文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
当社は、医用電子機器専門メーカとして、「病魔の克服と健康増進に先端技術で挑戦することにより世界に貢献すると共に社員の豊かな生活を創造する」ことを経営理念としています。そしてその実現に向け、商品、販売、サービス、技術、財務体質や人財などすべてにおいて、お客様はもとより、株主の皆様、取引先、社会から認められる企業として成長し、信頼を確立することを基本方針としています。
この基本方針の実現および当社グループの中長期的な企業価値向上のため、経営の健全性・透明性・効率性の向上を目指す経営管理体制の構築により、コーポレート・ガバナンスの充実を図ることが重要な経営課題であると考えています。当連結会計年度において、取締役会に占める独立社外取締役の比率は3分の1以上ですが、2024年6月26日開催の第73回定時株主総会での承認をもって独立社外取締役の比率は50%となりました。また、ジェンダーや国際性の面を含む多様性の確保を検討する中、女性取締役2名、外国人取締役1名を選任しました。
当社は、監督機能の強化、経営の健全性・透明性の向上、経営の意思決定の迅速化を図るため、監査等委員会設置会社を選択するとともに、社外取締役3名で構成され社外取締役が委員長を務める指名・報酬委員会を設置しています。
当社は、企業価値・株主価値増大に向けて連結ROE(連結自己資本当期純利益率)を重要な経営指標としており、2024年4月からスタートする3ヵ年中期経営計画「BEACON 2030 Phase II」において、資本コストを上回る12%を目標としています。資本コストは毎年見直しており、現在5%前後と見ています。
中期経営計画の推進による利益率の改善を最優先としつつ、日本光電版ROICの導入、在庫圧縮や債権回収の早期化などキャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮による運転資本の改善、投資判断基準の設定、株主還元の充実等により、経営指標の達成を目指します。
2020年度以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要増加や半導体の需給ひっ迫に対応するため、部品や製品の在庫を積み増したことから、キャッシュ・コンバージョン・サイクルが長期化し、2023年度は232日となりました。2024年度は、本年4月に新設した生産本部を中心に在庫管理を強化するとともに、債権回収を早期化し、2021年度水準である190日への回復を目指します。
また、成長投資による企業価値向上に向けて、2022年度に投資判断基準に正味現在価値(NPV)と内部収益率(IRR)を採用し、新規投資案件の評価を開始しています。Phase IIでは、資本コストを上回る12%をIRRの目標とします。一定額を超える投資案件の場合、投資後の進捗状況、効果を毎年取締役会で検証しています。
当連結会計年度における当社グループを取り巻く事業環境は、欧米での金融引き締めや地政学リスクの高まりもあり、景気の先行きは不透明な状況で推移しました。国内では、各都道府県において医療提供体制の見直しが進められるとともに、「医師の働き方改革」に向けたタスクシフトや業務の効率化が推進されました。医療機器業界においても、各企業は医療の質向上と効率化に寄与するソリューション提案がより一層求められる状況となりました。海外では、欧米における看護師不足や物価上昇、中国における景気減速や反腐敗運動の影響がある中、先進国、新興国ともに医療従事者の負荷軽減に資する医療機器の需要は概ね堅調に推移しました。
欧米での金融引き締めや地政学リスクの高まりもあり、景気の先行きは不透明な状況で推移すると見ています。国内では、本年4月に施行された「医師の働き方改革」および本年6月の診療報酬改定を受け、タスクシフトや業務の効率化がより一層進められるとともに、2040年を見据えた地域医療構想に関する議論が本格化する見込みです。海外では、医療機関における検査・手術件数が増加し経営改善の傾向にあるものの、インフレの影響もあり医療機器の設備投資には慎重な動きが見られます。新興国では保護主義的政策や医療機器に関する法規制が強化されています。医療機器業界においては、こうした環境の変化と医療の質向上や効率化といった医療機関のニーズへの迅速かつ柔軟な対応が求められ、厳しい経営環境が続くと予想されます。
(4) 会社の対処すべき課題と中長期的な経営戦略
当社グループは、2020年に10年後の2030年に向けた長期ビジョン「BEACON 2030」を策定し、「グローバルな医療課題の解決で、人と医療のより良い未来を創造する」ことを目指しています。そして、3つの変革「グローバルな高付加価値企業への変革」「顧客価値を追求するソリューション型事業への変革」「オペレーショナルエクセレンスを軸とするグローバル組織への変革」に取り組んでいます。
<第1フェーズである中期経営計画「BEACON 2030 Phase I」(2021~2023年度)の総括>
国内では、新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築や医療従事者の働き方改革等が推進される中、医療安全、診療実績、業務効率につながる顧客価値提案を推進しました。海外では、看護師不足や物価上昇の影響が残る中、米国、新興国市場における事業基盤の強化、医療従事者の負荷軽減に資する医療機器の提案に重点的に取り組みました。技術開発面では、当社初のオートショックAEDや新生児蘇生モニタ、全静脈麻酔支援シリンジポンプ制御ソフトウェアに加え、米国の日本光電オレンジメッド LLCで開発した人工呼吸器の中位機種モデルなど、顧客価値の高い新製品を相次いで投入しました。また、米国のアンプスリーディ社、イタリアのソフトウェアチーム社を買収したほか、米国子会社を再編し持株会社体制に移行するなど、海外事業の基盤強化を図りました。この結果、「BEACON 2030 Phase I」の最終年度にあたる2024年3月期の業績は、国内売上高は好調に推移した一方、注力する米国や中国の市場環境の変化もあり、海外売上高は為替影響を除く実質ベースでは計画未達となりました。海外実質売上の未達に加え、在庫評価減の増加に伴う売上原価率の上昇、人員増や賃上げ、インフレによる販管費の増加により、営業利益率も計画未達となり、収益性の改善が課題として残りました。また、世界的な半導体の需給ひっ迫に対応するためサプライチェーンマネジメント改革を推進し、グローバルで製品供給を継続したものの、製品・部品在庫の積み増しがキャッシュ・コンバージョン・サイクルの長期化につながりました。
