第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものであります。

  (1)経営方針

当社グループは、創業者が掲げた「食足世平」「食創為世」「美健賢食」「食為聖職」の4つの精神をもとに、常に新しい食の文化を創造し続ける「食文化創造集団」となり、環境・社会課題を解決しながら持続的成長を果たすことによって、グループ理念である「EARTH FOOD CREATOR」の体現を目指してまいります。

また、総合食品企業グループとして、各カテゴリーの中で常にNo.1ブランドを創造・育成していき、No.1ブランドの集合体として形成される「ブランディングコーポレーション」の実現を目指し、より一層、ゆるぎない経営基盤を築きながら、企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に努めてまいります。

 

  (2)経営環境及び対処すべき課題等

世界経済においては、米国の個人消費が堅調であるなど底堅く推移したものの、地政学リスクの高まりやインフレの進行等で先行き不透明感が増しております。国内においては、新型コロナウイルス感染症の5類移行により経済活動が正常化し、内需が回復しつつあることなどから、景気は緩やかに回復基調にあります。一方で、原材料やエネルギー価格の高騰に加え、為替変動や金融政策の転換などのリスク要因もあり、予断を許さない状況であります。

かかる環境下、即席めん業界においては、新型コロナウイルス感染症流行期の需要増の反動もあり、中国など一部の国では前年比消費が減少しましたが、世界総需要は、流行前の2019年と比較すると10%以上高い堅調な水準を維持しております。

こうした中で、当社グループは、2030年に向けた「中長期成長戦略2030」で掲げたビジョンの実現と持続的成長に向け、成長戦略テーマである①既存事業のキャッシュ創出力強化、②EARTH FOOD CHALLENGE 2030、③新規事業の推進に取り組んでおります。

 

① CSV経営における中長期成長ストーリー

当社グループは、2021年5月に開示した中長期成長2030において、グループMissionVisionValueに基づくCSV経営として、以下のストーリーを発表いたしました。

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* 非経常損益としての「その他収支」の影響や、連結時円換算為替レート影響を除いた実質的な営業利益(当社においてはNon-GAAP指標「コア営業利益」として定義)の成長

** 2020(2020年度)の値は、2020年度IFRS営業利益から、国内その他セグメントの損益や非経常損益としての「その他収支」、加えて2019~2020年度において大幅な利益増大要因となったCOVID-19影響を控除したおおよその値

*** 2023年5月に2030年目標を上方修正

 

 

 

② 中長期成長戦略 始動3ヵ年レビュー

 財務KPIとして掲げた2030年度までの目標に対し、多くの項目で既にターゲット水準を達成しております。成長性、効率性指標は、新たな目標値を設定いたしました。

 

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※Mid-single Digit(オーガニック):

インオーガニックグロース(M&A等)、外部環境の急変(為替、インフレ率等)を含まない実力値としての成長性

 

 

③ 中長期成長戦略の成長イメージ

急成長を遂げた2023年度起点にオーガニックベースMid-single Digit成長を計画しております。

新たなマイルストーンとして売上収益1兆円、既存事業コア営業利益1,000億円、時価総額2兆円を設定いたしました。

インオーガニックグロースも活用し、さらなるアップサイドを追求すると共に、潤沢なキャッシュフローの有効活用による「戦略的成長投資」と「ROEの一層の向上」を両立してまいります。

 

<中長期成長戦略の成長イメージ>

 

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<ROE向上のためのキャピタルアロケーションの考え方>

 

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④ 「完全メシ」シリーズは、発売2年で2,500万食を突破(2024年5月時点)

 「完全メシ」とは?

 「完全メシ」は、「日本人の食事摂取基準」で設定されたビタミン・ミネラルなど33種類の栄養素とおいしさの

完全なバランスを追求したブランドであります。当社の最新フードテクノロジーを駆使することで、たんぱく質、

脂質、炭水化物の三大栄養素のほか、ビタミン、ミネラル、必須脂肪酸もバランスよく整え、さらに、栄養素

独特の苦みやエグみを抑えることで、普段の食事と変わらないおいしさを実現しております。

 

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⑤ 「完全メシ」ブランドのタッチポイント創出

 ブランド認知とビジネス展開の加速

「完全メシ」は、カップメシやドリンクといった常温品、温めていただくだけで召し上がれる冷凍食品

だけではなく、社員食堂での提供、小売店でのお惣菜弁当、他メーカー様とのコラボ商品といった形でも展開

しております。さらに通販チャネルや保険業界との協業を通じて、より多くのシーンで「完全メシ」をお届けし、

その認知とビジネス展開を加速してまいります。

 

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⑥ EARTH FOOD CHALLENGE 2030

 日清食品グループ環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定し、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指したさまざまな取り組みを進めております。

 

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  (3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

① 持続的な利益成長の考え方

成長投資の基盤となる“既存事業”の実質的成長を示す指標「既存事業コア営業利益」を定義し、これをMid-single Digitで成長させることを経済価値ターゲットの中核といたします。

既存事業コア営業利益とは、営業利益から新規事業にかかる損益および非経常損益としての「その他収支」を控除したものであり、中長期成長戦略上2022年3月期以降積極的かつ継続的な先行投資を予定する新規事業にかかる損益を分離し、その成長投資の基盤となる既存事業の実質的な成長を測定することを目的に採用している指標であります。

本指標は、当社グループが中長期的に持続的な成長を目指すうえでの重要経営管理指標であり、財務諸表の利用者が当社グループの業績を評価するうえでも有用な情報であると考えております。

 

② 中長期的な経済価値ターゲット

 持続的な利益成長に加え、効率的な資本活用、安全性ある負債活用、そして安定的な株主還元の4つをCSV経営上の中長期的経済価値ターゲットとしてコミットしております。

 

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項目

区分

項目

目標値

財務

成長性

既存事業コア営業利益成長率

旧:Mid-single Digit

新:Mid-single Digit(オーガニック)(注)

効率性

ROE

旧:長期的に10%

新:2030年度までを目途に15%

安全性

Net debt/EBITDA

2倍以下

安定的

株主還元

累進的配当

配当性向:約40%

自己株式の取得

機動的な自己株式取得

相対TSR(TOPIX食料品対比)

1倍超

非財務

有限資源の

有効活用

持続可能なパーム油の調達比率

100%

水使用量

(IFRS売上100万円あたり)

12.3㎥以下

流通廃棄物削減率

(2015年度対比/日本国内)

△50%

気候変動

インパクトの軽減

CO2排出削減(Scope 1+2)

(2020年対比)

△42%

CO2排出削減(Scope 3)

(2020年対比)

△25%

(注)Mid-single Digit(オーガニック):インオーガニックグロース(M&A等)、外部環境の急変(為替、インフレ率等)を含まない実力値としての成長性

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

 当社グループは環境や社会の課題を解決しながら持続的成長を果たすため、2020年4月、「サステナビリティ委員会」を設置いたしました。委員長は代表取締役社長・CEOが務め、事務局は経営企画部、サステナビリティ推進部、広報部が担い、委員会傘下には、環境、人権、広報・教育、海外、ESG (環境、社会、ガバナンス) 評価向上をテーマにした5つのワーキンググループを設け、各グループに関係部署が参画しております。

 委員会は、グループ全体のサステナビリティ・ESG課題に関する方針策定や施策を検討し、その活動内容を、サステナビリティ委員長および取締役会へ定期的に報告しております。

 また、2021年4月には取締役会の諮問機関として「サステナビリティ・アドバイザリーボード」を設置し、当社グループに影響を及ぼすESG課題について、社内経営層と社外有識者が協議する機会を年2回設けております。協議した内容はウェブサイトなどで開示し、会社の経営方針や各種施策に反映しております。

 

(2)戦略

 当社グループは、人類を「食」の楽しみや喜びで満たすことを通じて社会や地球に貢献する「EARTH FOOD CREATOR」をグループ理念に掲げ、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しております。当社グループが果たすべき責任、取り組むべき社会課題は、食の安全管理体制の構築や環境負荷の低減、ガバナンスの確立など幅広い領域に及んでおります。その中でも、当社グループが特に力を入れて取り組むべき重要課題=マテリアリティを、サステナビリティとウェルビーイングの2つの観点から、4つのテーマ(「健康と栄養改善への貢献」「創造人材の育成と活用」「気候変動の緩和と適応」「持続可能な調達」)で設定しております。なお、その他の課題に関しては、主要なESG評価機関からの評価を各部門のKPIとして戦略を策定し、施策を実行しております。

 

① 気候変動等への対応

 近年、気候変動をはじめとする地球規模での環境問題が顕在化する中、世界中の人々の食を支えるグローバルカンパニーとして、より高いレベルでの環境対策推進を重要経営課題と位置付け、中長期成長戦略の一つとして環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を2020年4月に策定しております。

 環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」は、地球資源を取り巻く環境の保護及び資源の有効活用に挑戦する「資源有効活用へのチャレンジ (EARTH MATERIAL CHALLENGE)」と、当社グループの事業活動全般におけるCO排出量削減に挑戦する「気候変動問題へのチャレンジ (GREEN FOOD CHALLENGE)」の2つを柱としております。

 「EARTH MATERIAL CHALLENGE」では「地球にやさしい調達」「地球資源の節約」「ごみの無い地球」の3つを、「GREEN FOOD CHALLENGE」では「グリーンな電力で作る」「グリーンな食材で作る」「グリーンな包材で届ける」の3つを活動テーマに据えております。

 また、特に気候変動問題を、重要な経営リスクの1つとして位置付けております。原材料価格の高騰や製造工場の被害、消費者の購買活動の変化など、当社グループの事業は、気候変動によってさまざまな影響を受けるためであります。当社グループでは、2019年度に事業活動に気候変動が及ぼす影響を把握するために、プロジェクトチームを立ち上げ、TCFD (気候関連財務情報開示タスクフォース) 提言を踏まえたシナリオ分析・インパクト評価を実施いたしました。分析には、IPCC (気候変動に関する政府間パネル) の温暖化の進行に関するシナリオ (RCP:代表的濃度経路) ※と社会経済に関するシナリオ (SSP:共通社会経済経路) を用い、TCFDが求める2℃シナリオを含む複数の異なる条件下で分析いたしました。結果の概要は以下となります。

 

※ RCP2.6 (1986~2005年を基準としておおよそ1℃前後の上昇)、RCP6.0 (おおよそ2℃前後の上昇)、

 RCP8.5 (おおよそ4℃前後の上昇)の3つシナリオを活用

 

 主なリスクによる事業への影響度とその対応策

 

主なリスク

想定される事業への影響

主な対応策

 (財務影響軽減策)

移行

リスク

炭素税・国境炭素税などの規制

SBT目標WB2℃(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準)に向け、取り組まなかった場合の影響額は2030年3,747百万円/年、2050年7,323百万円/年となった。SBT目標WB2℃を達成した場合の影響額は2030年2,623百万円/年、2050年1,465百万円/年となる。

