文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであり、実際の業績等は異なることがあります。
(1)会社の経営の基本方針
当社は、430年の歴史を刻む住友グループの総合不動産会社であり、「信用を重んじ、浮利を追わず」という住友の事業精神を受け継ぎ、従業員、顧客、取引先、債権者、株主等のステークホルダーに対し、当社の企業姿勢を示すスローガンとして「信用と創造」を掲げております。これには、何よりも「信用」を大切にして「浮利を追わず」に、開拓精神を持って新しい企業価値を創り出す、デベロッパーとしての矜持を込めております。
このスローガンのもと、「よりよい社会資産を創造し、それを後世に残していく」ことを基本使命とし、各事業を通じて、環境をはじめとする様々な社会課題の解決に貢献しつつ、企業価値の最大化を目指すことを経営の基本方針としております。
(2)中長期的な経営戦略、目標とする経営指標及び対処すべき課題
①収益基盤強化のため、東京都心における賃貸ビル投資を継続推進
当社のこれまでの成長を支えてきた原動力は、東京都心のオフィスビルを中核とした不動産賃貸事業です。営業利益は当社全体の7割近くを占め、まさに、大黒柱として企業価値の根幹を成しております。
当社は、新宿住友ビル(通称三角ビル)が完成した1970年代初頭からおよそ半世紀にわたり、東京都心に特化したオフィスビル開発を推進、事業基盤を拡充してまいりました。これまでにバブル崩壊やリーマンショックなど未曾有の経済危機と、バブル景気やアベノミクス景気といった様々な環境変化を経てきましたが、当社は首尾一貫して、①資産売却による一時的な利益を追わず、②開発用地を自ら創り出して建設したビルを、③保有賃貸して長期安定的な賃貸収益を蓄積するという経営方針を貫き、継続してまいりました。その結果、現在、東京都心で230棟超の多様なポートフォリオを誇るビルオーナーに成長いたしました。
オフィスビル賃貸事業は、用地取得から商品企画、テナント募集や入居テナントへのサービス、管理に至るまで、総合的な事業遂行能力を必要とします。その中でも、用地取得は最も重要で、当社は、土地を買いまとめたり、地権者の権利関係を調整する再開発の手法で、言わばメーカーのようにビル用地を創り出してきました。加えて、ビル管理やテナント募集でも、自社で行う直接主義を重視し、顧客や現場の実態を的確に把握した上で、常に商品企画の改善や業務の効率化などに鋭意取り組んでまいりました。その結果、高い収益性を実現し、保有不動産の資産価値を高め、企業価値を増大させてまいりました。
コロナ禍を契機として働き方が多様化し、テレワークの活用も広がりましたが、同時に東京都心のオフィスの重要性も再認識されております。当社は引き続き、後述の第九次中期経営計画において目標に掲げている、延床面積70万坪超(2022年3月末時点賃貸延床170万坪の4割強)の東京都心における新規ビル開発計画を着実に推進し、これらを順次完成、稼働させることにより、さらなる収益基盤の拡大、企業価値の向上を目指します。
②「持続的成長戦略」の積極的見直し
当社は、昨年5月にコロナ禍脱却と経済正常化を受けて「持続的成長のための基本的な経営戦略と中長期見通し」を公表いたしましたが、1年が経過し、社会・経済情勢など事業環境が大きく変動する中で、主要事業は着実に回復・改善し、24/3期決算は当初目標を達成、次期中期経営計画での経常利益3千億円達成が見通せるようになりました。
このように事業を進めるうえでの土台が守りから攻めへ固まってきたことに加え、その先の持続的成長を支える国内最大級の基幹開発案件が都市計画決定されるなど大きく事業化に前進し、また、将来の更なる成長・発展への大きな種蒔きとなるインド・ムンバイ中心部での大型複合開発用地の獲得もできました。当社は、このような成長のための具体的な案件に積極投資を続けることで、次期中計での経常利益3千億円を通過点とし、更なる高みである4千億円を目指し事業の拡大に邁進してまいります。
今般、これらの要素を織り込み、今後の方針について積極的な見直しを行い、2024年5月9日に公表いたしました。公表した内容につきましては、以下の通りであります。
イ.主力事業は回復軌道、次期十次中計で経常利益3千億円達成の見通し
・オフィスビル賃貸事業
既存ビルは、コロナ禍中の2022年時点から既にオフィス回帰が始まり、契約が解約を上回り始め、その傾向は23年、24年と強まり続けています。また、管理コスト増に伴う価格転嫁が受容され始めたことを皮切りに、インフレ下における本格的な賃料値上げの実現も現実味を増してきています。
さらに、「住友不動産東京三田ガーデンタワー」、「住友不動産中野駅前ビル」、「住友不動産新宿南口ビル」など九次中計竣工物件のフル寄与による増収増益が加わり、十次中計以降オフィスビル賃貸事業の伸長が期待できる情勢となっています。これに加え、コロナ禍の直撃を受けていたホテル・イベントホール事業などが回復軌道に戻り、物件によってはコロナ前の収益を上回るようになってきました。
・分譲マンション事業
コロナ禍で高まった住宅への関心が需要を底上げした結果、価格の上昇を吸収しつつ、依然として販売好調を維持しています。
用地取得の難しさや工事費の高騰、そして上昇した価格がマーケットに受け入れられ続けるかなど、留意すべき点はあるものの、用地については向こう6年分を確保していること、また、十次中計までに計上予定の物件は既に工事費確定済であることから、マーケットの状況に臨機応変に対処できる余地を持っている点が、当社ならではの強みになると考えています。
ロ.経常利益3千億円達成を見据えた経営戦略の積極的な見直し
・配当倍増を2年前倒し
毎年の持続的増配ペースを一株当たり7円から10円に引き上げ、昨年掲げた「7年以内に倍増、100円配」を2年前倒しで実現します。
(24/3期は60円、以降毎年10円増配し、28/3期には100円配へ)
当社は、市況に左右される資産売却益に依存せず、安定収益であるビル賃貸料を収益の要にしています。前述の通り、賃貸事業の見通しの回復・改善傾向が明らかとなり、経常利益3千億円突破への足取りがはっきりと見えてきましたので、株主還元を一段と強化し、持続的増配のペースアップを行うものです。
経常利益3千億円突破後も、利益の増加状況を考慮し適切かつ積極的な株主還元を継続してまいります。
・政策保有株式の縮減進展、10%以下とする目標を3年前倒し
政策保有株の比率を10%以下とする目標を3年前倒し、28/3期末までの達成を目指します。
(株主資本に対する政策保有株の比率は22/3末で18.4%、23/3末で16.6%、24/3末で14.2%と着実に低下)
政策保有株式については、「良好なパートナーシップ※」の強化に資するもので、長期的に当社事業にプラスの効果が期待できるものは引き続き保有を継続する一方、保有意義の低下した株式は計画的に売却してまいります。前期末に純投資に区分した株を含む株式の売却益は、不動産開発で通常発生する解体除却損や、事業効率化のための整理損、従業員の生産性向上のためのDX投資、環境に配慮するためのGX投資に充当するなど、持続的成長のために有効活用してまいります。
※「良好なパートナーシップ」
当社は、オフィスビル賃貸や分譲マンション事業を進めるにあたり、ゼネコンさん・サブコンさんを単なる発注先と捉えるのではなく、共に事業を行うパートナーと考えています。
ゼネコンさん・サブコンさんとの政策保有を背景とする安定した受発注を通じてもたらされる継続的かつ強固な関係は、相手の立場から見れば、資材や施工要員を長期にわたり安心して確保する動機となり、当社からみれば、進行中の工事費高騰・工期長期化の事業リスクを軽減し、計画的・安定的な着竣工によって当社事業の安定化が図れるという果実を得ています。
・事前警告型の買収防衛策は更新しない
当社グループはこれまで、ビル賃貸事業を中核として、中長期にわたりオフィスビル開発事業を続けることによって、持続安定的な成長を目指してきました。その成長途上において、短期的視野で資産売却による一過性利益の獲得を目的とする、言わば「金の卵を産む鶏を食べてしまう」という悪意ある買収行為から株主利益を守るために、防衛策を導入し、継続してきました。
