文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、創業以来一貫して“お客さま第一”の精神を持ち、常に時代の変化や価値観の多様化に合わせ、生活に豊かさを提供することに邁進してまいりました。長期に目指す姿を「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」と定め、その実現に向け、中期経営計画(2022年度~2024年度)に取り組んでおります。今後も、「お客さまのお困りごとを感動的に解決し、関心ごとに対し革新的に提案する」ことを通じ、さらなる企業価値の向上を目指してまいります。
(2)目標とする経営指標
当社グループは、営業利益をはじめとする複数の経営指標を掲げ、将来にわたる企業の持続的成長と企業価値の向上に取り組んでおります。現中期経営計画(2022年度~2024年度)の最終年度となる2024年度には640億円の実現を目指してまいります。
(3)経営環境及び対処すべき課題
①事業構造
当社グループは、持株会社である当社のもと、百貨店事業を中心とした各事業会社により構成されています。
このうち主要事業である国内の百貨店事業では、収支構造を抜本的に見直すことを目的とした「百貨店の科学」の取り組みを首都圏店舗だけでなく地域店舗にまで波及浸透させ、経費コントロールの徹底により収益構造が大幅に改善しております。今後は、デジタルを活用し、要員構造変革期を見据えた業務改革を推進し、個客業へビジネスモデルを転換しながら、生産性向上と高収益化の確立を目指してまいります。
また、不動産事業では全国の保有不動産のバリューアップや、百貨店で培った建装事業・物流事業の外部への販売活動をさらに強化してまいります。金融事業では百貨店と連携したファイナンスや金融サービスを拡大提供することで、より強固な事業ポートフォリオの構築を目指してまいります。
②市場環境
当社グループを取り巻く環境は大きく変化しており、そのスピードも高まっております。足元のマクロ環境においては、ウクライナ情勢をはじめとする地政学リスクの顕在化、資源・エネルギー価格の高騰や急激な為替変動、大幅な物価上昇等、当社グループに影響を与える不透明な状況が増しております。
中長期における環境の変化として、人口動態においては国内人口の減少や高齢化の進行が見込まれておりますが、世界人口はアジア圏も含め引き続き増加すると予測されております。経済成長においては、1人当たり実質GDP成長率の鈍化が見込まれておりますが、純金融資産1億円以上を保有する世帯数は増加が予測されております。小売市場においては、縮小が見込まれておりますが、一方でこだわり消費市場の拡大が予測されております。当社グループでは、環境が大きく変化する中でも成長が見込まれる要素を機会ととらえて、中長期的な成長を目指してまいります。
③競合他社との比較
主要事業である百貨店事業において、重点戦略である「高感度上質戦略」による、店舗リモデルと外商改革の取り組み等を強化した結果、首都圏店舗の大幅な増収増益につながりました。さらに首都圏店舗と地域店舗による個人外商の連携、拠点ネットワークによる地域百貨店へのMD供給フローの構築により、岩田屋本店(福岡)や丸井今井札幌本店等の地域主要店舗も大幅に増収増益となりました。今後も、高感度上質コンテンツの提供拡大と外商活動等の強化を継続し、百貨店事業の収益拡大を目指してまいります。また、「連邦戦略」により、百貨店事業の法人外商による各事業の外部販売を強化することで、国内関連会社の収益を改善することができました。今後は、デジタルを活用したマーケティング活動を強化しながら個客軸での品揃えや、各事業の連携による連邦事業機会を最大化させて、さらなるグループの収益拡大を目指してまいります。
④顧客動向・顧客基盤
重点戦略に位置づける「個客とつながるCRM戦略」の推進により、「三越伊勢丹・カスタマープログラム」の強化と個客軸のマーケティングを高度化させることで識別顧客の客単価が継続拡大しました。つながる個客数の拡大としては、アプリ会員の新規獲得が大きく伸長し、顧客の識別化が順調に進展しました。
外商顧客施策では、デジタルの活用で顧客分析による商品提案を高度化させ、全国の外商顧客の売上高が継続して拡大しました。インバウンド顧客においては、海外顧客向けの外商機能とSNSによる販売促進を拡充させ、インバウンドによる売上高がコロナウイルス感染症拡大前の2018年度を上回りました。今後も、より一層「個客とつながるCRM戦略」を推進し顧客基盤の拡大を目指してまいります。
(4)中長期的な経営戦略
当社は、長期に目指す姿とする「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」の実現に向けて、昨年制定した「三越伊勢丹グループ 企業理念」により、グループの力を集結させながら、さらなる企業価値の向上を目指してまいります。
「再生」「まち化準備」「結実」の3つのフェーズで長期スパンでの持続的な成長を描き、重点戦略をバックキャストで組み立てております。本年度「再生」フェーズの早期達成が現実的となり、「まち化準備」フェーズとなる次期中期経営計画の策定をスタートいたしました。次期中期経営計画は、まち化の着工と竣工時期を踏まえて2025年度~2030年度の6ヶ年を対象とし、この期間を個客業への変革を進める重要な準備期間として位置づけております。
「まち化準備」フェーズでは、今までの“館”の力だけに頼ったマス向けのビジネスモデルから、「まち」の力を加えることで世界中からお客さまを集め、識別してつながったお客さまに多様な顧客価値を提案する個客業のビジネスモデルへの転換を目指してまいります。これまでの「高感度上質戦略」「個客とつながるCRM戦略」を土台としながら、百貨店事業を各事業が補完する体制から全事業が並列となる体制へ移行していきます。各事業を推進することで生まれるユニークな顧客体験と事業間の連携による「連邦戦略」を組み合わせて、一人ひとりのお客さまに向けた多様な顧客価値を提供してまいります。
■事業別戦略
①百貨店事業
百貨店事業では、「まち化」の中核として圧倒的な独自性で世界から顧客を集める“特別な”百貨店を目指します。世界からの集客に向けて、高感度上質コンテンツの拡充や顧客接点の拡大により、マーチャンダイジング活動を強化していきます。加えて、100%識別顧客化に向けて外国人顧客向けアプリの導入、三越伊勢丹アプリの利便性向上に取り組みます。基幹店舗は、それぞれのコンセプトで独自性を磨き、世界中のお客さまから選ばれる店になるためのリモデル投資を行います。地域百貨店は、地方都市において“高感度上質消費”を最も幅広く支え、グループ力を活かして地域貢献できる唯一無二の存在を目指してまいります。
②海外事業
海外事業では、選択と転換を加速し、“小売”の暖簾価値と“不動産開発”によるバリューアップで新たなビジネスモデルを展開します。エリアコンディションに応じた構造改革や、国内百貨店の事業改革モデルを海外店舗へ展開することで事業構造改革を推進します。また、フィリピン・マニラ、タイ・バンコクではレジデンスやオフィスを小売と掛け合わせた複合不動産開発に参画しております。
③不動産事業
不動産事業では、世界中から顧客を集め、用途をつなぎ合わせ、まちの価値を最大化させる“まち化”の具現化を目指します。まち化における各開発計画と顧客価値設計を本格化させながら、ホテルやレストランなどの高感度上質コンテンツの探索や専門人財の育成に取り組みます。
④金融事業
金融事業では、暖簾の価値とグループ顧客基盤を活かし、“ならではの価値”を提供する金融サービス業を確立します。カード領域では、ファイナンスを強化しながら、アプリ会員などの百貨店ライトユーザーに向けた年会費永年無料のエントリーカードを導入します。金融領域では、百貨店ならではの金融サービスを拡充させるとともに、カード会員以外へのサービス提供に取り組みます。
⑤国内関連事業
国内関連事業では、「BtoB」「BtoC」ビジネスの拡大による、各事業の収益拡大とビジネスモデルの進化を目指します。連邦によるマネタイズを拡大しながら、各事業のユニークポイントを強化し、外部収益をさらに拡大していきます。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ経営に関する考え方
三越伊勢丹グループは、長期に目指す姿として「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」となることを企業理念に掲げており、すべての企業活動の原点である企業理念のもとでサステナビリティ経営に取り組んでおります。
2018年度に制定したサステナビリティ基本方針に基づき、当社グループの強みを活かした企業活動を通じて社会課題の解決に貢献することで、ステークホルダーからの期待に応え、人々の豊かな未来と持続可能な社会の実現を目指しております。
①ガバナンス
