タケダの企業理念と「私たちの約束」
当社の企業理念は、当社が誰であるか、何を行うか、どのように行うか、なぜそれが重要なのかというタケダの豊かなストーリーを伝えています。当社は、240年以上前の創業から現在に至るまで、社会にも役立つ誠実さで患者さんに貢献しています。
データ、デジタルおよびテクノロジー(DD&T)の力を活用し、「Patient」(すべての患者さんのために)、「People」(ともに働く仲間のために)、「Planet」(いのちを育む地球のために)に取り組む「私たちの約束」は、「私たちの価値観」(バリュー)に基づき、「私たちが目指す未来」(ビジョン)と「私たちの存在意義」(パーパス)を実現するために果たすべきことを示しています。
私たちの存在意義(パーパス)
「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」
私たちが目指す未来(ビジョン)
当社のビジョンは、「すべての患者さんのために、ともに働く仲間のために、いのちを育む地球のために。私たちはこの約束を胸に、革新的な医薬品を創出し続けること」です。
私たちの価値観(バリュー):タケダイズム
タケダイズムとは、まず誠実であること。それは公正・正直・不屈の精神で支えられた、当社が大切にしている価値観です。当社は、これを道しるべとしながら「1.患者さんに寄り添い(Patient)、2.人々と信頼関係を築き(Trust)、3.社会的評価を向上させ(Reputation)、4.事業を発展させる(Business)」を日々の行動指針とします。
私たちの約束(インペラティブ)
当社には、患者さん、ともに働く仲間、そして地域社会に対して果たすべき責任があります。この「私たちの約束」は「私たちの存在意義」と「私たちが目指す未来」を実現するために欠かせない要素です。
すべての患者さんのために
・私たちは、倫理観をもってサイエンスの革新性を追求します。そして、人々の暮らしを豊かにする医薬品の創出に取り組みます。また、私たちの医薬品を、より多くの人々に迅速にお届けします。
ともに働く仲間のために
・私たちは、理想的な働き方を実現します。
いのちを育む地球のために
・私たちは、自然環境の保全に寄与します。
データとデジタルの力で、イノベーションを起こします
・データを活用して導き出された成果をもとに、もっとも信頼されるバイオ医薬品企業として、これからも変革し続けます。
当社は、サイエンスに基づき、最も信頼されるデジタルバイオ医薬品企業として、変革し続けることを目指しています。当社は、中核とする事業を通じて、患者さん、株主、社会に対して長期的な価値を提供するとともに、ともに働く仲間や地域コミュニティ、さらには地球に対して良い影響を与えることができるように努めています。
事業環境
当社は、当社のビジョンを実現するため、地政学的な不確実性、高騰するヘルスケアに対する支出、急速な技術革新といった課題を克服しなければならないと考えています。
世界経済の先行きは、ウクライナや中東における紛争や、中国と米国やヨーロッパ、その他諸外国との間の地政学的な緊張が続いており不透明さが残る中、リスクは一段と高まっていると考えています。当社は、グローバル企業として、常に変化する経済環境とそれに伴うリスクに注意を払い、事業戦略を適応させる必要があります。
当社を取り巻く事業環境は、各国政府のヘルスケア政策にも影響を受けます。近年においては医療イノベーションによる成果が現れてきているものの、高齢化や生活スタイルの変化、複合疾患に対するより高度で先進的な治療法の利用等によってヘルスケアに対する支出額は数十年間、先進国の国内総生産や国内総所得を上回る速度で増加してきました。このため、保険者は保険償還対象となる医薬品をより厳格に選定するようになりました。各国政府は後発品やバイオシミラーの使用を促進し、薬価引き下げの圧力を強めています。米国のインフレ抑制法の導入は、医療費の予測可能性の向上等、メディケア受給者に利点をもたらした一方、政府によるかつてない薬価設定制度の設立は、製薬企業による米国内における研究開発投資を減速させる可能性があります。さらに、医療アクセスの格差が拡大していることから、医療の公平性に対処するための医療アクセスの改善や政策の必要性が高まっています。当社は、現在主流の「出来高払いの診療報酬モデル」から、成果に基づく支払と品質の確保を目指す「価値に基づく保険医療モデル」への移行により、保険給付対象の拡大と公平性を改善しながらも、医療費の増加ペースを抑えることができると考えています。
当社はまた、急速な技術革新も事業計画に戦略的に取り入れる必要があると考えています。世界の製薬産業におけるイノベーションのスピードは、がん免疫療法、細胞療法、遺伝子治療等の医療技術によって加速し続けており、最近の人工知能(AI)の急速な普及によってさらに促進されています。疾患や治療の管理を行うためのAIを活用したイノベーションの開発は非常に大きな可能性を有しており、製薬産業に革新をもたらすと考えています。
このような課題やその他さまざまな要因が事業環境に影響を与える状況において、当社の患者さんへのコミットメントと、患者さんをサポートするための取り組みは、これまで以上に重要になっています。
Patient(すべての患者さんのために)
当社は、人生を変え得る科学の力を追求し、希少疾患とより有病率が高い疾患の両方における最も高いアンメット・メディカル・ニーズに対して集中的に取り組んでいます。当社の研究開発プログラムは、ヒトにおけるバリデーションがなされたターゲットに基づき、多様なモダリティ(創薬手法)を網羅するものです。当社は、パイプラインの開発加速から、製造工程における品質と効率性の向上、医療従事者や患者さんの対応に至るまで、DD&Tを幅広く活用しています。
当社は、患者さんをサポートするため、事業活動にAIを活用する取り組みを増やしています。例としては、マサチューセッツ工科大学との共同プロジェクトにおいて、ファブリー病などの希少疾患の診断を加速するためにAIを活用する取り組みがあります。また、AIプラットフォームを使用した医師との関わり方の個別化、臨床試験を多様化しデータ収集を改善することなどもあります。当社は、AIに係る将来の規制環境を予測しながら、倫理的な方法で使用することにも意識を向けています。当社は、患者さんが疾患や治療を管理するためのAIを活用したイノベーションには非常に大きな可能性があると考えています。
2023年度には、転移性大腸がん治療剤のFRUZAQLA、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)治療剤のアジンマ、および好酸球性食道炎治療剤のEOHILIAの3つの新規化合物を含め、9つの承認を米国食品医薬品局(FDA)から取得しました。主要な研究開発活動の内容および進捗の詳細については、「6 研究開発活動」をご参照ください。
タケダの成長製品・新製品は引き続き好調に推移しています。当社の売上トップ製品であるENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)は、中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎およびクローン病の維持療法に使用する皮下注射製剤を米国において上市し、患者さんに治療の柔軟性や選択肢を提供することができるようになりました。
また、デング熱ワクチンQDENGAのグローバル展開にも注力しています。QDENGAは1年以上前に最初に上市されてから、本ワクチンの需要が最も高い多くの流行国を含め、世界20カ国以上で接種できるようになりました。2023年には、デング熱の症例が世界的に急増し、これまで影響を受けていなかった地域にも広がりました。当社は現在、生産拡大とともに、デング熱感染率の上昇に対抗するためQDENGAを必要とする世界中のコミュニティと連携することに取り組んでいます。
当社は、2030年までに年間1億回接種分のQDENGAの供給目標を達成するため、インドのBiological E社と提携契約を締結しました。同社は、年間最大5,000万回接種分を製造する予定です。本契約は、ドイツのジンゲンにある当社の工場とIDT Biologika GmbH社との長期提携による既存のワクチン製造能力に加えての提携になります。
People(ともに働く仲間のために)
当社は、科学技術がどれほど進歩しても、意義のある変革をもたらすことができるのは「人」の力であることを認識しています。当社は、多様性、公平性、包括性(DE&I)に係る取り組みを通じてインクルーシブな職場環境を整備し、生涯学習と人材育成やキャリアアップを推進し価値に基づく企業文化を醸成し、従業員の心身の健康維持(ウェルビーイング)を優先することで、患者さんやコミュニティに人生を変え得る医薬品やワクチンをお届けすることを目指しています。
当社には、80を超える国と地域でさまざまな経歴や経験を持つ人々が集まっています。当社では、多様性を受け入れるとともに、患者さんや従業員に公平な機会を提供できるよう努めています。当社は、DE&Iへの投資を拡大しており、グローバルDE&Iカウンシルにおいては、戦略的な方向性の策定、関係構築、グローバル規模での健康格差や不平等に対処するための取り組み支援に重点を置いています。
生涯学習やキャリアアップは従業員のやる気や専門性を高め、新しい発想につながり、結果的に患者さんへの価値創造につながります。当社は、従業員のスキルアップやケイパビリティを開発し、持続的な成長に向けて、機動的で柔軟な組織を構築しています。当社のAIを活用した新たなプラットフォームであるCareer Navigatorは、従業員が個人の能力の最高に到達できるよう、個人の経験や能力にあった社内ポジションを提案し、メンター制度や学習の機会を提供しています。さらに当社では、現在の製薬業界に影響をもたらしている急速な技術発展を活用するとともに、ヘルスケアの未来に貢献できる従業員のデジタルスキルの強化に努めています。
当社は、職場環境を改善する取り組みの一環として、当社オフィスを従業員のウェルビーイングと学びを中心とした「タケダ・コミュニティスペース」に変革しました。これらの空間は対面での交流を最大化するために設計されており、持続可能な環境において人々が集中し、協力し、より密接につながることができるものとなっています。また、当社は行動保健プラットフォームであるThriveと提携し、従業員の全体的なウェルビーイングの改善、精神的回復力の構築、生産性の向上を支援しています。これらは、ウェルビーイングを促進し業績を向上させ、柔軟性を受け入れて定期的な対面での交流の価値を重視することにつながるなど、従業員の理想的な働き方の実現を支援する取り組みです。
Planet(いのちを育む地球のために)
気候変動が及ぼす現実的な課題は、今やすべてのビジネスの意思決定プロセスにおいて考慮しなければならない事項になっています。公衆衛生は気候変動が及ぼす影響と密接に関連しており、気温の上昇に伴い広がる感染症や影響を受ける地域の患者さんの医療アクセスに関連する課題が生じます。
当社は、気候変動や環境汚染が人々の健康に影響を及ぼすことを認識しており、環境課題に対する高い意識を持って積極的に取り組んでいます。「私たちの存在意義」(パーパス)を実現するためには、人々の健康には健全な地球環境が必要であり、人々の健康に貢献するだけでは充分ではないと考えています。当社では、環境負荷を低減するためにクリーンエネルギーを優先的に使用するだけでなく、ネットゼロの達成およびバリューチェーン全体で温室効果ガス排出を無くすべく取り組んでいます。当社は、2022年度まで、カーボンニュートラルを維持してきましたが、2024年度からは気候変動対策の指標としてのカーボンニュートラルからの転換を行い、ネットゼロのロードマップを進めるための取り組みにリソースを集中させるとともに、バリューチェーンを超えた自然の力を活かしたカーボン除去プロジェクトへの投資を継続していきます。具体的には、Science Based Targets initiative(SBTi)企業ネットゼロ基準に従ったネットゼロの達成(2035年までに当社の事業活動における温室効果ガス排出量を、2040年までにバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量をネットゼロ)、天然資源の保全、サステナビリティ原則を念頭に置いた製品の設計に注力していきます。
当社における温室効果ガス排出量の削減目標に向けた進捗は顕著であり、幾つかの製品に関しては環境サステナビリティ改善計画を策定しました。例えば、日本においてCMYKインク(シアン(青)、マゼンタ(赤)、イエロー(黄)、キー・プレート(黒))印刷を先駆けて採用し、本取り組みをグローバルに展開していく予定です。特色インク印刷からの切り替えにより、サプライヤーにおける未使用インクの廃棄量を削減し、印刷機の洗浄に必要な溶剤の使用量や異なる包装間の切り替え時に発生する廃棄物の量も削減されることが期待されています。さらに、製品の二次包装の53%は、森林管理協議会(FSC)認証またはリサイクルコンテンツ認証された紙または板紙で作られています。
2023年10月、当社は、オーストリアのリンツに温室効果ガス排出量ゼロの施設として運営される初めての血漿収集センターを開設したことを公表しました。また、オーストリアの最大の製造拠点であるウィーンにおいては、画期的なヒートポンプシステムを導入し、本システムが設置された製造エリアにおける温室効果ガス排出量は最大90%削減されることになります。
DD&Tは、当社の環境への取り組みを支える重要な要素でもあります。大阪工場では、水使用の各箇所にセンサーやモニターを設置、データを解析して水の使用量を最適化する方法を検討、成功事例を標準化することで、年間約46万リットルの蒸留水の使用量を削減し、年間200万リットル以上の水道水の使用量を削減しました。同様のプロジェクトとして、電力消費量の削減や太陽光やその他のグリーンエネルギーの利用拡大にも取り組んでいます。
財務実績
当社は、将来予測に基づき、財務プロファイルを計画・管理しており、インフレ耐性を高め、金利上昇に対するエクスポージャーを最小限に抑えた強固な財務基盤を有しています。
このような財務基盤のもと、当社は、現在、臨床段階にある約30の開発プログラムについて、社内の研究開発エンジンおよび200社以上との提携を通じて多様なパイプラインの強化に向けた取り組みを進めています。さらに、長期的な成長力を獲得するため、財務規律により創出されるフリー・キャッシュ・フローを通じて、社内外の投資機会に戦略的に投資を行っています。
研究開発においては、FRUZAQLA、アジンマ、EOHILIAの承認、および潜在的に大きな事業機会が見込め優先度の最も高いプログラムであるzasocitinib(TAK-279)とTAK-861における進展にみられるように、中期から後期のパイプラインが順調に進捗しています。
zasocitinibは、乾癬や炎症性腸疾患、乾癬性関節炎を含む複数の免疫介在性疾患において、ベスト・イン・クラスになり得る高度に選択的な経口アロステリックチロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬であり、継続して開発を推進するため、乾癬を対象として2つの臨床第3相試験を開始しました。当社は、2026年度から2027年度にかけて、乾癬を適応症として当局に承認申請を行っていくことを目指しています。
TAK-861はオレキシン2受容体作動薬のリード化合物であり、ナルコレプシーの病態生理の根本に作用する可能性を有しています。当社は2024年2月にナルコレプシータイプ1を対象とするTAK-861の臨床第3相試験の開始を決定しており、さらに、今後10年の成長に向けた取り組みを強化していきます。
短期的には、主に米国の注意欠陥/多動性障害治療剤VYVANSEの米国における独占販売期間が満了したことにより大きな減収圧力に見舞われていますが、中長期的には、タケダの成長製品・新製品*が売上収益の成長を牽引していくことを見込んでいます。2022年には、潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)について、グローバル売上の持続的な成長見通しとバイオシミラー参入時期の想定の見直しに基づき、将来売上予測のレンジを75億米ドルから90億米ドルに引き上げました。今後の新製品の上市も売上収益の伸長をさらに加速させるものと見込んでいます。
中長期的には、当社はCore営業利益率を30%前半から半ばまでに回復させることを目指し、潤沢なキャッシュ・フローを維持してまいります。当社は、パイプライン拡充のための社内外における投資機会、新製品の上市、血漿分画製剤事業に対して、また、株主還元のコミットメントに向けて引き続き資金を配分してまいります。
* タケダの成長製品・新製品(2024年度)
消化器系疾患:ENTYVIO、EOHILIA
希少疾患:タクザイロ、LIVTENCITY、アジンマ
血漿分画製剤:GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、HYQVIA、キュービトルを含む免疫グロブリン製剤、
HUMAN ALBUMIN、FLEXBUMINを含むアルブミン製剤
オンコロジー:アルンブリグ、FRUZAQLA
ワクチン:QDENGA
[主要製品一覧]
消化器系疾患領域における主要製品は以下の通りです。
・ENTYVIO(ベドリズマブ):ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)は、中等症から重症の潰瘍性大腸炎・クローン病に対する治療剤です。ENTYVIOは、2014年に米国および欧州において発売以来、売上が伸長しており、2024年3月期の当社グループの売上トップ製品でした。現在、ENTIVIOは世界70カ国以上で承認され、皮下注射製剤は米国、欧州および日本において承認されました。当社は本剤の可能性を最大化するため、その他の国においても本剤の承認取得を進め、さらなる適応症の開発を行ってまいります。2024年3月期におけるENTIVIOの売上収益は8,009億円となりました。
・アロフィセル(ダルバドストロセル):アロフィセルは、非活動期/軽度活動期の成人の管腔型クローン病患者さんにおける、少なくとも一回以上の既存治療または生物学的製剤による治療が効果不十分であった複雑痔瘻に対する治療薬です。アロフィセルは、2018年に欧州の中央審査により販売承認(MA)された、欧州初の同種異系幹細胞療法であり、日本でも2021年に承認されました。2024年3月期におけるアロフィセルの売上収益は35億円となりました。
・EOHILIA(ブデソニド経口懸濁液):EOHILIAは好酸球性食道炎(EoE)の治療薬で、コルチコステロイド薬です。米国食品医薬品局(FDA)による承認を受けた初めてかつ唯一の11歳以上のEoE患者さんへの12週間の投与を適応とする 経口治療薬です。2024年2月に米国FDAによる承認取得後上市しました。2024年3月期におけるEOHILIAの売上収益は2億円となりました。
・タケキャブ/VOCINTI(ボノプラザンフマル酸塩):酸関連疾患の治療剤タケキャブは、2015年に日本で発売され、逆流性食道炎や低用量アスピリン投与時における胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発抑制などの効能により飛躍的な成長を遂げました。タケキャブ(中国の製品名:VOCINTI)は、2019年に胃食道逆流症の治療剤として中国で承認されました。2024年3月期におけるタケキャブ/VOCINTIの売上収益は1,185億円となりました。
・GATTEX/レベスティブ(テデュグルチド[DNA組換え型]):非経口(静脈栄養)サポートを必要とする短腸症候群(SBS)の治療薬です。成人用および小児用の効能を有するGATTEX/レベスティブが米国、欧州、日本において承認されました。2024年3月期におけるGATTEX/レベスティブの売上収益は1,193億円となりました。
希少疾患領域における主要製品は以下の通りです。
・タクザイロ(ラナデルマブ):タクザイロは、遺伝性血管性浮腫(HAE)の発作予防に用いられます。タクザイロは、HAEの患者さんにおいて慢性的に制御不能な酵素である血漿カリクレインに選択的に結合し、減少させる完全ヒト型モノクローナル抗体です。タクザイロは(12歳以上の患者さんへの適応として)2018年に米国と欧州にて、2020年に中国にて、2022年に日本にて承認され、さらなる地理的拡大を目指しています。2023年に、2歳以上の小児患者さんに対する治療薬として、FDAおよび欧州委員会の承認を取得しました。2024年3月期におけるタクザイロの売上収益は1,787億円となりました。
・LIVTENCITY (maribavir):LIVTENCITYは、成人患者さんと小児患者さん(12歳以上で体重35 kg以上)に対する、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネット、またはシドフォビルに対して遺伝子型抵抗性(無しも含みます)を示す難治性の移植後サイトメガロウイルス(CMV)感染/感染症治療薬であり、2021年12月に米国において発売され、2022年11月に欧州、2023年12月に中国において承認されました。LIVTENCITYは、高いアンメット・メディカル・ニーズによる順調な市場浸透、急速なエリア拡大、迅速なマーケットアクセスにより、上市後も好調な業績となりました。2024年3月期におけるLIVTENCITYの売上収益は191億円となりました。
・アジンマ(遺伝子組換え ADAMTS13-krhn):アジンマは先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)の成人および小児患者さんの予防的治療薬ならびに酵素補充療法であり、欠乏したADAMTS13酵素を補充することによりcTTP患者のアンメット・メディカル・ニーズに対応するFDAに承認された初めてかつ唯一の遺伝子組換えADAMTS13(rADAMTS13)です。 また、日本において、アジンマ(一般名: アパダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)/シナキサダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)が、12歳以上の患者さんを対象としたcTTP治療薬として承認されました。 2024年3月期におけるアジンマの売上収益は4億円となりました。
・エラプレース(イデュルスルファーゼ):エラプレースは、ハンター症候群(ムコ多糖症II型またはMPS II)に対する酵素補充治療薬です。2024年3月期におけるエラプレースの売上収益は916億円となりました。
・リプレガル(アガルシダーゼ アルファ):リプレガルは、ファブリー病に対して米国以外の市場で販売され、2020年に中国でも承認された酵素補充療法治療薬です。当社は、2022年2月に大日本住友製薬株式会社から「リプレガル」の日本における製造販売承認を承継し、同剤の販売の移管を受けました。ファブリー病は、脂肪の分解に関与するリソソーム酵素α-ガラクトシダーゼAの活性の欠如に起因する遺伝子性の希少疾患です。2024年3月期におけるリプレガルの売上収益は736億円となりました。
・アドベイト(抗血友病因子(遺伝子組換え型)):アドベイトは、血友病A(血液凝固第Ⅷ因子欠乏)の治療薬であり、出血の制御と予防、周術期管理および出血の頻度を予防または軽減するために行う定期補充療法に使用されます。2024年3月期におけるアドベイトの売上収益は1,229億円となりました。
・アディノベイト/ADYNOVI(抗血友病因子(遺伝子組換え型) [PEG化]):アディノベイト/ADYNOVIは、血友病A治療薬であり、遺伝子組換え型半減期延長第Ⅷ因子製剤です。アディノベイト/ADYNOVIは遺伝子組換え型半減期延長第Ⅷ因子製剤アドベイトと同じ製造工程で作られ、当社がネクター社より独占的にライセンス取得しているPEG化(体内での循環時間を延長し、投与頻度を減らすための化学修飾処理)技術を追加したものです。2024年3月期におけるアディノベイト/ADYNOVIの売上収益は663億円となりました。
・ビプリブ(ベラグルセラーゼアルファ点滴静注用):ビプリブはI型ゴーシェ病に対する長期酵素補充療法治療剤です。2024年3月期におけるビプリブの売上収益は513億円となりました。
血漿分画製剤(免疫疾患)領域における主要製品は以下の通りです。
・GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG(静注用人免疫グロブリン10%製剤):GAMMAGARD LIQUIDは、抗体補充療法用免疫グロブリン(以下、「IG」)の液体製剤です。GAMMAGARD LIQUIDは、原発性免疫不全症(PID)の成人および2歳以上の小児患者さんに対して使用され、静注または皮下注のいずれかの方法で投与します。また、GAMMAGARD LIQUIDは、成人の多巣性運動ニューロパチー(MMN)患者さんに対しても静注投与にて使用されます。2024年1月に、米国において、GAMMAGARD LIQUIDが、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者さんの治療薬として承認されました。GAMMAGARD LIQUIDは、米国以外の多くの国で製品名KIOVIGとして販売されています。KIOVIGは、欧州において、CIDPを含む、複数の適応症への使用が承認されています。
・HYQVIA(ヒト免疫グロブリン注射製剤10%):HYQVIAは、ヒト免疫グロブリン(IG)および遺伝子組換え型ヒトヒアルロニダーゼ(Halozyme社よりライセンス取得)からなる製剤です。HYQVIAは、PID患者さんに対して最長で1ヶ月に1回の投与で、1回あたりの注射部位一ヶ所でIGの全治療用量の投与が可能な唯一のIG皮下注用治療薬です。HYQVIAは、米国では成人PID患者さんへの使用、また欧州においてPID症候群および骨髄腫患者さんまたは重度の続発性低ガンマグロブリン血症および回帰感染を伴う慢性リンパ性白血病患者さんへの使用が承認されております。2024年1月に、HYQVIAは、米国において、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者さんの再発予防の維持療法として、また、欧州においては、すべての年齢のCIDPの患者さんの維持療法として承認されました。
• キュービトル(ヒト免疫グロブリン皮下注用20%製剤):キュービトルは、原発性体液性免疫不全症の成人および2歳以上の小児患者さんに対する補充療法に用いられます。キュービトルは、欧州では特定の続発性免疫不全の治療薬としても承認されています。キュービトルは、プロリン不含で、投与部位1ヶ所あたりの耐用量内で最大60 mL(12g)および1時間あたり60 mLまで投与可能な唯一の20%皮下IG治療薬であり、従来の皮下IG治療薬と比較してより少ない投与部位および短い投与時間での使用が可能です。
2024年3月期におけるGAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、HYQVIA、キュービトルを含む免疫グロブリン製剤の売上収益は6,446億円となりました。
・FLEXBUMIN(ヒトアルブミンバッグ製剤)およびヒトアルブミン(ガラス瓶製剤):FLEXBUMINおよびヒトアルブミンは、濃度5%および25%の液体製剤として販売されています。両製品とも、血液量減少症、一般的な原因および火傷による低アルブミン血症、ならびに心肺バイパス手術時のポンプのプライミングに使用されます。また、FLEXBUMIN 25%製剤は、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)およびネフローゼに関連する低アルブミン血症、ならびに新生児溶血性疾患(HDN)にも適応されます。2024年3月期におけるFLEXBUMINおよびヒトアルブミン(ガラス瓶製剤入り)を含むアルブミン製剤の売上収益は1,340億円となりました。
オンコロジー領域における主要製品は以下の通りです。
・アルンブリグ(ブリグチニブ):アルンブリグは、非小細胞肺がん(NSCLC)治療に使用される経口投与の低分子未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害剤であり、クリゾチニブ投与中に進行した、またはクリゾチニブに不耐性を示す患者さんに対する治療薬として、2017年に米国で迅速承認され、2018年にEUにおいて、クリゾチニブの治療歴を有する患者さん向けの販売承認を取得しました。2020年に米国とEUの両方において、新たにALK陽性転移性NSCLCと診断された患者さんに対する効能が追加されました。2021年1月に、日本において、ファーストラインおよびセカンドラインの治療薬として承認されました。また2022年3月に、アルンブリグは中国において承認されました。2024年3月期におけるアルンブリグの売上収益は285億円となりました。
・EXKIVITY(mobocertinib):EXKIVITYは、プラチナ製剤ベースの化学療法を実施中あるいは実施後に病勢が進行した上皮成長因子受容体(EGFR)エクソン20挿入変異を伴う局所進行または転移性非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬であり、2021年9月に米国において迅速承認制度のもとで承認され、2023年1月に中国の国家食品薬品監督管理局(NMPA)により承認されました。2023年10月に、当社は、EXKIVITYの販売や開発活動を全世界で自主的に中止する決定を公表しました。この決定は、臨床第3相EXCLAIM‑2検証試験の結果に基づいており、この試験で主要評価項目が達成されなかったため、FDAから付与された迅速承認および他の国々における条件付き承認の検証データの要件を満たさなかったことによるものです。2024年3月期におけるEXKIVITYの売上収益は35億円となりました。
・FRUZAQLA(フルキンチニブ):フルオロピリミジン、オキサリプラチン、およびイリノテカンを含む化学療法、抗VEGF療法、および抗EGFR療法(RAS野生型で医学的に適切な場合)の治療歴があるmCRC成人患者に対する治療薬です。FRUZAQLAは、バイオマーカーのステータスにかかわらず、治療歴を有するmCRC患者さんの治療薬として、米国で承認された、最初で唯一の3種類のVEGF受容体キナーゼすべてに対して選択性を有する阻害薬です。当社は中国本土、香港、マカオ外でのフルキンチニブのグローバル開発、商業化および製造をさらに進めるための独占的ライセンスを有しています。フルキンチニブは中国ではHUTCHMED社により開発および販売されています。2024年3月期におけるFRUZAQLAの売上収益は101億円となりました。
・リュープリン/ENANTONE(リュープロレリン):リュープリン/ENANTONEは、前立腺がんや乳がん、小児の中枢性思春期早発症、子宮内膜症、不妊の治療や、子宮筋腫による貧血の症状改善に用いられる治療薬です。リュープロレリンの特許期間は満了していますが、製造の観点から後発品の市場参入は限定的です。2024年3月期におけるリュープリン/ENANTONEの売上収益は1,074億円となりました。
・ニンラーロ(イキサゾミブ):ニンラーロは、多発性骨髄腫(MM)治療に対する初めての経口プロテアソーム阻害剤です。ニンラーロは、再発又は難治性の多発性骨髄腫の効能で、2015年に米国で承認されて以来、2016年に欧州、2017年に日本、2018年に中国で承認されております。日本においては、多発性骨髄腫の維持療法の治療薬としても承認を受けております。2024年3月期におけるニンラーロの売上収益は874億円となりました。
