当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは、「UPGRADE JAPAN」をミッションとして掲げ、「AIでデータの真価を解き放ち産業の常識を塗り替える」というヴィジョンを実現すべく、データサイエンスや機械学習、AIといった最先端の技術を社会に実装することを目指しております。
各産業を代表するパートナー企業と共同で研究開発を行い、産業全体に共通する課題を解決するAI関連のサービスやソリューションを多数創出しております。AIを単なる先進技術としてではなく、実際に利益やキャッシュ・フロー等の観点で定量的な改善効果を創出し、産業共通課題を解決する手段として社会に実装することを目指しております。
また、開発したソリューションを自社所有のプロダクトとして産業全体に幅広く提供し、AIソリューション事業として展開しております。中長期的には、日本国内の社会課題を解決する過程で培った知見と経験を活用し、グローバル展開も見据えております。
(2) 経営戦略
当社グループは、新たなAIソリューション開発とプロダクトの産業横展開の双方を実現するAI企業として事業を展開する方針であります。
第一フェーズ「共同研究開発(Joint R&D)」
当社グループは各産業の大手企業と強固なパートナーシップを結びながら共同でAI活用を推進しており、Joint R&Dフェーズとして既に多数の顧客から収益を得ております。当該フェーズにおける顧客へのサービス提供を通じて、産業固有の課題やデータを収集できるというメリットに加えて、データによる学習を通じて自社が保有するAIのアルゴリズムを強化することが可能となります。さらに、単独での開発と比較すると、共同開発は大手企業の予算や人的リソースを活用できるため、開発費用が大きく抑制され、当社グループの生産性及び収益性が向上する要因となっております。
共同研究開発や初期導入においては、コンサルティングや課題特定、全社戦略策定の支援、PoCの実施、AIアルゴリズムの構築及びシステム実装等の準委任型の役務提供を通じたフロー型(非継続)の収益を受領しており、AIソリューション導入後においては、運用保守料やサービス利用料、ライセンス利用料、コンソーシアム会費等のストック型(継続)の収益を得ております。
第二フェーズ「産業全体への横展開」
開発したAIソリューション及びアルゴリズムについては自社保有のプロダクトとして産業内外の複数の他企業に提供することが可能とする契約を顧客と締結しており、単一の顧客から一過性の収入を得る受託開発やコンサルティングと比較して持続的な事業拡大を実現しやすいビジネスモデルを実現しております。収益性についても、各産業において1社目のパートナー企業と共同で創出したAIソリューションを2社目以降に横展開する際には、既に存在するプロダクト及びアルゴリズムの活用が可能であることからプロジェクトの粗利率が改善する傾向にあり、横展開が進むほど収益性が向上するビジネスモデルとなっております。
単一顧客へのサービス提供に留まらず、産業共通の課題を解決するAIソリューションを多数保有しております。AIソリューションの初期導入においては、コンサルティングや課題特定や全社戦略策定の支援、PoCの実施、AIアルゴリズムの構築及びシステム実装等の準委任型の役務提供を通じたフロー型(非継続)の収益を受領しており、AIソリューション導入後においては、運用保守料やサービス利用料、ライセンス利用料、コンソーシアム会費等のストック型(継続)の収益を得ております。
上記展開により、当社グループは顧客との連携を通じた製品開発・価値提供が可能なAIソリューション企業に位置づけられていると考えております。製品開発のフィールドが広く、ストック型のプロダクト収益も獲得できるため、一般的なSaaS企業とは異なり単一の産業・用途に制限されづらく、一般的なコンサルティングファームやSIer等と比較して労働集約的なビジネスに終始しない点が競争優位性であると考えております。また、AI企業でありながら企業買収や資金調達などのファイナンス領域の知見を有することから、フィナンシャル・アドバイザリーの観点で収益機会を捉えられるという点もユニークな特長となっております。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、コンサルティングやアセスメント、PoC実施、本導入のシステム開発等のフロー型(非継続)のサービスに加えて、導入後の継続的な運用保守やAPIまたはライセンス利用等のストック型(継続)のサービスを提供しております。そのため、売上高、売上総利益、営業利益、売上高総利益率及び売上高営業利益率といった基礎的な指標に加えて、売上高の継続的かつ累積的な増加を実現するため、年間顧客数、顧客ごとの年間売上単価及び継続顧客による売上比率を重要な指標としております。
(JDSC単体)
(4) 経営環境
我が国経済は、新型コロナウイルスの収束と景気の緩やかな持ち直しの動きが見られた一方で、国際的な紛争の長期化や国内外のマクロ経済におけるインフレ・金融引締めの傾向が見られる等、先行き不透明な状況が続きました。当社グループを取り巻く環境としましては、企業の競争力強化や人材不足への対応から、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)への急速な注目の高まりや、国内企業のIT投資の拡大局面が続いていること、「Chat GPT」をはじめとするLLM(大規模言語モデル)による技術革新が進展し生成AIの利活用に対する注目度が高まっていることなどが追い風となっております。また、政府の成長戦略において、産業競争力強化の観点からスタートアップ企業の支援及びスタートアップエコシステム強化の重要性が提唱されており、2022年は「スタートアップ創出元年」と定められ約1兆円の補正予算が閣議決定されました。2022年11月末には『スタートアップ育成5か年』が公表され、5年後の2027年度にはスタートアップへの投資額を10倍超の10兆円規模にする目標が掲げられました。
そのような環境の中で、当社は従来のDX活用/AI導入の支援などの労働集約的なビジネスに加えて、自社AIソリューションを中心とした非労働集約的な収益の獲得も目指しており、AIソリューション開発プロジェクト獲得や研究開発、先行投資としての積極的な人材採用に注力いたしました。「Chat GPT」をはじめとするLLM(大規模言語モデル)の活用をテーマとするプロジェクトも増加しており、AIの利活用に対する需要の高まりに機動的に対応する形で事業運営を行っております。グループ会社の株式会社ファイナンス・プロデュースではスタートアップの資金調達やM&Aを助言する案件を多数獲得・執行し、また、第2四半期連結会計期間に株式を取得し連結子会社化したメールカスタマーセンター株式会社では紙のダイレクトメール(DM)発送代行において既存顧客の取引窓口の拡大や新規受注の獲得を行いました。
