第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

今後のわが国経済は、雇用・所得環境が改善する下で企業の設備投資も持ち直し、緩やかな回復が続くことが期待されますが、世界的な金融引締めによる影響や物価上昇が消費に与える影響等、依然として先行きは不透明な状況が続いています。

このような状況下、当社グループを取り巻く事業環境につきましては、主要事業である国内セメント事業において、都市部の再開発工事、リニア中央新幹線関連工事、国土強靭化及び防災・減災対策、老朽化した社会インフラの更新など、一定水準の需要が続くと期待されます。一方、建設現場の技能労働者不足に起因する工事進捗の遅れや工期の長期化は今後需要を押し下げる懸念があります。また、石炭等原燃料価格の高騰リスクやカーボンニュートラル、物流業界における諸問題に対応するため、引き続き販売価格の適正化を進めてまいります。

米国経済については、好調な個人消費に加え、インフラ投資法案に基づく公共投資の本格化や2028年開催予定のロサンゼルスオリンピック・パラリンピック関連投資等によって景気が拡大していくことが期待されますが、インフレの長期化に伴う金融引締めの影響や今秋の大統領選挙に向けた動向を注視する必要があります。

このような情勢の中で、当社グループが成長の歩みを止めない企業グループになるとともに今後も持続可能な社会の構築に貢献していくための方向性を明確にするため、2050年をイメージした「2050年のありたい姿」及び2030年をイメージした「太平洋ビジョン2030」を設定しました。さらに、それらを実現していくための中期計画として2024年度から2026年度を対象期間とする「26中期経営計画」を策定し、精力的に取り組んでまいります。

 

(1)2050年のありたい姿

 ①グループの総合力とカーボンニュートラルをはじめとする革新的技術を全世界に展開する。

  ②世界のセメント産業のリーダーとなる。

  ③人々の安全・安心な脱炭素・循環型社会を支える企業グループになる。

 

 (2)太平洋ビジョン2030

  ①環太平洋においてグループの総合力を活かしプレゼンスを拡大する。

  ②カーボンニュートラル実現とサーキュラ―エコノミー実現に貢献する。

  ③持続的に成長する強靭な企業グループとなる。

 

 (3)26中期経営計画を通じて目指す姿

  「3D Approach for Sustainable Future~持続可能な社会の実現に向けた3次元の挑戦~」

当社グループは、持続可能な社会の実現に向けて3つの取組みを複合的に推進し、その取組みを通じて得た恩恵を広くステークホルダーと共有します。

 ①国内事業の再生

 ②グローバル戦略の更なる推進

 ③サステナビリティ経営推進とカーボンニュートラルへの貢献

 

(4) 国内事業の再生

国内セメント需要の減少が続く市場環境において、収益重視へ向けた価格政策の抜本的見直し、営業体制の効率化などによるトータルソリューションの提供及び混合セメントの輸出拡大と国内向け安定供給を前提とした生産体制の最適化を進め、国内事業の再生を図ります。

 

(5)グローバル戦略の更なる推進

米国やフィリピンにおける既存事業の収益基盤強化、未進出エリア・未開拓事業への進出による事業領域の拡大及び混合セメントの展開や物流ネットワークの強化によるトレーディング事業の拡大によって、グローバル戦略を推進していきます。

 

(6)サステナビリティ経営の推進とカーボンニュートラルへの貢献

2050年サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル実現を目指し、革新的セメント製造技術確立に向けたカーボンニュートラルモデル工場構想や既存技術を活用した混合セメント化の推進など、カーボンニュートラル戦略に取り組んでいきます。また、DX戦略、人的資本戦略及びIR戦略にも着実に取り組むことでサステナビリティ経営を推進していきます。

 

(7) 事業戦略

①セメント(国内)

セメント価格の適正化による国内セメント事業の再生を図ります。また、工場設備強靭化による安定生産や2024年問題への対応と輸送体制の強化による安定供給、及び低炭素型混合セメントの製品化検討などのカーボンニュートラルに向けた取組みを進めていきます。

 

②セメント(海外)

安定と成長が両立する米国市場における事業の深化及びリニューアルプロジェクトが完成するフィリピンでの事業拡大を図ります。また、混合セメントやスラグ、フライアッシュ等のセメンティシャスマテリアルを活用した事業戦略を進出各国で展開していきます。

 