<第2フェーズである中期経営計画「BEACON 2030 Phase II」(2024~2026年度)>
激変する世界情勢の中、厳しい経営環境にありますが、前中期経営計画の成果と課題を踏まえ、「BEACON 2030 Phase II」では、全社収益改革を実行し成長領域への投資を本格化するとともに、新たな事業モデルの構築および既存事業との連携を強化します。
1. 3つの指標と6つの重要施策
成長性、収益性、資本効率性の強化に取り組み、サステナビリティ経営を実践します。
(成長性)売上高CAGR 5%(2024/3期~2027/3期):製品競争力の強化、北米事業の成長に注力
(収益性)営業利益率 15%(2027/3期):全社収益改革の実行、グローバルサプライチェーンの進化
(資本効率性)ROE 12%(2027/3期):日本光電版ROICの導入、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮
(1)(成長性)製品競争力の強化
主力の生体情報モニタリング事業の強化、高成長が期待できる人工呼吸器を含む治療機器事業、消耗品・サービス事業、DHS(デジタルヘルスソリューション)を含むソリューション事業の拡大に注力。
設計プラットフォームの共通化、マルチプラント設計、サイバーセキュリティの高度化、QA/RA体制の強化。PLM/MESシステムの導入に加え、開発プロセス改革を推進し、新製品開発期間を短縮。
※ QA(Quality Assurance):品質保証、RA(Regulatory Affairs):規制関連業務。
PLM(Product Life-cycle Management):製品ライフサイクル管理、MES(Manufacturing Execution System):製造実行システム。
(2)(成長性)北米事業の成長に注力
日本、北米、その他の海外の3地域における市場戦略を強化。成長ポテンシャルの高い北米事業に優先的に資源を配分し、シェア拡大と収益改革を推進。
[日本]顧客価値提案の高度化による、顧客基盤の強化と持続的な成長
[北米]大手IDN/GPO市場、DoD/VA市場深耕によるブランド認知度向上と収益改革
[海外]医療機器に関する法規制対応、現地開発・生産・販売・サービス体制の強化
※ IDN(Integrated Delivery Network):総合医療ネットワーク、
GPO(Group Purchase Organization):グループ購買組織。
DoD(Department of Defense):米国国防総省、VA(Veterans Affairs):米国退役軍人省。
(3)(収益性)全社収益改革の実行
商品ミックス、生産性、サプライチェーンの改善に向けた各種施策を実行
(4)(収益性)グローバルサプライチェーンの進化
PSI(生産・販売・在庫)管理を高度化、グローバルQMS(Quality Management System:品質管理システム)の強化、マルチプラント生産の推進
(5)(資本効率性)日本光電版ROICの導入
利益率改善と投資対効果のモニタリング強化
(6)(資本効率性)キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮
新設した生産本部を中心に、調達・生産管理機能を強化。債権回収の早期化
2.サステナビリティ経営
サステナビリティ経営の実践に向けては、Phase Iのマテリアリティ・KPIを一部見直し、医療課題、環境課題、社会課題の解決に取り組みます。
グローバル共通価値基準に基づき、Phase Iで導入したBEACON人事制度の浸透および運用定着・強化を図るとともに、働き方改革・人員生産性の向上に取り組みます。ダイバーシティ&インクルージョンの推進に加え、グローバル人財やDX人財の育成などキャリア支援の充実により、医療への貢献にやりがいと誇りを持てる組織風土の醸成に取り組みます。
グループガバナンスの一層の強化に向け、取締役会の多様性を確保するとともに、CxO体制の導入による意思決定の迅速化を図ります。また、株主価値との連動性を高めることを目的として、役員報酬制度の見直しを進めます。
3.経営目標値
当社グループのサステナビリティに関する考え方および取り組みは、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
当社では、サステナビリティを推進するため、「サステナビリティ推進委員会」(社長をはじめとする経営執行役員・執行役員・部門長で構成)と「サステナビリティ推進会議」(合計18部門の代表者で構成)を設けています。また、サステナビリティの推進に社外の視点を取り入れるため、社外有識者3名による「アドバイザリーボード」を設置しています。
サステナビリティ推進委員会は年2回開催され、サステナビリティ活動の方向性を議論・決定しています。推進委員会委員長である社長が活動の評価や管理を行う権限を持ち、年間計画の進捗や評価について定期的に取締役会で報告し、取締役会が当社におけるサステナビリティの推進状況を監督しています。サステナビリティ推進会議は年4回開催され、推進委員会が決定した方針や指示に基づき年間計画を策定・推進し、進捗状況を推進委員会に報告しています。中期経営計画に基づき、経営層がサステナビリティに関するサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)とKPI(Key Performance Indicator)を設定するとともに、社内における担当部門を定めています。各担当部門を代表する推進会議メンバは、サステナビリティ活動の進捗状況を報告するとともに、他のメンバとの意見交換を行っています。また、リスクマネジメント委員会、コンプライアンス委員会、品質管理委員会、環境委員会とも連携を図り、日常業務の中でサステナビリティ活動が実践されるよう取り組んでいます。アドバイザリーボードミーティングは年2回開催され、サステナビリティの推進全般について助言をいただき、活発な議論を行っています。さらに、社内でのSDGsに対する意識向上を図るため、2022年10月から2023年10月にサステナビリティ・ディスカッションを行いました。また、ウェビナー等を用いた国内外向けの社員教育などの取り組みを行っています。
