第2【事業の状況】

1【事業等のリスク】

当中間連結会計期間において、新たに発生した事業等のリスクはありません。

また、下記の記載事項を除き、前事業年度の有価証券報告書に記載した事業等のリスクについて重要な変更はありません。

 

知的財産権に関するリスク

2020年10月、Seagen Inc.は、エンハーツを含む当社ADCがSeagen Inc.の保有する米国特許を侵害するとして特許侵害訴訟をテキサス州東部地区連邦地方裁判所に提起しました。2022年7月、同裁判所はエンハーツが当該特許を侵害していること、Seagen Inc.に42百万米ドルの損害が発生したこと、及び当該特許の故意侵害を認定しましたが、損害賠償額は増額しないとする判決を下しました。2023年10月、同裁判所は、上記判決を不服とする当社の申立(post-trial motions)を棄却し、当該判決で決定された42百万ドルの損害賠償額に加え、2022年4月1日からSeagen Inc.の米国特許が満了する2024年11月4日までのエンハーツの米国売上に対する8%のロイヤリティーの支払を命じる一審判決を下しました。2023年11月、当社は、一審判決に対し米国連邦巡回区控訴裁判所に控訴を提起いたしました。なお、仮にSeagen Inc.に当該米国特許の侵害に係る賠償金を支払うこととなった場合には、アストラゼネカ社と締結したエンハーツの共同開発及び販売提携に関する契約に基づき、これをアストラゼネカ社と折半して負担いたします。

一方で、2020年12月、当社らは、Seagen Inc.の当該米国特許が無効であるとして、米国特許商標庁に当該米国特許の有効性を審査する特許付与後レビュー(Post Grant Review、以下「PGR」という。)の請求を行っていましたが、2024年1月、米国特許商標庁は、当該米国特許が無効であるとの決定を下しました。2024年5月、Seagen Inc.は米国特許商標庁の決定に対して米国連邦巡回区控訴裁判所に控訴を提起しました。

2024年7月、米国連邦巡回区控訴裁判所は、特許侵害訴訟の控訴審とPGRの控訴審を関連する訴訟として同一の裁判官合議体が審理することを決定しました。

 

2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 業績の状況

当社グループの当中間連結会計期間(自 2024年4月1日 至 2024年9月30日)の連結業績は、次のとおりであります。

 

<連結業績(コアベース)>

 (単位:億円)

 

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

対前年同期増減

売上収益

7,263

8,827

1,564

21.5%

売上原価

(注)

1,884

1,930

46

2.5%

販売費及び一般管理費

(注)

2,766

3,299

532

19.2%

研究開発費

(注)

1,660

1,933

273

16.4%

コア営業利益

(注)

953

1,666

713

74.8%

一過性の収益

(注)

7

203

196

-

一過性の費用

(注)

10

0

△9

△100.0%

営業利益

951

1,869

918

96.6%

税引前中間利益

1,021

1,926

905

88.6%

親会社の所有者に帰属する

中間利益

970

1,467

497

51.2%

中間包括利益合計額

1,761

1,101

△660

△37.5%

(注)当社グループは、経常的な収益性を示す指標として、営業利益から一過性の収益・費用を除外したコア営業利益を開示しております。一過性の収益・費用には、固定資産売却損益、事業再編に伴う損益(開発品や上市製品の売却損益を除く)、有形固定資産及び無形資産並びにのれんに係る減損損失、損害賠償や和解等に伴う損益の他、非経常的かつ多額の損益が含まれます。

本表では、売上原価、販売費及び一般管理費、研究開発費について、一過性の収益・費用を除く実績を示しております。

 

<主要通貨の日本円への換算レート(期中平均レート)>

 

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

米ドル/円

141.00

152.62

ユーロ/円

153.38

165.93

 

売上収益

売上収益は、前年同期比1,564億円(21.5%)増収の8,827億円となりました。グローバル主力品エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン T-DXd/DS-8201)、リクシアナ(一般名:エドキサバン)等の伸長及び円安の進行による為替の増収影響等により、増収となりました。売上収益に係る為替の増収影響は396億円でありました。

