文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において、当社グループが判断したものであります。
(1)グループ理念
当社グループは、「美しい時代へ―東急グループ」をグループスローガンとして掲げるとともに、「グループを共につくり支える志を持ち、共有する理念」として、以下のとおり「グループ理念」を定めております。
(グループ理念)
「存在理念」:美しい生活環境を創造し、調和ある社会と、一人ひとりの幸せを追求する。
「経営理念」:自立と共創により、総合力を高め、信頼され愛されるブランドを確立する。
〇市場の期待に応え、新たな期待を創造する。
〇自然環境との融和をめざした経営を行う。
〇世界を視野に入れ、経営を革新する。
〇個性を尊重し、人を活かす。
もって、企業の社会的責任を全うする。
「行動理念」:自己の責任を果たし、互いに高めあい、グローバルな意識で自らを革新する。
(2)サステナブル経営の方針
当社は、「安全・安心」、「まちづくり」、「生活環境品質」、「ひとづくり」、「脱炭素・循環型社会」、「企業統治・コンプライアンス」をサステナブル重要テーマ(マテリアリティ)として設定しており、これらに向き合い、「未来に向けた美しい生活環境の創造」および「事業を通じた継続的な社会課題解決」に取り組んでいくという“サステナブル経営”を経営の基本姿勢としています。
(3)中期3か年経営計画
2024年度を始期とする中期3か年経営計画を2024年3月に発表しました。
本計画では、今後起こりうる経営環境変化に能動的に対応すべく、安定的で成長力ある事業ポートフォリオを構築しながら資本効率向上と財務健全性維持の両立を図るとともに、株主資本コストを意識した経営を推進し、持続的な企業価値の向上と事業間連携の深化によるコングロマリットプレミアムの創出を図ります。
また今回、『Creative Act.創造力でしなやかに“世界が憧れるまち”を』を、本計画期間に限らないビジョンワードとして設定しました。従業員ひとりひとりが輝ける会社となり、お客さまへの優れたサービスの提供と明るい未来の創造を目指していきます。
本計画の概要は以下の通りです。
(目指すビジネスモデル)
交通/不動産を軸とした事業間シナジーと再投資により持続的成長を実現する長期循環型事業
(基本方針)
外部環境の変化が継続する中、本計画の3か年を再起動の期間と位置づけ、事業戦略・コーポレート戦略の推進により経営基盤を強化するとともに資本効率等を重視する経営への転換を図り、持続的な企業価値の向上につなげる。
(重点施策)
1)既存事業の収益力向上による内部成長の実現(各事業の利益創出力・競争力の強化)
・「移動」を通じた社会価値提供と収益性の両立
・バリューアップ投資と事業間連携による利益創出力の強化
2)持続的成長のための「成長投資継続」(事業領域の拡大)
・不動産開発事業を通じたエリア価値の継続的な向上
・不動産販売事業拡大とバリューチェーン強化、資産ポートフォリオ戦略
・海外事業の継続推進、GX投資
3)連結経営/事業推進基盤の強化
・人材戦略、デジタル戦略の推進、事業ポートフォリオ管理と経営資源配分の最適化
(経営指標)
具体的な数値目標については以下のとおりです。
なお、2023年度実績を踏まえ、2024年度の数値目標については2024年5月公表業績予想を記載しております。
従来は、規模の指標として、「営業利益」、「東急EBITDA」、健全性指標として「有利子負債(※)/東急EBITDA倍率を重視して参りましたが、本計画では資本効率を重視する経営へ深化させ、最も重視する経営指標を、「EPS」、「ROE」、「ROA(総資産事業利益率)」の3つと定めております。また、「EPS」、「ROE」の分子となる「親会社株主に帰属する当期純利益」も、重視する指標に加えております。当社の株主資本コストは、2024年3月時点推計値として、CAPM(資本資産価格モデル)および株式益利回りより算出し、5.1%~6.5%と認識しており、規模拡大のみならず効率性や財務健全性を重視し、株主資本コストを意識した経営を推進してまいります。
〇経営指標(当社独自の指標等)採用に関する補足
「ROA(総資産事業利益率)」の分子とする事業利益は、営業利益に、収支が会計ルール上、営業外収益で計上されてしまう海外事業や空港運営事業等の利益も加算した利益を指しております。
なお、事業利益の算出方法は、以下のとおりです。
事業利益=営業利益+上場会社を除く持分法投資損益+不動産事業等に係る受取配当
東急EBITDAは、大規模工事の竣工等による営業利益の変動を補正したうえで、事業スキームの多様化を反映し、当社の稼ぐ力をより正確に表す指標として採用しております。
なお、東急EBITDAの算出方法は、以下のとおりです。
東急EBITDA=営業利益+減価償却費+固定資産除却費+のれん償却費+受取利息配当+持分法投資損益
※ 有利子負債:借入金、社債、コマーシャル・ペーパーの合計
(投資計画・株主還元の考え方)
投資計画については、3か年合計で約5,100億円を計画しております。内訳としては、鉄道事業投資に1,500億円、バリューアップ投資を含めた既存事業投資として1,300億円、不動産開発投資を始めとした成長投資として2,300億円を見込んでおります。2024年度は中期3か年経営計画の方針に基づき、約1,400億円の設備投資を予定しております。
また、株主還元の考え方について、配当方針としては、安定配当を継続するとともに、利益成長に応じた配当金の持続的な増加に取り組み、中期3か年経営計画期間中の下限を21円と設定しております。その上で、2024年度はこの考え方に基づき年間22円の配当を予定しております。また、中長期的には、業績や資金状況もふまえつつ、配当性向30%を意識してまいります。これに加え、資本政策を機動的かつ積極的に実施していきます。本計画3か年通算での総還元性向も勘案しつつ、自己株式取得の実施時期、規模を検討いたします。
(1)サステナビリティ(全般)
当社グループは、長期的な視点から、時代によって変化するお客さまのニーズを的確にとらえ、新たな事業・サービスを提供し、社会課題を解決していくことが重要であると考えています。そして社員一人ひとりがこの使命を共有し、新たな価値を生み出すことで、社会と共に持続的成長を図っていきたいと考えています。「美しい時代へ」というグループスローガンのもと、SDGsの17のゴールと169のターゲットやエリア・業界固有の課題を踏まえて特定した、サステナブル重要テーマ(マテリアリティ)に向き合い、「未来に向けた美しい生活環境の創造」および「事業を通じた継続的な社会課題の解決」に取り組んでおります。
当社は、取締役会を経営および監督の最高機関と位置付けており、サステナビリティに係る重要事項は、取締役会で決議・監督しています。また、サステナブル経営の推進を目的として安全、コンプライアンス、ESGへの取り組み等のテーマに関して、社長執行役員を議長とするサステナビリティ推進会議にて年2回審議を行っています。また、連結でのサステナビリティ推進体制を強化するため、連結各社のサステナビリティ推進責任者が参加する「東急グループサステナビリティ推進会議」を年2回開催しています。
