第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1) 会社の経営の基本経営方針

当社グループは、1955年の創業以来、石油・天然ガスの探鉱・開発・生産・販売を中心事業とする企業として、埋蔵量の確保と生産の拡大を図ることを通じて我が国のエネルギーの供給に貢献することを使命に、石油・天然ガスの発見を重ねながら現在の経営基盤を確立してまいりました。

供給規模の拡大に伴い、安定供給に対する当社グループの社会的責任は益々増加するとともに、世界的な脱炭素化の進展による不可逆的なエネルギー需給構造等の変化を踏まえた新たなビジネスモデルの構築が極めて重要となることから、当社は、経営環境の変化に対応しながら市場競争力を持った企業として発展することを目指し、次のとおり当社企業グループの経営理念を掲げております。

 

「私たちは、エネルギーの安定供給を通じた社会貢献を使命とするとともに、持続可能な開発目標の実現に向けた社会的課題の解決に取り組みます。」

・国内外において、石油・天然ガスの探鉱・開発・生産・販売に取り組みます。

・当社国内インフラ基盤を活用したガスサプライチェーンを、電力供給を加えてさらに強化します。

・当社の技術と知見を活かした新技術開発とその事業化を通じて、エネルギーや気候変動に係る持続可能な社会への課題解決に貢献します。

・すべてのステークホルダーとの信頼を最優先とし、企業としての持続的な発展と企業価値の最大化を図ります。

 

(2) 中長期的な経営戦略及び対処すべき課題

当社は、世界的な脱炭素化の進展による不可逆的なエネルギー需要構造等の変化を踏まえ、2021年5月に、カーボンニュートラル社会実現に向けて当社が果たすべき責務と今後の事業展開の方向性を整理した「JAPEX2050」を策定・公表しました。

また、収益力強化と2030年以降を見据えた事業基盤の構築を基本方針とする「JAPEX経営計画2022-2030」を2022年3月に策定・公表しました。

 

「JAPEX2050」及び「JAPEX経営計画2022-2030」の要旨は以下のとおりです。

 

[JAPEX2050]

1) GHG排出削減目標

①自社操業の排出量(Scope1+Scope2)の「2050年ネットゼロ」実現

第1段階として、当社操業のCO2排出原単位を2030年度までに、2019年度比で40%削減します。

(注)Scope1:事業者又は家庭が所有又は管理する排出源から発生する温室効果ガスの直接排出

Scope2:電気、蒸気、熱の使用に伴う温室効果ガスの間接排出

②自社サプライチェーン排出量(Scope3)の削減に寄与する事業領域の強化

CO2実質排出量削減を目指し、新たな技術の確立や環境負荷の低いエネルギー供給で貢献します。

(注)Scope3:Scope2を除くサプライチェーンの間接排出

 

2) カーボンニュートラル社会実現に向け注力する取り組み

①CO2圧入・貯留技術を核としたネットゼロ達成へ貢献する分野の事業化

国内トップランナーとして、CCS/CCUSの早期の実用化と事業化を目指します。

・実施候補地点(深部塩水層)の調査・選定、圧入坑井の掘削、貯留したCO2のモニタリング等で、石油・天然ガスE&Pで培った当社の強みを最大限に活用

(注)深部塩水層:飲料に適さない古海水(塩水)を含んだ地下深部の砂岩層等のこと。石油・天然ガスの貯留層と比較し地理的分布が広く、CO2貯留の可能性が期待される

・分離・回収されたCO2の輸送に関しては、天然ガス・LNG(液化天然ガス)供給に関する経験や知見を活用し貢献

CCS/CCUSとの連携が期待できる、カーボンニュートラルに関する協業や参入を目指します。

・BECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage:CCS付きバイオマス発電)、CCS付き天然ガス火力発電所等を想定

・ブルー水素や、メタネーション等のカーボンリサイクル分野への参入を視野

 

②再生可能エネルギープロジェクトの参画拡大

従来事業の知見や経験を活かしながら、当社が参画する再生可能エネルギープロジェクトの拡大を目指していきます。

・特に、天然ガス発電の経験を活用できるバイオマスや、E&Pの知見との親和性が高い洋上風力を中心に、候補案件の拡大を含む事業化検討を推進

 

③石油・天然ガスの安定供給

石油・天然ガスは今後も世界の主要なエネルギーの一つであるという認識のもと、当社はその需要に引き続き応えていきます。

「石油・天然ガスからの完全な脱却」ではなく、CCS/CCUS等脱炭素技術の併用による「カーボンニュートラル社会」の実現を、総合エネルギー企業として目指していきます。

・天然ガス開発プロジェクトへの参画と、参画プロジェクトへのCCS/CCUS導入検討

・石炭や重油からの燃料転換需要に対応する、天然ガス・LNGの多様な供給方式の横展開

 

[JAPEX経営計画2022-2030]

1) 基本方針

収益力の強化と、2030年以降を見据えた事業基盤の構築

 ・E&P分野、インフラ・ユーティリティ分野、カーボンニュートラル分野における重点項目の推進を通じて、資本コストに見合う利益水準の達成と株主還元の強化を実現

 

2) 経営目標

①定量目標

・事業利益:2026年度に300億円、2030年度に500億円

・ROE:2026年度に5%、2030年度に8%

・利益構成(E&P分野:E&P以外の分野):2026年度に6:4、2030年度に5:5

 (注)事業利益:各分野の営業利益および持分法投資利益等(投資事業有限責任組合契約や匿名組合契約にもとづき分配される利益を含む)の合計から、本社管理費等の約60億円を減じた値。原油価格想定はJCC50USD/bbl。

 

②カーボンニュートラル関連目標

・2030年度までに当社既存国内油ガス田等を活用したハブ&クラスター型CCS/CCUSモデル事業を立ち上げ

・2030年度までに自社操業におけるGHG排出原単位を2019年度比40%削減

 

3) 資金配分

・キャッシュイン5,000億円のうち、4,500億円を成長投資に、500億円を株主還元に配分

 

4)分野別事業利益目標と重点項目

①E&P分野

早期の収益規模拡大へ貢献しつつ、低炭素化へも対応

・事業利益目標:2026年度に230億円、2030年度に270億円

・重点項目

国内:既存油ガス田における石油・天然ガスの安定生産、既存油ガス田および周辺の追加開発、

油ガス生産操業拠点のGHG排出量削減対応

海外:既存プロジェクトの着実な遂行、新規権益取得

 

②インフラ・ユーティリティ分野

油価変動等の外部環境の変化に耐えうる事業構造への移行

・事業利益目標:2026年度に120億円、2030年度に270億円

・重点項目

国内:ガス供給量の維持・拡大、FGP発電所の安定運転継続、再生可能エネルギー開発中案件の

着実な進捗と参入案件追加

海外:LNG供給インフラ開発案件への参入、再生可能エネルギー参入検討

(注)FGP:福島天然ガス発電所を運営する、福島ガス発電株式会社(当社33%出資)の略

 

③カーボンニュートラル分野

2050年カーボンニュートラル社会への円滑な移行に貢献

・事業利益目標:2026年度に10億円、2030年度に20億円

・重点項目

国内:既存油ガス田等を活用したハブ&クラスター型CCS/CCUSモデル事業立ち上げ等

海外:CCS先進地域での案件参入、新興国におけるCCS/CCUS実現可能性調査への参加

 

5) 株主還元

2023年3月期中間・期末配当から、連結配当性向30%を目安に各期の業績に応じた配当を行うことを基本方針としつつ、事業環境の変化等により一時的に業績が悪化した場合でも、一株当たり年間50円配当の維持に努めます。(ただし、特別損益等の特殊要因により親会社株主に帰属する当期純利益が大きく変動する事業年度については、その影響を考慮し配当額を決定します。)

 

上記を踏まえ、2023年度には、持続的な成長と中長期的な企業価値向上への取り組みを加速するために以下の整理を行いました。

 

・ROEは東証プライム平均値を上回る水準で推移していることから、PBR1倍未達の主たる要因は平均を下回るPERにあると分析

・低PERの原因として、脱炭素社会に向けた石油・天然ガス事業の持続可能性や、原油・天然ガス価格のボラティリティ等の構造的要因に加え、当社の企業価値向上に向けた取り組みに対する理解・信認が得られていないことも一因と認識

・企業価値向上に向けた今後の方針を「資本効率にこだわった投資」「株主還元の充実」「継続的なステークホルダーとの対話」の3点に整理

 

当社は、「JAPEX2050」及び「JAPEX経営計画2022-2030」の着実な遂行により、2050年カーボンニュートラル社会実現への貢献と、総合エネルギー企業としての成長と企業価値のさらなる向上を引き続き目指してまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ全般

<基本的な考え・取り組み>

 当社は、「エネルギーの安定供給」が使命であり、事業活動そのものがCSRであると考えています。この考えのもと、持続可能な社会実現に向けた社会的課題の解決に積極的に取り組むという、サステナビリティ活動に関する方針と中長期の価値創造を実現するための5つのCSR重点課題「SHINE」にもとづいたサステナビリティ活動を推進しています。そして、重点課題および個別課題に沿ったCSR実行計画を毎年設定し、その達成状況のレビューならびに次年度の目標設定を社長が委員長であるサステナビリティ委員会で行うことでPDCAサイクルを回しています。

 

 2023年、CSR重点課題「SHINE」と経営計画とをつなぐものとしてマテリアリティを定義し、自らの持続的成長のために今特に取り組むべき4つの課題をCSR重点課題「SHINE」の中から特定しています。

 

 「SHINE」が意味する5つのCSR重点課題および4つのマテリアリティの対応関係は次のとおりです。

 

CSR重点課題

個別課題

マテリアリティ

ESG

対応するSDGSの要素

[S] エネルギー安定供給

Stable and sustainable energy supply

①エネルギー安定供給

②新技術の開発

③気候変動への対応

・エネルギー安定供給

・カーボンニュートラル事業の確立

・デジタル・トランスフォーメーション(DX)

E、S

 

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[H] 企業文化としてのHSE

HSE as our culture

④労働安全衛生の確保

⑤汚染防止・資源循環

⑥生物多様性・生態系保全

 

E、S

 