・アドセトリス(ブレンツキシマブ ベドチン):アドセトリスは、ホジキンリンパ腫(HL)および全身性未分化大細胞リンパ腫(sALCL)の治療に使用される抗癌剤で、2020年5月には中国で承認され世界70カ国以上で販売承認を受けております。当社は、現在ファイザー社の完全子会社であるSeagen社とアドセトリスを共同開発し、米国およびカナダ以外の国での販売権を保有しています。2024年3月期におけるアドセトリスの売上収益は1,094億円となりました。
・アイクルシグ(ポナチニブ塩酸塩):BCR-ABLに作用するチロシンキナーゼ阻害薬であり、慢性骨髄性白血病(CML)とフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ ALL)の治療に適応となります。2016年に米国において全面的な承認を取得した後、2020年と2024年に米国において適用拡大の承認を取得しました。当社は米国とオーストラリアにおいて販売権を取得しております。米国とオーストラリア以外の地域では、認可を受けたパートナー5社により60を超える市場において販売されており、当社はこれらのパートナーから、供給、ロイヤリティおよびマイルストンの支払を受領しており、その水準はパートナーによって異なります。2024年3月期におけるアイクルシグの売上収益は547億円となりました。
ニューロサイエンス領域における主要製品は以下の通りです。
・VYVANSE/ELVANSE(リスデキサンフェタミンメシル酸塩):VYVANSE/ELVANSE(国内製品名:ビバンセ)は、6歳以上の注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者さんおよび成人の中程度から重度の過食性障害患者さんの治療に用いられる中枢神経刺激剤です。2023年に米国において後発品が市場に参入したことにより、売上は減少しました。2024年3月期におけるVYVANSE/ELVANSEの売上収益は4,232億円となりました。
・トリンテリックス(ボルチオキセチン臭化水素酸塩):トリンテリックスは、成人大うつ病性障害の治療に適応される抗うつ薬です。トリンテリックスはH. Lundbeck A/S社と共同開発し、当社は米国および日本での販売権を保有しており、米国では2014年、また日本では2019年より販売しています。2024年3月期におけるトリンテリックスの売上収益は1,048億円となりました。
その他領域における主要製品は以下の通りです。
・QDENGA(4価デング熱ワクチン):QDENGAは4種のワクチンウイルス型すべての遺伝子型の“バックボーン”として弱毒化された生の2型デングウイルスをベースに構築されています。QDENGAはテング熱流行国4カ国および欧州17カ国において販売されています。2024年3月期における QDENGAの売上収益は96億円となりました。
売上収益の地域別内訳は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4 事業セグメントおよび売上収益」をご参照下さい。
当社の取締役会は、ビジネスリスクおよび財務開示に関連するものを含め、当社の業務運営を監督する責任を有しています。取締役会は、一定の意思決定権を当社の経営幹部に委譲しています。社長兼チーフ エグゼクティブ オフィサー(社長CEO)および当社グループ各機能を統括する責任者から構成されるタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)のメンバーは、ビジネス&サステナビリティ・コミッティー(BSC)およびリスク・エシックス&コンプライアンス・コミッティー(RECC)を含む特定の経営幹部レベルの委員会において、当社における重要事項について意思決定を行います。BSCは、サステナビリティを含む当社の事業戦略および関連する目標、コミットメントを監督する責任を有しています。RECCは、重要なリスクに対する緩和策を含む当社のエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)プログラムおよびグローバル・モニタリング・プログラムに関連する監視および決定事項にかかる責任を有しています。取締役会は、社長CEO、その他のTETメンバーおよび各経営会議体から定期的に最新情報を入手しています。
BSCは、当社の3つのサステナビリティに係る約束である「Patient」(すべての患者さんのために)、「People」(ともに働く仲間のために)、「Planet」(いのちを育む地球のために)に基づき、特定のTETメンバーにサステナビリティ課題に対する一部の監督責任を委譲しています。「Patient」についてはグローバル ポートフォリオ ディビジョン プレジデントが、「People」についてはチーフ HR オフィサーが、「Planet」についてはグローバル マニュファクチャリング&サプライ オフィサーが、それぞれ責任を有しています。
当社のガバナンス体制のさらなる詳細については、
事業戦略
当社は、私たちの企業理念に基づいて、持続的な経営および成長を実現します。バイオ医薬品企業としての強みと能力を活かして、患者さん、株主の皆様、および社会のための長期的な価値を創造すると同時に、従業員、地域社会、および環境に良い影響をもたらし続けることで、当社の存在意義を果たしていきます。
当社は、「存在意義(パーパス)」を「目指す未来(ビジョン)」および「価値観(バリュー)」と融合させることで、不変の価値観に基づく持続的成長を目指しています。当社は、パーパスとビジョンを達成するためにどこに注力をするべきか(事業戦略)を「私たちの約束」および「優先事項」で定めています。私たちの約束は、「Patient すべての患者さんのために」、「People ともに働く仲間のために」、および「Planet いのちを育む地球のために」の大きく3つの柱に分けられており、データやデジタル、テクノロジーを活用しながら実行されています。これには、当社およびステークホルダーにとって戦略的重要性が高い非財務関連課題の評価(マテリアリティ・アセスメント)の結果が反映されています。
Patient すべての患者さんのために
当社は、科学的根拠に基づき、治療の選択肢が限られている患者さんをはじめ、すべての人々の暮らしを豊かにする医薬品の創出に取り組んでいます。これは、当社の存在意義(パーパス)の根幹となるものです。当社の研究開発(R&D)は、主要な疾患領域に焦点を当て、高度に差別化されています。私たちは、研究所の専門的な研究開発能力、社外とのパートナーシップ、患者団体との連携、健康の公平性への取り組み、およびデータ、デジタル、テクノロジーの活用などを通じて、当社製品を患者さんに提供しています。
私たちは、患者さんに高品質な医薬品を途絶えることなく供給する責任があることを理解しています。この責任を果たすために、堅ろうなグローバルサプライチェーンシステムを構築しています。戦略上、重要な製品および原薬については複数の調達先から購入し、調達方針についても地政学的リスクを考慮した戦略を有しています。
治療を最も必要とする患者さんに我々の医薬品を十分にお届けできなければ、科学的なイノベーションは大きな意味を成しません。高度な技術と意欲を持つ医療従事者やインフラの整備に加え、健全な医療財政、保険医療制度、そして科学的根拠に基づく政策によって支えられた最新の医薬品と医療技術の提供がなされなければ、患者さんに医薬品をお届けすることはできません。そのため、当社では次のことを実施しております。
・患者さんの医薬品アクセスを促進するために包括的な戦略を実施し、医療の価値(バリューベース・ヘルスケア)を促進するグローバルな政策やプログラムを支援しています。私たちは、最先端の治療がもたらす医学的・経済的な価値が十分に反映されながらも、患者さんがそれらの革新的な治療を公平かつ持続的にうけることができるエコシステムの構築に賛同しています。
・革新的な新製品を患者さんにお届けできるように、グローバルな製品(成長製品・新製品)を上市するにあたっては、国の経済レベルや医療制度の成熟度に応じて、国ごとに異なる価格帯を設定しています(ティアード・プライシング)。また、治療費を支払うことができない患者さんにも必要な医療を提供するために、医薬品アクセスプログラムを含む患者支援プログラムを提供しています。
・グローバルCSRプログラムを通じて、グローバル団体やNGO、NPOと連携して、低・中所得国の保健システム強化を支援しています。
私たちの医薬品はグローバルに上市されていますが、各エリアや国ごとに、状況に応じた最適な戦略を検討しています。私たちの価値観(バリュー)はグローバルで行う事業活動全体で浸透しているため、一刻を争う場合であっても、各地域の従業員は、患者さんに最も近いところで価値観(バリュー)に沿った意思決定を行い、私たちの医薬品をタイムリーに提供することができています。
当社の患者さんに対する取り組みの詳細は、2024年7月に当社ウェブサイトに掲載を予定している
People ともに働く仲間のために
当社は、科学技術がどれほど進歩しても、重要な変化は常に「人」によってもたらされることを認識しています。私たちの従業員はイノベーションの源泉であり、患者さん、株主、社会のために長期的な価値を創造することを可能にしています。当社は、すべての人々の暮らしを豊かにする医薬品を患者さんにお届けするため、多様性、公平性、包括性(DE&I)を受容する組織作り、従業員の学びや能力およびキャリアの成長を促す企業文化の醸成、また従業員の心身の健康と安心の向上に取り組むとともに、従業員のエンゲージメントを高める活動に注力しています。
人材の多様性、公平性、包括性(DE&I)
当社には、80を超える国と地域でさまざまな経歴や経験を持つ人々が集まっています。当社では、多様性を受け入れるとともに、患者さんや従業員がそれぞれの可能性を最大限に発揮できる機会に公平にアクセスできるように努めています。私たちのDE&Iに関する取り組みは、「患者さんを支える」、「インクルーシブな職場環境をつくる」、「人材の多様性を尊重する」、「社外へのインパクトを生み出す」を4つの柱として、価値観に基づくアプローチを取っています。当社は、DE&Iへの投資を拡大しており、その一例として、グローバルDE&Iカウンシルを、戦略的な方向性の策定、関係構築、またグローバル規模での健康格差や不平等さを認識し、それに対処するための取り組み支援に重点をおいたものへと発展させています。
グローバルレベルではジェンダーダイバーシティに取り組んでおり、2024年3月31日時点で、グローバル全体における管理職に占める女性の割合は43%となっています。また、2024年4月1日時点で、当社のTETメンバー17名のうち、女性が9名(53%)を占めています。当社の各事業部門や拠点では、グローバルDE&Iの目標やロードマップに沿ってそれぞれ独自のDE&I目標や戦略、プログラムを設定して事業運営に反映させています。当社は、今後も、性別、国籍、年齢および経歴の観点から人材の多様性の促進に努めてまいります。
人材の育成と企業文化の醸成
生涯学習およびキャリア成長への取り組みは、従業員の職務経験、モチベーションおよび専門性を高め、新しい発想につながり、結果的に患者さんへの価値創造につながります。当社では、従業員に対して、学習ツールや最新のテクノロジー、コンテンツ、サポートを提供することで、必要な知識や学びたい知識を、必要な時に最適な形で習得できるよう、学びをカスタマイズできるようにしています。従業員の学びをサポートする形態の一つは、実際の体験を通じて学びを得るよう支援することであり、例えば、職場での研修プログラムにおいて、シニアメンバーが主導するプロジェクトに参加、貢献していく過程で貴重なスキルを身につけられるよう支援しています。当社では、従業員自らがキャリア成長を定義し、主体的に行動することを促しており、その過程でリーダー、同僚、メンターの支援を受けられるようにしています。2024年1月には、全従業員がタケダの中で自身の成長機会を見出し、キャリアを伸ばすことができるよう、AIを活用したプラットフォーム 「Career Navigator」 を導入しました。「Career Navigator」は、従業員が入力した自身のキャリア目標や関心のある分野に基づいて、社内でのキャリア機会を提案したり、足りないスキルを得るための学習機会を特定したり、また成長を促すためにメンターを紹介します。
当社では、現在の製薬業界に影響をもたらしている急速な技術発展を活用するため、そして未来のヘルスケアに対応できる組織にするため、従業員のデジタルスキルの強化に努めており、自動化プログラムや、コンテンツの作成および収集、生成AIなど従業員がデジタル技術のスキルを向上することができるよう、事業部門や機能全体でスキル向上の機会を提供しています。さらに、当社では、デジタルに精通した人材を育成するため、複数のイノベーション能力センターを立ち上げています。これらは、データとデジタルに関する能力を有した人材を社内で調達できるようにするためであり、タケダの事業全体を対象に、デジタルソリューションの構築および管理を行っています。これにより、社外への依存度を減らしつつ、医療従事者や患者さんとのコミュニケーション方法を改善するとともに、医療従事者や患者さんがタケダの製品やサービスをより簡単に利用できるようにしています。
当社は、革新的な医薬品を創出し患者さんにお届けするという価値観に基づき、デジタルスキルを含め、生涯学習およびキャリア成長を促進する企業文化を醸成することに取り組んでいます。
社内環境整備方針
「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」という当社の存在意義(パーパス)は従業員が心身ともに健康であることを前提に実現されるものです。当社は、精神面、身体面、経済面、社会面の4つの分野から従業員の心身の健康に焦点を当てています。これらの分野をサポートする中で、従業員からのフィードバックを取り入れ、当社では長期的かつグローバルなウェルビーイングの戦略的取り組みとして、「ライフ・ワーク・アライメントの更なる推進」、「グローバルに展開しているプログラムおよび福利厚生への公平なアクセス」を設定しました。ライフ・ワーク・アライメントは従業員が新しいよりフレキシブルな勤務形態に適応する上で最も考慮すべき点であり、顔を合わせて行う協働と在宅勤務を両方取り入れるなど、従業員の能力を最大限に引き出すために多様な働き方を尊重しています。具体的な勤務形態はチームによって異なりますが、オフィスの空間デザインにも工夫を凝らし、従業員のウェルビーイング(心身の健康)とパフォーマンスを向上させ、柔軟性があり、対面でのコミュニケーションの価値を実感できるような環境づくりを行うなど、働き方改革を加速させています。また、レジリエンス(回復力)のスキルを強化するための学習プログラムを活用し、メンタルヘルスについて話すためのツールをマネージャーに提供しています。
当社の人材、DE&I、人材育成と企業文化の醸成、および社内環境整備にかかる方針のさらなる詳細は、2024年7月に当社ウェブサイトに掲載を予定している
Planet いのちを育む地球のために
当社は、気候変動や生物多様性の喪失が患者さんや人々の健康に影響を及ぼすことを理解し、環境の分野において積極的に取り組んでいます。当社は、事業活動およびバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量の最小化、自然および生物多様性の保全、ならびに持続可能性に配慮した製品設計および生産に重点を置いて、環境サステナビリティ活動に取り組んでいます。「Planet」に係る取り組みは、現在、EHS(環境、健康・衛生、安全)のチームが管理する、環境サステナビリティの様々な側面に専念した3つのプログラムで構成されています。
•気候変動対策プログラム
2035年までに自社の事業活動に起因する温室効果ガス排出量(スコープ1および2)を、2040年までにバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ3)をネットゼロにします。
•環境配慮設計プログラム
製品の設計やパッケージのデザイン、開発において、ライフサイクルのあらゆる側面で持続可能性に配慮した意思決定を取り入れることによって、バリューチェーン全体で環境負荷を最小限に抑えることを目指します。
・天然資源保全プログラム
水の保全、責任ある廃棄物処理、生物多様性保全活動などを通じて、事業の環境負荷の低減を目指します。
当社は、気候変動に関連したリスクに対するレジリエンスの強化および機会の特定に積極的に取り組んでいます。気候変動による物理的リスクおよび移行リスクの評価と管理は、EHSチームが主導し、組織全体のリスク管理フレームワークに組み込んでいます。事業場に固有の気候変動による業務運営リスクは、事業所や施設レベルのリスク評価からボトムアップのアプローチにより特定しています。また、サプライチェーンにおけるリスクは、第三者リスク管理プログラム(TPRM)を利用したサプライヤーのスクリーニングを通じて特定しています。深刻な物理的リスクの上昇を軽減する取り組みとして、エネルギーの保全、また、可能な場合には再生可能エネルギーに移行することを通じて、温室効果ガスによる環境負荷を抑える活動を推進しています。また、サプライチェーンにおける物理的リスクに対しては、サプライチェーンにおける許容できないリスクの発生を防ぐために、主要サプライヤーの気候変動関連リスクを評価しています。
当社は、2021年に、気候変動のリスクと機会についてシナリオ分析を実施しました。当シナリオ分析は、一定の直接的な事業活動のみを対象とし、2030年までの時間軸と2050年までの時間軸について、気候変動に対する世界の対応レベルの違いによって異なる3つの気候変動シナリオ(すなわち、「気候変動追加対策なし(No Action)」「対応中(Middle of the Road)」「積極的緩和策(Aggressive Mitigation)」)を設定しています。結果として、当社が事業を展開している様々な地域における気候変動の傾向予測や気候変動に起因する特定の災害の発生予測について知見を得ることができましたが、個別の事業場に特有の具体的な条件は一部考慮しませんでした。
このプロセスを通じて、当社に適用され得る幾つかの気候変動のリスクと機会を特定することができました。モデル化されたシナリオに基づく当社の直接的な事業活動に係る潜在的なリスクと影響は下表のとおりです。
上述のモデル化されたリスクと影響に加えて、2021年の評価の一環として、当社と第三者の情報を組み合わせた気候変動によるリスクと影響の定性的分析も実施しました。この分析により、地球温暖化による疾病の増加が、従業員や血漿のドナーへの影響を含め、当社の事業活動のリスクになり得ることが特定されました。また、特に「気候変動追加対策なし」のシナリオにおいて、当社のデング熱ワクチンであるQDENGAの市場を拡大する可能性も特定されました。さらに、当社の気候変動対策の目標達成の成否によって、従業員、健康保険事業の運営主体(保険者)およびその他のパートナーを含むステークホルダーとの関係に影響を与える可能性のある社会的信頼に係るリスクと機会も特定されました。
当社は、これらのリスクを軽減するために取り得る追加の手段を特定するとともに、潜在的な気候変動のリスクに対する理解を深めるため、継続的に前提条件を見直し、分析を更新し、リスク評価の範囲を拡大していく方針です。
リスク管理は、当社で働く人材、資産、社会的評価・評判(レピュテーション)を守り、当社の成長と成功に向けた長期的な戦略を支える柱となります。これまでに特定されたサステナビリティに関連するリスクは、既存のグローバルおよび事業場レベルのリスク管理プロセスを通じて対処されています。
全社的なリスク管理プロセスは、取締役会の監督のもとチーフ・エシックス&コンプライアンス・オフィサーが統括しています。また、主要な全社的リスクおよびそれらのリスクの発生防止・低減措置の実効性は、RECCおよび取締役会によって毎年承認されています。
リスク管理は全社的な事業体制に組み込まれており、全社的リスク評価プロセスによって、サステナビリティに関連するリスクを含めたリスクを識別、評価し、またそのリスク低減施策を実施しています。このプロセスは、リスクの全体像を把握し、リスクに基づいた意思決定を行う企業風土を醸成するようデザインされています。関連する各部門は、担当領域ごとに主要なリスクとその対応への責任を担っています。
当社のリスク管理プロセスのさらなる詳細については、
当社は、企業理念に基づく行動を通して、長期的な価値の創造を目指しています。関連する部門で働く従業員が意見を出し合って「企業理念に基づく私たちの指標(corporate philosophy metrics)」を策定しました。従業員は、各評価指標の進捗状況を「企業理念ダッシュボード」でいつでも確認できるようになっています。透明性の高い情報共有は、従業員一人ひとりがタケダの持続的な成長に責任を持ち、社外ステークホルダーとの信頼関係の構築を促します。
Patient すべての患者さんのために
当社は、科学的根拠に基づき、治療選択肢の限られた患者さんや地域社会にとって、暮らしが豊かになる医薬品の創出に取り組んでいます。これは、当社の存在意義(パーパス)の根幹となるものです。当社の研究開発(R&D)パイプラインは、主要な治療領域に焦点を当て、高度に多様化されています。私たちは、研究所の専門的な研究開発能力、社外とのR&Dパートナーシップ、患者団体との連携、健康の公平性への取組み、およびデータ、デジタル、テクノロジーの活用などを通じて、当社製品を患者さんに提供しています。
当社は、革新的な医薬品へのアクセスをより多くの人々に拡大しています。
(注1)2023年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2024年6月25日付ですべての重要な点において、会社の定める規準(2024年7月に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
(注2)2023年度の初日時点で上市から5年を経過していない成長製品・新製品を対象としています。
People ともに働く仲間のために
私たちの成功の源は「人」にあります。どんなに先端技術が進化しようとも、基本は人が変革を推し進め、新たな未来を担います。人材を育成し、多様性をはぐくむ公平でインクルーシブな環境づくりと、従業員の身心の健康維持(ウェルビーイング)、そして生涯学習に投資することによって、従業員が一個人としても仕事においても充実感を得られるよう支援します。ともに働く仲間はイノベーションの源泉であり、患者さん、株主、そして社会のための長期的な価値創出を推し進める原動力です。
当社は、タケダで働く人々の 逆境に負けないしなやかな強さを高めることを最優先に考えています。
(注1)2023年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2024年6月25日付ですべての重要な点において、会社の定める規準(2024年7月に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
(注2) この指標の測定方法は、従業員体験アンケートの結果をより幅広く反映させるために、「従業員体験アンケートの質問に対する好意的な回答の割合」から現在のものに変更されました。2022年度の数値は新しい測定方法に基づいて再計算しています。
(注3)ノンバイナリーとは、自身の性自認と性表現を「男性・女性」という2つの枠組みに当てはめようとしない人のことです。
Planet いのちを育む地球のために
当社は、気候変動に関する戦略を実施し、主要業績評価指標(KPI)や測定基準を決定、それらの進捗を管理するため「気候変動対策プログラム」を導入しています。この気候変動対策プログラムでは、直接的、間接的およびバリューチェーンにおける温室効果ガス排出量の最小化など、様々な目標に重点を置いています。
当社は、スコープ1および2の温室効果ガス排出量を、2025年度までに2016年度基準から40%削減する目標を2020年に設定しました。また、排出量の67%を占めるサプライヤーが2024年度までに科学的根拠に基づく目標を設定する目標も設定しました。これらの目標はSBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の認証を取得しました。2022年には、2035年までに当社の事業活動に起因する温室効果ガス排出量(スコープ1および2)を、2040年までに当社のバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ3の温室効果ガス排出量の見積もり(注1)を含む)をネットゼロ(注2)にする新しい目標を公表しました。これらのコミットメントは、必要とされる短期的な排出削減目標とともに、SBTi認証の申請を行っています。当社は、2022年度まで、カーボンニュートラルを維持してきましたが、2024年度からは、気候変動対策の目標としてのカーボンニュートラルからの転換を行いました。当社は、ネットゼロに焦点を当てる一環として、自主的炭素市場(Voluntary Carbon Market:VCM)を引き続き支援し、人々の健康に役立ち、SBTiの企業ネットゼロ基準に適合する自然を活用したカーボン除去のソリューションやプロジェクトに優先的に投資していきます。
(注1)実際のスコープ3の排出量は測定が困難であり不透明性が残ることからも、これらは取り組みを進めていく上で今後克服すべき重要な課題です。
(注2)当社は、SBTiの企業ネットゼロ基準に従ってネットゼロ排出量を定義しています。
* 当社の温室効果ガス排出量を計算するための方法の詳細については、当社ウェブサイトのサステナビリティ情報開示のページに掲載している「環境・労働安全(EHS)指標の詳細情報(英語)」をご参照ください
(注1)2023年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2024年6月25日付ですべての重要な点において、会社の定める規準(2024年7月に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
(注2) この指標の報告対象期間は2022年度です。2023年度のデータ収集プロセスは、2024年の秋に最終決定され、指標はその翌年の報告書に掲載される予定です。
ビジネス
(注1)2023年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2024年6月25日付ですべての重要な点において、会社の定める規準(2024年7月に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
当社のサステナビリティへの取り組みのさらなる詳細は、2024年7月に当社ウェブサイトに掲載を予定している
当社の業績は、現在および将来において様々なリスクにさらされており、リスクの顕在化により予期せぬ業績の変動を被る可能性があります。以下では、当社が事業を展開していくうえで直面しうる主なリスクを記載いたします。なお、以下に記載したリスクは当社の全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外の潜在的かつ不確実なリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。
当社のグローバルリスク管理ポリシーについては、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 3.業務執行に係る事項 <内部統制システムに関する基本的な考え方およびその整備状況> ③ 損失の危険の管理に関する規程その他の体制」をご参照ください。
なお、本項目に含まれる将来に関する事項およびリスクは、当年度末現在において判断したものです。
(1)研究開発に関するリスク
当社は、持続的成長を実現するために、最先端の科学で革新的な医薬品を創出することを目指しています。当社は、研究開発機能の向上および社外パートナーとの提携等により研究開発パイプラインを強化すると共に、世界各国の市場への一日も早い新製品の上市を目指し、質の高い革新的な研究開発パイプラインを構築することで研究開発の成功確率を高める等により効率的な研究開発活動に努めております。しかしながら、医薬品は、自社創製候補物質、導入候補物質にかかわらず、所轄官庁の定めた有効性と安全性に関する厳格な審査により承認されてはじめて上市可能となります。
研究開発の途上において、当該候補物質の有効性・安全性が、承認に必要とされる水準を充たさないことが判明した場合またはその懸念があると審査当局が判断した場合、その時点で当該候補物質の研究開発を途中で断念、または追加の臨床試験・非臨床試験を実施せざるを得ず、それまでにかかったコストを回収できないリスクや製品の上市が遅延するリスク、および研究開発戦略の軌道修正を余儀なくされる可能性があります。
(2)知的財産権に関するリスク
当社の製品は、物質・製法・製剤・用途特許等の複数の特許によって、一定期間保護されております。
当社では特許権を含む知的財産権を厳しく管理し、当社が事業を行う市場における知的財産権や第三者からの侵害状況を継続的にモニタリング、評価および分析し、知的財産権に関するリスクの回避と、受けうる影響の低減を図っていますが、当社の保有する知的財産権が第三者から侵害を受けた場合には、期待される収益が大幅に失われる可能性があります。また、当社の自社製品等が第三者の知的財産権を侵害した場合には製造販売の差止めおよび損害賠償等を請求される可能性があります。
(3)特許権満了等による売上低下リスク
当社は、効能追加や剤型変更等により製品のライフサイクルを延長する努力をしておりますが、多くの製品について、特許または規制上の独占権の喪失・満了による後発品の市場参入は避けられず、米国や欧州では後発品が参入すれば通常、短期間で先発品から後発品へ切り替わり、先発品の収益が大きく減少します。国内では、当局が後発品の使用促進を積極的に進め、また、長期収載品のさらなる価格引下げが行われています。これに加え、競合品の特許権満了によるその後発品、および競合品のスイッチOTC薬の出現などによって、国内外の競争環境は格段に厳しいものになってきており、その影響如何で当社製品の大幅な売上低下を招く可能性があります。
なお、特許権満了時期等の詳細については「第2 事業の状況 6 研究開発活動 知的財産」をご参照ください。
(4)副作用に関するリスク
医薬品は、世界各国の所轄官庁の厳しい審査を経て発売されます。当社は発売後の医薬品について安全性情報を収集し有効性とリスクのバランスを評価することを含め、安全性監視活動とリスク最小化活動を実施し、ファーマコビジランス活動を推進し、副作用に関するリスクの回避と受けうる影響の低減に努力しておりますが、市販後の使用成績が蓄積された結果、発売時には予期していなかった副作用が確認されることがあります。新たな副作用が確認された場合には、添付文書の「使用上の注意」への記載を行う、使用する対象患者を制限する、使用方法を制限するなどの処置が必要となるほか、重篤なケースが認められた場合には、販売中止・回収等を余儀なくされることもあり得ます。また、このような場合において、当社は製造物責任を負うとともに、金銭的、法的および社会的信頼に関する損害を負う可能性があります。
(5)薬剤費抑制策による価格引き下げのリスク