当社グループは、サステナビリティに関する重要事項について、執行役会にて審議・決議を行い、取締役会に報告を行っております。
2018年度より、CEOを議長とする「サステナビリティ推進会議」では、取り組みの進捗確認や全社への浸透を行っております。また、CAO兼CRO兼CHRO※を議長とする「サステナビリティ推進部会」を設置し、課題ごとの具体的な取り組みの検討を行っております。
さらに取り組みの実効性を高めるため、2022年度より「サステナビリティ推進部会」の傘下に6つのワーキンググループ(WG)を設置しております。また、サステナビリティ経営の実現に向けたグループ全体の活動を推進するため、ホールディングスの総務統括部内にサステナビリティ推進部を設置しております。
※CAO:チーフ・アドミニストレイティブ・オフィサー、CRO:チーフ・リスク・オフィサー、CHRO:チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー
2023年度推進体制
※think good:彩りある豊かな未来へ向けて「想像力を働かせ、真摯に考えることからスタートする」という想いが込められた三越伊勢丹グループのサステナビリティ活動に関するスローガン。
https://imhds.disclosure.site/ja/themes/212
<2023年度サステナビリティ関連審議・報告実績>
サステナビリティ推進会議は、サステナビリティ推進部会と合同形式で計2回開催し、(株)三越伊勢丹ホールディングスと(株)三越伊勢丹の執行役に加え、グループ事業会社・グループ百貨店社長が参加しました。議題は、以下の通りです。
・政策・方針・情報開示
マテリアリティの改訂
・サプライチェーンマネジメント
人権方針・調達方針の改訂、お取組先行動規範の制定
お取組先との対話結果のレビュー
お取組先への調達アンケートに関する報告
・環境
Scope1・2排出量の目標に対する進捗報告
Scope3排出量削減に関する報告
温室効果ガス排出量削減に向けたロードマップの再考
・従業員エンゲージメント向上
人的資本経営
・think good
グループ全社への拡大に向けた協議
取締役会では、計4回に渡り、サステナビリティに関する審議・報告を行いました。執行側での議論内容の報告に加え、サステナビリティ経営の高度化に向けて、主要事項の今後の戦略や、ガバナンスへのESG・サステナビリティ観点の組み込みについても議論を行いました。具体的な議題は以下の通りです。
・マテリアリティの改訂に関する報告
・人財戦略に関する報告・審議
・ステークホルダーコミュニケーションに関する報告
・ESG連動役員報酬/環境指標の採用に関する報告
・温室効果ガス排出量削減目標とロードマップの見直しに関する報告
2018年度に、3つのマテリアリティとそれらに紐づく具体的な取り組みを特定しました。
なお、2023年度には、外部環境の変化、ステークホルダーの皆さまの声、そして企業理念の再整理を踏まえて、上述のマテリアリティからの見直しを実施しました。新たなマテリアリティに基づく開示は、2024年度に指標と目標を設定したうえで、来期以降より行います。
マテリアリティの特定・見直しのプロセスについては、サステナビリティサイトをご参照ください。
2023年度に注力した具体的な項目は、サプライチェーン・マネジメント、気候変動への対応、人的資本経営の3点です。
サプライチェーン・マネジメントについては、当社グループは環境や人権に配慮した調達活動を推進しており、2023年4月に改訂した「三越伊勢丹グループ人権方針」「同 調達方針」をもとに持続可能な調達に取り組み、同年6月には「お取組先行動規範」を制定しました。「お取組先行動規範」は、お取組先約1万2千社へ通知し、当社方針へのご理解とご協力をお願いしております。同時に、取り組みの状況や課題を把握するため、アンケート調査を実施いたしました。
調査の結果は、サステナビリティサイトをご参照ください。
また、着実に持続可能なサプライチェーンを構築するために、お取組先との個別対話にも力を入れ、2022~23年度までに約600社と対話を実施いたしました。対話では、実践に向けた課題やご要望をヒアリングするとともに、取り組みの改善に向けた意見交換を行いました。
上記の取り組みを踏まえ、今後は当社のサプライチェーンにおける人権リスクの特定と、その低減に向けた対応を進めてまいります。具体的には、当社事業に関わる人権課題を洗い出し、アンケート結果を参考にリスクをマッピングし、2024年度中に重点リスクを特定します。特定した重点リスクを、お取組先との対話の確認事項に組み込み、必要に応じたデューデリジェンスを実施し、持続可能なサプライチェーンの構築を推進してまいります
気候変動への対応、人的資本経営については、(2)サステナビリティに関する個別課題に記載しています。
サステナビリティ課題を含むグループの事業を取り巻くリスクについて洗い出しおよび整理を行い、「リスクマネジメント推進会議」において、対応方針等の策定、実行管理を通じてリスクマネジメント対策の実現を図っております。リスク管理の詳細は、
気候変動・人的資本に関するリスクについては、(2)サステナビリティに関する個別課題 に記載しています。
2018年度より、サステナビリティに関する重要課題の中期目標(2024年)、長期目標(2030年)を設定し、取り組みの実践と年度ごとのモニタリングを行っています。
気候変動に関する指標と目標については、(2)サステナビリティに関する個別課題 (ア)気候変動への対応に記載しています。
(2)サステナビリティに関する個別課題
「持続可能な社会・時代をつなぐ」につながる気候変動への対応(ア)、「従業員満足度の向上」につながる人的資本経営(イ)については、以下に詳細を記載します。
(ア)気候変動への対応
気候変動が社会にもたらす影響は、年々増大・深刻化しています。当社グループは、気候変動を重要な経営課題の一つと位置づけ、「三越伊勢丹グループ環境方針」「同 調達方針」のもと、次世代に持続可能な社会を引き継ぐため、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを行っています。また、TCFDのフレームワークに基づき、ガバナンスへの組み込み、当社の事業への影響分析と、明らかになったリスクと機会への適切な対応を推進しております。
①ガバナンス
気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれています。体制図を含む詳細については、(1)サステナビリティ経営に関する考え方 ①ガバナンス に記載しています。
②戦略
気候変動にまつわるリスクおよび機会は、中長期にわたり当社の事業活動に影響を与える可能性があるため、2030年をマイルストーンとして、発現すると考えられるリスク・機会を検討しました。
分析にあたっては、起こりうる環境変化を把握し、そのうえでリスク・機会とそのインパクトを把握するため、シナリオ分析を実施。具体的には、気候変動対策が思うように進んでいない現在の延長線上の「4℃の世界」、気候変動対策が進みパリ協定の目標が実現した「2℃未満の世界」の2種類を想定しました。なお、シナリオ分析にあたっては、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照しています。
<2種類のシナリオにおける、2030年時点の外部環境変化と当社への影響>
<当社にとって特に重要なリスクと機会の詳細と、財務への影響度>
定性的な財務上の影響については、▼(事業リスク拡大)および△(事業収益拡大)によって、3段階で記載しています。
<参照シナリオ>
Representative Concentration Pathway 8.5/2.6℃〜4.8℃ IPCC2015年
Stated Policies Scenario WEO
Reference Technology Scenario IEA
Sustainable Development Scenario WEO
Beyond 2℃ Scenario IEA
Representative Concentration Pathway 2.6/0.3〜1.7℃ IPCC2014年
World Energy Outlook IEA
「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言」 国土交通省
③リスク管理
気候変動に関するリスクは、サステナビリティ全般の課題におけるリスクと同様に、組織全体のリスク管理プロセスで評価、分析し、「リスクマネジメント推進会議」にてモニタリングを行っています。詳細は、「サステナビリティ推進会議」において、対応方針等の策定、実行管理を行うことで、リスクマネジメント対策の実現を図っております。
<リスクの識別・評価のプロセス>
1. 当社グループに影響を与えると考えられる、気候変動に関するリスク・機会を抽出