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[I] 誠実性とガバナンス

Integrity and governance

⑦ガバナンス

⑧危機管理

⑨コンプライアンス

 

G

 

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[N] 社会との良好な関係構築

Being a good Neighbor

⑩ステークホルダーとの共生・発展

 

S

 

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[E] 選ばれる魅力ある職場

The Employer of choice

⑪人材育成とダイバーシティ推進

⑫公正で働きやすい職場

・人材育成とダイバーシティ推進

・デジタル・トランスフォーメーション(DX)

S

 

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0102010_013.png

 

 

 

 

・「エネルギー安定供給」は、個別課題①のうち、石油・天然ガスの開発にかかるものと対応します。

・「カーボンニュートラル事業の確立」は、個別課題②と③のうち、CCS/CCUS等にかかるものと対応します。

・「人材育成とダイバーシティ推進」は、個別課題⑪と⑫のうち、人材育成、ダイバーシティおよびこれに関連するものと対応します。

・「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」は、SHINEのどの個別課題ともかかりますが、具体的な設定目標としては個別課題①と⑫と対応します。

 

 

 

 また、各マテリアリティの内容は次のとおりです。マテリアリティの進捗に関しては、当社ウェブサイトや統合報告書で適宜公表していく予定です。

 

<「事業を通じた社会貢献」に向けた課題>

 エネルギー安定供給

・2050年カーボンニュートラル社会においても、石油・天然ガスは社会に必要不可欠なエネルギーであり続けると考えます。

・この考えのもと、今後も石油・天然ガスの開発を通じて、エネルギー安定供給に取り組みます。

 

 カーボンニュートラル事業の確立

・将来においてもエネルギーの安定供給を実現するため、CCS等を事業として確立し、カーボンニュートラル社会に貢献します。

 

<「経営基盤の強化」に向けた課題>

 人材育成とダイバーシティ推進

・人材は価値創造の源泉であり、当社の経営計画実現の要です。

・人材育成により従業員一人ひとりの価値創出能力を高めるとともに、ダイバーシティを進めることで会社全体としての総合力強化を図ります。

 

 デジタル・トランスフォーメーション(DX)

・データとデジタル技術の戦略的活用により付加価値の高い業務に専念できる職場環境を実現し、さらなる企業価値向上へと挑戦を続けていきます。

 

<ガバナンス>

 取締役会による監督のもと、適切な意思決定を行う体制を構築しています。持続的な成長を果たすうえでの中長期の経営課題とそれに付随するサステナビリティ関連事項の審議を行うサステナビリティ委員会を設置しています。サステナビリティ委員会で審議した事項は、取締役会に適宜報告され、重要事項は決議されます。

 サステナビリティ委員会は、社長を委員長として、各部門の役員を委員として組織し、常勤監査役がオブザーバーとして出席しています。

会議体

委員長

開催頻度

(2023年度)

主な審議事項

サステナビリティ委員会

社長

16回

・経営計画の策定・レビュー

・倫理行動規範を含むサステナビリティに関する基本方針

・ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する重要事項

・CSR重点課題、CSR実行計画の設定・レビュー

・統合報告書など社外へのサステナビリティ情報開示

(注)サステナビリティを含む取締役会の活動状況については、後記「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況 (1)コーポレート・ガバナンスの概況」をご参照ください。

 

 なお、投資決定に際しては、投資評価委員会がESGや地政学を含む多角的な観点からリスクを評価し、その結果を基に経営会議および取締役会がリスクと機会を考慮して合理的な判断を行います。また、ESGに関する活動状況を毎年、取締役会に報告しています。

 また、当社の各取締役および各監査役の知識・経験・能力を一覧化したスキル・マトリックスの項目において、ESG・サステナビリティに関するスキルを記載しています。

 

<リスク管理>

 当社は、経営リスク委員会を設置し、サステナビリティに関わるリスクを含む全社的な主要リスクのマネジメントを行っています(統合リスクマネジメント)。

会議体

委員長

開催頻度

(2023年度)

主な審議事項

経営リスク委員会

社長

1回/3カ月

・全社的なリスクに関すること(抽出・評価)

・実行・操業段階にある主要プロジェクトの進捗管理、課題対応

・コンプライアンス違反事例の検証

 

 統合リスクマネジメントにおいては、リスクマトリックスを作成し、全社的なリスクの抽出・評価を行っています。社内各部門が事業の内容や展開エリア、関連規制等に基づきリスクを抽出し、各リスクを「発生の蓋然性」と「発生時の影響度」の視点で定量的に評価します。リスク評価結果は、毎年、経営リスク委員会で審議のうえ、取締役会に報告され、「主要なリスク」と位置づけられたものを後記「3 事業等のリスク」で開示しています。

 

 経営リスク委員会で抽出されたリスクのうち、特に長期的対応が必要と認識された経営課題は、JAPEX2050・JAPEX経営計画2022-2030およびESGを扱うサステナビリティ委員会において、対応方針を議論しています。さらに、当社のサステナビリティ委員会では経営計画の策定およびその進捗管理の過程において、サステナビリティに関わる機会を含めて事業ポートフォリオを評価し、管理しています。

 なお、気候変動に関するリスクおよび機会の管理の取り組みについては、後記「(2)気候変動<リスク管理>」をご参照ください。

 

(2)気候変動

 当社は、気候変動対応を経営上の最重要課題のひとつに位置づけています。気候変動に対する世界的なイニシアティブや、政府の掲げる「2050年カーボンニュートラル」への貢献を目指し、子会社・関連会社を含むJAPEXグループ全体で、GHG排出量削減やCCSなどの新技術開発を通じた事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。

 

<ガバナンス>

 取締役会による監督のもと、適切な意思決定を行う体制を構築しています。

 気候変動のリスクや機会を含む業務執行上の重要事項は各種委員会および経営会議で審議された後、取締役会にて決議あるいは報告が行われます。気候変動対応を含む中長期的な方針や計画などの執行上の重要事項が決議対象であり、「JAPEX2050~ カーボンニュートラル社会の実現に向けて~」(JAPEX2050)、「JAPEX経営計画2022-2030」は取締役会で決議された事項です。そのほかに、GHG排出削減目標の進捗、ESG外部評価結果やESG活動状況などが取締役会において毎年報告されます。

 気候変動対応は、経営会議に加えて、サステナビリティ委員会、経営リスク委員会、投資評価委員会においても扱うこととしています。各会議体での審議、報告、事業部門と各会議体の相互の情報連携や統制管理により、気候変動対応のPDCAサイクルを構築しています。

 2022年度からは、気候変動ガバナンス強化のため、役員報酬を全社気候変動対応目標の達成度の結果に連動させることとしています。

 

<戦略>

 当社は化石資源を扱う事業特性から、気候変動対応を経営上の重要課題のひとつと位置づけており、気候変動が当社事業に及ぼす中長期的な影響を評価するため、シナリオ分析を実施しています。2022年3月の「JAPEX経営計画2022-2030」の策定にあたっては、中長期的な財務影響分析として、国際エネルギー機関の「World Energy Outlook」のなかで示される4つのシナリオ(NZE※1、SDS※2、APS※3、STEPS※4)で公表されている炭素価格および油価をパラメータとしたシナリオ分析を実施し、その結果をサステナビリティ委員会での経営計画の検討に活用しました。

 気候変動の視点でのリスク資産および機会への投資割合については、継続的に評価を行っており、最も条件が厳しいNZEシナリオにおいても、持続可能な事業ポートフォリオの策定を目指します。

※1 Net Zero Emissions by 2050 Scenario:ネットゼロシナリオ

※2 Sustainable Development Scenario:持続可能な開発シナリオ

※3 Announced Pledges Scenario:発表誓約シナリオ

※4 Stated Policies Scenario:公表政策シナリオ

 

<リスク管理>

 前記「(1)サステナビリティ全般<リスク管理>」に記載の全社的なリスクの抽出・評価プロセスである統合リスクマネジメントのなかで気候変動リスクを管理しています。また、サステナビリティ委員会では経営計画の策定およびその進捗管理の過程において、気候変動における機会を含めた事業ポートフォリオを管理しています。

 

 上記により整理された気候変動に関わるリスクおよび機会は以下のとおりです。

 

気候変動に関わるリスク

リスク区分

発生時期

影響

影響度

対策

移行リスク

政策・法規

長期

炭素税等の環境関連法規による追加的費用負担増加

・2050年ネットゼロ目標に基づくGHG排出削減

・投資実行段階におけるインターナル・カーボンプライシング等による移行リスクの評価

・シナリオ分析結果に基づく持続可能な事業ポートフォリオへの転換

市場および技術

長期

石油・天然ガス需要減少、価格低下等に伴う収益の減少

評判

中期

グローバルな気候協定によるE&P事業への資金調達難

物理的リスク

急性

中期

気象の極端な変動における陸上・海上施設への影響等

ハザードマップ等を用いた気象災害リスク評価の結果、影響は限定的

慢性

中期

海面上昇による陸上・海上施設への影響、水資源枯渇の影響等

科学的データ等を用いた海面上昇等のリスク評価の結果、影響は限定的

(注)中期:5年以内、長期:5年超

 

気候変動に関わる機会

機会の区分

影響時期

影響度

JAPEX経営計画2022-2030での項目

具体的な進捗

資源効率

より効率的な生産および流通プロセスの使用

長期

生産現場でのCCS/CCUSなど脱炭素技術の併用

・海外CCS事業検討(米ワイオミング州南西部の鉱区を保有するBlue Spruce Operating LLCへ資本参加)

・海外CCS/CCUS実現可能性検討(インドネシア・スコワティ油田CO2-EOR(石油増進回収法)(プルタミナ・レミガスと共同))

製品・サービス

低排出商品およびサービスの開発・拡張

長期

CCS/CCUSの早期の実用化と事業化

・「先進的CCS事業の実施に係る調査」に関する公募にて、当社が他社と共同提案した苫小牧エリアと東新潟エリアにおけるCCS実現可能性調査の継続

・海外CCS/CCUS実現可能性検討(マレーシアCCUS(ペトロナスなどと共同))

