以下に記載の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社が判断したものであります。
<東北電力グループ中長期ビジョンにおける今後の経営展開「よりそうnext+PLUS」>
当社企業グループは中長期ビジョン「よりそうnext」の策定以降、電力供給事業の構造改革とスマート社会実現事業の収益化を重点課題としてビジネスモデルの転換に取り組んできました。スマート社会実現事業への取り組みを通じて、事業創出にチャレンジするマインドがグループ全体で醸成されるとともに、コーポレートPPAなど電気・エネルギー関連分野の新たな事業化が進展し、2つの事業ドメインである電力供給事業とスマート社会実現事業の融合も進みました。
一方、2年連続して発生した福島県沖地震やウクライナ危機などにより財務基盤が著しく毀損し、グループを挙げて徹底した効率化に取り組みましたが、電力の安定供給に影響を及ぼしかねない非常に厳しい状況であったことから、ステークホルダーの皆さまに電気料金の値上げや減配・無配をお願いしたことにより、2023年度の収支・財務は改善に向かいました。しかしながら、連結自己資本比率は15.4%にとどまり、連結有利子負債残高は3兆円を超える高い水準にあるなど、依然として厳しい財務状況にあり、今後も地域の皆さまに電気を安定的にお届けし、さらなる付加価値を提供し続けていくために、事業の変革や財務基盤の強化を図っていく必要があります。
また、内外無差別の進展などにより電気事業の枠組みが大きく変わるとともに、燃料や卸電力市場価格の変動が大きくなっていることに加え、カーボンニュートラルに向けた潮流の加速やデジタル化の進展などにより、将来の電力需要の拡大が見込まれるなど、当社企業グループを取り巻く事業環境は大きくかつ急速に変化しております。
このような中、中長期ビジョンの後半期を迎えるにあたり、2030年に向けた今後の経営展開として「よりそうnext+PLUS」を策定しました。具体的には、「事業展開」、「財務基盤」、「経営基盤」の3つの方針を設定し、それぞれの取り組みを相互に連動させながら、事業を推進していきます。
今後も東北電力グループは、電気・エネルギーを中心とした事業展開を通じて、地域の皆さまが快適・安全・安心なくらしを実感できるスマート社会の実現に貢献してまいります。
(1)事業展開
電気・エネルギーを中心に事業を展開することとし、「発電・卸」、「グリーンビジネス」、「エネルギー・ソリューションサービス」、「送配電」、「関連領域」の5つの領域と11の事業区分を設定した上で、各事業が自律的に収益と成長を追求していきます。また、カーボンニュートラルやDXを成長の機会として捉え、イノベーションなどを通じた既存事業の強化・拡張や新たな事業領域の拡大にも挑戦していきます。
■発電・卸領域 -脱炭素化と経済性を両立した電気を社会に提供
(火力発電事業)
競争力強化を徹底するとともにカーボンニュートラルに長期的視点で戦略的に対応していく観点から、火力電源の脱炭素化に向けた実現可能性調査・実証試験の加速や経年火力電源の休廃止・リプレース、デジタルイノベーションによる新たな付加価値の創造・展開に取り組みます。また、需給最適化のさらなる推進と燃料調達・発電・卸売によるバリューチェーン全体での収益の拡大を目指し、燃料調達の経済性・弾力性・安定性向上に資する施策の深掘り・強化や、調整力としての火力電源の運用高度化、卸入札などによる内外無差別的な交渉機会の確保、先物市場拡大を見据えたトレーディング機能の最適化・事業機会の追求などにも取り組んでいきます。
(原子力発電事業)
安全確保を最優先に地域のご理解を得ながら原子力発電所の再稼働を進めるとともに、ベースロード電源として設備利用率の維持・向上及びコスト低減を目指します。女川原子力発電所第2号機については、安全対策工事が本年5月に完了いたしました。今後は、「燃料装荷」や「原子炉起動」に係る各種検査・試験などのプロセスがあることから、引き続き、安全確保を最優先に、本年9月頃の再稼働に向けて地域のみなさまからのご理解をいただきながら、一つ一つの取り組みを着実に進めてまいります。また、女川原子力発電所第1号機については、安全確保を最優先に廃止措置に取り組み、女川原子力発電所第3号機と東通原子力発電所第1号機については、早期再稼働に向け適合性審査・準備への着実な対応を進めていきます。
■グリーンビジネス領域 -再生可能エネルギーを最大限活用し、新たな電気の価値をお客さまにお届け
2030年代早期に200万kW以上※の再エネ開発を目指すとともに、多様化する再エネニーズにお応えするサービスを幅広く提供することで、バリューチェーン全体でカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指します。
※大規模再エネ電源の新規開発に加え、既設電源の更新による出力増分やコーポレートPPAによる自社開発分も含む
(再エネ発電事業)
収益性を踏まえ、地域との共生も意識した新規電源の開発を推進するとともに、水力・地熱発電の経年設備の抜本改修などによる発電量の維持・拡大を目指します。さらに、風力メンテナンス事業の推進や太陽光パネルのリユース・リサイクルの事業化を検討し、バリューチェーン全体で収益拡大を推進していきます。
(次世代エネルギーサービス事業)
分散型エネルギーリソース(自家用発電機や蓄電池、EVなど)を集約し、市場取引などで獲得した収益の一部をお客さまに還元するサービス(VPP)や再エネ発電事業者に発電予測や需給調整などのアグリゲーションサービスを提供していきます。
(グリーンエネルギーサービス事業)
再エネを切り口としたコーポレートPPAや蓄電池サービス、需給運用代行などの様々なエネルギーソリューションを組み合わせて最適なサービスを提案します。また、家庭向けの太陽光・蓄電池サービスも拡大していきます。
■エネルギー・ソリューションサービス領域 -快適・安全・安心なサービスを提供し、お客さまの豊かさを最大化
(電力小売事業)
お客さまニーズに合わせた最適な料金プランをご提供するために、市場動向・需要動向を的確に捉えて、相対取引・市場取引等を組み合わせた最適な電源構成を実現するとともに、電化推進や販売体制を強化することでカーボンニュートラルやDX潮流を踏まえた販売活動を展開していきます。
(ソリューションサービス事業)
家庭向けにはキャッチフレーズ「きょうを照らし、あしたをつくる。」のもと、ライフスタイルのサポートにつながるご提案を強化していきます。具体的には、「家のライフサイクル」を軸としたお客さまのニーズやお困り事等が起点の商品・サービス開発によりバリューチェーンを構築するとともに、提供エリア拡大等も行っていきます。また、東北電力eライフリースやあおぞらチャージサービス等のグループ企業商材を含めた提供等による安心・快適、エコな電気を賢く使う「スマートライフ電化」のご提案も強化していきます。
法人向けにはお客さまのサステナブルな事業運営を支援するソリューションサービスの提案を強化していきます。具体的にはエネルギーマネジメントやレジリエンス向上などのビジネスニーズを的確に捉えたサービス開発・提案をしていきます。カーボンニュートラルを見据えたトランジション燃料である天然ガスについても、エネルギーに関わる問題解決をご支援するソリューションとして提供していきます。