昨年、経済産業省や金融庁において企業買収の在り方を見直す動きが進展したのに加え、前述の十次中計、またそれ以降の見通しにもある通り、企業価値に直結する当社自身の事業規模や収益力が拡大、安定度が増す中、成長ステージに一定の進展があったと判断し、今般、次回2025年6月の更新を行わないことといたしました。
・人的資本への積極的投資の継続
当社グループが持続安定的に成長するためには、活躍する従業員の存在が欠かせません。そのため当社グループは、成長の果実を先ず従業員に還元する「従業員ファーストの経営」と「グループ一体経営」を目指しています。
そのためには、人的資本に対する公正かつ効率的な投資が欠かせませんが、旧来の新卒一括採用や年功序列といった制度では対応しきれないのが実情です。
そこで当社は、グループ全体でキャリア職を通年採用し、多岐にわたる職種ごとに、その職責と実績によって年収を定めるジョブ型に近い給与制度に切り替えるなど、キャリア職中心の人事制度を中核に据え、積極的な登用を積み重ねてきました。その結果、現在従業員の90%、管理職の60%がこうした高いモチベーションに支えられたキャリア採用出身者で占められ、性別や新卒・中途の別によらない多様性に富む人員構成が実現し、それが当社グループの成長の原動力となっています。
今後も、個々の従業員の能力・実績に応じた評価制度に加え、生産性向上のためのDX投資、教育投資など、人的資本への積極的投資を継続してまいります。
・グリーンファイナンスを総額1兆円から2兆円へ倍増
社会的要請の高い環境性能に優れた賃貸資産に対し付与される「DBJ Green Building認証」が、24/3末時点、76棟・延110万坪超で取得済となりました。九次中計では、グリーンファイナンス調達枠1兆円を設定しましたが、人気が高く早々と上限に到達しつつあるため、調達枠を2兆円に倍増いたしました。引き続き環境に配慮した優れた物件開発と、その性能の維持・向上に努めてまいります。
ハ.3千億円を通過点とし、更なる高み4千億円へ
当社は、東京都心の大規模再開発事業を成長の最大のエンジンとしています。六本木五丁目、八重洲、築地、六本木三丁目、池袋、飯田橋など進行中の案件が豊富で、当社所有予定延床200万㎡に、投資済額を含め2兆円を投じます。
第2のエンジンとして、インド・ムンバイの都心に投資済額を含め7千億円を投じます。ムンバイは交通インフラの整備が急ピッチで進められ、将来、東京都心部に匹敵するビジネスエリアに進化する可能性を強く感じさせる中、計画延床130万㎡超のプロジェクトが動き出しています。
2都市合わせて330万㎡超、2兆7千億円の成長・開発投資案件により、経常利益4千億円への道筋が見えてくると考えています。
トピックス① 日本最大級の市街地再開発「六本木五丁目再開発」が都市計画決定
「六本木五丁目西地区」再開発※が本年3月に都市計画決定しました。地上66階・高さ327mのオフィス中心のタワー延80万㎡を核とし、約1,000戸の住宅やホテル・商業などを併設する総延床108万㎡の日本最大級の再開発事業(総事業費8千億円規模)が緒に就きました。周辺の開発群との相乗効果により、東京駅周辺「大丸有」地区に比肩しうる都心中核エリアへの発展が期待できます。
※森ビルと共同参画する市街地再開発事業
トピックス② インド・ムンバイ中心部で大型複合開発用地を獲得
既に2022年までに取得済みのBKC地区2物件(合計延床26万㎡、1棟目は着工済、2棟目は年内着工予定)に加え、2023年10月にインド・ムンバイの中心部「ワーリー地区」の大型複合開発用地(開発可能延床100万㎡超)を獲得いたしました。
この結果、単なる賃貸ビルオーナーとしてではなく、面的複合開発を持続的に推進する総合デベロッパーとしての立場を確立する大きな橋頭堡を築くことができました。
ムンバイ市中心部の真ん中ということもあり、地下鉄や高架道路の整備を集中的に行っているマハラシュトラ州及びムンバイ市行政当局からも積極的な支援表明をいただいており、インド並びにムンバイの発展に貢献するため、力を合わせながら、総延床100万㎡を優に超える大型開発をアイコニックなものとすべく、本事業を進めてまいります。
トピックス③ 生まれ変わった「新宿住友ビル」
「新宿住友ビル」は1974年に竣工し、今年築50年を迎えました。当社のポートフォリオの中で最も古いこのビルを、建て替えではなく再生する選択肢を選びました。足元に大屋根をかけ、天候に左右されない大規模イベントを開催できるようにし、最上階にあったレストラン街を1~2階に移転して、オフィスフロアに再整備しました。設備を一新し、長周波地震に備える耐震性を強化しました。
この50年間の累計キャッシュフロー(償却前営業利益)は4千億円を超えており、80年代の高金利時代からバブル崩壊やリーマンショック、アベノミクス景気まで様々な経済変動を乗り越えながら、50年経った今もなお年間100億円を超える賃貸キャッシュフローをもたらす旗艦ビルの一つです。
東京都心での賃貸ビル事業が長期にわたり安定収益をもたらし、
また、それを保有することが投資効率から見ても優れている点について
1. 都心に向かってJR線、地下鉄などの鉄道網や道路等の公共インフラ施設が効率よく緻密に整備されていることに加え、こうした利便性の高い都心ほど常に最先端スペックの大型再開発ビルがスクラップアンドビルドで建設、供給されており、都心とその価値が揺るがないこと。
2.金融・IT・通信のみならず、素材・半導体を始めとするメーカー、人材派遣・小売・エンターテインメントなどのサービス業など多彩な業種の企業が、大手からベンチャーに至るまで東京に集中・集積していること。
業種ごとに好不況はあっても、常に新陳代謝を伴いながら、借り手となる企業の多種多様なニーズが新たに生まれている。都内各所に200棟超の大小様々なビルを運営している当社の賃貸ポートフォリオは、多様性のあるニーズの受け皿として最適で、長期にわたり安定収益をもたらしている。
3.賃貸資産を売却し、その資金でさらに多くの開発に再投資を行うという選択肢を排除するものではないものの、目下東京におけるビル投資は売却益に頼らずとも充分な収益性を担保する事業になっている。例えば、前述の竣工50年を経過した「新宿住友ビル」は年間100億円のキャッシュフローを上げる、まさに「金の卵を産む鶏」であり、安易な売却は、この鶏を失うことになってしまうこと。
加えて、利便性が高い都心ほど再開発が進み、決してビル立地が郊外化していないことからも、事業適地の範囲は自ずと限られており、したがって、事業性の高い物件の開発機会を得ることは容易ではなく、単純に「売って利益を出した後で、安く買い直す」ことは困難であること。
4.東京のオフィス市場の優位性は以下の通り。
東京のオフィス市場の優位性
東京は世界最大のオフィスマーケット
①NY、ロンドンよりも大きい、世界最大のマーケット
東京のオフィスストックは、世界最大の規模(床面積)を誇り、供給面、需要面ともに成長余地のある、欧米の大都市と大きく異なるマーケットです。
②既存ストックの2割が未だ旧耐震、また、建替再開発が中心なので供給増は差引年間1%程度
日本では地震リスクに備え、法令で耐震基準が整備されていますが、この耐震基準以前(80年代前半までに竣工)のビルが依然としてストックの2割を占めており、建替や再開発による機能更新が必要です。加えて、都市防災を強化し、社会基盤整備を進めるため、容積緩和などのインセンティブが付与されるのを受け、東京では都心一等地の建替型再開発が進んでいます。
また、建替型が中心なので取り壊される建物の滅失面積を差し引いたネット供給量は限定的で、2000年からの20年間で18%増、即ち毎年1%程度の増加に留まっており、長期的に見れば需給関係はバランスが取れたものとなっています。
構造的な需要増加要因
①大企業が集結、全産業が揃う世界に類例のないマーケット