・国内鉱山における随伴CO2地下貯留検討

中期

LNG供給インフラ開発案件への参入

・ベトナム北部LNG基地プロジェクトへの参入

・ベトナム北部工業団地向けのLNGを活用したエネルギーサービス事業実現可能性調査

中期

環境負荷の低いエネルギー供給や、既存インフラを活用した受託事業等を通じたサービス範囲の拡大

・国内でのカーボンニュートラルLNGの拡販

(注)中期:5年以内、長期:5年超

 

 

<指標と目標>

 自社操業の排出量(Scope1+2)について、以下のとおり2050年ネットゼロ目標、およびマイルストーンとしての2030年度目標を設定しています。なお、以下の目標は、CCSの実用化及び事業化などの気候変動に関わる機会を踏まえて設定しています。

・2050年:ネットゼロ達成

・2030年度:当社操業のGHG排出量(Scope1+2)の排出原単位(GHG排出原単位※)を、2019年度比で40%削減

 ※当社の供給するエネルギー1TJ(テラジュール)当たりの、CO2排出量(トン-CO2)

 

 また、自社サプライチェーン排出量(Scope3)については、削減に寄与する事業領域の強化を目指す定性目標を設定しています。

 

 下表のとおり、2023年度におけるGHG排出原単位の削減率は2019年度比で14%となり、前年度比でも減少しております。

 主な理由は、供給するエネルギーは概ね前年度比で変わらないこと(原単位分母の維持)、生産現場における省エネ施策の実行や再エネ電源の導入(非化石証書購入含む)によりGHG排出量が減少したこと(原単位分子の減少)です。

 

 GHG排出原単位推移

目標

2019年度

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

GHG排出原単位

(トン-CO2/TJ)

3.97

3.44

3.20

3.56

3.40

基準年からの削減率(%)

△13%

△19%

△11%

△14%

※GHG排出量(Scope1+2)は、2020年度から信頼性向上のため第三者保証を取得しておりますが、2023年度の同数値については、有価証券報告書提出日現在において当該第三者により検証中であるため、同年度のGHG排出原単位及び基準年からの削減率は、暫定値を記載しております。

 

(3)人的資本

<ガバナンス>

 人的資本に関する取り組みは、経営上の重要な事項としてサステナビリティ委員会で審議され、取締役会に適宜報告されます。同委員会、取締役会においては、後記「<戦略>」に記載の各種方針等に関する議論のほか、2023年度は主に、年功に偏りがちな「職能に基づく人事制度」から「役割を基軸とした人事制度」への改定につき議論を行いました。

 

<戦略>

 当社は、「JAPEX経営計画2022-2030」のもと、総合エネルギー企業への成長を目指すため、人材戦略を支える基本的な考え方を次のとおり定めています。会社・従業員の行動や人材育成のための環境整備については「人材育成基本方針」、「社内環境整備方針」を、加えて人材の多様性の確保については「JAPEXダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)方針」を制定しております。また、社長を責任者として健康経営を推進するにあたり、「JAPEX健康経営宣言」を制定しています。

 

[人材育成基本方針]

会社と従業員は共に総合エネルギー企業への持続的成長を目指して、

1.従業員は、変化に柔軟に対応する自律したプロフェッショナルとして力を発揮し、事業への貢献を通じて個人の成長を実現する。

2.会社は、従業員に成長の機会を提供し、エネルギーや気候変動に関する技術的、社会的課題の解決にチャレンジできる人材へ育成する。

 

[社内環境整備方針]

会社は、人材育成のために整備する環境として、

1.持続的成長のために、新しく高い目標にチャレンジする仕事の機会を提供する。

2.個人の知識・経験を高め、能力を最大限発揮するためのキャリア支援を行う。

3.それぞれの個性を活かして活躍し、仕事へのやりがいを感じられる風土づくりを行う。

4.自律的に学習し、成長する文化を醸成する。

 

 

[JAPEXダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)方針]

私たちは、事業環境の変化に対応し、総合エネルギー企業としてさらなる成長を図るために、「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」推進を重要な経営課題ととらえ、多様な従業員一人ひとりが持てる能力を十分発揮して活躍・成長し、新しい価値を生み出すことにより、企業競争力の強化および持続的な発展を目指します。

 

性別・国籍・年齢・障がいの有無や、キャリア・パーソナリティ・価値観などの違いを尊重し、こうした特徴や違いに起因する社会的な不均衡を是正することによって、すべての従業員が生産性高く活躍できる組織風土を実現します。

 

①多様性を活かす組織風土の醸成

すべての従業員が多様性をポジティブに受け入れ、違いを尊重し、それぞれの特長や資質を活かす組織風土の醸成を通じて、生産性の向上やイノベーションの創出を図ります。

②多様な人材の活躍促進

性別・国籍・年齢等によらず優秀な人材の確保を進め、適時適切な配置・育成、各々の従業員に合わせたキャリア・能力開発支援を行うことで、あらゆる人材が自律的なプロフェッショナルとして力を発揮し活躍できる仕組みを整え、個々人のエンゲージメントを高めます。

③多様性を尊重する環境の整備

育児や介護、障がい、LGBTQ+など個人の置かれた状況や特性に配慮し、どのような場合でも最大限に力を発揮できる職場環境の整備を推進します。

 

[JAPEX健康経営宣言]

JAPEXグループはエネルギーの安定供給を通じた社会貢献を使命とし、企業としての持続的な発展と企業価値の最大化を図ることとしており、この実現には、HSE(労働安全衛生・環境)に留意した行動が最優先事項であると認識しています。

 

企業の成長、持続的発展のためには「従業員一人ひとりの健康が大事である」という考えのもと健康経営を推進することを宣言します。

 

・労働安全、健康を常に意識し、その確保と労働災害の防止に努めます。

・健康維持・増進に努めるために、ワーク・ライフ・バランスの推進をはじめ、心身ともに快適で働きやすい職場環境づくりに取り組みます。

・個人の多様な価値観、個性、プライバシーを尊重し、差別的取扱いやハラスメント等の防止に取り組みます。

・従業員と従業員家族が健やかに過ごし健康寿命を延ばすことができるよう、健康保険組合・労働組合と協働して心身の健康づくりを推進します。

 

これらの考え方をもとに、以下のような各種施策を実施しています。

 

・人材育成に関すること

 「JAPEX経営計画2022-2030」の実現に向け、DX推進や新しい事業分野への転換を進める人材育成のためのリスキリングプログラムを開始しました。DXについては、2022年度から役員を含む全社員が当該プログラムを受講し、関連する資格を取得した場合は支援を行うことにより、自律的な学習風土を醸成しています。2023年度は高度デジタル人材育成のための教育プログラムを導入し、全社員の1割程度に相当する約100名が参加しました。また、新たな事業を推進する人材を育成するため、財務などの専門性向上を目的としたプログラムも開始しました。加えて、従業員の主体的・自律的な学びによる自己成長・キャリア開発の後押しを企図し、社内講師による講義動画などを中心とした教育コンテンツを体系的に展開する社内大学(JAPEX UNIVERSITY ジャペックス ユニバーシティ)を2022年度に設立し、2023年度末時点で約100講座が展開されています。あわせて、ビジネススキルセミナーを拡充しており、2023年度は、新たに①ロジカルシンキング、②問題解決初級、③契約法務、④ビジネスコミュニケーションの研修を実施しました。今後もこれらの様々な教育プログラムの更なる拡充と体系化を進め、「変革」「挑戦」に資する人材育成を戦略的に行っていきます。

 

・キャリア形成に関すること

 個人が主体的にキャリアを描き、実現するためのサポートとして、社内人材公募制度の充実を図るとともに、社内各部の業務や求める要件を具体的に記載した「業務に関する説明書」を社内で公開しました。また、年代ごとのキャリア研修を実施するほか、社内にキャリア相談窓口を開設し、個別の相談に応じる体制を整えています。加えて、役員、部長等のキャリアを社内公開し、希望者は、直接話が聞ける仕組みを整えました。

 

・ダイバーシティ推進に関すること

 「JAPEX経営計画2022-2030」実現に繋がりうる柔軟な見方や考え方を取り入れるため、多様な経験を持つキャリア採用者を積極的に採用するとともに、中核的ポジションへ就けるよう、管理職への登用を進めています。女性活躍については、相対的に不足している総数と管理職数を課題と捉えて新規学卒採用と管理職登用で目標を定めています。また、多様な人材が活躍できるよう、社員の個別の事情に合わせた働き方の推進に力をいれており、在宅勤務制度やフルフレックスタイム制度を導入しているほか、転居を伴う異動は本人同意を原則としています。男性の育児休業取得にも力を入れ、育児休業取得に積極的な風土醸成を目指しています。このほか、ダイバーシティ推進の障壁を取り除くため、数年前よりアンコンシャスバイアス研修を管理職から開始して一般社員も含め全社員に拡大したほか、2023年度は全従業員を対象にLGBTQ+研修を実施しました。

 

・従業員の健康維持・増進に関すること

 従業員の健康への配慮が成長と持続的発展に資するという考えのもと、健康経営宣言を制定し、社長を責任者とする推進体制を整えています。健康診断や健康サーベイ等の結果を踏まえ、当社が3大健康課題と捉えている「生活習慣改善」「禁煙」「女性の健康課題」について重点的に取り組んでいます。各人がいつでも健診結果や健康関連データを管理できるシステムや健康に関するe-Learningの導入、本社等の一部事業所における終日オフィス内禁煙の導入、禁煙サポート品の会社補助、全従業員を対象とした女性特有のがんに関するセミナー実施等、従業員の健康維持・増進の取り組みを強化しています。

 こうした取り組みが評価され、2024年3月に「健康経営銘柄」に初めて選定されました。また、「健康経営優良法人~ホワイト500~」にも2019年以来4度目の認定をされました。

 

・エンゲージメントに関すること

 個人を取り巻く環境変化に対応しつつ、経営計画を実現するためには、これまで以上に従業員と会社の信頼関係・結びつき(エンゲージメント)を強化していく必要があると捉え、エンゲージメント調査を実施しました。エンゲージメント調査結果を踏まえ、改善に向けた行動計画を各部室で策定して取り組みを進めています。今後も定期的に調査を実施し、全社的なエンゲージメントの更なる向上を目指します。

 

