文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものですが、予測しえない経済状況の変化等さまざまな要因があるため、その結果について当社が保証するものではありません。
当社グループは、「革新的価値の創造」、「未来と世界への貢献」、「環境・社会との共生」を経営理念とし、「領域をこえ 未来へ」向かって、新たな未来を支えるモノづくり、持続可能な社会への貢献に取り組んでいます。
また、企業存続の根幹である「コンプライアンス・安全・環境」を経営の最優先・最重要課題と位置付け、企業としての社会的責任を果たすための法令遵守、労働災害リスク撲滅、環境事故防止等を全役員・全従業員へ確実に浸透させる取り組みを続けています。
経営理念を踏まえ、当社グループのあるべき姿として、「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」という当社グループの存在意義(パーパス)を策定しています。
当社グループの事業の核は、大切な財産である「森林」です。森林を適切に育て、管理することは、二酸化炭素の吸収固定や生物多様性保全、水源涵養、土壌保全等、森林が持つ様々な公益的機能を高めることにつながり、森林資源を活用した製品群は、化石資源由来の素材・製品を置き換えていくことが可能です。今後も森林資源に根付いた事業活動を通じて環境問題・社会課題への対応に尽力していきます。
また、当社グループのあるべき姿の実現に向け、「成長から進化へ」を基本方針とする2030年までの長期ビジョンを策定し、「環境問題への取り組み」、「収益向上への取り組み」、「製品開発への取り組み」の3つの柱を掲げ、企業価値の向上に取り組んでいます。
・環境問題への取り組み
石炭使用量ゼロに向けた燃料転換、再生可能エネルギーの利用拡大による温室効果ガス排出量削減や、植林地を取得・拡大し、有効活用することにより森林による二酸化炭素純吸収量の拡大を図り、環境問題に対する取り組みを進めていきます。
・収益向上への取り組み
コスト削減や操業改善等により既存事業を掘り下げ深化させていくことに留まらず、戦略投資やM&A等を通じて、既存の有望事業や環境配慮型製品等により事業を伸ばしていきます。
・製品開発への取り組み
環境配慮型素材・製品の開発、プラスチック代替品の商品化等、木質由来の製品を新しく世に出していきます。
これらの取り組みを通じて、2030年度までに売上高2.5兆円以上を目指し、また、2030年度に2018年度対比で温室効果ガス排出量70%以上の削減を目標とする「環境行動目標2030」を達成し、企業価値の向上と社会への貢献をしていきます。この2030年度までの長期ビジョンのマイルストーンとして策定した2022年度から2024年度を対象とする中期経営計画(2024年度目標 連結営業利益1,500億円以上、連結純利益1,000億円以上<安定的に1,000億円以上を継続> 等)につきましては、取り巻く環境が厳しい中、各施策を継続して遂行していきます。
なお、2023年12月、当社は、ROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)の向上によるPBR(株価純資産倍率)の向上にむけて、「事業ポートフォリオ転換・生産体制効率化」、「不要資産の処分・資産のスリム化」、「収益力に応じた適切かつ安定的な株主還元(配当性向30%目安)」等を取り組みの柱とする、「企業価値向上に向けた取り組みについて」を公表しました。長期的企業価値向上とパーパスに基づいた社会的使命の遂行に向けて、資本効率性の改善と持続的成長につながる取り組みを推進するとともに情報発信を強化していきます。
具体的には以下の取り組みを行っています。
需要が底堅く推移する段ボール事業について、生産体制再構築や原紙加工一貫生産化を進めると同時に、新工場建設・M&Aを通じ一層の事業拡大に努めています。
海外では、東南アジア・インド・オセアニアでのパッケージング事業のさらなる強化を図ります。2023年10月にはベトナムで新たに段ボール工場が稼働しました。さらに2024年度下期にはインドでも工場の稼働を予定しており、東南アジア・インド・オセアニア地域における37カ所目の段ボール工場となります。国内では、段ボール需要の伸びが特に大きいと期待される首都圏を中心とした段ボール事業の拡大・強化を図っています。
加えて、環境意識の高まりに伴い、紙製品への期待が一層集まる中、国内外で脱プラスチック製品の開発・拡販を一段と進めていきます。
王子ネピアでは、2024年4月から新TVCM「森のnepia篇」を全国で放映開始するなど、マーケティング戦略を通じた「nepia」ブランドのより一層の醸成を図るとともに、「人と地球に、ここちいい。」、人々のくらしと環境に寄り添う製品づくりを行っています。
家庭紙事業では、2023年10月に「ネピア プレミアムソフト」をはじめとした主力製品のパッケージを、製品の特長や品質面が瞬時に判断できるようにリニューアルしたほか、保湿ティシュ「鼻セレブ」が2024年9月に20周年を迎えるのに先立ち、FSC®認証紙の採用及びパッケージデザインの一新を行いました。また、当社グループではこれまで、森を守るためにバイオマスインキの使用や環境配慮型製品の展開などの取り組みを実施してきましたが、この度新たに、独自の環境マーク「地球にいいこと。森といいこと。」を制定しました。製品購入時に環境に配慮していると判断ができることで、当社グループの地球温暖化に対する取り組みの理解促進を図っていきます。
紙おむつ事業の子供用分野では、2024年9月をもって国内事業から撤退することを決定しています。なお、市場の成長が続く海外(マレーシア、インドネシア)については事業の継続・拡大を図っていきます。大人用分野では、今後も高齢化が進むわが国の介護現場が抱える課題を解決する製品の開発を進め、紙おむつ事業を強化していきます。
環境配慮型素材及び製品の開発を進めるとともに、市場ニーズを先取りし、お客様の期待を超える製品やサービスを迅速に提供できるよう、新たな事業領域の拡大にも積極的に取り組んでいます。
海外では、感熱製品の世界市場での拡販と印刷・加工を含めた競争力強化を進めています。南米での旺盛な感熱紙需要に対応するため、ブラジルで生産能力を倍増させたほか、ドイツにおいても2024年1月に感熱紙の生産設備の増強を行いました。タイで展開する感熱紙・粘着紙事業、マレーシアの高機能ラベル印刷・断裁加工事業に、2022年9月に買収したAdampakグループが加わり、原紙から加工までの一貫生産が可能となりました。東南アジア・南米・中東・アフリカ等の経済発展に伴い事業の拡大を進めるとともに、既存拠点での競争力強化を図っていきます。
国内では、高機能・環境対応製品の積極的な開発に継続的に取り組んでいます。2023年9月には一般社団法人ラベル循環協会(J-ECOL)へ加盟し、シール・ラベルにおける、さらなる資源の循環を推進しています。また、生産体制の継続的な見直しを行い、競争力・収益力を高めることで既存事業の基盤を強化しています。脱炭素社会への転換がグローバルに進行し電動車が急速に普及していることを受け、王子エフテックス滋賀工場で、電動車のモーター駆動制御装置のコンデンサに用いられるポリプロピレンフィルムの生産設備増設を進めており、2023年7月に1台が稼働し、2024年度下期にも1台の稼働を予定しています。