製造工場への省エネ設備やシステムの導入、再生可能エネルギーの導入拡大、環境に配慮した製品の販売

物理

リスク

水リスク

洪水:リスクが高いと見られる製造拠点は国内4拠点、海外1拠点

製造工場などにおける水リスクの多角的な分析調査

高潮:リスクが高いと見られる製造拠点は国内4拠点

干ばつ:評価時点と比較して、2055年および2090年までにリスクが増大すると判明した拠点は南米と欧州の拠点

水ストレス:国内で4拠点、海外で7拠点

水の再利用などをはじめとした製造工場における効率的な水の使用

原材料調達先の変遷

小麦:オーストラリアにおける小麦の2000年比面積単位収穫量はRCP2.6およびRCP6.0で増加、アメリカ、カナダは変化なし

植物代替肉や培養肉などの開発、植物代替肉や培養肉などを利用した製品の開発、持続可能なパーム油の調達

大豆:2000年比面積単位収穫量は、RCP2.6では増加傾向、RCP6.0とRCP8.5では減少傾向

エビ・イカ:RCP2.6では大きな変化はなし、RCP8.5では漁獲量が減少

パーム油:RCP2.6では収穫量減少の懸念あり、RCP8.5では収穫量減少

 ※ 分析結果の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。

 (https://www.nissin.com/jp/sustainability/)

 

 また、2050年までにCO排出量と吸収量を“プラスマイナスゼロ”にする「カーボンニュートラル」を2022年11月に宣言しております。

 

② 生物多様性(TNFD(※1))への対応

 当社グループが目指す「ネイチャーポジティブ」を実現するためには、生物多様性の保全と回復が必要だと考えております。そこで、当社グループの事業活動が生物多様性に与える影響を把握するため、2022年11月にTNFDが発表した「TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワークベータ版v0.3(※2)」を参考に、LEAPアプローチ(※3)を用いた自然関連リスク・機会評価をトライアル実施いたしました。

 

※1 TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures: 自然関連財務情報開示タスクフォース) は、民間企業や金融機関が自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価、開示するための枠組みを構築する国際的なイニシアティブ。

※2 TNFDが2023年9月に情報開示フレームワークの完全版を提言するにあたり、事前にステークホルダーからのフィードバックを取り入れるため発表したフレームワークのプロトタイプ。

※3 TNFDが提唱する自然関連のリスクと機会を科学的根拠に基づき体系的に評価するためのプロセス。分析のスコープを選定した上で、自然との接点を発見する「Locate」、自然への依存と影響を診断する「Evaluate」、自然に関する重要なリスクと機会を評価する「Assess」、リスクと機会に対応しステークホルダーに報告する準備を行う「Prepare」の4ステップの順に進めることが特長。

 

 

<アセスメント対象の検討>

 ENCORE(※1)によると、天水、かんがい耕作作物、酪農、天然海水漁業などの生産プロセスを含む農林水産業は、自然への依存度が最も大きいセクターとされております。特に、食品企業は自然の資源に依存しているほか、事業活動を通じて生物多様性に大きな影響を与えております。

 そこで、当社グループのバリューチェーンのうち、原材料調達における評価から始めることが重要と判断いたしました。今回のトライアル実施においては、当社グループの主要製品に使用している様々な原材料のうち、森林リスク商品(※2)に含まれる「パーム油」「木材パルプ」「カカオマス」「大豆」と、海域の原材料の「エビ」「イカ」「すり身魚」の計7品目を対象といたしました (図1)。

 

※1 ENCORE (Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure) は、自然資本金融同盟 (Natural Capital Finance Alliance (NCFA)) や国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター (UNEP-WCMC) などが共同開発したツールで、企業活動の自然への影響や依存度の大きさを把握することができる。

※2 世界的に取引される商品および原材料のうち、それらの生産過程が森林減少や森林劣化に寄与すると考えられるもの。具体的には、カカオ、パーム油、大豆、木材、木材パルプ、牛製品、革製品、天然ゴムなどが含まれる。

 

(図1)

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<4つの分析ステップ>

 Locate

 7品目の主要な調達先の「生態系の完全性」「生物多様性の重要性」「水ストレス」について5段階で評価いたしました。さらに、当社グループの調達戦略と整合性を確保するため、各原材料の「戦略的重要性」「代替可能性」「調達難易度」「価格上昇率」も勘案し、主要な調達先の中から優先地域を選定いたしました。その結果、対象7品目の主要な調達先 (37の国・地域) のうち、以下の4品目 (パーム油、エビ、カカオマス、木材チップ) において優先すべき調達国・地域を特定いたしました (図2)。

 

(図2)

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 Evaluate

 Locateで特定した各優先地域での原材料生産プロセスについて、自然への依存・影響関係に関するENCOREのデータと、原産地の地域性や原材料の特性、業界団体の動きなどに関する文献調査の結果を掛け合わせ、自然への依存度と影響度を複合的に評価いたしました (表1)。また、影響度を評価する際には、「温室効果ガスの排出」「水使用」などの影響要因について、事業活動が与える負の影響のみならず、「負の影響の緩和」や「正の影響の創出」に繋がる取り組みまでを含めております。

 

(表1)

原材料

依存

影響

パーム油

(インドネシア、

マレーシア/全土)

・肥沃な土壌の持続的な使用

・花粉媒介昆虫の存在

・農園や搾油工場での洪水被害最小化

・農地開発や焼畑農法による森林破壊

・生物多様性の喪失と土壌の劣化

・化学肥料等による土壌汚染

・土地改変によるCO排出

木材チップ

(日本/北海道)

・樹木の成長に必要な水資源

・樹木の成長に必要な土壌の養分

・花粉媒介昆虫の存在

・天然林の伐採による生態系の改変

・再造林放棄による生態系の劣化

・地がきによる地表植生、表土の除去

エビ

(インド/ケララ州)

・エビの生息に必要な水質の維持

・エビの稚魚を育む生息地の提供

・トロール漁による海洋生態系の破壊

・混獲・乱獲による水産資源の減少

カカオマス

(エクアドル/全土)

・作物の成長や農園の運営に必要な水資源

・作物の成長や品質を支える土壌の養分

・花粉媒介昆虫の存在

・農地拡大による熱帯雨林の改変、破壊

・不適切な農薬使用による汚染

 

 

 Assess / Prepare

 Evaluateで確認した自然への依存・影響関係に基づき、当社グループの原材料調達における自然関連リスク・機会を以下の通り特定いたしました。

 自然関連リスクに関しては、主に原材料生産者への影響に起因するものを物理リスク、主にステークホルダーへの影響に起因するものを移行リスクと捉え、特に重要度の高いものを抽出いたしました (表2)。

 自然関連機会に関しては、Evaluateで整理した「負の影響の緩和」又は「正の影響の創出」に繋がる取り組みをもとに、当社グループとして実現可能性のある機会を原材料別に検討いたしました (表3)。これらに加えて、複数の原材料に共通する機会として、当社グループの強みであるフードテックを活かした植物性代替食の開発・使用を進めてまいります。また、当社グループの製品は老若男女問わず幅広い消費者と接点があることを踏まえ、RSPOをはじめとする認証制度のマークを商品パッケージに表示することで、消費者に対して持続可能な調達や認証制度に関する認知の向上を図り、持続可能な商品の市場形成に貢献してまいります。今後、特定した自然関連リスクと機会に優先順位をつけ、取り組みの進捗を管理する指標を設定していく予定であります。

 

  (表2)

  自然関連リスク

原材料

物理リスク

移行リスク

慢性リスク

急性リスク

政策・法規制

リスク

評判リスク

市場リスク

パーム油

(インドネシア、マレーシア

/全土)

花粉媒介昆虫や、害虫の捕食動物の生息数減少、化学肥料使用による土壌汚染、POME流出による水質汚染などの生態系サービスの劣化に生産者が適応できず、パーム油の供給量が減少した場合、価格が上昇する。

農地開発に伴う水害激甚化、不適切な焼畑による農園の消失や生態系の劣化によりパーム農園における生産活動が中断された場合、価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。

農地開発や化学肥料使用への規制強化、認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、パーム油の供給量が制限されることで、価格が上昇する。

化石燃料代替品としてのパーム油の需要増加により供給がひっ迫し、価格が高騰する。

木材チップ

(日本/北海道)

土壌汚染や水資源の汚染・枯渇などの生態系サービスの劣化により木材の供給量が減少した場合、価格が上昇する。

土地利用や伐採の制限に関する規制強化、認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、木材チップの供給量が制限されることで、価格が上昇する。

再生可能資源である木材の需要増加により供給がひっ迫し、価格が高騰する。

エビ

(インド

/ケララ州)

海水温度の上昇に起因する海藻の育成不良・海水の酸性化や沿岸の水質汚染により、エビの生息地が劣化し供給量が減少した場合、価格が上昇する。

原油の流出や赤潮の発生によりエビの供給量が減少した場合、価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。
水質や生物多様性等の生息地の環境変化によりエビに対する病気が蔓延した場合、供給量が減少する。

混獲防止装置の設置義務化に関する規制や認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生することで価格が上昇する。
禁漁期間が延長されエビの供給量が減少した場合、価格が上昇する。

カカオマス

(エクアドル

/全土)

花粉媒介昆虫の減少や水資源の汚染・枯渇、化学肥料使用による土壌汚染などの生態系サービスの劣化に生産者が適応できず、カカオの供給量が減少した場合、カカオマスの価格が上昇する。

花粉媒介昆虫の減少に伴う人工授粉や肥料の追加により、カカオマスの生産コストが上昇する。

災害や病虫害などの影響によりカカオ農園における生産活動が中断された場合、カカオマスの価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。

農地開発や化学肥料使用への規制強化、認証取得の義務化、取水量の制限、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、カカオマスの供給量が制限されることで、価格が上昇する。

全般

サプライヤー管理、モニタリング体制などの強化により、ガバナンスコストが増加する。

サプライヤーにおける自然資本の毀損に対する糾弾が当社グループまで遡及し、ブランドイメージが低下する。

消費者の選好が、より環境負荷の低い原料を使用する製品にシフトする。

 

 

  (表3)

  自然関連機会

原材料

機会

パーム油(インドネシア、マレーシア/全土)

天然資源の持続可能な利用

・RSPO等の認証品の調達量拡大

・森林モニタリングによる高リスクサプライヤーの把握・

 モニタリング

・高リスクのサプライヤーに対する自発的なエンゲージメント・是正措置の依頼

生態系の保護、回復、再生

・小規模農家に対する認証取得支援

・農園周辺地域の景観維持活動の実施

木材チップ(日本/北海道)

天然資源の持続可能な利用

・FSC等の認証品の調達量拡大

資源効率

・木材の使用量を削減した容器の開発

エビ(インド/ケララ州)

天然資源の持続可能な利用

・MSC等の認証品の調達量拡大

生態系の保護、回復、再生

・漁業者に対する認証取得支援

・混獲防止策の推進

資源効率

:漁獲廃棄物削減の推進

カカオマス

(エクアドル/全土)

天然資源の持続可能な利用

・レインフォレスト・アライアンス認証等の認証品の調達

 促進

・NGO、業界団体との連携

 

<今後に向けた課題・アクション>

 本トライアルで特定した自然関連リスク・機会への対応策は、環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」や「カーボンニュートラル」「ネイチャーポジティブ」の実現に向けたさまざまな戦略と整合性を取りながら、当社のサステナビリティ委員会が主管となって今後も検討してまいります。

 2024年度は自然関連リスク・機会をさらに定量的に評価すると共に、特にリスクの高い原材料に対してシナリオ分析を実施していく予定であります。また、「TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク最終版」の内容に基づき、開示情報を順次拡充してまいります。

