当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、様々な要素により異なる結果となる可能性がある。
当社グループは、経営理念として「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する。」ことを掲げ、さらに、企業経営の根幹を成す安全衛生・環境・品質に関する基本方針として「関係法令をはじめとする社会的な要求事項に対応できる適正で効果的なマネジメントシステムを確立・改善することにより、生産活動を効率的に推進するとともに、顧客や社会からの信頼に応える。」ことを定めている。
こうした方針に基づく取組みを通して、より高い収益力と企業価値の向上を目指すとともに、社業の永続的発展により株主、顧客をはじめ広く関係者の負託に応え、将来に亘りより豊かな社会の実現に貢献していく。
当社グループを取り巻く経営環境は、近年、産業構造や人々の生活・行動、価値観の変容に加え、地球規模での気候変動と脱炭素化、デジタル化の進展などにより、急速に変化している。
こうした経営環境において、当社グループが持続的に成長するためには、多様な人材を呼び込み、外部リソースと連携しながら価値を共創することが重要と考えている。この認識のもと、当社グループが目指す方向性を広くグループ内外と共有するため、ビジョンを定めている。
ビジョンは、目指す方向性を文章で表現した「ステートメント」とそれを実現するうえで「大切にしたい価値観」から構成されており、過去に対する敬意と未来への挑戦という2つの意を込めている。また、大切にしたい価値観は、当社グループを木に見立て、いかに大きく成長させるかという視点に基づいている。
当社グループは、SDGsをはじめとした社会課題と事業活動の関連を確認・整理したうえで、社会・環境への影響度が大きく、かつ当社グループの企業価値向上や事業継続における重要度が高い課題を抽出し、7つのマテリアリティを特定している。当連結会計年度において、「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」並びに新しい環境ビジョン「鹿島環境ビジョン2050plus」の検討と並行して、マテリアリティの見直しを議論した。社会環境の変化、外部有識者及び社内の意見等を踏まえて検討した結果、環境に関する項目(「脱炭素社会移行への積極的な貢献」を「脱炭素・資源循環・自然再興への貢献」に変更)をはじめ一部を更新している。マテリアリティに取り組むことを通じて、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指していく。
参考:「鹿島環境ビジョン2050plus」(2024年5月公表)
2013年に策定した環境ビジョンを「鹿島環境ビジョン2050plus」として改定。3つの分野「脱炭素」「資源循環」「自然再興」が相互に関連しあっていることを認識したうえで、グループの目標や行動計画を再構築したもの。
NbS : Nature-based Solutions
目標とKPI
(4) 経営環境
当連結会計年度における世界経済は、多くの国や地域においてインフレ率が鈍化傾向にあり、政策金利は利上げから据え置きの局面に移行した。経済成長のペースについては、物価や金利が上昇した影響等により停滞が見られた国・地域もあったが、全体としては底堅く推移した。我が国においては、物価が緩やかに上昇する中、雇用環境の改善やインバウンド需要の持ち直しなどにより景気の回復基調は継続し、日本銀行のマイナス金利政策が解除されるなどの変化が見られた。
国内建設市場においては、公共投資が安定的に推移し、企業の設備投資も着実に進んだことから、建設投資の増勢が続いた。建設コストに関しては、資機材費が総じて高い水準で推移する中、工事量の増加に伴い、労務費も上昇傾向となった。
今後の世界経済においては、インフレの減速に伴って金利が低下し、成長ペースが次第に回復することが期待される。しかしながら、景気の先行きには依然として不透明感が残り、経済情勢の見極めが難しい状況が続くと見通している。さらに、脱炭素や循環型経済への対応、人的資本の重要性の高まりなど、社会の要請、顧客のニーズは一段と多様化が進むと見込まれる。こうした経営環境の中で、持続的な成長を実現するためには、変化に伴う様々なリスクに必要な対策を施すとともに、機会を的確にとらえた事業を推進することが重要であると考えている。
建設市場では、環境・先端技術に関連する生産施設や建物・インフラの老朽化対応等への投資がけん引し、国内、海外ともに建設需要の拡大傾向が続くと見込んでいる。一方で、国内の建設業における時間外労働上限規制の適用や世界的に建設コストが上昇する可能性に留意する必要があり、持続可能な建設業の観点から、建設業従事者の処遇改善と働き方改革並びに生産性向上を推進しつつ、需要に応え良質な価値やサービスを提供することが求められている。
<「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」の推進>
このような経営環境の中、2025年3月期からスタートする新たな中期経営計画を策定した。中核である国内建設事業、不動産開発事業、海外事業のさらなる強化を進めるとともに、技術立社としてバリューチェーンの拡充やR&D、イノベーション推進により新たな価値を創出し、社会や顧客とともに未来を開拓していく計画としている。
① ありたい姿
中期経営計画の策定にあたり、経営理念や受け継いできた企業風土、価値観などを「ありたい姿」として具体化している。当社グループの基盤である人と技術をつなぎ合わせ、顧客、さらにその先にある社会に貢献することを目指していく。
② 成長戦略
「ありたい姿」を念頭に置きつつ経営環境などを踏まえ、成長戦略は、1)国内建設事業を深める、2)成長領域を伸ばす、3)技術立社として新たな価値を創る、4)サステナビリティを4つの柱としている。
1)国内建設事業を深める
国内建設事業は、当社グループの技術や経験から生み出される強みを最も発揮できる領域である。需要が拡大している半導体・医薬関連の生産施設、再生可能エネルギー発電施設などの重点分野における設計施工力、エンジニアリング力を強化するとともに、デジタル化の推進により生産性や業務効率を高め、社会や顧客に質の高い付加価値を提供していく。また、時間外労働上限規制を遵守し、安全かつ魅力ある現場環境を追求することが、国内建設事業の持続的な収益力確保につながると考えている。
2)成長領域を伸ばす
建設ノウハウを活かした不動産開発事業、各地域に根づいた海外事業は、当社グループが独自性を持つ成長領域である。国内・海外の不動産開発事業においては、地域ごとの市場動向を見極めた投資と適時の売却による回収を推進し、収益拡大を図っていく。また、建設事業と不動産開発事業のシナジー効果を発揮する事業の推進、外部パートナーとの連携やM&Aなどにより、バリューチェーンの拡充を進めていく。
3)技術立社として新たな価値を創る
日本、シンガポール、米国の拠点を中心に、グローバルなR&D体制の構築を進めている。社会や顧客、ものづくりの最前線である建設現場の課題を特定し、当社グループの技術や外部の先端技術等との組み合わせによる解決を目指していく。また、グループ内外のリソースを連携させたイノベーションを推進することにより、当社グループの競争力向上と技術立社としての新たな価値創出を図っていく。
4)サステナビリティ
環境保全と経済活動が両立する持続可能な社会の実現を目指し、新たに策定した「鹿島環境ビジョン2050plus」に基づき、脱炭素、資源循環、自然再興の取組みを推進していく。
