文中の将来に関する事項については、当連結会計年度末現在における予想や一定の前提に基づくものであり、これらの記載は実際の結果と異なる可能性があるとともに、その達成を保証するものではありません。
(1)経営の基本方針
エプソンのあらゆる企業活動の中心にはパーパスがあります。エプソンが社会に対してどのような価値を提供する存在であるかを定めるとともに、エプソンならではの存在意義と志を社内外に示すため、2022年9月にパーパス「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る」を制定しました。そして、エプソンは、グループの価値観・行動様式を定めた「エプソンウェイ」の普遍的な考え方である経営理念を礎とし、ビジョンによりパーパスを実現することで社会へと新しい価値を提供します。これにより、将来にわたって持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図ってまいります。
<理念構造>
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(2)長期ビジョン「Epson 25 Renewed」の考え方
エプソンは、将来にわたって追求するありたい姿として設定した「持続可能でこころ豊かな社会の実現」に向け、「Epson 25 Renewed」を策定しています。現在、気候変動をはじめ、人類はさまざまな社会課題に直面しています。また、物質的、経済的な豊かさだけでなく、もっと精神的な豊かさ、文化的な豊かさ、そういったさまざまな豊かさを含めた「こころの豊かさ」が望まれる時代となったと考えています。そのためには、持続可能な社会であることが大前提になります。このような背景のもと、エプソンは、常に社会課題を起点として、その解決に向けて私たちに何ができるか、私たちの技術を使ってどう課題解決し、社会に貢献できるか、という発想でビジネスを展開していきます。
①「Epson 25 Renewed」ビジョンステートメント
「Epson 25 Renewed」のビジョンステートメントとして、「『省・小・精の技術』とデジタル技術で人・モノ・情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する」と定めています。人・モノ・情報をスマートにつなげるソリューションを、個人の生活や、産業や製造の現場にまで広く社会へ提供し、ありたい姿の実現のために取り組みます。そこで重要となるのは、「環境」「DX」「共創」の3つの取り組みです。
(環境への取り組み)
●「脱炭素」と「資源循環」に取り組むとともに、環境負荷低減を実現する商品・サービスの提供、環境技術の開発を推進する
(DXへの取り組み)
●強固なデジタルプラットフォームを構築し、人・モノ・情報をつなげ、お客様のニーズに寄り添い続けるソリューションを共創し、カスタマーサクセスに貢献する
(共創への取り組み)
●技術、製品群をベースとし、共創の場・人材交流、コアデバイスの提供、協業・出資を通して、さまざまなパートナーと社会課題の解決につなげる
②「Epson 25 Renewed」方針
不透明な社会環境の継続が予想されるなか、取り組みにメリハリをつけることにより、収益性を確保しながら将来成長を目指します。そして、すべての領域に必要な環境、DX、共創への取り組みも継続的に強化していきます。
領域区分 |
対象事業 |
方針 |
成長領域 |
オフィスプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販、生産システム |
環境変化を機会と捉えて経営資源投下 |
成熟領域 |
ホームプリンティング、プロジェクション、ウオッチ、マイクロデバイス |
構造改革や効率化などにより、収益性重視 |
新領域 |
センシング、環境ビジネス |
新たな技術・ビジネス開発に取り組む |
(3)「環境ビジョン2050」の考え方
エプソンは、以下のとおり持続可能な社会の前提である環境への取り組みに関するビジョン「環境ビジョン2050」を改定し、2050年に達成する目標と、その実現に向けた取り組みを定めています。
項目 |
内容 |
ビジョン ステートメント |
2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ(※1)」を達成し、持続可能でこころ豊かな社会を実現する |
達成目標 |
2030年:1.5℃シナリオ(※2)に沿った総排出量削減 2050年:「カーボンマイナス」、「地下資源消費ゼロ(※1)」 |
アクション |
●商品・サービスやサプライチェーンにおける環境負荷の低減 ●オープンで独創的なイノベーションによる循環型経済の牽引と産業構造の革新 ●国際的な環境保全活動への貢献 |
※1 原油、金属などの枯渇性資源
※2 SBTイニシアチブ(Science Based Targets initiative)のクライテリアに基づく科学的な知見と整合した温室
効果ガスの削減目標
(4)優先的に対処すべき事業上および財務上の課題
①イノベーション戦略の方針と進捗、今後の取り組み
目指す姿の実現に向けた戦略を実行するために、お客様価値や社会課題の軸で5つのイノベーション領域を設定しています。そして、それらのイノベーションを支えるマイクロデバイス事業においては、「省・小・精の技術」を極めた水晶・半導体ソリューションにより、スマート化する社会の実現に貢献していきます。
<オフィス・ホームプリンティングイノベーション>
当領域では、インクジェット技術・紙再生技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減・生産性向上を実現し、分散化に対応した印刷の進化を主導することを目指しています。
オフィスプリンティングでは、中速帯のラインインクジェット複合機が伸長しました。今後は、利便性・価格への顧客要望に対応しコストダウンを継続していきます。また、地域・パートナー戦略を見直し、インクジェットプリンターの価値訴求を強化します。ホームプリンティングでは、アンバサダーを起用したプロモーションにより、大容量インクタンクプリンターの価値訴求や、販売チャネルのサポート強化を続けていきます。
<商業・産業プリンティングイノベーション>
当領域では、インクジェット技術と多様なソリューションにより、印刷のデジタル化を主導し、環境負荷低減・生産性向上の実現を目指しています。
完成品ビジネスでは、従来取り組んできたプラットフォーム設計により、効率的に製品ラインアップ拡充を進めました。また、お客様の生産現場の課題を解決し、業務の効率化を実現する「Epson Cloud Solution PORT」の加入数は順調に増加しています。プリントヘッド外販ビジネスでは、最大市場である中国を中心に販売が順調に拡大しています。今後もエプソンは、商業・産業分野において環境性能と生産性を両立した製品・サービスを展開し、アナログ印刷からデジタル印刷への転換を主導していきます。
<マニュファクチャリングイノベーション>
当領域では、環境負荷に配慮した「生産性・柔軟性が高い生産システム」を共創し、ものづくりを革新することを目指しています。
マニュファクチャリングソリューションズ事業は、世界経済の減速に伴う顧客の投資抑制や中国メーカー台頭の影響を受け、厳しい環境が継続しました。今後は、製品コスト競争力の継続強化に加え、センサーなどを活用した自動化のハードルを下げるソリューション開発・提供や、生産拠点移管が進む東南アジア・インドでの販売強化により、成長を目指します。
<ビジュアルイノベーション>
当領域では、感動の映像体験と快適なビジュアルコミュニケーションで人・モノ・情報・サービスをつなぎ、「学び・働き・暮らし」を支援することを目指しています。
プロジェクション事業は構造改革を進めてきており、既に効率的に利益を上げる体制を整えています。2023年度は各国の教育需要を確実に獲得しました。また、高光束プロジェクター領域においては戦略製品を投入し、シェアを拡大しました。今後は、拡大するホーム向けスマートプロジェクター市場に対応すべく新製品を投入するほか、デジタルを活用した顧客との接点強化や共創による価値創造の取り組みを拡大していきます。
<ライフスタイルイノベーション>
当領域は、匠の技能、センシング技術を活用したソリューションを共創し、お客様の多様なライフスタイルを彩ることを目指しています。
ウオッチ事業はラインアップの整理や製造ラインの自動化などの構造改革により、収益性が改善しつつあります。引き続き、変化に強い事業体質の実現に向け改革を進めます。2023年度は、自社ブランドであるオリエントスターにおいて付加価値の高い製品を市場投入しました。今後、特に海外においてオリエントブランドの認知向上を進めます。センシング事業では、中長期を見据えセンサーを活用した新規ビジネスの育成に取り組んでいきます。
②経営基盤強化の取り組み
上述の各イノベーションの実現に向けて、以下のとおり経営基盤強化に取り組んでいます。
<営業戦略>
● デジタルを活用した顧客支援型営業
CRM(顧客関係管理システム)を導入し、グループ内の全販売会社の営業活動を標準化・見える化することで、顧客接点を強化しています。今後はさらに、サービス領域を中心にデータを活用した営業プロセス改革(コンサルティング・付加価値ソリューションや保守サービスなど)により顧客価値を向上していきます。
● 地域別、領域別の重点的な組織強化
成長領域への要員配置の強化、成熟領域でのオペレーション効率化を進めてきており、今後も取り組みを継続していきます。また、中東・アフリカ地域を担当する新会社(Epson Middle East FZCO)を設立しました。今後もこれらの地域での販売強化に取り組みます。
<生産戦略>
● 自動化・デジタル化によるものづくりの革新
大容量インクタンクプリンターなどの主力製品において、組み立て・検査作業の自動化を進めています。今後も導入効果の高い工程を中心とした自動化や装置保守人材の育成、デジタル技術を活用した効率化を進め、さらなる生産性向上に取り組みます。
● 分散生産体制の確立
リスクに強くレジリエンスの高いサプライチェーン構築に向けて生産の分散化を進めており、複数拠点で生産する本体製品数は大幅に増加しています。今後もさらに分散生産を進めていきます。
<技術開発戦略>
● イノベーションを支える技術開発
各事業領域のイノベーションを支えるために、材料開発や、ものづくり現場へのAI・デジタル技術の導入を強化しています。材料開発では、シミュレーション技術を活用して資源循環や脱炭素社会に貢献する要素開発を行っています。また、ものづくり現場では、検査工程などでのAI活用を進めています。今後は競争力の強化に向けて、技術開発・生産現場などでAI活用を広範に検討していきます。
<人材戦略>
詳細は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (3)人的資本・多様性 」に記載しています。
③財務目標
「Epson 25 Renewed」の実現に向けて、収益性重視の経営へとシフトし、過度な売上成長を追わず、取り組みにメリハリをつけ、収益性の確保と将来成長を目指します。この方針に則り、ROIC、ROEおよびROSを財務目標として設定しています。
今後も収益性・資本効率を重視した経営を推進することに変わりはないものの、外部環境変化を踏まえ、2025年度の業績目標を見直しました。成長領域は、課題に対する施策を着実に実行し、エプソンの事業ポートフォリオ変革を進めます。また、マクロ環境や売上成長を保守的に見積もった上で、業績目標の達成に向け、固定費を中心としたコスト削減活動を実施し、収益性の改善をさらに進めていきます。
全社業績目標 |
2020年度 (実績) |
2021年度 (実績) |
2022年度 (実績) |
2023年度 (実績) |
2025年度 (新目標) |
ROIC(※3) |
5.6% |
7.3% |
7.1% |
4.6% |
7%以上 |
ROE |
5.9% |
15.2% |
10.8% |
6.8% |
8%以上 |
ROS |
6.2% |
7.9% |
7.1% |
4.9% |
7%以上 |
※3 ROIC=税引後事業利益/(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債)
④キャッシュ・アロケーション
創出したキャッシュは、成長戦略に基づく投資をした上で、積極的な利益還元、財務体質強化を実施していきます。
ESG投資の拡大や各国・地域のサステナビリティ関連政策の策定など、世界中でサステナビリティをめぐる動きが加速しています。このようななか、企業は事業活動を通じて、社会が抱える課題にどう対応していくかという姿勢をますます問われるようになっています。エプソンは、これまでも商品・サービスの提供を通じ、さまざまな社会課題の解決に貢献してきました。今後も、パーパスを旗印に、長期的な視点からお客様やパートナーの皆様と「持続可能でこころ豊かな社会」を実現するため、社会のサステナビリティとエプソンのサステナビリティの同期化を進めていきます。
(1)サステナビリティ共通
①ガバナンス
エプソンでは、社長直轄の組織としてサステナビリティ推進室を設置し、その責任者に執行役員 CFOが任命され、グループ全体のサステナビリティ(社会要請に基づく持続的成長性)活動に関する責任を担っています。また、社長の諮問機関として、本部長、事業部長などの経営層に加え、社外取締役、監査等委員により構成される「サステナビリティ戦略会議」を設置しています。サステナビリティ戦略会議では、社会動向レビューに基づきグループ全体に係るサステナビリティに関する中長期戦略を策定し、活動の実践状況のレビューや重要課題への取り組みなどについて審議しています。
さらに、サステナビリティ戦略会議の下部組織として、「サステナビリティ推進会議」を設置し、サステナビリティ活動に関する専門事項について協議・検討を行っています。この推進会議は、関係主管部門長により構成され、サステナビリティ戦略会議へ上申および答申します。サステナビリティ推進室はこれら2つの会議体の事務局を担当するとともに、定期的な取締役会への報告を実施し、より効果的なサステナビリティ活動の推進に努めています。
なお、役員報酬に関しては、より実効的なサステナビリティガバナンスの体制を構築する観点から、マテリアリティに紐づくサステナビリティ重要テーマの指標4項目(脱炭素、サプライチェーン、人権・ダイバーシティ、ガバナンス)を、譲渡制限付株式報酬と連動させています。
■ 推進体制図
②戦略
エプソンは、SDGs、ISO26000などで示された社会課題やメガトレンドを分析するとともに、社会インパクトにつながる自社の強みを検討し、社会課題解決に向けエプソンが取り組むべき重要度の高い課題である4つのマテリアリティ(「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」「生活の質向上」「社会的責任の遂行」)を特定しました。
社会課題を解決することで事業成長を果たし、事業成長をすることでより多くの社会課題を解決するサステナビリティ経営で、持続可能でこころ豊かな社会の実現を目指します。
■ エプソンのサステナビリティ経営
エプソンの企業経営の根幹を成すマテリアリティは、社会課題をベースにしており、エプソンの事業活動は社会課題の解決そのものと捉えています。社会課題を起点にした活動を一層強化することで事業成長を果たし、事業成長することでさらに多くの社会課題を解決し、社会とともに成長することがエプソンにとっての企業価値向上です。そして、社会のサステナビリティとエプソンのサステナビリティを同期するのに必要な経営・事業変革こそが、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」であると位置づけています。
■ 4つのマテリアリティと特定プロセス
エプソンは、以下のマテリアリティを企業経営の根幹として事業展開しています。
<循環型経済の牽引>
電力やエネルギー、水などの資源の有効利用や地下資源の使用削減などによって、資源を循環し、気候変動を抑制することで、持続的な経済活動を牽引する取り組みです。
<産業構造の革新>
従来のプロセスを変えることで、社会課題の解決につなげる取り組みです。例えば、ものづくりのプロセスをアナログ手法からデジタルに転換することによって、環境汚染や労働問題などの改善につなげることを意図しています。
<生活の質向上>
人々が健やかに暮らせるような健康面での貢献や、人の成長、成熟に関わる教育面での貢献です。エプソンが提供する商品やサービスを通じて、多様なライフスタイルを選択することを可能とし、健やかで、彩りのある暮らしにつながる取り組みを進めていきます。
<社会的責任の遂行>
エプソンが、持続可能でこころ豊かな社会を実現するために必要な企業責任を果たすことを示しています。多様なステークホルダーとの対話、調達部材やサプライヤーに関する環境・社会的側面での責任、人権の尊重とダイバーシティの推進、事業継続に関する対応力など、社会から期待される企業のあるべき姿の実現に資する取り組みです。
■ マテリアリティごとの機会とリスク、取り組みテーマ
マテリアリティ(サステナビリティ重要テーマ)ごとの機会とリスクを下記のとおり評価し、Epson 25 Renewedの目標達成に取り組んでいます。
マテリアリティ:循環型経済の牽引 |
||
サステナビリティ 重要テーマ |
機会(〇) |
リスク(●) |
脱炭素の取り組み
資源循環の取り組み
お客様のもとでの 環境負荷低減
環境技術開発 |