③資源

既存コア事業の強靭化や資源の長期安定供給体制の構築など、中長期を見据えた資源政策に鋭意取り組み、セメント需要変動に影響を受けない収益構造を確立します。

 

④環境事業

既存事業の競争優位性拡大に加え、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを同時に進捗させ、新たな付加価値を創造しつつ成長を持続していきます。

 

⑤建材・建築土木

販売価格適正化やDX投資等による既存事業の収益力強化を推進します。また、新規商材の市場投入及び海外を含む新規事業領域への進出を図ります。

 

(8) 研究開発戦略

カーボンニュートラル実現を目指した技術開発、事業拡大・収益改善への貢献、持続的成長のための研究開発及びグループ総合研究所への進化を柱として、世界最高水準の研究開発力への深化と経営への貢献を目指します。

 

(9) 知的財産戦略

カーボンニュートラル推進を支える特許網の構築及び各事業を支える知的資本の拡充に取り組んでいきます。

 

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ全般

①ガバナンス

   当社グループの長期的・持続的な成長原資の強化のみならず、環境、社会のサステナビリティ向上に資する活動を追求することを目的に、代表取締役社長を委員長、全取締役及び全役付執行役員を委員とする「サステナビリティ経営委員会」を設置しております。その傘下の7つの専門委員会によりサステナビリティ経営推進における重点課題に取り組んでいます。このうち、環境経営委員会が気候変動を含む環境戦略に対する活動を、リスク管理・コンプライアンス委員会がリスク管理とコンプライアンスに対する活動を、人権・労働慣行委員会が人権尊重と適正な労働慣行に関する活動を統括しており、それぞれが活動を推進するとともに活動計画の策定及び活動実績の自己評価を行っています。その内容はサステナビリティ経営委員会で審議し、結果を取締役会に報告します。

 

②戦略

当社グループでは気候変動問題への対応、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを重要な経営課題の一つと位置付けています。グループの持続的な成長には、セメントの製造販売といった動脈産業と、廃棄物や副産物のセメント原料としてのリサイクルといった静脈産業の役割を果たしつつカーボンニュートラルを実現することが必要不可欠という認識をもとに、社会実装可能なCO2の分離回収・利用などの技術を早期に確立することを重要な成長戦略と捉えています。

また、2022年3月に「カーボンニュートラル戦略2050」の技術開発ロードマップを公表し、サプライチェーン全体においてカーボンニュートラル実現への取り組みを展開しています。展開にあたっては、グローバルセメント・コンクリート協会(GCCA)のガイドラインにより主要業績評価指標(KPI)を管理するとともに、2019年6月には「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明して、気候関連財務情報に関し適切な情報開示を行っております。さらに、2022年5月に署名した国連グローバルコンパクトの原則に沿った様々な取り組みも行っており、より具体的には、2023年8月にはグループ会社の(株)デイ・シイ川崎工場を対象とする「カーボンニュートラルモデル工場」の検討に着手し、また2023年12月にはCO2回収型セメント製造プロセスの実証試験を開始するなどしました。

なお、当社グループの「カーボンニュートラル戦略2050」は、パリ協定に整合する取り組みです。当該ロードマップは、経済産業省がパリ協定に整合するとして公表したトランジション・リンク・ファイナンス技術ロードマップに適合するとの第三者認証を取得し、2023年3月には実際に日本政策投資銀行とトランジション・リンク・ローン契約の締結に至りました。

 

●2030年及び2050年に向けた取り組み

1. 2030年に向けた取り組み

 <国内・海外グループ2030中間目標(2000年比)>

   サプライチェーン全体でのCO2排出原単位(※1)を20%以上削減(国内CO2排出総量は、40%以上削減)

  ① カーボンニュートラル実現に向けた技術開発・導入

   • 既存技術(省エネルギー、低CO2エネルギー/セメント(※2))の最大活用

   • 革新技術開発(CO2回収・利用)の完成

  ②カーボンニュートラル実現に向けた投資:1,000億円

 

2. 2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組み

  ①革新技術の順次展開

  ②サプライチェーン全体としてのカーボンニュートラルを実現

 

 当社グループでは、カーボンニュートラルの実現に必須となる革新技術の社会実装に向けて、解決すべき社会受容性や経済的負担のあり方、グリーンエネルギーの供給やインフラ整備といった課題に対しても、政府への働きかけ、他産業との連携などを通じて取り組んでいきます。