「総合パルプメーカー」として世界的なパルプ事業の拡大・強化に加え、再生可能エネルギー事業や森林資源を活用した木材加工事業等の拡大に注力しています。
パルプ事業では、事業基盤強化のため、海外主要拠点での戦略的収益対策を継続して実施しています。また、国内では、成長性のある溶解パルプ事業で増産・拡販を進めるとともに、高付加価値品の生産拡大による収益力向上を図っています。
エネルギー事業では、再生可能エネルギーの事業強化を目指し、様々な事業の検討を継続的に進めています。また、国内外の拠点を活かし、エネルギー事業の拡大に合わせたバイオマス燃料の調達・販売強化を進めています。
植林事業では、国内外に保有する社有林において、森林を適切に管理し持続可能な資源活用を図るとともに、森林の成長性向上にも取り組んでいます。また、「環境行動目標2030」に掲げる「海外植林地面積250千ヘクタールから400千ヘクタールへの拡大」という目標に向けて持続可能な森林資源の取得を推進しています。
木材加工事業では、国内外で製材・木材加工製品の生産能力増強、販売強化に取り組んでいます。また、国内では建築資材分野での拡販等を通じ、収益力の強化を図っています。
需要動向を見極め、引き続きコストダウンを徹底すると同時に、保有するパルプ生産設備・バイオマス発電設備等の資産を最大限有効活用し、当社グループ全体としての最適生産体制再構築等を通じて、収益力・競争力の強化に取り組んでいます。王子製紙苫小牧工場においては、新聞用紙生産設備1台を段ボール原紙生産設備へ品種転換するとともに、王子マテリア名寄工場から特殊ライナー・特殊板紙生産設備の移設を行い、2024年2月には構造的な環境変化から新聞・印刷用紙生産設備1台の停止を決定しました。また、王子製紙米子工場では、既存のパルプ生産設備に連続工業プロセスを導入し、高品質な溶解パルプの生産を行っています。加えて、三菱製紙株式会社との業務提携を継続し、提携メリットの最大化に努めています。
中国では、紙パルプ一貫生産体制の強みを最大限に活かしたコストダウンを徹底して行い、さらなる競争力強化に取り組んでいます。
当社は持続可能な社会の構築に貢献すべく、液体紙容器事業や国内社有林の有効活用、脱プラスチックに貢献する環境配慮型製品などの新規事業の開発を推進し、新しいビジネスモデルの創出に取り組んでいます。
液体紙容器事業では、既にチルド市場においては原紙製造から加工、販売に至る一貫体制を実現していますが、2023年5月にイタリアの液体紙容器事業会社であるIPI社を買収し、アセプティック(無菌状態のなかで充填・密封する包装技術)市場においても、原紙製造から加工、販売及び充填機の製造、販売までを行う総合一貫体制を確立し、国内外での事業拡大を目指しています。
また、2024年4月には、包装・包装廃棄物規制に関連するリサイクル及び脱プラスチックの分野で最先端の原料加工技術を保有する、フィンランドのWalki社を買収しました。同社の加工技術を活用した新たな「環境対応包装ソリューション」を当社グループの提案ラインナップに加え、拡販を目指します。
創業当時から紙づくりや森づくりで培ってきた多様なコア技術と、国内外に保有する豊富な森林資源を活用することにより、当社ならではの新たな価値を創造し、社会的課題を解決するためにイノベーションを推進しています。現在は、三つのテーマを中心に研究開発を進めています。
まず、「木質由来の新素材開発」として、セルロースナノファイバー(CNF)は、化粧品や塗料用途などで実用化されたほか、新たな用途を探索し、天然ゴムとの複合化において、事業化に向けて実証設備を導入しました。2024年3月には、CNFを用いた燃料電池用「高分子電解質膜」を開発し、実用化に向けた研究開発を進めています。セルロース素材を効果的に活用するため、セルロース樹脂ペレットなどの商品化も進めています。また、脱炭素化を目的として、木質由来の「エタノール」や「糖液」の製造に取り組んでいます。木質由来のエタノールは、持続可能な航空燃料(SAF)や基礎化学品製造の原料として期待され、木質由来の糖液は、バイオマスプラスチックや合成繊維等の様々なバイオものづくりの基幹原料として、ニーズの拡大が見込まれています。なお、2024年度下期には王子製紙米子工場に製紙工場のインフラを活用した国内初の木質由来のエタノール及び糖液のパイロット製造設備が稼働予定です。さらに、今般、原料に木質バイオマスを採用することにより、有機フッ素化合物群を使用せず、かつ、微細化につながる最先端半導体向けレジストの開発にも成功し、製品化を目指しています。
次に「メディカル&ヘルスケア領域への挑戦」として、木材の主要成分を利用することで、動物由来に依存する課題を回避できる医薬品の開発に取り組んでいます。また、創薬における動物実験の回避や再生医療の促進を目指し、細胞培養基材の開発にも力を入れています。さらに、医薬品や化粧品、甘味料など幅広く使用されている薬用植物「甘草(カンゾウ)」についても確立された大規模栽培の技術を駆使し、海外の野生品に依存せずに国産化することで、供給の安定性を確保できるよう努めています。
そして、「環境配慮型製品の開発」として、植物由来のポリ乳酸を含有したバイオマスプラスチックフィルムの営業生産を開始するとともに、ポリ乳酸のラミネート紙の商品化を進めています。なお、2024年1月、ポリ乳酸合成のベンチプラントが運転を開始し、今般、世界に先駆けて木質(非可食原料)由来のポリ乳酸の合成に成功しました。また、現行の紙リサイクルシステムでも再生可能な紙コップ原紙やフッ素系の耐油剤を使用せず、紙素材で耐油性能を実現した非フッ素タイプの耐油紙を開発し販売しています。
なお、当社グループでは、主に焼却処分(サーマルリサイクル)されていた、プラスチックラミネート加工が施された使用済の紙コップやアルミ付きの紙容器を回収し、効率的に繊維(パルプ)分を回収するシステムを開発しました。段ボール原紙へのマテリアルリサイクルに取り組み、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に貢献していきます。
当社グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD※)に2020年12月に賛同し、本タスクフォースが推奨する気候関連情報開示に取り組んでいます。
また、2024年1月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD※)におけるアーリーアダプターとして登録し、2024年度におけるTNFDレポートの開示を宣言しました。国内外で展開する森林経営をはじめとする事業活動の自然への依存・影響を認識するとともに、長年に渡り培ってきた豊かな森づくりを通して生物多様性保全を図る事でネイチャーポジティブの達成に貢献してまいります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
※TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures
G20財務大臣・中央銀行総裁会合の要請を受け、金融安定理事会(FSB)によって設立されたタスクフォースです。2017年6月、投資家の適切な投資判断のために、気候関連のリスクと機会がもたらす財務的影響について情報開示を促す提言を公表しています。
※TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures
政府、企業、金融機関の支持のもと、企業に自然関連財務情報の開示を促すことを目的として、2021年6月に設立された国際組織です。開示のためのフレームワーク、ガイダンスを開発し、公表しています。
(1)サステナビリティ
当社グループは、気候関連を含むサステナビリティへの取り組みを経営に係る重要課題の一つとして認識しています。気候関連を含むサステナビリティ全般の取り組みを強化するため、代表取締役社長グループCEOを委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置するとともに、「サステナビリティ推進本部」が当社グループのサステナビリティに関する取り組みを統括管理することとしています。
サステナビリティ推進委員会(年2回開催)では、気候関連リスク・機会への対応や持続可能な森林経営に関する事項、サプライチェーンリスクへの対応、環境リスク・人権リスクへの対応、インクルージョン&ダイバーシティの推進等、サステナビリティに関するコミットメントを果たす上で重要な事項について協議し、重要性に応じてグループ経営会議の審議を経て、執行を決定します。
執行を決定した事項は、グループ統括管理部門のサステナビリティ推進本部が推進します。サステナビリティ推進本部は、管掌取締役に進捗を毎月報告し、グループ経営会議に年2回付議・報告をします。重要な事項については管掌取締役の判断のもと、取締役会に報告します。さらに、取締役会は、報告を通じて気候関連を含むサステナビリティに関するリスク管理について整備運用を監視・監督します。
サステナビリティ推進委員会の構成は次のとおりです。
気候関連のリスクと機会については、2030年に向けた中期の炭素税等の政策・規制による移行リスク、2050年に向けた長期の降水・気象パターンの変化等の物理的リスクおよび中・長期の低炭素製品の需要増加機会について、その重要性を認識しています。脱炭素社会への移行に対応すべく、GHG排出削減目標を定め、石炭使用量削減や森林による二酸化炭素純吸収量の拡大、プラスチックを代替する木質由来製品の開発などに取り組んでいます。これまでの取り組みを継続することにより、脱炭素社会への移行が事業に及ぼす影響は限定的と認識していますが、今後もリスク分析を継続し、レジリエンスを強化していきます。
また、森林を適切に育て、管理することにより、再生可能な森林資源を作るだけでなく、生物多様性保全、水源涵養、土壌保全など、森林がもつ多面的機能を高めるとともに、ネイチャーポジティブの達成に貢献していきます。地球温暖化への対応や生物多様性保全といった環境への配慮という命題に対し、当社グループの大切な財産である森林の機能を存分に活用し、事業活動を通じて「森を育て、森を活かす」ことを継続していきます。
リスク分析は、サステナビリティ推進本部が社外の専門家の協力を得てグループ横断的にリスクを整理し、サステナビリティ推進委員会にて重要性と優先順位を協議し、実施しています。リスクへの対応は、サステナビリティ推進本部が統括管理し、サステナビリティ推進委員会が進捗を管理します。また、重要性に応じてグループ経営会議に付議・報告し、全社的なリスク管理と併せ、取締役会が監視・監督を行います。
なお、気候関連リスクが事業・戦略・財務に及ぼす影響は、1.5℃(2℃)と4℃のシナリオを活用して中期(2030年度)的な影響と長期(2050年度)的な影響に整理し、定量的または定性的に評価します。特にGHG排出量の削減については、プロジェクトチームを編成し、石炭使用量の削減や森林による二酸化炭素吸収量の拡大に取り組んでいます。
気候関連のリスク・機会と戦略・対応
※ 影響額 小:100億円未満、中:100億円以上500億円未満、大:500億円以上 ※以外は定性評価
当社が特定した物理的リスクの低減、気候変動の緩和に資するため、パリ協定における1.5℃目標及び環境ビジョン2050、環境行動目標2030を踏まえ、以下の目標を設定し、取り組んでいます。また、国際エネルギー機関(IEA)のネット・ゼロ・エミッション(NZE)シナリオを参照し、ICP(内部炭素価格)を設定しています。目標の達成確度を上げるため、石炭使用量削減等によるGHG排出量の削減、森林による二酸化炭素固定量の増加についてサステナビリティ推進本部を中心に積極的に取り組んでいます。
また、当社では環境行動目標2030において「海外植林面積40万ha」・「森林認証取得率100%」を目標としており、環境との調和に配慮した持続可能な森林経営の実践と拡大を通し、二酸化炭素吸収による気候変動問題への貢献と生物多様性の維持に努めていきます。
※2018年度対比で70%以上削減する目標を設定しています。
(2)人的資本に関する戦略(人財育成方針、社内環境整備方針)及び具体的な取組
①戦略
当社グループは、グローバル企業として「領域をこえ 未来へ」歩むとともに、「成長から進化へ」を目指し、経営理念・存在意義(パーパス)・経営戦略(長期ビジョンを含む)を実践しています。
これらを実践していく上で、また、世の中に求められる企業として存続していくために、最も重要な要素は、「人」であると考え、「企業の力の源泉は人財(人的資本)にあり」という大原則のもと、王子グループ人財理念に従って、人財確保、人財育成に取り組んでいます。
王子グループ人財理念として、まず、従業員一人ひとりに、高い倫理観を持つことを求めています。その上で、経営理念・存在意義(パーパス)・経営戦略(長期ビジョンを含む)を理解し、実践すること、変革意識を持ち挑戦すること、自己を研鑽し、組織の成長・進化に貢献すること、そして、世界を意識して行動することを求めています。
人的資本強化における目指す姿は、この王子グループ人財理念を体現する人財の確保、育成になりますが、その大前提となるものが、「コンプライアンス・安全・環境の徹底」、「人権の尊重、インクルージョン&ダイバーシティ」、「人財活用(実力主義に基づく公正な処遇とエンゲージメント向上)」であり、この3つこそが、人財育成、社内環境整備方針の基盤となります。
この3つの基盤をしっかりと整えた上で、従業員一人ひとりの意識(行動)の改革や、管理職による部下の成長・進化を促すマネジメントを通じ、多様な人財の能力開発・キャリア形成及びワークライフマネジメント向上を促していきます。
