当社の事業分野でありますライフサイエンス分野は、近年、新たなモダリティの発明と精密化医療の技術革新が続いており、治療成績が向上しております。最新のがん治療におきましては、従来の三大治療である「手術(外科治療)」、「薬物治療(抗がん剤治療)」、「放射線治療」に加えて、「免疫療法(体の中に侵入した異物を排除するために、生まれながらに備えている能力を高め、がんの治療を行う方法)」が注目されています。近年、免疫療法に用いる「免疫チェックポイント阻害剤」が医薬品として承認され、従来自由診療であった免疫療法による治療が一部保険診療可能となり、患者負担が少なく治療を受けることが可能となりました。
また、遺伝子解析技術の向上により、今後がん予防や治療に新たな展開が期待されております。
このような環境下において、当社は、最も重要な経営課題を「開発力強化と事業化加速」と捉え、既存の受託事業の成長と、新しい診断事業におけるオンコロジー分野でのコンパニオン診断の普及に取り組んでおります。また、さらなる診断事業拡大のためには、開発人材及び学術部隊の補強、営業拡販戦略及び広報体制の拡充、知財戦略の見直しと強化を進める必要があると考えております。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
① 肺がん コンパクトパネルⓇの製品改良及び市場への普及に向けた取り組み
当社は、肺がん コンパクトパネルⓇの市場への普及を重点課題と捉え各種薬事試験と普及活動を進めております。2022年11月16日にEGFR ALK ROS1 METの4遺伝子を搭載した製品として薬事承認を取得し、現在、国内のマルチコンパニオン検査としては、国産初となるプログラム医療機器検査サービスをメディカルラボラトリー(川崎市)にて提供しています。当社検査ラボに一括集約・アッセイ解析を実施するLDT検査として、大手検査会社3社(株式会社ビー・エム・エル社、株式会社エスアールエル社、株式会社LSIメディエンス)での検査取り扱いが開始されております。また、BRAF RET KRAS の3遺伝子をさらに追加する追加承認申請を2022年12月16日に実施し、2024年1月26日にEGFR ALK ROS1 MET BRAF RET KRASの7遺伝子を搭載した製品として統合承認を取得しました。今後もさらに遺伝子を追加し、新規薬剤にも対応するための追加申請を実施していく予定です。新しい薬剤の拡張をはじめとした製品改良を進め、臨床現場への普及を促進していきます。また、学術集会でのセミナー、全国web講演会、動画資材作成など、適正使用に向けた周知活動を強化し、単一遺伝子検査あるいは既存マルチ検査からの切り替えを促進していきます。
② 診断メニューの拡充
当社の重点課題として、診断事業の拡充があります。診断サービス市場は、国内外で大きな伸びが期待されており、今後の当社事業の大きな柱と位置付けております。このため、肺がん コンパクトパネルⓇの新規機能追加によるシェア拡大と、海外展開へ向けてターゲットとなりうる地域の調査と検査提供モデルの検討を進めております。また、他のがん種へのコンパクトパネルシステムの適用など新規検査メニューの開発を積極的に行ない、診断メニューの拡充を推進してまいります。
③ 人材の確保
大学、公的病院等と共同研究開発を進めていく上では、専門的知識と技術を有した人材の確保及び育成とその定着を図ることが重要であると認識しております。経験豊富な研究者の確保を進めておりますが、今後新規サービスメニュー等新たな研究開発を進めていく上で、さらなる優秀な研究者の確保が必要であり、これら人材の確保に努めてまいります。また、薬事担当、学術担当、システム開発、臨床検査技師を中心に遺伝子検査にフォーカスした人材補強と各種教育を進めることが重要と考えており、2024年度から臨床検査技師を含め4名の検査要員の増員と薬事対応人員を1名補強しました。今後、検査対応スタッフのスキルマップの運用や継続技能評価を強化し、システム開発と連動した力量評価のシステム化と技能向上の見える化を進めていく予定としております。今後も引き続き、検査事業の拡大状況を見ながら、人材補強と教育システムの強化を進めてまいります。
④ 営業体制の強化
当社の営業部門は、人員もまだ少数であり、充分な体制を整えているとは言い難い状況にあります。診断事業への展開を考慮すると、提案型営業など学術および技術部門とより密接に連携した受注活動が必要であり、営業要員の増員と育成により、顧客ニーズの迅速な取り込みはもとより、顧客第一主義の徹底を図り、製販一体となった受注活動を推進してまいります。営業スキル強化については、2024年度から日本臨床検査薬協会にも参画し、プロモーションコード教育やガイドライン教育の強化を進めていきます。また、DMR(臨床検査薬情報担当者)資格取得を目指す仕組みも社内に取り入れ、診断薬および診断関連製品の適正使用情報提供の強化に取り組んでいく予定としております。