日本は少子高齢化と人口減少のトレンドが継続しており、生産年齢人口は2015年の約7,700万人から、2056年には5,000万人を下回り、2065年には4,500万人まで減少すると予想されております(出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」)。また、DXが推進されない場合、2025年から2030年まで最大12兆円/年の経済損失が発生する可能性があると見込まれており(出典:経済産業省 DXレポート)、1個人や1企業といった単位ではなく、産業全体や日本全体の視点をもった取り組みが必要になると考えております。
個別企業の課題解決という観点では、あらゆる産業においてAI活用による課題解決への需要が高まっており、国内のAIビジネス市場は2022-2027年の間に1.3兆円から2.0兆円に拡大する(出典:株式会社富士キメラ総研「2022 人工知能ビジネス総調査」)と予測されておりますが、産業共通課題の解決という観点では、SDGsにより創出されるICT関連市場が中国を除くアジア太平洋先進地域で2030年に10.4兆円に拡大する(出典:三菱総合研究所「デジタル化の社会的・経済的効果について」)と試算されており、当社グループの事業機会は非常に大きいと考えております。
当社グループは産業全体の複数社にAIソリューションを提供することが可能であるため、個社の受託開発やコンサルティング等のビジネスと比較して、AI市場/SDGs市場の成長をより強く享受することが可能となります。また、単一の産業やプロダクトに依存しない収益構造であるため、特定産業の景気動向や成長スピードに左右されない優位なポジショニングを有しております。
当社グループの見立てとして、従来は、各産業の個別企業がそれぞれの利益・目的達成のため個別に課題解決を図っており、行政や顧客、株主といったステークホルダーも個別企業ごとの利害を重視しておりました。しかしながら、昨今では、売上や利益に加えて産業全体に共通するSDGs課題に向き合うべきというステークホルダーからの要請が急速に強まっていることを背景に、自社の利益だけではなく産業共通課題に対してAIを活用していくニーズが急増していると考えております。産業全体の課題解決はSDGsと密接に関係するケースが多く、また、単一の企業が保有するデータよりも産業全体の膨大な量のデータを用いた方がアルゴリズムの精度は高まりやすいため、産業全体にAIソリューションを提供していく当社にとっては非常に大きな事業機会が生まれていると考えております。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 産業及び顧客基盤の拡張
当社グループのアプローチの特徴と優位性は「特定産業に依存しない事業展開を可能とする再現性の高さ」と「データ蓄積により精度が向上し続ける機械学習のアルゴリズム」にあります。当社グループが有する「AIアルゴリズムの構築やシステム実装といった技術的な観点での豊富な知見」と、「AIや機械学習を活用した具体的な解決策の提示や難易度の高いAIプロジェクトのマネジメント等のビジネス面における高い執行能力」という競争優位性は特定産業に限定しない幅広い産業分野において適用可能と考えております。当社グループは、再現性を持ってAI実装/DX推進を実現できるインキュベーターとして、既存事業・ソリューションで積み上げた実績や知見を活用し、新規の産業に展開しながら顧客基盤を拡張して継続的に成長を続けてまいります。
② 既存ソリューションの強化と新規ソリューションの創出
当社グループはこれまで多数の産業のリーディングカンパニーとの協業を通じて、多くのAIソリューションを創出してまいりました。今後は既存ソリューションの強化と新規ソリューションの創出が課題となります。既存のソリューションにおいては、新機能の開発や効率化等を通じて更に競争優位性を高めていくとともに、産業全体への横展開を加速させるための営業チームやカスタマーサクセス(顧客満足度を高めるための専属部署をいう。)の体制強化を進めてまいります。また、業界横断的な産業課題の発掘を日々行っており、業界規模が大きく、かつ蓄積されたデータが豊富に見込まれる産業については、当社が産業課題を解決する新しいAIソリューションを創出し、先駆者となる可能性があるものと考えております。新たな産業課題を解決するためのAIアルゴリズムを活用したAIソリューションの新規開発にも重点的に投資を実行することで、継続的な高成長を実現します。
また、データ取得の自動化やデータ基盤構築、「Chat GPT」をはじめとするLLM(大規模言語モデル)の活用による効率化・自動化など、共通化したサービスを幅広い産業に提供することによる売上拡大も目指してまいります。中長期的には、産業共通課題を解決するAIソリューション企業として強固なポジションを築くべく、各産業内に存在する膨大な産業データを蓄積することを継続的に推進してまいります。
③ 優秀な人材の確保と育成
当社グループにはAIアルゴリズムの構築やシステム実装といった技術的な観点での豊富な知見を有するデータサイエンティストやエンジニアに加え、AIや機械学習を活用した具体的な解決策の提示や難易度の高いAIプロジェクトのマネジメント等のビジネス面における高い執行能力を有するコンサルタントやプロジェクトマネジャーが在籍しております。優秀な人材を有していることが当社グループの大きな優位性であり、継続的な強化が重要と認識しております。また、ビジネス、データサイエンス、エンジニアリングの三位一体の人材体制を持続的に構築するため、数々の制度・施策を実施しております。制度・施策については横断型人材を育成することを目指しております。例えば、コンサルティング出身のメンバーであるもののGCP(Google Cloud Platform) Professional Data Engineer資格保有や論文執筆、エンジニアリング出身のメンバーであるもののMBAを取得する等、単一領域だけではなく複数領域において横断的に専門性を有するメンバーも多数存在しております。今後も、技術面及びビジネス面で卓越した能力を持つ人材の育成・採用に投資を継続してまいります。
④ 技術力の更なる強化
当社グループは東京大学と密接な連携を行うことや、東京大学の研究室に在籍する社員による国際的にも最先端な技術応用の研究活動を日々トラッキングしております。