 なお、人的資本に関する取り組みについては、当社グループに属する各社において個別具体的な取り組みが行われており、当社グループとしての記載が困難であるため、提出会社の取り組み・方針を基本として記載しています。

 

<リスク管理>

 当社は全社的なリスクの抽出・評価プロセスである統合リスクマネジメントのなかで人的資本に関するリスクを管理しています。詳細は前記「(1)サステナビリティ全般<リスク管理>」をご参照ください。

 

<指標と目標>

[DE&I方針に目標及び実績]

従業員における女性管理職登用目標と実績

目標

2021年度

2022年度

2023年度

2025年度まで25以上

19名

18名

18

 

新規学卒における女性採用比率目標と実績

目標

2021年度

2022年度

2023年度

2025年度までに毎年30以上

33.3%

33.3%

35.0%

 

管理職における中途採用者比率目標と実績

目標

2021年度

2022年度

2023年度

2025年度まで20以上を維持

24.5%

25.9%

29.0%

 

採用に占める中途採用者比率目標と実績

目標

2021年度

2022年度

2023年度

2025年度まで毎年50以上

56.4%

52.1%

62.7%

 

男性社員の育児休業取得率

目標

2021年度

2022年度

2023年度

2025年度まで80以上

75.6%

58.9%

60.0%

 

(注)人的資本に関する取り組みについては、当社グループに属する各社において個別具体的な取り組みが行われており、当社グループとしての記載が困難であるため、提出会社(提出会社から他社への出向者を含む。)の目標及び実績を記載しています。

 

(4)人権の尊重

<人権方針>

 持続可能な開発目標の実現に向けた社会的課題の解決へ取り組むにあたり、「JAPEXグループ倫理行動規範」のもと、事業活動に関わるステークホルダーの人権の尊重をバリューチェーン全体で推進するという、当社の基本姿勢を定めた「JAPEXグループにおける人権方針」を制定しています。JAPEXグループとして人権を尊重する意思を改めて示すとともに、当社の事業活動に関わる人権課題を明示することで、当社グループの役員・従業員に加え、ステークホルダーの当社の人権に係る取り組みへの理解促進を目的としています。

 

JAPEXグループにおける人権方針

https://www.japex.co.jp/sustainability/social/humanrights/

 

<人権デュー・デリジェンス>

 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」にもとづき、人権デュー・デリジェンスの仕組みを構築し、事業活動に関係する人権への負の影響について特定、防止、軽減に取り組んでいます。バリューチェーンにおいて、人権への負の影響を引き起こしたり助長したりすることを回避することに努めています。

 2023年度は、国内子会社および関連会社(17拠点)を対象とした、人権リスクとそれに対する対応状況の把握・評価を実施しました。この調査によりいくつかの課題が明らかになりました。具体的には、人権デュー・デリジェンスの実施体制、差別の禁止、結社の自由・団体交渉権の分野で対応が不十分であることが判明しました。これらの課題に対処するため、必要な会社には個別に対応策を報告し、予防・軽減策の取り組みの提案を行っています。さらに、子会社および関連会社の役員を対象とした経営層向けの人権勉強会を実施しています。

 

<内部通報制度>

 JAPEXグループでは、「人権の尊重」「公正な調達・取引」「政治・行政との健全かつ正常な関係の保持」といった、コンプライアンス遵守事項についての報告・相談制度を設けています。当社顧問弁護士への報告・相談が可能な社外窓口の設置や、匿名での報告・相談を可能にする秘密保持の徹底、不利益取り扱いの禁止など、報告・相談者の保護を図っています。

 

(5)調達方針

 持続可能な社会実現に向けた社会的課題解決へ取り組むにあたり、JAPEXグループの調達活動におけるCSR要素への取り組みについて定めたCSR調達方針を制定しています。これに加え、JAPEXグループの取引先と協働してCSR調達を推進していくための具体的事項を「CSR調達ガイドライン」に示すことで、本方針への理解と協力を求め、より良いパートナーシップの構築を目指します。

 

CSR調達方針・ガイドライン

https://www.japex.co.jp/sustainability/social/procurement/

 

3【事業等のリスク】

 以下には、当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のある主な事項を記載しております。当社グループは、これらのリスク発生の可能性を認識したうえで、その発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針であります。

 当社では、経営リスク委員会をはじめとした各種社内委員会を用いてリスクの管理を行っていますが、詳細については前記「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)サステナビリティ全般 <リスク管理>」及び後記「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③ 企業統治に関するその他の事項(リスク管理体制の整備の状況)」をご参照ください。

 以下のリスクは、影響度と蓋然性の観点から抽出・分析し、管理しております。なお、各リスクは、経営リスク委員会及び取締役会での議論を経て、当社が主要なリスクとして判断したリスクであり、以下に記載していないリスクにより、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。また、本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は提出日現在において当社が判断したものであります。

 

1 商品市況及び為替に関するリスク

  (1) 原油・天然ガス価格の変動リスク

 当社グループは、国内外でE&P事業と国内においてインフラ・ユーティリティ事業を行っており、その売上高や営業利益は、原油価格や天然ガス価格の変動により大きな影響を受けます。例えば、原油価格や天然ガス価格の変動リスクを低減するため、商品スワップ取引等により対策を一部講じておりますが、当該リスクを完全に回避するものではありません。

 例えば、当社の2025年3月期の営業利益は、油価が1米ドル/バレル増減すると620百万円増減すると試算しております。この増減額には、原油価格にリンクしているLNGの調達コストの増減及びそれによる国内天然ガスと電力の販売価格の増減による影響等を含みます。但し、実際の営業利益は上記以外の様々な要因によっても影響を受けます。

 さらに、原油、天然ガス等の中長期的な想定販売価格の引き下げ等を理由としてその時点における事業用資産の帳簿価額を将来の収益から回収できない見込みとなった場合には、当該資産について減損損失を計上することとなるため、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

  (2) 為替の変動リスク

 当社グループが国内で生産する原油や天然ガスは、原油やLNGの通関価格(CIF価格)を参照した円建てで販売するため、米ドル・円のレートの変動は、売上高や営業利益等に影響を与えます。また、輸入LNGを原料とした天然ガス及び輸入LNGを燃料とした電力の国内販売価格にも影響を与えますが、仕入れ価格も同様の影響を受けます。為替予約等により為替変動リスクを低減する対策を一部講じておりますが、当該リスクを完全に回避するものではありません。

 当社の2025年3月期の営業利益は、為替が1円/米ドル増減すると580百万円増減すると見込んでおります。

 

2 事業に関するリスク

 1.E&P事業

  (1) E&P事業投資(探鉱投資、開発投資等)に関するリスク

 当社によるE&P事業の一般的な特徴として、以下のような投資に関するリスクがあります。

 ① 探鉱投資に関するリスク

 探鉱活動においては、まずは対象地域の地質状況や地層の分析、物理探査などで地質構造を把握し、有望と評価された場合に試掘を行い油ガス層の広がりや資源量を確認します。しかし、近年の発達した探査技術によっても地質的な不確実性を排除することはできず、期待した規模の原油、天然ガスを必ずしも発見できるとは限らないため、探鉱活動の不成功によりそれまでに投じた支出の回収ができず、投資損失が発生する可能性があります。

 

 ② 開発投資に関するリスク

 油・ガス田の開発移行にあたっては、探鉱活動により得られた資源量の見込みや、それを経済的に生産するための坑井、生産・輸送設備等の建設費及び操業費、生産物の販売価格等の見込みといったその時点で得られる様々な情報、想定に基づき合理的に最終投資決定を行うよう努めています。しかし、その後に行う詳細な技術検討による設備仕様の変更や、開発に必要な資機材やサービスの価格高騰、政府等による許認可手続きや掘削等の作業の遅延、生産段階における新たな地質的問題の発生や原油価格・天然ガス価格の下落といった様々な要因により、最終投資決定ができない、又は最終投資決定時の想定と比べて事業の収益性が低下することで、それまでに投じた支出の回収ができず、投資損失が発生する可能性があります。

 

 ③ 将来の廃鉱に関するリスク

 当社グループが現在生産を行っている坑井及び鉱山等については、生産終了後に廃鉱作業を実施する必要があります。当社グループは、現在の見積りに基づく廃鉱に関連して発生する費用の現在価値を資産除去債務として計上しております。将来的に、廃鉱作業計画の変更や法令等の規制強化、又は資機材の高騰等により、当該見積り額が不足すると見込まれる場合には、資産除去債務額の積み増しが必要になり、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、資産除去債務の詳細は、後記「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等  (1) 連結財務諸表 注記事項(資産除去債務関係)」をご参照ください。

 

 ④ 投資回収期間の長さによるリスク

 E&P事業では、初期の基礎的な調査から掘さく作業を経て資源の発見に至るまでの探鉱段階及び資源の発見に至った後に開発井の掘さく、生産設備や輸送設備の建設等を伴う開発段階において、長い期間と多額の投資が必要となります。従って、事業に着手してから投資額を回収し、利益に寄与するまでに長いリードタイムを要するのが通例であり、この間、事業環境の変化により、投資額の増大(開発スケジュールの遅延に起因するものを含みます。)、需要の減少、販売単価の下落、操業費の増加、為替の変動等が発生し、事業の収益性が低下し、それまでに投じた支出の回収ができず、投資損失が発生する可能性があります。

 

 ⑤ 埋蔵量・生産量に関するリスク

 E&P事業の維持発展には、継続的な鉱区権益の取得、探鉱、開発の取組みによって生産活動に伴い減少する埋蔵量・生産量を中長期的に補填・拡大していく必要がありますが、前記「① 探鉱投資に関するリスク」から「④ 投資回収期間の長さによるリスク」に掲げるリスクや後記の海外E&P事業に係るリスク及び気候変動に関するリスク等が存在するため、これらが成功しない場合には、将来的に埋蔵量・生産量が減少し、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 埋蔵量は、評価時点において既知の油・ガス層から地質的、工学的データに基づき経済的にも操業面からも今後確実に採取可能であろうと予測された油・ガスの地上状態での数量であり、今後新たに取得されるデータ等に基づく見直しや経済条件の変動及び国際的に認知された埋蔵量定義の変更等によって、上方にも下方にも修正される可能性があります。詳細は後記「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ④当社グループの埋蔵量」をご参照ください。