■送配電領域 -電力の安定供給を通じ、地域社会の安全・安心・快適な暮らしを支える
(送配電事業)
安全最優先のもと効率的な送配電設備の形成やデジタル技術を活用した運用高度化を進めながら、ハード・ソフト両面の災害対応力の維持・強化を図ることで、電力の安定供給を確保していきます。また、再エネ導入拡大に向けた大規模基幹系統整備や日本版コネクト&マネージなどによる既存系統の有効活用、再エネ出力予測精度向上といった送配電設備の高度化によりカーボンニュートラルへ貢献していきます。さらに、保有資産やノウハウを活用した収益機会の獲得と新たな事業の創出、地域接点機能を活用してエリア需要の拡大に向けた企業誘致の支援も推進していきます。
■関連領域 -エネルギー事業で培ったノウハウ・アセットを活用し、幅広いサービスを提供
(総合設備エンジニアリング事業)
事業基盤である東北・新潟でのエンジニアリング事業の更なる深化と「東北・新潟以外」、「海外」での事業展開を図っていきます。具体的には、今後需要拡大が見込まれるオフィスビルのリニューアルに伴う電気・空調・通信設備工事の一括受注や再エネ関連工事などに注力するほか、ベトナム事業を起点にODA案件を含めた海外事業の受注・収益拡大などを目指していきます。
(不動産事業)
グループの保有資産を有効活用することで収益拡大を目指します。具体的には、仙台市中心部に立地し、当社グループのシンボルでもある「電力ビル」一体の再開発事業に参画するほか、当社グループが、仙台圏や県庁所在地等に保有する資産の活用による収益拡大等を目指していきます。
(情報通信事業)
通信事業や情報システム事業で培ったアセットやノウハウを活用し、今後も需要拡大が期待できるDX関連分野での成長を目指します。ビジネスマッチングサイト「よりそう東北コネクト」による地域課題解決にも貢献していきます。
(2)財務基盤
(新たな財務目標の設定)
現在の財務目標である「2024年度に連結キャッシュ利益※13,200億円以上」を達成した上で、電力の安定供給の維持に必要な財務基盤の回復を早期に実現するとともに、資本コストを上回る企業価値を創出し、利益・投資・成長の好循環を形成していくために、「連結経常利益」、「連結自己資本比率」、「連結ROIC※2」を指標とした新たな財務目標を設定いたしました。
※1 連結キャッシュ利益=営業利益+減価償却費+核燃料減損額+持分法投資損益(営業利益は燃料費調整制度のタイムラグ影響を除く。)
※2 ROIC(投下資本利益率)=税引後営業利益/(株主資本+有利子負債)×100
(キャッシュ配分の考え方)
新たな財務目標達成に向けた取り組みを通じて得られた利益・キャッシュフローは、有利子負債の削減や、カーボンニュートラルなどに対応しながら、今後もお客さまに電気を安定的にお届けし、さらなる付加価値を提供していくための投資に活用します。また、配当については、財務基盤の回復とのバランスを考慮しながら、当面はDOE(株主資本配当率)※2%を目安として安定的な株主還元を実現していきます。
※ DOE(株主資本配当率)=年間配当総額/株主資本×100
(3)経営基盤
持続的に事業を展開していくための土台として経営基盤を強化していきます。具体的には、サステナビリティ経営を推進し、ESGを中心としたサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)の解決に中長期的な視点で取り組みます。特に、電気事業の果たす役割が大きいカーボンニュートラルへの長期的かつ戦略的な対応(CN戦略)や、DXを活用したイノベーション・業務変革(DX戦略)、そして成長の源泉である人的資本の強化(人財戦略)に重点的に取り組んでいきます。詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。
当社企業グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、以下に記載の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社が判断したものであります。
当社企業グループは、創立以来脈々と受け継がれてきた「東北の繁栄なくして当社の発展なし」との考え方のもと、地域社会の持続的な発展とともに成長すべく、電気事業を通じて様々な社会課題の解決に取り組んでまいりました。その積み重ねが地域の皆さまとの信頼関係に繋がり、今日の当社企業グループの経営の礎となっております。こうして築いてきた地域とのネットワークを通じて、地域の皆さまの声を受け止め、「東北電力グループだからできること」でお応えしていくことが、今後当社企業グループに一層強く求められていくものと考えております。
当社企業グループは、サステナビリティを経営の中核に据え、「東北電力グループサステナビリティ方針」のもと、事業を通じて地域や社会が直面する課題の解決に努め、未来世代にわたるステークホルダーとともに、社会価値と企業価値を共創していくことを目指してまいります。
東北電力グループサステナビリティ方針
(1) サステナビリティ共通
[ガバナンス]
当社及び東北電力ネットワーク株式会社の両社で構成するサステナビリティ推進会議において、ステークホルダーの視点をもとに、「マテリアリティ(サステナビリティ重要課題)」への取り組みを包括的に確認し、今後の方向性を中期計画等に反映させております。社長執行役員は、サステナビリティ推進会議の議長を務め、サステナビリティへの対応の統括を担っております。
また、サステナビリティ推進会議の結果について取締役会に報告することで適切な監督を受けるとともに、東北電力グループサステナビリティ連絡会等を通じて、グループ企業間の連携を図っております。
[リスク管理]
サステナビリティに係る様々な課題は、当社企業グループと地域社会の持続可能性を脅かすリスクとなる一方、持続的成長を図る機会として捉えております。当社は、優先的に取り組むべき課題である「マテリアリティ」に係るリスクと機会を把握し、各課題への対応を各カンパニー・本部の中期計画等に織り込み、リスクの低減に努めるとともに、地域社会との持続的な成長を目指してまいります。
当社企業グループは、2022年7月に優先的に取り組むべき課題である「マテリアリティ」を以下のとおり特定し、各取り組みを展開しております。
特に、電気事業の果たす役割が大きいカーボンニュートラルへの長期的かつ戦略的な対応(CN戦略)や、DXを活用したイノベーション・業務変革(DX戦略)、そして成長の源泉である人的資本の強化(人財戦略)に重点的に取り組んでまいります。
■重点的に取り組む分野「CN戦略」
カーボンニュートラルへの対応については、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 気候変動対応」に記載しております。
■重点的に取り組む分野「DX戦略」
事業変革を支える強力なドライバーとしてDXを位置づけ、グループ全体でデジタル技術の活用やプラットフォーム構築を推進することで、ビジネスモデル変革や業務プロセス改革を実現します。