2020年6月に開催された機械学習の著名な世界的コンペティションであるKaggleに参加し上位0.6%の成績を収めて表彰を獲得し、データサイエンスやAIを社会実装する中で得られた知見を国際論文として多数発表する等の成果も出ております。また、2024年2月には内閣府主催「第6回日本オープンイノベーション大賞」において、東京大学大学院、中部電力株式会社、合同会社ネコリコ、三重県東員町と共同で取り組んだ『「電力データ×AIでのフレイル検知」産官学連携で高齢化社会課題に挑む』で選考委員会特別賞を受賞しており、今後も最先端技術の取り込みと社会実装に向けて、技術力の強化に積極的に投資をしてまいります。
⑤ 経営の安定と非連続な成長を支える事業資金の確保
事業拡大に伴う人材獲得や経営基盤の強化が必須であると考えております。また、非連続な成長を実現するためには、M&A等の戦略的なアクションも重要と認識しております。これらの投資に必要な事業資金を安定的に確保し、かつ、外部環境の変動などの不測の事態に備えるために、金融機関の信用枠も含め財務基盤の安定化に努めております。今後も資金調達に加えて、財務基盤の安定化に資する施策を講じてまいります。また、当社の企業規模を勘案しつつ、株主への還元等の機動性確保の観点から、必要に応じて資本金の減少等も実施してまいります。
⑥ 内部管理体制の強化展開
当社グループは事業内容の進化、グループ会社の増加により、事業・組織両面での成長を続けている段階にあり、グループ全体での業務運営の効率化やリスク管理のための内部管理体制の強化が重要な課題であると考えております。このため、当社及び子会社・関連会社との適切な連携を前提としたバックオフィス業務の整備を推進し、経営の公平性・透明性を確保するため、企業規模の拡大に適う、より強固な内部管理体制の強化に取り組んでまいります。
⑦ 子会社管理の強化
当社グループでは、子会社を2社(株式会社ファイナンス・プロデュース及びメールカスタマーセンター株式会社)有しており、以下の主要なリスクに対応するための施策に取り組んでまいります。
(1)M&A、出資等について
2022年11月に連結子会社化した株式会社ファイナンス・プロデュース及び2023年10月に連結子会社化したメールカスタマーセンター株式会社は、今後当社グループの業績に大きく貢献するものと見込んでおります。しかしながら、事業環境の変化等により業績が当初の想定を下回る場合、のれんの減損処理等が発生し、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、M&Aや出資等を通じて連結子会社化した各グループ会社の管理体制を整備し、当社グループ全体における戦略的な連携を進めることで相乗効果を発生させる等によりリスクへの耐性を高めてまいります。
(2)オフラインマーケティング業界の需要構造の変化について
当社グループのマーケティング支援事業はメールカスタマーセンター株式会社による紙のダイレクトメール(DM)発送代行業務を中心にサービス提供を行っております。紙のダイレクトメール(DM)は、販売促進を目的とするものをはじめ、公共サービスにおける各種通知や業務通信などに利用されるとともに、デジタルマーケティングとの組み合わせによる利用が図られるなど、顧客企業のプロモーション手法として広く定着しておりますが、将来において、顧客企業のプロモーション手法に大きな変化が生じた場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、当社グループのAIやデータサイエンスの知見も活用し、高付加価値なサービスを開発・提供する等、顧客企業から選ばれ続ける状態を目指し、事業リスク低減に取り組んでまいります。
(3)郵便制度改正について
当社グループのマーケティング支援事業はメールカスタマーセンター株式会社による紙のダイレクトメール(DM)発送代行業務を中心にサービス提供を行っております。郵便制度は、我が国のインフラとして持続性を有していますが、サービス内容や料金の改正によっては、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、郵便制度の変更が生じた際には、個別商品ごとの切替需要を取り込むことができるように、提供するサービスや価格を柔軟かつ機動的に変更する等によって、事業リスク低減に取り組んでまいります。
⑧ 海外への事業展開
日本国内の限定的な市場だけではなく海外市場も見据えていくことが必要になると認識しており、中長期的には、日本国内の社会課題を解決する過程で培った知見と経験を活用したグローバル展開も見据えております。特に注力しており先行する「高齢化社会への対応」という領域は、日本が最も先進的であり当社グループのAPIやAIアルゴリズムに対する需要がグローバルでも拡大していくと考えております。今後はパートナーである各産業の大手企業とも連携しながら、将来的な事業展開も見据えて市場調査や基盤整備を進めてまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
(1) ガバナンス
当社グループは、「UPGRADE JAPAN」をミッションとして掲げ、「AIでデータの真価を解き放ち産業の常識を塗り替える」というヴィジョンを実現するためには様々なステークホルダーからの信頼が不可欠であります。その基盤となるコーポレート・ガバナンス体制の整備は当社グループにとって不可欠な経営課題と位置付けており、継続的な充実・強化に努める方針であります。取締役会、監査役会に加え、経営会議やコンプライアンス・リスク管理委員会を設置し、サステナビリティに関する事項を含む重要事項の審議・検討を通じて、ガバナンス向上を図っております。
(2) 戦略
当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は以下のとおりです。
1.人材育成方針 当社グループは「UPGRADE JAPAN」をミッションとして掲げ、「AIでデータの真価を解き放ち産業の常識を塗り替える」というヴィジョンを実現すべく、データサイエンスや機械学習、AIといった最先端の技術を社会に実装することを目指しております。その実現のためには、技術面のみならずビジネス面も含めた双方に優れた人材の確保と育成が課題となってまいります。この課題に対して、インターンや社員紹介制度の促進、優秀な人材が報われる給与制度、資格取得や学術支援制度の充実等を図っております。また、性別、国籍、年齢等の属性に制限を設けず、多様な人材の確保、育成をしていく方針であります。
2.社内環境整備方針 エンゲージメント調査を行い、魅力的な職場環境を目指して改善に取り組むことで、従業員の定着を促進しております。また、書籍購入制度、セミナー・講座受講や資格取得等といった自己研鑽活動費用の会社負担制度などにより、従業員の成長意欲に応え、高いモチベーションを持って働くことができる環境の整備に努めてまいります。
(3) リスク管理
