以下、第2 事業の状況に記載している金額は消費税等抜きの額である。
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1)経営の基本方針
長期的な視点に立った会社経営を基本に、経営の効率化と収益力の向上によって、企業価値をより高めていくことを目標としており、その実現を通じて、株主、顧客、取引先、従業員、地域社会など、すべてのステークホルダーの信頼と期待に応えられる経営を目指している。
(2)経営環境及び対処すべき課題
① 経営環境
当社グループの経営環境については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績」に記載のとおりである。
② 対処すべき課題
ア 安全最優先への取組みについて
当社では、2023年9月19日に「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業建設工事」において、
鉄骨建方作業中に鉄骨の梁が崩落し、6名が被災、うち2名が死亡するという重大災害が発生した。本災害によ
り尊い人命が失われ、一命をとりとめた方も重症を負うなど、工事に従事される方の安全を守れなかったことは
当社にとって痛恨の極みであり、その責任を真摯に受け止め、ご遺族の皆さまと被災者及びそのご家族に対して
誠心誠意対応するとともに、現在も捜査中の当局に対して全面的に協力している。
当社グループとしては、二度とこのような事故を起こさないとの強い決意のもと、「安全に一切の妥協をしな
いこと」、「事業に関わる全ての人の安全を確保すること」を経営の最優先事項であることを改めて認識し、そ
れらを実現するための取り組みを推進しており、引き続き株主をはじめとしたステークホルダーの皆様からの信
頼回復に努めていく。
(ア)当該現場における対応
■対策本部の設置~工事再開
災害発生直後に、社長の任命の下、建築全般を所掌する副社長執行役員を本部長として対策本部を設置し
(他に安全本部長や建築本部長などの役員、部門長等がメンバーとして参画)、2024年1月中旬までの約4か
月間にわたり工事を中断して、当局による捜査、調査に協力する(現在も捜査は継続中)とともに、事故に至
ったあらゆる可能性を排除することなく安全対策(※)を実施することで、諸官庁、発注者等の関係各所の了
解を得て、2024年1月16日に工事を再開した。
(※)安全対策 |
|
① 施工計画の再構築及び再承認等 |
●鉄骨工事計画の見直し 東京本店工事部門・安全部門の管理の下、鉄骨工事の施工ステップや組み立て中の鉄骨を支える支保工等の強度計算、落下対策等を改めて見直し、本件事故原因のあらゆる可能性を考慮のうえ安全性を十分に確保した施工計画を再構築 ●その他重要工程の施工計画の見直しと承認フローの強化 鉄骨工事以外にも重点管理すべき工程を特定し、当該工事計画を見直すとともに、社内チェック体制を強化 |
② 施工管理体制の強化 |
●安全専門の総括監督者、工務計画の専門班設置など工事事務所の班編成、要員体制を増強 ●上記体制増強の下、すべての計画変更・作業変更におけるリスクアセスメントの実施徹底 ●常設部門(工事部、安全部等)によるパトロール強化 ●労働安全衛生に関する第三者専門機関による安全診断の月2回受診 |
上記の対策については、労働安全衛生に関する第三者専門機関による診断評価を受け、その意見を反映した
ものとなっている。
■役員の報酬返上
当局による捜査は継続中であるが、重大災害の発生を重く受け止め、当工事の責任ラインに属する社長以下
の役員6名が報酬の一部返上を実施した。
(イ)全社における再発防止策
■全社の鉄骨建方工事に関する緊急安全総点検(災害発生直後に実施)
■「重点管理工事の安全衛生リスク管理実施要領」の策定
工法や計画の検討不足等によって発生する事故・労働災害を未然に防止することを目的として、リスクの高
い工事を「重点管理工事」として定めたうえで、工事事務所と常設部門が一体となって安全衛生リスクを管理
する実施要領、フローを策定した。
■「安全最優先への取り組みについて」の策定、着手
社長の諮問機関である「経営計画委員会」にて全社の安全対策の審議、取りまとめを行い、「安全最優先へ
の取り組みについて」として経営会議及び取締役会メンバーに報告のうえ、取り組みに着手している。
「安全最優先への取り組みについて」で掲げる主な施策 |
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① 安全監察監の各店への配置 |
安全衛生に関する優れた専門知識を有する外部人材を「安全監察監」として任用し、外部の客観的視点と法令に基づく厳格な指導・助言を行う安全本部直属の機関として各店に配置する。 |
② 安全に対するコミットメントの強化 |
従業員一人ひとりの安全意識を高めるためにはトップのコミットメントが重要であることから、その動機付けとして、各本支店長に自主的な目標設定を求めるとともに、各会議体における直接の発信機会を設ける。 |
③ 安全に関する教育・研修の見直し |
当社としての基本的な安全基準を全従業員に漏れなく習得させるための各本支店、土木・建築事業間の育成水準の統一や、「自分ごと」として考えさせるワークショップ形式の導入など教育内容の見直しを実施するとともに、安全研修の頻度を上げるなど教育機会の増加を図る。 |
④ 大規模現場組織編成ガイドラインの策定 |
大規模建築現場において、特に組織編成を行う上で重要と考えられる役職者及び法令等に基づく責任者の選任・責務を明確化することを目的として、「大規模現場組織編成ガイドライン」を策定し、標準モデルとして全社展開する。 |
また、2024年3月14日、本災害の再発防止に加え重大災害抑止に向けた安全管理体制の強化に関する本支店
幹部役職員向け及び本支店協力会社向けの周知会を開催した。
周知会の概要 |
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出席者及び人数 |
各本部長、本支店長及び本社・本支店の関係各部門長等 540名 本支店協力会社 代表者等 219名 |
内容 |
① 2023年度に発生した重大災害に繋がる災害事例 ② 本災害の概要及び再発防止策の説明 ・個別の再発防止について ・全社対応の取り組みについて ⅰ 「安全最優先への取り組みについて」で掲げる各種施策 ⅱ 「仮設支保工(ベント)工事」の社内審査ルール化及び図解資料の追記・改訂 ⅲ 重点管理工程を特定した安全衛生リスク管理の実施要領の策定 ⅳ 社内イントラネット上への重大災害事例のアーカイブ化 |
<周知会の様子> |
<重点管理工事の安全衛生リスク管理実施要領> |
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森田建築本部長による再発防止策の説明 |
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イ 大林グループ中期経営計画2022追補について
当社グループは、2022年3月に公表した大林グループ中期経営計画2022『事業基盤の強化と変革の実践』において、2022年度、2023年度を「建設事業の基盤強化への取組み」の期間とし、連結営業利益1,000億円をボトムラインに業績の安定を図るとともに、2026年度までの「変革実践への取組み」により、中長期的な成長への道筋を確立することとしていた。
しかしながら、想定を超える事業環境の変化(建設資材価格の高騰、生産力拡充を上回る建設需要の拡大継続、海外での金融政策の変化など)が生じてきた中、収益性は当初計画を下回って推移し、また、建設事業の存続の前提となる安全と品質の面では、重大災害を根絶できておらず、このような当社グループの現況に鑑み、2023年度までとしていた「建設事業の基盤強化への取組み」を2024年度以降も継続し、徹底することとし、本年5月に「大林グループ中期経営計画2022追補」を策定、発表した。