〇炭素税導入、電気料金高騰、廃棄物処分コストの上昇、適量生産・資源削減などにより、環境に配慮した商品・サービスへのニーズの高まり ○地球温暖化対策分野や廃棄物処理・資源有効活用分野の市場成長 ○サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのシフトにより、再生プラスチック、バイオプラスチック、金属リサイクルの市場成長 |
●森林保護意識観点からのペーパーレス化気運の高まり ●政策・法規制の変化による操業コスト増 ●「脱炭素」と「資源循環」への対応遅れによる信用低下、企業価値の毀損 ●環境負荷低減につながる環境技術開発の計画未達もしくは遅延による企業価値の毀損 |
マテリアリティ:産業構造の革新 |
||
サステナビリティ 重要テーマ |
機会(〇) |
リスク(●) |
デジタル化・自動化 による生産性向上 |
○消費者ニーズ多様化、環境配慮の重要性の高まりによる省資源で高効率な生産プロセスへの移行 ○地政学的なリスクなどを踏まえたBCP対応を目的とした生産工場の分散化 |
●市場要望に合致した商品・サービスの投入遅れによるビジネス機会の損失 ●扱いやすいソリューションやデジタルサービスの展開の遅れ |
労働環境・教育環境の 改善
|
○働き方の多様化やIT技術の進展にともなうオフィスの変化 ○少子高齢化などを背景とした世界的な労働力不足を補うロボットを用いた自動化ニーズの高まり・広がり ○労働環境の改善やものづくり現場のレジリエンス強化を目的とした生産システムの革新ニーズの高まり ○在宅勤務やWeb会議における物理的コミュニケーション低下によるストレス負荷・業務効率低下解消ニーズの高まり ○世界共通の脱炭素目標の実現(人の移動で生じるCO2の削減)機運の高まり ○開発途上国における学びの場や機会の格差の解消に向けたICT活用拡大 ○デジタル教材、教育プラットフォームの普及 ○新興国、開発途上国における就学人口増大による教育市場の拡大 ○ICTによる教師不足、教務支援不足の解消 ○在宅学習支援プログラムの拡大 |
●市場要望に合致した商品・サービスの投入遅れによるビジネス機会の損失 ●労働力豊富な地域(新興国、開発途上国)への生産移転により人作業中心の労働集約型が継続 ●自動化を実現できる人材の不足 ●アフターコロナにおけるオフィス出社率向上にともなう、リアルとリモートをつなぐニーズの減少 ●プロジェクター以外の大型表示装置・個人端末との競争激化、自社ソリューションの相対的なプレゼンス低下 ●タブレットなどの電子機器活用の拡大による教育市場でのプリントニーズの低下 ●開発途上国の経済発展遅れ、政情不安による、健全な教育予算編成・資金投下の遅れ |
マテリアリティ:生活の質向上 |
||
サステナビリティ 重要テーマ |
機会(〇) |
リスク(●) |
多様なライフスタイル の提案 |
○ライフスタイルの多様化にともなうさまざまなスポーツでのデータ活用による上達支援のニーズの拡大 ○健康支援などの新たなデータサービスビジネスの立ち上がり ○先進国における生産年齢人口の減少や社会保障費の増大への対応として、国をあげた健康寿命延伸への政策的取り組み |
●競合データサービスの進化によるプレゼンス低下 ●健康志向への関心低迷によるデータサービスビジネスへの影響 |
豊かで彩のある暮らし の実現 |
○多様な価値観、趣味、趣向に応える嗜好品の需要 |
●価値観の変化によるウエアラブル機器市場におけるプレゼンス低下 |
マテリアリティ:社会的責任の遂行 |
||
サステナビリティ 重要テーマ |
機会(〇) |
リスク(●) |
ステークホルダーエン ゲージメントの向上 |
○サステナビリティに関するステークホルダーからの関心の高まり |
●不適切な対応によるステークホルダーからの信頼の失墜、企業価値の毀損 |
責任あるサプライ チェーンの実現 |
○世界的な「ビジネスと人権」への関心の高まり |
●当社およびサプライチェーンにおける人権侵害の発生 |
人権の尊重と ダイバーシティの推進 |
○自由闊達で風通しの良い組織風土の醸成による企業パフォーマンスの向上 ○世界的な「ビジネスと人権」への関心の高まり ○DE&Iの認知や理解、社会的マイノリティに対する意識の変化 |
●組織風土の改善が進まないことによるエンゲージメントの低下、イノベーションの欠如 ●サプライチェーンを含め、重大な人権侵害が発生した場合、企業価値の毀損 ●DE&Iが進まないことによるエンゲージメントの低下 |
ガバナンスの強化 |
○ガバナンス体制の強化による戦略推進の加速、変化への対応力向上 ○適切なリスクテイクによる競争力の向上 |
●ガバナンス不全にともなう戦略進捗の遅れ、組織力低下 ●コンプライアンス違反による損失の発生、社会的信用の失墜 |
③リスク管理
企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。エプソンは、サステナビリティに関連するリスクを経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。
■リスク管理プロセス
④指標及び目標
■ マテリアリティとサステナビリティ重要テーマ、KPI
社会課題解決に向けエプソンが取り組むべき重要度の高い課題である4つのマテリアリティへの取り組みを実効性のあるものにするため、12のサステナビリティ重要テーマを設定し、取り組み目標(KPI)を定め、中期活動計画に反映し着実に推進しています。
■ サステナビリティ重要テーマ目標と実績
マテリアリティ:循環型経済の牽引 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
脱炭素の 取り組み |
2050年「カーボンマイナス」に向けた、設備の省エネ、温室効果ガス除去、サプライヤーエンゲージメント、脱炭素ロジスティクス |
・スコープ1,2 GHG排出量(総量)削減率 ・スコープ3 GHG排出量(事業利益原単位)削減率 |
・2017年度比 65%削減 ・2017年度比 45%削減 |
・2017年度比 80%削減 ・2017年度比 17%削減 |
再生可能エネルギーの活用 |
再生可能エネルギー導入率 |
グローバルで 100% |
グローバル導入率 100% |
|
資源循環の取り組み |
2050年「地下資源(※1)消費ゼロ」に向けた ・小型軽量化/再生材活用などの資源の有効活用 ・生産ロスを極小化する循環型生産システムの構築 |
サステナブル資源率 (※2) |
27% |
32% |
最終埋立率 (※3) |
1%以下 |
0.6% |
||
お客様のもとでの環境負荷低減 |
環境負荷低減に資する商品・サービスによる削減貢献量の最大化 (※4) |
商品サービスによる削減貢献量 |
新しい算定ロジックによる算出開始と目標値策定 |
(※5) |
マテリアリティ:循環型経済の牽引 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
環境技術開発 |
ドライファイバーテクノロジーを応用した再生材/天然素材による脱プラスチック・資源循環の実現 ・梱包材(従来材の置き換え) ・外装材(従来材の置き換え) |
開発プロセスの進捗状況 |
実用化範囲拡大 |
・梱包材:活用拡大に向けた開発(コットン端材) ・外装材:複合プラスチックの素材開発(素材性能向上) |
スクラップ金属の高付加価値リサイクル技術確立 |
開発プロセスの進捗状況 |
金属粉末(造形材)の高付加価値化技術の実用化 |
造形材としての要素技術開発を完了しPoC(※6)推進中 |
|
マテリアリティ:産業構造の革新 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
デジタル化・自動化による生産性向上 |
インクジェット技術と多様なソリューションにより、商業・産業印刷のデジタル化を主導し、クリーンでスペース効率の良い現場作りと環境負荷低減・生産性向上を実現する |
商業・産業向けインクジェットプリンター対前年売上伸長率 |
10% |
1% |
労働環境の改善・教育環境の改善 |
インクジェット技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減・生産性向上を実現し、在宅学習や分散オフィスの印刷の進化を主導する |
SOHO・ホーム向け大容量インクジェットプリンター対前年売上伸長率 |
5% |
△9% |
ロボットを用いた自動化による労働力不足の解消 |
労働力不足解消数(※7) |
28,000人 |
26,000人 |
|
臨場感と情報量を両立し、リアルとリモートを組み合わせた境界のない公平・自然で快適なコミュニケーション環境を提供する |
共創・協業案件数 またはパートナー数 |
共創・協業案件:1件 |
共創・協業案件:2件 |
|
大画面コミュニケーションをコンパクトに実現するスマート型の携行型ディスプレイにより均質な学びの機会を創出し、地域や社会情勢の違いによる学びの格差を緩和する |
共創・協業による現地実証プログラム数 |
価値実証件数: 20件 |
価値実証件数: 29件 |
マテリアリティ:生活の質向上 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
多様なライフスタイルの提案 |
独創のセンシング技術とアルゴリズムにより、パーソナライズされた価値をビジュアルで分かりやすく提供することで、生活習慣病予防やスポーツ上達支援によって人々の多様なライフスタイルを彩る |
売上に占める支援サービスのデータビジネス比率(※8)収益比率 |
20% |
22% |
豊かで彩のある暮らしの実現 |
「省・小・精の技術」と匠の技能で、魅力ある上質な商品を提供し、お客様の多様なライフスタイルを彩る |
魅力ある上質な商品の対前年売上伸長率 |
4% |
4% |
マテリアリティ:社会的責任の遂行 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
ステークホルダーエンゲージメントの向上 |
ステークホルダーとの対話強化 によるニーズ・社会要請への対応 |
社会支援活動 支援金額 |
売上の0.1%以上 |
売上の0.1% |
株主・投資家との対話回数ならびに経営への意見反映 |
株主・投資家との対話200回以上 |
株主・投資家との対話240回 |
||
外部評価機関の評価指数 |
高評価を得る |
高評価(※9)を獲得 |
||
責任あるサプライチェーンの実現 |
サプライチェーンBCM強化 |
サプライチェーン途絶・停滞によるお客様への影響(2024年度販売影響) |
サプライチェーン途絶による販売影響を限りなくゼロとする |
サプライチェーン起因による影響:ゼロ |
責任あるサプライチェーンの実現 |
サプライヤーにおけるCSRリスクレベル |
主要サプライヤーのCSRリスクランク: (直接材) ・ハイリスク:0% ・ミドルリスク:4%以下 (間接材) ・ハイリスク:0% |
(直接材) ・ハイリスク:0% ・ミドルリスク:4.2% (間接在) ・ハイリスク:0% |
|
責任ある鉱物調達の実現 |
・製品のコンフリクトフリー(CF)率 ・調査回答率 (※10) |
・CF戦略製品のCF情報リリース ・調査回答率:100% |
・CF情報の実績開示に向け準備 ・調査回答率:100% |
マテリアリティ:社会的責任の遂行 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
人権の尊重とダイバーシティの推進 |
自由闊達で風通しのよい組織風土 づくり |
組織風土アセスメント「チームで働く力」スコア |
・モチベーションクラウド・エンゲージメントレーティング:BB ・レーティングD職場数:31 |
・モチベーションクラウド・エンゲージメントレーティング:BB ・レーティングD職場数:45 |
こころの健康診断「総合健康リスク」ハイリスク職場数 |
「総合健康リスク」ハイリスク職場数ゼロに向けて前年より減 (※11) |
2022年度よりハイリスク職場数が増 |
||
ハラスメント防止施策の実施(教育・研修、事案共有、任用プロセス等)、事案の本社報告の徹底 |
・社会動向、発生事案、共通課題を踏まえた研修コンテンツの改訂 ・相談窓口担当者研修の定期開催 |
計画した研修については、コンテンツの刷新含めて計画通り進行 |
||
・全社傾向の把握 ・標準業務の見極め、高負荷窓口一部外部化の検証 |
相談窓口外部委託化の選定完了、運用準備 |
|||
新「人権方針」のグループ内浸透 による人権の尊重 |
人権尊重のコミットメント、人権デューデリジェンス(DD)・救済メカニズムの定着・改善 |
人権尊重のためのPDCAサイクルの定着・改善 ・国内:各種相談窓口との連携体制の構築 ・海外:各現法窓口からの報告ルール明確化による情報集約・状況把握体制の整備 |
(PDCAサイクル) ・RBAのスキームを活用した人権尊重の活動の継続 ・人権侵害リスクを再評価し、人権DDを実施 (救済メカニズム) ・国内:社内窓口の連携体制構築、社外向け相談窓口としてJaCER(※12)の利用を開始 ・海外:当該案件の情報集約に着手 |
|
ダイバーシティを尊重した人材の 活用 |
・女性管理職比率 (当社) ・女性執行役員数2025年度までに1名以上(国内) |
・管理職女性比率5% ・女性係長級比率8% |
・女性管理職比率4.7% ・女性係長級比率 7.7% |
マテリアリティ:社会的責任の遂行 |
||||
サステナビリティ 重要テーマ |
取り組みテーマ |
評価指標(KPI) |
2023年度 |
2023年度 実績 |
ガバナンスの強化 |
コンプライアンス経営の基盤強化 |
重大なコンプライアンス違反事案(※13)の発生件数 |
0件 |
0件 |
グループコンプライアンスレベル の引き上げ |
グループ全社へのコンプライアンス教育(e-ラーニング)実施率 |
グループ全社での実施率100% |
グループ全社での実施率100% |
|
透明・公正かつ迅速・果断な意思 決定を実現するガバナンス体制の 維持・強化 |
・取締役会の社外取締役比率 ・選考/報酬審議会の社外取締役比率 |
・取締役会の社外取締役比率1/3以上を維持 ・選考/報酬審議会の社外取締役比率80%以上を維持 |
・取締役会の社外取締役比率1/3以上を維持 ・選考/報酬審議会の社外取締役比率80%以上を維持 |
|
情報セキュリティーの強化 |
重大な情報セキュリティーインシデント発生件数 |
0件 |
0件 |
※1 原油、金属などの枯渇性資源
※2 原材料に対するサステナブル資源(再生可能資源+循環資源+低枯渇性資源)の比率
※3 資源投入量に対する生産系埋立量の比率
※4 商品・サービスが社会のGHG排出量の削減に資する量を定量化したもの
※5 2023年度実績は2024年8月上旬頃、下記の当社ウェブサイトで開示予定
https://corporate.epson/ja/sustainability/initiatives/materiality.html
※6 PoC(Proof of Concept、概念実証):新しい技術などの実現可能性や実際の効果などを検証するプロセス
※7 エプソン社内プロジェクトの効果ベースで換算
※8 データをアルゴリズム変換し価値提供を行うビジネスモデル
※9 Sustainalytics:Low、FTSE:4点以上、東洋経済新報社「CSR企業ランキング」トップ50以上
※10 調査依頼サプライヤーに対する回答提出サプライヤーの率
※11 目標値管理は回答者10名以上の職場を対象
※12 JaCER:ビジネスと人権対話救済機構
※13 適時開示事由に該当するような違反事案
(2)気候変動(TCFD)
気候変動が社会に与える影響は大きく、エプソンとしても取り組むべき重要な社会課題だと捉えています。パリ協定の目指す脱炭素社会(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)の実現に向け、エプソンは2030年に「1.5℃シナリオに沿った総排出量削減」の目標達成を目指しています。また、「Epson 25 Renewed」の公表に合わせ「環境ビジョン2050」を改定し、その目標として掲げる2050年の「カーボンマイナス」「地下資源(※14)消費ゼロ」に向け、脱炭素と資源循環に取り組むとともに、環境負荷低減を実現する商品・サービスの提供、環境技術の開発を推進しています。
エプソンは2019年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明して以降、株主・投資家をはじめとする幅広いステークホルダーとの良好なコミュニケーションがとれるように、TCFDのフレームワークに基づき、情報開示(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)を進めています。2021年には財務影響度をエプソンとして初めて定量的に開示することにしました。さらに、2022年はTCFD提言の改訂を受けて、GHG排出量の削減を目的とした具体的な取り組み実績などの開示強化を行いました。2023年以降は気候関連のリスク・機会に対する取り組みのハイライトや具体的成果に関する定性・定量情報の充実化を行っています。
※14 原油、金属などの枯渇性資源
■ シナリオ分析の結果
TCFDのフレームワークに基づいて、シナリオ分析を実施し、気候関連リスク・機会がエプソンの戦略に与える財務影響度を定量的に評価しました。その結果、脱炭素社会へ急速に進んだ1.5℃シナリオの場合、市場の変化・政策・法規制による操業コスト増加の移行リスクはあるものの、インクジェット技術・紙再生技術に基づく商品・サービスの強化により財務影響へのインパクトは限定的と予想しています。