医薬品市場では、多くの国々において医療予算の削減が推進され、医療技術評価および国際価格を参照する政策により医薬品価格が低下しています。最大市場である米国では、医薬品価格を下げるための医療計画や仲介機関による取り組みに加え、継続的な法令および規制の制定により先発品への価格引き下げ圧力が一層高まっています。2022年には、米国議会において、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)が可決され、薬価上昇率がインフレ率を上回った製薬会社に対するペナルティの賦課、メディケア受給者の自己負担額の上限設定、2026年よりメディケアの対象となる特定の医薬品に関する連邦政府への価格設定権限の付与等、メディケア・プログラムに基づく医薬品の補償条件が大幅に変更されました。日本においては、政府による一層の後発品の使用促進に加え、医療保険制度における多くの製品の公定薬価が、毎年引き下げられております。欧州においても、薬剤費を抑制し、価格透明性を高め、国際価格を参照する政策により、医薬品価格が低下しておりますが、さらに欧州委員会が、知的財産権に関するインセンティブ、規制当局によるデータ保護、希少疾患用医薬品の市場独占期間の短縮または修正を含むEUの薬事法制の改正案を提案していることから、今後価格引き下げ圧力が高まることが予想されます。また、当社は、中国を含む新興国等のその他の国・地域においても同様の価格圧力を受けています。当社がこれらの国・地域に事業を拡大するに伴い、今後も引き続き価格圧力を受けると予想されます。
当社は、各国の薬剤費抑制策の詳細な分析やモニタリングを行い、医薬品の価格状況を管理する組織体制を構築することでリスクの回避と影響低減の努力を行うと共に、各国政府や医療サービス供給者・保険者等と協力して、革新的な医薬品に対する適切な報酬制度を確立するために、価値に基づく新しい価格設定モデル(バリューベースド・プライシング)等の解決策を追求しておりますが、これら各国の薬剤費抑制策による価格引き下げにより、当社製品の価格が影響を受け、当社の業績および財務状況に悪影響が生じる可能性があります。
(6)企業買収に関するリスク
当社は、持続的な成長を加速させるため、必要に応じて企業買収を実施しております。世界各国における事業活動は、法令や規則の変更、政情不安、経済動向の不確実性、商慣習の相違その他のリスクに直面する可能性があり、その結果当初想定した買収効果や利益が実現されない可能性があります。取得した資産の価値が下落し、評価損等が発生した場合や、買収した事業の統合から得ることが期待されている利益が実現されない場合には、のれんおよび無形資産等の減損損失の計上等により、当社の業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
また、過去の企業買収に関連する金融機関からの多額の借入れを含め、当社は多額の債務を負っております。当社は、利益の創出および選択的な非中核資産の売却等を通じてレバレッジの速やかな低下を進めておりますが、将来の当社の財務状況が悪化した場合には、信用格付けが引き下げられ、その結果、既存の債務の借り換えや新規借入れ、その他資金調達の条件にも影響を及ぼす可能性があります。さらに、当社の債務には制限条項が付されているものがあり、かかる制限条項に抵触した場合には、債務の早期返済等により当社の財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(7)安定供給に関するリスク
当社は、販売網のグローバル化に確実に対応するとともに、当社製品への需要に対し適切な供給量を確保していくため、供給ネットワークと品質保証体制を強化しており、具体的には、製造設備への適切な投資、必要に応じて複数のサプライヤーと適切な在庫水準を確保するための製造供給戦略の策定、代替サプライヤーの選定、当社内の製造ネットワークに係る危機管理規則の制定、事業継続管理システムの導入および定期的な内部監査等を行っています。しかしながら、当社または委託先の製造施設・物流施設等において、技術上もしくは法規制上の問題、原材料の不足、想定を超える需要、または自然災害の発生や新興感染症の流行、進出国における紛争あるいは各国・地域間における地政学的緊張の高まり等により、製商品の安定的供給に支障が発生する可能性があります。その動向によっては、当社の業績、財務状況および社会的信頼に影響を及ぼす可能性があります。
(8)IT セキュリティ、情報管理およびデジタル技術に関するリスク
当社は、顧客ニーズに合致したデジタルビジネスモデルへ移行するためデジタル変革を加速しております。また、事業の特性上、センシティブな個人情報を含む大量の機密情報を取り扱っており、データ保護の重要性がいっそう高まっております。大規模かつ複雑なIS/IT システム(アウトソーシング企業のシステムを含む)の利用は、従業員またはアウトソーシング企業の不注意または故意の行為、あるいは悪意をもった第三者による攻撃(サイバーアタック)により、システムの停止やセキュリティ上の問題が発生する可能性があります。当社は、これらのリスクを低減するため、包括的なポリシーや手続きを整備するとともに、リスク評価を通じた事業リスク分析および監査や第三者によるリスク低減テストを通じて、セキュリティ戦略の形成とクラウド活用を前提とした事業変革の推進を含む効果的なテクノロジーへの投資を行うことによりセキュリティの継続的な強化に努めております。また、人工知能(AI:Artificial Intelligence)など新たなデジタル技術の普及により技術およびデータに対する倫理規範の形成の重要性が高まっていることから、包括的なリスク評価を実施するとともに、組織体制の強化、組織的な意識向上を図るなど戦略的な取組みを進めております。しかしながら、システムの停止やセキュリティ上の問題が発生した場合、あるいはデジタル技術が適切に利用されない場合、当社の事業活動への悪影響、個人情報や知的財産等の重大な機密情報の流出や喪失、業績および財務状況の悪化、ならびに信用の失墜を招く可能性があります。また、ソーシャルメディアおよび他のデジタルメディアにおいては、当社、当社従業員あるいは当社製品にかかる誤情報が増幅・拡散されるリスクにも晒されているため、継続的なモニタリングを実施していますが、こうした誤情報が拡散した場合、当社の社会的評価が低下し、信用の失墜を招く可能性があります。
(9)コンプライアンスに関するリスク
当社は事業の遂行にあたって、薬事規制や製造物責任、独占禁止法、個人情報保護法等の様々な法的規制やGMP (Good Manufacturing Practice)、GQP(Good Quality Practice)、GCP (Good Clinical Practice)、GLP (Good Laboratory Practice)等のガイドラインの適用を受けています。また、当社は多数のエージェント、サプライヤーや卸売業者等の第三者と協力関係にありますが、顧客に対するエンゲージメント戦略の進化に伴うデジタル・オムニチャンネルの利用拡大、希少疾患およびワクチン領域への製品ポートフォリオの拡大およびデータ・デジタル技術の進化に伴う外部ステークホルダーとのパートナーシップの増加など、当社の事業活動の進化に伴い、これらの第三者による業務遂行の影響は増加しています。さらに、当社はソーシャルメディア・プラットフォームを含むデジタルプラットフォームの使用が増加しておりますが、これらが法令および社内規定に遵守しない方法により使用される可能性があります。当社は、グローバルエシックス&コンプライアンス部門を設置し、グローバルでコンプライアンスを推進する体制を整備し、当社および当社が関係する第三者の事業活動が法令および社内規定を遵守して実施されていることをモニタリングしています。また、第三者との取引あるいは対話にかかる社内ポリシーを新たに制定あるいは更新し、リスクの低減にも努めております。第三者リスク管理(サードパーティリスク管理)の一環として、デューデリジェンスを強化するとともに、潜在的なリスクを特定できるよう取引業者および取引内容の継続的なスクリーニングについても更なる強化を図っております。しかしながら、当社の従業員や、当社が関係する第三者がこれらの法令等に違反した場合や社会的要請に反した行動をとった場合、法令による処罰や制裁、規制当局による処分、訴訟の提起を受ける可能性があり、社会的な信頼を失うとともに金銭的損害を負う可能性があります。
(10)進出国および地域におけるカントリーリスク
当社は、グローバルな事業展開に伴い、進出国や地域における政治不安、経済情勢の悪化、新興感染症の拡大、社会混乱、進出国における紛争、各国・地域間における地政学的緊張の高まり等に伴う投資や輸出入の規制、データの越境規制など様々なリスクにさらされています。当社は、各部門の連携のもと、これらのリスクが当社の事業に与える影響の分析や各地域における社会情勢のモニタリング等を通じてリスクに対応する体制を構築しており、患者さんの医薬品へのアクセスを保護することを優先事項として、リスクの抑止策や発生時の対処法を検討する等のリスク管理に努めております。しかしながら、当社または当社と協力関係にある第三者が事業を行っている地域において、不測の事態が生じた場合には、当社の業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(11)為替変動、金利変動およびインフレーションに関するリスク
当社の当年度における海外売上収益は3兆8,124億円であり、連結売上収益全体の89.4%を占めており、そのうち米国での売上収益は2兆1,957億円にのぼり、連結売上収益全体の51.5%を占めております。従って、売上収益については円安は増加要因である一方、研究開発費をはじめとする海外費用が円安により増加するため、利益に対する影響は双方向にあります。また、機能通貨以外で実行される事業上の取引、金融取引および投資に関して為替変動リスクにさらされています。さらに、金利変動による資金調達コストの上昇や、世界的なインフレーションの進行が当社の利益を圧迫する可能性があります。当社は為替および金利リスクを集約的に管理し、これらの財務リスクをヘッジするためにデリバティブ取引を行うとともに、取引先との契約条件の見直し等により潜在的な影響の緩和を図っておりますが、経済環境や金融市況が当社の想定を超えて変動した場合には、当社の業績および財務状況に影響が生じる可能性があります。
(12)訴訟等に関するリスク
当社の事業活動に関連して、現在関与している訴訟のほか、将来、医薬品の副作用、製造物責任、労務問題、公正取引等に関連し、訴訟を提起される可能性があり、その動向によっては、当社の業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。なお、係属中の重要な訴訟の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
(13)環境に関するリスク
環境はウェルビーイング(心身の健康)の基礎であり、私たちは事業活動に欠かせない自然資源を環境から得ています。環境保全に対する責務の遂行は、当社の事業の発展に不可欠であり、当社の価値観(バリュー)に沿うものです。これは、単に正しい行いをするというだけではなく、人生を変えうるような医薬品やワクチンを責任をもってお届けできるようにするものです。そのために、当社は、ステークホルダーからの期待に沿いつつ法規制への準拠を実現する厳格な環境マネジメントシステムおよび社内プログラムを整備するとともに、これらが有効に運用され、期待する結果を達成していることを確認するための内部監査手続を定めております。しかしながら、万が一、有害物質による予期せぬ汚染や法規制への不適合、不十分な環境保全活動が顕在化した場合には、社会的信頼を損なうとともに、行政措置の対象となり、保険の適用範囲外または補償金額を超える支払義務を伴う改善措置の実施や法的責任を負うことにより、当社の事業活動に悪影響が生じる可能性があります。また、環境法規制の改正や社会の期待の変化により、より厳しい要請への対応が課せられ、当社の研究、開発、製造その他の事業活動に影響がおよぶ可能性もあります。かかる要件の遵守や課題への対応が行われない場合には、法規制上の責任を負い、当社の社会的信頼に影響を及ぼすとともに、当社の業務遂行能力に悪影響が生じ、ステークホルダーに対する魅力が低下する可能性があります。
当社は、気候変動を、人々の健康に大きな影響を及ぼす深刻なグローバル課題であるとともに、当社の事業に財務的なリスクをもたらす可能性のある課題であると認識しています。2021年に、当社は気候変動に係るリスクと機会の評価を完了しました。当該評価は当社の一定の直接的な事業活動のみを対象としており、当社は、2030年度までの時間軸と2050年度までの時間軸について、気候変動に対する全世界における対応状況によって異なる3つの気候変動シナリオ(すなわち、「気候変動追加対策なし (No Action)」「対応中(Middle of the Road)」「積極的緩和策(Aggressive Mitigation)」)を設定しました。この評価プロセスにより、当社に潜在的に該当する気候変動リスク・カテゴリーを特定することができました。これには、従業員への影響や、当社の血漿分画製剤事業におけるドナー提供の潜在的な減少に繋がる疾病の増加や感染症蔓延等の地理的な拡大、コスト増加に繋がるエネルギー/カーボンの価格付けと政策、気候変動に関する目標を達成できないことによる社会的信頼への悪影響、異常気象や類似の事象に当社の施設等がさらされていることによる直接的な物理的リスク、当社の重要なサプライヤーを通じた間接的な気候変動リスクが含まれます。当社では、潜在的な気候変動関連リスクへの理解を深め、当該リスク軽減のための更なる施策を特定していくため、継続的に前提条件を見直して評価を更新していくとともに、気候変動関連リスクの評価範囲を拡大する予定です。 また、当社では、気候変動関連リスクを全社的リスク管理体制に組み込んでおり、今後新たに顕在化しうるリスクの傾向を適切にモニタリングできる体制を取っております。当社では、潜在的な影響を緩和するため、低炭素型事業への移行を進めています。当社は、2022年度まで、カーボンニュートラルを維持してきましたが、2024年度からは気候変動対策の目標としてのカーボンニュートラルからの転換を行い、ネットゼロのロードマップを進めるための取り組みにリソースを集中させる一方で、バリューチェーンを超えた自然を活用したカーボン除去プロジェクトへの投資を継続していきます。
当社の重要なステークホルダーは当社に対して優れた環境保全活動を遂行することを期待していると認識しており、当社は自社の製品および事業活動から生じる環境への影響を緩和するための方策を継続的に模索しています。環境に関するサステナビリティでは、当社の事業活動およびバリューチェーン全体での温室効果ガスの削減、自然環境および生物多様性の保全、持続可能性に配慮した製品開発および製造に注力していますが、これら取り組みを補完するものとして、水自然の保全、責任ある廃棄物処理を含む天然資源保全の領域にも引き続き注力します。これらの取り組みにより成果が得られた場合には、地球の生態系と人々の健康を守りながら、当社に対する社会的評価の向上と当社事業の強化に繋がることとなり、患者さんに貢献するという当社の揺るぎない使命を果たし続けられることになります。一方で、当社が掲げている持続可能性の高い目標に基づいた行動を実施できない場合や、ステークホルダーの期待に沿う結果が得られない場合には、当社に対する社会的信頼が損なわれ、その結果、従業員の採用・維持や顧客や投資家との関係の構築において問題が生じ、当社の業績および財務状況に影響が及ぶ可能性があります。
(14)人材の採用および定着に関するリスク
当社の長期的に持続可能な成長には、人材の獲得競争の激しい市場や地域において、事業を支える適切な人材の採用と定着が重要であると認識しております。当社は、組織の有効性、文化、価値観を維持しながら、働き方の柔軟性をより高め、職場環境をより良くし、多様性、公平性、包括性(DE&I)を促進する施策を実施するとともに、継続的なキャリア開発機会の提供やエンゲージメントの推進を図り、従業員に対して魅力的な価値を提案することで、人材採用における競争力の強化と人材の定着を促進しております。しかしながら、計画通りに採用や定着が進まない場合は、人材の喪失や不足を通じて、当社の競争力が低下し、その結果、当社の業績および財務状況に影響が及ぶ可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当年度の業績および財政状態は以下のとおりとなりました。
なお、当社グループは「医薬品事業」の単一セグメントのため、セグメントごとの経営成績の記載を
省略しております。
② キャッシュ・フローの状況
「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」をご参照下さい。
③ 生産、受注及び販売の状況
(a) 生産実績
当年度における生産実績は次のとおりであります。
(注) 1 当社グループは「医薬品事業」の単一セグメントであります。
2 生産実績金額は、販売価格によっております。
(b) 受注状況
当社グループは、主に販売計画に基づいて生産計画をたてて生産しており、一部の受注生産における受注高および受注残高の金額に重要性はありません。
(c) 販売実績
当年度における販売実績は次のとおりであります。
(注) 1 当社グループは「医薬品事業」の単一セグメントであります。
2 販売実績は、外部顧客に対する売上収益を表示しております。
3 主な相手先別の販売実績および総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 当年度の経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容
(a) 当年度の経営成績の分析
(ⅰ) 当社グループの経営成績に影響を与える事項
事業の概況
当社は、自らの企業理念に基づき患者さんを中心に考えるというバリュー(価値観)を根幹とする、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品企業です。当社は、幅広い医薬品のポートフォリオを有し、研究、開発、製造、およびグローバルでの販売を主要な事業としており、消化器系疾患、希少疾患、血漿分画製剤(免疫疾患)、オンコロジー(がん)、およびニューロサイエンス(神経精神疾患)の5つの主要ビジネスエリア(注1)にフォーカスしています。研究開発においては、消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス、およびオンコロジーの3つの重点疾患領域に取り組むとともに、血漿分画製剤とワクチンにも注力しています。当社は、研究開発能力の強化ならびにパートナーシップを推し進め、強固かつ多様なモダリティ(創薬手法)のパイプラインを構築することにより、革新的な医薬品を開発し、人々の人生を豊かにする新たな治療選択肢をお届けします。当社は、患者さんやコミュニティに高品質の医薬品やワクチンをできる限り早くお届けするために、希少疾患および有病率がより高い疾患のいずれにおいても、未だ有効な治療法が確立されていない疾患に対する高い医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)に集中して取り組んでいます。当社は、約80の国と地域で医薬品を販売しており、世界中に製造拠点を有するとともに、日本および米国に主要な研究拠点を有しています。
当社はこれまで、地理的拠点の拡大、消化器系疾患、オンコロジー、ならびにニューロサイエンス領域を強化するとともに、希少疾患および血漿分画製剤での主導的地位を構築し、ベスト・イン・クラスあるいはファースト・イン・クラスになり得るパイプラインの強化にも取り組んできました。販売においては、米国、欧州および成長新興国におけるプレゼンスを飛躍的に向上させました。また、当社は事業運営をより効果的かつ効率的に行うため、データ、デジタルおよびテクノロジーの活用を促進し、イノベーションの創出の増進およびステークホルダーへの価値提供に取り組んでいます。
当社グループの事業は単一セグメントであり、資源配分、業績評価、および将来業績の予測においてマネジメントの財務情報に対する視点と整合しております。2024年3月期における売上収益および営業利益はそれぞれ4兆2,638億円および2,141億円であります。
(注1)2025年3月期より、従来の「血漿分画製剤(免疫疾患)」は、それまで「希少疾患」に含まれていたファイバやCINRYZEなどのすべての血漿由来の製品を含め「血漿分画製剤」という名称とします。また、2025年3月期より、それまで「その他」に含まれていたワクチンは、デング熱ワクチンQDENGAの戦略的重要性を踏まえ、主要ビジネスエリアの一つとして「ワクチン」と表示します。
当社グループの経営成績に影響を与える事項
当社グループの経営成績は、グローバルな業界トレンドや事業環境における以下の事項に影響を受けます。
特許保護と後発品との競争
医薬品は特に、特許保護や規制上の独占権によって市場競争が規制されることにより、当社グループの業績に貢献する場合があります。代替治療の利用が容易でない新製品は当社グループの売上の増加に貢献します。ただし、保護されている製品についても、効能、副作用や価格面で他社との競争が存在します。一方で、特許保護もしくは規制上の独占権の喪失や満了により、後発品が市場に参入するため、当社グループの業績に大きな悪影響を及ぼすことがあります。当社グループの主要製品の一部は、特許やその他の知的財産権保護の満了により、厳しい競争に晒されており、あるいは晒されると予想しております。以下は、過去2年間において、後発品またはバイオシミラーが発売された当社の一部の主要製品の業績を示しております。(「CER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベース」の増減は、IFRSに準拠した指標ではありません。詳細については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。)
(単位:億円、%以外)
2022年にベルケイドに含まれる有効成分であるボルテゾミブの特許権満了に伴う後発品の参入により、ベルケイドの売上収益が2023年3月期には278億円、2024年3月期には55億円までに減少しました。2023年8月には米国においてVYVANSEの特許権が満了しました。また、2023年2月にアジルバの後発品が日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)により承認されたことを受け(競合品の薬価収載は2023年6月に承認)、関連する国・地域において、両製品の売上収益が減少しました。VYVANSEの売上収益は2023年3月期の4,593億円から2024年3月期には4,232億円に減少し、アジルバの売上収益は2023年3月期の729億円から2024年3月期には336億円に減少しました。2025年3月期においても、両製品ともに減少傾向が続くと見込んでおります。
後発品を販売する他社が特許権の有効性に対する申し立てに成功する場合、もしくは想定される特許侵害訴訟に係る費用以上のベネフィットを前提として参入することを決定する場合があります。また、当社グループの特許権の有効性、あるいは製品保護に対する申し立てが提起された場合には、関連する無形資産の減損損失を認識する可能性があります。
新製品の開発・商業化および既存製品の拡大
当社は特に売上収益を伸長し、独占権喪失の影響を相殺することを目指しており、当社の事業において、新規のバイオ医薬品の開発・商業化のほか、既存製品の適応拡大および(または)地理的市場拡大による既存製品の拡大は重要な取組みです。これらの目標達成までのプロセスは長期にわたり多額の費用を伴い、多額の研究開発費が発生します。これらは当社の連結損益計算書上営業費用として計上しています。当社の研究開発の取組みに関する詳細については、本報告書の「6.研究開発活動」、製品に関連する研究開発費(償却および減損を含む)および無形資産の会計方針については、本報告書の「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3 重要性がある会計方針」をご参照ください。
当社は、当社のポートフォリオのうち、一部の製品を当社の成長製品・新製品として特定しております。特にライフサイクルの初期段階にある製品の多くは連結売上収益への貢献は限定的でありますが、当社の経営者はこれらの製品を将来の主要な成長ドライバーとしてモニターしており、これらの製品に関する情報は、当社が今後成長を見込んでいる領域を投資家に理解していただくにあたり有用であると考えています。当グループを構成する製品は随時変更され、臨床試験の結果や規制当局の認可取得等により、製品を追加または除外する場合があります。
2024年3月期において、当社は次の製品を成長製品・新製品として特定しました:ENTYVIO、アロフィセル、EOHILIA、タクザイロ、LIVTENCITY、アジンマ、免疫グロブリン製剤(GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、HYQVIA、キュービトルを含む)、アルブミン製剤(HUMAN ALBUMIN・FLEXBUMINを含む)、アルンブリグ、EXKIVITY、FRUZAQLAおよびQDENGA
2024年3月期において、これらの成長製品・新製品は、当社の連結売上収益の43%を占める1兆8,330億円でありました。2024年3月期の内訳としては、ENTYVIOは8,009億円(当社の連結売上収益の19%)、当社の3つの免疫グロブリン製剤(GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、HYQVIA、キュービトル)は6,446億円(当社の連結売上収益の15%)、アルブミン製剤は1,340億円(当社の連結売上収益の3%)、タクザイロは1,787億円(当社の連結売上収益の4%)となりました。また、2024年3月期にアロフィセルおよびEXKIVITYの治験が失敗し、これらの製品の商業的予測が変更されたため、2025年3月期の成長製品・新製品(注)から除外しております。一方、新製品FRUZAQLAおよびQDENGAは今後成長し、長期的に収益成長に大きく貢献すると見込まれるため、これらの製品を追加しております。変更後の成長製品・新製品は、2024年3月期における連結売上収益の43%を占める1兆8,260億円となります。
(注)本年次報告書日現在において、2025年3月期の成長製品・新製品は、以下のとおりです。
ENTYVIO、EOHILIA、タクザイロ、LIVTENCITY、アジンマ、免疫グロブリン製剤(GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、HYQVIA、キュービトルを含む)、アルブミン製剤(HUMAN ALBUMIN、FLEXBUMINを含む)、アルンブリグ、FRUZAQLAおよびQDENGA
買収
当社グループは、研究開発能力を拡大し(新たな手法に展開することを含みます。)、新しい製品(開発パイプラインや上市済み製品)やその他の戦略的領域を獲得するために、新たな事業または資産を買収する可能性があります。同様に、当社グループの主な成長ドライバーに注力するため、また当社グループのポートフォリオを維持するために、事業や製品ラインを売却しております。
2023年2月、当社グループは、高度に選択的な経口アロステリックチロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬TAK‑279に関連する知的財産権およびその他の関連する資産を所有または支配する、Nimbus Therapeutics, LLC(以下、「Nimbus社」)の完全子会社であったNimbus Lakshmi, Inc.の全株式を取得しました。契約条件にもとづき、当社グループは一時金として40億米ドルを本取引完了後に支払い(注)、また、「TAK‑279」(Nimbus社における旧「NDI‑034858」)のプログラムから開発された製品の年間の売上高が40億米ドルと50億米ドルとなった場合には、それぞれにつき10億米ドルのマイルストンを同社に支払います。さらに、本取引に関連して、当社グループは、Nimbus社とBristol‑Myers Squibbおよびその子会社である Celgene Corporationとの間の2022年1月の和解契約におけるNimbus社の義務である「TAK‑279」のプログラムから開発された製品の開発、薬事規制上の承認、および売上に関するマイルストン支払い義務を引き受けることに合意しました。
これらの買収は企業結合または資産の取得として会計処理されております。企業結合の場合、取得した資産および引き受けた負債は公正価値で計上されております。当社グループの業績は、通常、棚卸資産の公正価値の増加や、取得した有形固定資産および無形資産の償却費により影響を受けます。また、資産の取得の場合、取得した資産は取引価格で計上されております。企業結合または資産の取得の対価が追加的な借入金で賄われている場合、支払利息の増加も当社グループの業績に影響を与えます。
買収および上記の影響により、当社グループの業績は期間比較ができない可能性があります。
(注)当社グループは、一時金40億米ドルのうち、2023年2月に30億米ドル、2023年4月に9億米ドル、2023年8月に1億米ドルをそれぞれ支払っております。
事業売却
買収に加え、当社グループは、主要な成長ドライバーに注力し、また長期借入金を速やかに返済するための追加キャッシュ・フローを創出するため、事業や製品ラインを売却しております。2023年3月期から2024年3月期および本報告書提出日時点において、重要な事業売却はありません。
原材料の調達による影響
重要な原材料を社内外から調達することができない場合に、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、ヒト血漿は当社グループの血漿分画製剤において重要な原材料であります。血漿をより多く収集するため、調達および外部との契約を強化し、原料血漿の収集や血漿分画に関連する施設への委託、および規制当局から承認を受けることに成功するための取り組みを行っております。
外国為替変動
2023年3月期および2024年3月期において、当社グループでは日本以外の売上がそれぞれ87.3%、89.4%を占めております。当社グループの収益および費用は、特に当社の表示通貨である日本円に対する米ドルおよびユーロの外国為替レートの変動に影響を受けます。円安は日本円以外の通貨による収益の増加要因となり当社グループの業績に好影響を及ぼしますが、日本円以外の通貨による費用の増加により相殺される可能性があります。とりわけ、2023年3月期および2024年3月期において、他の通貨に対する円安により、当社の売上収益はプラスの影響を受けました。反対に、円高は日本円以外の通貨による収益減少要因となり当社グループの業績に悪影響を及ぼしますが、日本円以外の通貨による費用の減少により相殺される可能性があります。前年度からの為替レートの変動が当社グループの業績に与える影響を投資家がより良く理解できるよう、当社グループは、補足的にCER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減を「CER」の表記で示しています。IFRSに準拠した実勢レート(Actual Exchange Rate)ベースの増減は「AER」の表記で示しています。CERベースの増減率に基づく対前年度の業績比較分析については、下記の「(ⅲ) 当年度における業績の概要」及び「(ⅳ) 当年度におけるCore業績の概要」をご参照ください。
また、「CERベースの増減」は、国際会計基準(IFRS)に準拠した指標ではありません。詳細については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。
なお、為替変動リスクを低減するため、当社グループは重要な一部の外貨建取引について、特定のヘッジ手段を利用しております。これには、主に個別に重要な外貨建取引に対する先物為替予約、通貨スワップおよび通貨オプションが含まれます。
季節的要因
当社グループの売上収益は、2023年3月期および2024年3月期において第4四半期に減少しています。これは、卸売業者は年末年始休暇に向けてあらゆる国・地域における在庫数を増やす傾向にあること、年間にわたって価格が上昇していること、暦年の年初の米国における保険の年間免責額の改定等によるものです。