人材に関しては、当社グループの成長・変革を担う人材の確保・育成、職場環境や寮・社宅の整備など人的資本に関する投資を推進していく。サプライチェーンの維持・強化、担い手確保についても、建設技能者の処遇改善や重層下請構造改革などに継続して取り組んでいく。
また、当社グループが社会や顧客からの信頼を受け継いでいくために、サプライチェーン全体で、コンプライアンスを最優先する意識を徹底していく。
③ 投資計画
成長戦略を推進し経営目標を達成するために、R&D・デジタル投資、新たな価値創出に向けた戦略的投資、国内外の不動産開発事業における投資と回収を計画している。また、人的資本強化の一環としての業務用不動産への設備投資も進めていく。
<企業価値・市場評価のさらなる向上と財務戦略>
① 現状分析・評価
中期経営計画(2021~2023)に基づいて、持続的な成長に向けた施策や投資を推進した結果、目標を超える利益を確保し、資本収益性についても目標のROE10%を上回っている。また、情報開示の改善や投資家・市場との対話の充実等の効果もあり、市場における評価は高まりつつあると受け止めている。なお、当社グループの株主資本コストは7~8%程度と認識している。
② 今後の取組み
2025年3月期からスタートする新たな中期経営計画(2024~2026)に掲げた成長戦略を実践し、当社グループの持続的な成長や事業活動を通じた社会や顧客への貢献を目指すとともに、成長投資と株主還元のバランスを考慮した財務戦略により、企業価値・市場評価のさらなる向上を図っていく。
③ 中期経営計画(2024~2026)における財務戦略
(6) 目標とする経営指標
2025年3月期の国内建設事業は、土木事業、建築事業における堅調な建設需要に応えて、着実な施工を進めるとともに、生産性向上や原価低減に向けた取組みによる堅実な業績確保を見込んでいる。国内開発事業では、当連結会計年度に続き、複数物件の売却による売上高、利益への貢献を計画している。海外事業については、東南アジアにおける業績回復が進展する見通しである。米国や欧州においては、物価や金利が不透明な事業環境が続くと見込まれるが、市場・金利動向に応じたリスク対策と機会をとらえた事業展開を図ることにより、海外事業全体で売上高・利益の増加を目指している。なお、為替レートは1米ドル141円83銭を想定している。
このような国内外の状況を勘案し、2025年3月期の業績予想を、2024年5月14日に下記のとおり公表している。
また、中期経営計画(2024~2026)における経営目標として、国内建設事業における着実な利益成長と、成長領域である不動産開発事業、海外事業の収益拡大、バリューチェーン拡充により、ROE10%以上の継続と、2027年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益1,300億円以上、2031年3月期の1,500億円以上を目指している。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する。」という経営理念のもと、社会・環境問題に対応し、持続的に成長できる企業グループを目指すことを、サステナビリティの基本的な考え方としている。
また、社会課題と事業活動の関係を整理し、社会課題解決と当社グループの持続的成長を両立させるための「マテリアリティ(重要課題)」として7項目を特定している。(マテリアリティの詳細については、
なお、毎年発行している統合報告書にて、サステナビリティについての取組み内容の詳細を記載している。
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(1) サステナビリティ全般(ガバナンスとリスク管理)
2022年5月に、グループ全体のESG経営へのコミットメントを高め、企業価値を向上させることを目的として「サステナビリティ委員会」を新設し、環境関連(E)や人材の多様性確保、人権尊重、サプライチェーンマネジメント(S)など、サステナビリティに関する取組み方針の検討・意思決定とモニタリング、推進体制を明確化(G)している。
サステナビリティ委員会は、社長を委員長とし、委員は関係する執行役員などで構成され、サステナビリティに関する取組み方針の検討・意思決定とモニタリングの機能を担い、定期的に取締役会に報告している。サステナビリティ委員会での議論を踏まえ、当社内及び国内外のグループ会社と連携し、ESG経営の更なる推進を図っている。
サステナビリティに関連するリスク管理については、定期的に実施しているマテリアリティの見直しにおいて、リスクと機会を識別、評価しており、また、社長が委員長を務める「コンプライアンス・リスク管理委員会」において、あらゆるリスクを網羅・検証した上で、重要度に応じた活動を推進している。(リスク管理の詳細については、
サステナビリティ委員会
2023年度開催実績
開催回数:6回
取締役会報告回数:3回
主なテーマ:・環境ビジョンの更新(「鹿島環境ビジョン2050plus」)
・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、健康経営
・担い手(建設技能労働者)の確保
(2) 個別テーマ
① 人的資本
経営理念に謳っている「人道主義」に基づく家族的な社風が、伝統的に当社の価値創造の源泉の一つであり、社員と会社が互いにWin-Winとなる企業風土を構築するうえでも重要ととらえている。
鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)では、ありたい姿として、「高いエンゲージメントのもと多様な人材が個性を発揮する」「一人ひとりが主体性をもって新しいことに挑戦し続ける」ことを掲げ、成長・変革を担う人づくり・仕組みづくりに関する施策を推進することとしている。中核及び新事業分野におけるさらなる成長に向けた好循環を目指し、人的資本投資を充実させていく。
当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針、社内環境整備に関する方針、及び当該各方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績は、以下のとおりである。
人材育成
当社グループは、人と技術を軸に、社会と顧客の期待に応え続けることができる高度な専門人材と、その専門人材を束ねるマネジメント人材の育成に積極的に取り組んでいる。中期経営計画で掲げる成長戦略を加速させるため、社員一人ひとりが、高い専門性に加え、ビジネスやマネジメントの教養・スキルをバランスよく習得し、継続的に高めることができるように研修体系の構築を進めている。社員一人ひとりの成長が、当社グループの持続的な成長とビジネス領域の拡大に寄与する取組みを推進している。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン
性別や国籍、宗教の違いや障がいの有無など多様なバックグラウンドと個性を持つ人材がその能力を最大限に発揮できる環境をつくることは、イノベーションを推進するうえで重要である。
近年は特に、様々なライフイベントを迎えても安心して働き、活躍し続けられるよう、育児フレックス制度の拡充など、仕事と育児の両立支援に向けた各種制度を充実させている。