(※1)スコープ1(代替化石エネルギー分を除く)+スコープ2+スコープ3(カテゴリ1,3)

(※2)低CO2セメント:低CO2排出クリンカを使用したセメント、混合セメント、

    炭酸塩化プロセスを利用するセメントなどを指します。

 

③リスク管理

 「リスク管理基本方針」、「リスク管理規程」を定めてリスクマネジメントを展開しています。また、「行動指針」において“事業環境の変化に即応し、柔軟に行動する”ことを宣言しています。リスクマネジメントは、経営の不確実性を低減し、経営目標を達成するための基盤と捉え、経営目標の達成を不確実とするリスクを、サステナビリティ経営委員会傘下に総務担当役員を委員長とする「リスク管理・コンプライアンス委員会」において、年度毎のPDCAサイクルによるリスク管理、さらには3年に1度の全社リスクの洗い出し・評価と特定を実施しています。

 2022年度に全社リスクとして特定した「サプライチェーンの経営変動リスク」、「自然災害の激甚化と施設・設備老朽化リスク」、「人材関連リスク」については、2023年度からリスク管理の活動として取り組みを進めています。

 

④指標と目標

 気候変動に関するマネジメントに関する、CO2排出・エネルギー使用といった主な指標と目標は下記の通りです。これらの指標についての実績は、第三者による保証を受けています。なお、当連結会計年度(2023年度)の実績は、第三者検証後に当社WEBサイトにて公表いたします。

 ●指標

項目

2022年度実績

排出インベントリ作成のためにGCCAガイドラインを使用している施設の数

16

(グループ国内9工場・海外7工場)

排出インベントリ作成のためにGCCAガイドラインを使用している施設の割合

100%

年間CO2排出量

 スコープ1排出量(原料由来及び燃料由来の直接排出)

20,065千トン/年

 グロス排出量(原料由来及び燃料由来(自家発電分をのぞく)の直接排出)

19,017千トン/年

 ネット排出量(原料由来及び燃料由来(代替燃料分及び自家発電分をのぞ

 く)の直接排出)

17,997千トン/年

 セメント製造1トンあたりのCO2排出量(ネットCO2排出原単位)

661kg-CO2/トン-セメント

 スコープ2排出量(購入電力からの間接排出)

868千トン/年

 スコープ3排出量(スコープ1,2以外の間接排出)

1,766千トン/年

内訳 カテゴリ1(購入した商品及びサービス)

   カテゴリ3(スコープ1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動)

893千トン/年

873千トン/年

クリンカ製造のための熱量原単位

3,375MJ/トン-クリンカ

エネルギー原単位

 代替燃料の比率:キルン使用熱量に占める代替燃料の熱量の割合

17.6%

 バイオマス燃料の比率:キルン使用熱量に占めるバイオマスの熱量の割合

2.3%

 

 

 

 ●目標

項目

到達目標

(CSR目標2025)2025年度までに2000年度比のセメント-トンあた

りCO2排出量(ネットCO2排出原単位)

10%以上削減

(2022年度実績: 10.2%)

(カーボンニュートラル戦略2050の2030中間目標)2000年比のサプライチェーン全体のCO2排出原単位及び国内CO2排出総量

・CO2排出原単位20%以上削減 (2022年度実績: 9.2%)

・国内CO2排出総量40%以上削減 (2022年度実績: 42.7%)

 

 

(2)人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

①人材育成方針

戦略

個人の持てる力を最大限発揮し、一人ひとりが社内外に通用する人材の育成を目指します。

・多様な人材の自主性、自律性を醸成し、「個」の成長を図ります。

・人材育成はOJTとそれを補完するOFF-JTを基本とします。

・それぞれの分野及び階層において次代を担う後継者を育成します。

・常にグループ経営を視野に入れ行動する人材を育成します。

・世界に通ずるグローバルな人材を育成します。

・サステナビリティ推進を通じ、環境への配慮、社会への貢献ができる人材を育成します。

目標

新任管理職登用の女性比率10以上(「CSR目標2025」の目標値)

実績

新任管理職登用の女性比率:11.4(2022年度は13.6%)

 

②社内環境整備方針

戦略

当社は多様な人材の活躍及び定着を推進することで、従業員が働き甲斐をもってその能力を最大限に発揮することができる社内環境を目指します。

目標

年次有給休暇取得率70以上(「一般事業主行動計画」の目標値)

定期健康診断受診率100(「健康経営に関する公開指標」の目標値)