(ⅱ) 重要な会計方針
当社グループの連結財務諸表はIFRSに準拠して作成されております。当連結財務諸表の作成にあたり、経営者は資産および負債の金額、決算日現在の偶発資産および偶発負債の開示、ならびに報告期間における収益および費用の金額に影響を及ぼす見積りおよび仮定の設定を行うことが求められております。見積りおよび仮定は、継続的に見直されます。経営者は、過去の経験、ならびに見積りおよび仮定が設定された時点において合理的であると判断されたその他の様々な要因に基づき当該見積りおよび仮定を設定しております。実際の結果はこれらの見積りおよび仮定とは異なる場合があります。
経営者の見積りおよび仮定に影響を受ける重要な会計方針は以下の通りであります。なお、見積りおよび仮定の変更が連結財務諸表に重大な影響を及ぼす可能性があります。
収益認識
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3 重要性がある会計方針 (5) 収益」をご参照ください。
のれんおよび無形資産の減損
当社グループは、のれんおよび無形資産について、資産の帳簿価額が回収不能であるかもしれないことを示す事象または状況の変化がある場合には、減損テストを行っております。のれんおよび償却開始前の無形資産については、年次および減損の兆候を捕捉した時点で減損テストを実施しております。2024年3月31日時点において、当社グループはのれんおよび無形資産をそれぞれ5兆4,101億円および4兆2,747億円計上しており、これは総資産の64.1%を占めております。
上市後製品に係る無形資産は特許が存続する見込期間または見込まれる経済的便益に応じた他の指標に基づき、3年から20年の耐用年数を用いて定額法で償却しております。仕掛研究開発品に係る無形資産は、特定の市場における商用化が規制当局により承認されるまで償却をしておりません。商用化が承認された時点で、当該資産の見積耐用年数を確定し、償却を開始しております。
のれんおよび無形資産は、通常、連結財政状態計算書上の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には減損していると判断されます。無形資産にかかる回収可能価額は個別資産、またはその資産が他の資産と共同で資金を生成する場合はより大きな資金生成単位ごとに見積られます。資金生成単位は独立したキャッシュ・インフローを形成する最小の識別可能な資産グループであります。のれんの減損テストは単一の事業セグメント単位(単一の資金生成単位)で実施しており、これはのれんを内部管理目的で監視している単位を表しています。回収可能価額の見積りには以下を含む複数の仮定の設定が必要となります。
·将来キャッシュ・フローの金額および時期
·競合他社の動向(競合製品の販売開始、マーケティングイニシアチブ等)
·規制当局からの承認の取得可能性
·将来の税率
·永続成長率
·割引率
将来キャッシュ・フローの金額および時期を見積るための重要な仮定には、研究開発プロジェクトの成功見込みおよび製品に係る売上予測があります。特にのれんにかかる回収可能価額の見積りにおいては、特定の製品に係る売上予測が重要な仮定となります。これらの仮定に影響を与える事象としては、開発の中止、大幅な上市の遅延、規制当局の承認が得られないことによる研究開発プロジェクトの失敗、もしくは一般的には新たな競合製品の販売開始や供給不足による、一部の上市後製品にかかる売上予測の低下があげられます。これらの事象が発生した場合、プロジェクト獲得以降に実施した当初もしくは事後の研究開発投資額が回収できない、もしくは見積った将来キャッシュ・フローが回収できない可能性があります。
これらの仮定に変更が生じた場合は、当該連結会計年度において減損損失およびのれんを除き減損損失の戻入れを認識しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 11 のれんおよび12 無形資産」をご参照ください。
訴訟に係る偶発事象
当社グループは、通常の営業活動において主に製造物責任訴訟および賠償責任訴訟に関与しております。詳細については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
偶発負債は、その特性から不確実なものであり複雑な判断や可能性に基づいております。訴訟およびその他の偶発事象に係る引当金を算定する際には、該当する訴訟の根拠や管轄、その他の類似した現在および過去の訴訟案件の顛末および発生数、製品の性質、訴訟に関する科学的な事項の評価、和解の可能性ならびに現時点における和解にむけた進行状況等を勘案しております。さらに、未だ提訴されていない製造物責任訴訟については、主に過去の訴訟の経験や製品の使用に係るデータに基づき、費用を合理的に見積ることができる範囲で引当金を計上しております。当社グループが関与する重要な訴訟のうち、それらの最終的な結果により財務上の影響が見込まれる場合であっても、その額について信頼性のある見積りが不可能な訴訟等については、引当金の計上は行っておりません。また、保険の補償範囲期間内である場合は保険による補償についても考慮しております。補償範囲の検討の際に、当社グループは、保険契約の制限や除外、保険会社による補償の拒否の可能性、保険業者の財政状態、ならびに回収可能性および回収期間を考慮しております。引当金および関連する保険補償額の見積りは、連結財政状態計算書上において負債および資産として総額で計上しております。2024年3月31日現在において、係争中の訴訟案件およびその他の案件について223億円の引当金を計上しております。
法人所得税
当社グループは、税法および税規制の解釈指針に基づき税務申告を行っており、これらの判断および解釈に基づいた見積額を計上しております。通常の営業活動において、当社グループの税務申告は様々な税務当局による税務調査の対象であり、これらの調査の結果、追加税額、利息、または罰金の支払いが課される場合があります。法律および様々な管轄地域の租税裁判所の判決に伴う法改正により、不確実な税務ポジションに関する負債の見積りの多くは固有の不確実性を伴います。税務当局が当社グループの税務ポジションを認める可能性が高くないと結論を下した場合に、当社グループは、税務上の不確実性を解消するために必要となる費用の最善の見積り額を認識します。また、未認識の税務上の便益は事実および状況の変化に伴い調整されます。これらの税務ポジションは、例えば、現行の税法の大幅改正、税務当局による税制または解釈指針の発行、税務調査の際に入手した新たな情報、または税務調査の解決により調整が行われる可能性があります。当社グループは、不確実な税務ポジションに係る当社グループの見積りは、現時点において判明している事実および状況に基づき適切かつ十分であると判断しております。
また、各報告期間の末日において繰延税金資産の回収可能性を評価しております。繰延税金資産の回収可能性の評価においては、予想される将来加算一時差異の解消スケジュール、予想される将来課税所得およびタックスプランニングを考慮しております。収益力に基づく将来課税所得は、主に当社グループの事業計画を基礎として見積られており、当該事業計画に含まれる特定の製品に係る売上収益の予測が変動した場合、認識される繰延税金資産の金額に重要な影響を与える可能性があります。過去の課税所得の水準および繰延税金資産が認識できる期間における将来の課税所得の見積りに基づき、実現する可能性が高いと予想される税務上の便益の額を算定しております。2024年3月31日現在における繰延税金資産を認識していない未使用の繰越欠損金、将来減算一時差異、および未使用の繰越税額控除はそれぞれ1兆1,861億円、2,631億円、および237億円であります。将来における見積りおよび仮定の変更は法人所得税費用に重要な影響を与える可能性があります。
事業構造再編費用
当社グループでは、費用削減に関連した取り組みに関連して事業構造再編費用が発生します。退職金が事業構造再編費用の主な内訳であり、事業構造再編に係る引当金は、事業構造再編に係る詳細な公式計画を策定し、かつ計画の実施や影響を受ける関係者への主要な特徴の公表を通じて、影響を受ける関係者に当該事業構造再編が実行されるであろうという妥当な期待を惹起した時点で認識しております。事業構造再編に係る引当金の認識には、支払時期や、事業再編により影響を受ける従業員数等の見積りが必要となります。最終的なコストは当初の見積りから異なる可能性があります。
2024年3月31日現在において、当社グループは、事業構造再編に係る引当金を121億円計上しております。事業構造再編に係る引当金の詳細および推移は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 23 引当金」をご参照ください。また、2024年5月9日に当社は、組織の機動性の向上・簡素化、調達モデルの改善、デジタル、自動化、人工知能(AI)技術の活用による生産性・効率性の向上の取り組みなど、効率化と収益性の向上を目指す複数年にわたる全社的なプログラムを実施することについて、公表しました。主に、2024年5月に公表した当該取り組みにより、2025年3月期に1,400億円の事業構造再編費用を計上することを見込んでおり、それ以降の年度においても減少はするものの、費用が発生する可能性があります。
(ⅲ) 当年度における業績の概要
前年度および当年度の連結業績は、以下のとおりとなりました。
本項において、前年度に対する、国際会計基準(IFRS)に準拠した実勢レート(Actual Exchange Rate)ベースの増減額および増減率は「AER」の表記で示し、国際会計基準(IFRS)に準拠しない恒常為替レート(Constant Exchange Rate)ベースの増減率は「CER」の表記で示しています。「CERベースの増減率」の定義については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。
〔売上収益〕
売上収益は、4兆2,638億円(+2,363億円および+5.9% AER、+1.5% CER)となりました。これは主に、為替相場が円安に推移したこと、血漿分画製剤(免疫疾患)、消化器系疾患、希少疾患およびオンコロジー(がん)において事業が好調に推移したことによるものです。これらビジネスエリアでの増収は、ニューロサイエンス(神経精神疾患)の減収により相殺されました。当社の主要なビジネスエリア以外における減収は、主に日本において高血圧症治療剤アジルバの売上収益が減収となったこと、および日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンによる売上貢献が減少したことによるものです。アジルバの売上は、336億円(△393億円および△53.9% AER、△53.9% CER)となり、日本において後発品の参入による影響を受け、減収となりました。
地域別売上収益
各地域の売上収益は以下のとおりです。
(単位:億円、%以外)
(注1) その他の地域は中東、オセアニアおよびアフリカを含みます。
当社グループの売上収益の大部分は、主要な医療用医薬品により占められております。当年度の各ビジネスエリアにおける主要製品の売上は以下のとおりです。
(注1)国内製品名:エンタイビオ
(注2)配合剤、パック製剤を含む。
(注3)一般名:pantoprazole
(注4)国内製品名:ビバンセ
(注5)翌年度より、従来の「血漿分画製剤(免疫疾患)」は、それまで「希少疾患」に含まれていたファイバやCINRYZEなどのすべての血漿由来の製品を含め「血漿分画製剤」という名称とします。また、「その他」に含まれていたワクチンは、デング熱ワクチンQDENGAの戦略的重要性を踏まえ、主要ビジネスエリアの一つとして「ワクチン」と表示します。この新区分を適用した場合、「希少疾患」の売上収益は当年度6,884億円、前年度6,398億円、「血漿分画製剤」の売上収益は当年度9,037億円、前年度7,654億円、「ワクチン」の売上収益は当年度504億円、前年度787億円、「その他」の売上収益は当年度3,157億円、前年度3,727億円となります。
各ビジネスエリアにおける売上収益の前年度からの増減は、主に以下の製品によるものです。
- 消化器系疾患
消化器系疾患領域の売上収益は、1兆2,162億円(+1,217億円および+11.1% AER、+4.7% CER)となりました。
当社のトップ製品である潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)の売上は、8,009億円(+982億円および+14.0% AER、+6.6% CER)となりました。米国における売上は、5,461億円(+542億円および+11.0% AER)となりました。この増収は、円安による増収影響、および炎症性腸疾患の主に潰瘍性大腸炎に対する生物学的製剤の新規投与の需要によるものです。欧州およびカナダにおける売上は、1,958億円(+334億円および+20.5% AER)となりました。この増収は、円安による増収影響、および皮下注射の使用拡大に伴い新規患者が増加したことによるものです。
短腸症候群治療剤GATTEX/レベスティブの売上は、1,193億円(+262億円および+28.1% AER、+22.7% CER)となりました。この増収は、主に米国、欧州および日本において需要が増加したこと、処方拡大(乳児までを対象とする適応拡大および地理的拡大)、および円安による増収影響によるものです。
酸関連疾患治療剤タケキャブ/VOCINTIの売上は、1,185億円(+98億円および+9.0% AER、+8.2% CER)となりました。この増収は、主に日本やブラジルおよび中国を含む成長新興国において本剤の売上が増加したことによるものです。
逆流性食道炎治療剤DEXILANTの売上は、453億円(△241億円および△34.7% AER、△39.6% CER)となりました。この減収は、米国における独占販売期間満了による影響、およびオーソライズド・ジェネリックのプログラム終了による影響によるものです。
- 希少疾患
希少疾患領域の売上収益は、7,707億円(+473億円および+6.5% AER、+4.1% CER)となりました。
希少血液疾患領域の売上収益は、3,053億円(+6億円および+0.2% AER、△2.9% CER)となりました。
血友病A治療剤アドベイトの売上は1,229億円(+47億円および+4.0% AER、+1.1% CER)となりました。この増収は、円安による増収影響、加えてブラジルおよび中国を含む成長新興国において本剤の売上が増加したことによるものです。
フォン・ヴィレブランド病治療剤ボンベンディの売上は、162億円(+40億円および+32.5% AER、+23.1% CER)となりました。この増収は、主に米国において需要が増加したことによるものです。
血友病Aおよび血友病B治療剤ファイバの売上は、405億円(△7億円および△1.8% AER、△5.3% CER)となりました。この減収は、主にブラジルにおける競合品の影響を受けたことによるものです。
血友病A治療剤RECOMBINATEの売上は、121億円(△7億円および△5.6% AER、△11.8% CER)となりました。この減収は、主に米国において次世代治療薬が市場浸透し本剤の需要が減少したことによるものです。
上記製品による増収は、その他の希少血液疾患の製品の減収影響により相殺されました。
希少遺伝子疾患およびその他の疾患領域の売上収益は、4,654億円(+467億円および+11.1% AER、+9.2% CER)となりました。
遺伝性血管性浮腫治療剤タクザイロの売上は、1,787億円(+269億円および+17.7% AER、+11.6% CER)となりました。上市以降の好調な売上推移の維持、小児適用など新たな患者層への拡大、診断率の上昇、予防投与向け市場の拡大、および円安による増収影響が継続的な成長に貢献しました。
移植後のサイトメガロウイルス(CMV)感染/感染症治療剤LIVTENCITYの売上は、191億円(+86億円および+81.7% AER、+68.7% CER)となりました。この増収は、主に米国において上市後、順調に市場浸透していることに加え、欧州において、引き続き販売エリアが拡大したことおよびマーケットアクセス(保険償還手続き)が迅速に進んだことによるものです。
ファブリー病治療剤リプレガルの売上は、736億円(+68億円および+10.2% AER、+15.1% CER)となりました。この増収は、主に成長新興国において堅調な需要が増加したことによるものです。
酵素補充療法のハンター症候群治療剤エラプレースの売上は、916億円(+62億円および+7.3% AER、+7.3% CER)となりました。この増収は、主に成長新興国において堅調な需要が増加したことによるものです。
- 血漿分画製剤(免疫疾患)
血漿分画製剤(免疫疾患)領域の売上収益は、8,186億円(+1,401億円および+20.7% AER、+14.4% CER)となりました。
免疫グロブリン製剤の売上合計は、6,446億円(+1,224億円および+23.4% AER、+16.8% CER)となりました。原発性免疫不全症(PID)と多巣性運動ニューロパチー(MMN)の治療に用いられる静注製剤GAMMAGARD LIQUID/KIOVIGおよび皮下注製剤であるキュービトルとHYQVIAの3つのグローバル製品の売上は、引き続きグローバルに需要が堅調に推移し供給量が増加したこと、皮下注製剤は静脈注射に比べ投薬の利便性が高いこと、また円安による増収影響により、前年度から2桁台の売上収益増収率となりました。
主に血液量減少症と低アルブミン血症の治療に用いられるHUMAN ALBUMINとFLEXBUMINを含むアルブミン製剤の売上合計は、1,340億円(+125億円および+10.3% AER、+5.9% CER)となりました。この増収は、主に中国における需要が増加したことによるものです。
- オンコロジー
オンコロジー領域の売上収益は、4,624億円(+236億円および+5.4% AER、+2.5% CER)となりました。
悪性リンパ腫治療剤アドセトリスの売上は、1,094億円(+255億円および+30.4% AER、+31.3% CER)となりました。この増収は、成長新興国および欧州における好調な伸長が牽引したことによるものです。
大腸がん治療剤FRUZAQLAの売上は、101億円となりました。FRUZAQLAは、2023年11月に米国において上市しました。
非小細胞肺がん治療剤アルンブリグの売上は、285億円(+80億円および+38.8% AER、+35.3% CER)となりました。この増収は、すべての地域において需要が堅調に推移したことによるものです。
白血病治療剤アイクルシグの売上は、547億円(+75億円および+15.9% AER、+7.5% CER)となりました。この増収は、円安による増収影響および米国における堅調な伸長によるものです。
多発性骨髄腫治療剤ベルケイドの売上は、55億円(△222億円および△80.0% AER、△81.3% CER)となりました。この減収は、米国において後発品が市場浸透したことによるものです。
多発性骨髄腫治療剤ニンラーロの売上は、874億円(△53億円および△5.7% AER、△9.2% CER)となりました。この減収は、円安による増収影響が一部相殺したものの、主に米国における競争激化の影響や需要減少の影響があったことによるものです。
- ニューロサイエンス(神経精神疾患)
ニューロサイエンス領域の売上収益は、6,270億円(△107億円および△1.7% AER、△7.8% CER)となりました。
注意欠陥/多動性障害(ADHD)治療剤VYVANSE/ELVANSE(国内製品名:ビバンセ)の売上は、4,232億円(△361億円および△7.9% AER、△14.1% CER)となりました。この減収は、米国において2023年8月から複数の後発品が参入したことによるものです。この減収影響は、欧州における成人向け市場の拡大や円安による増収影響により一部相殺されております。
ADHD治療剤ADDERALL XRの売上は、418億円(+132億円および+46.0% AER、+36.6% CER)となりました。この増収は、主に米国における後発品である競合他社の即放性製剤の供給不足による本剤に対する増収影響、および円安による増収影響によるものです。
ADHD治療剤インチュニブの売上は、336億円(+172億円および+105.2% AER、+100.8% CER)となりました。この増収は、主に2023年4月に日本における本剤に係る権利を買い戻したことによるものです。
〔売上原価〕
売上原価は、1兆4,267億円(+1,826億円および+14.7% AER、+9.8% CER)となりました。この増加は主に、製品構成の変動を含む主要なビジネスエリアの好調な売上および円安による為替影響によるものです。なお、この増加は、Shire社買収に伴い計上された棚卸資産の公正価値調整等にかかる非資金性の費用が減少したことにより一部相殺されております。
〔販売費及び一般管理費〕
販売費及び一般管理費は、1兆538億円(+565億円および+5.7% AER、+0.9% CER)となりました。この増加は、円安による為替影響およびデータ、デジタルおよびテクノロジーへの投資の増加によるものですが、様々な費用効率化の取り組みにより一部相殺されております。
〔研究開発費〕
研究開発費は、7,299億円(+966億円および+15.3% AER、+8.4% CER)となりました。この増加要因は主に、パイプラインへの研究開発投資および円安による為替影響によるものです。
〔製品に係る無形資産償却費及び減損損失〕
製品に係る無形資産償却費及び減損損失は、6,521億円(+1,097億円および+20.2% AER、+12.2% CER)となりました。この増加は主に、仕掛研究開発品および上市後製品に係る減損損失の増加、円安による為替影響に伴う無形資産償却費の増加によるものです。当期計上した1,306億円の減損損失には、主にクローン病に伴う複雑痔瘻治療剤アロフィセルの臨床第3相 ADMIRE-CD Ⅱ試験のトップライン結果を踏まえて計上した740億円の減損損失、非小細胞肺がん治療剤EXKIVITYの販売や開発活動を全世界で自主的に中止する決定を行ったことに伴い計上した285億円の減損損失、およびオンコロジーにおけるTAK-007やmodakafusp alfa(TAK-573)などの仕掛研究開発品の開発中止の決定により計上した減損損失が含まれておりますが、2024年2月に好酸球性食道炎治療剤EOHILIAが米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得したことによる357億円の減損損失の戻し入れを計上したことにより一部相殺されております。
〔その他の営業収益〕
その他の営業収益は、194億円(△60億円および△23.8% AER、△26.3% CER)となりました。
〔その他の営業費用〕
その他の営業費用は、2,065億円(+613億円および+42.2% AER、+34.5% CER)となりました。この増加は主に、事業構造再編費用、AbbVie, Inc.(以下、「AbbVie社」)との供給契約に関する訴訟について当期に計上した費用の増加、および主としてXIIDRA、EOHILIAに係る条件付対価契約に関する金融資産及び金融負債の公正価値変動による評価損によるものです。
〔営業利益〕
営業利益は、上記の要因を反映し、2,141億円(△2,764億円および△56.4% AER、△50.3% CER)となりました。
〔金融損益〕
金融収益と金融費用をあわせた金融損益は1,678億円の損失(+610億円および+57.1% AER、+78.3% CER)となりました。前年度からの損失の増加は主に、従来持分法を適用していた会社の買収に伴う投資の再測定に係る利益および当社が株式を保有する企業のワラントにかかるデリバティブの再測定によるプラス影響を前年同期に計上したこと、ならびにAbbVie社との供給契約に関する訴訟費用にかかる利息の計上や超インフレ会計による費用といった金融費用が増加したことによるものです。
〔持分法による投資損益〕
当年度の持分法による投資損益は、65億円の利益(+151億円、前年度は86億円の損失)となりました。
〔法人所得税費用〕
法人所得税費用は、△914億円(△1,495億円、前年度は581億円)となりました。この減少は主に、税引前当期利益の減少、および2014年にShire社がAbbVie社から受領した買収違約金の取り扱いに係る税務評価について、アイルランド歳入庁と和解したこと(以下、「AbbVie社からの違約金に関する和解」)に伴い和解金を超える部分の未払法人所得税を振り戻したことによる税金費用の減額635億円によるものです。これらの減少は、組織再編にかかる税金費用および繰延税金資産の回収可能性の評価の見直しと一部相殺されております。
〔当期利益〕
当期利益は、上記の要因を反映し、1,442億円(△1,728億円および△54.5% AER、△57.0% CER)となりました。
(ⅳ) 当年度におけるCore業績の概要
補足的分析:Core財務指標に基づく業績(IFRSに準拠しない指標)
IFRSに準拠して作成された業績に加え、当社グループは、補足的に、Core財務指標に基づく業績も表示しております。投資家におかれましては、 Core財務指標の定義、有用性の限界、最も良く対応するIFRSに準拠した財務指標への調整を含む、より詳細な情報については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。当社グループは、また、Core財務指標のCERベースの増減率についても表示しております。詳細については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。
Core業績
〔Core売上収益〕
当年度のCore売上収益は、4兆2,638億円(+2,363億円および+5.9% AER、+1.5% CER)となりました。この増加は主に、為替相場が円安に推移したこと、および当社の事業を好調に牽引したタケダの成長製品・新製品(注)の売上収益、1兆8,330億円(+2,972億円および+19.3% AER、+12.8% CER)によるものです。
(注)当年度のタケダの成長製品・新製品
消化器系疾患:ENTYVIO、アロフィセル、EOHILIA
希少疾患:タクザイロ、LIVTENCITY、アジンマ
血漿分画製剤(免疫疾患):GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、HYQVIA、キュービトルを含む免疫グロブリン製剤、
HUMAN ALBUMIN、FLEXBUMINを含むアルブミン製剤
オンコロジー:アルンブリグ、EXKIVITY(グローバルに自主的な販売中止を決定)、FRUZAQLA
その他:QDENGA
〔Core営業利益〕
当年度のCore営業利益は、1兆549億円(△1,335億円および△11.2% AER、△13.3% CER)となりました。Core営業利益の内訳は以下の通りです。
報告期間における上記項目の増減は以下の通りです。
〔Core売上原価〕
Core売上原価は、1兆4,263億円(+2,179億円および+18.0% AER、+13.0% CER)となりました。この増加は主に、製品構成の変動を含む主要なビジネスエリアの好調な売上および円安による為替影響によるものです。
〔Core販売費及び一般管理費〕
Core販売費及び一般管理費は、1兆530億円(+556億円および+5.6% AER、+0.8% CER)となりました。この増加は、円安による為替影響およびデータ、デジタルおよびテクノロジーへの投資の増加によるものですが、様々な費用効率化の取り組みにより一部相殺されております。
〔Core研究開発費〕
Core研究開発費は、7,296億円(+963億円および+15.2% AER、+8.3% CER)となりました。この増加要因は主に、パイプラインへの研究開発投資および円安による為替影響によるものです。
〔Core当期利益〕
Core当期利益は、7,569億円(△1,095億円および△12.6% AER、△15.0% CER)となりました。Core当期利益は、Core営業利益に基づき、以下の通り算出されます。
報告期間における上記項目の増減は以下の通りです。
〔Core金融損益〕
Core金融収益とCore金融費用をあわせた金融損益は、1,420億円の損失(+154億円および+12.2% AER、+13.9% CER)となりました。
〔Core持分法による投資損益〕
Core持分法による投資損益は、59億円(+57億円)となりました。
〔Core税引前当期利益〕
Core税引前当期利益は、9,188億円(△1,432億円および△13.5% AER、△16.0% CER)となりました。
〔Core法人所得税費用〕
AbbVie社からの違約金に関する和解の影響額635億円を除いたCore法人所得税費用は、1,619億円(△337億円および△17.2% AER、△20.2% CER)となりました。この減少は主に、税引前当期利益の減少によるものです。
〔Core EPS〕
当年度のCore EPSは、484円(△75円および△13.4% AER、△15.7% CER)となりました。
〔資産〕
当年度末における資産合計は、15兆1,088億円(+1兆1,510億円)となりました。この増加は、のれん、有形固定資産および棚卸資産(+6,193億円、+2,985億円および+2,234億円)が、主に為替換算の影響によりそれぞれ増加したことによるものです。これらの増加は、現金及び現金同等物の減少(△757億円)と一部相殺されております。
〔負債〕
当年度末における負債合計は、7兆8,348億円(+2,317億円)となりました。当年度末における社債及び借入金合計は、4兆8,438億円(注)(+4,614億円)となり、この増加は、主に為替換算の影響およびコマーシャル・ペーパーが純額で増加したことによるものです。その他の金融負債合計の増加(+1,114億円)は、主に米国におけるリース期間延長および為替換算の影響によるものです。これらの増加は、繰延税金負債、未払法人所得税、および仕入債務及びその他の債務の減少により一部相殺されております。繰延税金負債の減少(△1,568億円)は、主に米国における無形資産の償却並びに研究開発費が税務上資産化および償却の対象とされた影響によるものです。未払法人所得税合計の減少(△1,426億円)は、法人所得税の計上によって一部相殺されているものの、主に法人所得税の支払いおよびAbbVie社からの違約金に関する和解を含む税務関連の和解に伴う取崩によるものです。仕入債務及びその他の債務の減少(△1,017億円)は、主に前年度にNimbus Therapeutics, LLC(以下、「Nimbus社」)から取得したTAK-279に関連する一時金の残額、および同じく前年度にHUTCHMED(China)Limited(以下、「HUTCHMED社」)と締結した独占的ライセンス契約に関連する未払金の支払いによるものです。
(注)当年度末における社債及び借入金の帳簿価額はそれぞれ4兆929億円および7,509億円です。なお、社債及び借入金の内訳は以下の通りです。
社債:
借入金:
当社は、2023年4月26日に、シンジケートローン1,000億円の満期返済を実行するとともに、同日付けで、2030年4月26日を返済期日とする新たなシンジケートローン1,000億円の借入を実行しました。また、2023年9月23日には、2016年9月に発行した米ドル建無担保普通社債の残高1,000百万米ドルについて満期償還を実行しました。さらに、2023年11月26日には、2018年11月に発行した米ドル建無担保普通社債の残高500百万米ドルについて満期償還を実行しました。なお、当年度末におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は3,170億円となりました。
〔資本〕
