当社グループの経営方針、経営環境および対処すべき課題等は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在の状況に対する判断に基づくものです。
(1)経営方針
1956年にNCの開発をスタートさせて以来、ファナックは一貫して工場の自動化を追求しています。
創業期に目指した、小柄でもしっかり根を張った巨人のごとき逞しさがある企業、技術で勝負する企業を希求し続け、「狭い路」を真っ直ぐに歩むことに努めています。
その企業像を実現するために、当社グループは基本理念として「厳密と透明」を掲げています。そこには、企業の永続性、健全性は厳密から生まれ、組織の腐敗、企業の衰退は不透明から始まる、という考えがあります。
ファナックは、基本技術であるNCとサーボ、レーザからなるFA事業と、その基本技術を応用したロボット事業およびロボマシン事業を展開しています。そして、IoT・AI技術をFA・ロボット・ロボマシンの全ての分野に積極的に適用していくことで、お客様がファナック商品をより効率的にご利用いただけるよう取り組みます。
また、生産財のサプライヤであるとの原点に立ち、お客様がファナックの商品をお使いになる限り、保守サービスを提供し続けます。
当社グループはこれらの事業活動を通じて、お客様の工場の自動化と効率化を推進することで国内外の製造業の発展に貢献し、今後も中長期的に拡大が見込まれる工場の自動化分野において、着実な成長を実現していきます。
(2)経営環境及び対処すべき課題
①当社欧州向けロボカット製品におけるEMC指令に基づく整合規格不準拠の試験実施の疑義
2024年3月下旬、当社が製造・販売するロボカット(ワイヤ放電加工機)について、欧州のEMC指令に基づく整合規格に適合していない態様で試験が行われていた疑い(以下本項において「本件疑義」といいます。)があることが判明しました。
当社は基本理念である「厳密と透明」をもって法令等の遵守を実践してまいりましたが、このような事態を招いてしまったことを重く受け止め、お客様をはじめ関係者の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけしますことを、深くお詫び申しあげます。本件疑義を受けて必要な対策を速やかに講じるとともに、本件疑義について徹底した事実の調査を行って原因を究明し、EMC指令に関して不適切な行為が認められた場合には、再発防止、信頼の回復に全力で取り組んでまいります。
② 経営環境およびその他の対処すべき課題
ファナックの商品は景気変動の影響を大きく受けやすい生産財であることから、短期的な事象に左右されない、長期的な視点に立った経営を続けています。
当社グループを取り巻く経営環境につきましては、地政学的リスクの高まりや、景気減速の懸念等もあり、予断を許さない状況が続くものと思われます。その一方で、工場の自動化への要求は中長期的に拡大することが見込まれます。
当社グループは、「one FANUC」を合言葉に、FA・ロボット・ロボマシンが一体となったトータルソリューションの提供、およびグループ一体となった世界のお客様への対応、という当社グループならではの強みを最大限活かしてまいります。特に、CNC工作機械とロボットとの連携、ロボマシンとロボットとの連携を重要テーマの一つと捉え、商品を開発してまいります。
また、ファナックの商品は製造現場でご使用いただく生産財であるとの原点に立ち、お客様の工場におけるダウンタイムを最小にして稼働率向上を図るため、「壊れない」「壊れる前に知らせる」「壊れてもすぐ直せる」ことを商品開発において徹底いたします。また、工場の自動化への要求が拡大する一方、熟練労働者の確保が難しくなる状況に対応するため、使いやすさを一層重視した商品開発にも取り組んでまいります。
そして世界中のどこでもファナックのグローバルスタンダードに沿った高度な保守サービスを提供すること、お客様が使用し続ける限り保守を続ける「生涯保守」を行うこと、を基本理念とした「サービス ファースト」を実践してまいります。特に、競合会社が追随することが難しい「生涯保守」については、当社グループの大きな特長として、引き続き注力してまいります。
また、工場の自動化分野という当社の強みを発揮できる分野に絞り込んで研究開発投資を積極的に行い、競争力の高い商品を開発し市場に投入します。これにより知的財産の充実を図ります。
さらに、当社グループは、今後も競争力の高い商品を開発し市場投入していくうえで、IoT・AI技術を必要不可欠なものと考えております。これらの技術をFA・ロボット・ロボマシンの全ての分野に積極的に適用していくことで、お客様における生産の効率化を一層推進します。
加えて、ファナックの商品がSDGsの達成に大きく貢献することを目指してまいります。
当社グループは、長期的視点に立ち、商品競争力の強化、セールス・サービス活動の強化、工場の自動化・ロボット化の推進、経費と時間の削減および業務の合理化など、より強い企業にするための基本施策を推し進めます。また、生産財のサプライヤとして、いかなる場合にもお客様への供給責任を果たし、サービス活動を維持することができるよう、生産拠点やサービス拠点の複数化に取り組んでいます。さらに、部品調達先の複数化、適切な部品在庫の保有など、サプライチェーンの強化にも取り組んでいます。
中長期的な成長のためには、人材が最重要であるとの観点に立ち、社員がより働きやすい職場の実現、社員のモチベーションの一層の向上も重要課題として取り組んでまいります。また、将来を見据え、必要な人材の採用や社員の育成の強化のための人的資本への投資を積極的に行います。これらを通じて継続的に人的資本の充実を図ります。
経営に当たっては、営業利益率、経常利益率、ROEなどに加えて、市場シェアも重要な経営指標と捉え、総合的に判断してまいります。また、当社は資本コストを的確に把握し、5年平均でのエクイティ・スプレッド(ROEと資本コストの差)をプラスとすることを目指します。