実績

年次有給休暇取得率:83.6%(2022年度は77.5%)

定期健康診断受診率:100.0(2022年度は99.9%)

 

 当社グループでは上記①及び②で記載した指標については、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組みが行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われてはいないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、これらの指標に関する目標と実績は連結グループで主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。

 

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

リスク管理体制の整備の状況については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しております。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

また、下記事項は、投資家の判断に重要な影響があると考えられるものであり、当社グループにおけるリスクのすべてを網羅したものではありません。

 

(1) 国内需要の減少

建設投資が減少し、セメント、生コンクリート、建築土木等の事業で需要が大幅に減少した場合、影響を受ける可能性があります。

 

(2) 原燃料品代、船運賃等の国際価格の動向

石油・石炭等の輸入原燃料品代及び船運賃等の国際価格が上昇した場合、上昇分の製品価格への転嫁の状況によって影響を受ける可能性がありますが、必要に応じて一部の取引にデリバティブ取引を利用する等によりリスクを抑制しております。

 

(3) 為替の変動

原燃料品の輸入やセメント等の輸出、在外子会社等からの配当金をはじめとする外貨建て取引において、大幅に為替が変動した場合、影響を受ける可能性がありますが、必要に応じて一部の取引にデリバティブ取引を利用する等によりリスクを抑制しております。

また、在外子会社の財務諸表の為替換算においても、邦貨ベースで影響を受ける可能性があります。

 

(4) 金利水準の変動

市場金利が大幅に上昇した場合、支払利息が増加する等の影響を受ける可能性がありますが、当社グループは有利子負債削減等の取組みを通じて財務体質の強化を図っているほか、必要に応じて一部の取引にデリバティブ取引を利用する等によりリスクを抑制しております。

 

(5) 株式市況の下落

株式市況が大幅に下落した場合、保有株式の評価及び退職給付信託資産等の評価に伴う退職給付数理計算上の差異の発生等により、影響を受ける可能性があります。

 

(6) アジア諸国、アメリカ等の情勢の変化

当社グループは、アジア諸国、アメリカ等の世界各地で事業展開しており、それぞれの地域における政治・経済情勢の変化により影響を受ける可能性があります。

 

(7) 事業再編

当社グループは、事業の選択と集中を推進することとしており、重点分野に経営資源を集中するとともに、他社との連携も視野に入れた、事業の見直し、再編、整理に積極的に取り組んでおります。この過程において業績及び財政状態に影響を受ける可能性がありますが、高度な専門性などが要求される場合には、常任の法律顧問をはじめ、顧問法律事務所、経営コンサルタント等、専門家のアドバイスを受けております。

 

(8) 公的規制、気候変動抑止を中心とした環境規制強化・社会変化

当社グループは、事業展開する各国、地域の法令・規則等の各種規制に従って事業を行っておりますが、予期しない変更や新たな適用により、影響を受ける可能性があります。

環境規制に関しては、セメントの製造過程では相当量のCO2が発生しますが、温室効果ガス排出抑制に向けて各種公的規制が強化された場合や社会変化により、影響を受ける可能性があります。また、セメントの原料・燃料代替として廃棄物を利用しておりますが、廃棄物処理にかかる規制等が強化された場合にも、影響を受ける可能性があります。

なお、当社は2019年6月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同しており、TCFDの提言に基づき、気候変動が当社グループに与える事業リスクと事業機会について評価、分析を行い、その結果を開示しております。気候関連シナリオの拡大とともに評価、分析の更新を進め、事業戦略への反映と情報開示を進めていきます。

 

(9) 極端な気象現象の頻発

温室効果ガスの大気への蓄積・地球温暖化により、豪雨による浸水・土砂崩れの頻発や、台風の強力化による被害が発生する可能性があります。この場合、生産設備等が被災し輸送機関の混乱が長期化する等、影響を受ける可能性があります。

災害等の緊急事態が発生した場合、「リスク管理基本方針」及び「リスク管理規程」に則して適切に対応します。

 

(10) 大震災・感染症・事故等の発生

大震災や新型ウイルス等感染症の急速な流行が発生した場合のほか、生産設備等の重大事故や重大な労働災害が発生した場合にも影響を受ける可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 ① 経営成績等の状況の概要