グループのDX推進にあたり、東北電力グループDX推進方針を策定し、牽引役として経営層からChief Digital Officerを任命するとともに、DX戦略を立案・実施するDX推進部を設置しました。
DX戦略は、当社副社長執行役員が委員長を務め、当社及び東北電力ネットワーク株式会社の両社で構成するDX推進委員会で審議しております。
■重点的に取り組む分野「人財戦略」
人的資本の強化の取り組みについては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (3) 人的資本」に記載しております。
[指標及び目標]
当社企業グループは、特定した「マテリアリティ」に関連する目標や指標を設定し、課題解決に向けた取り組みを推進しております。
(注)1 TD:東北電力株式会社、TN:東北電力ネットワーク株式会社、
TFP:東北電力フレンドリー・パートナーズ株式会社、G:グループ全体。
(注)2 従来、当社の販売電力におけるCO2排出量を表示していましたが、発電ベースのCO2排出に着目するGXリーグ第1フェーズへの参画を機に、当社企業グループの発電事業におけるCO2排出量への表記に改めています。
(注)3 CO2排出量の2023年度実績は、2024年9月頃に
(注)4 2024年度からは、指標・目標の範囲を「G(グループ全体)」に拡大。2023年度実績は、東北電力株式会社及び東北電力ネットワーク株式会社の実績値。
(注)5 2024年度からは、廃プラスチック類の再資源化に関して定量目標を設定。
(注)6 東北電力グループ統合報告書2023(2023年9月公表)より開示。
(注)7 目標年度及び目標値の水準を見直し。(目標年度:2025年度から2030年度、目標値:66%から66%以上)
(注)8 「よりそう東北コネクト」は、東北・新潟エリアにおける法人同士のお困りごと・アイデア・ソリューションをつなげるプラットフォームとして、株式会社トークネットが2021年からサービス提供を開始。2023年度に「よりそう東北コネクト加入者数1,500人」の目標を達成したため、2024年度からは「加入者数」ではなく「コンテンツ掲載数」にてモニタリングします。
(注)9 学習時間には、社員が参加している研修時間の他、自己啓発として自主的に学習しているeラーニングの学習時間を含みます。
(注)10 普通休暇平均取得率は、毎年4月に付与する普通休暇20日に対する取得率をいいます。
(注)11 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づく「課長級」以上の女性数。
(注)12 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づく「課長級」以上を含む、役職に就く者のうちの女性の割合。
(注)13 2024年度からは、健康経営に係る指標は「喫煙率」ではなく「プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム」にてモニタリングします。プレゼンティーイズムとは、出勤はしているが、何らかの疾患や症状によって業務遂行能力や労働生産性が低下している状態、アブセンティーイズムとは、心身の不調により連続して休務をしている状態をいいます。それぞれ低値の方がより良い状態です。
(注)14 2024年度からは、差別・ハラスメントの防止に係る指標は「ハラスメント相談窓口への相談件数」ではなく「人権関係教育参加人数」にてモニタリングします。
(注)15 「企業倫理・法令遵守」を「コンプライアンス」に文言統一。
(注)16 東北電力株式会社及び東北電力ネットワーク株式会社が主催又は共催した活動(グループ企業の参加を含む)の実績値。
(2) 気候変動対応(TCFD※提言への取り組み)
[ガバナンス]
当社は取締役会において、気候関連リスクと機会の認知及び対応策の検討、目標の進捗状況のモニタリングと監督を通じて気候変動への対応を強化し、経営戦略に取り込んでいくことを意思決定しております。
社長執行役員はカーボンニュートラル推進会議及びサステナビリティ推進会議の議長を務めております。
カーボンニュートラル推進会議は、2050年カーボンニュートラルの達成に向けた戦略策定や施策立案、進捗管理の統括を担っております。
サステナビリティ推進会議は、マテリアリティへの取り組み全体の統括を担っており、当社企業グループのマテリアリティの1つとして「カーボンニュートラルへの挑戦」を特定し、指標・目標をモニタリングしております。この進捗状況については、サステナビリティ推進会議を経て、毎年取締役会に報告することとしております。
※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース
[リスク管理]
当社は、各業務執行部門が抽出し財務的な影響度を評価した全社の気候関連リスク及び機会を集約・一覧化し、各リスクへの対応の優先度を財務影響の度合いにより把握しております。経営上影響の大きな気候関連リスクについては、気候関連以外のリスクとあわせて統合リスク管理の枠組みにより、年2回取締役会に報告する仕組みを構築しております。
[戦略]
将来の気候関連リスク及び機会が与える財務上の影響を把握するため、当社はシナリオ分析を継続して行っております。シナリオ分析においては、リスク・機会のうち、当社事業への影響度が大きいものを抽出し、当社が想定したシナリオの中でどのリスク・機会が増大するか分析しております。
気候変動に関するシナリオとしては、温室効果ガス排出量を実質ゼロとすることを目指し政策や社会全体の行動様式が大きく変化し移行リスクの増大が想定される「1.5℃シナリオ」と現状を上回る追加の気候変動対策をとらず物理的リスクが大きくなる「4℃シナリオ」を選定し、中長期的な時間軸でシナリオ分析を行っております。
移行リスクの増大が想定される1.5℃シナリオにおいては、短中長期いずれの期間においても政治・政策的リスク(カーボンプライシング導入等)又は経済・市場的リスク(従来型電源の市場価格低下等)が想定され、これにより、炭素排出コストの負担がより大きくなることで、石炭などの化石燃料由来の火力発電の競争力が低下するリスクがあります。
中長期においては、熱効率の改善・電気自動車用蓄電池コストの低下など脱炭素技術が進展することが見込まれます。これに伴うリスクとしては、新規設備投資額の増加や省エネ技術が進展することによる電力需要の減少が挙げられます。
一方で、1.5℃シナリオにおいては、脱炭素製品・サービスの市場シェアの拡大や電化率の上昇などが当社にとっての事業機会と想定されます。
当社は、「再生可能エネルギーと原子力の最大限活用」、「火力電源の脱炭素化」、「電化とスマート社会実現」を柱とする「東北電力グループ“カーボンニュートラルチャレンジ2050”」のもと、技術開発の推進をはじめとする様々な取り組みにより、当社企業グループのCO2排出削減を加速化し、カーボンニュートラルに積極的に挑戦いたします。
物理的リスクの大きい4℃シナリオにおいては、気候変動の影響が顕著となり、気象災害の激甚化・降水パターンの変化が想定されます。
急性リスクとして気象災害の頻発化・激甚化による当社設備被害・供給支障の増加が想定されるため電力レジリエンスの重要性が高まります。また、慢性リスクとして降水パターンの変化による水力発電等への影響が想定されます。