当社グループのサステナビリティに関するリスクは、リスクの内容に応じて定めた推進部門が、各事業部門と協働してリスク分析・対応策の検討を行っており、その結果はサステナビリティ推進会議などを通じて全事業・各社に共有します。また、サステナビリティに関するリスクを含む全体のリスクについては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」のとおりです。
当社グループは2018年3月にサステナブル重要テーマを特定後、長期経営構想策定と併せて事業横断的に「2030年に向けて目指す姿」を設定しています。
また、中期経営計画や単年の事業計画策定時には、財務目標と併せて各策の実績を把握するための非財務目標を設定し、取り組み進捗状況は、各責任部署およびサステナビリティ推進会議にて確認しています。
※各指標の目標・実績は2024年9月末開示予定の統合報告書にてご報告させていただく予定ですので
そちらをご参照ください。
https://ir.tokyu.co.jp/ja/ir/library/integrated_report.html
(2)気候変動/TCFD提言への取り組み
当社グループでは、気候変動による事業への影響を想定し、そのリスクマネジメントを強化し、リスクと機会への対応について事業戦略と一体化していくための取り組みを行っています。また、2020年9月にはTCFD(※)への賛同を表明し、その提言に基づいた情報開示を進めています。
※ 世界経済の安定性に向けて、金融安定理事会(FSB)が2015年に設立し、気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し開示することを目的とするタスクフォース。
(TCFDの開示提言項目)
(ガバナンス)
気候変動を重要課題ととらえ、リスクの特定・評価および戦略、目標について、経営執行の意思決定機関である経営会議にて審議・決定のうえ、毎年取締役会に報告し、適切な監督を受ける体制としています。各事業の気候関連リスクと機会の分析は、経営企画室管掌の執行役員のもと、経営企画室ESG推進グループをプロジェクトリーダーとし、外部有識者のアドバイスをいただきながら各事業部門と協働し進めています。取締役会に上程した内容は、サステナビリティ推進会議・東急グループサステナビリティ推進会議などで共有・推進・浸透を図ります。
(戦略)
(シナリオ分析における大枠(世界観)の設定)
シナリオ分析は、2022年3月に策定した環境ビジョン2030で掲げる「環境と調和する街」の実現に向けた全事業を通じたまちづくりのほか、交通セグメント、不動産セグメント、生活サービスセグメント、ホテル・リゾートセグメントの各事業を対象に、次の2つのシナリオにて実施いたしました。
地球の平均気温が、産業革命(1760年代から1830年代)前と比較して、21世紀末における温暖化を1.5℃に抑制する「1.5℃シナリオ」では、「移行リスク」が強まり、電力コストや省エネ技術に対するコスト増などに起因するものや、炭素税など温暖化抑制に向けた政策や規制が強化されるとともに、重要な「機会」として、省エネ技術開発によるコスト減少、環境意識向上による公共交通利用者の増加や環境配慮物件への入居志向の向上に加え、「環境と調和する街」や「世界が憧れるまちづくり」の実現を通じた顧客および顧客生涯価値の増加などを想定しました。
また、政策導入や規制強化は行われず、温室効果ガスの排出量が増加する「4℃シナリオ」では、「物理リスク」が強まり、災害激甚化による施設の浸水などによる改修コストの増加と顧客の流出、新たな感染症により利用者が減少する世界を想定しています。
この2つのシナリオに基づくリスクと機会の検討・特定および重要度評価においては、「移行リスク」「物理リスク」「機会」に分けて実施しました。「物理リスク」への対応は、これまでも相当程度実施しており、今回の分析結果を含めた今後の取り組みの方向性と併せて「リスク管理」をご参照ください。
(重要なリスクの分析)
リスクの重要度は、「各事業への影響度」と事象の「発生度」から評価しました。「各事業への影響度」は気候関連の事業の影響を受けると想定される対象事業の影響規模を分析し、「発生度」は、自然災害などの物理リスクについてはIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書(AR6)を参考に評価し、移行リスクについては、環境法令や炭素税の導入など将来的な政策目標・導入計画の動向や現在の政策導入などを基に推計・分析しています。
財務的な影響は、1.5℃シナリオにおける移行リスクでは主に、電力使用量や太陽光発電の一部導入計画などに基づき算定し、4℃シナリオにおける物理リスクは主に、河川氾濫などの最大浸水深や新型コロナウイルス感染症による影響をベースに見込みました。当社グループへの影響度は発現状況により想定影響額が変わる可能性があることから、幅を持って想定しています。
影響度の基準 → 大:50億円以上、中:50億円未満、小:10億円以下
対象期間 → 短期:2年以内、中期:3年~5年、長期:6年以上
(重要な機会の分析)
重要な機会は、1.5℃シナリオを中心に検討し、環境ビジョン2030で掲げる「環境と調和する街」や「世界が憧れるまちづくり」の実現による顧客および顧客生涯価値の増加を見込んだほか、ステークホルダーの環境意識向上による公共交通利用者の増加や環境配慮物件への入居志向の向上、再生可能エネルギーによる発電の促進に向けたインフラ投資、省エネ技術開発によるコストの減少などを見込んでいます。財務的な影響は、「環境と調和するまちづくり」による東急線沿線における当社グループ商品・サービスの利用促進や、鉄道利用への移行、環境配慮物件の賃料上昇、新造車両への代替や太陽光発電による電力コスト削減効果、などを推計しました。
影響度の基準 → 大:50億円以上、中:50億円未満、小:10億円以下
対象期間 → 短期:2年以内、中期:3年~5年、長期:6年以上
※1 東急線再エネ100%運行など
(リスク管理)
気候関連のリスクと機会は、経営企画室ESG推進グループをプロジェクトリーダーとし、各事業部門と協働してリスク分析・対応策の検討を行い、毎年経営会議・取締役会への上程を行います。結果はサステナビリティ推進会議などを通じて全事業・各社に共有します。また、気候関連を含む全体のリスクについては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」のとおりですが、毎年各事業・各社にてリスクの分析を実施する際に、気候関連リスクを含めて検討・評価・管理しています。
事業における各リスクへの対応として、下記のような取り組みを推進しております。移行リスクに対しては、自己発電導入・省エネ・再エネ調達を進めており、2022年4月より東急線全路線における再生可能エネルギー由来の実質CO2排出ゼロの電力100%での運行を開始いたしました。
また、物理リスクに対しては、すでに様々なリスク対応策に取り組んでいます。さらに、近年の災害激甚化に伴い気候変動へのレジリエンスを高めるため、各事業や事業間連携による災害対策の高度化により、リスク回避・軽減策を推進するとともに、継続して定期的な危機管理対応訓練などにも取り組んでまいります。
これらの取り組みに加えて、環境ビジョン2030では、街への取り組みとして、環境負荷を低減するサービスメニューを2030年までにさらに100件以上提供する目標を掲げており、街の脱炭素化を推進してまいります。
(指標と目標)