⑤ 特許対応
遺伝子関連事業においては、競合会社に対抗していくためには特許権その他の知的財産権の確保が非常に重要であると考えております。当社は、大学、公的病院等と共同研究開発を進めている診断関連コンテンツを中心に積極的に特許権として取得する方針です。このため、共同研究開発契約でも契約先と共同で特許出願を行う権利確保を標準としております。今後は、さらに診断事業を中心とした事業展開につながる特許戦略を強化し、共同研究ベースでの特許創出に加え、当社単独での出願も行う方針です。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
当社は、「創造的革新」をモットーに、「世の中に役立つこと」、「人間尊重」を経営理念としております。
21世紀のライフサイエンスは、人類の健康と幸福のために大きな発展をすることが期待されています。この分野のトップランナーの会社として、常にブレークスルーとグローバル化を意識した最高レベルの技術を磨き、信頼関係に基づく共同研究と自己啓発に努め、「日本及び人類のために」を合言葉とする正当で不偏の経営を進めていきます。そして当社がこの経営理念に基づく正当で不偏の経営を行うためには持続的社会(サステナビリティ)の実現が不可欠であるため、今般、持続的社会の実現を事業運営の根幹と位置づけ、地域・社会の持続性確保に関する重要課題にも、従来に増して取組んでまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
当社では、持続可能性の観点から企業価値を向上させるため、サステナビリティ推進体制を強化しており、代表取締役社長 的場 亮がサステナビリティ課題に関する経営判断の最終責任を有しております。
当社における、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は、以下のとおりであります。
人材育成方針
当社における人材育成方針は、おもに社員研修によって行われており、その意義は「社員研修を通じて、会社の経営理念への理解を深め、会社に対し積極的に貢献できる社員の育成を行う」、「企業人としての資質やスキルの向上を図り、個人個人の能力の引き上げを目指す」、「社員がともに学ぶことにより、部署や階級をまたいだ社員間のコミュニケーションの向上を図る」です。
そして上記社員研修の具体的な目的は①コンプライアンス、リスクマネジメント、品質管理など、法令や会社規則等に定めるルールの理解と順守の実践を目指した教育を行う②遺伝子解析関連業務において業界をリードする会社であり続けるために、最新の知識や技術の習得を推進する③社員誰もが会社の顔として十分なビジネススキルやコミュニケーション能力を発揮できるようビジネス研修を行うことです。
当事業年度ではおもに以下の社員研修が実施されました。
上記研修内容にある導入評価継続教育を実施する背景として診断事業では、最適な治療薬を届けるprecision medicine分野で、解析対象に特化してパフォーマンスを向上させるというコンセプトのもと肺がんコンパクトパネル検査の開発を進め、現在、全国からの一括集約検査モデルによるパネル検査サービスを川崎市のラボにて提供しております。これまでの学術論文の報告を集計した結果、同分野で用いられている既存のパネル検査の検査成功率は、平均83.3%と試算されており、解析失敗による治療の遅れ、再検査対応の労力や再生検の患者さんへの負担、試薬消耗品類の無駄などが問題となっておりました。肺がんコンパクトパネル検査は、少ない腫瘍細胞でも検査可能であり、遺伝子増幅における設計を工夫しており、高い成功率につながるよう開発と改良を重ねてきました。
成功率の維持を品質目標にも掲げており、月毎に本検査の成功率をモニタリングしております。また、出検の条件に問題がある場合など提出施設にもフィードバックを行い、継続的な改善にも取り組んでおります。2023年度の平均成功率は、96.7%でした。クオリティ基準を下回った一部失敗例においても、参考値のまま出検元施設のご了承のもとで検査を続行したケースも含めると、98.5%の成功率(解析到達率)となっております。失敗の少ない検査により、素早い治療方針決定のサポートに繋がり、再出検対応及び再検査率の低下や、試薬消耗品の削減につながるため、関連する医療機関や輸送に関わる労力・コスト削減や、CO2削減をはじめとした環境負荷低減にも貢献しているものと考えています。
社内環境整備方針
