当社グループにおける経営方針、経営環境および対処すべき課題等は、以下のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項については、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 経営の基本方針
当社グループは、「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する。」を経営理念としています。
「世界をすみよくする」ことをMission(私たちの使命)、「誠意をもってことにあたれば、必ず途(みち)は拓(ひら)ける」をValues(共通の価値観)とし、結束したグローバル企業集団へと進化することで「唯一無二の価値を提供する会社」をVision(なりたい姿)として掲げています。
② 目標とする経営指標
当社グループは、中長期の視点から以下のとおり目標とする経営指標を定めています。
2027年6月期(中期目標):
売上収益1,980億円、営業利益180億円、営業利益率9%、ROE12%
2030年6月期(長期目標):
売上収益2,500億円、営業利益250億円、営業利益率10%、ROE15%
③ 経営戦略
当社グループは、コンセプトを「共創。限界なき未来に挑む」とする長期経営戦略「NKG グローバル戦略2030」を2021年6月に発表しました。社内および社外の多様なパートナーとの「共創」を通じ、知の探究と技術の革新・統合により新たな価値を提供し、人々が豊かさを実感できる社会の実現に貢献する企業グループを目指します。
その実現に向けて、当社グループは、2023年7月3日に持株会社体制へ移行しました。持株会社体制への移行は、「自律と共創」の推進に加えて、ガバナンスの強化と意思決定の迅速化および多様性の確保が目的です。
また、市場環境の変化およびID&Eグループの持続的成長に向けた事業領域を再検討のうえで、2024年6月にマテリアリティ(最重要課題)を「分断・格差のない世界の構築」「すみよい地球環境の実現」「共創による新たな社会課題への挑戦」「多様なグループ人財の活躍」「誠意と技術を軸にしたグループ経営」の5つに改定しました。
「NKGグローバル戦略2030」を引き継いだ「ID&Eグローバル戦略2030」および新マテリアリティのもと、2024年7月から2027年6月までを展開期と位置付け、中期経営計画「Building Growth 2027」を策定しました。2027年6月期の数値目標を売上収益1,980億円、営業利益180億円、営業利益率9%、ROE12%としています。基本方針を「主力3事業の持続的成長と事業間の共創による事業領域の拡大」とし、3つの展開策(成長に向けた改革、マトリクス経営の展開、人財・技術の進化)に取り組みます。
コンサルティング事業においては、国内市場では国土強靭化に向けた公共事業予算が確保され、防衛関連事業は予算の増加に伴い、良好な市場環境が期待されます。海外市場では円借款を含めたODA事業は過去最大規模の予算となり、民間資本によるインフラ開発のニーズも高まる一方で、インフレ・円安によるコスト上昇の懸念があります。都市空間事業では、持続可能なまちづくりへの要請が高まり、また新興国においては都市基盤整備等による高効率な都市整備需要が旺盛です。エネルギー事業では、2050年カーボンニュートラル目標に向け、再生可能エネルギーの主力電源化、その変動を吸収する蓄電等が推進され、脱炭素のトレンドは長期に続く一方、様々な企業の新規参入による競争も見込まれます。
こうした市場環境のもと、前記のとおり、当社グループは中期経営計画「Building Growth 2027」(2024年7月から2027年6月まで)に基づく以下3つの展開策を実行しています。
2025年6月期は、コンサルティング事業においては、日本工営を中心に、国内市場では主に道路事業・防衛事業等でシェア拡大を、海外市場では稼働率の向上や生産構造の見直しにより収益性向上を図ります。また、国内外ともに民間事業の拡大やAI・自動設計の活用による生産性向上を目指します。
都市空間事業においては、日本工営都市空間株式会社(以下「日本工営都市空間」という。)が生産体制の強化とコスト構造の見直しによる経営基盤強化を、BDP社がグループ各社との協業等によるAPAC展開の強化と北米における事業拡大に取り組みます。
エネルギー事業においては、日本工営エナジーソリューションズ株式会社(以下「日本工営エナジーソリューションズ」という。)を中心に、蓄電池を中心としたエネルギーマネジメント事業の拡大と水力発電関連部門の集約による製造事業の付加価値向上を推進します。
これらの取り組みを推進することで、2025年6月期業績予想は、売上収益1,650億円(前期比103.8%)、営業利益は2024年6月期に資本参加先の株式上場に伴う評価益を約21億円計上した反動により減益で122億円(前期比86.4%)、親会社の所有者に帰属する当期利益73億円(前期比75.4%)としています。
文中における将来に関する事項については、有価証券報告書提出日現在において判断したものです。
(1) サステナビリティに関する考え方
当社グループの経営理念「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する。」は、サステナビリティに対する基本姿勢を表しています。サステナビリティを経営の中核に据え、環境および社会の課題と正面から向き合い、社員一人ひとりが持続可能な社会の実現に向けて取り組みます。当社グループは、2024年6月までを変革期としてサステナビリティ経営の土台作りを進めてきましたが、2024年7月から2027年6月までは展開期としてグループ全体にその拡大・定着を図ります。サステナビリティに関する取組みの透明性を一層高め、あらゆるステークホルダーから信頼される企業グループとなることを目指します。また、サステナビリティ経営を通じて得た知見とこれまで培ってきた経験・技術を融合させることで、サステナビリティ課題に関連する多様なビジネス市場に参入し、サービスプロバイダー又は事業運営者としての地位を確立していきます。次世代を見据えたサステナブルなソリューションを提供することで、ミッションである「世界をすみよくする」を実現します。
さらに、当社グループはミッションの達成およびグローバル課題の解決に貢献すべく、外部環境の変化とステークホルダーの関心を踏まえ、マテリアリティ(重要課題)を改定しました。新たなマテリアリティを軸に社員一人ひとりが持続可能な社会の実現に向けて、高い意識を持って誠実に取り組みます。
ID&Eグループ マテリアリティ
① ガバナンス
当社グループにとって、サステナビリティは経営と一体不可分であることから、経営トップがリーダーシップを発揮しうる体制の構築に努めています。2023年7月に設立された持株会社である当社に、当社代表執行役社長を議長とする「サステナビリティ推進会議」を設置しました。2024年7月には、サステナビリティ経営のグループ戦略の立案・推進機能を高めるため「サステナビリティ推進本部」を当社の専属組織として新設しました。