日本の大企業(時価総額上位100社)の8割は東京に本社を置き、本社を地方に置く大企業も東京本社を併設していることが一般的です。これに対し、ニューヨークでは1割強、ロンドンも5割に留まります。また、業種別に見ても製造業、サービス業、情報通信、金融など、東京には全業種が集結しており、金融業が中心のニューヨークなど、産業クラスターが諸都市に分散する諸外国とは大きく異なります。このため、オフィスニーズも裾野の広い安定した構造となり、業種ごとに好不況はあっても、縮む業界の床を伸びる業界が吸収し、その結果、需給が安定していると言えます。
②ベンチャー企業の集積
大企業のみならず、ベンチャー・VCも、人材、資金、BtoB市場が揃う東京に7割が集中しています。
③充実した都市交通インフラ、揺るがない都心
東京都心の交通手段で核となる環状山手線に四方から鉄道網42路線が接続されています。安全かつ正確な時間で運行される鉄道インフラを利用して、首都圏全方位から通勤者が都心に集まっています。(首都圏オフィスワーカーの8割超が公共交通機関を利用)
この効率的な交通インフラのおかげで、郊外にオフィスを移転する積極的メリットはなく、その結果、揺るがない都心が形成されています。
④構造的、継続的な人口流入
東京の通勤圏である首都圏の人口は、長期間にわたり流入超過となっています。その牽引役は20歳前後の若年層です。東京に集積する大学への地方からの進学者は多く、卒業後もそのまま東京の企業に就職する傾向が長年にわたり定着しています。これにより、大学、企業の集積が人を呼び、人の集積が企業を呼び込む好循環となっています。
上記以外にも、ホテル、商業施設、病院などの社会資本が東京都心に効率的に配置されています。
コロナ禍を経て、東京のオフィスの優位性がさらに際立つ
①コロナ禍、コスト抑制を主因に空室率6%に上昇も、半年で需給均衡に
コロナ前は、アベノミクス政策による好景気の中、競争力の劣るビルでもテナントが入居し、需給が逼迫して1%という空前の低空室率になりました。
2020年に、コロナ禍に対応すべく企業は従業員の安全確保のため出社を抑制するとともにコスト削減のためオフィス床を減らし、半年で空室率が6%に上昇しました。
一方で、離隔距離を保つ席配置とするため減床しない判断も多く、テレワークによるコミュニケーション不足が成長停滞を招くという懸念も広がり、返した床を借り戻す動きや、使用頻度が減った執務スペースを交流スペース等に転用する事例が増加し、需給バランスが短期間で改善しました。
②コロナ明け、米国とのオフィス回帰に差
コロナ前対比で出社率の戻りを国際比較すると、ニューヨークが約4割に対し、東京は約8割と大きな差になっています。これは、労働環境の違いが影響していると考えられます。
労働参加率の推移を見ても違いが明らかですが、米国はコロナ禍でまず従業員は解雇され、その従業員に失業給付をする政策が主体だったのに対し、日本では雇用維持のため、企業に助成金を支給し従業員の雇用を守る政策をとったことで、出社率の早期回復につながっていると考えられます。
現在では、テナント企業が再び成長軌道に戻すため、優秀な人材を確保しようと採用増に動き、また、出社したくなるオフィス作りを志向し、ラウンジなどの交流スペースを増やすなど、移転統合ニーズや増床ニーズが増加傾向にあり、東京の市況は回復基調となっています。
(3)中期経営計画について
第九次中期経営計画の内容(2022年5月12日公表、一部、その後の社会・経済情勢の変化に合わせ積極的に見直し)は、以下の通りです。
1.業績目標
中計最高益連続更新
3ヵ年累計経常利益 7,500億円、当期利益 5,000億円の達成
八次までの成長ペースを維持し、六次から4計画連続の最高益更新を目指す
<3ヵ年の累計業績目標>
売 上 高 3兆円 (八次中計比 +1,296億円、+ 5%)
営業利益 7,700億円 ( 同 + 825億円、+ 12%)
経常利益 7,500億円 ( 同 + 944億円、+ 14%)
当期利益 5,000億円 ( 同 + 672億円、+ 16%)
2.部門別業績目標と事業戦略
東京のオフィスビル賃貸を確固たる基盤と位置付けることは変えず、
グループの総合力で目標達成を目指す
<事業戦略>
① 不動産賃貸
八次までに構築した収益基盤を維持し、4計画連続の増益を目指す
・オフィスビルは、既存ビルの収益力の維持・向上に努めるとともに、八次竣工ビル(延18万坪)の通期稼働と、九次竣工ビル(延19万坪)の新規稼働による収益を確実に取り込む
・ホテル・イベントホール・商業施設などの施設営業分野は、コロナ禍前の収益力を回復し、十次以降の成長回帰を期す
② 不動産販売
八次で実現した高水準の利益規模を維持する
・量を追わず利益重視で販売ペースをコントロールする方針を堅持
・上昇傾向にある建設工事費への対処は課題だが、九次計上分は全件着工済につき影響は限定的
・競争激化の用地取得環境が続く中、着実に確保する方針を継続
③ 完成工事
リフォーム(新築そっくりさん)、注文住宅ともに、品質を高めつつ、コストコントロールに注力し、受注拡大による最高益連続更新を目指す
・高い環境性能や防災性能をはじめ、顧客のニーズを的確に捉えた商品提案により受注拡大を図る
・ウッドショックや資材高に適切に対処し、影響を最小限にとどめる
④ 不動産流通
収益力を一段と強化し、中計最高益の大幅更新を目指す
グループの連携強化と顧客本位のサービスをより一層追求し、シェア拡大を図る
3.設備投資計画(分譲マンションなど販売用の仕入れを除く固定資産投資)
収益基盤強化のため、東京都心における賃貸ビル投資を継続推進
九次3年間で1兆円の投資を見込む
① 再開発を中心とした具体化している延床70万坪超の開発計画への投資7千億円
現時点の賃貸資産稼働見通しは下表の通り
② 「好球必打」新規案件投資枠3千億円
4.資金調達計画
(1)仕掛中物件の追加投資7千億円は、拡大する賃貸CF※で賄える見通し
※賃貸CF(キャッシュフロー):不動産賃貸事業の営業利益+減価償却費
(2)グリーンファイナンスの導入 ※2024年5月9日見直し
長期資金総額2兆円のグリーンファイナンスを実施
① DBJ Green Building認証※で3つ星以上の評価を取得済の当社保有ビル(2024年3月末時点で76物件取得済)のうち、54棟を対象に2兆円をグリーンファイナンスにより調達する
② 資金調達期間中の制約
・CO2排出量、エネルギー使用量等の環境性能開示
・対象物件のDBJ Green Building認証3つ星以上維持
・環境改善等の社会課題に貢献するファイナンスであり、対象物件の売却禁止(性能維持のため保有継続)
③ JCR・R&I 2社からグリーンファイナンス適合評価取得
※DBJ Green Building認証は、日本政策投資銀行が創設した、不動産の「経済性」にとどまらない「環境・社会への配慮」における性能・取組みを評価する認証制度
5.株主還元方針 ※2024年5月9日見直し
賃貸事業の見通しの回復・改善傾向が明らかとなり、経常利益3千億円突破への足取りがはっきりと
見えてきたため、毎年の持続的増配ペースを一株当たり7円から10円に引き上げる
賃貸ビル投資に優先配分する方針と、利益成長に沿った「持続的増配」の方針は継続
6.政策保有株式に対する数値目標の導入 ※2024年5月9日見直し
保有株式簿価の株主資本に対する比率を2027年度までに10%以下に抑制
当社は、取引先等との安定的・長期的な取引関係の構築および強化等の観点から、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資すると判断した場合は、当該取引先等の株式を取得し保有することができるものとしております。
今般、政策保有株式の保有残高につき数値目標を設定し、一定の規律を設けることといたしました。2022年3月末時点で、保有する上場株式の簿価(取得原価)2,719億円の株主資本1兆4,792億円(純資産から有価証券評価差額金等を控除)に対する比率は18%に相当しますが、これを毎年引き下げ、2027年度までに10%以下に抑制してまいります。