 

  (2) 海外E&P事業投資に特有のリスク

 海外E&P事業には、前記「(1) E&P事業投資(探鉱投資、開発投資等)に関するリスク」に加えて、一般的な傾向としてカントリーリスクがあります。海外E&P事業の一部はカントリーリスクの相対的に高い地域で実施されることがあり、これらの国々の政治・経済・社会的な混乱(治安の著しい悪化を含みます。)、法制や税制もしくは政策等の変更が、当社グループの海外事業の円滑な遂行に悪影響を及ぼす可能性があります。主要な海外プロジェクトに関しては、経営リスク委員会において各所在国において懸念される当該リスクについて評価、管理しております。

 

  (3) 海外E&P事業の主な個別プロジェクトに係るリスク

 ① イラク ガラフ油田開発プロジェクト

 当社は、連結子会社㈱ジャペックスガラフへの出資を通じて(2024年3月期末の出資比率 55.00%)、イラク共和国南部におけるガラフ油田開発生産プロジェクトに参画し(同社参加比率30%、資金負担比率40%)、オペレーターであるPETRONAS Carigali Iraq Holding B.V.(ペトロナス社の子会社)と共同で開発事業を推進しております。

 2013年8月に生産を開始し、現在、原油増産に向けて最終開発計画に基づき、引き取り原油の販売収入を設備投資に充当しながら追加開発作業を進めております。

 同プロジェクトにおいては、同国の政治・社会・治安状況等の悪化や石油輸出国機構(OPEC)による協調減産の合意等により、生産量・販売量や売上高・営業利益が減少する可能性があります。また、コストの増加や開発スケジュールの遅延又は生産量の減少が生じた場合等には、設備投資に充当する原油販売収入が不足し、同社に対する当社資金負担額が増加する可能性があります。

 

 ② ロシア サハリン1プロジェクト

 当社は、サハリン石油ガス開発㈱への出資を通じて(2024年3月期末の出資比率 15.29%)、ロシア・サハリン島沖合における原油・天然ガス開発事業(サハリン1プロジェクト)に参画しております。

 サハリン1プロジェクトにおける原油・ガスの生産販売にあたっては、上記「1 商品市況及び為替に関するリスク(1)原油・天然ガス価格の変動リスク」に記載のとおり、その営業利益は、原油価格や天然ガス価格の変動により大きな影響を受けます。サハリン石油ガス開発㈱は当社の重要な関連会社であり、当該要因により同社の利益が大きく減少した場合には、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 なお、ウクライナ情勢が緊迫化する中、ロシア連邦政府により新会社が設立され、生産物分与契約に基づく全ての権利義務は新会社に承継されました。サハリン石油ガス開発㈱は、ロシア連邦政府から権益比率に応じた新会社の持分引き受けの許可を得ております。ロシアに対する経済制裁の影響により長期にわたる事業活動への制約が生じた場合には、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 2.インフラ・ユーティリティ事業

  (1) 天然ガス販売等に関するリスク

 当社は、E&P事業における諸リスクの影響を緩和する観点からインフラ・ユーティリティ事業の一部として天然ガス取扱量の拡大に取り組んでおります。既存の天然ガスパイプライン等を活用した需要開拓やパイプライン沿線外でのタンクローリー等を利用したLNGサテライト供給による需要開拓等に積極的に取り組んでいるものの、少子高齢化に伴う人口減や、需要家の設備稼働率の低下、他社との競合関係激化等を要因として、既存の天然ガス取扱数量(第三者からの託送供給量を含む)の減少、新規需要開拓の不調、又は販売単価の下落等により、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社は、将来の販売量見込みに基づき必要となるLNGについて、長期契約及びスポット契約を組み合わせること等により、調達の安定性と需要変動への柔軟性を両立する調達に努めておりますが、想定外の需要減少等が発生した場合には、スポットによる調達量の調整のみで対応できず、長期契約に基づくLNG数量に係る未達補償料の支払いや安値での転売等が必要となる可能性があります。

 当社は、LNGの調達価格の変動を販売価格に適切に転嫁する等の対策を講じていますが、LNGの調達価格が短期的に上昇した場合には十分な転嫁が行えず、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

  (2) 天然ガス火力発電事業に関するリスク

 当社は、福島県・相馬港における天然ガス火力発電事業の推進主体である福島ガス発電㈱に出資しており(2024年3月期末の出資比率33.30%)、出資比率相当の同社発電能力を利用した電力事業を行っております。

 当社は、自社で引き取る電力の相当部分について小売電気事業者を中心とする複数の顧客と長期の販売契約を締結しておりますが、発電所設備トラブルによる代替電力の調達や、電源間の競合激化等により電力販売量の減少や販売単価の下落等が将来発生した場合には、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 3.事業全体

  (1) 事故・災害等に関するリスク

 当社グループでは、坑井の掘さく、原油や天然ガスの生産・輸送、LNGの貯蔵・気化・輸送等の操業に関して、設備(天然ガスパイプライン等)の健全性維持や、保安体制及びBCP(事業継続計画)を含む緊急時対応策の整備等に努めておりますが、操業上の事故や災害(異常気象・地震等の自然災害を含む)、疫病の蔓延(パンデミック)、犯罪やテロリズム(サイバーセキュリティに関するものを含む)の発生によって、人的・物的損害が発生したり油・ガス田等の操業ができなくなったりするリスクを完全に防止することはできません。損害保険契約を締結する等の対策を一部講じておりますが、こうした事態が発生した場合、その損害の全てが保険によりカバーされるわけではなく、また、直接的な損害だけでなく、販売の中断による収入の減少、当社が供給義務を負う販売先に対する損害賠償、土壌・大気・水質・海洋等の環境汚染による損害賠償、行政処分、社会的信用の低下といった副次的な損害をもたらす可能性があります。

 

  (2) 新型コロナウイルス(COVID-19)等の感染症に関するリスク

 新型コロナウイルス(COVID-19)感染症による国内外の経済活動に対する影響は改善しつつあると捉えているものの、類似の又は新たな感染症の拡大に伴う対応(都市閉鎖、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置等)が生じた場合には、石油・天然ガス・電力の需要が減少し、さらには、原油価格・天然ガス価格・電力価格が下落する可能性があります。

 

  (3) 気候変動に関するリスク

 パリ協定の採択を受け、気候変動や地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの削減を目的とした取組みが世界的に進められており、低炭素社会実現に向けた動きが加速しております。

 当社は、気候変動対応の重要性を認識し、TCFD提言に基づいてガバナンス、事業戦略、リスク管理、排出量管理等の分野で必要な取組みを進めております。気候変動に関するリスクのうち、社会の低炭素化・脱炭素化への移行に伴うリスク(政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク等)及び災害発生による物理的リスク(台風等の突発的な気象事象に伴う急性リスク及び海面上昇等の長期的な気候変化に伴う慢性リスク)が中長期的に顕在化することに伴い、各国において気候変動政策が強化され、炭素税を始めとする環境関連法規等が変更・新規導入された場合、国内外の石油・天然ガス需要の減少、販売価格の長期低迷及び追加的な費用負担等により事業価値が毀損される可能性があります。また、国際機関や国家間の取り決め等により、金融機関等からのE&P事業投資に係る資金調達や損害保険契約締結が難しくなる可能性があります。

 

  (4) 新規案件獲得ならびに新規事業成立に関するリスク

 当社では、「第2 事業の概況 1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、2021年5月にカーボンニュートラル社会実現に向けて当社が果たすべき責務と取り組むべき課題、今後の自社対応及び事業展開の方向性を整理した「JAPEX2050」を公表し、2022年3月には、「JAPEX2050」で示した事業構造への移行を目指す中長期の経営計画として「JAPEX経営計画2022-2030」を公表しました。「JAPEX2050」及び「JAPEX経営計画2022-2030」では、事業基盤として、E&P分野、再生可能エネルギーの供給を中心としたインフラ・ユーティリティ分野、その他CCS(CO2の回収・貯留)/CCUS(CO2の回収・有効活用・貯留)に係るカーボンニュートラル分野に取組むことを掲げ、新規案件の獲得ならびに新規事業の組成を図っておりますが、かかる取組みにおいて新規案件獲得ならびに新規事業成立が進まない場合には、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

  (5) パートナーリスク

 事業の遂行に多額の投資が必要となる、又は技術面等においてリスクが高い場合などには、資金・リスクの分散を目的に、当社単独ではなく他の企業をパートナーとした上で共同事業化しています。

 共同事業にかかわる意思決定にあたっては、パートナーごとにその保有権益の多寡に応じた議決権が認められるのが一般的であり、当社としてマイナーシェアを保有するに留まる共同事業において、当社は支配的権限を有しません。そのため、事業上の決定等の場合において当社の意向が必ずしも反映されるとは限らず、これらが当社利益に沿わない形で実施された場合には、期待した収益を得られない可能性があります。また、一部パートナーが事業から撤退した場合等には、事業の円滑な実施に支障を来す可能性があります。

 また、共同事業のパートナーが資金不足に陥った場合、当社は契約等に基づいて一時的に資金を肩代わりすることがあります。この場合、当社の資金負担が増加するほか、事業の進捗次第では当社の損失が拡大する可能性があります。

 

3 固有の法規について

  (1) ガス事業、電気事業に係る法規

 我が国のガス事業および電気事業においては、競争原理の導入を目指した小売自由化の一環として、累次の事業法改正が行われてきた経緯があり、今後も新たな制度改正が行われる可能性があります。こうした法制度の改正が行われた場合には、市場の活性化等による当社グループの事業拡大の機会となり得る一方で、追加的な義務の発生や競争の激化等により経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

  (2) その他当社グループ事業に係る固有法規

 当社グループの事業は、その特性上、操業の過程で環境に対して様々な負荷を与え、また与える可能性があります。このため当社グループでは、鉱山保安法、高圧ガス保安法等の関連法令に基づいて、監督官庁からの許認可取得、届出、販売先への製品情報の提供等、必要な手続きについて適法かつ適正な処理を行っており、これまで重大な問題が発生したことはありません。但し、世界的な環境意識の高まりにより現行の法規制が強化された場合には、追加の設備・操業対策に係る費用の増加等により、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