「サステナビリティ推進会議」は、グループ全体のサステナビリティ経営の司令塔として、グループ全体のガバナンス、戦略の企画立案や推進、サステナビリティに関連するリスクと機会の管理、ステークホルダーに対する説明責任を担っています。本会議は、当社代表執行役社長を議長とし、アドバイザーとして社外取締役が参加しています。構成員は、主要グループ会社(日本工営、日本工営都市空間、BDP社、日本工営エナジーソリューションズ、日本工営ビジネスパートナーズ)の各社社長および当社の各本部長が含まれ、議案の内容に応じてその他の関係者や外部有識者が出席します。本会議の活動は、取締役会が監督し、審議事項は定期的に執行役会および取締役会に付議・報告されます。
また主要グループ会社には、「サステナビリティ推進会議」と連携する「サステナビリティ推進委員会」を設置し、その傘下グループ会社にはサステナビリティ経営推進担当者を配置しています。主要グループ会社の各委員会事務局および傘下グループ会社の各担当者と連携を取りながら、グループ一丸となってサステナビリティの推進を図っています。
ID&Eグループ サステナビリティ推進体制図
② 戦略
当社グループが目指すのは、実効性のあるサステナビリティ経営の実現です。その実現を目指し、 2024年に「サステナビリティ経営フレームワーク(以下「フレームワーク」という。)」を策定しました。このフレームワークは当社グループがサステナビリティ経営を実践する際の判断の枠組みを体系的に提示し、グループ一体的な取組みを推進することも目的としています。フレームワークは、2045年に目指す姿を示した「サステナビリティ・ゴール」、そのゴール達成までのマイルストーンとなる「サステナビリティ・コミットメント/ターゲット」、および各課題別の方針や行動ガイドラインで構成されます。その内容は社会状況の変化を踏まえながら、柔軟に見直し、継続的な改善を図っていく予定です。当社グループは、同方針・行動ガイドラインに基づいて、実効性のある取組みを実施するために、行動計画を策定し、各グループ会社のサステナビリティ経営の取組み状況をモニタリングします。フレームワークの運営状況は、サステナビリティ推進会議で定期的な振り返りを行い、執行役会を通じて取締役会に報告します。
ID&Eグループ サステナビリティ経営フレームワーク
サステナビリティ経営フレームワークの詳細は、当社ホームページをご参照ください。
(https://www.id-and-e-hd.co.jp/assets/pdf/sustainability/sustainability-management/ID&E_Sustainability_Management_Framework.pdf)
③ リスク管理
当社グループでは、リスク管理の推進全般を統括する組織としてリスク統括会議を設置し、「内部統制基本方針」および「グループリスク・危機管理規程」に基づき、グローバルで幅広い事業遂行に伴う当社グループの全般的なリスク統制を行い、損失の最小化を図ることを任務としています。リスク統括会議は、議長である当社代表執行役社長、執行役および社外弁護士の計10名により構成され、オブザーバーとして常勤監査委員1名が出席しています。
具体的にはグループ各社がリスクを網羅的に抽出した上で、各リスクの管理策を設定し、継続的にリスク管理を行いながら事業活動にあたっています。リスク統括会議は、グループ各社から提出された「リスク管理計画」を確認のうえ取りまとめ、全体を「グループリスク管理計画」として承認し、リスク統制を行います。 サステナビリティのリスクは、国際的な議論の潮流や各国の政策・制度など外部環境を起点とするものや不確実性の高いものが多いことから、サステナビリティ推進会議がグループ各社と協力し、リスクの特定(識別)・評価を行うこととしています。2024年6月期には、気候変動に関するリスク管理プロセスを策定し、運用を開始しました。気候変動以外のサステナビリティのリスクについても、同様のプロセスでリスク管理を行うことを検討しています。
気候変動においては下図のとおり実施しており、この管理プロセスを運用するため、「グループリスク一覧表」および「主要グループ会社リスク管理一覧表」において、リスク分類に「サステナビリティ」を新たに加え、その下の「想定されるリスク事象」に「気候変動が事業に与える悪影響」を追記することとしました。
今後もサステナビリティ推進会議およびリスク統括会議が連携してサステナビリティに起因するリスクの管理に取り組んでまいります。
気候変動のリスク管理プロセス
人権のリスクに関しては、上述の「グループリスク管理計画」の中に、労務上の問題やハラスメントなど人権リスクに関連する項目が含まれており、そのモニタリングを継続しています。加えて、当社グループでは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の手順に従って人権デュー・ディリジェンスを実施していきます。今後は、2024年7月にサステナビリティ推進会議の下に新設された「人権専門委員会」での審議を踏まえ 、サステナビリティの視点を考慮した人権リスクの識別・特定および対応を進めていきます。
④ 指標および目標
当社グループは、「サステナビリティ経営フレームワーク」にてサステナビリティ・ゴール(2045年のありたい姿)を明確にし、 「サステナビリティ・コミットメント/ターゲット」、さらに2045年のターゲットを定めることで取組みを推進しています。
(2) 重要なサステナビリティ項目
① 気候変動
当社グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づき、対応策の検討と関連情報の開示に加え、気候変動を成長の機会ととらえた戦略の立案と実行を進めていきます。
ⅰ) ガバナンス
上述のガバナンス体制に基づき、気候変動対応に関わるサステナビリティ推進を行っています。当社サステナビリティ推進会議では多岐にわたるテーマを扱っており、気候変動に関する議論のみに注力することが困難なため、今後は気候変動に特化した専門委員会を立ち上げて、気候変動対応の具体的な検討やその実施を進めていきます。
ⅱ) 戦略
気候変動に関連して直面するリスクと機会に関しては、当社および主要グループ会社5社(日本工営、日本工営都市空間、BDP社、日本工営エナジーソリューションズ、日本工営ビジネスパートナーズ)を対象にシナリオ分析を実施しました。各社におけるリスク・機会を抽出のうえ統合、さらに定量可能なリスク・機会については財務影響の算定まで行っています。当社グループは、様々な事業分野で温室効果ガス削減に向けたコンサルティングサービスをすでに提供していますが、気候変動を抑制・適応するための事業に対するコンサルティングサービスは今後もますます増えてくるものと想定しています。
詳細は、当社のホームページをご参照ください。
(https://www.id-and-e-hd.co.jp/sustainability/environment/climate-change/)
* 財務影響金額は2030年度時点に想定しうる金額(リスクは費用、機会は売上)