エプソンは、2021-30年までの10年間で約1,000億円(2021-25年は約250億円、2026-30年は約750億円)を投入し、脱炭素・資源循環・環境技術開発への取り組みを加速します。また、気候関連リスクへの解決は、私たちが設定したマテリアリティである「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」に合致し、エプソンの強みである低環境負荷(消費電力・廃棄物など)の商品・サービスで、事業拡大の機会につながります。この機会の拡大は、お客様のもとでの環境負荷低減や気候変動の抑制に貢献するものです。
こうした評価結果から、エプソンは社会にとっても自社にとっても合理的であるパリ協定の目指す脱炭素社会の実現に向け、認識したリスクに対処しながら、機会を最大化するための取り組みを継続的に進めています。
なお、世界が現状を上回る対策をとらずに温暖化が進んだ4℃シナリオの場合でも、異常気象にともなう災害の激甚化による国内外の拠点に対する物理リスクの影響は、小さいことが確認されています。
①ガバナンス
気候変動に係る重要事項は、社長の諮問機関としてグループ全体のサステナビリティ活動の中長期戦略を策定・実践状況のレビューを行う「サステナビリティ戦略会議」で議論のうえ、定期的に(年に1回以上)取締役会に報告することで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。
また、気候関連問題に対する最高責任と権限を有する代表取締役社長は、サステナビリティ推進室長(執行役員 CFO)を気候関連問題の責任者に任命し、サステナビリティ推進室長は、TCFDを含む気候変動に関する取り組みを管理・推進しています。
なお、推進体制については「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」の推進体制図と同様です。
②戦略
エプソンは、「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」をマテリアリティとして設定しています。これを達成するために、エプソンの技術の源泉である「省・小・精の技術」を基盤に、イノベーションを起こし、さらなる温室効果ガス(GHG)排出量削減に取り組んでいます。さらに、気候変動に対するレジリエンスの強化を図るため、「環境ビジョン2050」の実現に向け、環境戦略定例会および下部組織の部会にて活動を推進し、2023年度は以下の取り組みを中心に活動の実践状況のレビューや各種経営会議への審議・報告を行いました。
レジリエンス強化 |
2023年度取り組み実績 |
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環境戦略定例会の |
脱炭素 |
・スコープ1排出量ゼロに向けた中期削減ロードマップ確定(電化・燃料転換の設備更新) ・再生可能エネルギーの持続的・安定的な調達の実行と自社発電計画の策定 ・サプライヤーエンゲージメント(サプライヤーの削減計画・再エネ切り替え調査等) |
資源循環 |
・地下資源消費ゼロに向けた資源循環指標・目標の運用開始 ・小型軽量化・再生材活用、サステナブル資源化の各事業/全社中期計画策定 |
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お客様のもとでの 環境負荷軽減 |
・社会の環境負荷低減に寄与する製品ジャンルについて、客観性・公平性のある削減貢献量の算定開始 |
|
環境技術開発 |
・ドライファイバーテクノロジー応用テーマの具体化(梱包材、セルロース複合バイオプラ開発) ・金属粉末(造形材)の高付加価値化技術の実用化に向けた要素技術開発 |
■ 気候関連のリスク・機会に関するシナリオ分析
エプソンは、気候関連のリスク・機会の重要性評価に向け、「移行リスク」「物理リスク」「機会」の区分でシナリオ特定と評価を実施し、7つの評価項目を選定しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と国際エネルギー機関(IEA)が提示する気温上昇1.5℃に相当するシナリオと社内外の情報に基づき、事業インパクトと財務影響度を評価しました。
■ 1.5℃シナリオにおける気候関連リスク・機会
シナリオ分析に基づいた気候関連リスク・機会の評価結果は以下のとおりです。
区分 |
評価項目 |
顕在 時期 |
事業インパクト |
財務影響度 |
|
移行リスク |
市場の変化・政策・法規制 |
ペーパー需要 |
短期 |
インパクト ・気候変動とペーパー需要の変化に関する強い関連性は見出せないが、印刷・情報用紙の需要は減少傾向にあると想定する。COVID-19によるトレンド変化(分散化によるオフィス印刷の縮小など)によりペーパーレス化がさらに進んだ場合においても、インクジェット技術・紙再生技術に基づく商品・サービスの強化(印刷コスト低減、環境負荷低減、印刷の快適性向上、紙情報の有用性訴求)により財務影響へのインパクトは限定的と予想される |
小 |
(環境ビジョン2050の取り組み) ・脱炭素 ・資源循環 ・環境技術開発 |
短期 |
インパクト ・世界的に共通した社会課題である「気候変動」と「資源枯渇」に対し、商品・サービスやサプライチェーンの「脱炭素」と「資源循環」における先進的な取り組みが求められる ・飛躍的な環境負荷低減につながる環境技術開発により、科学的かつ具体的なソリューションが求められる
リスクへの対応 ・脱炭素 ●再生可能エネルギー活用 ●設備の省エネ ●温室効果ガス除去 ●サプライヤーエンゲージメント ●脱炭素ロジスティクス ・資源循環 ●資源の有効活用 ●生産ロス極小化 ●商品の長期使用 ・環境技術開発 ●ドライファイバーテクノロジー応用 ●天然由来素材(脱プラ) ●原料リサイクル(金属、紙) ●CO2吸収技術 |
2030年 までに合計 約1,000億円を投入 |
||
物理リスク |
急性 |
洪水による |
長期 (21世紀末) |
インパクト ・36拠点(国内17、海外19)を対象にリスクを評価した結果、洪水(河川氾濫)、高潮、渇水によるエプソンに将来的な操業リスクの変化は限定的 ・サプライチェーンに関する短期気候変動リスクについては、BCP(事業継続計画)で対応 |
小 |
慢性 |
海面上昇による |
||||
渇水による |
|||||
機会 |
商品・サービス |
(環境ビジョ 2050の取り組み) ・お客様のもとでの環境負荷低減 |
短期 |
想定シナリオ ・炭素税導入、電気料金高騰、廃棄物処分コストの上昇、適量生産・資源削減などにより、環境に配慮した商品・サービスへのニーズが高まる
事業機会 ・「Epson 25 Renewed」における成長領域として、①環境負荷低減・生産性向上・印刷コスト低減を実現するインクジェット技術によるオフィスプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販、②環境負荷低減を実現する新生産装置の拡充による生産システムの提供、により売上収益成長CAGR(年平均成長率)15%を見込む |
大
2025年度 までに 成長領域CAGR15% 見込 |
環境ビジネス |
短期 |
想定シナリオ ・地球温暖化対策分野や廃棄物処理・資源有効活用分野の市場成長が見込まれる ・サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのシフトにより、再生プラスチック、高機能バイオ素材、バイオプラスチック、金属リサイクルの市場成長が見込まれる
事業機会 ・地球温暖化対策やサーキュラーエコノミーへのシフトに対する有効なソリューションとして、紙再生を含むドライファイバーテクノロジー応用、天然由来素材(脱プラ)開発、原料リサイクル(金属再生、紙循環)などの技術確立を通じ、価値変換(高機能化)、脱プラ化(梱包材、成形材)、高付加価値新規素材の創出などにより売上収益を獲得 |
中 |
顕在時期 短期:10年未満 中期:10年~50年 長期:50年超
財務影響度 小:10億円未満 中:10億円~100億円 大:100億円超
エプソンは、脱炭素、資源循環、環境技術開発、お客様のもとでの環境負荷低減に向けた取り組みを進めています。2023年度の取り組み実績は以下のとおりです。
区分 |
評価項目 |
2023年度取り組み実績 |
2023年度 定量実績 |
|
移行リスク |
市場の変化・政策・法規制 |
ペーパー需要 |
・オフィス・ホームプリンティングのインクは、インクカートリッジの減少を、本体市場稼働台数の増加に伴う大容量インクボトルとオフィス共有インクの増加が補い、安定的に推移しており、エプソンがターゲットとしているマーケットでのペーパー需要変動による財務影響は限定的 |
小 (※15) |
脱炭素 |
・エプソングループ全世界の拠点(※16)での100%再生可能エネルギー化完了 ・再生可能エネルギーの長期安定調達化に向けたロードマップ策定と自社初のバイオマス発電所建設を計画化(2026年稼働予定) |
47.9億円 (内訳) ・投 資:15.4億円 ・費 用:17.3億円 ・人件費:15.2億円
環境ビジョン2050 累積投入費用・投資 合計 126.4億円 |
||
資源循環 |
・再生プラスチック使用製品の拡大、リファービッシュ/リユースによる商品の長期使用の拡大 ・不要な金属を、金属粉末製品の原料として資源化する新工場の建設を開始(2025年6月稼働予定)(エプソンアトミックス) |
|||
環境技術開発 |
・ドライファイバーテクノロジーを応用した繊維再生の新技術開発へ向けた外部連携、セルロース複合バイオプラの開発体制強化と開発推進 ・分離膜を用いたCO2分離・回収、藻類を活用したCO2吸収技術開発推進 |
|||
物理リスク |
急性 |
洪水による 事業拠点の被災 |
・36拠点(国内17、海外19)を対象にIPCC第6次評価報告書に基づきリスクを評価(※17) -洪水(河川氾濫)、高潮、渇水によるエプソンへの将来的な 操業リスクの変化は限定的であることを確認。豊科事業所 (※18)における低階層の設備浸水リスクに対しBCP施策 (設備更新時の移設)で対応 |
─ |
慢性 |
海面上昇による 事業拠点の被災 |
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渇水による 操業への影響 |
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機会 |
商品・サービス |
お客様のもとでの 環境負荷軽減 |
・「Epson 25 Renewed」における成長領域(オフィスプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販、生産システム)への取り組みを推進 |
2020年度→23年度 売上収益 CAGR +14.7% |
環境ビジネス |
・ドライファイバーテクノロジーを核技術としたビジネス展開に向け、繊維リサイクルビジネスモデルの検証開始 |
─ |
※15 財務影響度 小:10億円未満
※16 一部販売拠点などの賃借物件は除く
※17 IPCCの気候変動シナリオRCP2.6(2℃)、RCP8.5(4℃)にて評価
※18 国内拠点で長期的洪水リスク(21世紀末)を有する主要拠点
③リスク管理
企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。エプソンは、気候関連問題を経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。
■ 気候関連リスクの識別・評価・管理プロセス
1 調査 |
2 識別・評価 |
3 管理 |
・IPCC第6次評価報告書の変化点を加味して、国内外の主要拠点を対象に、気候変動に起因した自然災害リスクに関する調査を実施 ・社会動向を調査 |
・「Epson 25 Renewed」「環境ビジョン2050」の方針や施策からリスク・機会を洗い出し ・サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、シナリオ分析を評価 |
・サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、適切に管理 |
④指標及び目標
エプソンは、「環境ビジョン2050」の実現に向け、中長期的な温室効果ガス(GHG)の排出削減目標の達成を目指します。そのため、エプソンの技術の源泉である「省・小・精の技術」を基盤に、商品の環境性能向上や再生可能エネルギーの活用、事業活動などバリューチェーンを通じた環境負荷低減に積極的に取り組んでいます。
■ GHG削減目標(「1.5℃シナリオ」に沿った野心的な排出総量削減目標の目安)
スコープ1、2、3(※19) |
2030年度までに2017年度比でGHG排出量を55%削減 |
※19 スコープ1:燃料などの使用による直接排出
スコープ2:購入電力などのエネルギー起源の間接排出
スコープ3:自社バリューチェーン全体からの間接的な排出
■ GHG排出量実績(スコープ1、2)
|
2017年度(基準年) |
2019年度 |
2020年度 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2025年度(SBT) |
スコープ1 (千t-CO2e) |
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- |
スコープ2 (千t-CO2e) |
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|
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スコープ1,2合計 (千t-CO2e) |
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|
|
391 |
事業利益原単位 (千t-CO2e/億円) |
0.79 |
1.19 |
0.76 |
0.38 |
0.24 |
0.18 |
- |
(注) 端数処理の関係で合計が合わない項目があります。
(3)人的資本・多様性
■ 人的資本に関する考え方・取り組み
エプソンは、中長期的な企業価値の向上および持続的な成長に向けて、パーパスに基づき事業を通じた社会課題解決への貢献に取り組んでいます。そのためには、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」において定めた事業領域別の位置付けや戦略・方針に沿い、「環境」「DX」「共創」の取り組みによって事業を拡大・創出していくことが必要です。これらの活動を支えるのが、人材戦略による経営基盤強化の取り組みです。社会が変革を遂げるなかで求められるサービスは何か、どうすれば社会課題解決につながるソリューションを提供できるのか、それらを自律的に考え、生み出す力を持った人づくりや、力を発揮できる環境づくりのため、エプソンは「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」を人材戦略の柱として推し進めています。
■ 人材戦略の基本的な考え方
エプソンは、信州に生まれ、育った企業です。現在も信州に事業運営の核となる機能・基盤を置きつつ、売上収益の8割以上、従業員数の7割以上を占める海外各国・地域に107か所の研究開発、生産、営業拠点を整備し、グローバルにビジネスを展開しています。そのため、エプソンにおいては、地域の雇用の確保と、それにともなう比較的長期の雇用を強みに変えつつ、一方で積極的に外部人材を獲得し、多様性を実現すること、グローバルに厳しい競争を勝ち抜き、経営目標・事業成長を達成するための人的基盤を構築することが人材戦略の要諦となります。具体的には、以下がポイントとなります。
◆ さまざまなお客様のニーズを的確に把握し、素早く、柔軟に対応できるよう事業の変革・革新を進める。そのために成長領域・新領域や高度専門領域のスペシャリスト、経営目線を持って活躍できるマネジメント人材を積極的に外部から獲得するとともに、内部人材へ専門教育・転換教育を行って、強化領域への重点配置を進め、グローバルな視点で最適なフォーメーションを構築する。
◆ エプソンは、長期の時間軸で「人が自律的にキャリアを形成し、成長し続ける会社」として、各種研修やリスキリング、ローテーション、社内公募制度等の挑戦の機会を提供し、従業員一人ひとりが内外の環境変化への対応力を高める。また、グローバルな視点での最適なフォーメーション構築のため、海外人材を含めグローバルに活躍できる人材を育成・配置する。
◆ 女性や外国人、中途採用者、障がい者、高年齢者など多様な人材を確保し、生かすことにより、創造性を高めイノベーションを実現するとともに、組織風土への取り組みや、信州の恵まれた自然環境、職住接近など、地方企業としての利点を生かした働きやすい環境づくりを通じて、従業員のエンゲージメントを高め、組織の総合力を最大化して、価値を創出し続ける。
①ガバナンス
人材戦略に係る重要事項は、社長がその責任者として人的資本・健康経営本部長(CHRO)を任命し、CHROが全社的な企画立案、管理、推進の責任を担っています。
CHROは、中期経営戦略に基づき、中期人事戦略を立案し、中期戦略審議などにおける議論・審議を経て、中期経営計画の一部として取締役会に報告しています。CHROは、各事業部・本部と連携し各事業の要員ニーズやさまざまな意見を踏まえつつ、全社観点で要員配分・要員配置を最適化し、人材戦略を推進しています。