当社は、新卒採用(総合職)における女性社員の比率を20%以上とすることを目標としており、2023年度は21.1%となっている。2014年に設定した女性管理職・女性技術者数を「2014年度から5年で倍増、10年で3倍増させる」という目標は既に達成しており、新たな目標として、「2034年度に(2023年度比で)女性管理職数を3倍程度、女性技術者数を2倍程度」を設定している。
(女性管理職・女性技術者数の推移) 各年度4月1日時点
(注) 1 女性管理職数は「女性活躍推進法」の規定に基づき算出したものである。なお、当事業年度から、一部の役職の取扱いを変更している。
2 2024年度の数値には、グループ会社からの転籍者受け入れによる増員(技術者92名)を含んでいる。
また当社は、2023~2025年度の間で男性社員の育児休業・育児目的休暇取得率を50%以上とすることを2022年度に目標として設定し、出生時育児休業(産後パパ育休)制度の新設や、育児休業の分割取得などの制度拡充を進めた結果、前倒しで達成している。
(男性社員の育児休業・育児目的休暇取得率の推移)
なお、上記については、当社グループに属する全ての会社における指標・目標としていないため、当社グループにおける記載が困難であることから、当社単体での記載としている。
② 気候変動関連(TCFD提言に沿った開示)
「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明し、気候変動課題をグループの主要リスクとして管理するガバナンス体制を構築している。また、気候変動によるリスクと機会を特定したうえでその影響を明確化し、目標設定のもと取組みを強化している。
当社グループのCO2排出量削減目標
(注) ※印を付した削減目標は、スコープ3のうちカテゴリ1及びカテゴリ11を対象としたものである。
当社グループのCO2排出量実績
(注) 海外建設工事における協力会社排出分や建物運用時のライフサイクル年数等に関する取扱いを変更している。
当社グループは、事業遂行上のリスクの発生を防止、低減するための活動を推進している。新規事業、開発投資などの「事業リスク」に関しては、専門委員会等が事業に係るリスクの把握と対策について審議を行っている。法令違反などの「業務リスク」に関しては、コンプライアンス・リスク管理委員会が当社グループにおけるリスク管理体制の運用状況の把握、評価を行うとともに、リスク管理の方針及び重大リスク事案への対応などについて審議を行い、必要に応じて取締役会に報告している。
リスク管理活動の実効性を高めるためには、あらゆるリスクを網羅・検証した上で、重要度に応じた活動を推進することが有効であることから、毎年、発生頻度及び顕在化した際の影響度の両面から分析し、企業活動上、重点的な管理が必要とされる業務リスク事項をリスク管理重点課題として選定・展開し、予防的観点からのリスク管理を実施している。顕在化したリスク事案については、早期の報告を義務付け、組織的対応によるリスクの拡大防止と再発防止に努めるなど、PDCAサイクルに基づいた実効的なリスク管理活動を展開している。
本社のリスク所管部署の担当者によって構成するリスク管理連絡会議を定期的に開催し、当社グループに関するリスク顕在化事案や法令改正、社会動向、他社における事例、さらにはリスクマネジメントやリスクコミュニケーションの手法などの情報を報告・共有し、重要な情報については適宜コンプライアンス・リスク管理委員会に報告している。
事業リスクの把握と対策を審議する専門委員会
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
当社グループにおいては、これらの事業を取り巻く様々なリスクや不確定要因等に対して、その予防や分散、リスクヘッジ等を実施することにより、企業活動への影響について最大限の軽減を図っている。
景気悪化等による建設需要の大幅な減少や不動産市場の急激な縮小等、建設事業・開発事業等に係る著しい環境変化が生じた場合には、建設受注高の減少及び不動産販売・賃貸収入の減少等の影響を受ける可能性がある。
また、他の総合建設会社等との競争が激化し、当社グループが品質、コスト及びサービス内容等における競争力を維持できない場合、業績等が悪化する可能性がある。
変化する状況や市場動向を踏まえ策定した「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」に掲げる諸施策を推進することにより、経営目標の達成と企業価値の向上を目指している。
建設工事においては、工事期間が長期に亘る中で資機材及び労務の調達を行う必要があることから、建設コストの変動の影響を受ける。主要資材価格や労務単価の急激な上昇等による想定外の建設コスト増加を請負契約工事金額に反映させることができない場合には、工事採算が悪化する可能性がある。
建設コストの変動による影響を抑えるため、早期調達及び多様な調達先の確保を図るとともに、発注者との契約に物価スライド条項を含める等の対策を実施している。
当社グループは、中期経営計画に定めた投資計画に基づき不動産開発投資、R&D・デジタル投資、戦略的投資及び業務用不動産等への設備投資を推進することとしている。販売用不動産(当連結会計年度末の連結貸借対照表残高2,218億円)の収益性が低下した場合、賃貸等不動産(同3,028億円)及び投資有価証券(同4,424億円)等の保有資産の時価が著しく下落した場合には、評価損や減損損失等が発生する可能性がある。
開発事業資産については、案件毎に価値下落リスク等を把握し、その総量を連結自己資本と対比し一定の水準に収める管理を実施している。連結自己資本は、中期経営計画期間中の国内外開発事業資産の増加を考慮しても十分耐性を持つ財務基盤を維持できる水準を確保している。また、個別案件の投資に当たっては、本社の専門委員会(開発運営委員会、海外開発プロジェクト運営委員会)等においてリスクの把握と対策を審議した上で、基準に則り取締役会や経営会議において審議している。
投資有価証券のうち政策的に保有する株式は、毎年度、全銘柄について、中長期的な視野に立った保有意義や資産効率等を検証した上で、取締役会にて審議し、保有意義の低下した銘柄は原則として売却している。中期経営計画では、政策的に保有する株式の残高を『2026年度末までに連結純資産の20%未満』とすることを目標に3年間で500億円以上売却し、目標到達後も継続的に縮減を進める方針としている。
当社グループは、北米・欧州・アジア・大洋州等海外における建設事業及び開発事業を展開しており、中期経営計画に基づき、事業規模拡大に伴う経営基盤の整備、ガバナンスの強化等を推進していく方針である。進出国の政治・経済情勢、法制度、為替相場等に著しい変化が生じた場合には、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
海外におけるM&Aや新市場への進出等に当たっては、本社の専門委員会(海外事業運営委員会)等においてリスクの把握と対策を審議した上で、基準に則り取締役会や経営会議において審議している。
また、テロ、暴動等が発生した場合に、社員・家族の安否確保を図り、現地支援を行うため、国際危機対策委員会を設置している。
建設業界においては、建設技能労働者が減少傾向にあり、十分な対策を取らなければ、施工体制の維持が困難になり、売上高の減少や労務調達コストの上昇による工事利益率の低下等の影響を受ける可能性がある。
当社グループは、将来の施工体制を維持するため、中期経営計画に基づき、建設技能者の処遇改善、原則二次下請までに限定した施工体制の実現を目指した重層下請構造改革、人材育成や連携強化をはじめとした協力会社支援の充実など各種施策を継続して実施する方針である。