4 ㈱INPEXの株価・業績変動に伴うリスクについて

 当社は、2024年3月期末現在、㈱INPEX株式を4.24%保有しており、当社グループの当連結会計年度末の投資有価証券の残高180,415百万円のうち同社株式は125,091百万円となっております。同社株価・業績が変動した場合、当社グループの財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

5 国の保有する当社株式について

 当社は、2003年12月、石油公団(当時)が保有していた当社株式の一部の売出しにより、東京証券取引所市場第一部に株式を上場しましたが、この結果、同公団の所有株式数の割合は、65.74%から49.94%に低下しました。

 さらに、同公団が保有していた当社株式は、同公団の廃止に伴い、2005年4月1日付で国(経済産業大臣)に承継されるとともに、2007年6月15日を受渡期日とする株式売出しにより、当該保有株式のうち15.94%相当分が売却された結果、同大臣の所有株式数の割合は34.00%まで低下しました。その後、当社において、2021年11月から2022年8月までに自己株式を取得し、2022年9月に当該自己株式を消却した結果、同大臣の所有株式数の割合は35.79%に上昇しております。また、当社は、2023年11月10日開催の取締役会の決議に基づき、2023年11月13日から2024年8月30日までを取得期間として自己株式を取得中であり、その全数を2024年9月30日付で消却する予定です。当該消却により、同大臣の所有株式数の割合は、35.79%から上昇する見込みです。

 同大臣が所有する株式は今後も売却される可能性があり、その時期、方法、数量等によっては、当社の株価に影響を及ぼす可能性があります。

 

6 コンプライアンス等について

 当社グループが国内外で事業を行う上では、以下のような社会的責任を果たす必要があります。

① 法令遵守

 会社法、税法、金融商品取引法、独占禁止法、労働基準法、環境関連諸法、情報セキュリティ関連諸法、贈賄防止関連諸法や、鉱業法、ガス事業法等の各種業法を含む法令を遵守すること。

 

② 情報セキュリティ対策の実施
 業務を遂行する上で収集される個人情報を含む秘密情報が漏洩したり目的外に利用されたりすることのないよう適切に管理すること。

 

③ 不公正取引の遮断

 贈賄や反社会的勢力への利益供与といった不公正な取引を行わないこと。

 

④ 人権の尊重

 サプライチェーン全体において、差別やハラスメント、強制労働や児童労働、先住民の権利への不当な干渉といった人権侵害を行わない、またはこれらに加担しないこと。

 

 当社グループは、これらの社会的責任を果たすために、社内研修等を通して役職員のコンプライアンス意識・人権意識の向上に努めるほか、社内規程、委員会(後記「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要」参照)を整備するとともに、社内監査、財務報告に係る内部統制システム等の必要な制度を構築しているものの、当社役職員による違法または不正な行為があった場合には、油・ガス田の生産操業の停止や訴訟費用の発生といった有形の損害に加え、社会的信用の失墜といった無形の損害が発生し、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度における我が国経済は、個人消費の持ち直しや雇用情勢の改善などを中心に、緩やかな回復基調にありましたが、一方で世界的な金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しすることも懸念されております。

原油CIF価格は、年度当初の1バレル80ドル台半ばから、米国及び中国経済の減速懸念などにより下落し、7月には80ドル台前半となりました。その後、サウジアラビア及びロシアの減産並びに中東情勢の混乱等により11月には90ドル台前半まで上昇しましたが、OPECプラス全体としての減産強化が見送られたことなどから下落に転じ、年度末では80ドル台半ばとなっております。

為替相場は、年度当初は1米ドル130円台半ばであり、年度前半から後半にかけて大幅に円安が進みました。12月以降、一時円高に転じたものの、年度末にかけて再度円安が進み、年度末時点では140円台後半となっております。

国内天然ガス市場については、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴う国際情勢の緊迫化や大幅な円安によるガス価格等の高騰から需要が減少したことに加え、従来からのエネルギー業界全体での競争により、市場環境は当社グループにとって厳しい状況となりました。また、国内電力市場については、LNG価格の低下等を背景に、当連結会計年度の日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット市場価格は低い水準で推移しました。

近年、世界的な脱炭素化の更なる加速など、当社グループを取り巻く事業環境は大きく変化しております。これらの事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対応するため、当社グループでは、世界的な2050年のCО₂実質排出量ゼロ達成のために、当社が果たすべき責務と取り組む課題を整理し、今後の当社の対応方針及び事業展開の方向性を示した「JAPEX2050~カーボンニュートラル社会の実現に向けて~」を2021年5月に、また、収益力の強化と2030年以降を見据えた事業基盤の構築を基本方針とする「JAPEX経営計画2022-2030」を2022年3月に、それぞれ策定・公表し、これらに基づき、鋭意事業を推進しております。

 

当連結会計年度の売上高は325,863百万円と前連結会計年度に比べ10,628百万円の減収(△3.2%)となり、売上総利益は、87,296百万円と前連結会計年度に比べ8,814百万円の減益(△9.2%)となりました。前連結会計年度に比べ減収減益となった主な要因は、原油等の市況価格が前連結会計年度に比べ沈静化し、原油、天然ガス、液化天然ガス及び電力等の販売価格が下落したことなどによるものです。

探鉱費は、3,536百万円と前連結会計年度に比べ651百万円増加(+22.6%)し、販売費及び一般管理費は、28,512百万円と前連結会計年度に比べ2,627百万円減少(△8.4%)した結果、営業利益は55,247百万円と前連結会計年度に比べ6,838百万円の減益(△11.0%)となりました。

経常利益は、主に持分法による投資利益が減少したことなどにより、68,808百万円と前連結会計年度に比べ14,321百万円の減益(△17.2%)となりました。

税金等調整前当期純利益は、前連結会計年度に比べ14,299百万円減益の68,784百万円となり、親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ13,732百万円減益の53,661百万円となりました。

 

なお、売上高の内訳は次のとおりであります。

(イ)E&P事業

 E&P事業の売上高は、北米、欧州及び中東における原油の販売量が増加したことなどにより、88,810百万円と前連結会計年度に比べ32,747百万円の増収(+58.4%)となりました。

(ロ)インフラ・ユーティリティ事業

 インフラ・ユーティリティ事業の売上高は、原油等の市況価格の沈静化に伴い販売価格が下落したことや、天然ガス及び液化天然ガスの販売量が減少したことなどにより、172,147百万円と前連結会計年度に比べ41,510百万円の減収(△19.4%)となりました。

(ハ)その他の事業

 請負(掘さく工事及び地質調査の受注等)、液化石油ガス(LPG)・重油等の石油製品等の販売及びその他業務受託等の売上高は、64,905百万円と前連結会計年度に比べ1,865百万円の減収(△2.8%)となりました。

 

主なセグメントごとの業績(セグメント間の内部取引消去前)は、次のとおりであります。

日本

 日本セグメントの売上高は、主に原油、天然ガス(LNG含む)、電力、請負及び石油製品等により構成されております。当連結会計年度における売上高は、原油等の市況価格の沈静化に伴い販売価格が下落したことや、天然ガス及び液化天然ガスの販売量が減少したことなどにより、256,470百万円と前連結会計年度に比べ46,577百万円の減収(△15.4%)となりました。セグメント利益は、価格下落による販売収支の悪化などにより、前連結会計年度に比べ17,724百万円減益(△25.7%)の51,130百万円となりました。

北米

 北米セグメントの売上高は、主に原油及び天然ガスにより構成されております。当連結会計年度における売上高は、主に原油の販売量が増加したことなどにより、30,607百万円と前連結会計年度に比べ21,445百万円の増収(+234.1%)となりました。セグメント利益は、売上高と同様に、原油の販売量が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ7,207百万円増益(+171.2%)の11,417百万円となりました。

欧州

 欧州セグメントの売上高は、主に原油及び天然ガスにより構成されております。当連結会計年度における売上高は、英領北海アバディーン沖合に位置する海上鉱区での原油及び天然ガスの生産を開始したことにより、2,609百万円となりました。セグメント損益は426百万円のセグメント利益(前連結会計年度は170百万円のセグメント損失)となりました。

中東

 中東セグメントの売上高は、原油により構成されております。当連結会計年度における売上高は、主に販売量が増加したことなどにより、36,182百万円と前連結会計年度に比べ11,899百万円の増収(+49.0%)となりました。セグメント損益は、4,750百万円のセグメント利益(前連結会計年度は112百万円のセグメント損失)となりました。

 

当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末に比べ92,748百万円増加し、660,928百万円となりました。

流動資産は、前連結会計年度末に比べ32,022百万円の減少となりました。これは、現金及び預金ならびに受取手形及び売掛金が減少したためであります。固定資産は、前連結会計年度末に比べ124,771百万円の増加となりました。これは、有形固定資産における坑井の計上及び投資有価証券における時価の上昇に伴い、それぞれ増加したことなどによるものであります。

 

負債は、前連結会計年度末に比べ12,343百万円増加し、123,354百万円となりました。

流動負債は、前連結会計年度末に比べ15,155百万円の減少となりました。これは、支払手形及び買掛金ならびに未払法人税等が減少したことなどによるものであります。固定負債は、前連結会計年度末に比べ27,498百万円の増加となりました。これは主に、投資有価証券の時価上昇などにより繰延税金負債が増加したことによるものであります。

 

純資産は、前連結会計年度末に比べ80,405百万円増加し、537,574百万円となりました。

これは、利益剰余金及びその他有価証券評価差額金が増加したことなどによるものであります。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ33,567百万円減少し、152,598百万円となりました。主な内訳は以下のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は90,564百万円となりました。これは主に、税金等調整前当期純利益68,784百万円の計上及び生産物回収勘定の回収額27,775百万円によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は99,659百万円となりました。これは主に、利息及び配当金の受取額10,712百万円の資金を得ましたが、有形固定資産の取得による支出65,924百万円及び生産物回収勘定の支出25,379百万円などの資金を使用したことによるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は28,596百万円となりました。これは主に、配当金の支払額18,726百万円及び自己株式の取得による支出7,973百万円などの資金を使用したことによるものであります。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

・日本

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

E&P事業

原油(kL)

232,008

△0.4

天然ガス(千㎥)