当社は、頻発化・激甚化する気象災害に備え、設備の強靭化と復旧対応力を高め、電力レジリエンスの向上を図ってまいります。
[指標及び目標]
当社企業グループは、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて「1.再生可能エネルギーと原子力の最大限活用」、「2.火力電源の脱炭素化」、「3.電化とスマート社会実現」に取り組んでおります。
電気の脱炭素化と同時に、脱炭素電力を活用する電化領域や水素によるエネルギー利用領域の拡大に取り組み、事業活動及び社会全般の脱炭素化を目指してまいります。
■スコープ1、2の温室効果ガス排出量 (注)1、2
(単位:万t-CO2)
(注)1 数値は当社及び東北電力ネットワーク株式会社の合計値(「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(昭和54年法律第49号)及び「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10年法律第117号)に基づき算出)。
(注)2 2023年度実績は2024年9月頃に
■カーボンニュートラル達成に向けた取り組みの3つの柱
2050年カーボンニュートラルの達成に向け、2030年度のCO2排出量を2013年度比で半減させることを当面の目標とし、電力需給見通しや低・脱炭素化の進捗を的確にモニタリングしながら取り組みに反映させてまいります。
■2030年に向けた今後のCO2削減対策
(注)1 各対策のCO2削減効果は現時点で一定の仮定を置いて試算したものであり、今後の電力需要動向や脱炭素技術の開発動向、脱炭素技術導入・活用に係る国の制度動向等により変動する可能性があります。よって、進捗や見通しを踏まえて取り組みを継続的にチューニングしながら、目標達成の確度を高めていきます。
(注)2 図中のCO2排出量はGX-ETSにおける当社企業グループのCO2排出量。
2022年度の排出実績は3,989万t-CO2(2013年度比△20.9%)であり、最新の2023年度実績は2024年9月頃に
(3) 人的資本
[戦略]
当社企業グループが東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長していくためには、新たな価値を創造できる人財の強化と、事業戦略と人財戦略の連動性を高めることが重要であると考えております。この考えのもと、2021年度に中長期の事業ポートフォリオに基づく人財ポートフォリオを策定し、事業戦略の遂行に必要な人員数・スキルを可視化いたしました。また、データ分析・デジタルマーケティングといったデジタル関連、新規事業の立ち上げ・推進、VPP等次世代エネルギーサービス推進や再生可能エネルギー事業の開発・推進など、将来に向けて拡充が必要なスキルタイプについては、育成や採用などによる充足を計画的に行ってまいります。さらに、今後の事業戦略に合わせて、拡充する領域・スキルタイプを適宜見直してまいります。
採用の困難化や人財の流動性の高まりに的確に対応するため、採用体制の強化、プロフェッショナル人財・DX人財など今後の成長を担う人財育成の強化に加え、配置、評価・処遇といった人財マネジメントサイクルの実効性を高めてまいります。同時に、社員が働くうえで土台となる安全と健康、働きやすい職場環境づくりやダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進することで、従業員一人ひとりの「働きがい」、「働きやすさ」、「能力伸長」を高め、エンゲージメントの向上を図ってまいります。なお、当社及び東北電力ネットワーク株式会社の従業員のエンゲージメントレベルについては、定期的にエンゲージメントサーベイを実施・分析していくことで、今後の改善に向けた打ち手の検討等に活用してまいります。
こうした取り組みを通じて、多様な感性や価値観を持つ人財が組織とともに成長し活躍する企業文化・風土を醸成し、持続的な企業価値向上及び利益創出につなげてまいります。
■安全への取り組み
「労働安全」は「設備保安」とともに、当社企業グループが事業活動を行っていくうえでの基盤となります。当社企業グループの変わらぬ使命である低廉で品質の良い電気を安定してお客さまの元にお届けするために、お客さまの安全と地域の安全を確保することが、信頼獲得の第一歩と考えております。
全ての従業員並びに工事関係者が「より、そう、ちから。」を実践していくことで信頼され選択される企業グループを目指すとともに、「東北電力グループ安全・保安方針」のもと、何事にも優先して、「安全を大切にする企業グループ」としての企業文化の構築に取り組み、企業価値の向上を図ってまいります。
「東北電力グループ安全・保安方針」
当社及び東北電力ネットワーク株式会社は、「死亡災害ゼロ」、重大災害に直結する「感電・墜落災害ゼロ」を目標に掲げ、「東北電力グループ安全・保安方針」に基づいた行動の実践をさらに進め「相互啓発型」の安全文化の構築を目指し、安全活動に取り組んでまいります。
■健康経営に関する取り組み
当社及び東北電力ネットワーク株式会社では、疾病の予防及び改善に向けた早期対応の充実を図ることで「従業員一人ひとりが健康でイキイキと働く元気な会社」を目指し、社長執行役員を責任者とした体制のもと、2023年7月に社長執行役員による東北電力グループ「健康経営宣言」を公表し、健康経営を推進しております。
2024年度健康推進基本方針においては、「ヘルスリテラシーの向上」を従業員の健康維持・増進に向けた取り組みの土台に据えたうえで、「からだの健康」、「こころの健康」を柱として掲げ、従業員の健康維持・増進並びに健康経営の推進を図ってまいります。
■働き方に関する取り組み
当社及び東北電力ネットワーク株式会社は、自律的に最適な労働時間・場所を選択することで、業務に対する意欲・活力を生み出すことを目的としたフレックスタイム制度やテレワーク制度、仕事と育児が両立できる環境づくりを促進することを目的とした育児・介護のための休職・短時間勤務制度など、従業員一人ひとりが労働生産性の向上を図るとともに、「働きやすさや働きがい」を実感しながら働くことを可能とする制度の整備に取り組んでおります。
このような取り組みを通じて、多様な人財が活躍できる場の拡大とワーク・ライフ・バランスの実現を目指してまいります。
■人財の多様性確保に向けた取り組み
当社及び東北電力ネットワーク株式会社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)に基づく「一般事業主行動計画」のなかで女性管理職数の目標値を、また、さらなる中長期的な目標として、女性管理職比率の目標値を設定しております。
今後も、「仕事と家庭の両立支援」や「キャリア形成・活躍支援」に向けた取り組みを充実させることによって、多様な人財が活躍できる職場作りを進めていくとともに、DE&I推進に対する社員の意識変革を加速させ、管理職に占める女性割合の向上を目指してまいります。