今後もあらゆる面で当社グループは、基本理念である「厳密と透明」を徹底し、こうした諸施策をグループ一丸となって推し進めることにより、お客様の当社グループへの安心と信頼を高めるとともに、激しい環境変化に適応することで、永続的な企業となるべく努力してまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方および取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在の状況に対する判断に基づくものです。
(1)サステナビリティ全般に関するガバナンスおよびリスク管理
[ガバナンス]
当社はサステナビリティ全般を重要な経営課題の一つと認識しています。
代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」において、サステナビリティ全般に関する重要な方針や施策について審議・決定を行い、取締役会に報告します。
取締役会は報告内容に基づいて、サステナビリティ全般に関連するリスクと機会の特定と対策が適切に推進されるよう監督を行います。
[リスク管理]
当社は、事業の継続性、企業価値の向上、企業活動の持続的発展を阻害するおそれのあるリスクに対処するため、リスクマネジメント委員会およびリスクマネジメント規程を設け、取締役会の監督のもと、適切なリスクマネジメントを行っています。サステナビリティ全般に関するリスクについても、この中に位置づけてリスク管理します。
(2)気候変動への取り組みとTCFDに基づく情報開示
COP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定を機に、世界的に脱炭素社会へ向けた動きが広がっています。グローバルに事業を展開している当社グループにとっても、気候変動は重要な経営課題であると認識し、取り組みを推進しています。
こうした中、当社は2021年12月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言(以下、TCFD提言)への賛同を表明しました。
今後もTCFD提言のフレームワークを活用して、継続的に情報開示の質と量を充実させるとともに、気候変動への取り組みを一層推進し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
[戦略]
当社は気候変動に関連するリスクと機会を特定し、それらが当社グループの事業に及ぼす影響を確認するために、FA事業、ロボット事業およびロボマシン事業について、1.5℃シナリオ、2℃シナリオ、4℃シナリオを用いて、中期(2030年)と長期(2050年)を対象にシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析にあたり、1.5℃においてはIEA NZE、IPCC RCP1.9など、2℃においてはIEA SDS、IPCC RCP2.6など、4℃においてはIEA STEPS、IPCC RCP8.5などを参照しました。各シナリオに対して、気候変動に関連するリスクと機会を洗い出し、事業への影響度を定量的かつ定性的に検証・評価しました。
このうち、事業へ大きな影響を与えるリスクとして「炭素税の導入によるコスト増」、「原材料価格の上昇によるコスト増」および「消費者の行動変容やEV/FCV化による一部ファナック商品の需要減」を特定し、機会として「省エネ・ロボット化によるファナック商品の需要増」、「EV/FCV化によるファナック商品の需要増」を特定しました。
1.5℃および2℃シナリオでは、脱炭素化への移行に伴う大きな社会変化が起こる世界が想定されます。炭素税の導入や原材料価格の上昇によりコストが増加する可能性がありますが、省エネ・ロボット化やEV/FCV化が拡大することにより、FA事業、ロボット事業およびロボマシン事業を拡大できると考えます。4℃シナリオでは低炭素化は推進されず、平均気温上昇等の気候変動により自然災害の激甚化が想定されます。これにより生産拠点等が被害を受け、生産にマイナスの影響が生じるとともに復旧コストが増加する可能性がありますので、事業継続計画(BCP)対応を推進し、物理面でのリスクに対応してまいります。
今回、FA事業、ロボット事業およびロボマシン事業についてシナリオ分析を行った結果、分析で使用したいずれのシナリオにおいても、これらの事業は高いレジリエンスを有していると評価しました。今後、特定したリスクへの対応と機会の実現に向けて、取り組みを一層推進してまいります。
また、当社は2030年までにScope1,2排出量を2020年比で42%削減するという中期目標(SBTイニシアチブにより認定取得)を定め、取り組みを推進しています。
この目標に向けて、太陽光パネルや再エネ電力の導入を計画しており、投資額として約90億円を見込んでいます。(金額については、不確実な要素や仮定を含んでおり、実際と異なる可能性があります)
[指標・目標]
当社は2050年までに当社グループの事業活動に伴うGHG排出量(Scope1, 2)をゼロにするという長期目標を設定しています。この長期目標の実現に向けて、2030年までに同排出量を42%削減する(2020年比)という中期目標を定めています。Scope3については販売した製品の使用による排出量を2030年までに12.3%削減(2020年比)することを目指します。
(3)人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針
[戦略]
当社は、社員を技術革新と価値創造の原動力となる人的財産であると考え、一人ひとりの健康と成長を支援し、安全・安心のもと、やりがいを持って自己実現を図る環境を整えていきます。