* 対象組織:シナリオ分析を実施した主要グループ会社5社
* 使用した主要パラメーター:弊社長期経営戦略(成長率)、IEA Net Zero Emissions by 2050 Scenario, IPCC RCP2.6シナリオ、IPCC RCP8.5シナリオ
また、将来的な炭素価格の上昇リスク等を見据え、当社グループは、当社グループの本社を含む3拠点に自社が運営する水力発電所から電力を供給することで、使用電力を再生可能エネルギー100%とする実証事業「NKRE100」を2023年7月より開始しました。この度の取組みを機に、NKRE100の当社グループ国内拠点への展開を含め、地域特性に応じた再生可能エネルギー由来の電力調達や、再生可能エネルギー発電設備導入等のサービス拡大を進めていきます。将来的には他社再生エネルギー電源のアグリゲート、地産地消の再生可能エネルギー電源供給、需給管理や電力取引をサービスとして提供します。
ⅲ) リスク管理
当社グループは、気候変動に起因するリスク(機会を含む)を経営上の重要な課題と捉え、気候変動や生物多様性・自然資本に関わる事項も財務リスク等の分野と併せて、「サステナビリティ推進会議」を中心として、関連する情報を収集・分析し、当社グループの活動方針、活動計画を立案しています。気候変動に関する具体的なリスクのうち事業に悪影響を与えるものについては、上記(1)③に記載したリスク管理プロセスを通じて、グループリスク管理体制に統合しています。
ⅳ) 指標と目標
当社グループは、事業活動による温室効果ガス(GHG)の排出量をモニタリングし、経営に及ぼす影響を評価するため、シナリオ分析と同様に主要グループ会社5社(日本工営、日本工営都市空間、BDP社、日本工営エナジーソリューションズ、日本工営ビジネスパートナーズ)における2023年6月期のScope1、Scope2、Scope3の排出量を算出しています。初年度の算出であったため、会計データを活用して使用量ではなく金額からGHG排出量の算出を行う項目が大半を占めています。正確なGHG排出量を把握するためにデータ収集方法および算出方法の再検討に取り組んでいます。今後は段階的に算出範囲を拡大するとともに、2024年7月から導入した定量プラットフォームでのGHG定量の定常化により、排出量の削減に取り組みます。
ID&Eホールディングス主要グループ会社温室効果ガス(GHG)排出量
* マーケット基準は、電力会社毎の係数を用いて排出量を計算
* ロケーション基準は、国ごとの係数を用いて排出量を計算
* 2024年4月に公開したTCFD提言に基づく開示内容より排出量を一部修正
移行計画に基づく2030年削減目標
* 2024年4月に公開したTCFD提言に基づく開示内容より排出量を一部修正
主要グループ会社5社は、2030年度までにScope1とScope2の排出量をSBT(Science-based Targets)と同水準の削減目標としました。Scope3の削減目標は現在設定中です。今後は、SBTの認証と削減目標のコミットメントを進めるとともに、再生可能エネルギー導入の対象拠点を拡大し、Scope2の排出量削減を進めます。今後、TCFD 提言が求める4つの情報開示項目に基づいた情報開示の更なる拡充に取り組んでまいります。
過去の指標の推移については、当社のホームページをご参照ください。(https://www.id-and-e-hd.co.jp/sustainability/sustainability-management/data/)
自社における気候変動への取組みに加え、当社グループは、再生可能エネルギー事業、コンサルティング業務を通じた、社会全体を対象としたカーボンポジティブ事業にも取り組んでおり、GHG削減貢献目標を次のとおり設定しています。
目標年:2030年6月期
GHG削減貢献量:直接貢献:36,000(t-Co2)、間接貢献:1,000,000(t-Co2)
② 生物多様性・自然資本について
当社グループは、環境保全、森林保全、生態系保全や環境アセスメント等、自然資本やその保全・管理に資する各種業務・事業を実施してきました。近年の生物多様性保全・自然資本に関する議論の動向に鑑み、2024年6月期には、サステナビリティ経営フレームワークの一環として、これらの分野での自社グループの取組み姿勢や判断の枠組みを示した「自然環境/生物多様性保全に関する行動ガイドライン」を制定しました。第一段階として、2030 年までの世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を念頭に置きつつ、「ネイチャー・ポジティブ」社会の実現に貢献することを目指します。
具体的には、2025年6月期中に、TNFD提言に基づく分析・評価・開示とTNFD Adaptor登録を目指します。また、ネイチャー・ポジティブへの貢献の観点から、生態系維持・回復貢献面積目標を次のとおり設定し、事業に取り組んでいます。
目標年:2030年6月期
生態系維持・回復貢献面積:直接貢献:5ha、間接貢献:100,000ha
③ 人的資本について
当社グループは、企業価値を継続的に向上させるために、当社グループおよびグループ各社の経営戦略と人財戦略が一体となった「人的資本経営」に戦略的に取り組みます。
ⅰ) ガバナンス
当社グループの「人的資本経営」の目指す姿(次項詳述)の実現に向け、2024年7月から当社重要会議体として「人財戦略会議」を設置しました。原則年6回開催し、その協議事項は、定期的に執行役会、取締役会へ報告されます。議長および執行役会で選任された各委員は国内における主要グループ会社(日本工営、日本工営都市空間、日本工営エナジーソリューションズ、日本工営ビジネスパートナーズ)の社長および副社長で構成されます。
「人財戦略会議」で議論された戦略・人事施策の立案および展開に関しては、「人財戦略会議傘下 ワーキンググループ」が中心となり、サステナビリティ推進本部と連携しながら、その取組みを推し進めていきます。
ⅱ) 戦略
当社グループは、2030年の長期経営戦略で掲げた「世界をすみよくする」というミッションに基づき、中期経営計画に「人財育成、先端技術開発、品質管理強化によるID&Eブランド・クオリティの体現」という方針を掲げ、「人財」をID&Eブランドを体現する1つの重要な要素として位置付けています。
具体的には経営戦略に一致したグループ人財戦略を構築するとともに、「人財育成」、「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DE&I)」、「Well-being」の3つを、当社グループの人的資本価値の向上を支える重要な基本戦略として位置付け、その最大化を推進します。
さらに「従業員エンゲージメントを高め、業績の向上だけでなく、離職率の低下・経営ビジョンの浸透率向上・イノベーションを生む企業風土の促進など、幅広い効果をもたらす」ことで、長期的に新たなイノベーションや市場競争力を生み出していく「人的資本経営」を推進し、長期経営戦略ミッションを達成するという好循環をつくることが当社グループの人的資本経営の目指す姿です。