これらにより、価値創造の源泉となる従業員一人ひとりが活躍し、能力を最大限に発揮することや、従業員の多様な価値観・発想からクリエイティブな成果を通じてイノベーションを実現させることで、王子グループ人財理念を体現する人財の確保、育成に繋がり、この一人ひとりの人財が、経営理念・存在意義(パーパス)・経営戦略(長期ビジョンを含む)を実践することで、持続的な企業価値の向上を目指していきます。
(ⅰ)コンプライアンス・安全・環境の徹底
コンプライアンス・安全・環境の徹底は、企業活動の根幹をなすものであり、経営の最優先・最重要課題と認識しています。
職場における良好なコミュニケーションや働きやすさ、仕事へのモチベーションを通じ、すべての従業員が「健全な常識」「おかしいと思う感性」「行動する勇気」を持ち、法令遵守は当然ながら、社会一般のルールを守り、誠実な態度を持って日々の職務に努めています。
(a)コンプライアンス
当社グループは、「国連グローバル・コンパクト」の人権、労働、環境、腐敗防止の原則を織り込み、2004年に「王子グループ企業行動憲章」及びこの憲章の行動指針である「王子グループ行動規範」を制定し2020年度にSDGs等の社会環境及び、経営理念を反映させて改訂し、より時代の要求に即した内容としました。
企業行動憲章・行動規範の改廃は取締役会の決議事項であり、取締役会の関与の下、活動の規範として、グループ拠点のある各国の言語に翻訳され、グループに属するすべての役員及び従業員に周知しています。すべての役員及び従業員は、この企業行動憲章と行動規範を正しく理解し、実践することに努め、もし、反する行為を行っている場合、もしくは違反が疑われる場合は、速やかに上司あるいは会社・職場のコンプライアンス担当窓口、または企業ヘルプライン(グループ内部通報)窓口に通報、相談することとしています。
グループ全体にわたるコンプライアンス意識の醸成のために、国内外グループ会社では、コンプライアンス責任者、コンプライアンス推進リーダーが推進活動の中心となり、半期ごとのコンプライアンス会議を実施するなど、コンプライアンス活動を推進しています。
(b)安全
当社グループでは「安全絶対優先の基本原則」の方針の下、従業員一人ひとりが基本原則を実践・遵守し、働く仲間の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成の促進、より良い職場安全風土の構築等、安全な環境で安心して働くことができる企業を目指し、取り組んでいます。
当社グループは死亡・重篤災害ゼロ、労働災害度数率削減を目標としていますが、2023年は、残念ながら2件の死亡災害(海外2件)が発生、また休業災害件数が18件増加したことでグループ全体の労働災害度数率は昨年比で0.08 上昇し1.20となりました。
グループを挙げて設備の安全化を推進し、全ての従業員に安全ルールを確実に守り・守らせることで、労働災害防止を図り、重点目標である「死亡・重篤災害ゼロ」を達成する取り組みを展開しています。
(c)環境
当社グループは、気候変動問題を経営上の重要課題と認識しており、この問題に積極的に取り組み、持続可能な社会の構築に貢献しています。
この方向性を明確に示すため、当社グループが目指す姿「ネット・ゼロ・カーボン」を中核とする、2050年に向けた「環境ビジョン2050」と、そのマイルストーンとして「環境行動目標2030」を2020年9月に制定しました。
毎月、すべての役員及び従業員に対して、当社グループの気候変動問題への対応、豊かな森づくりと資源循環、生態系への配慮、ステークホルダーとの信頼関係の醸成について、分かりやすく社内発信する等、従業員の王子グループ環境経営への理解の促進と、環境意識の向上を図っています。
(ⅱ)人権の尊重、インクルージョン&ダイバーシティ
当社グループは、人権の尊重に一層努めるとともに、個々人の多様な価値観を尊重し、能力を最大限に発揮できる社会の実現に貢献します。
(a)人権の尊重
当社グループは、人権を尊重する責任は、重要なグローバル行動基準と考え、人権尊重の取り組みをより一層推進・実践するため、2020年8月「王子グループ人権方針」を制定し、2024年2月に一部改訂を行いました。
「王子グループ人権方針」は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「国際人権章典」等の国際規範を支持、尊重しており、当社グループのすべての役員及び従業員に適用し、すべての事業活動に反映されるとともに、すべての当社グループのステークホルダーに対し、本方針の理解と遵守を期待するものです。また、企業活動に関連する人権への負の影響を特定・防止・軽減・救済するための「人権デュー・ディリジェンス」の仕組みを構築し、人権尊重の責任を果たしていきます。
2023年度は産品別、地域別で潜在的人権リスクが高いと思われるサプライヤーを対象に、人権や労働慣行を確認する人権アセスメントを実施しました。アセスメント結果から顕在化した重大な人権リスクは認められなかったものの、方針の周知、人権推進体制の明確化、また人権重要課題である児童労働・強制労働の禁止、適正な賃金、結社の自由、職場の安全衛生について低ポイントのサプライヤー3社を対象に改善依頼を行いました。
また、人権方針の理解や人権意識の向上を図るため、各種研修内での人権教育実施のほか、ビジネスと人権に関するリスクマネジメントの基礎をテーマとしたWeb研修を国内主要グループ会社の管理職が受講(受講者数2,503名)しました。
(b)インクルージョン&ダイバーシティ
当社グループでは、全ての従業員に対して、経営理念、存在意義(パーパス)、人財理念など、核となるものについては、共通の価値観を求めています。さらに、当社グループは、人種、国籍、民族、出身地、思想信条、価値観、宗教、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、社会的身分、社内的地位等に関わらず、従業員一人ひとりの多様な価値観、発想、能力を最大限に活用し互いに成長することで企業の競争力強化に結びつく「個人・組織の活性化」に向け「インクルージョン&ダイバーシティ」を推進しています。
「サステナビリティ推進委員会」において、半期ごとに、グループを横断したダイバーシティ推進方針・目標の共有を行うとともに、グループCEOを最高健康責任者とし、健康経営に取り組んでいます。
(c)女性管理職、新卒採用女性総合職
女性活躍推進については、国内の従業員数301人以上の国内連結グループ会社16社を対象に、女性管理職比率5.5%(2025年3月末)を目標に取り組んでいます。
また、当社グループ主要会社の新卒採用総合職は、優秀人財の確保や業務効率化の観点より、2018年度入社者から、王子マネジメントオフィス㈱にて一括で採用しており、新卒採用女性総合職比率30%を目標とし、将来の女性管理職候補の人財確保に努めています。併せて、性差の無い育成を目指し、管理職手前の男女総合職を対象とした「キャリアアップ総合職研修」などを実施し、育成を図るとともに、保育園「ネピア ソダテラス」の開設(東京都江戸川区)や、早期育児休職復帰者への保育所補助制度などにより、従業員の仕事と育児の両立を支援しています。