気候変動の緩和と移行リスクへの備えのため、事業活動の脱炭素化に向けた検討・推進を行っています。2022年3月に策定した環境ビジョン2030において、当社グループのCO2排出総量を2030年に基準年度(2019年度)から46.2%削減および再エネ比率50%、2050年までに再エネ比率100%によるRE100を目標とし、CO2排出総量実質ゼロを目指しております。また、事業活動のサプライチェーンにおけるCO2排出量を示すScope3にあっては、2030年までに30%削減する目標を新たに設定し、サプライチェーンマネジメントの推進も強化してまいります。2022年度の連結CO2排出量(Scope1,2)は、383千t-CO2となり、基準年度から38.0%削減いたしました。また、Scope3におけるCO2排出量は、2,333千t-CO2となり、基準年度から11.0%削減いたしました。2023年度は下表のとおり見込んでおり、今後、数値の信頼性を確保するため、外部機関による第三者検証を行い、第三者保証を受けた後に統合報告書等にて確定値を開示してまいります。
物理リスクへの対応については気候変動リスクだけでなく地震災害やテロ対策などを含む全体の安全管理の中で投資優先順位を定めるとともに、街のインフラを担う企業の責務として、安全な鉄道の運行や災害に強いまちづくりに向けた取り組みを、日々の業務を通じ行っています。
※1 Scope1,2、Scope3(カテゴリ1、2、3、13)は、LRQAリミテッドによる第三者保証を受けています。
※2 第三者保証前の数値であり、確定値が変更となる可能性があります。
(3)人的資本
(戦略)
(中期3か年経営計画の「人材戦略」コンセプト)
当社では2024年度を初年度とする中期3か年経営計画の人材戦略として、「人材を連結経営の根幹と位置づけ、従業員から選ばれ続け“個”を最大化する人的資本経営を推進」することをコンセプトに掲げました。
労働意識・価値観の多様化、生産年齢人口の減少や人材獲得競争の激化、人材流動性の高まりなど、当社を取り巻くさまざまな労働市場の変化と向き合い、その中で、従業員一人ひとりの「個の最大化」と「企業価値の最大化」の実現を企図し、「個々の強みを生かし、挑戦・活躍できる仕組みづくり」と「優秀人材の獲得と競争力のある処遇への引き上げ」に取り組んでおります。
従業員一人ひとりが当社で挑戦と成長をすることに価値と誇りを感じ、自分らしい人生を歩めるよう、従業員としての経験価値(エンプロイーエクスペリエンス)を高める取り組みを推進することで個の最大化を支援し、連結経営の根幹である従業員から選ばれる企業であり続けることを目指しております。毎年1回のエンゲージメントサーベイを通じて従業員と会社の相互理解度を測定し、人材戦略を適切に実行することで連結経営を一層強固なものとし、企業価値の最大化を図っております。
(人材育成方針)
当社では「従業員一人ひとりに寄り添い、学ぶことで成長が実感できる場の提供」を育成方針に掲げております。人材育成プログラムの大きな枠組みとしては、「階層別研修」「グループ経営人材・リーダー育成」「自律的キャリア形成支援」「自己啓発支援」の4つを設けており、ビジネススキル習得やキャリア支援のためのさまざまな施策を展開しております。
「階層別研修」では、その階層の役割を担うために必要なマインドやスキルを学ぶ機会を提供しております。スキルの習得にあたっては、一律の内容ではなく、従業員一人ひとりの強みや弱み、関心のある領域や業務上必要なテーマ等を、自身で考えて選択ができるような内容としております。
「グループ経営人材・リーダー育成」では、東急グループ全体の組織力・人間力を高めることを目的とした「東急アカデミー」を2006年より開講し、これまで延べ830名以上(2024年3月末現在)の修了者を輩出してきました。「経験」「内省」「学習」の3つの学習プロセスを通じて、経営人材としての能力・スキルを高めるとともに、グループ各社の次世代を担う人材同士の相互啓発を通じて、各人が東急グループの理念を実現し続ける経営者として成長する機会を提供しております。
「自律的キャリア形成支援」、「自己啓発支援」では、従業員が自律的にキャリアを形成できる環境を整備するため、キャリア形成のプロセスを明示し、そのプロセスに合わせた施策を展開しております。具体的には、上司部下間での定期的な1on1ミーティング、自己理解の促進や自身のキャリアを考える機会を提供する「キャリア研修」と「キャリアサポート面談」を組み合わせたセルフ・キャリアドックの導入、社外の有資格者であるキャリアコンサルタントとの「キャリア相談」、視野拡大を図るため他社のメンバーとお互いの知見を提供しながら行う「異業種交流研修」、公募選抜による「大学院派遣」、隙間時間を利用したサブスクリプション型の動画研修やWEBコンテンツ教材の提供等を通じ、自己学習の支援を行っております。
その他にも、全社員を対象としたデジタル基礎研修によるDXマインドの底上げ、社内起業家育成制度によるチャレンジする人材の育成と企業風土の醸成、社内公募やキャリアコミットメント制度による手挙げ式の異動、副業の整備等、全社的に人材育成の取り組みを実施しております。
(社内環境整備方針)
社会環境の急激な変化に伴い、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が社内に増えてきていることを踏まえ、当社では「誰もが働き続けたい会社」の実現に向けて社内環境整備を進めております。
当社では2000年代初頭より働き方改革に積極的に取り組み、働きやすい環境づくりを推進してまいりましたが、社会環境や人々の価値観などの急激な変化を踏まえ、より柔軟な働き方を実現し、生産性向上やイノベーション創出につながるよう、さらなる改革に取り組んでおります。代表的な取り組みとして、自身の職務や環境に合わせて働く時間や場所を従業員が主体的に選択する「スマートチョイス」を展開し、フレックスタイム制やテレワーク制度などの整備を行っております。
また、今後目指す働き方として、従業員やチームのミッション・成果を意識し、多様な働き方を効果的に選択・組み合わせる「東急ベストハイブリッド」方針を掲げております。本方針は、働き方のニーズを把握するための全社アンケート分析結果を踏まえて策定したものです。本方針により、フレックスタイム制やテレワーク制度などの効果的な活用、そして従業員個人やチームの「ベストパフォーマンス」発揮を追求してまいります。
さらに、従業員の多様化のみならずお客さまニーズも多様化していることを踏まえ、当社はダイバーシティマネジメント(多様性を生かす組織づくり)を人材戦略の要素のひとつと認識し、制度・風土・マインドの3つの観点から各種取り組みを展開しております。
なかでも女性活躍推進については、鉄道業を祖業とする当社の実情を踏まえると、当社のダイバーシティマネジメントに最もインパクトを与えるテーマであると認識し、特に注力してまいりました。具体的目標として「2023年度までに女性管理職比率10%以上、男性育児休業取得率100%」を掲げ、女性管理職比率は、2022年度末に目標を達成(2023年度実績:13.9%)し、2023年度の男性育児休業取得率は93.9%(※)となりました。今後の新たな目標として、「2026年度末までに女性管理職比率18%以上、男性育児休業取得率100%の達成と継続」を掲げ、さらに取り組みを進めてまいります。(※前年度に子が生まれた男性従業員のうち、前年度+当年度に育児休職等を取得した者の割合)