当社グループは、コンプライアンス遵守およびリスク管理の推進を目的として、コンプライアンス・リスク管理委員会を設置し、定期開催することとしております。構成員は代表取締役を含めた常勤取締役、各部門長、内部監査担当者であり、常勤監査役がオブザーバーとなっております。経営上の重大なリスクへの対応方針、その他リスク管理の観点における重要な事項について審議を行い、必要に応じてその結果を取締役会に報告する体制を構築しております。経営上の重大なリスクへの対応方針、その他リスク管理の観点における重要な事項について審議を行い、必要に応じてその結果を取締役会に報告する体制を構築しております。
(4) 指標及び目標
当社グループでは、小規模な組織体制であるため、重要性も加味した上で、年齢、国籍、性別等の区分で管理職の構成割合や人数の目標値等は定めておりません。ただし、当社グループが掲げるミッションを実現し、事業成長を加速するためには、様々な局面において多様な意見を反映することが重要であるという認識の下、女性や中途採用者の管理職への登用を推進しております。
2023年7月の取締役会において、女性執行役員が1名選任されております。今後も期待する役割に応じた能力と実績に基づき、積極的に登用を進めるとともに、これらの者が成果を最大化し、適切に能力が評価されるような施策や環境の整備に取り組んでまいります。
本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性を、以下に記載しております。また、必ずしもリスク要因に該当しない事項についても、投資者の判断上、重要であると考えられる事項については、積極的な情報開示の観点から記載しております。当社グループは、これらのリスクの発生可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の迅速な対応に努める方針ではありますが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載内容もあわせて慎重に検討した上で行われる必要があると考えております。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 事業環境に関するリスク
① AIソリューション市場について
当社グループが属する国内のAIビジネス市場は、2022-2027年の間に1.3兆円から2.0兆円に拡大すると予想されております(出典:株式会社富士キメラ総研「2022 人工知能ビジネス総調査」)。市場拡大のペースの急速な鈍化や、当社グループのAIソリューションの競争優位性が発揮されないシナリオにおいては、市場が拡大した場合においても成長ペースが市場拡大と相関しない可能性があります。また、AIソリューション市場の歴史は浅く、成熟した市場でないため、市場動向が大きく変動する可能性もありますが、その時期は想定されるものではなく顕在化するリスクは低いと想定しております。当該リスクへの対応として、単一の業界や顧客に依存しないよう、AIソリューションのラインナップの拡充や、顧客の属する業界の拡充を行っております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
② マクロ経済について
当社グループがサービスやソリューションを提供する主要顧客は、各産業の大手企業であり、国内外に事業を展開する大企業が中心であります。国内外の景気後退時において多くの主要顧客の経営状態や業績に大きな影響を及ぼす状況となった場合には、プロジェクトの新規獲得や横展開、既存契約の継続に影響を及ぼす可能性はありますが、主要顧客の属する業界は様々であるため、そのリスクは分散されているものと認識しております。また、フィナンシャル・アドバイザリー事業においては、国内外の経済情勢や景気動向の悪化、地政学リスク、金融資本市場の変動の影響等により、スタートアップ企業数やスタートアップ企業に対する資金供給が著しく減少等のリスクがあり得ます。当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
③ 競合他社について
当社グループは、AI関連領域において事業展開しておりますが、当該分野はその成長性から注目されており、多くの企業が参入しております。そのため、当社グループの競争力が低下する可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく顕在化するリスクは低いと想定しております。また、技術とビジネスの双方の知見を用いてAIによる定量的な改善効果の創出に注力し、個別企業の課題解決ではなく産業全体のSDGsテーマに取り組むというアプローチは他AI企業とは異なる当社の特徴となっております。当該リスクへの対応として、これまでのプロジェクトで蓄積された知見やデータで学習・強化されたAIアルゴリズムを活用することで、事業の拡大及び競争力の維持に努めてまいります。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
④ 技術革新について
当社グループは、各産業の大手企業とのプロジェクトにおいて蓄積されたAIに関する知見や独自のAIアルゴリズムをもとに、産業の共通課題の解決を目指しております。そのため、これらの技術やその周辺技術、またその技術を活用したソリューションが競争力の源泉となっており、急速な技術革新があった場合において、変化に対応する開発費や開発工数等が大幅に増加する可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。当該リスクへの対応や更なる競争力の向上のため、継続的な情報収集、優秀なエンジニアやデータサイエンティストの採用や教育にも注力しております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業進捗や業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 事業内容に関するリスク
① 特定の取引先に対する売上比率について
当社グループは各産業の大手企業との連携を通じて新たなAIソリューションを創出するフェーズの取り組みが多いため、上位取引先の売上規模が大きくなる傾向にあり、当連結会計年度における売上比率は、上位取引先3社で全体の26.3%を占めております(前年度の同比率33.7%からは低下)。上位取引先との取引内容に変更の可能性はありますが、その時期は想定されるものではなく短期的に重大な変更が顕在化する可能性は低いと想定しております。創出されたAIソリューションの産業横展開が進行しており、新規取引先も増加していることから特定の取引先への売上比率は低下傾向にあるため、当該リスク顕在化の可能性も低下すると想定しております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
② プロジェクトの進捗等について