当社グループは、建設業法、建築基準法をはじめ、労働安全衛生関係法令、環境関係法令、独占禁止法等、様々な法的規制の中で事業活動を行っている。そのため、法令等の改正や新たな法的規制の制定、適用基準の変更等があった場合、その内容次第では受注環境やコストへの影響等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。また、当社グループにおいて法令等に違反する行為があった場合には、刑事・行政処分等による損失発生や事業上の制約、信用の毀損等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
これらのリスクへの対応として、関係法令等の制定・改正については、担当部署を通じてその内容を周知し必要な対応を実施している。例えば、2024年4月から建設業に適用された時間外労働の上限規制については、働き方改革、デジタル化による業務効率化や質の向上、業務内容に応じた集約化、アウトソーシングなどを進めるとともに、人員配置など施工体制の十分な検討と必要な工期を考慮した見積の提出に努めている。
また、コンプライアンス・マニュアルである「鹿島グループ 企業行動規範 実践の手引き」を策定、法令等の改正や社会情勢の変化も踏まえ適宜改訂し、全役員・従業員に周知している。加えて、コンプライアンス意識の更なる向上と定着を図るため、当社グループの役員及び従業員を対象としたコンプライアンスに係るeラーニング研修を継続的に実施しているほか、各分野の担当部署が、規則・ガイドラインの策定、研修、監査等を実施し、適正な事業活動のより一層の推進を図っている。
当社グループが提供する設計、施工をはじめとする各種サービスにおいて、重大な人身事故、環境事故、品質事故等が発生した場合には、信用の毀損、損害賠償や施工遅延・再施工費用等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
安全衛生・環境・品質の確保は生産活動を支える前提条件であり企業存続の根幹であることから、基本方針並びに安全衛生方針、環境方針、品質方針を定め、関係法令をはじめとする社会的な要求事項に対応できる適正で効果的なマネジメントシステムにより生産活動を行っている。安全を実現するため「建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)」に準拠した安全衛生管理を行うとともに、環境については、ISO 14001に準拠した環境マネジメントシステムを運用している。また、品質については、土木部門・建築部門それぞれでISO 9001の認証を受けており、海外関係会社は個々に必要な認証を受けている。
当社グループは設計、施工をはじめとする各種サービスを提供するにあたり、建造物や顧客に関する情報、経営・技術・知的財産に関する情報、個人情報その他様々な情報を取り扱っている。このような情報が外部からの攻撃や従業員の過失等によって漏洩又は消失等した場合は、信用の毀損、損害賠償や復旧費用等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
これらのリスクに対応するため、当社グループでは情報セキュリティポリシーを定め、重点的なリスク管理を実施している。サイバー攻撃を想定した訓練を実施し組織的な対応力向上に取り組んでいるほか、当社グループの役員及び従業員を対象としたeラーニングを用いた教育、点検及び監査並びに協力会社に対する啓発活動を行っている。
発注者、協力会社等の取引先が信用不安に陥った場合には、工事代金の回収不能や施工遅延等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。特に、一契約の金額の大きい工事における工事代金が回収不能になった場合、その影響は大きい。
新規の営業案件に取り組むに当たっては、企業者の与信、資金計画並びに支払条件などを検証し、工事代金回収不能リスクの回避を図り対応している。新たな契約形態や工事代金の回収が竣工引き渡し後まで残る不利な支払条件を提示された場合等には、本社が関与しリスクの把握と対策を講じるとともに、基準に則り経営会議において審議している。
協力会社と新たに取引を開始する際には、原則として財務状況等を審査したうえで工事下請負基本契約を締結している。また、重要な協力会社に対しては、定期的に訪問し財務状況を含めた経営状況の確認を実施している。
大規模地震、風水害等の大規模自然災害が発生した場合には、施工中工事への被害や施工遅延、自社所有建物への被害などにより、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
災害時の事業継続計画(BCP)を策定しており、首都直下地震や豪雨災害等を想定した実践的なBCP訓練を実施するなど、企業としての防災力、事業継続力の更なる向上に取り組んでいる。
パンデミック(感染症の大流行等)が発生した場合には、景気悪化による建設受注高の減少や工事中断による売上高の減少等、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
例えば、感染症の大流行に対しては、感染予防と感染拡大防止を最優先としつつ、事業継続と被害最小化を図るため、情報収集とリスク想定を行い、国内外従業員や協力会社に対して必要な対策を指導する。
2024年度リスク管理重点課題(業務リスク)
気候変動に伴う物理的リスクとしては、台風や洪水等による施工中工事への被害や施工遅延、自社所有建物への被害等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
災害時の事業継続計画(BCP)を策定し豪雨災害等を想定した実践的なBCP訓練の実施等により企業としての防災力、事業継続力の向上に取り組むことに加え、防災・減災及びBCP分野におけるR&Dを推進することにより、社会・顧客に対し関連サービスを提供するとともに、災害発生時には復旧・復興等に貢献することを目指している。
脱炭素社会への移行リスクとしては、温室効果ガス排出量の上限規制による施工量の制限や炭素税の導入によるコスト増等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
中期経営計画及び「鹿島環境ビジョン2050plus」に基づき、建設現場等におけるCO2排出量削減と再生可能エネルギー電源への投資に計画的に取り組むことに加え、低炭素コンクリートや省エネルギー関連分野等における保有技術の活用や新たな技術の開発等により、脱炭素社会への移行に対し事業を通じて貢献することを目指している。(気候変動リスクの詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)個別テーマ ②気候変動関連(TCFD提言に沿った開示)」に記載している。)
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりである。
売上高は、建設事業、開発事業等ともに国内外で増加し、前連結会計年度比11.4%増の2兆6,651億円(前連結会計年度は2兆3,915億円)となった。
利益については、建設事業の売上総利益が国内外において増加し、国内の開発事業等の売上総利益も増加したことから、営業利益は前連結会計年度比10.3%増の1,362億円(前連結会計年度は1,235億円)となった。経常利益は、営業外収益の減少等により同4.2%減の1,501億円(同1,567億円)となったものの、親会社株主に帰属する当期純利益は、特別損益が改善したことから、同2.9%増の1,150億円(同1,117億円)となった。なお、当連結会計年度において政策保有株式を27銘柄売却(284億円)しており、投資有価証券売却益を特別利益に計上している。