 

コア営業利益

コア営業利益は、前年同期比713億円(74.8%)増益の1,666億円となりました。売上原価は、売上収益が増加したものの、製品構成の変化に伴う原価率改善等により、46億円(2.5%)増加の1,930億円に留まりました。販売費及び一般管理費は、エンハーツに係るアストラゼネカ社とのプロフィット・シェアの増加による費用増等により、532億円(19.2%)増加の3,299億円となりました。研究開発費は、5DXd-ADCs(トラスツズマブ デルクステカン、ダトポタマブ デルクステカン:Dato-DXd/DS-1062、パトリツマブ デルクステカン:HER3-DXd/U3-1402、イフィナタマブ デルクステカン:I-DXd/DS-7300、DS-6000)への研究開発投資の増加等により、前年同期比273億円(16.4%)増加の1,933億円となりました。コア営業利益に係る為替の減益影響は14億円でありました。

 

営業利益

営業利益は、前年同期比918億円(96.6%)増益の1,869億円となりました。第一三共エスファ㈱の株式譲渡益の計上等により、一過性の収益が増加したため、コア営業利益に比べて増益額が拡大いたしました。

 

税引前中間利益

税引前中間利益は、前年同期比905億円(88.6%)増益の1,926億円となりました。為替差損益の悪化等により、金融収支が14億円悪化したため、営業利益に比べて増益額が縮小いたしました。

 

親会社の所有者に帰属する中間利益

親会社の所有者に帰属する中間利益は、前年同期比497億円(51.2%)増益の1,467億円となりました。第一三共エスファ㈱の譲渡決定に伴う税効果会計の影響等により、前年同期の法人税等が減少していた一方、当中間期はその影響がなく、法人税等が増加したため、税引前中間利益に比べて増益額が減少いたしました。

 

中間包括利益合計額

中間包括利益合計額は、海外子会社の純資産に係る為替換算差額が減少したこと等により、前年同期比660億円(37.5%)減益の1,101億円となりました。

 

 

<連結業績(IFRSベース)>

 (単位:億円)

 

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

対前年同期増減

売上収益

7,263

8,827

1,564

21.5%

売上原価

1,884

1,931

47

2.5%

販売費及び一般管理費

2,776

3,374

597

21.5%

研究開発費

1,661

1,933

272

16.4%

その他の収益

8

279

271

-

その他の費用

0

0

△0

△95.0%

営業利益

951

1,869

918

96.6%

税引前中間利益

1,021

1,926

905

88.6%

親会社の所有者に帰属する

中間利益

970

1,467

497

51.2%

中間包括利益合計額

1,761

1,101

△660

△37.5%

 

当社グループのユニット別売上収益状況は次のとおりであります。

 

① ジャパンビジネスユニット

ジャパンビジネスユニットの売上収益には、イノベーティブ医薬品事業及びワクチン事業の製品売上収益が含まれております。

当ユニットの売上収益は、リクシアナ、エンハーツ、タリージェ等が伸長したものの、第一三共エスファ㈱の連結除外に伴い、2024年4月以降、ジェネリック事業の製品の売上収益が含まれなくなったことから、前年同期比72億円(2.9%)減収の2,397億円となりました。

 

当中間連結会計期間における主な進捗は次のとおりであります。

・2024年6月、抗悪性腫瘍剤エザルミアの再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)の承認を取得し、プロモーションを開始いたしました。

・2024年7月、不眠症治療剤ベルソムラについて、日本において同年10月1日付でMSD株式会社より当社へ販売移管することを決定いたしました。

・2024年9月、COVID-19 mRNAワクチン ダイチロナ筋注(オミクロン株JN.1)を日本において発売いたしました。

 

<ジャパンビジネスユニット主力品売上収益>

(単位:億円)