中長期的な企業価値向上のためには、イノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせであります。
このため、専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むことが必要になると考えております。さらに、労働者不足への対応、生産性向上の観点から、性別や年齢などに関係なく様々な人材が活躍できる環境や仕組みを整備し、多様な人材が意欲をもって活躍する活力ある組織の構築を推進していくとともに、優秀な人材を確保するため、新卒を対象とした定期採用に加え、即戦力として期待できるキャリア採用も積極的に行っております。具体的には以下の環境を整備しております。
①副業・兼業等の多様な働き方の推進
社員が企業・社会に貢献しようとする主体的な意思を最大限に尊重し、社内外の副業・兼業を含む多様な働き方を選択できるよう、環境を整備しております。
②リモートワークへの対応
コロナ禍を契機に、リモートワークを希望する社員に対しては、組織と個人の生産性を維持・向上させるべく、コミュニケーションツールのデジタル化、社内決裁の簡素化・デジタル化等を行っております。
当社ではリスクを会社が将来生み出す収益に対し影響を与えるあらゆる事象発生の不確実性リスクと定義しております。その中でもとくに①コンプライアンス、②財務、③サービス品質、④実験事故、⑤情報システム、⑥特許に関連するリスクを重要なリスクと捉えております。全社的なリスク管理は、内部統制・コンプライアンス委員会において行っておりますが、サステナビリティに係るリスクの選別、優先的に対応すべきリスクの絞り込みについて、内部統制・コンプライアンス委員会の中でより詳細な検討を行い、共有しております。優先的に対応すべきリスクの絞り込みについては、当社に与える財務的影響、当社の活動が環境・社会に与える影響、発生可能性を踏まえ行われております。
当社では、上記「(2)戦略」において記載した、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。当社はこれらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針です。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1) 技術革新について
当社が属しているライフサイエンス関連市場分野は、技術革新が著しく新技術の研究開発が盛んに行われております。当社は、最新の技術を利用したサービス展開を主眼に研究開発を行っておりますが、技術革新により他社が同種のサービスを異なる技術を利用して開始し、異なる付加価値が追加された場合や、当社よりも大幅に安価なサービスが市場に提供された場合、期待どおりの収益をあげることができない可能性があります。
(2) 経営上の重要な契約等
当社は当事業年度末現在、「5.経営上の重要な契約等」に示すとおりビジネス展開上重要と思われる契約を締結しております。契約先とは密接な関係があり、相互利益のもとに研究開発を推進していることから、当該契約の解消の可能性は低いと考えておりますが、契約が継続されない場合は当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 知的財産権について
① 特許について
当社が事業を営んでいるバイオ業界は技術革新が著しく、特許が非常に重要視されております。
当社が現在保有している特許は19件でありますが、これ以外に出願中のものが8件あります。しかしながら、現在出願している特許がすべて成立するとは限らず、他社特許に抵触した場合等、当社の事業に影響を及ぼす可能性があります。後発品からの技術模倣についても事業拡大局面におけるリスクと捉えています。社内ノウハウを分析し、特許取得と自社内に留めるノウハウとの切り分けをして特許戦略を推進していきます。また今後の改良や開発品の事業化に事業抵触するリスクを低減するため、開発初期化からクリアランス調査や自社実施権を確保するための特許化を進めてまいります。十分な特許対策を実施して事業化を目指していけるよう特許対応戦略を見直し、知財対策体制の強化を継続してまいります。
② 共同研究における特許の帰属について
当社と大学及びその他公的機関に属する研究者との間で実施する共同研究において、その成果となる知的財産権に関しては、共同研究開発契約により各々の権利の持分を定めております。今後、大学等の特許管理体制の方針転換が行われた場合、新たな費用発生が生じる可能性があり、当社の事業に影響を及ぼす可能性があります。
(4) 法規制等について
