲーム機及びモバイル製品向けチップセット、ならびにモバイル製品、テレビ及びサービスに利用されている液晶パネルやアンドロイドOSを含め、部品・原材料、ソフトウェア、及びネットワークサービスに関して、第三者のサプライヤー及びその他のビジネスパートナーに大きく依存しています。したがって、第三者サプライヤーやパートナーにおけるこれらの供給不足、当該第三者サプライヤーやパートナーから提供を受ける部品等の価格変動、品質問題、製造の中止、取引条件の変更、又は第三者サプライヤーやパートナーがエレクトロニクス領域以外の顧客あるいはソニーの競合他社を優先させた場合、ソニーの業績、ブランド及び評判に悪影響を与える可能性があります。例えば、2020年度の後半から2022年度の前半にかけて顕著であった世界的な半導体不足について、2023年度末時点では半導体の世界的な供給は安定していますが、再び供給に制約が生じた場合、ソニーの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、第三者のソフトウェア及び技術への依存は、競合他社の製品とソニーの製品との差異化をますます難しくする可能性があります。さらに、特にソニーが一社に部品の調達を依存している場合、特注の部品の生産能力に限界がある場合、もしくは新しい技術を使用する製品の初期生産能力に制約がある場合には、部品の供給不足や出荷遅延が生じ、その結果、ソニー又はビジネスパートナーの製造事業所における生産調整又は生産停止が起こる可能性があります。

 ソニーは消費者需要の予測にもとづいて事前に決定した生産量及び在庫計画に沿って部品を発注していますが、そうした消費者需要の変動は大きく、また、予測が難しいものです。不正確な消費者需要予測や不十分な在庫管理は、在庫不足もしくは過剰在庫を招き、その結果、生産計画に混乱が生じることにより売上の機会損失や在庫調整につながる可能性もあります。ソニーでは、部品や製品が陳腐化したり、在庫レベルが使用見込み数量を上回ったり、もしくは在庫の帳簿価額が正味実現可能価額を上回る場合には、在庫の評価減を行います。過去にこのような売上機会の損失及び在庫調整、ならびに部品の供給不足がソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼしたことがあり、今後も及ぼす可能性があります。

 

(7) ソニーの売上、収益性及び事業活動は、世界及び地域の経済動向及び政治動向ならびに情勢に敏感です。

 ソニーの売上及び収益性は、ソニーが事業を営む主要市場の経済動向に敏感です。2023年度のソニーの売上高及び金融ビジネス収入において、日本、米国、欧州における構成比はそれぞれ23.3%、28.8%、20.2%でした。これらの市場が深刻な景気後退に陥ると、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。ソニーの主要市場における経済状況の悪化や今後悪化するという見通しにより、最終消費が低迷して法人顧客の事業が悪影響を受け、その結果、ソニーの製品やサービスに対する需要が減少する可能性があります。

 また、ソニーは世界各地において事業活動を行っており、このような世界規模での事業遂行、特に一部の新興市場での事業遂行には困難がともなうこともあります。例えば、ET&S分野、I&SS分野及びG&NS分野においては、中国やその他のアジアの国々・地域において製品及び部品を生産、調達しているため、これらの地域外の市場に製品を供給するために要する時間が長くなり、変化する消費者需要に迅速に対応することがより難しくなる可能性があります。さらにソニーは、複数の国において、ソニーにとって望ましくない政治的・経済的な要因により、事業を企画・管理する上で困難に直面する可能性があります。この例としては、武力紛争、外交関係の悪化、通商政策の変更、期待される行動規範からの逸脱、及び十分なインフラの欠如などがあります。不安定な国際政治又は国内政治・軍事情勢が今後生じた場合、ソニーやそのビジネスパートナーの事業活動が阻害されることにより、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、2021年度に発生したウクライナ・ロシア情勢の悪化を受け、本書提出日現在において、ソニーはロシアにおける事業を中断しています。今後、情勢がさらに悪化した場合、国際情勢の不安をもたらし、ソニーの他地域での事業又は世界的な経済状況の悪化につながり、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) ソニーの業績及び財政状態は外国為替変動の影響を受ける可能性があります。

 ソニーの製品の多くは開発、製造された国・地域と異なる国・地域で販売されるため、ソニーの業績と財政状態は外国為替相場の変動による影響を受けます。例えば、エレクトロニクス領域においては、研究開発費や本社間接費は主に円で、原材料及び部品の調達や外部委託生産を含む製造費用は主に米ドル及び円で発生しています。売上は日本・米国・欧州・中国・新興国市場を含むその他地域において、それぞれの地域の通貨で計上されています。結果として、特に米ドルに対する大幅な円安、ユーロに対する大幅な円高、ならびに新興国通貨に対する米ドル高は、ソニーの業績に悪影響をこれまでも及ぼしており、今後も及ぼす可能性があります。また、ソニーの連結損益計算書は世界中の各子会社の現地通貨ベースの業績を円換算して作成されていることから、外国為替相場の変動が、かかる換算にともないソニーの業績に悪影響を与える可能性があります。さらに、近年では中国や新興国市場を含むその他地域におけるビジネス拡大とともに、これらの地域の通貨の米ドル及び円に対する為替レートの変動の影響も大きくなっています。中長期的な為替レート水準の変動により、ソニーの経営資源のグローバルな配分が妨げられたり、ソニーが研究開発、資材調達、生産、物流、販売といった活動を、収益力を保った形で遂行する能力が低下したりする可能性があります。

 また、ソニーは、短期の外貨建て債権債務(純額)の一部を取引が発生する前にヘッジすることで為替リスクの低下に努めていますが、かかるヘッジ活動によっても、ヘッジされている為替について限られた期間に為替が不利に変動する場合に、全くもしくは一部しか財政状態への悪影響を解消できない可能性があります。

 さらに、ソニーの連結財政状態計算書は世界中の各子会社の現地通貨ベースの資産及び負債を円換算して作成されるため、米ドル及びユーロならびにその他の外国通貨に対して円高が進行すると、ソニーの自己資本に悪影響を与える可能性があります。

 

(9) 信用格付けの低下や国際金融市場における深刻かつ不安定な混乱状況は、ソニーの資金調達や資金調達コストに悪影響を及ぼす可能性があります。

 ソニーの業績及び財政状態の悪化は、ソニーの信用格付け評価にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。信用格付けの低下は、資金調達コストの上昇を招き、ソニーのコマーシャル・ペーパー(以下「CP」)及び中長期債市場からの受諾可能な条件での調達に悪影響を与える可能性があります。

 また、国際金融市場が深刻かつ不安定な混乱状況に陥った場合、金融その他の資産価格全般に下落圧力が生じたり、資金調達に影響が生じたりする可能性があります。従来、ソニーは、営業活動によるキャッシュ・フロー、CP及び中長期債の発行、銀行やその他の融資機関からの借入金などにより資金を調達してきました。しかしながら、将来にわたってこのような資金源からソニーにとって受諾可能な条件で必要かつ十分な資金調達が可能となる状況が継続するという保証はありません。

 その結果、ソニーは弁済期限到来時のCPや中長期債の返済、その他事業遂行上必要ある場合や必要な流動性を賄うために、金融機関と契約しているコミットメントラインや資産の売却などの代替的な資金源を活用する可能性がありますが、そのような資金源からソニーにとって受諾可能な条件で必要かつ十分な資金調達ができない可能性があります。その結果、ソニーの業績、財政状態及び流動性に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(10) ソニーの成功は、挑戦心と成長意欲に満ちた多様な人材との良好な関係の維持と、それら人材の採用・確保に依存しています。

 ソニーが、ますます競争が激しくなる市場において、コンテンツの制作やサービスの開発、製品の設計、製造、マーケティング及び販売を継続するためには、マネジメント人材、クリエイティブな人材、及びハードウェアやソフトウェアエンジニアなどの高い専門性や豊富な経験を持った内部及び外部の重要な人材を惹きつけ、確保し、それらの人材との間で良好な関係を維持することが必要となります。しかしながら、そのような人材には高い需要があります。加えて、事業譲渡や構造改革及びその他の事業構造変革施策の実施により、経験豊かな人材やノウハウが意図せず喪失又は流出してしまう可能性があります。また、特にエンタテインメント領域において、労働組合によるストライキが生じた場合、又はそのおそれがある場合、作品のリリースの遅れやコストの増加につながることもあります。例えば、映画分野では、WGAが2023年5月から同年9月にかけて、SAG-AFTRAが同年7月から同年11月にかけて、ストライキを実施しました。これらのストライキがコンテンツ制作に与えた影響により、映画製作における一部作品の劇場公開日の変更やテレビ番組制作における作品納入の後ろ倒しなどの悪影響が出ています。さらに、日本国内においては、少子高齢化にともなう労働人口の減少や、企業間の専門人材獲得競争の激化、人件費の高騰などが進んでおり、人事制度の設計・運用が不十分である場合、必要な人材を確保することが困難となる可能性があります。もしこれらの事象が起きた場合、あるいは高い専門性や豊富な経験を持った人材や重要なマネジメント人材を惹きつけ、確保し、良好な関係を維持できなかった場合、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(11) ソニーの知的財産は不正利用や窃取の被害を受け、また、第三者が保有する知的財産のソニーによる利用が制限される可能性があります。

 ソニーは、ソニーの製品やサービスに関連する知的財産の不正利用や窃取の被害を受ける可能性があります。例えば、デジタル技術、デジタルメディアの利用、世界的なインターネットの普及及び生成AIを含むAI技術の拡大は、ソニーが著作権で保護されたコンテンツを違法コピー及び盗用、偽造等から保護することを困難にさせ、正規の製品・サービスの販売にも悪影響を与えます。ソニーは、知的財産権の保護のために費用を計上しており、今後も引き続き費用を計上します。しかしながら、ソニーが行っているこれらの知的財産保護のための様々な取り組みが想定している効果を達成できない可能性があり、ソニーの競争上の地位や研究開発投資に悪影響を与えるおそれがあります。

 さらに、ソニーの知的財産権に関して紛争が生じたり、無効にされたりする可能性があります。また、ソニーの知的財産権が、ソニーの競争力を維持するうえで十分ではない可能性があります。

 また、多くのソニー製品やサービスは、第三者が保有する特許その他の知的財産権のライセンス供与を受けて設計・開発・製造されています。過去の経験や業界の慣行により、将来的にビジネスに必要な様々な知的財産権のライセンス供与を受け又は更新できるとソニーは考えていますが、全く供与されない、又は受諾可能な条件で供与されない可能性があります。そのような場合には、ソニーは、製品又はサービスの設計変更や、マーケティング、販売、あるいは提供もしくは配信の断念を余儀なくされる可能性があります。

 ソニーの製品やサービスに利用されている第三者の部品、ソフトウェア及びネットワークサービスを含め、ソニーの製品やサービスが第三者の保有する知的財産権を侵害しているという主張がソニーに対してなされており、また、今後もなされる可能性もあります。特に、新規技術やより高度な機能が製品及びサービスに導入されることにともない、競合他社又は第三者の権利者から、かかる主張がなされる可能性があります。ソニーは、かかる主張により、和解やライセンス契約の締結、又は多額の損害賠償金の支払いを余儀なくされる可能性があり、差止命令、あるいはソニーの製品やサービスの一部についてマーケティング、販売、又は提供の中止に直面する可能性があります。

 ソニーの知的財産権の第三者による不正利用や窃取を防止できない場合、必要とされる第三者の知的財産権のライセンスが受けられない場合、ソニーの知的財産権が無効になる場合、又は第三者との間で知的財産の権利侵害の訴えについて和解が成立する場合には、ソニーの評判、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(12) 新たな技術や配信プラットフォームによる消費行動の変化や、デジタル音楽配信会社による寡占度が高まること、及び配信会社自らがコンテンツを制作することは、音楽分野及び映画分野の業績に悪影響を与える可能性があります。

 音楽分野及び映画分野で使用される技術、特にデジタル技術は進化を続け、デジタルコンテンツの発掘及び消費の方法とプラットフォームは急速に変化しつつあります。このような技術の進歩は、消費者行動を変化させ、消費者が、デジタルコンテンツを消費するタイミング、場所及び方法を、これまでよりも消費者自身がコントロールすることを可能とさせています。

 デジタルストリーミングネットワークやその他新規メディアが普及した場合、従来のテレビ放送や劇場での映画鑑賞にも影響が及ぶことが考えられ、映画分野の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、より多くの音楽や映像コンテンツがデジタルストリーミングのネットワークで消費されることにより、デジタル音楽配信会社の寡占度がさらに高まり、ソニーの音楽コンテンツの競争力を減少させることで、ソニーの価格設定に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、デジタルの音楽や映像コンテンツの配信会社は生成AIなどの技術も活用して自らのサービスのための自社制作コンテンツを増やす可能性があり、ソニーが制作するコンテンツに対する需要が減少する可能性があります。ソニーがこのような変化に適切に対応できない場合、又は新たな市場の変化に効果的に適応することができない場合、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(13) 法令改正や金融市場の動向などが、金融分野の業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 ソニーの金融分野は、日本における保険や銀行といった法規制や監督の対象となる業界で事業を行っています。将来における法規制・政策などの改正・変更は、当該法規制や政策の遵守に対応するための費用の増加や事業活動に対する制約にもつながる可能性があります。なお、日本の監督官庁の指針にもとづく制約により、当社の金融分野の子会社と金融分野以外のソニーグループ会社間で資金の貸借を行うことは厳格に制限されています。