当年度末における資本合計は、7兆2,740億円(+9,193億円)となりました。この増加は、主に円安の影響による為替換算調整勘定の変動によりその他の資本の構成要素が増加(+1兆12億円)したことによるものです。この増加は、当期利益の計上があったものの、主に配当金の支払いに伴う2,878億円の減少による利益剰余金の減少(△1,499億円)と一部相殺されております。
(c)流動性および資金調達源
資金の調達および使途
当社グループにおいて流動性は、主に営業活動に必要な現金、資本支出、契約上の義務、債務の返済、利息や配当の支払いに関連して必要となります。営業活動においては、研究開発費、マイルストン支払い、販売およびマーケティングに係る費用、人件費およびその他の一般管理費、原材料費等の支払いにあたり現金が必要となります。また、法人所得税の支払いや運転資金にも多額の現金が必要となります。
当社グループは、生産設備の能力増強・合理化、減価償却を終えた資産の入れ替え、業務管理の効率化等のために設備投資を行っています。無形資産に係る資本的支出は、主に第三者のパートナーから導入したライセンス製品に対するマイルストン支払い、およびソフトウェア開発費です。連結財政状態計算書に計上されている有形固定資産および無形資産に係る資本支出は、2023年3月期および2024年3月期において、それぞれ8,987億円および4,967億円であります。また、2024年3月31日現在において、有形固定資産の取得に関する契約上のコミットメントは311億円であります。加えて、2024年3月31日現在において、無形資産の取得に関して契約上の取決めを有しております。無形資産に係るマイルストン支払いの詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記32 コミットメントおよび偶発債務」をご参照ください。また、資本管理の一環として、当社グループは、資金需要、市場等の環境、またはその他の関連する要因に照らして、定期的に資本的支出の評価を行っております。
当社の配当金の支払額は、2023年3月期および2024年3月期において、それぞれ2,808億円および2,885億円であります。2024年3月期については、1株当たり年間配当金額を188円(中間配当金および期末配当金それぞれ94円)としましたが、2025年3月期については、中間配当金および期末配当金をそれぞれ98円ずつとし、年間196円とすることを目指しています。当社の配当政策については「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご参照ください。
当社グループは、有利子負債に対し元本と利息を支払う必要があります。2024年3月31日現在において、1年内に必要となる利息の支払額および負債の返済額は、それぞれ1,130億円、8,672億円であります。詳細は、「有利子負債および金融債務」をご参照ください。
当社グループの資金の主な調達源は、主に現金及び現金同等物、短期コマーシャル・ペーパー、コミットメントラインによる借入、グローバル資本市場における社債発行を含む長期債務による資金調達であります。さらに、当社グループは、コンティンジェンシーの調達源として、2023年3月31日および2024年3月31日現在において、金融機関から極度額1,500億円および750百万米ドルの短期アンコミットメントライン契約を締結しております。
当社グループは、キャッシュ・フロー予測に基づき保有外貨を監視し、調整しております。当社グループの事業の大部分は日本国外で行っており、多額の現金を日本国外に保有しております。日本国内で必要なキャッシュ・フローを創出するために外貨を使用することは国内規制による影響を受ける可能性があり、また比較的影響は小さいものの、日本へ現金を移転することから生じる所得税による影響も受けます。
当社グループは、引き続き、資金調達の状況について注視しており、短期的には、一般的な市況による資金調達不足または流動性不足は現在見込んではおりません。なお、必要に応じた市場およびその他の供給源からの追加の資金調達力に加えて、当社グループの資本支出計画を必要かつ適切な範囲で見直すことによって、資金調達および流動性の需要を管理する場合があります。
2024年3月31日現在において、当社グループは、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた制限付き預り金1,078億円を含む、4,578億円の現金及び現金同等物と、7,000億円の未使用のバンク・コミットメントライン契約を保有しており、現在の事業活動に必要となる資金は十分に確保できていると考えております。また、当社グループは、事業活動を支えるため、持続的に高い流動性を保ち、資本市場へのアクセス拡大を追求していきます。
連結キャッシュ・フロー
連結キャッシュ・フローの状況は、以下のとおりであります。
(単位:億円)
〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕
営業活動によるキャッシュ・フローは、7,163億円(△2,608億円)となりました。この減少は、主に引当金の変動により資産及び負債の増減額が減少、ならびに非資金項目およびその他の調整項目を調整した後の当期利益が減少したことによるものです。これらの減少は、その他(純額)の増加により一部相殺されております。
〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕
投資活動によるキャッシュ・フローは、△4,639億円(+1,432億円)となりました。この増加は、主に無形資産の取得による支出が減少(+1,877億円)(注)したことによるものです。
(注)前年度のTAK-279取得に伴うNimbus社への支払いは30億米ドルであった一方、当年度のTAK-279取得に伴うNimbus社への支払いは10億米ドルおよびHUTCHMED社と締結したFRUZAQLAの独占的ライセンス契約に関連する支払いは4億米ドルとなりました。
〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕
財務活動によるキャッシュ・フローは、△3,544億円(+3,547億円)となりました。この増加は、主に、当年度にコマーシャル・ペーパーにおける増加影響(+2,370億円)や、社債の償還による支出が純額で減少(+609億円)したこと、および社債に係る金利通貨スワップの決済が行われたことによるものです。
補足的分析:フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フロー(IFRSに準拠しない財務指標)
フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは、IFRSに準拠しない(以下、「Non-IFRS」)指標であります。詳細については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。IFRSに準拠した指標の中で、フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは営業活動によるキャッシュ・フローが最も類似します。
(単位:億円)
調整後フリー・キャッシュ・フローは、2,834億円(△1,628億円)となりました。この減少は、主に、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた現金の変動調整後の営業活動によるキャッシュ・フローの影響によるものです。この減少は、無形資産の取得による支出が減少したことにより一部相殺されております。
有利子負債および金融債務
2023年3月31日および2024年3月31日現在において社債および借入金はそれぞれ4兆3,823億円、4兆8,438億円であります。これらの有利子負債は、当社が発行した無担保社債、普通社債、バイラテラルローン、およびシンジケートローン、また、Shire社買収に必要な資金の一部を調達するための借入金、およびShire社買収により引き受けた負債、借り換えた負債を含み、連結財政状態計算書に計上されております。当社の借入金は主に買収関連で発生したものであり、季節性によるものではありません。
当社グループは、2023年4月26日に、シンジケートローン1,000億円の満期返済を実行するとともに、同日付けで、2030年4月26日を返済期日とする新たなシンジケートローン1,000億円の借入を実行しました。また、2023年9月23日には、2016年9月に発行した米ドル建無担保普通社債の残高1,000百万米ドルについて満期償還を実行しました。さらに、2023年11月26日には、2018年11月に発行した米ドル建無担保普通社債の残高500百万米ドルについて満期償還を実行しました。なお、当年度末におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は3,170億円となりました。
2024年3月31日時点において、当社グループは一定の財務制限条項の含まれる長期融資契約を保有しております。当該財務制限条項の重要な条項は、毎年3月末および9月末において連結財政状態計算書における調整後純負債の過去12か月間の調整後EBITDA(調整後EBITDAは契約書にて定義されたもの)に対する比率が一定水準を上回らないことを求める財務制限条項が含まれています。2024年3月31日時点においては、2023年3月31日時点と同様に、当社グループは全ての制限条項を遵守しております。また、2019年に設定された7,000億円の未使用のコミットメントラインからの借入を制限する事象はありません。当コミットメントラインは、現在の期限は2026年9月であります。
当社グループは、短期の流動性の管理のため、日本の無担保コマーシャル・ペーパープログラムを保有しております。2023年3月31日現在におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は400億円、2024年3月31日現在におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は3,170億円となりました。当社グループは、さらに2023年3月31日および2024年3月31日現在において、極度額1,500億円および750百万米ドルの短期アンコミットメントライン契約を締結しておりますが、借入はしておりません。
社債及び借入金の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 20 社債及び借入金」をご参照ください。
信用格付け
当社グループの信用格付けは、当社グループの財務の健全性、業績、債務の返済能力等に関する各格付機関の意見が反映されております。本報告書時点における当社グループの信用格付けは以下のとおりです。
この格付けは、社債の購入、売却、保有を推奨するものではありません。この格付けは指定された格付機関によって適宜改訂あるいは撤回される可能性があります。それぞれの財務の健全性レーティングは、独立評価されたものであります。
契約上の負債
2024年3月31日現在における契約上の負債は以下のとおりです。
(単位:億円)
(注1) 2024年3月31日現在における日本円以外の通貨建債務は、期末為替レートで日本円に換算しており、為替レートの変動により金額が異なる可能性があります。
(注2) 当社グループが関連する金融商品の財務制限条項違反を行った場合、返済義務が早まる可能性があります。
(注3) 利息支払義務を含みます。
(注4) 社債の契約額のうち、「1年以内」の金額には、劣後特約付きハイブリッド社債(以下、「ハイブリッド債」)元本全額を2024年10月6日の早期償還日において早期償還することが見込まれるため、当ハイブリッド債の元本5,000億円が含まれています。ハイブリッド債の元本および利息の詳細については、「第5経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 20 社債及び借入金」をご参照ください。
(注5) 2025年4月以降の年金および退職後給付制度への拠出額については、拠出の時期が不確実であり、利率、運用収益、法律およびその他の変動要因に依存するため、確定することはできません。
(注6) 確定給付債務、訴訟引当金および長期未払法人税等、時期を見積もることができない契約上の負債、また、金額が公正価値の変動により変化するデリバティブ負債および条件付対価契約に関する金融負債は含まれておりません。なお、2024年3月31日現在のデリバティブ負債および条件付対価契約に関する金融負債の帳簿価額は、それぞれ251億円および78億円であります。また、特定の将来の事象の発生に左右されるマイルストン支払いも含んでおりません。
(注7) 通常の事業活動における購買に関する発注は含んでおりません。
オフバランス取引
マイルストン支払
新製品の開発に係る第三者との提携契約に基づき、当社グループは、パイプライン品目の開発、新製品の上市および上市後の販売等にかかる一定のマイルストン達成に応じた支払義務が生じる場合があります。2024年3月31日現在における潜在的なマイルストン支払の契約金額は1兆3,314億円であります。これらは、潜在的なコマーシャルマイルストン支払を除いた金額であります。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 13 共同研究開発契約およびライセンス契約 および 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
補足的分析:財務レバレッジ(調整後有利子負債/調整後EBITDA倍率)(IFRSに準拠しない指標)
特に、Shire社買収に伴い、投資家、アナリストおよび格付機関は、当社グループの(調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率で表される)財務レバレッジを綿密にモニターしております。調整後純有利子負債、調整後EBITDAおよび調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率はすべて、IFRSに準拠しない財務指標です。社債および借入金から調整後純有利子負債への調整、当期利益からEBITDAおよび調整後EBITDAへの調整等、最も良く対応するIFRS財務指標への調整を含む詳細については、「当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。各報告日現在における当社グループの調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率は以下のとおりです。
(単位:億円、倍率以外)
当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標
IFRSに準拠して表示される業績に加えて、当社グループは、IFRSに準拠しない(以下、「Non-IFRS」)補足的財務指標を表示しております。これらの財務指標には、CER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減、Core財務指標、純有利子負債、調整後純有利子負債、EBITDA、調整後EBITDA、フリー・キャッシュ・フロー、調整後フリー・キャッシュ・フローが含まれます。
当社グループの経営陣は業績および財政状態の評価並びに経営及び投資判断を、IFRSに準拠した指標及び本セクションに記載のNon-IFRS財務指標に基づいて行っています。当社グループは、当社グループの経営成績および財政状態の分析における追加情報として、また、当社の経営陣が経営成績および財政状態をどのように評価しているかを投資家に理解いただくにあたり、両指標を表示しております。当社グループのNon-IFRS財務指標においては、最も良く対応するIFRSに準拠した財務指標では含まれることとなる一定の利益、コスト、キャッシュ・フローまたは財政状態計算書上の項目を除外または調整しております。これらの財務指標は、IFRSに準拠するものではなく、補足的なものであり、また、IFRSに準拠した財務指標に代替するものではありません(IFRSに準拠した財務指標を「財務ベース」指標として参照している場合があります)。投資家におかれましては、当社グループの過去の財務諸表全体を確認し、IFRSに準拠して表示されている指標を当社グループの業績評価の主要な指標として使用することを強く推奨します。また、Non-IFRS財務指標の定義と、これらに最も良く対応するIFRSに準拠した財務指標との調整表を併せてご参照ください。さらに、これらのNon-IFRS財務指標に関する記載、特にこれらの財務指標の有用性の限界について把握し、製薬業界における他社が表示している、類似の名称を付した財務指標との相違についてご理解ください。
Core財務指標
当社グループのCore売上収益、Core営業利益、Core当期利益、Core EPSをはじめとするCore財務指標は、売却に伴う収益、獲得した資産に係る無形資産償却費及び減損損失、その他、非定常的な事象に基づく影響、企業買収に係る会計処理の影響や買収関連費用など、当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除しています。Core売上収益は、財務ベースの売上収益から、当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない重要性のある売上収益に係る影響を控除して算出します。Core営業利益は、財務ベースの営業利益から、その他の営業収益及びその他の営業費用、獲得した資産に係る無形資産償却費及び減損損失、その他、非資金項目または当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除して算出します。Core EPSは、財務ベースの当期利益から、Core営業利益の算出において控除された項目、および特別もしくは非定常的な事象に基づく影響、または当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除して算出します。これらには、条件付対価に係る公正価値変動(時間的価値の変動を含む)影響などが含まれます。さらに、これらの調整項目に係る税金影響を控除した後、報告期間の自己株式控除後の平均発行済株式総数で除して算出します。
当社グループがCore財務指標を表示する理由は、これらの指標が、当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除するものであり、当社グループ事業の本質的な業績を理解していただくにあたり有用であると考えているためです。控除される項目には、(i) 前年度から著しく変動する項目、もしくは毎年度発生するものではない項目、または(ii)当社グループの中核事業の本質的な業績の変動とはほぼ相関関係がないと認められる項目が含まれます。同様の指標は、同業他社においても頻繁に使用されていると認識しており、本指標を表示することは、投資家が当社グループの業績を過年度の業績と比較される際だけではなく、同業他社と類似の基準に基づき比較される際にも有用になると考えています。また、当社グループがCore財務指標を表示する理由は、これらの指標が予算の策定や報酬の設定(CEOおよびCFOのインセンティブ報酬を含む、当社グループの短期インセンティブ並びに長期インセンティブ報酬プログラムに係る一定の目標はCore財務指標の結果に関連して設定。「(4)役員の報酬等」をご参照ください)に用いられているためです。
投資家にとってのCore財務指標の有用性には、一例として、以下の限界があります。すなわち、(i) 製薬業界における他社を含む、他社において用いられている類似の名称を付した財務指標とは必ずしも同一ではありません、(ii) 無形資産の売却や償却などの非資金費用の影響を含む、当社グループの業績、価値又は将来見通しの評価において重要とみなされる可能性のある財務情報や事象が除外されております、(iii) 将来にわたって継続的に発生する可能性のある項目又は項目の種類が除外されております(ただし、当社グループの方針として、事業運営に必要な経常的に発生する営業費用の支出については調整しておりません)、(iv) 投資家が当社グループの業績を理解する上で重要とみなす可能性のあるすべての項目が含まれていない、又は、重要とみなさないであろうすべての項目が除外されていない場合があります。
下表は、各報告期間における、当社グループのCore財務指標とIFRSに準拠して作成し、表示された最も良く対応するIFRS財務指標との間の調整を示しています。これには、(i) Core売上収益とIFRSに準拠して表示された売上収益、(ii) Core営業利益とIFRSに準拠して表示された営業利益、および (iii) Core当期利益とIFRSに準拠して表示された当期利益が含まれます。
当年度の売上収益および営業利益からCore売上収益およびCore営業利益への調整は次の通りです。
(単位:億円)
(注1) 製品に係る無形資産には、仕掛研究開発品を含みます。
(注2) その他の営業収益(営業費用)には、条件付対価契約に関する金融資産及び金融負債の公正価値変動額、有形固定資産および投資不動産の売却損益、事業譲渡及び子会社株式売却益、寄付金、サブリースに係る賃貸借料、事業構造再編費用、承認前在庫に係る評価損、売却目的で保有する資産の減損、訴訟引当金およびオプション権に係る評価損を含みます。
前年度の売上収益および営業利益からCore売上収益およびCore営業利益への調整は次の通りです。
(単位:億円)
(注1) 製品に係る無形資産には、仕掛研究開発品を含みます。
(注2) その他の営業収益(営業費用)には、条件付対価契約に関する金融資産及び金融負債の公正価値変動額、有形固定資産および投資不動産の売却損益、SHP647に関連する負債の取崩益、寄付金、サブリースに係る賃貸借料、事業構造再編費用、承認前在庫に係る評価損、売却目的で保有する資産の減損、訴訟引当金およびオプション権に係る評価損を含みます。
(注3) その他:売上原価には、COVID-19に係る費用および2019年3月期に完了したShire社の買収に関連する棚卸資産および有形固定資産の公正価値の費用化を含みます。
当年度の当期利益からCore当期利益への調整は次の通りです。
(単位:億円、%以外)
(注1) その他:金融収益及び費用(純額)には、超インフレ経済下にあり、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」が適用されている子会社の非資金項目に係る損失、並びにノン・コア取引に係る金融収益および費用を含みます。持分法による投資損益には、事業売却および清算に係る損益並びにその他の公正価値調整を含みます。
(注2) IFRS会計基準に基づく業績とCore業績との間の調整に係る税金は、当該調整が計上される管轄地域において項目に適用される法定税率を考慮しています。税金調整前Core利益に係る法人所得税費用(8,660億円)は2,533億円であり、Core調整に係る平均税率は29.2%でした。
前年度の当期利益からCore当期利益への調整は次の通りです。
(単位:億円、%以外)
(注1) その他:金融収益及び費用(純額)には、超インフレ経済下にあり、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」が適用されている子会社の非資金項目に係る損失、並びにノン・コア取引に係る金融収益および費用を含みます。持分法による投資損益には、事業売却および清算に係る損益並びにその他の公正価値調整を含みます。
(注2) IFRS会計基準に基づく業績とCore業績との間の調整に係る税金は、当該調整が計上される管轄地域において項目に適用される法定税率を考慮しています。税金調整前Core利益に係る法人所得税費用(6,868億円)は1,376億円であり、Core調整に係る平均税率は20.0%でした。
CER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減
CER (Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減は、当期のIFRSに準拠した業績またはCore財務指標(Non-IFRS)について、前年同期に適用した為替レートを用いて換算することにより、前年同期との比較において為替影響を控除するものです。
当社グループがCERベースの増減を表示する理由は、変動する為替レートが当社グループの事業に与える影響を踏まえ、為替影響がなかった場合の経営成績の増減について投資家に理解していただくにあたり有用であると考えるためです。CERベースの増減は、当社グループの経営陣が経営成績を評価するに際して使用する主な指標になっています。また、製薬業界における各社が為替影響を調整した同様の業績指標を頻繁に用いているため、証券アナリスト、投資家その他の関係者が各社の経営成績を評価するに際しても、本指標が有用であると考えています。
ただし、CERベースの増減の有用性には、一例として次の限界があります。例えば、CERベースの増減は、前年度においてIFRSに準拠した業績を算定するために用いた為替レートと同一の為替レートを用いますが、そのことは必ずしも、当年度の取引が前年度と同一の為替レートで実施され得た、あるいは計上され得たことを示すものではありません。また、類似の名称の指標を用いている同業他社が、当社グループとは異なる方法で指標を定義し、算定している可能性があるため、そのような指標との比較可能性に欠け得るものです。従って、CERベースの増減はIFRSに準拠して作成、表示された業績と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。
以下は、対前年度の増減額を含む、IFRSに準拠して算定、表示された当社グループの経営成績であり、各項目についてCERベースの増減率を示しております。
CERベースの増減(IFRS)
(注1) 超インフレが発生し、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」が適用されている子会社の業績については、前年同期の為替レートを用いるCERベースの増減計算において超インフレの影響が増大していることから、2024年度第1四半期より、CERベースの増減調整は行わないこととし、これら子会社に係るCERベースの増減は、IAS第29号に基づき報告された業績の変動と実質的に変わらないものとします。2023年度Core業績におけるCERベース増減率に当方法を適用した場合、売上収益、営業利益、および当期利益のCERベース増減率は、それぞれ△0.3%、△56.8%、および△55.7%となります。
CERベースの増減(Non-IFRS)
(注1) 超インフレが発生し、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」が適用されている子会社の業績については、前年同期の為替レートを用いるCERベースの増減計算において超インフレの影響が増大していることから、2024年度第1四半期より、CERベースの増減調整は行わないこととし、これら子会社に係るCERベースの増減は、IAS第29号に基づき報告された業績の変動と実質的に変わらないものとします。2023年度Core業績におけるCERベース増減率に当方法を適用した場合、Core売上収益、Core営業利益、およびCore当期利益のCERベース増減率は、それぞれ△0.3%、△16.0%、および△17.0%となります。
フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フロー
当社グループのフリー・キャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローから有形固定資産の取得による支出を控除したものです。調整後フリー・キャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローから、有形固定資産の取得による支出、無形資産の取得による支出、投資の取得による支出及び当社が即時的または一般的な業務用に使用できないいかなるその他の現金の支出入を控除し、さらに、有形固定資産の売却による収入、投資の売却・償還及び取得による支出入、及び、事業の売却及び取得による支出入(取得及び処分した現金及び現金同等物の純額の控除後)を加味し、算出しています。
当社グループがフリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローを表示する理由は、証券アナリスト、投資家その他の関係者が製薬業界における各社の評価を行うに際して頻繁に用いられる流動性についての同様の指標として、これらの指標が投資家の皆様にとって有用であると考えるためです。調整後フリー・キャッシュ・フローは、流動性要件を満たす能力を測り、資本配分方針をサポートする指標として流動性及びキャッシュ・フローの評価を行うに際して、当社グループの経営陣によっても使用されています。また、フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは、投資家が、当社グループの戦略的な買収や事業の売却がどのようにキャッシュ・フローや流動性に貢献するかを理解される上で有用であると考えています。
フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローの有用性には、一例として次の限界があります。例えば、(i) 同業他社を含め、用いられている類似の名称の指標との比較可能性に欠け得るものです、(ii) 当社グループの、資本の使用又は配分を必要とする現在及び将来の契約上その他のコミットメントの影響は反映されていません、(iii) 投資の売却・償還による収入、事業の売却による収入、及び、売却による現金及び現金同等物の純額の加算分は、中核である継続的な事業からの収入を示すものではありません。フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは、IFRSに基づく指標である営業活動によるキャッシュ・フロー及びその他の流動性指標と切り離して考慮してはならず、また、 これらの代替と捉えてはならないものです。IFRSに準拠した指標の中で、フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは営業活動によるキャッシュ・フローが最も類似します。
下表は、2023年3月期および2024年3月期における、IFRSに準拠して表示された最も対応する指標である営業活動によるキャッシュ・フローからフリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローへの調整を示しております。
(単位:億円)
(注1) 当社が第三者に代わり一時的に保有していたキャッシュの調整は、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた現金の変動を指します。
(注2) 一部の重要性が低い取引を除き、無形資産の売却による収入は営業活動によるキャッシュ・フローに計上されているため、これらは別途調整されております。
EBITDAおよび調整後EBITDA
当社グループにおいて、EBITDAは、法人所得税費用、減価償却費及び償却費、並びに純支払利息控除前の連結当期利益を指します。また、調整後EBITDAは、減損損失、その他の営業収益・費用(減価償却費及び償却費を除く)、金融収益・費用(純支払利息を除く)、持分法による投資損益及び企業結合会計影響や取引関連費用などの当社グループの中核事業に関連しないその他の項目を除外するように調整されたEBITDAを指します。