当社は遺伝子検査サービスの展開や開発において、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」や「個人情報の保護に関する法律」等の法規制に抵触しないよう進めておりますが、法規制の改正その他規制の強化などの制約を受けた場合、当該サービスの開始の遅れや新たな費用発生など、当社の事業に影響を及ぼす可能性があります。
このため、当社は法規制等に関する動向を注視し、遺伝子検査サービスの開発を行っております。
(5) 政府のバイオ関連政策について
大学及びその他公的機関からの研究受託は、当社の売上高の大きな部分を占めております。政府のバイオ関連政策の変更に伴い、大学及びその他公的機関の研究予算が削減された場合は当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響については、現時点における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローへの影響は僅少であります。
(6) 小規模組織であることについて
当社は当事業年度末現在で、従業員37名の小規模組織であります。当社は、業務遂行体制の充実に努めてまいりますが、小規模組織であり、限りある人的資源に依存しているために、社員に業務遂行上の支障が生じた場合、あるいは社員が社外流出した場合には、当社の業務に支障をきたすおそれがあります。
(7) 提出会社が将来にわたって事業を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象
将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況といたしまして、2006年3月期より、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しております。当事業年度におきましても営業損失258百万円、経常損失245百万円、当期純損失248百万円、営業キャッシュ・フロー△140百万円を計上しております。
(8) 提出企業が将来にわたって事業を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象を解消し、又は改善するための対応策
「(7) 提出企業が将来にわたって事業を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象」の記載に基づき、今後、より詳細に市場動向を調査し中期事業計画を定め、受託事業では遺伝子解析サービスの収益化を、また、診断事業では遺伝子パネル検査等の事業拡大を目指してまいります。
その中で次事業年度は以下の施策に取組み、1,100百万円の売上確保を目標としております。
受託事業におきましては、当社のノウハウを活用した提案型研究受託の営業強化を図るとともに、実験デザインの提案、検体の受領からデータ解析まで、顧客ニーズに応じた一気通貫の大型案件の受注へつなげてまいります。さらに、最新技術の導入やアカデミア等との連携強化を行い、新サービスメニュー開発による他社との差別化を図ってまいります。
研究事業におきましては、次世代シークエンサーを使用したがん診断技術に関する研究開発やこれまで行ってきたRNAチェックの研究開発を通して、将来の診断・創薬に役立つツールの実用化に向けた研究を進めております。さらに、三井化学株式会社との協業により、当社の遺伝子解析技術と三井化学株式会社のライフサイエンス関連技術を有効に活用することで、両社が協力し、検査・診断領域での新事業を創出すること目指します。
診断事業におきましては、肺がん コンパクトパネルⓇの製品改良とシェア拡大を図るとともに、さらに、新規診断検査メニューの開発を行い、肺がん コンパクトパネルⓇに続く新たな診断検査の開発を進めてまいります。
文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。
当事業年度の経営成績は、前事業年度よりも売上高が増加し、売上高は490百万円(前年同期比149.7%)となりました。利益面では、営業損失258百万円(前年同期362百万円)、経常損失245百万円(前年同期365百万円)、当期純損失248百万円(前年同期362百万円)となりました。
財政状態におきましては、当事業年度末における総資産の残高は、前事業年度末に比べ111百万円増加し982百万円となりました。
また、キャッシュ・フローの状況におきましては、当事業年度末における現金及び現金同等物の期末残高は前事業年度末に比べ113百万円増加し388百万円となりました。
①経営成績の状況
当事業年度における経営成績の状況は以下のとおりであります。
(売上高)
