第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、持株会社体制のもと、グループ全体が方向性を同じくし、これまで以上に社会的価値創造を推進すべく、Purpose(存在意義)とValues(価値観)から構成される「TOPPAN's Purpose & Values」をグループ理念としております。「Breathing life into culture, with technology and heart./人を想う感性と心に響く技術で、多様な文化が息づく世界に。」をPurposeに掲げ、その実現のために「Integrity(誠意を持って行動し、信頼関係を築く)」「Passion(情熱を持ち、積極果敢に挑戦する)」「Proactivity(周囲に先駆けて考え、スピーディーに行動する)」「Creativity(創造力を駆使して、新しい価値を生み出す)」の4つのValuesを共有しております。
 グループ理念に基づき、当社グループ各企業が持つ強みや特長を掛け合わせ、ステークホルダーの皆さまと共に、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指してまいります。

 

(2) 経営環境及び優先的に対処すべき課題

当社グループは、「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトに、中期的な経営課題を、①事業ポートフォリオ変革、②経営基盤の強化、③ESGの取り組み深化とし、次の施策を展開することにより経営資源の最適配分と有効活用を進め、事業の拡大を図ってまいります。

 

① 事業ポートフォリオ変革

「事業ポートフォリオ変革」につきましては、DX、国内SX・海外生活系、新事業の3つを成長事業と位置付け、収益力の向上を目指してまいります。

DX事業については、全社を挙げて取り組むDXのコンセプトを「Erhoeht-X(エルへートクロス)」とし、デジタル技術と高度なオペレーションノウハウを掛け合わせたハイブリッドなDXサービスを根幹に、データ分析、コンサルティングを含めたビジネスモデルの確立を目指します。

国内SX・海外生活系事業については、材料調達から廃棄までのサプライチェーンを通して、CO2排出量・プラスチック使用量削減に貢献し、脱炭素・循環型社会の実現を目指します。

新事業については、競争優位を持つテクノロジー、ビジネスモデルを核に、ヘルスケア、メタバース、センサ関連などの領域で、事業化を推進いたします。

 

② 経営基盤の強化

「経営基盤の強化」につきましては、事業変革の基盤を形成するため、持株会社体制のもと、知財戦略、人財戦略、システム基盤のモダナイゼーションなどを推進してまいります。

知財戦略については、「知的財産」を、事業競争力を高める重要な経営資産と位置づけ、グループ全体で知財戦略と事業戦略・研究開発戦略を一体化させ、知財活動を強化してまいります。

人財戦略については、DXやSX、グローバル事業などを牽引する人財の強化に向け、次期人事システムの構築や新たな人財開発プログラムの導入など、グループ内の人財活性化施策を推進するとともに、ダイバーシティ&インクルージョンの実現を進めてまいります。

システム基盤のモダナイゼーションについては、グループのシステム統合などにより、経営効率の向上を目指します。

 

 

③ ESGの取り組み深化

「ESGの取り組み深化」につきましては、サステナビリティ(持続可能性)経営推進に向け、「サステナビリティ推進委員会」を設置し、当社グループ内のESG、SDGsテーマの課題共有、取り組み連携を強化しております。

SDGsへの取り組みとしては、SDGsが示す課題への事業を通じた貢献において特に注力すべき分野を特定した「TOPPAN Business Action for SDGs」のもと、これまで以上に社会から信頼される強い企業グループを目指してまいります。

環境への取り組みとしては、「TOPPANグループ環境ビジョン2050」に基づき、環境課題への取り組みをサプライチェーン全体や地域社会との協働で進めてまいります。また、2020年よりTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿って、気候変動に関する財務インパクト及びその対応について情報開示を行っております。さらに、2024年中を目途に、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った開示を実施する予定です。

社会への取り組みとしては、従業員一人ひとりの力を最大限に引き出し変革の原動力に変えていくため、「ダイバーシティ&インクルージョン」、「Well-being」を重視し、従業員のスキルアップやキャリア形成支援を進めてまいります。また、「TOPPANグループ人権方針」に基づき事業活動全般において人権に対する取り組みを強化するとともに、「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」に基づきサプライチェーン全体で持続可能な調達活動を進めてまいります。

ガバナンスへの取り組みとしては、「コーポレートガバナンス基本方針」及び「関係会社管理規程」に基づき、公正なグループ経営を推進し、グループ全体の価値最大化を目指してまいります。また、政治・経済情勢の変化や気候変動に伴う環境問題、サイバー攻撃の巧妙化や人権課題などを背景に多様化するリスクに対し、適切に対処することで経営に与える影響を最小化するなど、持続可能な企業経営を推進してまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。実際の結果は、社会動向の変化等の影響により異なる可能性があります。

 

当社グループは1900年の創業以来、「印刷」を原点とするあらゆる技術・ノウハウを活用した製品・サービスの提供を通じてステークホルダーであるお客さま、従業員、取引先、地域社会、株主・投資家、行政・自治体等、広く社会に関わり、社会課題の解決に寄与する事業活動を行ってまいりました。今日、気候変動に伴う災害多発や自然破壊等、環境問題の深刻化をはじめ、人権リスクや地政学リスクの高まり等、グローバル規模で問題が多発し、将来予測が困難な時代を迎えております。当社グループは当社事業が社会に与えるインパクトを認識し、企業として責任を果たすとともに、事業を通じて社会課題を解決しながら企業価値向上を目指すサステナビリティ(持続可能性)経営を推進しております。
 また、グローバルな社会課題により積極的に対応するため、2019年に「TOPPAN SDGs STATEMENT」、2020年には「TOPPAN Business Action for SDGs」を策定し、SDGs貢献を見据えながら、事業活動と全社活動それぞれのマテリアリティ(重要課題)を定義しております。さらに事業の成長とサステナビリティの実現を同期化し企業価値を高めるべく、2021年の中期経営計画では「Digital & Sustainable Transformation」を掲げております。様々な社会課題の視点を事業に取り込み、「DX」と「SX」を中心に事業ポートフォリオを変革し、事業による価値創造を通じて課題解決につなげ、持続可能なグローバル社会の実現を目指しております。

 

(1) サステナビリティ共通

①ガバナンス

当社グループは、2020年4月より代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会(以下「サステナ委員会」という。)を設置しております。サステナ委員会は、コーポレートガバナンス体制の中に位置付けられ、グループ全体のサステナビリティ推進の役割を担っております。

 

1) 取締役会及びサステナビリティ推進委員会
 取締役会はサステナ委員会に、当社グループのサステナビリティ課題についての検討・審議を担当させております。サステナ委員会で検討・審議された具体的な取り組み施策は、経営会議を通じて取締役会に報告され、取締役会においてサステナビリティ経営についての総合的な意思決定を行っております。また、取締役会では、サステナビリティの取り組み施策、目標設定及び進捗について、継続的に議論・モニタリング・監督を行っております。


2) TOPPANグループESG経営推進会議
 サステナ委員会内に、当社グループ企業の代表取締役社長及び取締役をメンバーとするTOPPANグループESG経営推進会議を設置しており、当社グループ内のESG、SDGsテーマに関する議論を深めるとともに、連携して取り組みを進めております。


3) SDGs推進プロジェクト及びコーポレートESGプロジェクト
 サステナ委員会の下部には、部門横断で編成されたSDGs推進プロジェクトとコーポレートESGプロジェクトを設定し、各プロジェクトが連携しながら、個別テーマの対応・推進を担っております。SDGs推進プロジェクトでは主に事業活動におけるサステナビリティの取り組みを推進し、事業におけるSDGs貢献の注力分野「TOPPAN Business Action for SDGs」の活動推進と進捗確認を担っております。コーポレートESGプロジェクトでは、主に自社活動におけるサステナビリティ課題を担当し、2023年度は、地球環境ワーキンググループ(以下WG)、人的資本WG、SCM(サプライチェーンマネジメント)WG、リスクマネジメントWGが編成され、各テーマのプロジェクトを推進いたしました。

 

 

4) エグゼクティブ・サステナビリティ推進委員会
 将来的なサステナビリティ課題について意見交換を行う場として、エグゼクティブ・サステナビリティ推進委員会を設置しております。外部有識者と当社取締役が意見交換等を行い、重要な課題についてはサステナ委員会と連携して、検討しております。

 

◇TOPPANグループ サステナビリティ推進体制


 

②戦略

当社グループは、「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトに、社会やお客さま、当社グループのビジネスを、デジタルを起点として変革させる「DX」と、事業を通じた社会課題の解決とともに持続可能性を重視した経営を目指す「SX」により、ワールドワイドで社会課題を解決するリーディングカンパニーとして企業価値向上とサステナブルな社会の実現を目指しております。その一環として、事業ポートフォリオを変革し、経営基盤の強化とESGの取り組み深化を推進しております。2023年度を初年度とする中期経営計画において、2026年3月期には「DX」「SX」関連を含む成長事業の営業利益構成が全体の過半となるよう変革を進めております。

ESGの取り組み深化の観点では、2030年までの長期視点で、事業活動マテリアリティとして定めている、「環境」「まち」「ひと」の3つのテーマにおける注力分野「TOPPAN Business Action for SDGs」を中期経営計画に織り込み、中期経営計画の事業ポートフォリオ変革とも連動させております。また、事業活動マテリアリティを支える基盤として全社活動マテリアリティを設定し、「環境配慮・持続可能な生産」と「従業員の健康・働きがい」を掲げております。
 こうした一連の取り組みを、「気候変動」「人的資本・多様性」「知的財産」「人権」「サプライチェーン」というサステナビリティの重要テーマと連携させ、グループ全体で推進しております。

当社グループでは、ワールドワイドでの社会課題解決への貢献と持続的成長のため、グローバル規模で事業を加速させており、国内だけでなく海外にも拠点・サプライチェーンが拡大していることからも、世界共通の課題となっている気候変動への対応は経営の重要課題であると認識しております。地球環境課題への長期的な取り組み方針を定めた「TOPPANグループ環境ビジョン2050」では、「脱炭素社会への貢献」についても設定しており、「2050年の温室効果ガス排出の実質ゼロ」に向けた取り組みを進めております。また、本ビジョンからバックキャストで検討した「TOPPANグループ2030年度中長期環境目標」においても、指標の1つとして温室効果ガス排出量削減を設定し、中長期視点での取り組みを進めております。

 

また、当社グループは、1900年に大蔵省印刷局から独立した技術者集団が立ち上げたベンチャー企業として創業して以来、「人によるイノベーション」や「共創」は事業成長にとって必要不可欠であると考えております。事業の土台として「人間尊重」を重要な価値観としており、従業員やお客さま等の関係性を重視し、従業員を資源ではなく、会社の貴重な財産である「人財」、すなわち「人的資本」と捉えております。また、価値創造のプロセスにおいては、多様な人財が個々の属性や価値観の違いを認め、尊重し合い、多様な人財の能力を生かし互いに高め合うダイバーシティ&インクルージョンを推進しております。人的資本・多様性は、サステナビリティ経営の重要課題であると認識しております。

当社グループの価値創造における強みは、創業以来培われてきた独自の技術体系「印刷テクノロジー」であり、それらを複合的に組み合わせることで、常に新しい製品・サービスを生み出し続けております。今後さらに複雑化・高度化する社会課題に対応していくために、継続的な技術の深耕と拡充を重要な経営課題として認識し、当社グループ全体で研究開発に注力しております。この研究開発によって生み出されている「知的財産」は、当社グループにとって事業競争力の源泉となる重要な経営資産であり、マーケット志向と研究開発活動を一層密着させた知的財産戦略のもと、グローバルな視点での積極的な知的財産活動を展開しております。

当社グループは、事業を通じて多くのお客さまに多種多様な製品・サービスを提供しており、その事業を維持・発展させるため、グローバルに広がる幅広いサプライチェーンを有しております。当社グループが社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献するためには、サプライチェーン全体でサステナビリティに取り組むことが必要不可欠と考えております。その中でグローバルな社会課題である人権課題についても、サプライチェーン全体で取り組むべき課題と認識しております。

 

③リスク管理

当社グループのサステナビリティ課題についてのリスク管理は、取締役会の管理のもと、本社主管部門、グループ会社事業(本)部各部門とサステナ委員会の下部組織であるコーポレートESGプロジェクトの1つであるリスクマネジメントWG(責任者:リスク管理担当役員、メンバー:本社主管部門リスク担当者、事務局:法務本部コンプライアンス部)が密接に連携して推進する総合的なリスク管理に組み込まれております。

リスクマネジメントWGは、年1回のリスクアセスメントを実施し、当社グループの経営に重大な影響を与えるリスクを「重大リスク」として特定しております。

「重大リスク」の特定にあたっては、本社主管部門が統括しているグループ会社事業(本)部各部門でのアセスメント結果及び中長期視点での顕在化の可能性、発生頻度やインパクトの強弱等を踏まえております。「重大リスク」は当社グループが事業を展開するグローバルな社会・経済環境の変化に加えて、気候変動に伴う環境問題、デジタル化の進展によるサイバー攻撃の巧妙化、強制労働をはじめとする人権課題等様々なグローバルリスクへの対応も含め、サステナビリティ経営推進の観点からも十分に検討されております。2024年度の「重大リスク」としては、「気候変動及び生物多様性の損失に関するリスク」「人権リスク」「研究開発投資の損失等、製品の研究開発上のリスク」「事業の発展を支える人材の確保」「サプライチェーンに関するリスク」等を含む、19項目が選定されております。(「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」参照)

「重大リスク」は、サステナ委員会に報告・検討された上で、取締役会が報告を受け、取締役会の管理のもと毎年見直しされております。

また、「重大リスク」を含む様々なリスクが顕在化しないように、本社主管部門及びグループ会社事業(本)部各部門で対応策を検討し、国内外の事業活動に結びつけて適切なリスク管理を実施しております。取締役会は、そのリスクへの対応状況について、本社主管部門からリスク管理担当役員を通じて定期的に報告されております。リスクが顕在化した場合には危機管理体制に基づき、迅速な対応が図られております。