サステナビリティ推進体制図
サステナビリティ推進会議体制図
(2) 戦略
当社は、事業と企業活動を通じて、世界的な社会課題の解決やSDGsの達成に貢献すべく、2021年度にSDGsに関連する合計12個の非財務目標であるサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を特定し、中期経営計画「BEACON 2030 Phase I」の中に組み入れました。マテリアリティ毎にKPI(Key Performance Indicator)を設定するとともに、社内における担当部門を定めています。事業戦略とサステナビリティ戦略の連動を一層高め、経済価値と社会価値の双方を創出することで、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しています。
事業では、長期ビジョン「BEACON 2030」で掲げた5つの新たな世界観(アクセシブル、インテリジェント、患者視点、コネクテッド、最適化)の実現を目指して8つの課題に取り組みました。マテリアリティの一つである医療機器の自動制御においては、全静脈麻酔支援シリンジポンプ制御ソフトウェアを国内で発売し、麻酔科医の業務負荷軽減、医療安全への貢献を期待しています。
企業活動では「人権・人財」「品質」「ガバナンス」「環境」の4つの重点分野で課題に取り組みました。「人権・人財」では、グローバルに活躍できる人財の育成に向けた教育プログラムを拡充しました。「品質」では、医療機器リモート監視システムへの接続機種・台数が増加し、機器トラブルの事前通知等により医療機器のダウンタイム削減に貢献しました。「ガバナンス」では、2023年度に新設したリスクマネジメント委員会で特定した重要リスクを取締役会に報告し、全社的なリスク管理体制の高度化を推進しました。「環境」では、水資源の保護に向け試薬製造時の排水量削減に取り組みました。また、2024年3月から、環境配慮型製品の基準を見直すとともに、基準を満たす製品・サービスについて、国際規格 タイプII ISO 14021に準拠した自己宣言ラベル「Green Product Label(グリーンプロダクトラベル)」として認定する取り組みを始めました。
2024年4月にスタートした新中期経営計画「BEACON 2030 Phase II」では、サステナビリティ経営の実践に向けて、これまでの成果・課題を踏まえ、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)・KPIを一部見直し、医療課題、環境課題、社会課題の解決に取り組みます。
気候変動対策はグローバル社会が直面している最も重要な社会課題であり、当社にとっても重要な経営課題の一つであることから、2022年5月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、7月に気候変動に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目について情報を開示しました。引き続き、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に掲げる「カーボンニュートラルの実現」に向けて気候変動対策を推進するとともに、TCFD提言に沿った情報開示の拡充に取り組みます。詳細については、当社ウェブサイト(
また、当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針は、以下のとおりです。
<多様性の確保についての考え方>
当社は、多様性を尊重し、個人の能力を最大限発揮できる職場環境を実現することで「働きがいの向上」と「新しい価値の創造」を図り、「組織の活性化と企業価値の向上」を目指しています。また、従来から性別や国籍、職歴に関係なく、能力や実績を重視した採用・登用を実施しています。
ダイバーシティ推進の一環として、女性活躍推進法に基づき行動計画を策定し、女性が活躍できる職場環境の整備を進めるとともに、女性のみならず日本光電で働くすべての従業員が働きやすく、働きがいのある職場環境を実現することで、一人ひとりがその能力を最大限発揮できるよう取り組みを推進しています。
<多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針>
当社グループの行動指針となる「グローバル共通価値基準」を体現する人財の育成を推進し、グローバルで整合性・一貫性のある人財マネジメントシステム(人財育成システム・人事制度など)を目指しています。中期経営計画Phase Iの中で「医療への貢献にやりがいと誇りを持てる組織風土の醸成」をサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に特定し、「グローバルに活躍できる人財の育成」をKPIとしました。その目標値として、3年間累計の教育時間を1人当たり45時間以上と設定しました。2021年度、2022年度、2023年度の1人当たり教育時間はそれぞれ18.6時間、18.2時間、24.4時間でした。
また、働く価値観の変化や新たな働き方の浸透をふまえ、当社で働く社員が高いモチベーションを持ち、多様なキャリアパスや働き方を実現できる取り組みを進めています。
「
当社グループの業務全般のリスク管理に関する基本方針等の制定、グループ全体のリスク管理体制の整備・推進状況の把握、監督は取締役会が行っています。リスク分類毎に「リスク管理部門」と「リスク関係委員会」を定めています。「リスク管理部門」は、担当するリスク分類について、業務執行部門・子会社の教育やサポートを行うとともに、体制の整備・推進状況を「リスク管理統括部門」に報告しています。「リスク関係委員会」は、関連するリスク分類について、マネジメントシステムの適切性・妥当性・有効性の評価等を取締役会および経営会議に報告しています。2023年度は、新設した「リスクマネジメント委員会」で特定した重要リスクについて取締役会に報告し、全社的リスク管理体制の高度化を推進しました。また、当社グループに影響を及ぼす気候変動リスクを特定・評価するために、組織横断的なTCFD対応プロジェクトを2021年10月から開始・運営しています。特定された気候変動リスクおよび対応策は、サステナビリティ推進委員会で審議・承認するとともに進捗管理を行っており、取締役会にも報告しています。