セグメントごとの経営成績は次のとおりである。(セグメントの経営成績については、セグメント間の内部売上高又は振替高を含めて記載している。)
(当社における建設事業のうち土木工事に関する事業)
売上高は、大型工事の施工が着実に進捗したことなどから、前連結会計年度比20.5%増の3,633億円(前連結会計年度は3,016億円)となった。
営業利益は、売上総利益率が高水準であった前連結会計年度を下回り、前連結会計年度比20.6%減の232億円(前連結会計年度は293億円)となった。
(当社における建設事業のうち建築工事に関する事業)
売上高は、大型工事の施工が順調であったことなどから、前連結会計年度比1.7%増の1兆1,042億円(前連結会計年度は1兆862億円)となった。
営業利益は、当期に完成した工事を中心に損益が改善し、前連結会計年度比14.2%増の533億円(前連結会計年度は466億円)となった。
(当社における不動産開発全般に関する事業及び意匠・構造設計、その他設計、エンジニアリング全般の事業)
当期に計画していた販売用不動産の売却が実現したことを主因に、売上高は前連結会計年度比90.0%増の853億円(前連結会計年度は449億円)、営業利益は同156.2%増の184億円(同71億円)となった。
(当社の国内関係会社が行っている事業であり、主に日本国内における建設資機材の販売、専門工事の請負、総合リース業、ビル賃貸事業等)
開発系関係会社が保有する販売用不動産の売却を主因に、売上高は前連結会計年度比4.2%増の3,674億円(前連結会計年度は3,526億円)となり、営業利益は同38.8%増の241億円(同174億円)となった。
(当社の海外関係会社が行っている事業であり、北米、欧州、アジア、大洋州などの海外地域における建設事業、開発事業等)
売上高は、米国や大洋州における建設事業売上高の増加を主因に、前連結会計年度比16.3%増の8,596億円(前連結会計年度は7,392億円)となった。
営業利益は、米国開発事業において着実に売却益を計上したものの、高水準であった前連結会計年度を下回ったことなどから、前連結会計年度比25.6%減の169億円(前連結会計年度は227億円)となった。
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末比3,654億円増加し、3兆1,351億円(前連結会計年度末は2兆7,697億円)となった。これは、保有株式等の時価上昇による含み益の増加を主因とする投資有価証券の増加863億円、現金預金の増加689億円、棚卸資産(販売用不動産、未成工事支出金、開発事業支出金及びその他の棚卸資産)の増加649億円及び有形固定資産の増加616億円があったこと等によるものである。
負債合計は、前連結会計年度末比2,029億円増加し、1兆9,114億円(前連結会計年度末は1兆7,085億円)となった。これは、有利子負債残高※の増加748億円及び未成工事受入金の増加535億円があったこと等によるものである。なお、有利子負債残高は、6,126億円(前連結会計年度末は5,377億円)となった。
純資産合計は、株主資本9,496億円、その他の包括利益累計額2,604億円、非支配株主持分135億円を合わせて、前連結会計年度末比1,625億円増加の1兆2,236億円(前連結会計年度末は1兆611億円)となった。
また、自己資本比率は、前連結会計年度末比0.6ポイント好転し、38.6%(前連結会計年度末は38.0%)となった。
(注) ※短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債(1年内償還予定の社債を含む)及び長期借入金の合計額
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、1,237億円の収入超過(前連結会計年度は291億円の支出超過)となった。これは、税金等調整前当期純利益1,689億円に減価償却費272億円等の調整を加味した収入に加えて、未成工事受入金及び開発事業等受入金の増加522億円の収入があった一方で、法人税等の支払額505億円、棚卸資産(販売用不動産、未成工事支出金、開発事業支出金及びその他の棚卸資産)の増加487億円、仕入債務の減少332億円及び売上債権の増加316億円の支出があったこと等によるものである。
投資活動によるキャッシュ・フローは、629億円の支出超過(前連結会計年度は817億円の支出超過)となった。これは、有形固定資産の取得による支出415億円、貸付けによる支出414億円及び投資有価証券の取得による支出192億円があった一方で、投資有価証券の売却等による収入301億円及び貸付金の回収による収入258億円があったこと等によるものである。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額368億円及び自己株式の取得による支出150億円があった一方で、短期借入金、長期借入金、コマーシャル・ペーパー及び社債による資金調達と返済の収支が381億円の収入超過となったこと並びに自己株式の処分による収入50億円があったこと等により、95億円の支出超過(前連結会計年度は1,118億円の収入超過)となった。
これらにより、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末から678億円増加し、3,500億円(前連結会計年度末は2,822億円)となった。
当社グループでは生産実績を定義することが困難であるため、また、受注高について当社グループ各社の受注概念が異なるため、「生産の実績」及び「受注の実績」は記載していない。
(注) 1 売上実績においては、「外部顧客への売上高」について記載している。
2 前連結会計年度及び当連結会計年度ともに売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先はない。
(注) 1 前事業年度以前に受注したもので、契約の更改により請負金額に変更があるものについては、当期受注高にその増減額を含む。したがって、当期売上高にもかかる増減額が含まれる。
2 期末繰越高は、(期首繰越高+当期受注高-当期売上高)である。
建設工事の受注方法は、特命と競争に大別される。
(注) 百分比は請負金額比である。
(注) 1 前事業年度及び当事業年度ともに完成工事高総額に対する割合が100分の10以上の相手先はない。
2 当事業年度の完成工事のうち主なものは、次のとおりである。
e 繰越工事高(2024年3月31日現在)
(注) 繰越工事のうち主なものは、次のとおりである。
(※) 当社からの受注高は繰越工事高に含んでいない。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り当連結会計年度末現在において判断したものである。