 

③ 非財務価値の定量化

 当社グループが重点的に取り組むESG活動が企業価値にどのような効果があるのか、ESGと企業価値との関係性の分析にも取り組んでおります。その一つが、企業価値を表す指標の一つPBRとの関係性の分析であります。ESG活動が何年後のPBRに効果をもたらすかを、学術的に信頼度の高い手法を使い分析しております。結果、CO排出量の削減を行うと8年後に1.0%(2年目の分析では9年後に+0.8%)PBRが向上するなど、当社グループが重点的に取り組んでいるESG活動と企業価値向上との間に相関関係があることを定量的に確認することができております。

 またESG指標同士の相関性を分析し、各ESGの取り組みがどのような経路を辿り企業価値の向上に繋がるのか、ストーリーの形で明らかにいたしました。例えば、エネルギー投入量に対する施策を行うことでCO排出量は削減され、CO排出量を削減したことで、自社が保有しているメディアで発信する機会が増加し、地域や社会におけるブランド価値向上につながります。次にブランド価値が上がると消費者の購買が増え売上が伸び、最終的には、当社グループが経営指標として掲げるEPSとPERが成長・拡大しシェアホルダー価値につながってまいります。引き続きこうした分析に挑戦し、ESG活動と企業価値の関係性を明らかにしていきたいと考えております。

 

(ア)俯瞰型分析

 

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※“CFOポリシー(中央経済社2020)”にて柳良平氏が開発したモデルに基づき、アビームコンサルティング株式会社のDigital ESG Platformで分析(2022年3月)

 

 

(イ)価値関連性分析

 

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④ コミュニティ投資

 当社グループは、日清食品の創業者である安藤百福が創設した「公益財団法人安藤スポーツ・食文化振興財団」の理念「食とスポーツは健康を支える両輪である」に賛同し、子どもたちの健全な心身の育成のためのスポーツ振興事業と食文化の向上に貢献する事業活動をサポートしております。同財団の活動は、全国小学生陸上競技交流大会等のスポーツ支援、自然体験活動の企画コンテストやロングトレイルの普及・振興事業、独創的な基礎研究・食品開発・ベンチャーを対象にした表彰事業等の食文化振興事業、体験型食育ミュージアム「安藤百福発明記念館」運営の4つの事業活動が柱となっております。当社グループは、2021年度より、同財団とともに、食科学の発展に寄与する研究に取り組む大学院生を支援する給付型奨学金「日清食品・安藤百福 Scholarship」を設立し、返済義務のない奨学金の給付をスタートさせております。2023年度は大学院生100名に年100万円の奨学金を給付しております。また、当社グループは、同財団とともに、142か国で共同調査を行い、食と主観的ウェルビーイングの関係を世界で初めて明らかにした「Recipes for Wellbeing Report」を公表いたしました。今後も「ウェルビーイング」の向上につながる「食」のあり方を大学や国際機関などと連携しながら探究してまいります。

 

⑤ 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

(ア)人材に対する考え方

 「企業在人・成業在天」

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この言葉は、創業者の安藤百福が2007年に社員に向けて年頭のメッセージとして記したものであります。

「企業は人である。人に対する評価がそのまま企業の評価につながる。また成業とは、大衆の声が天に通じたときに、はじめて大きな評価として返ってくるものだ。」という意味が込められております。

この言葉にも象徴されるように、かねてより当社グループは「人材」を企業価値の源泉として捉えてまいりました。また、創業者は「私は日清食品を一つの人生大学というようなものにしたいと考えている。仕事を通じて、また職場の人間関係を通じて、真の人間らしさを学んでいただく場としたい。」という言葉も残しており、我々日清食品グループは社員が仕事と職場環境を通じて人間として成長できる機会を提供することを使命だと考えております。

 

(イ)人的資本開示の方針

2024年3月に人的資本に関する情報開示の国際的なガイドライン「ISO 30414」の認証を、食品企業として世界で初めて取得いたしました。また、認証取得に合わせ、当社グループの人的資本に関する取り組みをまとめた「Human Capital Report 2023」を発行いたしました。

人的資本開示の要請が高まる中で、積極的に現状の人的資本の情報を開示することで、様々なステークホルダーの皆様と対話を実施し、フィードバックをいただくことで、当社の人的資本の取り組みを高度化していきたいと考えております。

 

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※「Human Capital Report 2023」は当社グループのウェブサイト(https://www.nissin.com/jp/)で公開しております。

 

 

(ウ)組織人材ポリシー(人材育成方針)

創業者が世界初の即席めんである「チキンラーメン」、世界初のカップめんである「カップヌードル」を、さらに宇宙でも食べられる世界初の即席めんである「スペース・ラム」を生涯かけて創造したように、当社グループでは常に新しい食の文化を創造しつづける「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」であることをグループのビジョンとしております。

そのためには、多様な彩りや専門性を持った社員が互いに尊重し合い、グループのミッション・ビジョン・バリューに共感し、「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」の一員として仕事を楽しみ、働きがいを感じながら活躍できる状態を目指しております。また自らが希望するキャリアを実現し、仕事を通して生涯成長できるよう様々な機会を提供することで、当社グループの持続的な成長を図ってまいります。

 

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(エ)社内環境整備

a. ハングリーで自律的なキャリア形成

当社は、社員が自らハングリーな気持ちで学び、キャリアを実現することを奨励しております。

社員のチャレンジを後押しするために2020年にはスキルやリーダーシップ等を学ぶ場として企業内大学“NISSIN ACADMEY”を設立いたしました。部門独自の専門的スキルを学ぶ講座、汎用的なビジネススキルを学ぶ講座、リーダーとして必要な資質やスキルを学ぶ講座など多数取り揃えております。

 

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2023年度からはラーニングマネジメントシステムを導入し、学びの情報を集約化・充実化させております。いつでもどこでもアクセスできる環境を整備することで、自律的な学びを支援してまいります。

 

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また、よりチャレンジングな目標を設定し達成した社員に報いられるよう2021年には人事制度を改定いたしました。一人ひとりの社員が日々の仕事の中で成長を実感できるように、上司とメンバーとの1on1ミーティングや成長実感会議(半期に一度、部門の管理職が集い、社員一人ひとりの成長度や今後のキャリアを議論する人材レビュー会議)といった仕組みも取り入れております。

 

さらに、“意欲ある人が良い仕事をする”という信念のもと、公募制度を活性化させており、多くの社員が自らの意思で希望するキャリアに就いて活躍しております。2024年度からは管理職を対象とした“日清流Job型”を導入いたしました。ジョブディスクリプションを明確化することで社員がそのキャリアを目指しやすくなったり、個々の職務に応じた処遇を決定したりすることで市場との接続性を高めてまいります。また当制度では社員の多様化する就業観に応えるべく、従来のマネジメントコースに加え、高度な専門性を保有する社員を対象としたプロフェッショナルコースを新設することで、キャリアコースの選択肢を増やしてまいります。これらの一連の制度や取り組みを通して、適所適材を実現してまいります。

 

<経営者人材育成>

 当社グループが「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」として持続的に成長するために、経営者人材を育成することは最重要課題の一つと捉えております。主要ポストを設定し、当該ポストに必要なスキル・経験を定義づけ、後継者候補一人一人に対してジョブローテーションを含む育成計画を策定し、年に一度、CEOと部門長による面談で育成の進捗を確認しております。

 

 また、経営者に必要なマインドセットや知識・スキルを習得する研修プログラム“経営者アカデミー”を継続的に実施しております。現状のキーポストの後継者継承準備率(5年以内)は193%になります。今後は250%以上を目指して計画的な人材育成に取り組んでまいります。

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また、経営者人材の育成には、できるだけ早い時期からマネジメント経験を積むことが重要であると考えております。

これまでも、公募制度を活用し、非管理職の若年層でも自ら手を挙げ、管理職ポストにチャレンジし、活躍している社員も多くおりましたが、2023年度より、早期にマネジメントにチャレンジできるポストを設定し、多くの候補者を抜擢することでマネジメント人材プールを厚くしてまいります。

 

<グローバル人材育成>

中長期成長戦略2030において、海外事業の更なる拡大を目指す中、グローバルで活躍できる人材プールを拡充することが急務となっており、現地法人ごとの人材要員計画と人材プールの見える化を実施しながら、充足のための採用・育成・定着施策を強化しております。

 

 今後の海外事業拡大を推進する組織体制のもと、改めて海外事業ポストの要件を定め、主要ポストには外国人社長などローカルスタッフを含めたタレントマネジメントを設計してまいります。こうした“適所”に向け、社員においては海外勤務志向を高めるためのグローバル・キャリアパスの提示、若手社員を対象とした海外トレーニー制度の活性化、市場競争力のある処遇とライフイベントの両立がし易くなるような評価報酬・福利厚生制度の導入、これらを推進するための専任組織の組成など、“適材”たるグローバル経営人材を計画的に輩出できる仕組みづくりを推進いたします。

   グローバル・キャリアパスの提示例

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b. 当社グループのバリューへの共感

世界中で活躍する全社員が一体感を持って仕事をするため、また、全ての活動の拠り所として当社グループのミッション・ビジョン・バリューと行動指針である日清10則の浸透に力を入れております。

 

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年に7、8回開催する朝礼でトップメッセージを発信したり、入社時や周年イベントとして理念研修を実施したり、チーム単位で創業者精神やビジョン等をディスカッションする職場ミーティングを年2回実施したりと、あらゆるタッチポイントで啓発を行っております。また、様々な社内施策では、Valueである“Unique”“Creative”

“Happy”“Global”を社員が体感できるように工夫をしております。

 

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チキンラーメンの発売記念日である8月25日には、

社員が小売店の店頭で対面販売を体験する機会を設け、

食品メーカーの社会的使命を考える場としている。

入社時にカップヌードルミュージアムで理念研修と

チキンラーメン手作り体験を実施し、創業の原点に触れることで企業理念の理解を深めている。

 

<NISSIN CREATORS AWARDの実施>

当社のミッション・ビジョン・バリューを体現する創造的な仕事を表彰する“NISSIN CREATORS AWARD”を年に1回実施しております。世界各地の事業会社・多様な職種から多数のエントリーがあり、役員による審査とともに従業員投票を実施することで全社員参加型のイベントとしております。表彰候補案件に対し、功績が生み出されたプロセスを動画配信することで、受賞者の行動や想いを伝えて、「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」としてのスピリットを伝承していきたいと考えております。また社員の様々な創造的な仕事を理解し、互いに称え合い高め合う文化を創出しております。

 

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c. 多様性の尊重

当社グループは、「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」であり続けるために、多様な強み・ 専門性を持った人材の採用、起用を積極的に進めております。

さらに「日清食品グループ人権方針」では人種、民族、国籍、宗教、信条、出身地、性別、性的指向、性自認、年齢、障がい等に基づく差別及びハラスメントの禁止を明示しており、多様な属性や価値観を持つ社員を尊重し、活躍できる職場を目指しております。

2015年には社内有志メンバーによる「ダイバーシティ委員会」を設け、人事部と両輪となり、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを推進してまいりました。

 