<ダイバーシティ&インクルージョン>
ファナックは、人材の多様性を受け入れ、価値観等の個性を互いに尊重し、各社員が多様な能力を発揮できるようグループ全体で取り組むこと(ダイバーシティ&インクルージョン)で、組織の更なる強化と会社の持続的成長を目指します。
[多様な人材の採用・登用]
①女性社員の積極的採用・登用
・ 女性正社員比率10%の目標に向け女性の採用を積極的に進めています。女性技術者をはじめとする女性の採用に向けて、女性向けセミナーの実施や採用ページにおける女性向けコンテンツの掲載、学校訪問・学生による会社訪問の対応を女性社員が行い、仕事と実生活の両面に関する対話の場を作るなどの取り組みを行っています。
・ 能力ある女性を積極的に幹部社員に登用します。これにより3.1%(2024年3月末現在)の女性幹部社員比率を2030年までに5%以上とすることを目指しており、女性幹部社員候補者の把握と計画的育成を進めています。
②経験者採用者・外国人の登用
採用時期や国籍等による適性等の差を設けず、柔軟に幹部社員等への最適な登用へ取り組んでいます。
[多様な人材の活躍する環境整備]
③ダイバーシティ研修
社員一人ひとりが多様性を受容する組織風土の醸成に向けて、継続的に全社員対象のダイバーシティ研修を開催しています。
研修では、ダイバーシティ推進の意義・重要性の理解を通した当事者意識の醸成・浸透を図るとともに、各個人の具体的な行動へと繋げるために、自職場で意識し取り組むべきポイントを伝えています。(2023年度には、女性活躍推進をテーマとした研修を実施)
④仕事と家庭の両立支援
「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画」等の計画に基づき、以下の対応を行っています。
・ 仕事と育児・介護・治療との両立のため、出産休暇、育児休暇、小学校卒業までの短時間勤務などの制度の充実とともに、長時間労働の削減や年次休暇の取得目標(80%以上)の設定、時間単位年休の導入など、男女社員ともに働きやすい環境の整備を進めています。
・ 育児・介護休職制度に関するパンフレットの発行等を通じた全社周知、仕事と育児・介護の両立支援に対する相談窓口の設置を通して、男性社員の育児休業の取得促進を図っています。
(2023年度男性育児休業取得率:90.8%)
・ 仕事と家庭の両立支援に向け、2019年度に本社施設内で社員向け保育所を開設しました。0歳児を積極的に受け入れ、育児休職者のキャリア志向に応じた柔軟な職場復帰を支援しています。
⑤女性社員間のネットワーク形成
・ 先輩女性社員がメンターとして若手女性社員の悩みについて助言するネットワーク作りを行っています。
・ 2023年度には、女性の働き方・キャリア・採用等をテーマとして、女性社員有志で女性取締役2名との交流会を行いました。
⑥ダイバーシティ&インクルージョンプロジェクトの発足
・ 女性社員有志と女性取締役との交流会の中で認識された男女共通の課題の解決に向けた具体的な活動の推進を目的として、男性・女性社員参画の「ダイバーシティ&インクルージョンプロジェクト」を発足させました。
<人材育成・働きがいの向上>
今後企業としての持続的成長を実現していくためには、社員一人ひとりが当社の基本理念・組織のビジョンに対する理解を深め、自己の役割を認識した強い個として自律的に行動し、自身のキャリア志向や強みに応じて成長し、相互に関わり合いながらその力を最大限に発揮できる機会を提供することが必要であると考えています。
そのための施策として、以下の取組みを行っています。
①キャリア形成支援
社員一人ひとりのキャリア形成の支援に向けて、上司とメンバーとの対話の場づくりに取り組んでいます。
メンバーに対しては、自らの価値観を軸とした成長プランを策定する「若手社員研修」、プロフェッショナルとしての専門領域を追求する「中堅社員研修」を実施し、これからのキャリア形成を思い描く場を設けています。
また、メンバーがキャリアビジョンを上司と共有し、理解と支援を受けるための対話の場として、2023年度より「1on1面談」を開始しました(幹部社員を対象に導入)。
対話を通して、上司・メンバーが組織の目的の達成と個人のキャリアの実現に向けて相互に協働し合う関係性づくりを図っています。
②社内公募制度
新たな人材を必要とする部門が、求める人材要件を明確にし、社内で人材を募集する社内公募を実施しています。
社員が自分のキャリア実現のための新たな仕事にチャレンジする仕組みを設けることで、組織の活性化と個人のモチベーションの向上を図っています。
③エンゲージメントサーベイ
「エンゲージメントサーベイ」を毎年実施し、社内組織のエンゲージメントの状態の確認を行っています。
各組織で調査結果から組織の課題を設定し、対策を実行するPCDAサイクルを回し、継続的に職場環境の改善、働きがいの向上に向けた取組みを積み重ねています。
<健康・福利厚生>
当社のビジョンを達成するためには、事業基盤を支える社員とその家族の健康、幸福が基盤であると考えます。
心身ともに健康で、幸せで豊かな生活を送り、いきいきとやりがいを持って、活躍できる環境を整えていきます。
①厚生施設・健診体制の充実
体育館などのスポーツ施設、保養所等、各種厚生施設を設置し、社員とその家族の心身の健康を推進しています。
寮・社宅は本社地区をはじめとする全国の主要拠点に保有しています。また、本社地区の健康推進センタでは、専属の産業医、技師、看護師が常駐しているほか、MRI、CT等の各種医療機器を有しており、健康診断においては、これらの機器を活用した法定以外の検査等の対応を行っています。
また、仕事と治療の両立支援制度を導入し、社員が安心して治療に専念でき、職場復帰しやすい体制を整えています。
②健康経営の推進
健康づくり推進委員会を設置し、関連部門の意見を取り入れ、全社一体となって健康経営の推進に取り組んでいます。