 また、金融分野においては、金利、外国為替レート及びインフレ率の変動、日本国債、国内社債、米国債、株式、不動産及びその他の投資資産の価値変動ならびに金利・株価・為替のインプライド・ボラティリティの変動が業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、ソニーの生命保険事業では、保有契約から生じる長期の負債特性に見合うように、一般勘定資産のうち大部分を超長期日本国債及び国内社債ならびに超長期米国債に投資しています。生命保険事業では、上述の市況変動により投資ポートフォリオの利回りが低下する可能性がある一方で、残存する保険契約の予定利率を保証しています。また、ソニーの銀行事業では、住宅ローンが貸出金の大部分、総資産の過半を占めています。上述の市況変動及び債務者の信用状況の悪化により不良債権の増加や担保不動産価値の減少が生じ、損失評価引当金の積み増しが必要となり、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ソニーの生命保険事業及び損害保険事業においては、上述の市況変動とこれらの変動に対するソニーの管理体制、又は日本における大地震や感染症などの疫病、あるいはその他の大規模災害の発生が、費用計上額の増加につながり、又は保険契約負債を履行する保険事業の能力に悪影響を及ぼす可能性もあります。

 保険事業における保険契約負債は、不確実な多くの保険数理上の前提にもとづいて計算されています。その計算前提が大幅に変更された場合や、上述の市況変動により、金融分野の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、保険契約負債の計算前提は、各報告期間末日時点での見直しが求められています。

 

(14) 大規模な災害や停電、新型コロナウイルスを含む感染症などが生じた場合、ソニーの設備や事業活動は被害や損害を受け、それがサプライチェーンや、製造その他の事業遂行における混乱を引き起こし、ソニーの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ソニーの本社及びイメージセンサー等の最先端の製造拠点の多くは、地震のリスクが比較的高い日本国内にあります。日本で大地震が起きた場合、特にソニーの本社がある東京、エレクトロニクス製品の製造事業所が所在する東海地方、又はイメージセンサーの製造事業所が所在する九州地方及び東北地方で起きた場合には、建物や機械設備、棚卸資産が被害を受けたり、製造事業所では生産活動が中断したりするなど、ソニーの事業は大きな被害を受ける可能性があります。例えば、2016年4月14日以降に発生した平成28年(2016年)熊本地震の影響で、九州地方にあるイメージセンサー製造事業所に損傷があり、その事業所における製造が中断しました。

 また、ネットワーク、情報通信システムインフラ、研究開発、資材調達、製造、映画やテレビ番組の製作・制作、物流、販売及び、オンラインやその他のサービスに使用される、ソニーやサプライヤー、外部サービスプロバイダ及びその他のビジネスパートナーの世界各地にあるオフィスや設備は、自然災害、新型コロナウイルスを含む感染症、テロ行為、武力紛争、大規模停電、大規模火災などの予期できない大惨事により、破壊されたり、一時的に機能が停止したり、混乱に陥ったりする可能性があります。これらのオフィスや設備のいずれかが前述の大惨事により重大な損害を受けた場合、事業活動の停止、設計・開発・生産・出荷・売上計上の遅れ、又はオフィスや設備の修繕・置換えにかかる多額の費用計上などが生じる可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症については、本書提出日現在において経済活動への影響はほぼ解消しましたが、新型コロナウイルス感染症やその他の感染症などにより経済活動が再び停滞した場合、ソニーの製品又はサービスの部品又は原材料の調達、生産、開発又は制作、及び販売又は提供に悪影響を及ぼし、結果として、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。G&NS分野では、部品のサプライチェーン上の問題からハードウェアの生産に再び悪影響が出る可能性があります。音楽分野では、対面でのコンサートその他のイベントの開催等が再び制限され、これらに関連する収益が減少する可能性があります。映画分野では、映画館が再び閉鎖された場合又は収容人数が制限された場合、劇場興行収入が減少する可能性があります。また、感染再拡大や外出制限等の感染対策の状況によっては、新作映画の製作やテレビ番組作品の制作のスケジュールの遅れ、広告収入の減少といった影響を再び受ける可能性があります。ET&S分野では、製造事業所の稼働停止や稼働率低下、サプライチェーンの混乱及び製品の販売店舗の世界的な閉鎖や休業による悪影響を受ける可能性があります。

 さらに、ソニーは、原材料及び部品の価格高騰や、法人顧客の需要減少による影響を受ける可能性があり、これらの場合には、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、気候変動の影響で気温上昇が進むにつれて異常気象が激甚化・頻発化することにより、上記のリスク及び不確実な要素に悪影響を与える可能性があります。

 

(15) ソニーあるいは外部のサービスプロバイダやその他のビジネスパートナーの情報セキュリティに対する侵害又はその他の不正行為があった場合、ソニーのブランドイメージ及び評判や事業への悪影響が及ぶ可能性や、ソニーが法的な責任を追及される可能性があります。

 ソニーならびに外部のサービスプロバイダ、サプライヤー及びその他のビジネスパートナーは、情報技術を広範に活用することで営業活動を行い、また、顧客に対しネットワークサービスやオンラインサービスを提供しています。これらの事業及びサービス、ならびにソニーのビジネス情報は、国家が支援する組織を含む悪意をもった第三者、犯罪組織、ソニーの役員・従業員、ソニーもしくは外部のサービスプロバイダ又はその他のビジネスパートナーの故意又は過失により侵害を受ける可能性があります。そのような組織や個人は、悪意のあるソフトウェアをインストールしたり、情報技術の脆弱性を利用したり、ソーシャル・エンジニアリングを用いて役員・従業員やビジネスパートナーのパスワードや機密情報を開示させたり、分散DoS(サービス停止)攻撃を仕組んだり、生成AIを悪用したりするなど、様々な技術の組み合わせにより、サービスを停止させる可能性があります。ソニーはこれまでにサイバー攻撃の対象とされたことがあります。詳細は、「第4 提出会社の状況」『4コーポレート・ガバナンスの状況等』(1)コーポレート・ガバナンスの概要 ② 企業統治に関するその他の事項 <サイバーセキュリティに関する活動状況>をご参照ください。

 サイバー攻撃がますます高度化かつ自動化し、より容易にツールやリソースを利用できるようになりつつあることから、外部からの不正な侵入の防止あるいは検知、侵入への対応、データへのアクセス制限、ビジネス情報の消失、破壊、改変、あるいは流出の防止、それらの攻撃の悪影響を抑制するためにソニーが行っている対策及びセキュリティへの取り組みや管理が、完全に安全な情報セキュリティを確保できる保証はありません。また、ソニーの役員・従業員は、出社による勤務と在宅勤務の併用を継続しています。ソニーは、在宅勤務者に対し適切な情報セキュリティ保護が確実に実施されるように措置を講じていますが、外部からの不正な侵入の防止あるいは検知、侵入への対応、データへのアクセス制限、ビジネス情報の消失、破壊、改変、あるいは流出の防止、それらの攻撃の悪影響を抑制するためにソニーが行っている対策及びセキュリティへの取り組みや管理が、完全に安全な情報セキュリティを確保できる保証はありません。その結果、個人を識別できる情報を含むソニーのビジネス情報の消失、破壊、漏洩、悪用、改変、又は承諾を得ない第三者による不正アクセスが発生し、ソニー、あるいは外部のサービスプロバイダ及びその他のビジネスパートナーの情報システム又は事業が破壊される可能性があります。また、悪意をもった第三者は、ソニーに知られることなく、ソニーの外部の事業パートナーを侵害するためのプラットフォームとしてソニーのネットワークに不正にアクセスする可能性があります。

 こうしたサイバーインシデントによって、多額の復旧費用が発生する可能性があります。加えて、ソニーのネットワークやオンラインサービス、情報技術への破壊行為、その他のソニーの情報セキュリティに対する侵害行為によって、売上の喪失、ビジネスパートナー及びその他の第三者との関係の悪化、専有情報の不正漏洩、改変、破壊あるいは悪用、ならびに顧客の維持や勧誘の失敗などが生じ、その結果、ソニーの事業や活動が重大な打撃を受ける可能性があります。さらに、これらの破壊や侵害行為がマネジメントの関心や経営資源の分散につながる可能性があります。他にも、メディアの報道に悪影響をもたらし、ソニーのブランドイメージや評判を傷つける可能性があります。また、ソニーは、訴訟や、規制当局による調査や法的措置を含む法的手続の対象となる可能性があります。ソニーが加入しているサイバー攻撃に対する保険は、発生する費用や損失の全額を填補できない可能性があり、その結果、ソニー又は外部のサービスプロバイダやその他のビジネスパートナーの情報セキュリティに対するそのような侵害その他の不正行為が、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

(16) 訴訟及び規制当局による措置が不利な結果に終わった場合、ソニーの評判、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。

 ソニーは、様々な国において事業の遂行に関して、訴訟及び規制当局による措置に服するリスクにさらされています。訴訟及び規制当局による措置により、ソニーは、多額かつ不確定な損害賠償や事業活動に対する制約を要求される場合がありますが、その発生の可能性や影響の程度を予測するには相当の期間を要することがあります。例えば、公正な競争に反する市場慣行に関して規制当局が行う調査が、訴訟や規制当局による措置につながる可能性があります。多大な法的責任や規制当局による不利な措置が課された場合や、訴訟及び規制当局による措置への対応に多大なコストがかかった場合、ソニーの評判や業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(17) ソニーは製品品質、製品セキュリティ及び製造物責任による財務上のリスクや評判を損なうリスクにさらされています。

 急速な技術の進化や、モバイル製品及びオンラインサービスに対する需要増にともない、一般消費者向けエレクトロニクス製品、業務用及び産業用製品、部品、半導体、ソフトウェア、ならびにネットワークサービスなどのソニーの製品・サービスは一層高機能かつ複雑になっており、また、多くの製品が常にインターネットやソニー又は第三者が提供するサービスにつながっている環境におかれています。ソニーは、製品品質及び製品セキュリティを維持しながら、技術の急速な進展や、モバイル製品及びオンラインサービスの需要増加に対応できない可能性があり、これにより、製造物責任問題に関するリスクが高まる可能性があります。その結果、ソニーの評判に悪影響を及ぼし、製品回収やアフターサービスなどの費用が発生する可能性があります。加えて、既存の製品及びサービスへの販売後のアップグレード、機能の拡充、又は新機能の導入に成功しない可能性や、既存の製品及びサービスを、他の技術及びオンラインサービスとの間で便宜的かつ効果的に連携させ続けることができない可能性があります。その上、インターネットに接続されている製品に対するサイバー攻撃は劇的に増加しており、ソニーの製品・サービスが他者からの攻撃にさらされる事態、顧客情報ならびにソニー及び他社の技術情報が流出する事態、又は製品・サービスが利用不能となる事態や他者への攻撃に悪用される事態が生じるおそれがあります。ソニーが導入したセキュリティ対策は、ソニーの製品及びサービスに対する侵害を防止できる保証はありません。

 そのため、ソニーの既存の製品及びサービスについて、顧客満足を維持できない可能性や、需要の減少、競争力の低下、あるいは陳腐化を招く可能性があり、その結果、ソニーの評判や業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、根拠の有無にかかわらず、ソニー製品に関するセキュリティ脆弱性、健康面や安全性の問題に関する申立て又は訴訟は、直接的に、ソニーのブランドイメージや、高品質な製品やサービスを提供する企業であるという評価に対して影響を与え、その結果として、ソニーの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。これらの問題は、ソニーがその製品を製造したか否かに関係なく、また、ソニーが直接顧客に販売する製品のみならず、半導体などのソニー製の部品が搭載された他社製品においても生じる可能性があります。

 

(18) ソニーの業績及び財政状態は確定給付制度債務により悪影響を受ける可能性があります。

 ソニーは、確定給付年金制度に関する会計基準に従い、確定給付年金制度ごとの確定給付制度債務の現在価値から制度資産の公正価値を控除した金額を確定給付負債又は資産の純額として認識しています。制度資産の公正価値が確定給付制度債務の現在価値を超過している場合、資産計上額は、利用可能な制度からの返還及び将来掛金の減額の現在価値を上限としています。制度資産の公正価値の減少や割引率の低下、その他の年金数理計算前提となる比率の変動による確定給付制度債務の現在価値増加にともない確定給付負債又は資産の純額が増加又は減少し、その結果、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、ソニーの業績及び財政状態は、日本の確定給付企業年金法の年金積立要求により悪影響を受ける可能性があります。確定給付企業年金法により、ソニーは定期的な財政再計算や年次の財政決算を含む年金財政の検証を行うことが求められています。法定の責任準備金などに対して制度資産の公正価値がこれを下回り、かつ法令もしくは特別な政令などにより認められた期間内にそのような状況が回復しないと見込まれる場合には、ソニーは年金制度への追加拠出が必要となり、キャッシュ・フローを減少させる可能性があります。同様に、海外の年金制度についても各国の法令にもとづき追加拠出が必要となる場合、キャッシュ・フローを減少させる可能性があります。また、今後、法令が定める掛金の更新にともなって制度資産の長期期待収益率などの前提を見直したことにより、年金制度への拠出金の水準が引上げられた場合、ソニーのキャッシュ・フローに対して悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(19) 繰延税金資産に対して評価減を計上している税務管轄におけるさらなる損失の発生、ソニーが繰延税金資産を最大限に利用できないこと、各国の法令にもとづく繰延税金資産の使用の制限、追加的な税金負債あるいは税率の変動がソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ソニーは、日本及び様々な税務管轄において法人所得税を課されており、通常の営業活動において連結会社間の移転価格取引により最終的な税額の決定に不確実な状況が多く生じています。また、ソニーは、多くの税務管轄において税務当局から継続的な調査を受けています。ソニーの税金引当額、及び繰越欠損金や繰越税額控除を含む税金資産の帳簿価額の計算には将来の課税所得の見積りを含む高度な判断と見積りが要求されます。ソニーは、決算日において、繰延税金資産に対して計上している評価減の妥当性を判断するため、これら資産の再評価を行います。2024年3月31日現在、総額で2,421億円の評価減が計上されています。これら評価減の増加は、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 繰延税金資産は、税務管轄ごとに評価されます。2024年3月31日時点において、ソニーは主に日本において地方税に係る評価減を計上しています。さらに、充分な課税所得を適切な税務管轄内で生み出せないなど様々な理由により、繰延税金資産は未使用のまま消滅、又は回収できない可能性があります。繰延税金資産が未使用のまま消滅した場合、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 一部の税務管轄において、繰越欠損金又は繰越税額控除の使用が、翌期以降の課税所得に対する一定の水準に制限されており、ある特定の要因の所得との相殺にしか使用できない場合があります。したがって、ソニーは、課税所得が発生した税務管轄において、多額の繰越欠損金又は繰越税額控除があるにもかかわらず、税金の支払いが発生するため税金費用を計上する可能性があります。