気候変動に関するリスクの詳細については、
中期経営計画の中で、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)について、それぞれKPIを設定しています。
各KPIの目標および実績は、当社ウェブサイト(https://www.nihonkohden.co.jp/sustainability/nk_sustainability/materiality.html)の「
「BEACON 2030 Phase I」
<中核人材における多様性の確保に関する実績と目標>
当社グループでは、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針に基づき具体的な取り組みを実施しているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、次の※1、※2の指標に関する目標および実績は、連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しています。
※1 対象は提出会社の従業員
※2 対象は提出会社の取締役・経営執行役員・執行役員
※3 CxO:CEO、COO、CTO、CFOなどの経営幹部
※4 本書提出日現在
なお、管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率および労働者の男女の賃金の差異についての実績は、「
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあり、特に重要なのは、医療機器の許認可申請等および品質問題に関するリスクです。
当社グループの業務全般のリスク管理に関する基本方針等の制定、当社グループ全体のリスク管理体制の整備・推進状況の把握は取締役会が行っています。リスク分類毎に「リスク管理部門」と「リスク関係委員会」を定めています。「リスク管理部門」は、担当するリスク分類について、「業務執行部門・子会社」の教育やサポートを行うとともに、体制の整備・推進状況を「リスク管理統括部門」に報告しています。「リスク関係委員会」は、関連するリスク分類について、マネジメントシステムの適切性・妥当性・有効性の評価等を取締役会および経営会議に報告しています。また、「リスクマネジメント委員会」で特定した重要リスクについても取締役会に報告し、全社的なリスク管理体制の高度化を推進しています。重要リスクの特定においては、各リスクシナリオを経営への影響度・発生頻度に基づき評価したリスクマップ等を用いて審議しています。
リスク分類表は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 <その他の事項> リスク管理体制の整備状況」に記載しています。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
医療機器の製造販売は、国内での医薬品医療機器等法、米国でのFDA(米国食品医薬品局)等、各国・各地域で法令・規制等の適用を受けます。直近では、欧州におけるMDR(医療機器規則、2021年5月から適用)、IVDR(体外診断用医療機器規則、2022年5月から適用)、米国におけるFDAサイバーセキュリティ・ガイダンス(2018年10月公表)、AI対応医療機器のガイドライン(2023年4月草案公表)等への対応が必要となっています。今後これらの法令・規制等の改廃や新たな法令・規制等が設けられた場合、許認可申請の審査体制の変更や追加試験等により新製品発売までの時間が延長する等の影響がでて、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。但し、当社グループの製品は多品種少量であり、更新サイクル毎に随時新製品を投入していることから、大きな影響を及ぼすようなリスクは低減されています。
医療機器は極めて高度な品質が要求されるため、国際規格ISOの基準等に基づいて品質マネジメントシステムを構築、運営しています。品質方針に基づきグループ品質目標を定め、開発から生産、販売、アフターサービスに至る全てのプロセスで、品質確保およびお客様満足度の向上に取り組んでいます。また、商品が医療事故につながるリスクを重点的に管理しています。通常時の体制、事故のあった場合の体制・報告をはじめとするルールなどを規定で明確化し、運用しています。予防および迅速な連絡のために、広く医療現場から迅速・正確に情報を収集するための仕組み、情報発信するための仕組みも整備しています。しかしながら、品質に問題が生じた場合、商品の販売停止、リコール等の措置を講じる場合があります。また、医療事故が発生し、当社に損害賠償責任を求める訴訟を提訴されたり、大きく社会的に取り上げられた場合、事実関係の当否とは別に、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度においては国内外で2件のリコールが発生し、ソフトウェアの品質向上に取り組みました。また、当連結会計年度末における製品保証引当金は16億4千8百万円です。製品保証引当金には、保証期間内の無償修理に係る費用や将来のリコール等に係る費用が含まれます。