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの中でも女性活躍推進を経営の優先課題として捉え、育児と両立しながら働きやすい就業制度や社内の意識改革に力を入れてまいりました。その結果として国内中核企業において「プラチナくるみん(2019年認定)」「準なでしこ(2019年、2020年認定)」に選定されております。現状は男性社員の育児参加を促すための啓発活動も実施しております。働きやすさに加え、重要なポジションで女性の活躍を増やしていけるよう、2025年度末の女性管理職比率10%を数値目標として掲げております。また、日本経済団体連合会が推進する「2030年30%へのチャレンジ」に賛同し、女性の人材プールの拡充と育成を推進しております。

目標を達成するため、各部門での数値目標の設定、役員自らが育成にコミットするスポンサープログラムの実施、上司がダイバーシティ環境下でのマネジメント方法を学ぶプログラムや女性自身のリーダーシップ開発をするプログラムの実施、女性同士のネットワーキングの形成など多方面で推進しております。

 

<スポンサープログラム>

各役員がスポンサーとなって女性管理職および候補者(スポンシー)の上位等級への登用を目的とした個別具体的な育成を実施しております。スポンサーとスポンシーが定期的に面談をして、スポンシーの育成課題に沿った年間の育成計画をすりあわせております。スポンシーからは「スポンサーの人的ネットワークを紹介してもらった」「上位役職へのチャレンジを後押ししてくれた」などの声があがっており、着実な登用実績にもつながっております。

 

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d. 健康経営

当社グループは、全従業員のWell-beingと高いパフォーマンスの同時達成を目指し、責任者であるCEOの下、各関係組織が連携を取りながら健康経営を推進しております。

具体的な取り組みとしては、生活習慣病の早期発見、早期治療を目的とした、法定健診を上回る項目数での健康診断の実施や、心身の健康と仕事のパフォーマンスを把握し、状況に応じて面談などに繋げるためにエンゲージメント調査や組織改善サーベイを実施しております。

また、社員のセルフコンディションニング支援のため、運動や睡眠などの状態を把握できるウェアラブルデバイスの無償貸与を行ったり、2020年には女性社員の健康課題解決に取り組むプロジェクトを立ち上げ、月経やフェムテックの知識を深めるセミナーや、妊活やキャリアに関する相談サービスを実施したりするなど、ライフサイクルで生じる課題に合わせて選択できる多数のプログラムを提供しております。

 

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(3)リスク管理

 当社グループでは、取締役会の管理下に「総合リスク対策委員会」を設置し、リスクの管理状況を把握し、企業価値の毀損を回避するよう努めております。各年度に1度、事業会社社長および各チーフオフィサーによるリスク評価報告を基に、発生可能性と影響度の2軸で構成されるリスクマップにて各リスクを4段階のステージに分けて評価し、管理方針を定めて管理状況を取締役会に報告しております。また環境・安全リスクに対応する組織をサステナビリティ委員会のもとに設置しており、環境面等における重大事故が発生した際は、マニュアルに従って直ちに対応し、事態の収拾と解決にあたります。

 リスクの抽出・評価アプローチおよび特定したリスクの管理方法について、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

 

(4)指標及び目標

① EARTH FOOD CHALLENGE 2030

 当社グループは2020年4月に策定した環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」の中で、気候変動問題に対する取り組みや資源の有効活用に関する目標を定めております。

 

 環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」実績

2030年に向けた環境目標

目標値

2023年実績

有効資源活用へのチャレンジ

持続可能なパーム油の調達比率(※1)

100%

43.4%

水使用量…IFRS売上収益100万円あたり

12.3㎥/百万円

9.7㎥/百万

流通廃棄物削減率

…2015年度対比/日本国内

△50%

△51.1%

気候変動問題へのチャレンジ

CO2排出削減:Scope 1+2

…2020年対比/国内外(※2)

△42%

△16.1%

CO2排出削減:Scope 3

…2020年対比/国内外(※2)

△25%

△2.3%

※1 外部認証の活用及び独自アセスメントによる

※2 2023年5月にCO2排出削減率の目標値を上方修正

   Scope 1+2: △30%(2018年対比)→△42%(2020年対比)

   Scope 3: △15%(2018年対比)→△25%(2020年対比)

 

 なお、販売・流通領域における廃棄物削減の一つとして、フードロス対策を実施しております。支援団体への寄贈実績は以下となっております。

 

フードバンク寄贈実績

寄贈食数

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

70,276

344,698

683,674

631,594

 

 

② 人材育成方針及び社内環境整備の方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績

 組織のありたい姿を実現するためのマイルストンとして、指標ごとに下図の通り目標値を設定しております。年度ごとにモニタリングしながら人事施策に活かしてまいります。

 

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※ 社員エンゲージメント調査のポジティブ回答比率を目標値としている

※1 MVVはミッション・ビジョン・バリューを指す

※2 日清食品グループ全事業会社が対象。その他の指標は中核企業である日清食品4社(日清食品ホールディングス㈱、日清食品㈱、日清食品チルド㈱、日清食品冷凍㈱)が対象

 

<主要指標の進捗>

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3【事業等のリスク】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものであります。

 

(1) リスクの定義及び管理体制

当社グループ(以下「当社」という。)では、リスクを組織の収益や損益に影響を与える不確実性と定義しております。リスクにはプラス影響とマイナス影響の両面があり、環境変化の中で組織が行う事業・投資により発生するプラス・マイナス影響は機会、インシデントが与えるマイナス影響はリスクと区分しております。機会については、投融資委員会、経営会議、取締役会で判断され、リスクについては「総合リスク対策委員会」で管理されております。

当社では、代表取締役副社長・COOを委員長とする「総合リスク対策委員会」を設置し、「日清食品グループリスク管理規程」に基づき、当社グループに係る種々のリスクの予防・発見・管理及び対応を行っております。特に、商品事故、BCP(事業継続計画)、コンプライアンス、情報セキュリティをグループの重点リスクと位置付け、「委員会」を設置し対応を行っております。また、環境・安全リスクに対応する組織を、サステナビリティ委員会のもとに設置しており、環境面等における重大事故が発生したときは、マニュアルに従って直ちに対応し、事態の収拾、解決にあたっております。

リスク管理体制においては、3ラインモデルを確立し管理・運用しております。第1線は、各事業部門(国内外関連会社含む)で、各事業部門が所管するリスクオーナーとしてコントロールを行っております。第2線は、総合リスク対策委員会をはじめとする間接部門で、第1線のリスク管理状況をモニタリングし、必要な支援・助言・監督を行っております。そして、第3線は、内部監査部で、組織上独立性を有し、客観的にリスク管理状況を監査し、助言を行っております。

 

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(2) 総合リスク対策委員会の具体的な活動

総合リスク対策委員会はリスクを一元的に俯瞰し、各主管部門のリスクを洗い出し、リスク事象を予防する仕組みの構築を指示しております。当社グループに甚大な影響を及ぼすリスク事象が発生した場合は「グループ重大事案対策本部」を設置し、速やかにリスク事象に対処し、再発防止の対策をたてることとしております。また各年度に1度、事業会社社長及び各チーフオフィサーによるリスク評価報告を基に、発生可能性と影響度の2軸で構成されるリスクマップにて各リスクを4段階のステージに分けて評価し、管理方針を定めて管理状況を取締役会に報告しております。なお、2023年度は、災害・事故、人事労務、情報漏洩・不正アクセス、人材の4つを、最も発生可能性と影響度が高いリスクステージに分類しております。

 

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(2023年度日清食品グループ リスクマップ)

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(3) 投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 

① PL(製造物責任)

当社は、食品メーカーとして、お客様に安全・安心な食品を提供していくことを使命と考え、厳密な品質管理基準を設け生産を行っております。製造工場では、異物混入対策として社員への衛生管理の徹底や、高性能X線検査機導入によりアルミニウム片等の異物検査を強化しております。製品に使われる原材料の自動トレースができるよう、原材料情報を管理して、トレーサビリティ、品質管理カメラ、生体認証設備により、問題が発生した場合に原因を究明できる体制を整えております。

グローバル食品安全研究所を中心とした独自の品質保証体制を築き上げ、原材料の安全性及び各工場での品質管理体制の強化を図っております。研究所では、原材料に対して、農薬や動物用医薬品、重金属などの危害物質や放射性物質を分析するほか、遺伝子組み換え農産物やアレルギー物質のコンタミネーションの有無、最終製品の栄養成分などを確認しております。また、各工場の製造管理状態を「食品安全管理」「有害生物対策」「製造規範」「メンテナンス (機器の定期検査)」「清掃活動」の5カテゴリーで評価する日清食品 食品安全監査基準 (NISFOS) に基づいて監査し、そこで抽出された課題に対する改善策を提案しております。

 

② BCP(災害・事故)

当社は、国内外に多数の事業所や工場を有しており、当該地域における大規模な地震や台風などによる風水害、 その他の自然災害の発生に対して、事業継続計画(BCP)を策定の上、BCP委員会を設置し、定期的な見直しをしております。近年の異常気象による災害の激甚化やグローバルな地政学的リスクの高まり、そして感染症による本社機能・工場操業・物流供給停止等となるリスクが高まっております。このようなリスクを可能な限り回避するため、当社は、BCPに従い、被害状況に応じて災害対策本部を速やかに立ち上げ、社員の生命を守りながら、食品企業の使命として商品供給を第一に考えて、生産・供給体制を維持できる体制をとっております。

 

③ コンプライアンス

当社は、世界の各拠点で事業を展開しており、その中で各国の法令や企業倫理等の社会的規範に抵触することで、刑事罰、行政処分、損害賠償責任等の法的責任の追及や、社会的制裁を受ける懸念があります。こうした事象が発生した場合、当社に対する信頼やブランド価値を低下させる可能性があります。これらのリスクに対して、取締役・CSO 兼 常務執行役員を委員長とする「コンプライアンス委員会」を原則四半期に一度開催し、内部通報窓口への相談・通報の傾向や発生事例の共有、予防策ならびに再発防止策の検討等を実施しております。また、法務部コンプライアンスグループを中心に組成するコンプライアンス委員会事務局及び各社・各部署に配置する「コンプライアンス推進責任者」が、実務者として諸課題・諸事案への対応にあたっております。

 

④ 情報セキュリティ

当社は、生産、販売、管理等の情報をコンピュータを利用した情報システムにより管理しております。これらの情報システムの運用にあたっては、構成する機器の故障・不具合や、サイバー攻撃に対して、システム停止や外部への社内情報の漏えいが生じないよう万全の対策を講じております。しかしながら、当社の想定を超えた全世界的な大規模障害や、未知の技術による不正アクセスなどにより、システム障害や外部への社内情報の流出が発生した場合、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。このようなリスクを可能な限り回避するため、全社的なセキュリティ戦略を策定し、外部要因による情報漏えい防止対策やシステム復旧対策、有事におけるインシデント対応(CSIRTによるリスク事案対応)、平時における教育・啓発等及び委託先セキュリティチェックを実施する等、当社グループのITガバナンスを強化することにより、リスクの低減を図っております。

 

 