なお、経営環境の不確実性が高まり続ける現状を踏まえ、全社リスク管理体制のさらなる強化を目指し、2024年4月1日に新たにChief Risk Officer(CRO)を任命するとともに、今後のリスク統括部門となるGRC本部を新設しております。CROはTOPPANグループ全体のリスク及びその対応状況を、網羅的かつ俯瞰的に管理する責任を担っております。現在CRO指揮のもと、リスクマネジメント手続き・リスクマネジメントに関する会議体の見直しを含め、全社リスクマネジメント体制をさらに強化するための検討を進めております。

 

 

④指標と目標

「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトとした事業ポートフォリオ変革による持続可能な社会の実現と企業価値の向上を評価するため、成長事業「DX(Erhoeht-X)」「国内SX・海外生活系」「新事業」の営業利益構成及びSDGsに対する事業貢献を定めた「TOPPAN Business Action for SDGs」にて「環境」「まち」「ひと」の3つのテーマに区分した各成長事業と連携する目標値を設定し、これらを指標としております。

「環境」における「サステナブルパッケージの売上比率」は生活系事業のエコプロダクツ・ソリューションの拡大の指標として、「まち」における「生活を豊かにするサービス数(メタバースやweb3時代を見据えたプラットフォーム活用)」はDX事業における安全なパーソナルデータ関連ビジネスの指標として、「ひと」における「健康に貢献するサービス数」は新事業における健康寿命延伸関連ビジネスの指標としてそれぞれ位置付けております。

 

◇成長事業「DX(Erhoeht-X)」「国内SX・海外生活系」「新事業」の営業利益構成


 

◇成長事業と連携する「TOPPAN Business Action for SDGs」


 

(2) 気候変動

当社グループは、気候変動がグローバルで事業を展開しているグループ全体に与える影響の大きさを認識し、気候変動を当社グループのサステナビリティ経営における重要課題の1つとしております。金融安定理事会が設立したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対し、2019年に賛同を表明しております。2020年から提言に基づいたシナリオ分析を開始し、TCFDの提言に沿った気候変動に関する財務インパクト及びその対応について継続して開示を行っております。

また、「TOPPANグループ環境ビジョン2050」では生物多様性保全に向けてビジョンも設定しており、2024年1月にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)最終提言への賛同を表明し、2024年中のTNFD開示に向けて取り組みを進めております。

 

 

①ガバナンス

取締役会は、気候変動対策を経営上の重要課題と位置づけ、気候変動によるリスク回避のための緩和策や適応策への投資判断及び機会の獲得のための成長投資判断(「DX」「SX」を柱とする事業ポートフォリオの変革を含む)を行っております。

取締役会は、サステナ委員会に気候変動関連課題を担当させ、その下部組織であるコーポレートESGプロジェクトにおける地球環境WG(本社関連部門及びグループ会社事業部門が参画)が取り組みを主導しております。地球環境WGはSDGs推進プロジェクト、リスクマネジメントWGと連携して気候関連課題の評価と対応策の取りまとめを行っております。

取締役会は、サステナ委員会より経営会議を通じて、気候関連課題の評価や状況、目標管理についての報告を受けるとともに、気候関連の課題を考慮し、経営戦略の策定等について総合的な意思決定を行っております。

取締役会は毎年4月に、「TOPPANグループ環境ビジョン2050」達成に向けて設定された「TOPPANグループ2030年中長期環境目標」における温室効果ガス排出量の前年度実績及び当該年度の単年度温室効果ガス排出量目標について報告を受け、承認を行っております。

 


 

②戦略

地球環境WGは、気候変動に関する重要リスク・重要機会の洗い出し、財務面のインパクト評価、その評価に基づいた対応策検討を行っております。

シナリオ分析として、当社グループの主要事業地域である日本国内拠点に海外拠点を加え、研究開発から調達、生産、製品供給までのバリューチェーン全体に対し、1.5℃シナリオ、4℃シナリオで、2050年までの長期を想定し、考察しております。リスク及び機会の時間軸としては、短期1年以内、中期1~3年、長期4~30年以上として、当社グループの事業活動計画である年度計画、中期計画、長期ビジョンの時間軸との整合を図り、気候関連課題におけるリスクと機会について関係部門による検討を行っております。

シナリオ分析の実施にあたっては、「国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)World Energy Outlook 2021(以下IEA WEO2021)のNZE(Net Zero Emissions by 2050)シナリオ」「IEA WEO2023のSTEPS (Stated Policies Scenario)ないしはAPS(Announced Pledges)シナリオ」「気候変動に関する政府間パネル (IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)第6次報告書における共有社会経済経路シナリオ (SSP:Shared Socio-economic Pathways)と放射強制力を組み合わせたシナリオ及び第5次報告書の代表濃度経路シナリオ(RCP:Representative Concentration Pathways)」の複数シナリオを利用し、定性的・定量的に分析を行っております。対象期間は2030年から2050年としております。

 

 

◇シナリオタイプ


 

当社グループが認識する移行リスクとして、世界全体におけるカーボンニュートラル実現に向けたカーボンプライシング制度の規制拡大を背景に、運用コスト負担の増加等が考えられます。また、当社グループが認識する物理リスクでは、生産事業所の洪水等の浸水被害による生産停止や復旧費用の増加等が挙げられます。その対応として、再生可能エネルギーの段階的な導入等によるScope1+2及びScope3での温室効果ガス排出量削減、防災対策の強化等に取り組んでまいります。Scope1+2温室効果ガス排出量削減については、2050年カーボンニュートラルに向けた移行計画を策定しております。将来を見据えた長期的視野での低炭素投資や対策の意思決定にICP(インターナルカーボンプライシング)制度を活用し、さらなる省エネ・再エネ設備の導入を推進しております。

当社グループの機会として、このような変化に対し、「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトとした事業ポートフォリオ変革と連動させ、事業機会の創出・拡大を図ります。具体的には、サプライチェーンの温室効果ガス排出量削減に貢献するDX支援サービスの開発、リサイクル適性の向上や食品ロスの削減ができるサステナブルパッケージの充実化を図ってまいります。

 

◇重要リスク・重要機会の評価及び主な対応策


 

 

◇2050年カーボンニュートラルに向けた移行計画


 

◇ICP制度概要


※ICP(Internal Carbon Pricing):低炭素投資・対策推進に向け企業内部で独自に設定、使用する炭素価格のこと。CO2排出量1トン当たり費用を自社の基準で仮想的に費用換算し、気候変動リスクを定量化。投資判断の基準の1つとすることで、脱炭素社会に向け、低炭素設備・省エネ投資を加速させることが可能。

 

③リスク管理

気候変動リスクは当社グループの「重大リスク」の1つに特定され、「(1)サステナビリティ共通 ③リスク管理」に記載のとおり総合的なリスク管理に組み込まれております。サステナ委員会への報告にあたっては地球環境WGとリスクマネジメントWGが密接に連携しております。

地球環境WGは、気候変動関連リスクについて当社グループの事業活動及び提供する製品、サービスに対する現行規制、新規規制、技術、法制、市場、評判、急激又は緩慢な物理変化といったリスクタイプから識別し、それらのリスクタイプから想定されるリスクと機会を抽出し、それぞれの財務インパクトやブランドイメージへの影響を評価しております。また、影響評価を踏まえたリスクの対応計画の策定・推進についても担当しております。気候変動リスクの評価・対応策の内容はそれぞれ、サステナ委員会に報告・検討された上で、取締役会が報告を受け、気候変動リスクの管理及び管理プロセスの監督を行っております。

「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (1)気候変動及び生物多様性の損失に関するリスク」参照)

 

④指標と目標

気候変動関連リスクへの対応を評価する指標として「TOPPANグループ2030年度中長期環境目標」における「温室効果ガス排出量削減(Scope1+2)」を設定、気候変動関連機会獲得への対応を評価する指標として「TOPPAN Business Action for SDGs」における「温室効果ガス削減に貢献するサービス数」を設定しております。

 

 

◇TOPPANグループ2030年度中長期環境目標「温室効果ガス排出量削減(Scope1+2)」


 

◇気候変動への取り組みに連動する「TOPPAN Business Action for SDGs」


 

(3) 人的資本・多様性

当社グループは、「人間尊重」「企業は人なり」の理念のもと、持続的成長と社会への貢献を目指し、社員と企業がともに成長できる職場環境、組織風土を整備し、社会的価値創造を実現する「組織・人財」づくりを目指しております。「人財」を、会社の貴重な財産、すなわち「人的資本」と捉え、「人財」の価値を最大限に引き出すことで生まれる「人によるイノベーション」が事業成長の源泉であると考えております。

多様な人財が心理的安全性の高い環境で、「やる気」「元気」「本気」をもって働き、社会をWell-beingにする製品・サービスを提供することが、TOPPANグループの社会的価値創造実現の形だと考えております。その社会的価値創造の結果として、「人財」の社会への貢献実感とさらなる成長意欲が生まれ、また次の社会的価値創造につながる好循環が、当社グループが考えるWell-being経営であり、この実現に向けて事業戦略と連動した人的資本諸施策を講じております。

 

①ガバナンス

人事処遇制度の改革・人財の採用計画の策定・人財開発プログラムの開発等の人的資本・多様性に関わる施策立案は当社人事労政本部が担当しております。取締役会は、採用計画の審議・承認をはじめ「人的資本・多様性」施策について報告を受け、継続的に、議論・モニタリング・監督を行っております。人財開発プログラムについては、テーマごとに担当役員が報告を受け、承認しております。

 

②戦略

当社グループは、2023年度を初年度とする中期経営計画において、中長期の重点施策である事業ポートフォリオ変革に向けて、「DX(Erhoeht-X)」「国内SX・海外生活系」「新事業」の推進に注力しております。この推進に向けて人財の確保や育成を重要な経営課題と認識し、経営基盤の強化における重要なテーマとして「成長事業を牽引する人財の確保・活用・育成」を人財戦略として設定しており、当社グループの中長期的な価値創造に資する「人財」への投資や様々な人事施策を推進しております。

 

1)事業の発展を支える人財の確保

事業戦略上必要な専門性を持った人財の獲得・採用については、定期採用にこだわらず、経験者・第二新卒といった外部人財採用に加え、当社グループを退職した人財(アルムナイ)との関係性の継続・再度採用する「カムバックキャリア制度」を導入するなど、多様な手法を駆使して必要な人財の確保を図ってまいります。また、定期採用においても就業型インターンシップを取り入れ、応募者と採用部署のマッチングと入社後の定着を高める取り組みを行っております。

 

2)人財開発プログラムの構築

当社グループでは、グループ全体の社員教育を統括する人財開発センターを2011年より設置し、TOPPANユニバーシティという新たな人財開発体系のもと、人財開発、育成施策を推進しております。その中で、2024年は、第5期「次世代型人財開発のグループ、グローバルへの実装フェーズ」と位置づけ、社員一人ひとりの業務やキャリアに合わせた能力開発を進めるため、多彩な人財開発プログラムを提供する他、当社独自の人財開発に関する R&D 拠点である「人財開発ラボ®」において、従業員の「自己革新」と、TOPPANグループならではの新しい価値創造の実現を促す次世代型人財開発プログラムの実装を図っております。

 2023年度においては、社員一人当たりの研修時間は72.2時間、社員一人当たりの人財育成に関する費用は76,188円となりました。(ともにTOPPAN株式会社の社員についての数値)

 

a DX人財の育成

DX人財の育成にあたっては、①全ての従業員のリスキリングを目指して「リテラシーレベル」人財の拡充 ②リテラシーレベルまで到達した社員にさらに学習の機会を提供し、将来のDX中核人財となる「ベーシックレベル」層の増強 ③サイエンティスト、エンジニア、ビジネスデザイナーなど各領域における「プロフェッショナルレベル」人財のDXビジネス実践の中での育成と外部リソース確保を組み合わせた増強、以上の3つのレベルで育成方針を立て取り組みを進めております。

「リテラシーレベル」に関して2023年度、経済産業省主管の官民連携会議体であるデジタルリテラシー協議会が提唱したDi-Lite(ディライト)資格3つのうち「AIジェネラリストG検定」「データサイエンティストDS 検定」の取得推奨プログラムを新設いたしました。2023年度では、AIジェネラリストG検定を209名、データサイエンティストDS検定を106名が資格取得し、DX人財予備軍層が強化されました。

 

◇DX人財のレベル定義と強化施策


 

b SX人財の育成

当社グループが社会的価値創造企業として、ESGへの取り組みを積極的に推進し、持続可能な社会の実現に貢献していくため、SXに対応できる人財育成プログラムを2013年より実施しております。
 社会課題の解決と経済的価値を両立させる次世代イノベーション事業の実現をテーマに、ソーシャルイノベーションプログラム、管理職向けのフィールドワークなどを継続実施しております。東日本大震災被災地である福島県でのフィールドワークは継続的に実施しており、10年間で福島への訪問社員数は累計1,925名に上って おります。

また、社会課題解決型のビジネスモデルとして、障がいのあるアーティストの作品を価値化、ビジネスに活用し、その対価をアーティストに還元する「可能性アートプロジェクト」を2018年から実施しており、これを人財育成プログラムとして活用しております。現在では年間50件を超えるビジネス利用があり、アーティストへの累計還元額実績は1,000万円を超えております。
 これらのSX人財育成プログラムを継続的に実施し、ソーシャルイノベーション事業の発展に繋げております。

 

 

◇SX人財育成プログラム


 

c グローバル人財の育成

グローバル人財を、語学力・異文化対応力も含めた「ビジネスコミュニケーションスキル」「ビジネスリテラシー」「海外経験」の全てを兼ね備えた人財と定義し、人員の可視化と育成計画の策定・実施をしております。

具体的には、年に一度の語学力測定アセスメント一斉受検による全社的なグローバル人財の人員数とレベルの顕在化、グローバル要員数及び育成ニーズの見極め等を行いながら、各種グローバル関連プログラムへの参加、アカウンティングやファイナンスなど海外ビジネスで求められる基礎的なビジネスリテラシーの習得、海外派遣などを掛け合わせた人事システムの中で人財を育成しております。