当社グループは、日本での持続的成長とともに、米国および中国を含む新興国での事業基盤の強化により、海外事業の一層の拡大を目指しています。日本では、医療費抑制や医療の質の向上を目的とした医療制度改革が進められています。また、AEDの普及により、当社グループの顧客は医療機関だけでなく景気動向の影響を受けやすい民間企業に広がっています。当社グループの連結売上高の約6割は国内におけるものであり、医療制度改革や景気動向などの影響を受けます。また、当社グループは海外子会社および代理店を経由して世界各国に製品を供給しています。新興国では官公立病院の占める割合が高く、医療インフラ整備に向けた入札案件が多いことから、選挙や予算執行のタイミングなどの影響を受けます。中長期的には、国産優遇の動きが見られる新興国において、組立生産等の対策が必要となる可能性があります。また、各国の景気後退、これに伴う需要の減少、政治的・社会的混乱や法令・規制等の変更があった場合、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、高い倫理観に基づき、良識に従った公正で適法な企業活動を実践するために、グローバル・コンプライアンス・プログラムを導入し、厳格な法令遵守を貫くコンプライアンス体制を構築することに真摯に取り組んでいます。グローバル・コンプライアンス・プログラムにおいては、コンプライアンスの基本方針・ルールを定めた「日本光電行動憲章」および「日本光電倫理行動規定」、ならびにコンプライアンスを徹底するための仕組みと運用方法の基本事項を定めた「コンプライアンス推進規定」を制定し、「コンプライアンス委員会」が法令・規制等への対応や教育研修、内部通報窓口の運営、遵守状況のモニタリング等を実施しています。また、海外子会社のリスク管理体制の整備・運用に関する監督の強化を図っています。
当社グループの事業活動は、国内においては医薬品医療機器等法等の医療機器の製造・販売に関する法規、会社法、金融商品取引法、税法、労働法、独占禁止法、貿易関連法規、環境関連法規等、海外においても各国・各地域で多岐にわたる法令・規制等の適用を受けています。コンプライアンスの徹底に努めていますが、適用法令等に抵触する事態が発生した場合、刑罰、処分、その他の制裁を受け、さらに当社グループの社会的信用や企業イメージが毀損して、経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの経営成績および財務状況に重要な影響を及ぼすおそれのある訴訟等は現在ありません。しかしながら、当社グループの国内および海外における事業活動等が、製造物責任、品質問題、知的財産権、労務問題、法令・規制違反、その他何らかの請求・紛争に関連して今後重要な訴訟等の対象となり、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは事業全般において各種ITシステムを活用しており、セキュリティやバックアップ等の対策を実施するとともに機密情報や個人情報の漏洩がないよう情報管理に努めています。また、通信ネットワークを利用する当社製品・サービスにおいても様々なセキュリティ対策を講じています。2022年4月にPSIRT(Product Security Incident Response Team)を発足し、製品・サービスのセキュリティ向上、インシデント対応に取り組んでいるほか、2023年5月に製品セキュリティに関する基本方針を定め、実践しています。しかしながら、自然災害やサイバー攻撃、新種のコンピュータ・ウイルスの感染、通信ネットワークの障害等により、ITシステムの停止やサービス提供の中断、情報漏洩が発生した場合、当社グループの社会的信用や企業イメージが毀損して、経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは日本各地および世界各国で事業を行っています。各地域において気候変動に伴う自然災害や水等の資源の供給不足、テロ、戦争、感染症の拡大等が発生した場合、部品調達や商品供給、販売・サービス活動などに支障が生じ、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
製品に使われる原材料・部品は日本をはじめ世界各国から調達していますが、調達先で供給に問題が発生した場合でも、製品の生産に影響が出ないよう代替品の検討を含めた対策を行っています。また、大規模地震が発生した時においても円滑に商品供給を継続できるよう、事業継続計画(BCP)を策定の上、全社的な教育・訓練を定期的に実施しています。
ウクライナ情勢による不透明な状況が継続していますが、ロシアおよびウクライナでの売上は、欧州売上高の1割未満、連結売上高の1%未満であり、業績に与える影響は軽微です。
また、気候変動対策はグローバル社会が直面している最も重要な社会課題であり、当社にとっても重要な経営課題の一つであることから、2022年5月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、7月に気候変動に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目について情報を開示しました。引き続き、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に掲げる「脱炭素社会の実現」に向けて気候変動対策を推進するとともに、TCFD提言に沿った情報開示の拡充に取り組みます。
当連結会計年度における当社グループ(当社および連結子会社)の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
当連結会計年度における当社グループを取り巻く事業環境は、欧米での金融引き締めや地政学リスクの高まりもあり、景気の先行きは不透明な状況で推移しました。国内では、各都道府県において医療提供体制の見直しが進められるとともに、本年4月に施行された「医師の働き方改革」に向けたタスクシフトや業務の効率化が推進されました。医療機器業界においても、各企業は医療の質向上と効率化に寄与するソリューション提案がより一層求められる状況となりました。海外では、欧米における看護師不足や物価上昇、中国における景気減速や反腐敗運動の影響がある中、先進国、新興国ともに医療従事者の負荷軽減に資する医療機器の需要は概ね堅調に推移しました。
このような状況下、当社グループは、2023年度を最終年度とする3ヵ年中期経営計画「BEACON 2030 Phase I」を推進し、事業と企業活動を通じたサステナビリティを推進するため、「コンプライアンスの徹底とグループガバナンスの一層の強化」「既存事業の収益性の改善と戦略的な先行投資」「グローバル・サプライチェーン・マネジメント(SCM)の構築とコーポレート主要機能の強化」に取り組みました。商品面では、当社初となる全静脈麻酔支援シリンジポンプ制御ソフトウェアを国内市場に投入するとともに、北米で開発した在宅睡眠記録装置や次世代自動心臓マッサージ装置、上海で開発した普及タイプのベッドサイドモニタを発売しました。さらに、昨年4月に米国子会社を再編し、本年1月に持株会社体制への移行を完了するなど、海外事業の基盤強化を図りました。