⑤ 環境

当社は、気候変動やそれに起因する自然災害により、原材料価格の高騰、製造工場の被災、カーボンプライシング制度の導入や人々の行動様式の変容など、さまざまな影響を受ける可能性があります。そのため、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言に則ったシナリオ分析を進め、リスクおよび機会となる要因について科学的根拠をもとに業績に及ぼす影響を引き続き分析・評価しており、将来の不確実性に応じた戦略立案を進めております。そのような中で、当社は2020年4月に2030年までの環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定し、気候変動に対する取り組みや資源の有効活用に関する目標を定めております。なかでも、CO2排出量の削減を重要課題と位置付けており、世界で議論されている「今後の平均気温の上昇を1.5℃に抑える」といった水準を意識した目標(スコープ1と2の合計排出量を2020年総量比42%削減、スコープ3では同25%削減。)を掲げております。さらに2021年2月、事業活動で使用する電力の再生可能エネルギー100%調達を目指す国際イニシアチブRE100(Renewable Energy 100%)に参画し、「2030年度までに国内外の事業活動で利用する電力の60%を再生可能エネルギーで調達する」「2050年度までに国内外の事業活動で利用する電力を100%再生可能エネルギーで調達する」ことを掲げ、国内外の製造工場を中心に電力の再生可能エネルギーへの切替えを進めており、規制対応リスクの軽減を図っております。

また、生物多様性方針を策定し、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)提言に基づき、自社の事業活動が生物多様性に与える影響を分析し、自然関連のリスクと機会の評価を実施しております。

 

⑥ レピュテーション

日本国内においては、「チキンラーメン」「カップヌードル」をはじめとする当社グループの主力製品は、そのマーケティング力と技術開発力によって永年にわたりお客様に親しまれております。

しかしながら、即席めん市場には毎年多くの新製品が投入されていることに加え、将来的に他社によって画期的な技術が生み出されたり、若年層を中心に価値観の変化が生じたりすることで、当社グループ製品のブランド価値が低下するおそれがあります。そのようなリスクを考慮し、当社グループは現状維持ではなく常に創造と革新を続け、消費者ニーズの変化に対応し、新たな顧客層を取り込むことで、ブランド価値の持続的な向上に努めております。

また、海外においても、「カップヌードル」のグローバルブランディング戦略を軸に、現地の市場環境や生活者の価値観を捉えたマーケティング活動を展開することで、ブランド価値を高めております。

一方で、ステークホルダーが世界的に広がり、レピュテーションリスクにつながる要因が複雑化するとともに、当社グループが応えるべき社会的期待や要請のレベルも高まっております。当社グループでは「日清食品グループ人権方針」や「日清食品グループ持続可能な調達方針」を策定し、食の安全、人権の尊重、地球環境の保全を重点課題として取り組んでおります。さらに、人的資本における国際的な情報開示のガイドライン「ISO 30414」の認証取得や、人的資本に関する取り組みをまとめた「Human Capital Report 2023」の発行など、当社の取り組みを国際標準に沿って見える化することで、人的資本経営の高度化を推進しております。

 

⑦ 有価証券の公正価値下落

当社は、配当・キャピタルゲインの獲得以外に、経営戦略上、取引先との良好な関係を構築し、効率的・安定的な取引や業務提携等により事業の円滑な推進を図ることで中長期的な企業価値の向上を実現する観点から、必要と判断する株式などの有価証券を保有することがあります。当社が保有する有価証券は、将来の市況の悪化による公正価値下落や投資先の業績不振等により減損処理が必要となる場合があり、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。

 

 

⑧ 財務会計

当社は、事業の用に供するさまざまな固定資産を有しております。それらの固定資産から生み出される将来の収益性によっては減損処理が必要となる可能性があり、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。このようなリスクを低減するために、投融資委員会において社内基準に基づき経済合理性を十分に吟味し、投資判断を行っている他、実行後も投資効果について継続的にモニタリングを実施しております。

また、主要な為替リスクとして為替相場の変動による外貨建て仕入値の高騰がありますが、為替予約をおこなうなど為替リスクを低減するための措置をとっております。さらに各海外地域において所在地国の通貨で作成された財務諸表は、連結財務諸表作成のために機能通貨である円に換算されており、為替相場の変動により当社の財政状態及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑨ コーポレート

国内においては生産年齢人口の減少や、コロナ禍後の働き方の変容により、優秀な人材とりわけグローバルな事業領域拡大や新規事業の推進に応じた人材を適切に採用・育成することが課題となっており、企業経営や主要事業に影響を及ぼすおそれがあります。中長期成長戦略2030で掲げる戦略テーマを実現するためには、多様な経験・専門性・価値観を持った社員が“適所適材”で活躍することが不可欠との認識から新卒・キャリアとも積極採用を実施しております。多様な就業観を持つ社員の採用力と定着力を高めるため、2024年4月より管理職を対象に日清流Job型(ジョブディスクリプションを明確化し、処遇を市場連動させ、複線型のキャリアコースを設定)を導入いたしました。

その他、当社グループ理念の浸透施策の継続実施、企業内大学NISSIN ACADEMYを中心とした人材育成の強化、多様なバックグラウンドを持つ社員がその能力を存分に発揮できる状態を目指したダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの取り組み、公募制度の活性化など自律的なキャリア形成を支援する取り組み、コアタイムなしのフレックスタイム制度やテレワーク制度の活用など生産性の高い働き方を目指した取り組み、適切な方法による賃金の引上げや福利厚生の拡充など総合的な人的資本への投資を強化しております。これらの取り組みを通して、社員のワーク・エンゲージメントを高め、EARTH FOOD CREATORとして創造的な仕事を創発する人づくり・組織づくりに努めてまいります。

 

⑩ SCM

当社製品の主要原材料は、小麦粉・パーム油などの農産物及び包材に使用する石油製品であり、その価格は市場の状況により変動いたします。これらの原産国で政情不安や国際紛争の発生、地球温暖化に伴う天候不順による農作物の不作など、原材料価格に影響を与える多くの要因があり、原材料価格が高騰した場合、当社の業績に影響を及ぼすおそれがあります。これらの課題に対応するため、市況情報を常に把握し適切なタイミングで購入することや、原材料の産地や購買先を分散化することで価格高騰リスクを低減するなど、安定供給体制の強化に努めております。

物流業界におけるドライバー人材不足、倉庫内作業者不足の問題など、今後は市場供給力が停滞するおそれがあります。これに対して、「ホワイト物流」推進運動の趣旨に賛同し、自主行動宣言を行い、得意先のご協力のもとでのリードタイムの延長、パレットなどの活用、トラック予約受付システムの導入、荷主側の施設面の改善、物流の改善提案と協力などを行っております。また、複数企業との共同輸送や共同保管の取り組み、モーダルシフトの推進など、引き続き持続可能な物流体制にむけ活動してまいります。

 

⑪ 特定の取引先への依存

当社は、製品の販売及び一部原材料の仕入において、特定の取引先に大きく依存しております。販売において、一部の会社につきましては特定の取引先に依存しておりますが、信用力の極めて高い大手取引先に取引を集中させることで、与信管理の省力化及び信用リスクの低減を図ることが可能なためであります。また、一部原材料の仕入についても特定の取引先に依存しているのは、これらの原材料を効率的に、かつ安定的に調達することが可能であるためであります。取引先に対する与信管理は適切に実施しているものの、これらの取引先の経営状態が悪化した場合は、当社は売掛金の回収が困難となることにより、また、原材料の供給が断たれた場合には生産活動が停止することにより、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。

 

 

⑫ 海外カントリーリスク

当社は、海外においても、現地生産・現地販売を基本スタンスに即席めんをはじめとする食品を製造しております。これらの進出国において政情不安や国際紛争が発生した場合には従業員の安全を最優先に対応する方針でありますが、このほかにも食品の安全性を脅かす事態や各国での法的規制により生産が困難になる場合、それらの子会社又は当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。これらの課題に対応するため、当社に専門性を有するプラットフォームを設置し、各海外現地法人のサポートに努める体制を構築しております。

 

⑬ 人口動態

日本国内では、現在、少子高齢化が急速に進んでおり、当社の主たる購買層である若年ユーザー層の減少が続いており、即席めん市場は、近年の新型コロナウイルス感染症による需要増を除くと、長期的には横ばい傾向にあります。このような状況の中、当社では、シニア層・若年層・女性層など各ターゲット層に対応したきめ細かな製品開発により、新たな喫食機会や価値の創出を図り、顧客層の維持・拡大に努めております。一方で海外においては、若年層は増加しボリュームゾーンとなっているため積極的に若者へのアプローチを強化する製品開発・コミュニケーション活動を展開しております。このように国内と海外主要地域における様々な人口動態の変化に柔軟に対応しながら、グローバルでの顧客の継続的な拡大に取り組んでおります。

 

⑭ 顧客ニーズの多様化

食における顧客ニーズの多様化が進む中、オーバーカロリーによる肥満や生活習慣病などの健康の問題が世界中で拡大しております。さらには、間違ったダイエット方法などによる隠れ栄養失調、シニアの食欲低下に伴う栄養摂取不足などによるフレイル等、新たな社会課題も発生しております。

当社は、即席めん事業で培った独自のフードテクノロジーを駆使することで「見た目やおいしさはそのままに、カロリーや塩分、糖質、脂質などがコントロールされ、必要な栄養素のバランスを整えた食」を開発し、事業展開しております。この新規事業を中長期成長戦略の3つの成長戦略テーマの一つに掲げ、新たなビジネスモデルの創造を推進していくことで、社会課題の解決に努めてまいります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

    文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものであります。

 

  (1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度における世界経済は、米国において個人消費が堅調であるなど底堅く推移したものの、地政学リスクの高まりやインフレの進行等で先行き不透明感が増しております。国内においては、新型コロナウイルス感染症の5類移行により経済活動が正常化し、内需が回復しつつあることなどから、景気は緩やかに回復基調にあります。一方で、原材料やエネルギー価格の高騰に加え、為替変動や金融政策の転換などのリスク要因もあり、予断を許さない状況であります。

 かかる環境下、即席めん業界においては、新型コロナウイルス感染症流行期の需要増の反動もあり、中国など一部の国では前年比消費が減少しましたが、世界総需要は、流行前の2019年と比較すると10%以上高い堅調な水準を維持しています。

 こうした中で、当社グループは、2030年に向けた「中長期成長戦略2030」で掲げたビジョンの実現と持続的成長に向け、成長戦略テーマである①既存事業のキャッシュ創出力強化、②EARTH FOOD CHALLENGE 2030、③新規事業の推進に取り組んでおります。

 

a. 財政状態

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ1,040億8百万円増加し、8,123億82百万円となりました。

 当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ369億48百万円増加し、2,773億72百万円となりました。

 当連結会計年度末の資本合計は、前連結会計年度末に比べ670億60百万円増加し、5,350億10百万円となりました。

 なお、詳細につきましては「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しております。

 

b. 経営成績

 当連結会計年度の経営成績は、売上収益では前期比9.5%増の7,329億33百万円となりました。利益面では、既存事業コア営業利益(注1)は前期比33.9%増の806億1百万円、営業利益は前期比31.9%増の733億61百万円、税引前利益は前期比32.7%増の769億15百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比21.0%増の541億70百万円となりました。

 また、為替変動による影響を除くと、売上収益では前期比6.5%増の7,125億17百万円、既存事業コア営業利益は前期比30.2%増の783億90百万円となりました。(注2)

 なお、詳細につきましては「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しております。

 

(注1)既存事業コア営業利益とは、営業利益から新規事業にかかる損益および非経常損益としての「その他収支」

を控除したものであり、中長期成長戦略上、2022年3月期以降、積極的かつ継続的な先行投資を予定する新規

事業にかかる損益を分離し、その成長投資の基盤となる既存事業の実質的な成長を測定することを目的に採用

している指標であります。

(注2)2024年3月期の外貨金額を、前期の為替レートで円換算して比較しております。

 