障がい者雇用については、障がい者が安心して長く働き続けられる環境づくりを推進しております。2004年に設立した特例子会社の㈱東急ウィルでは、鉄道関係施設内の清掃業務を中心に、寝具類のクリーニング業務や名刺印刷業務を担ってまいりました。2023年度からは東急㈱本社の事務補助作業などにも業務内容を広げています。(障がい者雇用率実績:2.86%。2023年6月、当社企業グループ7社算定)
また、LGBTQに関する取り組みとして、2016年度以降、勉強会やセミナー開催のほか相談窓口の開設、就業規則の変更などさまざまな取り組みを行っています。今後も年齢、性的指向、家庭環境、経験、価値観など、より広範な切り口でダイバーシティマネジメントに取り組んでまいります。
同じく人材戦略の要素である健康経営についても積極的に取り組んでおります。当社では、豊かさ・快適さ、そして、当社事業の基盤である交通事業をはじめとする「安全」と「安心」「安定」の確保は、お客さまが当社にお寄せくださる信頼の源泉であり、各種サービスを提供する従業員とその家族の健康は事業を支える根幹と考えております。東急グループの存在理念(美しい生活環境を創造し、調和ある社会と、一人ひとりの幸せを追求する)を踏まえ、その実現に欠くことのできない「健康」を追求する経営を推進するため、2016年に「健康宣言」を制定しました。
加えて、CHO(最高健康責任者)を設置し、経営トップがその役割を果たすことで、従業員の心身の健康管理はもとより、沿線のお客さまの健康づくりにも積極的に取り組んでおります。CHOのリーダーシップのもと、企業立病院である東急病院を有する強みを活かし、従業員およびその家族に対してメンタルヘルス対策、がん対策、生活習慣・運動対策を重点施策とし、近年ではプレゼンティーズムの改善にも取り組むことで、安心・安全の更なる構築や労働生産性の向上、ウェルビーイングの実現を目指すことを方針としております。
(指標と目標)
(主な指標)
※1 エンゲージメントスコアは、㈱リンクアンドモチベーションのエンゲージメントサーベイ「モチベーションクラウド」で測定するものです。レーティングは同社の11,360社、403万人の実績から測定する偏差値の結果を示すものです。総合満足度(平均)は、会社、仕事、上司、職場の満足度を5点満点で調査した結果の平均値となります。
※2 前年度に子が生まれた男性従業員のうち、前年度+当年度に育児休職等を取得した者の割合
※3 当年度に子が生まれた男性従業員に対し、当年度に育児休職等を取得した男性従業員の割合
(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき算出)
※4 2023年度研修・教育実習費を、当社従業員、当社から社外への一部出向者、
社外から当社への出向者の合算人数で除した数字
(外部評価)
こうした取り組みの結果、「健康経営優良法人(ホワイト500)」に3年連続(2021~2023年度)で選定、またLGBTへの取り組みに優れた企業としてPRIDE指標2023「ゴールド」を7年連続受賞(2017~2023年度)するなど、社外からさまざまな評価をいただいております。
当社グループでは、定期的にリスク認識の再評価、及びリスク軽減に対する取り組み状況の評価を行い、発生の回避及び発生した場合の影響最小化に向けての対応に努めております。有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある連結経営上の最重要リスクとして、「経営環境変化への対応に関するリスク」、「安全管理への対応に関するリスク」、「コンプライアンスに関するリスク」、「働き方・人材確保に関するリスク」、「長期・広範な人流阻害に伴うリスク」の5つを設定しております。リスクの内容およびリスクコントロールの取り組みは次のとおりであります。
なお、本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。また、以下の記載は、当社グループの事業等のリスクをすべて網羅することを意図したものではないことにご留意下さい。
(1)経営環境変化への対応に関するリスク
① 金融市場混乱・金利環境悪化・格下げ・信用不安等により、財務状況が悪化するリスク
当社グループは、これまで鉄軌道業をはじめとする各事業の必要資金の多くを、社債や金融機関からの借入により調達しているため、市場金利が上昇した場合や、格付機関が当社の格付けを引き下げた場合、ESG関連評価機関の評価が低下した場合には、相対的に金利負担が重くなったり、資金調達の条件が悪化したりすることにより、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、引き続き、資金調達の多様化を進め、金利の長期固定化や返済期限の平準化等により再調達リスクを抑制しつつ、コマーシャル・ペーパーの活用等、短期金融市場活用による機動的資金調達力の向上に取り組んでおります。
② 需要・事業性の予測見誤りにより、収益確保、事業継続が困難となるリスク
当社グループは鉄道沿線地域に経営資源が集中しており、少子高齢化や人口減少による既存事業の需要減少、生活スタイルの変化による既存の交通やオフィス・商業施設の利用減少、新たな産業やビジネスモデルの登場による既存事業の競争力低下等が起こった場合には、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは、「中期3か年経営計画」を策定し、各種施策を実施しておりますが、需要の予測値との乖離や経済情勢の変化等によって、これらの計画が予定通り進捗しない場合や、想定した収益や期待した効果を生まない場合があり、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、経営陣が各事業の業績動向、業績変化の兆候について早期に把握するとともに、対策を議論し意思決定及びモニタリングを行う等、迅速かつ適切な対応に取り組んでおります。
③ 各種市況の悪化により、工事費等、調達コストの高騰が発生し、収益性が低下するリスク
当社グループは、原材料・労務費等の市場価格動向を踏まえコスト削減を行っていますが、工事費等の調達コストが高騰した場合には、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、バリューエンジニアリングやコストダウン、調達チャネルの多様化、継続的な工事内容の精査等、市場動向を踏まえた市況変化への対応力強化に取り組んでおります。
④ 事業展開エリアでの政権交代・税制等行政施策の変更等に伴う市況激変リスク
景気低迷の長期化による世帯年収の減少や増税等による個人消費の低迷継続、各事業における法制度の変更等が生じた場合、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、市況および政治・経済・法制度の変化を見据えた中長期的な運営方針を構築し、修繕・設備投資を含む適切な事業計画の策定、利便性向上や魅力的なテナントミックス、話題性の提供による施設集客力の維持向上等、各種対策に取り組んでおります。
⑤ SDGsへの対応やESG投資方針に沿った取り組みが進まないことにより、ステークホルダーからの評価・信頼が低下するリスク