中期人事戦略において設定した、「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」に関する主要な事項の実施にあたっては、都度経営会議や人材開発戦略会議において審議・報告を行っています。その中でも経営上重要な、経営幹部層の後継計画・育成、ダイバーシティに関する事項、ハラスメント等については年1回以上定例的に取締役会に付議または報告することで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。
また、エプソンにとって特に重要な課題として認識しているダイバーシティの推進に関しては、管理職女性比率や女性執行役員数を役員報酬と連動させ、責任と役割を一層明確にした仕組みを構築しています。
なお、役員の選任および報酬に関しては、社外取締役を委員長とし、委員の過半数を社外取締役で構成する取締役選考審議会・取締役報酬審議会において、後継者計画の策定および役員の指名プロセスの検討、ロードマップの確認、候補者の選出、育成計画の策定・実施、候補者の評価・絞り込み・入れ替え、役員報酬制度、基本報酬・賞与の個別支給額などを確認しています。
■ 推進体制
②戦略
■ 求める人材像
経営戦略の実現・事業遂行のため、エプソンは、パーパス、エプソンウェイの浸透と、長期ビジョンに定めた事業の方向性の共有をベースとしながら、広い視野と高い専門性を持って変化に素早く対応し、お客様の立場に立って自立的・自律的にお客様価値を作り上げることのできる人材を必要としています。
今後さらに国内での少子高齢化や労働人口減少が進むことも見据え、グローバルベースでの人材ポートフォリオ策定に取り組んでいます。当期は、特定の事業部門を対象に、事業戦略の策定・遂行および新たなビジネスモデルの確立に必要となる人材要件を、スキルと行動特性を軸に定義して、現状の人材ポートフォリオを可視化する試みを行いました。次のステップとして、当期の取り組みを全社に展開するとともに、次期の長期ビジョン検討に合わせてあるべき姿を描き、量的・質的両面で現状とのギャップの把握を進めます。これにより、採用、リスキリング、最適配置等の適切な施策に展開し、全社最適人員構造を構築し、中長期戦略の実現につなげていきます。
■ 人材戦略と機会、リスク
エプソンは、求める人材像で描く人づくりと、人材が存分に活躍できる組織風土づくりを中心に据えた人材戦略を掲げています。リスク・機会を下記のとおり評価したうえで、「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」の3つの人材戦略に取り組んでいます。
人材戦略 |
機会(〇) |
リスク(●) |
強化領域への 人材の重点配置 |
〇強化領域(成長領域や新領域等)への人材の重点投入、最適配置による事業成長の加速 〇意欲に応え、やりがいや成長機会を提供することによる社員のモチベーション、エンゲージメントの向上、生産性向上 |
●必要な人員の質・量を確保できないことによる、事業遂行上の障害の発生 ●その結果として、成長機会の逸失と財務的損失 |
人材育成強化 |
〇やりがいや成長機会の提供に対し、社員が成長を実感することによるモチベーション、エンゲージメントの向上、生産性向上 |
●必要な人員の質・量を確保できないことによる、事業遂行上の障害の発生 ●その結果として、成長機会の逸失と財務的損失 ●学びの意欲や成長への期待に応えられないことによる社員のモチベーションの低下、離職の増加 ●必要な能力・スキルを獲得し、変化に対応できる人材を育成できないことによる事業遂行への障害、財務的損失 |
組織活性化 |
〇多様な人材の多様な発想・創造力によるイノベーションが起きやすい環境の醸成 〇優秀な人材の確保、定着化による採用コストの削減、競争力の向上 〇多様な人材が働きやすい環境を整備することによるモチベーション、エンゲージメントの向上、生産性向上 |
●社員のモラルやモチベーションの低下による業務効率の悪化、コンプライアンス違反の発生、倫理観の欠如等による信頼の失墜 ●ハラスメントの発生、心身の健康への悪影響等によるモチベーションやチームで働く力の低下、その他働く場におけるさまざまな人権侵害のリスク ●労働事故発生等による追加コスト |
■ 人材育成方針
人材戦略① 強化領域への重点配置
エプソンでは、事業運営の基盤として、将来の要員構造の推移の予測と、事業戦略を実現するための要員ニーズに基づいて要員計画を策定しています。中期的には、新卒・中途を合わせて、毎年350人以上の採用を計画的・安定的に行う方針です。
成長領域であるプリンティング(オフィス、商業・産業)や生産システム(ロボット)、新領域である環境ビジネス・環境技術、センシング分野へは、採用した人員の重点配置に加え、内部人材へ専門教育・転換教育等を行って強化領域に投入するとともに、人材要件を明確にしたうえで外部からマネジメント人材やDXを含むスペシャリストを獲得し、強化領域へ配置しています。
人材戦略② 人材育成強化
<人材育成>
エプソンでは年1回、各組織において要員状況を俯瞰し、また管理職等の重要ポジションの役割や要件を定義し、それに基づき後継計画を策定しています。また将来の経営層・管理職層、グローバル人材の候補者をリストアップし、育成計画を策定しています。
人材育成は、業務を通じた育成(OJT)を基礎に、教育体系を整備して階層別の教育や各種の専門教育をOFF-JTとして行っているほか、個々の変化対応力を強化し、またバリューチェーンの効果的・効率的な運営に資するため、本人の能力や経験・知識の幅を広げるローテーションに積極的に取り組んでいます。
リーダー人材の育成には、選抜型の階層別教育プログラムを整備しています。
さらに今後は、人材ポートフォリオを活用して、新たな職場・職種で働くために必要なスキルや行動特性などの要件を明らかにし、それに基づき早期に活躍するために必要な専門教育・転換教育を受けられるリスキリングの仕組みを整備し、強化領域への重点配置を進めていきます。
<グローバル人材の育成>
お客様に価値ある製品をお届けするためには、グローバルに展開しているバリューチェーン全体が効果的・効率的に運営されることが欠かせません。そのためには、世界中に分散している様々な機能について幅広い知識と経験を持ち、全体最適の観点から各機能間の調整を行い、現場で的確・迅速な意思決定ができるグローバル人材が必要です。世界各地で、共通の価値観を持って活躍するリーダー人材を育成するため、海外現地法人の経営リーダー層の養成を目的としたセミナーを毎年開催しているほか、地域を超えた人材交流を進めています。また、海外人材についても国内と同様に、現地のトップマネジメント・人事部門と連携して役割や要件定義を行い、重要ポジション・重要人材についての後継計画・育成計画を策定しています。このような活動を基盤として、最適機能配置に関する社内議論を継続して行い、グローバル視点での最適なフォーメーションの構築に取り組んでいます。
■ 社内環境整備方針
人材戦略③ 組織活性化
エプソンは、従業員一人ひとりの内外環境変化への対応力強化、多様性確保、従業員が働きやすい環境と組織風土づくり、健康経営、労働安全衛生等の取り組みを通じて、従業員のエンゲージメントを高め、組織の総合力を最大化することを目指しています。2022年度から行っている外部ツールを利用した「エンゲージメントサーベイ」の全社総合レーティングは、2022年度Bランクでしたが、2023年度はBBランクへと1ランク改善しました。今後も、これらの取り組みを継続し、組織力を高めていきます。
<DE&I>
エプソンは、変化の激しい時代のなかで、多様なお客様を理解し、その人々に驚きや感動を与える新たな価値を創出していきます。そのために、多様な人材が世界中のエプソンに集まり、公平な環境で、一切の偏見なく、すべての社員が互いの個性を当たり前に尊重し合い、全社員が楽しく働きながら、社会の一員として責任を持ち、会社とともに成長し、そして挑戦することによって、イノベーションを起こし続けることを目指しています。
エプソンは、まず日本国内におけるジェンダー平等を喫緊の課題と認識し、管理職層や経営層の女性比率が全社員の女性比率と同じになる状態を早期に実現することを目指し、将来の女性管理職候補層を増やすためのキャリアアップ応援強化施策等に取り組んでいます。また、インクルーシブな障がい者活躍、すなわち「障がいの有無に関わらず、個々の役割に応じたステップで挑戦し成長し続けることで、成果創出に貢献している状態」を目指します。そのために、グループ全体で障がい者採用に積極的に取り組むとともに、特例子会社の新規事業開拓等を進め、障がい者との接点づくりや各種情報発信を通じて障がい者活躍の風土を醸成します。
これらの活動の基盤として、社員の意識変革を促すため、経営トップからのメッセージ発信や、管理職向けダイバーシティマネジメント研修、社内向けDE&Iフェアを開催しています。また、属性に制限されない活躍を支援するため、公平で働きやすい職場づくり、相談窓口によるサポート、男性の育休取得推進等にも取り組んでいます。さらに、多様な人材それぞれのキャリア形成をサポートし、活躍を促進するため、各種キャリア支援プログラムや、自発的な学びなおしの機会を提供する教育体系の整備を進めています。
<組織風土>
エプソンは、組織風土の現状を把握するため、2005年より組織風土に関する調査を毎年行い、従業員一人ひとりが従来以上にやりがいと自発性を持ち、また多様な人材が自律的にいきいきと働ける環境を目指しています。上述の「エンゲージメントサーベイ」の結果に基づき、組織風土の課題として、理念の浸透と自分事化、変革意識と外向き視点の向上、仕事を通じた成長と貢献感獲得の3つを設定しました。その改善のためには、特に職場のマネジメント力強化が重要と考えており、1 on 1研修の開始、管理職前後層教育研修体系の見直し、管理職向け相談窓口設置、個別の職場支援などを行っています。これらの取り組みにより、「自ら考え自ら行動する人材」の育成と、「職場での強固な信頼関係の構築」による組織力強化を通じた生産性向上を目指しています。
<働きやすい環境づくり>
エプソンでは、社員がやりがいを持ち、さまざまなライフステージ等の変化に適応しながら、いきいきと、心身ともに健康で安全に働ける環境を目指しています。特に、フレックスタイム制度や在宅勤務等、働く時間や場所を選ばない柔軟な働きかたを進め、育児・介護・療養・不妊治療と仕事の両立ができる環境づくりを行っています。また職場におけるハラスメント防止や労働時間の適正化等の施策を推進しています。
信州に主要な拠点が集中するエプソンにおいては、マネジメント人材やスペシャリストをはじめとする多様な人材の採用・定着をベースとしてダイバーシティを進めるためにも、労働時間と勤務場所の柔軟化をさらに推進し、多様な人材がそれぞれのキャリア形成を実現できる環境づくりが重要であると考えています。
<健康経営>
会社にとってグループすべての働く人の健康が最重要と考え、パーパス、エプソンウェイ、エプソングループ労働安全衛生基本方針およびエプソングループ健康経営宣言に基づき、働く人の健康状態の向上とともに、仕事にやりがいを感じ、いきいきと働いている状態の実現を目指しています。2022年4月には、中期健康管理計画「健康Action 2025」を制定し、自律性の醸成・働くことと健康の調和を目指す「こころとからだの健康」と、安全配慮の徹底とチームでいきいきと働く組織風土の醸成を目指す「職場の健康」の2つを重点分野として取り組んでいます。
これまでの活動が評価され、2024年3月に「健康経営銘柄」に3年連続で選定されています。
<労働安全衛生>
エプソンは、2000年度に、国際労働機関(ILO)の指針に準拠した労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)をベースとした方針・プログラムを策定し、「安全」「健康」「防火・防災」「施設」を4本柱とした取り組みを行ってきています。これをさらに国際規格であるISO45001に基づく活動に進化させ、グループすべての働く人が安心・安全・健康でいきいきと働けるよう、職場の安全衛生環境のさらなる向上を目指した取り組みを行っています。
③リスク管理
企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。エプソンは、人的資本・多様性に関わる課題を経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。
■ 人的資本・多様性関連リスクの識別・評価・管理プロセス
1 調査 |
2 識別・評価 |
3 管理 |
・人的資本・健康経営本部を中心に、国内外の主要拠点を対象に、人的資本・多様性に起因したリスク・機会を調査 |
・「Epson 25 Renewed」の方針や戦略からリスク・機会を洗い出し ・人材ポートフォリオの策定において、現状とあるべき姿のギャップを把握 |
・経営会議と取締役会を通じて、適切に管理 |
④指標及び目標
エプソンは、人材戦略の3つの柱「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」にそれぞれKPIを設定し、主要な施策について目標を明確にするとともに、その目標に対する進捗状況を管理しています。
戦略 |
指標 |
実績 |
目標 |
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2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
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人材戦略① 強化領域への 重点配置 |
採用人数 |
新卒 200人 中途 48人 |
新卒 250人 中途 241人 |
新卒 344人 中途 204人 |
毎年度(※20) 350人以上を継続 |
人材戦略② 人材育成 |
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9.0% |
10.0% |
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人材戦略③ DE&I |
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3.7% |
4.1% |
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6.9% |
7.1% |
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(取り組み状況を ( )で記載) |
(社内選抜研修女性受講者数12名) |
(社外経営戦略研修への女性社員派遣2名) |
(京都大学リーダー研修に2名、マッキンゼープログラムに1名派遣) |
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(※21) |
2.69% |
2.70% |
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労働者の男女の 賃金の差異 (※22) |
全労働者 74.9% 正規 75.7% 非正規 |
全労働者 76.5% 正規 76.7% 非正規 |
全労働者 正規 76.8% 非正規 |
女性管理職を増やす等の取り組みにより差異を縮小させていく (賃金制度上、同一資格等級での男女の賃金差異はないが、上位職位・資格等級に占める女性の割合が少ないことが差異の主な理由であるため) |
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(参考) 管理職層 97.8% |
(参考) 管理職層 97.1% |
(参考) 管理職層 97.9% |
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従業員エン ゲージメント |
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- |
レーティング B (スコア51.8) |
レーティング BB (スコア |
①全職場レーティングA( ②レーティングD職場ゼロ |
働きやすい |
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50.8% |
97.2% |
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ハラスメント防止 e-ラーニング受講率 |
92.4% |
96.8% |
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受講率 |
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報告漏れ |
報告漏れ |
報告漏れ |
各組織・関係会社窓口との連携継続強化 |
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1,854時間 |
1,845時間 |
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健康経営 |
こころの健康診断 「総合健康リスク」 ハイリスク職場数 |
2.7% (3人以上の職場でカウント) |
1.0% (10人以上の職場でカウント) |
(10人以上の職場でカウント) |
2025年度 ゼロ |
労働安全衛生 |
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1件 |