 

d 新事業開発人財の育成

新事業開発人財としての知識・スキル・マインドを醸成するプログラムを実施しております。具体的には、 新事業の創出に向けたフレームワークを体系的に学び、企業内起業家マインドを強化する「新事業開発人財育成プログラム」、アーティストの思考法を参考にした「主観」から事業案を考える「アートイノベーションフレームワーク」によって新しい価値創造に挑戦するフィールドワーク等、様々なプログラムを展開しております。その結果、2023年度末時点で、教育プログラムより経営に提案された新事業計画アイデア(事業計画書数)は312件となりました。

 

e 経営者人財の育成(サクセッションプラン)

事業の中核的人財となる次世代経営者人財を育成するプログラムとして、39歳以下の若手層に対し、直接トップ経営層からの講話や討議セッションを通して、リーダーとしてのマインド・行動力を学ぶ「麿'sイノベーションプログラム」、コーポレートガバナンス知識の習得と意思決定やリーダーシップなどの事業遂行能力育成を目指す「次世代経営者育成プログラム」など、各種育成プログラムを実施しております。その他、上級管理職を中心に外部のビジネススクールや経営者育成プログラムへの派遣を積極的に推進しております。

 

3)ダイバーシティ&インクルージョンの推進

当社グループは、価値創造のための重要な要素の1つとして、違いを変革の原動力に変えていくダイバーシティ&インクルージョンを重要視し、「ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」のもと、事業活動と一体となった取り組みを推進しております。

事業ポートフォリオ変革においては、人財の流動性を高めるとともに、その人財が社会・環境変化に迅速・柔軟に対応し、チャレンジし続けられる風土・カルチャーを醸成することが重要だと考えております。その風土醸成のため、多様な人財が心理的安全性のもとで、個々の属性や価値観の違いを認め、尊重し合うダイバーシティ&インクルージョンを重要な経営戦略の1つと位置付けております。

2019年にはダイバーシティ推進室を発足させ、ダイバーシティ&インクルージョンを全社的な経営戦略として進化・加速させていくための方針策定と施策の企画・立案を担い、各事業所のダイバーシティ推進委員が各事業所の特色にあわせて、具体的な施策を展開しております。

社員が個々の属性や価値観の違いを認め合い尊重し、一人ひとりが能力を十分に発揮できるようにするとともに、これらの力を結集して、グループの総合力を最大限に高めることを目指しております。

 

a 仕事と育児の両立支援、仕事と介護の両立支援

「働く意志を支援する」という考え方に基づき、多様な状況下にある従業員が仕事と生活を両立しやすい環境づくりを進めており、ハード面(働き方改革や制度拡充など)、ソフト面(心理面のフォロー)の両面から施策を展開しております。仕事と育児の両立支援においては、2022年10月より、勤続年数を問わず機動的に利用できる「育児スタートアップ休業制度」を創設するなど、性別問わず誰もが仕事と育児を両立しながら活躍できる環境整備を推進しております。仕事と介護の両立支援においては、従業員の理解促進と不安解消に向け、セミナーなどの情報発信の他、外部専門相談窓口を設置するなど、安心して仕事に取り組める環境を整備しております。

 

b 女性活躍の推進、性の多様性に関する取り組み

性別を問わず、誰もが健康に働き続けられ、能力に応じて活躍できることを基本的な考え方として、女性の活躍推進を進めております。働き方改革や両立支援制度等の環境整備を施策のベースとして、さらに能力や意欲に基づき女性の管理職への登用を積極的に進めるポジティブアクションを推進しております。また、性の多様性(SOGI・LGBTQ)への理解を促し、誰もが働きやすい職場環境を実現するため、理解促進のためのセミナーや研修の開催、社内相談窓口の設置の他、同性パートナーや事実婚パートナー制度の導入など、従業員の多様な価値観・生き方を支援しております。

 

4)従業員のWell-being

当社グループでは、従業員のWell-being実現に向けて、各種人的資本施策を複合的に実施するとともに、そのベースとしては、従業員の健康と安全が最重要であると考えております。また、従業員Well-beingに関わる施策立案・実施に向けて、定量的な数値に基づく分析のために継続して従業員エンゲージメント調査を実施しております。

 

a 健康と安全

「健康経営宣言」「安全衛生・防火基本方針」に基づき、それぞれの取り組みを進めております。「健康経営宣言」では、ワーク・ライフ・バランスも含め、従業員や家族の健康づくりをより一層推進するとともに、健康関連事業を通じ、世の中全ての人々の健康づくりを支援し社会に貢献する、という2つの軸を打ち出し、取り組みを推進しております。また、「安全衛生・防火基本方針」は、社員及び契約社員をはじめとする職場で働く全ての人々を対象に、「安全は全てに優先する」を第一義に制定された方針で、ゼロ災害を目標に取り組んでおります。

メンタルヘルス対策についても重要視しており、会社、産業医、健康保険組合が連携し、一次予防から三次予防、さらに一人ひとりのこころとからだのコンディション向上や対話力アップ、チーム力アップといった「ゼロ次予防」を推進して、「メンタル不調者を出さない職場づくり」に取り組んでおります。取り組みの土台となるリスク判定としては、標準的なストレス判定・生活習慣の乱れによるコンディション低下・環境変化という3指標によるきめ細やかなリスク判定を実現する「3Dストレスチェック&ケア®」を独自開発し、活用しております。

 

b 従業員エンゲージメント

従業員のやりがい・働きがいを含めたWell-beingの向上に向けて、従業員エンゲージメントの状況を把握するためのサーベイを2021年度から導入しております。グループ会社を含めた45社31,000名を対象に実施しており、本調査を通じて明らかになった社員からの声をもとに、経営と現場が連携し、組織課題の解決に向けたアクションを推進しております。

 

 

5)人事処遇制度改革

当社グループは、多彩な能力・キャリアを持つ人財の適切な処遇、従業員のスキルアップ・キャリア形成、若手の抜擢、高年齢社員の活躍、チャレンジできる環境の提供等を目指し、人事諸制度の改革を進めております。

TOPPAN版ジョブ型人事処遇制度は、全職種統一の職能等級制度から職群別の要素を取り入れた等級制度に再構築し、また年功制の排除の観点から、各等級における在位年数も撤廃した制度です。社員の処遇の根幹である等級制度の改定により、多彩な能力・キャリアを持つ人財の活用が進んでおります。人事評価の指標には、新たな項目として「持続可能な社会の実現」「ダイバーシティ&インクルージョン」「人権の尊重」「社会的価値の創造」を加え、成長や行動革新のための方向性を示すことで、組織全体のパフォーマンス向上を目指しております。

さらに、2024年度より人財流動性を高める施策として、新たな常設型社内公募制度「ジョブチャレンジ制度」を新設しております。各部門の業務内容や求める人材スキルなどを掲げて部署異動の希望者を公募する制度で、従業員自らの意思に基づく自律的なキャリア形成を可能とし、やりがいの向上につなげるとともに、事業ポートフォリオと連動した成長事業への人員配置を加速してまいります。

また、2023年10月の持株会社体制移行を踏まえて、TOPPANホールディングス株式会社・TOPPAN株式会社・TOPPANエッジ株式会社・TOPPANデジタル株式会社の人事諸制度の統合を進めております。今後グループ全体での人財流動性を高め、グループシナジーによる企業価値向上を目指してまいります。

 

③リスク管理

「人的資本・多様性」の観点から、「事業の発展を支える人材の確保」「人権リスク」「労働安全衛生に関するリスク」は、当社グループの「重大リスク」の1つに特定され、「重大リスク」にかかるリスク管理は、「(1)サステナビリティ共通 ③リスク管理」に記載のとおり総合的なリスク管理に組み込まれております。当リスクについては人事労政本部が主管部門として、法務部門・製造部門等の関係部門と連携し、対応を行っております。これらのリスクへの対応状況については、定期的にリスク担当役員から取締役会が報告を受け、管理を行っております。

「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (4)人権リスク、(12)事業の発展を支える人材の確保、(17)労働安全衛生に関するリスク」参照)

 

④指標と目標

事業ポートフォリオ変革を支える人財確保の進捗状況を評価する指標として「Erhoeht-X(DX事業)従事人財数」、ダイバーシティ&インクルージョンを評価する指標として「管理職に占める女性管理職比率」、従業員のWell-beingを評価する指標として「エンゲージメントスコア」・「健康リスク値」・「コンディション危険判定」を設定しております。

なお、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、次の指標のうち「管理職に占める女性管理職比率」を除く合計4項目の実績及び目標は、連結グループにおける主要な事業を営む当社及び一部の連結子会社のものを記載しております。

※「Erhoeht-X®(エルヘートクロス)」:TOPPANグループが全社を挙げ、社会や企業のデジタル革新を支援するとともに、当社自体のデジタル変革を推進するコンセプト

 

 


(4) 知的財産

当社グループでは、「知的財産」を事業競争力の源泉であると考え、知的財産戦略を推進して事業における競争優位性の確保に努めております。

当社グループは、「エルへート凸版法」を用いた技術ベンチャーとして1900年に創業いたしました。以降、基盤となる印刷技術を他の分野にも応用し、さらに複合的に組み合わせることで多様な製品・サービスを生み出し、新たな価値を提供することで社会課題の解決に寄与してきました。新たな価値創造のためには、既存の技術に基づく製品・サービス展開だけでなく、テクノロジーによる高付加価値化やイノベーションが重要と考え、従来から研究開発、技術開発、それと連動した知的財産マネジメントに注力してまいりました。

当社グループは、現在、「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトとした中期経営計画に基づく事業戦略を推進しており、成長分野である「DX(Erhoeht-X)」「国内SX・海外生活系」「新事業」「エレクトロニクス重点事業」を中心に積極投資を推進し、将来を見据えた事業開発、研究開発活動をさらに強化しております。これらの活動によって生み出される「知的財産」は継続的・将来的な事業競争力を高める重要な経営資産です。創出した知的財産の戦略的な活用によるグループ経営の実行や社会課題の解決、事業利益の増大を通じて企業価値向上に貢献することによる持続的な成長を目指し、知的財産戦略と事業戦略・研究開発戦略を一体化させた、グローバルな視点での積極的な知的財産活動を展開しております。

(知的財産活動と連動する研究開発については「第2事業の状況 6 研究開発活動」参照)

 

①ガバナンス

当社グループは、事業戦略・研究開発戦略と知的財産戦略を一体化させ、全社で知的財産強化を推進できる体制として、「知財強化プロジェクト」を発足しております。本プロジェクトには、知的財産本部に加えて、研究開発戦略を担う技術戦略室及び事業開発本部、グループ会社の事業(本)部内に設置された知的財産戦略部門が参画しております。本プロジェクトにおいてプロジェクト主幹である知的財産本部が中心となり、当社グループの知的財産活動全体を掌握することで、全社横断的な知的財産課題の解決を進めております。

 

 

②戦略

当社グループの知的財産戦略は、事業ポートフォリオの変革を支えるために事業計画及び研究開発計画に基づき立案されるものと考え、知的財産活動をマーケット志向と研究開発活動により一層密着させる取り組みを進めております。中期経営計画においても、「成長を支える経営基盤の強化」の1テーマとして知的財産戦略を設定し、「IPランドスケープの活用による強固なビジネスモデルの創出」「グループ知的資産ガバナンス体制の構築」に取り組んでおります。
 知的財産マネジメント活動として、全保有特許の分類、評価による価値の定量化を進め、特許ポートフォリオの管理基盤を構築し、事業ポートフォリオの変革に合わせた特許ポートフォリオの「あるべき姿」を描き、最適化を推進しております。

中期経営計画においても、注力する「DX(Erhoeht-X)」「国内SX・海外生活系」「新事業」分野において、関連する自社特許の保有状況を精査するとともに、中期経営計画に沿った特許ポートフォリオの拡充を進めております。

また、各グループ事業会社・本部の知的財産戦略部が事業計画に沿った独自の知的財産戦略を立案し実行できる体制が重要と考え、その体制のために

・仮説に基づいた事業計画から技術開発の方向性を決定する知的財産分析(ポジショニングの把握等)

・事業優位を獲得する技術開発に連動した知的財産ポートフォリオ、競合が保有する障害知的財産のクリアランスに必要な知的財産戦略の立案・実行

の施策を実行しております。

知的財産戦略策定の際には独自の「知的財産戦略シート」を戦略部門・技術部門・知的財産部門が合同で作成し、市場環境や技術動向、知的財産状況から当該事業の自社の強みを洗い出し、出願・権利化の攻めどころを見出す活動を行っております。

 

③リスク管理

知的財産に関しては、「特許権や著作権等の知的財産権の侵害」が、当社グループの「重大リスク」の1つに特定され、「重大リスク」にかかるリスク管理は、「(1)サステナビリティ共通 ③リスク管理」に記載のとおり総合的なリスク管理に組み込まれております。当リスクについては知的財産本部が主管部門として、技術戦略室・事業開発部門・法務部門等の関係部門と連携し、対応を行っております。これらのリスクへの対応状況については、定期的に、リスク担当役員から取締役会が報告を受け、管理を行っております。

「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (18)特許権や著作権等の知的財産権の侵害」参照)

 

(5) 人権

当社グループは、事業の土台となる基本精神は「人間尊重」であると考え、行動の規範である「TOPPANグループ行動指針」で、人格と個性の尊重、差別行為やハラスメント行為の禁止、児童労働・強制労働の禁止、ダイバーシティ&インクルージョンの推進など、基本的人権を尊重することを定めております。また、2006年から国連「グローバル・コンパクト」に参加し、人権と労働に関わる6つの原則を支持しております。

2021年に事業活動全般において基本的人権を尊重し「社会的価値創造企業」としてさらに進化していくため、「TOPPANグループ人権方針」を策定し、人権に対しての取り組みを強化しております。

 

①ガバナンス

「TOPPANグループ人権方針」において、当社グループの人権尊重の取り組みについては、取締役会が監督し、人事労政本部の担当責任者が実施の責任を担うことを表明しております。