当社グループは、SDGsへの対応やESG投資方針に沿った取り組みを積極的に行っていますが、この取り組みが進まない場合、ステークホルダーの皆さまからの評価・信頼が低下する可能性があります。このため、2022年3月に策定した「環境ビジョン2030」で掲げる脱炭素、循環型社会の実現に向け、TNFD対応やカーボンニュートラルに向けた移行計画の検討等、ESG評価改善の取り組みを継続するほか、ESG関連方針の取引先(サプライチェーン)へ浸透させるための取り組みを推進しております。
(2)安全管理への対応に関するリスク
① 気候変動の影響も含む自然災害等への備えが不十分で、施設損壊等によりサービスの提供ができなくなるリスク
大規模な自然災害等が発生し、人的被害や事業の中断等が生じた場合には、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、当社グループは、自然災害や感染症蔓延等において連結各社の協力体制構築などの対応力強化、気候変動に伴う営業損失・社会的影響評価を実施し、評価結果を踏まえた対策(予防・被害最小化の両面から)を図っております。
② 人為的事故の発生により、損害補償とともにサービス・施設への信頼を損なうリスク
重大な人為的事故等が発生し、人的被害や事業の中断等が生じた場合には、当社グループのブランドイメージの低下やお客さまからの信頼・信用を失い、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、当社グループは、安全基本方針に沿った事故、設備や情報システムの故障、食品、建設工事等の品質問題、その他の理由によるトラブルの発生を想定したさまざまな施策を講じており、東急線全駅(※)へのホームドア・センサー付固定式ホーム柵の設置、事故等発生状況の情報収集・展開による再発防止策策定等に取り組んでおります。
※ 世田谷線・こどもの国線を除く
③ テロ、政情不安に伴う治安悪化により、施設損壊・お客さまの死傷等によりサービスの提供停止とともに、社会的信頼が損なわれるリスク
テロ等の外的要因による重大な事故等が発生し、人的被害や事業の中断等が生じた場合には、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、当社グループは、テロ等の不法行為による災害、その他の理由によるトラブルの発生を想定したさまざまな施策を講じており、東急電鉄㈱所属の全車両(※)への車両内防犯カメラの設置、駅施設や商業施設等への警備員の効果的配置、サイバー攻撃を想定した対応訓練の実施、サイバー保険への加入促進等、安全の取り組みを進めております。
※ こどもの国線を除く
④ 保険料率の高騰や保険会社による引受制限等により、事故対応において保険対応ができなくなるリスク
自然災害の増加など、社会情勢の変化を踏まえた保険料率の高騰や保険会社による引受制限等により、事故対応において保険対応ができなくなる可能性があります。このため、当社グループでは、保険の補償範囲の見直し、自家保険化に関する検討に加え、事故時の保険金額請求是非の検証についても進めております。
(3)コンプライアンスに関するリスク
① 経理統制体制の脆弱さにより、会計等処理に重大なミス・不正が生じ不適正な財務諸表を公表する等、社会的信用力が低下するリスク
当社グループは、関係法令を遵守し、各国の会計基準に基づき、連結経理体制の最適化、ガバナンス強化に向け、各種施策を講じておりますが、これらに反する行為が発生し、社会的信頼を損なった場合には、お客さまや取引先の離反等により、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、連結経理体制の最適化、国内連結各社の会計システム共通化による業務標準化等に取り組んでおります。
② コンプライアンス違反により、その損失処理とともに企業としての社会的信頼を損なうリスク
当社グループは、鉄軌道業、不動産事業をはじめとする各種事業において、関係法令を遵守し、企業倫理に従って事業を行っておりますが、これらに反する行為が発生し、社会的信頼を損なった場合には、お客さまや取引先の離反等により、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、コンプライアンス全般および法改正対応に関する啓発や研修の実施、内部通報の対応精度向上に継続的に取り組むとともに、2024年4月に新たにコンプライアンス・リスクマネジメント委員会を設置し、コンプライアンス・リスクマネジメント体制の強化に取り組んでおります。
③ ITセキュリティを含む情報管理上の不備により、機密情報、個人情報の漏洩・紛失が発生し、その処理とともに社会的信頼を損なうリスク
当社グループは、社会的なインフラを担うシステムやサービスを提供しており、サービス提供に支障をきたすような運用中の障害、個人情報を含む機密情報の大規模な漏えい・紛失等が生じた場合には、当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下、発生した損害に対する賠償金の支払い等により、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、設備や情報システムの故障、その他の理由によるトラブルの発生を想定したさまざまな施策を講じており、交通・決済・通信等重要なインフラを担う連結各社において外部によるセキュリティアセスメントの実施および改善計画策定等、各種対策に取り組んでおります。
① 生産年齢人口減少傾向の中、適切な人材資源が不足・安定的な確保ができず、サービスを持続的に提供できなくなるリスク
少子高齢化や人口減少ならびに就労・雇用環境の変化による人材流動性の高まりにより、社員流出や採用難が今後深刻化し、人員不足を起因としたサービスの低下や風評等につながる場合には、お客さまや取引先の離反等により、当社グループの業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、会社価値の持続的向上と社員への還元とを両立する賃金・処遇改善の取り組みを進めるほか、人事制度や福利厚生制度の見直しを図ることで正社員・フルタイム勤務者に依存しない多様で柔軟な働き方を提供する等、各種対策に取り組んでおります。
② 人材資源の質的な確保・育成ができず、人材力・技術力の低下がブランド価値の低下につながるリスク
人材資源の質的な確保・育成が叶わなかった場合、事業機会の逸失、サービス品質の低下、事業運営が困難となり、ステークホルダーからの信頼を損ない、ブランド価値を毀損するリスクがあります。このため、事業独自の人材育成プログラムの構築や戦略的人事ローテーションによる持続的な専門人材育成を図るほか、不動産事業を始めとして、人材流出に伴い発生しうる当社独自の事業ノウハウ流出を防止する取り組みを進めてまいります。
(5)長期・広範な人流阻害に伴うリスク
① 地震・風水害等の自然災害により長期・広範な人流阻害が発生し、採算性が低下するリスク
当社グループの事業エリアにおいて、地震・風水害等の自然災害により、長期・広範な人流阻害が発生した場合、休業等による事業活動停止が発生し、採算性の低下につながる可能性があります。このため、TCFD提言に沿った対応を継続し、長期的な強靭化によって回避できる気候変動影響に関する営業損失や社会的影響の評価、物理的損害の事前対策と被害復旧の費用を比較、検討するほか、BCMの深度化と早期復旧に向けた継続的な取り組みを進めてまいります。