これらの結果、当連結会計年度の売上高は前期比7.4%増の2,219億8千6百万円となりました。利益面では、在庫の評価減の増加による売上原価率の上昇、人員の増強および研究開発投資に伴う販管費の増加により、営業利益は前期比7.2%減の195億9千1百万円となりました。経常利益は、為替差益の計上により前期比6.1%増の255億8千9百万円となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、退職給付制度改定益を特別利益に計上した一方で、一部子会社での税引前当期純損失の影響により税負担率が上昇し、前期比0.5%減の170億2千6百万円となりました。
<市場別の状況>
国内市場においては、急性期病院、中小病院、診療所といった市場別の取り組みを強化するとともに、医療安全、診療実績、業務効率につながる顧客価値提案を推進、消耗品・サービス事業の強化に注力した結果、全ての市場、全ての商品群で売上を伸ばすことが出来ました。市場別には、ITシステム商談が売上をけん引し、官公立病院、私立病院市場が好調に推移しました。診療所市場も好調だったほか、大学市場も堅調に推移しました。商品別には、生体計測機器、治療機器が好調だったほか、生体情報モニタ、その他商品群も堅調に推移しました。この結果、国内売上高は前期比4.9%増の1,423億7千万円となりました。
海外市場においては、米国子会社再編に伴うデフィブテック LLCの決算期変更の影響(※)や円安効果もあり、二桁成長となりました。米州では、北米、中南米ともに二桁成長となりました。北米では、生体情報モニタは前期実績を下回りましたが、治療機器が大幅増収となりました。中南米では、コスタリカで大口商談を受注したほか、メキシコ、コロンビアが好調に推移しました。欧州は、現地通貨ベースでは前期実績を下回りましたが、円ベースでは増収となりました。オランダ、イタリアは好調でしたが、ロシア、ドイツが減収となりました。アジア州他では、モロッコでの大口商談の受注もあり中近東・アフリカが大幅増収となったほか、台湾、ベトナムも好調に推移しました。中国は、第3四半期からの反腐敗運動の影響もあり減収となりました。この結果、海外売上高は前期比12.3%増の796億1千5百万円となりました。
※米国子会社再編に伴い、デフィブテック LLCの決算日を12月31日から3月31日に変更しています。当連結会計年度は、2023年1月1日から2024年3月31日までの15ヵ月決算を連結しています。
<商品群別の状況>
[生体計測機器]国内では、診断情報システム、脳神経系群が二桁成長となりました。心臓カテーテル検査装置群も好調に推移し、心電計群も堅調でした。海外では、心電計群はアジア州他、欧州で減収となった一方、脳神経系群が欧州、アジア州他で好調に推移しました。この結果、売上高は前期比7.5%増の465億1千7百万円となりました。
[生体情報モニタ]国内では、臨床情報システムが大幅増収となり、センサ類など消耗品も堅調に推移しました。送信機、ベッドサイドモニタは前期実績を下回りました。海外では、中南米で大口商談の受注もあり大幅増収となりました。欧州、アジア州他では、円ベースで増収となったものの、現地通貨ベースでは減収となり、北米も前期実績を下回りました。この結果、売上高は前期比4.1%増の841億3千万円となりました。
[治療機器]国内では、ペースメーカ・ICD、その他に含まれるアブレーションカテーテル、除細動器が好調に推移し、AEDも堅調でした。海外では、デフィブテック LLCのAED、マスク型人工呼吸器が大幅増収となりました。この結果、売上高は前期比16.2%増の516億6千5百万円となりました。
[その他]国内では、医療機器の設置工事・保守サービス、検体検査装置・試薬が好調に推移した一方、現地仕入品は減収となりました。海外では、アジア州他で検体検査装置・試薬が好調に推移しました。この結果、売上高は前期比4.3%増の396億7千3百万円となりました。
売上高を商品群別に分類すると次のとおりです。
(参考)地域別売上高
※米国事業再編が完了したことから、米州を北米と中南米に分けて開示しています。
これまで、当社グループは、医用電子機器関連事業の単一セグメントとして、開発・製造・販売の機能別分社制度を採用し事業運営を行ってきました。また、海外事業の一層の拡大に向け、現地開発・生産・販売機能の強化およびシナジー創出に取り組んできました。米国では、ガバナンスの強化および運営効率の向上を図るため、2023年4月に米国子会社を再編し、持株会社体制に移行しました。2024年1月に本米国事業再編が完了し、各地域を区分して開発・製造・販売を包括的にマネジメントする体制に移行したことから、第3四半期連結会計期間より、報告セグメントを「日本」、「北米」、「その他の地域」の3区分に変更することといたしました。報告セグメント別の経営成績は次のとおりです。
(日本)売上高は1,439億3千9百万円(前期比5.2%増)、セグメント利益は206億5百万円(同8.4%減)となりました。
(北米)売上高は419億9千6百万円(同19.2%増)、セグメント損失は22億3百万円(前期は11億8千2百万円の損失)となりました。
(その他の地域)売上高は360億5千万円(同4.3%増)、セグメント利益は23億9百万円(同57.0%増)となりました。
② 財政状態の状況
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ165億4百万円増加し、2,332億3千3百万円となりました。
流動資産は前連結会計年度末に比べ118億3千3百万円増加し、1,843億3千3百万円となりました。これは売上の増加により現金及び預金や売掛金、有価証券(譲渡性預金)が増加したことなどによるものです。
固定資産は前連結会計年度末に比べ46億7千1百万円増加し、488億9千9百万円となりました。これは繰延税金資産が減少した一方で、退職給付制度の変更の影響により退職給付に係る資産が増加したことなどによるものです。
当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ30億2千6百万円増加し、521億5千1百万円となりました。これは未払法人税等が増加したことなどによるものです。