当社グループでは、AIソリューション導入前のコンサルティングやアセスメントサービス、PoC実施、本導入のシステム開発、導入後の継続的な運用保守等のプロジェクトを実施しており、フェーズに応じて収益を獲得しております。多数のプロジェクトが早期のフェーズで終了するような場合や、各フェーズにおいて想定以上に工数がかかる可能性はありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。技術とビジネスの双方に精通していることや、顧客企業の現場担当者だけでなくトップマネジメント層とも密接に連携するケースが多いことから、当連結会計年度の継続顧客の割合(注:4四半期連続で売上が発生した顧客の割合)は6割を超えており、顧客の満足度は非常に高い状態にあります。当該リスクへの対応として引き続きプロジェクト管理の徹底等を行ってまいりますが、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
③ 新規ソリューションの開発・提供について
当社グループでは産業共通の課題を解決する新規AIソリューションの開発を行っており、これらのAIソリューションを産業内外に横展開することで、事業規模拡大を見込んでおります。しかしながら、横展開が想定どおりに進まない場合や、横展開する際の導入工数が想定以上となる可能性があり、また、産業内外への横展開に際してAIソリューションにおけるアルゴリズムの精度向上のための産業固有のデータ蓄積が想定どおりに進まない可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
④ 今後の非連続な成長のための投資等について
当社グループは今後も非連続な成長を続けるために、新規プロダクトの開発、戦略的な営業活動、新規事業への取り組み、人材の採用、M&A等の戦略的な投資が重要であると認識しております。また現時点において具体的な計画はありませんが、将来的には海外への事業展開も視野に入れており、その際には相応の投資が必要であると認識しております。
出資や買収においては、対象となる企業の財務や税務、法務等の契約関係及び事業の状況等について事前に社内外の専門家と詳細なデューデリジェンスを実施し、価値評価に関しては第三者評価機関の見解等も踏まえ、可能な限りリスクの低減に努めてまいります。しかしながら、出資・買収後に、事業環境に急激な変化が生じた場合やその他予期し得ない理由により当初の計画通りに事業が進展しない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、出資・買収後に予期せぬ偶発債務の発生や未認識債務が判明するリスクを完全に取り除くことは困難であり、かかるリスクが顕在化した場合には当社グループの業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
買収に伴いのれんを計上した場合、対象会社の業績の悪化等により減損の兆候が生じ、その将来的な効果である回収可能価額がのれんの帳簿価額を下回る場合には、のれんの減損処理を行う可能性があり、当社グループの業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。なお、当連結会計年度において、メールカスタマーセンター株式会社を取得した際に発生したのれん644,940千円が計上されており、減損の兆候の把握、減損損失の認識及び測定に当たっては慎重に検討していますが、事業計画や経営環境の変化等によって影響を受ける可能性があり、実際の業績が見積りと異なる場合、翌連結会計年度の連結財務諸表において重要な影響を与える可能性があります。
買収を実施する際は自己資金、金融機関からの借入、社債及びエクイティファイナンス等で調達していくことを基本方針としております。当社が資金需要に応じて適時かつ適切な条件で買収資金を調達できる保証はなく、必要な資金調達ができなかった場合、または当社にとって不利な条件での資金調達をせざるを得ない場合や、新たなファイナンスによる負担や株式価値の希薄化及び自己資本の変動のほか、新たな借入金を利用した場合、市場金利の変動の状況によっては、借入金利息の負担の増大等により、当社グループの業績・財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
いずれの投資等も非連続な成長のために必要なものと認識しておりますが、安定的に収益を獲得できるまでには一定の期間が必要となることが想定され、短期的な利益率低下につながる可能性があります。また、外部環境の変化等により当初計画どおりに推移しない可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。当該リスクに対しては、リスクシナリオを慎重に検討し投資等を行うことで、そのリスクの低減に努める方針であります。
戦略的な投資に伴うリスクが短期的に顕在化する可能性は低いと認識しておりますが、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社の企業規模を勘案しつつ、株主への還元等の機動性確保の観点から、必要に応じて資本金の減少等も実施してまいります。
(3) コンプライアンスに関するリスク
① 訴訟について
本書提出日現在において、当社及び当社グループの事業、業績または財政状態に重要な影響を及ぼす当社に対する係属中の訴訟はありません。コンプライアンス規程を整備して役職員へ周知すること等により法令違反などの発生リスクの低減に努めておりますが、当社グループ又は当社グループ役職員を当事者とした訴訟が発生した場合には、その訴訟の内容や進行状況によっては、当該訴訟に対する金銭的な負担の発生や、レピュテーションが悪化して社会的信用が毀損されるなど、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。なお、訴訟の発生についてはその時期及び顕在化の可能性を予見できるものではありません。
② 情報セキュリティ体制について
当社グループは、業務において顧客の機密情報及び顧客が保有する個人情報が含まれるデータを取扱う場合があります。人為的なミスや不正アクセスによる情報漏えいが発生する可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。当該リスクに対応するため、情報セキュリティ体制や情報管理体制を構築するとともに、2021年3月にはプライバシーマークを取得し、2023年5月には更なる体制強化のため情報セキュリティマネジメントシステム(ISO 27001、JIS Q 27001:2014)の認証取得を行っております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、顧客への損害賠償や当社の社会的信用の失墜等により、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