当社グループがEBITDA及び調整後EBITDAを表示する理由は、これらの指標が証券アナリスト、投資家その他の関係者が製薬業界における各社の評価を行う際に頻繁に用いられるものであり、有用と考えられることにあります。 当社グループは、調整後EBITDAを主にレバレッジをモニターするために使用しております。「(c)流動性および資金調達源 補足的分析:財務レバレッジ(調整後有利子負債/調整後EBITDA倍率)(IFRSに準拠しない指標)」 および以下の「調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率」をご参照ください。また、調整後EBITDAは、継続的な事業に関連しない特定の事象(変化に富み予測が困難である一方で、経営成績に重大な影響を与える可能性があり、一定期間にわたる業績を一貫性をもって評価することが困難な事象)から生じる不透明さを排除することから、投資家にとって、事業の動向を把握するに際して有用な指標であると考えています。
EBITDA及び調整後EBITDAの有益性には、一例として次の限界があります。例えば、(i)同業他社を含め、用いられている類似の指標との比較可能性に欠け得るものです。また、(ⅱ)業績評価において重視され得る一定の財務情報、例えば、企業買収や無形資産の償却による影響を除外しています。さらに、(ⅲ)一定期間において継続して生じ得る一定の事項を除外しており、また、(ⅳ)投資家において当社の長期的な観点からの経営には無関係と捉え得る事項、例えば期中に売却した事業の影響を必ずしも除外していません。EBITDAおよび調整後EBITDAは、IFRSに準拠した指標である営業利益、当期利益、その他の業績指標と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。
下表は、2023年3月期および2024年3月期における、当期利益からEBITDAおよび調整後EBITDAへの調整を示しております。
(単位:億円)
(注1) その他の調整項目には、COVID‑19に係る費用、Shire社の買収で取得した棚卸資産の公正価値調整による利益への影響、調整後 EBITDAの算出にあたり除外された、売却した製品に係るEBITDAの調整を含みます。
調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率
当社グループは、純有利子負債を社債及び借入金の簿価に現金および現金同等物のみを調整した指標として定義しており、当社グループの調整後純有利子負債は、次のとおり算出しています。まず、連結財政状態計算書に記載されている社債及び借入金の流動部分と非流動部分合計を計算します。その上で、(i) 期初に残存する外貨建て負債を直近12か月の期中平均レートを用いて換算し、報告期間中に計上した新規の外貨建て負債および償還した既存の外貨建て負債については対応するスポットレートを用いて換算するものであり、当社グループの経営陣が当社グループのレバレッジをモニターするために使用する方法論を反映しています。また、(ii) S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの格付手法に基づく株式に似た特徴を評価して、S&Pグローバル・レーティング・ジャパンが発行した当社グループの劣後特約付きハイブリッド債に対して、50%のエクイティクレジットを適用しています。この数字から、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた現金を除いた現金及び現金同等物、およびその他の金融資産に計上され公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資を控除し、調整後純有利子負債を算出しています。
当社グループが、純有利子負債および調整後純有利子負債を表示する理由は、当社グループの経営陣が、当社グループの現金及び現金同等物控除後の負債をモニター及び分析するためにこれらの指標を使用し、また当社グループのレバレッジをモニターするために本指標を調整後EBITDAと併せて使用しており、投資家の皆様にとって有用であると考えているためです(なお、調整後純有利子負債および調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率は、当社グループの流動性の指標を表すものではないことにご留意ください)。また、負債についての同様の指標が、証券アナリスト、投資家その他の関係者が製薬業界における各社の評価を行うに際して頻繁に用いられるものであると考えています。 特に、Shire社買収に伴い、投資家、アナリストおよび格付機関は、当社グループの(調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率で表される)財務レバレッジを綿密にモニターしております。格付機関が本指標を特に重視していることから、これらの情報は、当社グループの財務レバレッジだけではなく、格付機関が当社グループの信用力評価にあたって財務レバレッジの水準をどのように評価しているかについて、投資家が理解していただくにあたり有用であると考えています。そのため、後述のとおり、当社グループは、調整後純有利子負債を調整して、格付機関が一部の劣後債に適用している「資本的取扱い」を反映しています(ただし、IFRS上、当該債務は資本として取り扱われません)。
調整後純有利子負債の有益性には、一例として次の限界があります。例えば、(i) 同業他社を含め、用いられている類似の指標との比較可能性に欠け得るものです、(ii) 当社グループの負債に支払われる利息の金額を反映していません、(iii) 当社グループの負債に対する当社の前払い能力又は償還能力の制限を反映していません、(iv) 当社グループが現金同等物を現金に換金する際に、ある通貨から他の通貨に換金する際に、又は当社グループ内で現金を移動する際に、当社グループが負担する可能性のある手数料、費用又はその他の費用を反映していません、(v) 調整後有利子負債には、当社グループのローン契約と整合性のある平均為替レートが適用されますが、これは当社グループがある通貨を他の通貨に換金することができる実際の為替レートを反映していません、(vi) 当社グループの劣後債はIFRS上資本として取り扱われないものの、エクイティクレジットを反映しています。当該調整は、合理的で、投資家にとって有用な調整であると考えています。調整後純有利子負債は、IFRSに基づく指標である社債、借入金及びその他の負債指標と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。
当社グループの調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率は以下のとおりです。
(単位:億円、倍率以外)
下表は、2023年3月31日および2024年3月31日現在の社債及び借入金から調整後純有利子負債への調整を示しております。
(単位:億円)
(注1) ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた現金を除いた、即時的または一般的な業務用に使用できない現金及び現金同等物、およびその他の金融資産に計上され公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資を控除しております。
(注2) 調整後EBITDA計算と整合させるため、期初から期中残存する外貨建て負債を期中平均レートを用いて換算しております。
(注3) 2019年6月に5,000億円のハイブリッド債を発行、格付け機関から認定された50%の資本性である2,500億円を負債から控除しております。また、負債償却と為替影響に関連した非資金性の調整を含みます。
Nimbus Lakshmi, Inc.の取得
当社グループは、2022年12月13日付で、Nimbus Therapeutics, LLC(以下、「Nimbus 社」)の完全子会社であるNimbus Lakshmi, Inc.(以下、「Lakshmi社」)の全株式を取得するため、Nimbus社との間で株式譲渡契約を締結しました。Lakshmi社は、経口アロステリックTYK2阻害薬(Nimbus社社内コード「NDI-034858」)に関する知的財産権および他の関連する資産を保有またはコントロールしています。本契約にもとづき、当社グループはNimbus社に一時金として40億米ドルを本取引完了後に支払いました。また、「TAK-279」(旧Nimbus社社内コード「NDI-034858」)のプログラムから開発された製品の年間の売上高が40億米ドルと50億米ドルとなった場合には、それぞれにつき10億米ドルのマイルストンを同社に支払います。本取引は、2023年2月8日に完了しました。さらに、本取引に関連して、当社グループは、Nimbus社とBristol-Myers Squibbおよびその子会社であるCelgene Corporationとの間の2022年1月の和解契約におけるNimbus社の義務である「TAK-279」のプログラムから開発された製品の開発、薬事規制上の承認、および売上に関するマイルストン支払い義務を引き受けることに合意しました。
「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当年度の経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容 (a)当年度の経営成績の分析 (i)当社グループの経営成績に影響を与える事項 当社グル―プの経営成績に影響を与える事項 買収」をご参照ください。
当年度の研究開発費の総額は
医薬品の研究開発のプロセスは、長期にわたり多額の費用を伴い、その期間は10年を越えることもあります。このプロセスには、新薬の有効性および安全性の評価のための複数の試験、データを審査し販売承認の可否を判断する規制当局に対する申請が含まれます。こうした精査の過程を通過し、臨床での治療に用いることができる候補物質はごく僅かです。承認取得後も、上市後の製品に対しては、ライフサイクルマネジメント、メディカルアフェアーズやその他の投資を含め、継続的な研究開発活動による支援が行われます。
臨床試験は、地域的および国際的な規制ガイドラインを遵守し、通常5から7年もしくはそれ以上を費やして実施されるものであり、相応の費用を伴います。通常、臨床試験は医薬品規制調和国際会議(ICH)が制定したガイドラインに沿って実施されます。これに関わる規制当局は、米国では食品医薬品局(FDA)、欧州連合では欧州医薬品庁(EMA)、日本では厚生労働省(MHLW)、中国では国家薬品監督管理局(NMPA)です。
ヒトの臨床試験は以下の3相で実施されます(各相が一部重複することもあります):
・臨床第1相(P-1)試験
少人数の健康な成人の志願者を被験者として、薬物の安全性、吸収、分布、代謝、排泄について評価するために実施
・臨床第2相(P-2)試験
少人数の志願患者さんを被験者として、安全性、有効性、用量および用法を評価するために実施
臨床第2相試験はP-2aとP-2bの2つのサブカテゴリーに分割されることがあります。P-2a試験は通常臨床上の有効性または生物学的活性を示すためにデザインされたパイロット試験であり、P-2b試験は薬物が最少の副作用で生物学的活性を示す最適用量を探索するために行われます。
・臨床第3相(P-3)試験
大人数の志願患者さんを被験者として、既存の薬剤またはプラセボと比較した安全性および有効性を評価するために実施
これら3相のうち、臨床第3相にかかる開発費用が最も大きく、臨床第3相試験へ進めるか否かの決定は、医薬品開発における重要なビジネス判断となります。臨床第3相試験を通過した候補薬物については、管轄の規制当局に新薬承認申請書(NDA)、生物製剤承認申請(BLA)または医薬品販売承認申請(MAA)を提出し、規制当局より承認を取得した場合に上市が可能となります。NDA、BLA、MAAの作成には、膨大な量のデータの収集、検証、分析が必要であり、多額の費用が伴います。製品上市後も、保健当局により有害事象の市販後調査や、当該医薬品のリスク・ベネフィットに関する追加情報を提供するための市販後試験の実施を求められることがあります。
当社の研究開発は、サイエンスにより、患者さんの人生を根本的に変えうるような非常に革新性が高い医薬品を創製することに注力しています。当社は、「革新的なバイオ医薬品」、「血漿分画製剤」および「ワクチン」の3つの分野において研究開発活動を実施しています。「革新的なバイオ医薬品」に対する研究開発は、当社の研究開発投資の中で最も高い比率を占めています。「革新的なバイオ医薬品」における重点疾患領域(消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス(神経精神疾患)、オンコロジー)には、希少疾患および有病率がより高い疾患のいずれにおいても、未だ有効な治療法が確立されていない高い医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)が存在する疾患に対し、当社はベスト・イン・クラスあるいはファースト・イン・クラスとなりうる画期的な新規候補物質を創出してまいりました。当社は希少疾患に対してコミットしており、当社が探求している患者さんの人生を根本的に変えうるような医薬品の多くは、当社の重点疾患領域および血漿分画製剤領域における希少疾患を治療するものとなります。当社では新たな研究開発能力、さらには次世代プラットフォームに対して社内および外部との提携によるネットワークを通じて投資し、細胞療法および遺伝子治療の領域の強化を図っています。また、当社はデータとデジタル技術を活用し、イノベーションの質を向上させ、実行を加速させています。
当社のパイプラインは、当社事業の短期的および長期的かつ持続的な成長を支えるものです。初回の承認取得後も上市後の製品に対して、地理的拡大や効能追加に加え、市販後調査および剤型追加の可能性を含めた継続的な研究開発活動による支援体制が整っています。当社の研究開発チームは、販売部門との緊密な連携を通じ既発売品の価値の最大化を図り、販売活動を通じて得られた知見を研究開発戦略やポートフォリオに反映します。
自社の研究開発機能向上への注力に加え、社外パートナーとの提携も、当社研究開発パイプライン強化のための戦略における重要な要素の一つです。社外提携の拡充と多様化に向けた戦略により、様々な新製品の研究に参画し、当社が大きな研究関連のブレイクスルーを達成する可能性を高めます。
当社の主要な研究開発施設には以下を含みます:
• グレーターボストン地区研究開発サイト:当社のボストン研究開発サイトは米国マサチューセッツ州ケンブリッジに位置しています。本サイトは当社のグローバルでの消化器系・炎症性疾患領域、オンコロジー、ならびにその他の希少疾患品目の研究開発の中心であり、加えて血漿分画製剤やワクチンなど他の疾患領域の研究開発や免疫調節および生物学的製剤の研究も支援しています。最先端の細胞療法の製造施設を備えた、当社の細胞療法研究の拠点です。さらに当社は、ケンドール・スクエアに新たに建設中の約60万平方フィートの最新鋭の研究開発およびオフィス施設について、15年間のリース契約を締結し、2026年より入居する予定です。
• 湘南ヘルスイノベーションパーク:日本の神奈川県藤沢・鎌倉地域に位置する湘南ヘルスイノベーションパーク(以下、「湘南アイパーク」)は、当社の湘南研究所を外部に開放する形で、2018年に設立された日本初の製薬企業発サイエンスパークであり、当社のニューロサイエンス研究の主要拠点です。当社はより多様なパートナーを招致し、湘南アイパークのさらなる成功を目指すため、2020年に信託設定、2023年には湘南アイパークの運営事業を当社が設立した会社に承継しました。当社は、アンカーテナントとして今後も日本におけるライフサイエンスの研究活性化に注力します。
• サンディエゴ研究開発サイト(注):米国カリフォルニア州サンディエゴにある当社の研究開発拠点であり、消化器系・炎症性疾患およびニューロサイエンス領域における研究開発を支援しています。本研究サイトは、バイオテックのような形態で研究を行う拠点であり、構造生物学および生物物理学などの社内技術を駆使し、社内外で行われる研究を促進します。
• オーストリア ウィーン研究開発サイト:オーストリア ウィーンに位置する当社の研究開発サイトであり、研究開発および血漿分画製剤のプログラムを支援しています。本研究サイトは、生物学的製剤の研究開発に注力するとともに血漿分画製剤の製造施設を備えています。ウィーンのドナウシュタット地区には、アクセシビリティ、快適性、環境の持続可能性に関する基準に準拠したTotal Quality Building(TQB)としての認証を受けられるようデザインされたグリーンビルディングとして、新たな研究開発施設が2026年に設立される予定です。
(注)2024年5月、当社はサンディエゴ研究開発サイトを閉鎖することを決定しました。
当社の2023年4月以降の主要な研究開発活動の進捗は、以下のとおりです。
研究開発パイプライン
消化器系・炎症性疾患
消化器系・炎症性疾患において、消化管疾患、肝疾患および免疫介在性の炎症性疾患の患者さんに革新的で人生を変えうるような治療法をお届けすることにフォーカスしています。炎症性腸疾患(IBD)においては、ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)に関する皮下注射製剤の開発および活動性の慢性回腸嚢炎をはじめとする適応症拡大を含め、フランチャイズのポテンシャルを最大化しています。加えて、GATTEX/レベスティブの地理的拡大により当社の消化器系疾患におけるポジショニングの拡大を目指しています。また、当社は、自社創製、社外との提携および事業開発を通じて炎症性疾患(消化器系、皮膚科系、リウマチ性の疾患に加え、厳選した希少血液疾患および腎疾患(mezagitamab (TAK-079)など))、肝疾患、神経性消化器疾患における機会を探索し、パイプラインの構築を進めております。そのうち、後期開発段階にあり、複数の免疫介在性炎症性疾患の治療薬としてベスト・イン・クラスとなる可能性を有する経口アロステリックチロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬zasocitinib(TAK-279)は、事業開発を通じて獲得した候補物質の一例です。また、後期開発段階にあるfazirsiran(TAK-999)は、α-1アンチトリプシン欠損関連肝疾患に対するファースト・イン・クラスのRNA干渉治療薬となる可能性があり、社外との提携を通じたパイプライン構築の一例です。
(注)アジンマ(apadamtase alfa/cinaxadamtase alfa(遺伝子組換え)(開発コード:TAK-755))およびmezagitamab(TAK-079)は、2023年度第4四半期より消化器系・炎症性疾患領域において開発が継続されています。
[ENTYVIO/エンタイビオ 一般名:ベドリズマブ]
- 2023年4月、当社は、ENTYVIO点滴静注製剤による導入療法後の成人の中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎に対する維持療法として、ENTYVIO皮下注射製剤の生物学的製剤承認申請(BLA)を米国食品医薬品局(FDA)に再提出し、受理されたことを公表しました。今回の再提出は、2019年12月の審査完了報告通知(CRL)におけるFDAの指摘内容に対応することを目的としていました。CRLの受領以降、当社はFDAと緊密に連携し、当局の指摘内容に取り組んでまいりました。今回の再提出パッケージには、ENTYVIO皮下注射製剤の使用について検討するために収集した追加データが含まれていました。同通知の内容は、ENTYVIO点滴静注製剤、臨床安全性および有効性データ、ならびにENTYVIO皮下注射製剤のBLAを支持する検証試験であるVISIBLE1試験の結論とは関連していませんでした。VISIBLE1試験では、0週および2週時点に非盲検下にてENTYVIO点滴静注製剤を2回投与後、6週時点で臨床的改善が得られた中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎の成人患者216例を対象に、ENTYVIO皮下注射製剤の維持療法としての安全性および有効性を評価しました。主要評価項目は、52週時点における臨床寛解であり、これは完全Mayoスコアが2ポイント以下、かつすべてのサブスコアが1以下と定義しました。2023年9月、当社は、ENTYVIO点滴静注製剤による導入療法後の成人の中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎に対する維持療法として、ENTYVIO皮下注射製剤が、FDAによって承認されたことを公表しました。
- 2023年9月、当社は、中等症から重症の活動期クローン病の維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)を効能または効果として、エンタイビオ皮下注108mgペン/同皮下注108mgシリンジ(エンタイビオSC)について、厚生労働省より製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを公表しました。今回の承認は、エンタイビオSCの中等症から重症の活動期クローン病の維持療法としての有効性および安全性を評価した国際共同臨床第3相試験であるMLN0002SC-3031試験およびMLN0002SC-3030試験に基づくものです。
- 2024年4月、当社は、ENTYVIO点滴静注製剤による導入療法後の成人の中等症から重症の活動期クローン病に対する維持療法として、ENTYVIO皮下注射製剤がFDAにより承認されたことを公表しました。本承認は、VISIBLE2試験(SC CD試験)のデータに基づきます。本試験は、0週および2週時点に非盲検下にてENTYVIOの点滴静注製剤による静脈内投与を2回実施後、6週時点で臨床的改善を達成した、中等症から重症の活動期クローン病成人患者全409例を対象に、ENTYVIO皮下注射製剤による維持療法の安全性と有効性をプラセボと比較して評価した無作為二重盲検臨床第3相試験です。52週時点における長期の臨床的寛解率において、ENTYVIO皮下注射製剤108mgを維持療法として2週間ごとに投与した群では、プラセボ投与群と比較し統計学的に有意に高い結果(ENTYVIO皮下注射群:48%、プラセボ投与群:34%、p<0.01)を示しました。臨床試験において、ENTYVIO皮下注射製剤の安全性プロファイルは、点滴静注製剤の既知の安全性プロファイルと概ね一致していましたが、皮下注射製剤の副作用として注射部位反応(注射部位の紅斑、発疹、そう痒症、腫脹、挫傷、血腫、疼痛、蕁麻疹、浮腫)が追加されました。
[アロフィセル 一般名:ダルバドストロセル]
- 2023年10月、当社は、クローン病に伴う複雑痔瘻の治療薬アロフィセルの有効性および安全性を評価する臨床第3相ADMIRE-CD II試験において、主要評価項目である24週時点の複合寛解率を達成しなかったことを公表しました。アロフィセルの安全性プロファイルは過去の試験と一致し、安全性に関する新たな所見は認められませんでした。データ解析から得られた結果は、今後、医学学会または査読付き学術誌において発表する予定です。アロフィセルは、これまでに完了しているADMIRE-CD試験の良好な結果に基づき、欧州連合(EU)、イスラエル、スイス、セルビア、英国および日本において承認されています。
[アジンマ 一般名:apadamtase alfa/cinaxadamtase alfa(遺伝子組換え)(開発コード:TAK-755)]
- 2023年6月、当社は、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)に対する予防的治療法として、TAK-755補充療法の安全性および有効性を評価する無作為化対照非盲検クロスオーバー国際共同ピボタル臨床第3相試験の中間解析の良好な結果およびTAK-755の薬物動態(PK)の特性に加えて、臨床第3b相継続試験からのTAK-755の予防効果に関する長期データを2023年の国際血栓止血学会(ISTH)で発表しました。本ピボタル試験では、TAK-755の予防的治療を受けている期間中に急性TTPイベントが発現した患者はいませんでした。また、TAK-755は、血漿製剤を用いた治療(血漿療法)と比較して血小板減少症事象の発現率を60%低減させました(ハザード比[HR]0.40;95%信頼区間[CI]:0.3–0.7)。試験治療下で発現した有害事象は、血漿療法群で50%であったのに対し、TAK-755の投与を受けた12歳以上68歳以下の患者において10.3%であり、良好な安全性および忍容性プロファイルが確認されるとともに血漿療法よりも安全性が高い可能性が示されました。加えて、12歳以上のcTTP患者36例を対象に、単回輸注後(0~168時間)のADAMTS13の薬物動態の特性を評価し、血漿療法と比較しました。TAK-755による治療を受けた患者は、血漿療法を受けた患者と比較して、ADAMTS13の活性レベルが5倍増加し(Cmax:TAK-755群 100% vs. 血漿療法群 19%)、かつ変動が少ないという結果でした(変動係数[CV]:23.8% vs. 56%)。
また、cTTP患者29例を対象にTAK-755の長期予防投与の安全性および有効性を評価した臨床第3b相継続試験の中間解析の結果、TAK-755の予防投与による安全性プロファイルは一貫して良好であり、中和抗体の産生は認められませんでした。TAK-755の予防投与期間中に発現した急性TTPイベントはなく、亜急性TTPイベントおよびTTP症状の発現率は、ピボタル試験におけるTAK-755予防投与時の発現率と同程度でした。
- 2023年11月、当社は、米国食品医薬品局(FDA)により、cTTPの成人および小児患者の予防的治療薬ならびに酵素補充療法としてADZYNMAの承認を取得したことを公表しました。本剤は、cTTPを対象としたファスト・トラック指定、希少疾病用医薬品指定および希少小児疾患指定を受け、生物学的製剤承認申請(BLA)は優先審査指定を受けていました。また、FDAは本承認に対して希少小児疾患優先審査権を付与しました。本承認は、cTTPを対象とした初の無作為比較非盲検クロスオーバー臨床第3相試験の有効性、薬物動態、安全性および忍容性データの解析、ならびに継続試験のデータを含む包括的なエビデンスに基づきます。ADZYNMAは、欠乏したADAMTS13酵素を補充することによりcTTP患者のアンメット・メディカル・ニーズに対応するFDAに承認された初めてかつ唯一の遺伝子組換えADAMTS13(rADAMTS13)です。
- 2024年3月、当社は、アジンマ静注用1500について、12歳以上の患者を対象に、cTTPを効能または効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。本承認は、主に12歳から68歳のcTTP患者(日本人5例を含む)を対象とした初のグローバル臨床第3相試験である281102試験における有効性、薬物動態、安全性および忍容性の中間解析データ、および継続試験であるTAK-755-3002試験における長期的安全性および有効性のデータに基づくものです。
- 2024年5月、当社は、欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品評価委員会(CHMP)が、cTTPの小児および成人患者のADAMTS13欠乏症の治療薬としてTAK-755の承認を例外的な状況下において推奨したことを公表しました。欧州委員会の肯定的見解は、cTTPを対象とした初の無作為化比較対照非盲検クロスオーバー第3相試験から得られた有効性、薬物動態、安全性および忍容性データの中間解析を含む包括的エビデンスによって支持されました。
[EOHILIA 一般名:ブデソニド(開発コード:TAK-721)]
- 2024年2月、当社は、米国食品医薬品局(FDA)より、11歳以上の好酸球性食道炎(EoE)患者を対象に12週間の投与を適応としてEOHILIA(ブデソニド経口懸濁液)の承認を取得したことを公表しました。今回のFDAによるEOHILIAの2mg1日2回投与の承認は、EoE患者(それぞれ11~56歳および11~42歳)を対象にした2つの多施設共同無作為化二重盲検並行群間プラセボ対照12週試験(試験1および試験2)の有効性および安全性データに基づくものです。
[開発コード:TAK-279 一般名:zasocitinib]
- 2023年11月、当社は、活動性の乾癬性関節炎患者を対象としてzasocitinibを評価する無作為化二重盲検プラセボ対照臨床第2b相試験の良好な結果を、米国リウマチ学会(ACR)Convergence 2023のLate-Breaking Sessionにおいて発表しました。本試験では、1日1回投与した患者群において12週時点で米国リウマチ学会が定めた基準による20%以上の改善(ACR20)を示した患者の割合がzasocitinib群では53.3%(15mg)および54.2%(30mg)であり、プラセボ群の29.2%と比較して統計学的に有意に高く(p=0.002)主要評価項目を達成しました。本試験においてzasocitinibは重要な副次評価項目でも改善を示し、安全性および忍容性プロファイルは、尋常性乾癬を対象とした臨床第2b相試験と一致していました。本臨床第2b相試験の結果に基づき、乾癬性関節炎を対象としたzasocitinibの臨床第3相開発プログラムを開始する予定です。また当社は、2023年度第3四半期に尋常性乾癬を対象としたzasocitinibの臨床第3相開発プログラムを開始済みであり、クローン病、潰瘍性大腸炎などの免疫介在性炎症性疾患を対象としてzasocitinibを評価する予定です。
[開発コード:TAK-079 一般名:mezagitamab]
- 2024年6月、当社は、持続性もしくは慢性の一次性免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病:ITP)の患者を対象としたmezagitamabの安全性、忍容性および有効性を評価する臨床第2b相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(TAK-079-1004試験)の良好な結果を第32回国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasis Congress:ISTH)の口頭Late-Breakthrough Sessionで発表しました。TAK-079-1004試験は、慢性もしくは持続性のITP患者を対象に、3つの用量(100 mg、300mgおよび600 mg)を週1回、8週間にわたり皮下投与した後に8週間を超えて安全性追跡調査を行い、プラセボと比較評価しました。主要評価項目は、グレード3以上の有害事象、重篤な有害事象、および投与中止に至った有害事象を含む、試験治療下で有害事象を発現した患者の割合です。副次評価項目は、血小板反応、血小板反応の完全寛解、臨床的に意義のある血小板反応、止血血小板反応です。臨床第2b相試験の結果、評価した3つの用量すべてにおいて、mezagitamabの投与により血小板反応がプラセボと比較して大幅に改善することが示されました。Mezagitamab群では、血小板数の迅速かつ持続的な増加(治療閾値50,000/μL以上)が認められ、その効果が最終投与(8週目)から16週目まで8週間持続したことから、血小板反応に対する迅速な効果および治療後の効果が示されました。本試験で新たな安全性シグナルは検出されず、ITP患者においてmezagitamabの良好な安全性および忍容性プロファイルが示され、安全性プロファイルはこれまでに実施されたmezagitamabの試験と一致していました。当社は、ITP患者を対象としたmezagitamabの国際共同臨床第3相試験を2024年度下期に開始する予定です。なお、mezagitamabは米国食品医薬品局(FDA)よりITPを対象にオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を取得し、本プログラムはファストトラック(優先審査)の対象とされています。