中期経営計画2022では投下資本利益率(ROIC)を経営指標目標に採用し、資本効率性を重視する経営に取り組んでいたが、これをより一層推進するため、必要自己資本の水準を1兆円と設定して戦略的な資本政策を実行することとし、あわせて自己資本当期純利益率(ROE)を経営指標目標として「2026年度までに10%以上」と定めた。同時に、生産性の向上や新技術によるコストダウンに注力するとともに採算性を重視した受注戦略に取り組み一定の成果が上がってきたこと、社会全体で適正な価格転嫁への動きが進んでいることなどを踏まえ、現時点で想定される業績見通しに基づき中期経営計画2022の経営指標目標(投資計画・キャッシュアロケーションを含む)を一部見直した。
また、当社グループの持続的成長に向けては、国内建設事業を中核とし、それ以外の事業が国内建設と同等以上の業績を創出するグループ事業体制の将来的な構築を目指し、組織体制やガバナンス体制の整備等、経営基盤確立に向けた「変革実践への取組み」を中期経営計画2022期間で遂行する。
当社グループは「大林グループ中期経営計画2022追補」に定める施策を着実に実行し成長を図るとともに、資本効率性を重視する経営を推進することで、中長期的な企業価値向上に努めていく。
当社グループは、企業理念に『「地球に優しい」リーディングカンパニー』を掲げ、持続可能な社会の実現を目指し
ている。
創業以来受け継がれてきた精神である三箴「良く、廉く、速い」と「企業理念」、そして企業理念を実現するための
指針である「企業行動規範」から成る「大林組基本理念」を全社員で共有し、社員一人ひとりが「大林組基本理念」を
実践することこそが企業活動そのものであるという考えの下、企業活動を通じて社会的責任を果たすことで、持続可能
な社会の実現に貢献し、企業価値の向上に努めている。
また、2019年6月には、企業理念に基づき「Obayashi Sustainability Vision 2050」(OSV2050)を策定し、
OSV2050で掲げた「2050年のあるべき姿:地球・社会・人のサステナビリティ」と自らのサステナビリティ実現に向
け、さまざまな社会動向や当社グループを取り巻く事業環境の変化を捉え、ESG経営を基盤としてグループ一体で事
業を通じた企業価値の向上と社会課題の解決に取り組んでいる。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(参考)
◇基本理念
https://www.obayashi.co.jp/company/philosophy.html
◇Obayashi Sustainability Vision 2050
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/vision.html
◇価値創造プロセス(OBAYASHI コーポレートレポート2023 P.19, P.20)
https://www.obayashi.co.jp/ir/upload/img/ir2023_02.pdf
(1)ガバナンス
サステナビリティ課題に対する取締役会の実効的な監視・監督・関与を目的として、環境・社会のサステナビリ
ティ課題に関する取締役会の諮問機関として「サステナビリティ委員会」を、企業のサステナビリティ課題(企業
統治や経営戦略等)に関する取締役会の下部組織として「取締役座談会」をそれぞれ設置し、両課題の検討議論を
行う体制としている。取締役座談会は取締役全員及び常勤監査役により構成しており、企業統治や経営戦略など
の企業のサステナビリティ課題について検討・討議を行っている。サステナビリティ委員会は、代表取締役社
長 兼 CEOを議長としサステナビリティに関する専門性・経験を有する社外取締役などにより構成しており、サ
ステナビリティ課題の特定、特定したサステナビリティ課題の対応方針の検討及び提言ならびに執行における実
施状況のレビューを行っている。サステナビリティ委員会での議論を踏まえて、ESG経営推進及びSDGs達成
のための経営方針が取締役会にて決定される。
また、業務執行においては、経営会議のもと、代表取締役社長 兼 CEOから委嘱をうけた経営計画委員会及び
同委員会に設置する各サステナビリティ分野の専門委員会において、事業ポートフォリオ、人材組織戦略及び知的
財産戦略等の方向性と具体的な施策の立案、推進及び実施状況の把握を行い、取締役会に諮る体制としている。
<サステナビリティ推進体制>
(参考)
◇主な委員会の情報
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/
◇取締役の専門性と経験(スキルマトリクス)
https://www.obayashi.co.jp/company/governance/statement.html
(2)戦略
当社は、長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、「地球・社会・人」と当社グループ
のサステナビリティの実現に向けたESG重要課題(マテリアリティ)の特定と具体的なアクションプラン及びK
PIを設定している。同ビジョンに基づき2050年の「あるべき姿」実現に向け、カーボンニュートラルとウェルビ
ーイングを中期的な重点テーマに設定し、省エネのさらなる推進やグリーンエネルギーの利活用、ダイバーシティ
&インクルージョンの推進とともに革新的な技術開発を進めている。また、事業領域の深化・拡大とグローバル化
を進めるため、各事業・各エリアの成長性と収益性、当社グループの技術やネットワークの優位性、リスク等を検
証して最適な事業ポートフォリオを検討し、人的資本への投資や技術開発投資を含む将来に向けた投資配分の最適
化を図っている。
①気候変動
気候変動に関するリスク及び機会については、2020年7月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)
提言への賛同を表明し、関連リスクと機会を特定・評価し、気候変動関連問題が事業に与える中長期的なインパク
トを把握するため、シナリオ分析を実施のうえ、2020年11月に同提言に沿った情報を開示した。また、ISSB
「IFRSサステナビリティ開示基準」の公開など、社会からの要請に応じるため、2024年4月に情報を更新し
た。
ア リスク及び機会の特定
大林グループは、事業・戦略・財務計画の検討を行う際に、短期・中期・長期(「短期」:3年以内、「中
期」:~2030年、「長期」:2031年~2050年を想定)の気候関連リスク及び機会による影響を判断する一連の
プロセスの中で、気候変動の影響についても考慮している。影響度は大(100億円以上)・中(10億円以上100
億円未満)・小(10億円未満)の3段階で評価している。
イ シナリオ分析
・TCFDの提言に基づき、リスク及び機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える中長期的なインパ
クトを把握するため、シナリオ分析を実施している。
・分析においては、産業革命前に比べ2100年までに世界の平均気温が4℃前後上昇することを想定した4℃シ
ナリオと、1.5℃前後上昇する1.5℃シナリオを採用し、各シナリオにおいて政策や市場動向の移行(移行リ
スク・機会)に関する分析と、災害などによる物理的変化(物理リスク・機会)に関する分析を実施してい
る。
2022年10月には、SBT(Science Based Targets)の認定を取得し、2030年度までに2019年度比で、Scope1+
2を46.2%、Scope3を27.5%とするCO2排出量削減目標を掲げて、着実な取り組みを実行している。
なお、これらの情報については、当社ウェブサイトやコーポレートレポートで開示している。
シナリオ分析結果のまとめ
(参考)
◇気候関連の情報開示
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/environment/tcfd.html
◇脱炭素社会
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/environment/action.html#section1
②人材マネジメント
当社グループは、事業に関わるすべての人を大切にすることを企業理念に掲げており、多様性を受け入れ相互
に尊重し合える企業(組織)風土をこれからも変わらない当社グループの守るべきDNAと捉えている。この企