7.CO2排出量(Scope1、2、3)削減目標の設定
パリ協定直前の2014年度対比、2030年度までに50%削減
2050年カーボンニュートラルに賛同表明済
脱炭素への取り組みを事業拡大に結び付け達成を目指す
① オフィスビルを中心とする賃貸事業・施設運営事業において省エネを推進
・新築・リニューアル時の高効率設備導入を一段と追求し、エネルギー消費等による自社CO2排出を床面積当たり50%削減
・テナントへの省エネ啓発活動を継続
② 主力事業の上流、下流における削減対策推進
・ビルテナント専有部へのグリーン電力導入支援
・建設時のエネルギー消費抑制を支援
・高性能設計を強化(分譲マンションのZEH-M Oriented標準仕様化)
・戸建住宅の脱炭素に貢献する、太陽光発電の新サービス「すみふ×エネカリ」提供推進
・新築そっくりさんで高断熱リフォーム商品の提供推進
・自動車充電装置の普及を促進
③ 九次中計は総排出量の10%削減を目指す
・総排出量の約6割を占める分譲マンション事業における削減は、設計基準変更後の物件が竣工する十次中計以降に寄与
・分譲マンション以外は25%削減を目指す
九次 各事業の主な数値目標
① オフィステナント専有部のグリーン電力導入率30%
② 分譲マンションのZEH-M Oriented 設計100%
③ 注文住宅でZEH住宅(標準化済)受注比率60%
④ 新築そっくりさんで高断熱リフォーム商品(投入済)受注比率20%
⑤ 「すみふ×エネカリ」の太陽光発電で創出した環境価値を取得し、当社グループの自己使用オフィスの電力を全量グリーン化
(4)当社の企業価値を損なう買収提案に対する買収防衛策(当社株式の大規模な買付行為に関する対応方針)
①基本方針の内容とその実現に資する取組み
イ.主力事業は回復軌道、次期十次中計で経常利益3千億円達成の見通し
当社は、3年毎に策定する中期経営計画の達成を最重要課題とし、これを着実に遂行することにより企業価値を高めてまいりました。これまで8つの経営計画を遂行、リーマンショックやコロナ禍の3期を除く24期で経常増益を達成しました。
第九次中計の2年目、2024年3月期は3期連続の経常最高益と11期連続の純利益最高益を達成し、3ヵ年累計の中計目標達成に向け、順調に進捗しております。
当社は、昨年5月にコロナ禍脱却と経済正常化を受けて「持続的成長のための基本的な経営戦略と中長期見直し」を公表いたしましたが、1年が経過し、社会・経済情勢など事業環境が大きく変動する中で、主要事業は着実に回復・改善し、2024年3月期決算は当初目標を達成、次期中期経営計画での経常利益3千億円達成が見通せるようになりました。
ロ.成長を支えてきた東京都心のオフィスビル賃貸事業と企業価値
当社のこれまでの成長を支えてきた原動力は、東京都心のオフィスビルを中核とした不動産賃貸事業です。営業利益は当社全体の7割近くを占め、まさに、大黒柱として企業価値の根幹を成しております。
当社は、新宿住友ビル(通称三角ビル)が完成した1970年代初頭からおよそ半世紀にわたり、東京都心に特化したオフィスビル開発を推進、事業基盤を拡充してまいりました。これまでにバブル崩壊やリーマンショックなど未曾有の経済危機と、バブル景気やアベノミクス景気といった様々な環境変化を経てきましたが、当社は首尾一貫して、①資産売却による一時的な利益を追わず、②開発用地を自ら創り出して建設したビルを、③保有賃貸して長期安定的な賃貸収益を蓄積するという経営方針を貫き、継続してまいりました。その結果、現在、東京都心で230棟超の多様なポートフォリオを誇るビルオーナーに成長、2024年3月期の賃貸キャッシュフロー(不動産賃貸事業の営業利益+減価償却費)は2千4百億円に達しております。
オフィスビル賃貸事業は、用地取得から商品企画、テナント募集や入居テナントへのサービス、管理に至るまで、総合的な事業遂行能力を必要とします。その中でも、用地取得は最も重要で、当社は、土地を買いまとめたり、地権者の権利関係を調整する再開発の手法で、言わばメーカーのようにビル用地を創り出してきました。加えて、ビル管理やテナント募集でも、自社で行う直接主義を重視し、顧客や現場の実態を的確に把握した上で、常に商品企画の改善や業務の効率化などに鋭意取り組んでまいりました。その結果、高い収益性を実現し、保有不動産の資産価値を高め、企業価値を増大させてきたものと自負しております。「賃貸等不動産」の含み益は年々蓄積され、2024年3月末時点で約3兆9千億円に達しております。
ハ.買収防衛策の必要性
第九次計画では、東京都心における賃貸ビル投資を継続推進することを第三の目標に掲げており、再開発を中心とした具体化している延床面積70万坪超(2022年3月末時点賃貸延床170万坪の4割超)の開発計画を順次完成、稼働させることにより、さらなる収益基盤の拡大、企業価値の向上、株主利益の増大を目指すこととしております。この大規模な開発計画は、これまで弛まず積み上げてきた多額の先行投資がいよいよ収益化するものです。当社がこれまで長期間に亘り、不動産市況や景気の波にさらされることなく、賃貸ビル開発による事業基盤拡充を継続できたのは、安定収益源である賃貸キャッシュフローが常時下支えとなっていたためであり、この先行投資を有利子負債の際限ない増加に頼らず自信を持って実行するには、2千億円を超える規模に拡大した賃貸キャッシュフローの維持拡大が必要です。また、大型の再開発が中心であるため、全件収益化に目途が立つまでには今後中計2~3期間を要すると見込まれます。
一方、大規模な金融緩和を背景に、国内の優良な収益不動産に対する投資意欲は一段と増しており、東京に多数の優良ビルを持つ当社株式について一方的に大量取得行為が強行されるおそれは否定できません。当社が半世紀にわたって継続してきた、賃貸資産を着実に積み上げることにより企業価値の持続的な拡大を目指す経営方針を否定し、将来の企業価値増大に資する開発計画が成就する前に、保有不動産を売却して含み益をはき出し、一過性の利益を求める短期志向の経営方針を採ることは、結果として、安定収益源の賃貸キャッシュフローを減少させ、開発計画を財務リスクにさらし、当社の企業価値基盤を損なうおそれがないとは申せません。中長期的な展望に基づき着実な企業価値の向上を目指す当社の経営方針は、このような短期志向とは相容れません。よって、現稼働面積の4割を超える70万坪超の開発計画の収益化に概ね目途がつき、企業価値に反映されていない開発計画が一定割合に低下するまでは、買収を意図する投資家が現れた場合に、十分な情報と時間を確保して議論を尽くし、株主の皆様に信を問う必要があると考えます。
また、我が国の金融商品取引法上、会社支配権に影響を及ぼす株取引について、透明性・公平性を担保するための手続きとして公開買付制度が措置され、株主の皆様に判断していただくための情報と時間が確保されることとなっておりますが、公開買付期間が30営業日と短く検討時間として十分とは言いきれません。また、部分公開買付けを容認するものであることから、強圧的買収などの濫用的な買収を必ずしも排除できないこと、そもそも買収者が市場内取引のみで株を買い進めた場合には、公開買付制度が適用されないことといった、法制度上の問題点も残っていると考えております。
以上のことから、当社は「当社の企業価値を損なう買収提案に対する買収防衛策(当社株式の大規模な買付行為に関する対応方針)」(以下「本対応方針」といいます。)を、2007年5月17日付取締役会決議に基づき導入し、同年6月の第74期定時株主総会決議に基づき同方針を継続後、第77期、第80期、第83期、第86期および第89期定時株主総会において、それぞれの株主の皆様のご承認を得て、更新してきました。
昨年、経済産業省や金融庁において企業買収の在り方を見直す動きが進展したのに加え、前述の十次中計、またそれ以降の見通しにもある通り、企業価値に直結する当社自身の事業規模や収益力が拡大、安定度が増す中、成長ステージに一定の進展があったと判断し、今般、次回2025年6月の更新を行わないことといたしました。