当社及び東北電力ネットワーク株式会社、東北電力フレンドリー・パートナーズ株式会社は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律第123号)に基づく法定雇用率を遵守し、合理的配慮の考え方に立った職場環境の整備に努めております。引き続き、障がいのある従業員が働きがいを感じ活躍の場を広げられるよう取り組んでまいります。
[指標及び目標]
人的資本に関連する指標及び目標は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ共通 [指標及び目標]」のマテリアリティ「多様な人財がイキイキと働く職場作り」の指標及び目標をご覧ください。
当社企業グループの中核である電気事業は、電力の安定供給のために発電設備や流通設備、燃料の確保等が必要不可欠であり、設備の損傷や電源の長期停止といった設備リスクは、事業運営における重要なリスクとして認識しております。また、電気という日常生活、産業活動に不可欠なインフラを供給するという社会的使命を果たす電気事業は、国のエネルギー政策の動向や関連する制度措置の見直しといった規制リスクを有しており、事業環境における重要なリスクとして認識しております。加えて、電気事業における主要コストである火力燃料費は、原油などのCIF価格及び為替レートの変動の影響を大きく受けることなどから、市場リスクについても重要なリスクとして認識しております。
これらのリスクが顕在化した場合には、当社企業グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があると認識しており、当社企業グループでは、これらのリスクの低減に努めるとともに、発生した場合は、的確な対応に努めております。
以下では、当社企業グループの業績及び財政状態への影響が大きいリスクを取り上げておりますが、有価証券報告書提出日現在において、当社が判断したものであり、全てのリスクを網羅している訳ではありません。当社企業グループの事業は、現在は未知のリスク、あるいは現時点では重要と見做されていない他のリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。
なお、当社は、経営に重大な影響を及ぼすおそれのあるリスクについて、社長執行役員を議長とする統合リスクマネジメント会議を設置し、統合リスク管理方針を定め、モニタリング・リスクマネジメントを行うとともに、各部門は定期的に事業活動に係るリスクの抽出・評価を行い、その対策等を毎年度策定する事業計画に織り込み、管理サイクルの中でリスク管理を実践しております。
[リスク管理体制図]
(1)設備リスク等の事業運営におけるリスク
a.自然災害及び設備事故の発生による影響
(2)規制リスク等の事業運営におけるリスク
a.電気事業を取り巻く制度変更等による影響
b.原子力発電を取り巻く制度変更等による影響
c.原子力のバックエンド事業等のコストの変動による影響
d.気候変動に関するリスク
(3)価格変動等の市場リスク
a.需要及び販売価格の変動による影響
b.燃料費、購入電力料の変動による影響
c.金利の変動による影響
d.退職給付費用・債務の変動による影響
(4)その他のリスク
a.情報流出による影響
b.コンプライアンスに反した行為による影響
c.新型感染症拡大による影響
d.電気事業以外のリスク
以下に記載の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)事業の経過
① 企業グループを取り巻く経営環境
2023年度のわが国経済は、緩やかに回復しているものの、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があり、東北地域経済においても同様の状況にあります。
近年、電力業界においては、新型コロナウイルス感染症による価値観の変容、カーボンニュートラル実現と社会変革を見据えたGXの潮流加速、ウクライナ危機に伴うサプライチェーンの分断や燃料・電力取引に係る市場価格の変動拡大など、振れ幅が大きく先を見通すことが困難な事業環境が継続しております。
このような中、当社においては、2021年度以降の2年連続赤字により毀損した財務体質の早急な改善とともに、リスク耐性の強い経営基盤作りが求められております。このため、東北電力グループスローガン「より、そう、ちから。」のもと、電力供給事業の構造改革とスマート社会実現事業の早期収益化に向け、企業グループをあげて様々な取り組みを展開してまいりました。
② 電力供給事業の取り組み
基盤事業である電力供給事業については、収入と費用の両面から、2023年度の黒字必達に向け、全社をあげて取り組んでまいりました。
費用面については、経営全般にわたる徹底的な効率化に努めてまいりました。具体的には、燃料費の低減に向けて、燃料調達における市場の構造変化をとらえた価格体系の多様化や調達先の分散化、デリバティブ取引の活用など、調達ポートフォリオ全体の最適化を推進してまいりました。
収入面では、昨年6月に小売規制料金の値上げを実施し、再生可能エネルギーの導入拡大などによる需給構造の変化や、燃料・電力取引に係る市場価格の高騰などの影響を電気料金に反映しました。
一方で、お客さまのご負担軽減につながるよう、電気の効率的なご利用方法などのご提案に取り組んでまいりました。
具体的には、節電達成度合いに応じて特典を進呈する、夏・冬の節電アクションに加え、法人分野では、節電のコンサルティングや自家消費型太陽光オンサイトサービスなどの提案を、家庭用分野では、ヒートポンプ機器への買い替え費用の一部を補助するエコ替えキャンペーンなどを実施してまいりました。
東北電力ネットワーク株式会社では、自衛隊や東日本高速道路株式会社との道路寸断を想定した復旧作業訓練など、関係機関と連携のうえ様々な状況を想定した訓練を実施し、激甚化する自然災害への対応力強化に向けて取り組んでまいりました。本年1月に発生した「令和6年能登半島地震」では、新潟県内において延べ約7千戸の停電が発生しましたが、企業グループをあげて対応した結果、翌日には復旧することができました。また、被災した北陸地域への支援として当社と東北電力ネットワーク株式会社の一体体制による「能登半島地震復旧支援本部」を設置し、1ヵ月にわたる応援派遣を行いました。東日本大震災で多くのみなさまからいただいたご支援に対する恩返しの一心で、懸命に復旧作業等を進め、北陸地域の復旧の一翼を担いました。
③ スマート社会実現事業の取り組み
スマート社会実現事業については、「電気+サービス」と「次世代エネルギーサービス」を中心に事業化を進めてまいりました。
「電気+サービス」では、これまでご愛顧いただいている「すまい安心サポート」や、昨年11月に提供を開始した「東北電力のハウスクリーニング」をはじめとした、安全・安心なくらしの実現や、お客さまのくらしを彩る様々なサービス・商品を、東北電力フロンティア株式会社と一体となって提案しており、サービス全体で8万件を超えるご契約をいただいております。
「次世代エネルギーサービス」では、昨年4月、東北電力ソーラーeチャージ株式会社において、初期投資が不要な太陽光発電サービスである「あおぞらカーポート」の受付を開始しました。本年2月には、使用電力の脱炭素化を志向するお客さまからの要望を踏まえて、東北エリア初である、固定価格買取が終了した風力発電所を有効活用したオフサイト型コーポレートPPAサービスを導入しました。