業風土の下、仕事を通じた成長機会の提供や働きがいのある職場をつくり、働く人のエンゲージメントを向上さ
せることを目指し、「大林グループ人材マネジメント方針」を定めている。
具体的には、執行側に設置した「人材マネジメント専門委員会」において、人事制度の運用、人材活用、ダイ
バーシティなどの推進に向けた取組みを行っている。
ア 健康経営の推進
当社グループは、健康経営を人材マネジメント戦略の重要な要素として位置付けている。2022年12月に健康経営方針を策定し、健康経営推進専門部会を設立するなど体制を整備し、健康経営課題、課題に対する最終目標と指標を定めて積極的に推進している。
社長が健康経営責任者となり、経営会議の下、経営計画委員会及び同委員会に設置した人材マネジメント専門委員会が方針・戦略を策定し、その傘下に置かれた健康経営推進専門部会が、全国土木建築国民健康保険組合などと連携を図りながら、具体的な施策を推進している。同専門部会では、産業医や公認心理師・臨床心理士と協働し、グループ全社員の健康診断データなどの分析、検証を踏まえた職場環境の整備など、社員とその家族の健康保持・増進に向けた施策の立案、推進に継続的に取り組んでいる。
(参考)
◇健康経営方針・健康経営推進体制
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/employee/hrm.html#section1
イ ダイバーシティ&インクルージョンの推進
当社グループは人材が最も重要な経営資源の一つであるとの考えのもと、社員一人ひとりが強みや能力を最大限に発揮できるよう、能力本位での登用を基本方針とするなど、ダイバーシティ&インクルージョンを推進している。2021年4月には「ダイバーシティ&インクルージョン推進部」を設置し、各人が働きがいを持って業務と向き合い、成長を促す環境や機会を整備・提供することによりウェルビーイングの実現を目指している。ジェンダー、国籍、文化、世代及び障がいの有無などにとらわれることなく、多様な人材が等しく活躍できる職場環境の整備や、さらなる人材の確保と活躍推進に取り組んでいる。
(参考)
◇ダイバーシティ&インクルージョン
https://www.obayashi.co.jp/diversity_inclusion/
ウ 人材教育
当社グループの持続的な成長を支えるには人材の育成が不可欠であることから、さまざまな教育施策を展開している。年代や職責に応じた階層別研修のほかに、職種別の専門研修、事業・業務領域別の研修を実施している。
新卒採用の社員には、入社後の数週間は職種を問わず、社会人としてのビジネススキルを学ぶ集合研修を実施している。講義やディスカッション、グループワークなどの教育を終えた後、職種別に専門的なスキルを学ぶ教育を実施している。
キャリア採用の社員は、新卒採用の社員と等しく活躍できるよう、入社時には、職種を問わず人事諸制度や情報セキュリティ教育、人権研修などを行った後、職種別に必要な教育を実施している。
実務職層には、職場内において1年を通じてPDCAのサイクルを回すことによって、一人ひとりに即した成長を実現していく。また、同じ職場内で「指導員」を選任し、実務の基礎や知識、技術などを確実に身に付けられるようきめ細やかな指導を受けながら、各人の能力を伸ばしている。
また、全階層を対象に職場外教育として、大林組の社員として必要な知識やスキルを階層別に習得していく「共通集合研修」や、事業領域、業務領域に分かれた研修なども実施している。
(参考)
◇大林組の教育制度
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/employee/hrm.html#section3
エ エンゲージメント向上
大林グループ人材マネジメント方針に沿って、社員のエンゲージメント向上に向けてさまざまな取り組みを行っている。2023年度から「従業員満足度70%以上の達成」をKPIとして設定している。エンゲージメントが高い状態=組織が好活性状態という考えのもと、全社員を対象にエンゲージメント調査を実施し、調査結果から「従業員満足度」を算出することで、その実効性を評価している(2023年度の従業員満足度80.9%、前年度比+2.5ポイント)。
オ 賃上げ
大林グループの業績や中長期的な成長への貢献に対して、適時適切に報い、各人のモチベーションの維持・向上に努めている。2024年4月の賃金改定において、定期昇給にベースアップ(基本給は従業員平均で月当たり約25,000円の引き上げ)を加え、約7%の賃上げを実施した。今回のベースアップは、インフレ経済が定着していく中、政府の「成長と分配の好循環」の達成に資するとともに、物価上昇を上回る賃上げを実施し、建設業の魅力を高めていくことが大林組の社会的責務であるとの判断によるものである。
③人権
当社グループは、企業の社会的責任として多様な人材の活躍につながる人権の尊重を重要な課題の一つとして
捉え、「人を大切にする企業の実現」を目指し、「ビジネスと人権に関する指導原則」など国際的な人権規範に
則った「大林グループ人権方針」を策定の上、人権尊重の取り組みを進めている。
具体的には、執行側に設置したヒューマンライツ専門委員会及びサプライチェーンマネジメント専門委員会に
より、人権デュー・デリジェンスの取り組みとともに、サプライチェーンを含めた人権課題の解決及び人権啓発
を推進している。
2019年度に主な事業である建設事業、不動産事業、新領域事業に分け、ステークホルダーごとにリスクを抽
出、評価し、大林グループが優先的に取り組む人権課題(顕著な人権課題)を以下のとおり特定している。
(参考)
◇人権に関する取り組み年表
https://www.obayashi.co.jp/sustainability/employee/humanrights.html
(3)リスク管理
当社グループは、企業活動に伴うリスクの的確な把握とその防止、または発生時の影響の最小化に努めること
が、企業価値の向上とステークホルダーに対する社会的責任を果たすことにつながると考え、グループ全体を包括
するリスク管理体制を構築している。環境・社会のサステナビリティについては、「サステナビリティ委員会」に
て、企業のサステナビリティ課題(企業統治や経営戦略等)に関しては「取締役座談会」にて、それぞれリスク及
び機会を抽出・評価のうえ、サステナビリティ課題の特定及びその対応方針の検討を行うとともに、執行における
実施状況を評価し、その結果を取締役会に報告している。
各部門においては、業務プロセスに内在するリスクを把握し、必要な回避策・低減策を講じたうえで業務を遂行
するとともに、機能別リスク管理委員会及びサステナビリティ分野専門委員会がリスク情報の報告を受け、指示・
監督している。また、監査役会及び内部統制監査室が、各部門のリスク管理状況を監査している。
<リスク管理体制図>
(4)指標及び目標
当社グループでは、ESG経営の推進にあたり大林組基本理念に基づき6つのESG重要課題を特定している。
「Obayashi Sustainability Vision 2050」の目標達成に向けて、中期経営計画の事業施策にマテリアリティを組み
込み、SDGsと関連付けて活動することで、中長期的な成長と持続可能な社会の実現を目指している。マテリア
リティに紐付けて設定したアクションプラン・KPIに対して毎年度進捗状況を確認し、PDCAサイクルによる
推進活動を行っている。なお、取締役の報酬の一部である中長期業績連動株式報酬について、支給額算定の基礎と
なる業績指標としてESG指標(CO2排出削減量、死亡事故・重大災害発生件数、従業員満足度)を採用し、イ
ンセンティブとすることでESG経営の一層の推進を図っている。
詳細については、「
している。
<マテリアリティ及びアクションプラン>
<KPI>
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1) 事業に対する法的規制