     <連結業績>

 

 

 

(単位:百万円)

区分

前連結会計年度

当連結会計年度

前期比

自 2022年4月1日

至 2023年3月31日

自 2023年4月1日

至 2024年3月31日

金額

売上収益

669,248

732,933

63,685

9.5

既存事業コア営業利益

60,192

80,601

20,409

33.9

営業利益

55,636

73,361

17,724

31.9

税引前利益

57,950

76,915

18,964

32.7

親会社の所有者に

帰属する当期利益

44,760

54,170

9,409

21.0

 

 

   報告セグメント別の経営成績は次のとおりであります。

 なお、当連結会計年度より、当社グループにおける事業管理区分の見直しにより、従来、「その他」に含めていた「ニッシンフーズベトナム CO., LTD.」について、「中国地域」に含めて記載する方法に変更しております。

 以下の前期比較は前期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しております。

 

  (日清食品)

 日清食品㈱の販売状況は、カップめん類、袋めん類、カップライス類が堅調に推移し、価格改定効果もあり、各カテゴリーとも前期比で増収となりました。カップめん類では、「カップヌードル 具材まみれ」シリーズをはじめ、期間限定商品の「日清のどん兵衛 だし比べ」シリーズなどお客さまニーズを捉えた商品が順調に推移しています。袋めん類では、発売65周年商品である「チキンラーメン」をはじめとするロングセラー商品や、2024年3月発売の「日清ラ王 3食パック」シリーズ等が売上を伸ばし、増収に寄与しました。カップライス類では、「日清カレーメシ」シリーズが引き続き好調を維持しています。利益面では、原材料価格の上昇等によるコストアップ要因がありましたが、増収効果により増益となりました。

 この結果、報告セグメントにおける日清食品の売上収益は、前期比5.5%増の2,322億21百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比11.3%増の295億48百万円、営業利益は、前期比11.0%増の297億41百万円となりました。

 

  (明星食品)

明星食品㈱の販売状況は、カップめん類、袋めん類とも、前期比で増収となりました。

カップめん類では、主力の「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」が好調に推移したほか、2023年3月に新発売した「ロカボNOODLESおいしさプラス」も貢献しました。

袋めん類では、「明星 チャルメラ」シリーズが引き続き好調に推移しました。

利益面では、原材料価格の上昇や広告宣伝費・販売費用等の増加等、費用の増加がありましたが、増収効果により前期比で増益となりました。

この結果、報告セグメントにおける明星食品の売上収益は、前期比7.3%増の434億50百万円、コア営業利益(注3)は、前期比18.4%増の27億38百万円、営業利益は、前期比18.7%増の28億18百万円となりました。

 

  (低温・飲料事業)

チルド事業は、新商品の「チルド 日清Spa王」、夏場の冷し中華群、秋季より賞味期限を40日から60日に延長した「行列のできる店のラーメン」が好調に推移しました。さらに、2024年3月発売の「チルド 日清焼そばU.F.O.」も単月ながら大きく売上に貢献し、前期比で増収となりました。利益面では、売上増及び価格改定により原材料価格上昇等によるコストアップを吸収し前期比で増益となりました。

冷凍事業は、ラーメン類、うどん類等が堅調に推移し、前期比で増収となりました。ラーメン類では「冷凍 日清中華」、「冷凍 日清まぜ麺亭」シリーズが好調でした。利益面では、原材料価格の上昇等によるコストアップ要因がありましたが、価格改定効果により前期比で増益となりました。

飲料事業は、乳酸菌飲料の「ピルクル400」シリーズ、 “睡眠の質を改善し、疲労感を軽減する”「ピルクル ミラクルケア」が引き続き好調に推移したほか、「十勝のむヨーグルト」シリーズも秋のリニューアルで大きく伸長しました。また価格改定効果もあり、前期比で増収増益となりました。

この結果、報告セグメントにおける低温・飲料事業の売上収益は、前期比9.7%増の952億21百万円、コア営業利益(注3)は、前期比96.3%増の77億2百万円、営業利益は、前期比97.7%増の76億92百万円となりました。

 

  (菓子事業)

菓子事業では、㈱湖池屋は「湖池屋ポテトチップス」シリーズや「スコーン」シリーズ等の主力商品や「湖池屋プライドポテト」シリーズ等の高付加価値商品の販売が拡大したことに加え、国内外において価格改定が奏功したことで、前期比で大幅な増収増益となりました。日清シスコ㈱は発売から60年を迎えた「シスコーン」シリーズや「ココナッツサブレ」シリーズが堅調に推移し前期比で増収増益となりました。ぼんち㈱は5パック商品や値ごろ感のある商品が堅調に推移し、また、価格改定を行ったことにより前期比で増収増益となりました。

この結果、報告セグメントにおける菓子事業の売上収益は、前期比15.0%増の851億50百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比73.6%増の49億30百万円、営業利益は、前期比62.4%増の44億96百万円となりました。

 

  (米州地域)

 米州地域全体では、引き続き新たな需要創造に向けた高付加価値商品の提案強化や導入推進に加えて価格改定も寄与し、増収増益となりました。

 売上については、米国では2022年8月に実施した価格改定後も底堅い即席めん需要が続く中、普及価格帯商品の販売が堅調に推移したことに加え、高付加価値商品を中心とした積極的な販売施策に取り組んだことで増収、ブラジルでは生産設備の大型メンテナンスや自然災害による生産トラブルの影響で販売数量減があったものの、価格改定効果及び為替影響により、増収となりました。

 利益については、米国において第3工場建設関連等の一時費用が発生したものの、主要原材料等のコスト上昇が落ち着きつつあることや、価格改定による増収効果、為替影響等によりセグメント全体で増益となりました。

 この結果、報告セグメントにおける米州地域の売上収益は、前期比14.5%増の1,603億33百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比72.3%増の215億31百万円、営業利益は、前期比72.1%増の214億86百万円となりました。

 なお、為替変動による影響を除くと、売上収益は、前期比4.2%増の1,459億31百万円となり、コア営業利益は、前期比57.8%増の197億24百万円となりました。(注4)

 

  (中国地域)

 中国地域においては、販売エリア拡大や中国版カップヌードル「合味道」のブランド強化及び高価格帯袋めんの販売の拡大に取り組んでいます。中国大陸は、第4四半期の販売は緩やかな回復傾向にありましたが、年度を通じて消費は伸び悩みました。香港は、第4四半期の販売は中国本土からの旅行客が増加し、外食産業向けの即席めんの販売が伸び、更に輸出や香港でのプレミアム袋めんの「北海道出前一丁」の販売が伸長しました。また当期中国地域セグメントに変更をしたベトナム日清のベトナム国内販売チャネルが拡大し、即席めんの販売ボリュームが増加しました。年間を通じては香港市民の深圳への越境旅行増加による消費行動の変化などにより伸び悩みました。

 こうした状況の下、当年度の売上に関しては、第4四半期の増収要因があったものの、第3四半期までの減収要因を吸収できず微減になりました。

 利益については、前年度計上した一過性の政府補助金要因が今年度なくなり前期比で減益になりましたが、本業ベースは主に原材料価格低下や販売費用減少により利益率は改善し、加えて為替換算影響もあり、前期比で増益になりました。

 この結果、報告セグメントにおける中国地域の売上収益は、前期比0.8%減の664億52百万円、コア営業利益(注3)は、前期比3.6%増の80億53百万円、営業利益は、前期比2.8%減の81億29百万円となりました。

 なお、為替変動による影響を除くと、売上収益は、前期比4.4%減の640億27百万円となり、コア営業利益は、前期比0.8%増の78億39百万円となりました。(注4)

 

 また、報告セグメントに含まれない事業セグメントである国内のその他事業並びに欧州地域、アジア地域、新規事業を含んだ「その他」の売上収益は、前期比23.3%増の501億2百万円となり、コア営業利益(注3)は、前期比36.9%増の77億82百万円、営業利益は、前期比32.5%増の71億46百万円となりました。

 なお、為替変動による影響を除くと、売上収益は、前期比14.5%増の465億13百万円となり、コア営業利益は、前期比33.5%増の75億90百万円となりました。(注4)

 

(注3)コア営業利益とは、営業利益から非経常損益としての「その他収支」を控除したものであります。

(注4)2024年3月期の外貨金額を、前期の為替レートで円換算して比較しております。

 

     <報告セグメントの売上収益及びセグメント利益>

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

報告セグメント

売上収益

前期比

セグメント利益

前期比

2023年3月期

2024年3月期

2023年3月期

2024年3月期

日清食品

220,204

232,221

12,017

26,795

29,741

2,946

明星食品

40,511

43,450

2,939

2,373

2,818

444

低温・飲料事業

86,838

95,221

8,383

3,890

7,692

3,802

菓子事業

74,057

85,150

11,092

2,768

4,496

1,727

米州地域

140,042

160,333

20,290

12,483

21,486

9,002

中国地域

66,972

66,452

△519

8,360

8,129

△231

そ の 他

40,621

50,102

9,481

5,392

7,146

1,754

合  計

669,248

732,933

63,685

62,065

81,512

19,446

(注)セグメント利益は、連結損益計算書の営業利益と調整を行っております。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、資金という。)は、966億59百万円となり、前連結会計年度末に比べ92億71百万円の増加となりました。当連結会計年度末における各キャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。

 

 

(単位:百万円)

区分

前連結会計年度

当連結会計年度

前期比

自 2022年4月1日

至 2023年3月31日

自 2023年4月1日

至 2024年3月31日

営業活動によるキャッシュ・フロー

64,809

94,123

29,314

投資活動によるキャッシュ・フロー

△32,057

△61,912

△29,855

財務活動によるキャッシュ・フロー

△47,676

△26,323

21,353

現金及び現金同等物に係る換算差額

306

3,383

3,076

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

△14,617

9,271

23,888

現金及び現金同等物の期首残高

102,005

87,388

△14,617

現金及び現金同等物の期末残高

87,388

96,659

9,271

 

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動による資金の増加は941億23百万円(前期比293億14百万円の資金の増加)となりました。これは主に税引前利益769億15百万円、減価償却費312億62百万円に対して、法人所得税の支払額が166億88百万円、持分法による投資損益が130億38百万円となったことによるものであります。

 

 (投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動による資金の減少は619億12百万円(前期比298億55百万円の資金の減少)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出が620億88百万円となったことによるものであります。

 

 (財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動による資金の減少は263億23百万円(前期比213億53百万円の資金の増加)となりました。これは主に配当金の支払額が157億9百万円、長期借入金の返済による支出が87億1百万円となったことによるものであります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

 前期比(%)

 

日清食品(百万円)

162,672

1.7

 

明星食品(百万円)

30,307

5.1

 

低温・飲料事業(百万円)

53,413

6.9

 

菓子事業(百万円)

83,098

5.7

 

米州地域(百万円)

107,881

5.8

 

中国地域(百万円)

44,022

△1.8

 

報告セグメント計(百万円)

481,395

3.7

 

その他(百万円)

29,601

14.5

合計(百万円)

510,996

4.3

 (注)セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

b. 受注実績

 重要な受注生産は行っておりませんので、記載を省略しております。

 

c. 販売実績

    当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

 前期比(%)