0件 |
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毎年度 ゼロ |
※20 各年度4月1日入社の新卒社員数と各年度の中途入社者数の合計
※21 各年度6月1日時点
※22 労働者の男女の賃金の差異は、男性の賃金に対する女性の賃金の割合
※23 海外を含むグループ会社全体。他の指標はセイコーエプソン株式会社単体
(4)知的財産
エプソンは、知的財産に関し「知的財産権だけでなく、ブランドやデータなどを含む広い意味での『知的財産』を価値に変換し、企業価値の持続的成長の実現を支援する」ことが重要であると考えています。
その考えのもと、長期ビジョンが目指す「持続可能でこころ豊かな社会」の実現のため、知的財産本部が経営・事業部・開発部門・戦略部門と密接に連携し、あらゆる知的財産を主体的 (Proactive) に活用することで価値に変換し、その弛まぬ活動の展開によって、企業価値を向上させ、持続的成長を支援しています。
例えば、エプソンの競争優位の源泉の一つに創業以来培ってきた超微細精密加工技術があります。独創のマイクロピエゾプリントヘッドは、この超微細精密加工技術によって磨き上げられただけでなく、当社の強力な知的財産保護のもとで進化してきました。エプソンプリンターへの搭載によるラインアップの拡充や積極的な大型設備投資による量産化が実現し、プリンティング事業のさらなる成長に貢献しています。加えて、プリントヘッドの外販ビジネスを展開することで、商業・産業のさまざまな分野に当社プリントヘッドのユーザー層が広がり、デジタル印刷市場の拡大につながっています。これらの事業成長も当社の強固な知的財産を基盤として進んでいます。
また、スタートアップへの出資やオープイノベーションによる第三者との共創による、ポテンシャルの高い新規市場の開拓も、知的財産面からの支援により加速しています。このように、強固な知的財産基盤があるからこそビジネスの好循環が実現され、研究開発へのさらなる投資が可能となり、プリントヘッドをはじめとするエプソンの製品や技術は格段の進化を遂げて、その競争優位性を持続的に高めることができるのです。
すなわち、このような成長戦略ストーリーを支えるもの、それが、私たちが創出する知的財産なのです。
もちろん、私たちの取り組みはプリンティング分野にとどまりません。「環境ビジョン2050」で主要な取り組みに位置付けた資源循環や環境技術開発に貢献する「ドライファイバーテクノロジー」へのアプローチもその一つです。(詳細は「②戦略」に記載しています。)
■ 知的財産による成長戦略ストーリー(例:プリンティング分野/超微細精密加工技術)
①ガバナンス
エプソンでは、独自のコア技術を守るための開発戦略や事業戦略と連動した知財財産戦略を策定するために、事業ごとの「事業部長/開発本部長、知的財産本部長による2者懇談会」を開催し、必要に応じて「社長、事業/開発本部長、知的財産本部長による3者懇談会」も開催しています。
また、知的財産戦略については定期的に取締役会で報告・議論し、戦略に反映しています。直近の取締役会では、イノベーションを促進する取り組みや、知的財産活動のKPIについて有意義な議論がなされ、「Epson 25 Renewed」の実現に向けた今後の活動の方向性について確認されています。
■ 知的財産戦略の推進体制
②戦略
エプソンは、知的財産を基盤として新たなビジネスの好循環を引き起こし、知的財産を企業価値に変換し、持続的成長を目指しています。これを実現するため、具体的には下記事例のような知的財産に基づく支援活動を行っています。
<事例:当社独自のドライファイバーテクノロジー>
エプソンは「環境ビジョン2050」として、2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」を掲げています。この高い目標を達成するべく取り組んでいる「環境技術開発」において、将来性のある技術として期待しているのが「ドライファイバーテクノロジー」です。
ドライファイバーテクノロジーは水を使わず(※24)繊維素材を価値あるカタチに変え、用途に合わせた繊維化や、結合、成形を行い素材の高機能化を実現するエプソン独自の技術です。ドライファイバーテクノロジーを適用し、大量の水を使わず、使用済みの紙から再生紙を作ることを実現したのが乾式オフィス製紙機「PaperLab」です。施設に輸送して大量の水で使用済みの紙を溶かす紙再生方法に比べ、PaperLabは紙の製造に使用される水の消費量を大幅に削減できることに加え、オフィス内で紙を再生できるため、使用済みの紙の輸送におけるCO2排出量の削減にも貢献できます。
※24 適度な湿度は必要
◆ ドライファイバーテクノロジーの可能性
ドライファイバーテクノロジーはPaperLabだけでなく、さまざまな応用が考えられます。例えば、使用済みの紙を使ってプリンターのインク吸収剤を生産しています。また、ドライファイバーテクノロジーによって使用済みの紙から製造される素材に吸音効果がある特性を活かし、機器の内壁に使用される吸音材として使用されています。他にも素材の硬さや厚さを調節することにより衝撃を吸収する効果もあるため、緩衝材としての活用も進めています。さらに、紙以外の素材では、コットン衣類の縫製過程で発生する端材を原料として新たな包装材を開発し、ウオッチ商品の包装材として活用しています。
一方、当社の知見が乏しい分野への応用についてはオープンイノベーションを進めています。
循環型経済の確立に向け、例えば、バイオプラスチックや再生プラスチックの使用範囲の拡大を促進するため、エプソンでは、ドライファイバーテクノロジーによって生成されたセルロース繊維とプラスチック材料を複合化し、バイオプラスチックや再生プラスチックの強度、耐久性などの課題解決を目指すなど、繊維複合型プラスチック材料による造形技術の共同研究を進めています。
また、世界的に高まる再生繊維のニーズに応えるため、ドライファイバーテクノロジーを応用し、再生が困難な繊維の解繊技術を確立し、新たな衣類再生のリサイクルソリューションの提供を目指す共同開発を進めています。
◆ ドライファイバーテクノロジーを支援する知的財産活動
■ 特許ポートフォリオ構築
特許ポートフォリオ構築にあたっては、知的財産本部と開発部門による2者懇談会において、IPランドスケープを活用した量的・質的な競争優位性の評価を確認したうえで、開発活動と連携した知的財産戦略を定めています。
ドライファイバーテクノロジーは知的財産の観点でも競争優位性のある技術です。同分野において、エプソンはドライファイバーテクノロジーによる事業の競争優位性を支援するため、知的財産戦略に基づいて開発黎明期から特許出願を継続的に行っており、量的に他社を圧倒する強力な特許ポートフォリオを構築しています。
また、同分野の特許ファミリーの競争力指標(Competitive Impact)が上位5%となる質の高い特許ファミリーの特許権者毎の保有比率においても当社がNo.1であり、知的財産戦略に基づき、量だけでなく、質の面でもドライファイバーテクノロジーの強い特許ポートフォリオを構築しています。
ドライファイバーテクノロジー分野での年別特許出願件数の ドライファイバーテクノロジー分野の
評価(LexisNexis PatentSightを使用して当社作成) 特許ファミリー競争力指標(Competitive Impact)
上位5%の権利保有率
エプソンの競争優位性のある優れた技術は、(公社)発明協会主催「全国発明表彰」にて多くの賞を受賞しています。令和時代に入っても内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、日本弁理士会会長賞などの特別賞を受賞しています。全国発明表彰などの社外表彰において高い評価を受けることにより、当社技術が競争優位性を有することを対外的に明らかにし、企業価値を向上する取り組みを行っています。
ドライファイバーテクノロジーについても、強力な特許ポートフォリオから中核技術である「2段ふるい」の特許第6127882号が令和元年度全国発明表彰において朝日新聞社賞を受賞しました。この受賞によってドライファイバーテクノロジーが科学技術の振興、産業経済の発展に大きく貢献していることが社外の評価を通じて明らかになりました。
■ IPランドスケープによるイノベーション支援
エプソンでは、スタートアップへの出資やオープンイノベーションによる第三者との共創にともない、IPランドスケープを活用した知的財産面からのイノベーション支援を行っています。例えば、スタートアップへの出資を判断する際には、スタートアップ企業が保有する知的財産の価値評価を行っています。また、オープンイノベーションにおいては、IPランドスケープによってその分野の開発状況と知的財産の取得状況を全体俯瞰図にまとめ、技術の将来性について評価しています。
さらに、開発テーマを事業の成長戦略に結びつけるために、その開発テーマの応用範囲の拡大や基盤技術強化などについて、IPランドスケープを活用した分析に基づき、知的財産面からの提案を含めたイノベーション支援を行っています。
ドライファイバーテクノロジーによるバイオプラスチック生成においては、IPランドスケープを活用した分析に基づいて、当社技術と親和性・将来性があって他社知的財産権の障壁の低い複数の開発プランを開発部門に提案し、当社独自の開発テーマとなるように方向づけました。このように、IPランドスケープの活用により、ドライファイバーテクノロジーによるイノベーション支援を進めています。
■ 第三者との共創スキームにおける契約サポート
エプソンでは、ドライファイバーテクノロジーを核としてさまざまなオープンイノベーションを同時並行で進めています。その際に重要となるのが、共創相手の重要な情報資産である機密情報の管理です。特に同一テーマで共創を同時並行で進める際に機密情報のコンタミネーションのリスクが高まります。そこで、リスク低減のための共創用の機密保持契約(NDA)のひな型を制定するとともに、考え方をガイドラインとして制定し、社内で周知を図っています。当社では共創相手と良好な関係を構築するための契約も重要な知的財産と捉え、法務部門と協力して社員のリーガルマインドの向上を図っています。
■ 技術のブランド化
技術は目に見えるものではなく、技術の専門家でないとその価値を理解することが難しいものです。そこで、「ドライファイバーテクノロジー」という技術の特徴を端的に表した商標権を取得し、お客様に技術名称を認知していただくことで技術のブランド化を進めています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況などに関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクは次のとおりです。これらのリスクについては、リスク要因になる可能性があると考えられる事項を記載していますが、すべてのリスクを網羅したものではなく、有価証券報告書提出日現在では想定していないリスクや重要性が低いと考えられるリスクも、今後、エプソンの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。
また、エプソンは、これらのリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の回避および発生した場合の対応に努める方針ですが、かかる施策などが成功する保証はなく、効果的に対応できない場合には、エプソンの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在においてエプソンが判断したものです。
(1)リスク管理体制
エプソンは、子会社を含むグループ全体のリスク管理の総括責任者を社長とし、グループ共通のリスク管理については本社主管部門が各事業部門および子会社と協働してグローバルに推進し、各事業固有のリスク管理については事業部長が担当事業に関する子会社を含めて推進する体制としています。また、リスク管理統括部門は、グループ全体のリスク管理全般をモニタリングおよび是正・調整し、リスク管理活動の実効性を確保しています。
これらのリスク管理体制は、エプソングループリスク管理基本規程で定めています。
そして、事業オペレーション上のリスクや、贈収賄・カルテルといったビジネス倫理上のリスクなど、会社に著しい影響を与え得る重要なリスクについて、内部統制フレームワーク「COSO(※1)」やリスクマネジメント国際規格「ISO 31000」を参考にしたリスク評価により優先度を定め、グループ経営に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを「全社重要リスク」、事業オペレーションに重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを「事業重要リスク」、また子会社の経営に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを「関係会社重要リスク」として特定しています。その特定した重要リスクに対し、制御計画の立案・実行と進捗状況のモニタリングを定期的に行っています。制御活動の有効性については、「全社重要リスク」は四半期ごとに、「事業重要リスク」「関係会社重要リスク」は半期ごとに定期評価を行い、必要に応じて制御計画の見直し、実効性の確保に努めています。また、社長はリスク管理に関する重要事項を四半期ごとに取締役会に報告しています。
※1 Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission :ビジネスの倫理観を高め、
内部統制を実施し、企業統治などを目的とした組織委員会
(2)事業等のリスク
①プリンターの売上変動による経営成績などへの影響について
2024年3月期におけるプリンティングソリューションズ事業セグメントの売上収益9,186億円は、エプソンの連結売上収益1兆3,139億円の約7割を占めており、そのなかでもオフィス・ホーム市場向けのほか、商業・産業向けのインクジェットプリンターを中心とする各種プリンターと、これらの消耗品が売上収益および利益の多くを占めています。したがって、これらのプリンターおよび消耗品の売上収益が変動した場合には、エプソンの経営成績などに重大な影響を及ぼす可能性があります。
②他社との競合について
(販売における影響)
エプソンの主力製品であるプリンターやプロジェクターをはじめとする製品全般について、他社との競合の激化により、販売価格の低下や低価格品への需要のシフトおよび販売数量の減少などの影響を受けることがあります。
エプソンでは、これらの状況に対して、各市場での顧客ニーズに対応した製品や高付加価値製品およびサービスの提供に取り組むとともに、設計・開発の効率化やコストダウンなどにより製造コストの削減に努め、かかる販売価格の低下や低価格品への需要のシフトおよび販売数量の減少などに対処していく方針です。
しかしながら、今後、これらの施策が成功する保証はなく、エプソンがかかる販売価格の低下などに効果的に対応できない場合には、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
(テクノロジーにおける影響)
エプソンの販売する一部の製品については、他社のテクノロジーと競合しており、例えば、次のような事例があります。
・インクジェットプリンターにおけるエプソンのマイクロピエゾ方式(※2)と他社のサーマルインクジェット方式(※3)との競合
・プロジェクターにおけるエプソンの3LCD(三板透過型液晶)方式(※4)と他社のDLP方式(※5)などとの競合ならびにエプソンのプロジェクターと他社のFPD(フラットパネルディスプレイ)(※6)との競合
エプソンは、これらのエプソンの製品において採用している方式について、現時点では競合他社の方式に対する技術的な競争優位性があると考えていますが、消費者によるエプソンの技術に対する評価が変化した場合や、エプソンの技術と競合するほかの革新的な技術が出現した場合などには、エプソンの技術的な競争優位性が損なわれ、エプソンの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
※2 マイクロピエゾ方式とは、ピエゾと呼ぶ圧電素子を伸縮させて、インク滴をノズルから噴射させるエプソン独自のインクジェット技術をいいます。
※3 サーマルインクジェット方式とは、インクに熱を加えることで発生する気泡の圧力により、インク滴を噴射する技術をいいます。なお、バブルジェット方式といわれることもあります。
※4 3LCD(三板透過型液晶)方式とは、ライトバルブに高温ポリシリコンTFT液晶パネルを用いる方式であり、光源から出射された光を特殊な鏡を使って赤・緑・青の3原色に分離し、各色専用のLCDで映像を作った後、無駄なく再合成し投影します。
※5 DLP方式とは、表示デバイスにDMD(Digital Micromirror Device)を用いる方式です。DMDとは、ミクロンサイズの微極小な鏡が多数並んだ半導体で、ひとつの鏡が1画素に対応し光源からの光を反射することで映像を投影します。なお、DLPおよびDMDは、米国テキサス・インスツルメンツ社の登録商標です。
※6 FPDとは、薄型・平坦な画面の薄型映像表示装置の総称です。
(新たな競合の発生)
エプソンは、現在、高度な技術力、豊富な資金力または強固な財務基盤を有する大企業あるいは市場における認知度、供給力または価格競争力を有する国内外の企業との間で競合関係にありますが、これらに加え、将来、ほかの企業が、ブランド力、技術力、資金調達力、マーケティング力、販売力および低コストの生産能力などを生かしてエプソンの事業領域へ新規参入してくる可能性もあります。