[人財育成方針、DE&I方針、社内環境整備・労働安全衛生方針]
2024年6月期、当社グループは新たに「サステナビリティ経営フレームワーク」を策定し((1)サステナビリティに対する考え方②戦略参照)、この中で、人的資本を構成する3つの課題(「人財」、「DE&I」、「Well-being」)について、下表のとおり方針・行動ガイドラインを策定しました。
ID&Eグループ 「サステナビリティ経営フレームワーク」
人的資本にかかる方針・行動ガイドライン
[人財育成、DE&I、社内環境整備・労働安全衛生にかかる主要な取組み]
■人財育成
当社グループの全従業員が共に成長し、未来のグローバルリーダーやID&Eブランドを体現する人財を育成するためのラーニングエコシステムとして、2024年6月期に「ID&E Global Academy」を設立しました。当社グループ全従業員が参加でき、「自分を知る」「共に学ぶ」「世界とつながる」という3つの機能で構成されます。
また、2025年6月期より、「ID&Eグローバルアカデミー」の一つの機能であるタレントマネジメントシステムの運用を開始し、従業員一人ひとりが、現在の自分と将来像を見比べ、自分のキャリアビジョンを自ら描き自律的に成長していく機会を提供することを予定しています。
人財情報を一元化し、スキルや経験、ポジションを可視化することで、各従業員のスキルアップやキャリア形成を支援するとともに、各プロジェクトへの任命や最適人財配置にも活用していきます。
これら機能を人財育成基盤として整備することで、当社グループ内の知を結集すること、それを自律的に学ぶことのできる環境をつくること、また、従業員のそれぞれが自らの学びや経験を発信するなど、当社グループの全従業員がグループ各社の枠を超えて共に成長することを目指します。
ID&Eグローバルアカデミーの具体的な取組みは特設サイトをご参照ください。
(https://www.id-and-e-hd.co.jp/academy/)
■ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)
当社グループは、性別、年齢、国籍、人種や国籍、障害の有無、性的指向、宗教・信条、価値観、雇用形態などにかかわらず、多様な人財が個性・能力を発揮することが企業の成長には欠かせないものと考え、多様な人財が存分にその能力を発揮できるよう、社内制度や就業環境を整備していきます。
また、今後、多様性の尊重をしながら、エクイティ(多様な人財に対する公正・公平な機会の提供)、インクルージョン(多様性を受容できる風土の醸成)を志向すべく、様々な取組みを推進していきます。
2030年には達成すべき特に重要な数値目標として、「女性管理職比率」「外国人管理職比率」「中途採用者管理職比率」を掲げ、年度ごとに点検および公表を行いながら、その目標値達成に向けて着実に取り組んでいきます。同数値の2024年6月期の実績および2030年の目標については、ⅲ)指標及び目標に後述しています。
■Well-being経営(社内環境整備・労働安全衛生)
当社グループは、従業員一人ひとりがやりがいを感じながら働き、仕事上の責任を果たすために労働の質を重視したメリハリのある働き方を追求しています。
従業員の「ワークライフバランス」における施策に積極的に取り組むことで、従業員が身体的、精神的、社会的に健やかな状態で生き生きと働き続けられる「Well-being(ウェルビーイング)」の経営を推し進めています。
具体的には、内閣府の「働き方改革の実行計画」に基づいて、下表に示す9つの基準に「その他」を加えた10基準に分類し、当該基準ごとに各種施策を展開しています。
ワークライフバランス施策基準とその制度および取組み(一部を抜粋)
また、当社グループは「グループ健康宣言」を制定し、従業員の健康を経営的な視点で考え、以下のとおり、戦略的に健康増進に資する各種施策・取組みを推進する「健康経営」にも取り組んでいます。
・従業員の健康管理支援:
健康診断受診率100%(契約従業員、社会保険加入義務のあるアルバイトを含む全従業員対象)を前提とした「重症化予防」に重点を置いた施策を展開しています。年1回の健康診断は、婦人科検診や35歳以上75歳以下の全従業員が人間ドックを受診可能とし、充実した検査項目を提供しています。また、所見のある従業員には 当社グループ健康管理室による再検査受診確認や高リスク者への産業医面談を行う等、幅広い予防措置を講じています。
・健康施策セミナー・研修の実施:
「ID&Eグローバルアカデミー」と連動し、健康に関する様々な研修を企画・実施しています。セミナーや研修テーマは、食生活、メンタルヘルス、乳がん等、多岐にわたっています。
・社内ウォーキングイベント「みんなで歩活(あるかつ)」の定期実施:
日常の生活に「歩く」をプラスする「みんなで歩活(あるかつ)」という健康イベントを定期実施しています。部署を超えて任意のチームを組成して日々の歩数を計測し、その合計歩数を競うものです。従業員同士で歩くサイドイベントもあり、コミュニケーションの機会創出の一助となっています。
グループ健康宣言、健康経営、ならびに、その他関連する具体的な取組みは、当社のホームページをご参照ください。
(https://www.id-and-e-hd.co.jp/sustainability/social/health-management/)
ⅲ)指標及び目標
上記ⅰ)およびⅱ)の記載に関し、人的資本にかかる指標及び目標は、以下のとおりです。
(注) 1. 上記指標の集計範囲は、国内における主要グループ会社(日本工営、日本工営都市空間、日本工営
エナジーソリューションズ、日本工営ビジネスパートナーズ)です。
2.上表の2024年度実績は2024年6月期末時点のデータです。
3.「外国人管理職比率」のみ2027年までの目標値を示しています。
その他、「サステナビリティ・コミットメント/ターゲット」の「人的資本対応」項目において、2030年および2045年における定性的な指標及び目標を中心に設定しています。
(https://www.id-and-e-hd.co.jp/assets/pdf/sustainability/sustainability-management/ID&E_Sustainability_Management_Framework.pdf)
当社は、リスク管理の推進全般を統轄する組織としてリスク統括会議を設置し、当社グループ内のリスクを把握・評価し、対策と予防を推進しています。リスク統括会議およびその傘下の安全衛生・環境会議、財務報告内部統制会議、情報セキュリティ会議において、全社横断的にリスク管理を行い、重要なリスク情報については取締役会に毎月報告しています。
当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性があると認識している主要なリスクは次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。また、以下の記載は、当社グループの事業等のリスクを網羅することを意図したものではないことにご留意ください。