引き続き、東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献すべく、東北電力グループならではの価値をお客さまや地域のみなさまにご提供してまいります。
④ 新電力のお客さま情報等の不適切な取り扱い
東北電力ネットワーク株式会社が管理する当社以外の小売電気事業者のお客さま情報を、当社従業員などが閲覧していた事案等が確認され、昨年4月に、当社及び東北電力ネットワーク株式会社に対し、電力・ガス取引監視等委員会等からの業務改善勧告等がなされました。
これを受け、両社は、ハード・ソフト面の再発防止対策を着実に実行しているほか、社内のモニタリング体制強化に加え、外部の専門家をはじめとした評価も取り入れながら、二度と同様の事案を発生させないよう、引き続き再発防止の徹底に努めてまいります。
[発電・販売事業]
⑤ 発電事業における競争力強化の徹底
急激な燃料価格変動リスクに対応し、発電事業の競争力強化を図るため、特に収支影響が大きい燃料調達コスト低減に向けて、長期・短期・スポットなどを組み合わせたLNG調達方法を多様化するとともに、低品位炭の調達拡大等を進めてまいりました。
また、火力電源において、経年化した電源については休廃止を行う一方で、東新潟火力発電所第1号機及び第2号機については、よりCO2排出量の少ない高効率発電設備へのリプレースを検討するため、環境影響評価を開始するなど、電源の新陳代謝を図りながら、お客さまの電力需要に応じつつ、環境性及び競争力の確保を図ってまいりました。
加えて、戦略子会社である東北電力エナジートレーディング株式会社と連携のうえ、EEX(欧州エネルギー取引所)の電力先物に業界内でも先行的に参画し、昨年6月に新規上場された日次先物商品においても積極的に取引を行うなど、トレーディングを活用しながら燃料調達・発電・卸売のバリューチェーン全体で収益の拡大を図ってまいりました。
⑥ 原子力発電所の再稼働に向けた取り組み
原子力発電については、新規制基準への適合にとどまらず、より高いレベルでの安全確保に向けて最新の知見も取り入れながら、設備面と運用面の両面からさらなる安全性の向上に取り組んでまいりました。
東日本大震災で被害を受けた女川原子力発電所第2号機の再稼働は、当社の歴史に残る一大プロジェクトと認識しております。引き続き、安全確保を最優先に、本年9月頃の再稼働に向けて、地域のみなさまからのご理解をいただきながら、一つ一つの取り組みを着実に進めてまいります。
東通原子力発電所第1号機については、基準地震動や基準津波について概ね妥当と評価されるなど、審査は着実に進捗しており、今後の審査や安全対策工事につきましても適切に対応してまいります。
⑦ 再生可能エネルギーに関する取り組み
再生可能エネルギーについては、風力発電を主軸に200万kWの開発を目指し、当社が参画したグリーンパワー深浦風力発電所(青森県)が本年2月に新たに運転を開始いたしました。加えて、新たに3件の開発に取り組んでおり、北海道枝幸郡中頓別町における風力発電事業に参画したほか、当社が参画する事業体が、秋田県における2件の洋上風力発電事業(男鹿市・潟上市・秋田市沖及び八峰町・能代市沖)の選定事業者となりました。開発案件が事業化された場合の持分出力の累計は、2023年度末時点で約80万kWとなっております。引き続き、地域に豊富に賦存する再生可能エネルギーの開発に取り組んでまいります。
一方で、再生可能エネルギー導入の課題となっている発電量の変動に対応する調整力確保などの解決に向け、系統用蓄電池事業に参入することといたしました。具体的には、みずほリース株式会社と共同出資した坂東蓄電所1号合同会社において、埼玉県及び群馬県に系統用蓄電池を設置し、2025年6月までの運用開始を目指してまいります。
⑧ 電力小売を切り口としたサービス開発の強化
当社は、これまで70年以上の電気事業で培ってきた顧客基盤と「地域との絆」を強みとしながら、電力小売を切り口とする付加価値の高いサービスを開発しております。具体的には、個人のお客さまに対して、安全・安心につながる、くらしによりそうサービスとして、新たに庭の草刈り・剪定や害虫獣駆除などの提供を開始しました。
また、法人のお客さま向けには、昨年8月にビジネスマッチングサービス「東北電力Biz Sync(ビズシンク)」の提供を開始しました。本サービスでは、お客さまが抱える省エネ・節電やSDGs・脱炭素等の様々な分野の課題に対し、当社やビジネスパートナーとなる企業から様々なソリューションを提案しております。
[送配電事業]
⑨ 電力の安定供給に向けた取り組み
東北電力ネットワーク株式会社は、「電気を安定的に地域のみなさまにお届けする」という使命を果たすため、レジリエンス強化を目指し設備面と運用面の両面から取り組んでまいりました。
設備面については、リスク評価を踏まえた高経年化設備等の計画的な更新を進めるとともに、激甚化する災害に備えた変電所浸水対策や無電柱化などの取り組みを進めております。
運用面については、総合技能大会の訓練等を通じて災害対応力の維持・強化や技術力継承に取り組んでおります。本年1月に発生した「令和6年能登半島地震」での応援隊の派遣による復旧作業の経験を踏まえ、今後、半島部固有の停電復旧への制約などの課題を整理することにより、東北電力ネットワーク株式会社管内における半島部等での迅速な対応に備えてまいります。
また、昨年4月には、配電設備の効率的な維持・管理に向け、電柱をはじめとする配電設備の写真を地域のみなさまから収集いただき、収集した写真を確認することで、東北電力ネットワーク株式会社の巡視点検業務への代替可能性を検証する実証試験を開始いたしました。
⑩ 再生可能エネルギーの導入拡大に向けた取り組み
再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、東北・東京エリア間の50万ボルト送電線を2ルート化し、送電容量の拡大を図るなど基幹系統の整備・拡充に係る工事を計画的に進めております。佐渡島においては、太陽光と蓄電池、内燃力発電、エネルギーマネジメントシステムを組み合わせた最適な需給制御の実現に向けた取り組みを進めております。
また、再エネ発電量の予測精度向上への取り組みやオンライン出力制御の推奨による再エネ抑制量の低減を進めてまいりました。
これらの取り組みを通じさらなる再生可能エネルギーの導入拡大を目指してまいります。
⑪ 徹底的なコスト削減
経営環境の変化に対応するとともに、レベニューキャップ制度のもとで掲げた事業計画を達成するため、全社が一丸となって、徹底的な効率化・コスト削減に取り組んでまいりました。具体的には、社長を議長とする「効率化推進会議」及びCKO(チーフ・カイゼン・オフィサー)を委員長とする「カイゼン推進委員会」のもと、既存業務の見直しや全社への施策の水平展開により効率化を進めております。
(2)経営成績の分析
当連結会計年度の販売電力量の状況については、当社において、前連結会計年度に比べて夏季の気温が高かったことにより冷房需要が増加したものの、産業用のお客さまの稼動減や節電の影響などから、販売電力量(小売)が減少するとともに、販売電力量(卸売)が減少したことなどから、販売電力量(全体)は、792億kWh(前年度比 3.2%減)となりました。