2. 抽出したリスク・機会をお客さま、お取組先、株主・投資家、地域社会・コミュニティなどのステークホルダーに与える影響度と、リスク・機会発生の可能性の2軸でプロット
3. プロットされた項目毎の影響度について、定量面・定性面双方の視点から評価を行い、重要度を確定
④指標と目標
<指標>
当社グループでは、気候変動関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3の温室効果ガス排出量を用いています。2024年3月期分の実績については、第三者保証を取得の上、後日HP※にて開示予定です。
<温室効果ガス(GHG)排出量>
※1 Scope1・2・3:当社グループGHG排出量算定規定、及びScope3カテゴリ別算定方法により算定し、2021年3月期以降は、第三者の保証を受けています
※2 バウンダリは、以下の通りです。今後、連結へと拡大し、グループ全体でのマネジメントを行ってまいります。㈱三越伊勢丹ホールディングス、㈱三越伊勢丹、国内グループ百貨店、㈱三越伊勢丹の所有ビル(テナント貸含む)
<目標と実績>
気候変動のリスクと機会をマネジメントするための目標としては、Scope1・2の温室効果ガス排出量を使用しています。
●環境中期目標:2030年における温室効果ガス排出量を2013年度比▲50%※
●環境長期目標:2050年における温室効果ガス排出量実質ゼロ
2023年3月期時点での目標比削減率は、▲47.6%です。
※環境中期目標のバウンダリは、上述の温室効果ガス(GHG)排出量と同様です。
環境中期目標の達成に向けては、再生可能エネルギー導入の具体策を含むロードマップの精緻化を進めるとともに、SBT(Science Based Targets)認証取得等について、併せて検討を進めてまいります。
(イ)人的資本経営
三越伊勢丹グループは2023年度、新たな企業理念を制定いたしました。企業理念におけるミッションとして「こころ動かす、ひとの力で。」を掲げ、次期中期経営計画の実現に向けては「ひとの力の最大化」こそが人財戦略上の重要なテーマであると認識をしています。
その「ひとの力の最大化」に向けて2024年度より“グループにおける人財マネジメント方針”として「人と組織の基本的な考え方」を構築いたしました。
「こころ動かす“主役”は従業員一人ひとりの“個”の力であり、“変化の先の未来”に向けて、勇気を持って挑戦と努力をし続ける一人ひとりを上司と会社は“後押し”します。」とし、あわせて、従業員と会社・上司は互いに成長し、互いに高め合っていく関係性を明確にいたしました。
そして、その方針に沿って「個として目指す姿」「組織として目指す姿」「人財基盤として目指す姿」をかかげ、人財戦略の取り組みを進めてまいります。
①ガバナンス
人的資本に関するガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれています。体制図を含む詳細については、(1)サステナビリティ経営に関する考え方 ①ガバナンス に記載しています。
・CHROの設置
当社グループでは、経営計画を達成する上で最も大切なのは「人」であるとの考えから、CHROを責任者として、経営戦略と人財戦略の連動を行えるよう、グループ各社の人事部門と密に連携をとりながら、人財戦略の取り組みを進めております。
・労働組合との連携
また、三越伊勢丹グループでは「三越伊勢丹グループ労働組合」が組織され、三越伊勢丹グループ企業のカウンターパートナーとして、グループ各企業と労働組合各支部・分会が労使関係や人事・労働条件を規定する労働協約を締結しています。グループ経営トップと組合本部幹部、あるいは各社トップと組合支部幹部による懇話会も定期的に開催し、情報共有を行うことで、相互理解と信頼・協力関係のもとに、円滑な事業運営と働く環境の維持向上を図っています。
②戦略
次期中期経営計画における「個客業への進化・変革」、「連邦戦略による個客接点の向上」に向けては、「ひとの力の最大化」が重要なテーマであると捉え、その実現に向けた人事戦略として「個客業への変革に向けた企業風土改革(人事の感性)」、「事業実現人財の確保・育成・活性化(縦の人財確立)」、「グループ経営人財・事業変革人財の創造(横の人財創造)」、「生産性向上と人的資本投資の両立(人事の科学)」の4つの取り組みを定めました。
今後、この人財戦略をグループ一丸となって推し進めていくことで、「ひとの力の最大化」を図り、経営戦略の実現に繋げていきます。
■個客業への変革に向けた“企業風土改革”「人事の感性」
「企業理念:バリューズ」を、”三越伊勢丹グループの人財が持つべき 基本的なひとの力“と定義し、人財マネジメント方針として「人と組織の基本的な考え方」を制定し、“個客業への変革”に向けて、グループ従業員一人ひとりの「マインドチェンジと行動変容」を促進していきます。
・生涯CDP ※CDP=キャリアデベロップメントプログラム
「生涯CDP」の考えのもとで、一人ひとりのキャリアフェーズに合わせた様々な成長、支援の機会を、会社と組織が連携しながら従業員に提供することで、「個人の成長」と「会社の成長」双方を同時に実現する複合的な仕組みを構築しています。具体的には、上司と部下、人事と従業員によるキャリア対話の推進や、グループ内の色々な仕事情報の提供、自律的なキャリア形成に向けたチャレンジキャリア制度(手上げによる社内公募制度等)や自己申告制度、リアル、オンラインを通じた研修、学びの機会の拡充などに継続的に取り組むことで、「ひとの力の最大化」に取り組んでいます。
■事業実現人財の確保・育成・活性化 「縦の人財確立」
次期中期経営計画の実現のためには、早急に百貨店事業以外の事業領域の確立が必要であり、それぞれの事業を強化するための、人財の「計画」「確保」「育成」「活性化」の整備が急務となります。
次期中期計画の実現に向けて、それぞれに必要な、事業別の人財を、戦略的に強化していきます。
・専門人財の育成
百貨店事業から金融・不動産・システム・広告事業まで拡がる当社グループの持つ事業の多様性を強みと
するべく、さまざまな知見や技術を持つ人財の確保・育成を進めています。
・経営人財、事業推進に向けた専門人財の育成(グループ中核人財の育成)
中長期経営計画の実現に向けては、サクセッションプランに繋がる経営人財育成に向けた選抜型研修
「ビジネスリーダープログラム」の実施や、外部出向を含む戦略的なCDPによる、中長期の重点戦略実現
に向けた事業人財の育成、事業別教育体系の確立による組織能力の向上など、様々な取り組みをグル
ープ全体で進めています。
■グループ経営人財・事業変革人財の創造「横の人財創造」
三越伊勢丹グループ人財の持つ強み(DNA)は「おもてなし力」と「キュレーション力(=編集力)」であり、強みである「キュレーション力」を“グループ事業全体”に拡大することで、“個客業としての新たな成長”につなげていきます。
そのために“三越伊勢丹グループにおけるDE&I”とは「事業人財の多様性」と「個人内にある多様性(知と経験の多様性)」と定義し、多様性から来るイノベーションの創出に向けて、“組織内の多様性”と“個人の多領域経験”を加速させていきます。
・動的な人財ポートフォリオ
多様な個(人財)を活かす組織づくりとして、グループ内外への出向や、部門をまたいだ異動配置など、
人財の流動化を積極的に進めることで、多様な個の持つ知見や人的ネットワークの掛け合わせにより、
新たなイノベーションの創出、価値創造につなげています。
特に、今後経営戦略上強化していく事業領域における人財の育成に向けて、戦略的に外部の企業への出向を推進し、新たな知識や経験を積むことで、特別な百貨店を中核とした小売グループとしてのまち化戦略を推し進めていきます。
・次世代人財、及びグループ視点を持った人財の育成
イノベーションの創出に向けては、コーポレートベンチャーキャピタルの取り組み等、次世代人財の
育成を行うと共に、グループ人財の流動化によるグループ全体での一体感醸成と共創に向けた取り組み
を推進しています。
■“人的資本投資”に繋げる人事の科学「人事の科学」
事業ごとに“少数精鋭化”を実現し、労働生産性を最大化することで、そこで生まれた原資を「人的資本
投資」につなげ、「ひとの力の最大化」を目指していきます。
■「人財基盤」の整備
人財戦略の実現のために、そのベースとなる人財基盤の整備についても取り組んでいきます。
・健康経営
三越伊勢丹グループは、ライフワークバランスの実現に向けて、従業員が“働きがい”と
“働きやすさ”を実感できる環境をつくっていきます。従業員の多様な働き方や健康サポートなど、
個々人が柔軟に働くことができるよう取り組みを進めていきます。
また、社内環境整備に向けた方針として、2022年6月に、会社とグループ労働組合が共同で宣言を発信しま
した。この労使共同宣言において、「適正な労働時間管理」と「ハラスメント・ゼロ」それぞれに関す