③経営環境の急激な変化などについて
エプソンは、現在、自社として取り組む社会課題の解決に向けて、「オフィス・ホームプリンティングイノベーション」「商業・産業プリンティングイノベーション」「マニュファクチャリングイノベーション」「ビジュアルイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」という5つのイノベーション領域において、それぞれのイノベーションを起こすことによりお客様が真に求める価値を創出し、各事業領域のビジョンを実現することに取り組んでいます。この実現に向けて、エプソンでは、長期ビジョン Epson 25 Renewed や各事業戦略などに基づく諸施策を展開していますが、技術的な競争優位性を確立することが競争力を高めるために重要な要素であると考えており、創業当時からの独自の強みである「省・小・精の技術」を源泉とする「マイクロピエゾ」「マイクロディスプレイ」「センシング」「ロボティクス」などの独自のコア技術とデジタル技術などの製品技術およびこれらを支える基盤技術を進化させることにより、顧客ニーズに対応した製品の開発・製造・販売およびサービスの提供を行っています。
しかしながら、エプソンが経営資源を集中しているこれらの事業領域における製品の属する市場は、一般的に技術革新の速度が速いとともに製品ライフサイクルが短く、また、世界景気の変動やデジタル化の進展などにともなうエプソンの主要市場における需要・投資動向が、エプソンの製品の販売に影響を及ぼす可能性があるほか、現在推進している長期ビジョンや事業戦略およびこれらで定められた各種の施策が必ずしも実現または成功する保証はありません。
このような事業環境のもと、エプソンでは、引き続き各市場や顧客のニーズの把握に努め、製品市場予測による中・長期的な研究開発や投資を行うほか、開発・設計のプラットフォーム化などにより、既存製品から新製品への迅速かつ円滑な移行などにも取り組んでいく方針です。
しかしながら、今後、市場でのニーズや技術革新の変化に適切に対応できない場合、他社との競争が激化した場合、景気後退などにより需要が回復しない場合および主要市場における急激な需要変動に適切に対応できない場合などには、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
④第三者によるインクジェットプリンター用消耗品の販売について
インクジェットプリンターの主な消耗品であるインクカートリッジなどは、エプソンの売上収益および利益にとって重要なものとなっています。インクカートリッジなどのインクジェットプリンター用消耗品については、第三者によりエプソンのプリンター本体で使用することができる代替品が供給されています。これらの第三者からの代替品は、一般的にエプソンの純正品よりも廉価で販売されており、また、先進国市場と比較して新興国市場においてより流通している状況にあります。
エプソンは、こうした第三者によるインクジェットプリンター用消耗品の販売について、純正品としての高い品質の訴求のほか、大容量インクタンクを搭載したモデルの販売など、各市場における顧客ニーズに的確に対応したインクジェットプリンターを提供し、顧客の利便性をさらに高めることにより、引き続きお客様価値の実現を図っていく方針です。また、エプソンが保有するインクカートリッジに関する特許権および商標権の侵害に対しては、適宜、法的措置を講じていく方針です。
しかしながら、これらの施策が必ずしも有効である保証はなく、将来において第三者による代替品の販売が拡大し、純正品のシェア低下にともなう販売数量の減少や、これに対応するための販売価格の引下げなどにより、インクカートリッジなどの売上収益および利益が減少した場合には、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
⑤海外での事業展開について
エプソンは、グローバルに事業を展開しており、2024年3月期の連結売上収益のうち8割以上は海外における売上収益が占めています。エプソンは、中国、インドネシア、シンガポール、マレーシアおよびフィリピンなどのアジア地域をはじめ、アメリカやイギリスなどにも生産拠点を有し、販売会社も世界各地域に設立しています。また、2024年3月末における海外従業員数はエプソンの全従業員数の7割以上を占めています。
エプソンでは、こうしたグローバルな事業展開は地域ごとの市場ニーズを的確に捉えたマーケティング活動を可能とし、また、製造コストの削減およびリードタイムの短縮によるコスト競争力の確保など、事業上の多くのメリットがあると考えています。一方で、海外における製造・販売に関しては、各国政府の製造・販売に関する諸法令・規制、社会・政治および経済状況の変化、輸送の遅延、電力・通信などのインフラの障害、為替制限、熟練労働力の不足、地域的な労働環境の変化、各国における税制改正および税務当局による税務執行の不確実性、保護貿易諸規制、各種地政学的リスク、そのほかエプソンの製品の輸出入に対する諸法令・規制など、海外事業展開に不可避のリスクがあります。
⑥特定の仕入先からの部品などの調達について
エプソンは、第三者から一部の部品などを調達していますが、一般的に長期仕入契約を締結することなく継続的な取引関係を維持しています。また、エプソンは、部品などに関して複数社からの調達を原則としていますが、特定の部品などについては、他社からの代替調達が困難であるため、1社のみからの調達となる場合があります。エプソンでは、品質の維持・改善やコスト低減活動などに調達先と協同で取り組むことなどにより、安定的かつ効率的な調達活動を展開していく方針ですが、仮にこれらの調達先からの供給の不足や供給された部品などの品質不良などにより、製造・販売活動に支障をきたした場合には、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
⑦品質問題について
エプソンの製品保証の有無および内容は顧客との個別の契約により異なります。エプソンの製品に不良品または規格に適合しないものがあった場合には、エプソンは当該製品の無償での交換または修理など、不良品を補償するコストを負担し、また、当該製品が人的被害または物的損害を生じさせた場合には、製造物責任などの責任を負う可能性があります。
このほか、エプソンの製品の性能に関し適切な表示または説明がなされなかったことを理由として、顧客などに対し責任を負う場合や、改良のためのコストが発生する可能性があります。さらに、エプソンの製品にこのような品質問題が発生した場合には、エプソンの製品への信頼性を損ない、顧客の喪失または当該製品への需要の減少などにより、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
⑧知的財産権について
エプソンにとって、特許権およびそのほかの知的財産権は競争力維持のために非常に重要です。エプソンは、自らが必要とする多くの技術を自社開発してきており、それを国内外において特許権、商標権およびそのほかの知的財産権として、あるいは他社と契約を締結することにより、製品および技術上の知的財産権を設定し保持しています。また、知的財産権の管理業務に人員を重点的に配置し、知的財産権の強化を図っています。
しかしながら、次に想定されるような知的財産権に関する問題が発生した場合には、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
・エプソンが保有する知的財産権に対して異議申し立てや無効請求などがなされる可能性、その結果、当該知的財産権が無効と認められる可能性
・第三者間での合併または買収の結果、従来、エプソンがライセンスを付与していない第三者がライセンスを保有し、その結果、エプソンが知的財産権の競争優位性を失う可能性
・第三者との合併または買収の結果、従来、エプソンの事業に課せられなかった新たな制約が課せられる可能性およびこれらを解決するために支出を強いられる可能性
・エプソンが保有する知的財産権が競争優位性をもたらさない、またはその知的財産権を有効に行使できない可能性
・エプソンまたはその顧客が第三者から知的財産権の侵害を主張され、その解決のために多くの時間とコストを費やし、または経営資源などの集中が妨げられることになる可能性
・第三者からの侵害の主張が認められた場合に多額の賠償金やロイヤリティの支払い、該当技術の使用差し止めなどの損害が発生する可能性
・エプソンの従業員などにより発明などに対する報酬に関する訴訟が提起され、その解決のために多くの時間とコストを強いられる可能性、その結果、多額の報酬の支払いが決定される可能性
⑨環境問題について
エプソンは、国内外において製造過程で発生する廃棄物および大気中への排出物などについて、さまざまな環境規制に対応した活動が求められています。さらに、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)にて採択されたパリ協定により、世界的な気候変動への対応に関心が高まるなか、企業としてもより高い削減目標を掲げて取り組む必要性が増しています。
かかる状況のもと、エプソンは、2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源(※7)消費ゼロ」の達成を目指す「環境ビジョン2050」に基づき、環境負荷を低減した製品の開発・製造、環境技術の開発、使用エネルギー量の削減、使用済み製品の回収・リサイクル・再生利用の推進、国際的な化学物質規制(主に欧州のRoHS指令やREACH規則)への対応および環境管理システムの改善など、多くの側面から環境保全活動に取り組んでいます。GHGの排出削減目標に関しては、SBTi(Science Based Targets initiative)の承認を受けるとともに、再生可能エネルギーの導入拡大など、中長期に向けた削減活動を推進しています。
こうした活動の結果、エプソンのGHG排出量は着実に減少しています。詳細な数値は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動(TCFD) ④ 指標及び目標」をご参照ください。なお、2021年11月に完了した国内拠点の再生可能エネルギー転換の維持に加え、2023年12月海外拠点の転換完了により、以降の電力起因によるスコープ2排出量はゼロとなります。
エプソンでは、これまで重大な環境問題が発生したことはありませんが、将来において環境問題が発生し、損害の賠償や浄化などの費用負担、罰金または生産中止などの影響を受ける可能性、あるいは新しい規制が施行され多額の費用負担が必要となるリスクがあり、このような事態が実現した場合には、エプソンの経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
一方で、エプソンは環境への対応を機会と捉えた取り組みを進めています。特にお客様のもとでの環境負荷低減に貢献できる商品・サービスで事業拡大の機会があると確認しており、機会を最大化する経営を継続していきます。具体的には、環境負荷低減・生産性向上・印刷コスト低減を実現するインクジェット技術によるプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販と、環境負荷低減を実現する新生産装置の拡充による生産システムの提供により、売上収益成長を見込みます。加えて、地球温暖化対策やサーキュラーエコノミーへのシフトに有効なソリューションとして、ドライファイバーテクノロジー応用や原料リサイクル技術確立などによる環境ビジネスの展開を見込んでおります。
※7 原油・金属などの枯渇性資源
⑩人材の確保について
エプソンの高度な新技術・新製品の開発・製造には、国内外における優秀な人材の確保が重要ですが、これらの人材の獲得競争は激しいものとなっています。エプソンは、役割に基づいた処遇制度の導入、人材育成、ダイバーシティの取り組み、働き方改革と健康経営の推進および現地人材の積極的な登用などにより、多様な人材がその能力を発揮できる風土づくりや働きやすい環境づくりを推進し優秀な人材の確保に努めていますが、仮にこれらの人材を十分に採用または雇用し続けることができない場合や、技術などの継承が適切にできない場合には、エプソンの事業計画の遂行などに影響を及ぼす可能性があります。
⑪為替変動について
エプソンの売上収益の相当部分は、米ドルおよびユーロなどの外貨建てとなっています。エプソンは、海外調達の拡大および生産拠点の海外移転などを進めたことにより、現状、米ドル建ての費用は米ドル建ての売上収益を上回る状況となっていますが、一方でユーロ建ての売上収益は依然としてユーロ建ての費用よりもかなり多い状況にあります。また、これら以外の外国通貨についても、全般的に売上収益が費用をかなり上回っています。エプソンは、為替変動リスクをヘッジするために為替予約取引などを行っていますが、米ドル、ユーロおよびこれら以外の外国通貨の日本円に対する為替変動は、エプソンの財政状態および経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
⑫年金制度について
エプソンの設けている確定給付型の制度として、確定給付企業年金制度および退職一時金制度があります。
エプソンは、確定給付型の退職年金制度について、年金資産の運用収益率の低下や受給権者の増加といった状況を踏まえ、今後の環境変化に適応するとともに、将来にわたり安定的に維持運営することを目的として2014年4月に制度改定を実施しましたが、年金資産の運用成績の変動および退職給付債務の数理計算の基礎となる割引率の見積数値の変動などが発生した場合には、エプソンの財政状態および経営成績などに影響を及ぼす可能性があります。
⑬法規制および関係当局などによる調査について
エプソンは、グローバルに事業を展開しており、各国・各地域および各事業におけるさまざまな法規制や関係当局などによる調査の対象になる場合があります。例えば、エプソンは、現在、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律など、国内外の独占禁止法令に基づく手続の対象となっているほか、今後、公的機関などを含む新規顧客への営業活動の強化にあたり、これらの活動に関係する各種の法規制やコンプライアンス(法令遵守)への対応が一層求められることがあります。
このような状況を踏まえ、エプソンでは従来、コンプライアンスを重要な経営方針のひとつとして位置付け、適宜、未然防止・制御活動(RBA(Responsible Business Alliance)加盟による労働者保護や環境保全活動のさらなる促進を含む)を展開していますが、今後も海外の競争法関係当局が特定の業界などを対象に調査または情報収集を行うことがあり、その一環としてエプソンも市場状況および販売方法一般に関する調査などを受けることがあります。また、腐敗防止法規制、広告・表示規制、個人情報保護・プライバシー規制のほか、安全保障貿易管理などにおいて、関係法令などへの抵触またはそのおそれが生じることや、より厳格な法規制の導入や関係当局による法令運用の強化が行われることがあります。
これらの関連法規の違反があった場合や関係当局による調査・手続が実施された場合には、エプソンの販売活動に支障が生じ、またはエプソンの社会的信用を損なうこと、もしくは多額の制裁金が課されることがあるほか、事業活動に制約が生じるおそれがあるとともに、かかる法規制を遵守するための費用が増加することなどにより、エプソンの経営成績や今後の事業展開などに影響を及ぼす可能性があります。
有価証券報告書提出日現在、エプソンに対する法規制などに基づく調査は、次のとおりです。
フランスにおいて販売されるインクジェットプリンター製品に関し、2017年に同国の消費者団体による消費者保護法に基づく申し立てがなされ、当局による調査が開始されています。なお、同消費者団体が主張するような製品の寿命を短くしているという意図はなく、エプソンは、今後とも品質や環境をもっとも重視し、お客様のニーズに合わせた設計をしてまいります。
現時点においてかかる調査の進展、結果および終結の時期ならびにそのエプソンの経営成績および今後の事業展開などへの影響を予測することは困難です。
⑭重要な訴訟について
エプソンは、プリンティングソリューションズ事業、ビジュアルコミュニケーション事業およびマニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業などに関する各製品の開発、製造、販売およびこれらに付帯するサービスの提供を主な事業として、国内外においてさまざまな事業活動を展開しています。その事業の特性上、知的財産権、製造物責任、独占禁止法、環境規制などに関連して訴訟が提起される場合や、法的手続が開始される可能性があります。
有価証券報告書提出日現在、エプソンに係争している重要な訴訟は、次のとおりです。
当社の連結子会社であるEpson Europe B.V.(以下「EEB」という。)は、2010年にベルギーにおける著作権料徴収団体であるLa SCRL REPROBEL(以下「REPROBEL」という。)に対して、マルチファンクションプリンターに関する著作権料の返還などを求める民事訴訟を提起しました。その後、REPROBELがEEBを提訴したことにより、これら二つの訴訟は併合され、かかる訴訟の第1審ではEEBの主張を棄却する判決がなされましたが、EEBはこれを不服として上訴する方針です。
現時点において上記の訴訟の結果および終結の時期を予測することは困難ですが、訴訟または法的手続の結果によっては、エプソンの経営成績や今後の事業展開などに影響を及ぼす可能性があります。