484,224

△5.0

インフラ・ユーティリティ事業

電力(千kWh)

3,085,392

22.9

 

・北米

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

E&P事業

原油(kL)

482,227

298.7

天然ガス(千㎥)

64,837

358.7

インフラ・ユーティリティ事業

電力(千kWh)

 

・欧州

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

E&P事業

原油(kL)

20,210

天然ガス(千㎥)

5,695

インフラ・ユーティリティ事業

電力(千kWh)

 

・中東

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

E&P事業

原油(kL)

409,476

3.0

天然ガス(千㎥)

インフラ・ユーティリティ事業

電力(千kWh)

 

 

b. 受注実績

当社及び連結子会社は受注生産を行っておりません。

 

c. 販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

・日本

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

数量

金額

(百万円)

数量

金額

E&P事業

原油(kL)

246,219

19,410

△5.0

△14.2

天然ガス(海外)(千㎥)

 

小計

 

19,410

 

△14.2

インフラ・ユーティリティ事業

天然ガス(国内)(千㎥)

955,826

81,487

△3.4

△16.3

液化天然ガス(t)

275,149

30,190

△19.2

△41.5

電力(千kWh)

3,548,750

53,272

18.1

△9.3

その他

 

7,197

 

20.2

 

小計

 

172,147

 

△19.4

その他の事業

請負

 

6,395

 

△17.5

石油製品・商品

 

55,423

 

△2.0

その他

 

3,087

 

26.1

 

小計

 

64,905

 

△2.8

 

合計

 

256,463

 

△15.4

 

・北米

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

数量

金額

(百万円)

数量

金額

E&P事業

原油(kL)

498,536

29,932

287.0

240.1

天然ガス(海外)(千㎥)

60,449

675

425.9

87.4

 

小計

 

30,607

 

234.1

インフラ・ユーティリティ事業

天然ガス(国内)(千㎥)

液化天然ガス(t)

電力(千kWh)

その他

 

 

 

小計

 

 

その他の事業

請負

 

 

石油製品・商品

 

 

その他

 

 

 

小計

 

 

 

合計

 

30,607

 

234.1

 

・欧州

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

数量

金額

(百万円)

数量

金額

E&P事業

原油(kL)

33,720

2,282

天然ガス(海外)(千㎥)

5,501

327

 

小計

 

2,609

 

インフラ・ユーティリティ事業

天然ガス(国内)(千㎥)

液化天然ガス(t)

電力(千kWh)

その他

 

 

 

小計

 

 

その他の事業

請負

 

 

石油製品・商品

 

 

その他

 

 

 

小計

 

 

 

合計

 

2,609

 

 

 

・中東

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

数量

金額

(百万円)

数量

金額

E&P事業

原油(kL)

462,265

36,182

50.3

49.0

天然ガス(海外)(千㎥)

 

小計

 

36,182

 

49.0

インフラ・ユーティリティ事業

天然ガス(国内)(千㎥)

液化天然ガス(t)

電力(千kWh)

その他

 

 

 

小計

 

 

その他の事業

請負

 

 

石油製品・商品

 

 

その他

 

 

 

小計

 

 

 

合計

 

36,182

 

49.0

 

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.「原油」には、当社グループが鉱山より産出した原油及び他社から購入した原油が含まれております。

3.インフラ・ユーティリティ事業の「天然ガス(国内)」は、国内において導管により供給されるガスであり、国産天然ガスとLNG気化ガスの合計です。国産天然ガスの生産拠点と、気化ガスの製造拠点であるLNG基地とは当社パイプライン網で連結され、これらのガスは当社供給ネットワークで一体となって販売されることから、インフラ・ユーティリティ事業に区分しております。

4.インフラ・ユーティリティ事業の「その他」には天然ガスの受託輸送及び発電燃料用LNGの気化受託等が含まれております。

5.その他の事業の「石油製品・商品」には、液化石油ガス(LPG)、重油、軽油、灯油等が、「その他」にはその他業務受託等が含まれております。

6.主要な販売先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は以下のとおりであります。なお、当連結会計年度においては総販売実績の100分の10を占める販売先がないため、記載を省略しております。

相手先

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

東北天然ガス㈱

38,133

11.3

 

④ 当社グループの埋蔵量

 2024年3月31日現在、提出会社及び連結子会社の保有する確認埋蔵量並びに持分法適用会社が保有する確認埋蔵量の当該会社に対する提出会社出資比率相当量は下表のとおりです。

確認埋蔵量

連結対象会社

持分法適用会社

合計

国内

海外

小計

原油

千kL

ガス

百万㎥

原油

千kL

ガス

百万㎥

原油

千kL

ガス

百万㎥

原油

千kL

ガス

百万㎥

原油

千kL

ガス

百万㎥

2023年3月31日現在

1,606

6,944

12,538

662

14,144

7,606

0

357

14,144

7,964

 

拡張及び発見等による増加

40

463

-

-

40

463

-

-

40

463

 

前期評価の修正による増減

42

871

△1,665

32

△1,624

902

0

93

△1,624

996

 

買収・売却による増減

-

-

2,354

303

2,354

303

7

38

2,360

342

 

生産による減少

△227

△511

△938

△68

△1,166

△579

△0

△170

△1,166

△748

2024年3月31日現在

1,461

7,767

12,288

930

13,748

8,696

7

319

13,755

9,016

(注)1.以下の連結子会社保有量には、非支配株主に帰属する数量を含んでおります。(括弧内は非支配株主比率)

国内:日本海洋石油資源開発㈱(29.39%)、海外:㈱ジャペックスガラフ(45.00%)

2.連結子会社及び持分法適用会社のうち、決算日が連結決算日と異なる会社については、各社の事業年度における埋蔵量を計上しております。

 

上表における確認埋蔵量とは、評価時点において既知の油・ガス層から地質的、工学的データに基づき経済的にも操業面からも今後確実に採取可能であろうと予測された油・ガスの地上状態での数量であり、過去の生産量、未発見鉱床に係る資源量は含んでおりません。

 

埋蔵量の定義については、石油技術者協会(SPE)、世界石油会議(WPC)、米国石油地質技術者協会(AAPG)及び石油評価技術協会(SPEE)の4組織により2007年に策定されたPetroleum Resources Management System(PRMS)が国際的な基準として知られています。

上表の確認埋蔵量は、2018年に改定されたPRMSにおける「確認埋蔵量(Proved Reserves)」の定義に準拠した当社自身による評価に基づく数値であり、PRMSにおいて確認埋蔵量よりも将来の採取可能性の不確実性が高いものとして区分されている「推定埋蔵量(Probable Reserves)」や「予想埋蔵量(Possible Reserves)」に該当する埋蔵量は含んでおりません。また、同定義においては、例えば、資源の賦存が確認されている鉱区であっても商業開発計画が未確定な段階のプロジェクト等については、埋蔵量(Reserves)とは区分して「条件付資源量(Contingent Resources)」に分類することとされており、当社グループにおいても、開発計画が未確定な地域の「条件付資源量」に該当する数量は、上表の数値に含めておりません。

なお、PRMS以外には、米国証券取引委員会(SEC)による確認埋蔵量の定義が米国の投資家を中心に広く知られており、SECによる確認埋蔵量の定義は、PRMSと基本的には類似しています。

 

当社は、PRMSによる「確認埋蔵量(Proved Reserves)」の定義に準拠して当社自身の判断に基づく値を開示しております。また、海外プロジェクト会社の保有埋蔵量については、各プロジェクト会社の現地政府等との契約による経済的取分に基づく数量を示しております。

また、当社は、当社自身による埋蔵量評価・判断の妥当性を検証するため、上表に示した2024年3月31日現在の国内における当社及び連結対象会社の確認埋蔵量の約82%に相当する部分[1]について、Ryder Scott Company, L.P.へ第三者評価・鑑定を委託しております。また、海外については、Japex (U.S.) Corp.、JAPEX UK E&P Ltd.、Kangean Energy Indonesia Ltd.及びBlue Spruce Operating LLC.の埋蔵量について第三者評価を受けております。上表の2024年3月31日現在の確認埋蔵量総計のうち約60%に相当する部分[2]について第三者評価を受けております。当社自身による評価値と第三者評価の値は従来より近似しておりますが、当連結会計年度末の値には、一部で第三者評価値が当社評価値を下回る差異が一定程度生じております。その差異は評価手法の違いによるものであり、上表の当社自身の評価による確認埋蔵量の値は妥当であると判断しております。

 

埋蔵量は、元来、不確実性を内包した将来の生産可能量の見通しであり、当社は、現時点において入手可能な地質的・工学的データ等の科学的根拠に基づき正確な評価の実施に努めておりますが、今後新たに取得されるデータ等に基づく見直しや経済条件の変動及び国際的に認知された埋蔵量定義の変更等によって、上方にも下方にも修正される可能性があります。

[1] 原油1kL=天然ガス1,033.1m3(1BOE=5.8Mscf)として計算しております。

[2] [1]と同様。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループの当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益は、図表1「当期純利益の主な増減要因(前期比)」に示すように、前連結会計年度に比べ137億円減益の536億円となりました。この主たる増減要因を段階利益ごとに以下に分析します。

 

図表1:当期純利益の主な増減要因(前期比)

 

0102010_014.png

 

(営業利益△68億円)

営業利益の68億円減益の主な内訳は、北米における原油販売量の増加などにより海外E&P事業が136億円の増益となった一方で、原油、天然ガス及び電力の販売価格が下落したことなどによる国内E&P事業及びインフラ・ユーティリティ事業の減益額がそれを上回ったことによるものであります。

 

a. 海外E&P事業

海外E&P事業は、主に北米セグメントに含まれるJapex (U.S.) Corp.、欧州セグメントに含まれるJAPEX UK E&P Ltd.、中東セグメントに含まれる㈱ジャペックスガラフを対象としております。

海外E&P事業の136億円増益の主な要因は、Japex (U.S.) Corp.においてタイトオイル開発に伴う原油増産等により72億円の増益となったことや、㈱ジャペックスガラフにおいて前連結会計年度に計上した一過性コストがなくなったことなどにより48億円の増益となったことによるものです。