② 感染症等の外的要因により長期・広範な人流阻害が発生し、採算性が低下するリスク
感染症等の外的要因によって、長期・広範な人流阻害が発生した場合、営業制限等による事業活動停止が発生し、採算性の低下につながる可能性があります。このため、新型感染症等発生への継続的な体制整備を図るほか、リテール事業におけるECの強化など、感染症等の影響期間中にも人流に左右されない取り組みを進めてまいります。
③ 国際間紛争、為替や金利変動、インフレ等により市況が急激に変化することによりインバウンド需要が消滅し、事業収支に莫大な影響が発生するリスク
国際間紛争、為替や金利変動、インフレ等により市況が急激に変化することにより、インバウンド需要が消滅した場合、事業収支に莫大な影響が発生する可能性があります。このため、ホテル事業における消滅需要の影響を受けない新たな需要の開拓のほか、需要消滅によって発生する余剰従業員の離反防止方の検討を行ってまいります。
④ 事業エリアにおける人口減少に伴う人流阻害が発生するリスク
当社グループの事業エリアにおける居住人口が減少することにより、人流阻害が発生する可能性があります。このため、沿線の魅力づけによる居住人口の確保に取り組むほか、東急電鉄による移動創出に向けたマーケティング等、新たな移動喚起に向けた取り組みを進めてまいります。
当期における我が国経済は、原材料価格やエネルギー価格の高騰、金利上昇リスクなどの影響により、経済の先行きは不透明な状況で推移したものの、新型コロナウイルス感染症による行動制限が緩和されたことなどにより、社会経済活動には緩やかな持ち直しの動きがみられました。
このような状況のなか、当社グループにおいては、2021年度を始期とし、『変革』を基本方針とする中期3か年経営計画に基づき、足元の事業環境変化への対応と構造改革の推進による収益の復元に取り組んでまいりました。
当連結会計年度の営業収益は、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に、利用者数の回復が見られたことなどにより、1兆378億1千9百万円(前年同期比11.4%増)、営業利益は949億5百万円(同112.8%増)、経常利益は992億9千2百万円(同109.6%増)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、持分法投資利益の増加などにより、637億6千3百万円(同145.3%増)となりました。
セグメントの業績は以下のとおりであり、各セグメントの営業収益は、セグメント間の内部営業収益又は振替高を含んで記載しております。なお、各セグメントの営業利益をセグメント利益としております。
(交通事業)
東急電鉄㈱では、これまでに築き上げた経営基盤をより一層強靭化させ、リアルな「移動」体験がもたらす価値を通じて社会貢献し続けるべく、安全・安心のさらなる追求をはじめとした自然災害対策や車内防犯カメラの高機能化、踏切障害物検知装置の性能向上、鉄道施設の保守高度化に向けた状態モニタリング機能の導入等、439億円の設備投資を実施いたしました。
また、2023年3月の東急新横浜線開業により相鉄線との相互直通運転を開始し、広域鉄道ネットワークが拡充され、所要時間の短縮や新幹線アクセスが向上いたしました。2023年度は約2,800万人のお客さまにご利用いただきました。
さらに、2023年8月より、更にスムーズな乗車サービスを提供するため、クレジットカードのタッチ機能やQRコード(※)を利用して乗車するサービス「Q SKIP」の実証実験を開始し、現在は世田谷線の各駅と東急新横浜線・新横浜駅を除く東急線全駅にて実施しています。2024年5月からは、クレジットカードによる後払い型乗車サービスも開始いたしました。※「QRコード」は㈱デンソーウェーブの登録商標です。
観光列車「THE ROYAL EXPRESS」は、2023年7~9月に北海道での第4期運行を行ったほか、2024年1~3月に、初めて四国・瀬戸内エリアでの運行を行い、観光振興・地域活性化に取り組みました。
このほか、東急電鉄㈱は、脱炭素社会の実現に向け、日本初の取り組みとして2022年4月より東急線全路線での運行に係る電力を実質再生可能エネルギー由来とし、実質CO2排出量ゼロの電力に置き換えております。この取り組みが評価され、環境省より令和5年度気候変動アクション環境大臣表彰を受賞いたしました。
東急電鉄㈱の輸送人員は、定期・定期外ともに前年を上回り、定期で6.4%増加、定期外で6.4%増加し、全体では6.4%の増加となりました。また、輸送人員の回復に加え、運賃改定や構造改革の効果もあり、交通事業全体の営業利益は275.6%増の320億円となりました。
連結子会社の輸送人員は、伊豆急行㈱で10.2%増加いたしました。
バス業では、東急バス㈱の輸送人員が4.4%増加いたしました。
この結果、交通事業全体の営業収益は2,136億7千4百万円(同16.1%増)、営業利益は320億7千万円(同275.6%増)となりました。
(東急電鉄㈱の鉄軌道業の営業成績)
(不動産事業)
不動産事業では、不動産販売業におけるマンション販売が好調に推移したことや、不動産賃貸業において拠点駅に駅直結物件を多く保有する当社の優位性を背景に低空室率を維持したことなどにより、営業収益は2,865億8千5百万円(同30.0%増)、営業利益は487億3百万円(同68.8%増)となりました。2024年3月に竣工した、田園都市線・南町田グランベリーパーク駅に直結する地上34階、地下1階建、総戸数375戸の分譲マンション「ドレッセタワー南町田グランベリーパーク」は、販売開始以降好調に推移し、全住戸完売となりました。
また、2024年3月、当社が組合員として参加する横浜駅きた西口鶴屋地区市街地再開発組合が施行する大型複合施設「THE YOKOHAMA FRONT」(地上43階、地下2階)が竣工いたしました。本事業は、グローバル企業の就業者等に向けた住宅を整備することで、産業の国際競争力の強化や国際的な経済活動の拠点の形成を目指すものとして、日本で初めて「国家戦略住宅整備事業」として認定されました。
さらに、2023年8月、田園都市線・池尻大橋駅周辺エリアで活躍するクリエイターとともに大規模リノベーションを手掛けた「大橋会館」が全館開業いたしました。シェアオフィス、ホテルレジデンスなどが融合した複合施設で、渋谷駅至近の池尻大橋エリアの魅力をより一層向上してまいります。
海外では、2023年7月、ベトナム・ビンズン省の省都ビンズン新都市にショッピングセンター「SORA gardens SC」(延床面積21,500㎡)を開業いたしました。「暮らしにさらなる彩りを」をコンセプトに日本で培った商業施設運営ノウハウを活かし、地域一体開発を行っているビンズン新都市において、人々が集う新たなコミュニティの拠点となることを目指します。
このほか、当社は、渋谷駅東口エリアに、多種多様な人々が行き交い、交流を誘発する拠点となる複合ビル「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」(地上23階、地下3階)の開発を進めており、2024年7月8日に開業いたします。低層部の商業エリアは飲食店舗を中心とした入居を予定しており、広場とともに人々が集い憩える空間を実現します。5~23階は渋谷エリアでニーズの高い、駅につながる利便性の高いハイグレードなオフィスを提供し、すべてのオフィス入居テナントが決定済みです。