 また、ソニーの将来における実効税率は、法定税率の変更や異なる法定税率が適用される各国での利益の割合の変化、又は最低税率に関する枠組み、ロイヤルティや利息の損金算入制限、及び税額控除の使用制限を含む租税法規の改正やそれらの解釈の変更などにより不利な影響を受ける可能性があります。

 上記に加え、ソニーのビジネスには、実効税率に直接影響しないものの、デジタルサービス税を含む新たな形態の総収益に対する課税や取引税が課される可能性があり、その結果、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(20) ソニーは、のれん、コンテンツ資産、その他の無形資産、もしくは有形固定資産の減損損失を計上する可能性があります。

 ソニーは多くののれん、コンテンツ資産、その他の無形資産ならびに製造施設及び設備を含む有形固定資産を保有しています。これらの資産については、業績の悪化や時価総額の減少、将来のキャッシュ・フローの見積額の減少、世界経済情勢の変化、減損の判定に用いられる高度な判断を必要とする見積り・前提の変更により、減損損失を計上する可能性があります。減損の可能性を示す事象又は状況の変化には、設定された事業計画の下方修正や実績見込みの大幅な変更、あるいは外的な市場や産業固有の変動などが含まれます。なお、ソニーがさらされている国際的な競争環境の激化や技術動向の急激な変化により、減損の判定に用いられる見積り、前提及び判断が変動し、減損損失の計上の可能性が増加することがあります。このような減損損失の計上は、ソニーの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 文中の将来に関する事項は当連結会計年度末現在において判断したものです

(1)重要な会計上の見積り

 IFRSにしたがった連結財務諸表の作成は、決算日における資産・負債の報告金額及び偶発資産・負債の開示、及び報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与えるような、マネジメントによる見積り及び仮定を必要とします。ソニーは、継続的に、過去のデータ、将来の予測及び状況に応じ合理的と判断される範囲での様々な仮定にもとづき見積りを評価します。これらの評価の結果は、他の方法からは容易に判定しえない資産・負債の簿価あるいは費用の報告金額についての判断の基礎となります。実際の結果は、これらの見積りと大きく異なる場合があります。ソニーは、会社の財政状態や業績に重要な影響を与え、かつその適用にあたってマネジメントが重要な判断や見積りを必要とするものを重要な会計上の見積りであると考えます。ソニーは、以下に述べる項目を会社の重要な会計上の見積りとして考えています。なお、重要な会計上の見積りの各項目に関連する会計方針については、「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『2.作成の基礎』及び『3.重要性がある会計方針の要約』をご参照ください。

金融商品

 ソニーは、金融商品の契約の当事者になった時点で、金融商品を金融資産又は金融負債として認識しています。金融資産及び金融負債は公正価値で当初測定されます。

 ソニーの保有する金融商品は測定方法にしたがって分類され、このうち公正価値で測定される金融商品については、将来における公正価値の変動により連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

 また、負債性証券の信用損失の評価は、多くの場合、主観的であり、発行企業の信用格付け、業績予想、事業計画及び将来キャッシュ・フローに関するある特定の前提及び見積りが必要とされます。したがって、現在、信用損失がないと判断している負債性証券について、信用格付けの低下、継続的な業績の低迷、将来の世界的な株式市況の大幅悪化又は市場金利変動の影響等の事後的に利用可能となる情報の評価にもとづき、将来、信用損失に関する引当金が測定され、費用として認識されることにより、将来の収益を減少させる場合があります。

非金融資産の減損

 ソニーは、棚卸資産、契約コスト及び繰延税金資産を除く非金融資産について、個々の資産又は資金生成単位に係る減損の兆候が存在する場合には、当該資産の回収可能性の検討を行っています。これに加え、各資金生成単位に配分されているのれん、耐用年数が確定できない無形資産及び未だ利用可能でない無形資産の帳簿価額については、年に1回第4四半期に減損テストを実施しています。

 

 当年度の減損判定において、のれんを持つ全ての資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を超過していたため、のれんの減損損失を認識することはありませんでした。また、重要なのれんを持つ資金生成単位において回収可能価額は帳簿価額を少なくとも10%以上超過しています。耐用年数が確定できない無形資産及び未だ利用可能でない無形資産においても、回収可能価額が帳簿価額を超過していたため、減損損失を認識することはありませんでした。

 

 中期計画を除く、2023年度ののれんの減損判定において実施された資金生成単位の回収可能価額への影響に関する感応度分析を含む重要な前提の検討は下記のとおりです。詳細は「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『11.のれん及び無形資産』をご参照ください。

・税引後割引率は4.2%から13.5%の範囲です。他の全ての前提を同一とし、割引率を1ポイント増加させた場合においても、重要なのれんの減損損失を認識することはありませんでした。

・G&NS分野、ET&S分野、I&SS分野及び金融分野の資金生成単位におけるターミナル・バリューに適用された成長率はおおよそ1.0%から1.5%の範囲です。音楽分野の資金生成単位における中期計画を超える期間の成長率は1.0%から3.0%の範囲、映画分野では△5.0%から17.0%の範囲です。他の全ての前提を同一とし、成長率を1ポイント減少させた場合においても、重要なのれんの減損損失を認識することはありませんでした。

・映画分野の資金生成単位におけるターミナル・バリューの算定に使用される利益倍率は1.5から13.5、収益倍率は1.8です。他の全ての前提を同一とし、利益倍率を1.0、収益倍率を0.25それぞれ減少させた場合においても、重要なのれんの減損損失を認識することはありませんでした。

 マネジメントは、のれんの減損判定における回収可能価額の見積りに用いられた前提は、合理的であると考えています。しかしながら、将来の予測不能なビジネスの前提条件の変化による、回収可能価額の下落を引き起こすような見積りの変化が、これらの評価に不利に影響し、結果として、将来においてソニーが非金融資産の減損損失を認識することになる可能性があります。

企業結合

 被取得企業における識別可能資産及び負債は、限定的な例外を除き、取得日の公正価値で測定しています。

 企業結合で移転された対価、被取得企業の非支配持分の金額及びソニーが従来保有していた被取得企業の資本持分の公正価値の合計が、取得日における識別可能資産及び負債の正味価額を上回る場合にはその超過額がのれんとして認識され、下回る場合には純利益として認識されます。

 見積りや前提には固有の不確実性が含まれるため、この移転された対価は異なる金額で評価され、識別可能資産及び負債に割り当てられる可能性があります。実際の結果が異なる可能性があること又は予想しない事象及び状況がこのような見積りに影響を与える可能性があることから、識別可能資産及びのれんの減損損失の計上又は識別可能負債の増加が必要となる可能性があります。

 

映画分野における予想総収益の見積り

 映画会計においては、作品のライフサイクルを通した予想総収益を見積もる過程でマネジメントの判断が必要となります。この予想総収益の見積りは、繰延映画製作費及び映画分野における未払分配金債務の測定にあたり重要となります。

 映画作品が製作され関連する費用が資産化される際に、その繰延映画製作費の公正価値が減損し、回収不能と見込まれる額を評価減する必要があるかどうかを決定するため、マネジメントは発生時に費用化される配給関連費用を含む追加で発生する費用を控除した予想総収益を見積もる必要があります。また、映画作品に関する売上原価として認識される繰延映画製作費の額は、その映画作品がそのライフサイクルにおいて様々な市場で公開されることから、残りの予想総収益に対する当該年度の収益実績額の割合にもとづいて計上されています。

 マネジメントが各作品の予想総収益を見積もる際に基礎とするのは、同種の過去の作品の収益、主演俳優の人気度、その作品の公開される予測映画館数、BD/DVDなどのパッケージメディアやデジタル販売、テレビ放映及びその他の付随マーケットでの期待収益ならびに将来の売上に関する契約などです。この見積りは、各作品の直近までの実現収益及び将来予測収益にもとづいて定期的に見直されます。例えば、公開当初数週間の劇場収入が予想を下回った場合には、通常、劇場、BD/DVDなどのパッケージメディアやデジタル販売、及びテレビ放映の生涯収益などを下方に修正することになります。そのような下方修正を行わなかった場合、当該期間における繰延映画製作費の償却費の過少計上になる可能性があります。さらに、未払分配金債務は残りの予想総収益に対する当該年度の収益実績額の割合に応じて計上されます。

 

繰延税金資産の評価

 繰延税金資産は、将来それらを利用できる課税所得が稼得される可能性が高い範囲内で認識しています。したがって、繰延税金資産の計上金額は、繰延税金資産の回収可能性に関連する入手可能な証拠にもとづいて、定期的に評価されます。

 

 繰延税金資産の評価は、財政状態計算書日時点で適用されている税制や税率にもとづいており、また、ソニーの財務諸表及び税務申告書で認識されている事象に関して将来に起こり得る税務上の結果についてのマネジメントの判断と最善の見積り、様々な税務戦略を実行する能力、一定の場合においての将来の結果に関する予測、事業計画及びその他の見込みを反映しています。ソニーが事業を行っているそれぞれの税務管轄における現在の税制や税率の改正は、実際の税務上の結果に影響を与える可能性があり、市場経済の悪化やマネジメントによる構造改革の目標未達は、将来における業績に影響を与える可能性があります。そして、これらのいずれかが、繰延税金資産の評価に影響を与える可能性があります。将来の結果が計画を下回る場合、税務調査の結果や連結会社間の移転価格に関する事前確認制度の交渉が現在の損益配分に関する予想と異なる結果となる場合、及び税務戦略の選択肢が実行可能ではなくなる場合や売却を予定する資産の価値が税務上の簿価を下回ることになる場合には、繰延税金資産に対して評価減の計上が要求される可能性があります。一方、将来の予測される利益の改善や継続した利益の計上、ビジネス構造の変革といった他の要因によって、関連し得る要因の評価の結果、将来において、税金費用の減額をともなう評価減の戻し入れが計上される可能性があります。現在の見込みにおいて予想していないこれらの起こり得る要因や変化は、評価減が計上又は取崩される期間において、ソニーの業績又は財政状態に重要な影響を与える可能性があります。

 

保険料配分アプローチを適用せずに測定している保険契約負債の測定

 保険契約グループの帳簿価額は、発生保険金に係る負債と残存カバーに係る負債の合計です。残存カバーに係る負債は、保険契約から生じる履行キャッシュ・フロー及び契約上のサービス・マージンを算定することによって測定されます。保険契約グループの履行キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フロー、割引率及び非金融リスクに係るリスク調整に関する現在の見積りを用いて、報告日時点で測定されます。将来キャッシュ・フローの現在価値の見積りを測定するために使用している死亡率、罹患率、解約・失効率及び割引率は、保険契約負債を測定するために用いられる重要な仮定です。

 

(2)生産、受注及び販売の状況

 ソニーの生産・販売品目は極めて広範囲かつ多種多様であり、また、ゲーム機やゲームソフト、音楽・映像ソフト、エレクトロニクス機器等は、その性質上、原則として見込生産を行っているため、分野別に生産規模及び受注規模を金額又は数量で示すことはしていません。販売の状況については後述の「(3)経営成績の分析」において各分野の業績に関連付けて示しています。

 

 

(3)経営成績の分析

 ソニーは2023年度より、IFRS第17号を適用しており、2022年度の数値をIFRS第17号にもとづき組み替えて比較分析を行なっています。詳細については、「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『2.作成の基礎』(5) 会計方針の変更をご参照ください。

 

営業概況

 

 

2022年度

修正再表示

(億円)

2023年度

(億円)

売上高及び金融ビジネス収入

109,744

130,208

営業利益

13,024

12,088

税引前利益

12,745

12,687

当社株主に帰属する当期純利益

10,053

9,706

 

 

 

調整後OIBDA*

18,169

18,261

調整後EBITDA*

17,976

18,180

* 調整後OIBDA(Operating Income Before Depreciation and Amortization)及び調整後EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)はIFRSに則った開示ではありませんが、ソニーはこれらの開示が投資家の皆様に有益な情報を提供すると考えています。調整後OIBDA及び調整後EBITDAの算式及び調整を含む詳細については、後述の「調整後OIBDA及び調整後EBITDAについて」をご参照ください(以下同じ)。

 

連結業績

売上高

 2023年度の売上高及び金融ビジネス収入(以下「売上高」)は、前年度比2兆464億円増加し、13兆208億円となりました。この大幅な増収は、主に金融分野、G&NS分野、音楽分野及びI&SS分野の大幅な増収によるものです。売上高の内訳の詳細については、後述の「分野別営業概況」をご参照ください。

 

 (後述の「売上原価」、「研究開発費」及び「販売費及び一般管理費」に関する売上高に対する比率分析において、売上高には、純売上高のみが考慮されており、金融ビジネス収入は除かれています。これは、金融ビジネス費用は連結財務諸表上、売上原価や販売費及び一般管理費とは別に計上されていることによります。さらに、後述の比率分析のうち、セグメントに関するものについては、セグメント間取引を含んで計算されています。)

 

売上原価、販売費及び一般管理費、その他の営業損(益)(純額)