⑮財務報告に関する内部統制について
エプソンは、財務報告の信頼性に関する内部統制の構築および運用を重要な経営課題のひとつとして位置付け、グループを挙げて関係会社の管理体制などの点検・改善などに取り組んでいます。しかしながら、常に有効な内部統制システムを構築および運用できる保証はなく、また、内部統制システムに本質的に内在する固有の限界があるため、今後、上記の対応が有効に機能しなかった場合や、財務報告に関する内部統制の不備または開示すべき重要な不備が発生した場合には、エプソンの財務報告の信頼性に影響が及ぶ可能性があります。
⑯他社との提携について
エプソンは、事業戦略の選択肢のひとつとして、他社と業務提携などを行うことがあります。しかしながら、当事者間における提携などの見直しにともない、提携関係が解消される可能性があるほか、提携内容の一部変更が行われる可能性があります。また、提携などによる事業戦略が必ずしも想定どおり成功し、エプソンの経営成績などに寄与する保証はありません。
⑰自然災害・感染症などについて
エプソンは、研究開発、調達、製造、物流、販売およびサービスの拠点を世界に展開していますが、これらの地域において予測不可能な自然災害、新興感染症の流行、調達先罹災によるサプライチェーン上の混乱、戦争・テロなどが発生した場合には、エプソンの経営成績や事業展開などに影響を及ぼす可能性があります。
これらのうち、特にエプソンの主要な事業拠点が所在する長野県中部は、糸魚川静岡構造線に沿った活断層帯があるなど、地震発生リスクが比較的高い地域であるため、エプソンでは、設備の耐震構造強化のほか、防災訓練などの地震防災計画や事業継続計画の策定などにより、かかる災害にともなう影響の軽減に向けた対応を可能な範囲において行っています。
しかしながら、長野県中部に大規模な地震が発生した場合には、これらの施策にも関わらず、エプソンが受ける影響は甚大なものになる可能性があります。なお、エプソンは、地震により発生する損害に対しては地震保険を付保しているものの、その補償範囲は限定されています。
2020年から猛威を振るっていたCOVID-19は、2023年5月8日以降感染症法上の位置付けが「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から「5類感染症」へ移行され、節目を迎えました。しかし、今後も感染力や重症化リスクの強い変異株流行や、COVID-19に代わる新たな感染症の流行が発生する可能性があります。エプソンはこうした事態にそなえ、COVID-19への対応をベースに新興感染症を想定したBCP(事業継続計画)を整備し、感染拡大の防止、事業の継続およびすみやかな復旧が図れるよう、平常時・流行初期・流行期の各段階における行動計画を定めてリスクの最小化を図っています。
⑱情報セキュリティーについて
エプソンでは、情報システムにおいてネットワークの利用範囲の拡大や利用頻度の増加が続いており、その重要性が増しています。また、グローバルな事業活動を通じて顧客の個人情報や取引先の機密データを扱っています。セキュリティー上の脅威が年々増しているなか、コンピュータウイルスの感染、顧客データの漏洩、社内重要基幹システムの障害発生、サイバー攻撃、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)における風評被害などが発生した場合には、エプソンの経営成績や事業展開などに影響を及ぼす可能性があります。
これに対しエプソンでは、全従業員に情報セキュリティー教育を実施しているほか、サイバーセキュリティー対策に関する方針を定めたグランドデザインを策定・制定し、各種施策を実施し対策を講じています。また、グローバルでのセキュリティー事故への対応体制の確立、サイバーセキュリティー対策についての対応計画の策定と対策の実施、製品セキュリティーの強化などに取り組んでいく方針です。
(1)経営成績等の状況の概要
①経営成績の状況
当連結会計年度における経済環境を顧みますと、高インフレや各国の金融引き締めが継続し、世界経済の減速が強まっています。とりわけ、中国における景気回復ペースの鈍化が世界経済に大きな影響を及ぼしているほか、欧州経済の減速が顕在化しています。また、米国消費はこれまで堅調を維持しているものの、今後の消費動向は不透明となっています。なお、商品市場別の状況としましては、特にデバイス市場において在庫調整局面が長期化し、大幅な落ち込みとなっています。
今後も世界的な高インフレや景気減速の長期化等のリスクが想定され、先行き不透明な状況にありますので、今後の動向を引き続き注視していきます。
当連結会計年度の米ドルおよびユーロの平均為替レートはそれぞれ144.44円および156.66円と前期に比べ、米ドルは7%の円安、ユーロは11%の円安に推移しました。また、南米など新興国の通貨も円安に推移しました。
こうした経営環境の下、当連結会計年度の経営成績につきましては、以下のとおりとなりました。
(単位:億円)
|
前連結 会計年度 |
当連結 会計年度 |
増減金額 |
増減率 |
主な増減理由 |
売上収益 |
13,303 |
13,139 |
△163 |
△1.2% |
[売上収益] プリンティングソリューションズ事業セグメント+162 ビジュアルコミュニケーション事業セグメント+5 マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメント△355 [事業利益] プリンティングソリューションズ事業セグメント+67 ビジュアルコミュニケーション事業セグメント△32 マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメント△298 |
売上原価 |
△8,636 |
△8,573 |
63 |
- |
|
売上総利益 |
4,666 |
4,566 |
△99 |
△2.1% |
|
販売費及び 一般管理費 |
△3,715 |
△3,919 |
△204 |
- |
|
事業利益(※) |
951 |
647 |
△303 |
△31.9% |
|
その他の営業収益・ その他の営業費用 |
19 |
△71 |
△91 |
- |
英国現地法人の年金バイアウトに向けた関連費用計上および為替差益の減少等 |
営業利益 |
970 |
575 |
△395 |
△40.7% |
|
金融収益・金融費用 |
66 |
125 |
59 |
- |
為替差益の増加等 |
税引前利益 |
1,037 |
700 |
△336 |
△32.4% |
|
法人所得税費用 |
△287 |
△174 |
112 |
- |
税引前利益の減少等 |
当期利益 |
750 |
526 |
△224 |
△29.9% |
|
親会社の所有者に 帰属する当期利益 |
750 |
526 |
△224 |
△29.9% |
|
※ 事業利益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しています。
報告セグメントごとの経営成績は、次のとおりです。
(プリンティングソリューションズ事業セグメント)
オフィス・ホームプリンティング事業の売上収益は微減となりました。ラインインクジェットプリンター新製品投入によるオフィス共有IJPの大幅な売上増や為替のプラス影響があったものの、インクカートリッジモデル本体の販売数量が大幅な減少となったことや、大容量インクタンクモデル本体の販売数量が減少となったことなどにより、インクジェットプリンター本体の売上は減少となりました。インクジェットプリンターの消耗品は、インクカートリッジの売上が若干の減少となったものの、大容量インクタンクモデルのインクボトルおよびオフィス共有IJPのインクの売上が大幅に増加したことや為替のプラス影響により、全体でも増加となりました。
商業・産業プリンティング事業の売上収益は増加となりました。商業・産業IJP本体の売上は、金利上昇に伴う投資需要の低下等で欧米向け販売が減少したものの、為替のプラス影響により若干の増加となりました。商業・産業IJPの消耗品売上は、印刷需要が継続していることで増加となりました。小型プリンターの売上は、金利上昇やインフレ等による市況悪化により欧米中心に市場需要が低下し、減少となりました。プリントヘッド外販ビジネスの売上は、新興国向け輸出を手掛ける中国顧客向けを中心に需要が増加し、大幅な増加となりました。
プリンティングソリューションズ事業セグメントのセグメント利益は、インクジェットプリンター本体や小型プリンターの販売減、事業活動の本格化に伴う販管費の増加等があったものの、プリントヘッド外販ビジネスの売上が増加したことや、為替のプラス影響により増加となりました。
以上の結果、プリンティングソリューションズ事業セグメントの売上収益は9,186億円(前期比1.8%増)、セグメント利益は961億円(同7.6%増)となりました。
(ビジュアルコミュニケーション事業セグメント)
ビジュアルコミュニケーション事業セグメントの売上収益は、前期は受注残の解消が進んだ影響を含むことに加え、今期は個人消費の落ち込みに伴うホーム向けプロジェクターの販売減、北米における教育向けの需要減による影響があったものの、新興国で教育向け需要が堅調であったことや為替のプラス影響により前期並みとなりました。
ビジュアルコミュニケーション事業セグメントのセグメント利益は、生産抑制に伴う利益マイナス影響等により、減少となりました。
以上の結果、ビジュアルコミュニケーション事業セグメントの売上収益は2,174億円(前期比0.3%増)、セグメント利益は315億円(同9.4%減)となりました。
(マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメント)
マニュファクチャリングソリューションズ事業の売上収益は、中国における売上減の影響が大きく、大幅な減少となりました。
ウエアラブル機器事業の売上収益は、国内において高単価の新製品販売が増加した前期と比較すると、減少となりました。
マイクロデバイス事業の売上収益は、大幅な減少となりました。水晶デバイスの売上は、市場での在庫調整影響に伴う需要減により、中国向けを中心に大幅な減少となりました。半導体の売上は、市場での在庫調整に伴う需要減により、減少となりました。
マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメントのセグメント利益は、マイクロデバイス事業を中心とした売上減の影響が大きく、大幅な減少となりました。
以上の結果、マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメントの売上収益は1,799億円(前期比16.5%減)、セグメント損失は15億円(前期はセグメント利益283億円)となりました。
なお、上記の他、マニュファクチャリングソリューションズ事業において、中国における景気低迷やローカルメーカーの台頭等の市場環境の変化に加え、成長に向けた人的投資の継続により、収益性の改善に時間を要する見込みであることから、減損損失6億円を計上しております。
(調整額)
報告セグメントに帰属しない基礎研究に関する研究開発費や新規事業・本社機能に係る収益、費用の計上などにより、報告セグメントの利益の合計額との調整額が△614億円(前期の調整額は△573億円)となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、1,655億円の収入(前期は613億円の収入)となりました。これは主に、当期利益526億円に加え、減価償却費及び償却費686億円、棚卸資産の減少額710億円などの増加要因があったことによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、589億円の支出(前期は616億円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産および無形資産の取得による支出565億円などがあったことによるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローは、653億円の支出(前期は793億円の支出)となりました。これは主に、社債の償還による支出300億円、リース負債の返済による支出100億円、配当金の支払額258億円などがあったことによるものです。
以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響を合わせて、前連結会計年度末から611億円増加し、3,284億円となりました。
③生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
エプソンの生産実績は、販売実績と近似しているため、記載を省略しております。
b.受注実績
エプソンでは、製品の性質上、原則として見込生産を行っているため、該当事項はありません。
c.販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前期比(%) |
プリンティングソリューションズ事業(百万円) |
918,630 |
101.8 |
ビジュアルコミュニケーション事業(百万円) |
217,462 |
100.3 |
マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業(百万円) |
170,803 |
83.2 |
報告セグメント計(百万円) |
1,306,895 |
98.7 |
その他(百万円) |
7,102 |
124.6 |
合計(百万円) |
1,313,998 |
98.8 |
(注)1.セグメント間の取引については、相殺消去しております。
2.総販売実績に対する販売割合が10%以上の相手先はありません。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点によるエプソンの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項については、当連結会計年度末現在における予想や一定の前提に基づくものであり、これらの記載は実際の結果と異なる可能性があるとともに、その達成を保証するものではありません。
①経営成績等
(財政状態)
当連結会計年度末における資産合計は、前連結会計年度末に対して715億円増加し、1兆4,130億円となりました。これは主に、棚卸資産の減少312億円があった一方で、現金及び現金同等物の増加611億円、売上債権及びその他の債権の増加109億円、有形固定資産の増加164億円、その他の金融資産の増加52億円などがあったことによるものです。
負債合計は、前連結会計年度末に対して121億円減少し、6,019億円となりました。これは主に、その他の流動負債の増加62億円があった一方で、社債、借入金及びリース負債の減少284億円などがあったことによるものです。
なお、親会社の所有者に帰属する持分合計は、前連結会計年度末に対して836億円増加し、8,109億円となりました。これは主に、配当金の支払い258億円があった一方で、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上526億円、在外営業活動体の換算差額を主因としたその他の包括利益の計上566億円などがあったことによるものです。
運転資本(流動資産から流動負債を差し引いた金額)は、前連結会計年度末と比較して402億円増加し、5,610億円となりました。
(経営成績)
経営成績につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」に記載のとおりです。
(キャッシュ・フローの状況)
キャッシュ・フローの状況につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
②資金の源泉および流動性
当連結会計年度後1年間の設備投資計画金額は730億円であり、所要資金につきましては、内部資金によりまかなう予定です。セグメントごとの設備投資計画金額につきましては、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載のとおりです。なお、上記設備投資計画金額には、リースによる設備投資を含めております。
エプソンでは、設備投資等の事業活動に必要な資金を安定的に確保するため、内部資金の活用および金融機関からの借入と社債の発行により資金を調達しております。
有利子負債の当連結会計年度末残高は、社債の償還などにより前連結会計年度と比較して284億円減少し、2,047億円となりました。現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度と比較して611億円増加し、3,284億円となり、手元流動性は十分に確保しております。
また、有事に備えた財務基盤強化の一環として、2020年5月に主要行との間で、環境評価融資商品のコミットメントライン契約を締結し、2023年5月に契約を更新しておりますが、当連結会計年度末における当該コミットメントライン契約に基づく借入実行残高はありません。
なお、エプソンは、株式会社格付投資情報センターから信用格付を取得しており、当連結会計年度末において、A(シングルA)となっております。
③経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