当期のわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、社会・経済活動の正常化が進み、雇用・所得環境や企業の設備投資に改善がみられるなど、景気は緩やかに回復しました。しかしながら、中東地域をめぐる情勢の緊迫化やウクライナ情勢の長期化、円安の進行等による物価上昇等により、経済の先行きは不透明な状況が続いています。

また、世界経済については、米国経済は個人消費や設備投資に支えられて拡大しているものの、中国経済は消費の低迷や不動産市場の停滞の影響で景気が減速しました。

このような状況の中で、当連結会計年度の売上高は8,862億7千5百万円(対前年同期767億3千3百万円増)、営業利益は564億7千万円(同520億1千3百万円増)、経常利益は594億7千2百万円(同584億5千7百万円増)、親会社株主に帰属する当期純利益は432億7千2百万円(前年同期は332億6百万円の親会社株主に帰属する当期純損失)となりました。

 

セグメント別の経営成績は次のとおりであります。各金額については、セグメント間取引の相殺消去前の数値によっております。

 

<セメント>

セメント国内需要は、都市部再開発工事や物流関連施設新増設工事により一定の需要がある一方、各種コストの上昇及び建設現場の技能労働者不足による工程の遅れや工期の長期化により全般的に低調に推移した結果、全体では3,457万屯と前期に比べ7.3%減少しました。その内、輸入品は1万屯と前期に比べ5.1%減少しました。また、総輸出数量は685万屯と前期に比べ15.8%減少しました。

このような情勢の下、当社グループにおけるセメントの国内販売数量は、デンカ株式会社よりセメント販売事業を譲受けたことにより2023年4月から販売数量が増加しましたが、国内需要の落ち込みが大きく、受託販売分を含め1,295万屯と前期に比べ1.4%減少しました。輸出数量は255万屯と前期に比べ4.7%増加しました。

米国西海岸のセメント事業は、レディング工場他資産買収の通年効果等により、販売数量は前期を上回りました。ベトナムのセメント事業は、金融緩和後も民間需要の回復が遅れているものの、輸出の増加等により販売数量は前期を上回りました。フィリピンのセメント事業は、設備の修繕により生産能力が回復したため、販売数量は前期を上回りました。

以上の結果、売上高は6,298億7千万円(対前年同期768億2千8百万円増)、営業利益は327億8千3百万円(前年同期は148億9千8百万円の営業損失)となりました。

 

<資源>

骨材事業は東北地区では販売数量が減少しましたが、北海道・関西地区では堅調に推移しました。鉱産品事業は海外鉄鋼向け石灰石の販売数量が減少しました。土壌ソリューション事業は固化不溶化材の販売数量が前期を下回りました。また、事業全体において、各種コストアップ分の販売価格への転嫁が浸透しました。

以上の結果、売上高は876億7千4百万円(対前年同期49億6千8百万円増)、営業利益は84億5千5百万円(同28億9千9百万円増)となりました。

 

<環境事業>

排脱タンカル販売及び石膏販売は堅調に推移したものの、石炭灰処理、燃料販売及び焼却灰処理をはじめとする廃棄物処理は低調に推移しました。

以上の結果、売上高は682億5千4百万円(対前年同期96億5千6百万円減)、営業利益は61億3千8百万円(同2億6千6百万円増)となりました。

 

<建材・建築土木>

地盤改良工事とシールドトンネル工事関連事業の好調に加え、ALC(軽量気泡コンクリート)と建築・土木材料の販売価格の適正化に努めました。

以上の結果、売上高は734億5千6百万円(対前年同期51億8千5百万円増)、営業利益は42億8百万円(同18億5千6百万円増)となりました。

 

<その他>

情報処理事業、運輸・倉庫事業及びエンジニアリング事業は好調に推移したものの、化学製品事業及び電力供給事業は低調に推移しました。

以上の結果、売上高は893億9千7百万円(対前年同期24億7千1百万円増)、営業利益は46億9千1百万円(同4億1千7百万円減)となりました。

 

財政状態は次のとおりであります。

総資産は前連結会計年度末に比べ693億8千8百万円増加して1兆3,382億5千1百万円となりました。流動資産は前連結会計年度末に比べ1億1千8百万円減少して4,302億8千9百万円、固定資産は同695億7百万円増加して9,079億6千1百万円となりました。