当事業年度の売上高は、490百万円(前年同期比149.7%)となりました。セグメント別の状況は以下のとおりです。
ⅰ.受託事業
受託事業の主要サービスである次世代シークエンス受託解析サービスは、売上が前年と同水準となりました。価格競争の激化により、大学からのご依頼件数が伸び悩んだ一方、民間企業を中心に大口案件の受注を獲得することが出来ました。
<マイクロアレイ受託解析サービス>
マイクロアレイ受託解析サービスについては、前年に比べ問い合わせ件数が減少しており、市場のトレンドとしては次世代シークエンスへの移行が顕著となっております。マイクロアレイ受託解析サービスは前年と比べ売上が減少いたしました。
<その他遺伝子解析サービス>
多様化する受託解析ニーズに合わせて、生体サンプル(細胞や組織等)からの「核酸(DNA/RNA)抽出サービス」にも力を入れております。抽出サービスは次世代シークエンスやマイクロアレイを実施する際の前段階でのサービスとなります。製薬企業を含む民間企業の売上増加に伴い、抽出サービスの件数が増加いたしました。
<Tbone Exキット>
原材料費高騰によるキットの値上げを行った結果、販売数量は前年と横ばいでしたが、売上が増加いたしました。
ⅱ.研究事業
<NOIR-SS技術>
EGFRリキッドの技術をさらに改良した、NOIR-SS技術(分子バーコード技術を用いて高感度かつ正確な分子数測定が可能となる超低頻度変異DNAの検出技術)の研究開発に取り組んでおります。これは、複数の遺伝子を、高い精度で変異検査ができる技術です。この技術の活用範囲として、リキッドバイオプシー(血液などの体液サンプルを使用する方法)による低侵襲的遺伝子検査、クリニカルシークエンスによる個別化医療、血液からのがん再発の早期発見、免疫チェックポイント阻害剤の効果判定などが期待されております。
<肺がん コンパクトパネルⓇの応用>
肺がん コンパクトパネルⓇで培ったパネル開発・薬事戦略・プログラム医療機器システム構築のノウハウを他癌種のコンパニオンパネル検査へ応用する開発を進めております。複数の薬剤が上市されることで一括パネル検査が適用可能な癌種も増えつつあり、コンパクトパネルのベーステクノロジーを活用しながら国内の診療ニーズにマッチしたパネル製品の開発を目指しております。現在、他癌種への応用の実現化を目指し、一括パネル検査系の構築を行うとともに、Key Opinion Leader(KOL)の先生方、製薬企業とも協議を進めております。
<RNAチェック>
大学・研究機関との共同研究等により、将来の診断・創薬に役立つ新しい検査方法を開発しております。その方法は、“RNAチェック”(遺伝子発現検査)と呼び、遺伝子の「変異」を調べるDNA検査(遺伝子検査)とは別の方法で、遺伝子の種類と量を調べる検査です。現在、このRNAチェックに基づいた次の研究開発を進めております。主には、学校法人慶應義塾大学、学校法人埼玉医科大学及び学校法人北里大学との抗リウマチ薬の効果予測研究、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターとのうつ病の早期発見を目的としたバイオマーカー研究などを進めております。
<三井化学株式会社との協業>
三井化学株式会社と資本業務提携契約を締結したことにより、当社の遺伝子解析技術と三井化学株式会社のライフサイエンス関連技術を有効に活用、更に、両社が有するネットワークや経営資源を活用することで、両社が協力し、検査・診断領域での新事業を創出することを目的に協議を進めております。2024年度中に新しく共同研究開発に着手する予定です。
ⅲ.診断事業
<肺がん コンパクトパネルⓇ>
追加3遺伝子の追加申請の承認審査について、2022年12月16日に一部変更申請を提出し、2024年1月26日に承認事項一部変更について統合承認を得ました。合計7遺伝子のコンパニオン診断対象となったことにより、アカウント取得および施設導入が順調に増加しております。2024年3月には、単月での診断事業部利益は、5.65百万円と単月での黒字化を達成しました。検出感度の良さ(少ない腫瘍細胞でも提出できること)、バリアント網羅性、液性細胞診での検査適用といった差別化要素が、臨床現場のニーズを捉えていることが好調の一因と考えております。また、サービス強化の一環として、未承認解析項目にてERBB2(HER2)が変異陽性になった場合に、残余核酸を用いて確認検査を実施する“コンパクトパネルHER2 confirmation set”について大手検査会社3社と連携し、現状未承認項目であるHER2におけるバックアッププログラム提供を7遺伝子アップデートと同時に開始しました。