エプソンは、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、社会課題の解決のために、創業当時からの独自の強みである「省・小・精の技術」を基盤として、自らの常識やビジョンを超えて果敢に挑戦し、イノベーションを起こすことに取り組んでいます。そして、全社員が価値観を共有のうえ総合力を発揮しつつ、自律的に行動するように努めています。これにより、画期的なお客様価値を継続的かつタイムリーに創造・提供し、より良い社会の構築に「なくてはならない会社」として中心的な役割を果たすとともに、持続的成長および中長期的な企業価値向上を実現してまいります。
エプソンは、将来にわたって追求する「ありたい姿」として設定した「持続可能でこころ豊かな社会の実現」に向け、2021年3月に長期ビジョンを見直し、「Epson 25 Renewed」を策定しました。また、エプソンとして重視している環境問題への対応では、「環境ビジョン2050」を改定し、2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源(※)消費ゼロ」の達成を目指すこととしました。
※ 原油、金属などの枯渇性資源
なお、当該長期ビジョンの実現に向けて設定した財務目標の進捗状況は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
④重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定
エプソンの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
なお、エプソンの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の見積りおよび見積りを伴う判断」に記載しております。
相互技術援助契約
契約会社名 |
相手方の名称 |
国名 |
契約内容 |
契約期間 |
当社 |
HP Inc. |
アメリカ |
情報関連機器に関する特許実施権の許諾 |
2018年3月28日から許諾特許の権利満了日まで |
当社 |
International Business Machines |
アメリカ |
情報関連機器に関する特許実施権の許諾 |
2006年4月1日から許諾特許の権利満了日まで |
当社 |
Microsoft Corporation |
アメリカ |
情報関連機器およびこれに用いるソフトウェアに関する特許実施権の許諾 |
2006年9月29日から許諾特許の権利満了日まで |
当社 |
Eastman Kodak Company |
アメリカ |
情報関連機器に関する特許実施権の許諾 |
2006年10月1日から許諾特許の権利満了日まで |
当社 |
Xerox Corporation |
アメリカ |
電子写真およびインクジェットプリンターに関する特許実施権の許諾 |
2008年3月31日から許諾特許の権利満了日まで |
当社 |
キヤノン株式会社 |
日本 |
情報関連機器に関する特許実施権の許諾 |
2008年8月22日から許諾特許の権利満了日まで |
当社 |
ブラザー工業株式会社 |
日本 |
情報関連機器に関する特許実施権の許諾 |
2018年6月28日から許諾特許の権利満了日まで |
(1)研究開発の考え方と体制
エプソンは創業以来、「省・小・精の技術」に代表される優れた技術を持ち、それをどう社会に役立てていくか、という考え方で価値を提供してきました。そして長期ビジョン「Epson 25 Renewed」では、社会課題を起点とし、解決にはどんな技術が必要かを考える技術開発へシフトしました。
技術開発において最善の開発シナリオをつくるうえで、顧客価値や事業性などを加味してエプソンの実力を客観的に評価し、その結果、生じたありたい姿とのギャップを分析します。現状把握のなかで、「クリアできなければ企画が成り立たない課題」をボトルネックとして抽出し、解消策を考えながら、目的達成に向け複数のシナリオを準備する手法に取り組んでいます。複数シナリオの考え方は、開発に成功した際の成果がもっとも大きく見込め、最優先で取り組むべきものをプランAとしながらも、QCDいずれかの達成レベルは下がるが、実現の障害が軽減され主目的を達成できるものをプランB、Cとしてあらかじめ考え、商品化・事業化にたどり着くための近道として同時に想定します。ボトルネック解消の具体策は、社外パートナーとの共創・協業も含め検討しています。
共創については、技術開発における重要なファクターとし、開発の初期段階となる試行錯誤のプロセスから多くの知見ある方々の参画により、検証精度を高めていくという「開発のフロントローディング化」を進めています。これにより、課題を解決するサイクルを早く回して開発の質を高めることで、商品化・事業化までのスピードアップを図っています。
エプソンは、研究開発を経営基盤強化の取り組みのひとつとして位置付け、イノベーションを実現するための基盤技術、コア技術、製品技術の進化を推し進めています。なかでも今後はものづくり力に加え、材料、AI、デジタル技術の強化により、事業強化や新規事業創出のための技術基盤の構築を進めます。主に各事業における製品の競争力向上などの製品開発やコア技術開発を事業部開発部門で行い、複数事業にわたる基盤技術や、長期に取り組む必要がある新規技術、新領域に対応するためのコア技術開発を本社開発部門で行うなど、役割分担を明確にしながら連携し取り組んでいます。
エプソンは、技術開発を通じた社会課題の解決を目指し、新しい発想や、やり方に果敢にチャレンジしていきます。
(2)研究開発費
当連結会計年度の研究開発費総額は
■セグメント別研究開発費
セグメントの名称 |
研究開発費(億円) |
プリンティングソリューションズ事業 |
166 |
ビジュアルコミュニケーション事業 |
65 |
マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業 |
68 |
その他および全社 |
142 |
合計 |
442 |
(3)セグメント別の研究開発の目的および成果
①プリンティングソリューションズ事業セグメント
<オフィス・ホームプリンティングイノベーション>
当領域は、インクジェット技術・紙再生技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減・生産性向上を実現し、分散化に対応した印刷の進化を主導することを目指しています。そのために、エプソン独自のインクジェット技術「Heat-Free Technology」による商品ラインアップの拡大、ソリューションの提供を進め、環境性能の訴求によるレーザープリンターからインクジェットプリンターへのテクノロジーシフトの実現に取り組んでいます。
ソリューション提供の具体事例として、学習塾向けICTコンテンツを運営販売する株式会社スタディラボとのオープンイノベーションにより、家庭学習もサポートする塾向け学習支援サービス「StudyOne(スタディワン)」を開発し、2023年4月より正式販売を開始しました。「StudyOne」は、同社のLMS(※1)と、エプソンの遠隔印刷・スキャン技術を組み合わせ、デジタルと紙を融合させた家庭学習をデザインできるサービスです。子ども部屋と学習塾をつなぎ、紙教材の課題提出までのやりとりをLMSによって記録することで、先生が生徒の学習過程全体を把握でき、生徒一人一人に合わせた学習指導を行う環境を提供します。
また、商品ではデザインも機能も一新したA4ドキュメントスキャナーを発売しました。「DS-C480W」「DS-C420W」は、限られたスペースでも効率的に電子化したいというニーズに応え、Uターンとストレートの2Way給紙を採用し、省スペースでの使用と高い用紙対応力を実現しました。コンパクトな本体に30枚/分の高速スキャン(※2)や、5GHz対応のWi-FiⓇを搭載し、プライベートやテレワークでの個人利用はもちろん、狭いデスクや受付カウンターでの日々の電子化業務を支援します。
※1 学習管理システム(Learning Management System)
※2 読み取り速度はエプソン自社基準測定値であり、使用環境・方法によって異なる。測定条件は下記参照
https://www.epson.jp/products/scanner/sokudo_jyouken.htm
<商業・産業プリンティングイノベーション>
当領域は、インクジェット技術と多様なソリューションにより、印刷のデジタル化を主導し、環境負荷低減・生産性向上の実現を目指しています。そのために、多様なメディア・素材への印刷を実現するインクジェット技術のポテンシャルを引き出し、商業・産業印刷のデジタル化を後押しするとともに、分散印刷を支援するクラウドサービス「Epson Cloud Solution PORT」を通じて印刷業務における生産性向上のサポートに取り組んでいます。
このような商業・産業印刷におけるイノベーションの実現に向け、顔料によるデジタルプリントで生産現場に新たな価値をお届けするデジタル捺染機Monna Lisaシリーズの新商品「ML-13000」を発売しました。本商品はプリント工程で必要な箇所のみに機能性インクを吐出するため、別工程での前処理が不要となります。そのため、プリントしない箇所の風合いを損ねず、生地全体の風合いを生かして仕上げることができます。さらに、使用する顔料インクは染料プリントで必要とされる「蒸し」「洗い」工程が不要のため、水の使用量を大幅に削減することができ、サステナブルなプリントプロセスにより環境負荷低減に貢献します。
また、布製品への直接印刷とフィルムへの印刷(Direct to Film)の両方に対応したハイブリッドタイプのガーメントプリンター「SC-F1050」、アクリル板やプラスチック、ゴルフボールなどのさまざまな素材にプリントが可能なUVインク搭載プリンター「SC-V1050」も発売しました。加えて、プリンターの色あわせをサポートするエプソン初の自動測色テーブル「SD10ACRT」も同時発売しており、エプソンの測色器「SD-10」と合わせて使うことでカラーチャートの自動測色からプロファイル作成までを誰でも簡単に行うことができます。
②ビジュアルコミュニケーション事業セグメント
<ビジュアルイノベーション>
当領域は、感動の映像体験と快適なビジュアルコミュニケーションで人・モノ・情報・サービスをつなぎ、「学び・働き・暮らし」を支援することを目指しています。そのために、高画質な大画面を実現するレーザー光源採用の高輝度プロジェクターの開発や、スマート化により使用環境・用途・シーンを拡大する設置性の高いホームプロジェクターの開発に取り組んでいます。
このような方針のもと、超短焦点壁掛け対応モデルプロジェクター「EB-810E」「EB-770F」「EB-760W」を発売しました。レーザー光源採用により、くっきり鮮やかな映像投写を実現したほか、壁掛け設置ならほぼ真上から投写するため、投写面の近くに人が立っても影ができにくく、投写光が目に入り眩しく感じることがありません。さらに、ランプ交換が不要なため導入後もコストや手間がかかりません。
ホームプロジェクターでは、4K(※3)相当の高画質映像を楽しめる「EH-LS650B」「EH-LS650W」を発売しました。超短焦点レンズの採用により、壁際に置くだけで最大120インチの大画面の投影が可能です。また、Android TVTM機能搭載(※4)により、Wi-FiⓇの接続環境があればこれ一台で有料/無料の動画配信サービスを大画面で楽しめます。
※3 4K信号を入力し、4Kエンハンスメントテクノロジーによる4K相当の高画質で表示
※4 NetflixはオプションのAndroid TVTM端末「ELPAP12」や市販のメディアストリーミング端末を装着することで視聴可能
③マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業セグメント
<マニュファクチャリングイノベーション>
当領域は、環境負荷に配慮した「生産性・柔軟性が高い生産システム」を共創し、ものづくりを革新することを目指しています。今後の事業拡大を見据えた生産基盤強化に向けて、国内のロボット工場を富士見事業所に拡大移転し、ロボットを用いた工場の自動化を実現しました。当工場は技術検証の場としても活用し、エプソンのロボット製品の利用価値を進化させていきます。
この方針のもと、主力商品である産業用スカラロボット「GXシリーズ」のラインアップを一新しました。新商品「GX4/GX8/GX10/GX20」は、ロボットアームに超小型ジャイロセンサーを搭載し、動作中に生じるアームの振動を抑え、高速移動でも指定ポイントでピタッと止まる正確な制動能力を兼ね備えています。力覚センサーシステムにも対応し、高速性が求められる搬送作業だけでなく、今まで人手に頼っていた、ねじ締めや、押し圧検査などの精度が求められる難作業にも対応します。また、ロボットの安全規格である「ISO10218-1」に適合し、第三者認証機関から「NRTL認証」(※5)を取得しました。これにより、ロボットをより安全・安心にお使いいただけるとともに、エンドユーザーによるロボット装置としての安全認証取得が容易になります。
※5 NRTLはアメリカ労働安全衛生局(OSHA)によって承認された第三者認証機関。本シリーズはその認証機関の一つである「TUV SUD」により安全規格適合を認証
<ライフスタイルイノベーション>
当領域は、匠の技能、センシング技術を活用したソリューションを共創し、お客様の多様なライフスタイルを彩ることを目指しています。ウオッチ分野では、感性に訴えるデザイン・高品質な商品を、お値打ち感ある価格で提供すること、センシング分野では、センシング技術や分析アルゴリズムを活用した新たなソリューションの共創に取り組んでいます。
センシング分野では、エプソンがマテリアリティの一つとして掲げた「生活の質向上」の価値創造戦略として、「パーソナライズされた健康支援」に取り組んでいます。当期は、株式会社バンダイとのオープンイノベーションにより、同社の子ども向け超体感型スマートシューズ「DIGICALIZED」(デジカライズ)の専用アプリケーション向けに、人の動作やモノの動きをセンシングして捉えるM-TracerテクノロジーのモーションアルゴリズムSDK「M-Tracer for Motion SDK」のライセンス提供を開始しました。本SDKをアプリケーションに組み込むことにより、モーションセンサーから取得した足の動きのデータを解析・判定し、ゲームに必要となる動態変容をリアルタイムに提供します。
システム構成図 アルゴリズムSDK機能概念図
<マイクロデバイス>
当領域は、「省・小・精の技術」を極めた水晶と半導体の技術融合の強みを生かし、タイミングデバイス、半導体、センサーにより、成長が著しい高速・大容量通信インフラ、IoT社会、およびモビリティ社会など、スマート化する社会の実現に貢献する商品開発に取り組んでいます。
水晶発振器分野では、エプソン独自の差動出力(※6)「Wide Amplitude LVDS(WA-LVDS)」を開発しました。デジタル化が進み、通信機器への要求性能がますます高度化する中、使用されるLSIに適した差動出力の要求はさらに強まることが予想されます。本商品では、LSIが求める振幅レベルに最適な出力をフレキシブルに選択することが可能となりました。なお、本商品を搭載した水晶発振器は2025年度の商品化を目指しています。
半導体分野では、ブザー音声機能、音声データ用フラッシュメモリー、内蔵発振回路を搭載した音声再生専用LSI「S1V3F351/S1V3F352」を開発しました。近年では音声機能を備えた家電などの機器の普及や、健康機器、オフィスビル、工場においても音声による警報・案内の活用が進んでいます。そのような中、本商品はエプソンが独自開発した音声アルゴリズムにより、ブザーでの音声・メロディー再生を実現しました。お客様の既存製品に、本商品をシリアルインターフェイス接続するだけで、簡単に音声再生機能の組み込みが可能となります。
※6 互いに極性が反対の周波数信号を出力する方式。高い周波数の伝送が可能で、ノイズに強いなどの特長がある
④その他および全社
当領域は、各事業セグメントに共通する生産技術分野の技術開発や、DX基盤を強化するための技術開発、事業強化のための技術基盤となる基礎研究、新事業に関連する研究開発などに取り組んでいます。
全社的な取り組みとして、「環境ビジョン2050」の実現に向け環境技術開発を行っており、そのひとつが独自技術「ドライファイバーテクノロジー」の紙以外の素材への応用です。2023年8月には「セイコーエプソン×東北大学 サスティナブル材料共創研究所」を開設し、古紙・衣類・木材を解繊した繊維を活用し、複合化したバイオプラスチック・再生プラスチックに関する技術確立に向け、開発体制を強化し研究を加速しています。
また、世界的に高まる再生繊維のニーズに応えるため、ドライファイバーテクノロジーを応用した繊維再生の社会実装を目指しています。2024年1月には、香港を拠点とし、繊維・衣類・ファッション産業に向けて革新的なソリューションを開発しているHKRITA(※7)と共同開発に関する契約を締結しました。エプソンの持つ技術と同社の持つ技術や市場知力を組合せ、新しい繊維リサイクルソリューションの実現を目指します。このソリューションにより、従来は再繊維化が困難だった機能性衣類や、シーツ、ワイシャツなどの高密度繊維についても、工場の端材・売れ残った衣料品・不要となった衣類から新たな再生繊維を作り出すことが可能となり、再生繊維の普及加速に大きく貢献することができます。エプソンは早期に技術確立を行い、社会実装を目指します。
※7 The Hong Kong Research Institute of Textiles and Apparel Limited(香港繊維アパレル研究開発セン
ター)