2024年3月11日に「健康経営優良法人2024」(大規模法人部門)に認定されました(2023年に引き続き2年連続の認定)。
主な活動は以下の通りです。
・健康診断と要精密検査受診率向上、保健指導の充実
・メンタルヘルス不調者への対応強化、セルフケア、ラインケア研修の実施
・ヘルスリテラシー向上を目的とした教育、女性特有の健康関連課題に関する教育の実施
・特定保健指導の実施率向上および配偶者健診の受診率向上
・取引先の健康づくり推進の状況把握と支援
・メルマガの発信、ウォークラリーの実施、喫煙率低下に向けた取組み
・食堂メニューの改善、食生活改善のための情報提供やキャンペーンの企画
[指標・目標]
当社グループでは、上記[戦略]において記載した、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針に係る指標については、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組みが行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、次の指標に関する目標および実績は、連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在の状況に対する判断に基づくものです。
<1.特に重要なリスク>
① 戦争に関するリスク
戦争が発生した場合、当社グループの社員の生命、安全が重大な危険にさらされる可能性があります。また、当社グループでは、海外市場における売上高が連結売上高のうち大きな割合を占めています。アジア、欧州、米州など当社商品の市場規模が大きな地域で戦争が発生した場合、地域によっては商品の販売市場、サプライチェーン、物流等に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクが顕在化した場合の影響を少しでも抑えるため、「one FANUC」として当社グループ会社間における連携をより緊密にしていきます。
② 自然災害に関するリスク
当社商品はいずれも生産設備として生産現場で使われるものであり、当社商品の大口ユーザでもある自社工場と研究開発との密接な連携による相乗効果によって研究開発と生産技術双方を強化・効率化できる大きな利点があること等から、当社では研究開発部門、工場等を本社地区に集中させてきました。一方で、こうした拠点の集中により、仮に大地震が発生した場合は、被害が甚大になる可能性があります。また、本社地区の近隣に位置する富士山が噴火することは非常に稀と考えられますが、万一噴火した場合の影響は甚大です。これらの他、台風や大雪などの自然災害で大きな影響を受ける可能性があります。
こうした自然災害に関するリスクの顕在化に対応するため、本社工場(山梨県南都留郡忍野村・山中湖村)以外に、壬生工場(栃木県下都賀郡壬生町)、筑波工場(茨城県筑西市)等の新設、拡充による生産拠点の複数化を推進してきました。また、サービス拠点についても、日野支社(東京都日野市)の再構築と名古屋サービスセンタ(愛知県小牧市)の開設により、保守部品の保管倉庫、サービス情報システムのサーバの設置拠点の複数化を行ってきました。
また、データセンタの二重化を行ったほか、本社地区、壬生工場、筑波工場において非常用電源としても使用できるコージェネレーションシステムの導入などを行いました。
当社グループは、今後も、自然災害に関するリスクへの積極的な取り組みを継続的に推進、強化していきます。
③ サイバーセキュリティに関するリスク
近年、サイバー攻撃は、手口の高度化、巧妙化等により、その脅威がますます高まっています。サイバー攻撃により、当社グループの生産設備等が被害を受け生産に影響が生じる可能性や、当社の技術上、営業上等の秘密情報が流出する可能性があります。また、IoT関連の商品、サービス、ネットワーク(当社が利用する他社クラウド基盤を含む)を通じて顧客等の製造設備等に被害が生じ、顧客等からの信用を失う可能性があります。これらのサイバーセキュリティに関するリスクは、様々な要因により顕在化し、当社グループの事業戦略や経営成績等に甚大な影響が生じる可能性があります。
このため当社グループは、CISO(チーフ・インフォメーション・セキュリティ・オフィサー)を任命するとともに、情報セキュリティ委員会等を通じて、当社ITシステムに関するセキュリティ対応の枠組み(コンピュータ・セキュリティ・インシデント・レスポンス・チーム(CSIRT))とそれに基づく監視チーム(セキュリティ・オペレーション・センター(SOC))の活動を徹底しています。また、商品の事故対応体制(プロダクト・セキュリティ・インシデント・レスポンス・チーム(PSIRT))の運用と関連認証の取得を順次進めています。これらによりサイバーセキュリティに関するリスクへの対応体制の強化を進めています。
④ 競争力低下に関するリスク
当社グループを取り巻く事業環境において、今後以下に挙げるような変化が予想されます。
・ 新興国企業等の技術力、競争力の急速な向上
・ 商品単体の信頼性や機能等の競争だけでなく、様々なIoTシステムとの連携を含めた総合的な使い易さ、信頼性等の競争への変化、およびこれらに伴う市場や顧客ニーズの多様化や変化
・ 様々な新技術の台頭による当社グループの競争力の低下
これらの外部環境の変化に柔軟、迅速に対応できない場合、商品の競争力等における当社グループの優位性が失われる結果、競争力低下に関するリスクが顕在化し、当社グループの事業戦略や経営成績等に甚大な影響が生じる可能性があります。
このため当社グループは、これまで培ってきた優位性を活かしつつ事業環境変化に柔軟、迅速に適応できるよう将来を見据えた研究開発をさらに強化するとともに、生産における自動化、ロボット化等を一層推進することにより、競争力の強化に努めていきます。
<2.重要なリスク>