取締役会は、サステナ委員会に人権尊重の取り組みを担当させ、その下部組織であるコーポレートESGプロジェクトにおける人的資本WG(人権テーマも担当、人事労政本部が主管、担当役員が監督)が取り組みを主導し、人事労政本部、法務本部、製造統括本部等の部門が連携して、当社グループ全体で人権尊重の取り組みを推進しております。

 

取締役会は、年に一度、人権尊重に係る重要案件・課題について、サステナ委員会で検討・審議された活動内容について経営会議を通じて報告を受けており、取り組みの目標設定及び進捗を議論・モニタリング・監督しております。人権課題に関する事象(労働災害・火災、ハラスメントの発生等)が発生した場合は、社内関係部門による対応策を含め、取締役会が報告を受け、対応について議論を行っております。

 

②リスク管理

人権リスクは当社グループの「重大リスク」の1つに特定され、「(1)サステナビリティ共通 ③リスク管理」に記載のとおり総合的なリスク管理に組み込まれております。サステナ委員会への報告にあたっては人的資本WG(人権課題を担当)とリスクマネジメントWGが密接に連携しております。

人的資本WGは、人権リスクについての識別・評価、その影響評価を踏まえた対応計画の策定・推進を担当しております。人権リスクの評価・対応策の内容はそれぞれ、サステナ委員会に報告・検討された上で、取締役会が報告を受け、人権リスクの管理及び管理プロセスの監督を行っております。

「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (4)人権リスク」参照)

 

③施策

1)人権デューデリジェンスプロセス

当社グループは、「ビジネスと人権に関わる指導原則」を支持するとともに、人権デューデリジェンスの重要性を認識しております。リスク評価に当たっては、「国際人権章典」、国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」、賃金や労働時間等労働者の人権に関する条約等の人権に関わる国際規範を支持し、その観点での人権デューデリジェンス体制を構築しております。

当社グループは、人権リスクの発生が、レピュテーションリスクや法務リスク、財務リスク等の経営に関するリスクにも繋がる可能性があることを認識し、当社だけでなく国内外のグループ会社やサプライチェーンの人権リスク評価を実施し、軽減・是正に向けた取り組みを行い、人権デューデリジェンスプロセスのPDCAサイクルを回しております。

 

a 人権リスクの特定

人権デューデリジェンスプロセスの第一歩として、人権リスクの特定を実施しております。当社事業の特性や同業者の動向、国際的な人権基準をもとに、「人権リスク重要度評価」を行い、人権課題を整理・評価いたしました。その結果、当社の人権リスクを「強制労働・人身取引」「差別」「非人道的な扱い」「プライバシーに対する権利」「グループ全体の人権ガバナンス」と特定しております。2023年度も昨年度に引き続き、特定した5つの人権リスクを中心に、TOPPANグループのステークホルダーへの調査・ヒアリングを実施いたしました。グループ会社に対しては、国内72社、海外100社へ書面での人権リスク調査・分析に加え、国内8社・海外1社に対して現地ヒアリング調査を実施し、実態の把握と改善活動に努めております。今後も継続的に国内外グループ会社に対し、現地調査を含めた人権リスク調査を実施し、人権リスクの特定に向けた取り組みを推進いたします。

 

b 人権リスクの防止・軽減

特定された人権リスク項目については、グループ各社にフィードバック並びに改善策の例示を行い、人権リスク軽減に向けた取り組みを進めております。また、当社グループにおける人権リスク調査の全体周知やベストプラクティスの共有により、人権尊重の取り組みに対する意識の醸成・浸透を図っております。

人権尊重の基本的な考え方の理解に加え、上記調査で特定された個別課題(ハラスメント、ダイバーシティ&インクルージョン、労働安全衛生等)に対する理解を深める全従業員を対象とした研修を毎年実施し、人権尊重の取り組みの具体的対応についても周知徹底をしてまいります。2023年度は、人権リスク調査結果を含む人権に関する教育をグループ会社含め36社の従業員計22,945名に対して実施し、グループにおける人権への取り組みの内容理解を図るとともに、啓蒙活動を行いました。

 

 

2)労働者の人権

労働における人権については、当社と労働組合が、労使関係の安定と労働条件の維持改善、企業の平和を確保するために労働協約を締結し、労使の基本的な考え方、組合活動や労使交渉のルール、賃金・労働時間等の労働条件を定めております。労働組合は、当社連結子会社8社の組合員で組織されており、労働協約の債務的部分(組合活動や労使交渉のルール)は、8社共通の内容で締結しております。当該8社以外の連結子会社につきましても、適切な労使関係を構築し、労働者の人権保護に努めております。

適正な賃金の支払いについては、当社グループでは、各国の最低賃金を定めた法令に従い、現地の生活物価を踏まえ、従業員に適正な給与を支払うことを遵守しております。加えて、金銭的報酬はもちろん、法令で定める福利厚生を提供することに加え、働きがいの向上や自己実現・キャリア開発に対する会社の支援・サポート等の非金銭的報酬についても配慮しております。

 

(6) サプライチェーン

当社グループは、企業が社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献するためには、サプライチェーン全体でCSR調達に取り組むことが重要であると考え、サプライヤーや協力会社の皆さまと共に「CSR調達ガイドライン」に沿った活動を進めてまいりました。近年、企業の人権課題、労働安全衛生、環境等の取り組みについて、社会的な関心や要求が高まり、サプライチェーンマネジメントとして、より具体的かつ幅広い対応が求められていると認識し、2022年1月に「トッパングループCSR調達ガイドライン」(2007年制定、2014年に第2版に改訂)の内容を改訂し、その名称を「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」に変更いたしました。サプライチェーン全体に本ガイドラインを周知し、運用、監査、是正するサイクルを回し、サプライヤーや協力会社の皆さまと協力して持続可能な調達活動をさらに推進してまいります。

 

①ガバナンス

取締役会は、サステナ委員会にサステナブル調達の取り組みを担当させ、その下部組織であるコーポレートESGプロジェクトにおけるSCM(サプライチェーンマネジメント)WG(経営企画本部が主管、担当役員が監督)がグループ全体で進める体制を構築しております。取り組みはホールディングス事業部門管理部門が中心となり、当社グループ全体の関係部門と連携して行っております。

取締役会は、サステナブル調達に係る重要案件・課題について、サステナ委員会で検討・審議された活動内容について、経営会議を通じて報告を受けており、取り組みの目標設定及び進捗を議論・モニタリング・監督しております。サステナブル調達課題に関する事象が発生した場合は、社内関係部門による対応策を含め、取締役会が報告を受け、対応について議論・決議を行っております。

 

②リスク管理

調達に関するリスクは当社グループの「重大リスク」の1つに特定され、「(1)サステナビリティ共通 ③リスク管理」に記載のとおり総合的なリスク管理に組み込まれております。サステナ委員会への報告にあたってはSCM WGとリスクマネジメントWGが密接に連携しております。

SCM WGは、調達に関するリスクについての識別・評価、その影響評価を踏まえた対応計画の策定・推進を担当しております。調達に関するリスクの評価・対応策の内容はそれぞれ、サステナ委員会に報告・検討された上で、取締役会が報告を受け、調達に関するリスクの管理及び管理プロセスの監督を行っております。

「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (16)サプライチェーンに関するリスク」参照)

 

 

③施策

「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」をサプライチェーン全体に周知し、その運用及び監査、是正するサイクルを回すことで、サプライヤーや協力会社の皆さまと協働し、サステナブル調達の取り組みを加速し、サプライチェーンの質的向上を図ってまいります。

2022年度からは、サプライヤーや協力会社の皆さまに対してサステナビリティに関わる国別リスク・業種別リスク・アンケート調査等によるリスク調査を行い、分析を踏まえ、リスクの軽減・是正に向けた取り組みを協働で行うデューデリジェンスプロセスのPDCAサイクルをスタートさせております。2023年度は、サプライヤーや協力会社の皆さまにフィードバックを行うとともに、4社に対して現地訪問の上で、取り組み向上に向けた確認を実施いたしました。その他、「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」説明会の実施、サステナブル調達基準の自己評価アンケート、「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」の協力同意締結、事業継続に関わる取り組み状況の確認等を実施しております。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。

 

(1) 気候変動及び生物多様性の損失に関するリスク

(リスクの概要)

気候変動については、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動」にも示しましたように年々深刻さを増す気候変動の影響は大きく、環境規制の強化・低炭素な事業活動や代替素材利用への要請といった「移行リスク」と、洪水などの激甚災害による事業所罹災・サプライチェーン寸断による調達停滞といった「物理的リスク」のそれぞれに適切に対応できなかった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、生物多様性においては、豊かな自然の保全と社会経済活動が両立する自然共生社会を目指すことが事業活動の中で求められており、環境課題への取り組みをサプライチェーン全体や地域社会との協働で進めていく必要があります。

(主なリスク対応策)

気候変動リスク対応について当社グループでは、サステナビリティ推進委員会が対応策のとりまとめを行っております。「移行リスク」については、環境規制の要求水準より高いレベルの温室効果ガス排出抑制に向けてSBT認証を受けた削減目標を設定し、省エネ活動や再生可能エネルギーの導入でPDCAを回しております。「物理的リスク」については、BCP対策として罹災に対する備え、被害の軽減策(防風、防水)、製造と調達のバックアップ体制構築による供給体制の維持継続を行っており、長期的な視点でリスクを分析し、対策を進めております。

また、生物多様性リスク対応については、事業活動の推進において、用紙原料の調達における合法性確認や社内外自然共生地域の保全への貢献を行い、サプライチェーン全体で取り組む調達への配慮とともに自然資本の保全を進めております。

 

(2) 環境汚染リスク(有害物質の漏洩、廃棄物の不法投棄等)

(リスクの概要)

当社グループの製造工程及び研究開発におきましては、特定の有害物質を使用し、廃棄物を管理する必要があり、適用される規制を守るために厳重な注意を払っております。しかし、このような物質に起因する偶発的な汚染や放出及びその結果としての影響を完全に予測することは困難であり、万一発生した場合には、近隣など外部への影響及び当社グループの従業員を含め事業活動にも影響を及ぼす可能性があります。

また、事業活動に伴い発生する紙くずや廃プラスチックなどの廃棄物は、廃棄物処理事業者に委託しておりますが、万一これらの委託事業者が不法投棄や不適切な処理を行っていた場合には、排出事業者として当社グループの社名等が公表される他、当社印刷物の得意先商品名がSNS等で拡散され、得意先の社会的信頼を毀損する可能性があるなど、社会的な信用を失い、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

環境汚染リスク対応として、偶発的な汚染や放出の原因となる有害物質の貯蔵タンクの管理、保全を実施しております。日常での設備点検の他、自社で設定した管理ガイドラインに基づき、使用年数に応じて劣化診断や計画的な更新を行っております。また、薬液類の給油時など取扱い時における漏洩流出リスクを想定し、あらかじめ緊急事態対応手順を整備し、定期訓練を行うことで手順の有効性も確認しております。

また、廃棄物リスク対応では、委託事業者による不法投棄や不適切処理対策として、マニュフェスト管理の徹底、自社評価シートによる廃棄物処理事業者の適正処理の評価や現地視察などを行っております。

また、廃棄物の適正処理とともに、最終埋立量や廃プラスチックのマテリアルリサイクル率の環境目標を設定・管理することにより、事業活動に伴って生じる廃棄物の排出抑制や再使用・再資源化にも取り組み、近年注目されている海洋プラスチック問題、サーキュラーエコノミーに対しても、対応を強化してまいります。

 

 

(3) 地震、風水害等の自然災害、感染症による人的・物的被害

(リスクの概要)

当社グループでは、地震、台風等の自然災害の発生や感染症拡大の影響により、事業所の設備や従業員等が大きな被害を受け、その一部又は全部の操業が中断し、生産及び出荷が遅延する可能性があります。また、損害を被った設備等の修復のために多額の費用が発生し、結果として、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループでは、災害が発生した際に、従業員の安全を確保し、事業活動への影響を最小限に留めるために、事業継続計画(BCP)を策定しております。また、全社体制と対応手順を「災害対策基本計画」にまとめ、毎年見直しを行っております。事業継続マネジメント(BCM)活動を進めるにあたっては、本社法務本部内に設置されたBCP推進チームが中心となり、本社各本部及び全国の事業(本)部に配置したBCP推進担当者と活動を行っております。また、BCPにおけるサプライチェーンの重要性を鑑み、その強化を目的として、外部講師による取引先向けの勉強会を年に1回開催しております。なお、セキュア系事業においては、お客さまからの信頼に応えるために、ISO22301の認証を取得しております。

 

(4) 人権リスク

(リスクの概要)

「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (5)人権」にも記載したように、当社グループでは、「人間尊重」の精神を基本に事業活動を行っており、人権を事業活動やサステナビリティの取り組みを推進するにあたり、最も重要なテーマであると捉えております。

しかしながら、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントをはじめとする人権問題が発生した場合には、職場環境の悪化に留まらず、労災補償やブランド価値の毀損などが発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループでは、「人権方針」を2021年10月に制定するとともに、自社の行動規範である「行動指針」で、人格と個性の尊重、差別行為やハラスメント行為の禁止、児童労働・強制労働の禁止など、基本的人権を尊重することを定めております。また、「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」においても人権を重視する姿勢を明示し、サプライチェーン全体で人権に関する取り組みを推進しております。さらに、国内外グループ会社・サプライヤー等の当社グループを取り巻くステークホルダーへの調査・ヒアリングを通じて人権リスクの軽減・是正に向けた取り組みを行っております。また、取り組み内容については適切に情報開示を行い、一連の人権デューデリジェンスプロセスを実行しております。 

推進体制としては、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」の下部に設置されている「コーポレートESGプロジェクト」における「人権ワーキンググループ」が人権尊重の取り組みを主管し、グループ全体への浸透を進め、あらゆる人権リスクに対する対応基盤の構築を目指します。