建設業法、建築基準法、宅地建物取引業法、独占禁止法、労働安全衛生法等の当社の事業に対する法的規制の改廃や新設、適用基準の変更等があった場合、これに伴う対応費用等が事業収支に反映され、経営成績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、各事業部門や法務部等において、事業活動に影響を及ぼす法的規制の制定改廃動向を予め把握し、社内教育や研修等により周知し適正な事業活動の推進に繋げるとともに、法規制対応に関する費用を見積原価や事業性判断のための収支予測に正しく反映することとしている。
(2) 建設市場の動向
当社グループの主要事業である建設事業において、国内外の景気後退等により建設市場が著しく縮小した場合、工事受注量の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、中長期的な市場動向を見越した要員計画の立案に加え、営業力、調達力の更なる強化、次世代生産システムの技術開発による生産性向上や施工能力の拡大に取り組んでいる。さらに、事業領域の拡大を通じた収益源の多様化に取り組むとともに、強固な財務体質の構築に取り組んでいる。
(3) 施工物等の不具合や重大事故
当社グループの主要事業である建設事業において、設計、施工などの各面で重大な瑕疵があった場合や、人身、施工物などに関わる重大な事故が発生した場合、多額の補償等の費用が発生することなどにより当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、品質マネジメントシステムの国際認証であるISO9001を取得して厳格な品質マネジメント体制を構築している。また、安全管理の専任部門である安全本部を設置し、同本部において労働災害の撲滅に向けた全社的な安全管理体制を構築している。さらに、建設工事保険、賠償責任保険等の付保によるリスクヘッジも行っている。
(4) 取引先の信用リスク
発注者、協力会社、共同施工会社及びその他取引先の信用不安などが顕在化した場合、資金の回収不能や事業遅延を惹起し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、取引前・取引中の与信確認を徹底するとともに、主要事業である建設事業においては、出来高に応じた工事代金の受領・支払などの取引条件確保に取り組んでいる。
(5) 労務単価及び建設資材価格の変動と調達難に関するリスク
当社グループの主要事業である建設事業において、労務単価の高騰や技能労働者の不足が生じた場合や、地政学的情勢、経済制裁措置によるサプライチェーンの混乱や分断、物価上昇や為替変動等による建設資材の急激な価格高騰や調達難が生じた場合、工事原価の上昇による利益率の低下や工期遅延による損害賠償のおそれなど、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、協力会社の施工余力の把握等に基づいて当社グループの将来の施工キャパシティを常に把握し、これに応じた受注水準の維持に努めているほか、国内工事に関して海外調達を行う場合は、必要に応じて為替予約取引を行い、リスクヘッジを図っている。また、地域ごとに協力会社の互助組織である「林友会」を組織するなど、安定的なサプライチェーンの構築に取り組むとともに、省人化に向けた自動化技術・機械の開発等を進めている。
さらに、早期購買や将来予測を含めた正確な原価把握を徹底し、適切な見積原価を算出することとしており、加えて、複数のサプライヤーとの関係構築や代替品の探索等を検討するとともに、社内外の関係者との懸念事項の洗い出しや対応策の検討等のリスクコミュニケーションを強化し、リスクの分散や最小化に取り組んでいる。
(6) 保有資産の価格変動
当社グループが保有する販売用不動産、賃貸等不動産などの事業用不動産、投資有価証券等の時価が著しく低下した場合、評価損や減損損失の計上等により当社グループの業績及び財務基盤に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、中長期的な経営計画において財務基盤とのバランスを勘案した投資計画を立案するとともに、個別投資においては決裁・審査基準を設けて投資委員会等による事前の審査を厳格に行うこととしている。取得後についても、投資先の運営・経営状況や時価を定期的に確認することとしている。
(7) 長期にわたる事業のリスク
事業期間が長期にわたるPPP事業や再生可能エネルギー事業等において、その期間中に事業環境に著しい変化が生じた場合や業務遂行上重大な事故等が発生した場合、当該事業の収支悪化や対応費用の損失計上などにより、当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、事前の取り組みにあたっては上記(6)と同様、財務基盤とのバランスを勘案した中長期の投資計画の立案及び個別投資の厳格審査を行うとともに、事業スキームに応じた事業パートナーや業務委託先との適切なリスク分担、保険付保等によるリスクヘッジを行っている。また、事業開始後においては、投資委員会や関連部門等による運営状況のモニタリングを随時行っており、収支状況によっては事業撤退を行い、損失の拡大を防止することとしている。
(8) 海外事業におけるリスク
当社グループは主にアジア、米国等において事業展開を行っているが、それら進出国におけるテロ・紛争等による政情の不安定化、経済情勢の変動、為替レートの急激な変動、法制度の変更など事業環境に著しい変化が生じた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、比較的政情の安定した国・地域で事業展開するとともに、アジア支店及び北米支店(それぞれシンガポール及び米国に設置)において、所管地域の適時的確な情勢の把握及びそれに応じた即時の対応に努めることとしている。また、為替リスクに関しては、原則として現地通貨で請負代金を受領し、現地通貨で下請負代金を支払うことで、売り上げと原価の通貨を一致させている。
(9) 機密情報漏洩
外部からの攻撃や、従業員の不正等により個人情報、機密情報が漏洩した場合、社会的な信用の失墜、損害賠償の発生等により、当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、「個人情報保護規程」や「情報セキュリティポリシー」を制定して、情報管理体制を確立している。また、テレワークの常態化による業務システムへの外部からのアクセス機会やパソコンの社外持ち出し機会の増加、サイバー攻撃の多様化、巧妙化などに伴う新たなリスクに対応するため、定期的にリスク評価を行い、ゼロトラストの概念に基づくセキュリティ基盤の刷新などリスクの変化に応じた技術的な対策及び教育・啓発等の人的マネジメント対策を継続的に実施し、個人情報、機密情報を適正に管理している。
(10) 大規模自然災害・感染症に関するリスク
地震、津波、風水害等の大規模自然災害や感染力の強い感染症の流行が発生した場合、施工中の工事への被害や本社・本支店機能の麻痺等により、当社グループの事業活動や業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、リスク種別ごとにBCP(事業継続計画)を策定し、教育・訓練を継続して実施するとともに、定期的にBCPの見直しを行い、有事の際の備えとしている。
大規模自然災害BCPにおいては、発災時に速やかに従業員等の安否や施工中の現場の被害状況を確認するとともに、復旧要員や対応拠点、物資及び物流ルートの確保などを行い、現場の復旧だけでなく、顧客事業施設やインフラ・地域社会の復旧、復興支援に迅速に取り組める体制を構築している。
感染症BCPにおいては、感染症の特性に応じて従業員等の安全の確保及び事業継続のために必要な対応施策を決定・実施することを基本方針とし、情報の収集や意思決定のために必要な組織体制等を予め定め、事業への影響を低減することとしている。
なお、当社グループは大規模自然災害や感染症の流行等により一定期間、事業活動に重大な影響が生じた場合においても、企業継続に必要な財務基盤を確保している。
(11) 気候変動に関するリスク