売上高は、高圧以上のお客さまなどの電気料金見直しによる増加などがあったものの、燃料価格の低下による燃料費調整額の減少や卸電力取引市場価格の低下に伴う他社販売電力料の減少などにより、2兆8,178億円となり、前連結会計年度に比べ、1,893億円(6.3%)の減収となりました。
経常利益については、燃料費調整制度のタイムラグ影響が利益を大きく押し上げたことや、電気料金見直しに加え、高効率の上越火力発電所通年運転による燃料費抑制など効率化の取り組みにより、前連結会計年度に比べ、4,912億円増加し、2,919億円となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ、3,536億円増加し、2,261億円となりました。
また、当連結会計年度における連結キャッシュ利益※は4,203億円となりました。
※東北電力グループ中長期ビジョン「よりそうnext」において「連結キャッシュ利益」を財務目標として設定しております。(2024年度に3,200億円以上を目標)
「連結キャッシュ利益」= 営業利益+減価償却費+核燃料減損額+持分法投資損益
(営業利益は、燃料費調整制度のタイムラグ影響を除く。)
なお、東北電力グループ中長期ビジョンにおける今後の経営展開「よりそうnext+PLUS」において、財務基盤の早期回復及び「利益・投資・成長」の好循環の形成を目指すための定量的な目標として、以下のとおり財務目標を新たに設定しております。
※目標達成時の連結ROEは8%以上
当連結会計年度におけるセグメントの業績(セグメント間の内部取引消去前)は次のとおりであります。
[発電・販売事業]
当社の販売電力量(小売)は、前連結会計年度に比べ夏季の気温が高かったことにより冷房需要が増加したものの、産業用のお客さまの稼動減や節電の影響などから、2.7%減の641億kWhとなりました。このうち、電灯需要は、1.1%減の197億kWh、電力需要は、3.4%減の444億kWhとなりました。また、販売電力量(卸売)は、東北6県及び新潟県以外への卸売が減少したことなどから、5.0%減の151億kWhとなりました。
この結果、当社の販売電力量(全体)は、3.2%減の792億kWhとなりました。
これに対応する供給については、引き続き原子力発電所の運転停止継続や渇水による供給力の減少があったものの、火力発電所の稼働増などにより安定的に確保しました。
売上高は、高圧以上のお客さまなどの電気料金見直しによる増加などがあったものの、卸電力取引市場価格の低下に伴う他社販売電力料の減少などにより、2兆2,810億円となり、前連結会計年度に比べ、332億円(1.4%)の減収となりました。
経常利益は、燃料価格の低下による燃料費調整制度のタイムラグ影響が利益を大きく押し上げたことに加え、電気料金見直しなどにより、前連結会計年度に比べ、4,386億円増加し、2,202億円となりました。
[送配電事業]
当連結会計年度のエリア電力需要は、省エネ・節電の影響や産業用における生産動向などから、2.1%減の754億kWhとなりました。
売上高は、再生可能エネルギー電気卸供給の減少などにより、8,580億円となり、前連結会計年度に比べ、2,668億円(23.7%)の減収となりました。
経常利益は、需給調整市場取引での調達費用の減少などにより、607億円となり、前連結会計年度に比べ、493億円(433.0%)の増益となりました。
[建設業]
売上高は、空調管工事や配電・送電工事が増加したことなどから、3,217億円となり、前連結会計年度に比べ、182億円(6.0%)の増収となりました。
これにより、経常利益は、146億円となり、前連結会計年度に比べ、14億円(11.3%)の増益となりました。
[その他]
売上高は、ガス事業における取引量及び単価が減少したことなどから、2,434億円となり、前連結会計年度に比べ、27億円(1.1%)の減収となりました。
これにより、経常利益は、128億円となり、前連結会計年度に比べ、9億円(6.8%)の減益となりました。
(3) 財政状態の分析
資産は、女川原子力発電所第2号機の安全対策工事などにより建設仮勘定が増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ、1,768億円(3.4%)増加し、5兆3,887億円となりました。
負債は、社債の償還等により、有利子負債残高が、前連結会計年度末に比べ846億円(2.5%)減少し、3兆2,909億円となったことなどから、負債総額は、前連結会計年度末に比べ、1,031億円(2.3%)減少し、4兆4,776億円となりました。
純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上により利益剰余金が増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ、2,799億円(44.4%)増加し、9,110億円となりました。
これにより、自己資本比率は前連結会計年度末に比べ4.9ポイント上昇し、15.4%となりました。
(4) キャッシュ・フローの状況の分析
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
電気料金見直しによる収入増加に加え、電力調達支出が減少したことなどから、前連結会計年度の支出から収入に転じ、4,501億円の収入(前連結会計年度は937億円の支出)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
女川原子力発電所第2号機の安全対策工事などによる固定資産の取得支出が増加したことなどから、前連結会計年度に比べ支出が577億円(20.9%)増加し、3,335億円の支出となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
社債の発行による収入が減少したことなどから、前連結会計年度の収入から支出に転じ、960億円の支出(前連結会計年度は5,984億円の収入)となりました。
この結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末残高に比べ214億円(4.2%)増の5,293億円となりました。
フリー・キャッシュ・フロー※は前連結会計年度に比べ4,921億円増の1,396億円となりました。
※ フリー・キャッシュ・フロー
<算出方法>
営業活動によるキャッシュ・フロー + 投資活動によるキャッシュ・フロー - 利息及び配当金の受取額
- 利息の支払額
(単位:億円)
また、キャッシュ・フロー指標の変動は次のとおりであります。
(注) 1 キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー
2 インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/利息の支払額
3 前連結会計年度においては、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスのため記載しておりません。
(資本の財源及び資金の流動性に係る情報)
① 資金調達方針並びに状況