また、ハラスメントに対しては、「TOPPANグループ行動指針」にハラスメント行為の禁止を定め、研修などを通じて徹底しております。また、総務部門を通じた各職場への啓発活動、各職場の行動指針推進リーダーを中心とした日常業務レベルでの浸透・徹底、各職場の管理職への教育、アンケートによる実態把握などを行っております。各種ハラスメントに関する相談体制を拠点単位で設置するとともに、内部通報制度「TOPPANグループ・ヘルプライン」にも通報することができるようにし、早期に発見し適切に対処する機能を果たしております。

さらに、労使でハラスメントの問題を認識し、労使協力してその行為を防止し、ハラスメントの無い快適な職場環境の実現に向け、「ハラスメント防止に関する取扱い」の労使協定を締結しております。

 

 

(5) グループ統制に関するリスク

(リスクの概要)

当社グループは、国内外に多くのグループ会社を持つことから、グループ統制が重要であると認識しております。そのため、財務報告に係る内部統制を含め、「内部統制システム構築の基本方針」に基づき、内部統制システムを整備・運用をしておりますが、グループ会社が行った経営上の意思決定に際し、結果的に法令違反や巨額の損失が発生した場合には、当社グループの社会的信用を失墜し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループは、グループ会社の事業運営の独立性と自立性を尊重しつつ、グループ会社の取締役の職務執行の適正を確保するため、「関係会社管理規程」において、管理項目ごとに報告等の手続き方法を定め、報告を受けることとしております。

また、当社グループは、コンプライアンス基本規程として「TOPPANグループ行動指針」を定め、この周知徹底を図ることで従業員の職務執行の適法性を確保しております。そのために、本社法務本部コンプライアンス部を中心に、グループ会社の法務部門等と連携し、グループ全体の法令遵守と企業倫理の確立を図るとともに、行動指針推進リーダー制度を導入し、各職場での浸透活動を展開しております。

さらに、当社の内部監査部門が、定期的に当社及びグループ会社における業務執行状況を監査し、その結果を代表取締役、取締役会、監査役会及びグループ会社の取締役等に直接報告しております。

 

(6) 不祥事(重大な不正、不適切な行為等)・コンプライアンス違反(談合、贈賄、その他法的規制違反)

(リスクの概要)

当社グループは、国内外で多くの拠点を持ち、多種多様な業界にわたる多くの得意先と取引をしていることから、関連する法令や規制は多岐にわたっております。事業活動を行うにあたり、会社法、金融商品取引法、税法、独占禁止法、下請法、贈賄関連諸法などの法規制に従う他、免許・届出・許認可等が必要とされるものもあります。万一、従業員による重大な不正や不適切な行為等の不祥事があった場合、あるいはコンプライアンス違反があった場合には、法令による処罰、損害賠償の請求だけでなく、社会的信用の失墜、得意先や取引先の離反などにより、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループは、従業員一人ひとりの遵法精神と企業倫理に基づく行動のあり方を示した「TOPPANグループ行動指針」を制定し、この行動指針の徹底こそがコンプライアンスの実践であると考えております。そこで、行動指針推進リーダー制度を導入し、各職場の行動指針推進リーダーを中心として、日常業務レベルでの行動指針の浸透・徹底を図っております。

また、談合・カルテル、下請法違反、贈賄などを防止するため、研修や監査を実施するなど、従業員のコンプライアンス意識向上のための施策を実施しております。

当社グループは、法令違反の早期発見と迅速かつ適切な対応を行うため、グループ共通の内部通報制度である「TOPPANグループ・ヘルプライン」を設置しております。

 

(7) 市場環境の変化に関するリスク

(リスクの概要)

当社を取り巻く市場環境は、社会のグローバル化や情報技術の革新、ネットワーク化の進展の他、地球環境保全や人権問題など、サステナブルな社会の実現に向けたニーズも高まり、大きく変化しております。これらの市場環境変化に対する施策が不十分である場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主なリスク対応策)

既存印刷事業の需要が減少する中、DX(Erhoeht-X)、国内SX・海外生活系、新事業の3つを成長事業に掲げ、事業ポートフォリオの変革を推進しております。具体的には、DX(Erhoeht-X)事業においては、顧客企業のBX(ビジネス・トランスフォーメーション)に貢献するデジタルマーケティングの推進の他、デジタル技術と高度なオペレーションノウハウを掛け合わせたハイブリッドBPOの事業展開及び海外セキュア事業の拡大を図ってまいります。国内SX・海外生活系事業においては、バリアフィルムを活用したサステナブル包材のグローバル事業拡大に加え、SX商材の開発・拡販やプラスチックリサイクルスキームへの実証参画などを通じて、CO2排出量やプラスチック使用量削減に貢献してまいります。新事業においては、競争優位を持つテクノロジー・ビジネスモデルを核に、ヘルスケア、メタバース、センサ関連などの領域で、事業化を推進してまいります。

 

(8) 市場性のある有価証券価格の変動リスク

(リスクの概要)

当社グループは、市場性のある有価証券を保有しております。従って、株式市場及び金利相場等の変動によっては、有価証券の時価に影響を与え、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスクの対応策)

当社は、政策保有株式について資産効率向上を目的とし縮減する方針をとっており、中期経営計画においてその縮減目標を定めております。保有については、事業運営面と投資資産としての価値の両面から総合的に分析し、その保有の合理性について定期的に検証を行うとともに、保有先の財務状況等を把握することでリスクの低減に努めております。

また、その状況については取締役会へ報告するとともに、保有意義の薄れた銘柄については売却の判断を行っております。

 

(9) 外国為替相場の変動

(リスクの概要)

国内印刷市場の成熟化が進んでいる中、海外市場での事業が拡大しておりますが、海外現地法人において現地通貨で取引されている収支の各項目は、連結財務諸表を作成する際に円に換算されるため、結果として換算する時点での為替相場の変動に影響される可能性があります。

また、為替相場の変動は、当社グループが現地で販売する製品の価格、現地生産品の製造・調達コスト、国内における販売価格にも影響を与えることが想定されます。そのような場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループでは、為替相場の変動について、リスク管理のガイドラインを制定し、グループ全体で為替リスクの軽減に努めております。事業の中で発生する為替変動リスクは取引の中で極力吸収することに努めるとともに、為替予約等のヘッジ手段も適宜活用しながら為替変動リスクを最小化することに努めております。

 

(10) 戦略的提携、投資及び企業買収に関するリスク

(リスクの概要)

当社グループは、他社との戦略的提携、合弁事業、投資を通して、多くの事業を推進しており、将来におきましても、他の企業を買収する可能性があります。このような活動は、新技術の獲得、新製品の発売、新規市場参入のためには重要です。しかし、様々な要因により、提携関係を継続できない場合や当初期待した効果を得られない場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主なリスク対応策)

当社グループは、各投資の実行に際しては、少額出資検討会、投資契約検討会、経営会議等の承認プロセスを経て投資判断を行っており、出資等の実行後も定期的にモニタリングを実施しております。また、特に出資先がスタートアップ企業や海外の企業等の場合は、必要に応じて外部の調査機関も活用し、十分なデューデリジェンスを行った上で投資を実行しております。しかしながら、当初想定通りの効果(回収)が得られないと判断された投資案件は、改善プランを策定し、改めてリスク等の精査に基づく挽回策を実施しておりますが、その上でなお成果が得られないと判断した場合は、株式売却や清算等もやむなく実施してまいります。こうしたケースは知見やノウハウを蓄積するための重要な機会であり、内容の精査・原因分析を通じて次の投資検討案件へのリスク低減と成功確率を高める活動へ繋げてまいります。

 

(11) 研究開発投資の損失等、製品の研究開発上のリスク(市場変化、投資先・アライアンス先の業績悪化、事業化・上市タイミング遅れ等)

(リスクの概要)

当社グループの研究開発活動につきましては、「第2 事業の状況 6 研究開発活動」に記載のとおりであります。当社グループは、各事業分野の新商品開発をはじめ、コストダウン、品質ロスミス削減へ向けての研究開発、さらに産官学との連携を図りながら中長期の収益の柱となる新規事業の創出のための研究開発にも投資をしております。しかしながら、予測を超えた市場の変化、投資先・アライアンス先の業績悪化、事業化や上市のタイミングの遅れなどにより、研究開発投資が十分な成果をもたらさなかった場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

技術戦略室では、グループの研究開発による新事業創出の確度向上を目的とし、事業化の蓋然性に応じた追加投資の優先性や要否判断による経営リソースの有効活用、グループ保有の情報やアセットの活用強化・促進を実施しております。さらに、追加投資対象の研究開発テーマに対し、定期的な進捗確認により抽出した課題をもとに、開発リソースの最適化を図っております。総合研究所では、研究所テーマの中長期スケジュールのもと、細かな進捗確認、ステージアップ判断、リスク把握などを行い、課題遂行の遅延防止に努めております。加えて、市場環境や技術動向、競合他社特許などの調査・分析を定期的に行い、研究開発テーマの方針変更の要否やテーマ継続の可否を適切に判断しております。

 

(12) 事業の発展を支える人材の確保

(リスクの概要)

「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (3)人的資本・多様性」にも記載したように、当社グループが将来にわたり事業を発展させていくためには、既存製品における高品質化と、高度な新技術導入による新製品・新サービスの開発が重要であると認識しております。そのためには、高度な技術力・企画提案力を有した優れた人材が不可欠となります。当社グループは、計画的な人材の採用と育成に向けた教育に注力しておりますが、優秀な人材を確保又は育成できなかった場合には、当社グループが将来にわたって成長し続けていくことができない可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループでは、効果的な採用広報により、当社グループに関心を持つ人材の母集団形成を図るとともに、就業型インターンシップの導入、コース別採用、リファラル採用など、新卒採用と経験者採用の両面において様々な採用チャネルを構築し、幅広い領域の人材を採用しております。また、社内の人材開発プログラムを常に更新し、基礎的能力から実践的スキルまで一貫して習得する場を提供し、事業を牽引する人材を育成している他、人事処遇や働き方の改革により従業員のエンゲージメント向上に努めております。さらに、成長事業への人材シフトやローテーションにより、人材面からの事業基盤強化を進めております。

 

 

(13) 財務に関するリスク(資金調達、不良棚卸資産の発生、不良債権の発生等)

(リスクの概要)

当社グループは、事業の拡大や急速な技術革新に対応するために、事業投資や設備投資を必要としております。これらの投資に向ける資金調達につきましては、事業計画に基づき外部から調達する場合もありますが、金利情勢の大幅な変化等により適正な条件で必要十分な追加資金を調達することができない可能性があります。

また、環境変化による需要の減少等で市場価格が大きく下落した場合や経年劣化した場合は、棚卸資産の評価損が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループは、多種多様な業界の得意先と取引をしておりますが、各業界の業況悪化を通じた得意先の経営不振等により、多額の債権の回収が困難となった場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループは、事業計画に基づく資金調達を円滑に遂行するため、資金調達手段と調達期間を適切に分散しております。また、有事の際においても事業継続に必要な資金調達を可能とするため、格付けの維持にも資する健全な財務体質の維持・強化に努めております。さらに、金融市場の動向に関する最新の情報と事業環境の分析に基づき、資金計画の見直しを適時に行っております。

また、営業部門、製造部門、管理部門が連携し、販売促進による回転効率の向上及び棚卸資産の品質と管理状況の定期的なチェックによる品質の保持を徹底することで、不良棚卸資産発生と長期在庫化のリスク回避に努めております。

また、当社グループは、与信管理規程に基づき、取引先ごとに与信限度額を設定するとともに、定期的な与信の見直しを行っております。加えて、回収遅延や信用不安が発生した場合には、迅速に債権保全策を講じ、貸倒リスクの回避に努めております。

 

(14) 情報セキュリティにおけるリスク(サイバー攻撃、情報漏洩)

(リスクの概要)

当社グループでは、事業の一環として得意先から預託された機密情報や個人情報の収集・保管・運用を行っております。特に、BPO事業につきましては、政府・地方自治体や企業等のアウトソーシング需要の取り込みにより、取り扱う情報量が増加しております。また、当社グループが推進するDXにおきましては、データの収集・分析を通じた製品・サービスの提供をビジネスモデルとして実施しており、個人情報を含む情報の利活用を進めております。

(主なリスク対応策)

機密情報や個人情報を含む重要な情報については、厳重な情報セキュリティ管理体制により管理しております。具体的には、当社グループにおいては、「TOPPANグループ情報セキュリティ基本方針」のもと、国内外の法規制及び情報セキュリティに関する規格をもとにした規定を定め、法改正等に合わせた規程類の改定整備や当社グループ各社のセキュリティ対策状況、成熟度の評価・改善指導を適宜行っております。また、従業員等に対しての定期教育による当該規程類の周知や内部監査及び委託先監査による遵守状況の確認、改善指導も行っております。

外部からのサイバー攻撃等による情報漏洩やシステム停止に対する対策としては、端末の振る舞い検知や不正接続端末の遮断、ネットワーク監視、クラウド基盤統制等の技術的な対策の実施に加え、標的型攻撃メールや各種インシデントへの対応、開発部門や製造部門等の特定部門での対応力強化のための教育など、全従業員対象及び各職種・各階層に合わせた教育を実施し、教育、訓練・演習、診断のサイクルを回しながら定着を図っております。

また、重要情報を取扱うエリアを限定し、かつ業務監視を行うなど漏洩対策を実装し、適宜強化・最適化を行っております。さらに当社グループのサービスの脆弱性の監視やサイバー脅威情報を収集・評価・分析し対策に反映させる運用体制を整備するとともに、インシデント対応のためのCSIRT機能(Computer Security Incident Response Team)である「TOPPAN-CERT」(当社グループ全体を対象)及び「TOPPAN Edge CSIRT」(TOPPANエッジグループを対象)を、グローバルで対応できるよう体制を拡充し、関係機関等と連携してサイバーリスク低減に取り組んでまいります。

 

 

(15) 製品、デジタルサービスの品質に関するリスク

(リスクの概要)