ニューロサイエンス(神経精神疾患)
当社は、高いアンメット・ニーズが存在する神経疾患および神経筋疾患を対象に、革新的治療法に研究開発投資を集中させ、当社の専門知識やパートナーとの提携を生かし、パイプラインを構築しています。疾患の生物学的理解、トランスレーショナルなツール、革新的なモダリティの進展により、当社は希少神経疾患、特にオレキシン2受容体作動薬フランチャイズ(TAK-861、danavorexton(TAK-925)など)によるナルコレプシーや特発性過眠症などの睡眠・覚醒障害、およびsoticlestat(TAK-935)による希少てんかんの治療薬の開発に注力しています。当社はさらに、神経筋疾患、神経変性疾患および運動障害のうち患者セグメントを明確に定義できる疾患に特化した投資を行っています。
[開発コード:TAK-861]
- 2024年2月、当社は、ナルコレプシータイプ1(NT1)の患者を対象として開発中のTAK-861の無作為化二重盲検プラセボ対照反復投与臨床第2b相試験の良好なトップライン結果が得られたことを公表しました。当社は、ナルコレプシーにおける臨床第2b相試験として、NT1を対象とした試験とナルコレプシータイプ2(NT2)を対象とした試験の2つの試験を実施しました。本試験結果と世界各地の医薬品規制当局との協議に基づき、当社はNT1を対象とするTAK-861の国際共同臨床第3相試験を2024年度上期に速やかに開始する予定です。現時点では 、NT2を対象としたTAK-861の開発を進める予定はありません。NT1およびNT2を対象とするいずれの試験においても、TAK-861の安全性および忍容性は概ね良好でした。
- 2024年6月、米国睡眠学会および睡眠研究学会の第38回年次総会であるSLEEP2024において、NT1を対象としたTAK-861の臨床第2b相試験の良好な結果を発表しました。NT1患者112名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照反復投与試験であるTAK-861-2001試験で、主要評価項目と副次評価項目において統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善が示され、有効性は8週間の投与期間にわたり持続しました。主要評価項目の覚醒維持検査(MWT)では、プラセボと比較して本試験で評価したTAK-861のすべての用量で統計学的に有意かつ臨床的に意味のある睡眠潜時の延長が認められました(プラセボとのLS平均差はすべてp≤0.001)。エプワース眠気尺度(ESS)および1週間あたりのカタプレキシー発現率(WCR)を含む主な副次評価項目でも一貫した結果が得られ、眠気およびカタプレキシー(筋緊張の突然の消失)の頻度に関する主観的評価項目がプラセボと比較して顕著に改善しました。本試験を完了した被験者の大部分は長期継続投与(LTE)試験に登録され、一部の患者は投与期間が1年に達しました。TAK-861の安全性および忍容性は概ね良好であり、治験薬と関連のある重篤な有害事象または有害事象による投与中止はありませんでした。臨床第2b相試験および現在実施中のLTEにおいて、肝毒性や視覚障害の事例は認められていません。主な有害事象は不眠症、尿意切迫、頻尿および唾液分泌過多でした。大部分の有害事象の重症度は軽度から中等度であり、そのほとんどが投与後1~2日以内に発現し、一過性でした。米国食品医薬品局(FDA)は、臨床第2b相試験のデータに基づき、TAK-861をNT1患者の日中の過度の眠気(EDS)治療薬としてブレークスルーセラピーに指定しました。
[開発コード:TAK-935 一般名:soticlestat]
- 2024年6月、当社は、soticlestatについてSKYLINE試験およびSKYWAY試験のトップラインデータを発表しました。SKYLINE(TAK-935-3001)試験は、難治性のドラベ症候群(DS)患者を対象としてsoticlestat+標準治療とプラセボ+標準治療を比較評価した臨床第3相多施設共同無作為化二重盲検試験です。Soticlestatは、プラセボと比較した、けいれん発作の発現頻度のベースラインからの減少という主要評価項目をわずかに達成しませんでした(p値=0.06)。6つの重要な副次評価項目のうち、soticlestatは16週間の投与期間にわたり、レスポンダーの割合、介護者および医師による全般印象改善尺度-改善の指標、並びに発作強度および持続時間のスケールにおいて臨床的に意義があり、名目上有意な結果を示しました(すべてp値≤0.008)。SKYWAY(TAK-935-3002)試験は、難治性のレノックス・ガストー症候群(LGS)の患者を対象としてsoticlestat+標準治療とプラセボ+標準治療を比較評価した臨床第3相多施設共同無作為化二重盲検試験です。Soticlestatはプラセボと比較して、major motor drop(MMD)発作の発現頻度のベースラインからの減少という新たな主要評価項目を達成しませんでした。SKYLINE試験およびSKYWAY試験では、事前に特定したサブグループの患者において、soticlestatは16週間の投与期間にわたり、主要評価項目および副次評価項目である介護者および医師の全般印象改善尺度-改善、並びに発作強度および持続時間スケールで臨床的に意義があり、名目上有意な治療効果が示されました。SKYLINE試験およびSKYWAY試験のいずれにおいてもsoticlestatの忍容性は概ね良好であり、これまでの臨床試験と一致する安全性プロファイルが示されました。今後の方針を決定するため、(SKYLINE試験、SKYWAY試験および臨床第2相試験のELEKTRA試験で)得られているデータ全体について規制当局と協議をする予定です。また、当社は両臨床第3相試験の結果を今後の学会で発表する予定です。
オンコロジー
オンコロジー領域では、患者さんを通じて得られるインスピレーションおよびあらゆるイノベーションを活用することで、がんの治癒を目指しています。本疾患領域では、(1)既発売品(ニンラーロ、アドセトリス、アイクルシグなど)を通じた血液がん領域におけるさらなるプレゼンスの構築、(2)既発売品(アルンブリグ、FRUZAQLA(米国において上市、中国本土、香港およびマカオを除く他の地域における開発が進行中))による固形がん領域の拡充、(3)高度に革新的な治療薬候補および基盤技術からなる最先端のパイプラインの進捗の3つの分野にフォーカスしています。
[カボメティクス 一般名:カボザンチニブ]
- 2024年1月、当社は、1種類の新規ホルモン療法による1回の前治療歴があり転移を有する去勢抵抗性前立腺がんで測定可能な軟部組織病変を有する患者を対象に、カボメティクスと抗PD-L1(Programmed Death-Ligand 1)ヒト化モノクローナル抗体アテゾリズマブの併用療法と、2剤目の新規ホルモン療法(NHT群)を比較した、Exelixis社が主導する国際共同臨床第3相CONTACT-02試験の結果が、2024年米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム(ASCO GU)の口頭セッションで発表されたことを公表しました。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)ITT(intent-to-treat)集団(400例)の追跡期間中央値14.3ヵ月において、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.50-0.84、p=0.0007)であり、PFS中央値(mPFS)は、カボメティクスとアテゾリズマブ併用群で6.3ヵ月であったのに対し、NHT群は4.2ヵ月でした。これはITT集団(507例)のPFSとほぼ同じでした(HRは0.64(95%信頼区間:0.50-0.81、p=0.0002))。もうひとつの主要評価項目である全生存期間(OS)中央値は、ITT集団の追跡期間中央値12.0ヵ月において、カボメティクスとアテゾリズマブ併用群の16.7ヵ月に対し、NHT群では14.6ヵ月であり(HR:0.79、95%CI:0.58-1.07、p=0.13)、改善傾向を示しました。本試験で認められたカボメティクスおよびアテゾリズマブの安全性プロファイルは、それぞれの単剤で既知の安全性プロファイルと一致しており、併用レジメンによる新たな安全性への懸念は特定されませんでした。
[アドセトリス 一般名:ブレンツキシマブ ベドチン]
- 2023年10月、当社は、欧州委員会(EC)より、未治療のⅢ期CD30陽性ホジキンリンパ腫成人患者に対するドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン(AVD)との併用療法として、悪性リンパ腫治療剤アドセトリスの承認を取得したことを公表しました。この決定は、2023年9月の欧州医薬品評価委員会(CHMP)の承認を推奨する肯定的見解に沿ったものです。本承認は、未治療のⅢ期またはⅣ期の成人ホジキンリンパ腫患者を対象に、アドセトリス+AVD療法をドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチンおよびダカルバジン併用群(ABVD)と比較した無作為化臨床第3相ECHELON-1試験の結果に基づきます。本試験では、主要評価項目である修正無増悪生存期間(PFS)および重要な副次評価項目である全生存期間(OS)が達成され、未治療のⅢ期またはⅣ期古典的ホジキンリンパ腫に対してアドセトリス+AVD併用療法を受けた成人患者のOSに統計学的に有意な改善が示されました。アドセトリスの安全性プロファイルはこれまでの臨床試験と一致しており、新たな安全性シグナルは認められませんでした。
- 2023年11月、当社は、アドセトリスについて、再発又は難治性のCD30陽性の皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を新たな効能・効果として、厚生労働省より製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを公表しました。本承認は、再発または難治性のCD30陽性のCTCL患者を対象とした、海外臨床第3相臨床ALCANZA試験ならびに国内臨床第2相医師主導SGN-35-OU試験の結果に基づきます。
- 2024年6月、当社とファイザー株式会社は、第60回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会および第29回欧州血液学会(EHA)年次総会において、German Hodgkin Study Group(GHSG)が、アドセトリスと化学療法との併用療法を評価する臨床第3相HD21試験の良好な結果についてレイトブレーキングオーラルプレゼンテーションにて発表することを公表しました。GHSGが発表する4年時点での解析では、欧州における現在の標準治療レジメンと比較して優れた無増悪生存率(PFS)と忍容性の改善が示されました。HD21試験は、臨床第3相無作為化国際共同前向き非盲検試験であり、IIb/III/IV期古典的ホジキンリンパ腫と新たに診断された患者を対象に、アドセトリスとエトポシド、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ダカルバジンおよびデキサメタゾンの併用療法(BrECADD)を、標準治療であるブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジンおよびprednisone(eBEACOPP)と比較して評価するデザインです。ASCOにおける発表では、GHSGが実施したHD21試験の4年PFS解析の詳細が発表されます。48ヵ月後、BrECADDはBEACOPPと比較して優れた有効性を示しました[BrECADD群PFS:94.3%、eBEACOPP群PFS:90.9%、ハザード比(HR):0.66(95% CI:88.7-93.1; p<0.035)]。3年時点の解析ですでに報告したように、BrECADDによる治療はBEACOPPと比較して治療関連罹患(TRMB)の発現率の有意な低下(n=738、42% vs 59%、p<0.001)ならびに臨床的に意味のある有害事象の減少とも関連していました。BrECADD群の患者におけるアドセトリスの安全性プロファイルは、承認された他のアドセトリス併用レジメンと一致しており、安全性に関して新たなシグナルは認められませんでした。
[ニンラーロ 一般名:イキサゾミブ]
- 2023年9月、当社は、ニンラーロカプセル 2.3mg/3mg/4mgの剤形追加として、厚生労働省に対しニンラーロカプセル0.5mgの製造販売承認申請を行ったことを公表しました。当社は多発性骨髄腫患者の維持療法における、より適切な用量調節の実現を目指し、ニンラーロの低用量製剤による新たな治療選択肢(1.5mg用量(0.5mg/カプセル×3))を提供すべく、今回の製造販売承認申請を行いました。
[EXKIVITY 一般名:mobocertinib]
- 2023年10月、当社は、プラチナ製剤ベースの化学療法を実施中あるいは実施後に病勢が進行した上皮成長因子受容体(EGFR)エクソン20挿入変異陽性を伴う局所進行性または転移性非小細胞肺がんの成人患者の治療薬EXKIVITYについて、米国食品医薬品局(FDA)との議論の結果、米国における自主的取り下げに向けてFDAと協働していくことを公表しました。EXKIVITYが既に承認されている国においては全世界で同様に自主的取り下げを開始する予定であり、現在販売されているその他の国では規制当局と今後の対応について協議を進めています。この決定は、臨床第3相EXCLAIM-2検証試験の結果に基づいています。この試験で主要評価項目が達成されなかったため、FDAから付与された迅速承認および他の国々における条件付き承認の検証データの要件を満たしませんでした。EXCLAIM-2試験は、EGFRエクソン20挿入変異を伴う局所進行または転移性非小細胞肺がんの一次治療におけるEXKIVITY単剤療法とプラチナ製剤ベースの化学療法との安全性および有効性を検討するために計画された臨床第3相多施設共同非盲検試験です。EXCLAIM-2試験において新たな安全性シグナルは認められませんでした。試験の全データは、今後の医学学会もしくは査読付き学術誌にて発表する予定です。
[FRUZAQLA 一般名:フルキンチニブ]
- 2023年6月、当社とHUTCHMED社は、治療歴を有する転移性大腸がん(mCRC)患者を対象にフルキンチニブを評価する臨床第3相試験FRESCO-2試験結果がThe Lancetに掲載されたことを公表しました。FRESCO-2試験は、治療歴を有するmCRC患者を対象に、フルキンチニブ+最良支持療法(BSC)群とプラセボ+BSC群を比較検討する、米国、欧州、日本およびオーストラリアで実施された国際共同臨床第3相試験です。FRESCO-2試験は主要評価項目および重要な副次評価項目を達成し、フルキンチニブの投与により、統計学的に有意で臨床的に意味のある全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)の改善が示されました。FRESCO-2試験におけるフルキンチニブの安全性プロファイルは、これまでに報告されたフルキンチニブの試験結果と一致しています。
- 2023年9月、当社は前治療歴を有するmCRCに対する治療薬フルキンチニブについて、厚生労働省に製造販売承認申請を行ったことを公表しました。今回の製造販売承認申請は、国際共同臨床第3相FRESCO-2試験および臨床第3相FRESCO試験に基づくものです。
- 2023年11月、当社は、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、およびイリノテカンを含む化学療法、抗VEGF療法、および抗EGFR療法(RAS野生型で医学的に適切な場合)の治療歴があるmCRC成人患者に対し、FRUZAQLAが米国食品医薬品局(FDA)によって承認されたことを公表しました。FRUZAQLAは、バイオマーカーのステータスにかかわらず、治療歴を有するmCRC患者の治療薬として、米国で承認された初めてかつ唯一の3種類のVEGFRキナーゼすべてに対して選択性を有する阻害薬です。FRUZAQLAの承認は、中国で実施されたFRESCO試験およびグローバル試験であるFRESCO-2試験の2つの大規模臨床第3相試験のデータに基づきます。
- 2024年6月、当社は、フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤、オキサリプラチン、およびイリノテカンを含む化学療法、抗VEGF療法ならびに抗EGFR療法による治療歴があり、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合剤又はレゴラフェニブのいずれかによる治療中に進行した、もしくはこれらに不耐のmCRC成人患者に対する単剤療法として、FRUZAQLAが欧州委員会によって承認されたことを公表しました。今回の承認は、国際共同第3相試験であるFRESCO-2試験の結果に基づいています。
[アイクルシグ 一般名:ポナチニブ]
- 2024年3月、当社は、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ ALL)と新たに診断された成人患者の化学療法併用下での治療薬としてのアイクルシグについて、米国食品医薬品局(FDA)より、医薬品承認事項変更申請(sNDA)の承認を取得したことを公表しました。本適応症は、グローバル臨床第3相PhALLCON試験から得られた導入療法終了時の微小残存病変(MRD)陰性完全寛解(CR)率の達成に基づく迅速承認において承認されました。アイクルシグはイマチニブと比較して優越性を示し、本試験におけるアイクルシグの安全性プロファイルはイマチニブと同等であり新たな安全性シグナルは確認されませんでした。本適応症の承認継続には、検証試験における臨床的有用性の確認と説明が条件となる場合があります。本迅速承認申請は優先審査指定を受け、リアルタイムオンコロジーレビュー(RTOR)プログラム(完全な申請書を提出する前に申請の構成要素の審査を可能にすることでがん治療薬の提供を迅速化することを目的とするFDAイニシアチブ)下で評価されました。
[ベクティビックス 一般名:パニツムマブ]
- 2024年2月、当社は、ベクティビックスの切除不能進行再発大腸がんの初回薬物療法に関する国内臨床第3相試験であるPARADIGM試験に参加した患者から、治療開始前に採取した血液を用いて血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析し、治療効果との関連を検討したバイオマーカー研究に関する論文が、生物医学ジャーナルNature Medicineに掲載されたことを公表しました。本研究の結果、抗EGFR抗体薬の治療耐性との関連が報告されている10個の遺伝子異常(KRAS、NRAS、BRAF(V600E)、PTENおよびEGFR細胞外ドメインの変異、HER2及びMET増幅並びにALK、RET及びNTRK1融合)を認めない集団において、mFOLFOX6+ベバシズマブ併用療法群と比較し、mFOLFOX6+ベクティビックス併用療法群で原発巣の占拠部位に関わらず全生存期間の延長を認めました(ベクティビックス併用療法群:40.7か月、ベバシズマブ併用療法群:34.4か月、HR:0.76(95% CI: 0.62-0.92))。なお、本研究におけるベクティビックス投与時の安全性プロファイルはこれまで公表された臨床試験結果と同様の内容でした。本研究の結果、原発巣占拠部位による治療選択と比較し、患者の血液を用いた血中循環腫瘍DNAの解析はベクティビックスによる治療がより有用となりうる患者の特定に繋がる可能性を示唆しました。
その他の希少疾患品目
当社の研究開発は、3つの重点疾患領域(消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス(神経精神疾患)、オンコロジー)にわたり、希少疾患および有病率がより高い疾患のいずれにおいても、未だ有効な治療法が確立されていない高い医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)が存在する疾患に注力しています。その他の希少疾患品目においては、高いアンメット・メディカル・ニーズが存在する複数の疾患に焦点をあて取り組んでいます。遺伝性血管性浮腫においては、タクザイロをはじめとするライフサイクルマネジメントプログラムへの継続的な研究開発投資を通じて、既存の治療パラダイムの変革を目指します。希少血液疾患においては、アドベイト、アディノベイト/ADYNOVIを通じて、出血性疾患治療における現在のニーズへ対応することに注力しています。また、LIVTENCITYにおいては、移植後サイトメガロウイルス(CMV)感染/感染症の治療を再定義することを目指しています。当社は、希少疾患の患者さんに対し革新的な医薬品を届けるという当社のビジョンを実現するための取り組みに注力します。当社は、希少疾患において当社が有する専門能力の活用が可能であり、希少疾患に対する当社のコミットメントおよびリーダーシップを高める可能性のある、後期開発段階の事業開発機会の探索を今後も継続する予定です。
[アディノベイト/ADYNOVI 一般名:ルリオクトコグ アルファ ペゴル(遺伝子組換え)]
- 2023年6月、当社は、アディノベイトについて、用法および用量に関する製造販売承認事項一部変更承認を日本において取得したことを公表しました。本承認により、患者の臨床状態や活動レベルに応じ、投与量だけではなく投与間隔を含む用法および用量を調整することで、最適な定期投与による個別化治療への貢献が可能となります。今回の承認は、主に国際共同臨床第3相試験であるCONTINUATION試験および海外臨床第3相試験 PROPEL試験の成績に基づくものです。
[オビザー 一般名:スソクトコグ アルファ(遺伝子組換え)]
- 2024年3月、当社は、グリコシル化されたBドメイン欠損遺伝子組換えブタ血液凝固第VIII因子オビザー静注用500について、後天性血友病A(AHA)患者における出血抑制を効能または効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。本承認は、主に18歳以上の日本人AHA患者5例を対象とした国内臨床第2/3相試験および18歳以上の非日本人AHA患者を対象とした海外臨床第2/3相試験に基づくものです。
[LIVTENCITY 一般名:maribavir]
- 2023年12月、当社は、LIVTENCITYについて、造血幹細胞移植(HSCT)または固形臓器移植(SOT)後の、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、シドフォビルまたはホスカルネットによる治療に対して難治性(遺伝子耐性有無にかかわらず)のサイトメガロウイルス(CMV)感染・感染症の成人患者を対象として中国国家食品薬品監督管理局(NMPA)より承認を取得したことを公表しました。NMPAによる本承認は、臨床第3相SOLSTICE試験の結果に基づきます。LIVTENCITYは2021年に中国医薬品審査評価センター(CDE)によりブレークスルー・セラピー指定を付与されていました。LIVTENCITYは中国において本適応症を有する初めてかつ唯一のCMV特異的UL97プロテインキナーゼ阻害薬です。
- 2024年6月、当社は、リブテンシティ錠200mgについて、臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗CMV療法に難治性のCMV感染症を効能または効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。本承認は、主にHSCTまたはSOT後で既存の抗CMV治療に難治性のCMV感染・感染症を有する患者を対象とした海外第3相非盲検試験(SOLSTICE 試験)および日本人のHSCTまたはSOT後でCMV 感染・感染症を有する患者を対象とした国内第3相非盲検試験に基づくものです。
血漿分画製剤
当社は、血漿分画製剤(PDT)に特化したPDTビジネスユニットを設立し、血漿の収集から製造、研究開発および商用化まで、エンド・ツー・エンドのビジネスの運営に注力しています。本領域では、様々な希少かつ複雑な慢性疾患に対する患者さんにとって生命の維持に必要不可欠な治療薬の開発を目指しています。本領域に特化した研究開発部門は、既発売の治療薬の価値最大化、新たな治療ターゲットの特定および血漿収集から製造に至るまで血漿分画製剤のバリューチェーン全体にわたる効率性の最適化という役割を担っています。短期的には、当社の幅広い免疫グロブリン製剤ポートフォリオ(HYQVIA、キュービトル、GAMMAGARD LIQUIDおよびGAMMAGARD S/D)における効能追加、地理的拡大および総合的な医療テクノロジーの活用を通じたより良い患者体験を追求しています。血液製剤およびスペシャリティケアのポートフォリオにおいては、PROTHROMPLEX(4F-PCC)、ファイバおよびセプーロチンにおける効能追加や剤型追加の開発機会の追求を優先しています。また、当社は、グローバルに販売している20種類以上にわたる治療薬ポートフォリオに加え、20% fSCIg(TAK-881)およびliquid low IgA IG(TAK-880)といった次世代の免疫グロブリン製剤の開発、およびその他の早期段階の治療薬候補(高シアル化免疫グロブリン(hsIgG)を含む)の開発を行っています。
[HYQVIA 一般名:遺伝子組換えヒトヒアルロニダーゼ含有皮下注(ヒト)免疫グロブリン10%(開発コード:TAK-771)]
- 2023年4月、当社は、HYQVIAについて、米国食品医薬品局(FDA)より、原発性免疫不全(PI)治療薬として対象年齢を2歳から16歳までの小児患者へ拡大する生物製剤承認一部変更申請(sBLA)の承認を取得したことを公表しました。FDAによる小児PI患者の治療薬としてのHYQVIAの承認は、2歳から16歳までの44例の小児PI患者を対象に実施したピボタル前向き非盲検非対照臨床第3相試験のエビデンスに基づきます。HYQVIAは、主要評価項目である急性の重篤な細菌感染症(aSBIs)の発現率につき、12ヵ月の治療期間において有効性が確認されました。年間の平均aSBI発現率は0.04であり、事前に設定された達成規準である被験者1例あたりの年間aSBI発現率1未満に対し統計学的に有意に低率(片側上限99%信頼区間 0.21、p<0.001)であったことから、小児PI患者に対するHYQVIAの有効性が確認されました。すべての患者が12ヵ月間(1年間の観察期間)の試験参加期間を完了した時点で行われた中間解析の結果では、成人と同様な安全性プロファイルが確認されました。
- 2023年6月、当社は、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者を対象とした維持療法としてのHYQVIAを評価するピボタル臨床第3相ADVANCE-CIDP1試験の結果を発表しました。ADVANCE-CIDP1試験は、前向き無作為化プラセボ対照二重盲検多施設共同臨床第3相試験であり、静注用免疫グロブリン(IVIG)による治療で病勢が安定している成人CIDP患者を1:1の割合でHYQVIA群(n=62)、プラセボ群(n=70)へ無作為に割り付け、再発または試験治療の中止に至らない限り6ヵ月間の治療を行いました。主要評価項目は、CIDPの症状の増悪をInflammatory Neuropathy Cause and Treatment(INCAT)スコアで評価する再発率です。副次評価項目には、機能的悪化、再発までの期間、Rasch-built Overall Disability Scale(R-ODS)スコアの皮下注製剤開始前のベースライン時からの変化および安全性が含まれます。本試験の結果において、HYQVIAはプラセボと比較して臨床的に意義のある再発率の低下を示し(9.7% vs. 31.4%、p=0.0045)、その他の解析ではHYQVIAはプラセボと比較して再発までの期間の延長を示しました。また、その他の評価項目でも良好なデータが得られ、良好な忍容性が確認されました。これらの結果は、2023年6月にデンマークで開催された2023年末梢神経学会(PNS)年次総会で発表され、同時にthe Journal of the Peripheral Nervous System (JPNS)に掲載されました。
- 2024年1月、当社は、CIDPの成人患者における神経筋障害および機能障害の再発予防の維持療法としてHYQVIAがFDAにより承認されたことを公表しました。本承認は、ADVANCE-CIDP1試験および単群非盲検継続試験であるADVANCE-CIDP3試験の結果に基づきます。HYQVIAはFDAが承認した唯一の免疫グロブリン(IG)とヒアルロニダーゼの組合せ製剤であり、皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIG)です。ヒアルロニダーゼ成分により皮膚と筋肉の間の皮下組織における大量のIGの拡散と吸収が促進されるため、CIDPの成人患者ではHYQVIAを最長で1か月に1回(2、3または4週ごと)の間隔で投与できます。またHYQVIAは皮下投与のため、医療従事者が医療機関または患者の自宅で投与することが可能であり、適切なトレーニングを受けた後、患者や介護者が自己注射することも可能です。
- 2024年1月、当社は、あらゆる年齢のCIDP患者を対象に、IVIGによる治療で安定した後の維持療法としてHYQVIAが欧州委員会(EC)により承認されたことを公表しました。本承認は、CIDP患者の再発予防のための維持療法としてHYQVIAの有効性と安全性を評価したピボタル臨床第3相ADVANCE-CIDP1試験のデータに基づいています。
- 2024年2月、当社は、TAK-771について、無又は低ガンマグロブリン血症を予定する効能または効果として、厚生労働省に対し製造販売承認申請を行ったことを公表しました。無又は低ガンマグロブリン血症は、原発性免疫不全症(PID)または続発性免疫不全症(SID)による抗体が無いまたは低い状態で、重篤な感染症の再発リスクが増加することを特徴とする疾患です。本申請は、主に有効性、安全性、忍容性および薬物動態を評価するために実施された、原発性免疫不全症(PID)の日本人患者を対象とした臨床第3相TAK-771-3004試験ならびにPID患者を対象とした3つの海外臨床第2/3相試験(160603試験、160902試験および161503試験)に基づきます。
- 2024年6月、当社は、CIDP患者におけるHYQVIAの安全性および有効性を評価する長期継続試験である臨床第3相ADVANCE-CIDP3試験のデータを発表しました。本結果はHYQVIAの良好な長期安全性および忍容性と低い再発率を示しており、CIDPに対する維持療法としての使用を支持しています。これらの結果は、末梢神経学会(PNS)年次総会のポスターセッションで発表される予定です。ADVANCE-CIDP3試験はCIDPを対象とした臨床試験として、これまでで最長の延長試験です。本試験はADVANCE-CIDP1試験から85名の患者を登録し、主要評価項目は安全性、忍容性および免疫原性でした。HYQVIAの投与期間中央値は33カ月(0カ月から77カ月)で、全追跡期間の累積は220人年でした。HYQVIAの安全性および忍容性プロファイルは既知のプロファイルと一致しており、新たな安全性に関する懸念は認められませんでした。