① 人材確保・育成に関するリスク
外部環境の急激な変化によりますます競争が激しくなる中、当社グループが持続可能な発展を続けていくためには、創造性豊かな優れた人材を確保・育成することが重要となります。こうした人材の確保・育成が遅れたり、優秀な人材が流出したりする場合、当社グループの競争力が低下する等人材確保・育成に関するリスクが顕在化し、当社グループの発展等に大きな影響が生じる可能性があります。
こうした課題に対処するため、当社グループは、社員の教育の充実、仕事を通じた成長の支援、エンゲージメントの向上、ワークライフバランスの充実など、優れた人材が集まる一層魅力的な企業として、企業文化の継承力と創造性を併せ持った人材を育成して適所に配置することに努めていきます。
② 部品等の調達に関するリスク
当社グループにおいて、何らかの理由で部品等の調達に不足や遅れが生じた場合、生産に遅延が発生する可能性があります。その結果、顧客等の生産活動にも影響が生じ、信用を失う可能性があります。一方で、不正確な需要予測や不十分な在庫管理により過剰な調達を行った場合、過剰な在庫を抱えたことによる棚卸資産の評価損が発生する可能性があります。このように、部品等の調達に関するリスクが顕在化した場合、当社グループの事業戦略や経営成績等に大きな影響が生じる可能性があります。
このため当社グループは、部品の複数調達先の確保や調達先との関係強化等、サプライチェーンリスクマネジメントの強化などの対策に引き続き努めていきます。
③ 新型ウイルス等の感染症に関するリスク
新型ウイルス等の感染症が発生した場合、当社グループの社員等の健康、安全が脅かされる可能性があります。また、当社グループの社員や家族に感染者が発生した場合、周辺の地域住民への感染拡大やそれによる地域医療への負担の増加など、地域社会に大きな影響を与える可能性があります。
当社グループの部品調達先や加工・組立業務委託先に感染者が発生した場合、当社グループの生産に影響が生じる可能性があります。また、部品調達先の所在する国や地域でロックダウン(都市封鎖)が行われた場合、部品の生産や物流に制限を受け、当社グループの部品調達に大きな支障が生じる可能性があります。
新型ウイルス等の感染症に関するリスクが顕在化した場合、これらの影響を通じて、当社グループの事業戦略や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
このため当社グループは、新型ウイルス等の感染症に対しては、感染拡大防止、部品の複数調達先の確保等サプライチェーンリスクマネジメントの強化などの対策に引き続き努めていきます。
④ コンプライアンスに関するリスク
当社グループにおいて法令違反、社会規範・倫理上の問題や品質不正、企業秘密漏洩等のコンプライアンス問題が生じた場合、当社グループに対する罰則等による直接的影響はもとより、社会的信用・企業イメージの低下等によりコンプライアンスに関するリスクが顕在化した場合、事業戦略や経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため当社は、当社および当社グループ会社のコンプライアンス向上に資する活動の企画立案、実行等を行う委員会としてコンプライアンス委員会を設置し、社員教育の実施や内部統制強化に関する対応を実施しています。
(当社欧州向けロボカット製品におけるEMC指令に基づく整合規格不準拠の試験実施の疑義について)
当社が製造・販売するロボカット(ワイヤ放電加工機)について、欧州のEMC指令に基づく整合規格に適合していない態様で試験が行われていた疑い(以下本項において「本件疑義」といいます。)があることが判明しました。
当社は、このような事態が生じたことを重く受け止め、2024年4月24日開催の取締役会において社外の有識者から成る特別調査委員会の設置を決定し、本件疑義に関する徹底的な調査、原因究明及び再発防止策の策定を行うことを決議いたしました。
今後の調査等の進捗次第では、本件疑義の対象製品に関する費用をはじめとする損失の発生等により、当社グループの事業戦略や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
⑤ ハラスメントに関するリスク
当社グループの職場におけるハラスメントや労働衛生環境を含む人権問題等が生じた場合、社員の健康やメンタルヘルスの悪化等により人材確保・育成に関するリスクが顕在化し、当社グループの発展等に大きな影響が生じる可能性があります。また、社会的信用・企業イメージの低下等により、事業戦略や経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため当社グループは、ハラスメントに関する啓発活動やハラスメント防止の研修の実施、相談窓口の周知・強化等に一層努めていきます。
⑥ 各国の政策、法規制に関するリスク
当社グループでは、海外市場における売上高が連結売上高のうち大きな部分を占めています。日本を含む各国政府による安全保障貿易管理等の様々な政策、規制等の変更および域外適用の拡大は、内容によっては当社グループの事業活動に大きな影響を及ぼします。これら各国政府による法規制等に違反した場合、処罰を受ける可能性があります。
また、各国政府が保護主義等により輸入関税率の引き上げを行った場合、あるいはアンチダンピング課税の賦課決定を行った等の場合には、当社グループの商品の販売が大きな影響を受ける可能性があります。
このように、各国の政策、法規制に関するリスクが顕在化する可能性があるため当社グループは、各国政府の法規制の遵守のための役員・社員への教育や適切なチェック体制・仕組みの整備等に努めていきます。
⑦ ESGに関するリスク
当社グループは、持続可能な成長のための経営上の課題としてESGを重視しております。また、当社グループのESGへの取り組み状況が顧客等において商品購入時の検討要素とされるなど、ESGは様々なステークホルダーとの関係においても重要な課題となっています。