当社グループでは、全ての製品、デジタルサービスの製造・提供活動におきまして、品質管理上、十分な注意を払い、品質事故やクレームを発生させないための対応を図っておりますが、万一品質事故が発生した際には、業績に影響を及ぼす可能性があります。製品においては、安全性が損なわれた製品が市場に流出した場合、当該製品を販売する得意先と連携し、製品の自主回収を行うこととなります。その場合、多額の回収費用や賠償費用が発生する他、社会的な信用を失い、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。デジタルサービスにおいては、ITシステムの不具合や機器故障、人的ミスの発生等により、当該サービスを利用する得意先の事業・生産ラインなどの突発的な停止が引き起こされることがあり得ます。その場合も同様に、多額の賠償費用が発生する他、社会的な信用を失い、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループでは、「製品の安全管理についての基本方針」「サービス品質基本方針」のもと、各事業において国際規格に基づく品質マネジメントシステムを構築し、品質管理の徹底と継続的改善を行い、製品、デジタルサービスの品質事故防止に取り組んでおります。製品においては、万一重大な品質事故が発生した場合、当社製造統括本部品質保証センターが中心となり、原因の追究及び対策の指導を全社的に水平展開し、再発の防止に努めております。

また、特に安全衛生面で高い品質保証が求められる食品関連事業・ヘルスケア関連事業に対しては、当社が制定する品質保証ガイドライン及び品質監査チェックシートに基づく監査を実施し、製造を許可する認定制度を採用して、品質事故の未然防止に努めております。デジタルサービスにおいては、当社サービス品質統括室が中心となり、サービス品質規程を定め、サービスのライフサイクル全体を通じて、品質やリスクを適切に管理するとともに継続的な改善活動を全社的に推進しております。

 

(16) サプライチェーンに関するリスク(原材料の供給問題、不適正な発注、取引先の不正行為等)

(リスクの概要)

事業に使用する用紙・インキ・ガラスといった原材料やエネルギーを外部の取引先から調達しております。また、様々な業種のパートナー企業との協業や業務委託により製品・サービスを提供しております。

事業活動を維持するためには、原材料やエネルギーを適正量・適正価格で安定的に確保することが重要になります。しかし、地政学的事象や取引先の被災・倒産・事故、当社を含むサプライチェーン上で人権問題・環境規制や法令の違反などにより、供給の中断・供給量の大幅な減少や納期の遅延、取引停止などが発生することで、十分に調達量を確保できず、製品・サービスの提供が遅れる可能性があります。また、原材料やエネルギー価格の高騰などにより収益に影響する可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループは、サステナブル調達の取り組みを進めており、社会要請や国際規格などを鑑み、安定した持続可能な調達(サステナブル調達)を行うためのガイドライン「TOPPANグループ サステナブル調達ガイドライン」を策定しております。取引先・協業企業の皆さまと密接に連携し、このガイドラインの浸透を図るとともに、大規模災害発生時などの事業継続の取り組みや人権・労働・環境・腐敗防止への取り組み状況等を定期的に確認し、サステナブル調達を推進しております。

また、エネルギー調達については、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入に向けた取り組みを強化するとともに、複数のエネルギー供給元を確保するなどリスク分散をしております。

さらに、取引先や協業・業務委託企業との取引の透明性・公平性を高め、より深い信頼関係を築くため、対話による課題把握や相談窓口「サプライヤーホットライン」の当社コーポレートWEBサイト上への設置、社内外教育による周知・社内外監査による調査と是正活動などにより、信頼関係の構築と安定した調達の実現に努めております。

 

 

(17) 労働安全衛生に関するリスク(火災、労災、労働法規違反、労務トラブル等)

(リスクの概要)

当社グループでは、従業員を会社の貴重な財産、すなわち「人財」と捉え、「企業は人なり」という理念のもと、従業員が「やる気」「元気」「本気」の3つの「気」を持つことで、従業員がそれぞれの力を十分に発揮することが大切であると考えております。それを実現するために、従業員の労働については、国の政策や法制度の動向を踏まえ、労働組合と協議しながら、様々な施策を展開しております。

また、「安全は全てに優先する」を第一義とする「安全衛生・防火基本方針」を制定し、労使一体となり、安全衛生・防火活動に取り組んでおります。

いずれの場合も、労働法規違反により当局から行政処分などを受けた場合や労務・安全衛生・防火の管理において不備があった場合は、当社グループの社会的評価に悪影響を与える可能性があります。

また、火災や労働災害が発生した場合、事業所の従業員や設備等が大きな被害を受け、その一部又は全部の操業が中断し、生産及び出荷が遅延する可能性があり、損害を被った設備等の修復のために多額の費用が発生し、結果として、当社グループの事業活動、業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(主なリスク対応策)

当社グループは、ワーク・ライフ・バランスの推進に向けて、各事業所の労使関係の中で、継続した労働時間短縮に向けた取り組みや残業実態の分析、新たな勤務制度の導入・活用状況の検証を行っております。また、グループ全体でも各社の労働時間や年次休暇の取得状況を日々把握できる体制・システムを構築し、グループ全体での生産性の向上と労働時間の短縮を目指すとともに、法令順守の体制を構築しております。コロナ禍において定着した「リモートワーク制度」による働き方改革を継続し、従業員が自律的かつ効率的に業務を行える環境を整備する一方で、各拠点に労務相談の窓口を設け、ハラスメント相談員の資格を持った担当者が対応に当たるなど、労務トラブルの未然防止にも努めております。

安全衛生・防火活動においては、全国の事業所に、安全師範や安全推進担当者を配置するとともに、安全意識の浸透を図るべく、リスクアセスメントなどの「安全勉強会」やグループの工程ごとに横断的に意見交換を行う「安全分科会」を開催しております。また、安全に対する意識と危険に対する感受性の向上を目指すため、「挟まれ・巻き込まれ」や「発火・爆発」などを実際に体感することができる「安全道場」を国内外の主要製造拠点に開場している他、職長教育を中心とした階層別教育も行っております。

また、VR技術を活用し、多言語での解説を搭載したバーチャル映像と音を通じて事故の疑似体験をする安全教育も国内外のグループ会社に展開しております。

 

(18) 特許権や著作権等の知的財産権の侵害

(リスクの概要)

当社グループでは、事業戦略と知財戦略をマーケット志向と研究開発活動により、一層密着させ、戦略的な知的財産ポートフォリオの構築に取り組んでおり、創出された知的財産により事業競争力の確保、維持、強化をしております。

しかしながら、当社グループの技術等が、見解の相違等により他者の知的財産権を侵害しているとされる可能性や訴訟に巻き込まれる可能性があります。また、他者が当社グループの知的財産を不正使用することを防止できない可能性や侵害を防ぐための対応が成功しない可能性があります。

さらに、当社グループは、お客さまに印刷物や商品パッケージのデザインを提案する業務において、著作物を日常的に取り扱っております。そのため、当社グループが取り扱う著作物の権利について、事前かつ十分に処理状況を確認できなかった等の理由により、他者の著作権を侵害しているとされる可能性や訴訟に巻き込まれる可能性があります。

 

(主なリスク対応策)

当社グループは、新事業や新商品、新技術の研究・開発にあたり、グローバルな視点も含めて、他者の知的財産権を継続的に調査・経過観察することにより、他者の知的財産権を侵害するリスクを未然に防止しております。当社グループは、事業展開する国や地域に合わせた権利取得を行い、強固な知的財産ポートフォリオを構築することにより、当社グループの知的財産権が他者に侵害されるリスクを回避しております。

また、知的財産に関する階層別の社内教育を定期的に実施して、他者の知的財産権の尊重とその重要性について社内に周知徹底しております。さらに、著作権教育についても社内をはじめ、委託先である外部デザイナーに向けて定期的に実施し、事前かつ適切な著作権処理を徹底することにより、他者の著作権を侵害するリスクを未然に防止しております。

 

(19) 海外に関するリスク(規制法違反、地政学リスク、訴訟、労働争議、国際税務等、前各項に含まれない事項)

(リスクの概要)

当社グループは、グローバルに事業活動を行っており、今後とも海外市場への事業拡大を重点戦略の1つとして展開いたします。事業展開する国や地域における政治及び経済面における不安定さ、疫病及び大規模な災害の発生、労働争議や紛争の発生などにより、当社グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。また、海外子会社におけるガバナンス不全や社内管理の不備により、法規制への違反、外国公務員への贈賄や国際カルテルなどの不法行為、現地従業員による着服、不正会計、税制の変更や不適切な税務申告などが発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、地政学リスクという観点では、国際紛争や政治体制の変更による国際情勢の先行き不透明感が増しており、リスクは高まっております。加えて、そのような状況から派生した輸出入規制の強化、資金決済への制限など、当社グループのビジネスにも影響が及んでおります。紛争の長期化や激化、新たな戦闘や抗争による事業停止や撤退など、さらなる影響を受ける可能性があります。

(主なリスク対応策)

海外ビジネスに関するリスクを低減するためには、各海外子会社におけるガバナンス体制の構築と、その実効性の高い運用が重要であると考えております。そこで、当社グループでは、マネジメント全般、コンプライアンス、情報セキュリティ、人事、安全衛生、会計、税務、品質、環境、調達などについて「あるべき姿」を示し、それに基づき各海外子会社で体制・仕組みの構築と遵守・運用・実践を一体となって進めております。また、社内監査や会計監査などを実施し、指摘事項に対する改善指導を行い、より効果的なガバナンス体制の構築に努めております。

さらに、海外での事業開始前に、第三者機関が提供する事業環境リスク評価システムを活用したリスク評価を行うなど対応を強化するとともに、海外出張者・海外駐在員に対し、渡航前に安全教育やリスク管理・危機管理研修を実施しております。

地政学リスクについては、新興リスクの1つであり、新たなリスク対策・取り組みが必要とされております。これまでも情勢の変化を見ながら当社グループへの影響分析・評価を行い、特に重要な海外地域については綿密なBCP策定を行うなどの対策を講じておりますが、それに加えてカントリーリスクに関する各項目や情報の断続的モニタリングを行い、リスク変化に対してより柔軟に対処できる組織体制を整えるべく、現在準備を進めております。

 また、万一不測の事態が発生した場合には、全従業員の健康・安全確保を第一優先とする一方、サプライチェーンへの影響を極小化するよう、グループ全体で最適な事業環境を保てる施策を講じるとともに、内容の改善・見直しを継続していきます。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(業績等の概要)

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①  財政状態及び経営成績の状況

当期におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の行動制限解除に伴う経済活動の正常化に加え、インバウンド需要の持ち直しもあり、緩やかな回復基調となりました。一方で、世界的な金融引き締めによる景気の下押しリスクに加え、物価上昇や急激な為替変動など、先行き不透明な状況が続きました。

当社グループを取り巻く環境におきましては、情報媒体のデジタルシフトによるペーパーメディアの需要減少が続きましたが、生活様式の変化に伴うデジタル需要の増加や地球環境に対する意識の高まりなど、新たな需要が見込まれております。

このような環境の中で当社グループは、「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトに、社会やお客さま、TOPPANグループのビジネスを、デジタルを起点として変革させる「DX(Digital Transformation)」と、事業を通じた社会的課題の解決と持続可能性を重視した経営を目指す「SX(Sustainable Transformation)」を柱に、ワールドワイドで事業を展開しております。なお、当社はグループシナジーの最大化を図るとともに、経営資源の最適配分及び迅速な意思決定を可能とするため、2023年10月1日付で「TOPPAN株式会社」及び「TOPPANデジタル株式会社」に当社が有する権利義務の一部を承継させ、持株会社体制へと移行するとともに、商号を「TOPPANホールディングス株式会社」へ変更いたしました。

なお、各セグメントの内訳について、当期よりスタートしている新中期経営計画に基づく成長戦略に沿って名称及び区分定義を見直しております。報告セグメントの取扱いに変更はありません。

報告セグメント

前期の区分

当期の区分

情報コミュニケーション事業分野

セキュア

コンテンツ・マーケティング

BPO

デジタルビジネス

BPO

セキュアメディア

コミュニケーションメディア

生活・産業事業分野

パッケージ

建装材

高機能

パッケージ

建装材

 

以上の結果、当期の売上高は前期に比べ2.4%増1兆6,782億円となりました。また、営業利益は持株会社への移行に伴う一過性の統合費用の増加等により3.1%減742億円、経常利益は2.0%増828億円となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は22.2%増743億円となりました。

セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。なお、上記の持株会社への移行に伴う統合費用のうち、全社費用は各セグメントに配分しておりません。

 

a   情報コミュニケーション事業分野

デジタルビジネス関連では、デジタルギフトや金融系WEBシステム開発などのデジタルセキュアや欧州や中東を中心としたグローバルセキュア、流通・小売業界向けのリテールメディア開発などのデジタルマーケティングが増加し、増収となりました。メタバースの取り組みとしては、バーチャルモールアプリ「メタパ®」に、顧客企業独自の会員DBやチャットボットなどのオリジナル機能を実装することで、目的に合わせたメタバース運用を可能とするサービス「Powered by Metapa」の提供を開始いたしました。

BPO関連では、金融・行政・公共インフラ分野を中心に案件数は増加したものの、昨年度の一過性案件の反動により、減収となりました。

セキュアメディア関連では、ICカード関連が増加したものの、データ・プリント・サービスなどが減少し、減収となりました。

コミュニケーションメディア関連では、商業印刷やSP関連が減少したものの、ゲームカードや書籍などの出版印刷が増加し、増収となりました。

以上の結果、情報コミュニケーション事業分野の売上高は前期に比べ1.4%増9,000億円、営業利益は6.6%増456億円となりました。

 

b   生活・産業事業分野

パッケージ関連では、海外は、インドで豪雨による工場浸水被害や需給バランス悪化に伴う市場価格下落の影響を受けましたが、欧米やアジアで食品向けなどの需要が増加し、増収となりました。国内は、レンジ活用や脱アルミなどのニーズに対応した、世界最高水準のバリア性能を持つ「GL BARRIER」を用いたSXパッケージが拡大し、当事業全体で増収となりました。また、グローバルパッケージ事業の拡大に向け、Toppan Speciality Films社において基材フィルムからバリアフィルムまでの一貫生産体制を構築し、コストや品質面での競争力及びモノマテリアル化ニーズへの対応力を強化いたしました。