 2023年度の売上原価は、前年度比9,146億円増加して8兆893億円となり、売上高に対する比率は前年度の71.1%から71.8%に悪化しました。

 研究開発費(売上原価に全額含まれる)は、前年度比71億円増加して7,428億円となり、売上高に対する比率は前年度の7.3%から6.6%になりました。(詳細は「第2 事業の状況」『6 研究開発活動』参照)

 販売費及び一般管理費は、前年度比1,870億円増加し、2兆1,562億円になりました。販売費及び一般管理費の売上高に対する比率は前年度の19.5%から19.1%に改善しました。

 その他の営業損(益)(純額)は、前年度比174億円増加し、294億円の利益となりました。この大幅な改善は、主に以下の2023年度に発生した要因の寄与によるものです。(「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『23.連結損益計算書についての補足情報』参照)

 

2023年度に発生した要因

・従来持分法で会計処理されていた会社の連結子会社化による再評価益60億円(音楽分野)

・ソニーペイメントサービス㈱(以下「ソニーペイメントサービス」)株式の一部譲渡にともなう売却益及び再評価益198億円(金融分野)

 

持分法による投資利益(損失)

 2023年度の持分法による投資利益(損失)は、前年度比139億円減少し、105億円の利益となりました。この大幅な減少は、主にその他分野における持分法による投資利益の減少によるものです。

 

営業利益

 2023年度の営業利益は、前年度比936億円減少し、1兆2,088億円となりました。この減益は、G&NS分野及び音楽分野の増益があったものの、主に金融分野の大幅な減益及びI&SS分野の減益によるものです。なお、前年度の営業利益には、音楽制作及び音楽出版における訴訟に関する和解金の受領の影響(関連費用控除後)57億円及びソニー生命の子会社において2021年度に発生した不正送金に係る資金回収221億円が含まれています。2023年度の営業利益には、前述のその他の営業損(益)(純額)に計上された要因が含まれています。

 

金融収益及び費用

 2023年度の金融収益は、前年度から945億円増加し、1,256億円となりました。一方、金融費用は前年度に比べ68億円増加し、658億円となりました。金融収益から金融費用を差し引いた純額は、前年度の279億円の費用に対し、当年度は598億円の収益となりました。この大幅な改善は主に、前年度はSpotify Technology S.A.株式などの評価損を計上したのに対し、当年度は当該株式などの評価益を計上したことによるものです。

 

税引前利益

 2023年度の税引前利益は、前年度比ほぼ横ばいの1兆2,687億円となりました。

 

法人所得税

 2023年度の法人所得税は、当年度において2,882億円を計上し、実効税率は前年度の20.6%を上回り、22.7%となりました。この税率の上昇は、主に前年度において日本における外国子会社合算税制に係る繰延税金負債が減少した影響によるものです。この税率の上昇は、主に、当年度において子会社の解散にともなう税金費用を76億円減額したことにより、一部相殺されています。(「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『25.法人所得税』参照)

 

非支配持分に帰属する当期純利益

 2023年度の非支配持分に帰属する当期純利益は、前年度比34億円増加し、99億円となりました。

 

当社株主に帰属する当期純利益

 2023年度の当社株主に帰属する当期純利益(非支配持分に帰属する当期純利益を除く)は、前年度比347億円減少し、9,706億円となりました。

 基本的1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は前年度の813.53円に対し、2023年度は788.29円となりました。また、希薄化後1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は前年度の809.85円に対し、2023年度は785.68円となりました。(1株当たり当社株主に帰属する当期純損益の詳細については、「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『26.基本的及び希薄化後EPSの調整表』参照)

 

調整後OIBDA及び調整後EBITDA

 2023年度の調整後OIBDAは、前年度比ほぼ横ばいの1兆8,261億円となりました。これは、金融分野の大幅な減益があったものの、主にG&NS分野の大幅な増益ならびに音楽分野及びI&SS分野の増益によるものです。また、2023年度の調整後EBITDAは、主に調整後OIBDAの増益と同様の増減要因及び金融費用に含まれる為替差損(純額)の減少により、前年度比ほぼ横ばいの1兆8,180億円となりました。

 

分野別営業概況

 以下の情報はセグメント情報にもとづきます。各分野の売上高はセグメント間取引消去前のものであり、また各分野の営業損益はセグメント間取引消去前のもので配賦不能費用は含まれていません。(「第5 経理の状況」 連結財務諸表注記『4.セグメント情報』参照)

 

G&NS分野

 

主要経営数値

 

2022年度

(百万円)

2023年度

(百万円)

製品部門別の外部顧客向け売上高

 

 

デジタルソフトウェア・アドオンコンテンツ

1,523,045

1,934,586

ネットワーク

464,676

545,537

ハードウェア・その他

1,550,812

1,692,871

外部顧客向け売上高の合計

3,538,533

4,172,994

セグメント間取引

106,065

94,740

セグメント売上高

3,644,598

4,267,734

セグメント営業利益

250,006

290,184

 

 2023年度のG&NS分野の売上高は、前年度比6,231億円増加し、4兆2,677億円となりました。この大幅な増収は、主にアドオンコンテンツを含む自社制作以外のゲームソフトウェア販売増加及び為替の影響によるものです。

 営業利益は、前年度比402億円増加し、2,902億円となりました。この増益は、プロモーション等によるハードウェアの損失拡大や自社制作のゲームソフトウェア販売減少の影響があったものの、主に前述の自社制作以外のゲームソフトウェア販売増加の影響及び為替の好影響によるものです。なお、当年度の為替の好影響は386億円でした。

 調整後OIBDAは、営業利益と同様の増減要因により、前年度比709億円と大幅増の4,079億円となりました。

 

事業環境及び事業戦略

 2023年度の当分野の業績は、PS5™のさらなる普及拡大、アドオンコンテンツを含むゲームソフトウェアの販売好調、プレイステーション®プラス(以下「PS Plus」)における上位ティアへのシフトによるネットワークサービスからの継続的かつ安定した収益貢献などによる好調なユーザーエンゲージメントを反映したものとなりました。このような環境下、ソニーは、コンソールサイクルの後半を迎えるPS5™のインストールベースを安定的に拡大させながら、アクティブユーザー数を継続的に増加させ、ユーザーエンゲージメントを着実に維持・拡大し、コストコントロールを強化していくことで、安定的な収益基盤の拡大を図ります。これに加えて、これまで積極的に開発を強化してきた自社制作のゲームソフトウェアの販売を拡大させることにより、さらなる利益成長をめざします。具体的には、ハードウェアについては、プレイステーション®4からの移行も含め、収益性とのバランスを保ちながらPS5™の安定的な普及拡大をめざすとともに、ユーザーに新しいゲームの楽しみ方を提供する様々な周辺機器についての取り組みも継続していきます。ネットワークサービスについては、PS Plusにおいて高品質なサービスやコンテンツの提供を継続することで会員数を安定的に維持することに加え、上位ティアへのユーザーの移行を促すことで、収益性を高めていきます。また、ソフトウェアについては、サードパーティスタジオとの関係性を維持・強化することに加え、自社制作のゲームソフトウェアにおいて、シングルプレイヤーゲームにとどまらず、2022年7月に買収したBungieの専門性や知見を活用しながら、ライブサービスのさらなる開発・運営能力の強化に取り組んでいきます。また、引き続きPCなどのマルチプラットフォームへの自社制作のゲームソフトウェアの展開を拡大し、IPのさらなるリーチ拡大と収益化を図っていきます。ソニーグループ内連携については、プレイステーションのゲームIPの映画化・テレビ番組化を着実に進め、『The Last of Us』のテレビシリーズや『グランツーリスモ』の映画の成功に続き、さらなる連携強化に取り組んでいきます。

 

音楽分野

 音楽分野の業績には、日本のSMEJの円ベースでの業績、ならびにその他全世界にある子会社の業績を米ドルベースで連結している、SME及びSMPの円換算後の業績が含まれています。

 

主要経営数値

 

2022年度

(百万円)

2023年度

(百万円)

ビジネス部門別の外部顧客向け売上高

 

 

音楽制作(ストリーミング)

598,868

709,453

音楽制作(その他)

286,270

356,646

音楽出版

276,665

326,727

映像メディア・プラットフォーム

203,012

202,129

外部顧客向け売上高の合計

1,364,815

1,594,955

セグメント間取引

15,817

24,003

セグメント売上高

1,380,632

1,618,958

セグメント営業利益

263,107

301,662

 

 2023年度の音楽分野の売上高は、前年度比2,383億円増加し、1兆6,190億円となりました。この大幅な増収は、主に音楽制作及び音楽出版における有料会員制を中心とするストリーミングサービスからの収入増加や為替の影響ならびに音楽制作における興行・物販などからの収入増加によるものです。

 営業利益は、前年度比386億円増加し、3,017億円となりました。この増益は、販売費及び一般管理費の増加、ならびに前年度に音楽制作及び音楽出版における訴訟に関する和解金の受領の影響(関連費用控除後で57億円)があったものの、主に前述の音楽制作及び音楽出版の増収の影響や為替の好影響、ならびに従来持分法で会計処理されていた会社の連結子会社化による再評価益60億円によるものです。

 調整後OIBDAは、主に営業利益と同様の増減要因(前述の和解金の受領の影響及び再評価益を除く)により、前年度比523億円増加し、3,687億円となりました。

 

事業環境及び事業戦略

 2023年度の当分野の業績は、世界的にデジタルストリーミング配信の拡大が続く中、過去に積極的に行った買収の貢献を含めたアーティストの発掘・育成の強化及び過去の音楽カタログへの投資によるストリーミングサービスからの収入の増加を反映したものとなりました。このような環境下、ソニーは、市場成長を上回る継続的な成長の実現に向けた施策として、確立されたメジャーレーベルに加えて、The OrchardやAWALなどの独立系レーベルディストリビューション及びアーティスト向けサービスを通じたコンテンツIP強化やアーティストとの関係強化、新興市場におけるローカルタレントへの積極的な投資やローカル企業との協業などによる新興市場へのアプローチの強化、ならびに音楽カタログへの戦略投資を進めていきます。さらに、ソーシャルメディアやゲームなどの事業機会も引き続き増加しており、今後もこのような新規事業領域において、多様なサービスパートナーとの連携を通じて、音楽コンテンツの新たな利用機会の創出による収益基盤の拡大と、より多くのクリエイティブな手段や新たなファンとの接点の提供によるアーティストとの関係強化に取り組んでいきます。また、あらゆるパートナーと協力して、音楽業界における創造性、拡張性、効率性を高める多次元のツールとしてのAIの活用とアーティストの権利保護を両立した持続可能なビジネスモデルの確立に向けて取り組んでいます。加えて、ソニーグループの多様性を活かして、音楽コンテンツの利用機会を拡大し、アーティストに幅広いマーケティングの機会を提供していきます。映像メディア・プラットフォームにおいては、日本のアニメの海外展開のさらなる拡大をめざしています。基幹IPの最大化に加え、有力IPの新規開発及び獲得によるアニメ事業の成長、ならびにファンエンゲージメントの向上やクオリティの高いゲーム開発の推進によるゲーム事業の成長を図っていきます。

 

映画分野

 映画分野の業績は、全世界にある子会社の業績を米ドルベースで連結しているSPEの円換算後の業績です。ソニーはSPEの業績を米ドルで分析しているため、一部の記述については「米ドルベース」と特記してあります。

 

主要経営数値

 

2022年度

(百万円)

2023年度

(百万円)

ビジネス部門別の外部顧客向け売上高

 

 

映画製作

464,043

542,044

テレビ番組制作

536,250

551,035

メディアネットワーク

364,594

393,638

外部顧客向け売上高の合計

1,364,887

1,486,717

セグメント間取引

4,535

6,333

セグメント売上高

1,369,422

1,493,050

セグメント営業利益

119,255

117,702

 

 2023年度の映画分野の売上高は、前年度比1,236億円(9%)増加し、1兆4,931億円となりました(米ドルベースでは、2%の増収)。この米ドルベースでの増収は、主に劇場公開作品の増加及び有料会員数増加によるCrunchyrollの増収によるものです。なお、この増収は、ハリウッドのストライキの影響によるテレビ番組制作における納入作品数の減少、及び映画製作における過去作品のライセンス収入が、2021年度に劇場公開した複数の大型作品からの貢献があった前年度比で減少したことにより一部相殺されています。

 営業利益は、前年度比ほぼ横ばいの1,177億円となりました(米ドルベースでは、10%の減益)。この米ドルベースでの減益は、前述の増収の影響があったものの、主に劇場公開作品の増加にともなう広告宣伝費の増加によるものです。

 調整後OIBDAは、主に営業利益と同様の増減要因により、前年度比ほぼ横ばいの1,712億円となりました(米ドルベースでは、6%の減益)。

 