当社は、電気事業における安定供給に必要な設備投資、社債などの償還資金への充当及び東北電力グループ中長期ビジョンに掲げた再生可能エネルギー事業、スマート社会実現事業への投資などの資金需要に対し、資金調達環境の動向や有利子負債、現金及び現金同等物の適正な保有額を総合的に勘案し、社債の発行及び、金融機関からの借入金等を組み合わせて安定的に資金を調達しております。
一般担保付社債については、当連結会計年度において、総額950億円発行しております。これらは、株式会社格付投資情報センター(R&I)よりA+、株式会社日本格付研究所(JCR)よりAAの長期債格付を取得しております。なお、当社は、2020年3月27日に「電気事業法等の一部を改正する等の法律(平成27年法律第47号)」(平成27年6月成立)に基づき、経済産業大臣の認定のもと、2020年度から5年間に限り、一般担保付社債の発行が可能となる経過措置を受けております。
また、「東北電力グループ“カーボンニュートラルチャレンジ2050”」の実現に向けた取り組みを一層加速していくため、グリーン/トランジション・ファイナンスを実施するなど、持続可能な社会の実現に向けたカーボンニュートラルへの積極的な挑戦を資金調達面から支えるとともに、さらなる資金調達の多様性や安定性の確保に努めております。
上記による資金調達の結果、当連結会計年度末の社債発行残高及び借入金残高はそれぞれ1兆6,707億円、1兆6,202億円となっております。
短期的な資金需要に対しては、機動的なつなぎ資金調達の手段としてコマーシャル・ペーパーなどを活用しております。コマーシャル・ペーパーは、株式会社格付投資情報センター(R&I)よりa-1の短期債格付を取得しており、当連結会計年度は3,000億円の発行限度枠を設定しております。
② 資金の流動性に係る情報
当社は、月次での資金計画などにより、資金需要を的確に把握することに努めるとともに、金融機関との間に当座貸越契約及びコミットメントライン契約を締結していることから、電力需要の変動などに伴い、営業活動によるキャッシュ・フローが減少した場合でも、必要に応じて極度枠の範囲内で速やかに資金調達ができる体制を整えることにより、充分な流動性を確保しております。
(5)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社企業グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載されているとおりであります。
当社企業グループは、固定資産の減損、繰延税金資産、貸倒引当金、退職給付に係る負債及び資産、資産除去債務などに関して、過去の実績や当該取引の状況に照らして、合理的と考えられる見積り及び判断を行い、その結果を資産・負債の帳簿価額及び収益・費用の金額に反映して連結財務諸表を作成しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載されているとおりであります。
(6) 生産、受注及び販売の実績
当社企業グループ(当社及び連結子会社)の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であるため「生産実績」を定義することが困難であります。また、建設業においては請負形態をとっており、「販売実績」という定義は実態にそぐわないため、生産、受注及び販売の実績については、記載可能な情報を「(2)経営成績の分析」においてセグメントの業績に関連付けて記載しております。
なお、当社個別の事業の状況は次のとおりであります。
(注) 1 停止中発電所の所内電力量は、自社事業用電力量として、販売実績に記載しております。
2 融通・他社受電電力量には、連結子会社からの受電電力量(東北電力ネットワーク㈱ 6,240百万kWh、酒田共同火力発電㈱ 3,688百万kWh、東北自然エネルギー㈱ 455百万kWh 他)、送電電力量(東北電力ネットワーク㈱ 5,830百万kWh 他)を含んでおります。
3 融通・他社受電電力量の上段は受電電力量、下段は送電電力量を示しております。
4 揚水発電所の揚水用電力量等とは貯水池運営のため揚水用に使用する電力量及び自己託送の電力量であります。
5 出水率は、1992年度から2021年度までの30ヶ年平均に対する比であります。
6 個々の数値の合計と合計欄の数値は、四捨五入の関係で一致しない場合があります。
(注) 1 停止中発電所の所内電力量は、自社事業用電力量として、販売実績に記載しております。
2 小売には自社事業用電力量(29百万kWh)を含んでおります。
3 卸売には特定融通等を含んでおります。
4 個々の数値の合計と合計欄の数値は、四捨五入の関係で一致しない場合があります。
当連結会計年度において、経営上の重要な契約等の決定又は締結等はありません。
当社企業グループ(当社及び連結子会社)は、当連結会計年度における研究開発について、「東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループ」を2030年代のありたい姿とする東北電力グループ中長期ビジョン「よりそうnext」等に基づき実施しております。
現在、研究開発は、当社の研究開発センター及び各連結子会社の設計・開発担当部門などにより推進されており、当連結会計年度における当社及び連結子会社の研究開発費は
[発電・販売事業][送配電事業]
電力の研究開発は、基盤事業を支える電力の安定供給に資する研究開発へ着実に取り組むとともに、「カーボンニュートラルチャレンジ推進に資する研究開発」、「スマート社会実現・新たな収益源の創出に資する研究開発」、「電力スマート保安・レジリエンスへの着実な取組に資する研究開発」を重点領域に据えて取り組んでおります。
(1) カーボンニュートラルチャレンジ推進に資する研究開発
火力発電所におけるブラックペレットや水素/アンモニアの混焼に関する研究、浮体式洋上風力発電に関する研究、HVDC接続による系統影響及び系統安定化活用に関する研究 など
(2) スマート社会実現・新たな収益源の創出に資する研究開発
スマートメーター通信網等の活用による事業創出に関する研究、太陽光発電の導入拡大対策に関する研究、モビリティ事業に関する研究 など
(3) 電力スマート保安・レジリエンスへの着実な取組に資する研究開発
火力発電所保守・運転・運用のデジタル化に関する研究、レジリエンス強化に向けた新技術導入に関する研究、ドローン撮影画像を用いた鉄塔劣化診断に関する研究 など
[建設業]
(1) 安全確保と品質向上に関する技術開発
作業負担軽減と安全性の向上を目的とした、圧縮作業における小型の無線式スイッチの開発、500kV用導電性ラインマンスーツの開発及びTV共聴用光ドロップケーブル掴線器の開発 など
[その他]
(1) 高機能光部品の商品開発
高速光通信市場、光センシング市場及びレーザー市場向け製品開発 など
(2) 売上拡大に向けた研究開発
転送遮断装置の開発に関する研究や、配電子局の維持開発及び常時励磁方式開閉器制御用子局(光通信方式)の開発 など
(3) 新たなサービス提供に向けた研究開発
スマートグリッドにおける国際標準規格向けアダプタの開発や、IOTプラットフォームをベースにした改良型設備監視システムの調査研究 など