 

日清食品(百万円)

232,221

5.5

 

明星食品(百万円)

43,450

7.3

 

低温・飲料事業(百万円)

95,221

9.7

 

菓子事業(百万円)

85,150

15.0

 

米州地域(百万円)

160,333

14.5

 

中国地域(百万円)

66,452

△0.8

 

報告セグメント計(百万円)

682,830

8.6

 

その他(百万円)

50,102

23.3

合計(百万円)

732,933

9.5

 

 (注)1 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

 相手先

 前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

 当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

三菱食品㈱

81,654

12.2

92,302

12.6

2 セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

  (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 

① 重要性がある会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)第93条の規定によりIFRS会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

 なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等](1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要性がある会計方針 5.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a. 経営成績

 当連結会計年度の売上収益は、前期比9.5%増の7,329億33百万円となりました。

 国内即席めん事業及び国内非即席めん事業においては、価格改定の影響及び高付加価値商品の販売が好調であることにより増収となりました。

 海外事業においては、米国における価格改定効果やその他セグメントに含まれるアジア地域の販売が好調であることにより増収となりました。

 

 

 当連結会計年度の既存事業コア営業利益は、前期比33.9%増の806億1百万円となり、また当連結会計年度の営業利益は、前期比31.9%増の733億61百万円となりました。

 国内即席めん事業においては、資材価格上昇によるコスト増がありましたが、価格改定等による増収効果がカバーし、増益となりました。

 国内非即席めん事業においては、日清ヨーク㈱や㈱湖池屋が大きく貢献し、増益となりました。

 海外においては、価格改定等による増収効果に加え、前連結会計年度中に持分法を適用したPremier Foods plcの貢献もあり、増益となりました。

 

 当連結会計年度の税引前利益は、前期比32.7%増の769億15百万円となり、また当連結会計年度の親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比21.0%増の541億70百万円となりました。これらは主に、営業利益の増加によるものであります。

 

 なお、当社グループの経営に影響を与える主な要因は、「第2[事業の状況]3[事業等のリスク]」に記載しております。

 

b. 資本の財源及び資金の流動性

(キャッシュ・フローの状況)

 キャッシュ・フローの状況につきましては、「第2[事業の状況]4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析](1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

(資金の需要と調達)

 営業活動により獲得したキャッシュ・フローは、企業価値向上に資する各種投資および配当を中心とする株主還元に優先的に配分を行っておりますが、一時的に資金が不足する場合には、必要に応じて、金融機関からの調達および保有資産の売却等によりキャッシュ・フローの確保を行っております。

 

 

(資金の流動性)

 当社グループは、従来より営業活動により安定したキャッシュ・フローを得ており、今後も引き続き資金源になると見込んでいることに加え、主要な国内金融機関に対して、アンコミットメントベースの融資枠を設定しております。また、当社及び主要な国内連結子会社における余剰資金の一元管理を図り、資金効率の向上と金融費用の削減を目的として、CMS(キャッシュマネジメントシステム)を導入しております。

 

c. 財政状態

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ1,040億8百万円増加し、8,123億82百万円となりました。これは主に有形固定資産が497億34百万円、営業債権及びその他の債権が149億23百万円、現金及び現金同等物が92億71百万円増加したことによるものであります。

 

 負債は、前連結会計年度末に比べ369億48百万円増加し、2,773億72百万円となりました。これは主に営業債務及びその他の債務が211億6百万円、繰延税金負債が69億89百万円増加したことによるものであります。

 

 資本は、前連結会計年度末に比べ670億60百万円増加し、5,350億10百万円となりました。これは主にその他の資本の構成要素が315億66百万円、利益剰余金が306億32百万円増加したことによるものであります。

 

 これらの結果、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の60.8%から60.7%となり、0.1ポイント減少しております。

 

d. 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、2030年に向けた「中長期成長戦略2030」を策定いたしました。

 ビジョンの実現と持続的成長に向け、成長戦略テーマである①既存事業のキャッシュ創出力強化、②EARTH FOOD CHALLENGE 2030、③新規事業の推進に取り組んでおります。

 「中長期成長戦略2030」では、持続的な利益成長に加え、効率的な資本活用、安全性ある負債活用、そして安定的な株主還元の4つをCSV経営上の中長期的経済価値ターゲットとして掲げ、非財務目標との同時実現を追求してまいります。「中長期成長戦略2030」の進捗状況は下表のとおりであります。

 

 

項目

区分

項目

目標値

進捗レビュー

財務

成長性

既存事業コア営業利益成長率

(注1,2)

Mid-single Digit

(オーガニック)

(注3)

2020年度-2023年度

+24.4%

効率性

ROE(注2)

2030年度までを

目途に15%

2023年度

11.7%

安全性

Net Debt/EBITDA

2倍以下

2023年度

△0.4x

安定的株主還元

累進的配当

配当性向:約40%

2023年度 37.4%

累進的配当継続

自己株式の取得

機動的な

自己株式取得

自己株式取得

2021年度 約120億円

2022年度 約120億円

相対TSR(TOPIX食料品対比)(注4)

1倍超

2021年度 1.2倍

2022年度 1.1倍

2023年度 1.1倍

非財務

(注5)

有限資源の

有効活用

持続可能なパーム油の調達比率(注6)

100%

2023年

43.4%

水使用量(IFRS売上100万円あたり)

12.3㎥以下

2023年

9.7㎥

流通廃棄物削減率

(2015年度対比/日本国内)

△50%

2023年

△51.1%

気候変動

インパクトの

軽減

CO₂排出削減(Scope 1+2) (2020年対比)

(注7)

△42%

2023年

△16.1%

CO₂排出削減(Scope 3)(2020年対比)

(注7)

△25%

2023年

△2.3%

(注)1 IFRS上の営業利益から、積極的な先行投資を予定する「新規事業に係る損益」及び非経常損益としてのその他収支」を控除したNon-GAAPの重要経営管理指標

2 2024年5月に中長期的目標を上方修正

既存事業コア営業利益成長率:「Mid-single Digit」→「Mid-single Digit(オーガニック)」

ROE: 「長期的に10%」→「2030年度までを目途に15%」

3 Mid-single Digit(オーガニック):

 インオーガニックグロース(M&A等)、外部環境の急変(為替、インフレ率等)を含まない実力値としての

 成長性

4 相対TSR(TOPIX食料品対比)は、以下の算定式に基づき算出

      0102010_032.jpg

A:当事業年度の3事業年度前の1月~3月における3か月間の当社株式の終値平均

B:当事業年度の1月~3月における3か月間の当社株式の終値平均

C:当事業年度を含む過去3事業年度における1株当たり配当額の累計

D:当事業年度の3事業年度前の1月~3月における3か月間のTOPIX食料品(配当込み)の終値平均

E:当事業年度の1月~3月における3か月間のTOPIX食料品(配当込み)の終値平均

5 非財務目標については、2030年度の目標値

6 外部認証の活用および独自アセスメントによる

7 2023年5月にCO₂排出削減の目標値を上方修正

Scope 1+2: △30%(2018年対比)→△42%(2020年対比)、

Scope 3: △15%(2018年対比)→△25%(2020年対比)

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

 

6【研究開発活動】

(1)日清食品

「EARTH FOOD CREATOR」というグループ理念に基づき、即席めんを中心とした商品開発、健康と栄養に関する基礎・応用研究及び環境保全対策の研究を行っております。即席めんでは、「カップヌードルPRO」に続きたんぱく質15g、糖質30%オフ、食物繊維2/3日分を配合した「日清のどん兵衛PRO」を発売いたしました。健康関連では見た目や美味しさはそのままにカロリーや塩分、糖質、脂質、蛋白質などがコントロールされ、日本人の食事摂取基準で設定された必要な33種類の栄養素をバランスよくすべて摂取できる完全栄養食の開発を行い、「日清焼そば U.F.O」ブランドでの焼きそば、「日清カレーメシ」シリーズ、即席スープへとさらに商品拡大させております。

環境関連では、石油化学由来のプラスチック削減のため「カップヌードル ビッグ」で採用していたプラスチック製の“フタ止めシール”を廃止いたしました。また、PSP (発泡スチレンシート) カップの一部を対象に、容器を成型する過程で生じた端材を回収し、リサイクル材料として再利用したカップの生産を行なっており、石油化学由来のバージン原料の削減を行っております。その他、謎肉などの「大豆たんぱく加工」で培った技術を駆使してリアルな食感、リアルな見た目を追求した“プラントベースうなぎ”の開発、将来的な食糧危機や地球温暖化解決の一助と期待される代替肉の開発や「培養肉」の研究(東京大学と共同研究)、パーム油を代替する酵母生産油脂の研究にも取り組んでおります。グローバルイノベーション研究センターでは、この他にも菓子類の開発や、商品開発を支える取り組みとして本格的な美味しさを低コストで実現するために調味料や天然香料の研究開発や味覚受容体などの基礎研究を行っております。今後も新しい技術開発を進め、お客様のニーズに迅速に応えるべく付加価値の高い商品開発を行ってまいります。

 

(2)明星食品

コーポレートスローガン「おいしさ、キラリ☆」に加え、「からだ、キラリ☆」と「地球、キラリ☆」を研究開発テーマとして掲げ、商品開発を進めております。顧客の様々なニーズに対応するために、「明星五重塔戦略」と題した戦略で、5つの異なる価格帯の商品ラインアップを展開いたしました。

その一環として、2023年7月には主力商品「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」のふりかけのソースを強化し、三枚看板ソース(ソースねり込み麺、液体ソース、ソースふりかけ)としてリニューアル販売いたしました。同じく主力商品である「明星 チャルメラ しょうゆラーメン」は、2023年7月のリニューアル発売で、新たにホタテだしをめんに練り込むことで、スープ、スパイスにも入っているホタテだしと共に、「旨味と香りの三重奏」を表現できるようにいたしました。また、技術革新により、ノンフライめんの質を向上させる「新・生めん風3層極太製法」を開発し、これを用いて麺質が大幅に改良された「明星 麺神カップ 家系豚骨醤油/肉野菜味噌」を2023年9月に市場に投入いたしました。健康志向の商品として、2024年3月には低糖質でPFCバランスに優れた「明星 ロカボNOODLESおいしさプラス」シリーズを一新し、さらに286kcalで低糖質な「明星 ロカボNOODLESおいしさプラス コク旨ソース焼そば」を追加いたしました。環境に配慮した取り組みとして、2023年9月のリニューアル発売の「明星 中華三昧」袋めんシリーズの個包装を紙マーク化対応とし、環境負荷の低減を図っております。

 

(3)低温・飲料事業

(チルド食品)

当社独自の「おいしさ長持ち製法」で一部生めん商品の賞味期限を冷蔵50日から60日へ延長、また、常温保存できる商品の拡充により、冷蔵コーナー以外の通販やお土産市場での販売が可能になり取り扱いチャネルが拡大いたしました。賞味期限を更に延長することで食品ロス率を低減し、トレーなし商品の拡充によりプラスチック原料を削減しております。