事業環境及び事業戦略

 2023年度の当分野の業績は、WGA及びSAG-AFTRAのストライキがコンテンツ制作に与えた影響による、映画製作における一部作品の劇場公開日の変更やテレビ番組制作における作品納入の後ろ倒しなどの悪影響があったものの、充実したコンテンツIPやグローバルでのマーケティング及び劇場配給の能力、規律ある事業運営などのソニーの強みを反映したものとなりました。また、アニメDTCプラットフォームであるCrunchyrollは、配信チャンネルと視聴者獲得機会の拡大により成長を継続し、当分野への業績貢献を拡大しました。このような環境下、ソニーは、あらゆる配信プラットフォームにコンテンツを提供できる独立系コンテンツサプライヤーとしての強みを活かし、引き続きIPの長期的な価値最大化をめざします。映画製作においては、映画作品の劇場公開を重視する戦略を継続するとともに、既存IPの再活性化及び様々なエンタテインメントカテゴリにおけるIP価値最大化を進めていきます。2024年度には『Venom: The Last Dance』や『Kraven the Hunter』といった映画作品の劇場公開を通じて、Sony Pictures Universe of Marvel Charactersの展開を拡大していく予定です。テレビ番組制作においては、多様なコンテンツに対するニーズに対応するために、ドキュメンタリーやリアリティ番組を含む様々なノンフィクションジャンルにおける制作能力を引き続き強化していきます。加えて、映画製作やテレビ番組制作におけるソニーグループ内連携の取り組みも継続しており、G&NS、音楽、映画のエンタテインメント3事業間の連携の核として、グループの持つIPの価値最大化を進めます。例えば、『アンチャーテッド』や『グランツーリスモ』の映画作品及び『The Last of Us』や『Twisted Metal』のテレビシリーズに続き、今後もプレイステーションのゲームIPを題材とした作品展開を拡大していきます。メディアネットワークにおいては、CrunchyrollやSonyLIVなどのDTCサービスの展開をさらに強化していきます。例えば、Crunchyrollは、ストリーミングサービスに限らず、日本のアニメ映画の海外配給やアニメグッズ販売、アニメイベント、ゲームなど複数のタッチポイントを通じて、より幅広い視聴者にリーチすることで視聴者を拡大しています。また、ソニーは、LBE領域においても既存IPからの収益機会を積極的に追求していきます。

 

ET&S分野

 

主要経営数値

 

2022年度

(百万円)

2023年度

(百万円)

製品部門別の外部顧客向け売上高

 

 

テレビ

733,251

624,264

オーディオ・ビデオ

391,608

412,067

静止画・動画カメラ

565,018

643,429

モバイル・コミュニケーション

356,771

299,905

その他

390,091

435,281

外部顧客向け売上高の合計

2,436,739

2,414,946

セグメント間取引

39,286

38,772

セグメント売上高

2,476,025

2,453,718

セグメント営業利益

179,461

187,399

 

 2023年度のET&S分野の売上高は、前年度比ほぼ横ばいの2兆4,537億円となりました。これは、為替の影響があったものの、主に販売台数の減少によるテレビの減収によるものです。

 営業利益は、前年度比79億円増加し、1,874億円となりました。この増益は、前述のテレビの販売台数減少の影響があったものの、主に為替の好影響及びオペレーション費用の削減によるものです。なお、当年度の為替の好影響は205億円でした。

 調整後OIBDAは、主に営業利益と同様の増減要因により、前年度比122億円増加し、2,891億円となりました。

 

事業環境及び事業戦略

 2023年度の当分野の業績は、主にテレビにおいて欧米及び中国を中心とした市場減速などの厳しい事業環境の下、これらに機敏に対応するための徹底したサプライチェーンマネジメントや固定費削減などの各種施策を実行するとともに、デジタルカメラやヘッドホンを中心に高付加価値商品へのシフトを推進した成果を反映したものとなりました。このような環境下、ソニーは、収益性の維持向上をめざす「収益軸事業領域」と新規事業の創出・拡大による成長をめざす「成長軸事業領域」の二軸での事業構造を確立するという方針のもと、事業運営を行っています。今後は、技術の差異化による強い事業基盤をもとにした収益軸事業領域の領域拡大と、成長軸事業領域の展開加速にもさらに注力していきます。収益軸事業領域においては、テレビ及びスマートフォンの収益水準の向上とボラティリティの低減に向け、販売・製造・設計の構造変革を加速します。販売面では地域動向に即した体制の再編成を行い、製造面では事業規模に応じた拠点の最適化を進めます。また、設計リソースをプラットフォーム化することにより、成長軸事業領域へのリソースシフトを柔軟かつ迅速に実現することをめざします。イメージング事業においては、リアルタイムにAIを活用し、オートフォーカスの追尾機能を、よりクリエイターの意図を理解したものに進化させ、さらに真正性(Authenticity)を付加することで、一瞬を切り取るテクノロジーを軸にイメージング領域の多様化を進め、事業領域を拡大します。サウンド事業では、没入感のある立体的な音場を体感できる「360 Reality Audio」を活用し、リアルタイムにクリエイターの意図を可視化・反映することで、立体音響コンテンツのクリエイションの幅を広げ、領域拡大を進めます。成長軸事業であるスポーツ事業においては、トラッキング技術により取得した動体データを、リアルタイムに可視化する技術を活用することで、新たなエンタテインメント・コンテンツの創出をめざします。また、ビジュアルソリューション事業においては、リアルタイムにレンダリングする技術と、ボリュメトリックキャプチャのように空間を再現する技術を活用することで、リアルとバーチャルが融合した映像制作を一層進化させていきます。ライフサイエンス事業では、従来の生命科学領域に加え、食品やエネルギー領域など、さらなる事業拡大の機会を見込んでいます。ネットワークサービス事業では、パートナー連携を多角的に進め、新たなサービス領域における成長を加速させていきます。

I&SS分野

 

主要経営数値

 

2022年度

(百万円)

2023年度

(百万円)

外部顧客向け売上高の合計

1,301,481

1,503,906

セグメント間取引

100,706

98,832

セグメント売上高

1,402,187

1,602,738

セグメント営業利益

212,214

193,541

 

 2023年度のI&SS分野の売上高は、前年度比2,006億円増加し、1兆6,027億円となりました。この大幅な増収は、主にモバイル機器向けイメージセンサーが販売数量の増加及び製品ミックスの改善により増収となったこと、ならびに為替の影響によるものです。

 営業利益は、前年度比187億円減少し、1,935億円となりました。この減益は、前述の増収の影響及び為替の好影響があったものの、主に減価償却費の増加、モバイル機器向けイメージセンサーの新製品量産立上げにおける費用の増加及び製造経費の増加によるものです。なお、当年度の為替の好影響は623億円でした。

 調整後OIBDAは、前述のモバイル機器向けイメージセンサーの新製品量産立上げにおける費用の増加及び製造経費の増加があったものの、主に前述の増収の影響及び為替の好影響により、前年同期比326億円増加し、4,414億円となりました。

 

事業環境及び事業戦略

 2023年度の当分野の業績は、米国やアジアのスマートフォン市場の停滞が続いたものの、ハイエンドスマートフォンを中心にモバイル機器向けイメージセンサーの大型化、高画質・高性能化の傾向が継続したことを反映したものとなりました。このような環境下、ソニーは、イメージセンサーにおける世界No.1ポジションをさらに強固にするために、引き続き設備投資は継続する一方で、収益性をともなう成長に向けた経営基盤の再構築に取り組みます。設備投資については、将来のモバイル機器向けイメージセンサー需要の増加に備え、設備投資を継続する一方で、既存資産を最大限活用し、投資の対象をより厳選します。研究開発投資については、将来の成長に向けて投資を継続する一方で、研究開発テーマの精査を通じた投資効率の改善を進めます。加えて、2023年度に発生したモバイル機器向けイメージセンサー新製品の歩留り悪化を踏まえ、開発力・製造力の再強化にも取り組みます。また、今後の事業戦略として、当分野の事業領域を「成長牽引事業領域」、「収益事業領域」、「戦略事業領域」の3つに分け、それぞれの方向性を明確化しました。モバイル機器向けイメージセンサー事業については、成長牽引事業領域として、今後も投資を継続しながら、中長期で当分野の成長を牽引することをめざします。足元ではスマートフォン市場の停滞が底を打ち、緩やかな回復基調にあることに加え、今後は動画によるクリエイションやコミュニケーションの機会拡大を背景としたイメージセンサーの大判化のさらなる進展が見込まれることから、これまで培ってきたセンサー技術の総合力という強みを生かし、引き続き市場シェア及び収益の拡大ならびに収益性の向上を図っていきます。カメラ及び産業・社会インフラ向けイメージセンサー事業は収益事業領域に位置づけ、高い競争力を維持・強化しながら収益の最大化をめざします。車載向けイメージセンサー事業、エッジAIセンシングプラットフォームAITRIOS™によるソリューション事業、半導体レーザー事業、OLEDマイクロディスプレイ事業は戦略事業領域に位置づけ、これらの領域を将来のビジネスの柱とすべく、戦略的に投資を行っていきます。車載向けイメージセンサー事業はこれまで順調に成長しており、引き続きOEMやプラットフォーマーとの関係構築・強化を進め、収益拡大をめざします。半導体レーザー事業は、生成AIの普及にともなうデータセンター市場におけるストレージ需要の拡大にともない、中長期的な需要拡大を見込んでいます。

 

金融分野

 金融分野には、SFGI及びSFGIの連結子会社であるソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行等の業績が含まれています。金融分野に記載されている業績は、SFGI及びその連結子会社が日本の会計基準に則って個別に開示している業績とは異なります。

 

主要経営数値

 

2022年度

修正再表示

(百万円)

2023年度

(百万円)

金融ビジネス収入

889,082

1,769,954

営業利益

318,118

173,576

 

 2023年度の金融ビジネス収入は、主にソニー生命の大幅増収により、前年度比8,809億円増加し1兆7,700億円となりました。ソニー生命の収入は、主に市況変動により特別勘定における運用益が増加したことにより、前年度比8,431億円増加し、1兆5,239億円となりました。

 営業利益は、前年度比1,445億円減少し、1,736億円となりました。この大幅な減益は、ソニーペイメントサービス株式の一部譲渡にともなう売却益及び再評価益198億円の計上があったものの、主にソニー生命において営業利益が大幅に減少したことや、同社の子会社で発生した不正送金の資金回収にともなう利益221億円を前年度に計上したことによるものです。ソニー生命の営業利益は、変額保険等に係る市況の変動による利益の減少、及び前年度に不動産売却益を計上したことなどにより、前年度比1,435億円減少し、1,264億円となりました。

 調整後OIBDAは、主に営業利益と同様の減少要因(前述の売却益及び再評価益ならびに不正送金の資金回収の影響を除く)により、前年同期比1,409億円と大幅に減少し、1,815億円となりました。

 

事業環境及び事業戦略

 2023年度の当分野の業績は、日本経済と債券市場の状況を反映したものとなりました。日本経済は、新型コロナウイルス禍からの正常化が進展しました。加えて、輸入価格の大幅上昇を主因とする販売価格上昇等を受け、大企業を中心に企業収益が改善しました。その結果、日経平均株価は過去最高を更新しました。日本の債券市場は、米国及び日本の金融政策の影響を受けました。2023年7月の日本銀行の金融政策決定会合で、長期金利の変動許容幅が上限1%まで引き上げられたことにより、10年物国債利回りは0.5%を超えて急騰しました。その後、米国のインフレ高止まりへの警戒等による米国の長期金利上昇にともない、日本の長期金利も2023年10月末には1%近傍まで上昇しました。2024年3月の金融政策決定会合で、日本銀行はマイナス金利政策解除を決定し、金融政策の正常化が開始されました。このような環境下、2025年度に予定している金融事業のパーシャル・スピンオフに向けて、安定的なキャッシュ・フローの創出に注力していきます。そのために、「両利きの経営」の考え方にもとづき、「深化」と「探索」を重視し、持続的な成長をめざします。既存ビジネスの成長である「深化」に関しては、ソニー生命においては、ライフプランナー(「ライフプランナー」はソニー生命の登録商標です。)トップ層及び代理店サポーターへの支援体制の強化により営業生産性の向上をめざします。また、法人向けサービスの拡大とシニア層向けライフプランニング・サービス・商品の強化により、顧客セグメントの拡大を図ります。ソニー損保では、自動車保険における潜在顧客の開拓や、火災保険における、自動車保険で培ったノウハウの活用に取り組みます。ソニー銀行では、強みである住宅ローン事業と外貨事業を中心として顧客ニーズと金利の環境変化をとらえた、さらなる商品・サービスの強化を図ります。さらなる成長に向けたグループ横断の取り組みである「探索」においては、顧客セグメントの拡大を成長戦略の核としています。具体的には、今後リーチしていく顧客層を、将来の潜在的な顧客基盤となり得るZ世代及び若年層、幅広く独自のニーズを持つ法人オーナーを中心とした準富裕層・富裕層、ファミリー層のライフステージ移行によるプレシニア・シニア層の3つとし、それぞれの顧客セグメントごとに最適なアプローチを採用することで、顧客セグメントの拡大をめざします。

 

金融分野を分離した経営成績情報

 以下の表は金融分野の要約損益計算書、及び金融分野を除くソニー連結の要約損益計算書です。これらの要約損益計算書は、ソニーの連結財務諸表の作成に用いられたIFRSには準拠していませんが、金融分野はソニーのその他の分野とは性質が異なるため、ソニーはこのような比較表示が連結財務諸表の理解と分析に役立つものと考えています。なお、以下の金融分野と金融分野を除くソニー連結の金額には両者間の取引を含んでおり、これらの相殺消去を反映した後のものがソニー連結の金額です。

 

要約損益計算書(3月31日に終了した1年間)

 

(単位:百万円)

金融分野

金融分野を除くソニー連結

ソニー連結

 

2022年度

修正再表示

2023年度

2022年度

2023年度

2022年度

修正再表示

2023年度

売上高

10,101,979

11,265,043

10,095,841

11,260,037

金融ビジネス収入

889,082

1,769,954

878,532

1,760,731

売上高及び金融ビジネス収入合計

889,082

1,769,954

10,101,979

11,265,043

10,974,373

13,020,768

売上原価

7,186,767

8,101,990

7,174,723

8,089,317

販売費及び一般管理費

1,961,906

2,148,472

1,969,170

2,156,156

金融ビジネス費用

575,111

1,615,594

564,561

1,606,370

その他の営業損(益)(純額)

△4,147

△19,271

△5,566

△10,133

△12,021

△29,404

売上原価、販売費・一般管理費及びその他の一般費用合計

570,964

1,596,323

9,143,107

10,240,329

9,696,433

11,822,439

持分法による投資利益(損失)

△55

24,449

10,557

24,449

10,502

営業利益

318,118

173,576

983,321

1,035,271

1,302,389

1,208,831

金融収益(費用)(純額)