る具体的な行動指針を示し、労使で「安心して働くことのできる職場環境」の実現に向けて取り組んで
います。
●三越伊勢丹 健康経営優良法人2024(大規模法人部門)認定取得
・女性活躍推進
従業員の約7割が女性である当社グループにおいては、今後の企業成長に向けて「女性の活躍推進」を進めていくことが不可欠であると考えており、短時間勤務制度や配偶者転勤休職制度などの制度の拡充に加え、男性の育児休業制度利用を積極的に推進するなど、組織風土や個々人の意識醸成も含めて、実施し続けることで、様々なライフステージの女性が働きがいと働きやすさを実感しながら活躍できる環境づくりを進めています。
●えるぼし認定3段階目(2023年)
・従業員エンゲージメント
従業員と会社が「互いに成長し、互いに高め合う関係」を目指すという考え方のもと、年に1度「従業員エンゲージメント調査」を実施し、結果を活用することにより、従業員エンゲージメント向上の取り組みを進めています。
③リスク管理
・安心安全な職場環境の整備
従業員の安全と心身の健康を重視し、当社グループでは「適正な労働時間管理」と「ハラスメント・ゼロ」を重要なリスク項目と捉え、2022年6月1日、「安心して働くことのできる職場環境づくり」を労使共同宣言として発信、労使共同で安心安全な職場環境の整備に向けた取り組みを進めています。
④指標と目標
・女性管理職比率2030年度38%の達成(グループ計)
・男性の育児休業取得率2030年度100%の達成(グループ計)
・障がい者雇用比率2030年度3.50%の達成((株)三越伊勢丹および首都圏主要グループ会社の合計)
・年間総実労働時間1,700時間台達成企業の割合 2030年度100%(グループ23社対象)
各指標の実績については、(1)サステナビリティ経営に関する考え方④指標と目標に記載のとおりです。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると認識しているリスクは以下のとおりであります。ただし、将来の業績や財務に影響を与えうるリスクや不確実性は、これらに限定されるものではありません。また、文中における将来に関する事項は当社グループが当連結会計年度末において判断したものであります。
1.リスクマネジメント推進体制について
当社グループは、執行役会の諮問機関であるリスクマネジメント委員会にて、経営戦略の推進や経営基盤に影響を与える重大な経営リスクについて検証および対応策等の検討を行い、その結果を執行役会に答申する体制を構築しております。また、グループ全体のリスクマネジメント推進のため、リスクマネジメント推進会議およびサイバーセキュリティ推進会議を設置しております。
リスクマネジメント推進会議では、リスクマネジメント年度方針ならびに実行計画等を策定し、その実行管理を通じてリスクマネジメント対策の実現を図っております。また、その具体的な実践や徹底を図るため、リスク対策部会を設置しております。
サイバーセキュリティ推進会議では、サイバーセキュリティ対策の年度方針ならびに実行計画等を策定し、その実行管理を通じてサイバーセキュリティ対策の実現を図っております。また、その具体的な実践や徹底を図るため、サイバーセキュリティ対策部会を設置しております。
※リスクマネジメント体制図
また、当社グループのリスクマネジメント体制は、3つのディフェンスラインと5つのレイヤーで構成されております。各グループ事業会社を第1線、三越伊勢丹ホールディングス(以下、HDS)リスク管理部門を第2線、HDS内部監査室を第3線とする3つのディフェンスラインをベースとして、グループ体制を事業実態に応じた5つのレイヤー(❶グループ事業会社現業部門、❷グループ事業会社管理部門、❸HDS統括部門、❹HDSリスクマネジメント室、❺HDS内部監査室)に整理し、各レイヤーの役割と責任を明確化することで、実効性の高いリスクマネジメント体制の構築を図っております。
2.リスクの分析・評価について
当社グループは、リスクを捉えるにあたり、日々変化する外部環境とグループの事業特性・事業戦略を考慮し、多角的な視点からリスクの把握に努めております。グループ全体の事業を取り巻くリスクを5つのカテゴリー(①経営戦略上のリスク、②財務に関するリスク、③人事・労務に関するリスク、④災害等のリスク、⑤オペレーショナルリスク)に分類し、カテゴリーごとのリスクを洗い出し、リスク一覧として整理しております。リスク一覧については、毎年、その内容を見直し、月次でリスクへの対応状況を確認し、必要に応じて評価を見直しております。
また、リスクが顕在化した際には、物的損害、人的損害、財務・経営戦略遂行の阻害、レピュテーション毀損などの損害を被るものと捉え、発生頻度や事業への影響をもとにリスクマップを作成し、その中から重点リスクを選定、部会等を通じて対策の強化を図っております。
なお、リスクへの対応状況については、執行役会および監査委員会に定期的に報告を実施しております。
(1) 経営戦略上のリスク
(リスク)
昨今、世界各地において気候変動による自然災害の頻発・激甚化や格差の拡大等の、社会課題が顕在化しております。そのような背景から、各企業はサーキュラーエコノミー社会の推進や人権の尊重、地域社会への貢献、ESG・SDGsへの取り組みなど、社会的な課題の解決に根差したビジネスモデルを推進しております。
しかし、このような社会の潮流に対して当社グループのサステナビリティ推進が遅れをとった場合、お客さまやお取組先、株主・投資家、従業員、地域社会・コミュニティ、全てのステークホルダーの信頼を失うことで資金調達が困難となる等、企業経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
あわせて脱炭素に向けた取り組みが遅れた場合、将来的に環境規制の強化等を背景に、エネルギーコストの増加等が発生し、当社グループの財務に悪影響を与える可能性があります。
(対 応)
・当社グループは、お客さま、お取組先、株主・投資家、従業員、地域社会・コミュニティ、全てのステークホルダーと未来志向で友好的な対話やコミュニケーションを通じて、Win-Winの関係性を構築することで企業価値の向上を目指しております。また、ステークホルダーからの意見を経営の意思決定に反映する事は、社会課題や経営課題の解決に繋がる手段と考えております。各ステークホルダーとのコミュニケーションにより得た情報や要望を踏まえ、毎年取り組みの見直しを行っております。
・当社グループではサステナビリティを推進するにあたり基本方針を策定し、CEOを議長とするサステナビリティ推進会議を通じ、グループ全体の重要取り組みを共有し、実効性の向上につなげております。また、従業員に向けた教育を実施し、当社グループを取り巻く環境への理解を深め、環境・社会課題の解決に向けた施策に取り組んでおります。
・当社グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)へ賛同しており、気候変動によるリスクの把握と当社の財務への影響を分析し、情報開示を行っております。そして「三越伊勢丹グループ2030年環境中期目標」および「三越伊勢丹グループ2050年環境長期目標」を設定し、脱炭素社会の実現に向けた様々な取り組みを推進しております。
気候変動への対応については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)サステナビリティに関する個別課題(ア)気候変動への対応」において詳しく記載しております。
・当社グループは、サステナビリティの基本方針に基づき、当社グループの強みを活かしたサステナビリティ活動を通じた環境・社会課題の解決を目指しております。サステナビリティ活動に関するスローガンとして「think good」を掲げ、営業施策としてサステナブルな商品・サービスの提供に取り組んでおります。
・小売業を中核とする当社グループの事業活動は、多種多様、多数のお取組先との協働が不可欠と考えております。サプライチェーン上の持続可能性に配慮するため「お取組先行動規範」の遵守をお取組先と調達先に対してお願いしております。2021年度と2023年度にお取組先へアンケート調査を実施し、サプライチェーン上の実態・課題の把握と改善に努めております。
(リスク)
当社グループは、デジタル社会への変化に対応するために、実店舗とオンラインをシームレスにつなぐオンラインサイトやアプリの提供、デジタルツールを利用した業務効率化を進めております。また、事業活動を通じて蓄積したデータを活用してお客さまやお取組先への新たな価値提供を目指すなど、デジタルテクノロジーを活用したビジネスの変革(以下、DX)に取り組んでおります。デジタル社会に対応すべきリスクの捉え方としては内部リスクと外部リスクが存在していると認識しております。