③ 知的財産管理について
当社グループは知的財産権を重要な資産と捉えて、必要に応じて事業に関する知的財産権の保護に努めております。また、当社グループによる第三者の知的財産権侵害の可能性についても、調査可能な範囲で対応を行っております。当社グループが認識せずに他社の特許を侵害した場合には、損害賠償請求、使用差止請求またはロイヤリティの支払要求が発生する可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。しかしながら、当社グループの事業領域に関する第三者の知的財産権の完全な把握は困難であり、当該リスクが顕在化した場合には当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(4) 事業運営に関するリスク
① 特定の人物への依存について
当社代表取締役社長である加藤聡志は、当社の創業者であるとともに、大株主であり、経営方針や事業戦略の決定において重要な役割を果たしております。現状において、何らかの理由により同氏が当社の業務を継続することが困難になった場合には次の代表取締役社長が就任するまでの期間やその後の定着までの期間において業務執行に支障をきたす可能性はありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。当該リスクに対応するため、当社は特定の人物に過度に依存しない体制を構築するべく、執行役員の設置や積極的な情報共有等により経営組織の強化を図っております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
② 人材の確保及び育成について
当社グループが今後も持続的な高成長を続けるためには、優秀な人材の確保・育成が必要不可欠であります。求める水準に合致する人材の確保及び育成が計画どおりに進まない可能性がありますが、当該リスクが短期的及び中長期的に顕在化する可能性は昨今の人材採用市場の動向に鑑みても高くないと想定しております。当該リスクに対応するため、積極的な採用活動を進めるとともに、人材の育成も進めており、また外部の業務委託者との連携を強化することでリソースの確保にも努めております。しかしながら、当該リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
③ 小規模組織であることについて
当社は、当連結会計年度末現在において、取締役5名、監査役3名、従業員90名と小規模な組織となっており、内部管理体制は事業の拡大及び従業員の増加に合わせて整備を進めております。適切な人材確保や配置ができず組織的な対応が困難となる場合や、事業規模に応じた事業体制、内部管理体制の構築が追いつかない可能性はありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。当該リスクに対応するため今後もより一層の人員充実を図る予定ですが、当該リスクが顕在化した場合には当社グループの事業及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
④ 子会社管理について
当社グループでは、子会社を2社(株式会社ファイナンス・プロデュース、メールカスタマーセンター株式会社)有しております。当該子会社は、当社グループの連結子会社となってからの期間が短く、また、事業規模も小さいことから、今後の急速な事業成長に管理体制の整備が追い付かない可能性があります。当社の管理部門において内部統制を含め管理体制の強化に努めておりますが、管理体制が不十分であることにより、法令違反や許認可に関わる手続き不備等によって、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 大規模な災害等に関するリスク
当社グループは、テレワークが可能な体制を構築しており、大規模な地震、台風、津波等の自然災害、火災、停電、未知の感染症の拡大等が発生した場合でも事業継続が可能となっております。これらの災害等が長期間に及ぶ場合には、顧客企業や当社の顧客ターゲットとなる企業の経営判断・事業運営に大きな影響を与える可能性がありますが、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。当該リスクに対応するため、顧客及び顧客の属する業界の拡充を行っておりますが、当該リスクが顕在化した場合に、当社グループの事業及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(5) その他のリスク
① 配当政策について
当社グループは、株主に対する利益還元を経営上の重要課題と認識しておりますが、財務体質の強化に加えて事業拡大のための内部留保の充実等を図り、収益力強化のための投資に充当することが株主に対する最大の利益還元につながるものと考え、創業以来配当を実施しておりません。今後においては、業績・財務状況及び事業環境等を勘案したうえで、株主への利益配当を検討していく方針でありますが、持続的な成長に向けた投資を戦略的に実行する場合や事業が計画どおり推移しない場合など、配当を実施できない可能性があります。なお、その時期は想定されるものではなく当該リスクが短期的に顕在化する可能性は低いと想定しております。
② ストック・オプションによる株式価値希薄化について
当社グループは、役員、従業員に対するインセンティブ等を目的としたストック・オプション制度を採用しております。また、今後もストック・オプション制度を活用していくことを予定しており、現在付与している新株予約権に加え、今後新たに付与される新株予約権について行使が行われた場合は、既存株主が有する株式価値及び議決権割合が希薄化する可能性があります。新たに付与される新株予約権について、その時期は想定されるものではありませんが、現在付与している新株予約権については短期及び中期において一定程度が行使され当該リスクが顕在化するものと想定しております。
③ AIサービスに関する収益認識について
当社グループが営むAIソリューション事業のAIサービスについては、取引ごとに履行義務の内容が異なっており、当社グループでは内部統制の整備及び運用を通じて、その契約形態や取引実態等に応じて履行義務を識別し収益認識を行っております。しかしながら、各取引の実態を反映した収益認識を行うにあたり、各契約における収益額が、収益認識基準に基づき履行義務の充足とともに適切に計上されているかの判断は複雑な会計上の判断を必要とすることから、この判断を適切に実施できなかった場合には、当社グループの経営成績及び財政状態を正しく把握できない可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