13,437

109,864

△27,893

59,831

税引前利益

318,118

173,576

996,758

1,145,135

1,274,496

1,268,662

法人所得税

89,897

49,063

172,528

239,105

262,723

288,168

当期純利益

228,221

124,513

824,230

906,030

1,011,773

980,494

当期純利益の帰属

 

 

 

 

 

 

金融分野の当期純利益

227,849

123,986

金融分野を除くソニー連結の当期純利益

818,106

896,636

当社株主に帰属する当期純利益

1,005,277

970,573

非支配持分に帰属する当期純利益

372

527

6,124

9,394

6,496

9,921

 

その他分野

 2023年度の売上高は、前年度比17億円増加し、894億円となりました。営業利益は、主に持分法による投資利益の減少により、前年度比152億円減少し、16億円となりました。

 

調整後OIBDA及び調整後EBITDAについて

 

 調整後OIBDA及び調整後EBITDAは、一時的な損益の影響を含まないことから、事業の持続的な収益力を表すとともに、金融事業を含むグループ全体の投資とそのリターンの循環による中長期での事業拡大をマネジメントの観点から確認することができ、さらに企業価値評価との親和性も高い指標であることから、ソニーが重視する長期視点での経営に適した経営指標であると考えています。調整後OIBDA及び調整後EBITDAはIFRSに則った開示ではありませんが、ソニーはこれらの開示が投資家の皆様に有益な情報を提供すると考えています。調整後OIBDA及び調整後EBITDAはIFRSに則って開示されるソニーの経営成績を代替するものではなく、追加的なものとしてご参照ください。

 

 調整後OIBDA(Operating Income Before Depreciation and Amortization)は以下の算式により計算されます。

 

調整後OIBDA=営業利益+減価償却費・償却費(コンテンツ資産に含まれる繰延映画製作費、テレビ放映権ならびに自社制作のゲームコンテンツ及び原盤制作費の償却費を除く)-当社が非経常的と判断する損益

 

 調整後EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は以下の算式により計算されます。

 

調整後EBITDA=当社株主に帰属する当期純利益+非支配持分に帰属する当期純利益+法人所得税+金融収益・金融費用に計上される支払利息(純額)-金融収益・金融費用に計上される資本性金融商品の再評価益(純額)+減価償却費・償却費(コンテンツ資産に含まれる繰延映画製作費、テレビ放映権ならびに自社制作のゲームコンテンツ及び原盤制作費の償却費を除く)-当社が非経常的と判断する損益

 

 

 2022年度及び2023年度のIFRSにもとづく営業利益と調整後OIBDAの調整については、以下の表をご参照ください。

 

2022年度

修正再表示

2023年度

 

億円

億円

ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)

 

 

営業利益

2,500

2,902

減価償却費・償却費*

870

1,177

当社が非経常的と判断する損(益)**

調整後OIBDA

3,370

4,079

音楽

 

 

営業利益

2,631

3,017

減価償却費・償却費*

590

731

当社が非経常的と判断する損(益)**

△57

△60

調整後OIBDA

3,164

3,687

映画

 

 

営業利益

1,193

1,177

減価償却費・償却費*

489

535

当社が非経常的と判断する損(益)**

調整後OIBDA

1,682

1,712

エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)

 

 

営業利益

1,795

1,874

減価償却費・償却費*

974

1,017

当社が非経常的と判断する損(益)**

調整後OIBDA

2,769

2,891

イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)

 

 

営業利益

2,122

1,935

減価償却費・償却費*

1,967

2,479

当社が非経常的と判断する損(益)**

調整後OIBDA

4,089

4,414

金融

 

 

営業利益

3,181

1,736

減価償却費・償却費*

263

277

当社が非経常的と判断する損(益)**

△221

△198

調整後OIBDA

3,224

1,815

その他/全社(共通)及びセグメント間取引消去

 

 

営業損失

△398

△552

減価償却費・償却費*

268

215

当社が非経常的と判断する損(益)**

調整後OIBDA

△129

△337

連結

 

 

営業利益

13,024

12,088

減価償却費・償却費*

5,422

6,431

当社が非経常的と判断する損(益)**

△278

△258

調整後OIBDA

18,169

18,261

 

 2022年度及び2023年度のIFRSにもとづく当社株主に帰属する当期純利益と調整後EBITDAの調整については、以下の表をご参照ください。

 

 

2022年度

修正再表示

2023年度

 

億円

億円

当社株主に帰属する当期純利益

10,053

9,706

非支配持分に帰属する当期純利益

65

99

法人所得税

2,627

2,882

金融収益・金融費用に計上される支払利息(純額)

40

34

金融収益・金融費用に計上される資本性金融商品の再評価損(益)(純額)

46

△714

減価償却費・償却費*

5,422

6,431

当社が非経常的と判断する損(益)**

△278

△258

調整後EBITDA

17,976

18,180

* 減価償却費・償却費には、コンテンツ資産に含まれる繰延映画製作費、テレビ放映権ならびに自社制作のゲームコンテンツ及び原盤制作費の償却費を含んでいません。

** 2022年度及び2023年度の調整後OIBDA及び調整後EBITDAの計算にあたって当社が非経常的と判断する損益の詳細については、以下の表をご参照ください。

 

2022年度

修正再表示

2023年度

 

億円

億円

当社が非経常的と判断する損(益)

 

 

音楽制作及び音楽出版における訴訟に関する和解金の受領の影響(関連費用控除後)(音楽分野)

△57

ソニー生命の子会社において2021年度第1四半期に発生した不正送金に係る資金回収(金融分野)

△221

従来持分法で会計処理されていた会社の連結子会社化による再評価益(音楽分野)

△60

ソニーペイメントサービス株式の一部譲渡にともなう売却益及び再評価益(金融分野)

△198

合計

△278

△258

 

 

 

為替変動とリスク・ヘッジ

 2023年度の米ドル、ユーロに対する平均円レートはそれぞれ144.4円、156.6円と前年度の平均レートに比べ米ドルは9.0円、ユーロは15.7円の円安となりました。

 2023年度の連結売上高は、前年度に比べ2兆464億円(19%)増加し、13兆208億円となりました。前年度の為替レートを適用した場合、売上高は約13%の増収となります。為替変動による売上高及び営業損益への影響については後述の『注記』をご参照ください。

 G&NS分野、ET&S分野及びI&SS分野の為替変動による売上高及び営業損益への影響については、以下の表をご参照ください。また、詳細については、「経営成績の分析」の分野別概況における各分野の分析をご参照ください。為替の影響が大きかった分野やカテゴリーについて、その影響に言及しています。

 

 

 

2022年度

(億円)

2023年度

(億円)

為替変動による影響額

(億円)

G&NS分野

売上高

36,446

42,677

+2,789

 

営業利益

2,500

2,902

+386

ET&S分野

売上高

24,760

24,537

+984

 

営業利益

1,795

1,874

+205

I&SS分野

売上高

14,022

16,027

+992

 

営業利益

2,122

1,935

+623

 

 なお、2023年度の音楽分野の売上高は前年度比17%増加の1兆6,190億円となりましたが、前年度の為替レートを適用した場合、約12%の増収でした。映画分野の売上高は前年度比9%増加の1兆4,931億円となりましたが、米ドルベースでは、前年度比約2%の増収でした。詳細な分析は、「(3)経営成績の分析」の「音楽分野」及び「映画分野」をご参照ください。ソニーの金融分野は、円ベースのSFGIを連結しています。同分野の事業のほとんどが日本で行われていることから、ソニーは金融分野の業績の分析を円ベースでのみ行っています。

 2023年度のG&NS分野、ET&S分野及びI&SS分野において、米ドルに対する1円の円高の影響は、売上高では約303億円の減少、営業損益では約6億円の増加と試算されます。ユーロに対する1円の円高の影響は、売上高では約119億円、営業損益では約71億円の減少と試算されます。(「第2 事業の状況」『3 事業等のリスク』参照)

 ソニーの連結業績は、主に収入と費用において通貨構成が異なることから生ずる為替変動リスクにさらされています。G&NS分野では、米ドル建てのコストの割合が高いのに対して、売上高は日本円、米ドル又はユーロで計上されるため、米ドルに対する円高は営業利益に好影響を、ユーロに対する円高は営業利益に悪影響を及ぼします。ET&S分野では、主要製品におけるドル建ての製造コスト等の割合が高いことなどから米ドルに対する円高は営業利益に好影響を及ぼします。一方で、新興国での売上高の割合が高いため、新興国通貨に対する円高は営業利益に悪影響を及ぼします。I&SS分野では、米ドル建ての販売契約の割合が高い一方、主に日本で製造を行っていることから、米ドルに対する円高は営業利益に大幅な悪影響を及ぼします。

 これらの為替変動によるリスクを軽減するため、ソニーは一貫したリスク管理方針に従い、先物為替予約、通貨オプション契約を含むデリバティブを利用しています。ソニーが行っているこれらのデリバティブは、主に当社及び当社の子会社の予想される外貨建て取引及び外貨建て営業債権や営業債務から生じるキャッシュ・フローの為替変動によるリスクを低減するために利用されています。

 ソニーは、総合的な財務サービスを当社及び当社の子会社・関連会社に提供することを目的として、Sony Global Treasury Services Plc(以下「SGTS」)を英国に設立しています。為替変動リスクにさらされている当社及び全ての子会社が、リスク・ヘッジのための契約をSGTSとの間で結ぶことがソニーの方針となっており、当社及び当社の子会社のほとんどはこの目的のためにSGTSを利用しています。為替リスク集中の原則にもとづき、SGTSと当社がソニーグループ全体の相殺後のほとんどの為替変動リスクをヘッジしています。ソニーの方針として、金融機関との為替デリバティブ取引は、リスク管理のため、原則としてSGTSに集中しています。SGTSはグループ外の信用の高い金融機関との間で外国為替取引を行っています。ほとんどの外国為替取引は、実際の輸出入取引が行われる前の予定された取引や債権・債務に対して行われます。一般的には、実際の輸出入取引が行われる1ヵ月前からヘッジを行っています。ソニーは金融機関との外国為替取引を主にヘッジ目的のために行っています。ソニーは、金融分野を除き、売買もしくは投機目的でこれらのデリバティブを利用していません。金融分野においては、主に資産負債の総合管理の一環としてデリバティブを活用しています。

 

 キャッシュ・フロー・ヘッジとして指定されたデリバティブの公正価値変動は、当初累積その他の包括利益に計上され、ヘッジ対象取引が損益に影響を与える時点で損益に振り替えられます。一方、ヘッジ会計の要件を満たさない先物為替予約、通貨オプション契約、及びその他のデリバティブは時価評価され、その変動は、直ちに金融収益・金融費用に計上されます。2023年度末における外国為替契約の資産に計上された公正価値(純額)の合計は29億円となっています。(「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『15.デリバティブ及びヘッジ活動』参照)

 

『注記』

前年度の為替レートを適用した場合の売上高の状況、及び為替変動による影響額について

 前年度の為替レートを適用した場合の売上高の状況は、当年度の現地通貨建て月別売上高に対し、前年度の月次平均レートを適用して算出しています。ただし、音楽分野のSME及びSMP、ならびに映画分野については、米ドルベースで集計した上で、前年度の月次平均米ドル円レートを適用した金額を算出しています。

 映画分野の業績の状況は、米国を拠点とするSPEが、全世界にある子会社の業績を米ドルベースで連結していることから、米ドルベースで記載しています。

 為替変動による影響額は、売上高については前年度及び当年度における平均為替レートの変動を主要な取引通貨建て売上高に適用して算出し、営業損益についてはこの売上高への為替変動による影響額から、同様の方法で算出した売上原価ならびに販売費及び一般管理費への為替変動による影響額を差し引いて算出しています。I&SS分野では独自に為替ヘッジ取引を実施しており、売上高及び営業損益への為替変動による影響額に同取引の影響が含まれています。

 これらの情報はIFRSに則って開示されるソニーの連結財務諸表を代替するものではありません。しかしながら、これらの開示は、投資家の皆様にソニーの営業概況をご理解頂くための有益な分析情報と考えています。

 

所在地別の業績

 所在地別の業績は、顧客の所在国又は地域別に分類した売上高及び金融ビジネス収入を「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『4.セグメント情報』に記載しています。

 

(4)財政状態の分析

 以下の表は金融分野の要約財政状態計算書、及び金融分野を除くソニー連結の要約財政状態計算書です。これらの要約財政状態計算書はソニーの連結財務諸表の作成に用いられたIFRSには準拠していませんが、金融分野はソニーのその他のセグメントとは性質が異なるため、ソニーはこのような比較表示が連結財務諸表の理解と分析に役立つものと考えています。なお、以下の金融分野と金融分野を除くソニー連結の金額には両者間の取引を含んでおり、両者の繰延税金資産と繰延税金負債を相殺する前の金額となっています。これらの相殺消去を反映した後のものがソニー連結の金額です。

 

要約財政状態計算書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

科     目

金融分野

金融分野を除くソニー連結

ソニー連結

2022年度期首

修正再表示

2022年度末

修正再表示

2023年度末

2022年度期首

修正再表示

2022年度末

修正再表示

2023年度末

2022年度期首

修正再表示

2022年度末

修正再表示

2023年度末

 

 

 