脱炭素社会への移行に向けて、炭素税の導入等による脱炭素政策及び法規制強化がなされた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。また、物理的リスクとして、夏季の気温が上昇した場合や自然災害が激甚化した場合、当社グループの事業活動や業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループは当該リスクへの対応策として、2019年6月に改訂した「Obayashi Sustainability Vision 2050」において、2040~2050年の目標の一つとして「脱炭素」を掲げ、CO2排出量の削減など「環境に配慮した社会の形成」をESG重要課題に設定し、当社グループ及びサプライチェーン全体で環境負荷低減への取り組みを進めている。また、2020年7月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、気候変動関連のリスク・機会を特定・評価しシナリオ分析を実施するとともに、分析結果に基づいた対応策を進めている。
なお、自然災害に関するリスク及びその対応策については上記(10)に記載のとおりである。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びに経営者の視点による分析・検討内容は次のとおりである。
(1)経営成績
当連結会計年度におけるわが国経済は、経済社会活動の正常化に伴う個人消費の持ち直しや企業収益の改善を受け、緩やかな景気回復を続けた。先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、緩やかな景気回復が継続することが期待されるが、国内外の金融政策変更等による為替の変動、原材料・エネルギー価格の高騰等による景気の下振れ懸念があることから、引き続き注視が必要な状況にある。
国内の建設市場においては、為替の変動や原材料価格の高騰等が企業の設備投資意欲を減退させる可能性はあるものの、政府が推進する特定重要物資のサプライチェーンの強靭化政策に基づく民間工事の増加や堅調に推移している公共工事の発注を背景として、当面は底堅い受注環境が見込まれている。
こうした情勢下にあって、当連結会計年度における当社グループの連結業績については、売上高は国内・海外建築事業における大型工事の進捗等により、前連結会計年度比3,412億円(17.2%)増の2兆3,251億円となった。損益の面では、売上増に伴い完成工事総利益が増加したものの、前連結会計年度に大型不動産の売却益を計上した反動減から不動産事業等総利益が減少したことや、子会社の海外土木事業において貸倒引当金を計上したこと、ベースアップによる人件費の増加や研究開発費の増加等により販売費及び一般管理費が増加したことなどから、営業利益は前連結会計年度比144億円(15.4%)減の793億円、経常利益は前連結会計年度比92億円(9.2%)減の915億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年比26億円(3.4%)減の750億円となった。
セグメント情報
① 建設事業
グループ全体の売上高は、国内・海外建築事業における大型工事の進捗等により、前連結会計年度比3,590億円(19.4%)増の2兆2,067億円となった。一方、営業利益については、当社の国内建築事業において過年度及び当連結会計年度に計上した工事損失引当金の影響から工事粗利益率が低下したことや子会社の海外土木事業において貸倒引当金を計上したことなどから、前連結会計年度比49億円(7.6%)減の597億円となった。内訳は以下のとおり。
(国内建築事業) 売上高は前連結会計年度比2,077億円(19.7%)増の1兆2,641億円、営業利益は前連結会計年度比101億円(29.5%)減の242億円となった。
(海外建築事業) 売上高は前連結会計年度比1,139億円(33.1%)増の4,578億円、営業利益は前連結会計年度比77億円(149.9%)増の129億円となった。
(国内土木事業) 売上高は前連結会計年度比259億円(7.5%)増の3,693億円、営業利益は前連結会計年度比46億円(21.4%)増の263億円となった。
(海外土木事業) 売上高は前連結会計年度比114億円(11.0%)増の1,153億円、営業損益は37億円の損失(前連結会計年度は34億円の利益)となった。
② 不動産事業
前連結会計年度に当社において大型不動産の売却益を計上した反動減等から、売上高は前連結会計年度比169億円(20.3%)減の668億円、営業利益は前連結会計年度比86億円(32.1%)減の182億円となった。
③ その他
売上高は前連結会計年度比8億円(1.6%)減の515億円、営業利益は前連結会計年度比8億円(37.8%)減の13億円となった。
(2)財政状態
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末比4,071億円(15.6%)増の3兆170億円となった。これは、「現金預金」が減少した一方で、工事代金債権(「受取手形・完成工事未収入金等」及び「電子記録債権」の合計)が増加したことや、政策保有株式の時価の上昇により「投資有価証券」が増加したことなどによるものである。
当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末比2,481億円(15.8%)増の1兆8,222億円となった。これは、工事代金の支払に係る債務(「支払手形・工事未払金等」及び「電子記録債務」の合計)が増加したことなどによるものである。また、「社債」が減少したことなどにより、有利子負債残高は前連結会計年度末比140億円(4.2%)減の3,238億円となった。
当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末比1,589億円(15.3%)増の1兆1,948億円となった。これは、親会社株主に帰属する当期純利益の計上に伴い「利益剰余金」が増加したことや、「その他有価証券評価差額金」が増加したことなどによるものである。
これらの結果、当連結会計年度末の自己資本比率は前連結会計年度末から変わらず、38.2%となった。
(3)キャッシュ・フローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、主に国内の建設事業収支が前連結会計年度に比べて低水準にとどまったことなどから503億円のプラス(前連結会計年度は2,284億円のプラス)となった。投資活動によるキャッシュ・フローは、事業用不動産の取得等により844億円のマイナス(前連結会計年度は1,016億円のマイナス)となった。また、財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払や社債の償還等により519億円のマイナス(前連結会計年度は221億円のプラス)となった。
これらの結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べて789億円減少し、3,266億円となった。
(4)資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、建設事業に係る工事費、販売費及び一般管理費等の営業費用である。投資を目的とした資金需要のうち主なものは、建設事業に係る研究開発費用や工事機械の取得費用、不動産賃貸事業やグリーンエネルギー事業に係る施設購入費用等によるものである。
当社グループは、事業運営上必要な資金を安定的に確保することを基本方針としている。
短期運転資金は、自己資金、金融機関からの短期借入金やコマーシャル・ペーパーの発行により確保することを基本としており、長期運転資金や設備投資資金の調達については、自己資金、金融機関からの長期借入金及びノンリコース借入金や、社債の発行等により確保することを基本としている。
なお、当連結会計年度末における有利子負債の残高は3,238億円となっている。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は3,266億円となっている。
(5)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりである。