① 経営成績及び財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、2021年に「鹿島グループ中期経営計画(2021~2023)-未来につなぐ投資-」を策定し、変化する経営環境に対応しつつ、業績の維持向上と当社グループの将来にわたる発展を目指してきた。その結果、3期連続で親会社株主に帰属する当期純利益が1,000億円を超えたとともに、ROEは10%を上回り、中期経営計画の経営目標を達成した。また、2050年度のカーボンニュートラルやサプライチェーンを含めた人的資本強化に向けた施策に加え、国内・海外の不動産開発投資を推進し、持続的な成長の基盤整備を着実に進めることができた。こうした投資や施策は、今後も継続して取り組んでいく。
「鹿島グループ中期経営計画(2021~2023)」経営数値目標達成状況
当社グループの当連結会計年度の売上高(2兆6,651億円)は、当社建設事業(土木事業・建築事業)の順調な工事進捗や海外売上高の増加などにより、過去最高となった。親会社株主に帰属する当期純利益は、増収効果に加え、当社建築事業の利益率向上や国内・海外開発事業の着実な利益計上により、前連結会計年度を上回る1,150億円となった。
業績予想との比較では、売上高は業績予想を上回った。利益面では、営業利益、経常利益が業績予想を下回ったものの、親会社株主に帰属する当期純利益は業績予想を上回った。
当連結会計年度の経営成績(連結業績予想との対比) (単位:百万円)
財政状態については、当連結会計年度末の資産合計が前連結会計年度末比3,654億円増加し、3兆1,351億円となった。計画に基づく国内外の不動産開発投資の進捗により、開発事業資産(販売用不動産及び有形固定資産など)が増加し、建設事業における売上債権(受取手形・完成工事未収入金等)も売上高の増加等に伴って増加している。投資有価証券については、政策保有株式の中長期的な縮減に向けて、保有する株式の一部(27銘柄284億円)を売却したものの、国内株式市場における株価上昇や競争力強化に向けた国内外での戦略的な出資、為替変動に伴う外貨換算増などにより増加した。なお、計画に掲げた政策保有株式の縮減目標(当連結会計年度までの3年間で総額300億円以上の売却)に対しては、3年間で累計533億円を売却し目標を達成している。連結自己資本は、1,000億円を上回る親会社株主に帰属する当期純利益の計上に加え、保有株式の株価上昇などにより、その他有価証券評価差額金が564億円増加したこと等に伴い前連結会計年度末から1,577億円増加の1兆2,101億円、自己資本比率は38.6%となった。連結有利子負債残高は、海外の不動産開発投資において外部資金を活用したことや海外の借入金における為替変動に伴う外貨換算増により前連結会計年度末から748億円増加し、6,126億円となったものの、D/Eレシオ(負債資本倍率)は0.51倍であり、財務の健全性は十分に維持できていると考えている。
経営成績に重要な影響を与える主な要因は、国内外の建設事業及び開発事業における需要やコストの急激な変動等の事業環境の変化である。当連結会計年度においては、国内建設需要は、堅調な公共投資と民間企業の旺盛な設備投資意欲により高い水準を維持し、そうした建設需要を背景に受注競争は緩和の動きが見られた。海外における建設需要は、欧米では製造業を中心に底堅く推移し、東南アジアでは経済活動の正常化に伴い増加基調となった。コストに関しては、国内外ともに資機材価格は総じて高い価格水準に留まっており、労務費にも上昇の傾向が見られるため、動向を注視した適切な対応が必要と考えている。
今後については、国内建設事業は、当面の間は高い水準の建設需要が継続すると予想されるため、適切な施工体制の確保による工期遵守や品質保全、着実な利益確保に取り組むとともに、時間外労働上限規制や働き方改革への対応として、ICTツール等を積極的に活用した施工の自動化、デジタル化、遠隔管理化などによる生産性向上やノンコア業務のアウトソーシングなどを推進していく。また、長期的には建設技能労働者が減少していく見通しであることから、賃金・休暇面での処遇改善やデジタル技術活用による建設業の魅力向上など次世代の担い手確保に向けた施策に取り組んでいる。海外事業においては、地政学的リスクの高まりや、欧米を中心とするインフレ及び金利動向が事業環境に与える影響を見極めつつ、リスク管理を徹底した事業展開を進めていく。
セグメントごとの経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりである。
a 土木事業
(当社における建設事業のうち土木工事に関する事業)
売上高は、大型工事を中心に施工が着実に進捗したことなどから前連結会計年度を大きく上回る3,633億円となった。2025年3月期についても、7,000億円を超える繰越工事高を踏まえ3,500億円を予想し、それ以降も同水準の売上高が継続すると見込んでいる。売上総利益率に関しては、四半期ごとに利益率は改善したが、一部の工事において施工条件の変更等に伴うコストの増加があったことから、高い水準であった前連結会計年度の利益率(18.0%)を下回る13.7%となった。2025年3月期には、15.4%に回復すると予想している。
土木事業における建設需要は、インフラ更新などの国土強靭化に関連した分野や風力発電などのエネルギー分野における需要の拡大が続き、今後も堅調に推移すると考えている。
b 建築事業
(当社における建設事業のうち建築工事に関する事業)
売上高は、生産施設や再開発事業等の大型工事の施工が順調に進捗したことなどから増収となった。2025年3月期以降も強い建設需要が継続すると見通しており、1兆円を超える水準の売上高が継続すると見込んでいる。売上総利益率は、建設コスト上昇の影響が一部の工事にあったものの、当連結会計年度に竣工した工事を中心に損益の改善が進んだことから、前連結会計年度における8.5%から9.2%に上昇した。2025年3月期は、竣工を迎える工事が少なく損益改善が進みにくい時期であるとともに、引き続き建設コスト上昇などにも注意が必要であることから、売上総利益率を9.0%と見込んでいる。
競争環境については、高水準の建設需要を背景に緩和の動きが見られ、受注時の利益率は改善傾向にある。サプライチェーンを含めた施工体制の確保や、建設コスト上昇への対応を確実に行うとともに、技術力や提案力を軸とした受注活動により、採算性の維持・向上を図っていく。
c 開発事業等
(当社における不動産開発全般に関する事業及び意匠・構造設計、その他設計、エンジニアリング全般の事業)
開発事業等の売上高及び営業利益は、不動産販売事業において、オフィス、ホテルの売却や分譲マンションの引渡しがあったことを主因に、前連結会計年度を上回った。当社が保有する賃貸ビルは総じて高い稼働率を維持しており、不動産賃貸事業も堅調に推移した。
2025年3月期についても、分譲マンションの引渡しに加え、オフィスの売却を計画しているため、売上高及び営業利益は当連結会計年度を上回る見通しである。国内の不動産開発事業においては、「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」の投資計画に基づき、レパートリー拡充、優良資産の積み上げによる収益源の多様化及び収益機会の拡大を目指している。これまでの投資の成果として、2025年3月期からの3年間における売却による回収額は、当連結会計年度までの3年間の実績を大きく上回る計画としている。
d 国内関係会社
(当社の国内関係会社が行っている事業であり、主に日本国内における建設資機材の販売、専門工事の請負、総合リース業、ビル賃貸事業等)
当連結会計年度においては、開発系国内関係会社の保有するオフィスの売却が実現したことを主因に、売上高及び営業利益が前連結会計年度を上回った。
2025年3月期は、不動産開発物件の売却予定がないことから減収減益を予想しているが、建設事業等は堅調に推移し、安定的な業績を維持する見通しである。