流動資産

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現金及び現金同等物 *1

889,140

756,493

913,815

1,160,496

724,407

993,298

2,049,636

1,480,900

1,907,113

金融分野における投資及び貸付 *2

360,681

328,358

398,153

-

-

-

360,681

328,358

398,153

営業債権、その他の債権及び契約資産 *3

163,037

127,413

127,016

1,478,620

1,668,257

2,033,170

1,621,629

1,770,948

2,158,196

棚卸資産

-

-

-

874,007

1,468,042

1,518,644

874,007

1,468,042

1,518,644

その他の金融資産

81,174

47,044

57,254

68,124

63,906

68,111

149,301

110,950

125,365

その他の流動資産

27,893

16,029

50,487

450,953

562,442

625,539

428,522

563,334

669,335

流動資産合計

1,521,925

1,275,337

1,546,725

4,032,200

4,487,054

5,238,762

5,483,776

5,722,532

6,776,806

非流動資産

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持分法で会計処理されている投資

-

-

4,905

268,513

325,220

418,839

268,513

325,220

423,744

金融分野における投資及び貸付 *2

18,251,612

18,237,761

18,939,794

-

-

-

18,251,612

18,237,761

18,939,794

金融分野への投資(取得原価)

-

-

-

550,483

550,483

550,483

-

-

-

有形固定資産

18,010

15,316

14,162

1,095,241

1,329,219

1,508,151

1,113,213

1,344,864

1,522,640

使用権資産

73,774

84,023

76,288

339,658

395,210

428,224

413,430

478,063

503,395

のれん及び無形資産(コンテンツ資産含む) *4

72,578

78,197

77,323

2,672,466

3,322,639

3,953,492

2,745,044

3,400,836

4,030,815

繰延税金資産

2,335

2,687

-

332,330

431,533

520,613

300,924

393,107

499,550

その他の金融資産

37,037

46,941

52,882

663,233

789,470

848,599

696,306

832,344

897,341

その他の非流動資産

167,744

172,565

165,049

284,834

319,306

421,258

379,137

419,368

513,405

非流動資産合計

18,623,090

18,637,490

19,330,403

6,206,758

7,463,080

8,649,659

24,168,179

25,431,563

27,330,684

合 計

20,145,015

19,912,827

20,877,128

10,238,958

11,950,134

13,888,421

29,651,955

31,154,095

34,107,490

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流動負債

 

 

 

 

 

 

 

 

 

短期借入金

1,964,776

1,891,856

1,802,337

183,187

211,020

227,979

2,147,962

2,102,876

2,030,316

営業債務及びその他の債務

119,017

77,703

61,153

1,744,011

1,812,670

2,005,112

1,843,338

1,866,101

2,064,905

銀行ビジネスにおける顧客預金

2,886,361

3,163,237

3,670,567

-

-

-

2,886,361

3,163,237

3,670,567

未払法人所得税

3,789

15,213

10,050

101,648

139,330

142,024

105,437

154,543

152,074

映画分野における未払分配金債務

-

-

-

190,162

230,223

251,743

190,162

230,223

251,743

その他の金融負債

98,029

77,605

77,523

29,050

30,444

38,522

127,079

108,049

116,044

その他の流動負債

218,865

194,174

209,555

1,297,115

1,514,792

1,704,158

1,465,326

1,693,380

1,906,396

流動負債合計

5,290,837

5,419,788

5,831,185

3,545,173

3,938,479

4,369,538

8,765,665

9,318,409

10,192,045

非流動負債

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長期借入債務

470,498

663,353

703,106

733,148

1,104,344

1,355,011

1,203,646

1,767,696

2,058,117

退職給付に係る負債

37,167

37,183

39,284

217,381

198,938

208,299

254,548

236,121

247,583

繰延税金負債

58,666

60,554

36,368

110,715

112,938

165,877

120,582

117,621

166,424

保険契約負債

13,042,875

12,364,973

12,931,995

-

-

-

13,042,875

12,364,973

12,931,995

映画分野における未払分配金債務

-

-

-

220,113

192,952

206,081

220,113

192,952

206,081

その他の金融負債

147,712

175,026

214,414

86,391

199,327

175,263

231,463

371,580

386,761

その他の非流動負債

5,864

7,225

7,607

121,558

142,096

176,767

106,481

127,593

162,379

非流動負債合計

13,762,782

13,308,314

13,932,774

1,489,306

1,950,595

2,287,298

15,179,708

15,178,536

16,159,340

負 債 合 計

19,053,619

18,728,102

19,763,959

5,034,479

5,889,074

6,656,836

23,945,373

24,496,945

26,351,385

金融分野の株主に帰属する資本

1,087,948

1,180,905

1,113,169

-

-

-

-

-

-

金融分野を除くソニー連結の株主に帰属する資本

-

-

-

5,155,149

6,006,267

7,062,657

-

-

-

当社株主に帰属する資本

-

-

-

-

-

-

5,653,804

6,598,537

7,587,177

非支配持分

3,448

3,820

-

49,330

54,793

168,928

52,778

58,613

168,928

資 本 合 計

1,091,396

1,184,725

1,113,169

5,204,479

6,061,060

7,231,585

5,706,582

6,657,150

7,756,105

合 計

20,145,015

19,912,827

20,877,128

10,238,958

11,950,134

13,888,421

29,651,955

31,154,095

34,107,490

 

 

(注)*1 2023年度末の金融分野を除くソニー連結における現金及び現金同等物の変動要因は、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の『(5)キャッシュ・フローの状況の分析』をご参照ください。

*2 2022年度末及び2023年度末の金融分野における投資及び貸付の変動については、「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『5.金融商品』をご参照ください。

*3 2023年度末の金融分野を除くソニー連結における営業債権、その他の債権及び契約資産の増加は、主にG&NS分野、音楽分野、映画分野、I&SS分野において営業債権が増加したことによるものです。

*4 2023年度末の金融分野を除くソニー連結におけるのれん及び無形資産(コンテンツ資産含む)の増加は、主に為替変動の影響及び音楽分野におけるコンテンツ資産の増加によるものです。

 

(5)キャッシュ・フローの状況の分析

 営業活動によるキャッシュ・フロー:2023年度において営業活動から得た現金及び現金同等物(純額)は、前年度比1兆585億円増加し、1兆3,732億円となりました。

 金融分野を除くソニー連結では、1兆1,778億円の受取超過となり、前年度比7,624億円の受取の増加となりました。この増加は、主に棚卸資産が増加から減少に転じたことや、非資金調整項目(減価償却費及び償却費(契約コストの償却を含む)、その他の営業損(益)(純額)ならびに有価証券に関する損(益)(純額))を加味した後の税引前利益が前年度に比べて増加したことなどによるものです。一方で、営業債権及び契約資産の増加額が拡大したことなどのキャッシュ・フローを悪化させる要因もありました。

 金融分野では前年度の563億円の支払超過に対し、2023年度は2,464億円の受取超過となりました。これは、金融分野における投資の売却が前年度に比べて増加したことなどによるものです。

 

 投資活動によるキャッシュ・フロー:2023年度において投資活動に使用した現金及び現金同等物(純額)は、前年度比2,338億円減少し、8,189億円となりました。

 金融分野を除くソニー連結では、7,942億円の支払超過となり、前年度比2,378億円の支払の減少となりました。この減少は、前年度において、Bungieの株式の取得があったこと、Epic Gamesへの追加出資があったこと、及びIndustrial Mediaの買収に関連する支払があったことなどによるものです。

 金融分野ではほぼ前年度並みの257億円の支払超過となりました。

 

 財務活動によるキャッシュ・フロー:財務活動による現金及び現金同等物(純額)は、前年度の843億円の受取超過に対し、2023年度は2,107億円の支払超過となりました。

 金融分野を除くソニー連結では、前年度の955億円の受取超過に対し、2023年度は1,973億円の支払超過となりました。これは、前年度において長期銀行借入を行ったことや、自己株式の取得が前年度に比べ増加したことなどによるものです。

 金融分野では634億円の支払超過となり、前年度比108億円の支払の増加となりました。この増加は、配当金の支払が増加したことなどによるものです。

 

 現金及び現金同等物:以上の結果、為替変動の影響を加味した2024年3月末の現金及び現金同等物期末残高は1兆9,071億円となりました。金融分野を除くソニー連結の2024年3月末における現金及び現金同等物期末残高は、2023年3月末に比べ2,689億円増加し、9,933億円となりました。金融分野の2024年3月末における現金及び現金同等物残高は、2023年3月末に比べ1,573億円増加し、9,138億円となりました。

 

金融分野を分離したキャッシュ・フロー情報

 以下の表は、金融分野の要約キャッシュ・フロー計算書、及び金融分野を除くソニー連結の要約キャッシュ・フロー計算書です。この要約キャッシュ・フロー計算書は、ソニーの連結財務諸表の作成に用いられたIFRSには準拠していませんが、金融分野はソニーのその他のセグメントとは性質が異なるため、ソニーはこのような比較表示が連結財務諸表の理解と分析に役立つものと考えています。なお、以下の金融分野と金融分野を除くソニー連結の金額には両者間の取引を含んでおり、これらの相殺消去を反映した後のものがソニー連結の金額です。

 

 

要約キャッシュ・フロー計算書

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

項    目

金融分野

金融分野を除くソニー連結

ソニー連結

2022年度

修正再表示

2023年度

2022年度

2023年度

2022年度

修正再表示

2023年度

営業活動によるキャッシュ・フロー

 

 

 

 

 

 

税引前利益(損失)

318,118

173,576

996,758

1,145,135

1,274,496

1,268,662

営業活動から得た又は使用した(△)現金及び現金同等物(純額)への税引前利益(損失)の調整

 

 

 

 

 

 

減価償却費及び償却費(契約コストの償却を含む)

26,333

27,689

978,257

1,117,292

1,004,590

1,144,981

その他の営業損(益)(純額)

△4,147

△19,271

△5,566

△10,133

△12,021

△29,404

有価証券に関する損(益)(純額)(金融分野以外)

-

-

4,469

△73,166

4,469

△73,166

資産及び負債の増減

 

 

 

 

 

 

営業債権及び契約資産の増加(△)・減少

35,623

△20,843

△110,668

△200,071

△70,349

△243,646

棚卸資産の増加(△)・減少

-

-

△560,382

75,641

△560,382

75,641

金融分野における投資及び貸付の増加(△)・減少

△1,093,792

△1,748,913

-

-

△1,093,792

△1,748,913

コンテンツ資産の増加(△)・減少

-

-

△594,547

△486,183

△594,547

△486,183

営業債務の増加・減少(△)

△40,059

27,116

△62,691

△40,882

△107,250

9,188

保険契約負債(保険契約資産との純額)の増加・減少(△)

330,654

1,370,580

-

-

330,654

1,370,580

銀行ビジネスにおける顧客預金の増加・減少(△)

300,201

536,688

-

-

300,201

536,688

生命保険ビジネス及び銀行ビジネスにおける借入債務の増加・減少(△)

111,314

△41,516

-

-

111,314

△41,516

法人所得税以外の未払税金(純額)の増加・減少(△)

112

387

4,071

△22,878

4,183

△22,491

その他

△40,639

△59,081

△234,228

△326,927

△276,875

△387,208

営業活動から得た又は使用した(△)現金及び現金同等物(純額)

△56,282

246,412

415,473

1,177,828

314,691

1,373,213

投資活動によるキャッシュ・フロー

 

 

 

 

 

 

有形固定資産及びその他の無形資産の購入

△24,195

△18,167

△590,320

△606,844

△613,635

△623,946

投資及び貸付(金融分野以外)

-

-

△191,129

△95,506

△191,129

△95,506

投資の売却又は償還及び貸付の回収(金融分野以外)

-

-

13,548

92,679

13,548

92,679

その他

393

△7,560

△264,125

△184,553

△261,448

△192,113

投資活動から得た又は使用した(△)現金及び現金同等物(純額)

△23,802

△25,727

△1,032,026

△794,224

△1,052,664

△818,886

財務活動によるキャッシュ・フロー

 

 

 

 

 

 

借入債務の増加・減少(△)

△11,226

△11,633

273,195

90,289

261,969

78,656

配当金の支払

△41,335

△50,037

△86,568

△98,620

△86,568

△98,620

その他

△2

△1,693

△91,100

△188,977

△91,101

△190,745

財務活動から得た又は使用した(△)現金及び現金同等物(純額)

△52,563

△63,363

95,527

△197,308

84,300

△210,709

現金及び現金同等物に対する為替相場変動の影響額

-

-

84,937

82,595

84,937

82,595

現金及び現金同等物の純増加・減少(△)額

△132,647

157,322

△436,089

268,891

△568,736

426,213

現金及び現金同等物期首残高

889,140

756,493

1,160,496

724,407

2,049,636

1,480,900

現金及び現金同等物期末残高

756,493

913,815

724,407

993,298

1,480,900

1,907,113

 

 

(6)資本の財源及び資金の流動性についての分析

 以下の基本方針及び数値情報は、独自に流動性を確保している金融分野及び一部の子会社を除いたソニーの連結事業にもとづいて説明しています。なお、金融分野については当該項目において別途説明しています。

 

流動性マネジメントと資金の調達

 ソニーは、事業活動に必要な流動性を保ちながら健全な財政状態を維持することを財務の重要な目標と考えています。ソニーは、現金及び現金同等物(以下「現預金等」。ただし、国の規制等で資金の移動に制約があるものを除く)及びコミットメントラインの未使用額を合わせた金額を流動性として位置づけています。

 流動性の保持に必要な資金は、営業活動及び投資活動(資産売却を含む)によるキャッシュ・フロー及び現預金等でまかないますが、ソニーは必要に応じて社債、CP、銀行借入などの手段を通じて、金融・資本市場からの資金調達を行っています。

 当社、SGTS及び米国の子会社Sony Capital Corporation(以下「SCC」)は日本・米国・欧州の各市場へアクセス可能なCPプログラム枠を有しています。2023年度末時点で当社、SGTS及びSCCは、円換算で合計1兆2,571億円分のCPプログラム枠を保有しています。2023年度末における発行残高はありません。