当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末に比べ134億7千8百万円増加し、1,810億8千2百万円となりました。これは、利益剰余金が増加したことなどによるものです。
これらの結果、1株当たり純資産額は、前連結会計年度末に比べ166.10円増加して2,158.40円となり、自己資本比率は、前連結会計年度末の77.3%から0.3ポイント増加し77.6%となりました。
当連結会計年度末における連結ベースの現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ58億8千9百万円増加して498億7千7百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果得られた資金は、156億7百万円(前期は25億1千3百万円の支出)となりました。主な内訳は、税金等調整前当期純利益293億6千9百万円、棚卸資産の減少38億5千9百万円、売上債権の増加40億8千8百万円、仕入債務の減少49億3千3百万円などです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は、前期比24億3千9百万円減の52億8百万円となりました。主な内訳は、生産設備などの有形固定資産の取得36億2千6百万円、PLM/MESシステムなどの無形固定資産の取得11億6千万円などです。
※PLM(Product Life-cycle Management):製品ライフサイクル管理、MES(Manufacturing Execution System):製造実行システム。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果使用した資金は、前期比5億1千7百万円減の69億6千8百万円となりました。主な内訳は、配当金の支払59億6千8百万円、自己株式の取得11億2千4百万円などです。
当連結会計年度における生産、受注および販売の状況をセグメントごとに示すと次のとおりです。
イ. 生産実績
(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しています。
2 上記金額には、商品購入高が合計で30,598百万円含まれています。
3 上記金額は、製造原価によっています。
当社グループの商品は、需要予測による見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しています。
2 上記金額は、販売価格によっています。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。当連結会計年度において、報告セグメントの区分を「日本」、「北米」、「その他の地域」の3区分に変更しています。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等) セグメント情報」の「(1)報告セグメントの概要」に記載しています。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたり、決算日における資産・負債の報告数値、報告期間における収入・費用の報告数値に影響を与える見積りは、主に貸倒引当金、賞与引当金、退職給付に係る負債であり、見積りおよび判断・評価については、過去実績や状況に応じて合理的と考えられる要因等に基づき行っています。
詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しています。
イ.当連結会計年度の経営成績および「BEACON 2030 Phase I」の進捗状況
当連結会計年度においては、日本では、各都道府県において医療提供体制の見直しが進められるとともに、医師の働き方改革に向けたタスクシフトや業務の効率化が推進されました。医療安全、診療実績、業務効率につながる顧客価値提案を推進、消耗品・サービス事業の強化に注力した結果、全ての市場、全ての商品群で売上を伸ばし、期初計画を上回ることが出来ました。北米では、米国子会社再編に伴うデフィブテック LLCの決算期変更の影響や円安効果もあり、二桁成長となりました。治療機器が好調に推移し期初計画を上回って推移した一方、生体情報モニタは医療機関の経営悪化や大口商談の期ずれもあり前期実績および期初計画を下回りました。その他の地域においては、中南米や中近東・アフリカで大口商談の受注もあり好調に推移し、期初計画を上回ることが出来ました。一方で、中国は第3四半期からの反腐敗運動の影響もあり、前期実績および期初計画を下回りました。以上の結果、2024年3月期の業績は、国内売上高は好調に推移した一方、注力する米国や中国の市場環境の変化もあり、海外売上高は為替影響を除く実質ベースでは計画未達となりました。
商品群別では、生体計測機器は、国内で診断情報システムや脳神経系群、海外で脳神経系群が好調に推移したことから、前期比7.5%の増収となりました。国内では診断情報システムや消耗品が好調に推移し、海外では脳神経系群が底固い需要に支えられたことから、計画を上回ることが出来ました。生体情報モニタは、国内で臨床情報システムが大幅増収、センサ類など消耗品も堅調に推移したほか、海外で大口商談や円安効果もあり、前期比4.1%の増収となりました。一方で、北米における医療機関の経営悪化や大口商談の期ずれもあり、計画を下回って推移しました。治療機器は、国内でペースメーカ・ICD、アブレーションカテーテル、除細動器が好調に推移し、海外でAED、人工呼吸器が大幅増収となったことから、前期比16.2%の増収となり、期初計画を大きく上回ることが出来ました。その他商品群は、国内で医療機器の設置工事・保守サービス、検体検査装置・試薬が好調に推移し、海外で検体検査装置・試薬が前期実績を上回ったことから、前期比4.3%の増収となり、計画を上回りました。
営業利益については、実質売上の未達に加え、在庫評価減の増加に伴う売上原価率の上昇、人員増や賃上げ、インフレによる販管費の増加により、前期実績および計画を下回りました。