当社グループによるESGへの対応が不十分な場合、社会的評価が低下する等、ESGに関するリスクが顕在化し、当社グループの事業戦略や経営成績等に影響が生じる可能性があります。
こうした課題に対処するため、当社グループは、ESGへの取り組みを経営上の重要課題と認識し、積極的に強化していきます。
<3.その他のリスク>
以上の他、例えば以下のようなリスクにより、当社グループの事業戦略や経営成績等に影響が生じる可能性があります。
これらのリスクについても、顕在化の可能性と顕在化した場合の影響や積極的な事業戦略とのバランス等を考慮のうえ、予防、低減、回避等の然るべき対応に努めていきます。
(例)
・労働災害に関するリスク
・知的財産権の侵害リスク(当社グループの知的財産権が他社に侵害される場合、および当社グループが他社から知的財産権侵害の訴えを起こされる場合)
・製造物責任に関するリスク
・為替レートの変動リスク
① 財政状態及び経営成績の状況
a. 財政状態
資産合計は、前連結会計年度末比525億1百万円増の1兆9,260億37百万円となりました。これは、原材料及び貯蔵品が224億81百万円、投資有価証券が249億34百万円増加したことが主な要因です。
(負債)
負債合計は、前連結会計年度末比391億44百万円減の2,068億37百万円となりました。これは、支払手形及び買掛金が139億97百万円、未払法人税等が202億46百万円減少したことが主な要因です。
純資産合計は、前連結会計年度末比916億45百万円増の1兆7,192億円となりました。これは、利益剰余金が247億36百万円、為替換算調整勘定が598億17百万円増加したことが主な要因です。
当期(2023年4月1日から2024年3月31日まで)における当社グループを取り巻く状況につきましては、サプライチェーンにおける半導体等の部品の不足による生産活動への影響は落ち着きましたが、世界的なインフレや高金利による景気減速の懸念、為替変動による影響等により先行き不透明な状況が続きました。加えて、2022年度下期から続く在庫調整が生産への影響を及ぼしました。
こうした中、当社では業績への影響を最小限にとどめるべく、セールス、研究開発、工場、サービス、事務、全ての部門の総力を挙げて取り組みました。
一方で、こうした厳しい状況ではありましたが、新商品、新機能の開発や工場の生産能力増強など、将来の発展に向けた取り組みを引き続き進めました。
加えて、世界的に脱炭素社会へ向けた動きが広がる中、グローバルに事業を展開している当社グループにとっても気候変動は重要な経営課題であると認識しており、商品の省エネルギー性能向上に向けた開発を推進しました。また、国際的な非営利団体であるCDPにより、気候変動分野の透明性とパフォーマンスにおけるリーダーシップが認められ、2023年度のAリスト企業に初めて選定されました。
2023年度における連結業績は、売上高が7,952億74百万円(前期比6.7%減)、経常利益が1,817億55百万円(前期比21.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が1,331億59百万円(前期比21.9%減)となりました。
なお、当期におきましては、工作機械・産業機械の省エネルギー化に貢献する新世代のサーボシステムである「ファナック αi-Dシリーズ サーボ」が第66回日刊工業新聞社「十大新製品賞」本賞を受賞しました。また、世界最大となる最大2.3t可搬の産業用ロボットである「ファナック ロボット M-2000iA」が公益財団法人大河内記念会より、「大河内記念生産特賞」を受賞しました。
なお、当社グループは、CNCシステムとその応用商品を提供する企業グループとして、単一セグメントの事業を営んでおりますが、商品部門別の状況は以下のとおりです。
FA部門につきましては、CNCシステムの主要顧客である工作機械業界の需要は、国内を含む世界各国で減速傾向がみられ、当社のCNCシステムの売上も減少しました。
FA部門の連結売上高は、1,803億84百万円(前期比27.9%減)、全連結売上高に対する構成比は22.7%となりました。
ロボット部門につきましては、欧米共に前期からの受注残により、EV関連向けおよび一般産業向け共に堅調で売上が増加しました。中国では、好調だったEV関連向けが若干下降気味であり、インフラ関係と電子産業向けも低調で売上が減少しました。インドでは、自動車関連向け、一般産業向け共に好調で売上が増加しました。国内では、自動車関連向けで回復傾向が見られており、売上が増加しました。
ロボット部門の連結売上高は、3,809億44百万円(前期比6.7%増)、全連結売上高に対する構成比は47.9%となりました。
ロボマシン部門につきましては、ロボドリル(小型切削加工機)では、中国をはじめとする海外市場の低迷が続き、売上が減少しました。ロボショット(電動射出成形機)では、IT関連向けの需要が落ち込み、売上が減少しました。ロボカット(ワイヤ放電加工機)では、欧米をはじめとする海外市場の低迷が続き、売上が減少しました。
ロボマシン部門の連結売上高は、1,033億88百万円(前期比22.1%減)、全連結売上高に対する構成比は13.0%となりました。
サービス部門につきましては、「サービス ファースト」をキーワードに、サービス体制の強化、IT技術の積極的な導入による効率アップ等を進めました。世界中に270ヶ所以上のサービス拠点を置いて100ヶ国以上をカバーする体制を構築し、お客様の工場でのダウンタイムを最小限にすべく、迅速なサービス活動を行っております。
サービス部門の連結売上高は、1,305億58百万円(前期比16.5%増)、全連結売上高に対する構成比は16.4%となりました。