(生活サービス事業)
当社は、生活サービス事業を街の生活基盤として沿線価値の向上に寄与するものと位置づけるとともに、収益力の向上に取り組んでまいりました。同事業は、魅力ある施設づくりに加えて、お客さまの期待を上回る商品やサービスの提供に努めるとともに、交通事業、不動産事業をはじめとする各事業との相乗効果を発揮するため、グループ間連携をさらに促進しております。
リテール事業においては、マーケットの変化に対応するため構造改革を推進するとともに、お客さまのニーズの多様化などに対応した新業態開発を進めております。
ICT・メディア事業においては、2023年11月、高齢者が安心して生活できる街づくりを目指し、東急セキュリティ㈱は神奈川県大和市と「地域の見守りと安心できるまちづくりに関する協定」を締結いたしました。これにより東急セキュリティ㈱は、東急線沿線エリアの全自治体との協定締結を完了いたしました。今後も各自治体との協力体制のもと、地域見守りの取り組みを進めてまいります。
㈱東急レクリエーションが、全国20サイト183スクリーンを展開するシネマコンプレックスチェーン「109シネマズ」が、公益財団法人日本生産性本部が実施する2023年度顧客満足度指数調査において、4年ぶり3回目となる映画館業種部門第1位を獲得いたしました。今後も皆さまの映画鑑賞を通じた、生活価値の向上を目指してまいります。
生活サービス事業では、㈱東急百貨店において、本店営業終了に伴い減収となったものの、㈱東急ストアや㈱東急レクリエーションなどにおける需要回復などにより、営業収益は5,188億1千万円(同0.3%増)、営業利益は131億1千1百万円(同18.3%増)となりました。
(ホテル・リゾート事業)
ホテル・リゾート事業では、都心エリアのホテルを中心にインバウンド需要の取り込みなどによる利用者数の回復があり、稼働率は75.7%(同+5.8ポイント)となりました。この結果、営業収益は898億3千4百万円(同26.9%増)、営業利益は7億5千4百万円(前年同期は41億1千9百万円の営業損失)となりました。
2023年度は、新規開業が3店舗(BELLUSTAR TOKYO、HOTEL GROOVE SHINJUKU、SAPPORO STREAM HOTEL)、閉店1店舗(赤坂エクセルホテル東急)がございました。
また、2024年4月には、当社として初の取り組みとなる分譲型ホテルコンドミニアム事業の1号物件として、沖縄県の那覇空港近くに「STORYLINE瀬長島」を開業いたしました。
4店舗の開業に加えて、2023年度に「渋谷ストリームエクセルホテル東急」の「SHIBUYA STREAM HOTEL」へのリブランドも含め計5店舗が、より個性の際立ったホテル群「DISTINCTIVE SELECTION」の店舗として新たに営業を開始しております。
今後も、お客さまの多様なニーズにお応えするため、必要な設備投資を着実に実行するとともに、ホテル経営や投資を検討するクライアントの皆さまに、幅広く柔軟なブランド選択肢を提供することにより、新たな事業成長を実現してまいります。
当連結会計年度における現金及び現金同等物の期末残高は415億5千7百万円となり、前連結会計年度に比べて269億5千9百万円減少いたしました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益943億6千5百万円に減価償却費867億4千5百万円、法人税等の支払額113億6千1百万円などを調整し、1,453億3千4百万円の収入となりました。前連結会計年度に比べ、税金等調整前当期純利益の増益等により、499億3千万円の収入増となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得による支出1,140億9千7百万円等があり、1,010億円の支出となりました。前連結会計年度に比べ、固定資産の取得による支出が減少したこと等により、534億3千万円の支出減となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済等により、719億5千7百万円の支出となりました。
当連結会計年度末の総資産は、受取手形及び売掛金の増加等により、2兆6,520億7千3百万円(前期末比380億6千1百万円増)となりました。
負債は、有利子負債(※)が、1兆2,555億2千7百万円(同319億9千1百万円減)となり、1兆8,224億9千1百万円(同121億4千8百万円減)となりました。
純資産は、自己株式の取得があったものの、親会社株主に帰属する当期純利益の計上等により、8,295億8千1百万円(同502億9百万円増)となりました。
※ 有利子負債:借入金、社債、コマーシャル・ペーパーの合計
当社グループの各事業は、受注生産形態をとらない事業が多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
このため生産、受注及び販売の状況については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (業績等の概要) (1)業績」における各セグメント業績に関連付けて示しております。
2023年度は、事業環境変化への対応と構造改革の推進による収益の復元を掲げた、中期3か年経営計画の最終年度でありました。
その中で、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に、想定を上回る利用者数の増加が見られたことなどにより、期首に掲げた利益目標を達成することができました。
施策面では、2021年度より『変革』を基本方針とする中期3か年経営計画に基づき、足元の事業環境変化への対応として、需要の拡大やニーズを的確に取り込むことで収益の復元、損益分岐点の改善を目指した事業構造改革に取り組みつつ、ポストコロナを見据えた施策も講じました。
交通事業では、鉄道事業において東横線ワンマン運転開始等の効率的な運営に取り組んだほか、運賃改定の実施等により、恒常的に利益創出を可能とする収支構造へ転換を進めてきました。また、2023年3月の東急新横浜線開業により、広域的な鉄道ネットワークを構築し、沿線エリアの更なる価値向上に取り込んでおります。
生活サービス事業、ホテル・リゾート事業においては、㈱東急百貨店、㈱東急ホテルズの構造改革をはじめ、各グループ会社の重点施策を確実に進捗させており、特にホテル・リゾート事業については、2023年4月より、ホテル運営に特化した新会社、東急ホテルズ&リゾーツ㈱を設立すると共に、ブランドラインナップも新たに再編・拡充することで、お客様の多様なニーズに応えられる体制を構築しております。
2023年度の業績は、コロナ禍からの事業環境の段階的な回復や各事業の構造改革の進捗、付加価値創造の効果に加えて、不動産事業におけるマンション販売の増加等により、営業収益は、連結全体では期首に掲げた目標(以下、期首に掲げた目標値との比較とする)から72億円増収の10,378億円、営業利益は、249億円増益の、949億円となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、持分法投資利益の増加などにより、237億円増益の637億円となりました。