流動資産減少の主な要因は原材料及び貯蔵品が減少したことによるものであります。固定資産増加の主な要因は建設仮勘定が増加したことによるものであります。

負債は前連結会計年度末に比べ18億6千1百万円増加して7,418億6千6百万円となりました。流動負債は前連結会計年度末に比べ176億8千万円減少して3,681億3百万円、固定負債は同195億4千1百万円増加して3,737億6千2百万円となりました。

流動負債減少の主な要因はコマーシャル・ペーパーが減少したことによるものであります。固定負債増加の主な要因は社債が増加したことによるものであります。

有利子負債(短期借入金、コマーシャル・ペーパー、1年内償還予定の社債、社債、長期借入金の合計額)は、前連結会計年度末に比べ330億1千6百万円減少して3,704億6千9百万円となりました。

純資産は、前連結会計年度末に比べ675億2千7百万円増加して5,963億8千4百万円となりました。主な要因は親会社株主に帰属する当期純利益の計上により利益剰余金が増加したことによるものであります。

以上の結果、自己資本比率は、前連結会計年度末から3.1ポイント増加して42.1%となりました。1株当たり純資産額は、前連結会計年度末から644.46円増加して4,872.94円となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、営業活動によって1,405億4千3百万円増加し、投資活動によって821億3千8百万円減少し、また、財務活動によって594億7千6百万円減少したこと等により、前連結会計年度末に比較して3億1千8百万円増加し、711億4千6百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動により得られた資金は1,405億4千3百万円前年同期は2億6千8百万円の使用)となりました。これは、減価償却費が663億4百万円、税金等調整前当期純利益が580億3千4百万円、棚卸資産の減少額が181億1千1百万円となったこと等によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動により使用した資金は821億3千8百万円(対前年同期112億6百万円減少)となりました。これは、固定資産の取得による支出が871億5千9百万円となったこと等によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動により使用した資金は594億7千6百万円(前年同期は1,120億8千万円の獲得)となりました。これは、長期借入れによる収入が518億3千万円となった一方で、長期借入金の返済による支出が607億9千5百万円、コマーシャル・ペーパーの減少額が270億円となったこと等によるものであります。

 

 

(参考) キャッシュ・フロー関連指標の推移

 

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

自己資本比率(%)

42.3

45.1

46.3

39.0

42.1

時価ベースの自己資本比率(%)

21.9

33.1

21.4

22.9

30.4

キャッシュ・フロー対有利子
負債比率(年)

2.9

2.2

3.8

2.6

インタレスト・カバレッジ・
レシオ(倍)

23.4

31.4

32.4

39.1

 

(注)自己資本比率:自己資本/総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産
キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

 

※ 各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により計算しております。

※ 株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。

※ 有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち、利子を支払っている全ての負債を対象としております。

※ 営業キャッシュ・フロー及び利払いは、連結キャッシュ・フロー計算書の「営業活動によるキャッシュ・フロー」及び「利息の支払額」を使用しております。

※ 2023年3月期は、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスであるため、キャッシュ・フロー対有利子負債比率及びインタレスト・カバレッジ・レシオを記載しておりません。

 

 

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

 

金額(百万円)

 

前期比(%)

セメント

423,314

6.2

資源

53,806

5.6

環境事業

42,081

△17.7

建材・建築土木

45,222

4.0

その他

20,172

△11.7

合計

584,597

3.1

 

(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

b. 受注実績

当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

 

金額(百万円)

 

前期比(%)

セメント

6,922

22.2

資源

1,395

12.2

環境事業

建材・建築土木

38,764

△7.1

その他

8,234

12.0

合計

55,316

△1.2

 

(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

c. 販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

 

金額(百万円)

 

前期比(%)

セメント

621,626

13.9

資源

64,378

4.0

環境事業

64,503

△12.2

建材・建築土木

72,230

7.7

その他

63,536

3.6

合計

886,275

9.5

 

(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

① 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループは、「23中期経営計画」の経営目標として、2023年度において売上高営業利益率11%以上、ROE10%以上を掲げ、その実現に向けて取り組んでまいりました。しかしながら、2023年度実績は売上高営業利益率6.4%、ROE8.2%と目標を下回る結果となりました。これは、国内セメント需要の落ち込みが大きく当社グループにとって厳しい事業環境となったことなどによるものであります。収益力の創出・向上については当社グループが引き続き取り組んでいくべき重要な経営課題であると認識しております。

当社グループの当連結会計年度の経営成績等の分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載しております。