製品名

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

対前年同期増減

リクシアナ

抗凝固剤

571

679

108

18.9%

タリージェ

疼痛治療剤

227

278

51

22.3%

プラリア

骨粗鬆症治療剤・関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制剤

211

211

0

0.0%

ビムパット

抗てんかん剤

127

155

27

21.6%

エンハーツ

抗悪性腫瘍剤

(抗 HER2 抗体薬物複合体)

104

155

51

49.6%

ランマーク

がん骨転移による骨病変治療剤

103

104

1

1.0%

エフィエント

抗血小板剤

124

157

33

26.3%

カナリア

2型糖尿病治療剤

81

81

0

0.0%

ロキソニン

消炎鎮痛剤

80

68

△12

△14.6%

イナビル

抗インフルエンザウイルス薬

19

2

△17

△90.8%

ミネブロ

高血圧症治療剤

40

48

8

19.9%

 

② 第一三共ヘルスケアユニット

第一三共ヘルスケアユニットの売上収益は、マイティア、ロキソニン、ミノン等の伸長により、前年同期比51億円(13.7%)増収の425億円となりました。

 

③ オンコロジービジネスユニット

オンコロジービジネスユニットの売上収益には、第一三共Inc.(米国)及び第一三共ヨーロッパGmbHのがん製品売上収益が含まれております。

当ユニットの売上収益は、欧米におけるエンハーツの伸長により、前年同期比667億円(44.8%)増収の2,155億円、現地通貨ベースでは、357百万米ドル(33.8%)増収の1,412百万米ドルとなりました。

 

当中間連結会計期間における主な進捗は次のとおりであります。

・2024年4月、エンハーツのHER2陽性の複数の固形がんを対象とした米国における承認を取得し、プロモーションを開始いたしました。

 

<オンコロジービジネスユニット主力品売上収益>

(単位:億円)

製品名

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

対前年同期増減

エンハーツ

抗悪性腫瘍剤

(抗 HER2 抗体薬物複合体)

1,451

2,107

656

45.2%

 

エンハーツ(米)

1,059

1,401

343

32.4%

エンハーツ(欧)

392

705

313

79.7%

TURALIO

抗腫瘍剤

26

32

6

24.6%

ヴァンフリタ

抗悪性腫瘍剤

(FLT3阻害剤)

11

17

5

45.6%

 

④ アメリカンリージェントユニット

アメリカンリージェントユニットの売上収益は、インジェクタファー等の増収により、前年同期比94億円(9.5%)増収の1,081億円、現地通貨ベースでは、8百万米ドル(1.2%)増収の708百万米ドルとなりました。

 

<アメリカンリージェントユニット主力品売上収益>

(単位:億円)

製品名

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

対前年同期増減

インジェクタファー

鉄欠乏性貧血治療剤

257

285

28

10.8%

ヴェノファー

鉄欠乏性貧血治療剤

291

297

6

2.1%

GE注射剤

373

437

64

17.0%

 

⑤ EUスペシャルティビジネスユニット

EUスペシャルティビジネスユニットの売上収益には、がん製品を除く第一三共ヨーロッパGmbHの製品売上収益が含まれております。

当ユニットの売上収益は、リクシアナ、Nilemdo/Nustendiの伸長により、前年同期比317億円(36.7%)増収の1,182億円、現地通貨ベースでは149百万ユーロ(26.4%)増収の712百万ユーロとなりました。

 

当中間連結会計期間における主な進捗は次のとおりであります。

・2024年5月、Nilemdo/Nustendiの心血管疾患の抑制の承認を取得し、プロモーションを開始いたしました。

 

<EUスペシャルティビジネスユニット主力品売上収益>

(単位:億円)

製品名

前中間連結会計期間

当中間連結会計期間

対前年同期増減

リクシアナ

抗凝固剤

679

906

227

33.5%

Nilemdo / Nustendi

高コレステロール血症治療剤

68

164

96

140.3%

オルメサルタン

高血圧症治療剤

92

95

3

3.2%

 