2024年度は、4月から新中期経営計画「BEACON 2030 Phase II」をスタートしました。全社収益改革を実行することで成長領域への投資を本格化するとともに、新たな事業モデルの構築および既存事業との連携を強化します。利益面では、在庫の評価減の減少により売上総利益率の改善を想定しています。販管費は、賃上げ等による人件費の増加を見込んでいますが、全社収益改革プロジェクトにおいて人員生産性の向上に注力します。
ロ.キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源および資金の流動性
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析・検討内容は、「(1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
事業への資源配分については、新製品の投入による売上、利益の成長に資する投資を最優先としながら、研究開発や設備投資、M&A・提携、人財育成など将来の企業成長のために必要な資源配分を安定的かつ継続的に実施します。設備投資は103億円程度、研究開発費は75億円程度を計画しています。
株主還元については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載しています。
資金調達については、当社グループの主な運転資金および設備資金として自己資金を充当しており、M&Aや新規事業など資金調達が必要になった場合には、資金需給のバランスを見ながら、借入を資金調達の有効な手段として検討し、負債コストも考慮した加重平均資本コストの最適化を図ります。
また、当社グループでは、財務健全性を維持した持続的成長と企業価値の向上を目指して、資金の効率化と流動性の確保に努めています。資金の効率化については、キャッシュ・コンバージョン・サイクルを指標とし、売上債権回収の早期化や棚卸資産の適正化により、運転資金の効率化を図っています。なお、グループ内の資金効率を高めるため、資金は当社に集中し、不足するグループ会社に配分する制度を運用しています。安定的な経営に必要な手元現預金の水準は、概ね月商の3ヵ月程度と考えています。当連結会計年度末における流動比率は、369.4%となっており、十分な流動性を確保しています。なお、資金の流動性を確保するため、複数の取引金融機関と当座貸越契約を締結しています。
ハ.経営指標の分析
当社は、企業価値・株主価値増大に向けて連結ROE(連結自己資本当期純利益率)を重要な経営指標としており、2024年4月からスタートした3ヵ年中期経営計画「BEACON 2030 Phase II」において、資本コストを上回る12%を目標としています。資本コストは毎年見直しており、現在5%前後と見ています。
中期経営計画の推進による利益率の改善を最優先としつつ、日本光電版ROICの導入、在庫圧縮や債権回収の早期化などキャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮による運転資本の改善、投資判断基準の設定、株主還元の充実等により、経営指標の達成を目指します。
当連結会計年度の連結ROEは、営業利益が計画を下回ったこともあり、目標としていた10%を下回る9.8%となりました。
2020年度以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要増加や半導体の需給ひっ迫に対応するため、部品や製品の在庫を積み増したことから、キャッシュ・コンバージョン・サイクルが長期化し、2023年度は232日となりました。2024年度は、本年4月に新設した生産本部を中心に在庫管理を強化するとともに、債権回収を早期化し、2021年度水準である190日への回復を目指します。
また、成長投資による企業価値向上に向けて、2022年度に投資判断基準に正味現在価値(NPV)と内部収益率(IRR)を採用し、新規投資案件の評価を開始しています。Phase IIでは、資本コストを上回る12%をIRRの目標とします。一定額を超える投資案件の場合、投資後の進捗状況、効果を毎年取締役会で検証しています。
当社は、2023年9月7日開催の取締役会において、米国事業再編の一環として、当社100%子会社である日本光電オレンジメッド株式会社を日本光電ノースアメリカ株式会社に商号変更するとともに会社分割し、新設会社である日本光電オレンジメッド LLCに人工呼吸器事業を承継することを決議し、2024年1月1日を効力発生日として、日本光電オレンジメッド株式会社と日本光電オレンジメッド LLCとの間で契約を締結しました。
詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載のとおりです。
当社グループでは、「病魔の克服と健康増進に先端技術で挑戦する」ことを目指して、各種の医用電子機器の研究開発を行っています。当社グループのうち研究開発活動を行っているのは、当社のほかデフィブテック LLC、日本光電オレンジメッド LLC、日本光電デジタルヘルスソリューションズ LLC、日本光電イノベーションセンタ LLC、上海光電医用電子儀器㈲等です。
日本では、荻野記念研究所で新しい計測方法の研究や患者さんの負担が少なくしかも効果の高い治療方法の研究、あるいは国その他の医学研究機関との共同研究等、比較的長期的な視野での研究活動を行っています。各事業部門においては、担当する医用電子機器の改良、関連新製品および周辺機器の開発を行っています。
北米では、連結子会社のデフィブテック LLCで救命救急医療機器、日本光電オレンジメッド LLCで人工呼吸器、日本光電デジタルヘルスソリューションズ LLCでDHS関連製品の開発を行うとともに、日本光電イノベーションセンタ LLCでトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)を行っています。
その他の地域では、連結子会社の上海光電医用電子儀器㈲で新興国市場向けの医用電子機器の開発を行っています。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、
なお、当連結会計年度の主要な成果としては、当社初となる全静脈麻酔支援シリンジポンプ制御ソフトウェアを国内市場に投入するとともに、北米で開発した在宅睡眠記録装置や次世代自動心臓マッサージ装置、上海で開発した普及タイプのベッドサイドモニタを発売しました。