内部リスクとしては、DXを実行する社内リソースの不足により、デジタル社会を前提としたお客さまのご要望への迅速な対応や業務効率化、経営効率化が進まずに業績や財務状況、今後の経営計画の実行への悪影響を与える可能性があります。また、新システム導入や更改、日々のシステム運用のなかで不測の障害が発生することにより、実店舗およびオンライン上の営業活動に支障が生じる恐れがあります。さらに、SNS活用が浸透・拡大するにつれ、従業員個人が関与するSNSトラブル増加の恐れがあります。また、AIチャットサービスは、将来的には業務生産性を高める無限の可能性を持つツールとして積極的な活用が求められる一方で、使い方によっては重要な機密情報の漏洩や意図せず第三者の権利侵害につながるリスク等も懸念されております。
外部リスクとしては、デジタル社会における詐欺犯罪の増加が挙げられます。当社グループのECサイト等においても対策が不十分な場合、財務上の損失につながる可能性があります。
(対 応)
・デジタルテクノロジーやデータの活用に長けた専門組織を設置し、人財育成や各部門へのデジタル人財の配置を行うことで、グループ全体としてDXを実行する社内リソースの強化を図っております。
・システム部門による障害発生の事前防止活動とともに、システム部門と営業部門が一体となり障害発生時の損失を極小化する対応力を向上させる取り組みを行っております。
・SNS活用が浸透・拡大するにつれ、想定しなかった事故やトラブルが増加していることから、デジタルな顧客接点として、お客さまに安心してご利用いただける環境の構築を図るとともに、従業員が公私を問わず、SNSを利用するにあたって遵守すべきルールとして、禁止・注意・推奨する事項を明示した「ソーシャルメディアガイドライン」を策定しております。
・AIチャットサービスについては、昨年、当社グループ専用のデジタルツールを作成し、利活用できる環境を整備しております。また、利用前には必ずeラーニングを受講するなど社内ルールを周知徹底することで、機密情報の漏洩や第三者の権利侵害といったリスク回避の対策を講じております。
・オンライン上の不正行為を抑止するために、技術的対策の導入をより一層強化してまいります。
・仮想空間プラットフォームやAIを組み合わせた顧客データ分析等、新しいデジタルテクノロジーを活用したビジネス価値創造に持続的に取り組むことによって、デジタル社会の発展に適応してまいります
(リスク)
当社グループの主要事業である百貨店事業は、これまでマスマーケティング型のビジネスモデルに重きを置いておりました。しかしながら、近年の少子高齢化といった人口動態の変化や所得の二極化といった社会構造の変化、さらにはデジタル化の加速と情報化社会の進化により、お客さまの価値観、消費行動は大きく変化を遂げております。このような時代の変化に対応したビジネスモデルへの転換が遅れた場合、業績や財務に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、同業や異業態の小売業他社との競争激化を背景とした業界再編の動きが活発化してきており、新たなビジネスモデルの構築が急務となっております。
(対 応)
・当社グループは、上記のリスクを加味したうえで新しいビジネスモデルの確立が必須であるという認識のもと、次期中期経営計画(2025~2030年度)において、従来の「“館”業」(百貨店の“館”の力に頼ったマス向けビジネスモデル)から「個客業」(「館」+「まち」の力で世界中からお客さまを集め、識別化し、つながったお客さまに多様な顧客価値を提案するビジネスモデル)への変革を図ってまいります。
・個客業ビジネスモデルへの変革は、次の4つの視点で進めてまいります。
(リスク)
当社グループは、百貨店事業での東南アジア、中国、台湾、および米国の店舗営業のほか、海外の不動産事業にも参画しております。これらの売上、費用、資産を含む現地通貨建ての項目は、連結財務諸表の作成のため円換算されており為替変動の影響を受けております。また事業展開をする各国において、事業・投資の許可、税制等、様々な政府規制や法制度の適用を受けております。
海外情勢リスクとしては、テロ・戦争・政治・宗教その他の要因による政治・経済的不安や社会的混乱等の地政学リスクがあります。なかでもウクライナや中東情勢の悪化は、エネルギーコストや商品価格の高騰および商品供給のリードタイムの長期化等、当社グループのビジネスに影響を与えており、引き続き注視が必要であると捉えております。
海外事業リスクとしては、海外で事業展開するうえで、従業員の安全管理上の問題、海外現地法規制への対応不備、現地のガバナンス不全等のリスクが内在しております。
これらのリスクにより、当社財務への損害だけでなく、海外実店舗の物的・人的損害の発生や事業の停止・撤退を余儀なくされる可能性があります。また、商品供給網においても、現地法人やお取組先を介してのグローバルな取引が多く存在し、商品供給の停滞、遅延が発生する可能性があります。
(対 応)
・当社グループは、海外へ赴任する従業員に対し、海外事業リスクに関する教育を実施しております。
・海外拠点とのリモート会議やタイムリーな現地リスク情報の共有等、定期的なコミュニケーションを実施し連携を図っております。
・有事におけるレポートラインの確立や日本と海外拠点とが一体となった組織的対応の実施計画を策定しております。昨今では特に、従業員の安全を確保できるよう、東アジアを中心とした海外情勢の変化を常に注視しております。
・資金管理等においては、銀行のシステムを利用し、日本側からのモニタリング体制を構築しております。
・ガバナンス強化の一環として、海外拠点を対象にした内部通報制度を導入し、通報窓口を設置、運用しております。
(リスク)
当社グループは、事業を多角的に展開しており、今後の経営計画として、保有不動産の開発にあたり百貨店の魅力あるインフラ機能を併せ持つ「まちづくり」として結実させていくビジョンを描いております。その実現のため、保有不動産の建て替え、改修等で今後一定の資金が必要となることが想定されます。しかしながら、当社グループの業績の悪化や格付けの変更による資金調達力の低下、さらには政策の転換による金融市場の資金調達コストの上昇等、様々な要因が資金調達を困難にする可能性があります。資金調達が困難になった場合には、事業計画実行の遅延や戦略の変更を余儀なくされるリスクがあります。
(対 応)
・当社グループは、構造改革を積極的に推進し、固定費の削減を実施することで、営業黒字を拡大する取り組みを行っております。また、営業キャッシュフロー改善を通じて、有利子負債削減に取り組むとともに、経費や投資キャッシュアウトのコントロールを徹底することで、財務体質の改善を図っております。
・さらに、中長期的な投資に向けた余力を確保しながら、株主還元や有利子負債削減、収益に貢献する投資をバランス良く実施しております。このような取り組みにより、フローとストックの観点でも最適な財務基盤を構築することで、全てのステークホルダーとの良好な関係性を築いてまいります。
(3) 人事・労務に関するリスク
(リスク)
当社グループにおいては事業戦略を遂行するうえで既存の事業分野のみならず、不動産、金融、デジタルをはじめとした新たな事業分野で、高度な専門知識を有する人財の持続的な育成、確保が必要と認識しております。人財獲得競争が激化するなかで、計画通りに事業戦略に必要なスキルを有する人財の確保が図れなかった場合は、当社グループの目指す経営目標の達成や事業の存続に影響を及ぼす可能性があります。
(対 応)
・当社グループは、「マルチステークホルダー方針」を公表しており、経営資源の成長分野への重点的な投入や従業員の能力開発、スキル向上等を通じて、イノベーションによる持続的な成長と生産性向上に取り組み、付加価値の最大化に注力しております。その上で、生み出した収益・成果に基づいて、従業員への持続的な還元を目指しております。
・経営戦略の実現に向けた専門人財の育成に関しては、戦略的な出向政策や既存人材のリスキル、事業別に異なる専門スキルに応じた制度の拡充に取り組んでおります。
・合わせて、経営戦略の実現に必要な「多様な事業の組み合わせ」により新たな価値を創造する人材の育成に向けて、グループ内外への人材流動化を計画的に進めることで、個人の持つ知と経験、ネットワークの多様性を拡大し、新たな価値を生み出す人財の育成に取り組んでおります。
・人財獲得競争の激化に対しては、従業員エンゲージメントの向上に継続的に取り組むことでグループ従業員の離職率低下や、企業イメージの向上による外部人財の獲得を図っております。
・人財基盤を支える取り組みとしては、一人ひとりのライフワークバランスを尊重し、個人のライフスタイルに合わせた多種多様な働き方を認める両立支援制度の拡充やひとの力を引き出すための対話活動の推進、従業員の心身の健康に配慮した適正な労働時間管理やハラスメント撲滅の取り組みを推進しております。