[キュービトル 一般名:皮下注(ヒト)免疫グロブリン20%]
- 2023年9月、当社は、キュービトルについて、2歳以上の患者を対象に、無又は低ガンマグロブリン血症を効能または効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。無又は低ガンマグロブリン血症は、原発性免疫不全症(PID)または続発性免疫不全症(SID)による抗体が無いあるいは低い状態で、重篤な感染症の再発リスクが増加することを特徴とする疾患です。皮下投与の免疫グロブリン製剤の日本における承認取得は、当社として初めてです。本申請は、有効性、安全性、忍容性および薬物動態を評価するための、日本人のPID患者を対象とした臨床第3相試験、ならびに北米と欧州のPID患者を対象とした臨床第2/3相試験に基づくものです。日本の患者17例を対象とした試験において、有効性および安全性が確認されました。キュービトル投与期間中に、重篤または重度の有害事象は報告されておらず、良好な忍容性を示しました。主な有害事象は、頭痛および注射部位腫脹各4例(23.5%)、注射部位紅斑3例(17.6%)でした。これまでに報告されている臨床試験においても本剤の有効性および安全性が確認されています。
[GAMMAGARD LIQUID 一般名:(ヒト)免疫グロブリン10%]
- 2024年1月、当社は慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者における神経筋障害および機能障害改善のための静注用人免疫グロブリン製剤(IVIG)治療薬として、GAMMAGARD LIQUIDが、米国食品医薬品局(FDA)により承認されたことを公表しました。本剤は、導入時用量とそれに続く維持時用量が含まれる導入療法としての使用が可能です。GAMMAGARD LIQUIDは、CIDPの治療において免疫グロブリン製剤未投与の患者に対して、または6か月を超える期間の維持療法としては検討されていません。本承認は、HYQVIAのADVANCE-CIDP1試験において再発した成人のCIDP患者を対象にGAMMAGARD LIQUIDの有効性および安全性を評価した無作為化プラセボ対照二重盲検ADVANCE-CIDP2試験の結果に基づいています。
[セプーロチン 一般名:乾燥濃縮ヒトプロテインC(開発コード:TAK-662)]
- 2024年3月、当社は、セプーロチン静注用1000単位について、先天性プロテインC欠乏症に起因する静脈血栓塞栓症、電撃性紫斑病の治療および血栓形成傾向の抑制を効能または効果として厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。本承認は、主に日本人の4~27歳の先天性プロテインC欠乏症患者5例を対象とした国内臨床第1/2相試験および非日本人の先天性プロテインC欠乏症患者を対象とした2つの海外臨床第2/3相試験(IMAG-098試験、400101試験)に基づくものです。
ワクチン
ワクチンでは、イノベーションを活用し、デング熱(QDENGA(開発コード:TAK-003))、新型コロナウイルス感染(COVID-19)(ヌバキソビッド筋注)など、世界で最も困難な感染症に取り組んでいます。当社パイプラインの拡充およびプログラムの開発に対する支援を得るために、政府機関(日本、米国)や主要な世界的機関とのパートナーシップを締結しています。これらのパートナーシップは、当社のプログラムを実行し、それらのポテンシャルを最大限に引き出すための重要な能力を構築するために必要不可欠です。
[QDENGA 一般名:4価弱毒生デング熱ワクチン(開発コード:TAK-003)]
- 2023年7月、当社はTAK-003について、現行の生物学的製剤承認申請(BLA)の審査サイクル内では解決が困難なデータ収集に関する米国食品医薬品局(FDA)との議論の結果、米国におけるTAK-003のBLAを自主的に取り下げたことを公表しました。TAK-003の米国における今後の計画は、旅行者およびプエルトリコなどの米国のデング熱流行地域に居住する人々のニーズを考慮し検討される予定です。TAK-003の有効性および安全性プロファイルは、8つのデング熱流行地域に居住する2万例を超える小児および成人を対象とした4.5年間の臨床第3相試験を含む強固な臨床試験プログラムにより示されています。この臨床試験は、世界保健機関(WHO)による第二世代のデング熱ワクチンに関するガイダンスに基づいており、デング熱流行地域において被験者脱落防止と治験実施計画書遵守を達成できるようデザインされていました。TAK-003は、複数のデング熱の流行国および非流行国で承認されており、今後数年で更なる承認が見込まれています。
- 2023年10月、当社は、WHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会(SAGE)が、QDENGAの使用に関する推奨を発表したことを公表しました。
SAGEは、以下の推奨を発表しました。
- 本ワクチンは、公衆衛生上のインパクトを最大化し、血清反応陰性者における潜在的リスクを最小限に抑えるため、デング熱による疾病負担と感染率が高い地域での導入を検討すること。
- 6歳から16歳の小児を対象とする。この年齢範囲で、デング熱による入院の発生率がピークに達する年齢の約1-2年前にワクチンを導入すること。2回接種とし、接種間隔は3ヵ月とすること。
- 本ワクチンは、よく検討された適切なコミュニケーションおよびコミュニティとの連携と併せて導入すること。
SAGEは、第2世代デング熱ワクチンに関するWHOのガイダンスに従ってデザインされた臨床第3相TIDES(Tetravalent Immunization against Dengue Efficacy Study)試験を含む、28,000人を超える小児および成人を対象とした19件にわたる臨床第1、2、3相試験のデータをレビューしました。
2024年5月、WHOはポジションペーパーを更新し、デング熱による疾病負担と感染率が高い地域において、6~16歳の小児にQDENGAを使用することを推奨しました。
パイプラインの現状
当社グループの各疾患領域および事業分野における研究開発活動の概要は、以下に示すとおりです。後出する主要な疾患領域および事業分野において開示されている当社グループパイプライン上の治療薬の候補物質は、それぞれ異なる開発段階にあり、現在開発中の候補物質の開発中止や新たな候補物質の臨床ステージ入りにより、パイプラインの内容は今後変わる可能性があります。以下に示す候補物質が製品として上市に至るかは、前臨床試験や臨床試験の結果、様々な医薬品の市場動向、規制当局からの販売承認取得の有無など、様々な要因に影響されます。本表では当社が承認取得を目指しているパイプラインの主な効能および2023年度中に承認されたパイプラインを掲載しています。掲載している効能以外にも、将来の効能・剤型追加の可能性を検討するために臨床試験を行っています。以下の表記載は、米国・欧州・日本・中国に限定していますが、当社グループはその他の地域でも開発活動を行っています。以下、「グローバル」の表記は、米国・欧州・日本・中国を指します。下記の表にあるパイプラインのモダリティは、「低分子」、「ペプチド・オリゴヌクレオチド」、「細胞および遺伝子治療」、「生物学的製剤他」のいずれかに分類しています。
2024年5月9日(決算発表日)における当社グループの消化器系・炎症性疾患領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)KMバイオロジクス社との提携
(注2)2024年5月に、欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品評価委員会(CHMP)が、先天性血栓性血小板減少性紫斑病の小児および成人患者のADAMTS13欠乏症の治療薬として、TAK-755の承認を例外的な状況下において推奨
(注3)Arrowhead Pharmaceuticals社との提携
(注4)Mirum社との提携
(注5)Protagonist Therapeutics社との提携、開発は同社が実施
(注6)被験者登録中
(注7)Zedira社およびDr. Falk Pharma社との提携
(注8)COUR Pharmaceuticals社との提携
2024年5月9日(決算発表日)における当社グループのニューロサイエンス(神経精神疾患)領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)2024年6月、当社はドラベ症候群およびレノックス・ガストー症候群の患者を対象とした臨床第3相試験のトップライン結果を公表
(注2)Neurocrine社との提携、開発は同社が実施
(注3)AstraZeneca社との提携、パーキンソン病対象のP-Ⅰ試験を完了
(注4)Denali Therapeutics社との提携、開発は同社が実施
2024年5月9日(決算発表日)における当社グループのオンコロジー領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)Pfizer社との提携
(注2)German Hodgkin Study Groupが実施したHD21試験のデータに基づく申請
(注3)HUTCHMED社との提携
(注4)2024年6月、欧州委員会(EC)より承認取得
(注5)ICLUSIGのフィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病(小児適応)の臨床試験は患者登録を中止
(注6)Exelixis社との提携
(注7)中外製薬との提携、P-Ⅲ試験は当社が実施
2024年5月9日(決算発表日)における当社グループのその他の希少疾患領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)GSK社との提携
(注2)2024年6月、厚生労働省より製造販売承認取得
(注3)Ipsen社との提携
2024年5月9日(決算発表日)における当社グループの血漿分画製剤のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)Halozyme社との提携
2024年5月9日(決算発表日)における当社グループのワクチンのパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)2022年10月に、欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品評価委員会(CHMP)が、欧州およびEU-M4all制度に参加しているデング熱流行国におけるTAK-003の承認を推奨。2022年12月、欧州においてQDENGA(TAK-003)の承認取得
(注2)QDENGA(TAK-003)は、インドネシア、ブラジル、英国、アルゼンチン、コロンビア、マレーシアおよびタイにおいて承認を取得済み
開発中止品目
2023年4月1日以降に中止したプロジェクトは以下のとおりです。
ライセンスおよび共同研究開発契約
①ライセンスおよび共同研究開発契約の概要
当社は通常の事業において、製品開発および商業化のために第三者とライセンス契約や業務提携を行うことがあります。当社の事業は、こうした個々の契約に大きく依存するものではありませんが、これらの契約は全体として、社内外のリソースを組み合わせて活用することで新製品の開発や上市を可能にするという当社の戦略の一部を構成しています。これまで製品上市に寄与してきた契約の一部に関する概要は以下の通りであります。
- アドセトリス:2009年、当社はPfizer Inc.(以下、「Pfizer社」)(2023年12月、Seagen, Inc.はPfizer社により買収)と、アドセトリスのグローバル共同開発および世界各国(同社が本剤を販売している米国、カナダを除く)における販売の提携契約を締結しました。本提携関係に基づき、当社による開発および販売の進捗に関してマイルストン支払いを行いました。また、契約対象地域におけるアドセトリスの正味売上高に基づき10%台半ばから20%台半ばの割合で段階的なロイヤルティを支払います。当社とPfizer社は、本提携関係のもとで実施される選択された開発活動の費用を均等に共同で負担しますが、2024年3月31日現在、当社のアドセトリス提携契約に基づく販売マイルストンの残存支払見込額はありません。本提携関係は、いずれか一方の当事者による正当な事由または両者の合意をもって解除することができます。当社は本提携関係を自由に解除でき、Pfizer社は一定の状況において本提携関係を解除できます。両社により提携解除がなされなかった場合、本契約は全ての支払い義務の満了をもって自動的に終了します。
- トリンテリックス:2007年、当社はH. Lundbeck A/S(以下、「Lundbeck社」)とライセンス、開発、供給および販売契約を締結し、同社の保有する気分障害・不安障害治療薬パイプライン上の複数の化合物について米国および日本における独占的な共同開発および共同販売権を取得しました。本契約に基づき、当社とLundbeck社は、米国および日本でトリンテリックスを販売しており、また、開発資金の大部分を当社が負担することとし、関連化合物の共同開発に合意しました。トリンテリックスによる収益は当社が計上し、当社はLundbeck社に対し正味売上高の一部に加え、当社による本剤の売上に基づき10%台前半から半ばの割合で段階的なロイヤルティを支払います。また、本提携関係に基づき、当社はLundbeck社に対し、開発および販売の進捗に関して一定の開発および販売マイルストンを支払うことに合意しておりますが、2024年3月31日現在、当社のトリンテリックス提携契約に基づく販売マイルストンの残存支払見込額はありません。本契約は無期限に存続しますが、両者の合意または正当な事由をもって解除されます。
②将来に向けた研究プラットフォームの構築/研究開発における提携の強化
自社の研究開発機能向上への注力に加え、社外パートナーとの提携も、当社研究開発パイプライン強化のための戦略における重要な要素の一つです。社外提携の拡充と多様化に向けた戦略により、様々な新製品の研究に参画し、当社が大きな研究関連のブレイクスルーを達成する可能性を高めます。
- 2023年8月、当社は、ImmunoGen, Inc.(ImmunoGen社)より日本を対象としたmirvetuximab soravtansine-gynx(MIRV)の独占的開発・販売に関するライセンス権を取得したことを公表しました。MIRVは、抗葉酸受容体α(FRα)抗体に微小管阻害剤を結合させた抗体薬物複合体(ADC)という特徴を有する静脈注射剤であり、卵巣がん治療のために開発された初のADCです。MIRVは、1~3種類の全身治療レジメンの前治療歴を有するFRα高発現のプラチナ製剤抵抗性卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの成人患者の治療薬として米国で迅速承認を受けています(その後本承認を取得)。MIRVは、FRα高発現のプラチナ製剤抵抗性の再発・難治性卵巣がんを対象とした海外臨床第3相MIRASOL試験において、既存の化学療法と比較して全生存率(OS)の有意な延長を示した初めての薬剤です。2024年2月、ImmunoGen社はAbbVie Inc.により買収されました。
- 2024年1月、当社とProtagonist Therapeutics, Inc.(Protagonist Therapeutics社)は、天然型ホルモンヘプシジンの注射用ヘプシジンミメティクスペプチドであり、現在ピボタル臨床第3相VERIFY試験が進行中である真性多血症 (PV) の治療薬候補としてのrusfertideの開発・商業化に関する全世界でのライセンスおよび提携契約を締結したことを公表しました。Protagonist Therapeutics社のペプチド技術プラットフォームを通じて発見されたrusfertideの作用機序は、鉄の恒常性を調節し、体内の鉄の吸収、貯蔵、分散を制御すると考えられています。PVにおけるrusfertideの臨床第2相REVIVE試験の無作為化部分は、主要評価項目を達成しました。2年間の非盲検延長試験による長期追跡データは米国血液学会2023年年次総会で発表され、PV患者において持続的なヘマトクリット制御、瀉血使用の減少、長期忍容性が示され、新たな安全性シグナルは認められませんでした。Protagonist Therapeutics社は引き続き臨床第3相試験の完了と米国規制当局による承認まで、研究開発を担当します。当社は米国以外での開発権を有し、グローバルでの商業化活動のリードを担います。
- 2024年4月、当社と公益財団法人がん研究会(がん研究会)は、がん領域の開発提携に関する契約を締結したことを公表しました。当社とがん研究会は、本契約に基づき、グローバル早期臨床試験の推進や橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ・リバーストランスレーショナルリサーチ)を推進すること等を目的として、双方の強みを活かした交流を行い、現在進行している医薬品開発における必要な情報共有や協議を行っていきます。これにより、優れた画期的な抗がん剤を創出し、いち早くがん患者とその家族の元にお届けすることを目指します。
- 2024年4月、当社、アステラス製薬株式会社(アステラス製薬)および株式会社三井住友銀行は、日本発の革新的な医薬品の創出に向けた創薬シーズのインキュベーションを行う合弁会社の設立に関する基本合意契約を締結したことを公表しました。3社は合弁会社の設立に加えて、当社およびアステラス製薬で培われたグローバル創薬研究開発のノウハウに基づいたサポートを合弁会社に提供し、新薬開発のオープンイノベーションならびに創薬シーズの社会実装の促進ならびに革新的な医薬品開発を行うスタートアップ企業創出につなげます。合弁会社は、設立後、国内のアカデミア・製薬企業・スタートアップ企業などが有する有望な創薬シーズへのアクセスをはじめ、共同研究等を通じてインキュベーション活動を開始予定です。
- 2024年5月、当社とAC Immune SA(AC Immune社)は、AC Immune社がもつ毒性アミロイドβ(Aβ)を標的とする能動免疫療法に関する全世界の独占的オプションとライセンス契約を締結したことを公表しました。本契約には、AC Immune社がアルツハイマー病治療薬として開発中のACI-24.060が含まれます。ACI-24.060は、抗Aβ能動免疫療法候補薬で、 プラークの形成やアルツハイマー病を進行させると考えられている毒性Aβに対する強力な抗体反応を誘導するように設計されています。ACI-24.060は、脳内のプラークを除去し、かつプラーク形成を効果的に抑制することで、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があります。ACI-24.060については現在、前駆期アルツハイマー病の被験者とダウン症候群の成人患者を対象に被験薬の安全性、忍容性と免疫原性を評価する無作為化二重盲検プラセボ対照臨床第1b/2相試験(ABATE試験)を実施しています。AC Immune社は、ABATE試験を完了させる責任を負います。当社がオプションを行使した場合、当社はオプション行使以降の臨床開発を当社の費用負担で行い、世界各地での申請業務と全世界での商業化の責任を負います。
- 2024年6月、当社はAscentage Pharma社とolverembatinibの独占的ライセンスを獲得するためのオプション契約を締結したことを公表しました。olverembatinibは、慢性骨髄性白血病(CML)およびその他の血液がんを対象に現在開発が進められており、ベスト・イン・クラスとなりうる経口の第三世代BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)です。当社がオプションを行使した場合、中国本土、香港、マカオ、台湾およびロシア以外の全地域でolverembatinibの開発および商業化に関する全世界的な権利を有することになります。本契約の一環として、Ascentage Pharma社は引き続きライセンスオプション行使前のolverembatinibのすべての臨床開発について単独で責任を負います。Olverembatinibは現在、TKI抵抗性の慢性期CML(CP-CML)またはT315I変異を有する移行期CML(AP-CML)の成人患者、および第一世代および第二世代TKIに抵抗性および/または不耐容を示すCP-CML成人患者の治療薬として、中国で承認・販売されています。
③研究開発における提携
下表では、「①ライセンスおよび共同研究開発契約の概要」以外の、研究開発における当社の提携および外部化提携を記載しており、全ての共同研究開発活動を記載しているものではありません。「内容/目的」欄の記述は、別途記載されていない限り契約締結時点のものを示しています。
消化器系・炎症性疾患領域
ニューロサイエンス(神経精神疾患)領域
オンコロジー領域
(注1)2024年2月、ImmunoGen社はAbbVie社により買収
血漿分画製剤
ワクチン
その他/複数の疾患領域
知的財産
特許や登録商標を用いて可能な限り自社の製品や技術を守ることは、当社グループの事業戦略において重要な部分を占めています。当社グループが市場競争力を維持し高めるためには、営業秘密、当社独自のノウハウ、技術的イノベーションおよび第三者との契約の取り決めが欠かせません。当社がビジネス上の成功を収めることが出来るかどうかは、強固な特許を取得し行使する能力や、営業秘密を保護し続ける能力、第三者の知的財産権を侵害することなく事業を行う能力、付与されたライセンスの条件を遵守する能力に依存する場合があります。新薬の開発は長期間にわたり、研究開発は多くの費用を必要とします。また、治療薬候補のうち上市されるものはごくわずかであることから、知的財産の保護は新薬の研究開発への投資の回収において重要な役割を担っています。
当社グループは米国、日本、欧州の主要国において可能な限り当社独自の技術の特許保護を求めていきます。その他の国々についても、可能な国々において、選別したうえで特許保護を求めていきます。いずれの場合にも特許保護自体を取得するか、ライセンサーを通じて特許出願をサポートするよう努めています。特許は、当社グループが使用する技術を保護するための主要な手段です。特許は、特許期間中の医薬品に関する発明に基づく他社による製造、使用、販売、販売の提示を排除する権利を特許権者に付与します。当社グループのバイオ医薬品を保護するために、有効成分をカバーする物質特許、薬の用途、製造方法、製剤に関する特許等、様々な種類の特許を使用しています。
当社グループの医薬品(特に、低分子化合物医薬品)は、主に物質特許によって保護されています。物質特許の存続期間終了をもって当該医薬品の市場独占権は失われる場合がありますが、その後も当該物質の用途、用法、製造方法、新規組成物または剤型に関する特許等の非物質特許によって、商業利益が保護されることがあります。物質特許が満了した場合でも、各国の関連法規制によるデータ保護制度により対象製品が保護されることもあります。
米国では、原則として最も早い通常の特許出願日から20年で特許は満了しますが、米国特許商標庁の審査遅延による特許の発行遅延があった場合は特許期間の調整が行われる可能性があります。また、製品、製品を使用した治療法、製品の製造方法に関する米国の医薬特許は、米国食品医薬品局(FDA)による製品の承認審査期間に応じて特許期間延長の対象となる場合があります。このような場合の存続期間の延長は5年を上限としており、製品の承認取得から14年を超える延長は認められません。FDAの遅延に基づく期間延長が認められるのは、1製品につき1件の特許のみです。FDAは、新規化合物またはオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に対しては、特許による独占権に加えて、データあるいは市場の独占権を追加付与することがあり、これらは既にある特許保護期間と並行して存続します。データ保護規制またはデータ独占権は、ジェネリック医薬品を発売し得る競合他社が、先発品の安全性および有効性を確立する際にスポンサーが作成した臨床試験データを新規化合物については5年間、オーファンドラッグについては7年間使用できないようにするものです。市場独占権は、同一薬剤を同効(同じ適応症)に 対して販売することを禁止するものです。
日本では、有効成分については、特許庁により特許が付与されます。患者さんの疾患の治療・診断方法に関する特許請求項は日本では特許の対象となりませんが、特定の疾患、適応症の治療に使用する医薬組成物に関する特許請求項は、特許の対象となります。日本では原則として出願より20年で特許は満了します。医薬特許は、医療品製造承認取得までに要した時間により、5年を限度として延長されることがあります。米国と異なり、日本では1製品につき1つ以上の特許を延長することができます。また、日本ではデータ保護制度として「再審査期間」を設けており、その期間は新有効成分含有医薬品については8年、新効能・新医療用配合剤については4年から6年、オーファンドラッグについては10年となっています。
欧州連合(EU)では、欧州特許庁(EPO)または欧州各国で特許を申請することができます。EPOの制度では、EU全体およびスイス、トルコ等のいくつかのEU非加盟国での特許を一括申請することができます。EPOが特許を付与すれば、特許権者が指定する国々において特許が有効となります。EPOまたは欧州諸国のいずれかが認める特許の存続期間は、延長や調整があり得ますが、原則として出願から20年です。医薬品の特許は、補充的保護証明書(SPC)制度のもと、さらに追加の独占期間を付与されます。SPCは、特許権者が欧州医薬品庁または各国の規制当局から販売承認を受けるのに要した時間を補償する制度です。SPCによる特許期間の最長の延長期間は5年であり、欧州で最初の販売承認を取得した日から最長15年まで特許期間を延長することができます。認可された小児臨床試験計画(PIP)によるデータが提出されたオーファン以外の製品であれば、その医薬品に係るSPCのさらなる6ヶ月の小児延長が認められます。SPC制度を含め、承認後の特許は、各国の法制度により運用されています。特許およびSPCに関する規制はそれぞれ欧州特許庁およびEUのレベルで作られましたが、国ごとの運用の違いにより、例えば、EU各国の国内裁判所で無効申立てされた場合など、必ずしも同じ結果にはつながりません。また、EUは承認されたヒト用医薬品につき、特許保護と並行してデータ独占権を与えています。現在承認されている医薬品に関する制度は、通常「8+2+1」と呼ばれています。これは、まず初めに競合他社が関連データに依拠することができないデータ保護期間が8年間、続いて競合他社が販売承認申請のために当該データを使用できるものの、競合品を上市することができない市場独占期間が2年間、さらに、スポンサーが最初のデータ保護期間8年間の間に、他の治療薬が存在しない適応症か「既存治療薬に比べて有意な臨床的有効性」が認められる新たな適応症を追加した場合、追加で1年間の市場独占権を認めるものです。これは各国での承認にもEUの中央審査による承認にも当てはまります。また、EUには米国に類似したオーファンドラッグの独占制度があります。医薬品がオーファンドラッグとして指定された場合、10年間の市場独占権が与えられ、この間当該医薬品と同じ適応症を持つ同様の医薬品には販売承認が付与されません。特定の条件下では、小児臨床試験計画の完了によるさらに2年間の小児用医薬品に係る延長が認められます。
当社グループ製品の関連特許満了後の後発品の市場参入や、競合他社によるOTC医薬品の発売等、当社グループは世界中で知的財産に関わる課題に直面しています。当社グループのグローバルジェネラルカウンセルは、法務ならびに知的財産権の業務についても監督責任を負っています。当社グループの知的財産部は、下記3つの優先事項に注力することにより、当社グループの全社的な戦略をサポートしています。
・疾患領域別ユニットの戦略に沿った自社製品および研究開発パイプラインの価値の最大化および関連する権利の保護
・パートナーとの提携サポートによる外部イノベーションのよりダイナミックな活用の促進
・新興国市場を含む世界各国での知的財産権取得および保護
当社グループの知的財産権が侵害されることは、それらの権利から得ることが期待される収益が失われるリスクとなるため、当社グループは特許やその他の知的財産を管理するための内部プロセスを整備しています。当該プロセスでは、第三者からの侵害に継続的に警戒するとともに、当社グループの自社製品および活動が第三者の知的財産権を侵害しないよう、研究開発段階から注意を払っています。
通常の事業活動において、当社グループの特許は第三者から無効の申し立てを受ける可能性があります。当社グループは、当事者として知的財産権に関する訴訟等に関与しております。係属中の重要な訴訟の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
下表では、記載された製品について、対象地域ごとに、存続している物質特許および規制上の保護期間(以下、「RP」)(米国およびEU)もしくは再審査期間(以下、「RP」)(日本)ならびに満了日を記載しております。特許期間の延長(PTE)、補充的保護証明書(SPC)、小児用医薬品に係る独占期間(PEP)は当局により認められたものについては満了日に反映され、申請手続中で認められていないものについては、延長された満了日を別途記載しています。
当社グループのバイオ医薬品は、下記の特許満了期間に関わらず、同じ適応症に対する類似製品またはバイオシミラーを製造する他社との競争に直面するか、今後直面する可能性があります。また、欧州の特許の一部は、SPCにより、いくつかの国で下表に記載の満了期限を超えて対象製品に追加的な保護が付与される場合があります。
(注1) 表中の「—」は物質特許の満了または該当なしを表します。
(注2) 日本では、後発品の承認申請は、先発品の再審査期間終了後に行われ、規制当局による審査の後、承認、薬価収載されます。したがって、後発品は再審査期間の満了後から一定の期間を経て市場に参入します。
(注3) 本製品は、第三者への導出契約を締結しているため、全ての地域で当社グループが販売を行っているわけではありません。
(注4) 本製品は、特定の地域限定で第三者からの導入契約を締結しているため、全ての地域で当社グループが販売を行っているわけではありません。詳細については「ライセンスおよび共同研究開発契約」をご参照ください。
(注5) 2024年3月時点で発売された後発品はありません。GATTEX/レベスティブの後発品の正確な参入時期について現時点では定かではありません。
(注6) これらの医薬品は血漿分画製剤です。
(注7) 当社グループは、ENTYVIOの製剤、投与方法、製造工程といった様々な項目について特許権を保有しており、そのうち一部は2032年に満了する予定です。なお、2032年より前にバイオシミラーの上市を目指す場合には、特許権侵害や関連するすべての特許の有効性を確認する必要があるため、バイオシミラーの正確な参入時期について現時点では定かではありません。
(注8) 次に関する特許期間の延長(PTE): (a) ホジキンリンパ腫(フロントライン)、(b) 再発・難治性のPTCL(ALCLを除く)、および (c) 再発・難治性のホジキンリンパ腫、再発・難治性のPTCLおよびホジキンリンパ腫(フロントライン)の小児用(再発・難治性のホジキンリンパ腫および再発・難治性のALCLのPTEは、2026年4月に満了)。
(注9) 小児ホジキンリンパ腫(フロントライン)のみのRP(再発・難治性のホジキンリンパ腫、再発・難治性のALCL、ホジキンリンパ腫(フロントライン)、PTCLと再発・難治性の小児ホジキンリンパ腫、および再発・難治性の小児PTCLについてのRPは、2024年1月に満了、再発・難治性CTCLのRPは2029年9月に満了。)