②当社株式の大規模買付行為に関する対応方針の内容と取締役会の判断
当社は、当社株式の大規模な買付行為が開始された場合において、これを受け入れるかどうかは、当社株主の皆様の判断に委ねられるべきものであると考えておりますが、当社株主の皆様が企業価値ひいては株主共同の利益への影響を適切に判断するためには、大規模買付者および当社取締役会の双方から、当社株主の皆様に必要かつ十分な情報・意見・代替案などの提供と、それらを検討するための必要かつ十分な時間が確保される必要があると考えます。
本対応方針は、当社株式の大規模買付行為に関するルールを設定し、大規模買付者に対して大規模買付ルールの遵守を求めております。大規模買付ルールは、事前に大規模買付者から当社取締役会に対して必要かつ十分な情報が提供され、当社取締役会による一定の評価期間が経過した後に大規模買付行為を開始するというものです。大規模買付者がこの大規模買付ルールを遵守しない場合、あるいは遵守した場合でも、大規模買付行為が当社に回復しがたい損害をもたらすことが明らかであるときや、企業価値ひいては株主共同の利益を著しく損なうときには、当社取締役会として相当と認める措置を講ずることとしております。
なお、大規模買付者が大規模買付ルールを遵守したか否か、当該大規模買付行為が当社に回復しがたい損害をもたらすことが明らかである場合や企業価値ひいては株主共同の利益を著しく損なう場合に該当するか否か、および対抗措置をとるべきか否かについて取締役会が判断するにあたっては、社外取締役、社外監査役、経営経験者、弁護士、公認会計士等から選任される特別委員会に対し諮問し、その勧告を最大限尊重するものとしております。
以上のとおり、本対応方針は、当社株式の大規模な買付行為に対し株主の皆様が判断するのに必要な情報と時間を確保するためのルールを設定し、大規模買付者がこのルールを遵守しない場合や大規模買付行為が当社に回復しがたい損害をもたらすことが明らかな場合などに対抗措置を講ずることを定めたものでありますので、当社の企業価値ひいては株主共同の利益に資するものであり、当社役員の地位の維持を目的とするものではありません。
(注) 本対応方針の詳しい内容については、当社ホームページ
(https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/2022.05.12_release2.pdf)をご参照ください。
(1)基本方針、ガバナンス及びリスク管理
① 基本方針
当社は、住友本社を継承した住友グループの総合不動産会社として、430年もの歴史を刻む“住友の事業精神”を経営理念として継承しています。世界で最も永続している企業グループの一つである住友グループは、「信用を重んじ、浮利を追わず」、「自身を利するとともに社会を利する」といった事業精神を脈々と受け継いできました。住友不動産グループでは、これら先人の教えを踏まえ、何よりも信用を大切にして、目先の利益を追わず、自己の経済価値だけでなく、先々まで世に必要とされる持続的な社会価値を一体的に創出することを経営理念に掲げ、事業展開を進めてまいりました。
この企業姿勢をコーポレートスローガン『信用と創造』として掲げ、何よりもステークホルダーとの信頼関係を大切に、高い目標を掲げ、新たな発想で新分野を開拓し、挑戦する、“新しい価値を創造”することを行動指針としております。また、『より良い社会資産を創造し、それを後世に残す』ことを基本使命とし、各事業を通じて環境をはじめとする様々な社会課題の解決に貢献しつつ、企業価値の最大化を目指すことを経営の基本方針としております。
不動産業は、人々が働き、住まい、交流する拠点形成や関連するサービスを創出し、人々の生活を豊かにする使命を負った社会的意義の高い事業です。当社の主要な開発手法であるオフィスや住宅を中核とする再開発事業では、木造家屋が密集するなど災害リスクの高い地域で、堅牢な耐火建築物への建替えを実施し、地域防災性を大きく向上させるとともに、地権者と共同で事業を推進することにより、コミュニティ形成や地域活性化を促進する交流拠点を形成するなど地域の課題解決に貢献するまちづくりを推進しております。
当社は、「災害に強い」、「環境にやさしい」、「地域とともに」、「人にやさしい」の4つを重要課題(マテリアリティ)とし、後世まで持続可能な社会資産を提供する、「サステナビリティ経営」を実践してまいります。
② ガバナンス及びリスク管理
当社グループ全体で横断的にサステナビリティ経営を推進していくため、社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティに関するリスク及び機会を識別・評価するとともに、目標の進捗状況を管理しております。また、その下部組織である「BCP対策協議会」、「サステナビリティ推進協議会」、「内部統制会議」では、議長を務める企画本部長を責任者とし、対応する分野のサステナビリティに関する課題の抽出、解決に取り組んでおります。重要課題については、サステナビリティ委員会に諮るほか、必要に応じて取締役会に報告します。
(2)主な取組み
① 気候変動に関する取組み
イ 脱炭素への取組み方針
当社は、国際的社会課題である「2050年カーボンニュートラル」に賛同を表明するとともに、2022年5月には、2030年度までの中間目標として、パリ協定直前の2014年度対比でCO2排出量を50%削減する目標を掲げました。総合不動産デベロッパーとして、サプライヤーや事業パートナー、テナント、業界団体などの各ステークホルダーと協働し、各主力事業で省エネや創エネの普及促進を図り、消費者への訴求力を高めた商品やサービスの開発、提供を推進しております。
また、TCFDフレームワークに基づき、ガバナンス・戦略・リスク・目標の4つの観点から、気候変動がもたらす財務影響とその対応を整理・分析し、当社ホームページにて情報開示しております。
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ロ 各事業における取組み
現在推進中の「第九次中期経営計画」では、各事業の排出量削減目標を定め、以下の具体的取組みを推進しております。当期は下表の通り順調な進捗となりました。引き続き脱炭素の取組みを事業拡大に結びつけ、目標の達成を目指してまいります。
オフィスビル
オフィスビル事業では、新規物件の開発や既存物件のリニューアルに際し、高断熱の外皮仕様や高効率設備等を積極的に導入して環境性能の高い開発により省エネ化を推進しております。また、テナント専有部においては、テナント企業の多様化するグリーン電力導入ニーズに応えるべく、一般的な非化石証書を使用した電力供給のみならず、脱炭素への貢献度が高い新設した再生エネルギー発電所からの電力供給など、複数のメニューを揃え提供する体制を整えております。
分譲マンション
第九次中計以降の設計物件は全件、現行の省エネ基準からエネルギー消費を2割抑制する高い環境性能を備えた「ZEH-M Oriented」を標準仕様とし、居住時の省エネ性能向上で脱炭素に貢献する開発を推進しております。
新築そっくりさん・注文住宅
日本の既存住宅は、5,000万戸超のストックのうち9割が最新の省エネ基準を満たさず、脱炭素化に向け、大きな社会課題となっております。当社の「新築そっくりさん」事業では、2021年12月に提供開始した高度な省エネ性能を実現する「高断熱リフォーム」が好評を博し、改修による長寿命化とともに既存住宅の省エネ化を推進しております。大規模リフォームの「高断熱リフォーム」受注比率は2024年3月に57%まで上昇しております(第九次中計目標20%)。
また、初期費用負担を要因に普及が進みにくかった太陽光発電設備については、東京電力グループとの協業により、初期費用なし、居住期間中は月額サービス料のみでメンテナンス、交換も受けられる太陽光発電サービス「すみふ×エネカリ」を2021年9月に提供開始しました。注文住宅では、このサービスを組み込んだ最新のZEH(ゼロエネルギーハウス)基準を上回る高い省エネ性能を確保した「住友不動産の栖(すみか)」を2022年4月に発売、2024年3月のZEH受注比率は97%に達しました(第九次中計目標60%)。