保育園「ネピア ソダテラス」は、上述の従業員の仕事と育児との両立支援の他、企業の社会的責任から待機児童対策に寄与することも目的としており、当社グループ従業員だけでなく、地域住民の方々にもご利用いただいています(2024年3月末現在 従業員子女6名、地域住民子女14名)。
(d)男性の育児休業等取得
当社グループでは、従業員数301人以上の国内グループ会社16社を対象に、男性の育児休業等取得率100%を目標に掲げ、男性の家事・育児への参加を積極的に推進しています。2023年度では、3交替の製造現場も合わせて、92.5%となっています。
(e)障がい者雇用比率
障がい者雇用については、2007年7月に知的障がい者を主体とした障害者雇用推進法の特例子会社「王子クリーンメイト(本社ビル清掃業務)」を設立する等、積極的に取り組んできました。「グループ適用制度(関係会社特例)が適用される6社(王子ホールディングス㈱を含む)での障がい者雇用率は法定雇用率(2.3%)を達成しています。今後も、さらなる障がい者の雇用拡大を推進していきます。
(f)外国籍従業員
多様性の実現において、グローバル人財の育成を重要なテーマとして、位置付けています。当社グループ国内主要会社の新卒総合職は、優秀人財の確保などの観点より、王子マネジメントオフィス㈱にて一括で採用しており、国内グループ会社の将来の管理職候補として、2024年度は3名の外国籍総合職を採用しています。今後も一定数を継続して採用し、管理職への登用も進めていきます。2024年3月末時点の外国籍総合職は22名で、そのうち9名が管理職として海外グループ会社の現地事業の運営管理等を行っています。
当社グループの従業員約38千名のうち、海外グループ会社従業員比率は58%(2024年3月末)となっており、海外グループ会社の経営者や管理職は現地採用者が中心となっています。2019年には外国籍従業員を当社のグループ経営委員として登用しました。
(g)キャリア採用
経営戦略の迅速な実現に向けた人財の確保を目的に、キャリア採用を継続的に実施しており、2023年度に54名(王子マネジメントオフィス㈱による採用者)を採用し、うち28名が管理職として活躍しています。今後も一定数を継続して採用し、管理職への登用も進めていきます。
また、アルムナイ人財(定年退職者以外の退職者で再入社した者)の活用として、社外で経験を積んだ人財の登用も進めています。
(h)LGBTQ
「王子グループ企業行動憲章」・「王子グループ行動規範」に基づき、当社グループにおいて、性的マイノリティの当事者を含めて、多様な人財が活躍できる職場環境を醸成することを目的として、「王子グループLGBTQハンドブック」を作成しました。
また、 2024年4月1日より性的マイノリティに関する外部相談窓口(当社グループ全従業員対象)を設置しています。
(i)総労働時間
2014年度より、働き方改革の一環として、生産性の向上、労働時間の長さに捉われない働き方の実践を目的に、業務効率化、フレックスタイム制・在宅勤務の活用、年休取得の推進により、総労働時間の削減に取り組んでいます。
現在は、年間総労働時間1,850時間を目標(当社グループ本社地区26社)とし取り組みを進めています。
(j)健康経営
2020年10月に「王子グループ健康宣言」を制定し、最高健康責任者(グループCEO)のもと、従業員の健康の確保に取り組んでいます。会社とグループの各健康保険組合・労働組合、各事業所の産業医が連携して健康増進活動を推進し、従業員が健康で活き活きと活躍できる職場づくりを目指した取り組みを行っています。
2024年3月に、2021年度より引き続き4回目となる健康経営優良法人2024(大規模法人部門)の認定を受けています。
健康経営の取り組み事例
・健康診断、ストレスチェックの実施
・健康相談窓口の設置
・インフルエンザワクチン(職域接種、費用補助)
・通院のための保存休暇の時間単位利用
・長時間労働の削減
(ⅲ)人財活用(実力主義に基づく公正な処遇とエンゲージメント向上)
価値創造の源泉となる人財を活用し、経営理念・存在意義(パーパス)を実践し、経営戦略(長期ビジョンを含む)に沿った課題を確実に遂行するため、実力主義に基づく公正な処遇と、エンゲージメント向上を目指しています。
(a)人事・賃金制度(役割等級制度、定年延長、研究員の裁量労働制)
「実質的年次」から「役割期待」及び「成果」を基準とする実力主義の人事制度として、「役割等級制度」を適正に運用し、従業員一人ひとりが、その保有する能力を通じて発揮した役割の大きさに応じて、処遇しています。
また、高年齢者にも、活き活きと活躍してもらうことを目的に、2017年度より、会社生活で培った知識、技術、技能を存分に発揮し、意欲をもって働けるよう、国内主要グループ会社にて、「65歳定年制」を導入し、また、2023年度より、一定の条件を満たす従業員を対象に、最長67歳までの再雇用制度を導入しました。
特に高度な専門知識を有する研究員には、「認定研究員制度」や「クリエイティブ人財育成制度」により、働き方の裁量を与え、研究に集中できる環境を提供することで、多様な価値観・発想からクリエイティブな成果を通じたイノベーションの実現を推進しており、2022度より、それ以前と比較し、「クリエイティブ人財育成制度」の対象者を、約2倍に拡大しています。
(b)研修
王子グループ人財理念に沿って人財育成を進めるため、2023年2月に、静岡県富士宮市に新設した王子グループ富士研修センター等を活用し、キャリアのステージや求めるスキルに応じた当社グループ内研修を積極的に実施しています。
2023年度より、コロナ禍で中断していたグローバルインテンシブプログラムを再開しており、海外駐在員候補の拡充に繋げています。また、海外事業会社ローカル人財の育成を目的に、東南アジアエリアの幹部候補27名が来日し、アセスメント研修を受講しました。
さらに、ビジネス(戦略~作業)とデジタル(システム、情報、データ)を一体化することにより、経営課題を効果的に解決し、また、新たな価値を創造し、企業として生存、成長、進化させるデジタル・リテラシー(基本知識・スキル・マインド)を身につけるため、国内40社の間接部門従業員及び海外駐在員を対象(約7千名)にDXリテラシー教育(eラーニング)を実施しました。
2023年度研修実施一覧
(王子グループ富士研修センター外観)
(c)グループ内公募制度
従業員の意思にもとづく自律的なキャリア形成を促進し、意欲の高い人財の適正配置、有効活用により、事業の強化、組織の活性化、従業員のエンゲージメント向上を図ることを目的として、2022年度から国内グループ会社正規従業員及び海外駐在員を対象として公募制度を実施しています。
2023年度は、パーパス及び長期ビジョンの実現に向け、森を育て、森を活かすことや、グローバル化の推進に直結する当社グループ3社4部門を対象に実施し、17名の従業員が異動することとなりました。
②指標と目標
上記方針及び具体的な取組の指標による目標と当期の実績は以下の通りです。