また、営業利益の増益に伴い、東急EBITDAは2,036億円、有利子負債/東急EBITDA倍率は6.2倍となり、中期3か年経営計画において掲げていた全ての目標を達成しております。
2024年度の連結業績予想につきましては、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に移動需要の継続的な回復やインバウンド需要の増加等、引き続き良好な環境が継続することを見込んでいるものの、不動産販売業における前年度大規模マンションの引き渡しの反動減に加え、従業員の待遇改善、ベースアップ等による賃上げや需要回復に対応した採用人数拡充に伴う人件費の増加などを織り込むことにより、営業収益は前年度から171億円増収の10,550億円、営業利益は前年度から69億円減益の880億円を見込んでおります。また、経常利益は前年度から92億円減益の900億円(同9.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度から37億円減益の600億円となる見通しであります。
(2)資本の財源及び資金の流動性
2024年度を始期とする中期3か年経営計画では、今後起こりうる経営環境変化に能動的に対応すべく、安定的で成長力ある事業ポートフォリオを構築しながら資本効率向上と財務健全性維持の両立を図ってまいります。
経営指標については、規模拡大のみならず、効率性や財務健全性を重視し、株主資本コストを強く意識した経営を推進いたします。
2026年度にはROE8%、中長期ではROA(総資産事業利益率)4%を目標として掲げております。
本中期経営計画における3か年合計のキャッシュ・フロー計画は、営業キャッシュ・フロー4,700億円、入替等の資産売却等700億円等、合計5,500億円のキャッシュイン、投資キャッシュ・フロー5,100億円、株主配当400億円等、合計5,500億円のキャッシュアウトを計画しております。投資キャッシュ・フローの内訳は、鉄道事業投資に1,500億円、バリューアップ投資を含めた既存事業投資として1,300億円、不動産開発投資を始めとした成長投資として2,300億円を見込んでおります。このうち、2024年度は、鉄道事業投資に480億円、既存事業投資に450億円、成長投資に470億円、合計で約1,400億円の投資を計画しております。
当社における資金調達については、国内外における金利上昇など、今後の金融市場の動向に留意が必要な局面の中で、中長期的な安定調達手段の確保とともに、固定比率上昇と調達年限長期化の推進による調達金利の上昇抑制、市場性調達の活用による調達コストの極小化に引き続き努めてまいります。
2023年6月には、戦略的な資金調達の手段として、ゼロクーポンで調達コストを抑えることができるユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債を総額600億円発行するとともに、約300億円、16,524,300千株の自己株式取得を実施しております。これにより、資本効率の改善と、市場環境の変化に耐えうる堅固な財務基盤の維持・向上の両立を図っております。
また、当社の“サステナブル経営”を推進する資金調達手段として、「サステナブルファイナンス・フレームワーク」を策定しており、2023年度も本枠組みを活用したサステナビリティ・リンク・ローンによる資金調達を実施いたしました。2022年3月公表の「環境ビジョン2030」で掲げた、2050年CO2排出量実質ゼロに向けたCO2排出量削減目標をKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)及びSPT(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)として設定しており、「次の100年」に向け、社会とともに持続的に成長することを目指しております。
運転資金の調達については、短期社債(コマーシャル・ペーパー)及びキャッシュマネジメントシステムでの調達枠を設定しており、積極的に活用することで調達コストの削減を図るとともに、危機対応型のコミットメントラインを設定し、不測の事態へも対応可能な状況にあります。
株主還元について、2024年度を始期とする中期3か年経営計画における配当方針としては、安定配当を継続するとともに、利益成長に応じた配当金の持続的な増加に取り組み、中期3か年経営計画期間中の下限を21円と設定しております。その上で、2024年度はこの考え方に基づき年間22円の配当を予定しております。また、中長期的には、業績や資金状況もふまえつつ、配当性向30%を意識してまいります。これに加え、資本政策を機動的かつ積極的に実施していきます。本計画3か年通算での総還元性向も勘案しつつ、自己株式取得の実施時期、規模を検討いたします。
※1 有利子負債:借入金、社債、コマーシャル・ペーパーの合計
※2 設備投資・投融資の金額については、投資計画の進捗説明を主眼とし一部組替を行っており、
「キャッシュ・フロー計算書」とは数値が異なります
(3)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、経営者は、決算日における資産・負債及び報告期間における収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを行わなければなりません。これらの見積りについては、過去の実績、現在の状況に応じ合理的に判断を行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社は、創業以来、事業を通じて社会課題の解決に取り組み、時代の変化に適合しながら、国や都市・地域の発展とともに着実に成長してまいりました。今後も、社会環境の変化に対応しながらサステナブル経営を行うべく、2024年度を始期とする中期3か年経営計画を推進しております。
当社および連結子会社では、交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートの各セグメントにおいて多様な事業展開を行っており、多額の固定資産を保有するとともに、設備投資・投融資等、継続的な投資を実施しております。したがって、当社および連結子会社においては、固定資産を中心とした資産ポートフォリオの管理、とりわけ減損損失の判定が、重要な会計上の見積りに該当いたします。
減損損失の判定にあたっては、事業や物件ごとに資産のグルーピングを行い、収益性や市場性、用途変更や除売却等の意思決定の有無等により兆候判定を行っております。また減損損失の認識・測定においては、将来キャッシュ・フローを直近の実績や事業計画等の意思決定に基づいて合理的に見積りを行うほか、不動産等の時価のある資産については必要に応じ鑑定等の外部評価に基づく適正な価額を用い、投資額や帳簿価額の回収可否について判定を行っております。
なお、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
当連結会計年度において、新たに締結した経営上の重要な契約等はありません。
当連結会計年度における当社グループの研究開発費の総額は、
主な研究開発活動は、㈱東急総合研究所において、経済、社会、地域等に関する消費研究や消費構造、消費者の意識・行動に関する調査・研究を行っております。