第九次中計 各事業における数値目標と達成状況
② 人的資本に関する取組み
イ 当社の持続的成長を支える独自の人材投資戦略
当社は、コーポレートスローガンに掲げる「信用と創造」を実践し、持続的成長による企業価値を高める源泉は従業員であると考え、持続的成長の果実はまず従業員に還元する「従業員ファーストの経営」と「グループ一体経営」を目指しております。また、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなるとの認識のもと、かねてよりダイバーシティ推進に積極的に取り組み、キャリア採用による人材確保、年功によらず専ら能力・成果に基づく評価制度、専門職種毎の給与体系を並立させる給与制度など、多様性に富む強靭な組織を実現するための独自の人事制度を構築しております。
ロ 経営再建時代、事業構造転換のために進めた人事制度改革
バブル崩壊後、再建計画として第一次中期経営計画(1997-2001)を開始した頃の当社は、収益力の大幅な低下とともに不良債権や過大な有利子負債を抱えておりました。
再建計画では、不動産証券化など資金調達の多様化に取り組み、不動産業の原材料である未稼働土地の商品化(開発)を進める一方で、先行投資を必要としない「人が収益を生み出す」受注生産型の新規事業「新築そっくりさん(リフォーム事業)」等に活路を見いだし、収益力の回復を目指しました。
この事業構造転換に際して、外部から優秀な専門人材(キャリア職)を大量に採用する必要に迫られ、旧来の“年功序列”による人事制度を廃し、“高率歩合給”などの能力、成果主義を核とする人事制度への改革を実施し、「新築そっくりさん事業」や「注文住宅事業」の収益拡大に大いに寄与しました。
その後、分譲マンションや賃貸マンション、ホテル、イベントホールなど、「実物資本」と「人的資本」をハイブリッド活用する他の事業にもこの人事制度を拡大適用しました。グループ全体でキャリア職を通年採用し、多岐に渡る職種ごとに、その職責と実績によって年収を定めるジョブ型に近い給与制度に切り替えるなど、キャリア職中心の人事制度を中核に据え、各事業の付加価値向上に大きく寄与しました。
当社はこうして、東京都心の再開発事業を中心としたオフィスビル賃貸事業を収益の柱に据えて長期的な安定成長基盤を構築するとともに、賃貸マンションやホテル、イベントホールなどの賃貸関連事業、分譲マンション、新築そっくりさん、注文住宅、仲介などの各主力事業において、それぞれ特徴的な事業スタイルを築きながら、現在まで持続的な成長による企業価値向上を実現してきました。
ハ 当社独自の「職種別人事制度」
当社はこの人材戦略の有効性を踏まえ、営業職や技術職に限らず、コーポレートスタッフにも専門職種のキャリア職採用を拡大、現在は主要職種だけで約30種もの職種別の給与体系を並立させる人事制度を構築しています。各専門職種は従事する事業や業務の特性に応じて、固定給、変動給の割合、昇給テーブル等を個別に設定しておりますが、全職種で共通して年齢、性別、社歴を問わず、主に能力(職責)と成果で評価する公正な給与制度としており、この制度が持続的に職員の成長を促しています。
ニ ダイバーシティに富んだ組織を実現
20年余り前から、他社での多種多様なキャリアを持つ人材を、即戦力として積極的に採用し人材確保を推し進めた結果、すでに当社職員の9割がキャリア職となり、異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点、価値観の存在する柔軟かつ強靭なダイバーシティに富んだ組織を実現し、当社成長の源泉となっております。
さらに、職員のモチベーション向上のためには管理職登用における機会均等が最も重要であるとの考えから、性別、新卒・中途の別によらず、専ら意欲と能力・成果による登用を進めております。その結果、現在、管理職の7割以上をキャリア職出身者が占め、管理職における多様性も確保されております。
また、女性活躍推進についても積極的に取り組んでおります。まず、現場の第一線を支える営業・技術職における女性採用比率の数値目標(営業職25%、技術職13%)を公表し、将来の登用に向けてまずは社員数を厚くすべく、職員における女性比率の向上に取り組んでいます。次に、2022年に、職務給中心の人事制度を全職員に適用する改革を行い、出産、育児等のライフイベントにより中長期にわたりキャリアの中断があった職員についても、復職後、不利なく責任あるポストに即座に就くことが可能な制度とするなど、女性のキャリア形成支援に取り組んでいます。その結果、当期末時点の管理職に占める女性労働者の比率は10.4%となりました。また、女性の役員選任についても積極的に取り組んでおり、本報告書提出日時点で女性の役員は3名(社外取締役、社外監査役、執行役員各1名)となっております。
なお、管理職の多様性は、上記のような公正な採用方針、公正な制度、公正な登用の結果として自ずと確保されていくべきものと考えております。管理職の多様性について数値目標を定めることは、却って、管理職登用における機会均等を歪め、職員全体のモラールを下げてしまう懸念があると考えているため、かかる数値目標は定めない方針です。
ホ 制度の継続活用と深化拡大
現行の人事制度は、持続的成長を目指す当社の経営戦略において、既存事業の成長に資するだけでなく、新規事業や将来の事業構造転換においても、必要なスキルを有する人材確保、育成を推進する上で引き続き有効と考えています。
当社は、当該人事制度を継続深化、拡大させるため、各専門職種の人材マーケットに則した柔軟な給与水準の見直しや、必要な人材の厚みを確保するため職種ごとに専門的なスキルアップ教育の拡充を図るほか、有能な人材に社内転職の機会を提供する「住友不動産グループ・チャレンジ制度」によるキャリア形成支援など、様々な取組みにより制度のさらなる発展を推し進めてまいります。
このように当社は、今後も個々の従業員の能力・実績に応じた評価制度に加え、生産性向上のためのDX投資・教育投資など、人的資本への積極的投資を継続してまいります。
人的資本の関連情報については、当社ホームページをご参照ください。
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当社グループが行っている不動産賃貸事業、不動産販売事業、完成工事事業及び不動産流通事業は、景気動向や企業業績、個人所得等の動向、人口動態、地価動向、原材料価格や建築費の動向、金融情勢、税制等の影響を受けやすい傾向にあり、これらが当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
その中で、経営者が、当連結会計年度末現在において、連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に特に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下の通りであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)災害その他不可抗力の事態に関するリスク
当社グループは、災害その他不可抗力の事態に備えるため、保有資産において、免震・制振構造の採用や非常用発電機の設置による無停電対応などにより事業継続性を高めるとともに、当社事業活動において、各種事態を想定したマニュアルの策定と訓練の実施による継続性の確保に努めております。また、サステナビリティ委員会の下部組織であるBCP対策協議会において、当社グループにおけるBCP対策整備の具体的方針を定め、整備状況のモニタリングを行っております。
しかしながら、想定をはるかに凌駕する規模の不可抗力の事態が発生した場合、保有資産の復旧費用負担の発生や営業活動の停滞等に伴い、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。