 金融・資本市場が不安定な混乱状況に陥り、前述の手段により十分な資金調達ができなくなった場合に備え、ソニーは、多様な金融機関との契約によるコミットメントラインも保持しています。2023年度末の未使用のコミットメントラインの総額は円換算で7,664億円です。未使用のコミットメントラインの内訳は、日本の銀行団と結んでいる3,500億円の円貨コミットメントライン、日本の銀行団と結んでいる1,700百万米ドルの複数通貨建てコミットメントライン、外国の銀行団と結んでいる1,050百万米ドルの複数通貨建てコミットメントラインです。金融・資本市場の流動性がなくなった場合でも、ソニーは現預金等及びこれらのコミットメントラインを使用することによって十分な流動性を維持することができると現時点では考えています。

 ソニーは、流動性及び資本政策に対する財務の柔軟性を確保し、金融・資本市場を通じた十分な資金リソースへのアクセスを保持するため、安定した一定水準の信用格付けの維持を重要な経営目標の一つと位置づけています。ただし、グループ全体の主要な資金調達に関する金融機関との契約において、ソニーの信用格付けが低下した場合に、強制的に早期弁済を求められるものはありません。また、これら契約のうち一部のコミットメントライン契約については、ソニーの信用格付けにより借入コストが変動する条件が含まれているものがありますが、未使用のコミットメントラインからの借入を禁ずる条項を含んでいるものはありません。

 

キャッシュ・マネジメント

 ソニーは日本においては当社、米国においてはSCC、それ以外の地域においてはSGTSを中心にグローバルな資金管理を行っています。資本取引に規制があり資金移動を制限されている国や地域は一部存在しますが、大部分の子会社における資金の過不足は、当社、SGTS及びSCCにより純額ベースで運用又は調達をしています。ソニーは資金の効率化をめざし、各子会社に資金余剰が出た場合は当社、SGTS及びSCCに預け、また各子会社に資金不足が生じた場合には当社、SGTS及びSCCを通じて資金の貸し借りを行うことで、余剰資金を活用し、外部借入を削減することができます。関係会社間の効率的な資金移動が制限されている国や地域では、ソニーは当社、SGTS及びSCCの外に資金を残していますが、必要な流動性資金はキャッシュ・フローや外部からの借入(もしくはその両方)によって調達しています。ソニーは、海外に所在する移動を制限されている資金が、ソニー全体の流動性や財務状況ならびに業績に重大な影響を与えるとは考えていません。

 

金融分野

 SFGI、ソニー生命、ソニー損保及びソニー銀行の各マネジメントは、業務の遂行にともなう支払義務を履行するのに十分な流動性を確保することが重要だと認識しています。ソニー生命、ソニー損保及びソニー銀行は、法令(保険業法及び銀行法など)や金融庁及びその他関係規制当局の定める各種規制を遵守することに加え、それに準拠した社内規程を制定、運用しながら、十分な現預金等を準備し、支払能力を確保することに努めています。ソニー生命及びソニー損保は、受取保険料を主な資金の源泉とし、有価証券を中心とした投資を行うにあたり、保険金等の円滑な支払等に十分な水準の流動性を確保しています。ソニー銀行は、顧客からの円貨・外貨建て預金を主な資金の源泉とし、住宅ローンを中心とする貸出と主に市場性のある有価証券投資を行う中で、円滑な決済等に必要な水準の流動性を確保しています。外貨建て顧客預金で得られた資金は、主に同じ通貨建の金融商品に投資されています。

 なお、金融分野の子会社は、保険業務、銀行業務の公共性から、その信用を維持し、契約者や預金者の保護を確保することが保険業法、銀行法で定められています。したがって、金融分野の子会社と金融分野以外のソニーグループ会社間で資金の貸借を行うことは厳格に制限されており、金融分野の子会社は、上記の当社、SGTS及びSCCを介したグローバルなキャッシュ・マネジメントからも隔離されています。

 

 なお、ソニーグループが創出した営業活動によるキャッシュ・フローに関する、成長投資、手許資金及び株主還元への配分についての考え方に関しては「第2 事業の状況」「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等『経営数値目標及びキャピタルアロケーション』」をご参照ください。

 

オフバランス取引

 ソニーは、流動性と資金調達手段の確保、及びクレジットリスクを軽減するためにオフバランス取引を行っています。これらの取引は、ソニーが営業債権に対する支配を放棄したことから、売却として会計処理されます。なお、一部の営業債権売却プログラムにはストラクチャード・エンティティが関与しています。「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『28.ストラクチャード・エンティティ』をご参照ください。

 

借入債務、コミットメント及び偶発債務等

 2024年3月31日現在におけるソニーの借入債務、コミットメント及び偶発債務等は以下のとおりです。

 

 借入債務

 「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『6.金融商品に関連するリスク管理 (4) 流動性リスク』及び『14.短期借入金及び長期借入債務』をご参照ください。

 

 ローン・コミットメント、パーチェス・コミットメント及び訴訟に関する偶発債務

 「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『32.パーチェス・コミットメント、偶発債務及びその他』をご参照ください。

 

 保険契約負債

 「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『13.金融分野における保険契約 (9) 保険及び市場リスク』をご参照ください。

 

5【経営上の重要な契約等】

 プレイステーション®4及びPS5™ハードウェアを含むソニーのブルーレイディスク™プレーヤー機能付製品は、米国のVia Licensing Alliance LLCとのライセンス契約にもとづきライセンスを供与されている、ブルーレイディスク規格上特定されている技術に関する特許に大きく依存しています。

 

6【研究開発活動】

ソニーのPurpose(存在意義)は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」です。そして、そのキーワードは「感動」です。

世界が感動で満たされ続けるためには、人々のクリエイティビティを解き放つテクノロジーを生み出しつづけ、我々の文明を持続可能なものにする必要があります。これを明確にするために、「我々の文明を進歩させ、この惑星を持続可能にする」を、ソニーグループにおける研究開発のミッションとして掲げました。

 

ソニーのPurposeを実現するためには、多様なテクノロジーが必要となります。その中核となるのが「センシング」「AI」「仮想空間」の3つの領域とそれらの連動です。現実空間でのセンサーとAIの連動により、画像認識や音声認識の高度化が期待されます。そしてセンシングされたデータや、そのデータを学習することで強化されたAIを用いて、仮想空間上での精密なシミュレーションや魅力的なコンテンツの生成が可能となります。さらに、仮想空間で得られた結果をAIにフィードバックすることで、AIの能力を強化することができます。このように、センシング、AI、仮想空間を連動させ、ソニーをAI/Data-driven Companyへと変革していきます。

そして、ソニーはこれまでクリエイターの創造的なひらめきを支えることで、社会に対してポジティブなインパクトを生み出してきました。“We are here for creators”というソニーのR&Dの方向性のもと、クリエイターのためのテクノロジーを作り、クリエイターとともに未来を創造していきます。

 

ソニーグループの研究開発組織は、国内外の複数の拠点と連携し、それぞれの地域の特徴や強みを活かした研究開発活動を行っています。現地の優秀な研究開発人材の獲得をめざすとともに、ソニーグループの中だけに閉じず、外部のクリエイターやアカデミアとの連携も強化していきます。すでに世界各地の大学との共同開発など様々な活動を推進しており、今後さらに拡大させていきます。

 

 2023年度の研究開発費は、前年度に比べ71億円(1.0%)増加の7,428億円となりました。金融分野を除く連結売上高に対する比率は、前年度の7.3%から6.6%になりました。

 

 各分野及び当社の研究開発組織(以下「コーポレートR&D」)における研究開発費の金額は以下のとおりです。

項目

2022年度

(億円)

2023年度

(億円)

増減率

(%)

G&NS

2,711

2,816

3.8

ET&S

1,557

1,548

△0.6

I&SS

2,237

2,192

△2.0

コーポレートR&D

464

454

△2.2

 

 

 2023年度の主な研究開発活動及び成果として、以下のものがあげられます。

 

(1)G&NS

・PlayStation®5向けクラウドストリーミング

 2023年10月、PlayStation Plusプレミアムの加入者向けに、PS5™のクラウドストリーミング機能の提供を開始しました。PlayStation Plusのカタログに含まれるゲームや、PlayStation Storeで購入したPS5用の対象タイトルなど数百本のゲームをPS5本体にダウンロードせずにプレイできるようになりました。

 

・Access™コントローラー

 2023年12月に発売を開始したAccessコントローラーは、ゲームのアクセシビリティをさらに一歩前進させるPS5用のアクセシビリティコントローラーキットです。アクセシビリティの専門家、コミュニティーメンバー、ゲーム開発者の協力により開発された本製品は、ハードウェア及びユーザーインターフェースの両面において様々なカスタマイズが可能で、あらゆる方がより簡単に、快適に、そして長い時間ゲームをお楽しみいただけるようサポートします。

 

(2)ET&S

・空間コンテンツ制作システム

 高画質の4K OLEDマイクロディスプレイやビデオシースルー機能を搭載したXRヘッドマウントディスプレイ(HMD)と、3Dオブジェクトの精密な操作に最適化したコントローラーを備え、空間コンテンツ制作における高度なクリエイティブ作業に対応する没入型空間コンテンツ制作システムを開発しました。

このシステムでは、両眼8KのOLEDマイクロディスプレイがもたらす高精細表示に加えて、ビデオシースルー機能により、肉眼視に近い見え方で現実の空間に仮想の物体を表示します。また、手指で造形物を把持しながらキーボードで数値入力を行うことを可能とするリング型コントローラー、ポインティングのための独自のポインティングコントローラー、これらを用いて立体視による直感的かつ精密な制作を行うことを可能とするUIにより、クリエイターが現実と仮想空間をシームレスに行き来できる、没入感のある空間コンテンツ制作体験を提供します。

 

・360 Virtual Mixing Environmentとそれを支えるヘッドホン「MDR-MV1」

 長年にわたる立体音響技術開発の集大成として、映画サウンド制作用スタジオの音・音場環境を、精密な音響測定をもとにヘッドホンのみで再現する技術「360 Virtual Mixing Environment」(「360VME」)を開発しました。SPE及びソニー・インタラクティブエンタテインメントと連携し、プロの制作用に特化して開発を進め、SPEのサウンド制作用リファレンススタジオや、PlayStation Studiosが持つゲームサウンド専用スタジオの音場環境を高精度に再現しました。そして、新しい振動板形状を採用し専用開発したドライバーユニットを備えた、立体音響制作に最適な背面開放型モニターヘッドホン「MDR-MV1」を商品化しました。

 また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、自宅での作業を余儀なくされたミキシングエンジニアのために、SPEと連携し、「360VME」を用いてミキシングステージの音場を再現しました。これにより、映画サウンド制作の最前線で活躍するクリエイターからも認められるサウンド制作のクオリティを、クリエイターの自宅でも実現できるようになりました。新型コロナウイルス禍の終息後においても場所の制約を取り払った新たなワークフローとしての活用が期待されており、音楽などの立体音響コンテンツ制作向け「360VME」の測定サービス事業を開始しています。

 

(3)I&SS

・リアルな空間再現に貢献する大型で高精細な1.3型4K OLEDマイクロディスプレイ「ECX344A」

 本製品は、カメラの電子ビューファインダー(EVF)の開発で培った微細化プロセスと独自の画素駆動回路の採用により、大型の1.3型ディスプレイにおいて4Kの高解像度を実現し、VR/AR向けヘッドマウントディスプレイによるリアルな空間再現に貢献します。さらに、新開発の高速駆動用ドライバー回路を搭載することで、4Kでも高フレームレートで滑らかな映像表現を実現します。また、従来の技術では色域と輝度の性能はトレードオフの関係にありましたが、色域を広げながら光の利用効率を改善する独自の画素構造を採用することで、広色域と高輝度性能の両立を実現し、高精細性と併せることで、リアルな映像による没入感の高い体験を可能にします。

 

・業界最多※1有効1,742万画素※2の車載カメラ用CMOSイメージセンサー「IMX735」

 システムが自律的に運転操作を行う自動運転を実現するためには、周囲360度の車外環境を高精度にとらえることができる高度な検知・認識性能が必要となります。本製品は、業界最多の有効1,742万画素を実現したことにより、遠くの対象物を高精細に検知することを可能にします。加えて、画素信号の水平方向出力を採用することで、メカニカルスキャン方式のLiDARと同期しやすく、自動運転システム全体として検知・認識性能を向上させることも可能です。さらに、独自の画素構造と露光方法により飽和照度を改善したことで、逆光などの条件下でも白飛びを抑制し、またトンネルの出入り口などの明暗差の大きい道路環境においても、対象物をより正確に検知・認識することができます。本製品により、高度な検知・認識性能を有する車載カメラシステムを実現し、安心・安全な自動運転に貢献します。

※1 車載カメラ用のCMOSイメージセンサーとして(2023年9月12日広報発表時)

※2 イメージセンサーの有効画素規定方法にもとづく

 

(4)コーポレートR&D

・SOTA生成モデルとリアルタイムアプリへの応用

 機械学習による画像生成の領域において、独自の新たなモデルを開発し、従来のSOTA生成モデルを上回る品質を達成すると同時に40倍の高速化を達成しました。本技術に関する論文「Consistency Trajectory Models:Learning Probability Flow ODE Trajectory of Diffusion」及び「SAN:Inducing Metrizability of GAN with Discriminative Normalized Linear Layer」は機械学習の領域で権威ある国際会議「International Conference on Learning Representations 2024」において採択されました。この高速かつ高品質な生成技術は、ゲームなどのエンタテインメント事業でのリアルタイム背景映像生成等の応用が期待されています。

※SOTA: State-of-the-Art

 

・リップシンク技術によるアニメーションの制作支援

 従来、アニメーション制作などにおいて、キャラクターの唇の動きと音声を同期させることに多くの時間を要していました。本技術は、AIを用いることで制作工程の短縮に貢献します。この技術を導入したリップシンクツールは、既にアニメ制作現場でも活用されています。