「日清Spa王 喫茶店のナポリタン/たらこバター醤油」は、喫茶店で味わえるレトロなメニューがフライパンで炒めるだけで味わえると大変好評を頂いております。各ジャンルの主力ブランドから「行列のできる店のラーメン 鳥取牛骨醤油/仙台辛味噌」、「日清の細麺焼そば 香る濃厚甘旨ソース」、人気ラーメン店監修の「人類みな麺類 貝だし醤油らーめん」「五ノ神製作所 濃厚海老つけ麺」「AFURI 冷やし柚子醤油つけ麺」などを新発売いたしました。アレンジを楽しめる素材めんとスープパック商品「麺の達人」「スープの達人」に加え「日清のどん兵衛のおいしいふっくらおあげ/サクサク天ぷら」の具材も拡充いたしました。今後も、外食品質の本格的な商品や環境に配慮した地球にやさしい商品の開発、多様化するお客様のニーズに応える新価値の創造など、新技術や新製品の研究・開発に努めてまいります。

 

 

(冷凍食品)

冷凍食品の強みを活かした「簡単に調理できる本格的な美味しい料理」を、中華めん、パスタ、和物、米飯ジャンルからバラエティ豊かな商品の開発に取り組んでおります。

中華めんでは、どろっとした粘度のある濃厚なスープが特徴の「冷凍 日清ごくり。 濃厚魚介豚骨ラーメン」、当社独自の「生麺ゆでたて凍結製法」で、ゆでたて直後の麺の風味をより一層味わえる素材めんの「冷凍 日清本麺 MATCH中華そば醤油/塩」を新開発いたしました。パスタでは、「冷凍 日清もちっと生パスタ 濃厚きのこクリーム/旨辛ペペロンチーノ」「冷凍 日清スパ王プレミアム じゃこと梅の香味醤油/バター香るたらこ」、和物では、満足感のある具が特徴の「冷凍 日清のどん兵衛 ごぼう天うどん/あさりうどん」、たまごをのせる新提案商品「冷凍 日清まぜ麺亭  たまごかけまぜそば」、米飯では、「冷凍 日清の沖縄炊き込みご飯風 じゅーしー」「冷凍 日清 麺屋の炒飯 王道家監修 豚骨醤油炒飯」「冷凍 日清 麺屋の炒飯 五ノ神製作所監修 海老味噌炒飯」などの新メニューを開発いたしました。これからも、「本格的な美味しさ」と「調理の簡便化」の研究開発を続け、お客様のニーズにお応えしてまいります。

 

(飲料)

日清ヨーク㈱においては、開発研究所が関東工場内にあるという立地を生かし、スピード感をもって新商品やリニューアル品開発を行うと共に、乳酸発酵に関する研究を行なっております。開発商品群としては、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料があり、「みんなイキイキ!」のコーポレートスローガンのもと、主力の「ピルクル」、「十勝のむヨーグルト」ブランドの一層の強化とともに、当社のコア技術である発酵技術を生かした高付加価値製品の開発にも注力し、美味しく健康に役立つ商品の開発を行っております。

乳製品乳酸菌飲料では、昨年発売して大ヒットした「ピルクル ミラクルケア」に続いて、「血中の中性脂肪の低減に役立つ」、「食後の血糖値の上昇抑制を助ける」、「便秘気味の方の便通改善」の3つの効果が期待できる機能性表示食品「ピルクル 健康サポート」を発売いたしました。また、CVS(コンビニエンスストア)向け「ピルクル 400」のエクステンションとして「フルーツリッチピルクル マンゴー」、「ピルクル プレミアムクリーミー 白桃」を発売し、細分化するお客様の嗜好や健康意識に対応した商品ラインアップを揃えることで、ピルクルブランドの活性化と価値の向上に努めてまいりました。

発酵乳では、十勝のむヨーグルトシリーズを2023年秋にリニューアル発売いたしました。「腸内環境を改善」する機能性表示食品「十勝のむヨーグルト」は「プレーン」「ブルーベリー」「いちご」の定番フレーバーに加えて、季節ごとに「白桃」「マンゴー」「マスカット」「みかん」の期間限定フレーバーを発売し、ブランドを活性化いたしました。また、糖質を気にされるお客様向けの「糖質オフ」も含めてブランドとしての品揃えを充実させました。さらに、コップ一杯 (180g) あたり乳酸菌NY1301株を600億個含んだ“睡眠の質を改善し、日常生活の疲労感を軽減” する機能性表示食品「ピルクル ミラクルケア のむヨーグルト」を2023年秋に発売いたしました。

 

(4)菓子事業

㈱湖池屋は、「湖池屋プライドポテト」、「PURE POTATO」、「湖池屋ストロング」等の高付加価値ブランドを中心として、社会変化・生活変化・意識変化に対応した新市場創造型の商品開発に取り組んでおります。

新商品として、「栄養とおいしさの完全なバランスを追求したスナック菓子」という新たな価値を提供したいとの思いから、当社と共同開発した「完全メシ」シリーズでは初となるスナック菓子「完全メシ カラムーチョ ホットチリ味」や、食の“分食化”に対応したスナック感覚で手軽に食べられる“新しい食の選択肢”として、料理のような味わいの甘くないパイ「ランチパイ」ブランドを立ち上げております。更に、1962年の「湖池屋ポテトチップス のり塩」の誕生以来、“日本産じゃがいも”にこだわり続ける日本の老舗として、じゃがいもを育む畑から考える究極のポテトチップス「KOIKEYA FARM」プロジェクトを始動し、第一弾商品として「KOIKEYA FARM 黄金の果肉」を発売いたしました。

また、企業におけるSDGs推進活動の一環として地域とともにテーマに取り組み、商品を通じた社会貢献を目指すプロジェクトである「湖池屋プライドポテト JAPAN」では、昨年に引き続き、「小豆島」、「神戸」、「熊本」、「宗像」、「金沢」に新たに「京都」を加えた6地域において、各地域の貢献・振興に沿った企画を実施いたしました。

今後も「食でくらしをゆたかに。」をテーマに、社会に貢献する食のイノベーションの実現に向けた商品・ブランド・コミュニケーションの開発を続けてまいります。

 

日清シスコ㈱は、“もっと楽しく、健やかに”をモットーに、品質と健康機能を両立させた商品開発に尽力しております。

シリアル部門では、夏の朝食市場に革新をもたらす「ごろグラ ソルティレモン」を発売し、瀬戸内産レモンと塩を用いた爽やかな味わいを提供いたしました。糖質を意識する消費者に向けては、「ごろグラ 糖質50%オフ 彩り果実」をリニューアルし、健康志向の高い製品を展開しております。また、ごろグラシリーズは発売10周年を記念し、2024年3月に具材を増量した新たなバージョンへと進化いたしました。特筆すべきは、当社独自のシリアル製造技術を活かした「おいしいオートミール 新ごはん」の開発であります。この製品は、オートミールを米粒のような形状に加工することで、従来のオートミールにはないもちもちとした食感を実現いたしました。レンジで加熱するだけで、簡単に本格的な食感を楽しむことができる点が、技術的な優位性として大きく評価されております。加えて、新しい食体験を提供する「おいしいオートミール 新フレーク」も発売し、多様な食感の追求を続けております。

菓子カテゴリーでは、「ココナッツサブレ」と「ビアードパパ」とのコラボレーションによる新味を市場に投入いたしました。68周年を迎えた「エースコイン」シリーズは、おからのアップサイクルを取り入れた環境配慮型商品へと進化いたしました。また、夏季限定の「チョコフレーク 冷酷チョコミント」は、その清涼感で夏の暑さを和らげる一助となっております。

当社グループの研究機関であるthe WAVEと協力しながら、日清シスコ㈱はグループ独自のオリジナリティあふれるシリアルと菓子の開発に励んでおります。お客様の期待を超える商品を創出するため、今後も取り組みを続けてまいります。

 

 

(5)食品安全や環境経営、栄養改善への取組み

グローバル食品安全研究所では、食品安全に関する先進研究として新規危害物質の探索・合成・分析法や、健康影響を評価する細胞試験法などを確立してまいりました。2021年12月に開催された東京栄養サミットにおいて、食物アレルゲン推奨表示項目の一斉分析法の開発とその運用をコミットメントの一つとして発表し、分析法の開発を行っております。2023年度から製品検査への運用を開始しております。また、2023年3月の食品表示基準改正により新たに特定原材料に指定された「くるみ」のPCR検出技術を開発し、くるみを含む食品の検査方法として通知法に採用されております。

さらに、当社グループの事業分野拡大やグローバル化に対応し、国内事業を対象に実施していた各工場と研究所による製品検査の二重管理体制、及び分析技術の精度管理試験を通じた集中管理体制について、新規事業や海外事業へも拡大しております。今後も、海外・新規事業での品質保証体制への支援強化を継続し、新規分析法や迅速検査法の確立によりグループ事業全体の食品安全向上に貢献してまいります。

製品や原料の生産現場における調査・監査体制につきましては、独自に定めた日清食品食品安全監査基準NISFOS(Nissin's Inspection Standards for Food Safety)による製造環境の調査を通じて改善を図っております。2022年にはIRCA(International Register of Certificated Auditors)より、NISFOSがISO22000規格と同等以上の監査規格であると認定されております。これを用いた監査により、今後も各工場における品質・食品安全管理を強化してまいります。

さらに、持続性のある地球環境を維持するためのCSV経営推進のための取り組みとして、当社独自の環境活動検査基準RISEA(Food Safety Research Institute's Inspection Standards for Environmental Activities)による調査を通じて、グループ工場における環境関連法規への遵守状況や、省エネルギーによる温室効果ガス削減及び資源3R(抑制:Reduce、再利用:Reuse、再資源化:Recycle)などに関連する環境活動を評価しながら改善を図っております。

当社グループの環境戦略である「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」の目標達成に向け設置されたサステナビリティ委員会及び環境ワーキンググループの事務局としての活動は、その重要性を増しております。加えて、2022年11月には、森林破壊などによる自然や生物多様性の減少をプラスに回復させる「ネイチャーポジティブ (Nature Positive)」に向けた活動を推進し、2050年までにCO2の排出量と吸収量を “プラスマイナスゼロ” にする「カーボンニュートラル」の達成を目指すことを宣言いたしました。2023年5月にはCO2削減目標を上方修正し、インターナルカーボンプライシング制度を導入することで、目標達成に向けた取り組みを加速しております。

CO2削減、プラスチック、水資源保全、食品廃棄物、資源循環など様々な環境課題に対し、データ解析など研究所としての視点と、工場や製品開発部門などの現場とも連携し、目標達成のロードマップ策定と施策を立案・実行することにより、当社グループのCSV経営の推進に寄与できるよう取り組んでまいります。

2023年9月には環境推進部をサステナビリティ推進部に発展させ、従来の環境問題対応に加え、栄養改善と食品安全に戦略的に取り組む体制を構築いたしました。2024年2月には栄養戦略の基本的な方針である栄養ポリシーを策定し、栄養改善のツールとして製品の栄養価をスコア化する独自の栄養プロファイリングシステム:NISSIN-NPSを開発、運用開始しております。

グローバル食品安全研究所での上記の様々な活動により、食物アレルゲン検査法開発やリスク評価手法開発について大学や公的機関と共同研究を推進し、2023年度には学会発表6件、学術論文1報の学術的成果も創出しております。

 

 当連結会計年度の研究開発費は10,845百万円であります。

 なお、当社グループの研究開発費用は、報告セグメント別に区分することが困難であるため総額で記載しております。