当社グループが行う事業は、宅地建物取引業法、建設業法、建築基準法、労働基準法をはじめとして、様々な法規制の下に置かれており、その改正動向を注視しつつ、適時適切に対応するよう努めております。また、サステナビリティ委員会の下部組織である内部統制会議において、当社グループにおけるコンプライアンス推進活動のモニタリングを行うとともに、当社内部監査室が子会社を含めた内部監査を実施、更に、社内外に複数の内部通報窓口を設置し、不正、違法行為の発見、抑止に努めております。
しかしながら、法律等の改正による事業活動への影響を通じて、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。また、当社グループやその役職員によるコンプライアンス違反が発生した場合、当社グループの信用が損なわれ、当社グループの商品需要が低下することにより、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。
当社グループは、気候変動に伴い発生する風水害等の物理的リスクだけでなく、気候変動を抑止するための諸制度や事業環境の変化等の移行リスクに対応するため、TCFDフレームワークに基づき、ガバナンス・戦略・リスク・目標の4つの観点から、気候変動がもたらす財務影響とその対応を整理・分析し、開示するとともに、サステナビリティ委員会の下部組織であるサステナビリティ推進協議会において、様々な取り組みを推進しております。社会資産を供給する事業者として、事業活動を通じた気候変動対策の推進に向け、特に環境性能が高い物件や商品の新規開発や、運用時における省エネ啓蒙、既存物件の改修による環境性能の向上等に注力し、脱炭素の取り組みを推進しております。
しかしながら、想定を超える規制や事業環境の急激な変化等により、建築コストや事業運営コストが高まり、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。
当社グループは、建設事業者をはじめとして、賃貸資産の管理に係る清掃員・係員・警備員・設備保守点検事業者など、多くのサプライヤーとともに事業を推進しており、サプライヤーに起因するリスクを低減するため、サステナビリティ委員会の下部組織であるサステナビリティ推進協議会において、新規取引開始時におけるデューデリジェンスや「サステナブル調達ガイドライン」の周知徹底、当社職員による監理、サプライヤー向け安全研修などを実施しております。
しかしながら、想定外の事態の発生等により、サプライヤーに起因して、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。
(5)情報セキュリティに関するリスク
当社グループでは、各事業において、個人情報を含む多くの重要な情報を保有しており、情報流出を防ぐためのサイバーセキュリティを導入しているほか、職員に対して情報セキュリティに関する研修を実施しております。
しかしながら、サイバー攻撃や職員の不注意により情報が流出した場合、補償の発生や、信用の喪失による当社グループの商品需要の低下などにより、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。
当社グループが行っている不動産賃貸事業および不動産販売事業は、まず用地を取得し、かつ建物が竣工しなければ収益に計上できない投資先行型の事業であるため、事業資金を金融機関等からの借入や社債等により安定的に賄う必要があります。
これに対し、連結有利子負債の借入期間の長期化、固定金利化を進めるとともに、多様な金融機関※との安定的な関係性の構築を進め、資金調達の安定化を図っております。
しかしながら、金融環境の急速かつ大幅な変化、借入先の経営状況の変化等により、借入利息の上昇、資金繰りの悪化等、当社グループの経営成績および財政状態が影響を受ける可能性があります。
※報告書提出日現在、当社は117の金融機関と取引を行っております。
3期連続経常最高益、11期連続純利益最高益更新
当連結会計年度の業績は下表の通りで、売上高、営業利益、経常利益、純利益のすべてにおいて前年を上回り増収増益となりました。営業利益、経常利益、純利益はいずれも過去最高を更新(営業利益2期連続、経常利益3期連続、純利益11期連続)しました。
オフィスビル賃貸、分譲マンションが増収増益で業績を牽引
部門別では、市況の回復・改善傾向が鮮明となってきた東京のオフィスビルを中心とした不動産賃貸事業と、分譲マンションの引渡し戸数が増加した不動産販売事業がともに最高益となり業績を牽引しました。
受取利息・受取配当金の増加により営業外損益は△15億円(前期比+30億円)に改善、特別損益は減損損失や固定資産除却損など127億円の特別損失を計上した一方で投資有価証券売却益など128億円の特別利益を計上し、差引1億円(同+64億円)のプラスとなりました。
その結果、売上高9,676億円(前期比+3.0%)、営業利益2,546億円(同+5.6%)、経常利益2,531億円(同+7.0%)、親会社株主に帰属する当期純利益1,771億円(同+9.4%)となりました。
部門別の営業成績は下表の通りです。
<不動産賃貸事業部門>
増収増益、最高益更新
当連結会計年度は、前期竣工の「住友不動産東京三田ガーデンタワー」、「住友不動産新宿ファーストタワー」など大型ビルの新規稼働によって減価償却費が大きく増加したものの、既存ビルの収益改善と、ホテル、イベントホールなど施設営業分野の回復が業績に寄与した結果、増収増益となり、売上、営業利益ともに過去最高を更新しました。
需給改善継続、新規ビル募集進捗
当期末の空室率は、「住友不動産東京三田ガーデンタワー」など前期竣工の通期稼働ビルを加えて6.9%となりましたが、働きやすいオフィス環境を志向する企業や事業拡大のため採用強化を図る企業の新規需要は引き続き旺盛で、契約面積が解約面積を上回る傾向が続いており、空室率は改善傾向を辿る見通しです。また、当第4四半期に竣工した「住友不動産中野駅前ビル」、「住友不動産秋葉原東ビル」はともに満室稼働となり、新規ビルのテナント募集も順調に進捗しております。
<不動産販売事業部門>
増収増益、最高益更新
当連結会計年度は、「シティタワー新宿」、「シティハウス武蔵野」、「ベイシティタワーズ神戸WEST」などが引渡しを開始、マンション、戸建、宅地の合計で3,524戸(前期比+563戸)を販売計上しました。計上戸数の増加と利益率の改善により増収増益となり、営業利益は過去最高を更新しました。
マンション契約順調、次期計上分の9割契約済
当連結会計年度のマンション契約戸数は3,281戸(前期比△421戸)と、前年に比べ減少しましたが、次期計上予定戸数3,500戸に対し期首時点で約90%(前年約90%)が契約済みとなり、順調に推移しました。
<完成工事事業部門>
利益率改善も、減収減益
当連結会計年度の受注棟数は、「新築そっくりさん」事業で6,947棟(前期比△849棟)、注文住宅事業で2,222棟(同+151棟)となりました。当事業部門の業績は、販売価格の値上げが浸透する一方で、コストコントロールによって利益率が改善したものの、両事業ともに計上棟数が減少した結果、減収減益となりました。当期は、「新築そっくりさん」で高断熱リフォームの受注割合が6割に到達、注文住宅でも断熱性能最高等級7を実現する新商品を発売、両事業ともに高い環境性能を訴求した商品の販売に注力し受注増に努めています。
<不動産流通事業部門>
減収減益も、足元で回復の兆し
当連結会計年度は、中古マンション取引を中心とした主力の仲介事業で、仲介件数が31,502件(前期比△3,404件)と前年に比べ減少し、減収減益となりました。当期は、登記情報によるダイレクトメールを個人情報保護の観点から廃止した結果、仲介件数は減少傾向を辿っておりましたが、営業拠点の統廃合による営業効率の改善や、Web広告強化の取組みを推進した結果、第4四半期に問合せ件数が増加したのに加え、仲介収益が契約ベースで前年比プラスに転じるなど、足元では回復の兆しが出始めています。
<その他の事業部門>