e 海外関係会社
(当社の海外関係会社が行っている事業であり、北米、欧州、アジア、大洋州などの海外地域における建設事業、開発事業等)
海外関係会社の売上高は、建設事業、開発事業等ともに増収となったものの、営業利益は前連結会計年度を下回った。建設事業では、東南アジアの一部の工事においてコロナ禍の影響が残ったものの、第3四半期連結会計期間以降、業績は回復基調となった。開発事業等は、各地域においてインフレや金利上昇などの影響を受ける事業環境となったが、米国流通倉庫開発事業において12件を売却し、東南アジアではホテル等運営事業の稼働率改善が進み、全体として底堅い業績を維持した。
2025年3月期については、各地域における施工中工事の順調な進捗と開発事業における物件売却により、売上高は1兆円を超える見通しである。利益面でも、東南アジアにおける業績回復や着実な開発物件の売却益計上により、増益を見込んでいる。
海外事業は当社グループの成長領域であり、中期経営計画(2024~2026)に定めた施策や投資を推進する。不動産開発事業では、事業展開地域の市場特性に合わせた投資を実施し、北米では、流通倉庫、賃貸集合住宅など、短期回転型事業を中心に推進している。東南アジアでは、長期保有型のホテルやオフィスなどの複合開発に加え、短期回転型の販売事業も強化しており、欧州においては、流通倉庫、学生寮、再生可能エネルギー発電施設など多様な事業ポートフォリオの構築を進めている。資産売却により回収した資金・利益を再投資するサイクルの確立が進んでおり、このサイクルを拡大することにより、更なる収益力の強化を図っていく。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは当連結会計年度において、建設コストが上昇した中でも、国内建設事業で着実な利益を確保するとともに、国内外の不動産開発事業における物件売却などによりキャッシュを創出した。これに加え、政策保有株式の売却や有利子負債の活用等によるキャッシュを原資として、投資計画に基づく国内外の不動産開発投資やR&D・デジタル投資、先端技術を保有するスタートアップ企業への出資など当社グループの着実な利益成長と経営基盤強化に繋がる投資を積極的に実施した。また、配当の引き上げとともに、機動的な株主還元として、市場からの100億円の自己株式取得を実施するなど、株主還元を拡充している。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ678億円増加し3,500億円となった。当連結会計年度は、着実な利益計上に加え、未成工事受入金及び開発事業等受入金などの増加による営業キャッシュ・フローの収入超過が、国内外の不動産開発事業に係る有形固定資産の増加などによる投資キャッシュ・フローの支出超過並びに配当金の支払いや自己株式取得による財務キャッシュ・フローの支出超過を上回り、現金及び現金同等物の残高が増加した。今後の建設事業における資金需要の予測は難しいものの、2025年3月期については、完成を迎える大型工事が少なく工事代金の回収が減少することに加え、協力会社等への支払先行に伴う一時的な資金負担の増加により、建設事業収支が悪化することを見込んでいる。ただし、現金及び現金同等物の残高は月商程度の水準を上回り、D/Eレシオも0.5倍程度と財務健全性を維持していることに加え、コミットメントラインを設定する等、安定的な資金運営に向けた多様な資金調達手段を備えていることから、資金面に懸念はないと考えている。
「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」の投資計画に基づき推進するR&D・デジタル投資やバリューチェーン拡充・新規事業創出等に向けた戦略的投資、国内外の不動産開発投資などの原資として、今後も国内外における建設事業の収益力を高め、キャッシュの創出に努めるとともに、開発事業資産の計画的な売却や政策保有株式の縮減を進めていく方針である。株主還元については、配当性向の目安を40%とするとともに、業績、財務状況及び経営環境を勘案した自己株式の取得など機動的な株主還元を行うことを基本方針とし、成長投資とのバランスを考慮した柔軟な資金配分を予定している。
また、投資計画の実施に伴う資金需要に対しては、投資効率の向上に向けて、金利動向を見極めながら弾力的に外部資金を活用していくため、2025年3月末の連結有利子負債残高は8,300億円に増加する見通しであるものの、拡大する開発事業資産などに対するリスク耐性を備えるため、D/Eレシオ0.7倍程度を目安として財務健全性を維持していく方針である。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されているが、この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者により、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されている。これらの見積りについては、継続して評価し、必要に応じて見直しを行っているが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果は、これらとは異なることがある。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載している。
特記事項なし。
当社グループは、中期経営計画に基づき、施工の自動化やデジタル化など中核事業の一層の強化に資する技術とともに、社会課題解決型ビジネスやオープンイノベーションによる新たな価値創出への挑戦を目指して、CO2削減に寄与する環境配慮型技術などの開発を進めている。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
当社は、巨大地震に伴い発生する長周期地震動による超高層建物全体の揺れを、従来の耐震・制震架構と比べ大幅に低減する制御層制震構造※「KaCLASS※」を開発し、阪急阪神不動産㈱が事業を進める超高層タワーレジデンスであるジオタワー大阪十三(大阪市淀川区)に初導入した。本技術は、建物高さの70%程度の位置に設けた制御層が地震エネルギーを大きく吸収し、建物全体の揺れを大幅に低減するものである。これにより従来の耐震・制震架構と比較して少ない柱梁で高い安全性を確保できることから、開放的な空間が実現可能となる。
*1:Kajima Control Layer Advanced Structural System
当社は、建築工事に不可欠な墨出し作業を、全自動かつ高精度に行うロボットプリンタ「ロボプリン※」を開発した。今般、当社機械技術センター(神奈川県小田原市)において実証実験を行い、墨出し作業の生産性を約2倍に向上できることを確認した。本技術は、読み込んだ施工図面データを基に、工事に必要な基準墨や仕上げ墨などをコンクリート床にプリントするものである。特別な装置やアプリが不要であることから導入が容易であり、スタート後は全自動で作業するため、誰でも手軽に高精度の墨出しが可能となる。