2023年11月には、肺癌学会のガイドラインにおける、“細胞診を対象としたバイオマーカー検索”や“肺癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き”の項目の中で、肺がん コンパクトパネルⓇが新たに掲載されました。今後も、臨床現場のニーズに耳を傾けながら製品改良を続け、マーケットシェアの拡大につなげていきます。2023年度は検体数の増加に対応するため、検査体制の強化を行い、出検から検査報告までの検査提供時間(Turn Around Time)は、年間を通して中央値で8日を維持しました。今後、受注数が大幅アップしてもTurn Around Timeが遅くならないようシステム化による自動化拡張、人員体制・教育システム強化による検査品質の向上を進めております。
<NOIR・AI解析>
臨床研究でのコンパクトパネルの活用、高精度分子バーコード法によるリキッドバイオプシー研究案件、周術期における高感度パネル検査および浸潤リンパ球プロファイル解析などの研究プロジェクト支援にむけ、サービス改良や大型研究支援案件受注に向けた開発を進めて参りました。2023年度は、複数のリキッドバイオプシープロジェクトの解析支援、ゲノム情報からのAI駆動型化合物予測ツールの開発及び性能改良、免疫細胞レパトア解析手法の開発及び解析支援に取り組み、今後の新規メニュー化につながる成果が得られました。
<MammaPrint>
保険診療検査としての検査は、競合製品の保険検査が開始となった影響もあり、伸び悩んでおります。一方、研究用途としての根強い需要があり、大型の臨床研究案件の受注が入っており売上につながっています。
(売上原価、販売費及び一般管理費)
売上原価は、前事業年度に比べ60百万円増加し424百万円、販売費及び一般管理費は、前事業年度に比べ2百万円減少し324百万円となりました。
(営業損失)
前事業年度は営業損失362百万円であったのに対し、当事業年度の営業損失は258百万円となりました。
(営業外収益)
前事業年度は0百万円であったのに対し、当事業年度は補助金収入等が15百万円ありました。
(営業外費用)
前事業年度は第三者割当増資に伴う株式交付費等が2百万円ありましたが、当事業年度においても第三者割当増資に伴う株式交付費等が2百万円ありました。
(経常損失)
前事業年度は経常損失365百万円であったのに対し、当事業年度の経常損失は245百万円となりました。
(特別利益)
前事業年度は新株予約権戻入益等が8百万円あったのに対し、当事業年度はありませんでした。
(特別損失)
前事業年度は固定資産の減損損失が4百万円あったのに対し、当事業年度は固定資産の減損損失が0百万円ありました。
(当期純損失)
前事業年度は当期純損失362百万円であったのに対し、当事業年度は、当期純損失248百万円となりました。
なお、当事業年度の経営成績をふまえて、次事業年度におきましては以下の取組みを実施し、1,100百万円の売上確保を目指してまいります。
受託事業
・当社のノウハウを活用した提案型研究受託の営業強化
・実験デザインの提案、検体の受領からデータ解析まで、顧客ニーズに応じた一気通貫の大型案件の受注確保
・最新技術や外部企業との連携強化
・新サービスメニュー開発による他社との差別化
研究事業
・次世代シークエンサーを使用したがん診断技術に関する研究開発
・RNAチェックの研究開発
・三井化学株式会社との協業
診断事業
・肺がん コンパクトパネルⓇの製品改良とシェア拡大
・新規診断検査メニューの開発
・MammaPrintの販売拡大
・研究用検査サービスの提供
取組みの詳細は、上記「第2 事業の状況 3 事業等のリスク(8) 提出企業が将来にわたって事業を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象を解消し、又は改善するための対応策」をご参照ください。
② 財政状態
当事業年度末における総資産の残高は、前事業年度末に比べ111百万円増加し982百万円となりました。その主な要因は次のとおりです。
(流動資産)
流動資産は、前事業年度末に比べて151百万円増加し、677百万円となりました。これは、現金及び預金が113百万円、売掛金が16百万円、仕掛品が17百万円、貯蔵品が31百万円それぞれ増加し、受取手形が12百万円、前払費用が5百万円、未収消費税等が26百万円それぞれ減少したことなどによるものです。
(固定資産)
固定資産は、前事業年度末に比べて40百万円減少し、305百万円となりました。これは、無形固定資産のうちソフトウェアに係る減価償却費31百万円による減少、投資その他の資産のうち長期前払費用8百万円の減少などの影響によるものです。
(流動負債)