フィットネスクラブ事業、飲食業などその他の事業は、売上高11,277百万円(前期比+1,214百万円)、営業利益1,418百万円(同+236百万円)となりました。
<中期経営計画の達成状況>
当社は、2022年4月より「第九次中期経営計画」に取り組んでおります。計画2年目となる当期は、前述の通り、3期連続経常最高益、11期連続純利益最高益更新を達成しました。
その結果、最終年度の次期予想を加えた3ヵ年累計業績は下表の通りで、売上高、営業利益、経常利益、当期利益のすべてにおいて八次実績を上回るとともに、経常利益と当期利益は当初目標を超過達成する見通しです。次期予想業績を着実に達成し、売上、利益ともに中計最高業績の更新を目指してまいります。
※2022年5月12日公表
<資産、負債、純資産の状況>
当連結会計年度における総資産は、6兆6,783億円(前期末比+3,129億円)となりました。主に賃貸ビル投資により有形固定資産と投資有価証券(インド子会社への出資金)が増加しました。
負債合計額は、4兆6,278億円(前期末比+617億円)となりました。連結有利子負債が3兆9,615億円(同+235億円)となりました。
純資産合計額は2兆505億円(前期末比+2,512億円)となりました。当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益が1,771億円となり、利益剰余金が増加しました。その結果、自己資本比率は30.7%(前期末28.3%)となりました。
なお、当連結会計年度における連結有利子負債の長期比率は97%(前期末95%)、固定金利比率は84%(同86%)となっております。
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローは、
営業活動によるキャッシュ・フロー 232,033百万円(前期比 + 66,921百万円)
投資活動によるキャッシュ・フロー △310,694百万円(前期比 +179,104百万円)
財務活動によるキャッシュ・フロー △3,655百万円(前期比 △359,211百万円)
となり、現金及び現金同等物は△80,927百万円減少して103,125百万円となりました。
<営業活動によるキャッシュ・フロー>
当期の経常利益は2,531億円、減価償却費は731億円となりました。棚卸資産の増加や法人税等の支払などにより、営業キャッシュ・フローは2,320億円の収入となりました。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>
主に賃貸事業の増強を目的として合計1,883億円の有形固定資産投資と1,216億円のインド子会社への出資を行った結果、投資キャッシュ・フローは3,106億円の支出となりました。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>
期限到来に伴う社債の償還および長期借入金の返済合計2,941億円(ノンリコース含む)と賃貸事業の増強に伴う有形固定資産投資に対応するため、3,886億円の社債発行および長期借入を実施した結果、財務キャッシュ・フローは36億円の支出となりました。
③ 生産、受注及び販売の状況
生産、受注及び販売の状況については、前掲「① 財政状態及び経営成績の状況」における各セグメントの業績に関連付けて記載しております。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。
当連結会計年度は、売上高9,676億円(前連結会計年度比+277億円)、営業利益2,546億円(同+133億円)、経常利益2,531億円(同+164億円)となりました。売上高、営業利益、経常利益、当期純利益のすべてにおいて前年を上回り増収増益となりました。営業利益、経常利益、純利益はいずれも過去最高を更新(営業利益2期連続、経常利益3期連続、純利益11期連続)しました。
当連結会計年度は、市況の回復・改善傾向が鮮明となってきた東京のオフィスビルを中心とした不動産賃貸事業と、分譲マンションの引渡し戸数が増加した不動産販売事業がともに最高益となり業績を牽引しました。その結果、売上高は967,692百万円(前連結会計年度比+27,787百万円、同+3.0%)、営業利益は254,666百万円(同+13,392百万円、同+5.6%)となりました。
なお、各事業部門の詳細については、前掲「(1) 経営成績等の状況の概要」をご参照下さい。
営業外収益は、受取配当金の増加などにより、20,597百万円(前連結会計年度比+3,952百万円)となりました。また、営業外費用は22,152百万円(同+884百万円)となりました。その結果、営業外損益は△1,554百万円(同3,067百万円の改善)となりました。
当連結会計年度は、投資有価証券売却益などにより特別利益は12,895百万円(前連結会計年度比+8,168百万円)となった一方、減損損失や固定資産除却損など12,744百万円(同+1,702百万円)の特別損失を計上しました。その結果、特別損益は、差引151百万円の利益(同6,466百万円の改善)となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益が177,171百万円となり、株主資本が前連結会計年度末比150,154百万円増加 した結果、当連結会計年度末の自己資本は、2,050,582百万円(同+251,210百万円)、自己資本比率は30.7%となりました。
資金調達においては、当連結会計年度中に、期限到来に伴う長期借入金2,241億円(ノンリコース含む)の返済および賃貸事業の増強に伴う有形固定資産投資に対応するため、3,886億円の社債発行および長期借入を実施しました。また、コマーシャル・ペーパーを差引670億円償還しました。その結果、連結有利子負債は、3,961,564百万円(前連結会計年度末比+23,543百万円)となりました。
なお、当連結会計年度における連結有利子負債の長期比率は97%(前期末95%)、固定金利比率は84%(同86%)となっております。
2022年4月より開始した「第九次中期経営計画」では、更なる収益基盤強化のため、東京都心における賃貸ビル投資を継続推進することとしております。必要な資金は、拡大する賃貸キャッシュフローを優先配分して賄う方針です。詳しくは、前掲「1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](3)中期経営計画について 3.設備投資計画 および 4.資金調達計画」をご参照ください。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しております。その作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債および収益・費用の報告金額および開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、第5[経理の状況]の連結財務諸表の(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)に記載しておりますが、特に次の重要な会計方針等が連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすものと考えております。
販売用不動産(仕掛含む)及び賃貸資産の評価
当社グループは、販売用不動産(仕掛含む)について、連結財務諸表の注記事項に記載のとおり、主として個別法に基づく原価法(収益性の低下による簿価切り下げの方法)により評価しております。また、賃貸資産について、「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき、資産のグルーピング、減損の兆候の識別、減損損失の認識の判定及び測定を行っております。
なお、詳細は第5[経理の状況]の連結財務諸表の(重要な会計上の見積り)に記載しております。
特記すべき事項はありません。
特記すべき事項はありません。