 

b. 国内E&P事業

国内E&P事業は、日本セグメントに含まれる当社及び連結子会社である日本海洋石油資源開発㈱の原油・天然ガスの生産及び販売活動を主な対象としております。国産原油は外部顧客への販売を認識する一方、国産天然ガスはインフラ・ユーティリティ事業に供給する内部管理上の取引を販売として認識しております。

国内E&P事業の142億円減益の主な要因は、原油及び天然ガスの販売量の減少、及び販売価格※の下落によるものであります。図表2「原油価格・為替等の前期比較」に示すように、原油CIF価格は前連結会計年度の102.26米ドル/バレルから当連結会計年度は86.28米ドル/バレルと15.98米ドル/バレル(△15.6%)下落しており、減益要因となっております。

※国産天然ガスの販売価格は、国内E&P事業からインフラ・ユーティリティ事業への内部管理上の取引価格

 

図表2:原油価格・為替等の前期比較

 

0102010_015.png

 

c. インフラ・ユーティリティ事業

インフラ・ユーティリティ事業は、主に当社のガスパイプライン網を通じた沿線地域の需要家への天然ガス(国産天然ガス及びLNG気化ガス)の販売、パイプライン沿線以外の地域における天然ガス需要に対応するためのタンクローリーを利用したLNGのサテライト販売、及び電力の販売を対象としております。

インフラ・ユーティリティ事業の37億円減益の主な要因は、原油価格やLNGスポット価格が沈静化して我が国におけるLNG平均輸入価格が下落したことにより、当社における天然ガス及び電力の販売価格が低下した結果、LNG気化ガスの原料や電力の燃料として当社が調達するLNGのコストとの価格差が縮小したことによるものです。

 

当連結会計年度の経常利益は、前連結会計年度に比べ143億円減益(△17.2%)の688億円となりました。図表1「当期純利益の主な増減要因(前期比)」に示すように、143億円減益の要因は、上述の営業利益の減益及び営業外損益の74億円の減益からなります。

 

(営業外損益△74億円)

為替差損益の23億円の増益は、主に当社及び㈱ジャペックスガラフの外貨建金銭債権及び外貨預金に係る為替差益が前連結会計年度に比べ増加したことによるものであります。

持分法による投資損益の68億円の減益は、主にサハリン石油ガス開発㈱やDiamond Gas Netherlands B.V.における利益が減少したことによるものであります。

その他の営業外損益の28億円の減益は、受取利息及び受取配当金が増加した一方で、前連結会計年度に計上したLNGのブック・アウト取引(現物の引取りに替えて、合意された市場価格で売り戻す取引)にかかるデリバティブ利益60億円がなくなったことなどによるものであります。

 

当連結会計年度の税金等調整前当期純利益は前連結会計年度に比べ142億円減益の687億円となりました。図表1「当期純利益の主な増減要因(前期比)」に示すように、142億円減益の要因は、上述の経常利益の減益からなります。

 

親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ137億円減益の536億円となりました。図表1「当期純利益の主な増減要因(前期比)」に示すように、137億円減益の要因は、上述の税金等調整前当期純利益の減益、法人税等の減少による30億円の増益及び非支配株主損益の増加による24億円の減益からなります。

当連結会計年度の「法人税、住民税及び事業税」に「法人税等調整額」を加えた法人税等の金額は120億円(前連結会計年度に比べ30億円の減少)となりました。これは、上述の税金等調整前当期純利益の減少に応じて法人税等の金額が減少したことによるものであります。また、当連結会計年度の非支配株主損益の金額は30億円(前連結会計年度に比べ24億円の増加)となりました。これは、主に当連結会計年度において㈱ジャペックスガラフにおける当期純利益が増加したことによるものであります。

 

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

(基本方針)

当社グループでは、事業継続及び新規投資等のために必要となる資金について、「有利子負債/EBITDA<2」を目安とした財務規律のもと、財務の健全性を維持しつつ確保することとしております。前連結会計年度と当連結会計年度の同倍率の推移は、図表3「EBITDA有利子負債倍率の推移」に示す通りであり、前連結会計年度に引き続き「有利子負債/EBITDA<2」は達成されております。

 

図表3:EBITDA有利子負債倍率の推移

 

0102010_016.png


(調達手段)

当社グループでは、資金需要に応じて、内部資金及び銀行借入を有効に活用することにより、必要資金を確保しております。

運転資金等は、主に内部資金により賄っており、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)及び金融機関とのキャッシュプーリング契約により、資金の効率化及び流動性の確保を図っております。なお、当該契約による借入金は預金との相殺表示を行っており、当連結会計年度末の相殺金額は331億円であります。

なお、LNGの購入などに備え、外貨を調達する場合等には、為替変動リスクをヘッジすることを目的として適宜、先物為替予約等を締結しております。

また、機動的な資金調達を目的として、複数の取引銀行と円及び米ドルでの借入が可能な貸出コミットメント契約を締結しております。

 

 

(資金使途・配分方法)

a.連結財務状況及び資金配分方針

当社グループでは、図表4「JAPEX経営計画2022-2030資金配分方針」に示すとおり、2022年度から2030年度までの9年間で、E&P、インフラ・ユーティリティ、カーボンニュートラルからなる各分野への成長投資に4,500億円、株主還元に500億円を配分することとしております。また、株主還元の基本方針に連結配当性向を導入し、30%を目安に各期業績に応じた配当を行います。

なお、資金配分の原資となる5,000億円は、営業キャッシュ・フローにより3,800億円、手元資金及び銀行借入により1,200億円を確保する想定としております。

 

図表4:JAPEX経営計画2022-2030資金配分方針

 

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b.保有資金の考え方

主にE&P事業に関しては、多額の投資を要する一方、事業に着手してから投資額を回収するまで長いリードタイムを要するのが通例であり、この間、事業環境が変化するリスクに晒されます。このような事業特性に照らし、円滑な事業運営に必要な水準の手元流動性を確保できるように月次にて資金計画を作成する等の方法により、資金管理を行っております。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、一定の会計基準の範囲内において、資産・負債及び収益・費用の金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。これらの見積りについては、過去の実績等を勘案し継続評価しており、必要に応じて見直しを行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるためこれらとは異なる場合があります。

当連結会計年度において、不確実性の高い会計上の見積りとして、繰延税金資産の回収可能性があります。この項目は、その判断において当社グループが主たる事業活動から将来にわたり稼得する収益や生み出すキャッシュ・フローの見積りに大きく依拠しており、特に原油価格や為替などの市況要因と埋蔵量の見積りの影響を直接的に受けることになります。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、上記の重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

5【経営上の重要な契約等】

E&P事業

契約当事者

契約の要旨

石油資源開発㈱

(提出会社)

 

日本海洋石油資源開発㈱

(連結子会社)

 

三菱瓦斯化学㈱

契約年月日

1983年2月23日

契約期間

1983年2月9日から共同開発終了まで

契約内容

 新潟県岩船沖海域における石油、天然ガスの探鉱開発及び生産の共同事業に関する契約。

 各社の持分比率は次のとおりです。

石油資源開発㈱                46.667%

日本海洋石油資源開発㈱            33.333%

三菱瓦斯化学㈱                20.000%

㈱ジャペックスガラフ

(連結子会社)

 

イラク ディカール石油公社

ペトロナス社

(マレーシア国営石油会社)

イラク北部石油公社

契約年月日

2010年1月18日

(2010年3月31日付にて、提出会社より契約上の権利義務を譲受けた。)

契約期間

2010年2月より20年間

契約内容

 イラク南部のガラフ油田における開発生産サービス契約(*)

 

(*)開発生産サービス契約:石油開発会社が必要な資金と技術を提供して開発を行い、生産される原油・天然ガスの一定割合から投下資金を回収し、予め定められた生産量あたりの報酬額に応じて、報酬を受け取ることができる形式の契約

 コントラクター各社の参加比率は次のとおりです。

 ペトロナス社                 45%

 ㈱ジャペックスガラフ             30%

 イラク北部石油公社              25%

 

6【研究開発活動】

当社グループは、事業に直結する課題にとどまらず、次世代技術及び新規事業分野への進出をも見据えて、探鉱(地質)、物理探査、生産等の技術部門並びにこれらの技術が活用可能な環境事業分野において具体的テーマを選定し、研究開発及び調査等を実施しております。

当連結会計年度における研究課題、研究開発費等をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

日本

研究課題

目的

研究当事者

(研究体制)

研究開発費

(百万円)

海域高分解能探査手法研究

海域における種々の高分解能探査手法の開発を進めるとともに、技術の実用化・高度化を図ることを目的とする。

㈱地球科学総合研究所

28

常設モニタリング技術研究

CCSやカーボンリサイクル等でのモニタリングの需要に対応するため、費用対効果に優れたモニタリング手法の研究を目的とする。

㈱地球科学総合研究所

20

フルウェーブインバージョン技術研究

最新技術の情報収集及び提供コードを活用し、データ解析手法のノウハウを蓄積することにより技術を高度化することを目的とする。

㈱地球科学総合研究所

17

最適な解析手法確立に関する研究

解析ソフトの適切な活用方法について検討し、処理結果の品質と作業の効率がより改善することを目的とする。

㈱地球科学総合研究所

16

デジタル技術を活用した解析システムの研究

AI-IoT技術などのデジタル技術を積極的に活用し、データ処理や各種解析業務の自動化・機械化による効率化を図ることを目的とする。

㈱地球科学総合研究所

16

海底資源探査における電磁探査手法の確立

海域における安価な電磁探査パッケージを開発し、反射法データとの統合解析による海底熱水鉱床及び炭化水素貯留層の高精度な地下物性の把握を目的とする。

㈱地球科学総合研究所

14

震探調査法新技術適用性検討

顧客の多様なニーズに対応すべく震探調査の低コスト化・高効率化、技術力の向上を図ることを目的とする。

㈱地球科学総合研究所

12

水理地質解析に資する地質特性モデル構築及びシミュレーション技術の確立

流体移動解析に資する地質特性モデル構築からシミュレーションの実施に至る一連の作業フローを確立し、事業範囲の拡大及び高度化を目的とする。

㈱地球科学総合研究所

10

その他

石油資源開発㈱

㈱地球科学総合研究所

48

 合計

 

 

181