流動負債は、前事業年度末に比べて87百万円増加し、208百万円となりました。これは、買掛金が14百万円、未払金が19百万円、前受金が42百万円、未払消費税が4百万円それぞれ増加したことなどによるものです。
(固定負債)
固定負債は、前事業年度末に比べて2百万円増加し、41百万円となりました。これは、退職給付引当金2百万円の増加によるものです。
(純資産)
純資産は、前事業年度末に比べて21百万円増加し732百万円となりました。これは、第三者割当増資により資本金及び資本準備金がそれぞれ134百万円増加し、当期純損失による利益剰余金が248百万円減少したことなどによるものです。
当事業年度末における現金及び現金同等物の期末残高は前事業年度末に比べ113百万円増加し388百万円となりました。その主な要因は、税引前当期純損失による減少246百万円のほか、減価償却費の発生41百万円、売上債権の増加10百万円、棚卸資産の増加49百万円、仕入債務の増加16百万円、前受金の増加42百万円、有形・無形固定資産の取得による支出15百万円、株式の発行による収入269百万円などによるものです。当事業年度における各項目の状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、前事業年度は336百万円の支出に対し、当事業年度は140百万円の支出となりました。主な要因は、収入では減価償却費41百万円、仕入債務の増加16百万円、前受金の増加42百万円、支出では税引前当期純損失246百万円、売上債権の増加10百万円、棚卸資産の増加49百万円などによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、前事業年度は155百万円の支出に対し、当事業年度は15百万円の支出となりました。主な要因は、有形固定資産の取得による支出7百万円、無形固定資産の取得による支出8百万円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、第三者割当増資による収入が前事業年度では278百万円、当事業年度では269百万円発生いたしました。
④ 重要な会計上の見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(2) 生産、受注及び販売の状況
当事業年度における生産実績を示すと、次のとおりであります。
(注) 1 金額は、販売価格によっております。
2 当事業年度において、生産実績に著しい変動がありました。これは、診断事業におきまして、肺がん コンパクトパネルⓇの売上の大幅な増加によるものであります。
当事業年度における仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 金額は、仕入価格によっております。
2 当事業年度において、仕入実績に著しい変動がありました。これは、診断事業におきまして、肺がんコンパクトパネル検査に使用する試薬等の仕入量の大幅な増加や円安の影響による材料価格の上昇によるものであります。
③ 受注実績
当事業年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 当事業年度は受託事業では次世代シークエンス受託解析サービスの受注高が前年より減少した影響で、受注残高が前事業年度よりも減少し前年比70.6%となりました。また、診断事業では肺がん コンパクトパネルⓇの受注高が大幅に増加した影響もあり、受注残が前年比233.9%と大幅に増加いたしました。
当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 当事業年度において、販売実績に著しい変動がありました。これは、診断事業におきまして、肺がん コンパクトパネルⓇの売上の大幅な増加によるものであります。
3 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。
(1) 業務提携契約
(2) 当社が許諾を受けたライセンス契約
(3) 当社が許諾を与えたライセンス契約
(4) 共同研究契約
(5) 売買契約等
当社の研究開発の目標は、主として診断に有用なコンテンツの開発を行うことであります。このために、関連技術を有する大学・研究機関及び企業等と手を組み共同研究や研究の受託を積極的に推進しております。
当事業年度に実施した研究開発活動は以下のとおりです。
(1)診断メニュー拡充のための取組み
①次世代シーケンサーを使用したがん診断技術・リキッドバイオプシーに関する研究開発
ⅰ.次世代シーケンサーを使用した肺がんコンパクトパネル検査の開発
ⅱ.NOIR-SSをはじめとした希少変異解析技術・クリニカルシークエンス技術の開発