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前年度末比499億28百万円増の5,268億81百万円となりました。
営業活動の結果得られた資金は、前年同期比722億59百万円増の1,717億64百万円であり、これは主に前連結会計年度に棚卸資産が大きく増加していたことの反動によるものです。
投資活動の結果使用した資金は、前年同期比644億35百万円減の135億63百万円であり、これは主に定期預金の預入による支出が減少したことによるものです。
財務活動の結果使用した資金は、前年同期比54億10百万円減の1,225億14百万円であり、これは主に配当金の支払額が減少したことによるものです。
(当連結会計年度)
(注) 生産高は、販売価格によっております。
(当連結会計年度)
c. 販売実績
(当連結会計年度)
(注) 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。
連結財務諸表の作成にあたっては、期末日における資産、負債および偶発債務ならびに会計期間における収益、費用に影響を与える見積りを必要としておりますが、実際の結果と異なる場合があります。
中でも連結財務諸表に与える影響が大きいと考えられるものは、以下のとおりであります。
当社グループの従業員退職給付費用および債務は、割引率等数理計算上で設定される前提条件や年金資産の長期期待運用収益率に基づいて算出されております。実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、その影響は累積され、将来にわたって規則的に認識されるため、一般的には将来期間において認識される費用および計上される債務に影響を及ぼします。長期金利の低下や運用利回りの悪化は、当社グループの業績および財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、減損の兆候が見られる固定資産については将来キャッシュ・フローの見積りに基づいて、遊休資産については個別に比較可能な市場価額等に基づいて減損損失の認識の判定を行い、必要に応じて減損処理を実施しております。
将来キャッシュ・フローや回収可能価額の見積りの前提となる将来の収益性の低下や時価の下落等により、減損損失が発生する可能性があり、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(経営成績)
2023年度における連結業績は、売上高が7,952億74百万円(前期比6.7%減)、経常利益が1,817億55百万円(前期比21.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が1,331億59百万円(前期比21.9%減)となりました。
当期(2023年4月1日から2024年3月31日まで)における当社グループを取り巻く状況につきましては、サプライチェーンにおける半導体等の部品の不足による生産活動への影響は落ち着きましたが、世界的なインフレや高金利による景気減速の懸念、為替変動による影響等により先行き不透明な状況が続きました。加えて、2022年度下期から続く在庫調整が生産への影響を及ぼしました。
こうした中、当社では業績への影響を最小限にとどめるべく、セールス、研究開発、工場、サービス、事務、全ての部門の総力を挙げて取り組みました。
(財政状態)
資産合計は、前連結会計年度末比525億1百万円増の1兆9,260億37百万円となりました。これは、原材料及び貯蔵品が224億81百万円、投資有価証券が249億34百万円増加したことが主な要因です。
負債合計は、前連結会計年度末比391億44百万円減の2,068億37百万円となりました。これは、支払手形及び買掛金が139億97百万円、未払法人税等が202億46百万円減少したことが主な要因です。
純資産合計は、前連結会計年度末比916億45百万円増の1兆7,192億円となりました。これは、利益剰余金が247億36百万円、為替換算調整勘定が598億17百万円増加したことが主な要因です。
営業活動の結果得られた資金は、前年同期比722億59百万円増の1,717億64百万円であり、これは主に前連結会計年度に棚卸資産が大きく増加していたことの反動によるものです。
投資活動の結果使用した資金は、前年同期比644億35百万円減の135億63百万円であり、これは主に定期預金の預入による支出が減少したことによるものです。
財務活動の結果使用した資金は、前年同期比54億10百万円減の1,225億14百万円であり、これは主に配当金の支払額が減少したことによるものです。
以上のキャッシュ・フローの増減に現金及び現金同等物に係る換算差額142億41百万円を加算し、連結キャッシュ・フローは、499億28百万円の増加となりました。
当期の所要資金は全て自己資金により充当し、外部からの調達は行っておりません。
ハードウェア研究開発本部、ソフトウェア研究開発本部、サーボ研究開発本部、ロボット機構研究開発本部、ロボットソフト研究開発本部、ロボットアプリケーション技術本部、ロボドリル研究開発本部、ロボショット研究開発本部、ロボカット研究開発本部では、お客様における製造の自動化と効率化に寄与すべく、高信頼性を基本に、性能の向上や使いやすさを追求した競争力の高い様々な新商品、新機能を開発し、市場に投入しました。
次世代技術研究所では、当社商品に適用される次世代要素技術などの研究開発を行っております。