(1) 法的規制に関するリスク
当社グループは、「ID&Eグループ行動指針」のもと、法令遵守の徹底と社内教育に努めていますが、国内において独占禁止法、建設業法、下請法等の法的規制を受けているほか、海外において関係諸法令による規制を受けており、万一法令に抵触するような事態が発生した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 事業運営に関するリスク
当社グループは、「グループ運営規程」に則った報告・承認制度の運用のほか、「グループ経営管理ガイドライン」に基づく各グループ会社の経営管理体制、リスク管理、コンプライアンス、情報管理、安全・衛生・健康管理の支援を通して、グループ各社の内部統制システムの強化を着実に実施していますが、各グループ会社においてコンプライアンス違反または各種リスクの顕在化といった事象が生じた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 受注に関するリスク
コンサルティング事業におきましては、国内の官公庁・地方公共団体からの受注およびわが国ODA(政府開発援助)予算に基づく案件の受注の割合(依存度)が高く、国内事業では公共投資の動向に、海外事業ではODA予算の動向に影響を受ける傾向があります。
エネルギー事業におきましては、東京電力パワーグリッド(株)からの受注の割合(依存度)が高く、同社の電力設備投資等の動向に影響を受ける傾向があります。
(4) 請負契約等における収益認識に関するリスク
当社グループは、建設コンサルティング業務や電力関連機器・装置の受注製造・販売等、顧客と請負契約等を締結する業務を行っています。売上収益は、履行義務の完全な充足に向けた進捗度を合理的に測定できる場合は進捗度の測定に基づいて認識し、履行義務の進捗度を合理的に測定できない場合は履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまで発生した原価の範囲で認識しています。また、進捗度の測定は、原則として見積総原価に対する実際発生原価を基礎とし、一部の大規模案件は稼働および経費の実績(出来高)を基礎としています。特に新たな業務領域の先行案件は、総原価の見積りの際に参照する類似案件等の情報が乏しく、外注費等の重要な仮定要素が含まれているため、事後的に変動する可能性があり、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 業務実施に関するリスク
当社グループは、「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する。」という経営理念のもと、品質マネジメントシステムISO9001を導入し、常に品質の確保と向上に努めていますが、当社グループが顧客に納品した成果品における品質上の問題を原因として重大な責任が生じた場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(6) 労務に関するリスク
当社グループは、36協定内容の周知・モニタリングやハラスメントに関する相談窓口の設置等の取組みを通して過重労働およびハラスメントの予防体制を構築・管理していますが、これらのリスクが顕在化した場合は、人財の損失が生じることにより、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 安全衛生に関するリスク
当社グループは、リスク統括会議(原則月1回開催)傘下の安全衛生・環境会議による監視・指導のもと、安全衛生に関する各種規程や内規、マニュアルの整備・運用等を通じて全社的な安全衛生体制の構築に努めていますが、海外での実施業務においてテロや紛争等に遭遇し、従業員の生命・身体への事故が発生した場合、人財の損失等が生じることにより、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(8) 情報管理に関するリスク
当社グループでは、「グループ情報管理規程」および関連細則の周知・運用のほか、ネットワークセキュリティの確保、情報媒体の使用ルールの設定・運用等を通して、社内における情報管理体制整備および秘密情報の漏えい防止に努めていますが、顧客情報や当社機密情報等の秘密情報が漏えいすることで、業務の停止や対策費用の増大、損害賠償、公的な処罰、社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(9) 財務報告に関するリスク
当社グループは、リスク統括会議傘下の財務報告内部統制会議の監視・指導のもと、市場環境・為替市場の動向の注視やポートフォリオの見直しを継続して行っていますが、金融市場における予期せぬ経済情勢やマーケットの急激な変化等が生じた場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(10) 固定資産の減損に関するリスク
当社グループは、企業買収等によりのれん・無形資産を計上しています。連結会社において事業環境の変化に伴い、将来キャッシュ・フローの低下が見込まれた場合など、減損損失を認識する可能性があり、当社グループの経営成績および財政状況に影響を及ぼす可能性があります。
(11) 災害・事件・感染症に関するリスク
当社グループは、BCP(事業継続計画)および関連規程の整備・改定を通じて災害・事件に遭遇した場合においても事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続・早期復旧を可能とする体制を整備していますが、大規模震災等によって国内外のサービス需要の減少が生じた場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、日本工営の単独親会社として2023年7月3日付で単独株式移転により設立され、新たに当連結会計年度より連結財務諸表を作成していますが、従前の日本工営の連結グループの範囲から実質的な変更がないため、日本工営の2023年6月期を比較情報として用いています。なお、比較に際して当社子会社である株式会社エル・コーエイをコンサルティング事業セグメントからその他とする調整を行っています。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況
当連結会計年度(2023年7月1日から2024年6月30日まで)におけるわが国経済は、一部に足踏みもみられましたが、緩やかに回復しています。今後も、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあり緩やかに回復が続く見込みである一方、欧米における高い金利水準の継続に伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっています。また、中東地域を巡る情勢や金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。