※1 2023年10月1日から2024年3月31日までの対象期間
※2 2023年1月1日から2023年12月31日までの対象期間
※3 連結子会社 2023年1月1日から2023年12月31日までの対象期間
(参考)2023年労働災害度数比率 製造業1.29、パルプ・紙・紙加工品製造業1.38
(厚生労働省 労働災害動向調査、事業所規模100名以上)
※4 2024年3月29日から2024年5月10日までの対象期間
※5 集計範囲:2015年9月集計開始時従業員数301名以上の国内グループ会社16社
目標:2025年3月末
実績:2024年3月末
その他実績:当社グループ全体女性管理職比率(2024年3月末)
国内グループ会社 4.2%(内、王子ホールディングス㈱(単体)10.0%)
海外グループ会社 32.9%
当社グループ計 14.4%
※6 2024年4月1日入社
※7 集計範囲:2015年9月集計開始時従業員数301名以上の国内グループ会社16社
2023年度(2023年4月1日から2024年3月31日までの対象期間)
※8 目標:法定雇用率達成 2023年6月1日時点
実績:2023年6月1日時点
※9 2023年度(2023年4月1日から2024年3月31日までの対象期間)
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクには、以下のようなものがあります。
なお、これらはすべてのリスクを網羅的に記載したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在し、それらのリスクが投資家の判断に影響を与える可能性があります。また、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
また、リスク管理の体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレートガバナンスの状況等」に記載しています。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況及び経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものですが、予測しえない経済状況の変化等さまざまな要因があるため、その結果について当社が保証するものではありません。
当連結会計年度の売上高は、国内では価格修正の実施等を行ったものの、主にニュージーランドのPan Pac Forest Products Ltd. の被災影響やパルプ市況悪化により、前期を104億円(△0.6%)下回る16,963億円となりました。
営業利益は、国内では物価上昇に伴う消費抑制を受けた減販等の影響を価格修正やコストダウン等で補いましたが、主に海外でのパルプ市況の悪化により、前期を122億円(△14.4%)下回る726億円となりました。経常利益は、外貨建債権債務の評価替えによる為替差益の発生等がありましたが、前期を90億円(△9.5%)下回る860億円となりました。税金等調整前当期純利益は、前期を70億円(△8.3%)下回る776億円、親会社株主に帰属する当期純利益は、前期を57億円(△10.0%)下回る508億円となりました。
当社グループの海外売上高比率については前期を2.7ポイント下回る34.9%となりました。
当社グループの報告セグメントは、当社グループの構成単位のうち、経済的特徴、製品の製造方法又は製造過程、製品を販売する市場又は顧客の種類等において類似性が認められるものについて集約を実施し、「生活産業資材」、「機能材」、「資源環境ビジネス」、「印刷情報メディア」の4つとしています。報告セグメントに含まれない事業セグメントは、「その他」としています。
各セグメントの主要な事業内容は以下のとおりです。
生活産業資材・・・・・段ボール原紙・段ボール加工事業、白板紙・紙器事業、包装用紙・製袋事業、家庭紙事業、紙おむつ事業
機能材・・・・・・・・特殊紙事業、感熱紙事業、粘着事業、フィルム事業
資源環境ビジネス・・・パルプ事業、エネルギー事業、植林・木材加工事業
印刷情報メディア・・・新聞用紙事業、印刷・出版・情報用紙事業
その他・・・・・・・・商事、物流、エンジニアリング、不動産事業、液体紙容器事業 他
○生活産業資材
当連結会計年度の売上高は前期比2.3%増収の7,987億円、営業利益は同225億円増益の212億円となりました。
国内事業では、段ボール、白板紙、家庭紙等、多くの品種において物価上昇に伴う消費抑制により販売数量は減少しましたが、価格修正の実施により、売上高は前年に対し増収となりました。また、紙おむつの売上高は、子供用おむつは前年並み、大人用おむつは前年に対し増収となりました。
海外事業では、東南アジア・オセアニアで更なる事業の拡大に注力しており、段ボール原紙は、2021年10月に稼働した新マシンの稼働率向上により、東南アジアで販売数量は増加しましたが、市況の悪化により、売上高は前年に対し減収となりました。段ボールは、オセアニアで価格修正を実施したものの、東南アジアにおける需要低迷により、売上高は前年に対し減収となりました。紙おむつは、マレーシアでの拡販により、売上高は前年に対し増収となりました。
○機能材
当連結会計年度の売上高は前期比3.5%増収の2,275億円、営業利益は同41.4%減益の91億円となりました。
国内事業では、特殊紙は電子部品の需要低迷を受けて剥離原紙・剥離紙の販売数量は落ち込みましたが、戦略商品である通販向けヒートシール紙や非フッ素耐油紙等の拡販や価格修正の実施により、売上高は前年に対し増収となりました。感熱紙は2022年下期から継続している顧客在庫調整により販売数量は減少しましたが、価格修正の実施により、売上高は前年に対し増収となりました。
海外事業では、感熱紙は需要低迷、金利上昇等による在庫削減の動きが顕在化し、販売数量は前年に対し減少しましたが、価格修正の実施等により、売上高は前年に対し増収となりました。
○資源環境ビジネス
当連結会計年度の売上高は前期比15.2%減収の3,596億円、営業利益は同71.4%減益の196億円となりました。
国内事業では、溶解パルプの堅調な販売や、徳島での2022年12月のバイオマス発電所稼働開始による増収もありましたが、木材事業で建設・梱包用の木材需要が低調に推移したことなどもあり、売上高は前年並みとなりました。
海外事業では、パルプ事業及び木材事業は、パルプ市況の悪化に加え、ニュージーランドのPan Pac Forest Products Ltd.が2023年2月にサイクロン被害を受け、製造設備等が復旧途上であることにより、売上高は前年に対し減収となりました。
○印刷情報メディア
当連結会計年度の売上高は前期比6.5%増収の2,994億円、営業利益は同216億円増益の168億円となりました。
国内事業では、新聞用紙、印刷・情報用紙は需要の減少傾向が継続しているものの、価格修正の実施により、売上高は前年に対し増収となりました。