・その他、女性活躍推進に向けた取り組みや、高年齢者雇用安定法の改正を踏まえた、エルダー社員人財の活用、障がい者の活動機会の確保などの施策にも継続して取り組んでおります。
・人的資本については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)サステナビリティに関する個別課題(イ)人的資本経営」において詳しく記載しております。
(リスク)
当社グループは、百貨店事業を中心として店舗による事業展開を行っております。このため、地震、水害、火山噴火などの自然災害が発生すると、店舗の営業継続に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、首都直下型の大地震が発生した場合、当社グループの店舗は首都圏に集中しているため、お客さま、従業員および建物等が甚大な損害を受けることが予想されます。これにより、業績や財務状況に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。また、東日本大震災の経験から、大規模震災による電力の使用制限や消費の自粛、放射能による食料品汚染などが営業活動に影響を及ぼすことが予想されます。特に富士山噴火では、東海地方および首都圏の店舗において、噴火発生時に火山灰が飛来することで、営業活動をはじめ、交通インフラを中心とした混乱が予想されるほか、システムや物流網等、全国的な影響が考えられます。
さらに近年の地球環境の変化に伴い、台風や集中豪雨といった災害の規模と被害が甚大化するケースが増加しております。また、洪水や浸水、強風により、お客さま、従業員および建物等に被害が発生し、営業停止による営業損失を引き起こす可能性があります。加えて、百貨店事業は全国各地からの商品供給や物流により成り立っているため、供給網に影響が及ぶことで、当社グループの事業活動全体に影響を及ぼす可能性があります。
火災については、当社グループでは火災の発生を防止するために消防法に基づいた対策を徹底しております。しかし、店舗にて火災が発生した場合、お客さまや従業員の罹災による人命の危機の発生および人的資源の喪失、建物等固定資産や棚卸資産への被害、被害者に対する損害賠償責任等が発生する可能性があります。さらに、これらの被害以外にも法令違反が発覚した場合の罰則や営業停止に伴う営業損失も懸念され、当社グループの業績や財務に悪影響を及ぼす可能性があります。
近年では、他国からのミサイルが日本の領土等に着弾・落下するケースも想定されます。従業員や施設に直接的な損害が無くても、攻撃が継続され、より深刻な事態となれば、全国的な事業継続に多大な影響を及ぼす可能性があります。
また、新たな感染症の拡大により、国内の消費マインドやインバウンド需要の低迷等、当社グループの業績や財務に影響を与える可能性があります。
(対 応)
・当社グループでは、地震、水害、パンデミック、富士山噴火、ミサイル攻撃等、今後想定される大規模災害への対応のため、災害対策基本計画および事業継続計画(以下、BCP)において、日頃の防災・減災対策や災害発生時の初動・復旧に向けた具体的な行動計画を策定しております。
・計画の実行性を高めるために、各店舗および事業所での非常用物資の備蓄や定期的な訓練、安否確認システムの導入、ITツールを活用した情報共有等を実施しております。
・株式会社三越伊勢丹は、BCPの取り組みと店頭での募金活動や従業員のボランティア活動を支援する仕組み等が評価され、「事業継続」と「社会貢献」の分野において、外部の認証機関より、百貨店として初の「レジリエンス認証」を取得しております。
・各店舗において、所轄消防署と協力のうえ、火災を想定した消防訓練の実施や設備点検、さらには自衛消防隊設置による平時からの安全管理を実施しております。
・他国からのミサイル発射等による脅威については、Jアラートが発動された場合の対応マニュアルを作成し、あわせて、訓練強化に取り組んでおります。
・新たな感染症の拡大に際しては、当社グループはお客さまと従業員の安心・安全を第一に、グループ全店舗で感染状況に応じた対策を実施してまいります。また、当社グループのBCPにおいても、「新型インフルエンザ等によるパンデミック」について、被害想定ならびに行動目標を定め、対応しております。
(リスク)
当社グループは多岐にわたる事業活動やサービス提供のなかで、お客さま、お取組先の様々な情報をお預かりし、管理しております。昨今、日本企業が国内外からのサイバー攻撃を受ける事例が増加しており、当社グループでも情報セキュリティガバナンスのさらなる強化は急務となっております。サイバー攻撃等によるシステムの破壊や停止、不正アクセス犯罪等による機密情報や個人情報の漏洩が発生した場合、システムの停止と復旧に時間を要することにより広範な業務に支障をきたすことを余儀なくされます。加えて、社会的信用の失墜による売上の減少や賠償金等の支払い負担等、当社グループの業績や財務に影響を与える可能性があります。
(対 応)
・当社グループでは、情報セキュリティガバナンス強化のため、サイバーセキュリティ対策部会において、日常の業務活動のなかで技術的および人的・組織的な対策の推進を図っております。
・技術的対策では、サイバー攻撃を防御、監視、検知、駆除するためのセキュリティツールの導入と運用を強化しております。
・人的・組織的対策では、情報セキュリティに関する従業員のリテラシーの向上を図るため、システム部門における専門的なセキュリティ人財の育成や、従業員へのセキュリティ教育・訓練を適時実施しております。
(5) オペレーショナルリスク
(リスク)
当社グループは、百貨店事業を中心として事業展開を行っております。お客さまのニーズに合わせて、 常に安全で安心な商品やサービスを提供する事を最優先に考え、お客さまのご満足と信頼に応えられる品質を追求しております。
百貨店事業は、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律を始めとする経済法や各種消費者保護法、また営業許認可に関わる各種業法の適用を受けております。これらの法規制に適合し、お取組先との取引や、消費者との取引においても、競争力や情報量の格差に乗じた不当な拘束等を排除し公正な取引を行うことが求められております。これらの法規制を遵守できなかった場合、行政処分により当社グループの活動に制限がかかる可能性や、社会的信用の失墜、売上の減少、損害賠償金の支払い、罰金や課徴金の負担等の財務上の損失が生じる可能性など、当社グループの事業継続に大きな影響を与えることが考えられます。
当社グループが実施しているサステナビリティ活動に関するお客さまアンケートでも、例年「商品の品質・安全の確保・正確な表示」が、当社グループに期待されている項目の上位に挙げられております。なかでも食料品販売から飲食サービスまで多岐にわたる食品衛生に関わる事業においては、アレルギー表記の不備等が原因となる食物アレルギー有症事故や、調理者の健康管理不良や食材管理不良等に伴う食中毒が懸念されます。これらが発生した場合、お客さまへの重篤な健康被害だけでなく、営業停止や罰則などの行政処分、社会的信用の失墜による売上の減少や損害賠償金等の支払いが発生し、当社グループの財務に悪影響を与える可能性があります。
(対 応)
・当社グループは、持続可能なサプライチェーンやビジネスと人権等の社会課題に対応するため、「三越伊勢丹グループ調達方針」、「三越伊勢丹グループ人権方針」を策定しております。また、主要お取組先を対象としたサステナビリティ調達に関するアンケートの実施や方針説明会の開催等を通じて、お取組先各社との対話を深め、サプライチェーン・マネジメント体制を整えております。
・当社グループは、お取組先や価値創造を図る事業者の皆さまとの連携・共存共栄を重視して、新たなパートナーシップを構築することを宣言する「パートナーシップ構築宣言」を策定しております。宣言の内容は、eラーニングを通じて従業員全員が理解・実践に努めており、公平・公正な取引を通じてお取組先との信頼関係を築き、社会的価値と経済的価値の両立を目指しております。
・グループ全体の商品取引における法令遵守体制を構築するために、下請代金支払遅延等防止法や不当景品類及び不当表示防止法、特定商取引に関する法律に則したガイドラインやマニュアルを整備し、法改正やオペレーションの見直し等時宜に適った改定を行い、社内に周知しております。
・コンプライアンス推進会議を組織し、定例会議において、法改正等への対応の指針の策定と社内懸念事項の報告および解決に向けた取り組みを強化しております。
・「三越伊勢丹グループ企業理念」を実践するために、グループの役職員が日々の業務においていかに判断し、行動すべきかの倫理的基準を示す「三越伊勢丹グループ行動規範」を定め浸透を図っております。
・コンプライアンスを担当する実務者向けに、法令、社内規程等を含めた定期的な教育を実施し、実務とコンプライアンス遵守の両立に取り組んでおります。