ⅲ. AI技術・機械学習技術を活用したリキッドバイオプシー研究手法及び新規診断技術の開発
ⅳ.Pan-cancer(多様ながん種)及び肺がん以外のがん種を対象とした遺伝子検査の開発
②関節リウマチに関する研究
ⅰ.関節リウマチの多剤効果予測に関する研究
・DNAチップを使用した検査に関する研究
・qPCRを使用した検査に関する研究
ⅱ.関節リウマチ新規病態マーカー関する研究
③精神疾患診断に関する研究
ⅰ.うつ病およびストレス関連バイオマーカーに関する研究
ⅱ.新規リキッドバイオプシー解析技術による精神疾患の再分類に関する研究
④認知障害・アルツハイマー病診断に関する研究
(2)当事業年度に発表した論文
(a) 喀痰を対象とした肺がんコンパクトパネル解析でALK融合遺伝子を検出した症例
Morikawa K, Kinoshita K, Matsuzawa S, Kida H, Handa H, Inoue T, et al. EML4-ALK Gene Mutation Detected with New NGS Lung Cancer Panel CDx Using Sputum Cytology in a Case of Advanced NSCLC. Diagnostics (Basel). 2023;13:2327.
(b) 実臨床における細胞診検体を用いた肺がん コンパクトパネルⓇの有用性について
Higashiyama M, Kobayashi S, Nojiri T, Uda H, Inoue M, Yamauchi A, et al. Clinical Usefulness of the Lung Cancer Compact PanelTM Using Cytological Specimens for the Diagnosis of Lung Cancer Patients. JJLC. 2023;63:285–91. 肺癌 63 (4):285─291,2023
(c) オシメルチニブ治療後に腺癌から扁平上皮がんに転化した症例の遺伝子解析
Morikawa K, Handa H, Ueno J, Tsuruoka H, Inoue T, Shimada N, et al. RET fusion mutation detected by re-biopsy 7 years after initial cytotoxic chemotherapy: A case report. Front Oncol. 2022;12:1019932.
(d) BRAF変異を持つ転移性大腸癌に関する観察研究
Inagaki C, Matoba R, Yuki S, Shiozawa M, Tsuji A, et al. The BEETS (JACCRO CC-18) trial: an observational and translational study of BRAF-mutated metastatic colorectal cancer. Future Oncol. 2023; 19(17):1165-1174.
(e) 胃癌における免疫チェックポイント阻害薬の効果予測マーカーの解析
Kawakami H, Sunakawa Y, Inoue E, Matoba R, Noda K, Sato T, et al.Soluble programmed cell death ligand 1 predicts prognosis for gastric cancer patients treated with nivolumab: Blood-based biomarker analysis for the DELIVER trial. Eur J Cancer. 2023; 184:10-20.
(f) 次世代シーケンサーのデータ解析における新しい手法の提案
Hijikata A, Suyama M, Kikugawa S, Matoba R, Naruto T, Enomoto Y, et al. Exome-wide benchmark of difficult-to-sequence regions using short-read next-generation DNA sequencing. Nucleic Acids Res. 2024; 52(1):114-124.
(3)当事業年度に取得・申請した特許
当期に取得及び申請した特許はございません。
(4)現在進めている共同研究開発
「第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等 (4)共同研究契約」に記載のとおりであります。
なお、2024年3月期の研究開発費は