⑥ ASCAビジネスユニット

ASCA(注)ビジネスユニットの売上収益には、海外ライセンシーへの売上収益等が含まれております。

当ユニットの売上収益は、ブラジルにおけるエンハーツの伸長等により、前年同期比165億円(19.9%)増収の996億円となりました。

(注)Asia, South & Central Americaの略。

 

当中間連結会計期間における主な進捗は次のとおりであります。

・2024年8月、エンハーツのHER2陽性胃がんを対象とした中国における承認を取得し、プロモーションを開始いたしました。

 

ユニット別売上収益構成比は次のとおりであります。

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(2) 財政状態

当中間連結会計期間末における資産合計は3兆2,971億円となりました。営業債権及びその他の債権、現金及び現金同等物、並びにその他の非流動資産が増加した一方で、その他の金融資産(流動)の減少等により、前期末より1,640億円の減少となりました。

負債合計は1兆6,743億円となりました。その他の金融負債(非流動)が増加した一方で、営業債務及びその他の債務、売却目的で保有する資産に直接関連する負債、並びにその他の非流動負債の減少等により、前期末より982億円の減少となりました。

資本合計は1兆6,228億円となりました。中間利益の計上等による増加があった一方で、配当金の支払及び自己株式の取得(2,153万株、1,200億円:取得総数5,500万株又は取得総額2,000億円を上限)による減少等により、前期末より658億円の減少となりました。

親会社所有者帰属持分比率は49.2%となり、前期末より0.4%増加しております。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当中間連結会計期間末における現金及び現金同等物は、期首に比べ605億円増加し、7,077億円となりました。

営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前中間利益1,926億円による資金の増加があった一方で、営業債権及びその他の債権の増加の他、法人所得税の支払額等により、766億円の支出(前年同期は644億円の支出)となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資による支出があった一方で、定期預金の払戻による収入等により、3,464億円の収入(前年同期は2,650億円の収入)となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得による支出の他、配当金の支払等により、1,862億円の支出(前年同期は773億円の支出)となりました。

 

(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題

当中間連結会計期間において、当社グループが対処すべき課題に重要な変更及び新たに生じた課題はありません。

 

(5) 研究開発活動

当中間連結会計期間におけるグループ全体の研究開発費(IFRSベース)は1,933億円(前年同期比16.4%増)となり、売上収益に対する研究開発費の比率は21.9%となりました。

 

(6) 経営成績に重要な影響を与える要因

当中間連結会計期間において、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因に重要な変更はありません。

 

3【経営上の重要な契約等】

当中間連結会計期間における、経営上の重要な契約等の締結等は次のとおりであります。

 

販売契約等(導入)

終了・解約した契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の内容

対価

契約期間

第一三共㈱

(当社)

田辺三菱製薬㈱

日本

同社の血糖降下剤「テネリア」の日本国内における独占販売及び共同販促

契約一時金

マイルストーン

自 2012年3月

至 2024年9月

第一三共㈱

(当社)

田辺三菱製薬㈱

日本

同社の血糖降下剤「カナグル」の日本国内における共同販促

契約一時金

マイルストーン

自 2012年3月

至 2024年9月

(注)2024年9月に期間満了により終了いたしました。

 

販売契約等(導出)

変更した契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の内容

対価

契約期間

第一三共㈱

(当社)

Merck & Co., Inc.

Harpoon Therapeutics, Inc.

アメリカ

抗がん剤「HER3-DXd」「I-DXd」「DS-6000」及び「MK-6070」の全世界での共同開発及び販売提携

契約一時金

マイルストーン

一定料率の実施料

日本を除く全世界における利益と販売費等費用の折半、開発費の一部の負担

自 2023年10月

至 全ての開発及び販売を恒久的に中止するまで

(注)「HER3-DXd」「I-DXd」「DS-6000」を対象とした原契約に、Merck & Co., Inc.が開発中の「MK-6070」を追加しております。詳細につきましては、「第4 経理の状況 1 要約中間連結財務諸表等 要約中間連結財務諸表注記 18.共同開発及び共同販促」に記載のとおりであります。