・当社グループ内に派遣いただいている従業員を含め、店頭において法令違反や社内規程に反する行為がないか、定期的に点検を行うとともに、法令、社内規程等のOJT教育を実施しております。
・万が一、事件・事故が発生した場合には、各ガイドラインとレポートラインに則った関連部署間での連携による解決を図り、その後、社内にて事例を共有し再発防止に努めております。
・不正行為等があった場合に、その事実を速やかに認識し自浄的に改善するため、「三越伊勢丹グループホットライン」を設置するなど、内部通報に係る適切な体制整備を行っております。
・食品衛生の基本となるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理計画書を策定し、お取組先まで共有することで食品衛生確保の網羅性を図っております。また、計画書に基づき日々の記録と保管を徹底し、定期的な点検を実施することで、法令遵守と食中毒予防の両面からお客さまの安全確保に取り組んでおります。
・アレルギー有症事故を予防するため、正確なアレルギー情報を提供するためのマニュアルと社内体制を整備しております。定期的な点検を通じて情報の正確性を確認し、お客さまとも積極的なリスクコミュニケーションを日々推進しております。
(リスク)
昨今、個人情報を用いたビジネスの拡大や新規ビジネス創出に伴う個人情報の漏洩や不適切な利用事案の増加から、消費者の個人情報保護への意識と利用状況への関心が高まっております。また、個人情報に関する各国法も相次いで整備されるなか、企業には、越境移転も踏まえた厳重な管理体制や、厳格な目的内利用の仕組みの構築が求められております。
当社グループは、百貨店業、クレジット・金融・友の会業、情報処理サービス業を中心に、多くのお客さまの個人情報をお預かりし管理しております。しかし、犯罪による漏洩や管理体制の不備による紛失、また個人情報の保護に関する法律等への違反が発覚した場合には、損害賠償費用や罰金などの費用が発生する可能性があります。さらに、当社グループの社会的信用の失墜による売上の減少等、当社グループの業績や財務に悪影響を及ぼす可能性があります。
(対 応)
・適切な個人情報の取得および利用のための自主基準やマニュアルを策定し、これらに基づいて管理システム・社内管理体制を整備し、実店舗からオンライン環境に至る全ての事業環境において、日々厳重に個人情報の管理を実施しております。
・個人情報を含む情報セキュリティ体制の策定と周知の徹底を行い、さらに継続的な見直しとモニタリングを実施しております。
・対応スキルの維持向上を目的として従業員に向けた教育を実施し、リテラシーと意識の向上を図っております。
・行政によるデジタル社会の形成に向けた法整備状況や個人情報の保護に関する法律、法規制、ガイドライン等への対応を図っております。
・海外拠点においては、関連する現地法規制に関する情報収集を継続的に行い、適切な対応を行っております。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度における我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の位置づけが2023年5月に5類感染症へと移行したことに伴い、行動制限の緩和による外出機会の増加や消費意欲の上昇・拡大などの兆しが見られました。非製造業の業況はバブル期以降の最高水準に達しており、特に娯楽や宿泊・飲食などの対面サービス業や小売業を中心に回復基調が継続しております。さらに、訪日外国人旅行者数の復調に伴い過去最高のインバウンド消費額が記録されるなど、社会経済活動の正常化に向けた進展が見られました。
一方、世界経済においてはウクライナ情勢をはじめとする地政学リスクや、各国の金融引き締め政策継続による景気の下振れリスク、急激な為替変動等の影響に対する懸念が見られました。また、世界的インフレによってエネルギーや原材料価格が高騰し、国内においても所得の伸びを上回る物価上昇による節約志向の高まり等、景気の先行きは依然として不透明な状況が続きました。
こうした環境下において当社グループは、2023年に新たに制定した「三越伊勢丹グループ 企業理念」のミッションとして「こころ動かす、ひとの力で。」を掲げ、「お客さまの暮らしを豊かにする“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」というビジョンの実現に向け、中期経営計画(2022~2024年度)に基づいて事業活動を進めてまいりました。
中期経営計画の中間年度である当期は、第1フェーズである「百貨店の再生」を掲げた2年目として、スピード感を持ちながら着実に重点戦略の実行を進め、再生フェーズの早期達成を図ってまいりました。また同時に次期フェーズである「まち化準備」フェーズに向けた取り組みを加速させるべく、地域百貨店や関係会社の事業構造改革への注力、「百貨店の科学」のグループ会社への浸透による経費コントロールを推し進め、国内百貨店事業を筆頭とした経営効率の大幅な改善により財務体質の強化を図ってまいりました。
「百貨店の科学(収支構造改革)」の取り組みでは、地域店舗への波及により百貨店事業全体で固定費と変動費の徹底したコントロールにより損益分岐点を引き下げました。売上回復局面において利益を拡大させやすい構造への転換が進んだことにより、業績の回復に大きく寄与いたしました。
「高感度上質戦略」では、更なる高感度上質店舗化に向けたMDバランスの修正としてラグジュアリーブランドや化粧品等のハイタッチMDを拡大するリモデルを伊勢丹新宿店本店と三越日本橋本店、三越銀座店で実施しました。外商セールスとバイヤー、店頭スタイリストが連携した販売体制の取り組みが首都圏店舗や地域店舗においても外商顧客に支持されました。両本店のグループ上位向け顧客イベント「丹青会」「逸品会」では、過去最高売上を更新しました。「個客とつながるCRM*1戦略」においては、個客軸のマーケティングにより、一人ひとりのお客さまのニーズへの対応を強化することで客単価が拡大して識別顧客の売上高を伸長させることができました。加えて、インバウンド需要が高まる中で海外顧客向けの外商機能とSNSによる販売促進を拡充させることで、インバウンドによる売上高はコロナウイルス感染拡大前の2018年を大幅に上回る1,000億円を超えることができました。「高感度上質戦略」と「個客とつながるCRM戦略」の取組みにより、三越伊勢丹単体では、統合以降過去最高売上を更新することができました。
当社グループが持つスキルやノウハウを組み合わせてグループの総合力を発揮させる「連邦戦略」においては、国内関係会社が百貨店事業を補完する体制から、全ての事業が並列となり連携する体制へ移行していきます。グループ連携の新たな体制により、国内関係会社の外部販売実績が大幅に拡大しております。
「まち化戦略」では、「新宿三丁目駅前西地区市街地再開発準備組合」等へ参画しております。また、開発計画ごとのタイムラインや各用途のコンテンツ導入準備についての具体化や、まち化事業機会の最大化に向けたグループ連携等に着手しております。
経営基盤としての「サステナビリティ」では、「三越伊勢丹グループ 企業理念」のもとで重点取り組み(マテリアリティ)を事業戦略とつなぎ合わせ、一体的に推進しております。「人・地域をつなぐ」取り組みでは、文化と伝統の振興・継承として創業350周年を迎えた三越各店で「伝統を越える革新性」をテーマに日本の伝統工芸の魅力の発信等の取り組みを実施しました。「持続可能な社会・時代をつなぐ」取り組みでは、環境への対応として伊勢丹新宿本店でAIスマート空調を試験的に導入しました。循環型社会の実現に向けて、衣類カバーの簿肉化や食料品フロアにおけるカトラリーの素材切り替え等によりプラスチック使用総量の削減も進めております。サプライチェーンマネジメントの推進として「お取組先行動規範」を制定し、環境や人権に配慮した当社における調達活動の方針へのご理解とご協力をお願いしております。当社は、企業理念のミッションとして「こころ動かす、ひとの力で。」と掲げている通り、持続的な成長を続けるうえで最も大切な資本は「多様な従業員一人ひとりの持つ個の力」であると考えています。「従業員満足度の向上」の取り組みとして、昨年度に三越伊勢丹グループにおける人財マネジメント方針である「人と組織の基本的な考え方」を策定いたしました。“ひとの力の最大化”に向け、「従業員への期待」と「上司・会社の責任」を明確にし、従業員・上司・会社が三位一体となることで、個人と会社のさらなる成長を目指してまいります。
上記の取り組みを進めた結果、当連結会計年度において、計画当初の長期目標である10年スパンでの営業利益額50,000百万円を大きく上回りながら2年目で達成することができました。さらに、2008年4月の三越と伊勢丹統合以降の最高営業利益についても更新しました。