(6)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されている。この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者により、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されている。これらの見積りについては、継続して評価し、必要に応じて見直しを行っているが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果は、これらとは異なることがある。
詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」及び「同 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載している。
(7)生産、受注及び販売の状況
① 受注実績
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) (百万円) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) (百万円) |
前連結会計年度比 (%) |
国内建築事業 |
1,124,212 |
1,236,921 |
10.0 |
海外建築事業 |
488,598 |
520,387 |
6.5 |
国内土木事業 |
360,716 |
423,190 |
17.3 |
海外土木事業 |
133,846 |
174,568 |
30.4 |
建設事業 計 |
2,107,374 |
2,355,067 |
11.8 |
不動産事業 |
77,666 |
73,707 |
△5.1 |
その他 |
37,249 |
84,313 |
126.4 |
合 計 |
2,222,290 |
2,513,088 |
13.1 |
(注)セグメント間取引については相殺消去している。
② 売上実績
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) (百万円) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) (百万円) |
前連結会計年度比 (%) |
国内建築事業 |
1,056,407 |
1,264,181 |
19.7 |
海外建築事業 |
343,894 |
457,818 |
33.1 |
国内土木事業 |
343,464 |
369,367 |
7.5 |
海外土木事業 |
103,921 |
115,396 |
11.0 |
建設事業 計 |
1,847,688 |
2,206,764 |
19.4 |
不動産事業 |
83,875 |
66,888 |
△20.3 |
その他 |
52,324 |
51,509 |
△1.6 |
合 計 |
1,983,888 |
2,325,162 |
17.2 |
(注)1 セグメント間取引については相殺消去している。
2 前連結会計年度及び当連結会計年度ともに総売上高に占める売上高の割合が100分の10以上の相手先はない。
なお、当社グループでは生産実績を定義することが困難であるため「生産の状況」は記載していない。
なお、参考のため提出会社個別の事業の状況は次のとおりである。
受注高(契約高)及び売上高の状況
① 受注高、売上高及び繰越高
期 別 |
種類別 |
前期繰越高 (百万円) |
当期受注高 (百万円) |
計 (百万円) |
当期売上高 (百万円) |
次期繰越高 (百万円) |
|
第119期 (自 2022年 |
建設事業 |
建 築 |
1,687,933 |
1,112,012 |
2,799,946 |
1,051,553 |
1,748,392 |
土 木 |
581,442 |
342,975 |
924,417 |
296,561 |
627,856 |
||
計 |
2,269,376 |
1,454,987 |
3,724,363 |
1,348,115 |
2,376,248 |
||
不動産事業等 |
2 |
38,910 |
38,913 |
38,913 |
- |
||
合 計 |
2,269,378 |
1,493,898 |
3,763,277 |
1,387,028 |
2,376,248 |
||
第120期 (自 2023年 |
建設事業 |
建 築 |
1,748,392 |
1,198,572 |
2,946,964 |
1,240,232 |
1,706,732 |
土 木 |
627,856 |
376,621 |
1,004,477 |
315,612 |
688,865 |
||
計 |
2,376,248 |
1,575,194 |
3,951,442 |
1,555,844 |
2,395,597 |
||
不動産事業等 |
- |
26,358 |
26,358 |
26,354 |
4 |
||
合 計 |
2,376,248 |
1,601,552 |
3,977,801 |
1,582,199 |
2,395,601 |
(注) 前期以前に受注したもので、契約の変更により契約金額に増減のあるものについては、当期受注高にその増減額を含む。また、前期以前に外貨建で受注したもので、当期中の為替相場の変動により契約金額に変更のあるものについても同様に処理している。
② 受注工事高
期 別 |
区 分 |
国 内 |
海 外 |
計 |
||
官公庁 (百万円) |
民 間 (百万円) |
(A) (百万円) |
(A)/(B) (%) |
(B) (百万円) |
||
第119期 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
建 築 |
80,786 |
1,012,315 |
18,909 |
1.7 |
1,112,012 |
土 木 |
146,915 |
133,214 |
62,845 |
18.3 |
342,975 |
|
計 |
227,702 |
1,145,530 |
81,754 |
5.6 |
1,454,987 |
|
第120期 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
建 築 |
72,891 |
1,121,934 |
3,746 |
0.3 |
1,198,572 |
土 木 |
213,329 |
114,748 |
48,542 |
12.9 |
376,621 |
|
計 |
286,221 |
1,236,683 |
52,289 |
3.3 |
1,575,194 |
(注)工事の受注方法は特命と競争に大別され、受注金額の割合は次のとおりである。
期 別 |
区 分 |
特命(%) |
競争(%) |
計(%) |
第119期 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
建 築 |
42.2 |
57.8 |
100 |
土 木 |
30.3 |
69.7 |
100 |
|
計 |
39.4 |
60.6 |
100 |
|
第120期 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
建 築 |
45.7 |
54.3 |
100 |
土 木 |
26.7 |
73.3 |
100 |
|
計 |
41.2 |
58.8 |
100 |
③ 売上高
(イ)完成工事高
期 別 |
区 分 |
国 内 |
海 外 |
計 |
||
官公庁 (百万円) |
民 間 (百万円) |
(A) (百万円) |
(A)/(B) (%) |
(B) (百万円) |
||
第119期 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
建 築 |
94,961 |
953,626 |
2,965 |
0.3 |
1,051,553 |
土 木 |
144,904 |
121,333 |
30,323 |
10.2 |
296,561 |
|
計 |
239,865 |
1,074,959 |
33,289 |
2.5 |
1,348,115 |
|