① 経営成績の状況
当連結会計年度(2023年7月1日から2024年6月30日)におけるわが国経済は、新型コロナウイルスの収束と景気の緩やかな持ち直しの動きが見られた一方で、国際的な紛争の長期化や国内外のマクロ経済におけるインフレ・金融引締めの傾向が見られる等、先行き不透明な状況が続きました。当社グループを取り巻く環境としましては、企業の競争力強化や人材不足への対応から、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)への急速な注目の高まりや、国内企業のIT投資の拡大局面が続いていること、「Chat GPT」をはじめとするLLM(大規模言語モデル)による技術革新が進展し生成AIの利活用に対する注目度が高まっていることなどが追い風となっております。また、政府の成長戦略において、産業競争力強化の観点からスタートアップ企業の支援及びスタートアップエコシステム強化の重要性が提唱されており、2022年は「スタートアップ創出元年」と定められ約1兆円の補正予算が閣議決定されました。2022年11月末には『スタートアップ育成5か年』が公表され、5年後の2027年度にはスタートアップへの投資額を10倍超の10兆円規模にする目標が掲げられました。
そのような環境の中で、当社は従来のDX活用/AI導入の支援などの労働集約的なビジネスに加えて、自社AIソリューションを中心とした非労働集約的な収益の獲得も目指しており、AIソリューション開発プロジェクト獲得や研究開発、先行投資としての積極的な人材採用に注力いたしました。「Chat GPT」をはじめとするLLM(大規模言語モデル)の活用をテーマとするプロジェクトも増加しており、AIの利活用に対する需要の高まりに機動的に対応する形で事業運営を行っております。グループ会社の株式会社ファイナンス・プロデュースではスタートアップの資金調達やM&Aを助言する案件を多数獲得・執行し、また、第2四半期連結会計期間に株式を取得し連結子会社化したメールカスタマーセンター株式会社では紙のダイレクトメール(DM)発送代行において既存顧客の取引窓口の拡大や新規受注の獲得を行いました。
これらの結果、当連結会計年度における当社グループの経営成績は以下のとおりとなりました。
売上高については、新たなAIソリューション開発プロジェクト(Joint R&D)の獲得、既存のAIソリューションの拡販、既存顧客からのアップセル等の施策を積極的に進め、また、メールカスタマーセンター株式会社の連結子会社化を行った結果、16,457,876千円(前年同期比748.5%増)となりました。
売上総利益については、上記のとおり売上高の増加に伴い1,613,526千円(前年同期比61.9%増)となりました。
営業利益については、新規プロダクトの創出、研究開発、人材採用といった先行投資を引続き積極的に進めた結果、50,684千円(前年同期比26.1%減)となりました。特に人材採用については当社の今後の成長に必要であることから積極的に進めております。その結果、当連結会計年度において、データサイエンティストやエンジニア、コンサルタントといった職種を幅広く採用し、当連結会計年度末の従業員数は124名となっております。なお、積極的な人材採用により採用費及び人件費等が増加しておりますが、研究開発の対象となるAIソリューションをより厳選することで人件費及び業務委託費をコントロールする等、適切なコスト構造への移行を模索しております。
経常損失については、借入金の支払利息及びグループ会社の持分法による投資損失の増加に伴い12,183千円(前年同期は24,391千円の経常利益)となりました。親会社株主に帰属する当期純損失は、連結子会社である株式会社ファイナンス・プロデュースの取得にかかるのれんについて、業績が当初予定していた事業計画を下回ったことから事業計画を慎重に見直した結果、減損損失139,105千円を特別損失として計上したこと等にともない、278,397千円(前年同期は1,292千円の親会社株主に帰属する当期純利益)となりました。
セグメント別の業績は以下のとおりです。
(単位:千円)
|
AIソリューション |
フィナンシャル・ |
マーケティング支援 事業 |
合計 |
売上高 |
|
|
|
|
外部顧客への売上高 |
1,896,416 |
164,053 |
14,397,407 |
16,457,876 |
セグメント間の内部売上高又は振替高 |
- |
- |
- |
- |
計 |
1,896,416 |
164,053 |
14,397,407 |
16,457,876 |
セグメント利益又は損失(△) |
△79,249 |
8,257 |
121,676 |
50,684 |
その他の項目 |
|
|
|
|
減価償却費 |
15,285 |
163 |
49,983 |
65,431 |
のれん償却額 |
- |
25,291 |
25,127 |
50,419 |
第2四半期連結会計期間に、メールカスタマーセンター株式会社の株式を取得し連結子会社化したことに伴い、第3四半期連結会計期間より報告セグメントを変更いたしました。報告セグメントは、各グループ会社の事業内容及びビジネスモデルに鑑み、「AIソリューション事業」「フィナンシャル・アドバイザリー事業」「マーケティング支援事業」の3区分へ変更しております。
AIソリューション事業については、AIソリューションの横展開事例の増加や、新規顧客獲得や既存顧客からのアップセル等もあり好調に推移しました。その結果、売上高は1,896,416千円(前年同期比1.58%増)、積極的な人材採用により採用費及び人件費等が増加したことにより営業損失は79,249千円(前年同期は78,710千円の営業利益)となりました。
フィナンシャル・アドバイザリー事業については、ファイナンス戦略アドバイザリー及びスタートアップの資金調達助言等の案件を複数執行しました。その結果、売上高は164,053千円(前年同期比125.66%増)、売上高の増加に伴い営業利益は8,257千円(前年同期は10,082千円の営業損失)となりました。
マーケティング支援事業については、紙のダイレクトメール(DM)発送代行において既存顧客の取引窓口の拡大や新規受注の獲得が順調に進展しました。その結果、売上高は14,397,407千円、営業利益は121,676千円となりました。
② 財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末における資産合計は7,605,353千円(前年同期比80.2%増)となりました。主な内訳は、現金及び預金が2,297,785千円、受取手形、売掛金及び契約資産が2,712,745千円、のれんが644,940千円、顧客関連資産が1,212,750千円、投資有価証券が396,904千円であります。なお、のれんはメールカスタマーセンター株式会社の株式を取得し連結子会社化したことに伴い発生したものであります。