海外事業では、江蘇王子製紙有限公司において、ゼロコロナ政策終了後の経済回復が鈍く、売上高は前年並みとなりました。
○その他
当連結会計年度の売上高は前期比0.6%減収の3,161億円、営業利益は同31.5%減益の58億円となりました。
2023年5月にイタリアのIPI社を子会社にしたことにより、液体紙容器事業は増収となりましたが、物流事業等の減収により、売上高は前年に対し減収となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注) 生産高は自家使用分を含めて記載しています。
当社グループは、エンジニアリング等一部の事業で受注生産を行っていますが、その割合が僅少であるため、記載を省略しています。
当連結会計年度における販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注) セグメント間取引については相殺消去しています。
当連結会計年度末の総資産は、円安の進行による為替換算差に加え、有形固定資産の増加、保有する株式の株価上昇に伴う投資有価証券及び退職給付に係る資産が増加したこと等により、前連結会計年度末に対し1,465億円増加し、24,425億円となりました。負債は、有利子負債等が減少しましたが、保有する株式の株価上昇に伴う繰延税金負債の増加に加え、円安の進行による為替換算差もあり、前連結会計年度末に対し155億円増加し、13,470億円となりました。純有利子負債残高(有利子負債-現金及び現金同等物等)は、前連結会計年度末に対し574億円減少し、6,739億円となりました。純資産は、為替換算調整勘定や利益剰余金等の増加により、前連結会計年度末に対し1,310億円増加し、10,955億円となりました。この結果、ネットD/Eレシオ(純有利子負債残高/純資産残高)は0.6倍となりました。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、625億円(前連結会計年度末は568億円)となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に対して1,846億円収入が増加し、2,029億円(前連結会計年度は183億円の収入)となりました。主なキャッシュの内訳は、税金等調整前純利益に減価償却費を加えた金額1,571億円(前連結会計年度は1,577億円)、売上債権の減少175億円(前連結会計年度は439億円の増加)及び仕入債務の増加168億円(前連結会計年度は95億円の増加)、法人税等の支払額136億円(前連結会計年度は469億円の支払い)です。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形及び無形固定資産の取得による支出等により、1,180億円の支出(前連結会計年度は1,233億円の支出)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、有利子負債の返済等により、849億円の支出(前連結会計年度は1,018億円の収入)となりました。
当社グループの営業活動に関する資金需要は、生産・販売活動のために必要な運転資金や研究開発費等です。投資活動に関する資金需要は、経営戦略の遂行に必要な投資や品質改善・省力化・生産性向上・安全・環境のために必要な設備投資等です。今後も海外事業や有望な事業等の成長分野に対しては、M&Aや設備投資、研究開発投資等を積極的に行っていく予定であり、また、「環境行動目標2030」の達成に向けて、石炭ボイラの燃料転換や植林地の取得等を進めていきます。株主還元に関しては、配当性向の目安を30%とし、また、長期的な企業価値向上に向けた成長投資に備えるための資金需要を勘案しつつ、財務の健全性が維持出来る範囲において自己株式の取得も検討していきます。
資金の外部調達は、営業活動によるキャッシュ・フローと資金需要の見通し、金利動向等の調達環境、既存の借入金や社債償還時期等を総合的に勘案の上、調達規模、調達手段等を適宜判断し実施しています。
財務の健全性は、主にネットD/Eレシオを用いて管理しています。
総資産効率向上と財務ガバナンス強化を目的として、国内主要子会社とはキャッシュ・マネジメント・システムを導入することで資金の一元管理を行い、海外子会社においても必要に応じて同一地域内のグループ各社間で資金融通を行った上で、余剰となった資金は随時当社に集約するなど、現金および現金同等物の保有は必要最小限に留めています。なお、不測の事態に備え、主要取引銀行とコミットメントライン契約等を締結しています。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
該当事項はありません。
当社グループの研究開発活動は、各事業会社の研究開発部門や、各工場の研究技術部等とイノベーション推進本部が、品質課題解決などの強化のため、新たに加わったグループ技術本部と連携しながら取り組んでいます。新事業の創出並びに既存事業の競争力強化を念頭に、創業当時から森づくりや紙づくりで培ってきた多様な技術と国内外に保有する豊富な森林資源を活用することにより、当社ならではの新たな価値を創造し、社会的課題を解決するためにイノベーションを推進しています。
グループ全体の既存事業の競争力強化として、植林、パルプ、抄紙、塗工の各分野で蓄積・体系化された技術と、海外拠点との連携、新製品開発及び既存製品の品質改善に取り組んでいます。国内外の工場では、品質向上・操業の安定化、コストダウンの推進を図っています。
当連結会計年度末における当社グループの保有特許権・実用新案権・意匠権の総数は国内2,772件、海外978件です。また、保有商標権の総数は国内970件、海外1,007件です。
当連結会計年度の研究開発費の総額は
(1) 生活産業資材
産業資材事業では、古紙利用拡大、抄紙条件、薬品の最適化によるコストダウン、品質・操業性改善を推進してきました。これらの国内で培った基盤技術を活用して新製品開発を進めるとともに、カンパニーの枠を越え、当社グループ会社の各海外拠点へ水平展開を進めています。
パッケージング関係では、環境配慮型紙製品として、お菓子用包装やボールペンパッケージ、自動車部品パッケージなど、従来はプラスチックが使用されていた用途において、当社グループの紙製品の採用が進んでいます。今後も様々な包装用途についての紙化を進めることで、脱プラスチック社会への移行に貢献していきます。
当事業に係る研究開発費は
(2) 機能材
機能材事業では、温室効果ガスの排出量削減や循環型社会の実現に貢献する環境配慮型素材及び製品を積極的に開発しています。また、当社グループのコア技術であるシートの製造・加工技術を活用した新製品開発も進めています。
特殊紙関連では「SILBIOシリーズ」として、酸素や水蒸気の侵入を防ぎ、内容物の劣化を抑えることができるバリア性紙素材にヒートシール性、透明性、遮光性などの機能を有する製品をラインアップしています。その他、医薬用包材や衛生材料関連素材など、成長市場に向けた製品開発も進めています。