当社グループを取り巻く経営環境は、日本を含む各国にて社会経済活動が正常化する一方、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的なエネルギー危機と食料危機、またインフレの進行や為替変動に加えて中東地域における紛争等、国際情勢における不確実性が高まっています。コンサルティング事業では、国内市場は引き続き国土強靭化に向けた公共事業予算が確保され、特に大規模災害対策や予防保全型インフラメンテナンス等の市場拡大と防衛関連インフラ事業の拡大が期待されます。また、海外市場は日本政府による「インフラシステム海外展開戦略2025」を軸にODA予算が強化され、紛争・被災地域における復興支援が必要となっています。そしてPPP(Public Private Partnership)、民間資本によるインフラ開発も増加傾向にあります。一方、インフレや為替変動、国際情勢の不安定な状況は継続すると見られます。都市空間事業では、国内および欧米諸国においてESG投資を呼び込むサステナブルな都市構造の再構築のニーズが高まる一方、開発途上国においては交通関連施設や周辺基盤の整備を含む都市開発事業のニーズが旺盛です。エネルギー事業では、国内における老朽化した既設設備の更新需要は堅調と見込まれます。2050年カーボンニュートラル目標に向け、再生可能エネルギーへのシフトという流れは変わらないものの、世界的なエネルギーコストの上昇による政策変更に対しても機敏に対応する必要があります。
こうした市場環境のもと、当社グループは「ID&E グローバル戦略 2030」の第1ステップとなる2021年7月から2024年6月までをグループ強靭化に取り組む変革期と位置付け、中期経営計画「Building Resilience 2024」に基づく3つの強靭化策を実行しました。
1つ目の強靭化策としては、これまでの5事業を3つのドメイン(コンサルティング、都市空間、エネルギー)に再編し、事業軸を強化しました。2つ目の強靭化策では、持株会社体制への移行によるガバナンスの強化と地域統括体制の整備によるマトリクス経営(各事業が地域ごとに相互に連携を図る経営)の実現に向け、取り組みました。3つ目の強靭化策としては、ID&Eグループとしてのブランドと品質の確立に向け、技術開発および人財育成に係る強化策を講じました。また、そのための基盤として「Well-being経営」を推進しました。
以上の結果、当社グループの当連結会計年度の業績は、受注高は各事業とも好調に推移し前期比15.9%増の161,357百万円、売上収益は主にエネルギー事業が順調に進捗し前期比12.3%増の158,983百万円となりました。営業利益は、コンサルティング事業の増益が寄与して前期比132.3%増の14,124百万円となりました。それに伴い親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比212.8%増の9,677百万円となりました。
当社グループのセグメント別の業績は次のとおりです。
[コンサルティング事業]
コンサルティング事業では、日本工営を中心に、各事業分野でのシェア向上に加えて、流域治水・気候変動・SDGs・再生可能エネルギー・マルチハザードといった分野横断的な共創事業の推進、マネジメント事業の展開や民間セクターの拡大等に取り組みました。また海外事業は海外現地法人を主体とした市場拡大に取り組みました。
以上の結果、受注高は国内事業の好調により前期比11.8%増の86,568百万円、売上収益は前期比4.9%増の85,488百万円となりました。営業利益は、資本参加先の株式上場に伴う評価益を約21億円計上していることにより前期比63.8%増の10,647百万円となりました。
[都市空間事業]
都市空間事業では、日本工営都市空間が要員確保や品質管理の徹底による生産体制の強化に、BDP社が英国国内およびグループ間協業によるアジア市場開拓と北米市場における業務拡大に取り組みました。
以上の結果、BDP社の好調により、受注高は前期比17.2%増の49,874百万円、売上収益は前期比16.8%増の44,460百万円となりました。営業利益は1,968百万円(前期は946百万円の損失)となりました。
[エネルギー事業]
エネルギー事業では、日本工営エナジーソリューションズ株式会社(2023年9月以前は、日本工営株式会社エネルギー事業統括本部)を中心に、蓄電池やアグリゲーション事業といったエネルギーマネジメント事業を本格展開させるとともに、既存の機電コンサルティング・エンジニアリング事業の体制強化と製造事業の安定化に取り組みました。
以上の結果、受注高は主に変電所工事や発電施設運営管理関連の事業の好調により、前期比29.8%増の24,446百万円、売上収益は大型蓄電池事業や電力設備関連事業が大きく伸び前期比33.9%増の27,925百万円となりました。営業利益は、前期に当社関連会社であったPT.ARKORA HYDRO株式の売却益および有価証券運用益の計上等が約19億円あった反動で前期比17.0%減の2,470百万円となりました。
② 財政状態の状況
当連結会計年度末における資産合計は、206,386百万円となり、前連結会計年度末と比較して10,994百万円の増加となりました。これは、契約資産7,771百万円の増加等があったことが主な要因です。
負債合計は、112,288百万円となり、前連結会計年度末と比較して681百万円の増加となりました。これは、繰延税金負債2,876百万円の増加等があったことが主な要因です。
資本合計は、94,097百万円となり、前連結会計年度末と比較して10,313百万円の増加となりました。これは、利益剰余金6,817百万円の増加等があったことが主な要因です。
以上の結果、親会社所有者帰属持分比率は44.1%となり前連結会計年度末と比較して2.7ポイント上昇しました。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、25,242百万円となり、前期末に比べて6,436百万円減少しました。当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況と、前期に対するキャッシュ・フローの増減は、次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前利益15,264百万円に減価償却費等の非資金項目や営業活動に係る債権・債務の加減を行った結果、7,792百万円の収入となり、前期に比べ553百万円の収入の減少となりました。これは主に、契約資産の増加によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産や無形資産の取得等を行った結果、5,064百万円の支出となり、前期に比べ2,204百万円の支出の増加となりました。これは主に、前期発生した関係会社の売却が当期発生しなかったことによるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の借入れや返済等を行った結果、8,832百万円の支出となり、前期に比べ17,131百万円の支出の増加となりました。これは主に、短期借入金の返済が進んだことによるものです。