建装材関連では、海外は、欧米でのインフレによる住宅金利の上昇や中国経済減速の影響を受けましたが、新興国市場の開拓を進めた他、国内は、環境配慮型化粧シートや高意匠・高機能建材とソリューションサービスを組み合わせた空間演出ブランド「expace(エクスペース)」を拡販し、当事業全体で前年並みとなりました。

以上の結果、生活・産業事業分野の売上高は前期に比べ3.2%増5,374億円、営業利益は16.6%増274億円となりました。

 

c   エレクトロニクス事業分野

半導体関連では、半導体市況の回復が遅れる中、フォトマスクは、アジア向けの需要を取り込み堅調に推移したことに加え、高密度半導体パッケージのFC-BGA基板は、大型・高多層の高付加価値品が、データセンターのサーバー向けを中心に拡大し、当事業全体で増収となりました。

ディスプレイ関連では、全般的な市況は弱含みに推移する中、反射防止フィルムは、ノートPCやモニター向けの高付加価値品の需要を取り込み増加しましたが、TFT液晶パネルは、車載向けなどの需要が減少し、当事業全体では減収となりました。

新事業の創出に向けては、スイッチ1つで透明と不透明を瞬時に切り替えられる液晶調光フィルム「LC MAGIC™」や工場や施設における環境データの遠隔監視や設備保全業務を効率化するシステム「e-Platch™(イープラッチ)」の拡販に取り組みました。

以上の結果、エレクトロニクス事業分野の売上高は前期に比べ4.4%増2,665億円、営業利益は2.9%増495億円となりました。

 

財政状態の状況は、次のとおりであります。

当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ1,940億円増加2兆4,328億円となりました。これは現金及び預金が582億円、投資有価証券が572億円、受取手形、売掛金及び契約資産が165億円、機械装置及び運搬具が121億円、建設仮勘定が103億円、繰延税金資産が86億円、それぞれ増加したことなどによるものです。
  負債は、前連結会計年度末に比べ789億円増加8,655億円となりました。これは協力会社への支払条件の見直しなどにより電子記録債務が258億円、支払手形及び買掛金が157億円、それぞれ減少したものの、流動負債のその他に含まれる預り金が614億円、繰延税金負債が203億円、固定負債のその他に含まれる長期預り敷金保証金が153億円、未払法人税等が143億円、流動負債のその他に含まれる契約負債が100億円、それぞれ増加したことなどによるものです。
  純資産は、前連結会計年度末に比べ1,151億円増加1兆5,673億円となりました。これはその他有価証券評価差額金が513億円、非支配株主持分が234億円、為替換算調整勘定が220億円、利益剰余金が171億円、それぞれ増加したことなどによるものです。

 

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ752億円増加し5,228億円となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益1,259億円に減価償却費等の非資金項目、営業活動に係る債権・債務の加減算を行った結果、1,575億円の収入となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却及び償還による収入があった一方、設備投資などを行ったことから、86億円の支出となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得や配当金の支払、長期借入金の返済などを行ったことから、856億円の支出となりました。

 

 

(生産、受注及び販売の状況)

(1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

情報コミュニケーション事業分野

882,985

0.4

生活・産業事業分野

530,867

2.1

エレクトロニクス事業分野

267,693

4.6

合    計

1,681,546

1.6

 

(注) 上記金額は、販売価額によっており、セグメント間の取引につきましては相殺消去しております。

 

(2) 受注状況

当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

情報コミュニケーション事業分野

903,697

2.5

71,431

41.9

生活・産業事業分野

520,507

1.8

98,295

△8.3

エレクトロニクス事業分野

288,624

△25.1

192,603

13.2

合    計

1,712,829

△3.7

362,331

10.6

 

(注) 上記金額は、販売価額によっており、セグメント間の取引につきましては相殺消去しております。

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

情報コミュニケーション事業分野

882,620

1.3

生活・産業事業分野

529,443

3.3

エレクトロニクス事業分野

266,185

4.5

合    計

1,678,249

2.4

 

(注) 1  セグメント間の取引につきましては相殺消去しております。

2  相手先別販売実績につきましては、総販売実績に対する割合が10%以上の販売先はないため、記載を省略しております。

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

経営者の視点による当社グループ(当社及び連結子会社)の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成しております。この連結財務諸表の作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5  経理の状況  1  連結財務諸表等  (1)連結財務諸表  注記事項  (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)及び(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

(2) 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の売上高は、前連結会計年度に比べ、2.4%増1兆6,782億円となりました。

売上原価は前期比1.1%増1兆2,909億円売上原価率は1.0ポイント低下して76.9%となりました。この結果、売上総利益は前期比7.0%増3,873億円となりました。売上原価率は2020年3月期に80%を切った後、さらに4期連続で低減しております。総合的なコスト削減策が奏功したものですが、引き続き、組織のスリム化や生産の効率化、原材料調達の見直しなどに取り組んでまいります。

販売費及び一般管理費は前期比9.6%増3,130億円となりました。対売上高比率は18.7%で、前期の17.4%から1.3ポイント上昇いたしました。これは、人件費の増加129億円、持株会社体制移行に伴う一過性の統合費用46億円などによるものです。当社グループは現在、収益力強化に向けた事業構造改革を推進しており、引き続き最適な人員配置による外部委託費低減、総労務費の圧縮などに注力していく方針です。

営業利益は前期比3.1%減742億円となりました。売上高営業利益率は4.4%前期の4.7%から0.3ポイント低下しております。当社グループは、本業の収益力を測る指標として営業利益を重視しており、その拡大に向けた施策を今後も積極的に講じる方針です。

税金等調整前当期純利益は前期比15.0%増1,259億円となりました。これは、政策保有株式を含む保有資産価値の見直しを積極的に進めた結果、株高の影響もあり、投資有価証券売却益が187億円増加したことなどによるものです。

以上の結果、非支配株主に帰属する当期純利益を控除した親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比22.2%増743億円となり、1株当たり当期純利益は前期の185円7銭から231円57銭に増加いたしました。

利益率は、総資産当期純利益率(ROA)が前期の2.7%から3.2%へ、自己資本当期純利益率(ROE)が前期の4.5%から5.4%へ、それぞれ上昇いたしました。

 

セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

情報コミュニケーション事業分野の総資産は1,911億円22.7%)増加し、1兆325億円となりました。生活・産業事業分野の総資産は328億円6.3%)増加し、5,576億円となりました。エレクトロニクス事業分野の総資産は355億円11.6%)増加し、3,427億円となりました。

なお、セグメント別の経営成績については「第2  事業の状況  4  経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析  (1)経営成績等の状況の概要  ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

当社グループの運転資金は主に製品製造に使用する原材料や部品の調達に費やされており、売上原価や販売費及び一般管理費に計上される財・サービスに対しても同様に費消されております。また、設備投資資金は、生産設備取得等生産体制の構築、情報システムの整備等に支出されております。

これらの必要資金は、主に手元のキャッシュと営業活動によるキャッシュ・フローから創出し、必要に応じて柔軟的かつ機動的に借入や社債発行等により調達しており、資産効率の向上と今後の持続的な成長を実現させるため、M&Aなどの事業投資を含む成長投資や構造改革等の投資財源へ充当してまいります。

また、当社グループは手元流動性残高から有利子負債を控除したネットキャッシュの水準を重視した資金管理を実施しており、必要な流動性資金は充分に確保しております。これらの資金をグループ内ファイナンスで有効に活用することにより、効率的な資金運用を図っております。

これらの方針により、持続的成長に向けた投資の強化、構造改革の推進及び安定的な株主還元のバランスをとり、財務健全性との両立を重視した運営を堅持してまいります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 技術導入契約

契約会社名

契約先

契約の内容

契約発効日

技術料

TOPPANホール
ディングス㈱

(当社)

九州ナノテック光学㈱

液晶調光フィルムに関する
技術

2016年5月10日

頭金及び売上高に対し一定率

 

 

(2) 技術供与契約

該当事項はありません。

 

(3) 技術導入契約の終了

契約会社名

契約先

契約の内容

契約発効日

契約終了日

凸版印刷㈱
(当社)

インターメック アイピー

(アメリカ)

RFIDインサート及び
RFIDタグに関する技術

2005年9月1日

2023年9月8日

 

(注)  当社は、2023年10月1日付でTOPPANホールディングス株式会社に商号変更しております。

 

(4) 吸収分割契約

 (TOPPAN株式会社に対する吸収分割に係る吸収分割契約)

当社は、2023年3月9日開催の取締役会において、2023年10月1日を効力発生日として、当社が営む一切の事業(但し、グループ経営管理事業(当社が株式又は持分を保有する会社等の事業活動に対する支配又は管理並びにグループ経営戦略としての新事業開発に必要な業務及び当社を上場会社である持株会社として運営するために必要な業務に係る事業を含みます。)並びに当社のDXデザイン事業部が営む事業を除きます。)に関して有する権利義務の一部を、当社の完全子会社かつ分割準備会社として設立したTOPPAN株式会社に吸収分割の方法により承継させることを決議し、2023年4月27日付で、当該吸収分割に係る吸収分割契約を締結いたしました。

詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載のとおりです。

 

(TOPPANデジタル株式会社に対する吸収分割に係る吸収分割契約)

当社は、2023年3月9日開催の取締役会において、2023年10月1日を効力発生日として、当社のDXデザイン事業部が営む事業に関して当社が有する権利義務の一部を、当社の完全子会社かつ分割準備会社として設立したTOPPANデジタル株式会社に吸収分割の方法により承継させることを決議し、2023年4月27日付で、当該吸収分割に係る吸収分割契約を締結いたしました。

詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載のとおりです。

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、「人を想う感性と心に響く技術で、多様な文化が息づく世界に。」というグループ共通の価値観を表す「TOPPAN's Purpose & Values」に基づき、「Digital & Sustainable Transformation」をキーコンセプトとして、ビジネスモデルを進化させるため、総合研究所を中心に、事業会社の技術関連部門及びグループ会社が連携して研究開発を進めております。各事業分野の新商品開発に注力するとともに、各研究開発部門、知財関連部門が一体となって進める技術開発により、コストダウン及び品質ロスミス削減によるさらなる収益力の強化を図っております。また、次世代分野についても総合研究所を中心に産官学との連携を図り、中長期の新規事業創出に努めております。

当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は27,824百万円であり、セグメントにおける主な研究開発とその成果は次のとおりであります。なお、研究開発費につきましては、当社の本社部門及び総合研究所で行っている基礎研究に係る費用を次の各セグメントに配分することができないため、研究開発費の総額のみを記載しております。

 

(1) 情報コミュニケーション事業分野

当社グループでは、価値共創パートナーとして顧客のデジタル変革を支援し、高い成長を実現するErhorht-X(※1)を推進しております。

物流・運送業界では、貨物取り扱い件数が年々増加する一方、トラック輸送の時間外労働規制の強化による2024年問題や少子高齢化を原因とする人手不足が深刻化しております。この課題に対応するため、新たに次世代ZETA(※2)規格「Advanced M-FSK変調方式」対応の新型「ZETag®(ゼタグ)」を開発いたしました。新型「ZETag®」は従来品と比較して10倍以上(10dB以上)の感度と、20倍以上の転送速度、500~4,000m(最長通信距離は従来品の約2倍)の通信距離を実現いたしました。これにより、高速移動により電波形状が変化しやすく読み取りが難しかった輸送車両などへの活用や、これまで電波が届きにくかったエリアでの読み取りが可能となる他、基地局の設置数を少なくすることができ、より効率的な業務管理を実現いたします。これを活用してパレットやカゴ車など物流・輸送機器の他、トラックなどの輸送車両の所在も自動で管理・可視化することにより、管理業務の負担軽減や円滑な荷役作業を実現するなど、物流業務の効率化を支援いたします。

生産現場においては、機械設備のトラブルを未然に防ぐために人手による定期点検及び予防保全が行われており、多大なリソースが掛かっております。このため、センサによる機械設備の常時監視・予防保全のニーズが高まっており、日本精工株式会社(NSK)と共同で温度センサ搭載RFID(※3)タグを活用した産業機械設備向け保全管理システムの開発に取り組んでおります。NSKの産業機械設備のノウハウと当社グループのRFIDタグの設計技術を掛け合わせることで、産業機械設備向けの新しい保全管理システムを実現し、産業機械や設備の点検・保守履歴の見える化による作業効率向上や、現場で保守履歴・温度推移が確認可能になることによる予防保全の効率化を目指してまいります。

医療現場では、医療技術の高度化や医療制度の複雑化、また医療安全などの観点から多くの説明業務があり、実際の医療提供業務を圧迫しております。デジタルクローン技術を活用してインフォームドコンセント等を支援するサービス「DICTOR™(ディクター)」のα版を北海道大学病院と共同で開発し、2023年9月から医療DXに取り組む複数の医療機関にて実証実験を行っております。「DICTOR™」の開発にあたっては、当社グループの持つアバター生成技術「MetaClone®アバター(※4)」と顧客管理・ID管理を中心とした管理データベース・システム構築のノウハウを活用しております。医師は予め自身の動画と声を登録し、デジタルクローンを生成することで、その後は説明テキスト文の入力のみで、患者や症状に合わせた説明動画が作成できます。患者自身にとっても通常の診察室での説明に加え、繰り返しの視聴や家族とのシェアが可能となり、理解度の向上が期待されます。今後も2024年4月より施行された「医師の働き方改革」の推進と患者市民参画型の医療DXプラットフォームの構築を目指します。

 

製造現場では、常に設備保全の効率化や製造工程の最適化が求められております。2022年4月に内閣府が発表した「量子未来社会ビジョン」において、量子技術の研究開発・社会実装の取り組みを加速・強化し、我が国産業の成長機会の創出・社会課題解決等に対応することが喫緊の課題であることが示されました。その中で、当社グループでは、量子カーネルを用いた機械学習を製造現場で稼働している複数の製造装置の異常検知に適用し、設備保全及び製造工程の最適化に活用する研究開発を進めており、NEDOの「量子・AIハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業」における「量子・AIアプリケーション開発・実証」委託事業に採択されました。これまでも「量子カーネル」による機械学習に関する研究論文発表(※5)や光量子計算に関する研究、耐量子計算暗号を搭載したICカードの開発など、量子に関する研究と開発を行いながら製造DXを推進しております。今後も量子AIの研究開発を加速し、量子技術の社会実装に貢献いたします。