IoTにつきましては、接続されている機器からデータを集め、使いやすい形に整理・整頓・統合するデータ基盤である「FIELD system Basic Package」を強化しました。CNCおよびロボットデータの取得やバックアップ機能を強化し、当社商品とより高度な連携ができるようになりました。また、複数の「FIELD system Basic Package」を連結させることでこれまで以上に多くの機器のデータを統合できるようになりました。「FIELD system Basic Package」は製造現場のデータを安全に効率良く活用・分析することで、設備の稼働率向上や製造物に対するトレーサビリティの保存、脱炭素化への取り組みなど、製造現場および工場全体の最適化に寄与します。ロボットについては、ZDTのIoT技術により、国をまたいで複数の工場に設置されているロボットをネットワークで接続し、故障予知や異常検出を実現しています。これにより、ユーザは故障前に保守を行うことで稼働を維持できます。現在、世界で35,000台のロボットがZDTに接続され、すでに2,000件以上のダウンタイムを防止しました。2023年度は特にスポット溶接やアーク溶接等のプロセスに関する診断と長期ログ機能を充実させました。また、稼働情報をZDTが分析し、生産ラインに並ぶロボットの保守優先度を表示する新機能を開発しました。この新機能により、人手不足に悩む設備保全作業を効率化できます。ZDTにより、ロボットで自動化された生産ラインの稼働率向上に貢献します。
AIにつきましては、FA・ロボット・ロボマシンの全商品群において、より実用的なAI機能の開発を推進しています。各研究開発本部では、新たなAI機能の開発と、これまでにリリースしたAI機能の改良や適用機種の拡大に取り組んでいます。次世代技術研究所では、将来への布石となる基礎的なAI機能の研究を行うとともに、AI機能の品質を保証する仕組み作りやAI機能が出力した結果の解釈性向上にも取り組んでいます。このようなAI技術に関する取り組みにより、競合他社との差別化を図ります。
当連結会計年度の研究開発費は、
当連結会計年度における新商品の主な成果は以下のとおりです。
CNCにつきましては、変化する市場要求に対応する当社の新CNCシリーズ「ファナック シリーズ 500i-A」をリリースしました。ハードウェアとソフトウェアを全面的にリニューアルしたCNCです。マルチコアCPUにより大幅に向上した処理性能、5軸加工機や複合加工機における段取りやプログラミングの使いやすさ向上、保守性に優れた筐体構造、CNCのデータやサーボモータの回転位置情報を保持するためのバッテリを不要とする新システムの採用、加工現場の作業に寄り添った操作画面、セキュリティや安全機能の向上等、工作機械に更なる付加価値を提供します。また、幅広く工作機械に採用いただいている「ファナック シリーズ 0i-F Plus」につきましても新CPUを搭載して更なる基本性能の向上を行い、サイクルタイム短縮に寄与する機能追加も行いました。サーボにつきましては、サーボシステム全体を刷新した「ファナック αi-Dシリーズ サーボ」をリリースしました。省エネルギー、性能、信頼性、使いやすさの観点で大きなレベルアップを図っています。
ロボットにつきましては、世界で初めてセキュリティ国際規格IEC62443-4-1、4-2の第三者認証を取得したロボット制御装置「ファナック R-50iA 制御装置」の販売を開始しました。セキュリティ認証を取得した安全性のもと、ZDT(ゼロダウンタイム)といったIoT商品の更なる拡張、携帯電話のテザリングを使ったリモート保守などを実現します。また、制御性能を強化することで、軌跡上の信号出力やトラッキング精度を倍増させるとともに、内蔵ビジョンの解像度も500万画素に上げて広視野をカバーします。さらには低損失パワー素子を搭載した新型アンプと低消費電力ファン、新機能のエコモードにより、消費電力を削減しました。
ロボットの新機種としては、重可搬ロボット「ファナック ロボット M-950iA/500」、中型ロボット「ファナック ロボット M-710iDシリーズ」、食品・医薬品製造向けのスカラロボットおよび協働ロボットを開発しました。500kg可搬の「M-950iA/500」は、アーム1本のシリアルリンク構造を採用することにより、アーム2本の平行リンクタイプに比べて、動作範囲が圧倒的に広く、ロボット旋回時の干渉も小さくできるため、狭い場所でも柔軟な設備を構築可能です。長大ワークの搬送に加え、バッテリなど重量部品の搬送に適しています。
また、「ファナック ロボット M-710iCシリーズ」を17年ぶりにリニューアルし、「M-710iC/45M」の後継モデルとして50kg可搬の「M-710iD/50M」、「M-710iC/70」の後継モデルとして70kg可搬の「M-710iD/70」を開発しました。動作性能の強化に加えて、防塵防滴性能や剛性をレベルアップさせており、工作機械への部品供給や搬送、物流など幅広い産業分野に活用いただけます。
さらに、協働ロボット「ファナック ロボット CRXシリーズ(CRX-5iA、CRX-20iA/L、CRX-30iA)」の食品グリース仕様、およびクリーン環境仕様の12kg可搬スカラロボット「ファナック ロボット SR-12iA/C」を開発しました。専用機や人手作業の多い食品・医薬品製造業界において、ロボット導入の切り口となることが期待されます。
これらをはじめとする新商品、新機能により、お客様の製造現場の自動化に貢献します。
ロボドリル(小型切削加工機)、ロボショット(電動射出成形機)およびロボカット(ワイヤ放電加工機)につきましては、ロボドリルでは「ファナック ロボドリル α-DiB Plusシリーズ」のY軸ストローク500㎜仕様、工具収納本数28本仕様、旋削加工に対応可能な高速回転テーブルを開発し、ロボドリルの適用範囲を拡げ、使いやすさを向上させました。ロボショットでは「ファナック ロボショット α-SiBシリーズ」に型締力15トンと450トンの2機種を追加し、ラインナップを完成しました。ロボカットでは大型のワイヤ放電加工機「ファナック ロボカット α-C800iC」を開発しました。これにより、大型の高精度金型や部品など、幅広い加工への対応が可能になりました。