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループは、営業活動によって得られた資金により、成長投資を重視し、資本効率を意識した積極的な設備投資・投融資を実行しております。また、株主還元につきましても、重要な経営課題の一つとして位置付けており、安定的かつ継続的な配当を基本としております。配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載しております。

当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載しております。

当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、次のとおりであります。

当社グループは、必要な運転資金及び設備投資資金については、自己資金または借入及び社債の発行により資金調達することとしております。このうち、長期借入金及び社債は主に設備投資に係る資金調達であります。

 

③ 重要な会計方針、見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、過去の実績や状況に応じ合理的に判断し見積りを行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるために、これらの見積りと異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 4.会計方針に関する事項」に記載しております。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち重要なものは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

 

契約会社名

相手先の名称

相手先の

所在地

契約の内容

太平洋セメント株式会社

(当社)

東ソー株式会社

日本

セメント受託販売契約

太平洋セメント株式会社

(当社)

日立セメント株式会社

日本

セメント・クリンカ生産受委託等の業務提携に関する基本協定

 

 

 

6 【研究開発活動】

研究開発部門は、収益の源泉となる既存事業分野において最大の利益を獲得するために技術面での支援を確実に進めるとともに、海外・資源・環境・建材を成長事業分野と位置付け、23中期経営計画において、早期に事業貢献可能なテーマを優先実施するとともに、カーボンニュートラルの実現とサーキュラーエコノミーの両立に向けた技術開発を推進しております。26中期経営計画においては、持続的な成長と企業価値向上に向け、世界最高水準の研究開発力への深化と引き続き経営への貢献を目指した研究開発を推進していきます。

カーボンニュートラルについては、「カーボンニュートラル戦略2050」の技術開発ロードマップ及び2030中間目標を盛り込んだ具体的方策を策定しました。この戦略に基づき、2050年におけるサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの実現に向けて、既存技術の最大活用と革新技術開発の完成を強力に推し進めております。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は5,658百万円であり、事業の種類別セグメントの主な研究開発活動の状況は以下のとおりであります。

 

1.セメント

トップブランドとしての最高品質の維持、セメント・コンクリートの需要拡大に寄与する技術開発に取り組むとともに、セメント製造に関わるコスト低減と環境対策との両立を図るための研究開発を、セメント事業本部及び生産・設備部門等と連携して推進しております。さらに、セメントキルン排ガスからの最適なCO2回収技術、及びCO2有効利用技術の開発にも注力しております。また、海外事業本部等と連携し、海外市場のニーズに即した混合セメント・コンクリートの材料設計や関連技術の開発を行っております。なお、当事業に係る研究開発費の金額は、3,789百万円であります。

 

2.資源

骨材資源や特殊骨材の価値極大化及び重金属不溶化材を中心とした汚染土壌対策技術の開発等を、資源事業部等と連携して推進しております。また、当社が保有する石灰石及び珪石資源と、グループ会社を含めたノウハウ、さらにこれまでに蓄積した水熱反応や粒子構造制御などの技術を活用した研究開発により、電極材料や中空粒子などの機能性マテリアルの事業化に鋭意取り組んでおります。なお、当事業に係る研究開発費の金額は、614百万円であります。

 

3.環境事業

セメント製造プロセスの特長を活用した各種廃棄物の再資源化技術の高度化や廃プラスチック等の処理困難廃棄物の代替エネルギー化等によるCO2削減に資する技術開発に注力し、環境事業部や生産・設備部門と連携して、着実に国内のセメント工場等へ展開しております。また、廃棄物から金属資源を回収する技術や下水道からリンを回収し肥料化する技術等、新規技術開発にも積極的に取り組んでおります。これらの国内で実績のある環境関連技術を成長著しいアジア諸国等へ導出すべく、海外事業本部等と連携し、対象国・地域に見合う開発を行っております。なお、当事業に係る研究開発費の金額は、667百万円であります。

 

4.建材・建築土木

建設資材分野における新たな商材や技術開発を、セメント事業本部及び建材事業部等と連携して推進しております。このような中、コンクリート製品を中心としたセメント・コンクリート関連商材の需要拡大に向けた材料及び周辺技術開発と、インフラの維持管理に対応するコンクリートの診断、補修・補強材料及び工法等の技術開発・市場展開に取り組んでおります。また、当社グループ企業と連携しながら、グループ全体の技術力や収益の向上に寄与しています。なお、当事業に係る研究開発費の金額は、587百万円であります。