なお、当社グループのキャッシュ・フロー指標のトレンドは以下のとおりです。
(参考)キャッシュ・フロー関連指標の推移
親会社所有者帰属持分比率:親会社所有者帰属持分/資産合計
時価ベースの親会社所有者帰属持分比率:株式時価総額/資産合計
キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:キャッシュ・フロー/利払い
(注) 1.いずれも連結ベースの財務数値により計算しています。2023年6月期以前の期につきましては日本工営株式会社の連結ベースの財務数値により計算しています。
2.株式時価総額は自己株式を除く発行済株式数をベースに計算しています。
3.キャッシュ・フローは、営業キャッシュ・フローを利用しています。
4.有利子負債は連結財政状態計算書に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としています。当連結会計年度より、有利子負債にリース負債を含めて算定しています。これに伴い、過年度も同様に算定しています。
(注) 1.上記の金額は外部顧客に対するもので、セグメント間の内部取引および振替高は含まれていません。
2.為替・その他調整には為替差額および受注残高の補正による調整額等が含まれています。
3.「第1 企業の概況 3 事業の内容 」に記載のとおり、当連結会計年度より報告セグメントの変更を行っ
ています。なお、前年同期比は変更後の報告セグメントの区分に基づき計算したものを記載しています。
(注) 1.当連結企業集団では生産実績を定義することが困難であるため「生産の状況」は記載していません。
2.セグメント間の取引については相殺消去しています。
3.主な相手先別の売上収益実績および総売上収益実績に対する割合は、次のとおりです。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
なお、本文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社グループの当連結会計年度の財政状態に関する認識および分析・検討内容については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況、②財政状態の状況」をご覧ください。経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等について、当社グループは中期経営計画Building Resilience 2024の最終年度にあたる当連結会計年度の経営成績目標を2023年8月14日に売上収益156,000百万円、営業利益11,100百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益7,100百万円としていました。
当連結会計年度の当社グループの経営成績は、売上収益は計画比101.9%の158,983百万円となり、各事業とも堅調に推移しました。営業利益はコンサルティング事業およびエネルギー事業の好調に加え、資本参加先の株式上場に伴う評価益を約21億円計上したことにより計画比127.2%の14,124百万円、それに伴い親会社の所有者に帰属する当期利益は計画比136.3%の9,677百万円となりました。
セグメント別の経営成績は、コンサルティング事業においては国内外で案件が進捗し、売上収益は計画比97.1%となりました。営業利益は資本参加先の株式上場に伴う評価益を約21億円計上したことおよび一般管理費の抑制により計画比143.9%となりました。都市空間事業では、BDP社が堅調に進捗し売上収益は計画比105.9%となった一方、営業利益は日本工営都市空間で売上未達となったことが影響し計画比72.9%となりました。エネルギー事業は、大型発電所案件等の進捗により売上収益は計画比111.7%、営業利益は計画比112.3%となりました。
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因としては、「3 事業等のリスク」に記載のとおり、コンサルティング事業におきましては、国内の官公庁・地方公共団体からの受注およびわが国ODA(政府開発援助)予算に基づく案件の受注の割合(依存度)が高く、国内事業では公共投資の動向、海外事業ではODA予算の動向に影響を受ける傾向があります。また、エネルギー事業におきましては、東京電力パワーグリッド(株)からの受注の割合(依存度)が高く、同社の電力設備投資等の動向に影響を受ける傾向があります。
当社グループの資本の財源および資金の流動性については、事業活動を遂行するための適切な資金確保および健全な財務体質を維持することを目指し、安定的な資金調達手段の確保に努めています。必要な運転資金、設備投資および投融資の財源は、主として営業キャッシュ・フローと金融機関からの借入によります。2024年6月30日現在、長期借入金残高は27,312百万円です。また、資金の流動性については、事業規模に応じた適正な手元資金の水準を維持するとともに金融上のリスクに対応するため主要取引銀行と当座貸越およびコミットメントライン契約を締結することにより手元流動性を確保しており、金融機関との間で総額61,500百万円の契約を締結しています。本契約に基づく当連結会計年度末の短期借入金残高は16,000百万円です。
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。この連結財務諸表作成にあたって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しています。
なお、当社グループの連結財務諸表の作成に用いた重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 ⑤ 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」および「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 ⑤ 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しています。
(1)(吸収分割契約)
当社は、2023年8月14日開催の取締役会において、当社の子会社である日本工営の不動産管理事業および子会社等株式の管理事業を、同年10月1日を効力発生日として、分割型吸収分割により当社へ承継(以下「本吸収分割」という。)することを決議しました。同年8月14日、当社および日本工営において吸収分割契約を締結しました。
① 本吸収分割の目的
当社グループは長期経営戦略の実現に向けて、中長期的な視点でグループの経営を深化させ、今後の成長を確かなものとするため、2023年7月3日の株式移転により完全親会社である当社を設立するとともに、日本工営の事業の一部の分社化による持株会社体制への移行を行っています。今後の当社グループの運営を円滑に進めるため、日本工営を吸収分割会社、当社を吸収分割承継会社とし、日本工営の不動産管理事業および子会社等株式の管理事業を対象とする本吸収分割を実施することとしました。