当社は、次世代の山岳トンネル自動化施工システム「A4CSEL※ for Tunnel」(クワッドアクセル・フォー・トンネル)の開発を進めている。今般、施工ステップの一つである「装薬」の自動化に向けた一歩として、岩盤面の孔内に装填するまで火薬化しない「バルクエマルション爆薬」を採用した全断面発破を、国内の山岳トンネル工事で初めて実現した。切羽での高所装填作業のための設備を含む製造許可を取得後、2024年2月に、当社が各種実証試験を行っている神岡試験坑道(岐阜県飛騨市)において同爆薬による初発破を行い、4月末までに計14回の発破を実施した。今後も、高い安全性を確保できる同爆薬を用いた技術開発を進めることで、装薬・発破作業の自動化及び効率化を目指していく。
④ 成瀬ダムで自動化施工システムによる「現場の工場化」を実現
当社は、成瀬ダム堤体打設工事(秋田県雄勝郡東成瀬村)において、2020年度から適用している自動化施工システム「A4CSEL※」(クワッドアクセル)の機能・性能の向上及び適用範囲の拡大を推進している。今般、CSG(*2)の自動搬送と自動ダンプトラックでの運搬・荷下ろし作業を実現したことで、既に適用している自動ブルドーザによるまき出し、自動振動ローラによる締固め作業と合わせて、CSGの製造から打設に至る全ての作業を完全自動化することに成功し、当社が同工事において目指してきた「現場の工場化」の一つの形が実現した。
*2:Cemented Sand and Gravel
現地発生材(石や砂れき)とセメント、水を混合してつくる材料
当社は、日本電気㈱及び東日本電信電話㈱と共同で、光ファイバセンシング技術を応用し、既に電柱に共架している通信用光ファイバを振動センサとして活用する実証実験を行い、トンネル掘削工事の振動検知に世界で初めて成功した。本技術により、新たにセンサを設置することなく、建設工事現場周辺における振動状況を広範囲かつリアルタイムに把握することが可能となる。
当社は、トヨタ自動車㈱、㈱NIPPO、東京都市大学及びカリフォルニア大学バークレー校と共同で、将来の新たなモビリティサービスの提供や自動運転社会の到来を見据え、センシング機能を有する道路「スマートロード」の開発に着手した。今般、当社技術研究所(東京都調布市)敷地内に、光ファイバセンサを埋め込んだ試験舗装フィールドを構築し、道路上の歩行者や自転車などの移動体の位置を、同センサで検知したデータにより自動追跡できることを確認した。
当社は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)及び芝浦工業大学と共同で、当社を代表者として2021年から国土交通省の公募事業「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」に参画し、研究開発を進めている。今般、当社の実験場「鹿島西湘実験フィールド」(神奈川県小田原市)とJAXA相模原キャンパス(相模原市中央区)を結び、自動遠隔建設機械による月面環境での作業を想定した実証実験を行った。その結果、月面での永久陰領域等での施工に必要となる構成技術及び要素技術の妥当性を確認することができた。
当社及び当社グループのアジア開発事業統括会社であるカジマ・デベロップメント・PTE・リミテッドが、シンガポールで開発を進めてきた自社ビル「The GEAR」が2023年8月に開業した。「The GEAR」は、当社グループのアジア本社、R&Dセンター及びオープンイノベーションハブの3つの機能を併せ持つ建物である。R&Dセンターとして当社技術研究所のシンガポールオフィス(KaTRIS(*4))が建設ロボット、スマートウェルネスオフィス及び環境・バイオ等に関する研究室「ラボ」を構えており、今後、大学やスタートアップ等と連携して、アジアの成長市場に求められる技術開発を進めていく。
*3:Kajima Lab for Global Engineering, Architecture & Real Estate
*4:Kajima Technical Research Institute Singapore
(3) 成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進
① CO2排出量を70%削減した「CUCO※(*5,6)-SUICOMドーム」(クーコスイコムドーム)の試験施工を完了
当社は、デンカ㈱及び㈱竹中工務店と共同で、コンソーシアム「CUCO※」の幹事会社として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」の一環として、コンクリートの製造過程で排出されるCO2の排出量が実質ゼロ以下となるカーボンネガティブコンクリートの開発を進めている。今般、当社技術研究所(東京都調布市)の隣接敷地において、当社保有の「KTドーム※」技術を活用し、躯体部分に低炭素型コンクリート「ECMコンクリート※(*7)」とカーボンネガティブコンクリート「CUCO※-SUICOMショット」を活用した「CUCO※-SUICOMドーム」の試験施工を完了した。試験施工では、これら両コンクリート材料の吹き付け並びに「CUCO※-SUICOMショット」の炭酸化養生を現場で行った。これにより、従来の吹付けコンクリートと比較して、CO2排出量の70%削減を達成した。
*5:Carbon Utilized Concrete
*6:当社、デンカ㈱及び㈱竹中工務店の登録商標
*7:当社及び㈱竹中工務店の登録商標
② 牛のげっぷ中のメタンガスを抑制する海藻の量産培養手法を開発
当社は、牛のげっぷに含まれるメタンガス(*8)排出量低減に寄与する海藻「カギケノリ」の量産培養手法を開発した。カギケノリの形状を自然に近い状態である直立形状から球状に変えることで、人の管理のもと陸上の水槽で安定的に量産できる技術を確立した。本技術で生産した海藻を牛などの反すう動物の餌に混ぜることで、胃の中で発生するメタンガスを抑制する効果が期待できる。
*8:CO2に次いで地球温暖化の原因となっている気体
(国内関係会社)
舗装に関する新技術の開発
アスファルト舗装及びコンクリート舗装関連の各技術(材料、施工、建設機械、品質、環境、維持修繕及びDX化など)について研究開発を進めている。
新たな舗装材料として、雨天でも施工可能な全天候型アスファルト緊急補修材及び環境配慮型添加材を使用したAKD(*9)舗装用混合物の開発を行った。また、舗装建設機械の自動化及び安全性向上策として、ブルドーザなどに搭載する緊急停止装置の開発を行った。
なお、2024年3月に「技術開発総合センター」(埼玉県久喜市)を開設し、新たな研究開発体制を構築した。今後は、各技術部門の研究開発者を集約し、創造力の向上と開発のスピードアップを目指していく。
*9:Anti Kerosene and Durability
微生物を利用した地盤固化に関する新技術の開発
CO2排出量削減を目的として、セメントを使用しない、微生物を利用した地盤固化技術を開発した。
本技術は、地盤中の微生物に栄養を与え炭酸カルシウムを析出させることで、軟弱な地盤を固めて強化するものである。本技術を用いて作製した固化体は自立し、100~200kN/㎡の一軸圧縮強度をもつ。また、透水係数は1×10-2m/secまで減少することが確認された。
今回開発した技術の特徴は、外部微生物の添加は行わず工事の対象となる地盤の常在菌のみを活用し、さらに、食品添加物にも使用される中性無害な栄養剤を使用するため、周辺環境への影響が少なく、安全かつ広範囲に注入ができる点である。また、微生物の活性化に酸素を使用しないため、酸素が不足する地下水位以深の地盤にも適用可能である。
今後、従来のセメントによる施工が行われている液状化対策工事や汚染物質対応の遮水壁工事などへの適用に向け、更に開発を進めていく。
研究開発活動は特段行われていない。
(注) 工法等に「※」が付されているものは、当社及び関係会社の登録商標である。