第120期 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
建 築 |
73,169 |
1,161,063 |
6,000 |
0.5 |
1,240,232 |
土 木 |
155,748 |
130,843 |
29,020 |
9.2 |
315,612 |
|
計 |
228,917 |
1,291,906 |
35,021 |
2.3 |
1,555,844 |
(注)1 海外工事の地域別割合は、次のとおりである。
地 域 |
第119期(%) |
第120期(%) |
アジア |
71.1 |
57.6 |
北 米 |
22.2 |
36.0 |
その他 |
6.7 |
6.4 |
計 |
100 |
100 |
2 第119期に完成した工事のうち主なもの
発注者 |
工事名称 |
㈱クボタ |
クボタ グローバル技術研究所新設工事 |
㈱ファイターズ スポーツ&エンターテイメント |
ES CON FIELD HOKKAIDO建設工事 |
白金一丁目東部北地区市街地再開発組合 |
白金ザ・スカイ新築工事 |
キヤノン㈱ |
キヤノン株式会社平塚事業所 H棟建設工事 |
独立行政法人 水資源機構 |
川上ダム建設工事 |
第120期に完成した工事のうち主なもの
発注者 |
工事名称 |
(仮称)みなとみらい21中央地区53街区開発事業者共同企業体 |
横浜シンフォステージ新築工事 |
九州旅客鉄道㈱ |
JR長崎駅ビル新築工事 |
日本郵政不動産㈱ |
五反田JPビルディング新築工事 |
学校法人 東洋大学 |
東洋大学朝霞キャンパス整備工事 |
合同会社道北風力 |
川西ウインドファーム建設工事 |
3 第119期及び第120期ともに総完成工事高に占める完成工事高の割合が100分の10以上の相手先はない。
(ロ)不動産事業等売上高
期 別 |
区 分 |
売上高(百万円) |
第119期 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
不動産販売 |
16,347 |
不動産賃貸 |
8,823 |
|
そ の 他 |
13,742 |
|
計 |
38,913 |
|
第120期 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
不動産販売 |
3,911 |
不動産賃貸 |
8,676 |
|
そ の 他 |
13,767 |
|
計 |
26,354 |
④ 繰越工事高(2024年3月31日現在)
区 分 |
国 内 |
海 外 |
計 |
||
官公庁 (百万円) |
民 間 (百万円) |
(A) (百万円) |
(A)/(B) (%) |
(B) (百万円) |
|
建 築 |
121,045 |
1,569,891 |
15,794 |
0.9 |
1,706,732 |
土 木 |
397,789 |
193,986 |
97,089 |
14.1 |
688,865 |
計 |
518,834 |
1,763,878 |
112,884 |
4.7 |
2,395,597 |
(注)繰越工事のうち主なもの
発注者 |
工事名称 |
東日本旅客鉄道㈱ |
TAKANAWA GATEWAY CITY THE LINKPILLAR 1 NORTH/SOUTH THE LINKPILLAR 2 |
関西エアポート㈱ |
関西国際空港第1ターミナルビルリノベーション工事 |
三菱地所㈱ 大阪ガス都市開発㈱ オリックス不動産㈱ 関電不動産開発㈱ 積水ハウス㈱ ㈱竹中工務店 阪急電鉄㈱ うめきた開発特定目的会社 |
(仮称)うめきた2期地区開発事業新築工事のうち南街区賃貸棟工事及び北街区賃貸棟工事 |
淀屋橋駅西地区市街地再開発組合 |
淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業 施設建築物等工事 |
シンガポール陸運局 |
MRTクロスアイランド線CR202工区建設工事(シンガポール) |
当連結会計年度において、経営上の重要な契約等はない。
当社グループは、社会及び顧客の多様なニーズに応えるため、環境保全、エネルギー対策等の社会に貢献する技術や、生産性向上、品質確保、コストダウン等に資する工法や技術のほか、事業領域の拡大を図るための技術開発など多岐にわたる分野の研究開発活動を実施している。
また、研究開発活動の幅を広げ、効率化を図るため、国内外の大学、公的研究機関、異業種企業との技術交流、共同開発も積極的に推進している。
当社グループの当連結会計年度における研究開発に要した費用の総額は
なお、当社は研究開発活動を国内建築、海外建築、国内土木、海外土木、不動産及びその他の各セグメントには区分していない。
(1) 当社
① 大風量かつ吹出し口の結露抑制が可能な空調用誘引ユニット「in-DUCT™」を開発
アトリウムやスタジアムなど、主に大空間や半屋外空間向けの空調用誘引ユニット「in-DUCT™」(インダクト)を開発した。
地球温暖化による夏季の高温多湿化が進み、アトリウムやスタジアムなどの大空間や半屋外空間においても、快適な空調環境の確保が求められる一方で、これらの空間は外気の流入により湿度が高くなるため、空調設備には大風量の送風と吹出し口の結露防止対策が必要となる。
空調機からの空気は「in-DUCT™」を通過する際に周囲の空気を誘引(空調機送風量の約50%)し、約1.5倍の大風量の混合空気(最大18,000m³/h)として送風される。そのため、室温と送風温度との温度差が小さくなり、吹出し口の冷却による結露を抑制できる。
また、「in-DUCT™」は動力が不要で、気流方向さえ守られれば、本体を設置する向きに関する制約はなく、ダクトの一部として施工できることに加えて、配管など他の吊り物と近接設置しても、誘引空気の経路が確保できるデザインとなっているので、既存の空調システムへの設置や再利用が可能である。
加えて、「in-DUCT™」は周囲の空気を誘引するため、空調機で処理すべき風量を、吹出し必要風量の約3分の2に抑えることができ、空調機の能力やダクトのサイズダウン、省スペース化が可能となるため、イニシャルコストは約20%削減できる。また、空調機の風量削減に伴い、消費電力は約17%削減でき、CO2排出量削減と、ランニングコストの抑制が可能となる。
② 建設現場のデジタルツインを構築できるアプリ「CONNECTIA」を開発
高性能PCや特別なスキルを必要とせずに、容易に建設現場のデジタルツイン(※1)を構築できるデジタルツインアプリ「CONNECTIA」を開発した。
これまで、デジタルツインを構築する現場の管理は、3次元モデルを扱える高性能PCの手配や、ソフトウェア操作に関する高度なスキルの習得が必要であり、加えてBIM/CIM、地形、点群などの静的データと、人や工事車両などの動的データを統合するには高度な技術が必要なことから、一部の建設現場で試験的に行われているのが実情であった。
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科と共同研究した「データ・システム連携基盤」(※2)の考え方を応用し、TIS㈱と、主にデータ統合の仕組みを構築した。
そして、ビューアの操作性や快適性を向上させるため、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン㈱が提供しているゲームエンジン「Unity」を活用し、本アプリを開発した。
「CONNECTIA」は一般的なPCでも3次元モデルを快適に作動・表示でき、現実空間の情報収集や再現等の操作を単一のシステムで行うことができる。これにより、誰もが簡単に利用できる直感的でシンプルな操作性を実現しているほか、クラウド上にデータが保存されることで時間や場所を問わず現場状況をデジタルツイン経由で確認可能になる。
※1 デジタルツイン:IoTなどを活用して現実空間の情報を取得し、サイバー空間内に現実空間の環境を再現
する技術
※2 大林組と国立大学法人東京大学大学院工学系研究科が開発し、概念実証を完了した、施工管理で扱う各種デ
ータを相互利用することで施工管理業務の効率化をめざすシステム
③ 油圧ショベルバケットの土付着抑制部材「ジオドロップ™」を開発