また、世界的に有機フッ素化合物の規制が厳しくなる中、非フッ素耐油紙「O-hajiki」を開発し、王子エフテックスより販売を開始しました。「O-hajiki」には晒タイプと未晒タイプがあり、揚げ物袋などで採用が進んでいます。
粘着関連では、機能進化するタッチパネルに対応した各種粘着シートや高機能粘着フィルムの開発に注力しており、ノートPC、ゲーム機、車載ディスプレイなどへの採用が進んでいます。また、ディスプレイ用途で培った技術を応用して、自動車用ウィンドフィルムを開発し、建材用途への展開も進めています。
フィルム関連では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムで培った延伸製膜技術によるコンデンサ用フィルムの開発や、バイオプラスチックフィルムの開発を進めています。脱炭素社会への転換がグローバルに進行し、電動車が急速に普及しています。電動車の電気駆動系に用いられるフィルムコンデンサは、その主力材料である高性能ポリプロピレンフィルムの厚みが薄いほど小型化が可能になります。当社グループは高耐電圧ポリプロピレンフィルムの超薄型化技術の開発を推進し、電動車両向けの電子部品の小型軽量化に貢献しています。また、バイオプラスチックフィルムでは、植物由来原料のポリ乳酸樹脂をポリプロピレン樹脂に配合した二軸延伸フィルムを開発し、バイオマスマーク認定商品「アルファンG(グリーン)」の、営業生産を開始しています。
当事業に係る研究開発費は
(3) 資源環境ビジネス
資源環境ビジネス事業では、王子製紙米子工場で生産している溶解パルプに関する技術開発を行っています。溶解パルプは、レーヨン、医薬品や食品の添加剤、セルロース誘導体などの原料として使用され、今後は世界的な人口増加により需要拡大が期待されています。既に繊維原料メーカーや医薬品原料メーカーへの販売を行っており、脱石油依存の動きが加速しポリエステルの成長が鈍化するとともに、コットンの大幅な増産も見込めないため、溶解パルプの需要は高まると予想されています。現在、高価格品の生産性アップやコストダウンによる収益向上を進めています。
当事業に係る研究開発費は
(4) 印刷情報メディア
印刷情報メディア事業では、パルプ製造工程から紙製造工程までの製紙工程全般に関する技術開発に取り組んでいます。需要が減少する中、生産体制の最適化や他の用途開発に取り組んでおり、さらに、使用薬品や操業条件の最適化によるコストダウン、欠点・断紙削減等の操業性改善、代替薬品の利用促進によるBCP(事業継続計画)対応強化を推進し、収益向上に繋げています。
当事業に係る研究開発費は
イノベーション推進本部は、日々変化する市場ニーズへ対応するため、研究開発体制を見直し、「木質由来の新素材」や「メディカル&ヘルスケア」、「環境配慮型製品」の三つのテーマを中心に研究開発活動を進めています。
まず「木質由来の新素材」では、石油由来の燃料やプラスチックからの脱却に向けて、非可食の木質由来の「エタノール」、「糖液」、「ポリ乳酸」の事業化にむけた技術開発に取り組んでいます。木質由来のエタノールは航空業界向け燃料(SAF)や化学業界における基礎化学品製造の原料として期待され、木質由来の糖液はバイオマスプラスチックや合成繊維等の様々なバイオものづくりの基幹原料として、ニーズ拡大が見込まれており、その一つとしてポリ乳酸の開発にも取り組んでいます。2024年度下期には王子製紙米子工場に製紙工場のインフラを活用した国内初のエタノールおよび糖液のパイロット製造設備が稼働予定です。今後、実用化を見据えたユーザー様に対してエタノール・糖液を提供していくとともに、継続した技術改良を行い、社会実装に向けた取り組みを加速させていきます。さらに、レジストに木質由来の原料を採用することで、PFASフリーでかつ微細化に繋がることを見出し、半導体の2nm世代以降で求められるサイズのパターン形成を確認できました。
木質由来素材のセルロース・ナノ・ファイバー(CNF)は、従来の石油や鉱物由来の機能材からの置き換えにより、環境負荷低減への貢献が期待されています。CNFを天然ゴムと複合させることにより補強効果(硬さ)と伸びの両立に成功し、実用化に向けたサンプルワークを進めております。タイヤ等の自動車用ゴム製品をはじめ様々な用途での採用を見据え、複合素材の量産試作設備を導入し、社会実装に向けた実証試験を加速していきます。また、CNFを用いた燃料電池用「高分子電解質膜」の開発、実用化に向けた研究開発を進めています。さらに、CNFで培ったノウハウを活かし、ガラス繊維強化に匹敵する衝撃強度を持つ、セルロースを補強材とした樹脂ペレットを開発し、「タフセル」の名称で顧客への提供を進めています。
また、生分解性プラスチックと木質由来のセルロース(パルプ)の複合材料「リソイルグリーン」を開発しました。生分解性プラスチックの強度や剛性などの特性を向上させるとともに、構成するすべての原料が土中の微生物によって分解されるため、意図せず環境中に流出した場合でも、通常のプラスチックに比べ、環境への負荷を減らすことが出来ます。現在は、幅広い用途での採用を目指しています。
次に「メディカル&ヘルスケア」として、未来の医療を見据えて、新たな領域へ事業を展開しています。木材の主要成分の一つであるヘミセルロースを用いて、動物由来に依存する課題を回避できる医薬品の開発に取り組んでいます。また、医薬品や化粧品、食品などに使用されている薬用植物「甘草(カンゾウ)」について、国内での大規模栽培技術を確立し、市場の要求に応じた商品化を進めています。さらに、創薬における動物実験回避や再生医療への促進を目指し配向性細胞培養基材(CellArray-Heart)の開発にも力を入れています。
そして、「環境配慮型製品」では、既存のプラスチック製食品トレイなどに紙素材を活用した脱プラスチックソリューションを提供しています。また、植物由来のポリ乳酸を使用したラミネート紙や現行の紙リサイクルシステムでも再生可能な紙コップ原紙などの開発を進めています。
一方で、ポリエチレンでラミネート加工されたチルド向け紙容器および紙コップから段ボールへリサイクルするシステムを構築し、さらに従来ほとんどが焼却処分されているアルミ付き紙容器のマテリアルリサイクルシステムを確立しました。これらは、二酸化炭素排出量削減やプラスチック使用量の低減に繋がる取り組みであり、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に貢献していきます。
水処理技術の分野では、当社グループが長年培ってきた技術や操業ノウハウを活かし、国内外の顧客に水処理システムを提供することで、水資源の有効活用に貢献しています。
また、イノベーション推進本部におけるDX推進の一環として、新材料の設計や開発を効率的に行うための手法であるMI(マテリアルズインフォマティクス)を導入し、研究開発活動への適用を進めています。
その他の研究開発活動に係る研究開発費は
なお、(1)~(4)の各セグメントに関わる研究開発活動のうち、事業化段階に無い、探索段階及び開発段階の研究開発活動の研究開発費が含まれます。