(負債)
当連結会計年度末における負債合計は4,244,164千円(前年同期比705.7%増)となりました。主な内訳は、買掛金が1,797,090千円、長期借入金が1,392,139千円であります。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産は3,361,188千円(前年同期比7.1%減)となりました。主な内訳は、資本剰余金が3,764,356千円であります。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、2,297,785千円(前年同期比27.0%減)となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において営業活動により支出した資金は713,590千円(前年同期は341,587千円の収入)となりました。これは主に、売上債権の増加695,488千円、賞与引当金の減少167,622千円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において投資活動により支出した資金は1,752,744千円(前年同期は517,943千円の支出)となりました。これは主に、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出1,716,515千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において財務活動により得られた資金は1,617,706千円(前年同期は31,102千円の支出)となりました。これは主に、長期借入れによる収入1,740,000千円によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
(a) 生産実績
当社グループが提供するサービスには生産に該当する事項がないため、記載を省略しております。
(b) 受注実績
当社グループが提供するサービスは、受注実績の記載になじまないため、記載を省略しております。
(c) 販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年7月1日 至 2024年6月30日) |
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
AIソリューション事業 |
1,896,416 |
101.58 |
フィナンシャル・アドバイザリー事業 |
164,053 |
225.66 |
マーケティング支援事業 |
14,397,407 |
- |
合計 |
16,457,876 |
848.49 |
(注)単一の外部顧客への売上高が連結売上高の10%未満のため、主要な顧客に関する情報の記載を省略しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている企業会計の基準に基づいて作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、当連結会計年度末における財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与えるような見積り、予測を必要とされております。当社グループは、過去の実績値や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、継続的に見積り、予測を行っております。しかしながら実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
連結財務諸表を作成するにあたって採用する重要な会計方針につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載しております。
② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績、財政状態、キャッシュ・フローの分析については、前記「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおりであります。
③ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社グループの主な資金需要は、労務費(製造活動に関与するものに係る人件費)及び人件費(労務費以外の人件費)といった人材に関するもの及び経費等の販売費及び一般管理費等となっております。これらについては、自己資金、金融機関からの借入、社債及びエクイティファイナンス等で調達していくことを基本方針としております。なお、今後事業拡大に向けて急激な資金需要が生じる場合に備え、一部の金融機関と当座貸越の契約をしております。
④ 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、共同研究開発や初期導入フェーズにおけるコンサルティングや課題特定や全社戦略策定の支援、PoCの実施、AIアルゴリズムの構築及びシステム実装等の準委任型の役務提供を通じたフロー型(非継続)の収益と、AIソリューション導入後のフェーズにおける運用保守料やサービス利用料、ライセンス利用料、コンソーシアム会費等のストック型(継続)の収益を得ております。そのため、売上高、売上総利益、営業利益、売上高総利益率及び売上高営業利益率といった基礎的な指標に加えて、売上高の継続的かつ累積的な増加を実現するため、年間顧客数、顧客ごとの年間売上単価及び継続顧客による売上比率を重要な指標としております。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
当社は、2024年5月10日開催の取締役会において、以下のとおり、SCSK株式会社(以下「SCSK」といいます)との戦略的な資本業務提携を行うこと及び割当予定先に対する第三者割当による新株式の発行(以下「本第三者割当」という)を決議し、同日付で最終契約書を締結いたしました。なお、7月1日に払込が完了しております。
詳細につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な後発事象)」をご参照ください。
当社グループでは、産業共通の課題を解決するような高度なAIソリューションを開発するべく、研究開発を行っております。
その結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は