 

(2) 生活・産業事業分野

当社グループでは、脱炭素社会、循環型社会の実現に貢献するべく、環境ニーズを捉えたSX商材・サービスの提供を行っております。特にパッケージを起点とした当社グループのサステナブルブランド「SMARTS™(スマーツ)(※6)」を掲げ、社会課題に対応したパッケージの開発を推進しております。

脱炭素社会については、軽量でプラスチック使用量を削減できる液体用紙容器は酒類やトイレタリー分野など日常で使用されている製品で数多く採用されております。そのような中、当社グループは株式会社J-オイルミルズが販売する食用油「スマートグリーンパック®」シリーズの紙パックに採用された「液だれ防止機能キャップ」の開発で、公益社団法人日本包装技術協会が主催する第47回木下賞(※7)「改善合理化部門」を受賞いたしました。従来の紙容器において課題であった口栓からの油だれに対し、口栓の注出部を液だれに有効なカール形状にすることで、内容物の「液だれ防止」を実現いたしました。また、用途に応じて注ぐ量を変えることができる可変性と、ヒンジ構造による利便性を付与したことで、さらなるユーザビリティの向上を実現いたしました。

また、昨今の世界経済情勢の影響を受け、電力・ガスをはじめとするエネルギーコストが高騰し、アルミ箔の価格も連動して高騰しております。CO2排出量削減という社会課題に対して、アルミ箔は製造工程で多くのCO2を排出しているため、食品や日用品のパッケージにおけるアルミレス化は社会課題となっております。このたび、折り曲げた状態を維持できるデッドホールド性を保持する用紙を開発し、カップ麺等に向けたアルミ箔使用材質構成と同等のリクローズ性能を有するアルミレス蓋材を開発いたしました。また、製造時のCO2排出量を従来のアルミ箔を使用した材質構成と比較して約32%削減(※8)が可能です。

循環型社会の実現については、環境負荷の少ない包装材料の開発と併せて、軟包材フィルムの水平リサイクルにも取り組んでおります。日本政府が提唱するプラスチック資源循環戦略では、プラスチック資源について、2025年までにリユース・リサイクルが可能な材質構成に置き換えること、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクルすること、プラスチック資源の再生利用を倍増することなどのマイルストーンが策定されております。TOPPAN株式会社、三井化学東セロ株式会社、三井化学株式会社の3社は、2025年度の社会実装を目指し、TOPPAN株式会社で発生する印刷調整時のOPPフィルム廃材を三井化学株式会社が回収・印刷除去・造粒を行い、三井化学東セロ株式会社が再生OPPフィルム化を行う共同実証を実施しております。さらに、TOPPAN株式会社は再生フィルムの印刷適性やラミネート適性、製袋・充填適性など、品質評価の役割も担っており、日本政府のマイルストーンに沿って、軟包材の水平リサイクルを推進してまいります

また、住宅や非住宅に使用される外装建材においても、環境負荷軽減の観点から、より長期間使用できる耐性が求められております。しかしながら、材料の性質上、高耐候性能と建築基準法で求められる不燃性能を両立させることは困難でありました。当社グループは、今まで培われた約20年間の外装用シートに対する知見により、独自の高耐久性能と、アルミ型材へのラミネートにより不燃認定を受けられる材料を開発いたしました。「フォルテフィール™ RZ」は、シートを構成する接着層とインキ層に対して、新たに特殊な材料と添加剤をブレンドし開発した新規耐加水分解性樹脂を搭載することによって、今までにない耐候性・耐久性の大幅な性能向上(当社従来品比1.5倍)を実現いたしました。また、アルミ型材へラミネートすることで、国土交通省より不燃認定されている「NM-5462(1)(※9)」の条件を満たしております。さらに、一般的な環境試験やオリジナルの促進耐候性試験と実曝露試験との関連性を検証した結果から、日本国内において初の退色及び劣化に対する10年間保証を可能といたしました。このように建装材分野においても環境負荷を低減できる商材を提供し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 

(3) エレクトロニクス事業分野

当社グループでは、これまで独自に培ってきた技術力を基盤として、多様化する二ーズに対応した独創的なキーデバイスを供給することで事業価値の最大化を図っております。

2016年より提供しているスイッチ1つで透明と不透明を瞬時に切り替えられる液晶調光フィルム「LC MAGIC™(エルシーマジック)」とAGC株式会社のガラスを組み合わせて世界初の調光サイドウィンドウガラスを開発いたしました。車載用途では従来の建材用途よりも厳しい環境に対応できる耐久性が要求されますが、液晶や電極の見直しを行い、ガラスの中間膜成分や外部の水分による液晶の透明化といったダメージを防ぐことができる独自の外周封止技術を確立し、自動車のサイドウィンドウに適合する性能を獲得いたしました。さらに、瞬時にON/OFFの切り替えができることで、車内居住空間の快適性向上も可能となり、このたびトヨタ自動車株式会社の「センチュリー」に採用されました。今後も「LC MAGIC™」の車載向け黒色グレード「ノーマルブラック」の改良や量産化技術を進め、各種自動車への搭載を目指します。

また、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギーの活用等の取り組みが進められておりますが、特に水素は地球上に豊富に存在する「水」から生成可能で、CO2を排出しないエネルギー源であり、その活用への期待が高まっております。水素の社会実装において、CCM/MEAは水素を製造する水電解装置、水素の貯蔵や運搬に関わる電解槽、そして水素を利用する燃料電池において、中核となる重要なデバイスであり、高いエネルギー変換効率と耐久性、市場への安定供給が求められております。当社グループは2004年からCCM/MEAの研究開発に取り組んでおります。今般、大型カラーフィルタの製造で培った塗工技術や搬送技術などの活用により、高性能・高品質なCCM/MEAを枚葉式で量産する体制を構築し、2023年8月より販売を開始いたしました。特徴としては電解質膜の両面に触媒インクをダイレクトコーティングするという世界初の製造方式により、電解質膜と触媒層の密着性を高め、高いエネルギー変換効率を実現いたしました。これらの技術開発に当たっては知財戦略とも連動させており、強力な特許とノウハウの蓄積により、競争優位性を確立しております。今後、水素を「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」の全領域にCCM/MEAを展開することで水素社会を実現し、カーボンニュートラルへ貢献いたします。

 

(4) その他(新事業)

当社グループでは、ヘルスケアやライフサイエンス、エネルギー等の事業を新事業と位置づけ、新たな柱を開拓するための研究開発・事業開発を推進しております。

厚生労働省によると、65歳以上の認知症患者の数は2025年には約700万人と予測され、高齢者の約5人に1人が該当し、喫緊の社会課題になっております。北海道大学の認知症に関する診断技術の研究を包括的に行う認知症研究拠点と連携する、産業創出部門「認知症包括研究部門」を北海道大学と共同で開設し、当社グループの高感度蛍光検出技術「Digital ICA®(デジタル アイシーエー)(※10)」と、北海道大学の学術的知見を融合し、早期のアルツハイマー病を検出する技術の開発をはじめとする認知症に関する研究を進め、認知症の診断・治療の発展に貢献いたします。

また、抗がん剤評価においては、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授と共同で開発した独自バイオマテリアルによる3D細胞培養技術「invivoid®(インビボイド)」を用いた共同研究が広がっております。がん患者の組織から再構築した3D細胞である「がん患者アバター」が従来の抗がん剤評価で用いるマウスを代替できる可能性が示唆されており、国内ではがん研究会と複数の抗がん剤を曝露して得られた効果と、実際に患者に同じ抗がん剤を投与して得られた効果との比較を行う臨床研究を開始いたしました。海外でも米国のMDACC(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)が研究を進めている「免疫治療薬」評価において、免疫機能を付与した「がん患者アバター」をモデルとした新しい免疫治療薬の評価を実施しております。これを通じて今後の米国における研究活動を通じ、CLIA認証(※11)を取得し、米国でのがん検査事業を立ち上げ、個々の患者ごとに最適な抗がん剤を選択するがん個別化医療の提供を目指します。

 

持続可能な社会の実現に向け、地球温暖化や食糧問題の解決には、これまで以上に植物の力を活用することが有効と考えられており、植物を改良するためのゲノム編集技術に期待が集まっております。植物におけるゲノム編集では、植物に対して予期しない問題を引き起こすリスクや社会的高度な技術の蓄積を必要とするため、本格的な普及には至っておりません。TOPPAN株式会社、産業技術総合研究所、株式会社インプランタイノベーションズは共同で、チタン酸カリウムからなる針状結晶(ウイスカー(※12))と超音波を活用して、ゲノム編集ツールであるCRISPR-Cas9(※13)のリボヌクレオタンパク質(RNP)を植物へ導入する新しいゲノム編集手段として、ウイスカー超音波RNP法を開発いたしました。本技術は、一般的に形質転換が難しい植物に対して、DNAを全く用いないでゲノム編集を行う基盤を構築する新たな一歩であり、2023年9月7日(日本時間)に「Scientific Reports」に掲載されました(※14)。今後はゲノム編集の効率化や多くの植物への適用を検討し、社会にとって安心・安全なゲノム編集品種の作製のための技術基盤を提供していきます。

近年バイオエタノールは、カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車燃料や化学品用の原料などさまざまな用途での利用が期待されております。2021年より当社グループは、古紙を原料とした国産バイオエタノール事業の立ち上げについて、ENEOS株式会社と共同で検討を続けてきました。具体的には当社グループが開発している、防水加工された紙やノーカーボン紙等の難再生古紙を原料とする前処理プロセスと、ENEOS株式会社が開発している、エタノールの連続生産プロセスとの組み合わせによる製造効率の向上について検討してきました。このたび共同開発契約を締結し、古紙を原料とした国産バイオエタノールの事業化に向けた実証を開始し、事業採算性を見極め、2030年度以降の事業化を目指します。

 

(※1)Erhorht-X

      当社グループ全体で、社会や企業のデジタル革新を支援するとともに、当社自体のデジタル変革を推進するコンセプト。DX事業においてイノベーションを創出し、社会やお客さまのデジタル変革を推進し、それを通してSDGsの実現、脱炭素社会の実現など「SX」にも貢献していく。

(※2)ZETA

超狭帯域(UNB: Ultra Narrow Band)による多チャンネルでの通信、メッシュネットワークによる広域の分散アクセス、双方向での低消費電力通信が可能といった特長を持つ、IoTに適した最新のLPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク規格。LPWAの規格の1つであるZETAは、中継器を多段に経由するマルチホップ形式の通信を行うことで、他のLPWAと比べ、基地局の設置を少なくでき、低コストでの運用が可能な方式として注目されている。

(※3)RFID

Radio frequency identificationの略。電波を用いて非接触でデータを読み書きする技術。

(※4)MetaClone®アバター

TOPPAN株式会社が提供する、顔写真等から短時間でフォトリアルな3Dアバターを自動生成することができるサービス。AIと3D復元技術を組み合わせることで、様々なケースに合わせたアバターを提供することができる。

(※5)研究論文発表

掲載誌: EPJ Quantum Technology(発行:英国 Springer Nature社)

タイトル: Performance of quantum kernel on initial learning process

著者名: Takao Tomono, Satoko Natsubori

URL: https://doi.org/10.1140/epjqt/s40507-022-00157-8

(※6)SMARTS™

パッケージを起点とした当社グループのサステナブルブランド。パッケージで培った技術・ノウハウに、マーケティング・DX・BPOなどのリソースを掛け合わせ、バリューチェーンに沿った最適な選択肢を提供する。

(※7)木下賞

公益社団法人日本包装技術協会(JPI)が主催し、JPI第2代会長である故木下又三郎氏の包装界に対する功績を記念して設定された表彰制度。本賞は、包装技術の研究・開発に顕著な業績をあげたものや包装の合理化・改善・向上に顕著な業績をあげたものに与えられる。

 

(※8) CO2排出量

当社算定。アルミ箔を使用した蓋材との比較。算定範囲はパッケージに関わる①原料の調達・製造 ②製造 ③輸送 ④リサイクル・廃棄。

(※9) NM-5462(1)

不燃材料として発熱性試験及びガス有害性試験において要求されている性能を有しており、国土交通大臣が定めたもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの。

(※10)Digital ICA®

基板上に設けられた100万個の微小なウェルと検出試薬を用いて、ウェルにDNA・タンパク質・ウイルス・エクソソームなどの生体分子を1分子ずつ分配し、1分子単位で検出する方法。

(※11)CLIA認証

CLIA(Clinical Laboratory Improvement Amendments)は1988年に米国で制定された法律の一部で、米国の医療機関のラボで実施する臨床検査の品質が品質基準を満たしていることを証明するもの。これにより患者と医療提供者は、検査結果が信頼できることを確認できる。

(※12)ウイスカー

細長い針状結晶で、植物細胞に「刺して」孔を開けるために使われる。直径数マイクロメートル、長さ100マイクロメートル程度の大きさで、炭化ケイ素やチタン酸カリウムなどの素材が用いられる。本研究では、チタン酸カリウムのウイスカーを用いている。

(※13)CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)

ゲノム編集因子の中で最もよく用いられている因子。ゲノムを切断するCas9タンパク質と切断箇所を指定するガイドRNAが複合体を形成して機能する。

(※14)論文掲載

掲載誌: Scientific Reports

タイトル: The sonication-assisted whisker method enables CRISPR-Cas9 ribonucleoprotein delivery to induce genome editing in rice

著者:Akiyoshi Nakamura, Tsubasa Yano, Nobutaka Mitsuda, Maiko Furubayashi, Seiichiro Ito,

Shigeo S. Sugano, Teruhiko Terakawa

DOI: 10.1038/s41598-023-40433-w