フッ素樹脂(PTFE)と金属を直接接合した部材「ジオドロップ™」を油圧ショベルのバケットの底面と側面に貼り付けることで滑りやすくなり、土の付着を抑制する技術を開発した。
土の付着の抑制により、掘削・積み込み時のバケットに残った土砂を振り落とすための揺動・衝撃作業が9割削減され、油圧ショベルの稼働時間は1~2割抑制が可能となる。これにより、CO2排出抑制、騒音・振動の発生抑制、バケットの延命化などの効果が得られる。
また、近年実用化が進められている自動・自律運転による油圧ショベルの生産性向上にも貢献する。
④ アコースティック・エミッション技術を用いた支障物切削負荷検知システムを開発
シールド工事における地中支障物の切削において、「アコースティック・エミッション技術」(※)を用いて、
切削時に発生する特有の弾性波を検知し、支障物との接触、切削時の負荷・衝撃を評価するシステムを開発した。
支障物との接触、切削時の負荷・衝撃をいち早く検知・評価し、シールド機の掘進速度の調整と切削負荷を抑制することで、カッタービットの損傷を防ぎながら、支障物を確実に切削可能となる。
また、想定外の支障物に突き当たった場合でもいち早く検知でき、速やかな対策を取れることから、シールド機への損傷を防ぎ、円滑な施工により工程確保が可能となる。
※ アコースティック・エミッション技術:アコースティック・エミッションとは、材料に変形、摩耗、破壊が起こった際に、内部に蓄えられた弾性エネルギーが、高い周波数をもつ音響信号「弾性波」として放出される現象。アコースティック・エミッション技術は、この「弾性波」を検出・評価する技術。
⑤ 高精度なZEB評価を可能にする業界初(※1)の設計支援システム「SmoothSEK™」を開発
㈱イズミシステム設計と共同で、BIMワンモデルからZEB認証の申請に必要な省エネ性能計算情報を自動抽出する業界初の設計支援システム「SmoothSEK™」(スムーズセック)を開発した。
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、建築物のZEB化のニーズが高まっているが、ZEB認証に係る申請には、省エネルギー性能の算出に多大な時間と労力が必要であった。
当社は、自社のBIM業務標準「SBS」(※2)に基づいたBIMワンモデルの一貫利用を推進しており、今回開発した「SmoothSEK™」をBIMワンモデルと連携することで省エネルギー性能の評価を正確かつ効率的に行えるようになる。
※1 自社調べ(2023年8月)。「建築物省エネ法で規定された『標準入力法』とBIMの自動連携」として。
※2 SBS(Smart BIM Standard):大林組のBIM業務標準。BIM一貫利用を幹とし、プロジェクト関係者が
等しく理解できるBIMモデルをつくるための基準。
⑥ 場所打ちコンクリート杭の杭支持層到達確認システム「PiRuler-GEO™」を開発
AIとICTの活用により、場所打ちコンクリート杭の施工において、杭支持層への到達状況を高精度でリアル
タイムに確認できるシステム「PiRuler-GEO™」(パイルーラー ジオ)を開発した。
場所打ちコンクリート杭は、土木・建築工事で多く採用されているが、複雑な地盤条件下において、杭の支持層
到達状況の管理に多大な労力を要するという課題があった。
「PiRuler-GEO™」は、掘削機から得られる計測データと、設計土質や経過時間などの独自指標を用いて、機械学
習させたAIソフトによって支持層の土質と地盤の固さを推定する。掘削深度や支持層到達状況などの計測データ
をリアルタイムで確認可能であるため、管理の安定化と省力化を図ることができるほか、手戻り工事の発生を抑制
し、工期遅延の防止につながる。
⑦ 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の廃棄物をコンクリート材に再生利用する「リカボクリート™工法」を
開発
燃料電池車「MIRAI」の水素タンクに使用されている炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」という。)
の端材を、コンクリート補強用短繊維(※)として再生利用する新たな技術「リカボクリート™工法」をトヨタ
自動車㈱と共同で開発した。
CFRPは、軽くて強度が高く、耐久性に優れることが特長で、水素を燃料とする燃料電池車の水素タンクや航
空機、風力発電の風車ブレードなどに利用されている。しかし、性能を保ったままで再利用することは難しく、端
材として発生したCFRPは電炉で鉄をリサイクルする工程での原料としてのみの使用にとどまっていた。そのた
め、CFRPが持つ強度を活かした再利用が課題となっていた。
本技術は、CFRPに独自の熱加工を施し、適切な長さに裁断したうえで、コンクリートに添加することで、コ
ンクリートのひび割れ抑制や靭性の向上を実現する。CFRPによる補強用短繊維は、新品の炭素繊維と比べて、
CO2排出量を15分の1に、通常の補強鉄筋の使用との比較では9分の1にそれぞれ低減できる。
※ コンクリート補強用短繊維:コンクリートと混ぜることで、靭性(粘り強さ)を高めることができる繊維質の
補強材
⑧ 建物の施工段階のCO2排出量を予測するシステム「カーボンデザイナー®」を開発
建物の計画初期段階で、施工段階のCO2排出量を容易に試算できる、CO2排出量予測システム「カーボンデザイナー®」を開発した。
従来のCO2排出量算定システムは、必要とする入力項目数が多いことや、入力値が未確定の場合は試算できないなどの課題があった。
「カーボンデザイナー®」は、大林組の豊富な施工実績におけるCO2排出量や躯体材料などのデータを基に、計画初期段階で分かる項目(「工事名称」「工事請負金額」「延床面積」「建物用途」「工期」の5項目)を入力するだけで、施工段階の燃料、電力といったScope1(※1)、Scope2(※2)のCO2排出量を表やグラフで可視化する。
また、通常の燃料、電力、資材の使用から低炭素型資材を使用した場合のCO2削減効果の試算も可能である。
※1 Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
※2 Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
⑨ コンクリート打設に関する情報を一元管理するシステム「COTOMS」を開発
コンクリート打設作業における品質管理情報を統合的に管理するためのシステムである「COTOMS」(COncrete TOtal Management System コトムス)を開発した。
コンクリート打設作業の管理者は、「COTOMS」を用いて、出荷、運搬、受入れ、打設、締固め、仕上げ、養生、検査の各プロセスの開始・終了時刻、コンクリート性状などの品質管理情報をPCやタブレットの一画面内で確認しながら管理・蓄積することが可能となる。
「COTOMS」のシステム間情報連携手法(API)により、各プロセスにおける情報を集約・連携し一元管理することで、情報の連携速度と確実性が増し、コンクリート打設管理に要する時間を約30%削減できる。また、管理情報の確実な連携だけでなく、トレーサビリティが確保されることで、品質管理の精度が向上する。
また、Webブラウザ及びインターネット利用環境があれば、発注者や協力会社、現場事務所や本支店などの支援部門ともリアルタイムに情報共有が可能である。
加えて、さまざまな場所打ちのコンクリート工事で利用でき、工種や用途に合わせて、連携するシステムの組み合わせや表示画面のカスタマイズが可能である。
(2) 大林道路㈱
アスファルト混合物製造時のCO2排出量を実質ゼロとする製造プロセスを確立
アスファルト混合物製造時のCO2排出量を実質ゼロとするプロセスを確立した。
アスファルト混合物の製造過程において、骨材を投入したドライヤーを加熱する際、燃焼バーナーの燃料として、A重油を廃食油に置き換えることで、温室効果ガス排出量を100%削減することが可能となった。電力は環境価値証書を購入し排出量をオフセットする。
大林道路は、水素を代替燃料とした混合物の製造に既に成功しており、国内各所のアスファルト混合所のカーボンニュートラル化を進める。