当連結会計年度の連結決算につきましては、売上高は536,441百万円(前連結会計年度比10.1%増)、営業利益は54,369百万円(前連結会計年度比83.6%増)、経常利益は59,877百万円(前連結会計年度比99.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は55,580百万円(前連結会計年度比71.7%増)となりました。
セグメントごとの経営成績は次のとおりであります。
百貨店業
国内百貨店においては、社会経済活動の正常化に伴い、入店客数が大幅に増加したほか、訪日外国人旅行者によるインバウンド消費も全国的に活況を呈しました。特に、伊勢丹新宿本店、三越銀座店は両店舗ともに、総額売上高が過去最高額を記録し、計画値を大きく上回り好調に推移しました。さらに国内百貨店全体では、韓国や台湾、タイ、米国などからの訪日客数および購買金額が伸長いたしました。その結果、コロナ禍前の2018年度の免税売上高を大幅に上回るとともに、過去最高額を更新いたしました。
重点戦略である「高感度上質戦略」、「個客とつながるCRM戦略」を象徴する取り組みの一つでもある伊勢丹新宿本店の「丹青会」や三越日本橋本店の「逸品会」では、自動車や楽器、不動産等の通常、店舗では取り扱いのない百貨店外MDや特別企画品をご紹介しました。個客の多様なご要望にお応えすることで、2024年2月開催時において共に過去最高の売上を更新しました。
一方、経費面においては全国の店舗で「百貨店の科学(収支構造改革)」による取り組みを進めた結果、固定費の圧縮や販売管理費の抑制などの経費コントロールが進み、百貨店業全体として大幅な収支の改善につながりました。
なお海外店舗では、2024年4月に中国・天津市内の2店舗(天津伊勢丹・天津濱海新区伊勢丹)を賃貸借契約終了に伴い閉店しております。海外計では増収増益となり、引き続き国・地域ごとの状況に合わせた、“選択と転換“を加速させ、商業運営ノウハウを活かした新たな取り組みの拡大を進めてまいります。
このセグメントにおける売上高は448,319百万円(前連結会計年度比7.8%増)、営業利益は45,159百万円(前連結会計年度比121.0%増)となりました。
クレジット・金融・友の会業
クレジット・金融・友の会業は、株式会社エムアイカードが、百貨店業の売上拡大に伴うグループ内でのクレジットカード利用が好調に推移したほか、社会経済活動の正常化により航空・旅行・飲食領域等のグループ外加盟店での取扱高も大幅に増加し、カード手数料収入が拡大しました。また、カードファイナンスの強化が奏功し、割賦手数料収入も伸長しました。さらに、収支構造改革の実行と経費コントロールの徹底により運営費を大幅に圧縮し、前年に対し増収増益を達成しました。今後もさらなる利便性の向上や将来を見据えた新たな金融サービスの開発等を推進し、お客さまの暮らし全般のニーズにお応えしてまいります。
このセグメントにおける売上高は32,766百万円(前連結会計年度比6.3%増)、営業利益は4,050百万円(前連結会計年度比6.8%増)となりました。
不動産業
不動産業は、株式会社三越伊勢丹プロパティ・デザインが、高い技術力と高付加価値な提案営業の強みを活かし、ホテル・オフィス・商業施設等からの受注が増加しました。さらに都心の大型案件の完工等により、売上が拡大し、原材料価格の高騰の影響を強く受けながらも、前年に対し増収増益を確保しました。
一方、保有物件におけるテナントの入れ替え等により、賃料収入が減収となりました。
このセグメントにおける売上高は26,787百万円(前連結会計年度比30.6%増)、営業利益は3,044百万円(前連結会計年度比24.1%減)となりました。
その他
旅行業の株式会社三越伊勢丹ニッコウトラベルは、国内外の旅行需要が本格的に回復し、三越創業350周年を記念した特別旅行企画や欧州リバークルーズ客船旅行など、同社の強みを活かした高付加価値な旅行企画を中心に好調に推移しました。円安の長期化や世界的インフレによるエネルギー価格の高騰等の影響を受けながらも、コロナ禍における固定費の削減などの損益分岐点の引き下げの取り組みも寄与し、前年に対し増収増益を達成し、4年ぶりの黒字転換となりました。
メディア事業の株式会社スタジオアルタは、グループのリソースを最大限活用し収益を拡大させる「連邦戦略」推進の一環として、本年より百貨店内の広告メディア事業を統合したグループ統合ハウスエージェンシー化を進めております。グループ内の広告案件の請負や主力の屋外広告販売が好調に推移し、前年に対し大幅に増収増益となりました。
このセグメントにおける売上高は91,123百万円(前連結会計年度比17.2%増)、営業利益は2,073百万円(前連結会計年度比82.4%増)となりました。
当連結会計年度末の総資産は1,225,103百万円となり、前連結会計年度末に比べ7,795百万円増加しました。これは売上増による売掛債権の増加、持分法適用会社に対する持分相当額利益増加などによるものです。
負債合計では624,278百万円となり、前連結会計年度末から40,509百万円減少しました。これは主に、有利子負債の減少などによるものです。
また、純資産は600,824百万円となり、前連結会計年度末から48,304百万円増加しました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことおよび為替換算調整勘定が増加したことなどによるものです。
当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べて36,649百万円減少し、72,390百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、56,895百万円の収入となり、前連結会計年度に比べ収入が9,406百万円減少しました。これは主に、税金等調整前当期純利益が27,293百万円増加したものの、売上債権の増減額が23,615百万円増加したこと及び持分法による投資損益が5,131百万円増加したことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、27,015百万円の支出となり、前連結会計年度に比べ支出が11百万円減少しました。これは主に、有形固定資産及び無形固定資産の取得による支出が9,186百万円増加したことに対して、前連結会計年度は連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出10,599百万円があったことなどによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、68,485百万円の支出となり、前連結会計年度に比べ支出が52,287百万円増加しました。これは主に、長期借入金や社債、コマーシャル・ペーパーなどの返済による支出44,500百万円があったこと及び、自己株式の取得による支出15,012百万円などによるものです。
当社及び当社の関係会社においては、その他事業の一部に実績がありますが、当社グループ全体の事業活動に占める比重が極めて低いため、記載を省略しております。
販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しております。その作成には経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債や収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者はこれらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項」の(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)に記載しております。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項」の(重要な会計上の見積り)に記載しております。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績の分析
4)資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、事業活動のための適切な資金確保、充分な流動性の確保及び財務健全性の維持を常にめざし、安定的な営業キャッシュ・フローの創出と幅広い資金調達手段の確保に努めております。
運転資金及び収益基盤拡大に必要な投融資資金は、営業キャッシュ・フローに加え、銀行借入金、社債、コマーシャル・ペーパー等により賄っております。
また、一時的な資金不足に備え、主要取引銀行とのコミットメントライン契約及び当座借越契約、並びにコマーシャル・ペーパー発行枠により、充分な流動性を確保しております。
セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
特に記載する事項はありません。