② 本吸収分割の方法
日本工営を吸収分割会社、当社を吸収分割承継会社とする吸収分割です。
③ 吸収分割期日
2023年10月1日
④ 本吸収分割に係る割当ての内容
当社は、日本工営の全株式を保有していますので、本吸収分割による、株式その他の金銭の割当てはありません。
⑤ 本吸収分割に係る割当ての内容の算定根拠
該当事項はありません。
⑥ 承継する部門の経営成績
当該事業の経営成績に関する事項はありません。
⑦ 承継する資産、負債の項目および金額
⑧ 本吸収分割の後の吸収分割承継会社となる会社の商号、本店の所在地、代表者の氏名、資本金の額、純資産の額、総資産の額及び事業の内容
(2)(経営指導に関する契約)
当社は、日本工営、日本工営エナジーソリューションズ、日本工営都市空間、日本工営ビジネスパートナーズ、BDP社と経営管理業務契約を締結しています。
当社グループでは、「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する。」という経営理念のもと、技術を適切に活用することで、お客様の期待に応えるとともに、人々の安全で快適な生活環境を実現するために日々努力しています。
このための研究開発活動として、社会のニーズや技術の最新動向の把握に努め、また、必要とされる先端技術等の研究および開発に取り組んでいます。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
(コンサルティング事業およびその他)
当事業分野における研究開発は、多様な建設コンサルティング・サービスに係わる課題について、日本工営の中央研究所を拠点に積極的に取り組んでいます。
コンサルティングに関する技術開発では、中央研究所における研究開発計画の途中段階で、開発中の技術を部分的に実用化できる場合があります。そのため、修正リターンマップ法と呼ぶ手法により研究活動のモニタリングを実施しています。これにより研究計画を適切な段階で随時見直し、研究開発のスピードと実用化貢献度の向上を図っています。
当連結会計年度の主な研究開発は次のとおりです。
(1) 数値解析技術の高度化および汎用ソフトアプリケーションの研究開発
管渠更生事業における自動設計ソフトウェアの開発、地理情報および水理・水文アプリケーションシステムNK-GIASの開発、2・3次元水理水質解析の実践的応用に関する研究。
(2) 国土防災に係わる研究開発
AIを活用した防災シミュレーション技術の開発、避難解析技術の確立と各事業分野への展開、津波・高潮リスク評価技術の開発、地すべり対策工の耐震性能評価手法の開発、高精度土石流検知センサーの開発、リアルタイム防災シミュレーション技術の開発、遠心模型実験を活用したため池等土構造物の耐震性能評価手法の高度化、3D都市モデルにおける地震被害予測技術の高度化。
(3) 気候変動対策に係わる研究開発
気候変動に伴う水害リスクの評価技術、水資源リスク評価指標SS-DTA、将来予測の不確実性を踏まえた意思決定技術の開発、塩水化予測および地下水資源管理技術、生態系を含めた水環境管理シミュレータの開発、地球温暖化に伴う生物多様性保全のモニタリング・保全技術、グリーンインフラに関する研究。過年度開発した気候変動予測における新たなバイアス補正手法 TR3S(トレス)を用い、主要都市の降雨・気温の将来気候予測情報を無料で取得できるポータルサイト NK-ClimVault(クリム・ボールト)を公開中。上記、世界的な水資源リスク評価の研究をテーマとする東京大学・サントリーとの連携講座の継続。
(4) 社会資本の維持管理・更新に係る研究開発
社会インフラのモニタリングシステム技術に関する研究、既設構造物の対策優先順位決定に関する研究、社会資本施設のアセットマネジメントシステムに関する研究、デジタルツイン基盤技術に関する開発。AIによる橋梁インフラ点検・診断システムの開発で、国交省の第7回インフラメンテナンス大賞優秀賞、2023年度土木学会インフラメンテナンスチャレンジ賞、2023年度全日本建設技術協会全建賞受賞。
(5) 先端技術の研究・開発
AI洪水予測、AIダム操作、地すべり斜面判読および交通都市のデータ解析分野における先端深層学習技術の適用、自然言語処置、IoT、ドローン、各種センサーに関する技術動向調査と技術開発、XR等可視化技術開発、環境DNA(特許出願「天然海綿を用いた環境DNAのパッシブサンプリング方法と天然海綿からの核酸物質回収方法」技術を活用した調査手法の確立、レジリエンス技術定量評価技術(下水道、道路・交通ネットワーク、DER)等の研究。生成AIに関するシステム開発をプレスリリース。金融アライアンスのFANPSが公開したネイチャーポジティブに資するソリューションカタログに、土壌藻類を活用した自然にやさしい侵食防止・緑化工法(BSC工法)が掲載。同技術が、第51回環境賞「環境大臣賞」を受賞。
(6) 教育機関および研究機関との技術交流
台湾成功大学、中国清華大学、カンボジア工科大学、ミャンマー工学会、スリランカ国ペラデニア大学、英国ウォーリングフォード水理研究所、インド工科大学、台湾シノテック社、ミャンマーヤンゴン工科大学、マレーシア工科大学、インドネシアガジャマダ大学、タイチュラロンコン大学、筑波大学、山口大学とのMOU締結による技術交流活動の実施。東京農業大学および日健総本社との3者MOU締結によるBSC共同研究。
当事業における研究開発費は988百万円です。
(エネルギー事業)
当事業分野における研究開発は、主として、日本工営エナジーソリューションズによって実施されています。
当連結会計年度の主な研究開発は次のとおりです。
(1) 最適化設計手法を用いたフランシス水車の性能向上研究
複合領域最適化ツールを使用して、フランシス水車のランナベーンの最適化設計を行い、水車性能の向上と
水力設計の工程短縮を目指す研究。
(2) アグリゲーションビジネス向けシステムの研究開発
エネルギー事業の領域拡大を目的とし、再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業(経済産業省主管)への参加および需給調整市場などの実市場取引に必要なアグリゲーションシステムの開発に関する研究。
(3) FIP向けDC蓄電池システムの研究開発
新たに始まったFIP制度(feed in premium)で運用する太陽光発電所内への設置を目的としたDC接続型蓄電池システムの構築および製品化に関する研究。
(4) AI・電気自動車等の先端技術活用研究
コアテクノロジーとして重要性が増しているAIや電気自動車などの技術動向を調査し、当社グループの製品・蓄電ビジネスの拡大に向けた活用を目指す研究。
(5) アグリビジネスの研究開発
スマート農業分野への新規参入を目的とし、農業技術の習得、スマート農業製品やサービスの開発、および実証施設の構築に関する研究。
当事業における研究開発費は